(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-12
(54)【発明の名称】PCNA相互作用モチーフを含むペプチドの固形癌の治療における使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/10 20060101AFI20230605BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230605BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230605BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230605BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20230605BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230605BHJP
C07K 7/00 20060101ALN20230605BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20230605BHJP
【FI】
A61K38/10
A61K38/16
A61P35/00
A61P17/00
A61P15/00
A61P35/04
C07K7/00 ZNA
C07K14/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567486
(86)(22)【出願日】2021-04-27
(85)【翻訳文提出日】2022-11-28
(86)【国際出願番号】 EP2021060992
(87)【国際公開番号】W WO2021224068
(87)【国際公開日】2021-11-11
(32)【優先日】2020-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522431771
【氏名又は名称】セラピム プロプライエタリ― リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】アレヴィゾポラス コンスタンティノス
(72)【発明者】
【氏名】オッターレイ マーリット
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA18
4C084BA19
4C084CA59
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA81
4C084ZA89
4C084ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA13
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045CA40
4H045EA28
(57)【要約】
本発明は、癌腫および肉腫の治療のための医薬組成物および方法に関する。特に、本発明は、ヒト対象における癌腫または肉腫の治療に使用するためのペプチドまたはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物であって、ペプチドが配列番号1に記載のアミノ酸配列および細胞貫通ペプチドを含み、医薬組成物が対象に毎週全身投与されて、ペプチドの遊離型として計算して、1週当たり、体表面積(BSA)当たり約15~65mg/m2のペプチドの投与量を提供する、医薬組成物を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象における癌腫または肉腫の治療に使用するためのペプチドまたはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物であって、ペプチドが配列番号1に記載のアミノ酸配列および細胞貫通ペプチドを含み、医薬組成物が対象に毎週全身投与されて、ペプチドの遊離型として計算して、1週当たり、体表面積(BSA)当たり約15~65mg/m
2のペプチドの投与量を提供する、医薬組成物。
【請求項2】
ペプチドの投与量が、ペプチドの遊離型として計算して、1週当たり、体表面積(BSA)当たり約15~50mg/m
2である、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項3】
癌腫が、肺、膵臓、子宮頸部、尿道または卵巣の癌腫である、請求項1または2に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項4】
癌腫が腺癌である、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項5】
腺癌が膵臓腺癌または肺腺癌である、請求項4に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項6】
癌腫が扁平上皮癌である、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項7】
扁平上皮癌が子宮頸部または尿道の扁平上皮癌である、請求項6に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項8】
肺の癌腫が非小細胞肺癌、場合により大細胞癌または腺癌である、請求項3に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
卵巣の癌腫が卵巣顆粒膜細胞腫である、請求項3に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項10】
肉腫が筋肉腫または未分化多形肉腫である、請求項1または2に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項11】
筋肉腫が平滑筋肉腫である、請求項10に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項12】
平滑筋肉腫が子宮平滑筋肉腫である、請求項11に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項13】
未分化多形肉腫が転移性未分化多形肉腫である、請求項10に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物であって、該医薬組成物が少なくとも3週間の治療サイクルのために毎週投与される、医薬組成物。
【請求項15】
治療サイクルが少なくとも1回繰り返される、請求項14に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項16】
医薬組成物が非経口的に、好ましくは静脈内投与される、請求項1~15のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項17】
薬学的組成物が少なくとも約1時間の静脈内注入により投与される、請求項1~16のいずれか1項に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項18】
細胞貫通ペプチドが、配列番号37、39または40に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項19】
ペプチドが、配列番号1と細胞貫通ペプチドとの間のリンカー配列を含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の使用するための医薬組成物。
【請求項20】
リンカー配列が、配列番号890に記載のアミノ酸配列、好ましくは配列番号898に記載のアミノ酸配列を含む、請求項19に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項21】
ペプチドが、配列番号914~916または918~920、好ましくは配列番号914または918のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含む、請求項1~20のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項22】
ペプチドが塩酸塩として提供される、請求項1~21のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項23】
治療を必要とするヒト対象における癌腫または肉腫を治療する方法であって、ペプチドまたはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物を対象に投与することを含み、ペプチドは配列番号1に記載のアミノ酸配列および細胞貫通ペプチドを含み、医薬組成物を対象に毎週全身投与して、ペプチドの遊離型として計算して、約15~65mg/m
2 BSA/週のペプチドの用量を提供する、方法。
【請求項24】
ペプチドの用量が、ペプチドの遊離型として計算して、1週間当たり、体表面積(BSA)当たり、約15~50mg/m
2である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
癌腫が請求項3~9のいずれか1項に定義されるとおりであり、および/または肉腫が請求項10~13のいずれか1項に定義されるとおりである、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
医薬組成物が、請求項14~17のいずれか1項に定義される対象に投与される、請求項23~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
ペプチドが請求項18~21のいずれか1項に定義されるとおりであり、および/または薬学的に許容される塩が請求項22に定義されるとおりである、請求項23~26のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌腫および肉腫の治療のための医薬組成物および方法に関する。より具体的には、本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドを含む医薬組成物の、癌腫または肉腫の治療における使用のための投与レジメンに関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、発生する細胞の種類によって100種類以上に分類される。米国国立癌研究所(NCI)は、主な癌の種類を挙げている(https://www.cancer.gov/types)。それぞれの癌は、発生した臓器や組織、分子マーカーの発現、遺伝子発現プロファイル、変異負荷、形質転換する発癌性変異、その発生段階に基づいて、さらにグループ化されて分類されることができる。
【0003】
癌の形態やステージによって治療プロトコルが異なることはよくあるが、いくつかの治療分子は、急速に増殖する細胞に対する全般的な活性のために、さまざまな癌の治療に有用であることが分かっている。
【0004】
APIM-ペプチドは、新規のPCNA相互作用モチーフを介してPCNA(増殖細胞核抗原)と相互作用するペプチド群である(Gilljam et al., 2009.Identification of a novel, widespread, and functionally important PCNA-binding motif, J. Cell Biol.186(5), pp. 645-654)。このモチーフは、hABH2とPCNAの相互作用を媒介するものとして最初に同定されたため、APIM(AlkB homologue 2 (hABH2) PCNA-interacting motif)と呼ばれているが、現在ではAPIM配列は様々なタンパク質で同定されている。 APIMペプチドに見られるPCNA結合モチーフは、典型的には、コンセンサス配列である[R/K]-[F/W/Y]-[L/I/V/A]-[L/I/V/A]-[K/R](配列番号2)を用いて定義され、より多様なモチーフである[R/K/H]-[W/F/Y]-[L/I/V/A/M/S/T/N/Q/C]-[L/I/V/A/M/G/S/T/N/Q/R/H/K/C]-[K/R/H/P](配列番号3)がPCNAに作用する種々のタンパク質で存在すると決定されている(参照により本明細書に援用されたWO2015/067713を参照されたい)。さらに、追加のアミノ酸からなる「拡張」モチーフも同定されている、[R/K/H]-[W/F/Y]-[W/F/Y/L/I/V//M]-[L/I/V/A/M/S/T/N/Q/C]-[L/I/V/A/M/G/S/T/N/Q/R/H/K/C/P]-[K/R/H/P/L/I/V/A/M/G/S/T/N/Q/C](配列番号4 参照)(参照により本明細書に援用されたWO2016/177899を参照)が挙げられる。
【0005】
PCNAは、DNA複製とDNA修復の両方に関与することが知られているタンパク質のスライディング・クランプ・ファミリーのメンバーである。PCNAの重要な機能は、ゲノムの複製に必要な高い処理能力を複製ポリメラーゼに提供することである。
【0006】
APIM-ペプチドは治療に有用であることが示されている。具体的には、APIM-ペプチドは、細胞傷害剤および細胞分裂停止剤、特にDNA損傷剤(WO 2009/104001)、微小管標的薬剤(Soegaard et al, 2018, Oncogene, Vol.9(14), pp.11752-11766) およびキナーゼ阻害剤(Soegaard et al, 2019, Oncogene, Vol.10(68), pp.7185-7197) に対する細胞の感作に有効であると示されてきた。このように、APIMペプチドは、細胞の増殖を抑制することが望ましい疾患や病態の治療、および静注療法、すなわち細胞の不要な増殖を防止または抑制する治療、例えば癌の治療などに、細胞傷害剤および/または細胞分裂停止剤などの他の治療剤と組み合わせて有用であることが示されている。
【0007】
APIMペプチドは、それ自体がアポトーシス誘導性細胞傷害剤としての活性を示す研究もあるが、これらのペプチドは健康な細胞ではアポトーシスを誘導しない。例えば、APIMペプチドは、アポトーシスを誘導することなく、単球のサイトカイン産生を調節する(例えば、Mueller et al., 2013., PLOS One, 8(7), e70430, pp.1-12 and Olaisen et al., 2015, Cell Signal., Vol. 27(7), pp. 1478-1487).いくつかの動物実験では、APIM-ペプチドは単体の活性剤としては癌治療に有用でないことが示されている。例えば、Soegaard et al.(Oncotarget, 2018, Vol. 9(65), pp. 32448-32465)は、筋肉浸潤性膀胱癌モデルにおいて、APIM-ペプチドの単独投与は効果がないことを明らかにした。
【発明の概要】
【0008】
本発明に至る過程で、本発明者らは、驚くべきことに、APIM-ペプチド単独が、ヒト患者の癌腫および肉腫の治療に特に有効であることを見出した。さらに、本発明者らは、APIM-ペプチドが、細胞傷害剤の効果を増強するために動物実験で用いられた濃度よりも著しく低い濃度で有効であることを、予想外に決定した。
【0009】
APIMペプチドは、典型的には投与後10~960分以内に血液中に検出されないことがわかっているため、ヒトにおける治療効果は特に驚くべきものでした。理論にとらわれないが、ペプチドは細胞内に入り、数日間細胞内に留まり、長期的な作用をもたらすと仮定している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一態様によれば、本発明は、ヒト対象における癌腫または肉腫の治療に使用するためのペプチドまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物であって、ペプチドが配列番号1に記載のアミノ酸配列および細胞貫通ペプチドを含み、医薬組成物が対象に毎週全身投与されて、ペプチドの遊離型として計算して、1週当たり、体表面積(BSA)当たり約15~65mg/m2(約15~50mg/m2)のペプチドの投与量を提供する、医薬組成物を提供する。
【0011】
あるいは、本発明は、治療を必要とするヒト対象における癌腫または肉腫を治療する方法であって、ペプチドまたはその薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物を対象に投与することを含み、ペプチドは配列番号1に記載のアミノ酸配列および細胞貫通ペプチドを含み、医薬組成物を対象に毎週全身投与して、ペプチドの遊離型として計算して、1週当たり、体表面積(BSA)当たり約15~65mg/m2(約15~50mg/m2)のペプチドの投与量を提供する、方法を提供する。
【0012】
さらに別の態様では、本発明は、ヒト対象における癌腫または肉腫の治療のための医薬組成物の製造における、ペプチドまたはその薬学的に許容可能な塩の使用であって、ペプチドが配列番号1に記載のアミノ酸配列および細胞貫通ペプチドを含み、医薬組成物が対象に毎週全身投与されて、ペプチドの遊離型として計算して、1週当たり、体表面積(BSA)当たり約15~65mg/m2(約15~50mg/m2)のペプチドの投与量を提供する、使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、表2~4に示した長期追跡試験(ATX-101-02)で治療を受けた対象の治療期間のSwimmer plotを示す。各棒グラフの数字は、治療による病勢安定、病勢進行または試験中止による最終的な試験中止までの総月数を示す。点線は、RECIST V1.1に基づく最初の腫瘍評価のタイムポイントである6週間後の最初の治療パート(ATX-101-01)の終了を示す。この時点で全患者が病勢安定となり、長期追跡治療(ATX101-02試験)へ移行した。
【0014】
(詳細な説明)
用語「癌腫」は、上皮細胞から発生する癌を指し、臓器内皮に由来する癌も含まれる。癌腫は組織学的にさらに分類され得る。
【0015】
例えば、腺に関連する組織細胞学、組織構造、および/または腺に関連する分子産物(例えば、ムチン)を含む癌腫は、腺癌に分類される。
【0016】
扁平上皮癌は、扁平上皮の分化を示す特徴(細胞間橋、角化、扁平真珠)を持つ癌を含む。
【0017】
腺扁平上皮癌は、腺癌と扁平上皮癌の両方を含む混合腫瘍であり、通常、これらの細胞型のそれぞれが腫瘍体積の少なくとも10%を占める。
【0018】
未分化癌(Anaplastic or undifferentiated carcinomas)は、組織学的または細胞学的に、より特異的に分化した新生物のいずれかの明確な証拠を欠く細胞を特徴とする、癌の異質群である。
【0019】
大細胞癌は、豊富な細胞質を持つ単調な丸みを帯びたまたはあからさまに多角形の大きな細胞で構成されている。
【0020】
小細胞癌は、通常、円形で安静時のリンパ球の直径のおよそ3倍以下の細胞を含み、明らかな細胞質はほとんどない。時には、小細胞の悪性腫瘍自体が、わずかに多角形および/または紡錘形の細胞の重要な構成要素を持つ場合がある。
【0021】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明に従って治療される癌腫は、腺癌、扁平上皮癌、腺扁平上皮癌、未分化癌、大細胞癌、または小細胞癌である。
【0022】
いくつかの実施形態では、癌腫は、肺、膵臓、子宮頸部、尿道または卵巣の癌腫、例えば、腺癌または扁平上皮癌である。
【0023】
したがって、いくつかの実施形態において、腺癌は、膵臓腺癌または肺腺癌である。
【0024】
いくつかの実施形態では、扁平上皮癌は、子宮頸部または尿道の扁平上皮癌である。
【0025】
いくつかの実施形態において、肺の癌腫は、非小細胞肺癌である。いくつかの実施形態では、非小細胞肺癌は、大細胞癌または腺癌である。
【0026】
いくつかの実施形態では、卵巣の癌腫は、卵巣顆粒膜細胞腫瘍である。 いくつかの実施形態では、卵巣の癌腫は、卵巣、卵管または原発性腹膜癌の上皮性癌を含む。したがって、いくつかの実施形態において、癌腫は、卵巣の上皮性癌、卵管の上皮性癌、または原発性腹膜癌である。
【0027】
肉腫とは、結合組織(骨、軟骨、脂肪、血管、造血組織など)を形成する間葉系細胞から発生する癌のことをいう。肉腫は一般的に、腫瘍が発生した特定の組織と細胞の種類に基づいて分類され、一般的に骨肉腫と軟部肉腫に分類されることがある。
【0028】
いくつかの実施形態において、本発明に従って治療される肉腫は、軟部組織肉腫である。いくつかの実施形態では、肉腫は、筋肉腫(例えば横紋筋肉腫または平滑筋肉腫)、脂肪肉腫、未分化多形肉腫、または滑膜肉腫である。
【0029】
いくつかの実施形態では、筋肉腫は、子宮平滑筋肉腫などの平滑筋肉腫である。
【0030】
いくつかの実施形態において、未分化多形肉腫は、転移性未分化多形肉腫である。
【0031】
本明細書で使用する「治療する」または「治療」という用語は、臨床状態または障害の管理において有益なあらゆる効果またはステップ(または介入)を広く指す。したがって、治療は、治療される癌腫または肉腫の1つ以上の症状を、治療前の症状と比較して、軽減、緩和、改善、進行を遅らせる、または除去すること、または何らかの方法で対象の臨床状態を改善することを指す場合がある。治療には、治療プログラムまたはレジメンに寄与する、またはその一部である臨床的ステップまたは介入を含むことができる。特に、前記治療は、治療される癌腫または肉腫のサイズまたは体積を減少させることを含み得る。
【0032】
治療には、例えば治療前の癌腫または肉腫または症状と比較して、癌腫または肉腫の1つ以上の症状の発現を遅延、制限、低減または防止することが含まれ得る。したがって、治療には、癌腫または肉腫の発生または症状の発現の絶対的な予防と、癌腫または肉腫またはその症状の発現の遅延、あるいは癌腫または肉腫またはその症状の発現または進行の軽減または制限の両方が明示的に含まれる。
【0033】
したがって、本発明による治療には、癌腫または肉腫細胞の殺傷、抑制または増殖の減速、または癌腫または肉腫細胞の本体または集団(例えば、組織、腫瘍または増殖における)のサイズの増加、癌腫または肉腫細胞数の減少または癌腫または肉腫細胞の(例えば、別の解剖部位への)拡散防止、細胞増殖等のサイズの減少が含まれる。「治療」という用語は、必ずしも、癌腫または肉腫細胞の増殖の治癒または完全な消失もしくは排除を意味しない。
【0034】
いくつかの実施形態において、治療は、RECIST基準(Response Evaluation Criteria In Solid Tumors)を用いて測定される。RECIST基準は、X線、CTスキャン、MRIスキャンなどによる測定で、腫瘍が縮小するか、変わらないか、大きくなるかを基準にしている。患者がとる応答の種類には、完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、病勢進行(PD)、病勢安定(SD)がある。したがって、治療とは、患者が完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、病勢安定(SD)のいずれかを示すことを指す。ある実施形態では、治療とは、患者がSDを示すことを指す。いくつかの実施形態では、治療とは、治療開始から測定して少なくとも3ヶ月間、例えば4、5、6ヶ月以上、SDを示す患者を指す。
【0035】
「完全奏効」とは、標的病変がすべて消失した状態を指す。
【0036】
「部分奏効」とは、標的病変の病変径の合計(LD)が、ベースラインのLD合計を基準として、30%以上減少した場合を指す。
【0037】
「病勢安定」とは、治療開始以来の最小のLDを基準として、PRに該当するほどの縮小もPDに該当するほどの増大もない状態をいう。
【0038】
「病勢進行」とは、治療開始以来記録された最小のLD合計を基準として、標的病変のLD合計が20%以上増加した場合、または1つ以上の新しい病変が出現した場合を指す。
【0039】
本明細書において、「対象」および「患者」という用語は、ヒト、すなわち、治療を必要とする本明細書に定義される癌腫または肉腫を有するヒトを指す。
【0040】
本発明で用いるペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、これは「PCNA相互作用モチーフ」と見なすことができる。
【0041】
「PCNA相互作用モチーフ」とは、ペプチドとPCNAの相互作用を促進する機能を持つ、ペプチド内の連続したアミノ酸の配列を意味する。したがって、本発明のペプチドは、PCNAタンパク質と相互作用することができる必要がある限りにおいて、特徴づけることができる。言い換えれば、本発明で使用するペプチドは、PCNAと相互作用する有能なおよび/または熟練した(proficient)分子である必要がある。「PCNA相互作用モチーフ」および「APIM配列」という用語は、本明細書において互換的に使用することができる。
【0042】
ペプチド:PCNA相互作用の能力および/または親和性を決定するために用いられるPCNAタンパク質は、任意の適切な供給源、例えば、任意の動物、特にヒト、げっ歯類(例えば、マウス、ラット)または他の任意の非ヒト動物などの哺乳動物からのPCNAであってもよい。好ましい実施形態において、ペプチド:PCNA相互作用は、ヒトPCNAタンパク質を用いて決定、特徴づけ、または評価される。この相互作用には、ペプチドとPCNAタンパク質との直接的な結合が含まれる。
【0043】
ペプチドは、単離されたペプチドであり、最も好ましくは、合成ペプチドである。つまり、ペプチドは非ネイティブ、すなわち天然に存在しない分子である。
【0044】
PCNAと相互作用することができるペプチドが本発明の方法および使用において機能するためには、ペプチドは標的細胞に入ること、すなわち細胞膜を越えてサイトゾル(細胞質)に入り、場合により1つ以上の他の細胞位置、例えば核に入ることができなければならない。前述のように、このペプチドは細胞内に数日間留まることができるため、長期間の作用が期待できると考えられている。
【0045】
したがって、ペプチドは、細胞膜を横切るペプチドの通過を補助するドメインを含んでいる、すなわち、ペプチドは、融合ペプチドまたはキメラペプチド(天然には通常一緒に見出されない2つ以上のドメインから形成されたペプチド)として提供される。特に、本発明で使用するペプチドは、細胞貫通ペプチド(CPP)を含み、これは代替的に取り込みペプチドまたは輸入ペプチド、あるいはペプチドトランスダクションドメインと呼ばれることもある。
【0046】
ペプチドの最終的なサイズは、当該ペプチドを構成するドメインのサイズと数に依存する。すなわち、PCNA相互作用モチーフとCPPは、ペプチドのドメインと見なすことができる。したがって、ドメインは、特定の機能または特性を割り当てられるか、または帰属させられるペプチドの明確な部分(すなわち、全長アミノ酸配列内の配列)と見なすことができる。
【0047】
このペプチドは、少なくとも2つのドメイン、すなわちPCNA相互作用モチーフドメイン(配列番号1)およびCPPを含む。しかし、ペプチドは、その機能および/または安定性、例えば、その標的であるPCNAと相互作用する能力を促進し得る追加のドメインを含んでいてもよい。したがって、ペプチドは、2、3、4または5個のドメイン、例えば、6、7、8、9、10、12、15またはそれ以上のドメインを含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、ペプチドは、1つ以上のリンカードメイン、すなわち、2つの他のドメイン間に介在するドメイン、すなわち、ペプチドの2つのドメインの間の空間を占め、接続するドメインを含んでいてもよい。
【0048】
いくつかの実施形態では、リンカードメインは不活性であってもよく、すなわち、ペプチドが活性化される標的細胞において生理的機能を有さず、単にペプチド中の他のドメインを物理的に分離するために機能するだけであってもよい。しかしながら、いくつかの実施形態では、リンカードメインは、追加の機能を有していてもよい。例えば、リンカードメインは、開裂ドメインとしても機能することができる。すなわち、リンカードメインは、生理的条件下、例えば標的細胞の内部で開裂しやすいペプチド結合を含み、ペプチドがその取り込み後に開裂されるようにすることができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、ペプチドは、ペプチドを細胞内または細胞外の場所に誘導するドメイン、例えば核局在シグナル(NLS)配列などのシグナルペプチド(標的または通過ペプチドとしても知られている)を含んでいてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、1つ以上のリンカードメインは、シグナルペプチド、例えばNLSとして機能し、すなわち、リンカーは、好ましくはNLSなどのシグナルペプチドであってよい。代替的に言えば、シグナルペプチドドメインは、いくつかの実施形態においてリンカードメインとして機能し得る。いくつかの実施形態では、ペプチドは、1つ以上のリンカードメイン、例えば不活性リンカードメインに加えて、シグナルペプチド(例えばNLS)を含んでいてもよい。
【0050】
例示的な実施形態では、ペプチドは、配列番号1に記載のPCNA相互作用モチーフドメイン、CPPおよびリンカードメインを含む。さらなる例示的な実施形態において、ペプチドはまた、核局在化シグナル配列ドメインを含んでいてもよい。さらに別の実施形態では、核局在化シグナル配列ドメインは、リンカー・ドメインとして機能することができる。
【0051】
したがって、そのような実施形態では、本発明のペプチドは、配列番号1に記載のPCNA相互作用モチーフを、その細胞への取り込みを促進するCPPドメインを、場合により追加のドメインとともに含む構築物の形態をとり得ることが分かるだろう。このような観点から、本発明は、PCNAと相互作用することができるペプチドを含む構築物を提供するとみなすことができる。
【0052】
したがって、本発明は、(i)配列番号1に記載のPCNA相互作用モチーフを含むペプチド、および(ii)細胞貫通ペプチドを含む本発明の方法および使用で使用するための構築物を含む医薬組成物を提供し得る。
【0053】
細胞侵入ペプチド(CPP)技術は近年大きく発展し、多種多様な細胞貫通ペプチドが知られており、当該技術分野で記載されている。実際、このようなペプチドは市販されている。細胞貫通ペプチドは、そのサイズ、配列、電荷、そして機能のメカニズム(現在のところ、あるペプチドについては不明であり、他のペプチドについては十分に解明されていない)が大きく異なっていても、細胞膜を通過して、付着または関連する部位(いわゆる「カーゴ」)を細胞の細胞質内に送り込むという共通の能力を持っている。 このように、CPPはペプチドをベースとしたデリバリーベクターである。
【0054】
CPPは単一の構造的または機能的モチーフによって特徴付けられるわけではないが、CPPを同定するためのツールが利用可能であり、当業者は、ペプチド配列がドメインを形成するペプチドの取り込みを促進する機能を有するかどうか、すなわち、ペプチド配列がCPPとして機能し得るかどうかを容易に判断することが可能である。例えば、Hansenら(Predicting cell-penetrating peptides, Advanced Drug Delivery Reviews, 2008, 60, pp. 572-579)は、Haellbrink ら(Prediction of Cell-Penetrating Peptides, International Journal of Peptide Research and Therapeutics, 2005, 11(4), pp249-259)による原著に基づく主成分分析(「z予測」)および対応アルゴリズムの使用によるCPP予測方法についてレビューを提供している。具体的には、候補となるペプチドを、数値とその範囲からZスコアを算出する。zスコアが既知のCPPのzスコアの範囲内にあれば、調べたペプチドはCPPに分類される。本手法は高い精度(既知のCPPを約95%予測)を持つことが示された。
【0055】
CPPの予測のための追加の方法がその後開発され(例えば、Sanders et al., Prediction of Cell Penetrating Peptides by Support Vector Machines, PLOS Computational Biology, 2011, 7(7), pp. 1-12、参照により本明細書に援用される)、CPPデータベースが利用できる(Gautam et al., CPPSite: a curated database of cell penetrating peptides, Database, 2012, Article ID bas015 and http://crdd.osdd.net/raghava/cppsite/index.php, both herein incorporated by reference 、両方とも参照により本明細書に援用される)。したがって、任意の適切なCPPが本発明において有用性を見出すことができ、後述するように、様々なCPPが既に特定され試験されており、新規CPPを決定し特定するための基礎を形成し得る。
【0056】
CPPは、ショウジョウバエのホメオボックスタンパク質アンテナペディア(Antennapedia)(転写因子)のような細胞膜を横断することができる天然に存在するタンパク質、HIV-1の転写因子TATやHSV-1のカプシドタンパク質VP22などのウイルス性タンパク質から誘導されてもよく、および/または合成的に、例えばキメラタンパク質やポリアルギニンなどの合成ポリペプチドから誘導されることもできる。前述したように、トランスダクション効果を担うメカニズムは単一ではないため、CPPの設計にはさまざまな構造や配列が考えられる。細胞貫通ペプチドについては、 Jarver et al.2006 (Biochimica et Biophysica Acta 1758, pages 260-263)も総説している。 US 6,645,501、WO2015/067713およびWO2016/177898(全て参照により本明細書に援用される)は、さらに、使用され得る種々の細胞貫通ペプチドを記載している。
【0057】
アンテナペディア由来 CPP (Antp class) は、アンテナペディアタンパク質の第3ループに対応する16アミノ酸のペネトラチン配列を中心としたCPPのクラスで、タンパク質のトランスロケーションに関与することが示された。ペネトラチンは、特に医薬用途を含むデリバリービヒクルとして広範囲に開発されており、様々なペネトラチン誘導体や修飾配列が提案され、記載されている。特に、WO 91/1891、WO 00/1417、WO 00/29427、WO 2004/069279およびUS 6,080,724(参照により本明細書に援用される)を参照することができる。したがって、ペネトラチンの16アミノ酸配列は、修飾および/または切断されてもよく、あるいはペプチドは、細胞侵入活性を保持しながら、化学的に修飾されたり、レトロ、インバーソまたはレトロインバーソアナログが作られてもよい。
【0058】
使用することができる別のグループの細胞貫通ペプチドは、HIV-TAT配列およびHIV-TATとその断片に基づく。様々なTATベースのCPPは、US 5,656,122(参照により本明細書に援用される)に記載されている。以下の実施例で使用されるような例示的なHIV-TATペプチドは、RKKRRQRRR(配列番号38)であるが、より長いまたは短いTAT断片が使用され得ることは容易に理解されよう。
【0059】
前述のように、すべてのCPPに共通する特定の構造的特徴や配列モチーフはない。しかし、CPPの様々なクラスは、例えば両親媒性で正電荷を持つペプチドのような特定の特徴によって識別される可能性がある。他のグループのCPPは、高いα-ヘリカル含有量を示す構造である可能性がある。また、塩基性アミノ酸の含有量が多いことを特徴とするペプチドの別グループもある。CPPは、したがって、アルギニンなどの塩基性アミノ酸のオリゴマーであってもよく、例えば5~20、6~15または6~12のR残基、例えばR7(配列番号37)、R8 (配列番号39)またはR11(配列番号40)またはQSR8(配列番号41)を含むことができる。これらのCPPは、本発明で使用するためのCPPの好ましいグループを表す。
【0060】
したがって、いくつかの実施形態では、オリゴペプチド化合物(例えばCPP)の取り込みを促進するドメインは、4~30個のアミノ酸(例えば5~29、6~28、7~27、8~26、9~25個等のアミノ酸)のペプチドとして定義されてもよい。少なくとも4つのアミノ酸、場合により少なくとも4つの連続したアミノ酸、(例えば、少なくとも5、6、7、8、9、10または11個のアミノ酸、例えば、4~20、5~19、6~18、7~17、8~16、9~15、10~14、11~13個のアミノ酸)は正荷電アミノ酸で、K、RまたはHから選択することが望ましい。
【0061】
プロリンリッチ両親媒性ペプチドはCPPの別のクラスであり、プロリンからのピロリジン環の存在によって特徴づけられるそのようなペプチドはPujalset al.2008 Advanced Drug Delivery Reviews 60, pages 473-484(参照により本明細書に援用される)に記載されている。
【0062】
その他、開発に成功したCPPは、pVEC(Elmquistet al.2003 Biol.Chem 384, pages 387-393; Holmet al.2005 Febs Lett.579, pages 5217-5222, すべて参照により本明細書に援用される)、カルシトニン由来ペプチド(Krausset al.2004 Bioorg.Med.Chem.Lett., 14, pages 51-54、参照により本明細書に援用される)を含む。
【0063】
市販のCPPとしては、Pep-1ペプチドをベースにしたChariot(仏Active Motif社)、プロテグリンペプチドPG-1をベースにしたSyn-Bベクター(仏Syntem社)、MPGペプチドをベースにしたExpress-Si Delivery(米Genospectra社)などがある。
【0064】
他のCPPには、Erikssonet al.2013, Antimicrobial Agents and Chemotherapy, vol.57(8), pp.3704-3712(参照により本書に援用される)に開示されたR41、R8、M918およびYTA-4ペプチド(それぞれ配列番号866-869)が含まれる。
【0065】
いくつかの実施形態では、CPPは、環状ペプチド、例えば、Ohet al, 2014, Mol.Pharmaceutics、11巻、3528~3536頁(参照により本明細書に援用される)であってもよい。特に、CPPは、両親媒性の環状CPPであってもよく、特にトリプトファン残基とアルギニン残基を含む。いくつかの実施形態では、CPPは環状ポリアルギニンペプチドであってもよく、脂肪アシル部分、例えばオクタノイル、ドデカノイル、ヘキサデカノイル、N-アセチル-L-トリプトファニル-12-アミノドデカノイル等の添加により修飾されてもよい。本発明で使用するための好適な環状CPPは、配列番号870-876に提示されている。
【0066】
公知・報告されているCPPに加えて、新規または誘導体のCPPペプチドを、公知または報告されている基準(例えば、既知のCPP配列または上述の基本アミノ酸含有量、α-ヘリカル含有量などの特徴)に基づいて設計および合成することができる。さらに、ランダムに設計されたまたは他のペプチドは、例えば、レポーター分子、例えば蛍光タグのような検出可能なラベルまたはタグを含むこのようなペプチドを所望のカーゴ(例えば配列番号1を含むペプチド)に結合または付着させ、例えばこれらのペプチドを生細胞に加えた後、細胞の輸入を例えば共焦点顕微鏡を用いて調べることにより、構築物が細胞膜を超えて移動するかどうかをテストすることにより、CPP活性についてスクリーニングすることができる。
【0067】
場合によっては、成功または効率的な送達は、カーゴ(例えばカーゴペプチド配列)および/または使用されるCPPの正確な性質に依存するか、またはそれに応じて変化し得ることが観察され得る。最適なペプチド配列および組み合わせ等を決定し、カーゴおよび/またはCPP配列または構造等を試験および/または修正することは、当業者の日常的な技術の範囲内であろう。
【0068】
したがって、いくつかの実施形態では、CPPは、以下のいずれか1つから選択される。
(i) アンテナペディアクラスのペプチド、
(ii) プロテグリンクラスペプチド、
(iii) HIV-TATクラスのペプチド、
(iv) 両親媒性かつ正電荷を有するペプチド、プロリンリッチ両親媒性ペプチド、Pep-1ペプチドに基づくペプチドおよびMPGペプチドに基づくペプチドから選ばれる両親媒性クラスのペプチド、
(v) 高いα-ヘリカル含有量を示すペプチド、
(vi) 塩基性アミノ酸のオリゴマーを含むペプチド、
(vii) pVEC、
(viii) カルシトニン由来のペプチド、および
(ix) 両親媒性の環状CPP。
【0069】
いくつかの実施形態では、CPPは、配列番号5~876のいずれか1つから選択される配列、またはその断片および/もしくは誘導体から選択される。配列番号43-865で特定されるCPPの詳細と特性は、http://crdd.osdd.net/raghava/cppsite/index.php、CPPSiteに掲載されている。細胞貫通ペプチドのデータベース(参照することにより本明細書に援用される)。
【0070】
好ましい実施形態では、CPPは、配列番号37、39または40に記載のアミノ酸配列を含む。
【0071】
いくつかの実施形態では、ペプチドはまた、シグナル(標的または通過)配列を提供する1つ以上のドメインを含む。いくつかの実施形態では、シグナル配列は、ペプチドを特定の細胞型に標的化することができる。加えて、または代替的に、いくつかの実施形態において、ペプチドは、特定の細胞内区画、例えば核にペプチドを局在化させるシグナルペプチドを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、ペプチドは、細胞質に標的化され、これは、追加のシグナルペプチドなしに達成され得る、すなわち、CPPは、ペプチドを細胞の細胞質に誘導または局在化するのに十分である。
【0072】
したがって、シグナル配列またはシグナル配列ドメインは、ペプチドを任意の所望の場所、例えば、任意の細胞型または細胞内場所(例えば、核)に局在させる、または代わりに、誘導、移動または輸送するように作用する任意の配列と見なすことができる。
【0073】
上述のように、本発明で使用するためのペプチドは、1つ以上のシグナル配列(すなわち、シグナル配列として機能する1つ以上のドメイン)、例えば、核などの特定の細胞内区画にペプチドを誘導するシグナルペプチドが含まれていてもよい。
【0074】
核局在シグナル(NLS)は、当技術分野で再びよく知られ、文献に広く記載されている。例えば、既知および予測されるNLSの検索可能なデータベースが利用可能であり、例えば、Cokolら(Finding nuclear localization signals, EMBO Reports, 2000, 1(5), pp.411-415,参照により本明細書に援用される)を参照されたい。NLSに基づくタンパク質の核局在予測には、PSORT IIデータベース、http://psort.hgc.jp/(参照により本明細書に援用される)を利用することができる。したがって、既知または機能的なNLSであれば、本発明で有用性を見出すことができる。
【0075】
NLSは長さおよび/または配列が異なる場合があり、幅広い種類のNLS配列が記載されている。しかし、一般に正電荷を持つアミノ酸(特にリジン(K)、アルギニン(R)および/またはヒスチジン(H))を含むペプチドがNLSとして機能することが見出されている。したがって、例示的なNLSは、例えば4~20、より詳細には4~15、4~12、4~10または4~8個のアミノ酸のペプチドであってよく、ここで少なくとも4つのアミノ酸(より詳細にはNLSペプチドのアミノ酸残基の少なくとも60、70、75、80、85または90%)が正電荷アミノ酸、好ましくはK、RまたはHから選ばれる。 このような例示的NLSは例えば配列RKRH(配列番号877)を有するかまたはそれらを含むことができる。
【0076】
核局在シグナルは、実際に実験的に決定されたものと予測または提案されたNLS配列の両方を含み、NLSを同定するための戦略も、Lange et al., J. Biol.Chem.2007, 282(8), 5101-5105; Makkerh et al., Current Biology 1996, 6(8), 1025-1027; Leslie et al., Methods 2006, 39, 291-308; およびLusk et al. Nature Reviews MCB 2007, 8, 414-420 (全て参照することにより本明細書に援用される)に記載されている。
【0077】
古典的なNLSは、塩基性アミノ酸の1本(単節型)または2本(双節型)のストレッチからなる。単節型NLSは、SV40ラージT抗原NLS(126PKKKRKV132[配列番号878])と、ヌクレオプラスミンNLSによる双節型NLS(155
KRPAATKKAGQAKKKK170[配列番879])によって例示されうる。単節型NLSコンセンサス配列K-[K/R]-X-[K/R](配列番号880)が提案されており、それに応じて本発明によるNLSは一実施形態においてそのようなコンセンサス配列を含むかまたはそれからなることができる(ここでXは任意のアミノ酸)。
【0078】
本発明による代表的な双節型NLSは、配列KR-[X]5-20-KKKK(配列番号881)、例えばKR-X10-KKKK(配列番号882)(ここでXは任意のアミノ酸)を有することができる。
【0079】
代替の例示的な双節型NLSは、RKRH-[X]2-10-KK(配列番号883)例えばRKRH-X2-KK(配列番号884)、例えばRKRH-II-KK(配列番号885)の形態をとることができる。
【0080】
オンコプロテインc-myc NLSは、9つのアミノ酸残基のうち3つだけが塩基性(PAAKRVKLD[配列番号886])であるという点で古典的NLSとは異なり、NLSは必ずしも上記のコンセンサス配列または古典的配列に適合する必要はないことが示されている。Makkerhら(上掲)は、塩基性アミノ酸のクラスター(例えばKKKK[配列番号887])が中性および酸性残基、例えばPAAKKKKLD(配列番号888)によって挟まれたNLS配列を記述している。
【0081】
例としてあげることができる他の可能なNLS配列には:PKKKRKVL(配列番号889)、KKKRK(配列番号890)、KKKRVK(配列番号891)、KKKRKVL(配列番号892)およびRKKRKVL(配列番号893)が含まれる。SV40、ヌクレオプラスミン、UNG2、c-myc NLSなどの既知のNLSの誘導体であれば、どのようなNLSでも使用することができる。
【0082】
推定、提案、または予測されたNLS配列は、当技術分野で知られ、説明されている原理とアッセイを用いてNLS活性を試験することができる。例えば、候補のNLS配列を所望のカーゴ(この場合、本明細書で定義するペプチド)に付着させ、構築物に検出可能なレポーター分子(例えば、蛍光ラベルのように視覚化できるタグまたはラベル)を与え、試験細胞と接触させることができる。その後、細胞内の構築物の分布を決定することができる。
【0083】
このように、要約すると、当業者は、適切なシグナル配列を認識することになる。特に好ましい実施形態では、ペプチドは、アミノ酸配列KKKRK(配列番号890)を含むSV40タンパク質からのNLSシグナル配列を含む。
【0084】
したがって、いくつかの実施形態では、ペプチドは、NLSなどの、ペプチドを細胞内位置に局在化または誘導するシグナル配列(すなわち、シグナルペプチドを含むドメイン)を含み、以下のいずれか1つから選択されてもよい。
(i) 4~20アミノ酸のペプチドであって、少なくとも4つのアミノ酸が正に荷電したアミノ酸であり、好ましくはK、RまたはHから選択される、ペプチド;および/または
(ii) 配列番号877-893のいずれか1つから選択される配列、またはその断片および/または誘導体。
【0085】
いくつかの実施形態では、核局在化シグナル配列は、配列番号877~893のいずれか1つから選択される配列、またはそのフラグメントおよび/もしくは誘導体を含み、好ましくは、前記フラグメントおよび/または誘導体は、K、RまたはHのいずれかから選択される少なくとも4個の正電荷アミノ酸を含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、本発明によるペプチドまたは構築物は、(i)配列番号1(APIM配列)に記載のPCNA相互作用モチーフ、(ii)いくつかの実施形態では核局在シグナル配列を含んでいてもよいリンカードメイン、および(iii)CPPを含む少なくとも三つのドメインを含むことができる。
【0087】
本発明によるペプチドの別個の要素または構成要素(ドメイン)は、任意の順序で含有または提示されてもよいが、好ましくは上記に示した順序(例えば、APIM配列-CPPまたはAPIM配列-リンカー-CPP)である。
【0088】
いくつかの実施形態では、APIMモチーフは、ペプチドのN末端に、またはN末端に向かって配置される。例えば、APIMモチーフは、CPPのN末端、および場合によりリンカー配列が存在する場合はそのN末端にあるものとして記述されることがある。
【0089】
本明細書に記載される本発明のペプチドのドメイン(構成要素、エレメントまたは別々の部分とみなすことができる)は、当技術分野で周知の技術に従って、任意の所望のまたは便利な方法で互いに付着または連結させることができる。したがって、ドメインは、例えば公知の化学的カップリング技術を使用して化学的に連結または結合されてもよく、あるいは化合物または構築物は、例えば融合タンパク質を形成するための技術などの遺伝子工学技術を使用して単一の全体として形成されてもよく、あるいは例えばペプチド合成技術を使用して単に全体として合成されてもよい。好ましい実施形態では、ドメインは、ペプチド結合によって連結されている。
【0090】
ドメインは互いに直接連結されていてもよいし、1つ以上のリンカー(またはスペーサー)配列によって間接的に連結されていてもよい。したがって、リンカー配列は、ペプチド中の2つ以上の個々のドメイン(すなわち、部分、例えば、または別々のモチーフ要素)を相互間または分離することができる。リンカー配列の正確な性質は重要ではなく、それは可変長および/または配列であってよく、例えば、それは0~40、より特に0~20、0~15、0~12、0~10、0~8、0~7、0~6、0~5、0~4または0~3残基例えば1、2または3またはそれ以上を有することができる。代表的な例として、リンカー配列が存在する場合、1~15、1~12、1~10、1~8、1~7、1~6、1~5または1~4残基等を有することができる。残基の性質は重要ではなく、例えば、中性アミノ酸、脂肪族アミノ酸などの任意のアミノ酸であってもよいし、代わりに疎水性、極性、荷電、構造形成性、例えば、プロリンなどであってもよい。中性アミノ酸および/または脂肪族アミノ酸の短い(例えば1~7)配列など、さまざまな異なるリンカー配列が有用であることが示されている。
【0091】
したがって、例示的なリンカー配列には、任意の単一のアミノ酸残基、例えば、A、I、L、V、G、R、Q、T、またはW、またはそのような残基からなるジ、トリ、テトラ、ペンタ、またはヘキサペプチドが含まれる。
【0092】
代表的なリンカーとして、I、II、IL、R、W、WW、WWW、RIL、RIW、GAQ、GAW、VAT、IILVI(配列番号894)、IILVIII(配列番号895)、GILQ(配列番号896)、GILQWRK(配列番号897)など挙げることができる。
【0093】
上述のように、いくつかの実施形態において、リンカーは、NLS配列を含む。したがって、特に好ましい実施形態では、リンカーは、WKKKRKI(配列番号898)を含む。
【0094】
好ましい実施形態では、ペプチドは、配列番号1に記載のPCNA相互作用モチーフ(APIM配列)および配列番号:37、39または40に記載の細胞貫通シグナル配列を含む。例えば、いくつかの実施形態では、ペプチドは、配列番号1に記載のPCNA相互作用モチーフ、配列番号890または898に記載のリンカードメイン、および配列番号37、39または40に記載の細胞貫通シグナル配列を含み、好ましくは配列番号40 である。いくつかの特定の実施形態では、ペプチドは、配列番号1に記載のPCNA相互作用モチーフ、配列番号898に記載のリンカードメイン、および配列番号40に記載の細胞貫通シグナル配列、例えば配列番号914-916 または 918-920 のいずれか一つに記載の配列、好ましくは配列番号914 または 918、最も好ましくは 配列番号:914を含む。
【0095】
さらに、いくつかの実施形態では、本発明によるペプチドは、1つ以上のPCNA-相互作用モチーフを含むことができる。ペプチドは、例えば、1~10個、例えば、1~6個、または1~4個、または1~3個、または1個または2個のモチーフを含んでもよい。いくつかの実施形態では、モチーフは同一であってもよく、すなわち、ペプチドは、配列番号1に記載の2つ以上の配列を含みえる。いくつかの実施形態では、モチーフは異なっていてもよく、すなわち、配列番号1および1つ以上の他のモチーフであってもよい。適切な代替モチーフは、上述したように当技術分野で記載されている。シグナル配列を含むペプチド内では、そのようなモチーフは、選択に従って間隔をあけて配置されてもよく、例えば、それらは一緒にグループ化されてもよく、またはそれらは他のドメインによって分離されていてもよい、例えば、モチーフ-モチーフ-CPP、モチーフ-リンカー-モチーフ-CPP;またはモチーフ-リンカー-モチーフ-CPP;またはモチーフ-モチーフ-リンカー-CPP等。
【0096】
本明細書で言及するように、「断片」は、それが由来する配列のアミノ酸の少なくとも30、40、50、60、70、80、85、90、95、96、97、98または99%を含む場合がある。 前記断片は、配列の中心部、N末端部、C末端部のいずれから取得してもよい。断片のサイズは元の配列のサイズに依存するが、いくつかの実施形態では、断片は、それが由来する配列よりも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15またはそれ以上である短いアミノ酸残基、例えば、それが由来する配列よりも1~10、2~9、3~8、4~7アミノ酸残基短くなっていてもよい。
【0097】
本明細書でいう配列の「誘導体」とは、比較対象となる配列と少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98または99%同一であることを意味する。
【0098】
配列の同一性は、例えば、SWISS-PROTタンパク質配列データバンクを用い、FASTA pep-cmpを変数pamfactor、ギャップ作成ペナルティを12.0、ギャップ拡張ペナルティを4.0に設定し、2アミノ酸のウィンドウを用いて決定することができる。好ましくは、前記比較は配列の全長にわたって行われるが、より小さな比較のウィンドウ、例えば、200、100、50、20または10個未満の連続したアミノ酸にわたって行われてもよい。
【0099】
好ましくは、そのような配列同一性関連ペプチド、すなわち誘導体は、引用された配列番号に記載されるペプチドと機能的に同等である。同様に、配列番号に記載の配列を有するペプチドは、後述するようにポリペプチドの配列に影響を与えることなく改変することができる。
【0100】
さらに、本明細書に記載される「断片」は、機能的等価物であってもよい。好ましくは、これらの断片は、本明細書で言及する同一性(比較可能な領域との相対的な)条件を満たすことである。
【0101】
本明細書で言及するように、「機能的同等性」を達成するために、ペプチドは、親分子(すなわち、例えば、アミノ酸置換によって由来した分子)と比較して、機能を実行する際にいくらかの低減した効力を示すかもしれないが、好ましくは、同程度の効力またはより高い効力である。したがって、機能的同等性は、例えば、上記のようなペプチドの取り込みに促進するために、ペプチドを細胞内に局在化または誘導するのに有効なペプチドに関連し得る。これは、誘導体ペプチドが由来するペプチドに対する効果を定性的または定量的に比較することにより、例えば、上述のin vitro分析を実施することにより試験することができる。定量的な結果が可能な場合、誘導体は親ペプチドと比較して少なくとも30、50、70または90%の効果がある。
【0102】
親ペプチドに関連する、または親ペプチドに由来する機能的に同等なペプチドは、親アミノ酸配列を単一または複数のアミノ酸置換、付加および/または欠失によって改変することによって得ることができるが(上記の配列同一性の要件を満たすこと)、分子の機能は破壊されない。好ましくは、親配列は20未満の置換、付加または欠失を有し、例えば、10、5、4、3または2未満のそのような修飾を有する。このようなペプチドは、1つ以上の塩基の適切な置換、付加および/または欠失によって生成され得る「機能的に同等な核酸分子」によってコードされている場合がある。
配列番号1に記載のPCNA相互作用モチーフを含む代表的なペプチドは以下の通りである。
MDRWLVKRILVATK (配列番号899),
MDRWLVKRILKKKRKVATKG(配列番号900),
MDRWLVKGAQPKKKRKVLRQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号901),
MDRWLVKGAWKKKRVKIIRKKRRQRRRK(配列番号902),
MDRWLVKGAWKKKRKIIRKKRRQRRRG(配列番号903),
MDRWLVKGAWKKKRKIIRKKRRQRRRK(配列番号904),
MDRWLVKRIWKKKRKIIRKKRRQRRRK(配列番号905),
MDRWLVKWWWKKKRKIIRKKRRQRRRK(配列番号906),
MDRWLVKWWRKRHIIKKRKKRRQRRRK(配列番号907),
MDRWLVKRIWKKKRKIIRRRRRRRRRRRK(配列番号908),
MDRWLVKRIWKKKRKIIRQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号909),
MDRWLVKWKKKRKIRRRRRRRRRRRK(配列番号910),
MDRWLVKWKKKRKIRKKRRQRRRK(配列番号911),
MDRWLVKWRKRHIRKKRRQRRRK(配列番号912),
MDRWLVKGAWRKRHIRKKRRQRRRK(配列番号913),
MDRWLVKWKKKRKIRRRRRRRRRRR(配列番号914),
MDRWLVKKKKRKRRRRRRRRRRRK(配列番号915),
MDRWLVKKKKRKRRRRRRRRRRR(配列番号916),
MDRWLVKRIWKKKRKIIRWLVKWWWRKKRRQRRRK(配列番号917)。
【0103】
上に示したペプチドは、本発明の方法および使用においてペプチドが活性を有するために必須であるドメインの一部を形成しないN末端アミノ酸、すなわち「MD」配列を含んでいる。ペプチドの一部は、N末端修飾、例えば、アセチル基を含んでいてもよい。これらの追加のアミノ酸および修飾は、例えばin vitroまたはin vivoでのペプチドの製造を容易にし、および/またはin vivoでの分解からペプチドを保護するのに役立つ。ペプチドは、その活性のために、これらの追加のアミノ酸や修飾を必要としないことは明らかであろう。したがって、本発明によるさらなる代表的な配列は、N末端「MD」を省略した配列番号899~917のいずれかを含み、例えば、ペプチドは、以下のアミノ酸配列含むことができる。RWLVKWKKKRKIRRRRRRRRRRR,RWLVKKKKRKRRRRRRRRRRRK または RWLVKKKKRKRRRRRRRRRRR(配列番号918~920)。さらに、いずれかの末端に追加のアミノ酸または修飾が存在しても、本明細書に記載されたペプチドの機能を破壊または阻害することはないと思われる。したがって、いくつかの実施形態では、ペプチドは、N末端配列、例えば、上記で定義されたドメインを含まないN末端の配列、例えば、いわゆるN末端フランキング配列を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、ペプチドは、C末端配列、例えば、上記で定義されたドメインを含まないC末端の配列、例えば、いわゆるC末端フランキング配列を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、ペプチドは、N末端およびC末端フランキング配列を含んでいてもよい。ペプチドはまた、C-末端の修飾、例えばアミド基を含んでいてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、C末端残基はアミド化されてもよい。いくつかの好ましい実施形態では、ペプチドは、アミド化されたC末端アルギニン残基を含む。
【0104】
フランキング配列は、約1~50個のアミノ酸、例えば、約1~40個、1~35個、1~30個、1~25個、1~20個等を含み得る。したがって、フランキング配列は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25個のアミノ酸、例えば1~40、2~39、3~38、4~37、5~36、6~35、7~34、8~33、9~32、10~31、11~30、12~29、13~28、14~27、15~26個のアミノ酸あるいはそれらの任意の組み合わせを含み得る。
【0105】
いくつかの実施形態では、本発明のペプチドは、塩、すなわち薬学的に許容可能な塩の形態であってよい。例えば、ペプチドは、酸性塩または塩基性塩の形態であってもよく、好ましくは酸性塩である。いくつかの実施形態では、ペプチドは、中性塩の形態である。
【0106】
薬学的に許容可能な塩としては、薬学的に許容可能な塩基付加塩および酸付加塩が挙げられ、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩およびアミノ酸付加塩、スルホン酸塩などが挙げられる。酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸付加塩、アルキルスルホン酸塩、アリールスルホン酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、乳酸塩などの有機酸付加塩が挙げられる。金属塩の例としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩などが挙げられる。アンモニウム塩の例としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩が挙げられる。有機アミン付加塩の例としては、モルホリンやピペリジンとの塩が挙げられる。アミノ酸付加塩の例としては、グリシン、フェニルアラニン、グルタミン酸、リジンとの塩が挙げられる。スルホン酸塩としては、メシル酸塩、トシル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩などが挙げられる。
【0107】
好ましい塩としては、塩酸塩などの酸性塩や、酢酸塩、アルキルスルホン酸塩、アリールスルホン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、乳酸塩などの有機酸付加塩が挙げられる。いくつかの実施形態では、ペプチドは、酢酸塩またはその誘導体、例えばトリクロロ酢酸塩(TCA)、トリフルオロ酢酸塩(TFA)等の形態であってよい。いくつかの実施形態では、ペプチドは、塩、例えば酢酸塩の形態で調製されることによって安定化されてもよい。特に塩酸塩が好ましい。
【0108】
本明細書でいう「薬学的に許容される」とは、本発明の方法または使用に用いられる他の成分と適合し、かつレシピエントに生理的に許容される成分を指す。
【0109】
本明細書は標準的なアミノ酸の1文字コードを使っているので、Kはリジン(Lys)、Iはイソロイシン(Ile)などを表している。
【0110】
いくつかの実施形態では、ペプチドは、すなわち、APIM配列以外のドメイン(配列番号1)に、非従来型または非標準のアミノ酸を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、ペプチドは、1つ以上の、例えば、1、2、3、4、5またはそれ以上の非従来型アミノ酸、すなわち、標準遺伝コードによってコードされていない側鎖を有するアミノ酸、ここでは「非コードアミノ酸」と呼ばれ、これらは当技術分野でよく知られているものを含んでいてもよい。例えば、オルニチンやタウリンなどの代謝過程で生成するアミノ酸、および/または9H-フルオレン-9-イルメトキシカルボニル(Fmoc)、(tert)-(B)utyl(o)xy(c)arbonyl(Boc)、2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホニル(Pmc)保護アミノ酸、ベンジルオキシカルボニル基(Z)有するアミノ酸などの人工的改変アミノ酸から選択することができる。いくつかの実施形態では、非コード化アミノ酸は、ペプチドの2つ以上のドメインに存在する。
【0111】
ペプチドのin vitroおよび/または in vivo安定性は、当技術分野で知られている安定化または保護手段、例えば保護基または安定化基の付加、アミノ酸誘導体または類似体の組み込みまたはアミノ酸の化学修飾の使用により改善または増強され得る。このような保護基または安定化基は、例えば、N末端および/またはC末端に付加されてもよい。そのような基の例はアセチル基であり、他の保護基またはペプチドを安定化させる可能性のある基は当技術分野で知られている。
【0112】
本発明のペプチドは、通常、L配位を有するアミノ酸のみを含むが、D配位を有するアミノ酸が1つ以上存在してもよい。いくつかの実施形態では、ペプチドは、1、2、3、4、5またはそれ以上のD-アミノ酸を含む。ある実施形態では、D-アミノ酸はモチーフの中に存在するが、他の実施形態では、D-アミノ酸はモチーフの外側にのみ存在する。さらにさらなる実施形態では、D-アミノ酸は、ペプチドの2つ以上のドメインに見出されてもよい。ペプチドは、直鎖状であっても環状であってもよく、好ましくは直鎖状である。
【0113】
好ましい実施形態では、ペプチドは、L-アミノ酸からなる。さらに好ましい実施形態では、ペプチドは、標準アミノ酸またはコード化されたL-アミノ酸から構成される。
【0114】
上記のように、ペプチドは、非標準のアミノ酸を含み得る。したがって、いくつかの実施形態では、ペプチドは、ジ-アミノ酸および/またはβ-アミノ酸を組み込んでいてもよい。しかし、好ましい実施形態では、少なくともAPIMモチーフドメインは、α-アミノ酸で構成されている。最も好ましくは、ペプチド、すなわちすべてのドメインおよび場合によりすべてのフランキング配列は、α-アミノ酸からなる。
【0115】
本明細書で定義されるペプチドは5アミノ酸以上からなるが、ペプチドの長さは、CPP配列のサイズ、および他のドメイン、例えばリンカードメイン、シグナルペプチド、フランキング配列などが存在する場合には、その数およびサイズに依存することになる。したがって、ペプチドという用語は、比較的少数のアミノ酸を含む分子、すなわち100以下、好ましくは90、80、70、60または50以下のアミノ酸を含む分子を指す。本発明のペプチドは、少なくとも10、11または12個のアミノ酸、例えば、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25個のアミノ酸を含む。あるいは、50、45、40、35、34、33、32、31または30以下のアミノ酸を含むと定義される。従って、代表的なサブユニットの範囲としては、12~50、12~45、12~40、12~35、12~30、12~25、12~23、12~20、12~18等であり、12~30、12~40が好ましい。さらに代表的なサブユニットの範囲としては、20~50、21~45、22~40、23~35、24~30、例えば、25、26、27、28、29または30が挙げられる。
【0116】
ある実施形態では、ペプチドはより大きな単位の一部を形成してもよく、例えば、ポリペプチドに融合して組換え融合タンパク質を形成してもよく、足場に付着してペプチドアプタマーを形成してもよい。したがって、ペプチドを組み込んだ融合タンパク質またはアプタマーも、本発明の使用および方法において有用性を見出し得る、すなわち、いくつかの実施形態において、医薬組成物は、上で定義したペプチドを含む融合タンパク質またはアプタマーを含んでいてもよい。
【0117】
ペプチド、融合タンパク質もしくはアプタマーまたはそれらの薬学的に許容可能な塩を含む医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体または賦形剤とともに製剤化することができる。
【0118】
賦形剤は、当該技術分野で公知の任意の賦形剤、例えば任意の担体(ビヒクル)または希釈剤、あるいは溶媒(例えば水)、緩衝剤(例えば生理食塩水)、抗酸化剤、キレーター、可溶化剤、乳化剤および/または保存剤等の任意の他の成分または薬剤を含んでもよい。
【0119】
本明細書に記載の医薬組成物は、任意の適切な手段を用いて対象に全身投与することができ、投与経路は、医薬組成物の製剤に依存することになる。
【0120】
「全身投与」には、癌腫または肉腫に直接隣接する部位またはその局所近傍以外の部位に薬剤を投与し、結果として全身に投与されたペプチドを受容させる非局所的投与の形態が含まれる。 好都合なことに、全身投与は非経口投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、または皮下)により行われる。
【0121】
医薬組成物は、当該技術分野で知られている任意の適切な形態、例えば、液体、懸濁液、乳剤、凍結乾燥物、またはそれらの任意の混合物として提供することができる。
【0122】
好ましい実施形態では、ペプチドは液体医薬組成物で提供され、そのような製剤を調製する方法は当技術分野でよく知られている。そのような任意の製剤を、本発明の方法および用途に使用することができる。
【0123】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、溶解または可溶化された形態のペプチドを含む「ready to use(すぐに使える)」製剤であり、そのまま、または静脈内希釈剤でさらに希釈して使用することが意図されている。しかしながら、いくつかの実施形態では、医薬組成物は、液体製剤を提供するために適切な溶媒に溶解させるために、固体形態、例えば、凍結乾燥物として提供されてもよい。
【0124】
代表的な例では、ペプチドを凍結乾燥物として保存し、凍結乾燥物から医薬組成物を調製する、例えば、ペプチドを少量の滅菌水(例えば0.5~10mL、例えば約1~5mL)に溶かし、場合によりさらに希釈(例えば生理食塩水)して注入に適した量を提供することによって調製する。
【0125】
いくつかの好ましい実施形態では、医薬組成物は、非経口注入または注射、好ましくは静脈内または腹腔内注入または注射のために製剤化される。
【0126】
好ましい実施形態では、医薬組成物は、輸液(例えば、静脈内輸液)として製剤化される。点滴の量および時間は、当業者によって決定され、治療される対象の特性、例えば年齢、体重、性別などに依存し得る。代表的な実施形態では、輸液は、約100~750mL、例えば約200~500mLの体積を有していてもよい。さらなる代表的な実施形態では、点滴は、約30分~約8時間、例えば少なくとも約1時間、例えば1~6時間または1~4時間、例えば約1時間、1時間半、2時間、2時間半または3時間の期間にわたって投与されてもよい。さらなる代表的な実施形態では、点滴は、約30分から約24時間まで、例えば約23時間、22時間、21時間または20時間まで、例えば1~24時間、1~23時間、1~20時間または1~16時間の期間にわたって投与され得る。
【0127】
輸液流速は、当業者であれば容易に決定することができる。いくつかの実施形態では、輸液流速は約5mg/hrで開始し、必要な投与量が投与されるまで約30分ごとに増加する。輸液流速の代表的な実施形態を実施例に概説する。いくつかの実施形態では、最大注入速度は、約120mg/時間および/または約500mL/時間を超えないことが望ましい。いくつかの実施形態では、約45mg/m2以上(例えば約60mg/m2)の投与量は、約400~600mL、例えば約500mLの体積で投与される。
【0128】
医薬組成物は、ペプチドの遊離型として計算して、1週当たり、体表面積(BSA)当たり、約15~65mg/m2(例えば15~50mg/m2)のの投与量を提供するために、毎週投与される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、ペプチドの遊離型として計算して、1週当たり、体表面積(BSA)当たり、約20~60または20~45mg/m2、例えば、1週当たり、体表面積(BSA)当たり、約20、30、45または60mg/m2のペプチドの投与量を提供するように毎週投与される。
【0129】
BSA(体表面積)は、例えば、Mostellerの式(√([身長(cm)×体重(kg)]/3600)により算出することができる。)必要に応じて、平均的な成人に対する換算係数0.025mg/kg=1mg/m2を用いて、mg/kg に換算することができる。
【0130】
本発明のいくつかの実施形態では、医薬組成物は、少なくとも3週間、例えば3、4、5、6、7、8、9、10週間以上(例えば20、30、40、50週間以上)、毎週投与される。この投与は、1サイクルであっても、複数サイクルの合計であってもよい。
【0131】
週次投与とは、通常、3週間サイクルの1日目、8日目、15日目など、定期的に投与することをいう。しかし、患者のコンプライアンスを達成するためには、ある程度の柔軟性が必要であることは明らかであろう、すなわち、毎週というのは厳密に7日間隔を意味するものではない。したがって、例えば、週1回の投与は、3週間サイクルの1日目、8±1日目、15±1日目、例えば、1日目、7日目、15日目、1日目、9日目、14日目、または1日目、7日目、16日目等であってもよい。
【0132】
本書でいう「サイクル」とは、特定の処理体制が適用される期間のことであり、一般に周期的な処理を行うために繰り返される。各サイクルにおける治療は、同じであっても異なっていてもよい(例えば、異なる投与量、タイミング等が使用されてもよい)。 いくつかの実施形態では、1サイクルは、3~6週間または3~12週間の長さであってよく、例えば、3、4、6、9または12週間サイクルである。いくつかの実施形態では、1サイクルは約1~6ヶ月であってもよく、すなわち、約1~6ヶ月、例えば約1~4ヶ月または1~3ヶ月、例えば約1~2ヶ月(例えば3~26週、例えば約3~16週または3~12週、例えば約4~8週)、毎週投与してもよい。好ましい実施形態では、このサイクルは少なくとも1回繰り返される。したがって、複数のサイクルを用いてもよく、例えば、少なくとも2、3、4または5サイクル、例えば、6、7、8、9または10(例えば、10、20、30またはそれ以上)サイクルを用いることができる。いくつかの実施形態では、治療サイクルは、疾患の退行または進行が起こるまで継続され得る。いくつかの実施形態では、治療サイクルは、患者がRECIST基準に従って安定した疾患を示す間、継続され得る。ある実施形態では、退行期間の後に治療を再開することができる。
【0133】
いくつかの実施形態では、治療サイクルは、治療の中断、すなわち、医薬組成物を毎週投与しない期間によって区切られ得る。いくつかの実施形態では、サイクル間の期間は、少なくとも1週間、例えば2、3、4週間またはそれ以上である。いくつかの実施形態では、サイクル間の期間は、少なくとも1ヶ月、例えば2、3、4ヶ月またはそれ以上である。
【0134】
しかしながら、いくつかの実施形態では、第2または後続の治療サイクルは、第1または前のサイクルに直ちに続くことができる。例えば、第1サイクルの第3週目の投与が15日目±1日に投与された場合、第2サイクルの第1週目の投与は22日目±1日に投与されてもよい。
【0135】
本発明のいくつかの実施形態では、患者は、本発明の治療の前に、それと同時期に、またはその後に、他の治療を受けることができる。例えば、いくつかの実施形態では、患者は、当技術分野で知られている手順に従い、放射線療法および/または外科手術で治療され得る。
【0136】
したがって、いくつかの実施形態では、治療される患者は、他の治療、例えば、当技術分野で公知の手順による放射線療法および/または外科手術を受けたことがあるか、または受ける予定である。いくつかの実施形態では、他の治療法は、免疫療法、標的療法、ホルモン療法、幹細胞移植、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0137】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、(本発明の医薬組成物による治療の前、同時、または後に)放射線療法および/または外科手術で対象を治療するさらなる工程を含んでもよい。手術では、癌腫や肉腫の腫瘍を切除することもありえる。
【0138】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、1つ以上の追加の治療剤を含んでもよく、または1つ以上の追加の治療剤と共に投与するためのものであってもよい。
【0139】
例えば、本発明者らは、医薬組成物の投与(特に初回投与)により、発疹またはかゆみ(特に投与部位)、発汗、頻脈、じんましんおよび発熱から選ばれる1以上の症状によって発現するアレルギー反応(典型的にはグレード1または2)が生じる場合があり、抗ヒスタミン薬によって治療できることを見いだしている。
【0140】
したがって、いくつかの実施形態では、医薬組成物は、アレルギー反応を予防または治療するための薬剤、例えば、抗ヒスタミン薬、コルチコステロイドおよび/または抗炎症薬を含むかまたはこれと共に(順次または同時に)投与され得る。
【0141】
いくつかの実施形態では、対象は、本発明の医薬組成物の投与前に、アレルギー反応を予防または治療するための薬剤を投与されてもよい。いくつかの実施形態では、対象は、本発明の医薬組成物の投与前に投与される、コルチコステロイド(例えば、デキサメタゾンまたは等量の薬学的代替コルチコステロイド)、1つ以上のヒスタミン受容体拮抗薬(例えば、プロメタジンおよび/またはラニチジン)、鎮痛剤(例えば、アセトアミノフェン)および/または抗ロイコトリエン(例えばモンテルカス)が投与されてもよい。いくつかの実施形態では、対象は、本発明の医薬組成物の投与前に投与される、コルチコステロイド(例えば、デキサメタゾンまたは同等の用量の薬学的代替コルチコステロイド)、1つ以上のヒスタミン受容体拮抗薬(例えば、プロメタジンおよび/またはラニチジン)、鎮痛剤(例えばアセトアミノフェン)および抗ロイコトリエン(例えばモンテルカス)が投与されてもよい。
【0142】
本発明者らは、本発明のペプチドが単独で投与された場合(例えば、一次治療において)、癌腫および肉腫の治療に有効であることを有利に発見したが、いくつかの実施形態において、医薬組成物は、癌腫または肉腫の治療に有用な1つ以上のさらなる治療剤(複数可)を含むかまたはそれらとともに投与され得る。例えば、化学療法剤(例えば、細胞傷害剤または低分子標的薬剤)、免疫療法剤(例えば、免疫チェックポイント阻害剤、モノクローナル抗体)、ホルモンまたはそのアゴニストもしくはアンタゴニスト(例えば、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)作動薬、アロマターゼ阻害剤、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)作動薬)、幹細胞またはその組み合わせなどである。例えば、いくつかの実施形態では、本発明のペプチドは、二次治療として、すなわち、初期治療、例えば、本発明のペプチドまたは他の療法もしくは治療剤単独による治療に対して不応性の対象に対して、1つ以上のさらなる療法(複数可)または治療剤(例えば細胞傷害剤、免疫療法剤など)との併用療法で使用されてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、治療される対象は、1つ以上の他の療法または治療剤、例えば、化学療法または免疫療法に基づく療法に対して難治性である。いくつかの実施形態では、本発明のペプチドは、第1次の治療として、単独でまたは1つ以上のさらなる治療または治療剤(例えば、細胞傷害剤、免疫治療剤等)との併用療法で使用することができる。
【0143】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、別の療法または治療剤、例えば別の化学療法剤または免疫療法剤との併用療法の一部として投与されない。
【0144】
いくつかの実施形態では、さらなるまたは他の療法または治療剤は、免疫療法、例えば、免疫チェックポイント阻害剤、T細胞移入療法、抗体療法、治療ワクチンまたはそれらの組み合わせから選択される免疫療法である。
【0145】
いくつかの実施形態では、さらなるまたは他の療法または治療剤は、モノクローナル抗体、例えば抗体-毒素結合体、またはCAR-T細胞療法などの標的療法である。したがって、いくつかの実施形態では、さらなるまたは他の療法または治療剤は、標的免疫療法または免疫治療剤である。
【0146】
いくつかの実施形態では、更なるまたは他の療法または治療剤は、細胞傷害剤などの化学療法または化学療法剤である。
【0147】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の細胞傷害剤(例えば、抗癌剤)は、感作効果を提供するために、言い換えれば、本発明のペプチドの効果を増強する(または代替的に言えば、増大、補強、または増強する)ために(例えば、癌腫または肉腫の治療において)、または対象(またはより詳細には対象に存在する癌腫または肉腫細胞または腫瘍(複数可))を本発明のペプチドの効果に対してより感受性にするために使用することができる。
【0148】
したがって、一実施態様によれば、本発明は、ヒト対象における癌腫または肉腫の治療に使用するためのペプチドまたはその薬学的に許容可能な塩を含み、他の治療剤(例えば、細胞傷害剤)と組み合わせた製品として、分離投与、同時投与または順次投与のための、医薬組成物であって、ペプチドが配列番号1に記載のアミノ酸配列および細胞貫通ペプチドを含み、医薬組成物が対象に毎週全身投与されて、ペプチドの遊離型として計算して、1週当たり、体表面積(BSA)当たり約15~65mg/m2(約15~50mg/m2)のペプチドの投与量を提供する、医薬組成物を提供する。
【0149】
代替的に見ると、本発明の方法は、前記対象に別の治療剤(例えば細胞傷害剤)を投与することをさらに含み、前記治療剤(例えば細胞傷害剤)は、本明細書に定義するペプチドを含む医薬組成物に別々に、同時にまたは順次に投与することを含む。
【0150】
いくつかの実施形態では、さらなる治療剤(例えば細胞傷害剤)は、動物細胞の増殖、生存能力および/または増殖(複製/増殖)を阻害、抑制する(例えば殺す)ことが可能な薬剤である。 いくつかの実施形態では、さらなる治療剤(例えば、細胞傷害剤)は、ヒト癌腫および/または肉腫細胞の増殖、生存率および/または増殖(複製/増殖)を阻害、抑制する(例えば、殺す)ことが可能である。
【0151】
細胞傷害剤としては、抗腫瘍性薬剤および腫瘍学的用途に適応されるあらゆる薬剤が含まれる。したがって、化学療法治療プロトコルに使用される薬剤(「化学療法剤」または「抗癌剤」)が含まれる。
【0152】
細胞傷害剤は、典型的には、その作用機序に従って異なるクラスに分類され、これらのクラスのすべてが本明細書で企図されている。したがって、細胞傷害剤は、例えば、アルキル化剤、架橋剤、インターカレーション剤、ヌクレオチドアナログ、紡錘体形成の阻害剤、および/またはトポイソメラーゼIおよび/またはIIの阻害剤であってもよい。他のタイプまたはクラスの薬剤には、抗代謝物、植物アルカロイドおよびテルペノイド、または抗腫瘍性抗生物質が含まれる。
【0153】
アルキル化剤はヌクレオシドをアルキル化することでDNAを修飾し、正しいDNAの複製を阻害する。ヌクレオチド類似化合物は、複製時にDNAに取り込まれ、DNA合成を阻害する。紡錘体形成阻害剤は、紡錘体形成を阻害し、分裂中期に停止させる。インターカレーション剤は、DNAの塩基間に介在し、DNAの合成を阻害する。トポイソメラーゼIまたはIIの阻害剤は、DNAのねじれに影響を与え、それによってDNA複製が阻害される。
【0154】
適切な細胞傷害剤は当技術分野で知られているが、例として以下を含む:アクチノマイシンD、ボルテゾミブ、BCNU(カルムスチン)、BI 2536、ブパルリシブ、カルボプラチン、CCNU、カンプトテシン(CPT)、カンタリジン、シスプラチン、コンブレタスタチンA4、CUDC-907、シクロホスファミド、シタラビン、ダサタニブ、ダカルバジン、ダクトシリブ(dactosilib)、ダポリナド(daporinad)、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、デュベリシブ、DTIC、エレスクロモール、エピルビシン、エトポシド、ゲフィニチブ、ゲムシタビン、イデラリシブ、イホサミド、イスピネシブ、イリノテカン、イオノミシン、ルミンスピブ、メルファラン、メトトレキサート、マイトマイシンC(MMC)、ミトザントロンメルカプトプリン、モリブレシブ、オキサリプラチン、オバトクラクス、パクリタキセル(タキソール)、PARP-1阻害剤、ペリチニブ(pelitinib)、ペリホシン(perifosine)、PX-866、セパントロニウム臭化物、SB-743921、タセリシブ、タキソテール、テモゾロミド (TZM)、テニポシド、トポテカン、トラメチニブ、トレオスルファン・トリプトライド、ウンブラリシブ、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ボラセルチブ 、ボクスタリシブ、5-アザシチジン、5,6-ジヒドロ-5-アザシチジンおよび5-フルオロウラシル。本発明の併用療法には、前述した細胞傷害剤のいずれを用いてもよい。
【0155】
本明細書で定義されるペプチドを含む医薬組成物と組み合わせて使用するための細胞傷害剤は、上記で定義されるような医薬組成物において提供されてもよく、上記で定義されるように投与されてもよい。いくつかの実施形態では、細胞傷害剤を含む医薬組成物は、非経口投与のために製剤化されてもよい。したがって、組成物は、そのような製剤、例えば静脈内ボーラスまたは注射に適した薬学的に許容される賦形剤、溶媒および希釈剤を含んでもよい。
【0156】
当業者であれば、任意の細胞傷害剤の適切な投与量範囲を知っているであろう。好ましい実施形態では、細胞傷害剤は、その典型的な用量範囲で、医薬組成物中に存在するか、または対象に投与される。
【0157】
本発明による好ましい態様は、実施例で使用されるパラメータまたは成分の1つ以上が、本明細書に記載される方法の好ましい特徴として使用され得る実施例に記載されるとおりである。
【0158】
次に、以下の非限定的な実施例および図を参照しながら、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0159】
実施例1-様々な癌腫および肉腫の患者でのATX-101の臨床試験(配列番号914)
臨床試験の詳細
進行性固形腫瘍の患者を対象にATX-101(配列番号914)の漸増投与コホートを評価する第I相、非盲検、シングルアーム、安全性および忍容性試験(ATX101-01試験)が実施された。本試験は、安全性と忍容性を系統的に評価し、ATX-101の最大耐用量(MTD)および第II相推奨用量を特定することを目的とする。また、薬物動態と予備的な有効性(抗腫瘍活性)を評価した。
【0160】
6週間の第I相試験(ATX101-01試験)終了時点で、患者の腫瘍に進行の兆候が見られない場合、病勢進行または同意撤回などの治療中止の理由が生じるまで、長期追跡試験(ATX101-02試験)で治療を継続することが可能である。
臨床試験への参加資格
参加基準
1. 18歳以上の女性または男性
2. インフォームドコンセントへの署名
3. 従来の抗腫瘍薬治療が無効であるか、または拒否された進行性疾患
4. CT/MRIスキャンで測定可能または測定不可能な(しかし放射線学的に評価可能な)病変があり、既照射部以外に少なくとも1つの病変がある。
【0161】
5. ECOGパフォーマンスステータスが0-2であること
6. 3ヶ月以上の余命
7. 以下の研究室要件を満たすこと。
・ 絶対好中球数(ANC)≧1.5×109/L
・ 血小板数≧75×109/L
・ aPTT/PT≦1.5×ULN
・ 総ビリルビン値≦1.5×ULN
・ ASTおよびALT≦2.5×ULN(肝転移が存在する場合は≦5×ULN)
・ クレアチニン≦1.5×ULN
・ アルブミン≧30g/L
【0162】
8. 妊娠可能な女性(WOCBP)は、効果の高い避妊法(一貫して正しく使用した場合の失敗率が年間1%未満)を使用し、最後の輸液後少なくとも1ヶ月は避妊を継続する意思があること。効果の高い避妊法としては、排卵抑制を伴う複合(エストロゲンと黄体ホルモンを含む)ホルモン避妊法、排卵抑制を伴う黄体ホルモンのみのホルモン避妊法、子宮内装置、子宮内ホルモン放出システム、両側卵管閉塞、精管切除パートナー、性的禁欲が考えられる。
【0163】
9. 外科的に無精子でない男性は、外科的に無精子または閉経後の女性パートナーがいない限り、試験終了までと最後の治療投与後30日間はコンドームを使用する必要がある。この間は、子供を作ることを控えなければならない。
【0164】
除外基準
1. 治験薬投与前4週間以内(治験用免疫療法剤については6週間以内)に治験薬の投与を受けた者、または本試験の規定治療期間または治療後(post-treatment)期間中にそのような治療を受ける予定の者。
2. 治験薬初回投与前21日以内または半減期5倍(5倍)以内の抗癌剤治療(細胞減量療法、緩和的骨指向性放射線療法以外の放射線療法、免疫療法、エリスロポエチン以外のサイトカイン療法など)を併用していること。
3. 治験治療開始前7日以内のホルモン剤の使用。ただし、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)患者では、黄体形成ホルモン放出ホルモンアゴニストまたはアンタゴニストによる治療を継続することができる。
【0165】
a. 注ビスフォスフォネートまたはデノスマブの投与を受けている患者は、初回投与日の14日以上前に治療が開始されていることを条件とする。
4. 試験期間中に手術の必要性または抗癌剤治療の開始が予想されるもの
5. 4週間以上前に投与された薬剤による副作用(脱毛を除くCTCAE Grade 2以上)が回復していないこと。
【0166】
6. 心不全(New York Heart Association [NYHA] 機能分類による)がグレード2より大きいこと。
7. 過去6ヶ月以内にうっ血性心不全、不安定狭心症、急性心筋梗塞、脳血管障害などの臨床的に重要な心疾患、治療を必要とする症候性不整脈(収縮期外や軽度の伝導異常、コントロールされてよく治療されている慢性心房細動は除く)の証拠または既往がある。
8. QTcF >460 ms
【0167】
9. 活性なの中枢神経系(CNS)転移。 中枢神経系への転移が確認されている患者は、ATX-101を投与する2週間以上前に放射線治療または手術を受けている必要がある。 神経障害が残存している場合は、副腎皮質ステロイドの投与を中止し、安定していること。
10. リンパ管癌腫症
11. 軟膜病変
12. スクリーニング後3週間以内の大手術
13. 治験の適応症以外の急性または慢性疾患で、治験薬への曝露により予想されるリスクが増加する、あるいは計画された評価に支障をきたすと治験責任医師が判断した場合。
【0168】
14. 授乳中であるか、スクリーニング検査またはその後の診察時に血清βヒト絨毛性ゴナドトロピン(β-HCG)妊娠検査陽性で確認された妊娠中であること。
15. プロトコルの要求事項を守る気がない、または守れない
16. ヒト免疫不全ウイルス(HIV)および活動性のB型またはC型肝炎の既知の陽性状態。B型またはC型肝炎の感染歴を有する患者では、抗ウイルス療法後少なくとも6週間以内にB型肝炎表面抗原(HBsAg)の血清検査陰性およびC型肝炎ウイルス(HCV)リボ核酸(RNA)陰性によって感染の消失が証明されなければならない。
【0169】
17. 重篤なアレルギー(病院での治療を必要とする)、何らかの薬剤に対する重篤な反応、試験薬構成成分に対する既知または疑いのあるアレルギーまたは過敏症の既往歴がある。
18. 血液を採取するための静脈アクセスが十分でない。
【0170】
ATX-101の原薬
ペプチド原薬は非晶質で、結晶や多形の形態は知られておらず、水や水性媒体に自由に溶けることができる。塩酸塩(塩化物の対イオンはペプチドの塩基性側鎖にイオン結合している;18mol/molペプチド、理論値;分子式)として入手可能であった。C158H285N71O29S,18HCl;相対分子量。4320.9.Free base:3673.3).
【0171】
ATX-101 医薬品
このペプチドは、注射前の再構成と希釈のために、無菌凍結乾燥物として提供された。凍結乾燥品は、5mgまたは80mgの単回使用無色バイアルに入れ、ゴム栓、アルミニウム製フリップオフシール、プラスチックディスクを付けて、-20℃±5℃で遮光して保管した。投与に先立ち、試験薬は冷凍庫から取り出し、1ml(5mg)または4mL(80mg)の注射用無菌水で再構成された。静脈内注入前の再構成を助けるために、バイアルは、輸液バッグで適切な容量(例えば100mL、250mLおよび500mL)の通常生理食塩水で希釈する前に、振らずに静かに旋回させた。
【0172】
治療法および投与量
第I相試験(ATX101-01試験)では、ATX-101(塩成分の質量を引いた正味のペプチド)の静脈内投与について、4つの用量レベル(患者の身長と体重に基づいて計算した体表面積20、35、45、60mg/m2)がテストされた。ATX-101は、以下の輸液速度表(表1)に示すように、一定の輸液速度または5mg/hrから始めて30分ごとに輸液速度を上げる適応輸液方式で、少なくとも1時間かけて点滴静注された。最大注入速度は120mg/hrおよび500mL/hrを超えないようにした。45および60mg/m2を500mLで投与した。
【0173】
【0174】
治療は21日間を1サイクルとし、各サイクルの1日目、8日目、15日目にATX-101を単回点滴静注した。患者への投与は毎週行われ、最大で2サイクル(2×21日=6週間)行われた。
【0175】
第I相試験(ATX101-01試験)での初回6週間の治療後、患者は長期追跡試験(ATX101-02試験)で治療を継続することができる。これらの患者は、01試験と同じ用量レジメンを受け、最長で15.6ヶ月間治療された。
【0176】
実施したアセスメント
安全性: 治療上有害な事象(TEAE)の発生率、重症度、期間および治療関連TEAEは、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.03に従って評価した。CTCAE v4.03 が適用されない有害事象(AE)については、軽度、中等度、重度とグレード分けされたものを使用した。
【0177】
有効性: 腫瘍の評価は、RECIST V1.1(Response Evaluation Criteria In Solid Tumors、https://ctep.cancer.gov/protocolDevelopment/docs/recist_guideline.pdf)に従って行われた。
【0178】
腫瘍の画像は、胸部/腹部/骨盤のCTまたはMRI(その他、腫瘍の種類に応じて必要な部位)を用いて行われた。RECIST V1.1に基づき、ベースライン時および週1回のATX-101による6回までの治療後に評価を行った(ATX101-01試験終了時)。より長期間の治療を受けた患者(すなわち、長期追跡試験であるATX101-02)では、さらに3ヶ月ごと(±14日)に評価が行われている。一般に、ベースラインで検出された病変は、その後の腫瘍評価受診時に同じ画像処理方法と同じ画像機器を使用して追跡調査されることになっていた。
【0179】
腫瘍の進行の臨床的徴候は、全治療期間中に確認されている。具体的な症状や身体検査、検査値などの評価も含まれている。
【0180】
各患者について、治験責任医師は、患者の腫瘍の状態を評価するために、上記の方法のうち最も適切なものを使用する。進行の臨床的兆候がある患者には、予定外の腫瘍スキャンと評価が推奨された。一般に、個々の患者の腫瘍評価のために選択された指標は、試験期間中一貫しており、患者の登録のために使用された指標に対応するものであった。
【0181】
前述の評価に基づいて、以下のパラメータを評価した。
【0182】
DCR(Disease Control Rate):試験参加期間中にRECIST V1.1に基づく疾患進行の徴候が認められなかった患者の割合と定義される。
【0183】
ORR(Objective Response Rate):RECIST1.1基準に基づく完全奏効(CR)または部分奏効(PR)を達成した患者の割合と定義されている。
【0184】
患者数
第I相試験では、22名の患者が治療を受けた。22名中10名(45%)が、投与開始6週間後(ATX101-01試験終了時)に病勢進行の兆候を認めなかった。この10名のうち9名は長期追跡試験に登録され、以下に示す有効性の検討の一部となっている。表2は、これら9名の患者の疾患、試験開始時の腫瘍の状態、投与されたATX-101の用量をまとめたものである。試験開始時には、病勢が安定していた患者#1を除き、すべての患者が腫瘍を進行させていた。
【0185】
【0186】
表3は、長期追跡調査で治療を受けた患者の試験参加前の抗癌剤治療(手術、化学療法、放射線療法を含む)の総回数を示している。進行した病態に基づき、ほとんどの患者が多くの前治療を受けている。
【表3】
【0187】
安全性データ
ATX-101は、第1相試験(ATX101-01、-02試験)で治療した22名の患者すべてにおいて、良好な安全性プロファイルを示した。治療関連死や用量制限毒性(DLT)は報告されていない。治療に関連する重篤な有害事象や重篤な有害事象はなかった。また、治療関連毒性による治療中止はなかった。治療関連の有害事象は軽度から中等度にとどまった。
【0188】
最も一般的な治療関連事象は、グレード1または2の輸液関連反応(IRR)で、73%の患者で観察された。これらは、痒み、発赤、蕁麻疹、発熱、発疹、腫脹、潮紅、じんましんなどを呈するアレルギー反応の一種である。症状は、抗ヒスタミン薬やコルチコステロイドによる対症療法の有無にかかわらず、点滴を中止すると速やかに回復した。大多数の患者では、ATX-101の点滴を安全に再開することができ、治療を完了することができた。IRRは、初回のみならず、その後の注入においても報告された。ATX-101を繰り返し投与しても、悪化することはなかった。IRRを管理するために、輸液ごとに輸液速度を段階的に上げること(表1参照)と、デキサメタゾン、パラセタモール(アセトアミノフェン)、モンテルカスト、ヒスタミン受容体拮抗薬からなる前投薬を義務化することの2点が実施された。
【0189】
安全性の概要
ATX-101は、調査したすべての用量において、単剤で安全に投与することができる。治療関連の有害事象の重症度は軽度から中等度にとどまった。IRRはほとんどの患者で観察されたが、重篤な事態や生命を脅かす事態を引き起こすことなく管理可能であった。
【0190】
有効性データ
表4と
図1は、6週間以上治療した患者のATX-101の総治療期間を示す。治療終了時に3名の患者が病勢安定、1名の患者が腫瘍評価なしとなり、残りの5名の患者は病勢進行となった。治療期間の中央値は4.2 [2.1-15.6] ヶ月であった。
【0191】
【0192】
以下に、長期追跡調査で治療を受けた9名の患者の簡単な症例報告を掲載する。
症例1:膵臓癌
この67歳の男性患者は、2018年5月に転移性膵臓癌と診断された。2018年8月までゲムシタビン+ナブパクリタキセルで治療していた。2018年10月に臨床試験に登録された患者である。この時、病状は安定しており、肝臓(セグメント4/5)と腹部(コエリアック軸)に転移が認められた。ATX-101の20mg/m2を毎週点滴する治療の最初の6週間は、腫瘍は安定していた。その結果、治療が継続された。総治療期間7.2ヶ月後、病勢進行がないにもかかわらず、パフォーマンスステータスが悪化したため、治療を中止した。
【0193】
症例2:子宮平滑筋肉腫
この女性は、2015年8月、45歳のときに子宮平滑筋肉腫と診断された。ATX-101治療の前に、ホルモン療法(タモキシフェン、レトロゾール、メドロキシプロゲステロン)、化学療法(ゲムシタビン+ドセタキセル)を含む4種類の抗癌剤治療を受けた。
【0194】
試験参加時の2018年10月には、肉腫が進行し、肺(右中葉、左下葉)、リンパ節(左外腸骨)に病変を認め、転移していた。20mg/m2 ATX-101を週6回投与したところ、腫瘍の増殖は停止し、一般的なRECIST腫瘍評価基準で病勢は安定した。週1回の点滴は、定期的に腫瘍の評価を行いながら、合計15.6ヶ月間続けられた。病勢は安定し、腫瘍の増殖の兆候は見られなかった。患者は治療の中断を決断したが、腫瘍のコントロールは継続された。ATX-101治療開始から2年後の2020年11月、腫瘍の増殖の兆候は観察されていない。
【0195】
症例3:尿道扁平上皮癌
この男性患者は61歳で、2017年12月に尿道癌と診断された。試験参加前に、パクリタキセル、イホスファミド、シスプラチンからなる化学療法併用療法を受けたことがある。この併用療法は、治療中に腫瘍が進行したため、2018年6月に中止した。
【0196】
2019年1月、臨床試験に登録された。この時、進行性癌はリンパ節(左右鼠径部、右外腸骨)に転移していた。最初の6週間は20mg/m2のATX-101を毎週投与し、病勢進行の兆候はなく、病勢は安定した状態であった。合計6.9ヶ月間治療したところで腫瘍が進行し、治療を中止した。
【0197】
症例4:子宮頸部扁平上皮癌
この女性は、1985年1月に32歳で子宮頸癌と診断された。ATX-101投与前に抗癌剤治療として、手術、化学療法、放射線療法を受けた。化学療法には、カルボプラチン+パクリタキセル、シスプラチン+放射線療法(骨盤)、カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブの併用療法、シスプラチン単剤療法、そして最後に実験的抗PD-1剤が使用された。後者の治療は試験参加前の直近の治療であり、2018年8月に病勢進行のため中止となった。
【0198】
2019年1月に臨床試験に登録された患者である。この時、腫瘍は右腸骨軟部組織と左鎖骨上リンパ節に転移していた。最初の6週間は毎週20mg/m2のATX-101を点滴した後、腫瘍は安定し、治療を継続した。全体では4.2ヶ月の治療期間中に病勢が進行し、治療を中止した。
【0199】
症例5:未分化多形肉腫
この男性患者は、2010年12月、63歳で転移性肉腫と診断された。ATX-101治療前に、左下肢切断、ゲムシタビン+ドセタキセル、パゾパニブ、放射線治療(左股関節、右腕)、ドキソルビシン、右上肢切断を受けた。パゾパニブを用いた化学療法が直近の全身療法であったが、2017年12月に病勢進行により中止となった。
【0200】
患者は2019年4月に臨床試験に登録された。この時、肉腫は肺と大腿部に病変を示した。ATX-101を30mg/m2、週6回静脈内投与した後、患者の腫瘍は病勢進行の兆候を示さず、合計4.1ヶ月間治療を継続し、病勢進行と診断された。
【0201】
症例6:肺腺癌(非小細胞肺癌)
この男性患者は、2013年10月、56歳で転移性肺腺癌と診断された。2013年に右肺上葉切除術とそれに続く放射線治療、2015年に左肺上葉切除術を施行した。さらに、シスプラチン+ビノレルビン2回、ニボルマブ、ペメトレキセド、カルボプラチン+ゲムシタビンの5種類の治療ラインの化学療法を受けた。最後の治療法であるカルボプラチン+ゲムシタビンは、2019年4月に病勢進行のため中止となった。
【0202】
2019年9月に臨床試験に登録された患者である。この時、肺と副腎(左右)に多発性の病変が現れた。ATX-101の45mg/m2を毎週点滴する治療が行われた。6週間の治療後、病状は安定し、ATX-101の治療を継続した。全体として、患者は4.1ヶ月にわたって輸液を受けた。病勢進行の兆候は報告されていないが、治療を中止した。
【0203】
症例7:非小細胞肺癌(NSCLC)
この女性患者は、2017年9月に64歳でNSCLCと診断された。この患者は、右上/中肺葉切除術、脳定位放射線手術、複数の部位の放射線治療などの局所療法を受けた。カルボプラチン+ペメトレキセド、アテゾリズマブ、実験的薬剤(PD-1/CTLA-4 二重特異性抗体)の3ラインの全身治療が行われた。実験薬による治療は、病勢進行のため、2019年8月に中止した。この中止から試験開始までの間に、患者は頭蓋骨と脳への放射線療法を受けた。
【0204】
2019年9月に臨床試験に登録された患者である。この時、腎臓、左副腎、甲状腺、肺に異なる病変が見られた。ATX-101の45mg/m2を週1回点滴した。6週間の治療後、病状は安定した。合計3.5ヶ月間治療を継続したところ、病状が進行したため、治療を中止した。
【0205】
症例8:子宮頸癌
この女性は、2018年6月に47歳で子宮頸癌と診断された。腫瘍を切除し、その部分に放射線を照射した。2019年には、カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブによる化学療法、その後のベバシズマブ維持療法、最後に治験薬(anit-PD-1抗体)による治療の3種類の全身抗癌剤治療が開始されている。後者は2020年3月に病勢進行のため治療中止となった。
【0206】
2020年5月に臨床試験に登録された。この時、腫瘍は骨盤内の軟部組織に転移していた。ATX-101の60mg/m2を週1回点滴した。6週間の治療後、病状は安定した。その後、2.1ヶ月間治療を継続したが、尿路閉塞と腫瘍による尿道ステントの閉塞により、臨床的な病勢進行と判断し、早期に治療を終了した。腫瘍の画像診断は行わなかった。
【0207】
症例9:卵巣顆粒膜細胞腫
この女性は、2009年12月に48歳で卵巣癌と診断された。この研究に参加する前に、彼女はさまざまな抗癌剤治療を受けている。デバルキング手術5回、ホルモン療法2回、化学療法併用療法2ライン(エトポシド+イホスファミド+シスプラチン、カルボプラチン+ゲムシタビン)である。ATX-101に先立つ直近の全身療法であるカルボプラチン+ゲムシタビンは、約2年間の治療の後、2017年11月に病勢進行のため中止された。
【0208】
2020年2月に5回目のデバルキング手術を受け、その後、2020年8月に本試験に採用された。この患者は、ATX-101を毎週60mg/m2輸注する治療を5ヶ月間受けたが、病勢進行の兆候は見られなかった。再度のデバルキング手術が予定されているため、病勢進行が見られないまま治療を中止した。
【0209】
有効性の要約
第I相試験で採用された患者の95%(n=21)は、試験開始時に疾患が進行していた。全患者の45%(n=10)は、ATX-101の最初の6週間の治療後に病勢が安定した。9名(全患者の42%)が治療を継続し、総治療期間は中央値で4.2ヶ月でした。この9名のうち、病勢進行により治療を中断したのは5名のみであった。これらの患者の無増悪生存期間の中央値は4.2ヶ月以上であると結論づけられる。治療開始時の腫瘍の状態を考慮すると、この病勢の安定化はATX-101の活性に起因していると考えられる。
【0210】
臨床的な総合結論
ATX-101は、週1回の点滴投与で良好な忍容性を示すファーストインクラスの化合物である。ATX-101に関連する軽度から中等度の有害事象は、輸液関連反応のみであり、これらは容易に管理可能である。
【0211】
ATX-101は、標準的な治療法がない前治療歴の長い癌患者のうち、臨床的に意味のある期間、病状を安定化させることができた。この効果は、本化合物の安全性と忍容性を判断することを目的とした第I相試験においては、全く予期していなかった。本試験以前は、最大耐用量が決定されるまで60mg/m2を超える用量を試験し、これらの高用量のみが有効な治療となると予想されていた。注目すべきは、安定化効果は試験した最低用量の20mg/m2ですでに観察され、他のすべての調査した用量レベル(30、45、60mg/m2)でも明らかであったことである。驚くべきことに、用量依存的な効果は観察されず、約15-65mg/m2の用量範囲は、様々な腫瘍タイプの治療に有効であることを示している。
【0212】
第I相試験のデータでは、患者のリスクとベネフィットの比率がベネフィットを上回っていることが示されている。特に、第I相試験で採用された患者は、他の治療法に抵抗性を示すことが多かったので、試験した投与レジメンが有効であったことは驚くべきことであった。さらに、様々な疾患環境で効果が認められたことは、ATX-101が本発明の用量範囲と患者群における有用性を裏付けるものであり、ATX-101の特性は単剤および併用療法としてさらなる臨床開発を可能にするものである。
【配列表】
【国際調査報告】