(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-12
(54)【発明の名称】糖尿病性皮膚多発ニューロパシーの管理における神経性組織ナノトランスフェクション
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20230605BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230605BHJP
A61B 18/12 20060101ALI20230605BHJP
A61N 1/32 20060101ALI20230605BHJP
A61K 38/16 20060101ALN20230605BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230605BHJP
C12N 15/87 20060101ALN20230605BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20230605BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61P25/00
A61B18/12
A61N1/32
A61K38/16
C12N15/12
C12N15/87 Z
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022563392
(86)(22)【出願日】2021-04-29
(85)【翻訳文提出日】2022-10-19
(86)【国際出願番号】 US2021029780
(87)【国際公開番号】W WO2021222491
(87)【国際公開日】2021-11-04
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】520477485
【氏名又は名称】ザ・トラスティーズ・オブ・インディアナ・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】セーン,チャンダン・ケイ
(72)【発明者】
【氏名】ゴトク,サブハディップ
(72)【発明者】
【氏名】ロイ,サシュワティ
(72)【発明者】
【氏名】カンナ,サヴィタ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C053
4C084
4C160
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C053JJ02
4C053JJ03
4C053JJ21
4C053JJ40
4C084AA13
4C084BA44
4C084CA62
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA01
4C160KK03
4C160KK70
4C160MM32
(57)【要約】
生体内(in vivo)でのNGF及びNt3の細胞発現の増加などの神経原性特性を示すように、皮膚線維芽細胞を再プログラムするための組成物及び方法が提供される。一実施形態に従って、かかる組成物は、糖尿病患者の組織において、ニューロパシー性疼痛を治療するめに、且つPGP9.5+成熟神経繊維の産生を安定化又は刺激するために、標準治療と併せて使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者においてニューロパシーを治療する方法であって、
該方法は、Ascl1、Brn2、及びMyt1lをコードする核酸配列を、ヒト皮膚線維芽細胞内に導入することによって、ヒト皮膚線維芽細胞を生体内(in vivo)で再プログラムする工程を含み、該再プログラムヒト皮膚線維芽細胞が、以下の特性:
増強されたNgf発現;
Bdnf、Nt3、及びNt4/5からなる群から選択される神経栄養性因子遺伝子の増強された発現;及び
真皮における前記再プログラム細胞と関連するTuJ1+細胞の数の増加;
のうちの少なくともを含む、元の線維芽細胞に対して1つ又は複数の神経原性特性を示し、
該再プログラム細胞が線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)を発現する、
上記方法。
【請求項2】
患者が糖尿病患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞内送達が組織ナノトランスフェクションを介する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
生体内(in vivo)でのNGF及びNt3発現の皮膚ストローマ細胞発現を増加する方法であって、
組織ナノトランスフェクションにより、患者の皮膚ストローマ細胞に、Ascl1、Brn2、及びMyt1lをコードする核酸配列を導入する工程を含む、上記方法。
【請求項5】
糖尿病患者の組織においてPGP9.5+成熟神経繊維の産生を安定化又は刺激する方法であって、
神経原性となるように皮膚線維芽細胞を生体内(in vivo)で再プログラムする工程と、
該患者の皮膚線維芽細胞に、Ascl1、Brn2、及びMyt1lをコードする核酸配列を導入して、再プログラム皮膚線維芽細胞を産生する工程と、
を含む、上記方法。
【請求項6】
核酸配列が、組織ナノトランスフェクションを介してヒト皮膚線維芽細胞の細胞質ゾル内に送達される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、末梢神経の形態機能的修復を誘導する、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その開示内容が本明細書に明確に組み込まれる、2020年5月1日出願の米国仮特許出願第63/018,900号への優先権を主張する。
【0002】
行政補助の記載
本発明は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)によって与えられたDK114718、GM108014、NR015676、NS042617、及びNS085272の下で行政補助を利用して行われた。政府は本発明において特定の権利を有する。
【0003】
電子提出されたデータの参照による組み込み
本明細書と共に同時に提出され、且つ以下同定されるコンピューターで読み取り可能なヌクレオチド/アミノ酸配列表は、その全体が参照により組み込まれる;4キロバイトACII(テキスト)ファイル名「335002_ST25.txt」;2021年4月21日作成。
【背景技術】
【0004】
糖尿病性ニューロパシーは、糖尿病に罹患している人々の50%もが影響を受け得る重篤な糖尿病合併症である。高血糖(グルコース)は、全身の神経に損傷を与え得て、個体の脚及び足の神経に損傷を与える場合が最も多い。しかしながら、影響を受ける神経に応じて、糖尿病性ニューロパシー症状は、脚及び足の痛み及び痺れから、消化器系、泌尿器系、血管及び心臓の問題までの範囲にあり得る。
【0005】
糖尿病性末梢ニューロパシー(DPN)の患者において神経繊維をサポートする以前のアプローチは、細胞内シグナル伝達経路、神経細胞の生化学及び細胞器官機能を補正する薬理学的治療に頼っていた。しかしながら、かかる介入は、主に有効性の欠如及び/又は有害な副作用のために、過去の第II又はIII相臨床試験を進めることができなかった。神経成長因子(NGF)は、ケラチノサイトによって大量に産生され、DPNの発症時には枯渇している。生体外(in vitro)でのNGFの退薬によって、遠位性軸索変性が引き起こされる。神経栄養性因子の補充、つまり外因性NGF注入が、DPNにおける予防的措置として臨床的に試験されている。しかしながら、注入部位の痛み、疑わしい有効性、及び同時投与される他の栄養因子の潜在的な必要性などの障壁があるために、外因性NGFのみの治療的投与は、臨床試験を経て進行していない。
【0006】
糖尿病における健常な血中グルコースレベルを維持しようと試みる方針に加えて、糖尿病性ニューロパシーを予防し、DPNに伴う症状を軽減し、又はその進行を遅らせるためのより有効な治療方針が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態に従って、糖尿病性ニューロパシーを予防又は治療するための、組成物及び方法が提供される。最近、新たな非ウイルス組織ナノトランスフェクション技術(TNT)が、皮膚の生体内(in vivo)再プログラミングについて報告されている。出願人は、Achaete-ScuteファミリーBHLH転写因子1(ASCL1)、Master Neural転写因子BRN2(POU3F2によってコードされる)、及びミエリン転写因子1様(MYT1L)をコードする核酸配列のTNT送達によって、皮膚線維芽細胞の直接的な変換が達成されて、電気生理学的に活性な誘導神経(iN)細胞が成熟されることを発見した(D.Gallego-Perez et al,Nat Nanotechnol.(2017)12:974-979)。しかしながら、その発見は、再プログラム細胞に焦点が置かれており、出願人は現時点で、皮膚線維芽細胞のin vivo再プログラムを受けて生成された神経栄養性環境が、慢性糖尿病条件下にて変性を受けやすい既存の神経繊維を救い、且つ/又は保護するために利用することができる皮膚の神経栄養性環境を産生することを発見している。
【0008】
本開示の一実施形態に従って、生体内(in vivo)でNGF及びNt3発現の皮膚ストローマ細胞発現を増加するための、組成物及び方法が提供される。一実施形態において、その方法は、組織ナノトランスフェクションを介して、Ascl1、Brn2、及びMyt1lをコードする核酸配列を前記患者の皮膚ストローマ細胞内に導入する工程を含む。
【0009】
本開示の一実施形態に従って、誘導神経(iN)細胞となるようにヒト皮膚線維芽細胞を再プログラムするための組成物及び方法が提供され、再プログラムされた皮膚線維芽細胞は、局所的な神経栄養性環境を高め、且つ糖尿病性ニューロパシーに伴う症状を軽減する能力を有する。一実施形態において、再プログラムされるヒト皮膚細胞は、ニューロパシー性疼痛源である組織の局所領域に位置付けられる。一実施形態において、ヒト皮膚細胞は、Ascl1、Brn2、及びMyt1lから選択される1つ又は複数の遺伝子産物をコードする1つ又は複数の核酸配列をトランスフェクトすることによって再プログラムされる。本明細書に記載のように、Ascl1、Brn2、及びMyt1lの併用投与は、本明細書において「ABM」投与と呼ばれる。
【0010】
一実施形態において、組織ナノトランスフェクション(TNT)を用いてAscl1、Brn2、及びMyt1l(TNTABM)を送達し、生体内で電気生理学的に活性な誘導神経細胞(iN)へと皮膚線維芽細胞を直接変換する。皮膚線維芽細胞の神経原性転換に加えて、TNTABMは、皮膚間質の神経栄養強化も引き起こし、皮膚の神経栄養性環境のかかる強化は、慢性糖尿病条件下に存在する、ストレスを受けた既存の神経繊維を救うことができる。局所的皮膚TNTABMは、内因性NGF、及びNt3などの他の同時制御神経栄養性因子の上昇を引き起こす。
【0011】
一実施形態に従って、患者においてニューロパシーを治療する方法が提供される。その方法は、対象の手及び足と関連する局所組織など、神経損傷からの脱力感、痺れ、及び痛みを有する局所組織においてヒト皮膚線維芽細胞を生体内で再プログラムすることを含む。一実施形態において、局所組織のヒト皮膚線維芽細胞は、Ascl1、Brn2、及びMyt1lをコードする標的ヒト皮膚線維芽細胞核酸配列を、細胞質ゾル内に導入することによって再プログラムされ、得られた再プログラムヒト皮膚線維芽細胞は、以下の特性:1)増強されたNgf発現;2)神経栄養性因子遺伝子Nt3の増強された発現;及び真皮における前記再プログラム細胞と関連するTuJ1+細胞数の増加;のうちの1つ又は複数など、元の線維芽細胞に対して1つ又は複数の神経原性特性を示す。一実施形態において、再プログラムヒト皮膚線維芽細胞は、線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)を発現し続ける。一実施形態において、この方法を用いて、糖尿病患者において末梢ニューロパシーが治療される。一実施形態において、ヒト皮膚線維芽細胞のトランスフェクションが、生体内組織ナノトランスフェクションを用いて行われる。
【0012】
一実施形態において、糖尿病患者の組織におけるPGP9.5+成熟神経繊維を安定化又は刺激する方法が提供される。この方法は、Ascl1、Brn2、及びMyt1lをコードする核酸配列を、前記患者の皮膚線維芽細胞に導入することによって、生体内で皮膚線維芽細胞を再プログラムして神経原性にし、再プログラム皮膚線維芽細胞を産生する工程を含む。一実施形態において、任意に組織ナノトランスフェクションによって、手及び足などの末梢組織の局所皮膚線維芽細胞に、Ascl1、Brn2、及びMyt1lをコードする核酸配列をトランスフェクトし、末梢神経の形態機能的(morphofunctional)修復を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1-1】
図1A-1I:ナノチャネル電気穿孔法(NEPABM)トランスフェクションによる、Ascl1、Brn2及びMyt1l(ABM)をコードする遺伝子の送達によって、マウス胚細胞(MEF)細胞において神経栄養性因子が誘導された。ナノチャネル電気穿孔法による、MEF細胞におけるAscl1、Brn2及びMyt1lの送達が、免疫染色によって確認された。表現型キャラクタリゼーションから、NEPから2週間後又はNEPから4週間後に誘導ニューロン様細胞が明らかになった。NEPから1週間後(
図1A)及び4週間後(
図1B)でのNgf発現は4週時点で高いNgfを示す。
図1Cは、NEP後4週での分化MEF培地からのNGF ELISAの結果の定量化を示す(n=10)。NEP後1週時点(
図1D、1F及び1H;n=4)及びNEP後4週時点(
図1E、1G及び1I;n=6)での、脳由来神経栄養性因子(Bdnf;
図1D及び1E)、ニューロトロフィン-3(Nt3;
図1F及び1G)、及びニューロトロフィン-4/5(Nt4/5;
図1H及び1I)に関するmRNAのRT-qPCR分析からのデータを示す。ニューロトロフィン-3(Nt3)が、NEPABM後4週時点で発現の有意な増加を示した。データは、平均±SEM,
*p<0.05として表される。
【
図2-1】
図2A-2C:C57Bl/6マウスの背側皮膚内へのAscl1、Brn2、及びMyt1l(TNTABM)の組織ナノトランスフェクション(TNT)送達の結果、ストローマ再プログラミングが起こる。共焦点顕微鏡画像は、DAPIで対比染色された、Ascl1、Brn2、Myt1lの3神経叢(three-plex)in situハイブリダイゼーションを示した。TNT後24時間で皮膚におけるABM遺伝子発現のRT-qPCR分析から作成されたデータを表すグラフを示す(
図2A;n=4)。免疫染色は、皮膚におけるTuJ1繊維を示し、表皮長さmm当たりのTuJ1+繊維長さの定量化を
図2Bの棒グラフに示す(n=6)。皮膚の共焦点顕微鏡画像は、FSP及びTuJ1の共存(co-localization)を示し、視野当たりのTuJ1及びFSPポジティブ細胞の定量化を
図2に示す。データは平均±SEM(n=3~4),
*p<0.05として表される。
【
図3-1】
図3A-3F:TNTABMは、C57Bl/6マウスの皮膚において神経栄養性因子を増加した。NgfのRT-qPCR分析からのデータの棒グラフ(
図3A;n=6)、ELISAによって定量化されたNGF発現(
図3B;n=8)、*p<0.01、及び表皮におけるNGFを示す共焦点顕微鏡画像の定量化(
図3C;n=4)を表す。皮膚におけるBdnf、Nt3又はNt4/Nt5発現のRT-qPCR分析からのデータの棒グラフをそれぞれ、
図3D、3E及び3Fに示す。データは平均±SEM(n=6),
*p<0.05として表される。
【
図4-1】
図4A-4E:TNTABMは、db/dbマウスの皮膚においてNGF産生及びPGP9.5+神経繊維を増加した。皮膚表皮中の免疫染色TuJ1+繊維におけるTuJ1+繊維長さ/mmの定量化を
図4A(n=6)に提供する。ELISAによって組織NGFを定量化し、データを
図4Bに示す(n=9,10),
*p<0.01。4週時点(
図4C)及び9週時点(
図4D)のIHC画像の定量化を示す。TNTABM後9週での表皮中のNGFの免疫染色に基づく、表皮長さmm当たりのPGP9.5+繊維の数の定量化を示す(
図4E)。免疫染色によって、皮膚におけるPGP9.5+繊維数の増加が示された。データは平均±SE(n=4),
*p<0.01として表される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
本発明の説明及び主張において、以下の専門用語が、以下に記載の定義に従って使用される。
【0015】
本明細書で使用される、「約」という用語は、記載の値又は値の範囲よりも10%大きい、又は小さいことを意味するが、いずれの値も、又は値の範囲も、このより広い定義にのみに限定されないことを意図する。「約」という用語が前にある、それぞれの値又は値の範囲は、指定の絶対値又は値の範囲の実施形態を包含することも意図される。
【0016】
本明細書で使用される、「精製された」という用語及び同様な用語は、天然又は自然環境において分子又は化合物を通常伴う汚染物質を実質的に含有しない形態での分子又は化合物の単離に関する。本明細書で使用される、「精製された」という用語は、絶対的純度を必要とするわけではなく;相対的な定義として意図される。「精製ポリペプチド」は、限定されないが、核酸分子、脂質及び炭水化物などの他の化合物から分離されているポリペプチドを説明するために、本明細書で使用される。
【0017】
「単離された」という用語は、言及される物質が、その元の環境(例えば、それが天然である場合には自然環境)から除去されることを必要とする。例えば、生体動物に存在する天然ポリヌクレオチドは単離されないが、自然体系において共在する物質の一部又はすべてから分離される、同じポリヌクレオチドは単離される。
【0018】
組織ナノトランスフェクション(TNT)は、ナノスケールで細胞の細胞質ゾル内に核酸配列及びタンパク質を送達することができる電気穿孔法をベースとする技術である。さらに詳しくは、TNTでは、配列ナノチャネルを通じて非常に強く、集束した電場が使用され、並んだ組織細胞メンバーを優しくナノポレーションし、細胞内にカーゴ(cargo)(例えば、核酸又はタンパク質)を電気泳動的に運ぶ。
【0019】
本明細書で使用される、「制御要素」又は「調節配列」は、エンハンサー、プロモーター、5’及び3’非翻訳領域などの機能性遺伝子の非翻訳領域であり、宿主細胞タンパク質と相互作用して、転写及び翻訳が行われる。かかる要素は、その強さ及び特異性が異なり得る。「真核生物の調節配列」は、エンハンサー、プロモーター、5’及び3’非翻訳領域などの機能性遺伝子の非翻訳領域であり、哺乳動物細胞などの真核細胞において、真核細胞の宿主細胞タンパク質と相互作用して、転写及び翻訳が行われる。
【0020】
本明細書で使用される「プロモーター」は、遺伝子の転写開始部位に対して相対的に固定された位置にある場合に機能する、1つ又は複数のDNAの配列である。「プロモーター」は、RNAポリメラーゼと転写因子の基本的相互作用に必要とされるコア要素を含有し、上流要素及び応答要素を含有し得る。
【0021】
本明細書で使用される「エンハンサー」は、転写開始部位からの距離に無関係に機能するDNAの配列であり、転写ユニットに対して5’又は3’のいずれかであり得る。さらに、エンハンサーは、イントロン内並びにコード配列自体の中にあり得る。それらは通常、長さ10~300bpであり、シス(cis)で機能する。エンハンサーは、近傍のプロモーターからの転写を増加するように機能する。プロモーターなどのエンハンサーは、転写の調節を仲介する応答要素も含有する場合が多い。エンハンサーは、発現の調節を決定することが多い。
【0022】
「内因性」エンハンサー/プロモーターは、ゲノムにおける所定の遺伝子に天然に連結されるものである。「外因性」又は「異種」エンハンサー/プロモーターは、その遺伝子の転写が、連結されたエンハンサー/プロモーターによって指示されるように、遺伝子操作(つまり、分子生物学技術)を用いて、遺伝子と並んで位置するものである。本明細書で使用される、細胞に関する外因性配列は、細胞に対して外部の源から細胞に導入されている配列である。
【0023】
本明細書で使用される、「非コード化(非標準)アミノ酸」という用語は、以下の20個のアミノ酸:Ala、Cys、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、TyrのいずれかのL-異性体ではない、いずれかのアミノ酸を包含する。
【0024】
本明細書で使用される、「同一性」という用語は、2つ以上の配列間の類似性に関する。同一性は、残基の総数で同一残基数を割り、それに100を掛けて、パーセンテージを得ることによって測定される。したがって、正確に同じ配列の2つのコピーは100%同一性を有し、互いに対してアミノ酸欠失、付加、又は置換を有する配列2つの同一性の程度は低い。BLASTなどのアルゴリズムを利用するプログラム(Basic Local Alignment Search Tool,Altschul et al.(1993)J.Mol.Biol.215:403-410)など、いくつかのコンピュータープログラムが、配列同一性の決定に利用可能であることは、当業者であれば認識されよう。
【0025】
本明細書で使用される、「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という用語は、プローブと標的配列との間に少なくとも95%及び好ましくは少なくとも97%の配列同一性がある場合に、ハイブリダイゼーションが一般に起こるであろうことを意味する。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、50%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl,15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト液、10%デキストラン硫酸塩、及び20μg/ml変性断片化担体DNA、例えばサケ精子DNAを含む溶液中で一晩インキュベーションし、続いて約65℃にて0.1×SSC中でハイブリダイゼーション担体を洗浄することである。他のハイブリダイゼーション及び洗浄条件はよく知られており、Sambrook et al,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)、特にチャプター11に例示されている。
【0026】
本明細書で使用される、「薬剤として許容される担体」という用語は、標準的な薬剤担体、例えばリン酸緩衝生理食塩水溶液、水、水中油型若しくは油中水型エマルジョンなどのエマルジョン、及び様々なタイプの湿潤剤のいずれかを含む。この用語は、ヒトなどの動物での使用に関して、アメリカ合衆国政府の規制当局によって承認された、又は米国薬局方に記載の薬剤のいずれかも包含する。
【0027】
本明細書で使用される、「リン酸緩衝生理食塩水」又は「PBS」という用語は、塩化ナトリウム及びリン酸ナトリウムを含む水溶液を意味する。PBSの異なる配合は当業者には公知であるが、本発明の目的では、「標準PBS」というグレーズは、137mM NaCl、10mMリン酸塩、2.7mM KClの最終濃度、及びpH7.2~7.4を有する溶液を意味する。
【0028】
本明細書で使用される、「治療する(すること)」という用語は、特定の疾患若しくは病状に伴う症状の軽減、及び/又は前記症状の予防若しくは解消を含む。
【0029】
本明細書において、薬物の「有効」量又は「治療有効量」は、非毒性であるが、所望の効果を提供するのに十分な薬物の量を意味する。「有効」である量は、個人の年齢及び全身状態、投与形式等に応じて、対象ごとに、又は対象単独でさえ、ある期間にわたって異なる。したがって、正確な「有効量」を特定することは常に可能ではない。しかしながら、個人における適切な「有効」量は、通常の実験を用いて当業者によって決定され得る。
【0030】
本明細書において使用される、アミノ酸「置換」とは、異なるアミノ酸残基によって1つのアミノ酸残基が置換されることを意味する。
【0031】
本明細書において使用される、「保存的アミノ酸置換」という用語は、以下の5つのグループ:
I.小さな脂肪族、非極性又はわずかに極性の残基:Ala、Ser、Thr、Pro、Gly;
II.極性、負に荷電した残基及びそのアミド:Asp、Asn、Glu、Gln;
III.極性、正に荷電した残基:His、Arg、Lys;オルニチン(Orn)
IV.大きな、脂肪族、非極性残基:Met、Leu、Ile、Val、Cys、ノルロイシン(Nle)、ホモシステイン(hCys)
V.大きな、芳香族残基:Phe、Tyr、Trp、アセチルフェニルアラニン、ナフチルアラニン(Nal)
のうちの1つ内で交換(exchange)として定義される。
【0032】
本明細書において使用される、更なる指定のない「患者」という用語は、医師による管理ありで、又はなしで投薬又は医療処置を受ける、温血脊椎動物の飼いならされた動物(例えば、限定されないが、家畜、ウマ、ネコ、イヌ及び他のペット)又はヒトを包含することが意図される。
【0033】
「担体」という用語は、化合物又は組成物と併せた場合に、化合物若しくは組成物の製造、保存、投与、送達、有効性、選択性、又はその使用目的若しくは用途に関する他のいずれかの特徴を助ける、又は容易にする、化合物、組成物、物質、又は構造を意味する。例えば、担体は、活性成分の分解を最小限に抑え、且つ対象における有害な副作用を最小限にするように選択され得る。
【0034】
「抑制する」という用語は、活性、応答、病状、疾患、又は他の生物学的パラメーターの減少を意味する。これは、限定されないが、活性、応答、病状、又は疾患の完全な消失を含み得る。これは、天然又は対照レベルと比較して、活性、応答、病状、又は疾患の例えば10%の減少も含み得る。したがって、その減少は、天然又は対照レベルと比較して、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%の減少、又はその間のいずれかの量の減少であり得る。
【0035】
「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合若しくは修飾ペプチド結合、ペプチドアイソステア等によって互いに連結されるアミノ酸を意味し、20遺伝子コードアミノ酸以外の修飾アミノ酸を含有し得る。ポリペプチドは、翻訳後プロセシングなどの天然プロセスによって、又は当技術分野でよく知られている化学修飾技術によって修飾され得る。修飾は、ポリペプチドのどこでも、例えばペプチド主鎖、アミノ酸側鎖及びアミノ若しくはカルボキシル末端などで起こり得る。
【0036】
「アミノ酸配列」という用語は、ペプチド結合を介して互いに連結される、一連の2つ以上のアミノ酸を意味し、アミノ酸結合の順序は、アミノ酸残基を表す略語、文字、字、又は言葉のリストによって指定される。本明細書において使用されるアミノ酸略語は、アミノ酸をコードする従来の1つの文字であり、以下のように:A、アラニン;B、アスパラギン又はアスパラギン酸;C、システイン;Dアスパラギン酸;E、グルタミン酸(glutamate)、グルタミン酸(glutamic acid);F、フェニルアラニン;G、グリシン;Hヒスチジン;Iイソロイシン;K、リジン;L、ロイシン;M、メチオニン;N、アスパラギン;P、プロリン;Q、グルタミン;R、アルギニン;S、セリン;T、トレオニン;V、バリン;W、トリプトファン;Y、チロシン;Z、グルタミン又はグルタミン酸;と表される。
【0037】
本明細書で使用される「核酸」というフレーズは、天然若しくは合成オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを意味し、ワトソン-クリック型塩基対によって相補核酸にハイブリダイゼーションすることができる、DNA又はRNA又はDNA-RNAハイブリッド、一本鎖又は二本鎖、センス又はアンチセンスを意味する。核酸は、ヌクレオチド類似体(例えば、BrdU)、及び非リン酸ジエステルヌクレオシド内結合(例えば、ペプチド核酸(PNA)又はチオジエステル結合)も含み得る。特に、核酸としては、限定されないが、DNA、RNA、cDNA、gDNA、ssDNA、dsDNA又はそのいずれかの組み合わせが挙げられる。
【0038】
本明細書で使用される「ヌクレオチド」とは、塩基部位、糖部位、及びリン酸部位を含有する分子である。ヌクレオチドは、そのリン酸部位及び糖部位を介して互いに連結され、ヌクレオシド内結合が形成され得る。「オリゴヌクレオチド」という用語は時として、互いに連結された2つ以上のヌクレオチドを含有する分子を意味するために使用される。ヌクレオチドの塩基部位は、アデニン-9-イル(A)、シトシン-1-イル(C)、グアニン-9-イル(G)、ウラシル-1-イル(U)、及びチミン-1-イル(T)であり得る。ヌクレオチドの糖部位は、リボース又はデオキシリボースである。ヌクレオチドのリン酸部位は五価リン酸である。ヌクレオチドの非制限的な例としては、3’-AMP(3’-アデノシン一リン酸)又は5’-GMP(5’-グアノシン一リン酸)が挙げられる。ヌクレオチド類似体は、塩基、糖、及び/又はリン酸部位への一部のタイプの修飾を含有するヌクレオチドである。ヌクレオチドへの修飾は、当技術分野でよく知られており、例えば、5-メチルシトシン(5-me-C)、5ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、及び2-アミノアデニン、並びに糖又はリン酸部位での修飾を含む。
【0039】
ヌクレオチド置換は、ヌクレオチドへの同様な機能特性を有するが、ペプチド核酸(PNA)などのリン酸部位を含有しない分子である。ヌクレオチド置換は、ワトソン-クリック(Watson-Crick)又はフーグスティーン(Hoogsteen)型の核酸を認識するが、リン酸部位以外の部位を介して互いに連結される分子である。ヌクレオチド置換は、適切な標的核酸と相互作用する場合に二重らせん型構造に適合することができる。
【0040】
「ベクター」又は「構築物」という用語は、ベクター配列が連結されている他の核酸を細胞内に輸送することができる核酸配列を示す。「発現ベクター」という用語は、細胞(例えば、転写制御要素に連結された)による発現に適した形態の遺伝子構築物を含有する、いずれかのベクター(例えば、プラスミド、コスミド又はファージ染色体)を包含する。プラスミドはベクターの一般的に使用される形態であるため、「プラスミド」及び「ベクター」は区別なく使用される。さらに、本発明は、等しい機能を果たす他のベクターを包含することが意図される。
【0041】
「作動可能に連結される」という用語は、核酸の、他の核酸配列との機能的関係を意味する。プロモーター、エンハンサー、転写及び翻訳停止部位、及び他のシグナル配列は、他の配列に作動可能に連結し得る核酸配列の例である。例えば、転写制御要素へのDNAの作動可能な連結とは、DNAを特異的に認識し、DNAに結合し、DNAを転写する、RNAポリメラーゼによって、DNAの転写がプロモーターから開始されるような、DNAとプロモーターとの物理的及び機能的関係を意味する。
【0042】
本明細書で使用される「干渉性RNA」とは、転写後遺伝子サイレンシングに関与するいずれかのRNAであり、その定義は、限定されないが、センス及びアンチセンス鎖で構成される、二本鎖RNA(dsRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、及びマイクロRNA(miRNA)を含む。
【0043】
本明細書で使用される「ロック核酸」(LNA)とは、2’酸素及び4’炭素を連結する追加の架橋でリボース部位が修飾される、修飾RNAヌクレオチドである。例えば、ロック核酸配列は、構造:
【化1】
のヌクレオチドを含む。
【0044】
本明細書で使用される「ニューロパシー」という用語は、通常、手及び足において神経損傷からの脱力感、しびれ、及び痛みを生じる、1種又は複数種の末梢神経の機能不全を伴う病状又は疾患を定義する。「糖尿病性ニューロパシー」は、糖尿病(I型又はII型)を患う対象に生じるニューロパシーとして定義される。
【0045】
本明細書で使用される「皮膚ストローマ細胞」という用語は、細胞分裂を促進する成長因子を放出する、表皮に隣接する真皮層に存在する間葉細胞を包含する。例えば、皮膚ストローマ細胞は線維芽細胞及び周皮細胞を含む。
【0046】
実施形態
神経保護措置の必要がある患者において、ニューロパシーを治療し、PGP9.5+成熟神経繊維の産生を安定化又は刺激するための方法及び組成物が本明細書で開示される。一実施形態において、その患者は、I又はII型糖尿病を有する患者である。さらに詳しくは、一実施形態において、本開示は、元の未修飾細胞に対して1つ又は複数の神経原性特性を示すように、皮膚細胞を再プログラムするための組成物及び方法に関する。一実施形態において、ヒト皮膚線維芽細胞は、Ascl1、Brn2、及びMyt1lをコードするヒト皮膚線維芽細胞核酸配列に導入することによって生体内(in vivo)でトランスフェクトされる。本明細書で開示される、皮膚組織細胞のかかる生体内(in vivo)再プログラミングの結果、患者において隣接末梢神経に有益である、関連する組織微小環境の変化が生じ、糖尿病患者における予測可能な経路から既存の神経繊維の救出など、治療的目的に使用することができる。
【0047】
一実施形態において、患者においてニューロパシーを治療し、且つ/又は皮膚PGP9.5+成熟神経繊維の損失を低減する方法が提供される。一実施形態において、その方法は、Ascl1、Brn2、及びMyt1lをコードするヒト皮膚線維芽細胞核酸配列に導入することによって、ヒト皮膚線維芽細胞を生体内で再プログラムする工程を含む。一実施形態において、再プログラムされたヒト皮膚線維芽細胞は、以下の特性:
増強されたNgf発現;
Bdnf、Nt3、及びNt4/5からなる群から選択される神経栄養性因子遺伝子の増強された発現;及び
真皮における前記再プログラム細胞と関連するTuJ1+細胞の数の増加;
のうちの少なくとも1つを含む、元の線維芽細胞に対する1つ又は複数の神経原性特性を示す。一実施形態において、再プログラムされた皮膚線維芽細胞は、線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)を発現し続ける。
【0048】
一実施形態において、本発明は、皮膚組織に存在する場合に、内因性NGF及びNt3などの他の同時制御神経栄養性因の上昇を含む、皮膚間質の神経栄養強化を生じさせる神経原性線維芽細胞を含む組成物、並びにかかる組成物を使用して、神経保護措置の必要がある患者においてニューロパシーを治療し、且つ/或いはPGP9.5+成熟神経繊維の産生を安定化又は刺激する方法に関する。本明細書に開示の神経原性線維芽細胞は、より神経原性の環境を促進する能力を有するように操作されている線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)を発現する、確認されたヒト皮膚線維芽細胞(HADF)に由来する。かかる再プログラム線維芽細胞は、3つの遺伝子産物:Ascl1、Brn2、及びMyt1lで転写され、皮膚線維芽細胞におけるその発現によって、電気生理学的に活性な誘導神経細胞(iN)へと細胞が変換され、皮膚の神経栄養性環境が強化される。一実施形態において、かかる再プログラム線維芽細胞は生体内(in vivo)で産生される。
【0049】
一実施形態に従って、元の線維芽細胞に対して1つ又は複数の神経原性特性を示すようにヒト皮膚線維芽細胞を再プログラムする方法であって、前記細胞においてAscl1、Brn2、及びMyt1lの活性及び/又は発現を強化することを含む方法が提供される。一実施形態において、再プログラム線維芽細胞は、線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)を発現し続け、且つ以下の特性:
1.増強されたNgf発現;
2.Bdnf、Nt3、及びNt4/5からなる群から選択される神経栄養性因子遺伝子の増強された発現;及び
3.真皮における前記再プログラム細胞と関連するTuJ1+細胞の数の増加;
のうちの少なくともを示す。
【0050】
一実施形態に従って、元の線維芽細胞に対して1つ又は複数の神経原性特性を示すようにヒト皮膚線維芽細胞を再プログラムする方法であって、Achaete-ScuteファミリーBHLH転写因子1(ASCL1)、Master Neural転写因子BRN2(POU3F2によってコードされる)、及びミエリン転写因子1様(MYT1L)からなる群から選択される1つ若しくは複数のタンパク質、又はASCL1、BRN2、及びMYT1Lタンパク質からなる群から選択される1つ若しくは複数のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、線維芽細胞内に送達すること、或いはASCL1、BRN2、及びMYT1Lからなる群から選択される1つ若しくは複数のタンパク質、又はASCL1、BRN2、及びMYT1Lタンパク質からなる群から選択される1つ若しくは複数のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する、又は発現する細胞から産生される細胞外小胞に線維芽細胞を曝露することと、を含む方法が提供される。
【0051】
一実施形態において、線維芽細胞を再プログラムする方法は、例えば、ASCL1、BRN2、及びMYT1Lをコードする1つ又は複数の核酸配列を細胞にトランスフェクトすることによって、細胞内ASCL1、BRN2、及びMYT1Lタンパク質濃度を増加することを含む。トランスフェクションは、生体内(in vivo)で、又は生体外(in vitro)で行われ得る。一実施形態において、ASCL1、BRN2、及びMYT1Lをコードする核酸配列は、生体内でヒト皮膚線維芽細胞の細胞質ゾル内に送達される。本発明に従って、細胞内へ巨大分子を導入する標準技術のいずれかを用いることができる。既知の送達方法は、2つのタイプに広く分類することができる。第1のタイプでは、機械的、熱的又は電気的手段を伴う膜破壊ベースの方法を使用して、所望の巨大分子の直接的侵入のために、増強された透過処理で細胞膜の連続性を破壊することができる。第2のタイプにおいて、種々のウイルス、エキソソーム、小胞及びナノ粒子カプセルを用いた担体ベースの方法によって、エンドサイトーシスを介した担体の取込み、及び担体ペイロードの送達のための細胞の融合プロセスが可能となる。
【0052】
一実施形態において、細胞内送達は、ウイルスベクターを介するか、又は細胞膜と相互作用して、細胞内にその内容物を送達することができる他の送達ビヒクルを介する。一実施形態において、細胞内送達は、三次元ナノチャネル電気穿孔法、組織ナノトランスフェクションデバイスによる送達、又は深部局所的組織ナノエレクトロ注入デバイスによる送達を介する。一実施形態において、シリコン中空針アレイを使用して組織ナノトランスフェクション(TNT)によって、再プログラム組成物が生体内にて線維芽細胞の細胞質ゾル内に送達される。
【0053】
透過処理ベースの破壊送達の方法の中でも、電気穿孔法は既に世界共通のツールとして確立されている。高性能送達は、電場破壊を注意深くコントロールすることによって、最小限の細胞毒性で達成することができる。一実施形態に従って、組織ナノトランスフェクション(TNT)の使用によって、体細胞の細胞質ゾルに核酸配列が送達される。組織ナノトランスフェクション(TNT)は、生体組織にプラスミド、RNA及びオリゴヌクレオチドを送達し、いずれかの実験手順を行う必要なく、免疫監視下で生体内にて組織機能の直接的変換を生じさせる起電性遺伝子導入技術である。生体内組織再プログラミングに一般に使用されるウイルス遺伝子導入とは異なり、TNTはウイルスベクターの必要性を取り除き、ゲノム統合(genomic integration)又は細胞形質転換のリスクを最小限に抑える。
【0054】
生体内(in vivo)再プログラミングの現在の方法は、生体外又は生体内にて細胞をトランスフェクトし、続いてインプラントすることを含み得る。本発明の一実施形態は、生体内再プログラミングに続いて、インプランテーションを必要とするが、細胞インプラントは、生着率が低く、組織統合が低い場合が多い。さらに、生体外での細胞のトランスフェクトは、更なる調節的及び実験的ハードルを要する。
【0055】
一実施形態に従って、皮膚線維芽細胞に、本明細書に開示の再プログラミング組成物を生体内にてトランスフェクトする。バルク(bulk)生体内トランスフェクションの一般的な方法は、ウイルスベクター又は電気穿孔法による送達である。ウイルスベクターは、皮膚線維芽細胞への再プログラミング組成物の送達のために、本開示に従って使用することができるが、ウイルスベクターは、不要な免疫反応を開始するかもしれない欠点を有する。さらに、多くのウイルスベクターは、遺伝子の長期間の発現を生じさせ、それは遺伝子治療の一部の用途には有用であるが、持続性の遺伝子発現が不必要であるか、又は望まれない用途では、一過性トランスフェクションが実行可能な選択肢である。ウイルスベクターはまた、望ましくない副作用を有し得る挿入変異生成及びゲノム統合を含む。しかしながら、一実施形態に従って、リポソーム又はエキソソームなどの特定の非ウイルス担体を使用して、生体内にて体細胞に再プログラミングカクテルを送達することができる。
【0056】
TNTは、いずれかの実験手順を行う必要なく、免疫監視下で生体内にて組織機能の直接的変換を生じさせる局所遺伝子送達の方法を提供する。プラスミドでのTNTを用いて、遺伝子の過剰発現を一時的及び空間的にコントロールし、又は標的遺伝子の発現を抑制することが可能である。TNTでの空間的なコントロールによって、他の組織をトランスフェクトすることなく、皮膚組織の一部など、標的領域のトランスフェクションが可能となる。TNTデバイスに関する詳細は、その開示内容が明確に、参照により組み込まれる、米国特許出願公開第20190329014号明細書及び米国特許出願公開第20200115425号明細書に記載されている。組織ナノトランスフェクションは、配列ナノチャネルを通じて非常に強く、集束した電場を適用し、並んだ組織細胞メンバーが優しくナノポレーションされ、細胞内にカーゴが電気泳動的に運ばれることによって、細胞内へのカーゴ(例えば、再プログラミング因子)の直接的細胞質ゾル送達が可能となる。
【0057】
一実施形態に従って、本明細書に開示の方法のいずれか一つによって産生される神経原性線維芽細胞であって、線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)と、ASCL1、BRN2、及びMYT1Lからなる群から選択される少なくとも1種類のタンパク質とを発現する神経原性線維芽細胞が提供される。一実施形態において、神経原性線維芽細胞は、ASCL1、BRN2、及びMYT1Lのうちの1つ又は複数の高い発現、特にASCL1、BRN2、及びMYT1Lのすべての高い発現を特徴とする。
【0058】
本発明に従って、本明細書に開示の神経原性線維芽細胞の生体内での産生を用いて、糖尿病患者の組織など、患者の組織においてPGP9.5+成熟神経繊維の産生を安定化又は刺激することができる。一実施形態において、この方法は、神経原性となるように皮膚線維芽細胞を生体内にて再プログラムする、又は神経原性となるように生体外(in vitro)にて再プログラムされた神経原性線維芽細胞を患者内に導入する工程を含む。一実施形態において、皮膚線維芽細胞は、タンパク質ASCL1、BRN2、及びMYT1Lをコードする核酸配列と前記皮膚線維芽細胞を、前記核酸配列の細胞内取り込みを高める条件下にて接触させることによって再プログラムされている。一実施形態において、再プログラミングは、TNTを介してヒト皮膚線維芽細胞の細胞質ゾル内に、タンパク質ASCL1、BRN2、及びMYT1Lをコードする核酸配列を送達することを含む。
【0059】
一実施形態において、糖尿病患者における末梢ニューロパシーの治療方法であって、ニューロパシー性疼痛部位の近位組織において神経原性となるように、神経原性線維芽細胞を導入すること、又は線維芽細胞を再プログラムすることを含む、治療方法が提供される。一実施形態において、この方法は、タンパク質ASCL1、BRN2、及びMYT1Lをコードする核酸配列を皮膚線維芽細胞にトランスフェクトすることを含む。
【実施例】
【0060】
実施例1
神経原性線維芽細胞状態の導入
材料及び方法
マウス
インディアナ州立大学の動物実験委員会(Institutional Laboratory Animal Care and Use Committee)によって承認されたプロトコルに従って、すべての動物研究が実施された。マウスは、標準条件下にて22±2℃にて12時間明暗サイクルで、無制限に食餌及び水に無制限にアクセスできるように維持された。C57Bl/6マウスは、ジャクソン・ラボトリー社(Jackson laboratories)から購入した。レプチン受容体(Leprdb)の自然突然変異に対してホモ接合性のLepr db/dbマウス(BKS.Cg7 m+/+Leprdb/J、又はdb/db;ストック番号000642)(8~10週齢)をジャクソン・ラボトリー社(Bar Harbor,ME)から購入した。
【0061】
細胞培養
一次マウス胚性線維芽細胞(MEF)をMillipore Sigma(PMEF-HLC)から購入した。10%ウシ胚性血清、100ug/mlストレプトマイシン、100U/mlペニシリン、0.25ug/mlアンホテリシン及び1×MEM非必須アミノ酸(すべてサーモフィッシャーサイエンティフィック社(ThermoFisher Scientific)から入手)を補充したDMEM中でMEFを成長させた。加湿雰囲気で37℃にて空気95%及びCO25%中にて細胞を維持した。
【0062】
生体外(in vitro)再プログラミングのためのナノチャネル電気穿孔法
ナノチャネル電気穿孔法(NEP)について、通常の維持培地(上記のDMEM)中の密度約0.15~0.18×106細胞/ウェルにてTranswell膜(コーニング社(Corning)カタログ番号3460)の頂膜表面(apical surface)上で直接、細胞を増殖させた。ナノチャネル電気穿孔法(NEP)トランスフェクション前に、細胞を一晩接着させ、広げさせた。細胞ローディングに続いて、頂端側(apical)チャンバ内の培地をPBSに取り換え、次いでプラスミド溶液と直接接触する特注の金電極上に、Transwellインサートを取り付けた。次いで、頂端側チャンバのPBS中に対電極を浸漬し、Biorad Gene Pulser Xcell電源装置を使用して、方形波パルス(275V,35ms持続パルス,1~10パルス)を電極に適用した。直後に、PBSを新たな培地に取り換え、次いで細胞を37℃で一晩インキュベートした。D.Gallego-Perez et al,Nat Nanotechnol.(2017)12:974-979に記載のように、Ascl1プラスミド、Brn2プラスミド、Myt1l(ABM)プラスミドをモル比2:1:1にて混合した。
【0063】
誘導神経細胞プロトコル
NEP後、通常の維持培地においてポリ-D-リジン臭化水素酸塩:(Millipore Sigma,米国)被覆ガラスカバーガラス又はプレート上で24時間、MEFを培養した。24時間後、培地をニューロン誘導培地と置き換えた。ニューロン誘導培地は、1×N2サプリメント、100ug/mlストレプトマイシン、100U/mlペニシリン、0.25ug/mlアンホテリシン、1×MEM非必須アミノ酸、及び10ng/mlヒトbFGFでDMEM塩基培地を補うことによって調製した。ABM cDNA発現プラスミドをトランスフェクトしたMEF細胞を1,2又は4週間分化させた。
【0064】
生体内(in vivo)再プログラミングのための組織ナノトランスフェクション
生体内(in vivo)再プログラミングのために、組織ナノトランスフェクション(TNT)にC57Bl/6マウス(8~10週齢)又はdb/dbマウス(27週齢)を使用して、Ascl1をコードする核酸配列、Brn2をコードする核酸配列、及びMyt1l(ABM)をコードする核酸配列を送達した(TNTを示すTNTABMによって、ABMでの細胞のトランスフェクションが行われた)。TNTデバイスを上述のように使用した(D.Gallego-Perez,et al.,Nat Nanotechnol.(2017);12:974-979)。端的に言えば、TNTの24時間前に、トランスフェクションに使用される皮膚の背側領域を脱毛した。次いで、皮膚を剥離して、死んだ/ケラチン細胞層を除去して、表皮における有核細胞を露出させた。ABMプラスミドカクテル(モル比2:1:1)を、濃度0.05~0.1ug/ulにてリザーバー中にローディングした。金被覆電極(陰極)をプラスミド溶液に浸漬し、25G針対電極(陽極)を、TNTプラットフォーム面に並置される真皮内に挿入した。次いで、パルス電気刺激(10パルス,振幅で250V,持続時間10ms/パルス)を電極にかけて、露出細胞膜をナノポレーションし、ナノチャネルを介して細胞内にプラスミドカーゴを運んだ。別段の指定がない限り、対照試験片は、モック(mock)プラスミド溶液でのTNT処理を含んだ。TNTABMの24時間後、マウス皮膚試料(12mmパンチ生検)をOCTで収集した。皮膚の組織学及びその場での(in situ)mRNA発現を厚さ10μm切片上で実施した。
【0065】
DNAプラスミドの調製
プラスミドDNA精製キット(ZymoPURE II Plasmid Midiprep Kit,カタログ番号D4201)を使用して、モック(空のベクター)、Ascl1プラスミド、Brn2プラスミド、及びMyt1lプラスミドを調製した。Nanodrop 2000c分光光度計(サーモサイエンティフィック社)からDNA濃度を得た。上述(D.Gallego-Perez et al,Nat Nanotechnol.(2017)12:974-979)のように、アプライドバイオロジカルマテリアルズ社(Applied Biological Materials Inc.),Richmond,BC,Canada)による、GFP(Ascl1)、RFP(Brn2)、又はCFP(Myt1l)で、Ascl1プラスミド、Brn2プラスミド、及びMyt1lプラスミド(バックボーン,pCAGGs)を作製した。pCAGEN(空の)は、Connie Cepkoからの贈与物であった(Addgeneプラスミド番号11160)。
【0066】
RNA単離及びmRNAのためのリアルタイム定量的PCR
製造元のプロトコル(Norgen Biotek,Thorold,ON,Canada)に従って、全RNA抽出及び精製単離キット(Total RNA Extraction and Purification Isolation Kit)を使用して、全RNAを抽出した。遺伝子発現の研究のために、SuperScript(商標)VILO(商標)cDNA合成キット(サーモサイエンティフィック社)を使用して、全cDNA合成が達成された。Ascl1、Brn2、Myt1l、Ngf、Bdnf、Nt3、Nt4/5についてのmRNAの存在量は、リアルタイムPCRによって、SYBR Green-Iを使用して定量化された。Gapdhは、ハウスキーピング対照としての役割を果たす。以下のプライマーのセットを使用した:
m_Gapdh F5’-ATGACCACAGTCCATGCCATCACT-3’(配列番号1)
m_Gapdh R5’-TGTTGAAGTCGCAGGAGACAACCT-3’(配列番号2)
m_Ascl1 F:5’-CGACGAGGGATCCTACGAC-3’(配列番号3)
m_Ascl1 R:5’-CTTCCTCTGCCCTCGAAC-3’(配列番号4)
m_Brn2_F: 5’-GGTGGAGTTCAAGTCCATCTAC-3’(配列番号5)
m_Brn2_R:5’-TGGCGTCCACGTAGTAGTAG-3’(配列番号6)
m_Myt1L_F:5’-ATACAAGAGCTGTTCAGCTGTC-3’(配列番号7)
m_Myt1L_R:5’-GTCGTGCATATTTGCCACTG-3’(配列番号8)
m_NgfF:5’-ACCAATAGCTGCCCGAGTGACA-3’(配列番号9)
m_NgfR:5’-GAGAACTCCCCCATGTGGAAGACT-3’(配列番号10)
m_BdnfF:5’-CGTGGGGAGCTGAGCGTGTG-3’(配列番号11)
m_BdnfR:5’-GCCCCTGCAGCCTTCCTTGG-3’(配列番号12)
m_Nt3F:5’-GCCCAAAGCAGAGGCACCCA-3’(配列番号13)
m_Nt3R:5’-GCTACCACCGGGTTGCCCAC-3’(配列番号14)
m_Nt4/5F:5’-AGTCTGCAGTCAACGCCCGC-3’(配列番号15)
m_Nt4/5R:5’-TGCGACGCAGTGAGTGGCTG-3’(配列番号16)
【0067】
免疫細胞化学(ICC)
ニューロン変換因子ABM、又はモックプラスミドをナノトランスフェクトされたマウス胚性線維芽細胞(MEF)にてICCを行った。簡単に言えば、室温にて4%ホルムアルデヒドで細胞を15分間固定し、0.1%Triton X-100で15分間透過処理し、続いて10%正常ヤギ血清中で室温にて1時間ブロッキングした。ブロッキング後、一次抗体処理を実施し、続いてPBSの3回の洗浄段階が行われた。
【0068】
二次抗体を適用して、MAP2(Abcam,ab5392;159 1:1000)、βIIIチューブリン(TuJ1)(Abcam,ab52623;1:200,GeneTex GTX85469;1:500)及び160ニューロフィラメント200(Millipore Sigma N4142;1:200)タンパク質の発現パターンを可視化した。適切な蛍光タグ付き二次抗体(Alexa 488タグ付きα-ウサギ,1:200;Alexa 568タグ付きα-ニワトリ,1:200)と共に続いてインキュベートすることによって、シグナルを可視化した。FluoView FV1000スペクトル共焦点顕微鏡及びレーザースキャン共焦点顕微鏡(LSM880,Zeiss)を使用して、蛍光画像が獲得された。
【0069】
免疫組織化学及び顕微鏡検査法
12mmパンチバイオプシー試料の厚さ10umパラフィン又は凍結切片上で組織免疫染色を行った。βIIIチューブリン(TuJ1)(Abcam,ab52623;1:100;GeneTex,Inc.GTX85469,1:500)、S100A4(Abcam,ab41532;1:200)、神経成長因子-β(NFG)(Millipore Sigma,AB1526;1:200)、及びタンパク質遺伝子産物9.5(PGP9.5)(Millipore Sigma,AB1761;1:200)の免疫染色を、指定の特異的抗体を使用して皮膚試料のパラフィン及び凍結切片で実施した。簡単に言えば、OCT又はパラフィン包埋組織を厚さ10umで凍結切片にし、冷たいアセトンで固定し、10%正常ヤギ血清でブロックし、特異的抗体と共にインキュベートした。続いて、適切な蛍光タグ付き二次抗体(Alexa 488タグ付きα-ウサギ,1:200;Alexa 488タグ付きα-ニワトリ,1:200;Alexa 568タグ付きα-ウサギ,1:200)と共にインキュベートし、DAPIで対比染色することによって、シグナルを可視化した。Axio Scan.Z1スライドスキャナー(Zeiss顕微鏡検査)又はレーザースキャン共焦点顕微鏡(Zeiss)を用いて、画像を収集した。画像分析ソフトウェアZen(Zeiss)を使用して、蛍光強度を定量した。さらに、Zen(Zeiss)における細胞カウントモジュールを用いて、実視野(FOV)における蛍光ポジティブ細胞の手作業での細胞カウント。各画像に関して、3~6FOVをカウントし、ポジティブパーセントとしてデータを表した。Zen blackソフトウェアを使用して、共局在化を実施した。
【0070】
酵素免疫測定法(ELISA)
細胞培養実験では、NGF産生を培養培地で測定し、細胞溶解物から測定された総タンパク質濃度に正規化した。皮膚組織試料については、厚さ100μMの切片20個からタンパク質を単離した。組織切片をHBSS中に収集し、HBSSで3回洗浄して、OCTを除去し、均質化バッファー[50mMトリスHCl,pH7.5~8.0,150mM NaCl,1%Triton X-100,0.5%デオキシコール酸ナトリウム,プロテアーゼ阻害剤カクテル10ul(シグマ社(Sigma),St.Louis,MO)及びPMSF10ul(100mM)]中に再懸濁した。Pellet Pestle Motor(Kimble Chase,NJ)での5~10秒の破断を用いて、組織を氷上でそれぞれ3回30秒間ホモジナイズし、続いて10秒の破断を用いて、氷上でそれぞれ3回10秒間音波処理した。4℃で21,000gにて5分間ホモジネートを遠心分離した。上清を回収し、ELISAが実施されるまで-80℃で保管した。製造元の説明書に従って、ビシンコニン酸タンパク質アッセイ(Pierce,Rockford,IL)を実施し、タンパク質ミリグラム当たりのNGF値を標準化した。NGF Rapid ELISAキット(Biosensis Pty Ltd)を使用して、NGFタンパク質レベルを決定した。
【0071】
RNA in situハイブリダイゼーション(蛍光マルチプレックスRNAscope)
クリオスタット(Leica Microsystems)を用いて、皮膚切片(10um)を切断し、Superfrost Plus Goldガラススライド(フィッシャーサイエンティフィック社,番号22-035-813)に載せた。続いてスライドを-80℃で保存した。カスタムソフトウェアを使用して、対ダブル(paired double)-Zオリゴヌクレオチドプローブを標的RNAに対してデザインした。Ascl1 mRNA(313291-C2)、Brn2(460561-C3)及びMyt1l(483401)に対するプローブ、並びにin situハイブリダイゼーション及びDAPI標識のための他の試薬をAdvanced Cell Diagnostics(ACD,Newark,CA)から購入した。製造元の説明書に従って、RNAscopeマルチプレックス蛍光試薬v2キットを使用して手作業で、組織前処理、ハイブリダイゼーション、増幅、及び検出を実施した。RNAscopeハイブリダイゼーションの間、ポジティブプローブ(カタログ番号321811)、ネガティブプローブ(カタログ番号321831)、及びABMプローブを同時に処理した。FV3000オリンパス(Olympus)顕微鏡を使用して、蛍光画像を獲得した。
【0072】
結果
ナノチャネル電気穿孔法(NEPABM)によるABMの送達によって、トランスフェクションから2週間後及び4週間後にMEFの変換が起こる。ニューロフィラメント200+染色によって示される、誘導神経(iN)細胞は、4週目に有意に高いNgf発現を示した(
図1B)。NGFタンパク質の産生は、
図1Cに示すNEPABM後4週目にMEF培養培地中に誘導された。NEPABM後1週目(
図1D)及び4週目(
図1E)での脳由来神経栄養性因子(Bdnf)の定量分析、NEPABM後1週目(
図1F)及び4週目(
図1G)でのニューロトロフィン-3(Nt3)の定量分析、NEPABM後1週目(
図1H)及び4週目(
図1H)でのニューロトロフィン-4/5(Nt4/5)の定量分析は、NEPABM後4週目にてNt3発現の有意な増加を示した(
図1G)。
【0073】
背側マウス皮膚へのTNT
ABMによるABMの局所的送達の成功は、Ascl1、Brn2、及びMyt1l(
図2A)の検出された発現で、その場(insitu)で確認された。TuJ1+として早期に可視化されたiN細胞は、TNT
ABM後4週目(
図2B)で真皮に有意に豊富であった。TuJ1+iN細胞は、線維芽細胞-特異的タンパク質(FSP)を同時発現し、これらのiN細胞が線維芽細胞由来であることが示された(
図2C)。
【0074】
TNT
ABMは、TNT
ABM後1週にてマウス皮膚においてNgf発現を増強し(
図3A参照)、続いてTNT
ABM後4週でNGFタンパク質産生を増強した(
図3B)。免疫染色をベースとする表皮において高いNGF発現が局在化された(
図3C)。gBdnf(
図3D)、Nt3(
図3E)、及びNt4/5(
図3F)を含む神経栄養性因子遺伝子発現の定量分析から、TNT
ABM後1週目に有意なNt3発現を示した(
図3E)。
【0075】
db/dbマウスの背側皮膚上の局所的TNT
ABMは、4週目に真皮においてTuJ1+細胞の増加を示した(
図4A)。トランスフェクトされた組織におけるNGFの存在量は、ELISAによって定量化され(データを
図4Bに示す(n=9,10),
*p<0.01)、4週目(
図4C)及び9週目での(
図4D)IHC画像の定量化は、TNT
ABM後4週目でのNGFの有意な増加を示した。表皮によるNGFの高い産生は、マウスにけるTNT
ABM後9週までの間持続された。ニューロパシーの発症が十分に実証された際に、その時点でこれらのdb/dbマウスは36週齢であった。PGP9.5+染色によって測定された成熟神経細胞の数は、TNTmockと比較して有意に高かった(
図4E)。
【0076】
考察
生体内(in vivo)再プログラミングは、生体外(in vitro)で再プログラムされた限られた数の細胞のインプランテーションに依存している場合が多い。かかるアプローチは、宿主免疫システムと矛盾することが多い。局所的TNTにより仲介される生体内再プログラミングによって、免疫監視下にて生体内で細胞が変換されるという利点を提供する。生体内での細胞変換の成功は、かかる再プログラミングが、局所免疫システムでの交渉が成功した後にのみ起こったことを意味する。したがって、生体内細胞のかかるプロセスは、翻訳の有意性を有する持続可能な結果を生じる可能性が高い。
【0077】
生体内での細胞の再プログラミングは、パラクリンメカニズムによって同じ微小環境内の非再プログラム細胞に影響を及ぼすと予測される因子の放出を誘導する。生体内再プログラミングの産物は、変換が成功した細胞、並びに変換細胞及び周囲の神経性細胞の生存及び機能性を支える修飾組織微小環境である。成人皮膚におけるTNTABMにより産生されたiN細胞は、長期間生き残り続け、電気生理学的活性を獲得する。
【0078】
本明細書に開示される、TuJ1+神経細胞は、TNTABMに応答して産生し、FSP+細胞と共存し、以前に確立されたようにiNの線維芽細胞由来を意味する。この研究の興味深い知見は、皮膚間質がNGF及びNt3発現を豊富にすることである。生体外(in vitro)条件下でのNGF及びNt3の誘導の相違するタイムラインは、間質の複雑性及び血液由来因子など、実験条件の違いによって説明され得る。
【0079】
NGF及びNT3発現の誘導の遅れが、老齢糖尿病性マウスにおいて確認され、糖尿病の条件下にて神経原性再プログラミングの成功に対する障害を意味する。DPNの臨床的評価は、タンパク質遺伝子産物9.5(PGP9.5)免疫染色による、皮膚生検における官能検査、神経伝導速度試験、又は神経繊維の計数を含む。PGP9.5+ペプチド作動性及び非ペプチド作動性表皮内神経繊維(IENF)の計数は、DPNにおける小神経の減少を定量的に評価するための「ゴールドスタンダード」として益々認識されている。これらの初期構造変化がdb/dbマウスにおいて確立された。この研究において、db/dbマウスにおける局所的皮膚TNTABMによって、9週間まで高いNGF産生が誘導された。かかる高い皮膚NGFは、PGP9.5+成熟神経繊維のより高い存在量と関連した。db/dbにおいて、この年齢にて皮膚PGP9.5+成熟神経繊維が顕著に減少したことはよく知られている。したがって、局所的皮膚TNTABMに応答した、内因性NGF及び他の同時制御神経栄養性因子の上昇は、糖尿病における皮膚PGP9.5+成熟神経繊維の喪失を減らすのに有効である。まとめると、これは、生体内再プログラミングの条件下にて、糖尿病の条件下にてその損失の予測可能な経路から既存の神経線維を救出することなど、治療目的に、組織微小環境の変化を利用することができることを実証する最初の研究である。
【配列表】
【国際調査報告】