(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-12
(54)【発明の名称】TDP-43プロテイノパチーの処置のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20230605BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230605BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230605BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20230605BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230605BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230605BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230605BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230605BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230605BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20230605BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230605BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230605BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20230605BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230605BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230605BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20230605BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20230605BHJP
A61K 35/765 20150101ALI20230605BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20230605BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20230605BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/86 Z
C12N7/01
C12N5/10
A61P43/00 111
A61P25/00
A61P21/00
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/28
A61K38/17
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/761
A61K35/763
A61K35/765
A61K35/12
A61K47/64
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022565544
(86)(22)【出願日】2021-04-27
(85)【翻訳文提出日】2022-12-14
(86)【国際出願番号】 US2021029289
(87)【国際公開番号】W WO2021222168
(87)【国際公開日】2021-11-04
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516127178
【氏名又は名称】ソラ・バイオサイエンシズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】菱谷 彰徳
(72)【発明者】
【氏名】コヤ,ケイゾウ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD25
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC01
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA06
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA20
4C084BA21
4C084BA23
4C084BA41
4C084CA18
4C084CA53
4C084DC50
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZA151
4C084ZA152
4C084ZA161
4C084ZA162
4C084ZA221
4C084ZA222
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZC411
4C084ZC412
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA04
4C087CA09
4C087CA12
4C087NA05
4C087NA13
4C087ZA02
4C087ZA15
4C087ZA16
4C087ZA22
4C087ZA94
4C087ZC41
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
TDP-43媒介性タンパク質凝集および関連したプロテオパチーを特異的に低下させるために、細胞の生得的なシャペロン機構、具体的にはHsp70媒介性システムを動員する新規なクラスの融合タンパク質が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Jタンパク質のJドメインおよびTDP-43結合性ドメインを含む単離された融合タンパク質。
【請求項2】
Jタンパク質のJドメインが真核生物起源である、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
Jタンパク質のJドメインがヒト起源である、請求項1または請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
Jタンパク質のJドメインが細胞質に局在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
Jタンパク質のJドメインが、配列番号1~50からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
Jドメインが、配列番号1、5、6、10、16、24、25、31、および49からなる群から選択される配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
Jドメインが配列番号5の配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
Jドメインが配列番号10の配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
Jドメインが配列番号16の配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
Jドメインが配列番号25の配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
Jドメインが配列番号31の配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項12】
TDP-43結合性ドメインが、例えばELISAアッセイを用いて測定された場合、1μM以下、例えば、300nM以下、100nM以下、30nM以下、10nM以下の、TDP-43(例えば、TDP-43のC末端の207アミノ酸を含むレポーター構築物を用いる)に対するK
Dを有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項13】
TDP-43結合性ドメインが、配列番号51~55からなる群から選択される配列を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項14】
TDP-43結合性ドメインが、配列番号51~53の配列を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項15】
TDP-43結合性ドメインが配列番号51の配列を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項16】
TDP-43結合性ドメインが配列番号53の配列を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項17】
複数のTDP-43結合性ドメインを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項18】
2つのTDP-43結合性ドメインからなる、請求項1~17のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項19】
3つのTDP-43結合性ドメインからなる、請求項1~18のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項20】
以下の構築物:
a. DNAJ-X-T、
b. DNAJ-X-T-X-T、
c. DNAJ-X-T-X-T-X-T、
d. T-X-DNAJ、
e. T-X-T-X-DNAJ、
f. T-X-T-X-T-X-DNAJ、
g. T-X-DNAJ-X-T、
h. T-X-DNAJ-X-T-X-T、
i. TDNAJ-X-TTTTTDNAJ-X-T、
j. T-X-T-X-DNAJ-X-TT、
k. TTDNAJ-X-T-X-TTTTTDNAJ-X-T、
l. T-X-T-X-DNAJ-X-T-X-T-X-T、
m. T-X-T-X-T-X-DNAJ-X-T、
n. T-X-T-X-T-X-DNAJ-X-T-X-T、
o. T-X-T-X-T-X-DNAJ-X-T-X-T-X-T、
p. DnaJ-X-DnaJ-X-T-X-T、
q. T-X-DnaJ-X-DnaJ、
r. T-X-T-X-DnaJ-X-DnaJ、および
s. T-X-TDnaJ-X-TDnaJ-X-TTTT
のうちの1つを含み、
ここで、
TはTDP-43結合性ドメインであり、
DNAJはJタンパク質のJドメインであり、
Xは任意選択のリンカーである、請求項1~19のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項21】
配列番号5のJドメイン配列および配列番号51のTDP-43結合性ドメインを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項22】
配列番号5のJドメイン配列、および配列番号53のTDP-43結合性ドメインの2個のコピーを含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項23】
配列番号80~85および89~97からなる群から選択される配列を含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項24】
配列番号80、82~85、89~90、および92~97からなる群から選択される配列を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項25】
配列番号80の配列を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項26】
配列番号90の配列を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項27】
配列番号92の配列を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項28】
配列番号94の配列を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項29】
配列番号95の配列を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項30】
配列番号96の配列を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項31】
標的化試薬をさらに含む、請求項1~30のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項32】
エピトープをさらに含む、請求項1~31のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項33】
エピトープが、配列番号67~73からなる群から選択されるポリペプチドである、請求項32に記載の融合タンパク質。
【請求項34】
細胞透過剤をさらに含む、請求項1~33のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項35】
細胞透過剤が、配列番号74~77からなる群から選択される、請求項34に記載の融合タンパク質。
【請求項36】
シグナル配列をさらに含む、請求項1~35のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項37】
シグナル配列が、配列番号98~100からなる群から選択されるペプチド配列を含む、請求項36に記載の融合タンパク質。
【請求項38】
細胞においてTDP-43タンパク質の凝集を低下させる能力がある、請求項1~37のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項39】
TDP-43媒介性細胞毒性を低下させる能力がある、請求項1~38のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項40】
請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードする核酸配列。
【請求項41】
前記核酸がDNAである、請求項40に記載の核酸配列。
【請求項42】
前記核酸がRNAである、請求項40に記載の核酸配列。
【請求項43】
前記核酸が少なくとも1個の修飾核酸を含む、請求項40~42のいずれか一項に記載の核酸配列。
【請求項44】
プロモーター領域、5’UTR、ポリ(A)シグナルなどの3’UTRをさらに含む、請求項40~43のいずれか一項に記載の核酸配列。
【請求項45】
プロモーター領域が、CMVエンハンサー配列、CMVプロモーター、CBAプロモーター、UBCプロモーター、GUSBプロモーター、NSEプロモーター、シナプシンプロモーター、MeCP2プロモーター、およびGFAPプロモーターからなる群から選択される配列を含む、請求項44に記載の核酸配列。
【請求項46】
請求項40~45のいずれか一項に記載の核酸配列を含むベクター。
【請求項47】
アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス(ワクシニアまたは粘液腫)、パラミクソウイルス(麻疹、RSV、またはニューキャッスル病ウイルス)、バキュロウイルス、レオウイルス、アルファウイルス、およびフラビウイルスからなる群から選択される、請求項46に記載のベクター。
【請求項48】
AAVである、請求項46または請求項47に記載のベクター。
【請求項49】
カプシドおよび請求項46~48のいずれか一項に記載のベクターを含むウイルス粒子。
【請求項50】
カプシドが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、偽型AAV、アカゲザル由来AAV、AAVrh8、AAVrh10、およびAAV-DJan AAVカプシド変異体、AAVハイブリッドセロタイプ、臓器向性AAV、心臓向性AAV、および心臓向性AAVM41変異体からなる群から選択される、請求項49に記載のウイルス粒子。
【請求項51】
カプシドが、AAV2、AAV5、AAV8、AAV9、およびAAVrh10からなる群から選択される、請求項49または請求項50に記載のウイルス粒子。
【請求項52】
カプシドがAAV2である、請求項49~51のいずれか一項に記載のウイルス粒子。
【請求項53】
カプシドがAAV5である、請求項49~51のいずれか一項に記載のウイルス粒子。
【請求項54】
カプシドがAAV8である、請求項49~51のいずれか一項に記載のウイルス粒子。
【請求項55】
カプシドがAAV9である、請求項49~51のいずれか一項に記載のウイルス粒子。
【請求項56】
カプシドがAAV rh10である、請求項49~51のいずれか一項に記載のウイルス粒子。
【請求項57】
請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質を発現する細胞、請求項40~45のいずれか一項に記載の核酸、請求項46~48のいずれか一項に記載のベクター、請求項49~56のいずれか一項に記載のウイルス粒子からなる群から選択される作用物質、および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む薬学的組成物。
【請求項58】
細胞においてTDP-43タンパク質の毒性を低下させる方法であって、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質を発現する細胞、請求項40~45のいずれか一項に記載の核酸、請求項46~48のいずれか一項に記載のベクター、請求項49~56のいずれか一項に記載のウイルス粒子、および請求項57に記載の薬学的組成物からなる群から選択される1つまたは複数の作用物質の有効量と前記細胞を接触させるステップを含む、方法。
【請求項59】
細胞が対象内にある、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
対象がヒトである、請求項58または請求項59に記載の方法。
【請求項61】
細胞が中枢神経系の細胞である、請求項58~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
対象が、TDP-43疾患を有すると同定されている、請求項58~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
TDP-43疾患が、ALS、FTD、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、海馬硬化症、およびレビー小体型認知症からなる群から選択される、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
TDP-43疾患がALSである、請求項62または請求項63に記載の方法。
【請求項65】
対照細胞と比較した場合、細胞において凝集TDP-43タンパク質の量の低下がある、請求項58~64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
TDP-43疾患の処置、防止、またはその進行の遅延を必要とする対象においてTDP-43疾患を処置する、防止する、またはその進行を遅延させる方法であって、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質を発現する細胞、請求項40~45のいずれか一項に記載の核酸、請求項46~48のいずれか一項に記載のベクター、請求項49~56のいずれか一項に記載のウイルス粒子、および請求項57に記載の薬学的組成物からなる群から選択される1つまたは複数の作用物質の有効量を投与するステップを含む、方法。
【請求項67】
TDP-43疾患が、ALS、FTD、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、海馬硬化症、およびレビー小体型認知症からなる群から選択される、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
TDP-43疾患がALSである、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
対象におけるTDP-43疾患の防止またはその進行の遅延に有用な医薬の調製における、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項1~39のいずれか一項に記載の融合タンパク質を発現する細胞、請求項40~45のいずれか一項に記載の核酸、請求項46~48のいずれか一項に記載のベクター、請求項49~56のいずれか一項に記載のウイルス粒子、および請求項57に記載の薬学的組成物の1つまたは複数の使用。
【請求項70】
TDP-43疾患が、ALS、FTD、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、海馬硬化症、およびレビー小体型認知症からなる群から選択される、請求項69に記載の使用。
【請求項71】
TDP-43疾患がALSである、請求項69または請求項70に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2020年4月28日に出願された米国仮特許出願第63/016,707号、およびまた2020年6月5日に出願された米国仮特許出願第63/035,437号の35 U.S.C.§119(e)による優先権を主張する。前述の出願の全内容は、全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
細胞内で発現した全てのタンパク質は、適切に機能するためにそれらの意図された構造へ正しくフォールドされる必要がある。増え続ける疾患および障害が、タンパク質の不適切なフォールディングならびに/またはタンパク質およびリポタンパク質、加えて感染性タンパク質性物質の不適切な沈着および凝集と関連づけられることが示されている。コンフォメーション病またはプロテオパチーとしても知られている、ミスフォールディングにより引き起こされる疾患の例には、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、および前頭側頭葉型認知症(FTLD)が挙げられる。変異タンパク質は、細胞において凝集し、典型的な細胞毒性細胞封入体をもたらす。
【0003】
様々な神経変性疾患は、アミロイド線維で構成される細胞内または細胞外のタンパク質凝集物の蓄積により病理学的に特徴づけられる(Formanら、(2004)Nat Med.10:1055~1063)。例えば、アルツハイマー病(AD)の病態は、βアミロイドおよび微小管結合タンパク質タウ、それぞれで構成される老人斑および神経原線維濃縮体により定義され、αシヌクレインで構成されるレビー小体は、パーキンソン病の、疾患を定義する病変である。最近まで、FTLD症候群に関連した最もよく見られる表現型である、ユビキチン封入体を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD-U)(Kumar-Singh & Van (2007)Brain Pathol.、17:104~114)、および筋萎縮性側索硬化症(ALS)(Xiaoら、(2006)Biochim Biophys Acta、1762:1001~1012)の両方の神経病理学は、非アミロイド形成的ユビキチン化封入体(UBI)によって定義された。
【0004】
初老期認知症の2番目に多い型である、FTLDは、共通して行動および/または言語の機能障害を有する、神経変性障害の不均一な群を指す(Kumar-Singh & Van、前記)。いく人かの罹患した個体は、パーキンソニズムまたは運動ニューロン疾患(MND)などの運動障害を現す。FTLDという名称は、顕著な前頭葉および側頭葉の変性を反映しているが、多数の神経病理学的異常がこれらの患者において同定されている(Cairnsら、(2007)Acta Neuropathol.、1145:5~22)。FTLDの以下の2つの広い病理学的下位区分が認識されている:タウ陽性封入体を有する脳(すなわち、タウオパチー)、ならびにタウ、αシヌクレイン、およびβアミロイドに対する抗体で検出されないUBIを有する脳(すなわち、FTLD-U)。FTLDの最高で40%は、プログラニュリン(PGRN)およびバロシン含有タンパク質(VCP)における変異、加えて染色体9p上の新規な遺伝子座との連鎖を含むFTLD-U病態に関連した3つの異なる遺伝的異常を有する家族性遺伝様式を示す。
【0005】
運動ニューロン疾患またはルー・ゲーリック病としても知られた、筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、進行性筋消耗および筋力低下をもたらす、脳幹および脊髄における上位と下位の両方の運動ニューロンの進行性変性により特徴づけられる神経変性疾患である(Al-Chalabiら、(2016)Amyotrophic lateral sclerosis.、15(11):1182~1194;Robberecht & Philips、(2013)Nat Rev Neurosci.、14(4):248~264;Talbotら、(2018)Nucleic Acids Res.、37(8):e64)。ALSは、54~67歳での発症年齢中央値について100,000人あたり約5.4症例の罹患率中央値を有し、男性のリスクが、女性と比較して、わずかに高い(Chioら、(2009)Amyotroph Lateral Scler.、10(5-6):310~323;Chioら、(2013)Neuroepidemiology、41(2):118~130;McCombe & Henderson、(2010)Gend Med.、7(6):557~570)。ALSは、いかなる有効な処置もない、壊滅的な神経変性疾患であり、患者は、通常、疾患発症から2~4年以内に、主に呼吸不全および嚥下問題によって、死亡する(Chioら、(2009)Amyotroph Lateral Scler.、10(5-6):310~323;del Aguilaら、(2003)Neurology、60(5):813~819;Tabataら、(2009)Nucleic Acids Res.、7(8):e64)。
【0006】
ALS症例の大部分は、原因不明の孤発性(sALS)であり、約10%の症例のみが、家族性ALS(fALS)として知られた家族性遺伝子変異のメンデル遺伝様式を含む(Rentonら、(2014)Nat Neurosci.、17(1):17~23;Taylorら、(2016)Nature、539(7628):197~206;Turnerら、(2017)J Neurol Neurosurg Psychiatry、88(12):1042~1044)。今まで、最高30個の遺伝子が、ALSの一遺伝子的原因として記載されており、最も頻度の高いのは、C9orf72、SOD1、FUS、およびTARDBP/TDP43である(Chiaら、(2018)Lancet Neurol.、17(1):94~102;Nicolasら、(2018)Neuron、97(6):1268~1283;Volkら、(2018)Med Genet.、30(2):252~258)。
【0007】
ALSにおける浸透率の変動性、加えて多数の遺伝子における遺伝子変異の同定は、多重遺伝子コンポーネントおよび環境因子などの多数の因子が疾患感受性の根底にあり得ることを示唆している。実際、タンパク質ミスフォールディング/凝集(Ross & Poirier、(2004)Nat Med.、10 Suppl:S10~17)、グルタミン酸媒介性興奮毒性(Blascoら、(2014)Curr Med Chem.、21(31):3551~3575)、ミトコンドリア動態異常(Cappello & Francolini、(2017)Int J Mol Sci.、18(10);Delicら、(2018) J Neurosci Res.、96(8):1353~1366;Onestoら、(2016)Acta Neuropathol Commun.、4(1):47)、および酸化ストレスへの寄与因子(Anandら、(2013)Oxid Med Cell Longev.、2013:635831;Sharmaら、(2016)Neurochem Res.、41(5):965~984)などの細胞経路の組合せがALSにおいて神経毒性結果をもたらし得ると示唆されている。
【0008】
43KDaの分子量を有するトランザクティブ応答(transactive response)(TAR)-DNA結合タンパク質(TDP-43)は、FTLD-UおよびALSのUBIにおいて主要な疾患タンパク質として同定された(Neumannら、(2006)Science 314:130~133)。これらの障害の両方におけるTDP-43病理の同定は、以下についての機構的リンクを提供した:1)ALS患者の大部分が、FTLDの範囲に位置する一連の行動および認知の変化を現す(Murphyら、(2007)Arch.Neurol.、64:330~334);2)MNDが、FTLD-U患者に共通して観察される(McKhannら、(2001)Arch.Neurol.、58:1803~1809);3)ALSおよびFTLD-Uに観察されるユビキチン病理に有意な重複がある(MacKenzie & Feldman (2005)J.Neuropathol.Exp.Neurol.64:730~739);ならびに4)ALSとFTLDの両方の同時分離を有する家族における遺伝子座および特定の遺伝子内の変異の同定(Talbot & Ansorge (2006)Hum.Mol.Genet.、15:R183~R187)。TDP-43はまた、複数の他の神経変性疾患の組織病理学的マーカーであることが示されており、その疾患には、アルツハイマー病(Amador-Ortizら、(2007)、Ann Neurol.、61:435~45)、パーキンソン病(LinおよびDickson、(2008)Acta Neuropathol.、116:205~13)、およびハンチントン病(Schwabら、(2008)、J Neuropathol Exp Neurol.、67:1159~65)、海馬硬化症(Amador-Ortizら、(2007)、前記)、およびレビー小体型認知症(LinおよびDickson、(2008)、前記)が挙げられる;(Lagier-Tourenneら、(2010)、Human Molecular Genetics、19:R46~R64)に概説されている。
したがって、特に、タンパク質ミスフォールディングおよび凝集に基づいた病態を有する疾患、ならびに異種性凝集物の場合における疾患に対して、特異的な抗原、タンパク質、糖タンパク質、またはリポタンパク質を標的化するように最適化された新しい治療モダリティーの開発の必要性が存在する。
【0009】
熱ショック70kDaタンパク質(本明細書では「Hsp70s」と呼ぶ)は、様々な種の細胞においてシャペロンタンパク質の遍在性クラスを構成する(Tavariaら、(1996) Cell Stress Chaperones 1、23~28)。Hsp70は、機能するために、Jドメインタンパク質およびヌクレオチド交換因子(NEF)などのコシャペロンタンパク質と呼ばれるアシスタントタンパク質を必要とする(Hartlら、(2009)Nat Struct Mol Biol 16、574~581)。タンパク質をフォールドするためのHsp70シャペロン機構の最新モデルにおいて、Hsp70は、ATP結合状態とADP結合状態との間を循環し、Jドメインタンパク質は、フォールディングまたはリフォールディングを必要とする別のタンパク質(「クライアントタンパク質」と呼ばれる)と結合して、Hsp70のATP結合型(Hsp70-ATP)と相互作用する(Young(2010)Biochem Cell Biol 88、291~300;Mayer、(2010)Mol Cell 39、321~331)。Jドメインタンパク質-クライアントタンパク質複合体のHsp70-ATPとの結合は、ATP加水分解を刺激し、それは、Hsp70タンパク質において立体構造変化を引き起こし、ヘリックスの蓋を閉じ、それにより、クライアントタンパク質とHsp70-ADPとの間の相互作用を安定化し、加えて、Jドメインタンパク質の放出を誘発し、その後、そのJドメインタンパク質は、別のクライアントタンパク質と自由に結合できる。
【0010】
したがって、このモデルにより、Jドメインタンパク質は、架橋として働き、かつ様々なクライアントタンパク質の捕獲およびそのHsp70機構への提出を促進して、適切な立体構造へのフォールディングまたはリフォールディングを促すことにより、Hsp70機構内で重要な部分を果たす(Kampinga & Craig(2010)Nat Rev Mol Cell Biol 11、579~592)。Jドメインファミリーは、原核生物(DnaJタンパク質)から真核生物(Hsp40タンパク質ファミリー)にわたる種において広く保存されている。Jドメイン(約60~80aa)は、4つのヘリックス:I、II、III、およびIVで構成されている。ヘリックスIIおよびIIIは、「HPDモチーフ」を含有する可動性ループを介して接続されており、そのHPDモチーフは、Jドメインにわたって高度に保存されており、活性にとって重要な意味をもつと考えられる(Tsai & Douglas、(1996)J Biol Chem 271、9347~9354)。HPD配列内の変異は、Jドメイン機能を消失させることが見出されている。
【0011】
ALSなどのプロテオパチーについて上記で提供された背景を考えると、ミスフォールドされたタンパク質のレベルを低下させることが、これらの壊滅的な障害の症状を処置する、防止する、または別様に改善するための手段として役に立ち得ること、およびタンパク質ミスフォールディングを修復する細胞の生得的な能力の動員が、追求するべき当然の選択であろうことは明らかなように思われる。
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは、TDP-43媒介性タンパク質凝集を特異的に低下させるために、細胞の生得的なシャペロン機構、具体的にはHsp70媒介性システムを動員する新規なクラスの融合タンパク質を開発している。タンパク質分泌および発現を増強するために、Hsp70と相互作用するコシャペロンである、Hsp40タンパク質(Jタンパク質とも呼ばれる)の断片を含む融合タンパク質を用いる、本発明者らによる以前の研究においてとは違って、本研究は、変異TDP-43タンパク質の凝集により引き起こされる、タンパク質凝集および細胞毒性を低下させることを目的として、Jドメイン含有融合タンパク質を用いる。この関連において、本発明者らは、機能に必要とされるJドメインのエレメントが、タンパク質発現および分泌を増強することにおけるJドメインの使用とは全く異なるという驚くべき発見をし、本融合タンパク質の作用様式について別個の機構を実証した。本明細書に記載された融合タンパク質は、Jドメイン、およびTDP-43に対する親和性を有するドメインを含む。融合タンパク質内のTDP-43結合性タンパク質の存在は、結果として、変異TDP-43タンパク質の凝集の特異的な低下を生じる。
【0013】
E1. したがって、第1の態様において、Jタンパク質のJドメインおよびTDP-43結合性ドメインを含む単離された融合タンパク質が本明細書で開示される。
E2. Jタンパク質のJドメインが真核生物起源である、E1に記載の融合タンパク質。
E3. Jタンパク質のJドメインがヒト起源である、E1~E2のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E4. Jタンパク質のJドメインが細胞質に局在する、E1~E3のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E5. Jタンパク質のJドメインが、配列番号1~50からなる群から選択される、E1~E4のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E6. Jドメインが、配列番号1、5、6、10、16、24、25、31、および49からなる群から選択される配列を含む、E1~E5のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E7. Jドメインが配列番号5の配列を含む、E1~E6のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E8. Jドメインが配列番号10の配列を含む、E1~E6のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E9. Jドメインが配列番号16の配列を含む、E1~E6のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E10. Jドメインが配列番号25の配列を含む、E1~E6のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E11. Jドメインが配列番号31の配列を含む、E1~E6のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E12. TDP-43結合性ドメインが、例えばELISAアッセイを用いて測定された場合、1μM以下、例えば、300nM以下、100nM以下、30nM以下、10nM以下の、TDP-43(例えば、TDP-43のC末端の207アミノ酸を含むレポーター構築物を用いる)に対するKDを有する、E1~E11のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E13. TDP-43結合性ドメインが、配列番号51~55からなる群から選択される配列を含む、E1~E12のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E14. TDP-43結合性ドメインが、配列番号51~53の配列を含む、E1~E13のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E15. TDP-43結合性ドメインが配列番号51の配列を含む、E1~E13のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E16. TDP-43結合性ドメインが配列番号53の配列を含む、E1~E13のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E17. 複数のTDP-43結合性ドメインを含む、E1~E16のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E18. 2つのTDP-43結合性ドメインからなる、E1~E17のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E19. 3つのTDP-43結合性ドメインからなる、E1~E18のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E20. 以下の構築物:
a. DNAJ-X-T、
b. DNAJ-X-T-X-T、
c. DNAJ-X-T-X-T-X-T、
d. T-X-DNAJ、
e. T-X-T-X-DNAJ、
f. T-X-T-X-T-X-DNAJ、
g. T-X-DNAJ-X-T、
h. T-X-DNAJ-X-T-X-T、
i. TDNAJ-X-TTTTTDNAJ-X-T、
j. T-X-T-X-DNAJ-X-TT、
k. TTDNAJ-X-T-X-TTTTTDNAJ-X-T、
l. T-X-T-X-DNAJ-X-T-X-T-X-T、
m. T-X-T-X-T-X-DNAJ-X-T、
n. T-X-T-X-T-X-DNAJ-X-T-X-T、
o. T-X-T-X-T-X-DNAJ-X-T-X-T-X-T、
p. DnaJ-X-DnaJ-X-T-X-T、
q. T-X-DnaJ-X-DnaJ、
r. T-X-T-X-DnaJ-X-DnaJ、および
s. T-X-TDnaJ-X-TDnaJ-X-TTTT
のうちの1つを含み、
ここで、
TはTDP-43結合性ドメインであり、
DNAJはJタンパク質のJドメインであり、
Xは任意選択のリンカーである、E1~E19のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E21. 配列番号5のJドメイン配列および配列番号51のTDP-43結合性ドメイン配列を含む、E1~E20のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E22. 配列番号5のJドメイン配列、および配列番号53のTDP-43結合性ドメイン配列の2個のコピーを含む、E1~E21のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E23. 配列番号80~85、および89~97からなる群から選択される配列を含む、E1~E22のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E24. 配列番号80、82~85、89~90、および92~97からなる群から選択される配列を含む、E1~E23のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E25. 配列番号80の配列を含む、E1~E23のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E26. 配列番号90の配列を含む、E1~E23のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E27. 配列番号92の配列を含む、E1~E23のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E28. 配列番号94の配列を含む、E1~E23のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E29. 配列番号95の配列を含む、E1~E23のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E30. 配列番号96の配列を含む、E1~E23のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E31. 標的化試薬をさらに含む、E1~E30のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E32. エピトープをさらに含む、E1~E31のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E33. エピトープが、配列番号67~73からなる群から選択されるポリペプチドである、E32に記載の融合タンパク質。
E34. 細胞透過剤をさらに含む、E1~E33のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E35. 細胞透過剤が、配列番号74~77からなる群から選択される、E34に記載の融合タンパク質。
E36. シグナル配列をさらに含む、E1~E35のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E37. シグナル配列が、配列番号98~100からなる群から選択されるペプチド配列を含む、E36に記載の融合タンパク質。
E38. 細胞においてTDP-43タンパク質の凝集を低下させる能力がある、E1~E37のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E39. TDP-43媒介性細胞毒性を低下させる能力がある、E1~E38のいずれか1つに記載の融合タンパク質。
E40. E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質をコードする核酸配列。
E41. 前記核酸がDNAである、E40に記載の核酸配列。
E42. 前記核酸がRNAである、E40に記載の核酸配列。
E43. 前記核酸が、少なくとも1個の修飾核酸を含む、E40~E42のいずれか1つに記載の核酸配列。
E44. プロモーター領域、5’UTR、ポリ(A)シグナルなどの3’UTRをさらに含む、E40~E43のいずれか1つに記載の核酸配列。
E45. プロモーター領域が、CMVエンハンサー配列、CMVプロモーター、CBAプロモーター、UBCプロモーター、GUSBプロモーター、NSEプロモーター、シナプシンプロモーター、MeCP2プロモーター、およびGFAPプロモーターからなる群から選択される配列を含む、E44に記載の核酸配列。
E46. E40~E45のいずれか1つに記載の核酸配列を含むベクター。
E47. アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス(ワクシニアまたは粘液腫)、パラミクソウイルス(麻疹、RSV、またはニューキャッスル病ウイルス)、バキュロウイルス、レオウイルス、アルファウイルス、およびフラビウイルスからなる群から選択される、E46に記載のベクター。
E48. AAVである、E46またはE47に記載のベクター。
E49. カプシドおよびE46~E48のいずれか1つに記載のベクターを含む、ウイルス粒子。
E50. カプシドが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、偽型AAV、アカゲザル由来AAV、AAVrh8、AAVrh10、およびAAV-DJan AAVカプシド変異体、AAVハイブリッドセロタイプ、臓器向性AAV、心臓向性AAV、および心臓向性AAVM41変異体からなる群から選択される、E49に記載のウイルス粒子。
E51. カプシドが、AAV2、AAV5、AAV8、AAV9、およびAAVrh10からなる群から選択される、E49またはE50に記載のウイルス粒子。
E52. カプシドがAAV2である、E49~E51のいずれか1つに記載のウイルス粒子。
E53. カプシドがAAV5である、E49~E51のいずれか1つに記載のウイルス粒子。
E54. カプシドがAAV8である、E49~E51のいずれか1つに記載のウイルス粒子。
E55. カプシドがAAV9である、E49~E51のいずれか1つに記載のウイルス粒子。
E56. カプシドがAAVrh10である、E49~E51のいずれか1つに記載のウイルス粒子。
E57. E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質、E1~E39に記載の融合タンパク質を発現する細胞、E40~E45のいずれか1つに記載の核酸、E46~E48のいずれか1つに記載のベクター、E49~E56のいずれか1つに記載のウイルス粒子からなる群から選択される作用物質、および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む薬学的組成物。
E58. 細胞においてTDP-43タンパク質の毒性を低下させる方法であって、E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質、E1~E39の融合タンパク質を発現する細胞、E40~E45のいずれか1つに記載の核酸、E46~E48のいずれか1つに記載のベクター、E49~E56のいずれか1つに記載のウイルス粒子、およびE57に記載の薬学的組成物からなる群から選択される1つまたは複数の作用物質の有効量と前記細胞を接触させるステップを含む、方法。
E59. 細胞が対象内にある、E58に記載の方法。
E60. 対象がヒトである、E58~E59のいずれか1つに記載の方法。
E61. 細胞が中枢神経系および末梢神経系の細胞である、E58~E60のいずれか1つに記載の方法。
E62. 対象が、TDP-43疾患を有すると同定されている、E58~E61のいずれか1つに記載の方法。
E63. TDP-43疾患が、ALS、FTD、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、海馬硬化症、レビー小体型認知症、および辺縁系優位型加齢性TDP-43脳症からなる群から選択される、E62に記載の方法。
E64. TDP-43疾患がALSである、E62またはE63に記載の方法。
E65. 対照細胞と比較した場合、細胞において凝集TDP-43タンパク質の量の低下がある、E58~E64のいずれか1つに記載の方法。
E66. TDP-43疾患の処置、防止、またはその進行の遅延を必要とする対象において、TDP-43疾患を処置する、防止する、またはその進行を遅延させる方法であって、E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質、E1~E39の融合タンパク質を発現する細胞、E40~E45のいずれか1つに記載の核酸、E46~E48のいずれか1つに記載のベクター、E49~E56のいずれか1つに記載のウイルス粒子、およびE57に記載の薬学的組成物からなる群から選択される1つまたは複数の作用物質の有効量を投与するステップを含む、方法。
E67. TDP-43疾患が、ALS、FTD、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、海馬硬化症、レビー小体型認知症、および辺縁系優位型加齢性TDP-43脳症からなる群から選択される、E66に記載の方法。
E68. TDP-43疾患がALSである、E67に記載の方法。
E69. 対象におけるTDP-43疾患の防止またはその進行の遅延に有用な医薬の調製における、E1~E39のいずれか1つに記載の融合タンパク質、E1~E39に記載の融合タンパク質を発現する細胞、E40~E45のいずれか1つに記載の核酸、E46~E48のいずれか1つに記載のベクター、E49~E56のいずれか1つに記載のウイルス粒子、およびE57に記載の薬学的組成物の1つまたは複数の使用。
E70. TDP-43疾患が、ALS、FTD、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、海馬硬化症、レビー小体型認知症、および辺縁系優位型加齢性TDP-43脳症からなる群から選択される、E69に記載の使用。
E71. TDP-43疾患がALSである、E69またはE70に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A-1】代表的なヒトJドメイン配列のClustal Omega配列アラインメントを示す図である。高度に保存されたHPDドメインは、強調表示された四角形内に示されている。
【
図1A-2】代表的なヒトJドメイン配列のClustal Omega配列アラインメントを示す図である。高度に保存されたHPDドメインは、強調表示された四角形内に示されている。
【
図1B-1】代表的なヒトJドメイン配列のClustal Omega配列アラインメントを示す図である。
【
図1B-2】代表的なヒトJドメイン配列のClustal Omega配列アラインメントを示す図である。
【
図2-1】JドメインおよびTDP-43結合性ドメインを含むいくつかの実例的な融合タンパク質構築物を示す図である。
【
図2-2】JドメインおよびTDP-43結合性ドメインを含むいくつかの実例的な融合タンパク質構築物を示す図である。
【
図3】蛍光顕微鏡法により測定された場合の細胞におけるTDP43-GFP融合構築物の凝集の可視化、および前記凝集を低下させることにおけるJドメイン融合タンパク質の効果を示す図である。完全長TDP-43(GFP-TDP43FL;パネル1~4)かまたはTDP-43のC末端断片(GFP-TDPCTF;パネル5~8)のいずれかを含有するGFPレポーター構築物をトランスフェクトされ、さらに、scFv対照(パネル2および6)、DnaJB1-scFv(3B12A)融合タンパク質(パネル3および7)、および保存HPDドメイン内にP33Q変異を含有するDnaJB1-scFv(3B12A)融合タンパク質(パネル4および8)を含有する細胞の蛍光顕微鏡観察を、前記レポーター構築物をのみトランスフェクトされた細胞(パネル1および5)と比較した。
【
図4】GFP-TDP43CTF構築物のみを発現する対照細胞に対して標準化された、
図3からの異なる構築物における凝集の定量化を示す図である。
【
図5】融合タンパク質構築物ありまたはなしでの、GFPレポーター構築物を発現する細胞の抽出物のイムノブロット分析を示す図である。上方パネルは、大きい方のGFP-TDP43FL(レーン1~4)および小さい方GFP-TDP43CTF(レーン5~8)を検出する、抗GFP抗体を用いたウェスタンブロット分析である。下方パネルは、scFv(3B12A)対照(レーン2および6)、融合タンパク質構築物(DnaJB1-scFv(3B12A)、レーン3および7)、および保存HPDドメイン内にP33Q変異を含有するDnaJB1-scFv(3B12A)融合タンパク質(パネル4および8)を検出する、抗FLAGエピトープ抗体を用いたウェスタンブロット分析である。
【
図6】GFP-TDP43FLかまたはGFP-TDP43CTFのいずれかのレポーター構築物を発現し、かつまた、それ以外何も発現せず(陰性対照)、または構築物2もしくは3を発現する細胞の抽出物由来の可溶性または不溶性画分からのGFPレポーター構築物のイムノブロット検出を示す図である。
【
図7】蛍光顕微鏡法により測定された場合の細胞におけるTDP43-GFP融合構築物の凝集の可視化、および前記凝集を低下させることにおけるJドメイン融合タンパク質の効果を示す図である。完全長TDP-43(GFP-TDP43FL)かまたはTDP-43のC末端断片(GFP-TDPCTF)のいずれかを含有するGFPレポーター構築物をトランスフェクトされ、かつさらに、構築物2、3、5、6、および7を含有する細胞の蛍光顕微鏡観察を、レポーター単独を発現する対照(なし)と比較した。
【
図8】蛍光顕微鏡法により測定された場合の細胞におけるTDP43-GFP融合構築物の凝集の可視化、および前記凝集を低下させることにおけるJドメイン融合タンパク質の効果を示す図である。完全長TDP-43(GFP-TDP43FL)かまたはTDP-43のC末端断片(GFP-TDPCTF)のいずれかを含有する、GFPレポーター構築物をトランスフェクトされ、かつさらに、構築物1、2、3、4、9、10、11、または14を含有する細胞の蛍光顕微鏡観察を、レポーター単独を発現する対照(なし)と比較した。
【
図9A】TDP-43レポーター構築物の定量化および検出を示す図である。
図9Aは、
図8に示された実験からの細胞における凝集の定量的差を示す。
図9Bは、細胞抽出物においてレポーター構築物レベルを定量化する、抗GFP抗体を用いた細胞抽出物のイムノブロット分析を示す。
【
図9B】TDP-43レポーター構築物の定量化および検出を示す図である。
図9Aは、
図8に示された実験からの細胞における凝集の定量的差を示す。
図9Bは、細胞抽出物においてレポーター構築物レベルを定量化する、抗GFP抗体を用いた細胞抽出物のイムノブロット分析を示す。
【
図10-1】バフィロマイシンA1(BFA)(オートファジーの遅延相の強力な阻害剤)またはMG132(プロテアソーム阻害剤)の、構築物3を同時発現する細胞においてGFP-TDP43CTFの低下への効果を示す図である。細胞を、レポーター構築物GFP-TDP43FL(レーン2)かまたはGFP-TDP43CTF(レーン3~8)のいずれかをトランスフェクトし、かつ構築物3をコードする核酸を同時トランスフェクトした(レーン4~8)。いずれかのBFA(0.01μMにおいて、レーン5、および0.1μMにおいて、レーン6)での細胞の処理は、イムノブロットにより検出された場合、GFP-TDP43CTFレポーター構築物のより高いレベルを生じた。対照的に、0.1μMまたは1.0μMのMG132(それぞれ、レーン7および8)での処理は、全くかほとんど効果を生じなかった。
【
図10-2】バフィロマイシンA1(BFA)(オートファジーの遅延相の強力な阻害剤)またはMG132(プロテアソーム阻害剤)の、構築物3を同時発現する細胞においてGFP-TDP43CTFの低下への効果を示す図である。細胞を、レポーター構築物GFP-TDP43FL(レーン2)かまたはGFP-TDP43CTF(レーン3~8)のいずれかをトランスフェクトし、かつ構築物3をコードする核酸を同時トランスフェクトした(レーン4~8)。いずれかのBFA(0.01μMにおいて、レーン5、および0.1μMにおいて、レーン6)での細胞の処理は、イムノブロットにより検出された場合、GFP-TDP43CTFレポーター構築物のより高いレベルを生じた。対照的に、0.1μMまたは1.0μMのMG132(それぞれ、レーン7および8)での処理は、全くかほとんど効果を生じなかった。
【
図11A】抗TDP43抗体(
図11A)および抗ホスホTDP43抗体(
図11B)で探索した場合の、細胞抽出物の可溶性(非凝集型)および不溶性(凝集型)画分におけるGFP-TDP43CTFレポーターのレベルへの、構築物3を同時発現すること(レーン4および8)の効果を示す図である。
【
図11B】抗TDP43抗体(
図11A)および抗ホスホTDP43抗体(
図11B)で探索した場合の、細胞抽出物の可溶性(非凝集型)および不溶性(凝集型)画分におけるGFP-TDP43CTFレポーターのレベルへの、構築物3を同時発現すること(レーン4および8)の効果を示す図である。
【
図12】抗ホスホTDP43抗体で探索した場合の、細胞抽出物におけるリン酸化GFP-TDP43CTFレポーターのレベルを低下させることにおける構築物3(レーン3)、構築物7(レーン4)、構築物2(レーン5)、構築物15(レーン6)、および構築物16(レーン7)の同時発現の効果を示す図である。
【
図13】TDP43FL(レーン2、3、7、および8)およびTDP43ΔNLS構築物(レーン4、5、9、および10)のいずれかを発現する細胞において構築物3を同時発現すること(レーン3、5、8、および10)の、TDP-43(抗TDP43抗体で探索した場合、上端パネル)、リン酸化TDP-43(抗ホスホTDP-43抗体で探索した場合、2番目のパネル)、Flagエピトープ(抗FLAG抗体で探索した場合、3番目のパネル)、およびチューブリン(抗チューブリン抗体、下端パネル)のレベルへの効果を示す図である。
【
図14】リン酸化TDP-43を低下させる能力について試験された追加の構築物を示す図である。GFP-TDP43FL(レーン1および7)かまたはGFP-TDP43CTF(レーン2~6、8~12)のいずれかを発現する細胞に、構築物3(レーン3および9)、構築物17(レーン4および10)、構築物18(レーン5および11)、および構築物19(レーン6および12)を同時トランスフェクトした。可溶性画分(レーン1~6)および不溶性画分(レーン7~12)を、抗ホスホTDP43抗体で探索した。
【
図15A】くも膜下腔内(IT)かまたは脳室内(ICV)かのいずれかの注射により投与される、対照かまたは構築物3をコードするベクターかのいずれかを含有するAAV rh10を注射されたC57マウスの結果の要約を示す図である。
図15Aは、研究スケジュールを要約する。
図15Bは、対照(レーン1および2)または構築物3を含有するベクター(レーン3および4)を含有するAAV rh10のIT投与から3週間後のマウスからの大脳抽出物のイムノブロットを示す。
図15Cは、ICV注射後のマウスからの大脳抽出物のイムノブロットを示す。レーン1~3は、対照(レーン1および2)または構築物3を含有するベクター(レーン3)を含有するAAV rh10のICV投与から3週間後のマウスからの大脳抽出物のイムノブロットを示す。レーン4~8は、対照(レーン4~6)および構築物3(レーン7および8)マウスからの8週間目のマウスのイムノブロットを示す。
【
図15B】くも膜下腔内(IT)かまたは脳室内(ICV)かのいずれかの注射により投与される、対照かまたは構築物3をコードするベクターかのいずれかを含有するAAV rh10を注射されたC57マウスの結果の要約を示す図である。
図15Aは、研究スケジュールを要約する。
図15Bは、対照(レーン1および2)または構築物3を含有するベクター(レーン3および4)を含有するAAV rh10のIT投与から3週間後のマウスからの大脳抽出物のイムノブロットを示す。
図15Cは、ICV注射後のマウスからの大脳抽出物のイムノブロットを示す。レーン1~3は、対照(レーン1および2)または構築物3を含有するベクター(レーン3)を含有するAAV rh10のICV投与から3週間後のマウスからの大脳抽出物のイムノブロットを示す。レーン4~8は、対照(レーン4~6)および構築物3(レーン7および8)マウスからの8週間目のマウスのイムノブロットを示す。
【
図15C】くも膜下腔内(IT)かまたは脳室内(ICV)かのいずれかの注射により投与される、対照かまたは構築物3をコードするベクターかのいずれかを含有するAAV rh10を注射されたC57マウスの結果の要約を示す図である。
図15Aは、研究スケジュールを要約する。
図15Bは、対照(レーン1および2)または構築物3を含有するベクター(レーン3および4)を含有するAAV rh10のIT投与から3週間後のマウスからの大脳抽出物のイムノブロットを示す。
図15Cは、ICV注射後のマウスからの大脳抽出物のイムノブロットを示す。レーン1~3は、対照(レーン1および2)または構築物3を含有するベクター(レーン3)を含有するAAV rh10のICV投与から3週間後のマウスからの大脳抽出物のイムノブロットを示す。レーン4~8は、対照(レーン4~6)および構築物3(レーン7および8)マウスからの8週間目のマウスのイムノブロットを示す。
【
図16A】ICV注射により投与される、対照かまたは構築物3をコードするベクターかのいずれかを含有するAAV rh10を注射されたΔNLS8マウスを用いた結果の要約を示す図である。
図16Aは、研究スケジュールを示す。
図16Bは、各群からの雄の平均体重を示す。
図16Cは、異なる群からのマウスの生存率を示す。
【
図16B】ICV注射により投与される、対照かまたは構築物3をコードするベクターかのいずれかを含有するAAV rh10を注射されたΔNLS8マウスを用いた結果の要約を示す図である。
図16Aは、研究スケジュールを示す。
図16Bは、各群からの雄の平均体重を示す。
図16Cは、異なる群からのマウスの生存率を示す。
【
図16C】ICV注射により投与される、対照かまたは構築物3をコードするベクターかのいずれかを含有するAAV rh10を注射されたΔNLS8マウスを用いた結果の要約を示す図である。
図16Aは、研究スケジュールを示す。
図16Bは、各群からの雄の平均体重を示す。
図16Cは、異なる群からのマウスの生存率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
定義
本明細書および特許請求の範囲に用いられる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈が明らかに他に指図しない限り、複数の指示物を含む。例えば、用語「1つの細胞」は、その混合物を含む、複数の細胞を含む。
【0016】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すのに本明細書で交換可能に用いられる。ポリマーは直鎖状または分岐状であり得、それは修飾アミノ酸を含んでもよく、それは非アミノ酸により中断されてもよい。それらの用語はまた、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または標識コンポーネントとのコンジュゲーションなどの任意の他の操作により、修飾されているアミノ酸ポリマーを包含する。
【0017】
本明細書で用いられる場合、用語「アミノ酸」は、天然および/または非天然もしくは合成のアミノ酸のいずれかを指し、それには、D型またはL型の両方の光学異性体、ならびにアミノ酸類似体およびペプチド模倣体が挙げられるが、それらに限定されない。標準一文字または三文字コードが、アミノ酸を名付けるために用いられる。
【0018】
「宿主細胞」は、対象ベクターについてのレシピエントであり得、またはレシピエントであった個々の細胞または細胞培養物を含む。宿主細胞は、単一の宿主細胞の子孫を含む。その子孫は、自然の、偶発的な、または計画的な変異によって、最初の親細胞と必ずしも完全に同一(形態において、または全DNA相補体のゲノムにおいて)というわけではない。宿主細胞は、インビボでこの発明のベクターでトランスフェクトされた細胞を含む。
【0019】
本明細書で開示された様々なポリペプチドを記載するために用いられる場合の「単離された」は、その天然の環境のコンポーネントから識別および分離されており、ならびに/または回収されているポリペプチドを意味する。その天然の環境の夾雑コンポーネントは、典型的には、本ポリペプチドについての診断的または治療的使用に干渉する材料であり、それには、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性溶質が挙げられ得る。当業者には明らかであるように、天然に存在しないポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体またはその断片は、その天然に存在する対応物からそれを区別するために「単離」を必要としない。加えて、「濃縮された」、「分離された」、または「希釈された」ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体またはその断片は、体積あたりの分子の濃度または数が、その天然に存在する対応物のそれより一般的に大きい点で、その天然に存在する対応物から区別可能である。一般的に、組換え手段により生成され、かつ宿主細胞において発現したポリペプチドは、「単離」されていると見なされる。
【0020】
「単離された」ポリヌクレオチド、またはポリペプチドをコードする核酸、または他のポリペプチドをコードする核酸は、それが、そのポリペプチドをコードする核酸の天然源において通常付随している少なくとも1つの夾雑核酸分子から識別および分離されている核酸分子である。単離された、ポリペプチドをコードする核酸分子は、それが天然で見出される形または設定以外をとる。したがって、単離された、ポリペプチドをコードする核酸分子は、それが天然の細胞において存在する場合のその特定のポリペプチドをコードする核酸分子から区別される。しかしながら、単離された、ポリペプチドをコードする核酸分子には、そのポリペプチドを通常発現する細胞に含有される、ポリペプチドをコードする核酸分子が挙げられ、ここで、例えば、その核酸分子は、天然細胞の位置とは異なる、染色体または染色体外の位置にある。
【0021】
用語「ポリヌクレオチド」、「核酸」、「ヌクレオチド」、および「オリゴヌクレオチド」は交換可能に用いられる。それらは、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド、またはその類似体のいずれかの、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形を指す。ポリヌクレオチドは、任意の3次元構造を有し得、既知または未知の任意の機能を実施し得る。以下は、ポリヌクレオチドの非限定的例である:遺伝子または遺伝子断片のコードまたは非コード領域、連鎖解析から定義される遺伝子座、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ、およびプライマー。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体などの修飾ヌクレオチドを含み得る。存在する場合、そのポリマーのアセンブリの前または後に、ヌクレオチド構造への修飾が与えられ得る。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチドコンポーネントによって中断され得る。ポリヌクレオチドは、標識コンポーネントとのコンジュゲーションなど、ポリマー化後にさらに修飾され得る。
【0022】
本明細書で定義される場合、用語「TDP-43障害」または「TDP-43媒介性疾患」は、細胞内TDP-43凝集物、特に、TDP-43変異タンパク質の凝集物の形成に関連した障害を指す。TDP-43障害の例には、好ましくは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、海馬硬化症、レビー小体型認知症、および辺縁系優位型加齢性TDP-43脳症が挙げられるが、それらに限定されない。
【0023】
「ベクター」は、好ましくは適切な宿主において自己複製する、核酸分子であり、それは、挿入された核酸分子を宿主細胞の中へおよび/または宿主細胞間で転移させる。その用語は、主にDNAまたはRNAの細胞への挿入のために機能するベクター、主にDNAまたはRNAの複製のために機能する複製ベクター、ならびにDNAまたはRNAの転写および/または翻訳のために機能する発現ベクターを含む。また、上記の機能の1つより多くを提供するベクターも含まれる。「発現ベクター」は、適切な宿主細胞の中へ導入された場合、転写され、かつポリペプチドへ翻訳され得るポリヌクレオチドである。「発現系」は、通常、所望の発現産物を生じるように機能することができる発現ベクターで構成された適切な宿主細胞を含意する。
【0024】
用語「作動可能に連結された」は、記載されたコンポーネントの並置であって、そこで、それらのコンポーネントが、それらの意図された様式でそれらが機能することを可能にする関係にある、並置を指す。コード配列と「作動可能に連結された」制御配列は、コード配列の発現が、制御配列と適合した条件下で達成されるように、ライゲーションされている。「作動可能に連結された」配列には、目的の遺伝子と近接する発現制御配列と、目的の遺伝子を制御するようにトランスでまたはある距離を置いて作用する発現制御配列の両方が挙げられ得る。用語「発現制御配列」は、それらがライゲーションされるコード配列の発現およびプロセシングに作用するのに必要であるポリヌクレオチド配列を指す。発現制御配列には、適切な転写開始、終結、プロモーター、およびエンハンサー配列;スプライシングなどの効率的なRNAプロセシングシグナルおよびポリアデニル化シグナル;細胞質mRNAを安定化させる配列;翻訳効率を増強する配列(例えば、コザックコンセンサス配列);タンパク質安定性を増強する配列;ならびに、必要に応じて、タンパク質分泌を増強する配列が挙げられる。そのような制御配列の性質は、宿主生物体によって異なる;原核生物において、そのような制御配列には、一般的に、プロモーター、リボソーム結合部位、および転写終結配列が挙げられる;真核生物において、一般的に、そのような制御配列には、プロモーターおよび転写終結配列が挙げられる。用語「制御配列」は、その存在が発現およびプロセシングに必須であるコンポーネントを含むことが意図され、その存在が有利である追加のコンポーネント、例えば、リーダー配列および融合パートナー配列も含むことができる。他に言及がない限り、本発明の融合タンパク質をコードする核酸分子を発現ベクターへ挿入することの本明細書での記載または言及は、その挿入される核酸もまた、その挿入される核酸分子を含有する発現ベクターが適合性宿主細胞または生物体の適合性細胞へ導入される場合、コードされた融合タンパク質の発現に必要とされる、機能性プロモーターならびに他の転写および翻訳制御エレメントとベクター内で作動可能に連結されていることを意味する。
【0025】
ポリヌクレオチドに適用される場合の「組換え型の」は、そのポリヌクレオチドが、宿主細胞において潜在的に発現し得る構築物を生じる、インビトロクローニング、制限および/またはライゲーションのステップ、ならびに他の手順の様々な組合せの産物であることを意味する。
【0026】
用語「遺伝子」および「遺伝子断片」は、本明細書で交換可能に用いられる。それらは、転写および翻訳された後、特定のタンパク質をコードする能力がある少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含有するポリヌクレオチドを指す。遺伝子または遺伝子断片は、そのポリヌクレオチドが少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含有する限り、ゲノムDNAまたはcDNAであり得、それは、コード領域全体またはそのセグメントを網羅し得る。「融合遺伝子」は、一緒に連結されている少なくとも2つの異種性ポリヌクレオチドで構成される遺伝子である。
【0027】
用語「疾患」および「障害」は、当技術分野において容認可能な医療水準および行為により同定された病的状態を示すように、交換可能に用いられる。
【0028】
本明細書で用いられる場合、用語「有効量」は、疾患またはその1つもしくは複数の症状の重症度および/または期間を低下させまたは改善する;有害なまたは病的な状態の進展を防止する;病的状態の退行を引き起こす;病的状態に関連した1つまたは複数の症状の再発、発達、発生、または進行を防止する;障害を検出する;あるいは、治療(例えば、別の予防または治療剤の投与)の予防的または治療的効果を増強しまたは向上させるのに十分である治療の量を指す。
【0029】
本明細書で用いられる場合、用語「Jドメイン」は、Hsp70およびその同族の内因性ATPアーゼ触媒活性を加速する能力を保持する断片を指す。様々なJタンパク質のJドメインが決定されており(例えば、Kampingaら (2010)Nat.Rev.、11:579~592;Hennessyら (2005)Protein Science、14:1697~1709参照(それぞれは、全体として参照により組み入れられている))、以下のいくつかのホールマークによって特徴づけられる:4つのαヘリックス(I、II、III、IV)、および通常、ヘリックスIIとIIIの間に高度に保存された、ヒスチジン、プロリン、およびアスパラギン酸のトリペプチド配列モチーフ(「HPDモチーフ」と呼ばれる)を有することにより特徴づけられる。典型的には、Jタンパク質のJドメインは、50アミノ酸長から70アミノ酸長の間であり、Hsp70-ATPシャペロンタンパク質とのJドメインの相互作用(結合)の部位は、ヘリックスII内から伸びる領域であると考えられており、HPDモチーフは、Hsp70 ATPアーゼ活性の刺激に必要である。本明細書で用いられる場合、用語「Jドメイン」は、Hsp70の内因性ATPアーゼ活性を加速する能力を保持する、天然のJドメイン配列およびその機能性バリアントを含むことを意図され、その能力は、当技術分野においてよく知られた方法を用いて測定することができる(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、Horneら (2010)J.Biol.Chem.、285、21679~21688参照)。ヒトJドメインの非限定的リストは、表1に提供されている。
【0030】
詳細な説明
本発明者らは、Jタンパク質のJドメインおよびTDP-43結合性ドメインを含む融合タンパク質構築物と、細胞をある程度、接触させることが、変異TDP-43タンパク質の凝集を低下させる予想外の効果を生じることを見出している。変異TDP-43の凝集は、いくつかの壊滅的な疾患を引き起こすと考えられており、その疾患には、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症、およびアルツハイマー病が挙げられるが、それらに限定されない。したがって、TDP-43障害を処置するための、例えばそれを必要とする対象においての、有用な組成物および方法が本明細書に提供される。
【0031】
シャペロンに基づいた治療に関連した問題を克服するために、本発明者らは、高い特異性を有する人工シャペロンタンパク質をデザインすることが可能であるかどうかを調べた。本発明者らは、Hsp70結合/活性化のためのエフェクタードメイン(Jドメイン配列)、およびTDP-43タンパク質に対する特異性を与えるドメインを含む一連の融合タンパク質構築物をデザインした。生じた融合タンパク質は、Hsp70およびその同族の内因性ATPアーゼ触媒活性を加速するように作用し、その結果として、タンパク質フォールディングの増加、凝集の低下、および/またはクリアランスの加速を生じる。
【0032】
I. 融合タンパク質構築物
a. 本発明における有用なJドメイン
様々なJタンパク質のJドメインが決定されている。例えば、Kampingaら、Nat.Rev.、11:579~592(2010);Hennessyら、Protein Science、14:1697~1709(2005)参照。本発明の融合タンパク質を調製することにおいて有用なJドメインは、主にHsp70 ATPアーゼ活性を加速するJドメインの特徴を定義する鍵を握る。したがって、本発明において有用な単離されたJドメインは、4つのαヘリックス(I、II、III、IV)、および通常、ヘリックスIIとIIIの間に高度に保存された、ヒスチジン、プロリン、およびアスパラギン酸のトリペプチド配列(「HPDモチーフ」と呼ばれる)を有することにより特徴づけられる、ポリペプチドドメインを含む。典型的には、Jタンパク質のJドメインは、50アミノ酸長から70アミノ酸長の間であり、Hsp70-ATPシャペロンタンパク質とのJドメインの相互作用(結合)の部位は、ヘリックスII内から伸びる領域であると考えられており、HPDモチーフは、原始的な活性の基礎をなす。代表的なJドメインには、DnaJB1、DnaJB2、DnaJB6、DnaJC6のJドメイン、SV40のラージT抗原のJドメイン、および哺乳動物のシステインストリングタンパク質(CSP-α)のJドメインが挙げられるが、それらに限定されない。本発明の融合タンパク質に用いられ得るこれらを始めとするJドメインについてのアミノ酸配列は、表1に提供されている。保存HPDモチーフは、太字で強調されている。一実施形態において、本明細書に開示された融合タンパク質は、配列番号1~50からなる群から選択されるJドメインを含む。下記の実施例セクションに示されているように、本発明者らは、保存「HPD」モチーフを欠損するJドメインの使用が、タンパク質凝集を低下させる能力がないことを発見している。したがって、別の実施形態において、本明細書に開示された融合タンパク質は、コンセンサスHPDモチーフを含むJドメインを含む。一つの特定の実施形態において、配列番号1~15、17~50からなる群から選択される。
【0033】
特定の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号1、5、6、10、16、24、25、31、および49からなる群から選択されるJドメインを含む。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
b. TDP-43結合性ドメイン
融合タンパク質はまた、少なくとも1つのTDP-43結合性ドメインを含む。TDP-43結合性ドメインは、融合タンパク質を形成するようにJドメインと連結された一本鎖ポリペプチドまたは多量体ポリペプチドであり得る。
【0038】
TDP-43結合性ドメインが、細胞内において病的レベルで存在する時のTDP-43タンパク質を結合することができるような十分な親和性を有することは理想である。したがって、一実施形態において、融合タンパク質は、96ウェルマイクロタイタープレート上でのELISAにより試験された場合、例えば、2μM以下、1μM以下、500nM以下、300nM以下、100nM以下、30nM以下の、TDP-43レポーター構築物(例えば、完全長TDP-43(Novus Biologicals、NBP2-22850、Centennial、CO))に対するKDを有するTDP-43結合性ドメインを含む。
【0039】
TDP-43結合性ドメインは、以前に同定され、かつ特徴づけられている(例えば、米国特許第10,259,866号、WO2016/53610、WO2018/218252、WO2019/134981、WO2019/177138(それぞれ、参照により本明細書に組み入れられている)参照)。したがって、別の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号51~55からなる群から選択されるTDP-43結合性ドメイン(例えば、表2参照)を含む。一つの特定の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号51のTDP-43結合性ドメインを含む。別の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号53のTDP-43結合性ドメインを含む。なお別の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号52のTDP-43結合性ドメインを含む。
【0040】
別の実施形態において、融合タンパク質はまた、Jドメインと化学的にコンジュゲートされているTDP-43結合性ドメインの使用を企図する。TDP-43結合性ドメインは、Jドメインと直接的にコンジュゲートされ得る。あるいは、それは、リンカーによりJドメインとコンジュゲートされ得る。例えば、当業者に知られて、かつTDP-43結合性ドメインをJドメインと、または標的化ドメインを、TDP-43結合性ドメインおよびJドメインを含む融合タンパク質と架橋するのに有用である多数の化学的架橋剤がある。例えば、架橋剤は、分子を段階的な様式で連結するために用いることができるヘテロ二官能性架橋剤である。ヘテロ二官能性架橋剤は、タンパク質をコンジュゲートするためのより特異的なカップリング方法をデザインする能力を提供し、それにより、ホモタンパク質ポリマーなどの望ましくない副反応の発生を低下させる。様々なヘテロ二官能性架橋剤が当技術分野において知られており、それには、スクシンイジミル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS);N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート(SIAB)、スクシンイミジル4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート(SMPB)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC);4-スクシンイミジルオキシカルボニル-a-メチル-a-(2-ピリジルジチオ)-トルエン(SMPT)、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル6-[3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート]ヘキサノエート(LC-SPDP)が挙げられる。N-ヒドロキシスクシンイミド部分を有する架橋剤は、一般的により高い水溶性を有するN-ヒドロキシスルホスクシンイミド類似体として得ることができる。加えて、連結鎖内にジスルフィド架橋を有する架橋剤は、インビボでのリンカー切断の量を低下させるためにアルキル誘導体として、代わりに合成することができる。ヘテロ二官能性架橋剤に加えて、ホモ二官能性架橋剤および光反応性架橋剤を含む、いくつかの他の架橋剤が存在する。ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビスマレイミドヘキサン(BMH)、およびジメチルピメリミデート・2HClは、この開示に用いられる有用なホモ二官能性架橋剤の例であり、ビス-[B-(4-アジドサリチルアミド)エチル]ジスルフィド(BASED)およびN-スクシンイミジル-6(4’-アジド-2’-ニトロフェニルアミノ)ヘキサノエート(SANPAH)は、有用な光反応性架橋剤の例である。タンパク質カップリング技術の最近の概説について、参照により本明細書に組み入れられた、Meansら、(1990)Bioconj.Chem.1:2~12を参照されたい。
【0041】
【0042】
c. 任意選択のリンカー
本明細書に記載された融合タンパク質は、任意選択で、1つまたは複数のリンカーを含有することができる。リンカーは、ペプチド性または非ペプチド性であり得る。リンカーの目的は、とりわけ、タンパク質内の機能性ドメインの間(例えば、JドメインとTDP-43結合性ドメインの間、TDP-43結合性ドメインのタンデム配置の間、JドメインとTDP-43結合性ドメインと任意選択の標的化試薬のいずれかの間、またはJドメインとTDP-43結合性ドメインと任意選択の検出ドメインまたはエピトープのいずれかの間)に、そのドメインのそれぞれの最適な機能のために、適切な距離を与えることである。明らかに、リンカーは、好ましくは、本発明の融合タンパク質のJドメイン、標的タンパク質結合性ドメインのそれぞれの機能に干渉しない。リンカーは、本発明の融合タンパク質に存在する場合には、標的タンパク質(TDP-43タンパク質)によって引き起こされる細胞毒性を減弱するように選択され、直接的付着が所望の効果を達成するならば、それは省略され得る。本発明の融合タンパク質に存在するリンカーは、本明細書に記載されているようなタンパク質ドメインまたは融合タンパク質全体をコードする核酸セグメントをインフレームで挿入されている発現ベクターのクローニング部位あたりの核酸のセグメント上に存在するヌクレオチド配列によってコードされる1個または複数のアミノ酸を含み得る。一実施形態において、ペプチドリンカーは、1アミノ酸長から20アミノ酸長の間である。別の実施形態において、ペプチドリンカーは、2アミノ酸長から15アミノ酸長の間である。なお別の実施形態において、ペプチドリンカーは、2アミノ酸長から10アミノ酸長の間である。
【0043】
本発明による融合タンパク質を作製するために1つまたは複数のポリペプチドリンカーを選択することは、当業者の知識と技能の範囲内である。例えば、Araiら、Protein Eng.、14(8):529~532(2001);Crastoら、Protein Eng.、13(5):309~314(2000);Georgeら、Protein Eng.、15(11):871~879(2003);Robinsonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、95:5929~5934(1998)参照(それぞれ、全体として参照により本明細書に組み入れられている)。本発明による融合タンパク質を調製することにおいて用いられ得る2個以上のアミノ酸のリンカーの例には、下記の表3に提供されたものが挙げられるが、それらに限定されない。
【0044】
【0045】
d. 標的化試薬
本明細書に開示された融合タンパク質はさらに、標的化部分を含み得る。本明細書で用いられる場合、用語「標的化部分」および「標的化試薬」は、交換可能に用いられ、細胞においてまたは対象の身体において、融合タンパク質の結合、輸送、蓄積、滞留時間、生物学的利用率を増強し、またはその生物活性もしくは治療効果を改変する、融合タンパク質に会合した物質を指す。標的化部分は、組織、細胞、および/または細胞内のレベルで機能性を有し得る。標的化部分は、例えば融合タンパク質の対象への投与により、融合タンパク質の特定の細胞、組織、もしくは器官への局在、または細胞内分布を方向づけることができる。一実施形態において、標的化部分は、融合タンパク質のN末端に位置する。別の実施形態において、標的化部分は、融合タンパク質のC末端に位置する。なお別の実施形態において、標的化部分は内部に位置する。別の実施形態において、標的化部分は、化学的コンジュゲーションを介して融合タンパク質と付着する。
【0046】
標的化部分には、とりわけ、有機もしくは無機分子、ペプチド、ペプチド模倣体、タンパク質、抗体もしくはその断片、成長因子、酵素、レクチン、抗原もしくは免疫原、ウイルスもしくはそのコンポーネント、ウイルスベクター、受容体、受容体リガンド、毒素、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチドもしくはアプタマー、ヌクレオチド、炭水化物、糖、脂質、糖脂質、核タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ステロイド、ホルモン、成長因子、化学誘引物質、サイトカイン、ケモカイン、薬物、または小分子が挙げられ得るが、それらに限定されない。
【0047】
本発明の例示的実施形態において、標的化部分は、標的細胞または組織、例えば、神経細胞、中枢神経系、および/または末梢神経系において、プラットフォーム、またはその関連したリガンドおよび/もしくは活性物質の結合、輸送、蓄積、滞留時間、生物学的利用率を増強し、またはその生物活性もしくは治療効果を改変する。したがって、標的化部分は、中枢神経系に関連した細胞受容体に対する特異性を有し得、または血液脳関門(BBB)を経由してのCNSへの送達の増強に別様に関連する。結果的に、上記のようなリガンドは、リガンドと標的化部分の両方であり得る。
【0048】
いくつかの実施形態において、標的化部分は、例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第10,111,965号に記載されているような、細胞透過性ペプチドであり得る。別の実施形態において、標的化部分は、例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許出願第16/131,591号に記載されているような、抗体またはその抗原結合性断片もしくは一本鎖誘導体であり得る。さらなる実施形態において、標的化部分は、核移行シグナルまたは核外移行シグナルについてのアミノ酸配列であり得る。
【0049】
標的化部分は、標的化された細胞送達のためのプラットフォームに、そのコアと直接的または間接的に結合することにより、連結され得る。例えば、コアがナノ粒子を含む実施形態において、標的化部分のナノ粒子とのコンジュゲーションは、ナノ粒子にPEGを繋ぎ止めるために用いられる類似した官能基を利用することができる。したがって、標的化部分は、標的化部分の官能化を通してナノ粒子と直接的に結合することができる。あるいは、標的化部分は、上記で論じられているように、標的化部分の官能化PEGとのコンジュゲーションを通して、ナノ粒子と間接的に結合することができる。標的化部分は、共有結合性、非共有結合性、または静電気性相互作用によってコアと接着することができる。一実施形態において、標的化部分はペプチドである。特定の実施形態において、標的化部分は、融合タンパク質のN末端と共有結合性に付着するペプチドである。
【0050】
e. エピトープ
ある特定の実施形態において、本発明の融合タンパク質は、融合タンパク質に追加の性質を与えることができる任意選択のエピトープまたはタグを含有する。本明細書で用いられる場合、用語「エピトープ」および「タグ」は、典型的には融合タンパク質のN末端またはC末端と付着する、典型的には300アミノ酸長以下の、アミノ酸配列を指すのに交換可能に用いられる。一実施形態において、本発明の融合タンパク質はさらに、精製を促進するために用いられるエピトープを含む。下記の表4に提供された、精製に有用なそのようなエピトープの例には、ヒトIgG1 Fc配列(配列番号67)、FLAGエピトープ(DYKDDDDK、配列番号68)、His6エピトープ(配列番号69)、c-myc(配列番号70)、HA(配列番号71)、V5エピトープ(配列番号72)、またはグルタチオン-s-トランスフェラーゼ(配列番号73)が挙げられる。別の実施形態において、本発明の融合タンパク質はさらに、対象、例えばヒトへ投与された時、融合タンパク質の半減期を増加させるために用いられるエピトープを含む。半減期を増加させるために有用なそのようなエピトープの例には、ヒトFc配列が挙げられる。したがって、一つの特定の実施形態において、融合タンパク質は、JドメインおよびTDP-43結合性ドメインに加えて、ヒトFcエピトープを含む。エピトープは、融合タンパク質のC末端に位置する。
【0051】
【0052】
f.細胞透過性ペプチド
なお他の実施形態において、本明細書に記載された融合タンパク質はさらに、細胞透過性ペプチドを含み得る。細胞透過性ペプチドは、コンジュゲートされたカーゴを、それが小分子であろうと、ペプチドであろうと、タンパク質であろうと、核酸であろうと、細胞へ運ぶことが知られている。本発明の融合タンパク質における細胞透過性ペプチドの非限定的例には、ポリカチオン性ペプチド、例えば、HIV TATペプチド49-57、ポリアルギニン、およびペネトラチンpAntan(43-58)、両親媒性ペプチド、例えば、pep-1、疎水性ペプチド、例えば、C405Y、およびその他同種類のものが挙げられる。下記の表5参照。
【0053】
【0054】
したがって、一実施形態において、本融合タンパク質は、細胞透過性ペプチドおよび融合タンパク質を含み、前記細胞透過性ペプチドが、配列番号74~77からなる群から選択され、前記融合タンパク質がJドメインおよびTDP-43結合性ドメインを含む。一実施形態において、前記融合タンパク質は、配列番号80~85および89~96からなる群から選択される。別の実施形態において、本融合タンパク質は、配列番号74のシグナル配列、ならびに配列番号80~85、89~90、および92~96からなる群から選択される融合タンパク質を含む。別の実施形態において、本融合タンパク質は、配列番号75の細胞透過性ペプチド、ならびに配列番号80~85、89~90、および92~96からなる群から選択される融合タンパク質を含む。なお別の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号76の細胞透過性ペプチド、ならびに配列番号80~85、89~90、および92~96からなる群から選択される融合タンパク質を含む。さらに別の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号77の細胞透過性ペプチド、ならびに配列番号80~85、89~90、および92~96からなる群から選択される融合タンパク質を含む。細胞透過性ペプチドを含む本融合タンパク質構築物を発現する細胞は、対象、例えばヒト対象(例えば、TDP-43障害を有し、または患うリスクがある患者)へ投与され得る。本融合タンパク質は、細胞から分泌され、TDP-43含有タンパク質凝集および/または関連した細胞毒性を低下させるのを助ける。
【0055】
g. JドメインおよびTDP-43結合性ドメインの配置
本明細書に記載された融合タンパク質は、多数の様式で配置され得る。一実施形態において、TDP-43結合性ドメインは、JドメインのC末端側へ付着している。別の実施形態において、TDP-43結合性ドメインは、JドメインのN末端側へ付着している。TDP-43結合性ドメインおよびJドメインは、いずれの立体配置においても、任意で、上記のようなリンカーを介して、分離され得る。
【0056】
いくつかの実施形態において、Jドメインは、複数のTDP-43結合性ドメイン、例えば、2つのTDP-43結合性ドメイン、3つのTDP-43結合性ドメイン、4つのTDP-43結合性ドメイン、またはそれ以上と付着し得る。TDP-43結合性ドメインは、JドメインのN末端側へ付着し得る。あるいは、TDP-43結合性ドメインは、JドメインのC末端側へ付着し得る。なお別の実施形態において、TDP-43結合性ドメインは、JドメインのN末端側およびC末端側に付着し得る。複数のTDP-43結合性ドメインのそれぞれは、同じTDP-43結合性ドメインであり得る。別の実施形態において、融合タンパク質における複数のTDP-43結合性ドメインのそれぞれは、異なるTDP-43結合性ドメイン(すなわち、異なる配列)であり得る。
【0057】
いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、以下の群:
a. DNAJ-X-T、
b. DNAJ-X-T-X-T、
c. DNAJ-X-T-X-T-X-T、
d. T-X-DNAJ、
e. T-X-T-X-DNAJ、
f. T-X-T-X-T-X-DNAJ、
g. T-X-DNAJ-X-T、
h. T-X-DNAJ-X-T-X-T、
i. TDNAJ-X-TTTTTDNAJ-X-T、
j. T-X-T-X-DNAJ-X-TT、
k. TTDNAJ-X-T-X-TTTTTDNAJ-X-T、
l. T-X-T-X-DNAJ-X-T-X-T-X-T、
m. T-X-T-X-T-X-DNAJ-X-T、
n. T-X-T-X-T-X-DNAJ-X-T-X-T、
o. T-X-T-X-T-X-DNAJ-X-T-X-T-X-T、
p. DnaJ-X-DnaJ-X-T-X-T、
q. T-X-DnaJ-X-DnaJ、
r. T-X-T-X-DnaJ-X-DnaJ、および
s. T-X-TDnaJ-X-TDnaJ-X-TTTT
から選択される構造を含み得、
ここで、
TはTDP-43結合性ドメインであり、
DNAJはJタンパク質のJドメインであり、
Xは任意選択のリンカーである。
【0058】
一実施形態において、融合タンパク質は、配列番号5、6、10、24、および31からなる群から選択されるJドメインを含む。一つの特定の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号5のJドメインを含む。
【0059】
別の実施形態において、TDP-43結合性ドメインは、配列番号51~55からなる群から選択される。一つの特定の実施形態において、TDP-43結合性ドメインは、配列番号51~53からなる群から選択される。
【0060】
なお別の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号5のJドメインおよび配列番号51のTDP-43結合性ドメインを含む。別の実施形態において、融合タンパク質は、配列番号5のJドメイン、および配列番号53のTDP-43結合性ドメインの少なくとも2個のコピーを含む。
【0061】
JドメインおよびTDP-43結合性ドメインを含む融合タンパク質構築物の非限定的例は、
図2に模式的に描かれ、下記の表6にも示されている。別の実施形態において、特定の融合タンパク質構築物は、配列番号80~85、および89~96からなる群から選択される。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
II. 融合タンパク質構築物をコードする核酸
本発明の別の態様によれば、(a)前述の実施形態のいずれかに記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または(b)(a)のポリヌクレオチドの相補体から選択されるポリヌクレオチドを含む、単離された核酸が提供される。本発明は、JドメインおよびTDP-43結合性ドメインを含む融合タンパク質をコードする、単離された核酸、ならびに融合タンパク質をコードするそのような核酸分子と相補的な配列、加えて、その相同バリアントを提供する。別の態様において、本発明は、本明細書に開示された融合タンパク質をコードする核酸、融合タンパク質をコードする核酸と相補的な配列、加えて、その相同バリアントを作製するための方法を包含する。本発明のこの態様による核酸は、プレメッセンジャーRNA(pre-mRNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)、RNA、ゲノムDNA(gDNA)、PCR増幅されたDNA、相補DNA(cDNA)、合成DNA、または組換えDNAであり得る。
【0066】
さらに別の態様において、(a)融合タンパク質をコードするヌクレオチドを合成しおよび/またはアセンブルするステップ、(b)コード遺伝子を、宿主細胞に適切な発現ベクターへ組み入れるステップ、(c)適切な宿主細胞を発現ベクターで形質転換するステップ、ならびに(d)融合タンパク質が形質転換宿主細胞において発現することを引き起こしまたは可能にする条件下で宿主細胞を培養し、それにより、生物活性融合タンパク質を産生し、産生された生物活性融合タンパク質が、当技術分野において知られた標準タンパク質精製方法によって、単離された融合タンパク質として回収される、ステップを含む、融合タンパク質を産生する方法が開示される。分子生物学における標準組換え技術が、本発明のポリヌクレオチドおよび発現ベクターを作製するために用いられる。
【0067】
本発明によれば、本明細書に開示された融合タンパク質をコードする核酸配列(またはその相補体)は、適切な宿主細胞において融合タンパク質の発現を指示する組換えDNA分子を作製するために用いられる。いくつかのクローニングストラテジーは、本発明を実施するのに適しており、その多くは、本発明の融合タンパク質またはその相補体をコードする遺伝子を含む構築物を作製するために用いられる。いくつかの実施形態において、クローニングストラテジーは、本発明の融合タンパク質またはその相補体をコードする遺伝子を産生するために用いられる。
【0068】
ある特定の実施形態において、1つまたは複数の融合タンパク質をコードする核酸は、RNA分子であり、プレメッセンジャーRNA(pre-mRNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)、RNA、ゲノムDNA(gDNA)、PCR増幅されたDNA、相補DNA(cDNA)、合成DNA、または組換えDNAであり得る。
【0069】
様々な実施形態において、核酸は、所望のポリペプチドを一過性に発現するために細胞へ導入されるmRNAである。本明細書で用いられる場合、「一過性の」は、数時間、数日間、または数週間の期間の間の、組み込まれていない導入遺伝子の発現を指し、発現の期間は、ゲノムへ組み込まれ、または細胞における安定なプラスミドレプリコン内に含有される場合のポリヌクレオチドの発現についての期間より短い。
【0070】
特定の実施形態において、ポリペプチドをコードするmRNAは、インビトロで転写されたmRNAである。本明細書で用いられる場合、「インビトロで転写されたRNA」とは、インビトロで合成されているRNA、好ましくはmRNAを指す。一般的に、インビトロで転写されたRNAは、インビトロ転写ベクターから生成される。インビトロ転写ベクターは、インビトロで転写されたRNAを生成するために用いられる鋳型を含む。
特定の実施形態において、mRNAはさらに、5’キャップもしくは修飾5’キャップおよび/またはポリ(A)配列を含み得る。本明細書で用いられる場合、5’キャップ(RNAキャップ、RNA 7-メチルグアノシンキャップ、またはRNA m7Gキャップとも呼ばれる)は、転写の開始後すぐに真核生物メッセンジャーRNAの「最前部(front)」または5’末端に付加されている修飾グアニンヌクレオチドである。5’キャップは、最初に転写されたヌクレオチドに連結され、かつリボソームによって認識され、かつRnアーゼから保護される末端基を含む。キャッピング部分は、mRNAの機能性、例えば、その安定性または翻訳の効率を調節するために修飾され得る。特定の実施形態において、mRNAは、約50個から約5000個の間のアデニンのポリ(A)配列を含む。一実施形態において、mRNAは、約100塩基から約1000塩基の間、約200塩基から約500塩基の間、または約300塩基から約400塩基の間のポリ(A)配列を含む。一実施形態において、mRNAは、約65塩基、約100塩基、約200塩基、約300塩基、約400塩基、約500塩基、約600塩基、約700塩基、約800塩基、約900塩基、または約1000塩基もしくはそれ以上のポリ(A)配列を含む。ポリ(A)配列は、mRNAの機能性、例えば、局在化、安定性、または翻訳の効率を調節するために化学的または酵素的に修飾され得る。
【0071】
本明細書で用いられる場合、用語「ポリヌクレオチドバリアント」および「バリアント」およびその他同種類のものは、参照ポリヌクレオチド配列と実質的な配列同一性を示すポリヌクレオチド、または以下で定義されるストリンジェントな条件下で参照配列とハイブリダイズするポリヌクレオチドを指す。これらの用語は、参照ポリヌクレオチドと比較して、1個または複数のヌクレオチドが、付加し、または欠失し、または異なるヌクレオチドに置き換えられているポリヌクレオチドを含む。この点において、変異、付加、欠失、および置換を含むある特定の変更を、参照ポリヌクレオチドに行うことができ、それにより変更されたポリヌクレオチドが、参照ポリヌクレオチドの生物学的機能または活性を保持することは、当技術分野においてよく理解されている。
【0072】
ある特定の実施形態において、核酸配列は、目的の遺伝子(例えば、Jドメインおよびポリグルタミン結合性ドメインを含む融合タンパク質)をコードするヌクレオチド配列を核酸カセット内に含む。本明細書で用いられる場合、用語「核酸カセット」または「発現カセット」は、RNAおよびその後、ポリペプチドを発現することができるベクター内の遺伝的配列を指す。一実施形態において、核酸カセットは、目的の遺伝子、例えば、目的のポリヌクレオチドを含有する。別の実施形態において、核酸カセットは、1つまたは複数の発現制御配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリ(A)配列、および目的の遺伝子、例えば目的のポリヌクレオチドを含有する。ベクターは、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、または10個、またはそれ以上の核酸カセットを含み得る。核酸カセットは、カセット内の核酸がRNAへ転写され、必要に応じて、タンパク質もしくはポリペプチドへ翻訳され、形質転換細胞における活性に必要とされる適切な翻訳後修飾を起こし、適切な細胞内コンパートメントへと標的化することまたは細胞外のコンパートメントへの分泌により、生物活性のために適切なコンパートメントへと転位することができるように、ベクター内に位置的にかつ順序的に方向づけられる。好ましくは、カセットは、ベクターへの即時挿入に適応した3’および5’末端を有し、例えば、それは、各末端に制限エンドヌクレアーゼ部位を有する。カセットは、単一ユニットとして、プラスミドまたはウイルスベクターへ除去および挿入され得る。
【0073】
特定の実施形態における使用に適した実例的な遍在性発現制御配列には、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター、ウイルスのサルウイルス40(SV40)(例えば初期または後期)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)LTRプロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTR、単純ヘルペスウイルス(HSV)(チミジンキナーゼ)プロモーター、ワクシニアウイルス由来のH5、P7.5、およびPl lプロモーター、伸長因子1-アルファ(EFla)プロモーター、初期増殖応答1(EGR1)、フェリチンH(FerH)、フェリチンL(FerL)、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、真核生物の翻訳開始因子4A1(EIF4A1)、熱ショック70kDaタンパク質5(HSPA5)、熱ショックタンパク質90kDaベータ、メンバー1(HSP90B1)、熱ショックタンパク質70kDa(HSP70)、β-キネシン(b-KIN)、ヒトROSA 26遺伝子座(Irionsら、Nature Biotechnology 25、1477~1482(2007))、ユビキチンCプロモーター(UBC)、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK)プロモーター、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ-アクチン(CAG)プロモーター(Okabeら (1997)FEBS let.407:313~9)、b-アクチンプロモーターおよび骨髄増殖性肉腫ウイルスエンハンサー、負制御領域が欠失し、dl587revプライマー結合部位に置換された(MND)U3プロモーター(Haasら、Journal of Virology.2003;77(l7):9439~9450)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0074】
一実施形態において、プロモーターなどの導入遺伝子標的特異性および発現を増強するための少なくとも1つのエレメント(例えば、Powellら (2015)Discovery Medicine 19(102):49~57(その内容は、全体として参照により本明細書に組み入れられている)参照)が、本明細書に記載されたポリヌクレオチドと共に用いられ得る。たいていの組織において発現を促進するプロモーターには、ヒト伸長因子la-サブユニット(EFla)、最初期サイトメガロウイルス(CMV)、ニワトリβ-アクチン(CBA)およびその誘導体CAG、βグルクロニダーゼ(GUSB)、またはユビキチンC(UBC)が挙げられるが、それらに限定されない。組織特異的発現エレメントは、ある特定の細胞型へ発現を制限するために用いられ、それには、例えば、ニューロン、アストロサイト、またはオリゴデンドロサイトへ発現を制限するために用いられ得る神経系プロモーターが挙げられるが、それらに限定されない。ニューロンについての組織特異的発現エレメントの非限定的例には、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、血小板由来成長因子(PDGF)、血小板由来成長因子B鎖(PDGF-β)、シナプシン(Syn)、メチルCpG結合タンパク質2(MeCP2)、CaMKII、mGluR2、NFL、NFH、ηβ2、PPE、Enk、およびEAAT2のプロモーターが挙げられるが、それらに限定されない。アストロサイトについての組織特異的発現エレメントの非限定的例には、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)およびEAAT2のプロモーターが挙げられる。オリゴデンドロサイトについての組織特異的発現エレメントの非限定的例には、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)プロモーターが挙げられる。Yuら(全体として参照により組み入れられた(2011)Molecular Pain、7:63)は、ラットDRG細胞および一次DRG細胞におけるCAG、EFIa、PGK、およびUBCプロモーター下でのeGFPの発現を、レンチウイルスベクターを用いて評価し、UBCが、他の3つのプロモーターより弱い発現を示し、全てのプロモーターについてたった10~12%だけのグリア発現があることを見出した。Soderblomら(全体として参照により組み入れられた、E.Neuro 2015)は、CMVおよびUBCプロモーターを有するAAV8ならびにCMVプロモーターを有するAAV2におけるeGFPの発現を、運動皮質内の注射後、評価した。UBCまたはEFIaプロモーターを含有するプラスミドの鼻腔内投与は、CMVプロモーターでの発現より高い持続性気道発現を示した(例えば、全体として参照により組み入れられた、Gillら、(2001)Gene Therapy、8巻、1539~1546参照)。Husainら(全体として参照により組み入れられた(2009)Gene Therapy)は、hGUSBプロモーター、HSV-1LATプロモーター、およびNSEプロモーターを有するΗβΗ構築物を評価し、ΗβΗ構築物が、マウス脳においてNSEより弱い発現を示すことを見出した。PassiniおよびWolfe(全体として参照により組み入れられた、J.Virol.2001、12382~12392)は、新生仔マウスにおける脳室内注射後のΗβΗベクターの長期効果を評価し、少なくとも1年間の持続性発現があることを見出した。Xuら(全体として参照により組み入れられた、(2001)Gene Therapy、8、1323~1332)により、CMV-lacZ、CMV-luc、EF、GFAP、hENK、nAChR、PPE、PPE+wpre、NSE(0.3kb)、NSE(1.8kb)、およびNSE(1.8kb+wpre)との比較として、NF-LおよびNF-Hプロモーターが用いられた場合、全ての脳領域における低発現が見出された。Xuらは、プロモーター活性が、降順で、NSE(1.8kb)、EF、NSE(0.3kb)、GFAP、CMV、hENK、PPE、NFL、およびNFHであることを見出した。NFLは650ヌクレオチドのプロモーターであり、NFHは、920ヌクレオチドのプロモーターであり、両方とも肝臓に存在しないが、NFHが、自己受容感覚ニューロン、脳、および脊髄において豊富であり、NFHは心臓に存在する。Scn8aは、470ヌクレオチドのプロモーターであり、DRG、脊髄、および脳中に発現し、特に、海馬ニューロンおよび小脳プルキンエ細胞、皮質、視床および視床下部に特に高い発現が見られる。(例えば、全体として参照により組み入れられた、Drewsら 2007およびRaymondら 2004参照)。
【0075】
III. 融合タンパク質をコードする核酸を含むベクター
本発明による核酸を含むベクターもまた提供される。そのようなベクターは、好ましくは、ホスファターゼをコードする核酸配列の転写/翻訳に必要なエレメント(例えば、プロモーターおよび/またはターミネーター配列)などの追加の核酸配列を含む。前記ベクターはまた、前記ベクターで形質転換された宿主細胞を選択または維持するために選択マーカー(例えば、抗生物質)をコードする核酸配列を含み得る。用語「ベクター」は、別の核酸分子を移入させまたは輸送する能力がある核酸分子を指す。移入した核酸は、一般的に、ベクター核酸分子と連結され、例えば、その中へ挿入される。ベクターは、細胞において自己複製を指示する配列を含み得、または宿主細胞DNAへの組込みを可能にするのに十分な配列を含み得る。特定の実施形態において、非ウイルスベクターは、本明細書で企図された1つまたは複数のポリヌクレオチドを罹患細胞(例えば、神経細胞)へ送達するために用いられる。一実施形態において、ベクターは、JドメインおよびTDP-43結合性ドメインを含む融合タンパク質をコードする、インビトロで合成されまたは合成的に調製されたmRNAである。非ウイルスベクターの実例には、mRNA、プラスミド(例えば、DNAプラスミドまたはRNAプラスミド)、トランスポゾン、コスミド、および細菌人工染色体が挙げられるが、それらに限定されない。
【0076】
ベクターの実例には、プラスミド、自己複製配列、および転位因子、例えば、piggyBac、Sleeping Beauty、Mosl、Tcl/mariner、Tol2、mini-Tol2、Tc3、MuA、Himar I、Frog Prince、およびそれらの誘導体が挙げられるが、それらに限定されない。ベクターの追加の実例には、非限定的に、プラスミド、ファージミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、またはPl由来人工染色体(PAC)などの人工染色体、ラムダファージまたはM13ファージなどのバクテリオファージ、および動物ウイルスが挙げられる。ベクターとして有用なウイルスの実例には、非限定的に、レトロウイルス(例えば、レンチウイルス)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス(vims))、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、およびパポバウイルス(例えば、SV40)が挙げられる。発現ベクターの実例には、哺乳動物細胞における発現のためのpClneoベクター(Promega);哺乳動物細胞におけるレンチウイルス媒介性遺伝子移入および発現のためのpLenti4/V 5-DEST(商標)、pLenti6/V 5-DEST(商標)、およびpLenti6.2/V 5-GW/lacZ(Invitrogen)が挙げられるが、それらに限定されない。特定の実施形態において、本明細書に開示されたポリペプチドのコード配列は、哺乳動物細胞におけるポリペプチドの発現のためにそのような発現ベクターへライゲーションされ得る。
【0077】
特定の実施形態において、ベクターは、エピソームベクター、または染色体外に維持されるベクターである。本明細書で用いられる場合、用語「エピソームの」は、宿主の染色体DNAへの組込みなしに、かつ分裂する宿主細胞から徐々に失われることなしに複製することができる、つまり、前記ベクターが染色体外にまたはエピソーム的に複製する、ベクターを指す。
【0078】
ベクターは、様々な部位特異的リコンビナーゼのいずれかについての1つまたは複数の組換え部位を含み得る。部位特異的リコンビナーゼについての標的部位が、ベクター、例えば、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターの組込みに必要とされる任意の部位に加えてであることは、理解されるべきである。本明細書で用いられる場合、用語「組換え配列」、「組換え部位」、または「部位特異的組換え部位」は、リコンビナーゼが認識しかつ結合する特定の核酸配列を指す。
【0079】
例えば、Creリコンビナーゼについての1つの組換え部位は、8塩基対コア配列に隣接する2つの13塩基対逆方向反復(リコンビナーゼ結合部位として働く)を含む34塩基対配列である、loxPである(Sauer,B.、Current Opinion in Biotechnology 5:521~527(1994)の
図1参照)。FLPリコンビナーゼについての適切な認識部位には、FRT(McLeodら、1996)、FI、F2、F3(SchlakeおよびBode、1994)、FyFs(SchlakeおよびBode、1994)、FRT(LE)(Senecoffら、1988)、FRT(RE)(Senecoffら、1988)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0080】
認識配列の他の例は、attB、attP、attL、およびattR配列であり、それらは、リコンビナーゼ酵素lインテグラーゼ、例えば、phi-c3lによって認識される。(pC3l SSRは、ヘテロタイプな部位、attB(34bp長)とattP(39bp長)の間のみの組換えを媒介する(Grothら、2000)。細菌ゲノムおよびファージゲノム、それぞれにおけるファージインテグラーゼについての付着部位に関して名付けられたattBおよびattPはどちらも、おそらくφ031ホモダイマーにより結合される、不完全な逆方向反復を含有する(Grothら、2000)。生成部位、attLおよびattRは、事実上、さらなるtpQA 1媒介性組換えに対して不活性であり(Beltekiら、2003)、反応を不可逆性にさせている。挿入を触媒することについて、attB保有DNAは、attP部位がゲノムattB部位へ挿入するより容易に、ゲノムattP部位へ挿入することが見出されている(Thyagarajanら、2001;Beltekiら、2003)。したがって、典型的なストラテジーは、相同組換えにより、attP保有「ドッキング部位」を、限定された遺伝子座へ位置づけ、その後、そのattP保有「ドッキング部位」が、挿入としてのattB保有の入ってくる配列とパートナーを組まされる。
【0081】
本明細書で用いられる場合、「配列内リボソーム進入部位」または「IRES」は、シストロン(タンパク質コード領域)のATGなどの開始コドンへの直接的な配列内リボソーム進入を促進し、それにより、遺伝子のキャップ非依存性翻訳をもたらすエレメントを指す。例えば、Jacksonら、1990 Trends Biochem Sci 15(12):477~83、ならびにJacksonおよびKaminski 1995 RNA 1(10):985~1000参照。特定の実施形態において、ベクターは、1つまたは複数のポリペプチドをコードする1つまたは複数の目的のポリヌクレオチドを含む。特定の実施形態において、複数のポリペプチドのそれぞれの効率的な翻訳を達成するために、ポリヌクレオチド配列は、1つもしくは複数のIRES配列、または自己切断性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列によって分離され得る。一実施形態において、本明細書で企図されるポリヌクレオチドに用いられるIRESは、EMCV IRESである。
【0082】
本明細書で用いられる場合、用語「コザック配列」は、リボソームの小サブユニットとのmRNAの最初の結合を大いに促進し、翻訳を増加させる、短いヌクレオチド配列を指す(Kozak、1986、Cell 44(2):283~92、およびKozak、1987、Nucleic Acids Res.15(20):8125-48)。特定の実施形態において、ベクターは、コンセンサスコザック配列を有するポリヌクレオチド、ならびにJドメインおよびTDP-43結合性ドメインを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。異種性核酸転写物の効率的な終結およびポリアデニル化を方向づけるエレメントは、異種性遺伝子発現を増加させる。転写終結シグナルは、一般的に、ポリアデニル化シグナルの下流に見出される。特定の実施形態において、ベクターは、発現されるべきポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの3’側にポリアデニル化配列を含む。
【0083】
本明細書で企図された特定の実施形態における使用に適したウイルスベクター系の実例には、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、アデノウイルス、およびワクシニアウイルスのベクターが挙げられるが、それらに限定されない。
【0084】
様々な実施形態において、Jドメインおよびポリグルタミン結合性ドメインを含む融合タンパク質をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドは、細胞、例えば、神経細胞へ、1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を細胞に形質導入することにより、導入される。AAVは、小さい(約26nm)複製欠損の、主にエピソーム性の、無エンベロープのウイルスである。AAVは、分裂細胞と非分裂細胞の両方に感染することができ、そのゲノムを宿主細胞のゲノムへ組み入れ得る。組換えAAV(rAAV)は、典型的には、最小限で、導入遺伝子、ならびにその制御配列、ならびに5’および3’ AAV末端逆位配列(ITR)で構成される。ITR配列は、約145bp長である。特定の実施形態において、rAAVは、AAV1、AAV2(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、US6962815B2に記載された)、AAV3、AAV4、AAV5(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、US7479554B2に記載された)、AAV6、AAV7、AAV8(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、US7282199B2に記載された)、AAV9(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、US9737618B2に記載された)、AAV rh10(例えば、全体として参照により本明細書に組み入れられている、US9790472B2に記載された)、またはAAV10から単離されたITRおよびカプシド配列を含む。一実施形態において、本発明のベクターは、AAV2、AAV5、AAV8、AAV9、およびAAV rh10からなる群から選択されるカプシド内へ被包される。一実施形態において、ベクターは、AAV2内に被包される。一実施形態において、ベクターは、AAV5内に被包される。一実施形態において、ベクターは、AAV8内に被包される。一実施形態において、ベクターは、AAV9内に被包される。なお一実施形態において、ベクターは、AAV rh10内に被包される。
【0085】
いくつかの実施形態において、ITR配列が1つのAAV血清型から単離され、かつカプシド配列が異なるAAV血清型から単離されているキメラrAAVが用いられる。例えば、AAV2に由来したITR配列およびAAV6に由来したカプシド配列を有するrAAVは、AAV2/AAV6と呼ばれる。特定の実施形態において、rAAVベクターは、AAV2に由来したITR、およびAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、またはAAV10のいずれか1つに由来したカプシドタンパク質を含み得る。好ましい実施形態において、rAAVは、AAV2に由来したITR配列およびAAV6に由来したカプシド配列を含む。好ましい実施形態において、rAAVは、AAV2に由来したITR配列およびAAV2に由来したカプシド配列を含む。
【0086】
いくつかの実施形態において、操作および選択方法は、目的の細胞を形質導入する可能性をより高くするために、AAVカプシドへ適用することができる。
【0087】
rAAVベクターの構築、その産生および精製は、例えば、米国特許第9,169,494号;第9,169,492号;第9,012,224号;第8,889,641号;第8,809,058号;および第8,784,799号に開示されており、それらの特許のそれぞれは、全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0088】
IV. 送達
特定の実施形態において、JドメインおよびTDP-43結合性ドメインを含む融合タンパク質をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドは、非ウイルスまたはウイルスのベクターにより細胞へ導入される。特定の実施形態において企図されたポリヌクレオチドの非ウイルス性送達の実例的方法には、エレクトロポレーション、ソノポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、微粒子銃、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ナノ粒子、ポリカチオンまたは脂質核酸コンジュゲート、裸のDNA、人工ビリオン、DEAE-デキストラン媒介性移入、遺伝子銃、および熱ショックが挙げられるが、それらに限定されない。
【0089】
特定の実施形態において企図された特定の実施形態における使用に適したポリヌクレオチド送達系の実例には、Amaxa Biosystems、Maxcyte,Inc.、BTX Molecular Delivery Systems、およびCopernicus Therapeutics Inc.により提供される送達系が挙げられるが、それらに限定されない。リポフェクション試薬は、商業的に販売されている(例えば、Transfectam(商標)およびLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに適しているカチオン性および中性脂質は、文献に記載されている。例えば、Liuら、(2003)Gene Therapy 10:180~187;およびBalazsら、(20W)Journal of Drug Delivery 2011:1~12参照。抗体により標的化された、細菌由来の、非生存のナノセルに基づいた送達もまた、特定の実施形態において企図される。
【0090】
特定の実施形態において企図されたポリヌクレオチドを含むウイルスベクターは、インビボで、個々の患者への投与により、典型的には、下に記載されているように、全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、または頭蓋内の注入)により、くも膜下腔内注射、脳室内注射、または局所適用により、送達され得る。あるいは、ベクターは、個々の患者(例えば、動員末梢血、リンパ球、骨髄液、組織生検など)から外植された細胞または万能ドナーの造血幹細胞などのエクスビボでの細胞へ送達され、その後、その細胞を患者へ再植え込みされ得る。
【0091】
一実施形態において、本明細書に開示された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むウイルスベクターは、インビボでの細胞の形質導入のために生物体へ直接的に投与される。
【0092】
適切にパッケージングされかつ製剤化されたウイルスベクターは、中枢神経系(CNS)へくも膜下腔内送達を介して送達され得る。例えば、アデノ随伴ウイルスベクターは、全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許出願第15/771,481号に記載された方法を用いて送達され得る。
【0093】
あるいは、裸のDNAが投与され得る。投与は、分子を血液または組織細胞との最終的な接触へ導入するために通常用いられる経路のいずれかによってであり、その経路には、注射、注入、局所適用、およびエレクトロポレーションが挙げられるが、それらに限定されない。そのような核酸を投与する適切な方法が利用でき、当業者によく知られており、特定の組成物を投与するために1つより多い経路を用いることができるが、特定の経路が、別の経路より速効性が高くかつより効果的な反応を提供することができる。
【0094】
様々な実施形態において、本明細書に開示された融合タンパク質をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドは、細胞、例えば、神経細胞または神経幹細胞へ、1つまたは複数のポリヌクレオチドを含むレトロウイルス、例えばレンチウイルスを細胞に形質導入することにより、導入される。本明細書で用いられる場合、用語「レトロウイルス」は、そのゲノムRNAを直鎖状二本鎖DNAコピーへ転写し、その後、そのゲノムDNAを宿主ゲノムへ共有結合性に組み込む、RNAウイルスを指す。特定の実施形態における使用に適した実例的なレトロウイルスには、モロニーマウス白血病ウイルス(M-MuLV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(MoMSV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳癌ウイルス(MuMTV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、ネコ白血病ウイルス(FLV)、スプーマウイルス、フレンドマウス白血病ウイルス、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)、およびラウス肉腫ウイルス(RSV)、ならびにレンチウイルスが挙げられるが、それらに限定されない。本明細書で用いられる場合、用語「レンチウイルス」は、複雑なレンチウイルスの一群(または一属)を指す。実例的なレンチウイルスには、HIV(ヒト免疫不全ウイルス;HIV 1型およびHIV 2型を含む);ビスナ・マエディウイルス(VMV);ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV);ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV);ネコ免疫不全ウイルス(FIV);ウシ免疫不全ウイルス(BIV);およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられるが、それらに限定されない。一実施形態において、HIVに基づいたベクターバックボーン(すなわち、HIVシス作用性配列エレメント)が好ましい。
【0095】
レンチウイルスベクターは、好ましくは、LTRを改変することの結果としてのいくつかの安全性の増強を含有する。「自己不活性化」(SIN)ベクターは、複製欠損ベクター、例えば、U3領域として知られた、右側(3’)のLTRエンハンサー-プロモーター領域が、ウイルス複製の最初のラウンドを超えてのウイルス転写を防止するように(例えば、欠失または置換により)改変されている、ベクターを指す。追加の安全性増強は、5’ LTRのU3領域を、ウイルス粒子の産生中にウイルスゲノムの転写を駆動させる異種性プロモーターと置き換えることにより提供される。用いられ得る異種性プロモーターの例には、例えば、ウイルスのサルウイルス40(SV40)(例えば、初期または後期)、サイトメガロウイルス(CMV)(例えば、最初期)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、および単純ヘルペスウイルス(vims)(HSV)(チミジンキナーゼ)のプロモーターが挙げられる。ある特定の実施形態において、レンチウイルスベクターは、公知の方法に従って作製される。例えば、Kutnerら、BMC Biotechnol.2009;9:10 Doi:10.1186/1472-6750-9-10;Kutnerら、Nat.Protoc.2009;4(4):495~505 Doi:l0.l038/nprot.2009.22参照。
【0096】
本明細書で企図されたある特定の実施形態によれば、ウイルスベクターバックボーン配列の大部分または全部は、レンチウイルス、例えばHIV-1に由来している。しかしながら、レトロウイルスおよび/もしくはレンチウイルス配列の多くの異なる源が用いられ得、またはレンチウイルス配列のある部分における組み合わせられた多数の置換および変更が、トランスファーベクターが本明細書に記載された機能を実施する能力を損なうことなく、受け入れられ得ることは理解されるべきである。さらに、様々なレンチウイルスベクターが当技術分野において知られており、Naldiniら(l996a、l996b、および1998);Zuffereyら、(1997);Dullら、1998、米国特許第6,013,516号;および第5,994,136号を参照されたい(それらの多くは、本明細書で企図されたウイルスベクターまたはトランスファープラスミドを作製するように適応し得る)。
【0097】
様々な実施形態において、本明細書に開示された融合タンパク質をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドは、標的細胞へ、1つまたは複数のポリヌクレオチドを含むアデノウイルスを細胞へ形質導入することにより導入される。アデノウイルスに基づいたベクターは、多くの細胞型において非常に高い形質導入効率の能力があり、細胞分裂を必要としない。そのようなベクターを用いて、高い力価および高いレベルの発現が得られている。このベクターは、相対的に単純な系において大量に産生され得る。たいていのアデノウイルスベクターは、導入遺伝子がAd Ela、Elb、および/またはE3遺伝子を置き換えるように操作され、その後、その複製欠損ベクターが、欠失した遺伝子機能をトランスに供給するヒト293細胞において増殖される。Adベクターは、肝臓、腎臓、および筋肉内で見出される細胞などの非分裂性の分化細胞を含む複数の型の組織をインビボで形質導入することができる。通常のAdベクターは、大きな運搬能を有する。
【0098】
複製欠損である、現在のアデノウイルスベクターの生成および伝播は、293と名付けられた固有のヘルパー細胞株を利用し得、その細胞株は、ヒト胚性腎臓細胞からAd5 DNA断片により形質転換され、Elタンパク質を構成的に発現する(Grahamら、1977)。E3領域は、アデノウイルスゲノムからなくても済むため(Jones & Shenk、1978)、293細胞の助けを借りる現在のアデノウイルスベクターは、El、E3、または両方のいずれかの領域において外来DNAを有する(Graham & Prevec、1991)。アデノウイルスベクターは、真核生物遺伝子発現(Levreroら、1991;Gomez-Foixら、1992)およびワクチン開発(Grunhaus & Horwitz、1992;Graham & Prevec、1992)に用いられている。異なる組織へ組換えアデノウイルスを投与することにおける研究には、気管滴下(Rosenfeldら、1991;Rosenfeldら、1992)、筋肉注射(Ragotら、1993)、末梢静脈内注射(Herz & Gerard、1993)、および脳への定位接種(Le Gal La Salleら、1993)が挙げられる。臨床試験におけるAdベクターの使用の例は、筋肉内注射を用いた抗腫瘍免疫化のためのポリヌクレオチド治療を含んだ(Stermanら、Hum.Gene Ther.7:1083~9(1998))。
【0099】
様々な実施形態において、本発明の融合タンパク質をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドは、対象の標的細胞へ、1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む単純ヘルペスウイルス、例えば、HSV-l、HSV-2を細胞に形質導入することにより導入される。
【0100】
成熟HSVビリオンは、152kbである直鎖状二本鎖DNA分子からなるウイルスゲノムを含む、エンベロープ型正二十面体カプシドからなる。一実施形態において、HSVに基づいたウイルスベクターは、1つまたは複数の必須または非必須のHSV遺伝子が欠損している。一実施形態において、HSVに基づいたウイルスベクターは、複製欠損である。たいていの複製欠損HSVベクターは、複製を防止するために1つまたは複数の最初期、初期、または後期HSV遺伝子を除去する欠失を含有する。例えば、HSVベクターは、ICP4、ICP22、ICP27、ICP47、およびそれらの組合せからなる群から選択される最初期遺伝子が欠損し得る。HSVベクターの利点は、結果として長期DNA発現を生じ得る、潜伏期を進入できるその能力、および最大25kbまでの外因性DNA挿入断片を収容できるその大きなウイルスDNAゲノムである。HSVに基づいたベクターは、例えば、米国特許第5,837,532号、第5,846,782号、および第5,804,413号、ならびに国際特許出願WO91/02788、WO96/04394、WO98/15637、およびWO99/06583に記載されている(それらのそれぞれは、全体として参照により本明細書に組み入れられている)。
【0101】
V. 融合タンパク質を発現する細胞
さらに別の態様において、本発明は、本明細書に記載された融合タンパク質を発現する細胞を提供する。細胞は、上記で記載されているような融合タンパク質をコードするベクターをトランスフェクトされ得る。一実施形態において、細胞は原核細胞である。別の実施形態において、細胞は真核細胞である。なお別の実施形態において、細胞は哺乳動物細胞である。特定の実施形態において、細胞はヒト細胞である。別の実施形態において、細胞は、TDP-43媒介性障害を患っておりまたは患うリスクがある患者に由来するヒト細胞であり、そのTDP-43媒介性障害には、ALS、FTD、およびアルツハイマー病が挙げられるが、それらに限定されない。細胞は神経細胞または筋肉細胞であり得る。
【0102】
融合タンパク質を発現する細胞は、融合タンパク質を産生することにおいて有用であり得る。この実施形態において、細胞は、融合タンパク質を過剰発現するベクターをトランスフェクトされる。融合タンパク質は、任意選択で、エピトープ、例えば、(それぞれ、プロテインAカラムまたは抗FLAG抗体カラムを用いる)精製を促進する、本明細書に記載されているようなヒトFcドメインまたはFLAGエピトープを含有し得る。エピトープは、融合タンパク質の残りの部分と、リンカー、または精製中もしくは後にエピトープが融合タンパク質から除去され得るようにプロテアーゼ基質配列を介して、接続され得る。
【0103】
融合タンパク質を発現する細胞はまた、治療関連において有用であり得る。一実施形態において、細胞は、治療を必要とする患者(例えば、TDP-43媒介性障害を患っておりまたは患うリスクがある患者)から収集される。一実施形態において、細胞は神経細胞である。その後、収集された細胞は、融合タンパク質を発現するベクターをトランスフェクトされる。その後、トランスフェクト細胞は、トランスフェクト細胞について濃縮または選択するように処理され得る。トランスフェクト細胞はまた、細胞の異なる型、例えば、神経細胞へ分化するように処置され得る。処理後、トランスフェクト細胞は、患者へ投与され得る。一実施形態において、細胞は、くも膜下腔内注射、頭蓋内注射、または脳室内注射による中枢神経系への定方向的注射(directed injection)により、投与される。
【0104】
代替の実施形態において、融合タンパク質の分泌型を発現する細胞が用いられ得る。例えば、融合タンパク質構築物は、N末端にシグナル配列を有するようにデザインされ得る。代表的なシグナル配列は下記の表7に示されている。
【0105】
【0106】
したがって、一実施形態において、本融合タンパク質は、シグナル配列および融合タンパク質を含み、前記シグナル配列が配列番号98~100からなる群から選択され、前記融合タンパク質がJドメインおよびTDP-43結合性ドメインを含む。一実施形態において、シグナル配列は、配列番号98~100からなる群から選択され、融合タンパク質は、配列番号80~85、89~90、および92~96からなる群から選択される。別の実施形態において、本融合タンパク質は、配列番号98のシグナル配列、ならびに配列番号80~85、89~90、および92~96からなる群から選択される融合タンパク質を含む。別の実施形態において、本融合タンパク質は、配列番号99のシグナル配列、ならびに配列番号80~85、89~90、および92~96からなる群から選択される融合タンパク質を含む。別の実施形態において、本融合タンパク質は、配列番号100のシグナル配列、ならびに配列番号80~85、89~90、および92~96からなる群から選択される融合タンパク質を含む。シグナル配列を含む融合タンパク質構築物を発現する細胞は、対象、例えばヒト対象(例えば、TDP-43障害を有し、または患うリスクがある患者)へ投与され得る。本融合タンパク質は、細胞から分泌され、TDP-43タンパク質凝集および/または関連細胞毒性を低下させるのを助ける。
【0107】
上記で記載されているように、ある特定の実施形態において、本融合タンパク質はさらに、細胞透過性ペプチドを含み得る。シグナル配列および細胞透過性ペプチドを含む融合タンパク質を発現する細胞は、シグナル配列を欠く融合タンパク質を分泌する能力がある。細胞透過性ペプチドも含む分泌性融合タンパク質は、その後、すぐ近くの細胞に進入する能力があり、それらの細胞において、TDP-43タンパク質により媒介される凝集および/または細胞毒性を低下させる潜在能力を有する。
【0108】
VI. 使用の方法
別の態様において、本発明は、障害において、および/またはTDP-43凝集により媒介されるTDP-43障害、障害、もしくは状態において、有益な効果を達成するための方法を提供する。TDP-43障害は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、海馬硬化症、レビー小体型認知症、および辺縁系優位型加齢性TDP-43脳症からなる群から選択される。
【0109】
いくつかの実施形態において、本発明は、TDP-43疾患、障害、または状態を有する、ヒトなどの対象を処置するための方法であって、治療的または予防的有効量の融合タンパク質、そのような融合タンパク質をコードする核酸、または本明細書に記載されたそのような融合タンパク質をコードするウイルスベクターを対象へ投与するステップを含み、前記投与が、結果として、TDP-43疾患、障害、または状態に関連した1つまたは複数の生化学的もしくは生理学的パラメータまたは臨床エンドポイントの向上を生じる、方法を提供する。
【0110】
他の実施形態において、本発明は、細胞におけるTDP-43の凝集を低下させる方法を提供する。細胞は、培養細胞または単離された細胞であり得る。細胞はまた、対象、例えば、ヒト対象の由来であり得る。一実施形態において、細胞は、ヒト対象の中枢神経系内にある。別の実施形態において、ヒト対象は、TDP-43障害を患っておりまたは患うリスクがあり、そのTDP-43障害には、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、およびアルツハイマー病が挙げられるが、それらに限定されない。一つの特定の実施形態において、TDP-43障害は筋萎縮性側索硬化症である。
【0111】
TDP-43タンパク質の凝集は、いくつかの方法で検出され得る。一例において、凝集したTDP-43タンパク質は、遊離(すなわち、可溶性)TDP-43含有タンパク質から、溶解性に基づいて、例えば、細胞可溶化物の選択的フィルターを通しての通過により不溶性凝集物をトラップすることにより、区別され得る。凝集していないタンパク質は、これらのフィルターを通過し、一方、凝集物は、フィルター上に保持され、それは、様々な試薬を用いて検出され得、その試薬には、TDP-43タンパク質に対して方向づけられた抗体が挙げられる。本明細書に記載されているような、融合タンパク質、融合タンパク質を発現する細胞、または融合タンパク質をコードする核酸、ベクター、もしくはウイルス粒子で処理された細胞試料の可溶化液における、トラップされた凝集タンパク質の量は、未処理のまたは対照処理された細胞からの可溶化液と比較することができ、その場合、対照試料と比較しての、処理された試料における凝集TDP-43タンパク質の量の低下は、前記融合タンパク質または融合タンパク質をコードする核酸、ベクター、もしくはウイルス粒子の有効性を示している(例えば、Kimら、(2014)Mol.Cell.Biol.、34:643~652、および実施例1参照)。対照と比較した場合の、凝集TDP-43タンパク質におけるより大きい低下は、より高い効力を示す。TDP-43タンパク質の凝集の低下はまた、細胞において、例えば、TDP-43タンパク質を検出する標識試薬での免疫蛍光顕微鏡法を用いて、直接的に検出することができる(例えば、Dingら、(2015)Oncotarget、6:24178~24191;Chouら、(2015)Hum.Mol.Genet.24:5154~5173、および実施例1を参照)。ある特定の実施形態において、対照と比較した場合のTDP-43ポリペプチドレベルのより大きい低下は、より高い効力を示す。
【0112】
したがって、一実施形態において、方法は、未処理または対照細胞と比較して、少なくとも10%、例えば、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、TDP-43タンパク質の凝集を低下させるのに有効な融合タンパク質または前記融合タンパク質をコードする核酸、ベクター、もしくはウイルス粒子の量と、細胞を接触させるステップを含む。
【0113】
下記の実施例1に示されているように、JドメインおよびTDP-43結合性ドメインを含む融合タンパク質の発現が、TDP-43含有レポーター構築物の全体的なレベルを低下させることが見出されている。したがって、別の実施形態において、方法は、未処理または対照細胞と比較して、少なくとも10%、例えば、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、TDP-43タンパク質のレベルを低下させるのに有効な、融合タンパク質、前記融合タンパク質を発現する細胞、または前記融合タンパク質をコードする核酸、ベクター、もしくはウイルス粒子の量と、細胞を接触させるステップを含む。
【0114】
VII. 薬学的組成物
本明細書で企図された組成物は、本明細書で企図されているような、JドメインおよびTDP-43結合性ドメインを含む1つまたは複数の融合タンパク質、そのような融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、それを含むベクター、遺伝子修飾された細胞などを含み得る。組成物は、薬学的組成物が挙げられるが、それに限定されない。「薬学的組成物」は、単独かまたは1つもしくは複数の他の治療モダリティーと組み合わせての細胞または動物への投与のための薬学的に許容されるまたは生理学的に許容される溶液として製剤化された組成物を指す。必要に応じて、組成物は、なお他の作用物質、例えば、サイトカイン、成長因子、ホルモン、小分子、化学療法剤、プロドラッグ、薬物、抗体、または他の様々な薬学的活性物質も組み合わせて、投与され得ることも理解されるであろう。追加の作用物質が、意図された治療を送達する本組成物の能力に悪影響を及ぼさないならば、本組成物にまた含まれ得る他のコンポーネントに、事実上、制限はない。
【0115】
句「薬学的に許容される」は、合理的な利益/リスク比に釣り合って、過剰な毒性、刺激作用、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症なしに、ヒトおよび動物の組織と接触して用いるのに、健全な医学的判断の範囲内において、適している、化合物、材料、組成物、および/または剤形を指すように、本明細書で用いられる。
【0116】
本明細書で用いられる場合、「薬学的に許容される担体」、「希釈剤」、または「賦形剤」には、ヒトまたは家畜における使用について容認できるとして、米国食品医薬品局によって認可されている、非限定的に、任意のアジュバント、担体、賦形剤、流動促進剤、甘味剤、希釈剤、保存剤、色素/着色剤、香味料、界面活性剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、安定剤、等張剤、溶剤、界面活性剤、または乳化剤が挙げられる。例示的な薬学的に許容される担体には、ラクトース、グルコース、およびスクロースなどの糖;コーン(com)スターチおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;セルロース、ならびにカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および酢酸セルロースなどのその誘導体;トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;カカオバター、ワックス、動物および植物脂肪、パラフィン、シリコン、ベントナイト、ケイ酸、酸化亜鉛;ピーナッツ油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、コーン(com)油、およびダイズ油などの油;プロピレングリコールなどのグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコールなどのポリオール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;パイロジェンフリーの水;等張食塩水;リンゲル液;エチルアルコール;リン酸緩衝溶液;ならびに薬学的製剤中に用いられる任意の他の適合性物質が挙げられるが、それらに限定されない。
【0117】
VIII. 投薬量
本明細書に記載された組成物(例えば、融合タンパク質構築物、核酸、または遺伝子治療ウイルス粒子を含む組成物)の投薬量は、本化合物の薬力学的性質;投与の様式;レシピエントの年齢、健康、および体重;症状の性質および程度;処置の頻度、およびもしあれば、同時処置の型;ならびに処置されることになっている動物における本化合物のクリアランス速度などの多くの因子に依存して変動し得る。本明細書に記載された組成物は、臨床応答に依存して、必要に応じて調整され得る、適切な投薬量で、最初、投与され得る。いくつかの態様において、組成物の投薬量は、予防的または治療的有効量である。
【0118】
IX. キット
(a)本明細書に記載された、細胞または対象においてTDP-43タンパク質の凝集を低下させる、融合タンパク質構築物、そのような融合タンパク質をコードする核酸、またはそのような核酸を包含するウイルス粒子を含む薬学的組成物、および(b)本明細書に記載された方法のいずれかを実施するための使用説明書を含む添付文書を含むキットが企図される。いくつかの態様において、キットは、(a)本明細書に記載された細胞または対象においてTDP-43タンパク質の凝集を低下させる、本明細書に記載された組成物を含む薬学的組成物、(b)追加の治療剤、および(c)本明細書に記載された方法のいずれかを実施するための使用説明書を含む添付文書を含む。
【実施例】
【0119】
Jドメインが、凝集タンパク質の適切なフォールディングを促進するように特定的に操作され得るかどうかを試験するために、本発明者らは、TDP-43タンパク質を標的化するようにデザインされたいくつかの融合タンパク質構築物をデザインし、試験した。
【0120】
実施例1:融合タンパク質デザイン
A. 方法
一般的な技術および材料
本発明の実施は、他に指示がない限り、当業者の能力の範囲内である、免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノミクス、および組換えDNAの通常の技術を用いる。Sambrook,J.ら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001;「Current protocols in molecular biology」、F.M.Ausubelら編、1987;シリーズ「Methods in Enzymology」、Academic Press、San Diego、Calif.;「PCR 2:a practical approach」、M.J.MacPherson、B.D.Hames、およびG.R.Taylor編、Oxford University Press、1995;「Antibodies、a laboratory manual」 Harlow,E.およびLane,D.編、Cold Spring Harbor Laboratory、1988;「Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics」、第11版、McGraw-Hill、2005;ならびにFreshney,R.I.、「Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique」、第4版、John Wiley & Sons、Somerset、NJ、2000(それらの内容は、全体として参照により本明細書に組み入れられている)参照。HEK-293細胞(ヒト胚性腎臓細胞)は、American Type Culture Collection(Manassas、VA)から購入された。抗FLAG抗体は、Thermo Fisher Scientificから購入された。ウサギ抗GFP抗体は、GenScripts(Piscataway、NJ)から購入された。精製および特徴づけを容易にするために、この実施例1に用いられる融合タンパク質構築物のいくつかは、配列番号80~85および89~96に提供された配列に加えて、配列番号68のFLAGエピトープを、そのタンパク質のC末端かまたはN末端のいずれかに、短いリンカー配列に加えて、含有する。
【0121】
HEK293細胞におけるタンパク質の発現および検出
様々なタンパク質構築物をコードする発現ベクタープラスミドを、HEK293細胞へ、Lipofectamine 3000トランスフェクション試薬(Thermo Fisher Scientific)を用いて、トランスフェクトした。細胞可溶化物を、発現したタンパク質について、イムノブロットアッセイを用いて分析した。培地の試料を、分析前に、遠心分離して、デブリを除去した。細胞を、2mM PMSFおよびプロテアーゼカクテル(完全プロテアーゼ阻害剤カクテル;Sigma)を含有する溶解バッファー(10mM Tris-HCl、pH8.0、150mM NaCl、10mM EDTA、2%SDS)中に溶解した。短時間の超音波処理後、試料を、発現したタンパク質について、イムノブロットアッセイを用いて分析した。イムノブロット分析について、試料を、SDS試料バッファー中で煮沸し、ポリアクリルアミド電気泳動に流した。その後、分離されたタンパク質バンドを、PVDF膜へ転写した。
【0122】
発現したタンパク質を、化学発光シグナルを用いて検出した。簡単に述べれば、ブロットを、特定のエピトープ(例えば、GFP)を結合する能力がある一次抗体と反応させた。反応していない一次抗体を洗い流した後、酵素連結型二次抗体(例えば、HRP連結型抗IgG抗体)を、ブロットと結合した一次抗体分子と反応させた。すすいだ後、化学発光試薬を加え、ブロットにおいて結果として生じた化学発光シグナルを、X線フィルム上に捕獲した。
【0123】
蛍光顕微鏡法
場合によっては、TDP-43(C末端断片の完全長)GFPレポーター構築物(下記)の凝集を、インビボで蛍光顕微鏡法を用いて、検出した。レポーター構築物、加えてJドメインおよびTDP-43結合性ドメインを含む融合タンパク質を発現する培養細胞を、PBSで洗浄し、PBS中4%パラホルムアルデヒドを用いて5分間固定した。PBSでの3回の5分間洗浄後、核DNAをDAPIで染色した。トランスフェクト細胞におけるTDP-43(GFP病巣)を含有する細胞のパーセンテージをカウントした。
【0124】
分画アッセイ
トランスフェクトされたHEK293細胞を、プロテアーゼ阻害剤カクテル、2mM PMSF、10mM NaF、および2mM Na3VO4を追加したRIPAバッファー(50mM Tris、pH7.5、150mM NaCl、0.1%NP-40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS)においてホモジナイズする。短時間の超音波処理後、タンパク質濃度を、BCAアッセイキット(Pierce)により測定する。等しいタンパク質量を、16,000xg、4℃、30分間の遠心分離により遠沈して、可溶性画分(上清)および不溶性画分(ペレット)へ分画する。不溶性画分をさらに、SDS溶解バッファー(10mM Tris、pH8.0、150mM NaCl、2%SDS)中に可溶化する。可溶性画分および不溶性画分の両方を、還元条件下でのSDS-PAGEへアプライし、その後、抗GFP抗体でのイムノブロッティングアッセイに供した。
【0125】
B. レポーター構築物
本発明者らはまず、TDP-43を標的化する本発明の融合分子が、培養細胞においてその凝集を改善するかどうかを調べた。この目的を達成するために、本発明者らは、GFPが完全長ヒトTDP-43タンパク質かまたはC末端断片TDP-43(細胞質内凝集および細胞毒性を形成することが知られている)かのいずれかのC末端に融合している、GFPに基づいたレポーター構築物GFP-TDP43およびGFP-TDP43を作製した(下記の表8参照)。HEK293細胞を、培養し、GFP融合体[GFP-TDP43FL(配列番号101)またはGFP-TDP43CTF(配列番号102)]として完全長TDP43、またはC末端207アミノ酸TDP-43(ヒトTDP-43のアミノ酸208~414)を含有するTDP43のC末端断片をコードするプラスミドを、トランスフェクトした。本発明者らは、以前に報告されているように(Zhangら、(2009)Proc Natl Acad Sci USA.、106(18):7607~12)、発現したGFP-TDP43FLの大部分が細胞の核に局在し(
図3、パネル1)、一方、GFP-TDP43CTFが細胞質内封入体を生成した(
図3、パネル5)ことを見出した。
【0126】
【0127】
C. 融合タンパク質構築物
本発明の融合タンパク質がTDP-43凝集を低下させるために用いることができるかどうかを決定するために、最初の実験をまず、GFPを認識する一本鎖可変断片(scFv)とコンジュゲートされた、ヒトHsp40 Jドメインタンパク質に由来したJドメイン配列を含む融合タンパク質の同時発現により行った(データ未呈示)。驚くべきことに、GFP-TDP43CTFがこの構築物と共に発現した場合、凝集のほとんどが消失したが、GFP scFv(Jドメイン配列なし)がGFP-TDP43CTFと共に発現した場合、有意な効果は観察されなかった。これは、TDP-43凝集が、Hsp70媒介性経路を用いて解決され得ることを示唆した(未呈示)。
【0128】
その後、本発明者らは、表9に描かれているような一連の融合タンパク質構築物をデザインした。
【0129】
【0130】
最初の実験を、TDP-43凝集を低下させることにおける融合タンパク質構築物の能力を試験するために行った。構築物3(JB1-scFv(3B12A))、ならびにコンパニオン対照の構築物2(TDP-43結合性ドメインのみ)および構築物4(Jドメインの保存HPDモチーフ内に変異P33Qを含有することを除いて、構築物3と同じ)を、GFP-TDP43FLレポーター構築物かまたはGFP-TDP43CTFレポーター構築物のいずれかを発現する細胞へトランスフェクトした。
図3は、GFP-TDP43CTFレポーター構築物を発現する細胞におけるGFP構築物の凝集が、GFP-TDP43FLを発現する細胞においてより多いことを示している。構築物3を発現する細胞は、凝集の実質的な低下を示したが、対照(構築物2および構築物4)の発現は、凝集を低下させなかった(
図4;下記の表10も参照)。P33Qを含有する構築物4における活性の欠如は、凝集を低下させる能力が、Hsp70経路を通して作用するJドメインにより駆動されることを強く示唆している。
【0131】
【0132】
これらの細胞の細胞抽出物を、GFP含有レポーター構築物またはFLAGエピトープ含有融合タンパク質構築物、それぞれのレベルを決定するために抗GFP抗体かまたは抗FLAG抗体のいずれかを用いるイムノブロットを用いて、分析した(
図5)。GFP-TDP43FLを発現する細胞抽出物は、抗GFP抗体で探索した場合、顕著な約70kDaバンドの存在を示すが、GFP-TDP43CTFを発現する細胞は約50kDaバンドの存在を示す。興味深いことに、GFP-TDP43CTFレポーターを有し、かつまた構築物3(JB1-scFv(3B12A))も発現する細胞は、陰性対照の、scFv対照(構築物2)またはP33Q変異体(構築物4)と比較した場合、レポータータンパク質の量の著しい低下を示す。完全長レポーター構築物(GFP-TDP43FL)のレベルにおける差は見られなかった。
【0133】
TDP-43レベルの低下が、タンパク質凝集に依存するかどうかを調べるために、GFP-TDP43FLかまたはGFP-TDP43CTFのいずれかを発現し、かつまた構築物2または3を発現する細胞の抽出物を、可溶性(非凝集型)および不溶性(凝集型)画分へ分画し、抗GFP抗体で探索することによりレポーターの存在について検出した。
図6に示されているように、完全長レポーター(GFP-TDP43FL)を発現する細胞において、可溶性画分と不溶性画分の両方におけるレポーターのレベルの有意な変化はない。対照的に、GFP-TDP43CTFレポーターを発現する細胞において、構築物3(JB1-scFv(3B12A))を発現する細胞の可溶性画分にレポーターの中程度の減少が見られたが、構築物2(scFv(3B12A))を発現する細胞では見られなかった。対照的に、不溶性画分(おそらく、凝集型)において、レポーターのほとんど完全な消失である、レポーターのレベルの有意な低下がある。
【0134】
総合すれば、これらのデータは、融合タンパク質が、細胞においてTDP-43のレベルを低下させることができ、凝集TDP43タンパク質のクリアランスを優先的に加速するように働き得ることを強く示唆している。
【0135】
上記の結果に基づいて、Jドメインに対するTDP-43結合性ドメインの異なる立体配置を含有するいくつかの追加の構築物(構築物5~7)を、作製した。これらの構築物を、凝集を低下させるそれらの能力について試験した。これらの新しい構築物を、構築物3(JB1-scFv(3B12A))、加えて、何も発現しない細胞(陰性対照)またはscFv単独(構築物2)を発現する細胞と比較した。
図7は、それらの実験の結果を示す(下記の表11にも要約されている)。
【0136】
【0137】
図7で見られるように、構築物3(JB1-scFv(3B12A))、構築物5(scFv(3B12A)-JB1)、構築物6(scFv(3B12A)-JB1-scFv(3B12A))、および構築物7(JB6-scFv(3B12A))は、陰性対照、および構築物2(scFv単独)を発現する細胞と比較して、GFP-TDP43FLレポーター構築物を発現する細胞において凝集レベルの中程度の低下を示している。対照的に、GFP-TDP43CTF構築物を発現する細胞において、以前の観察と一致して、陰性対照、および構築物2を発現する細胞においてタンパク質凝集のより高い全体的なレベルがある。さらに、構築物3、構築物5、構築物6、および構築物7もまた発現する細胞は全て、タンパク質凝集の劇的に低下したレベルを有し、融合タンパク質の以下の立体配置が有効であることを実証している:DNAJ-T、T-DNAJ、T-DNAJ-T(ここで、DNAJはJドメインであり、TはTDP-43結合性ドメインである)。さらに、複数のJドメイン(例えば、DnaJB1およびDnaJB6由来)は、融合タンパク質において活性があることが見出された。その後、
図8および9(下記の表12も参照)に示されているように、追加の構築物を作製し、試験した。興味深いことに、TDP-43結合性ドメインなしでの完全長DnaJB1の発現は、TDP-43凝集を、構築物3(JB1-scFv(3B12A))による>90%低下と比較して、約43%、低下させることができた。加えて、QBP1ペプチドの2つのタンデムコピーを含有する構築物14の発現もまた、凝集の実質的低下(約71%低下)を示した。QBP1は、以前、TDP-43と相互作用することが示された(例えば、Mompeanら、(2019)Arch.Biochem.Biophys.675:108113参照)。したがって、複数のTDP-43結合性ドメイン(scFv(3B12A)およびQBP1)は、融合タンパク質に配置された場合、活性があることが見出された。さらに、細胞抽出物を、レポーター構築物のレベルを定量化するために抗GFP抗体を用いるイムノブロッティングにより分析した場合(
図9B)、構築物3(JB1-scFv(3B12A))、構築物9(完全長DnaJB1)、および構築物14(JB1-2XQBP1)を発現する細胞は、レポーター構築物のより低いレベルを有することが見出された。
【0138】
【0139】
下記の表13および14に示されているように、追加の構築物を試験した。
【0140】
【0141】
【0142】
上記で示されているように、代替Jドメイン(例えば、JB6およびJC7ドメイン参照)を用いたものを含む多数の構築物は、GFP-TDP43CTF凝集を低下させることにおいて有効であった。他の融合タンパク質構築物は、DNAJC6由来のJドメインおよびSV40由来のJドメインまたは細菌Jドメインタンパク質(DnaJ)もまた、他のレポーター構築物の凝集を低下させることにおいて有効であることが見出された(データ未呈示)。しかしながら、コンセンサスHPD配列を含まないJドメインを含む構築物16(表1参照、配列番号16)は、GFP-TDP43CTFレポーター構築物の凝集を低下させることができなかった。
【0143】
下記の表15に示されているように、追加の構築物を試験した。DNAJB1のJドメインと融合した、TDP-43と結合するscFv 3F10を用いる、構築物13(JB1-scFv(3F10)、配列番号90)。ヒトDnaJA1由来の二量体形成ドメインを含有する、構築物20(JB1-scFv(3B12A)-DD)、配列番号97。下記に示されているように、構築物13は、GFP-TDP43CTFの凝集を低下させる中程度の能力を示した。二量体形成ドメインを含有する構築物3である、構築物20の発現は、GFP-TDP43CTF凝集の強力な低下を示した。二量体形成ドメインによる効果のさらなる増強は、いくつかの天然のJドメインタンパク質に見出されたドメイン立体配置と一致して、おそらく二量体化構築物3とGFP-TDP43CTFの間の相互作用の増強による(Sha (2000)Structure 8(8)、799~807)。
【0144】
【0145】
本発明者らは次に、凝集を低下させることにおける融合タンパク質の機構を調べた。HEK293細胞に、GFP-TDP43FLまたはGFP-TDP43CTFレポーター構築物を単独かまたは構築物3(JB1-scFv(3B12A))と共のいずれかで、トランスフェクトし、BFA(バフィロマイシンA1、オートファジーの遅延相の阻害剤)またはMG132(プロテアソーム阻害剤)も加えた。
図10に示されているように、細胞の10nMまたは100nM BFAでの処理は、用量依存的様式で、病原性TDP43の再出現を生じた。対照的に、0.1μMまたは1.0μMのMG132での処理は、病原性TDP43形の蓄積に全くかほとんど効果を生じなかった。総合すれば、これらの結果は、融合タンパク質構築物が、シャペロン媒介性オートファジーを介してそれらの効果を発揮することを示唆している。
【0146】
実施例2
融合タンパク質構築物をコードするAAVベクター
例示的な遺伝子治療ベクターは、サイトメガロウイルス(CMV)初期エンハンサーエレメントおよびニワトリベータ-アクチンプロモーターを含有するCAGプロモーターの制御下での、表6の融合タンパク質構築物、具体的には構築物2、4、6、7、17、および20~31、加えて対照構築物1(DnaJB1 Jドメインのみ)、GFP(陰性対照)をコードするコドン最適化cDNAを有するAAV9ベクターにより構築される。構築物をコードするcDNAは、コザック配列の下流に位置し、ウシ成長ホルモンポリアデニル化(BGHpA)シグナルによってポリアデニル化される。カセット全体は、AAV-2の2つの非コード末端逆位配列によって隣接されている。
【0147】
組換えAAVベクターは、上記のものと類似したバキュロウイルス発現系を用いて調製される(Urabeら、2002;Unzuら、2011(Kotin、2011に概説されている))。簡単に述べれば、複製およびパッケージングのためのREPをコードする1つ、AAV9のカプシドについてのCAP-5をコードする1つ、および発現カセットを有する1つである、3つの組換えバキュロウイルスが、SF9昆虫細胞に感染するために用いられる。精製は、AVB Sepharose高速アフィニティ媒体(GE Healthcare Life Sciences、Piscataway、NJ)を用いて実施される。ベクターは、導入遺伝子についてのプライマー-プローブの組合せでのQPCRを用いて滴定され、力価は、1mlあたりのゲノムコピー数(GC/ml)として表される。ベクターの力価は、およそ8×1013~2×1014GC/mlの間である。
【0148】
実施例3
ALSのマウスモデルにおける発現および効力の試験
まず、構築物3の発現を確認するために、および発現が動物に有害効果を生じるかどうかを確かめるために、野生型C57BL/6Jマウスにおいて実験を行った。上記に記載されているような対照かまたは構築物3のいずれかを含有する6×1010vg AAVrh10カプシドを、下記の表16に示されているように、くも膜下腔内注射かまたは脳室内注射のいずれかにより注射した。
【0149】
【0150】
マウスを、運動失調、後肢虚弱、または足の引きずりについて観察した。AAV注射から1週間後、体重測定および臨床観察を毎週、行った。3週間目、マウス(n=3)を、CO
2により人道的に安楽死させて、AAV発現を確認した。ICVまたはIT注射後の3週間の間、体重の差は見出されなかった(データ未呈示)。
図15に示されているように、くも膜下腔内(
図15B)またはICV(
図15C)注射により注射されたマウスは、大脳抽出物のイムノブロットを用いて検出された場合、構築物3の発現を生じたが、対照マウスにおいては検出されなかった。さらに、発現が、ICV注射後の8週間目において、3週間目より有意に高いことが見出された。
【0151】
上記で調製されたベクターを、新規なAAV NEFH-tTA × hTDP-43ΔNLSの2遺伝子組換えマウス(rNLSマウス)のTDP-43関連病態に関して試験した。このモデルは、病原性TDP-43(ヒトTDP-43ΔNLS)を発現する、ドキシサイクリン(DOX)抑制性構築物を有する。DOXの除去により、TDP-43ΔNLS発現は、動物の急速かつ進行性の悪化を引き起こして、重度の体重減少、および一般的には6~8週間以内に、死をもたらす。TDP-43ΔNLS媒介性病態の進行を遅くすることにおける構築物3(JB1-scFv(3B12A)、配列番号80)の効力を試験した。対照または構築物3を含有するAAV rh10を、下記の表17に示されているように、異なる群において、P1/P2に、2ul(最大4ul)の体積で一側性にICV投与した。対照群1を除いて、DOX除去は、5週間目に起こった。群における対照マウス
【0152】
【0153】
体重を、離乳後毎週2回、測定した。試験の完了後、試料を、全ての生存するマウスから収集した。全脳を収集し、2つの半球へ分割した。1つの半球を重量測定し、ドライアイス上で凍結させた。2つ目の半球を、組織学評価のために4%PFA中に固定した。
【0154】
図16Bに示されているように、群2の対照マウスは、DOX除去により、次の数週間にわたって有意に体重を減少し始め、結果として、群1とは統計的有意な体重相違を生じた。驚くべきことに、構築物3を発現する群3もまた、群2と比較した場合、統計的有意な体重増加を示した(群1が雄のみを含有することにより、群2および3についての結果は、性別差を考慮するために、雄の体重のみを示す)。
【0155】
生存率を調べた場合、本発明者らは、対照群2(DOXオフ)における動物が、急速に健康を損ない、10週間目においてマウスのたった37.5%(雄の0%)の生存率をもたらしたことを見出した。しかしながら、構築物3を発現するマウスは、10週間目において100%生存率を示し、群1(DOXオン)対照と区別できなかった。
【0156】
他の態様
この明細書で言及された全ての刊行物、特許、および特許出願は、あたかも各個々の刊行物、特許、または特許出願が具体的かつ個々に示されて、全体として参照により組み入れられているかのように同じ程度で、全体として参照により本明細書に組み入れられている。本出願における用語が、参照により本明細書に組み入れられた文書においてと異なって定義されていることが見出された場合、本明細書に提供された定義がその用語についての定義としての役割を果たすものとする。
【0157】
本発明は、その特定の態様に関連して記載されているが、本発明はさらに改変することができ、一般的に本発明の原理に従い、かつ当技術分野内での公知または慣習的な実施範囲内に入り、上記で示された本質的な特徴に適用することができような、本開示からの逸脱を含む、本発明の任意のバリエーション、使用、または適応を網羅することを、この出願は意図され、主張された範囲内に従うことは理解されるであろう。
【配列表】
【国際調査報告】