(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-12
(54)【発明の名称】塩水噴霧腐食試験における予測技術としての走査型電気化学顕微鏡法の使用
(51)【国際特許分類】
G01N 27/26 20060101AFI20230605BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20230605BHJP
G01Q 60/60 20100101ALI20230605BHJP
【FI】
G01N27/26 351C
G01N27/30 F
G01Q60/60
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554668
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(85)【翻訳文提出日】2022-11-09
(86)【国際出願番号】 FR2021050422
(87)【国際公開番号】W WO2021181053
(87)【国際公開日】2021-09-16
(32)【優先日】2020-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ゲレ・シャリエ
(72)【発明者】
【氏名】オーレリアン・ドゥブレ
(72)【発明者】
【氏名】ギー・デニオ
(72)【発明者】
【氏名】ルノー・コルヌ
(57)【要約】
本発明は、防食処理を施された表面S1について、表面S1が塩水噴霧腐食試験を受けた場合に取得されるであろう耐食性結果を予測するための走査型電気化学顕微鏡法の使用であって、走査型電気化学顕微鏡法による表面S1の分析を含む使用に関する。
用途:塩水噴霧腐食試験が使用される任意の産業または研究活動部門。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防食処理を施された表面S1について、前記表面S1が塩水噴霧腐食試験を受けた場合に取得されるであろう耐食性結果を予測するための走査型電気化学顕微鏡法の使用であって、走査型電気化学顕微鏡法による前記表面S1の分析を含む使用。
【請求項2】
前記表面S1の前記分析は、フィードバックモードで実行される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記表面S1の前記分析は、走査型電気化学顕微鏡法プローブによる前記表面S1の走査を含み、前記プローブの先端部は、前記表面の走査時に前記表面S1から一定の距離dに維持される、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記プローブの前記先端部は、前記表面S1の走査時に、1つまたは複数の直線部分を含む軌跡をたどる、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記プローブの前記先端部は、走査時に、互いに平行であるいくつかの直線部分を含む軌跡をたどる、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記表面S1の前記分析は、少なくとも、
a)前記表面S1の真上の点を選択するステップ、
b)ステップa)で選択された前記点で、前記プローブの前記先端部を前記距離dまで移動させるステップ、および
c)前記プローブの前記先端部を前記距離dに維持し、走査時に前記プローブで電流を測定することによって、ステップa)で選択された前記点から前記プローブにより前記表面S1を走査するステップからなるステップを含む、請求項3から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記表面S1の前記分析は、前記表面S1の真上のいくつかの点における走査型電気化学顕微鏡法プローブを位置決めするステップを含み、前記プローブの先端部は、各位置決め点において前記表面S1から一定の距離dに配置される、請求項2に記載の使用。
【請求項8】
前記位置決め点は、ランダムに選択される、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記表面S1の前記分析は、少なくとも、
a)プローブの位置決め点を選択するステップ、および
b)各位置決め点について、前記プローブの前記先端部を前記距離dまで移動させ、各位置決め点において前記プローブで電流を測定するステップからなるステップを含む、請求項7または請求項8に記載の使用。
【請求項10】
還元状態の酸化還元メディエータを含む電解質が使用される、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記酸化還元メディエータは、フェロシアニド、フェロセン、デカメチルフェロセン、またはフェロセンジメタノールである、請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学によって表面を分析し、特徴付ける分野に関するものである。
【0002】
より具体的には、本発明は、塩水噴霧腐食試験の予測技術としての走査型電気化学顕微鏡法(以下、より簡単にSECMと称し、同じ頭字語が技術および装置に使用される)の使用に関する。
【0003】
本発明の用途は、自動車、航空、航空宇宙、鉄道、風力エネルギー、建設および公共土木事業部門などの産業部門であるか、腐食のメカニズムもしくは防食コーティングの開発に取り組む研究開発研究所、またはさらには材料の分析および特性評価を専門とする研究所であるかを問わず、塩水噴霧腐食試験が使用されるすべての活動部門において見つかる。
【背景技術】
【0004】
塩水噴霧腐食試験(中性、酢酸、または銅酢酸)、より簡単に言えば「塩水噴霧試験」は、腐食から保護するコーティングがあるかないか、一時的であるかまたは永久的であるかにかかわらず、金属材料の耐食性を評価することを可能にする試験である。
【0005】
これらの試験は、金属部品が遍在する活動部門において不可欠である。
【0006】
塩水噴霧試験の実施については、様々な規格(ASTM B117-19、NF EN ISO 9227/2017、IEC 60068-2-11など)に記載されている。すべての場合において、耐食性を評価することが望ましい部品は、塩化ナトリウム(中性塩水噴霧)、または塩化ナトリウムと酢酸の混合物(酢酸塩水煙霧)、もしくはさらには塩化ナトリウム、酢酸、および塩化第二銅の混合物(酢酸銅塩水噴霧)のいずれかを含む溶液が所定の温度および圧力条件下で連続的に噴霧される試験チャンバー内に配設されており、その原理は部品を制御された腐食環境に曝すことである。
【0007】
耐食性は、一般的に孔食の形をとる、腐食発生の兆候を定期的に監視することで評価される。
【0008】
試験部品の種類に応じて、この監視の持続時間は様々であり、1週間から数週間にわたり得るが、これは産業規模では長く、不利であり得る。
【0009】
したがって、たとえば、3価クロムなどの化成による防食処理を施されたアルミニウム合金から作られた部品が塩水噴霧試験を受ける場合において、防食処理の際に、制御されない化成を引き起こす不具合(化成浴の濃度が不十分であること、化成浴中の部品の浸漬持続時間が短すぎること、など)が発生した場合、処理された部品が仕様に適合していないことが判明するのは、塩水噴霧試験の終了時(すなわち、試験が開始してから1週間以上たったとき)になってからである。したがって、塩水噴霧試験の持続時間中に同じ防食処理を施された他のすべての部品がそうであるべきであるのと同様に、これらの部品は販売できず、スクラップされなければならない。したがって、時間とお金の無駄である。
【0010】
したがって、金属部品が塩水噴霧試験を受けるのを待たなくても、起こり得る不具合の是正を金属部品の生産時にまたはその表面の防食処理の実施時に行えるように、迅速でかつ極めて信頼性の高い方式で塩水噴霧試験の結果を予測することを可能にする技術を有することが望ましいであろう。
【0011】
しかしながら、現在までのところ、そのような技術は存在しない。
【0012】
存在するのは、電気化学的インピーダンスによる予測プロトコルである。しかしながら、電気化学的インピーダンスは電気化学的技術であり、その結果は調べる表面全体にわたって平均化される。したがって、測定されたインピーダンスは、平均表面状態を特徴付けたもので、正しく保護された領域とより脆弱な領域の両方の寄与を合わせたものであり、局所的腐食現象の研究には適さない。それに加えて、電気化学的インピーダンスは、データを処理するために複雑な数学的モデルを使用する必要があり、それにより産業環境への応用を考えることが難しい。局所的インピーダンス方法が存在するが、実装がとにかく複雑である。
【0013】
さらに存在するのは、金属材料の電流および腐食電位を評価するためにR&Dで従来から使用されている方法であるターフェル線の方法である。しかしながら、この方法にもいくつかの欠点がある。実際、特にAl2024アルミニウム合金などの複雑な合金の場合、試験の再現が困難である。これらは、調べるべき表面を分極させることを必要とし、これは不動態化層の刺激を誘発し、この表面の状態の修飾を引き起こす。文献では、調べるべき表面は、一般的に、測定を実行する前に腐食現象の引き金となり得る食塩水に曝される。さらに、上で述べた電気化学的インピーダンスによる方法の場合と同様に、ターフェル線の方法によって実行される測定は、調べた表面全体にわたって平均化される。最後に、得られた分極曲線の解釈、および特に、接線のプロットは、追加の誤差の潜在的発生源となる。
【0014】
SECMおよび塩水噴霧試験が同じ研究の範囲内で使用されているいくつかの珍しい研究が発表されている。
【0015】
これらの研究は以下のとおりである。
- Jiang Mei-Yanら(Corrosion Science 2015、92、118~126頁、これ以降文献[1])、2024アルミニウム合金基板上のエポキシ樹脂の防食特性を改善するシランの能力に関する。
- Junsheng Wuら(Materials 2017、10(4)、426頁、これ以降文献[2])、2024アルミニウム合金基板上の水酸化デカバナジン酸ベースのコーティングの防食効果に関する。
- Dongdong Pengら(Journal of Coatings Technology and Research 2016、13、837~850頁、これ以降文献[3])、6061アルミニウム合金基板上のジルコニウムベースのコーティングの防食特性に関する。
- Yi Xiaoら(Arabian Journal for Science and Engineering 2018、43(7)、3577~3584頁、これ以降文献[4])、シリカナノ粒子で修飾された亜鉛コーティングの耐食性に関する。
- Peng Guangchunら(Progress in Organic Coatings 2020、140、1~10頁、これ以降文献[5])、炭素鋼基板上のエポキシワニスの防食特性を増強する金属水酸化物の能力に関する。
【0016】
これらのすべての文献において、著者らは、SECMおよび塩水噴霧試験を補完的で置き換え可能でない調査技術として使用しており、SECMは調べるコーティングが腐食から保護する可能性が高いメカニズムを理解するために使用され、塩水噴霧試験は調べるコーティングが実際に防食効果を有するかどうかをチェックするために使用される。
【0017】
文献[2]および[5]において、SECM分析および塩水噴霧試験を受けるのは同じ試料ではなく、SECM分析はこの目的のために予め意図的にスクラッチングされた試料のスクラッチ部で実行されているが、塩水噴霧試験を受ける試料にはスクラッチ部がないことにも留意されたい。
【0018】
文献[1]から[5]において、さらにこれら2つの調査技術の結果が電気化学的インピーダンス分光法などの他の調査技術の結果と同じように、基板を腐食から保護するコーティングの能力の確認に寄与することができるという事実を除きSECMと塩水噴霧試験との間にいかなる関連も確立されていない(文献[1]のポイント「4. Discussion」参照)。
【0019】
それに加えて、文献[1]から[5]において、塩水噴霧試験の持続時間が不利であること、したがって、この種類の試験を実行する必要性を排除できることが望ましいこと、およびそれ自体大域分析技術に属する塩水噴霧試験の代わりに局所分析技術であるSECMが使用される可能性が高いことは、決して述べられていないかまたは示唆されていることすらない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Jiang Mei-Yanら、Corrosion Science 2015、92、118~126頁
【非特許文献2】Junsheng Wuら、Materials 2017、10(4)、426頁
【非特許文献3】Dongdong Pengら、Journal of Coatings Technology and Research 2016、13、837~850頁
【非特許文献4】Yi Xiaoら、Arabian Journal for Science and Engineering 2018、43(7)、3577~3584頁
【非特許文献5】Peng Guangchunら、Progress in Organic Coatings 2020、140、1~10頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、防食処理を施された表面に適用される塩水噴霧腐食試験の予測技術としてSECMを使用することを提案することによって最新技術の欠点を克服することを目的とする。
【0022】
言い換えると、本発明は、防食処理を施された表面S1について、表面S1が塩水噴霧腐食試験を受けた場合に取得されるであろう耐食性結果を予測するためのSECMの使用を提案し、この使用はSECMによる表面S1の分析を含む。
【課題を解決するための手段】
【0023】
SECMは、超微小電極(またはUME)と呼ばれる小型化された電極であり、表面を走査する、局所プローブを用いて電気化学的に表面を検査し、画像化する可能性を提供する顕微鏡技術であることが想起される。
【0024】
上で指定されているように、SECMは本来局所分析技術であり、これは金属表面の孔食的腐食などの局所的な現象を測定するのに適していることが知られている。
【0025】
しかしながら、新しい、全く予想外のことは、SECMが表面全体の耐食性を表す情報を提供し、したがって、その表面に適用された塩水噴霧試験の結果が何であるかを高い信頼性により予測することを可能にすることである。
【0026】
SECMは、従来、典型的な例が
図1に概略として例示されている機器を用いて実施されている。この図に示されているように、この機器(1として参照される)は、以下を含む。
- 電解質15で満たされるよう設けられる電気化学セル10であって、電解質15の中に、動作条件下で、分析されるべき表面11、プローブ12、対電極13および場合によっては参照電極14が浸漬される、電気化学セル10、
- 動作条件下で、電位が単一のプローブ12に印加されることが意図されている場合にポテンショスタット、さもなければ、
図1に示されているように、動作条件下で、電位が分析されるべき表面11とプローブ12の両方に印加されることが意図されている場合にバイポテンショスタット16、
- プローブ12および分析されるべき表面11を3方向(x、y、およびz)で互いに関して変位させ、この変位を制御することを可能にするシステム、ならびに
- データ、すなわちプローブ12が分析されるべき表面11を走査している間にプローブ12のところで測定された電流を取得し処理するためのコンピュータシステム17。
【0027】
さらに、最近、本発明者らが属する研究者チームによって、スタイラスの形態の携帯型電気化学顕微鏡デバイスが開発された。このデバイスは、国際出願第WO2020/012097号、以下文献[6]に記載されており、
図1に示されている種類の機器と同等の性能を提供する一方で、この機器によって、また特にその電気化学セルの限られた寸法によって、ならびにこの機器に走査を確実にし制御するために設けられる電気的および/または機械的要素の空間要件によって課せられる制約をなくすことを可能にする。
【0028】
本発明の範囲内において、SECMは、再生モードとも呼ばれる、FDと表記される「フィードバック」モードで好ましくは使用される。
【0029】
しかしながら、SECMはまた、以下のものなどの他のモードに従って使用され得ることも言うまでもない。
- 基板(すなわち、分析されるべき表面)およびプローブが同じ電位で分極し、同じ電気化学反応を行うように競争させる、酸化還元競争(またはRC)モード、
- プローブによって検出される電気活性種を基板が生成する、基板生成/先端部収集(Substrate Generation/Tip Collection)(またはSG/TC)モード、ならびに
- 基板によって検出される電気活性種をプローブが生成する、先端部生成/基板収集(Tip Generation/Substrate Collection)(またはTG/SC)モード。
【0030】
フィードバックモードでは、電解液は、この溶液にイオン伝導性を与える塩および酸化還元反応を可能にする酸化還元メディエータの両方を含むことが想起される。プローブは、酸化還元メディエータの拡散プラトーに対応する電位で分極し、還元型であれば酸化還元メディエータの酸化を、酸化型であればこのメディエータの還元を誘発する。分析されるべき表面から遠く離れた場所で、生成される種はプローブに向かって自由に拡散する。しかしながら、
- 分析されるべき表面が絶縁材料から作られている場合、およびプローブがこの表面に近づけられた場合、生成される種の拡散は、表面によって妨げられ、プローブの先端部と表面とを隔てる距離が減少するにつれてプローブで測定される電流は減少する、すなわちこれは負のフィードバックと呼ばれるが、
- 分析されるべき表面が導電性材料から作られる場合、およびプローブがこの表面に近づけられた場合、生成される種の拡散も妨げられるが、これらの種は表面によって再生され(つまり、酸化状態から再生され、還元状態に戻るか、またはその逆が生じる)、再び酸化または還元反応を起こす場合があり、プローブの先端部と表面とを隔てる距離が減少するとプローブで測定される電流は増加する、すなわち正のフィードバックが参照される。
【0031】
本発明によれば、表面S1の分析は、第一に、プローブによるこの表面の走査を含み、プローブの先端部はこの走査時に表面S1から一定の距離dに維持される。
【0032】
その場合、走査時に、プローブの先端部は、好ましくは、1つまたは複数の直線部分を含む軌跡をたどる。
【0033】
プローブの先端部がたどる軌跡は、ただ1つの直線部分を含むものとしてよく、この場合、以下では、「ラインスキャン」(またはオンラインスキャン)によるSECM分析が参照される。
【0034】
代替的に、プローブの先端部がたどる軌跡は、有利には互いに平行ないくつかの直線部分を含むことができ、この場合、以下では、「マッピング」によるSECM分析が参照される。
【0035】
表面S1の分析は、第二に、この表面の真上のいくつかの点におけるプローブの位置決めを含むことができ、プローブの先端部は各位置決め点において表面S1から一定の距離dに配置される。
【0036】
プローブの位置決め点は、好ましくはランダムに選択され、この場合、以下では、「統計」によるSECM分析が参照される。この種類のSECM分析は、実行され得る速度により特に有利である。
【0037】
統計によるSECM分析については、国際出願第WO2020/012097号に記載されているような携帯型デバイスの使用が、このデバイスが各位置決め点においてプローブが分析されるべき表面に対して十分に垂直であり、それによって、表面の構成にかかわらず、距離dが十分に考慮されることを保証することを可能にする限りは、特に推奨される。
【0038】
表面S1の分析が、プローブによるこの表面の走査を含む場合、この使用は、好ましくは、少なくとも、
a)表面S1の真上の点を選択するステップ、
b)ステップa)で選択された点で、プローブの先端部を距離dまで移動させるステップ、および
c)プローブの先端部を距離dに維持し、走査時にプローブで電流を測定することによって、ステップa)で選択された点からプローブにより表面S1を走査するステップからなるステップを含む。
【0039】
表面S1の分析が、この表面の真上に配置されるいくつかの点におけるプローブの位置決めを含む場合、この使用は、少なくとも、
a)プローブの位置決め点を選択するステップ、および
b)各位置決め点について、プローブの先端部を距離dまで移動させ、各位置決め点においてプローブで電流を測定するステップからなるステップを含む。
【0040】
両方の場合において、距離dは、有利には、アプローチ曲線を確立することによって予め決定される。
【0041】
それ自体知られているように、アプローチ曲線の確立は、分析されるべき表面から無限遠にプローブを配置し(すなわち、この表面がプローブで測定される電流の値に影響を与えないように十分に高い表面からの距離に配置し)、次いで、プローブの先端部が表面に接触し、プローブの先端部の位置決めのゼロ点を設定することを可能にするまでプローブで電流(表面の絶縁性または導電性によって減少または増加することが想起される)を測定しながらプローブを徐々に表面に、この表面に対して垂直(方向z)に近づけることからなる。次いで、プローブは、その先端部が測定に望ましい表面からの距離、すなわち距離dまで移動するまで持ち上げられる。
【0042】
典型的には、距離dは、プローブの導電性部分の直径の1/10とこの導電性部分の直径との間となる。したがって、たとえば、ガラス毛管内に封止された金属ワイヤからなるプローブについては、距離dは、典型的には、金属ワイヤの直径の1/10とこのワイヤの直径との間、すなわち、ワイヤの直径が50μmであれば5μmと50μmとの間となる。
【0043】
また、それ自体知られているように、プローブによる表面S1の走査、または表面S1の真上の複数の点におけるプローブの位置決めは、水平面(x,y)内の
- プローブが次いでこの水平面内で固定される場合に、表面S1の、
- または、表面S1が次いで前記水平面内で固定される場合に、プローブのいずれかの変位によって取得され得る。
【0044】
表面S1の分析が実行される方式(マッピングによる分析、ラインスキャンによる分析、または統計による分析)に関係なく、本発明の工業的利用の文脈において、
i)予め選択された動作条件(距離d、電解液の組成、プローブに印加される電位、適切な場合に表面S1に印加される電位、適切な場合にプローブの走査速度)下で、表面S1のn1個の異なる点においてプローブで電流を測定してn1個の電流値を取得し、n1は少なくとも5に等しい整数であること、
ii)検出閾値D以上であるステップi)で取得されたn1個の電流値のパーセンテージを決定し、D以上である任意の電流値は塩水噴霧試験で腐食する可能性が高い表面S1の点に対応すると見なされること、および
iii)ステップii)で取得されたパーセンテージから、塩水噴霧試験を受けた場合に表面S1によって提示される可能性が高い腐食点数N/単位面積を決定し、こうして取得された腐食点数/単位面積を、表面S1が塩水噴霧試験に首尾よく通るために有するべき最大腐食点数Nmax/単位面積と比較することが好ましい。
【0045】
これにより、
- NがNmaxより小さい場合、表面S1が効果的にこの試験に首尾よく通ると予測することが可能であるが、
- NがNmaxより大きい場合、この表面がこの試験に首尾よく通ることはないと予測することが可能である。
【0046】
本発明によれば、Dは、好ましくは、ステップi)で使用されたプローブを用いて、ステップi)で使用された動作条件下で、腐食がなく、塩水噴霧試験により腐食される可能性がない基準表面S2とは異なるn2個の点においてプローブで電流を測定し、n2個の電流値を取得すること(n2は少なくとも2に等しい整数である)、n2個の取得された電流値の平均を計算すること、および平均値よりたとえば10%、15%、または20%高いが、n2個の電流値の最高値より低い、電流値を選択することによって予め決定される。
【0047】
しかしながら、Dは、他の何らかの方法で予め決定されてもよい。したがって、たとえば、
- Dは、基準表面S2について測定されたn2個の電流値の最高値よりも、たとえば110%以上高い電流値に対応することができるか、または
- Dは、ステップi)で使用されたプローブおよび動作条件について、このプローブおよびこれらの動作条件が表面S1以外の1つもしくは複数の表面をSECMによって分析するためにすでに使用されている場合に、予想される電流値に基づき選択され得る。
【0048】
基準表面S2は、表面S1と同じ性質の表面(たとえば、同じ材料から作られ、同じ防食処理を施されたもの)であってもよいが、これは強制ではなく、重要なことは表面S2が表面S1と同じ粗さを有し、塩水噴霧試験によって腐食されないかまたは腐食される可能性がないということである。したがって、これは、特に、市販の試験片の表面、または表面S1と同じ製造ラインからの表面であってもよいが、塩水噴霧試験によって腐食される可能性がないことが事前にチェックされるものであってよい。
【0049】
ステップiii)において、Nの決定は、好ましくは、SECMによる分析および塩水噴霧試験の両方を受けた基準表面S3について事前に取得されたパーセンテージPとのこのパーセンテージの相関を含み、これについて
- 一方で、パーセンテージPは、ステップi)で使用されたプローブを用いて、ステップi)で使用された動作条件下で、表面S3のn3個の異なる点においてプローブで電流を測定してn3個の電流値を取得すること(n3は少なくとも5に等しい整数である)、およびDより大きいn3個の値のパーセンテージを決定することによって決定されており、
- 他方、パーセンテージPは、塩水噴霧試験で明らかになった腐食点数/単位面積に対応することが確立されている。
【0050】
したがって、Nは特に、ステップii)で取得されたパーセンテージをPで除算し、この除算の商に、塩水噴霧試験によって表面S3上に明らかになった腐食点数/単位面積を乗じることによって決定され得る。
【0051】
結果を予測することが望まれている塩水噴霧試験が、ASTM B117-19、NF EN ISO 9227/2017、またはIEC 60068-2-11試験などの規格を満たす試験である場合、Nmaxはこの規格により与えられる。
【0052】
さらに、本発明が、複数の表面について、これらの表面が同じ種類の塩水噴霧試験を受けた場合に取得されるであろう耐食性結果を予測するために実施される場合、検出閾値DおよびパーセンテージPは、最終のものとして決定され、すべての表面に対して使用され得るが、当然、前記表面のSECMによる分析は、この検出閾値およびこのパーセンテージを決定するために使用されたものと同じプローブにより、同じ動作条件下で、実行されることを前提とする。
【0053】
前述において、「プローブで測定された電流」という表現は、好ましくは、必ずしもそうではないが、正規化された電流I/Iinfを示し、Iは表面からの距離dにおいてプローブで測定された電流であり、Iinfはプローブが表面から無限遠にあるときにプローブで測定された電流である。
【0054】
本発明によれば、表面S1の分析は、好ましくは、還元状態の酸化還元メディエータを含む電解質を用いて実行される。
【0055】
そのようなメディエータは、たとえば、フェロシアニド(Fe(CN)6
4-)、フェロセン(FcCp2)、デカメチルフェロセン(Me10(FcCp2))またはフェロセンジメタノール(Fe(MeOH)2)である。
【0056】
ただし、酸化状態の酸化還元メディエータを含む電解質も使用される可能性が高いことは言うまでもない。
【0057】
それ自体知られているように、電解質は液体形態であり得る。しかしながら、SECMが携帯型デバイスで実施される場合、これはゲルの形態であってもよい。
【0058】
電解質が液体形態である場合、これは、有利には、酸化還元メディエータに加えて、溶液中で電離することができる少なくとも1つの化合物、たとえば鉱塩もしくは有機塩を含む水溶液もしくは有機溶液、またはイオン液体のいずれかである。
【0059】
電解質がゲルの形態である場合、これは、有利には、ゼラチン、ペクチン、寒天、アルギン酸塩、アラビアゴム、キサンタンガム、カラギーナン、または同様のもののゲル化剤を、上で定義されているような水溶液もしくは有機溶液またはイオン液体に加えることによって取得されたゲルである。
【0060】
塩は、特に、金属塩であり得、特に、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムなどのアルカリ金属であってよい。
【0061】
本発明は多くの利点を有する。実際、本発明により、塩水噴霧試験およびこれの結果がどうなるかを極めて信頼性の高い方式で予測することが可能になるのであり、そのような予測を可能にするのは、以下のような分析によるものである:すなわち、
- 当該分析の結果は迅速に取得される(マッピングによって分析された試料に対して1時間の範囲内、ラインスキャンで分析された試料に対して数分の範囲内)、
- 当該分析は、たとえば、国際出願第WO2020/012097号に記載されているような携帯型デバイスが使用される場合に、部品の対照試料と部品自体の両方で実行され得る、
- 当該分析はまた、塩水噴霧試験により耐食性が分析される可能性が高いすべての種類の材料について実行することができる。
【0062】
本発明の他の特徴および利点は、検証を可能にしている本発明の実装例に関係する、次の追加の説明から明らかになる。
【0063】
当然、この追加の説明は、本発明の目的の例示を用いてのみ与えられ、決してこの目的の限定を成すものではない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】すでにコメントされている、実験室で使用されるようなSECM機器の典型的な例の概略を例示する図である。
【
図2】非陽極酸化Al2024アルミニウム合金の試料について取得されるようなマッピングによるSECM分析の結果を示す図である。
【
図3】陽極酸化Al2024アルミニウム合金の試料に対するマッピングによるSECM分析の結果を示す図である。
【
図4】168時間の中性塩水噴霧試験後に取得された非陽極酸化Al2024アルミニウム合金の試料を正面から見た図である。
【
図5】168時間の中性塩水噴霧試験後に取得された陽極酸化Al2024アルミニウム合金の試料を正面から見た図である。
【
図6】一方では非陽極酸化Al2024アルミニウム合金の試料(曲線1)、および他方では陽極酸化Al2024アルミニウム合金の試料(曲線2)について取得されるようなラインスキャンによるSECM分析の結果を示す図であり、この図において、縦軸はプローブで測定された正規化された電流I/I
infに対応し、横軸はプローブによって一直線に移動された、μm単位で表される、距離Dに対応する。
【
図7】3価クロム化成による防食処理を施されたAl2024アルミニウム合金の第1の試料の光学顕微鏡の下で撮像された画像である。
【
図8】3価クロム化成による防食処理を施されたAl2024アルミニウム合金の第2の試料のSEMにより撮像された画像である。
【
図9】3価クロム化成によって事前に防食処理された、Al2024アルミニウム合金の同一試料に、3回連続サイクリックボルタンメトリー試験を行うことによって取得された、それぞれ1、2、および3と表記される、3つの分極曲線、さらにはこれらの曲線からプロットされたターフェル線を示す図であり、この図において、縦軸はlog|I|と表記される、電流の絶対値の対数に対応し、横軸はEと表記され、ボルトを単位として表され、アルミニウム合金の試料に印加される、電位に対応する。
【
図10】試料に3回連続サイクリックボルタンメトリー試験を行った後の、3価クロム化成によって事前に防食処理された、Al2024アルミニウム合金の試料を、正面から見た図である。
【
図11】3価クロム化成によって事前に防食処理されたAl2024アルミニウム合金の2つの異なる試料に、サイクリックボルタンメトリー試験を行うことによって取得された、それぞれ3および4の分極曲線、さらにはこれらの曲線からプロットされたターフェル線を示す図であり、この図において、縦軸はlog|I|と表記される、電流の絶対値の対数に対応し、横軸はEと表記され、ボルトを単位として表され、アルミニウム合金の試料に印加される、電位に対応する。
【
図12】3価クロム化成によって事前に防食処理されたAl2024アルミニウム合金の試料の同じ領域上で実行された、それぞれ1、2、および3と表記される、ラインスキャンによる3回のSECM分析の結果を示す図であり、この図において、縦軸は各分析の際にプローブで測定された正規化された電流I/I
infに対応し、横軸はプローブによって移動された、μm単位で表される、距離Dに対応する。
【
図13】3価クロム化成によって事前に防食処理されたAl2024アルミニウム合金の第1の試料について取得されるようなマッピングによるSECM分析の結果を示す図である。
【
図14】3価クロム化成によって事前に防食処理されたAl2024アルミニウム合金の第2の試料について取得されるようなマッピングによるSECM分析の結果を示す図である。
【
図15】168時間の中性塩水噴霧試験後に取得されるような3価クロム化成によって事前に防食処理されたAl2024アルミニウム合金の第1の試料を正面から見た図である。
【
図16】168時間の中性塩水噴霧試験後に取得されるような3価クロム化成によって事前に防食処理されたAl2024アルミニウム合金の第2の試料を正面から見た図である。
【
図17】3価クロム化成によって事前に防食処理されたAl2024アルミニウム合金の第3の試料について取得されるようなマッピングによるSECM分析の結果を示す図である。
【
図18】3価クロム化成によって事前に防食処理されたAl2024アルミニウム合金の第3の試料について取得されるような統計によるSECM分析の結果を示す図であり、この図において、縦軸は反復回数Nに対応し、横軸はプローブで測定された正規化された電流I/I
infに対応する。
【
図19】168時間の中性塩水噴霧試験後に取得されるような3価クロム化成によって事前に防食処理されたAl2024アルミニウム合金の第3の試料を正面から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0065】
参照試料へのマッピングによるSECM分析による予測
耐食性が知られており、したがって参照として使用され得る、それぞれ陽極酸化および非陽極酸化の2つのAl2024アルミニウム合金の試料は、次の動作条件を使用する、マッピングによってSECM分析を受ける。
- プローブ:ガラス毛管内に封止された長さ12cmおよび直径50μmの白金線からなるUME、
- 参照電極:Ag/AgCl、
- 対電極:金、
- 塩として塩化カリウム、および酸化還元メディエータとして1mmol/Lのフェロセンジメタノール(Fe(MeOH)2)を含む電解液、
- ポテンショスタットによりプローブに印加される電位:0.6V、
- 試料に印加される電位:なし(OCPモード)、
- 距離d(プローブ先端部/試料表面):10μm、
- プローブによる表面走査速度:10μm/s。
【0066】
陽極酸化合金は、厚さ約8μmの酸化アルミニウムから作られる保護層を有し、これが高い耐食性を付与する。
【0067】
非陽極酸化合金それ自体は、低い耐食性を有する。
【0068】
2つの合金の各々の試料について取得されたマップは、
図2および
図3に例示されており、
図2は非陽極酸化合金の試料に対応し、
図3は陽極酸化合金の試料に対応する。これらの図の右端には、プローブで測定された正規化された電流(I/I
infと表記)の値のスケールが示されており、これは、試料表面の走査中にプローブで実際に測定された電流Iと、プローブの先端部が試料表面から無限遠にあるときにプローブで測定された電流I
infとの比に対応する。
【0069】
これらの図に示されているように、非陽極酸化合金試料について取得されたマップは、この試料が一様に高い表面導電率(I/Iinf>0.9)を有することを示しており、この結果、この試料の表面は孔食的腐食に対して敏感であり得るが、陽極酸化合金試料について取得されたマップは、逆にこの試料が一様に低い表面導電率(I/Iinf<0.4)を有し、この試料に含まれる保護層の不動態化の質を先験的に証明していることを示す。
【0070】
これらのマップが、塩水噴霧試験が陽極酸化合金試料のみが適合することを明らかにするという予測を可能にするかどうかをチェックするために、両方の種類の合金の試料が、次の条件下で塩水噴霧試験を受ける。
- 中性塩水噴霧(NaCl溶液)、
- 試験槽内全体の温度および圧力:35℃-1バール、
- 噴霧溶液のNaCl濃度:50g/L、
- 試験槽内に噴霧される溶液の入口流量:1.8L/h、
- 回収された噴霧溶液の流量(凝縮物):2mL/h、
- 試験持続時間:168時間。
【0071】
これらの試験の結果が以下のTable I(表1)ならびに
図4および
図5に提示されており、
図4は非陽極酸化合金の試料に対応し、
図5は陽極酸化合金の試料に対応する。
【0072】
規格NF EN ISO 9227による塩水噴霧に168時間曝された後に2.5未満の孔食/dm2を有する場合に適合していると見なされることに留意されたい。
【0073】
【0074】
この表とこれらの図は、塩水噴霧試験の結果がマッピングモードのSECM試験により取得された予測と完全に一致しており、したがって塩水噴霧試験の予測技術としてSECMを使用する可能性を確認していることを示している。
【0075】
塩水噴霧試験の結果は7日間待つ必要があったが、マッピングによるSECM分析はそれ自体、半日で実行されたことが重要な点である。
【実施例2】
【0076】
参照試料へのラインスキャンによるSECM分析による予測
マッピングよりも高速なSECM分析の実施のこのモードも、塩水噴霧試験結果を確実に予測することを可能にするかどうかをチェックするために、上記の実施例1で試験された、それぞれ陽極酸化および非陽極酸化の、2つのAl2024アルミニウム合金の試料もラインスキャンによるSECM分析を受ける。
【0077】
これらの分析は、上記の実施例1で示されているのと同じ動作条件を使用して実行される。
【0078】
【0079】
この図において、非陽極酸化合金試料に対応する曲線1は、この試料の表面の腐食に対する感度を証明する非常に高いフィードバック(I/Iinfが1に近い)を示している。これは、また、正規化された電流I/Iinfに有意な変動があることを明らかにしており、腐食スポットの存在を示している。
【0080】
逆に、陽極酸化アルミニウム合金試料に対応する曲線2は、非常に低いフィードバックを示し(プローブが移動する全距離にわたってI/Iinfが実質的に0.3に等しい)、さらには表面導電率の変動がないことを示している。
【0081】
したがって、これらの結果は、上記の実施例1で示されているマップと完全に一致しており、ラインスキャンによるSECMの使用によりマッピングによるSECMにより取得された結果とちょうど同じ程度に関連性を有する予測結果を取得することを可能にすることを実証している。
【実施例3】
【0082】
3価クロム化成によって防食処理された試料へのマッピングによるSECM分析による予測
本発明の産業的な興味深さを実証するために、一連の分析(SEM、ターフェル線、塩水噴霧試験、SECM分析)が、上記の実施例1および2のような参照試料ではなく、CrIII化成によって防食処理された2つのシリーズのAl2024アルミニウム合金試料--以下、シリーズ3および4と呼ぶ--に対して実行される。
【0083】
実際、この種類の防食処理は、今まで、陽極酸化に比べて依然として十分に制御されていないので、処理された部品のバッチ毎に耐食性が異なる部品が得られ、そのため、これらの部品が適合しているかどうかをチェックするために現在でも塩水噴霧試験が不可欠である。
【0084】
3.1 CrIII化成による防食処理
CrIII化成による防食処理は次の3つのステップで実行される。
- 40体積%のSocosurf(商標)1858、10体積%のSocosurf(商標)1806、および50%の脱塩水を含む浴であって、撹拌の下で50℃に維持される浴に合金試料を5分間浸漬し、次いで蒸留水で試料をすすぐことからなる第1のステップ、
- 35体積%のSocosurf(商標)TCSおよび65体積%の脱塩水を含む浴であって、撹拌の下で40℃に維持される浴に合金試料を10分間浸漬し、次いで脱塩水で試料をすすぐことからなる第2のステップ、ならびに
- 10体積%のSocosurf(商標)PACS、35%での6体積%の過酸化水素(H2O2)、および8体積%の脱塩水を含む浴であって、撹拌の下で周囲温度に維持される浴に合金試料を5分間浸漬し、次いで脱塩水で試料をすすぎ、最後に圧縮空気で乾燥させることからなる第3のステップ。
【0085】
この処理が終わると、すべての試料は、原則として、厚さ約200nmのクロムおよびジルコニウムの酸化物から主に作られる保護層を有する。
【0086】
3.2 光学顕微鏡法による試料の分析
シリーズ3(
図7)からの試料の表面およびシリーズ4(
図8)からの試料の表面の画像に対応する、
図7および
図8に示されているように、これら2つの試料の表面間の差異は、光学顕微鏡法によって検出可能でない。これら2つの試料の防食層は、類似する形態を有するように見える。
【0087】
3.3 ターフェル線の方法
ターフェル線をプロットして利用するために、シリーズ3および4に属する試料でサイクリックボルタンメトリー試験が実行されるが、それは、この特性評価方法が、金属材料の電流と腐食電位とを評価するためにR&Dにおいて通常使用されているからである。
【0088】
これらの試験は、次の動作条件を使用して実行される。
- 作用電極:CrIII化成により防食処理されたAl2024アルミニウム合金の試料、
- 参照電極:Ag/AgCl、
- 対電極:金、
- 電解質:KCl 0.1mol/L、
- 走査速度:10mV/s。
【0089】
* シリーズ4からの同じ試料での連続サイクリックボルタンメトリー試験
シリーズ4からの同じ試料で、3回のサイクリックボルタンメトリー試験が連続して実行される。
【0090】
次いで、分極曲線log|I|=f(E)、さらにはターフェル線がプロットされる。
【0091】
結果は、
図9に示されており、曲線1、2、および3はそれぞれ第1のサイクル、第2のサイクル、および第3のサイクルに対応する。
【0092】
この図に示されているように、サイクル毎に非常に異なる結果が取得されており、操作中の試料表面の展開を強調している。不動態化層は、測定中に試料の分極によって刺激され、その表面状態の修飾が生じる。
【0093】
図10に示されているように、さらにこれらの修飾は裸眼で見え、
図10は3回目のボルタンメトリーサイクル終了時に撮影された試料の表面の写真であり、測定が実行された正確な配置で黒くなった領域が見える。
【0094】
* シリーズ3および4からの試料でのサイクリックボルタンメトリー試験
シリーズ3および4の各々からの試料でサイクリックボルタンメトリー試験が実行され、これはターフェル線の方法がこれらの試料の保護層の耐食性を区別することを可能にするかどうかをチェックすることを目的としている。
【0095】
ここでもまた、次いで分極曲線log|I|=f(E)およびターフェル線がプロットされる。
【0096】
結果は、
図11に示されており、曲線はそれぞれ試料が属するシリーズに応じて3および4で表記される。
【0097】
この図からわかるように、非常によく似た結果がこれら2つの試料について取得される(非常に近い腐食電位および電流)。
【0098】
しかしながら、以下のポイント3.5で強調されているように、これらの2つの試料での塩水噴霧試験は非常に異なる結果をもたらす。これは、サイクリックボルタンメトリーを介したターフェル線の利用は、同じ種類の防食処理が施されたにもかかわらず、異なる耐食性を有する2つの試料を区別するための適切な方法ではないことを強調している。
【0099】
3.4 SECM分析
* シリーズ4からの同じ試料でのラインスキャンによるSECM分析
シリーズ4からの試料は、ラインスキャンによる3回の連続するSECM分析を受け、これら3回の分析は試料の同じ領域で、実施例1に記載されているのと同じ動作条件を使用して実行される。
【0100】
結果は、
図12に示されており、曲線1、2、および3はそれぞれプローブによる試料領域の第1の走査、第2の走査、および第3の走査に対応する。
【0101】
この図に示されているように、曲線1、2、および3はほぼ同一であり、これはSECM分析が試料の表面の変質を引き起こさないことを意味している。
【0102】
* シリーズ3および4からの試料でのマッピングによるSECM分析
マッピングによるSECM分析が、実施例1に記載されているのと同じ動作条件を使用してシリーズ3および4に属する試料で実行される。
【0103】
2つのシリーズの各々からの試料について取得されたマップは、
図13および
図14に例示されており、
図13はシリーズ3からの試料に対応し、
図14はシリーズ4からの試料に対応する。これらの図の各々の右端には、プローブで測定される、正規化された電流I/I
infの値のスケールが表されている。
【0104】
これらのマップは、シリーズ4からの試料がシリーズ3からの試料よりも一様に高い表面導電率(I/Iinf≒0.7)を有し、この結果、この試料の表面は腐食に対してより高い感度を有し得ることを示している。シリーズ4からの試料のマップは、孔食に潜在的に敏感なより多くの導電性領域をさらに明らかにしている。
【0105】
シリーズ3からの試料は、それ自体、一様に低い表面導電率を有し(I/Iinf≒0.4)、この試料の防食層の不動態化品質を証明している。
【0106】
これらの取得されたマップは、塩水噴霧試験の結果が2つのシリーズの合金に対して異なること、シリーズ3からの合金がより高く、確実に高品質の耐食性を有するが、シリーズ4からの合金はより低い耐食性(しかしながら、この耐食性は、1の範囲内のI/Iinfの値が取得された未処理のAl2024合金のものよりも優れていなければならない--実施例1および2参照)を示すことを予測することを可能にする。
【0107】
その結果、予測は次のとおりである。
- シリーズ3からの合金→塩水噴霧に適合している、
- シリーズ4からの合金→塩水噴霧に不適合である。
【0108】
3.5 塩水噴霧試験
シリーズ3およびシリーズ4からの試料は、上記の実施例1に記載されているのと同じ動作条件下で168時間塩水噴霧試験を受ける。
【0109】
これらの試験の結果が以下のTable II(表2)ならびに
図15および
図16に提示されており、
図15はシリーズ3からの試料に対応し、
図16はシリーズ4からの試料に対応する。
【0110】
【0111】
この表とこれらの図は、上で行った予測を確認し、それによって、SECMによって実行される耐食性診断の信頼性が極めて高いことを確認するものである。
【実施例4】
【0112】
統計によるSECM分析による予測
3価クロム化成によって事前に防食処理された、Al2024アルミニウム合金の試料で、統計によるSECM分析が実行される。
【0113】
使用される動作条件は、実施例1に記載されているものと同一であるが、プローブによる試料の表面の走査はなく、試料の表面の真上に配置される異なる点でプローブの位置決めを行い、プローブの先端部は各位置決め点において前記表面から10μm離れているというわずかな相違がある。この点は、この目的のために開発されたコンピュータプログラムによってランダムに選択される。
【0114】
比較を用いて、同じ試料でマッピングによるSECM分析も実行される。
【0115】
これらの2つの分析の結果は、
図17および
図18に示されており、
図17はマッピングモードにおいて分析によって取得されたマップに対応し、
図18は統計モードで分析時にプローブで測定された正規化された電流I/I
infの値の分類に対応する。
【0116】
これらの図は、マッピングによって取得された結果および統計によって取得された結果との間に一致が存在することを強調しており、両方とも、試料の表面導電率が一般的に高く、値I/Iinfが0.7から0.8の間にあり、塩水噴霧試験終了時にこの試料が不適合と見なされることを予測することを可能にすることを示している。
【0117】
したがって、試料は、上記の実施例1に記載されているのと同じ動作条件下で168時間塩水噴霧試験を受ける。
【0118】
この試験の結果は、
図19に例示されており、これは著しい数の孔食(50/dm
2)を示し、試料の不適合、およびそれによって、統計によるSECM分析の予測値を確認する。
【符号の説明】
【0119】
10 電気化学セル
11 分析されるべき表面
12 プローブ
13 対電極
14 参照電極
15 電解質
16 バイポテンショスタット
17 コンピュータシステム
【国際調査報告】