(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-13
(54)【発明の名称】方法
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20230606BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230606BHJP
C12N 15/24 20060101ALI20230606BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230606BHJP
C12N 15/19 20060101ALI20230606BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230606BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230606BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230606BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230606BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20230606BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230606BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20230606BHJP
C07K 14/725 20060101ALN20230606BHJP
C12P 21/02 20060101ALN20230606BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20230606BHJP
C12N 5/078 20100101ALN20230606BHJP
A61K 38/20 20060101ALN20230606BHJP
A61K 47/65 20170101ALN20230606BHJP
A61K 47/68 20170101ALN20230606BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20230606BHJP
A61K 38/19 20060101ALN20230606BHJP
【FI】
A61K48/00
C12N5/10 ZNA
C12N15/24
C12N15/62 Z
C12N15/19
C12N15/63 Z
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K35/17
A61K35/15
A61P37/04
C07K19/00
C07K14/725
C12P21/02 C
C12P21/08
C12N5/078
A61K38/20
A61K47/65
A61K47/68
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K38/19
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568552
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(85)【翻訳文提出日】2022-12-20
(86)【国際出願番号】 GB2021051134
(87)【国際公開番号】W WO2021229218
(87)【国際公開日】2021-11-18
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517215973
【氏名又は名称】オートラス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】デラ ペルタ, マルコ
(72)【発明者】
【氏名】リーギ, マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】アグリアルディ, ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】プーレ, マーティン
(72)【発明者】
【氏名】コルドバ, ショーン
(72)【発明者】
【氏名】シリボーン, ジェイムズ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG03
4B064AG20
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
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4H045AA10
4H045AA11
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4H045CA40
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4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、細胞を対象に投与するステップを含む、固形がんを処置するための方法であって、細胞が、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列を含む、方法を提供する。本発明は、固形腫瘍における抗原の不均一性の問題に対処するための手法を提供する。本発明はまた、固形腫瘍の不利な微小環境においてCAR-T細胞などの免疫療法細胞を助け、生存し、持続させるための手法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を対象に投与するステップを含む、固形がんを処置するための方法であって、前記細胞が、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列を含む、方法。
【請求項2】
以下のステップ:
(i)対象から細胞試料を単離するステップ;
(ii)フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12をコードする核酸配列で、細胞試料由来の細胞をトランスフェクトまたは形質導入するステップ;および
(iii)ステップ(ii)からの形質導入またはトランスフェクトされた細胞を前記対象に投与するステップ
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
IL-12をコードする前記核酸配列が、「flexi-IL-12」:リンカーによって接合されたIL-12αサブユニットおよびIL-12βサブユニットの間の融合物をコードする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
flexi-IL-12が、配列番号1として示される配列を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
インターロイキン12(IL-12)をコードする前記核酸配列が、フレームスリップモチーフ(FSM)の下流であり、前記FSMが、ウラシル塩基、チミン塩基、またはグアニン塩基のリピートを含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記FSMが、配列UUUUUUU(配列番号2)を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記FSMが、終止コドンも含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記FSMが、以下の配列:
UUUUUUUGA(配列番号3)
UUUUUUUAG(配列番号4)
UUUUUUUAA(配列番号5)
の1つを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
インターロイキン12(IL-12)をコードする前記核酸配列が、配列STOP-CUAGまたはSTOP-CAAUUA(ここで、「STOP」は、終止コドンである)を含む翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流にある、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記翻訳リードスルーモチーフが、以下の配列:
UGA-CUAG(配列番号6)
UAG-CUAG(配列番号7)
UAA-CUAG(配列番号8)
UGA-CAAUUA(配列番号9)
UAG-CAAUUA(配列番号10)
UAA-CAAUUA(配列番号11)
の1つを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、腫瘍浸潤性免疫細胞である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記細胞が、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、NKT細胞、サイトカイン誘導キラー(CIK)細胞、単球、マクロファージ、または腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞が、キメラ抗原受容体(CAR)または操作されたT細胞受容体(TCR)を発現する、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記CARまたは操作されたTCRが、以下の標的抗原:ジシアロガングリオシド(GD2)、上皮性増殖因子受容体(EGFR)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、グリピカン3(GPC3)、ヒト上皮性増殖因子受容体(HER2)、L1CAM、ムチン1(MUC1)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)の1つに結合する、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、GD2に結合するCARを発現し、
a)以下の配列:
CDR1-SYNIH(配列番号12)
CDR2-VIWAGGSTNYNSALMS(配列番号13)
CDR3-RSDDYSWFAY(配列番号14)
を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH);および
b)以下の配列:
CDR1-RASSSVSSSYLH(配列番号15)
CDR2-STSNLAS(配列番号16)
CDR3-QQYSGYPIT(配列番号17)
を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL)
を含む抗原結合ドメインを有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞が、PSMAと結合するCARを発現し、
a)以下の配列:
CDR1-SSWMN(配列番号18)
CDR2-RIYPGDGDTNYAQKFQG(配列番号19)
CDR3-GTGYLWYFDV(配列番号20)
を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH);および
b)以下の配列:
CDR1-RASQDINENLA(配列番号21)
CDR2-YTSNRAT(配列番号22)
CDR3-QQYDNLPFT(配列番号23)
を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL)
を含む抗原結合ドメインを有する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞が、ドミナントネガティブSHP2および/またはドミナントネガティブTGFβ受容体も発現する、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記細胞が、キメラサイトカイン受容体も発現する、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記細胞が、1つまたは複数のさらなるサイトカインまたはケモカインも発現する、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記細胞が、以下:IL-7、IL-15、CCL19、CXCL12の1つまたは複数を発現する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞が、IL-7およびCCL19を発現する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞が、IL-15および/またはCXCL12を発現する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記またはそれぞれのさらなるサイトカインまたはケモカインをコードする核酸が、前記フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の上流に位置する、請求項19~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記またはそれぞれのさらなるサイトカインまたはケモカインをコードする核酸が、前記フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流に位置する、請求項19~22のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
小細胞肺がん(SCLC)、黒色腫、腎細胞がん(RCC)、肝細胞癌(HCC)、卵巣がん、膵臓がん、神経芽細胞腫、骨肉腫の処置のための、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記細胞が、標的抗原と結合するCARまたは操作されたTCRを発現し、固形腫瘍上の前記標的抗原の発現が、不均一である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
対象における抗腫瘍免疫応答のエピトープスプレッディングを誘導するための方法であって、先行する請求項のいずれかに定義される複数の細胞を前記対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項28】
対象における腫瘤への免疫細胞の浸潤を誘導するための方法であって、先行する請求項のいずれか一項に定義される複数の細胞を、それらが抗腫瘍免疫応答を誘導するように、前記対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項29】
固形がんの処置における使用のための細胞であって、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列を含む、細胞。
【請求項30】
固形がんを処置するための医薬の製造における細胞の使用であって、前記細胞が、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列を含む、使用。
【請求項31】
キメラ抗原受容体(CAR)を発現し、
フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列;および
1つまたは複数のさらなるサイトカインまたはケモカインをコードする1つまたは複数の異種核酸配列
を含む、細胞。
【請求項32】
前記1つまたは複数の異種核酸配列が、以下:IL-7、IL-15、CCL19、CXCL12の1つまたは複数をコードする、請求項25に記載の細胞。
【請求項33】
前記1つまたは複数の異種核酸配列が、IL-7およびCCL19をコードする、請求項25に記載の細胞。
【請求項34】
前記1つまたは複数の異種核酸配列が、IL-15および/またはCXCL12をコードする、請求項25に記載の細胞。
【請求項35】
1つまたは複数のさらなるサイトカインまたはケモカインをコードする前記異種核酸配列の1つまたは複数が、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の上流に位置する、請求項31~34のいずれかに記載の細胞。
【請求項36】
1つまたは複数のさらなるサイトカインまたはケモカインをコードする前記異種核酸配列の1つまたは複数が、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流に位置する、請求項31~34のいずれかに記載の細胞。
【請求項37】
(i)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列;および
(ii)フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列;
(vi)請求項32~36のいずれか一項に定義される1つまたは複数のさらなるサイトカインまたはケモカインをコードする1つまたは複数の核酸配列
を含む、核酸構築物。
【請求項38】
請求項37に記載の核酸構築物を含むベクター。
【請求項39】
請求項37に定義される1つまたは複数の核酸配列をそれぞれコードする、ベクターのキット。
【請求項40】
請求項31~36のいずれかに記載の細胞を作製するための方法であって、細胞を請求項37に記載の核酸構築物、請求項38に記載のベクター、または請求項39に記載のベクターのキットによりex vivoでトランスフェクトまたは形質導入するステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、インターロイキン-12(IL-12)を分泌するキメラ抗原受容体(CAR)発現細胞、例えば、CAR-T細胞に関する。IL-12コード配列は、IL-12が非常に低レベルで分泌されるように、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流に位置する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
腫瘍の不均一性は、異なる腫瘍細胞が、細胞形態学、遺伝子発現、代謝、運動性、増殖、および転移能を含む別個の形態的および表現型プロファイルを示し得るという観察を説明する。
【0003】
不均一性は、患者間、腫瘍間(腫瘍間不均一性)、および腫瘍内(腫瘍内不均一性)で生じる。遺伝的および非遺伝的変動の両方から生じる複数の種類の不均一性が、腫瘍細胞間で観察されている。
【0004】
腫瘍細胞間の不均一性は、腫瘍微小環境における不均一性に起因してさらに増加し得る。腫瘍中の領域差異(例えば、酸素の利用能)は、腫瘍細胞に対する異なる選択圧を課し、腫瘍の異なる空間領域におけるドミナントサブクローンのより広いスペクトルをもたらす。クローンの優位性に対する微小環境の影響は、多くの患者において見られる原発性腫瘍と転移性腫瘍との間の不均一性、ならびに同じ腫瘍型を有する患者間で観察される腫瘍間の不均一性についての可能性がある理由でもある。
【0005】
がん細胞の不均一性は、有効な処置戦略を設計する際にかなりの課題を導入する。
【0006】
例えば、異種遺伝子型腫瘍は、異なるクローン集団の中で、細胞傷害性薬に対する異なる感受性を示すことがある。これは、治療有効性を阻害または変更し得るクローンの相互作用のせいである。
【0007】
異種遺伝子型腫瘍における薬物投与は、すべての腫瘍細胞を死滅させることはほとんどない。最初の異種遺伝子型腫瘍集団が妨げとなる可能性があり、したがってほとんどの薬物抵抗性細胞が生存できなくなると予想される(生存したとしてもわずかである)。これは、抵抗性腫瘍集団が、分岐進化機構を通して新たな腫瘍を複製および成長するのを可能にする。生じた再増殖腫瘍は、不均一であり、使用された最初の薬物療法に対して抵抗性である。再増殖腫瘍はまた、より攻撃的な様式で再発し得る。
【0008】
したがって、固形腫瘍における抗原の不均一性の問題に対処するための代替手法についての必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
キメラ抗原受容体(CAR)
治療用モノクローナル抗体(mAb)、二重特異性T細胞エンゲージャーおよびキメラ抗原受容体(CAR)を含むいくつかの免疫療法剤が、がん処置における使用のために記載されている。
【0010】
キメラ抗原受容体は、モノクローナル抗体(mAb)の特異性をT細胞のエフェクター機能に移植するタンパク質である。それらの通常の形態は、抗原を認識するアミノ末端、スペーサー、T細胞の生存および活性化シグナルを伝達する複合エンドドメインにすべて接続された膜貫通ドメインを有するI型膜貫通ドメインタンパク質の形態である。
【0011】
これらの分子の最も一般的な形態は、シグナル伝達エンドドメインにスペーサーおよび膜貫通ドメインを介して融合された、標的抗原を認識するモノクローナル抗体に由来する一本鎖可変断片(scFv)の融合体である。そのような分子は、その標的のscFvによる認識に応答してT細胞の活性化をもたらす。T細胞がそのようなCARを発現すると、それらは、標的抗原を発現する標的細胞を認識し、死滅させる。いくつかのCARが、腫瘍関連抗原に対して開発されており、そのようなCAR発現T細胞を使用する養子移入手法は、現在、さまざまながんの処置のための臨床試験中である。
【0012】
これまでに、血液悪性腫瘍において、CAR T細胞は大いに成功している。B細胞抗原のCD19に対して標的化されるCARは、慢性リンパ芽球性白血病(CLL)を処置するために最初に成功裏に使用された。2017年8月に、FDAは、小児の再発性または難治性急性リンパ芽球性白血病(ALL)を処置するためのCART19(Kymriah)の使用を承認し、同年の10月に、別のCD19標的化CAR(Yescarta)が、成人の再発性または難治性大細胞型B細胞リンパ腫のためにFDAによって承認された。加えて、欧州医薬品庁(EMA)も2018年6月にこれらの薬物両方の使用を承認した。しかしながら、広範囲の研究にもかかわらず、固形腫瘍のためのCAR T細胞療法はほとんど成功していない。
【0013】
不利な腫瘍微小環境の克服
固形がんの細胞に基づく免疫療法的処置の成功のために克服することが必要な重要なハードルの1つは、腫瘍微小環境(TME)であり、これは、T細胞に不利なものとして広く特徴付けられている。このことは、CAR-T細胞に対して当てはまるが、腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)および操作されたT細胞受容体(TCR)を発現するT細胞を使用するなどの他の免疫療法手法にも当てはまる。
【0014】
腫瘍細胞の解糖代謝は、環境を、低酸素、酸性、低栄養、および酸化的ストレス傾向にする。炎症環境では、腫瘍細胞は、多くの場合、T細胞上の阻害性受容体に結合するプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)およびガレクチン-9などのリガンドを上方調節する。腫瘍微小環境は、間質細胞様のがん関連線維芽細胞(CAF)、ならびに骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)、腫瘍関連マクロファージ(TAM)、腫瘍関連好中球(TAN)、肥満細胞、および調節性T細胞(Treg)を含む抑制性免疫細胞にも依拠する。これらの細胞および腫瘍細胞は、血管内皮増殖因子(VEGF)およびトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)のような可溶性因子を分泌し、これは、異常な腫瘍血管系に寄与し、TAMおよび他の免疫細胞の抗炎症極性化を促進し、EMTに関わる。それらは、活性酸素種(ROS)、ならびにラクテート、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、プロスタグランジンE2(PGE2)、可溶性Fasおよびアデノシンのような分子も産生し、これは、T細胞免疫応答の抑制に寄与する。
【0015】
腫瘍環境をT細胞にとってより不利に極性化し、CAR T細胞のリクルートおよび機能性を改善するサイトカインの投与は、前臨床および臨床試験の両方で試験されている。炎症性免疫細胞のリクルートを誘導するIL-12の局所送達は、マウスにおける養子移入された抗VEGFR-2 CAR T細胞の抗腫瘍活性を増大することを示した。「武装」CARと称されるIL-12などのサイトカインを構成的に分泌するCAR T細胞は、固形腫瘍におけるT細胞の浸潤および機能を増強するように作出された。しかしながら、これらの手法は、以下の限界がある:サイトカインの全身投与は毒性であり得る;サイトカインの構成的産生は、未制御の増殖および形質転換をもたらすことがある(Nagarkatti et al (1994) PNAS 91:7638-7642;Hassuneh et al (1997) Blood 89:610-620)。
【0016】
したがって、固形腫瘍の不利な微小環境においてCAR-T細胞などの免疫療法細胞を助け、生存し、持続させるための代替手法についての必要性が存在する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】古典的なキメラ抗原受容体を示す概略図。(a)キメラ抗原受容体の基本スキーム;(b)第1世代受容体;(c)第2世代受容体;(d)第3世代受容体。
【
図2】フレームスリップモチーフおよび構築物設計。(A)フレームスリップを促進する、一連の7つのウリジンが導入遺伝子配列に挿入されたフレームスリップモチーフを示す図。フレームスリッピングは、通常、1方向の代替的なリーディングフレームの継続的な転写/翻訳、および機能的タンパク質の生成をもたらす。(B)導入遺伝子、フレームスリップモチーフ(SLIP)、および2A自己切断ペプチド配列の位置を示す構築物の構造。(C)RQR8選別選択マーカー、それに続く制御配列(6×U)またはフレームスリップモチーフ(7×U)のいずれか、ならびにCD19の膜貫通および短縮型エンドドメインに融合されたCD22の外部ドメインからなるCD22-CD19キメラタンパク質を含有する構築物で形質導入されたSupT1細胞のフローサイトメトリー分析。フレームスリップモチーフの導入は、CD22-CD19キメラの発現の劇的な低減をもたらした一方で、同様のレベルのRQR8選別選択マーカーが観察された。
【
図3】翻訳リードスルーモチーフおよび構築物設計。(A)公知の翻訳リードスルーモチーフの例。(B~G)翻訳リードスルーモチーフ構築物の構造。(B)翻訳リードスルーモチーフが第1の導入遺伝子の3’ならびに2A自己切断ペプチド配列および導入遺伝子2の5’に配置された2つの導入遺伝子からなる翻訳リードスルー構築物。導入遺伝子1の発現は、導入遺伝子2よりも有意に高い。(B’)2つの終止コドンが発現レベルを単一の終止コドンで達成されるものよりもさらにいっそう低減するために翻訳リードスルーモチーフに組み込まれた二重終止翻訳リードスルー構築物。(C)2つの2A自己切断ペプチド配列に隣接する翻訳リードスルーモチーフからなるユニバーサル翻訳リードスルー構築物。この構築物は、予測不可能なレベルの翻訳リードスルーをもたらし得る配列依存的効果を軽減する。(D)翻訳リードスルーモチーフが導入遺伝子2の発現のレベルをさらにいっそう低減するために減弱シグナルペプチド配列と組み合わされたコンビナトリアル手法。(EおよびE’)多数のモチーフが低減された導入遺伝子発現のカスケードを生じさせるために直列に配置された複合翻訳リードスルーモチーフ。(E)多数の導入遺伝子が、翻訳リードスルーモチーフおよび2A自己切断ペプチド配列を使用して単一のカセットから発現される。(E’)自己切断ペプチド配列を使用して、導入遺伝子2の5’にある翻訳リードスルーモチーフを分離する。
【
図4】IL-12コード配列が「stop-skip」配列(SS)、すなわち、終止コドンと組み合わされたフレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフの下流に配置されたベクターで形質導入された細胞におけるIL-12分泌の劇的な低減を示す概略図。
【
図5】形質導入されていないまま(NT)かまたはCARおよびIL-12を共発現する構築物(CAR-2A-IL12);もしくはIL-12コード配列が「stop-skip」配列の下流に配置されたCARおよびIL-12を共発現する構築物(CAR-SS-IL12)で形質導入されたかいずれかの細胞の上清中のIL-12の濃度を示すELISA。
【
図6】形質導入されていないまま(NT)かまたはCARおよびIL-12を共発現する構築物(CAR-2A-IL12);もしくはIL-12コード配列が「stop-skip」配列の下流に配置されたCARおよびIL-12を共発現する構築物(CAR-SS-IL12)で形質導入されたかいずれかの細胞の投与後のマウスの体重を示すグラフ。
【
図7】形質導入されていないまま(NT)かまたはGD2 CAR単独を発現する構築物(CAR);GD2 CARおよびIL-12を共発現する構築物(CAR-2A);IL-12コード配列が「stop-skip」配列の下流に配置されたGD2 CARおよびIL-12を共発現する構築物(CAR-SS);もしくはIL-12コード配列が「stop-skip」配列の下流に配置された標的抗原に無関係のCARおよびIL-12を共発現する構築物(MR1-SS)で形質導入されたかいずれかの細胞の投与後のマウスにおける経時的な腫瘍サイズを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の態様の要旨
本発明者らは、マウスモデルにおいて、高レベルのIL-12を発現する操作された細胞の投与が毒性であることを示した。本発明者らは、IL-12コード配列の上流のモチーフの包含によって、IL-12の発現のレベルを劇的に低減する可能性があることも示している。これらの超低IL-12発現細胞は、マウスモデルにおいて、有意な毒性を引き起こさない。また、固形腫瘍モデルにおいて、超低IL-12発現CAR-T細胞は、CARだけを発現する細胞よりも強力な抗腫瘍活性を示す。
【0019】
そのため、第1の態様では、本発明は、細胞を対象に投与するステップを含む、固形がんを処置するための方法であって、細胞が、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列を含む、方法を提供する。
【0020】
方法は、以下のステップ:
(i)対象から細胞試料を単離するステップ;
(ii)フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12をコードする核酸配列で、細胞試料由来の細胞をトランスフェクトまたは形質導入するステップ;および
(iii)ステップ(ii)からの形質導入またはトランスフェクトされた細胞を対象に投与するステップ
を含み得る。
【0021】
IL-12をコードする核酸配列は、「flexi-IL-12」:リンカーによって接合されたIL-12αサブユニットおよびIL-12βサブユニットの間の融合物をコードし得る。flexi-IL-12は、配列番号1として示される配列を含み得る。
【0022】
インターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列が、フレームスリップモチーフ(FSM)の下流にある場合、FSMは、ウラシル塩基、チミン塩基、またはグアニン塩基のリピートを含み得る。例えば、FSMは、配列UUUUUUU(配列番号2)を含み得る。
【0023】
FSMは、終止コドンも含み得る。例えば、FSMは、以下の配列:
UUUUUUUGA(配列番号3)
UUUUUUUAG(配列番号4)
UUUUUUUAA(配列番号5)
の1つを含み得る。
【0024】
インターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列が、翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流にある場合、TRMは、配列STOP-CUAGまたはSTOP-CAAUUA(ここで、「STOP」は、終止コドンである)を含み得る。
【0025】
翻訳リードスルーモチーフは、以下の配列:
UGA-CUAG(配列番号6)
UAG-CUAG(配列番号7)
UAA-CUAG(配列番号8)
UGA-CAAUUA(配列番号9)
UAG-CAAUUA(配列番号10)
UAA-CAAUUA(配列番号11)
の1つを含み得る。
【0026】
細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、NKT細胞、サイトカイン誘導キラー(CIK)細胞、単球、マクロファージ、または腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)などの腫瘍浸潤性免疫細胞であり得る。
【0027】
細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)または操作されたT細胞受容体(TCR)、例えば、以下の標的抗原:ジシアロガングリオシド(GD2)、上皮性増殖因子受容体(EGFR)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、グリピカン3(GPC3)、ヒト上皮性増殖因子受容体(HER2)、L1CAM、ムチン1(MUC1)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)の1つに結合する、CARまたは操作されたTCRを発現し得る。
【0028】
本発明の一実施形態では、細胞は、GD2に結合するCARを発現し、
a)以下の配列:
CDR1-SYNIH(配列番号12)
CDR2-VIWAGGSTNYNSALMS(配列番号13)
CDR3-RSDDYSWFAY(配列番号14)
を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH);および
b)以下の配列:
CDR1-RASSSVSSSYLH(配列番号15)
CDR2-STSNLAS(配列番号16)
CDR3-QQYSGYPIT(配列番号17)
を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL)
を含む抗原結合ドメインを有する。
【0029】
本発明の別の実施形態では、細胞は、PSMAと結合するCARを発現し、
a)以下の配列:
CDR1-SSWMN(配列番号18)
CDR2-RIYPGDGDTNYAQKFQG(配列番号19)
CDR3-GTGYLWYFDV(配列番号20)
を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH);および
b)以下の配列:
CDR1-RASQDINENLA(配列番号21)
CDR2-YTSNRAT(配列番号22)
CDR3-QQYDNLPFT(配列番号23)
を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL)
を含む抗原結合ドメインを有する。
【0030】
細胞は、
ドミナントネガティブSHP2および/もしくはドミナントネガティブTGFβ受容体;
キメラサイトカイン受容体;ならびに/または
1つもしくは複数のさらなるサイトカインもしくはケモカイン
も発現し得る。
【0031】
細胞は、以下:IL-7、IL-15、CCL19、CXCL12の1つまたは複数を発現し得る。特に、細胞は、IL-7およびCCL19、またはIL-15および/もしくはCXCL12を発現し得る。
【0032】
そのまたはそれぞれのさらなるサイトカインまたはケモカインをコードする核酸は、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の上流に位置し得る。
【0033】
あるいは、そのまたはそれぞれのさらなるサイトカインまたはケモカインをコードする核酸は、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流に位置し得る。
【0034】
本発明の方法は、固形がん、例えば、小細胞肺がん(SCLC)、黒色腫、腎細胞がん(RCC)、肝細胞癌(HCC)、卵巣がん、膵臓がん、神経芽細胞腫、または骨肉腫の処置のためであり得る。
【0035】
CARまたは操作されたTCRは、固形腫瘍における不均一な発現を有する標的抗原と結合し得る。
【0036】
第2の態様では、本発明は、対象における抗腫瘍免疫応答のエピトープスプレッディングを誘導するための方法であって、本発明の第1の態様に定義される複数の細胞を対象に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0037】
第3の態様では、本発明は、対象における腫瘤への免疫細胞の浸潤を誘導するための方法であって、本発明の第1の態様に定義される複数の細胞を、それらが抗腫瘍免疫応答を誘導するように、対象に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0038】
第4の態様では、固形がんの処置における使用のための細胞であって、細胞が、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列を含む、細胞が提供される。
【0039】
第5の態様では、固形がんを処置するための医薬の製造における細胞の使用であって、細胞が、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列を含む、使用が提供される。
【0040】
第6の態様では、キメラ抗原受容体(CAR)を発現し、
フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列;および
1つまたは複数のさらなるサイトカインまたはケモカインをコードする1つまたは複数の異種核酸配列
を含む、細胞が提供される。
【0041】
1つまたは複数の異種核酸配列は、以下:IL-7、IL-15、CCL19、CXCL12の1つまたは複数をコードし得る。
【0042】
例えば、1つまたは複数の異種核酸配列は、IL-7およびCCL19をコードし得る。
【0043】
あるいは、1つまたは複数の異種核酸配列は、IL-15および/またはCXCL12をコードし得る。
【0044】
さらなるサイトカインまたはケモカインをコードする核酸配列は、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の上流または下流に位置し得る。さらなるサイトカインまたはケモカインをコードする2つまたはそれよりも多くの核酸配列が存在する場合、1つまたは複数がFSMまたはTRMの上流であり得、そのようにして、それは/それらは高レベルで発現され、かつ1つまたは複数がFSMまたはTRMの下流であり得、そのようにして、それは/それらは低レベルで発現される。
【0045】
第7の態様では、
(i)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列;および
(ii)フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列;
(vi)上記に定義される1つまたは複数のさらなるサイトカインまたはケモカインをコードする1つまたは複数の核酸配列
を含む、核酸構築物が提供される。
【0046】
第8の態様では、本発明の第7の態様による核酸構築物を含むベクターが提供される。
【0047】
第9の態様では、上記に定義される1つまたは複数の核酸配列をそれぞれコードするベクターのキットが提供される。
【0048】
第10の態様では、本発明の第6の態様による細胞を作製するための方法であって、細胞を第7の態様による核酸構築物、第8の態様によるベクター、または第9の態様によるベクターのキットによりex vivoでトランスフェクトまたは形質導入するステップを含む、方法が提供される。
【0049】
本発明は、IL-12を非常に低レベルで分泌するがん、特に、固形腫瘍の処置のための細胞を提供する。
【0050】
以前に開発された「武装」CAR-T細胞とは異なって、IL-12の分泌のレベルは、IL-12コード配列の上流のフレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフの導入によって低減される。本発明者らは、低レベルのIL-12の局所発現が、抗腫瘍応答を大いに増強するが、問題があるレベルの毒性を引き起こさないことを示した。
【0051】
IL-12の局所分泌は、2つの効果を有する:第1に、これは、不利な腫瘍環境に対するCAR-T細胞の抵抗性を増加させ、CAR T細胞の増殖および持続を増加させる;第2に、これは、アジュバント効果を有し、抗腫瘍免疫応答の一般的な活性化を引き起こす。
【0052】
この点において、IL-12の放出は、1)T細胞およびNK細胞の増殖を増強すること、2)T細胞、NK細胞、およびマクロファージの細胞溶解活性を増加させること、3)Tヘルパー1(Th1)細胞を活性化すること、ならびに4)IFN-γおよび他のサイトカインの産生を誘導することを含む免疫応答の間にさまざまな効果を有する。CAR-T細胞を活性化することに加えて、CAR-T細胞による低レベルのIL-12の同時局所発現は、「エピトープスプレッディング」、すなわち、腫瘍細胞上に存在するさらなる標的抗原に対する免疫応答のプライミングをもたらすと考えられる。CAR-T細胞によるIL-12の分泌は、腫瘤への宿主免疫細胞の浸潤も誘導し得る。したがって、抗腫瘍免疫応答は、CAR-T細胞による直接的な細胞死滅、腫瘍への免疫細胞の浸潤、および他の腫瘍関連抗原に対する既存の宿主免疫細胞からの抗がん免疫応答の誘導の組合せにより活性化される。
【0053】
エピトープスプレッディングの誘導は、多くの場合に標的抗原の発現の不均一性を示す固形腫瘍の処置のために特に有用である。
【0054】
さらなる態様
本発明は、以下の番号付け項目に要約される追加の態様も提供する。
1.細胞を対象に投与するステップを含む、小細胞肺がんを処置するための方法であって、細胞が、GD2 CAR、ドミナントネガティブSHP2(dnSHP2)およびドミナントネガティブTGFβRIIを発現する、方法。
2.細胞が、キメラサイトカイン受容体(CCR)も発現する、項目1に記載の方法。
3.CCRが、IL-7Rエンドドメインを有する、項目2に記載の方法。
4.細胞が、以下の一般構造:
CAR-coexpr1-dnSHP-coexpr2-dnTGFβR、
dnSHP-coexpr1-CAR-coexpr2-dnTGFβR、
CAR-coexpr1-SG-coexpr2-dnSHP-coexpr3-dnTGFβR、
dnSHP-coexpr1-SG-coexpr2-CAR-coexpr2-dnTGFβR
(ここで、
dnSHPは、ドミナントネガティブSHP-2をコードする核酸配列であり;
「coexpr1」、「coexpr2」および「coexpr3」は、同じまたは異なっていてもよく、別々の実体としてそれぞれのポリペプチドの共発現を可能にする核酸配列であり;
「dnTGFβR」は、ドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列であり;
「CAR」は、抗GD2キメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
「SG」は、自殺遺伝子、例えば、RQR8をコードする核酸配列である)
を有する第1の核酸構築物を含む、項目1に記載の方法。
5.細胞が、以下の一般構造:
CAR-coexpr1-CCR、または
CAR-coexpr1-SG-coexpr2-CCR
(ここで、
「CAR」は、抗GD2キメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
「coexpr1」および「coexpr2」および「coexpr3」は、同じまたは異なっていてもよく、別々の実体としてそれぞれのポリペプチドの共発現を可能にする核酸配列であり;
「CCR」は、キメラサイトカイン受容体をコードする核酸配列であり;
「SG」は、自殺遺伝子、例えば、RQR8をコードする核酸配列である)
を有する第2の核酸構築物を含む、項目2または3に記載の方法。
6.以下のステップ:
(i)対象から細胞含有試料を単離するステップ;
(ii)項目4に定義される第1の核酸構築物を発現するベクターで、細胞を形質導入またはトランスフェクションするステップ;および
(iii)ステップ(ii)からの細胞を対象に投与するステップ
を含む、項目1に記載の方法。
7.以下のステップ:
(i)対象から細胞含有試料を単離するステップ;
(ii)項目4に定義される第1の核酸構築物を発現する第1のベクター、および項目5に定義される第2の核酸構築物を発現する第2のベクターで、細胞を形質導入またはトランスフェクションするステップ;ならびに
(iii)ステップ(ii)からの細胞を対象に投与するステップ
を含む、項目2または3に記載の方法。
8.小細胞肺がん(SCLC)の処置における使用のための細胞であって、細胞が、GD2 CAR、ドミナントネガティブSHP2(dnSHP2)およびドミナントネガティブTGFβRIIを発現する、細胞。
9.小細胞肺がん(SCLC)を処置するための医薬の製造における細胞の使用であって、細胞が、GD2 CAR、ドミナントネガティブSHP2(dnSHP2)およびドミナントネガティブTGFβRIIを発現する、使用。
【0055】
以下の詳細な説明は、それが核酸およびポリペプチド配列、ポリペプチド構成要素、ベクター、細胞の方法などに関するように、特許請求の範囲における本発明の態様に関して上記の項目に提示された態様と同じように適用する。
【0056】
詳細な説明
本発明は、非常に低レベルでインターロイキン12(IL-12)を発現する細胞を提供する。細胞は、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のIL-12をコードする核酸を含む。
【0057】
IL-12および他のサイトカイン/ケモカイン
本発明は、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列を含む細胞を提供する。細胞はまた、IL-12以外のサイトカインおよび/またはケモカインをコードする異種核酸配列を含んでいてもよい。
【0058】
インターロイキン12(IL-12)は、抗原刺激に応答して、樹状細胞、マクロファージ、好中球、およびヒトBリンパ芽球様細胞によって天然に産生されるインターロイキンである。IL-12は、Th1細胞へのナイーブT細胞の分化に関与する。これは、T細胞の成長および機能を刺激し得るT細胞刺激因子として公知である。これは、T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞からのインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)および腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)の産生を刺激し、IFN-γのIL-4媒介性抑制を低減する。
【0059】
IL-12は、ナチュラルキラー細胞およびTリンパ球の活性において重要な役割を果たす。IL-12は、NK細胞およびCD8+細胞傷害性Tリンパ球の細胞傷害活性の増強を媒介する。
【0060】
IL-12は、腫瘍微小環境をモジュレートして、がんに対して免疫反応を向け直すための特に目的の強力な免疫モジュレート性サイトカインである。IL-12は、全身的に毒性であり、したがって、IL-12を局所的に産生するための方法が、目的の方法である。
【0061】
IL-12は、2つの別々の遺伝子IL-12A(p35)およびIL-12B(p40)によってコードされるヘテロ二量体サイトカインである。活性ヘテロ二量体(「p70」と称される)は、タンパク質合成後に形成される。
【0062】
本発明の細胞は、IL-12Aおよび/またはIL-12Bをコードする異種核酸配列を含み得る。ヒトIL-12Aの配列は、Uniprot受託番号P29459から入手可能である。シグナルペプチドを欠くこの配列の一部分を、配列番号24として下記に示す。ヒトIL-12Bの配列は、Uniprot受託番号P29460から入手可能である。シグナルペプチドを欠くこの配列の一部分を、配列番号25として下記に示す。
【化1】
【0063】
異種核酸配列は、リンカーによって接合されたヒトIL-12α(p35)およびIL-12β(p40)サブユニットの間の融合物である「flexi-IL-12」をコードし得る。好適なflexi-IL-12配列を、配列番号1として下記に示す。
【化2-1】
【化2-2】
【0064】
配列番号1では、マウスカッパ鎖V-III領域MOPC63(Uniprot P01661)由来のシグナルペプチドであるシグナルペプチドは、太字で示され;セリン-グリシンリンカーは、太字で下線が付けられている。flexi-IL12は、配列番号1に示されるが、異なるシグナルペプチドおよび/またはリンカー配列を有する、IL-12AおよびB配列を含み得る。これは、一般構造:
SP-IL12A-L-IL12B
(ここで、SPは、シグナルペプチドであり;IL12Aは、ヒトIL-12Aであり;Lは、リンカー配列、例えば、グリシン-セリンリンカーであり;IL12Bは、ヒトIL-12Bである)
を有し得る。
【0065】
異種核酸配列は、配列番号1、24、もしくは25、またはそのバリアントとして示される配列の1つをコードし得る。バリアント配列がin vivoで発現される場合にIL-12機能を保持するという条件で、バリアント配列は、配列番号1、24、または25と少なくとも80、85、90、95、98、または99%の配列同一性を有し得る。例えば、バリアント配列は、in vivoで細胞傷害性T細胞の活性を増強する能力を保持していてもよく、および/またはバリアント配列は、T細胞によるインターフェロンガンマ(IFN-γ)の産生を刺激してもよい。
【0066】
細胞は、IL-12に加えて、1つまたは複数のサイトカインをコードする1つまたは複数の異種核酸を含んでいてもよい。核酸配列は、例えば、炎症応答を増強するサイトカイン、および/またはCAR-T細胞療法の有効性を増加させるサイトカインをコードし得る。サイトカインは、以下:IL-7、IL15、IL-17A、IL-18、IL-2、GM-CSF、およびIL-21から選択され得る。特に、さらなるサイトカインは、IL-7であり得る。
【0067】
IL-7
IL-7は、B細胞およびT細胞の発生のために重要なサイトカインである。IL-7は、多能性(複能性)造血幹細胞のリンパ系前駆細胞への分化を刺激し、リンパ系列のすべての細胞(B細胞、T細胞、およびNK細胞)の増殖を刺激する。
【0068】
Il-7および肝細胞増殖因子(HGF)は、プレ-プロB細胞成長刺激因子として機能するヘテロ二量体を形成する。このサイトカインは、初期T細胞発生の間のT細胞受容体ベータ(TCRβ)のV(D)J再構成の補因子であることが見出されている。ヒトIL-7のアミノ酸配列は、UniProt(受託番号P13232)から入手可能であり、配列番号26として下記に示す。
【化3】
【0069】
IL-15
インターロイキン-15(IL-15)は、インターロイキン-2(IL-2)と構造的類似性を有するサイトカインである。IL-2のように、IL-15は、IL-2/IL-15受容体ベータ鎖および共通ガンマ鎖で構成される複合体に結合し、それを通してシグナル伝達する。IL-15は、ウイルスによる感染後に単核食細胞および他の細胞によって分泌され、T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞の活性化および増殖を調節する。
【0070】
ヒトIL-15のアミノ酸配列は、UniProt(受託番号P40933)から入手可能であり、配列番号27として下記に示す。
【化4】
【0071】
IL-17A、IL-18、IL-2、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、およびIL-21のアミノ酸配列は、下記の表に示されるように、UniProtから利用可能である。
【表A】
【0072】
1つまたは複数の異種核酸配列が、1つまたは複数のケモカインをコードし得る。
【0073】
ケモカインは、細胞によって分泌される小型サイトカインのファミリーである。それらの名称は、すぐ近くの応答性細胞において方向づけされた走化性を誘導するそれらの能力に由来し、それらは、走化性サイトカインである。感染細胞または損傷細胞によって放出されたケモカインは、濃度勾配を形成する。誘引された細胞は、ケモカインのより高い濃度の方に勾配により移動する。
【0074】
ケモカインは、すべて、およそ8~10キロダルトンの質量であり、それらの3次元形状を形成するのに重要である保存された場所に4つのシステイン残基を有する。一部のケモカインは、炎症促進性であると考えられており、免疫応答の間に誘導されて、免疫系の細胞を感染部位にリクルートし得る。例としては、CXCL-8、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL11、CXCL10である。他のケモカインは、恒常性であると考えられており、組織の維持または発生の正常なプロセスの間に細胞の遊走の制御に関与する。これらとしては、CCL14、CCL19、CCL20、CCL21、CCL25、CCL27、CXCL12、およびCXCL13が挙げられる。この分類は、厳密ではなく、例えば、CCL20は、炎症促進性ケモカインとしても作用し得る。
【0075】
ケモカインは、4つの主要なサブファミリー:CXC、CC、CX3C、およびXCに分類されている。これらのタンパク質はすべて、それらの標的細胞の表面上で選択的に見られるケモカイン受容体と呼ばれるGタンパク質結合膜貫通受容体との相互作用によってそれらの生物学的作用を発揮する。
【0076】
細胞は、恒常性サイトカイン、例えば、CCL19またはCXCL12を発現し得る。
【0077】
ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド19(CCL19)は、EBI1リガンドケモカイン(ELC)およびマクロファージ炎症タンパク質-3-ベータ(MIP-3-ベータ)としても公知のCCケモカインファミリーに属する小型サイトカインである。CCL19は、ケモカイン受容体CCR7への結合によってその標的細胞に対するその効果を誘発する。それは、樹状細胞および抗原がエンゲージされたB細胞およびCCR7+セントラルメモリーT細胞を含むある特定の免疫系の細胞を誘引する。ヒトCCL19のアミノ酸配列は、UniProt(受託番号Q99731)から入手可能であり、配列番号28として下記に示す。
【化5】
【0078】
C-X-Cモチーフケモカイン12(CXCL12)、間質細胞由来因子1(SDF1)は、同じ遺伝子の選択的スプライシングによって、CXCL12aおよびCXCL12bの2つの形態で産生される。ケモカインは、2つのジスルフィド結合を形成する4つの保存されたシステインの存在によって特徴付けられる。CXCL12タンパク質は、CXCケモカインのグループに属し、そのシステインの最初の対は、1つの介在アミノ酸によって分離される。加えて、CXCL12のN末端の最初の8残基は、受容体結合部位としての機能を果たし、ループ領域中のRFFESHモチーフ(残基12~17、配列番号102)は、CXCL12受容体結合のためのドッキング部位として機能する。
【0079】
CXCL12は、脳、胸腺、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、および骨髄を含むマウスの多くの組織において発現する。CXCL12は、リンパ球に対して強い走化性である。ヒトCXCL12のアミノ酸配列は、UniProt(受託番号P48061)から入手可能であり、配列番号29として下記に示す。
【化6】
【0080】
STOP SKIPモチーフ
フレームスリップ
転写の間に、RNAポリメラーゼは、DNA鋳型に対する相補性に基づいて、成長中のRNA鎖へのヌクレオチドの組み込みを触媒する。しかしながら、RNAポリメラーゼが一続きのリピート塩基に遭遇すると、スリッページまたは「スタッタリング」が起こり得る。転写スリッページは、天然では、例えば、Escherichia coli pyrBIおよびcodBAオペロンの調節、パラミクソウイルスにおけるP遺伝子の発現、ならびにThermus thermophilesの細胞dnaX遺伝子の解読において利用される。
【0081】
RNAポリメラーゼがスリップすると、リピート塩基の1つ(またはおそらく2つ)が欠如するので、これは、代替的なリーディングフレームをコードするmRNAの合成をもたらし得る。
【0082】
本発明の核酸構築物は、代替的なリーディングフレームをコードするmRNAをもたらすRNAポリメラーゼのスリッページが存在する場合にのみ下流導入遺伝子の転写が起こるように、転写フレームスリップ部位を含み得る。
【0083】
タンパク質へのmRNA配列の翻訳は、リボソーム、開始および伸長因子、アミノアシルトランスファーRNA(aa-tRNA)、アミノアシルtRNAシンテターゼ、ならびに終結因子のオーケストレーションを含む複雑なプロセスである。翻訳の開始は、因子の複合体がmRNAの5’末端に結合した時に開始し、これは、次いで、40SリボソームのリクルートおよびmRNAのスキャニングをもたらす。開始因子および40Sリボソームの複合体が、アミノ酸のメチオニン(AUGコドン)をコードするコドン(ヌクレオチドのトリプレット)に遭遇すると、60Sリボソームが、リクルートされ、ポリペプチド合成が、適切なアミノ酸がロードされた同族tRNAの対形成により開始する。翻訳の開始は、AUG以外の代替的な開始コドンで起こり得るが、これは、最も頻繁に使用される開始コドンである。ポリペプチドの伸長は、周期的な方法で起こり、それによって、tRNAはその同族コドンに結合し、新たに付加されたアミノ酸および伸長中のポリペプチドの間にペプチド結合が形成し、ポリペプチドが転位して次のコドンが露出する。
【0084】
翻訳の間に、リボソーム中断は、リボソームが特定のコドンで止まる場所で起こり得る。リボソーム中断は、核酸分解経路によるmRNAの分解を促進し得るか、またはそれは、-1もしくは-2方向のスリップを誘導し得る。UUUUUUAなどのmRNA内の反復配列は、翻訳フレームスリッピングを誘導することが公知であり、この配列は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の群特異的抗原遺伝子(gag)およびポリメラーゼ(pol)遺伝子の3’末端に存在する。HIV gag/pol遺伝子の翻訳フレームスリッピング-1は、Gag-Polポリタンパク質の発現をもたらす。
【0085】
本発明の核酸構築物は、リボソームによるフレームスリップが存在する場合にのみ下流転写産物の翻訳が起こるように、翻訳フレームスリッピング部位を含み得る。
【0086】
フレームスリップ部位は、同じ種類の一続きの塩基を含み得る。
【0087】
フレームスリップモチーフは、核酸構築物中の切断部位の上流および/または下流に配置され得る。フレームスリップモチーフは、核酸構築物中の第1および第2の導入遺伝子の間に位置する。
【0088】
フレームスリップモチーフは、単独で使用されてもよい。この実施形態では、第2の導入遺伝子は、フレームスリップが第2の導入遺伝子の転写または翻訳のために必要であるように、フレームスリッピング部位の下流のフレームの外に配置され得る。
【0089】
モチーフは、例えば、一続きの5、7、8、10、または11個の塩基を含んでいてもよい。部位は、例えば、ウラシル、アデノシン、またはグアニン塩基のリピートを含んでいてもよい。部位は、例えば、配列番号2として示される配列
UUUUUUU(配列番号2)
を含み得る。
【0090】
あるいは、フレームスリップ部位は、終止コドンと組み合わせて使用されてもよい。この実施形態では、終止コドンは、フレームスリッピングが、終止コドンが無視されるために必要であるように、フレームスリップ部位の下流のフレーム中に位置する。
【0091】
終止コドンは、UGA、UAG、またはUAAであり得る。フレームスリップ部位は、3の倍数のウラシル、アデノシン、またはグアニン塩基のリピート、例えば、ウラシル、アデノシン、またはグアニン塩基の3、6または9個のリピートを含み得る。
【0092】
フレームスリップ部位/終止コドン組合せの例を、配列番号3、4、および5として示す。
UUUUUUUGA(配列番号3)
UUUUUUUAG(配列番号4)
UUUUUUUAA(配列番号5)
【0093】
翻訳リードスルー
翻訳は、リボソームがUGA、UAG、またはUAA終止コドンに遭遇すると、完了する。この時点で、終結因子は終止コドンを認識し、リボソームの解離およびリサイクルを容易にする。終結因子および近い同族tRNAの間の競合、ならびにポリペプチドの継続的な伸長は、その時の0.1%の割合でしか起こらないことに起因して、翻訳の完了は、通常、終止コドンの再コーディングにより高い忠実度で起こる。しかしながら、翻訳リードスルーをもたらす終止コドンの再コーディングのレベルの上昇が、ある特定の遺伝子で報告されている。一部の場合では、これは、機能的リードスルーと称されるプロセスにおいて、さらなる機能的モチーフを有するより長いポリペプチドの生成をもたらした。
【0094】
終結因子1(RF1)が終止コドンを認識することに失敗し、近い同族aa-tRNAがアミノ酸を伸長中のポリペプチドに挿入し、それによって、終止コドンを抑制すると、翻訳リードスルーが起こる。終結因子およびaa-tRNAの局所濃度は、終止コドン抑制および翻訳リードスルーのレベルに影響を及ぼし、低濃度の終結因子は、翻訳リードスルーを促進する。哺乳動物では、UAG終止コドンの抑制は、トリプトファン、アルギニン、またはシステイン残基の挿入をもたらす。
【0095】
終止コドン抑制の最も早く発見された例の1つは、ウサギベータグロビン遺伝子であり、翻訳リードスルーがタンパク質3のC末端への22個のアミノ酸の付加をもたらす。
【0096】
翻訳リードスルーの頻度は、1)使用される終止コドン(UGA、UAG、またはUAA);2)終止コドンにすぐ隣接する配列であって、終止コドンの上流および下流の6ヌクレオチドが特に重要である、および;3)mRNAの3’末端におけるシス作用性配列の存在を含む、いくつかの因子に依存する。
【0097】
3つの終止コドンの完了効率は変わり、UAAは最も強い終止コドンであり、UGAは最も弱く、完了効率の序列は、UAA>UAG>UGAとして定義される。その結果、最高レベルの翻訳リードスルーは、UGA終止コドンで、最低は、UAA終止コドンで示される。
【0098】
翻訳リードスルーを示す遺伝子の配列分析は、終止コドン抑制および持続的な翻訳を促進する少なくとも2つの異なるモチーフ:STOP-CUAGおよびSTOP-CAAUUA(ここで、stopは、UGA、UAG、またはUAAであり得る)を特定した。翻訳リードスルーのレベルは、使用される終止コドンに依存する:UGAは最高レベルの翻訳リードスルーをサポートし、漸減レベルのリードスルーがUAGおよびUAA終止コドンから得られ、その結果、リードスルーの全体的な序列は、UGA>UAG>UAAである。
【0099】
本発明の核酸構築物は、配列番号6~11として示される配列の1つを含み得る。
UGACUAG(配列番号6)
UAGCUAG(配列番号7)
UAACUAG(配列番号8)
UGACAAUUA(配列番号9)
UAGCAAUUA(配列番号10)
UAACAAUUA(配列番号11)
【0100】
翻訳リードスルー部位は、核酸構築物中の第1および第2の導入遺伝子の間に位置し得る。翻訳リードスルー部位は、核酸構築物中の切断部位の上流および/または下流に配置され得る。翻訳リードスルー部位は、切断部位に隣接し得る(
図3C)。2つまたはそれよりも多くの翻訳リードスルー部位が使用されてもよく、例えば、互いの隣に(
図3B’)または切断部位に隣接して(
図E’)位置し得る。
【0101】
下流導入遺伝子の発現レベルをさらに低減するために、多数の終止コドンが、翻訳リードスルーモチーフの5’に挿入され得る(
図2B)。多重終止翻訳リードスルーモチーフの例は、2つのUGA終止コドンがCUAGリードスルーモチーフの5’に位置する配列番号30として示される。
UGAUGACUAG(配列番号30)
【0102】
上記の配列は、RNAとして存在するが、構築物中で、それらは、転写されたらこれらのRNA配列を生じる同等のDNA配列であってもよく、上記の配列番号6~11について、
TGACTAG(配列番号31)
TAGCTAG(配列番号32)
TAACTAG(配列番号33)
TGACAATTA(配列番号34)
TAGCAATTA(配列番号35)
TAACAATTA(配列番号36)
であろう。
【0103】
特に、TRMをコードするDNA配列は、配列番号37に示される配列を有していてもよく、これは、STOP;ロイシン;アラニンをコードする。
TGACTAGCA(配列番号37)
【0104】
核酸構築物が2つより多くの導入遺伝子を含む場合、複合翻訳リードスルーモチーフは、切断部位をコードする配列の5’に直列に配置され得る。これは、多数の導入遺伝子が、異なる比で発現されるのを可能にする。それぞれのさらなるリードスルーモチーフにより、発現のレベルは、上流導入遺伝子と比べて10分の1~50分の1に低減するはずである。
【0105】
IL-12をコードする核酸配列は、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のIL-12に位置し得る。核酸構築物は、一般構造:
CAR-FSM/TRM-coexpr-IL12
(ここで、
「CAR」は、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
「FSM/TRM」は、フレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフであり;
「coexpr」は、別々のポリペプチドとしてCARおよびIL-12の共発現を可能にする配列であり;
「IL-12」は、IL-12またはflexi-IL12をコードする核酸配列である)
を有し得る。
【0106】
別のサイトカインまたはケモカインをコードする核酸配列を含む構築物では、これはまた、他のサイトカインまたはケモカインの発現のレベルも低減されるように(FSMまたはTRM配列の非存在下で得られるであろう発現のレベルと比較して)、FSMまたはTRMの下流に配置され得る。この点において、他のサイトカインまたはケモカインの発現のレベルは、IL-12の発現のレベルと同等に低減され得る。そのような構築物は、一般構造:
CAR-FSM/TRM-coexpr1-IL12-coexpr2-CC;または
CAR-FSM/TRM-coexpr1-CC-coexpr2-IL12
(ここで、
「CAR」は、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
「FSM/TRM」は、フレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフであり;
「coexpr1」および「coexpr2」は、同じまたは異なっていてもよく、別々のポリペプチドとして、CAR、IL-12、およびサイトカインまたはケモカインの共発現を可能にする配列であり;
「IL-12」は、IL-12またはflexi-IL12をコードする核酸配列であり;
「CC」は、サイトカイン(IL-12以外)またはケモカインをコードする核酸配列である)
を有し得る。
【0107】
あるいは、他のサイトカインをコードするか、またはケモカインをコードする核酸配列は、その発現がFSMまたはTRMによって影響されないように、FSMもしくはTRMの上流に、または別々の構築物上に配置されてもよい。そのような構成により、他のサイトカインまたはケモカインの発現のレベルは、IL-12の発現のレベルを超える。そのような構築物は、一般構造:
CAR-coexpr1-CC-FSM/TRM-coexpr2-IL12;または
CC-coexpr1-CAR-FSM/TRM-coexpr2-IL12
(ここで、
「CAR」は、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
「FSM/TRM」は、フレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフであり;
「coexpr1」および「coexpr2」は、同じまたは異なっていてもよく、別々のポリペプチドとして、CAR、IL-12、およびサイトカインまたはケモカインの共発現を可能にする配列であり;
「IL-12」は、IL-12またはflexi-IL12をコードする核酸配列であり;
「CC」は、サイトカイン(IL-12以外)またはケモカインをコードする核酸配列である)
を有し得る。
【0108】
第3の選択肢は、IL-12コード配列の上流のものと異なるFSMまたはTRMの下流に配置され得る他のサイトカインまたはケモカインをコードする核酸配列である。これは、「複合」効果を有し得る。例えば、複合翻訳リードスルーモチーフを有する核酸構築物は、構造:
CAR-FSM/TRM1-coexpr1-CC-FSM/TRM2-coexpr2-IL12
(ここで、
「CAR」は、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
「FSM/TRM1」および「FSM/TRM2」は、同じまたは異なっていてもよく、フレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフであり;
「coexpr1」および「coexpr2」は、同じまたは異なっていてもよく、別々のポリペプチドとして、CAR、IL-12、およびサイトカインまたはケモカインの共発現を可能にする配列であり;
「IL-12」は、IL-12またはflexi-IL12をコードする核酸配列であり;
「CC」は、サイトカイン(IL-12以外)またはケモカインをコードする核酸配列である)
を有し得る。
【0109】
この構成では、CARの発現のレベルは、サイトカイン/ケモカインの発現のレベルよりも高く、これは、IL-12の発現のレベルよりも高い。
【0110】
変更シグナルペプチド
翻訳リードスルーモチーフは、導入遺伝子発現を有意に減少させるが、ある特定の状況では、発現レベルをさらにいっそう低減する必要がある可能性がある。分泌タンパク質について、発現のさらなる低減は、翻訳リードスルーモチーフを変更シグナルペプチド配列と組み合わせることによって達成することができる。この場合では、変更シグナルペプチドおよび第2の導入遺伝子は、翻訳リードスルーモチーフおよび自己切断ペプチド配列の3’に配置される(
図3D)。
【0111】
シグナルペプチドは、分泌経路の方に向かう新たに合成されたタンパク質の大部分のN末端に存在する一般に5~30アミノ酸長の短いペプチドである。これらのタンパク質としては、ある特定の細胞小器官(例えば、小胞体、ゴルジ、またはエンドソーム)のいずれかの内に存在し、細胞から分泌されるもの、および膜貫通タンパク質が挙げられる。
【0112】
シグナルペプチドは、一般に、単一のアルファヘリックスを形成する傾向を有する長い一続きの疎水性アミノ酸であるコア配列を含有する。シグナルペプチドは、短い正に荷電した一続きのアミノ酸で開始してもよく、これは、転位の間のポリペプチドの適したトポロジーの強化に役立つ。シグナルペプチドの末端には、典型的には、シグナルペプチダーゼによって認識および切断される一続きのアミノ酸が存在する。シグナルペプチダーゼは、転位の間またはその完了後のいずれかで切断して、遊離シグナルペプチドおよび成熟タンパク質を生成し得る。次いで、遊離シグナルペプチドは、特定のプロテアーゼによって消化される。
【0113】
シグナルペプチドは、一般に、分子のアミノ末端に位置するが、いくつかのカルボキシ末端シグナルペプチドが公知である。
【0114】
変更シグナルペプチドは、WO2016/174409号に詳細に記載されており、これは、参照により本明細書に組み込まれる。変更シグナルペプチドは、それが由来する野生型シグナルペプチドよりも少ない疎水性アミノ酸を有するように、1つまたは複数の突然変異、例えば、置換または欠失を含み得る。「野生型」という用語は、それが由来する天然タンパク質に存在するシグナルペプチドの配列を意味する。
【0115】
核酸構築物が、両方とも膜貫通タンパク質をコードする2つの導入遺伝子を含む場合、下流導入遺伝子によってコードされるタンパク質(より低い相対発現を有する)は、上流導入遺伝子によってコードされるタンパク質(より高い相対発現を有する)よりも少ない疎水性アミノ酸を含み得る。
【0116】
シグナルペプチド効率を変更するために突然変異される疎水性アミノ酸は、アラニン(A);バリン(V);イソロイシン(I);ロイシン(L);メチオニン(M);フェニルアラニン(P);チロシン(Y);またはトリプトファン(W)であり得る。
【0117】
変更シグナルペプチドは、疎水性アミノ酸の1、2、3、4または5個のアミノ酸の欠失または置換を含み得る。疎水性アミノ酸は、非疎水性アミノ酸、例えば、親水性または中性のアミノ酸で置き換えられてもよい。
【0118】
切断部位
本発明は、
(i)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列;および
(ii)FSM/TRMの下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列
を含む核酸構築物を提供する。
【0119】
核酸構築物はまた、以下:
(iii)ドミナントネガティブSHP2をコードする核酸配列;
(iv)ドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列;
(v)キメラサイトカイン受容体をコードする核酸配列;
(vi)1つまたは複数のさらなるサイトカインまたはケモカインをコードする1つまたは複数の核酸配列
の1つまたは複数を含んでいてもよい。
【0120】
CARおよびIL-12、ならびに必要に応じて1つまたは複数のさらなる構成要素が別々のポリペプチドとして発現されるために、構築物は、2つのポリペプチドをコードする核酸配列間に位置する切断部位をコードする配列を含み得る。
【0121】
切断部位は、核酸構築物の翻訳によって産生するポリペプチドが分割または分離されるようになるのを可能にする任意の配列であり得る。
【0122】
「切断」という用語は、本明細書では便宜上使用されるが、切断部位は、古典的切断以外の機構によって、2つのポリペプチドを個々の実体に分離させ得る。例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)2A自己切断ペプチド(下記を参照されたい)について、「切断」活性:宿主細胞プロテイナーゼによるタンパク質分解、自己タンパク質分解、または翻訳効果を説明するさまざまなモデルが提案されている(Donnelly et al (2001) J. Gen. Virol. 82:1027-1041)。切断部位が、第1および第2のポリペプチドをコードする核酸配列の間に位置する場合に、第1および第2のポリペプチドを別個の実体として発現させる限り、そのような「切断」の正確な機構は、本発明の目的のために重要ではない。
【0123】
切断部位は、フューリン切断部位であってもよい。
【0124】
フューリンは、サブチリシン様プロタンパク質変換酵素ファミリーに属する酵素である。このファミリーのメンバーは、潜在的な前駆体タンパク質をそれらの生物学的に活性な産物にプロセシングするプロタンパク質変換酵素である。フューリンは、それらの対形成した塩基性アミノ酸プロセシング部位で前駆体タンパク質を効率的に切断し得るカルシウム依存性セリンエンドプロテアーゼである。フューリン基質の例としては、プロ副甲状腺ホルモン、トランスフォーミング増殖因子ベータ1前駆体、プロアルブミン、プロ-ベータ-セクレターゼ、膜1型マトリックスメタロプロテイナーゼ、プロ神経成長因子のベータサブユニット、およびフォンヴィルブランド因子が挙げられる。フューリンは、塩基性アミノ酸標的配列(標準的には、Arg-X-(Arg/Lys)-Arg’(配列番号38))のすぐ下流でタンパク質を切断し、ゴルジ装置中で豊富である。
【0125】
切断部位は、タバコエッチウイルス(TEV)切断部位であってもよい。
【0126】
TEVプロテアーゼは、キモトリプシン様プロテアーゼである高度に配列特異的なシステインプロテアーゼである。それは、その標的切断部位に非常に特異的であり、したがって、in vitroおよびin vivoの両方で融合タンパク質の制御された切断のために頻繁に使用される。コンセンサスTEV切断部位は、ENLYFQ\S(配列番号39)(ここで、「\」は切断されるペプチド結合を表す)である。ヒト細胞などの哺乳動物細胞は、TEVプロテアーゼを発現しない。そのため、本核酸構築物がTEV切断部位を含み、哺乳動物細胞において発現される実施形態では、外因性TEVプロテアーゼも、哺乳動物細胞において発現されなければならない。
【0127】
切断部位は、自己切断ペプチドをコードしてもよい。
【0128】
「自己切断ペプチド」は、第1および第2のポリペプチドを含むポリペプチドならびに自己切断ペプチドが産生されると、任意の外部切断活性を必要とせずに、それが別個の別々の第1および第2のポリペプチドにすぐに「切断」または分離されるように機能するペプチドを指す。
【0129】
自己切断ペプチドは、アフトウイルスまたはカルジオウイルス由来の2A自己切断ペプチドであってもよい。アフトウイルスおよびカルジオウイルスの主な2A/2B切断は、それ自身のC末端での2A「切断」によって媒介される。口蹄疫ウイルス(FMDV)およびウマ鼻炎Aウイルスなどのアフトウイルスでは、2A領域は、タンパク質2BのN末端残基(保存的プロリン残基)と一緒に、それ自身のC末端で「切断」を媒介することができる自律的エレメントに相当する、約18個のアミノ酸の短いセクションである。
【0130】
より長いカルジオウイルスタンパク質のC末端の19個のアミノ酸は、2BのN末端プロリンと一緒に、アフトウイルスFMDV 2a配列とおよそ等しい効率で「切断」を媒介する。カルジオウイルスとしては、脳心筋炎ウイルス(EMCV)およびタイラーマウス脳炎ウイルス(TMEV)が挙げられる。
【0131】
EMCVおよびFMDV 2Aの突然変異分析は、モチーフDxExNPGP(配列番号40)が「切断」活性に密接に関与することを明らかにした(上記のDonelly et al (2001))。
【0132】
本発明の切断部位は、アミノ酸配列:Dx1Ex2NPGP(ここで、x1およびx2は、任意のアミノ酸であり;X1は、以下の群:I、V、M、およびSから選択され得;X2は、以下の群:T、M、S、L、E、Q、およびFから選択され得る)を含み得る。
【0133】
例えば、切断部位は、表1に示されるアミノ酸配列の1つを含み得る。
【表1】
【0134】
2A配列に基づく切断部位は、例えば15~22アミノ酸長であり得る。配列は、2Aタンパク質のC末端、それに続いてプロリン残基(2BのN末端プロリンに対応する)を含み得る。
【0135】
突然変異研究は、天然に存在する2A配列に加えて、いくつかのバリアントも活性であることも示した。切断部位は、1、2または3つのアミノ酸置換を有する天然に存在する2Aポリペプチド由来のバリアント配列に対応し得、これは、2つまたはそれよりも多くの別々のタンパク質へのポリタンパク質配列の「切断」を誘導する能力を保持する。
【0136】
切断配列は、すべてがある程度まで活性であることが示されている以下のものから選択され得る(上記のDonnelly et al (2001)):
【化7】
【0137】
DxExNPGPの配列に基づいて、モチーフの「2A様」配列は、アフトウイルスまたはカルジオウイルス以外のピコルナウイルス、「ピコルナウイルス様」昆虫ウイルス、C型ロタウイルス、およびTrypanosoma spp、および細菌配列内の反復配列で見出された(上記のDonnelly et al (2001))。切断部位は、これらの2A様配列、例えば:
【化8】
の1つを含み得る。
【0138】
切断部位は、配列番号63(RAEGRGSLLTCGDVEENPGP)として示される2A様配列、または配列EGRGSLLTCGDVEENPGP(配列番号70)を有するThosea asignaウイルスカプシドタンパク質由来の2Aペプチドを含み得る。
【0139】
5~39アミノ酸のN末端「伸長」を含めることにより、活性を増加させることができることが示されている(上記のDonnelly et al (2001))。特に、切断配列は、以下の配列の1つ、または切断部位活性を保持する、例えば最大で5つのアミノ酸変化を有するそのバリアントを含み得る:
【化9】
【0140】
キメラ抗原受容体(CAR)
図1に概略的に示されるCARは、細胞外抗原認識ドメイン(バインダー)を細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)に接続するキメラI型膜貫通タンパク質である。バインダーは、典型的には、モノクローナル抗体(mAb)に由来する一本鎖可変断片(scFv)であるが、それは、抗体様抗原結合部位を含む他のフォーマットに基づき得る。スペーサードメインは、通常、膜からバインダーを分離し、それを好適な配向にするのを可能にするために必要である。使用される一般的なスペーサードメインは、IgG1のFcである。抗原に応じて、よりコンパクトなスペーサー、例えば、CD8α由来のストーク、およびさらにはIgG1ヒンジ単独で十分であり得る。膜貫通ドメインは、タンパク質を細胞膜に固定し、スペーサーをエンドドメインに接続する。
【0141】
初期のCAR設計は、FcεR1またはCD3ζのγ鎖のいずれかの細胞内部分に由来するエンドドメインを有していた。その結果として、これらの第1世代受容体は、免疫学的シグナル1を伝達し、これは、同族標的細胞のT細胞死滅の引き金を引くために十分であったが、T細胞を完全に活性化して、増殖および生存させることはできなかった。この制限を克服するために、複合エンドドメインが構築された:CD3ζのものへのT細胞共刺激分子の細胞内部分の融合は、抗原認識後に活性化および共刺激シグナルを同時に伝達することができる第2世代受容体をもたらす。最も一般に使用される共刺激ドメインは、CD28のものである。これは、T細胞増殖の引き金を引く最も強力な共刺激シグナル-すなわち、免疫学的シグナル2を供給する。生存シグナルを伝達する密接に関連するOX40および41BBなどのTNF受容体ファミリーエンドドメインを含むいくつかの受容体も記載されている。現在では、活性化、増殖、および生存シグナルを伝達することができるエンドドメインを有するさらにより強力な第3世代CARが記載されている。
【0142】
CARをコードする核酸は、例えば、レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターを使用してT細胞に移入されて、養子細胞移入のためのがん特異的T細胞を生成し得る。CARが標的抗原と結合すると、これは、それが発現されるT細胞への活性化シグナルの伝達をもたらす。そのため、CARは、標的抗原を発現する腫瘍細胞の方にT細胞の特異性および細胞傷害性を向ける。
【0143】
タンデムCARまたはTanCARとして公知の二重特異性CARは、2つまたはそれよりも多くのがん特異的マーカーを同時に標的にするように開発された。TanCARでは、細胞外ドメインは、リンカーによって接合された2つの抗原結合特異性をタンデムで含む。そのため、2つの結合特異性(scFv)は、両方とも、単一の膜貫通部分に連結される:一方のscFvは膜に近接しており、他方は遠位にある。TanCARが標的抗原のいずれかまたは両方と結合する場合、これは、それが発現される細胞への活性化シグナルの伝達をもたらす。
【0144】
抗原結合ドメイン
抗原結合ドメインは、抗原を認識するCARの部分である。抗体、抗体ミメティック、およびT細胞受容体の抗原結合部位に基づくものを含む多数の抗原結合ドメインが当技術分野において公知である。例えば、抗原結合ドメインは、モノクローナル抗体に由来する一本鎖可変断片(scFv);標的抗原の天然リガンド;標的に対して十分な親和性を有するペプチド;シングルドメイン抗体;Darpinなどの人工単一バインダー(設計アンキリンリピートタンパク質);またはT細胞受容体に由来する一本鎖を含み得る。
【0145】
古典的CARでは、抗原結合ドメインは、モノクローナル抗体に由来する一本鎖可変断片(scFv)を含む。ドメイン抗体(dAb)またはVHH抗原結合ドメインを有するか、またはFab断片、例えばモノクローナル抗体のFab断片を含む、CARも生成されている。FabCARは、2つの鎖:抗体様軽鎖可変領域(VL)および定常領域(CL)を有する鎖;ならびに重鎖可変領域(VH)および定常領域(CH)を有する鎖を含む。一方の鎖は、膜貫通ドメインおよび細胞内シグナル伝達ドメインも含む。CLおよびCHの間の会合は、受容体のアセンブリーを引き起こす。
【0146】
Fab CARの2つの鎖は、一般構造:
VH-CH-スペーサー-膜貫通ドメイン-細胞内シグナル伝達ドメイン;および
VL-CL
または
VL-CL-スペーサー-膜貫通ドメイン-細胞内シグナル伝達ドメイン;および
VH-CH
を有し得る。
【0147】
Fab型キメラ受容体について、抗原結合ドメインは、一方のポリペプチド鎖由来のVH、および他方のポリペプチド鎖由来のVLで構成される。
【0148】
ポリペプチド鎖は、VH/VLドメインおよびCH/CLドメインの間にリンカーを含んでいてもよい。リンカーは、可撓性であってもよく、VH/VLドメインをCH/CLドメインから空間的に分離する働きをし得る。
【0149】
CARの抗原結合ドメインは、腫瘍関連抗原と結合し得る。例えば、以下の表2に示されるように、さまざまな腫瘍関連抗原(TAA)が公知である。
【表2】
【0150】
CARは、下記の表3に要約された標的の1つに結合し得る。特に、CARは、以下の標的抗原:ジシアロガングリオシド(GD2)、上皮性増殖因子受容体(EGFR)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、グリピカン3(GPC3)、ヒト上皮性増殖因子受容体(HER2)、L1CAM、ムチン1(MUC1)、または前立腺特異的膜抗原(PSMA)の1つと結合し得る。
【0151】
本発明の一実施形態では、CARは、PSMA以外の抗原と結合し得る。CARは、PSMAではない表3に列挙された標的抗原の1つと結合し得る。例えば、CARは、以下の標的抗原:ジシアロガングリオシド(GD2)、上皮性増殖因子受容体(EGFR)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、グリピカン3(GPC3)、ヒト上皮性増殖因子受容体(HER2)、L1CAM、およびムチン1(MUC1)の1つと結合し得る。
【0152】
ジシアロガングリオシドGD2
シアル酸含有糖スフィンゴ脂質(glycosphinolipid)であるジシアロガングリオシド(GD2)と結合するCARが開発されている。そのようなCARは、例えば、GD2バインダーの14g2a、またはWO2015/132604号に記載されるhuK666に基づき得る。
【0153】
GD2と結合するCARは、
a)以下の配列:
CDR1-SYNIH(配列番号12)
CDR2-VIWAGGSTNYNSALMS(配列番号13)
CDR3-RSDDYSWFAY(配列番号14)
を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH);および
b)以下の配列:
CDR1-RASSSVSSSYLH(配列番号15)
CDR2-STSNLAS(配列番号16)
CDR3-QQYSGYPIT(配列番号17)
を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL)
を含む抗原結合ドメインを有し得る。
【0154】
GD2結合ドメインは、配列番号75に示される配列を有するVHドメイン;および/または配列番号76に示される配列を有するVLドメインを含み得る。
【化10】
【0155】
CARの抗原結合ドメインは、バリアント配列がGD2と結合する能力を保持するという条件で、少なくとも80、85、90、95、98、または99%の配列同一性を有する配列番号75または76のバリアントを含み得る。
【0156】
上皮性増殖因子受容体(EGFR)
上皮性増殖因子受容体(EGFR;ErbB-1;ヒトではHER1)は、細胞外タンパク質リガンドの上皮増殖因子ファミリー(EGFファミリー)のメンバーに対する受容体である膜貫通タンパク質である。ヒトEpCAMのアミノ酸配列は、UniProt受託番号P00533から入手可能である。EGFRは、不活性な単量体形態から活性なホモ二量体への移行を受ける。EGFR二量体化は、その固有の細胞内タンパク質チロシンキナーゼ活性を刺激し、Y992、Y1045、Y1068、Y1148、およびY1173を含むC末端ドメインのいくつかのチロシン(Y)残基の自己リン酸化を引き起こす。自己リン酸化は、それら自身のホスホチロシン結合SH2ドメインを通してリン酸化チロシンと会合するいくつかの他のタンパク質によって、下流の活性化およびシグナル伝達を誘発する。これらの下流のシグナル伝達タンパク質は、いくつかのシグナル伝達カスケード、特に、MAPK、Akt、およびJNK経路を開始し、DNA合成および細胞増殖をもたらす。
【0157】
EGFRの過剰発現は、多種多様な腫瘍の発生に関連する。EGFR過剰発現(上方調節または増幅として公知)をもたらす突然変異は、肺の腺癌(症例の40%)、肛門がん、神経膠芽腫(50%)、および頭頸部の上皮性腫瘍(80~100%)を含む、いくつかのがんに関連している。EGFRが関与するこれらの体細胞突然変異は、その一定の活性化をもたらし、これは、未制御の細胞分裂を生じる。神経膠芽腫では、EGFRvIIIと呼ばれるEGFRの特異的突然変異が多くの場合に観察される。EGFRまたはファミリーメンバーの突然変異、増幅、または誤調節は、すべての上皮がんの約30%に関わる。
【0158】
いくつかの抗EGFR抗体、例えば、セツキシマブ、パニツムマブ、ザルツムマブ、ニモツズマブ、およびマツズマブが公知である。
【0159】
上皮細胞接着分子(EpCAM)
上皮細胞接着分子(EpCAM)は、上皮においてCa2+非依存性同型細胞間接着を媒介する膜貫通糖タンパク質である。EpCAMは、細胞のシグナル伝達、遊走、増殖、および分化にも関与する。加えて、EpCAMは、c-myc、e-fabp、ならびにサイクリンAおよびEを上方調節するその能力を介して発がんの可能性を有する。EpCAMは、上皮および上皮由来新生物において独占的に発現されるので、EpCAMは、さまざまながんのための診断マーカーとして使用することができる。癌腫の腫瘍形成および転移において役割を果たすと思われ、そのため、これは、予後マーカーとして、および免疫療法戦略のための標的としても作用し得る。EpCAMは、多くの場合、乳がん、結腸がん、および皮膚の基底細胞癌を含むある特定の癌腫において過剰発現される。
【0160】
EpCAMは、グリコシル化された30~40kDaのI型膜タンパク質である。ヒトEpCAMのアミノ酸配列は、UniProt受託番号P16422から入手可能である。分子に発がんの可能性を与えるEpCAMが切断され得る。切断の際に、細胞外ドメイン(EpEX)は、細胞の周囲の領域に放出され、細胞内ドメイン(EpICD)は、細胞の細胞質に放出される。EpICDは、核の内部でタンパク質のFHL2、β-カテニン、およびLefと複合体を形成する。次いで、この複合体は、DNAに結合し、さまざまな遺伝子の転写を促進する。上方調節の標的としては、c-myc、e-fabp、ならびにサイクリンAおよびEが挙げられる。これは、腫瘍成長を促進する効果を有する。加えて、切断されたEpEXは、さらなるEpCAM分子の切断を刺激し、ポジティブフィードバックループをもたらすことができる。EpCAMはまた、腫瘍における上皮間葉移行(EMT)において役割を果たし得る。
【0161】
EpCAMは、主に、正常な上皮の側底膜において発現されるので、これががん細胞表面において均一に分布する場合、がん組織において、EpCAMよりも抗体にはるかに接近しにくいはずである。多くの癌腫において過剰発現されることに加えて、EpCAMは、がん幹細胞において発現され、EpCAMを免疫療法のための魅力的な標的にする。しかしながら、癌腫におけるEpCAMの不均一な発現、およびEpCAMが腫瘍特異的ではない(すなわち、正常な上皮において見出される)という事実は、これまでに、EpCAMの方に向かう免疫療法手法の開発を妨げていた。
【0162】
それぞれ、マウスIgG2aのエドレコロマブ、およびそのマウス/ヒトキメラIgG1抗体バージョン、ならびにヒト化、ヒト操作された、および完全ヒトIgG1抗体の3622W94、ING-1、ならびにアデカツムマブ(MT201)を含むいくつかの抗EpCAM抗体が公知である。
【0163】
グリピカン3(GPC3)
グリピカン-3は、細胞分裂および成長調節の制御において役割を果たす。GPC3のタンパク質コアは、2つのサブユニットからなり、N末端サブユニットは約40kDaのサイズを有し、C末端サブユニットは約30kDaである。ヒトGPC3のアミノ酸配列は、UniProt受託番号P51654から入手可能である。
【0164】
哺乳動物において、6つのグリピカン(GPC1~6)が特定されている。細胞表面のヘパラン硫酸プロテオグリカンは、可変数のヘパラン硫酸鎖で置換された膜関連タンパク質コアから構成されている。グリピカン関連膜内在性プロテオグリカンファミリー(GRIPS)のメンバーは、グリコシルホスファチジルイノシトール連結を介して、細胞質膜に固定されたコアタンパク質を含有する。GPC3は、Wntおよびfrizzled(FZD)の両方と相互作用して、複合体を形成し、下流のシグナル伝達の引き金を引く。
【0165】
GPC3は、肝臓がんを処置するための前途有望な治療標的である。GC33、HN3、およびYP7を含むいくつかの治療用抗GPC3抗体が開発されている。YP7およびそのヒト化形態hYP7は、GPC3のCローブと結合し、シングルドメイン抗体のHN3は、GPC3のNローブを標的するが、ヒトモノクローナル抗体は、GPC3のヘパラン硫酸部分を標的にする。GC33、hYP7、およびHN3に基づくキメラ抗原受容体(CAR)T細胞免疫療法は、肝臓がんを処置するために、さまざまな段階で開発中である。
【0166】
ヒト上皮性増殖因子受容体(HER2)
HER2(ヒト上皮性増殖因子受容体2由来)は、HER2/neu、受容体チロシン-タンパク質キナーゼerbB-2、CD340(表面抗原分類340)、プロトオンコジーンNeu、Erbb2(齧歯動物)、およびERBB2(ヒト)としても公知である。
【0167】
HER2は、ヒト上皮性増殖因子受容体(HER/EGFR/ERBB)ファミリーのメンバーである。このオンコジーンの増幅または過剰発現は、ある特定の攻撃的な種類の乳がんの発生および進行において重要な役割を果たすことが示されている。近年では、このタンパク質は、重要なバイオマーカー、および乳がん患者のおよそ30%に対する治療の標的になっている。
【0168】
ErbBファミリーは、4つの細胞膜結合受容体チロシンキナーゼからなる。その1つはerbB-2であり、他のメンバーは、上皮性増殖因子受容体のerbB-3(ニューレグリン結合性;キナーゼドメインを欠く)、およびerbB-4である。4つすべてが、細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン、ならびに多数のシグナル伝達分子と相互作用し、リガンド依存性およびリガンド非依存性の活性の両方を示し得る細胞内ドメインを含有する。HER2は、他の3つの受容体のいずれかとヘテロ二量体化することができ、他のErbB受容体の好ましい二量体化パートナーであると考えられる。二量体化は、受容体の細胞質ドメイン内でのチロシン残基の自己リン酸化をもたらし、各種のシグナル伝達経路を開始する。ヒトHER2のアミノ酸配列は、UniProt受託番号P04626から入手可能である。
【0169】
HER2は、モノクローナル抗体のトラスツズマブ(Herceptinとして販売)の標的である。トラスツズマブは、HER2が過剰発現しているがんにおいてのみ有効である。HER2に結合するトラスツズマブの重要な下流の効果は、細胞増殖を停止するタンパク質のp27の増加である。HER2およびHER3受容体の二量体化を阻害する別のモノクローナル抗体であるペルツズマブは、2012年6月に、トラスツズマブとの併用についてFDAによって承認された。
【0170】
L1細胞接着分子(L1CAM)
L1としても公知のL1CAMは、L1CAM遺伝子によってコードされる、L1タンパク質ファミリーの膜貫通タンパク質メンバーである。200~220kDaのこのタンパク質は、6つの免疫グロブリンドメイン、それに続く膜貫通ヘリックスによって小型細胞内ドメインに接続されている5つのIII型フィブロネクチンドメインから形成される。ヒトL1CAMのアミノ酸配列は、UniProt受託番号P32004から入手可能である。
【0171】
L1CAMは、細胞の遊走、接着、神経突起伸長、ミエリン形成、およびニューロン分化において強い関わりを有する神経細胞接着分子である。L1CAMは、ニューロンの表面上の神経系全体にわたって位置する。これは、細胞膜に沿って配置され、その結果、タンパク質の一端は、神経細胞の内部に留まるが、他端は、ニューロンの外側表面にある。この位置は、タンパク質が、ニューロンを通して伝播する化学シグナルを活性化するのを可能にする。
【0172】
ニューロンのためのサポートおよび保護を提供し、ミエリンを形成する非神経細胞である未成熟乏突起膠細胞およびシュワン細胞;細胞媒介免疫に関与するリンパ球であるT細胞;B細胞および単球などの他の種類のリンパ球を含む多種多様な細胞がL1CAMを発現する。L1CAMは、多数の腫瘍の種類、例えば、黒色腫および肺癌細胞において発現される。
【0173】
Wolterink et al (2010) Cancer Res 15:2504-2515は、抗体L1-9.3を含む、L1CAM外部ドメインに対する一連の新規モノクローナル抗体(mAb)の生成を記載している。
【0174】
ムチン1(MUC1)
多形上皮ムチン(PEM)または上皮膜抗原またはEMAとも呼ばれる細胞表面関連のムチン1(MUC1)は、ヒトにおいて、MUC1遺伝子によってコードされるムチンである。MUC1は、その細胞外ドメインの広範囲のO-連結グリコシル化を有する糖タンパク質である。ムチンは、肺、胃、腸、眼、およびいくつかの他の器官の上皮細胞の頂端膜側を覆っている。ムチンは、病原体が細胞外ドメイン中のオリゴ糖に結合し、病原体が細胞表面に達するのを防止することによって、感染から身体を保護する。MUC1の過剰発現は、多くの場合、結腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、および膵臓がんに関連する。ヒトMUC1のアミノ酸配列は、UniProt受託番号P15941から入手可能である。
【0175】
PDT*Rモチーフ(アスタリスクはO-グリコシル化部位を表す、配列番号104)で特定のO-グリカン構造を認識する1B2および12D10を含む多数の抗ムチン1(抗MUC1)抗体が開発され、特性評価されている。1B2は、GalNAc残基の無置換O-6位(Tn、T、および23ST)でO-グリカンを認識するが、12D10は、同じ位置(STn、26ST、およびdST)でNeu5Acを認識する。
【0176】
前立腺特異的膜抗原(PSMA)
グルタミン酸カルボキシペプチダーゼII(GCPII)、N-アセチル-L-アスパルチル-L-グルタミン酸ペプチダーゼI(NAALADase I)、またはNAAGペプチダーゼとしても公知の前立腺特異的膜抗原(PSMA)は、亜鉛金属酵素である。これは、N-アセチルアスパルチルグルタメート(NAAG)のグルタミン酸およびN-アセチルアスパルテート(NAA)への加水分解を触媒するクラスII膜糖タンパク質である。ヒトMUC1のアミノ酸配列は、UniProt受託番号Q04609から入手可能である。
【0177】
ヒトPSMAは、ほとんどの他の組織よりもおよそ100倍高く、前立腺において高度に発現される。一部の前立腺がんでは、PSMAは、非がん性前立腺細胞のレベルに対して8~12倍の増加で、2番目に多く上方調節された遺伝子産物である。この高発現のために、PSMAは、一部のがんの療法およびイメージングのための可能性があるバイオマーカーとして開発中である。ヒト前立腺がんでは、より高く発現している腫瘍は、より迅速な腫瘍増殖停止時間、および再発を患う患者のより高いパーセンテージに関連する。PSMAレベルの減少を有する前立腺がんおよび乳がんの細胞系を使用するin vitro研究は、細胞の増殖、遊走、侵襲、接着、および生存の有意な減少を示した。
【0178】
前立腺特異的膜抗原(PSMA)に特異的なCARを発現するT細胞は、現在、前立腺がんの処置のための臨床試験中である(Junhans et al (2016) Prostate 76:1257-1270)。
【0179】
英国特許出願第1919019.8号は、CARにおける使用に好適なさまざまなPSMA抗原結合ドメインを記載した。
【0180】
PSMAと結合するCARは、
a)以下の配列:
CDR1-SSWMN(配列番号18)
CDR2-RIYPGDGDTNYAQKFQG(配列番号19)
CDR3-GTGYLWYFDV(配列番号20)
を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH);および
b)以下の配列:
CDR1-RASQDINENLA(配列番号21)
CDR2-YTSNRAT(配列番号22)
CDR3-QQYDNLPFT(配列番号23)
を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL)
を含む抗原結合ドメインを有し得る。
【0181】
PSMA結合ドメインは、配列番号77に示される配列を有するVHドメイン;および/または配列番号78に示される配列を有するVLドメインを含み得る。
【化11】
【0182】
CARの抗原結合ドメインは、バリアント配列がPSMAと結合する能力を保持するという条件で、少なくとも80、85、90、95、98、または99%の配列同一性を有する配列番号77または78のバリアントを含み得る。
【0183】
しかしながら、本発明の一実施形態では、CARは、PSMA以外の抗原に結合する。CARは、非PSMA特異的抗原結合ドメインを有し得る。
【0184】
細胞内T細胞シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)
CARは、活性化エンドドメイン:CARのシグナル伝達部分を含み得るか、それと会合し得る。抗原認識後、受容体のクラスターおよびシグナルは、細胞に伝達される。最も一般的に使用されるエンドドメイン構成要素は、3つのITAMを含有するCD3-ゼータのエンドドメインである。これは、抗原が結合した後、T細胞に活性化シグナルを伝達する。CD3-ゼータは、十分に適格な活性化シグナルを提供しないことがあり、さらなる共刺激シグナル伝達が必要であることがある。例えば、キメラCD28およびOX40を、増殖/生存シグナルを伝達するためにCD3-ゼータとともに使用することができ、または3つすべてを一緒に使用することができる。
【0185】
CARのエンドドメインは、CD28エンドドメインおよびCD3-ゼータエンドドメインを含み得る。これらのエンドドメインの配列を、それぞれ、下記に配列番号79および80として示す。
【化12】
【0186】
エンドドメインは、
(i)ITAM含有エンドドメイン、例えば、CD3ゼータ由来のエンドドメイン;および/または
(ii)共刺激ドメイン、例えば、CD28由来のエンドドメイン;および/または
(iii)生存シグナルを伝達するドメイン、例えば、TNF受容体ファミリーエンドドメイン、例えば、OX-40もしくは4-1BB
を含み得る。
【0187】
ITAMモチーフを含有するエンドドメインは、本発明において活性化エンドドメインとして作用し得る。いくつかのタンパク質は、1つまたは複数のITAMモチーフを有するエンドドメインを含有することが公知である。そのようなタンパク質の例としては、2~3例を挙げると、CD3イプシロン鎖、CD3ガンマ鎖、およびCD3デルタ鎖が挙げられる。ITAMモチーフは、任意の2つの他のアミノ酸によってロイシンまたはイソロイシンから分離されたチロシンとして容易に認識することができ、シグネチャーYxxL/I(配列番号81)を与える。常にではないが典型的には、これらのモチーフの2つは、分子のテイルにおいて、6~8個のアミノ酸によって分離される(YxxL/Ix(6-8)YxxL/I)。そのため、当業者は、活性化シグナルを伝達するために1つまたは複数のITAMを含有する既存のタンパク質を容易に見出すことができる。さらに、モチーフが単純であって、複雑な二次構造を必要としないことを考慮すると、当業者は、活性化シグナルを伝達するための人工ITAMを含有するポリペプチドを設計することができる(合成シグナル伝達分子に関するWO2000/063372号を参照されたい)。
【0188】
WO015/150771号;WO2016/124930号、およびWO2016/030691号に記載のものなどのCARの抗原認識部分がシグナル伝達部分由来の別々の分子上にあるいくつかの系が記載されている。本発明の方法で使用されるウイルスベクターの1つまたは複数は、そのような「分割CAR」をコードし得る。あるいは、1つのベクターは、抗原認識部分をコードする核酸配列を含み得、1つのベクターは、細胞内シグナル伝達ドメインをコードする核酸配列を含み得る。
【0189】
シグナルペプチド
ベクター中の1つまたは複数の核酸配列は、シグナルペプチドをコードし得、その結果、CAR、サイトカイン、またはケモカインが細胞の内側で発現されると、新生タンパク質は、小胞体に向けられ、その後、細胞表面に向けられ、そこで発現される(またはサイトカインもしくはケモカインの場合はそこで分泌される)。
【0190】
シグナルペプチドのコアは、単一のアルファ-ヘリックスを形成する傾向がある長い一続きの疎水性アミノ酸を含有し得る。シグナルペプチドは、短い正に荷電した一続きのアミノ酸で開始してもよく、これは、転位の間のポリペプチドの適したトポロジーの強化に役立つ。シグナルペプチドの末端には、典型的には、シグナルペプチダーゼによって認識および切断される一続きのアミノ酸が存在する。シグナルペプチダーゼは、転位の間またはその完了後のいずれかで切断して、遊離シグナルペプチドおよび成熟タンパク質を生成し得る。次いで、遊離シグナルペプチドは、特定のプロテアーゼによって消化される。
【0191】
シグナルペプチドは、分子のアミノ末端にあり得る。
【0192】
CARは、一般式:
シグナルペプチド-抗原結合ドメイン-スペーサードメイン-膜貫通ドメイン-細胞内T細胞シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)
を有し得る。
【0193】
スペーサー
CARは、抗原結合ドメインを膜貫通ドメインと接続し、抗原結合ドメインをエンドドメインから空間的に分離するスペーサー配列を含み得る。可撓性スペーサーは、抗原結合ドメインが異なる方向に配向して、抗原結合を可能にさせる。
【0194】
スペーサー配列は、例えば、IgG1 Fc領域、IgG1ヒンジ、もしくはCD8ストーク、またはその組合せを含み得る。スペーサーは、代替的に、IgG1 Fc領域、IgG1ヒンジ、またはCD8ストークと類似の長さおよび/またはドメインスペーシング特性を有する代替配列を含み得る。
【0195】
ウイルスベクターの組成物がCARをコードする核酸配列を含む2つ以上のベクターを含む場合、CARは、異なるスペーサーを有していてもよい。
【0196】
ORゲート
本発明の細胞組成物は、2つまたはそれよりも多くのCARを含んでいてもよい。これは、CARをコードする核酸配列をそれぞれ含む2つもしくはそれよりも多くのベクターでの形質導入の結果としてであり得るか、または2つもしくはそれよりも多くのCARをコードする核酸構築物を含む単一ベクターでの形質導入の結果としてであり得る。
【0197】
CARは、1つまたは複数の他の活性化キメラ抗原受容体または阻害性キメラ抗原受容体と組み合わせて使用してもよい。例えば、それらは、「論理ゲート」において1つまたは複数のCARと組み合わせて使用してもよく、CARの組合せは、T細胞などの細胞によって発現される場合に、少なくとも2つの標的抗原の特定の発現のパターンの検出を可能にする。少なくとも2つの標的抗原が抗原Aおよび抗原Bとして任意に表される場合、3つの可能な選択肢は以下の通りである:
「ORゲート」-T細胞は、抗原Aまたは抗原Bのいずれかが標的細胞上に存在する場合に、引き金を引く
「ANDゲート」-T細胞は、抗原AおよびBの両方が標的細胞上に存在する場合のみ、引き金を引く
「AND NOTゲート」-T細胞は、抗原Aが単独で標的細胞上に存在する場合に、引き金を引くが、抗原AおよびBの両方が標的細胞上に存在する場合に引き金を引かない。
【0198】
これらのCARの組合せを発現する操作されたT細胞は、2またはそれより多くのマーカーのそれらの特定の発現(または発現の欠如)に基づいて、がん細胞に精巧に特異的であるように調整することができる。
【0199】
そのような「論理ゲート」は、例えば、WO2015/075469号、WO2015/075470号、およびWO2015/075470号に記載されている。
【0200】
「ORゲート」は、標的細胞によって発現された別個の標的抗原にそれぞれ対する2つまたはそれより多くの活性化CARを含む。ORゲートの利点は、有効に抗原A+抗原Bとなるように、有効な標的可能な抗原が標的細胞上で増加することである。単一抗原のレベルが、CAR-T細胞によって有効に標的にするために必要な閾値を下回り得るので、これは、標的細胞上に可変のまたは低い密度で発現される抗原のために特に重要である。また、それは、抗原逃避の現象を回避する。
【0201】
トランスジェニックT細胞受容体(TCR)
本発明の細胞は、トランスジェニックTCRを発現し得る。
【0202】
T細胞受容体(TCR)は、抗原の断片を主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合したペプチドとして認識する原因となるT細胞の表面上で見られる分子である。
【0203】
TCRは、2つの異なるタンパク質鎖から構成されるヘテロ二量体である。ヒトでは、95%のT細胞では、TCRはアルファ(α)鎖およびベータ(β)鎖(それぞれ、TRAおよびTRBによってコードされる)からなるが、5%のT細胞では、TCRはガンマおよびデルタ(γ/δ)鎖(それぞれ、TRGおよびTRDによってコードされる)からなる。
【0204】
TCRが、抗原ペプチドおよびMHCとエンゲージする場合(ペプチド/MHC)、Tリンパ球は、シグナル伝達を介して活性化される。
【0205】
従来の抗体指向性標的抗原とは対照的に、TCRによって認識される抗原は、プロセシングされ、かつペプチド/MHC複合体として細胞表面に送達される潜在的な細胞内タンパク質のアレイ全体を含み得る。
【0206】
ベクターを使用して細胞にTRA遺伝子およびTRB遺伝子またはTRG遺伝子およびTRD遺伝子を人為的に導入することによって、異種(すなわち、非ネイティブ)TCR分子を発現するように細胞を操作することが可能である。例えば、操作されたTCRの遺伝子を自己T細胞に導入し、T細胞養子療法のために患者に移入して戻すことができる。そのような「異種」TCRは、本明細書で「トランスジェニックTCR」または操作されたTCRとも称され得る。
【0207】
本発明の細胞は、TRA遺伝子およびTRB遺伝子をコードする1つもしくは複数の異種核酸配列、またはTRG遺伝子およびTRD遺伝子をコードする1つもしくは複数の異種核酸配列を含み得る。
【0208】
ドミナントネガティブSHP-2
本発明の細胞は、ドミナントネガティブSHP-2を発現し得る。
【0209】
WO2016/193696号は、阻害性免疫受容体、例えば、CTLA4、PD-1、LAG-3、2B4、またはBTLA1によって媒介される阻害を遮断または低減するSHP-1およびSHP-2の短縮型バージョンを記載している。SHP-1およびSHP-2の短縮型形態は、一方または両方のSH2ドメインを含むが、ホスファターゼドメインを欠く。CAR-T細胞において発現されると、これらの分子は、野生型SHP-1およびSHP-2のドミナントネガティブバージョンとして作用し、リン酸化されたITIMへの結合について内因性分子と競合する。
【0210】
本発明の細胞は、リン酸化された免疫受容抑制性チロシンモチーフ(ITIM)と結合するが、ホスファターゼドメインを欠くタンパク質由来のSH2ドメインを含む短縮型タンパク質を発現し得る。短縮型タンパク質は、一方または両方のSHP-1 SH2ドメインを含み得るが、SHP-1ホスファターゼドメインを欠き得る。あるいは、短縮型タンパク質は、一方または両方のSHP-2 SH2ドメインを含み得るが、SHP-2ホスファターゼドメインを欠き得る。
【0211】
SHP-1
Src相同領域2ドメイン含有ホスファターゼ-1(SHP-1)は、タンパク質チロシンホスファターゼファミリーのメンバーである。これは、PTPN6としても公知である。
【0212】
SHP-1のN末端領域は、SHP-1およびその基質の相互作用を媒介する2つのタンデムSH2ドメインを含有する。C末端領域は、チロシン-タンパク質ホスファターゼドメインを含む。
【0213】
SHP-1は、いくつかの阻害性免疫受容体またはITIM含有受容体に結合し、それからのシグナルを伝播することができる。そのような受容体の例としては、限定されるものではないが、PD1、PDCD1、BTLA4、LILRB1、LAIR1、CTLA4、KIR2DL1、KIR2DL4、KIR2DL5、KIR3DL1、およびKIR3DL3が挙げられる。
【0214】
ヒトSHP-1タンパク質は、UniProtKB受託番号P29350を有する。
【0215】
活性モジュレーターは、下記に配列番号82として示されるSHP-1タンデムSH2ドメインを含むか、またはそれからなり得る。
【化13】
【0216】
SHP-1は、配列のN末端の残基4~100および110~213に2つのSH2ドメインを有する。活性モジュレーターは、配列番号83および84として示される配列の一方または両方を含み得る。
【化14-1】
【化14-2】
【0217】
細胞は、バリアント配列が必要な特性を有するSH2ドメイン配列であることを条件として、少なくとも80、85、90、95、98、または99%の配列同一性を有する配列番号82、83、または84のバリアントを発現し得る。言い換えれば、バリアント配列は、SHP-1のリクルートが可能なPD1、PDCD1、BTLA4、LILRB1、LAIR1、CTLA4、KIR2DL1、KIR2DL4、KIR2DL5、KIR3DL1、またはKIR3DL3の少なくとも1つの細胞質尾部中のリン酸化されたチロシン残基に結合することができるはずである。
【0218】
SHP-2
PTPN11、PTP-1D、およびPTP-2Cとしても公知のSHP-2は、タンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)ファミリーのメンバーである。PTPN6のように、SHP-2は、そのN末端の2つのタンデムSH2ドメイン、それに続くタンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)ドメインからなるドメイン構造を有する。不活性状態では、N末端SH2ドメインは、PTPドメインと結合し、活性部位への潜在的な基質の接近を遮断する。そのため、SHP-2は自己阻害される。標的のホスホ-チロシル残基への結合の際に、N末端SH2ドメインは、PTPドメインから放出され、自己阻害を取り除くことによって酵素を触媒的に活性化する。
【0219】
ヒトSHP-2は、UniProtKB受託番号P35235-1を有する。
【0220】
活性モジュレーターは、下記に配列番号87として示されるSHP-1タンデムSH2ドメインを含むか、またはそれからなり得る。SHP-1は、配列のN末端の残基6~102および112~216に2つのSH2ドメインを有する。活性モジュレーターは、配列番号85および86として示される配列の一方または両方を含み得る。
【化15-1】
【化15-2】
【0221】
細胞は、バリアント配列が必要な特性を有するSH2ドメイン配列であることを条件として、少なくとも80、85、90、95、98、または99%の配列同一性を有する配列番号85、86、または87のバリアントを発現し得る。言い換えれば、バリアント配列は、SHP-2のリクルートが可能なPD1、PDCD1、BTLA4、LILRB1、LAIR1、CTLA4、KIR2DL1、KIR2DL4、KIR2DL5、KIR3DL1、またはKIR3DL3の少なくとも1つの細胞質尾部中のリン酸化されたチロシン残基に結合することができるはずである。
【0222】
ドミナントネガティブTGFβ受容体
本発明の細胞は、ドミナントネガティブTGFβ受容体を発現し得る。
【0223】
操作された細胞は、養子免疫療法を制限する不利な微小環境に直面する。腫瘍微小環境内の主要な阻害機構の1つは、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)である。TGFβシグナル伝達経路は、各種の細胞プロセスを制御する調節性シグナル伝達において極めて重要な役割を有する。TGFβは、T細胞ホメオスタシスおよび細胞機能の制御においても中心的な役割を果たす。特に、TGFβシグナル伝達は、増殖および活性化の低減を伴って、T細胞の免疫低下状態に関連する。TGFβ発現は、腫瘍の免疫抑制性微小環境に関連する。
【0224】
各種のがん性腫瘍細胞は、TGFβを直接産生することが公知である。がん性細胞によるTGFβ産生に加えて、TGFβは、腫瘍部位に存在する多種多様な非がん性細胞、例えば、腫瘍関連T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、上皮細胞、および間質細胞によって産生され得る。
【0225】
トランスフォーミング増殖因子ベータ受容体は、セリン/トレオニンキナーゼ受容体のスーパーファミリーである。これらの受容体は、増殖因子およびサイトカインシグナル伝達タンパク質のTGFβスーパーファミリーのメンバーと結合する。5つのII型受容体(活性化受容体である)および7つのI型受容体(シグナル伝達伝播受容体である)がある。
【0226】
補助共受容体(III型受容体としても公知)も存在する。リガンドのTGFβスーパーファミリーのそれぞれのサブファミリーは、I型およびII型受容体に結合する。
【0227】
3つのトランスフォーミング増殖因子は、多くの活性を有する。TGFβ1および2は、がんに関与し、ここで、それらは、がん幹細胞を刺激し、線維症/線維形成性反応を増加させ、腫瘍の免疫認識を抑制し得る。
【0228】
活性TGFβ受容体(TβR)は、2つのTGFβ受容体I(TβRI)および2つのTGFβ受容体II(TβRII)によって構成されるヘテロ四量体である。TGFβ1は、潜在形態で分泌され、多数の機構によって活性化される。活性化されたら、それは、TβRIをリン酸化および活性化するTβRII TβRIと複合体を形成する。
【0229】
本発明の細胞は、ドミナントネガティブTGFβ受容体を発現し得る。ドミナントネガティブTGFβ受容体は、キナーゼドメインを欠き得る。
【0230】
例えば、ドミナントネガティブTGFβ受容体は、TGF受容体IIの単量体バージョンである配列番号88として示される配列を含むか、またはそれからなり得る。
【化16】
【0231】
ドミナントネガティブTGF-βRII(dnTGF-βRII)は、攻撃的なヒト前立腺がんマウスモデルにおいて、PSMA標的CAR-T細胞増殖、サイトカイン分泌、疲弊に対する抵抗性、長期間のin vivo持続、および腫瘍根絶の誘導を増強することが報告されている(Kloss et al (2018) Mol. Ther.26:1855-1866)。
【0232】
キメラサイトカイン受容体
本発明の細胞は、キメラサイトカイン受容体を発現し得る。
【0233】
WO2017/029512号は、非サイトカインリガンドに結合するエキソドメイン;およびサイトカイン受容体エンドドメインを含むキメラサイトカイン受容体(CCR)を記載している。
【0234】
非サイトカインリガンドは、腫瘍分泌因子、ケモカイン、および細胞表面抗原から選択され得る。
【0235】
キメラサイトカイン受容体は、2つのポリペプチド:
(i)(a)リガンドの第1のエピトープと結合する第1の抗原結合ドメイン
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第1の鎖
を含む第1のポリペプチド;および
(ii)(a)リガンドの第2のエピトープと結合する第2の抗原結合ドメイン
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第2の鎖
を含む第2のポリペプチド
を含み得る。
【0236】
あるいは、このキメラサイトカイン受容体は、2つのポリペプチド:
(i)(a)重鎖可変ドメイン(VH)
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第1の鎖
を含む第1のポリペプチド;および
(ii)(a)軽鎖可変ドメイン(VL)
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第2の鎖
を含む第2のポリペプチド
を含む。
【0237】
例えば、サイトカイン受容体エンドドメインは、
(i)IL-2受容体β鎖エンドドメイン;
(ii)IL-7受容体α鎖エンドドメイン;
(iii)IL-15受容体α鎖エンドドメイン;または
(iv)共通γ鎖受容体エンドドメイン
を含み得る。
【0238】
サイトカイン受容体エンドドメインは、(i)、(ii)、または(iii)、および(iv)を含み得る。
【0239】
サイトカイン受容体エンドドメインは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子受容体(GMCSF-R)由来のα鎖エンドドメインおよびβ鎖エンドドメインを含み得る。
【0240】
リガンドは、腫瘍分泌因子、例えば、前立腺特異的抗原(PSA)、癌胎児抗原(CEA)、血管内皮増殖因子(VEGF)、およびCA125から選択される腫瘍分泌因子であり得る。
【0241】
リガンドは、ケモカイン、例えば、CXCL12、CCL2、CCL4、CCL5、およびCCL22から選択されるケモカインであり得る。
【0242】
リガンドは、細胞表面分子、例えば、膜貫通タンパク質であり得る。リガンドは、例えば、CD22であり得る。
【0243】
構成的に活性なキメラサイトカイン受容体
本発明の細胞は、構成的に活性なキメラサイトカイン受容体を発現し得る。構成的に活性なキメラサイトカイン受容体は、自発的にまたは薬剤(二量体化の化学誘導物質またはCID)の存在下のいずれかで、2つのサイトカイン受容体エンドドメインを一緒にして二量体化する2つの鎖を含み得る。
【0244】
したがって、構成的に活性なキメラサイトカイン受容体は、二量体化ドメイン、およびサイトカイン受容体エンドドメインを含み得る。
【0245】
二量体化は自発的に起こってもよく、その場合、キメラ膜貫通タンパク質は構成的に活性である。あるいは、二量体化は二量体化の化学誘導物質(CID)の存在下でのみ起こってもよく、その場合、膜貫通タンパク質のみが、CIDの存在下でサイトカイン型シグナル伝達を引き起こす。
【0246】
好適な二量体化ドメインおよびCIDは、WO2015/150771号に記載されており、その内容はこれにより参照により本明細書に組み込まれる。
【0247】
二量体化ドメインが自発的にヘテロ二量体化する場合、それは、抗体の二量体化ドメインに基づき得る。特に、それは、重鎖定常ドメイン(CH)および軽鎖定常ドメイン(CL)の二量体化部分を含み得る。定常ドメインの「二量体化部分」は、鎖間ジスルフィド結合を形成する配列の部分である。
【0248】
キメラサイトカイン受容体は、エキソドメインとして抗体のFab部分を含み得る。この点において、キメラ抗原は、2つのポリペプチド:
(i)(a)重鎖定常ドメイン(CH)
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第1の鎖
を含む第1のポリペプチド;および
(ii)(a)軽鎖定常ドメイン(CL)
(b)サイトカイン受容体エンドドメインの第2の鎖
を含む第2のポリペプチド
を含み得る。
【0249】
サイトカイン受容体エンドドメインは、
(i)IL-2受容体β鎖エンドドメイン;
(ii)IL-7受容体α鎖エンドドメイン;もしくは
(iii)IL-15受容体α鎖エンドドメイン;および/または
(iv)共通γ鎖受容体エンドドメイン
を含み得る。
【0250】
サイトカイン受容体エンドドメインは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子受容体(GMCSF-R)由来のα鎖エンドドメインおよびβ鎖エンドドメインを含み得る。
【0251】
IL-2、IL-7、またはGM-CSF受容体エンドドメインを有する構成的に活性なCCRは、以下の構造
Fab_CCR_IL2:HuLightKappa-IL2RgTM-IL2RgEndo-2A-HuCH1-IL2bTM-IL2RbENDO
Fab_CCR_IL7:
HuLightKappa-IL2RgTM-IL2RgEndo-2A-HuCH1-IL7RaTM-IL7RaENDO
Fab_CCR_GMCSF:
HuLightKappa-GMCSFRbTM-GMCSFRbEndo-2A-HuCH1-GMCSFRaTM-GMCSFRaENDO
(ここで、
HuLightKappaは、ヒト軽カッパ鎖であり、
IL2RgTMは、ヒトIL2R共通ガンマ鎖由来の膜貫通ドメインであり、
IL2RgEndoは、ヒトIL2R共通ガンマ鎖に由来するエンドドメインであり、
2Aは、2Aペプチドなどの自己切断ペプチドであり得る2つのポリペプチドの共発現を可能にする配列であり、
HuCH1は、ヒトCH1であり、
IL2bTMは、ヒトIL-2Rベータ由来の膜貫通ドメインであり、
IL2RbENDOは、ヒトIL2Rベータ由来のエンドドメインであり、
IL7RaTMは、ヒトIL-7Rアルファ由来の膜貫通ドメインであり、
IL7RaENDOは、ヒトIL-7Rアルファ由来のエンドドメインであり、
GMCSFRbTMは、ヒトGM-CSFR共通ベータ鎖由来の膜貫通ドメインであり、
GMCSFRbEndoは、GM-CSFR共通ベータ鎖由来のエンドドメインであり、
GMCSFRaTMは、ヒトGF-CSFRアルファ由来の膜貫通ドメインであり、
GMCSFRaENDOは、ヒトGM-CSFRアルファに由来するエンドドメインである)
の1つを有し得る。
【0252】
配列番号89~101として下記に示される構成的に活性なサイトカイン受容体を作製するための構成要素についての配列。
【化17-1】
【化17-2】
【0253】
構成的に活性なCCRは、バリアント配列が必要な特性を有することを条件として、少なくとも80、85、90、95、98、または99%の配列同一性を有する配列番号89~101の1つまたは複数のバリアントを含み得る。例えば、バリアントCHまたはCL配列は、CL/CH含有鎖と二量体化する能力を保持していなければならない。サイトカイン受容体エンドドメイン由来のバリアント鎖は、そのサイトカイン受容体の相互鎖とカップリングした場合に、サイトカイン媒介性シグナル伝達の引き金を引く能力を保持していなければならない。
【0254】
核酸配列
本発明は、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列を提供する。
【0255】
核酸配列は、細胞がIL-12を非常に低レベルで分泌するように、細胞に導入され得る。
【0256】
核酸配列は、配列番号1、24、または25として示される配列を含むポリペプチドをコードし得る。
【0257】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、および「核酸」という用語は、互いに同義であることが意図される。
【0258】
遺伝コードの縮重の結果として、多数の異なるポリヌクレオチドおよび核酸が同じポリペプチドをコードし得ることが当業者に理解されるであろう。加えて、当業者は、ポリペプチドが発現される任意の特定の宿主生物のコドン使用頻度を反映するように、ルーチンの技法を使用して、本明細書に記載されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を行ってもよいことが理解されるべきである。
【0259】
本発明による核酸は、DNAまたはRNAを含み得る。それらは、一本鎖または二本鎖であり得る。それらはまた、合成ヌクレオチドまたは改変ヌクレオチドをそれら内に含むポリヌクレオチドであってもよい。オリゴヌクレオチドに対するいくつかの異なる種類の改変は当技術分野において公知である。これらとしては、メチルホスホネートおよびホスホロチオエート骨格、分子の3’および/または5’末端でのアクリジンまたはポリリシン鎖の付加が挙げられる。本明細書に記載される使用の目的のために、ポリヌクレオチドが当技術分野において利用可能な任意の方法によって改変され得ることが理解されるべきである。そのような改変は、目的のポリヌクレオチドのin vivo活性または寿命を増強するために行われ得る。
【0260】
ヌクレオチド配列に関連する「バリアント」、「相同体」、または「誘導体」という用語は、配列からまたは配列への1つ(または複数)の核酸の任意の置換、変形、改変、置き換え、欠失、または付加を含む。
【0261】
核酸構築物
本発明は、本発明の核酸配列を含む核酸構築物を提供する。核酸構築物は、キメラ抗原受容体(CAR)またはトランスジェニックTCRをコードする核酸配列も含み得る。
【0262】
したがって、核酸構築物はまた、以下:
ドミナントネガティブSHP2をコードする核酸配列;
ドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列;
キメラサイトカイン受容体をコードする核酸配列;
1つまたは複数のさらなるサイトカインまたはケモカインをコードする1つまたは複数の核酸配列
の1つまたは複数を含んでいてもよい。
【0263】
本発明は、
(i)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列;
(ii)フレームスリップモチーフ(FSM)もしくは翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列;および
(iii)IL-15をコードする核酸配列;ならびに/または
(iv)CXCL12をコードする核酸配列
を含む核酸構築物を提供する。
【0264】
本発明は、
(i)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列;
(ii)フレームスリップモチーフ(FSM)もしくは翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列;および
(iii)IL-7をコードする核酸配列;ならびに/または
(iv)CCL19をコードする核酸配列
を含む核酸構築物を提供する。
【0265】
核酸構築物は、核酸配列間に共発現配列を含んでいてもよく、その結果、共発現配列の上流および下流の導入遺伝子は、別々のポリペプチドとして細胞によって発現される。共発現配列は、上記により詳細に記載される自己切断ペプチドをコードしてもよい。
【0266】
上記で説明されたように、低レベルのIL-12を伴うCARの共発現のための核酸構築物は、一般構造:
CAR-FSM/TRM-coexpr-IL12
(ここで、
「CAR」は、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
「FSM/TRM」は、フレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフであり;
「coexpr」は、別々のポリペプチドとしてCARおよびIL-12の共発現を可能にする配列であり;
「IL-12」は、IL-12またはflexi-IL12をコードする核酸配列である)
を有し得る。
【0267】
別のサイトカインまたはケモカインをコードする核酸配列を含む構築物は、一般構造:
CAR-FSM/TRM-coexpr1-IL12-coexpr2-CC;または
CAR-FSM/TRM-coexpr1-CC-coexpr2-IL12;
CAR-coexpr1-CC-FSM/TRM-coexpr2-IL12;
CC-coexpr1-CAR-FSM/TRM-coexpr2-IL12
(ここで、
「CAR」は、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
「FSM/TRM」は、フレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフであり;
「coexpr1」および「coexpr2」は、同じまたは異なっていてもよく、別々のポリペプチドとして、CAR、IL-12、およびサイトカインまたはケモカインの共発現を可能にする配列であり;
「IL-12」は、IL-12またはflexi-IL12をコードする核酸配列であり;
「CC」は、サイトカイン(IL-12以外)またはケモカインをコードする核酸配列である)
を有し得る。
【0268】
複合翻訳リードスルーモチーフを有する核酸構築物は、構造:
CAR-FSM/TRM1-coexpr1-CC-FSM/TRM2-coexpr2-IL12
(ここで、
「CAR」は、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
「FSM/TRM1」および「FSM/TRM2」は、同じまたは異なっていてもよく、フレームスリップモチーフまたは翻訳リードスルーモチーフであり;
「coexpr1」および「coexpr2」は、同じまたは異なっていてもよく、別々のポリペプチドとして、CAR、IL-12、およびサイトカインまたはケモカインの共発現を可能にする配列であり;
「IL-12」は、IL-12またはflexi-IL12をコードする核酸配列であり;
「CC」は、サイトカイン(IL-12以外)またはケモカインをコードする核酸配列である)
を有し得る。
【0269】
ベクター
本発明は、本発明の核酸配列または核酸構築物を含むベクターも提供する。
【0270】
そのようなベクターを使用して、低レベルのIL-12を発現するように、宿主細胞に核酸配列または構築物を導入し得る。
【0271】
ベクターは、例えば、プラスミドまたはウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクターもしくはレンチウイルスベクター、またはトランスポゾンに基づくベクター、または合成mRNAであり得る。
【0272】
ベクターは、哺乳動物細胞、例えば、T細胞またはNK細胞をトランスフェクトまたは形質導入することが可能であり得る。
【0273】
ベクターのキット
本発明は、複数のベクターを含むキットであって、少なくとも1つのベクターが、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列を含む、キットも提供する。
【0274】
キット中のベクターまたは他のベクターは、以下:
CARまたはトランスジェニックTCRをコードする核酸配列;
ドミナントネガティブSHP2をコードする核酸配列;
ドミナントネガティブTGFβ受容体をコードする核酸配列;
キメラサイトカイン受容体をコードする核酸配列;
1つまたは複数のさらなるサイトカインまたはケモカインをコードする1つまたは複数の核酸配列
の1つまたは複数を含み得る。
【0275】
キットは、
CARをコードする核酸配列およびフレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列を含む第1のベクター;ならびに
CARをコードする核酸配列、ドミナントネガティブSHP2をコードする核酸配列、およびドミナントネガティブTGFβをコードする核酸配列を含む第2のベクター
を含み得る。
【0276】
細胞
本発明は、フレームスリップモチーフ(FSM)または翻訳リードスルーモチーフ(TRM)の下流のインターロイキン12(IL-12)をコードする核酸配列を含む細胞を提供する。
【0277】
細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、NKT細胞、サイトカイン誘導キラー(CIK)細胞、単球、マクロファージ、腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)、樹状細胞、好中球、肥満細胞、好酸球、もしくは好塩基球などの腫瘍浸潤性免疫細胞であり得るか、またはそれである。
【0278】
細胞は、T細胞および/またはNK細胞などの細胞溶解性免疫細胞であり得る。
【0279】
T細胞またはTリンパ球は、細胞媒介免疫において中心的役割を果たすリンパ球の種類である。それらは、細胞表面におけるT細胞受容体(TCR)の存在によって、B細胞およびナチュラルキラー細胞(NK細胞)などの他のリンパ球から区別することができる。下記で概説するように、さまざまな種類のT細胞がある。
【0280】
ヘルパーTヘルパー細胞(TH細胞)は、形質細胞およびメモリーB細胞へのB細胞の成熟、ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化を含む、免疫学的プロセスにおいて他の白血球を支援する。TH細胞は、それらの表面でCD4を発現する。TH細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面でMHCクラスII分子によってペプチド抗原で提示される場合に活性化されるようになる。これらの細胞は、異なるサイトカインを分泌して、異なる種類の免疫応答を促進する、TH1、TH2、TH3、TH17、Th9、またはTFHを含む、いくつかのサブタイプの1つに分化し得る。
【0281】
細胞溶解性T細胞(TC細胞、またはCTL)は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、また移植拒絶反応にも関与する。CTLは、それらの表面でCD8を発現する。これらの細胞は、すべての有核細胞の表面に存在するMHCクラスIに関連する抗原に結合することによって、それらの標的を認識する。調節性T細胞によって分泌されるIL-10、アデノシン、および他の分子を通して、CD8+細胞は、アネルギー状態に不活化され得、これは、実験的自己免疫性脳脊髄炎などの自己免疫疾患を防止する。
【0282】
メモリーT細胞は、感染が消散した後に長期間持続する抗原特異的T細胞のサブセットである。それらは、それらの同種抗原への再曝露の際に、多数のエフェクターT細胞に迅速に拡大増殖し、このようにして、過去の感染に対する「メモリー」を有する免疫系を提供する。メモリーT細胞は、3つのサブタイプ:セントラルメモリーT細胞(TCM細胞)および2種類のエフェクターメモリーT細胞(TEM細胞およびTEMRA細胞)を含む。メモリー細胞は、CD4+またはCD8+のいずれかであり得る。メモリーT細胞は、典型的には、細胞表面タンパク質のCD45ROを発現する。
【0283】
以前にはサプレッサーT細胞として公知の調節性T細胞(Treg細胞)は、免疫学的寛容の維持のために非常に重要である。それらの主要な役割は、免疫反応の終わりに向けてT細胞媒介免疫を終了すること、および胸腺における負の選択のプロセスを逃避した自己反応性T細胞を抑制することである。
【0284】
CD4+Treg細胞の2つの主要なクラス-天然に存在するTreg細胞および適応Treg細胞が記載されている。
【0285】
天然に存在するTreg細胞(CD4+CD25+FoxP3+Treg細胞としても公知)は、胸腺において生じ、発達中のT細胞と、TSLPで活性化された骨髄性(CD11c+)樹状細胞および形質細胞様(CD123+)樹状細胞の両方との間の相互作用に関連している。天然に存在するTreg細胞は、FoxP3と呼ばれる細胞内分子の存在によって他のT細胞から区別することができる。FOXP3遺伝子の突然変異は、調節性T細胞の発達を防止して、致命的な自己免疫疾患IPEXを引き起こし得る。
【0286】
適応Treg細胞(Tr1細胞またはTh3細胞としても公知)は、正常な免疫応答の間に生じ得る。
【0287】
ナチュラルキラー細胞(またはNK細胞)は、自然免疫系の一部を形成する。NK細胞は、MHC非依存性の様式で、ウイルス感染細胞からの生得的シグナルに対する迅速な応答を提供する。
【0288】
NK細胞(自然リンパ球の群に属する)は、大型顆粒リンパ球(LGL)として定義され、Bリンパ球およびTリンパ球を生じる共通のリンパ前駆細胞から分化した第3の種類の細胞を構成する。NK細胞は、骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃腺、および胸腺において分化および成熟し、次いで、それらが循環系に入ることが公知である。
【0289】
ナチュラルキラーT(NKT)細胞は、T細胞およびナチュラルキラー細胞の両方の特性を共有するT細胞の異種の群である。これらの細胞の多くは、自己および外来性脂質および糖脂質と結合する抗原提示分子である非多形CD1d分子を認識する。それらは、すべての末梢血T細胞のおよそ0.1%しか構成しない。
【0290】
NKT細胞は、αβT細胞受容体を共発現するT細胞のサブセットであるが、NK1.1などのNK細胞に典型的に関連する各種の分子マーカーも発現する。最も公知のNKT細胞は、それらのT細胞受容体が、非常に多様性が制限されている点で、従来のαβT細胞と異なる(「インバリアント」または「1型」NKT)。それらおよび他のCD1d拘束性T細胞(「2型」NKT)は、ペプチド-主要組織適合遺伝子複合体(MHC)よりもむしろ、抗原提示分子のCD1ファミリーのメンバーであるCD1d分子によって提示される脂質および糖脂質を認識する。このように、NKT細胞は、結核を引き起こすMycobacteriumなどの生物由来の糖脂質の認識において重要である。
【0291】
NKT細胞としては、NK1.1+およびNK1.1-、ならびにCD4+、CD4-、CD8+およびCD8-細胞の両方が挙げられる。ナチュラルキラーT細胞はまた、CD16およびCD56発現ならびにグランザイム産生などのNK細胞による他の特徴を共有し得る。
【0292】
サイトカイン誘導キラー(CIK)細胞は、T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞様の混合表現型を特徴とする免疫エフェクター細胞の群である。それらは、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)または臍帯血単核細胞の、インターフェロンガンマ(IFN-γ)、抗CD3抗体、組換えヒトインターロイキン(IL-)1、および組換えヒトインターロイキン(IL-)2とのex vivoインキュベーションによって生成される。
【0293】
典型的には、免疫細胞は、感染細胞表面において提示された主要組織適合遺伝子複合体(MHC)を検出し、サイトカイン放出の引き金を引き、溶解またはアポトーシスを引き起こす。しかしながら、CIK細胞は、抗体およびMHCの非存在下で感染細胞またはさらに悪性細胞を認識する能力を有し、素早く不偏の免疫反応を可能にする。これは、MHCマーカーの欠落がTリンパ球などの他の免疫細胞によって追跡および攻撃され得ない有害な細胞として、特に重要なものである。特定の特徴として、最終分化したCD3+CD56+ CIK細胞は、MHC拘束性およびMHC非拘束性の両方の抗腫瘍細胞傷害性についての能力を持つ。これらの特性は、とりわけ、がんおよびウイルス感染症に対する可能性のある療法として、CIK細胞を魅力的なものにする。
【0294】
NK細胞の新たなサブクラスは、in vitroおよびin vivoの両方で作出された。サイトカイン誘導メモリー様ナチュラルキラー細胞と称されるこれらのNK細胞は、サイトカイン、最も一般的には、IL-12、IL-15、およびIL-18のミックスを使用して誘導される。これらのNK細胞は、これらのサイトカインによって活性化されて、感染を刺激し、適応免疫応答を誘導する。腫瘍標的などの標的細胞と共培養されると、これらのNK細胞は、メモリー様能力を有し、防御を開始する際に、より適応し、かつより有効である。
【0295】
本発明の細胞は、上記で述べた細胞型のいずれかであり得る。
【0296】
細胞は、血液試料、例えば、白血球除去物に由来し得る。細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)であり得るか、またはそれを含み得る。
【0297】
細胞は、患者自身の末梢血から(第1パーティー)、またはドナー末梢血からの造血幹細胞移植の状況において(第2パーティー)、または非関連ドナーからの末梢血(第3パーティー)のいずれかから、ex vivoで作出され得る。
【0298】
あるいは、細胞は、誘導性前駆細胞または胚性前駆細胞の例えばT細胞またはNK細胞へのex vivo分化から誘導され得る。あるいは、その溶解機能を保持し、治療薬として作用することができる不死化T細胞系が使用され得る。
【0299】
細胞は、本発明の第1の態様によるキメラポリペプチドを提供する分子をコードする核酸で形質導入される前に、例えば、抗CD3モノクローナル抗体での処理によって、活性化および/または拡大増殖され得る。
【0300】
医薬組成物
本発明の細胞は、医薬組成物として患者に投与され得る。
【0301】
医薬組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤をさらに含んでいてもよい。医薬組成物は、必要に応じて、1種または複数のさらなる薬学的に活性なポリペプチドおよび/または化合物を含んでいてもよい。そのような製剤は、例えば、静脈内注入に好適な形態であってもよい。
【0302】
細胞を作製するための方法
さらなる態様では、本発明は、本発明による細胞を作製するための方法であって、本発明の核酸配列、核酸構築物、ベクター、またはベクターのキットを細胞に導入するステップを含む、方法を提供する。
【0303】
核酸配列、核酸構築物、ベクター、またはベクターのキットは、例えば、in vitroまたはex vivoの形質導入またはトランスフェクションによって導入され得る。
【0304】
細胞は、対象から単離された細胞、例えば、対象から単離されたT細胞またはNK細胞であり得る。
【0305】
細胞は、自家または同種異系であり得る。
【0306】
処置の方法
本発明は、疾患を処置するための方法であって、本発明の細胞組成物(例えば、上記の医薬組成物)を対象に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0307】
疾患を処置するための方法は、本発明の細胞組成物の治療的使用に関する。細胞組成物は、疾患に関連する少なくとも1つの症状を少なくするため、低減するため、もしくは改善するため、および/または疾患の進行を遅らせるため、低減するため、もしくは遮断するために、既存の疾患または状態を有する対象に投与され得る。
【0308】
疾患を予防するための方法は、本発明の細胞組成物の予防的使用に関する。細胞組成物は、疾患の原因を予防するため、もしくは減じるため、または疾患に関連する少なくとも1つの症状の発生を低減するため、もしくは予防するために、まだ疾患に罹患していない対象および/または疾患の任意の症状を示していない対象に投与され得る。対象は、疾患の素因を有し得るか、または疾患を発生するリスクがあると考えられ得る。
【0309】
方法は、
(i)細胞含有試料を単離するステップ;
(ii)そのような細胞を少なくとも2つのウイルスベクターの混合物で形質導入するステップ;
(iii)(ii)からの細胞を対象に投与するステップ
を含み得る。
【0310】
本発明は、疾患の処置および/または予防における使用のための本発明の細胞組成物も提供する。
【0311】
本発明は、疾患の処置のための医薬の製造における本発明の細胞組成物の使用にも関する。
【0312】
本発明の方法によって処置される疾患は、がん性疾患、例えば、膀胱がん、乳がん、結腸がん、子宮内膜がん、腎臓がん(腎細胞)、白血病、肺がん、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、膵臓がん、前立腺がん、および甲状腺がんであり得る。
【0313】
本発明の組成物の細胞は、がん細胞などの標的細胞を死滅させることが可能であり得る。標的細胞は、標的細胞の近傍の腫瘍分泌リガンドまたはケモカインリガンドの存在によって特徴付けられ得る。標的細胞は、標的細胞表面の腫瘍関連抗原(TAA)の発現と一緒の可溶性リガンドの存在によって特徴付けられ得る。
【0314】
特に、本発明の細胞は、固形がんを処置するために使用され得る。固形がんは、塊を形成することがない組織に散在性に浸潤し得るリンパ増殖性の悪性白血病とは対照的に、例えば、脳、乳房、前立腺、結腸直腸、腎臓の別個の腫瘤を形成する悪性腫瘍;肉腫;黒色腫である。
【0315】
本発明の細胞は、表3に列挙されるがんの1つを処置するために使用され得る。
【表3-1】
【表3-2】
【0316】
特に、本発明の細胞は、小細胞肺がん(SCLC)、黒色腫、腎細胞がん(RCC)、肝細胞癌(HCC)、卵巣がん、膵臓がん、神経芽細胞腫、骨肉腫を処置するために使用され得る。これらの実施形態では、細胞は、GD2特異的CARを発現し得る。
【0317】
がんの不均一性およびエピトープスプレッディング
がんは不均一であり得る。この点において、CAR標的抗原の発現のレベルは、がん細胞間で変わり得る。CAR標的抗原を発現する腫瘍中の細胞の割合は、検出可能なレベルまたはCAR-T細胞に認識可能なレベルで標的抗原を発現し得る腫瘍中の細胞の100%未満、例えば、約95、90、80、70、60、50、40、30、20、または10%未満であり得る。固形がんの細胞の一部は、抗原陰性または抗原弱であり得る、すなわち、低レベルの標的抗原を発現し得る。「抗原弱」の標的細胞は、平均で、細胞あたり約1000、750、500、または250コピーより少ない標的抗原を発現し得る。
【0318】
本発明の細胞は、IL-12のアジュバント効果のために、不均一な腫瘍を標的にするのに特によく適している。IL-12は、ナイーブT細胞およびマクロファージを活性化することによって、抗腫瘍免疫応答を活性化する。1)T細胞およびNK細胞の増殖を増強すること、2)T細胞、NK細胞、およびマクロファージの細胞溶解活性を増加させること、3)Tヘルパー1(Th1)細胞を活性化すること、ならびに4)IFN-γおよび他のサイトカインの産生を誘導することが示されている。IL-12は、隣接するCAR-T細胞を活性化し、それらの細胞傷害性を増強して、低レベルの標的抗原で腫瘍細胞を死滅させるそれらの能力を増強する。
【0319】
CAR T細胞療法の機構は、CARを発現するT細胞による標的抗原を発現する細胞の直接死滅による。理論に縛られることを望まないが、本発明者らは、CAR-T細胞によるIL-12の同時局所発現が、「エピトープスプレッディング」、すなわち、腫瘍細胞上に存在するさらなる標的抗原に対する免疫応答のプライミングをもたらすと考えている。CAR-T細胞によるIL-12の分泌は、腫瘤への宿主免疫細胞の浸潤も誘導し得る。
【0320】
そのため、T細胞から分泌されたIL-12は、腫瘍細胞によって媒介される免疫抑制を克服するだけでなく、エピトープスプレッディングのための助けとなる環境も提供し、ここで、免疫細胞は、元の抗原に加えて、多数の腫瘍関連標的を攻撃するように多様化する。腫瘍根絶の作用機構は、CAR-T細胞による直接的な細胞死滅、腫瘍への免疫細胞の浸潤、および他の腫瘍関連抗原に対する既存の宿主免疫細胞からの抗がん免疫応答の誘導の組合せによるものである。
【0321】
エピトープスプレッディングは、標的抗原が弱いまたは陰性である細胞の死滅を可能にするので、不均一な腫瘍の処置のために重要である。また、これは、悪性腫瘍がそうでなければ抗原陰性集団として再発され得る場合を予防するCAR-T細胞療法から、腫瘍の免疫逃避を防止するのを助ける。
【0322】
ここに、本発明を実施例によってさらに説明するが、これは、本発明を行う際に当業者を支援する役割を果たすことを意味し、本発明の範囲を決して限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0323】
(実施例1)
CAR-T細胞によるIL-12の発現
2つの導入遺伝子をコードする構築物において、FMDV由来2Aペプチド配列などの自己切断ペプチドを含めることで、2つのポリペプチドのおよそ同等の発現をもたらす。構築物がCARおよびIL-12を共発現する場合、これは、CAR-T細胞による高レベルのIL-12の分泌をもたらす(
図4Aの左側の図に概略的に示される)。
【0324】
しかしながら、IL-12コード配列の上流の「stop-skip」配列の組み込みは、CAR-T細胞によって産生されるIL-12の量を劇的に低減するはずである(
図4Aの左側の図に概略的に示される)。
【0325】
実験的に実証するために、末梢血単核細胞(PBMC)を、以下の構築物をコードするウイルスで形質導入した:
CAR-2A-IL-12:CARコード配列、2A自己切断ペプチド、およびflexi-IL-12をコードする配列(配列番号1に示される配列を有する)を含む、ならびに
CAR-SS-IL-12:CARコード配列、stop-skip配列(配列番号37に示される配列を有する)、およびstop-skip配列の下流に位置するflexi-IL-12をコードする配列を含む。
【0326】
形質導入されていない細胞(NT)およびいずれかの構築物で形質導入されたPBMCを、1×10E
6個細胞/mlで96ウェルプレートに蒔き、48時間後、ELISAによる放出されたIL-12の定量化のために、培地を収集した。結果を
図4Bに示す。
【0327】
IL-12をコードする配列がstop-skip配列の下流に配置された場合に、形質導入細胞によるIL-12の産生は劇的に低減されたが、依然として検出可能であった。
【0328】
(実施例2)
in vivoでIL-12を発現するCAR-T細胞の抗腫瘍活性の調査
次に、in vivoでのSS-IL12モジュールの機能性を、免疫適格マウスモデルを使用して調査した。
【0329】
CAR発現細胞を、以下の構築物を発現するベクターによるマウスPBMCの形質導入によって作出した。
【表B】
ここで、「Thy1.1」は、形質導入マーカーであり;「aGD2_muK666-muCD8STK-muCD28Z」は、第2世代マウスGD2 CARであり;「mfIL-12」は、マウスflexi-IL-12であり;「SKIP_TGACAATTA」は、マウスflexi-IL-12コード配列の上流に配置された翻訳リードスルーモチーフであり;「aEGFRvIII_MR1-muCD8STK-muCD28Z」は、陰性対照として使用されるaEGFRvIIIに対する第2世代マウスCARである。
【0330】
スライドの右側において、IL-12全身毒性に起因するCAR-2A-IL12コホートの劇的な体重減少をチャートに見ることができ、これらのマウスは、安楽死させた。腫瘍成長制御に関して、右側において、本発明者らは、腫瘍成長が、CAR単独コホートにおいて全く制御されなかったが、CAR-SS-IL12を注射されたマウスは、CAR-2A-IL12マウスコホートによって示される毒性なしで、腫瘍成長の制御の劇的な低減を有していたことを見ることができる。
本発明者らは、SS-IL12モジュールが、困難なマウスモデルにおいて、強力な抗腫瘍活性を維持しながら、毒性を防止すると結論付けることができる。
in vivoアッセイを使用して、マウスB16黒色腫モデルにおいて、IL-12ありまたはなしで、GD2を発現するT細胞の抗腫瘍活性を調査した。
【0331】
B16.F10.GD2(0.1×106個)を、0日目に、マウスに皮下投与した。7日後、3×106個のCAR-T細胞を静脈内投与し、腫瘍成長を、それに続いて14日間、モニターした。
【0332】
図6に示されるように、CAR-2A-IL12コホート、すなわち、stop-skip配列なしでIL-12と組み合わせてCARを発現する細胞を受けているマウスは、IL-12の全身毒性に起因して、劇的な体重減少を示した。これらのマウスは、12日目の前に安楽死させた。CAR-SS-IL12コホート、すなわち、超低レベルのIL-12と組み合わせてCARを発現する細胞を受けているマウスは、任意の有意な体重減少またはIL-12に関連する毒性を示さなかった。
【0333】
腫瘍成長アッセイの結果を
図7に示す。単純なGD2 CARを単独で発現するCAR T細胞の静脈内送達は、腫瘍成長に対する有意な効果がなかった(
図7「CAR」)。発現のレベルを制御する翻訳リードスルーモチーフなしでIL-12を発現するCAR-T細胞の導入は、マウスに対して致命的な毒性であった(
図7「CAR-2A」)。しかしながら、IL-12コード配列が翻訳リードスルーモチーフの下流に配置された超低レベルのIL-12を共発現するCAR T細胞の静脈内送達は、強力な抗腫瘍活性およびマウスの生存の延長を示した(
図7「CAR-SS」)。
【0334】
(実施例3)
免疫応答の間のエピトープスプレッディングを誘導する超低IL-12発現CAR-T細胞の能力の調査
in vivoでエピトープスプレッディング応答を誘導するssIL12モジュールの能力を調べるために、標的細胞系を、プラスミド膜においてGD2を合成するために必要な2つの前駆体酵素(GD2およびGD3シンターゼ)を発現するように形質導入されたマウス黒色腫細胞系B16.F10から生成した。この標的細胞系は、GD2発現について100%陽性であり、固定比での非形質導入B16.F10細胞の添加によって、標的細胞の不均一な集団を作製するために使用される。
【0335】
生成された不均一な標的集団は、10%、30%、50%、70%、または90%のGD2陽性であり、100%GD2陽性細胞の均一な対照と比較される。1E5個の標的細胞を、自家レシピエントに皮下注射し、5Grayの全身照射の投与の前に6日間、定着させる。
【0336】
翌日、3E6個のCAR T細胞を静脈内注射する。マウスを、毒性の徴候(体重、血清サイトカイン、および一般状態)、および有効性(腫瘍サイズのキャリパー測定)について定期的にモニターする。
【0337】
停止する時点で、CAR細胞、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、B細胞、NK細胞、および単球の割合の分析のために、マウスから脾臓を採取する。停止の時点で任意の残った腫瘍を、免疫組織化学的分析(免疫浸潤および腫瘍形態を評価するため)およびフローサイトメトリー(GD2陽性腫瘍の免疫浸潤および割合および発現レベルを評価するため)の両方のために収集する。
【0338】
エピトープスプレッディングの程度を、レシピエントマウスからの不均一な標的を消失させるモジュールの能力、および/または腫瘤中で免疫浸潤を誘導するモジュールの能力によって決定する。
【0339】
上記の明細書で述べたすべての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の記載された方法およびシステムのさまざまな改変および変形形態は、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明を特定の好ましい実施形態と併せて説明したが、特許請求の範囲に記載された発明は、そのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことが理解されるべきである。実際に、分子生物学または関連する分野における当業者に自明である、本発明を行うための記載された方法のさまざまな改変は、以下の特許請求の範囲の範囲内であることが意図される。
【配列表】
【国際調査報告】