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特表2023-524633父親の高年齢に関連するエピジェネティックな調節異常を同定するための方法およびキット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-13
(54)【発明の名称】父親の高年齢に関連するエピジェネティックな調節異常を同定するための方法およびキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20230606BHJP
【FI】
C12Q1/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562725
(86)(22)【出願日】2021-04-21
(85)【翻訳文提出日】2022-10-25
(86)【国際出願番号】 US2021028422
(87)【国際公開番号】W WO2021216726
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】63/013,090
(32)【優先日】2020-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521311285
【氏名又は名称】ファーティリティ ラボ サイエンシーズ, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】カッツ-ジャフィ, マンディ
(72)【発明者】
【氏名】ティニャネッリ, ミケーレ エム.
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR72
4B063QR77
(57)【要約】
胚盤胞、精子、または精子個体群におけるエピジェネティックな調節異常の同定およびスクリーニングのための方法およびキットが提供される。エピジェネティックな調節異常の同定およびスクリーニングは、特に、自閉症スペクトラム障害遺伝子、統合失調症遺伝子、双極性障害遺伝子、またはオピオイドシグナル伝達経路遺伝子と呼ばれる複数の候補遺伝子に関連する。該方法は、対象となる胚盤胞、精子、または精子個体群を取得すること、および胚盤胞内のDNAメチル化エラーを同定することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピジェネティックな調節異常が増加する胚盤胞を同定するための方法であって、
胚盤胞を得ること、および
前記胚盤胞内のDNAメチル化エラーを同定することであって、その結果、エピジェネティックな調節異常が、
(i)全体的な低メチル化のシフトを備えたDNAを有する胚盤胞と相関する、または
(ii)高メチル化されている一つ以上の自閉症スペクトラム障害、統合失調症、双極性障害、および/またはオピオイドシグナル伝達経路の候補遺伝子と相関する、同定すること、を含む、方法。
【請求項2】
前記自閉症スペクトラム障害の候補遺伝子は、ABAT、ABCA7、ADSL、ANKRD11、CACNA1C、CACNA1H、CCDC88C、CDH11、CIC、CLSTN3、CNTNAP2、CSMD1、DDX3X、DHCR7、DPP6、EHMT1、FLT1、GLIS1、GNAS、GRIN1、GRM8、HDAC6、ITGB7、KCNQ2、NRP2、NSD1、P4HA2、PACS1、PIK3R2、PXDN、SGSH、SHANK2、SHANK3、SLC38A10、TET2、TT12、ZNF804A、およびUBE3Bから選択される群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記統合失調症の候補遺伝子は、TCF3およびZNF804Aからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記双極性障害の候補遺伝子は、COMT、DRD4,GRIN1、MBP、PRKCZ、SHANK2,TRPM2、およびZNF804Aからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記オピオイドシグナル伝達経路の候補遺伝子は、CACNA1H,GRIN1およびPRKCZからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
胚盤胞内のエピジェネティック状態を決定する方法であって、
前記胚盤胞内の一つ以上の神経発達障害の候補遺伝子におけるメチル化のレベルを決定することを含み、
前記一つ以上の神経発達障害遺伝子における前記メチル化のレベルおよび遺伝子発現は、前記胚盤胞の前記エピジェネティック状態を提供する、方法。
【請求項7】
前記一つ以上の神経発達障害遺伝子における前記メチル化のレベルを、正常なエピジェネティック状態を有する前記胚盤胞として定義される条件下で、同じ一つ以上の神経発達障害遺伝子に対するメチル化のレベルと比較すること、をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記一つ以上の候補遺伝子は、ABAT、ABCA7、ADSL、ANKRD11、CACNA1C、CACNA1H、CCDC88C、CDH11、CIC、CLSTN3、CNTNAP2、COMT、CSMD1、DDX3X、DHCR7、DPP6、DRD4、EHMT1、FLT1、GLIS1、GNAS、GRIN1、GRM8、HDAC6、ITGB7、KCNQ2、MBP、NRP2、NSD1、P4HA2、PACS1、PIK3R2、PRKCZ、PXDN、SGSH、SHANK2、SHANK3、SLC38A10、TCF3、TET2、TRPM2、TT12、ZNF804A、およびUBE3Bからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
胚盤胞内のエピジェネティック状態を決定する方法であって、
前記胚盤胞のグローバルDNAのメチル化を決定することを含み、
前記胚盤胞のグローバルDNAのメチル化のレベルは、前記胚盤胞の前記エピジェネティック状態を提供し、その結果、前記グローバルDNAのメチル化胚盤胞内の低メチル化または高メチル化のシフトが、異常なエピジェネティック状態である、方法。
【請求項10】
エピジェネティックな調節異常のリスクが増加する精子細胞ドナーを同定するための方法であって、
精液試料を、前記精子細胞ドナーから取得すること、および
精子個体群内のDNAメチル化エラーを同定することであって、その結果、エピジェネティックな調節異常が、
(i)全体的な低メチル化のシフトを備えたDNAを有する精子個体群と相関する、または
(ii)高メチル化されている一つ以上の自閉症スペクトラム障害、統合失調症、双極性障害、および/またはオピオイドシグナル伝達経路の候補遺伝子と相関する、同定すること、を含む、方法。
【請求項11】
前記自閉症スペクトラム障害の候補遺伝子は、ABAT、ABCA7、ADSL、ANKRD11、CACNA1C、CACNA1H、CCDC88C、CDH11、CIC、CLSTN3、CNTNAP2、CSMD1、DDX3X、DHCR7、DPP6、EHMT1、FLT1、GLIS1、GNAS、GRIN1、GRM8、HDAC6、ITGB7、KCNQ2、NRP2、NSD1、P4HA2、PACS1、PIK3R2、PXDN、SGSH、SHANK2、SHANK3、SLC38A10、TET2、TT12、ZNF804A、およびUBE3Bからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記統合失調症の候補遺伝子は、TCF3およびZNF804Aからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記双極性障害の候補遺伝子は、COMT、DRD4,GRIN1、MBP、PRKCZ、SHANK2,TRPM2、およびZNF804Aからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記オピオイドシグナル伝達経路の候補遺伝子は、CACNA1H,GRIN1、およびPRKCZからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
精子個体群内のエピジェネティック状態を決定する方法であって、
前記精子個体群内の一つ以上の神経発達障害の候補遺伝子におけるメチル化の程度を決定することを含み、
前記一つ以上の神経発達障害遺伝子におけるメチル化のレベルは、前記精子試料の前記エピジェネティック状態を提供する、方法。
【請求項16】
前記一つ以上の神経発達障害遺伝子における前記メチル化のレベルを、正常なエピジェネティック状態を有する前記精子個体群として定義される条件下で、同じ一つ以上の神経発達障害遺伝子に対するメチル化のレベルと比較すること、をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記一つ以上の候補遺伝子は、ABAT、ABCA7、ADSL、ANKRD11、CACNA1C、CACNA1H、CCDC88C、CDH11、CIC、CLSTN3、CNTNAP2、COMT、CSMD1、DDX3X、DHCR7、DPP6、DRD4、EHMT1、FLT1、GLIS1、GNAS、GRIN1、GRM8、HDAC6、ITGB7、KCNQ2、MBP、NRP2、NSD1、P4HA2、PACS1、PIK3R2、PRKCZ、PXDN、SGSH、SHANK2、SHANK3、SLC38A10、TCF3、TET2、TRPM2、TT12、ZNF804A、およびUBE3Bからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
精子個体群内のエピジェネティック状態を決定する方法であって、
前記精子個体群のグローバルDNAのメチル化の程度を決定することを含み、
前記精子個体群のグローバルDNAのメチル化の程度は、前記精子個体群の前記エピジェネティックな状態を提供し、その結果、前記グローバルDNAのメチル化の精子個体群における低メチル化または高メチル化のシフトが、異常なエピジェネティック状態である、方法。
【請求項19】
精子個体群のエピジェネティック状態を検査するためのキットであって、
前記胚盤胞内の一つ以上の標的遺伝子における前記精子個体群のメチル化の程度を決定するための手段、を含む、キット。
【請求項20】
前記一つ以上の標的遺伝子は、ABAT、ABCA7、ADSL、ANKRD11、CACNA1C、CACNA1H、CCDC88C、CDH11、CIC、CLSTN3、CNTNAP2、COMT、CSMD1、DDX3X、DHCR7、DPP6、DRD4、EHMT1、FLT1、GLIS1、GNAS、GRIN1、GRM8、HDAC6、ITGB7、KCNQ2、MBP、NRP2、NSD1、P4HA2、PACS1、PIK3R2、PRKCZ、PXDN、SGSH、SHANK2、SHANK3、SLC38A10、TCF3、TET2、TRPM2、TT12、ZNF804A、およびUBE3Bからなる群から選択される、請求項19に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2020年4月21日出願の米国仮特許出願第63/013,090号「Methods and Kits for Identifying Advanced Paternal Age Related Epigenetic Dysregulation」の利点を主張するものである。
【0002】
本発明は、父親の高年齢と、胚発生中のエピジェネティック事象のリスクの増加との関連に関する。本発明はまた、胚発生中の有害転帰に関連するエピジェネティックなスクリーニング用のマーカーとして作用する、複数の遺伝子の同定に関する。
【背景技術】
【0003】
父親の高年齢(APA)は、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、および双極性障害などの先天性欠損および小児神経発達疾患を含む有害転帰に関連する。それにもかかわらず、米国で初めて母親・父親になる平均年齢は上昇し、その結果、女性の第一子妊娠の平均年齢は、過去25年間で、約25歳から約26歳に上昇した。同様の傾向が、第一子を授かる父親にも見られ、その男性の平均年齢は、1980年代以降で約3年上昇した。そのため、APAに関連する有害転帰の発生率は、今後も上昇し続けると予想され得る。APAである個人に対するリスク因子を特定し、診断スクリーニングを開発する能力は、当技術分野では必要とされており、その結果、個人がより高齢になって子供をもうけることを選択する際に、新生児に有害転帰がみられる親自身のリスクが制限され得る。
【0004】
本発明は、上記で論じた問題を一つ以上、解決することを対象とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書において、胚発生中のエピジェネティックな調節異常、例えば、胚盤胞内のエピジェネティックな調節異常の同定、スクリーニング、および診断に有用な方法およびキットが開示される。
【0006】
本明細書の実施形態は、例えば、エピジェネティックな調節異常、特に、胚発生中の有害転帰に関連するエピジェネティックな調節異常が増加した胚盤胞、精子、または精子個体群を同定するための方法を含む。該方法は、対象となる胚盤胞、精子、または精子個体群を取得すること、および胚盤胞内のDNAメチル化エラーを同定することを含む。有害転帰のリスクの増加は、全体的な低メチル化のシフトを備えたグローバルDNAを有する胚盤胞、精子、または精子個体群におけるエピジェネティックな調節異常と相関する、または高メチル化されている一つ以上の、または二つ以上の、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、または双極性障害の候補遺伝子を有する胚盤胞と相関する。本事例の態様では、自閉症スペクトラム障害の候補遺伝子は、ABAT、ABCA7、ADSL、ANKRD11、CACNA1C、CACNA1H、CCDC88C、CDH11、CIC、CLSTN3、CNTNAP2、CSMD1、DDX3X、DHCR7、DPP6、EHMT1、FLT1、GLIS1、GNAS、GRIN1、GRM8、HDAC6、ITGB7、KCNQ2、NRP2、NSD1、P4HA2、PACS1、PIK3R2、PXDN、SGSH、SHANK2、SHANK3、SLC38A10、TET2、TT12、ZNF804A、およびUBE3Bを含む。本事例の一部の態様では、統合失調症の候補遺伝子には、TCF3およびZNF804Aが含まれる。本事例の一部の態様では、双極性障害の候補遺伝子には、COMT、DRD4、GRIN1、MBP、PRKCZ、SHANK2、TRPM2、およびZNF804Aが含まれる。本事例の一部の態様では、オピオイドシグナル伝達経路の候補遺伝子は、上述の神経発達疾患の候補遺伝子のいずれかを含む。一部の事例では、方法は、エピジェネティックな調節異常に対して、胚盤胞、精子、または精子個体群をスクリーニングするために使用することができるが、上述のようなエピジェネティックな調節異常を有する胚盤胞、精子、または精子個体群は、インビトロでの受精中の着床処置用に使用されず、または精子の場合、卵子の受精には使用されないであろう。一部の事例では、方法は、エピジェネティックな調節異常に対して、胚盤胞、精子、または精子個体群をスクリーニングするために使用することができ、胚盤胞、精子、または精子個体群をランク付けして、着床陽の最も健康な胚の選択、または最も健康な精子を受精用に使用することが可能である。
【0007】
他の実施形態では、胚盤胞のエピジェネティック状態を決定するための方法が提供される。方法は、胚盤胞内の一つ以上の、または二つ以上の自閉症スペクトラム障害、統合失調症、または双極性障害の候補遺伝子におけるメチル化のレベルおよび遺伝子発現を決定することを含む。一部の態様では、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、または双極性障害遺伝子におけるメチル化のレベルおよび遺伝子発現は、正常または非表現型のエピジェネティック状態を有する公知の対照と比較される(場合により、正常または非表現型のエピジェネティック状態は、典型的には35歳未満の若年の父親の精子に見られる、同じ一つ以上の、または二つ以上の、自閉症スペクトラム障害遺伝子のメチル化と関連する)。上述のように、自閉症スペクトラム障害の候補遺伝子は、ABAT、ABCA7、ADSL、ANKRD11,CACNA1C、CACNA1H、CCDC88C、CDH11、CIC、CLSTN3、CNTNAP2、CSMD1、DDX3X、DHCR7、DPP6、EHMT1、FLT1、GLIS1、GNAS、GRIN1、GRM8、HDAC6、ITGB7、KCNQ2、NRP2、NSD1、P4HA2、PACS1、PIK3R2、PXDN、SGSH、SHANK2、SHANK3、SLC38A10、TET2、TT12、ZNF804A、またはUBE3Bのいずれか一つであり得る。統合失調症の候補遺伝子は、TCF3およびZNF804Aであり得る。双極性障害の候補遺伝子は、COMT、DRD4,GRIN1、MBP、PRKCZ、SHANK2、TRPM2、およびZNF804Aであり得る。オピオイドシグナル伝達経路の候補遺伝子は、上述の神経発達疾患の候補遺伝子、例えば、CACNA1H,GRIN1、およびPRKCZのいずれかであり得る。
【0008】
胚盤胞のエピジェネティック状態を決定するための代替的な方法において、該方法は、胚盤胞のグローバルDNAのメチル化を決定することを含み、正常なエピジェネティック状態と比較して、グローバルDNAのメチル化における低メチル化または高メチル化のシフトは、異常なエピジェネティック状態とみなされる。異常なエピジェネティック状態は、正常なエピジェネティック状態を有する胚盤胞と比較して、胚盤胞が有害な結果をもたらすより高いリスクと関連する。
【0009】
最後に、本明細書の実施形態は、一つ以上の細胞のエピジェネティック状態を検査するためのキットを含む。一つの態様では、一つ以上の細胞は、胚盤胞由来であり、キットは、胚盤胞のメチル化レベルを決定するための手段、および胚盤胞内の二つ以上の標的遺伝子における遺伝子発現を決定するための手段を含む。胚盤胞内の二つ以上の遺伝子は、自閉症スペクトラム障害遺伝子であり得る。一部のキットでは、自閉症スペクトラム障害の候補遺伝子に対する正常な範囲のメチル化および遺伝子発現用の標準的な範囲の値を含む指示が提供される。指示には、メチル化および遺伝子発現試験を実施するための方法も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aおよび図1Bは、若年およびAPA精子におけるグローバルDNAのメチル化を示す。図1Aは、箱ひげ図を使用して可視化された有意な精子CpGの若年およびAPAの平均値の分布を示す。各ボックスの最小値と最大値は、分布の第1および第3の量を表し、間の線は、中央値を表す。分布は、マン・ホイットニー検定(*p=1.33×10-21)によって有意に異なる。
図1B図1Bは、LINE1の亜硫酸塩パイロシーケンシングを示す。X軸上のCpG部位の後、若年(灰色)およびAPA(黒色)個体に対するすべてのCpGにわたる平均パーセントのメチル化が続く。各線は、個々の精子試料(n=18の若年およびn=18のAPA精子試料)の結果を表す。若年(67%)と比較して、APA(70%)では有意な高メチル化が観察され、*p<0.05である。
【0011】
図2-1】図2A~2Lは、精子メチル化検証結果のプロットを提供する。各プロットは、有意なDMR内の別個のCpG部位における選択された検証遺伝子に対するパイロシーケンシングの結果を表す。図2A-CACNA1H、図2B-COMT、図2C-DRD4、図2D-GRIN1、図2E-KCNQ1、図2F-PRKCZ、図2G-SHANK2、図2H-SHANK3、図2I-TCF3、図2J-TRPM2、図2K-CNTNAP2、図2L-MBP、図2M-ZNF804A。X軸上のCpG部位の後、若年(灰色)およびAPA(黒色)個体に対するすべてのCpGにわたる平均パーセントのメチル化が続く。各線は、個々の精子試料(n=18の若年およびn=18のAPA精子試料)の結果を表す。若年と比較したAPAにおける有意な低メチル化は、プロット(A~J)で示され、若年と比較したAPAにおける有意な高メチル化は、プロット(K~M)で示され、*p≦.01、**p≦.001である。
図2-2】同上。
図2-3】同上。
【0012】
図3-1】図3は、父親の年齢による精子DNAメチル化の変化を示すプロットを提供する。線形回帰モデルは、APAの父親(≧50歳、n=18のAPA精子試料)において、精子DNAのメチル化と父親の年齢との間に有意な負の関連性を示す。モデルは、デフォルト引数を有するRのlm()関数を使用して適合され、p≦.05を有するものは、有意とみなされた。R二乗、勾配、およびp値は、各プロット上に示されており、各黒の回帰線の周りの灰色の陰表示の領域は、95%信頼区間を表す。
図3-2】同上。
【0013】
図4A図4Aおよび図4Bは、CACNA1HおよびSHANK2に対する精子および胚盤胞DNAメチル化の検証結果を示す。棒プロットは、若年(灰色)およびAPA(黒色)父親に対する精子(n=12)および胚盤胞(n=12)における、二つの選択された検証遺伝子、CACNA1H(図1A)およびSHANK2(図1B)に対する有意なDMR内の平均メチル化の変化を示す。エラーバーは、一つの標準偏差を表す。有意な低メチル化は、CACNA1Hでは精子および胚盤胞の両方について、およびSHANK2では精子について実証される。*p≦0.05である。
図4B】同上。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ゲノムにおけるエピジェネティックな変化に関する研究は、多くの病態の理解および治療における進歩をもたらした。特に、エピジェネティックな修飾は、特定の癌、認知機能障害、自己免疫疾患、および可能性のある生殖障害の要因として現在、同定されている。本明細書における特定の関連性のうち、発明者らは、新生児における有害転帰のより高い可能性、例えば、先天性欠損、自閉症スペクトラム障害などと相関する胚発生中に発生する多数のエピジェネティック事象を特定した。本明細書に開示されるように、「エピジェネティック事象」は、DNA配列を変化させることなく、遺伝子活性を変化させる任意のプロセスである。一つの態様では、エピジェネティック事象は、DNAメチル化である。驚くべきことに、発明者らは、これらの特定されたエピジェネティック事象が、父親ドナーがAPAである場合に起こる可能性がより高いことを見い出した。
【0015】
本開示以前に、父親の年齢の影響の基礎となる原因機構は解明されておらず、また遺伝形式も決定的には確立されなかった。本明細書に記載されるように、DNAメチル化などの修飾可能および遺伝性のエピジェネティック情報は、世代的に遺伝され得る。一連のエピジェネティック再プログラミング事象は、配偶子形成中および受精直後で発生する(Reik,Dean,&Walter,2001)。メチル化マークの抹消および配偶子に特異的な確立は、原始生殖細胞の発生中に起こる。受精直後、オスの前核が、急速な活性脱メチル化プロセスを受ける一方、メスの前核は、発生中の胚において再定着する前に、受動的複製依存性脱メチル化を受ける。刷り込み遺伝子、およびおそらく他の発生的に重要な領域は、エピジェネティック再プログラミングの胚部分を溶出し、エピジェネティックな世代遺伝を可能にする(Kobayashiら.,2012)。
【0016】
本明細書に開示され、実施例に提供されるデータによって実証されるのは、老齢の精子におけるDNAメチル化プロファイルが損なわれた結果として、精子形成中の不完全な再プログラミングが生じるという知見である。発明者らは、父親の高年齢に関連する、変化したヒトメチル化特性の精子および胚における世代間相関を初めて実証し、ヒト胚盤胞ゲノム全体にわたって、メチル化再定着の非等価な効率に寄与する。異常なエピジェネティック再プログラミングは、APA精子および胚盤胞の両方の神経学的発達に必要不可欠な遺伝子において著しく強化され、父親の年齢の影響と子孫の神経発達障害との間の機構的関連性を提供する。
【0017】
本明細書に開示されるように、有害転帰の可能性が高くなることと相関するエピジェネティック事象としては、(1)グローバル胚盤胞DNA内の低メチル化のシフトと、(2)胚盤胞内の任意の一つ以上の遺伝子が、異常なメチル化および異常な遺伝子発現(増加または減少)の両方を示すより高い可能性と、(3)胚盤胞内の以下の遺伝子であるABAT、ABCA7、ADSL、ANKRD11、CACNA1C、CACNA1H、CCDC88C、CDH11、CIC、CLSTN3、CNTNAP2、CSMD1、DDX3X、DHCR7、DPP6、EHMT1、FLT1、GLIS1、GNAS、GRIN1、GRM8、HDAC6、ITGB7、KCNQ2、NRP2、NSD1、P4HA2、PACS1、PIK3R2、PXDN、SGSH、SHANK2、SHANK3、SLC38A10、TET2、TT12、ZNF804A、またはUBE3B(本明細書では、自閉症スペクトラム障害の候補遺伝子と称される)、TCF3およびZNF804A(本明細書では、統合失調症の候補遺伝子と称される)、COMT、DRD4、GRIN1、MBP、PRKCZ、SHANK2、TRPM2、およびZNF804A(本明細書において双極性候補遺伝子と称される)の一つ以上、または少なくとも二つ以上、三つ以上、四つ以上などにおける高メチル化と、または(4)胚盤胞内の任意の一つ以上の自閉症スペクトラム障害の候補遺伝子、統合失調症の候補遺伝子、または双極性障害の候補遺伝子における高メチル化および遺伝子発現の減少と、が含まれる。
【0018】
上記のエピジェネティック事象のうちの一つが胚盤胞内で特定される場合、胚盤胞を、可能なインビトロ受精候補として除去するために使用することができる。これは、特に、胚盤胞に対する精子ドナーがAPAである場合、または精子ドナーが、エピジェネティック情報に対して、飢餓もしくは他の何らかのストレスの多い環境的もしくは情動的な崩壊状態を経験した場合に当てはまる。他の態様では、一つ以上の胚盤胞は、最も健康な胚盤胞が着床用に選択され得るように、エピジェネティック事象の程度または量によってランク付けされ得る。
【0019】
自閉症スペクトラム障害の候補遺伝子、統合失調症の候補遺伝子、および/または双極性障害の候補遺伝子は、エピジェネティック試験のマーカーとして、特に、胚発生中の潜在的有害事象のマーカーとして使用することができることも本明細書に開示される。これらの遺伝子は、メチル化の変化(高または低のいずれか)および発現の変化(増加または減少のいずれか)と関連付けられ、現在ではAPAとの関連が(本明細書に)示される。これらの知見により、新しいスクリーニング戦略の開発が可能である。
【0020】
本明細書の実施形態は、エピジェネティック事象、特に、生殖中の有害転帰に関連するエピジェネティック事象に対する胚盤胞の同定および/またはスクリーニングのための方法およびキットを提供する。本明細書の実施形態は、エピジェネティック事象、例えば、子孫の神経発達障害に関連するエピジェネティック事象に対する精子の同定および/またはスクリーニングのための方法およびキットを提供する。
【0021】
本明細書の実施形態は、エピジェネティックな調節異常が増加、特に、胚発生中の有害転帰、すなわち、子孫に神経発達障害をもたらす有害転帰に関連するエピジェネティックな調節異常が増加する胚盤胞を同定するための方法を含む。該方法は、対象となる胚盤胞を取得すること、および胚盤胞中のDNAメチル化エラーを同定することを含む。エピジェネティックな調節異常のリスクの増加は、全体的な低メチル化のシフトを備えたグローバルDNAを有する胚盤胞と相関する、または高メチル化されている一つ以上の、もしくは二つ以上の、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、もしくは双極性障害の候補遺伝子を有する胚盤胞と相関する。本事例の態様では、自閉症スペクトラム障害の候補遺伝子は、ABAT、ABCA7、ADSL、ANKRD11、CACNA1C、CACNA1H、CCDC88C、CDH11、CIC、CLSTN3、CNTNAP2、CSMD1、DDX3X、DHCR7、DPP6、EHMT1、FLT1、GLIS1、GNAS、GRIN1、GRM8、HDAC6、ITGB7、KCNQ2、NRP2、NSD1、P4HA2、PACS1、PIK3R2、PXDN、SGSH、SHANK2、SHANK3、SLC38A10、TET2、TT12、ZNF804A、またはUBE3Bを含む。統合失調症の候補遺伝子には、TCF3およびZNF804Aが含まれる。双極性障害の候補遺伝子には、COMT、DRD4、GRIN1、MBP、PRKCZ、SHANK2、TRPM2、およびZNF804Aが含まれる。オピオイドシグナル伝達経路の候補遺伝子は、上述の神経発達疾患の候補遺伝子、例えば、CACNA1H、GRIN1、およびPRKCZのいずれかであり得る。
【0022】
一部の事例では、該方法は、エピジェネティックな調節異常を有する胚盤胞を着床処置に使用しないであろう、エピジェネティックな調節異常に対して、胚盤胞をスクリーニングするために使用することができる。
【0023】
本明細書の他の実施形態では、胚盤胞のエピジェネティック状態を決定するための方法が提供される。方法は、胚盤胞内の一つ以上の、または二つ以上の自閉症スペクトラム障害、統合失調症、または双極性障害の候補遺伝子におけるメチル化のレベルおよび遺伝子発現を決定することを含む。一部の態様では、一つ以上の、または二つ以上の自閉症スペクトラム障害、統合失調症、または双極性障害の遺伝子におけるメチル化のレベルおよび遺伝子発現は、正常または非表現型のエピジェネティック状態を有する公知の対照と比較される。上述のように、自閉症スペクトラム障害の候補遺伝子は、ABAT、ABCA7、ADSL、ANKRD11、CACNA1C、CACNA1H、CCDC88C、CDH11、CIC、CLSTN3、CNTNAP2、CSMD1、DDX3X、DHCR7、DPP6、EHMT1、FLT1、GLIS1、GNAS、GRIN1、GRM8、HDAC6、ITGB7、KCNQ2、NRP2、NSD1、P4HA2、PACS1、PIK3R2、PXDN、SGSH、SHANK2、SHANK3、SLC38A10、TET2、TT12、ZNF804A、またはUBE3Bのいずれか一つであり得る。統合失調症の候補遺伝子は、TCF3およびZNF804Aであり得る。双極性障害の候補遺伝子は、COMT、DRD4、GRIN1、MBP、PRKCZ、SHANK2、TRPM2、およびZNF804Aであり得る。オピオイドシグナル伝達経路の候補遺伝子は、上述の神経発達疾患の候補遺伝子、例えば、CACNA1H、GRIN1、およびPRKCZのいずれかであり得る。
【0024】
胚盤胞のエピジェネティック状態を決定するための代替的な方法において、該方法は、胚盤胞のグローバルDNAのメチル化を決定することを含み、正常なエピジェネティック状態と比較して、グローバルDNAのメチル化における低メチル化または高メチル化のシフトは、異常なエピジェネティック状態とみなされる。
【0025】
最後に、本明細書の実施形態は、胚盤胞のエピジェネティックな状態を検査するためのキットを含み、これには、胚盤胞のメチル化レベルを決定するための手段、および胚盤胞内の二つ以上の標的遺伝子における遺伝子発現を決定するための手段が含まれる。胚盤胞内の二つ以上の遺伝子は、自閉症スペクトラム障害遺伝子、統合失調症遺伝子、または双極性障害遺伝子であり得る。標準的な対照値および試験の実施方法の指示も提供することができる。
【0026】
本明細書の実施形態には、神経発達障害を有する子孫を産生する素因を有する精子または精子ドナーを同定するための方法が含まれる。方法は、精液試料を精子ドナーから得ること、精子個体群におけるDNAメチル化エラーの程度を特定すること、およびドナー精子個体群におけるDNAメチル化エラーの程度を、対照試料におけるDNAメチル化エラーの程度と比較することを含む。ドナーの精子個体群におけるDNAメチル化エラーの程度が、エピジェネティックな調節異常の累積リスクを示す閾値を超える場合、ドナーの精子は、インビトロでの受精に使用される卵子の受精には使用されない。一部の態様では、精子または精子個体群におけるエピジェネティックな変化の程度により、インビトロ受精で使用するための最も健康な精子または精子試料を決定するための精子または試料のランク付けが可能になる。累積リスクは、全体的な低メチル化のシフトを備えたグローバルDNAを有する精子個体群と相関する、または高メチル化されている一つ以上の、または二つ以上の、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、または双極性障害の候補遺伝子におけるDNAメチル化エラーの閾値度を有する精子個体群と相関する。本事例の態様では、自閉症スペクトラム障害の候補遺伝子は、ABAT、ABCA7、ADSL、ANKRD11、CACNA1C、CACNA1H、CCDC88C、CDH11、CIC、CLSTN3、CNTNAP2、CSMD1、DDX3X、DHCR7、DPP6、EHMT1、FLT1、GLIS1、GNAS、GRIN1、GRM8、HDAC6、ITGB7、KCNQ2、NRP2、NSD1、P4HA2、PACS1、PIK3R2、PXDN、SGSH、SHANK2、SHANK3、SLC38A10、TET2、TT12、ZNF804A、またはUBE3Bを含む。統合失調症の候補遺伝子は、TCF3およびZNF804Aであり得る。双極性障害の候補遺伝子は、COMT、DRD4、GRIN1、MBP、PRKCZ、SHANK2、TRPM2、およびZNF804Aであり得る。オピオイドシグナル伝達経路の候補遺伝子は、上述の神経発達疾患の候補遺伝子、例えば、CACNA1H、GRIN1、およびPRKCZのいずれかであり得る。
【0027】
一部の事例では、該方法は、エピジェネティックな調節異常を呈する精子を同定するために使用でき、エピジェネティックな調節異常を有する精子は、インビトロでの受精には使用されない。一部の態様では、方法は、精子または精子個体群をランク付けして、インビトロでの受精のための最も健康な精子の選択を可能にするために使用することができる。
【0028】
本明細書の他の実施形態では、個々の精子のエピジェネティック状態、または精子ドナーから得られた精子個体群のエピジェネティック状態を決定するための方法が提供される。方法は、精子または精子個体群における一つ以上の、または二つ以上の自閉症スペクトラム障害、統合失調症、および/または双極性障害の候補遺伝子におけるメチル化のレベルおよび遺伝子発現を決定することを含む。一部の態様では、一つ以上の、または二つ以上の、自閉症スペクトラム障害の統合失調症、および/または双極性障害の遺伝子におけるメチル化のレベルおよび遺伝子発現は、正常または非表現型のエピジェネティック状態を有する公知の対照と比較される。上述のように、自閉症スペクトラム障害の候補遺伝子は、ABAT、ABCA7、ADSL、ANKRD11,CACNA1C、CACNA1H、CCDC88C、CDH11、CIC、CLSTN3、CNTNAP2、CSMD1、DDX3X、DHCR7、DPP6、EHMT1、FLT1、GLIS1、GNAS、GRIN1、GRM8、HDAC6、ITGB7、KCNQ2、NRP2、NSD1、P4HA2、PACS1、PIK3R2、PXDN、SGSH、SHANK2、SHANK3、SLC38A10、TET2、TT12、ZNF804A、またはUBE3Bのいずれか一つであり得る。統合失調症の候補遺伝子は、TCF3およびZNF804Aであり得る。双極性障害の候補遺伝子は、COMT、DRD4、GRIN1、MBP、PRKCZ、SHANK2、TRPM2、およびZNF804Aであり得る。オピオイドシグナル伝達経路の候補遺伝子は、上述の神経発達疾患の候補遺伝子、例えば、CACNA1H、GRIN1、およびPRKCZのいずれかであり得る。
【0029】
精子または精子個体群のエピジェネティック状態を決定するための代替的な方法において、該方法は、精子または精子個体群のグローバルDNAのメチル化を決定することを含み、正常なエピジェネティック状態と比較して、グローバルDNAのメチル化における低メチル化または高メチル化のシフトは、異常なエピジェネティック状態とみなされる。
【0030】
最後に、本明細書の実施形態は、精子または精子個体群のエピジェネティック状態を検査するためのキットを含み、このキットには、精子個体群のメチル化レベルを決定するための手段、および精子中の一つ以上の、または二つ以上の標的遺伝子における遺伝子発現を決定するための手段が含まれる。精子中の遺伝子は、自閉症スペクトラム障害遺伝子、統合失調症遺伝子、および/または双極性障害遺伝子であり得る。標準的な対照値および試験の実施方法の指示も提供することができる。
【0031】
本発明は、複数の実施形態を参照して特に示され、説明されているものの、形態および詳細は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に開示される様々な実施形態に対して変更されてもよく、本明細書に開示される様々な実施形態は、特許請求の範囲の限定として作用することを意図するものではないことが当業者には理解されるであろう。
【実施例
【0032】
以下の実施例は、例示のみを目的として提供され、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。統計解析には、Studentのt検定、Fisherの直接確率検定、Mann-Whitney U検定、Benjamini-Hochberg法が含まれ、有意性はp<0.05であった。
【0033】
実施例1:メチル化は、胚盤胞のエピジェネティックな調節異常において役割を果たす
目的:APAは、自閉症スペクトラム障害などの先天性欠損および小児神経発達疾患を含む有害転帰と関連している。高齢の父親からの遺伝性DNAメチル化エラーなどのエピジェネティックな調節異常は、子孫における永久的な遺伝子発現の変化をもたらし、臨床表現型をもたらす可能性がある。この実施例の目的は、APAと関連するヒト胚盤胞のメチロームおよびその後のトランスクリプトームを調査することであった。
【0034】
材料および方法:凍結保存され、伝達性の品質を持つヒト胚盤胞は、IRB承認および患者の同意を得て寄付された。Normozoospermicの高齢の父親(APA;≧50歳)を、既知の女性因子を除去するために、ドナー卵母細胞のみを有するnormozoospermicの若年の父親(若年;≦35歳)と比較した。胚盤胞DNA(n=12)を、メチル-MaxiSeq(Zymo Research社)を使用して亜硫酸塩に変換し配列決定する一方で、胚盤胞RNA(n=12)を小細胞数のRNAシーケンス(Illumina社)に供した。結果を、経路解析と併せて解析した(DAVID 6.8)。転写検証(n=24)を、REST 2009によるqPCRを使用して実施し、メチル化検証(n=10)では、PyroMark Q24高度システム(Qiagen社)を利用した。統計解析には、Studentのt検定、RにおけるANOVA、Fisherの直接確率検定、およびペアワイズ固定再配分無作為化検定(該当する場合)が含まれ、有意性はp<0.05であった。
【0035】
結果:57,286の低メチル化CpG部位、および49,709の高メチル化CpG部位を備えたAPA胚盤胞(34%のAPA対40%の若年;p<0.05)において、低メチル化に対する全体的なシフトが観察された(p<0.05)。RNAシーケンシングにより、751個の遺伝子に発現が有意に減少し、195個の遺伝子に発現が有意に増加したことが判明した(p<0.05)。メチロームとトランスクリプトームのデータセットを組み合わせると、319個の遺伝子は、有意にかつ方向性の両方の点で改変された(p<0.05)。経路解析では、知的障害、腫瘍抑制遺伝子、神経変性、および自閉症スペクトラム障害を含む、極めて重要な主要の機能的注釈カテゴリーとして、「疾患変異」が同定された。これまでに、自閉症スペクトラムの候補遺伝子SHANK2(45% APA対33% 若年;p<0.05)およびANKRD11(75% APA vs.43%若年;p<0.05)に対するメチル化増加の検証が行われ、その遺伝子発現に対する観察上の減少効果が確認された(p<0.05)。
【0036】
結論:この新たな研究では、胚発生中のエピジェネティック事象に対するAPAの影響を調査した。その結果、高齢の父親に由来する胚盤胞内の全体的な低メチル化のシフトが明らかになり、有意に改変された転写がもたらされる。興味深いことに、自閉症スペクトラムの候補遺伝子は、主に高メチル化され、その後に遺伝子発現が減少し、父親の高年齢の影響と小児の神経発達障害との間に機構的な相関がもたらされた。
【0037】
実施例2:両親の年齢の増加が、低メチル化を顕著に悪化させた
六つの若年(35歳)および六つのAPA(50歳)のノルモススペルマ精子試料を、修飾され還元された表示亜硫酸塩配列(RRBS;Zymo Research社のメチルMini-Seqプラットフォーム)法を使用したグローバルメチローム分析に使用し、グローバルメチル化の増加を、APA精子エピゲノム中に観察し、LINE1の亜硫酸塩パイロシーケンシングにより確認した。図1を参照されたい。
【0038】
精子試料を、二層PureSperm密度勾配遠心分離(Nidacon)、続いて、細胞溶解を使用して調製し、円形細胞の汚染を除去し、溶解緩衝液(Norgen Biotek)中に保存した。凍結保存胚盤胞を、IVF治療中の男女パートナーから、インフォームドコンセントおよびIRBの承認を得て過剰に取得した。同様に、六つの若年および六つのAPA胚盤胞試料を、全ゲノム亜硫酸塩シーケンシング(WGBS、Zymo Research社のメチルMaxi-Seqプラットフォーム)を使用して、分析した。精子および胚盤胞について、若年群とAPA群との間で49,722および106,995 CpGsが統計的に有意(p<0.05)であると同定した後、分析により、3,405個の精子DMRおよび3,997個の胚盤胞DMRがもたらされた。
【表1-1】
【表1-2】
【0039】
APA精子中の低メチル化DMRを、CpGアイランド(p=1.80E-22)、シェルフ(p=1.16E-175)、およびショア(p=1.76E-26)で有意に濃縮した。CpGアイランド注釈を、UCSCゲノムブラウザhg19からダウンロードした。APA胚盤胞内の低メチル化DMRについて、同様の傾向が観察された。
【0040】
精子と胚盤胞DMR関連遺伝子を比較すると、父親の老化に伴い、二つのメチローム間で非常に有意な遺伝子濃縮が得られた(p=3.46E-55)。二つのメチローム間の167個の低メチル化遺伝子および61個の高メチル化遺伝子の同定が行われ、10個の遺伝子が、低メチル化DMRおよび高メチル化DMRの両方を呈した。
【表2】
【0041】
追加の12個の若年および12個のAPA由来の精子のNormozoospermic試料を、メチル化の検証に使用した。図2を参照されたい。メチル化の検証用に選択された遺伝子には、改変DMR、有意な経路で同定された遺伝子、神経発達障害に関与する遺伝子、有意な細胞バンドに局在化された遺伝子、刷り込み遺伝子、および老化精子に関する公表文献に対応する遺伝子が含まれた。表3を参照されたい。線形回帰モデルを使用すると、父親の年齢が50歳から60歳を超えるまで増加したため、低メチル化は有意に悪化した。図3を参照されたい。
表3:加齢したヒト精子において以前に同定されたDMR関連の遺伝子
【表3】
【0042】
12個の胚盤胞(若年齢の父親に由来する)および12個のAPA胚盤胞を、神経発達障害に関連する二つの遺伝子からのDMRにおける胚盤胞メチル化の検証用に選択した。パイロシーケンシングデータは、増幅されたCACNA1H DMR領域に沿った有意な低メチル化(若年者に対して40%の平均メチル化、APAに対して25%の平均メチル化、p、0.05)を確認した一方、SHANK2胚盤胞DMRの検証は、低メチル化の傾向であった(若年75%、APA 56%、p<0.1)。図4および表4を参照されたい。
【表4】
【0043】
実施例3:特定の染色体領域は、加齢性メチル化改変に対してより感受性がある
個々の細胞バンドにおけるDMR関連の遺伝子密度に対する染色体濃縮を分析し、特定の染色体領域が、加齢性メチル化改変に対してより感受性が高いかどうかを判定した。メチル化改変は、ゲノム全体にわたって無作為に分布しなかったが、特定の染色体位置にクラスター状に分布し、染色体19は、若年試料とAPA試料との間に最も大きな有意性を呈する(精子p=5.51E-7、胚盤胞p=9.01E-13、重複p=7.28E-6)。有意な濃縮は、APA精子中の5つの細胞バンドで同定され、五つのうち四つは、独立してAPA胚盤胞メチロームで濃縮され、3つは重複APA精子および胚盤胞遺伝子のリストにおいて有意であった。表5を参照されたい。
表5:統計的に有意な細胞バンド
【表5】
【0044】
三つのデータセットすべてに対する最大の濃縮は、chr19p13.3であった(精子p=4.32E-19、胚盤胞p=3.76E-22、重複p=5.62E-16)。DMR関連の遺伝子と、精子中のヌクレオソーム保持の既知の領域との共局在化の分析により、APA精子DMRに対するモノヌクレオソーム(p=9.36E-29)および抑制ヒストンマークH3K27me3の存在(p=7.21E-6)により、統計的に有意な濃縮が同定された。モノヌクレオソームとのこの共局在化は、精子および胚盤胞データセットの両方で同定された方向性に重複するDMRに対して強化された(p=2.52E-18)。表6を参照されたい。
【表6】
【0045】
実施例4:神経発達障害に関連する遺伝子における父親の老化の改変メチル化の影響
神経学的シグナル伝達経路は、APA試料で特異的にメチル化されたゲノム領域間で表示されることが見出された。オピオイドシグナル伝達経路は、APA精子および胚盤胞のデータセットの両方に見られる、方向性重複遺伝子に対する上位経路であった。オピオイドシグナル伝達経路から首尾よく検証された遺伝子には、APA精子中のCACNA1H,GRIN1、およびPRKCZ、ならびにAPA胚盤胞中のCACNA1Hが含まれる。ニューロンにおけるnNOSシグナル伝達に関与する経路は、APA精子メテリソーム(p=2.08×10-4)において影響を受けた上位の正準経路として強調され、これはまた、類似の首尾よく検証された遺伝子(GRIN1およびPRKCZ)を含む。父親の高年齢によって影響を受ける追加の経路は、表7で参照できる。
【表7】
【0046】
公開されている遺伝子リストをDMRと比較し、三つの神経学的障害、具体的には、自閉症スペクトラム障害(p=1.94E-4)、統合失調症(p=5.55E-4)、および双極性障害(p=4.73E-5)において、遺伝子に対する非常に有意な濃縮が同定された。この濃縮は、APA精子DMRおよびAPA胚盤胞DMRにおいて、独立して同定された。表8を参照されたい。遺伝子を、自閉症スペクトラム障害(CACNA1H、CNTNAP2、GRIN1、SHANK2、SHANK3、ZNF804A)、統合失調症(TCF3、ZNF804A)、双極性障害(COMT、DRD4、GRIN1、MBP、PRKCZ、SHANK2,TRPM2,ZNF804A)、およびAPA胚盤胞(CACNA1H)に関連するAPA精子で検証した。オピオイドシグナル伝達経路は、三つの神経発達遺伝子候補リストすべてによって共有される。表9を参照されたい。
【表8】
【表9-1】
【表9-2】
【0047】
公開されているメチル化プロファイリングアレイを使用して、自閉症および非自閉症試料からの二つの脳組織を分析した。141(自閉)および62(非自閉)のDMRが同定された。これらのDMR内の遺伝子は、APA精子(前頭皮質p=5.78E-9、有糸状皮質p=1.62E-4)およびAPA胚盤胞(前頭皮質p=1.94E-16、有糸状皮質p=3.24E-5)DMR関連遺伝子リストと有意に重複した。前頭皮質は、DMRに関連する遺伝子の経路解析を使用して、オピオイドシグナル伝達(p=2.14E-3)に対して有意に濃縮されると判定された。表10を参照されたい。
【表10】
【0048】
APAデータセットを、公知および推定上のヒト刷り込み遺伝子の現在のリストとさらに比較した。APA精子は、刷り込み遺伝子に関連する19個の低メチル化および7個の高メチル化の有意なDMRを有した。APA胚盤胞は、刷り込み遺伝子に関連する22個の低メチル化および10個の高メチル化の有意なDMRを有し、両方のデータセットで6個の刷り込み遺伝子が重複した(p<0.05)。表11を参照されたい。
【表11-1】
【表11-2】
【表11-3】
【0049】
結論
上記の研究は、ヒト精子から着床前胚へのエピジェネティックな調節異常の世代間遺伝を初めて示すものである。この結果により、精子から子孫への父親の年齢の影響のメカニズムが示され、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、および双極性障害に関連する神経発達遺伝子において顕著な感受性が確認されている。さらに、我々の研究で同定された遺伝子は、自閉性脳の前頭皮質および帯状皮質内にも特異的にメチル化された遺伝子と有意に重複した(Nardoneら.,2014)。グローバルメチル化の増加が、APA精子エピゲノムにおいて観察された。しかしながら、DMR解析により、同等の数の高メチル化領域および低メチル化領域が同定された。驚くべきことに、個体間で、これらのメチル化変化は、元の精子コホートと独立した精子コホートの両方に見られる、検証された遺伝子の各CpG部位で緊密な一貫性を持って生じた。さらに、線形回帰分析により、父親の年齢が増加するにつれて、顕著な進行性のメチル化の変化が明確に示された。興味深いことに、若年の精子試料とAPA精子試料との間でかなりのDNAメチル化の変化が特定された一方、低分子RNAの差次的発現は観察されず(データは示さず)、miRNA制御が父親の年齢の進行により影響されるエピジェネティックなメカニズムではないことを示唆する。
【0050】
父親の老化に伴い、精子と胚盤胞のメチロームとの間にDMR関連遺伝子の非常に顕著な重複があり、同じゲノム領域が、メチル化調節異常によって影響を受けることを示唆する。我々のデータセットにおけるメチル化の変化は、ゲノム全体にランダムに分布するのではなく、特定の染色体位置にクラスター状に現れる。サブテロメア領域を、精子および胚盤胞の両方について、メチル化の変化、特に、細胞バンド19p13.3について高度に濃縮した。この細胞バンドは、多数の遺伝子(細胞バンド16p13.3に次いで二番目であり、また三つの群すべてで有意)を担持する。これらの遺伝子へのアクセスには、より緩いクロマチン構造が必要となり、エピジェネティックな変化に対する脆弱性が生じる可能性がある。このようなサブテロメア領域におけるメチル化は、大規模なエピジェネティック再プログラミング事象を回避する可能性があり、したがって、破損および子孫への遺伝に対する感受性の可能性を有する。
【0051】
メチル化の変化はランダムに分布しなかったことで、APA精子中のクロマチン凝縮の特定の特徴は、エピジェネティックエラーに脆弱性があることが示唆され、胚盤胞の同じ領域内で異常な再プログラミングが生じる。発明者らは、APA精子において同定されたDMRは、保持ヒストンの領域と共局在化したと推測した。精子形成の間、大部分のヒストンはプロタミンと交換されるが、最大15%のヌクレオソームが、高CpG密度の領域に保持され、発生遺伝子プロモーター、刷り込み遺伝子座、およびmiRNAをコードする遺伝子を含む、発生的重要性を持つ座位で濃縮される(de Vriesら.,2013;Hammoudら.,2009)。上記で提供されたデータを、Hammoudら.,2009からのChIPデータによって以前に同定された、保持ヒストンに推定上結合したデータと比較することによって、APA精子DMR関連遺伝子の統計的に有意な濃縮は、ヌクレオソーム保持と相関した。同等の濃縮が、精子および胚盤胞の両方のデータセットで同定された方向性重複DMRについて観察された。したがって、加齢によって誘発される父親の生殖系列メチル化の変化は、クロマチン環境下で遺伝される。特に、低メチル化DMRは、遺伝子と関連付けられる可能性がより高く、CpGアイランドおよび隣接領域と関連付けられる可能性がより高く、モノヌクレオソームと共局在化する可能性がより高い。驚くべきことに、DMR関連遺伝子が保持ヒストンと有意に共局在化した一方、APA精子におけるmiRNA発現に有意な影響を与えずに、miRNAをコードする遺伝子の近くに少数のDMRのみが配置された。
【0052】
APA精子および胚盤胞DMRは両方とも、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、および双極性障害に関連する神経発達遺伝子に対して有意な濃縮を示した。これらの神経精神症状の発生率は、父親の年齢が増加すると漸進的に増加することが知られており(de Kluiverら.,2017)、同様にDNAメチル化の変化もこれらの障害と関連している(Rutten&Mill,2009;Wocknerら.,2014;Wongら.,2014)。ゲノム刷り込みは、DNAメチル化を利用して、遺伝子発現を一つの遺伝性対立遺伝子のみに制限するエピジェネティック現象である。刷り込み遺伝子は、脳の発達において重要な役割を果たし、したがって、神経発達状態の病因に寄与する可能性がある(Crespi,2008)。多くの刷り込み障害は、Beckwith-Wiedemann症候群(chr11p15.5)、Angelman症候群、およびPrader-Willi症候群(chr15q11-13)(Crespi、2008)を含む、自閉症様の特徴を持って存在する。刷り込みは生殖系列に定着し、広範なエピジェネティックリプログラミングを回避することで、子孫を通して持続することから、介在性APAの影響への関与を考慮することは妥当である。実際に、高齢の父親の年齢は、マウスモデルにおける脳発現型刷り込み座位のメチル化の差異と関連し、行動変化が同時にみられた(Smithら.,2013)。両方のAPAデータセットは、様々なヒト刷り込み遺伝子を示した。自閉症の発症に関連があるDLGAP2(Nardoneら.,2014;Rasmussen,Rasmussen,&Silahtaroglu,2017;Solerら.,2018)は、APA精子群および胚盤胞群の両方で有意に低メチル化した。さらに、Beckwith-Wiedemann症候群(chr11p15.5)の古典的原因である細胞バンドは、APA精子ならびにDMR関連遺伝子の重複群において有意に影響を受けた。KCNQ1での低メチル化は、APA精子および胚盤胞内で統計的に有意であり、高齢のヒト精子において以前に観察された低メチル化に従い、我々のAPA精子試料において検証された(Jenkinsら.,2014)。
【0053】
子孫における神経発達障害はまた、APA精子における、オピオイドシグナル伝達経路を含む、神経学的発達および機能に関連する遺伝子におけるエピジェネティックエラーとして現れることがある。オピオイドシグナル伝達は、APA精子および胚盤胞、ならびに複合方向性重複DMRで影響を受ける一次経路として特定され、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、および双極性障害の三つの候補遺伝子リストすべてによって共有された。自閉症脳の前頭皮質はまた、オピオイドシグナル伝達経路の遺伝子に対して有意に濃縮され、我々のAPA精子および胚盤胞DMR関連遺伝子リストに有意に重複した(Nardoneら.,2014)。脳内のオピオイドシグナル伝達経路は、気分調節に関与する神経伝達物質系であり、異常な脳オピオイド活性は、神経発達障害の発生に関与する可能性が高い。オピオイド受容体の増加は、自閉症および統合失調症の事例で報告され(Pellissier,Gandia,Laboute,Becker,&Le Merrer,2018;Volk,Radchenkova,Walker,Sengupta,&Lewis,2012)、アヘン嗜癖の症状と自閉症の症状の間には著しい類似性がある(Kalat,1978)。逆に、自閉症様の症状は、重度に精神的な障害のある者において、オピオイド遮断によって減弱されることが示されている(Sandmanら.,1983)。これらの相反する反応は、過剰または欠損のいずれかが自閉症様の症状を生じ得る、オピオイドシグナル伝達経路に繊細なバランスが必要であることを示唆している(Pellissierら.,2018)。
【0054】
CACNA1Hは、オピオイドシグナル伝達経路で同定された一つの遺伝子である。これは、脳に豊富に発現し、ニューロン機能および脳の発生に関与するT型カルシウムチャネルである、CaV3.2をコードする。この遺伝子は、鎮痛に介在するオピオイドシグナル伝達経路において、オピオイド受容体と相互作用し(Altier&Zamponi,2008)、自閉症スペクトラム障害を抱える個人においてミスセンス変異が同定された(Splawskiら.,2006)。CACNA1Hでの低メチル化は、同一個体の若年時と比較された、高齢のヒト精子で以前に観察された(Jenkinsら.,2014)。異常なDMR低メチル化が、APA精子メチロームおよび検証データにおいてこの同一遺伝子について確認されただけでなく、着床前胚盤胞メチロームにおけるDMR低メチル化は、APA父親に由来する胚において評価・検証された。明らかに、ある程度のメチル化保持は、胚盤胞内のCACNA1Hにとって必要であり、その後、APA父親に由来するものにおいて失われる。CaV3.2カルシウムチャネル活性の変化は、最終的に、これらの子孫において影響を受ける神経機能と脳の発達につながる可能性がある。
【0055】
精子形成中のDNAメチル化は、次世代に遺伝され得るエラーの影響を受けやすい。大量の精子の精液をエピジェネティックな変化について分析することができる一方、受精に利用される単一の精子からの一つのメチル化パターンのみが、胚盤胞への潜在的な遺伝を有する。
【0056】
APAは、ヒト個体群に対する微妙で変動する影響であり、同様に、神経発達障害は、相当な範囲の症状の重症度により、スペクトラム上に存在する。APA父親から生まれたすべての子供が、自閉症であるわけではない。そのため、全てのAPA父親または誘導されたAPA胚盤胞内の精子DNAのメチル化において、遺伝子変異またはノックアウトと類似した大幅な改変を予期することは不合理である。
【0057】
累積リスクの閾値は、超越されれば、最終的に、疾患に対する素因、および最終的に観察された子孫の表現型となる、精子における異常なエピジェネティックな変化に関して存在する。上記のデータは、精子の年齢としてDNAメチル化プロファイルがますます損なわれていることを実証し、APAに関連する改変ヒトメチル化特性の精子および胚における世代間相関を示し、神経発達障害に関連する遺伝子において有意な感受性がみられる。
図1A
図1B
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図4A
図4B
【国際調査報告】