(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-13
(54)【発明の名称】新規タンパク質、ならびにその治療的および美容的利用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20230606BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230606BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230606BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230606BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230606BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20230606BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230606BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230606BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230606BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230606BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230606BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230606BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20230606BHJP
A61P 11/14 20060101ALI20230606BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230606BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230606BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230606BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230606BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230606BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230606BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20230606BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20230606BHJP
C07K 14/335 20060101ALI20230606BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230606BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230606BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230606BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230606BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230606BHJP
C07K 16/12 20060101ALI20230606BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
C12N15/31
A61P31/00 ZNA
A61P31/04
A61P35/00
A61P29/00
A61P15/00
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/28
A61P9/00
A61P43/00 105
A61P13/12
A61P11/02
A61P11/14
A61P11/06
A61P1/16
A61P1/04
A61P17/00
A61P27/02
A61K38/16
A61P27/06
A61K35/12
C07K14/335
C12N15/63 100Z
C12N1/15
C12N1/21
C12N1/19
C12N5/10
C07K16/12
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567235
(86)(22)【出願日】2021-05-06
(85)【翻訳文提出日】2022-12-12
(86)【国際出願番号】 US2021031047
(87)【国際公開番号】W WO2021226318
(87)【国際公開日】2021-11-11
(32)【優先日】2020-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】513219876
【氏名又は名称】クオラム イノベーションズ リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】モンスル ニコラス ティー.
(72)【発明者】
【氏名】バークス エバ エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ベーム フレデリック ティー.
(72)【発明者】
【氏名】リャオ ユ-シェン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4B065CA50
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA20
4C084BA23
4C084BA42
4C084DA27
4C084DA42
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZA161
4C084ZA162
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZA341
4C084ZA342
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA621
4C084ZA622
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZA681
4C084ZA682
4C084ZA751
4C084ZA752
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZA901
4C084ZA902
4C084ZA911
4C084ZA912
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB321
4C084ZB322
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC521
4C084ZC522
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA02
4C087ZA16
4C087ZA33
4C087ZA34
4C087ZA36
4C087ZA59
4C087ZA62
4C087ZA66
4C087ZA68
4C087ZA75
4C087ZA81
4C087ZA89
4C087ZA90
4C087ZA91
4C087ZB11
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZB32
4C087ZB35
4C087ZC52
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA11
4H045EA15
4H045EA29
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、優れた治療的および美容的用途を有する新規タンパク質ならびにその生物活性断片および変種を提供する。当該タンパク質を使用する方法、および組み換え細胞を用いて当該タンパク質を産生する方法も提供される。さらに、当該タンパク質の発現をコードするポリヌクレオチド配列を用いて形質転換された組み換え宿主細胞が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の治療的および/または美容的特性を有するタンパク質であって、
該タンパク質が、
i)SEQ ID NO:1;
ii)SEQ ID NO:1の変種;および
iii)i)またはii)の断片
から選択されるアミノ酸配列を含み、
該変種もしくは断片が、抗細菌性、抗がん性、抗炎症性、および/もしくは代謝調整性であり、ならびに/または該変種もしくは断片が、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK 1/2)、および/もしくはグルココルチコイド受容体(GR)に結合する、もしくはそれ以外の様式でそれらの活性を調整する、
タンパク質。
【請求項2】
SEQ ID NO:1を含む、またはSEQ ID NO:1に対して少なくとも75%の配列同一性を有するSEQ ID NO:1の変種である、またはSEQ ID NO:1の長さの少なくとも20%の長さを有するSEQ ID NO:1の断片もしくは該変種の断片である、請求項1記載のタンパク質。
【請求項3】
SEQ ID NO:1を含む、請求項1記載のタンパク質。
【請求項4】
SEQ ID NO:1を有する、請求項1記載のタンパク質。
【請求項5】
PPARα、PPARβ/δ、および/またはPPARγであるPPARに結合する、またはそれ以外の様式でそれらの活性を調整する、請求項1記載のタンパク質。
【請求項6】
SEQ ID NO:1の少なくとも70%の断片を含む、請求項1記載のタンパク質。
【請求項7】
請求項1記載のタンパク質をコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項8】
SEQ ID NO:1をコードする、請求項7記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項9】
SEQ ID NO.2を有する、請求項8記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項7記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項11】
SEQ ID NO:2を有するポリヌクレオチドを含む、請求項10記載のベクター。
【請求項12】
請求項1記載のタンパク質をコードする外因性ポリヌクレオチドを含む、細胞。
【請求項13】
大腸菌(E.coli)の株である、請求項12記載の組み換え細胞。
【請求項14】
前記株が大腸菌BL21である、請求項13記載の組み換え細胞。
【請求項15】
SEQ ID NO:1をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項12記載の組み換え細胞。
【請求項16】
対象の身体内または身体上で感染を処置する方法であって、対象に治療有効量の請求項1記載のタンパク質または該タンパク質を発現する組み換え細胞を投与する工程を含む、方法。
【請求項17】
感染が、対象の皮膚内または皮膚上の感染である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
感染が、インプラント内もしくはインプラント上、カテーテル内もしくはカテーテル上、装具内もしくは装具上、ステント内もしくはステント上、弁内もしくは弁上、補聴器内もしくは補聴器上、胃バンド内もしくは胃バンド上、義歯内もしくは義歯上、または人工関節置換物内もしくは人工関節置換物上の感染である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
感染がバイオフィルムの形態であり、方法がバイオフィルムの形成および/または接着を阻害する、請求項16記載の方法。
【請求項20】
感染が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)による、請求項16記載の方法。
【請求項21】
対象においてがんを処置する方法であって、対象に治療有効量の請求項1記載のタンパク質または該タンパク質を発現する細胞を投与する工程を含む、方法。
【請求項22】
がんが、乳房、肝臓、胃腸管、皮膚、肺、膵臓、および前立腺の腫瘍、ならびに血液がんから選択される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
がんが乳がんである、請求項22記載の方法。
【請求項24】
がん細胞の増殖が阻害される、請求項21記載の方法。
【請求項25】
対象の皮膚の健康および/または外観を強化する方法であって、皮膚に請求項1記載のタンパク質または該タンパク質を発現する組み換え細胞を投与する工程を含む、方法。
【請求項26】
皮膚のバリア機能が強化される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
対象において炎症を処置するための方法であって、そのような処置を必要とする対象に、請求項1記載の治療有効タンパク質または該タンパク質を発現する組み換え細胞を投与する工程を含む、方法。
【請求項28】
炎症が、気管または胃腸管の炎症である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
母体および/または胎児の健康を改善するための方法であって、そのような改善を必要とする対象に、請求項1記載のタンパク質または該タンパク質を発現する細胞を投与する工程を含む、方法。
【請求項30】
子癇前症、妊娠糖尿病、子癇、低出生体重、正常妊娠、子宮内発育遅延(IUGR)、壊死性腸炎、および早産の1つまたは複数を改善するために使用される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
神経学的状態を処置または改善するための方法であって、そのような処置または改善を必要とする対象に、治療有効量の請求項1記載のタンパク質または該タンパク質を発現する細胞を投与する工程を含む、方法。
【請求項32】
認知能力、アルツハイマー病、パーキンソン病、神経変性症、および多発性硬化症の1つまたは複数を改善および/または処置するために使用される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
心血管状態を処置するための方法であって、そのような処置を必要する対象に、治療有効量の請求項1記載のタンパク質または該タンパク質を発現する細胞を投与する工程を含む、方法。
【請求項34】
冠動脈疾患および急性脳血管イベントの1つまたは複数を処置するために使用される、請求項33記載の方法。
【請求項35】
進行性線維症状態を処置するための方法であって、そのような処置を必要とする対象に、治療有効量の請求項1記載のタンパク質または該タンパク質を発現する細胞を投与する工程を含む、方法。
【請求項36】
心臓リモデリング、腎硬化症、鼻ポリポーシス、肺間質性線維症、慢性ぜん息、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、非アルコール性脂肪性肝炎、炎症性腸疾患関連線維症、および全身性強皮症の1つまたは複数を処置するために使用される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
胃腸炎症状態を処置するための方法であって、そのような処置を必要とする対象に、治療有効量の請求項1記載のタンパク質または該タンパク質を発現する組み換え細胞を投与する工程を含む、方法。
【請求項38】
潰瘍性大腸炎および/またはクローン病を処置するために使用される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
眼科状態を処置または予防するための方法であって、そのような処置または予防を必要とする対象に、治療有効量の請求項1記載のタンパク質または該タンパク質を発現する細胞を投与する工程を含む、方法。
【請求項40】
糖尿病網膜症、脈絡膜血管新生、緑内障、角膜血管新生、糖尿病黄斑浮腫、加齢黄斑変性、糖尿病血管新生、角膜炎、角膜上皮幹細胞疲弊症(corneal limbal stem cell failure)、視神経症、ドライアイ病、マイボーム腺機能不全、およびアレルギー性結膜炎の1つまたは複数の予防および/または処置において使用される、請求項39記載の方法。
【請求項41】
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK 1/2)、および/またはグルココルチコイド受容体(GR)の活性を調整するための方法であって、請求項1記載のタンパク質をPPAR、ERK 1/2、および/またはGRと接触させる工程を含む、方法。
【請求項42】
標的指向性部分、毒素、担体、標識、および/または活性強化物質に連結された、請求項1記載のタンパク質を含む分子。
【請求項43】
請求項1記載のタンパク質に対する、抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、2020年5月6日に出願された米国仮出願第63/020,860号の恩典を主張する。
【0002】
配列表
本願の配列表は、「SeqList-05May20-ST25.txt」と名付けられ、2020年5月5日に作成されたものであり、3 KBである。配列表は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
細菌は、片利共生菌として、および有益な生理活性物質の産生のための両方において、健康および疾患におけるそれらの重要な役割に関して大きな注目を集めている。
【0004】
外部からの侵入者に対する最初の防衛線である皮膚には、多様な細菌集団が存在する。これらの微生物には、常在片利共生菌、通過菌、および病原菌が含まれる。皮膚の過酷な環境で生き抜くために、微生物はしばしば、生存および成長に関して競争上の優位性を与えるバイオフィルムの表現型を示す。多くの皮膚病原菌は、片利共生菌として皮膚上に生息していることが見出され得、微生物のディスバイオシス、宿主の遺伝的変化、および免疫状態が、片利共生菌から病原菌への移行を推進し得る。
【0005】
バイオフィルムは、自由浮遊性のプランクトン様細菌が生物表面または不活性表面、例えば体内の医療デバイスに付着したときに始まる。付着した細菌は倍化し、単層の状態から微小コロニーの状態へ、さらには臨界点へと進行し、この時点で、バイオフィルム表現型へと導くクオラムセンシングとして公知の現象を始動させる細菌のクロストークが発生する。クオラムセンシングは、プランクトン様細菌においては発現されないバイオフィルム生成遺伝子を起動し得る。細菌は、集団として、バイオフィルム表現型を決定づける、菌体外多糖(EPS)マトリクスの分泌をもたらすバイオフィルム表現型に特異的な因子を発現するよう応答する。
【0006】
バイオフィルム表現型は、形態学的に、埋め込まれた生きた細菌の層と、介在する水分チャネルから構成される微生物タワーの形成により特徴づけられる。適切な環境条件の下で、バイオフィルムから自由浮遊性細菌が放出され、このサイクルが他の表面で継続される。
【0007】
国立衛生研究所は、ヒトの身体で発生する微生物感染の75%超がバイオフィルムの形成および持続を土台としていると見積もっている。そのような感染には、虫歯、歯周病、筋骨格感染、骨髄炎、細菌前立腺炎、心内膜炎、慢性気管支炎および慢性下気道炎症の他の状態、濾胞性線維症肺炎、中耳炎、慢性扁桃炎、咽頭扁桃炎ならびにデバイス感染が含まれる。
【0008】
遺伝子発現パターンの違いにより、バイオフィルム関連感染は、プランクトン型感染と異なる臨床経過および抗生物質反応を示す。抗生物質はこれらのEPS保護された微生物共同体を根絶することができないので、抗生物質の使用は、実際には、抗生物質が非EPS保護細菌を排除し、抗生物質耐性細菌の複製を促進するという理由で問題を悪化させる。これらの抗生物質耐性細菌には、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)が含まれる。MRSAは多岐にわたるにもかかわらず、現在の医薬は、病原性バイオフィルム関連感染に対して少数の処置しか提供しない。
【0009】
MRSA感染はまた、感染した対象に他の結果をもたらし得る。MRSAは、子供の20%および大人の5%に影響しているアトピー性皮膚炎(AD)に寄与し得る。臨床的にADは、ときに急性炎症を伴う、慢性的に乾燥した痒みのある湿疹性皮膚炎として現れる。MRSAの存在に加えて、遺伝的因子もADに寄与する。例えば、AD患者においてしばしばフィラグリンタンパク質が欠乏している。
【0010】
細菌バイオフィルムマトリクスを攻撃する、分解するまたはそれ以外の様式で弱体化させること、細菌共同体を維持するクオラム機構を妨害すること、および局所性の宿主自然免疫を上方調節することは、各々、そうしなければ慢性感染または慢性バイオフィルム関連炎症疾患に至るであろうものを処置する助けとなり得る。細菌バイオフィルムの穿通または分散は、バイオフィルムにより誘導される慢性炎症に対処する上で重要である。皮膚上でのまたは他の器官内での病原性細菌、バイオフィルム、および代謝物の制御は、片利共生的皮膚フローラの共生および皮膚の健康を回復させる上で重要な要素である。しかし、現在の治療は主として、病原性バイオフィルム活動菌の成長を阻害し、その接着および付着を減少させる微生物叢全体の調整ではなく、症状の制御に向けられたものである。
【0011】
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)は、核受容体タンパク質のグループであり、様々な生理学的刺激に応答して遺伝子発現を調節する転写因子として機能する。それらの構造は高度に保存されており、アミノ末端活性化ドメイン(AF1)、ジンクフィンガーDNA結合ドメイン、リガンド結合カルボキシ末端ドメインおよびc末端の第2活性化ドメイン(AF2)から構成される。
【0012】
PPARαは、代謝的に活発な組織、例えば褐色脂肪、肝臓、心臓、筋肉、腎臓、および免疫細胞において発現される。そのリガンドには、ドコサヘキサエン酸(DHA)、WY 14643、クロフィブラート、酸化リン脂質、フタル酸エステル、および様々な除草剤が含まれる。DHA、WY 14643、およびクロフィブラートリガンドは、フィラグリンおよび熱ショックタンパク質27(HSP27)を増加させることが知られている。PPARαは、エネルギー枯渇状態下で長期的空腹状態に対する適応であるケトン生成を開始するために活性化される、肝臓脂質代謝の主要な調節因子である。PPARαの合成リガンドには、抗高脂血症性フィブラート薬が含まれる。PPARαリガンドは肝臓脂質代謝を調節するので、それらは脂肪性肝炎または脂肪肝の処置における有用性を有し得る。
【0013】
PPARβ/δは、皮膚、腸、肝臓、心臓、骨格筋、肺、脳、胸腺、脾臓、ケラチノサイト、および様々な免疫細胞を含む代謝的に活発な組織において発現される。そのリガンドには、GW1514およびレチノイン酸が含まれる。PPARβ/δのアゴニズムは、身体の燃料優先性をグルコースから脂質に変化させるが、脳梁の髄鞘形成、上皮細胞の増殖、ならびに分化、脂質蓄積、方向検知、極性化、およびケラチノサイトの遊走においても役割を果たすことが示されている。
【0014】
PPARγをコードする遺伝子は遍在的に発現されるが、その合成されるタンパク質は主として脂肪組織、結腸およびマクロファージに存在する。そのリガンドにはチアゾリジンジオン(TZD)、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、およびトログリタゾンが含まれるため、PPARγは「グリタゾン」受容体とも称される。脂肪細胞分化の調節因子として、それは脂肪酸貯蔵およびグルコース代謝の調節因子として重要である。PPARγ部位に対する活性を有する化合物は、糖尿病、インスリン耐性、代謝症候群、肥満、動脈硬化性心疾患および他の代謝異常状態に対する経口、注射またはそれ以外の全身処置として非常に価値のある薬理学的可能性を有する。
【0015】
PPARγは抗炎症特性も有し、これは細菌感染の初期炎症段階からその解消フェーズへの移行において重要な役割を果たす。MRSA感染において、MRSAが存在する皮膚は、この移行がなければ無酸素化およびグルコース欠乏化し、それによって持続的感染が容易になる。
【0016】
PPARの活性化または不活性化は、PPARをリン酸化するキナーゼまたはPPARのリン酸基を切断するホスファターゼによって調整される。PPARγをリン酸化するキナーゼの1つの例は、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK1/2)である。ERK1/2および他のキナーゼは、PPARリガンド、例えばシグリタゾンによりPPARをリン酸化するよう誘導され得る。このリン酸化は、PPARの誘導に影響するだけでなく、PPARに直接結合するリガンドの能力にも影響する。
【0017】
グルココルチコイド受容体(GR)は、多くの遺伝子の発現を調節する(抑制または誘導のいずれかを行う)転写因子として作用する別の核受容体である。多くの細菌毒素は、通常、遺伝子活性化、GR転座またはGRリガンド結合の阻害を通じて、GRの活性化を変調させる。
【0018】
PPAR、GR、およびERK1/2は、がんの増殖においても役割を果たす。PPARγ受容体のリガンド媒介活性化は、ヒト乳がん、胃がん、肺がん、前立腺がん、および他のがんの細胞株の阻害に寄与するとも考えられている。GRは、PPARと相互作用して、がん細胞の増殖を制限し得る。1つの例において、GRおよびPPARγは、レプチンの遺伝子発現を阻害し得、それにより乳房腫瘍の成長を阻害する。
【0019】
細菌感染、代謝およびがん細胞増殖に関する様々なシグナル伝達経路に関与するPPAR、GR、およびERK1/2タンパク質の実質的役割に鑑みて、細菌感染および/またはがんを予防または処置するため、ならびに免疫および代謝機能を調整するためにこれらの経路に影響を及ぼす新しい手段が必要不可欠である。
【0020】
感染、自己免疫および慢性炎症の症例においては対象に対するダメージの大部分が身体の炎症応答それ自体に起因するので、このダメージを制限する上で抗炎症化合物が重要となる。現在使用されている最も一般的な抗炎症化合物の1つは、グルココルチコイドステロイド(GC)である。これらの化学物質は、PPARと同様の別の核転写因子である、グルココルチコイド受容体への結合およびその活性化を通じて抗炎症効果を発揮する。それらの使用は、しかし、大きな副作用およびグルココルチコイド耐性の成立により妨げられている。したがって、より安全な副作用プロフィールを有する非グルココルチコイドGR活性化因子を開発する必要がある。GRおよびPPARは両方とも強力な免疫調整効果を有するので、PPAR活性化因子とGCSの使用を組み合わせることでより少ないGC曝露が可能となり、副作用に対する保護の助けとなると考えられる。
【0021】
GRおよびPPARの両方の核受容体を同時に活性化することができる、それ自身がGCではない1つの化合物の発見が特に要望されている。そのような化合物は限られた数しか存在しない。これらのステロイド様化合物には、植物テルペン、例えばウルソール酸(Junco JJ, Cho J, Mancha A, Malik G, Wei SJ, Kim DJ, Liang H, DiGiovanni J, Slaga TJ. Role of AMPK and PPARα in the anti-skin cancer effects of ursolic acid. Mol Carcinog. 2018 Dec;57(12):1698-1706(非特許文献1))、天然脂肪酸およびエイコサノイド、ならびにPPARリガンドであるピオグリタゾン(Petta I, Dejager L, Ballegeer M, Lievens S, Tavernier J, De Bosscher K, Libert C. The Interactome of the Glucocorticoid Receptor and Its Influence on the Actions of Glucocorticoids in Combatting Inflammatory and Infectious Diseases. Microbiol Mol Biol Rev. 2016 May 11; 80(2):495-522(非特許文献2))のような合成化合物が含まれる。
【0022】
正常な胎盤発生は、母体と胎児の健康にとって重要である。母体の健康状態により、胎児に対して副作用を有する医薬、例えばGCの投与が必要となる場合がある。母体への過剰なGC投与は、部分的にPPARの阻害を通じた、子宮内胎児発育不全(IUGR)を含む多くの潜在的な副作用を有する(Fu L, Chen YH, Bo QL, Song YP, Ma L, Wang B, Xu S, Zhang C, Wang H, Xu DX. Lipopolysaccharide Downregulates 11β-Hydroxysteroid Dehydrogenase 2 Expression through Inhibiting Peroxisome Proliferator-Activated Receptor-γ in Placental Trophoblasts. J Immunol. 2019 Sep 1;203(5):1198-1207(非特許文献3))。したがって、母体-胎児医療において、PPARを活性化する非GC GR活性化因子が特に要望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Junco JJ, Cho J, Mancha A, Malik G, Wei SJ, Kim DJ, Liang H, DiGiovanni J, Slaga TJ. Role of AMPK and PPARα in the anti-skin cancer effects of ursolic acid. Mol Carcinog. 2018 Dec;57(12):1698-1706
【非特許文献2】Petta I, Dejager L, Ballegeer M, Lievens S, Tavernier J, De Bosscher K, Libert C. The Interactome of the Glucocorticoid Receptor and Its Influence on the Actions of Glucocorticoids in Combatting Inflammatory and Infectious Diseases. Microbiol Mol Biol Rev. 2016 May 11; 80(2):495-522
【非特許文献3】Fu L, Chen YH, Bo QL, Song YP, Ma L, Wang B, Xu S, Zhang C, Wang H, Xu DX. Lipopolysaccharide Downregulates 11β-Hydroxysteroid Dehydrogenase 2 Expression through Inhibiting Peroxisome Proliferator-Activated Receptor-γ in Placental Trophoblasts. J Immunol. 2019 Sep 1;203(5):1198-1207
【発明の概要】
【0024】
本発明は、抗細菌、抗がん、抗炎症および/または代謝調整組成物、ならびにこれらの組成物を使用する方法を提供する。より具体的に、本発明は、新規タンパク質、ならびに/またはその生物活性断片および変種を含む、薬学的、栄養的、および美容的組成物、ならびにそれらを使用する方法を提供する。
【0025】
好ましい態様において、本発明は、1つまたは複数の治療的および/または美容的特性を有する新規生物活性タンパク質を提供する。具体的態様において、本発明は、SEQ ID NO.1のアミノ酸配列を有するタンパク質である「Qi611S」を提供する。特定の態様において、本発明はまた、Qi611Sならびにその生物活性断片および変種を含む「Qi611Sタンパク質」を提供する。
【0026】
いくつかの態様において、Qi611Sタンパク質は、例えば、抗微生物活性、病原性バイオフィルムの成長および/もしくは接着の阻害、病原性バイオフィルムの脱離の促進、片利共生性バイオフィルムの成長の促進、皮膚のバリア機能および皮膚の自然免疫機能の強化、代謝の調整、炎症の阻害、がん細胞の増殖の阻害、ならびに/または様々な受容体および/もしくはキナーゼの誘導および/もしくはアゴニズムを含む、それらの生物活性にしたがい特徴づけられ得る。
【0027】
具体的態様において、Qi611Sタンパク質は、抗がん、抗細菌、抗炎症、代謝調整および/または免疫調整活性を有する。
【0028】
いくつかの態様において、Qi611Sタンパク質は、細胞、好ましくは細菌細胞により産生され得る。したがって、具体的態様において、本発明は、SEQ ID NO.1のすべてもしくは一部、またはその変種もしくは断片をコードするヌクレオチド配列を有する細胞を、そのタンパク質の発現に好ましい条件下で培養する工程を含む、Qi611Sタンパク質を産生する方法を提供する。好ましい態様において、ヌクレオチド配列は、Qi611s(SEQ ID NO.2)である。任意で、タンパク質は、培養物から精製され得る。
【0029】
1つの態様において、この方法は、Qi611sヌクレオチド配列(SEQ ID NO.2)を有する微生物、例えばラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)Qi6を利用する。Qi611sは、SEQ ID NO.1(Qi611S)のアミノ酸配列をコードする。
【0030】
別の態様において、細胞は、Qi611Sタンパク質を発現する能力を有するよう組み換えにより変更された微生物である。具体的態様において、微生物は、Qi611s遺伝子のすべてまたは一部を有する。したがって、特定の態様において、本発明は、SEQ ID NO.2のDNA配列のすべてもしくは一部を有し、かつ/またはSEQ ID NO.1もしくはSEQ ID NO.1の断片もしくは変種のアミノ酸配列を有するタンパク質を発現することができる組み換え細胞を提供する。例示的な態様において、組み換え細胞は、大腸菌(E.coli)BL21または大腸菌C43である。
【0031】
細胞のそのような形質転換は、微生物学分野の当業者に周知の技術を用いて達成され得る。1つの態様において、ヌクレオチド配列は、Qi611Sタンパク質の発現を最適化するよう修飾され得る。
【0032】
好ましい態様において、本発明は、Qi611Sタンパク質および/またはSEQ ID NO.2のDNA配列のすべてもしくは一部を含む細胞、ならびに任意で薬学的および/または美容的に許容される担体を含む組成物を提供する。
【0033】
薬学的および/または美容的に許容される担体は、例えば経口投与、注射(例えば、皮下(subcutaneous)、静脈内、筋内、腹腔内、髄腔内、および/もしくは皮下(subdermal))、ならびに/または局所投与(例えば、皮膚吸収を通じた)を含む個々の経路を通じた対象への組成物の投与のために使用される物質を含み得る。特定の態様において、組成物は、食品、カプセル、ピル、飲用液体、ローション、クリーム、乳濁液、軟膏、オイル、ジェル、セラム、エアロゾル、ミスト、ヴェイパー、および/またはそれらの組み合わせとして製剤化され得る。
【0034】
いくつかの態様において、タンパク質は、組成物に製剤化される前に、抽出され得、任意で細胞培養物から精製され得る。
【0035】
いくつかの態様において、組成物は、Qi611Sタンパク質を産生することができる細胞を含む。1つの態様において、細胞は、凍結乾燥(lyophilized)、凍結乾燥(freeze dried)、および/または溶解産物形態である。1つの態様において、組成物は、バイオフィルム状態の細胞培養物を含む。
【0036】
特定の態様において、本発明の組成物は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK 1/2)、およびグルココルチコイド受容体(GR)から選択される1つまたは複数の分子の発現を誘導し得る、および/またはそれらのアゴニストとして作用し得る。これらの分子の活性の強化は、例えば腫瘍およびインスリン成長因子(IGF)系等の系において、例えば、がん細胞の増殖、代謝、炎症、遺伝子の転写、細胞のアポトーシス、バイオフィルムの阻害、および/または細菌細胞の成長に対する下流効果を有し得る。
【0037】
ペルオキシソーム増殖活性化受容体(PPAR)は、ヒトの身体中に存在する核転写因子である。PPARα、PPARβおよびPPARγという3つのアイソタイプが存在し、これらは多くの異なる細胞型において重要な調節機能を有し、したがってこれらの受容体は大いに調査されてきた「薬品化可能な標的(druggable target)」である。それらの活性化は、リガンドにより刺激される。例えば、PPARγは、脂肪細胞、筋肉、脳および免疫細胞において見出される。最も研究されているアイソタイプであるPPARγは、多くの標的遺伝子の発現を刺激し、グルコース恒常性、インスリン感受性、脂質代謝、免疫応答および炎症を調節する。
【0038】
最近の知見は、これらの核受容体をヒト疾患に結びつける多くのシグナル伝達経路の発見をもたらした。PPARγ異常は、肥満、がん、糖尿病、アテローム性動脈硬化症、炎症性腸疾患および多発性硬化症を含む多くの病態生理学的状態に存在する。PPARγアゴニストは、神経科学的状態、例えば自閉症、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症および統合失調症における神経保護剤としての使用に関して研究されている。
【0039】
PPARγは、抗炎症性マクロファージの極性化を誘導することが知られている主要なPPARアイソタイプである。そのようなマクロファージ(「M2」)はまた、正常な組織修復に重要であり、正常な組織治癒を阻害し得る炎症性マクロファージ(「M1」)と区別される。多くのヒト疾患、例えば急性脳血管障害(CVA)および急性心筋虚血(MI)において、急性的なM1マクロファージの抑制ならびに急性的および慢性的の両方のM2の刺激が好ましい。したがって、これらの疾患プロセスのためのPPAR活性化およびPPAR媒介M2マクロファージ極性化は、新しくかつ重要な標的である。Croasdell A, Duffney PF, Kim N, Lacy SH, Sime PJ, Phipps RP. PPARγ and the Innate Immune System Mediate the Resolution of Inflammation. PPAR Res. 2015;2015:549691。
【0040】
したがって、特定の態様において、本組成物は、対象において細菌感染、代謝機能異常、炎症、および/またはがんを処置および/または予防するために使用され得る。
【0041】
特定の態様において、組成物は、炎症に関与する皮膚の自然免疫ペプチドおよび/またはサイトカイン(例えば、PPARγ、インターロイキン-10(IL-10)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、PERK、toll様受容体(TLR)、および/またはフィラグリン)の発現を調整し得る。したがって、特定の態様において、本組成物は、皮膚の自然免疫機能を強化するためならびに/または皮膚の健康および/もしくは外観を改善するために使用され得る。具体的態様において、組成物および方法は、乾燥した皮膚に水分補給するため、および/または皮膚の状態、例えばアトピー性皮膚炎を処置するために使用され得る。
【0042】
特定の態様において、本発明は、例えば細菌感染の制御、代謝の調整、がんの処置および/またはがんの拡散の予防、ならびに皮膚の健康および/または外観の強化を含む、1つまたは複数の治療的および/または美容的利益を対象に提供する方法に関する。この方法は、対象に、Qi611Sタンパク質および/またはQi611Sタンパク質を産生することができる細胞を含む組成物を投与する工程を含み得る。具体的態様において、Qi611Sタンパク質は精製されるまたは細胞は組み換え細胞である。
【0043】
組成物は、例えば、局所、経口、静脈内、鼻内、筋内注射および/または吸入経路を含む任意の経路を通じて、対象に投与され得る。
【0044】
有利なことに、本明細書において提供される組成物および処置方法は、特定のがん、代謝機能異常、感染、炎症性皮膚疾患を処置および/または予防するのに、ならびに皮膚の外観および/もしくは質感ならびに/または皮膚の自然免疫機能を改善するのに効果的である。本発明により処置される対象は、例えば、症状の重症度の軽減および/または細菌感染の減少を体験し得る。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】本発明の態様にしたがい利用されるpET-15bベクターのマップを示している。
【
図2】T7 RNAポリメラーゼにより転写されるコード鎖のpET-15bクローニング/発現領域を示している。
【
図3】組み換え大腸菌株により合成されたQi611Sの存在を確認するために使用された銀染色SDS-PAGEゲルを示している。組み換え大腸菌BL21から放出されたタンパク質のサンプルをSDS-PAGEゲルに注入し、これがゲルの右側にある太い矢印により示されている。大腸菌株は、pET-15b発現ベクターを通じてQi611s遺伝子により形質転換した。
【
図4】
図4A~4Bは、選択された濃度の611S(0.1%もしくは0.5%)またはデキサメタゾン(10 mM)で処置され、MRSAを植菌されたエクスビボ皮膚培養物の結果を示している。(4A)はエクスビボ皮膚培養物中に存在するPPARγの量を示しており、(4B)は皮膚培養物中に存在するPPARγの変化倍率を示している。このデータを得るために使用したウェスタンブロットにおいて、β-アクチンを参照タンパク質とした。
【
図5】
図5A~5Bは、(5A)漸増濃度のQi611S(0、0.125、0.25、0.5、1.0および2.0%)で処置されたエクスビボ皮膚培養物中に存在するPPARγの量を測定するウェスタンブロットの結果、ならびに(5B)エクスビボ皮膚培養物中に存在するPPARγの変化倍率を示している。このデータを得るために使用したウェスタンブロットにおいて、β-アクチンを参照タンパク質とした。
【
図6】
図6A~6Bは、(6A)選択された濃度のQi611S(0.1%もしくは0.5%)またはデキサメタゾン(10 mM)で処置され、MRSAを植菌されたエクスビボ皮膚培養物中に存在するpERK(リン酸化ERK1/2)の量、および(6B)エクスビボ皮膚培養物中に存在するpERKの変化倍率を示している。このデータを得るために使用したウェスタンブロットにおいて、β-アクチンを参照タンパク質とした。
【
図7A】
図7A~7Bは、(7A)漸増濃度のQi611S(0、0.125、0.25、0.5、1.0および2.0%)で処置されたエクスビボ皮膚培養物中に存在するpERKの量を測定するウェスタンブロットの結果、ならびに(7B)エクスビボ皮膚培養物中に存在するpERKの変化倍率を示している。このデータを得るために使用したウェスタンブロットにおいて、β-アクチンを参照タンパク質とした。
【
図8A】
図8A~8Bは、(8A)漸増濃度のQi611S(0、0.125、0.25、0.5、1.0および2.0%)で処置されたエクスビボ皮膚培養物中に存在するP-GRの量を測定するウェスタンブロットの結果、ならびに(8B)エクスビボ皮膚培養物中に存在するP-GRの変化率を示している。このデータを得るために使用したウェスタンブロットにおいて、β-アクチンを参照タンパク質とした。
【
図9】漸増濃度のQi611S(0、1、2、および5% (W/V))で処置されたゼブラフィッシュ細胞における、GRをコードする遺伝子の発現レベルを示している。このデータは、mRNAを単離するようゼブラフィッシュ細胞を処理するRT-qPCRを用いて得た。このmRNAを逆転写し、得られたcDNAを同定および定量した。
【
図10】
図10A~10Bは、(10A)漸増濃度のQi611S(0、0.125、0.25、0.5、1.0および2.0%)で処置されたCaCo-2細胞におけるリン酸化GR(P-GR)の量を測定するウェスタンブロットの結果、ならびに(10B)処置されたCaCo-2細胞におけるP-GR誘導の変化倍率を示している。このデータを得るために使用したウェスタンブロットにおいて、β-アクチンを参照タンパク質とした。
【
図11】0、1.56、3.12、6.25、12.5、25、50および100 ng/μLのタンパク質濃度でQi611Sおよび硫酸アンモニウム沈降Qi611Sを用いたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)バイオフィルムのパーセント阻害を示している。
【発明を実施するための形態】
【0046】
配列の概要
SEQ ID NO:1は、「Qi611S」と名付けられたタンパク質のアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:2は、 SEQ ID NO:1のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列であるQi611sである。
SEQ ID NO:3は、本発明において有用な順方向プライマーである「Lacto F」である。
SEQ ID NO:4は、本発明において有用な逆方向プライマーである「Lacto R」である。
SEQ ID NO:5は、pET-15bベクターのクローニング/発現領域のヌクレオチド配列である。
SEQ ID NO:6は、pET-15bベクターのクローニング/発現領域によりコードされるHisタグ付加組み換えタンパク質のアミノ酸配列である。
【0047】
発明の詳細な説明
本発明は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有する新規タンパク質(「Qi611S」)、その生物活性断片および変種、ならびにこの新規タンパク質および/またはその生物活性断片および変種を利用する治療的および/または美容的組成物および方法を提供する。
【0048】
さらなる態様は、Qi611Sタンパク質を発現することができる細胞を提供する。特定の態様において、細胞は、SEQ ID NO:1のすべてまたは一部をコードするヌクレオチド配列を有するよう組み換えにより変更されている。具体的態様において、ヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:2を有する。
【0049】
選抜された定義
「Qi611S」は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有するタンパク質を指す。単数形または複数形での「Qi611Sタンパク質」の言及は、Qi611Sならびに611Sの生物活性断片および変種を指す。
【0050】
本明細書で用いられる場合、「遺伝子」は、ポリペプチドおよび/またはアミノ酸鎖を発現することができるDNAのセグメントまたはヌクレオチド配列を指す。特定の態様において、遺伝子は、コード領域の前および/または後に、プロモーター領域等の領域を含む。
【0051】
本明細書で用いられる場合、「単離された」または「精製された」化合物は、自然界では付随する他の化合物、例えば細胞物質を実質的に含まない。精製または単離されたポリヌクレオチド(リボ核酸(RNA)またはデオキシリボ核酸(DNA))は、その自然発生状態でそれに隣接している配列を含まない。精製または単離されたポリペプチドは、例えば、自然界では付随するであろう他の細胞物質を含まない。微生物株との関係でいう「単離された」は、その株が、自然界ではそれが存在する環境から取り出されていることを意味する。したがって、単離された株は、例えば、生物学的に純粋な培養物として、または担体に付随する胞子(もしくはその株の他の形態)として存在し得る。
【0052】
本明細書で用いられる場合、「生物学的に純粋な培養物」は、自然界では付随していた可能性があるあらゆる物質を含む、他の生物活性物質から単離されたものである。好ましい態様において、培養物は、他のすべての生細胞から単離されている。さらなる好ましい態様において、生物学的に純粋な培養物は、自然状態で存在し得る同じ微生物種の培養物と比較して、有利な特徴を有する。有利な特徴は、例えば、1つまたは複数の望ましい成長副産物の産生の増強であり得る。
【0053】
特定の態様において、精製された化合物は、少なくとも60重量%の関心対象の化合物である。好ましくは、調製物は、少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、および最も好ましくは少なくとも99重量%の関心対象の化合物である。例えば、精製された化合物は、好ましくは少なくとも90重量%、91重量%、92重量%、93重量%、94重量%、95重量%、98重量%、99重量%、または100重量% (w/w) の所望の化合物であるものである。純度は、任意の適切な標準的方法によって、例えば、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、または高性能液体クロマトグラフィー (HPLC) 分析によって測定される。
【0054】
「代謝物」は、代謝により生じる任意の物質(すなわち、成長副産物)、または特定の代謝プロセスに関与する上で必要な物質を指す。代謝物の例には、バイオサーファクタント、バイオポリマー、酵素、酸、溶媒、アルコール、タンパク質、ビタミン、ミネラル、微量元素、およびアミノ酸が含まれるが、これらに限定されない。
【0055】
本明細書で用いられる場合、「調整する」は、変化をもたらす(増加または減少させる)ことを指す。
【0056】
本明細書で用いられる場合、「医薬品」、「健康増進化合物」、または「健康増進物質」は、医薬および/または治療薬として有用な化合物を指す。
【0057】
本明細書で用いられる場合、「ポリペプチド」、「ペプチド」または「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指す。
【0058】
本明細書で用いられる場合、「対象」という用語は、動物を指す。動物は、例えば、ヒト、ブタ、ウマ、ヤギ、ネコ、マウス、ラット、イヌ、類人猿、魚類、チンパンジー、オランウータン、モルモット、ハムスター、ウシ、ヒツジ、鳥類(ニワトリを含む)、および任意の他の脊椎動物または無脊椎動物であり得る。
【0059】
本発明との関係で好ましい対象は、任意の年齢および/または性別のヒトである。いくつかの態様において、対象は、健康上の状態、疾患、または障害に罹患しており;いくつかの態様においては、対象は良好な健康状況にある(例えば、損傷または疾患を有さない)が、特定の器官、組織、または身体系の健康および/または機能の強化を所望している。
【0060】
本明細書で用いられる場合、「処置する」および「処置」という用語は、健康上の状態、疾患、または障害の徴候または症状を任意の程度まで根絶する、軽減する、寛解させる、または逆転させることを指し、状態、疾患、または障害の完全な治癒を含むが、それを必要とするものではない。処置は、障害を治癒すること、改善すること、または部分的に寛解させることであり得る。処置にはまた、状態または特徴を改善するまたは向上させること、例えば、体内の特定の系の機能を健康または恒常性の高まった状態に持っていくことが含まれ得る。
【0061】
本明細書で用いられる場合、健康上の状態、疾患、または障害を「予防すること」は、その状態、疾患、または障害の特定の徴候または症状の発症を回避する、遅延させる、未然に防ぐ、または最小化することを指す。予防は、絶対的または完全であってよいが、そうである必要はなく;その後、徴候または症状がなお発生する可能性があることを意味する。予防には、そのような状態、疾患、もしくは障害の発症の重症度を軽減すること、および/または状態、疾患、もしくは障害がより重篤な状態、疾患、もしくは障害に進行するのを阻害することが含まれ得る。
【0062】
本明細書において提供される範囲は、その範囲内の値のすべての省略表現であると理解される。例えば、1~20の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20からなる群からの任意の数、数の組み合わせ、または部分範囲、ならびに前述の整数の間に介在するすべての小数値、例えば、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、および1.9を含むと理解される。部分範囲に関しては、範囲のいずれかの終点から延びる「入れ子の部分範囲」が具体的に企図される。例えば、1~50の例示的な範囲の入れ子の部分範囲は、一方向の1~10、1~20、1~30、および1~40、または他方向の50~40、50~30、50~20、および50~10を含み得る。
【0063】
本明細書で用いられる場合、「組み換え」細胞は、異種核酸の導入またはネイティブ核酸の変更により改変されたものである。したがって、例えば、組み換え細胞は、その細胞のネイティブ(非組み換え)形態では見出されない遺伝子を発現し得る、またはネイティブ遺伝子を異常に発現し得る、過小発現し得る、もしくは全く発現し得ない。
【0064】
本明細書で用いられる場合、「減少する」は負の変化を指し、「増加する」という用語は正の変化を指し、各々少なくとも1%、5%、10%、25%、50%、75%、または100%である。
【0065】
本明細書で用いられる場合、「参照」は、標準または対照状態を指す。
【0066】
「含む(comprising)」という移行語は、「含む(including)」または「含む(containing)」と同義であって、包括的またはオープンエンド型であり、列挙されていない付加的な要素または方法の工程を排除しない。対照的に、「~からなる」という移行句は、特許請求の範囲において指定されていないいかなる要素、工程、または成分も排除する。「~から本質的になる」という移行句は、特許請求の範囲を、指定された物質または工程「および特許請求される発明の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響しないもの、例えば細菌の成長を妨げる能力」に限定する。「含む(comprising)」という用語の使用は、列挙された成分「からなる」および「から本質的になる」態様を企図する。
【0067】
具体的に記述されるかまたは文脈から明らかでない限り、本明細書で用いられる場合、「または」という用語は包括的であると理解される。具体的に記述されるかまたは文脈から明らかでない限り、本明細書で用いられる場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という用語は、単数または複数であると理解される。
【0068】
具体的に記述されるかまたは文脈から明らかでない限り、本明細書で用いられる場合、「約」という用語は、当技術分野における通常の許容値の範囲内、例えば平均の2標準偏差内にあると理解される。「約」という用語は、記載値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%以内にあると理解され得る。
【0069】
本明細書における変数の任意の定義における化学基の一覧の列挙は、任意の単一基または列挙された基の組み合わせとしての、その変数の定義を含む。本明細書における変数または局面についての態様の列挙は、任意の単一の態様としての、または任意の他の態様もしくはその一部と組み合わせた、その態様を含む。
【0070】
本明細書において提供される任意の組成物または方法は、本明細書において提供される任意の他の組成物および方法の1つまたは複数と組み合わせることができる。
【0071】
本発明の他の特徴および利点は、以下のその好ましい態様の説明からおよび特許請求の範囲から明らかになるであろう。本明細書において引用される参考文献はすべて、参照により本明細書に組み入れられる。
【0072】
Qi611Sタンパク質および611Sタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列
好ましい態様において、本発明は、治療および/または美容目的において有用な新規タンパク質、ならびにその断片および変種を提供する。特に好ましい態様において、この新規タンパク質は、例えば、細菌、真菌もしくはウイルス感染を処置するのに、がんを処置するおよび/もしくはその拡散を予防するのに、炎症を阻害するのに、代謝を調整するのに、ならびに/または皮膚の健康および/もしくは外観を強化するのに有用である。本発明はさらに、この新規タンパク質ならびにその断片および変種をコードするヌクレオチド配列を提供する。
【0073】
特定の具体的態様において、「Qi611S」と称される本発明のタンパク質は、約8.0 kDAの分子量を有する。Qi611Sならびにその生物活性断片および変種を含む「Qi611Sタンパク質」は、例えば抗微生物活性、病原性バイオフィルムの成長および接着の阻害、病原性バイオフィルムの脱離の促進、片利共生性バイオフィルムの成長の促進、代謝の調整、皮膚のバリア機能および自然免疫機能の強化、がん細胞の増殖の阻害、ならびに/または様々な受容体および/もしくはキナーゼの発現および/もしくは活性の誘導を含む生物活性を含む、様々なパラメータにしたがって特徴づけられ得る。具体的態様において、Qi611Sタンパク質は、抗がん、抗微生物(例えば、抗細菌、抗真菌および/もしくは抗ウイルス)、抗炎症、代謝調整ならびに/または皮膚免疫調整活性を有する。
【0074】
特定の態様において、Qi611Sタンパク質は、直接的にまたは間接的に、例えば、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)(例えば、PPARα、PPARβ/δ、および/またはPPARγ)、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK 1/2)、ならびにグルココルチコイド受容体(GR)から選択される1つまたは複数の分子の発現を誘導し得る、および/またはそれらに対するアゴニストとして作用し得る。Qi611Sタンパク質が誘導因子またはアゴニストとして作用するかどうかは、例えば、関与する生物系もしくは代謝系および/または細胞型(例えば、細菌、がんもしくは免疫細胞)に依存し得る。
【0075】
PPAR、ERKおよびGRの調整は、代謝、炎症、がん細胞の増殖、遺伝子の転写、細胞のアポトーシス、バイオフィルムの阻害、および/または細菌細胞の成長に対する下流効果を有し得る。したがって、特定の態様において、Qi611Sタンパク質は、PPAR、ERKおよび/またはGRが関与する1つまたは複数の生物学的経路を調整することにより、微生物の感染、代謝機能異常、炎症、および/またはがんを処置または予防するために使用され得る。
【0076】
Qi611Sタンパク質はさらに、そのアミノ酸配列によって定義され得る。具体的態様(Qi611S)において、該タンパク質は、SEQ ID NO:1として示される74アミノ酸の配列を有する。
【0077】
特定の態様において、本明細書において提供されるタンパク質はまた、特定の抗体との免疫反応性および以下に記載される他の方法に基づいて同定され得る。
【0078】
特定の態様において、Qi611Sタンパク質は、実験室成長条件を使用してその成長をバイオフィルム表現型に向かわせた場合に、ラクトバチルス・ファーメンタムQi6細菌株によって産生される。好ましい態様において、この細菌株は、バイオフィルム表現型条件下でSEQ ID NO:1を有するタンパク質を発現することができる、Qi611S DNA配列(SEQ ID NO:2)を有する。
【0079】
さらなる態様において、Qi611Sタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、例えば、特定の例示されるプローブおよびプライマー(例えば、SEQ ID NO:3~4)にハイブリダイズする、またはそれらにより増幅される能力により定義され得る。
【0080】
ラクトバチルス・ファーメンタムは、グラム陽性桿菌である。ラクトバチルス・ファーメンタム Qi6 (Lf Qi6) は、MRS培地中で37℃で成長させることができる。
【0081】
L.ファーメンタムQi6微生物の培養物は、American Type Culture Collection (ATCC), 10801 University Blvd., Manassas, Va. 20110-2209 USAに寄託されている。この寄託物には、受託機関によりアクセッション番号ATCC第PTA-122195号が割り当てられ、2015年6月10日に寄託された。
【0082】
本培養物は、当該培養物へのアクセスが、特許商標庁長官により37 CFR 1.14および35 U.S.C 122の下でその権利を与えると決定された者に対して、本特許出願の係属中に利用可能となる条件の下で寄託されている。この寄託物は、本願の対応出願またはその後継出願が出願される国における外国特許法により求められる場合、入手可能である。しかし、寄託物が入手可能であることは、政府の処分により付与される特許権の特例として本発明を実施する権利を構成するものではないことが理解されるべきである。
【0083】
さらに、本培養物の寄託物は、微生物の寄託に関するブタペスト条約の条項にしたがい保管および公衆利用可能とされている、すなわち、寄託物のサンプルの提供に関する最も直近の請求から少なくとも5年の期間、かついかなる場合も、寄託日から少なくとも30年の期間または当該培養物を開示する発行され得る任意の特許の存続期間の間、それを生きた状態かつ汚染されていない状態で維持するために必要なすべての手当ての下で保管される。寄託者は、請求された際に寄託物の状態が原因で寄託機関がサンプルを提供できない場合、その寄託物を取り換える義務を認識している。本培養物の寄託物の公衆利用に関するすべての制限は、それを開示する特許の付与により、不可逆的に取り除かれるであろう。
【0084】
いくつかの態様において、Lf Qi6は、バイオフィルム表現型で生育され得る。本明細書で用いられる場合、「バイオフィルム」は、細胞が、通常は多糖物質から構成されるがこれに限定されないマトリクスを用いて互いに接着している微生物、例えば細菌の複雑な凝集物である。バイオフィルム中の細胞は、液体もしくは気体媒体中を浮遊もしくは遊泳し得る、または固体もしくは半固体表面の上もしくはその中に存在し得る単細胞である、同じ生物のプランクトン様細胞と比較して生理学的に異なる特性を有する。
【0085】
特定の態様において、本発明は、治療的および/または美容的に有用なQi611Sタンパク質をコードする単離された新規ポリヌクレオチド配列、または遺伝子を提供する。さらに、いくつかの態様において、本発明は、当該ポリヌクレオチド配列を用いてQi611Sタンパク質を発現する組み換え宿主を作製する方法を提供する。
【0086】
特定の態様において、ポリヌクレオチド配列は、222塩基対であり、Qi611SをコードするQi611Sであるが;特定の態様では、例えば遺伝暗号の冗長性のために、異なるDNA配列が本明細書において開示されるアミノ酸配列をコードし得る。Qi611Sタンパク質をコードするこれらの代替DNA配列を作出することは、十分に当業者の技術の範囲内である。
【0087】
本明細書で用いられる場合、タンパク質の「変種」は、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、付加、または挿入を有する配列を指す。好ましい態様において、これらの置換、欠失、付加、または挿入は、Qi611Sの治療的および/または美容的活性に実質的に悪影響を及ぼさない。Qi611Sの1つまたは複数の生物活性を保持する変種は、本発明の範囲内である。好ましくは、1つまたは複数の生物活性は、抗微生物活性、病原性バイオフィルムの成長および接着の阻害、病原性バイオフィルムの脱離の促進、片利共生性バイオフィルムの成長の促進、代謝の調整、皮膚のバリア機能および自然免疫機能の強化、がん細胞の増殖の阻害、ならびに/または様々な受容体および/もしくはキナーゼの発現および/もしくは活性の誘導から選択される。
【0088】
Qi611Sおよびその変種の「断片」もまた、断片がQi611Sの1つまたは複数の生物学的特性を保持する限り、Qi611Sタンパク質の範囲内である。好ましくは、1つまたは複数の生物活性は、抗微生物活性、病原性バイオフィルムの成長および接着の阻害、病原性バイオフィルムの脱離の促進、片利共生性バイオフィルムの成長の促進、代謝の調整、皮膚のバリア機能および自然免疫機能の強化、がん細胞の増殖の阻害、ならびに/または様々な受容体および/もしくはキナーゼの発現および/もしくは活性の誘導から選択される。好ましくは、断片は、全長Qi611Sの少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%である。断片は、例えば、Qi611Sまたは変種の1つまたは複数の親水性ドメインを含み得る。これらのドメインは、介在するアミノ酸が除去された状態で直接連結されてもよい。親水性ドメインは、当技術分野で公知の標準的な手順を用いて、および
図12に例示されているように、容易に同定することができる。
【0089】
本発明はさらに、Qi611Sタンパク質が、例えば、標的指向性部分(例えば、リガンド、抗体、もしくはアプタマー)、毒素、担体、標識、または活性増強体であり得る別の部分に直接または間接的に(例えば、リンカーを介して)結合している融合構築物を企図する。
【0090】
本発明はさらに、Qi611Sタンパク質に対する抗体(例えば、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、およびヒト化)を企図する。これらの抗体は、本明細書において提供される教示を有する当業者によって容易に調製され得る。これらの抗体は、例えば治療、診断、およびタンパク質精製に使用することができる。
【0091】
特定の態様において、Qi611Sタンパク質をコードするポリヌクレオチドを単離し、増幅し、ベクターに連結することができる。「ベクター」、「プラスミド」、または「プラスミドベクター」は、DNAを細胞に、しばしばある細胞から別の細胞(宿主細胞)に移すために用いられるDNA分子である。ベクターは宿主細胞内で複製することができ;またはベクターは、細胞にDNAを組み入れる(もしくは細胞からDNAを除去する)ための手段となり得る。種々の手段を用いて、ベクターを宿主細胞に導入することができる。いくつかの細胞は、ベクターを細胞培養物に入れる以外に当業者によるいかなる作用がなくても、ベクターを取り込むことができる。化学的修飾を必要とするものもある。細胞がベクターを取り込み得る手段にかかわらず、ひとたび宿主細胞がそうする能力を有したら、それは今や「コンピテント」細胞である。
【0092】
市販のベクターの1つの例は、pET-15bであり、ここから、当業者は、制限酵素消化を用いて、Qi611SまたはQi611Sタンパク質をコードする他のポリヌクレオチドを保有するベクターを作製することができる。pET-15bベクターは、N末端His・Tag(登録商標)配列、それに続くトロンビン部位および3つのクローニング部位を有する(SEQ ID NO.6)。
図1に示される円形マップ上に固有の部位が示されている。T7 RNAポリメラーゼにより転写されるコード鎖のクローニング/発現領域が
図2に示されている(SEQ ID NO.5)。
【0093】
特定の態様において、本発明は、宿主細胞の遺伝子形質転換による、これらの細胞へのQi611Sタンパク質を産生する能力の提供に関する。例えば、Qi611S(またはQi611Sタンパク質をコードする他のポリヌクレオチド)を有するベクターを宿主細胞(例えば、微生物、植物、真菌、および/または動物細胞)に形質転換して、Qi611Sタンパク質の産生のための組み換え細胞の使用を可能にすることができる。
【0094】
好ましい態様において、宿主細胞は、大腸菌の株、例えば、大腸菌BL21または大腸菌C43である。あるいは、大腸菌以外の細胞をコンピテント細胞に形質転換する能力は当技術分野で十分に理解されており、これには、例えば、その形質転換能力、異種タンパク質発現の能力および効率、宿主におけるタンパク質の安定性、補助遺伝子能力の存在、哺乳動物毒性の欠如、タンパク質を損なわない殺傷および固定の容易性、培養および/または製剤化の容易性、取り扱いの容易性、経済性、貯蔵安定等に基づいて選択された細胞が含まれる。
【0095】
宿主として、原核生物および下等真核生物、例えば真菌が特に関心対象となる。グラム陰性およびグラム陽性の両方の例示的な原核生物には、エンテロバクテリアセアエ(Enterobacteriaceae)、例えばエシェリキア(Escherichia)、エルウィニア(Erwinia)、シゲラ(Shigella)、サルモネラ(Salmonella)、およびプロテウス(Proteus);バシラセアエ(Bacillaceae);リゾビセアエ(Rhizobiceae)、例えばリゾビウム(Rhizobium);スピリラセアエ(Spirillaceae)、例えばフォトバクテリウム(photobacterium)、ザイモモナス(Zymomonas)、セラチア(Serratia)、エロモナス(Aeromonas)、ビブリオ(Vibrio)、デスルホビブリオ(Desulfovibrio)、スピリルム(Spirillum);ラクトバシラセアエ(Lactobacillaceae);シュードモナダセアエ(Pseudomonadaceae)、例えばシュードモナス(Pseudomonas)およびアセトバクター(Acetobacter);アゾトバクテラセアエ(Azotobacteraceae)ならびにニトロバクテラセアエ(Nitrobacteraceae)が含まれる。他の可能性のある宿主細菌には、例えば、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)、グルコノバクター・アサイ(Gluconobacter asaii)、アクロモバクター・デルマーバエ(Achromobacter delmarvae)、アクロモバクター・ビスコサス(Achromobacter viscosus)、アクロモバクター・ラクチカム(Achromobacter lacticum)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)、アルカリゲネス・ファエカリス(Alcaligenes faecalis)、アルスロバクター・シトレウス(Arthrobacter citreus)、アルスロバクター・ツメセンス(Arthrobacter tumescens)、アルスロバクター・パラフィネウス(Arthrobacter paraffineus)、アルスロバクター・ヒドロカルボグルタミカス(Arthrobacter hydrocarboglutamicus)、アルスロバクター・オキシダンス(Arthrobacter oxydans)、オーレオバクテリウム・サペルダエ(Aureobacterium saperdae)、アゾトバクター・インディカス(Azotobacter indicus)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)、ディバリカタム(divaricatum)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・グロボサム(Brevibacterium globosum)、ブレビバクテリウム・フスカム(Brevibacterium fuscum)、ブレビバクテリウム・ケトグルタミカム(Brevibacterium ketoglutamicum)、ブレビバクテリウム・ヘルコラム(Brevibacterium helcolum)、ブレビバクテリウム・プシラム(Brevibacterium pusillum)、ブレビバクテリウム・テスタセウム(Brevibacterium testaceum)、ブレビバクテリウム・ロセウム(Brevibacterium roseum)、ブレビバクテリウム・イマリオフィリウム(Brevibacterium immariophilium)、ブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)、ブレビバクテリウム・プロトファルミアエ(Brevibacterium protopharmiae)、コリネバクテリウム・アセトフィラム(Corynebacterium acetophilum)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)、コリネバクテリウム・アセトグルタミカム(Corynebacterium acetoglutamicum)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、エルウィニア・アミロボラ(Erwinia amylovora)、エルウィニア・カロトボラ(Erwinia carotovora)、エルウィニア・ハービコラ(Erwinia herbicola)、エルウィニア・クリサンテミ(Erwinia chrysanthemi)、フラボバクテリウム・ペレグリナム(Flavobacterium peregrinum)、フラボバクテリウム・フカツム(Flavobacterium fucatum)、フラボバクテリウム・オーランティナム(Flavobacterium aurantinum)、フラボバクテリウム・レナナム(Flavobacterium rhenanum)、フラボバクテリウム・セワネンス(Flavobacterium sewanense)、フラボバクテリウム・ブレベ(Flavobacterium breve)、フラボバクテリウム・メニンゴセプティカム(Flavobacterium meningosepticum)、ラクトバシルス・ジェンセニ(Lactobacillus jensenii)、ラクトバシルス・ミクロコッカス種(Lactobacillus Micrococcus sp.)CCM825、モルガネラ・モルガニ(Morganella morganii)、ノカルディア・オパカ(Nocardia opaca)、ノカルディア・ルゴサ(Nocardia rugosa)、プラノコッカス・ユーシナタス(Planococcus eucinatus)、プロテウス・レットゲリ(Proteus rettgeri)、プロピオニバクテリウム・シャーマニ(Propionibacterium shermanii)、シュードモナス・シンキサンタ(Pseudomonas synxantha)、シュードモナス・アゾトフォルマンス(Pseudomonas azotoformans)、シュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis)、シュードモナス・スツツェリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナス・アシドボランス(Pseudomonas acidovolans)、シュードモナス・ムシドレンス(Pseudomonas mucidolens)、シュードモナス・テストステロニ(Pseudomonas testosteroni)、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)、ロドコッカス種ATCC 15592、ロドコッカス種ATCC 19070、スポロサルシナ・ウレアエ(Sporosarcina ureae)、黄色ブドウ球菌、ビブリオ・メシュニコビ(Vibrio metschnikovii)、ビブリオ・チロゲネス(Vibrio tyrogenes)、アクチノマデュラ・マデュラエ(Actinomadura madurae)、アクチノミセス・ビオラセオクロモゲネス(Actinomyces violaceochromogenes)、キタサトスポリア・パルロサ(Kitasatosporia parulosa)、ストレプトミセス・コエリカラー(Streptomyces coelicolor)、ストレプトミセス・フラベラス(Streptomyces flavelus)、ストレプトミセス・グリセオラス(Streptomyces griseolus)、ストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトミセス・オリバセウス(Streptomyces olivaceus)、ストレプトミセス・タナシエンシス(Streptomyces tanashiensis)、ストレプトミセス・バージニアエ(Streptomyces virginiae)、ストレプトミセス・アンチビオティカス(Streptomyces antibioticus)、ストレプトミセス・カカオイ(Streptomyces cacaoi)、ストレプトミセス・ラベンデュラエ(Streptomyces lavendulae)、ストレプトミセス・ビリドクロモゲネス(Streptomyces viridochromogenes)、アエロモナス・サルモニシダ(Aeromonas salmonicida)、バシルス・プミラス(Bacillus pumilus)、バシルス・サーキュランス(Bacillus circulans)、バシルス・チアミノリティカス(Bacillus thiaminolyticus)、バシルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、エシェリキア・フレウンディ(Escherichia freundii)、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム(Microbacterium ammoniaphilum)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、サルモネラ・スコットムレリ(Salmonella schottmulleri)、キサントモナス・シトリ(Xanthomonas citri)、サーモトガ・マルティマ(Thermotoga martima)、ゲオバシルス・ステロサーモフィラス(Geobacillus sterothermophilus)等が含まれる。
【0096】
特に関心対象となる細菌宿主には、例えば、エシェリキア、ラクトバシルス、およびバシルスが含まれる。
【0097】
真核生物宿主には、例えば、藻菌類ならびに酵母、例えばサッカロミセスおよびスチゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)を含む子嚢菌類;ならびに担子菌類酵母、例えばロドトルラ(Rhodotorula)、オーレオバシディウム(Aureobasidium)、スポロボロミセス(Sporobolomyces)等が含まれる。
【0098】
pET-15bベクターは、例えば、ポリヒスチジンタグおよびトロンビン切断部位をコードする。その合成は、親和性精製とも呼ばれる親和性クロマトグラフィーを可能にする方法、例えばそのタンパク質と並んでコードされるポリヒスチジンタグを通じて評価され得る。タグは、宿主により合成されるQi611Sタンパク質に付加された状態で維持され得る、または、好ましくは、それは組み換えタンパク質が使用される前にトロンビン切断部位によりタンパク質から切断され得る。
【0099】
調節エレメントに機能的に連結された、本明細書に示される遺伝子構築物または上記のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターまたは発現カセットもまた、本発明の範囲内である。ベクターおよび発現カセットはさらに、選択マーカーを含み得る。ベクターおよび発現カセットは、コードされる遺伝子の発現を強化するさらなる転写制御配列、例えば強プロモーターも含み得る。
【0100】
発現カセットは典型的に、5'から3'への転写方向に、転写および翻訳開始領域、本発明のコード配列、ならびに転写および翻訳終結領域を含み得る。転写開始領域であるプロモーターは、宿主細胞に対してネイティブもしくは類似、または外来もしくは異種であり得る。「外来」とは、転写開始領域が、その転写開始領域が導入される生物において見出されないことを意図する。
【0101】
本発明はまた、標的配列または標的配列から生成されたアンプリコンとのハイブリダイゼーションのための検出プローブ(例えば、開示されるポリヌクレオチド配列の断片)を提供する。そのような検出プローブは、SEQ ID NO:2の少なくとも8、9、10、11、12、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100ヌクレオチドの隣接/連続長を含み得る。
【0102】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチド(例えば、SEQ ID NO:2)で形質転換された宿主細胞を、そのポリペプチドの発現が可能な条件下で培養し、任意で発現されたポリペプチドを回収することにより、Qi611Sタンパク質を生産する方法を提供する。
【0103】
特定の態様において、宿主細胞は、ポリペプチドを増強された量で発現するよう形質転換される。例えば、DNAベクターは、クローン化された遺伝子の直前に強転写プロモーター配列を含み得る。特定の態様において、強プロモーターは、trpオペロン、lacオペロン、T7プロモーター、および/またはpLプロモーターである。
【0104】
図3は、組み換え大腸菌株により合成されたQi611Sの存在を確認するために使用された銀染色SDS-PAGEゲルを示している。SDS-PAGEゲルに、組み換え大腸菌BL21から放出されたタンパク質のサンプルを注入した。大腸菌株は、pET-15b発現ベクターを通じてQi611S遺伝子で形質転換した。
【0105】
特定の態様において、Qi611Sタンパク質は、タグ、例えばポリヒスチジンタグ、およびグルタチオン-S-トランスフェラーゼの使用を通じてそれが合成された培養物から精製され得る。他のタンパク質精製手段は、親和性クロマトグラフィーと組み合わせてまたは親和性クロマトグラフィーなしで使用され得る。いくつかの代替法には、遠心分離、ろ過、超音波処理、および分画が含まれる。タンパク質は、硫酸アンモニウムの添加を通じて培養物から沈降され得る。また、様々な他のクロマトグラフィー法、例えばイオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、または固定化金属親和性クロマトグラフィー、が使用され得る。これらのタンパク質精製法は、単独でまたは互いと組み合わせて使用され得る。この方法または方法の組み合わせは、当業者に理解されている様々な利点および欠点を有する。
【0106】
本発明のDNA配列は遺伝暗号の縮重およびコドン用法のために変動し得ることが当業者によって認識されるであろう。Qi611Sタンパク質をコードするすべてのDNA配列が企図される。したがって、SEQ ID NO:1をコードするDNA(任意にコード領域の前にATGを含む)を含む、Qi611Sタンパク質をコードするすべてのポリヌクレオチド配列が、本発明に含まれる。本発明はまた、本明細書において言及される任意の具体的な細胞型を含む宿主細胞における発現に最適化されたコドンを有するポリヌクレオチドを含む。最適化された配列を作出するための様々な技法は、当技術分野で公知である。
【0107】
加えて、DNA配列がコードするペプチドのアミノ酸配列の活性を著しく変化させない対立遺伝子変種がそのDNA配列において生じ得ることが、当業者によって認識されるであろう。そのような変種DNA配列はすべて、本発明の範囲内に含まれる。
【0108】
当業者は、例示された配列を用いて、Qi611Sタンパク質をコードするさらなるヌクレオチド配列を同定、生成、および使用することができることを理解するであろう。列挙されたDNA配列と少なくとも90%または少なくとも95%の同一性を有し、かつQi611Sタンパク質をコードする変種DNA配列は、本発明に含まれる。変種ポリヌクレオチドおよびアミノ酸配列に関する他の数値範囲は、以下に提供される(例えば、50~99%)。本明細書における教示に従い、かつ当技術分野で周知の知識および技法を用いて、当業者は、過度の実験を用いることなく、変種DNA配列を有する多数の有効な態様を作成することができるであろう。他の株または種からの相同体が具体的に企図される。
【0109】
本発明のポリヌクレオチドおよびアミノ酸配列の断片ならびに変異、挿入、および欠失変種は、その断片および変種が元の配列と実質的な配列類似性を有する限り、例示された配列と同じ様式で使用することができる。本明細書で用いられる場合、実質的な配列類似性は、変種または断片配列が能力的に元の配列として機能することを可能にするのに十分なヌクレオチドまたはアミノ酸配列の類似性の程度を指す。好ましくは、この類似性は50%を上回り;より好ましくは、この類似性は75%を上回り;および最も好ましくは、この類似性は90%を上回る。変種がその意図された能力で機能するために必要な類似性の程度は、その配列の意図された用途に依存する。配列の機能を向上させるか、または別の方法で方法論的利点を提供するように設計された変異、挿入、および欠失変異を作製することは、当業者の技術の範囲内である。同一性および/または類似性はまた、本明細書において例示される配列と比較して、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%であってよい。
【0110】
アミノ酸の同一性/類似性および/または相同性は、典型的には、生物活性の原因となる、および/または最終的に生物活性を担う三次元配置の決定に関与する、タンパク質の重要な領域において最も高くなる。この点に関して、特定のアミノ酸置換は、これらの置換が活性に重要でない領域にあるか、または分子の三次元配置に影響を及ぼさない保存的アミノ酸置換である場合に、許容され、予測され得る。例えば、アミノ酸は、以下のクラス:非極性、非荷電極性、塩基性、および酸性に分類され得る。あるクラスのアミノ酸が同じタイプの別のアミノ酸で置き換えられる保存的置換は、その置換が化合物の生物活性を実質的に変化させない限り、本発明の範囲内に入る。以下(表1)は、各クラスに属するアミノ酸の例のリストである。
【0111】
【0112】
いくつかの例においては、非保存的置換を作製することもできる。重要な要素は、これらの置換がタンパク質の生物活性を著しく損なってはならないことである。
【0113】
いくつかの態様において、Qi611Sタンパク質は、バイオサーファクタント特性を有し得る。本明細書で用いられる場合、バイオサーファクタントは、生物学的な表面活性物質を指す。バイオサーファクタントは典型的に、極性(親水性)部分と非極性(疎水性)基の2つの部分からなる、両親媒性である。それらの両親媒性構造により、バイオサーファクタントは液体、固体および気体の分子間の表面および界面張力を減少させ、例えば、界面活性剤、湿潤剤、乳化剤、発泡剤および/または分散剤として作用し得る。
【0114】
バイオサーファクタントの公知の例には、例えば、低分子量糖脂質(例えば、ソホロ脂質、ラムノ脂質、セロビオース脂質、マンノシルエリスリトール脂質およびトレハロース脂質)、リポペプチド(例えば、サーファクチン、イツリン、フェンギシン、アルスロファクチンおよびリケニシン)、フラボ脂質、リン脂質(例えば、カルジオリピン)、脂肪酸エステル化合物、ならびに高分子量ポリマー、例えばリポタンパク質、リポ多糖・タンパク質複合体および多糖・タンパク質・脂肪酸複合体が含まれる。
【0115】
水と油の間の界面張力を減少させることにより、バイオサーファクタントは、捕捉された液体が毛細管効果を打ち消して動くのに必要とされる静水圧を低下させるのを助ける。バイオサーファクタントは、界面に蓄積し、それによって界面張力を減少させ、溶液中で凝集ミセル構造物を形成させる。ミセルの形成は、移動水相中で、例えば油、医薬、栄養分および老廃物を移動させる物理的機構を提供し、強力な乳化および解乳化特性を示し得る。孔を形成し生体膜を脱安定化するバイオサーファクタントの能力もまた、例えば、病原体を制御するため、様々な表面への微生物の接着を阻害するため、および/またはバイオフィルムの形成を防ぐための、抗細菌、抗真菌および溶血剤としてのそれらの利用を可能にする。さらに、一部のバイオサーファクタントは、感染に対するさらなる免疫的支援を提供し得、かつ他の活性成分のバイオアベイラビリティを強化し得る。
【0116】
有利なことに、本発明にしたがうバイオサーファクタントは以下:皮膚内/皮膚上の病原体の殺傷、皮膚の免疫系の調整、置換された細胞が成長することを可能にするメラノサイトの殺傷、酸化ストレスの減少、ケラチノサイトおよび線維芽細胞の倍化および機能の強化、の1つまたは複数を可能にし、かつその組成物の皮膚浸透性を強化する成分を含む。したがって、それらは、それら自身が治療的利益を提供し、また傷に関連する皮膚状態、例えば熱傷の処置、および/または瘢痕化、ならびに加齢したおよび/または損傷した皮膚の若返りのための局所組成物に存在し得る他の成分の効果を強化し得る。
【0117】
Qi611Sタンパク質の治療的および美容的使用
本発明のQi611Sタンパク質は、様々な治療的および/または美容的用途で有用であり得る。例えば、特定の態様において、本発明は、がん、微生物感染、代謝機能異常、炎症を処置するため、ならびに皮膚の健康および/または外観を強化するための組成物および方法を提供する。
【0118】
「治療的」は、本明細書で用いられる場合、疾患、状態または障害の処置および/または予防に有用であることを意味する。他方、「美容的」は、対象の外観の回復および/または改善を意味する。例えば、美容的組成物は、皮膚の含水レベルを強化し得る。含水レベルの上昇は、皮膚の外観を改善し、より健康的でより若々しい美的外観をもたらすことが公知である。
【0119】
好ましい態様において、本発明は、Qi611Sタンパク質(例えば、SEQ ID NO:1)および/またはQi611Sタンパク質を産生することができる細胞を含む薬学的および/または美容的組成物、ならびにその使用方法を提供する。特定の態様において、組成物は、任意で、薬学的および/または美容的に許容される担体を含み得る。
【0120】
さらなる態様において、本発明は、本発明にしたがう組成物を対象に投与する、それを必要とする対象に治療的および/または美容的利益を提供する方法を提供する。いくつかの態様において、治療または美容有効用量の組成物は、必要なだけまたは所望の利益が達成されるまで、例えば、1日に1回、2回、3回またはそれ以上の回数を対象に投与され得る。
【0121】
本明細書で用いられる場合、「治療有効」量または用量は、対象に投与された場合に、対象において状態、疾患、もしくは障害を処置もしくは改善することができる、または健康もしくは器官、組織、もしくは身体系への機能における強化を提供することができる化合物または組成物の量または用量である。
【0122】
実際の量は、状態の重症度;処置もしくは改善したい個々の状態、疾患、または障害;状態の重症度;健康または機能の強化が望まれる個々の器官、組織、または身体系;患者の体重、伸長、年齢、および健康状態;ならびに投与経路を含むがこれらに限定されない多くの要因に依存して異なり得る。処置の処方、例えば用量の決定等は、総合診療医および他の医学博士の管轄であり、典型的に、処置したい障害、各患者の状態、送達部位、投与方法およびその他の医師に公知の要因を考慮する。
【0123】
本明細書で用いられる場合、「美容有効」量または用量は、対象に投与された場合に、美容的利益を対象に提供することができる化合物または組成物の量または用量である。
【0124】
特定の態様において、治療的および/または美容的利益は、疾患、障害または状態、例えば皮膚の自然免疫の機能異常、細菌感染、代謝機能異常、炎症および/またはがん、の処置および/または予防である。特定の態様において、治療的および/または美容的利益は、皮膚の外観および/または質感の改善である。
【0125】
いくつかの態様において、組成物および方法は、Qi611Sタンパク質を産生することができる細胞の生物学的に純粋な培養物を利用する。細胞は、SEQ ID NO:2を保有する微生物、例えば、L.ファーメンタムQi6であり得、および/または細胞は、Qi611Sタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列、例えばSEQ ID NO:2を有するよう操作された組み換え細胞であり得る。例示的な態様において組み換え細胞は、大腸菌BL21または大腸菌C43である。
【0126】
特定の態様において、細胞は、プランクトン様およびバイオフィルムの両方の表現型で成長することができる細菌株である。1つの態様において、細胞は、凍結乾燥(lyophilized)、凍結乾燥(freeze dried)、および/または溶解産物形態である。
【0127】
1つの態様において、タンパク質は、抽出され得、そして任意で、本組成物および方法において使用する前に細胞培養物から精製され得る。本明細書で用いられる場合、「抽出する」という用語は、1つまたは複数の所望の化合物を得るよう細胞培養物を処理することを指す。処理には、例えば、例えばろ過、遠心分離、超音波処理、加圧処置、放射線処置、溶解、溶媒または他の化学物質による処置、およびこれらの処置の組み合わせを含む、物理的および/または化学的処置が含まれ得る。得られる抽出物は、例えば、上清、例えば遠心分離を通じて生成される上清の形態であり得る。抽出物はまた、遠心分離を通じて得られる細胞塊を含み得る。細胞は、インタクトであってもインタクトでなくてもよく、生きていても生きていなくてもよい。抽出物は、細胞膜成分および/または細胞内成分を含み得る。特定の態様において、抽出物は、少なくとも80、85、90、または95重量%が細胞塊である。特定の他の態様において、抽出物は、少なくとも80、85、90、または95重量%がタンパク質である。
【0128】
本明細書において提供される組成物は、単回(単位)用量の細胞、もしくは溶解産物、またはそれらから抽出されたタンパク質を含み得る。いくつかの態様において、本発明にしたがう組成物は、少なくとも約0.01重量%~約100重量%のQi611Sタンパク質、または少なくとも約0.05重量%、約0.1重量%、約0.2重量%、約0.3重量%、約0.4重量%、約0.5重量%、約0.6重量%、約0.7重量%、約0.8重量%、約0.9重量%、約1.0重量%、約1.5重量%、約2.0重量%、約3.0重量%、約4.0重量%、約5.0重量%、約6.0重量%、約7.0重量%、約8.0重量%、約9.0重量%、約10.0重量%、約11.0重量%、約12.0重量%、約13.0重量%、約14.0重量%、約15.0重量%、約16.0重量%、約17.0重量%、約18.0重量%、約19.0重量%、約20.0重量%、約25.0重量%、約30.0重量%、約35.0重量%、約40.0重量%、約45.0重量%、約50.0重量%、約55重量%、約60重量%、約65重量%、約70重量%、約75重量%、約80重量%、約85重量%、約90重量%、約95重量%、または約99重量%の用量のQi611Sタンパク質を含み得る。
【0129】
いくつかの態様において、組成物は、少なくとも約0.01重量%~約30重量%、約0.01重量%~約20重量%、約0.01重量%~約5重量%、約0.1重量%~約30重量%、約0.1重量%~約20重量%、約0.1重量%~約15重量%、約0.1重量%~約10重量%、約0.1重量%~約5重量%、約0.2重量%~約5重量%、約0.3重量%~約5重量%、約0.4重量%~約5重量%、約0.5重量%~約5重量%、約1重量%~約5重量%の用量のQi611Sタンパク質を含み得る。
【0130】
細菌(インタクト、溶解された、または抽出された)の適切な用量は、104~1012 CFU、例えば、104~1010、105~108、106~1012、106~1010、または106~108 CFUの1つの範囲であり得る。本発明の目的のために、CFUという略語は、寒天プレート上の微生物数によって示される細菌細胞数と定義される「コロニー形成単位」を指定する。
【0131】
特定の態様において、Qi611Sタンパク質および/またはQi611Sタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む細胞は、直接的にまたは間接的に、例えば、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)、いくつか挙げると、PPARα、PPARβ/δ、および/もしくはPPARγ、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK 1/2)、ならびにグルココルチコイド受容体(GR)から選択される1つまたは複数の分子の発現を誘導し得るならびに/またはそれらのアゴニストとして作用し得る。
【0132】
いくつかの態様において、Qi611Sタンパク質および/またはQi611Sタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む細胞は、直接的にまたは間接的に、PPAR、ERKおよび/またはGRの作用を阻害し得る。
【0133】
PPAR、ERKおよびGRの調整は、例えば、がん細胞の増殖、遺伝子の転写、細胞のアポトーシス、バイオフィルムの阻害、代謝の調整、炎症、および細菌細胞の成長に対する下流効果を有し得る。したがって、特定の態様において、本組成物は、細菌感染、代謝機能異常、炎症および/またはがんを処置または予防するために使用され得る。
【0134】
「誘導する」は、本明細書で用いられる場合、例えば、関心対象の受容体タンパク質もしくはキナーゼをコードする遺伝子の発現を増加もしくは増強すること、および/または、それ以外の様式で、例えば連結、リン酸化、脱リン酸化、および/または構造修飾を通じて特定の系において受容体タンパク質もしくはキナーゼの活性を増加もしくは増強することを含み得る。例示的な態様において、Qi611Sは、ヒトにおいてPPARγ発現をコードする遺伝子であるPPARGを誘導し得る。
【0135】
「アゴニスト」は、典型的にそれが受容体に結合した後に作用する物質である。多くの場合、受容体はタンパク質である。単一のアゴニストがシグナルのカスケードを引き起こすことがあり、その中で受容体に対するアゴニストの最初の結合が一連の受容体活性化を引き起こし得る。アゴニストは、単一の受容体に対して一緒に作用し得る。異なるアゴニストは、同じ受容体に結合し得るが、異なるレベルの活性化を引き起こし得る。
【0136】
Qi611Sタンパク質が特定のタンパク質の発現を誘導するまたはそのアゴニストとして作用するかどうかは、そのタンパク質が相互作用する前後関係、例えば関与する生物学的経路もしくは代謝経路、関与する細胞型(例えば、細菌、がんもしくは免疫細胞)および/またはPPAR、ERKもしくはGRのリン酸化もしくは他のリガンド修飾に依存し得る。
【0137】
がんの処置
PPAR受容体は正常な細胞の分化およびターンオーバーの調節を助ける、したがって潜在的にがん細胞の過剰増殖を調節し得ることから、この受容体は、悪性疾患において有用な治療標的となることが示されている(Qian Gou, Xin Gong, Jianhua Jin, Juanjuan Shi, and Yongzhong Hou. Peroxisome proliferator-activated receptors (PPARs) are potential drug targets for cancer therapy. Oncotarget. 2017 Sep 1; 8(36): 60704-60709)。この観点で、それは、アジュバントとしてまたは様々ながんに対する単独の治療剤として使用され得る。
【0138】
特定の態様において、本発明は、がん細胞の増殖を減少させる、なくす、抑制する、および/または予防するための組成物および方法を提供する。いくつかの態様において、本発明は、がん処置またはがん予防の他の方法、例えば放射線療法または化学療法と組み合わされ得る。
【0139】
本明細書で用いられる場合、「がん」という用語は、異常な成長特性、例えば制御されない増殖、不死、転移能、急速な成長および増殖速度、混乱した発がんシグナル、ならびに特定の特有の形態学的特徴を有する細胞が存在することを指す。がん細胞は典型的に、定義上は「悪性」であるが、本発明は、良性の腫瘍の処置においても有用であり得る。がんの非限定的な例には、がん腫、肉腫、黒色腫、リンパ腫、および白血病が含まれる。特定の具体的態様において、本発明にしたがい処置可能ながんには、乳房、肝臓、GI管(食道、胃、腸/結腸)、皮膚、肺、膵臓および前立腺のがん、例えば固形腫瘍が含まれる。また、血液がん、例えば多発性骨髄腫および白血病(ヒ素ベースの化学療法を用いる急性前骨髄球性白血病アジュバント)も処置され得る。
【0140】
がん細胞周期は、例えば、前期、前中期、中期、後期またはG1、S、G2もしくはMを含む任意の間期段階を含む分裂期で停止され得る。
【0141】
例示的な態様において、PPARγの誘導および/またはアゴニズムは、成長、発生および代謝、ならびに増殖、生存、細胞遊走および分化等の細胞プロセスに関与する、偏在的なインスリン成長因子(IGF)系において重要な役割を果たし得る。IGF系の調整は、増殖を強化するためにしばしばIGF系の様々な局面を乗っ取るがんの処置に重要であり得る。
【0142】
IGF系においては、いくつかの細胞状況で、PPARγリガンドがマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MEK 1/2)系を低下させ、これによりERK1/2を通じたPPARγのリン酸化が阻害される。他の状況では、PPARγアゴニストがERK1/2を活性化し得る。活性化されたERK1/2はさらに、Ser84/114で、ERKを通じたPPARγのリン酸化をもたらし得る。PPARγのリン酸化は、例えば、転写調節遺伝子の発現に影響し得る。
【0143】
特定の態様において、Qi611Sタンパク質は、PPARγの発現および/または活性を誘導し得、したがってMEK1/2作用を低下させPPAR-γのERK1/2を通じたリン酸化を阻害し得る。特定の態様において、Qi611Sは、アゴニストまたはリガンドとして、PPARγに結合し得またはそれ以外の様式で相互作用し得、ERK1/2の直接的な活性化およびPPARγのリン酸化をもたらし得る。
【0144】
特定の態様において、本組成物は、PPARγの発現および/または活性を強化するQi611Sタンパク質の能力により、特定のがんを処置するのに有用であり得る。
【0145】
特定の乳がんにおいて、PPARγは、主として脂肪細胞、胎盤および乳腺上皮により産生され、代謝、生殖プロセス、免疫プロセス、血管新生、造血および脂質の酸化の制御において重要な役割を果たすホルモンであるレプチンと相互作用する。レプチンは、アポトーシス促進シグナル伝達経路を阻害することによりおよびエストロゲンに対するインビトロ感受性を示すことにより乳がん細胞の増殖を増強する。レプチンはまた、細胞外環境の調整、アポトーシスの下方調節および/または抗アポトーシス遺伝子の上方調節を含む複数の機構を通じて乳腺腫瘍の成長を促進し得る。
【0146】
より詳細に、PPARγは、乳がんにおいてレプチンの機能および発現に反対作用し得る。レプチンは、キナーゼ活性化のカスケードを通じてGRのリン酸化を増加させ、pGRの核移行を促進する。pGRは、GUリッチエレメント(GRE)モチーフに結合することによりレプチンプロモーターの転写を刺激する。ベンゾジアゼピン受容体リガンド(BRL)の存在下で、PPARγはGREに結合してpGR/PPARγ複合体を形成し、核共受容体であるNCoRおよびSMRTの動員を可能にし、これらがレプチンの転写を阻害し、乳房腫瘍の成長を減少させる。
【0147】
特定の態様において、Qi611Sタンパク質は、特定の細胞系でGRおよび/またはpGRを誘導し得る。特定の態様において、Qi611Sタンパク質は、GRおよびPPARの発現を同時に誘導し得、これはがん系における腫瘍成長、例えば特定の乳房腫瘍のレプチンを通じた成長を減少させるのに有用であり得る。したがって、本発明の組成物および方法は、がんを処置するおよび/またはがんの拡散を予防するのに有用であり得る。
【0148】
抗炎症活性および免疫調整
いくつかの態様において、Qi611Sタンパク質および/またはQi611Sタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む細胞は、炎症に関与する皮膚自然免疫ペプチドおよび/またはサイトカイン(例えば、PPARγ、インターロイキン-10(IL-10)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、PERK、toll様受容体(TLR)、および/またはフィラグリン)の発現を調整し得る。したがって、特定の態様において、本組成物および方法は、皮膚およびその他の自然免疫機能を強化するために使用され得る。したがって、1つの態様において、本組成物および方法は、皮膚の健康および/または外観を改善するために使用され得る。他の態様において、組成物および方法は、皮膚バリアタンパク質の発現を上方調節することにより皮膚バリア機能を強化し得る。
【0149】
潜在的に改善された安全性プロフィールおよびグルココルチコイド曝露の完全な回避の可能性が理由で、GRおよびPPAR活性化化合物の用途は広く、本質的に、それは現在GCが使用されているあらゆる状況に存在する。例えば、呼吸器疾患においては、GCの副作用またはGCがGRの内部移行を誘導する状態であるステロイドのタキフィラキシーなしに炎症を減少させることが求められているが、急性炎症期のグルココルチコイド受容体(GR)の活性化は急性炎症期の肺の機能および生存にとって重要である(Wepler M, Preuss JM, Merz T, Hartmann C, Wachter U, McCook O, Vogt J, Kress S, Groger M, Fink M, Scheuerle A, Moller P, Calzia E, Burret U, Radermacher P, Tuckermann JP, Vettorazzi S. Impaired Glucocorticoid Receptor Dimerization Aggravates LPS-Induced Circulatory and Pulmonary Dysfunction. Front Immunol. 2020 Jan 23;10:3152)。
【0150】
有利なことに、本発明の組成物は、全身的にまたは局所的に投与され得、免疫抑制を含む副作用を軽減する必要とされるグルココルチコイドの用量を減少させるために使用され得る。
【0151】
皮膚科学的使用
ヒトの皮膚は、深部区画(真皮)および表面区画(上皮)の2つの区画を含む。皮膚は、外部からの攻撃、特に化学的、機械的、または感染的攻撃に対するバリア、ならびに環境因子、例えば天候、紫外線、およびタバコ、ならびに/または生体異物因子、例えば微生物に対する多くの防御反応を構成する。この特性は、皮膚バリア機能と称され、主として上皮の最外層、すなわち角質層により提供される。このバリアの有害な変化は、例えば、皮膚の不快感、感覚現象および/または皮膚の乾燥により反映され得る。
【0152】
皮膚科学分野においても、組織バリアを損傷しないGR活性化因子が求められている。GCの使用は、バリア機能の損傷およびバリアタンパク質産生の減少をもたらす(Hatano Y, Elias PM, Crumrine D, Feingold KR, Katagiri K, Fujiwara S. Efficacy of combined peroxisome proliferator-activated receptor-α ligand and glucocorticoid therapy in a murine model of atopic dermatitis. J Invest Dermatol. 2011 Sep;131(9):1845-52)。したがって、現在のGC局所処置と異なり、GRを活性化することができる非GC化合物は、長期にわたり、全身的におよび薄い皮膚の領域上、例えば顔および手を含む、局所的に使用され得る。さらに、この特有のペプチドが作用し得るPPARガンマリガンドによりアンジオテンシン受容体が活性化され得る。多くのウイルスは、侵入手段として細胞表面上のアンジオテンシン変換酵素受容体(ACE-R)を使用する。PPARリガンドはまた、アンジオテンシン変換酵素受容体に対して直接的にまたはそのシグナル伝達経路を通じて間接的に作用し得る。
【0153】
特定の態様において、本発明の組成物および方法は、例えば、特定の細胞系において細胞のアポトーシス、細胞周期の停止、プログラム細胞死、および/または組織のがん細胞浸潤を調整し得るPPARγおよび/またはpERKを誘導または阻害することにより、バリア機能の低下を予防するためにおよび/またはバリア機能を修復もしくは再生するために有用である。
【0154】
皮膚および/または粘膜バリア(例えば、顔、体、および頭皮)の混乱に関連する障害には、乾癬、魚鱗癬、サルコイドーシス、アテローム性動脈硬化症、炎症性腸疾患、ざ瘡(化膿性汗腺炎を含む)、熱傷、おむつかぶれ、ネザートン症候群、日光角化症、皮膚真菌症、皮膚病または外胚葉形成不全症、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、尋常性、好酸球性食道炎、フィラグリン欠乏症、ならびに皮膚および/または粘膜バリアの損傷または破壊に関連する他の障害が含まれるがこれらに限定されない。
【0155】
いくつかの態様において、バリアの修復または再生には、粘膜の修復または再生が含まれる。粘膜には、口(頬、軟口蓋、舌の下表面および口底を含む舌の粘膜を含む)、鼻、喉(咽頭、喉頭、気管および食道の粘膜を含む)、気管支、肺、眼、耳、胃腸管、膣、陰茎、尿道、膀胱、ならびに肛門の粘膜が含まれる。
【0156】
1つの態様において、本発明の組成物は、乾燥した顔の皮膚を含む、乾燥肌を処置するために使用され得る。組成物は、リーブ・オン(leave-on)、リンス・オフ(rinse-off)および/またはミスト(フェイシャルミストを含む)として製剤化され得る。
【0157】
活性作用物質、例えばQi611Sタンパク質は、0.01%~2%、または、例えば0.1~0.5%を含む、その間の任意の範囲で存在し得る。
【0158】
母体-胎児薬
本発明の組成物および方法は、
子癇前症、
妊娠糖尿病、
子癇、
低出生時体重、
正常妊娠、
子宮内発育遅延(IUGR)、
壊死性腸炎、および
早産
の処置におけるものを含む、母体および胎児の健康を改善するために使用され得る。
【0159】
神経学的状態
本発明の組成物および方法は、
認知能力向上、
アルツハイマー病、
パーキンソン病、
神経変性症、および
多発性硬化症
の処置におけるものを含む、神経学的状態を改善するために使用され得る。
【0160】
心血管状態
本発明の組成物および方法は、
冠動脈疾患、
医療デバイスとしての全身送達およびステント内送達、
急性脳血管イベント、ならびに
医療デバイス +/- TPAとしての全身送達およびステント内送達
の処置におけるものを含む、心血管状態を改善するために使用され得る。
【0161】
進行性線維症状態
前臨床研究は、PPAR受容体が抗線維症治療の薬物標的となる可能性を示唆した(McVicker BL, Bennett RG. Novel Anti-fibrotic Therapies. Front Pharmacol. 2017 May 31;8:318)。治療は、全身性であり得、吸入もしくはそれ以外の方法で局所投与され得、またはステント内医療デバイスを通じて送達され得る。対処され得る状態には、
心血管(心臓リモデリング)、
腎臓(腎硬化症)、
鼻(鼻ポリポーシス)、
肺(肺間質性線維症、気道リモデリングを伴う慢性ぜん息)、
肝臓(原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、非アルコール性脂肪性肝炎)、
胃腸(炎症性腸疾患関連線維症)、および
リウマチ(全身性強皮症)
が含まれる。
【0162】
胃腸炎症状態
炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎およびクローン病)もまた、本発明の組成物および方法を用いて処置され得る。
【0163】
感染の処置
特定の態様において、本発明の組成物および方法は、急性および慢性感染の処置においても使用され得る。感染は、疾患を引き起こす微生物が身体の組織に侵入する場合に生じる。そのような微生物およびそれらが産生する毒素は、身体の組織と反応して、感染宿主による免疫応答を引き起こす場合が多い。感染は、細菌、ウイルス、ウイロイド、真菌、および他の寄生虫によって引き起こされ得る。感染は、身体の組織のいずれか、例えば皮膚、腸、または膜を介して生じ得る。
【0164】
1つの態様において、Qi611Sタンパク質は、ウイルス感染の予防的または一次的処置としてウイルス負荷接種物およびACE-Rを通じた競合的アンタゴニズムを減少させる手段として、様々な製剤において使用され得る。
【0165】
ウイルス感染には、例えば、集団内に偏在しており、かつ免疫監視の減少に関連する、インフルエンザ、コロナウイルス、慢性エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス、および他のヘルペス型ウイルスの感染が含まれ得る。いくつかのウイルス感染は、がんを引き起こし得る。例えば、エプスタイン・バーウイルス感染は、リンパ球のがんであるホジキンリンパ腫のリスク因子となり得る。
【0166】
COVID-19を含むウイルスの呼吸器感染に関連する急性的および慢性的な肺の後遺症の予防および処置。
【0167】
この組成物および方法は、ぜん息およびCOPDにおけるグルココルチコイド耐性の予防および処置にも使用され得る。
【0168】
具体的態様において、本発明は、身体の外表面、特に皮膚の感染の処置および/または予防のための組成物および方法を提供する。本明細書において提供されるタンパク質、組成物および細胞は、感染因子への曝露に対して別々に、連続してまたは同時に適用され得る。
【0169】
特定の態様において、感染は、細菌、例えば病原性黄色ブドウ球菌細菌により引き起こされ得る。黄色ブドウ球菌は、主に身体の湿った温かい領域、例えば鼠径部、腋窩、および前鼻孔における、皮膚の一過性生着菌である。世界の人口の最大60%が断続的な保因者である一方、別の20%には安定して定着している可能性がある。通常の保因者は無症候性であるが、黄色ブドウ球菌は組織に侵入する可能性があり(例えば、傷ついた皮膚を通して)、そこで比較的軽微な膿痂疹および熱傷様皮膚症候群から、生命を脅かす状態、例えば敗血症に及ぶ疾患を引き起こす。さらに、黄色ブドウ球菌感染は、根底にある状態、例えばアトピー性皮膚炎(AD)を有する皮膚における二次的現象である場合が多い。
【0170】
特定の態様において、本発明の組成物は、スタフィロコッカス属種(スタフィロコッカス・サプロフィティクス(Staphylococcus saprophyticus)、スタフィロコッカス・キシロサス(Staphylococcus xylosus)、スタフィロコッカス・ルグデュネンシス(Staphylococcus lugdunensis)、スタフィロコッカス・シュレイフェリ(Staphylococcus schleiferi)、スタフィロコッカス・カプラエ (Staphylococcus caprae)、スタフィロコッカス・サプロフィティクス、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)、黄色ブドウ球菌)、シュードモナス属種、フェカリス菌(Enterococcus faecalis)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、セレウス菌(Bacillus cereus)、枯草菌(Bacillus subtilis)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyrogenes)、ストレプトコッカス・サリバリウ(Streptococcus salivariu)、ミュータンス菌(Streptococcus mutans)、および肺炎球菌(Streptococcus pneumonia)を含むがこれらに限定されない、多くの病原性細菌による感染の処置に有用である。他の病原性細菌は、当業者によって容易に認識されるであろう。
【0171】
いくつかの態様において、Qi611Sタンパク質および/またはQi611Sタンパク質を産生することができる細胞を含む組成物は、ヒトの皮膚の微生物叢において片利共生細菌の成長を促進する利点を有する。片利共生細菌の非限定的な例には、スタフィロコッカス・エピダーミディス(Staphylococcus epidermidis)、スタフィロコッカス・ワルネリ(Staphylococcus warneri)、スタフィロコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)、コリネバクテリウム属種、およびアシネトバクター・ジョンソニ(Acinetobacter johnsonii)が含まれるがこれらに限定されない。
【0172】
眼科的使用
眼科分野において、眼の組織を損傷しない、眼圧を上昇させない、または緑内障もしくは白内障の形成を促進しない非GC GR活性化因子が求められている。これらはすべて、GC使用の既知の合併症である。PPAR活性化と組み合わせた非GC GR活性化因子は、眼の炎症および眼の疾患の局所的および眼内処置において特に使用され得る。PPARシグナルは、マイボーム腺、結膜ゴブレット細胞、角膜上皮幹細胞、線維柱帯網、ブドウ膜組織および脈絡膜を含む様々な眼組織タイプの生成および維持にとって重要な活性化経路である。さらに、この特有のペプチドが作用し得るPPARガンマリガンドによりアンジオテンシン受容体が活性化され得る。
【0173】
したがって、本発明のQi611Sタンパク質は、有利なことに、
糖尿病網膜症(DR)、
脈絡膜血管新生(CNV)、
緑内障、
角膜血管新生、
糖尿病黄斑浮腫、
加齢黄斑変性(ARMD)、
糖尿病血管新生、
角膜炎、
角膜上皮幹細胞疲弊症(corneal limbal stem cell failure)、
視神経症、
ドライアイ病、
マイボーム腺機能不全、および
アレルギー性結膜炎
の予防および/または処置に使用され得る。
【0174】
表面の処置
特定の態様において、本組成物は、ヒトまたは動物の身体の医療処置用ではない抗微生物洗浄製品または表面コーティングとして利用され得る。したがって、具体的態様において、本組成物は、無生物表面を消毒するために使用され得る。
【0175】
対象への投与
本発明は、治療有効量または美容有効量のQi611Sタンパク質および/またはQi611Sタンパク質を産生することができる細胞を含む組成物がそれを必要とする対象に投与される、それを必要とする対象に治療的および/または美容的利益を提供する方法を提供する。いくつかの態様において、本組成物は、薬学的または美容的に許容される担体を含み得るおよび/またはそれと同時に投与され得る。
【0176】
1つの態様において、この方法は、皮膚科学的障害を処置するために、ならびに/または皮膚の健康および/もしくは外観を強化するために使用される。1つの態様において、この方法は、身体内もしくは身体上で、または無生物表面上で細菌、真菌またはウイルス感染または汚染を制御するために使用される。1つの態様において、この方法は、がんを処置するおよび/またはその拡散を予防するために使用される。1つの態様において、この方法は、炎症および/または代謝機能異常を処置するために使用される。
【0177】
組成物は、処置したい状態に依存して、単独でまたは他の処置と同時にもしくは連続的にのいずれかで組み合わせて投与され得る。本明細書において提供される組成物は、1つまたは複数の他の活性または不活性成分に溶解、懸濁、または混合され得る。特定の態様において、組成物は、食品、カプセル、ピル、飲用液体、ローション、クリーム、乳濁液、軟膏、オイル、ジェル、セラム、ミスト、ヴェイパー、および/またはそれらの組み合わせとして製剤化され得る。組成物はまた、リポソームまたは他の微粒子中に存在し得る。
【0178】
本明細書において提供される組成物はまた、担体、アジュバント、賦形剤、希釈剤、充填剤、緩衝剤、保存剤、抗酸化剤、潤滑剤、安定化剤、可溶化剤、サーファクタント(例えば、湿潤剤)、マスキング剤、着色剤および以下に記載されるその他を含むがこれらに限定されない当業者に公知の他の薬学的に許容されるおよび/または美容的に許容される成分を含み得る。製剤はさらに、例えば他の治療または予防剤を含む他の活性作用物質を含み得る。
【0179】
本明細書において提供される場合、「薬学的に許容される」とは、米国連邦政府もしくは州政府の規制当局によって認可されているもしくは認可され得るということ、またはヒトを含む動物に使用するための米国薬局方もしくは他の一般に認識されている薬局方に掲載されているということを指す。
【0180】
本明細書で用いられる場合、「美容的に許容される」、「皮膚科学的に許容される」、および「局所的に許容される」は、言い換え可能に使用され、特定の成分が、利用されるレベルでの外皮(例えば、皮膚)に対する適用に関して安全かつ非毒性であることを意味することが意図されている。1つの態様において、組成物の成分は、概ね安全とみなされる(Generally Regarded as Safe;GRAS)と認識される。
【0181】
「薬学的に許容される」および「美容的に許容される」担体またはアジュバントは、それぞれその薬学的または美容的活性を妨げずに活性成分と共に対象に投与することができ、治療または美容量の本明細書において提供される組成物を送達するのに十分な用量で投与されたときに非毒性であるものである。本明細書で用いられる場合、「担体」には、賦形剤が含まれる。
【0182】
担体および/またはアジュバントは、例えば経口投与、注射(例えば、皮下(subcutaneous)、静脈内、筋内、腹腔内、髄腔内、および/もしくは皮下(subdermal))、ならびに/または局所投与(例えば、皮膚吸収を通じた)を含む個々の経路にしたがい組成物を投与するために使用される物質を含み得る。
【0183】
本発明にしたがう担体には、任意かつすべての溶媒、希釈剤、緩衝剤(例えば、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、または任意にTris-HCl、酢酸、もしくはリン酸緩衝液)、水中油型または油中水型乳濁液、例えばIV使用に適した有機共溶媒を含むかまたは含まない水性組成物、可溶化剤(例えば、ポリソルベート65、ポリソルベート80)、コロイド、分散媒、媒体、充填剤、キレート剤(例えば、EDTAまたはグルタチオン)、アミノ酸(例えば、グリシン)、タンパク質、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、香味剤、芳香剤、増粘剤(例えば、カルボマー、ゼラチン、またはアルギン酸ナトリウム)、コーティング剤、保存剤(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール、ポリクアテリウム (polyquaterium))、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、浸透圧調節剤、吸収遅延剤、アジュバント、増量剤(例えば、ラクトース、マンニトール)等が含まれ得る。医薬、美容品およびサプリメントの分野における担体および/または賦形剤の使用は、周知である。
【0184】
1つの態様において、この方法は、皮膚科学的障害を処置するために、ならびに/または皮膚の健康および/もしくは外観を強化するために使用される。
【0185】
好ましい態様において、組成物は、局所投与のために、特に皮膚に対するまたは皮膚上での使用または適用のために製剤化される。本明細書で用いられる場合、「局所的」は、皮膚に対する外的な限局的適用または皮膚適用に適していることを意味する。言い換えると、局所的組成物は、経口、静脈内、筋内、髄腔内、皮下、舌下、口腔内、直腸、膣、吸入、眼または耳経路を通じた対象への適用が意図されていない。
【0186】
そのような製剤は、生物学的もしくは非生物表面上での、病原性細菌、例えばMRSAの除去、殺傷、もしくはそれらの接着および蓄積の予防、または感染性細菌の活動もしくは成長の阻害に有用であり得る。
【0187】
局所、皮膚および/または経皮投与に適した製剤には、ジェル、ペースト、軟膏、クリーム、ローション、オイル、パッチ、接着プラスター、バンデージ、ドレッシング、デポー、セメント、グルー、リザーバ、リンス、スプレー、ドロップ、フォーム、粉末、スポンジ、テープ、ヴェイパー、チンキ、および経皮パッチが含まれるがこれらに限定されない。
【0188】
軟膏は典型的には、本明細書において提供される美容的組成物、およびパラフィン系または水混和性軟膏基剤から調製される。
【0189】
クリームは典型的には、本明細書において提供される美容的組成物、および水中油型クリーム基剤から調製される。望まれる場合、クリーム基剤の水相は、例えば、少なくとも約30% w/wの多価アルコール、すなわち2つもしくはそれ以上のヒドロキシル基を有するアルコール、例えば、プロピレングリコール、ブタン-1,3-ジオール、マンニトール、ソルビトール、グリセロール、ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物を含み得る。当業者によって容易に認識されるように、本発明にしたがう製剤はまた、他のアルコール、例えばイソプロピルアルコールまたはエタノールを含んでよく、また他のアルコールベースの製剤、例えばアルコールベースの手指消毒薬に及び得る。
【0190】
局所製剤は、皮膚または他の患部を通じた活性化合物の吸収または浸透を強化する化合物を含み得る。そのような皮膚浸透促進剤の例には、ジメチルスルホキシドおよび関連類似体が含まれる。
【0191】
乳濁液は典型的には、本明細書において提供される美容的組成物、および油相から調製され、それは単に乳化剤(さもなければエマルジェント(emulgent)として知られる)を任意に含んでよく、あるいはそれは少なくとも1つの乳化剤と脂肪もしくは油との、または脂肪および油の両方との混合物を含み得る。好ましくは、親水性乳化剤は、安定剤として作用する親油性乳化剤と共に含まれる。油および脂肪の両方を含めることも好ましい。総合すると、乳化剤は安定剤の有無にかかわらずいわゆる乳化ワックスを構成し、ワックスは油および/または脂肪と共に、クリーム製剤の油性分散相を形成するいわゆる乳化軟膏基剤を構成する。
【0192】
適切なエマルジェントおよび乳化安定剤には、Tween 60、Span 80、セトステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、およびラウリル硫酸ナトリウムが含まれる。薬学的乳濁液製剤に使用される可能性の高い大部分の油における活性化合物の溶解度は非常に低いと考えられるため、製剤に適した油または脂肪の選択は、所望の美容的特性の達成に基づく。したがって、クリームは好ましくは、チューブまたは他の容器からの漏出を避けるために適切な稠度を有する、べたつかず、非染色性であり、かつ洗浄可能な製品であるべきである。直鎖または分岐鎖の一塩基性または二塩基性アルキルエステル、例えば、ジイソアジペート(di-isoadipate)、ステアリン酸イソセチル、ヤシ脂肪酸のプロピレングリコールジエステル、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸デシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、またはCrodamol CAPとして知られる分岐鎖エステルの混合物が使用され得るが、最後の3つが好ましいエステルである。これらは、必要とされる特性に応じて、単独でまたは組み合わせて使用され得る。あるいは、高融点脂質、例えば白色軟パラフィンおよび/もしくは流動パラフィン、または他の鉱油が使用され得る。
【0193】
さらなる局所的成分には、例えば、皮膚軟化剤、例えば、カルナウバロウ、セチルアルコール、セチルエステルロウ、乳化ロウ、含水ラノリン、ラノリン、ラノリンアルコール、微結晶ワックス、パラフィン、ペトロラタム、ポリエチレングリコール、ステアリン酸、ステアリルアルコール、白色ミツロウ、または黄色ミツロウが含まれ得る。加えて、組成物は、保湿剤、例えばグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール液、および1,2,6ヘキサントリオール、または透過促進剤、例えばエタノール、イソプロピルアルコール、もしくはオレイン酸を含み得る。
【0194】
1つの態様において、この方法は、身体内もしくは身体上で、または無生物表面上で細菌、真菌またはウイルス感染または汚染を制御するために使用される。
【0195】
具体的態様において、組成物は、対象への投与、または対象の処置、または対象における使用に先立って、生体材料、インプラント、カテーテル、装具(ステント、弁、眼、補聴器、胃バンド、義歯、および人工関節置換物を含む)、手術器具、または他の医療デバイスを処置するための抗細菌組成物として使用され得る。
【0196】
抗細菌組成物は、細菌がコロニー形成しやすいかまたは細菌に曝露されやすい表面、例えば、手すり、食品調理面、台所の表面もしくは設備、テーブル、シンク、トイレ、または他の浴室機器を処置するのに有用であり得る。
【0197】
抗細菌組成物は、Qi611Sタンパク質および/またはQi611Sタンパク質を産生することができる細胞に加えて、洗浄剤、安定剤、陰イオンサーファクタント、香料、キレート剤、酸、アルカリ、緩衝剤、または界面活性剤等の薬剤を含み得る。そのような薬剤は、組成物の抗細菌特性を促進または強化し得る、例えば細菌を死滅させ得るもしくは阻害し得る、または洗浄した表面の再コロニー形成を予防し得る。
【0198】
いくつかの態様において、組成物は、他の非局所的経路を通じた、例えば、経口、静脈内、筋内、髄腔内、皮下、舌下、口腔内、直腸、膣、吸入、眼および/または耳経路を通じた投与用に製剤化される。投与は、全身的であり得る、および/またはそれは局所的、例えば、対象の身体の感染または腫瘍部位におけるものであり得る。
【0199】
1つの態様において、本組成物は、経口消費可能な製品、例えば食品、カプセル、ピル、または飲用液体として製剤化される。経口送達可能な健康増進化合物は、胃腸管におけるまたは口の粘膜への初期吸収を介して送達される任意の生理活性物質である。
【0200】
組成物はまた、例えば、静脈内、腹腔内、筋内、髄腔内、または皮下を含む注射を通じて投与されるよう製剤化され得る。組成物はまた、舌下に、口腔内に、直腸に、または膣に投与され得る。さらに、組成物は、鼻膜を通した吸収のために鼻にスプレーで噴霧され得、ネブライザーで噴霧され得、口もしくは鼻を通じて吸入され得、または眼もしくは耳に投与され得る。
【0201】
製剤には、例えば、経口消費可能な製品、乳濁液、錠剤、カプセル、粉末、フォーム、顆粒、溶液、スワブ、ドロップ、懸濁液、坐剤、注射液、吸入物、およびエアロゾルが含まれ得る。
【0202】
本発明にしたがう経口消費可能な製品は、消費、栄養、口腔衛生、または嗜好に適した任意の調製物または組成物であり、ヒトまたは動物の口腔に導入されて、一定期間そこに留まり、次いで嚥下されるか(例えば、すぐに消費可能な食物、もしくはピル)、または口腔から再び取り出される(例えば、チューインガムもしくは口腔衛生製品もしくは医療用洗口液)ことが意図された製品である。
【0203】
経口消費可能な製品には、加工、半加工、または未加工の状態でヒトまたは動物によって摂取されることが意図されたすべての物質または製品が含まれる。これはまた、その製造、処理、または加工中に経口消費可能な製品(特に食物および医薬製品)に添加され、ヒトまたは動物の口腔内に導入されることが意図された物質を含む。
【0204】
経口消費可能な製品はまた、ヒトまたは動物によって嚥下され、次いで未修飾の、調製された、または加工された状態で消化されることが意図された物質を含み得る。本発明にしたがう経口消費可能な製品はまた、製品と共に嚥下されることが意図された、または嚥下が予期されるケーシング、コーティング、または他のカプセル化物を含む。
【0205】
1つの態様において、経口消費可能な製品は、所望の経口送達可能な物質(例えば、Qi611Sタンパク質)を含有するカプセル、ピル、シロップ、乳濁液、または液体懸濁液である。1つの態様において、経口消費可能な製品は、水または別の液体と混合されて、飲用に適した経口消費可能な製品を生成することができる、粉末形態の経口送達可能な物質を含み得る。
【0206】
いくつかの態様において、本発明にしたがう経口消費可能な製品は、栄養または嗜好のために意図された1つまたは複数の製剤を含み得る。これらには、ベーキング製品(例えば、パン、乾燥ビスケット、ケーキ、およびその他のペストリー)、菓子(例えば、チョコレート、チョコレートバー製品、その他のバー製品、フルーツガム、コーティング錠、ハードキャラメル、トフィーおよびキャラメル、ならびにチューインガム)、アルコールまたはノンアルコール飲料(例えば、ココア、コーヒー、緑茶、紅茶、緑茶または紅茶の抽出物で強化された紅茶または緑茶飲料、ルイボスティー、その他のハーブティー、果実含有レモネード、アイソトニック飲料、ソフトドリンク、ネクター、果物および野菜ジュース、ならびに果物または野菜ジュース調製品)、インスタント飲料(例えば、インスタントココア飲料、インスタント茶飲料、およびインスタントコーヒー飲料)、肉製品(例えば、ハム、フレッシュまたは生ソーセージ調製品、および調味またはマリネした生肉または塩漬け肉製品)、卵または卵製品(例えば、乾燥全卵、卵白、および卵黄)、シリアル製品(例えば、朝食シリアル、ミューズリーバー、および調理済みインスタント米製品)、乳製品(例えば、全脂または低脂肪または無脂肪乳飲料、ライスプディング、ヨーグルト、ケフィア、クリームチーズ、ソフトチーズ、ハードチーズ、乾燥粉乳、ホエー、バター、バターミルク、および乳タンパク質を含有する一部または完全加水分解製品)、大豆タンパク質またはその他の大豆画分由来の製品(例えば、豆乳およびその調製品、単離または酵素処理された大豆タンパク質を含有する飲料、大豆粉含有飲料、大豆レシチンを含有する調製品、その豆腐またはテンペ調製品などの発酵製品、ならびに果物調製品および任意に香味物質との混合物)、果物調製品(例えば、ジャム、果物アイスクリーム、果物ソース、および果物フィリング)、野菜調製品(例えば、ケチャップ、ソース、乾燥野菜、急速冷凍野菜、調理済み野菜、およびゆで野菜)、スナック類(例えば、焼いたもしくは揚げたポテトチップ(クリスプ)、またはポテト生地製品、およびトウモロコシまたは落花生をベースとした押出物)、油脂またはその乳濁液をベースとした製品(例えば、マヨネーズ、レムラード、およびドレッシング)、その他の既製食事およびスープ(例えば、乾燥スープ、インスタントスープ、および調理済みスープ)、調味料(例えば、ふりかけ調味料)、甘味料組成物(例えば、錠剤、小袋、および飲料または他の食物を甘くするまたは白くするためのその他の調製品)が含まれる。本組成物はまた、栄養または嗜好のために意図されたその他の組成物の生成のための半製品として機能し得る。
【0207】
1つの態様において、組成物は、例えばネブライザーで噴霧するかまたは吸入できるように、エアロゾル製剤にすることができる。エアロゾルまたはスプレーの形態で投与するのに適した薬学的製剤は、例えば、液剤、懸濁剤、または乳剤である。経口もしくは経鼻のエアロゾルまたは吸入投与のための製剤はまた、例えば、生理食塩水、ポリエチレングリコールもしくグリコール、DPPC、メチルセルロースを含む例示的な担体を用いて、または粉末分散剤もしくはフルオロカーボンと混合して製剤化され得る。エアロゾル製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素、フルオロカーボン、および/または当技術分野で公知の他の可溶化剤もしくは分散剤などの加圧噴霧剤中に配置することができる。例示的には、送達は、単回使用の送達デバイス、ミストネブライザー、呼吸作動式粉末吸入器、エアロゾル定量吸入器 (MDI)、または当技術分野において利用可能な多数のネブライザー送達装置のうちの任意の他のものの使用によるものであってよい。加えて、ミストテント、または気管内チューブを介した直接投与を用いてもよい。
【0208】
1つの態様において、組成物は、例えば液剤または懸濁剤として、注射による投与のために製剤化することができる。液剤または懸濁剤は、適切な非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒、例えば、マンニトール、1,3-ブタンジオール、水、リンゲル液、もしくは等張塩化ナトリウム溶液、または適切な分散剤もしくは湿潤剤および懸濁剤、例えば合成モノグリセリドもしくはジグリセリドを含む無菌の非刺激性固定油、ならびにオレイン酸を含む脂肪酸を含み得る。静脈内使用のための担体の1つの例示的な例には、10% USPエタノール、40% USPプロピレングリコールまたはポリエチレングリコール600、および残部USP注射用水 (WFI) の混合物が含まれる。静脈内使用のための他の例示的な担体には、10% USPエタノールおよびUSP WFI;USP WFI中の0.01~0.1%トリエタノールアミン;またはUSP WFI中の0.01~0.2%ジパルミトイルジホスファチジルコリン;および1~10%スクアレンもしくは非経口水中植物油型乳濁液が含まれる。水または生理食塩水溶液ならびに水性デキストロースおよびグリセロール溶液は、好ましくは特に注射溶液のための担体として利用され得る。皮下または筋内使用のための担体の例示的な例には、リン酸緩衝生理食塩水 (PBS) 溶液、WFI中の5%デキストロースおよび5%デキストロース中の0.01~0.1%トリエタノールアミンもしくはUSP WFI中の0.9%塩化ナトリウム、または10% USPエタノール、40%プロピレングリコールの1:2もしくは1:4混合物、および残部が5%デキストロースもしくは0.9%塩化ナトリウムなどの許容可能な等張液であるもの;またはUSP WFI中の0.01~0.2%ジパルミトイルジホスファチジルコリンおよび1~10%スクアレンもしくは非経口水中植物油型乳濁液が含まれる。
【0209】
対象への投与のために企図されるさらなる製剤には、例えば耳および/もしくは眼の感染、ならびに/またはドライアイを処置するための、点耳剤および点眼剤が含まれる。
【0210】
眼への使用に関して、例示的な製剤を以下に示す。
等張性塩化ナトリウム溶液:
塩化ナトリウム 0.9%
塩化ベンザルコニウム 1:100,000
滅菌水
緩衝液
ホウ酸 1.9%
塩化ベンザルコニウム 1:100,000
亜硫酸ナトリウム、無水 0.1%
硝酸フェニル水銀 1:50,000
人工涙液:
ポリビニルアルコール 1.5%
ポビドン 0.5%
クロロブタノール 0.5%
エチレンジアミン四酢酸 0.01%
エデト酸二ナトリウム 0.05%
白色ワセリン 55%
鉱油 41%
ラノリン 2%
チメロサール 0.002%
酢酸アンモニウム 0.0077%
ヒトアルブミン 0.1%
媒体:平均点含量は25~50マイクロリットルである。
【0211】
当業者により決定されるさらなる成分、例えば緩衝液、担体、粘度調整剤、保存剤、香味剤、色素、および意図された用途に特化した他の成分が本明細書に記載される組成物に添加され得る。当業者は、上記記載が排他的なものではなく例示的なものであることを認識するであろう。実際、個々の投与様式に適した多くのさらなる製剤化技術ならびに薬学的および/または美容的に許容される賦形剤および担体溶液が当業者に周知である。
【0212】
本明細書で参照または引用されているすべての特許、特許出願、仮出願、および刊行物は、本明細書の明示的な教示と矛盾しない範囲で、すべての図面および表を含めて、それらの全体が参照により組み入れられる。
【実施例】
【0213】
本明細書に記載される実施例および態様は例示を目的としたものにすぎないこと、およびそれらに照らして様々な改変または変更が当業者に示唆され、本願の精神および目的の範囲に包含されることが理解されるべきである。
【0214】
実施例1 - Qi611S遺伝子の単離および大腸菌BL21への形質転換
Qi611Sをコードする遺伝子であるQi611Sをラクトバシルス・ファーメンタムQi6から単離し、大腸菌BL21に形質転換することができる。
図3に示されるように、大腸菌BL21は、Qi611Sタンパク質を合成することができる。
【0215】
LF Qi6からQi611Sを増幅するために使用したプライマーを用いて、大腸菌細胞におけるQi611Sの存在を確認することができる。pET-15bベクターへのQi611Sのクローニングに使用したプライマーが表2に列挙されている(
図1~2も参照のこと)。これらの特別に設計されたプライマーは、Integrated DNA Technologies(IDT)(Coralville, Iowa)から入手した。
【0216】
(表2)大腸菌BL21への形質転換のためのQi611Sのクローニングで使用したプライマー
【0217】
表2で特徴づけられるプライマーを用いて、Qi611SをコードするLf Qi6染色体からDNAを単離し増幅した。これらのプライマーは、増幅されたQi611S遺伝子の制限酵素消化のための2つの制限酵素NdeIおよびBamHI、ならびにpET-15bベクターのマルチクローニング部位の使用を可能にした。
【0218】
制限酵素を用いて増幅されたDNAおよびベクターを消化した後、Qi611S遺伝子をベクターに連結した。このベクターを、その後、大腸菌BL21に形質転換することができる。
【0219】
形質転換された大腸菌培養物を37℃で一晩生育し、PCRを用いて個々のコロニーをQi611Sの存在について試験する。陽性クローンを同定したら、Qi611SがQi611Sの合成を首尾よくコードするかを同定するために細菌を生育することができる。
【0220】
Qi611Sタンパク質は、SDS-PAGEゲル上での銀染色により検出することができる。SDS-PAGEゲルに、Qi611Sを発現する大腸菌BL21から放出されたタンパク質サンプルを充填する。pET-15bベクターは、Qi611Sに特異的な抗体を用いずに合成されたタンパク質を同定することを可能にするポリヒスチジンタグをコードしている。さらに、pET-15bは、ポリヒスチジンタグの除去を可能にするトロンビンプロテアーゼ切断部位(Leu-Val-Pro-Arg-Gly-Ser)をコードする。
【0221】
実施例2 - Qi611Sは皮膚においてPPARγを誘導する
エクスビボ皮膚培養物を、選択された濃度のQi611S(0.1%または0.5%)またはデキサメタゾン(10 mM)で処置し、100μlのMRSA培養物を植菌し、一晩生育した。その後、皮膚組織を均質化し、電気泳動を用いて放出されたタンパク質を分離し、ウェスタンブロットを用いて各サンプル中のPPARγの量を決定した。β-アクチンを参照タンパク質として使用した。皮膚細胞は、MRSAおよびQi611Sの存在下でより多くのPPARγを発現した(
図4A~4B)。
【0222】
また、エクスビボ皮膚培養物を、選択された濃度のQi611S(0、0.125、0.25、0.5、1.0、および2.0%)で処置し、一晩生育した。その後、皮膚組織を均質化し、電気泳動を用いて放出されたタンパク質を分離し、ウェスタンブロットを用いて各サンプル中のPPARγの量を決定した。β-アクチンを参照タンパク質として使用した。皮膚細胞は、概ね、Qi611Sの濃度が増加するほど、より多くのPPARγを発現した(
図5A~5B)。
【0223】
実施例3 - Qi611Sは皮膚においてPERK(リン酸化ERK1/2)を誘導する
エクスビボ皮膚培養物を、選択された濃度のQi611S(0.1%もしくは0.5%)またはデキサメタゾン(10 mM)で処置し、100μlのMRSA培養物を植菌し、一晩生育した。その後、皮膚組織を均質化し、電気泳動を用いて放出されたタンパク質を分離し、ウェスタンブロットを用いて各サンプル中のpERKの量を決定した。β-アクチンを参照タンパク質として使用した。皮膚細胞は、MRSAおよびQi611Sの存在下でより多くのpERKを発現した(
図6A~6B)。
【0224】
また、エクスビボ皮膚培養物を、選択された濃度のQi611S(0、0.125、0.25、0.5、1.0、および2.0%)で処置し、一晩生育した。その後、皮膚組織を均質化し、電気泳動を用いて放出されたタンパク質を分離し、ウェスタンブロットを用いて各サンプル中のpERKの量を決定した。β-アクチンを参照タンパク質として使用した。皮膚細胞は、0.25% Qi611Sで最も多くのpERKを発現した(
図7A~7B)。
【0225】
実施例4 - Qi611Sは皮膚においてpGRを誘導する
エクスビボ皮膚培養物を、選択された濃度のQi611S(1%、2%、または5%)で処置し、100μlのMRSA培養物を植菌し、一晩生育した。その後、皮膚組織を均質化し、電気泳動を用いて放出されたタンパク質を分離し、ウェスタンブロットを用いて各サンプル中のpGRの量を決定した。β-アクチンを参照タンパク質として使用した。
図8A~8Bに示されるように、皮膚細胞は、Qi611Sの存在下でより多くのpGRを発現した。
【0226】
実施例5 - Qi611SはゼブラフィッシュにおいてGR遺伝子の発現を誘導する
漸増濃度のQi611S(0、1、2、および5% (W/V))で処置されたときのゼブラフィッシュ細胞におけるGRをコードする遺伝子の発現レベルを、RT-qPCRを使用して測定した。qPCR用の組織外植片を液体窒素中で瞬間凍結させた。総RNAを単離および精製した。mRNAを単離および逆転写し、得られたcDNAを同定および定量した。mRNA発現レベルを、β-ミクログロブリン参照遺伝子に対して標準化した。結果は、ゼブラフィッシュにおいてQi611Sの存在がGRをコードする遺伝子の発現増加を誘導することを示している(
図9)。
【0227】
実施例6 - Qi611SはCaCo2細胞においてpGRを誘導する
CaCo-2細胞は、ヒト上皮結腸直腸腺がん細胞の株である。CaCo-2培養物を、選択された濃度のQi611S(0.125%、0.25%、0.5%、1%、および2%)で処置し、一晩生育した。その後、CaCo-2培養物を均質化し、ウェスタンブロットを用いて各サンプル中のpGRの量を決定した。β-アクチンが参照タンパク質として使用されている。
図10A~10Bに示されるように、Qi611Sは、CaCO-2細胞においてpGR発現を誘導する。
【0228】
実施例7 - Qi611SはMRSAのバイオフィルム形成を阻害する
MRSAバイオフィルムの阻害を評価するため、滅菌ポリスチレン組織培養プレートのウェルにMRSAを添加した。成長対照ウェルには、等量部のMRSAおよび培養培地を添加した。選択された濃度のQi611S(1.56、3.12、6.25、12.5、25、50、および100 ng/μL)または陰性対照(0 ng/μLのQi611S)を添加した。プレートを37℃で18時間インキュベートし、その後にバイオフィルムをクリスタルバイオレット染色により定量した。抗バイオフィルム効果の程度は、個々の処置されたウェルにおける直接的な目視および細菌成長の測定により表され、ここで成長半径が小さいほど、その特定の化合物の抗バイオフィルム効果は高い。各プレートを、分光光度計(SpectraMax Plus384, Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を用いて590 nmおよび600 nmで読み取った。Qi611Sは、MRSAのバイオフィルム形成を有意に阻害することができた(
図11)。
【0229】
【配列表】
【国際調査報告】