(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-13
(54)【発明の名称】内燃機関内で使用されるDLC部品上の摩耗および引裂を削減するための潤滑組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 139/00 20060101AFI20230606BHJP
C10M 133/06 20060101ALI20230606BHJP
C10M 133/46 20060101ALI20230606BHJP
C10M 137/10 20060101ALI20230606BHJP
F01L 1/14 20060101ALI20230606BHJP
F16J 9/26 20060101ALI20230606BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20230606BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20230606BHJP
C10N 80/00 20060101ALN20230606BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20230606BHJP
【FI】
C10M139/00 Z
C10M133/06
C10M133/46
C10M137/10 A
F01L1/14 B
F16J9/26 C
C10N10:04
C10N10:12
C10N80:00
C10N30:06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567030
(86)(22)【出願日】2021-05-04
(85)【翻訳文提出日】2022-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2021061692
(87)【国際公開番号】W WO2021224237
(87)【国際公開日】2021-11-11
(32)【優先日】2020-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522232558
【氏名又は名称】トタルエナジーズ ワンテク
【氏名又は名称原語表記】TOTALENERGIES ONETECH
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】デュロン,イザベル
(72)【発明者】
【氏名】シャラン,カトリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ティエボー,ブノワ
(72)【発明者】
【氏名】ケイシー,ブライアン エム.
【テーマコード(参考)】
3G016
3J044
4H104
【Fターム(参考)】
3G016EA01
3G016GA02
3J044AA02
3J044AA12
3J044BB14
3J044BB31
3J044BB35
3J044BB40
3J044BC01
3J044BC06
3J044BC11
3J044DA09
4H104BA07A
4H104BB31A
4H104BE02C
4H104BE03C
4H104BE30C
4H104BJ07C
4H104DA02A
4H104FA02
4H104FA06
4H104LA03
4H104RA02
(57)【要約】
本発明は、- 少なくとも1つの基油と、- 少なくとも1つのオキソチオモリブデート塩と、- 少なくとも1つの耐摩耗化合物と、を含む潤滑化合物を使用することによって内燃機関内で互いに接触状態にある機械的部品上の摩耗および引裂を削減するための方法において、前記部品のうちの少なくとも1つが、非晶質炭素タイプのコーティングを含む表面を含んでいる、方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 少なくとも1つの基油と、
- 少なくとも1つのオキソチオモリブデート塩と、
- 少なくとも1つの耐摩耗化合物と、
を含む潤滑化合物を使用することによって内燃機関内で互いに接触状態にある機械的部品上の摩耗および引裂を削減するための方法において、前記部品のうちの少なくとも1つが、非晶質炭素タイプのコーティングを含む表面を含んでいる、方法。
【請求項2】
オキソチオモリブデート塩が、アンモニウム塩またはイミダゾリウム塩またはそれらの混合物である、請求項1に記載の前記方法。
【請求項3】
アンモニウムオキソチオモリブデート塩が、式(I):
【化1】
を有する化合物であり、式中、
同一のまたは異なるものであり得るR
1~R
4およびR
5~R
8は、Q
1およびQ
2の炭素原子の総数が34~110となるような形で、ヒドロカルビル基からなる群から選択される、
請求項2に記載の前記方法。
【請求項4】
イミダゾリウムオキソチオモリブデート塩が、式(II):
【化2】
を有する化合物であり、式中、
同一のまたは異なるものであり得るR
1~R
5およびR
6~R
10は、Q
3およびQ
4の炭素原子の総数が62~166となるような形で、ヒドロカルビル基およびHからなる群から選択される、
請求項2に記載の前記方法。
【請求項5】
Q
1およびQ
2が互いに同一であり、テトラ-
n
-オクチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ジ(テトラデシル)ジメチルアンモニウム、ジ(ヘキサデシル)ジメチルアンモニウム、ジ(オクタデシル)ジメチルアンモニウム、トリ(テトラデシル)メチルアンモニウム、トリ(ヘキサデシル)メチルアンモニウム、トリ(オクタデシル)メチルアンモニウムおよびジ
(水素化獣脂アルキル)
ジメチルアンモニウム、好ましくはジ
(水素化獣脂アルキル)
ジメチルアンモニウムの中から選択される、請求項3に記載の前記方法。
【請求項6】
Q
3およびQ
4が、互いに同一であり、1,3-ジ-テトラデシルイミダゾリウム、1,3-ジヘキサデシルイミダゾリウム、および1,3-ジオクタデシルイミダゾリウムから選択される、請求項4に記載の前記方法。
【請求項7】
潤滑組成物が、0.008重量%~1.875重量%のオキソチオモリブデート塩を含む、請求項1から6のいずれか一つに記載の前記方法。
【請求項8】
耐摩耗化合物が、ZnDTPである、請求項1から7のいずれか一つに記載の前記方法。
【請求項9】
内燃機関内で、機械的部品上の摩耗および引裂を削減するための方法において、機械的部品を請求項1から8のいずれか一つに記載の潤滑組成物と接触させる少なくとも1つの接触ステップを含む方法であって、機械的部品の少なくとも1つが非晶質炭素タイプのコーティングを含んでいる方法。
【請求項10】
内燃機関内で互いに接触状態にある部品上の摩耗および引裂を削減することを目的とした、潤滑組成物中のオキソチオモリブデート塩の使用において、前記部品の少なくとも1つが非晶質炭素タイプのコーティングを含む表面を含んでいる、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに接触状態にある部品、特に機械的部品上の摩耗および引裂を削減するのに役立つ潤滑組成物の分野に関する。より特定的には、本発明は、特にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングを伴って生産された部品上の摩耗および引裂を削減するための少なくとも1つのオキソチオモリブデート塩を含む内燃機関用の潤滑組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の自動車産業の主要な目標の1つは、エンジン、詳細には自動車エンジンによる燃料消費量の削減、ひいては車両の「燃料経済性」の改善にある。エンジン内の摩擦の削減は、燃料経済性を達成する効果的な方法である。したがって、摩擦調整剤ならびに機械的部品の表面について、多くの調査研究が実施されてきた。例えば、DLC、詳細には水素化DLCの使用は、強い摩擦学的応力を受ける機械的部品(セグメント、ピストンピン、分配用バルブリフタなど)上の摩耗および引裂を削減することを可能にする。
【0003】
摩擦調整剤としては、ナノ粒子、ポリマー、有機モリブデン化合物そして有機分子という4つの主要なグループを区別することができる。
【0004】
現状ではナノ粒子およびポリマーがほとんど使用されていないとは言え、最も重要な摩擦調整剤の群を表わす有機モリブデン化合物にこれはあてはまらない。最も良く知られ最も広く使用されている有機モリブデン摩擦調整剤は、モリブデンジチオカルバメート(MoDTC)である。これらの有機モリブデン摩擦調整剤は、非常に効果的なものではあるが、いくつかの欠点を有する。実際、これらの摩擦調整剤は、エンジンの構成要素部品の幾分かの汚染または目詰まりそして腐食を誘発し得る。さらに、これらの摩擦調整剤は高温でのみ活性であり、一定のタイプの表面、詳細には、非晶質炭素(ダイヤモンドライクカーボン)で構成された表面の劣化をひき起こし得る。
【0005】
さらに、環境保護の観点から見ると、使用される潤滑組成物中の硫黄またはリン元素の含有量を削減する必要がある。
【0006】
したがって、有機摩擦調整剤が研究され、慣習的に使用されている。グリセロールエステルが効果的であり、詳細にはグリセロールモノオレエートが商業的に最も使用されていることがわかっている。これには、灰、リンまたは硫黄を含有せず、再生可能な原材料から生産されるという利点がある。しかしながら、摩擦調整剤としてのその特性は、モリブデンジチオカルバメートのものよりも劣っている。
【0007】
摩擦調整剤としてのグリセロールエーテルの使用も公知である。例えば、特開昭59-25890号公報は、4~28個の炭素原子を含むアルキル鎖を含むグリセロールエーテルの使用について記述している。特開2000-273481号公報も、摩擦調製剤としての14個超の炭素を含有するアルキル鎖を含むグリセロールエーテルの使用について記述している。
【0008】
したがって、効率の観点から見た利益の達成に効果的に貢献する新規の摩擦調整剤を提案することが有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭59-25890号公報
【特許文献2】特開2000-273481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、上述の欠点の全てまたは一部を克服し、DLC(コーティング)、好ましくは水素化DLCコーティングを伴って生産された機械的部品上の摩耗および引裂の削減を可能にする内燃機関用の潤滑組成物を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、DLCコーティング、好ましくは水素化DLCコーティングを伴って生産された内燃機関内の機械的部品上の摩耗および引裂を削減するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明の対象は、
- 少なくとも1つの基油と、
- 少なくとも1つのオキソチオモリブデート塩と、
- 少なくとも1つの耐摩耗化合物と、
を含む潤滑化合物を使用することによって内燃機関内で互いに接触状態にある機械的部品上の摩耗および引裂を削減するための方法において、前記部品のうちの少なくとも1つが、非晶質炭素タイプのコーティングを含む表面を含んでいる、方法に関する。
【0013】
本発明において、非晶質炭素タイプのコーティングを伴う表面は、一般に認められた専門用語のように、ダイヤモンドライクカーボンまたはダイヤモンドライクコーティングを略してDLCとしても知られている。これらの表面は、sp2およびsp3ハイブリダイゼーション炭素原子を有する。好ましくは、表面は、水素化非晶質炭素で形成され、一般的には、水素化非晶質炭素は主にsp2ハイブリダイズされた炭素である。
【0014】
例えばMoDTCおよびMoDTPは、オキソチオモリブデートではないことを理解すべきである。
【0015】
オキソチオモリブデート塩は、アンモニウム塩またはイミダゾリウム塩であり得る。
【0016】
オキソチオモリブデート塩は、好ましくは以下のものである:
- 式(I):
【化1】
を有するアンモニウム塩であって、式中、
同一のまたは異なるものであり得るR
1~R
4およびR
5~R
8は、Q
1およびQ
2の炭素原子の総数が34~110、好ましくは42~110となるような形で、ヒドロカルビル基からなる群から選択される、アンモニウム塩;
- 式(II):
【化2】
を有するイミダゾリウム塩であって、式中、
同一のまたは異なるものであり得るR
1~R
5およびR
6~R
10は、Q
3およびQ
4の炭素原子の総数が62~166となるような形で、ヒドロカルビル基およびHからなる群から選択される、イミダゾリウム塩;
- またはそれらの混合物。
【0017】
好ましくは、オキソチオモリブデート塩は、式(I)を有する化合物である。
【0018】
好ましくは、オキソチオモリブデート塩は、式(II)を有する化合物である。
【0019】
本発明において、式(I)を有する化合物について、「ヒドロカルビル」なる用語は、直鎖、分岐または環状、飽和または不飽和であり得かつ1~18個の炭素原子、例えば2~16個の炭素原子を含む炭化水素化合物を意味するものとして理解される。
【0020】
Q1およびQ2は、互いに同一のまたは異なるものであり得、Q1とQ2の間のモル比は、100:0~0:100であり得る。
【0021】
式(I)を有する化合物において、好ましくは、炭素原子の総数は、42~110である。
【0022】
好ましくは、Mo含有量は、8.0~13.5%であり、より好ましくは、Mo含有量は8.0~12.6%である。
【0023】
好ましくは、Q1およびQ2は互いに同一であり、テトラ-n-オクチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ジ(テトラデシル)ジメチルアンモニウム、ジ(ヘキサデシル)ジメチルアンモニウム、ジ(オクタデシル)ジメチルアンモニウム、トリ(テトラデシル)メチルアンモニウム、トリ(ヘキサデシル)メチルアンモニウム、トリ(オクタデシル)メチルアンモニウムおよびジ(水素化獣脂アルキル)ジメチルアンモニウム、好ましくはジ(水素化獣脂アルキル)ジメチルアンモニウムの中から選択される。
【0024】
好ましくは、式(I)を有する化合物は、最終製品中に10~1,500ppm、より好適には280~1,400ppm、例えば280~840ppm、または500~1,000ppm、特に500~900ppm、例えば840ppmのMoを送出することを可能にする量で存在する。
【0025】
式(I)を有する化合物およびその調製方法は、詳細には米国特許第10059901号明細書中に記載されている。
【0026】
好ましくは、式(II)を有する化合物中、Q3およびQ4の炭素原子の総数は、62~166、好ましくは62~142、より好適には62~118、最も好ましくは78~118である。
【0027】
本発明において、式(II)を有する化合物について、「ヒドロカルビル」なる用語は、直鎖、分岐または環状、飽和または不飽和であり得かつ0(この場合はHである)~18個の炭素原子、好ましくは1~18個の炭素原子を含む炭化水素化合物を意味するものとして理解される。
【0028】
Q3およびQ4は、互いに同一のまたは異なるものであり得、Q3とQ4の間のモル比は、100:0~0:100であり得る。
【0029】
式(II)を有する化合物において、好ましくは、炭素原子の総数は、62~150である。
【0030】
好ましくは、Mo含有量は、7.3~13.7%である。
【0031】
1つの好ましい実施形態において、式(II)を有する化合物中、Q3およびQ4の全炭素原子の総数は、62~78であり、Mo含有量は11.8~13.7%である。
【0032】
好ましくは、Q3およびQ4は互いに同一であり、1,3-ジ-テトラデシルイミダゾリウム、1,3-ジヘキサデシルイミダゾリウム、および1,3-ジオクタデシルイミダゾリウムの中から選択される。
【0033】
好ましくは、式(II)を有する化合物は、最終生成物中に10~1,500ppm、好ましくは280~1,400ppm、または500~1,000ppm、特に500~900ppm、例えば840ppmのMoを送出することを可能にする量で存在する。
【0034】
式(II)を有する化合物およびその調製方法は、詳細には米国特許第9902915号明細書中に記載されている。
【0035】
本発明の潤滑組成物は、0.008重量%~1.875重量%、好ましくは0.222重量%~1.75重量%、または0.040%~1.25%、より好適には0.667%~1.05%の、式(I)または(II)を有する化合物を含む。
【0036】
本発明の潤滑組成物中で使用される基油は、API(米国石油協会)分類により定義されたクラスにしたがったI~V群(またはATIEL(欧州潤滑油工業技術協会)分類にしたがったその等価物)(表1)に属する鉱物または合成由来の油、またはその混合物であり得る。
【0037】
【0038】
本発明の鉱物基油には、原油の常圧蒸留および真空蒸留とそれに続く精製作業、例えば溶媒抽出、溶媒脱歴、溶剤脱ろう、水素処理、水素化分解、水素異性化および水素化仕上げを用いて得られるあらゆるタイプの基油が含まれる。
【0039】
合成油および鉱油の混合物を使用することもできる。
【0040】
本発明に係る潤滑組成物の基油はまた、例えばカルボン酸とアルコールの特定のエステルやポリアルファオレフィンなどの合成油の中から選択され得る。基油として使用されるポリアルファオレフィンは、例えば4~32個の炭素原子を含むモノマー、例えばオクテンまたはデセンから得られ、その100℃での粘度は、(国際標準化機構の)ASTM D445規格にしたがって1.5~15mm2/sである。その平均モル質量は概して、ASTM D5296規格にしたがって250~3,000である。
【0041】
本発明に係る潤滑組成物は、組成物の総重量との関係において少なくとも50重量%の基油を含み得る。より有利には、本発明に係る潤滑組成物は、潤滑組成物の総重量との関係において、少なくとも60重量%、さらには少なくとも70重量%の基油を含む。より好ましくは、本発明に係る潤滑組成物は、組成物の総重量との関係において75~97重量%の基油を含む。
【0042】
本発明の組成物は、少なくとも1つの添加剤も含み得る。
【0043】
本発明に係る潤滑組成物中には、多数の添加剤を使用することができる。
【0044】
本発明に係る潤滑組成物のための好ましい添加剤は、洗浄添加剤、上記で定義されたモリブデン化合物以外の摩擦調整添加剤、酸化防止剤、極圧添加剤、分散剤、流動点増強剤、消泡剤、増粘剤およびそれらの混合物の中から選択される。
【0045】
好ましくは、本発明に係る潤滑組成物は、少なくとも1つの極圧添加剤または混合物を含む。
【0046】
耐摩耗添加剤および極圧添加剤は、表面上に吸着される保護膜を形成することによって表面の摩擦に関して保護を提供する。
【0047】
多様な耐摩耗添加剤が存在する。好ましくは、本発明の潤滑組成物について、耐摩耗添加剤は、例えばアルキルチオリン酸金属、詳細にはアルキルチオリン酸亜鉛、そしてより詳細にはジアルキルジチオリン酸亜鉛つまりZnDTPなどのリンおよび硫黄を含む添加剤から選択される。好ましい化合物は、式Zn((SP(S)(OR)(OR’))2を有する化合物であり、式中、同一のまたは異なるものであり得るRおよびR’は、独立してアルキル基、好ましくは1~18個の炭素原子を含むアルキル基を表わす。
【0048】
アミンホスフェートも、本発明の潤滑組成物中で使用可能な耐摩耗添加剤である。しかしながら、これらの添加剤が提供するリン原子は、灰分を生成することから、自動車の触媒系にとっては毒作用を有する可能性がある。リンを提供しない添加剤、例えばポリスルフィド、詳細には硫黄を含有するオレフィンでアミンホスフェートの一部分を置換することによって、この作用を最小限に抑えることが可能である。
【0049】
有利には、本発明に係る潤滑組成物は、潤滑組成物の総重量との関係において0.01~6重量%、好ましくは0.05~4重量%、より好適には0.1~2重量%の耐摩耗添加剤および極圧添加剤を含み得る。
【0050】
有利には、本発明に係る潤滑組成物は、潤滑組成物の総重量との関係において0.01~6重量%、好ましくは0.05~4重量%、より好適には0.1~2重量%の耐摩耗添加剤(または耐摩耗化合物)を含む。
【0051】
有利には、本発明に係る組成物は、本発明のモリブデン化合物とは異なるものである少なくとも1つの摩擦調整添加剤を含み得る。摩擦調整添加剤は、詳細には金属元素を提供する化合物および無灰化合物から選択され得る。金属元素を提供する化合物としては、配位子が酸素、窒素、硫黄またはリンの原子を含有する炭化水素化合物であり得るMo、Sb、Sn、Fe、Cu、Znなどの遷移金属錯体に言及することができる。無灰摩擦調整添加剤は概して、有機由来のものであるか、あるいは脂肪酸モノエステルおよびポリオールモノエステル、アルコキシル化アミン、アルコキシル化脂肪族アミン、脂肪族エポキシド、脂肪族エポキシドのホウ酸塩、脂肪族アミンまたはグリセロール酸エステルの中から選択され得る。本発明によると、少なくとも1つの炭化水素基を含む脂肪族化合物は、10~24個の炭素原子を含有する。
【0052】
有利には、本発明に係る潤滑組成物は、潤滑組成物の総重量との関係において0.01~2重量%、または0.01~5重量%、好ましくは0.1~1.5重量%、または0.1~2重量%の本発明に係るモリブデン化合物以外の摩擦調整添加剤を含み得る。
【0053】
有利には、本発明に係る潤滑組成物は、少なくとも1つの酸化防止添加剤を含み得る。
【0054】
酸化防止添加剤は概して、潤滑組成物の劣化を遅延させるのに役立つ。この劣化は、最も多くの場合、堆積物の形成において、スラッジの存在によってかまたは潤滑組成物の粘度の増大によって明らかになる。
【0055】
酸化防止添加剤は概して、ラジカル捕捉剤阻害剤またはヒドロペルオキシドデストラクタ阻害剤として作用する。一般に使用される酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン酸化防止剤ならびに硫黄およびリンを含む酸化防止剤などの酸化防止剤タイプに言及することができる。これらの酸化防止剤のうちのいくつか、例えば硫黄およびリンを含有する酸化防止剤は、灰分を生成し得る。フェノール系酸化防止添加剤は無灰であり得、あるいは実際に塩基性または中性金属塩の形態をしていてよい。酸化防止添加剤は詳細には、立体障害性フェノール、立体障害性フェノールのエステル、チオエーテル架橋を含有する立体障害性フェノール、ジフェニルアミン、少なくとも1つのC1~C12のアルキル基で置換されたジフェニルアミン、N,N’-ジアルキル-アリール-ジアミンおよびそれらの混合物の中から選択され得る。
【0056】
好ましくは、本発明によると、立体障害性フェノールは、アルコール官能基を担持する炭素原子の近傍の炭素原子の少なくとも1つが、少なくとも1つのC1~C10のアルキル基、好ましくは1つのC1~C6のアルキル基、好ましくは1つのC4のアルキル基、最も好ましくは1つのtert-ブチル基によって置換されている、フェノール基を含む化合物から選択される。
【0057】
アミン化合物は、任意にはフェノール系酸化防止添加剤と組合せた形態で使用可能である別の部類の酸化防止添加剤である。アミン化合物の例としては、芳香族アミン、例えば式NRaRbRcを有する芳香族アミンがあり、式中Raは任意に置換されている脂肪族基または芳香族基を表わし、Rbは任意に置換されている芳香族基を表わし、Rcは水素原子、アルキル基、アリール基または式RdS(O)zReを有する基を表わし、式中Rdはアルキレン基またはアルケニレン基を表わし、Reはアルキル基、アルケニル基またはアリール基を表わし、zは、0、1または2を表わす。
【0058】
硫黄を含有するアルキルフェノールまたはそのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩も、酸化防止添加剤として使用可能である。
【0059】
他の部類の酸化防止添加剤は、銅を含有する化合物であり、例えばチオリン酸銅またはジチオリン酸銅、銅塩とカルボン酸、ジチオカルバメート、スルホネート、フェネート、アセチルアセトン酸銅である。銅(I)塩および銅(II)塩、コハク酸塩または無水コハク酸塩も使用可能である。
【0060】
本発明に係る潤滑組成物は、当業者にとって公知のいかなるタイプの酸化防止剤も含み得る。
【0061】
有利には、潤滑組成物は、無灰である少なくとも1つの酸化防止添加剤を含む。
【0062】
また有利には、本発明に係る潤滑組成物は、組成物の総重量との関係において0.1~2重量%の少なくとも1つの酸化防止添加剤を含む。
【0063】
本発明に係る潤滑組成物は、少なくとも1つの洗浄添加剤も含み得る。
【0064】
洗浄添加剤は概して、酸化および燃焼の副産物を溶解させることによって、金属部品の表面上の堆積物の形成を削減する目的に役立つ。
【0065】
本発明に係る潤滑組成物中で使用可能である洗浄添加剤は、概して当業者にとって公知のものである。洗浄添加剤は、親油性炭化水素長鎖および疎水性頭部を含むアニオン化合物であり得る。付随するカチオンは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の金属カチオンであり得る。
【0066】
洗浄添加剤は、好ましくは、カルボン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、スルホネート、サリチレート、ナフテネートならびにフェネート塩の中から選択される。アルカリ金属およびアルカリ土類金属は好ましくは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムである。
【0067】
これらの金属塩は概して、金属を化学量論量でまたは余剰量で、すなわち化学量論的含有量よりも大きい含有量レベルで含有する。これらの金属塩はこのとき、過塩基化洗浄剤であり、洗浄添加剤の過塩基化性に関与する余剰の金属は、概して例えばカーボネート、ヒドロキシド、オキサレート、アセテート、グルタメート、好ましくはカーボネートなどの油中で不溶性の金属塩の形態をしている。
【0068】
有利には、本発明に係る潤滑組成物は、潤滑組成物の総重量との関係において0.5~8重量%または2~4重量%の過塩基化洗浄添加剤を含み得る。
【0069】
また有利には、本発明に係る潤滑組成物は、流動点温度を低下させるための添加剤、すなわち流動点降下添加剤も含むことができる。
【0070】
パラフィン結晶の形成を減速させることにより、流動点降下添加剤は概して、本発明に係る潤滑組成物の低温挙動を改善する。
【0071】
流動点降下添加剤の一例としては、アルキルポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアリールアミド、ポリアルキルフェノール、ポリアルキルナフタレン、およびアルキルポリスチレンに言及することができる。
【0072】
有利には、本発明に係る潤滑組成物は分散剤も含むことができる。
【0073】
分散剤は、マンニッヒ塩基、スクシンイミドおよびそれらの誘導体の中から選択され得る。
【0074】
また有利には、本発明に係る潤滑組成物は、潤滑組成物の総重量との関係において0.2~10重量%の分散剤を含むことができる。
【0075】
有利には、本発明に係る潤滑組成物は、粘度指数を向上する少なくとも1つの追加のポリマーも含むことができる。粘度指数を向上する追加のポリマーの一例として、スチレン、ブタジエンおよびイソプレンの水素化されたまたは水素化されていないポリマーエステル、ホモポリマーまたはコポリマー;およびポリメタクリレート(PMA)に言及することができる。また有利には、本発明に係る潤滑組成物は、潤滑組成物の総重量との関係において1~15重量%の粘度指数を向上する添加剤を含むことができる。
【0076】
本発明に係る潤滑組成物は、少なくとも1つの増粘剤も含み得る。
【0077】
本発明に係る潤滑組成物は、消泡剤および解乳化剤も含み得る。
【0078】
好ましくは、本発明の潤滑組成物はさらに、少なくとも1つの耐摩耗剤、詳細には亜鉛系作用物質、詳細にはZnDTPも含んでいる。
【0079】
本発明は、内燃機関の機械的部品の摩擦を削減することを目的とした、本発明に係る潤滑組成物の使用にも関し、ここで部品のうち少なくとも1つは非晶質炭素タイプのコーティング、好ましくは水素化非晶質炭素を含んでいる。
【0080】
本発明は、内燃機関内で、機械的部品上の摩耗および引裂を削減するための方法において、機械的部品を本発明に係る潤滑組成物と接触させる少なくとも1つの接触ステップを含む方法であって、機械的部品の少なくとも1つが非晶質炭素タイプのコーティング、好ましくは水素化非晶質炭素コーティングを含んでいる方法にも関する。
【0081】
好ましくは、機械的部品はエンジン、詳細には自動車エンジン、例えば2ストロークエンジンまたは4ストロークエンジンの機械的部品である。
【発明を実施するための形態】
【0082】
ここで、本発明について、以下に記された非限定的な実施例を用いて説明する。
【0083】
実施例
下表2にしたがって、潤滑組成物を調製した。
【0084】
【0085】
表2中に記載された潤滑組成物各々について、HFRR摩擦学的試験を実施した。
【0086】
PCS計器HFRR上で、HFRR(高周波往復動リグの略称、あるいは代替としてボール/平板摩擦計)試験を実施する。試験は、1.4GPaの最大圧力で、直径6mmのボールと平坦な(平板)区分との間の摺動往復運動で構成されている。ボールは、DLC層でカバーされた鋼球であり、平坦な区分は鋼製である。
【0087】
試験の条件は以下の通りである:
負荷(N):10
最大ヘルツ応力(GPa):1.4
ストローク長(mm):1
周波数(Hz):10
サイクル:144000
オイル量(ml):2
温度(℃):80
【0088】
これらの試験の結果を下表3に示す。
【0089】
【0090】
結果は、本発明の潤滑組成物(CL3)が、従来の減摩添加剤(CC4、CC5およびCC6)に比較して、DLC表面を含む部品上の摩耗および引裂を効果的に削減することを可能にする、ということを示している。
【0091】
結果は、オキソチオモリブデート塩と組合せて、本発明の潤滑組成物(CL1およびCL2)にZnDTPを添加することによって、ZnDTPを全く有していない組成物(CL3)と比較してかつ従来の減摩添加剤(CC1、CC2およびCC3)と比較して、DLC表面を含む部品の摩耗および引裂を削減するのに役立つ特性を改善することが可能になる、ということも示している。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 少なくとも1つの基油と、
- 少なくとも1つのオキソチオモリブデート塩と、
- 少なくとも1つの耐摩耗化合物と、
を含む潤滑化合物を使用することによって内燃機関内で互いに接触状態にある機械的部品上の摩耗および引裂を削減するための方法において、前記部品のうちの少なくとも1つが、非晶質炭素タイプのコーティングを含む表面を含んでいる、方法。
【請求項2】
オキソチオモリブデート塩が、アンモニウム塩またはイミダゾリウム塩またはそれらの混合物である、請求項1に記載
の方法。
【請求項3】
アンモニウムオキソチオモリブデート塩が、式(I):
【化1】
を有する化合物であり、式中、
同一のまたは異なるものであり得るR
1~R
4およびR
5~R
8は、Q
1およびQ
2の炭素原子の総数が34~110となるような形で、ヒドロカルビル基からなる群から選択される、
請求項2に記載
の方法。
【請求項4】
イミダゾリウムオキソチオモリブデート塩が、式(II):
【化2】
を有する化合物であり、式中、
同一のまたは異なるものであり得るR
1~R
5およびR
6~R
10は、Q
3およびQ
4の炭素原子の総数が62~166となるような形で、ヒドロカルビル基およびHからなる群から選択される、
請求項2に記載
の方法。
【請求項5】
Q
1およびQ
2が互いに同一であり、テトラ-
n
-オクチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ジ(テトラデシル)ジメチルアンモニウム、ジ(ヘキサデシル)ジメチルアンモニウム、ジ(オクタデシル)ジメチルアンモニウム、トリ(テトラデシル)メチルアンモニウム、トリ(ヘキサデシル)メチルアンモニウム、トリ(オクタデシル)メチルアンモニウムおよびジ
(水素化獣脂アルキル)
ジメチルアンモニウム
からなる群から選択される、請求項3に記載
の方法。
【請求項6】
Q
3およびQ
4が、互いに同一であり、1,3-ジ-テトラデシルイミダゾリウム、1,3-ジヘキサデシルイミダゾリウム、および1,3-ジオクタデシルイミダゾリウムから
なる群から選択される、請求項4に記載
の方法。
【請求項7】
潤滑組成物が、0.008重量%~1.875重量%のオキソチオモリブデート塩を含む、請求項
1に記載
の方法。
【請求項8】
耐摩耗化合物が、ZnDTPである、請求項1から7のいずれか一つに記載
の方法。
【請求項9】
内燃機関内で、機械的部品上の摩耗および引裂を削減するための方法において、機械的部品を請求項
1の潤滑組成物と接触させる少なくとも1つの接触ステップを含む方法であって、機械的部品の少なくとも1つが非晶質炭素タイプのコーティングを含んでいる方法。
【請求項10】
内燃機関内で互いに接触状態にある部品上の摩耗および引裂を削減することを目的とした、潤滑組成物中のオキソチオモリブデート塩の使用において、前記部品の少なくとも1つが非晶質炭素タイプのコーティングを含んでいる、使用。
【国際調査報告】