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特表2023-524560内在性カンナビノイドシステムを調節することによる炎症性疾患または腸機能疾患の処置に使用するためのチモールを含む組成物
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  • 特表-内在性カンナビノイドシステムを調節することによる炎症性疾患または腸機能疾患の処置に使用するためのチモールを含む組成物 図1
  • 特表-内在性カンナビノイドシステムを調節することによる炎症性疾患または腸機能疾患の処置に使用するためのチモールを含む組成物 図2
  • 特表-内在性カンナビノイドシステムを調節することによる炎症性疾患または腸機能疾患の処置に使用するためのチモールを含む組成物 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-12
(54)【発明の名称】内在性カンナビノイドシステムを調節することによる炎症性疾患または腸機能疾患の処置に使用するためのチモールを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/05 20060101AFI20230605BHJP
   A61K 36/9066 20060101ALI20230605BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20230605BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20230605BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20230605BHJP
   A61K 36/06 20060101ALI20230605BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230605BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20230605BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230605BHJP
   A23K 10/30 20160101ALN20230605BHJP
   A23K 50/30 20160101ALN20230605BHJP
【FI】
A61K31/05
A61K36/9066
A61K35/747
A61K35/745
A61K35/744
A61K36/06
A61P1/04
A61P1/12
A61P29/00
A23K10/30
A23K50/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567501
(86)(22)【出願日】2021-05-05
(85)【翻訳文提出日】2022-12-27
(86)【国際出願番号】 IB2021053803
(87)【国際公開番号】W WO2021224825
(87)【国際公開日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】102020000009922
(32)【優先日】2020-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522431966
【氏名又は名称】ヴェタグロ・インターナショナル・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
【氏名又は名称原語表記】VETAGRO INTERNATIONAL S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ピーヴァ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】グリッリ,エステル
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4C087
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
2B005EA01
2B150AA03
2B150AA05
2B150AA08
2B150AB10
2B150AB11
2B150AC06
2B150AC07
2B150AC08
2B150AC25
2B150CJ08
2B150DD57
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC12
4C087BC55
4C087BC56
4C087BC59
4C087BC61
4C087BC75
4C087CA09
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4C087MA34
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4C087NA07
4C087NA12
4C087NA13
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4C087ZC41
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4C088AC13
4C088MA02
4C088MA22
4C088MA34
4C088MA52
4C088NA05
4C088NA06
4C088NA07
4C088NA12
4C088NA13
4C088ZA66
4C088ZA71
4C088ZA72
4C088ZA73
4C088ZC21
4C088ZC41
4C088ZC61
4C088ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA17
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA42
4C206MA54
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA06
4C206NA07
4C206NA12
4C206NA13
4C206ZA66
4C206ZA71
4C206ZA72
4C206ZA73
4C206ZC21
4C206ZC41
4C206ZC61
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、内在性カンナビノイドシステムの受容体および/または酵素を調節することにより、ヒト対象、単胃動物、家禽または魚における腸管の炎症性疾患または機能性疾患および関連症状の予防および/または治療的処置に用いるためのチモールを含む組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト、単胃動物、鳥類または魚類において、エンドカンナビノイド系の受容体および/または酵素を調節することにより、炎症性および/または機能性腸疾患、または関連症状の予防および/または治療的処置のための方法における使用のための組成物であって、前記組成物は、以下:
-チモールを含む混合物Mまたはチモールから成る混合物M;ならびに、所望により
-少なくとも1つの許容される医薬グレードまたは食品グレードの添加剤および/または賦形剤を含んでおり、
前記組成物は、チモールを含む混合物Mまたはチモールから成る混合物Mを埋め込むか、または組み込む徐放性脂質マトリックスをさらに含んでおり、前記徐放性脂質マトリックスは、少なくとも1つのC10-C30の範囲に含まれる炭素原子数を有する飽和または不飽和の遊離またはエステル化脂肪酸、および/または少なくとも1つのC-C30の範囲に含まれる炭素原子数を有する飽和または不飽和脂肪酸鎖を有するトリグリセリド、および/または少なくとも1つのC16-C36の範囲に含まれる炭素原子数を有するワックスを含むか、またはから成り、前記脂質マトリックスにより、胃保護および/または混合物Mの徐放性腸内放出、好ましくは混合物中に含まれるチモールの徐放性腸内放出が可能となる、
組成物。
【請求項2】
前記組成物が、豚のような単胃哺乳類;好ましくは、離乳期の豚のような単胃動物または単胃哺乳類に使用するためのものである、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記疾患または症状が、慢性過敏性腸疾患(IBD)、クローン症候群またはクローン病、潰瘍性大腸炎、分類不能大腸炎、顕微鏡的大腸炎、膠原線維性大腸炎、リンパ球浸潤性大腸炎、虚血性大腸炎、便流変更性大腸炎、回腸嚢炎、過敏性腸症候群(IBS)、下痢型IBS、便秘型IBS、混合型IBS、分類不能型IBS、ディスペプシア、悪心、嘔吐、便秘、下痢、腹部膨満、鼓腸および肉体疲労から選択される、請求項1~2のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記徐放性放出脂質マトリックスは、C14-C24の範囲に含まれる炭素原子数を有する植物由来の少なくとも1つの水素化脂肪酸および/またはC14-C24の範囲に含まれる炭素原子数を有する植物由来の少なくとも1つの水素化トリグリセリドおよび/またはC24-C36の範囲に含まれる炭素原子数を有する動物由来の少なくとも1つのワックスを含むか、またはそれらから成り;好ましくは、前記脂肪酸、トリグリセリドまたはワックスが、パーム油、ヒマワリ油、コーン油、菜種油、ピーナッツ油、大豆油、オリーブ油、蜜蝋およびそれらの混合物から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記混合物Mは、カルバクロール、オイゲノール、カプサイシン、ウコン、バニリン、シンナムアルデヒド、ジアリルジスルフィド、樟脳、リモネン、ロスマリン酸、p-シメン、γ-テルピネン、α-ピネン、α-ツジョン、1,8-シネオール、ベルバスコシド、タンニン、メンソール、リナロール(リナロールC1018O(CAS番号78-70-6)、テルピネオール(テルピネオールC1018O(CAS番号98-55-5))、アントシアニン類(アントシアニン)、カテキン、α-ジンギベレン(C1524 CAS番号495-60-3)およびそれらの混合物を含むか、またはそれらから成るグループ(I)から選択される、少なくとも1つの第1活性成分、好ましくは植物性の化合物(植物性成分)から得られる第1活性成分をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記組成物が、チモールおよびカルバクロール、またはチモールおよびバニリン、またはチモールおよびメントール、またはチモールおよびリナロール(リナロールC1018O(CAS番号78-70-6)、またはチモールおよびテルピネオール(テルピネオールC1018O(CAS番号98-55-5))、またはチモールおよびアントシアニン類(アントシアニン)、またはチモールおよびカテキン類、またはチモールおよびα-ジンギベレン(C1524 CAS番号495-60-3)ならびにそれらの混合物;あるいは、チモール、カルバクロールおよびカプサイシン、またはチモール、カルバクロールおよびシンナムアルデヒド、またはチモール、オイゲノールおよびベルバスコシドを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
チモールと、所望によりグループ(I)から選択される別の前記第1活性成分(植物性成分)に加えて、前記組成物に含まれる混合物Mは、有機酸またはアルカリもしくはアルカリ土類金属カチオンとのその塩を含んでおり、前記有機酸は、乳酸、リンゴ酸、安息香酸、フマル酸、ソルビン酸、クエン酸、オクタン酸、ヘプタン酸、酪酸、ドデカン酸およびそれらの混合物を含むか、またはから成るグループ(II)から選択され:好ましくは、混合物Mは、チモールおよびソルビン酸、またはチモール、ソルビン酸およびクエン酸、またはチモールおよび安息香酸、またはチモール、ソルビン酸、クエン酸および安息香酸、またはチモール、カルバクロールおよびソルビン酸、またはチモール、カルバクロール、ソルビン酸およびクエン酸、またはチモール、カルバクロール、シンナムアルデヒドおよびソルビン酸、またはチモール、カルバクロール、シンナムアルデヒド、ソルビン酸およびクエン酸、またはチモールおよび酪酸、またはチモール、クエン酸およびドデカン酸を含んでもよい、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記混合物Mが、以下:
-ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、サッカロミセス(Saccaromyces)属に属する細菌株またはプロバイオティック細菌株;および/または
-プレバイオティクス、例えばイヌリン、ラクチュロース、ラクチトール、マンノオリゴ糖、フラクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖、トリブチリン、モノブチリン(モノブチリン C14 CAS番号557-25-5)、モノラウリン(モノラウリン C1530 CAS番号27215-38-9)およびそれらの混合物;および/または
-金属塩、例えば、亜鉛および銅;ならびにその混合物、
からなるグループ(III)から選択される少なくとも1つの別の第2活性成分をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
前記組成物が、単胃動物および/または離乳期もしくは初期成長期の単胃動物用の飼料または飼料添加剤;好ましくは単胃哺乳類用、より好ましくは豚用の飼料または飼料添加剤である、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物の製造方法であって、前記方法は、水中油型エマルションあるいは油中水型エマルションを製造する工程を提供し、前記エマルションは、固体形態の組成物を得るために混合物を構成するグループ(I)および/またはグループ(II)および/またはグループ(III)の成分を含有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内在性カンナビノイドシステムの受容体および/または酵素を調節することにより、ヒト対象、または単胃動物あるいは家禽もしくは魚における腸管の炎症性疾患または機能性疾患および関連症状の予防および/または治療的処置に用いるためのチモールを含む組成物に関する。
【0002】
腸管の炎症性または機能性の疾患もしくは症状は、ヒトおよび単胃動物共に広範囲に共通しており、それらの発達段階、特に成長段階にあるヒトまたは動物対象のクオリティ・オブ・ライフに悪影響を与え、免疫系の弱体化によりさらなる疾患を発症するリスクにさらされる。
【0003】
これらの中で特に重要なものは、慢性炎症性腸疾患(IBD)であり、IBDは、感染が病因ではなく(すなわち、細菌、ウイルス、真菌によって引き起こされない)、慢性的な発赤(phlogosis)の存在を特徴とする一群の病態学的疾患である。この一群の内の2つの重要な疾患はクローン病および潰瘍性大腸炎であって、IBDは、多因子性疾患であり、腸内細菌叢レベルでの過剰な免疫反応により、上皮のバリア機能に異常が生じることが一因である。特に、腸管上皮の完全性が喪失することは、IBDにおける重大な病原的役割に関与している。IBDに罹患した殆どの動物は、再発性または慢性の嘔吐または下痢の病歴を有する。IBDに罹患した動物では、しばしば体重の著しい減少が見られ、それに伴うあらゆる影響が生じる。
【0004】
ヒトおよび単胃動物に共通して多く見られる別の消化器系疾患には、過敏性腸症候群(略して、IBS)がある。過敏性腸症候群は、機能性消化管障害(FGID)の一群に属し、症状の出現のみに基づいて規定され得る診断カテゴリーであり、明らかな病原体の生息環境が無い(すなわち、細菌、ウイルスまたは真菌が存在しない)ことを特徴とし、腹部不快感または疼痛が腸内細菌叢の変化と相関している。糞便の特徴により、4つのグループに疾患が分けられる:便秘型IBS(便秘型の腸)、下痢型IBS(下痢型の腸)、便秘および下痢が交互に起こる混合型IBSおよび分類不能型IBSである。
【0005】
ヒトまたは単胃動物における腸管の炎症性または機能性疾患または症状を治療するために、現在までに利用出来る薬剤または化合物の殆どは、その疾患および症状を、完全におよび/または持続的に解消することはできていない。さらに、市販されている薬剤および治療方法は、望ましくない副作用が完全に無い訳ではなく、その使用を制限される場合もある。
【0006】
従って、公知の治療方法において依然として存在する制限および欠点を克服することを可能とする治療、ならびにヒト、動物、鳥、ニワトリおよび魚の腸管の炎症性疾患および症状または機能性疾患および症状に対して迅速、有効かつ持続的な反応を提供できる治療を行うことができる方法に対する当業者側の関心は、依然として高いものである。本発明が取り組み、かつ解決する技術的課題は、主に、ヒト対象、単胃動物、好ましくは単胃哺乳類(例えば、豚または家畜、家禽、好ましくは鳥およびニワトリおよび魚)における細菌、ウイルスまたは真菌が病因ではない炎症性および機能性両方の腸管障害(疾患または症状)を治療するための組成物および有効な治療方法を提供することにあり、特に腸の健康状態の維持および良好な状態および/または離乳期(または初期の成長期)の維持に関することにある。出願人は、精力的な研究開発活動の後に、特許請求の範囲に規定されるような特性を有する新規混合物および組成物(要するに、本発明の混合物および組成物)ならびに治療方法を提供することにより、前記技術的課題に取り組んで解決する。
【0007】
本発明は、また以下の図により十分に開示されるが、これは単に例示として提供されるものであるため、その保護範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、14日目(d14)の豚の十二指腸粘膜および回腸粘膜のカンナビノイド受容体の遺伝子発現データを報告するものである。
図2図2は、14日目(d14)の豚の十二指腸粘膜および回腸粘膜のECS酵素の遺伝子発現データを報告するものである。
図3図3は、14日目(d14)の豚の十二指腸粘膜および回腸粘膜の腸管化学感知に関する遺伝子発現データを報告するものである。
【発明の概要】
【0009】
(発明の詳細な説明)
本発明の目的を形成するのは、ヒト、単胃動物、鳥、ニワトリまたは魚における内在性カンナビノイドシステムならびに腸管ケモセンシングシステム(gut chemosensing system)の受容体および/または酵素の調節(または、遺伝子発現の調節もしくは増強)により炎症性および機能性腸疾患または関連症状を予防および/または治療する方法に使用するための組成物(要するに、本発明の組成物)であって、前記組成物は、チモールを含む混合物Mまたはチモールから成る混合物M(要するに、本発明の混合物M)を含んでおり、所望により、前記組成物はさらに少なくとも1つの許容可能な医薬または食品グレードの添加剤および/または賦形剤を含むことを特徴とする。
【0010】
炎症性および/または機能性腸疾患あるいは関連症状は、主に、微生物病原体(細菌、ウイルスまたは真菌)を有さない腸の疾患から選択される。有利には、本発明の組成物は、前記疾患の治療において効果的に使用される。
【0011】
有利には、本発明の組成物は、チモールが、内在性カンナビノイドシステム(ECS)、例えばカンナビノイド-1(CB1)およびカンナビノイド-2(CB2)の受容体の腸内遺伝子発現を調節する能力ならびに/または内在性カンナビノイド分子のアナンダミド(AEA)の分解に関与する内在性カンナビノイドシステム(ECS)の酵素、例えば脂肪酸アミドヒドロラーゼ(FAAH)の腸内遺伝子発現を調節する能力に加えて、腸管ケモセンシングシステムの1以上のマーカー、例えば一過性受容体電位バニロイド-1(TRPV1)および/または嗅覚受容体1G1(OR1G1)の腸内遺伝子発現を調節する能力により、腸管の炎症性または機能性疾患の予防および/または治療のための興味深い治療特性を示す。
【0012】
有利なことには、本出願人により開発された組成物は、治療種のある機能として、腸内への段階的かつ標的化された放出が可能となるように処方および製造され得る。
【0013】
本発明の目的を構成するのは、チモールの他に、チモールと本発明の組成物中に存在する別の潜在的活性成分を埋め込む徐放性脂質マトリックスを含む組成物である。前記徐放性脂質マトリックスは、胃保護(胃の酸性pHからの保護)を提供し、チモールおよび本発明の組成物中に存在し得る別の活性成分の腸内の徐放性放出、好ましくは2時間~24時間、好ましくは4時間~8時間を含む時間の放出を可能にする。
【0014】
内在性カンナビノイドシステム(ECS)(リガンドの生合成および分解に関与する受容体、シグナル伝達分子および酵素)の活性化は、炎症および胃腸系機能に関する制御および調節における有効なアプローチであると考えられている。
【0015】
CB1およびCB2を代表とするカンナビノイド受容体は、腸および消化器系の細胞も含めて、生体の大部分に存在している。そのため、ECSは、免疫反応、代謝、消化活動および食欲などの重要な生理学的プロセスを制御し、生体の繊細な内部バランスであるホメオスタシスの維持に寄与していることが示唆された。それ故、内在性カンナビノイドシステムの機能異常、特に受容体(CB1、CB2)および酵素の遺伝子発現の変化は、炎症性腸疾患や機能性腸疾患において重大な影響を及ぼす。
【0016】
さらに、例えばTRPV1(一過性受容体電位バニロイド-1:transient receptor potential vanilloid 1)およびOR1G1(嗅覚受容体:olfactory receptor 1G1)のような様々な受容体が腸内に存在することから、「腸管ケモセンシングシステム」は、腸の炎症性または機能性疾患の治療に応用できる可能性が示唆されている。
【0017】
本発明の組成物または混合物は、重篤な副作用を示さずに、成人のヒト対象および動物の両方に、生育段階のヒト対象および動物の両方にならびに妊娠中の動物(雌)に投与することができる。
【0018】
つまり本発明の組成物または混合物は、製造が容易であって、また費用対効果に優れている。
本発明の組成物が添加剤および/または賦形剤を含まない場合、本発明の組成物は、本発明の混合物Mと同一である。
【0019】
本発明が提供する前記治療方法は、治療上有効な量の本発明の組成物または混合物Mを、ヒト対象、単胃動物、家禽または魚に投与する方法である。
【0020】
本発明の文脈では、「単胃動物」という表現は、哺乳類および非哺乳類の単胃動物の両方を含むことが意図される。
【0021】
さらに、チモールを含む本発明の組成物または混合物Mは、腸の健康を維持するために、および/または前記ヒト対象または単胃動物、好ましくは単胃哺乳類の離乳期(または初期の成長段階)におけるサポートのために使用するためのものである。
【0022】
好ましくは、前記単胃動物は、単胃哺乳動物、特に離乳期の単胃動物または単胃哺乳動物である。さらに、本発明の文脈では、例えば、鳥類およびニワトリなどの家禽類ならびに魚類も含まれる。
【0023】
本発明の組成物または混合物Mによって治療することができる成体または離乳期の前記単胃哺乳動物は、以下から選択することができる:犬、猫、猿、豚、馬およびロバなどの馬類、離乳期前のウサギ、ハムスター、モルモット、マウス、スナネズミ、チンチラ、デグー、リス、モルモットおよびラットなどの齧歯類;イタチ、フェレットおよびオコジョ。
【0024】
本発明の組成物または混合物Mを用いて治療することができる成体または初期の成長段階にある前記哺乳類以外の単胃動物は、以下から選択することができる:家禽種(鳥類、好ましくはキジ目)の動物またはその他の家禽類、例えば、七面鳥、モルモット、キジ、孔雀、ウズラ、ハト、キジバト、ガチョウ、マガモおよびノバリケン、あるいは魚および甲殻類などの水生種に属する動物。
【0025】
記載された実施形態のいずれか1つの実施形態に従って、本発明の組成物または混合物Mを使用して予防的および/または治療的処置を行うことができる疾患または症状は、以下から選択されるものが有利である:慢性過敏性腸疾患(IBD)、クローン症候群またはクローン病、潰瘍性大腸炎、分類不能大腸炎、顕微鏡的大腸炎、膠原線維性大腸炎、リンパ球浸潤性大腸炎、虚血性大腸炎、便流変更性大腸炎、回腸嚢炎、過敏性腸症候群(IBS)、下痢型IBS、便秘型IBS、混合型IBS、分類不能型IBS、ディスペプシア、悪心、嘔吐、便秘、下痢、腹部膨満、鼓および肉体疲労などが挙げられる。
【0026】
記載された実施形態のいずれかによる本発明の組成物または混合物Mは、本発明で示される疾患の治療におけるさらなる治療アプローチ(例えば、薬剤)のアジュバントとして使用してもよい。
【0027】
チモールに加えて、本発明の組成物に含まれる混合物Mは、例えば、植物性の化合物(植物性成分:botanicals)から得られる別の第1活性成分をさらに含んでもよく、第1活性成分は、グループ(I):カルバクロール、オイゲノール、カプサイシン、ウコン、バニリン、シンナムアルデヒド、ジアリルジスルフィド、樟脳、リモネン、ロスマリン酸、p-シメン、γ-テルピネン、α-ピネン、α-ツジョン、1,8-シネオール、ベルバスコシド、タンニン、メンソール、リナロール(リナロールC1018O(CAS番号78-70-6)、テルピネオール(テルピネオールC1018O(CAS番号98-55-5))、アントシアニン類(アントシアニン)、カテキン、α-ジンギベレン(C1524 CAS番号495-60-3)およびこれらの混合物から選択されるか、またはグループ(I)から構成される。
【0028】
実施形態において、本発明の組成物は、チモールおよびカルバクロール、またはチモールおよびバニリン、またはチモールおよびメントール、またはチモールおよびリナロール(リナロールC1018O(CAS番号78-70-6)またはチモールおよびテルピネオール(テルピネオールC1018O(CAS番号98-55-5)、またはチモールおよびアントシアニン類(アントシアニン)、またはチモールおよびカテキン、またはチモールおよびα-ジンギベレン(C1524 CAS番号495-60-3)およびそれらの混合物;あるいは、チモール、カルバクロールおよびカプサイシン、またはチモール、カルバクロールおよびシンナムアルデヒド、またはチモール、オイゲノールおよびベルバスコシドを含んでいてよい。
【0029】
チモールと、所望によりグループ(I)から選択される別の前記第1活性成分(植物性の化合物)に加えて、本発明の組成物に含まれている混合物Mは、有機酸またはアルカリもしくはアルカリ土類金属カチオンとのその塩をさらに含んでいてもよく、前記有機酸は、乳酸、リンゴ酸、安息香酸、フマル酸、ソルビン酸、クエン酸、オクタン酸、ヘプタン酸、酪酸、ドデカン酸およびそれらの混合物;好ましくは、酪酸、安息香酸、ドデカン酸およびそれらの混合物を含むか、あるいは、前記から構成されるグループ(II)から選択される。例えば、本発明の組成物は、チモールおよびソルビン酸;チモール、ソルビン酸およびクエン酸;チモールおよび安息香酸;チモール、ソルビン酸、クエン酸および安息香酸;チモール、カルバクロールおよびソルビン酸;チモール、カルバクロール、ソルビン酸およびクエン酸;チモール、カルバクロール、シンナムアルデヒドおよびソルビン酸;チモール、カルバクロール、シンナムアルデヒド、ソルビン酸およびクエン酸;チモールおよび酪酸;またはチモール、クエン酸およびドデカン酸;好ましくは、チモールおよび酪酸、チモールおよび安息香酸またはチモールおよびドデカン酸である。本発明の文脈において、チモールおよびグループ(I)から選択される別の前記第1活性成分(植物性の化合物)の両方は、精油、オレオレジンまたは植物抽出物の形態であってもよく、重要な態様は、前記精油またはオレオレジンまたは植物抽出物には、上述の分子(チモールおよびグループ(I)の植物性の化合物)が含まれるという点である。
【0030】
本発明の組成物に含まれている混合物Mにおいて、そのAとBとのモル比(ここで、Aは、チモールと、所望によりグループ(I)から選択される少なくとも1つ以上の前記の別の第1活性成分(植物性の化合物)であり、Bは、グループ(II)から選択される少なくとも1つ以上の有機酸またはその塩である)は、1:500~500:1、好ましくは1:300~300:1、より好ましくは1:100~100:1または1:50~50:1または1:10~10:1の範囲に含まれる。
【0031】
チモールと、所望により、グループ(I)から選択される別の前記第1活性成分および/またはグループ(II)から選択される前記有機酸またはその塩に加えて、記載した実施形態のいずれかに依って、本発明の組成物に含まれる混合物Mは、以下:
-ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、サッカロミセス(Saccaromyces)属に属する細菌株またはプロバイオティクス細菌株;
-プレバイオティクス、例えばイヌリン、ラクチュロース、ラクチトール、マンノオリゴ糖、フラクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖、トリブチリン、モノブチリン(モノブチリンC14 CAS番号557-25-5)、モノラウリン(モノラウリンC1530 CAS番号27215-38-9)およびこれらの混合物など;
-金属塩、例えば、亜鉛および銅;ならびにその混合物、
からなるグループ(III)から選択される少なくとも1つの別の第2活性成分をさらに含んでもよい。
【0032】
さらに、本発明の組成物は、記載された実施形態のいずれか1つに従って、チモールと、所望によりグループ(I)および/または(II)および/または(III)から選択される別の成分を含む前記混合物Mを埋め込むか、または導入される徐放性脂質マトリックスを含んでよい。前記徐放性脂質マトリックスは、C10-30、好ましくはC14-24またはC16-22の範囲に含まれる炭素原子数を有する少なくとも1つの飽和または不飽和の遊離またはエステル化脂肪酸ならびに/またはC6-30、好ましくはC14-24またはC17-21の範囲に含まれる炭素原子数を有する少なくとも1つの飽和または不飽和脂肪酸鎖を有するトリグリセリド、ならびに/またはC16-36、好ましくはC24-36またはC26-32の範囲に含まれる炭素原子数を有する少なくとも1つのワックスを含むか、あるいはそれらから成る;前記脂質マトリックスは、胃の酸性pHから胃壁を保護することが可能であり、治療種および使用される脂質マトリックスタイプの機能として、チモールおよび混合物Mの中に存在し得る別の成分の腸内徐放性の放出を可能にする。徐放性放出は、2時間~24時間、好ましくは4時間~8時間の範囲に含まれる時間にわたり起こり得る。
【0033】
マトリックスMおよびそれを含む組成物は、当業者に公知の技術および装置を用いて製造される。特に、マトリックスMを製造する工程は、ミキサーまたは撹拌手段もしくは混合手段および加熱手段を備えた容器中で、チモールと、所望により記載された実施形態のいずれかに関するグループ(I)および/または(II)および/または(III)から選択される1つまたは複数の別の成分を、全ての化合物と成分が全体としてマトリックスの中に一緒に埋め込まれるように、脂質マトリックスと一緒に混合する工程を提供する。
【0034】
「トリグリセリド」(または、トリアシルグリセロール)は、ヒドロキシル基の水素原子の代わりに3つの長鎖脂肪酸の鎖が存在するグリセロールの中性エステルである。一般的なトリグリセリド構造における脂肪酸の鎖長は、炭素原子数5~28であるが、17~19がより一般的である。
【0035】
用語「脂肪酸」(略称としてFA)という用語は、主に、偶数の炭素原子を有しており、分岐がなく、非環状(すなわち、環状の閉環を有しない分子で構成する)の長鎖脂肪族モノカルボン酸(構成炭素原子数は、C10~C30の範囲に含まれる)を示すために用いられるが、それだけに限定されるものではない。脂肪酸は、飽和(分子が、単結合のC-C結合のみを持つ場合)または不飽和(分子が二重結合のC=C結合を持つ場合)であることが可能である。
【0036】
「ワックス」という用語は、高分子量の一価アルコールとの長鎖脂肪酸エステルを示すために使用される。ワックスには、植物由来と動物由来のもの(蜜蝋)とがある。蜜蝋は、炭化水素14%、モノエステル35%、ジエステル14%、トリエステル3%、ヒドロキシモノエステル4%、ヒドロキシポリエステル8%、酸性エステル1%、酸性ポリエステル2%、遊離酸12%、遊離アルコール1%、不特定物質6%などの様々な化合物で構成されている。蜜蝋の主成分は、長鎖(炭素数30~32)脂肪族アルコールにより形成されるパルミテート、パルミチン酸、ヒドロキシパルミテートおよびオレイン酸エステルであり、2つの主成分であるパルミチン酸トリアコンタニル(パルミチン酸ミリシル)CH(CH)29O-CO-(CH)14CHおよびセロチン酸CH(CH)24COOHは、6:1である。蜜蝋は、62℃~64℃の間の融点を示す。15℃での密度は、0.958g/cm~0.970g/cmの範囲である。蜜蝋は大きく2種類に分類され得る。ヨーロッパ型と東洋型に分けられる。鹸化度は、ヨーロッパ型が3~5、東洋型が8~9である。
【0037】
前記徐放性脂質マトリックスに含まれるトリグリセリドは、植物または動物由来の水素化または非水素化トリグリセリドであってもよく、好ましくは植物および/または動物由来の水素化トリグリセリド、より好ましくは植物由来の水素化トリグリセリドである。
前記徐放性脂質マトリックス中に含まれる前記脂肪酸は、植物および/または動物由来の水素化もしくは非水素化脂肪酸、またはそのエステルであってもよく、好ましくは植物および/または動物由来の水素化脂肪酸、より好ましくは植物由来の水素化脂肪酸である。
前記徐放性脂質マトリックス中に含まれる前記ワックスは、植物および/または動物由来であってもよく、好ましくは蜜蝋である。
【0038】
植物起源の前記脂肪酸、トリグリセリドまたはワックスの例としては、水素化形態であっても、パーム油、ひまわり油、コーン油、菜種油、ピーナッツ油、大豆油、オリーブ油、蜜蝋およびそれらの混合物などである。また動物起源のトリグリセリドの例としては、水素化形態であっても、ニワトリの脂肪、水素化されたニワトリの脂肪、牛脂および豚ラードからも選択される。
【0039】
本発明の組成物は、1%~80%、好ましくは10%~50%、より好ましくは15%~45%の範囲に含まれる重量%で、チモールと、所望により記載された実施形態のいずれか1つによるグループ(I)、(II)および/または(III)から選択される少なくとも1つの別の成分を含む混合物M;ならびに10~80%の範囲に含まれる重量%、好ましくは40%~60%、より好ましくは45%~55%で本発明の実施形態のいずれか1つの前記徐放性マトリックスを含んでよく、前記%は、組成物の総重量に対するものである。
記載されたいずれかの実施形態に係る本発明の組成物は、飼料または飼料添加物であってもよい。
【0040】
あるいは、記載された実施形態のいずれか1つによる、本発明の前記組成物は、ヒト対象および動物(動物用製品)の両方のための、医薬組成物、医療機器組成物、栄養補助食品、食品(または、新規食品または特定の医薬用途としての食品)、栄養補助食品用組成物であってもよい。
【0041】
有利には、記載された実施形態のいずれかによる本発明の混合物または組成物は、経口使用のために製剤化される。
【0042】
本発明の組成物は、固体形態、例えば、顆粒、フレーク状物、粉末、可溶性粉末、顆粒、錠剤またはカプセル;または液体形態、例えば、溶液、懸濁液、エマルジョン、スプレー形態で分配され得る液体またはシロップから選択される液体形態;または、半液体形態、例えば、ソフトゲルまたはゲルから選択される半液体形態において、経口使用のために製剤されてもよい。
【0043】
好ましくは、本発明の組成物は、固体形態、例えば、顆粒、粉末またはフレーク状物において経口使用するためのものである。
【0044】
有利には、本発明に記載の治療方法において有効であるためには、本発明の組成物は、5mg/kg~5000mg/kg、好ましくは10mg/kg~2000mg/kg、より好ましくは15mg/kg~1000mg/kgの範囲に含まれる量(供給飼料1kgあたりのmg:mg/kg)でチモールを含む1日用量にて必要とする動物に投与される。
【0045】
前記1日の投与量は、必要とする対象に単回投与(1回投与)してもよいし、反復投与(例えば、1日2回、3回または4回)してもよい。
【0046】
最後に、本発明の目的を形成するものとしては、単胃動物;好ましくは単胃哺乳動物、より好ましくは豚の離乳期または初期成長期をサポートするための、記載された実施形態の1つによる本発明の組成物もしくは混合物Mを含む前記飼料または飼料添加物の使用がある。
【0047】
本発明の目的を達成するために、本発明の混合物Mの成分(または、活性成分)、例えばチモール、グループ(I)、(II)および/または(III)の成分を、必要とする動物に、別々に、連続的に、また任意の順序で;例えば、時間間隔が近接した順序で(約0分から30分)または時間的に近接していない順序で(1時間~約4、6、8または12時間)投与してもよく、また同時または異なる頻度で投与してもよい。本発明の混合物Mの前記活性成分が単一の組成物で投与される場合、単一の組成物とは、本発明の組成物に相当する。
【0048】
別段規定されない限り、「xからyの範囲に含まれる」量の成分を含む組成物または混合物またはその他のものという表現は、規定されていなくても、含まれる範囲の極値である前記範囲に存在する全ての量で前記成分が組成物その他中に存在し得ることを示すために使用される。
【0049】
別段規定されない限り、組成物が1つ以上の成分または物質を「含む」という表現は、具体的に示された1つまたは複数の成分または物質以外に、別の成分または物質が存在し得ることを意味する。
【0050】
本発明の文脈では、「治療方法」という表現は、疾病または疾患およびその症状または障害を除去、低下/減少または予防する目的で、細菌株または本発明の組成物を投与することを特徴とする、必要とする対象への介入を示すために使用される。
【0051】
「治療上有効な量」という用語は、個人、研究者、獣医師、医師または別の臨床医もしくは医療従事者により必要かつ規定される組織、体系、哺乳動物またはヒトにおいて生物学的または薬学的応答を誘起する活性化合物および/または細菌株の量を指す。
【0052】
本発明の文脈において、用語「医療機器」とは、1997年2月24日付の政令番号46に則った意味において使用されるか、または新規医療機器規則(EU)2017/745(MDR)に則って使用される。
【0053】
本発明の文脈において、用語「新規食品」とは、1997年付けの規則EC 258に則った意味で使用される。
【0054】
本発明の目的を形成するものは、上記の組成物、好ましくはFR1~FR10およびE1~E10の組成物の製造方法であって、水中油型エマルジョンおよび別に油中水型エマルジョンを製造する工程を提供し、前記エマルジョンは、固体形態の組成物を得るために混合物を構成するグループ(I)および/またはグループ(II)および/またはグループ(III)の成分を含有するものである。
【0055】
本発明の実施形態FRnを、以下に記載する。
【0056】
FR1.ヒト、単胃動物、鳥類または魚類において、エンドカナビノイド系の受容体および/または酵素を調節することにより、炎症性および/または機能性腸疾患、または関連症状の予防および/または治療的処置のための方法に使用するための組成物であって、
前記組成物は、以下:
-チモールを含む混合物Mまたはチモールから成る混合物M;および、所望により
-少なくとも1つの許容される医薬グレードまたは食品グレードの添加剤および/または賦形剤、を含む。
【0057】
FR2.前記組成物が、豚のような単胃哺乳類;好ましくは、離乳期の豚のような単胃動物または単胃哺乳類に使用するためのものである、FR1の使用のための組成物。
【0058】
FR3.前記疾患または症状が、慢性過敏性腸疾患(IBD)、クローン症候群またはクローン病、潰瘍性大腸炎、分類不能大腸炎、顕微鏡的大腸炎、膠原病性大腸炎、リンパ球浸潤性大腸炎、虚血性大腸炎、便流変更性大腸炎、回腸嚢炎、過敏性腸症候群(IBS)、下痢型IBS、便秘型IBS、混合型IBS、分類不能型IBS、ディスペプシア、悪心、嘔吐、便秘、下痢、腹部膨満、鼓腸および肉体疲労から選択される、FR1~2のいずれか1つの使用するための組成物。
【0059】
FR4.前記組成物が、チモールを含む混合物Mまたはチモールから成る混合物Mを埋め込むか、または組み込む徐放性脂質マトリックスをさらに含んでおり、前記徐放性脂質マトリックスは、少なくとも1つのC10-C30の範囲に含まれる炭素原子数を有する飽和または不飽和の遊離またはエステル化脂肪酸、および/または少なくとも1つのC-C30の範囲に含まれる炭素原子数を有する飽和または不飽和脂肪酸鎖を有するトリグリセリド、および/または少なくとも1つのC16-C36の範囲に含まれる炭素原子数を有するワックスを含むか、またはそれらから成り、前記脂質マトリックスにより、胃保護および/または混合物Mの徐放性腸内放出、好ましくは混合物中に含まれるチモールの徐放性腸内放出が可能となる、FR1~3のいずれか1つの使用のための組成物。
【0060】
FR5.前記徐放性放出脂質マトリックスは、C14-C24の範囲に含まれる炭素原子数を有する植物由来の少なくとも1つの水素化脂肪酸および/またはC14-C24の範囲に含まれる炭素原子数を有する植物由来の少なくとも1つの水素化トリグリセリドおよび/またはC24-C36の範囲に含まれる炭素原子数を有する動物由来の少なくとも1つのワックスを含むか、またはそれらから成り;好ましくは、前記脂肪酸、トリグリセリドまたはワックスが、パーム油、ヒマワリ油、コーン油、菜種油、ピーナッツ油、大豆油、オリーブ油、蜜蝋およびそれらの混合物から選択される、FR1~4のいずれか1つの使用のための組成物。
【0061】
FR6.前記混合物Mは、カルバクロール、オイゲノール、カプサイシン、ウコン、バニリン、シンナムアルデヒド、ジアリルジスルフィド、樟脳、リモネン、ロスマリン酸、p-シメン、γ-テルピネン、α-ピネン、α-ツジョン、1,8-シネオール、ベルバスコシド、タンニンおよびそれらの混合物を含むか、またはそれらから成るグループ(I)から選択される、少なくとも1つの第1活性成分、好ましくは植物性の化合物(植物性成分)から得られる第1活性成分をさらに含む、FR1~5のいずれか1つの使用のための組成物。
【0062】
FR7.前記組成物が、チモールおよびカルバクロール、またはチモールおよびバニリン、またはチモール、カルバクロールおよびカプサイシン、またはチモール、カルバクロールおよびシンナムアルデヒド、またはチモール、オイゲノールおよびベルバスコシドを含む、FR1~6のいずれか1つの使用のための組成物。
【0063】
FR8.前記組成物に含まれる混合物Mは、チモールに加えて、所望によりグループ(I)から選択される前記別の第1活性成分(植物性成分)、有機酸またはアルカリもしくはアルカリ土類金属カチオンとのその塩を含んでおり、前記有機酸は、乳酸、リンゴ酸、安息香酸、フマル酸、ソルビン酸、クエン酸、オクタン酸、ヘプタン酸、酪酸、ドデカン酸およびそれらの混合物を含むか、またはそれらから成るグループ(II)から選択され:好ましくは、チモールおよびソルビン酸、またはチモール、ソルビン酸およびクエン酸、またはチモールおよび安息香酸、またはチモール、ソルビン酸、クエン酸および安息香酸、またはチモール、カルバクロールおよびソルビン酸、またはチモール、カルバクロール、ソルビン酸およびクエン酸、またはチモール、カルバクロール、シンナムアルデヒドおよびソルビン酸、またはチモール、カルバクロール、シンナムアルデヒド、ソルビン酸およびクエン酸、またはチモールおよび酪酸、またはチモール、クエン酸およびドデカン酸を含んでもよい、FR1~7のいずれか1つの使用のための組成物。
【0064】
FR9.前記混合物Mが、以下:
-ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、サッカロミセス(Saccaromyces)属に属する細菌株またはプロバイオティックス細菌株;および/または
-プレバイオティクス、例えばイヌリン、ラクチュロース、ラクチトール、マンノオリゴ糖、フラクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖、トリブチリンなど;および/または
-金属塩、例えば、亜鉛および銅;ならびにその混合物、
からなるグループ(III)から選択される少なくとも1つの別の第2活性成分をさらに含む、FR1~8のいずれか1つの使用のための組成物。
【0065】
FR10.前記組成物が、単胃動物および/または離乳期もしくは初期成長期の単胃動物用の飼料または飼料添加剤;好ましくは単胃哺乳類用、より好ましくは豚用の飼料または飼料添加剤である、FR1~9のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【0066】
E1.ヒト、単胃動物、鳥類または魚類において、エンドカンナビノイド系の受容体および/または酵素を調節することにより、炎症性および/または機能性腸疾患、または関連症状の予防および/または治療的処置ための方法における使用のための組成物であって、前記組成物は、以下:
-チモールを含む混合物Mまたはチモールから成る混合物M;ならびに、所望により
-少なくとも1つの許容される医薬グレードまたは食品グレードの添加剤および/または賦形剤を含んでおり、
前記組成物は、チモールを含む混合物Mまたはチモールから成る混合物Mを埋め込むか、または組み込む徐放性脂質マトリックスをさらに含んでおり、前記徐放性脂質マトリックスは、少なくとも1つのC10-C30の範囲に含まれる炭素原子数を有する飽和または不飽和の遊離またはエステル化脂肪酸、および/または少なくとも1つのC-C30の範囲に含まれる炭素原子数を有する飽和または不飽和脂肪酸鎖を有するトリグリセリド、および/または少なくとも1つのC16-C36の範囲に含まれる炭素原子数を有するワックスを含むか、またはから成り、前記脂質マトリックスにより、胃保護および/または混合物Mの徐放性腸内放出、好ましくは混合物中に含まれるチモールの徐放性腸内放出が可能となる、組成物。
【0067】
E2.前記組成物が、豚のような単胃哺乳類;好ましくは、離乳期の豚のような単胃動物または単胃哺乳類に使用するためのものである、E1の使用のための組成物。
【0068】
E3.前記疾患または症状が、慢性過敏性腸疾患(IBD)、クローン症候群またはクローン病、潰瘍性大腸炎、分類不能大腸炎、顕微鏡的大腸炎、膠原線維性大腸炎、リンパ球浸潤性大腸炎、虚血性大腸炎、便流変更性大腸炎、回腸嚢炎、過敏性腸症候群(IBS)、下痢型IBS、便秘型IBS、混合型IBS、分類不能型IBS、ディスペプシア、悪心、嘔吐、便秘、下痢、腹部膨満、鼓腸および肉体疲労から選択される、E1または2のいずれか1つの使用のための組成物。
【0069】
E4.前記徐放性放出脂質マトリックスは、C14-C24の範囲に含まれる炭素原子数を有する植物由来の少なくとも1つの水素化脂肪酸および/またはC14-C24の範囲に含まれる炭素原子数を有する植物由来の少なくとも1つの水素化トリグリセリドおよび/またはC24-C36の範囲に含まれる炭素原子数を有する動物由来の少なくとも1つのワックスを含むか、またはそれらから成り;好ましくは、前記脂肪酸、トリグリセリドまたはワックスが、パーム油、ヒマワリ油、コーン油、菜種油、ピーナッツ油、大豆油、オリーブ油、蜜蝋およびそれらの混合物から選択される、E1~3のいずれか1つの使用のための組成物。
【0070】
E5.前記混合物Mは、カルバクロール、オイゲノール、カプサイシン、ウコン、バニリン、シンナムアルデヒド、ジアリルジスルフィド、樟脳、リモネン、ロスマリン酸、p-シメン、γ-テルピネン、α-ピネン、α-ツジョン、1,8-シネオール、ベルバスコシド、タンニン、メンソール、リナロール(リナロールC1018O(CAS番号78-70-6)、テルピネオール(テルピネオールC1018O(CAS番号98-55-5))、アントシアニン類(アントシアニン)、カテキン、α-ジンギベレン(C1524 CAS番号495-60-3)およびこれらの混合物を含むか、またはから成るグループ(I)から選択される、少なくとも1つの第1活性成分、好ましくは植物性の化合物(植物性成分)から得られる第1活性成分をさらに含むか、E1~4のいずれか1つの使用のための組成物。
【0071】
E6.前記組成物が、チモールおよびカルバクロール、またはチモールおよびバニリン、またはチモールおよびメントール、またはチモールおよびリナロール(リナロールC1018O(CAS番号78-70-6)、またはチモールおよびテルピネオール(テルピネオールC1018O(CAS番号98-55-5))、またはチモールおよびアントシアニン類(アントシアニン)、またはチモールおよびカテキン類、またはチモールおよびα-ジンギベレン(C1524 CAS番号495-60-3)ならびにそれらの混合物;あるいは、チモール、カルバクロールおよびカプサイシン、またはチモール、カルバクロールおよびシンナムアルデヒド、またはチモール、オイゲノールおよびベルバスコシドを含む、E1~5のいずれか1つの使用のための組成物。
【0072】
E7.前記組成物に含まれる混合物Mは、チモールに加えて、所望によりグループ(I)から選択される別の前記第1活性成分(植物性成分)、有機酸またはアルカリもしくはアルカリ土類金属カチオンとのその塩を含んでおり、前記有機酸は、乳酸、リンゴ酸、安息香酸、フマル酸、ソルビン酸、クエン酸、オクタン酸、ヘプタン酸、酪酸、ドデカン酸およびそれらの混合物を含むか、またはそれらから成るグループ(II)から選択され:好ましくは、チモールおよびソルビン酸、またはチモール、ソルビン酸およびクエン酸、またはチモールおよび安息香酸、またはチモール、ソルビン酸、クエン酸および安息香酸、またはチモール、カルバクロールおよびソルビン酸、またはチモール、カルバクロール、ソルビン酸およびクエン酸、またはチモール、カルバクロール、シンナムアルデヒドおよびソルビン酸、またはチモール、カルバクロール、シンナムアルデヒド、ソルビン酸およびクエン酸、またはチモールおよび酪酸、またはチモール、クエン酸およびドデカン酸を含んでもよい、E1~6のいずれか1つの使用のための組成物。
【0073】
E8.前記混合物Mが、以下:
-ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、サッカロミセス(Saccaromyces)属に属する細菌株またはプロバイオティック細菌株;および/または
-プレバイオティクス、例えばイヌリン、ラクチュロース、ラクチトール、マンノオリゴ糖、フラクトオリゴ糖およびガラクトオリゴ糖、トリブチリン、モノブチリン(モノブチリン C14 CAS番号557-25-5)、モノラウリン(モノラウリン C1530 CAS番号27215-38-9)およびそれらの混合物;および/または
-金属塩、例えば、亜鉛および銅;ならびにその混合物、
からなるグループ(III)から選択される少なくとも1つの別の第2活性成分をさらに含む、E1~7のいずれか1つの使用のための組成物。
【0074】
E9.前記組成物が、単胃動物および/または離乳期もしくは初期成長期の単胃動物用の飼料または飼料添加剤;好ましくは単胃哺乳類用、より好ましくは豚用の飼料または飼料添加剤である、E1~8のいずれか1つの使用のための組成物。
【0075】
E10.E1~E9のいずれか1つに記載の組成物の製造方法であって、前記方法は、水中油型エマルジョンあるいは油中水型エマルジョンを製造する工程を提供し、前記エマルジョンは、固体形態の組成物を得るために混合物を構成するグループ(I)および/またはグループ(II)および/またはグループ(III)の成分を含有する、方法。
【0076】
実験部
本試験の目的は、内在性カンナビノイドシステムおよび豚の腸管ケモセンシングシステムのマーカーの存在を試験することであり、第二に、チモールがこれらのマーカーをどのように調節するかを実証することである。
【0077】
方法
倫理に関する記述
本試験は、優良試験所規範の認証を受け、動物の保護および福祉の手引き(規制番号86/609/EEC)に従って運営されている動物生産・環境研究センター(CER-O)の施設において実施した。本試験で使用した動物は、欧州連合規制2010/63/EUに従って飼育および処理されたものである。本試験は、実験およびその他の科学的目的のために使用される動物の生育および飼育を扱う法律であるイタリア立法令第31号およびイタリア委員会推奨2007/526/ECに従ってイタリア厚生省の認可を受けている。動物は、イタリアのベルガモにあるカシーナ・マンデリーナの飼育農場から入手した。
【0078】
動物および飼料
28日齢で離乳させ、体重(BW)が7.71±1.00kgの子豚(Duroc-Large White)150頭を、40の飼育小屋に分けて(飼育小屋あたり子豚4頭、去勢した雄と雌を、別々の飼育小屋に入れる)、以下の実験グループ(n=32)のいずれかにランダムに割り付けた:基本飼料を与えるコントロール群(T1)、1kg飼料当たりに25.5mgのチモールを添加した基本飼料を与えた群(T2)、1kg飼料当たりに51mgのチモールを添加した基本飼料を与えた群(T3)、1kg飼料当たりに153mgのチモールを添加した基本飼料を与えた群(T4)および1kg飼料当たりに510mgのチモールを添加した基本飼料を与えた群(T5)。チモールは、脂質マトリックス(VetagroSpA, ReggioEmilia, Italy)に埋め込まれた形態で(マイクロカプセル化された形態で)提供された。チモールの濃度は、欧州医薬品庁が定めた食品および飼料への含有上限を満たすか、または上限を超えるように選択された。基本飼料は、国の評議会に従い、豚の栄養所要量を満たすか、または上限を超えるように配合し、飼料および水を自由摂取させた(基本飼料の組成は、表1に示す)。試験中、動物の健康状態をモニタリングした。子豚の体重は、試験の開始時(0日目)と終了時(14日目)に各々測定した。実験14日目(d14)に、各飼育小屋に収容された動物のFI、ADFI、ADGおよびF:G(FI-飼料摂取量;ADFI-1日平均飼料摂取量;ADG-1日平均増加量;F:G-飼料/増加比)などの生育パラメータを測定した。
【表1】
【0079】
試験終了時、各投与群から8匹を屠殺し、試料を採取し、分析した。十二指腸および回腸の粘膜を、かき取り、採取した。十二指腸および回腸を、縦に切断して粘膜を露出させ、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄して粘液および消化物を除去した後、優しく掻き取り、袋に封入後、直ちに液体窒素で凍結し、遺伝子およびタンパク質発現の分析まで-80℃で保存した。
【0080】
遺伝子発現解析
遺伝子発現は、Herfelらにより報告された方法[The Journal of Nutrition. 2011; 141:2139-45]を用いて分析した。試験の14日目に採取した十二指腸および回腸を掻取った試料を、液体窒素中で乳鉢と乳棒を用いて粉砕して、Tissue Lyser(Qiagen, Hilden, Germany)を用いてホモジナイズした。全RNA量は、Nucleo Spin(登録商標)RNA Kit(Macherey-Nagel, Dueren, Germany)を用いて、製造元の説明書に従って単離された。ゲノムDNAの混入は、抽出キットに付属のデオキシリボヌクレアーゼ(rDNase, RNase-free;Macherey-Nagel)でサンプルを処理することにより除去した。RNAの収量および品質は、260nmおよび280nmの吸光度を測定することにより分光光度法で決定した(Microvolume Mode with SmartPathR Technology, Denovix)。1μgのRNAを、iScript cDNA Synthesis Kit (Bio-Rad Laboratories Inc., Hercules, CA, USA)を用いて、製造者の指示に従って逆転写した。リアルタイムPCRは、iCycler Thermal Cycler system and SybrGreen Supermix (Bio-Rad Laboratories Inc.)を用いて実施した。サーモサイクルプロトコルは、95℃で1分30秒の初期変性ステップ、その後95℃で15秒の変性および60℃で30秒のアニーリングおよび伸長を40サイクル行った。増幅後、溶融曲線分析を全てのサンプルについて行い、55℃~95℃まで0.50℃/秒の速度でゆっくりと加熱し、非特異的産物が存在しないことを確認した。遺伝子発現は、豚のリボソームサブユニット60Sの一部、特にリボソームタンパク質L35(RPL35)をコードするハウスキーピング遺伝子(HK)に対して正規化された。平均閾値サイクル(CT)を、各目的遺伝子について決定し、幾何平均を、CTが固定した任意の閾値に達するのに必要なサイクル数であるという仮定によりHKについて算出した。デルタCTを算出した後、2-ΔΔCT方法[Livak KJ, et al., Methods 2001; 25:402-8]を改変して、相対発現量を解析し、コントロール群に対する相対発現量(倍率変化:fold changes)を算出した。配列、EMBLデータベース/GenBankにおけるアクセション番号、予想される産物の長さ、および豚プライマーの参照配列を、表2に示す。CB1、DGL-βおよびOR1G1についてのプライマーオリゴヌクレオチドは、Primer-BLASTツール(NCBI National Center for Biotechnology Information, www.ncbi.nlm.nih.gov)を用いて設計した。プライマーは、Life Technologies (Life Technologies Italia)から入手した。
【0081】
表2.bp:産物の長さ;F:フォワード;R:リバース
【表2】
【0082】
統計解析
動物を完全無作為化により群分けを行い、データはGraphPad PrismR software (GraphPad Software, Inc., La Jolla, CA, USA)を用いて分析した。データは、一元配置分散分析(one-way ANOVA)およびTukey事後検定を用いて分析し、処理群間の差異を検出した。飼育小屋は、成長パフォーマンスに対する実験単位であり、一方で、豚は、遺伝子発現の実験単位である。差はP<0.05で有意とみなし、傾向は0.05<P<0.1と定義した。
【0083】
結果
成長パフォーマンス
実験期間中、子豚は、良好な健康状態を維持しており、死亡は記録されなかった。実験期間中に、体重(BW)、飼料摂取量(FI)、1日平均飼料摂取量(ADFI)、1日平均体重増加量(ADG)、飼料:体重増加比(F:G)についての処理群間の差異は認められなかった(データ示さず)。
【0084】
内在性カンナビノイドシステム(ECS)
図1は、14日目(d14)の十二指腸粘膜および回腸粘膜におけるカンナビノイド受容体の遺伝子発現データをまとめたものである。カンナビノイド受容体1および2のmRNAは、十二指腸粘膜および回腸粘膜の両方で検出された。CB1 mRNAのレベルは、コントロール群と比較して、T5群の十二指腸(P=0.0209)、T4群およびT5群の回腸(P=0.0054)で有意に増加した。CB2 mRNAのレベルは、コントロール群と比較して、T4群およびT5群の十二指腸および回腸の両方で有意に増加した(各々P=0.004およびP=0.0162)。ECS酵素の遺伝子発現に関するデータを、図2に示す。試験した全ての酵素のmRNAの存在が確認された。FAAH mRNAレベルの差は、十二指腸では観察されなかったが、T4群の回腸ではコントロール群と比較して、FAAH mRNAレベルが有意に増加した(P=0.0028)。
【0085】
腸管ケモセンシングシステム
腸管ケモセンシングに関する結果を、図3に示す。腸管ケモセンシングマーカーに関しては、十二指腸および回腸粘膜でTRPV1およびOR1G1(Olfactory receptor 1G1)の両方のmRNAが検出された。さらに、1kg飼料当たりに510mgチモールの投与終了時に、十二指腸のTRPV1 mRNAレベルが増加し(P=0.0382)、T4群およびT5群の回腸では、コントロール群と比較してTRPV1 mRNAレベルの増加が認められた(P=0.0183)。OR1G1 mRNAは、コントロール群と比較して、1kg飼料当たりに510mg チモールを添加した飼料を与えた動物(T5)の十二指腸(P=0.0210)および1kg飼料当たりに153mg チモールを与えた動物(T4)の回腸(P=0.0235)において高いレベルで発現していた。
【0086】
結論
結論として、本試験のデータは、子豚の十二指腸および回腸粘膜に内在性カンナビノイドシステム(ECS)および腸管ケモセンシングマーカーが存在することを確認するだけでなく、チモールがこれらのマーカーの遺伝子発現を調節することを実証するものであった。チモールは、十二指腸および回腸の両方で、CB1およびCB2受容体をコードするmRNAの発現を増加させた。チモールはまた、内在性カンナビノイド分子の生合成および分解に関与する酵素(例えば、FAAH)のmRNAレベルを調節する。さらに、チモールが腸内で行うOR1G1およびTRPV1(化学感覚受容体)のアップレギュレーションは、特に、離乳期および成長期の動物の腸の健康を増進するための飼料添加剤としてのチモールの役割に関する可能性を示している。
図1
図2
図3
【配列表】
2023524560000001.app
【国際調査報告】