(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-12
(54)【発明の名称】心内膜細胞を作製および使用するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20230605BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230605BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230605BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230605BHJP
【FI】
C12N5/077
C12Q1/02
C12N5/071
C12N15/09 Z ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567554
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(85)【翻訳文提出日】2022-12-27
(86)【国際出願番号】 IB2021053915
(87)【国際公開番号】W WO2021224885
(87)【国際公開日】2021-11-11
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508265055
【氏名又は名称】ユニバーシティー ヘルス ネットワーク
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ケラー ゴードン
(72)【発明者】
【氏名】ミクリュコフ アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】マジネ アミネ
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス イアン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS36
4B063QX01
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BB04
4B065BB19
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
多能性幹細胞から心内膜細胞を作製するための方法および組成物が記載され、そのような細胞を使用するための方法および組成物もまた記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心内膜細胞の集団を作製する方法であって:
心血管前駆細胞を提供する段階;ならびに
適切な培養条件下で、心血管前駆細胞を、FGFおよびBMPと接触させる段階
を含み、それにより、表現型としてNKX2-5+かつCD31+である心内膜細胞の集団を作製する、前記方法。
【請求項2】
心血管前駆細胞が、多能性幹細胞に由来する心血管前駆細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
心血管前駆細胞が、心血管中胚葉細胞に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
心血管前駆細胞がヒト細胞である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
BMPがBMP10およびBMP4から選択される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
FGFがbFGFである、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
適切な培養条件が、VEGFが存在しないことを含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
適切な培養条件が、Wnt阻害剤が存在しないことを含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
心内膜細胞の集団が、表現型としてGATA4+、GATA5+、NFATC1+、NPR3+、かつNRG1+である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
心内膜細胞の集団が、表現型としてENG+(CD105+)である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記請求項のいずれか一項に記載の方法によって作製された、心内膜細胞。
【請求項12】
bFGF、BMP2、およびTGFβ2の存在下で、心内膜細胞の集団由来のPDGFRb+細胞を培養する段階をさらに含み、それにより、表現型としてSOX9+、MSX2+、VIM+、VCAN+、COL1A1+、COL3A1+、POSTN+、CDH11+、NR4A2+、PRRX2+、TIMP3+、RGS5+、かつITGA2+である弁間質様細胞(VIC)を作製する、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法によって作製された、弁間質様細胞(VIC)。
【請求項14】
冠状血管内皮様細胞を作製する方法であって、
請求項11に記載の心内膜細胞を、a) VEGFAと、続いてb) VEGFBと接触させる段階
を含み、それにより冠状血管内皮様細胞を作製する、前記方法。
【請求項15】
表現型としてMYL2+(MLC2V+)かつCTNT+である心室心筋細胞の存在下で、心内膜細胞の集団を培養する段階をさらに含み、それにより、表現型としてBMP10+、NPPA+、NPPB+、IRX3+、GJA5+、MYL2+、かつCTNT+である肉柱心筋細胞を作製する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
培養が、VEGFAの存在下である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
表現型としてBMP10+、NPPA+、NPPB+、IRX3+、GJA5+、MYL2+、かつCTNT+である、請求項15または16に記載の方法によって作製された、肉柱心室心筋細胞。
【請求項18】
心筋層において冠状血管系を補填する方法であって、
請求項11に記載の心内膜細胞および/または請求項14に記載の冠状血管内皮細胞を、心組織へと送達する段階
を含み、それにより冠状血管系を補填する、前記方法。
【請求項19】
心組織がダメージを受けている、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
心筋層を補填することにより、心筋細胞移植片を改善する方法であって、
請求項11に記載の心内膜細胞および/または請求項14に記載の冠状血管内皮細胞と組み合わせて、心室心筋細胞を送達する段階
を含み、それにより心筋層を補填する、前記方法。
【請求項21】
心組織がダメージを受けている、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
心内膜細胞、弁間質様細胞、冠状血管内皮様細胞、または肉柱心筋細胞に対する毒性を示す試験化合物をスクリーニングする方法であって、
請求項11に記載の心内膜細胞、請求項13に記載の弁間質様細胞、請求項14に記載の冠状血管内皮様細胞、および/または請求項17に記載の肉柱心室心筋細胞を、試験化合物と接触させる段階、ならびに
いずれかのそのような細胞の生存率を低下させる試験化合物を同定する段階
を含む、前記方法。
【請求項23】
試験化合物が、タンパク質、小分子、および核酸からなる群より選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
弁間質様細胞を作製する方法であって、
適切な培養条件下で、請求項11に記載の心内膜細胞を、BMP2/4およびTGFβ2と接触させる段階、または
請求項11に記載の心内膜細胞を、a) CHIR99021、SB-431542、bFGF、およびBMP2/4と、続いてb) bFGF、BMP2/4、およびTGFβ2と接触させる段階
を含み、それにより弁間質様細胞を作製する、前記方法。
【請求項25】
弁間質様細胞(VIC)が、表現型としてSOX9+、MSX2+、VIM+、VCAN+、COL1A1+、COL3A1+、POSTN+、CDH11+、NR4A2+、PRRX2+、TIMP3+、RGS5+、かつITGA2+である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
肉柱心室心筋細胞を作製する方法であって、
適切な培養条件下で、心室心筋細胞を、請求項11に記載の心内膜細胞または外因性のニューレグリン(NRG1)と接触させる段階
を含み、それにより肉柱心室心筋細胞を作製する、前記方法。
【請求項27】
外因性のNRG1が組換えである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
細胞においてニューレグリンの産生を誘導する方法であって、
適切な条件下で、請求項11に記載の心内膜細胞を、心室心筋細胞と接触させる段階
を含む、前記方法。
【請求項29】
請求項11に記載の心内膜細胞および/または請求項13に記載の弁間質様細胞を用いて作製された、生体弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年5月8日に提出された米国特許出願第63/021,999号の恩典を主張する。該先行出願の開示は、本出願の開示の一部であるとみなされる(かつ、参照により本出願の開示に組み入れられる)。
【0002】
技術分野
本開示は、心内膜細胞、ならびにそのような細胞を作製および使用するための、方法および組成物に関連する。
【背景技術】
【0003】
背景
心臓は、心筋細胞の細胞系譜と非心筋細胞の細胞系譜とから構成されており、これらは胚発生中に、異なる時点において異なる前駆細胞集団から特定化される。異なる細胞型間での相互作用は心臓発生に必須であり、かつ成体の該臓器におけるホメオスタシスおよび正常な機能を維持するためにも必須である。心臓発生の最も初期のステージの1つは、原始心管の形成であり、これは、心筋細胞である外層に覆われた、心内膜細胞として知られる特化した内皮細胞である内層からなる。該心内膜細胞は、心筋細胞の最初の機能的な集団、すなわち肉柱心筋細胞の誘導に関与しているため、心臓発生において中心的な役割を果たすものである。
【0004】
肉柱心筋細胞は、肉柱として知られる指状の突起を形成し、これは、発生中の心房および心室の内腔に突き出して、胚の期間中に筋肉量を急速に増加させるように機能する。心筋細胞における肉柱運命の誘導は、心内膜細胞によって分泌されるニューレグリンを介する、ニューレグリン/ERBB2シグナル伝達によって媒介される。心内膜への特定化および心内膜の形成を妨害すると、肉柱形成の欠如、成熟化の阻止、および胚性致死が引き起こされるため、前述の初期の誘導段階は、正常な心臓発生に必須である。肉柱心筋層は、最初の収縮組織を形成するのに加えて、伝導系細胞のサブ集団である、プルキンエ繊維をも生じさせる。発生が進行するにつれて、肉柱心筋層の大半は、緻密心筋細胞から構成される緻密心筋層によって置き換えられる。緻密心筋層は、成体における心機能に必要な、力を発生させる組織を形成する。
【0005】
肉柱心筋層の誘導を過ぎると、胚の心内膜は、心臓におけるいくつかの他の細胞型のための前駆細胞の供給源として作用する。胚の心内膜は、心臓において冠状血管系を構成する内皮の一部を生じさせることが、細胞系譜追跡試験および遺伝子ターゲティング試験により示されている。冠状血管内皮は、エネルギー需要の高い臓器において機能するのに適している、血液浸透圧への独特な応答と脂肪酸の高い輸送能力とを示す点で、他の内皮とは異なっている。心内膜は、冠状血管内皮に加えて、心臓弁を形成する細胞型である、弁内皮細胞(VEC)および弁間質細胞(VIC)をも生じさせる。
【0006】
心内膜の細胞系譜は、その独特な機能的特性に加えて、その発生起源によっても、他の内皮集団とは区別される。心内膜の細胞系譜は、重要な心臓系転写因子であるNKX2-5を発現し、かつ二次心臓領域の発生の調節因子であるISL1を発現する前駆細胞集団から、特定化される。心内膜の発生中に、NKX2-5は、内皮の細胞系譜および心内膜の細胞系譜の発生に必須の転写因子であるETV2を、直接的に活性化する。NKX2-5+細胞のプール内で、ETV2はNFATC1の発現を上方制御するように機能し、これは次に、心筋細胞運命を代償として、心内膜の発生を促進する。
【0007】
心臓発生における、心内膜の細胞系譜の中心的役割から見て、多能性幹細胞(PSC)(たとえばヒトPSC(hPSC))から該内皮細胞を作製することが可能であるならば、新規でありかつ潜在的に無限である、該内皮細胞の供給源であって、治療への適用のために、冠状血管内皮細胞および生体弁を作製するための供給源、疾患のモデリングおよび薬剤のスクリーニングのために、心組織を改変するための供給源、ならびに該内皮細胞の発生起源の研究に使用するための供給源が、提供され得る。
【発明の概要】
【0008】
概要
NKX2-5+ CD31+心内膜様集団の発生を促進する調節経路を同定しそして特徴付けするために、レポーター細胞株が使用された。これらの条件下で作製された細胞は、インビボにおいて心内膜の細胞系譜を決定付け、かつ肉柱運命を誘導する能力を証明する、一群のマーカーを発現している。本明細書において記載される、シグナル伝達経路の解析により、この集団の重要な調節因子としてBMP10が同定された。該NKX2-5+ CD31+細胞の特徴は、BMP10の非存在下で作製された、hPSC由来NKX2-5-内皮細胞の特徴とは、区別される。
【0009】
1つの局面において、心内膜細胞の集団を作製する方法が提供される。そのような方法は、典型的には、心血管前駆細胞を提供する段階;ならびに適切な培養条件下で心血管前駆細胞をFGFおよびBMPと接触させる段階を含み、それにより、表現型としてNKX2-5+かつCD31+である心内膜細胞の集団を作製する。
【0010】
いくつかの態様において、心内膜細胞の集団は、表現型としてGATA4+、GATA5+、NFATC1+、NPR3+、かつNRG1+である。いくつかの態様において、心内膜細胞の集団は、表現型としてENG+(CD105+)である。
【0011】
いくつかの態様において、心血管前駆細胞は、多能性幹細胞に由来する心血管前駆細胞である。いくつかの態様において、心血管前駆細胞は、心血管中胚葉細胞に由来する。いくつかの態様において、心血管前駆細胞はヒト細胞である。
【0012】
いくつかの態様において、BMPはBMP10およびBMP4から選択される。いくつかの態様において、FGFはbFGFである。いくつかの態様において、適切な培養条件は、VEGFが存在しないことを含む。いくつかの態様において、適切な培養条件は、Wnt阻害剤が存在しないことを含む。
【0013】
別の局面において、そのような方法によって作製された心内膜細胞が提供される。
【0014】
いくつかの態様において、そのような方法は、bFGF、BMP2(またはBMP4)、およびTGFβ2の存在下で、心内膜細胞の集団に由来するPDGFRb+細胞を培養する段階をさらに含み、それにより弁間質様細胞(VIC)を作製する。いくつかの態様において、VICは、表現型としてSOX9+、MSX2+、VIM+、VCAN+、COLIA1+、COL3A1+、POSTN+、CDH11+、NR4A2+、PRRX2+、TIMP3+、RGS5+、かつITGA2+である。さらなる別の局面において、そのような方法によって作製された弁間質様細胞(VIC)が提供される。
【0015】
別の局面において、冠状血管内皮様細胞を作製する方法が提供される。そのような方法は、典型的には、本明細書において記載される心内膜細胞を、VEGFAと、続いてVEGFBと接触させる段階を含み、それにより冠状血管内皮様細胞を作製する。
【0016】
いくつかの態様において、そのような方法は、表現型としてMYL2+(MLC2V+)かつCTNT+である心室心筋細胞の存在下で、心内膜細胞の集団を培養する段階をさらに含み、それにより、表現型としてBMP10+、NPPA+、NPPB+、IRX3+、GJA5+、MYL2+、かつCTNT+である肉柱心筋細胞を作製する。いくつかの態様において、培養はVEGFAの存在下である。
【0017】
さらなる別の局面において、そのような方法によって作製された肉柱心室心筋細胞が提供され、ここで肉柱心室心筋細胞は、表現型としてBMP10+、NPPA+、NPPB+、IRX3+、GJA5+、MYL2+、かつCTNT+である。
【0018】
1つの局面において、心筋層において冠状血管系を補填する方法が提供される。そのような方法は、典型的には、本明細書において記載される心内膜細胞および/または本明細書において記載される冠状血管内皮細胞を、心組織へと送達する段階を含み、それにより冠状血管系を補填する。いくつかの態様において、心組織はダメージを受けている。
【0019】
別の局面において、心筋層を補填することによって、心筋細胞移植片を改善する方法が提供される。そのような方法は、典型的には、本明細書において記載される心内膜細胞および/または本明細書において記載される冠状血管内皮細胞と組み合わせて、心室心筋細胞を送達する段階を含み、それにより心筋層を補填する。いくつかの態様において、心組織はダメージを受けている。
【0020】
さらなる別の局面において、心内膜細胞、弁間質様細胞、または肉柱心筋細胞に対する毒性を示す試験化合物をスクリーニングする方法が提供される。そのような方法は、典型的には、本明細書において記載される心内膜細胞、本明細書において記載される弁間質様細胞、本明細書において記載される冠状血管内皮様細胞、および/または本明細書において記載される肉柱心室心筋細胞を、試験化合物と接触させる段階、ならびにいずれかのそのような細胞の生存率を低下させる試験化合物を同定する段階を含む。いくつかの態様において、試験化合物は、タンパク質、小分子、および核酸であり得る。
【0021】
さらなる別の局面において、弁間質様細胞を作製する方法が提供される。そのような方法は、典型的には、適切な培養条件下で、本明細書において記載される心内膜細胞を、BMP2/4およびTGFβ2と接触させる段階か、または本明細書において記載される心内膜細胞を、a) CHIR99021、SB-431542、bFGF、およびBMP2/4と、続いてb) bFGF、BMP2/4、およびTGFβ2と接触させる段階を含み、それにより弁間質様細胞を作製する。いくつかの態様において、弁間質様細胞(VIC)は、表現型としてSOX9+、MSX2+、VIM+、VCAN+、COLIA1+、COL3A1+、POSTN+、CDH11+、NR4A2+、PRRX2+、TIMP3+、RGS5+、かつITGA2+である。
【0022】
さらなる別の局面において、肉柱心室心筋細胞を作製する方法が提供される。そのような方法は、典型的には、適切な培養条件下で、心室心筋細胞を、本明細書において記載される心内膜細胞または外因性のニューレグリン(NRG1)と接触させる段階を含み、それにより肉柱心室心筋細胞を作製する。いくつかの態様において、外因性のNRG1は組換えである。
【0023】
別の局面において、細胞においてニューレグリンの産生を誘導する方法が提供される。そのような方法は、典型的には、適切な条件下で、本明細書において記載される心内膜細胞を、心室心筋細胞と接触させる段階を含む。
【0024】
さらなる別の局面において、本明細書において記載される心内膜細胞および/または本明細書において記載される弁間質様細胞を用いて作製された生体弁が、提供される。
【0025】
別途定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本方法および本組成物が属する技術分野の当業者が通常理解しているものと、同じ意味を有する。本方法および本組成物の実施または試験においては、本明細書において記載されるものと同様のまたは同等の、方法および材料を使用することが可能であるが、適切な方法および材料が後述される。加えて、材料、方法、および実施例は、単なる例示であり、かつこれらは限定することを意図したものではない。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、それらの全体が参照により組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1-1】
図1A~1Iは、造心中胚葉からのNKX2-5+ CD31+細胞の作製を示す実験からのデータを示す。
図1Aは、hPSCからのNKX2-5+ CD31+細胞の産生を調節する重要な経路を同定するために使用された戦略の、概略図である。
図1Bは、分化の第9日における、NKX2-5+かつCD31+である集団の作製に対する、bFGF(グラフ上に記載されている、ng/ml単位の濃度)、BMP4(10 ng/ml)、およびBMP10(10 ng/ml)の作用についての、代表的なフローサイトメトリー解析を示す。
図1C~1Eは、以下の期間のBMPでの特定化後に産生された、NKX2-5+ CD31+細胞の出現頻度の定量を示す:第5日~第9日(D5~D9)(
図1C)、第3日~第9日(D3~D9)(
図1D)、および第7日~第9日(D7~D9)(
図1E)。比較は、矢印で示される最適な条件を用いてなされている(n=4、ANOVA * P<0.05、** P<0.005、*** P<0.0005)。
図1Fは、bFGF(50 ng/ml)の存在下での、記載されている期間にわたるBMP(10 ng/ml)での特定化後に産生された、NKX2-5+ CD31+細胞の総数(1ウェルあたり)を示す。
図1G~1Iは、
図1AにおけるNKX2-5+ CD31+細胞の作製のための、BMP4およびBMP10のタイトレーションを示す。
図1Gは、bFGF(50 ng/ml)の存在下で、記載されている濃度(ng/ml)のBMP4またはBMP10のいずれかを用いて第5日~第9日に特定化された第9日の集団における、産生されたNKX2-5+ CD31+細胞の割合についてのフローサイトメトリー解析を示す。
図1H、1Iは、
図1Gに詳細に示される、記載されている濃度のBMP4またはBMP10において産生されたNKX2-5+ CD31+細胞の、出現頻度および総数(1ウェルあたり)の定量を示す。比較は、矢印で示される最適な条件を用いてなされている。データは平均±SEMとして表される(n=4~10、ANOVA * P<0.05、** P<0.005、*** P<0.0005)。
【
図2-1】
図2A~2Eは、NKX2-5+ CD31+細胞集団の誘導のキネティクスを示すデータである。
図2Aは、NKX2-5+ CD31+集団およびNKX2-5- CD31+集団の発生のキネティクスを決定するために使用されたプロトコルの、概略図である。解析されたタイムポイントは、矢印で示される。
図2Bは、分化の記載されている時点における、NKX2-5+ CD31+細胞およびNKX2-5- CD31+細胞の発生を示す、代表的なフローサイトメトリー解析である。
図2C~2Eは、記載されている条件下において記載されている時間で産生された、NKX2-5+ CD31+の出現頻度、細胞の総数、およびNKX2-5+ CD31+の総数の定量を示す、グラフである。データは平均±SEMとして表される(n=5~10、ANOVA * P<0.05、** P<0.005、*** P<0.0005)。
【
図3A】
図3A~3Eは、NKX2-5+ CD31+心内膜様細胞の特徴付けを示す実験データである。
図3Aは、hESCに由来するNKX2-5+ CD31+心内膜様細胞およびNKX2-5- CD31+対照内皮細胞を作製および単離するために使用されたプロトコルの、概略図である。NKX2-5およびCD31についての異なる集団を単離するために使用されたゲーティング戦略は、異なる色で示される。
図3Bは、単離された第9日の以下の集団である、記載されている集団における、心内膜特異的遺伝子(NFATC1、NRG1、NPR3)、心内膜前駆細胞特異的遺伝子(NKX2-5、ETV2、ISL1)、心臓系転写プログラム特異的遺伝子(GATA4、GATA5)、およびNOTCHシグナル伝達経路の構成要素(DLL4、NOTCH1、JAG1、NOTCH2)の発現レベルについてのRT-qPCR解析の、グラフである:SIRPA+心筋細胞(赤色)、NKX2-5- CD31+対照内皮細胞(青色)、BMP10で誘導されたNKX2-5- CD31-細胞(黒色)、NKX2-5+ CD31-細胞(橙色)、NKX2-5+ CD31+細胞(緑色)、およびNKX2-5- CD31+細胞(灰色)(n=7、対応のあるt検定 * P<0.05、** P<0.01、*** P<0.005)。
図3Cは、BMP10(E-B10)またはBMP4(E-B4)のいずれかを用いて特定化されたNKX2-5+ CD31+集団における、およびNKX2-5- CD31+対照内皮細胞における、心臓系転写プログラム特異的遺伝子(GATA4、GATA5)、および心内膜特異的遺伝子(NFATC1、NRG1)の発現レベルについてのRT-qPCR解析の、グラフである(n=5、対応のあるt検定 * P<0.05、** P<0.01、*** P<0.005)。
図3Dは、VEGFA(100 ng/ml)の存在下かつ記載されている濃度のBMP4またはBMP10の存在下において8日間培養された集団であって、BMP10で誘導された第9日のNKX2-5+ CD31+集団における、NKX2-5の発現のフローサイトメトリー解析を示す。
図3Eは、FACS直後の第9日の、NKX2-5+ CD31+[E-B10(D9 a.s)]における、および対照NKX2-5- CD31+[Cnt-E(D9 a.s)]における、ならびに、BMPの非存在下またはBMP10 (10 ng/ml)もしくはBMP4(10 ng/ml)の存在下であって、VEGFA(100 ng/ml)の存在下での8日間の培養後における、NRG1の発現についてのRT-qPCR解析の、グラフである(n=3、対応のあるt検定 * P<0.05、** P<0.01、*** P<0.005)。全てのPCR解析に関して、発現の値は、ハウスキーピング遺伝子であるTBPに対して正規化された。エラーバーはSEMを表す。CMとは心筋細胞であり;Dとは日数であり;a.s.とはソート後であり;E-B4とはBMP4で誘導された心内膜であり;E-B10とはBMP10で誘導された心内膜であり;Ctrl-Eとは対照内皮である。
【
図4-1】
図4A~4Eは、ニューレグリンシグナル伝達が心筋細胞において肉柱運命を特定化することを示すデータである。
図4Aは、NRG1に対して応答性である心筋細胞集団を同定するために使用された戦略の、概略図である。SIRPA+細胞は、記載されている時点において、FACSによって単離され、そしてNRG1の存在下で、凝集塊として8日間培養された。
図4Bは、NRG1(50 ng/ml)の存在下または非存在下で培養された集団である、記載されている集団中の、SIRPA+細胞における、肉柱心筋特異的遺伝子(BMP10、NPPA、NPPB、IRX3、GJA5)、緻密心筋特異的遺伝子(HEY2)、心室心筋細胞特異的遺伝子(MYL2)、および汎心筋細胞遺伝子(CTNT)の発現レベルについての、RT-qPCR解析を示す(n=5、ANOVA * P<0.05、** P<0.005、*** P<0.0005)。
図4Cおよび4Dは、記載されている時点において単離され、そしてNRG1の存在下または非存在下で8日間培養されたSIRPA+心筋細胞の凝集塊における、MLC2V+/ANP+細胞(4C)およびMLC2V+/CTNT+細胞(4D)の割合についての、代表的なフローサイトメトリー解析を示す。
図4Eは、(4C)および(4D)において解析された凝集塊における、ANP+ MLC2V+細胞およびANP- MLC2V+細胞のパーセンテージの定量を示す、グラフである。D16およびD23の凝集塊における、ANP+細胞またはANP-細胞の出現頻度は、D9の凝集塊における、ANP+細胞またはANP-細胞の出現頻度と比較される(n=5、対応のあるt検定 * P<0.05、** P<0.01、*** P<0.005)。全てのPCR解析に関して、発現の値は、ハウスキーピング遺伝子であるTBPに対して正規化された。全てのグラフにおいて、エラーバーはSEMを表す。CMとは心筋細胞であり;Dとは日数であり;a.s.とはソート後であり;NとはNRG1である。
【
図5A】
図5A~5Fは、NKX2-5+ CD31+心内膜様細胞とSIRPA+心筋細胞との共培養を示すデータである。
図5Aは、NKX2-5+ CD31+細胞の、および対照内皮細胞の、SIPRA+標的心筋細胞集団に対する肉柱誘導作用を試験するために使用された実験戦略の、概略図である。RFP+ SIRPA+心筋細胞、およびNKX2-5+ CD31+心内膜様細胞またはNKX2-5- CD31+対照内皮細胞は、分化の第9日に単離され、混合され、そして単層のフォーマットでプレーティングされ、そしてVEGFA(100 ng/ml)の存在下であって、ERBB2阻害剤であるラパチニブ(lap、10 μM)の存在下または非存在下で、8日間培養された。
図5Bは、内皮細胞単層上における心筋細胞凝集塊の分離を示す共培養の顕微鏡写真である。明視野像とRFPチャネルとの合成。スケールバーは200 μmを表す。
図5Cは、共培養後の集団のフローサイトメトリー解析である。集団はRFP+画分とRFP-画分とに分離され、そして次に、記載されているようにさらに分離された。
図5Dは、RFP+ SIRPA+細胞における、肉柱心筋特異的遺伝子(BMP10、NPPA、NPPB、IRX3、GJA5)、緻密心筋特異的遺伝子(HEY2)、心室心筋細胞特異的遺伝子(MYL2)、および汎心筋細胞遺伝子(CTNT)の発現レベルを示すRT-qPCR解析の、グラフである。統計学的解析のため、全ての群の発現レベルは、NKX2-5+ CD31+心内膜様細胞とともに培養された心筋細胞(矢印で示される)と比較された(n=5~10、対応のあるt検定 * P<0.05、** P<0.01、*** P<0.005)。
図5Eは、汎BMP阻害剤であるLDN193189のさまざまな濃度の存在下で8日間培養された集団である、記載されている集団における、NKX2-5/CD31の発現の、代表的なフローサイトメトリー解析である。
図5Fは、BMP10もしくはBMP4のいずれかで特定化されたNKX2-5+ CD31+細胞と培養されたか、または対照NKX2-5- CD31+細胞と培養された(8日間)、RFP+SIRPA+細胞における、肉柱心筋特異的遺伝子(BMP10、NPPA、IRX3)および緻密心筋特異的遺伝子(HEY2)の発現レベルについての、RT-qPCR解析を示す(n=7、対応のあるt検定 * P<0.05、** P<0.01、*** P<0.005)。全てのPCR解析に関して、発現の値は、ハウスキーピング遺伝子であるTBPに対して正規化された。全てのグラフにおいて、エラーバーはSEMを表す。CMとは心筋細胞であり;aggsとは凝集塊であり;Dとは日数であり;a.s.とはソート後であり;E-B4とはBMP4で誘導された心内膜であり;E-B10とはBMP10で誘導された心内膜であり;Ctrl-Eとは対照内皮であり;lapとはラパチニブである。
【
図6A】
図6A~6Fは、HES2-RFP株からの心内膜様細胞の作製を示すデータである。
図6Aは、HES2-RFP hPSC細胞から心内膜様細胞および対照内皮細胞を作製するために使用された分化プロトコルの、概略図である。
図6Bは、記載されている濃度のBMP4およびアクチビンAを用いて誘導された中胚葉集団から、分化の第9日に産生されたCD31+心内膜様細胞の、平均出現頻度を示すヒートマップである。さまざまな集団から産生されたCD31+細胞の出現頻度は、5B/4Aで誘導された中胚葉によって産生されたものの出現頻度と比較された(n=4、ANOVA * P<0.05、** P<0.005、*** P<0.0005)。
図6Cは、HES2-RFP hPSCに由来する内皮細胞と心筋細胞とを共培養するために使用された実験戦略の、概略図である。GFP+ SIRPA+心筋細胞、およびRFP+ CD31+心内膜様細胞(Endo)またはRFP+ CD31+対照内皮細胞(Ctrl-E)は、分化の第9日に単離され、混合され、そしてVEGFA(100 ng/ml)の存在下であって、ERBB2阻害剤であるラパチニブ(lap、10 μM)の存在下または非存在下で、単層のフォーマットで8日間培養された。共培養後、集団は単離され、そして解析された。
図6Dは、共培養後の集団のフローサイトメトリー解析を示す。画分は、記載されているように単離された。
図6Eは、共培養後に単離されたGFP+ SIRPA+心筋細胞における、肉柱心筋特異的遺伝子(BMP10、NPPA、NPPB、IRX3、GJA5)、緻密心筋特異的遺伝子(HEY2)、心室心筋細胞特異的遺伝子(MYL2)、および汎心筋細胞遺伝子(CTNT)の発現レベルについてのRT-qPCR解析を示す、グラフである。統計学的解析に関し、全ての群の発現レベルは、BMP10で誘導された細胞とともに培養された心筋細胞(CM+Endo)における発現レベルと比較された(n=7~9、対応のあるt検定 * P<0.05、** P<0.01、*** P<0.005)。
図6Fは、8日間の共培養(CC)の前後に単離された集団中の、RFP+ CD31+心内膜様細胞およびRFP+ CD31+対照内皮細胞における、NRG1およびNKX2-5の発現レベルについてのRT-qPCR解析を示す、グラフである(n=9、対応のあるt検定 * P<0.05、** P<0.01、*** P<0.005)。全てのPCR解析に関して、発現の値は、ハウスキーピング遺伝子であるTBPに対して正規化された。全てのグラフにおいて、エラーバーはSEMを表す。CMとは心筋細胞であり;aggsとは凝集塊であり;Dとは日数であり;a.s.とはソート後であり;EndoとはBMP10で誘導された心内膜であり;Ctrl-Eとは対照内皮であり;lapとはラパチニブである。
【
図7】
図7は、本明細書において提案されるモデルの概略図である。hPSCに由来する培養物における、およびインビボでの発生中の心臓における、心筋細胞と心内膜細胞との間の、NRG1によって媒介される相互作用、およびBMP10によって媒介される相互作用をまとめたモデルが示される。このモデルにおいて、心内膜細胞によって分泌されたNRG1は、肉柱運命を誘導し、それには心筋細胞におけるBMP10の発現が含まれる。心筋細胞に由来するBMP10は、心内膜細胞に対して作用し、心内膜細胞におけるNKX2-5およびNRG1の発現を維持させる。
【
図8-1】
図8A~8Jは、造心中胚葉からのNKX2-5+ CD31+細胞の作製における、WNTおよびVEGFのシグナル伝達の作用を示す、データである。
図8Aは、NKX2-5+ CD31+細胞の作製に対するWntシグナル伝達の作用を解析するために使用された実験戦略の、概略図である。
図8Bは、記載されている期間にわたるWnt経路の阻害(2 μM IWP2を用いて)または活性化(1 μM CHIR99021を用いて)の後での、分化の第9日におけるNKX2-5およびCD31の発現の、代表的なフローサイトメトリー解析を示す。
図8C~8Eは、記載されている処理後の第9日における、NKX2-5+ CD31+細胞の出現頻度(
図8C)、細胞の総数(
図8D)、およびNKX2-5+ CD31+細胞の総数(
図8E)の定量を示す、グラフである。比較は、矢印で示される未処理の集団を用いてなされている(出現頻度に関してn=6、細胞数に関してn=4、ANOVA * P<0.05、** P<0.005、*** P<0.0005)。
図8Fは、NKX2-5+ CD31+細胞の作製に対するVEGF/KDRシグナル伝達の作用を解析するために使用された実験戦略の、概略図である。
図8Gは、記載されている期間にわたりVEGF/KDRシグナル伝達を変更した後での、分化の第9日におけるNKX2-5およびCD31の発現の、代表的なフローサイトメトリー解析を示す。
図8H~8Jは、記載されている処理後の第9日における、NKX2-5+ CD31+細胞の出現頻度(
図8H)、細胞の総数(
図8I)、および NKX2-5+ CD31+細胞の数(
図8J)の定量を示す、グラフである。比較は、矢印で示される未処理の集団を用いてなされている(出現頻度に関してn=7、細胞数に関してn=4、ANOVA * P<0.05、** P<0.005、*** P<0.0005)。
【
図9A】
図9A~9Dは、NKX2-5+ CD31+心内膜様細胞におけるCD105および心臓系転写因子の発現を示すデータである。
図9Aは、記載されているように特定化されたCD31+細胞における、エンドグリン(CD105)の発現についての代表的なフローサイトメトリー解析を示す。
図9B~9Dは、HES3-NKX2-5eGFP/w hPSCから産生された、BMP-10で誘導された心内膜細胞、対照内皮細胞、および心筋細胞における、(
図9B)NKX2-5、(
図9C)GATA4、および(
図9D)NFATC1(赤色)の免疫染色を示す、顕微鏡写真である。細胞は、内皮細胞を同定するためのCD31(灰色)、心筋細胞を同定するためのCTNT(灰色)、ならびに全ての細胞および核を可視化するためのDAPI(青色)を用いて、共染色された。RT-qPCRデータと相関して、心筋細胞におけるNKX2-5の発現は、心内膜におけるものよりも有意に高度であったため、心筋細胞のNKX2-5免疫染色は、心内膜細胞/内皮細胞におけるものよりも低いレーザー強度を用いて記録された。心筋細胞のNKX2-5免疫染色は、抗NKX2-5抗体についての陽性対照として用いた。心内膜細胞および対照内皮細胞におけるNKX2-5免疫染色のためのパラメーターの記録は、試料間で同一であり、かつその他の免疫染色のためのパラメーターの記録も、試料間で同一であった。スケールバーは50 μmを表す。
【
図10】
図10A~10Bは、NKX2-5+ CD31+心内膜様細胞とSIRPA+心筋細胞との共培養から単離された集団の解析を示す。
図10A、10Bは、
図5Bでの、心内膜様細胞と心筋細胞との共培養に由来する、および対照内皮細胞と心筋細胞との共培養に由来する、さまざまな細胞集団の解析を示す。
図10Aは、
図5Bに記載されている共培養集団から単離された、記載されている画分のフローサイトメトリー解析を示す。
図10Bは、第8日の共培養から単離された、RFP-NKX2-5+/CD31+心内膜細胞/内皮細胞における、RFP+ PDGFRB- SIRPA+心筋細胞における、RFP+ PDGFRB+ SIRPA-間葉様細胞における、RFP+ PDGFRB- SIRPA- CD31-心筋細胞における、およびRFP+ PDGFRB- SIRPA- CD31+内皮細胞における、肉柱心筋特異的遺伝子(BMP10)、汎心筋細胞遺伝子(CTNT)、および心内膜特異的(NRG1)の発現レベルについてのRT-qPCR解析を示す、グラフである。統計学的解析のため、心筋細胞と心内膜との共培養由来の内皮集団は、心筋細胞と対照内皮細胞との共培養由来の内皮集団と比較された(n=5~10、対応のあるt検定 * P<0.05、** P<0.01、*** P<0.005)。CMとは心筋細胞であり;E-B10とはBMP10で誘導された心内膜であり;Ctrl-Eとは対照内皮であり;RとはRFPであり;SとはSIRPAであり;PとはPDGFRBである。
【
図11A】
図11A~11Eは、さまざまな中胚葉集団からの心内膜細胞の作製を示す実験データである。
図11Aは、さまざまな中胚葉集団ならびにそれらから派生した心内膜細胞および対照内皮細胞を作製するために使用されたプロトコルの、概略図である。
図11Bは、記載されている量のBMP4およびアクチビンAを用いて誘導された、第3日の中胚葉集団における、CD56およびPDGFRAの発現の代表的なフローサイトメトリー解析である。
図11C、11Fは、異なる中胚葉集団から産生された、第9日の心内膜細胞(
図11C)および対照内皮細胞(
図11F)における、NKX2-5およびCD31の発現の、代表的なフローサイトメトリー解析である。
図11D、11Eは、異なる中胚葉集団から産生されたNKX2-5+ CD31+細胞(
図11D)および全CD31+細胞(
図11E)の、平均出現頻度を示すヒートマップである。出現頻度は、10B/6Aを用いて誘導された中胚葉から産生された集団と比較された(n=4、ANOVA * P<0.05、** P<0.005、*** P<0.0005)。
図11Gは、異なる中胚葉集団から産生された対照NKX2-5- CD31+細胞の、平均出現頻度を示すヒートマップである。
図11Hは、3B/6Aで誘導された、5B/9Aで誘導された、10B/12Aで誘導された、および10B/6Aで誘導された中胚葉集団から産生されたNKX2-5+ CD31+細胞と共培養された、単離されたRFP+ SIRPA+細胞における、肉柱心筋特異的遺伝子(BMP10、NPPA、IRX3)および緻密心筋特異的遺伝子(HEY2)の発現レベルについてのRT-qPCR解析を示す、グラフである。統計学的解析のため、全ての集団は、10B/6A中胚葉から産生された対照内皮細胞(矢印で示される)と共培養された心筋細胞と比較された(n=5、対応のあるt検定 * P<0.05、** P<0.01、*** P<0.005)。
図11Iは、3B/6A、5B/9A、10B/12A、および10B/6Aの中胚葉集団から産生された、NKX2-5+ CD31+心内膜細胞における、心筋細胞との共培養(CC)の前後のNRG1の発現レベルについてのRT-qPCR解析を示す、グラフである。比較は、10B/6A中胚葉から産生された対照内皮細胞に対してなされている(矢印で示される)(n=5、対応のあるt検定 * P<0.05、** P<0.01、*** P<0.005)。
【
図12】
図12は、HES2-RFP株から産生された、CD31+心内膜様細胞およびCD31+対照内皮細胞の遺伝子発現プロファイルを示す、グラフである。グラフは、5B/4Aを用いて誘導された中胚葉から産生された、第9日のRFP+ CD31+心内膜細胞およびRFP+ CD31+対照内皮細胞における、NRG1、NKX2-5、GATA4、GATA5、NFATC1、およびNPR3の発現レベルについての、RT-qPCR解析を示す。(n=9、対応のあるt検定 * P<0.05、** P<0.01、*** P<0.005)。
【
図13-1】
図13A~13Fは、hESC由来心内膜様細胞からの弁間質様細胞(VIC)の作製および特徴付けを示す実験データである。
図13Aは、CD31+心内膜様細胞から、CD31+ PDGFRb+心内膜様細胞から、およびCD31+ PDGFRb-心内膜様細胞から、ならびにCD31+対照内皮細胞から、hESC由来CD31- PDGFRb+間葉細胞を作製および単離するために使用されたプロトコルの、概略図である。
図13Bは、CD34特異的MACSビーズでのソートの前後の、およびCD31+ CD34+心内膜細胞をFACSによりPDGFRb+集団とPDGFRb-集団とに細分画する前後の、心内膜集団および対照内皮集団の代表的なフローサイトメトリー解析を示す。最下段のパネルは、CD31+心内膜細胞からの、CD31+ PDGFRb+心内膜細胞からの、CD31+ PDGFRb-心内膜細胞からの、およびCD31+対照内皮細胞からのCD31- PDGFRb+間葉細胞の作製に対する、bFGF(10 ng/ml)、BMP2/4 (100 ng/ml)、およびTGFβ2(0.3 ng/ml)を用いた8日間の処理の作用についての、代表的なフローサイトメトリー解析を示す。さらなる解析のためにCD31- PDGFRb+細胞を単離するためのゲーティング戦略は、赤色で示される。
図13C~13Eは、(13B)に示される細胞集団に由来する、CD31- PDGFRb+細胞の出現頻度(13C)、CD31- PDGFRb+細胞の数(13E)、および細胞の総数(13D)の定量を示す(n=4、対応のあるt検定 * P<0.05、** P<0.01、*** P<0.005)。
図13Fは、
図13Bに示されるCD31- PDGFRb+細胞における、ならびに出発集団(すなわち、CD31+心内膜細胞、CD31+ PDGFRb+心内膜細胞、CD31+ PDGFRb-心内膜細胞、およびCD31+対照内皮細胞)における、汎用の間葉遺伝子(SOX9、VIM、VCAN、COL1A1、POSTN)、およびVIC特異的遺伝子(PRRX2、NR4A2、TIMP3)の発現レベルを示すRT-qPCR解析の、グラフである。全てのPCR解析に関して、発現の値は、ハウスキーピング遺伝子であるTBPに対して正規化された。エラーバーはSEMを表す。Dとは日数であり;E 31+とはCD31+心内膜細胞であり;E 31+ Pβ+とはCD31+ PDGFRβ+心内膜細胞であり;E 31+ Pβ-とはCD31+ PDGFRβ-心内膜細胞であり;Ctrl 31+とはCD31+内皮細胞である。
【
図14-1】
図14A~14Fは、
図13に記載される弁間質様細胞(VIC)を富化する方法を示す実験データである。
図14Aは、hESC由来CD31- PDGFRb+間葉細胞を、CD31+心内膜様細胞から作製および単離するために使用された、
図13Aのプロトコルの改変型の、概略図であり、これは、4日間の拡大期[[bFGF(10 ng/ml)、BMP2/4(100 ng/ml)、CHIR99021(1 μM)、およびSB-431542(5.4 μM)]と、それに続く8日間のVIC特定化期[bFGF(10 ng/ml)、BMP2/4(100 ng/ml)、およびTGFβ2(0.3 ng/ml)]とを含む。
図14Bは、
図13A(T)および
図14A(CH-SB / T)におけるプロトコルを用いた心内膜細胞集団に由来するVIC様細胞の、代表的なフローサイトメトリー解析を示す。さらなる解析のためにCD31- PDGFRb+細胞を単離するためのゲーティング戦略は、赤色で示される。
図14C~14Eは、(14B)に示される細胞集団に由来する、CD31- PDGFRb+細胞の出現頻度(14C)、CD31- PDGFRb+細胞の数(14E)、および細胞の総数(14D)の定量を示す(n=7、対応のあるt検定 * P<0.05、** P<0.01、*** P<0.005)。
図14Fは、
図14Bに示されるCD31- PDGFRb+細胞における、および出発集団(すなわちCD31+心内膜細胞)における、汎用の間葉遺伝子(SOX9、MSX2、VCAN、CDH11、COL1A1、COL3A1、POSTN)、およびVIC特異的遺伝子(NR4A2、PRRX2、TIMP3、RGS5、ITGA2)の発現レベルを示すRT-qPCR解析の、グラフである。全てのPCR解析に関して、発現の値は、ハウスキーピング遺伝子であるTBPに対して正規化された。エラーバーはSEMを表す。Dとは日数であり;E 31+とはCD31+心内膜細胞であり;CH-SB / Tとは
図14Aにおけるプロトコルを用いて特定化されたVIC様細胞であり;Tとは
図13Aにおけるプロトコルを用いて特定化されたVIC様細胞である。
【
図15-1】
図15A~15Fは、心内膜細胞からの冠状血管内皮細胞の作製を示す実験データである。
図15Aは、hPSC由来心内膜細胞から冠状血管内皮細胞を分化させるためのプロトコルの概略図である。
図15Bは、心内膜細胞集団における、CD34、NKX2-5、CD140b、LDLR、およびCD36の第9日の発現の、代表的なフローサイトメトリー解析を示す。
図15Cは、VEGFA(50 ng)を用いて4日間処理された集団における、CD34、NKX2-5、CD140b、LDLR、およびCD36の第13日の発現の、代表的なフローサイトメトリー解析を示す。
図15Dは、VEGFA(50 ng)またはVEGFB(50 ng)のいずれかと、GW7647(1 μM)とを用いて4日間(第13日~第17日)処理された、第17日の集団における、LDLRおよびCD36の発現の、代表的なフローサイトメトリー解析を示す。
図15Eは、記載されている条件で培養された第17日の内皮細胞(VEGFA処理細胞およびVEGFB+PPARa処理細胞に関して、n=4の生物学的反復物(biological replicate))における、ならびに第9日の対照内皮(CRTL-E)および心内膜細胞(E-34+)における、FA代謝遺伝子(FABP4、CD36、APOD)についてのRT-qPCR発現解析を示す。初代のヒト冠状動脈内皮細胞(HCAEC)および微小血管内皮細胞(HCMEC)は、インビボ発現の参照として含めた。
図15Fは、記載されている条件で培養された第17日の内皮細胞(VEGFA処理細胞およびVEGFB+PPARa処理細胞に関して、n=4の生物学的反復物)における、ならびに第9日の対照内皮(CRTL-E)および心内膜細胞(E-34+)における、心内膜遺伝子(NPR3、GATA5、GATA4)および動脈マーカー(GJA4)についてのRT-qPCR発現解析を示す。初代のヒト冠状動脈内皮細胞(HCAEC)および微小血管内皮細胞(HCMEC)は、インビボ発現の参照として含めた。
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な説明
胚の心内膜は、初期の心臓発生に必須である。胚の心内膜は、心筋層とともに、形成されるべき最初の心組織の1つである。これは、弁を構成する細胞の、および冠状血管系の一部を構成する細胞の、供給源であり、かつ肉柱心筋層を誘導する機能を有する。そのような潜在能力を踏まえれば、心内膜細胞は、ダメージを受けている心臓において心臓弁および冠状血管系を置き換えるための、生体弁の改変および細胞ベースの治療戦略を含む、独特な治療機会を提供するものである。本開示は、心内膜細胞の集団を作製する方法を記載し、かつそのような細胞を使用するための、多数の方法も記載する。
【0028】
心内膜細胞
心内膜細胞の集団を作製する目的のため、心血管前駆細胞は、心内膜の特徴を示す細胞集団が産生されるように、本明細書において記載されるように培養され得、ここで心内膜の特徴とは、インビボにおいて心内膜の細胞系譜を識別する遺伝子のコホート(たとえば、NKX2-5、GATA4、GATA5、NFATC1、NPR3、NRG1、およびENG(CD105))の発現を含む。加えて、本明細書において記載される方法を用いて作製された心内膜細胞の集団は、インビトロで未成熟心筋細胞において肉柱運命を誘導する能力を有し、かつ、驚くべきことに、弁間質細胞(VIC)のマーカーを発現する間葉細胞を産生する潜在能力をも有する。
【0029】
本明細書において使用される場合、心血管前駆細胞とは、多能性幹細胞(PSC)に由来する細胞を指し得、また多能性幹細胞(PSC)とは、胚性幹細胞(ESC)または人工多能性幹細胞(iPSC)を指し得る。いくつかの例において、心血管前駆細胞はヒト細胞である。
【0030】
本開示は、心血管前駆細胞から(またはたとえば、BMP4、bFGF、およびアクチビンAのアゴニストの存在が包含される場合には、多能性幹細胞から)、心内膜細胞を作製する方法を記載する。心内膜細胞は、NKX2-5およびCD31の発現によって同定され得、かつ、適切な培養条件下で、多能性幹細胞に由来する心血管前駆細胞を、FGFアゴニストおよびBMPアゴニストと接触させることによって、作製され得る。たとえば、bFGFアゴニスト、BMP4アゴニスト、およびアクチビンAアゴニストを用いて、多能性幹細胞を心血管中胚葉へと最初に分化させることによって、心内膜細胞は作製され得る。心血管中胚葉は次に、心血管前駆細胞を作製するために、bFGFアゴニストの存在下で培養され得、該心血管前駆細胞は次に、NKX2-5+ CD31+心内膜集団を特定化するために、bFGFアゴニストおよびBMP10アゴニストの存在下で培養され得る。本明細書において記載される心内膜細胞の集団は、NKX2-5+ CD31+であることに加えて、GATA4、GATA5、NFATC1、NPR3、NRG1、およびENG(CD105)をも発現する。
【0031】
代表的なFGFアゴニストは、FGF2(塩基性FGFまたはbFGFとしても知られる)、FGF1、FGF4、FGF8、FGF9、FGF10、FGF16、およびFGF20であり、かつ代表的なBMPアゴニストは、BMP10、BMP9、BMP4、またはBMP2のポリペプチドを含む。いくつかの例において、心内膜細胞を作製するのに適切な培養条件は、VEGFAアゴニストが存在しないことを含むか、または低いレベル(0~30 ng/mL)のVEGFAアゴニストを含む。いくつかの例において、心内膜細胞を作製するのに適切な培養条件は、Wnt阻害剤が存在しないことを含む。
【0032】
心内膜細胞が成熟すると、NKX2-5は下方制御され得、NKX2-5- CD31+集団が生じる。NKX2-5+ CD31+集団に由来するNKX2-5- CD31+細胞は、心内膜細胞であると理解され得るが、NKX2-5+ CD31+集団に由来しないNKX2-5- CD31+細胞(たとえば、FGFアゴニストの存在下であって、かつBMP10アゴニストの非存在下で培養されたもの;またはFGFアゴニストおよびVEGFAアゴニストの存在下で培養されたもの)は、内皮細胞ではあるが心内膜細胞ではないことが、理解されるであろう。
【0033】
本明細書において記載される方法によって作製された、心内膜細胞、または心内膜細胞の集団は、それらを、VEGFAアゴニストおよびBMP10アゴニストが添加された無血清培地(たとえばStemPro)において培養することによって、維持され得る。本明細書において記載される心内膜細胞はまた、サイトカインの1つであるニューレグリン(すなわち、NRG1遺伝子に由来するもの)を産生させるために使用され得る。
【0034】
弁間質様細胞(VIC)
弁間質様細胞(VIC)を作製する方法もまた、本明細書において記載される。本明細書において記載されるように、本明細書において記載される心内膜細胞の集団は、PDGFRb+表現型を有する弁前駆細胞を含む。そのような弁前駆細胞は、FGFアゴニスト、BMPアゴニスト、およびTGFβアゴニストの存在下で培養され得る。結果として生じるVICは、SOX9+、MSX2+、VIM+、VCAN+、COL1A1+、COL3A1+、POSTN+、CDH11+、NR4A2+、PRRX2+、TIMP3+、RGS5+、かつITGA2+という表現型を有する。
【0035】
VICを作製する際の、代表的なFGFアゴニストはbFGFであり、代表的なBMPアゴニストはBMP2またはBMP4を含むがこれらに限定されず、かつ代表的なTGFβアゴニストは、たとえば、TGFβ1、TGFβ2、またはTGFβ3を含む。
【0036】
本明細書において記載されるように作製されるVICは、心臓弁疾患のモデルとするために使用され得、かつ、治療への適用のための、生体組織を改変した心臓弁を作製するために、生体模倣型構築物に播種され得る。
【0037】
肉柱心筋細胞の運命を有する細胞
肉柱心筋細胞の運命を有する細胞を作製する方法もまた、本明細書において記載される。本明細書において記載されるように、未成熟な心室心筋細胞は、該未成熟な心室心筋細胞が肉柱運命をたどるように、本明細書において記載される心内膜細胞集団と、またはそのような心内膜細胞集団から産生されたニューレグリンと、培養され得る。この方法において使用可能な未成熟心室心筋細胞は、典型的にはCTNT+であり、かつ、たとえば心室中胚葉に由来し得る。肉柱表現型は、または肉柱運命を有する細胞は、一般的には、BMP10、NPPA、NPPB、IRX3、GJA5、およびMYL2の上方制御を示し、かつHEY2の下方制御をも示し得る。
【0038】
肉柱運命を有する細胞を作製するために、心内膜細胞の集団と、未成熟な心室心筋細胞との組み合わせ、またはそのような心内膜細胞から産生されたニューレグリンと、未成熟な心室心筋細胞との組み合わせは、VEGFAアゴニストの存在下で約4~5日間培養され得、その後、該心筋細胞における肉柱マーカーの発現は、ニューレグリンを用いて維持され得る。代表的なVEGFAアゴニストは、VEGFAを含むが、これに限定されない。
【0039】
本明細書において記載される、肉柱運命を有する細胞は、心内膜細胞としてのアイデンティティを維持するために、VEGFAの存在下で該細胞を、ニューレグリンを含む培地において培養することにより、またはニューレグリンを産生する心内膜細胞とともに培養することにより、維持され得、かつインビトロで心臓のプルキンエ繊維を作製するために使用され得る。プルキンエ繊維は、心臓のペースメーカー(洞房結節および房室結節)から到着する電気シグナルの終点であり、かつ心室収縮を刺激する。プルキンエ繊維は、心室において不整脈の維持および開始の両方に関与しており、そのためプルキンエ繊維は、疾患のモデリングにとって、および薬剤のスクリーニングにとって、重要な細胞型である。加えて、肉柱運命を示す細胞の存在は、心内膜機能の指標として使用され得る。
【0040】
生体弁、および心筋層における冠状血管系の補填または修復
本明細書において記載される心内膜細胞の集団、および/または本明細書において記載されるVICの集団は、生体弁を構築するために使用され得、かつそのような生体弁(たとえば、本明細書において記載される心内膜細胞および/もしくはVICを用いて作製されたもの、または本明細書において記載される心内膜細胞および/もしくはVICから分化した細胞を含むように作製されたもの)が提供される。加えて、心筋層(たとえば、ダメージを受けている心筋層)において冠状血管系を補填または修復する方法が提供され、該方法は、本明細書において記載される心内膜細胞を心筋層へと送達する段階を含む。
【0041】
本明細書において記載される心内膜細胞は、心筋層において冠状血管系を補填するために使用され得る。たとえば、本明細書において記載される心内膜細胞、および/またはそのような心内膜細胞から作製された細胞(たとえば冠状血管内皮細胞)は、心組織へと(たとえば注入によって)送達され得る。その後、生着の際に該細胞は、心筋層において血管再生を行い得る。本明細書において記載される細胞の、そのような治療への適用は、心組織がダメージを受けている場合に有益であり得る。
【0042】
ダメージを受けている心筋層の筋肉を再度発達させるために、心筋細胞を移植する方法が開発されている。現行の戦略は、心筋細胞のみを移植することに焦点を合わせているが、しかしながらこのアプローチは満足のいくものではなく、その理由は一つには、移植された心筋細胞の多くが生き延びることができないというものである。一方、本明細書において記載される心内膜細胞から作製された冠状血管内皮細胞を、心筋細胞と組み合わせて移植すると、生着の効率は、いくつかの症例においては有意に、改善(たとえば、より少ない細胞を用いて、より大きな移植片を得る)され得る。細胞型のそれぞれ(すなわち、心内膜細胞および心筋細胞)は、別々に、または一緒に送達されてよく(たとえば、移植されてよく)、かつ、たとえば注入(たとえば同時注入)を用いて送達されてよいことが、理解されるであろう。
【0043】
スクリーニング方法
本明細書において記載される心内膜細胞、本明細書において記載されるVIC、または本明細書において記載される肉柱運命を有する細胞は、試験化合物をスクリーニングして、毒性を示す該化合物を同定するために、使用され得る。本明細書において記載される心内膜細胞、本明細書において記載されるVIC、または本明細書において記載される肉柱運命を有する細胞を、たとえば、タンパク質、小分子、または核酸といったクラスからの試験化合物と接触させ得、そして該細胞の生存率が決定され得る。該細胞の生存率を低下させるそれらの化合物は、該細胞に対する何らかの毒性を有するとみなされ得る。
【0044】
細胞の生存率を決定する方法は、当技術分野において公知であり、かつ、たとえば、アポトーシスに関するアッセイ(たとえば、Annexin V、TUNEL、もしくはカスパーゼに関するもの)、または細胞増殖に関するアッセイ(たとえばメチルバイオレット、ニュートラルレッドの取り込み、トリパンブルー、BrdUに関するもの)を含む。
【0045】
本明細書において記載される心内膜細胞は、弁疾患を研究するために、インビトロで使用され得る。たとえば、疾患の病因、および/または1種もしくは複数種の試験化合物の作用を研究するために、心内膜細胞は、本明細書において記載される方法を用いて、弁疾患(たとえば左心低形成症候群(HLHS))を有する患者から作製され得る。
【0046】
本発明においては、当業者の技能の範囲内にある、分子生物学、微生物学、生化学、および組換えDNAについての慣用の技術が、利用され得る。そのような技術は、文献において十分に説明されている。本発明は、以下の実施例においてさらに説明されるが、該実施例は、特許請求の範囲に記載される方法および組成物の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0047】
実施例1 - ヒトESC/iPSC株の作製および維持
レポーター細胞株であるHES3-NKX2-5eGFP/w(核型:46、XX)、およびHES2:RFP hESC(核型:46、XX)の作製は、以前に記述されている(Irion et al., 2007, Nat. Biotechnol., 25(12):1477-82; Elliott et al., 2011, Nat. Methods, 8(12):1037-40)。HES2:GFP hESC株は、tdRFPカセットをEGFP発現カセットと交換することにより、HES2:RFP hESC株から作製された。これらのhPSC株は、以前に記述されたように(Kennedy et al., 2007, Blood, 109(7):2679-87)、以下からなるhPSC培養培地中の、照射マウス胚性線維芽細胞において維持された:DMEM/F12(Cellgro)、ペニシリン/ストレプトマイシン(1%、ThermoFisher)、L-グルタミン(2 mM、ThermoFisher)、非必須アミノ酸(1x、ThermoFisher)、β-メルカプトエタノール(55 μM、ThermoFisher)、およびKnockOut(商標)血清代替物(20%、ThermoFisher)。
【0048】
実施例2 - 心筋細胞へと方向付けられたヒトPSC株の分化
心臓系の分化に関し、10 ng/ml BMP4および6 ng/ml アクチビンAを用いて誘導された中胚葉から、心室心筋細胞を作製するために、以前に記述されたプロトコルが使用された(Lee et al., 2017, Cell Stem Cell., 21(2):179-94 e174)。分化を開始させるため、80%~90%コンフルエンスのhPSCはシングルセルに解離され(TrypLE、ThermoFisher)、そしてEBを形成させるため、以下が添加されたStemPro-34培地(ThermoFisher)において、細胞5 x 10e5個/mlの細胞密度で再凝集させた:ペニシリン/ストレプトマイシン(1%、ThermoFisher)、L-グルタミン(2 mM、ThermoFisher)、アスコルビン酸(50 μg/ml、Sigma)、モノチオグリセロール(50 μg/ml、Sigma)、トランスフェリン(150 μg/ml、ROCHE)、ROCK阻害剤であるY-27632(10 μM、TOCRIS)、およびrhBMP4(1 ng/ml、R&D)。EBを作製するため、培養物は、オービタルシェーカー(MaxQ 2000シェーカー、Thermofisher)上の6 cmのペトリ皿(VWR)中で、60 RPMで18時間回転させた。回転段階の後で、EBは、以下が添加されたStemPro-34からなる新鮮な中胚葉誘導培地を入れた、6 cmペトリ皿(VWR)へと移された:ペニシリン/ストレプトマイシン(1%)、L-グルタミン(2 mM)、アスコルビン酸(50 μg/ml)、モノチオグリセロール(50 μg/ml)、トランスフェリン(150 μg/ml)、rhBMP4(10 ng/ml、R&D)、rhアクチビンA(6 ng/ml、R&D)、およびrhbFGF(5 ng/ml、R&D)。第3日に、EBは採取され、IMDMを用いて洗浄され、そして以下が添加されたStemPro-34からなる心臓系特定化培地へと移された:ペニシリン/ストレプトマイシン(1%)、L-グルタミン(2 mM)、アスコルビン酸(50 μg/ml)、モノチオグリセロール(50 μg/ml)、トランスフェリン(150 μg/ml)、Wnt阻害剤であるIWP2(2 μM、TOCRIS)、およびrhVEGFA(5 ng/mL、R&D)。第5日に、EBは採取され、IMDMを用いて洗浄され、そして以下が添加されたStemPro-34において、さらに4日間培養された:ペニシリン/ストレプトマイシン(1%)、L-グルタミン(2 mM)、アスコルビン酸(50 μg/ml)、モノチオグリセロール(50 μg/ml)、トランスフェリン(150 μg/ml)、rhVEGFA(5 ng/ml)。9日間より長い期間にわたるEB培養は、以下が添加されたStemPro-34において維持された:ペニシリン/ストレプトマイシン(1%)、L-グルタミン(2 mM)、アスコルビン酸(50 μg/ml)、およびモノチオグリセロール(50 μg/ml)。培地は2日ごとに交換された。第9日、第16日、または第23日に、SIRPAの発現に基づいて、HES2:RFP由来心筋細胞またはHES2:GFP由来心筋細胞が単離された(Dubois et al., 2011, Nat. Biotechnol., 29(11):1011-8)。心筋細胞の凝集塊を作製するため、ソートされた細胞は、NRG1(50 ng/ml)含有または非含有のStemPro-34であって、以下が添加されたStemPro-34を入れた、96ウェル平底超低接着マイクロプレート(Corning)に、1ウェルあたり細胞5 x 10e4個の密度でプレーティングされて、8日間おかれた:ペニシリン/ストレプトマイシン(1%)、L-グルタミン(2 mM)、アスコルビン酸(50 μg/ml)、モノチオグリセロール(50 μg/ml)。培地は2日ごとに交換された。培養物は、最初の9日間は低酸素環境(5% CO2、5%O2、90% N2)においてインキュベートされ、そして第9日よりも後では、正常酸素環境(5% CO2)においてインキュベートされた。
【0049】
実施例3 - 心内膜細胞/内皮細胞の作製
心内膜細胞/内皮細胞を作製するため、hPSCは、前述のプロトコルを用いて造心中胚葉へと分化させた。第3日に、EBはTrypLEを用いて37度で3分間解離され、そして細胞は、Matrigel(25% v/v、Corning)でコートされた96ウェル平底マイクロプレート(Falcon)に、1ウェルあたり細胞10e5個の密度でプレーティングされた。この単層は、以下が添加されたStemPro-34において培養された:ペニシリン/ストレプトマイシン(1%、ThermoFisher)、L-グルタミン(2 mM、ThermoFisher)、アスコルビン酸(50 μg/ml、Sigma)、モノチオグリセロール(50 μg/ml、Sigma)、トランスフェリン(150 μg/ml、ROCHE)、およびrhbFGF(50 ng/ml、R&D)。心内膜細胞を誘導するため、第5日~第9日に、rhBMP10(10 ng/ml)が培地に追加された。対照内皮細胞を作製するため、第3日~第9日に、VEGFA(100 ng/mL、R&D)が分化培地に追加された。培養物は、低酸素環境(5% CO2、5%O2、90% N2)においてインキュベートされ、そして培地は2日ごとに交換された。第9日に、HES3-NKX2-5eGFP/w由来心内膜細胞/内皮細胞が解析され、そしてNKX2-5:GFPおよびCD31の発現に基づいて単離された。非トランスジェニックhPSC株から産生された心内膜細胞は解析され、そしてCD31+集団として単離された。解離のため、単層は、2型コラゲナーゼ(1 mg/ml、Worthington)含有ハンクス緩衝液において、37度で1時間インキュベートされた。
【0050】
実施例4 - 心内膜細胞/内皮細胞と心筋細胞との共培養
心筋細胞の非存在下での培養のため、分化の第9日に単離された心内膜細胞または対照内皮細胞(HES3-NKX2-5eGFP/w株)は、rhBMP10(10 ng/ml)含有もしくは非含有またはrhBMP4(10 ng/ml)含有もしくは非含有のStemPro-34であって、以下が添加されたStemPro-34を入れた、Matrigel(25% v/v、Corning)でコートされた96ウェル平底マイクロプレート(Falcon)に、1ウェルあたり細胞2.5 x 10e4個の密度でプレーティングされた:ペニシリン/ストレプトマイシン(1%、ThermoFisher)、L-グルタミン(2 mM、ThermoFisher)、アスコルビン酸(50 μg/ml、Sigma)、モノチオグリセロール(50 μg/ml、Sigma)、rhVEGFA(100 ng/ml、R&D)。2種類の細胞型の共培養のため、5 x 10e4個の、hPSCに由来するSIRPA+心筋細胞(第9日)は、2.5 x 10e4個の、HES3-NKX2-5eGFP/wに由来する心内膜細胞もしくは対照内皮細胞か、または5 x 10e4個の、HES2:RFPに由来する心内膜細胞もしくは対照内皮細胞のいずれかと混合され、そして、以下が添加されたStemPro-34を入れた、Matrigel(25% v/v、Corning)でコートされた96ウェル平底マイクロプレート(Falcon)において、8日間培養された:ペニシリン/ストレプトマイシン(1%、ThermoFisher)、L-グルタミン(2 mM、ThermoFisher)、アスコルビン酸(50 μg/ml、Sigma)、モノチオグリセロール(50 μg/ml、Sigma)、およびrhVEGFA(100 ng/ml、R&D)。NRG-ERBB経路を阻害するため、ラパチニブ(10 μM、LC labs)が培地に添加された。対照心筋細胞は、NRG1(50 ng/ml)含有または非含有の同じ培地において、前述のように凝集塊として培養された。培養物は、正常酸素環境(5% CO2)においてインキュベートされ、そして培地は2日ごとに交換された。
【0051】
実施例5 - 心内膜細胞/内皮細胞からの間葉細胞/弁間質様細胞の作製
第9日の心内膜細胞/内皮細胞のバルク培養物(HES3-NKX2-5eGFP/w株)は、前述のように、2型コラゲナーゼを用いて解離された。シングルセル懸濁液は、磁気活性化細胞ソーティング(MACS、Miltenyi、130-146-702)によって、CD31+ CD34+細胞について95%超の純度まで富化された。細胞は、DNAアーゼ(1 U/ml、Millipore)が添加された基礎培地において、4度で30分間、抗CD34マイクロビーズとインキュベートされ(100 μlの培地中に、10 μlマイクロビーズ/細胞5 x 10e6個)、そしてMSカラムまたはLSカラムによって精製された。MACS後、心内膜由来の細胞は、FACSにより、CD31+ CD34+ PDGFRb+集団、およびCD31+ CD34+ PDGFRb-集団へとさらに細分画された。ソート後、CD31+ CD34+心内膜細胞、CD31+ CD34+ PDGFRb+心内膜細胞、およびCD31+ CD34+ PDGFRb-心内膜細胞の全て、ならびにCD31+ CD34+内皮細胞の全ては、Matrigel(25% v/v、Corning)でコートされた12ウェル平底マイクロプレート(Falcon)に、1ウェルあたり細胞8 x 10e5個の密度でプレーティングされ、そして以下が添加されたStemPro-34において8日間培養された:ペニシリン/ストレプトマイシン(1%、ThermoFisher)、L-グルタミン(2 mM、ThermoFisher)、アスコルビン酸(50 μg/ml、Sigma)、モノチオグリセロール(50 μg/ml、Sigma)、rhbFGF(10 ng/ml、R&D)、rhBMP2(100 ng/ml)、TGFβ2(0.3 ng/ml、R&D)。
【0052】
CD31- PDGFRB+であるVIC様細胞を富化するため、MACSでソートされたCD31+ CD34+心内膜様細胞は、Matrigel(25% v/v、Corning)でコートされた12ウェル平底マイクロプレート(Falcon)に、1ウェルあたり細胞2 x 10e5個の密度でプレーティングされ、そして4日間はrhbFGF(10 ng/ml、R&D)、rhBMP2/4(100 ng/ml)、CHIR99021(1 μM)、SB-431542(5.4 μM)の存在下で、それに続く8日間はrhbFGF(10 ng/ml、R&D)、rhBMP2/4(100 ng/ml)、TGFβ2(0.3 ng/ml、R&D)の存在下で、以下が添加されたStemPro-34において12日間培養された:ペニシリン/ストレプトマイシン(1%、ThermoFisher)、L-グルタミン(2 mM、ThermoFisher)、アスコルビン酸(50 μg/ml、Sigma)、モノチオグリセロール(50 μg/ml、Sigma)。
【0053】
実施例6 - 心内膜細胞からの冠状血管内皮様細胞の作製
第9日の心内膜細胞/内皮細胞のバルク培養物(HES3-NKX2-5eGFP/w株)は、前述のように、2型コラゲナーゼを用いて解離された。シングルセル懸濁液は、VICのプロトコルのように、磁気活性化細胞ソーティング(MACS、Miltenyi、130-146-702)によって、CD31+ CD34+細胞について95%超の純度まで富化された。細胞は、Matrigel(25% v/v、Corning)でコートされた12ウェル平底マイクロプレート(Falcon)に、1ウェルあたり細胞4 x 10e5個の密度でプレーティングされ、そして、4日間はrhVEGFA(50 ng/ml、R&D)の存在下で、それに続くさらなる4日間はrhVEGFB(50 ng/ml、R&D)およびPPARaアゴニストであるGW7647(1 μM)の存在下で、以下が添加されたStemPro-34において8日間培養された:ペニシリン/ストレプトマイシン(1%、ThermoFisher)、L-グルタミン(2 mM、ThermoFisher)、アスコルビン酸(50 μg/ml、Sigma)、モノチオグリセロール(50 μg/ml、Sigma)。
【0054】
実施例7 - フローサイトメトリーおよび細胞ソーティング
第3日のEBは、TrypLEを用いて37度で3分間解離された。第9日~第23日のEB、または心筋細胞と心内膜細胞/内皮細胞との混合集団は、2型コラゲナーゼ(1 mg/ml、Worthington)含有ハンクス緩衝液における37度で1時間のインキュベーションにより解離され、その後に、TrypLE処理(5分、37度)が続いた。染色には以下の抗体が使用された:抗SIRPA-PeCy7(Biolegend、1:1000)、抗CD31-PE(BD Pharmingen、1:100)、抗CD31-FITC(BD Pharmingen、1:100)、抗CD31-AF647(BD Pharmingen、1:100)、抗CD90-APC(BD Pharmingen、1:1000)、抗PDGFRB-BV421(BD Pharmingen、1:100)、抗CD105-APC(eBioscience、1:200)、抗CD56-APC(BD Pharmingen、1:100)、抗PDGFRA-PE(BD Pharmingen、10:100)、抗CD36-APC(Biolegend、1:100)、抗LDLR-BV421(Biolegend、1:100)、抗CTNT心臓型アイソフォーム(ThermoFisher Scientific、1:2000)、または抗ミオシン軽鎖2(Abcam、1:1000)、抗ANP(Abcam、1:500)。非コンジュゲート型の一次抗体に関しては、検出のために以下の二次抗体が使用された:ヤギ抗マウスIgG-APC(BD Pharmigen、1:250)、またはロバ抗ウサギIgG-AF488(ThermoFisher Scientific、1:1000)。抗体についての詳細な情報は、重要な材料の表に記載されている。細胞表面マーカーの解析のため、細胞は、5% ウシ胎児血清(FCS)(Wisent)および0.02% アジ化ナトリウムを含むPBSからなるFACS緩衝液中で、4度で30分間染色された。細胞内染色のため、細胞は、4% PFA含有PBSを用いて4度で15分間固定され、その後に、90% メタノールを用いた4度で20分間の透徹が続いた。細胞は、0.5% BSA(Sigma)含有PBSを用いて洗浄され、そしてFACS緩衝液中の非コンジュゲート型一次抗体を用いて4度で一晩染色された。染色された細胞は、0.5% BSA含有PBSを用いて洗浄され、そしてFACS緩衝液中の二次抗体を用いて4度で1時間染色された。染色された細胞は、LSR IIフローサイトメーター(BD)を用いて解析された。細胞ソーティングのため、細胞は、染色され、洗浄され、そして0.2% KnockOut(商標)血清代替物含有IMDMで維持され、それからSickids/UHNフローサイトメトリー施設において、Influx(BD)、FACSAriaII(BD)、MoFlo-XDP(BD)のFACSAria Fusion(BD)のいずれかのセルソーターを用いて、ソートされた。データはFlowJoソフトウェア(Tree Star)を用いて解析された。
【0055】
実施例8 - 免疫組織化学的解析
10B/6Aの中胚葉誘導条件下で、HES3-NKX2-5eGFP/w株から産生された、第3日のEBは、前述のように解離され、そして細胞は、24ウェルプレート(Falcon)中の、Matrigel(25% v/v、BD)でプレコートされた12 mmのカバーガラス(VWR)へと、1ウェルあたり細胞2 x 10e5個の密度でプレーティングされた。細胞は、心内膜か、対照内皮か、または心筋細胞の分化条件下で、単層として6日間培養された。培養後、細胞は、4% PFA含有PBSを用いて、10分間室温で固定され、そして0.2% TritonX含有PBSを用いて、20分間室温で透徹された。固定された細胞は、10% FCSおよび2% BSAを含むPBSを用いてブロッキングされた。染色には以下の抗体が使用された:ウサギ抗NKX2-5(Cell Signaling、1:100)、ウサギ抗GATA4(Abcam、1:100)、ウサギ抗NFAT2(Abcam、1:100)、マウス抗ヒトCD31(Dako、1:100)、マウス抗CTNT心臓型アイソフォーム(ThermoFisher Scientific、1:100)、ヤギ抗GFP(Rockland、1:500)。非コンジュゲート型の一次抗体を検出するために、以下の二次抗体が使用された:ロバ抗マウスIgG-A647(ThermoFisher、1:1000)、ロバ抗ウサギIgG-A555(ThermoFisher、1:1000)、およびロバ抗ヤギIgG-A488(ThermoFisher、1:1000)。抗体についての詳細な情報は、重要な材料の表に記載されている。細胞は、0.05% TritonXおよび2% BSAを含むPBSからなる染色緩衝液中の一次抗体を用いて、4度で一晩染色された。染色された細胞は、0.1% BSA含有PBSを用いて3回洗浄され、各洗浄は室温で10分間であった。細胞はその後、染色緩衝液中の二次抗体を用いて1時間室温で染色され、その後に、前述の洗浄段階が続いた。細胞核は、洗浄緩衝液中のDAPI(Biotium、0.3 μg/ml)を用いて5分間室温で染色された。染色後、試料は、ProLong Diamond褪色防止用封入剤(ThermoFisher)を用いて封入された。染色された細胞は、オリンパスFluoView 1000レーザー走査型共焦点顕微鏡を用いて解析された。画像の取得には、FV10-ASWソフトウェアが使用された。
【0056】
実施例9 - リアルタイム定量PCR
hPSCに由来する集団の全RNAは、RNアーゼフリーDNアーゼ処理を含むRNAqueous-microキット(Ambion)を用いて単離された。単離された100 ng~1 mgのRNAは、オリゴ(dT)プライマーおよびランダムヘキサマー、ならびにSuperscript III逆転写酵素(ThermoFisher)を用いて、cDNAへと逆転写された。RT-qPCRは、QuantiFast SYBR Green PCRキット(QIAGEN)を用いて、EP Real-Plex MasterCycler(Eppendorf)において実施された。全ての実験は2連で調製され、かつ全ての実験は、PCR反応の効率を評価するために、およびハウスキーピング遺伝子であるTBPに対する相対値としてそれぞれの遺伝子のコピー数を評価するために、25 ng/ml~2.5 pg/mlの範囲にわたる、超音波処理されたヒトゲノムDNA標準物の10倍希釈系列を含んでいた。遺伝子発現データのヒートマップは、オープンソースソフトウェアであるMultiExperiment Viewer(MeV)を用いて生成された。プライマー配列は、後掲する表に列挙される。
【0057】
実施例10 - 定量および統計学的解析
全てのデータは、平均±平均値の標準誤差(SEM)として表される。試料サイズ(n)は、分化実験の生物学的反復物を表す。統計学的手法は、試料サイズを事前に決定するためには使用されなかった。実験の性質のため、無作為化は実施されず、かつ実験者は盲検化されなかった。統計学的有意性は、スチューデントのt検定(対応のある両側検定)、およびボンフェローニ事後検定を伴う1元配置または2元配置ANOVA分析を用いることにより、GraphPad Prism 7ソフトウェアにおいて決定された。結果は、p<0.05(*)、p<0.005(**)、p<0.0005(***)である場合に、有意であるとみなされた。全ての統計学的パラメーターは、個々の図面および図面の説明に記載されている。
【0058】
実施例11 - FGFおよびBMPは造心中胚葉においてNKX2-5の発現を誘導する
最初の実験は、本発明者らが提示するNKX2-5+ CD31+細胞の産生を促進するであろうシグナル伝達経路が、ヒトの心内膜発生の最も初期のステージに相当することを同定するために、準備された。トランスジェニックHES3-NKX2-5eGFP/wレポーター株(Elliott et al., 2011, Nat. Methods, 8(12):1037-40)は、フローサイトメトリーによってNKX2-5+細胞を同定することを可能にするために使用された。先の試験により、インビボにおいて、FGFおよびBMPの両方のシグナル伝達が、NKX2-5+心臓系前駆細胞の特定化に関与していることが示されたため、hPSC分化培養での標的NKX2-5+ CD31+集団の作製における、これらの経路の役割が評価された。これらの試験のため、BMP4またはBMP10のいずれかが使用されたが、これは両者が、心内膜細胞に隣接して発生する初期の心筋細胞において、発現しているためである。これらの経路は、先の試験において心室心筋細胞を作製するために使用された濃度のアクチビンおよびBMP4(6 ng/mlのアクチビン、10 ng/mlのBMP4)を用いて誘導された造心中胚葉において、変更された(
図1A)。これらの因子への中胚葉の曝露を最適化するため、第3日のEBは解離され、そして細胞は、Matrigel処理されたプラスチック上の単層としてプレーティングされた。
【0059】
最初の一連の実験において、分化の第3日~第9日にbFGFの濃度を変化させた場合の作用が、BMP4またはBMP10のいずれかの存在下で評価され、BMP4またはBMP10は、以下の期間にわたり追加された:第3日~第9日、第5日~第9日、または第7日~第9日。これらの期間は、培養における心筋細胞の出現(第6日~第9日)と一致するように選択されたが、これは、初期胚における、心内膜の細胞系譜および心筋細胞の細胞系譜の調和した発生を再現するためである。最初の解析に関しては、単一の濃度のBMP4またはBMP10が使用された(10 ng/ml)。第9日に集団は採取され、そしてNKX2-5+かつCD31+である細胞の存在について解析された。bFGFの非存在下において、BMP4単独またはBMP10単独では、CD31+細胞を含む集団は誘導されなかったが、これは、外因性のFGFシグナル伝達が、これらの条件下で内皮細胞の発生を増進することを示す(
図1B)。群のいくつかにおいて、NKX2-5+ CD31-である集団が検出された。bFGF単独で、NKX2-5およびCD31についての3種類の異なる集団が誘導されたが、該集団のサイズは、追加された該因子の濃度によって変化した。低濃度のFGFは、NKX2-5+ CD31-細胞を産生させる傾向があった一方で、より高い濃度では、NKX2-5- CD31+細胞の発生を促進した。bFGFはいかなる濃度においても、NKX2-5+ CD31+の大きな集団を誘導することはなかった。外因性のFGFシグナル伝達と組み合わされた場合、BMP4またはBMP10のいずれかの追加は、産生されたNKX2-5+ CD31+細胞の割合を有意に増加させ、最大の出現頻度は、25 ng以上の濃度のbFGFを用いて誘導された群において検出された。第5日~第9日においてBMPを追加すると、それより長く第3日~第9日に該アゴニストを追加したものよりも高い割合で、NKX2-5+ CD31+が誘導された(
図1C、1D)。第5日~第9日という期間内においては、これらの細胞の最大の出現頻度は、BMP10と、50 ng/mlまたは100 ng/mlのFGF-βとの組み合わせによって誘導された(
図1C)。第7日~第9日においてBMPを追加すると、第5日~第9日に処理された集団において観察されたものと同様の出現頻度での、NKX2-5+ CD31+細胞の発生が促進された(
図1E)。しかしながら、この遅延しての追加により、BMP10/FGF50で誘導された集団、またはBMP10/FGF100で誘導された集団において、NKX2-5- CD31+であるより大きなサブ集団の発生が引き起こされた。これらの観察と、産生されたNKX2-5+ CD31+細胞の数(
図1F)とに基づいて、50 ng/ml bFGFとBMP10との組み合わせの、第5日~第9日における追加が、以後の実験のために選択された。
【0060】
NKX2-5+ CD31+集団の誘導に対する、規定されたbFGFの用量におけるさまざまなBMPの濃度の作用が、決定された。
図1G~1Iに示されるように、最大の出現頻度および最大の数のNKX2-5+ CD31+細胞は、10 ng/mlのBMP10を追加することによって誘導された。
【0061】
hPSC由来心血管中胚葉から心筋細胞を特定化するためのプロトコルは、第3日~第5日におけるWNT阻害段階を含んでいた。前述の試験においては、NKX2-5+ CD31+細胞を作製するために、同じ中胚葉が使用されたので、本発明者らは次に、これらの細胞の発生に、WNTシグナル伝達が役割を果たしているかどうかを決定することに注目した。この点に対処するため、分化の第3日から始まる2日間、4日間、または6日間にわたり、WNT経路に対し、GSK-3の小分子阻害剤であるCHIR99021を追加することによる活性化か、またはIWP2を追加することによる阻害のいずれかが行われた(
図8A~8E)。これらの異なる期間のそれぞれにわたるWNTの阻害により、産生されるNKX2-5+ CD31+の出現頻度の有意な低下が引き起こされた。該細胞の総数は、該阻害剤を4日間または6日間追加することによって減少した。CHIRを追加しても、培養において産生されたNKX2-5+ CD31+の総数に影響を及ぼさなかったが、6日間の追加により、該細胞の出現頻度の低下が引き起こされた。総合すると、これらの知見は、NKX2-5+ CD31+細胞の形成にはWNTシグナル伝達が必要であること、および分化中の細胞によって内因性に産生されるその量は、それら細胞の発生に十分であることを示す。第3日の中胚葉およびそれから派生した細胞は、低いレベルのKDRを発現しているので、次に本発明者らは、NKX2-5+ CD31+集団の産生における、外因性のVEGFA/KDRシグナル伝達の役割を調べた。
図8Fに概略が示される期間にわたって、異なる濃度のVEGFAを追加しても、産生されるNKX2-5+ CD31+細胞の数は増加しなかった(
図8G、8J)。むしろ、第3日~第9日のウィンドウにわたって追加された場合、高濃度の該アゴニストによって、産生されたNKX2-5+ CD31+細胞の総数の有意な減少が引き起こされ、そしてそれに対応する、NKX2-5- CD31+細胞の数の増加も引き起こされた(
図8G~8J)。これらの観察を踏まえ、後述する試験のためにNKX2-5+ CD31+細胞を作製するプロトコルにおいては、VEGFAは含めなかった。
【0062】
前述の実験において決定された因子の濃度およびそれらの追加のタイミングを用いて、BMP4での誘導とBMP10での誘導とを比較することにより、NKX2-5+ CD31+の発生のキネティクスが解析された(
図2)。いずれのBMPアゴニストの存在下においても、NKX2-5+ CD31+細胞は第8日に出現し、そして集団は第12日まで持続した。発生したNKX2-5+ CD31+細胞の出現頻度は、第8日においては2つの群の間で差はなかったが、BMP10で誘導された集団において、第8日および第9日に産生された該細胞の総数は、BMP4処理集団におけるものよりも有意に多かった(
図2E)。
【0063】
高濃度のVEGFAはNKX2-5- CD31+集団の発生を促進する、という前述の観察を活用して、NKX2-5- CD31+である、心内膜細胞ではない内皮細胞を作製するために、細胞は、BMPの非存在下でVEGFAおよびbFGFを用いて処理された。
図2Bに示されるように、第3日~第9日においてVEGFA/bFGFを追加すると、NKX2-5- CD31+集団が誘導され、該集団は早くも第6日には検出可能であり、かつ分化の第12日まで持続した。これらの条件下では、いかなるステージにおいてもNKX2-5の発現は上方制御されなかったので、これらの細胞は、心内膜細胞ではない内皮細胞に相当すると判断され、そして該細胞は、以後の試験において「対照」細胞として使用された。
【0064】
これらのキネティクス解析からの知見、および先の実験においてプロトコルは第9日の集団用に最適化されたという事実を踏まえ、第9日の培養物由来のNKX2-5+ CD31+細胞が、以後の実験のために単離された。
【0065】
実施例12 - NKX2-5+ CD31+細胞の特徴付け
心内膜細胞は、GATA4、GATA5、およびNFATC1を含む特異的な転写因子の発現レベルによって、他の内皮細胞と区別され得、かつ、心房性ナトリウム利尿ペプチド受容体であるNPR3の発現、およびERBBファミリー受容体に対するリガンドであるニューレグリン(NRG1)の発現によっても、他の内皮細胞と区別され得る(de la Pompa et al, 1998, Nature, 392(6672):182-6; Ranger et al., 1998, Nature, 392(6672):186-90; Charron and Nemer, 1999, Semin. Cell Dev. Biol., 10(1):85-91; Nemer and Nemer, 2002, Development, 129(17):4045-55; Rivera-Feliciano et al., 2006, Development, 133(18):3607-18; Wu et al., 2013, Trends Cardiovasc. Med., 23(8):294-300; Zhang et al., 2016, Circ. Res., 118(12):1880-93)。最適化されたプロトコルを用いて作製されたNKX2-5+かつCD31+である集団を、さらに特徴付けするため、さまざまな集団が、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)によって単離され、そしてこれらの遺伝子の発現に関して解析された(
図3A)。心内膜前駆細胞において発現しているNKX2-5、ISL1、およびETV2の解析もまた、含められた。発現パターンは、外因性のBMPシグナル伝達の非存在下で誘導された対照内皮細胞と、比較された。
図3Bに示されるように、NKX2-5+ CD31+細胞は、対照内皮集団と比較して有意に高いレベルで、全ての遺伝子を発現していた。NFATC1、NRG1、GATA4、およびGATA5の発現レベルは、NKX2-5+ CD31+集団とNKX2-5- CD31+集団とで同様であったが、一方でNPR3のレベルは、NKX2-5+ CD31+細胞において有意に高かった。これらの知見により、両方の集団が心内膜様細胞を含むことが示唆される。NPR3の発現における差異は、成熟化のステージにおける差異を反映している可能性がある。NKX2-5+ CD31-細胞は、NKX2-5+ CD31+細胞、およびNKX2-5- CD31+細胞よりも高いレベルの、前駆細胞マーカーであるNKX2-5、ETV2、およびISL1を発現していたが、これは、この集団が心内膜前駆細胞を含むことを示唆する。心内膜におけるDLL4-NOTCH1シグナル伝達が、心管の肉柱形成に重要であること(Grego-Bessa et al., 2007, Dev. Cell, 12(3):415-29; D'Amato et al., 2016, Nat. Cell Biol., 18(1):7-20)を踏まえ、これらの集団は、NOTCHリガンドおよびNOTCH受容体の発現に関しても解析された。NKX2-5+ CD31+集団、NKX2-5- CD31+集団、および対照集団は、NKX2-5+ CD31-集団よりも高いレベルでDLL4およびNOTCH1を発現していたが、一方でJAG1およびNOTCH2に関しては、逆のパターンが観察された(
図3B)。総合すると、これらの分子解析からの知見は、BMP10で誘導されたNKX2-5+ CD31+集団およびNKX2-5- CD31+集団が、ヒト心内膜の細胞系譜に相当する、との解釈と一致する。
【0066】
誘導方法が、NKX2-5+ CD31+集団の分子プロファイルに影響を及ぼしたかどうかを決定するため、BMP4またはBMP10のいずれかを用いて誘導された細胞における発現パターンが、比較された。両細胞において、GATA4、GATA5、およびNFATC1の発現レベルは同様であったが、BMP10で誘導された集団は、BMP4で誘導された細胞よりも高いレベルのNRG1を発現していた(
図3C)。これら2つの集団はまた、弁の形成に関与することが示されている、CD105(エンドグリン)の発現についても解析された。
図9Aに示されるように、BMP10で誘導された集団は、BMP4で誘導された集団または対照内皮細胞集団よりもかなり大きい、CD105+細胞の画分を含んでいた。
【0067】
総合すると、前述の比較試験からの知見により、心内膜細胞を示すマーカーを発現するNKX2-5+ CD31+細胞の産生において、BMPシグナル伝達が中心的な役割を果たしていることが証明される。加えて、前述の知見により、該運命の特定化において、BMP10がBMP4よりも有効であることが示唆される。これらの経路アゴニストの間の差異をさらに調べるため、BMP10で誘導されたNKX2-5+ CD31+細胞は、異なる濃度のBMP4またはBMP10のいずれかの存在下で8日間培養された。この培養期間中に細胞の内皮表現型を維持するため、VEGFAが追加された。培養された集団の解析により、これらアゴニストの試験された全ての濃度において、NKX2-5+ CD31+の細胞表現型の維持にはBMP10がBMP4よりも有効であったことが、明らかにされた(
図3D)。BMP10を用いて培養された細胞はまた、BMP4を用いて維持された細胞よりも高いレベルのNRG1をも維持していた(
図3E)。総合すると、これらの知見により、BMP10シグナル伝達が、培養において心内膜様細胞を維持するために必須であることが証明される。特に、この培養期間にわたってBMP10を対照内皮集団に追加しても、NRG1発現の上方制御が引き起こされることはなかったが、これは、心内膜細胞ではない内皮細胞において、該アゴニストがNRG1を直接的に上方制御しているわけではないことを示す。
【0068】
BMP10で誘導されたNKX2-5+ CD31+心内膜様細胞をさらに特徴付けするため、該細胞は、NKX2-5、GATA4、およびNFATC1タンパク質の存在に関して、免疫染色解析によって解析された。
図9B~9Dに示されるように、該細胞、およびhPSC由来心筋細胞は、NKX2-5タンパク質およびGATA4タンパク質を含んでいたが、これはRT-qPCR発現プロファイルと一致する。一方で、対照内皮細胞は該発現を示さなかった。NFATC1は、NKX2-5+ CD31+心内膜様細胞の核および対照内皮細胞の核において検出されたが、これは、このマーカー単独ではこれらの集団を区別できないことを示す。
【0069】
実施例13 - NRG1はhPSC由来心筋細胞において肉柱心筋層のマーカーを誘導する
NKX2-5+ CD31+細胞が心内膜の等価物に相当するならば、該細胞は、標的心筋細胞において肉柱運命を誘導可能であるはずであり、それにより、初期の心管において生じる相互作用が再現されるはずである。発生中の心管においては、肉柱運命の特定化は、NRG-ERBBシグナル伝達によって媒介されるため、本明細書において記載されるプロトコルを用いて作製された心臓系細胞は、該細胞がこの経路に対して応答性であるかどうかを決定するために試験された。この解析のため、分化の第9日、第16日、および第23日に単離されたSIRPA+心筋細胞集団(Dubois et al., 2011, Nat. Biotechnol., 29(11):1011-8)は、NRG1を用いて8日間処理され(
図4A)、そしてその後、BMP10、NPPA、NPPB、およびIRX3を含む、肉柱心筋細胞を示すマーカー(Christoffels et al., 2000, Dev. Biol., 224(2):263-74; Chen et al., 2004, Development, 131(9):2219-31; Koibuchi and Chin, 2007, Circ. Res., 100(6):850-5; Miquerol et al., 2010, Circ. Res., 107(1):153-61; Zhang et al., 2011, PNAS USA, 108(33):13576-81; Kim et al., 2012, Circ. Res., 110(11):1513-24; Sergeeva and Christoffels, 2013, Biochim. Biophys. Acta, 1832(12):2403-13; Sergeeva et al., 2014, Cardiovasc. Res., 101(1):78-86)に関して、RT-qPCRによって解析された。
図4Bに示されるように、第9日の処理細胞は、それより後の集団よりも高いレベルのBMP10、NPPA、およびNPPBを発現していた。IRX3の発現レベルにおける差異は、第23日の処理集団においてのみ検出された。最も著しい差異は、BMP10に関して観察されたが、これは、未処理細胞において見いだされたものを上回るレベルで発現したのは、第9日に由来する集団のみであった、という点であった。NRG1の存在下での培養により、分化の全てのステージに由来する細胞において、緻密層マーカーであるHEY2(Koibuchi and Chin, 2007, Circ. Res., 100(6):850-5)の発現レベルが有意に低下したが、これは、該経路を介するシグナル伝達が、緻密心筋細胞の発生に対して抑制性であることを示唆する。処理集団は全て、同様のレベルのMYL2およびCTNTを発現していたが、これは、該集団が心室心筋細胞に相当するという事実を反映している。初期胚において肉柱の細胞系譜を識別するマーカーであるGJA5は、全ての集団において発現していたが、これは、その発現が、hPSC由来心筋細胞集団において、NRG1への応答として上方制御されたわけではないことを示す。
【0070】
処理集団は、肉柱マーカーである心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP;NPPAによってコードされる)を共発現するMLCV+細胞の割合を決定するために、フローサイトメトリー解析によって評価された。これらの解析により、第9日に由来する集団は、最も高い割合のANP+細胞を含んでいて、このマーカーを発現する細胞は平均90%であったことが示された(
図4C~4E)。より後期のステージの細胞から産生された集団は、より低い割合の該細胞を含んでいたが、この知見は、分化の第9日に単離されたSIRPA+細胞から、肉柱運命が最も効率良く誘導されることを示した分子解析と、一致する。全ての集団は、高い出現頻度のMLC2V+細胞を含んでいたが、これにより、それらが心室心筋細胞であることが証明される(
図4C、4D)。NRG1の存在下での培養により、第9日の細胞からの、MLC2V+細胞の産生が促進されたが、これは、該経路を介するシグナル伝達が、心室への分化を増進し得ることを示す。総合すると、これらの知見は、hPSC由来心内膜様細胞の、肉柱運命を誘導する潜在能力を試験するという目的のために、第9日の心筋細胞が、適切な標的集団に相当することを示す。
【0071】
実施例14 - NKX2-5+ CD31+心内膜様細胞はhPSC由来心筋細胞において肉柱心筋層のマーカーを誘導する
NKX2-5+ CD31+心内膜様細胞が心筋細胞標的集団において肉柱運命を誘導する潜在能力を有するかどうかを決定するため、HES2:RFP hPSC株から産生された第9日のSIRPA+心筋細胞は、HES3:NKX2-5:GFP株から産生された第9日のNKX2-5+ CD31+細胞と混合され、そしてそれらは、VEGFAの存在下で、単層のフォーマットで一緒に培養された(
図5A)。共培養中に、NKX2-5+ CD31+細胞は心筋細胞から分離し、内皮細胞の上に凝集塊を形成する(
図5B)。心内膜様細胞に加えて、対照NKX2-5- CD31+内皮細胞もまた、心筋細胞とともに培養された。肉柱運命の特定化のための陽性対照として、心筋細胞は、内皮細胞の非存在下かつNRG1の存在下で、凝集塊として培養された。8日後、培養された集団はシングルセルに解離され、そしてFACSにより、別々の画分へと分離された(
図5C、
図10A)。心内膜細胞/内皮細胞はRFP- CD31+集団として単離され、一方で心筋細胞はRFP+ SIRPA+細胞として同定された。共培養中に、RFP+ SIRPA+画分から、SIRPA-集団の有意な増殖がみられた。この集団は、CD90+ PDGFRB+ SIRPA-間葉様細胞、CD90- PDGFRB- SIRPA- CD31-心筋細胞、および CD90+ PDGFRB- SIRPA- CD31+内皮細胞からなっていた(
図5C、
図10A)。SIRPA-細胞はまた、対照内皮細胞との共培養後にも産生された。
【0072】
RT-qPCR解析により、肉柱心筋層のマーカー(BMP10、NPPA、NPPB、IRX3)の発現が、NKX2-5+ CD31+心内膜様細胞と共培養されたRFP+ SIRPA+心筋細胞において、NRG1を用いて処理された凝集塊において観察されたものと同様のパターンで、有意に上方制御されたことが明らかにされた。対照的に、これらの遺伝子の発現は、対照内皮細胞とともに培養された心筋細胞においても、NRG1の非存在下で培養された心筋細胞凝集塊においても、上方制御されなかった。緻密層マーカーであるHEY2は、対照内皮細胞とともに培養された心筋細胞において上方制御されたが、心内膜様細胞とともに培養された細胞においてはそうではなかったので、HEY2の発現パターンは、肉柱マーカーのものとは逆であった。全ての集団は、同様のレベルのCTNTを発現していた。MYL2の発現は、NKX2-5+ CD31+心内膜様細胞と共培養された心筋細胞において上方制御され、かつ、NRG1を用いて誘導された心筋細胞凝集塊においても上方制御されたが、これは、心室系としての成熟化を示す。前述の解析において観察されたように、GJA5の発現は、他の肉柱マーカーのパターンと異なるものではなかった。
【0073】
ERBB2阻害剤であるラパチニブ(lap)の追加によって、NKX2-5+ CD31+心内膜様細胞による肉柱運命の誘導が阻害されたが、これは、該作用がNRG-ERBBシグナル伝達によって媒介されることを示す。この解釈は、共培養集団から単離されたNKX2-5+ CD31+細胞がNRG1を発現しているとの知見(
図10B)によって、さらに支持される。NKX2-5+ CD31+細胞に加えて、それから派生したNKX2-5- CD31+細胞もまた、NRG1を発現しており、かつSIRPA+ RFP+心筋細胞富化集団から産生されたCD31+細胞もまた、NRG1を発現していた。対照的に、対照CD31+細胞は、NRG1の発現を上方制御しなかった(
図10B)。
【0074】
共培養集団由来のNKX2-5+ CD31+心内膜様細胞の大半は、外因性のBMP10とともに培養されたそれら細胞と同様に、NKX2-5の発現を維持していた(
図5E)。該発現は、BMP10によって媒介されるようであり、心内膜細胞との共培養後に心筋細胞が肉柱運命を獲得した際に、BMP10は心筋細胞によって発現される(
図5Dおよび10B)。NKX2-5の発現の維持において、BMPシグナル伝達が役割を果たしていることは、BMP阻害剤であるLDN193189を追加すると、共培養から単離された心内膜細胞においても、BMP10を用いて処理された細胞においても、NKX2-5発現の部分的な下方制御がもたらされたとの知見(
図5E)によって、支持される。
【0075】
総合すると、これらの共培養培養実験からの知見により、NKX2-5+ CD31+心内膜様細胞が、心筋細胞標的集団において肉柱運命を誘導可能し得ること、およびこの誘導は、NRG-ERBBシグナル伝達によって媒介されることが、証明される。肉柱運命を誘導する能力は、心内膜様細胞に特異的であるように見受けられる、なぜならば、対照内皮細胞はこの活性を示さないからである。この特異性を踏まえれば、任意の内皮集団の、心内膜としての潜在能力を評価するためのインビトロ発生アッセイとして、肉柱遺伝子の上方制御が使用され得る。この点を試験するため、BMP4で誘導されたNKX2-5+ CD31+細胞の潜在能力が、BMP10で誘導された該細胞と比較された。
図5Fに示されるように、対照内皮細胞とともに培養された心筋細胞において観察されたものを上回るレベルで肉柱遺伝子の発現を誘導することは、BMP4を用いて産生された心内膜細胞にはできなかった。BMP10で誘導された細胞との共培養により、肉柱遺伝子の有意な上方制御、およびHEY2の下方制御がもたらされたが、これは、肉柱運命の特定化を示す。これらの集団の潜在能力における差異は、NRG1の発現レベルにおける、該集団の間での差異と一致する(
図3C)。
【0076】
実施例15 - 異なる中胚葉集団からのNKX2-5+ CD31+心内膜細胞の作製
心室心筋細胞および心房心筋細胞は、異なる濃度のBMP4およびアクチビンAを用いて誘導される、異なる中胚葉サブ集団から発生する。前述の試験において特徴付けられたNKX2-5+ CD31+心内膜細胞は、心室用プロトコル(10 ng/mlのBMP4、5 ng/mlのbFGF、および6 ng/mlのActA、これは「10B/6A」と称される)を用いて誘導された中胚葉から作製された。心内膜運命がこの中胚葉に限定されているかどうかを決定するために、およびこれらの細胞の産生における、中胚葉誘導段階の全体的な重要性を確立するために、中胚葉は、ある範囲の濃度のBMP4(3~20 ng/ml)およびアクチビンA(1~12 ng/ml)を用いて誘導され、そして次に細胞は、心内膜条件または対照内皮条件のいずれかにおいて培養された(
図11A、11B)。因子の組み合わせは全て、CD56+ PDGFRA+中胚葉を誘導したが、効率は、最小限有効である、高濃度のアクチビンおよび低濃度のBMP4によって変化した(
図11B)。第9日の集団のフローサイトメトリー解析により、中胚葉集団の特定のサブセットのみが、NKX2-5+ CD31+細胞を産生したことが明らかにされた(
図11C)。4 ng/ml超のアクチビン濃度、および20 ng/ml未満のBMP濃度を用いて誘導された集団は、最も高い割合のNKX2-5+ CD31+細胞を生じさせた。より少ない量のアクチビン(1~2 ng/ml)の場合、試験された全ての濃度のBMP4において、有意に小さいNKX2-5+ CD31+集団を生じさせた中胚葉が、誘導された。NKX2-5+ CD31+としての潜在能力の欠如は、最大量のBMP4(10~20 ng/ml)を用いて誘導された群において、最も顕著であった。さまざまな中胚葉集団の、心内膜としての潜在能力の比較は、
図11Dに要約される。これらのパターンの解析により、BMP10での特定化後にNKX2-5+ CD31+細胞が発生する効率は、全CD31+細胞が発生する効率と、深く相関していたことが明らかにされた(
図11D、11E)。NKX2-5+ CD31+心内膜細胞の発生が限定的なパターンであったのとは対照的に、アクチビンとBMPとの組み合わせはどれを用いても、誘導された集団は、高い割合(平均で、全集団の>60%)のCD31+対照内皮細胞を産生した(
図11F、11G)。総合すると、これらの知見により、産生された中胚葉集団の特定のサブセットのみが、NKX2-5+ CD31+細胞を産生し得ることが示唆される。
【0077】
言い換えると、異なる量のBMP4およびアクチビンAの存在下でhESCを培養することにより、中胚葉のさまざまなサブセットが産生された。ある範囲の濃度のアクチビンAおよびBMP4を用いて産生された、試験された全ての中胚葉集団は、VEGFAおよびbFGFの存在下でそれら中胚葉集団を培養した場合に、対照内皮細胞を産生することが可能であったが、試験された範囲のBMP4およびアクチビンAの量のサブセットのうち少数のみから、bFGFおよびBMP10の存在下でそれら中胚葉集団を培養した場合に心内膜細胞を産生可能であった中胚葉集団が、産生された。
【0078】
異なる条件下で誘導された細胞をさらに特徴付けするため、3種類の異なる誘導(「3B/6A」、「5B/9A」、または「10B/12A」)から産生されたNKX2-5+ CD31+細胞は、解析され、そして本発明者らの標準的な条件(「10B/6A」)下で産生された細胞と比較された。さまざまなNKX2-5+ CD31+細胞は、第9日の標的心筋細胞において肉柱運命を誘導するその能力について評価され、かつNRG1の発現レベルについても評価された。3種類全てのNKX2-5+ CD31+集団は、10B/6A細胞によって誘導されたものと同様の肉柱プロファイルを誘導することが可能であった(
図11H)。本明細書において記載される先の実験において観察されたように、対照内皮細胞と共培養された心筋細胞は、肉柱マーカーを発現しておらず、むしろ、緻密層運命を示すHEY2を発現していた。これらの知見と一致して、さまざまなNKX2-5+ CD31+集団が、10B/6A中胚葉から産生された細胞におけるものと同様のレベルであって、かつ対照内皮細胞におけるものよりも有意に高いレベルで、共培養の前後にNRG1を発現していたことが、RT-qPCR解析により示された(
図11I)。
【0079】
実施例16 - HES2-RFP hESCからの心内膜様細胞の作製
NKX2-5+ CD31+細胞の発生は、心内膜条件下での全CD31+細胞の発生と相関していたので、この情報は、NKX2-5レポーターを含まない第2のhPSC株から心内膜様細胞を作製するための誘導戦略を最適化するために、使用された。これらの細胞は、RFPを構成的に発現するように改変された(HES2-RFP)(
図6A)。
図6Bに示されるように、ある範囲のBMP4およびアクチビンの濃度を用いて誘導された第3日の集団から、CD31+細胞を作製することが可能であった。これらに基づき、CD31+心内膜様細胞およびCD31+対照内皮細胞を作製するために、5 ng/mlのBMP4および4 ng/mlのアクチビンAを用いて誘導された中胚葉(5B4A中胚葉)が選択された。分子解析により、HES2-RFPに由来しておりCD31+である、これらの心内膜様細胞は、CD31+対照内皮細胞よりも有意に高いレベルのNRG1、NKX2-5、GATA4、GATA5、NFATC1、およびNPR3を発現していることが示された(
図12)。
【0080】
心内膜としての潜在能力(肉柱運命の誘導)を測定するため、両集団は、第9日のEBから単離され、そしてGFPを発現するhPSC株(HES2-GFP)から産生されたSIRPA+心筋細胞と、共培養された(
図6C、6D)。共培養後の、単離されたSIRPA+ CD90- GFP+心筋細胞の解析により(
図6D、6E)、5B4A中胚葉から産生されたRFP+ CD31+心内膜様細胞は、この標的集団において、肉柱心筋マーカーの発現を誘導し、かつHEY2の上方制御を抑制したことが、明らかにされた。対照的に、RFP+ CD31+対照内皮細胞は、肉柱運命を誘導することができなかった。これらのマーカーの誘導は、培養物にラパチニブを追加することによって阻害されたが、これは該作用が、NKX2-5+ CD31+細胞で観察されたように、NRG-ERBBによって媒介されることを示す(
図6E)。この解釈は、共培養の前後で、RFP+ CD31+心内膜様細胞が、RFP+ CD31+対照内皮細胞よりも高いレベルのNRG1およびNKX2-5を発現しているという観察により、支持される(
図6F)。
【0081】
総合すると、この一連の実験からの知見により、非標的型(NKX2-5に関して)のhPSCから、心内膜様細胞を作製可能であることが明確に証明され、かつ、この集団の発生をモニターするために、および機能解析のために該集団を単離するために、CD31の発現が使用され得ることが、明確に証明される。
【0082】
実施例17 - hPSC由来心内膜様細胞からのVIC様細胞の作製
hPSC由来心内膜様細胞が内皮間葉転換を引き起こす潜在能力を評価するため、hPSCに由来する心内膜様細胞および対照内皮細胞の、それぞれの内皮画分は、磁気活性化細胞ソーティング(MACS)を用いて第9日に単離された(
図13A)。第9日の心内膜様細胞および対照内皮細胞は、CD34とCD31とを共発現していることが見いだされたが(
図13B)、この点により、CD34に特異的な磁気ビーズを用いて、内皮コンパートメントを効果的に精製することが可能になった。この戦略によって、本発明者らは95%超の CD31+細胞からなる集団、および85%超のNKX2-5+ CD31+細胞からなる集団(
図13B)を日常的に単離することが可能になり、かつ、さらなる実験のために、心内膜細胞の作製をスケールアップすることが可能になった。第9日の心内膜様細胞の内皮画分は、FACSにより、CD31+ PDGFRb+画分およびCD31+ PDGFRb-画分へと、さらに分割された(
図13A、13B)。これらの画分は続いて、インビボにおいて内皮間葉転換のインデューサーとして知られる、100 ng/mLのBMP2/4、10 ng/mLのbFGF、および0.3 ng/mLのTGFb2の存在下で、8日間培養された(
図13A)。8日間の培養後、CD31+ PDGFRb+である心内膜サブ集団からは、CD31- PDGFRb+細胞(すなわち間葉細胞)が堅固に産生されたが、CD31+ PDGFRb-細胞からは産生されなかった(
図13B~13E)。同じ条件下で培養された対照内皮細胞もまた、CD31- PDGFRb+細胞の集団を生じさせたが、CD31+ PDGFRb+心内膜様細胞から産生されたものよりもかなり小さいものであった(
図13B~13E)。qPCR解析により、CD31+ PDGFRb+心内膜様細胞、および対照内皮細胞の両方に由来する、CD31- PDGFRb+細胞において、汎用の間葉マーカー(SOX9、VCAN、COL1A1、およびPOSTN)が同様に上方制御されたことが証明され、かつ、対照内皮細胞と比較して、CD31+ PDGFRb+心内膜様細胞において、汎用の間葉マーカーであるVIMのレベルが高かったこともまた、証明された(
図13F)。さらに、対照内皮細胞と比較して、CD31+ PDGFRb+心内膜様細胞に由来するCD31- PDGFRb+細胞においては、VIC特異的マーカーであるNR4A2、PRRX2、およびTIMP3の上方制御がみられた(
図13F)。
【0083】
CD31- PDGFRb+であるVIC様細胞を富化するため、BMP2/4、bFGF、およびTGFb2を用いるVIC運命の特定化に先立って、1 μMのCHIR99021を用いるWntシグナル伝達経路の活性化が試験された。MACSでソートされた、第9日のCD31+心内膜様細胞は、1 μMのCHIR99021、10 ng/mLのbFGF、および100 ng/mLのBMP2/4の存在下であって、かつ、細胞増殖を刺激するための、5.4 μMの、TGFβ阻害剤であるSB-431542の存在下で、4日間培養された(
図14A)。この拡大期の後には、先に使用された特定化期であって、BMP2/4、bFGF、およびTGFb2を用いる8日間の特定化期が続いた。CHIR、SB、bFGF、およびBMP2/4の適用は、CD31- PDGFRb+であるVIC様集団の純度を劇的に増加させ(20%から90%へ、
図14B)、かつ細胞数をも劇的に増加させた(5倍、
図14C~14E)。CHIR/SB期を追加しても、汎用の間葉マーカー(VCAN、COL1A1、COL3A1、およびPOSTN)の発現には影響を及ぼさなかったが、VIC特異的マーカーであるNR4A2、PRRX2、TIMP3、およびRGS5の発現は増大した(
図14F)。
【0084】
総合すると、この一連の実験からの知見により、hPSC由来心内膜様細胞のサブ集団であって、PDGFRbの発現によって特徴付けられるサブ集団は、内皮間葉転換を引き起こし得、かつ、対照内皮細胞よりも効率良くそれを行い得ることが、証明される。さらに、対照内皮細胞に由来する間葉細胞と比較した場合、心内膜細胞に由来するこれらの間葉細胞は、シグネチャー遺伝子の発現に基づいて、対照内皮細胞に由来する間葉細胞よりもいっそう、VICに類似していた。
【0085】
【0086】
【0087】
実施例18 - PSC由来心内膜様細胞からの冠状血管内皮様細胞の作製
いくつかの細胞系譜追跡試験により、心内膜細胞は成体の冠状血管内皮に関与しており、該細胞は、中隔動脈および内側心筋壁に優先的に局在していることが証明されている(たとえば、Zhang et al., 2016, Circ. Res., 118:1880-93; Sharma et al., 2017, Develop. Cell, 42:655-66; Wu et al., 2021, Cell, 151:1083-96を参照されたい)。他の優勢な前駆細胞プールである静脈洞内皮の枯渇下で、心内膜細胞は、成体において冠状血管内皮細胞のほとんどを生じさせ得る(たとえば、Sharma et al., 2017, Develop. Cell, 42:655-66; Chen et al., 2014, Develop., 141:4500-12を参照されたい)。これらの観察により、血管床の全体にわたって機能し得る冠状血管内皮の供給源が、心内膜細胞であることが証明される。
【0088】
冠状動脈内皮を決定付ける特徴の1つは、隣接する心筋細胞へと脂肪酸(FA)を輸送する、その能力である(たとえば、Su et al., 2018, Nature, 559:356-62; Hagberg et al., 2010, Nature, 464:917-21を参照されたい)。これを達成するために、冠状血管内皮細胞は、以下を含む、このプロセスに必要なタンパク質をコードする遺伝子の発現を、上方制御している:血流から細胞内へのFAの輸送に関与するタンパク質であるCD36およびLDLR、サイトゾルFA結合タンパク質であるFABP4、ならびにFA代謝の分泌型調節因子であるAPOD。
【0089】
発生中の胚において、心内膜細胞からの冠状血管細胞の発生を調節することが知られている重要なシグナルが、インビトロで冠状血管細胞を作製するために再現され、該再現には、未成熟冠状血管内皮への特定化、および機能的な細胞へのそれらの成熟化の両方を含む、2段階のプロトコルが用いられた(
図15A)(たとえば、Wu et al., 2012, Cell, 151:1083-96を参照されたい)。NKX2-5+ CD31+ CD34+である、hPSC由来心内膜様細胞は、磁気活性化細胞ソーティング(MACS)を用いて第9日に単離された。これらの細胞のサブセットは、CD140b(PDGFRb)をも発現していた(
図15B)。心内膜細胞は、CD36もLDLRも発現せず、これは、該細胞が代謝的に成熟していないことを示す(
図15B)。
【0090】
胚において、心内膜細胞は、VEGFAに依存性のプロセスによって、心臓内腔下の表面から、発生中の心筋層内へと拡大する(たとえば、Wu et al., 2021, Cell, 151:1083-96を参照されたい)。これは、冠状血管の細胞系譜の発生における、最初の段階であると考えられている。この段階を模倣するため、hPSC由来心内膜細胞は、VEGFAの存在下で4日間培養された。心内膜マーカーであるNKX2-5およびCD140bの発現が下方制御されており、かつLDLRの上方制御が始まっている、CD34+ CD31+内皮細胞集団の発生が、VEGFAでの処理により促進されたが、これにより、冠状血管の細胞系譜への特定化が示唆される(
図15C)。VEGFAで処理された細胞は、心内膜の細胞系譜のマーカーを喪失しており、かつLDLRを上方制御していたが、該細胞は、冠状血管内皮を決定付けるマーカーであるCD36を、上方制御していなかった(
図15C)。
【0091】
心臓において、CD36の発現は、隣接する心筋細胞から分泌されるVEGFBによって調節されている(Hagberg et al., 2010, Nature, 464:917-21)。このステージを再現するため、細胞は、VEGFBの存在下において、脂肪酸の輸送および代謝の調節因子として知られる、PPARaアゴニストであるGW7647とともに、培養された(Chanda et al., 2016, FEBS Letters, 590:2364-74)。対照として、細胞は、培養の全期間にわたり、VEGFAの存在下で培養された。フローサイトメトリー解析により、VEGFBとPPARaアゴニストとの組み合わせを用いた処理が、LDLRを発現する細胞のサブセットにおいて、CD36の上方制御を誘導したことが示された(
図15D)。RT-qPCR解析により、これらの知見が裏付けられ、かつ、VEGFB/PPARaアゴニスト処理細胞において、CD36のメッセージの上方制御が、FABP4およびAPODのメッセージの上方制御とともに示された(
図15E)。対照的に、該処理細胞は、心内膜運命に関与する遺伝子の発現を下方制御しており、これはNPR3、GATA4、およびGATA5を含むものであった(
図15F)。総合すると、これらの知見により、VEGFA、およびVEGFB/PPARaアゴニストを用いてhPSC由来心内膜細胞を連続的に処理すると、冠状血管内皮細胞の特徴を示す内皮細胞集団の発生が促進されることが、証明される。
【0092】
本方法および本組成物は、本明細書において、いくつかの異なる局面とともに記載されているが、さまざまな局面についての前述の説明は、本方法および本組成物を例示することを意図するものであって、本方法および本組成物の範囲を限定することを意図するものではないことが、理解されるべきである。他の局面、利点、および改変は、添付の特許請求の範囲のうちにある。
【0093】
開示される方法および組成物のために使用可能であるか、開示される方法および組成物と組み合わせて使用可能であるか、開示される方法および組成物を調製するために使用可能であるか、または開示される方法および組成物の産物である、方法および組成物が、開示される。これらの材料および他の材料は本明細書において開示されており、加えて、これらの方法および組成物の、組み合わせ、サブセット、相互作用、群、等が開示されていることが、理解される。つまり、個々としてのおよび集合としてのさまざまなこれらの組成物および方法の組み合わせおよび順列のそれぞれに対する具体的な参照が、明示的に開示されていない可能性があるとしても、それらのそれぞれは、本明細書において具体的に意図されかつ記載されている。たとえば、特定の組成物または特定の方法が開示されかつ論じられていて、かつ、いくつかの組成物または方法が論じられている場合、相反するように具体的に指定されない限り、該組成物および方法のあらゆる組み合わせおよび順列が、具体的に意図される。同様に、これらの任意のサブセットまたは任意の組み合わせもまた、具体的に意図されかつ開示される。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】