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特表2023-525082免疫抑制線維芽細胞集団のバイオマーカーとしてのANTXR1及び免疫療法に対する応答を予測するためのその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-14
(54)【発明の名称】免疫抑制線維芽細胞集団のバイオマーカーとしてのANTXR1及び免疫療法に対する応答を予測するためのその使用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20230607BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230607BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230607BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230607BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20230607BHJP
【FI】
C12Q1/04
A61K45/00
A61P35/00
G01N33/48 M
C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567646
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(85)【翻訳文提出日】2023-01-06
(86)【国際出願番号】 EP2021062090
(87)【国際公開番号】W WO2021224438
(87)【国際公開日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】20305454.9
(32)【優先日】2020-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509181699
【氏名又は名称】アンスティテュ・クリー
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ファティマ・メチター-グリゴリオ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・キフェール
(72)【発明者】
【氏名】アン・ヴァンサン-サロモン
(72)【発明者】
【氏名】ラシッド・ホシネ・ホシネ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CB01
2G045DA14
2G045DA36
2G045FA37
2G045FB01
2G045FB02
2G045FB03
2G045FB08
2G045FB12
2G045FB13
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QS33
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC411
4C084ZC412
4H045AA10
(57)【要約】
本発明は、がんに罹患している対象からのがん試料中の免疫抑制線維芽細胞、特にがん関連線維芽細胞(CAF)を検出するインビトロ方法を提供し、方法は、この患者からのがん試料のANTXR1+線維芽細胞を検出することを含む。本発明はまた、免疫療法治療に対するがんに罹患している対象の応答を予測するインビトロ方法、患者のがんの治療に使用するための免疫療法治療、免疫抑制線維芽細胞、特に免疫抑制性CAFの同定のためのバイオマーカーとしてのANTXR1の使用、患者のがんの治療に使用するためのANTXR1+線維芽細胞を標的とする薬剤、a)ANTXR1+線維芽細胞を標的とする薬剤及びb)免疫療法治療を含む製品又はキットに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんに罹患している患者からのがん試料中の炭疽菌毒素受容体1(ANTXR1)陽性線維芽細胞を検出することを含み、ANTXR1+線維芽細胞の存在は、免疫抑制性CAFの指標である、がんに罹患している対象からのがん試料中の免疫抑制線維芽細胞を検出するインビトロ方法。
【請求項2】
がんに罹患している患者からのがん試料中のANTXR1+線維芽細胞を検出することを含み、がん試料中のANTXR1+線維芽細胞は、免疫療法剤に対する前記患者の応答を予測する、免疫療法治療に対するがんに罹患している対象の応答を予測するインビトロ方法。
【請求項3】
患者は、(a)低い数又は割合のANTXR1+線維芽細胞を有するがん試料を提示する、又は(b)ANTXR1+線維芽細胞を有しないがん試料を提示する患者におけるがんの治療に使用するための免疫療法剤。
【請求項4】
ANTXR1+線維芽細胞の割合を決定することを含み、ANTXR1+線維芽細胞の割合が、がん試料中の線維芽細胞の総数又はがん試料中の細胞の総数に対するANTXR1+線維芽細胞の数である、請求項2に記載の対象の応答を予測する方法又は請求項3に記載の使用のための免疫療法剤。
【請求項5】
ANTXR1+線維芽細胞がFAP+ ANTXR1+線維芽細胞である、請求項2若しくは4に記載の方法、又は請求項3若しくは4に記載の使用のための免疫療法剤。
【請求項6】
ANTXR1+線維芽細胞がANTXR1+ CAF、好ましくはFAP+ ANTXR1+ CAFである、請求項2及び4から5のいずれか一項に記載の方法、又は請求項3及び請求項4から5のいずれか一項に記載の使用のための免疫療法剤。
【請求項7】
ANTXR1+線維芽細胞は、FAP+ ANTXR1+ LAMP5- SDC1+線維芽細胞、好ましくはCAF、FAP+ ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-線維芽細胞、好ましくはCAF、ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+線維芽細胞、好ましくはCAFからなる群から選択される、請求項2及び請求項4から6のいずれか一項に記載の方法又は請求項3及び請求項4から6のいずれか一項に記載の使用のための免疫療法剤。
【請求項8】
免疫抑制線維芽細胞、好ましくは免疫抑制性CAFの同定のためのバイオマーカーとしてのANTXR1の使用。
【請求項9】
免疫療法剤に対するがんに罹患している対象の応答を予測するための、対象の腫瘍のバイオマーカーとしての、線維芽細胞集団、好ましくはCAF集団におけるANTXR1の使用。
【請求項10】
患者のがんの治療に使用するためのANTXR1+線維芽細胞を標的とする薬剤であって、患者は、患者からの腫瘍試料中にANTXR1+FAP+線維芽細胞、好ましくはCAFを有し、薬剤は、ANTXR1+線維芽細胞の免疫抑制作用を抑制又は低減し、好ましくは、薬剤は、(i)細胞傷害性薬物にコンジュゲートされていてもよい抗ANTXR1抗体、抗ANTXR1部分を含む多重特異的分子、抗ANTXR1 T細胞受容体(TCR)及び抗ANTXR1キメラ抗原受容体(CAR)、並びに(ii)抗ANTXR1 TCR若しくは抗ANTXR1 CARを発現する免疫細胞、好ましくはT細胞又はナチュラルキラー細胞、又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、薬剤。
【請求項11】
免疫療法剤と組み合わせて使用するための、請求項10に記載の使用のためのANTXR1+線維芽細胞を標的とする薬剤。
【請求項12】
患者は、患者からの腫瘍試料中にANTXR1+FAP+線維芽細胞、好ましくはCAFを有する、患者のがんの治療に使用するためのFAP阻害剤。
【請求項13】
免疫療法剤と組み合わせて使用するための、請求項12に記載の使用のためのFAP阻害剤。
【請求項14】
FAP阻害剤は、タラボスタット、PT-100、リナグリプチン(Tradjenta)、FAPI-02、FAPI-04及びFAPI-46のようなN-(4-キノリノイル)-Gly-(2-シアノピロリジン)スキャフォールドを有するFAP阻害剤、FAP-2286のようなペプチド標的放射性核種及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項12又は13に記載の使用のためのFAP阻害剤。
【請求項15】
患者のがんの治療における同時、別個の又は連続使用のための組み合わせ調製物として、a)請求項10に記載のANTXR1+線維芽細胞を標的とする薬剤及びb)免疫療法剤を含み、患者は患者からの腫瘍試料中にANTXR1+FAP+線維芽細胞、好ましくはCAFを有している、製品又はキット。
【請求項16】
免疫療法剤は、悪性腫瘍細胞を攻撃するように患者の免疫系を刺激する治療剤、腫瘍抗原を有する患者の免疫化、サイトカインのような免疫系を刺激する分子、治療用抗体、養子T細胞療法、CAR細胞療法、免疫チェックポイント阻害剤、及びこれらの任意の組み合わせ、好ましくは免疫チェックポイント阻害剤からなる群から選択される、請求項2及び請求項4から7のいずれか一項に記載の方法、請求項3から7のいずれか一項に記載の使用のための免疫療法剤、請求項9に記載の使用、請求項11に記載の使用のための薬剤、請求項13若しくは14に記載の使用のためのFAP阻害剤又は請求項15に記載の製品若しくはキット。
【請求項17】
チェックポイント阻害剤は、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質(CTLA-4)、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)、プログラム細胞死リガンド(PD-L1)、Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体(TIGIT)、リンパ球活性化遺伝子3(LAG-3)、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有-3(TIM-3)、B-及びTリンパ球アテニュエーター(BLTA)、IDO1、又はそれらの任意の組み合わせに対する抗体からなる群から選択され、好ましくはCTLA-4、PD-1、PD-L1及びTIGIT、又はそれらの任意の組み合わせに対する抗体、より好ましくはPD-1又はCTLA-4及びそれらの組み合わせに対する抗体からなる群から選択される、請求項16に記載の方法、又は請求項16に記載の使用のための免疫療法剤、請求項16に記載の使用、請求項16に記載の使用のための薬剤、請求項16に記載の使用のためのFAP阻害剤又は請求項16に記載の製品若しくはキット。
【請求項18】
免疫療法剤が、イピリムマブ、ニボルマブ、BGB-A317、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、又はデュルバルマブ、BMS-986016及びエパカドスタット、又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項16に記載の方法、又は請求項16に記載の使用のための免疫療法剤、請求項16に記載の使用、請求項16に記載の使用のための薬剤、請求項16に記載の使用のためのFAP阻害剤又は請求項16に記載の製品若しくはキット。
【請求項19】
がんは、前立腺がん、肺がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、乳がん、胃がん、腎臓がん、卵巣がん、肝細胞がん、骨肉腫、黒色腫、下咽頭がん、食道がん、子宮体がん、子宮頸がん、膵臓がん、肝臓がん、結腸又は結腸直腸がん、腺がん、肉腫、非扁平上皮がん、扁平上皮がん、神経内分泌腫瘍、筋肉がん、副腎がん、甲状腺がん、子宮がん、皮膚がん、黒色腫、転移性黒色腫、膀胱がん及び頭頸部がんからなる群から選択され、好ましくは、がんは、頭頸部がん、乳がん、卵巣がん、NSCLC、黒色腫及び転移性黒色腫からなる群から選択され、より好ましくは、がんは、頭頸部がん、NSCLC、黒色腫及び転移性黒色腫からなる群から選択される、請求項2、請求項4から7及び請求項16から18のいずれか一項に記載の方法、請求項3から7及び請求項16から18のいずれか一項に記載の使用のための免疫療法剤、請求項9及び請求項16から18のいずれか一項に記載の使用、請求項10から11及び請求項16から18のいずれか一項に記載の使用のための薬剤、請求項12から14及び請求項16から18のいずれか一項に記載の使用のためのFAP阻害剤又は請求項15から18のいずれか一項に記載の製品若しくはキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学の分野、特に腫瘍学の分野に関する。免疫抑制細胞集団のための新しいマーカー及びその使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
2018年には960万人が死亡し、がんは世界で2番目に多い死因である。毎年1,500万人を超える新規症例が診断されているため、がんの有病率も非常に高く、新規症例数は今後20年間で約70%増加すると予想されている。
【0003】
現在、がんには、手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、標的療法及び緩和ケア等、多くの治療法の選択肢がある。患者に最適な治療法の選択は、がんの種類、場所、悪性度並びに患者の健康状態及び好みによって異なる。
【0004】
過去数十年で、免疫療法はがん治療戦略の重要な部分になっている。がん免疫療法は、がんを治療するために免疫系を使用することに依存する。時間をかけて開発された多様な免疫療法治療の中で、免疫チェックポイント阻害剤療法は特に有望である。しかし、有望な結果にもかかわらず、多くの進行がん患者は免疫チェックポイント阻害剤に応答せず、一次耐性のメカニズムについてはほとんど知られていない。特に、一部のがんは、免疫療法に対する耐性の発達に関与する免疫抑制微小環境を発達させる。
【0005】
したがって、治療を開始する前にレスポンダー患者と非レスポンダー患者を確実に区別することができるバイオマーカーの同定は、免疫腫瘍薬の恩恵を受ける可能性が高い患者を選択するために必要である。
【0006】
がん関連線維芽細胞(CAF)は、がんの豊富な成分であり、重要な腫瘍形成を促進する(pro-tumorigenic)機能を果たす。CAFは不均一であり、特定のマーカーの発現に基づいて異なるCAFサブセットを規定できることが現在認識されている。今のところ、CAF-S1~-S4と呼ばれる4つのCAFサブセットが、ヒトの乳がん及び卵巣がんで同定されている(Costa Aら、Cancer Cell 2018;33(3):463-79 e10)。CAF-S2及びCAF-S3線維芽細胞は健康な組織でも検出され、正常な線維芽細胞を彷彿とさせる可能性があるが、CAF-S1及びCAF-S4筋線維芽細胞はがん及び転移性リンパ節に限定されている。CAF-S1とCAF-S4はどちらも相補的なメカニズムを介して転移を促進する。対照的に、CAF-S1はヒトのがんにおける免疫抑制を促進するが、CAF-S4は促進しない。CAFの亜集団は不均一のままであるため、がん患者の免疫療法に対する一次耐性に特定の役割を果たすCAFを同定する必要があり、特にがんの免疫抑制性CAFを検出するための新しいマーカーを同定する必要がある。
【0007】
また、免疫抑制環境を克服するための新しい戦略を開発し、それによって免疫療法、特に免疫チェックポイント阻害剤治療をより効果的で全ての患者が利用できるようにする必要性が根強くある。本発明は、これら及び他のニーズを満たすことを目指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2019/020728号
【特許文献2】米国特許第5,618,703号
【特許文献3】米国特許出願第2005/0048542号
【特許文献4】国際公開第2014/194302号
【特許文献5】国際公開第2017/040790号
【特許文献6】国際公開第2017/19846号
【特許文献7】国際公開第2017/024465号
【特許文献8】国際公開第2017/025016号
【特許文献9】国際公開第2017/132825号
【特許文献10】国際公開第2017/133540号
【特許文献11】国際公開第2006/121168号
【特許文献12】国際公開第19232484号
【特許文献13】国際公開第16028656号
【特許文献14】国際公開第16106302号
【特許文献15】国際公開第16191643号
【特許文献16】国際公開第17030823号
【特許文献17】国際公開第17037707号
【特許文献18】国際公開第17053748号
【特許文献19】国際公開第17152088号
【特許文献20】国際公開第18033798号
【特許文献21】国際公開第18102536号
【特許文献22】国際公開第18102746号
【特許文献23】国際公開第18160704号
【特許文献24】国際公開第18200430号
【特許文献25】国際公開第18204363号
【特許文献26】国際公開第19023504号
【特許文献27】国際公開第19062832号
【特許文献28】国際公開第19129221号
【特許文献29】国際公開第19129261号
【特許文献30】国際公開第19137548号
【特許文献31】国際公開第19152574号
【特許文献32】国際公開第19154415号
【特許文献33】国際公開第19168382号
【特許文献34】国際公開第19215728号
【特許文献35】国際公開第20081522号
【特許文献36】国際公開第20132661号
【特許文献37】国際公開第20245173号
【特許文献38】国際公開第21005125号
【特許文献39】国際公開第21005131号
【特許文献40】米国特許第2020246383号
【特許文献41】国際公開第19154859号
【特許文献42】国際公開第19083990号
【特許文献43】国際公開第19118932号
【特許文献44】国際公開第18111989号
【特許文献45】国際公開第17189569号
【特許文献46】国際公開第13107820号
【特許文献47】国際公開第08116054号
【特許文献48】国際公開第07085895号
【特許文献49】韓国特許第1020190013612号
【特許文献50】米国特許第2016264662A号
【特許文献51】米国特許第2017114133A号
【特許文献52】中国特許第108707199A号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Costa Aら、Cancer Cell 2018;33(3):463-79 e10
【非特許文献2】Ohlund Dら、J Exp Med 2017;214(3):579-96
【非特許文献3】Dominguezら、Cancer Discov 2020;10(2):232-53
【非特許文献4】Rooneyら、Cell 2015;160(1-2):48-61
【非特許文献5】Si-Yang Liuら、J. Hematol.Oncol.10:136(2017)
【非特許文献6】Jansenら、ACS Med Chem Lett2013年、5月9日;4(5):491-496
【非特許文献7】Muellerら、J Biol Chem 1999;274:24947-52
【非特許文献8】Lindnerら、EJNMMI Radiopharmacy and Chemistry(2019)4:16
【非特許文献9】Lidnerら、Journal of Nuclear Medicine、2018年4月6日
【非特許文献10】Byrdら、Cancer Res.2018;78(2):489-500.10.1158/0008-5472.CAN-16-1911
【非特許文献11】Prezado Y、Jouvion G、Guardiola C、Gonzalez W、Juchaux M、Bergs J、Nauraye C、Labiod D、De Marzi L、Pouzoulet F、Patriarca A、Dendale R. Tumor Control in RG2 Glioma-Bearing Rats:A Comparison Between Proton Minibeam Therapy and Standard Proton Therapy.Int J Radiat Oncol Biol Phys.2019年6月1日;104(2):266-271. doi:10.1016/j.ijrobp.2019.01.080
【非特許文献12】Prezado Y、Jouvion G、Patriarca A、Nauraye C、Guardiola C、Juchaux M、Lamirault C、Labiod D、Jourdain L、Sebrie C、Dendale R、Gonzalez W、Pouzoulet F. Proton minibeam radiation therapy widens the therapeutic index for high-grade gliomas.Sci Rep. 2018年11月7日;8(1):16479. doi:10.1038/s41598-018-34796-8)
【非特許文献13】Favaudon V、Fouillade C、Vozenin MC.The radiotherapy FLASH to save healthy tissues.Med Sci(Paris)2015年;31:121-123.DOI:10.1051/medsci/20153102002)
【非特許文献14】Patriarca A.、Fouillade C. M.、Martin F.、Pouzoulet F.、Nauraye C.らExperimental set-up for FLASH proton irradiation of small animals using a clinical system.Int J Radiat Oncol Biol Phys、102(2018)、pp. 619-626. doi:10.1016/j.ijrobp.2018.06.403.Epub 2018年7月11日
【非特許文献15】Tirosh IらScience 2016;352(6282)
【非特許文献16】Stuart TらCell 2019;177(7):1888-902 e21
【非特許文献17】GivelらNat Commun 2018;9(1):1056
【非特許文献18】KiefferらCancer Discov.2020;10(9):1330-1351
【非特許文献19】Elyadaら、Cancer Discov 2019;9(8):1102-23
【非特許文献20】https://portal.gdc.cancer.gov/
【非特許文献21】Puram SVらCell 2017;171(7):1611-24 e24
【非特許文献22】Lambrechts DらNat Med 2018;24(8):1277-89)
【非特許文献23】Hugo WらCell 2016;165(1):35-44
【非特許文献24】ButlerらNat Biotechnol 2018;36(5):411-2
【非特許文献25】http://metascape.org
【非特許文献26】https://cran.r-project.org
【非特許文献27】Okenら、Am J Clin Oncol 1982;5(6):649-55
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
がんは、腫瘍細胞自体と宿主間質細胞の両方の複数の成分を含む全身性疾患である。腫瘍微小環境の間質細胞ががんの発生に重要な役割を果たしていることが現在明らかになっている。がん間質は、線維芽細胞、特にがん関連線維芽細胞(CAF)、血管内皮細胞、免疫細胞及び細胞外マトリックスを含む。CAFは腫瘍間質の最も豊富な成分であり、がん間質の大部分を占め、がんの発生、血管新生、浸潤及び転移を促進するように腫瘍微小環境に影響を及ぼす。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、腫瘍部位における免疫抑制微小環境の確立に重要な役割を果たすCAFの新しい亜集団を発見した。発明者らは、scRNA-seqを使用してCAF-S1免疫抑制亜集団の不均一性に対処し、8つの異なるCAF-S1クラスターを同定した。このうち、3つのCAF-S1クラスター(1、2、5)は炎症性(「iCAF」)サブグループに属し、5つのCAF-S1クラスター(0、3、4、6、7)は筋線維芽細胞(「myCAF」)サブグループに属し、iCAF及びmyCAFサブグループは、膵臓がんにおいて前述されている(Ohlund Dら、J Exp Med 2017;214(3):579-96)。
【0012】
発明者らによって同定された8つのCAF-S1クラスターは、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質(クラスター0)、解毒経路(クラスター1)、インターロイキンシグナル伝達(クラスター2)、形質転換増殖因子β(TGFβ)シグナル伝達経路(クラスター3)、創傷治癒(クラスター4)、インターフェロンγ(クラスター5)、インターフェロンαβ(クラスター6)及びアクトミオシン経路(クラスター7)をコードする遺伝子の高発現によって特徴付けられる。したがって、発明者らは、ecm-myCAF(クラスター0)、detox-iCAF(クラスター1)、IL-iCAF(クラスター2)、TGFβ-myCAF(クラスター3)、wound-myCAF(クラスター4)、IFNγ-iCAF(クラスター5)、IFNαβ-myCAF(クラスター6)及びアクト-myCAF(クラスター7)のように注釈を付けた。
【0013】
これらのCAF-S1クラスターの存在は、公開されているscRNA-seqデータを分析することにより、頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)及び非小細胞肺がん(NSCLC)で検証され、異なるがんタイプにわたるこれらのCAF-S1クラスターの関連性が実証された。
【0014】
更に、発明者らは、myCAFサブグループの2つのCAF-S1クラスター、すなわちecm-myCAF(クラスター0)及びTGFβ-myCAF(クラスター3)の存在量が免疫抑制環境と有意に相関しているのに対し、detox-iCAF及びIL-iCAFの含有量はそうではないことを明らかにした。
【0015】
実際、ecm-myCAF(クラスター0)及びTGFβ-myCAF(クラスター3)クラスターは、高レベルのPD-1+、CTLA-4+及びTIGIT+ CD4+ Tリンパ球(それ自体がTregに富んでいる)及びCD8+ Tリンパ球の画分が低い腫瘍に富んでいる。興味深いことに、ecm-myCAF(クラスター0)特異的シグネチャーには、膵臓がんにおける免疫療法に対する患者の応答の決定因子として最近同定されたLRRC15遺伝子が含まれている(Dominguezら、Cancer Discov 2020;10(2):232-53)。
【0016】
ecm-myCAF(クラスター0)及びTGFβ-myCAF(クラスター3)とは対照的に、wound-myCAF(クラスター4)は免疫抑制環境と関連していないが、Tリンパ球による高いグローバル浸潤と相関している。したがって、wound-myCAFクラスター(クラスター4)は、免疫療法に応答しない患者の腫瘍に富んでいるため、通常はこのタイプの治療に敏感な高浸潤腫瘍の免疫療法に対する一次耐性の新しい代理マーカーとして機能する可能性がある。したがって、診断時に腫瘍における特定のCAF-S1クラスターの含有量を評価することは、免疫チェックポイント阻害剤に対する一次耐性を予測するための相加値を提供する。
【0017】
発明者らは特に、診断時に、これらの特定のCAF-S1クラスターが、黒色腫及びNSCLC患者の両方における免疫療法に対する一次耐性と関連していることを示す。特に、ecm-myCAF(クラスター0)は、FOXP3high T細胞の画分を増加させ、CD4+ CD25+ Tリンパ球の表面でPD-1とCTLA-4タンパク質レベルの両方を刺激し、それが次にTGFβ-myCAF(クラスター3)の割合を増加させる。これにより、免疫抑制ecm-myCAF(クラスター0)とTGFβ-myCAF(クラスター3)のCAF-S1クラスターと、免疫抑制を促進し、免疫療法に対する耐性に関与するTregとの間の正のフィードバックループが明らかになる。したがって、これらのデータは、PD-1及び/又はCTLA-4遮断と、免疫チェックポイント遮断に対する一次耐性を克服するために特定のCAF-S1クラスター成分を標的とする治療法を組み合わせた戦略の開発を支持する。
【0018】
したがって、発明者らのデータは、腫瘍試料中にANTXR1+ FAP+ CAFを有する患者の新しいサブセットの同定を支持し、これらの患者は免疫抑制を示し、免疫療法に対して耐性又は低い応答を有する。したがって、この特定の患者のサブセットにおいて、ANTXR1+ FAP+ CAFの免疫抑制作用を抑制又は低減するように、ANTXR1+ CAFを標的とする薬剤は、治療上の利益をもたらし得る。更に、この薬剤と免疫療法剤との併用は、免疫療法剤に対する耐性の発生を予防するか、又は応答を回復することができる。更に、FAPが全てのCAF-S1細胞によって発現されている場合でも、ANTXR1+ FAP+ CAFは免疫抑制性であり、免疫療法耐性と関連しているのに対し、ANTXR1+ FAP- CAFはそうではないため、ANTXR1+ FAP+患者はFAP阻害剤による治療のより大きな治療上の利益を有する。これに関連して、ベネフィット/リスクバランスは、特に免疫療法との組み合わせにおいて、この特定の患者のサブセットにおいてこの治療に有利である。
【0019】
最後に、発明者らは、ANTXR1をCAF-S1クラスター0、3及び4の特異的マーカーとして同定し、免疫抑制効果に関連するCAFを同定することを可能にした。
【0020】
第1の態様では、本発明は、がんに罹患している対象からのがん試料中の免疫抑制線維芽細胞を検出するインビトロ方法に関し、方法は、患者からのがん試料中の炭疽菌毒素受容体1(ANTXR1)陽性線維芽細胞を検出することを含み、ANTXR1+線維芽細胞の存在は、免疫抑制性CAFの指標である。
【0021】
第2の態様では、本発明は、免疫療法剤に対するがんに罹患している対象の応答を予測するインビトロ方法に関し、方法は、患者からのがん試料中のANTXR1+線維芽細胞を検出することを含み、がん試料中のANTXR1+線維芽細胞は、免疫療法剤に対する患者の応答を予測する。
【0022】
第3の態様では、本発明は、患者におけるがんの治療に使用するための免疫療法剤に関し、患者は、(a)低い数又は割合のANTXR1+線維芽細胞を有するがん試料を提示する、又は(b)ANTXR1+線維芽細胞を有しないがん試料を提示する。
【0023】
特に、対象又は免疫療法剤の応答を予測する方法は、ANTXR1+線維芽細胞の割合を決定することを更に含み、ANTXR1+線維芽細胞の割合は、がん試料中の線維芽細胞の総数又はがん試料中の細胞の総数に対するANTXR1+線維芽細胞の数である。
【0024】
特に、ANTXR1+線維芽細胞はFAP+ ANTXR1+線維芽細胞である。好ましくは、ANTXR1+線維芽細胞は、ANTXR1+がん関連線維芽細胞(CAF)、好ましくはFAP+ ANTXR1+ CAFである。
【0025】
更により好ましくは、ANTXR1+線維芽細胞は、FAP+ ANTXR1+ LAMP5- SDC1+線維芽細胞、好ましくはCAF、FAP+ ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-線維芽細胞、好ましくはCAF;ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+線維芽細胞、好ましくはCAFからなる群から選択される。
【0026】
第4の態様では、本発明は、免疫抑制線維芽細胞、好ましくは免疫抑制性CAFの同定のためのバイオマーカーとしてのANTXR1の使用に関する。本発明はまた、線維芽細胞集団、好ましくはCAF集団における、がんに罹患している対象の腫瘍のバイオマーカーとしての、免疫療法に対する対象の応答を予測するためのANTXR1の使用に関する。
【0027】
第5の態様では、本発明は、患者のがんの治療に使用するためのANTXR1+線維芽細胞を標的とする薬剤に関し、患者は、患者からの腫瘍試料中にANTXR1+ FAP+線維芽細胞、好ましくはCAFを有し、薬剤は、ANTXR1+線維芽細胞の免疫抑制作用を抑制又は低減し、好ましくは、薬剤は、(i)細胞傷害性薬物にコンジュゲートされていてもよい抗ANTXR1抗体、抗ANTXR1部分を含む多重特異的分子、抗ANTXR1 T細胞受容体(TCR)及び抗ANTXR1キメラ抗原受容体(CAR)、並びに(ii)抗ANTXR1 TCR若しくは抗ANTXR1 CARを発現する免疫細胞、好ましくはT細胞又はナチュラルキラー細胞又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0028】
特に、ANTXR1+線維芽細胞を標的とする薬剤は、免疫療法剤と組み合わせて使用するためのものである。
【0029】
第6の態様では、本発明は、患者のがんの治療に使用するためのFAP阻害剤に関し、患者は、患者からの腫瘍試料中にANTXR1+ FAP+線維芽細胞、好ましくはCAFを有する。特定の態様において、FAP阻害剤は、免疫療法剤と組み合わせて使用するためのものである。
【0030】
好ましくは、FAP阻害剤は、タラボスタット又はPT-100(CAS番号149682-77-9、[(2R)-1-[(2S)-2-アミノ-3-メチルブタノイル]ピロリジン-2-イル]ボロン酸)、リナグリプチン(Tradjenta)(CAS番号668270-12-0;8-[(3R)-3-アミノピペリジン-1-イル]-7-ブタ-2-イニル-3-メチル-1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]プリン-2,6-ジオン)、N-(4-キノリノイル)-Gly-(2-シアノピロリジン)スキャフォールドを有するFAP阻害剤、FAPI-02(CAS番号2370952-98-8、(S)-2,2',2''-(10-(2-(4-(3-((4-((2-(2-シアノピロリジン-1-イル)-2-オキソエチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)オキシ)プロピル)ピペラジン-1-イル)-2-オキソエチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)三酢酸)、FAPI-04(CAS番号2374782-02-0、(S)-2,2',2''-(10-(2-(4-(3-((4-((2-(2-シアノ-4,4-ジフルオロピロリジン-1-イル)-2-オキソエチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)オキシ)プロピル)ピペラジン-1-イル)-2-オキソエチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)三酢酸)及びFAPI-46(CAS番号:2374782-04-2)、FAP-2286のようなペプチド標的放射性核種並びにそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0031】
第7の態様では、本発明は、患者のがんの治療における同時、別個の又は連続使用のための組み合わせ調製物として、a)ANTXR1+線維芽細胞を標的とする薬剤及びb)免疫療法剤を含む製品又はキットに関する。
【0032】
特に、免疫療法剤は、悪性腫瘍細胞を攻撃するように患者の免疫系を刺激する治療的処置、腫瘍抗原による患者の免疫化、サイトカインのような免疫系を刺激する分子、治療用抗体、養子T細胞療法、CAR細胞療法、免疫チェックポイント阻害剤、及びこれらの任意の組み合わせ、好ましくは免疫チェックポイント阻害剤からなる群から選択される。
【0033】
好ましくは、チェックポイント阻害剤は、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質(CTLA-4)、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)、プログラム細胞死リガンド(PD-L1)、Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体(TIGIT)、リンパ球活性化遺伝子3(LAG-3)、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有-3(TIM-3)、B-及びTリンパ球アテニュエーター(BLTA)、IDO1、又はそれらの任意の組み合わせに対する抗体からなる群から選択され、好ましくはCTLA-4、PD-1、PD-L1及びTIGIT、又はそれらの任意の組み合わせに対する抗体、より好ましくはPD-1又はCTLA-4及びそれらの組み合わせに対する抗体からなる群から選択される。
【0034】
特に、免疫療法剤は、イピリムマブ、ニボルマブ、BGB-A317、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ又はデュルバルマブ、BMS-986016、及びエパカドスタット、又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0035】
特に、がんは、前立腺がん、肺がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、乳がん、胃がん、腎臓がん、卵巣がん、肝細胞がん、骨肉腫、黒色腫、下咽頭がん、食道がん、子宮体がん、子宮頸がん、膵臓がん、肝臓がん、結腸又は結腸直腸がん、腺がん、肉腫、非扁平上皮がん、扁平上皮がん、神経内分泌腫瘍、筋肉がん、副腎がん、甲状腺がん、子宮がん、皮膚がん、黒色腫、転移性黒色腫、膀胱がん及び頭頸部がんからなる群から選択され、好ましくは、がんは、頭頸部がん、乳がん、卵巣がん、NSCLC、黒色腫及び転移性黒色腫からなる群から選択され、より好ましくは、がんは、頭頸部がん、NSCLC、黒色腫及び転移性黒色腫からなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】CAF-S1線維芽細胞の異なる細胞クラスターの同定を示す図である。7名のBC患者にわたる18,296個のCAF-S1線維芽細胞のUniform Manifold Approximation and Projection(UMAP)により、8個のCAF-S1クラスター(0~7)の視覚化が可能になる。色は、30個の第1主成分によって規定された空間に適用されたグラフベースのクラスタリング法によって規定された異なるCAF-S1クラスターを示す。
図2】異なるがん種の5つの最も豊富なCAF-S1クラスターの検証を示す図である。FACSデータに基づくCAF-S1線維芽細胞間の異なるクラスターの割合(%)。各バーは、1名の患者を表す(N=44)。
図3】肺がん及び頭頸部がんのCAF-S1細胞クラスターの検出を示す図である。(A)BC由来の18,296個のCAF-S1線維芽細胞(赤、左上のパネル)とHNSCC由来のFAP+線維芽細胞を組み合わせたUMAPプロット((30)のデータ、n=603個のFAP+細胞、青色、左上のパネル)。各CAF-S1クラスターの特異的シグネチャーを構成する遺伝子の平均zスコアとして計算されたスコアが適用される。(B)NSCLCの(A)と同じである((31)のデータ、n=959個のFAP+細胞、青色、左上のパネル)。
図4】乳がんのCAF-S1クラスターと免疫細胞の相関を示す図である。(A)示されているように、2つの変数間の詳細な相関曲線。各ドットは1つの腫瘍を表す(N=37)。ピアソン相関検定からのP値。(B)TCGAコホートのCAF-S1クラスターシグネチャーとFOXP3の間の相関曲線。各ドットは1つの腫瘍を表す(N=1221)。ピアソン相関検定からのP値。(C)Rooneyら、Cell 2015;160(1-2):48-61に規定されているように、CAF-S1クラスターシグネチャーと細胞溶解指数の間の(B)と同じである。
図5】CAF-S1クラスターとTregの相互効果を示す図である。(A)単独(緑)又はiCAF(オレンジ)又はecm-myCAF(赤)の存在下のFOXP3特異的平均蛍光強度(speMFI)の代表的なヒストグラム(左)。10:1の比(T:CAF-S1)での24時間(h)の共培養を行った後、CD4+ CD25+T細胞(右)のFOXP3+細胞の割合(中央)とFOXP3タンパク質レベルを評価した。ウェルチのt検定からのP値(条件ごとにN= 7個のCAF-S1初代細胞株;n=3回の独立した実験)。(B-G)FOXP3+ CD4+ CD25+ TregにおけるPD-1(B)、CTLA-4(C)、TIGIT(D)、TIM3(E)及びLAG3(F)の免疫チェックポイントについては、(A)と同じである。ウェルチのt検定からのP値。(条件ごとにN=7個のCAF-S1細胞株;n=3回の独立した実験)。(G)CAF-S1クラスターアイデンティティーに対するCD4+ CD25+ Tリンパ球の影響。CAF-S1初代細胞株の表面におけるCAF-S1クラスターマーカーのタンパク質レベルを示すドットプロット。各マーカーについて、表面タンパク質レベルは、以下のように計算された特異的MFIとして表される。特異的MFI=特異的抗体由来のMFI-アイソタイプコントロール由来のMFI、CD4+ CD25+ T細胞の非存在下(-)又は存在下(+)(条件ごとにN=7個のCAF-S1細胞株;n=3回の独立した実験)。マン・ホイットニー検定からのP値。
図6】免疫療法に対する耐性に対するCAF-S1クラスターの影響を示す図である。(A)抗PD-1治療前の28個の黒色腫腫瘍からのRNA-Seqデータに適用された遺伝子セット濃縮分析(GSEA)は、各CAF-S1クラスターからの特異的シグネチャーを使用して適用され、応答する(N=15)患者と比較して、応答しない(N=13)患者のCAF-S1遺伝子シグネチャー(上位100遺伝子)の有意な濃縮を示す。(33)からのコホート。下、正常な線維芽細胞シグネチャーの(上)と同じ)。GSEA解析によると、クラスター0(ecm-myCAF)、3(TGFβ-myCAF)、4(wound-myCAF)は非レスポンダー(上)と有意に関連し、クラスター1(detox-iCAF)、2(IL-iCAF)及び5(IFN-iCAF)は有意に関連しない(下)ことを示す。(B)発現は、レスポンダーと非レスポンダーの黒色腫患者の各CAF-S1クラスターシグネチャーの平均zスコアによって評価される。(C、D)正常な線維芽細胞シグネチャー及び細胞溶解指数を用いた(B)と同じである。(E)低CAF-S1クラスター発現及び高CAF-S1クラスター発現(CAFクラスターzスコアの第3四分位数に基づく)で層別化されたレスポンダーと非レスポンダー。(F、G)正常な線維芽細胞シグネチャー及び細胞溶解指数を用いた(E)と同じである。(H)患者のNSCLCコホートを分析する(A)と同じである。
図7】CAF-S1クラスターの同定を示す図である。(A)CAF-S1を単離するために使用されたゲーティング戦略を示す代表的なFACSプロット。細胞は最初にDAPI-EPCAM-CD45-CD31-CD235a-にゲートされ、それぞれ死細胞、上皮細胞、造血細胞、内皮細胞、及び赤血球を除外する。次に、FAPHigh CD29Med細胞がCAF-S1線維芽細胞として選択される。(B)18,296個のCAF-S1線維芽細胞のUMAPプロット(図1のように)は、5つの最も豊富なCAF-S1クラスターの特異的遺伝子シグネチャーの平均zスコアを示す。
図8】FACS分析のためのCAF-S1クラスターのマーカーの同定並びにHNSCC及びNSCLC scRNA-seqデータからのCAF-S1の選択を示す図である。5つの最も豊富なCAF-S1クラスターのそれぞれに特異的な表面マーカーをコードする6つの遺伝子の発現(7名のBC患者からの18,296個のCAF-S1線維芽細胞からのscRNA-seqからのRNAレベル)の分布を示すバイオリンプロット。
図9】CAF-S1クラスターと免疫細胞の相関を示す図である。示されたように、CAFクラスターと免疫細胞との間の詳細な相関プロット(N=37個のBC)。ピアソン相関検定からのP値。
図10】プラスチック皿に広げて維持することにより、傍腫瘍から単離された線維芽細胞がCAF-S1特性を獲得することを示す図であり、(A)ドットプロットは、単独で培養したCD4+ CD25+ T細胞(左)又はecm-myCAFの存在下で培養したCD4+ CD25+ T細胞(右)の、細胞内特異的平均蛍光強度(speMFI)FOXP3、PD-1、CTLA-4及びTIGITを示す。マン・ホイットニー検定からのP値(N=4個のCAF-S1初代細胞株)。(B)単独で培養したCD4+ CD25+ T細胞(右)又はecm-myCAFの存在下で培養したCD4+ CD25+ T細胞(左)のFOXP3、CTLA-4及びTIGIT mRNAレベルを示す箱ひげ図。DESeq2分析からのP値(N=8)。(C)STAT及びNFATファミリーメンバーについては、(B)と同じである。
図11A】18,296個のCAF-S1線維芽細胞のUMAPプロット(図1のように)により、8個のCAF-S1クラスター(0~7個)を可視化することができることを示す図である。免疫療法応答の3つの予測クラスター、すなわちクラスター0=ECM-myCAF、クラスター3=TGFβ-myCAF、及びクラスター4=wound-myCAFは矢印で示されている。
図11B1】CAF-S1シグネチャーを規定する最も差示的に発現された遺伝子のいくつかを示すバイオリンプロット(左)とUMAPプロット(右)を示す図である。各CAF-S1クラスターのこれらの遺伝子の発現は、バイオリンプロット及びUMAP表現を用いて示される。これらの上位の代表的なCAF-S1遺伝子のうち、クラスター0、3、4に特異的に発現しているものはなく、したがって免疫療法の応答を予測する。
図11B2図11B1の続きである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の詳細な説明
定義
本明細書で使用される用語「がん」又は「腫瘍」は、制御されない増殖、及び/又は不死、及び/又は転移能、及び/又は急速な成長及び/又は増殖速度、及び/又は特定の特徴的な形態学的特徴等の、がんの原因となる細胞に典型的な特徴を有する細胞の存在を指す。この用語は、あらゆるタイプの対象におけるあらゆるタイプの悪性腫瘍(原発性又は転移)を指す。固形腫瘍及び造血器腫瘍を指すこともある。
【0038】
用語「がん試料」は、本明細書で使用される場合、対象に由来する腫瘍細胞及びがん間質細胞、特にがん関連線維芽細胞(CAF)等の線維芽細胞を含むあらゆる試料を意味する。がん組織は、特に、細胞外マトリックスに加えて、がん関連線維芽細胞(CAF)、血管内皮細胞及び免疫細胞等、がん細胞とその周辺のがん間質細胞で構成されている。好ましくは、がん試料は核酸及び/又はタンパク質を含む。試料は、使用前に処理することができる。
【0039】
本明細書に使用される場合、「がん関連線維芽細胞」又は「がん関連線維芽細胞」又は「CAF」という用語は、がんの間質に存在する線維芽細胞を指す。それらは筋線維芽細胞に似た形態を有する最も豊富な間質成分の1つである。CAFはCD45- EpCAM- CD31- CD29+間質細胞である。
【0040】
本明細書に使用される場合、「免疫抑制線維芽細胞」という用語は、腫瘍における免疫抑制、すなわちがん細胞に対する個体の免疫応答の部分的又は完全な阻害又は抑制を担う及び/又は寄与する線維芽細胞を指す。場合により、線維芽細胞は、特に肉腫において悪性であるか、又は正常であり得る。
【0041】
本明細書に使用される場合、「免疫抑制性がん関連線維芽細胞」又は「免疫抑制性CAF」という用語は、腫瘍の免疫抑制又は免疫抑制微小環境、すなわちがん細胞に対する個体の免疫応答の部分的又は完全な阻害又は抑制を担う及び/又は寄与するCAFを指す。「腫瘍微小環境」又は「TME」は、周囲の血管、免疫細胞、線維芽細胞、シグナル伝達分子及び細胞外マトリックス(ECM)を含む腫瘍の周囲の環境である。
【0042】
用語「免疫応答」は、例えば、リンパ球、抗原提示細胞、貪食細胞、顆粒球、及びこれらの細胞又は肝臓によって産生される可溶性高分子(抗体、サイトカイン及び補体を含む)の作用を指し、侵入する病原体、病原体に感染した細胞若しくは組織、がん性細胞、又は自己免疫若しくは病的炎症の場合では、正常なヒト細胞若しくは組織の、人体からの選択的損傷、破壊若しくは排除をもたらす。
【0043】
本明細書に使用される場合、用語「炭疽菌毒素受容体1」、「ANTXR細胞接着分子1」、「ANTXR」、「ANTXR1」、「腫瘍内皮マーカー8」、「TEM8」、「ATR」又は「GAPO」は、等価であり、例えば遺伝子ID:84168及びUniProt Q9H6X2のリファレンスの下に記載されているようなヒトANTXR1遺伝子の産物を指す。ANTXR1タンパク質は、細胞の付着と遊走に役割を果たしている。
【0044】
本明細書に使用される場合、用語「線維芽細胞活性化タンパク質」、「FAP」、「プロリルエンドペプチダーゼFAP」、「ジペプチジルペプチダーゼFAP」、「表面発現プロテアーゼ」、「セプラス」、「セリン膜内在性プロテアーゼ」、「SIMP」、「膜内在性セリンプロテアーゼ」、「ポストプロリン切断酵素」は互換的に使用され、例えば遺伝子ID:2191及びUniProt Q12884のリファレンスの下に記載されているようなFAPヒト遺伝子の産物を指す。FAPは、細胞表面糖タンパク質セリンプロテアーゼであり、細胞外マトリックスの分解に関与し、組織リモデリング、線維症、創傷治癒、炎症、及び腫瘍増殖等の多くの細胞プロセスに関与している。
【0045】
本明細書に使用される場合、用語「リソソーム関連膜糖タンパク質5」、「リソソーム関連膜タンパク質5」、「LAMP5」、「脳及び樹状細胞関連LAMP」及び「脳関連LAMP様タンパク質」は、等価であり、例えばGeneID 24141及びUniProt Q9UJQ1レファレンスの下に記載されているようなヒトLAMP5遺伝子の産物を指す。
【0046】
本明細書に使用される場合、用語「シンデカン-1」、「SDC1」、「SYND1」、「CD138」は、本明細書で互換的に使用され、例えばGeneID:6382及びUniProt P18827のリファレンスの下に記載されているようなヒトSDC1遺伝子の産物を指す。SDC1は、ヘパラン硫酸塩とコンドロイチン硫酸塩の両方を有し、細胞骨格を間質マトリックスに結合する細胞表面プロテオグリカンである。
【0047】
本明細書に使用される場合、用語「CD9」、「5H9抗原」、「細胞増殖抑制遺伝子2タンパク質」、「白血球抗原MIC3」、「運動関連タンパク質」、「MRP-1」、「テトラスパニン-29」、「Tspan-29」及び「p24」は、本明細書に互換的に使用され、例えばGeneID:928及びUniProt P21926のリファレンスの下に記載されているようなヒトCD9遺伝子の産物を指す。CD9はインテグリンに関連する膜内在性タンパク質であり、異なるプロセスを調節する。
【0048】
「+」は、マーカーを発現する細胞を指す。例えば、ANTXR1+はANTXR1を発現する細胞を指す。或いは、「-」はマーカーを発現していない細胞を指す。例えば、ANTXR1-はANTXR1を発現しない細胞を指す。
【0049】
本明細書に使用される場合、「対象」、「個体」又は「患者」という用語は交換可能であり、動物、好ましくは哺乳動物、更により好ましくはヒトを指す。しかしながら、「対象」という用語は、非ヒト動物、特に哺乳動物、例えばイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ及び非ヒト霊長類等を指すこともできる。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「マーカー」又は「バイオマーカー」は、がんの発生、がん治療の効率又は免疫抑制細胞の存在を予測するのに役立つ測定可能な生物学的パラメータを指す。
【0051】
本明細書に使用される場合、「診断」という用語は、対象ががんに罹患する可能性が高いかどうかに関する決定を指す。当業者は、1つ以上の診断マーカーに基づいて診断を行うことが多く、その存在、不在又は量は、がんの有無を示す。「診断」とは、診断に有用な情報の提供を指すことも意図している。
【0052】
本明細書に使用される場合、「治療」、「治療する」又は「治療すること」という用語は、疾患の治療、予防、予防及び遅延等の患者の健康状態を改善することを意図するあらゆる行為を指す。特定の実施形態では、このような用語は、疾患又は疾患に関連する症状の改善又は根絶を指す。他の実施形態では、この用語は、そのような疾患を有する対象への1つ以上の治療剤の投与から生じる疾患の拡大又は悪化を最小化することを指す。
【0053】
本明細書に使用される場合、「免疫療法」、「免疫療法剤」又は「免疫療法治療」という用語は、がんを拒絶する免疫系を用いるがん治療的処置を指す。治療的処置は、患者の免疫系を刺激して悪性腫瘍細胞を攻撃する。治療的処置は、腫瘍抗原による患者の免疫化(例えば、がんワクチンを投与することによる)を含み、その場合、患者自身の免疫系は、破壊されるべき標的として腫瘍細胞を認識するように訓練されるか、又はサイトカイン等の免疫系を刺激する分子の投与、又は薬物としての治療用抗体の投与を含み、その場合、患者の免疫系は、腫瘍細胞を破壊するために治療用抗体によって動員される。特に、抗体は、腫瘍の表面に提示される異常な抗原等の特定の抗原に対して向けられる。
【0054】
免疫系の重要な部分は、身体の正常細胞と「異物」と見なされる細胞、特にがん細胞を区別する能力である。これにより、免疫系は正常細胞をそのままにしてがん細胞を攻撃することができる。これを行うために、免疫系は「チェックポイント」を使用し、これらのチェックポイントは、免疫応答を開始するために活性化(又は不活性化)する必要がある特定の免疫細胞上の分子である。がん細胞は、これらのチェックポイントを使用する方法を見つけ、免疫系による攻撃を避けることがある。本明細書で使用される場合、「免疫チェックポイント阻害剤治療」という用語は、免疫系によるがん細胞の攻撃を可能にする又は促進するためにこれらのチェックポイントを標的とする免疫療法を指す。
【0055】
用語「パーセンテージ」、「量」、「数」、「量」、及び「レベル」は、本明細書に互換的に使用され、試料中の分子又は細胞の絶対定量、又は試料中の分子又は細胞の相対定量、すなわち、本明細書で教示される基準値に対するような別の値に対する相対的な定量を指し得る。
【0056】
本明細書に使用される場合、「医薬組成物」は、1種以上の活性剤と、生理学的に適切な担体及び賦形剤等の任意の他の化学成分との調製物を指す。医薬組成物の目的は、生物への活性剤の投与を容易にすることである。本発明の組成物は、任意の従来の投与経路又は使用に適した形態であり得る。一実施形態では、「組成物」は、典型的には、活性剤、例えば、化合物又は組成物と、天然由来又は非天然由来担体との組み合わせを意図し、不活性(例えば、検出可能な薬剤又は標識)又は活性、例えば、アジュバント、希釈剤、結合剤、安定剤、緩衝液、塩、親油性溶媒、保存剤、アジュバント等及び薬学的に許容される担体を含む。本明細書で言及する「許容可能なビヒクル」又は「許容可能な担体」とは、医薬組成物を製剤化する際に有用であることが当業者に周知されている任意の周知の化合物又は化合物の組み合わせである。
【0057】
本明細書に使用される場合、「有効成分」、「有効成分」、「医薬有効成分」、「治療剤」、「抗腫瘍性化合物」、及び「抗腫瘍剤」という用語は、等価であり、治療効果を有する成分を指す。
【0058】
本明細書に使用される場合、用語「治療効果」は、本発明による活性成分又は医薬組成物によって誘導され、がんの出現若しくは発症を予防若しくは遅延させ、又はがんの影響を治癒若しくは減弱させることができる効果を指す。
【0059】
本明細書に使用される「有効量」又は「治療有効量」は、単独で又は1つ以上の他の活性剤と組み合わせて、対象に治療効果を付与するのに必要な活性剤の量、例えば標的疾患又は障害を治療するため、又は所望の効果を生じるのに必要な活性剤の量を指す。「有効量」は、薬剤、疾患及びその重症度、年齢、体調、サイズ、性別及び体重を含む治療される対象の特徴、治療期間、併用療法の性質(もしあれば)、特定の投与経路及び医療従事者の知識及び専門知識の範囲内での要因に応じて変化する。これらの要因は、当業者には周知であり、日常的な実験に過ぎず対処することができる。個々の成分又はそれらの組み合わせの最大用量、すなわち、健全な医学的判断による最高安全用量が使用されることが一般に好ましい。
【0060】
本明細書で使用される用語「キット」、「製品」又は「組み合わせ調製物」は、本出願で規定される組み合わせパートナー(a)及び(b)が独立して、又は区別された量の組み合わせパートナー(a)及び(b)との異なる固定された組み合わせの使用によって、すなわち同時に又は異なる時点で投薬され得るという意味で特に「部品のキット」を定義する。その後、部品のキットの部品は、同時に、又は時系列にずらして、つまり、部品のキットの任意の部分について異なる時点で投与することができる。組み合わせ調製物において投与される組み合わせパートナー(a)と組み合わせパートナー(b)の総量の比は、変えることができる。組み合わせパートナー(a)及び(b)は、同じ経路又は異なる経路によって投与することができる。
【0061】
本明細書に使用される場合、用語「同時」は、活性成分が同時に、すなわち同時に使用又は投与される本発明による医薬組成物、キット、製品又は組み合わせ調製物を指す。
【0062】
本明細書に使用される場合、用語「逐次的」は、活性成分が逐次的に、すなわち次々に使用又は投与される本発明による医薬組成物、キット、製品又は組み合わせ調製物を指す。好ましくは、投与が逐次的である場合、全ての活性成分は、約1時間未満、好ましくは約10分未満、更により好ましくは約1分未満で投与される。
【0063】
本明細書に使用される場合、用語「別個の」は、活性成分が1日の別個の時間に使用又は投与される本発明による医薬組成物、キット、製品又は組み合わせ調製物を指す。好ましくは、投与が別個の場合、活性成分は、約1時間~約24時間の間隔で、好ましくは約1時間及び15時間の間隔で、より好ましくは約1時間及び8時間の間隔で、更により好ましくは約1時間及び4時間の間隔で投与される。
【0064】
本明細書で使用される用語「及び/又は」は、他のものの有無にかかわらず、2つの指定された特徴又は成分の各々の特定の開示として解釈されるべきである。例えば、「A及び/又はB」は、(i)A、(ii)B及び(iii)A及びBのそれぞれについて、それぞれが個別に記載されているかのように、特定の開示として解釈されるべきである。
【0065】
用語「a」又は「an」は、文脈上、要素のうちの1つ又は要素のうちの複数のいずれが記載されているかが明白でない限り、それが修飾する要素のうちの1つ又は複数を指すことができる(例えば、「試薬」は1つ以上の試薬を意味し得る)。
【0066】
任意の及び全ての値(数値範囲の下限及び上限を含む)に関連して本明細書で使用される用語「約」は、最大+/-10%の許容偏差範囲を有する任意の値を意味する(例えば、+/-0.5%、+/-1%、+/-1.5%、+/-2%、+/-2.5%、+/-3%、+/-3.5%、+/-4%、+/-4.5%、+/-5%、+/-5.5%、+/-6%、+/-6.5%、+/-7%、+/-7.5%、+/-8%、+/-8.5%、+/-9%、+/-9.5%)。値の文字列の先頭に「約」という用語を使用すると、値のそれぞれを修飾する(つまり、「約1、2及び3」は約1、約2、約3を指す)。更に、値のリストが本明細書に記載されている場合(例えば、約50%、60%、70%、80%、85%又は86%)、このリストは、それらの全ての中間値及び分数値(例えば、54%、85.4%)を含む。
【0067】
以下に開示される本発明の方法は、インビボ、エクスビボ又はインビトロの方法、好ましくはインビトロ又はエクスビボの方法であってもよい。
【0068】
新規の線維芽細胞亜集団、特にCAF亜集団の検出
第1の態様では、本発明は、がんに罹患している対象からのがん試料中の免疫抑制線維芽細胞、特にがん関連線維芽細胞(CAF)を検出するインビトロの方法に関し、方法は、患者からのがん試料のANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFを検出することを含み、ANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFの存在は免疫抑制線維芽細胞、特に免疫抑制性CAFを示す。次に、本発明は、がんに罹患している対象からのがん試料の免疫抑制線維芽細胞、特に免疫抑制性CAFを同定するためのバイオマーカーとしてのANTXR1の使用を想定した。本発明はまた、がん治療における新規バイオマーカーとしてのANTXR1及び免疫抑制性ANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAF集団の使用に関する。特に、本発明は、免疫療法に対する応答の新規バイオマーカーとしての免疫抑制性ANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAF、集団の使用を想定した。本発明はまた、免疫療法に対する対象の応答を予測するため、特に、対象が免疫療法に応答しやすいかどうかを予測するための、線維芽細胞、好ましくはCAF集団における、がんに罹患している対象の腫瘍のバイオマーカーとしてのANTXR1の使用に関する。
【0069】
一実施形態では、本発明は、がんに罹患している対象からのがん試料中の免疫抑制線維芽細胞、特にがん関連線維芽細胞(CAF)を検出するインビトロ方法に関し、方法は、患者からのがん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFを検出することを含む。
【0070】
場合により、本方法は、この患者からのがん試料を提供する前の工程を更に含んでもよい。
【0071】
好ましくは、本発明によるCAFは、CAF-S1サブグループに属し、例えばCostaら、2018、Cancer cell第33巻、第3号、463-479.e10頁又は国際公開第2019/020728号に記載されており、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。CAF-S1集団は特に、CD29、FAP、αSMA、PDGFRβ及びFSP1からなる群から選択される1種以上のバイオマーカーを発現する。特に、本発明によるCAF-S1はFAP+である。
【0072】
本明細書に使用される場合、「FAP+線維芽細胞」という用語は、FAPを発現する線維芽細胞の亜集団を指す。本明細書に使用される場合、「FAP+ CAF」又は「FAP+がん関連線維芽細胞」という用語は、FAPを発現するCAFの亜集団を指す。全てのCAFがFAPを発現するわけではない。したがって、好ましい実施形態では、FAP+ CAFの検出は、FAPを発現するCAFの検出、好ましくはFAP mRNA及び/又はタンパク質の検出に依存する。ただし、FAP+ CAFに特異的な他のマーカーを使用してそれらを検出することもできる。
【0073】
本明細書に使用される場合、「ANTXR1+線維芽細胞」という用語は、ANTXR1を発現する線維芽細胞の亜集団を指す。本明細書に使用される場合、「ANTXR1+ CAF」又は「ANTXR1+がん関連線維芽細胞」という用語は、ANTXR1を発現するCAFの亜集団を指す。全ての線維芽細胞又はCAFがANTXR1を発現するわけではない。したがって、好ましい実施形態では、ANTXR1+線維芽細胞、特にCAFの検出は、ANTXR1を発現する線維芽細胞、特にCAFの検出、好ましくはANTXR1 mRNA及び/又はタンパク質の検出に依存する。好ましい態様では、ANTXR1の検出は、タンパク質レベルで、特に抗ANTXR1抗体を用いて行われる。
【0074】
一態様では、本発明は、がんに罹患している対象からのがん試料中の免疫抑制線維芽細胞、特にがん関連線維芽細胞(CAF)を検出するインビトロ方法に関し、方法は、患者からのがん試料中のFAP+ ANTXR1+線維芽細胞、特にCAFを検出することを含む。
【0075】
ただし、ANTXR1+線維芽細胞、特にCAFに特異的な他のマーカーを使用してそれらを検出することもできる。
【0076】
本明細書で使用される場合、用語「ecm-myCAF」、「CAF-S1クラスター0」、「ANTXR1+ SDC1+ LAMP5- CAF」及び「FAP+ ANTXR1+ SDC1+ LAMP5- CAF」は互換的に使用され、CAFの亜集団、特にCAF亜集団CAF-S1のクラスターを指す。このような集団は、FAP、ANTXR1及びSDC1を発現するが、LAMP5を発現しない。したがって、好ましい実施形態では、ANTXR1+ SDC1+ LAMP5- CAFの検出は、ANTXR1及びSDC1を発現するがLAMP5を発現しないCAFの検出に依存する。ANTXR1、LAMP5及びSCD1の検出は、mRNA及び/又はタンパク質レベル、好ましくはタンパク質レベルで、特に抗体によって行うことができる。
【0077】
本明細書で使用される場合、用語「TGFb-myCAF」、「CAF-S1クラスター3」、「ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-」及び「FAP+ ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-」は互換的に使用され、CAFの亜集団、特にCAF亜集団CAF-S1のクラスターを指す。このような集団は、FAP、ANTXR1及びLAMP5を発現し、場合によりSDC1を発現する。したがって、好ましい実施形態では、ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/- CAFの検出は、ANTXR1、LAMP5及び場合によりSDC1を発現するCAFの検出に依存する。ANTXR1、LAMP5及びSCD1の検出は、mRNA及び/又はタンパク質レベル、好ましくはタンパク質レベルで、特に抗体によって行うことができる。
【0078】
本明細書で使用される場合、用語「wound-myCAF」、「CAF-S1クラスター4」、「ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+」及び「FAP+ ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+」は互換的に使用され、CAFの亜集団、特にCAF亜集団CAF-S1のクラスターを指す。このような集団は、FAP、ANTXR1及びCD9を発現するが、LAMP5及びSDC1を発現しない。したがって、好ましい実施形態では、ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+ CAFの検出は、ANTXR1及びCD9を発現するがSDC1及びLAMP5を発現しないCAFの検出に依存する。ANTXR1、LAMP5、CD9及びSCD1の検出は、mRNA及び/又はタンパク質レベル、好ましくはタンパク質レベルで、特に抗体によって行うことができる。
【0079】
一態様では、本発明は、がんに罹患している対象からのがん試料中の免疫抑制線維芽細胞、特にがん関連線維芽細胞(CAF)を検出するインビトロ方法に関し、方法は、患者からのがん試料中のecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及び/又はwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のTGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)及びTGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のTGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFを検出することを含む。
【0080】
一実施形態では、線維芽細胞、特にCAFは、そのmRNAのレベル及び/又はそのタンパク質のレベルが、対応するバックグラウンドノイズのレベルと有意に異なる場合、例えば、同じ条件であるが細胞が存在しない条件で測定されたレベル、及び/又は対照条件に対応するレベル、又は参照のRNA又はタンパク質、例えば、同じ条件で測定されたが、それぞれFAP、ANTXR1、LAMP5、SDC1及び/又はCD9を発現しないことが知られている細胞で測定されたレベルと有意に異なる場合、FAP、ANTXR1、LAMP5、SDC1及び/又はCD9を発現していると考えられる。
【0081】
線維芽細胞、特にCAFにおけるFAP、ANTXR1、LAMP5、SDC1及び/又はCD9発現レベルの測定は、当業者によって周知の様々な技術によって実施することができる。特に、CAFにおけるFAP、ANTXR1、LAMP5、SDC1及び/又はCD9の発現レベルの測定は、FAP、ANTXR1、LAMP5、SDC1及び/又はCD9 mRNA(メッセンジャーRNA)又はタンパク質の検出に依存する可能性がある。
【0082】
一態様では、線維芽細胞、特にCAFにおけるFAP、ANTXR1、LAMP5、SDC1及び/又はCD9の発現は、それらのmRNAの発現を測定することによって決定される。細胞中のmRNAの量を決定する方法は、当業者によって周知である。mRNAは、ハイブリダイゼーション(例えば、ノーザンブロット分析)によって、特にナノストリング法及び/又は増幅(例えば、RT-PCR)、特に定量的又は半定量的RT-PCRによって検出することができる。増幅の他の方法には、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写媒介増幅(TMA)、鎖置換増幅(SDA)及び核酸配列ベースの増幅(NASBA)が含まれる。
【0083】
リアルタイム定量又は半定量RT-PCRが特に有利である。目的の転写物のタンパクに特異的なTaqmanプローブを使用してもよい。好ましい実施形態では、FAP、ANTXR1、LAMP5、SDC1及び/又はCD9並びに目的のあらゆる他のタンパク質の発現レベルは、それらのmRNAの量を測定することによって、好ましくは定量的若しくは半定量的RT-PCRによって、又はリアルタイムの定量的若しくは半定量的RT-PCRによって決定される。
【0084】
本明細書で使用される場合、用語「定量的RT-PCR」、「qRT-PCR」、「リアルタイムRT-PCR」及び「定量的リアルタイムRT-PCR」は同等であり、互換的に使用することができる。公開された定量的RT-PCRプロトコルのいずれかを、本方法で使用するために使用することができる(及び必要に応じて修正することができる)。適切な定量的RT-PCR手順としては、米国特許第5,618,703号及び米国特許出願第2005/0048542号、参照により本明細書に組み込まれる、に提示されるものが挙げられるがこれらに限定されない。
【0085】
場合により、ANTXR1、FAP、LAMP5、SDC1及び/又はCD9は、腫瘍試料上、又は線維芽細胞、特にCAFを含む腫瘍のサブセット上で決定することができる。したがって、腫瘍の他の細胞、特に腫瘍細胞から線維芽細胞、特にCAFを単離するために、腫瘍を事前に処置し、その後、ANTXR1、FAP、LAMP5、SDC1及び/又はCD9を検出することができる。したがって、本発明は、がんに罹患している対象のがん試料中の免疫抑制線維芽細胞、特にCAFを検出する方法に関し得、方法は、対象のがん試料の線維芽細胞、特にCAFを、特に腫瘍細胞から単離し、単離された線維芽細胞、特にCAFのANTXR1+線維芽細胞、特にCAFをそれぞれ検出することを含む。
【0086】
別の態様では、線維芽細胞、特にCAFのANTXR1、FAP、LAMP5、SDC1及び/又はCD9の発現レベルは、それらのそれぞれのタンパク質の発現を測定することによって決定される。
【0087】
タンパク質の量は、当業者に周知のあらゆる方法により測定することができる。通常、これらの方法は、試料に存在するタンパク質と選択的に相互作用することができる結合パートナーに試料を接触させることを含む。結合パートナーは、一般に、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であり、好ましくはモノクローナル抗体である。このような抗体は、当業者に周知の方法を通じて作製することができる。この抗体には、特にハイブリドーマにより産生されるもの、及び抗体をコードする遺伝子を保持する組換え発現ベクターで形質転換された宿主細胞を用いた遺伝子工学により産生されるものが含まれる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、以下のように得ることができる:タンパク質又はその免疫原性断片は、通常の免疫方法に従って免疫のための抗原として使用される。得られた免疫細胞は、従来の細胞融合法に従って周知の親細胞と融合され、抗体を産生する細胞は、したがって、従来のスクリーニング方法を用いて融合細胞からスクリーニングされる。
【0088】
本発明による抗体は、標識及び/又は検出実体に融合させることができる。好ましくは、本発明による抗体は、標識され、又は検出実体に融合される。
【0089】
好ましい実施形態では、抗体は標識される。抗体は、放射性標識、酵素標識、蛍光標識、ビオチン-アビジン標識、化学発光標識等からなる群から選択される標識で標識することができる。本発明による抗体は、当業者に周知の標準的な標識技術によって標識することができ、標識抗体は周知の方法を用いて可視化することができる。特に、標識は一般に、蛍光、化学発光、放射能、比色、質量分析、X線回折又は吸収、磁気、酵素活性等によって検出可能なシグナルを提供する。
【0090】
好ましくは、検出可能な標識は、発光標識であってもよい。例えば、蛍光標識、生物発光標識、化学発光標識、及び比色標識が本発明の実施に使用されてもよく、より好ましくは蛍光標識である。好ましくは、標識は抗体のC末端端部に連結される。
【0091】
別の好ましい実施形態では、上記の抗体は、検出実体に融合することができる。検出実体は、タグ、酵素又は蛍光タンパク質からなる群から選択することができる。検出実体は、抗体のC末端端部にあることが好ましい。
【0092】
ANTXR1、FAP、LAMP5、SDC1及び/又はCD9の量は、半定量的なウェスタンブロット、ELISA等の酵素標識及び媒介イムノアッセイ、ビオチン/アビジンタイプアッセイ、ラジオイムノアッセイ、免疫組織化学、免疫電気泳動又は免疫沈降、タンパク質又は抗体アレイ、又は蛍光活性化細胞選別(FACS)等のフローサイトメトリーによって測定することができる。反応には、一般に、蛍光、化学発光、放射性、酵素標識又は色素分子のような標識を明らかにすること、又は抗原と抗体又はそれと反応した抗体との間の複合体の形成を検出するための他の方法が含まれる。好ましくは、タンパク質発現レベルは、FACS又は免疫組織化学によって評価される。
【0093】
蛍光活性化細胞選別(FACS)は、特殊なタイプのフローサイトメトリーである。FACSは、各細胞の特定の光散乱及び蛍光特徴に基づいて、生物学的細胞の不均一な混合物を一度に1細胞ずつ2つ以上の容器に分類する方法を提供する。細胞懸濁液を、狭くて急速に流れる液体の流れの中心に含める。流れは、それらの直径に比べて細胞間が大きく離れるように配置される。振動機構により、細胞の流れが個々の液滴に分裂する。システムは、液滴ごとに複数の細胞が存在する確率が低くなるように調整される。流れが液滴に分裂する直前に、流れは蛍光測定ステーションを通過し、そこで目的の各細胞の蛍光特徴が測定される。充電リングは、流れが液滴に分裂するポイントに配置される。蛍光強度が測定される直前に電荷がリング上に置かれ、反対の電荷が流れから切断されるときに液滴にトラップされる。帯電した液滴は、電荷に基づいて液滴を容器に迂回させる静電偏向システムを通過する。
【0094】
免疫組織化学(IHC)とは、生体組織内の抗原に特異的に結合する抗体の原理を利用して、組織切片の細胞内の抗原(タンパク質等)を選択的にイメージングするプロセスを指す。抗体-抗原相互作用の視覚化は、当業者によって周知のいくつかの方法で達成することができる。最も一般的な例では、抗体は、発色反応を触媒することができるペルオキシダーゼ等の酵素にコンジュゲートされているか、又はフルオレセインやローダミン等の蛍光色素によってタグ付けされている。免疫組織化学は、試料の調製と試料の標識の2つのフェーズに分けることができる。
【0095】
試料の調製は、細胞の形態、組織構造、及び標的エピトープの抗原性を維持するために重要である。これには、適切な組織の収集、固定、及び切片化が必要である。パラホルムアルデヒドの溶液は、組織を固定するためにしばしば使用されるが、他の方法を使用してもよい。その後、組織は、実験の目的又は組織自体に応じて、スライス又は全体を使用することができる。切片化の前に、組織試料をパラフィンワックス又はクライオメディア等の培地に包埋してもよい。切片は、さまざまな器具、最も一般的にはミクロトーム、クライオスタット、又は圧縮トーム組織スライサーでスライスすることができる。標本は通常、3μm~50μmの範囲でスライスされる。次に、スライスをスライドにマウントし、濃度を上げるアルコール洗浄(例えば、50%、75%、90%、95%、100%)を使用して脱水し、キシレンのような洗剤を使用して透明にしてから顕微鏡で画像化する。固定及び組織保存の方法によっては、試料は、エピトープを抗体結合に利用できるようにするために、脱パラフィン及び抗原賦活化を含む追加の工程を必要とする場合がある。ホルマリン固定パラフィン包埋組織では、抗原賦活化が必要になることが多く、切片を熱又はプロテアーゼで前処理することを伴う。これらの工程は、標的抗原染色と非染色とで差が生じる場合がある。組織の種類と抗原検出の方法によっては、抗体染色の前に、内因性のビオチン又は酵素をそれぞれブロック又はクエンチする必要があり得る。抗体は特異的エピトープに対して優先的な結合活性を示すが、標的抗原上の同族結合部位に類似した非特異的タンパク質上の部位(反応部位とも呼ばれる)に部分的又は弱く結合する場合がある。IHCのバックグラウンド染色を減らすために、一次抗体又は二次抗体が結合し得る反応部位をブロックするバッファで試料をインキュベートする。一般的なブロッキングバッファーには、通常な血清、脱脂粉乳、BSA又はゼラチンが含まれる。バックグラウンド染色を除去する方法には、一次抗体又は二次抗体の希釈、インキュベーションの時間又は温度の変更並びに異なる検出システム又は異なる一次抗体の使用が含まれる。品質管理は、少なくとも、抗原を発現することが知られている組織をポジティブコントロールとして、及び抗原を発現しないことが知られている組織のネガティブコントロール、並びに一次抗体の省略(又はより良い、一次抗体の吸収)を使用して同じ方法でプローブされた試験組織を含むべきである。
【0096】
免疫組織化学的検出戦略では、抗体は必要に応じて一次試薬又は二次試薬に分類される。一次抗体は目的の抗原に対して産生され、典型的には非コンジュゲート型(すなわち非標識)であり、二次抗体は一次抗体種の免疫グロブリンに対して産生される。二次抗体は通常、上記のように標識及び/又は検出実体に融合される。
【0097】
直接法はワンステップ染色法であり、組織切片において抗原と直接反応する標識抗体を含む。この手法は1つの抗体のみを使用するため、シンプルで迅速であるが、間接的なアプローチとは対照的に、シグナル増幅がほとんどないため感度は低くなる。
【0098】
間接法は、組織中の標的抗原に結合する非標識一次抗体(第1層)と、一次抗体と反応する標識二次抗体(第2層)を含む。二次抗体は、一次抗体が産生された動物種のIgGに対して産生されるにちがいない。この方法は、二次抗体が蛍光又は酵素レポーターにコンジュゲートされている場合、各一次抗体にいくつかの二次抗体が結合することによるシグナル増幅のため、直接検出戦略よりも感受性が高い。二次抗体が複数のビオチン分子にコンジュゲートされる場合、更なる増幅を達成することができ、アビジン、ストレプトアビジン、又はニュートラアビジンタンパク質結合酵素の複合体を動員することができる。
【0099】
好ましくは、免疫抑制性CAFの存在は、FACSによるタンパク質発現レベル評価によって、又は実験部分に記載されるような免疫組織化学によって行われる。
【0100】
FACS又は免疫組織化学によってCAFにおけるFAP発現レベルを測定するために使用することができる抗体は、例えば、参照#MAB3715の抗ヒトFAP抗体(R&Dシステム社製)、ab53066(abcam社)、ABIN560844、Vitatex-MABS1001である。
【0101】
FACS又は免疫組織化学によってCAFにおけるANTXR1発現レベルを測定するために使用することができる抗体は、例えば、参照#NB-100-56585(Novus Biological社製)の抗ANTXR1-AF405抗体、ヒトTEM8/ANTXR1抗体MAB3886(R&Dsystem社)、ABIN252539、ANTXR1抗体(15091-1-AP、Thermo Fischer社)、NB-100-56585(Novus社)、MA1-91702(Thermo Fischer社)、ab21270(Abcam社)、LS-B13896(Life span bioscience社)、rb158588(Biorbyt社)、bs-5210R(Bioss社)又は代替標識、特に蛍光標識を有するこれらの抗体のいずれかである。
【0102】
FACS又は免疫組織化学によってCAFにおけるLAMP5発現レベルを測定するために使用することができる抗体は、例えば、参照#130-109-156(Miltenyi Biotech社製)の抗LAMP5-PE抗体である。
【0103】
FACS又は免疫組織化学によってCAFのSDC1発現レベルを測定するために使用することができる抗体は、例えば、参照#BD-564393(BD Biosciences社製)、ABIN5680139の抗SDC1-BUV737抗体である。
【0104】
FACS又は免疫組織化学によってCAFのCD9発現レベルを測定するために使用することができる抗体は、例えば、参照#BD-743050(BD Biosciences社製)、LS-B5962(LSBio社)又はAB_2075893(BioLegend社)の抗CD9-BV711抗体である。
【0105】
好ましい実施形態では、患者のがん試料中のFACSによるANTXR1+ CAFの検出は、以下の工程を含んでもよい:
- 例えばCD45+細胞、EpCAM+細胞及びCD31+細胞を除外し、それによってCD45- EpCAM- CD31-細胞を選択することによる、非CAF細胞の除外、並びに/又は
- CAF細胞の選択、例えばCD29+細胞及び/又はPDGFRb+細胞の選択、好ましくはCD29+細胞の選択、
- 場合によりCAF-S1細胞の選択、例えばCD29+、FAP+、αSMA+、PDGFRβ+及び/又はFSP1+細胞、好ましくはFAP+細胞の選択、
- 場合により、例えばバイオレットLIVE/DEAD色素又はDAPIのような細胞内色素を使用し、染色された細胞を除外することによる、死細胞の排除、並びに
- 先の工程で得られた細胞中のANTXR1+ CAFの検出、
- 場合により、LAMP5、SDC1及び/又はCD9陽性又は陰性細胞の検出。
【0106】
別の好ましい実施形態では、患者のがん試料中の免疫組織化学によるANTXR1+ CAFの検出は、以下の工程を含んでもよい:
- 例えば形態学的基準に基づくがん試料中のCAFの同定、
- 好ましくはANTXR1抗体免疫染色に基づいたCAFの中でもANTXR1+ CAFの検出、
- 場合により、好ましくはFAP抗体免疫染色に基づいたCAFの中でもFAP+ CAFの検出、
- 場合により、LAMP5、SDC1及び/又はCD9陽性又は陰性細胞の検出。
【0107】
一態様では、免疫抑制線維芽細胞、特にCAFの存在は、腫瘍試料又はそのあらゆる画分における免疫抑制線維芽細胞、特にCAFの量、試料又はそのあらゆる画分の細胞の総数に対するANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFの細胞数の比又は割合を指し、試料の間質細胞の総数又はそのあらゆる画分に対するANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFの細胞数の比又は割合、試料中の線維芽細胞の総数に対するANTXR1+線維芽細胞の細胞数の比又は割合、試料中の線維芽細胞の総数に対するANTXR1+線維芽細胞の細胞数の比又は割合、試料又はそのあらゆる画分のCAF細胞の総数に対するANTXR1+ CAFの細胞数の比又は割合、又は試料又はそのあらゆる画分のCAF-S1細胞の総数に対するANTXR1+ CAFの細胞数の比又は割合を指す。
【0108】
好ましくは、「腫瘍中のANTXR1+線維芽細胞の割合」という用語は、ANTXR1+線維芽細胞の数を分子(nominator)として、及び参照細胞の数を分母として有するあらゆる比を指し得る。好ましくは、「腫瘍中のANTXR1+CAFの割合」という用語は、ANTXR1+ CAFの数を分子(nominator)として、及び参照細胞の数を分母として有するあらゆる比を指し得る。がん試料において、このような参照細胞は、特に、がん試料の全ての細胞、がん細胞、間質細胞、CAF細胞及びCAF-S1細胞からなる群から選択することができる。
【0109】
「低い割合のANTXR1+線維芽細胞」又は「低い割合のANTXR1+線維芽細胞」は、20%、10%、5%、2%、1%、0.5%又は0.1%未満に相当する。
【0110】
「高い割合のANTXR1+線維芽細胞」又は「高い割合のANTXR1+線維芽細胞」は、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%超に相当する。
【0111】
第1の態様では、患者のがん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にCAFの存在は、がん試料中の細胞の総数に対するANTXR1+線維芽細胞、特にCAF細胞の数を表す。好ましくは、ANTXR1+線維芽細胞、特にCAFの存在は、少なくとも0.001%、0.01%、0.1%、1%、5%、10%、20%又は30%の割合に相当する。
【0112】
第2の態様では、患者のがん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にCAFの存在は、がん試料中の間質細胞の総数に対するANTXR1+線維芽細胞、特にCAF細胞の数を表す。好ましくは、ATXR1+線維芽細胞、特にCAFの存在は、少なくとも0.001%、0.1%、1%、5%、10%、20%又は30%の割合に相当する。
【0113】
第3の態様では、患者のがん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にCAFの存在は、がん試料中のCAF細胞の総数に対するANTXR1+線維芽細胞、特にCAF細胞の数を表す。好ましくは、ATXR1+線維芽細胞、特にCAFの存在は、少なくとも0.1%、1%、5%、10%、20%、30%、40%又は50%の割合に相当する。
【0114】
第4の態様では、患者のがん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にCAFの存在は、がん試料中のCAF-S1細胞の総数に対するANTXR1+線維芽細胞、特にCAF細胞の数を表す。好ましくは、ATXR1+線維芽細胞、特にCAFの存在は、少なくとも0.1%、1%、5%、10%、20%、30%、40%又は50%の割合に相当する。
【0115】
ある態様では、がん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にCAFの存在、例えば、がん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にCAFの割合は、免疫療法治療に対する患者の応答性に反比例し、場合により、方法は、免疫療法治療に適したものとしてがん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にCAFを有しないか又は低い割合で有する患者を選択すること、並びに/又はANTXR1+線維芽細胞、特にCAFによって誘発される免疫抑制を減少させる治療と組み合わされた免疫療法若しくは免疫療法治療を除外する抗がん治療のような代替治療のためのがん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にCAFの割合が中程度若しくは高い割合の患者を選択することを更に含む。
【0116】
「反比例」とは、がん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にCAFが多いほど、がんに罹患している対象が免疫療法に応答することが少ないことを意味する。これらの用語は、必ずしも直接的で測定可能な相関要因を意味するものではない。
【0117】
一態様では、本発明は、免疫療法治療に対するがんに罹患している対象の応答を予測するインビトロ方法に関し、方法は、患者のがん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にCAFを検出することを含み、がん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にCAFは、免疫療法治療に対する患者の非応答性を示す又は予測する。特に、がん試料中に検出されるANTXR1+線維芽細胞、特にCAFが多いほど、患者は免疫療法治療に応答する感受性が低い。
【0118】
場合により、ANTXR1+線維芽細胞はANTXR1+ CAFである。場合により、ANTXR1+線維芽細胞はFAP+線維芽細胞である。場合により、ANTXR1+ CAFはFAP+ ANTXR1+ CAFである。
【0119】
確かに、本発明は、免疫療法に対する対象の応答を予測するために、がんに罹患している対象の腫瘍のバイオマーカーとして、線維芽細胞集団にANTXR1特にCAFを使用することに関する。
【0120】
場合により、本発明は、免疫療法治療に対するがんに罹患している対象の応答を予測するインビトロ方法に関し、方法は、(a)患者のがん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFを検出することを含み、がん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にCAFは、免疫療法治療に対する患者の非応答性を示す又は予測すること、(b)場合により、免疫療法治療に適したANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFを有しない患者を選択すること、並びに/又はANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFによって誘発される免疫発現を減少させる治療と組み合わされた免疫療法若しくは免疫療法治療を除外した抗がん治療のような代替治療のために、ANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+CAF線維芽細胞を有する患者を選択することを含む。
【0121】
場合により、方法は、患者のがん試料のFAP+ ANTXR1+線維芽細胞又はCAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及び/又はwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のTGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)及びTGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のTGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFを検出することを含む。
【0122】
一態様では、CAF亜集団は、特定の遺伝子シグネチャーによって検出される。「遺伝子シグネチャー」又は「遺伝子発現シグネチャー」は、細胞、特に線維芽細胞における単一又は遺伝子群であり、遺伝子発現の独特の特徴的なパターンを有する。特に、遺伝子シグネチャーは、特定の遺伝子の調節解除、特に遺伝子の過剰発現に対応する。
【0123】
一態様では、ecm-myCAF遺伝子シグネチャーは、以下の遺伝子を含む:
ASPN、COL3A1、THY1、SFRP2、COL10A1、COL6A3、LRRC17、CILP、GRP、ITGBL1、COL8A1、COL14A1、ADAM12、OLFML2B、ELN、PLPP4、CREB3L1、FBN1、LOXL1、MATN3、LRRC15、COMP、ISLR、P3H1、COL11A1、SEPT11、NBL1、SPON1、SULF1、FNDC1、CNN1、MIAT、MMP23B、CPXM1、FIBIN、P4HA3、GXYLT2、CILP2、P3H4及びCCDC80。特定の態様では、ecm-myCAF遺伝子シグネチャーは、以下の遺伝子を更に含む:FAP及び/又はANTXR1。
【0124】
一態様では、TGFβ-myCAF遺伝子シグネチャーは、以下の遺伝子を含む:
CST1、LAMP5、LOXL1、EDNRA、TGFB1、TGFB3、TNN、CST2、HES4、COL10A1、ELN、THBS4、NKD2、OLFM2、COL6A3、LRRC17、COL3A1、THY1、HTRA3、TMEM204、SEPT11、COMP、TNFAIP6、ID4、GGT5、INAFM1、CILP及びOLFML2B。特定の態様では、TGFβ-myCAF遺伝子シグネチャーは、以下の遺伝子を更に含む:FAP及び/又はANTXR1。
【0125】
一態様では、wound-myCAF遺伝子シグネチャーは、以下の遺伝子を含む:
SFRP4、CCDC80、OGN、DCN、PTGER3、SFRP2、PDGFRL、SMOC2、MMP23B、CPXM2、COL14A1、ITGBL1、WISP2、CILP2、COL8A1、GAS1、COL3A1、OMD、COL11A1、CILP、NEXN、ASPN、RARRES2、FIBIN、TMEM119、KERA、ID4、GRP、COMP、DPT、ELN、FBLN2、IGF1及びIGF2。特定の態様では、wound-myCAF遺伝子シグネチャーは、以下の遺伝子を更に含む:FAP及び/又はANTXR1。
【0126】
したがって、本開示の方法では、ecm-myCAF、TGFβ-myCAF及び/又はwound-myCAFは、ecm-myCAF、TGFβ-myCAF及び/又はwound-myCAFに特異的な遺伝子シグネチャーを含む遺伝子の発現を決定することによって検出され、その過剰発現は、これらのCAF亜集団の存在を示す。場合により、遺伝子シグネチャーは、追加の遺伝子を含み得るが、50個以下の遺伝子、特に40個以下の遺伝子を含み得る。
【0127】
本発明は更に、ecm-myCAF、TGFβ-myCAF及び/又はwound-myCAF亜集団を検出するため、特に免疫抑制性CAFの存在を検出するため、及び/又は免疫療法による治療に対する応答を予測するためのこれらの遺伝子シグネチャーの使用に関する。
【0128】
場合により、遺伝子シグネチャーの発現を決定する前に、非CAF細胞を除去するために、試料を処理することができる。
【0129】
「過剰発現された」又は「過剰発現」とは、核酸レベル、特にmRNAレベルで測定される発現レベルを指す。発現レベルは、当業者に周知のあらゆる方法により測定することができる。遺伝子は、その発現が、参照のレベルと比較した場合、少なくともlog2だけ増加する場合、過剰発現する。参照のレベルは、対照細胞又は細胞における遺伝子の発現であり得、対照は、例えば、線維芽細胞の集団、特にCAF、好ましくはFAP+ CAFの集団である。特定の態様において、対照細胞は、ecm-myCAF(クラスター0)、TGFβ-myCAF(クラスター3)及び/又はwound-myCAF(4)ではないCAFのクラスター、例えばdetox-iCAF(クラスター1)、IL-iCAF(クラスター2)、IFNγ-iCAF(クラスター5)、IFNαβ-myCAF(クラスター6)及びacto-myCAF(クラスター7)、又はそれらの任意の組み合わせである。
【0130】
ecm-myCAF、TGFβ-myCAF及び/又はwound-myCAF亜集団に特異的なこれらの遺伝子シグネチャーは、当業者によって周知の他の遺伝子シグネチャー、特に応答予測又はがん診断に関連する遺伝子シグネチャーと組み合わせて使用することができる。
【0131】
別の実施形態では、本発明は、免疫療法治療に対するがんに罹患している対象の応答を予測するインビトロ方法に関するものであり、方法は、
(a)患者のがん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFを検出すること、
(b)がん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFの割合を決定することであって、免疫療法治療に対する患者の応答性は、がん試料中のANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFの割合に反比例する、こと、
(c)場合により、免疫療法治療に適したANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFを有しない特定の患者において、低い割合のANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFを有する患者を選択し、ANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFによって誘発される免疫抑制を減少させる治療と組み合わされた免疫療法若しくは免疫療法治療を除外した抗がん治療のような代替治療について、中程度若しくは高い割合のANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFを有する患者を選択すること
を含む。
【0132】
場合により、方法は、患者のがん試料のFAP+ ANTXR1+線維芽細胞又はCAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及び/又はwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のTGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)及びTGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のTGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、患者のがん試料のecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFを検出することを含む。場合により、方法は、工程(a)の前にこの患者からのがん試料を提供する工程を更に含んでもよい。
【0133】
場合により、方法は、低い割合のANTXR1+線維芽細胞又はCAFを有する患者に免疫療法治療を投与する工程を更に含んでもよい。或いは、方法は、高い割合のANTXR1+線維芽細胞又はCAFを有する患者に代替抗がん治療を投与する工程を更に含んでもよく、代替治療は、ANTXR1+線維芽細胞又はCAFによって誘発される免疫抑制を減少させる治療と組み合わせた免疫療法又は免疫療法治療を除く抗がん治療である。投与される治療は、外科手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、標的療法及び緩和ケア又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され得る。代替的に又は追加的に、方法は、ANTXR1+線維芽細胞又はCAFによって誘導される免疫抑制を減少させる治療と組み合わせた免疫療法治療を投与する工程を更に含み得る。
【0134】
別の特定の態様では、本発明はまた、免疫療法治療のために腫瘍に罹患した患者を選択し、又は腫瘍に罹患した患者が免疫療法治療の恩恵を受けやすいかどうかを決定する方法に関し、方法は、患者のがん試料中のANTXR1+線維芽細胞又はCAFの存在を決定すること、場合により、免疫療法治療について、ANTXR1+線維芽細胞又はCAFを有しない患者、又は低い割合のANTXR1+線維芽細胞又はCAFを有する患者を選択することを含む。
【0135】
場合により、方法は、この患者のがん試料を提供する事前の工程を更に含む。
【0136】
更に別の特定の態様では、本発明はまたANTXR1+線維芽細胞又はCAFによって誘発される免疫抑制を減少させる治療と組み合わせた免疫療法又は免疫療法治療を除く抗がん治療のような代替治療について、腫瘍に罹患した患者を選択する方法に関し、又は腫瘍に罹患した患者がANTXR1+線維芽細胞又はCAFによって誘発される免疫抑制を減少させる治療と組み合わせた免疫療法又は免疫療法治療を除く抗がん治療のような代替治療の恩恵を受けやすいかどうかを決定する方法に関し、方法は、患者のがん試料にANTXR1+線維芽細胞又はCAFの存在を決定することを含み、場合により、このような代替治療について、ANTXR1+ CAFを有する患者若しくは高い割合のANTXR1+線維芽細胞若しくはCAFを有する患者を選択することを含む。
【0137】
場合により、ANTXR1+線維芽細胞又はCAFは、FAP+ ANTXR1+線維芽細胞又はCAFである。好ましくは、ANTXR1+ CAFは、FAP+ ANTXR1+ CAF、FAP+ ANTXR1+ LAMP5- SDC1+ CAF、FAP+ ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/- CAF及びANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+からなる群から選択され、好ましくは、FAP+ ANTXR1+ LAMP5- SDC1+ CAF及び/又はFAP+ ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/- CAFである。
【0138】
場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFはwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)及びTGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。
【0139】
更に別の実施形態では、本発明は、免疫療法のための患者を選択する方法に関し、方法は、
(a)患者のがん試料中のANTXR1+線維芽細胞又はCAFを検出すること、
(b)がん試料中のANTXR1+線維芽細胞又はCAFの割合を決定すること
を含み、ANTXR1+ CAFの割合が25%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満、更により好ましくは5%未満、更により好ましくは1%未満、更により好ましくは0.5%未満であることは、免疫療法治療に対する患者の応答性を予測する。
【0140】
この方法は、免疫療法を投与する工程c)を更に含んでもよく、好ましくは、免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤である。
【0141】
場合により、方法は、この患者のがん試料を提供する事前の工程を更に含む。
【0142】
更に別の実施形態において、本発明は、代替抗がん治療のための患者を選択し、特に免疫療法を除外する方法に関し、又は方法は、
(a)患者のがん試料中のANTXR1+線維芽細胞又はCAFを検出すること、
(b)がん試料中のANTXR1+線維芽細胞又はCAFの割合を決定すること
を含み、ANTXR1+ CAFの割合が1%超、好ましくは5%超、より好ましくは10%超、更により好ましくは20%超、更により好ましくは30%超、更により好ましくは40%超であることは、免疫療法治療に対する患者の非応答性を示す又は予測する。
【0143】
方法は、好ましくは、外科手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、標的療法及び緩和ケア又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される代替治療を投与する工程(c)を更に含んでもよい。代替的に又は追加的に、方法は、ANTXR1+線維芽細胞又はCAFによって誘導される免疫抑制を減少させる治療と組み合わせた免疫療法治療を投与する工程を更に含み得る。
【0144】
場合により、方法は、この患者のがん試料を提供する事前の工程を更に含む。
【0145】
本発明は更に、患者のがんの治療に使用するための免疫療法治療に関し、患者は、(a)低い数若しくは割合のANTXR1+線維芽細胞若しくはCAFを有する又は(b)ANTXR1+線維芽細胞若しくはCAFを有しないがん試料を提示する。本発明はまた、患者のがんの治療のための医薬を製造するための免疫療法治療の使用に関し、患者は、(a)低い数若しくは割合のANTXR1+線維芽細胞若しくはCAFを有する又は(b)ANTXR1+線維芽細胞若しくはCAFを有しないがん試料を提示する。本発明は更に、患者のがんの治療方法に関し、方法は、(a)低い数若しくは割合のANTXR1+線維芽細胞若しくはCAFを有する又は(b)ANTXR1+線維芽細胞若しくはCAFを有しない患者の選択を含み、並びに治療有効量の免疫療法治療の投与を含む。
【0146】
場合により、ANTXR1+線維芽細胞又はCAFは、FAP+ ANTXR1+線維芽細胞又はCAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFはwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)及びTGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。
【0147】
免疫療法治療
本発明による免疫抑制線維芽細胞、特に免疫抑制性CAFは、免疫療法に対する応答の予測又は評価に用いることができる。
【0148】
好ましくは、免疫療法治療は、悪性腫瘍細胞を攻撃するように患者の免疫系を刺激する治療的処置、例えばがんワクチンの投与、サイトカイン等の免疫系を刺激する分子の投与、薬物としての治療用抗体、好ましくはモノクローナル抗体、特に腫瘍細胞の膜に特異的に提示される若しくは過剰発現される抗原に対する抗体、又は腫瘍増殖を遮断予防する細胞受容体に対して向けられる抗体の投与による、腫瘍抗原による患者の免疫化、養子T細胞療法、免疫チェックポイント阻害剤治療、並びにそれらの任意の組み合わせ、好ましくは免疫チェックポイント阻害剤治療からなる群から選択される。
【0149】
好ましい実施形態では、免疫療法治療は、免疫チェックポイント阻害剤治療であり、好ましくはイピリムマブ等の抗CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4)に対する抗体、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、又はBGB-A317等のPD-1(プログラム細胞死タンパク質1)に対する抗体、アテゾリズマブ、アベルマブ若しくはデュルバルマブのようなPDL1(プログラム細胞死リガンド)に対する抗体、BMS-986016のようなLAG-3(リンパ球活性化遺伝子3)に対する抗体、TIM-3(T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有-3)に対する抗体、TIGIT(Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体)に対する抗体、BLTA(B及びTリンパ球アテニュエーター)に対する抗体、エパカドスタットのようなIDO1阻害剤、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0150】
最も好ましい態様では、免疫療法は免疫チェックポイント阻害剤療法であり、免疫チェックポイントは、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質(CTLA-4)、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)、プログラム細胞死リガンド(PD-L1)、Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体(TIGIT)、リンパ球活性化遺伝子3(LAG-3)、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有-3(TIM-3)、B-及びTリンパ球アテニュエーター(BLTA)、IDO1阻害剤、又はそれらの任意の組み合わせに対する抗体からなる群から選択され、好ましくはCTLA-4、PD-1及びTIGITに対する抗体、又はそれらの任意の組み合わせ、より好ましくはPD-1又はCTLA-4及びそれらの組み合わせに対する抗体からなる群から選択される。
【0151】
いくつかの抗PD-1抗体はすでに臨床的に承認されており、他の抗体はまだ臨床開発中である。例えば、抗PD1抗体は、ペムブロリズマブ(別名キイトルーダ・ランブロリズマブ、MK-3475)、ニボルマブ(オプジーボ、MDX-1106、BMS-936558、ONO-4538)、ピジリズマブ(CT-011)、セミプリマブ(リブタヨ)、カムレリズマブ、AUNP12、AMP-224、AGEN-2034、BGB-A317(チスレイズマブ)、PDR001(スパルタリズマブ)、MK-3477、SCH-900475、PF-06801591、JNJ-63723283、ジェノリムズマブ(CBT-501)、LZM-009、BCD-100、SHR-1201、BAT-1306、AK-103(HX-008)、MEDI-0680(AMP-514としても知られる)、MEDI0608、JS001(Si-Yang Liuら、J. Hematol.Oncol.10:136(2017)参照)、BI-754091、CBT-501、INCSHR1210(別名SHR-1210)、TSR-042(別名ANB011)、GLS-010(別名WBP3055)、AM-0001(アルモ)、STI-1110(国際公開第2014/194302号参照)、AGEN2034(国際公開第2017/040790号参照)、MGA012(国際公開第2017/19846号参照)、又はIBI308(国際公開第2017/024465号、国際公開第2017/025016号、国際公開第2017/132825号、及び国際公開第2017/133540号参照)、モノクローナル抗体5C4、17D8、2D3、4H1、4A11、7D3、5F4、国際公開第2006/121168号に記載されている、からなる群から選択することができる。PD-1を標的とする二機能性又は二重特異性分子は、RG7769(Roche社)、XmAb20717(Xencor社)、MEDI5752(AstraZeneca社)、FS118(F-star社)、SL-279252(武田薬品社)、XmAb23104(Xencor社)等も知られている。
【0152】
CTLA-4及びCTLA-4を標的とする二機能性又は二重特異性分子に対する抗体も、イピリムマブ、トレメリムマブ、MK-1308、AGEN-1884、XmAb20717(Xencor社)、MEDI5752(AstraZeneca社)等も知られている。
【0153】
TIGITに対する抗体も技術分野で周知であり、例えば、国際公開第19232484号に開示されているように、BMS-986207又はAB154、BMS-986207 CPA.9.086、CHA.9.547.18、CPA.9.018、CPA.9.027、CPA.9.049、CPA.9.057、CPA.9.059、CPA.9.083、CPA.9.089、CPA.9.093、CPA.9.101、CPA.9.103、CHA.9.536.1、CHA.9.536.3、CHA.9.536.4、CHA.9.536.5、CHA.9.536.6、CHA.9.536.7、CHA.9.536.8、CHA.9.560.1、CHA.9.560.3、CHA.9.560.4、CHA.9.560.5、CHA.9.560.6、CHA.9.560.7、CHA.9.560.8、CHA.9.546.1、CHA.9.547.1、CHA.9.547.2、CHA.9.547.3、CHA.9.547.4、CHA.9.547.6、CHA.9.547.7、CHA.9.547.8、CHA.9.547.9、CHA.9.547.13、CHA.9.541.1、CHA.9.541.3、CHA.9.541.4、CHA.9.541.5、CHA.9.541.6、CHA.9.541.7、及びCHA.9.541.8である。抗TIGIT抗体はまた、国際公開第16028656号、国際公開第16106302号、国際公開第16191643号、国際公開第17030823号、国際公開第17037707号、国際公開第17053748号、国際公開第17152088号、国際公開第18033798号、国際公開第18102536号、国際公開第18102746号、国際公開第18160704号、国際公開第18200430号、国際公開第18204363号、国際公開第19023504号、国際公開第19062832号、国際公開第19129221号、国際公開第19129261号、国際公開第19137548号、国際公開第19152574号、国際公開第19154415号、国際公開第19168382号及び国際公開第19215728号に開示されている。
【0154】
好ましくは、免疫療法剤は、イピリムマブ、ニボルマブ、BGB-A317、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ又はデュルバルマブ、BMS-986016、及びエパカドスタット、又はこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0155】
ANTXR1+線維芽細胞又はCAF標的化剤
別の態様では、本発明はまた、がんを有する対象の治療のための免疫療法治療と組み合わせたその使用のための、又はがんを有する対象におけるその使用のための、ANTXR1+線維芽細胞を標的とする薬剤、FAP+線維芽細胞を標的とする薬剤、又はそれを含む医薬組成物に関し、対象は、特に対象の腫瘍試料にANTXR1+線維芽細胞を有する。
【0156】
実際、ANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFによって誘発される免疫抑制を低下させる治療は、例えば、ANTXR1+線維芽細胞又はCAFを標的とする薬剤又はFAP阻害剤であり得る。
【0157】
本発明はまた、ANTXR1+ CAF若しくはFAP+ CAFを標的とする薬剤、又はそれを含む医薬組成物に関し、がんを有する対象の治療のための免疫療法治療と組み合わせて使用するために、又はがんを有する対象に使用され、対象は特に対象の腫瘍試料にANTXR1+ CAFを有している。より詳細には、FAP阻害剤を使用する場合、対象はANTXR1+ FAP+線維芽細胞、特にANTXR1+ FAP+ CAFを有している。
【0158】
本発明はまた、がんを有する対象の治療のための医薬を製造するために、場合により、免疫療法治療と組み合わせたANTXR1+ CAF若しくはFAP+ CAFを標的とする薬剤の使用に関し、特に、対象は、対象の腫瘍試料にANTXR1+線維芽細胞若しくはCAFを有している。更なる態様では、本発明は、特に対象の腫瘍試料において、がんを有する対象、特にANTXR1+線維芽細胞又はCAFを有している対象の治療のための、ANTXR1+ CAF又はFAP+ CAFを標的とする薬剤の組み合わせの使用に関する。本発明は、がんを有する対象の治療方法に関し、方法は、ANTXR1+線維芽細胞又はCAFを有する患者を選択すること、ANTXR1+ CAF又はFAP+ CAFを標的とする薬剤の治療有効量を投与することを含む。場合により、方法は、治療有効量の免疫療法治療の投与を更に含む。本発明はまた、患者、特にANTXR1+線維芽細胞又はCAFを有する患者のがんの治療に同時、別個の又は連続使用のための組み合わせ調製物として、a)ANTXR1+ CAF又はFAP+ CAFを標的とする薬剤、及びb)免疫療法剤を含む製品又はキットに関する。特に、対象は、がん試料中に中程度又は高い割合のANTXR1+線維芽細胞又はCAFを有する腫瘍試料を有している。
【0159】
本発明はまた、ANTXR1+ CAF又はFAP+ CAFを標的とする薬剤による治療のためにがんを有する患者を選択する方法に関し、方法は、上記に開示された免疫抑制線維芽細胞又はCAFを検出することと、患者が患者のがん試料中にANTXR1+線維芽細胞又はCAFを有する場合に患者を選択することを含む。
【0160】
特に、薬剤は、ANTXR1+線維芽細胞又はCAFの免疫抑制作用を抑制又は低減する。
【0161】
好ましくは、薬剤は、ANTXR1阻害剤、細胞傷害性薬物にコンジュゲートされていてもよい抗ANTXR1抗体、抗ANTXR1部分を含む多重特異的分子、抗ANTXR1 T細胞受容体(TCR)、抗ANTXR1キメラ抗原受容体(CAR)、及び抗ANTXR1 TCR若しくは抗ANTXR1 CARを発現する免疫細胞、好ましくはT細胞又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0162】
追加又は代替的に、薬剤は、FAP阻害剤、細胞傷害性薬物にコンジュゲートされていてもよい抗FAP抗体、抗FAP部分を含む多重特異的分子、抗FAP T細胞受容体(TCR)、抗FAPキメラ抗原受容体(CAR)、及び抗FAP TCR若しくは抗FAP CARを発現する免疫細胞、好ましくはT細胞又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0163】
特に、ANTXR1阻害剤は、例えばエブセレン又は酢酸フェニル水銀であり得る。
【0164】
FAP阻害剤(FAPI)は、タラボスタット、PT-100、リナグリプチン(Tradjenta)、Jansenら、ACS Med Chem Lett2013年、5月9日;4(5):491-496に開示されているようにN-(4-キノリノイル)-Gly-(2-シアノピロリジン)骨格を有するFAP阻害剤、Muellerら、J Biol Chem 1999;274:24947-52に記載されているようなMIP-1232、並びにLindnerら、EJNMMI Radiopharmacy and Chemistry(2019)4:16及びLidnerら、Journal of Nuclear Medicine、2018年4月6日発行に記載されているようなFAPI-02及びFAPI-04のようなFAP阻害剤からなる群から選択され得る。例えば、FAP阻害剤は、国際公開第20081522号、国際公開第20132661号、国際公開第20245173号、国際公開第21005125号、国際公開第21005131号、米国特許第2020246383号、国際公開第19154859号、国際公開第19083990号、国際公開第19118932号、国際公開第18111989号、国際公開第17189569号、国際公開第13107820号、国際公開第08116054号又は国際公開第07085895号に記載されており、これらの開示は参照により本明細書に組み込まれる。FAP阻害剤はまた、クロービス腫瘍学によって開発されたFAP阻害剤FAP-2286のような放射性核種(例えば、ルテチウム-177)に連結されたFAP結合ペプチドであり得る。
【0165】
特定の実施形態では、本発明は、がんを有する対象の処置のための、又はがんを有する対象の治療における使用のためのFAP阻害剤の使用に関し、対象は、特に対象の腫瘍試料中又は腫瘍の微小環境に、ANTXR1+線維芽細胞又はCAFを有している。
【0166】
一実施形態では、薬剤は、抗ANTXR1抗体又は抗FAP抗体である。本発明による抗体は、あらゆる種類の抗体であり得る。特に、抗体は、2本の重鎖及び軽鎖又はそのフラグメントを有する古典的なY字型抗体を含む、からなる、又は本質的になることができる。好ましくは、断片は、抗体の抗原結合領域又は可変領域を含む。この断片は、限定されないが、Fv、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、F(ab)3、Fv、一本鎖Fv(scFv)、di-scFv又はsc(Fv)2、dsFv、Fd、dAb、CDR、VH、VL、VHH、V-NAR、ナノボディ、ミニボディ、ダイアボディ、及び抗体断片から形成される多重特異性抗体からなる群から選択することができる。
【0167】
本発明による抗体は、単量体抗体又は多量体抗体であってもよい。特に、本発明による抗体は単量体抗体である。
【0168】
本発明による抗体は、モノクローナル又はポリクローナルであってもよい。好ましくは、本発明による抗体はモノクローナルである。
【0169】
別の好ましい実施形態では、標的化剤は、抗ANTXR1若しくは抗FAP抗体、又はペプチド結合ANTXR1若しくはFAPであり、薬物にコンジュゲートされ、好ましくは細胞傷害性薬物である。場合により、抗ANTXR1抗体又は抗FAP抗体は、阻害活性又は拮抗活性を有し得る。
【0170】
本発明による薬物は、細胞傷害性薬物であることが好ましい。本明細書に使用される場合、「細胞傷害性薬物」という用語は、細胞と接触して入ると、最終的に細胞内へのインターナリゼーション時に、有害な方法で細胞機能を変化させる分子(例えば、細胞増殖及び/又は増殖及び/又は分化並びに/又はタンパク質及び/又はDNA合成等の代謝)又は細胞死をもたらす分子を指す。本明細書に使用される場合、「細胞傷害性薬物」という用語は、毒素、特に細胞毒を包含する。
【0171】
本発明による細胞傷害性薬物は、ドラスタチン、例えばドラスチン10、ドラスチン15、オーリスタチンE、オーリスタチンEB(AEB)、オーリスタチンEFP(AEFP)、モノメチルオーリスタチンF(MMAF)、モノメチルオーリスタチンD(MMAD)、モノメチルオーリスタチンE(MMAE)、及び5-ベンゾイル吉草酸-AEエステル(AEVB)、メイタンシン、例えばアンサミトシン、メルタンシン(エムタンシン又はDM1とも呼ばれる)及びラブタンシン(ソラブタンシン又はDM4とも呼ばれる)、ダウノルビシン、エピルビシン、ピラルビシン、イダルビシン、ゾルビシン、セルビジン、アクルビシン、アドリブラスチン、ドキソルビシン、ミトキサントロン、ダウノキソム、ネモルビシン及びPNU-159682等のアントラサイクリン、カリケアマイシンβ1Br、カリケアマイシンガンマ1Br、カリケアマイシンα2I、カリケアマイシンα3I、カリケアマイシンβ1I、カリケアマイシンガンマ1L、カリケアマイシンデルタ1I等のカリケアマイシン及びオゾガマイシン、エスペラマイシンA1等のエスペラマイシン、ネオカルチノスタチン、ブレオマイシン、CC-1065及びデュオカルミシンA等のデュオカルマイシン、アントラマイシン、アベイマイシン、チカマイシン、DC-81、マゼトラマイシン、ネオトラマイシンA及びB等のピロロベンゾジアゼピン、ポロトラマイシンプロトラカルシン、シバノミシン(DC-102)、シビロマイシン及びトママイシン、ピロロベンゾジアゼピン二量体(又はPBD)、インドリノ-ベンゾジアゼピン、インドリノ-ベンゾジアゼピン二量体、α-アマニチン、アブラキサン、アクチノマイシン、アルデスロイキン、アルトレタミン、アリトレチノイン、アムサクリン、アナストロゾール、ヒ素、アスパラギナーゼ、アザシチジン、アザチオプリン、ベキサロテン、ベンダムスチン、ビカルタミド、ボルテゾミブ、ブスルファン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、シクロホスファミド、シタラビン、クロラムフェニコール、シクロスポリン、シドフォビル、コールタール含有製品、コルヒチン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダナゾール、ダサチニブ、ジエチルスチルベストロール、ジノプロストン、ジトラノール、デュタステリド、デクスラゾキサン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、エルロチニブ、エストラムスチン、エトポシド、エキセメスタン、フィナステリド、フルタミド、フロクスウリジン、フルシトシン、フルダラビン、フルオロウラシル、ガンシクロビル、ゲフィチニブ、ゲムシタビン、ゴセレリン、ヒドロキシ尿素、ヒドロキシカルバミド、イホスファミド、イリノテカン、イマチニブ、レナリドマイド、レフルノミド、レトロゾール、酢酸リュープロレリン、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトタン、メノトロピン、ミフェプリストン、ナファレリン、ネララビン、ナイトロジェンマスタード、ニトロソ尿素、オキサリプラチン、オゾガマイシン、パクリタキセル、ポドフィリン、ペガスパラギナーゼ、ペメトレキセド、ペンタミジン、ペントスタチン、プロカルバジン、ラロキシフェン、リババリン、ラルチトレキセド、リツキシマブ、ロミデプシン、ソラフェニブ、ストレプトゾシン、スニチニブ、シロリムス、ストレプトゾシン、テモゾロミド、テムシロリムス、テニポシド、サリドマイド、チオグアニン、チオテパ、トポテカン、タクロリムス、タキソテール、タフルポシド、トレミフェン、トレチノイン、トリフルリジン、トリプトレリン、バルガンシクロビル、バルルビシン、ビンブラスチン、ビダラジン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ベムラフェニブ、ビスモデギブ、ボリノスタット、ジドブジン、ベドチン、誘導体及びこれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。細胞傷害性薬物はまた、ルテチウム-177、ヨウ素-131、サマリウム-153、及びイットリウム-90又はアスタチン-211、ビスマス-212、鉛-212、ビスマス-213、アクチニウム-225、ラジウム-223及びトリウム-227のような放射性核種であり得る。
【0172】
好ましい実施形態では、本発明の抗体薬物コンジュゲートは、抗体と薬物との間のリンカーを含む。本発明によるリンカーは、切断可能又は非切断可能であり得、好ましくは、リンカーは切断可能である。本発明による切断可能なリンカーの例としては、限定するものではないが、ジスルフィド、ヒドラゾン及びペプチドが挙げられる。本発明による非切断可能なリンカーの例としては、限定するものではないが、チオエーテルが挙げられる。
【0173】
特定の実施形態では、薬物は、抗体のシステイン又はリジン残基に連結される。好ましくは、薬物又は抗原は、抗体に取り込まれた非天然アミノ酸に連結される。
【0174】
抗体薬物コンジュゲートを作製する方法は、当業者に周知である。
【0175】
一実施形態では、薬剤は、抗ANTXR1抗体又は抗FAP CAR細胞である。本明細書に使用される場合、用語「キメラ抗原受容体」(CAR)、「操作された細胞受容体」、「キメラ細胞受容体」、又は「キメラ免疫受容体」(ICR)は、操作された受容体を指し、抗原結合特異性(例えば抗体)を免疫細胞(例えばT細胞又はNK細胞)に移植し、したがって、抗原結合ドメインの抗原結合特性を、免疫細胞の溶解能力及び自己再生のような免疫細胞の免疫原活性と組み合わせる。ANTXR1に対するCAR細胞は、当業者に利用可能である。例えば、抗ANTXR1 CAR T細胞は、特許出願、韓国特許第1020190013612号、米国特許第2016264662A号、米国特許第2017114133A号及び中国特許第108707199A号、並びにByrdら(Cancer Res. 2018;78(2):489-500. 10.1158/0008-5472.CAN-16-1911)のような刊行物に記載されている。
【0176】
本発明はまた、ANTXR1及び/又はFAP CAF標的化剤、好ましくはFAP阻害剤、ANTXR1阻害剤、抗FAP抗体、抗ANTXR1抗体、又はそれらの任意の組み合わせを含む医薬組成物に関し、抗体は、場合により薬物、好ましくは上記のような細胞傷害性薬物、又はそれらの組み合わせにコンジュゲートされる。特に、このような医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む。この製剤化のために、従来の賦形剤は、当業者に周知の技術に従って使用することができる。
【0177】
製剤は、滅菌し、所望により、ANTXR1及び/又はFAP CAF標的化剤と有害に相互作用しない薬学的に許容される担体、賦形剤、塩、抗酸化剤及び/又は安定剤のような補助剤と混合することができる。
【0178】
場合により、医薬組成物は、追加の治療剤、特に上記のような免疫療法剤を更に含んでもよい。
【0179】
本発明の製剤は、ヒト血液と等張であり得、本発明の製剤はヒト血液と本質的に同じ浸透圧を有することが当業者に理解される。このような等張製剤は、一般に、約250mOSm~約350mOSmの浸透圧を有する。等張度は、例えば蒸気圧や氷凍結型浸透圧計により測定することができる。
【0180】
投与される本発明によるANTXR1+ CAF及び/又はFAP+ CAF標的化剤又は本発明による医薬組成物の量は、当業者によって周知の標準的な手順によって決定することができる。患者の生理学的データ(例えば、年齢、サイズ、及び体重)及び投与経路は、治療有効量が患者に投与されるように、適切な投与量を決定するために考慮されなければならない。
【0181】
本発明による使用のための組み合わせ調製物、キット又は生成物が別々に又は連続して投与される場合、特に別々に投与される場合、本発明によるANTXR1+ CAF及び/又はFAP+ CAF標的化剤による治療は、免疫療法治療の前に行われることが好ましい。治療方法は、本発明によるANTXR1+ CAF及び/又はFAP+ CAF標的化剤による治療の投与後、好ましくは免疫療法治療の投与前に、ANTXR1+ CAF及び/又はFAP+ CAFの割合を決定する工程を更に含んでもよく、免疫療法治療は、ANTXR1+ CAFの割合が低い場合、又はANTXR1+ CAFが存在しない場合にのみ投与される。
【0182】
免疫療法治療及び治療方法の使用
特定の態様では、本発明はまた、患者ががん試料に、
(a)低いレベル又は低い割合のANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFを提示する、又は
(b)ANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFを提示しない
患者のがんの治療に使用するための免疫療法治療、好ましくは免疫チェックポイント阻害剤治療に関する。
【0183】
本発明はまた、患者ががん試料に、
(a)低いレベル又は低い割合のANTXR1+線維芽細胞又はCAFを提示する、又は
(b)ANTXR1+線維芽細胞又はCAFを提示しない、
がん治療のための医薬を製造するための、免疫療法治療、好ましくは免疫チェックポイント阻害剤治療の使用に関する。
【0184】
本発明はまた、がんに罹患している患者を治療するための方法に関し、患者は、患者のがん試料において、
(a)腫瘍中のANTXR1+線維芽細胞又はCAFの割合が低い、
(b)腫瘍中にANTXR1+線維芽細胞又はCAFがない
場合に選択され、
方法は、免疫療法治療、好ましくは免疫チェックポイント阻害剤治療を患者に投与する工程を含む。
【0185】
ANTXR1+線維芽細胞又はCAFの割合は前述の通りである。ANTXR1+線維芽細胞又はCAFは上記の通りであり、がんは以下に定義され、免疫療法治療は上記の通りである。
【0186】
好ましくは、ANTXR1+ CAFは、FAP+ ANTXR1+ LAMP5- SDC1+ CAF、FAP+ ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/- CAF及びANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+からなる群から選択され、好ましくはFAP+ ANTXR1+ LAMP5- SDC1+ CAF及び/又はFAP+ ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/- CAFである。
【0187】
場合により、ANTXR1+ CAFはFAP+ ANTXR1+ CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFはwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)及びTGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。
【0188】
好ましくは、免疫療法は免疫チェックポイント阻害剤免疫療法であり、好ましくは抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体及び抗TIGIT抗体又はそれらのあらゆる組み合わせからなる群から選択され、より好ましくは抗CTLA-4抗体及び/又は抗PD-1抗体である。
【0189】
本発明は更に、対象のがんを治療する方法に関し、治療有効量の本発明によるANTXR1+ CAF及び/又はFAP+ CAF標的化剤、又はそのようなものを含む医薬組成物を、がんを罹患している対象に投与し、患者のがん又は患者のがん試料はANTXR1+ CAFを提示し、好ましくはFAP+ ANTXR1+ LAMP5- SDC1+ CAF、FAP+ ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/- CAF、及び/又はANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+、好ましくはFAP+ ANTXR1+ LAMP5- SDC1+ CAF及び/又はFAP+ ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/- CAFである。特に、投与される本発明によるANTXR1+ CAF及び/又はFAP+ CAF標的化剤又は本発明による医薬組成物の量は、当業者によって周知の標準的な手順によって決定することができる。患者の生理学的データ(例えば、年齢、サイズ、及び体重)及び投与経路は、治療有効量が患者に投与されるように、適切な投与量を決定するために考慮されなければならない。
【0190】
いくつかの実施形態では、免疫療法治療は、ANTXR1+線維芽細胞を標的とする薬剤、FAP+線維芽細胞を標的とする薬剤及び/又は本発明による医薬組成物を、追加のがん治療と組み合わせて投与する。特に、免疫療法治療、ANTXR1+線維芽細胞を標的とする薬剤、FAP+線維芽細胞を標的とする薬剤及び/又は本発明による医薬組成物を、その他の標的療法、その他の免疫療法、化学療法及び/又は放射線療法と組み合わせて投与することができる。
【0191】
いくつかの実施形態では、免疫療法治療、ANTXR1+線維芽細胞を標的とする薬剤、FAP+線維芽細胞を標的とする薬剤及び/又は本発明による医薬組成物を、化学療法と組み合わせて患者に投与する。本明細書で使用される場合、用語「化学療法」は、技術分野においてその一般的な意味を有し、化学療法剤を患者に投与することからなる治療を指す。化学療法剤としては、限定されないが、チオテパ及びシクロホスファミドのようなアルキル化剤、ブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファンのようなアルキルスルホン酸塩、ベンゾドーパ、カルボコン、メツレドパ及びウレドパのようなアジリジン、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミド及びトリメチロロメラミンを含むエチレンイミン及びメチルアメラミン、アセトゲニン(特にブラタシン及びブラタシノン)、カンプトテシン(合成類似体トポテカンを含む)、ブリオスタチン、カリスタチン、CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン及びビゼレシン合成類似体を含む)、クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8)、ドラスタチン、デュオカルミシン(合成類似体、KW-2189及びCB1-TM1を含む)、エリュテロビン、パンクラチスタチン、サルコディクチン、スポンギスタチン、クロラムブシル、クロルナファジン、チョロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、酸化メクロレタミン塩酸塩、メルファラン、ノベンビチン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードのようなナイトロジェンマスタード、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン及びラニムスチンのようなニトロスレア、抗生物質、例えば、エンジイン系抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特にカリケアマイシンガンマル及びカリケアマイシンオメガル、ダイネマイシン、ダイネマイシンAを含む、クロドロネート等のビスホスホネート、エスペラマイシン、並びにネオカルジノスタチン発色団及び関連発色タンパク質エネジイン抗バイオティック発色団、アクラシノミシン、アクチノマイシン、オートラルニシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン、カミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシンCのようなマイトマイシン類、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、ケラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメックス、ジノスタチン、ゾルビシン、メトトレキセート及び5-フルオロウラシル(5-FU)のような代謝拮抗剤;デノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキセートのような葉酸類似体、プリン類似体、例えばフルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン、ピリミジン類似体、例えばアンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンのようなアンドロゲン、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンのような抗副腎、フロリン酸(frolinic acid)等の葉酸補給剤、アセグラトン、アルドホスファミド配糖体、アミノレブリン酸、エニルラシル、アムサクリン、ベストラブシル、ビサントレン、エダトラキサート、デフォファミン、デメコルシン、ジアジコン、エルホルミチン、酢酸エリプチニウム、エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン;メイタンシン及びアンサミトシン等のメイタンシノイド;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール;ニトラエリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;N-メチルヒドラジン(MIH)及びプロカルバジンを含むメチルヒドラジン誘導体;PSK多糖複合体);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2',2"-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特にT-2毒素、ベラクリンA、ロリジンA及びアンギジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド("Ara-C");シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセル及びドキセタキセル;クロラムブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチン、オキサリプラチン及びカルボプラチン等の白金配位錯体;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;イリノテカン(例えば、CPT-1 1);トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルロミチン(DMFO);レチノイン酸等のレチノイド;カペシタビン;アントラサイクリン、ニトロソ尿素、代謝拮抗剤、エピポドフィロトキシン、L-アスパラギナーゼ等の酵素;アントラセンジオン、プレドニゾン及び等価物、デキサメタゾン及びアミノグルテチミドのような副腎皮質ステロイド拮抗薬を含むホルモン及びアンタゴニスト、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン及び酢酸メゲストロールのようなプロゲスチン、ジエチルスチルベストロール及びエチニルエストラジオール等価物のようなエストロゲン、タモキシフェンのような抗エストロゲン剤、テストステロンプロピオン酸塩及びフルオキシメステロン/等価物を含むアンドロゲン、フルタミド、ゴナドトロピン放出ホルモン類似体及びロイプロリドのような抗アンドロゲン、並びにフルタミドのような非ステロイド性抗アンドロゲン、上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸又は誘導体が挙げられる。
【0192】
いくつかの実施形態では、免疫療法治療、ANTXR1+線維芽細胞を標的とする薬剤、FAP+線維芽細胞を標的とする薬剤及び/又は本発明による医薬組成物を、放射線療法と組み合わせて患者に投与する。放射線療法の好適な例としては、限定するものではないが、外部ビーム放射線療法(例えば、表在性X線療法、オルソボルテージX線療法、メガ電圧X線療法、放射線外科、定位放射線療法、分画定位放射線療法、コバルト療法、電子療法、高速中性子線療法、中性子捕獲療法、陽子線治療、強度変調放射線療法(IMRT)、3次元コンフォーマル放射線療法(3D-CRT)等)、近接照射療法、密封されていない線源放射線療法、トモセラピー等が挙げられる。ガンマ線は、放射線治療で使用される光子の別の形態である。ガンマ線は、特定の元素(ラジウム、ウラン及びコバルト60のような)が分解又は崩壊するときに放射線を放出するときに自発的に生成される。いくつかの実施形態では、放射線療法は、陽子線治療又は陽子ミニビーム放射線療法であってもよい。陽子線治療は、陽子線を使用する超精密な放射線療法である(Prezado Y、Jouvion G、Guardiola C、Gonzalez W、Juchaux M、Bergs J、Nauraye C、Labiod D、De Marzi L、Pouzoulet F、Patriarca A、Dendale R. Tumor Control in RG2 Glioma-Bearing Rats:A Comparison Between Proton Minibeam Therapy and Standard Proton Therapy.Int J Radiat Oncol Biol Phys.2019年6月1日;104(2):266-271. doi:10.1016/j.ijrobp.2019.01.080;Prezado Y、Jouvion G、Patriarca A、Nauraye C、Guardiola C、Juchaux M、Lamirault C、Labiod D、Jourdain L、Sebrie C、Dendale R、Gonzalez W、Pouzoulet F. Proton minibeam radiation therapy widens the therapeutic index for high-grade gliomas.Sci Rep. 2018年11月7日;8(1):16479. doi:10.1038/s41598-018-34796-8)。放射線療法はまた、FLASH放射線療法(FLASH-RT)又はFLASH陽子線照射であってもよい。FLASH放射線療法は、現在日常的な臨床診療(超高線量率)よりも数桁大きい線量率で放射線治療を超高速に送達することを含む(Favaudon V、Fouillade C、Vozenin MC.The radiotherapy FLASH to save healthy tissues.Med Sci(Paris)2015年;31:121-123.DOI:10.1051/medsci/20153102002);Patriarca A.、Fouillade C. M.、Martin F.、Pouzoulet F.、Nauraye C.らExperimental set-up for FLASH proton irradiation of small animals using a clinical system.Int J Radiat Oncol Biol Phys、102(2018)、pp. 619-626. doi:10.1016/j.ijrobp.2018.06.403.Epub 2018年7月11日)。
【0193】
患者、レジメン及び投与
患者は動物であり、好ましくは哺乳動物であり、更により好ましくはヒトである。しかしながら、患者はまた、非ヒト動物、特に哺乳動物、例えば、とりわけ、治療を必要としているイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ロバ、ウサギ、フェレット、スナネズミ、ハムスター、チンチラ、ラット、マウス、モルモット及び非ヒト霊長類であってもよい。
【0194】
本発明によるヒト患者は、出生前の段階のヒト、新生児、小児、乳児、青年又は成人、特に少なくとも30歳以上又は少なくとも40歳以上の成人、好ましくは少なくとも50歳以上の成人、更に好ましくは少なくとも60歳以上の成人であり得、更に好ましくは少なくとも70歳の成人である。
【0195】
一実施形態では、患者は、能動喫煙者又は元喫煙者である。
【0196】
好ましくは、患者はがんと診断されている。別の特定の実施形態では、患者は、転移性がん又は進行期のがんに罹患している。一実施形態では、患者は、ステージIII又はIVのがんと診断されている。
【0197】
一実施形態では、がんに罹患している患者は、転移、特に脳、肝臓、骨に転移及び/又は腎上転移を有する。
【0198】
特定の実施形態では、患者は、少なくとも1ラインの治療、特に1ラインの治療、2ラインの治療、又は3ライン以上の治療、好ましくは数ラインの治療を既に受けている。或いは、患者はいかなる治療も受けていない。特に、患者は既にニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピルムマブ又はそれらの任意の組み合わせを受けている。
【0199】
がん治療としては、特に抗ANTXR1又は抗FAP剤を含む免疫療法治療又は治療は、あらゆる従来の投与経路により投与することができ、例えば局所、経腸、経口、非経口、鼻腔内、静脈内、筋肉内、皮下又は眼内投与経路等が挙げられる。
【0200】
特に、がん治療は、免疫療法、外科手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、標的療法、緩和ケア、抗ANTXR1又は抗FAP剤並びにそれらの任意の組み合わせを含む治療であり得る。
【0201】
好ましくは、がん治療は、ANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAFの存在の決定後、1カ月以内、好ましくは1週間以内に開始される。
【0202】
がん治療は、単回投与又は複数回投与で投与することができる。
【0203】
好ましくは、がん治療は、定期的に、好ましくは毎日と毎月の間、より好ましくは毎日と2週間ごとの間、更により好ましくは毎日と毎週の間投与される。
【0204】
治療期間は、好ましくは1日から24週間の間、より好ましくは1日から10週間の間、更により好ましくは1日から4週間の間を含む。特定の態様において、治療はがんが持続する限り続けられる。
【0205】
がん治療、特に投与される抗ANTXR1若しくは抗FAP剤を含む免疫療法治療又は治療の量は、当業者によって周知の標準的な手順によって決定される。患者の生理学的データ(例えば、年齢、サイズ、体重及び健康状態)及び投与経路は、治療有効量が患者に投与されるように、適切な投与量を決定するために考慮される。
【0206】
活性成分の組み合わせとの関連において、活性成分は、同じ又は異なる投与経路によって対象に投与され得る。投与経路は、通常、使用される医薬組成物に依存する。
【0207】
がん
本発明の方法は、腫瘍に罹患している患者を選択及び/又は治療することを目的とする。
【0208】
一実施形態では、腫瘍は、白血病、セミノーマ、黒色腫、奇形腫、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、腺がん、中皮腫(胸膜中皮腫、腹膜中皮腫、心膜中皮腫及び末期中皮腫を含む)、直腸がん、子宮内膜がん、甲状腺がん(甲状腺乳頭がん、濾胞性甲状腺がん、甲状腺髄様がん、未分化甲状腺がん、多発性内分泌腫瘍症2A型、多発性内分泌腫瘍2B型、家族性甲状腺髄様がん、褐色細胞腫及び傍神経節腫を含む)、皮膚がん(悪性黒色腫、基底細胞がん、扁平上皮がん、カルポジ肉腫、角化表皮腫、ほくろ、異形成母斑、脂肪腫、血管腫及び皮膚線維腫を含む)、神経系がん、脳腫瘍(星状細胞腫、髄芽腫、神経膠腫、低悪性度神経膠腫、上衣腫、胚芽腫(松果体)、膠芽腫多形、オリゴデンドログリオーマ、神経鞘腫、網膜芽細胞腫、先天性腫瘍、脊髄神経線維腫、神経膠腫又は肉腫を含む)、頭蓋骨がん(骨腫、血管腫、肉芽腫、黄色腫又は変形性骨炎を含む)、髄膜がん(髄膜腫、髄膜肉腫又は神経膠腫症を含む)、頭頸部がん(頭頸部扁平上皮がん及び口腔がん(例えば、頬腔がん、唇がん、舌がん、口腔がん又は咽頭がん等)を含む)、リンパ節がん、消化器がん、肝臓がん(肝腫、肝細胞がん、胆管がん、肝芽腫、血管肉腫、肝細胞腺腫及び血管腫を含む)、大腸がん、胃がん又は胃がん、食道がん(扁平上皮がん、喉頭がん、腺がん、平滑筋肉腫又はリンパ腫を含む)、結腸直腸がん、腸がん、小腸又は小腸がん(例えば、腺がんリンパ腫、カルチノイド腫瘍、カルポジ肉腫、平滑筋腫、血管腫、脂肪腫、神経線維腫又は線維腫)、大腸又は大腸がん(例えば、腺がん、尿細管腺腫、絨毛腺腫、過誤腫又は平滑筋腫等)、膵臓がん(乳管腺がん、インスリノーマ、グルカゴノーマ、ガストリノーマ、カルチノイド腫瘍又はビポマを含む)、耳、鼻及び咽喉(ENT)がん、乳がん(HER2高含有乳がん、管腔A乳がん、管腔B乳がん及びトリプルネガティブ乳がんを含む)、子宮がん(子宮内膜がん、子宮内膜間質肉腫、悪性混合ミュラー管腫瘍、子宮肉腫、平滑筋肉腫、妊娠性絨毛性疾患等の子宮内膜がんを含む)、卵巣がん(胚芽腫、顆粒膜細胞腫瘍、セルトリライディッヒ細胞腫瘍を含む)、子宮頸がん、膣がん(扁平上皮膣がん、膣腺がん、明細胞膣腺がん、膣胚細胞腫瘍、膣肉腫ボトリオイデス及び膣黒色腫を含む)、外陰がん(扁平上皮外陰がん、疣贅性外陰がん、外陰黒色腫、基底細胞外陰がん、バルトリン腺がん、外陰腺がん及びQueyratの赤血球形成を含む)、泌尿生殖器がん、腎臓がん(明腎細胞がん、発色性腎細胞がん、乳頭状腎細胞がん、腺がん、ウィルムス腫瘍、腎芽腫、リンパ腫又は白血病を含む)、副腎がん、膀胱がん、尿道がん(例えば、扁平上皮がん、移行細胞がん又は腺がん等)、前立腺がん(例えば、腺がん又は肉腫等)及び精巣がん(例えば、セミノーマ、奇形腫、胚性がん、奇形がん、絨毛がん、肉腫、間質細胞がん、線維腫、線維腺腫、腺腫様腫瘍又は脂肪腫等)、肺がん(小細胞肺がん(SCLC)、扁平上皮細胞を含む非小細胞肺がん(NSCLC)肺がん、肺腺がん(LUAD)、及び大細胞肺がん、気管支原性がん腫、肺胞がん腫、細気管支がん腫、気管支腺腫、肺肉腫、軟骨腫性過誤腫及び胸膜中皮腫を含む)、肉腫(アスキン腫瘍、肉腫ボトリオイデス、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性神経鞘腫、骨肉腫及び軟部肉腫を含む)、軟部肉腫(肺胞軟部肉腫、血管肉腫、膀胱肉腫を含む)葉状体、皮膚線維肉腫隆起、デスモイド腫瘍、デスモプラスチック小円形細胞腫瘍、類上皮肉腫、骨格外軟骨肉腫、骨格外骨肉腫、線維肉腫、消化管間質腫瘍(GIST)、血管周囲腫、血管肉腫、カポジ肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、リンパ管肉腫、リンパ肉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)、神経線維肉腫、網状線維組織球性腫瘍、横紋筋肉腫、滑膜肉腫及び未分化多形肉腫、心臓がん(例えば、血管肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫又は脂肪肉腫、粘液腫、横紋筋腫、線維腫、脂肪腫及び奇形腫等の肉腫を含む)、骨がん(骨原性肉腫、骨肉腫、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性リンパ腫及び網状体細胞肉腫、多発性骨髄腫、悪性巨細胞腫脊索腫、骨がん腫、骨軟骨外骨腫、良性軟骨腫、軟骨芽腫、軟骨粘液様線維腫、骨様骨腫及び巨細胞腫を含む)、血液及びリンパがん、血液がん(急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、骨髄増殖性疾患、多発性骨髄腫及び骨髄異形成症候群を含む)、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫並びに有毛細胞及びリンパ系障害、並びにそれらの転移からなる群から選択されるがんである。
【0209】
好ましくは、腫瘍は、前立腺がん、肺がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、乳がん、胃がん、腎臓がん、卵巣がん、肝細胞がん、骨肉腫、黒色腫、下咽頭がん、食道がん、子宮体がん、子宮頸がん、膵臓がん、肝臓がん、結腸又は結腸直腸がん、神経内分泌腫瘍、筋肉がん、副腎がん、腺がん、肉腫、非扁平上皮がん、扁平上皮がん、甲状腺がん、子宮がん、皮膚がん、黒色腫、転移性黒色腫、膀胱がん、頭頸部がんからなる群から選択されるがんである。より好ましくは、がんは、卵巣がん、乳がん、腺がん、肉腫、非扁平上皮がん、扁平上皮がん、肺がん、NSCLC、結腸直腸がん、膵臓がん、頭頸部がん、黒色腫及び転移性黒色腫からなる群から選択される。非常に特定の態様では、がんは、頭頸部がん、NSCLC、黒色腫及び転移性黒色腫からなる群から選択される。
【0210】
一実施形態では、がんは卵巣がん、好ましくは間葉系卵巣がん、特に漿液型の高悪性度卵巣がん、又は乳がん、好ましくは浸潤性乳がん及び/又はその転移、特に腋窩転移である。
【0211】
別の実施形態では、がんはNSCLC又は頭頸部がんである。
【0212】
一実施形態では、がんは肉腫、特に線維芽球性肉腫である。
【0213】
別の実施形態では、がんは、腺がん、非扁平上皮がん及び扁平上皮がんからなる群から選択される。
【0214】
特に、患者のがん又は患者のがん試料又は腫瘍の微小環境は、免疫抑制線維芽細胞、特に免疫抑制性CAF、特にANTXR1+ CAF又はANTXR1+ FAP+ CAFを提示する。
【0215】
好ましくは、患者のがん又は患者のがん試料は、ANTXR1+ CAF、好ましくはFAP+ ANTXR1+ LAMP5- SDC1+ CAF、FAP+ ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/- CAF、及び/又はANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+、好ましくはFAP+ ANTXR1+ LAMP5- SDC1+ CAF及び/又はFAP+ ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/- CAFを提示する。
【0216】
場合により、ANTXR1+ CAFはFAP+ ANTXR1+ CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFはwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)及びTGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。場合により、ANTXR1+ CAFは、ecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-)、TGFb-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-)及びwound-myCAF(ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+)CAFである。
【0217】
キット
更に、本発明は、本明細書に開示される方法を実施するのに有用なキットを提供し、キットは、ANTXR1+線維芽細胞、特にANTXR1+ CAF、好ましくはFAP+ ANTXR1+ CAF、更により好ましくはFAP+ ANTXR1+ LAMP5- SDC1+ CAF、FAP+ ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/- CAF、及び/又はANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+ CAFを検出することができる手段を含む。
【0218】
例えば、キットは、ANTXR1+ CAF、好ましくはFAP+ ANTXR1+ CAF、更により好ましくはFAP+ ANTXR1+ LAMP5- SDC1+ CAF、FAP+ ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/- CAF、及び/又はANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+ CAFの検出に必要な手段を含んでいてもよい。当業者は、ANTXR1の存在、好ましくはFAP及びANTXR1の存在、更により好ましくはFAP、ANTXR1、LAMP5及びSDC1、FAP、ANTXR1、LAMP5及びSDC1、及び/又はANTXR1、SDC1、LAMP5及びCD9の存在を特に決定するために必要とされる手段を知っている。存在は、核酸レベル、特にmRNA、又はタンパク質レベルで検出することができる。例えば、このような手段は、ANTXR1+ CAF、好ましくはFAP+ ANTXR1+ CAF、更により好ましくはFAP+ ANTXR1+ LAMP5- SDC1+ CAF、FAP+ ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/- CAF、及び/又はANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+ CAFを検出するために特定のプローブ、プライマー、抗体及び/又はアプタマーであってもよい。特に、このような手段は、ANTXR1、FAP、LAMP5及びSDC1及び/又は本明細書に開示されるCD9に対する抗体である。或いは、このような手段は、ANTXR1、FAP、LAMP5及びSDC1及び/又はCD9に特異的なプローブ及び/又はプライマーであってもよい。
【0219】
追加的又は代替的に、キットは、上記のようなecm-myCAF、TGFβ-myCAF及び/又はwound-myCAFの遺伝子シグネチャーの少なくとも1つの遺伝子を標的とする手段、特に核酸、プローブ又はプライマーを含む。より詳細には、遺伝子シグネチャーecm-myCAF、TGFβ-myCAF及び/又はwound-myCAFの全ての遺伝子を検出する手段を備えている。特に、手段はプライマー及び/又はプローブである。
【0220】
前記のキットは、診断キットであってもよい。キットのコンポーネントは、水性媒体又は凍結乾燥形態のいずれかで包装することができる。キットの容器手段は、一般に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ又はその他の容器手段を含み、そこにコンポーネントが配置され得、好ましくは、適切に分注される。キットに複数のコンポーネントがある場合、キットは通常、追加のコンポーネントを別々に配置できる第2、第3、又は他の追加の容器も含む。しかしながら、コンポーネントの様々な組み合わせがバイアルに含まれてもよい。
【0221】
いくつかの実施形態では、個体から試料を採取する手段、及び/又は試料を分析する手段が提供されてもよい。キットはまた、滅菌された、薬学的に許容される緩衝液及び/又は他の希釈剤を含有するための手段を含んでもよい。場合により、このようなキットを使用するためのガイドラインのためのリーフレットが提供される。
【0222】
別の態様では、本発明は、以下について上記で開示されたキットの使用にも関する:
- がんに罹患している対象のがん試料の免疫抑制性がん関連線維芽細胞(CAF)を検出すること
- 免疫療法治療に対するがんに罹患している対象の応答を予測すること
- 免疫療法治療のためにがんを有する患者を選択すること又は選択しないこと
- ANTXR1+ CAFを標的とする薬剤による治療のためにがんを有する患者を選択すること又は選択しないこと
- ANTXR1+ CAFを標的とする薬剤による治療及び免疫療法治療のためにがんを有する患者を選択すること又は選択しないこと。
【0223】
本発明の更なる態様及び利点を以下の実施例に記載するが、これは例示であり限定するものではないとみなされるべきである。
【実施例
【0224】
免疫抑制性CAF-S1サブセット内では、シングルセルアプローチにより異なる細胞クラスターが同定される。発明者は、シングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq)を使用して、CAF-S1免疫抑制サブセット内の細胞の不均一性を調査した。CAF-S1線維芽細胞は、前述のようにFACSによってヒトBCから単離された(表1の前向きコホート1の説明を参照されたい)(Costa Aら、Cancer Cell 2018;33(3):463-79 e10)。端的に言えば、新たに切除された腫瘍から、発明者は最初に破片、死細胞、ダブレット、上皮(EPCAM+)、造血(CD45+)、内皮(CD31+)及び赤血球(CD235a+)細胞を除外した(図7A)。発明者は、EPCAM- CD45- CD31- CD235a-を線維芽細胞に富む細胞の画分とみなし、次にFAP及びCD29染色を行い(図7A)、以前にCosta Aら、Cancer Cell 2018;33(3):463-79 e10で確立された、CAF-S1(FAPHigh CD29Med-High)を他のCAF亜集団(CAF-S2:FAPNeg CD29Low;CAF-S3:FAPNeg CD29Med;CAF-S4:FAPNeg CD29High)と区別することができた。次いで、発明者は、任意の処置の前に7名のBC患者の18,805個のCAF-S1線維芽細胞のscRNA-seqを行った。品質管理後、細胞あたり検出された2,428個の遺伝子の中央値を有する18,296個のCAF-S1線維芽細胞を、更なる分析のために保存した。教師なしグラフベースのクラスタリングにより、8つのCAF-S1クラスターが同定され、Uniform Manifold Approximation and Projection(UMAP)アルゴリズムで視覚化された(図1)。全てのクラスターが、様々なレベルではあるが、多くの患者で見つかった。G1/S及びG2/M遺伝子シグネチャーを用いて示されるように、個々のクラスターは細胞周期の特定の段階又は高増殖と関連していなかった(Tirosh IらScience 2016;352(6282))。発明者は、Stuart TらCell 2019;177(7):1888-902 e21に記載のラベルトランスファーアルゴリズムを用いて、これらの異なるCAF-S1細胞クラスターの検出を確認した。実際、このアルゴリズムは、8番目のBC患者から新たに生成された独立したCAF-S1 scRNA-seqデータセットの8つのクラスター標識全てを高い予測スコアでトランスファーすることに成功した。
【0225】
差次的遺伝子発現解析により、各クラスターが特定の転写プロファイルによって特徴付けられることが明らかになった。重要なのは、Costa Aら、Cancer Cell 2018;33(3):463-79e10、GivelらNat Commun 2018;9(1):1056及びKiefferらCancer Discov.2020;10(9):1330-1351に公開されたCAF-S1シグネチャーが特定のCAF-S1クラスターに制限されない遺伝子を含んでいることである(図11)。クラスター0は、ECMリモデリング、細胞-基質接着及びコラーゲン形成に関連し、クラスター1は解毒及び炎症応答を有し、クラスター2は成長因子、TNFシグナル伝達及びインターロイキン経路に応答性であり、クラスター3はTGFβシグナル伝達経路及びマトリソームを有し、クラスター4はコラーゲン線維の集合及び創傷治癒を有し、クラスター5はインターフェロンγ(IFNγ及びサイトカイン媒介シグナル伝達経路)に応答性であり、クラスター6はIFNβαシグナル伝達を有し、クラスター7はアクトミオシン複合体を有する。例として、発明者は、クラスター0に膵臓がん由来のCAFで最近同定されたマーカーであるLRRC15(ロイシンリッチリピート含有15)及びGBJ2(ギャップ結合タンパク質β2)、クラスター1にADH1B(アルコールデヒドロゲナーゼ1)及びGPX3(グルタチオンペルオキシダーゼ3)、クラスター2にRGMA(反発誘導分子BMPコレセプター)及びSCARA5(スカベンジャー受容体クラスAメンバー5)、クラスター3にCST1(シスタチン)及びTGFβ1、クラスター4にSEMA3C(セマフォリン3C)及びSFRP4(Secreted Frizzled Related Protein4)、クラスター5にCCL19及びCCL5(CCモチーフケモカインリガンド19及び5)、クラスター6にIFIT3(テトラトリコペプチド反復3を有するインターフェロン誘導タンパク質)及びIRF7(インターフェロン調節因子7)、クラスター7にGGH(γ-グルタミルヒドロラーゼ)及びPLP2(プロテオリピドタンパク質2)の高発現に見出した。興味深いことに、ヒトBCでは、発明者は、以前に膵臓がんのFAP+線維芽細胞に同定された筋線維芽細胞(「myCAF」)及び炎症性(「iCAF」)線維芽細胞サブグループを区別することができた(Elyadaら、Cancer Discov 2019;9(8):1102-23、Ohlund Dら、J Exp Med 2017;214(3):579-96)。CAF-S1クラスター1、2、及び5はiCAFとして、クラスター0、3、4、6、及び7はmyCAFとして同定された。膵臓がんのデータと一致して、iCAFはケモカインとCXCL12(CXCモチーフケモカインリガンド12)及びSOD2(スーパーオキシドジスムターゼ2)のような炎症誘発性分子を高発現に示し、myCAFはCOL1A2(コラーゲン1型アルファ2鎖)やTAGLN(トランスゲリン)を含む筋線維芽細胞マーカーを発現した。更に、発明者は、iCAFクラスター5が高レベルのCD74を発現し、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)II不変鎖をコードすることを観察した。CD74は最近、膵臓がんの抗原提示CAF(「apCAF」)に特異的に発現していることが示され、CAF-S1クラスター5がこのようなapCAFを連想させる可能性があることが示唆された。要約すると、発明者はBCに8つの異なるCAF-S1クラスターを同定した。クラスター1、2、及び5はiCAFサブグループに属し、クラスター5はapCAFクラスターに対応している可能性があるが、クラスター0、3、4、6及び7はmyCAFサブグループに属している。更に、iCAFクラスターは、解毒(クラスター1)、刺激に応答(クラスター2)、IFNγ及びサイトカイン(クラスター5)、ECMによるmyCAFクラスター(クラスター0)、TGFβ(クラスター3)、創傷治癒(クラスター4)、IFNαβ(クラスター6)及びアクトミオシン(クラスター7)によって特徴付けられる。したがって、発明者は、これらの異なるFAPHigh CAF-S1クラスターについて以下の命名法を提案した:クラスター0=ecm-myCAF、クラスター1=detox-iCAF、クラスター2=IL-iCAF、クラスター3=TGFβ-myCAF、クラスター4=wound-myCAF、クラスター5=IFNγ-iCAF、クラスター6=IFNαβ-myCAF及びクラスター7=acto-myCAF。
【0226】
最後に、発明者は、これらのCAF-S1クラスターが異なるBCサブタイプに差示的に蓄積するかどうかに関心をもった。発明者が任意の処置の前に患者について分析を行ったため、scRNA-seqについて収集された新鮮な試料は、多くが管腔(Lum)患者から収集され、HER2及びTN BC患者は、ネオアジュバント設定で優先的に処置されていた。その結果、前向きコホート1にはHER2患者はおらず、TN BC患者は2名のみであった(Table1(表1))。それでも、このデータセットでは、TN BC患者は、LumA BC患者よりも高い割合のiCAFクラスターを示し、より多くのmyCAFクラスターを蓄積したことを検出することができた(LumA:iCAF=43.4%、myCAF=56.6%、TN:iCAF=57.1%、myCAF=42.9%;P値=フィッシャーの正確確率検定から1.29e-64)。データセットのTN BCの数が少ないため、この問いは、多数のLumA及びTN BC患者からのRNA-Seqデータを含むTCGAデータベースを利用することによって解決された。この目的のために、5つの最も豊富なCAF-S1クラスター(配列決定されたCAF-S1細胞の最大91%を占める)の特異的シグネチャーは、他のクラスターと比較して、各クラスターに差示的に発現された遺伝子を同定することによって規定された(図7B)。これらのシグネチャーは、黒色腫、NSCLC及びHNSCCデータのこれらのクラスターの検出にも使用されたため(以下の図3及び図6を参照)、発明者らは次に、黒色腫、NSCLC及びHNSCCがん細胞によっても発現されたこれらのシグネチャーのあらゆる遺伝子を廃棄して、がん細胞からあらゆるシグナルを回避し、CAF-S1クラスターの厳密に特異的なシグナルを保証した(CAF-S1クラスターシグネチャーの特異性に関する図7B)。TCGA RNA-seqデータベース(https://portal.gdc.cancer.gov/)からのLumAとTN BCサブタイプ間のCAF-S1クラスター特異的シグネチャーの発現の差を評価した。これにより、TNにおけるiCAFクラスターの蓄積とLumA BCにおけるmyCAFクラスターの蓄積が確認された。具体的には、detox-iCAF及びIL-iCAFは、Lum BCと比較してTNでより高い発現を示したが、ecm-myCAF、TGFβ-myCAF及びwound-myCAF発現はLumA BCでより高かった。TN BCにおけるiCAF含有量のこの増加は、いくつかのTN BCにおける多数のTILの存在が報告されていることと一致している。要約すると、BCから単離された多数のFAP+ CAF-S1線維芽細胞からのscRNA-seqを使用して、明確なシグネチャーを示し、BCサブタイプに差示的に蓄積された8つのクラスターが検出された。
【0227】
CAF-S1細胞クラスターは、BCのマルチカラーフローサイトメトリーによって検証される
次に、発明者らは、新鮮なBC試料にマルチカラーフローサイトメトリー(FACS)を使用してCAF-S1クラスターを検証することを目指した。scRNA-seqによって規定されるCAF-S1中の各クラスターの割合を分析することにより、5つの最初のクラスターが配列決定された細胞全体の最大91%を占めることが最初に観察された。したがって、発明者らは、FACS分析をこれら5つの最も豊富なクラスターに焦点を当てることに決め、各クラスターの表面マーカーを同定しようとした。CAF-S1クラスター発現プロファイルのペアワイズ比較を用いて、市販の抗体を用いて6つの表面マーカーを同定し、最も豊富な5つのクラスターを同定するためのゲーティング戦略を設計した(図8)。発明者らは、独立したCAF-S1データセットにおけるこれら6つのマーカーの特異性を検証しようとした。そうするために、発明者らは、クラスター標識がラベルトランスファーアルゴリズムによって首尾よくトランスファーされた8番目の患者に対応するCAF-S1 scRNA-seqデータを調査した。実際、これらの6つのマーカーに依存し、7名のBC患者に基づくゲーティング戦略は、独立したデータセットで最も豊富な5つのCAF-S1クラスターを効率的に描写した。このようにして、これらのマーカーが各CAF-S1クラスターに特異的であることが確認された。したがって、新鮮なBC試料は、以下ゲーティング戦略を適用してFACSによって分析された。CAF-S1線維芽細胞(CD45-、EPCAM-、CD31-、CD235a-、FAPHigh CD29Medとして単離)は、BCのmyCAF(ANTXR1+)をiCAF(ANTXR1-)線維芽細胞と区別したANTXR1タンパク質レベルに基づいて最初に分離された。次に、ANTXR1+(myCAF)CAF-S1クラスター0(ecm-myCAF)、3(TGFβ-myCAF)及び4(wound-myCAF)をSDC1、LAMP5及びCD9タンパク質レベルに従って区別した。ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-はクラスター0(ECM-myCAF)、ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/-はクラスター3(TGFβ-myCAF)として定義され、ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+はクラスター4(wound-myCAF)として定義された。ANTXR1-(iCAF)CAF-S1クラスター1(detox-iCAF)及び2(IL-iCAF)をGPC3マーカー及びDLK1マーカーを用いて分離された。ANTXR1- GPC3+ DLK1+/-はクラスター1(detox-iCAF)として定義され、ANTXR1- GPC3- DLK1+はクラスター2(IL-iCAF)として定義された。LAMP5、SDC1及びCD9並びにANTXR1- GPC3- DLK1-細胞に対して陰性であったANTXR1+ CAF-S1細胞をプールし、「その他のクラスター」として示した。このゲーティング戦略を44個の新鮮な試料に適用することにより(前向きコホート2、TableS1(表1))、これらの5つの最も豊富なクラスターの存在がBCで検証された(図2)。FACSによって規定されたCAF-S1細胞内の各クラスターの割合は、CAF-S1線維芽細胞とecm-myCAFの間の明確な不均一性を含む単一細胞結果を大多数の患者で最も豊富な集団として確認した(図2)。次に、発明者らは、患者間でこれら5つのCAF-S1クラスターのそれぞれの割合の間に相関があるかどうかを分析した。ecm-myCAFとTGFβ-myCAF(いずれもmyCAF)の相対存在量、及びdetox-iCAFとIL-iCAF(いずれもiCAF)の相対存在量には相関があった。逆に、ecm-myCAF及びTGFβ-myCAFの割合は、detox-iCAF及びIL-iCAFの割合と反相関していた。更に、wound-myCAFはdetox-iCAF、IL-iCAF、及びecm-myCAFとも負の相関があり、これらの異なるCAF-S1クラスターはBCにおいて、しかし協調的に差示的に蓄積する可能性があることを示唆している。
【0228】
CAF-S1細胞クラスターは、がんの種類を超えて同定されている
発明者らは次に、他の種類のがんにおけるCAF-S1細胞クラスターの存在を試験しようとした。そのために、頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)からの公開されているscRNA-seqデータ(Puram SVらCell 2017;171(7):1611-24 e24)及び非小細胞肺がん(NSCLC)(Lambrechts DらNat Med 2018;24(8):1277-89)を、これら2つの研究はクラスターを調査するのに十分なCAFを単離していたため、分析した。これらの発表された研究には、18名のHNSCC患者が含まれ、そのうち5名は原発腫瘍とリンパ節転移のペアが一致し、合計5,902個の細胞が分析された(Puram SVらCell 2017;171(7):1611-24 e24)。更に、NSCLCコホートでは、5名の異なる患者から52,000個を超える全細胞が収集された(Lambrechts DらNat Med 2018;24(8):1277-89)。これらの2つの研究では、1,422個の細胞と1,465個の細胞が、それぞれHNSCC及びNSCLCコホートでCAFとして注釈された。CAF-S1線維芽細胞を厳密に解析するために、CAF-S1は、CAF-S1(FAPHigh MCAMLow)及びCAF-S4(FAPLow MCAMHigh)のRNAレベルでそれぞれ調節された2つのマーカーである、FAP及びMCAMの発現に基づいてCAF-S4と区別された。その結果、HNSCCの603個のCAF-S1細胞とNSCLCの959個の細胞が更に分析された。異なる種類のがん由来のCAF-S1細胞間の類似性を、参照先(BC)及び標的(HNSCC又はNSCLC)データセットを混合することによって比較した。データ統合は、Stuart TらCell 2019;177(7):1888-902 e21(図3)に記載されているように、それらの発現プロファイルの類似性に基づいて、異なるデータセットからの単一細胞間の「アンカー」対応を使用して行われた。発明者らは、その他のクラスターと比較して各クラスターの差示的に発現された遺伝子によって定義されるCAF-S1クラスター特異的シグネチャーを使用した(図7B)。驚くべきことに、BC由来のCAF-S1クラスターとHNSCC(図3A)又はNSCLC(図3B)のいずれかからのCAF-S1クラスターとの間に系統的な対応が見出された。特定のシグネチャーを用いたクラスターの可視化により、HNSCCとNSCLCで最も豊富な5つのクラスターを検出できることが確認された(図3A図3B)。したがって、発明者らは、HNSCC及びNSCLCの5つの最も豊富なCAF-S1クラスターの存在を確認し、その他のがんにおけるそれらの関連性を強調している。
【0229】
免疫抑制環境は特定のCAF-S1クラスターと相関する
発明者らは、CAF-S1線維芽細胞が乳がんや卵巣がんにおいて免疫抑制作用を発揮することを示したため、次に、この機能が全てのCAF-S1クラスターによって発揮されるのか、それとも特定のクラスターに限定されるのかを調べた(図4)。発明者らはまず、CAF-S1クラスターと免疫細胞の含有量との間の相関を検出できるかどうかを試験した。この目的のために、CD4+、CD8+ Tリンパ球及びナチュラルキラー(NK)細胞を含む、新鮮なBC試料(前向きコホート2、Table1(表1))をCAF-S1クラスター含有量及び免疫細胞浸潤の両方の観点から特徴付けた。発明者らは、間質細胞と免疫細胞との間の関連を試験し、別の変数と少なくとも1つの有意な相関を示す変数を分析した。教師なし階層クラスタリングによって得られた相関行列は、ecm-myCAFとTGFβ-myCAFが共に一方にクラスター化され、detox-iCAFクラスターとIL-iCAFクラスターが他方にクラスター化されているのに対し、wound-myCAFクラスターはかなり孤立していることを強調し、これらの異なるクラスターがT細胞と差示的に相互作用をしていることを示唆している。興味深いことに、ecm-myCAF、TGFβ-myCAF及びwound-myCAFはTリンパ球と特異的な関連を示すことがわかった。実際、CAF-S1線維芽細胞におけるecm-myCAFの割合は、CD45+造血細胞の浸潤と有意な相関があることが最初に観察された(図9)。より詳細には、ecm-myCAFの存在量は、PD-1+、CTLA-4+及びTIGIT+ CD4+ Tリンパ球の浸潤と相関したが、CD8+ Tリンパ球とは反相関した。同様に、TGFβ-myCAFの含有量はCD45+造血細胞との全体的な関連を示さなかったが、その存在量はCTLA-4+ CD4+ Tリンパ球による浸潤と正の相関があり、CD8+ Tリンパ球と負の相関があった。したがって、これらのデータは、ecm-myCAF及びTGFβ-myCAFの存在量がTregに富む免疫抑制環境と関連していることを示している。ecm-myCAF及びTGFβ-myCAFクラスターとは対照的に、detox-iCAF及びIL-iCAFの存在量はCD8+ T細胞浸潤と相関していた。wound-myCAFクラスターは、CD45+細胞の中でTリンパ球と全体的に相関し(図9)、CTLA-4+、TIGIT+、PD-1+及びNKG2A+ CD4+ Tリンパ球と反相関していた。wound-myCAFの濃縮は、枯渇のマーカーであるCTLA-4+ CD8+、TIGIT CD8+、CD244+ CD8+、CD244+ NKとも反相関しており、このクラスターと高Tリンパ球浸潤及び免疫防御環境との全体的な関連を示唆している。重要なのは、Costa Aら、Cancer Cell 2018;33(3):463-79e10、GivelらNat Commun 2018;9(1):1056及びKiefferらCancer Discov.2020;10(9):1330-1351に公開されたCAF-S1シグネチャーが、免疫療法応答に関連するCAF-S1免疫抑制クラスター(すなわち、ECM-myCAF、TGFβ-myCAF及びwound-myCAF)を特異的に同定することはできないことである。これらのクラスターはANTXR1+である。対照的に、これらのクラスターでは最も差示的なCAF-S1遺伝子が特異的に発現していないことが示され(図11)、上位CAF-S1遺伝子の中でANTXR1をこれらのクラスターのマーカーとして同定することは、偶然、可能ではなかったことが示唆される。
【0230】
BC患者の独立した大規模なコホートのこれらのデータを検証するために、CAF-S1クラスターと公開されているTCGAデータベースのT細胞シグネチャーとの関連を次に試験した。TCGAデータベースからのRNA-seqデータにより、ecm-myCAF及びTGFβ-myCAFクラスターの発現が、主要なTregマーカーの1つであるFOXP3の発現と正の相関があることが確認された(図4B)。更に、wound-myCAFはFOXP3と実質的な関連を示さなかったが、detox-iCAF及びIL-iCAFクラスターはFOXP3と負の相関を示した(図4B)。これらのデータと一致して、T細胞溶解指数とdetox-iCAF及びIL-iCAFクラスターとの間に正の相関が観察されたが、ecm-myCAF、TGFβ-myCAF又はwound-myCAFとは観察されなかった(図4C)。要約すると、detox-iCAFとIL-iCAFは免疫適格性環境と相関し、ecm-myCAFとTGFβ-myCAFはどちらも免疫抑制環境と関連しており、CD8+ Tリンパ球が乏しく、PD-1、CTLA-4を含む高レベルの免疫チェックポイントを発現するCD4+ Tリンパ球が豊富である。
【0231】
PD-1+及びCTLA-4+ Tregを有するecm-myCAFとTGFβ-myCAFとの間の正のフィードバックループ
上述のように、発明者らは、detox-iCAF及びIL-iCAFではなく、ecm-myCAF及びTGFβ-myCAFの存在量が、BCのPD-1+及び/又はCTLA-4+ CD4+ Tリンパ球の存在量と相関していることを観察した。発明者らは、CD4+ CD25+が豊富な免疫抑制環境の生成におけるCAF-S1クラスターの役割を調査した。したがって、発明者らは、インビトロ機能アッセイを行うためにCAF-S1クラスターの初代培養を確立した。培養中の全てのCAF-S1クラスターを確立することはできなかったが、2つの異なる方法、すなわち(1)CAF-S1線維芽細胞をプラスチック皿に播種したBC試料から直接逃がしてスプレッディングさせること、及び(2)FAPHigh CD29Med細胞をFACSで選別し、プラスチック皿に培地に増殖させること、を適用することで、ecm-myCAFクラスターとiCAFクラスターを単離することに成功した。数週間の増殖後、同じ培養条件のこれらの異なる細胞のアイデンティティー、すなわち機能アッセイを行うためのCD4+ CD25+ Tリンパ球との共培養に適合するもの(下記参照)を比較した。スプレッディングによって得られたCAF-S1は高レベルのmyCAF遺伝子を発現し、選別によって単離されたCAF-S1は、高発現のiCAF遺伝子を示すことが観察された。したがって、発明者らは、scRNA-seqデータから確立されたクラスター特異的シグネチャーを適用し(図7B)、スプレッディングされたCAF-S1線維芽細胞はecm-myCAFに富んでいるのに対し、選別されたCAF-S1はdetox-iCAF、IL-iCAF及びIFN-iCAFクラスターに富んでいることを発見した(BCから単離されたCAF-S1初代細胞株の#RNAシーケンシング方法のセクションを参照のこと)。発明者らは、グローバルCAF-S1亜集団がCD4+ CD25- T細胞に直接影響を及ぼさないが、CD4+ CD25- Tリンパ球のFOXP3+ Tregの割合を増加させることを以前に実証した。BCにおけるecm-myCAF及びTGFβ-myCAFの含有量は、CD4+が豊富な免疫抑制微小環境と関連していたが、iCAFクラスターは関連していなかったため、発明者らは、以前にCosta Aら、Cancer Cell 2018;33(3):463-79 e10及びGivelらNat Commun 2018;9(1):1056 doi 10.1038/s41467-018-03348-z.)で行われたように、機能アッセイを用いて、CD4+ CD25+ T細胞上のこれらのmyCAF及びiCAFクラスターの機能を比較した。
【0232】
最初に、CD4+ CD25+ FOXP3+ Tリンパ球の含有量に対するmyCAF及びiCAFクラスターの影響をインビトロで試験した(図5A)。ecm-myCAFは、CD4+ CD25+集団におけるFOXP3+ T細胞の割合を増加させ、これらのT細胞のFOXP3タンパク質レベルを増強した(図5A)。対照的に、iCAFクラスターは、CD4+ CD25+ FOXP3+ Tリンパ球の割合又はFOXP3タンパク質レベルのいずれにも影響を与えなかった(図5A)。発明者らはまた、正常な線維芽細胞のアイデンティティー及び免疫抑制活性に対する培養の影響を試験した。健康な組織からスプレッディングすることで単離された線維芽細胞はFAPNeg-Lowであり、初期には免疫抑制活性を欠いていたが、その後の継代でFAPPos-High及び免疫抑制性となり、プラスチック皿上でのCAFの長期維持が線維芽細胞を活性化する可能性が示唆された。次に、ecm-myCAFがCD4+ CD25+ FOXP3+ Tリンパ球を増加させる能力に基づいて、発明者らは次に、これらの免疫チェックポイントの陽性細胞の割合と表面タンパク質レベルの両方を考慮して、CD4+ CD25+ FOXP3+ Tリンパ球上のPD-1+、CTLA-4+、TIGIT+、TIM3+及びLAG3+の割合を調節するCAF-S1クラスターの能力を比較した(図5B図5F)。ecm-myCAFは、PD-1+及びCTLA-4+ CD4+ CD25+ FOXP3+ Tリンパ球の割合とそれらの表面における免疫チェックポイントレベルの両方を有意に増加させた(図5B図5C)。ecm-myCAFとは対照的に、iCAFクラスターはPD-1+及びCTLA-4+ T細胞の割合にもCTLA-4タンパク質レベルにも影響を与えなかった(図5B図5C)。更に、iCAFクラスターはPD-1タンパク質レベルを増加させたが、この効果はecm-myCAFよりも効率が低かった。myCAFクラスターとiCAFクラスターはどちらも、CD4+ CD25+ FOXP3+ TIGIT+細胞の割合を増加させたが(図5D)、TIM3+及びLAG3+ T細胞には効果がなかった(図5E図5F)。したがって、BCに観察されたecm-myCAFとPD-1+及びCTLA-4+ CD4+ Tリンパ球との相関と一致して、ecm-myCAF由来のCAF-S1は、CD4+ CD25+ FOXP3+ Tリンパ球の表面でPD-1及びCTLA-4免疫チェックポイントレベルを増強することにより、Tregに対して直接機能しているが、iCAFクラスターはこれらの細胞にまったく又は最小限の影響しか及ぼさないことがここに示されている。最後に、ecm-myCAFとの共培養時にCD4+ CD25+ T細胞の表面の免疫チェックポイントのアップレギュレーションが細胞内でも検出されることが観察され(図10A)、ecm-myCAFがT細胞の総タンパク質レベルを増加させることが示唆された。更に、発明者らは、CD4+ CD25+ T細胞のFOXP3、CTLA-4及びTIGITの発現も、ecm-myCAFとの共培養後にmRNAレベルでアップレギュレーションされ(図10B)、PD-1 RNAはインビトロでT細胞ではほとんど検出されないことを見出した。更に、発明者らは、ecm-myCAFとの共培養時に、NFAT及びSTATファミリーメンバーのmRNAレベルもCD4+ CD25+ Tリンパ球において上昇することを観察した(図10C)。NFATとSTATはT細胞の免疫チェックポイントの転写調節因子としてよく知られているため、これらのデータは、ecm-myCAFがCD4+ CD25+ Tリンパ球のRNAレベルで免疫チェックポイントのアップレギュレーションを促進し、NFAT/STATシグナル伝達経路の活性化を通じて潜在的に促進することを示している。
【0233】
CAF-S1クラスターがTregに与える影響を考慮して、発明者らは次に、Tリンパ球がCAF-S1クラスターのアイデンティティーを調節できるかどうかに関心をもった。そこで、発明者らは、CD4+ CD25+ Tリンパ球の共培養がCAF-S1線維芽細胞の表面のマーカークラスターレベルに何らかの影響を与えるかどうかを評価した。共培養の際、T細胞によるあらゆる汚染を避けるために、CAF-S1をFACSによって単離し、それらの表面に発現するクラスターマーカーを分析した。CD4+ CD25+ T細胞の共培養は、ecm-myCAF線維芽細胞の表面でTGFβ-myCAF特異的マーカーLAMP5の発現を有意に増加させることが観察され(図5G)、それによってTGFβ-myCAFの含有量がCD4+ CD25+ Tリンパ球との共培養で増加することを示唆している。この効果はmyCAFでのみ検出され、iCAF線維芽細胞では検出されなく(図5G)、TGFβ-myCAF及びecm-myCAF CAF-S1線維芽細胞がmyCAFサブグループに属することを考えると予想通りであった。この観察結果と一致して、ANTXR1タンパク質レベルは、CD4+ CD25+ T細胞との共培養時にecm-myCAF線維芽細胞でも増加する(有意性に到達しなかったが)傾向を示したが、iCAF細胞では厳密に変化せず、低いままであった(図5G)。非常に驚くべきことに、IL-iCAFのマーカーであるDLK1も共培養時に増加し、ecm-myCAFとIL-iCAFの間の潜在的な可塑性を示唆している。対照的に、その他のマーカーは共培養時に有意な変動を示さず、それぞれのクラスターアイデンティティーに基づいて予想されるように、高い(SDC1)又は低い(GPC3及びCD9)のいずれかのままであった(図5G)。これらの観察結果は、CD4+ CD25+ Tリンパ球がecm-myCAF(ANTXR1+ SDC1+ LAMP5- CD9+/-)のTGFβ-myCAF(ANTXR1+ LAMP5+ SDC1+/- CD9+/-)への変換を促進する可能性があることを示唆し、両方のクラスターはmyCAFである。全体として、発明者らは、ecm-myCAFがFOXP3+ Tリンパ球の表面のPD-1及びCTLA-4タンパク質レベルに直接影響を与える可能性があることを発見した。逆に、Tregはecm-myCAFのTGFβ-myCAFへの変換を促進することができ、それによってこれら2つのクラスターとCD4+ CD25+ PD-1+又はCTLA-4+ T細胞との間の正のフィードバックループの基礎となり、BCに観察された正の相関を説明することができる。
【0234】
ecm-myCAF及びTGFβ-myCAFは、免疫療法に対する一次耐性と関連している
TregのPD-1及びCTLA-4タンパク質レベルに対する特定のCAF-S1クラスターの直接的な影響を考慮して、発明者らは次に、いくつかのCAF-S1クラスターが免疫療法耐性と関連している可能性があるかどうかに関心をもった。免疫療法によって治療を受けたBCのデータにアクセスできなかったため、抗PD-1(ペムブロリズマブ)療法で治療された転移性黒色腫患者の公開データを利用し(Hugo WらCell 2016;165(1):35-44)、これは黒色腫の治療に革命をもたらした。前述の研究で定義されているように、発明者らは、患者が進行性疾患を示した場合は抗PD-1に対する「非レスポンダー」として、完全又は部分的な応答を示した場合は「レスポンダー」と見なした。遺伝子セット濃縮分析を行うことにより、診断時に、CAF-S1特異的遺伝子の発現は、正常な線維芽細胞含有量ではないが、非レスポンダー患者由来の腫瘍において有意に濃縮されていることを最初に観察した。発明者らは、CAF-S1クラスター特異的シグネチャーを用いて、ecm-myCAF、TGFβ-myCAF及びwound-myCAF遺伝子発現が非レスポンダーにレスポンダーと比較して富化されているのに対し、detox-iCAF、IL-iCAF及びIFN-iCAFクラスターは富化されていないことを観察した(図6A)。次に、レスポンダーと非レスポンダーの各CAF-S1クラスターの含有量を比較した。その結果、ecm-myCAF、TGFβ-myCAF及びwound-myCAFの発現は、非レスポンダーの方がレスポンダーよりも有意に高く、detox-iCAF及びIFN-iCAFの発現は2つのサブグループの患者間で類似していることを確認した(図6B)。更に、正常な線維芽細胞の含有量も細胞溶解指数も、RooneyらCell 2015;160(1-2):48-61に定義されていなく、レスポンダーと非レスポンダーとの間で異なっていた(図6C図6D)。これらの観察結果と一致して、相互分析(すなわち、低又は高CAF-S1クラスター発現に従ってレスポンダーと非レスポンダーの数を決定する)は、非レスポンダー患者の数は、診断時にecm-myCAF、TGFβ-myCAF、又はwound-myCAFの高発現を示す腫瘍と有意に関連していることを確認したが、その他のCAF-S1クラスター、一般的なCAF含有量、又は細胞溶解指数は、免疫療法に対する患者の応答に関する有益な情報をもたらさなかった(図6E図6G)。まとめると、これらのデータは、3つの特定のCAF-S1クラスター(ecm-myCAF、TGFβ-myCAF及びwound-myCAF)が転移性黒色腫患者の抗PD-1応答の診断において指標となるのに対し、その他のCAF-S1クラスター(detox-iCAF、IL-iCAF及びIFN-iCAF)、総CAF含有量又は細胞溶解指数はそうではないことを示している。最後に、発明者らは、CAF-S1クラスター、特にecm-myCAF、TGFβ-myCAF及びwound-myCAFが、免疫療法の別の最近確立された臨床適応症である一連の転移性NSCLC患者における一次免疫療法耐性に及ぼす影響を検証しようとした(ここでは、ニボルマブによる第2のライン又は第3のライン設定で治療し、NSCLCコホート4の詳細な説明についてはTable2(表2)を参照されたい)。黒色腫と同様に、発明者らは、診断時にサンプリングされた腫瘍標本で評価されたCAF-S1シグネチャーが、非レスポンダー患者で有意に富化されていることを検証した。対照的に、正常な線維芽細胞の含有量は非レスポンダーよりもレスポンダーで高く、CAF-S1が非レスポンダーで有意に濃縮されていることが示唆された。重要なことに、発明者らは、ecm-myCAF、TGFβ-myCAF及びwound-myCAFが、detox-iCAF、IL-iCAF及びIFNγ-iCAFクラスターとは対照的に、非レスポンダーNSCLC患者と関連していることを確認した(図6I)。結論として、detox-iCAF、IL-iCAF、及びIFNγ-iCAFクラスターとは対照的に、診断時のecm-myCAF及びTGFβ-myCAFの存在量は、黒色腫及びNSCLCの両方における免疫療法に対する耐性と関連しており、TregのPD-1+及びCTLA-4+タンパク質レベルを増加させる能力と一致している。
【0235】
材料と方法
患者のコホート
BCの患者:ここで開発された研究は、組織病理学的分析後に入手可能であり、診断に必要ではない外科的残留物から採取された試料に基づいている。臨床診療への干渉はない。原発腫瘍試料の分析は、生物医学研究に参加する人々の保護に関する関連する国内法に従って実施された。キュリー研究所に入院した全ての患者(BC患者)は、試料が研究目的で使用される可能性があることを説明するウェルカムブックレットを受け取った。したがって、研究に含まれる全ての患者は、紹介腫瘍医から、標準的な臨床診療を通じて収集された生物学的試料を研究目的に使用でき、必要に応じてそのような使用に反対を表明できることを知らされた。口頭で表現又は書面のいずれかで患者が拒否した場合、残存腫瘍試料は研究に含まれなかった。F. Mechta-Grigoriouの研究室による腫瘍微小環境分析のためのヒト実験手順は、キュリー研究所病院グループの治験審査委員会及び倫理委員会(2014年2月12日承認)及びCNIL(Commission Nationale de l'informatique et des Libertes)(No承認:1674356 2013年3月30日配信)によって承認された。「生物資源センター」(BRC)は、博士A. Vincent-Salomonが率いる診断及び治療医学部門の病理学部門の一部である。BRCは、フランスの法律に従って、ヒトの生物学的試料を保管及び管理することを許可されている。BRCは、患者の同意書が取得されたときに継続的にインクリメントされる定義された試料の回収を宣言した(宣言番号#DC-2008-57)。BRCは、ヘルシンキ宣言を含む、現在要求されている全ての国内及び国際的な倫理規則に従う。BRCは、AFNOR NFS-96-900品質ラベルの認定も受けている(更新され、現在は2021年まで有効である)。管腔(Lum)腫瘍は、ER(エストロゲン受容体)及び/又はPR(プロゲステロン受容体)の陽性免疫染色によって定義された。ホルモン受容体陽性を定義するために使用されたカットオフは、染色された細胞の10%であった。Ki67(増殖)スコアは、Lum AとLum B腫瘍を更に区別する(15%未満:上記のLum A:Lum B)。HER2増幅がんは、ASCOのガイドラインを用いたERBB2免疫染色に従って定義されている。TN免疫表現型は以下のように定義した:以下のマーカーの少なくとも1つの発現を有するER-PR- ERBB2-:KRT5/6+又はEGF-R+
【0236】
NSCLCの患者:NSCLC試料は、Bichat病院の病理学部門に保管されている日常的な診断試料からのものであり、Pr.G. Zalcman医学博士が率いるBichat病院の胸部腫瘍科で免疫腫瘍薬によって治療された患者に由来するものであった。匿名化された臨床データは、Bichat病院のCIC-1425/CLIP2臨床調査センター(Pr.G. Zalcmanが共同で率いる)の肺がん患者の胸部腫瘍学データベースの一部であり、(地域保健局の承認#17-1381)、観察臨床研究に関するフランスの規制規則に従っている。患者は、免疫腫瘍薬の登録に従って、化学療法ベースの第1又は第2ラインで進行した後、チェックポイント阻害剤を投与された。現在の研究期間中、抗PD-1ニボルマブモノクローナル抗体は、そのような設定で使用される最も頻繁な薬物を表していた。免疫腫瘍治療の有効性は、全身CTスキャンによって8~12週間ごとに評価され、胸部専門放射線科医、胸部腫瘍医、呼吸器科医を含む毎週の学際的な腫瘍委員会によって、RECIST v.1.1基準に従って、客観的レスポンダー(OR)、安定した疾患(SD)の患者、及び臨床的利益なしに腫瘍体積が20%増加した腫瘍進行(Progr)を示す患者を定義した。4カ月で観察された最良の応答状態は、現在の研究に使用された。免疫腫瘍薬が4か月の評価で臨床的利益(n=3)のために6か月超投与されたSD患者は、進行性疾患(当時は長期持続性SD)の基準は一切なしで、現在の研究のレスポンダー患者のグループに含まれた。CTスキャンの評価された進行の日付が記録された。一部の患者は、早期(8週間前)のCTスキャン評価を必要とする初期の臨床的進行を示した。これらのシリーズでは、上記の基準に従っていた。レスポンダー患者は22名、進行性患者は48名で、治療期間は4か月未満であった。進行日は、RECIST進行を示すCTスキャンの日付として保持された。死亡の日付と原因、又は生命状態の最後の知らせの日付は体系的に記録された。進行後の2次又は3次治療が登録された。進行後の治療による不均衡はなかった。PD-L1染色は、Leica Bond platform上の市販のクローンであるCell Signaling Technology E1L3Nを使用して、少なくとも200個の腫瘍細胞を含む診断、治療前の生検試料から、4μmパラフィン包埋切片でA.G.によって実行及び解釈された。5名を除く全ての患者(残りの病理学的ブロックに200個未満の腫瘍細胞を有する)がPD-L1免疫組織化学分析を受けた。
【0237】
単一細胞レベルでのCAF-S1 RNAシーケンシング
BCからのCAF-S1の単離:CAF-S1線維芽細胞は、合計8つの原発性BC(任意の治療前の外科的残留物)から単離された(前向きコホートの詳細についてはTableS1(表1)を参照されたい)。7つのBCが最初に研究された。更に、Seurat Rパッケージのラベルトランスファーアルゴリズムを使用してCAF-S1クラスターを検証するための別のBC試料が追加された。CAF-S1線維芽細胞は、BDFACS ARIA III(商標)ソーター(BD biosciences社)を用いてBCから単離した。新鮮なヒトBC原発腫瘍は、手術標本の肉眼検査と病理学者による対象領域の選択の後、手術室から直接収集された。試料を小片(約1mm3)に切断し、150μg/mlのリベラーゼ(Roche社#05401020001)及びDNase I(Roche社#11284932001)を添加したCO2非依存培地(Gibco社#18045-054)で、振とう(180rpm)しながら37℃で40分(分)消化した。次に、細胞を40μmのセルストレーナー(Fisher Scientific社#223635447)で濾過し、PBS+溶液(PBS、Gibco社#14190;EDTA 2mM、Gibco社#15575;ヒト血清1%、BioWest社#S4190-100)を50μl中の5×105~106細胞の間の最終濃度で再懸濁した。CAF-S1線維芽細胞を単離するために、発明者らはまず、上皮(EPCAM+)、造血(CD45+)、内皮(CD31+)、及びCD235a+(赤血球)細胞を除外する選択を適用し、次にCAF-S1マーカー(FAP及びCD29)を使用する。そのために、懸濁液中の細胞を、フローサイトメトリー細胞選別用の抗EpCAM-BV605(BioLegend社、#324224)、抗CD31-PECy7(BioLegend社、#303118)、抗CD45-APC-Cy7(BD Biosciences社、#BD-557833)、抗CD235a-PerCP/Cy5.5(Biolegend社、#349109)、抗CD29-Alexa Fluor 700(BioLegend社、#303020)、抗FAP-APC(一次抗体、R&D Systems社、#MAB3715)を含む抗体ミックスで染色し、シングルセルRNAシーケンシングを実施した。FAPを除く全ての抗体は、既に蛍光色素とコンジュゲートされたものを購入した。抗FAP抗体は、蛍光色素ゼノンAPCマウスIgG1標識キット(ThermoFisher Scientific社、#Z25051)を用いてコンジュゲートさせた。使用した各CAFマーカーのアイソタイプコントロール抗体は、iso-anti-CD29(BioLegend社、#400144)及びiso-anti-FAP(一次抗体、R&D Systems社、#MAB002)であった。
【0238】
細胞懸濁液は、PBS+溶液中の抗体ミックスで、室温で15分間、BC腫瘍試料を解離した直後に染色した。2.5μg/ml DAPI(ThermoFisher scientific社、#D1306)をフローサイトメトリー選別の直前に添加した。シグナルは、細胞選別のためにBDFACS ARIA III(商標)ソーター(BD biosciences社)で取得された。少なくとも5×105のイベントが記録された。補償は、各抗体について抗マウスIgG及び陰性対照ビーズ(BD biosciences社、#552843)に対する単一染色を用いて行った。データ分析は、FlowJoバージョンX 10.0.7r2を使用して実行された。細胞は、最初に、破片を排除するために、前方散乱(FSC-A)及び側面散乱(SSC-A)(細胞サイズ及び粒度をそれぞれ測定)に基づいてゲーティングした。死細胞は、DAPIに対する陽性染色に基づいて除外した。次に、SSC-A対SSC-Wパラメータに基づいて単一細胞を選択した。ゲーティングには、上皮細胞(EPCAM+)、造血細胞(CD45+)、内皮細胞(CD31+)、赤血球(CD235a+)を除去するために、EPCAM-、CD45-、CD31-、CD235a-細胞が含まれていた。
【0239】
単一細胞レベルでのCAF-S1 RNAシーケンシング:単離すると、CAF-S1細胞は、10%のFBS(Biosera社、#1003/500)を追加したDMEM(GE Life Sciences社、#SH30243.01)でプレコートされたRNaseを含まないチューブ(ThermoFisher Scientific社、#AM12450)に直接収集された。試料あたり少なくとも6,000個の細胞を採取した。これらの条件では、細胞濃度は対照試料でチェックされ、200,000細胞/mlであった。単一細胞キャプチャー、溶解、及びcDNAライブラリの構築は、10X Genomics社のChromium(商標)システムを使用して、以下のキット:Chromium(商標)Single Cell 3' Library & Gel Bead Kit v2キット(10X Genomics社、#120237)及びChromium(商標)Single Cell Aチップキット(10X Genomics社、#1000009)を使用して実行した。エマルジョン(GEM社)中のゲルビーズの生成、バーコード、GEM-RT後のクリーンアップ(逆転写)及びcDNA増幅は、製造元の指示に従って実施した。標的細胞回収は、低いマルチプレットレートを維持しながら、十分な細胞を回収するために試料あたり3,000細胞であった。それに応じて細胞をクロムシングルセルAチップに充填し、cDNA増幅のために12サイクルを実行した。cDNAの質と量は、Agilent高感度DNAキット(Agilent社、#5067-4626)を使用してAgilent 2100バイオアナライザーでチェックされ、ライブラリの構築は10X Genomics社のプロトコルに従って行われた。ライブラリは次に、Illumina HiSeq(患者P5-7用)及びNovaSeq(患者P1-4用)で実行され、細胞あたり50,000リードのシーケンシングの深さで実行された。生のベースコール(BCL社)ファイルのFASTQファイルへの逆多重化、アライメント、フィルタリング、バーコード、Unique Molecular Identifiers(UMI)カウント等の生データの処理は、10X Cell Rangerパイプラインバージョン2.1.1を使用して実行された。リードは、ホモサピエンス(ヒト)ゲノムアセンブリGRCh38(hg38)に整列した。
【0240】
scRNA-seqデータ処理
scRNAseq:生データの前処理は、最初はCell Rangerソフトウェアパイプライン(バージョン2.1.1)を使用して実行された。この工程には、生のベースコール(BCL)ファイルのFASTQファイルへの逆多重化、STARを使用したヒトゲノムアセンブリGRCh38のアライメントの読み取り、及びunique molecular identifier(UMI)のカウントが含まれた。7名のBC患者(7回のシーケンシングラン、患者1~7名に相当)からの18,805個のCAF-S1細胞の最初のセットを、Seurat Rパッケージ(バージョン3.0.0)を使用して分析した(ButlerらNat Biotechnol 2018;36(5):411-2)。1名のBC患者(患者8)からの1,646個のCAF-S1細胞の2番目のセットを検証に使用し(#ラベルトランスファーを参照)、同じ方法論を使用して分析した。
【0241】
品質管理:品質管理工程として、各患者について各細胞で検出された固有の遺伝子の分布(非ゼロカウント)に基づいて、まず低品質の細胞、空の液滴、マルチプレットキャプチャーをフィルターで除いた。検出された遺伝子が200個未満及び6,000個を超える細胞(患者1の場合)、検出された遺伝子が5,000個を超える細胞(患者3、5及び6の場合)、検出された4,500個を超える遺伝子(患者2、7及び8の場合)、又は検出された4,000個を超える遺伝子(患者4の場合)は除外された。発現されたミトコンドリア遺伝子の割合に基づく細胞の分布もプロットした。ミトコンドリア遺伝子の割合が5%を超える細胞は、死にかけている細胞又は広範囲のミトコンドリア汚染を伴う低品質の細胞を排除するために廃棄された。各患者について、ミトコンドリアの割合は、引数パターン= "^MT-"でSeuratのPercentageFeatureSet関数を使用して計算された。これらのQC基準に従って、18,296個のCAF-S1細胞(患者1=1,825個の細胞、患者2=3,300個の細胞、患者3=2,810個の細胞、患者4=3,153個の細胞、患者5=2,486個の細胞、患者6=3,179個の細胞、患者7=1,543個の細胞)及び1,582個のCAF-S1細胞(患者8)を、ダウンストリーム解析のためにそれぞれ第1及び第2のデータセットに最終的に保存した。
【0242】
正規化とデータ統合:最初のデータセットからの7つのBCのscRNA-Seqの統合は、デフォルトパラメータを用いNormalizeData関数を使用して各細胞のライブラリサイズ正規化後に、Seurat関数FindIntegrationAnchors及びIntegrateDataを使用して行われた。30次元は正準相関分析(CCA)に使用され、30主成分(PC)はIntegrateData関数の重み付け手順で使用された。データはScaleData関数を使用してスケーリングされ、変数「nUMI」と「percent.mt」が回帰に使用された。同じパラメータが2番目のデータセットの正規化に使用された。
【0243】
クラスタリングとデータの視覚化:PCA次元削減は、デフォルトパラメータを使用して実行された。含まれるコンポーネント(PC)の数は、JackStraw及びScoreJackStraw関数に実装されたJackStraw手順を使用して評価された。30台のPCが使用された。グラフベースのクラスタリングアプローチを使用して、FindNeighbours(k=20)及びFindClusters関数(res=0.35)を使用して最初のデータセットの細胞をクラスター化した。この解像度で10個のCAF-S1クラスターが得られた。データの視覚化のために、SeuratのRunUMAP関数を使用して非線形次元削減手法UMAPが適用された。
【0244】
差示的遺伝子発現及びシグナル伝達経路の解析:最初のデータセットの10個のクラスターのそれぞれで特異的にアップレギュレーションされた遺伝子を、ペアワイズ差分分析を使用して同定した。各ペアワイズの組み合わせに差示的に発現された遺伝子の数の中央値は126遺伝子であったが、2つの組み合わせで差示的に発現された遺伝子の数は非常に限られており、クラスター0と5の間には9遺伝子、クラスター3と6の間には22遺伝子しかなかった。各クラスターの生物学的意味は、Metascapeツール(http://metascape.org)を使用して、10個の初期クラスターのそれぞれで有意にアップレギュレーションされた全ての遺伝子を使用して決定された(1つのクラスター対他の全てのクラスター、関数FindAllMarkers、次のパラメータ:logfc.threshold=0.25、テスト=ウィルコクソン順位和検定のウィルコックス)。ペアワイズ解析と一致して、一方では0/5、他方では3/6のクラスターで同定された生物学的経路は冗長であり、したがって組み合わされた。次に、クラスター0と5をクラスター0/ecm-myCAFとして定義し、クラスター3と6をクラスター3/TGFβ-myCAFとして定義し、最終的に8つの生物学的に異なるCAF-S1クラスターを同定した。
【0245】
CAF-S1、CAF-S1クラスター及び正常線維芽細胞の遺伝子シグネチャー:CAF-S1クラスター0~5の特異的遺伝子シグネチャーは、クラスター0~5の間で差分解析(ウィルコクソン順位和検定)を行うことによって定義した。調整されたP値<0.05を有するクラスター間(1つのクラスター対他の全てのクラスター)で差示的に発現された遺伝子が選択された。これらのシグネチャーは、単一細胞及び黒色腫、NSCLC、及びHNSCCを含む異なるがんタイプのバルクからのRNA-seqデータ中のCAF-S1クラスターの検出に使用されたため、発明者らは、黒色腫(27)、NSCLC(31)及びHNSCC(30)の腫瘍細胞からのscRNA-seqデータを使用して、腫瘍細胞に発現した遺伝子を除外した。発明者らは、腫瘍細胞の10%超が前述のscRNA-seqデータのいずれかに1より高い発現レベルを示す場合、腫瘍細胞に発現された(したがってCAF-S1クラスターシグネチャーから除外される)遺伝子を定義した。CAF-S1グローバルシグネチャーは、Costa Aら、Cancer Cell 2018;33(3):463-79 e10に最初に公開され、同じタイプの分析に供し、腫瘍細胞に検出された遺伝子を除外し、バルク分析に適合させた。最初の100個の最も重要な遺伝子は、CAF-S1特異的シグネチャーについて考慮された。正常な線維芽細胞シグネチャーは、BCから単離されたCAF-S1線維芽細胞と比較して、健康な傍腫瘍組織から単離された正常線維芽細胞(FAPNeg CD29Med SMANeg)に有意にアップレギュレーションされた遺伝子によって定義された。腫瘍細胞に発現されている遺伝子は、上記と同じ戦略に従って、シグネチャーから除外された。細胞溶解指数は、RooneyらCell 2015;160(1-2):48-61に記載されているように、グランザイムA(GZMA)及びパーフォリン(PRF1)遺伝子発現の幾何平均として定義した。
【0246】
ラベルトランスファー
最初のデータセットで同定されたCAF-S1クラスターを検証するために、品質管理後の1582個のCAF-S1線維芽細胞に対応する別のデータセットを、付加的なBC試料から収集し、Seuratパイプラインを使用して分析した。ラベルトランスファーアルゴリズムは、Stuart TらCell 2019;177(7):1888-902 e21に記載され、Seurat V3.0 Rパッケージに実装され、関数FindTransferAnchorsとTransferDataを使用して適用された。18,296個のCAF-S1細胞の最初のデータセットを参照として使用し、1,582個のCAF-S1細胞の2番目のデータセットをクエリとして使用した。アンカーを見つけるとき、PCAを参照からクエリに投影することによって次元の削減が実行された。30次元を使用した。
【0247】
BC、HNSCC及びNSCLCからのシングルセルデータ統合
BCとHNSCC又はBCとNSCLC単一細胞データとの間の統合は、Stuart TらCell 2019;177(7):1888-902 e21に記載の方法を用いて行われ、Seurat V3.0 Rパッケージに実装された。端的に言うと、データセット間の単一細胞間の細胞ペアワイズ対応(「アンカー」と呼ばれる)を同定することで、データセットを共有スペースに変換できる。両方のデータセットの次元削減は、対角化された正準コレスポンデンス分析(CCA)を使用して実行され、アンカーの同定の前にL2正規化が正準相関ベクトルに適用された。デフォルトパラメータは、Seurat V3.0パッケージのFindIntegrationAnchorsとIntegrateData関数に使用された。
【0248】
最も豊富な5つのCAF-S1クラスターと免疫細胞のフローサイトメトリー解析
44個のBCを小さな断片に切断し、CO2非依存培地(Gibco社、#18045-054)に、5%ウシ胎児血清(FBS、PAA社、#A11-151)、2mg/mlのコラゲナーゼI(Sigma-Aldrich社、#C0130)、2mg/mlのヒアルロニダーゼ(Sigma-Aldrich社、#H3506)及び25mg/mlのDNase I(Roche社、#11284932001)を追加して、振とう(180rpm)しながら37℃で45分間消化した。組織の消化後、細胞ストレーナー(40mm、Fischer Scientific社、#223635447)を使用して細胞を濾過し、2mMのEDTA(Gibco社、#15575)及び1%のヒト血清(BioWest社、#S4190-100)を追加したPBS溶液(Gibco社、#14190)を使用して洗浄した。次いで、CAF-S1クラスターパネル及び免疫細胞パネルをそれぞれ解析するための2群に細胞を分けた。
【0249】
CAF-S1クラスターパネル:細胞をPBS中で20分間Live Dead NIR(1:1000、BD Bioscience社 #565388)で染色した。次いで、細胞を洗浄し、抗CD235a-APC-Cy7(1:20、BioLegend社、#349115)、抗EpCAM-BV605(1:25、BioLegend社、#324224)、抗CD31-PECy7(1:50、BioLegend社、#303118)、抗CD45-BUV395(1:25、BD Biosciences社、#BD-563792)、抗CD29-Alexa Fluor 700(1:50、BioLegend社、#303020)、蛍光色素Zenon APCマウスIgG1標識キット(Thermo Fisher Scientific社、#Z-25051)を使用して連結された抗FAP(1:100、R&D Systems社、#MAB3715)、抗ANTXR1-AF405(1:33、Novus Biological社、#NB-100-56585)、抗LAMP5-PE(1:10、Miltenyi Biotech社、#130-109-156)、抗SDC1-BUV737(1:25、BD Biosciences社、#BD-564393)、抗GPC3-AF594(1:20、RnD、#FAB2119T、100UG)、抗DLK1-AF488(1:25、RnD社、#FAB1144G-100)及び抗CD9-BV711(1:200、BD Biosciences社、#BD-743050)を含む抗体カクテルで45分間染色した。使用した各CAFクラスターマーカーのアイソタイプコントロール抗体は、マウスIgG1アイソタイプコントロール-BV711(1:200、BD Bioscience社、#563044)、マウスIgG1アイソタイプコントロール-AF405(1:3、Novus Biological社、#IC002V)、マウスIgG1アイソタイプコントロール-BUV737(1:25、BD Bioscience社、#564299)、マウスIgG2Bアイソタイプコントロール-AF488(1:12、5、RnD社、#IC0041G)、マウスIgG2Aアイソタイプコントロール-AF594(1:5、RnD社、#IC003T)、REAコントロール-PE(1:10、Miltenyi Biotech社、#130-113-462)であった。その後、細胞を洗浄し、LSR FORTESSAアナライザー(BD biosciences社)を使用して同日に取得する、又は4%のパラホルムアルデヒド(PFA、Electron Microscopy Sciences社、#15710)で20分間固定した後、洗浄してPBS+溶液に一晩保持し、翌日取得した。少なくとも5×105のイベントが記録された。補償は、各抗体について抗マウスIgG及び陰性対照ビーズ(BD biosciences社、#552843)並びにLive/Dead染色のために細胞に対する単一染色を用いて行った。データ分析は、FlowJoバージョン10.4.2(LLC、米国)を使用して実行された。細胞は、まず破片を排除するために、前方散乱(FSC-A)及び側面散乱(SSC-A)(細胞サイズ及び粒度をそれぞれ測定)に基づいてゲーティングした。死細胞及び赤血球は、それぞれLive/Dead NIR及びCD235aの陽性染色に基づいて除外された。次に、SSC-H対SSC-Aパラメータに基づいて単一細胞を選択した。次に、上皮細胞(EpCAM+)、造血細胞(CD45+)、内皮細胞(CD31+)を除くために、細胞をEpCAM-、CD45-、CD31-細胞上でゲーティングした。DAPI-、EPCAM-、CD45-、CD31-細胞は、FAP及びCD29に従って4つのサブセット(CAF-S1からCAF-S4)に分けられた。CAF-S1サブセットが、最初にANTXR1でゲーティングされた。次に、ANTXR1+細胞がSDC1及びLAMP5に従ってゲーティングされた。ANTXR1+ SDC1+ LAMP5-はクラスター0/ecm-myCAF、ANTXR1+ SDC1- LAMP5+はクラスター3/TGFβ-myCAFとして定義された。ANTXR1+ SDC1- LAMP5-はCD9にゲーティングされ、ANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9+はクラスター4/wound-myCAFとして定義された。ANTXR1-/Low細胞は、DLK1及びGPC3上でゲーティングされた。クラスター1(detox-iCAF)は、ANTXR1- GPC3+ DLK1-/+として定義され、クラスター2は、ANTXR1- GPC3- DLK1+として定義された。ANTXR1- GPC3- DLK1-及びANTXR1+ SDC1- LAMP5- CD9-を他のクラスターとして指定された。
【0250】
免疫パネル:CAF-S1クラスターについて分析された44個のBC試料のうち、37個は免疫含有量についてその間に特徴付けられた。細胞タイプは、live dead negative画分で分析され、造血細胞(CD45+)、CD4 +/CD8+Tリンパ球、Bリンパ球(CD45+ CD14- CD3- CD19+)、NK(CD45+ CD14- CD3- CD56+)、細胞傷害性NK(CD56+ CD16+)及び非細胞傷害性NK(CD56+ CD16-)、(CD45+ CD14- CD3+ CD4+/CD8+)及び骨髄系細胞(CD45+ CD14+)として定義された。同定された各集団について、以下のチェックポイントの陽性細胞の割合も評価した:PD-1、CTLA-4、NKG2A、TIGIT、CD244、CD158K、CD69、CD161。細胞をLive dead(1:1000、Thermo Fisher Scientific社、#L34955)でPBSに20分間染色した。次いで、細胞を洗浄し、抗体カクテルで45分間染色し、抗体カクテルは、抗CD45-APC-cy7(1:20、BD Biosciences社、#BD-557833)、抗CD14-BV510(1:50、BD Biosciences社、#563079)、抗CD56-BUV395(1:25、BD Biosciences社、#563554)、抗CD16-BV650(1:25、BD Biosciences社、#563692)、抗PD-1-BUV 737(1:20、BD Biosciences社、#565299)抗CD3-AF700(1:25、BD Biosciences社、#557943)、抗NKG2A-BV786(1:20、BD Biosciences社、#747917)、抗TIGIT-BV605(1:20、BD Biosciences社、#747841)、抗CD158K-Pe(1:10、Miltenyi Biotec社、#130-095-205)抗CD244-FITC(1:10、BD Biosciences社、#550815)、抗CTLA-4-PE-cy5(1:10、BD Biosciences社、#555854)、抗CD19-Percp-cy5.5(1:20、BD Biosciences社、#561295)、抗-CD4 APC(1:25、Miltenyi Biotec社、#130-092-374)、抗-CD8-PE-TexasRred(1:100、Life Technologies社、#MHCD0817)、抗-CD69-BV710(1:25、BD Bioscience社、#563836)、抗-CD161-PE-VIO770(1:100、Miltenyi社、#130-113-597)を含んでいた。その後、細胞を洗浄し、LSR FORTESSAアナライザー(BD biosciences社)を使用して同日に取得する、又は4%のパラホルムアルデヒド(PFA、Electron Microscopy Sciences社、#15710)で20分間固定した後、洗浄してPBS+溶液に一晩保持し、翌日取得した。少なくとも5×105のイベントが記録された。補償は、各抗体について抗マウスIgG及び陰性対照ビーズ(BD biosciences社、#552843)並びにLive/Dead染色のために細胞に対する単一染色を用いて行った。データ分析は、FlowJoバージョン10.4.2(LLC、米国)を使用して実行された。
【0251】
BCから単離されたCAF-S1初代細胞株のRNAシーケンシング
RNAは、製造元の指示に従って、Qiagen miRNeasyキット(Qiagen社、#217004)を使用してCAF-S1線維芽細胞から抽出された。ここで研究した7つのCAF-S1初代細胞株のうち、3つは選別によって単離され、4つはスプレッディングによって単離された。これらの7つのCAF-S1初代細胞株は、7名の異なるBC患者から作製された。RNAの完全性と品質は、Agilent RNA 6000 Picoキット(Agilent Technologies社、#5067-1513)を用いて解析した。cDNAライブラリは、TruSeq鎖mRNAキット(Illumina社、#20020594)を使用して調製し、続いてNovaSeq(Illumina社)でシーケンシングを行った。リードはヒト参照ゲノム(hg38;Gencode リリース 26)にマッピングされ、STAR(バージョン2.5.3a)を使用して「outFilterMultimapNmax=20;alignSJoverhangMin=8;alignSJDBoverhangMin=1;outFilterMismatchNmax=999;outFilterMismatchNoverLmax=0.04;alignIntronMin=20;alignIntronMax=1000000;alignMatesGapMax=1000000;outMultimapperOrder=Random」のパラメータで定量化された。全試料の少なくとも5%に1つのリードを有する遺伝子のみが、更なる分析のために保持された。正規化はDESeq2 Rパッケージで行い、生の読み取りマトリックスをlog2変換した。CAF-S1初代細胞株のアイデンティティーを同定するために、各CAF-S1クラスターシグネチャーについて、iCAF/myCAFシグネチャーを構成する遺伝子の発現平均によってスコアを計算した(OhlundらJ Exp Med 2017;214(3):579-96に定義されている)。P値DESeq2分析からのものである。
【0252】
機能アッセイ
CD4+ CD25+ Tリンパ球の単離:CD4+ CD25+ Tリンパ球は、キュリー研究所(フランス、パリ)との条約を通じて、パリのサンタントワーヌクロザティエ血液バンクの「エタブリスメントフランセデュサン」から得られた健康なドナーの末梢血から単離された。端的には、末梢血単核細胞(PBMC)は、Costa Aら、Cancer Cell 2018;33(3):463-79 e10に以前から記載されているように、Lymphoprep(Stemcell社、#07861)を使用して単離された。CD4+ CD25+は、製造元の指示に従って、ヒトCD4+ CD25+ Treg分離キット(Miltenyi Biotec社、#130-091-301)で磁気細胞分離(MACS)を使用して、5×108のPBMCから精製された。CD4+ CD25+ Tリンパ球の純度は、Costa Aら、Cancer Cell 2018;33(3):463-79 e10に記載されているように、フローサイトメトリーによって決定された。
【0253】
培養中のCAF-S1クラスターの分離:異なるCAF-S1クラスターを単離するために、発明者らは最初に特定のマーカーに従って細胞を選別することから始めたが、異なるアイデンティティーで細胞を生存させ続けることができなかった。次に、スプレッディングと選別による2つの異なる単離の方法を試験した。「スプレッディング」法では、1.5%のO2及び5%のCO2インキュベーターに加湿された状態で、腫瘍を小片に切断し、10%のFBS(Biosera社、#FB-1003/500)、ストレプトマイシン(100μg/ml)及びペニシリン(100U/ml)(Gibco社#15140-122)を追加したDMEM(HyClone社、#SH30243.01)のプラスチック皿(Falcon社、#353003)でインキュベートし、37℃で少なくとも2~3週間にわたって線維芽細胞をスプレッディング及び拡大させた。「選別」法による線維芽細胞の単離のために、(#BCからのCAF-S1の単離)に記載の酵素カクテルを用いて腫瘍を消化し、(単一細胞での#CAF-S1 RNAシーケンシング)に詳述されているゲーティング戦略を用いてBDFACS ARIA III(商標)により、FBSでプレコートした48ウェルプラスチック皿(TPPプレート、#192048)で2時間選別した。次に、CAF-S1で選別した細胞を、1.5%のO2及び5%のCO2インキュベーターで加湿した2%のFBS(ScienCell社、#0010)を追加した周皮細胞培地(ScienCell社、#1201)中のプラスチック皿(TPPプレート、#192048)で、37℃で3~4週間、増殖させた。機能アッセイで使用されたのとまったく同じ条件で、選別され、スプレッディングされたCAF-S1線維芽細胞の細胞アイデンティティーを比較するために、両方のタイプの線維芽細胞(スプレッディングと選別)を20%のO2のDMEM培地(HyClone社、#SH30243.01)のプラスチック皿(Falcon社、#353047)に移し、これらの培地条件は、インビトロ機能アッセイに適用されたCD4+ CD25+ Tリンパ球との共培養に適合する。これらのプロトコルを使用して、7名の異なる患者から7つの異なるCAF-S1細胞株が単離され、3つは選別によって、4つはスプレッディングによって単離された。あらゆるインビトロ活性を回避するために、選別及びスプレッディングによって単離されたこれらのCAF-S1初代細胞株は、継代5まで使用された。更に、各実験において、スプレッディング及び選別された細胞の性質を同じ継代で比較した。
【0254】
Treg-CAF-S1クラスター機能アッセイ:5×104個のCAF-S1細胞(スプレッディング及び選別)をDMEM(HyClone社、#SH30243.01)中の24ウェルプレート(Falcon社、#353047)に10%のFBS(Biosera社、#FB-1003/500)で1.5%のO2で一晩播種し、完全に接着させた。次に培地を除去し、5×105のCD4+ CD25+ Tリンパ球を500μlのDMEM 1%FBS(比1~10)に加え、37℃、20%のO2で一晩(RNA分析の場合)又は24時間(FACSの場合)インキュベートした。FACS分析のために、非接着細胞(CD4+ CD25+)を回収し、洗浄し、以下のマーカーを用いて室温で30分間染色した:Live Dead(1:1000、BD Bioscience社、#562247)、抗CD45-BUV395(1:50、BD Biosciences社、#BD-563792)、抗CD4-APC(1:50、Miltenyi Biotec社、#130-092-374)、抗CD25 PE-cy7(1:33、BD Bioscience社、#557741)、抗FOXP3-FITC(1:33、ebioscience社、#53-4776-42)、抗CTLA-4-Pe-cy5(1:20、BD Bioscience社、# 555854)、抗PD-1-BUV737(BD Bioscience社、# 565299)、抗TIGIT-BV605(1:50、BD Bioscience社、# 747841)、抗LAG3-BV510(1:50、BD Bioscience社、#744985)、抗TIM3-BV711(1:50、BD Bioscience社#565566)。接着細胞をトリプシン処理、洗浄し、死細胞を除去するためにLive Dead NIRに加えてCAF-S1クラスターマーカー(ANTXR1、CD9、SDC1、LAMP5、GPC3、DLK1)を染色し、CD45を加えて残りのTregを除去した。細胞(Tregパネル及びCAF-S1パネル)は、ZE5細胞分析装置(Bio-Rad社)を用いて取得し、Flowjo v10.4.2で分析した。RNA分析のために、非接着細胞(CD4+ CD25+)をピペッティングによって回収し、スピンダウンした。次に、製造者の推奨に従って、単一細胞RNA精製キット(Norgen Biotek社、#51800)を使用してRNAを抽出した。RNAの完全性と品質は、Agilent RNA 6000 Picoキット(Agilent Technologies社、#5067-1513)を用いて解析した。cDNAライブラリは、TruSeq RNA Exomeキット(Illumina社、#20020189)を使用して調製し、続いてNovaSeq(Illumina社)でシーケンシングを行った。リードはヒト参照ゲノム(hg38;Gencode リリース29)にマッピングされ、STAR(バージョン2.6.1a)を使用して「outFilterMultimapNmax=20;alignSJoverhangMin=8;alignSJDBoverhangMin=1;outFilterMismatchNmax=999;outFilterMismatchNoverLmax=0.04;alignIntronMin=20;alignIntronMax=1000000;alignMatesGapMax=1000000;outMultimapperOrder=Random」のパラメータで定量化された。全試料の少なくとも5%に1つのリードを有する遺伝子のみが、更なる分析のために保持された。正規化はDESeq2 Rパッケージで行った。
【0255】
Treg-CAF-S1クラスター細胞内染色:5×104個のCAF-S1細胞(スプレッディングされた)をDMEM(HyClone社、#SH30243.01)中の24ウェルプレート(Falcon社、#353047)に10%のFBS(Biosera社、#FB-1003/500)で1.5%のO2で一晩播種し、完全に接着させた。次に培地を除去し、5×105のCD4+ CD25+ Tリンパ球を500μlのDMEM 1%FBS(比1~10)に加え、37℃、20%のO2で一晩インキュベートした。次に、非接着細胞(CD4+ CD25+)を回収し、洗浄し、室温でLive Dead(1:1000、BD Bioscience社、#562247)で30分間染色し、洗浄後、細胞を2つのグループに分け(1つは固定して透過処理し、もう1つはFOXP3染色を除いて固定/透過処理なしで保持)、次のマーカーを使用して染色した:抗CD45-BUV395(1:50、BD Bioscience社、#BD-563792)、抗CD4-APC(1:50,Miltenyi Biotec社、#130-092-374)、抗CD25 PE-cy7(1:33、BD Bioscience社、#557741)、抗CTLA-4-Pe-cy5(1:20、BD Bioscience社、#555854)、抗PD-1-BUV737(BD Bioscience社、#565299)、抗TIGIT-BV605(1:50、BD Bioscience社、#747841)、抗LAG3-BV510(1:50、BD Bioscience社、#744985)、抗TIM3-BV711(1:50、BD Bioscience社、#565566)抗FOXP3-FITC(1:33、ebioscience社、#53-4776-42)。
【0256】
正常健康組織由来の線維芽細胞とBC由来のCAF-S1との比較
原発性線維芽細胞は、傍腫瘍、すなわち指示対象の病理学者によって健康と定義された組織からスプレッディング法(上記参照)を使用して収集された。傍腫瘍を小片に切断し、プラスチック皿(Falcon社、#353003)に入れ、10%のFBS(Biosera社、#FB-1003/500)、ストレプトマイシン(100μg/ml)及びペニシリン(100U/ml)(Gibco社 #15140122)を追加したDMEM(HyClone社、#SH30243.01)で37℃で2~3週間培養した。次に、CAF-S1マーカーの発現を検証するために、早期継代及び後期継代(それぞれ継代2及び5)でスプレッディングされた線維芽細胞を解析した。初代細胞をトリプシン処理し、PBSに再懸濁し、LIVE/DEAD(商標)Fixable Aqua Dead Cell Stain色素(ThermoFisher Scientific社、#L34957)で染色し、PBSで室温で20分間希釈し、PFA4%で室温で20分間固定した。PBS+で迅速に洗浄した後、細胞をPBS+中の抗FAP抗体(1:100、R&D Systems社、#MAB3715)又はアイソタイプコントロール(1:100、R&D Systems社、#MAB002)で室温で40分間染色した。抗体及びアイソタイプコントロールの両方を、蛍光色素ゼノンAPCマウスIgG1標識キット(Thermo Fisher Scientific社、#Z-25051)を用いてカップリングした。細胞はLSR FORTESSAアナライザー(BD biosciences社)を用いて取得した。試料あたり50,000イベントが記録された。
【0257】
NSCLC試料からのRNAシーケンシング
任意の処置からのNSCLCナイーブからのホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)生検(N=120)は、製造元の指示に従って、高FFPET RNA分離キット(Roche社、#06650775001)を使用してRNA抽出のために処理された。RNAの完全性と品質は、Agilent RNA 6000 Picoキット(Agilent Technologies社、#5067-1513)を用いて解析した。40%を超えるDV200を有する試料をRNAシーケンシング用に選択した(N=70)。cDNAライブラリは、Nextera XT試料調製キット(Illumina社、#FC-131-10)を使用して調製し、続いてNovaSeq(Illumina社)でシーケンシングした。リードはヒト参照ゲノム(リリースhg19/GRCh37)にマッピングされ、STAR(バージョン2.5.3a)を使用して、「outFilterMultimapNmax=20;alignSJoverhangMin=8;alignSJDBoverhangMin=1;outFilterMismatchNmax=999;outFilterMismatchNoverLmax=0.04;alignIntronMin=20;alignIntronMax=1000000;alignMatesGapMax=1000000;outMultimapperOrder=Random」のパラメータで定量化された。全試料の少なくとも5%に1つのリードを有する遺伝子のみが、更なる分析のために保持された。正規化、教師なし分析(PCA)、及びレスポンダー患者と非レスポンダー患者の間の差分分析は、DESeq2Rパッケージで実施された。
【0258】
統計解析
全ての統計分析とデータのグラフィック表現は、R環境(https://cran.r-project.org、バージョン3.5.3)又はGraphPad Prismソフトウェア(バージョン8.1.1)を使用して実行された。使用される統計的検定は、データ分布と一致している。正規性が、最初にShapiro-Wilk検定を使用してチェックされ、各図の凡例に示されているように、正規性に従ってパラメトリック又はノンパラメトリック両側検定が適用された。図1図2図3図7及び図8に示されるscRNA-seqデータを、Seurat Rパッケージ(バージョン3.0)を用いて解析した。図2及び図4に示す相関行列は、stats Rパッケージからのcor関数を使用して、method=「pearson」及びuse=「pairwise.complete.obs」で計算された。Corrplot R関数は、次のパラメータを用いて相関行列のクラスタリングと視覚化に使用された:order=「hclust」及びhclust.method=「ward.D2」。図5に示すFACS分析からの定量化は、平均±s.e.mを使用して示されている。図10の単独で又はecm-myCAFの存在下で培養したCD4+ CD25+ T細胞間の差分分析は、DESeq2 Rパッケージを用いて行った。遺伝子セット濃縮分析(GSEA)ソフトウェアバージョン3.0(Broad Institute)を図6で使用した。黒色腫RNA-seqデータについては、以下のパラメータを適用した:エンリッチメント統計量=「weighted」、遺伝子をランク付けするためのメトリック=「Signal2Noise」。NSCLC RNA-seqデータについては、遺伝子をランク付けするためのメトリックとしてDESeq2差分分析からのlog2倍変化及びエンリッチメントスコアの「クラシック」モードと共にGSEAPrerankedを使用した。
【0259】
【表1A】
【0260】
【表1B】
【0261】
NSCLC試料は、Bichat病院の病理学部門に保管されている、免疫腫瘍薬で治療された患者の日常的な診断試料によるものであった。全ての患者は、2015年7月28日から2018年2月20日まで、その期間の薬剤登録及び進行中の臨床試験に従って、2次又は3次免疫療法の最初のサイクルを受けた。免疫腫瘍治療の有効性は、RECISTv.1.1基準に従って、全身CTスキャンによって8~12週間ごとに評価された。全ての臨床データは、患者の電子ファイルから取得された。非小細胞肺がんの試料の組織学的サブタイプは、気管支内視鏡検査又はCTガイド下経胸壁生検試料から、ヘマトキシリンで染色されたホルマリン固定パラフィン包埋組織切片について、現在の世界保健機関2015年の分類に従って決定された。扁平上皮がんの診断は、p40陽性及びTTF-1(甲状腺転写因子1)陰性の免疫染色によって支持された。非扁平上皮肺がんは、アルシアンブルー陽性染色(ムチン腫瘍細胞の含有量について)及び/又は核TTF-1陽性免疫染色を示す腺がん、並びにp40及びTTF-1陰性免疫染色を伴うムチン分泌を欠く大細胞がんの両方を含んでいた。2つの試料は、扁平上皮がんと腺がんの分化の混合特徴を示した。第8期TNM病期分類システムによると、2つのステージIIIB患者は切除不能な肺腫瘍を有し、放射線療法への禁忌を有する。*PD-L1染色は、Leica Bondプラットフォーム上のCell Signaling Technology E1L3N市販クローンを使用して、少なくとも200個の腫瘍細胞を含む診断、治療前の生検試料から、4μmのパラフィン包埋切片でAGによって実行及び解釈された。**EOCG(Eastern Cooperative Oncology Group)のパフォーマンスステータスは、Okenら、Am J Clin Oncol 1982;5(6):649-55に従って、最初の免疫療法サイクルの時点で評価された。
【0262】
【表2】
図1
図2
図3A-1】
図3A-2】
図3B-1】
図3B-2】
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B1
図11B2
【国際調査報告】