IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ レイサーチ ラボラトリーズ エービーの特許一覧

特表2023-524340多基準最適化のために複数の可能な治療計画を生成すること
<>
  • 特表-多基準最適化のために複数の可能な治療計画を生成すること 図1
  • 特表-多基準最適化のために複数の可能な治療計画を生成すること 図2
  • 特表-多基準最適化のために複数の可能な治療計画を生成すること 図3
  • 特表-多基準最適化のために複数の可能な治療計画を生成すること 図4
  • 特表-多基準最適化のために複数の可能な治療計画を生成すること 図5
  • 特表-多基準最適化のために複数の可能な治療計画を生成すること 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-12
(54)【発明の名称】多基準最適化のために複数の可能な治療計画を生成すること
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20230605BHJP
【FI】
A61N5/10 P
A61N5/10 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548522
(86)(22)【出願日】2021-02-10
(85)【翻訳文提出日】2022-08-09
(86)【国際出願番号】 EP2021053203
(87)【国際公開番号】W WO2021165118
(87)【国際公開日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】20158795.3
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522454806
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ジャンソン,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ボクランツ,ラスムス
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC05
4C082AG11
4C082AG60
4C082AN02
(57)【要約】
各治療計画が標的体積への放射線の分布を指定する複数の可能な治療計画を生成するための方法であって、本方法は治療計画システムにより行われ、かつ最適化関数のセットに基づく多基準最適化(MCO)を行うために複数の可能な治療計画(12)を生成する工程を含む方法を提供する。少なくとも1つの最適化関数は患者の指定された領域における放射線線量の生成物の分布と、線エネルギー付与すなわちLETとによって決まり、これにより複数の治療計画が得られる。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の可能な治療計画(12)を生成するための方法であって、各治療計画は標的体積(3)への放射線の分布を指定し、前記方法は、治療計画システム(1)により行われ、かつ
最適化関数のセットに基づく多基準最適化すなわちMCOのために複数の可能な治療計画(12)を生成する工程(40)であって、ここでは少なくとも1つの最適化関数は患者の指定された領域における放射線線量の生成物の分布と、線エネルギー付与すなわちLETとによって決まり、これにより複数の治療計画が得られる工程
を含む方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの最適化関数は目的として指定されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記目的は前記少なくとも1つの最適化関数値を最小化または最大化することである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの最適化関数は制約として指定されている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記制約は、前記少なくとも1つの最適化関数値が指定された値を超えてはならないこと、または前記少なくとも1つの最適化関数値が指定された値よりも低くあってはならないことである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記複数の治療計画をMCOモジュール(11)に提供する工程(42)
をさらに含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
複数の可能な治療計画(12)を生成する工程のための治療計画システム(1)であって、各治療計画は標的体積(3)への放射線の分布を指定し、前記治療計画システムは、
プロセッサ(60)と、
前記プロセッサによって実行されるときに、前記治療計画システム(1)に、
最適化関数(40)のセットに基づく多基準最適化すなわちMCOのために複数の可能な治療計画(12)を生成する工程であって、少なくとも1つの最適化関数は患者の指定された領域における放射線線量の生成物の分布と、線エネルギー付与すなわちLETとによって決まり、これにより複数の治療計画が得られる工程
を行わせる命令(67)を記憶しているメモリ(64)と、
を備える治療計画システム。
【請求項8】
前記少なくとも1つの最適化関数は目的として指定されている、請求項7に記載の治療計画システム(1)。
【請求項9】
前記目的は前記少なくとも1つの最適化関数値を最小化または最大化することである、請求項8に記載の治療計画システム(1)。
【請求項10】
前記少なくとも1つの最適化関数は制約として指定されている、請求項7に記載の治療計画システム(1)。
【請求項11】
前記制約は、前記少なくとも1つの最適化関数値が指定された値を超えてはならないこと、または前記少なくとも1つの最適化関数値が指定された値よりも低くあってはならないことである、請求項10に記載の治療計画システム(1)。
【請求項12】
前記プロセッサによって実行されるときに、前記治療計画システム(1)に、
前記複数の治療計画をMCOモジュール(11)に提供する工程
を行わせる命令(67)をさらに含む、請求項7乃至11のいずれか1項に記載の治療計画システム(1)。
【請求項13】
複数の可能な治療計画(12)を生成するためのコンピュータプログラム(67、91)であって、各治療計画は標的体積(3)への放射線の分布を指定し、前記コンピュータプログラムは、治療計画システム(1)上で走らされるときときに、前記治療計画システム(1)に、
最適化関数(40)のセットに基づく多基準最適化すなわちMCOのために複数の可能な治療計画(12)を生成する工程であって、少なくとも1つの最適化関数は患者の指定された領域における放射線線量の生成物の分布と、線エネルギー付与すなわちLETとによって決まり、これにより複数の治療計画が得られる工程
を行わせるコンピュータプログラムコードを含む、コンピュータプログラム。
【請求項14】
請求項13に記載のコンピュータプログラムおよびそこに前記コンピュータプログラムが記憶されているコンピュータ可読手段を備えたコンピュータプログラム製品(64、90)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、標的体積への放射線の分布のための治療計画の分野に関し、特にこの関連での多基準最適化に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンビーム治療では、イオン(例えば陽子またはより重いイオン)のビームが標的体積に向かって方向づけられる。標的体積は例えば癌腫瘍を表すことができる。それらの粒子は組織を透過し、エネルギーの線量を送達して細胞死を誘導する。イオンビーム治療の利点は、ブラッグピークとして知られている線量分布における顕著なピークが存在することである。ブラッグピークは特定の深さで生じる線量送達のピークであり、その後に線量送達は急速に減少する。これは、最大線量が常に浅い深さで生じ、かつ遠位での線量減少をイオン治療の場合と同じ急激な減少により制御することができない電子線治療またはX線(光子)治療と比較することができる。
【0003】
患者におけるブラッグピークの深さは、粒子の運動エネルギーを調整することにより制御することができる。横方向位置は、その焦点ビームを偏向させるために電磁石を用いて制御することができる。これにより、患者の体内の良好に制御された位置への非常に局所化された線量の送達が可能になる。運動エネルギーとビームの横方向への偏向との特定の組み合わせにより送達される線量はスポットと呼ばれる。スポットで送達される粒子の数は一般にスポット重みと呼ばれる。三次元空間における多くの異なる位置にスポットを提供することにより、標的体積を所望の線量分布でカバーすることができる。スポットの運動エネルギーは多くの場合、必ずしもではないが、多くの離散的エネルギーのために分布される。同じ運動エネルギーを有するが異なる横方向への偏向を有するスポットのグループは多くの場合にエネルギー層と呼ばれる。この手順は、ペンシルビームスキャニングとしても知られているアクティブスキャニングイオンビーム治療と呼ばれる。
【0004】
どのようにスポットを送達するべきかという計画は治療計画システムにおいて行われ、それにより治療計画が得られる。治療計画システムは、使用されるエネルギー層ならびにその中でのスポットの分布および重みを決定するが、治療計画システムはイオンビームを送達しない。イオンビームの送達は、治療計画が提供される放射線送達システムによって行われる。
【0005】
治療計画の決定は多くの異なる方法で行うことができる。1つの方法は多基準最適化(MCO)を使用することである。MCOでは、複数の可能な治療計画を生成し、そのそれぞれを異なる方法で最適化する。次いで計画オペレータは、これらの可能な治療計画をリアルタイムで線形に組み合わせることができ、ここではその組み合わせが性能指標と共にリアルタイムで生成および視覚化される。
【0006】
Giantsoudi Drosoulaらは、「強度が調整された陽子線治療における線エネルギー付与に基づく最適化:実現可能性研究および臨床的可能性(Linear Energy Transfer-Guided Optimization in Intensity Modulated Proton Therapy:Feasibility Study and Clinical Potential)」,INTERNATIONAL JOURNAL OF RADIATION:ONCOLOGY BIOLOGY PHYSICS,PERGAMON PRESS,USA,vol.87,no.1,2013年6月19日,216~222頁を公表した。但し、治療計画を生成する方法におけるあらゆる改良が大いに役立つ。
【発明の概要】
【0007】
1つの目的は、最適化を向上させる方法、および相対的生物学的効果比(RBE)に関してMCOを向上させる方法である。
【0008】
第1の態様によれば、複数の可能な治療計画を生成するための方法が提供されており、各治療計画は標的体積への放射線の分布を指定し、その方法は、治療計画システムにより行われ、かつ最適化関数のセットに基づく多基準最適化(MCO)のために複数の可能な治療計画(12)を生成する工程を含む。少なくとも1つの最適化関数は患者の指定された領域における放射線線量の生成物の分布と、線エネルギー付与すなわちLETとによって決まり、これにより複数の治療計画が得られる。
【0009】
少なくとも1つの最適化関数は目的として指定されていてもよい。
【0010】
当該目的は少なくとも1つの最適化関数値を最小化または最大化することであってもよい。
【0011】
少なくとも1つの最適化関数は制約として指定されていてもよい。
【0012】
当該制約は、少なくとも1つの最適化関数値が指定された値を超えてはならないこと、または少なくとも1つの最適化関数値が指定された値よりも低くあってはならないことであってもよい。
【0013】
本方法は、複数の治療計画をMCOモジュールに提供する工程をさらに含んでもよい。
【0014】
第2の態様によれば、複数の可能な治療計画を生成するための治療計画システムが提供されており、各治療計画は標的体積への放射線の分布を指定する。治療計画システムはプロセッサと、プロセッサによって実行されるときに、治療計画システムに、最適化関数のセットに基づく多基準最適化(MCO)のために複数の可能な治療計画(12)を生成する工程であって、ここでは少なくとも1つの最適化関数は患者の指定された領域における放射線線量の生成物の分布と、線エネルギー付与すなわちLETとによって決まり、これにより複数の治療計画が得られる工程を行わせる命令を記憶しているメモリとを備える。
【0015】
少なくとも1つの最適化関数は目的として指定されていてもよい。
【0016】
当該目的は少なくとも1つの最適化関数値を最小化または最大化することであってもよい。
【0017】
少なくとも1つの最適化関数は制約として指定されていてもよい。
【0018】
当該制約は、少なくとも1つの最適化関数値が指定された値を超えてはならないこと、または少なくとも1つの最適化関数値が指定された値よりも低くあってはならないことであってもよい。
【0019】
第3の態様によれば、複数の可能な治療計画を生成するためのコンピュータプログラムが提供されており、各治療計画は標的体積への放射線の分布を指定する。コンピュータプログラムは、治療計画システム上で走らされるときに、治療計画システムに、最適化関数のセットに基づいて多基準最適化を行う工程であって、ここでは少なくとも1つの最適化関数は患者の指定された領域における放射線線量の生成物の分布と、線エネルギー付与すなわちLETとによって決まり、これにより複数の治療計画が得られる工程を行わせるコンピュータプログラムコードを含む。
【0020】
第4の態様によれば、第3の態様に係るコンピュータプログラムと、そこにコンピュータプログラムが記憶されているコンピュータ可読手段とを備えるコンピュータプログラム製品が提供される。
【0021】
一般に特許請求の範囲で使用されている全ての用語は、本明細書において特に明示的に定義しない限り当該技術分野でのそれらの通常の意味に従って解釈されるべきである。「一/一つ/その要素、装置、構成要素、手段、工程など」への全ての言及は、特に明示的に記載しない限り、当該要素、装置、構成要素、手段、工程などの少なくとも1つの例に公に言及しているものとして解釈されるべきである。本明細書に開示されている任意の方法の工程は明示的に記載しない限り、開示されている正確な順序で行う必要はない。
【0022】
次に、添付の図面を参照しながら態様および実施形態を例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本明細書に示されている実施形態を適用することができる環境を例解する概略図である。
図2図1の放射線送達システムを用い、イオン、特にブラッグピークを用いた線量送達を例解する概略グラフである。
図3図1の治療計画システムの機能モジュールを例解する概略図表である。
図4図1の治療計画システムにおいて行われる複数の可能な治療計画を生成するための方法の実施形態を例解するフローチャートである。
図5】一実施形態に係る図1の治療計画システムの構成要素を例解する概略図表である。
図6】コンピュータ可読手段を含むコンピュータプログラム製品の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の特定の実施形態が示されている添付の図面を参照しながら、以下に本開示の態様をより完全に説明する。但しこれらの態様は、多くの異なる形態で具体化することができ、限定的なものとして解釈されるべきではなく、それどころかこれらの実施形態は、本開示を徹底的かつ完全なものとし、かつ本発明の全ての態様の範囲を当業者に完全に伝えるために例として提供されている。同様の番号は本明細書全体を通して同様の要素を指す。
【0025】
図1は、本明細書に示されている実施形態を適用することができる環境を例解する概略図である。治療計画システム1は放射線療法のための放射線の分布を決定する。これは治療計画12として放射線送達システム2に伝達される。治療計画に基づいて放射線送達システム2は、リスク臓器5への放射線を回避しながら患者の標的体積3に放射線を与えるためにビーム7を生成する。
【0026】
放射線送達システム2は、例えばペンシルビームスキャニングのためのイオンビームシステムであってもよい。そのような場合、放射線は多数のスポットで与えられ、ここでは各スポットは3次元座標系の中に位置を有する。深さ方向すなわちz軸に沿ったスポットの最大線量(ブラッグピーク)の位置はイオンの運動エネルギーによって制御し、エネルギーが高くなるほど、最大線量がより深い位置で生じる。さらに横方向位置は、ビーム7を偏向させるための電磁石を用いて制御する。このようにして、リスク臓器5への放射線を低く維持しながら標的体積3を3次元でカバーする線量分布を達成することができる。
【0027】
あるいは、放射線送達システム2はトモセラピーに基づいており、ここでは放射線は患者の周りでの円形もしくは螺旋状の移動の間に送達される。
【0028】
他の種類の放射線送達システムも可能である。
【0029】
図2は、図1の放射線送達システム2を用い、イオン、特にブラッグピークを用いた線量送達を例解する概略グラフである。水平軸は水中での深さを表し、垂直軸は線量を表す。曲線20は、深さに対する線量の分布を示す。ブラッグピーク22は曲線のピークであり、これは線量の急激な減少の直前に現れる。
【0030】
放射線が患者に送達されるときに、(グレイで測定される)同じ量の吸収線量の光子と比較して、イオンは破壊される細胞の点で異なる生物学的効果をもたらす。イオン放射線からの線量レベルと光子放射線の線量レベルとを比較することができるようにするために、イオン線量を患者において同等の生物学的効果を与える光子線量分布に変換することが多い。この光子と同等の線量とイオン放射線からの物理的吸収線量との比を相対的生物学的効果比(RBE)と呼ぶ。従って、物理的吸収線量と光子と同等の線量との変換はRBEモデルを用いて行う。一定の換算係数のみである最も単純なものから、例えばイオンの種類、イオンエネルギーおよび標的元素組成によって決まる非常に複雑なものまで、利用可能ないくつかのRBEモデルが存在する。
【0031】
光イオン治療のために使用される最も一般的なRBEモデルは一定係数モデルであり、ここでは陽子のために例えばRBE=1.1がよく使用される。但し、RBEは線量分布の一部において実質的により高くなり、望ましくない効果を生じさせる可能性があることは周知である。イオンビーム治療の場合に、吸収線量の距離の導関数(すなわち図2の曲線20の導関数)である高い線エネルギー付与(LET)が高いRBEと強い相関を有することが分かっている。この効果により、一定係数RBEモデルが使用されるときには患者においてLETの分布を制御することが望ましい。
【0032】
本明細書に示されている実施形態によれば、多基準最適化(MCO)を行い、ここでは最適化関数は患者の指定された領域における放射線線量の生成物の分布およびLET(本明細書ではD×LETと表示されている)によって決まるか、あるいは最適化関数はMCO問題の他の目的および/または制約のために使用されるRBEモデルと比較される他のRBEモデルを使用する。これについては以下でより詳細に説明する。
【0033】
図3は、図1の治療計画システムの機能モジュールを例解する概略図表である。このモジュールは、治療計画システム1において実行されるコンピュータプログラムなどのソフトウェア命令を用いて実装されている。代わりまたは追加として、このモジュールはASIC(特定用途向け集積回路)、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)またはディスクリート論理回路のうちのいずれか1つ以上などのハードウェアを用いて実装されている。
【0034】
最適化モジュール10は、可能な治療計画に到達するための最適化を行うモジュールである。以下でより詳細に説明するように、多基準最適化(MCO)のために最適化モジュール10によっていくつかの異なる治療計画を決定することができる。各治療計画は1つ以上の最適化関数に基づいて最適化する。各治療計画は、最適化関数が特定のレベルを超える値または特定のレベルに満たない値を有する必要があることを定める制約によって制限することができる。代わりまたは追加として各治療計画は、最適化関数が可能な限り高い値または可能な限り低い値を有する必要があることを定める目的を有する。
【0035】
最適化モジュールは複数の治療計画を出力し、そのそれぞれを制約および/または目的としての1つ以上の最適化関数の特定のセットに基づいて最適化する。複数の計画は単一の目的計画を含み、これを単一の最適化関数のために最適化する。さらに複数の計画は、複数の最適化関数が組み合わせられたさらなる計画を含むことができる。
【0036】
多くの最適化関数は互いに矛盾するため、MCOモジュール11を使用して最適化関数間のバランスを見つける。MCOモジュール11は、計画オペレータ(すなわち治療計画システムのユーザ)が、多基準最適化を用いて複数の治療計画に基づいてナビゲートされる治療計画を生成するのを可能にする。計画オペレータは、治療計画の任意の1つ以上の優先度を自由に調整することができる。治療計画の調整が行われるときには、例えばグラフィカルユーザインタフェース(GUI)におけるスライダ制御を用いて、ナビゲートされる治療計画は複数の治療計画の凹一次結合として再生成される。
【0037】
ナビゲートされる治療計画のいくつかの性能指標を計算し、リアルタイムで計画オペレータに提示する。性能指標としては、線量分布(2Dおよび/または3D)および数値のグラフィカル表示ならびに例えば特定の臨床目標が満たされているか否かについての2値指標が挙げられる。
【0038】
これは計画オペレータが異なる可能な治療計画の重みを調整し、かつ異なる治療計画をリアルタイムで評価するのを可能にする。計画オペレータが性能指標に満足するときに、ナビゲートされる治療計画を放射線送達システムによる治療のためのベースとして使用する。
【0039】
図4は、図1の治療計画システムにおいて行われる複数の可能な治療計画を生成するための方法の実施形態を例解するフローチャートである。各治療計画は標的体積への放射線の分布を指定する。本方法は治療計画システム1の最適化モジュール10において行うことができる。
【0040】
計画を生成する工程40では、治療計画システムは複数の可能な計画を生成する。複数の計画は(上で説明したように)MCOのために使用することを目的としている。最適化関数のセットに基づいて複数の計画を生成する。少なくとも1つの最適化関数は患者の指定された領域における放射線線量の生成物の分布およびLET(D×LET)によって決まる。この工程により複数の治療計画が得られる。
【0041】
指定された領域は、3次元で定められた任意の好適な領域、例えば標的体積、リスク臓器およびこれらの部分領域などであってもよい。
【0042】
最適化は、最適化変数のセットを繰り返して調整することによる最適化関数のセットに基づいている。最適化変数の構成は最適化関数の値を決定する。
【0043】
一実施形態では、少なくとも1つの最適化関数は目的として指定される。この目的は、少なくとも1つの最適化関数値を最小化または最大化することであってもよい。
【0044】
一実施形態では、少なくとも1つの最適化関数は制約として指定される。例えばこの制約は、少なくとも1つの最適化関数値が指定された値を超えてはならないこと、または少なくとも1つの最適化関数値が指定された値よりも低くあってはならないことであってもよい。
【0045】
任意のMCOのために治療計画を提供する工程42では、最適化を行った後に治療計画をMCOモジュール11に提供し、その時点で計画オペレータは上に記載されているように計画をナビゲートすることができる。言い換えると、工程40は、この工程(工程42)においてMCOモジュールに提供される複数の計画を生成するための最適化段階(D×LETに対して少なくとも部分的に最適化される)に対応している。次いでこれらの計画をMCOモジュールのオペレータによって、リアルタイムで線形に組み合わせることができる。
【0046】
D×LET分布に基づく最適化関数を含めることにより、D×LETに基づいて最適化するための最適化は既に行われている。D×LET分布はRBEに密接に関連しているので、これはRBEに関して当該計画を大きく向上させる。
【0047】
図5は、一実施形態に係る図1の治療計画システム1の構成要素を例解する概略図表である。プロセッサ60は、メモリ64に記憶されており、従ってコンピュータプログラム製品であってもよいソフトウェア命令67を実行することができる好適な中央処理装置(CPU)、マルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路などのうちの1つ以上の任意の組み合わせを用いて提供される。プロセッサ60は、上の図4を参照して説明されている方法を実行するように構成することができる。
【0048】
メモリ64は、ランダムアクセスメモリ(RAM)およびリードオンリーメモリ(ROM)の任意の組み合わせであってもよい。メモリ64は例えば、磁気メモリ、光メモリ、ソリッドステートメモリまたはさらにはリモートでマウントされたメモリのうちの任意の1つまたは組み合わせであってもよい永続記憶装置も含む。
【0049】
プロセッサ60におけるソフトウェア命令の実行中にデータを読み出し、かつ/または記憶するためのデータメモリ66も提供される。
【0050】
治療計画システム1は、他の外部実体との通信のためのI/Oインタフェース62をさらに備える。任意に、I/Oインタフェース62はユーザインタフェースも含む。
【0051】
治療計画システム1の他の構成要素は、本明細書に示されている概念を曖昧にしないために省略されている。
【0052】
図6はコンピュータ可読手段を含むコンピュータプログラム製品の一例を示す。このコンピュータ可読手段にはコンピュータプログラム91を記憶することができ、このコンピュータプログラムはプロセッサに本明細書に記載されている実施形態に係る方法を実行させることができる。この例では、コンピュータプログラム製品は、CD(コンパクトディスク)またはDVD(デジタル多用途ディスク)またはブルーレイディスクなどの光ディスクである。上で説明したように、図5のコンピュータプログラム製品64などのコンピュータプログラム製品は、装置のメモリ内にも具体化することができる。コンピュータプログラム91はここでは、描かれている光ディスク上のトラックとして概略的に示されているが、コンピュータプログラムは、取外し可能なソリッドステートメモリ、例えばユニバーサル・シリアル・バス(USB)ドライブなどのコンピュータプログラム製品に適した任意の方法で記憶させることができる。
【0053】
次に、ローマ数字と共に実施形態を以下に列挙する。
【0054】
i.治療計画の品質を確認するための方法であって、理療計画は、放射線の分布を指定してそれにより放射線を計画標的体積に与え、その方法は、品質保証装置によって行われ、かつ
治療計画システムにおいて計算された治療計画と、治療計画を用いて患者に蓄積される予測線量である対応する第1の線量とを得る工程、
二次線量計算アルゴリズムを用いて治療計画によって蓄積される線量である二次線量の計算を開始する工程、
定められた幾何学的体積にわたって第1の線量および二次線量を比較することにより、比較統計的測定値の信頼区間を繰り返し計算する工程、および
信頼区間が少なくとも1つの予め定められた基準よりも良好である(その場合に治療計画を品質保証に合格しているとみなす)ときに二次線量の計算を中断する工程
を含む、方法。
【0055】
ii.二次線量における各ボクセルはボクセルのための現在の信頼区間の推定値を含む、実施形態iに記載の方法。
【0056】
iii.定められた幾何学的体積は計画標的体積である、実施形態iまたはiiに記載の方法。
【0057】
iv.定められた幾何学的体積はリスク臓器である、実施形態iまたはiiに記載の方法。
【0058】
v.定められた幾何学的体積は計画標的体積およびリスク臓器を包含する、実施形態iまたはiiに記載の方法。
【0059】
vi.比較統計的測定値の信頼区間を計算する工程は、二次線量におけるボクセルのために利用可能な信頼区間と可能な二次線量の広がりとに基づいている、先行する実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0060】
vii.比較統計的測定値は、第1の線量および第2の線量において対応するボクセル間での差測定値を累積することにより類似度を計算することに基づいている、実施形態viに記載の方法。
【0061】
viii.比較統計的測定値は、第3の値と第4の値と差を見つけることにより類似度を計算することに基づいており、ここでは第3の値は定められた幾何学的体積内の全てのボクセルにおける第1の線量の線量値を累積することにより得られ、第4の値は定められた幾何学的体積の全てのボクセルにおける第2の線量の線量値を累積することにより得られる、実施形態viに記載の方法。
【0062】
ix.治療計画の品質を確認するための品質保証装置であって、治療計画は、放射線の分布を指定してそれにより放射線を計画標的体積に与え、その品質保証装置は、
プロセッサと、
プロセッサによって実行されるときに、品質保証装置に、
治療計画システムにおいて計算された治療計画と、治療計画を用いて患者に蓄積される予測線量である対応する第1の線量とを得る工程、
二次線量計算アルゴリズムを用いて治療計画によって蓄積される線量である二次線量の計算を開始する工程、
定められた幾何学的体積にわたって第1の線量および二次線量を比較することにより比較統計的測定値の信頼区間を繰り返し計算する工程、および
前記信頼区間が少なくとも1つの予め定められた基準よりも良好である(その場合に治療計画を品質保証に合格しているとみなす)ときに二次線量の計算を中断する工程
を行わせる命令を記憶しているメモリと、
を備える、品質保証装置。
【0063】
x.二次線量における各ボクセルはボクセルのための現在の信頼区間の推定値を含む、実施形態ixに記載の品質保証装置。
【0064】
xi.定められた幾何学的体積は計画標的体積である、実施形態ixまたはxに記載の品質保証装置。
【0065】
xii.定められた幾何学的体積はリスク臓器である、実施形態ixまたはxに記載の品質保証装置。
【0066】
xiii.定められた幾何学的体積は計画標的体積およびリスク臓器を包含する、実施形態ixまたはxに記載の品質保証装置。
【0067】
xiv.治療計画の品質を確認するためのコンピュータプログラムであって、治療計画は、放射線の分布を指定してそれにより放射線を計画標的体積に与え、そのコンピュータプログラムは、品質保証装置上で走らされるときに、品質保証装置に、
治療計画システムにおいて計算された治療計画と、治療計画を用いて患者に蓄積される予測線量である対応する第1の線量とを得る工程、
二次線量計算アルゴリズムを用いて治療計画によって蓄積される線量である二次線量の計算を開始する工程、
定められた幾何学的体積にわたって第1の線量および二次線量を比較することにより比較統計的測定値の信頼区間を繰り返し計算する工程、および
信頼区間が少なくとも1つの予め定められた基準よりも良好である(その場合に治療計画を品質保証に合格しているとみなす)ときに二次線量の計算を中断する工程
を行わせるコンピュータプログラムコードを含む、コンピュータプログラム。
【0068】
xv.実施形態xivに記載のコンピュータプログラムおよびそこにコンピュータプログラムが記憶されているコンピュータ可読手段を備えたコンピュータプログラム製品。
【0069】
本開示の態様について主に数個の実施形態を参照しながら上に説明してきた。但し当業者によって容易に理解されるように、上に開示されているもの以外の他の実施形態が、添付の特許請求の範囲によって定められている本発明の範囲内で同等に可能である。従って、様々な態様および実施形態を本明細書において開示してきたが、他の態様および実施形態は当業者には明らかであろう。本明細書に開示されている様々な態様および実施形態は例解のためのものであり、限定的なものではなく、真の範囲および趣旨は以下の特許請求の範囲によって示されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】