(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-13
(54)【発明の名称】経口ペプチド投与
(51)【国際特許分類】
A61K 38/28 20060101AFI20230606BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20230606BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230606BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230606BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230606BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230606BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20230606BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230606BHJP
A61K 47/52 20170101ALI20230606BHJP
A61K 38/26 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
A61K38/28
A61K38/00
A61P3/10
A61P1/16
A61P13/12
A61P43/00 105
A61P1/00
A61P1/04
A61K47/52
A61K38/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569284
(86)(22)【出願日】2021-01-18
(85)【翻訳文提出日】2022-09-16
(86)【国際出願番号】 AU2021050027
(87)【国際公開番号】W WO2021142516
(87)【国際公開日】2021-07-22
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503293178
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティー オブ シドニー
(71)【出願人】
【識別番号】519205017
【氏名又は名称】シドニー ローカル ヘルス ディストリクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コッガー,ビクトリア キャロル
(72)【発明者】
【氏名】ル クチュール,デイビッド ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】ハント,ニコラス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB01
4C076CC16
4C076CC17
4C076CC21
4C076CC26
4C076DD21
4C076EE59
4C076FF04
4C076FF68
4C084AA01
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4C084CA53
4C084DB34
4C084DB35
4C084MA52
4C084NA10
4C084NA13
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZA681
4C084ZA682
4C084ZA751
4C084ZA752
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZC351
4C084ZC352
(57)【要約】
本発明は、吸収されたときに生物学的活性を維持する治療用タンパク質またはペプチド(インスリンなど)の非侵襲的投与(経口投与など)を促進する組成物および方法に関する。本発明の組成物は、治療量のコンジュゲートを含み、コンジュゲートは、量子ドットと、治療上有効なペプチドまたはタンパク質とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療量のコンジュゲートを含む組成物であって、前記コンジュゲートが、量子ドットと、治療上有効なペプチドまたはタンパク質とを含む、組成物。
【請求項2】
前記ペプチドまたはタンパク質が、約30kDa未満のサイズである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ペプチドまたはタンパク質が、インスリン、成長ホルモン、線維芽細胞成長因子21(FGF21)、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アゴニスト、グルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)アゴニスト、血小板由来成長因子(PDGF)ベータ受容体調節剤、およびインテグリンアルファ-4/ベータ-7アンタゴニスト、PYY(3-36)類似体、バソプレシン、インターロイキン(30kDa未満のサイズ)、エンケファリン、エンドルフィン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記GLP-1アゴニストがリラグルチドもしくはエキセナチドであり、かつ/または
前記GLP-2アゴニストがアプラグルチドであり、かつ/または
前記PDGFベータ受容体調節剤がBOT191であり、かつ/または
前記インテグリンアルファ-4/ベータ-7アンタゴニストがPN-10943である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、経口投与のために製剤化される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記量子ドットが、Ag
2S量子ドットである、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記量子ドットの平均直径が、約1nm~約20nmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記平均直径が、10nm未満である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記コンジュゲートが、ポリマーをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記ポリマーが、バイオポリマーである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記バイオポリマーが、ヘパリン、ゼラチン、ヒアルロン酸、キトサン、ガラクトース、グルコース、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記バイオポリマーが、キトサン、ガラクトース、グルコース、またはこれらの任意の組み合わせである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリマーまたは前記バイオポリマーが、前記コンジュゲートの少なくとも一部を覆う、請求項9~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記コンジュゲートが、経口投与後に対象の肝細胞上/中に蓄積する、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が、不十分な内因性ペプチドまたはタンパク質産生に関連する病態と診断された対象への投与のためのものである、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記病態が、I型またはII型糖尿病である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、外因性治療用ペプチドまたはタンパク質投与を必要とする病態と診断された対象への投与のためのものである、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記病態が、糖尿病性腎症、肝線維症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、腎線維症、セリアック病、炎症性腸疾患(IBD)、潰瘍性大腸炎または別の胃腸疾患から選択される、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が、薬学的に許容される賦形剤を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
高血糖の治療を必要とする対象において高血糖を治療する方法であって、量子ドットおよびインスリンを含む治療量のコンジュゲートを前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項21】
不十分な内因性ペプチド産生の治療を必要とする対象において前記不十分な内因性ペプチド産生を治療する方法であって、前記方法が、量子ドットと、前記不十分な内因性ペプチドを置換するのに有効なタンパク質またはペプチドとを含む治療量のコンジュゲートを前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項22】
病態に罹患している対象を治療する方法であって、前記病態が、治療用外因性ペプチドまたはタンパク質の投与で治療可能であり、前記方法が、量子ドットと、前記治療用外因性ペプチドまたはタンパク質とを含む治療量のコンジュゲートを前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項23】
前記コンジュゲートが、前記対象に経口投与される、請求項20~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記病態が、I型またはII型糖尿病である、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記量子ドットが、Ag
2S量子ドットである、請求項20~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記量子ドットの平均直径が、約5nm~約20nmである、請求項20~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記コンジュゲートが、ポリマーをさらに含む、請求項20~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記ポリマーが、バイオポリマーである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記バイオポリマーが、前記コンジュゲートを少なくとも部分的にコーティングしている、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記バイオポリマーが、ヘパリン、ゼラチン、ヒアルロン酸、キトサン、ガラクトース、グルコース、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
前記バイオポリマーが、キトサン、ガラクトース、グルコース、またはこれらの任意の組み合わせである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
ペプチドまたはタンパク質を対象の臓器に送達する方法であって、量子ドットと、前記ペプチドまたはタンパク質とを含むコンジュゲートを前記対象に経口投与することを含み、前記臓器が、肝臓、膵臓、小腸または腎臓から選択される、方法。
【請求項33】
前記量子ドットが、Ag
2S量子ドットである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記Ag
2S量子ドットが、約5nm~約20nmの直径である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記コンジュゲートが、任意選択で、ゼラチン、キトサン、ガラクトース、グルコース、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるバイオポリマーを含む、請求項32~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
対象における血糖を低下させる方法であって、前記方法が、量子ドットと、インスリンとを含むコンジュゲートを前記対象に経口投与することを含み、前記量子ドットが、約5nm~約20nmの直径のAg
2S量子ドットであり、前記コンジュゲートが、肝細胞において代謝され、それにより前記対象の血流中に前記インスリンを放出する、方法。
【請求項37】
I型またはII型糖尿病の治療に有効な医薬品の製造のための量子ドットおよびインスリンを含むコンジュゲートの使用。
【請求項38】
医薬品の調製における量子ドットおよびタンパク質またはペプチドを含むコンジュゲートの使用。
【請求項39】
前記医薬品が、対象における前記ペプチドまたはタンパク質の不十分な内因性産生を治療するためのものである、請求項38に記載の使用。
【請求項40】
前記医薬品が、経口投与のために製剤化される、請求項37~39のいずれか一項に記載の使用。
【請求項41】
前記コンジュゲートが、ポリマーまたはバイオポリマーをさらに含む、請求項37~40のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年1月17日に出願されたオーストラリア仮特許出願第2020/900129号からの優先権を主張し、その内容全体が相互参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、経口経路を介して対象に治療用量のポリペプチドおよびタンパク質、例えば、インスリンを投与するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
対象が健康を維持するのに十分なペプチドを産生することができない、多数の疾患または病態が存在する。これらの病態は、例えば、成長および発達障害につながる不十分なヒト成長ホルモン、ならびに糖尿病につながるインスリンの欠如を含む。哺乳動物におけるペプチド産生の障害から生じる他の病態の多くの例がある。
【0004】
I型糖尿病は、インスリン依存性糖尿病または若年性糖尿病とも呼ばれ、膵臓がインスリンを産生することができないことを特徴とする慢性疾患である。インスリンは、血流中のグルコースの量を調節するために、膵臓の島細胞のみによって産生されるホルモンである。非糖尿病性対象では、血流中のグルコースレベルが上昇すると、インスリンが膵臓によって血流中に分泌され、それがエネルギーとして使用されるか、またはグリコーゲンとして貯蔵される筋肉および肝臓などの全身細胞によるグルコースの取り込みを引き起こし、したがって、血流から出る。血糖値が減少すると、インスリンの分泌も減少する。
【0005】
I型糖尿病と診断された対象は、インスリンを産生することができず、したがって、血流中のグルコースの量を調節することができない。過度に低いおよび高い血糖値は、両方とも深刻な健康への影響を及ぼす可能性がある。I型糖尿病の対象は、マクロ栄養素の摂取を監視し、単純炭水化物中の食物を高く制限するなどの非薬学的介入を通じて血液中のグルコースの変動を制限することができ得るが、特に食後に、グルコースの調節および細胞内へのグルコースの取り込みのために依然としてインスリンを必要とする。
【0006】
II型糖尿病は、一般に、成人、特に太りすぎの成人に発生する。この疾患の初期段階では、II型糖尿病は、インスリン抵抗性およびインスリンの循環レベルの増加に関連する。II型糖尿病の治療には、様々な経口および注射薬が使用される。長期にわたるII型糖尿病の多くの人々は、インスリン産生が全身の代謝を調節するのに不十分になるため、最終的にはインスリン療法を必要とする。
【0007】
糖尿病患者は、通常、1日を通して頻繁に血糖値を監視し、血糖値が低すぎる場合にはグルコースを摂取するか、または血糖値が高すぎる場合には、通常は侵襲性皮下注射によってインスリンを非経口投与する必要がある。インスリンはタンパク質であり、インスリン受容体による認識のためにその三次構造に依存しているため、現在、経口的に送達することはできない。これは、消化管内に見られるインスリンなどのペプチドが大きすぎて吸収されず、全身細胞にそのまま侵入し、消化管内の低pHおよびプロテアーゼによる過酷な環境が、この構造を破壊し、インスリンを無効にするためである。タンパク質もまた、通常、その三次構造がそのままでは腸内で吸収されない。
【0008】
1つのアプローチは、胃内のインスリンの分解を遅延させるクロロキンなどの賦形剤、ならびに吸収促進剤、抗酸化剤、および結合剤を含むインスリンの製剤を提供することで
あった。しかしながら、そのような製剤は、腸内で遅く吸収される傾向があり、過度に長い作用期間をもたらし、場合によっては、市販の「長時間作用」注射よりも長いインスリン活性をもたらし得る。そのような長期にわたる活性プロファイルは、対象が一定の血糖値を維持することをより困難にし得る、かつ/または長期にわたる初期活性期間を有し得るため、そのような製剤は、高血糖エピソードを迅速に治療することができにくくなる。
【0009】
消化管を避けるようにインスリンを送達するための別のアプローチは、スプレー、咀嚼ガムまたはロゼンジなどの剤形で、口腔および鼻膜を横断して経皮的に吸収されるインスリンを製剤化することである。しかしながら、そのような製剤は、通常、マイクロエマルション製剤内などの環境からインスリンを保護し、緩衝剤、浸透促進剤および安定剤などの賦形剤を含む必要がある。そのような製剤はまた、通常、インスリンの完全性を確保するために、冷蔵保存を必要とする。また、口腔および鼻の膜を通した吸収は、肝代謝を回避することに留意すべきである。
【0010】
別のアプローチは、経口送達のためにナノ粒子にインスリンを繋ぎ止めることである。そのようなナノ粒子は、以前にバイオポリマーから作製されている。そのような一例では、第四級アンモニウム塩の形態に官能化されていたキトサンが、コアとして使用され、その場合、ヒアルロン酸でコーティングされて腸管の粘膜層に吸収させたことが記載されている。しかしながら、これらのナノ粒子は、使用のために腸内のインスリンの放出を必要とする代わりに、ナノ粒子自体の吸収を可能にするには大きすぎる(約120nmの約平均サイズ)。別のそのような例では、チオール含有タンパク質を金表面に付着させる金のナノ粒子が、記載されている。しかしながら、これらのナノ粒子は、口および鼻粘膜に横断する吸収のための経皮剤として最も効果的であり、腸管吸収は低いことが記録されている。以下に述べるように、舌下吸収は、肝臓初回通過代謝を回避する。
【0011】
上記の考察は、タンパク質またはペプチドに基づく外来療法の一次例としてのインスリンに関するものであるが、経口投与のために製剤化された場合、対象に治療的に有益であり得る他のタンパク質およびペプチドについても、インスリン送達に関する当該技術分野の現状に存在する問題が存在する。
【0012】
したがって、吸収されたときに生物学的活性を維持する治療用タンパク質またはペプチド(例えば、インスリン)の非侵襲的投与を促進する組成物および方法が必要である。組成物および方法は、経口投与が可能であり、腸管による吸収および腸管の血管内への流入を可能にすることが望ましい。これにより、インスリンなどのタンパク質およびペプチドの経口送達中に遭遇する既存の問題を克服するための手段が提供されてもよい。さらに、いくつかの特定の用途では、そのような組成物および方法は、インスリン作用のための主要標的である肝臓に主に作用することが望ましい場合があり、これは、循環全身レベルのインスリンを低減させ、低血糖および体重増加などの有害作用を制限し得る。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、対象における不十分な内因性ペプチドもしくはタンパク質産生から生じる病態を治療するための既存のアプローチの少なくとも1つの既存の欠陥を緩和すること、および/またはそのような病態を治療するためのタンパク質およびペプチドを経口投与することを目的とする。
【0014】
本発明の第1の態様では、治療量のコンジュゲートを含む組成物であって、量子ドットと、治療上有効なペプチドまたはタンパク質とを含む、組成物が提供される。ペプチドまたはタンパク質は、サイズが約30kDa未満であり得る。それは、1~25kDa、または3~25kDa、10~20kDa、5~30kDa、または15~30kDaであってもよく、すなわち、それは、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30kDaであってもよい。それは、QDに付着させるために利用可能な一次アミン基を有していてもよい。ぞれは、インスリン、成長ホルモン、線維芽細胞成長因子21(FGF21)、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アゴニスト、GLP-2受容体アゴニスト、血小板由来成長因子(PDGF)ベータ受容体調節剤、インテグリンアルファ-4/ベータ-7アンタゴニスト、PYY(3-36)類似体、バソプレシン、インターロイキン(サイズが30kDa未満)、エンケファリン、エンドルフィン、または任意の他の好適なタンパク質もしくはペプチド、およびこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。インスリンは、天然インスリン(ブタ由来の天然インスリンなど)であってもよく、または、長時間作用型類似体(グラルギンインスリンまたはデテミルインスリンなど)、中間作用型類似体(イソフェンインスリンまたは中間型プロタミンハーゲドンインスリンなど)、または即効型類似体(インスリンアスパート、インスリンリスプロまたはインスリングルリシンなど)であってもよい。GLP-1アゴニストは、リラグルチドもしくはエキセナチドから選択され得、または、それは、任意の他の好適なGLP-1アゴニストであってもよい。GLP-2アゴニストは、アプラグルチドであり得、または、それは、任意の他の好適なGLP-2アゴニストであってもよい。PDGFベータ受容体調節剤は、BOT191(フィブロフェロンとしても知られている)であり得、または、それは、任意の他の好適なPDGFベータ受容体調節剤であってもよい。インテグリンアルファ-4/ベータ-7アンタゴニストは、PN-10943であり得、または、それは、任意の他の好適なインテグリンアルファ-4/ベータ-7アンタゴニストであり得る。30kDa未満であり、少なくとも1つの一級アミン基を含む他の好適なペプチドおよびタンパク質は、当業者に既知である場合があり、QDコンジュゲーションに好適であろう。
【0015】
以下のオプションは、第1または第2の態様のいずれかと組み合わせて、個別にまたは任意の好適な組み合わせで使用され得る。
【0016】
組成物は、経口投与のために製剤化されてもよい。
【0017】
量子ドットは、Ag2S量子ドットであってもよい。量子ドットの平均直径は、約1nm~約20nmであってもよい。それは、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20nmであってもよい。量子ドットの平均直径は、約10nm未満であってもよい。
【0018】
コンジュゲートは、ポリマーをさらに含んでもよい。ポリマーは、バイオポリマーであってもよい。バイオポリマーは、コンジュゲートの少なくとも一部を覆ってもよく、または、それは、コンジュゲートの実質的にすべてを覆ってもよい。バイオポリマーは、ヘパリン、ゼラチン、ヒアルロン酸、キトサン、ガラクトース、グルコース、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され得る。ポリマーまたはバイオポリマーは、コンジュゲートの少なくとも一部を覆ってもよい。これらのポリマーまたはバイオポリマーは、消化管を通る輸送中にコンジュゲートのタンパク質またはペプチドを保護し得、または肝臓の肝細胞を特異的に標的とし得る。コンジュゲートは、経口投与後に対象の肝細胞内またはその表面上に蓄積し得る。
【0019】
組成物は、不十分な内因性ペプチド産生に関連する病態と診断された可能性のある対象への投与のためのものであってもよい。病態は、I型またはII型糖尿病、または不十分な内因性ペプチド産生の関連する別の病態であり得る。組成物は、外因性(すなわち、天然に存在しない)タンパク質またはペプチドによる治療を必要とする病態と診断された可能性のある対象への投与のためのものであり得る。病態は、糖尿病性腎臓病、肝線維症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、腎線維症、セリアック病、炎症性腸疾患(IB
D)、潰瘍性大腸炎または別の胃腸疾患であり得る。この病態は、タンパク質またはペプチドを肝臓、小腸、腎臓、膵臓または他の消化管臓器もしくは組織に送達することによって、治療され得るまたは治療可能であり得る。
【0020】
組成物は、薬学的に許容される賦形剤をさらに含んでもよい。
【0021】
本発明の第2の態様では、高血糖の治療を必要とする対象における高血糖を治療する方法であって、方法が、量子ドットおよびインスリンを含むコンジュゲートの治療量を対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0022】
本発明の第3の態様では、不十分な内因性ペプチド産生の治療を必要とする対象における不十分な内因性ペプチド産生を治療する方法であって、方法が、量子ドットと、不十分な内因性ペプチドを置換するのに有効なタンパク質またはペプチドとを含むコンジュゲートの治療量を対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0023】
本発明の第4の態様では、病態に罹患している対象を治療する方法であって、病態が、治療用外因性ペプチドまたはタンパク質の投与で治療可能であり、方法が、量子ドットと、治療用外因性ペプチドまたはタンパク質とを含むコンジュゲートの治療量を対象に投与することを含む、方法が提供される。
【0024】
以下のオプションは、第2、第3または第4のいずれかと組み合わせて、個別にまたは任意の好適な組み合わせで使用され得る。
【0025】
コンジュゲートは、対象に経口投与され得る。対象は、糖尿病、または対象の組織内で不十分な量の内因性ペプチドまたはタンパク質をもたらす別の病態と診断された可能性がある。対象において治療される糖尿病は、I型糖尿病またはII型糖尿病であり得る。
【0026】
量子ドットは、Ag2S量子ドットであってもよい。量子ドットの平均直径は、約5nm~約20nmであるか、または、それは、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、もしくは20nmであり得る。
【0027】
コンジュゲートは、ポリマーをさらに含んでもよい。ポリマーは、バイオポリマーであってもよい。バイオポリマーは、コンジュゲートを少なくとも部分的にコーティングしてもよく、またはコンジュゲートを実質的にコーティングしてもよい。バイオポリマーは、ヘパリン、ゼラチン、ヒアルロン酸、キトサン、ガラクトース、グルコース、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され得る。
【0028】
本発明の第5の態様では、ペプチドまたはタンパク質を対象の臓器に送達する方法であって、方法が、対象に、量子ドットと、ペプチドまたはタンパク質とを含むコンジュゲートを経口投与することを含み、臓器が肝臓、膵臓、小腸または腎臓から選択される、方法が提供される。
【0029】
以下のオプションは、個別にまたは任意の好適な組み合わせのいずれかで、第5の態様と併せて使用され得る。
【0030】
量子ドットは、Ag2S量子ドットであってもよい。Ag2S量子ドットは、直径が約5nm~約20nmであってもよい。
【0031】
コンジュゲートは、任意選択的に、ポリマーを含み得る。ポリマーは、バイオポリマー
であってもよい。バイオポリマーは、ゼラチン、キトサン、ガラクトース、グルコース、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され得る。
【0032】
本発明の第6の態様では、対象における血糖を低下させる方法であって、対象に、本明細書に記載の量子ドットおよびインスリンを含むコンジュゲートを経口投与することを含み、量子ドットが、約5nm~約20nmのAg2S量子ドットであり、コンジュゲートが、肝細胞の表面で代謝されるか、または表面に結合され、それにより対象の血流中にインスリンを放出する、方法が提供される。
【0033】
本発明の第7の態様では、I型およびII型糖尿病の治療のための医薬品の製造のための、本明細書に記載の量子ドットおよびインスリンを含むコンジュゲートの使用が提供される。医薬品は、経口投与のために製剤化されてもよい。医薬品は、ポリマーまたはバイオポリマーをさらに含んでもよい。
【0034】
本発明の第8の態様では、医薬品の調製における量子ドットおよびタンパク質またはペプチドを含むコンジュゲートの使用が提供される。医薬品は、対象におけるペプチドもしくはタンパク質の不十分な内因性産生を治療するためのものであり得、または、それは、治療的に活性な外因性ペプチドもしくはタンパク質を提供するためのものであり得る。医薬品は、経口投与のために製剤化されてもよい。医薬品は、ポリマーまたはバイオポリマーをさらに含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
ここで、本発明の好ましい実施形態を、添付の図面を参照して、例としてのみ説明する。
【0036】
【
図1】本発明の水溶性Ag
2S量子ドットを合成および特徴付ける方法の概略図を示す。具体的には、(a)シクロヘキサン可溶性QDの生成を示す模式図。(b)658nmの励起による1175nmでのNIR II発光。(c)QDの表面上のドデカンC-H鎖を示すFTIRスペクトル。(d)配置、サイズおよび格子構造を示すQDのTEM画像。(e)有機溶媒および水中の1mMのQDの代表的な試料を用いたCOOHキャップ付きQDの相間移動の概略図。(f)C=O、C-OおよびOH指紋を有するOH官能基を示すFTIRスペクトル。(g)水中の単分散QDのTEM画像。
【
図2】量子ドットに対するタンパク質コロナおよび合成表面トポロジーの変化を示す。具体的には、(a)水溶性QDのFTIR、(b~d)(b)RPMI培地、(c)マウス血清および(d)BSAとの24時間のインキュベーション後のタンパク質コロナの形成。タンパク質コロナは、アミン官能基(アミンIおよびII)の形成を示す。(fおよびg)QD表面トポロジー上の合成ポリマー堆積。灰色のインサートボックスは、原料FTIRスペクトルを示し、灰色の矢印は、OPUSウィザードで識別された決定的ピークを示す。QDへのバイオポリマーの結合は、クリック化学(EDC/NHSカップリング)を使用して実施した。QD-ヘパリン(e)およびQD-ゼラチン(f)は、いずれも生のバイオポリマーと同様のFTIRスペクトルを示した。黒い矢印は、OPUSウィザードで識別された決定ピークを示しており、これは、インサートに示されているピークに対応している。ピークは、アミンI、II、IIIであることが確認された。
【
図3】経口強制投与後のAg
2S量子ドットのライフサイクルを示す。具体的には、(a)麻酔マウスの小腸内腔への注射後のQD-488の時間経過画像。注射後、小腸は、血管と比較して強い488蛍光を示す(t=0~3分)。5~6分で、血管は、周囲の組織と比較して488蛍光を示し、488蛍光の漸進的な減少が、小腸で注射後10分まで観察される。(b)
3H-QDの生体内分布を、1mMのQD100μlの強制投与から30分、2時間および24時間後に測定した。強制投与から30分後、肝臓は、摂取した放射性投薬量の60%の蓄積を示し、他の臓器での発現は最小限であった。強制投与から2時間後、肝臓は、摂取した放射性投薬量の40%発現を示した。強制投与から24時間後にわたって、糞便物質は、摂取した放射性投薬量の80%を示し、臓器内には最小限の発現しか観察されなかった。(c)肝機能試験を、ASTおよびALTアッセイを使用し、かつ強制投与から24時間後に収集された血液試料を使用して実行した。(d)肝臓腎臓、小腸および脾臓からのH&E染色組織試料は、免疫細胞浸潤または細胞壊死を示さなかった。
【
図4】インスリンの20IU/kg用量に相当する量子ドット-インスリン複合体の経口強制投与、またはインスリンの0.1IU/kg用量に相当する活性インスリンの腹腔内注射のいずれかでの処置から30分後にグルコース強制投与を投与した健康なげっ歯類における血糖値を示し、いずれのインスリン療法も与えられなかった対照群と比較した。次いで、各対象を、グルコース強制投与を受けてから90分後にわたって血糖について監視した。グラフは、経口コンジュゲート用量および腹腔内注射の両方が、げっ歯類対象の血糖をほぼ同等の量低減させ、対照群で見られる血糖のスパイクを低減させたことを示す。
【
図5】3ヶ月齢の健康なC57BL/6マウス(n=5)の血中グルコースレベルを示し、生理食塩水の偽皮下注射(対照)、インスリンの皮下注射(SC-INS、2IU/kg)、または経口インスリン(QD-INS、20IU/kg)の経口強制投与のいずれかを、経口耐糖能試験(oGTT)の30分前に行った。oGTTは、グルコースのボーラス経口強制投与(2g/kg)を使用して実行され、血液を尾部スニップから-15、0、15、30、45、60および90分にサンプリングした。この図のデータは、平均±SDおよび曲線下の面積(AUC)を示す。
【
図6】3ヶ月齢の健康なC57BL/6マウス(n=3)に、皮下注射または経口強制投与によって投与された場合の
14C放射標識インスリンの薬理学的生体分布を示し、これは、インスリン(SC-INS、2IU/kg)の皮下注射、経口インスリン(QD-INS、2IU/kg)の経口強制投与、またはインスリン(経口-INS、2IU/kg)の経口強制投与、安楽死ならびに全血および全臓器(肝臓、腎臓、脾臓および小腸)の単離の0.5または2.0時間前のいずれかに投与された。組織試料および血漿を、標準的な方法に従って放射標識成分分析のために調製した。データは、この図において、投与された用量に対する放射標識インスリンの割合として提示され、データは、平均±SDとして示されている。
【
図7】3ヶ月齢の健康なC57BL/6マウス(n=3)における皮下および経口インスリンの薬力学的(PD)および薬物動態学的(PK)効果を示しており、これらは、経口耐糖能試験(oGTT)の0.5時間前に、生理食塩水の偽皮下注射(対照)、インスリンの皮下注射(SC-INS)、または経口インスリンの経口強制投与(QD-INS)のいずれかで与えられた。
図5に示されるように、インスリン処置は、GTTのAUCの低減を促進する。PDデータを、0.5、1および2IU/kgのSC - INS、または10、20、30、40、50および100IU/kgのQD-INSを使用して収集した。データは、2IU/kgのSC-INSに対する(すなわち、
図4のSC-INSによって示される効果サイズに対する)oGTT AUCに対するサイズの割合の効果(%)を示す。PK/PDデータは、偽、2IU/kgのSC-INS、または20IU/kgのQD-INSの投与から0.5、1.0、および2.0時間後に実行したoGTTにより生成されたデータを使用して収集した。データは、oGTT AUCの割合の低減を示し、データポイントは、平均±SDを示す。
【
図8】皮下(SC-INS)および経口(QD-INS)インスリンを用いた4ヶ月齢のNOD/Scidマウス(n=3)におけるインスリン耐性試験を示す。マウスは、血糖濃度の増加に伴って糖尿病の発症を示した。血糖値が30mg/dl未満のNODマウスを、時間0でSC-INS(1IU/kg)またはQD-INS(25IU/kg)で処置し、血糖値が31mg/dlを超えるマウスを、4IU/kgのSC-INSまたは100IU/kgのQD - INSで処置した。血糖試料を、-15、0、15、30、45および60分に収集した。この図におけるデータは、初期血糖濃度に対する血糖値の変化を示す。データポイントは、平均±SDを示す。
【
図9】QG-インスリンの治療用量(25.6ng/ml)と比較して、3~4ヶ月齢のWT C57BL/6JマウスにおけるAg
2S QDのインビボ毒性が256μg/mlで生じることを示す。
【
図10】15ヶ月齢のWT C57BL/6Jマウスにおける(a)血糖値および(b)体重に対するQD-リラグルチドコンジュゲートの効果を示す。血糖値(
図10a)を、リラグルチドの腹腔内注射250μg/kgから30分後、または1250μg/ kgもしくは2500μg/kgのいずれかでQD-リラグルチドの経口強制投与から2時間後に採取した。体重(
図10b)を、2500μg/kgの経口QD-リラグルチドの1週間当たり3回の処置後に測定した。
【
図11】投与から24時間後にわたって3~4ヶ月齢のWT C57BL/6Jマウス(治療群当たりn=3)における経口
14C標識メトホルミン、
14C標識QD-メトホルミンコンジュゲート(NP-メトホルミン)、および
14C標識QD(NP)の100,000DPM用量の分布を示す。
【0037】
定義
当業者が本明細書に開示される発明をよりよく理解することを可能にするために、以下の定義が提供される。これらは一般的であることが意図され、本発明の範囲をこれらの用語または定義のみに限定することは意図されていない。
【0038】
「血糖」という用語は、本明細書で使用される場合、対象の循環系の血液中で循環するグルコースの量を指す。したがって、関連する用語「血糖を低下させる」または「血糖を減少させる」などは、治療の投与前であり得るより早い時間と比較して、対象の血液中で循環するグルコースが少ないことを指すと理解されるべきである。同様に、「血糖を上昇させる」または「血糖を増加させる」などの用語は、以前の時間と比較して、対象の血液中で循環するより多くのグルコースを指すと理解されるべきである。
【0039】
「高血糖」および「高血糖性」などという用語は、対象の血糖値が、健康な対象における血糖の正常範囲よりも対象の血糖値が高い場合を指す。同様に、「低血糖」または「低血糖性」などの用語は、健康な対象における血糖値の正常範囲よりも対象の血糖値が低い場合を指す。
【0040】
「量子ドット」という用語は、本明細書で使用される場合、約20nm未満の平均サイズ分布を有するナノ粒子材料を指す。そのような量子ドットはまた、概して、同じ材料から形成されたがより大きなサイズの粒子とは異なる光学的および/または電子的特性を示す。
【0041】
「コンジュゲート」という用語は、本明細書で使用される場合、2つ以上の種および/または構造が会合している配置を指す。例えば、本発明の量子ドットは、インスリンタンパク質鎖と会合して、量子ドット-インスリンコンジュゲートを形成し得る。このような会合は、2つ以上のコンジュゲート元素が近接して見出される限り、任意の適切な化学的形態をとり得る。
【0042】
「ポリマー」という用語は、本明細書で使用される場合、モノマーを共有結合と連結させることにより形成される分子または巨大分子を指す。モノマーは同一であってもよく、または異なっていてもよい。モノマーは、モノマー(例えば、ポリエチレン)の繰り返しサブユニットに形成されてもよく、または非繰り返し配列(例えば、タンパク質)を有してもよい。「ポリマー」という用語は、合成起源および生物起源の両方のポリマーを包含すると理解される。
【0043】
「バイオポリマー」という用語は、本明細書で使用される場合、生物学的起源のポリマー鎖を指し、それにより、ポリマーは、生物システムによって生成され、かつ/または、それにおいて、ポリマー鎖は、生物学的起源を有するモノマー部分から形成される。
【0044】
「ペプチド」または「ポリペプチド」という用語は、本明細書で使用される場合、通常、約2~約50アミノ酸長のペプチド結合により配列で結合されたアミノ酸の短鎖を指す。「タンパク質」という用語は、本明細書で使用される場合、ペプチドよりも長さが長いアミノ酸鎖、すなわち、配列において約51個以上のアミノ酸を指す。
【0045】
「経口」という用語は、本発明の組成物の投与に関して、組成物が投与される対象の口への送達を指し、組成物の大部分は、すべてではないにしても、消化管内で吸収されることが予想される。本発明の文脈における「経口」という用語は、粘膜にわたる経皮吸収を指すことが意図されるものではない。
【0046】
「投与」という用語、または「投与する(administer)」もしくは「投与する(administering)」を含むが、これらに限定されない変形形態は、本明細書で使用される場合、対象に治療用組成物を提供することを指す。
【0047】
用語「治療する」、「治療」、「療法」、「治療的」などは、本明細書で使用される場合、組成物が投与される対象における有害な医学的病態を改善するか、またはその症状を低減する組成物を投与することを指す。したがって、本発明の文脈において、「治療コンジュゲート」の投与の効果は、治癒療法または予防療法として投与され得る高血糖対象における血糖の低下などの、I型糖尿病の症状のうちの少なくとも1つを低減することを包含する。
【0048】
「対象」という用語は、本明細書で使用される場合、治療される任意のヒトまたは非ヒト動物を指す。したがって、本発明の組成物は、ヒト治療に好適であってもよく、ネコおよびイヌなどのコンパニオン動物、またはブタ、ウマ、ヒツジおよびウシなどの農場動物を含む非ヒト動物の獣医治療にも好適であってもよい。
【0049】
「流体力学的直径」という用語は、本明細書で使用される場合、コンジュゲートが水中に分散されるときに表面に近い水分子の配置の程度を指す。これは、水中に分散されるときにコンジュゲートと同じ流体力学的摩擦を示す完全な固体球の直径として定義される。言い換えれば、本明細書に記載のコンジュゲートの表面が静電荷を有するため、表面に隣接する水分子は、本質的に定義された水層シェルを提供する、したがって、そのような水会合を有しない固体粒子に等しい流体力学的直径を有する粒子を提供するために、静電力によって、配置され、表面に関連付けられるであろう。
【0050】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」を意味する。用語「comprising」の派生語、例えば「comprise」および「comprises」は、対応して様々な意味を有する。本明細書で使用される場合、用語「含む(comprising)」および「含む(including)」は非排他的である。本明細書で使用される場合、「含む(including)」および「含む(comprising)」という用語は、特定の整数が全体の主要な部分を表すことを意味しない。
【0051】
本明細書で使用される場合、「から本質的になる」という用語は、「意図的に添加される他の追加の構成要素を除外すること」、または「以下に列挙される要素のみが存在することが意図される」ことを意味する。意図的に存在しない、定義された組成物またはデバイス中にある追加の構成要素は許容される。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明は、治療ペプチドおよびタンパク質を、それを必要とする対象に提供するための組成物に関する。組成物は、対象における不十分な内因性ペプチド産生の治療方法において使用されてもよく、または対象に治療用外因性ペプチドもしくはタンパク質を送達する方法において使用されてもよい。対象は、少なくとも1つの内因性ペプチドのレベルが不十分であり、置換療法を必要とする病態に罹患している可能性がある。対象が不十分な内因性タンパク質産生を有する病態の周知の非限定的な一例は、I型糖尿病である。したがって、一実施形態では、本発明は、対象における血糖を低下させること、および対象における血糖を低下させるための方法を対象とする。対象は、I型糖尿病またはII型糖尿病に罹患している可能性があり、対象はインスリンを産生することができないため、正常な血糖値を維持する療法を必要とする。対象は、高血糖である可能性があり、血糖値を低下させる治療用量のインスリンを必要とする。対象は、少なくとも1つの内因性ペプチドのレベルが不十分であり、置換療法を必要とする別の病態に罹患している可能性があり、その一例は、I型糖尿病である。対象は、例えば、糖尿病性腎症、肝臓線維症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)および腎線維症の治療におけるPDGF受容体ベータ調節剤、セリアック病および他の胃腸疾患の治療におけるGLP-2受容体アゴニスト、または炎症性腸疾患(IBD)および潰瘍性大腸炎の治療におけるインテグリンアルファ-4/ベータ-7アンタゴニストなどの、治療用外因性ペプチドまたはタンパク質の送達を必要とする病態を患っている可能性がある。本発明の組成物は、内因性または外因性ペプチドおよびタンパク質を分散するための天然プロセスに類似するプロセスにおいて、治療用内因性または外因性ペプチドおよびタンパク質を、病態の影響を受ける臓器または細胞、および/またはペプチドまたはタンパク質を放出することができる臓器に、有利に、直接送達され得る。
【0053】
一実施形態では、本発明の組成物は、インスリンと量子ドットとのコンジュゲートを含む。本発明者らは、驚くべきことに、そのようなコンジュゲートが、経口投与および腸壁を通しての吸収後に、対象の循環系に入ることができることを見出した。次いで、量子ドットは、インスリンがインスリン受容体を活性化する門脈循環を介して肝細胞にインスリンを送達し、次に、コンジュゲートは、胆汁を介してその後の代謝および排泄のためにエンドサイトーシスによって肝細胞に取り込まれる。以下で、実施例を参照してより詳細に説明されるように、インスリン(置換療法に好適な内因性タンパク質の例として)は、血糖値を低下させるために、対象に効果的に経口投与され得るが、当業者は、本明細書に例示されるようなそのような組成物および方法が、他の好適な治療ペプチド、特に、肝臓への投与から利益を受けるものに拡張され得ることを認識するであろう。
【0054】
インスリン
インスリンは、健康な対象の膵臓に見られるランゲルハンス細胞のベータまたは島から産生され、かつ分泌されるペプチドホルモンである。健康な対象において、インスリン分泌は、通常、対象における高血糖値に応答して生じ、対象の細胞に血液系からグルコースを取り込ませるように作用し、過剰なグルコースは、重合され、かつ肝臓および筋肉内でグリコーゲンとして貯蔵されるか、または脂肪として脂肪組織内に貯蔵するために脂肪酸に変換される。
【0055】
構造的には、インスリンは、ジスルフィド結合を介して連結された2つの鎖の二量体であり、この二量体は、本明細書ではインスリン分子と呼ばれる。当業者には理解されるだろうが、得られる第四級構造は、ジスルフィド結合の任意の破壊またはペプチド鎖の切断がほとんどまたはまったく活性をもたらさない可能性が高い、細胞膜に埋め込まれたインスリン受容体に結合するインスリンの活性にとって重要である。インスリン投与は現在、I型糖尿病を治療するのに利用可能な唯一の治療法であり、II型糖尿病の人々にとって
も主要な治療選択肢であるため、インスリン分子の四次構造の完全性を維持する方法でのインスリン投与が重要である。
【0056】
一般に、ヒトの治療に現在使用されているインスリンは、組換えDNA技術の使用によって産生されるヒトインスリンである。ブタなどの他の種由来のインスリンは、ヒトを治療するためにも以前から使用されてきた。しかしながら、インスリンのアミノ酸配列および結果として得られるインスリンの構造は、種間でわずかに異なる。例えば、ブタ由来インスリンは、ヒト由来配列と比較して1つのアミノ酸残基が異なり、ウシ由来インスリンは、ヒト由来配列と比較して3つのアミノ酸残基が異なる。これらのわずかな違いは、別の種から採取されたインスリンの使用が、同じ種の細胞によって産生されるインスリンと同じ効果がある可能性が低いことを意味する。しかしながら、異種間投与は、療法において依然として有効であり得る。例えば、組換えDNA技術が利用可能になる前に、インスリンは、2つのアミノ酸配列の近さにより、ヒト療法で使用するためにブタから定期的に採取された。インスリン誘導体もまた、様々な長さの活性を有するものが利用可能である。例えば、インスリンは、長時間作用型類似体(例えば、グラルギンインスリンもしくはデテミルインスリン)、中間作用型類似体(例えば、イソフェンインスリンもしくはニュートラルプロタミンハーゲドンインスリン)、または即効作用型類似体(例えば、インスリンアスパート、インスリンリスプロもしくはインスリングルリシン)として利用可能である。
【0057】
したがって、本発明は、任意の特定のアミノ酸配列または起源の種のインスリン分子の使用に限定されない。「起源の種」とは、本明細書で使用するインスリンが、その起源種の健康なメンバーによって天然に産生される配列と同じ配列を有することを意味する。「起源の種」は、対象の種と同じである必要はない。インスリンは、対象の種の天然配列と同一または類似の配列のものであってもよく、または対象の治療に有効な四級タンパク質構造を有する異なる種であってもよい。アミノ酸配列は、好ましくは、天然である(すなわち、対象の種の細胞によって産生される)が、任意のそのような修飾が投与後の対象におけるインスリンの有効性に著しく影響を及ぼさない限り、化学的に修飾されてもよい。
【0058】
本発明で使用されるインスリンは、任意の好適な方法によって産生され得る。例えば、それは、組換えDNA技術の使用により作製、収集および精製され得るか、またはインスリンを発現する動物もしくは哺乳動物細胞の培養収集から採取され得るか、または化学合成によって作製され得る。それは、塩として生産されることもある。それは、本明細書では、インスリンの薬学的に許容される塩として使用され得る。それは、長時間作用型、中間作用型、または即効作用型インスリン誘導体であってもよい。
【0059】
量子ドット
本発明で使用されるコンジュゲートは、本明細書において量子ドットと呼ばれるナノ粒子を含む。定義により、量子ドットは、比較的小さなサイズであり、直径は最大約50~100nmであるが、同じ物質から形成されるがより大きなサイズの粒子またはバルク材料と比較して異なる、電子的および/または光学的特性(または本明細書で同義的に使用される「光電子的」特性)を示すナノ粒子である。観測され得る量子ドットの光学的特性の例は、光発光であり、それによって、電磁スペクトルの紫外線部分の波長が量子ドットによって吸収され、電子をより高いエネルギーレベルに励起し、次いで、より低いエネルギー電子シェルに分解し、電磁スペクトルの可視部分の波長として観測されるエネルギーの量子を放出する。超伝導として観測され得る量子ドットの電子特性の例。量子ドットのこれらの光電子特性は、粒子の大きさおよびそれらの構築で使用される材料に依存し得る。本発明の文脈において、量子ドットの光電子特性は、撮像技術を用いてこれらのコンジュゲートを含む組成物の適切な投与した後に、対象の異なる組織におけるコンジュゲートの位置を決定するために診断的に使用され得る。
【0060】
量子ドットは、任意の好適な材料から形成され得る。「好適な」とは、量子ドットが、量子ドットとして特徴付けられるのに十分に小さい粒子を形成することが可能であり、量子ドットの特徴である光電子特性を示し、天然の材料表面上または機能化後のいずれかでタンパク質と会合することが可能な材料を含む必要があることを意味する。「官能化」とは、化学反応の後に表面が変化することを意味する。それらは対象への治療的投与のためのものであるため、本発明の量子ドットはまた、その対象に対して無毒であり、十分に耐容性を示さなければならない。それらは、慢性病態の治療のためのものであるため、それらはまた、療法後すぐに実質的に除去されなければならない(すなわち、対象の身体、組織、または細胞に蓄積されない)。これに関して、「実質的な除去」は、投与される量子ドットの約75%超が所与の時間内に対象から除去されることを意味し得る。好ましくは、約75%の量子ドットは、投与後48時間以内、24時間以内、または12時間以内に対象から除去される。
【0061】
それらは、亜鉛または銀などの非重金属のカルコゲニド(例えば、セレン化物、硫化物またはテルル化物)などの単一材料から形成されるコアタイプの量子ドットであってもよい。それらは、Ag2S、ZnS、または任意の他の好適な材料を含むか、またはそれからなる材料から形成され得る。それらは、哺乳動物に対して無毒であることが理解されるAg2Sから形成されてもよい。それらは、2つの異なる材料から形成されるコアシェル量子ドットであってよく、それにより、より高いバンドギャップ超伝導材料の層がコア上にコーティングされる。シェル層は、無毒の材料からなる必要がある。コアシェル量子ドットの一般的な例は、ZnSを含むコアに適用されるCdSeからなるシェル層であるが、この層材料は、既知の有毒な重金属であるカドミウムの存在のために、本発明における使用には適していない。それらは、合金化された量子ドットであってもよく、それによって、2つ以上の半導体材料が合金化によって組み合わされる。合金化された量子ドットは、構成材料のいずれかのバルク特性とは異なる特性をもたらし得る。量子ドットは、結晶であってもよい。これらの種類の量子ドットのいずれかは、本発明での使用に好適であってもよい。
【0062】
量子ドットは、いくつかの異なる方法を使用して製造、加工または調製されてもよいことが知られている。本発明の量子ドットは、現在知られている任意の好適な方法によって生成され得るか、または開発され得る。例えば、それらは、コロイド合成、プラズマ合成、自己組織化または電気化学的組織化によって生成され得る。
【0063】
ナノ材料の分野では、平均粒子径の観点から、ナノ粒子とは異なる量子ドットの許容される上限サイズに関して異論があるようである。この分野におけるいくつかの公開された文献では、量子ドットは、20nm未満と定義され、他の文献では、量子ドットは、50nm未満と定義され、さらに他の文献では、量子ドットは、1nm~100nmと定義されている。本発明の量子ドットは、概して、本明細書では、20nm未満の直径を有する粒子として定義される。したがって、本明細書に開示される各量子ドットは、約1nm~約20nmの直径を有してもよく、または約1nm~5nm、5nm~10nm、10nm~20nm、5nm~15nm、1nm~15nmまたは5nm~20nmであってもよく、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20nmの直径を有してもよい。以下でさらに詳細に説明するように、この上限サイズは、材料自体に課される任意の固有の限界ではなく、本発明によって提供される治療効果に関与するステップであると考えられる肝臓の肝細胞における腸壁を通じた吸収およびエンドサイトーシスのプロセスに固有の制限に起因する。したがって、20nmを超える、最大50nmまたは最大100nm、例えば、最大20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、50または100nmの平均直径の量子ドットが、本発明における使用に好適であり得る。
【0064】
量子ドットは、任意の好適な形状であってもよい。それらは、球形であっても、ほとんどが球形あってもよい。それらは、不規則な形状をしていてもよい。量子ドットの集団はすべて、一様な形状を有してもよく、または任意の集団で複数の形状が存在してもよい。
【0065】
硫化銀量子ドット
一実施形態では、本発明の量子ドットは、Ag2Sからなってもよく、またはそれを含んでもよい。Ag2Sからなる量子ドットは、ナノ粒子の分野で周知である。それらは、哺乳動物に対する毒性が低いか、または全くないことが示されており、また、近赤外線蛍光を有する場合がある。一般に、それらは、疎水性コーティングを有するAg2S量子ドットをもたらす自己組織化方法を使用して調製されるが、本発明のAg2S量子ドットは、任意の好適な方法によって作製され得る。そのような疎水性Ag2S量子ドットは、一般に、親水性コーティングを有するように官能化される。この官能化は、親水性コーティングを得る任意の好適な方法を用いて行われ得る。一実施例では、使用される親水性試薬は、好適な条件下で疎水性量子ドットとともにインキュベートされたときに、Ag2S量子ドット上で親水性表面化学をもたらす、メルカプト含有またはチオール含有試薬であってもよい。Ag2S量子ドットの表面は、例えば、カルボキシル、ヒドロキシル、チオールまたはアミノ官能基などの極性官能基で完全にまたは実質的に覆われ得る。Ag2S量子ドット上に親水性表面を形成する官能化は、通常、極性溶媒中で生じる。得られた親水性Ag2S量子ドットは、次いで、通常、安定であり、ともに凝集せず、インスリンと会合して、療法に好適なコンジュゲートを形成することができる。
【0066】
量子インスリン-ドットコンジュゲート
本発明は、治療用コンジュゲートの使用を含む。本明細書で言及されるすべてのコンジュゲートは、量子ドットと少なくとも1つのインスリン分子との間に形成される安定な会合である。標準的な化学を使用して、インスリン分子を量子ドットの表面にコンジュゲートしてもよい。そのような一実施例では、治療コンジュゲートが、親水性または疎水性であり得る好適な量子ドットを、溶媒中のカップリング剤およびインスリンと接触させ、次いで混合物をインキュベートして、粗治療用量子ドットコンジュゲートを形成するステップを介して形成されてもよい。これらの3つの試薬の接触は同時に起こり得、それによってすべての試薬が一緒に添加されてインキュベートされるか、またはそれらが順次起こり得て、それによって3つの試薬のうちの2つ、例えば、量子ドットおよびカップリング剤等が一緒に添加され、次いで第3の試薬が添加される前に反応が完了する。粗治療用量子ドットコンジュゲートは、次いで、任意に、未反応の試薬を除去するための任意の好適な方法によって精製されてもよい。そのような1つの方法は、好適な溶媒で洗浄し、次いで濾過するいくつかのサイクルを実行する固体精製方法であってもよい。別の方法は、コンジュゲートが遠心分離によって溶媒から分離され、次いで、組成物中の一部として使用されてもよい。
【0067】
カップリング剤を使用して、量子ドットの表面に結合した極性官能基とコンジュゲートされたインスリン分子との間にアミドリンカー基またはエステルリンカー基を形成してもよいが、当業者は、1つを超える結合が、量子ドット表面とインスリンとの間に形成されてもよいことを理解するであろう。一実施例では、量子ドットは、その表面上にカルボキシル基を示すように官能化されてもよく、これは、アミドまたはエステルリンカー基を介してインスリンのカルボキシル基またはアミノ基のいずれかに連結されてもよい。既知であり、使用され得るカップリング剤としては、ベンゾトリアゾリルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸(BOP)、ジシルコヘキシルカルボジイミド(DCC)などのカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)および1-(3-ジメチル-アミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)、
N-ヒドロスクシンアミドおよびスルホ-N-ヒドロキシスクシンアミド(NHS)が挙げられるが、任意の好適なカップリング剤を使用してもよい。
【0068】
インスリンなどのタンパク質は、温度、せん断、pH、塩濃度、および溶媒などの環境条件に対して感受性があり得る。タンパク質に応じて、いくつかの条件は、タンパク質の構造に回復不能の損傷を引き起こし得、いくつかの原因は変性を引き起こし、それを無効にする。したがって、量子ドットコンジュゲートを形成する場合、インスリンが量子ドットとのコンジュゲーション後も有効なままであることを確実にするために、処理条件を慎重に考慮する必要がある。
【0069】
カップリング反応が生じる溶媒は、量子ドット表面および関連する試薬の化学に応じて、極性であり得るか、または非極性であり得る。溶媒は、水であってもよい。溶媒は、メタノール、エタノール、ブタノール、またはプロパノールなどのプロトン性極性有機溶媒であってもよい。溶媒は、アセトン、アセトニトリル、またはN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などの非プロトン性極性有機溶媒であってもよい。
【0070】
溶媒が水である場合、生物学的浸透圧に近似させ、インスリン分子の完全性を維持するために、塩を添加してもよいし、塩が存在してもよい。コンジュゲーション反応は、生理食塩水環境下で行われ得、それにより、生理食塩水は、NaClおよびKClなどの溶解塩が存在する水である。生理食塩水環境により、約300~312mOsm/Lの血漿浸透圧が推定され得る。緩衝液を水または生理食塩水に添加して、反応混合物のpHがコンジュゲーション反応中にインスリンの変性を引き起こさないようにし得る。緩衝液は、約pH6~約pH8の生物学的pHを維持してよい。緩衝液は、例えば、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、クエン酸緩衝液もしくはグリシン緩衝液、または任意の他の好適な緩衝液であってもよい。ヒドロニウムイオンは通常存在せず、したがって、pHは因子ではないため、緩衝液は、一般に、有機溶媒相では必要とされない。
【0071】
反応が生じる温度は、試薬としてインスリンを含む任意のステップにおいて、穏やかであり得る。温度は、約1℃~約40℃であってもよく、1℃~20℃、10℃~30℃、5℃~35℃、20℃~40℃、15℃~25℃または25℃~35℃であってもよく、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または40℃であってもよい。それは、室温であってもよい。温度は、反応全体を通して一貫していてもよく、最高温度と最低温度との間で1~5℃の変動があるか、または冷却勾配の加熱勾配など、全体を通して変動してもよい。凍結(低浸透性の水溶液中)または熱誘導変性によってそれぞれ引き起こされ得るインスリンの損傷を避けるために、最低温度が約1℃より大きく、最高温度が約40℃未満であることが予想される。反応が順次行われる場合、量子ドットおよびカップリング剤のみを含む反応ステップは、1℃~100℃、または10℃~50℃、25℃~75℃、15℃~85℃、35℃~65℃、70℃~90℃、または50℃~100℃などのより高い温度で生じてもよく、例えば、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100℃であってもよい。
【0072】
反応における各反応ステップは、約5分~約10時間、または約5分~5時間、1時間~6時間、2時間~8時間、5時間~10時間、または30分~3時間、例えば、5分、10分、15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、または10時間にわたって生じ得る。試薬は、完全にまたは実質的に完全に反応することを確実にするのに十分長い時間放置されてもよい。
【0073】
バイオポリマー
以下でより詳細に説明するように、量子ドット-インスリンコンジュゲートはまた、ポリマーを含んでもよい。ポリマーは、合成ポリマーであってもよく、またはバイオポリマーであってもよい。このバイオポリマーは、量子ドット-インスリンコンジュゲートに適用されて、コンジュゲートがバイオポリマーに少なくとも部分的にコーティングされるようにしてもよく、またはバイオポリマーは、アマルガム層中のインスリンとともに分散されてもよい。コンジュゲートは、バイオポリマーで完全にコーティングされてもよく、またはそれらは、バイオポリマーで実質的にコーティングされてもよい。バイオポリマーを含むこの外層は、保存期間を延長するか、または物理的バリアを形成し、かつ投与後の分解を低減することによって、インスリンを保護するように作用し得る。それは、経口的に飲み込むことによって投与される場合、またはスプレーとして投与される場合、腸管膜などの膜を横断した吸収を可能にし得るか、または促進し得る。それは、投与後の対象による吸収後に、所望の細胞型による標的化吸収を可能にし得る。バイオポリマーの役割は、これらの役割のうちの任意の1つ以上に適していてもよい。
【0074】
バイオポリマー層は、所望の効果に応じて、任意の好適なバイオポリマーを含んでよい。例えば、所望の効果が物理的バリアとしてのものである場合、バイオポリマーは、コンジュゲートの周囲に水不透過性層の形成、および場合によっては空気不透過性層を形成することが可能でなければならない。
【0075】
例えば、ゼラチン、ヘパリン、またはバイオポリマーコーティングの非存在などのバイオポリマーは、比較的小さい流体力学的直径を有するコンジュゲートをもたらし得、したがって、クラスリン媒介性エンドサイトーシスによる肝細胞へのコンジュゲートのエンドサイトーシスのための好ましさを示す。さらに、特定のバイオポリマーは、インスリン-QDコンジュゲートを、胃腸管の酸環境および消化酵素から保護し得る。例えば、キトサンもしくはガラクトースもしくはグルコースなどのバイオポリマー、またはこれらの組み合わせは、胃腸pHおよび消化酵素からのコンジュゲートの保護をもたらし得る。これらのバリア特性のために選択されたこれらのバイオポリマーは、コンジュゲートの流体力学半径にも影響を及ぼし得、したがって、肝臓の細胞によるこれらのコーティングされたコンジュゲートの取り込みに影響を及ぼす可能性がある。バイオポリマーコーティングの有無にかかわらず、QDの表面化学をFTIRを介して分析して、どの基が存在するかを決定することができる(
図2を参照されたい)。
【0076】
バイオポリマー層は、任意の好適なプロセスによってコンジュゲートに適用され得る。例として、そのような方法の1つでは、バイオポリマー付着は、QD上のカルボン酸基とバイオポリマー上の一級アミン基との間のアミド架橋の形成によって実行され得る。例えば、この反応は、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)またはその水溶性類似体(スルホ-NHS)および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)の存在下で実行され得る。この反応は、HClおよびNaOH溶液の添加によって促進され得るpHの変化を必要とする。任意選択で、この方法はまた、アジピン酸ジヒドラジドなどの追加のリンカーを使用してもよい。
【0077】
水分子とのその表面での相互作用を含まないバイオポリマー層の厚さは、約5nm~約25nm、例えば、約5nm~10nm、10nm~20nm、15nm~約25nm、または12nm~17nm、例えば、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25nmであり得る。得られるコンジュゲートの流体力学的直径は、バイオポリマーコーティングの有無にかかわらず、約10nm~約100nm、例えば、約10nm~50nm、または20nm~40nm、25nm~75nm、50nm~100nm、30nm~80n
m、40nm~60nm、または60nm~100nm、例えば、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100nmであり得る。
【0078】
療法
本明細書に記載のコンジュゲートは、量子ドットとインスリンとを含み、任意選択で、バイオポリマーをさらに含み、それを必要とする対象におけるI型またはII型糖尿病の治療に使用され得る。上述したように、インスリンは、インスリン依存性糖尿病のための最も効果的な療法である。これらのコンジュゲートは、高血糖事象中の治癒的様式、または食事前もしくは食事中もしくは起床時の予防的様式など、必要なときに糖尿病対象にインスリンを提供するための療法として、本発明者らによって具体的に開発されてきている。
【0079】
理論に拘束されるものではないが、これらの量子ドット-インスリンコンジュゲートは、細胞表面に結合され、対象の身体の細胞、好ましくは肝臓、およびより好ましくは肝細胞に浸潤され、インスリンは、対象の血糖を低下させるように作用することができると考えられる。量子ドット-インスリンコンジュゲートは、肝臓を標的とすることは好ましいが、それらは、経口投与直後の小腸などの他の臓器、または腎臓、脾臓、および膵臓にも見られる場合がある。量子ドット-インスリンコンジュゲートは、肝細胞を特異的に標的とし、それにより全身性高インスリン血症および関連する有害作用を低減する。これらのコンジュゲートは、コンジュゲートが対象の血流に入り、コンジュゲートを代謝しかつインスリンを放出する細胞と接触することをもたらす任意の好適な手段によって対象に投与され得ることが想定される。例えば、コンジュゲートは、当該技術分野において既知のインスリンの一般的な投与経路と同様に、皮下注射によって投与され得るが、経口投与が好ましい。
【0080】
経口投与
これらのコンジュゲートの送達のための1つの特に有利で驚くべき投与経路は、経口投与によるものである。インスリンの経口剤形は、対象によるコンプライアンスの低下、および一般的な注射部位における瘢痕組織の蓄積がさらなる注射を困難にするなど、インスリン(ならびに他のタンパク質およびペプチド)の皮下注射に関する既知の問題を回避するであろう。経口剤形の組成物は、コンプライアンスを向上させ、皮下投与に関連する望ましくない副作用を低減させることが期待される。「経口投与」とは、対象が、舌下粘膜などの経口膜を横断する吸収ではなく、消化管内で吸収するためのコンジュゲートを含む組成物を飲み込むことによって、組成物を経口的に服用することを意味する。
【0081】
インスリンの経口投与のための組成物は、任意選択でバイオポリマーコーティングを有する量子ドット-インスリンコンジュゲートを含む。組成物はまた、薬学的に許容される賦形剤、例えば、希釈剤(例えば、乳糖、デキストリン、ケイ酸塩、マグネシウム塩、またはカルシウム塩)、結合剤(例えば、デンプン、セルロース、セルロース誘導体、または糖アルコール)、崩壊剤(例えば、デンプン、セルロース誘導体またはアルギン酸塩)、流動化剤(例えば、コロイド無水シリカおよび他のシリカ化合物)、保存剤(例えば、安息香酸ナトリウム、EDTA、ソルビン酸またはパラベン)、抗酸化剤(例えば、BHA、BHT、酢酸トコフェロール)および潤滑剤(例えば、立体酸およびそれらの塩)を含んでもよい。経口剤形は、例えば、錠剤、カプセル、粉末、懸濁液、または溶液などの任意の好適な物理的形態であってもよい。以下の実施例3に示されるように、量子ドットとインスリンのコンジュゲートは、追加の保護賦形剤を添加することなく、経口投与後の測定された血糖に対する効果によって証明されるように、対象の血流に活性インスリンを提供することができる。したがって、理論に拘束されることなく、インスリンを量子ドットにコンジュゲートさせると、消化管内のプロテアーゼおよび酸の作用が破壊され、吸収前のインスリンの分解が低減され、対象の肝臓への活性インスリンの送達がもたらされると考えられる。量子ドットとコンジュゲートされた他のタンパク質およびペプチドにも同じ保護効果が適用されることが想定される。
【0082】
好適な医薬組成物は、コンジュゲートを対象の腸管に送達し、そこからそれらは、小腸の管腔を通して、および小腸の毛細血管内に吸収されることが想定される。したがって、量子ドット、インスリン、および任意選択でバイオポリマーを含むコンジュゲートの流体力学的サイズは、腸から腸毛細血管内へのコンジュゲートの迅速な吸収を可能にするのに十分小さいサイズでなければならない。
【0083】
小腸毛細血管の血液がファーストパス代謝のために肝臓に直接進むため、経口投与、したがって腸管吸収経路は、注射または経皮投与などの他の吸収または投与方法よりもさらに有利であり、優れている。有利には、コンジュゲートは、対象の任意の他の細胞または臓器ではなく、肝臓において代謝されることが好ましい。これは、肝臓がグルカゴンのストアや脂質生成の部位(すなわち、過剰なグルコースから脂肪酸を作製する)を含む、グルコースレベルを維持する上でいくつかの重要な役割を果たすためである。さらに、肝臓からのインスリン放出は、現在の好ましい療法である活性型インスリンの非経口投与と比較して、健康な対象におけるインスリンの自然放出をより密接に表す。
【0084】
インスリンの経口投与の別の利点は、インスリンが量子ドットにコンジュゲートされ、任意選択でバイオポリマーにコーティングされた場合、バイオポリマーによって消化管の過酷な条件からさらに保護されてもよく、かつ/またはバイオポリマーの特性に応じて腸壁を通る吸収が改善されてもよいことである。
【0085】
経口投与の別の利点は、コンジュゲートが、対象の全身系に入ることを抑制されてもよく、または制限されてもよいことである。実施例1に示すように、本明細書に記載のコーティングされていない量子ドットの大部分は、投与後すぐに吸収され、肝臓に蓄積された後、胆汁排泄によって除去され、それによって対象の全身循環系に入ることを回避する。また、本明細書には、バイオポリマーコーティングが、適用される場合、対象におけるコンジュゲートの分布に影響を及ぼし、肝臓による吸収および蓄積をさらに増加し得ることが示されている。
【0086】
糖尿病の治療
本発明のコンジュゲートは、特に実施例4(インスリン)または実施例6(リラグルチド)を参照して、対象の糖尿病を治療する方法で使用され得る。治療は、治癒的であってもよく、高血糖であり得る対象における血糖を低下させるためのインスリンの投与を含んでもよい。治療は、糖尿病対象が投与時に正常な血糖値を有し得るという点で、予防的(preventative)または予防的(prophylactic)であり得るが、コンジュゲートの投与後すぐに対象が高血糖になることが予想され得る。例えば、コンジュゲートは、特に食物が高炭水化物である場合、対象の血糖値を上昇させることが予想され得る食品の前に、または食品とともに経口的に服用されてもよい。治療される糖尿病は、I型糖尿病であってもよく、またはII型糖尿病であってもよい。
【0087】
治療は、本発明のコンジュゲートを含む組成物の投与を含み得、それにより、インスリンは、肝臓によるコンジュゲートの代謝後に対象の血流中に放出される。「代謝」とは、少なくとも1つのインスリン分子および量子ドットを形成するように、コンジュゲートの切断が細胞内で行われ、インスリンが血流中に放出され、量子ドットが胆道系を介して排出されることを意味する。投与は、任意の好適な経路、例えば、非経口投与、例えば、皮下注射によるものであってもよく、経口投与によるものであってもよく、または経皮投与によるものであってもよい。好ましくは、投与経路は、経口投与によるものである。組成
物は、投与経路に好適であり、したがって、投与経路に依存する薬学的に許容される賦形剤を含んでもよい。例えば、経口投与に好適な賦形剤は、非経口投与に好適でない場合がある。
【0088】
コンジュゲートによって提供されるインスリンまたはリラグルチドの用量は、従来の非経口療法によって提供されるインスリンまたはリラグルチドの用量と同じまたはそれよりも高くてもよい。ヒトの場合、インスリンの標準用量は1国際単位(IU)であり、0.0347mgと定義されている。対象に投与されるインスリンの用量は、約0.1IU/kg~約100IU/kgであってもよく、または約0.1IU/kg~15IU/kg、0.5IU/kg~20IU/kg、1IU/kg~10IU/kg、5IU/kg~25IU/kg、15IU/kg~30IU/kg、20IU/kg~50IU/kg、25IU/kg~75IU/kg、40IU/kg~80IU/kg、30IU/kg~70IU/kg、10IU/kg~90IU/kg、1IU/kg~99IU/kgまたは2.5IU/kg~12IU/kg、例えば、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9.1、1.5、2、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100IU/kgであってもよい。対象に投与されるリラグルチドの用量は、100μg/kg~約3000μg/kgの間であってもよく、または約200μg/kg~約2500μg/kgの間であってもよく、または約1250μg/kg~約2500μg/kgの間、例えば、約100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400、1450、1500、1550、1600、1650、1700、1750、1800、1850、1900、1950、2000、2050、2100、2150、2200、2250、2300、2350、2400、2450、2500、2550、2600、2650、2700、2750、2800、2850、2900、2950または3000μg/kgであってもよい。治療効果を達成するために必要な経口QD-インスリンコンジュゲートの用量は、皮下インスリン(SC-インスリン)の治療効果を達成するために必要な用量と同じまたはそれより高くてもよい。SC-インスリン対経口QD-インスリンの治療用量の比は、約1:1~約1:50であってもよく、または約1:5~約1:40、または約1:10~1:25であってもよく、または1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、1:11、1:12、1:13、1:14、1:15、1:16、1:17、1:18、1:19、1:20、1:21、1:22、1:23、1:24、1:25、1:26、1:27、1:28、1:29、1:30、1:31、1:32、1:33、1:34、1:35、1:36、1:37、1:38、1:39、1:40、1:41、1:42、1:43、1:44、1:45、1:46、1:47、1:48、1:49または1:50であってもよい。
【0089】
本明細書に記載のコンジュゲートの投与の所望の治療効果は、対象における血糖の低下である。この治療効果は、投与直後、例えば、投与から約5分~約90分後に、または投与から約5~30分、10~25分、10~15分、15~45分、20~50分、30~90分、40~80分、10~75分、60~90分、50~85分、または30~60分後に、例えば、投与から5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、または90分後に明らかであり得る。この治療効果は、長時間作用型効果または短時間作用型効果であり得る。「短時間作用型」とは、治療的血糖降下効果が、投与から最大約2時間後、または投与から最大約1.5時間後、または投与から最大約1時間後の期間にわたって対象において観察されることを意味する。「長時間作用型」とは、治療用血糖降下効果が、投与から約2時間~約8時間後に、例えば、投与から2時間~4時間、4時間~8時間、または3時間~6時間後に、例えば、約2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、4.5時間、5時間、6時間、7時間、または8時間後に、対象において観察され得ることを意味する。観察可能な活性の長さは、いくつかの因子、例えば、組成物および/もしくは厚さもしくはバイオポリマーコーティング、コンジュゲートの流体力学的直径、投与の時刻、投与される組成物の賦形剤、またはこれらの要因の組み合わせによって影響され得る。
【0090】
その他の治療用タンパク質およびペプチド
上記の記載および以下に提供される実施例では、インスリンは、対象に経口投与したときに有効性を維持するタンパク質またはペプチドに基づく治療剤の剤形を提供するために、本発明の量子ドットとのタンパク質またはペプチドに基づく治療剤の結合の有効性を実証するために使用されてきている。しかしながら、当業者は、本明細書に記載されているのと同じ技術を使用することによって、治療上有効であるが、経口的には生体利用可能ではない他のタンパク質またはペプチドも、経口投与のための量子ドットとのコンジュゲーションに好適であり得ることを容易に予想するであろう。特に、対象の肝臓、小腸、膵臓、腎臓、または消化管の他の臓器に直接送達されるときに有効であるが、現在経口的には生体利用可能ではないタンパク質およびペプチドはまた、本発明を使用して経口剤形で対象に送達され得る。
【0091】
本明細書に記載の量子ドットとのコンジュゲーションに好適なタンパク質およびペプチドは、最大約30キロダルトン(kDa)のサイズの任意の治療活性タンパク質またはペプチドであってもよく、例えば、約または最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30kDaのサイズであってもよい。EDC/NHSを介してタンパク質またはペプチドをQD表面に付着させるためには、それらはまた、利用可能な一級アミン基を必要とする。このサイズの本明細書に記載の経口投与のための量子ドットとのコンジュゲーションに好適な一級アミンを含むもタンパク質およびペプチドの非限定的な例は、例えば、インスリン(例えば、51個のアミノ酸;約6kDa)およびその類似体または誘導体、成長ホルモン(例えば、191個のアミノ酸;約22kDa)、リラグルチド(30個のアミノ酸;約4kDa)およびエキセナチド(39個のアミノ酸;約4kDa)などのグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アゴニスト、アプラグルチド(33個のアミノ酸;約4kDa)などのグルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)アゴニスト、BOT191(フィブロフェロン)(約9kDa)などの血小板由来成長因子(PDGF)ベータ受容体モジュレーター、またはPN-10943、バソプレシン、インターロイキン(サイズが30kDa未満)、エンケファリン、エンドルフィンなどのインテグリンアルファ-4/ベータ-7アンタゴニストであってもよい。上記のこれらの治療上有効なタンパク質およびペプチドは、I型もしくはII型糖尿病(インスリンおよびGLP-1アゴニスト)、肥満(リラグルチド)、特に高齢の対象における成長ホルモン欠乏、(成長ホルモン)、糖尿病性腎症、肝線維症、NASHもしくは腎線維症(BOT191)、セリアック病および他の胃腸疾患(アプラグルチド)、または炎症性腸疾患もしくは潰瘍性大腸炎(PN-10943)の治療に使用され得る。上記のペプチドおよびタンパク質は、現在経口的に生体利用可能ではないが、経口的に自己投与することができる対象に有利であろう現在の治療薬の例にすぎない。
【実施例】
【0092】
本明細書で開示される本発明は、制限することが意図されない以下の実施例を参照してより良く理解され得る。
【0093】
実施例1-量子ドット-インスリンコンジュゲートの形成方法
Ag
2S量子ドットは、
図1に記載されるプロセスで調製される。本質的に、ジエチル
ジチオカルバミン酸銀を1-ドデカンチオールと混合し、200℃で1時間インキュベートして、シクロヘキサン中に可溶性のQDを産生する。産生されたQDの特徴として、658nmの励起による1175nmでの近赤外線発光(
図1b)および表面上のC-H結合を示すFTIRスペクトル(
図1c)が示されている。次いで、水溶性QDを産生するために、相転移反応を行い、QDを、室温で1時間、アセトン/シクロヘキサン中で3-メルカプトプロピオン酸とともにインキュベートする(
図1e)。これらの水溶性QDのさらなるFTIR分析は、タンパク質またはペプチドがコンジュゲートされ得る表面上のカルボン酸基を示す結合を示す(
図1f)。
【0094】
QDとインスリンのコンジュゲーションを、EDC/NHSを使用して実行し、続いて、キトサンをガラクトースまたはグルコースバイオポリマーと会合させる。QDを、室温で、EDCおよびNHSとともに、pH5~6で、混合条件下で1時間インキュベートする。次いで、pHを、NaCO3緩衝液またはNaOHのいずれかを使用して、pH9~10に変化させる。次いで、インスリンを混合条件下で溶液に添加し、4~6時間インキュベートする。次いで、溶液を水中で2時間、4時間、および一晩(16時間)透析する(3500または10000kDa切断チューブ)。溶液を、キトサンとガラクトースまたはグルコースバイオポリマーとを、室温で0.5~4時間混合する。次いで、溶液を、水中で2時間、4時間、および一晩(16時間)透析する(3500または10000kDa切断チューブ)。
【0095】
ガラクトースまたはグルコースバイオポリマーを有するキトサンは、キトサンとガラクトースまたはグルコースとの混合物から産生される(比率は、1:1000~1000:1[比率は1:2である]であってもよい)。キトサンは、1%の酢酸を使用して70℃で1~4時間調製し、濾過した(1umフィルター)。キトサンとガラクトースまたはグルコースとの連結は、1~2時間かけて70から20℃への漸進的な制御された冷却を使用して生じる。材料の精製は、エタノール溶液(50~100%)および遠心分離を使用して実行する(キトサンとガラクトースまたはグルコースバイオポリマーがゲルを形成し、非コンジュゲート材料をエタノールに溶解する)。
【0096】
上記の方法は、QDとインスリンとのコンジュゲーションを記載しているが、本実施例では、任意の治療用タンパク質またはペプチドをインスリンの代わりに使用して、様々な疾患を治療するための治療用QDコンジュゲートを産生することができることが想定される。
【0097】
実施例2-インスリン-量子ドットコンジュゲートの取り込み
放射標識インスリンおよび量子ドットのコンジュゲートは、放射標識インスリンが天然インスリンの代わりに使用されてはいるが、上述の方法で産生した。次いで、健康なげっ歯類の2つの群に、ある用量のコンジュゲートまたは同等の放射標識非結合インスリンのいずれかを経口投与した。次いで、放射活性の分布を、投与から30分後に監視した。
【0098】
30分後には非結合放射標識インスリンの約1%と比較すると、放射活性標識の約50%が、経口投与から30分後にげっ歯類の肝臓で発見された。これは、本発明のコンジュゲートが、コンジュゲーションなしよりも効果的に経口経路を介して肝臓にインスリンを提供することができることと、コンジュゲーションが消化管におけるインスリン有効性を維持する保護効果を有することとを示す。
【0099】
しかしながら、QD-インスリンコンジュゲートの肝臓内での蓄積の優先度は、インスリンの機能ではなく、むしろ、バイオポリマーでコーティングされたQDの特徴である。これが、
図3に示され、それによって、それにコンジュゲートされたタンパク質を含まない
3H標識QDは、マウスモデルに経口投与され、投与から30分後に肝臓において約6
0%の蓄積がもたらされる。言い換えると、Ag
2S QDにコンジュゲートされ得る任意のタンパク質またはペプチドは、経口投与後に肝臓に送達され得る。
【0100】
実施例3-経口用量のコンジュゲートによるグルコース負荷試験
糖尿病症状のない30匹の健康なげっ歯類の集団を得て、6つの治療群に分けた。5匹のげっ歯類の1群は、グルコース強制投与の30分前に腹腔内注射によって2IU/kgのインスリンを受けた。1群は、グルコース強制投与の30分前に経口強制投与によって100IU/kgのインスリンを受けた。5匹のげっ歯類の1群は、グルコース強制投与の30分前に100IU/kgのインスリンに相当する用量の量子ドット-インスリンコンジュゲートを与えられた。5匹のげっ歯類の1群は、グルコース強制投与の30分前に10IU/kgのインスリンに相当する用量の量子ドット-インスリンコンジュゲートを与えられ、5匹のげっ歯類の1群は、グルコース強制投与のみを与えられた。次いで、すべてのげっ歯類の血糖を、グルコース強制投与から90分後にわたって監視した。
【0101】
図4に見られるように、療法を受けなかった対照群におけるげっ歯類は、グルコースを受けてから15分後に血糖値が急激に増加し、研究期間にわたって徐々に低減した。逆に、腹腔内注射群または量子ドットインスリン群によって与えられた2IU/kgのインスリンはいずれも、血糖値の上昇を記録しておらず、本発明のインスリン(現在の好ましい療法)および量子ドットインスリンコンジュゲートの両方が、血糖値を低下させるのに有効であることを示している。
【0102】
最も驚くべきことは、経口投与されたコンジュゲートは、注射されたインスリンよりも良好な血糖降下効果ではないが、同等の血糖降下効果を示すことである。これは、本発明の量子ドットコンジュゲートが、経口投与を介して対象の血流にインスリンを送達することができることと、インスリンが、経口投与形態のインスリンを受ける対象の血糖値に影響を与えることができる有効な状態で吸収されることとを示す。
【0103】
生理食塩水皮下注射(対照)、インスリンの皮下注射(SC-INS、2IU/kg)、または経口インスリンの経口強制投与(QD-INS、20IU/kg)を、グルコース負荷試験(oGTT)の30分前と比較して、糖尿病症状のない健康なげっ歯類についてさらなる研究を行った。
図5に示されるように、経口QD-インスリン療法は、注射されたインスリンと同様に、マウスにおける血糖値を低下させるのに有効であった。
【0104】
QD-インスリンコンジュゲートの薬力学をまた、放射標識インスリンを使用して調査した。3匹のマウス処置群を4時間絶食させた後、2IU/kg用量で、インスリンの経口強制投与(経口INS)、インスリンの皮下注射(SC-INS)、またはQD-インスリンコンジュゲートの経口強制投与(QD-INS)のいずれかが投与された。
図6に示すように、30分後、経口投与された療法は主に小腸に位置し、皮下注射されたインスリンは肝臓および血液に見られた。しかしながら、2時間後、経口インスリンが依然として腸に位置している間に、SC-INSおよびQD-INSの両方について放射標識インスリンの約50%が肝臓に位置していた。実際には、SC-INSおよびQD-INS間のインスリンの分布はほぼ同じであった。これは、経口QD-ペプチドコンジュゲート投与が、浸潤性皮下投与を模倣する投与後の生体内分布をもたらすことを示している。
【0105】
実施例4-糖尿病マウスモデルにおけるインスリン負荷試験
上記の実施例は、健康なマウスモデルに対する経口QD-インスリンコンジュゲートのグルコース低下効果を示す。同様の実験はまた、血糖濃度を増加させたI型糖尿病の発症を示したNOD/Scidマウスモデルでも実施した。Accu-check proformaストリップを使用した手持ち式血糖値測定器を使用して、血糖を測定した。尾部を切った後に尾部静脈サンプリングにより血液を収集した。皮下(SC)インスリン注射
(0.1、1または2IU/kg)またはQD-インスリンコンジュゲート(10、20、30、40、50、75または100IU/kg)の強制投与から-15、0、15、30、45、および60分後に、血糖を収集した。
図8に示されるように、SC-インスリン用量より約25倍高いQD-インスリン用量は、糖尿病モデルにおいて同様のグルコース低減をもたらした。
【0106】
実施例5-量子ドット-リラグルチドコンジュゲートの形成方法
リラグルチドを、上述のインスリンと同様にEDC/NHSカップリングを介してQDにコンジュゲートした(実施例1を参照されたい)。1mMのAg2S QDを、1mMのEDCおよび1mMのNHSと反応バイアル中で重混合下1時間混合した。続いて、0.5MのNaCO3を使用してpHを9.0に変化させ、1~10mMのリラグルチドを溶液に添加した。溶液を一晩混合し、10,000MのWCOを透析チューブに移し、1LのMQ当たり1mlの溶液で2、4、16時間、4℃暗所で透析した。QD-リラグルチドへのポリマー付着も、実施例1における上記同じ方法を使用して行った。
【0107】
実施例6-リラグルチドについての経口グルコース負荷試験
oGTTは、C57/Bl6マウスにおいて4時間の絶食後に実施した(
図10を参照されたい)。Accu-check proformaストリップを使用した手持ち式血糖値測定器を使用して、血糖を測定した。尾部を切った後に尾部静脈サンプリングにより血液を収集した。血糖を、2g/kgのグルコース溶液の経口ボーラスから-30、-15、0、15、30、45、60および90分後に収集した。120分の時点で、マウスに、皮下(SC)リラグルチド注射(生理食塩水中250ug/kg)、QD-リラグルチド-CS/GS(水中2500ug/kg)の強制投与が投与され、または治療を行わなかった。個々のoGTT実験の曲線下の面積(AUC)に対するリラグルチド治療の効果に基づいて、薬力学を決定した。薬力学的測定では、SC-リラグルチドおよびQD-リラグルチドの効果が、AUCの減少と比較して決定された。
【0108】
実施例7-他の治療薬
上記の実施例は、血中グルコース濃度に対するこれらの治療薬の治療活性の測定の容易さに部分的に起因する、インスリンおよびリラグルチドのコンジュゲートを対象とする。言い換えると、インスリンは、このようなコンジュゲートにおいて経口投与されるタンパク質およびペプチドが保護され、吸収および肝内移送後も生存可能であるか、または治療効果を付与することが可能であることを決定するための良好な「概念実証」モデルを提供する。しかしながら、他のタンパク質またはペプチドも、Ag2S QDにコンジュゲートされ、バイオポリマーにコーティングされた場合、生存可能であることが予想される。
【0109】
他のタンパク質またはペプチドが、コンジュゲーションおよび肝臓への経口送達後に治療的に有効であるかどうかを決定するために、当業者は、(1)アッセイを考案すること、(2)標的治療用ペプチドもしくはタンパク質または血液成分の生理学的効果を質量分析法で測定すること、または(3)ペプチドまたはタンパク質を放射標識して、ペプチドまたはタンパク質が最も治療的に関心のある臓器(例えば、肝臓、膵臓または小腸)に送達されているかどうか、およびこれが生じる前に投与後どのくらい経過するかを判定することができるであろう。例えば、ペプチドまたはタンパク質が炎症に関連する病態(例えば、セリアック病または炎症性腸疾患)を治療することを意図している場合、炎症に関連する血液マーカー(例えば、IL-1β、IL-6、IL-8(MIP-2)、IFNγ、TFNαなど)を測定することが可能であり得る。
【0110】
一実施例は、上述の比較研究と同様に、Ag2S QDおよびアプラグルチド(または他のGLP- 2アゴニスト)を含むコンジュゲートの経口投与を、セリアック病のマウスモデルにおける同じ治療用ペプチドの皮下注射と比較することを含む。GLP-2アゴ
ニストの投与後、治療されたマウスに、比較される、グルテン、およびtTG-IgAなどの様々な血液マーカーの経口強制投与が与えられてもよい。
【0111】
別の実施例は、上述の比較研究と同様に、ヒト成長ホルモンの皮下注射を、QDおよびヒト成長ホルモンのコンジュゲートとして投与される治療用量と比較することを含む。ヒト成長ホルモンは、既知のアッセイによって直接測定されて、ホルモンの血中レベルが決定され得る。投与されるホルモンの有効性はまた、血液中のIGF-1(インスリン成長因子-1)を測定することによって、および/または治療された対象と処置されていない対象(マウスなど)との成長を観察および比較することによって判定され得る。
【0112】
他の治療用ペプチドおよびタンパク質の効果を測定するためのアッセイは、特定の疾患プロセスおよび予想されるタンパク質またはペプチドの治療効果に関するそれらの知識に基づいて、当業者によって開発され得るであろう。
【国際調査報告】