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特表2023-524577改変アデノ随伴ウイルス5カプシドおよびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-12
(54)【発明の名称】改変アデノ随伴ウイルス5カプシドおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/35 20060101AFI20230605BHJP
   C07K 14/015 20060101ALI20230605BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230605BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230605BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230605BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230605BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230605BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230605BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230605BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20230605BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230605BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230605BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20230605BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20230605BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230605BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20230605BHJP
   A61K 35/763 20150101ALI20230605BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230605BHJP
【FI】
C12N15/35 ZNA
C07K14/015
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N7/01
A61K35/761
A61K48/00
A61P1/16
A61K9/51
A61K31/7105
A61K38/16
A61K38/02
A61K35/763
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567634
(86)(22)【出願日】2021-05-04
(85)【翻訳文提出日】2023-01-10
(86)【国際出願番号】 US2021030547
(87)【国際公開番号】W WO2021226008
(87)【国際公開日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】63/020,139
(32)【優先日】2020-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500093834
【氏名又は名称】ザ・ユニヴァーシティ・オヴ・ノース・キャロライナ・アト・チャペル・ヒル
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】シャオ,シャオ
(72)【発明者】
【氏名】チエン,ランドルフ
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジュアン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA65
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC16
4C076EE41
4C076FF68
4C076FF70
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA44
4C084MA38
4C084MA66
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA751
4C084ZA752
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA06
4C086MA38
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZA75
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA38
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZA75
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、改変したカプシド特性、例えば、ヒト肝細胞における感染力の増加および/またはヒト中和抗体への最小の結合を示す変異体アデノ随伴ウイルス血清型5(AAV5)を提供する。本発明は、カプシド遺伝子内に1または複数個の変異を含む変異体AAV5のライブラリをさらに提供する。本発明は、変異体AAV5および変異体AAV5ライブラリを生成する方法ならびに変異体AAV5を含む組成物をさらに提供する。本発明は、変異体カプシドタンパク質を含む組換えAAV5(rAAV5)ビリオンをさらに提供する。本発明は、変異体カプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸をさらに提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型AAV5カプシドタンパク質(配列番号12)に対して、G257R変異を含む改変アデノ随伴ウイルス5(AAV5)カプシドタンパク質。
【請求項2】
Q179R、F417L、S705G、または任意のこれらの組み合わせから選択される変異をさらに含む、請求項1に記載の改変AAV5カプシドタンパク質。
【請求項3】
野生型AAV5カプシドタンパク質(配列番号12)に対して、変異P200S、M469I、およびA579Tを含む改変AAV5カプシドタンパク質。
【請求項4】
配列番号2、4、6、8、または10のうちのいずれか1つと少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の改変AAV5カプシドタンパク質。
【請求項5】
配列番号2、4、6、8、または10のうちのいずれか1つと少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の改変AAV5カプシドタンパク質。
【請求項6】
配列番号2、4、6、8、または10のうちのいずれか1つと少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の改変AAV5カプシドタンパク質。
【請求項7】
配列番号2、4、6、8、または10のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の改変AAV5カプシドタンパク質。
【請求項8】
DNA分子、RNA分子、ポリペプチド、糖質、脂質、および有機小分子からなる群から選択される化合物に共有結合で連結しているか、結合しているか、または前記化合物をカプシド形成している、請求項1から7のいずれか一項に記載の改変AAV5カプシドタンパク質。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の改変AAV5カプシドタンパク質をコードする核酸。
【請求項10】
配列番号1、3、5、7、または9のうちのいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項9に記載の核酸。
【請求項11】
配列番号1、3、5、7、または9のうちのいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも95%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項9に記載の核酸。
【請求項12】
配列番号1、3、5、7、または9のうちのいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項9に記載の核酸。
【請求項13】
配列番号1、3、5、7、または9のうちのいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも99.5%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項9に記載の核酸。
【請求項14】
配列番号1、3、5、7、または9のうちのいずれか1つのヌクレオチド配列を含む、請求項9に記載の核酸。
【請求項15】
請求項9から14のいずれか一項に記載の核酸を含むベクター。
【請求項16】
プラスミド、ファージ、ウイルスベクター、細菌人工染色体、または酵母人工染色体である、請求項15に記載のベクター。
【請求項17】
前記ウイルスベクターがAAVベクターである、請求項16に記載のベクター。
【請求項18】
前記核酸がAAVのrepをコードする配列をさらに含む、請求項17に記載のベクター。
【請求項19】
請求項9から14のいずれか一項に記載の核酸または請求項15から18のいずれか一項に記載のベクターを含むインビトロの細胞。
【請求項20】
前記核酸が前記細胞のゲノムに安定に組み込まれた、請求項19に記載の細胞。
【請求項21】
請求項9から14のいずれか一項に記載の核酸を含むウイルス粒子。
【請求項22】
AAV粒子、アデノウイルス粒子、ヘルペスウイルス粒子またはバキュロウイルス粒子である、請求項21に記載のウイルス粒子。
【請求項23】
AAVベクターゲノムと、
請求項1から8のいずれか一項に記載の改変AAV5カプシドタンパク質と
を含み、前記AAVカプシドが前記AAVベクターゲノムをカプシド形成している、AAV粒子。
【請求項24】
前記AAVベクターゲノムが異種核酸を含む、請求項23に記載のAAV粒子。
【請求項25】
前記異種核酸がアンチセンスRNA、マイクロRNAまたはRNAiをコードする、請求項24に記載のAAV粒子。
【請求項26】
前記異種核酸がポリペプチドをコードする、請求項24に記載のAAV粒子。
【請求項27】
前記異種核酸が治療用ポリペプチドをコードする、請求項26に記載のAAV粒子。
【請求項28】
前記異種核酸がレポータータンパク質をコードする、請求項26に記載のAAV粒子。
【請求項29】
前記異種核酸がRNAポリメラーゼIIベースまたはRNAポリメラーゼIIIベースのプロモーター、例えば構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターに作動可能に連結している、請求項23から28のいずれか一項に記載のAAV粒子。
【請求項30】
前記異種核酸が、肝臓に特異的な、または肝臓に優先的なプロモーターに作動可能に連結している、請求項23から29のいずれか一項に記載のAAV粒子。
【請求項31】
前記肝臓に特異的な、または肝臓に優先的なプロモーターが、アポリポタンパク質AII、アルブミン、アルファ1-アンチトリプシン、チロキシン結合グロブリン、チトクロームP450 CYP3A4もしくはマイクロRNA122または合成の肝臓特異的な調節配列のプロモーターである、請求項30に記載のAAV粒子。
【請求項32】
AAVカプシドを含む組換えAAV粒子を産生する方法であって、
細胞にインビトロで、請求項9から14のいずれか一項に記載の核酸、AAVのrepをコードする配列、異種核酸を含むAAVベクターゲノム、および増殖性のAAV感染を生じさせるためのヘルパー機能を提供するステップと、
前記AAVベクターゲノムをカプシド形成して、前記AAVカプシドを含む前記組換えAAV粒子を構築するステップと
を含む、方法。
【請求項33】
請求項32に記載の方法により産生された、AAV粒子。
【請求項34】
薬学的に許容される担体中に、請求項1から8のいずれか一項に記載の改変AAV5カプシドタンパク質、請求項9から14のいずれか一項に記載の核酸、請求項15から18のいずれか一項に記載のベクター、請求項21もしくは22のいずれか一項に記載のウイルス粒子または請求項23から31もしくは33のいずれか一項に記載のAAV粒子を含む医薬製剤。
【請求項35】
目的の核酸を肝細胞に送達する方法であって、肝細胞を請求項23から31または33のいずれか一項に記載のAAV粒子と接触させることを含む、方法。
【請求項36】
対象となる哺乳動物において目的の核酸を肝細胞に送達する方法であって、
有効な量の、請求項23から31もしくは33のいずれか一項に記載のAAV粒子または請求項34に記載の医薬製剤を対象となる哺乳動物に投与し、それによって、前記対象となる哺乳動物内の肝細胞に前記目的の核酸を送達することを含む、方法。
【請求項37】
前記対象となる哺乳動物がヒトである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記AAV粒子を肝臓に送達する、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
前記AAV粒子を、前記肝臓への注入、門脈静脈への注入または任意のこれらの組み合わせによって前記肝臓に直接送達する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
それを必要とする対象となる哺乳動物において障害を処置する方法であって、前記障害が、前記対象の肝臓で産物を発現することによって処置可能であり、前記方法が、治療有効量の、請求項23から31もしくは33のいずれか一項に記載のAAV粒子または請求項34に記載の医薬製剤を対象となる哺乳動物に投与し、前記産物が発現され、それによって前記障害を処置することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の陳述
本出願は、その内容全体を引用することにより本明細書の一部をなすものとする、2020年5月5日に出願された米国仮出願第63/020,139号についての米国特許法(35U.S.C.)第119条(e)による利益を主張する。
【0002】
配列表の電子ファイリングについての記載
ASCIIテキストフォーマットの配列表を米国特許法施行規則(37C.F.R.)第1.821条の下に提出した。これは、名称が5470-881_ST25.txt、サイズが56,036バイトであり、2021年4月26日に作成し、EFS-Webを介してファイリングした。これを紙のコピーの代わりに提供する。この配列表は、その開示のため、これにより引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0003】
発明の分野
本発明は、組換えアデノ随伴ウイルスベクターの分野に属する。
【背景技術】
【0004】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、4.7kbの一本鎖DNAウイルスであり、そのゲノムは、repおよびcapの2つのオープンリーディングフレームから構成され、repおよびcapには、逆方向末端反復(ITR)が隣接している。rep遺伝子は、4種のrepタンパク質をコードし、それらは、ウイルスDNAの複製およびパッケージングに必須であり、cap遺伝子は、VP1、VP2、およびVP3という3種のカプシドタンパク質をコードし、それらが相互作用して、1:1:10という比率でカプシドを形成する。これまでに、AAVの多くの血清型が発見されており、全てが、ヒト体内で、様々な細胞および臓器への向性を有する。
【0005】
AAVベースの遺伝子療法は、過去数十年間の間に顕著に進歩しており、様々な遺伝性疾患の処置における多くの画期的な臨床試験と顕著な成功をもたらした。多数の臨床試験の結果は、AAVベースの治療が安全かつ効果的であることを示している。加えて、AAVベースの遺伝子治療は、ヒト体内の多くの器官および組織で、効率的な遺伝子送達および持続的な遺伝子発現ができる。特に、AAVベースの遺伝子治療は、肝臓を効率的に感染させ、所望の導入遺伝子の安定的な発現を提供する複数のAAV血清型の能力のため、血友病患者などの肝臓遺伝性疾患の処置に非常に有望であることが示されている。
【0006】
AAVベースの遺伝子治療の成功にもかかわらず、遺伝子治療プラットホームが最大限の可能性を実現するのを妨げる様々な問題が未解決のままで残っている。とりわけ1つの問題は、組換えAAV(rAAV)カプシドに対する既存の中和抗体(Nab)の一般ヒト集団における保有率がかなり高いことである。ヒト集団の極めて大きな部分は、以前に様々なAAV血清型に曝露されており、血流中に存在するrAAVに結合する中和抗体を産生している(Boutin他、Human Gene Therapy、2010)。これらの抗体が結合するウイルスは、典型的には中和され、その治療遺伝子をその標的細胞に送達することができない。中和因子の保有率は、主として、AAVのどの血清型が用いられているか、およびその一般的な感染力により、典型的には、感染性が高いAAVカプシドほど、高い保有率を有する。臨床試験に現在使用されているほとんどのAAV血清型およびバリアントは、ヒト集団における中保有率から高保有率の中和因子を有し、それゆえ、用いられるカプシドに対する既存の抗体を有さない患者を除外するために厳しいスクリーニングプロセスを用いなければならない。したがって、AAVベースの治療を必要とする可能性のある患者のかなりの割合が、nAbの存在により、潜在的に救命的な処置を受けることができない。したがって、肝疾患のAAVベースの治療を受けることができる患者集団を広げるために、肝細胞を効率的に感染させることができ、既存の中和抗体への結合が最小限であるrAAVベクターが必要である。
【0007】
本発明は、野生型(wt)AAV5が提供する有利な低血清反応性を維持しながら、ヒト肝細胞への感染力が増加している変異体AAV5カプシドを提供することによって、現在のAAVベクターの上述の短所を克服する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は部分的に、ヒト肝細胞への結合増加および/またはヒト肝細胞への内部移行を示す改変AAV5カプシドタンパク質の開発に基づいている。この改変カプシドタンパク質が、野生型AAV5カプシドタンパク質のものとほぼ同じか、それより低いレベルの血清反応性を示すことも等しく重要である。この改変カプシドタンパク質は、対象の肝臓でタンパク質または機能的な核酸を送達および発現するために有利に使用することができる。
【0009】
したがって、本発明の一態様は、野生型AAV5カプシドタンパク質(配列番号12)に対して、G257R変異を含む改変AAV5カプシドタンパク質に関する。カプシドタンパク質は、Q179R、F417L、S705G、または任意のこれらの組み合わせから選択される変異をさらに含んでもよい。
【0010】
本発明の別の態様は、野生型AAV5カプシドタンパク質(配列番号12)に対して、変異P200S、M469I、およびA579Tを含む改変AAV5カプシドタンパク質に関する。
【0011】
本発明のさらなる態様は、本発明の改変AAV5カプシドタンパク質をコードする核酸および核酸を含むベクター、細胞、またはウイルス粒子に関する。
【0012】
本発明の別の態様は、AAVベクターゲノムおよび本発明の改変AAV5カプシドタンパク質を含むAAV粒子であって、該AAVカプシドが該AAVベクターゲノムをカプシド形成する、AAV粒子に関する。
【0013】
本発明のさらなる態様は、AAVカプシドを含む組換えAAV粒子を産生する方法であって、細胞にインビトロで、本発明に係る核酸、AAVのrepをコードする配列、異種核酸を含むAAVベクターゲノム、および増殖性のAAV感染を生じさせるためのヘルパー機能を供するステップと、AAVベクターゲノムをカプシド形成して、AAVカプシドを含む組換えAAV粒子を構築するステップとを含む方法に関する。
【0014】
本発明の追加の態様は、薬学的に許容される担体中に、本発明に係る改変AAV5カプシドタンパク質、核酸、ウイルス粒子、またはAAV粒子を含む医薬製剤に関する。
【0015】
本発明の別の態様は、目的の核酸を肝細胞に送達する方法であって、細胞を本発明に係るAAV粒子と接触させることを含む方法に関する。
【0016】
本発明のさらなる態様は、対象となる哺乳動物において目的の核酸を肝細胞に送達する方法であって、有効量の、本発明に係るAAV粒子または医薬製剤を対象となる哺乳動物に投与することを含む方法に関する。
【0017】
本発明の別の態様は、それを必要とする対象となる哺乳動物において障害を処置する方法であって、該障害が、該対象の肝臓で産物を発現することによって処置可能であり、治療有効量の、本発明に係るAAV粒子または医薬製剤を対象となる哺乳動物に投与することを含む方法に関する。
【0018】
本発明のこれらの態様およびその他の態様を、以下の本発明の説明においてより詳細に述べる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】AAV5をランダムに変異させ、AAV5変異体ライブラリを生成するためのエラープローンPCRおよび付着伸長(staggered extension)プロトコルの使用を示す図である。
図2】肝臓向性が増加したバリアントを得るための、Huh7細胞におけるAAV5変異体ライブラリのスクリーニングを示す図である。
図3】Huh7細胞における選択の第5ラウンドおよび第7ラウンドから得た、ループ1R変異を保持したシーケンシングされたバリアントのパーセントを示す図である。
図4】野生型AAV5およびヒト肝細胞形質導入の増加が最も大きいAAV5変異体のVP1をコードするヌクレオチド配列(配列番号11、1、3、5、7、9)のアラインメントを示す図である。白いフォントを伴う黒いハイライトは、野生型AAV5および他の変異体配列との比較におけるヌクレオチド配列の変化を示す。
図5】野生型AAV5およびヒト肝細胞形質導入の増加が最も大きいAAV5変異体のVP1をコードするアミノ酸配列(配列番号12、2、4、6、8、10)のアラインメントを示す図である。白いフォントを伴う黒いハイライトは、野生型AAV5および他の変異体配列との比較におけるアミノ酸配列の変化を示す。
図6】GFPレポーター遺伝子と共にパッケージングされた野生型AAV5またはAAV5変異体による感染の後のHuh7細胞における緑色蛍光タンパク質(GFP)発現の比較を示す図である。Huh7細胞は、1細胞あたり1×10ベクターゲノムというMOIで感染させた。画像は、感染72時間後に蛍光顕微鏡で撮影した。
図7A】GFPレポーター遺伝子と共にパッケージングされた野生型AAV5またはAAV5変異体による感染の後のHuh7細胞におけるGFP発現の定量的比較を、Huh7細胞におけるGFP発現の定量化の全体的な値で示す図である。Huh7細胞は、1細胞あたり1×10ベクターゲノムというMOIで感染させた。感染72時間後に細胞を溶解し、Cell Bio Labs製の蛍光定量GFP定量化キットで定量化した。
図7B】GFPレポーター遺伝子と共にパッケージングされた野生型AAV5またはAAV5変異体による感染の後のHuh7細胞におけるGFP発現の定量的比較を、野生型AAV5型に対するAAV5変異体のGFP発現の増加倍率で示す図である。Huh7細胞は、1細胞あたり1×10ベクターゲノムというMOIで感染させた。感染72時間後に細胞を溶解し、Cell Bio Labs製の蛍光定量GFP定量化キットで定量化した。
図8】GFPレポーター遺伝子と共にパッケージングされた野生型AAV5またはAAV5変異体による感染の後のHepG2細胞における緑色蛍光タンパク質(GFP)発現の比較を示す図である。HepG2細胞は、1細胞あたり1×10ベクターゲノムというMOIで感染させた。画像は、感染72時間後に蛍光顕微鏡で撮影した。
図9A】GFPレポーター遺伝子と共にパッケージングされた野生型AAV5またはAAV5変異体による感染の後のHepG2細胞におけるGFP発現の定量的比較を、HepG2細胞におけるGFP発現の定量化の全体的な値で示す図である。HepG2細胞は、1細胞あたり1×10ベクターゲノムというMOIで感染させた。感染72時間後に細胞を溶解し、Cell Bio Labs製の蛍光定量GFP定量化キットで定量化した。
図9B】GFPレポーター遺伝子と共にパッケージングされた野生型AAV5またはAAV5変異体による感染の後のHepG2細胞におけるGFP発現の定量的比較を、野生型AAV5型に対するAAV5変異体のGFP発現の増加倍率で示す図である。HepG2細胞は、1細胞あたり1×10ベクターゲノムというMOIで感染させた。感染72時間後に細胞を溶解し、Cell Bio Labs製の蛍光定量GFP定量化キットで定量化した。
図10】野生型AAV5、MV18、およびMV20の間における、細胞表面への結合の定量的比較を示す図である。結合は、細胞の表面に結合したウイルスカプシド内のベクターゲノムをRT-PCRで定量化することによって決定した。
図11】AAV5、MV18、およびMV20の間における、内部移行している結合AAV粒子の百分率の定量的比較を示す図である。内部移行している結合ビリオンの百分率は、細胞内のベクターゲノムの全量を細胞表面の結合ビリオンの総数で割ることによって決定した。RT-PCRを用いて、細胞内のベクターゲノムを定量化した。
図12】AAV5、MV18、およびMV20の間における、細胞によって内部移行したAAV粒子の全量の定量的比較を示す図である。内部移行は、細胞内にあるウイルスカプシド内のベクターゲノムをRT-PCRで定量化することによって測定する。
図13】野生型MV18、MV1、MV50、およびMV53の間における、細胞表面への結合の定量的比較を示す図である。結合は、細胞の表面に結合したウイルスカプシド内のベクターゲノムをRT-PCRで定量化することによって決定した。
図14】MV18、MV1、MV50、およびMV53の間における、内部移行している結合AAV粒子の百分率の定量的比較を示す図である。内部移行している結合ビリオンの百分率は、細胞内のベクターゲノムの全量を細胞表面の結合ビリオンの総数で割ることによって決定した。RT-PCRを用いて、細胞内のベクターゲノムを定量化した。
図15】MV18、MV1、MV50、およびMV53の間における、細胞によって内部移行したAAV粒子の全量の定量的比較を示す図である。内部移行は、細胞内にあるウイルスカプシド内のベクターゲノムをRT-PCRで定量化することによって測定する。
図16】静脈免疫グロブリン(IVIG)に対するwt-AAV5およびAAV5変異体の血清反応性の比較を示す図である。血清反応性曲線は、各ウイルスの最大GFP発現のパーセント(IVIGの代わりにPBSと共にインキュベートしたウイルスと比較したもの)を、用いた希釈率の逆数(reciprocal dilution)のlogに対してプロットすることによって作成される。プロットされた点の非線形カーブフィッティングにより、IVIGに対する各ウイルスの血清反応性を比較するのに使用することができるだろう指数曲線が生成された。
図17図16の曲線から計算されたEC50の比較を示す図である。各ウイルスのEC50は、ウイルス形質導入の50%を阻害するだろうIVIGの希釈率の逆数として決定した。
図18】GFPレポーター遺伝子と共にパッケージングされた野生型AAV5またはAAV5変異体による感染の後の初代ヒト肝細胞における緑色蛍光タンパク質(GFP)発現の比較を示す図である。初代ヒト肝細胞は、1細胞あたり5×10ベクターゲノムというMOIで感染させた。画像は、感染72時間後に蛍光顕微鏡で撮影した。
図19】GFPレポーター遺伝子と共にパッケージングされた野生型AAV5またはAAV5変異体による感染の後の初代ヒト肝細胞におけるGFP発現の定量的比較を示す図である。初代ヒト肝細胞は、1細胞あたり5×10ベクターゲノムというMOIで感染させた。感染72時間後に細胞を溶解し、Cell Bio Labs製の蛍光定量GFP定量化キットで定量化した。
図20】Huh7細胞および初代ヒト肝細胞におけるAAV5に対するAAV5変異体の感染力の増加倍率の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は部分的に、インビボおよびインビトロで肝細胞を形質導入することが可能な合成AAVカプシド配列の開発に基づいている。合成カプシドは、他の器官への広範なベクター体内分布なしに、肝臓特異的な遺伝子移入が望まれる研究または治療用途で使用するためにAAVベクターを作成するのに使用することができる。
【0021】
以下に本発明をより詳細に説明する。この説明は、本発明を実施することができる様々な方法の全てまたは本発明に追加することのできる特徴の全ての詳細な列挙を意図するものではない。例えば、一実施形態に関して例示した特徴をその他の実施形態に組み込むことができ、特定の実施形態に関して例示した特徴をその実施形態から削除することができる。さらに、本開示を踏まえて、本明細書に示した様々な実施形態に対する、本発明から逸脱しない様々な変更および追加が当業者には明らかである。そのため、以下の詳述は、本発明のいくつかの特定の実施形態を例示することを意図するものであり、それらの全ての置き換え、組み合わせおよび変更を余すことなく詳述することを意図するものではない。
【0022】
文脈が別段のことを指示しない限り、本明細書に記載する本発明の様々な特徴を任意の組み合わせで使用することができることが明確に意図される。さらに、本発明はまた、本発明のいくつかの実施形態において、本明細書で述べる任意の特徴または特徴の組み合わせを除外することができるまたは省略することができることも意図するものである。例示すると、ある複合体が構成要素A、BおよびCを含むことが本明細書で述べられている場合、A、BもしくはCのうちのいずれかまたはそれらの組み合わせを単独でまたは任意の組み合わせで省略して特許請求の範囲から除外することができることが明確に意図される。
【0023】
別段の定義がない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者により、一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書において本発明の説明で使用する専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本発明を限定することを意図するものではない。
【0024】
別段の具体的な指示がない限り、本明細書では、ヌクレオチド配列を左から右へ5’から3’方向に一本鎖のみで示す。本明細書では、ヌクレオチドおよびアミノ酸の両方を、米国特許規則1.822および確立された用法に従って、IUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨された様式でまたは(アミノ酸に関しては)1文字表記もしくは3文字表記のいずれかにより表す。
【0025】
別段に指示されている場合を除き、当業者に既知である標準的な方法を、組換えポリペプチドおよび合成ポリペプチド、抗体またはその抗原結合フラグメントの産生、核酸配列の操作、形質転換細胞の産生、rAAV構築物、改変カプシドタンパク質、AAVのrep配列および/またはcap配列を発現するパッケージングベクターならびに一時的におよび安定して遺伝子導入されたパッケージング細胞の構築に使用することができる。そのような技法は当業者に既知である。例えば、SAMBROOK他、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL第4版(Cold Spring Harbor、NY、2013)、F.M.AUSUBEL他、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(Green Publishing Associates,Inc.およびJohn Wiley&Sons,Inc.、New York)を参照。
【0026】
本明細書で言及する全ての刊行物、特許出願、特許、ヌクレオチド配列、アミノ酸配列およびその他の参考文献は、その全体を引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0027】
定義
本発明の説明および添付した特許請求の範囲で使用する場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が別段のことを明確に指示しない限り複数形も含むことを意図するものである。
【0028】
本明細書で使用する場合、「および/または」は、列挙した関連事項のうちの1つまたは複数の任意の組み合わせおよび全ての可能な組み合わせ、ならびに選択肢(「または」)として解釈した場合には組み合わせの欠如を指し、これらを包含する。
【0029】
さらに、本発明はまた、本発明のいくつかの実施形態において、本明細書で述べる任意の特徴または特徴の組み合わせを除外することができるまたは省略することができることも意図するものである。
【0030】
さらに、用語「約」は本明細書で使用する場合、例えば本発明における化合物または薬剤の量、用量、時間、温度等の測定可能な値を指す場合に、特定の量の±10%、±5%、±1%、±0.5%または±0.1%のばらつきを包含することを意味する。
【0031】
用語「~から実質的になる」は核酸、タンパク質またはカプシド構造に関して本明細書で使用する場合、該核酸、タンパク質またはカプシド構造が該核酸、タンパク質またはカプシド構造の目的の機能、例えば該タンパク質もしくはカプシドのまたは核酸によりコードされるタンパク質もしくはカプシドの向性プロファイルを著しく(例えば約1%、5%または10%を超えて)変更する、列挙した要素以外の任意の要素を含有しないことを意味する。
【0032】
本発明の説明および添付した特許請求の範囲におけるAAVカプシドサブユニットにおける全てのアミノ酸位置の指定は、VP1カプシドサブユニットの番号付けに対するものである。
【0033】
本発明に関連する用語「アデノ随伴ウイルス」(AAV)には、AAV1型、AAV2型、AAV3型(3A型および3B型を含む)、AAV4型、AAV5型、AAV6型、AAV7型、AAV8型、AAV9型、AAV10型、AAV11型、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAVならびにヒツジAAV、ならびに未知のまたは後に発見される任意の他のAAVが含まれるがこれらに限定されない。例えば、BERNARD N.FIELDS他、VIROLOGY、第2巻、第69章(第4版、Lippincott-Raven Publishers)を参照。多くのさらなるAAVの血清型およびクレードも同定されており(例えばGao他、(2004)J.Virol.78:6381~6388および表1を参照)、これらも用語「AAV」に包含される。
【0034】
様々なAAVおよび自律性パルボウイルスのゲノム配列ならびにITR、Repタンパク質およびカプシドサブユニットの配列は当分野で既知である。そのような配列を、文献にまたはGenBank(登録商標)データベース等の公共データベースに見出すことができる。例えば、GenBank(登録商標)Accession Numbers NC 002077,NC 001401, NC 001729,NC 001863,NC 001829,NC 001862,NC 000883,NC 001701,NC 001510,AF063497,U89790,AF043303,AF028705,AF028704,J02275,J01901,J02275,X01457,AF288061,AH009962,AY028226,AY028223,NC 001358,NC 001540,AF513851,AF513852,AY530579,AY631965,AY631966が挙げられ、これらの開示は引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする。また、例えば、Srivistava et al.,(1983) J.Virol.45:555;Chiorini et al.,(1998) J. Virol.71:6823;Chiorini et al.,(1999) J. Virol.73:1309;Bantel-Schaal et al.,(1999)J. Virol.73:939;Xiao et al.,(1999) J.Virol.73:3994;Muramatsu et al.,(1996) Virology 221:208;Shade et al.,(1986)J. Virol.58:921;Gao et al.,(2002) Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:11854;国際公開第00/28061号、国際公開第99/61601号、国際公開第98/11244号;米国特許第6,156,303号が挙げられ、これらの開示は引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする。また、表1も参照。Xiao,X.(1996)、「Characterization of Adeno-associated virus(AAV)DNA replication and integration」、博士論文、ピッツバーグ大学、ピッツバーグ、ペンシルバニア州(その全体が本明細書の一部をなすものとする)には、AAV1、AAV2およびAAV3の末端反復配列の初期の説明が記載されている。
【0035】
「キメラ」AAV核酸カプシドコード配列または「キメラ」AAVカプシドタンパク質とは、2種以上のカプシド配列の一部を組み合わせるものである。「キメラ」AAVのビリオンまたは粒子は、キメラAAVカプシドタンパク質を含む。
【0036】
【表1】
【0037】
用語「向性」は本明細書で使用する場合、ある種の細胞型もしくは組織型へのウイルスの選択的侵入、ならびに/または、ある種の細胞型もしくは組織型への侵入を促進する、細胞表面との選択的相互作用を指し、任意選択的におよび好ましくはその後にウイルスゲノムにより運搬された配列の細胞内での発現(例えば転写および任意選択的に翻訳)、例えば組換えウイルスに関しては異種ヌクレオチド配列の発現も指す。例えば誘導性プロモーター用のトランス活性因子またはそれ以外の調節核酸配列が存在しない場合にウイルスゲノムからの異種核酸配列の転写を開始することができないことを当業者は理解する。rAAVゲノムの場合には、ウイルスゲノムからの遺伝子発現は、安定的に組み込まれたプロウイルス由来であり得、および/または組み込まれていないエピソーム由来であり得、ならびにウイルス核酸が細胞内で取り得る任意の他の形態であり得る。
【0038】
用語「向性プロファイル」は、1種または複数の標的細胞、組織および/または器官の形質導入のパターンを指す。合成AAVカプシドの代表例は、肝臓の細胞の形質導入が効率的であり、他の器官では低形質導入でしかないことを特徴とする向性プロファイルを有する。
【0039】
用語「肝細胞に特異的な」は本明細書で使用する場合、インビボで投与した場合に肝臓外の細胞の形質導入を最小限に抑えて、肝細胞を選択的に形質導入するウイルスベクターを指す。いくつかの実施形態では、形質導入細胞の少なくとも約80%が肝細胞であり、例えば、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはより多くが肝細胞である。
【0040】
用語「障害が肝臓で産物を発現することによって処置可能である」は本明細書で使用する場合、肝臓における産物(例えばタンパク質またはポリヌクレオチド)の発現が障害の有効な処置または予防を提供する疾患、障害、または傷害を指す。
【0041】
本明細書で使用する場合、ウイルスベクター(例えばAAVベクター)による細胞の「形質導入」は、ベクターの細胞内への侵入、ならびにウイルスベクター内への核酸の取り込みおよびその後のウイルスベクターを介した細胞内への移入による遺伝物質の細胞内への移入を意味する。
【0042】
別段の指示がない限り、適切な陽性コントロールまたは陰性コントロールを参照して、「効率的な形質導入」または「効率的な向性」または同様の用語を決定することができる(例えば、形質導入もしくは向性それぞれが陽性コントロールの少なくとも約50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%であるかもしくはより高い、または、形質導入もしくは向性それぞれが陰性コントロールの少なくとも約110%、120%、150%、200%、300%、500%、1000%であるかもしくはより高い)。
【0043】
同様に、適切なコントロールを参照して、ウイルスが標的組織を「効率的に形質導入しない」もしくは標的組織に対して「効率的な向性を有しない」かどうかをまたは同様の用語を決定することができる。特定の実施形態では、ウイルスベクターが肝臓外の組織、例えば筋肉、腎臓、生殖腺および/または生殖細胞を効率的に形質導入しない(すなわち、それへの効率的な向性を有しない)。特定の実施形態では、組織(例えば肝臓)の望ましくない形質導入は、所望の標的組織(例えば肝細胞)の形質導入レベルの20%以下であり、10%以下であり、5%以下であり、1%以下であり、0.1%以下である。
【0044】
本明細書で使用する場合、用語「ポリペプチド」は、別段の指示がない限りペプチドおよびタンパク質の両方を包含する。
【0045】
「核酸」または「ヌクレオチド配列」とはヌクレオチド塩基の配列のことであり、これらはRNA、DNAまたはDAN-RNAハイブリッド配列(天然に存在するヌクレオチドおよび天然には存在しないヌクレオチドの両方が挙げられる)であり得るが、好ましくは一本鎖DNA配列または二本鎖DNA配列のいずれかである。
【0046】
本明細書で使用する場合、「単離された」核酸またはヌクレオチド配列(例えば「単離されたDNA」または「単離されたRNA」)は、天然に存在する生物もしくはウイルスのその他の成分、例えば細胞もしくはウイルスの構造成分または核酸もしくはヌクレオチド配列と関連して一般に見出されるその他のポリペプチドもしくは核酸の少なくともいくつかから分離されたまたはそれを実質的に含まない核酸またはヌクレオチド配列を意味する。
【0047】
同様に、「単離された」ポリペプチドは、分離されたまたは天然に存在する生物もしくはウイルスのその他の成分、例えば細胞もしくはウイルスの構造成分またはポリペプチドと関連して一般に見出されるその他のポリペプチドもしくは核酸の少なくともいくつかを実質的に含まないポリペプチドを意味する。
【0048】
用語「処置する(treat)」、「処置すること(treating)」もしくは「~の処置(treatment of)」(または文法的に等価の用語)は、対象の状態の重症度が低減されるまたは少なくとも部分的に改善されるもしくは寛解されること、および/または少なくとも1種の臨床症状のある程度の軽減、緩和もしくは低減が達成されること、および/または状態の進行の遅延、および/または疾患もしくは障害の発症の予防もしくは遅延を意味する。
【0049】
本明細書で使用する場合、用語「予防する(prevent)」、「予防する(prevents)」または「予防(prevention)」(およびこれらと文法的に等価な用語)は、疾患もしくは障害の発症の遅延または疾患もしくは障害が発症した際の症状の軽減を指す。これらの用語は、疾患の完全な消滅を暗示することは意味せず、状態の発生率を低減させるあるいは状態の発症および/もしくは進行を遅延させる任意の種類の予防的処置を包含する。
【0050】
「有効」量または「治療有効」量とは本明細書で使用する場合、対象にある程度の改善または利益をもたらすのに十分な量のことである。換言すると、「有効」量または「治療有効」量とは、対象における少なくとも1種の臨床症状のある程度の軽減、緩和または低減をもたらすことができる量のことである。ある程度の利益が対象にもたらされる限り、治療効果が完璧であるまたは治癒的である必要はないことを当業者は認識する。
【0051】
「異種ヌクレオチド配列」または「異種核酸」とは、天然にはウイルス中に存在しない配列のことである。一般に、異種核酸または異種ヌクレオチド配列は、ポリペプチドおよび/または非翻訳RNAをコードするオープンリーディングフレームを含む。
【0052】
「治療用ポリペプチド」は、細胞中におけるまたは対象中におけるタンパク質の不存在または欠損に起因する症状を軽減するまたは低減することができるポリペプチドであり得る。さらに、「治療用ポリペプチド」は、別な方法で対象に利益を付与するポリペプチドであり得、利益として例えば抗癌効果または移植片の残存性の改善が挙げられる。
【0053】
本明細書で使用する場合、用語「ベクター」、「ウイルスベクター」、「送達ベクター」(および同様の用語)は、核酸送達媒体として機能し、ビリオン内にパッケージングされたウイルス核酸(すなわちベクターゲノム)を含むウイルス粒子を一般に指す。本発明に係るウイルスベクターは本発明に係る合成AAVカプシドを含み、AAVゲノムもしくはrAAVゲノムまたはウイルス核酸を含む任意の他の核酸をパッケージングすることができる。また、いくつかの文脈では、ビリオンが存在しないベクターゲノム(例えばvDNA)を指すために、および/またはカプシドに繋がれた分子もしくはカプシド内にパッケージングされた分子を送達するために輸送体としての役割を果たすウイルスカプシドを指すために、用語「ベクター」、「ウイルスベクター」「送達ベクター」(および同様の用語)を使用することができる。
【0054】
「組換えAAVベクターゲノム」または「rAAVゲノム」とは、少なくとも1つの逆方向末端反復(例えば、1つの、2つのまたは3つの逆方向末端反復)と、1つまたは複数の異種ヌクレオチド配列とを含むAAVゲノム(すなわちvDNA)のことである。rAAVベクターは、ウイルスを生成するために145塩基の末端反復(TR)をシスで一般に保持するが、部分的にまたは完全に合成の配列を含む改変AAV TRおよび非AAV TRも、この目的に役立つことができる。全てのその他のウイルス配列が必ずしも必要ではなく、トランスで供給されてもよい(Muzyczka、(1992)Curr.Topics Microbiol.Immunol.158:97)。rAAVベクターは2つのTR(例えばAAV TR)を任意選択的に含み、これらのTRは一般に異種ヌクレオチド配列の5’末端および3’末端にあることができるが、それらに隣接している必要はない。これらのTRは互いに同じであり得る、または互いに異なることができる。ベクターゲノムはまた、その3’末端または5’末端に単一のITRを含有することもできる。
【0055】
用語「末端反復」または「TR」には、任意のウイルス末端反復、またはヘアピン構造を形成し逆方向末端反復として機能する(すなわち、例えば複製、ウイルスパッケージング、組み込みおよび/もしくはプロウイルスレスキュー(rescue)等の所望の機能を媒介する)合成配列が含まれる。TRは、AAV TRまたは非AAV TRであり得る。例えば、その他のパルボウイルス(例えば、イヌパルボウイルス(CPV)、マウスパルボウイルス(MVM)、ヒトパルボウイルスB-19)の非AAV TR配列等の非AAV TR配列またはSV40複製の開始点としての役割を果たすSV40ヘアピンをTRとして使用することができ、非AAV TR配列またはSV40ヘアピンを短縮化、置換、欠失、挿入および/または追加によりさらに改変することができる。さらに、TRは、Samulski他に対する米国特許第5,478,745号に記載されている「二重D配列」等の部分的なまたは完全な合成物であり得る。
【0056】
「AAV末端反復」または「AAV TR」は、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10もしくは11または未知のもしくは後に発見される任意の他のAAV(例えば表1を参照)が挙げられるがそれらに限定されない任意のAAV由来であり得る。AAV末端反復が所望の機能、例えば複製、ウイルスパッケージング、組み込みおよび/またはプロウイルスレスキュー等を媒介する限り、AAV末端反復は、天然の末端反復配列を有する必要はない(例えば、天然のAAV TR配列を挿入、欠失、短縮化および/またはミスセンス変異により変更することができる)。
【0057】
本明細書では用語「rAAV粒子」および「rAAVビリオン」を互換的に使用する。「rAAV粒子」または「rAAVビリオン」は、AAVカプシド内にパッケージングされているrAAVベクターゲノムを含む。
【0058】
AAVカプシド構造は、BERNARD N.FIELDS他、VIROLOGY、第2巻、第69章および第70章(第4版、Lippincott-Raven Publishers)により詳細に説明されている。
【0059】
特性を「実質的に保持する」とは、特性(例えば活性またはその他の測定可能な特徴)の少なくとも約75%、85%、90%、95%、97%、98%、99%または100%が保持されることを意味する。
【0060】
改変AAV5カプシドタンパク質
本発明者らは、インビボおよびインビトロでヒトおよび他の哺乳動物肝細胞の形質導入を増強することができ、野生型AAV5カプシドタンパク質と同等またはそれより低い血清反応性を有する改変AAV5カプシドタンパク質を同定した。したがって、本発明の一態様は、配列番号12のアミノ酸配列を有する野生型AAV5カプシドタンパク質に対して、G257R変異を含む改変AAV5カプシドタンパク質に関する。G257R改変AAV5カプシドは、配列番号4のアミノ酸配列を有する。
【0061】
いくつかの実施形態では、改変AAV5カプシドタンパク質が、Q179R、F417L、S705G、または任意のこれらの組み合わせから選択される変異をさらに含む。一実施形態では、改変AAV5カプシドタンパク質が変異G257RおよびQ179Rを含む(配列番号10)。一実施形態では、改変AAV5カプシドタンパク質が変異G257RおよびF417Lを含む(配列番号2)。一実施形態では、改変AAV5カプシドタンパク質が変異G257RおよびS705Gを含む(配列番号8)。
【0062】
本発明の別の態様は、配列番号12のアミノ酸配列を有する野生型AAV5カプシドタンパク質に対して、、変異P200S、M469I、およびA579Tを含む改変AAV5カプシドタンパク質に関する。この改変AAV5カプシドは、配列番号6のアミノ酸配列を有する。
【0063】
いくつかの実施形態では、改変AAV5カプシドタンパク質は、配列番号2、4、6、8、または10のうちのいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性、例えば少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、該配列から実質的になるか、または該配列からなる。いくつかの実施形態では、改変AAV5カプシドタンパク質は、配列番号2、4、6、8、または10のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含むか、該配列から実質的になるか、または該配列からなる。
【0064】
いくつかの実施形態では、改変AAV5カプシドタンパク質が、配列番号2、4、6、8、または10のうちのいずれか1つに示すアミノ酸配列を含むか、該配列から実質的になるか、または該配列からなり、アミノ酸の1、2以下、3以下、4以下、5以下、6以下、7以下、8以下、9以下、10以下、12以下、15以下、20以下、25以下、30以下、40以下、または50以下が別のアミノ酸(天然存在、改変、および/または合成)で置換、任意選択的に保存的アミノ酸置換されており、かつ/またはアミノ酸の1、2以下、3以下、4以下、5以下、6以下、7以下、8以下、9以下、10以下、12以下、15以下、20以下、25以下、30以下、40以下、または50以下が欠失しており、かつ/または1、2以下、3以下、4以下、5以下、6以下、7以下、8以下、9以下、10以下、12以下、15以下、20以下、25以下、30以下、40以下、または50以下のアミノ酸の挿入(N末端伸長およびC末端伸長を含む)、もしくは置換、欠失、および/もしくは挿入の任意の組み合わせがあり、該置換、欠失、および/または挿入が、バリアントカプシドタンパク質またはカプシドを含むビリオン(例えばAAVビリオン)の構造および/または機能を過度に損なうものではない。例えば、本発明の代表的な実施形態では、改変AAV5カプシドタンパク質を含むAAVビリオンが、配列番号2、4、6、8、または10に示す改変AAV5カプシドタンパク質を含む合成ビリオンの少なくとも1つの特性を実質的に保持している。例えば、改変AAV5カプシドタンパク質を含むビリオンは、配列番号2、4、6、8、または10に示す改変AAV5 AAVカプシドタンパク質を含むビリオンの肝臓向性プロファイルを実質的に保持することができる。ウイルス形質導入などの生物学的特性を評価する方法は、当技術分野で公知である(例えば実施例を参照)。
【0065】
本発明の説明および添付した特許請求の範囲における全てのアミノ酸位置の指定は、VP1の番号付けに対するものである。AAVカプシドは、より小さいVP2カプシドタンパク質およびVP3カプシドタンパク質も一般に含有することを当業者は理解する。AAVカプシドタンパク質のコード配列の重複に起因して、VP2カプシドタンパク質およびVP3カプシドタンパク質の核酸コード配列およびアミノ酸配列は、開示されている配列で示すVP1配列から明らかである。ある実施形態では、本発明の配列を含む単離されたVP2カプシドタンパク質およびVP3カプシドタンパク質、ならびにVP2タンパク質もしくはVP3タンパク質またはその両方をコードする単離された核酸が意図される。本発明のVP2配列またはVP3配列を含むキメラカプシドタンパク質も意図される。
【0066】
保存的アミノ酸置換は当分野で既知である。特定の実施形態では、保存的アミノ酸置換として、以下の群の1つまたは複数内での置換が挙げられる。グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リシン、アルギニン;および/またはフェニルアラニン、チロシン。
【0067】
所望の特性を付与するために当分野で既知であるその他の改変を組み込むべく、配列番号2、4、6、8、または10の改変AAV5 AAVカプシドタンパク質のアミノ酸配列をさらに改変することができることが、当業者には明らかである。非限定的な可能性として、カプシドタンパク質を改変して標的化配列(例えばRGD)または精製および/もしくは検出を容易にする配列を組み込むことができる。例えば、カプシドタンパク質を、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、ヘパリン/ヘパラン硫酸結合ドメイン、ポリ-His、リガンドおよび/またはレポータータンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、β-グルクロニダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ等)、免疫グロブリンFcフラグメント、単鎖抗体、赤血球凝集素、c-myc、FLAGエピトープ等の全てまたは一部と融合させて融合タンパク質を形成することができる。標的化ペプチドをAAVカプシドに挿入する方法は当分野で既知である(例えば、国際公開第00/28004号、Nicklin他、(2001)Mol.Ther.474~181、White他、(2004)Circulation 109:513~319、Muller他、(2003)Nature Biotech.21:1040~1046を参照。
【0068】
本発明に係るウイルスは、国際公開第01/92551号および米国特許第7,465,583号に記載されたように二本鎖ウイルスゲノムをさらに含むことができる。
【0069】
本発明はまた、本発明に係る改変AAV5カプシドタンパク質を含むAAVカプシドおよびそれを含むウイルス粒子(すなわちビリオン)も提供し、ウイルス粒子はベクターゲノムをパッケージングし(すなわちカプシド形成し)、任意選択的にAAVベクターゲノムをパッケージングする。特定の実施形態では、本発明は、本発明に係るAAVカプシドタンパク質を含むAAVカプシドを含むAAV粒子を提供し、AAVカプシドはAAVベクターゲノムをパッケージングする。本発明はまた、本発明に係る合成核酸カプシドコード配列によりコードされたAAVカプシドまたはAAVカプシドタンパク質を含むAAV粒子も提供する。
【0070】
特定の実施形態では、ビリオンは、目的の異種核酸、例えば細胞に送達するための異種核酸を含む組み替えベクターである。そのため、本発明は、インビトロでの、エクスビボでの、およびインビボでの核酸の細胞への送達に有用である。代表的な実施形態では、本発明に係る組換えベクターを有利に用いて、核酸を動物(例えば哺乳動物)細胞へ送達または移入させることができる。
【0071】
本発明に係るウイルスベクターにより、任意の異種ヌクレオチド配列を送達することができる。目的の核酸として、ポリペプチドをコードし、任意選択的に治療用(例えば医学的用途のまたは獣医学的用途の)ポリペプチドおよび/または免疫原性(例えばワクチン用の)ポリペプチドをコードする核酸が挙げられる。
【0072】
治療用ポリペプチドとして、嚢胞性線維症膜貫通調節タンパク質(CFTR)、ジストロフィン(ジストロフィンのミニ遺伝子またはマイクロ遺伝子のタンパク質産物等、例えば、Vincent他、(1993)Nature Genetics 5:130、米国特許公開第2003017131号、Wang他、(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:13714~9[ミニジストロフィン]、Harper他、(2002)Nature Med.8:253~61[マイクロジストロフィン]を参照);ミニアグリン、ラミニン-α2、サルコグリカン(α、β、γまたはδ)、フクチン関連タンパク質、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、ドミナントネガティブミオスタチン、血管新生因子(例えばVEGF、アンジオポエチン-1またはアンジオポエチン-2)、抗アポトーシス因子(例えばヘムオキシゲナーゼ-1、TGF-β、プロアポトーシスシグナルの阻害因子、例えばカスパーゼ、プロテアーゼ、キナーゼ、細胞死受容体[例えばCD-095]、チトクロムC放出の調節因子、ミトコンドリアの開孔および膨張の阻害因子);アクチビンII型可溶性受容体、抗炎症性ポリペプチド、例えばIカッパB優性変異体、サルコスパン、ユートロフィン、ミニユートロフィン、ミオスタチンまたはミオスタチンプロペプチドに対する抗体または抗体フラグメント、細胞周期調節因子、Rhoキナーゼ調節因子、例えば改変された細菌C3外酵素であるCethrin[BioAxone Therapeutics,Inc.、サンローラン、ケベック州、カナダから入手可能]、BCL-xL、BCL2、XIAP、FLICEc-s、ドミナントネガティブカスパーゼ-8、ドミナントネガティブカスパーゼ-9、SPI-6(例えば米国特許出願第20070026076号を参照)、転写因子PGC-α1、Pinch遺伝子、ILK遺伝子およびチモシンβ4遺伝子)、凝固因子(例えば、第VIII因子、第IX因子、第X因子等)、エリスロポエチン、アンジオスタチン、エンドスタチン、カタラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、細胞内のおよび/または細胞外のスーパーオキシドジスムターゼ、レプチン、LDL受容体、ネプリライシン、リポタンパク質リパーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、β-グロビン、α-グロビン、スペクトリン、α-抗トリプシン、メチルシトシン結合タンパク質2、アデノシンデアミナーゼ、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、β-グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、リソソームヘキソサミニダーゼA、分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ、RP65タンパク質、サイトカイン(例えばα-インターフェロン、β-インターフェロン、インターフェロン-γ、インターロイキン1~14、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、リンフォトキシン等)、ペプチド増殖因子、神経栄養因子およびホルモン(例えばソマトトロピン、インスリン、IGF-1およびIGF-2等のインスリン様増殖因子、GLP-1、血小板由来増殖因子、表皮増殖因子、繊維芽細胞増殖因子、神経増殖因子、神経栄養因子-3および神経栄養因子-4、脳由来神経栄養因子、グリア由来増殖因子、形質転換増殖因子-αおよび形質転換増殖因子-β等)、骨形態形成タンパク質(RANKLおよびVEGFを含む)、リソソームタンパク質、グルタミン酸受容体、リンフォカイン、可溶性CD4、Fc受容体、T細胞受容体、ApoE、ApoC、タンパク質ホスファターゼ阻害因子1の阻害因子1(I-1)、ホスホランバン、serca2a、リソソーム酸α-グルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼA、Barkct、β2-アドレナリン受容体、β2-アドレナリン受容体キナーゼ(BARK)、ホスホイノシチド-3キナーゼ(PI3キナーゼ)、カルサルシン、受容体(例えば腫瘍壊死増殖因子-α可溶性受容体)、抗炎症性因子、例えばIRAP、Pim-1、PGC-1α、SOD-1、SOD-2、ECF-SOD、カリクレイン、チモシン-β4、低酸素誘導転写因子[HIF]、血管新生因子、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、Gタンパク質共役受容体キナーゼ2型ノックダウンをもたらす分子、例えば短縮型の構成的に活性なbARKct;ホスホランバン阻害分子またはドミナントネガティブ分子、例えばホスホランバンS16E、モノクローナル抗体(単鎖モノクローナル抗体を含む)または自殺遺伝子産物(例えばチミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ジフテリア毒素および腫瘍壊死因子、例えばTNF-α)、ならびにそれを必要とする対象で治療効果を有する任意の他のポリペプチドが挙げられるがこれらに限定されない。
【0073】
ポリペプチドをコードする異種ヌクレオチド配列として、レポーターポリペプチド(例えば酵素)をコードする異種ヌクレオチド配列が挙げられる。レポーターポリペプチドは、当分野で既知であり、該レポーターポリペプチドとして、蛍光タンパク質(例えばEGFP、GFP、RFP、BFP、YFP、またはdsRED2)、ルシフェラーゼ(例えばガウシア属(Gaussia)、ウミシイタケ属(Renilla)、またはフォティヌス属(Photinus)由来)、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、アルカリホスファターゼ、およびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等の検出可能な産物を生成する酵素、または直接検出することができるタンパク質が挙げられるがこれらに限定されない。事実上いかなるタンパク質も、例えばそのタンパク質に対する特異的抗体を使用することによって直接検出することができる。真核細胞の正または負の選択のいずれかに適した追加のマーカー(および関連抗生物質)は、SambrookおよびRussell(2001)、Molecular Cloning、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、ならびに定期的なアップデートを含めたAusubel等(1992)、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley&Sonsに開示されている。
【0074】
また、異種核酸は、機能性RNA、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム(例えば、米国特許第5,877,022号に記載されている)、スプライソソーム媒介トランススプライシングをもたらすRNA(Puttaraju他、(1999)Nature Biotech.17:246、米国特許第6,013,487号、米国特許第6,083,702号を参照)、遺伝子サイレンシングを媒介する低分子干渉RNA(siRNA)を含む干渉RNA(RNAi)(Sharp他、(2000)Science 287:2431を参照)、マイクロRNAまたは「ガイド」RNA(Gorman他、(1998)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:4929、Yuan他に対する米国特許第5,869,248号)等その他の非翻訳「機能性」RNA等をコードすることができる。例示的な非翻訳RNAとして、(例えば、腫瘍を治療するためのおよび/もしくは化学療法による損傷を予防するための心臓への投与のための)多剤耐性(MDR)遺伝子産物に対するRNAiまたはアンチセンスRNA、ミオスタチン(デュシェンヌ型のもしくはベッカー型の筋ジストロフィー)に対するRNAiまたはアンチセンスRNA、VEGFまたは(腫瘍を処置するための)本明細書に具体的に記載した腫瘍免疫原が挙げられるがこれに限定されない腫瘍免疫原に対するRNAiまたはアンチセンスRNA、変異ジストロフィン(デュシェンヌ型のもしくはベッカー型の筋ジストロフィー)を標的とするRNAiまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド、(B型肝炎感染を防止および/もしくは処置するための)B型肝炎表面抗原遺伝子に対するRNAiまたはアンチセンスRNA、(HIVを予防および/もしくは処置するための)HIVtat遺伝子および/またはHIVrev遺伝子に対するRNAiまたはアンチセンスRNA、ならびに/または(病原体から対象を保護するための)病原体由来の任意の他の免疫原または(疾患を予防するまたは処置するための)欠陥遺伝子産物に対するRNAiまたはアンチセンスRNAが挙げられる。上記した標的または任意の他の標的に対するRNAiまたはアンチセンスRNAを研究試薬として用いることもできる。
【0075】
当分野で知られているように、アンチセンス核酸(例えばDNAまたはRNA)配列および阻害性RNA(例えばマイクロRANおよびRNAi、例えばsiRNAまたはshRNA)配列を使用して、ジストロフィン遺伝子の欠如から生じる筋ジストロフィーを有する患者で「エクソンスキッピング」を誘発することができる。そのため、異種核酸は、適切なエクソンスキッピングを誘発するアンチセンス核酸または阻害性RNAをコードすることができる。エクソンスキッピングのための特定のアプローチはジストロフィン遺伝子の根本的な欠如の性質に依存し、多くのそのような戦略が当分野で既知であることを当業者は認識する。例示的なアンチセンス核酸配列および阻害性RNA配列は、1つまたは複数のジストロフィンエクソン(例えばエクソン19または23)の上流の分岐点および/または下流のドナースプライス部位および/または内部スプライシングエンハンサー配列を標的とする。例えば、特定の実施形態では、異種核酸は、ジストロフィン遺伝子のエクソン19または23の上流の分岐点および下流のスプライスドナー部位に対するアンチセンス核酸または阻害性RNAをコードする。そのような配列を、改変U7snRNAとアンチセンス核酸または阻害性RNAとを送達するAAVベクターに組み込むことができる(例えばGoyenvalle他、(2004)Science 306:1796~1799を参照)。別の戦略として、改変U1snRNAを、ジストロフィンエクソン(例えばエクソン19または23)の上流のおよび下流のスプライス部位に相補的なsiRNA、マイクロRNAまたはアンチセンスRNAと共にAAVベクターに組み込むことができる(例えばDenti他、(2006)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 103:3758~3763を参照)。さらに、アンチセンス核酸および阻害性RNAは、エクソン19、43、45または53中のスプライシングエンハンサー配列を標的とすることができる(例えば、米国特許第6,653,467号、米国特許第6,727,355号および米国特許第6,653,466号を参照)。
【0076】
組換えウイルスベクターはまた、宿主染色体の遺伝子座と相同性を共有し該遺伝子座と組み換わる異種ヌクレオチド配列を含むこともできる。このアプローチを用いて、宿主細胞での遺伝子欠損を修正することができる。
【0077】
本発明はまた、例えばワクチン接種のための、免疫原性ポリペプチドを発現する組換えウイルスベクターも提供する。異種核酸は、当分野で既知の目的の任意の免疫原をコードすることができ、該免疫原として、ヒト免疫不全ウイルス、インフルエンザウイルス、gagタンパク質、腫瘍抗原、癌抗原、細菌性抗原、ウイルス抗原等からの免疫原が挙げられるがこれらに限定されない。また、免疫原は、ウイルスカプシド中に存在する(例えばウイルスカプシド中に組み込まれる)ことができる、または(例えば共有結合改変により)ウイルスカプシドに繋がれ得る。
【0078】
パルボウイルスのワクチンとしての使用は当分野で既知である(例えばMiyamura他、(1994)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 91:8507、Young他に対する米国特許第5,916,563号、Mazzara他に対する米国特許第5,905,040号、米国特許第5,882,652号、Samulski他に対する米国特許第5,863,541号、これらの開示は引用することにより本明細書の一部をなすものとする)。抗原がウイルスカプシド中に存在することができる。また、組換えベクターゲノムに導入した異種核酸から抗原を発現させることができる。
【0079】
免疫原性ポリペプチドまたは免疫原は、疾患に対して対象を防御するのに適した任意のポリペプチドであり得、該疾患として、微生物による疾患、細菌による疾患、原虫による疾患、寄生虫による疾患、真菌による疾患およびウイルスによる疾患が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、免疫原は、オルソミクソウイルス免疫原(例えばインフルエンザウイルス免疫原、例えばインフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)表面タンパク質もしくはインフルエンザウイルス核タンパク質遺伝子、またはウマインフルエンザウイルス免疫原)、またはレンチウイルス免疫原(例えばウマ伝染性貧血ウイルス免疫原、サル免疫不全ウイルス(SIV)免疫原またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)免疫原、例えばHIVもしくはSIVのエンベロープGP160タンパク質、HIVもしくはSIVのマトリックス/カプシドタンパク質、ならびにHIVもしくはSIVのgag遺伝子産物、pol遺伝子産物およびenv遺伝子産物)であり得る。免疫原はまた、アレナウイルス免疫原(例えばラッサ熱ウイルス免疫原、例えばラッサ熱ウイルスのヌクレオカプシドタンパク質遺伝子およびラッサ熱エンベロープ糖タンパク質遺伝子)、ポックスウイルス免疫原(例えばワクシニア、例えばワクシニアのL1遺伝子またはL8遺伝子)、フラビウイルス免疫原(例えば黄熱病ウイルス免疫原または日本脳炎ウイルス免疫原)、フィロウイルス免疫原(例えばエボラウイルス免疫原またはマールブルグウイルス免疫原、例えばNP遺伝子およびGP遺伝子)、ブニヤウイルス免疫原(例えばRVFVウイルス、CCHFウイルスおよびSFSウイルス)、またはコロナウイルス免疫原(例えば感染性ヒトコロナウイルス免疫原、例えばヒトコロナウイルスのエンベロープ糖タンパク質遺伝子またはブタ伝染性胃腸炎ウイルス免疫原またはトリ伝染性気管支炎ウイルス免疫原または重症急性呼吸器症候群(SARS)免疫原、例えばS[S1もしくはS2]タンパク質、Mタンパク質、Eタンパク質またはNタンパク質またはそれらの免疫原性フラグメント)であることもできる。免疫原はさらに、ポリオ免疫原、ヘルペス免疫原(例えばCMV免疫原、EBV免疫原、HSV免疫原)、流行性耳下腺炎免疫原、麻疹免疫原、風疹免疫原、ジフテリア毒素もしくはその他のジフテリア免疫原、百日咳抗原、肝炎(例えばA型肝炎、B型肝炎もしくはC型肝炎)免疫原または当分野で既知の任意の他のワクチン免疫原であり得る。
【0080】
また、免疫原は、任意の腫瘍細胞抗原または癌細胞抗原であり得る。任意選択的に、腫瘍抗原または癌抗抗原を癌細胞の表面上で発現させる。例示的な癌細胞抗原および腫瘍細胞抗原がS.A.Rosenberg、(1999)Immunity 10:281)に記載されている。例示的な癌抗原および腫瘍抗原として、BRCA1遺伝子産物、BRCA2遺伝子産物、gp100、チロシナーゼ、GAGE-1/2、BAGE、RAGE、NY-ESO-1、CDK-4、β-カテニン、MUM-1、カスパーゼ-8、KIAA0205、HPVE、SART-1、PRAME、p15、MART-1(Coulie他、(1991)J.Exp.Med.180:35)を含むメラノーマ腫瘍抗原(Kawakami他、(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3515、Kawakami他、(1994)J.Exp.Med.、180:347、Kawakami他、(1994)Cancer Res.54:3124)、gp100(Wick他、(1988)J.Cutan.Pathol.4:201)ならびにMAGE抗原(MAGE-1、MAGE-2およびMAGE-3)(Van der Bruggen他、(1991)Science、254:1643)、CEA、TRP-1;TRP-2;P-15およびチロシナーゼ(Brichard他、(1993)J.Exp.Med.178:489);HER-2/neu遺伝子産物(米国特許第4,968,603号);CA125;HE4;LK26;FB5(エンドシアリン);TAG72;AFP;CA19-9;NSE;DU-PAN-2;CA50;Span-1;CA72-4;HCG;STN(シアリルTn抗原);c-erbB-2タンパク質;PSA;L-CanAg;エストロゲン受容体;乳脂肪グロブリン;p53腫瘍サプレッサータンパク質(Levine、(1993)Ann.Rev.Biochem.62:623);ムチン抗原(国際公開第90/05142号);テロメラーゼ;核マトリックスタンパク質;前立腺酸性ホスファターゼ;パピローマウイルス抗原;ならびに以下の癌に関連する抗原:メラノーマ、腺がん、胸腺腫、肉腫、肺癌、肝臓癌、結腸癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、子宮癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頚部癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、脳癌、腎臓癌、胃癌、食道癌、頭頚部癌およびその他(例えばRosenberg、(1996)Ann.Rev.Med.47:481~91を参照)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0081】
また、異種ヌクレオチド配列は、望ましくはインビトロ、エクスビボでまたはインビボで細胞中において産生される任意のポリペプチドをコードすることができる。例えば、ウイルスベクターを培養細胞に導入し、発現したタンパク質産物を培養細胞から単離することができる。
【0082】
目的の異種核酸を適切な制御配列と作動可能に結合させることができることを当業者は理解する。例えば、異種核酸を、発現制御エレメント、例えば転写/翻訳制御シグナル、複製開始点、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム進入部位(IRES)、プロモーター、エンハンサー等と作動可能に結合させることができる。
【0083】
所望のレベルおよび組織特異的発現に応じて様々なプロモーター/エンハンサーエレメントを使用することができることを当業者はさらに認識する。所望の発現パターンに応じて、プロモーター/エンハンサーは構成的であり得る、または誘導性であり得る。プロモーター/エンハンサーは生来または外来性であり得、天然配列または合成配列であり得る。外来性とは、転写開始領域が、該転写開始領域が導入されている野生型宿主において見出されないことを意図するものである。
【0084】
プロモーター/エンハンサーエレメントは、標的細胞もしくは処置する対象に対して生来のものであり得、および/または異種核酸配列に対して生来のものであり得る。プロモーター/エンハンサーエレメントは一般に、目的の標的細胞中で機能することができるように選択される。代表的な実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは哺乳動物のプロモーター/エンハンサーエレメントである。プロモーター/エンハンサーエレメントはRNAポリメラーゼIIベースのプロモーターまたはRNAポリメラーゼIIIベースのプロモーターであり得る。プロモーター/エンハンサーエレメントは構成的または誘導性であり得る。
【0085】
誘導性発現制御エレメントは一般に、異種核酸配列の発現に対する調節をもたらすことが望ましい用途で使用される。遺伝子送達用の誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは、組織特異的なまたは組織優先的なプロモーター/エンハンサーエレメントであり得、該エレメントには、(心臓、骨格および/または平滑筋を含む)筋肉に特異的なまたは優先的な、(脳特異的を含む)神経組織に特異的なまたは優先的な、(網膜特異的および角膜特異的を含む)眼、肝臓に特異的なまたは優先的な、骨髄に特異的なまたは優先的な、膵臓に特異的なまたは優先的な、脾臓に特異的なまたは優先的な、および肺に特異的なまたは優先的なプロモーター/エンハンサーエレメントが含まれる。一実施形態では、肝細胞に特異的なまたは肝細胞に優先的なプロモーターを使用する。肝細胞に特異的または優先的なプロモーターの例として、アポリポタンパク質AII、アルブミン、アルファ1-アンチトリプシン、チロキシン結合グロブリン、チトクロームP450 CYP3A4もしくはマイクロRNA122または合成の肝臓特異的な調節配列が挙げられるがこれらに限定されない。肝細胞に特異的または優先的なプロモーターを使用することにより、異種核酸の発現を肝臓にさらに限定することによって合成AAVベクターによって実現される特異性を増加させることができる。その他の誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントとして、ホルモン誘導性エレメントおよび金属誘導性エレメントが挙げられる。例示的な誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントとして、Tetオン/オフエレメント、RU486-誘導性プロモーター、エクジソン誘導性プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーターおよびメタロチオネインプロモーターが挙げられるがこれらに限定されない。
【0086】
標的細胞において異種核酸配列が転写され、次いで翻訳される実施形態では、挿入されたタンパク質コード配列の効率的な翻訳のために、特異的な開始シグナルを一般に用いる。ATG開始コドンおよび隣接配列を含むことができるこれらの外因性翻訳制御配列は様々な起源であり得、すなわち天然および合成のどちらでもあることができる。
【0087】
本発明はまた、AAVカプシドおよびAAVゲノムを含む合成AAV粒子も提供し、AAVゲノムは、AAVカプシドに「対応する」(すなわちAAVカプシドをコードする)。そのようなキメラAAV粒子のコレクションまたはライブラリも提供され、コレクションまたはライブラリは、2個以上、10個以上、50個以上、100個以上、1000個以上、10個以上、10個以上または10個以上の特徴的な配列を含む。
【0088】
本発明は、本発明に係る改変AAV5カプシドタンパク質を含む、当該タンパク質からなる、または当該タンパク質から実質的になる「空の」(すなわちベクターゲノムが存在しない)カプシド粒子をさらに包含する。米国特許第5,863,541号に記載されているように、本発明に係る合成AAVカプシドを「カプシド媒体」として使用することができる。ウイルスカプセルに共有結合で連結させることができ、結合させることができ、またはウイルスカプシドによりパッケージングすることができ、細胞に移入させることができる分子として、DNA、RNA、脂質、炭水化物、ポリペプチド、有機小分子またはそれらの組み合わせが挙げられる。さらに、分子を宿主標的細胞中に移入させるために、分子をウイルスカプシドの外側に関連させることができる(例えば「繋ぐことができる」)。本発明の一実施形態では、分子はカプシドタンパク質に共有結合的に連結している(すなわち、コンジュゲートしている、または化学的に連結している)。分子を共有結合で連結させる方法は当業者に既知である。
【0089】
本発明に係るウイルスカプシドにより、新規のカプシド構造に対する抗体を産生させる際の使用も見出される。さらなる代替として、細胞への抗原提示のために、例えば外因性アミノ酸配列への免疫応答をもたらすための対象への投与のために、外因性アミノ酸配列をウイルスカプシドに挿入することができる。
【0090】
本発明はまた、本発明に係る改変AAV5カプシドタンパク質をコードする核酸(例えば単離された核酸)も提供する。核酸を含むベクターならびに本発明に係る核酸および/またはベクターを含む(インビボでのまたは培養下での)細胞がさらに提供される。そのような核酸、ベクターおよび細胞を、例えば本明細書に記載したウイルスベクターの産生用の試薬(例えばヘルパー構築物またはパッケージング細胞)として使用することができる。
【0091】
例示的な実施形態では、本発明は、配列番号2、4、6、8、もしくは10またはそれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列の改変AAV5カプシドをコードする核酸配列を提供する。いくつかの実施形態では、核酸は、配列番号1、3、5、7、または9のうちのいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性、例えば少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むか、該配列から実質的になるか、または該配列からなる。いくつかの実施形態では、核酸は、配列番号1、3、5、7、または9のうちのいずれか1つのヌクレオチド配列を含むか、該配列から実質的になるか、または該配列からなる。本発明はまた、上記したカプシドタンパク質バリアントおよび融合タンパク質をコードする核酸も提供する。特定の実施形態では、核酸は、当業者に既知の標準的な条件下で本明細書に具体的に開示した核酸配列の相補体にハイブリダイズし、バリアントカプシドおよび/またはカプシドタンパク質をコードする。任意選択的に、バリアントカプシドまたはカプシドタンパク質は、カプシドおよび/または配列番号1、3、5、7、または9の核酸配列でコードされたカプシドもしくはカプシドタンパク質の少なくとも1つの特性を実質的に保持する。例えば、バリアントカプシドまたはバリアントカプシドタンパク質を含むウイルス粒子は、配列番号1、3、5、7、または9の核酸コード配列でコードされたカプシドまたはカプシドタンパク質を含むウイルス粒子の肝臓向性プロファイルを実質的に保持することができる。
【0092】
例えば、低ストリンジェンシー条件下で、中程度のストリンジェンシー条件下で、さらにはストリンジェントな条件下で、そのような配列のハイブリダイゼーションを実行することができる。低ストリンジェンシーの、中程度のストリンジェンシーの、およびストリンジェントなハイブリダイゼーションの例示的条件は以下の通りである。(例えば、それぞれ、37℃での、5×デンハルト溶液、0.5%SDSおよび1×SSPEを加えた35~40%ホルムアミドからなる洗浄ストリンジェンシーで表される条件、42℃での、5×デンハルト溶液、0.5%SDSおよび1×SSPEを加えた40~45%ホルムアミドからなる洗浄ストリンジェンシーで表される条件、ならびに42℃での、5×デンハルト溶液、0.5%SDSおよび1×SSPEを加えた50%ホルムアミドからなる洗浄ストリンジェンシーで表される条件)。例えばSambrook他、Molecular Cloning,A Laboratory Manual(第4版、2013)(Cold Spring Harbor Laboratory)を参照。
【0093】
その他の実施形態では、本発明におけるバリアントカプシドまたはカプシドタンパク質をコードする核酸配列は、配列番号1の核酸配列との少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、もしくは99.9%のまたはより高い配列同一性を有し、配列番号1、3、5、7、または9の核酸でコードされたカプシドまたはカプシドタンパク質の少なくとも1つの特性を実質的に保持するバリアントカプシドまたはカプシドタンパク質を任意選択的にコードする。
【0094】
当分野で既知であるように、多くの異なるプログラムを使用して、核酸またはポリペプチドが既知の配列に対する配列同一性を有するかどうかを確認することができる。パーセント同一性は本明細書で使用する場合、BLASTNを使用してその他の核酸(またはその相補鎖)と(適切なヌクレオチドの挿入または欠失により)最適にアライメントした場合に、核酸またはそのフラグメントが別の核酸に対する特定のパーセント同一性を共有することを意味する。2つの異なる核酸の間のパーセント同一性を決定するために、BLASTNプログラム「BLAST 2 sequences」を使用してパーセント同一性を決定することができる。このプログラムは、インターネット上でNational Center for Biotechnology Information(NCBI)から公共で使用するために入手可能である(Altschul他、(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389~3402)。使用するパラメータは、デフォルトパラメータを丸括弧で示す、算出したパーセント同一性(以下で算出する)が最も高い以下のあらゆる組み合わせである。プログラム--blastn Matrix--0 BLOSUM62 Reward for a match--0または1(1)ミスマッチに対するペナルティ--0、-1、-2または-3(-2)オープンギャップペナルティ--0、1、2、3、4または5(5)伸長ギャップペナルティ--0または1(1)ギャップx_ドロップオフ--0または50(50)期待値--10。
【0095】
ポリペプチドに言及する場合のパーセント同一性またはパーセント類似性は、問題となるポリペプチドがBLASTPを使用して決定した共通の長さにわたって別のタンパク質またはその一部と比較した場合に特定のパーセント同一性またはパーセント類似性を表すことを示す。このプログラムも、インターネット上でNational Center for Biotechnology Information(NCBI)から公共で使用するために入手可能である(Altschul他、(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389~3402)。ポリペプチドに関するパーセント同一性またはパーセント類似性を典型的には、配列解析ソフトウェアを使用して測定する。例えばthe Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group、University of Wisconsin Biotechnology Center、910ユニバーシティアベニュー、マディソン、ウイスコンシン州、53705を参照。タンパク質解析ソフトウェアは、様々な置換、欠失およびその他の改変に割り当てられる相同性の基準を使用して類似の配列をマッチさせる。保存的置換として、以下の群内での置換が典型的には挙げられる。グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リシン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。
【0096】
特定の実施形態では、核酸は、プラスミド、ファージ、ウイルスベクター(例えばAAVベクター、アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターまたはバキュロウイルスベクター)、細菌人工染色体(BAC)または酵母人工染色体(YAC)が挙げられるがこれらに限定されないベクターを含むことができるか、該ベクターから実質的になることができるか、または該ベクターからなることができる。例えば、核酸は、5’末端反復および/または3’末端反復(例えば5’AAV末端反復および/または3’AAV末端反復)を含むAAVベクターを含むことができるか、該AAVベクターからなることができるか、または該AAVベクターから実質的になることができる。
【0097】
いくつかの実施形態では、合成AAVカプシドタンパク質をコードする核酸は、AAVrepコード配列をさらに含む。例えば、核酸は、ウイルスのストックを産生するためのヘルパー構築物であり得る。
【0098】
本発明はまた、本発明に係る核酸を安定的に含むパッケージング細胞も提供する。例えば、核酸を細胞のゲノムに安定的に組み込むことができる、またはエピソーム形態(例えば「EBVベースの核エピソーム」)で安定的に維持することができる。
【0099】
核酸を、ウイルス送達ベクター等の送達ベクターに組み込むことができる。例示すると、本発明に係る核酸を、AAV粒子、アデノウイルス粒子、ヘルペスウイルス粒子、バキュロウイルス粒子または任意の他の適切なウイルス粒子中にパッケージングすることができる。
【0100】
さらに、核酸をプロモーターエレメントと作動可能に結合させることができる。プロモーターエレメントを本明細書でより詳細に説明する。
【0101】
本発明は、本発明に係るウイルスベクターを産生する方法をさらに提供する。代表的な実施形態では、本発明は、組換えウイルスベクターを産生する方法であって、細胞にインビトロで、(a)(i)異種核酸および(ii)AAVテンプレートのウイルス粒子へのカプシド形成に十分なパッケージングシグナル配列(例えば、AAV末端反復等の1つまたは複数の(例えば2つの)末端反復)を含むテンプレートと、(b)テンプレートの複製およびウイルス粒子へのカプシド形成に十分なAAV配列(例えば、本発明に係るAAVカプシドをコードするAAVrep配列およびAAVcap配列)とを提供することを含む方法を提供する。カプシド内にパッケージングされたテンプレートを含む組換えウイルス粒子が細胞中で産生されるような条件下で、テンプレート配列およびAAV複製配列およびカプシド配列が提供される。本方法は、細胞からウイルス粒子を回収する工程をさらに含むことができる。培地からかつ/または細胞を溶解させることにより、ウイルス粒子を回収することができる。
【0102】
一つの例示的な実施形態では、本発明は、AAVカプシドを含むrAAV粒子を産生する方法であって、細胞にインビトロで、本発明に係る改変AAV5カプシドをコードする核酸、AAVのrepをコードする配列、異種核酸を含むAAVベクターゲノム、および増殖性のAAV感染を生じさせるためのヘルパー機能を提供するステップと、AAVベクターゲノムをカプシド形成して(カプシドで包んで)、AAVカプシドを含むAAV粒子を構築するステップとを含む方法を提供する。
【0103】
細胞は典型的には、AAVウイルス複製を許容する細胞である。哺乳動物細胞等の当分野で既知の任意の適切な細胞を用いることができる。複製欠陥性ヘルパーウイルス、例えば293細胞またはその他のE1aトランス相補性細胞から欠失した機能を提供するトランス相補性パッケージング細胞株も適している。
【0104】
当分野で既知の任意の方法により、AAV複製配列およびカプシド配列を供給することができる。最新のプロトコルにより、単一のプラスミド上でAAVrep/cap遺伝子が典型的には発現される。AAV複製配列およびパッケージング配列を共に供給する必要はないが、そのようにすることが便利な場合がある。AAVrep配列および/またはAAVcap配列を、任意のウイルスベクターまたは非ウイルスベクターにより供給することができる。例えば、rep/cap配列を、ハイブリッドアデノウイルスベクターまたはハイブリッドヘルペスウイルスベクターにより供給することができる(例えば、欠失アデノウイルスベクターのEa1領域またはE3領域に挿入することができる)。EBVベクターを用いてAAVcap遺伝子およびAAVrep遺伝子を発現させることもできる。この方法の1つの利点は、EBVベクターがエピソームであるが、連続的な細胞分裂を通して高コピー数を維持することができる(すなわち、EBVベースの核エピソームと命名した染色体外エレメントとして細胞に安定的に組み込まれる)ことである。
【0105】
さらなる代替として、rep/cap配列は細胞内で安定的に保有され得る(エピソームであり得る、または組み込まれ得る)。
【0106】
典型的には、AAVrep/cap配列がAAVパッケージング配列(例えばAAV ITR)に隣接せず、これらの配列のレスキューおよび/またはパッケージングを防止することができる。
【0107】
当分野で既知の任意の方法を使用して、テンプレート(例えばrAAVベクターゲノム)を細胞に供給することができる。例えば、非ウイルス(例えばプラスミド)ベクターまたはウイルスベクターにより、テンプレートを供給することができる。特定の実施形態では、テンプレートは、ヘルペスウイルスベクターまたはアデノウイルスベクターにより供給される(例えば、欠失アデノウイルスのE1a領域またはE3領域に挿入される)。別の例示として、AAV ITRに隣接するレポーター遺伝子を保有するバキュロウイルスベクターがPalombo他、(1998)J.Virol.72:5025に記載されている。EBVベクターを用いて、rep/cap遺伝子に関して上記に記載したようにテンプレートを送達することもできる。
【0108】
別の代表的な実施形態では、rAAVウイルスを複製することによりテンプレートが供給される。さらに他の実施形態では、AAVプロウイルスが細胞の染色体に安定的に組み込まれる。
【0109】
最大のウイルス力価を得るために、増殖性AAV感染に必須のヘルパーウイルス機能(例えばアデノウイルスまたはヘルペスウイルス)が細胞に概して供給される。AAV複製に必要なヘルパーウイルス配列は当分野で既知である。典型的には、これらの配列は、ヘルパーアデノウイルスベクターまたはヘルパーヘルペスウイルスベクターにより供給される。また、別の非ウイルスベクターまたはウイルスベクターにより、例えばFerrari他、(1997)Nature Med.3:1295ならびに米国特許第6,040,183号および米国特許第6,093,570号に記載されているように効率的なAAV産生に必要である全てのヘルパー遺伝子を保有する非感染性のアデノウイルスミニプラスミドとして、アデノウイルス配列またはヘルペスウイルス配列を供給することができる。
【0110】
さらに、染色体に組み込まれた、または安定的な染色体外エレメントとして維持されたヘルパー遺伝子を有するパッケージング細胞により、ヘルパーウイルス機能を提供することができる。代表的な実施形態では、ヘルパーウイルス配列をAAVビリオン中にパッケージングすることはできず、例えばAAV ITRに隣接していない。
【0111】
AAV複製配列およびカプシド配列ならびにヘルパーウイルス配列(例えばアデノウイルス配列)を単一のヘルパー構築物上に供給することが有利であり得ることを当業者は認識する。このヘルパー構築物は非ウイルス構築物またはウイルス構築物であり得るが、任意選択的に、AAVrep/cap遺伝子を含むハイブリッドアデノウイルスまたはハイブリッドヘルペスウイルスであり得る。
【0112】
一つの特定の実施形態では、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによりAAVrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列が供給される。このベクターはrAAVテンプレートをさらに含有する。AAVrep/cap配列および/またはrAAVテンプレートを、アデノウイルスの欠失領域(例えばE1a領域またはE3領域)に挿入することができる。
【0113】
さらなる実施形態では、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによりAAVrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列が供給される。rAAVテンプレートはプラスミドテンプレートとして供給される。
【0114】
別の例示的な実施形態では、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによりAAVrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列が供給され、rAAVテンプレートはプロウイルスとして細胞に組み込まれる。また、染色体外エレメントとして(例えば「EBVベースの核エピソーム」として、Margolski、(1992)Curr.Top.Microbiol.Immun.158:67を参照)細胞内に維持されるEBVベクターによりrAAVテンプレートが供給される。
【0115】
さらに例示的な実施形態では、単一のアデノウイルスヘルパーによりAAVrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列が供給される。rAAVテンプレートは別々の複製ウイルスベクターとして供給される。例えば、rAAV粒子によりまたは別の組換えアデノウイルス粒子によりrAAVテンプレートを供給することができる。
【0116】
上述の方法によれば、ハイブリッドアデノウイルスベクターは、アデノウイルスの複製およびパッケージングに十分なアデノウイルスの5’シス配列および3’シス配列(すなわち、アデノウイルスの末端反復およびPAC配列)を典型的には含む。AAVrep/cap配列および存在する場合にはrAAVテンプレートはアデノウイルスバックボーンに埋め込まれており、5’シス配列および3’シス配列に隣接しており、そのため、これらの配列をアデノウイルスカプシド中にパッケージングすることができる。上記に記載したように、代表的な実施形態では、アデノウイルスヘルパー配列およびAAVrep/cap配列はAAVパッケージング配列(例えばAAV ITR)に隣接しておらず、そのため、これらの配列はAAVビリオン中にパッケージングされない。
【0117】
AAVパッケージング法において、ヘルペスウイルスをヘルパーウイルスとして使用することもできる。AAVrepタンパク質をコードするハイブリッドヘルペスウイルスは、よりスケーラブルなAAVベクター産生スキームを有利に促進することができる。AAV-2rep遺伝子およびAAV-2cap遺伝子を発現するハイブリッド単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)が記載されている(Conway他、(1999)Gene Therapy 6:986および国際公開第00/17377号、これらの開示は引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする)。
【0118】
さらなる代替として、Urabe他、(2002)Human Gene Therapy 13:1935~43に記載されているようにrep/cap遺伝子およびrAAVテンプレートの送達にバキュロウイルスベクターを使用して、本発明に係るウイルスベクターを昆虫細胞中で産生することができる。
【0119】
AAVを産生するその他の方法は、安定的に形質転換されたパッケージング細胞を使用する(例えば米国特許第5,658,785号を参照)。
【0120】
当分野で既知の任意の方法により、ヘルパーウイルスの夾雑がないAAVベクターストックを得ることができる。例えば、AAVおよびヘルパーウイルスをサイズに基づいて容易に区別することができる。AAVをヘパリン基質に対する親和性に基づいてヘルパーウイルスから分離することもできる(Zolotukhin他、(1999)Gene Therapy 6:973)。代表的な実施形態では、いかなる夾雑ヘルパーウイルスも複製能を有しないように、欠失した複製欠損ヘルパーウイルスを使用する。さらなる代替として、アデノウイルスの初期遺伝子発現のみがAAVウイルスのパッケージングの媒介に必要であることから、後期遺伝子発現を欠いているアデノウイルスヘルパーを用いることができる。後期遺伝子発現が不完全なアデノウイルス変異体は当分野で既知である(例えばts100Kアデノウイルス変異体およびts149アデノウイルス変異体)。
【0121】
本発明におけるパッケージング法を用いて、ウイルス粒子の高力価ストックを産生することができる。特定の実施形態では、ウイルスストックは、少なくとも約10形質導入単位(tu)/ml、少なくとも約10tu/ml、少なくとも約10tu/ml、少なくとも約10tu/ml、少なくとも約10tu/mlまたは少なくとも約1010tu/mlの力価を有する。
【0122】
新規のカプシドタンパク質およびカプシド構造により、抗体の産生での用途、例えば診断用途もしくは治療用途、または研究試薬としての用途が見出される。そのため、本発明はまた、本発明に係る新規のカプシドタンパク質およびカプシドに対する抗体も提供する。
【0123】
用語「抗体(antibody)」または「抗体(antibodies)」は本明細書で使用する場合、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを含む全種類の免疫グロブリンを指す。抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであり得、および(例えば)マウス、ラット、ウサギ、ウマ、ヤギ、ヒツジまたはヒト等の任意の種に由来することができる、またはキメラ抗体であり得る。例えばWalker他、Mol.Immunol.26、403~11(1989)を参照。抗体は、例えば米国特許第4,474,893号または米国特許第4,816,567号に開示された方法に従って産生される組換えモノクローナル抗体であり得る。例えば米国特許第4,676,980号に開示された方法に従って、抗体を化学的に構築することもできる。
【0124】
本発明の範囲に含まれる抗体フラグメントとして、例えばFabフラグメント、F(ab’)2フラグメントおよびFcフラグメント、ならびにIgG以外の抗体から得られる対応するフラグメントが挙げられる。そのようなフラグメントを既知の技法により産生することができる。例えば、抗体分子のペプシン消化によりF(ab’)2フラグメントを産生することができ、F(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することによりFabフラグメントを生成することができる。また、Fab発現ライブラリを構築して、所望の特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの迅速で容易な同定を可能にすることができる(Huse他、(1989)Science 254、1275~1281)。
【0125】
標的に対するモノクローナル抗体が結合する抗原で適切な動物(例えばウサギ、ヤギ等)を免疫化すること、動物から免疫血清を採取すること、および既知の手順に従って免疫血清からポリクローナル抗体を分離することにより、ポリクローナル抗体を産生することができる。
【0126】
KohlerおよびMilstein、(1975)Nature 265、495~97の技法に従って、モノクローナル抗体をハイブリドーマ細胞株中で産生することができる。例えば、適切な抗原を含有する溶液をマウスに注入し、十分な時間後にマウスを屠殺して脾臓細胞を得ることができる。次いで、典型的にはポリエチレングリコールの存在下で、脾臓細胞を骨髄腫細胞とまたはリンパ腫細胞と融合させてハイブリドーマ細胞を産生することにより、脾臓細胞を不死化する。次いで、ハイブリドーマ細胞を適切な培地中で増殖させ、所望の特異性を有するモノクローナル抗体に関して上清をスクリーニングする。当業者に既知の組換え技法により、モノクローナルFabフラグメントを大腸菌(E.coli)中で産生することができる。例えばW.Huse、(1989)Science 246、1275~81を参照。
【0127】
標的ポリペプチドに特異的な抗体を、当分野で既知のファージディスプレイ技法により得ることもできる。
【0128】
様々なイムノアッセイを、所望の特異性を有する抗体を同定するためのスクリーニングに使用することができる。確立された特異性を有するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれかを使用する競合結合アッセイまたは免疫放射定量アッセイのための多くのプロトコルが当分野で公知である。そのようなイムノアッセイは、抗原とその特異的抗体との間での複合体形成(例えば抗原/抗体複合体形成)の測定を典型的には含む。2つの非干渉エピトープに対して反応性であるモノクローナル抗体を利用する二部位のモノクローナルベースのイムノアッセイを、競合結合アッセイと同様に使用することができる。
【0129】
既知の技法に従って、抗体を固体支持体(例えば、ラテックスまたはポリスチレン等の材料で形成されたビーズ、プレート、スライドまたはウェル)にコンジュゲートさせることができる。同様に、既知の技法に従って、検出可能な基、例えば放射性標識(例えば35S、125I、131I)、酵素標識(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ)および蛍光標識(例えばフルオロセイン)に抗体を直接的にまたは間接的にコンジュゲートさせることができる。当分野で周知であるように、例えば沈殿、凝集、フロキュレーション、放射活性、発色または変色、蛍光、発光等の検出により、本発明に係る方法における抗体/抗原複合体の形成を定量することができる。
【0130】
改変AAV5カプシドを使用する方法
本発明はまた、他の器官への送達を最小限に抑えながら、強化された効率および低い血清反応性で異種ヌクレオチド配列を肝臓に送達する方法にも関する。本発明に係るウイルスベクターを用いて、目的のヌクレオチド配列をインビトロで肝細胞または他の細胞に送達して、例えばインビトロで、またはエクスビボの遺伝子治療のためにポリペプチドまたは核酸を産生することができる。ベクターは、例えば治療用のまたは免疫原性のポリペプチドまたは核酸を発現するために、それを必要とする対象にヌクレオチド配列を送達する方法でさらに有用である。したがって、このようにしてポリペプチドまたは核酸を対象中においてインビボで産生することができる。このポリペプチドまたは核酸を対象が必要としている場合がある。なぜならば、対象がこのポリペプチドを欠乏しているからである、または処置の方法もしくはその他の方法としておよび以下でさらに説明するように、対象中でのポリペプチドもしくは核酸の産生により、ある程度の治療効果を付与することができるからである。
【0131】
特定の実施形態では、ベクターは、対象に一般に有益な効果をもたらすポリペプチドまたは核酸を発現するのに有用である。他の実施形態では、ベクターは、肝臓内の細胞(例えば肝細胞)に有益な効果をもたらすポリペプチドまたは核酸を発現するのに有用である。
【0132】
そのため、本発明の一態様は、目的の核酸を肝細胞に送達する方法であって、肝細胞を本発明に係るAAV粒子と接触させることを含む方法に関する。
【0133】
別の態様では、本発明は、対象となる哺乳動物において目的の核酸を肝細胞に送達する方法であって、有効量の、本発明に係るAAV粒子または医薬製剤を対象となる哺乳動物に投与し、それによって、対象となる哺乳動物内の肝細胞に目的の核酸を送達することを含む方法に関する。
【0134】
本発明のさらなる態様は、それを必要とする対象となる哺乳動物において障害を処置する方法であって、該障害が、該対象の肝臓で産物を発現することによって処置可能であり、該方法が、治療有効量の、本発明に係るAAV粒子を対象に投与することを含み、該産物が発現され、それによって障害を処置する、方法に関する。
【0135】
一般に、本発明に係るウイルスベクターを用いて、遺伝子発現に関連する任意の障害を伴う症状を処置するまたは改善する生物学的効果を有する任意の外来核酸を送達することができる。さらに、本発明を使用して、治療用ポリペプチドを送達することが効果的である任意の病状を処置することができる。例示的な病状として、嚢胞性線維症(嚢胞性線維症膜貫通制御タンパク質)および肺のその他の疾患、血友病A(第VIII因子)、血友病B(第IX因子)、サラセミア(β-グロビン)、貧血症(エリスロポエチン)およびその他の血液疾患、アルツハイマー病(GDF;ネプリライシン)、多発性硬化症(β-インターフェロン)、パーキンソン病(グリア細胞株由来の神経栄養因子[GDNF])、ハンチントン病(反復を除去するための、siRNAもしくはshRNA等のRNAi、アンチセンスRNAまたはマイクロRNAを含むがこれらに限定されない阻害性RNA)、筋萎縮性側索硬化症、てんかん(ガラニン、神経栄養因子)およびその他の神経障害、癌(エンドスタチン、アンジオスタチン、TRAIL、FASリガンド、インターフェロンを含むサイトカイン;VEGF、多剤耐性遺伝子産物または癌の免疫原に対する阻害性RNAを含む、RNAi(例えばsiRNAもしくはshRNA)、アンチセンスRNAおよびマイクロRNAを含むがこれらに限定されない阻害性RNA)、糖尿病(インスリン、PGC-α1、GLP-1、ミオスタチンプロペプチド、グルコーストランスポーター4)、デュシェンヌ型およびベッカー型を含む筋ジストロフィー(例えばジストロフィン、ミニジストロフィン、マイクロジストロフィン、インスリン様増殖因子I、サルコグリカン[例えばα、β、γ]、ミオスタチンまたはミオスタチンプロペプチドに対する阻害性RNA[例えばRNAi、アンチセンスRNAもしくはマイクロRNA]、ラミニン-アルファ2、フクチン関連タンパク質、ドミナントネガティブミオスタチン、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、抗炎症性ポリペプチド、例えばIカッパB優性変異体、サルコスパン、ユートロフィン、ミニユートロフィン、エクソンスキッピングを誘発するための、ジストロフィン遺伝子のスプライス部位に対する阻害性RNA[例えばRNAi、アンチセンスRNAもしくはマイクロRNA][例えばWO/2003/095647を参照]、エクソンスキッピングを誘発するための、U7 snRNAに対する阻害性RNA(例えばRNAi、アンチセンスRNAまたはマイクロRNA][例えばWO/2006/021724を参照]、およびミオスタチンまたはミオスタチンプロペプチドに対する抗体または抗体フラグメント)、ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ)、ハーラー病(α-L-イズロニダーゼ)、アデノシンデアミナーゼ欠乏症(アデノシンデアミナーゼ)、グリコーゲン蓄積症(例えばファブリー病[α-ガラクトシダーゼ]およびポンペ病[リソソーム酸性α-グルコシダーゼ])およびその他のリソソーム蓄積障害およびグリコーゲン蓄積障害を含むその他の代謝欠損、先天性肺気腫(α1-抗トリプシン)、レッシュ・ナイハン症候群(ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ)、ニーマン・ピック病(スフィンゴミエリナーゼ)、メープルシロップ尿症(分枝鎖ケト酸脱水素酵素)、網膜変性疾患(ならびに眼および網膜のその他の疾患;例えば、黄斑変性症に関するPDGF、エンドスタチンおよび/またはアンギオスタチン)、固形臓器の疾患、例えば脳(パーキンソン病[GDNF]、星状細胞腫[エンドスタチン、アンギオスタチンおよび/またはVEGFに対するRNAi]、神経膠芽腫[エンドスタチン、アンギオスタチンおよび/またはVEGFに対するRNAi])、肝臓(B型肝炎遺伝子および/またはC型肝炎遺伝子に関する、siRNAもしくはshRNA等のRNAi、マイクロRNAまたはアンチセンスRNA)、腎臓、うっ血性心不全または末梢動脈疾患(PAD)を含む心臓(例えば、プロテインホスファターゼ阻害剤I[I-1]、ホスホランバン、筋小胞体Ca2+-ATPアーゼ[serca2a]、ホスホランバン遺伝子を調節する亜鉛フィンガータンパク質、Pim-1、PGC-1α、SOD-1、SOD-2、ECF-SOD、カリクレイン、チモシンβ4、低酸素誘導転写因子[HIF]、βarkct、β2アドレナリン受容体、β2アドレナリン受容体キナーゼ[βARK]、ホスホイノシチド-3キナーゼ[PI3キナーゼ]、カルサルシン、血管新生因子、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、例えば短縮型の構成的に活性なbARKct等のGタンパク質共役受容体キナーゼ2型ノックダウンを引き起こす分子、ホスホランバンに対する阻害性RNA[例えばRNAi、アンチセンスRNAもしくはマイクロRNA];例えばホスホランバンA16E等のホスホランバン阻害またはドミナントネガティブ分子等の送達による)、関節炎(インスリン様増殖因子)、関節障害(インスリン様増殖因子)、内膜過形成(例えば、内皮型一酸化窒素合成酵素、誘導型一酸化窒素合成酵素の送達による)、心臓移植の生存期間の改善(スーパーオキシドジスムターゼ)、AIDS(可溶性CD4)、筋消耗(インスリン様増殖因子I、ミオスタチンプロペプチド、抗アポトーシス因子、フォリスタチン)、肢虚血(VEGF、FGF、PGC-1α、EC-SOD、HIF)、腎臓欠乏症(エリスロポエチン)、貧血症(エリスロポエチン)、関節炎(抗炎症性因子、例えばIRAPおよびTNFα可溶性受容体)、肝炎(α-インターフェロン)、LDL受容体欠乏症(LDL受容体)、高アンモニア血症(オルニチントランスカルバミラーゼ)、SCA1、SCA2およびSCA3を含む脊髄小脳失調症、フェニルケトン尿症(フェニルアラニンヒドロキシラーゼ)、自己免疫疾患等が挙げられるがこれらに限定されない。臓器移植後に本発明をさらに使用して、(例えば、免疫抑制剤または阻害性核酸を投与してサイトカイン産生を遮断することにより)移植の成功を高めかつ/または臓器移植もしくは補助療法のマイナスの副作用を低減することができる。別の例として、例えば癌患者において切断または外科切除後に、骨移植により骨形態形成タンパク質(RANKLおよび/またはVEGF等)を投与することができる。
【0136】
本発明に従って処置することできる例示的なリソソーム蓄積症として、ハーラー症候群(MPS IH)、シャイエ症候群(MPS IH)およびハーラー・シャイエ症候群(MPS IH/S)(α-L-イズロニダーゼ);ハンター症候群(MPS II)(イズロン酸硫酸スルファターゼ);サンフィリポA症候群(MPS IIIA)(ヘパラン-S-硫酸スルファミニダーゼ)、サンフィリポB症候群(MPS IIIB)(N-アセチル-D-グルコサミニダーゼ)、サンフィリポC症候群(MPS IIIC)(アセチル-CoA-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ)、サンフィリポD症候群(MPS IIID)(N-アセチル-グルコサミニン-6-硫酸スルファターゼ);モルキオA病(MPS IV A)(ガラクトサミン-6-硫酸スルファターゼ)、モルキオB病(MPS IV B)(β-ガラクトシダーゼ);マロトー・ラミー病(MPS VI)(アリールスルファターゼB);スライ症候群(MPS VII)(β-グルクロニダーゼ);ヒアルロニダーゼ欠乏症(MPS IX)(ヒアルロニダーゼ);シアリドーシス(ムコリピドーシスI)、ムコリピドーシスII(I細胞病)(N-アセチルグルコサミニル(actylglucos-aminyl)-1-ホスホトランスフェラーゼ触媒サブユニット)、ムコリピドーシスIII(偽性ハーラーポリジストロフィー)(N-アセチルグルコサミニル-1-ホスホトランスフェラーゼ;IIIA型[触媒サブユニット]およびIIIC型[基質認識サブユニット]);GM1ガングリオシドーシス(ガングリオシドβ-ガラクトシダーゼ)、GM2ガングリオシドーシスI型(テイ・サックス病)(β-ヘキサミニダーゼA)、GM2ガングリオシドーシスII型(サンドホフ病)(β-ヘキソサミニダーゼB);ニーマン・ピック病(A型およびB型)(スフィンゴミエリナーゼ);ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ);ファーバー病(セラミニダーゼ);ファブリー病(α-ガラクトシダーゼA);クラッベ病(ガラクトシルセラミドβ-ガラクトシダーゼ);異染性白質ジストロフィー(アリールスルファターゼA);ウォルマン病等のリソソーム酸リパーゼ欠乏症(リソソーム酸リパーゼ);バッテン病(若年型神経セロイドリポフスチン症)(リソソーム膜貫通CLN3タンパク質)シアリドーシス(ノイラミニダーゼ1);ガラクトシアリドーシス(ゴールドバーグ症候群)(防御タンパク質/カテプシンA);αマンノース症(α-D-マンノシダーゼ);βマンノース症(β-D-マンノシドーシス);フコシドーシス(α-D-フコシダーゼ);アスパルチルグルコサミン尿症(N-アスパルチルグルコサミニダーゼ);ならびにシアル酸尿症(リン酸Na共輸送体)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0137】
本発明に従って処置することができる例示的なグリコーゲン蓄積症として、Ia型GSD(フォンギールケ病)(グルコース-6-ホスファターゼ)、Ib型GSD(グルコース-6-リン酸トランスロカーゼ)、Ic型GSD(ミクロソームのリン酸輸送体またはピロリン酸輸送体)、Id型GSD(ミクロソームのグルコース輸送体)、ポンペ病または乳児のIIa型GSD(リソソーム酸α-グルコシダーゼ)およびIIb型(ダノン)(リソソーム膜タンパク質2)等のII型GSD、IIIa型GSDおよびIIIb型GSD(脱分枝酵素;アミログルコシダーゼおよびオリゴグルカノトランスフェラーゼ)、IV型GSD(アンダーソン病)(分枝酵素)、V型GSD(マックアードル病)(筋ホスホリラーゼ)、VI型GSD(ハース病)(肝臓ホスホリラーゼ)、VII型GSD(垂井病)(ホスホフルクトキナーゼ)、GSD VIII/IXa型(X連鎖性のホスホリラーゼキナーゼ)、GSD IXb型(肝臓ホスホリラーゼキナーゼおよび筋ホスホリラーゼキナーゼ)、GSD IXc型(肝臓ホスホリラーゼキナーゼ)、GSD IXd型(筋ホスホリラーゼキナーゼ)、GSD O(グリコーゲンシンターゼ)、ファンコニー・ビッケル症候群(グルコース輸送体2)、ホスホグルコイソメラーゼ欠乏症、筋ホスホグリセリン酸キナーゼ欠乏症、ホスホグリセリン酸ムターゼ欠乏症、フルクトース1,6-ジホスファターゼ欠乏症、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ欠乏症ならびに乳酸デヒドロゲナーゼ欠乏症が挙げられるがこれらに限定されない。
【0138】
遺伝子移入は、病状の理解および治療の提供における実質的に潜在的な用途を有する。欠損遺伝子が既知でありクローニングされている遺伝病が数多く存在する。一般に、上記の病状は以下の2つのクラスに分けられる。一般に劣性遺伝する(通常は酵素の)欠乏状態、および調節タンパク質または構造タンパク質に関わる可能性があり、典型的には優性遺伝する不均衡状態。欠乏状態の疾患の場合、遺伝子導入を使用することにより、補充療法を目的として正常な遺伝子を患部組織に導くことができ、および阻害性RNA、例えばRNAi(例えばsiRNAもしくはshRNA)、マイクロRNAまたはアンチセンスRNAを使用して疾患の動物モデルを創製することができる。不均衡の病状の場合、遺伝子導入を使用することにより、モデルシステムで病状を創製し、次いで病状に拮抗するために使用することができる。そのため、本発明に係るウイルスベクターは遺伝性疾患の処置を可能にする。本明細書で使用する場合、病状は、疾患を引き起こすまたは疾患をより重症にする欠乏症または不均衡を部分的にまたは完全に治療することにより処置される。核酸配列の部位特異的な組換えを使用して変異を引き起こすまたは欠損を訂正することも可能である。
【0139】
本発明に係るウイルスベクターを用いて、アンチセンス核酸または阻害性RNA(例えばマイクロRNAまたはRNAi、例えばsiRNAもしくはshRNA)をインビトロでまたはインビボで細胞に供給することもできる。標的細胞中での阻害性RNAの発現により、細胞による特定のタンパク質の発現が弱まる。したがって、阻害性RNAを投与して、それを必要とする対象において特定のタンパク質の発現を減少させることができる。阻害性RNAをインビトロで細胞に投与して細胞生理学を調節することもでき、例えば細胞培養システムまたは組織培養システムを最適化することもできる。
【0140】
さらなる態様として、本発明に係るウイルスベクターを使用して対象中で免疫応答を生じさせることができる。この実施形態によれば、免疫原をコードする核酸を含むウイルスベクターを対象に投与することができ、対象により免疫原に対する能動的な免疫応答(任意選択として防御免疫応答)が開始される。免疫原は上述した通りである。
【0141】
また、ウイルスベクターをエクスビボで細胞に投与することができ、変異細胞を対象に投与する。異種核酸を細胞に導入して該細胞を対象に投与し、免疫原をコードする異種核酸が任意選択的に発現させ、対象において該免疫原に対する免疫応答を誘発する。特定の実施形態では、細胞は抗原提示細胞(例えば樹状細胞)である。
【0142】
「能動的な免疫応答」または「能動免疫」は、「免疫原との遭遇後における宿主の組織および細胞の関与を特徴とする。それには、リンパ細網組織における免疫担当細胞の分化および増殖が関与し、これらにより、抗体の合成もしくは細胞媒介反応性の発生またはその両方に至る」。Herbert B.Herscowitz、Immunophysiology:Cell Function and Cellular Interactions in Antibody Formation,in IMMUNOLOGY:BASIC PROCESSES 117(Joseph A.Bellanti編、1985)。換言すると、能動的な免疫応答は、感染またはワクチン接種による免疫原への曝露後に宿主によって開始される。能動免疫を受動免疫と対比することができ、受動免疫は「能動免疫された宿主から非免疫宿主への、予め形成された物質(抗体、移入因子、胸腺移植片、インターロイキン-2)の移入」を介して起こる。同文献。
【0143】
「防御」免疫応答または「防御」免疫は本明細書で使用する場合、疾患の発生を予防するまたは低減するという点で、免疫応答が対象にある程度の利益を付与することを示す。また、防御免疫応答または防御免疫は、疾患の処置に有用であり得、(例えば、癌もしくは腫瘍の退縮を引き起こすことにより、および/または転移を予防することにより、および/または転移性小結節の増殖を予防することにより)特に癌または腫瘍の処置で有用であり得る。処置の利益が該処置の任意の不利益を上回る限り、防御効果は完全であってもよいし部分的であってもよい。
【0144】
癌細胞抗原を発現するウイルスベクター(もしくは免疫学的に類似の分子)または癌細胞に対する免疫応答を引き起こす任意の他の免疫原の投与により、癌免疫療法を目的として本発明に係るウイルスベクターを投与することもできる。例示として、癌細胞抗原をコードする異種ヌクレオチド配列を含むウイルスベクターを投与することにより、対象中において癌細胞抗原に対して免疫応答を引き起こし、例えば、癌を有する患者を処置することができる。本明細書に記載したように、インビボまたはエクスビボ法を使用することにより、ウイルスベクターを対象に投与することができる。
【0145】
本明細書で使用する場合、用語「癌」は腫瘍形成癌を包含する。同様に、用語「癌組織」は腫瘍を包含する。「癌細胞抗原」は腫瘍抗原を包含する。
【0146】
用語「癌」は、当分野で理解されるその意味、例えば身体の遠位部位に広がる(すなわち転移する)可能性がある組織の制御不能な増殖を有する。例示的な癌として、白血病、リンパ腫(例えばホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫)、結腸直腸癌、腎癌、肝癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、精巣腫瘍、卵巣癌、子宮癌、子宮頚部癌、脳癌(例えば神経膠腫および神経膠芽細胞腫)、骨癌、肉腫、黒色腫、頭頚部癌、食道癌、甲状腺癌等が挙げられるがこれらに限定されない。本発明の実施形態では、本発明を実行して腫瘍形成癌を処置および/または予防する。
【0147】
用語「腫瘍」はまた、例えば多細胞生物内での未分化細胞の異常な腫瘤として当分野で理解される。腫瘍は悪性でもよいし良性でもよい。代表的な実施形態では、本明細書に開示した方法を使用して、悪性腫瘍を予防および処置する。
【0148】
癌細胞抗原は上述されている。用語「癌を処置する」または「癌の処置」とは、癌の重症度を低減するまたは癌を予防するもしくは少なくとも部分的に除去することを意図するものである。例えば、具体的な文脈において、これらの用語は、癌の転移を予防するまたは低減するまたは少なくとも部分的に除去することを示す。さらに代表的な実施形態では、これらの用語は、(例えば原発腫瘍の外科的切除後に)転移性小結節の増殖を予防するまたは低減するまたは少なくとも部分的に除去することを示す。用語「癌の予防」または「癌を予防する」とは、癌の発生率または発症を少なくとも部分的に除去するまたは低減する方法を意図するものである。換言すると、対象における癌の発症または悪化を緩慢にする、調節する、それらの確率もしくは可能性を低減する、または遅延させることができる。
【0149】
特定の実施形態では、癌を有する対象から細胞を取り出し、本発明に係るウイルスベクターと接触させることができる。次いで、改変細胞を対象に投与し、それにより癌細胞抗原に対する免疫応答を誘発する。この方法は、インビボで十分な免疫応答を開始することができない(すなわち、十分な量の促進抗体を産生することができない)免疫不全対象に特に有利に用いられる。
【0150】
免疫調節サイトカイン(例えばα-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、ω-インターフェロン、τ-インターフェロン、インターロイキン-1α、インターロイキン-1β、インターロイキン-2、インターロイキン-3、インターロイキン-4、インターロイキン5、インターロイキン-6、インターロイキン-7、インターロイキン-8、インターロイキン-9、インターロイキン-10、インターロイキン-11、インターロイキン12、インターロイキン-13、インターロイキン-14、インターロイキン-18、B細胞増殖因子、CD40リガンド、腫瘍壊死因子-α、腫瘍壊死因子-β、単球走化性タンパク質-1、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子およびリンフォトキシン)により免疫応答を増強することができることは当分野で既知である。したがって、免疫調節サイトカイン(例えばCTL誘導性サイトカイン)をウイルスベクターと共に対象に投与することができる。
【0151】
当分野で既知の任意の方法によりサイトカインを投与することができる。外因性サイトカインを対象に投与することができる、または適切なベクターを使用して、サイトカインをコードするヌクレオチド配列を対象に送達し、サイトカインをインビボで産生することができる。
【0152】
ウイルスベクターは、研究目的で肝臓細胞を標的とするのにさらに有用であり、例えば、インビトロでのもしくは動物での肝機能の研究のために、または疾患の動物モデルの創製および/もしくは研究での使用にさらに有用である。例えば、肝損傷、例えば線維症もしくは肝硬変の動物モデルまたはウイルス感染(例えば肝炎ウイルス)等の肝疾患の動物モデルにおいて、ベクターを使用して異種核酸を肝細胞に送達することができる。
【0153】
さらに、診断方法およびスクリーニング方法での本発明に係るウイルスベクターのさらなる用途が見出され、これにより、目的の遺伝子が細胞培養システム中でまたは遺伝子導入動物モデル中で過渡的にまたは安定的に発現される。例えば研究目的、産業目的または商業目的のタンパク質産生を目的として核酸を送達するために本発明を実行することもできる。
【0154】
獣医学での応用および医学での応用の両方での本発明に係る組換えウイルスベクターの用途が見出される。適切な対象(被験体)としてトリおよび哺乳動物の両方が含まれる。本明細書で使用する場合、用語「トリ」には、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、シチメンチョウ、キジ、オウム、インコが含まれるがこれらに限定されない。本明細書で使用する場合、用語「哺乳動物」には、ヒト、霊長類非ヒト霊長類(例えばサルおよびヒヒ)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ、齧歯類(例えばラット、マウス、ハムスター等)等が含まれるがこれらに限定されない。ヒト対象として、新生児、乳幼児、児童および成人が挙げられる。任意選択的に、対象は本発明に係る方法を「必要とする」。なぜならば、例えば、対象が本明細書に記載したものを含む障害を有するもしくは対象に該疾患のリスクがあると考えられるからである、または本明細書に記載したものを含む核酸の送達により対象が利益を得るからである。さらなる選択肢として、対象は実験動物および/または疾患の動物モデルであり得る。
【0155】
特定の実施形態では、本発明は、薬学的に許容される担体中の本発明に係るウイルスベクターと、任意選択的にその他の薬剤、医薬品、安定化剤、緩衝剤、担体、アジュバント、希釈剤等とを含む医薬組成物を提供する。注射では、担体は典型的には液体となる。その他の投与の方法では、担体は固体でもよいし液体でもよい。吸入投与では、担体は呼吸に適し、好ましくは固体または液体粒子形態となる。
【0156】
「薬学的に許容される」とは、毒性ではないまたはそれ以外の望ましくはないものではない材料を意味し、すなわち、任意の望ましくない生物学的影響を引き起こすことなく材料を対象に投与することができる。
【0157】
本発明の一態様は、核酸をインビトロで細胞へ移入する方法である。特定の標的細胞に適した標準的な形質導入法により、感染の適切な多重度でウイルスベクターを細胞に導入することができる。投与するウイルスベクターまたはカプシドの力価は、標的細胞の型および数、ならびに具体的なウイルスベクターまたはカプシドに応じて異なることができ、過度の実験を行なうことなく当業者により決定され得る。特定の実施形態では、少なくとも約10感染単位を、より好ましくは少なくとも約10感染単位を細胞に導入する。
【0158】
ウイルスベクターを導入することができる細胞は、神経細胞(末梢神経系、中枢神経系、特に脳細胞、例えば神経細胞、希突起神経膠細胞、グリア細胞、星状膠細胞を含む)、肺細胞、眼の細胞(網膜細胞、網膜色素上皮および角膜細胞を含む)、上皮細胞(例えば腸上皮細胞および呼吸上皮細胞)、骨格筋細胞(筋芽細胞、筋管および筋繊維を含む)、横隔膜筋細胞、樹状細胞、膵臓細胞(島細胞を含む)、肝細胞、消化管の細胞(平滑筋細胞、上皮細胞を含む)、心臓細胞(心筋細胞を含む)、骨細胞(例えば骨髄幹細胞)、造血幹細胞、脾臓細胞、角化細胞、線維芽細胞、内皮細胞、前立腺細胞、関節細胞(例えば軟骨、半月板、滑膜および骨髄を含む)、生殖細胞等が挙げられるがこれらに限定されない任意の種類であり得る。また、細胞は任意の前駆細胞であり得る。さらにまた、細胞は幹細胞(例えば神経幹細胞、肝幹細胞)であり得る。さらにまた、細胞は癌細胞または腫瘍細胞(上記に記載している癌および腫瘍)であり得る。さらに、上記に示したように、細胞は任意の種類の起源由来であり得る。
【0159】
改変細胞を対象に投与する目的で、ウイルスベクターをインビトロで細胞に導入することができる。特定の実施形態では、対象から細胞を取り出し、細胞にウイルスベクターを導入し、次いで細胞を対象内に戻す。エクスビボでの処置のために対象から細胞を取り出し、続いて対象内に戻す方法は当分野で既知である(例えば米国特許第5,399,346号を参照)。または、組換えウイルスベクターを、別の対象由来の細胞に、培養細胞に、または任意のその他の適切な供給源由来の細胞に導入し、それを必要とする対象に該細胞を投与する。
【0160】
エクスビボでの遺伝子治療に適した細胞は上記に記載した通りである。対象に投与する細胞の投与量は、対象の年齢、状態および種、細胞型、細胞により発現される核酸、投与の様式等に応じて異なることができる。典型的には、薬学的に許容される担体中、投与1回当たり少なくとも約10~約10個のまたは約10~10個の細胞を投与することができる。特定の実施形態では、ウイルスベクターにより形質導入された細胞を有効量で、薬学的に許容される担体と共に対象に投与する。
【0161】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターにより形質導入されている細胞を投与して、送達されたポリペプチド(例えば導入遺伝子として発現される、またはカプシド中で発現される)に対する免疫応答を誘発することができる。典型的には、有効量のポリペプチドを発現する量の細胞を、薬学的に許容される担体と共に投与する。任意選択的に、投与量は防御免疫応答(上記で定義した)を引き起こすのに十分である。免疫原性ポリペプチドを投与する利点が該投与の任意の不利益を上回る限り、付与される防御の程度が完全である必要はない、または持続性である必要はない。
【0162】
本発明のさらなる態様は、本発明に係るウイルスベクターまたはカプシドを対象に投与する方法である。特定の実施形態では、本方法は、目的の核酸を対象となる動物に送達する方法を含み、該方法は、有効量の、本発明に係るウイルスベクターを対象となる動物に投与することを含む。当分野で既知の任意の手段により、それを必要とする対象となるヒトまたは動物に本発明に係るウイルスベクターを投与することができる。任意選択的に、薬学的に許容される担体中のウイルスベクターを有効な用量で送達する。
【0163】
さらに、本発明に係るウイルスベクターを(例えばワクチンとして)対象に投与して、免疫原性応答を誘発することができる。典型的には、本発明におけるワクチンは、有効量のウイルスを薬学的に許容される担体と共に含む。任意選択的に、投与量は防御免疫応答(上記で定義した)を引き起こすのに十分である。免疫原性ポリペプチドを投与する利点が該投与の任意の不利益を上回る限り、付与される防御の程度が完全である必要はない、または持続性である必要はない。対象および免疫原は上記に記載した通りである。
【0164】
対象に投与するウイルスベクターの投与量を、投与の様式、処置する疾患または状態、個々の対象の状態、具体的なウイルスベクターおよび送達する核酸によって決めることができ、定常的な方法で決定することができる。治療効果を達成する例示的な用量は、少なくとも約10、10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1016、1017、1018形質導入単位またはより多くであり、好ましくは約10または10、10、1010、1011、1012、1013、1014または1015形質導入単位であり、さらにより好ましくは約1012~1014形質導入単位である。
【0165】
特定の実施形態では、複数回の投与(例えば2回、3回、4回またはより多くの投与)を用いて、様々な間隔の期間にわたり、例えば日毎に、週毎に、月毎に、年毎に等で所望のレベルの遺伝子発現を達成することができる。
【0166】
投与の例示的な様式として、経口、直腸、経粘膜、局所、鼻腔内、(例えばエアロゾルを介する)吸入、口腔(例えば舌下)、膣、髄腔内、眼内、経皮、子宮内(または卵内)、非経口(例えば静脈内、皮下、皮内、筋肉内[骨格筋、横隔膜筋および/または心筋への投与等]、皮内、胸腔内、脳内および関節内)、局所(例えば皮膚表面と気道表面を含む粘膜表面との両方、および経皮投与)、リンパ管内等、ならびに組織または器官への(例えば肝臓、骨格筋、心筋、横隔膜筋または脳への)直接注入が挙げられる。腫瘍(例えば腫瘍またはリンパ節の内部または近傍)に投与することもできる。いずれの場合であっても、最も適切な経路を、処置する状態の性質および重症度、ならびに使用する具体的なベクターの性質によって決めることができる。
【0167】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターを肝臓に直接投与する。直接投与により、例えば形質導入細胞の少なくとも80%、85%、90%、95%、または95%超が肝細胞である、肝細胞の形質導入の高い特異性を得ることができる。ベクターを肝臓に直接投与する方法として当分野で知られている方法のいずれを使用することもできる。ベクターは、肝臓内への直接注入または肝臓に血液を供給する動脈もしくは静脈への注入、例えば門脈内送達によって導入することができる。
【0168】
典型的には、ウイルスベクターは、全身送達または肝臓内の所望の領域または区画への直接注入により液剤で投与する。いくつかの実施形態では、リザーバおよび/またはポンプによってベクターを送達することができる。その他の実施形態では、所望の領域への局所適用によりまたはエアロゾル剤の鼻腔内投与により、ベクターを供給することができる。液滴の局所適用により、眼にまたは耳中に投与することができる。さらなる代替として、ベクターを固形の徐放剤として投与することができる。パルボウイルスおよびAAVベクターの放出制御が国際公開第01/91803号に記載されている。
【0169】
ウイルスベクターを含むデポー剤を送達することにより、これらの組織のいずれかへの送達を達成することもでき、デポー剤は、組織に埋め込むことができ、または該組織を、ウイルスベクターを含むフィルムまたはその他のマトリックスと接触させることができる。そのような埋め込み可能なマトリックスまたは基質の例が米国特許第7,201,898号に記載されている。
【0170】
注射剤を、溶液または懸濁液、注射前に溶液または懸濁液に適した固形状として、またはエマルションとしてのいずれかの従来の形態で調製することができる。また、ウイルスベクターを例えばデポー剤または徐放性製剤で全身的な様式ではなくて局所に投与することができる。さらに、(例えば米国特許第7,201,898号に記載されているように)ウイルスベクターを、例えば骨移植代替物、縫合糸、ステント等の外科的に埋め込み可能なマトリックスに乾燥して送達することができる。
【0171】
経口投与に適した医薬組成物を、それぞれ所定の量の本発明に係る組成物を含有するカプセル、カシェ剤、ロゼンジ剤もしくはタブレット等の個別の単位で、粉末または顆粒として、水性のもしくは非水性の液体の溶液もしくは懸濁液として、または水中油型のもしくは油中水型のエマルションとして提供することができる。本発明に係るウイルスベクターと動物の腸内において消化酵素による分解に耐えることが可能な担体との複合体化により、経口送達を行なうことができる。そのような担体の例として、当分野で既知であるようにプラスチックカプセルまたはタブレットが挙げられる。そのような製剤を薬学の任意の適切な方法により調製し、該方法は、組成物と、(上記で述べた1種または複数の副成分を含有することができる)好適な担体とを結合させる工程を含む。一般に、組成物と液体の担体もしくは微粉化した固体の担体またはその両方とを均一にかつ密接に混合し、次いで、必要な場合には得られた混合物を成形することにより、本発明の実施形態に係る医薬組成物を調製する。例えば、組成物と任意選択的に1種または複数の副成分とを含有する粉末または顆粒を圧縮するまたは成型することにより、タブレットを調製することができる。結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤および/または界面活性剤/分散剤と任意選択的に混合した、粉末または顆粒等の易流動形態の組成物を適切な機械中で圧縮することにより、圧縮タブレットを調製する。不活性な液体結合剤で湿らせた粉末状化合物を適切な機械中で成型することにより、成型タブレットを作製する。
【0172】
頬側(舌下)投与に適した医薬組成物として、通常はスクロースおよびアラビアゴムまたはトラガントである風味付け基剤中に本発明に係る組成物を含むロゼンジ剤;ならびにゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアカシアゴム等の不活性基剤中に組成物を含むパステル剤が挙げられる。
【0173】
非経口投与に適した医薬組成物は、本発明に係る組成物の無菌の水性注射液および非水性注射液を構成することができ、これらの調製液は、対象の受容者の血液と任意選択的に等張である。これらの調製液は、組成物と対象の受容者の血液とを等張にする抗酸化剤、緩衝剤、静菌薬および溶液を含有することができる。水性のおよび非水性の無菌の懸濁液、溶液およびエマルションは、懸濁剤および増粘剤を含むことができる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、オレイン酸エチル等の注射可能な有機エステルである。水性担体として、水、アルコール性/水性の溶液、食塩水および緩衝媒体を含むエマルションまたは懸濁液が挙げられる。非経口媒体として、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース(Ringer’s dextrose)、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸化リンゲル(lactated Ringer’s)または不揮発性油が挙げられる。静脈内媒体として、流体および栄養補充液、電解質補充液(例えばリンゲルデキストロースをベースとするもの)等が挙げられる。例えば抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性ガス等の、防腐剤およびその他の添加剤が存在することもできる。
【0174】
組成物は、単位/用量のまたは複数回用量の容器中の状態で、例えば密封したアンプルおよびバイアル中の状態で存在することができ、使用直前に無菌の液体担体、例えば食塩水または注射用水の添加のみを必要とするフリーズドライした(凍結乾燥した)状態で貯蔵され得る。
【0175】
即時注射用の溶液および懸濁液を、上記した種類の無菌の粉末、顆粒およびタブレットから調製することができる。例えば、密封した容器中における単位剤形の形態で、本発明に係る注射可能な安定した無菌の組成物を提供することができる。組成物を凍結乾燥した形態で提供することができ、該組成物を適切な薬学的に許容される担体と再構成して対象への注射に適した液体組成物を形成することができる。単位剤形は、約1μg~約10グラムの本発明に係る組成物であり得る。組成物が実質的に水不溶性である場合、十分な量の生理的に許容される乳化剤が、水性担体中で組成物を乳化させるのに十分な量で含有され得る。そのような有用な乳化剤の一つはホスファチジルコリンである。
【0176】
直腸投与に適した医薬組成物が単位用量の座薬として存在することができる。組成物と例えばカカオ脂等の1種または複数の従来の固体担体とを混合し、次いで得られた混合物を成形することにより、この座薬を調製することができる。
【0177】
皮膚への局所投与に適した本発明に係る医薬組成物は、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゲル、スプレー、エアロゾルまたはオイルの形態を取ることができる。使用することができる担体として、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、アルコール、経皮エンハンサーおよびこれらの2種以上の組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、例えば本発明に係る医薬組成物と皮膚を通過可能な親油性試薬(例えばDMSO)とを混合することにより、局所送達を行なうことができる。
【0178】
経皮投与に適した医薬組成物は、長時間にわたり対象の表皮に密接させた状態で保つのに適した個別パッチの形態であり得る。経皮投与に適した組成物をイオン導入(例えばPharm.Res.3:318(1986)を参照)により送達することもでき、該組成物は任意選択的に緩衝した本発明に係る組成物の水溶液の形態を典型的にはとる。適切な製剤は、クエン酸塩緩衝液もしくはビス/トリス緩衝剤(pH6)またはエタノール/水を含むことができ、0.1~0.2Mの活性成分を含有することができる。
【0179】
任意の適切な手段により、例えば、対象が吸入する、ウイルスベクターから構成される呼吸用粒子のエアロゾル懸濁液を投与することにより、本明細書中に開示したウイルスベクターを対象の肺に投与することができる。吸入用粒子は液体または固体であり得る。当業者に既知であるように、任意の適切な手段により、例えば圧力駆動式のエアロゾル噴霧器または超音波噴霧器により、ウイルスベクターを含む液体粒子のエアロゾルを産生することができる。例えば米国特許第4,501,729号を参照。ウイルスベクターを含む固体粒子のエアロゾルも同様に、製薬分野で既知の技法により、任意の固体粒子の薬剤エアロゾル発生器により産生することができる。
【0180】
本発明を説明してきたが、本発明を以下の実施例でより詳細に説明することができ、実施例は例示目的のみで本明細書に記載されており、本発明を限定すること意図するものではない。
【実施例
【0181】
[実施例1]
AAV5カプシド変異体ライブラリの生成
VP3領域全体に分布する点変異を有する変異体AAV5カプシドからなる多様なウイルスライブラリを、ランダム変異およびZhao他(Nat.Biotechnology、1998)によって記載されている付着伸長プロセス(stEP)によって生成した(図1)。詳細には、エラープローンPCRおよびVP3遺伝子を包含する対応する1セットのプライマーを用いて、WT-AAV5カプシド遺伝子(XR5パッケージングプラスミド由来)をランダム変異させた。「感染性」または野生型AAV5プラスミドへのPCR産物のクローニングを容易にするために、フォワードプライマー(配列番号13)は、VP3遺伝子上流のRSRII制限酵素切断部位と重複しており、リバースプライマー(配列番号14)は、VP3遺伝子下流のNotI切断部位と重複している。各PCRフラグメントあたりのVP3遺伝子内の変異が2~17箇所となるように、エラープローンDNAポリメラーゼを用いて、およそ10ngの鋳型DNAを30サイクルにわたって増幅した。変異体AAV5ライブラリをさらに多様化するために、およそ100ngの変異AAV5 VP3 DNAに、上述のものと同じプライマーを用いて、変性(およそ20秒)、アニーリング(およそ5秒)、および伸長(およそ10秒)という極めて短いサイクルを100サイクル施すstEPを用いて、エラープローンPCRによって生成された点変異をシャッフルした。
【0182】
その後、変異体VP3 stEP PCR産物を精製し、RSRII/NotI制限酵素を用いて完全に消化した。消化したDNAを、アガロースゲル精製を用いて単離し、AAV2 ITR配列が隣接しているAAV2 REP遺伝子および部分的なAAV5カプシド遺伝子を含有するバックボーンにクローニングして、「感染性」プラスミドまたは複製可能AAVプラスミドを作成した。得られた混合物をDH10Bエレクトロコンピテント細菌にエレクトロポレートし、アンピシリンを含有する2枚の10cmLBアガープレート全体に広げた。コロニー数の定量化によって決定した5×10個の独立クローンのウイルスプラスミドライブラリを生成し、その後細菌に形質導入した。ライブラリの多様性を確認するために、20個のコロニーをミニプレップおよびシーケンシング用にプレートから採取した。シーケンシング結果は、AAV5 VP3変異体は、1つのVP3領域あたり4~22変異の範囲の多様な数および種類の点変異を有したことを明らかにした。テリフィックブロス培地でLBアガープレートを洗浄することによって、個々の細菌コロニーを一緒にプールし、その後、4リットルのTB培地で培養した。その後、増殖させた細菌を、CsCl-エチジウムブロマイド勾配を用いた超遠心分離によるプラスミドDNAライブラリの大規模精製用に用いた。
【0183】
プラスミドライブラリを用いて、AAV5ウイルス変異体ライブラリを生成し、その後、CsCl遠心分離によって精製した。詳細には、プラスミドライブラリおよびヘルパープラスミドを1:1の比率で、リン酸カルシウム形質移入法によりヒト胚腎臓(HEK293)細胞に形質移入した。形質移入後60~72時間の後に、形質移入細胞および培地を収集した。凍結融解法によりウイルス粒子を放出し、CsCl密度遠心分離を用いて精製した。全ての精製AAV実験について、AAV力価はドットブロット法で決定した。
【0184】
[実施例2]
Huh7細胞を用いたAAV5ライブラリの選択
その後、図2にまとめたプロセスにより、肝細胞由来細胞がん細胞株Huh7に対してAAV5変異体ウイルスライブラリを選択した。Huh7細胞株は、ヒト肝細胞の感染力のためのロバストな予測因子になると以前に記載されている(Li他、Molecular Therapy、2015)ので、ヒト肝細胞での感染力が増強しているバリアントをスクリーニングするための選択モデルとしてHuh7細胞を使用した。AAV5ウイルスライブラリをHuh7細胞に1細胞あたり5000ベクターゲノムというMOIで添加し、1細胞あたり100vgというMOIの野生型アデノウイルス5型(wt-ad)で同時感染させた。wt-adの添加は、Huh7細胞を良好に感染させるバリアントの複製を可能にし、huh7細胞をより効率的に感染させるバリアント集団を徹底的に濃縮するために追加の選択圧を与える。72時間の感染の後に、細胞を収集し、ドライアイスおよびエタノール混合物を用いた3サイクルの凍結融解によって溶解させた。その後、溶解物中に存在するwt-adを不活性化するために、細胞溶解物を56℃で1時間インキュベートした。その後、細胞溶解物を15000rpmで5分間遠心分離し、変異体ウイルス粒子を含有する上清を収集した。上清中のウイルスをSYBR-Green色素を用いたリアルタイムPCRで力価決定した。Huh7細胞を5000vg/細胞というMOIで、選択の先行ラウンドから得たウイルスに再度感染させた。
【0185】
合計で、7ラウンドの選択をHuh7細胞で行った。選択の最終のラウンドでは、細胞を感染させることができなかったいかなるウイルスも除去するために、感染細胞をPBSで2回洗浄した。その後、Arad他(Biotechniques、1998)に記載の改変Hirt抽出により、ウイルスDNAを細胞から抽出した。簡潔には、100μg/mlのRNaseAを含有する250μlのTris-HCl/EDTA溶液に細胞を懸濁した。1.2%ドデシル硫酸ナトリウム溶液の添加によって細胞を溶解させ、室温で5分間インキュベートした。塩化セシウム、酢酸カリウム、および酢酸溶液の添加によって、染色体DNAおよび細胞片を沈殿させ、氷上で15分間インキュベートした。その後、混合物を4℃で15分間遠心分離し、上清をQiagen Qiaprepスピンカラムにロードした。その後、結合したDNAを洗浄し、溶出し、エラープローンPCRに使用したものと同じプライマーを用いたPCRで増幅した。得られたPCRアンプリコンを精製し、その後、RSRIIおよびNotIで消化し、AAV2 Repおよび部分的なAAV5 Cap遺伝子を含有するパッケージングプラスミド中に連結した。連結混合物を細菌中に形質転換し、アンピシリンを含有する寒天プレート上に広げた。終夜インキュベーションの後に、ミニプレップを介したプラスミド増幅用に個々のコロニーを採取した。増幅したプラスミドDNAをRNASE Aと共にインキュベートし、シーケンシングした。
【0186】
合計145コロニーの選択の第5ラウンドおよび第7ラウンドから得たおよそ60~70種のプラスミドをシーケンシングした。ミニプレップされた各プラスミドのcap遺伝子全体を正確にシーケンシングするために、AAV5 cap遺伝子にまたがる4種のプライマーを使用した。シーケンシング結果は、選択の第5ラウンドから得られ、シーケンシングされた変異体の約半分(65種のうちの31種)がAAV5 VP3タンパク質のループ1領域に共通の変異を含有していたことを明らかにした。ループ1変異を保持する変異体のさらなる濃縮が、選択の第7ラウンド後に観察された。シーケンシングされた第7ラウンドの変異体では、75種のうち73種のバリアントがループ1変異を保持していた(図3)。これらのバリアントの大部分は、ループ1領域に単一変異を保持するのみであり、他の変異はなかったが、残りの部分は、VP3領域全体にわたって1または2個の追加の変異を含有していた。残りの2種の変異体は、ループ1変異体で見出されなかった変異を含有し、それらには、VP2/VP3ジャンクションおよびループ8領域などの領域が含まれていた。見出された変異の多くは、AAV5カプシドの表面にあると考えられる領域にあった。これは、受容体のエンゲージメントおよび結合の変化が感染力の変化に寄与する可能性が極めて高いことを考慮すると驚くべきことではない。注目すべきことに、野生型AAV5カプシド配列は、シーケンシングのいずれのラウンド中にも検出されなかった。これらのシーケンシング結果から、本発明者らは、7ラウンドの選択がループ1変異バリアントを特異的に濃縮したと結論した。これは、ライブラリ中の他の全ての変異と比較して、感染力が実質的に増加していることよる可能性が高い。シーケンシングされた200種の変異体のうち、およそ25種はユニークであり、収率および感染力を評価するために2本鎖GFPベクターをパッケージングおよび生成するのに使用された。変異体GFPベクターを含有する粗溶解物をRT-PCRで力価決定し、許容される力価を生成することができた変異体のみを、粗溶解物中の精製されていないウイルスを用い、Huh7細胞でGFPレポーター遺伝子を用いる迅速スクリーニング用に選択した。MV1、MV18、MV20、MV50、およびMV53という5種の変異体が最も良い収率および形質導入能を示し、さらなる特徴付けのための、より大きなスケールの産生および精製用に選ばれた。様々な変異体およびwt-AAV5のVP1コードヌクレオチド配列のアラインメントを図4に示す。様々な変異体およびwt-AAV5のVP1アミノ酸配列のアラインメントを図5に示す。
【0187】
[実施例3]
インビトロアッセイおよびタンパク質モデリングを用いたAAV5変異体の特徴付け
AAV5変異体を、インビトロ感染力アッセイおよびタンパク質モデリングを用いたさらなる特徴付けに供した。最初に、三重の形質移入および塩化セシウム密度超遠心分離法を介して、精製ウイルスを産生した。簡潔には、ヘルパープラスミド、自己相補性GFP(sc-GFP)ベクタープラスミド、ならびに変異体AAV5カプシド遺伝子およびAAV2 rep遺伝子を含有するパッケージングプラスミドでHEK293細胞を形質移入した。形質移入の72時間後に細胞を採取し、遠心分離によって単離した。培地は収集および保存し、一方、細胞ペレットは再懸濁し、これに3サイクルの凍結融解を施した。得られた細胞溶解物をDnase IおよびRnase Aと共に37℃でインキュベートし、遠心分離し、上清を収集した。その後、上清および培地から得たウイルスをPEG沈殿およびその後の2ラウンドの塩化セシウム(CsCl)密度超遠心分離で濃縮した。ウイルスを含有するCsCl画分をDNAドットブロットで決定し、併せ、5%ソルビトールを含むPBSを用いて透析した。透析されたウイルス調製物を、DNAドットブロットを用いて再び力価決定した。ウイルス力価の一貫した測定を可能にするために、試験した全てのウイルスを同一のドットブロットで力価決定した。ウイルス調製物のドットブロットは、AAV5と比較して、AAV5変異体が類似のウイルス収率を有したことを示した。これは、このスクリーニングプロセスで選択された変異が産生に有意な変化を与えず、したがって収率の点で、臨床セッティングでの使用に利用可能であったことを示している。
【0188】
選択された5種の変異体の精製されたウイルス調製物をHuh7細胞の形質導入について試験した。1細胞あたり10万ウイルスゲノム(vg)というMOIでAAV5および変異体自己相補性(sc)-GFPコードウイルスにHuh7細胞を感染させ、AAVゲノム発現のプロセスを加速するために5000vg/細胞のwt-adで同時感染させた。感染の48時間後に、GFP発現のイメージングおよび定量化用に細胞を採取した。GFP発現のイメージングは、AAV5と比較して、5種の変異体全てがGFP発現を有意に増加させたことを明らかにした(図6、7A)。バリアントMV50が、最も成績の良いバリアントであり、Huh7細胞の形質導入において、AAV5より12×良い成績であった(図7B)。2番目および3番目に良いバリアントは、MV53およびMV1だった。これらは、AAV5より、それぞれ11×および10×良い成績だった(図7B)。成績が最も良い3種のバリアント全てが、「ループ1R」と命名されたループ1領域中のグリシンからアルギニンへの変異を共有した。MV1、MV50、およびMV53は、ループ1Rと共に他の変異も保持していたが、それはバリアントごとに異なっていた。4番目に成績が良い変異体はMV18であった。MV18は、AAV5よりおよそ7×良い成績であり、ループ1R変異を含有するのみであった。これらの結果は、Huh7細胞でのスクリーニング中にループ1R変異が特異的に濃縮されたことを示唆した以前に知られているシーケンシングデータを確認した。したがって、ループ1R変異がHuh7細胞の感染力増強に最も寄与し、追加の変異はループ1R変異を補い、形質導入に少しの増加を加える。最後の変異体であるMV20は、ループ1R変異を保持していないが、依然として、AAV5と比較して、6×の感染力の増加を示している。これは、MV20が感染力を増強する作用機序が、他の変異体と比較して異なっている可能性があることを示唆している。
【0189】
次に、Huh7細胞で見られた形質導入の増加が細胞株特異的であったかどうか評価するために、ヒト肝臓がん細胞株であるHepG2細胞で、AAV5に対して5種のバリアントを試験した。以前に得られた結果と類似して、これらのバリアントは、HepG2細胞におけるAAV5と比較して形質導入において有意な増加を示した。ただし、Huh7細胞での増加と比較すると小さな規模であった(図8、9A)。再度、MV50が最も成績の良いバリアントであり、AAV5と比較してGFP発現の7×の増強を有していた。一方、他のバリアントは、バリアントに応じて約4×~6×の範囲に及ぶわずかに低い形質導入増加を示した(図9B)。Huh7細胞に対してHepG2細胞における増加の規模がわずかに低かったことの1つの潜在的理由は、HepG2細胞が細胞塊を作って増殖し、それによりAAVが細胞の表面に結合し、進入を亢進することが困難になっている傾向による可能性があろう。加えて、がん細胞株の性質により、細胞表面の様々な進入受容体の発現レベルがHuh7とHepG2の間で異なり、したがって、AAV5およびバリアントが利用する受容体に応じて異なったレベルの形質導入となることも1つの可能性である。いずれにせよ、両肝がん細胞株で形質導入が増加したことは、これらの変異体AAV5がHuh7特異的ではなく、ヒト肝細胞に移行する可能性が高くなっていることを示している。
【0190】
選択された5種のバリアントにおける変異の分析およびAAV5 VP3タンパク質のX線結晶解析由来のタンパク質構造へのマッピングは、これらの変異が肝臓の形質導入の増加で果たしている役割についての追加の洞察を与えた。表2は、様々な変異体とwt-AAV5の間でアミノ酸が異なっている位置および肝細胞でそれらの感染力が増加している最も可能性のある作用機序をまとめている。
【0191】
【表2】
【0192】
以前に言及したように、MV1、MV18、MV50、およびMV53という4種の変異体が、VP1タンパク質のアミノ酸257におけるグリシンからアルギニンへの変異を含有していた。この特定の変異は、ループ1としても知られている可変領域I(VRI)に位置しており、VRIは、完全な60量体のAAVカプシドの表面に部分的に露出している。AAV5の結晶構造から、アミノ酸257は、VRI領域内にある表面に露出したアミノ酸とされている。ウイルスを細胞と共に4℃でインキュベートし、RT-PCRを介して結合したベクターゲノムを定量化することによって行う結合アッセイは、ループ1変異が、WT-AAV5と比較した場合、細胞表面への結合を2.2の係数で増加することを明らかにした(図10)。結合アッセイと同じ手順を用い、37℃で1時間のインキュベーションステップを追加した後続の内部移行アッセイは、内部移行した結合ビリオンの割合が、ループ1変異では、WT-AAV5に対して3.1倍増加したことを示した(図11)。内部移行アッセイはさらに、AAV5とループ1変異体の間で、全体でみると7倍の内部移行ウイルスの相違を示した(図12)。これは、以前に報告されているGFP発現の相違と一致した。これらの結果は、ループ1変異が受容体結合および内部移行を増加させたことを実証したが、内部移行アッセイは細胞に入ったウイルスを測定したのみであり、細胞内の位置については説明しなかったので、内部移行のどの側面が影響を受けたのかを具体的に定めることはできなかった。VP1タンパク質のVP1u領域がエンドソーム脱出の原因であるので、VRI領域におけるループ1変異の位置は、それがエンドソーム脱出におけるいかなる目的も有さないことを示唆している。加えて、内部移行したウイルスの全量の変化倍率およびGFP発現における変化倍率は一貫しているので、本発明者らは、それが、GFP発現の変化が、主として細胞に入るウイルスの全量の増加によるものであり、エンドソーム脱出または細胞輸送の増加によるものである可能性がそれより低いことを示唆していると考える。感染力の主要な増加がエンドソーム脱出または細胞輸送の増加によるものであったなら、GFP発現増加の倍率と比較して、内部移行した全ウイルスの増加の倍率が有意に小さい可能性が高いだろう。これらの理由で、本発明者らは、ループ1変異は主として、AAV5が用いる他の受容体と比較して、より迅速に内部移行する受容体への結合を増強し、それによって、内部移行したウイルスの全量および比率を増加させる原因であると考える。ループ1変異が既存の受容体への結合を増強させるものであるか、以前にはAAV5が標的にしなかった別の受容体の結合を可能にするものであるかどうかは明らかでない。
【0193】
MV1、MV20、MV50、およびMV53の二次変異(非ループ1R変異)のマッピングならびにMV18に対する結合および内部移行の比較は、それらの可能な機能についての、より多くの洞察を提供した。MV1の二次変異は、アミノ酸417(FからL)に位置しており、これは、AAV5の表面には存在せず、カプシドの内部に存在する。したがって、この変異は、受容体結合、エンドソーム脱出、または細胞輸送に影響を与えるものである可能性が低く、むしろウイルスカプシドの脱殻などのさらに下流のプロセスに影響を与えるものである可能性が高い。ウイルスカプシドの脱殻については、Thomas他(Journal of Virology、2004)によって、肝細胞の遺伝子発現の律速段階であり、したがって、脱殻効率の潜在的増加が、より高い遺伝子発現をもたらしうると報告されている。興味深いことに、FからLへの変異を含有するバリアントの収率は、残りのバリアントと比較して、収率が顕著に低い。これは、細胞の核の脱殻を亢進することができるだろうカプシドの安定性の潜在的な低減を示す。ループ1変異と共に、F417L変異が付加された場合に、ウイルスの結合または内部移行に有意差がないので、MV18およびMV1と比較する結合アッセイおよび内部移行アッセイは、前の理論を実証する(図13、14、15)。これは、F417Lが、MV18と比較して、結合または内部移行するウイルスの量に影響を与えないことを確認するものである。F417L変異が結合にも内部移行にも影響を与えず、依然としてウイルスの全体的感染力を増強するので、この変異は、さらに下流のプロセスに影響を与えている可能性が極めて高く、カプシドの内部にそれが位置することから、カプシドの脱殻に影響を与えている可能性が極めて高い。併せて、これらのデータは、F417L変異の可能性の高い作用機序がウイルスカプシドの脱殻を強化し、次いで、核内のベクターゲノムの総量を増加させ、次いでRNAに転写されるものであることを示唆している。
【0194】
MV20は、ループ1R変異を含有していない唯一の単離されたバリアントであり、代わりに、wt-AAV5と比較して、3箇所のアミノ酸相違がある。注目すべきことに、MV20は、シアル酸の結合に極めて重要なアミノ酸を含有する可変領域VIII(VR-VIII)内に位置する位置579にアラニンからトレオニンへの変異を含有している。興味深いことに、MV20は、MV18に匹敵する結合、すなわち、AAV5と比較した場合、およそ2.2倍の増加を示す(図10)。しかし、A579T変異は、内部移行する結合ビリオンの割合を、AAV5と比較しておよそ2倍増加させるのみである(図11)。したがって、A579T変異は、結合を増加させるようであるが、ループ1変異と比較して、内部移行の増強にはそれ程効果的ではない。これは、MV18とMV20とでは、それによってエンゲージされる受容体が異なっており、おそらくMV20では、結合の増加がシアル酸などの結合因子に対するものであるが、内部移行には依然として別の受容体に依存しており、したがってループ1変異と比較して低減された内部移行をもたらすことを示している。類似の変異が、Excoffon他(PNAS、2009)によって、定向進化を通して発見された。この変異は、アミノ酸581に位置し、同様に、シアル酸の認識および結合で役割を果たすと報告されたアラニンからトレオニンへの変異であった。したがって、アミノ酸579におけるアラニンからトレオニンへの変異が、Excoffon他が発見したアミノ酸581の同じ変異に類似したシアル酸結合を増加させる機能を果たしているということに真実味がある。
【0195】
ループ1R突然変異に加えて、MV50は、位置705におけるセリンからグリシンへの変異を含有している。アミノ酸705を囲んでいる領域の正確な機能は、明確には理解されていないが、近くにあるアミノ酸711がシアル酸結合に関与しているとあるグループが報告した(Afione他、Journal of Virology、2014)。加えて、この領域は、抗体認識のための抗原部位になっていることも示されている。AAV5カプシドのタンパク質結晶構造を用いて、本発明者らは、アミノ酸705がカプシドの表面に露出しており、したがって、おそらく細胞へのウイルスの結合に関与していることを見出した。MV18とMV50を比較する結合アッセイは、S705G変異が細胞表面への結合を、ループ1変異のみの場合より、およそ2倍さらに増強したことを確認した(図13)。興味深いことに、MV50とMV18を比較した場合、内部移行した結合ビリオンの割合は、有意に低減した。これは、結合の増加は、内部移行したウイルスの割合の増加と相関しなかったことを示している(図14)。加えて、MV50とMV18の間で内部移行したウイルスの全量に相違は観察されなかった。これは、ループ1変異およびその受容体は、内部移行する結合ウイルスを増加させるための主な促進因子である可能性が高く、S705G変異を介した結合の増加は、内部移行率に影響しないことの表れである(図15)。したがって、本発明者らは、S705Gが、より多くのウイルスが細胞の表面に結合するのを可能にする結合因子への結合を増強するだけで感染力を増加させ、その後、ループ1変異経路を介して内部移行する可能性が高いと結論できる。ループ1変異が内部移行の主な原因であるので、このことが内部移行する結合ウイルスの割合がなぜ低減したかも説明するだろう。受容体ターンオーバおよびその後の新ビリオンの結合が考慮されない結合アッセイおよび内部移行アッセイの静的な環境により、内部移行したウイルスの全量の差がない可能性が高い。
【0196】
最後に、MV53の二次変異は、VP2およびVP3のジャンクション近くに位置するアミノ酸179におけるグルタミンからアルギニンへの変異(Q179R)である。この領域は、この領域の結晶構造を決定するのが困難であることにより、文献には詳細に記載されていない。VP2タンパク質中の他の場所に位置する核移行シグナルがあったが、この領域の正確な機能は決定されていない。しかし、本発明者らは、VP2/VP3領域のジャンクションがAAVカプシドの表面に存在し、実際にAAV形質導入で役割を果たしていると考える。この理論への支持を追加するために、本発明者らは、MV18とMV53を比較する結合アッセイおよび内部移行アッセイを行い、MV18と比較した場合、Q179R変異が、細胞表面に結合したビリオンの数を増加させることを見出した(図13)。しかし、MV50と類似して、結合ビリオンの割合は有意に低減し、内部移行したウイルスの全量はMV18と一致したままであった(図14、15)。これは、Q179R変異が、細胞表面の結合因子への結合に影響を与えるのみであり、内部移行に影響を与えない可能性が高いという点で、MV53がMV50と類似していることを示唆している。加えて、これらのデータは、VP2/VP3はX線結晶解析によって構造決定できないが、その構造がカプシド表面上またはカプシド表面近くにあり、細胞膜への結合で役割を果たしている可能性が高いことも示している。
【0197】
次に、本発明者らは、全ヒト集団における特異抗原に対する中和抗体の全体的保有率を表すのに、静脈免疫グロブリン(IVIG)または何千人ものドナーからのプールされた免疫グロブリンGを用いる血清反応性アッセイを介して、ヒト中和因子に対する変異体カプシドの反応性を決定した。本発明者らは、AAV5およびAAV9という2つの対照血清型と変異体ウイルスを比較した。AAV5およびAAV9のうち、一方は、中和抗体の保有率が非常に低く(5%)、一方は、中程度(30%から40%)の保有率を有する(Boutin他、Human Gene Therapy、2010)。ヒト集団における中和抗体の保有率が高いAAVカプシドほど、希釈率の逆数が大きいとき、すなわちIVIG量が少ないときに中和されることになり、中和抗体の保有率が低いAAVカプシドについて、逆もまた同様である。GFPレポーター導入遺伝子を含有する変異体ウイルスを、IVIGの希釈率の逆数を増加させながら、または二倍希釈を用いて1時間インキュベートし、その後、96ウェルプレート中のHuh7細胞の個々のウェルに添加した。ウイルス濃度は、IVIGの希釈率の逆数それぞれについて同じに保った。AAV導入遺伝子発現が亢進するように、野生型のアデノウイルスも50というMOIで各ウェルに添加した。72時間後に、各ウェル内の細胞を溶解し、粗溶解物をGFP活性についてアッセイした。GFP活性は、各ウイルスの各希釈率の逆数における最大GFP発現のパーセントを得るために、IVIGなしにウイルスのみで感染させた対照ウェルに対して測定した。希釈率の逆数のlogに対するGFPの最大値のパーセントのプロットおよび非線形回帰を用いたカーブフィッティングにより、異なるウイルス間の血清反応性の比較が可能になった。これらの曲線から、本発明者らは、AAV5およびMV変異体の血清反応性が相互に十分に一貫しており、これらの全てがAAV9の左に有意にシフトしていると判定した。これは、AAV9と比較した場合、AAV5および変異体が、それらの感染力を中和するのに、より多くのIVIGを必要とすることを示している(図16)。これは、IVIGが、より高い力価の抗AAV9中和抗体を含有していることを意味し、それによって、ドナー集団は、抗AAV5抗体と比較して、抗AAV9抗体の保有率が高いことを示している。MV18またはループ1変異のみを有する変異体の血清反応性曲線はAAV5の左にシフトしている。これは、MV18の血清反応性がAAV5のものよりわずかに低く、感染力の50%阻害を達成するのにMV18が必要とするIVIGが少し多いことを意味している(図16、17)。MV1は、IVIGに対する血清反応性に関して、MV18に非常に類似しており、一方、MV20およびMV53は、AAV5と比較した場合、血清反応性が少し高い(図17)。MV50は、AAV5に最も近いバリアントであり、AAV5と比較して血清反応性が相違していない。AAV5と比較して、IVIGに対する変異体の血清反応性はわずかに相違しているようにみえるが、AAV5と比較した場合、ヒト集団における変異体に対する抗体の保有率にはいかなる相違もありそうにない。これは主に選択プロセスから見出される全ての変異が全て新規の変異であり、いかなる他の血清型でも存在しないからである。AAV5が最も遺伝学的に多岐にわたるAAV血清型であるという事実と併せて、いかなるヒトもこれらの変異体によって事前に感染し、それにより、これらの新規の変異を特異的に標的にする中和抗体を産生している可能性は極めて低い。既にAAV5を標的とする既存の抗体が、おそらく変異が存在する領域の立体障害を介して、変異がその機能を実行する能力を妨げている可能性の方がはるかに高い。したがって、本発明者らは、変異体AAV5ウイルスは、AAV5と比較して、特にAAV9などの他の血清型と比較して、IVIGに対する血清反応性に関して十分に一貫しており、さらに、変異体に対するヒト集団における中和因子の全体的保有率がAAV5に非常に類似している可能性が高いと結論した。
【0198】
[実施例4]
初代ヒト肝細胞におけるAAV5変異体の特性分析
Huh7細胞における5種のAAV5変異体の感染力の増加がヒト肝細胞に移行可能であることを検証するために、それらのAAV5変異体を、初代ヒト肝細胞におけるそれらの形質導入能力について試験した。初代ヒト肝細胞をプレーティングし、1細胞あたり50万vgというMOIで、精製されたsc-GFPベクターに感染させた。感染72時間後に、GFP発現のイメージングおよびGFP活性の定量化用に細胞を採取した。Huh7細胞の結果と類似して、AAV5変異体は全て、wt-AAV5と比較した場合、初代ヒト肝細胞を感染させるのに有意に優れている(図18)。特に、MV50およびMV53は、形質導入能力が最も高い2種のバリアントであり、両方が、AAV5と比較して、およそ10倍強力に初代ヒト肝細胞を感染させた。これは、Huh7細胞における増加倍率と一貫性が非常に高い(図19)。AAV5と比べた他の3種の変異体、すなわちMV1、MV18、およびMV20の感染力の増加も、Huh7細胞の結果と非常に高い一貫性を示し、AAV5と比べた増加倍率がそれぞれおよそ8倍、7倍、5倍であった(図20)。Huh7細胞の結果と比較した場合、初代ヒト肝細胞の感染力の増加倍率の全体的な規模は、非常に高い一貫を示し(図20)、Huh7細胞と初代ヒト肝細胞が、AAV感染力に影響を与える特徴に関して非常に似ていることを示しており、また、ヒト肝細胞における感染力を近似するのにHuh7細胞を使用することの実行可能性も実証している。総じて、これらの結果は、AAV5の好ましい血清反応性を保持しながら、初代ヒト肝細胞における感染力が有意に増加している変異体をAAV5の指向性進化が産生することを実証しており、したがって、これらの血清反応性が低いカプシドを、ヒト肝疾患での使用に移行する可能性を立証する。
【0199】
前述は本発明を例示するものであり、本発明を限定すると解釈すべきではない。本発明は、以下の特許請求の範囲によって定義され、特許請求の均等物は特許請求の範囲に含まれるべきである。
【0200】
配列
配列番号1-MV1
【化1】
配列番号2-MV1
【化2】
配列番号3-MV18
【化3】
配列番号4-MV18
【化4】
配列番号5-MV20
【化5】
配列番号6-MV20
【化6】
配列番号7-MV50
【化7】
配列番号8-MV50
【化8】
配列番号9-MV53
【化9】
配列番号10-MV53
【化10】
配列番号11-wt-AAV5カプシド
【化11】
配列番号12-wt-AAV5カプシド
【化12】
配列番号13-フォワードプライマー
【化13】
配列番号14-リバースプライマー
【化14】
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図4-5】
図4-6】
図5-1】
図5-2】
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【配列表】
2023524577000001.app
【国際調査報告】