IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フラウンホッファー−ゲゼルシャフト・ツァー・フォデラング・デル・アンゲワンテン・フォーシュング・エー.ファウ.の特許一覧

特表2023-524759テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメント、アンテナ、テラヘルツシステム、及び、アンテナ用のアレンジメントの製造方法
<>
  • 特表-テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメント、アンテナ、テラヘルツシステム、及び、アンテナ用のアレンジメントの製造方法 図1
  • 特表-テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメント、アンテナ、テラヘルツシステム、及び、アンテナ用のアレンジメントの製造方法 図2
  • 特表-テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメント、アンテナ、テラヘルツシステム、及び、アンテナ用のアレンジメントの製造方法 図3
  • 特表-テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメント、アンテナ、テラヘルツシステム、及び、アンテナ用のアレンジメントの製造方法 図4
  • 特表-テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメント、アンテナ、テラヘルツシステム、及び、アンテナ用のアレンジメントの製造方法 図5
  • 特表-テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメント、アンテナ、テラヘルツシステム、及び、アンテナ用のアレンジメントの製造方法 図6
  • 特表-テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメント、アンテナ、テラヘルツシステム、及び、アンテナ用のアレンジメントの製造方法 図7
  • 特表-テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメント、アンテナ、テラヘルツシステム、及び、アンテナ用のアレンジメントの製造方法 図8
  • 特表-テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメント、アンテナ、テラヘルツシステム、及び、アンテナ用のアレンジメントの製造方法 図9
  • 特表-テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメント、アンテナ、テラヘルツシステム、及び、アンテナ用のアレンジメントの製造方法 図10
  • 特表-テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメント、アンテナ、テラヘルツシステム、及び、アンテナ用のアレンジメントの製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-13
(54)【発明の名称】テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメント、アンテナ、テラヘルツシステム、及び、アンテナ用のアレンジメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 1/02 20060101AFI20230606BHJP
   G01N 21/3581 20140101ALI20230606BHJP
   G01N 21/01 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
H01S1/02
G01N21/3581
G01N21/01 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567210
(86)(22)【出願日】2021-05-05
(85)【翻訳文提出日】2022-12-27
(86)【国際出願番号】 EP2021061881
(87)【国際公開番号】W WO2021224336
(87)【国際公開日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】20173549.5
(32)【優先日】2020-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504174917
【氏名又は名称】フラウンホッファー-ゲゼルシャフト・ツァー・フォデラング・デル・アンゲワンテン・フォーシュング・エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グロビッシュ ビェルン
(72)【発明者】
【氏名】コールハース ローベルト
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059EE01
2G059GG10
2G059HH05
(57)【要約】
本発明は、テラヘルツ放射(12)を発生または受信するためのアンテナ(16,17)用のアセンブリ(1)であって、1200nmから1700nmの範囲の光放射(11)によって活性化される光活性層(2)と、光放射(11)に対して透明であり、且つ、光活性層(2)が取り付けられた基板(3)と、光活性層(2)と基板(3)の間に配置され、光活性層の面と基板の面を接続し、層厚さが最大で5μmである第1の接着促進層(4)と、光放射(11)に対して透明なサポート(5)とを含む。基板(3)は、サポート(5)に取り付けられており、光活性層(2)とサポート(5)の間に配置されており、基板(3)及びサポート(5)は、同じ材料から作られている。本発明は、さらに、アンテナ(16,17)、テラヘルツシステム(20)、及び、上述のアセンブリ(1)の製造方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ放射(12)を発生または受信するためのアンテナ(16,17)用のアレンジメント(1)であって、
- 1200nmから1700nmの範囲の光放射(11)によって活性化される光活性層(2)と、
- 前記光放射(11)に対して透明であり、且つ、前記光活性層(2)が取り付けられた基板(3)と、
- 前記光放射(11)に対して透明なキャリア(5)と、
を含み、
前記基板(3)は、前記キャリア(5)に取り付けられており、前記光活性層(2)と前記キャリア(5)の間に配置されており、
前記基板(3)及び前記キャリア(5)は、同じ材料から作られており、
前記光活性層(2)と前記基板(3)の間には、それらを互いに平らに接続する第1の接着促進層(4)が配置されており、
前記第1の接着促進層(4)は、層厚さが5μm以下であることを特徴とするアレンジメント(1)。
【請求項2】
前記光活性層(2)は、層厚さが最大で10μm、特に、少なくとも0.5μmであり、及び/または、
前記基板(3)は、基板厚さが最大で1mm、特に、少なくとも0.2mmであり、及び/または、
前記キャリア(5)は、キャリア厚さが少なくとも3mm、特に、少なくとも5mmである
ことを特徴とする請求項1に記載のアレンジメント(1)。
【請求項3】
前記キャリア(5)及び前記基板(3)は、シリコン製であり、及び/または、
前記光活性層(2)は、少なくとも大部分が、InGaAs、InAlAs、InGaAsP、InGaAlAs、InGaAlAsP、及び/または、GaAlAsからなり、特に遷移金属でドープされている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のアレンジメント(1)。
【請求項4】
前記基板(3)は、平行平面プレートとして具体化され、及び/または、前記キャリア(5)は、平行平面体として具体化されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアレンジメント(1)。
【請求項5】
前記テラヘルツ放射(12)用のレンズ(13)、特に平凸レンズ、半球レンズまたは超半球レンズを含み、
前記レンズ(13)は、前記キャリア(5)に取り付けられているか、または、前記レンズ(13)が、前記キャリア(5)を形成している
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアレンジメント(1)。
【請求項6】
前記基板(3)とは反対側の前記光活性層(2)の面は、少なくともいくつかの領域においてコーティングされておらず、特に、周囲の空気にさらされている
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアレンジメント(1)。
【請求項7】
テラヘルツ放射(12)を発生または受信するためのアンテナ(16,17)であって、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のアレンジメント(1)と、
第1のサブ構造体(7)及び第2のサブ構造体(8)を有するアンテナ導体(6)と、
を含み、
前記第1のサブ構造体(7)及び前記第2のサブ構造体(8)は、ギャップ(9)によって互いに離間されて、前記光活性層(2)と接触している
ことを特徴とするアンテナ(16,17)。
【請求項8】
前記アンテナ導体(6)は、前記基板(3)とは反対側の前記光活性層(2)の面、または、前記基板(3)と対向する前記光活性層(2)の面に配置されている
ことを特徴とする請求項7に記載のアンテナ(16,17)。
【請求項9】
前記第1のサブ構造体(7)及び前記第2のサブ構造体(8)は、前記光活性層(2)の側方にある前記基板(3)上に配置されており、前記光活性層(2)は、前記第1のサブ構造体(7)及び前記第2のサブ構造体(8)の間に配置されている
ことを特徴とする請求項7に記載のアンテナ(16,17)。
【請求項10】
前記光活性層(2)は、最大1mm、特に、最大0.1mm、特に、最大0.01mmのフットプリントを有する
ことを特徴とする請求項9に記載のアンテナ(16,17)。
【請求項11】
テラヘルツ放射(12)を発生及びコヒーレント検波するためのテラヘルツシステム(20)であって、
レーザ光源(15)及び2つのTHzアンテナ(16,17)を含み、前記THzアンテナ(16,17)のそれぞれは、前記レーザ光源に光学的に結合されており、このレーザ光源からの前記光放射(11)によって活性化可能であり、
前記THzアンテナ(16,17)のうちの一方は送信アンテナ(16)として機能し、他方は受信アンテナ(17)として機能し、
前記送信アンテナ(16)及び/または前記受信アンテナ(17)は、それぞれ請求項8乃至10のいずれか1項のアンテナを構成する
ことを特徴とするテラヘルツシステム(20)。
【請求項12】
前記レーザ光源の前記光放射(11)は、少なくとも1200nm及び/または、最大で1700nmの波長を有する
ことを特徴とする請求項11に記載のテラヘルツシステム。
【請求項13】
テラヘルツ放射(12)を発生または受信するためのアンテナ(16,17)用のアレンジメント(1)の製造方法であって、
- 少なくとも大部分がInPから形成された補助基板上に光活性層(2)を生成するステップと、
- 前記光活性層(2)を、層厚さが最大5μmの第1の接着促進層(4)によって、前記基板(3)に平坦に接続するステップと、
- 特に、化学エッチングにより、前記補助基板を除去するステップと、
- 前記基板(3)をキャリア(5)に取り付け、前記基板(3)が前記光活性層(2)と前記キャリア(5)の間に配置されるようにするステップと、
を有し、
前記光活性層(2)は、1200nmから1700nmの範囲の光放射(11)によって活性化可能であり、
前記基板(3)及び前記キャリア(5)は、同じ材料から作られており、且つ、前記光放射(11)に対して透明である
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記光活性層(2)は、200℃から450℃の温度で分子線エピタキシー法によって成長され、及び/または、前記光活性層は、エピタキシャル成長され、少なくとも1018cm-3の濃度の遷移金属によってドープされる
ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
第1のサブ構造体(7)及び第2のサブ構造体(8)を有するアンテナ導体(6)を、前記第1のサブ構造体(7)及び前記第2のサブ構造体(8)が互いに離間され、且つ、前記光活性層(2)と接触するように前記光活性層(2)に付けるステップをさらに有し、
前記アンテナ導体(6)を前記光活性層(2)に付けるステップは、前記光活性層(2)を前記基板(3)に接続する前に実行するか、または、前記補助基板を除去した後に実行する
ことを特徴とする請求項13または14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメント、テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ、テラヘルツ放射を発生及びコヒーレント検波するためのテラヘルツシステム、及び、テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメントの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ここで、テラヘルツ放射(Terahertz radiation)は、0.05THzから20THzの間の周波数の電磁放射(electromagnetic radiation)であると考えられ、周波数は通常、0.1THzから10THzの間である。電子信号処理の場合、これらの周波数は非常に高いが、フォトニクスの一般的な周波数と比較すると非常に小さいため、テラヘルツ放射の量子エネルギは依然として非常に低い。したがって、テラヘルツ放射を扱う測定システムの実現は困難である。そのため、テラヘルツ放射は、実用化に十分なレベルまで開発されていない、電磁スペクトルの最後の領域である。
【0003】
テラヘルツシステムは、通常、光電子半導体チップ(opto-electronic semiconductor chips)を使用して、テラヘルツ放射を発生及び検出する。テラヘルツシステムは、通常、レーザ光源と2つのTHzアンテナを含む。2つのTHzアンテナのそれぞれが、光ファイバを介してレーザ光源に光学的に結合され、このレーザ光源からの光によって活性化される。第1のアンテナが送信アンテナとして機能し、第2のアンテナが受信アンテナとして機能する。この場合、THzアンテナはそれぞれ、アンテナ導体と接触し、レーザ光源の波長よりも長いバンド端波長(band-edge wavelength)を有する、少なくとも1つの感光性活性層と、レーザ光源の波長よりも短いバンド端波長を有する、活性層に隣接する少なくとも1つの層とを含む半導体チップを有する。ここで、アンテナ導体は、典型的には、それぞれの半導体チップ上に集積される。レーザ光源は、波長がわずかに異なる2つのレーザ波を重ね合わせることで、短パルスを発生させたり、テラヘルツ帯のビート信号を発生させたりすることができる。本明細書では、レーザ光源の波長は、レーザ光源によって生成される光の波長スペクトルの重心(centre of gravity)として定義される。
【0004】
このようなテラヘルツシステムを使用すると、送信アンテナのアンテナ導体に電圧を印加することで、テラヘルツ放射を発生させ、コヒーレント検波(coherently detected)が可能であり、送信アンテナと受信アンテナは、レーザ光源からのコヒーレント放射によって、同時に、または、調整可能な遅延で活性化され、受信アンテナで生成された電流は、受信アンテナのアンテナ導体に接続されたセンサによって測定される。送信アンテナと受信アンテナの間に配置されたサンプルを調べるために、レーザ光源と受信アンテナまたは送信アンテナとの間の光移動時間の異なる遅延について、このようにして受信信号を検出することができる。
【0005】
このタイプのテラヘルツシステムは、例えば、独国特許出願公開第10 2007 044 839号明細書及び独国特許出願公開第10 2010 049 658号明細書に基づいて知られている。光ファイバを使用してレーザ光源をTHzアンテナに接続することにより、これらのテラヘルツシステムは、コンパクトで堅牢で柔軟な方法で、有利に実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2007 044 839号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2010 049 658号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以下では、従来技術の一例による図1に示されるTHzアンテナをより詳細に論じる。図1のTHzアンテナ30は、電気絶縁基板22上でのエピタキシャル成長によって生成された、電荷キャリア再結合時間(charge carrier recombination time)が速い光活性層21を含む。蒸着およびリソグラフィ工程によって、金属構造体23,24がTHzアンテナとして光活性層上に形成されている。金属構造体23,24は、例えば、ダイポール形状、ボウタイ形状、または、ストリップライン形状で形成することができる。金属構造体23,24は、短い(fsレンジ)光パルス11を光活性層21に向けることができるギャップを有する。図1のアンテナ20は、例として、THz送信機として形成されている。THzトランスミッタ20では、金属構造体23,24に電圧が印加される。光パルス11による励起によって、光活性層内に光電荷キャリアが生成され、それらは電場内で強力に加速され、THz範囲(0.1-10THz)の電磁放射が発生する。空気に対する屈折率のジャンプ(refractive index jump)が大きいため、放射は、層21および基板22の半導体材料内を好適に伝播する。空気中のTHz波の結合を向上させるために、アンテナチップまたは基板22は、高いTHz透過性を有する高純度Siで作られた超半球Siレンズ25の平面上に配置されている。
【0008】
THz受信機は、基本的に、構造が同じに見える。ただし、ここでは電圧が印加されていない。代わりに、受信したTHz放射と励起された光電荷キャリアによって引き起こされる光電流がTHz受信機で測定される。ただし、光電流が流れるのは、(同時に、)受信したTHz放射によって電圧が印加され、光パルスによって光伝導が発生した場合に限られる。そのため、THz時間領域システムでは、ビーム経路の1つに遅延線が配置されている。これにより、受信したTHz放射と走査fs光パルスの時間的位置(temporal position)を変更できる。これにより、「コヒーレント」検波が実現し、高感度と高速ポテンシャルにより、THz波の振幅と位相がポンプ・サンプル工程でスキャンされる。
【0009】
最初のTHzシステムは、800nmの励起波長を使用した。これは、パルス幅が短い(fs)強力なパルスレーザと、GaAs基板上に低温成長されたLT-GaAsで作製され、再結合時間が非常に速い光伝導体(photoconductor)が利用可能だったためである。
【0010】
新しいシステムは、多くの場合、1300nm及び1550nmの励起波長を使用する。これは、光通信技術の開発から、この範囲で、多くのコンポーネントが入手できるためである。1550nmのフェムト秒ファイバレーザは、現在、安価且つメンテナンスフリーになっている。また、光ファイバにより、レーザから、移動する送信および検出ヘッドへの柔軟な接続が可能になっている。これは、THzセンサ技術の産業利用に大きな利点をもたらす。ただし、GaAsは1550nmで吸収しないため、最初にこの波長範囲用の高速光伝導体を開発する必要があった。これらは現在、InP基板上に格子整合してエピタキシャル成長した、InGaAs、InGaAsP、InAlAs、InGaAlAsP及びInGaAlAs層に基づいて実現されている。
【0011】
光伝導体層の典型的な厚さは、1~2μmの範囲である。これは、励起光の進入深さ(1/e)にほぼ対応する。厚い層であればあるほど、エピタキシャル成長により多くの労力が必要になる。しかし、それ以上の光電荷キャリアはほとんど生成されない。逆にバックグランドの暗電流(ノイズ)が大きくなり好ましくない。さらに、層の奥深くにある励起点から表面接点までの長い経路は、時間挙動(検波の帯域幅)に好ましくない影響を与える。
【0012】
有利な薄い層では、励起光放射は完全には吸収されない。これは800nmシステムでは問題ない。これは、GaAs基板もここで吸収するからであり、基板厚が300~500μmの典型的な基板の場合、励起光放射はシステムから完全に除去される。しかしながら、InP基板は、典型的には、1000nmを超える波長を透過する。したがって、光活性層によって吸収されなかった光活性層に隠れた(すなわち、光伝導体に隠れた)残留光(residual light)は、下流の基板では吸収されず、システムに残り、その機能を損なう可能性がある。残留光パルスが送信アンテナまたは受信アンテナを間違ったタイミングでアクティブにする場合は特に重要である。したがって、送信アンテナを励起するレーザパルスは、THzイメージング光学系を介して、受信アンテナにも到達できる。この経路を遮断するために、従来技術は、例えば、THzビーム経路に光フィルタを使用する。ただし、これらの外部フィルタでは実現できないのは、THzアンテナ内の界面(interfaces)での内部反射によって引き起こされる干渉パルスのブロックである。
【0013】
このような内部光反射は、図1と同様の構造を示す図2に、破線で示してある。これらのレーザパルスが光伝導体層を好ましくない時間遅延で再度励起し、そこで「エコー」THzパルス27を生成してしまうと、THzセンサシステムの機能を著しく損なう可能性がある。従来技術のシステムの測定は、これらの干渉パルスを非常に明確に示している(図3のエコーパルス27参照)。したがって、光反射によって生じるこれらのTHzエコーパルス27を回避または少なくとも減少させることができれば有利である。なぜなら、最小振幅のエコーパルスでさえも測定に著しく干渉する可能性があるからである。
【0014】
光の反射による擾乱(disturbance)については、以下で評価する。ここで、光反射によって引き起こされる擾乱を評価する際に振幅だけでなく、エコーパルスの時間位置も考慮に入れる必要がある、すなわち、
1.光パルスの空間的広がりと比較すること、及び、
2.測定ウィンドウ(measurement window)の時間位置に関連する。
【0015】
まず、一例として、エコーパルスの擾乱は、光パルスの空間的広がり、及び、界面近傍に基づいて推定される。通常使用される時間幅100フェムト秒のレーザパルスの空間幅(spatial width)は、空気中では30μmであり、屈折率がn=3に近い半導体(InP:波長1550nmで3.167)では約10μmである(光の速さから導出される)。そのため、典型的な層厚さが2~3μmの光伝導体層の場合、10μmの空間幅に拡張されたパルスは、さらに光伝導を励起する。光伝導体の界面での反射またはその近くでの反射は、別個のエコーとしては認識されないが、わずかに幅の広い励起パルスの一部になる。したがって、自由な光伝導体層は、界面での大きな屈折率のジャンプにもかかわらず、エコーを生成しない。しかしながら、そのような層は機械的に十分に安定していない。
【0016】
測定ウィンドウの時間位置に関して、及び、離れた界面に関して、エコーパルスの擾乱は、次のように見積もることができる。より離れた界面での反射は、典型的には、測定ウィンドウのはるか外側のエコーパルスの原因となる。したがって、空気に対するSiレンズ(図1のレンズ25参照)の外側での反射は、約2.5の高い屈折率ジャンプΔn(Siの屈折率1550nmの波長で3.478、空気の屈折率1550nmの波長で約1)により、非常に高い振幅を有する。光導電体層とSiレンズの外側の距離は7.35mmと非常に大きい(ここで、InP基板の厚さは約350μm、Siレンズの厚さは約7mmと仮定した)。エコーパルスはこの経路を2回通るため、元のパルスに対する追加の移動距離は約14.7mmである。約3.4の屈折率も考慮に入れると、約50mmの追加の光路長さえあり、したがって約150psのエコーパルスの遅延がある。したがって、これらのエコーパルスは通常の測定ウィンドウの外にあり、通常は測定に干渉しない。
【0017】
InP基板(1550nmでn=3.167)とSiレンズ(1550nmでn=3.478)は、ぴったりと(flush)接触した状態で、屈折率ジャンプΔn=0.311を示す。しかし、特に脆弱なInP基板の平面性が限られているため、このぴったりの面接触(areal contact)は、達成が困難である。その結果、一部の領域でInPとSiの間に空隙が形成され、半導体と空気の界面でかなり高い反射が予想される。ただし、波長に対するエアギャップの幅も影響する。波長が100μmレンジ(3THz)のテラヘルツ波の場合、テラヘルツ波は比較的ゆっくりとしか減衰せず、サブミクロン(sub-μm)のギャップを超えて第2の半導体材料に飛び出し、そこを伝播するため、ここではまだ高い反射は形成されない。しかし、例えば波長1.5μmの励起レーザパルスの場合、最も高い反射の第1の共振器モードが0.75μm(半波長)のギャップ幅ですでに形成されているため、より小さなギャップ幅で反射の増加がすでに始まっている。このように、サブミクロンの小さなエアギャップは、光励起パルスが高い反射を示す一方、波長が桁違いに異なるため、テラヘルツ波にほとんど影響を与えない。
【0018】
この波長に対して透明なInP基板上のエピタキシャル層の1.5μmの波長での長波励起を伴う上記のTHzシステムでは、要約すると、InP基板とSiレンズの間の界面(図2の界面26参照)での光反射が干渉エコーパルスにつながる。エコーパルスは、遅延を伴って、光活性層に2度目の衝突をして、光活性層を励起する。これにより、THz送信機はエコーパルスを放出し、受信機では、受信されたTHz信号が2度目のスキャンをされる。したがって、THz信号パターンの時間遅延レプリカが作成される。
【0019】
例えば、InP基板とSiレンズの界面での光反射のタイミングについて、次のように述べることができる。図1及び図2に示すInP基板の厚さは、典型的には350μmであるため、往復700μmとなる。屈折率を介したInP内の光速を含めると、メインパルスに対するエコーの遅延は約7psになる。このようなエコーパルスの遅延は測定可能であり、図3ではっきりと確認できる。
【0020】
例えば、層の厚さが数100μmの範囲の多層構造を持つサンプルを測定しようとする場合、層の前後(往路と復路200μm)で反射されるパルスも、数ps離れている(サンプルの屈折率を1.5と仮定)。サンプルの多層構造、THzパルスの幅、及び、内部塗料界面(inner paint interfaces)での反射の振幅が小さいことを考慮すると、このタイミングのエコーパルスが、測定精度を著しく損なうことが明らかになる。
【0021】
タイムドメインシステムでTHzアンテナを使用した場合の測定でも示されているように、InP基板とSiレンズ間の反射は実際に重要な反射である(図3参照)。メインパルスから約7psの距離にプレパルスとポストパルスが観測されている。前述のように、これら7psは、InP基板とSiレンズの間の界面でのレーザパルスの反射によるエコーパルスの時間遅延に正確に対応する。InP基板(名目上350μm)の厚さの違いにより、異なるTHz送信チップを比較すると、1つのパルスのタイミングがわずかに異なる。
【0022】
時間軸の反対側のエコーパルス(図3参照)は、THz受信機でのfsレーザの反射によって発生する。受信機はすべての測定で同じである。これが、関連するエコーパルスも十分にオーバーラップする理由である。原則として、これらのエコーパルスは、固定された測定システムで計算できる。しかしながら、弱い測定信号がエコーパルスの1つに近い場合、重要になる。これについて、重要な適用例に基づいて説明する。
【0023】
適用の重要な分野は、THz放射(0.1THz~30THz)が、可視光に対して不透明な、プラスチック、塗料、紙などの多くの誘電体を透過できるという事実から生じる。これにより、非破壊材料検査(non-destructive material testing)での適用の可能性が生まれる。例えば、複合材料中のプラスチック材料の個々の層の厚さを測定する(好ましくはすでに製造工程中(例えば押出工程中)に非接触で測定する)需要がある。
【0024】
もう1つの例は、特に多層システム内であり、且つ、塗料がまだ乾いていない場合の塗料層32(図4参照)の厚さの測定である。これにより、例えば、自動車のボディの進行中の塗装工程を制御することができる。この測定のために、THzパルス12を、塗装された金属表面33に向ける。金属キャリア33と同様、複数の塗料層32(典型的には防錆-フィリング-着色塗料-クリアコート)の異なる界面で、時間位置が異なる反射34が発生する。反射THzパルス34は受信アンテナ31に向けられ、そこで反射THzパルスの時間オフセットが走査レーザパルスで測定される。層32の屈折率がわかれば、層アセンブリのそれぞれの厚さを決定することができる。塗料の屈折率は、多くの場合、テラヘルツ放射に対して1.5から1.6の範囲である。
【0025】
塗料の屈折率は互いにわずかに異なるだけであるため、内部界面での反射振幅は小さく、空気と塗料または塗料と金属の間の界面でははるかに強い反射が生じることに留意する必要がある。このTHz反射パターン34は、図4に概略的に描かれている。
【0026】
THz送信機30が光多重励起(optical multiple excitation)によってエコーパルスを放出すると、反射パターン34の時間が遅延したレプリカ(time-delayed replica)35が生成される(図5参照)。レプリカ35では、空気境界での強い反射は、内部界面でのメインパルスの弱い反射のすぐ隣にある可能性がある(図5参照)。さらに、レシーバ31内のエコーパルスは、塗料と金属の界面で、メインパルスが個々の塗料層の間の移行部で弱い反射を走査する時間ウィンドウ内に正確に収まる強い反射を発生させることができる。
【0027】
したがって、上記から明らかなように、測定品質は、弱いエコーパルスによっても、かなり影響を受ける可能性がある。したがって、THzアンテナ(送信機30および受信機31の両方)におけるエコーは、何としても回避されるべきである。
【0028】
上記の例は、エコーキャンセレーションの重要性を示すことを目的としている。しかしながら、検出されたパルス列のフーリエ変換が使用される伝送アレンジメントまたは分光分析における測定システムでもエコーパルスはかなり干渉する可能性があり、それらの干渉効果は常に計算できるとは限らない。いわゆる「連続波」THzシステム(CW THzシステム)では、エコー信号はそれほど明白ではないが、ここでも光ビート信号とTHz波の位相と形状を当然のように変形させる。
【0029】
本発明の目的は、上記の問題を少なくとも部分的に解決できるアレンジメントを設計することである。前述のエコーパルスを防止または少なくとも低減できるアレンジメントを提供することは特に有利である。さらに、アレンジメントを製造する方法を提供できれば有利である。
【課題を解決するための手段】
【0030】
この目的は、独立請求項に記載の構成、アンテナ、テラヘルツシステム、および方法によって、本発明に従って達成される。改良は、従属請求項及び以下の説明に記載されている。
【0031】
本発明の一態様によれば、テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメントが提供される。アレンジメントは、以下を含む:
- 1200nmから1700nmの範囲の光放射によって活性化される光活性層と、
- 前記光放射に対して透明であり、且つ、前記光活性層が取り付けられた基板と、
- 前記光放射に対して透明なキャリア。前記基板は、前記キャリアに取り付けられており、前記光活性層と前記キャリアの間に配置されている。
【0032】
前記基板及び前記キャリアは、同じ材料から作られている。さらに、アレンジメントは、前記光活性層と前記基板の間に、それらを互いに平らに接続する第1の接着促進層が配置されている。前記第1の接着促進層は、層厚さが5μm以下である。
【0033】
第1の接着促進層の厚さが薄いため、光が基板界面に到達して戻ってくるまでの時間は比較的短い。したがって、第1の接着促進層によって引き起こされる光反射は、励起光とほぼ同時に光活性層を励起する。したがって、空間的に分離されたエコーパルスを回避することができる。
【0034】
基板とキャリアは同じ材料でできているため、同じ屈折率を有している。その結果、材料の遷移における屈折率のジャンプがない。これにより、材料の界面での反射が大幅に減少し、前述の光反射または光エコーパルスが減少する。
【0035】
第1の接着促進層は、光活性層と基板とが、ぴったりと面接触することを可能にする。このようにして、光活性層と基板との間の空隙を防止または減少させることができる。接着促進層の層厚が薄いため、界面を光活性層に近づけることができるため、基板と接着促進層の界面で反射されるパルスは、元の光パルスのパルス幅内に収まる。これにより、反射された光パルスが元のパルスと合流し、別個のエコーパルスが形成されることを回避できる。
【0036】
材料またはコンポーネントは、対象となる電磁スペクトル範囲の入射放射の少なくとも90%、及び/または、少なくとも95%、及び/または、99%透過可能である場合、本明細書において、透明(transparent)であるとする。
【0037】
光活性層は、基板の基板厚さよりも薄い層厚さを有していてもよい。例えば、光活性層は、層厚さが最大で10μm、特に、最大で0.5μmである。特に、層厚さは、1μmから2μmの範囲であってもよい。しかしながら、そのような層厚さは、多くの場合、十分に機械的に安定していない。したがって、基板は、主に光活性層を機械的に安定させる働きをする。
【0038】
基板は、光活性層の厚さの、少なくとも10倍、または、少なくとも100倍の厚さを有していてもよい。基板は、最大で1mm、特に最大で0.5mm、及び/または、少なくとも0.2mm、特に少なくとも0.3mmの基板厚さであってもよい。このような基板厚さは、半導体ディスクまたはウェハの場合に典型的である。したがって、基板は、半導体ディスク、特にウェハまたは半導体チップから作製することができる。それから、ウェハに取り付けた光活性層に通常のウェハ処理を施すことができるため、さまざまな構造を並行して処理することができる。光活性層とは反対側の基板の面は、特にキャリアに直接隣接している。これによっても、邪魔な反射を減らすことができる。
【0039】
1つの変形例によれば、キャリアは、少なくとも3mm、特に少なくとも5mm、特に少なくとも7mmのキャリア厚さである。したがって、基板厚さは通常、キャリア厚さよりも小さい。例えば、キャリア厚さは、基板厚さの少なくとも5倍であってもよい。層厚さ及び基板厚さと比較してキャリア厚さが比較的大きいため、キャリア内の光放射の光移動時間は比較的長くなる可能性があり、これは、光反射が時間的にシフトする可能性があることを意味する。したがって、光活性層から離れた避けられない反射界面は、測定が影響を受けないように、隣接するキャリアの厚さを増やすことによって、対象の測定ウィンドウ外にシフトできる。
【0040】
本明細書では、厚さまたは層厚さは特に、層平面に対して垂直に、及び/または、平面に対して、垂直に測定される。通常、全ての厚さと層厚さは同じ方向で測定される。
【0041】
基板とは反対側の光活性層の面は、少なくともいくつかの領域においてコーティングされておらず、特に、周囲の空気にさらされている。製造工程(以下参照)により、基板とは反対側の光活性層の面には、一部の領域にInP残留物が含まれる場合がある。
【0042】
本明細書における光放射は、光活性層内で電子正孔対が生成されるように光活性層を励起するのに必要な電磁放射であると理解される。ここで、光放射の励起エネルギは、使用される光活性材料のバンドギャップ、すなわち価電子帯(valence band)と伝導帯(conduction band)との間の距離に依存する。逆に、光活性層の光活性材料は、特定の励起エネルギにバンドギャップが調整されるように選択することができる。バンドギャップが温度に依存する限り、動作温度で通常の方法で定義されたその値は、典型的には、10℃から50℃の間、特に15℃から25℃の間である。光通信技術の既知のコンポーネントに頼ることができるようにするために、光活性層は、励起波長に対応する、少なくとも1200nm、特に、少なくとも1250nm、及び/または、最大で1700nm、特に最大で1650nmのバンドギャップを有する。例えば、光活性層は、InGaAs、InAlAs、InGaAsP、InGaAlAs、InGaAlAsP、及び/または、GaAlAs等の半導体材料から少なくとも大部分を生成することができ、または、いくつかの半導体の組み合わせを含むことができる。使用される半導体は、通常、遷移金属、特にFe、Rh、またはRuでドープされている。光活性層中の遷移金属の濃度は、少なくとも1018cm-3の濃度、特に少なくとも1019cm-3の濃度であってもよい。
【0043】
特に、光活性層は、光活性材料の単一層から形成されている。
【0044】
代わりに、光活性層は複数のサブ層(sub-layers)を含むことができる。例えば、少なくとも1つの活性層及び1つの隣接層を有することができる。原則として、1つの活性層または複数の活性層のそれぞれは、2つの隣接する層の間に埋め込まれる。ここでは、隣接する層が再結合層(recombination layers)として機能する。光活性層は、複数の交互に配置された活性層及び再結合層を有する、周期的な層構造を有していてもよい。例えば、100以上の活性層を設けることができる。
【0045】
残りのエコーパルスの影響は、光活性層の範囲を絶対に必要な領域に制限することによって、さらに最小限に抑えるか、または、減らすことができる。光活性層は、最大で1mm、特に最大で0.1mm、好ましくは最大で0.01mmのフットプリントを有していてもよい。基板上への光活性層の垂直投影は、最大で1mm、特に最大で0.1mm、好ましくは最大で0.01mmの面積であってもよい。ここで、基板に垂直な上述の投影は、ここでは平行投影である。すなわち、投影線(projection lines)と呼ばれる光活性層から放射される投影光線(projection rays)は、互いに平行である。光活性層は、基板に対して平行に測定された横方向の範囲、及び/または、最大で1mm、好ましくは最大で0.1mmの直径を有していてもよい。特に、光活性層は、メサ構造(mesa structure)の形態であってもよい。
【0046】
基板は、例えば、平行平面プレートとして具体化することができる。キャリアは、平面平行体またはくさび形体として形成することができる。基板は、キャリアに直接(つまり、間に接着剤や層を有することなく)隣接することができる。別の実施の形態では、第2の接着促進層が設けられ、基板とキャリアとの間に配置され、それらを互いに平坦に接続する。
【0047】
第1の接着促進層及び第2の接着促進層は、同じ材料から作ることができ、または、異なる材料を含むことができる。様々な接着促進層について、様々な材料が考えられる。一方では、接続されるコンポーネントは、材料によって平坦且つぴったりと接続する必要がある。他方、材料は、THz放射及び/または光放射に対して透明であるべきである。一実施の形態では、第1の接着促進層及び/または第2の接着促進層は、接着層(例えばベンゾシクロブテン(BCB)からなる層)である。他の適切な材料も考えられる。
【0048】
一実施の形態では、基板はシリコンウェハである。キャリアは、シリコン体として具体化することができる。シリコンウェハ及びシリコンボディは、表面平坦性の高いものを用意することができる。さらに、薄いSiウェハ(0.2mm~1mm)は通常、伸縮性があり、曲げることができ、隣接するシリコン体(つまりキャリア)によく適合する。いくつかの実施の形態では、ファンデルワールス力/凝集力を使用して、Siウェハとして具体化された基板とSi体として具体化されたキャリアとの間に、ギャップの無いSi-Si接続を作成することができる。これにより、キャリアと基板との間のエアギャップ、ひいては屈折率のジャンプを有利に防止することができる。
【0049】
この構成は、テラヘルツ放射用のレンズも含むことができる。通常、凸レンズ(convex lenses)、特に平凸レンズが使用される。多くの場合、半球レンズ(hemispheric lens)または超半球レンズ(hyperhemispheric lens)が使用される。一実施の形態によれば、レンズはキャリアに取り付けられる。レンズはキャリアに隣接することができる。しかしながら、キャリアとレンズとの間に第3の接着促進層を設けて、それらを互いに平坦に接続することもできる。あるいは、レンズがキャリアを形成することができる。したがって、この場合、基板は、追加のキャリアなしで、レンズに直接取り付けられる。1つの変形によれば、レンズは、基板及び/またはキャリアと同じ材料で作られる。あるいは、レンズは、(TPXまたはPMPとも呼ばれる)ポリメチルペンテンなどのポリマー材料で作成することもできる。レンズの厚さ(通常、レンズの最も厚い点で測定される)は、少なくとも2mm、特に少なくとも3mmであってもよい。レンズの厚さとキャリアの厚さは同じにすることができる。
【0050】
基板、及び/または、キャリア、及び/または、レンズは、通常、電気絶縁材料製である。基板、及び/または、キャリア、及び/または、レンズは、通常、生成されたテラヘルツ放射に対して透明である。さらに、レンズは通常、光放射に対しても透明である。
【0051】
本発明の別の態様によれば、テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナが提供される。アンテナは、上述のタイプのアレンジメントを含む。さらに、アンテナは、第1のサブ構造および第2のサブ構造を有するアンテナ導体を含む。第1のサブ構造及び第2のサブ構造は、ギャップによって離間され、光活性層と接触している。ここで、サブ構造は、光活性層と、電気的及び機械的に接触していてもよい。アンテナ導体は、通常、1つの金属でできており、この場合は、2つの金属構造を有することができる。特に、アンテナ導体は、蒸着またはスパッタリングされた金属によって形成することができる。サブ構造の形状により、例えばダイポールアンテナ、ボウタイアンテナ、またはいわゆるストリップラインアンテナが形成される。
【0052】
典型的には、THzシステムの少なくとも受信アンテナは、光伝導体をベースにする。送信アンテナも同様であってもよい。送信アンテナは、光伝導体の代わりにフォトダイオードをベースにすることもできる(独国特許出願公開第10 2010 049 658号明細書参照)。フォトダイオードを使用することにより、送信アンテナの特に高い効率を達成することができる。
【0053】
光活性層は、表面または横端面(lateral end faces)で、アンテナ導体と接触してもよい。例えば、アンテナ導体は、基板とは反対側の光活性層の側、または、基板に向いた光活性層の側に配置される。あるいは、第1のサブ構造および第2のサブ構造は、基板上の光活性層に隣接して配置することができる。この場合、光活性層は、2つの構造の間に配置することができる。
【0054】
さらなる態様によれば、テラヘルツ放射を発生及びコヒーレント検波するためのテラヘルツシステムが提案される。テラヘルツシステムは、レーザ光源と2つのTHzアンテナを含み、それぞれがレーザ光源に光学的に結合されており、このレーザ光源からの光放射によって活性化可能であり、第1のアンテナは送信アンテナとして機能し、第2のアンテナは受信アンテナとして機能する。送信アンテナ、及び/または、受信アンテナは、それぞれ、上述のタイプのアンテナを含む。
【0055】
レーザ光源からの光は、特に少なくとも1200nm、典型的には少なくとも1250nm、及び/または、最大1700nm、典型的には最大1680nmの波長を有する。いくつかの実施の形態によれば、レーザ光源として、パルスレーザを使用する。あるいは、連続波レーザ(CWレーザ)を使用することができる。
【0056】
テラヘルツシステムのレーザ光源の波長は、電気通信帯域の1つ(例えば、波長範囲が1260nmから1675nmの間、特に、1300nmから1550nmの間のOバンド、Eバンド、Sバンド、Cバンド、Lバンド、及び/または、Uバンド)であってもよい。THzアンテナを活性化するためのレーザ光源としてパルスレーザを使用することは、
両方のTHzアンテナが光伝導体ベースである場合に特に有利である。これは、パルスレーザを用いて、高い送信出力および高い受信感度を特に良好に実現できるからである。パルスシステムとしてのテラヘルツシステムの実施の形態では、1200nmから1700nmの間の波長を有するフェムト秒パルスレーザを使用することができる。フェムト秒パルスの持続時間は1ピコ秒未満、例えば10fs~990fsである。
【0057】
他の実施形態では、レーザ光源は、光ビート源(optical beat source)であってもよい。例えば、レーザ光源は、デュアルモードレーザまたは2つのレーザのシステムによって提供することができ、2つのレーザ波のビート信号を生成するように構成することができる。このビート信号のビート周波数は、適切な周波数と波長のテラヘルツ放射を発生させるために、少なくとも0.05THzであるべきであり、典型的には、0.05THzから20THzの間、特に、0.1THzから10THzの間である。デュアルモードレーザを有する実施の形態または2つのレーザのシステムを有する実施の形態と、対応するビート信号によるTHzアンテナのアクティブ化により、特に送信アンテナがフォトダイオードベースの場合、満足のいく結果が得られる。これは、フォトダイオードベースの送信アンテナが、ビート信号によるアクティブ化の場合に特に深刻な、過度に低い送信電力の問題を回避できるからである。
【0058】
特に、レーザ光を光活性層上に集束させるためのレンズアレンジメントが提供される。通常、レーザ光または光放射は、光活性層によって完全には吸収されないため、光の残りの部分は、光活性層及び下流の層(基板、接着促進層、キャリア、及び/または、THzレンズ)を通過する。特定の距離で反射された光エコーパルスは、通常、発散的に(divergently)光活性層に衝突し、そこで大きな領域にわたって光電荷キャリアを再び発生させることができる。アンテナガイドのサブ構造から一定の距離があっても、これらの光電荷キャリアはアンテナガイドを活性化し、THzエコーパルスを発生させることができる。このため、光活性層の横方向の広がりが、発散的に反射されたエコーパルスがもはや光活性層に当たらないように制限されると有利である。これを実現するために、光活性層を、例えば、メサ構造として形成してもよい。そして、サブ構造をサイドコンタクト(side contacts)として形成することができる。この場合、光電効果はメサの外側では起こらず、したがって光エコーパルスの大部分は、光活性層の励起に関して無効のままである。光活性層の好ましい最大横方向範囲または面積範囲については、上記の寸法を参照いただきたい。
【0059】
さらなる態様によれば、テラヘルツ放射を発生または受信するためのアンテナ用のアレンジメントの製造方法が提供される。この方法は、少なくとも以下のステップを含む:
- 少なくとも大部分がInPから形成された補助基板上に光活性層を生成するステップと、
- 前記光活性層を、層厚さが最大5μmの第1の接着促進層によって、前記基板に平坦に接続するステップと、
- 特に、化学エッチングにより、前記補助基板を除去するステップと、
- 前記基板をキャリアに取り付け、前記基板が前記光活性層と前記キャリアの間に配置されるようにするステップ。
【0060】
前記光活性層は、1200nmから1700nmの範囲の光放射によって活性化可能であってもよい。さらに、基板及びキャリアは、同じ材料から作られている。基板とキャリアは、光放射に対して透明である。
【0061】
特に、光活性層は、InP製の補助基板上に格子整合してエピタキシャル成長させることができる。必要なバンドギャップを有する光活性層に適した材料は、InGaAs、InAlAs、InGaAsP、InGaAlAs、InGaAlAsP、及び/または、GaAlAsを含んでもよい。光活性層のその他の特性については、上記の説明を参照いただきたい。
【0062】
InPベースの基板の短所は上記のとおりである(例えば、InPからSiへの屈折率のジャンプ;InPは脆いことが多いため、コンポーネントの界面にエアギャップが生じる)。したがって、本発明によれば、InP材料は、光活性層を成長させるための補助基板としてのみ使用される。光活性層を形成した後、InP製の補助基板を除去する。補助基板は、特に化学エッチングによって除去する。あるいは、機械的エッチングによって補助基板を除去してもよい。特に、補助基板は完全に除去する。補助基板を完全に除去することが目的であるが、記載された方法によって製造されたアレンジメントでは、光活性層が、基板とは反対側に、補助基板の検出可能な材料残留物を有する可能性がある。InP補助基板に生成された光活性層は、多くの場合、光活性層の層厚さが最大で数マイクロメートルであるため、通常、単独では、十分に機械的に安定していない。このため、InP補助基板を除去する前に光活性層を基板に接合し、これにより光活性層を安定化させる。補助基板を除去する前、基板と補助基板は、通常、光活性層を挟んだ両側にある。
【0063】
1つの変形によれば、光活性層は、200℃から450℃、特に400℃の温度で、分子線エピタキシー法(means of molecular beam epitaxy)によって成長される。別の変形例によれば、光活性層は、エピタキシャル成長され、Fe、Rh、またはRuなどの遷移金属で、特に1018cm-3を超える濃度で、ドープされる。
【0064】
この方法は、次の工程ステップで補完することができる:
- 第1のサブ構造体及び第2のサブ構造体を有するアンテナ導体を、前記第1のサブ構造体及び前記第2のサブ構造体が互いに離間され、且つ、前記光活性層と接触するように前記光活性層に付けるステップ。
【0065】
ここで、前記アンテナ導体を前記光活性層に付けるステップは、前記光活性層を前記基板に接続する前に実行する、または、前記補助基板を除去した後に実行することができる。
【0066】
必要に応じて、例えば、メサ構造を形成するために、光活性層の横方向範囲を縮小することができる。これは、例えばウェットケミカル及び/またはドライエッチング工程によって行うことができる。この方法の一変形例では、光活性層上に表面パッシベーション(surface passivation)を設けることができる。表面パッシベーションは、例えば、窒化シリコン、及び/または、酸化シリコンを含んでもよい。
【0067】
基板は、キャリアに取り付けられる前に、少なくとも1つの構造が配置された、未処理のウェハとして依然として存在することができる。したがって、光活性層、第1の接着促進層、及び/または、アンテナ導体を含む少なくとも1つの構造(サブアセンブリ)を基板に取り付けることができる。典型的には、複数の別個の構造、例えば、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも50、さらには少なくとも100の構造が、基板上に配置される。これにより、確立された半導体製造技術を用いて基板上の活性層を加工し、様々な異なる構造を並行して設計できる。これにより、処理された様々な構造を個別化するか、互いに分離することができる。特に、基板ウェハは個々のチップに分割することができる。したがって、この方法は、基板上に処理された構造を分離し、処理された構造を有する基板をキャリアに取り付けて、上述のアセンブリを形成することによって完了することができる。
【0068】
この方法は、上述のアレンジメント及び上述のアンテナを製造するのに特に適している。アレンジメントとアンテナに関連して言及された特徴は、方法についても権利要求でき、その逆もまた同様である。
【0069】
アレンジメント、アンテナ、及び、テラヘルツシステムの例示的な実施の形態は、添付の図に示され、以下の説明で、より詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】従来技術による光伝導THzアンテナの概略図である。
図2図1の光伝導THzアンテナの概略図に、光反射を加えた図である。
図3】遅延時間にわたってプロットされ、従来技術のTHz受信アンテナで測定された、異なるTHz送信機からの正規化されたテラヘルツ振幅を示す図である。
図4】塗料層の厚さを測定するための仕組みを概略的に示す図である。
図5図4の仕組みに、THzエコーパルスを加えた図である。
図6】本発明の一実施の形態による、THzアンテナの概略図である。
図7】本発明の一実施の形態による、さらなるTHzアンテナの概略図である。
図8】本発明の一実施の形態による、さらなるTHzアンテナの概略図である。
図9】本発明の一実施の形態による、さらなるTHzアンテナの概略図である。
図10】本発明の一実施の形態による、さらなるTHzアンテナの概略図である。
図11】本発明の一実施の形態による、テラヘルツ放射を発生及びコヒーレント検波するためのテラヘルツシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
図11に示すテラヘルツシステム20は、レーザ光源15、送信アンテナ16、及び、受信アンテナ17を有する。送信アンテナ16及び受信アンテナ17は、それぞれ、レーザ光源15からの光によって活性化されるTHzアンテナである。この目的のために、レーザ光源15の出力の後に、ビームスプリッタ28が接続されている。送信アンテナ16及び受信アンテナ17は、光ファイバ18によって、ビームスプリッタ28の2つの出力のそれぞれに接続されている。
【0072】
レーザ光源15はパルスレーザであり、レーザ光源15の波長は1200nmから1700nmの間であり、特に1300nmまたは1550nmである。2つのTHzアンテナ16,17を活性化するための光制御信号の相対タイミングをシフトするために、制御可能な光遅延回路19を光ファイバ18の入力または経路に配置することができる。この目的のために、光遅延回路19は、例えば、可変電場を印加できる、遅延線を有することができる。最後に、送信アンテナ16及び受信アンテナ17の間に配置されたサンプル29も示されている。サンプル29は、テラヘルツシステム20で検査することができる。
【0073】
レーザ光源15を形成するパルスレーザは、例えばエルビウムドーピングされたファイバパルスレーザ、または、例えば、InGaAsP/InP材料系に基づく半導体パルスレーザとすることができる。
【0074】
テラヘルツシステム20のさらなる詳細については、独国特許出願公開第10 2010 049 658号明細書を参照されたい。
【0075】
以下では、テラヘルツシステム20のTHzアンテナ16及び17の個々の時間(individual times)について説明する。図6乃至図10は、本発明の実施の形態によるTHzアンテナを概略的に示す。明確にするために、ここでは、THz送信アンテナ16のみが示されている。しかしながら、図6乃至図10に示されるTHz送信アンテナは、THz受信アンテナとしても使用できることは明らかである。
【0076】
図6は、テラヘルツ放射12を発生するためのアンテナ16の一部であるアレンジメント1を概略的に示す。アレンジメント1は、光活性層2、基板3、第1の接着促進層4、及び、キャリア5を含む。
【0077】
光活性層2は、1200nmから1700nmの範囲のレーザ光源15からの光放射11によって活性化することができ、したがって、対応するバンドギャップを有する。光活性層2に適した半導体は、例えば、InGaAs、InAlAs、InGaAsP、InGaAlAs、InGaAlAsP、または、GaAlAsである。光活性層2に使用される半導体は、通常、少なくとも1018cm-3、特に少なくとも1019cm-3の濃度で、Fe、RhまたはRuなどの遷移金属でドープされている。THz放射の発生には、最大10μm、少なくとも0.5μmの光活性層2の層厚さが有利である。示された例示的な実施の形態では、総層厚さは1μmから2μmであってもよい。特に、光活性層2は、光活性材料の単一層からなる。代わりに、光活性層2は、いくつかのサブ層を含むことができる。例えば、少なくとも1つの活性層、及び、1つの隣接層を設けることができる。
【0078】
光活性層2は、基板3に取り付けられている。表面全体に塗布された第1の接着促進層4は、取り付けのために用いられる。したがって、第1の接着促進層4は、光活性層2と基板3との間に配置され、これら2つを平坦且つぴったりと接続する。接着促進層4により、基板3と光活性層2との間のエアギャップを大幅に回避することができる。レーザ光12の逆反射をさらに抑制するために、接着促進層4の層厚さは最大5μmにすべきである。0.5μmから2μmの範囲の層厚さが考えられる。接着促進層4(接着層とも呼ばれる)に適した材料は、例えば、先行技術においていわゆるウェハボンディングによく使用される、BCB(ベンゾシクロブテン)である。
【0079】
基板3は、レーザ放射11およびTHz放射12に対して透明な材料、特にシリコンからなる。基板3は、電気絶縁性でもある。基板3は、特にデバイス1の製造中に、光活性層2の機械的安定性を確保する(以下の製造方法を参照)。基板3は、通常、平行平面プレートとして具体化される。基板3は、市販のシリコンウェハのチップから有利に作ることができる。これにより、確立されたウェハ処理技術の適用と、1つの基板上での多数の構造体の並行生産が可能になる。したがって、光活性層2に面する基板3の第1の面は平面である。光活性層2とは反対側の、基板3の第2の面で、基板はキャリア5に取り付けられる。したがって、基板3は、光活性層2とキャリア5との間に配置されている。キャリア5に面する基板3の面もまた、特に平面として構成されている。基板3は、特に、光活性層2の層厚さよりも実質的に大きい基板厚さ(基板3の第1の側から第2の側まで基板平面に垂直に測った基板厚さ)を有している。基板3は、例えば、最大で1mmの基板厚さであるが、少なくとも0.2mmの基板厚さが一般的である。図示の例示的な実施の形態では、基板3は、300μmから500μmの範囲の一定の基板厚さである。ウェハ処理が完了した後、構造体は分離され、キャリアに取り付けられる。
【0080】
キャリア5は、基板3と同じ材料でできているが、はるかに厚い。図示の例示的な実施の形態では、キャリア5は面平行なシリコン本体またはシリコンブロックとして具体化されている。したがって、基板3に面するキャリア5の第1の面は平面である。さらに、基板3とは反対側のキャリア5の第2の面は、平坦な表面として具体化されている。アンテナ16で生成されたTHz放射12は、基板3の反対側のキャリア5の第1の面を介して、キャリア5を離れる。キャリア5は、特に、基板の厚さ及び光活性層2の厚さよりも実質的に大きいキャリア厚さ(キャリア5の第1の面から第2の面まで測ったキャリア厚さ)を有している。これにより、キャリア5と空気の界面(すなわち、キャリア5の第2の面)での光反射を時間的に遅らせることができ、それらが対象の測定ウィンドウ外にあるようにできる。例示的なキャリア厚さは、少なくとも5mm、特に少なくとも8mmである。キャリア5及び基板3は同じ材料でできているので、基板3とキャリア5の間の界面での光放射11の反射は強く抑制される。
【0081】
キャリア5と基板3は、平坦に接続され、それらの側面は、例えば圧力接触(press contact)によって互いに平らに置かれる。したがって、キャリア5は、基板3に直接隣接することができる。あるいは、第2の接着促進層(図示せず)を、基板3とキャリア5との間に設けることもでき、これは、基板3とキャリア5とを、互いに平坦且つぴったりに接続する。第2の接着促進層は、BCBなどのポリマー材料で作ることができる。
【0082】
さらに、第1のサブ構造体7及び第2のサブ構造体8を有するアンテナ導体6を備えている。第1のサブ構造体7及び第2のサブ構造体8は、ギャップ9によって互いに離間されている。光活性層2は、前述のギャップ9の領域ではコーティングされておらず、そこで周囲の空気にさらされている。レーザ15からの光放射11は、ギャップ9を通って光活性層2に入射する。サブ構造体7,8の両方が、光活性層2と電気的および機械的に接触する。サブ構造体7,8は、通常、金属構造体として形成され、光活性層2上への金属の蒸着またはスパッタリングによって形成されている。図6の実施の形態では、サブ構造体7,8は、基板3とは反対側の光活性層2の面に配置されている。
【0083】
図7に示したTHzアンテナ16は、アンテナ導体6のサブ構造体7,8が光活性層2の横に隣接して配置されるという点で、図6に示したTHzアンテナとは異なる。すなわち、光活性層2は、サブ構造体7,8の間の中央に位置している。光活性層2はギャップ9の内側に位置し、ギャップを完全に満たしている。特に、図7の実施の形態における光活性層2は、層厚さに垂直な方向に測定した寸法が最大で100μm×100μmである、メサ構造として具体化される。したがって、メサ構造の設置面積は最大で0.01mmである。図7に示すように、基板上への光活性層2の垂直投影は、基板3とキャリア5の境界における光放射11の発散放射のごく一部のみ、光活性層2の背面に衝突するように、縮小された面積を有する。その結果、光活性層2で生成される電荷キャリアが大幅に少なくなり、THzエコーパルスを効果的に最小化することができる。光活性層2に対するサブ構造体7,8の配置、及び、メサ構造としての光活性層2の実施の形態以外は、図7に示したアンテナ16は、図6のアンテナと同じ特性を有する。
【0084】
図8には、図6のアンテナ16に加えて、THz放射12用のレンズ13を有するアンテナ16を示している。レンズ13は、アンテナ16からのTHz放射12を結合し、図8の例示的な実施の形態では、平凸レンズ、特に、半球レンズまたは超半球レンズとして形成されている。レンズ13は、レンズ13の平面側がキャリア5の第2の平面側に接続された状態で、キャリア5に取り付けられている。特に、レンズ13は、キャリア5及び基板3と同じ材料で作られている。すなわち、示された例示的な実施の形態ではSiである。この場合、レンズ13は、例えば圧力接触によってキャリア5に接続することができ、キャリア5に直接隣接させることができる。あるいは、レンズ13に他の材料を使用することもできる。例えば、ポリメチルペンテン等のポリマー材料が考えられる。この場合、レンズ13は、第3の接着促進層によって(例えば、BCBからなる接着層によって)、キャリア5に平坦且つぴったりに接続することができる。レンズの厚さは、特に少なくとも2mm、特に少なくとも3mmである。レンズ13は、キャリア5と同じ厚さを有することができる。
【0085】
別の実施の形態では、レンズがキャリアを形成してもよい。アンテナ16のこの実施の形態は、図9に示されている。ここでは、基板3は、結果として、追加のキャリアを必要とせずに、レンズ14に直接取り付けられている。レンズ14は基板3に隣接することができ、または、レンズ14と基板13との間に第4の接着促進層を配置し、レンズ14の平面側と基板3とを平坦且つぴったりに接続することができる。レンズ14は、基板3と同じ材料でできている。レンズ14のさらなる特徴については、上記のレンズ13を参照されたい。
【0086】
図9のアンテナ16において、光活性層2及びアンテナ導体6の金属構造体7,8は、図7のアンテナと同様の方法で構成されている。しかしながら、図6の光活性層2及び金属構造体7,8の構造体を使用することができることは明らかである。
【0087】
図10に示されるアンテナ16は、図8のアンテナと同様の構造体を有し、金属構造体7,8の配置に関してのみ図8のアンテナと異なる。図10のアンテナ導体6の金属構造体7,8は、光活性層2の基板3に面する側に配置されているが、図6では、光活性層の基板3とは反対側に配置されている。図10では、第1の接着促進層4は、金属構造体7,8と基板3との間に配置され、金属構造体7,8を基板3に平坦に接続することを示した。したがって、第1の接着促進層4は、金属構造体7,8の領域において、減少した層厚さを有する。図10に示される配置の利点は、反射された光放射が不透明な金属構造体7,8に当たり、結果として、光活性層2内に自由電荷キャリアを生成しないことである。基板3とは反対側の光活性層2の面は、全くコーティングされておらず、周囲の空気にさらされている。
【0088】
図6図10のアンテナ16は、好ましくは、図11のテラヘルツシステム20で使用される。
【0089】
アレンジメント1を製造する方法、または、アンテナ16を製造する方法を、以下に説明する。
【0090】
まず、InPからなる補助基板(図示せず)を用意する。次に、光活性層2を作製する。InP補助基板上でのエピタキシャル成長によって、光活性層2を生成する。通常、光活性層2は、200℃から450℃の温度で、分子線エピタキシー法によって成長させる。温度は特に400℃である。エピタキシャル成長中、光活性層2を、特に、1018cm-3の濃度の遷移金属でドープする。
【0091】
光活性層2を生成した後、補助基板とは反対側の光活性層の面を、その表面全体にわたって、シリコンウェハに接続してもよい。シリコンウェハは、少なくとも2インチ、特に少なくとも3インチの直径を有し、0.2mmから1mmの間の厚さである。接続には、第1の接着促進層4を使用する。この状態で、光活性層2を挟んだ両側に、シリコンウェハと補助基板が存在する。その後、特に化学エッチングによって、補助基板を完全に除去する。代わりに、機械的に補助基板を除去してもよい。
【0092】
追加のステップでは、アンテナ導体6を光活性層2と接触させる。第1のサブ構造体7及び第2のサブ構造体8を有するアンテナ導体6を、2つのサブ構造体が互いに離間され、且つ、光活性層2と接触するように光活性層2に付ける。アンテナ導体6は、金属の蒸着またはスパッタリングによる、いわゆるリフトオフ工程で、特に適用される。
【0093】
ここで、アンテナ導体6は、光活性層2が基板3に接続される直前に(すなわち、補助基板が取り除かれる前に)、または、補助基板が取り除かれた後(only after)に付けることができる。
【0094】
図7及び図9に示す光活性層2のメサ構造の製造のために、光活性層2は、補助基板の除去後の領域においてエッチングされてもよい。これは、通常、湿式化学エッチング工程及び乾式エッチング工程によって行われる。この後、上述のようにして、金属構造体7,8を付けることができる。あるいは、光活性層2をシリコンウェハに接続する前に、光活性層2のメサ構造を生成することができる。次に、蒸着またはスパッタリングによって、金属構造体7,8を光活性層2に付ける。それから、金属構造体7,8及び光活性層2に、第1の接着促進層4を付ける。次に、層4を介して光活性層2にシリコンウェハを接続する。さらなるステップにおいて、特に完全に、補助基板を除去する。
【0095】
任意選択的に、例えば窒化シリコンまたは酸化シリコンからなる表面パッシベーションを、光活性層2、及び/または、金属サブ構造体7,8に付けてもよい。
【0096】
光活性層2、ウェハ、接着促進層4、及び、金属構造体7,8を互いに対して配置した後、シリコンウェハを切断して、それぞれがシリコン製の基板3、接着促進層4、及び、金属構造体7,8を含む複数のチップを形成することができる。このようにして、複数の基板3の製造にSiウェハを使用する。もちろん、方法の開始の時点で、ウェハの代わりに、チップの形態の基板3を使用することもできる。
【0097】
次に、基板3を、キャリア5、または、キャリアとして形成されたレンズ14上に固定する。必要に応じて、レンズ13をキャリア5に接続する。
【0098】
説明した方法は、図6図10の上記アレンジメント1及び説明したアンテナ16を製造するのに特に適している。アレンジメントとアンテナに関連してのみ言及されている特徴は、方法についても権利要求でき、その逆も同様である。
【符号の説明】
【0099】
1 THzアンテナ用アレンジメント
2 光活性層
3 基板
4 接着促進層
5 キャリア
6 アンテナ導体
7 金属構造体
8 金属構造体
9 ギャップ
10 平坦面
11 fsレーザパルス
12 THzパルス
13 レンズ
14 レンズ
15 レーザ
16 送信アンテナ
17 受信アンテナ
18 光ファイバ
19 遅延回路
20 テラヘルツシステム
21 光活性層
22 基板
23 金属構造体
24 金属構造体
25 キャリア
26 界面
27 エコーパルス
28 ビームスプリッタ
29 サンプル
30 THz送信機
31 THz受信機
32 塗料層
33 金属キャリア
34 THz反射パターン
35 レプリカ
36 サンプル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】