(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-14
(54)【発明の名称】傷の電気治療のための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20230607BHJP
【FI】
A61N1/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567633
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(85)【翻訳文提出日】2022-12-23
(86)【国際出願番号】 EP2021062204
(87)【国際公開番号】W WO2021224480
(87)【国際公開日】2021-11-11
(32)【優先日】2020-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522433465
【氏名又は名称】バンキッシュ、イノベーション、アンパルトゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】Vanquish Innovation ApS
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【氏名又は名称】出口 智也
(72)【発明者】
【氏名】バルデマー、シースビュ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリック、リーム、ソーレンセン
(72)【発明者】
【氏名】コリン、ダーンリ、マケイグ
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ02
4C053JJ04
4C053JJ13
4C053JJ21
(57)【要約】
本発明は、傷の電気療法に関する。詳しくは、傷に電気療法を施すための装置が提供される。本発明の装置はいかなる種類の傷を治療することにも有用であり、慢性的な傷の治癒を促進することに特に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気療法のための装置であって、
少なくとも2つの刺激電極に接続された、制御された電圧源を備え、
前記刺激電極は、傷の周囲の肌と電気的に接続するように構成され、前記制御された電圧源は、少なくとも50kHzの周波数を有するパルス直流電流を出力するように構成され、前記パルス直流電流は1%から10%の範囲内のデューティサイクルを有する、
装置。
【請求項2】
前記制御された電圧源から出力される平均電流が、1mAから10mAの範囲内に制限される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記制御された電圧源から出力される平均ピーク電圧が、0.1Vから20Vの範囲内に制限される、請求項1又は2のいずれか一項に記載の装置。
【請求項4】
前記パルス直流電流が、1%から4%の範囲内のデューティサイクルを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記電流は、単相パルス直流電流である、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記制御された電圧源が、50kHzから500kHzの範囲内の周波数を有するパルス直流電流を出力するように構成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記制御された電圧源が、100kHzから500kHzの範囲内の周波数を有するパルス直流電流を出力するように構成される、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
傷を治癒するための電気療法であって、
-少なくとも2つの刺激電極を提供するステップと、
-前記少なくとも2つの刺激電極のそれぞれを、傷の周囲の肌の離間した部位と電気接触させるステップと、
-前記少なくとも2つの刺激電極を介して、少なくとも50kHzの周波数と1%から10%の範囲内のデューティサイクルを有するパルス直流電流を、前記傷に印加するステップと、
を含む、電気療法。
【請求項9】
-少なくとも2つの感知電極を提供するステップと、
-前記感知電極を、前記傷の周囲の肌の離間した部位に配置するステップと、
-前記感知電極を介して、前記傷の1つ以上の電圧降下を測定するステップと、
-少なくとも1つの電圧降下の測定値に基づいて、前記感知電極を介して前記傷に出力される前記電圧を調節するステップと、
をさらに含む、請求項8に記載の電気療法。
【請求項10】
-前記刺激電極間に流れる前記電流を測定するステップをさらに含み、
前記刺激電極を介して前記傷に出力された前記電圧の調節は、少なくとも1つの測定された電圧降下測定値及び少なくとも1つの電流測定値に基づく、
請求項9に記載の電気療法。
【請求項11】
前記刺激電極及び前記感知電極は、少なくとも1つの感知電極及び少なくとも1つの刺激電極を含む対を形成するように配置され、各対の前記電極は、互いに5mmから50mm以内に位置するように配置される、
請求項9又は10のいずれか一項に記載の電気療法。
【請求項12】
前記電圧は、前記測定された電圧降下が、前記傷の距離の1mmあたり50mVから350mVの範囲内にあるように調節される、請求項8から11のいずれか一項に記載の電気療法。
【請求項13】
1つ以上の測定された電圧降下及び1つ以上の測定された電流レベルからインピーダンス値が算出され、前記電圧は、1つ以上の測定された電圧降下が、前記算出されたインピーダンスの1オームあたり0.05Vから1Vの範囲内にあるように調節される、請求項10から12のいずれか一項に記載の電気療法。
【請求項14】
前記パルス直流電流が、1%から4%のデューティサイクルを有する、請求項8から13のいずれか一項に記載の電気療法。
【請求項15】
前記刺激電極を介して傷に出力される前記ピーク電圧を、第1ピーク電圧レベルから第2ピーク電圧レベルまで増加させるステップをさらに含む、請求項8から14のいずれか一項に記載の電気療法。
【請求項16】
前記刺激電極を介して式図に出力されるピーク電圧を、第1ピーク電圧レベルから第2電圧ピーク電圧レベルまで、徐々に及び/又は段階的に増加させるステップをさらに含む、請求項8から15のいずれか一項に記載の電気療法。
【請求項17】
前記電圧出力を調節するステップの前に、電圧が出力されない、短い期間が維持される、請求項8から16のいずれか一項に記載の電気療法。
【請求項18】
前記刺激電極を介して前記傷に印加される前記平均電流が、約1mAから約10mAの範囲内にある、請求項8から17のいずれか一項に記載の電気療法。
【請求項19】
前記刺激電極を介して前記傷に印加される前記パルス直流電流が、50kHzから500kHzの範囲内の周波数を有する、請求項8から18のいずれか一項に記載の電気療法。
【請求項20】
前記刺激電極を介して前記傷に印加される前記パルス直流電流が、100kHzから500kHzの範囲内の周波数を有する、請求項8から19のいずれか一項に記載の電気療法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傷の電気療法に関する。詳しくは、傷の電気療法ための装置及び傷に電気療法を施すための方法が提供される。本発明の装置及び方法はいかなる種類の傷を治癒することにも有用であり、治癒が難しい傷又は慢性的な傷の治癒を促進することに特に有用である。
【背景技術】
【0002】
糖尿病、静脈性の傷、及び褥瘡などの慢性的な傷は、医療システムに莫大な経済的費用をかけながら、苦しんでいる患者に痛みと身体的ストレスを引き起こす。現在、慢性的な傷を治療する主流な方法は、感染を回避又は感染に対抗するために、絆創膏や創傷ドレッシング、即ち、その中に治癒因子を伴う絆創膏を、抗生物質治療と組み合わせて施すことである。このような治療は長期にわたり、且つ、多くの場合において特に効率的である訳でもなく、したがって、慢性的な傷を治療することに数か月または数年かかることもあり、その間に患者(及びその家族)の生活の質は低下しかねない。慢性的な傷に苦しむ患者の多くは、免疫システムが損なわれた高齢の患者であるため、傷が感染症へのリスクを大幅に増加させ、したがって更なる合併症を引き起こし、これらの治療のための医療システムの費用も高い。手術創など、他の種類の傷においても上述したものと同じ合併症で苦しむ可能性があり、そのような場合、傷における感染を減らすことも同じく重要である。
【0003】
電気療法は、血流を促進して傷の治癒を加速することが実証されているため、魅力的な代案又は補助治療となった。傷の治癒及び血流の促進のための治療期間は、体が反応するまでより長い治療期間を要するため、治療を行う好ましい方法は、患者が電気療法途中に日常生活を継続する間ドレッシングで傷を覆うように、電極をドレッシングに埋め込むことである。以下の電気療法は、当技術分野において関連する例示を構成する。
【0004】
国際公開第2005/032652号は、損傷した組織を治療するためのドレッシングに関するもので、一対の電極と、当該電極間の導電性のゲルと、を組み込んでいる。電流がゲルを通じて電極間を通過し、損傷した組織を修復する。制御ユニットとともに、センサがドレッシング内に組み込まれ得る。制御ユニットは、センサによって検出された環境パラメータに従って電極に供給される電流を変更することができる。或いは、変化する振幅、周波数、波形を有する交流電流を電極に供給するために、1つ以上の既定のプログラムが制御ユニットに格納されていてもよい。
【0005】
国際公開第2009/060211号は、制御ユニットから組織に電気刺激を提供する装置、及び制御ユニットに接続された少なくとも1つの電極に関する。固定素子が、少なくとも1つの電極を組織に対して保持し、また、制御ユニットを組織に対して固定された位置に保持する。制御ユニットは、組織を刺激するために、少なくとも1つの電極に電流を供給するように構成される。
【0006】
国際公開第02/098502号は、傷の治癒を促進するための電極システムに関する。装置は支持構造を備え、支持構造には2つの電極が付けられている。電極の1つが、支持構造上の他の電極を囲む。電極は傷に取り付けられ、電位差が電極間に印加され、それにより電流が傷を通って電極間を流れる。
【0007】
国際公開第2008/013936号は、傷に治癒を施すための電極システムに関する。システムは2つの電極を備え、第1電極は少なくとも部分的に傷に付けられるように構成され、第2電極は少なくとも部分的に、傷の周囲の肌と傷の外側の部分に付けられるように構成される。システムは、治療の効率を検出し電気刺激を調整する1つまたは複数のフィードバックセンサをさらに備える。フィードバックセンサは、制御モジュールに接続されており、制御モジュールは、センサ出力に基づいて電圧を調整できる。フィードバックセンサは電圧センサであり得る。
【0008】
先行技術に開示された装置に照らしてもなお、向上された電気療法の必要性があり、それはより迅速かつ効率的な傷の治癒を促進する。
【発明の開示】
【0009】
本発明の第1の態様により、向上された電気療法及び/又は更なる目的が達成され、第1の態様は、傷を治癒するための電気療法に関し、前記方法は、
-少なくとも2つの刺激電極を提供するステップと、
-少なくとも2つの刺激電極のそれぞれを、傷の周囲の肌の離間した部位と電気接触させるステップと、
-少なくとも2つの刺激電極を介して、少なくとも50kHzなど、少なくとも5kHzの周波数と1%から10%の範囲内のデューティサイクルを有するパルス直流電流を、傷に印加するステップと、
を含む。
【0010】
電気接触は、電極と対象の組織との間に形成されるいかなる接触でもよく、これは肌の中の電流の導電を可能とする。例えば、これは電極の導電体と組織との間の直接接触であってよい。また、電極と組織との間に導電性媒質が配置されている場合など、間接的であってもよい。本開示を特定の媒質に限定することなく、このような媒質の例は、心電図と超音波用途における使用でよく知られている、導電性ヒドロゲルであってよい。所与の傷に対して、導電性ヒドロゲルが傷の周囲の肌を覆ってもよい。
【0011】
この方法はいかなる種類の傷を治療することにも有用であり、限定はされないが、慢性的な傷の治癒を促進することに特に有用である。このような慢性的な傷は、外科的感染、糖尿性病感染症、帝王切開などによる手術創、外傷、静脈感染症、褥瘡、静脈性潰瘍、糖尿病性足潰瘍、糖尿病性足、及び動脈性潰瘍などによって生じ得る。この方法は、予め感染のリスクを低減させる予防処置としても関連し得る。
【0012】
電極は、白金(Pt)、金(Au)、銅(Cu)、銀(Ag)、鉄(Fe)、鉛(Pb)などの金属や合金、又は炭素などの他の導電性材料など、良好な導電性質を持ついかなる材料であってよい。
【0013】
本開示の方法は、刺激電極が傷の周囲の肌と電気的に接触するように置かれたとき、電流が傷を通ることを可能とする。電流は刺激電極を通じて供給され、電流は、刺激電極の1つから、肌を通じて、傷を通じて、再び肌を通じて、そして別の刺激電極に流れることができる。この方法により電流が傷に印加されると、傷の中に形成された電界が、損なわれた生理的なプロセスを向上して傷の治癒を促進するように機能し、このように方法が傷のために電気療法を提供することができる。
【0014】
電極を傷の中又は傷の上に置くことは、傷の痂皮の形成及び現在の傷の治療方式と干渉するおそれがあるため、傷の周囲の肌を通じて電気療法を印加できることは、傷そのものに電気療法を直接印加することより好ましい可能性がある。例えば、従来の傷の治療において、傷からの水分の排出又はその他の多くの機能のために、傷にドレッシングを付けることがある。効率のために、そのようなドレッシングはしばしば、傷そのものと接触するように配置される必要がある。したがって、電極を、傷、傷の中、又は傷の上に配置させることは傷にドレッシングを接触させることを妨げ、それによりドレッシングの効果も妨げる。本開示の方法は傷の周囲の肌を通じて傷に電気療法を施すことに使われるため、この方法は傷そのものと接触するように配置されるドレッシングの使用を妨げない。したがって、本開示の方法は、電気療法及び従来の傷の治療の両方が同時に行われ得ることを可能とする。刺激電極を傷の周囲の肌又はその上に配置することは、さらに、電極が、傷そのもの、傷そのものの中、又は傷そのものの上に配置される場合に電極を配置し除去するときと比べて、刺激電極の設置を容易くし、配置及び除去されるときの患者への痛みを減らすことができる。刺激電極を配置することの容易さは、傷の周囲の肌に又はその上に電極を配置し構成するための訓練が殆ど又は全く要らないため、ドレッシングを準備することに責任を負う介護者にとってさらに関係する。
【0015】
本願の文脈において、パルス直流電流は、電圧がない期間と電圧がある期間との間で、例えば0Vから5V、0Vから10V、0Vから20V、及び0Vから50Vの間で、交互に流れる直流電流として理解さたい。
【0016】
パルス直流電流の周波数は、パルス直流電流が一秒間に電圧を有する期間と有しない期間を何サイクル有するかを表す。例えば、パルス直流電流が2Hzの周波数を有する場合、2Vで0.25秒間、次に0Vで0.25秒間、次に2Vで0.25秒間、そして0Vで0.25秒間、のように、パルス直流は電圧がある2つの期間と、電圧が無い2つの期間と、を有する。電圧を有する期間と有しない期間が同じ持続時間である必要はなく、電圧を有する期間と有しない期間との関係は1:1.1から1:20、1:1.5から1:10、又は1:2から1:5の範囲内であってよい。さらに、電圧の上昇と下降は、のこぎり波、方形波、三角波、正弦波、またはその組み合わせなど、いずれかの適切な形であってよい。一実施形態において、電圧は方形波の形を取る。
【0017】
直流信号は、例えば、方形波であってよい(例えば周波数が10kHz、振幅10V、及びデューティサイクル10%のパルス幅変調)。傷に印加される場合、電気パルスはインピーダンスによって、傷を通る電気信号がより正弦形になるように、帯域幅が制限される可能性がある。また、信号は意図的に帯域幅が制限されたり、又は、例えば完全な方形波と比べて立ち上がり時間が延長されるように、他の手段により形成されたりしてよい。より長い立ち上がり時間は、急な電気刺激により生じる不快な感覚を緩和する。電流は、好ましくはモノパルス直流であって、一定時間の間、例えば1分から1時間、電極間と傷を通じて第1方向に流れる。この期間の後、電流は第1方向の逆方向に印加されてよい。モノパルス直流信号の目的は、傷に発生する自然的な電気刺激を模倣することであり、これは、例えば、高齢の患者や慢性疾患を有する患者に対して見られるような、慢性的な傷や他の重度の傷には存在しない可能性がある。本発明の概念の文脈において、パルス直流電流(DC)の文脈で用いられる「モノ」又は「単相」という用語は、互換的に用いられており、電流が2つの方向、即ち交互に供給される二相システムとは対照的に、電流が一方向に移動することを意味する。さらに、直流電流の文脈において使われる「パルス」という用語は、振幅が変わる周期的な電流を説明することに使われる。パルスは、個別に、又は連続して複数発生する。
【0018】
この方法に用いられた周波数において、低い有効インピーダンスが発生し、電流は治療される患者や動物に痛みを与えることなく傷に印加されることができる。理論に縛られることなく、高周波数のパルス直流信号を用いることは、傷に又は傷の中におきる自然的な電気刺激を十分に模倣し、同時に肌のバリアと通じて信号の十分な浸透を保証すると考えられる。
【0019】
交流電圧源を2Vppで用いる実験は、このような電流パルス(高周波数パルス)が肌に印加されるとき、肌の有効電気インピーダンスが低くなることが観察される場合があると示した。50kHzから500kHz(2μsから20μs)のパルスに対して、このような低インピーダンス値は、144オームから173オームの範囲内であると観察された。したがって、同じ周波数の直流パルスに対して同じ効果が予想される。一方、例えば1Hzから1kHzでは1000オームから20000オームとなるなど、電流パルスの周波数が低い時は、肌のインピーダンス値は遥かに高くなる。したがって、本開示の方法は、有利には、肌を通じてより大きい電流が通ることを可能とし、これは理論に縛られることなく、治療の効果を向上させる。加えて、本開示の方法は、大きく変わり得る傷の周囲の肌のインピーダンスの差を考慮せずに、傷の大まかな電圧降下の決定を可能とする。
【0020】
さらに、交流電圧源を2Vppで用いる実験は、50kHzから500kHzの範囲内の周波数を有する電流パルスは痛みを与えない一方、0.8kHzから3kHzの周波数を有する電流パルスは直接的な痛みの感覚をもたらすことを示した。したがって、本開示の方法は、有利には、痛みを与えない治療電流の適用を可能とし、0.5時間から12時間、0.5時間から8時間、又は0.5時間から4時間など、長い時間の間印加されても痛みを与えないことができる。
【0021】
電流パルスは、50kHzから500kHz、60kHzから400kHz、70kHzから300kHz、又は80kHzから200kHzの範囲内の周波数を有してよい。
【0022】
一実施形態において、電気療法は、
-少なくとも2つの感知電極を提供するステップと、
-感知電極を、傷の周囲の肌の離間した部位に配置するステップと、
-感知電極を介して、傷の1つ以上の電圧降下を測定するステップと、
-少なくとも1つの電圧降下の測定値に基づいて、感知電極を介して傷に出力される電圧を調節するステップと、
をさらに含む。
【0023】
測定に少なくとも2つの感知電極を用いて(刺激電極を通じて電気を印加する間)、本開示の方法は、肌を通じて傷そのものの電圧降下を測定するために用いられ得る。測定に少なくとも2つの感知電極を用いることで、未知の肌インピーダンスの測定を排除し、より正確な傷の電圧降下を測定することができる。さらに、電圧降下の差分測定を2つの感知電極で行うことができ、コモンモードノイズを低減又は除去することができる。このように、本開示の方法を用いてより正確な傷の電圧降下の測定が可能となる。
【0024】
少なくとも2つの感知電極と少なくとも2つの刺激電極は、同じ2つの電極によって形成されてよい。装置は2つの電極を備えてよく、2つの電極のそれぞれは刺激電極と感知電極との間で切り替え可能である。装置が2つの電極を備える実施形態において、装置は、2つの電極のそれぞれが刺激電極と感知電極の間で切り替わることを可能にするマルチプレクサをさらに備えてよい。装置が2つの電極を備える実施形態において、2つの電極は、較正電圧で周波数掃引を行うときは感知電極として機能し、続いて電気療法のために傷に電流を供給する刺激電極として機能してよい。
【0025】
刺激電極と感知電極が傷の周囲の肌に配置されたとき、測定される電圧降下は、傷の電気的特性に依存し得る。したがって、本開示の方法はさらに、傷の調節された電気療法を可能とし、傷に供給される電圧は、特定の傷に依存する電圧降下に基づいて調整されてもよい。この方法を用いて、治療される特定の傷に合わせたレベルに電圧レベルを調整してよく、結果として生じる調整された電気療法は、調整されていない電気療法と比べて向上された効率をもたらすことができる。電極が傷の周囲の肌の上に配置されるため、この方法は、特定の傷のために調整された、調節された電気療法のために使われることができ、いかなる時点でも、装置が傷そのものに触れずに調整された電気療法が達成される。したがって、本開示の方法は、傷に、傷の上に、又は傷の中に適用される従来の傷の治療を妨げることなく、調節された電気療法のために使われ得る。
【0026】
一実施形態において、電気療法は、
-刺激電極間に流れる電流を測定するステップをさらに含み、
刺激電極を介して傷に出力された電圧の調節は、少なくとも1つの測定された電圧降下測定値及び少なくとも1つの電流測定値に基づく。
【0027】
刺激電極が傷の周囲の肌に配置されるとき、刺激電極を通って流れる電流のレベルは、傷の電気的インピーダンス又は抵抗に依存する。したがって、本開示の方法は傷への調節された電気療法をさらに可能とし、刺激電極によって傷に供給される電圧は、特定の傷のインピーダンスに依存する電流の測定値に基づいてさらに調整され得る。測定電流のみ、又は測定電流と測定された電圧降下を共に用いることで、本開示の方法は傷への調節された電気療法を供給することができ、装置によって傷に供給される電圧は、治療される特定の傷のために適合されたレベルに調整され得る。適合された電気療法は、適合されていない電気療法と比べて向上された傷の治癒効率をもたらし得る。
【0028】
一実施形態において、刺激電極及び感知電極は、少なくとも1つの感知電極及び少なくとも1つの刺激電極を含む対を形成するように配置され、各対の電極は、互いに5mmから50mm以内に位置するように配置される。
【0029】
感知電極は、電圧降下の信頼できる測定値が取得され、電気療法に適した電界が取得されるように、傷に電流を供給する刺激電極から適した距離に配置されてよい。感知電極と刺激電極との間の距離は、50mmから10mm、50mmから20mm、40mmから10mm、40mmから20mm、30mmから10mm、又は20mmから10mmの範囲内であってよい。
【0030】
一実施形態において、電圧は、測定された電圧降下が、傷の距離の1mmあたり50mVから350mVの範囲内にあるように調節される。
【0031】
これらの電圧レベルは、理論に縛られることなく、傷の治癒に特に適合し効率的であると考えられる。
【0032】
他の実施形態において、1つ以上の測定された電圧降下及び1つ以上の測定された電流レベルからインピーダンス値が算出され、電圧は、1つ以上の測定された電圧降下が、算出されたインピーダンスの1オームあたり0.05Vから1Vの範囲内にあるように調節される。
【0033】
この電圧レベルは、理論に縛られることなく、傷の治癒に特に適合し効率的であると考えられる。
【0034】
一実施形態において、パルス直流電流は、1%から50%の範囲内のデューティサイクルを有する。好ましい実施形態において、パルス直流電流は、1%から4%のデューティサイクルを有する。
【0035】
一実施形態において、パルス直流電流は1%から10%の範囲内のデューティサイクルを有する。本発明の文脈において、デューティサイクルとは、波形の総周期に対するパルス周期の持続時間又はパルス幅のパーセンテージとして理解され得る。1%から10%の範囲内のデューティサイクルは、特に上述した直流パルスとの組み合わせで、傷への適切な電気療法をもたらす。また、このようなデューティサイクルは、治療中の傷と組織における過剰なpHの蓄積と熱の発生を防止できる。
【0036】
さらに、デューティサイクルを用いることで、電力が節約され、バッテリの寿命を長くして総治療時間を延長することができる。デューティサイクルは、1%から10%、1%から20%、1%から30%、1%から40%、又は1%から50%の範囲内にあってよい。好ましい実施形態において、パルス直流電流は1%から4%の範囲内のデューティサイクルを有する。他の実施形態において、パルス直流電流は2%のデューティサイクルを有する。発明者は、100kHzなど、少なくとも50kHz、及び1%から10%のデューティサイクルのパルス直流電流が傷の電気療法に適合することを発見した。
【0037】
一実施形態において、電気療法は、刺激電極を介して傷に出力されるピーク電圧を、第1ピーク電圧レベルから第2ピーク電圧レベルまで増加させるステップをさらに含む。
【0038】
他の実施形態において、電気療法は、刺激電極を介して式図に出力されるピーク電圧を、第1ピーク電圧レベルから第2電圧ピーク電圧レベルまで、徐々に及び/又は段階的に増加させるステップをさらに含む。
【0039】
傷に目標レベルの電圧を直ちに印加することは、哺乳類動物や患者にとって苦痛/不快である可能性がある。少なくとも2つの電圧レベルを有することは、肌/傷への電流の流入を遅くするため、哺乳類動物への痛みや不快感を減らす。より長い時間におけるより多くの段階は、より遅い流入と、潜在的に、痛みや不快感がより少なくなることを意味する。したがって、電圧レベルを徐々に又は段階的に印加することは、痛みがより少ないか、不快感がより少ない電気療法を提供する。
【0040】
一実施形態において、電気療法は、電圧出力を調節するステップの前に、電圧が出力されない、短い期間を維持することをさらに含む。
【0041】
本発明の概念の文脈において、電圧が出力されない、短い期間は、治療経過のために適切だとみなされるいかなる期間であってよい。電圧がない期間は、例えば、傷の大きさや位置のような状態、患者の健康、バッテリ寿命、及びこれらの組み合わせによって定められてよい。
【0042】
本発明の概念の電気療法は、傷の治癒治療に適している。治療経過は、一連の治療時間期間、並びに無電圧又は休止時間期間として構成され得る。
【0043】
治療時間期間は、5分から10時間、5分から5時間、5分から1時間、15分から45分、20分から40分、例えば30分であってよい。治療時間期間は、電気療法のための電流が傷に印加される時間の期間である。
【0044】
無電圧期間は、5分から10時間、5分から5時間、5分から1時間、15分から45分、20分から40分であってよく、例えば30分であってよい。休止時間期間は、治療時間期間と同じ持続時間を有してよい。休止時間期間は、電気療法のための電流が傷に印加されない時間の期間である。
【0045】
電気治療を停止することは、電気治療中に傷に蓄積された可能性がある電荷を放電することを可能とする。
【0046】
一実施形態において、刺激電極を通じて傷に印加される平均電流は、約1mAから10mAの範囲内であってよい。
【0047】
このような電流は組織を損傷させることなく、結果として電気療法に適した電流となる。この方法をこの出力レベルに制限することは、傷に有害な電流を印加することを緩和する。
【0048】
一実施形態において、刺激電極を介して傷に印加されるパルス直流電流は、50kHzから500kHzの範囲内の周波数を有する。他の実施形態において、刺激電極を介して傷に印加されるパルス直流電流は、100kHzから500kHzの範囲内の周波数を有する。
【0049】
発明者は、100kHzから500kHz内の範囲内など、50kHzから500kHzの範囲内の周波数を用いることは、傷の治癒に効果的であり、且つ、治療される患者に与えるストレスと痛みを最小限にすることを発見した。
【0050】
本開示の第2の態様において、電気治療のための装置が提供される。装置は、少なくとも2つの刺激電極に接続された、制御された電圧源を備え、刺激電極は、傷の周囲の肌と電気的に接続するように構成され、制御された電圧源は、少なくとも50kHzなど、少なくとも5kHzの周波数を有するパルス直流電流を出力するように構成され、パルス直流電流は1%から10%の範囲内のデューティサイクルを有する。
【0051】
第2の態様は、第1の態様と同じ目的及び/又は追加の目的を達成することができる。
【0052】
本開示の文脈において、傷の周囲の肌とは、傷に隣接する又は傷に接するあらゆる肌の領域として理解されたい。それはまた、一般的に、傷の縁から最大50mmまでにいる肌として理解されたい。
【0053】
電極は、白金、金、銅、銀、鉄、鉛などの金属や合金、又は炭素などの他の導電性材料など、良好な導電性質を持ついかなる材料(導電体)であってよい。
【0054】
電極と、傷の周囲の肌との間の電気的接触は、電流の導電を可能とする、電極と傷の周囲の肌との間でなされる、いかなる接触であってもよい。例えば、これは電極の導電体と組織の間の直接的接触であってよい。また、電極と傷の周囲の肌との間に導電性媒質が配置されている場合など、間接的であってもよい。本開示を特定の導電性媒質に限定することなく、このような導電性媒質の例は、心電図と超音波用途における使用でよく知られている、導電性ヒドロゲルであってよい。また、導電性媒質は、電解液であってよい。所与の傷に対して、導電性媒質は、傷の周囲の肌を覆ってもよいし、又は傷の周囲の肌の一部を覆ってもよい。
【0055】
本開示の文脈において、傷の周囲の肌と電気的に接触するように構成された電極は、傷の周囲の肌と接触する適切な表面を有する、又は、表面を有するように構成され、当該表面は傷の周囲の肌と電気的に接触できるものと理解されるべきである。適切な表面は、バンドエイド(band-aid)又は心臓モニタリング電極などのパッチから知られているように、実質的に平坦であるか、及び/又は、肌の湾曲に適する表面を有する形になるように曲げられたり折り曲げられたりしてよい。電極は、形が適切な表面をもたらすのであれば、いかなる形を有していてもよい。表面は、電気が電極を通じて、及び電極が配置された肌に電気が導電するように、少なくとも部分的に導電性材料である必要がある。電気的接触を向上させるために、電極と肌の間にゲル層が配置されてもよい。
【0056】
本開示の装置は、装置の刺激電極が傷の周囲の肌に電気的に接触されたとき、電流が傷を通ることを可能とする。装置は刺激電極を通じて電流を供給し、電流は、刺激電極の1つから、肌を通じて、傷を通じて、再び肌を通じて、そして別の刺激電極に流れることができる。装置により電流が傷に印加されると、傷の中に形成された電界が傷の治癒を促進し、このように装置が傷のために電気療法を提供することができる。
【0057】
一実施形態において、制御された電圧源から出力される平均電流は、1mAから10mAの範囲内に制限される。
【0058】
このような電流は一般的に組織を損傷させることなく、結果として電気療法に適した電流となる。装置は、傷に有害な電流を印加することを緩和するため、これらの出力レベルに制限されてよい。ピーク電流レベルは、例えば10mA以上であってよい。平均電流レベルは、2mAから8mA、3mAから7mA、又は4mAから6mAであってよい。
【0059】
一実施形態において、制御された電圧源から出力される平均ピーク電圧は、0.1Vから20Vに制限される。
【0060】
このような電圧は一般的に組織を損傷させることなく、結果として電気療法に適した電流となる。装置は、傷に有害な電流を印加することを緩和するため、これらの出力レベルに制限されてよい。ピーク電流レベルは、例えば10mA以上であってよい。平均ピーク電圧レベルは、0.2Vから18V、0.3Vから17V、0.4Vから16V、又は0.5Vから15Vであってよい。
【0061】
発明者は、1mAから10mAの平均電流出力と0.1Vから20Vの平均ピーク電圧出力を有する、少なくとも5kHzのパルス直流電流が、傷の電気治療に特に適する可能性があると発見した。
【0062】
一実施形態において、制御された電圧源が、50kHzから500kHzの範囲内の周波数を有するパルス直流電流を出力するように構成される。他の実施形態において、制御された電圧源が、100kHzから500kHzの範囲内の周波数を有するパルス直流電流を出力するように構成される。
【0063】
発明者は、このような電流がモデル傷に適切に非常に低いインピーダンスをもたらしながら、電流で治療される哺乳流動物又は患者に痛みを全く与えないことを発見した。発明者は、間欠電気信号、即ち1%から10%の範囲内のデューティサイクル及び少なくとも50kHzの周波数の単相パルス直流電流の使用が、肌のバリアを超え、傷の治癒に優れた結果を提供することに十分であることを発見した。理論に縛られることなく、少なくとも50kHzの周波数を有するモノパルス直流を用いることは、一般的に二相直流又は低い周波数の電流が肌を通るときに伴う、痒み、皮膚反応又は筋肉活性化などの不快感を完全に回避すると考えられる。さらに、治療の停止、即ち電流が供給されない休止期間は、最適なバッテリ寿命を保証し、治療される細胞が過剰に刺激されることを回避する。これらの観察を裏付けるデータは、本明細書で提供される例1及び例2、並びに
図6、7、8に示され、説明される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
以下、本発明の実施形態が、同封の拘束力の無い図面を参照して説明される。
【
図1】
図1は、本開示における方法の実施形態を示すフロー図である。
【
図2】
図2は、本開示における方法を施すために用いられ得る装置を示す。
【
図4】
図4は、組み立てられた状態の、
図2及び3のパッチを示す。
【
図5】
図5は、肌に付けられた、
図2、3、及び4の装置の平面断面を示す。
【
図6】
図6は、48時間にわたり電気刺激に暴露された、単層HaCaT細胞のスクラッチアッセイの代表的な光学顕微鏡画像を示す。
【
図7】
図7は、48時間にわたり電気刺激に暴露された、単層HaCaT細胞のスクラッチアッセイの代表的な光学顕微鏡画像を示す。
【
図8】
図8は、48時間にわたり電気刺激に暴露されたHaCaT細胞の細胞移動能力のグラフを示す。
【0065】
本発明は、具体的な実施形態と関連して以下に説明される。当業者であれば、本発明が幾つかの他の適用例及び実施形態で実現され、ここに描写された特定の実施形態への適用例に特に限定されないことを理解するであろう。
【0066】
図1は、本開示における方法の実施形態を示すフロー図である。第1ステップ101において、2つの刺激電極が提供される。第2ステップ102において、2つの刺激電極は傷の周囲の肌の離間した部位と電気的に接続される。第3ステップ103において、少なくとも50kHzなど、少なくとも5kHzの周波数を有するパルス直流電流が、2つの刺激電極を通じて傷に印加される。選択的な第4ステップ104において、少なくとも2つの感知電極が提供される。選択的な第5ステップ105において、感知電極は傷の周囲の肌の離間した部位に配置される。選択的な第6ステップ106において、感知電極を介して傷の電圧降下が測定される。選択的な第7ステップ107において、刺激電極を介して傷に出力される電圧は、測定された電圧降下の測定値に基づいて調節される。
【0067】
図2は、本発明の実施形態を実施することに用いられ得る装置を示す。制御モジュール201a、電圧測定回路201b、及び電流測定回路201cを備える中央ユニット201が傷207の近くに配置され、ケーブル203を介して、2つの刺激電極204a及び204b、並びに2つの感知電極205a及び205bに接続される。ケーブル203は、2つのケーブル203a及び203bに分岐し、それぞれが刺激電極204a及び204b、並びに感知電極205a及び205b、そして選択的に支持構造206a及び206bに接続される。感知電極205a、刺激電極204a、及び支持構造206aがパッチ200pを形成する。
【0068】
中央ユニット201は、少なくとも中央ユニット201上のボタン202により制御されてよい。電極対204a及び205a、並びに電極対204b及び205bは、傷207の両側に配置された支持構造206a及び206bにそれぞれ接続され、感知電極205a及び205bが傷207に最も近い。この図において、支持構造206a及び206bは、電極の構成を示すために透明であるように図示されている。作動するとき、電気は中央ユニット201によって出力され、ケーブル203、203a、203bを介し、刺激電極204a及び204bを通じて、傷207を横切って導電される。傷207での電圧降下は、感知電極205a及び205bと中央ユニット201を介して、電圧測定回路によって測定される。制御モジュール201aは、電圧及び電流の測定値に基づいて適切な出力電圧を計算してよい。傷の径などの距離は、ボタン202を用いて、又は無線インタフェースにより入力されてよい。入力値は、中央ユニット201によって適切な電圧出力レベルを計算するために用いられてよい。
【0069】
図3は、
図2のパッチ200pの分解図を示す。パッチ200pは、支持構造206並びに電極204及び205を備える。ケーブル203は、保護されていない2つの電線209a及び209bを備える。パッチ200pが組み立てられると、2つの電線209a及び209bはそれぞれ刺激電極204及び感知電極205と電気的に接触し、支持構造206と電極204及び205との間に挟まれる。導電性ゲル層210がそれぞれの電極204、205と、選択的な除去可能なフィルム208と、の間に位置する。
【0070】
図4は、組み立てられた状態の
図2及び3のパッチ200pを示す。除去可能なフィルム208は、フィルムの除去を容易にするノッチ208aを選択的に有する。この実施形態は、例えば、パッチの長さが短くなるように、パッチの幅を横切って切断されてもよい。理想的には、治療される傷の周囲の肌の寸法に概ね適合するように、パッチの長さが切断される。
【0071】
図5は、組み立てられた状態の
図2、3、及び4のパッチ200pの平面断面を示しており、除去可能なフィルム208が除去され、導電性ゲル層210が傷(図示せず)の周囲の肌211の表面に接触している。
【0072】
図6は、単層HaCaT細胞が、48時間にわたり様々な条件下で電気刺激に暴露された、例2において説明されるスクラッチアッセイの代表的な光学顕微鏡画像を示す。テストされた様々な条件は、条件A:0kHzのパルス周波数、100%のデューティサイクル、及び200mV/mmの電界、条件B:100kHzのパルス周波数、2%のデューティサイクル、及び200mV/mmの電界、条件C:100kHzのパルス周波数、4%のデューティサイクル、及び200mV/mmの電界、並びに条件D:100kHzのパルス周波数、10%のデューティサイクル、及び150mV/mmの電界である。対照群
は、治療されてない、即ち刺激されていない細胞を表す。それぞれの条件は三重でテストされ、
図6に示された画像は、各条件において観察された一般的な細胞の振舞いの代表的な画像を表す。画像は、0時間、12時間、24時間、36時間、及び48時間の電気刺激の後に取得された。すべての条件において、電気刺激は、画像の中央にあるスクラッチに(上から下に)直交していた。対照群
においては、画像中央の無細胞領域、つまりスクラッチは、全48時間において同じ大きさを有した。条件C及び条件Dにおいて、画像中央の無細胞領域は大きさの僅かな減少を見せ、即ちこれらの条件における傷の治癒は遅くて効率が悪かった。条件Aにおいて、治療の経過において無細胞領域の大きさに、目に見える変化があった。条件Bで治療された細胞は、無細胞領域の大きさが、最も大きく減少し、したがって傷の治癒のための最良の条件を表す。条件A及び条件Bの治癒特性は、
図7でより明確に示される。
【0073】
図7は、単層HaCaT細胞が、48時間にわたり、刺激条件(A及びB)と非刺激条件
で、電気刺激に暴露された、例2において説明されるスクラッチアッセイの代表的な光学顕微鏡画像を示す。スクラッチ領域、又は無細胞領域は傷を表し、画像の中央のより暗い領域として示される。電気刺激中、治療された細胞(A及びB)の無細胞領域は減少するが、刺激されていない細胞
のこの領域は大きさが変わらない。さらに、条件B(100kHzのパルス周波数、2%のデューティサイクル、及び200mV/mmの電界)で治療された細胞は、24時間後に既に視認できる無細胞領域の大幅な減少から示されるように、最も早く、最も効率的な傷の治癒を示す。条件B下での48時間の治療後に、無細胞領域はほぼ全て減少された。条件Aは、より遅く、あまり顕著でない傷の治癒を示す。
【0074】
図8は、条件A(正方形を伴う実線)及び条件B(三角形を伴う実線)で治療されたHaCaT細胞と、治療されていないHaCaT細胞
(円を伴う実線)の細胞移動能力のグラフを示す。グラフは、時間経過に伴う無細胞領域の変化を示し、これは、オープンソースの画像処理プログラムであるImage Jソフトウェアを使って計算され、Image Jソフトウェアは、傷の周囲を追跡し、閉鎖率を計算することで、傷の閉鎖を評価するために用いられる。0時間でのスクラッチの幅は100%である。
図8に見られるように、時間経過に伴う無細胞領域の変化、即ち傷の治癒率は、条件B下で治療されたHaCaT細胞で最も高く、これは48時間で無細胞領域が約50%変化することから明らかである。
【0075】
<例示>
例1:シミュレートされた傷における高い交流周波数での低いインピーダンス及び無痛の実証
【0076】
2つの電極が人の腕の乾いた肌に配置され、電極間距離は50mmであった。電極は、50オームの出力インピーダンスを有する信号発生器に直列に接続されていた。電流測定のため、100オームの抵抗が測定抵抗として回路に直列に挿入された。電極間の肌に厚い層のCefar Electrogelを塗ることにより、腕にシミュレートされる傷が形成された。Cefar Electrogelは略円形であるゲル層を形成するように塗布され、ゲル層は電極の縁のそれぞれから約5mm離れていた。オシロメータを直列に接続することにより電気測定が行われ、オシロメータの第1リード及び第2リードはそれぞれ100オーム抵抗のすぐ前と後に接続された。簡潔に、測定値は、シミュレートされた傷の交流抵抗が、周波数に強く依存し、1Hzで約20キロオームから、100kHz-1MHzで150オーム未満の範囲であること、及び、シミュレートされた傷が、電圧に依存し、20Vで40キロオームから、1Vで263キロオームの範囲である直流抵抗を有すること、を示した。数時間の交流測定の後にも肌に炎症がなかった一方、直流(非パルス)測定は、10分のみ、且つ、測定された電流は0.5mA以下であるにもかかわらず、正極の下の肌に赤みと炎症をもたらし、さらに、15V/150μA以上の直流電圧/電流の時点で既に不快感をもたらした。0.8から3kHzの交流周波数では、直接的な痛みが感じられた。以下の表1には、異なる交流周波数におけるシミュレートされた傷のインピーダンス値が示される。表は、直接的な痛みが感じられる交流周波数も示している。
【0077】
【0078】
結論:少なくとも10kHzの周波数を有する交流信号を用いて、肌を通じて、シミュレートされる傷に痛みを伴うことなく、電気療法に適した電流及び電圧レベルが供給されることができる。交流信号と同様のパルス直流信号も一般的に同じように振舞うことが予想され、したがって電気療法に用いられてよい。
【0079】
例2:対照群に対する電気的に刺激されたHaCaT細胞のインビトロ研究
【0080】
<電気刺激システムのセットアップ>
電気刺激システムの基本的な原理として、Song et al. (doi:10.1038/nprot.2007.205)により2007年に出版されたプロトコルが出発点として用いられた。刺激システムの核心部分は、細胞培養チャンバ、電子を運ぶ塩橋、電流を生成する電気刺激装置、及び全てを正位置に保持する足場などを含む、特別な構造を有する細胞培養皿を有した。このセットアップの目的は、細胞培養環境に目標電界を生成することであった。Song et al.のプロトコルは、長い間の電気刺激や顕微鏡検査など、本研究の特別な要求条件を受容できるように適合された。
【0081】
<細胞培養及びスクラッチアッセイの方法>
HaCaT細胞は、電界による媒質の過剰な加熱による細胞損傷を回避するために、薄いチャンバにおける単層で培養された。細胞は特注のペトリ皿の中に播種された。通常、HaCaT細胞の培養密度は1x104
/cm2である。限られた空間において細胞をなるべく早くコンフルエントさせるため、播種に使われた細胞懸濁液の濃度は95x104
/cm2であった。トリパンブルー染色により、提供された実験条件下における細胞の生存率は95%以上であると確認された。
【0082】
通常、無細胞領域は、ペトリ皿の中央にピペットチップを用いて傷をスクラッチすることで生成されるが、本実験のセットアップにおいてチップを用いるとスクラッチの縁が不規則になり、縁の周囲の層において細胞が持ち上げられやすく、スクラッチの縁における細胞が壊れやすくなる。これらの問題を回避するため、チップの代わりに自己接着シリコーンテープが用いられた。シリコーンテープは同じ幅(0.5mmから0.7mm)に切られ、予め細胞培養領域に接着された。細胞が十分に成長し細胞の接着が達成された後、テープは除去され、十分な無細胞領域が生成された。
【0083】
<細胞移動への電気刺激の効果>
HaCaT細胞の移動への異なるモードの電気刺激の効果を調査するために、異なるパラメータ(表2)の電気信号がHaCaT細胞培養の単層に印加された。電極産物が培養に入ることを防ぐために、寒天塩橋を介して接続されたAg/AgCl電極を用いて刺激(条件A、B、C、D)及び無刺激(対照群
)がHaCaT細胞培養の単層に印加された。
【0084】
表2はHaCaT細胞培養システムに実験されたパラメータを示す。
【表2】
【0085】
培養システムにおけるスクラッチ又は無細胞領域は、電気刺激の開始から0時間後、12時間後、24時間後、36時間後、及び48時間後に撮影された。それぞれの時点で無細胞領域の画像が3つ撮影され(
図6)、無細胞領域はImage Jソフトウェアによって計算された。初期顕微鏡倍率は40xであった。
【0086】
異なる時点において各群の移動率を計算して移動能力を評価するために、次の式1が用いられた。
【0087】
【0088】
実験群(A、B)の移動率は、対照群(
)と比較して、増加する傾向を示した(
図7及び8)。条件B(100kHz、2%デューティサイクル、200mV/mm)によって生成された、電気刺激に暴露されたHaCaT細胞培養は、移動能力の最も著しい増加、即ち最も速く、最も効率的な傷の治癒を示した。
図7で見られるように、傷は24時間のみの電気刺激療法の後に実質的に閉じられ、48時間の電気刺激療法の後にはほぼ完全に閉じられた。
図8で見られるように、条件B及び条件Aのいずれも対照群(
)と比べて傷の閉鎖率を著しく向上させた。さらに、条件Bは、約50%早く傷を閉じ(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)、条件A(通常の直流刺激)より著しく優れていた。
【0089】
<統計>
結果は、平均の平均±標準誤差(SEM)として提示される。各実験条件は、三重又はそれ以上(技術的複製、n≧3)に測定されて、独立して3回(N=3)行われた。統計分析は、GraphPad Prismソフトウェア(バージョン8.0.2、El Camino Real、米国)を用いて行われた。データセットは、クラスカル・ウォリスH(Kruskal-Wallis H)テストによって比較された。α=0.05が最大タイプIエラー率として設定された。*<0.05、**<0.01、***<0.001が対照群と比べてP値を分類するために使われた。
【0090】
<結論>
本例で説明された細胞システムは、細胞移動能力をテストする要件を満足する。
【0091】
条件A及び条件B下で供給された電気刺激は、細胞移動能力を向上させる傾向を示し、条件B、即ち100kHzのパルス周波数、2%のデューティサイクル、及び200mV/mmの電界における変化が最も著しかった。
【0092】
上で提示したインビトロ研究に基づいて、本発明の概念に従って供給された電気刺激が優れた傷の治癒特性を提供することは明らかである。さらに、例1において提供されたデータに従って、ここでテストされた電気刺激条件は、電気療法の途中、患者に及ぼす悪影響が最小限であると考えられている。したがって、少なくとも50kHz又は100kHzの高周波数と低いデューティサイクル(10%未満)の高周波数パルスからなる最適の刺激アルゴリズムは、最小のバッテリ電力消費と、肌における最小電力損失で傷に最大限の電界(EF)力をもたらすと考えられる。これはバッテリ寿命を最大にし、傷に50-200mV/mmの所望のEFを生成し、且つ、肌を通る直流又は低周波数の電流に関連する痒み、皮膚反応又は筋肉活性化などの不快感を完全に回避する。
【国際調査報告】