(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-14
(54)【発明の名称】血漿交換による筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置に使用するためのアルブミンを含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/38 20060101AFI20230607BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
A61K38/38
A61P21/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022566698
(86)(22)【出願日】2021-04-27
(85)【翻訳文提出日】2022-11-07
(86)【国際出願番号】 EP2021060920
(87)【国際公開番号】W WO2021224058
(87)【国際公開日】2021-11-11
(32)【優先日】2020-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515116009
【氏名又は名称】グリフォルス・ワールドワイド・オペレーションズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GRIFOLS WORLDWIDE OPERATIONS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Grange Castle Business Park,Grange Castle,Clondalkin,Dublin 22,IRELAND
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ハビエル・ホルバ・リベス
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ・マヌエル・パエス・レガデラ
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084CA18
4C084CA53
4C084DA36
4C084NA14
4C084ZA941
4C084ZA942
(57)【要約】
本発明は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置に使用するためのアルブミンを含む組成物であって、24週間の全期間に、最初の3週間に週2回、及びその後の21週間に週1回の頻度で、患者から採取した血漿の分量のほぼ100%に等しい量の前記組成物を使用して、血漿交換によって患者に投与される、組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする患者において、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置に使用するためのアルブミンを含む組成物であって、24週間の全期間に、最初の3週間に週2回、及びその後の21週間に週1回の頻度で、患者から採取した血漿の分量のほぼ100%に等しい量の前記組成物を使用して、血漿交換によって前記患者に投与される、組成物。
【請求項2】
組成物中のアルブミンの濃度が、5%~25%(w/v)の間である、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
組成物中のアルブミンの濃度が、約5%(w/v)である、請求項2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
アルブミンが、組換え型、又はヒト血漿から精製されたものである、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
免疫抑制剤の使用を必要としない、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
それを必要とする患者において、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するための方法であって、24週間の全期間に、最初の3週間に週2回、及びその後の21週間に週1回の頻度で、患者から採取した血漿の分量のほぼ100%に等しい量の組成物を使用して、血漿交換によってアルブミンを含む前記組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項7】
組成物中のアルブミンの濃度が、5%~25%(w/v)の間である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
組成物中のアルブミンの濃度が、約5%(w/v)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アルブミンが、組換え型、又はヒト血漿から精製されたものである、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
免疫抑制剤の使用を必要としない、請求項6から9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血漿交換による筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置に使用するためのアルブミンを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、米国において、年間、100,000名の人のうち約3名が罹患している運動ニューロン疾患である。ALSは、随意筋を制御する運動ニューロンの死滅を引き起こす、慢性の進行性かつ致死性の退行性神経系疾患である。症例の90%に関して、この疾患の原因は不明であり、散発性である。この疾患に関する広範囲な検討が行なわれているにも関わらず、その病因は特定されておらず、有効な処置が見出されていない。
【0003】
先に言及した通り、ALSは、通常、進行性であり、上位及び下位運動麻痺により、平均生存期間は、疾患の発症から3年となる。一般に、疾患の経過の間に、困難なかつ苦痛を伴う医療的問題が生じ、このため、とりわけ、毒性薬物、不活性化したコブラ毒及びプラズマフェレシス等の幅広い処置の使用が動機付けされてきた。
【0004】
プラズマフェレシスは、患者からの血漿が全血液から分離される、一般的な医療手順である。これは、様々な慢性疾患に罹患している患者を処置するために使用されてきた。血漿が血液細胞から一旦、分離されると、細胞は、置換液と共に、又はこれを使用せずに、患者に戻すことができる。治療的なプラズマフェレシスによって患者を処置している間に、カテーテルが、主要な静脈に、例えば、腕に留置され、第2のカテーテルが、別の静脈に、例えば、足又は手に留置される。次に、血液が、カテーテルから患者の体を出て、分離デバイスに送り込まれ、ここで、血漿が、血液細胞から分離される。血漿を含まず、場合により置換液を含む血液が、第2のカテーテルから患者に戻される。2本の末梢カテーテルの代わりに、デュアルチャネル式の中心静脈カテーテル又は末梢カテーテルも使用することができる。
【0005】
ALSを処置するためのプラズマフェレシスの使用は、既に報告されている。例えば、Silaniらは、4名のALS患者の処置のために、6か月間、凍結血漿及び生理食塩水との血漿交換を使用した(Silani, V.、Scarlato, G.、Valli, G.及びMarconi, M.「Plasma Exchange Ineffective in Amyotrophic Lateral Sclerosis」Arch. Neurol. (1980) 37巻: 511~513頁)。しかし、前記処置は、不成功で、疾患の経過は変わらなかった。更に、Kelemenらのその後の研究において、検討した4名の患者のいずれにおいても、ALSを処置するため、免疫抑制剤と組み合わせた5%のアルブミンとの血漿交換の使用は、疾患に対して有益な効果も、臨床的な改善もなんら示さなかった(Kelemen, J.、Hedlund, W.、Orlin, J.B.、Berkman, E.M.及びMunsat T.L.「Plasmapheresis with immunosupression in Amyotrophic Lateral Sclerosis」 Arch. Neurol. (1983)、40巻: 752~753頁)。
【0006】
このような以前の研究により、ALSの処置における血漿交換の使用が、米国アフェレシス学会による臨床実践における治療的アフェレシスの使用に関するガイドラインにおいて、分類IV(これより低い)に見なされている理由が説明されている(Schwartz, J.、Winters, J.L.、Padmanabhan, A.、Balogun, R.A.、Delaney, M.、Linenberger, M.L.、Szczepiorkowski, Z.M.、Williams, M.E.、Wu, Y.、Shaz B.H.「Guidelines on the use of therapeutic apheresis in clinical practice-evidence-based approach from the Writing Committee of the American Society for Apheresis: the sixth special issue」J. Clin. Apher. 2013年7月; 28(3):145~284頁)。分類IVは、公開されている証拠が、アフェレシスを無効若しくは有害であると実証しているか、又は示唆している障害に関するものである。
【0007】
更に最近、血漿交換によってALSを処置するためにアルブミンを含む組成物を使用すると、疾患の経過にある程度の有益な効果がもたらされることがスペイン特許ES201530074に示された。前記スペイン特許では、ALS患者は、最初の2週間に週3回、及び残りの12週間に週1回の血漿交換によって、5%(w/v)のヒトアルブミンを含む組成物による14週間の処置を受けた。前記特定の処置の効果を、処置の12ヶ月前から始まり、処置の終了の2ヶ月後に終了する期間まで、ALSの機能認定を使用して評価した。前記機能認定の結果は、経時的に、疾患の経過を安定化させる傾向を示し、これは、ALS患者の状態が常に悪化する傾向があることがよく知られているので、予想外のことであった。
【0008】
しかし、前記検討は、疾患の経過が維持されたが、決して改善されなかった1人の患者のみで行なわれたものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Silani, V.、Scarlato, G.、Valli, G.及びMarconi, M.「Plasma Exchange Ineffective in Amyotrophic Lateral Sclerosis」Arch. Neurol. (1980) 37巻: 511~513頁
【非特許文献2】Kelemen, J.、Hedlund, W.、Orlin, J.B.、Berkman, E.M.及びMunsat T.L.「Plasmapheresis with immunosupression in Amyotrophic Lateral Sclerosis」Arch. Neurol. (1983)、40巻: 752~753頁
【非特許文献3】Schwartz, J.、Winters, J.L.、Padmanabhan, A.、Balogun, R.A.、Delaney, M.、Linenberger, M.L.、Szczepiorkowski, Z.M.、Williams, M.E.、Wu, Y.、Shaz B.H.「Guidelines on the use of therapeutic apheresis in clinical practice-evidence-based approach from the Writing Committee of the American Society for Apheresis: the sixth special issue」J. Clin. Apher. 2013年7月; 28(3):145~284頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、疾患の通常の進行を回避することができ、かつ患者の機能認定を改善することさえ可能な、血漿交換によるALSの処置が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者らは、血漿交換によりALSを処置するため、アルブミンを含む組成物の使用は、特定の処置条件を使用することによって、疾患の進行を実際に改善することができることを驚くべきことに見出した。
【0013】
したがって、第1の態様では、本発明は、血漿交換によるALSの処置に使用するためのアルブミンを含む組成物に関する。
【0014】
好ましくは、前記組成物中のアルブミン濃度は、5%~25%(w/v)の間である。より好ましくは、アルブミンの濃度は、約5%、10%、15%、20%又は25%(w/v)である。更により好ましくは、アルブミンの濃度は、約5%(w/v)である。
【0015】
アルブミンは、組換え型、又はヒト血漿から精製されたもののどちらかであり得る。好ましい実施形態では、アルブミンはヒト血漿から精製されたものである。
【0016】
本発明の好ましい実施形態では、ALSの処置に使用するためのアルブミンを含む組成物は、患者から採取した血漿の分量のほぼ100%に等しい量の前記組成物を使用する血漿交換によって、それを必要とする患者に投与される。好ましい実施形態では、前記組成物は、24週間の全期間に、最初の3週間に週2回、及びその後の21週間に週1回の血漿交換によって患者に投与される。
【0017】
本発明では、アルブミンを含む組成物による処置は、血漿交換によって好ましくは行なわれ、すなわち、アルブミンを含む前記組成物は、置換液として使用され、プラズマフェレシスによって、血漿から予め分離された、血液細胞と一緒に患者に戻される。一般に、所定量の血漿が患者から採取され、アルブミンを含む組成物との血漿交換が、患者から採取した血漿の分量のほぼ100%に等しい量の前記組成物を用いて行なわれる。当業者は、この量の約±10%というわずかなばらつきは、本発明の範囲内に収まることを理解している。
【0018】
本発明によるALSの処置及び先行技術において公知の処置の場合の、アルブミンを含む組成物の使用の主な差異の1つは、本処置では、前記処置の前、その最中又はその終了後に、免疫抑制剤の使用を必要としないことである。ALSは、先行技術において、表面抗原、Tリンパ球及びマクロファージ移動の異常等の、免疫系の異常にリンクしており(Kelemen J.ら、上記)、これは、ALSの処置のいずれかとの同時の免疫抑制剤による処置の使用を示唆し得るものである。しかし、ALSの処置にとって満足のいく結果を得るために、免疫抑制剤を本発明の処置と共に使用することを必要としないことが、本明細書において実証される。したがって、一部の実施形態では、免疫抑制剤の使用は、本発明の組成物による処置の間、必要ではない。しかし、他の実施形態では、本発明の組成物によるALSの処置の間の免疫抑制剤の使用は、患者の別の状態によって必要とされる場合、やはり可能である。
【0019】
本発明の処置では、置換液としてのアルブミンを含む組成物を使用する血漿交換は、最初の3週間に週2回、及びその後の21週間に週1回の頻度で行なわれ、これは、全期間が24週間に相当する。
【0020】
本発明による処置の期間中に、患者は、少なくとも、疾患の経過を安定化する傾向を経験することができる。言い換えると、ALSは、ALS症状が一旦発生すると、その進行が急速で、段階的となる疾患であるので、処置の期間の間のその進行の安定化を実現することは、非常に肯定的な結果と考えることができる。それに加えて、本発明の処置は、患者の一部の機能認定を改善し、したがって、それほど進行していない段階まで疾患の進行を反転させることも実証する。
【0021】
第2の態様では、本発明は、血漿交換によるアルブミンを含む組成物を投与する工程を含む、それを必要とする患者におけるALSを処置する方法に関する。好ましくは、前記血漿交換は、患者から採取した血漿の分量のほぼ100%に等しい量の前記組成物を使用して行なわれる。当業者は、この量の約±10%というわずかなばらつきは、本発明の範囲内に収まることを理解している。一部の好ましい実施形態では、ALSを処置するための前記方法は、24週間の全期間に、最初の3週間に週2回、及びその後の21週間に週1回の頻度で行なわれる。
【0022】
好ましくは、前記組成物中のアルブミン濃度は、5%~25%(w/v)の間である。より好ましくは、アルブミンの濃度は、約5%、10%、15%、20%又は25%(w/v)である。更により好ましくは、アルブミンの濃度は、約5%(w/v)である。
【0023】
アルブミンは、組換え型、又はヒト血漿から精製されたもののどちらかであり得る。好ましい実施形態では、アルブミンはヒト血漿から精製されたものである。
【0024】
一部の実施形態では、免疫抑制剤の使用は、本発明のALSを処置する方法の間に必要ではない。
【0025】
本明細書のこれ以降に、本発明は、例示的な例を参照しながら一層詳細に説明されており、これは、本発明の限定を構成するものではない。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0026】
ALSと診断された患者におけるアルブミン5%(Albutein(登録商標)、Grifols,S.A.社、スペイン)による血漿交換(PE)。
【0027】
El Escorial/Airlie House診断基準に従って、ALSの確定診断を受けた、可能性があると診断を受けた又は可能性が高いと診断を受けた、努力肺活量(FVC)が予測値の>70%を有する18歳から70歳未満の男性及び女性が、見込みのある単一治療群の、単一施設のパイロット検討に適格であった。
【0028】
患者は、フェーズ2において、5%アルブミン(Albutein(登録商標)5%)を使用するPE処置を6か月間受けた:1つの集中期は、3週間、週2回のPEセッションを含み、その後に、維持期が、21週間、週1回のPEセッションを含んだ。経過観察期間は、6か月とした。
【0029】
エンドポイントは、改訂筋萎縮性側索硬化症機能等級スケール(ALSFRS-R)スコア及びFVCの変化とした。ALS症状の発生時からの典型的な生存期間が3~5年間であること、及びALSFRS-R総合評点において、1点/月という典型的な低下に基づき、ALSFRS-Rの傾きが、それぞれ、-0.8~-1.33点/月の間、-0.8点未満/月又は-1.33点超/月であるかどうかに応じて、疾患進行を3つのカテゴリー:「普通」、「遅い」及び「早い」に定義した。
【0030】
ALSを有する13名の成人を登録して、評価した。ベースラインにおけるメジアン(IQR)総合評点は、42.0(37.0、44.0)であった。本検討全体を通じて、ALSFRS-Rスコアは低下したが、メジアンの低下は、未処置患者では、予測よりも小さかった。処置の終了時に7名の患者、及び検討の終了時に5名の患者が、予測よりも遅い低下を有した。6名の患者が、依然として、同じ「進行者」の分類のままであった一方、4名は、処置の終了時にその分類が改善された。ベースライン時のFVCのメジアン(IQR)及び予測されたFVC率は、それぞれ、3.9(3.0、4.9)L及び87.0%(76.0、96.0)であった。メジアンFVCは、検討の間に有意に低下した。この処置は、十分に耐容された。
【0031】
アルブミン置換による血漿交換は、ALS患者において安全であり、十分に耐容された。機能損傷が進行したが、大部分の患者は、処置の終了時に予測される低下速度よりも遅いことを示した。進行傾向に関すると、大部分の患者は、安定状態にあったか(54.5%)、又はその分類が改善された(36.4%)かのどちらかであった。
【0032】
したがって、本発明の処置は、疾患の経過を安定化するばかりではなく、患者の状態も改善し、したがって、疾患の進行をそれほど進行していない段階にまで反転させることが判明した。
【0033】
本発明は、好ましい実施形態に関して記述されているが、これは、本発明を限定するものとして見なされるべきではなく、本発明は、以下の特許請求の範囲の最も幅広い解釈によって定義される。
【国際調査報告】