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特表2023-525103ウイルス感染の治療のための化合物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-14
(54)【発明の名称】ウイルス感染の治療のための化合物の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/36 20060101AFI20230607BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230607BHJP
   A61K 31/365 20060101ALI20230607BHJP
   A61K 31/4025 20060101ALI20230607BHJP
   A61K 31/4709 20060101ALI20230607BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20230607BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20230607BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230607BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20230607BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
A61K31/36
A61P43/00 111
A61K31/365
A61K31/4025
A61K31/4709
A61K31/496
A61K31/5377
A61P31/12
A61P31/16
A61P31/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568620
(86)(22)【出願日】2021-05-10
(85)【翻訳文提出日】2023-01-05
(86)【国際出願番号】 IN2021050451
(87)【国際公開番号】W WO2021229602
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】202021019866
(32)【優先日】2020-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511190694
【氏名又は名称】ゴーダーヴァリ バイオリファイナリーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アタヴァレ マイティリ
(72)【発明者】
【氏名】ガヴァデ サンディップ
(72)【発明者】
【氏名】カーカル プラシャント
(72)【発明者】
【氏名】スリヴァスタヴァ サンギータ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA13
4C086BA17
4C086BC05
4C086BC28
4C086BC50
4C086BC73
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA09
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086NA15
4C086ZB33
4C086ZC20
(57)【要約】
本発明は、細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害のための式Iの化合物の使用、および式Iの化合物を用いたウイルス感染の治療方法に関する。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害のための式Iの化合物の使用。
【化1】
式中、
EはCおよびNから選ばれ、
QはOまたは-NHであり、
nは0~6であり、
およびRは、-H、および-C(O)OC等の-C(O)O-アルキルから選ばれる、あるいはRおよびRは結合して、ラクトン等の置換または未置換の5員環または6員環を形成し、
、R、RおよびRはそれぞれ独立に-H、-OH、およびアルコキシから選ばれ、
およびRは-H、-OH、アルコキシ、-Xから選ばれ、XはF、Cl、Brであり得る、あるいはRおよびRは結合して、1以上のO等のヘテロ原子を含む5員環を形成し、
aおよびbは、対応する位置の二重結合の有無を示し、
11およびR12はそれぞれ独立に-Hから選ばれる、あるいはR11およびR12は、ラクトン等の置換または未置換の5員環または6員環、または-C(O)O-アルキルであり得、
Rは、置換または未置換の下記フェニル環から選ばれる。
【化2】
(式中、R、R10、R11およびR12はそれぞれ独立に-H、-OH、アルコキシ、および下記式から選ばれる。
【化3】
式中、R13はHまたはアルキルであり、
*は、Qまたは-CH基との結合を表す。)
【請求項2】
前記化合物が下記式IIで表される、請求項1に記載の化合物の使用。
【化4】
式中、
EはCおよびNから選ばれ、
QはOまたは-NHであり、
nは0~6であり、
およびRは-Hおよび-C(O)O-アルキルから選ばれる、あるいはRおよびRは結合して、ラクトン等の置換または未置換の5員環または6員環を形成し、
およびRはそれぞれ独立に-H、-OH、およびアルコキシから選ばれ、
Rは置換または未置換の下記フェニル環から選ばれる。
【化5】
(式中、R、R10、R11およびR12はそれぞれ独立に-H、-OH、アルコキシ、および下記式から選ばれる。

【化6】
式中、R13はHまたはアルキルであり、
*は、Qまたは-CH2基との結合を表す。)
【請求項3】
前記化合物が式IIIで表される、請求項1に記載の化合物の使用。
【化7】
式中、
EはCおよびNから選ばれ、
QはOまたは-NHであり、
nは0~6であり、
およびRは-H、-OH、アルコキシ、-Xから選ばれ、XはF、Cl、Brであり得る、あるいはRおよびRは結合して、1以上のO等のヘテロ原子を含む5員環を形成し、
aおよびbは、対応する位置の二重結合の有無を示し、
Rは、置換または未置換の下記フェニル環から選ばれる。
【化8】
(式中、R、R10、R11およびR12はそれぞれ独立に-H、-OH、アルコキシ、および下記式から選ばれる。
【化9】
式中、R13はHまたはアルキルであり、
*は、Qまたは-CH基との結合を表す。)
【請求項4】
前記化合物が下記式の化合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【化10】
【化11】
【化12】
【請求項5】
細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害のための式Eの化合物の使用。
【化13】
【請求項6】
前記化合物がプロドラッグ、代謝産物、薬学的に許容される塩、溶媒和物またはその多形体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項7】
細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害によってウイルスを阻害するための、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項8】
SARS-CoV-2ウイルスまたはインフルエンザウイルスの阻害のための、請求項7に記載の化合物の使用。
【請求項9】
SARS-CoV-2ウイルスまたはインフルエンザウイルスの阻害のための、式Iの化合物の使用。
【請求項10】
SARS-CoV-2ウイルスまたはインフルエンザウイルスの阻害のための、式Eの化合物の使用。
【請求項11】
細胞を請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物の少なくとも1種を細胞と接触させることを含む、細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害方法。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物の少なくとも1種をウイルス感染細胞と接触させることを含む、ウイルスの阻害方法。
【請求項13】
前記ウイルスがSARS-CoV-2ウイルスまたはインフルエンザウイルスである、請求項12に記載の阻害方法。
【請求項14】
前記化合物が式Eの化合物である、請求項11~13のいずれか一項に記載の阻害方法。
【請求項15】
SARS-CoV-2ウイルスまたはインフルエンザウイルスを阻害するために、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物の少なくとも1種を投与することを含む、ウイルス感染の治療方法。
【請求項16】
請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物をV-ATPアーゼ阻害活性を有する少なくとも1種の追加化合物と組み合わせる、請求項15に記載の治療方法。
【請求項17】
前記化合物が式Eの化合物である、請求項15または16に記載の治療方法。
【請求項18】
ウイルス感染の治療のために細胞のV-ATPアーゼ活性を阻害する医薬の製造のための、式Iの化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害のための化合物の使用、特にウイルス感染の治療のための、SARS-CoV-2ウイルスまたはインフルエンザウイルス等のウイルスのV-ATPアーゼ活性に対する阻害剤としての使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
SARS-CoV-2ウイルスおよびCOVID-19疾病は、文化、人口統計学、技術および宗教の違いに関係なく、全世界的な大混乱を招いた。
【0003】
COVID-19の治療法の開発においては、計算的および実験的なドラッグ-リパーパシング(Computational and Experimental Drug Repurposing)あるいは第二用途の実証といった論理的な解決策が有用である。現存する薬物は出発点を提供し、臨床開発に要する期間を大幅に短縮し得る。ウイルスの侵入から始まり、成熟ウイルス粒子の放出までのウイルス生活環の種々の事象を標的とするリパーパシング作戦が文献にはあふれている。COVID-19の可能性のある治療選択肢としてのヒドロキシクロロキン、クロロキンおよび他の抗ウイルス薬の使用は、このアプローチの有する可能性の証拠となる。
【0004】
約束されたこのような標的の1つは、バフィロマイシン等のV-ATPアーゼ阻害剤の抗ウイルス効能から推測される、液胞性ATPアーゼ(V-ATPアーゼ)である。V-ATPアーゼは、宿主細胞へのウイルス侵入を遮断する約束された標的として提案されたものである。V-ATPアーゼは、全ての真核細胞の内膜系、即ち、小胞体(ER)、ゴルジ体等に位置する、偏在性プロトンポンプである。インフルエンザウイルス、フラビウイルス、ワクシニアウイルス、ボルナウイルス、ラブドウイルスおよびコロナウイルスは、V-ATPアーゼ仲介エンドソーム酸性化を宿主細胞への侵入のための重要な細胞プロセスとして利用する。
【0005】
V-ATPアーゼは宿主タンパク質であるため、V-ATPアーゼ阻害剤は、薬剤耐性の発達に対して感受性の低い、ウイルス侵入の潜在的な介入となり得る。
【0006】
数種のV-ATPアーゼ阻害剤、例えば、(初めに発見され、最も注目すべき例である)バフィロマイシンについて、それらの抗ウイルス能が検証された。それらの強力な抗ウイルス効能にもかかわらず、毒性が臨床応用における主たる障害となった。加えて、V-ATPアーゼ阻害剤の貧水溶性が薬物送達療法における課題となった。
【0007】
コロナウイルス、例えば、SARS-CoV-2感染、におけるV-ATPアーゼの重要な役割およびその阻害剤のCOVID-19と戦うための用途に鑑みると、コロナウイルス感染症を標的とする潜在的な療法として、強力で有効なV-ATPアーゼ阻害剤の開発が必要である。
【発明の概要】
【0008】
一実施形態において、本発明は、細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害のための式Iの化合物の使用に関する。
【化1】
式中、
EはCおよびNから選ばれ、
QはOまたは-NHであり、
nは0~6であり、
およびRは、-H、および-C(O)OC等の-C(O)O-アルキルから選ばれる、あるいはRおよびRは結合して、ラクトン等の置換または未置換の5員環または6員環を形成し、
、R、RおよびRはそれぞれ独立に-H、-OH、およびアルコキシから選ばれ、
およびRは-H、-OH、アルコキシ、-Xから選ばれ、XはF、Cl、Brであり得る、あるいはRおよびRは結合して、1以上のO等のヘテロ原子を含む5員環を形成し、
aおよびbは、対応する位置の二重結合の有無を示し、
11およびR12はそれぞれ独立に-Hから選ばれる、あるいはR11およびR12は、ラクトン等の置換または未置換の5員環または6員環、または-C(O)O-アルキルであり得、
Rは、置換または未置換の下記フェニル環から選ばれる。
【化2】
(式中、R、R10、R11およびR12はそれぞれ独立に-H、-OH、アルコキシ、および下記式から選ばれる。
【化3】
式中、R13はHまたはアルキルであり、
*は、Qまたは-CH基との結合を表す。)
【0009】
他の実施形態において、本発明は、細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害のための式Eの化合物の使用に関する。
【化4】
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ELISAアッセイの略図を示す。
図2】31.25pg/ml~2000pg/mlの濃度範囲内のV-ATPアーゼの標準曲線を示す。
図3】レミデシビルの用量反応曲線を示す。
図4】本発明の式Eの化合物の用量反応曲線を示す。
図5】ハムスターのSARS-CoV-2感染に対する式Eの化合物の投与の効果を示し、図5Aは、曝露日から感染の4日後までのハムスターの体重変化のパーセンテージを表し、図5Bは、炎症および間質性肺炎を示す安楽死させた動物から摘出した肺全体の画像を示し、図5Cは、脾腫の症状を示す脾臓の画像を示す。
図6】ハムスターのSARS-CoV-2感染に対する式Eの化合物の投与の抗ウイルスおよび免疫調節効果を示し、図6Aは、感染から4日後の種々の群における相対肺ウイルス負荷量を示す棒グラフであり、図6Bは、種々の実験群における脾臓のサイトカインの相対mRNA発現量を示す棒グラフである。各棒は平均+SEMを表す。
図7】SARS-CoV-2感染ハムスターの肺の病理に対する式Eの化合物の投与の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害のための式Iの化合物の使用に関する。
【化5】
式中、
EはCおよびNから選ばれ、
QはOまたは-NHであり、
nは0~6であり、
およびRは、-H、および-C(O)OC等の-C(O)O-アルキルから選ばれる、あるいはRおよびRは結合して、ラクトン等の置換または未置換の5員環または6員環を形成し、
、R、RおよびRはそれぞれ独立に-H、-OH、およびアルコキシから選ばれ、
およびRは-H、-OH、アルコキシ、-Xから選ばれ、XはF、Cl、Brであり得る、あるいはRおよびRは結合して、1以上のO等のヘテロ原子を含む5員環を形成し、
aおよびbは、対応する位置の二重結合の有無を示し、
11およびR12はそれぞれ独立に-Hから選ばれる、あるいはR11およびR12は、ラクトン等の置換または未置換の5員環または6員環、または-C(O)O-アルキルであり得、
Rは、置換または未置換の下記フェニル環から選ばれる。
【化6】
(式中、R、R10、R11およびR12はそれぞれ独立に-H、-OH、アルコキシ、および下記式から選ばれる。
【化7】
式中、R13はHまたはアルキルであり、
*は、Qまたは-CH基との結合を表す。)
【0012】
一実施形態において、式I中のaおよびbは対応する位置の二重結合の有無を示す。例えば、Eが-Nであり、且つRが存在する場合、対応する位置の二重結合は不在である、あるいはEが-Nであり、且つRが不在の場合、対応する位置の二重結合は存在する。
【0013】
一実施形態において、本発明は、細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害のための式IIの化合物の使用に関する。
【化8】
【0014】
一実施形態において、本発明は、細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害のための式IIIの化合物の使用に関する。
【化9】
置換基は上記式Iについて定義した通りである。
【0015】
一実施形態において、細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害のための表1に示した化合物の使用に関する。これら化合物は、SARS-CoV-2またはインフルエンザの感染に対する治療において抗ウイルス薬として機能する。
【0016】
【表1-1】
【0017】
【表1-2】
【0018】
【表1-3】
【0019】
【表1-4】
【0020】
【表1-5】
【0021】
【表1-6】
【0022】
他の実施形態において、本発明は、細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害のための式Eの化合物の使用に関する。式Eの化合物は、SARS-CoV-2またはインフルエンザの感染に対する治療に効果的である。
【化10】
【0023】
式Eの化合物の分子量は約450であり、分配係数(logP)値は4に近い。この化合物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メタノール、酢酸エチルなどの溶媒に可溶性である。
【0024】
式I~IIIおよび式A~Uの化合物は、それらのプロドラッグ、代謝産物、薬学的に許容される塩、溶媒和物または多形体も使用され得る。
【0025】
式I~IIIおよび式A~Uの化合物の用途は、ウイルスの阻害である。ウイルスに感染した細胞内のV-ATPアーゼ活性が阻害される。細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害がウイルスを阻害すると考えられる。
【0026】
式I~IIIおよび式A~Uの化合物の用途は、SARS-CoV-2ウイルスまたはインフルエンザウイルス等のウイルスの阻害である。
【0027】
式Eの化合物の用途は、SARS-CoV-2ウイルスまたはインフルエンザウイルスの阻害である。
【0028】
さらに本発明は、細胞を式I~IIIおよび式A~Uの化合物の少なくとも1種と接触させることを含む、細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害方法式に関する。
【0029】
さらに本発明は、式I~IIIおよび式A~Uの化合物の少なくとも1種をウイルス感染細胞と接触させることを含む、ウイルスの阻害方法、好ましくはSARS-CoV-2ウイルスまたはインフルエンザウイルスの阻害方法に関する。
【0030】
細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害方法は、細胞またはウイルス感染細胞を式Eの化合物と接触させることを含む。
【0031】
さらに本発明は、細胞のV-ATPアーゼ活性を阻害するために、治療有効量の式I~IIIおよび式A~Uの化合物の少なくとも1種を投与する、ウイルス感染の治療方法に関する。この治療方法は、好ましくはSARS-CoV-2ウイルスまたはインフルエンザウイルスの感染の治療用である。
【0032】
一実施形態において、治療方法は、治療有効量の式I~IIIおよび式A~Uの化合物を、V-ATPアーゼ阻害活性を有する少なくとも1種の追加化合物と組み合わせて投与することを含む。
【0033】
他の実施形態において、治療方法は、化合物の1つとして式Eの化合物を投与することを含む。
【0034】
本発明の化合物は細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害に非常に効果的である。当該化合物は、in-vitro研究およびin-vivo研究の両方において、正常ヒトリンパ球に対して殺細胞効果を示すことなく、優れた抗ウイルス効果を発揮した。この結果は、ウイルス感染、特にSARS-CoV-2感染に対する治療において、化合物を効果的かつ安全に使用できることを意味する。
【0035】
一実施形態において、本発明に包含される化合物は、細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害によって、SARS-CoV-2またはインフルエンザの感染などのウイルス感染を治療する医薬の製造に用いられる。
【0036】
本発明の範囲に含まれるいくつかの具体的な化合物をここに開示する。開示された化合物は本発明の範囲を減縮するものではないことを理解されたい。
【実施例
【0037】
本発明の化合物は公知の方法によって製造される。化合物の製造方法は、ここで援用される国際公開第2018193476号および国際公開第2020129082号に開示されている。
【0038】
実施例1
細胞におけるV-ATPアーゼ阻害活性の決定
液胞性ATPアーゼ(V-ATPアーゼ)は、細胞の細胞内pHおよび細胞外pHの制御を担うプロトンポンプである。V-ATPアーゼの構造は、全真核細胞の間で高度に保存されており、種間で様々な機能に関与する。V-ATPアーゼはエンドソームおよびリソソームの酸性化について最も広く知られており、特異性細胞の管腔酸性化においても重要である。
【0039】
抗ウイルス治療において標的とされ得る宿主因子の中でV-ATPアーゼは、ウイルスの宿主細胞への侵入に介入するための約束された標的である。インフルエンザウイルス、フラビウイルス、ワクシニアウイルス、ボルナウイルス、ラブドウイルスおよびコロナウイルスといったウイルス脅威に対して、V-ATPアーゼ仲介エンドソーム酸性化は、汎用性が高く、薬剤耐性変異に対する感受性の低い新たな抗ウイルス療法への道を開くかもしれない。
【0040】
本発明の化合物のV-ATPアーゼ阻害効果を決定するために、ヒトV型プロトンATPアーゼELISAキット(My BioSource社カタログ番号:MBS911862)を用いてELISA試験を実施した。
【0041】
方法:
100万個のMDAMB231(V-ATPアーゼに富んだ細胞株)を60mmのプレートに播種し、24時間、37℃および5%のCO中に置いた。細胞を濃度100nM(0.1μM)/10,000細胞の試験化合物(式A~U)で処理し、48時間インキュベートした。インキュベーション後に上澄みを廃棄し、細胞をD.P.B.S.(ダルベッコのリン酸緩衝化生理食塩水)で洗浄し、回収して、-80℃で48時間保存した。細胞を融解し、ボルテックスに付し、7分間均一化し、続いて3000R.P.M.で3分間の遠心分離に付した。上清をV-ATPアーゼアッセイのために回収した。
【0042】
用いたアッセイは、図1に示した定量的サンドウイッチ酵素免疫アッセイ技術を使用した。
【0043】
標準およびサンプルをウェルにピペットで加えた。V-ATPアーゼ特異的抗体をマイクロプレートにプレコートした。標準/サンプル中に存在するいかなるV-ATPアーゼも固定化抗体と結合するであろう。インキュベーション期間後には、洗浄によっていかなる未結合の物質をも除去し、V-ATPアーゼ特異的ビオチン結合抗体をウェルに添加し、プレートを37°Cおよび5%のCO中で再度インキュベートした。洗浄後、アビジン結合西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)をウェルに添加した。未結合のアビジン-酵素試薬を除去するための洗浄に続き、基質溶液をウェルに添加し、初期工程で結合させたV-ATPアーゼの量に比例する量の発色が生じた。発色を停止し、光学密度を450nmで分光光学的に測定した。V-ATPアーゼの濃度は、標準試料を用いて得た回帰式に光学密度を代入することで計算した。V-ATPアーゼのパーセント(%)減少は、得られたV-ATPアーゼの量を未処理試料から引いた値/未処理試料中のV-ATPアーゼ濃度×100によって計算した。
【0044】
結果
31.25pg/mlから2000pg/mlの範囲内のV-ATPアーゼ濃度の標準曲線を図2に示したようにプロットしたところ、プロットは良好な直線性(R=0.954)を示した。
【0045】
表2は、本発明の化合物のV-ATPアーゼアッセイの結果を示す。
【0046】
【表2】
【0047】
結論
結果は、式A~Uの化合物が細胞内のV-ATPアーゼ活性の減少をもたらしたことを示した。
【0048】
実施例2
正常細胞における本発明の化合物の毒性研究
脱線維血の分画遠心によって得られたヒト末梢血リンパ球に対して毒性研究を実施した。その毒性を決定するために、本発明の化合物のMTTアッセイを実施した。MTTアッセイは単純且つ高感度のアッセイであり、細胞の代謝減少活性を測定する。本アッセイは次のように実施した。
【0049】
必要な容量の細胞懸濁液を、細胞播種効率ごとに作製した。200μlの作製した細胞懸濁液を標識された96穴プレートに添加し、プレートを37°Cおよび5%のCOのインキュベーターに18~24時間静置した。その後、2μlのそれぞれの希釈化合物を添加し、プレートを37°Cおよび5%のCOのインキュベーターに48時間静置した。プレートから懸濁液を吸い出し、100μlの作業用MTT溶液(1×完全培地中の5mg/mlのMTT原液から調製した0.5mg/mlのMTT)を添加した。プレートを37°Cおよび5%のCOのインキュベーターで4時間インキュベートした。プレートを遠心分離に付し、上清を除去し、200μlのDMSOを添加し、穏やかに撹拌し、37°Cおよび5%のCOのインキュベーターに10分間静置した。570nmの吸光度を読み取り、パーセント生存率および化合物のIC50値を回帰分析で計算した。
【0050】
表3は、本発明の化合物について実施したMTTアッセイの結果を示す。
【0051】
【表3】
【0052】
結論
上記結果から、100μMまでの式B~E、I、L、O、P、Uの化合物は、正常ヒトリンパ球に対していかなる毒性も発揮しなかった。これは、正常末梢血リンパ球に対して本発明の化合物がいかなる毒性も発揮しなかったことを意味する。
【0053】
他の完全性研究
種々の臨床前GLP(優良試験所基準)研究および非GLP研究を式Eの化合物で実施した。この研究には、ラットおよびイヌに対する7日間および28日間の研究、ラット、マウスおよびイヌにおける急性毒性が含まれた。呼吸機能、神経系および心血管系、細菌変異、代謝、CaCo透過性、タンパク質結合およびチトクローム効果に対する式Eの化合物の効果も研究した。これらの研究は、式Eの化合物が非毒性、非変異原性、非染色体異常誘発性であり、且つ呼吸器系、神経系および心血管系に何ら影響しないことを示した。さらに、式Eの化合物は、ラット、マウスおよびイヌにおいて、2000mg/kgというより高い用量でもいかなる毒性作用または副作用を示さなかった。この結果は、式Eの化合物は投与しても安全であることを示す。
【0054】
実施例3
本発明の化合物のin-vitro抗SARS-CoV-2活性
ニュートラルレッド(細胞変性効果/毒性アッセイ)
【0055】
方法:
ウイルス誘導性細胞変性効果の減少(初期CPEアッセイ)
Vero76細胞のコンフルエントまたはほぼコンフルエントな培養T細胞単層を、試験の前日に、96穴の使い捨てマイクロプレート内に作製した。細胞を5%のFBS(ウシ胎仔血清)を添加したMEM(イーグルの最小必須培地)で維持した。抗ウイルスアッセイには同じ培地を使用したが、FBSを2%に下げ、50μg/mlのゲンタマイシンを添加した。化合物をDMSO、生理食塩水、または希釈液に溶解した。低溶解率の化合物はボルテックス、加熱および超音波処理に付し、これでも溶液にならなかったときは、コロイド状の懸濁液として試験した。試験化合物を4段階のlog10濃度、通常は0.1、1.0、10および100μg/mlまたはμMとして調製した。不十分な量の化合物が供給され得たときには、低濃度を使用した。各希釈当たり5つのマイクロウェル、即ち、感染した培養細胞に3つと、未感染毒性培養細胞に2つ用いた。実験の対照は、プレートごとに、感染し未処理(ウイルス対照)の6つのマイクロウェルと、未処理で未感染(細胞対照)の6つのマイクロウェルからなる。試験化合物に用いたのと同じ方法を用いて、陽性対照として公知の活性薬剤を平衡して試験した。各試験の実行時に陽性対照も試験した。
【0056】
細胞から培養培地を除去し、2×濃度の試験化合物を0.1ml容量でウェルに加えた。通常、0.1ml容量中に上限が60CCID50(50%培養細胞感染用量)のウイルスをウイルス感染用のウェルに添加した。ウイルス無しの培地を毒性対照ウェルおよび細胞対照ウェルに加えた。ウイルス対照ウェル中に明確なCPE(ほとんどのウイルス株について>80%のCPE)が観察されるまで、プレートを37°Cおよび5%のCO中でインキュベートした。その後、プレートを、37°Cおよび5%のCOのインキュベーター内で、0.011%のニュートラルレッドで約2時間染色した。完全な吸引によりニュートラルレッド培地を除去し、細胞を1×のリン酸緩衝化溶液(PBS)で濯いで残存染色剤を除去してもよい。PBSを完全に除去し、組み込まれたニュートラルレッドを50%のソレンセンのクエン酸緩衝液/50%のエタノールで少なくとも30分間溶出した。ニュートラルレッド染色剤は生細胞に浸透するため、赤色が濃いほど、ウェル内に存在する生細胞数が大きい。各ウェルの染色剤含有量は、540nmの波長の分光光度計で定量した。各セットのウェルの染色剤含有量を、マイクロソフト・エクセルのコンピューターベースのスプレッドシートによって未処理対照ウェル中に存在する染色剤のパーセンテージに変換し、ウイルス対象に基づき正規化した。50%有効濃度(EC50、ウイルス阻害性)および50%細胞毒性濃度(CC50、細胞阻害性)を回帰分析により計算した。CC50をEC50で割った商が選択指数(SI)値となる。
【0057】
表3は、ニュートラルレッド(細胞変性効果/毒性アッセイ)の結果を示す。
【0058】
【表4】
【0059】
ニュートラルレッドアッセイにおいて、式Eの化合物のEC50、CC50およびSI50値はそれぞれ0.35μg/ml、2.5μg/mlおよび7.1であった。これらの値は、化合物、特に式Eの化合物がウイルス複製を阻害することを示す。
【0060】
結論
式Eの化合物がEC50として0.35およびSI50として7.1を示し、式Fの化合物がEC50として2.9およびSI50として11を示すことから、これらは良好な抗ウイルス活性を有すると考えられる。
【0061】
実施例4
式Eの化合物のin-vitroの抗SARS-CoV-2活性(アッセイ方法: IC50の推定)
【0062】
方法:
アッセイは、96穴プレートの形式で、サンプル当たり3つのウェルを用いて実施した。1×10のVeroE6細胞を各ウェルに播種し、単層を形成するために37°Cで一晩インキュベートした。翌日、細胞を7つの濃度の試験物質(TS)と共にインキュベートした。レミデシビルについては、次の濃度を使用した:10μM、3μM、1μM、0.3μM、0.1μM、0.03μMおよび0.01μM。式Eの化合物については、10μMの原溶液をDMSOで段階希釈(2倍希釈)した。各希釈から2マイクロリットルをスクリーニングアッセイに用いた。式Eの化合物の7つの濃度は10μg、3μg、1μg、0.3μg、0.1μg、0.03μgおよび0.01μgであった。対照細胞は、0.5%のDMSOのみとインキュベートした。MOIを0.01としてSARS-CoV-2を細胞に感染させた。48時間後、100μlの培養上清からウイルスRNAを抽出し、qRT-PCRに(2組ずつ)付して、NおよびE遺伝子配列のCt値を求めた。ウイルス複製の阻害は、対照と比較した、TS処理細胞におけるCt値の倍率変化に基づき決定した。IC50値は、表4に示すように、AAT Bioquest IC50計算器を用いて決定した。
【0063】
【表5】
【0064】
図3は、レミデシビルの用量反応曲線を示す。図4は、式Eの化合物の用量反応曲線を示す。
【0065】
結論
結果は、式Eの化合物がin-vitro細胞毒性アッセイにおいて優れた抗SARS-CoV-2活性(IC50<10μM)を発揮したことを示す。
【0066】
実施例5
式Eの化合物のin-vitroの抗SARS-CoV-2活性
アッセイ方法: 細胞毒性
【0067】
方法
アッセイは、96穴プレートの形式で、サンプル当たり3つのウェルを用いて実施した。1×10のVeroE6細胞を各ウェルに播種し、単層を形成するために37°Cで一晩インキュベートした。翌日、細胞を指定濃度の試験物質(TS)と共にインキュベートし、最終DMSO濃度を0.5%とした。対照細胞は、0.5%のDMSOのみとインキュベートした。24時間および48時間後に、細胞をHoechst 33342およびSytox orange染色剤で染色した。倍率10で、ウェル面積の90%を占める16枚の画像を各ウェルについてImageXpress顕微共焦点(Molecular Devices社)で撮影した。Hoechst 33342核酸染色剤は、一般的な、細胞の永久核対比染色剤(cell-permanent nuclear counterstain)であり、二本鎖DNAに結合すると青い蛍光を放出する。全ての生細胞および死細胞を染色する。Sytox orange染色剤は、異形膜を有する細胞内の核酸を染色する。この染色剤は細胞死の指標である。初めにソフトウェアがHoechst画像中の総細胞数を計数する。Sytox画像においては、Hoechst陽性細胞の中から、いくつの細胞がSytox陽性であるかを計数する。
【0068】
抗ウイルススクリーニング
方法:
アッセイは、96穴プレートの形式で、サンプル当たり3つのウェルを用いて実施した。1×10のVeroE6細胞を各ウェルに播種し、単層を形成するために37°Cで一晩インキュベートした。翌日、細胞を指定濃度の試験物質(TS)と共にインキュベートし、最終DMSO濃度を0.5%とした。対照細胞は、0.5%のDMSOのみとインキュベートした。MOIを0.01としてSARS-CoV-2を細胞に感染させた。24時間および48時間後、100μlの培養上清からウイルスRNAを抽出し、qRT-PCRに(2組ずつ)付して、NおよびE遺伝子配列のCt値を求めた。ウイルス複製の阻害は、対照と比較した、TS処理細胞におけるCt値の倍率変化に基づき決定した。レミデシビルをウイルス阻害の陽性対照として使用した。
【0069】
結果
表5は、式Eの化合物の細胞毒性および抗ウイルス活性の結果を示す。
【0070】
【表6】
【0071】
上記結果から、式Eの化合物はレミデシビルと比べて、24時間後にわずかではあるが高い細胞生存率を示すことがわかる。ウイルス感染から24時間後および48時間後の式Eの化合物によるウイルス複製阻害のパーセントは、レミデシビルと同等であった。
【0072】
結論
レミデシビルがSARS-CoV-2ウイルスに対して効果的であることから、式Eの化合物もSARS-CoV-2ウイルスの阻害に効果的であり、SARS-CoV-2ウイルス感染の治療に効果的に使用することができる。
【0073】
実施例6
式Eの化合物の抗SARS-CoV-2活性のIn-Vivo研究
In-vivo研究を、下記の方法でSARS-CoV-2に感染させたゴールデンハムスターで実施した。
【0074】
方法論
動物:6~8週齢の雄のゴールデンハムスターをCDRI(Central Drug Research Institute)より入手し、THSTI(Translational Health Science and Technology Institute)の小動物飼育施設(SAF)に移動し、曝露研究の前に7日間検疫を行った。前処理レジメンの際に、動物を小動物飼育施設(SAF)で飼育し、その後、SARS-CoV-2曝露研究のために動物バイオセーフティレベル-3(ABSL-3)の研究施設に移した。動物を明暗サイクル下、標準ペレット飼料を与え、自由に水が飲める環境で12時間未満維持した。免疫接種、ブースター用量および動物曝露を含む全ての実験プロトコルが研究所の倫理委員会IAEC(IAEC/THSTI/118)、IBSおよびRCGMの承認を得ていた。ウイルス培養および力価測定: 4.5g/LのD-グルコース、100,000U/Lのペニシリン-ストレプトマイシン、100mg/Lのピルビン酸ナトリウム、25mMのHEPESおよび2%のFBSを含むダルベッコの変法イーグル培地(DMEM)の完全培地で培養したVeroE6細胞系でSARS関連コロナウイルス2、単離USA-WA1/2020ウイルスを増殖させ、力価を測定した。ABSL3内のTHSTI IDRF施設において、研究所のバイオセーフティ基準に従い、ウイルスのストックをプラーク化により精製した。
【0075】
ウイルス培養および力価測定
4.5g/LのD-グルコース、100,000U/Lのペニシリン-ストレプトマイシン、100mg/Lのピルビン酸ナトリウム、25mMのHEPESおよび2%のFBSを含むダルベッコの変法イーグル培地(DMEM)完全培地で培養したVeroE6細胞系でSARS関連コロナウイルス2、単離USA-WA1/2020ウイルスを増殖させ、力価を測定した。ABSL3内のTHSTI IDRF施設において、研究所のバイオセーフティ基準に従い、ウイルスのストックをプラーク化により精製した。
【0076】
ゴールデンハムスターのSARS-CoV2感染および投薬
33匹の雄のゴールデンハムスターを乱数的に異なるグループ(n=5)に分け、1)曝露対照(n=5)、2)レミデシビル対照(n=5)および未曝露対照(n=3)を個別のケージで飼育した。前処理群(δIII/p400)は、400mpkの式Eの化合物(薬剤)の投与を経口経管栄養(oralgavaging)によって曝露2日目から開始した。残りの3群であるδI/200、δII/800、δIV/400は、それぞれ200、800および400mpkの式Eの化合物をそれぞれ曝露後に経口経管栄養によって毎日、終点まで投与された。未曝露対照以外のすべての動物を、ABSL3施設内で、ケタミン(150mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)の腹腔内注射による麻酔下で、カテーテルを介した各鼻腔に50μlの経鼻投与によって10PFUのSARS-CoV-2に暴露した(Chan et al., 2020、Rizvi et. al., 2021、Sia et al., 2020)。未曝露対照群はモックPBSの経鼻投与を受けた。ウイルス培養および動物感染の取り扱いを伴う全ての実験プロトコルが、RCGM、施設バイオセーフティおよびIAEC動物倫理委員会(RCGM,institutional biosafety and IAEC animal ethics committee)の承認を受けていた。
【0077】
SARS-CoV-2感染の大規模臨床パラメーター
ABSL3において、感染から4日後に、全ての感染動物を安楽死させた。体重の変化、動物の活動を曝露後毎日観察した。安楽死後に、動物の肺および脾臓を切除し、総形態学的変化を見るために画像化した。右肺の下葉を10%の中性ホルマリン溶液で固定し、組織学的分析に用いた。ウイルス負荷量の概算のために、肺の完全な左肺葉を2mlのトリゾール溶液中で均質化した。脾臓は2mlのトリゾール溶液中で均質化した。トリゾール中の組織サンプルは、さらに使用するまで、直ちに-80℃で保存した。動物の血液を心臓に直接穿刺することで引き出し、血清を単離し、さらに使用するまで-80℃で保存した。
【0078】
結果
SARS-CoV-2感染ハムスターの大規模臨床パラメーターに対する式Eの化合物の経口投与の効果
ハムスターのSARS-CoV-2曝露に対する(投与計画に従う)式Eの化合物の防御効率を理解するために、異なる量の式Eの化合物を投与された感染群、即ち、δI/200、δII/800、δIII/p400、δIV/400、について、ハムスターのSARS-CoV-2感染に関連する大規模臨床パラメーターを、実験対照である未感染(UI)、SARS-CoV-2感染(I)、SCのレミデシビルを投与されたハムスター(R)と比較して評価した。
【0079】
図5Aに示したように、結果は、δIII/p400を投与されたゴールデンハムスターが体重減少に対して最も高い防御を示し、感染後に痩せることはなかった。さらに、δI/200群は、体重減少について2番目に望ましい結果を示したものの、残りの2群は、感染対象と比べて最小の防御を示し、感染後に緩やかな体重減少を示した。
【0080】
上記と同様に、曝露4日後に安楽死させた動物から単離した肺は、δIII/p400群で間質性肺炎および炎症の領域が有意に少なく、δII/800群がそれに続き、これら2つの群において感染群と比べてSARS-CoV2関連肺損傷が少ない可能性が示された(図5B)。ハムスターのSARS-CoV2関連病理の別の臨床パラメーターである脾腫も、感染対照群と比べて有意な縮小をδIII/p400群で示したが、他の薬剤群では、脾臓サイズの減少は無いまたは少量であった(図5C)。
【0081】
SARS-CoV-2感染ハムスターに対する式Eの化合物の抗ウイルス性能および免疫調節性能
相対ウイルス負荷に対する式Eの化合物の抗ウイルス効率を理解するために、ハムスターから切り出した肺のSARS-CoV2のN2遺伝子の定量を実施した。
【0082】
図6Aの結果は、δI/200群、δII/800群およびδIII/p400群における、相対肺ウイルス負荷量の有意な減少を示した。最も大きなウイルス負荷量の減少が、感染対照群と比べてウイルス負荷量に5倍の減少を示したδIII/p400で見られたが、一方、δI/200およびδII/800等の他の群は、ウイルス負荷量の約2~2.5倍の減少を示した。興味深いことに、δIV/400群ではウイルス負荷量の減少はなく、この群では肺ウイルス負荷に不均質性も認められた。
【0083】
式Eの化合物による免疫調節能について理解するために、種々の群の脾臓細胞サンプルにおけるHGPRT内因性対照に対するIFNγ、IL4、IL17A遺伝子のmRNA発現プロファイリングを実施した。データは、全群にわたるIL4の劇的な阻害と、δI/200およびδIII/p400におけるIL17A発現阻害とを示した(図6B)。興味深いことに、δI/200は全群間で最も高いINFγの誘導を示した。
【0084】
式Eの化合物で処置したハムスターにおけるSARS-CoV2感染関連肺疾患の組織学的研究
SARS-CoV2感染の際の肺疾患に対する式Eの化合物の投与の効果を理解するために、感染後4日目に単離された肺サンプルの詳細な組織学的分析を実施した。
【0085】
肺疾患の組織学的評価は式Eの化合物を投与したハムスターのH&E染色で実施し、対照群と比較した。図7は、H&E染色した肺の40倍の組織学的画像であり、間質性肺炎(青い矢印)、炎症(黒い矢印)、肺損傷(赤い矢印)、肺胞上皮細胞(緑の矢印)の領域、ならびにそれぞれに対応する病理スコア、および肺サンプルの総合的疾患スコアを示す。
【0086】
全ての薬剤処理群のH&E染色肺サンプルが、間質性肺炎、肺胞上皮損傷および肺炎症スコアの良好な減少を示した。δIII/p400群が研究した組織学的パラメーターおよび総合的疾患スコアについて最も高い防御を示した。興味深いことに、感染対象と比べて、δIV/400薬剤群に見られたのは、僅かな保護または保護無しであった。
【0087】
結論
ゴールデンハムスターにおけるSARS-CoV-2曝露研究は、試験した4種の投与計画の内、400mpkの式Eの化合物による前処理がSARS-CoV-2感染に対して最も高い総合防御効率を示し、レミデシビルと比べて、肺ウイルス負荷量および間質性肺炎の減少をもたらした。さらに肺病理の減少および病原性IL4およびIL17A免疫応答の抑制を発揮した。
【0088】
上記試験は、式Iの化合物が細胞内のV-ATPアーゼの減少に効果的であることから、SARS CoV-2ウイルスの阻害によってウイルス感染の治療を支援したことを示す。式Iの化合物、特に式Eの化合物は、毒性を生じることなくウイルス感染を治療する抗ウイルス薬として非常に効果的であった。
【0089】
本発明の上記説明は、本発明を説明することを目的とし、限定することを意図しない。開示された実施期待に本発明の精神および実態を導入した変更を当業者は想到し得るため、本発明は、本願開示の範囲内の全てを含むと理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-01-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害のための式Iの化合物を活性成分として含む医薬
【化1】
式中、
EはCおよびNから選ばれ、
QはOまたは-NHであり、
nは0~6であり、
およびRは、-H、および-C(O)O-アルキルから選ばれる、あるいはRおよびRは結合して、置換または未置換の5員環または6員環を形成し、
、R、RおよびRはそれぞれ独立に-H、-OH、およびアルコキシから選ばれ、
およびRは-H、-OH、アルコキシ、-Xから選ばれ、XはF、Cl、Brであり得る、あるいはRおよびRは結合して、1以上のヘテロ原子を含む5員環を形成し、
aおよびbは、対応する位置の二重結合の有無を示し、
11およびR12はそれぞれ独立に-Hから選ばれる、あるいはR11およびR12 は、置換または未置換の5員環または6員環、または-C(O)O-アルキルであり得、
Rは、置換または未置換の下記フェニル環から選ばれる。
【化2】
(式中、R、R10、R11およびR12はそれぞれ独立に-H、-OH、アルコキシ、および下記式から選ばれる。
【化3】
式中、R13はHまたはアルキルであり、
*は、Qまたは-CH基との結合を表す。)
【請求項2】
前記化合物が下記式IIで表される、請求項1に記載の医薬
【化4】
式中、
EはCおよびNから選ばれ、
QはOまたは-NHであり、
nは0~6であり、
およびRは-Hおよび-C(O)O-アルキルから選ばれる、あるいはRおよびRは結合して、置換または未置換の5員環または6員環を形成し、
およびRはそれぞれ独立に-H、-OH、およびアルコキシから選ばれ、
Rは置換または未置換の下記フェニル環から選ばれる。
【化5】
(式中、R、R10、R11およびR12はそれぞれ独立に-H、-OH、アルコキシ、および下記式から選ばれる。
【化6】
式中、R13はHまたはアルキルであり、
*は、Qまたは-CH2基との結合を表す。)
【請求項3】
前記化合物が式IIIで表される、請求項1に記載の医薬
【化7】
式中、
EはCおよびNから選ばれ、
QはOまたは-NHであり、
nは0~6であり、
およびRは-H、-OH、アルコキシ、-Xから選ばれ、XはF、Cl、Brであり得る、あるいはRおよびRは結合して、1以上のヘテロ原子を含む5員環を形成し、
aおよびbは、対応する位置の二重結合の有無を示し、
Rは、置換または未置換の下記フェニル環から選ばれる。
【化8】
(式中、R、R10、R11およびR12はそれぞれ独立に-H、-OH、アルコキシ、および下記式から選ばれる。
【化9】
式中、R13はHまたはアルキルであり、
*は、Qまたは-CH基との結合を表す。)
【請求項4】
前記化合物が下記式で表される、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬
【化10】
【化11】
【化12】
【請求項5】
細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害のための、式Eの化合物を含む医薬
【化13】
【請求項6】
前記化合物がプロドラッグ、代謝産物、薬学的に許容される塩、溶媒和物またはその多形体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬
【請求項7】
細胞のV-ATPアーゼ活性の阻害によってウイルスを阻害するための、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬
【請求項8】
SARS-CoV-2ウイルスまたはインフルエンザウイルスの阻害のための、請求項7に記載の医薬
【請求項9】
SARS-CoV-2ウイルスまたはインフルエンザウイルスの阻害のための、式Iの化合物を活性成分として含む医薬
【化14】
式中、
EはCおよびNから選ばれ、
QはOまたは-NHであり、
nは0~6であり、
およびR は、-H、および-C(O)O-アルキルから選ばれる、あるいはR およびR は結合して、置換または未置換の5員環または6員環を形成し、
、R 、R およびR はそれぞれ独立に-H、-OH、およびアルコキシから選ばれ、
およびR は-H、-OH、アルコキシ、-Xから選ばれ、XはF、Cl、Brであり得る、あるいはR およびR は結合して、1以上のヘテロ原子を含む5員環を形成し、
aおよびbは、対応する位置の二重結合の有無を示し、
11 およびR 12 はそれぞれ独立に-Hから選ばれる、あるいはR 11 およびR 12 は、置換または未置換の5員環または6員環、または-C(O)O-アルキルであり得、
Rは、置換または未置換の下記フェニル環から選ばれる。
【化15】
(式中、R 、R 10 、R 11 およびR 12 はそれぞれ独立に-H、-OH、アルコキシ、および下記式から選ばれる。
【化16】
式中、R 13 はHまたはアルキルであり、
*は、Qまたは-CH 基との結合を表す。)
【請求項10】
SARS-CoV-2ウイルスまたはインフルエンザウイルスの阻害のための、式Eの化合物を活性成分として含む医薬
【化17】
【請求項11】
ウイルス感染の治療のために細胞のV-ATPアーゼ活性を阻害する医薬の製造のための、式Iの化合物の使用。
【化18】
式中、
EはCおよびNから選ばれ、
QはOまたは-NHであり、
nは0~6であり、
およびR は、-H、および-C(O)O-アルキルから選ばれる、あるいはR およびR は結合して、置換または未置換の5員環または6員環を形成し、
、R 、R およびR はそれぞれ独立に-H、-OH、およびアルコキシから選ばれ、
およびR は-H、-OH、アルコキシ、-Xから選ばれ、XはF、Cl、Brであり得る、あるいはR およびR は結合して、1以上のヘテロ原子を含む5員環を形成し、
aおよびbは、対応する位置の二重結合の有無を示し、
11 およびR 12 はそれぞれ独立に-Hから選ばれる、あるいはR 11 およびR 12 は、置換または未置換の5員環または6員環、または-C(O)O-アルキルであり得、
Rは、置換または未置換の下記フェニル環から選ばれる。
【化19】
(式中、R 、R 10 、R 11 およびR 12 はそれぞれ独立に-H、-OH、アルコキシ、および下記式から選ばれる。
【化20】
式中、R 13 はHまたはアルキルであり、
*は、Qまたは-CH 基との結合を表す。)
【国際調査報告】