(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-14
(54)【発明の名称】蒸留生成物の選択性及びコールドフロー特性が改善された第2段階のハイドロクラッキング触媒の担体としてのMTW-ゼオライト
(51)【国際特許分類】
C10G 65/10 20060101AFI20230607BHJP
C10G 47/20 20060101ALI20230607BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20230607BHJP
B01J 37/00 20060101ALI20230607BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20230607BHJP
B01J 29/80 20060101ALI20230607BHJP
B01J 37/20 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
C10G65/10
C10G47/20
B01J35/10 301A
B01J37/00 D
B01J37/08
B01J29/80 M
B01J37/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567299
(86)(22)【出願日】2021-05-05
(85)【翻訳文提出日】2022-11-25
(86)【国際出願番号】 US2021030951
(87)【国際公開番号】W WO2021226277
(87)【国際公開日】2021-11-11
(32)【優先日】2020-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ビ - ゼン
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィス、トレイシー エム.
(72)【発明者】
【氏名】リャン、アン ジア - バオ
【テーマコード(参考)】
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA03A
4G169BA03B
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BA21C
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BB12C
4G169BB16C
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BE01C
4G169BE06C
4G169BE08C
4G169BE14C
4G169CC05
4G169DA06
4G169EC03Y
4G169EC06Y
4G169EC14Y
4G169FA08
4G169FB14
4G169FB30
4G169FB50
4G169FB65
4G169FC04
4G169FC08
4G169FC09
4G169ZA05A
4G169ZA05B
4G169ZA12A
4G169ZA12B
4G169ZC04
4G169ZF02A
4G169ZF02B
4G169ZF05A
4G169ZF05B
4G169ZF07A
4G169ZF07B
4H129AA03
4H129CA09
4H129CA20
4H129KA12
4H129KC03X
4H129KC03Y
4H129KC10X
4H129KC10Y
4H129KC15X
4H129KC15Y
4H129KC16X
4H129KC16Y
4H129KD16X
4H129KD16Y
4H129KD24X
4H129KD24Y
4H129KD36Y
4H129KD41X
4H129KD41Y
4H129KD44X
4H129KD44Y
4H129MB20A
4H129MB20B
4H129NA23
4H129NA32
4H129NA37
(57)【要約】
本発明のプロセスは、第1段階で炭化水素原料をハイドロクラッキングすることを含む。第1段階の触媒は、従来のハイドロクラッキング触媒である。次に第1段階からの生成物を第2ハイドロクラッキング段階に移行させることができる。本発明のハイドロクラッキングプロセスの第2段階で使用される触媒は、周期表の第6族及び第8~10族からの金属を含浸させた基材を含む。本発明の第2ハイドロクラッキング段階で使用される触媒の基材は、アルミナ、アモルファスシリカ-アルミナ(ASA)材、USYゼオライト、及びゼオライトZSM-12を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2段階のハイドロクラッキングプロセスであって、
a)ハイドロクラッキング条件下の第1ハイドロクラッキング段階で炭化水素原料をハイドロクラッキングすることと、
b)前記第1ハイドロクラッキング段階からの流出物を第2ハイドロクラッキング段階にパスすることであって、前記流出物がハイドロクラッキング条件下でハイドロクラッキングされ、前記第2ハイドロクラッキング段階の触媒が、アルミナ、アモルファスシリカ-アルミナ(ASA)材、USYゼオライト、及びZSM-12から構成された基材を含む、前記パスすることとを含む、前記プロセス。
【請求項2】
前記基材が、0.1~40wt%のアルミナ、30~80wt%のASA、0~40wt%のUSYゼオライト、及び0.1~40wt%のZSM-12を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
アルミナの量が約20~約30wt%の範囲である、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
ASAの量が約55~約75wt%の範囲である、請求項2に記載のプロセス。
【請求項5】
USYゼオライトの量が約0.1~約10wt%の範囲である、請求項2に記載のプロセス。
【請求項6】
ZSM-12の量が約0.2~約10wt%の範囲である、請求項2に記載のプロセス。
【請求項7】
380~700°F(193~371℃)の範囲の沸点を有する蒸留生成物の選択性が少なくとも50wt%である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記選択性が少なくとも65wt%である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記第1ハイドロクラッキング段階からの前記流出物が未転化油(UCO)を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記第1ハイドロクラッキング段階が従来のハイドロクラッキング触媒を用いる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
530~700°F(277~371℃)の範囲の沸点を有する重質蒸留物の選択性が少なくとも15wt%である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項12】
380~530°F(193~277℃)の範囲の沸点を有する中間蒸留物の選択性が少なくとも35wt%である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項13】
前記第2ハイドロクラッキング段階における前記触媒が、酸化物としての前記基材に含浸させた金属のニッケル(Ni)及びタングステン(W)を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項14】
前記第2ハイドロクラッキング段階における前記触媒が、前記ハイドロクラッキング触媒のバルク乾燥重量を基準として、約2~約10wt%の酸化ニッケル及び約8~約40wt%の酸化タングステンを含む、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記第2ハイドロクラッキング段階における前記触媒が改質剤を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項16】
前記改質剤が、構造式(1)~(4)によって表される化合物及びその縮合形態からなる群より選択される、請求項15に記載のプロセス。
【化1】
[式中、
(1)R
1、R
2、及びR
3は、独立して、水素;ヒドロキシル;メチル;アミン;ならびに直鎖状または分枝状、置換または非置換のC
1~C
3アルキル基、C
1~C
3アルケニル基、C
1~C
3ヒドロキシアルキル基、C
1~C
3アルコキシアルキル基、C
1~C
3アミノアルキル基、C
1~C
3オキソアルキル基、C
1~C
3カルボキシアルキル基、C
1~C
3アミノカルボキシアルキル基、及びC
1~C
3ヒドロキシカルボキシアルキル基からなる群より選択され、
(2)R
4~R
10は、独立して、水素;ヒドロキシル;及び直鎖状または分枝状、置換または非置換のC
2~C
3カルボキシアルキル基からなる群より選択され、
(3)R
11は、直鎖状または分枝状、飽和及び不飽和、置換または非置換のC
1~C
3アルキル基、C
1~C
3ヒドロキシアルキル基、及びC
1~C
3オキソアルキル基からなる群より選択される]
【請求項17】
前記改質剤がクエン酸を含む、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記第2ハイドロクラッキング段階における前記触媒が、以下のステップを含む方法によって調製される、請求項1に記載のプロセス:
(a)触媒担体基材を含む押出可能な塊を形成すること、
(b)前記塊を押出して、整形された押出物を形成すること、
(c)前記塊を焼成して、焼成された押出物を形成すること、
(d)少なくとも1つの金属硝酸塩または金属炭酸塩と、改質剤と、アンモニウム含有成分とを含む含浸液を調製し、前記含浸液のpHを水酸化物基材により1~5.5(両端値を含む)に調整すること、
(e)前記整形された押出物を前記含浸液に接触させること、及び
(f)前記含浸押出物を、前記含浸液溶媒を除去するのに十分な温度で乾燥して、乾燥された含浸押出物を形成すること。
【請求項19】
前記含浸液が炭酸ニッケルを含む、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
前記改質剤が、構造式(1)~(4)によって表される化合物及びその縮合形態からなる群より選択される、請求項18に記載のプロセス。
【化1】
[式中、
(1)R
1、R
2、及びR
3は、独立して、水素;ヒドロキシル;メチル;アミン;ならびに直鎖状または分枝状、置換または非置換のC
1~C
3アルキル基、C
1~C
3アルケニル基、C
1~C
3ヒドロキシアルキル基、C
1~C
3アルコキシアルキル基、C
1~C
3アミノアルキル基、C
1~C
3オキソアルキル基、C
1~C
3カルボキシアルキル基、C
1~C
3アミノカルボキシアルキル基、及びC
1~C
3ヒドロキシカルボキシアルキル基からなる群より選択され、
(2)R
4~R
10は、独立して、水素;ヒドロキシル;及び直鎖状または分枝状、置換または非置換のC
2~C
3カルボキシアルキル基からなる群より選択され、
(3)R
11は、直鎖状または分枝状、飽和及び不飽和、置換または非置換のC
1~C
3アルキル基、C
1~C
3ヒドロキシアルキル基、及びC
1~C
3オキソアルキル基からなる群より選択される]
【請求項21】
前記改質剤がクエン酸を含む、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
アルミナ、アモルファスシリカ-アルミナ、USYゼオライト、及びZSM-12の基材を含む、ハイドロクラッキング触媒。
【請求項23】
前記基材が、0.1~40wt%のアルミナ、30~80wt%のASA、0~40wt%のUSYゼオライト、及び0.1~40wt%のZSM-12を含む、請求項22に記載のハイドロクラッキング触媒。
【請求項24】
アルミナの量が約20~約30wt%の範囲である、請求項23に記載のハイドロクラッキング触媒。
【請求項25】
ASAの量が約55~約75wt%の範囲である、請求項23に記載のハイドロクラッキング触媒。
【請求項26】
USYゼオライトの量が約0.1~約10wt%の範囲である、請求項23に記載のハイドロクラッキング触媒。
【請求項27】
ZSM-12の量が約0.2~約10wt%の範囲である、請求項23に記載のハイドロクラッキング触媒。
【請求項28】
前記触媒が、酸化物としての前記基材に含浸させた金属のニッケル(Ni)及びタングステン(W)を含む、請求項22に記載のハイドロクラッキング触媒。
【請求項29】
前記触媒が、前記ハイドロクラッキング触媒のバルク乾燥重量を基準として、約2~10wt%の酸化ニッケル及び約8~40wt%の酸化タングステンを含む、請求項28に記載のハイドロクラッキング触媒。
【請求項30】
前記触媒が改質剤を含む、請求項22に記載の触媒プロセス。
【請求項31】
前記改質剤が、構造式(1)~(4)によって表される化合物及びその縮合形態からなる群より選択される、請求項30に記載の触媒。
【化1】
[式中、
(1)R
1、R
2、及びR
3は、独立して、水素;ヒドロキシル;メチル;アミン;ならびに直鎖状または分枝状、置換または非置換のC
1~C
3アルキル基、C
1~C
3アルケニル基、C
1~C
3ヒドロキシアルキル基、C
1~C
3アルコキシアルキル基、C
1~C
3アミノアルキル基、C
1~C
3オキソアルキル基、C
1~C
3カルボキシアルキル基、C
1~C
3アミノカルボキシアルキル基、及びC
1~C
3ヒドロキシカルボキシアルキル基からなる群より選択され、
(2)R
4~R
10は、独立して、水素;ヒドロキシル;及び直鎖状または分枝状、置換または非置換のC
2~C
3カルボキシアルキル基からなる群より選択され、
(3)R
11は、直鎖状または分枝状、飽和及び不飽和、置換または非置換のC
1~C
3アルキル基、C
1~C
3ヒドロキシアルキル基、及びC
1~C
3オキソアルキル基からなる群より選択される]
【請求項32】
前記改質剤がクエン酸を含む、請求項31に記載の触媒。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
触媒的ハイドロプロセシングとは、炭素質の供給原料を、望ましくない不純物を除去するため及び/または改善された生成物に転化するために、高温及び高圧で水素及び触媒に接触させる石油精製プロセスを指す。ハイドロプロセシングの例としては、水素処理(hydrotreating)プロセス、水素脱金属化(hydrodemetallization)プロセス、ハイドロクラッキング(hydrocracking)プロセス、及び水素異性化(hydroisomerization)プロセスが挙げられる。
【0002】
ハイドロプロセシング触媒は、典型的には、アモルファス酸化物及び/または結晶性マイクロ孔材(例えば、ゼオライト)からなる担体またはキャリアに蒸着された1つ以上の金属からなる。担体及び金属の選択は、触媒が用いられる特定のハイドロプロセシングプロセスに依存する。
【0003】
ゼオライトはハイドロクラッキング反応及び水素異性化反応で重要な役割を果たし、ゼオライトの細孔構造がその触媒選択性を大きく規定することが周知されている。この2つのプロセスは異なる結果を達成し、異なる触媒が必要となる。
【0004】
ハイドロクラッキングとは、炭化水素のクラッキング/断片化(例えば、より重質の炭化水素をより形質の炭化水素に転化すること、あるいは芳香族及び/またはシクロパラフィン(ナフテン)を非環式分枝状パラフィンに転化すること)に水素化及び脱水素化が付随するプロセスを指す。水素異性化とは、水素の存在下で触媒によって通常のパラフィンをより分岐した対応物に異性化するプロセスを指す。
【0005】
ハイドロクラッキングは、ディーゼル燃料などの蒸留物を生産する上で非常に有用である。ハイドロクラッキングプロセスによって所望の蒸留生成物の転化率及び選択性に重点を置き改善することができる新たな触媒の組合せを創出すれば、工業に大いに有用となろう。
【発明の概要】
【0006】
要約
本発明のプロセスの新規触媒を2段階ハイドロクラッキングプロセスの第2段階で利用すると、中間蒸留生成物の生産性改善が達成され得ることが見出された。これは、原料が未転化油(UCO)であってもフィッシャー-トロプシュ(FT)ワックスであっても当てはまる。
【0007】
このプロセスは、第1段階で炭化水素原料をハイドロクラッキングすることを含む。第1段階の触媒は、従来のハイドロクラッキング触媒である。次に第1段階からの生成物を第2ハイドロクラッキング段階に移行させることができる。本発明のハイドロクラッキングプロセスの第2段階で使用される触媒は、周期表の第6族及び第8~10族から選択される金属を含浸させた基材を含む。本発明の第2ハイドロクラッキング段階で使用される触媒の基材は、アルミナ、アモルファスシリカ-アルミナ(ASA)材、USYゼオライト、及びゼオライトZSM-12を含む。
【0008】
数ある要素の中でも、第2ハイドロクラッキング段階の触媒において本発明の触媒基材(ZSM-12を含む)を使用することにより、多くの利点が得られることが分かった。第2段階の触媒システムにより、所望の中間蒸留生成物及び重質蒸留生成物の収率及び選択性が改善するとともに、生成物の低温特性も改善する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図面の簡単な記述
【
図1】触媒温度に対する見かけ上の転化率(<700°F) について、本発明の第2段階触媒の場合と市販のICR250の場合とで比較してグラフで示したものである。
【0010】
【
図2】第2段階のC
4
-生産量について、市販のICR250を使用した場合と本発明の第2段階触媒を使用した場合とで比較してグラフで示したものである。
【0011】
【
図3】第2段階の軽質ナフサの選択性について、市販のICR250を使用した場合と本発明の第2段階触媒を使用した場合とで比較してグラフで示したものである。
【0012】
【
図4】第2段階の重質ナフサの選択性について、市販のICR250を使用した場合と本発明の第2段階触媒を使用した場合とで比較してグラフで示したものである。
【0013】
【
図5】第2段階の軽質蒸留物の選択性について、市販のICR250を使用した場合と本発明の第2段階触媒を使用した場合とで比較してグラフで示したものである。
【0014】
【
図6】第2段階の中間蒸留物の選択性について、市販のICR250を使用した場合と本発明の第2段階触媒を使用したとで比較してグラフで示したものである。
【0015】
【
図7】第2段階の重質蒸留物の選択性について、市販のICR250を使用した場合と本発明の第2段階触媒を使用した場合とで比較してグラフで示したものである。
【0016】
【
図8】第2段階の全蒸留物の選択性について、市販のICR250を使用した場合と本発明の第2段階触媒を使用した場合とで比較してグラフで示したものである。
【0017】
【
図9】本発明の第2段階触媒を使用した場合の多環式インデックスの選択性をグラフで示したものである。
【0018】
【
図10】本発明の第2段階触媒を使用した場合の重質ディーゼルの改善をグラフで示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好ましい実施形態の説明
本発明のプロセスは、2つの段階を用いて炭化水素原料をハイドロクラッキングすることに関する。市販のハイドロクラッキングプロセスは、典型的には、第1段階ハイドロクラッキング及び第2段階ハイドロクラッキングという2つのセクションを含む。ハイドロクラッキング反応器の第1段階及び第2段階における主な反応環境の違いは、第2段階のアンモニア及び硫化水素の濃度が非常に低いことにある。第1段階の反応環境は、原料の水素脱窒素化及び水素脱硫化によって産生されたアンモニア及び硫化水素がともに豊富である。第2段階ハイドロクラッキングの原料は、典型的には、第1段階ハイドロクラッキングからの未転化油である。本発明の触媒は、第2段階ハイドロクラッキング用に設計されている。
【0020】
プロセス及び触媒は、重質蒸留物(530~700°F)(277~371℃)及び中間蒸留物(380~700°F)(193~277℃)の収率及び転化率を改善するように設計されている。第1ハイドロクラッキング段階には従来のハイドロクラッキング触媒を使用するが、重要な点は第2段階触媒にある。第2段階では、アルミナ、アモルファスシリカ-アルミネート(ASA)、USYゼオライト、及びZSM-12ゼオライトで構成された基材を含む特定の触媒を用いる。基材に、周期表第6族及び第8~10族から選択される触媒金属、好ましくはニッケル(Ni)及びタングステン(W)を含浸させる。「周期表」という用語は、IUPAC元素周期表の2007年6月22日版を指し、周期表の族のナンバリングスキームは、Chemical and Engineering News,63(5),27(1985)に記載の通りである。
【0021】
触媒の担体は、基材の乾燥重量を基準として、約0.1~約40wt%のアルミナ基材、または別の実施形態では約20~約30wt%のアルミナを含み得る。別の実施形態では約25wt%のアルミナが使用され得る。また、触媒の基材は、基材の乾燥重量を基準として、約30~約80wt%のASA、または別の実施形態では約55~約75wt%のASAも含み得る。Yゼオライトは任意選択とすることができ、基材の乾燥重量を基準として、基材の0~約40wt%を構成することができる。別の実施形態において、Yゼオライトは、基材の約0.1~約20wt%、または別の実施形態では約0.1~約10wt%を構成することができる。基材のZSM-12成分は、基材の乾燥重量を基準として、基材の約0.1~約40wt%、または別の実施形態では約0.2~約10wt%もしくは約0.5~約5wt%を構成することができる。
【0022】
アルミナは、触媒基材に使用することが知られている任意のアルミナとすることができる。例えば、アルミナは、γ-アルミナ、η-アルミナ、θ-アルミナ、δ-アルミナ、χ-アルミナ、またはこれらの混合物とすることができる。
【0023】
触媒担体のASAは、平均メソ孔径が概して70Å~130Åであるアモルファスシリカ-アルミナ材である。
【0024】
1つの実施形態において、アモルファスシリカ-アルミナ材は、ICP元素分析による定量においてキャリアのバルク乾燥重量の10~70wt%の量のSiO2、450~550m2/gのBET表面積、及び0.75~1.15mL/gの全細孔容積を含む。
【0025】
別の実施形態において、触媒担体は、ICP元素分析による定量においてキャリアのバルク乾燥重量の10~70wt%の量のSiO2を含むアモルファスシリカ-アルミナ材、450~550m2/gのBET表面積、及び0.75~1.15mL/gの全細孔容積を含み、平均メソ孔径は70Å~130Åである。
【0026】
別の実施形態において、触媒担体は、表面対バルクシリカ対アルミナ比(S/B比)が0.7~1.3であり、結晶性アルミナ相が約10wt%以下の量で存在する、高度に均質なアモルファスシリカ-アルミナ材である。
【数1】
【0027】
S/B比を決定するには、X線光電子分光法(XPS)を用いてシリカ-アルミナ表面のSi/Al原子比を測定する。XPSは、化学分析用電子分光法(ESCA:Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)としても知られている。XPSの侵入深さは50Å未満であるため、XPSによって測定されるSi/Al原子比は、表面の化学組成についてのものである。
【0028】
シリカ-アルミナ特性評価におけるXPSの使用は、Applied Catalysis A,196,247-260,2000においてW.Daneiellらにより発表された。そのため、XPS技法は、触媒粒子表面の外層の化学組成を測定する上で有効である。また、他の表面測定技法、例えば、オージェ電子分光法(AES)及び二次イオン質量分析法(SIMS)も、表面組成の測定に使用できると考えられる。
【0029】
これとは別に、組成物のバルクSi/Al比をICP元素分析から定量する。次いで、表面Si/Al比をバルクSi/Al比と比較することにより、シリカ-アルミナのS/B比及び均質性を定量する。S/B比がどのように粒子の均質性を規定するのかについては、以下のように説明される。S/B比が1.0の場合、その材料が粒子全体で完全に均質であることを意味する。S/B比が1.0未満の場合、粒子表面がアルミニウムに富んでおり(またはケイ素が枯渇しており)、アルミニウムが圧倒的に粒子の外表面に存在することを意味する。S/B比が1.0超の場合、粒子表面がケイ素に富んでおり(またはアルミニウムが枯渇しており)、アルミニウムが圧倒的に粒子の内部領域に存在することを意味する。
【0030】
「ゼオライトUSY」とは超安定化Yゼオライトを指す。Yゼオライトは、SARが3以上の合成フォージャサイト(FAU)ゼオライトである。Yゼオライトは、水熱安定化、脱アルミニウム、及び同形置換のうちの1つ以上によって超安定化することができる。ゼオライトUSYは、フレームワークケイ素含有量が出発(合成時)Na-Yゼオライト前駆体よりも高い任意のFAUタイプゼオライトとすることができる。このような好適なYゼオライトは、例えば、Zeolyst, Tosoh、及びJGCから市販されている。
【0031】
触媒基材の最後の成分はMTWゼオライトであり、これは具体的にはZSM-12として知られている。ZSM-12ゼオライトは、5.7オングストローム~6.1オングストロームの独特の細孔を有する一次元12員環チャネルシステムから構成されたシリカに富むゼオライトである。ZSM-12ゼオライトは、米国特許第3,832,449号及び同第4,391,785号で詳細に説明されており、これらの開示内容は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0032】
ZSM-12は、少なくとも1つの環式四級アミンハロゲン化物、酸化ナトリウム、シリカ酸化物、及び任意選択でアルミナ酸化物、及び水を含み、酸化物のモル比において以下の範囲に収まる組成を有する溶液を調製することにより、好適に調製することができる。
【表A】
ここで、Rは、ジメチルピロリジニウム、ジメチルピペリジニウム、またはジメチルピリジニウムハロゲン化物であり、Mはアルカリ金属であり、ゼオライトの結晶が形成されるまで混合物を維持する。その後、結晶を液体から分離し、回収する。典型的な反応条件は、約80℃~180℃の温度で約6時間~150日の範囲の時間期間、反応混合物を加熱することからなる。より好ましい温度範囲は、約2~40日の範囲の時間期間で約100°~約150°である。
【0033】
ZSM-12ゼオライトは明確な結晶構造を有し、そのX線回折パターンは以下の重要なラインを示す。
【表1】
【0034】
これらの値は、標準的な技法によって定量したものである。放射線は銅のK-アルファダブレットであり、シンチレーションカウンター分光器及びストリップチャートペンレコーダーを使用した。ピーク高さI及びシータの2倍(シータはブラッグ角である)の関数としての位置を分光器チャートから読み取った。これらから、相対強度100I/Io(Ioは最も強いラインまたはピークの強度である)及び記録されたラインに対応するAの格子面間隔d(観察値)を算出した。表lでは、相対強度を記号(m=中、w=弱、及びvs=非常に強い)で示している。このX線回折パターンは、全ての種のZSM-12組成において特徴的であるものと理解されたい。ナトリウムイオンをカチオンでイオン交換すると、格子面間隔のいくらかの軽微なシフト及び相対強度の変化を伴いつつも、実質的に同じパターンが得られることが明らかになっている。その他の軽微な変化は、特定の試料のシリコン:アルミニウム比や、熱処理に供されたかどうかに応じて生じ得る。
【0035】
ZSM-12ゼオライトは、例えばClariant, Zeolyst, China Catalyst Groupから市販されている。
【0036】
本明細書に記載のように、本発明のプロセスのハイドロクラッキング触媒は、上述の基材または担体に含浸させる1つ以上の金属を含む。本明細書に記載の各実施形態について、用いる各金属は、周期表の第6族及び第8族~第10族の元素、ならびにこれらの混合物からなる群より選択される。1つの実施形態において、各金属は、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、及びこれらの混合物からなる群より選択される。別の実施形態において、ハイドロクラッキング触媒は、少なくとも1つの第6族金属と、周期表の第8族~第10族から選択される少なくとも1つの金属とを含む。例示的な金属の組合せとしては、Ni/Mo/W、Ni/Mo、Ni/W、Co/Mo、Co/W、Co/W/Mo、及びNi/Co/W/Moが挙げられる。
【0037】
ハイドロクラッキング触媒中の金属酸化物材の総量は、ハイドロクラッキング触媒のバルク乾燥重量を基準として、0.1wt%~90wt%である。1つの実施形態において、ハイドロクラッキング触媒は、ハイドロクラッキング触媒のバルク乾燥重量を基準として、2wt%~10wt%の酸化ニッケル及び8wt%~40wt%の酸化タングステンを含む。
【0038】
ハイドロクラッキング触媒を形成する際に希釈剤を用いてもよい。好適な希釈剤としては、無機酸化物、例えば、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素、酸化チタン、粘土、セリア、及びジルコニア、ならびにこれらの混合物が挙げられる。ハイドロクラッキング触媒中の希釈剤の量は、ハイドロクラッキング触媒のバルク乾燥重量を基準として、0wt%~35wt%である。1つの実施形態において、ハイドロクラッキング触媒中の希釈剤の量は、ハイドロクラッキング触媒のバルク乾燥重量を基準として、0.1wt%~25wt%である。
【0039】
本発明のハイドロクラッキング触媒は、リン(P)、ホウ素(B)、フッ素(F)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、及びこれらの混合物からなる群より選択される1つ以上の促進剤を含んでもよい。ハイドロクラッキング触媒中の促進剤の量は、ハイドロクラッキング触媒のバルク乾燥重量を基準として、0wt%~10wt%である。1つの実施形態において、ハイドロクラッキング触媒中の促進剤の量は、ハイドロクラッキング触媒のバルク乾燥重量を基準として、0.1wt%~5wt%である。
【0040】
第2ハイドロクラッキング段階用の触媒の調製
1つの実施形態において、金属堆積は、少なくとも触媒担体を含浸液に接触させることによって達成される。含浸液は、少なくとも1つの金属塩(例えば、硝酸金属塩または炭酸金属塩)及び溶媒を含み、pHは1~5.5である(両端値を含む、すなわち1≦pH≦5.5)。1つの実施形態において、含浸液はさらに、本明細書で後述する改質剤を含む。1つの実施形態において、整形されたハイドロクラッキング触媒は、
(a)触媒基材を含む押出可能な塊を形成すること、
(b)当該塊を押出して、整形された押出物を形成すること、
(c)当該塊を焼成して、焼成された押出物を形成すること、
(d)整形された押出物を、少なくとも1つの金属塩及び溶媒を含みpHが1~5.5(両端値を含む、すなわち1≦pH≦5.5)である含浸液に接触させること、ならびに
(e)含浸押出物を、含浸液溶媒を除去するのに十分な温度で乾燥して、乾燥された含浸押出物を形成すること、によって調製される。
【0041】
別の実施形態において、整形されたハイドロクラッキング触媒は、
(a)触媒基材を含む押出可能な塊を形成すること、
(b)当該塊を押出して、整形された押出物を形成すること、
(c)当該塊を焼成して、焼成された押出物を形成すること、
(d)整形された押出物を、少なくとも1つの金属塩、溶媒、及び改質剤を含む含浸液に接触させることであって、含浸液のpHが1~5.5(両端値を含む、すなわち1≦pH≦5.5)である、接触させること、ならびに
(e)含浸押出物を、改質剤の分解温度以下かつ含浸液溶媒を除去するのに十分な温度で乾燥して、乾燥された含浸押出物を形成すること、によって調製される。
【0042】
別の実施形態において、整形されたハイドロクラッキング触媒は、
(a)触媒基材を含む押出可能な塊を形成すること、
(b)当該塊を押出して、整形された押出物を形成すること、
(c)当該塊を焼成して、焼成された押出物を形成すること、
(d)整形された押出物を、少なくとも1つの金属塩、溶媒、及び改質剤を含む含浸液に接触させることであって、含浸液のpHが1~5.5(両端値を含む、すなわち1≦pH≦5.5)である、接触させること、
(e)含浸押出物を、改質剤の分解温度以下かつ含浸液溶媒を除去するのに十分な温度で乾燥して、乾燥された含浸押出物を形成すること、ならびに
(f)乾燥された含浸押出物を、改質剤を除去し、少なくとも1つの金属を酸化物に転化するのに十分であるように焼成すること、によって調製される。
【0043】
1つの実施形態において、触媒基材を含む押出可能な塊を形成する際に弱酸が使用される。例えば、1つの実施形態において、0.5~5wt%のHNO3を有する希釈されたHNO3酸水溶液が使用される。
【0044】
1つの実施形態において、含浸液は金属炭酸塩及び改質剤を含む。炭酸ニッケルは、本発明の触媒の調製で使用するのに好ましい金属塩である。
【0045】
希釈剤、促進剤、及び/またはモレキュラーシーブ(用いる場合)は、押出可能な塊を形成する際にキャリアと組み合わせることができる。別の実施形態において、キャリアならびに(任意選択で)希釈剤、促進剤、及び/またはモレキュラーシーブは、所望の形状に形成する前または後に含浸することができる。
【0046】
本明細書に記載の各実施形態において、含浸液のpHは1~5.5(両端値を含む、すなわち1≦pH≦5.5)である。1つの実施形態において、含浸液のpHは1.5~3.5(両端値を含む、すなわち1.5≦pH≦3.5)である。
【0047】
含浸液の形成に使用される金属塩及び他の成分に依存するが、塩基性成分を加える前の含浸液のpHは、典型的にはpH1未満、より典型的にはpH約0.5である。含浸液に塩基性成分を加えてpHを1~5.5(両端値を含む、すなわち1≦pH≦5.5)に調整することにより、酸濃度は、焼成中にハイドロクラッキング触媒に悪影響を及ぼすほど急速に硝酸アンモニウムの分解を酸触媒しないレベルまで、除去または低減される。1つの実施形態において、酸濃度は、焼成中にハイドロクラッキング触媒のバルク乾燥重量の10wt%以上に悪影響を及ぼすほど急速に硝酸アンモニウムの分解を酸触媒しない(例えば、焼成後のハイドロクラッキング触媒のバルク乾燥重量の10wt%を超える微粉または破砕押出物を生成しない)レベルまで、除去または低減される。
【0048】
塩基性成分は、含浸液として選択された溶媒に溶解することができ、かつ触媒の形成または触媒のハイドロクラッキングパフォーマンスに対し実質的に有害でない(すなわち、基材がハイドロクラッキング触媒のパフォーマンスに測定可能な影響を及ぼさない、または実質的な不利益をもたらさない)任意の基材とすることができる。触媒の形成に実質的に有害でない基材は、pH補正なしのハイドロクラッキング触媒のパフォーマンスを基準として、触媒活性を10°F(5.5℃)超低減しない。
【0049】
本発明のハイドロクラッキングプロセスでハイドロクラッキング触媒を使用する場合、1つの好適な基材は水酸化アンモニウムである。他の例示的な基材としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、及び水酸化マグネシウムが挙げられる。
【0050】
1つの実施形態において、少なくとも1つの金属の堆積は、構造(1)~(4)によって表される化合物(これらの縮合体を含む)からなる群より選択される改質剤の存在下で達成される。
【化1】
[式中、
【0051】
(1)R1、R2、及びR3は、独立して、水素;ヒドロキシル;メチル;アミン;ならびに直鎖状または分枝状、置換または非置換のC1~C3アルキル基、C1~C3アルケニル基、C1~C3ヒドロキシアルキル基、C1~C3アルコキシアルキル基、C1~C3アミノアルキル基、C1~C3オキソアルキル基、C1~C3カルボキシアルキル基、C1~C3アミノカルボキシアルキル基、及びC1~C3ヒドロキシカルボキシアルキル基からなる群より選択され、
【0052】
(2)R4~R10は、独立して、水素;ヒドロキシル;及び直鎖状または分枝状、置換または非置換のC2~C3カルボキシアルキル基からなる群より選択され、
【0053】
(3)R11は、直鎖状または分枝状、飽和及び不飽和、置換または非置換のC1~C3アルキル基、C1~C3ヒドロキシアルキル基、及びC1~C3オキソアルキル基からなる群より選択される]
【0054】
この実施形態で有用な改質剤の代表例としては、2,3-ジヒドロキシ-コハク酸、エタン二酸、2-ヒドロキシ酢酸、2-ヒドロキシ-プロパン酸、2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸、メトキシ酢酸、シス-1,2-エチレンジカルボン酸、ヒドロエタン-1,2-ジカルボン酸、エタン-1,2-ジオール、プロパン-1,2,3-トリオール、プロパン二酸、及びα-ヒドロ-ω-ヒドロキシポリ(オキシエチレン)が挙げられる。
【0055】
1つの実施形態において、使用する改質剤は2-ヒドロキシプロパン-1,2,3,-トリカルボン酸(クエン酸)である。このような改質剤は、優れた結果をもたらし、経済的であり容易に入手可能である。
【0056】
代替的な実施形態において、少なくとも1つの金属の堆積は、N,N’-ビス(2-アミノエチル)-1,2-エタンジアミン、2-アミノ-3-(1H-インドール-3-イル)-プロパン酸、ベンズアルデヒド、[[(カルボキシメチル)イミノ]ビス(エチレンニトリロ)]-四酢酸、1,2-シクロヘキサンジアミン、2-ヒドロキシ安息香酸、チオシアネート、チオ硫酸、チオ尿素、ピリジン、及びキノリンからなる群より選択される改質剤の存在下で達成される。
【0057】
改質剤は、金属の凝集を妨害して触媒の活性及び選択性を増強する。
【0058】
本明細書に記載の各実施形態について、用いる場合、予備焼成されたハイドロクラッキング触媒中の改質剤の量は、ハイドロクラッキング触媒のバルク乾燥重量を基準として、2wt%~18wt%である。
【0059】
押出塊の焼成は様々であり得る。典型的には、押出塊は、752°F(400℃)~1200°F(650℃)の温度で、1時間~3時間の間焼成することができる。
【0060】
好適な溶媒の非限定的な例としては、水及びC1~C3アルコールが挙げられる。他の好適な溶媒としては、アルコール、エーテル、及びアミンなどの極性溶媒を挙げることができる。水が好ましい溶媒である。また、金属化合物が水溶性であり、各々の溶液を形成するか、または両方の金属を含む単一の溶液を形成することも好ましい。改質剤は、好適な溶媒(好ましくは水)中で調製することができる。
【0061】
3つの溶媒成分は、任意の順序で混合することができる。すなわち、3つ全てを同時に一緒にブレンドしても、任意の順で順次混合してもよい。1つの実施形態において、最初に水性媒体中で1つ以上の金属成分を混合し、次いで改質剤を加えることが好ましい。
【0062】
含浸液中の金属前駆体及び改質剤(用いる場合)の量は、乾燥後の触媒前駆体中で好ましい金属:改質剤の比を達成するように選択されるべきである。
【0063】
焼成された押出物は、初期の湿潤性が達成されるまで、典型的には、押出物をタンブリングしながら室温~212°F(100℃)で1~100時間(より典型的には1~5時間)の期間、含浸液に曝露し、続いて0.1~10時間、典型的には約0.5~5時間エージングする。
【0064】
乾燥ステップは、含浸液溶媒を除去するのに十分な温度で、ただし改質剤の分解温度未満で行われる。別の実施形態において、乾燥された含浸押出物は、次いで改質剤の分解温度を上回る温度、典型的には約500°F(260℃)~1100°F(590℃)で、有効量の時間の間焼成される。本発明は、含浸押出物が、焼成される際に、意図された焼成温度まで温度が上昇しているまたは高まっている期間の間乾燥を経ることを企図している。この有効量の時間は、約0.5時間~約24時間、典型的には約1時間~約5時間の範囲となる。焼成は、流れる酸素含有ガス(例えば、空気)、流れる不活性ガス(例えば、窒素)、または酸素含有ガスと不活性ガスとの組合せの存在下で行うことができる。
【0065】
1つの実施形態において、含浸押出物は、金属を金属酸化物に転化しない温度で焼成される。さらに別の実施形態において、含浸押出物は、金属を金属酸化物に転化するのに十分な温度で焼成され得る。
【0066】
本発明の乾燥及び焼成されたハイドロクラッキング触媒は、活性触媒を形成するために硫化ことができる。触媒を形成するための触媒前駆体の硫化は、触媒を反応器に導入する前に実施(したがって、ex-situで予備硫化)しても、反応器内で実施(in-situで硫化)してもよい。
【0067】
好適な硫化剤としては、元素硫黄、硫化アンモニウム、多硫化アンモニウム([(NH4)2Sx)、チオ硫酸アンモニウム((NH4)2S2O3)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)、チオ尿素CSN2H4、二硫化炭素、ジメチルジスルフィド(DMDS)、ジメチルスルフィド(DMS)、ジブチルポリスルフィド(DBPS)、メルカプタン、三級ブチルポリスルフィド(PSTB)、三級ノニルポリスルフィド(PSTN)、水性硫化アンモニウムが挙げられる。
【0068】
概して硫化剤は、硫化触媒の形成に要する化学量論的量を超える量で存在する。別の実施形態において、硫化剤の量は、硫化触媒を生成するための少なくとも3:1の硫黄:金属モル比に相当する。
【0069】
触媒は、150°F~900°F(66℃~482℃)の温度で10分~15日間、H2含有ガス圧101kPa~25,000kPa下で硫化剤に接触させると活性硫化触媒に転化する。硫化温度が硫化剤の沸点を下回る場合は、このプロセスは概して大気圧で行われる。硫化剤/任意選択の成分の沸点を上回る場合、この反応は概して圧力を増加させて行われる。本明細書で使用する場合、硫化プロセスの完了とは、金属を例えばCO9S8、MoS2、WS2、Ni3S2などに転化するのに要する化学量論的硫黄含量の少なくとも95%が消費されたことを意味する。
【0070】
1つの実施形態において、硫化は、水素とH2Sに分解可能な硫黄含有化合物とを用いて、気相で完了するまで行われ得る。例としては、メルカプタン、CS2、チオフェン、DMS、DMDS、及び好適なS含有精製装置アウトレットガスが挙げられる。H2及び硫黄含有化合物のガス混合物は、諸ステップにおいて同じであっても異なっていてもよい。気相での硫化は、固定床プロセス及び移動床プロセス(触媒が反応器に対し移動するもの、例えば、沸騰プロセス及び回転炉)を含め、任意の好適な方法で行われ得る。
【0071】
触媒前駆体と水素及び硫黄含有化合物との接触は、68°F~700°F(20℃~371℃)の温度及び101kPa~25,000kPaの圧力で1~100時間の期間、1ステップで行われ得る。典型的には、硫化は一定期間にわたり、温度を漸増的に増加させまたは高めて完了するまで一定期間にわたり保持することで行われる。
【0072】
別の実施形態において、硫化は気相で行われ得る。硫化は2つ以上のステップで行われ、第1のステップは後続のステップ(複数可)より低い温度で行われる。
【0073】
1つの実施形態において、硫化は液相で行われる。最初に、触媒前駆体を、触媒の全細孔容積の20%~500%の範囲の量の有機液体に接触させる。有機液体との接触は、周囲温度~248°F(120℃)の範囲の温度で行われ得る。有機液体を取り込んだ後、触媒前駆体を水素及び硫黄含有化合物に接触させる。
【0074】
1つの実施形態において、有機液体は200°F~1200°F(93℃~649℃)の沸点範囲を有する。例示的な有機液体としては、重油などの石油蒸留物、鉱物潤滑油のような潤滑油蒸留物、大気ガス油、真空ガス油、直留ガス油、ホワイトスピリット、ならびにディーゼル、ジェット燃料、暖房油、ナフサ、及びガソリンのような中間蒸留物が挙げられる。1つの実施形態において、有機液体は10wt%未満の硫黄、好ましくは5wt%未満の硫黄を含む。
【0075】
本発明の触媒は、中間段階分離のありまたはなし、及びリサイクルのありまたはなしで、2段階ハイドロクラッキングユニットの第2段階に配備される。2段階ハイドロクラッキングユニットは、完全転化構成(水素処理及びハイドロクラッキングの全てがリサイクルを介しハイドロクラッキングループ内で達成されることを意味する)で運転することができる。この実施形態では、第2段階のハイドロクラッキングステップの前、または蒸留底部を第1及び/または第2段階に戻すリサイクルの前に生成物をストリッピングする目的で、ハイドロクラッキングループ内に1つ以上の蒸留ユニットを用いることができる。
【0076】
また、2段階ハイドロクラッキングユニットは、部分転化構成で操作する(つまり、さらにハイドロプロセシングするためにパスする1つ以上の流れをストリッピングする目的で、1つ以上の蒸留ユニットをハイドロクラッキングループ内に配置する)こともできる。この方法でハイドロクラッキングユニットを操作することで、精製装置は、望ましくない原料成分(例えば、多核芳香族、窒素及び硫黄種(これらはハイドロクラッキング触媒を不活性化し得る))を、これらの成分のプロセシングにより適した装置(例えば、FCCユニット)のプロセシングのためにハイドロクラッキングループからパスできるようにようになることにより、非常に不利な供給原料をハイドロプロセシングすることができる。
【0077】
また、2段階ハイドロクラッキングユニットは、部分転化構成で操作する(つまり、さらにハイドロプロセシングするためにパスする1つ以上の流れをストリッピングする目的で、1つ以上の蒸留ユニットをハイドロクラッキングループ内に配置する)こともできる。この方法でハイドロクラッキング装置を操作することで、精製装置は、望ましい生成物成分(例えば、ワックス状基油)を、これらの成分のプロセシングにより適した装置(例えば、高価値の基油を生産する異性化ユニット)のプロセシングのためにハイドロクラッキングループからパスできるようになる。
【0078】
ハイドロクラッキング条件は、概して、175℃~485℃の範囲の温度、1~100の範囲の水素:炭化水素チャージのモル比、0.5~350バールの範囲の圧力、及び0.1~30の範囲の液空間速度(LHSV)を含む。
【0079】
本発明の触媒を第2ハイドロクラッキング段階の触媒として使用すると、従来の第2ハイドロクラッキング段階の触媒を使用した場合と比較して、望ましい中間蒸留生成物及び重質蒸留生成物の選択性及び収率が大幅に改善される。例えば、第2段階で本発明の触媒を使用する本発明のプロセスは、380~700°F(193~371℃)の範囲の沸点を有する蒸留生成物に少なくとも50wt%の選択性を提供することができる。別の実施形態において、実現される選択性は、少なくとも65%、または場合によっては少なくとも80%であり得る。530~700°F(277~371℃)の沸点範囲を有するヒービング(heaving)蒸留生成物について実現され得る選択性は少なくとも15wt%であるが、少なくとも20wt%、または場合によっては少なくとも25wt%であることもある。380~530°F(193~277℃)の範囲で沸点を有する中間蒸留生成物については、少なくとも35%の選択性が実現され得、別の実施形態では少なくとも45wt%、または場合によっては少なくとも55wt%の選択性が実現され得る。また、生成物の低温特性も、従来の第2ハイドロクラッキング段階触媒を使用した場合に得られる生成物と比較して改善される。
【0080】
例1
以下の表1において、本発明のプロセスに従うハイドロクラッキング装置の第2段階で使用することができる触媒の一例を示す。触媒基材に加えて最終触媒中の金属についても詳述している。
【表1】
【0081】
例2
ZSM-12ゼオライト含有触媒
本発明のプロセスに従うハイドロクラッキング触媒、上記例1の触媒Aを以下の手順に従って調製した。72.75重量部のシリカアルミナ粉末(Sasolから入手)、25重量部の擬ベーマイトアルミナ粉末(Sasolから入手)、1.5重量部のゼオライトY、及び0.75重量部のゼオライトZSM-12を十分に混合した。希釈したHNO3酸水溶液(1wt%)を混合粉末に加えて、押出可能なペーストを形成した。ペーストを1/16インチの非対称な四つ葉形状に押出し、250°F(121℃)で一晩乾燥した。乾燥した押出物を、過剰な乾燥空気をパージしながら1100°F(593℃)で1時間焼成し、室温に冷却した。
【0082】
メタタングステン酸アンモニウム及び炭酸ニッケルを含む溶液を用いて、最終触媒の乾燥重量において4.6wt%のNiO及び31.4wt%のWO3の目標金属担持量となるようにNi及びWの含浸を行った。改質剤であるクエン酸(酸/Niモル比0.79)を最初に脱イオン水とともに炭酸ニッケル塩基性水和物と混合した。次いで、炭酸塩を分解するためにニッケル/酸溶液を水浴中で149°F(65℃)に加熱し、その後にメタタングステン酸アンモニウムを溶液に加えた。溶液の全容積は、基材押出物試料の水細孔容積の103%と一致した(初期湿潤法(Incipient wetness method))。押出物を転がしながら、金属溶液を基材押出物に徐々に加えた。溶液の添加が完了したら、浸漬した押出物を2時間エージングした。次いで押出物を250°F(121℃)で2時間乾燥した。乾燥した押出物を、過剰な乾燥空気をパージしながら400°F(204℃)で1時間焼成し、室温に冷却した。
【0083】
例3
本発明のランは、第1段階ハイドロクラッキング装置から受け取った未転化油(UCO)原料に対する本発明の第2段階触媒の第2段階パフォーマンスを示す。結果を、従来の市販のハイドロクラッキング触媒(具体的にはICR250)を使用した場合と比較する。
【0084】
表2には、この試験で使用したUCO原料(ABQ1695)の原料特性が含まれる。UCO原料を第1段階のハイドロクラッキング装置から収集した。
【表2】
【0085】
従来の2段階ハイドロクラッキングセットアップを用いて第2段階液体リサイクルハイドロクラッキングパフォーマンス試験を実施した。
【0086】
1つのプレヒーター及び2つのアフターヒーターを有する直径1インチの反応器内の3つのゾーンに、例1から得られた130ccのラボ調製触媒Aを装填した。触媒押出物をL/D=2~3に短縮した。80メッシュのガラスビーズを触媒粒子間の空隙に充填して、原料チャネリングを防止し接触性を改善した。45ppmのTBAを添加した標準硫化原料(NGQ1664)を用いて触媒を硫化した。
【0087】
【0088】
UCO原料を試験した。所望のパス当たり転化率(PPC)を達成するように反応器の温度を調整した。
【0089】
第1段階からのUCO原料を用いた第2段階のパフォーマンス:
【0090】
起動後の初期温度を680°Fに設定してN種を脱着させ、これを本発明の触媒のゼオライトの酸部位を滴定するのに使用した。およそ250時間の操作後、触媒のラインアウトは、反応器後の気相におけるNH3含有量が5ppmを下回って開始した。3つのPPC転化率(50lv%、60lv%、及び70lv%)を目標とするように反応器温度を調整した。これらのPPC転化率におけるデータを収集し分析した。
【0091】
表3は、3つの転化率における触媒Aの個々の収率及びラン条件を示す。全リサイクルH
2ガス率を5000SCF/BBLに設定し、メークアップH
2ガスを500SCF/BBL~750SCF/BBLの間で変動させた。触媒AのH
2消費量は、3つのPPC転化率においてほぼ同じ(約950SCF/BBL)である。これらのH
2消費量は、従来のハイドロクラッキング触媒(例えば、市販のICR250)と誤差範囲内で同様である。
【表3】
【0092】
市販のICR250と比較した本発明の第2段階分解触媒の見かけ上の転化率(<700°F、371℃)を
図1に示す。結果は、新たに開発した触媒Aが、50lv%~75lv%の転化率範囲内で市販のICR250よりも約6°F活性が高いことを実証するものであった。
【0093】
種々の生成物の収率構造及び見かけ上の転化率(<700°F)を
図2~8に示す。触媒Aからのガス生産量はICR250と比較して少なかった。このギャップは、転化率が高くなるほど広がった。また触媒Aは、ライトナフサ、ヘビーナフサ、ジェット生成物の産生量がICR250より少なく、ギャップは3vol%超となった。より軽質の留分の生産損失は、より重質の生成物で補われた。触媒Aを用いた場合の中間蒸留物及び重質ディーゼルについては、50lv%~70lv%の転化率範囲にわたり、市販の触媒ICR250を用いた場合に対しおよそ7vol%の増加が観察された。灯油生産量については、2つの触媒間で有意な差は観察されなかった。
【0094】
毎日3つの生成物を検査のために収集した。2つの触媒から得られるディーゼル生成物のコールドフロー特性を調べた。触媒Aにおいて60%の転化率で収集したディーゼルの流動点及び曇点は、それぞれ<-60℃及び-37℃未満であった。ディーゼルの曇点は、ICR250において同じ転化率で収集した曇点より14℃低い。
【0095】
また、触媒Aによる芳香族飽和度の改善も観察された。
図9は、未転化油(UCO)の多環式指数(PCI)を、パス当たり転化率の観点で示している。
図9に示すように、UCOのPCIは、パスあたりの転化率の増加とともに増加した。触媒Aを用いて産生されたUCO生成物のPCI値は、市販のICR250で産生されたものより5~10倍低い。この結果は、触媒Aが、市販のICR250よりも良好に芳香族飽和を行うことを示すものである。
【0096】
例4
この本発明のランでは、GTLプラントから受け取ったFTワックス原料に対し本発明の触媒を導入する。結果を、従来のハイドロクラッキング触媒であるICR250を使用した場合と比較する。
【0097】
表2には、この試験で使用したFTワックスの原料特性が含まれる。ワックスはガス液化プラントで生産されたものである。
【表4】
【0098】
ハイドロクラッキング段階では例1及び2の触媒Aを用いた。
【0099】
【0100】
市販ユニットであるGTLユニットから得られたFTワックスを用いて触媒システムを試験した。以下の表5は、触媒A及びICR250の両方による収率構造及びラン条件を示す。試験結果は、触媒Aが、65%のPPCにおけるディーゼルの収率をICR250の場合よりも少なくとも1wt%改善することを示すものである。
【0101】
触媒Aでは、ディーゼル生成物のコールドフロー特性の改善が観察された。表5に示すように、65%のPPCにおけるディーゼルの曇点は、ICR250の場合の-6℃に対し、触媒Aでは4℃改善されて-10℃となった。ディーゼル生成物の沸点範囲の違いを考慮すれば、より大きな改善になり得ると考えられる。
図10に示すように、ICR250を用いて産生されたディーゼルは、触媒Aを用いて産生されたディーゼルよりも15wt%超軽い生成物を含んでいるが、いずれのディーゼルも最終沸点は700°Fである。コールドフロー特性の改善は、新規触媒にZSM-12を加えたことと関連性がある可能性が高い。
【0102】
この供給原料はパラフィン性質が高いため、低いPCI値によって示されるように、生成物中で芳香族化合物がほとんどまたは全く検出されなかった。
【表5】
【0103】
例5
ZSM-12を用いたハイドロクラッキング触媒の組成
【表5-1】
【0104】
SSOT(単一段階ワンススルー)ハイドロクラッキング適用でUCO原料を用いた場合におけるZSM-12を用いたハイドロクラッキング触媒のパフォーマンス。
【表5-2】
【0105】
ZSM-12含有触媒は、ディーゼル及びUCOのコールドフロー特性を大きく改善した。当該触媒は、UCO中のワックス含有量を、そのVIにいかなる悪影響も与えずに低減した。
【表5-3】
【0106】
ZSM-12を含む本発明の触媒を使用すると、重質ディーゼルの収率は1.5%以上と大きく増加し、またディーゼルのコールドフロー特性及び残存UCOも改善される。
【国際調査報告】