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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-14
(54)【発明の名称】ウイルスベクター産生
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/86 20060101AFI20230607BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
C12N15/86 Z ZNA
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569154
(86)(22)【出願日】2021-05-14
(85)【翻訳文提出日】2023-01-11
(86)【国際出願番号】 GB2021051169
(87)【国際公開番号】W WO2021229242
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】2007199.9
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522357688
【氏名又は名称】オックスフォード・バイオメディカ・(ユーケイ)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Oxford Biomedica (UK) Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ラポソ,ルイ アンドレ サライバ
(72)【発明者】
【氏名】ムーア-ケリー,チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ライト,ジョーダン
(72)【発明者】
【氏名】ファーリー,ダニエル
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB04
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、ウイルスベクターを産生するための新規な方法を提供する。対応するウイルスベクター産生システムおよび使用も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスベクターを産生するための方法であって、ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列を含む細胞を、PKCアクチベーターを含む細胞培養培地中で培養することを含む方法。
【請求項2】
ウイルスベクターが自己不活性化ウイルスベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
PKCアクチベーターが、プロストラチンまたはホルボール12-ミリステート13-アセテート、それらの類似体、誘導体または薬学的に許容される塩である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
a)プロストラチンが細胞培養培地中に少なくとも約0.5μMの濃度で存在し、プロストラチンが約0.5から約32μMの濃度で存在してもよく;または
b)ホルボール12-ミリステート13-アセテートが細胞培養培地中に少なくとも約1nMの濃度で存在し、ホルボール12-ミリステート13-アセテートが約1から約32nMの濃度で存在してもよい、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ウイルスベクターがレンチウイルスベクターであり、改変U1 snRNAがレンチウイルスベクター構成要素と共発現され、前記改変U1 snRNAが、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に結合する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ウイルスベクターがレンチウイルスベクターであり、レンチウイルスベクターゲノムの主要スプライスドナー領域からのスプライシング活性が機能的に除去されている、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ウイルスベクターがレンチウイルスベクターであり、レンチウイルスベクターゲノムが、主要スプライスドナー領域で突然変異しているか、または主要スプライスドナー領域および少なくとも1つの潜在的スプライスドナー領域で突然変異している、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
細胞培養培地がHDAC阻害剤をさらに含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
HDAC阻害剤が、脂肪族HDAC阻害剤またはヒドロキサム酸HDAC阻害剤である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
脂肪族HDAC阻害剤が、酪酸ナトリウム、バルプロ酸ナトリウムまたは吉草酸、それらの類似体、誘導体または薬学的に許容される塩である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
PKCアクチベーターがプロストラチンであり、HDAC阻害剤が酪酸ナトリウムである、請求項8~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ヒドロキサム酸HDAC阻害剤が、スベルアニロヒドロキサム酸、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
a)酪酸ナトリウムが細胞培養培地中に少なくとも約2.5mMの濃度で存在し、酪酸ナトリウムが約2.5から約30mMの濃度で存在してもよく;
b)バルプロ酸ナトリウムが細胞培養培地中に少なくとも約3mMの濃度で存在し、バルプロ酸ナトリウムが約3から約30mMの濃度で存在してもよく;
c)吉草酸が細胞培養培地中に少なくとも約3mMの濃度で存在し、吉草酸が約3から約30mMの濃度で存在してもよく;または
d)スベルアニロヒドロキサム酸が細胞培養培地中に少なくとも約0.5μMの濃度で存在し、スベルアニロヒドロキサム酸が約0.5から約16μMの濃度で存在してもよい、
請求項10~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
細胞が、一過性にトランスフェクトされた産生細胞である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
細胞が安定したプロデューサー細胞である、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
細胞が真核細胞である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
細胞が哺乳動物細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
細胞がヒト細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
細胞が接着性である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
細胞がHEK293細胞またはその派生物である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
HEK293産生細胞がHEK293T細胞である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
細胞が浮遊状態にある、請求項1~18のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
ウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクターおよびワクシニアウイルスベクターからなる群から選択される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
レトロウイルスベクターがレンチウイルスベクターである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
レンチウイルスベクターが、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVおよびビスナレンチウイルスベクターからなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ウイルスベクターが、目的のヌクレオチド(NOI)を含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
細胞培養培地が、容量が少なくとも約5リットルの培地で構成される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
細胞培養培地が無血清である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
ウイルスベクター構成要素をコードする少なくとも1つの核酸配列が、CMVプロモーター、RSVプロモーター、CAG合成プロモーター、CHEF1プロモーター、GRP78プロモーター、UBCプロモーター、HIV-1 U3プロモーター、およびFERHプロモーターからなる群から選択されるプロモーターに作動可能に連結されている、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
プロモーターが、CMVプロモーター、RSVプロモーター、およびCAG合成プロモーターからなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項31】
i)ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列を含む細胞;および
ii)PKCアクチベーターを含む細胞培養培地
を含むウイルスベクター産生システム。
【請求項32】
ウイルスベクターが自己不活性化ウイルスベクターである、請求項31に記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項33】
PKCアクチベーターが、プロストラチンもしくはホルボール12-ミリステート13-アセテート、それらの類似体、誘導体または薬学的に許容される塩である、請求項31または32に記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項34】
a)プロストラチンが細胞培養培地中に少なくとも約0.5μMの濃度で存在し、プロストラチンが約0.5から約32μMの濃度で存在してもよく;または
b)ホルボール12-ミリステート13-アセテートが細胞培養培地中に少なくとも約1nMの濃度で存在し、ホルボール12-ミリステート13-アセテートが約1から約32nMの濃度で存在してもよい、
請求項33に記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項35】
改変U1 snRNAをコードする核酸配列をさらに含み、改変U1 snRNAがレンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に結合する、請求項31~34のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項36】
ウイルスベクターがレンチウイルスベクターであり、レンチウイルスベクターゲノムの主要スプライスドナー領域からのスプライシング活性が機能的に除去されている、請求項31~35のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項37】
ウイルスベクターがレンチウイルスベクターであり、レンチウイルスベクターゲノムが、主要スプライスドナー領域で突然変異しているか、または主要スプライスドナー領域および少なくとも1つの潜在的スプライスドナー領域で突然変異している、請求項31~36のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項38】
細胞培養培地がHDAC阻害剤をさらに含む、請求項31~37のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項39】
HDAC阻害剤が、脂肪族HDAC阻害剤またはヒドロキサム酸HDAC阻害剤である、請求項38に記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項40】
脂肪族HDAC阻害剤が、酪酸ナトリウム、バルプロ酸ナトリウムまたは吉草酸、それらの類似体、誘導体または薬学的に許容される塩である、請求項39に記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項41】
PKCアクチベーターがプロストラチンであり、HDAC阻害剤が酪酸ナトリウムである、請求項38~40のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項42】
ヒドロキサム酸HDAC阻害剤が、スベルアニロヒドロキサム酸、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩である、請求項39に記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項43】
a)酪酸ナトリウムが細胞培養培地中に少なくとも約2.5mMの濃度で存在し、酪酸ナトリウムが約2.5から約30mMの濃度であってもよく;
b)バルプロ酸ナトリウムが細胞培養培地中に少なくとも約3mMの濃度で存在し、バルプロ酸ナトリウムが約3から約30mMの濃度で存在してもよく;
c)吉草酸が細胞培養培地中に少なくとも約3mMの濃度で存在し、吉草酸が約3から約30mMの濃度で存在してもよく;または
d)スベルアニロヒドロキサム酸が細胞培養培地中に少なくとも約0.5μMの濃度で存在し、スベルアニロヒドロキサム酸が約0.5から約16μMの濃度で存在してもよい、
請求項40~42のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項44】
細胞が、一過性にトランスフェクトされた産生細胞である、請求項31~43のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項45】
細胞が安定したプロデューサー細胞である、請求項31~43のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項46】
細胞が真核細胞である、請求項31~45のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項47】
細胞が哺乳動物細胞である、請求項46に記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項48】
細胞がヒト細胞である、請求項47に記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項49】
細胞が接着性である、請求項31~48のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項50】
細胞がHEK293細胞またはその派生物である、請求項31~49のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項51】
HEK293産生細胞がHEK293T細胞である、請求項50に記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項52】
細胞が浮遊状態にある、請求項31~48のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項53】
ウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクターおよびワクシニアウイルスベクターからなる群から選択される、請求項31~52のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項54】
レトロウイルスベクターがレンチウイルスベクターである、請求項53に記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項55】
レンチウイルスベクターが、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVおよびビスナレンチウイルスベクターからなる群から選択される、請求項54に記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項56】
ウイルスベクターが、目的のヌクレオチド(NOI)を含む、請求項31~55のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項57】
ウイルスベクター構成要素をコードする少なくとも1つの核酸配列が、CMVプロモーター、RSVプロモーター、CAG合成プロモーター、CHEF1プロモーター、GRP78プロモーター、UBCプロモーター、HIV-1 U3プロモーター、およびFERHプロモーターからなる群から選択されるプロモーターに作動可能に連結されている、請求項31~56のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項58】
プロモーターが、CMVプロモーター、RSVプロモーター、およびCAG合成プロモーターからなる群から選択される、請求項57に記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項59】
細胞培養培地が無血清である、請求項31~58のいずれかに記載のウイルスベクター産生システム。
【請求項60】
ウイルスベクター産生中のウイルスベクタータイターを増加させるためのPKCアクチベーターの使用。
【請求項61】
PKCアクチベーターがHDAC阻害剤と組み合わせて使用される、請求項60に記載の使用。
【請求項62】
ウイルスベクターが自己不活性化ウイルスベクターである、請求項60または61に記載の使用。
【請求項63】
PKCアクチベーターが、プロストラチンまたはホルボール12-ミリステート13-アセテート、それらの類似体、誘導体または薬学的に許容される塩である、請求項60から62に記載の使用。
【請求項64】
HDAC阻害剤が、脂肪族HDAC阻害剤またはヒドロキサム酸HDAC阻害剤である、請求項61から63に記載の使用。
【請求項65】
脂肪族HDAC阻害剤が、酪酸ナトリウム、バルプロ酸ナトリウムまたは吉草酸、それらの類似体、誘導体または薬学的に許容される塩である、請求項64に記載の使用。
【請求項66】
PKCアクチベーターがプロストラチンであり、HDAC阻害剤が酪酸ナトリウムである、請求項61から65に記載の使用。
【請求項67】
ヒドロキサム酸HDAC阻害剤が、スベルアニロヒドロキサム酸、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩である、請求項64に記載の使用。
【請求項68】
ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列を含む細胞からウイルスベクターが産生され、核酸配列の少なくとも1つが、CMVプロモーター、RSVプロモーター、CAG合成プロモーター、CHEF1プロモーター、GRP78プロモーター、UBCプロモーター、HIV-1 U3プロモーター、およびFERHプロモーターからなる群から選択されるプロモーターに作動可能に連結されている、請求項60~67のいずれかに記載の使用。
【請求項69】
プロモーターが、CMVプロモーター、RSVプロモーター、およびCAG合成プロモーターからなる群から選択される、請求項68に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスベクターを産生するための新規な方法を提供する。対応するウイルスベクター産生システムおよび使用も提供される。
【背景技術】
【0002】
ワクチンおよびヒト遺伝子治療に向けての過去数十年にわたるウイルスベクターの開発および製造は、科学誌および特許に十分に記載されてきた。治療効果を求めて導入遺伝子を導入するための操作されたウイルスの使用は多岐にわたる。γ-レトロウイルスおよびレンチウイルスなどのRNAウイルス(Muhlebach, M.D. et al., 2010, Retroviruses: Molecular Biology, Genomics and Pathogenesis, 13:347-370; Antoniou, M.N., Skipper, K.A. & Anakok, O., 2013, Hum. Gene Ther., 24:363-374)、ならびにアデノウイルス(Capasso, C. et al., 2014, Viruses, 6:832-855)およびアデノ随伴ウイルス(AAV)(Kotterman, M.A. & Schaffer, D.V., 2014, Nat. Rev. Genet., 15:445-451)などのDNAウイルスに基づく現代の遺伝子治療ベクターは、増加しつつあるヒト疾患の適応において有望であることが示されている。これには、血液学的状態に対する患者細胞のエクスビボ(ex vivo)改変(Morgan, R.A. & Kakarla, S., 2014, Cancer J., 20:145-150; Touzot, F. et al., 2014, Expert Opin. Biol. Ther., 14:789-798)、ならびに眼(Balaggan, K.S. & Ali, R.R., 2012, Gene Ther., 19:145-153)、心血管(Katz, M.G. et al., 2013, Hum. Gene Ther., 24:914-927)、神経変性疾患(Coune, P.G., Schneider, B.L. & Aebischer, P., 2012, Cold Spring Harb. Perspect. Med., 4:a009431)および腫瘍療法(Pazarentzos, E. & Mazarakis, N.D., 2014, Adv. Exp. Med Biol., 818:255-280)のインビボ(in vivo)治療が含まれる。臨床試験におけるこれらのアプローチの成功が、規制当局の承認および商業化に向けて確立され始めるのに伴って、優良製造規範(GMP)グレードのベクター材料の大量生産における新たなボトルネックに注目が集まっている(Van der Loo JCM, Wright JF., 2016, Human Molecular Genetics, 25(R1):R42-R52)。
【0003】
この課題を克服する方法の1つは、ウイルスベクター産生中のタイターを最大化する新しい方法を見出すことである。ウイルスベクターの一般的な製造方法は、ベクターDNA構成要素による初代細胞または哺乳動物/昆虫細胞株のトランスフェクションの後に、限られた培養期間を経て、培養培地および/または細胞から粗ベクターを収集することを伴う(Merten, O-W., Schweizer, M., Chahal, P., & Kamen, A.A., 2014, Pharmaceutical Bioprocessing, 2:183-203)。他のケースでは、プロデューサー細胞株(PrCL;必要なベクター構成要素発現カセットのすべてが産生細胞DNAに安定に組み込まれている)が、トランスフェクションに依存しないアプローチに使用されており、これは規模が大きい場合に有利である。ウイルスベクター製造の効率は、典型的には、[1]採用されるウイルス血清型/シュードタイプ、[2]導入遺伝子配列の組成およびサイズ、[3]培地組成/通気/pH、[4]トランスフェクション試薬/過程、[5]化学誘導およびベクター収集のタイミング、[6]細胞の脆弱性/生存性、[7]バイオリアクターの剪断力、ならびに[8]不純物を含む、「上流相」のいくつかの要因による影響を受ける。明らかに、「下流」精製/濃縮相において考慮すべき他の要因もある(Merten, O-W. et al., 2014, Pharmaceutical Bioprocessing, 2:237-251)。
【0004】
したがって、GMPグレードのベクター材料の大量生産にかかわる既知の問題に対処するのに役立つ代替的なウイルスベクター産生の方法を提供することには、当技術分野において需要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、驚いたことに、ウイルスベクター産生中にPKCアクチベーターを単独でまたはHDAC阻害剤と組み合わせて使用することにより、ウイルスベクタータイターが著しく増加することを示した。したがって、本発明は、PKCアクチベーターの、i)ウイルスベクター産生の誘導剤としてのそれ単独での、またはii)HDAC阻害剤によるウイルスベクター産生の誘導の増強剤としての、使用に関する。
【0006】
本発明者らはまた、PKCアクチベーターで処理された細胞が高い細胞生存率を維持することを示しており、これはウイルスベクター産生中に有益である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、ウイルスベクターを産生するための方法であって、ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列を含む細胞を、PKCアクチベーターを含む細胞培養培地中で培養することを含む方法が提供される。
【0008】
好適には、ウイルスベクターは自己不活性化ウイルスベクターであり得る。
【0009】
好適には、PKCアクチベーターは、プロストラチンまたはホルボール12-ミリステート13-アセテート、それらの類似体、誘導体または薬学的に許容される塩であり得る。
【0010】
好適には、
a)プロストラチンは細胞培養培地中に少なくとも約0.5μMの濃度で存在することができ、プロストラチンは約0.5から約32μMの濃度で存在してもよく;または
b)ホルボール12-ミリステート13-アセテートは細胞培養培地中に少なくとも約1nMの濃度で存在することができ、ホルボール12-ミリステート13-アセテートは約1から約32nMの濃度で存在してもよい。
【0011】
好適には、ウイルスベクターはレンチウイルスベクターであり得、改変U1 snRNAはレンチウイルスベクター構成要素と共発現させることができ、前記改変U1 snRNAは、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に結合する。
【0012】
好適には、ウイルスベクターはレンチウイルスベクターであり得、レンチウイルスベクターの主要スプライスドナー領域からのスプライシング活性が機能的に除去されていることがあり得る。
【0013】
好適には、ウイルスベクターはレンチウイルスベクターであり得、レンチウイルスベクターゲノムは、主要スプライスドナー領域で突然変異しているか、または主要スプライスドナー領域および少なくとも1つの潜在的スプライスドナー領域で突然変異している。
【0014】
好適には、細胞培養培地はHDAC阻害剤をさらに含み得る。
【0015】
好適には、HDAC阻害剤は、脂肪族HDAC阻害剤またはヒドロキサム酸HDAC阻害剤であり得る。
【0016】
好適には、脂肪族HDAC阻害剤は、酪酸ナトリウム、バルプロ酸ナトリウムまたは吉草酸、それらの類似体、誘導体または薬学的に許容される塩であり得る。
【0017】
好適には、PKCアクチベーターはプロストラチンであり得、HDAC阻害剤は酪酸ナトリウムであり得る。
【0018】
好適には、ヒドロキサム酸HDAC阻害剤は、スベルアニロヒドロキサム酸、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩であり得る。
【0019】
好適には、
a)酪酸ナトリウムは細胞培養培地中に少なくとも約2.5mMの濃度で存在することができ、酪酸ナトリウムは約2.5から約30mMの濃度で存在してもよく;
b)バルプロ酸ナトリウムは細胞培養培地中に少なくとも約3mMの濃度で存在することができ、バルプロ酸ナトリウムは約3から約30mMの濃度で存在してもよく;
c)吉草酸は細胞培養培地中に少なくとも約3mMの濃度で存在することができ、吉草酸は約3から約30mMの濃度で存在してもよく;または
d)スベルアニロヒドロキサム酸は細胞培養培地中に少なくとも約0.5μMの濃度で存在することができ、スベルアニロヒドロキサム酸は約0.5から約16μMの濃度で存在してもよい。
【0020】
好適には、細胞は一過性にトランスフェクトされた産生細胞であり得る。この文脈において、ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列は、産生細胞に一過性に導入される。
【0021】
好適には、細胞は安定したプロデューサー細胞であり得る。この文脈において、ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列は、プロデューサー細胞に安定に組み込まれる。
【0022】
好適には、細胞は真核細胞であり得る。
【0023】
好適には、細胞は哺乳動物細胞であり得る。
【0024】
好適には、細胞はヒト細胞であり得る。
【0025】
好適には、細胞は接着性であり得る。
【0026】
細胞は、HEK293細胞、またはその派生物であり得る。
【0027】
好適には、HEK293産生細胞は、HEK293T細胞であり得る。
【0028】
好適には、細胞は浮遊状態にあり得る。
【0029】
好適には、ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクターおよびワクシニアウイルスベクターからなる群から選択され得る。
【0030】
好適には、レトロウイルスベクターは、レンチウイルスベクターであり得る。
【0031】
好適には、レンチウイルスベクターは、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVおよびビスナレンチウイルスベクターからなる群から選択され得る。
【0032】
好適には、ウイルスベクターは、目的のヌクレオチド(NOI)を含み得る。
【0033】
好適には、細胞培養培地は、容量が少なくとも約5リットルの培地で構成され得る。
【0034】
好適には、細胞培養培地は無血清であり得る。
【0035】
好適には、ウイルスベクター構成要素をコードする少なくとも1つの核酸配列は、CMVプロモーター、RSVプロモーター、CAG合成プロモーター、CHEF1プロモーター、GRP78プロモーター、UBCプロモーター、HIV-1 U3プロモーター、およびFERHプロモーターからなる群から選択されるプロモーターに作動可能に連結することができ、プロモーターは、CMVプロモーター、RSVプロモーター、およびCAG合成プロモーターからなる群から選択されてもよい。
【0036】
i)ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列を含む細胞;および
ii)PKCアクチベーターを含む細胞培養培地
を含むウイルスベクター産生システムも提供される。
【0037】
好適には、ウイルスベクターは自己不活性化ウイルスベクターであり得る。
【0038】
好適には、PKCアクチベーターは、プロストラチンまたはホルボール12-ミリステート13-アセテート、それらの類似体、誘導体または薬学的に許容される塩であり得る。
【0039】
好適には、
a)プロストラチンは細胞培養培地中に少なくとも約0.5μMの濃度で存在することができ、プロストラチンは約0.5から約32μMの濃度で存在してもよく;または
b)ホルボール12-ミリステート13-アセテートは細胞培養培地中に少なくとも約1nMの濃度で存在することができ、ホルボール12-ミリステート13-アセテートは約1から約32nMの濃度で存在してもよい。
【0040】
好適には、ウイルスベクター産生システムは、改変U1 snRNAをコードする核酸配列をさらに含むことができ、改変U1 snRNAは、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に結合する。
【0041】
好適には、ウイルスベクターは、レンチウイルスベクターであり得、レンチウイルスベクターゲノムの主要スプライスドナー領域からのスプライシング活性が機能的に除去されている。
【0042】
好適には、ウイルスベクターはレンチウイルスベクターであり得、レンチウイルスベクターゲノムは、主要スプライスドナー領域で突然変異しているか、または主要スプライスドナー領域および少なくとも1つの潜在的スプライスドナー領域で突然変異している。
【0043】
好適には、細胞培養培地はHDAC阻害剤をさらに含み得る。
【0044】
好適には、HDAC阻害剤は、脂肪族HDAC阻害剤またはヒドロキサム酸HDAC阻害剤であり得る。
【0045】
好適には、脂肪族HDAC阻害剤は、酪酸ナトリウム、バルプロ酸ナトリウムまたは吉草酸、それらの類似体、誘導体または薬学的に許容される塩であり得る。
【0046】
好適には、PKCアクチベーターはプロストラチンであり得、HDAC阻害剤は酪酸ナトリウムであり得る。
【0047】
好適には、ヒドロキサム酸HDAC阻害剤は、スベルアニロヒドロキサム酸、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩であり得る。
【0048】
好適には、
a)酪酸ナトリウムは細胞培養培地中に少なくとも約2.5mMの濃度で存在することができ、酪酸ナトリウムは約2.5から約30mMの濃度で存在してもよく;
b)バルプロ酸ナトリウムは細胞培養培地中に少なくとも約3mMの濃度で存在することができ、バルプロ酸ナトリウムは約3から約30mMの濃度で存在してもよく;
c)吉草酸は細胞培養培地中に少なくとも約3mMの濃度で存在することができ、吉草酸は約3から約30mMの濃度で存在してもよく;または
d)スベルアニロヒドロキサム酸は細胞培養培地中に少なくとも約0.5μMの濃度で存在することができ、スベルアニロヒドロキサム酸は約0.5から約16μMの濃度で存在してもよい。
【0049】
好適には、細胞は一過性にトランスフェクトされた産生細胞であり得る。
【0050】
好適には、細胞は安定したプロデューサー細胞であり得る。
【0051】
好適には、細胞は真核細胞であり得る。
【0052】
好適には、細胞は哺乳動物細胞であり得る。
【0053】
好適には、細胞はヒト細胞であり得る。
【0054】
好適には、細胞は接着性であり得る。
【0055】
好適には、細胞はHEK293細胞、またはその派生物であり得る。
【0056】
好適には、HEK293産生細胞はHEK293T細胞であり得る。
【0057】
好適には、細胞は浮遊状態にあり得る。
【0058】
好適には、ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクターおよびワクシニアウイルスベクターからなる群から選択され得る。
【0059】
好適には、レトロウイルスベクターは、レンチウイルスベクターであり得る。
【0060】
好適には、レンチウイルスベクターは、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVおよびビスナレンチウイルスベクターからなる群から選択され得る。
【0061】
好適には、ウイルスベクターは、目的のヌクレオチド(NOI)を含み得る。
【0062】
好適には、細胞培養培地は無血清であり得る。
【0063】
好適には、ウイルスベクター構成要素をコードする少なくとも1つの核酸配列は、CMVプロモーター、RSVプロモーター、CAG合成プロモーター、CHEF1プロモーター、GRP78プロモーター、UBCプロモーター、HIV-1 U3プロモーター、およびFERHプロモーターからなる群から選択されるプロモーターに作動可能に連結することができ、プロモーターは、CMVプロモーター、RSVプロモーター、およびCAG合成プロモーターからなる群から選択されてもよい。
【0064】
本明細書に記載される方法またはウイルスベクター産生システムの文脈において、ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列は、レンチウイルスベクターの産生に必要なウイルスベクター構成要素をコードすることができる。例えば、それらは、以下をコードし得る:i)gag-pol;ii)エンベロープ;iii)ウイルスベクターゲノム(典型的にはNOIをコードする)およびiv)適宜、revまたはその機能的代替物、ここでenvはVSV-G envであり得る。i)からiv)までの各核酸配列は、別々であることもでき、または1つのモジュールコンストラクトの一部でもあり得る。例えば、i)からiv)までの核酸配列のうちの少なくとも2つは、同じ遺伝子座に位置するウイルスベクター構成要素をコードするモジュール式コンストラクトであり得る。さらなる一例では、核酸配列の少なくとも2つは、逆向きおよび/または交互の向きにウイルスベクター構成要素をコードするモジュール式コンストラクトであり得る。さらに別の例では、核酸配列の少なくとも2つはgag-polおよび/またはenvをコードするモジュール式コンストラクトであり、モジュール式コンストラクトは少なくとも1つのレギュレーターエレメントと関連付けられている。
【0065】
ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列は、代替的に、異なるレトロウイルスベクターの産生のために必要なウイルスベクター構成要素、またはアデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクターもしくはワクシニアウイルスベクターの産生のために必要なウイルス構成要素をコードすることもできる。これらのウイルスベクターのそれぞれの産生のために必要な機能的構成要素は、当技術分野で周知である。例えば、AAVベクターの産生のために、カプシドタンパク質をコードする核酸配列を使用することができる。ウイルスベクター産生中にウイルスベクタータイターを増加させるためのPKCアクチベーターの使用も提供される。
【0066】
好適には、PKCアクチベーターは、HDAC阻害剤と組み合わせて使用することできる。
【0067】
好適には、ウイルスベクターは自己不活性化ウイルスベクターであり得る。
【0068】
好適には、PKCアクチベーターは、プロストラチンまたはホルボール12-ミリステート13-アセテート、それらの類似体、誘導体または薬学的に許容される塩であり得る。
【0069】
好適には、HDAC阻害剤は、脂肪族HDAC阻害剤またはヒドロキサム酸HDAC阻害剤であり得る。
【0070】
好適には、脂肪族HDAC阻害剤は、酪酸ナトリウム、バルプロ酸ナトリウムまたは吉草酸、それらの類似体、誘導体または薬学的に許容される塩であり得る。
【0071】
好適には、PKCアクチベーターはプロストラチンであり得、HDAC阻害剤は酪酸ナトリウムであり得る。
【0072】
好適には、ヒドロキサム酸HDAC阻害剤は、スベルアニロヒドロキサム酸、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩であり得る。
【0073】
好適には、ウイルスベクターは、ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列を含む細胞から産生することができ、核酸配列の少なくとも1つは、CMVプロモーター、RSVプロモーター、CAG合成プロモーター、CHEF1プロモーター、GRP78プロモーター、UBCプロモーター、HIV-1 U3プロモーター、およびFERHプロモーターからなる群から選択されるプロモーターに作動可能に連結されており、プロモーターは、CMVプロモーター、RSVプロモーター、およびCAG合成プロモーターからなる群から選択されてもよい。
【0074】
本発明の様々な態様について、以下にさらに詳細に記載する。
【0075】
本発明の実施形態について、添付の図面を参照しながらさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0076】
図1図1は、(A)パッケージングシグナルのステムループ(SL2)内に埋め込まれた機能的な主要スプライスドナーを含有する、第3世代(自己不活性化(SIN))レンチウイルスベクター発現カセットの典型的な構成の模式図、およびレンチウイルスベクター産生中に生成されるmRNAの種類を示している。「標準的」レンチウイルスベクター(LV)DNAカセット、およびMSDからの乱交雑的な活性を抑制または除去する機能的突然変異をMSD領域に有するレンチウイルスベクターDNAカセット(「MSD-KO LV DNAカセット」)から生成されるmRNAの種類を示している。どちらのカセットについても、完全長(「非スプライス」)ベクターRNA(vRNA)は、rev応答エレメント(RRE)に結合して、MSDからRRE配列に含まれるスプライスアクセプター7(sa7)へのスプライシングを抑制すると一般に考えられているrevの共発現によって生じている。標準的レンチウイルスベクターDNAカセットについては、revが存在しない場合、すべてのイントロンのスプライスアウトが効率的に行われると一般に考えられている(「スプライスされた」)。しかし、「異常」スプライス産物がレンチウイルスベクター産生中に生じる可能性があり、MSDはスプライスアクセプター部位または潜在的スプライスアクセプター部位を非常に効率的にスプライスし[(「異常に」スプライスされた)]、典型的にはRRE含有イントロンを「見過ごす」ため、その結果、revはMSDのこの活性に最小限の影響しか及ぼさない。また、レンチウイルスベクター産生を、MSD突然変異レンチウイルスベクターDNAカセットのパッケージング領域に再方向付けされた改変されたU1 snRNAの共発現によって行うこともできる(凡例:Pro、プロモーター;5’Rからgagまでの領域はパッケージングエレメント{Ψ}を含有する;msd、主要スプライスドナー;cppt、中央ポリプリントラクト;Int、イントロン;sd/sa、スプライスドナー/アクセプター;GOI、目的の遺伝子;グレーの矢印は、第3世代レンチウイルスベクター産生中に産生される非スプライスvRNAの割合を評価するための順方向{f}および逆方向{r}プライマーの位置を示す。わかりやすくするために転写後調節エレメント{PRE}は示していない)。(B)SIN LVベクターのLTRからU3が除去される。(C)第3世代CMV駆動性LVベクタープラスミド。
図2図2は、様々な濃度の抗酸化剤(NAC)、HDAC阻害剤(酪酸ナトリウム、バルプロ酸ナトリウム、吉草酸、SAHA、TSA);HAT阻害剤(タンニン酸);転写アクチベーター:PMA、HMBAおよびプロストラチンにより誘導されたHEK293T細胞からの最終的なベクタータイターを示している。
図3図3は、NACのランダムな組み合わせ;HDAC阻害剤:酪酸ナトリウム、バルプロ酸ナトリウム、吉草酸、SAHA、TSA;HAT阻害剤(タンニン酸)ならびに転写アクチベーター:PMA、HMBAおよびプロストラチンにより誘導されたHEK293T細胞からの最終的なベクタータイターを示している。点線は20mM酪酸ナトリウムによる誘導レベルを示す。
図4図4は、様々な濃度のHDAC阻害剤(酪酸ナトリウム、バルプロ酸ナトリウム、吉草酸、SAHA);転写アクチベーター:HMBA、プロストラチンおよびPMA;ならびにHDAC阻害剤と転写アクチベーターの組み合わせにより誘導されたHEK293T細胞からの最終的なベクタータイターを示している。矢印は併用された誘導剤の濃度を示している。
図5図5は、(A)様々な濃度の酪酸ナトリウム、プロストラチンおよびHMBAにより誘導されたHEK293T細胞からの最終的なベクタータイター、(B)ベクタータイターの結果のJMP予測プロファイラーを示している。
図6図6は、(A)バルプロ酸ナトリウム、(B)吉草酸、および(C)SAHAについてのベクタータイターの結果のJMP予測プロファイラーを示している。
図7図7は、プロストラチンの存在下または非存在下で、様々な濃度の酪酸ナトリウム、バルプロ酸ナトリウム、吉草酸およびSAHAにより誘導されたHEK1.65s細胞からの最終的なベクタータイターを示している。
図8図8は、様々な濃度のプロストラチンおよび酪酸ナトリウムにより誘導されたHEK1.65s細胞からの最終的なベクタータイターを示している。
図9図9は、(A)ベクタータイターに対する酪酸ナトリウムとプロストラチンの相互作用のSurfaceプロット、(B)DOE予測と実際(Actual by Predicted)のプロット、効果の概要および不適合度の表、ならびに(C)予測プロファイラーを示している。
図10図10は、(A)FACSおよび(B)二重組込みQPCRアッセイによって測定されたウイルスタイターを示している。
図11図11は、U1 snRNA分子の概略図であり、本発明において使用するために標的配列を変更する方法の一例である。U1 snRNAは、内因性非コード性RNAであり、イントロンスプライシングの初期段階で、5’-(AC)UUACCUG-3’(配列番号2)(グレーで強調表示)ネイティブ性スプライスドナー標的配列を介して、コンセンサススプライスドナー部位(5’-MAGGURR-3’(配列番号1))に結合する。ステムループIは、ポリA抑制に重要であることが示されているU1A-70Kタンパク質に結合する。ステムループIIはU1タンパク質に結合し、5’-AUUUGUGG-3’(配列番号3)配列はSmタンパク質に結合するが、これはステムループIVと共にU1 snRNAのプロセシングに重要である。本発明では、改変U1 snRNAを改変して、ネイティブ性スプライスドナー標的配列の部位に、ベクターゲノムvRNA分子内の標的配列に相補的な異種配列を導入する;この図では、改変U1 snRNAが、標準的なHIV-1レンチウイルスベクターゲノムの15ヌクレオチド(ベクターゲノム分子の最初のヌクレオチド、256U1に対して256~270)に導かれる例が示されている(パッケージングシグナルの場合はSL1ループに位置する)。
図12図12は、HIV-1に基づくレンチウイルスベクター内の主要スプライスドナー部位(MSD)からの異常スプライシングの影響。(A)第3世代(自己不活性化(SIN))レンチウイルスベクター発現カセットの典型的な構成を示す模式図は図1に示されている。図12では、HEK293T細胞において標準的な第3世代レンチウイルスベクター産生を+/-revで行い、産生後の細胞から全RNAを抽出した。全RNAを、2つのプライマーセット(Aの印を付した位置)を使用するqPCR(SYBR green)に供した:f+rTはレンチウイルスベクター発現カセットから生成された全転写産物を増幅し、f+rUSは非スプライス転写産物を増幅した;これにより、非スプライスvRNA転写産物と全vRNA転写産物との割合を計算してプロットした。このデータは、標準的な第3世代レンチウイルスベクター産生の合計に比して、非スプライスvRNAの割合が中程度であり、内部導入遺伝子カセット(この場合は異なるプロモーターおよびGFP遺伝子を含有する)によって異なることを示している。さらに、この割合はrevの作用によって最小限にしか増加しない。
図13図13は、(A)EF1a-GFP内部発現カセットをコードする標準的またはMSD突然変異レンチウイルスベクター発現カセットの構成、およびレンチウイルスベクター産生中に生成されるmRNAの種類を示す模式図。(凡例:凡例:Pro、プロモーター;5’Rからgagまでの領域はパッケージングエレメント{Ψ}を含有する;msd、主要スプライスドナー;cppt、中央ポリプリントラクト;Int、イントロン;sd/sa、スプライスドナー/アクセプター;GOI、目的の遺伝子;グレーの矢印は、第3世代レンチウイルスベクター産生中に産生される非スプライスvRNAの割合を評価するための順方向{f}および逆方向{r}プライマーの位置を示す。わかりやすくするために転写後調節エレメント{PRE}は示していない)。(B)[i]標準的レンチウイルスベクターまたはMSD-2KOレンチウイルスベクターをHEK293T細胞において、+/-tat、または179U1、または305U1で産生させ、タイターを測定した。[ii]全細胞質mRNAを産生後の細胞から抽出し、SL2スプライシング領域SL2スプライシング領域からEF1スプライスアクセプターまでの主要な「異常な」スプライス産物を検出し得るプライマー(f+rG)を使用するRT-PCR/ゲル電気泳動によって分析した。データは、MSD-2KOレンチウイルスベクターゲノム(vRNA)の5’パッケージング領域に再方向付けされた改変U1 snRNAが、tatと類似の様式で標準的およびMSD-2KOレンチウイルスベクターの両方のタイターを増加させ得ることを示している。MSD-2KO突然変異は、SL2スプライシング領域からEF1スプライスアクセプターまでの「異常な」スプライシング産物の検出を消失させた(図14参照)。重要なことに、改変U1 snRNAによるタイターの増加は、tatの使用とは対照的に、事実上検出不可能な「異常な」スプライス産物の維持を伴っていた。
図14図14は、機能的な主要スプライスドナー突然変異、レンチウイルスベクタータイターに対するそれらの影響、および改変U1 snRNAによる回復の説明。(A)「野生型」HIV-1(NL4-3;今回のレンチウイルスベクターゲノム内の「標準的」配列)のステムループ2(SL2)領域の配列を上部に示す。この配列は主要スプライスドナー部位(MSD:コンセンサス=CTGGT)および潜在的スプライスドナー部位(これはMSD部位が独自に突然変異した場合に利用される(crSD:コンセンサス=TGAGT))を含む。スプライスドナー部位を使用した用いた場合のスプライシング位置のヌクレオチドを太字および矢印によって特定している。MSDおよびcrSD部位のスプライシング活性の両方を除去する4つの機能的MSD突然変異が記載されている:MSDおよびcrSDから2つの「GT」モチーフを突然変異させるMSD-2KO;MSDおよびcrSDの両方の部位を破壊する突然変異も含むMSD-2KOv2;スプライスドナー部位を全く持たない全く新しいステムループ構造を導入したMSD-2KOm5;ならびにSL2配列を完全に削除したΔSL2。MSD-2KO、MSD-2KOv2およびMSD-2KOm5突然変異においてSL2配列に導入された置換は小文字の斜体で示されている。(B)機能的MSD突然変異(図14Aに記載)を含む4つのレンチウイルスベクターゲノム突然変異体をEFS-GFP内部カセットにクローニングし、さらにMSD-2KOまたはMSD-2KOm5突然変異体をEF1a-、CMV-またはhuPGK-GFP内部カセットにクローニングした。標準的およびMSD突然変異LVをHEK293T細胞において、+/-256U1で産生させて、タイターを測定した。このデータは、レンチウイルスベクタータイターの減衰の程度が特定の突然変異によって異なる可能性があり、MSD-2KOm5突然変異体は一般に減衰の少ない表現型を生じることを示している。改変U1 snRNAは、産生中に共発現されると、機能的MSD突然変異を含む4つのレンチウイルスベクターゲノム突然変異体についてのレンチウイルスベクタータイターを増加させることができた。タイターの増加は、256U1がMSD-2KOm5配列を有するMSD突然変異LVゲノムと共に発現された場合に最大であった。
図15図15は、主要スプライスドナー(MSD)領域内に機能的突然変異を有するレンチウイルスベクター(LV)の産生タイターを増加させるための、プロストラチンの単独での使用または改変U1 snRNAとの併用。MSD、およびMSDのすぐ下流の潜在的スプライス部位の突然変異による効果は、ベクターRNA(vRNA)の産生の減少に起因する産生タイターの減少である。MSD突然変異LVのタイターは、vRNAのパッケージング領域内の領域にアニールし得るように改変U1 snRNAを供給することによって回復させることができ、それによってパッケージング可能なvRNAのプールを増やすことができる。MSD突然変異LV産生中のプロストラチンの供給もまた、タイターを強化させ得るか否かを試験するために、HIV-MSD2KOm5-EFS-GFP(A)またはHIV-MSD2KOm5-EF1a-GFP(B)を、誘導剤の非存在下で、または11μMのプロストラチン(酪酸ナトリウムの段階で添加)または「256U1」改変U1 snRNAを発現するプラスミドとの共トランスフェクションにより、無血清浮遊HEK293T細胞において産生させた。驚いたことに、プロストラチンはMSD突然変異LVベクタータイターを5~10倍増加させ、プロストラチンおよび256U1を共に適用した場合に達成されたタイターは、誘導剤がない場合に産生される標準的LV産生タイターよりも高かった。
図16図16は、一過性にトランスフェクトされたHEK1.65s細胞において、タイター増強剤の非存在下で産生されたCAR#1、CAR#2およびCAR#2-T2A-GFPのベクタータイターを、256U1の発現下、誘導時の11μMプロストラチン、256U1発現と誘導時の11μMプロストラチンの組み合わせについて示している。
図17図17は、EIAV-CMV-GFPの産生のための収集時のベクタータイター(TU/mL)を、誘導時の11μMのプロストラチンの存在下および非存在下について示している。
図18図18は、プロストラチンによる強度の異なるプロモーターの誘導を示している。浮遊(無血清)HEK293T細胞に、一定のプロモーターによって駆動されるGFPレポーター遺伝子をコードするプラスミドをトランスフェクトした。産生中のウイルスベクター構成要素(例えば、AAVカプシド、LVゲノム)の発現をモデル化するために、2つの異なるプラスミド投入量(0.1μg/mL[Lo]および0.95μg/mL[Hi])を行い、トランスフェクション後にすべての培養物を、10mM酪酸ナトリウムの存在下または非存在下で11μMプロストラチンにより誘導した。トランスフェクションのおよそ2日後に、細胞をフローサイトメトリーによって分析してGFP発現を測定した。各条件について導入遺伝子発現スコア(GFP陽性率×蛍光強度中央値)を求め、直線y軸に対してプロットした(2組のグラフのy軸の範囲は、一番上から一番下までlog-10の大きさの違いがあることに注意。すなわち、最も強いプロモーターから最も弱いプロモーターまで)。サイトメガロウイルスプロモーター-CMV、ラウス肉腫ウイルスU3プロモーター-RSV、CAG合成プロモーター(CMVエンハンサー、ニワトリβアクチン遺伝子のプロモーターエキソン/イントロン、ウサギβグロビン遺伝子のスプライスアクセプター)、チャイニーズハムスターEF-1α-1プロモーター-CHEF1、GRP78/BiP(ストレス誘導性)プロモーター-GRP78、ユビキチン-Cプロモーター-UBC、HIV-1 U3プロモーター-HIV-1 U3、ヒトフェリチン重鎖プロモーター-FERH、非形質転換対照-UTC。
【発明を実施するための形態】
【0077】
本発明の様々な態様について、以下にさらに詳細に説明する。
【0078】
詳細な説明
本発明者らは、PKCアクチベーターを使用することで、ウイルスベクター産生中のウイルスベクタータイターを増加させ得ることを突き止めた。さらに、本発明者らは、ウイルスベクター産生中にPKCアクチベーターが存在する場合に細胞生存率が維持されることを示した。したがって、本明細書に記載される方法、ウイルスベクター産生システム、および使用は、本明細書で以下により詳細に記載される通りのPKCアクチベーターの使用を含む。
【0079】
A.PKCアクチベーター
(i)ウイルスベクターを産生するための方法
ウイルスベクターを産生するための方法であって、ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列を含む細胞を、PKCアクチベーターを含む細胞培養培地中で培養することを含む方法が提供される。
【0080】
「細胞」、「培養」、「細胞培養」、「細胞培養培地」、「核酸配列」、「ウイルスベクター」および「ウイルスベクター構成要素」という用語は、本明細書中の他の箇所でより詳細に記載されており、ここに同様に適用される。
【0081】
本明細書に記載される方法に使用される細胞は、一過性にトランスフェクトされた産生細胞または安定なプロデューサー細胞であり得る。「一過性にトランスフェクトされた産生細胞」および「安定なプロデューサー細胞」という用語は、本明細書中の他の箇所でより詳細に記載されており、ここに同様に適用される。
【0082】
細胞は、真核細胞、例えば、哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞)であり得る。代替的な細胞型については、以下でより詳細に考察する。
【0083】
細胞は、接着性であり得、または浮遊状態でもあり得る。好適な細胞型は、本明細書中の他の箇所でより詳細に考察されており、HEK293細胞(例えば、HEK293T細胞)またはその派生物が含まれる。
【0084】
本明細書に記載される方法は、あらゆる好適なウイルスベクターの産生に使用し得る。適切なウイルスベクターについては、定義のセクションでより詳細に記載されており、ここに同様に適用される。本明細書に記載される方法によって産生され得るウイルスベクターの例には、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクターおよびワクシニアウイルスベクターからなる群から選択されるウイルスベクターが含まれる。これらの各ベクターの詳細は別の箇所に提示されており、ここに同様に適用される。
【0085】
本明細書に記載される方法は、レトロウイルスベクター、特にレンチウイルスベクターの産生に特に好適である。例えば、本明細書に記載される方法は、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVおよびビスナレンチウイルスベクターからなる群から選択されるレンチウイルスベクターの産生に使用し得る。一例では、本明細書に記載される方法は、HIV(例えば、HIV-1、HIV-2)またはEIAVレンチウイルスベクターから選択されるレンチウイルスベクターの産生に使用し得る。
【0086】
これらのレンチウイルスベクターのそれぞれについては、本明細書中の別の箇所でより詳細に記載される。
【0087】
本明細書中に提供される方法は、自己不活性化(SIN)ウイルスベクター(例えば、SINレンチウイルスベクター)を産生する際に特に有用である。SINベクターの特性は、本明細書中の別の箇所でより詳細に記載されている。特定の一例では、SINベクターは、第3世代SINウイルスベクター(例えば、第3世代レンチウイルスベクター)であり得る。
【0088】
典型的には、本明細書に記載される方法によって産生されるウイルスベクターは、目的のヌクレオチド(NOI)を含む。NOIは任意の好適なNOIであり得る。好適なNOIの例は、本明細書中の別の箇所に提示されている。
【0089】
典型的には、一部の例では、ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列は、gag-pol、env、適宜rev、およびウイルスベクターのゲノムを含むベクター構成要素をコードする。さらなる詳細は、本明細書中の他の箇所に提示されている。
【0090】
本発明者らは、PKCアクチベーター(例えば、プロストラチン)の添加により、使用するプロモーターにかかわらず(すなわち、効果がプロモーター特異的ではない)、ウイルスベクタータイターが増加する(および細胞生存率が維持される)ことを示した。本発明者らは、本明細書で観察される効果が使用されるプロモーターとは無関係であることを実証するために、いくつかの異なるプロモーターを試験した。一例として、本発明者らは、本発明の方法が、CMV(サイトメガロウイルス)、CHEF-1(CHO由来伸長因子1)、RSV(ラウス肉腫ウイルス)およびGRP78(免疫グロブリン重鎖結合タンパク質)プロモーター(それぞれGFPゲノム、Gag/Pol、RevおよびVSVGプラスミドの発現をそれぞれ駆動するため)の使用に適合することを示した。加えて、本発明者らは、GFPプラスミドの発現をプロストラチンにより誘導する際に、以下のプロモーターを使用し得ることを実証した:サイトメガロウイルスプロモーター-CMV、ラウス肉腫ウイルスU3プロモーター-RSV、CAG合成プロモーター(CMVエンハンサー、ニワトリβアクチン遺伝子のプロモーター-エキソン/イントロン、ウサギβグロビン遺伝子のスプライスアクセプター)、チャイニーズハムスターEF-1α-1プロモーター-CHEF1、GRP78/BiP(ストレス誘導性)プロモーター-GRP78、ユビキチン-Cプロモーター-UBC、HIV-1 U3プロモーター-HIV-1 U3、およびヒトフェリチン重鎖プロモーター-FERHの各プロモーター(図18参照)。これらのプロモーターを使用して、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクターおよびワクシニアウイルスベクターからなる群から選択されるウイルスベクターを含む、いくつかの異なる種類のウイルスベクターのウイルスベクター産生を駆動することができる。例えば、CMV、RSV、CAGなどの強力なプロモーターを、AAVカプシドタンパク質を含む構造的ウイルスベクター構成要素などのウイルスベクター構成要素の発現を駆動するために選択することができる。本明細書に記載されるPKCアクチベーターは、これらのプロモーターの1つまたは複数を使用する場合に、ウイルスベクター産生を増加させるために有利に使用することができる。したがって、本発明は、ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列を含む細胞からのウイルスベクター産生中にウイルスベクタータイターを増加させるためのPKCアクチベーターの使用であって、核酸配列の少なくとも1つが、CMVプロモーター、RSVプロモーター、CAG合成プロモーター、CHEF1プロモーター、GRP78プロモーター、UBCプロモーター、HIV-1 U3プロモーター、およびFERHプロモーターからなる群から選択されるプロモーターに作動可能に連結されている使用を提供する。プロモーターは、CMVプロモーター、RSVプロモーター、およびCAG合成プロモーターからなる群から選択されてもよい。このことは、強力なプロモーターの使用が望ましい場合に、構造的ウイルスベクター構成要素(AAVカプシドタンパク質など)をコードする核酸配列について特に該当する。ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)、アデノウイルスベクター、またはアデノ随伴ウイルスベクターであってもよい。
【0091】
したがって、本発明は、ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列を含む細胞からのウイルスベクター産生中にウイルスベクタータイターを増加させるためのPKCアクチベーターの使用であって、核酸配列の少なくとも1つが、CMVプロモーター、RSVプロモーター、CAG合成プロモーター、CHEF1プロモーター、GRP78プロモーター、UBCプロモーター、HIV-1 U3プロモーター、およびFERHプロモーターからなる群から選択されるプロモーターに作動可能に連結されており、ウイルスベクターが、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクターおよびワクシニアウイルスベクターからなる群から選択される、使用を提供する。プロモーターは、プロモーターは、CMVプロモーター、RSVプロモーター、およびCAG合成プロモーターからなる群から選択されてもよい。ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)、アデノウイルスベクター、またはアデノ随伴ウイルスベクターであってもよい。
【0092】
本発明者らは、ウイルスベクター産生中に細胞培養培地にPKCアクチベーターが存在すると、ウイルスベクタータイターが増加することを突き止めた。したがって、本明細書に記載される方法に使用される細胞培養培地は、PKCアクチベーターを含むことを条件として、任意の好適な細胞培養培地であり得る。好適な細胞培養培地および細胞培養法については、本明細書中の他の箇所でより詳細に記載されており、ここに同様に適用される。
【0093】
特定の一例では、細胞培養培地は無血清であり得る。本明細書で使用される場合、「無血清条件」は、培養培地から血清が除外されており、その結果、例えば、培養培地が血清を含まない(すなわち、本質的に含まないか、または添加されていない)条件である。
【0094】
本明細書で使用される場合、「プロテインキナーゼCアクチベーター」または「PKCアクチベーター」は、PKCによって触媒される反応の速度を増加させる物質を指す。いくつかのPKCアクチベーター、およびPKCアクチベーターを同定する方法が、当技術分野で周知である。PKCアクチベーターを同定する好適な方法の例は、Chakravarthy et al., Analytical Biochemistry, Vol 196, Issue 1, 1991, pp 144-150)に提示されている。PKCアクチベーターは、本明細書ではPKCアゴニストとも称される。
【0095】
プロテインキナーゼC(PKC)は、プロテインキナーゼの最大の遺伝子ファミリーの1つである。セリン-トレオニンキナーゼのプロテインキナーゼC(PKC)ファミリーは、種々の生物現象において重要な調節の役割を果たしている。PKCファミリーは、3つの異なるカテゴリーに属する少なくとも12種の個別のアイソフォームで構成される:(i)ホスホリパーゼCによって細胞内に遊離されるCa2+、ホルボールエステルおよびジアシルグリセロールによって活性化される通常のアイソフォーム25(α、β1、β2、γ);(ii)ホルボールエステルおよびジアシルグリセロールによって同じく活性化されるが、Ca2+によっては活性化されない新規アイソフォーム(δ、η、ε、θ);ならびに(iii)Ca2+、ホルボールエステルまたはジアシルグリセロールによって活性化されない、このファミリーの非定型(ζ、λ、ι)メンバー。プロテインキナーゼCの実体は、アデノシン三リン酸およびリン脂質補因子が存在する場合にタンパク質をリン酸化する能力によって一般に確立され、これらの補因子が存在しない場合には活性が大幅に低下する。さらに、プロテインキナーゼCの一部の形態は、最大活性のためにカルシウムイオンの存在を必要とする。プロテインキナーゼC活性は、酵素上の認識部位に特異的かつ化学量論的に結合するある特定の1,2-sn-ジアシルグリセロールによっても大きく刺激される。活性化されると、すべてではないがほとんどのアイソフォームが細胞質から原形質膜に移行すると考えられている。PKCは多種多様な生物過程において重要であるため、多くの研究によってその構造および機能が特徴付けられている。
【0096】
PKCアクチベーターは、非特異的なアクチベーターまたは特異的なアクチベーターであり得る。特異的なアクチベーターは、1つのPKCアイソフォーム、例えば、PKC-ε(イプシロン)を、別のPKCアイソフォームよりも検出可能な程度で大きく活性化する。例示的なPKCアクチベーターは、WO2017/062924 A1に、特に段落[039]、[040]、[053]、[058]~[0112]に開示されており、その内容はすべて参照により本明細書に組み込まれる。その内容がすべて参照により本明細書に組み込まれる、Wu-Zhang and Newton, Biochem. J. (2013) 452, 195-209も、例示的なPKCアクチベーターを開示している。
【0097】
PKCアクチベーターは、プロストラチン、ホルボール12-ミリステート13-アセテート、大環状ラクトン、ブリオログ(bryolog)、ジアシルグリセロール、イソプレノイド、オクチルインドラクタム、グニジマクリン、インゲノール、イリパリダル、ナフタレンスルホンアミド、ジアシルグリセロール阻害剤、増殖因子、ポリ不飽和脂肪酸、モノ不飽和脂肪酸、シクロプロパン化ポリ不飽和脂肪酸、シクロプロパン化モノ不飽和脂肪酸、脂肪酸アルコールおよび誘導体、ならびに脂肪酸エステル、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは誘導体から選択され得る。
【0098】
PKCアクチベーターは、プロストラチンもしくはホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)、またはそれらの類似体、誘導体もしくは薬学的に許容される塩であり得る。PKCアクチベーターは、例えば、14員、15員または16員のラクトン環を含む大環状ラクトンであり得る。大環状ラクトンは、ブリオスタチン(例えば、ブリオスタチン-1、ブリオスタチン-2、ブリオスタチン-3、ブリオスタチン-4、ブリオスタチン-5、ブリオスタチン-6、ブリオスタチン-7、ブリオスタチン-8、ブリオスタチン-9、ブリオスタチン-10、ブリオスタチン-11、ブリオスタチン-12、ブリオスタチン-13、ブリオスタチン-14、ブリオスタチン-15、ブリオスタチン-16、ブリオスタチン-17、および/またはブリオスタチン-18);ネリスタチン(例えば、ネリスタチン-1);シクロプロパン化ポリ不飽和脂肪酸の大環状誘導体(例えば、24-オクタヘプタシクロノナコサン-25-オン);ブリオログ(ブリオスタチンの類似体)であり得る。PKCアクチベーターは、PKCに結合してそれを活性化するジアシルグリセロール(またはその誘導体)であり得る。PKCアクチベーターは、イソプレノイド、例えば、ファルネシルチオトリアゾールであり得る。PKCアクチベーターは、オクチルインドラクタムV、グニジマクリン、インゲノール、またはイリパリダルであり得る。PKCは、ナフタレンスルホンアミド、例えば、N-(n-ヘプチル)-5-クロロ-1-ナフタレンスルホンアミド、またはN-(6-フェニルヘキシル)-5-クロロ-1-ナフタレンスルホンアミドであり得る。PKCアクチベーターは、PKCを間接的に活性化するジアシルグリセロールキナーゼ阻害剤[例えば、6-(2-(4-[R4-フルオロフェニル)フェニルメチレン]-1-ピペリジニル)エチル)-7-メチル-5H-チアゾロ[3,2-a]ピリミジン-5-オン(R59022)、または[3-[2-[4-(ビス-(4-フルオロフェニル)メチレン]ピペリジン-1-イル)エチル]-2,3-ジヒドロ-2-チオキソ-4(1)-キナゾリノン(R59949)]であり得る。PKCアクチベーターは、増殖因子[例えば、線維芽細胞増殖因子18(FGF-18)、インスリン増殖因子、4-メチルカテコール酢酸、NGF、またはBDNF]であり得る。PKCアクチベーターは、ポリ不飽和脂肪酸、モノ不飽和脂肪酸、シクロプロパン化ポリ不飽和脂肪酸、シクロプロパン化モノ不飽和脂肪酸、脂肪酸アルコール、シクロプロパン化ポリ不飽和脂肪酸アルコール、シクロプロパン化モノ不飽和脂肪酸アルコール、脂肪酸エステル、シクロプロパン化ポリ不飽和脂肪酸エステル、またはシクロプロパン化モノ不飽和脂肪酸エステルであり得る。
【0099】
プロストラチンは、12-デオキシホルボール-13-アセテート(≧98% HPLC、Sigma:P0077)としても知られる。プロストラチンは当初、「黄熱病」、すなわち肝炎の治療のための伝統的なサモアの生薬に使用されていた熱帯植物ホマランツス・ヌタンス(Homalanthus nutans)の抽出物の有効成分として、米国国立がん研究所(NCL)で単離された[Gustafson et al., 1992, J Med Chem 35(11): 1978-86]。他のホルボールエステルとは対照的に、プロストラチンは強力な抗腫瘍剤である。プロストラチンおよびその構造類似体は、天然の供給源から精製することもでき、または合成して作ることもできる。プロストラチンおよび構造類似体を合成的に生成する方法は、当技術分野で公知である[Wender et al., 2008, Science 320(5876): 649-52]。
【0100】
ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)は、12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテート(TPA)としても知られる。ホルボール12-ミリステート13-アセテートは強力な腫瘍プロモーターであり、インビボおよびインビトロ(in vitro)でプロテインキナーゼCを活性化する。これはホルボールエステルの1つであり、遺伝子転写、細胞の分裂および分化、アポトーシス、ならびに免疫応答を含む多くの細胞反応に関連している。
【0101】
PKCアクチベーターは、細胞培養培地中に任意の好適な濃度で存在し得る。当業者は慣行的な実験を使用して、好適な濃度の範囲を容易に同定することができる。例えば、実施例のセクションにおけるものに類似した方法を使用して、ウイルスのタイターを増加させるPKCアクチベーターの濃度を同定することができる。ウイルスタイターを測定するためのいくつかの方法が当技術分野で公知である。さらなる詳細は、本明細書中の他の箇所に提示されている。
【0102】
細胞を、任意の適した細胞培養容量を使用して、任意の適した細胞培養容器内で、PKCアクチベーターの存在下で培養することができる。細胞培養チューブ、細胞培養フラスコ、細胞培養皿および細胞培養プレートは、本明細書に記載される方法において使用され得る個別的な細胞培養製品(または消耗品)の例であるため、本明細書では細胞培養容器と称する。細胞培養チューブ、細胞培養フラスコ、細胞培養皿は典型的には、単一の細胞培養反応チャンバーを有する細胞培養容器であるのに対して、細胞培養プレートは典型的には、複数の細胞培養反応チャンバー(すなわち、複数のウェル)を有する細胞培養容器である。他の適切な細胞培養容器も当技術分野で周知である。
【0103】
細胞を、PKCアクチベーターの存在下で、適切な期間にわたり培養することができる。典型的には、細胞を、PKCアクチベーターの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養することができる。換言すれば、細胞を、PKCアクチベーターの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などにわたり培養することができる。細胞を、PKCアクチベーターの存在下で、約30分間から約5日間までの持続期間にわたり培養することができる。例えば、細胞を、PKCアクチベーターの存在下で、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間の最大持続期間にわたり培養することができる。
【0104】
当業者には明らかであろうが、典型的には、細胞を少なくとも2日間の持続期間にわたり培養する場合、細胞を新鮮な培地中に継代することが有益である。本明細書で使用される場合、「継代」は、1つの「親」細胞培養アリコートから増殖した細胞を収集し、それらを再播種して新しい「娘」細胞培養アリコートを生じさせる工程を指す。したがって、継代は、細胞浮遊液および/または上清の一部分を1つのアリコートから別のアリコートに移行させることを指す。
【0105】
接着細胞を継代する場合には、細胞を典型的には、接着したままPBSで洗浄し、アリコートから剥離させた後に、培地中に再懸濁させる。再懸濁された細胞の一部分を新しいアリコートに移す。非接着細胞を継代する場合には、細胞は浮遊状態にあるため、アリコートの一部分を新しいアリコートに直接移行させることができる。
【0106】
細胞培養の継代数は、細胞を収集して再播種した回数を指す。継代の間に、ある容量の親細胞培養物アリコートを収集して、新しい娘アリコート中に再播種する(典型的には、新鮮な細胞培養培地中に)。細胞をPKCアクチベーターの存在下で継代を含む持続期間にわたり培養する例では、継代のために使用される新鮮な培地も目的のPKCアクチベーターを含むことが明らかである。換言すれば、PKCアクチベーターを含む細胞培養培地を、細胞培養中に新たにすること(細胞から部分的または完全に取り出して、PKCアクチベーターを含む新鮮な培養培地と置き換えること)ができる。
【0107】
非限定的な一例では、細胞培養培地中に存在するPKCアクチベーターは、プロストラチン、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩である。「プロストラチン」という用語は、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩を範囲に含むように、本明細書では一般に広義に使用される。したがって、本明細書の全体を通して、「プロストラチン」という用語は、「プロストラチン、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩」という語句と互換的である。
【0108】
プロストラチンは、細胞培養培地中に好適な濃度で存在し得る。例えば、プロストラチンは、細胞培養培地中に少なくとも約0.1μMの濃度で存在し得る。一例では、プロストラチンは、細胞培養培地中に少なくとも約0.5μMの濃度で存在し得る。換言すれば、プロストラチンは、細胞培養培地中に少なくとも約1μM、少なくとも約2μM、少なくとも約4μM、少なくとも約8μM、少なくとも約10μM、少なくとも約15μM、少なくとも約16μM、少なくとも約20μM、少なくとも約25μM、少なくとも約30μMなどの濃度で存在し得る。
【0109】
例えば、プロストラチンは、細胞培養培地中に約0.1μMから50μMの濃度で存在し得る。換言すれば、プロストラチンは、細胞培養培地中に約0.5μMから約32μM、約1μMから約32μM、約2μMから約32μM、約4μMから約32μM、約5μMから約32μM、約8μMから約32μM、約10μMから約32μM、約15μMから約32μM、約16μMから約32μM、約20μMから約32μM、約25μMから約32μMなどで存在し得る。
【0110】
細胞は、プロストラチンの存在下で、適切な持続期間にわたり培養され得る。典型的には、細胞は、プロストラチンの存在下で、少なくとも30分間の期間にわたり培養される。換言すれば、細胞は、プロストラチンの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの期間にわたり培養され得る。細胞は、プロストラチンの存在下で約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0111】
例えば、細胞は、少なくとも0.1μMのプロストラチンの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも0.1μMのプロストラチンの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも0.1μMのプロストラチンの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0112】
例えば、細胞は、少なくとも0.5μMのプロストラチンの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも0.5μMのプロストラチンの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも0.5μMのプロストラチンの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0113】
例えば、細胞は、少なくとも1μMのプロストラチンの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも1μMのプロストラチンの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも1μMのプロストラチンの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0114】
例えば、細胞は、少なくとも2μMのプロストラチンの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。すなわち、少なくとも2μMのプロストラチンの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも2μMのプロストラチンの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0115】
例えば、細胞は、少なくとも4μMのプロストラチンの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも4μMのプロストラチンの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも4μMのプロストラチンの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0116】
例えば、細胞は、少なくとも8μMのプロストラチンの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも8μMのプロストラチンの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも8μMのプロストラチンの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0117】
例えば、細胞は、少なくとも16μMのプロストラチンの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも16μMのプロストラチンの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも16μMのプロストラチンの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0118】
別の非限定的な例では、細胞培養培地中に存在するPKCアクチベーターは、ホルボール12-ミリステート13-アセテート、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩である。「ホルボール12-ミリステート13-アセテート」という用語は、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩を範囲に含むように、本明細書では一般に広義に使用される。したがって、本明細書の全体を通して、「ホルボール12-ミリステート13-アセテート、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩」という用語は、「ホルボール12-ミリステート13-アセテート」という語句と互換的である。
【0119】
ホルボール12-ミリステート13-アセテートは、細胞培養培地中に好適な濃度で存在し得る。例えば、ホルボール12-ミリステート13-アセテートは、細胞培養培地中に少なくとも約0.1nMの濃度で存在し得る。一例では、ホルボール12-ミリステート13-アセテートは、細胞培養培地中に少なくとも約0.5nMの濃度で存在し得る。換言すれば、ホルボール12-ミリステート13-アセテートは、細胞培養培地中に少なくとも約1nM、少なくとも約2nM、少なくとも約4nM、少なくとも約8nM、少なくとも約10nM、少なくとも約15nM、少なくとも約16nM、少なくとも約20nM、少なくとも約25nM、少なくとも約30nMなどの濃度で存在し得る。
【0120】
例えば、ホルボール12-ミリステート13-アセテートは、細胞培養培地中に約0.1nMから50nMの濃度で存在し得る。換言すると、ホルボール12-ミリステート13-アセテートは、細胞培養培地中に約0.5nMから約32nM、約1nMから約32nM、約2nMから約32nM、約4nMから約32nM、約5nMから約32nM、約8nMから約32nM、約10nMから約32nM、約15nMから約32nM、約16nMから約32nM、約20nMから約32nM、約25nMから約32nMなどの濃度で存在し得る。
【0121】
細胞は、ホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、適切な持続期間にわたり培養され得る。典型的には、細胞は、ホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養される。換言すれば、細胞は、ホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、ホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0122】
例えば、細胞は、少なくとも0.1nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも0.1nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも0.1nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0123】
例えば、細胞は、少なくとも0.5nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも0.5nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも0.5nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0124】
例えば、細胞は、少なくとも1nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも1nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも1nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0125】
例えば、細胞は、少なくとも2nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも2nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも2nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0126】
例えば、細胞は、少なくとも4nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも4nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも4nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0127】
例えば、細胞は、少なくとも8nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも8nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも8nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0128】
例えば、細胞は、少なくとも16nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも16nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも16nMのホルボール12-ミリステート13-アセテートの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0129】
PKCアクチベーターは、任意の適切な手段を介して細胞培養培地中に含めることができる。例えば、PKCアクチベーターを、補給剤として細胞培養培地に添加することができる。この例では、PKCアクチベーターは、細胞培養培地を細胞に添加する前または後に、細胞培養培地に添加することができる。また、PKCアクチベーターを、当技術分野で公知の他の手段を通じて細胞培養物に含めることもできる。
【0130】
ウイルスベクター産生中に細胞培養培地中にPKCアクチベーターが存在することにより、ウイルスベクタータイターが増加することが示されている。この文脈において、「ウイルスベクタータイターの増加」は、ウイルスベクター産生中の「ウイルスベクタータイターを誘導すること」または「ウイルスベクタータイターを増強すること」を含み得る。当業者には明らかであろうが、この文脈において、ウイルスベクタータイターを「増加させること」は、PKCアクチベーターの非存在下でのウイルスベクター産生に比してのウイルスベクタータイターの増加を指す。したがって、PKCアクチベーターの存在下におけるウイルスベクターの産生は、PKCアクチベーターの非存在下でのウイルスベクターの産生と比較して、ウイルスベクタータイターを増加させる。ウイルスベクタータイターの測定のために好適なアッセイは、本明細書に記載される通りである(例えば、レンチウイルスについて)。一部の実施形態では、ウイルスベクタータイター(例えば、レンチウイルスベクタータイター)の増加は、機能的な5’LTRポリA部位の存在下または非存在下で起こる。一部の実施形態では、PKCアクチベーターによって媒介されるウイルスベクタータイター(例えば、レンチウイルスベクタータイター)の増加は、ベクターゲノムの5’LTRにおけるポリA部位の抑制とは無関係である。
【0131】
一部の例では、PKCアクチベーターの存在は、ウイルスベクター産生中のウイルスベクタータイターを、PKCアクチベーターの非存在下でのウイルスベクター産生に比して少なくとも30%増加させ得る。好適には、PKCアクチベーターは、ウイルスベクター産生中のウイルスベクタータイターを、PKCアクチベーターの非存在下でのウイルスベクター産生に比して少なくとも35%(好適には少なくとも40%、45%、50%、60%、70%、100%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%、650%、700%、750%、800%、850%、900%、950%、1000%)増加させ得る。
【0132】
本明細書に記載される方法は、ウイルスベクター産生がPKCアクチベーターおよびHDAC阻害剤の存在下で行われる場合に特に有利である。したがって、ウイルスベクターを産生するための方法であって、ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列を含む細胞を、PKCアクチベーターおよびHDAC阻害剤を含む細胞培養培地中で培養することを含む方法が提供される。
【0133】
細胞をHDAC阻害剤(一般的に酪酸ナトリウム)の存在下で培養する、他の転写促進剤の非存在下でウイルスベクター産生を誘導するための方法が知られている。本発明者らは現在では、細胞をHDAC阻害剤とPKCアクチベーターという特定の組み合わせに曝露させることにより、ウイルスベクター産生中にウイルスベクタータイターが予想外にさらに増加(増強)することを見出している。
【0134】
本明細書に記載されるPKCアクチベーターとHDAC阻害剤の組み合わせは、任意の好適なウイルスベクターの産生のために有用であり得る。本方法によって産生され得るウイルスベクターの例は、本明細書中の他の箇所に記載されており、これにはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクターおよびワクシニアウイルスベクターからなる群から選択されるウイルスベクターが含まれる。これらの各ベクターの詳細は他の箇所に提示されており、ここに同様に適用される。
【0135】
PKCアクチベーターとHDAC阻害剤の組み合わせを使用する方法は、レトロウイルスベクターの産生、特にレンチウイルスベクター産生のために特に好適である。例えば、本明細書に記載される方法を、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVおよびビスナレンチウイルスベクターからなる群から選択されるレンチウイルスベクターの産生に使用することができる。一例では、本明細書に記載される方法を、HIV(例えば、HIV-1、HIV-2)またはEIAVレンチウイルスベクターから選択されるレンチウイルスベクターの産生のために使用することができる。
【0136】
PKCアクチベーターとHDAC阻害剤の組み合わせを使用する、本明細書に提供される方法は、自己不活性化(SIN)ウイルスベクター(例えば、SINレンチウイルスベクター)を産生する際に特に有用である。SINベクターの特性は、本明細書中の別の箇所でより詳細に記載されている。特定の一例では、SINベクターは第3世代SINウイルスベクター(例えば、第3世代レンチウイルスベクター)であり得る。
【0137】
一例では、細胞培養培地はPKCアクチベーターおよびHDAC阻害剤を含む。
【0138】
核DNAの周りにはヒストンが巻き付いている。アセチル化によるヒストンの修飾は、遺伝子発現のエピジェネティック制御に重要な役割を果たしており、これは、これらのヒストンバレルのリジン尾部からアセチル基をそれぞれ付加または除去するヒストンアセチラーゼ(HAT)とヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の活性のバランスによって制御されている。アセチル基は、正のリジン残基がDNAリン酸骨格と密接に相互作用するのを遮蔽して、より「開いた」クロマチン状態をもたらす。HDACはこれらのアセチル基を除去して、より「閉じた」または圧縮されたDNA-ヒストン状態をもたらす。
【0139】
ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)は、コアヒストンのリジン残基からアセチル基を除去する酵素であり、その結果、凝縮して転写的にサイレンシングされたクロマチンの形成を招く。現在18種類のヒストンデアセチラーゼが知られており、これは4つのグループに分類される。クラスI HDACは、HDACI、HDAC2、HDAC3およびHDAC8を含み、酵母RPD3遺伝子に関連している。クラスII HDACは、HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7、HDAC9、およびHDAC10を含み、酵母Hdal遺伝子に関連している。クラスIII HDACはサーチュインとしても知られ、Sir2遺伝子に関連し、SIRT1-7を含む。クラスIV HDACはHDAC11のみを含み、クラスIおよびIIの両方のHDACの特徴を有する。
【0140】
本明細書で使用される「HDAC」という用語は、1つまたは複数のヒストンデアセチラーゼを指す。
【0141】
本明細書で使用される「HDAC阻害剤」という用語は、HDACによって触媒される反応の速度を低下させる物質を指す。例示的なHDAC阻害剤は、Xu et al, Oncogene (2007), 26, 5541-5552、特にp.5543の表2に開示されており、その内容はすべて参照により本明細書に組み込まれる。「ヒストンデアセチラーゼ阻害剤」、「HDAC阻害剤」および「HDACi」という用語は、本明細書で互換的に使用される。本明細書に記載されるHDAC阻害剤は、特定の種類のヒストンデアセチラーゼ酵素に対して選択的または非選択的であり得る。
【0142】
いくつかのHDAC阻害剤が当技術分野で公知である。HDAC阻害剤は、ヒドロキサメート、環状ペプチド、ベンズアミド、もしくは脂肪酸、またはその薬学的に許容される塩もしくは誘導体から選択され得る。これらの各クラスに該当するHDAC阻害剤の例は、Kim HJ, Bae SCの図1に示されている。Histone deacetylase inhibitors: molecular mechanisms of action and clinical trials as anti-cancer drugs. Am J Transl Res. 2011;3(2):166-179、これはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。HDAC阻害剤は、脂肪酸、例えば、酪酸、バルプロ酸、吉草酸、もしくはフェニル酪酸、またはそれらの薬学的に許容される塩であり得る。HDAC阻害剤は、ヒドロキサメート、例えば、スベルアニロヒドロキサム酸、パノビノスタット、ベリノスタット、ギビノスタット、もしくはアベキシノスタット、またはそれらの薬学的に許容される塩であり得る。HDAC阻害剤は、環状ペプチド、例えば、ロミデプシン、またはその薬学的に許容される塩であり得る。HDAC阻害剤は、ベンズアミド、例えば、ピリジン-3-イルメチルN-[[4-[(2-アミノフェニル)カルバモイル]フェニル]メチル]カルバメート、もしくはN-(2-アミノフェニル)-4-[[(4-ピリジン-3-イルピリミジン-2-イル)アミノ]メチル]ベンズアミド、またはそれらの薬学的に許容される塩であり得る。HDAC阻害剤は、酪酸、バルプロ酸、吉草酸、フェニル酪酸、もしくはスベルアニロヒドロキサム酸、またはそれらの薬学的に許容される塩であり得る。HDAC阻害剤を同定する方法は当技術分野で周知である。HDAC阻害剤を同定するための適切な方法の例は、Wei et al., PLoS Pathog. 2014 Apr 10;10(4):e1004071 and Zaikos et al., J Virol. 2018 Mar 15; 92(6): e02110-17によって提示されている。
【0143】
一例では、HDAC阻害剤は、脂肪族HDAC阻害剤またはヒドロキサム酸HDAC阻害剤から選択され得る。好適な脂肪族HDAC阻害剤には、酪酸ナトリウム、バルプロ酸ナトリウムまたは吉草酸、それらの類似体、誘導体または薬学的に許容される塩が含まれるが、これらに限定されない。特に好適な脂肪族HDAC阻害剤は、酪酸ナトリウム、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩である。
【0144】
酪酸ナトリウムは、酪酸のナトリウム塩である。バルプロ酸ナトリウムは、バルプロ酸のナトリウム塩である。吉草酸は、ペンタン酸としても知られる。
【0145】
「酪酸ナトリウム」という用語は、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩を範囲に含むように、本明細書では一般に広義に使用される。したがって、本明細書の全体を通して、「酪酸ナトリウム」という用語は、「酪酸ナトリウム、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩」という語句と互換的である。
【0146】
「バルプロ酸ナトリウム」という用語は、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩を範囲に含むように、本明細書では一般に広義に使用される。したがって、本明細書の全体を通して、「バルプロ酸ナトリウム」という用語は、「バルプロ酸ナトリウム、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩」という語句と互換的である。
【0147】
「吉草酸」という用語は、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩を範囲に含むように、本明細書では一般に広義に使用される。したがって、本明細書の全体を通して、「吉草酸」という用語は、「吉草酸、その類縁体、誘導体または薬学的に許容される塩」という語句と互換的である。
【0148】
好適なヒドロキサム酸HDAC阻害剤には、スベルアニロヒドロキサム酸、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩が含まれるが、これらに限定されない。
【0149】
「スベルアニロヒドロキサム酸」という用語は、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩を範囲に含むように、本明細書では一般に広義に使用される。したがって、本明細書の全体を通して、「スベルアニロヒドロキサム酸」という用語は、「スベルアニロヒドロキサム酸、その類似体、誘導体または薬学的に許容される塩」という語句と互換的である。
【0150】
特定の一例では、ウイルスベクターを産生するための方法であって、ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列を含む細胞を、PKCアクチベーター(好ましくはプロストラチン)およびHDAC阻害剤(好ましくは酪酸ナトリウム)を含む細胞培養培地中で培養することを含む方法が提供される。PKCアクチベーターの好適な濃度は上記に提示した通りである。HDAC阻害剤の濃度については以下に提示する。
【0151】
HDAC阻害剤は、細胞培養培地中に任意の好適な濃度で存在し得る。当業者は、慣行的な実験を使用して、好適な濃度の範囲を容易に同定することができる。例えば、実施例のセクションにおけるものに類似した方法を使用して、ウイルスのタイターを増加させるHDAC阻害剤の濃度を同定することができる。ウイルスタイターを測定するためのいくつかの方法が当技術分野で公知である。さらなる詳細は、本明細書中の他の箇所に提示されている。
【0152】
細胞は、HDAC阻害剤の存在下で、適切な持続期間にわたり培養され得る。典型的には、PKCアクチベーターおよびHDAC阻害剤は、培養時間の少なくとも一部にわたり、培養培地中に同時に存在する。PKCアクチベーターおよびHDAC阻害剤は、細胞に同時または逐次的に添加され得る。例えば、HDAC阻害剤を細胞に添加し、PKCアクチベーターをHDAC阻害剤と同時に、またはHDAC阻害剤の後のある時点で細胞に添加することができる。PKCアクチベーターは、例えば、HDAC阻害剤の0時間から10時間後に細胞に添加され得る。
【0153】
典型的には、細胞は、HDAC阻害剤の存在下で、組み合わせて使用されるPKCアクチベーターの場合と同程度の持続期間にわたり培養される。例えば、細胞は、HDAC阻害剤の存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、HDAC阻害剤の存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、HDAC阻害剤の存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0154】
当業者には明らかであろうが、典型的には、細胞を少なくとも2日間の持続期間にわたり培養する場合、細胞を新鮮な培地中に継代することが有益である。細胞をHDAC阻害剤の存在下で継代を含む持続期間にわたり培養する例では、継代のために使用される新鮮な培地も目的のHDAC阻害剤を含むことが明らかである。換言すれば、HDAC阻害剤を含む細胞培養培地を、培養中に新たにすること(細胞から部分的または完全に取り出して、HDAC阻害剤を含む新鮮な培養培地と置き換えること)ができる。
【0155】
例えば、細胞培養培地中に存在するHDAC阻害剤は、酪酸ナトリウムであり得る。酪酸ナトリウムは、細胞培養培地中に任意の好適な濃度で存在し得る。例えば、酪酸ナトリウムは、細胞培養培地中に少なくとも約1mMの濃度で存在し得る。一例では、酪酸ナトリウムは、細胞培養培地中に少なくとも約2mMの濃度で存在し得る。換言すれば、酪酸ナトリウムは、細胞培養培地中に少なくとも約2.5mM、少なくとも約3mM、少なくとも約4mM、少なくとも約5mM、少なくとも約10mM、少なくとも約15mM、少なくとも約20mM、少なくとも約25mMなどの濃度で存在し得る。
【0156】
例えば、酪酸ナトリウムは、細胞培養培地中に約1mMから50mMの濃度で存在し得る。換言すれば、酪酸ナトリウムは、細胞培養培地中に約2mMから約30mM、約2.5mMから約30mM、約3mMから約30mM、約4mMから約30mM、約5mMから約30mM、約8mMから約30mM、約10mMから約30mM、約15mMから約30mM、約20mMから約30mM、約25mMから約30mMなどの濃度で存在し得る。
【0157】
細胞は、酪酸ナトリウムの存在下で、適切な持続期間にわたり培養され得る。典型的には、細胞は、酪酸ナトリウムの存在下で、組み合わせて使用されるPKCアクチベーターの場合と同程度の持続期間にわたり培養される。一例では、細胞は、酪酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間培養される。換言すれば、細胞は、酪酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、酪酸ナトリウムの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0158】
例えば、細胞は、少なくとも1mMの酪酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも1mMの酪酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも1mMの酪酸ナトリウムの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0159】
細胞は、例えば、少なくとも2mMの酪酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも2mMの酪酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも2mMの酪酸ナトリウムの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0160】
例えば、細胞は、少なくとも2.5mMの酪酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも2.5mMの酪酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも2.5mMの酪酸ナトリウムの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0161】
例えば、細胞は、少なくとも4mMの酪酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも4mMの酪酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも4mMの酪酸ナトリウムの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0162】
例えば、細胞は、少なくとも5mMの酪酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも5mMの酪酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも5mMの酪酸ナトリウムの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0163】
例えば、細胞は、少なくとも8mMの酪酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも8mMの酪酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも8mMの酪酸ナトリウムの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0164】
酪酸ナトリウムについての上記の濃度および持続期間を、例えば、プロストラチンについて提示された濃度および持続期間と適切に組み合わせることができる。
【0165】
代替的に、酪酸ナトリウムについての上記の濃度および持続期間を、例えば、ホルボール12-ミリステート13-アセテートについて提示された濃度および持続期間と適切に組み合わせることもできる。
【0166】
別の例として、細胞培養培地中に存在するHDAC阻害剤は、バルプロ酸ナトリウムであり得る。バルプロ酸ナトリウムは、細胞培養培地中に任意の好適な濃度で存在し得る。例えば、バルプロ酸ナトリウムは、細胞培養培地中に少なくとも約1mMの濃度で存在し得る。一例では、バルプロ酸ナトリウムは、細胞培養培地中に少なくとも約2mMの濃度で存在し得る。換言すれば、バルプロ酸ナトリウムは、細胞培養培地中に少なくとも約2.5mM、少なくとも約3mM、少なくとも約4mM、少なくとも約5mM、少なくとも約10mM、少なくとも約15mM、少なくとも約20mM、少なくとも約25mMなどの濃度で存在し得る。
【0167】
例えば、バルプロ酸ナトリウムは、細胞培養培地中に約1mMから50mMの濃度で存在し得る。換言すれば、バルプロ酸ナトリウムは、細胞培養培地中に約2mMから約30mM、約2.5mMから約30mM、約3mMから約30mM、約4mMから約30mM、約5mMから約30mM、約8mMから約30mM、約10mMから約30mM、約15mMから約30mM、約20mMから約30mM、約25mMから約30mMなどの濃度で存在し得る。
【0168】
細胞は、バルプロ酸ナトリウムの存在下で、適切な持続期間にわたり培養され得る。典型的には、細胞は、バルプロ酸ナトリウムの存在下で、組み合わせて使用されるPKCアクチベーターの場合と同程度の持続期間にわたり培養される。一例では、細胞は、バルプロ酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間培養される。換言すれば、細胞は、バルプロ酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、バルプロ酸ナトリウムの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0169】
例えば、細胞は、少なくとも1mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも1mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも1mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0170】
例えば、細胞は、少なくとも2mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも2mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも2mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0171】
例えば、細胞は、少なくとも2.5mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも2.5mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも2.5mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0172】
例えば、細胞は、少なくとも4mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも4mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも4mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0173】
例えば、細胞は、少なくとも5mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも5mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも5mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0174】
例えば、細胞は、少なくとも8mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも8mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも8mMのバルプロ酸ナトリウムの存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0175】
バルプロ酸ナトリウムについての上記の濃度および持続期間を、例えば、プロストラチンについて提示された濃度および持続期間と適切に組み合わせることができる。
【0176】
代替的に、バルプロ酸ナトリウムについての上記の濃度および持続期間を、例えば、ホルボール12-ミリステート13-アセテートについて提示された濃度および持続期間と適切に組み合わせることもできる。
【0177】
別の例として、細胞培養培地中に存在するHDAC阻害剤は、吉草酸であり得る。吉草酸は、細胞培養培地中に任意の好適な濃度で存在し得る。例えば、吉草酸は、細胞培養培地中に少なくとも約1mMの濃度で存在し得る。一例では、吉草酸は、細胞培養培地中に少なくとも約2mMの濃度で存在し得る。換言すれば、吉草酸は、細胞培養培地中に少なくとも約2.5mM、少なくとも約3mM、少なくとも約4mM、少なくとも約5mM、少なくとも約10mM、少なくとも約15mM、少なくとも約20mM、少なくとも約25mMなどの濃度で存在し得る。
【0178】
例えば、吉草酸は、細胞培養培地中に約1mMから50mMの濃度で存在し得る。換言すれば、吉草酸は、細胞培養培地中に約2mMから約30mM、約2.5mMから約30mM、約3mMから約30mM、約4mMから約30mM、約5mMから約30mM、約8mMから約30mM、約10mMから約30mM、約15mMから約30mM、約20mMから約30mM、約25mMから約30mMなどの濃度で存在し得る。
【0179】
細胞は、吉草酸の存在下で、適切な持続期間にわたり培養され得る。典型的には、細胞は、吉草酸の存在下で、組み合わせて使用されるPKCアクチベーターの場合と同程度の持続期間にわたり培養される。一例では、細胞は、吉草酸の存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養される。換言すれば、細胞は、吉草酸の存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、吉草酸の存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0180】
例えば、細胞は、少なくとも0.1mMの吉草酸の存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも0.1mMの吉草酸の存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも0.1mMの吉草酸の存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0181】
例えば、細胞は、少なくとも0.5mMの吉草酸の存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも0.5mMの吉草酸の存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも0.5mMの吉草酸の存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0182】
例えば、細胞は、少なくとも1mMの吉草酸の存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも1mMの吉草酸の存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも1mMの吉草酸の存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0183】
例えば、細胞は、少なくとも2mMの吉草酸の存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも2mMの吉草酸の存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも2mMの吉草酸の存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0184】
例えば、細胞は、少なくとも4mMの吉草酸の存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも4mMの吉草酸の存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも4mMの吉草酸の存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0185】
例えば、細胞は、少なくとも8mMの吉草酸の存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも8mMの吉草酸の存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも8mMの吉草酸の存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0186】
吉草酸についての上記の濃度および持続期間を、例えば、プロストラチンについて提示された濃度および持続期間と適切に組み合わせることができる。
【0187】
代替的に、吉草酸についての上記の濃度および持続期間を、例えば、ホルボール12-ミリステート13-アセテートについて提示された濃度および持続期間と適切に組み合わせることもできる。
【0188】
別の例として、細胞培養培地中に存在するHDAC阻害剤は、スベルアニロヒドロキサム酸であり得る。スベルアニロヒドロキサム酸は、細胞培養培地中に任意の好適な濃度で存在し得る。例えば、スベルアニロヒドロキサム酸は、細胞培養培地中に少なくとも約0.1μMの濃度で存在し得る。一例では、スベルアニロヒドロキサム酸は、細胞培養培地中に少なくとも約0.5μMの濃度で存在し得る。換言すれば、スベルアニロヒドロキサム酸は、細胞培養培地中に少なくとも約1μM、少なくとも約2μM、少なくとも約3μM、少なくとも約4μM、少なくとも約5μM、少なくとも約6μM、少なくとも約10μMなどの濃度で存在し得る。
【0189】
例えば、スベルアニロヒドロキサム酸は、細胞培養培地中に約0.1μMから50μMの濃度で存在し得る。換言すれば、スベルアニロヒドロキサム酸は、細胞培養培地中に約0.5μMから約30μM、約0.5μMから約16μM、約1μMから約16μM、約2μMから約16μM、約3μMから約16μM、約4μMから約16μM、約5μMから約16μM、約6μMから約16μM、約10μMから約16μM、約10μMから約30μMなどの濃度で存在し得る。
【0190】
細胞は、スベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、適切な持続期間にわたり培養され得る。典型的には、細胞は、吉草酸の存在下で、組み合わせて使用されるPKCアクチベーターの場合と同程度の持続期間にわたり培養される。一例では、細胞は、スベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、少なくとも30分間培養される。換言すれば、細胞は、スベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、スベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0191】
例えば、細胞は、少なくとも1μMのスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも1μMのスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも1μMのスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0192】
例えば、細胞は、少なくとも2μMのスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも2μMスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも2μMスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0193】
例えば、細胞は、少なくとも2.5μMのスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも2.5μMのスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも2.5μMのスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0194】
例えば、細胞は、少なくとも4μMのスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも4μMスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも4μMのスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0195】
例えば、細胞は、少なくとも5μMのスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも5μMのスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも5μMのスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0196】
例えば、細胞は、少なくとも8μMのスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、少なくとも30分間の持続期間にわたり培養され得る。換言すれば、細胞は、少なくとも8μMのスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、少なくとも30分間、少なくとも60分間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間などの持続期間にわたり培養され得る。細胞は、少なくとも8μMのスベルアニロヒドロキサム酸の存在下で、約30分間から約5日間の持続期間にわたり培養され得る。例えば、最大持続期間は、例えば、約5日間、約4日間、約2日間、約24時間であり得る。
【0197】
スベルアニロヒドロキサム酸についての上記の濃度および持続期間を、例えば、プロストラチンについて提示された濃度および持続期間と適切に組み合わせることができる。
【0198】
代替的に、スベルアニロヒドロキサム酸についての上記の濃度および持続期間を、例えば、ホルボール12-ミリステート13-アセテートについて提示された濃度および持続期間と適切に組み合わせることもできる。
【0199】
HDAC阻害剤は、任意の適切な手段を使用して細胞培養培地中に含めることができる。例えば、HDAC阻害剤を、補給剤として細胞培養培地に添加することができる。この例では、HDAC阻害剤は、細胞培養培地を細胞に添加する前または後に、細胞培養培地に添加することができる。また、HDAC阻害剤を、当技術分野で公知の他の手段を通じて細胞培養物に含めることもできる。
【0200】
既に記載したように、ウイルスベクター産生中に細胞培養培地中にHDAC阻害剤が存在することにより、それがPKCアクチベーターと組み合わされた場合にウイルスベクタータイターが増加することが示されている。この文脈において、「ウイルスベクタータイターの増加」は、ウイルスベクター産生中の「ウイルスベクタータイターを誘導すること」または「ウイルスベクタータイターを増強すること」を含み得る。当業者には明らかであろうが、この文脈においてウイルスベクタータイターを「増加させること」は、PKCアクチベーターまたはHDAC阻害剤のうちのいずれか1つの非存在下に比してのウイルスベクタータイターの増加を指す。したがって、PKCアクチベーターおよびHDAC阻害剤の存在下におけるウイルスベクターの産生は、PKCアクチベーターまたはHDAC阻害剤のうちのいずれか1つの非存在下におけるウイルスベクターの産生と比較して、ウイルスベクタータイターを増加させる。ウイルスベクタータイターの測定のために好適なアッセイは、本明細書に記載される通りである(例えば、レンチウイルスについて)。一部の実施形態では、ウイルスベクタータイター(例えば、レンチウイルスベクタータイター)の増加は、機能的な5’LTRポリA部位の存在下または非存在下で起こる。一部の実施形態では、PKCアクチベーターによって媒介されるウイルスベクタータイター(例えば、レンチウイルスベクタータイター)の増加は、ベクターゲノムの5’LTRにおけるポリA部位の抑制とは無関係である。
【0201】
一部の例では、PKCアクチベーターおよびHDAC阻害剤の存在は、ウイルスベクター産生中のウイルスベクタータイターを、PKCアクチベーターまたはHDAC阻害剤のうちのいずれか1つの非存在下におけるウイルスベクター産生に比して少なくとも30%増加させ得る。好適には、PKCアクチベーターは、ウイルスベクター産生中のウイルスベクタータイターを、PKCアクチベーターまたはHDAC阻害剤のうちのいずれか1つの非存在下でのウイルスベクター産生に比して少なくとも35%(好適には少なくとも40%、45%、50%、60%、70%、100%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%、650%、700%、750%、800%、850%、900%、950%、1000%)増加させ得る。
【0202】
本明細書に記載される方法は、ウイルスベクタータイターを増加させるための好適なウイルスベクター産生プロトコールの一部であり得る。したがって、本明細書に提供される方法は、1回目またはその後の(例えば、2回目の)収集の一部としてウイルスベクターを産生するために使用することができる。
【0203】
ベクター構成要素をコードするヌクレオチド配列は、同時に、または任意の順序で逐次的に細胞に導入することができる。
【0204】
当業者には明らかであろうが、これらの方法において、ベクター構成要素には、gag、env、revおよび/またはレンチウイルスベクターのRNAゲノムが含まれ得る。これらのベクター構成要素は、本明細書中の他の箇所に記載されているヌクレオチド配列によってコードされる。
【0205】
(ii)ウイルスベクター産生システム
i)ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列を含む細胞;および
ii)PKCアクチベーターを含む細胞培養培地
を含むウイルスベクター産生システムも、本明細書中に提供される。
【0206】
一例では、細胞培養培地は、PKCアクチベーターおよびHDAC阻害剤を含む。
【0207】
適切なウイルスベクター、PKCアクチベーターおよび濃度、HDAC阻害剤および濃度、細胞および細胞培養培地の詳細は、上記の方法のセクションに提示されており、ここに同様に適用される。
【0208】
さらに、「ウイルスベクター産生システム」、「培養」、「細胞」、「核酸配列」、「ウイルスベクター」、「ウイルスベクター構成要素」、「細胞培養」および「細胞培養培地」という用語は、ここでの一般的な定義のセクションでより詳細に記載されており、ここに同様に適用される。
【0209】
(iii)使用
本発明者らは、ウイルスベクター産生中にウイルスベクタータイターを増加させるためにPKCアクチベーターを使用し得ることを初めて突き止めた。本発明者らはまた、PKCアクチベーターをHDAC阻害剤と組み合わせて使用することで、ウイルスベクター産生中にウイルスベクタータイターを有利にさらに増加させ得ることも示した。
【0210】
好適なウイルスベクター、PKCアクチベーターおよび濃度、HDAC阻害剤および濃度、細胞および細胞培養培地の詳細は、上記の方法のセクションに記載されており、ここに同様に適用される。
【0211】
さらに、「ウイルスベクター産生システム」、「培養」、「細胞」、「核酸配列」、「ウイルスベクター」、「ウイルスベクター構成要素」、「細胞培養」および「細胞培養培地」という用語は、本明細書の一般的な定義のセクションでより詳細に記載されており、ここに同様に適用される。
【0212】
B.改変U1 snRNA
特にレンチウイルスベクター産生の文脈において、本明細書に記載されるPKCアクチベーター(および適宜、HDAC阻害剤)を含む方法、ウイルスベクター産生システム、および使用は、本明細書にさらに記載されているように、改変U1 snRNAの共発現も含み得る。したがって、レンチウイルスベクター産生を検討する際には、PKCアクチベーター(および適宜、HDAC阻害剤)に関連して記載されている特徴のそれぞれを、このセクションで改変U1 snRNAに関連して記載されている特徴と組み合わせることができる。
【0213】
本発明者らは、内因性配列(スプライスドナー部位)を標的とせず、vRNA分子内の配列を新たに標的とするように改変されたU1 snRNAに基づいて非コード性RNAを共発現させることによって、レンチウイルスベクターの出力タイターを増強させ得ることを既に示した。本発明者らはまた、本明細書に記載されるウイルスベクター産生方法の間に改変U1 snRNAを共発現させることにより、ウイルスベクターの出力タイターがさらに増加することを見出している。したがって、PKCアクチベーターと改変U1 snRNAを組み合わせて使用する(上記のように、HDAC阻害剤と共にしてもよい)方法、システムおよび使用が、本明細書中に提供される。このアプローチは、ベクター産生中に改変U1 snRNAを他のベクター構成要素と共に共発現させることを含む。改変U1 snRNAは、U1 snRNAのネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列を、ベクターゲノムvRNA内の標的配列に相補的な異種配列に置き換えることによって、コンセンサススプライスドナー部位への結合が除去されるように設計されている。標的配列および相補性の長さ、設計、発現様式を含む、改変U1 snRNAの最適な特性について以下に記載する。
【0214】
改変U1 snRNA
ヒトU1 snRNA(核内低分子RNA)は、長さが164ntであり、4つのステムループからなる明確に規定された構造を有する(図11参照)。U1 snRNAは、内因性の非コード性RNAであり、イントロンスプライシングの初期段階で、ネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列[例えば、5’-ACUUACCUG-3’(配列番号2)]を介してコンセンサス5’スプライスドナー部位[例えば、5’-MAGGURR-3’(配列番号1)、ここでMはAまたはCであり、RはAまたはGである]に結合する。ステムループIは、ポリA抑制に重要であることが示されているU1A-70Kタンパク質に結合する。ステムループIIはU1タンパク質に結合し、5’-AUUUGUGG-3’(配列番号3)配列はSmタンパク質に結合するが、これはステムループIVと共にU1 snRNAのプロセシングに重要である。本明細書に記載される改変U1 snRNAは、ネイティブ性スプライスドナー標的配列の部位にあるベクターゲノムvRNA分子内の標的配列に相補的な異種配列を導入するために改変されている(図11参照)。
【0215】
本明細書で使用される場合、「改変U1 snRNA」、「再方向付けされたU1 snRNA」、「再標的化されたU1 snRNA」、「別の目的に向けられた(re-purposed)U1 snRNA」という用語は、標的遺伝子のスプライシング過程を開始するためにU1 snRNAが使用するコンセンサス5’スプライスドナー部位配列[例えば、5’-MAGGURR-3’(配列番号1)]に結合しなくなるように改変されたU1 snRNAを意味する。したがって、改変U1 snRNAは、ドナー部位配列とU1 snRNAの5’末端のネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列との相補性に基づくスプライスドナー部位配列[例えば、5’-MAGGURR-3’(配列番号1)]への結合が行われなくなるように改変されたU1 snRNAである。その代わりに、改変U1 snRNAは、レンチウイルスベクターゲノム分子(標的部位)のパッケージング領域内に固有のRNA配列、すなわち、遺伝子のスプライシングとは無関係な配列を有するヌクレオチド配列に結合するように設計される。レンチウイルスベクターゲノム分子のパッケージング領域内のヌクレオチド配列を予め選択することができる。したがって、改変U1 snRNAは、その5’末端がレンチウイルスベクターゲノム分子のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に結合するように改変されたU1 snRNAである。その結果、改変U1 snRNAは、標的部位配列と改変U1 snRNAの5’末端の短い配列との相補性に基づいて、標的部位配列に結合する。
【0216】
本明細書で使用される場合、「ネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列」および「ネイティブ性スプライスドナー標的配列」という用語は、イントロンのコンセンサス5’スプライスドナー部位に対して広範囲に相補的な内因性U1 snRNAの5’末端の短い配列を意味する。ネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列は、5’-ACUACCUG-3’(配列番号2)であり得る。
【0217】
本明細書で使用される場合、「コンセンサス5’スプライスドナー部位」という用語は、例えば、配列5’-MAGGURR-3’(配列番号1)を有する、スプライス部位選択に使用されるイントロンの5’末端にあるコンセンサスRNA配列を意味する。
【0218】
本明細書で使用される場合、「レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列」、「標的配列」および「標的部位」という用語は、改変U1 snRNAが結合するための標的部位として予め選択される、レンチウイルスベクターゲノム分子のパッケージング領域内に特定のRNA配列を有する部位を意味する。
【0219】
本明細書で使用される場合、「レンチウイルスベクターゲノム分子のパッケージング領域」および「レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域」という用語は、5’U5ドメインの先頭からgag遺伝子に由来する配列の末端までの、レンチウイルスベクターゲノムの5’末端にある領域を意味する。したがって、レンチウイルスベクターゲノム分子のパッケージング領域は、5’U5ドメイン、PBSエレメント、ステムループ(SL)1エレメント、SL2エレメント、SL3ψエレメント、SL4エレメント、およびgag遺伝子に由来する配列を含む。複製欠損ウイルスベクター粒子の産生を可能にするために、レンチウイルスベクター産生中に、完全なgag遺伝子をトランス性(in trans)にゲノムに提供することは、当技術分野で一般的である。トランス性に提供されるgag遺伝子のヌクレオチド配列は、野生型ヌクレオチドによってコードされる必要はないが、コドン最適化はされ得る;重要なこととして、トランス性に提供されるgag遺伝子の主な属性は、gagおよびgagpolタンパク質をコードし、その発現を導くことである。したがって、完全なgag遺伝子がレンチウイルスベクターの産生中にトランス性に提供される場合、「レンチウイルスベクターゲノム分子のパッケージング領域」という用語は、5’U5ドメインの先頭からSL3ψエレメントの「コア」パッケージングシグナルまでのレンチウイルスベクターゲノム分子の5’末端の領域、およびATGコドン(SL4内に存在)からベクターゲノム上に存在する残りのgagヌクレオチド配列の最後までのネイティブ性gagヌクレオチド配列を意味し得ることが、当業者には理解されるであろう。
【0220】
本明細書で使用される場合、「gag遺伝子に由来する配列」という用語は、ベクターゲノム中に存在し得る、例えば、存続し得る、ATGコドンからヌクレオチド688までに由来する、gag遺伝子の任意のネイティブ性配列を意味する(Kharytonchyk, S. et. al., 2018, J. Mol. Biol., 430:2066-79)。
【0221】
本明細書で使用される場合、「ネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列を範囲に含むU1 snRNAの最初の11ヌクレオチド内に異種配列を導入すること」「位置3~11の9ヌクレオチド内に前記異種配列を導入すること」および「U1 snRNAの5’末端の最初の11ヌクレオチド内に異種配列を導入すること」という用語は、U1 snRNAの最初の11ヌクレオチド、または位置3~11の9ヌクレオチドの全体もしくは一部を前記異種配列に置き換えること、またはU1 snRNAの最初の11ヌクレオチド、または位置3~11の9ヌクレオチドを前記異種配列と同じ配列を有するように改変することを含む。
【0222】
本明細書で使用される場合、「ネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列内に異種配列を導入すること」および「U1 snRNAの5’末端のネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列内に異種配列を導入すること」という用語は、ネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列の全体もしくは一部を前記異種配列に置き換えること、またはネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列を前記異種配列と同じ配列を有するように改変することを含む。
【0223】
改変U1 snRNAは、U1 snRNAがレンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に結合するように改変されている、本明細書に記載される方法に使用し得る。一部の実施形態では、改変U1 snRNAは、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列が導入されるように、内因性U1 snRNAに比して5’末端で改変される。一部の実施形態では、改変U1 snRNAは、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列がネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列内に導入されるように、内因性U1 snRNAに比して5’末端で改変される。
【0224】
改変U1 snRNAは、ネイティブ性スプライスドナーのアニーリング配列を含む配列が、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列に置き換えられるように、内因性U1 snRNAに比して5’末端で改変され得る。
【0225】
改変U1 snRNAは、改変されたU1 snRNA変異体であり得る。本発明に従って改変されたU1 snRNA突然変異体は、天然に存在するU1 snRNA変異体、U1-70Kタンパク質結合を除去するステムループI領域内の突然変異を含有するU1 snRNA変異体、またはU1タンパク質結合を除去するステムループII領域内の突然変異を含有するU1 snRNA変異体であり得る。U1-70Kタンパク質結合を除去する突然変異をステムループI領域内に含有するU1 snRNA変異体は、U1_m1またはU1_m2であり得、好ましくはU1A_m1またはU1A_m2であり得る。
【0226】
一部の実施形態では、改変U1 snRNAは、本明細書に記載されるU1_256配列の主要なU1 snRNA配列[クローバーリーフ](nt 410~562)と少なくとも70%の同一性(好適には、少なくとも75%、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性)を有するヌクレオチド配列を含む。一部の実施形態では、本発明の改変U1 snRNAは、本明細書に記載されるU1_256配列の主要なU1 snRNA配列[クローバーリーフ](nt 410~562)を含む。U1_256配列の主要なU1 snRNA配列[クローバーリーフ](nt 410~562)は、配列番号4に含まれる:
配列番号4:
【化1】
【0227】
一部の好ましい実施形態では、ネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列を範囲に含むU1 snRNAの最初の11ヌクレオチドは、全体または一部が、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列に置換され得る。好適には、U1 snRNAの最初の11ヌクレオチドのうちの1~11個(好適には、2~11個、3~11個、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個または11個)の核酸が、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列に置き換えられる。
【0228】
一部の実施形態では、ネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列は、全体または一部が、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列に置換され得る。好適には、ネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列のうちの1~11個(好適には、2~11個、3~11個、5~11個、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個または11個)の核酸が、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列に置き換えられる。好ましい一実施形態では、ネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列の全体が、レンチウイルスベクターのゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列に置き換えられ、すなわち、ネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列(例えば、5’-ACUUACCUG-3’(配列番号2))は、本発明による異種配列に完全に置き換えられる。
【0229】
一部の実施形態では、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列を含む改変U1 snRNAは、Aが標的配列へのアニーリングに関与するか否かにかかわらず、前記異種配列の5’末端の最初のヌクレオチドでAをコードする。
【0230】
一部の実施形態では、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列を含む改変U1 snRNAは、AまたはUが標的配列へのアニーリングに関与するか否かにかかわらず、前記異種配列の5’末端の最初の2ヌクレオチドでAUをコードする。
【0231】
一部の実施形態では、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列を含む改変U1 snRNAは、前記異種配列の5’末端の最初の2ヌクレオチドでAUをコードせず、この最初のヌクレオチドは標的配列へのアニーリングに関与することも関与しないこともあり得る。
【0232】
一部の実施形態では、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列は、前記ヌクレオチド配列に相補的な少なくとも7個のヌクレオチドで構成される。一部の実施形態では、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列は、前記ヌクレオチド配列に相補的な少なくとも9個のヌクレオチドで構成される。好ましくは、本発明で使用するための異種配列は、前記ヌクレオチド配列に相補的な15個のヌクレオチドで構成される。
【0233】
好適には、本発明で使用するための異種配列は、7~25個(好適には7~20個、7~15個、9~15個、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24個または25個)のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、7個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、8個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、9個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、10個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、11個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、12個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、13個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、14個のヌクレオチドで構成され得る。
【0234】
好適には、本発明で使用するための異種配列は、15個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、16個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、17個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、18個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、19個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、20個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、21個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、22個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、23個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、24個のヌクレオチドで構成され得る。好適には、本発明で使用するための異種配列は、25個のヌクレオチドで構成され得る。
【0235】
一部の実施形態では、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、5’U5ドメイン、PBSエレメント、SL1エレメント、SL2エレメント、SL3ψエレメント、SL4エレメントおよび/またはgag遺伝子に由来する配列の内部に位置する。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、SL1、SL2および/またはSL3ψエレメントの内部に位置する。一部の好ましい実施形態では、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、SL1および/またはSL2エレメントの内部に位置する。一部の特に好ましい実施形態では、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、SL1エレメントの内部に位置する。
【0236】
一部の実施形態では、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、少なくとも7個のヌクレオチドで構成される。一部の実施形態では、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、少なくとも9個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターのゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、7~25個(好適には7~20個、7~15個、9~15個、7、8、9、10、11、12、13、14個または15個)のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、7個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、8個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、9個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、10個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、11個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、12個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、13個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、14個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、15個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、16ヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、17個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、18個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、19個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、20個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、21個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、22個のヌクレオチドで構成される。
【0237】
好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、23個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、24個のヌクレオチドで構成される。好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、25個のヌクレオチドで構成される。好ましくは、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、15個のヌクレオチドで構成される。
【0238】
改変U1 snRNAの、レンチウイルスベクターのゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列への結合は、改変U1 snRNAの非存在下におけるレンチウイルスベクター産生に比して、レンチウイルスベクター産生中のレンチウイルスベクタータイターを増強させ得る。
【0239】
改変U1 snRNAは、(a)改変U1 snRNAが結合するためのレンチウイルスベクターゲノムのパッケージング領域内の標的部位(予め選択されたヌクレオチド部位)を選択すること;および(b)U1 snRNAの5’末端のネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列[例えば、5’-ACUUACCUG-3’(配列番号2)]内に、工程(a)で選択された予め選択されたヌクレオチド部位に相補的な異種配列を導入すること、によって設計され得る。
【0240】
分子生物学における従来の手法を使用して、内因性U1 snRNAの5’末端のネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列[例えば、5’-ACUUACCUG-3’(配列番号2)]の内部に、またはその代わりに、標的部位に相補的な異種配列を導入することは、当業者の通常の能力の範囲内にある。一般に、好適な慣行的な方法には、定方向突然変異誘発または相同組換えを介した置き換えが含まれる。
【0241】
分子生物学の従来の手法を使用して、内因性U1 snRNAの5’末端のネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列[例えば、5’-ACUUACCUG-3’(配列番号2)]を標的部位に相補的な異種配列と同じ配列になるように改変することは、当業者の能力の範囲内にある。例えば、好適な方法には、定方向突然変異誘発またはランダム突然変異誘発法に続いて、本発明による改変U1 snRNAが得られる突然変異について選択を行うことが含まれる。
【0242】
本発明の改変U1 snRNAは、当技術分野で一般に公知である方法に従って製造することができる。例えば、改変U1 snRNAを、化学合成または組換えDNA/RNA技術によって製造することができる。
【0243】
従来の分子生物学および細胞生物学の手法を使用して、本発明の改変U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列の細胞に導入することは、当業者の能力の範囲内にある。例えば、以下に記載するように発現カセットを使用することができる。
【0244】
レンチウイルスベクター産生は、本明細書に記載される好適な産生細胞における本発明の改変U1 snRNAとベクター構成要素との共発現を含み得る。産生細胞は、改変U1 snRNAをコードする核酸配列を含む安定な産生細胞であり得る。代替的に、改変U1 snRNAをコードする核酸配列を、細胞に一過性に導入することもできる。
【0245】
したがって、レンチウイルスベクターを産生するための方法であって、
a)ベクター構成要素をコードするヌクレオチド配列と、改変U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを細胞に導入する工程;
b)ベクター構成要素をコードする前記ヌクレオチド配列と、本発明の改変U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを含む細胞を選択する工程;
c)細胞を、PKCアクチベーター(および適宜、HDAC阻害剤)の存在下で、レンチウイルスベクターが産生される条件下でさらに培養する工程;および
d)適宜、レンチウイルスベクターを単離する工程
を含む方法が提供される。
【0246】
PKCアクチベーター(および適宜、HDAC阻害剤)の詳細は、本明細書中の他の箇所に記載されており、ここでも同様に適用する。
【0247】
これらの方法では、ベクター構成要素は、gag、env、revおよび/またはレンチウイルスベクターのRNAゲノムを含み得る。これらのベクター構成要素は、本明細書中の他の箇所に記載されるヌクレオチド配列によってコードされる。
【0248】
ベクター構成要素をコードするヌクレオチド配列、および本発明の改変U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列は、同時に、または任意の順序で逐次的に細胞に導入することができる。ベクター構成要素をコードするヌクレオチド配列を、本発明の改変U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列の前に、細胞に導入することができる。本発明の改変U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を、ベクター構成要素をコードするヌクレオチド配列の前に、細胞に導入することもできる。
【0249】
したがって、PKCアクチベーター(および適宜、HDAC阻害剤)を含む、本明細書に記載される方法、システムおよび使用は、改変U1 snRNAも含むことができ、前記改変U1 snRNAは、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に結合するように改変されている。
【0250】
好適には、改変U1 snRNAは、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内にヌクレオチド配列に相補的な異種配列が導入されるように改変され得る。
【0251】
好適には、改変U1 snRNAは、位置3~11の9ヌクレオチド内に前記異種配列が導入されるように、5’末端で改変され得る。
【0252】
好適には、改変U1 snRNAは、ネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列内に前記異種配列が導入されるように、5’末端で改変され得る。前記ネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列の1~9個の核酸が、前記異種配列に置き換えられてもよい。
【0253】
好適には、改変U1 snRNAは、ネイティブ性スプライスドナーアニーリング配列を範囲に含む配列を、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列に置き換えるように、5’末端で改変され得る。
【0254】
好適には、異種配列は、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な少なくとも9個のヌクレオチドで構成され得る。
【0255】
好適には、異種配列は、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な15個のヌクレオチドで構成され得る。
【0256】
好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域は、5’U5ドメインの先頭からgag遺伝子に由来する配列の末端までであり得る。
【0257】
好適には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は、5’U5ドメイン、PBSエレメント、SL1エレメント、SL2エレメント、SL3ψエレメント、SL4エレメントおよび/またはgag遺伝子に由来する配列の内部に位置し得る。好適には、ヌクレオチド配列は、SL1、SL2および/またはSL3ψエレメントの内部に位置し得る。好適には、ヌクレオチド配列は、SL1および/またはSL2エレメントの内部に位置し得る。好適には、ヌクレオチド配列は、SL1エレメントの内部に位置し得る。
【0258】
好適には、改変U1 snRNAは、改変U1A snRNAまたは改変U1A snRNA変異体である。
【0259】
好適には、改変U1 snRNAの5’末端の最初の2個のヌクレオチドはAUではない。
【0260】
改変U1 snRNAは、発現カセットによってコードされ得る。
【0261】
改変U1 snRNAは、細胞内に存在し得る。換言すれば、ウイルスベクター構成要素(例えば、gag、env、revおよびレンチウイルスベクターのRNAゲノムを含む)をコードするヌクレオチド配列と、本明細書に記載される改変U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを含むレンチウイルスベクターを産生するための細胞を、本発明の方法、システムまたは使用において使用することができる。代替的に、本明細書に記載される改変U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む、レンチウイルスベクターを産生するための安定な、または一過性の産生細胞を、本発明の方法、システムまたは使用において使用することもできる。
【0262】
例えば、レンチウイルスベクターを産生するための好適な方法は、
a.ベクター構成要素(例えば、gag、env、revおよびレンチウイルスベクターのRNAゲノムを含む)をコードするヌクレオチド配列と、本明細書に記載される改変U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを細胞に導入する工程;
b.ベクター構成要素をコードする前記ヌクレオチド配列と、少なくとも1つの改変U1 snRNAとを含む細胞を、適宜、選択する工程;
c.細胞を、PKCアクチベーター(および適宜、HDAC阻害剤)の存在下で、前記ベクター構成要素が前記改変U1 snRNAと共発現されて、レンチウイルスベクターが産生される条件下で培養する工程
を含み得る。
【0263】
好適な改変U1 snRNA配列の例を表8に提示している。これには例えば、305U1、179U1および256U1に関連する配列が含まれており、これらは本発明を例示するために以下の実施例のセクションで使用される。これらの改変U1 snRNAのうち、256U1が特に好ましい。
【0264】
PKCアクチベーター(および適宜、HDAC阻害剤)の詳細については、本明細書中の他の箇所に記載されており、ここでも同様に適用する。
【0265】
C.主要スプライスドナー(MSD)突然変異
特にレンチウイルスベクター産生の文脈において、本明細書に記載される方法、ウイルスベクター産生システム、およびPKCアクチベーター(ならびに適宜、HDAC阻害剤および/または改変U1 snRNA)を含む使用は、本明細書にさらに記載されるMSD突然変異体を含むレンチウイルスベクターゲノム分子と共に使用することができる。したがって、PKCアクチベーター(ならびに適宜、HDAC阻害剤および/または改変U1 snRNA)に関連して本明細書に記載されている特徴のそれぞれを、MSD突然変異に関連してこのセクションで記載されている特徴と組み合わせることができる。
【0266】
ウイルスベクターのRNAゲノムのパッケージング領域における主要スプライスドナー部位の突然変異は、ベクター産生タイターにとって有害であって、さらに、MSDのすぐ近隣にある潜在的スプライスドナー(crSD)を活性化することが示されている。MSDまたはCrSDからの異常スプライシングは、ベクタービリオンへのパッケージングを行うことができないスプライスされたRNAの産生を招く。また、形質導入細胞における組込みベクター由来の転写リードスルー産物から、MSDから細胞転写産物へのスプライシングも報告されており、安全性が懸念されている。本発明者らは、ベクタータイターのそれほど顕著ではない減少を招き(改変U1 snRNAの非存在下で)、改変U1 snRNAの存在下ではタイターのさらなる増加を招く、MSDスプライシング領域内の新規な突然変異を以前に記載している。主要スプライスドナー部位のそのような突然変異または欠失は、本明細書に記載されるものに加えてベクタータイターに対する追加的な改善効果を有する可能性があり、本明細書に記載される本発明の他のいずれかの態様と組み合わせて使用することができる。
【0267】
RNAスプライシングは、5つの小さな核内リボ核タンパク質(snRNP)から構成される、スプライソソームと呼ばれる大きなRNA-タンパク質複合体によって触媒される。イントロンとエクソンの境界は、プレmRNA内部の特定のヌクレオチド配列が目印となり、これはスプライシングが起こる場所を示す。そのような境界は「スプライス部位」と呼ばれる。「スプライス部位」という用語は、真核細胞のスプライシング機構によって、切断されるのに、および/または別のスプライス部位に連結されるのに好適であると認識され得るポリヌクレオチドを指す。
【0268】
スプライス部位は、プレmRNA転写物に存在するイントロンの切出しを可能にする。典型的には、5’スプライス境界は「スプライスドナー部位」または「5’スプライス部位」と称され、3’スプライス境界は「スプライスアクセプター部位」または「3’スプライス部位」と称される。スプライス部位には、例えば、天然に存在するスプライス部位、操作されたかもしくは合成性のスプライス部位、カノニカルもしくはコンセンサススプライス部位、および/または非カノニカルスプライス部位、例えば、潜在的スプライス部位が含まれる。
【0269】
スプライスアクセプター部位は一般に、3つの別個の配列エレメント、すなわち、分枝点または枝分れ部位、ポリピリミジントラクト、および受容体コンセンサス配列からなる。真核生物における分枝点コンセンサス配列はYNYTRAC[(配列番号5)、ここでYはピリミジン、Nは任意のヌクレオチド、Rはプリンである]である。3’アクセプタースプライス部位コンセンサス配列はYAG[(配列番号6)、ここでYはピリミジンである]である[例えば、Griffiths et al., eds., Modern Genetic Analysis, 2nd edition, W.H. Freeman and Company, New York (2002)を参照]。典型的には、3’スプライスアクセプター部位はイントロンの3’末端に位置する。
【0270】
そのため、主要スプライスドナー部位は、本明細書に記載される方法、システムおよび使用において使用するために、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列において不活性化され得る。
【0271】
換言すれば、本明細書に記載される方法、システムおよび使用において使用される細胞は、レンチウイルスベクターのRNAゲノム内の主要スプライスドナー部位が不活性化されている、例えば、突然変異しているかまたは削除されている、レンチウイルスベクター構成要素(例えば、gag、env、rev、および/またはレンチウイルスベクターのRNAゲノム)をコードする核酸配列を含み得る。
【0272】
「カノニカルスプライス部位」または「コンセンサススプライス部位」という用語は、互換的に使用することができ、種を越えて保存されているスプライス部位を指す。
【0273】
真核生物のRNAスプライシングに使用される5’ドナースプライス部位および3’アクセプタースプライス部位のコンセンサス配列は、当技術分野で周知である。これらのコンセンサス配列は、イントロンの各末端にほぼ不変のジヌクレオチドを含む:イントロンの5’末端にはGT、イントロンの3’末端にはAG。
【0274】
カノニカルスプライスドナー部位のコンセンサス配列は、AG/GTRAGT(配列番号7)(DNAの場合)(ここでAはアデノシンであり、Tはチミンであり、Gはグアニンであり、Cはシトシンであり、Rはプリンであり、“/”は切断部位を示す)であり得る。これは、本明細書に記載されるより一般的なスプライスドナーコンセンサス配列MAGGURR(配列番号1)に適合する。スプライスドナー配列がこのコンセンサスから逸脱する可能性があることは当技術分野で周知であり、例えば、vRNAパッケージング領域内の二次構造のように他の制約が同じ配列にかかるウイルスゲノムでは特にそうである。非カノニカルスプライス部位も当技術分野で周知であるが、それらはカノニカルスプライスドナーコンセンサス配列と比較して稀にしか存在しない。
【0275】
「主要スプライスドナー部位」という用語は、ウイルスベクターヌクレオチド配列の典型的には5’領域に位置するネイティブ性ウイルスRNAパッケージング配列内にコードされ、埋め込まれている、ウイルスベクターゲノムの第1の(優性)スプライスドナー部位を指す。
【0276】
一態様では、ウイルスベクターゲノムは、活性のある主要スプライスドナー部位を含有せず、すなわち、前記ヌクレオチド配列内の主要スプライスドナー部位からはスプライシングが起こらず、主要スプライスドナー部位からのスプライシング活性は除去されている。
【0277】
主要スプライスドナー部位は、レンチウイルスゲノムの5’パッケージング領域内に位置する。HIV-1ウイルスの場合、主要スプライスドナーコンセンサス配列は(DNAの場合)TG/GTRAGT((配列番号8)、ここでAはアデノシンであり、Tはチミンであり、Gはグアニンであり、Cはシトシンであり、Rはプリンであり、“/”は切断部位を示す)である。
【0278】
スプライスドナー領域、すなわち、突然変異前の主要スプライスドナー部位を含むベクターゲノムの領域は、以下の配列を有し得る:
GGGGCGGACTGAGTACGCCAAAAT(配列番号9)
【0279】
一例では、突然変異したスプライスドナー領域は以下の配列を含み得る:
GGGGGCGACTGCAACGCAAAAAT(配列番号10、MSD-2KO)
【0280】
一例では、突然変異したスプライスドナー領域は以下の配列を含み得る:
GGGGCGGAGTGAGACTACGCAAAAT(配列番号11、MSD-2KOv2)
【0281】
別の例では、突然変異したスプライスドナー領域は以下の配列を含み得る:
GGGAAGGCAAGAGATAATGCCTTAAAAT(配列番号12、MSD-2KOm5)
【0282】
一例では、改変前のスプライスドナー領域は次の配列を含み得る:
GGCGACTGGTGAGTACGCC(配列番号13)
【0283】
この配列は、本明細書では「ステムループ2」領域(SL2)とも称される。この配列は、ベクターゲノムのスプライスドナー領域内でステムループ構造を形成し得る。一例では、この配列(SL2)は、本明細書に記載されるヌクレオチド配列から削除され得る。
【0284】
そのため、SL2を含まないヌクレオチド配列を使用することができる。上記SL2による配列を含まないヌクレオチド配列も使用することができる。
【0285】
主要スプライスドナー部位は、以下のコンセンサス配列を有することができ、ここでRはプリンであり、“/”は切断部位である:
TG/GTRAGT(配列番号8)
【0286】
一例では、Rはグアニン(G)であり得る。
【0287】
主要スプライスドナー領域および潜在的スプライスドナー領域は、以下のコア配列を有することができ、ここで“/”は主要スプライスドナー領域および潜在的スプライスドナー部位での切断部位である:
/GTGA/GTA(配列番号14)。
【0288】
一例では、MSD突然変異ベクターゲノムは、主要スプライスドナー領域および潜在的スプライスドナーの「領域」に少なくとも2つの突然変異を有することができ、第1および第2の「GT」ヌクレオチドは、それぞれ主要スプライスドナーと潜在的スプライスドナーのヌクレオチドのすぐ3’側である。
【0289】
本発明の一態様では、主要スプライスドナーのコンセンサス配列はCTGGT(配列番号15)である。主要スプライスドナー部位は配列CTGGT(配列番号15)を含有し得る。
【0290】
一態様では、ヌクレオチド配列は、本来であれば、GGGCGGCGACTGGTGAGTACGCCAAAAAT(配列番号9)のヌクレオチド13および14に対応するヌクレオチド間に切断部位を有したと考えられる、不活性化された主要スプライスドナー部位を含む。
【0291】
本明細書に記載されるように、ヌクレオチド配列は不活性な潜在的スプライスドナー部位も含み得る。一態様では、ヌクレオチド配列は主要スプライスドナー部位に隣接する(3’側)、活性のある潜在的スプライスドナー部位を含有せず、すなわち、隣接する潜在的スプライスドナー部位からはスプライシングが起こらず、潜在的スプライスドナー部位からのスプライシングは除去されている。
【0292】
「潜在的スプライスドナー部位」という用語は、スプライスドナー部位として正常に機能しないか、または隣接する配列の前後関係(例えば、近くの「好ましい」スプライスドナーの存在)のためにスプライスドナー部位としてあまり効率的に利用されないが、隣接する配列の突然変異(例えば、近くの「好ましい」スプライスドナー)によって活性化されて、より効率的に機能するスプライスドナー部位になることができる核酸配列を指す。
【0293】
一態様では、潜在的スプライスドナー部位は、主要スプライスドナーの3’側にある第1の潜在的スプライスドナー部位である。
【0294】
一態様では、潜在的スプライスドナー部位は、主要スプライスドナー部位の3’側の主要スプライスドナー部位から6ヌクレオチド以内にある。好ましくは、潜在的スプライスドナー部位は、主要スプライスドナー切断部位から4または5、好ましくは4ヌクレオチド以内にある。
【0295】
本発明の一態様では、潜在的スプライスドナー部位は、コンセンサス配列TGAGT(配列番号16)を有する。
【0296】
一態様では、ヌクレオチド配列は、本来であればGGGCGGCGACTGGTGAGTACGCCAAAAAT(配列番号9)のヌクレオチド17および18に対応するヌクレオチド間に切断部位を有したと考えられる、不活性化された潜在的スプライスドナー部位を含む。
【0297】
本発明の一態様では、主要スプライスドナー部位および/または隣接する潜在的スプライスドナー部位は、「GT」モチーフを含有する。本発明の一態様では、主要スプライスドナー部位および隣接する潜在的スプライスドナー部位の両方が、突然変異した「GT」モチーフを含有する。突然変異したGTモチーフは、主要スプライスドナー部位および隣接する潜在的スプライスドナー部位の両方からのスプライス活性を不活性化し得る。そのような突然変異の一例を、本明細書では「MSD-2KO」と称する。
【0298】
一態様では、スプライスドナー領域は以下の配列を含み得る:
CAGACA(配列番号17)
【0299】
例えば、一態様では、突然変異したスプライスドナー領域は次の配列を含み得る:
GGCGACTGCAGACGCC(配列番号18)
【0300】
不活性化突然変異のさらなる一例は、本明細書では「MSD-2KOv2」と称される。
【0301】
一態様では、突然変異したスプライスドナー領域は以下の配列を含み得る:
GTGGAGACT(配列番号19)
【0302】
例えば、一態様では、突然変異したスプライスドナー領域は次の配列を含み得る:
GGCGAGTGAGACTACGCC(配列番号20)
【0303】
例えば、一態様では、突然変異したスプライスドナー領域は次の配列を含み得る:
AAGGCAACAGATAATGCCTT(配列番号21)
【0304】
一態様では、上記のようなステムループ2領域がスプライスドナー領域から削除されて、その結果、主要スプライスドナー部位および隣接する潜在的スプライスドナー部位の両方が不活性化される可能性がある。そのような削除を、本明細書では「ΔSL2」と称する。
【0305】
主要および隣接する潜在的スプライスドナー部位を不活性化するために、多種多様な突然変異をウイルスベクターヌクレオチド配列に導入することができる。
【0306】
一態様では、突然変異はスプライス領域におけるスプライシング活性を除去または抑制する機能的突然変異である。好適な突然変異は当業者に公知であり、本明細書に記載されている。
【0307】
例えば、核酸配列に点突然変異を導入することができる。「点突然変異」という用語は、本明細書で使用される場合、単一ヌクレオチドへのあらゆる変化を指す。点突然変異には、例えば、欠失、トランジション、トランスバージョンが含まれる;これらは、タンパク質コード配列内に存在する場合、ナンセンス突然変異、ミスセンス突然変異、サイレント突然変異として分類可能である。「ナンセンス」突然変異は、終止コドンを生じる。「ミスセンス」突然変異は、異なるアミノ酸をコードするコドンを生じる。「サイレント」突然変異は、タンパク質の機能を変化させない、同じアミノ酸または異なるアミノ酸のいずれかをコードするコドンを生じる。1つまたは複数の点突然変異を、潜在的スプライスドナー部位を含む核酸配列に導入することができる。例えば、潜在的スプライス部位を含む核酸配列を、その中に2つまたはそれ以上の点突然変異を導入することによって突然変異させることができる。
【0308】
主要スプライスドナー領域および潜在的スプライスドナー部位を含む核酸配列内のいくつかの場所に少なくとも2つの点突然変異を導入することにより、スプライスドナー領域からのスプライシングの減弱化を達成することができる。一態様では、突然変異はスプライスドナー切断部位の4ヌクレオチドの内部に存在し得る;カノニカルスプライスドナーコンセンサス配列では、これはA1G2/G3T4であり、ここで“/”は切断部位である。スプライスドナー配列がこのコンセンサスから逸脱する可能性があることは当技術分野で周知であり、例えば、vRNAパッケージング領域内の二次構造のように他の制約が同じ配列にかかるウイルスゲノムでは特にそうである。G3T4ジヌクレオチドは一般に、カノニカルスプライスドナーコンセンサス配列内で最も可変性の低い配列であることがよく知られており、G3およびまたはT4への突然変異は最も大きな減弱効果を達成する可能性が高い。例えば、HIV-1ウイルスベクターゲノムの主要スプライスドナー部位の場合、これはT1G2/G3T4であり得、ここで“/”は切断部位である。例えば、HIV-1ウイルスベクターゲノムの潜在的スプライスドナー部位の場合、これはG1A2/G3T4であり得、ここで“/”は切断部位である。さらに、スプライスドナー部位に隣接して点突然変異を導入することもできる。例えば、点突然変異をスプライスドナー部位の上流または下流に導入することができる。主要および/または潜在的スプライスドナー部位を含む核酸配列を、その中に複数の点突然変異を導入することによって突然変異させる実施形態では、点突然変異を、潜在的スプライスドナー部位の上流および/または下流に導入することができる。
【0309】
したがって、レンチウイルスベクターのRNAゲノムの主要スプライスドナー部位が不活性化されており、主要スプライスドナー部位に対する潜在的スプライスドナー部位3’が不活性化されている、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列を、本明細書に記載される方法、システムおよび使用において使用することができる。
【0310】
好適には、レンチウイルスベクターは第3世代レンチウイルスベクターであり得る。
【0311】
好適には、潜在的スプライスドナー部位は、主要スプライスドナー部位の3’側にある最初の潜在的スプライスドナー部位であり得る。
【0312】
好適には、前記潜在的スプライスドナー部位は、主要スプライスドナー部位の6ヌクレオチド以内に存在し得る。
【0313】
好適には、レンチウイルスベクターのRNAゲノムの主要スプライスドナー部位および潜在的スプライスドナー部位を突然変異させるかもしくは削除することができ、ならびに/または主要スプライスドナー部位および潜在的スプライスドナー部位からのスプライス活性を抑制または除去することができる(例えば、トランスフェクトされた細胞または形質導入細胞において)。
【0314】
スプライス部位突然変異体の構築
本発明のスプライス部位突然変異体は、種々の手法を使用して構築することができる。例えば、突然変異を、突然変異体配列を含有するオリゴヌクレオチドを合成することによって特定の遺伝子座に導入して、その両側にネイティブ性配列の断片へのライゲーションを可能にする制限部位を置くことができる。ライゲーションの後に、得られた再構築された配列は、目的のヌクレオチド挿入、置換、または欠失を有する誘導体を含む。
【0315】
DNA配列の変更を可能にする他の既知の手法には、組換えアプローチ、例えば、Gibsonアセンブリー、Golden-gateクローニング、およびIn-fusionがある。
【0316】
代替的に、オリゴヌクレオチド指定部位特異的(またはセグメント特異的)突然変異誘発法を用いて、必要な置換、欠失、または挿入に応じて変化した配列をもたらすこともできる。所望の欠失に隣接する便利な制限エンドヌクレアーゼ部位を利用することによって、スプライス部位突然変異体の欠失または切断誘導体を構築することもできる。
【0317】
制限の後に、オーバーハングを埋めて、DNAを再ライゲートすることができる。
【0318】
上記に示された変更を行う方法の例は、Sambrook et al. (Molecular cloning: A Laboratory Manual, 2d Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)によって開示されている。スプライス部位突然変異体を、PCR突然変異誘発、強制的ヌクレオチド誤取込み(例えば、Liao and Wise, 1990)による化学突然変異誘発(Drinkwater and Klinedinst, 1986)、またはランダム突然変異誘発オリゴヌクレオチド(Horwitz et al., 1989)を使用して構築することもできる。
【0319】
D.tat非依存性レンチウイルスベクター
特にレンチウイルスベクター産生の文脈において、tat非依存性レンチウイルスベクターを、本明細書に記載される方法、ウイルスベクター産生システム、およびPKCアクチベーター(ならびに適宜、HDAC阻害剤)を含む使用と共に使用することができる。一態様では、レンチウイルスベクターは第3世代レンチウイルスベクターであり得る。明確にするために、「tat非依存性」という用語は、ベクターゲノムカセットの転写を駆動するために使用されるHIV-1 U3プロモーターが異種プロモーターに置き換えられることを意味すると理解される。一態様では、tatはレンチウイルスベクターの製造方法、システムまたは使用において提供されず、例えば、tatはトランス性に提供されない。一態様では、本明細書に記載される細胞、ベクターまたはベクター産生システムは、tatタンパク質を含まない。
【0320】
定義
本発明の実施には、別段の指示がない限り、化学、分子生物学、微生物学および免疫学の従来の手法を利用するが、それらの技術は当業者の能力の範囲内にある。そのような手法は文献で説明されている。例えば、J. Sambrook, E. F. Fritsch, and T. Maniatis (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Books 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press; Ausubel, F. M. et al. (1995 and periodic supplements) Current Protocols in Molecular Biology, Ch. 9, 13, and 16, John Wiley & Sons, New York, NY; B. Roe, J. Crabtree, and A. Kahn (1996) DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques, John Wiley & Sons; J. M. Polak and James O'D. McGee (1990) In Situ Hybridization: Principles and Practice; Oxford University Press; M. J. Gait (ed.) (1984) Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press;およびD. M. J. Lilley and J. E. Dahlberg (1992) Methods of Enzymology: DNA Structure Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology, Academic Press.を参照されたい。これらの一般的な文献のそれぞれは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0321】
特に定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解しているのと同じ意味を有する。
【0322】
「タンパク質」という用語は、本明細書で使用される場合、タンパク質、ポリペプチド、およびペプチドを含む。本明細書で使用される場合、「タンパク質」という用語は、一本鎖ポリペプチド分子のほかに、個々の構成ポリペプチドが共有結合的または非共有結合的な手段によって連結されている複数のポリペプチド複合体を含む。本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」および「ペプチド」という用語は、単量体がアミノ酸であり、ペプチド結合またはジスルフィド結合を介して接続されている重合体を指す。
【0323】
本明細書で使用される場合、「アミノ酸配列」という用語は、「ポリペプチド」および/または「タンパク質」という用語と同義である。場合によっては、「アミノ酸配列」という用語は、「ペプチド」という用語と同義である。場合によっては、「アミノ酸配列」という用語は、「酵素」という用語と同義である。
【0324】
本明細書に記載される方法、システムおよび使用は、明記されたPKCアクチベーター、またはその類似体、誘導体もしくは薬学的な塩のうちの1つを含み得る。また、本明細書に記載される方法、システムおよび使用は、明記されたHDAC阻害剤、またはその類似体、誘導体もしくは薬学的な塩のうちの1つも含み得る。
【0325】
「類似体」という用語は、構造類似体を含む。本明細書で使用される場合、「構造類似体」という用語は、明記された化合物と共通の構造的特徴を有するが、他の点で、例えば、1つまたは複数の他の化学的部分の包含または削除の点で構造的に異なる化合物を意味する。
【0326】
「誘導体」という用語は、その生物活性に影響を及ぼさない様式で変更された分子を意味し得る。誘導体は、親分子の機能的誘導体または生物学的効果のある類似体であり得る。
【0327】
「薬学的に許容される塩」という用語は、本明細書に記載される化合物に見出される特定の置換基に応じた、比較的毒性のない酸または塩基と共に調製される活性化合物の塩を含むことを意味する。本発明の化合物が比較的酸性の官能基を含有する場合、そのような化合物の中性形態を、溶媒なしで、または好適な不活性溶媒中で、十分な量の所望の塩基と接触させることにより、塩基付加塩を得ることができる。薬学的に許容される塩基付加塩の例としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、有機アミノ、もしくはマグネシウム塩、または類似の塩が含まれる。本発明の化合物が比較的塩基性の官能基を含有する場合、そのような化合物の中性形態を、溶媒なしで、または好適な不活性溶媒中で、十分な量の所望の酸と接触させることによって酸付加塩を得ることができる。薬学的に許容される酸付加塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、炭酸、一水素炭酸、リン酸、リン酸一水素、リン酸二水素、硫酸、硫酸水素、ヨウ化水素酸、または亜リン酸などのような無機酸から誘導される塩、ならびに酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、マレイン酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、フマル酸、乳酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p-トリルスルホン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸などのような比較的毒性のない有機酸から誘導される塩が含まれる。また、アルギン酸などのようなアミノ酸の塩、およびグルクロン酸またはガラクツノール酸などのような有機酸の塩も含まれる(例えば、Berge et al., "Pharmaceutical Salts", Journal of Pharmaceutical Science, 1977, 66, 1-19を参照のこと)。本発明のある特定の化合物は、塩基性および酸性の両方の官能基を含有し、塩基付加塩および酸付加塩のいずれにも変換することができる。
【0328】
ベクター/発現カセット
ベクターは、1つの環境から別の環境への実体の移行を可能にするか、または促進するツールである。本発明に従い、および例示の目的で、組換え核酸技術において使用されるいくつかのベクターは、実体、例えば、核酸のセグメント(例えば、異種DNAセグメント、例えば、異種cDNAセグメント)が、標的細胞に移行して標的細胞によって発現されるのを可能にする。ベクターは、標的細胞内のヌクレオチド配列の組込みを促進し得る。例えば、ベクターは、本明細書に記載される改変U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列の組込みを促進することにより、本発明の改変U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列および標的細胞内でのその発現を維持することができる。
【0329】
ベクターは、1つまたは複数の選択マーカー遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子)および/または追跡可能なマーカー遺伝子[例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子]を含有し得る。ベクターは、例えば、標的細胞に感染させ、および/または形質導入するために使用され得る。ベクターはさらに、ベクターが当該宿主細胞内で複製することを可能にするヌクレオチド配列を含み得る。
【0330】
ベクターは、発現カセット(発現コンストラクトとも称される)である場合もあれば、発現カセットを含む場合もある。本明細書に記載される発現カセットは、転写され得る配列を含有する核酸の領域を含む。したがって、mRNA、tRNA、rRNAをコードする配列はこの定義に含まれる。
【0331】
「カセット」という用語は、「コンジュゲート」、「コンストラクト」、「ハイブリッド」などの用語と同義であり、プロモーターに直接的または間接的に結び付けられたポリヌクレオチド配列を含む。
【0332】
発現カセットは、典型的には、コードされるヌクレオチド配列の発現のためのプロモーター、および適宜、コードされるヌクレオチド配列の調節因子を含む。例えば、ウイルスベクター構成要素をコードする発現カセットは、典型的には、ウイルスベクター構成要素をコードするヌクレオチド配列の発現のためのプロモーター、および適宜、ウイルスベクター構成要素をコードするヌクレオチド配列の調節因子を含む。好ましくは、カセットは、プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列を少なくとも含む。
【0333】
本明細書に記載される改変U1 snRNAを含む方法、システムまたは使用の文脈において、発現カセットを使用して、改変U1 snRNAを宿主細胞に提供することができる。例えば、発現カセットは、改変U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列の発現のためのプロモーター、および適宜、改変U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列の調節因子を含み得る。発現カセットは、改変U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列を、適合する標的細胞においてインビトロで複製するために使用することができる。したがって、改変U1 snRNAをコードする発現カセットを適合する標的細胞にインビトロで導入し、改変U1 snRNAの発現がもたらされる条件下で標的細胞を増殖させることによって、改変U1 snRNAをインビトロで作成することができる。従来の分子生物学および細胞生物学の手法を使用して本発明の発現カセットを細胞に導入することは、当業者の能力の範囲内にある。改変U1 snRNAは、当業者に周知の方法によって標的細胞から回収することができる。好適な標的細胞には、哺乳動物細胞株および他の真核細胞株が含まれる。
【0334】
発現カセット、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルスまたはファージベクターの選択は、多くの場合、それが導入される宿主細胞に依存する。発現カセットは、DNAプラスミド(高次コイル状、ニック入り、直鎖状化)、小環状DNA(直鎖状または高次コイル状)、制限酵素消化および精製によるプラスミド骨格の除去によって目的の領域のみを含有するプラスミドDNA、使用される最終的なDNAが閉じた連結形態であるかまたはそれが開放切断端を有するように調製されている(例えば、制限酵素消化)、酵素的DNA増幅プラットフォーム、例えば、ドギーボーン(doggybone)DNA[dbDNA(商標)]を使用して生成されたDNAであり得る。
【0335】
本明細書に記載される方法、ウイルスベクター産生システム、および使用は、ウイルスベクターの産生のためのものである。当業者には明らかであろうが、いかなる好適なウイルスベクターも、本明細書に記載される方法、ウイルスベクター産生システムおよび使用によって産生することができる。例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクターおよびワクシニアウイルスベクターからなる群から、好適なウイルスベクターを選択することができる。一例では、ウイルスベクターは自己不活性化(SIN)ウイルスベクターである。
【0336】
アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスベクター
アデノウイルスを、本明細書に記載される方法を使用して検出することもできる。アデノウイルスは二本鎖の直鎖状DNAウイルスであり、RNA中間体を介しては複製されない。アデノウイルスには50種を上回る異なるヒト血清型が存在し、その遺伝子配列に基づいて6つのサブグループに分けられる。
【0337】
アデノウイルスは、二本鎖DNA非エンベロープウイルスであり、ヒト由来および非ヒト由来の広範な細胞型にインビボ、エクスビボおよびインビトロで形質導入を行うことができる。これらの細胞には、呼吸気道上皮細胞、肝細胞、筋細胞、心筋細胞、滑膜細胞、初代乳腺上皮細胞、および有糸分裂後終末分化細胞、例えば、ニューロンが含まれる。
【0338】
アデノウイルスベクターは、非分裂細胞にも形質導入が可能である。これは、肺上皮内の罹患細胞の代謝回転速度が遅い疾患、例えば、嚢胞性線維症では非常に重要である。実際に、罹患した成人嚢胞性線維症患者の肺内への嚢胞性線維症トランスポーター(CFTR)のアデノウイルス媒介性移入を利用するいくつかの試験が進行中である。
【0339】
アデノウイルスは、遺伝子治療および異種遺伝子発現用のベクターとして使用されている。大きな(36kb)ゲノムには最大8kbの外来インサートDNAを収容することができ、補完細胞株において効率的に複製されて、1mlあたり最大1012形質導入単位という非常に高いタイターを生じ得る。このため、アデノウイルスは、初代非複製細胞における遺伝子の発現を研究するための最良の系の1つである。
【0340】
アデノウイルスゲノムからのウイルス遺伝子または外来遺伝子の発現は、複製細胞を必要としない。アデノウイルスベクターは受容体媒介性エンドサイトーシスによって細胞内に侵入する。ひとたび細胞内に入ったとして、アデノウイルスベクターが宿主染色体に組み込まれることは稀である。アデノウイルスベクターは実際には、宿主核内で線状ゲノムとしてエピソーム性に(宿主ゲノムとは独立して)機能する。
【0341】
遺伝子治療のための組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)およびアデノウイルスに基づくウイルスベクターの使用は広く普及しており、その製造については十分に記載されてきた。典型的には、AAVに基づくベクターは、哺乳動物細胞株(例えば、HEK293に基づく)またはバキュロウイルス/Sf9昆虫細胞系の使用を通じて産生される。AAVベクターは、DNAをコードするベクター構成要素を、典型的にはアデノウイルスもしくは単純ヘルペスウイルス(HSV)由来のヘルパー機能と共に一過性に導入することによって、またはAAVベクター構成要素を安定して発現する細胞株を使用することによって産生することができる。アデノウイルスベクターは、典型的には、アデノウイルスE1の機能を安定して発現する哺乳動物細胞株(例えば、HEK293に基づく)において産生される。
【0342】
アデノウイルスベクターはまた、典型的には、産生細胞株を使用する一連の「感染」によるヘルパー機能依存的複製を介しても「増幅」される。アデノウイルスベクターおよびその産生システムは、アデノウイルスゲノムの全体または一部を含むポリヌクレオチドを含む。アデノウイルスは、限定するものではないが、Ad2、Ad5、Ad12、Ad40に由来するアデノウイルスであることが知られている。アデノウイルスベクターは、典型的には、アデノウイルスの外被に封入されたDNA、または別のウイルスもしくはウイルス様の形態(例えば、単純ヘルペス、AAV)にパッケージングされたアデノウイルスDNAの形態にある。
【0343】
AAVベクターは、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7およびAAV-8を含むがこれらに限定されないアデノ随伴ウイルス血清型に由来するベクターであると一般に理解されている。AAVベクターは、1つまたは複数のAAV野生型遺伝子、好ましくはrepおよび/またはcap遺伝子について全体または一部が欠失し得るが、機能的な隣接ITR配列は保持し得る。機能的ITR配列は、AAVビリオンのレスキュー、複製およびパッケージングに必要である。したがって、AAVベクターは、本明細書において、ウイルスの複製およびパッケージングのためにシス性(in cis)であることが必要とされる配列(例えば、機能的ITR)を少なくとも含むと定義される。ITRは野生型ヌクレオチド配列である必要はなく、配列が機能的レスキュー、複製およびパッケージングを提供する限り、例えば、ヌクレオチドの挿入、欠失または置換によって変更され得る。「AAVベクター」はまた、そのタンパク質シェルまたはカプシドも指し、ベクター核酸を標的細胞の核にデリバリーするための効率的なビヒクルとなる。AAV産生システムはヘルパー機能を必要とするが、これは典型的にはAAV由来のコード配列を指し、発現されてAAV遺伝子産物をもたらし、それは続いて生産的なAAV複製のためにトランス性に機能することができる。そのため、AAVヘルパーの機能には、主要なAAVオープンリーディングフレーム(ORF)であるrepおよびcapの両方が含まれる。Rep発現産物は多くの機能を有することが示されており、これには特に、DNA複製のAAV起点の認識、結合およびニッキング;DNAヘリカーゼ活性;ならびにAAV(または他の異種)プロモーターからの転写の調節が含まれる。Cap発現産物は、必要なパッケージング機能を供給する。AAVヘルパー機能は、本明細書において、AAVベクターに欠けているトランス性のAAV機能を補完するために使用される。AAVヘルパーコンストラクトは一般に、目的のヌクレオチド配列のデリバリーのための形質導入ベクターを生成するために使用されるAAVベクターから削除されたAAV機能を提供するヌクレオチド配列を含む核酸分子を指すと理解されている。AAVヘルパーコンストラクトは、AAV複製のために必要な欠けているAAV機能を補完する目的で、AAV repおよび/またはcap遺伝子の一過性の発現を提供するために一般に使用される;しかし、ヘルパーコンストラクトはAAV ITRを欠いており、複製することも自らをパッケージングすることもできない。AAVヘルパーコンストラクトは、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、ウイルス、またはウイルス粒子の形態であり得る。RepおよびCap発現産物の両方をコードする一般に使用されるプラスミドであるpAAV/AdおよびplM29+45などの、いくつかのAAVヘルパーコンストラクトが記載されている。例えば、Samulski et al. (1989) J. Virol. 63:3822-3828;およびMcCarty et al. (1991) J. Virol. 65:2936-2945を参照。RepおよびCap発現産物をコードするベクターは他にもいくつか記載されている。例えば、米国特許第5,139,941号および同第6,376,237号を参照のこと。加えて、「アクセサリー機能」という用語が、AAVがその複製に依存している非AAV由来のウイルスおよび/または細胞機能を指すことはよく知られている。したがって、この用語はAAV複製に必要なタンパク質およびRNAをとらえており、これにはAAV遺伝子転写の活性化、ステージ特異的AAV mRNAスプライシング、AAV DNA複製、Cap発現産物の合成およびAAVカプシドのアセンブリーに関与する部分が含まれる。ウイルスに基づくアクセサリー機能は、アデノウイルス、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス1型以外)およびワクシニアウイルスなどの既知のヘルパーウイルスのいずれかから導き出すことができる。
【0344】
単純ヘルペスウイルスベクター
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、エンベロープを有する二本鎖DNAウイルスであり、自然にニューロンに感染する。これは外来性DNAの大きな断片を収容し得るため、ベクターシステムとして魅力的であり、ニューロンへの遺伝子デリバリー用のベクターとして利用されている[Manservigiet et al Open Virol J. (2010) 4:123-156]。
【0345】
治療手技におけるHSVの使用には、株が溶解サイクルを確立し得ないように弱毒化する必要がある。特に、HSVベクターをヒトの遺伝子治療に使用する場合には、好ましくは、ポリヌクレオチドは必須遺伝子に挿入されるべきである。これは、ウイルスベクターが野生型ウイルスに遭遇すると、野生型ウイルスへの異種遺伝子の移入が組換えによって起こり得るためである。しかし、ポリヌクレオチドが必須遺伝子に挿入されている限り、この組換え移入はレシピエントウイルスの必須遺伝子をも欠失させるため、複製能力のある野生型ウイルス集団への異種遺伝子の「逸脱」は防がれることになる。
【0346】
ワクシニアウイルスベクター
本明細書に記載される方法を使用することで、複製能力のあるワクシニアウイルスの存在を検出することもできる。ワクシニアウイルスベクターには、MVAまたはNYVACが含まれる。ワクシニアベクターの代替物には、トリポックスベクター、例えば、ALVACとして知られる鶏痘またはカナリア痘、およびそれらに由来する株であって、ヒト細胞に感染し、ヒト細胞において組換えタンパク質を発現するが、複製不能であるものが含まれる。
【0347】
別の例では、ウイルスベクターは、レトロウイルスベクターであり、好ましくは、レトロウイルスベクターはレンチウイルスベクター(例えば、SINレンチウイルスベクター)である。これらのウイルスのさらなる詳細は、本明細書中の他の箇所に提示されている。好適なレンチウイルスベクターは、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVおよびビスナレンチウイルスベクターからなる群から選択され得る。例えば、レンチウイルスベクターは、HIV(例えば、HIV-1、HIV-2)またはEIAVレンチウイルスベクターから選択され得る。
【0348】
レトロウイルスベクター
レトロウイルスベクターは、任意の好適なレトロウイルスに由来し得るか、または導き出すことができる。多数の異なるレトロウイルスが同定されている。その例としては、マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、藤波肉腫ウイルス(FuSV)、モロニーマウス白血病ウイルス(Mo MLV)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR MSV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(Mo-MSV)、アベルソンマウス白血病ウイルス(A-MLV)、トリ骨髄球腫症ウイルス29(MC29)、およびトリ赤芽球症ウイルス(AEV)が含まれる。レトロウイルスの詳細な一覧は、Coffin et al. (1997) "Retroviruses", Cold Spring Harbour Laboratory Press Eds: JM Coffin, SM Hughes, HE Varmus pp 758-763に見出し得る。
【0349】
レトロウイルスは、2つのカテゴリー、すなわち、「単純型」および「複合型」に大きく分けることができる。レトロウイルスはさらに7つの群に分けることができる。これらの群のうちの5つは、発がん能を有するレトロウイルスに相当する。残りの2つの群はレンチウイルスおよびスプーマウイルスである。これらのレトロウイルスの概説は、Coffin et al (1997)、前掲に記載されている。
【0350】
レトロウイルスおよびレンチウイルスのゲノムの基本構造は、5’LTRおよび3’LTRのような多くの共通の特徴を有しており、それらの間または内部には、ゲノムがパッケージングされることを可能にするパッケージングシグナル、プライマー結合部位、標的細胞ゲノムへの組込みを可能にする組込み部位、ならびにウイルス粒子のアセンブリーに必要なポリペプチドであるパッケージング構成要素をコードするgag/polおよびenv遺伝子が位置する。レンチウイルスには、HIVのrev遺伝子およびRRE配列などのさらなる特徴があり、これらは組み込まれたプロウイルスのRNA転写産物を、感染された標的細胞の核から細胞質へと効率的に輸出することを可能にする。
【0351】
プロウイルスでは、これらの遺伝子は両端で、長末端反復(LTR)と称される領域に隣接している。LTRはプロウイルスの組込みおよび転写を担っている。LTRはまた、エンハンサー-プロモーター配列としても働き、ウイルス遺伝子の発現を制御することができる。
【0352】
LTRそれ自体は、U3、R、U5と呼ばれる3つの要素に分けることができる同一の配列である。U3はRNAの3’末端に固有の配列に由来する。RはRNAの両端で繰り返される配列に由来し、U5はRNAの5’末端に固有の配列に由来する。これら3つのエレメントのサイズは、レトロウイルスによってかなり違いがある。
【0353】
典型的なレトロウイルスベクターでは、複製に必須の1つまたは複数のタンパク質コード領域の少なくとも一部がウイルスから除去され得る;例えば、gag/polおよびenvが存在しないこと、または機能的でないことがあり得る。このため、ウイルスベクターは複製欠損性になる。
【0354】
レンチウイルスベクター
レンチウイルスは、より大きなレトロウイルス群の一部である。レンチウイルスの詳細な一覧は、Coffin et al (1997) "Retroviruses" Cold Spring Harbour Laboratory Press Eds: JM Coffin, SM Hughes, HE Varmus pp 758-763)に記載されている。手短に述べると、レンチウイルスは霊長類群および非霊長類群に分類され得る。霊長類レンチウイルスの例としては、ヒト自己免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が含まれるが、これらには限定されない。非霊長類レンチウイルス群には、プロトタイプ「スローウイルス」であるビスナ/マエディウイルス(VMV)のほか、関連するヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、マエディビスナウイルス(MVV)およびウシ免疫不全ウイルス(BIV)が含まれる。
【0355】
レンチウイルス科は、レンチウイルスが分裂細胞および非分裂細胞の両方に感染する能力を有する点で、レトロウイルスとは異なる[Lewis et al (1992) EMBO J 11(8):3053-3058、およびLewis and Emerman (1994) J Virol 68 (1):510-516]。対照的に、MLVなどの他のレトロウイルスは、非分裂細胞、または遅く分裂する細胞、例えば、筋肉、脳、肺および肝組織を構成する細胞には感染することができない。
【0356】
レンチウイルスベクターは、本明細書で使用される場合、レンチウイルスに由来し得る少なくとも1つの構成要素部分を含むベクターである。好ましくは、その構成要素部分は、ベクターが標的細胞に感染するかまたは形質導入して、NOIを発現する生物学的メカニズムに関与する。
【0357】
レンチウイルスベクターは、適合する標的細胞においてインビトロでNOIを複製させるために使用される。したがって、適合する標的細胞にインビトロで本発明のベクターを導入し、NOIの発現をもたらす条件下で標的細胞を増殖させることによって、インビトロでタンパク質を作成する方法が、本明細書に記載される。タンパク質およびNOIは、当技術分野で周知の方法によって標的細胞から回収し得る。好適な標的細胞には、哺乳動物細胞株および他の真核細胞株が含まれ、それらは本明細書中の他の箇所に記載されている。
【0358】
ベクターは、プロモーターとエンハンサーとの間の相互作用を遮断し、隣接する遺伝子からのリードスルーを減少させる障壁として機能する遺伝子配列である「インスレーター」を有し得る。インスレーターは、プロモーターの干渉、および隣接する遺伝子からのリードスルーを防ぐために、1つまたは複数のレンチウイルス核酸配列の間に存在し得る。インスレーターが1つまたは複数のレンチウイルス核酸配列の間のベクター中に存在する場合、これらの絶縁された遺伝子のそれぞれは個々の発現単位として配置され得る。
【0359】
レトロウイルスおよびレンチウイルスのゲノムの基本構造は、5’LTRおよび3’LTRのような多くの共通の特徴を有しており、それらの間または内部には、ゲノムがパッケージングされることを可能にするパッケージングシグナル、プライマー結合部位、標的細胞ゲノムへの組込みを可能にする組込み部位、ならびにウイルス粒子のアセンブリーに必要なポリペプチドであるパッケージング構成要素をコードするgag/polおよびenv遺伝子が位置する。レンチウイルスには、HIVのrev遺伝子およびRRE配列などのさらなる特徴があり、これらは組み込まれたプロウイルスのRNA転写産物を、感染された標的細胞の核から細胞質へと効率的に輸出することを可能にする。
【0360】
プロウイルスでは、これらの遺伝子は両端で、長末端反復(LTR)と称される領域に隣接している。LTRはプロウイルスの組込みおよび転写を担っている。LTRはまた、エンハンサー-プロモーター配列としても働き、ウイルス遺伝子の発現を制御することができる。
【0361】
LTRそれ自体は、U3、R、U5と呼ばれる3つの要素に分けることができる同一の配列である。U3はRNAの3’末端に固有の配列に由来する。RはRNAの両端で繰り返される配列に由来し、U5はRNAの5’末端に固有の配列に由来する。これら3つのエレメントのサイズは、レトロウイルスによってかなり違いがある。
【0362】
本明細書に記載される典型的なレンチウイルスベクターでは、複製に必須の1つまたは複数のタンパク質コード領域の少なくとも一部がウイルスから除去され得る;例えば、gag/polおよびenvが存在しないこと、または機能的でないことがあり得る。このため、ウイルスベクターは複製欠損性になる。
【0363】
レンチウイルスベクターは、霊長類レンチウイルス(例えば、HIV-1)または非霊長類レンチウイルス(例えば、EIAV)のいずれかに由来し得る。
【0364】
一般論として、典型的なレトロウイルスベクター産生システムは、ウイルスゲノムを必須のウイルスパッケージ機能から分離することを伴う。これらの構成要素は通常、別々のDNA発現カセット(別名プラスミド、発現プラスミド、DNAコンストラクトまたは発現コンストラクトとしても知られる)上にある形で産生細胞に提供される。
【0365】
ベクターゲノムはNOIを含む。ベクターゲノムは典型的には、パッケージングシグナル(ψ)、NOIを保持する内部発現カセット、(適宜)転写後エレメント(PRE)、典型的には中央ポリプリントラクト(cppt)、3’-ppu、および自己不活性化(SIN)LTRを必要とする。R-U5領域は、ベクターゲノムRNAおよびNOI mRNAの両方の適切なポリアデニル化、ならびに逆転写の過程のために必要である。ベクターゲノムには、WO2003/064665に記載されているように、適宜、オープンリーディングフレームを含めることができ、これによりrevの非存在下でもベクターの産生が可能になる。
【0366】
パッケージング機能には、gag/polおよびenv遺伝子が含まれる。これらは産生細胞によるベクター粒子の産生のために必要である。これらの機能をトランス性にゲノムに提供することにより、複製欠損ウイルスベクターの産生が促進される。
【0367】
ガンマ-レトロウイルスベクターの産生システムは、典型的には、ゲノム、gag/polおよびenv発現コンストラクトを必要とする3構成要素系である。HIV-1に基づくレンチウイルスベクターの産生システムでは、さらに補助遺伝子revが提供されることと、ベクターゲノムにrev応答エレメント(RRE)が含まれることが必要になり得る。EIAVに基づくレンチウイルスベクターは、ゲノム内にオープンリーディングフレーム(ORF)が存在する場合には、revがトランス性に提供される必要はない(WO2003/064665を参照されたい)。
【0368】
通常、ベクターゲノムカセット内にコードされる「外部」プロモーター(ベクターゲノムカセットを駆動する)および「内部」プロモーター(NOIカセットを駆動する)の両方は、他のベクターシステム構成要素を駆動するものと同様に、強力な真核生物またはウイルスプロモーターである。そのようなプロモーターの例としては、CMV、EF1α、PGK、CAG、TK、SV40、およびユビキチンプロモーターが含まれる。DNAライブラリーによって作製されるような強力な「合成」プロモーター(例えば、Jetプロモーター)も、転写を駆動するために使用され得る。代替的に、組織特異的プロモーター、例えば、ロドプシン(Rho)、ロドプシンキナーゼ(RhoK)、錐体-桿体ホメオボックス含有遺伝子(CRX)、神経網膜特異的ロイシンジッパータンパク質(NRL)、卵黄様黄斑ジストロフィー2(VMD2)、チロシンヒドロキシラーゼ、神経特異的神経特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、アストロサイト特異的グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーター、ヒトα1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーター、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)、肝脂肪酸結合タンパク質プロモーター、Flt-1プロモーター、INF-βプロモーター、Mbプロモーター、SP-Bプロモーター、SYN1プロモーター、WASPプロモーター、SV40/hAlbプロモーター、SV40/CD43、SV40/CD45、NSE/RU5’プロモーター、ICAM-2プロモーター、GPIIbプロモーター、GFAPプロモーター、フィブロネクチンプロモーター、エンドグリンプロモーター、エラスターゼ-1プロモーター、デスミンプロモーター、CD68プロモーター、CD14プロモーター、およびB29プロモーターも、転写を駆動するために使用され得る。
【0369】
ウイルスベクターの産生は、これらのDNA構成要素による産生細胞の一過性のコトランスフェクションか、またはすべての構成要素が産生細胞ゲノムに安定に組み込まれた安定した産生細胞株の使用のいずれかを伴う[例えば、Stewart HJ, Fong-Wong L, Strickland I, Chipchase D, Kelleher M, Stevenson L, Thoree V, McCarthy J, Ralph GS, Mitrophanous KA and Radcliffe PA. (2011). Hum Gene Ther. Mar; 22 (3):357-69]。代替的なアプローチは、安定したパッケージング細胞(その中にパッケージング構成要素が安定に組み込まれている)を使用し、および次いで、ベクターゲノムプラスミドにおける一過性トランスフェクションを必要に応じて行うことである[例えば、Stewart, H. J., M. A. Leroux-Carlucci, C. J. Sion, K. A. Mitrophanous and P. A. Radcliffe (2009). Gene Ther. Jun; 16 (6):805-14]。また、完全ではない代替的なパッケージング細胞株を作製し(1つまたは2つのパッケージング構成要素のみが細胞株に安定に組み込まれている)、ベクターを作製するために欠けている構成要素を一過性にトランスフェクトすることも可能である。産生細胞はまた、調節タンパク質、例えば、転写調節因子のtetリプレッサー(TetR)タンパク質グループのメンバー(例えば、T-Rex、Tet-OnおよびTet-Off)、転写調節因子のクマート誘導性スイッチシステムグループのメンバー[例えば、クマートリプレッサー(CymR)タンパク質]、またはRNA結合タンパク質(例えば、TRAP-トリプトファン活性化RNA結合タンパク質)も発現しうる。
【0370】
一例では、ウイルスベクターはEIAVに由来する。EIAVはレンチウイルスの最も単純なゲノム構造を有し、本発明における使用に特に好ましい。EIAVは、gag/polおよびenv遺伝子に加えて、他の3つの遺伝子、すなわち、tat、revおよびS2をコードする。tatはウイルスLTRの転写アクチベーターとして作用し[Derse and Newbold (1993) Virology 194(2):530-536 and Maury et al (1994) Virology 200(2):632-642]、revはrev応答エレメント(RRE)を介してウイルス遺伝子の発現を調節し、協調させる[Martarano et al. (1994) J Virol 68(5):3102-3111]。これらの2つのタンパク質の作用機序は、霊長類ウイルスにおける同様のメカニズムに広く類似すると考えられている[Martarano et al. (1994) J Virol 68(5):3102-3111]。S2の機能は不明である。また、EIAVタンパク質の1つであるTtmが同定されており、これは膜貫通タンパク質の開始部位でenvコード配列へとスプライシングされるtatの第1エキソンによりコードされる。本発明の代替的な一実施形態では、ウイルスベクターはHIVに由来する。HIVがEIAVと異なるのは、それはS2をコードしないが、EIAVとは違って、それがvif、vpr、vpuおよびnefをコードする点である。
【0371】
「組換えレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクター」(RRV)という用語は、標的細胞に形質導入しうるウイルス粒子内へのRNAゲノムのパッケージングを、パッケージング構成要素の存在下で可能にするのに十分なレトロウイルス遺伝情報を有するベクターを指す。
【0372】
標的細胞の形質導入は、逆転写および標的細胞ゲノムへの組込みを含み得る。RRVは、ベクターによって標的細胞に送達しようとする非ウイルス性コード配列を保有する。RRVは、標的細胞内で感染性レトロウイルス粒子を産生する独立した複製の能力を持たない。通常、RRVは機能的gag/polおよび/もしくはenv遺伝子、ならびに/または複製に必須の他の遺伝子を欠く。
【0373】
好ましくは、本発明のRRVベクターは最小ウイルスゲノムを有する。
【0374】
本明細書で使用される場合、「最小ウイルスゲノム」という用語は、標的細胞に感染して、NOIの形質導入および送達を行うために必要な機能性を与えるのに必須のエレメントを保有する一方で、非必須エレメントが除去されるようにウイルスベクターが操作されていることを意味する。この戦略のさらなる詳細は、WO1998/17815およびWO99/32646に見出すことができる。最小EIAVベクターは、tat、revおよびS2遺伝子を欠き、これらの遺伝子はいずれも産生システムにおいてトランス性に提供されない。最小HIVベクターは、vif、vpr、vpu、tatおよびnefを欠く。
【0375】
産生細胞内でベクターゲノムを産生させるために使用される発現カセットは、産生細胞/パッケージング細胞におけるゲノムの転写を導くためにレトロウイルスゲノムに作動可能に連結された転写調節制御配列を含み得る。産生細胞内でベクターゲノムを産生させるために使用される発現プラスミドは、産生細胞/パッケージング細胞におけるゲノムの転写を導くためにレトロウイルスゲノムに作動可能に連結された転写調節制御配列を含み得る。すべての第3世代レンチウイルスベクターは、5’U3エンハンサー-プロモーター領域において欠失を有し、ベクターゲノムRNAの転写は、異種プロモーター、例えば、別のウイルスプロモーター、例えば、以下に考察されるCMVプロモーターによって駆動され得る。この特徴は、tatに非依存的なベクター産生を可能にする。いくつかのレンチウイルスベクターゲノムは、効率的なウイルス産生のための追加の配列を要する。例えば、特にHIVの場合には、RRE配列が含まれ得る。しかし、(別々の)GagPolカセット上のRREの必要性(およびトランス性に提供されるrevに対する依存性)は、GagPol ORFのコドン最適化によって低減または排除され得る。この戦略のさらなる詳細は、WO2001/79518に見出され得る。
【0376】
rev/RRE系と同じ機能を果たす代替的な配列も公知である。例えば、rev/RRE系の機能的類似体が、マソン・ファイザー(Mason Pfizer)サルウイルスにおいて見出される。これは恒常的な輸送エレメント(CTE)として公知であり、感染細胞内の因子と相互作用すると考えられているRRE型配列をゲノム内に含む。この細胞因子はrev類似体と考え得る。したがって、CTEを、rev/RRE系の代替物として使用し得る。公知であるかまたは利用可能となるRevタンパク質の他のあらゆる機能的等価物が、本発明に妥当であり得る。例えば、HTLV-IのRexタンパク質はHIV-1のRevタンパク質に機能的に置き換わり得ることも公知である。RevおよびRREは、本発明の方法における使用のためのベクターにおいて存在しないかまたは非機能的であることがあり得、代替的にrevおよびRRE、または機能的に等価な系が存在し得る。
【0377】
本明細書で使用される場合、「機能的代替物」という用語は、別のタンパク質または配列と同じ機能を果たす代替的な配列を有するタンパク質または配列を意味する。「機能的代替物」という用語は、同じ意味を有する「機能的等価物」および「機能的類似体」と本明細書において互換的に使用される。
【0378】
SINベクター
本明細書に記載されるレンチウイルスベクターは、ウイルスエンハンサーおよびプロモーター配列が欠失している自己不活性化(SIN)構成に使用され得る。例えば、本明細書に記載されるレンチウイルスベクターを、SIN構成に使用することができる。SINベクターを作製して、非SINベクターのものに類似した有効性で、インビボ、エクスビボまたはインビトロで非分裂性の標的細胞に形質導入することができる。SINプロウイルスにおける長末端反復(LTR)の転写不活性化はvRNAの動員を妨げるはずであり、これは複製可能ウイルスが形成される可能性をさらに減じさせる特徴である。これはまた、LTRのシス作用性効果を排除することにより、内部プロモーターからの遺伝子の調節発現をも可能にするはずである。
【0379】
一例として、自己不活性化レトロウイルスベクターシステムが、3’LTRのU3領域内の転写エンハンサーまたはエンハンサーおよびプロモーターを欠失させることによって構築されている。ベクターの逆転写および組込みを1回行った後に、これらの変化が5’および3’LTRの両方にコピーされて、転写的に不活性な「プロウイルス」が生成される。しかし、そのようなベクターにおいてLTRに対して内部にある任意のプロモーターは依然として転写活性を有すると考えられる。この戦略は、内部に位置する遺伝子からの転写に対するウイルスLTRにおけるエンハンサーおよびプロモーターの効果を排除するために利用されている。そのような効果には、転写の増大または転写の抑制が含まれる。また、この戦略は、3’LTRからゲノムDNA内への下流転写を排除するためにも使用し得る。これは、あらゆる内因性がん遺伝子の偶発的活性化を防止することが重要であるヒト遺伝子治療において特に関心が持たれる。Yu et al., (1986) PNAS 83: 3194-98; Marty et al., (1990) Biochimie 72: 885-7; Naviaux et al., (1996) J. Virol. 70: 5701-5; Iwakuma et al., (1999) Virol. 261: 120-32; Deglon et al., (2000) Human Gene Therapy 11: 179-90。SINレンチウイルスベクターは、米国特許第6,924,123号および同第7,056,699号に記載されている。
【0380】
複製欠損レンチウイルスベクター
複製欠損レンチウイルスベクターのゲノムにおいて、gag/polおよび/またはenvの配列が突然変異している、および/または機能的でないことが可能である。
【0381】
本明細書に記載される典型的なレンチウイルスベクターでは、ウイルス複製に必須のタンパク質に関する1つまたは複数のコード領域の少なくとも一部がベクターから除去され得る。これにより、ウイルスベクターは複製欠損になる。また、非分裂標的細胞に形質導入を行うことができ、および/またはそのゲノムを標的細胞ゲノム内に組み込むことができるNOIを含むベクターを作製する目的で、ウイルスゲノムの部分をNOIによって置き換えることもできる。
【0382】
一例では、ウイルスベクターは、WO2006/010834およびWO2007/071994に記載されている非組込み性ベクターである。
【0383】
さらなる一例では、ベクターは、ウイルスRNAが全くないかまたは欠いている配列を送達する能力を有する。さらなる一例では、送達しようとするRNAのパッケージングを確実に行うために、GagまたはGag Pol上のコグネイト結合ドメインを使用することができる。これらのベクターは両方ともWO2007/072056に記載されている。
【0384】
ベクター産生システムおよび細胞
本明細書に記載されるウイルスベクター産生システムは、ウイルスベクターの産生に必要な構成要素をコードするヌクレオチド配列のセットを含む。したがって、ベクター産生システムは、ウイルスベクター粒子を生成するために必要な構成要素をコードするヌクレオチド配列のセットを含む。典型的には、ヌクレオチド配列のセットは細胞内に存在する。
【0385】
「ウイルスベクター産生システム」または「ベクター産生システム」または「産生システム」は、ウイルスベクター産生のための必要な構成要素を含むシステムであると解釈される。「ベクターの産生のために必要な構成要素」と「ウイルスベクター構成要素」という用語は、本明細書中で互換的に使用される。ウイルスベクター産生システムは、ウイルスベクター粒子を生成するために必要な構成要素をコードするヌクレオチド配列のセットを含む。
【0386】
本明細書に記載されるウイルスベクター産生システムの非限定的な例は、レンチウイルスベクター産生システムである。本発明のレンチウイルスベクター産生システムは、レンチウイルスベクターの産生に必要な構成要素をコードするヌクレオチド配列のセットを含む。したがって、レンチウイルスベクター産生システムは、レンチウイルスベクター粒子を生成するために必要な構成要素をコードするヌクレオチド配列のセットを含む。前述の通り、ヌクレオチド配列のセットは典型的には細胞内に存在する。
【0387】
一例では、ヌクレオチド配列のセットはベクター産生のためのtat非依存システムにおけるレンチウイルスベクターの生成に好適であり得る。本明細書に記載されるように、第3世代レンチウイルスベクターはU3依存性である(そして転写を駆動する異種プロモーターを利用する)。一例では、tatはレンチウイルスベクター産生システムに提供されず、例えば、tatはトランス性に提供されない。したがって、一態様では、本明細書に記載されるウイルスベクター産生システムは、tatタンパク質を含まない。
【0388】
一例では、ヌクレオチド配列のセットは、GagおよびGag/Polタンパク質をコードするヌクレオチド配列、ならびにEnvタンパク質およびベクターゲノム配列を含み得る。ヌクレオチド配列のセットは、Revタンパク質をコードするヌクレオチド配列、またはその機能的代替物を含んでもよい。
【0389】
一実施形態では、ウイルスベクター産生システムは、モジュール式核酸コンストラクト(モジュール式コンストラクト)を含む。モジュール式コンストラクトは、ウイルスベクターの産生に使用される2つ以上の核酸を含むDNA発現コンストラクトである。モジュール式コンストラクトは、ウイルスベクターの産生に使用される2つ以上の核酸を含むDNAプラスミドであり得る。プラスミドは細菌性プラスミドであり得る。核酸は、例えば、gag-pol、rev、env、ベクターゲノムをコードし得る。さらに、パッケージングおよびプロデューサー細胞株の生成のために設計されたモジュール式コンストラクトは、さらに、転写調節タンパク質(例えば、TetR、CymR)および/または翻訳抑制タンパク質(例えば、TRAP)ならびに選択マーカー[例えば、ゼオシン(商標)、ハイグロマイシン、ブラスチシジン、ピューロマイシン、ネオマイシン耐性遺伝子]をコードする必要があり得る。好適なモジュール式コンストラクトはEP 3502260に記載されており、これはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0390】
モジュール式コンストラクトは、1つのコンストラクト上に2つ以上のウイルス構成要素をコードする核酸配列を含有するため、これらのモジュール式コンストラクトの安全性プロファイルが考慮され、追加の安全上の特徴がコンストラクトに直接操作されている。これらの特徴には、ウイルスベクター構成要素の複数のオープンリーディングフレームに対するインスレーターの使用、ならびに/またはモジュール式コンストラクトにおけるウイルス遺伝子の特定の向きおよび配置が含まれる。これらの特徴を利用することにより、複製能力のあるウイルス粒子が生成される直接リードスルーが妨げられると考えられている。
【0391】
ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列は、モジュール式コンストラクト内で逆向きおよび/または交互の向きの転写方向であり得る。したがって、ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列は、同じ5’から3’への向きでは提示されず、その結果、同一のmRNA分子からウイルスベクター構成要素を産生することはできない。逆向きとは、異なるベクター構成要素の少なくとも2つのコード配列が「頭から頭へ」および「尾から尾へ」の転写方向で提示されることを意味し得る。これは、一方の鎖上に1つのベクター構成要素(例えば、env)のコード配列を提供し、モジュール式コンストラクトの反対側の鎖上に別のベクター構成要素(例えば、rev)のコード配列を提供することによって達成することができる。好ましくは、モジュール式コンストラクトに2つを上回るベクター構成要素のコード配列が存在する場合には、コード配列のうちの少なくとも2つが逆の転写方向で存在する。したがって、モジュール式コンストラクト内に2つを上回るベクター構成要素のコード配列が存在する場合、各構成要素は、隣接する他のベクター構成要素のすべての隣接するコード配列に対して逆の5’から3’への向きに存在するように配置することができ、すなわち、各コード配列に対して5’から3’へ(または転写)の向きを交互に使用することができる。
【0392】
モジュール式コンストラクトは、以下のベクター構成要素:gag-pol、rev、env、ベクターゲノムのうちの2つ以上をコードする核酸配列を含み得る。モジュール式コンストラクトは、ベクター構成要素の任意の組み合わせをコードする核酸配列を含み得る。一例では、モジュール式コンストラクトは、
i)レトロウイルスベクターのRNAゲノムおよびrev、またはその機能的代替物;
ii)レトロウイルスベクターRNAゲノムおよびgag-pol;
iii)レトロウイルスベクターのRNAゲノムおよびenv;
iv)gag-polおよびrev、もしくはその機能的代替物;
v)gag-polおよびenv;
vi)envおよびrev、もしくはその機能的代替物;
vii)レトロウイルスベクターのRNAゲノム、revもしくはその機能的代替物、およびgag-pol;
viii)レトロウイルスベクターのRNAゲノム、revもしくはその機能的代替物、およびenv;
ix)レトロウイルスベクターのRNAゲノム、gag-polおよびenv;または
x)gag-pol、revもしくはその機能的代替物、およびenv、
をコードする核酸配列を含むことができ、ここで核酸配列は逆向きおよび/または交互の向きにある。
【0393】
一部の例では、レトロウイルスベクターはレンチウイルスベクターであり得る。
【0394】
本明細書中の他の箇所に記載されるように、本明細書に記載されるウイルスベクター産生システムは、典型的には、ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列を細胞内に含む(換言すれば、細胞はウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列を含む)。一例では、ウイルスベクター産生システムの細胞は、上記のi)からx)の組み合わせのうちのいずれか1つをコードする核酸配列を含むことができ、ここで核酸配列は同じ遺伝子座に位置し、逆向きおよび/または交互の向きである。同じ遺伝子座は、細胞内の1つの染色体外遺伝子座、例えば、単一のプラスミド、または細胞のゲノム内の1つの遺伝子座(すなわち、単一の挿入部位)を指すことがある。細胞は、レトロウイルスベクター、例えば、レンチウイルスベクターを産生するための安定した、または一過性の細胞である。
【0395】
DNA発現コンストラクトは、DNAプラスミド(高次コイル状、ニック入り、または直鎖状化)、小環状DNA(直鎖状または高次コイル状)、制限酵素消化および精製によるプラスミド骨格の除去によって目的の領域のみを含有するプラスミドDNA、使用される最終的なDNAが閉じた連結形態であるかまたはそれが開放切断端を有するように調製されている(例えば、制限酵素消化)、酵素的DNA増幅プラットフォーム、例えば、ドギーボーンDNA[dbDNA(商標)]を使用して生成されたDNAであり得る。
【0396】
「ウイルスベクター産生細胞」、「ベクター産生細胞」、または「産生細胞」は、ウイルスベクターまたはウイルスベクター粒子を産生することができる細胞と理解されるべきである。ウイルスベクター産生細胞は、「プロデューサー細胞」または「パッケージング細胞」であり得る。ウイルスベクターシステムの1つまたは複数のDNAコンストラクトは、ウイルスベクター産生細胞に安定に組み込まれている場合もあれば、エピソーム性に維持されている場合もある。代替的に、ウイルスベクターシステムのすべてのDNA構成要素が、ウイルスベクター産生細胞に一過性にトランスフェクトされる場合もある。さらに代替的には、構成要素のいくつかを安定して発現する産生細胞に、ベクター産生に必要な残りの構成要素を一過性にトランスフェクトすることもできる。
【0397】
本明細書で使用される場合、「パッケージング細胞」は、ウイルスベクター粒子の産生に必要な要素を含有するが、ベクターゲノムを欠く細胞を指す。そのようなパッケージング細胞は、ウイルス構造タンパク質(例えば、gag、gag/pol、およびenv)を発現することができる1つまたは複数の発現カセットを含有してもよい。
【0398】
プロデューサー細胞/パッケージング細胞は、任意の好適な細胞型であり得る。プロデューサー細胞は一般に哺乳動物細胞であるが、例えば、昆虫細胞であることもできる。
【0399】
本明細書で使用される場合、「プロデューサー/産生細胞」または「ベクター産生/産生細胞」という用語は、ウイルスベクター粒子の産生に必要なすべてのエレメントを含む細胞を指す。プロデューサー細胞は、安定したプロデューサー細胞株でもあり得、または一過性に導き出されたものでもあり得、またはウイルスゲノムが一過性に発現される安定したパッケージング細胞でもあり得る。
【0400】
ベクター産生細胞は、インビトロで培養された細胞、例えば、組織培養細胞株であり得る。好適な細胞株には、哺乳動物細胞、例えば、マウス線維芽細胞由来細胞株またはヒト細胞株が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、ベクター産生細胞は、ヒト細胞株に由来する。
【0401】
細胞および産生方法
本明細書に記載される方法、ウイルスベクター産生システム、および使用は、目的のウイルスベクターを産生するためのものである。
【0402】
ウイルスベクター構成要素をコードする核酸配列を含む細胞(プロデューサー/産生細胞)からウイルスベクターを産生するための一般的な方法は当技術分野で周知である。これらの方法は、細胞を、ウイルスベクターの産生に好適な条件下で培養することを含み、産生されたウイルスベクターを単離する段階をさらに含んでもよい。
【0403】
ウイルスベクターを産生するのに好適な1つまたは複数の細胞は、適切な条件下で培養した場合にウイルスベクターまたはウイルスベクター粒子を産生する能力を有する細胞であり得る。したがって、細胞は典型的には、ベクター構成要素をコードするヌクレオチド配列を含み、これにはgag、env、revおよびウイルスベクターのゲノムが含まれ得る。好適な細胞株には、哺乳動物細胞、例えば、マウス線維芽細胞由来細胞株またはヒト細胞株が含まれるが、これらに限定されない。これらは一般にヒト細胞を含む哺乳動物細胞であり、例えば、HEK293T、HEK293、CAP、CAP-TまたはCHO細胞であるが、例えば、SF9細胞などの昆虫細胞であることもあり得る。好ましくは、ベクター産生細胞は、ヒト細胞株に由来する。したがって、そのような好適な産生細胞は、本発明の方法または使用のいかなるものにも使用し得る。
【0404】
ヌクレオチド配列を細胞に導入する方法は当技術分野で周知であり、以前にも記載されている。したがって、分子生物学および細胞生物学における従来の手法を使用して、gag、env、revおよびウイルスベクターのゲノムを含むベクター構成要素をコードするヌクレオチド配列を細胞に導入することは、当業者の能力の範囲内にある。
【0405】
安定した産生細胞は、パッケージング細胞またはプロデューサー細胞であり得る。パッケージング細胞からプロデューサー細胞を作製するために、ベクターゲノムDNAコンストラクトを安定または一過性に導入することができる。パッケージング/プロデューサー細胞は、WO2004/022761に記載されているように、ベクターの構成要素の1つ、すなわち、ゲノム、gag-pol構成要素およびエンベロープを発現するレトロウイルスベクターにより、好適な細胞株に形質導入することによって作製することができる。代替的に、ヌクレオチド配列を細胞にトランスフェクトし、次いで産生細胞ゲノムへの組込みを稀にランダムに起こすこともできる。トランスフェクション法は、当技術分野で周知の方法を使用して行うことができる。例えば、安定なトランスフェクション過程は、コンカテマー化を助けるために操作されたコンストラクトを使用することができる。別の例では、リン酸カルシウム、または市販の製剤、例えば、Lipofectamine(商標)2000CD(Invitrogen, CA)、FuGENE(登録商標)HDまたはポリエチレンイミン(PEI)を使用して、トランスフェクション過程を行うことができる。代替的に、エレクトロポレーションを介して産生細胞にヌクレオチド配列を導入することもできる。当業者は、産生細胞へのヌクレオチド配列の組込みを促進する方法を把握しているであろう。例えば、核酸コンストラクトの線状化は、それが天然に環状であれば有用であり得る。よりランダムでない組込み法は、内因性ゲノム内の選択された部位への組込みを導くために、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体との相同性を有する領域を含む核酸コンストラクトを伴い得る。さらに、組換え部位がコンストラクト上に存在する場合、これらを標的化組換えに使用することができる。例えば、核酸コンストラクトは、Creリコンビナーゼと組み合わされた場合に標的化組込みを可能にするloxP部位を含み得る(すなわち、P1バクテリオファージに由来するCre/loxシステムを使用する)。代替的または追加的に、組換え部位はatt部位(例えば、λファージ由来)であり、このatt部位はラムダインテグラーゼの存在下で部位特異的組込みを可能にする。これにより、ウイルス遺伝子を宿主細胞ゲノム内の遺伝子座に標的化することが可能となり、高発現および/または安定な発現が可能となると考えられる。
【0406】
標的化組込みの他の方法は、当技術分野で周知である。例えば、選択された染色体遺伝子座での標的化組換えを促進するために、ゲノムDNAの標的化切断を誘導する方法を使用することができる。これらの方法は、例えば、非相同末端結合(NHEJ)などの生理的機構による切断の修復を誘導するための内因性ゲノムにおけるニックのような、二本鎖切断(DSB)を誘導するための方法またはシステムの使用をしばしば伴う。切断は、特異的ヌクレアーゼ、例えば、操作されたジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)の使用、特異的切断を導くための操作されたcrRNA/tracr RNA(「単一ガイドRNA」)を伴うCRISPR/Cas 9システムの使用、および/またはArgonaute系に基づくヌクレアーゼ[例えば、サーマス・サーモフィラス(T. thermophilus)由来]の使用によって生じ得る。
【0407】
パッケージング/プロデューサー細胞株は、ウイルス形質導入のみ、または核酸トランスフェクションのみ、またはその両方の組み合わせの方法を使用するヌクレオチド配列の組込みによって作製することができる。
【0408】
産生細胞からレトロウイルスベクターを作製する方法、特にレトロウイルスベクターのプロセシングについては、WO2009/153563に記載されている。
【0409】
一例では、産生細胞は、RNA結合タンパク質(例えば、トリプトファンRNA結合減衰タンパク質、TRAP)および/またはTetリプレッサー(TetR)タンパク質もしくは代替的な調節タンパク質(例えば、CymR)を含み得る。
【0410】
産生細胞からのウイルスベクターの産生は、トランスフェクション法、誘導工程(例えば、ドキシサイクリン誘導)を含み得る安定した細胞株からの産生、または両方の組み合わせによるものであり得る。トランスフェクション法は、当技術分野で周知の方法を使用して行うことができ、その例は以前に記載されている。
【0411】
パッケージング細胞株もしくはプロデューサー細胞株のいずれかであるか、またはウイルスベクターをコードする構成要素が一過性にトランスフェクトされた細胞である産生細胞を培養して、細胞数およびウイルス数、ならびに/またはウイルスタイターを増加させる。細胞の培養は、細胞が代謝し、および/または増殖し、および/または分裂し、および/または目的のウイルスベクターを産生することを可能にするように行う。これは当業者に周知の方法によって達成することができ、例えば、好適な培養培地中で細胞に栄養分を与えることを含むが、これには限定されない。本方法は、表面に接着しての増殖、浮遊液中での増殖、またはそれらの組み合わせを含み得る。培養は、例えば、組織培養フラスコ、組織培養マルチウェルプレート、皿、ローラーボトル、ウェーブバッグまたはバイオリアクターにおいて、バッチ、流加バッチ、連続システムなどを使用して行うことができる。細胞培養によるウイルスベクターの大規模生産を達成するためには、細胞が浮遊液中で増殖可能であることが当技術分野では好ましい。細胞を培養するための好適な条件が公知である[例えば、Tissue Culture, Academic Press, Kruse and Paterson, editors (1973), and R.I. Freshney, Culture of animal cells: A manual of basic technique, fourth edition (Wiley- Liss Inc., 2000, ISBN 0-471-34889-9]を参照されたい。
【0412】
細胞をまず、組織培養フラスコまたはバイオリアクターにおいて「増量」し、その後に多層培養容器または大型バイオリアクター(50Lを上回る)で増殖させて、ベクター産生細胞を生成することができる。
【0413】
細胞は、ベクター産生細胞を生成するために接着様式で成長させることができる。代替的に、細胞を浮遊モードで増殖させて、ベクター産生細胞を生成することもできる。
【0414】
目的のヌクレオチド(NOI)を含むヌクレオチド配列
本明細書で使用される場合、「ヌクレオチド配列」という用語は、「ポリヌクレオチド」および/または「核酸配列」という用語と同義である。本発明に関連する「ヌクレオチド配列」という用語は、二本鎖または一本鎖分子であることが可能であり、これにはゲノムDNA、cDNA、合成DNA、RNAおよびキメラDNA/RNA分子が含まれる。典型的には、本発明の範囲に含まれるヌクレオチド配列は、組換えDNA手法(すなわち、組換えDNA)を使用して調製される。そのような技術は当技術分野で周知である。
【0415】
本発明のポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAを含み得る。それらは一本鎖または二本鎖であり得る。遺伝子暗号の縮重の結果として、多数の異なるポリヌクレオチドが同一のポリペプチドをコードし得ることは、当業者には理解されるであろう。さらに、当業者には、本発明のポリペプチドを発現させようとするいずれかの特定の宿主生物のコドン使用頻度を反映させるために、慣行的な手法を使用して、本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を行い得ることも理解されるであろう。
【0416】
ポリヌクレオチドは、当技術分野で利用可能な任意の方法によって改変することができる。そのような改変は、本発明のポリヌクレオチドのインビボ活性または寿命を増強するために行われ得る。
【0417】
ポリヌクレオチド、例えば、DNAポリヌクレオチドは、組換え、合成により、または当業者が利用可能な任意の手段によって生成することができる。それらを標準的な技術によってクローニングすることもできる。
【0418】
比較的長いポリヌクレオチドは、一般に、組換え手段を使用して、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)クローニング法を使用して生成される。これは、クローニングしようとする標的配列に隣接する一対のプライマー(例えば、約15から30ヌクレオチド)を作成し、動物またはヒト細胞から得られたmRNAまたはcDNAとプライマーを接触させて、所望の領域の増幅をもたらす条件下でPCRを行い、増幅された断片を単離し(例えば、反応混合物をアガロースゲルで精製することによって)、増幅されたDNAを回収することを伴うと考えられる。プライマーは、増幅されたDNAが好適なベクター中にクローニングされ得るように、好適な制限酵素認識部位を含有するように設計することができる。
【0419】
一般的なウイルスベクターエレメント
プロモーターおよびエンハンサー
NOIおよびポリヌクレオチドの発現は、制御配列、例えば、転写調節エレメントまたは翻訳抑制エレメントを使用して制御することができ、これには、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現調節シグナル[例えば、tetリプレッサー(TetR)システム]、またはベクター産生細胞システムにおける導入遺伝子抑制(Transgene Repression In vector Production cell system)(TRIP)または本明細書に記載されるNOIの他の調節因子が含まれる。
【0420】
原核生物プロモーターおよび真核細胞において機能するプロモーターが使用され得る。組織特異的または刺激特異的プロモーターが使用され得る。2つ以上の異なるプロモーター由来の配列エレメントを含むキメラプロモーターも使用され得る。
【0421】
好適なプロモーター配列は、強力なプロモーターであり、これにはウイルス、例えば、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、レトロウイルスおよびシミアンウイルス(SV40)のゲノムに由来するもの、または異種哺乳動物プロモーター、例えば、アクチンプロモーター、EF1α、CAG、TK、SV40、ユビキチン、PGKまたはリボソームタンパク質プロモーターが含まれる。代替的に、組織特異的プロモーター、例えば、ロドプシン(Rho)、ロドプシンキナーゼ(RhoK)、錐体-桿体ホメオボックス含有遺伝子(CRX)、神経網膜特異的ロイシンジッパータンパク質(NRL)、卵黄様黄斑ジストロフィー2(VMD2)、チロシンヒドロキシラーゼ、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、アストロサイト特異的グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーター、ヒトα1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーター、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)、肝臓脂肪酸結合タンパク質プロモーター、Flt-1プロモーター、INF-βプロモーター、Mbプロモーター、SP-Bプロモーター、SYN1プロモーター、WASPプロモーター、SV40/hAlbプロモーター、SV40/CD43、SV40/CD45、NSE/RU5’プロモーター、ICAM-2プロモーター、G PIIbプロモーター、GFAPプロモーター、フィブロネクチンプロモーター、エンドグリンプロモーター、エラスターゼ-1プロモーター、デスミンプロモーター、CD68プロモーター、CD14プロモーターおよびB29プロモーターを、転写を駆動するために使用することができる。
【0422】
NOIの転写は、エンハンサー配列をベクター中に挿入することにより、さらに増加させることができる。エンハンサーは比較的、配向および位置に非依存的である;しかし、真核細胞ウイルス由来のエンハンサー、例えば、SV40エンハンサーおよびCMV初期プロモーターエンハンサーを利用することができる。エンハンサーはプロモーターに対して5’または3’側の位置においてベクター中にスプライシングされ得るが、好ましくは、プロモーターから5’側の部位に位置する。
【0423】
プロモーターは、好適な標的細胞における発現を確保または増強するための特徴をさらに含むことができる。例えば、特徴は、保存された領域、例えば、プリブノーボックス(Pribnow Box)またはTATAボックスであり得る。プロモーターは、ヌクレオチド配列の発現レベルに影響を及ぼす(例えば、維持する、増強する、または減少させる)他の配列を含有し得る。好適な他の配列には、Sh1-イントロンまたはADHイントロンが含まれる。他の配列には、誘導性エレメント、例えば、温度、化学物質、光またはストレス誘導性のエレメントが含まれる。また、転写または翻訳を増強するための好適なエレメントも存在し得る。
【0424】
NOIの調節因子
レトロウイルスパッケージング/プロデューサー細胞株の作製およびレトロウイルスベクター産生における複雑化要因は、ある特定のレトロウイルスベクター構成要素およびNOIの恒常的発現が細胞毒性であり、これらの構成要素を発現する細胞の死を招き、したがってベクターを産生することができないことである。したがって、これらの構成要素(例えば、gag-polおよびエンベロープタンパク質、例えば、VSV-G)の発現を調節することが可能である。他の非細胞毒性ベクター構成要素、例えば、revの発現も、細胞への代謝負荷を最小化するように調節することができる。したがって、本明細書に記載されるベクター構成要素および/または細胞をコードするモジュール式コンストラクトまたはヌクレオチド配列は、少なくとも1つの調節エレメントに関連する細胞毒性および/または非細胞毒性ベクター構成要素を含み得る。本明細書で使用される場合、「調節エレメント」という用語は、関連する遺伝子またはタンパク質の発現に、増加させるかまたは減少させるかのいずれかの影響を及ぼし得る、あらゆるエレメントを指す。調節エレメントには、遺伝子スイッチシステム、転写調節エレメントおよび翻訳抑制エレメントが含まれる。
【0425】
いくつかの原核生物調節システムが、哺乳動物細胞において遺伝子スイッチを生成するように適合化されている。多くのレトロウイルスパッケージングおよびプロデューサー細胞株は、遺伝子スイッチシステム(例えば、テトラサイクリンおよびクメート誘導スイッチシステム)を使用して制御されているため、ベクター産生時に1つまたは複数のレトロウイルスベクター構成要素の発現をオンにすることができる。遺伝子スイッチシステムには、転写調節因子の(TetR)タンパク質グループのもの(例えば、T-Rex、Tet-On、Tet-Off)、転写調節因子のクマート誘導スイッチシステムグループのもの(例えば、CymRタンパク質)、RNA結合タンパク質を含むもの(例えば、TRAP)がある。
【0426】
そのようなテトラサイクリン誘導システムの1つは、T-REx(商標)システムに基づくテトラサイクリンリプレッサー(TetR)システムである。一例として、そのようなシステムでは、最初のヌクレオチドがヒトサイトメガロウイルスの主要前初期プロモーター(hCMVp)のTATATAAエレメントの最後のヌクレオチドの3’末端から10bpの位置となるように、テトラサイクリンオペレーター(TetO2)が配置され、TetRのみがリプレッサーとして作用することができる(Yao F, Svensjo T, Winkler T, Lu M, Eriksson C, Eriksson E., 1998, Hum Gene Ther; 9: 1939-1950)。そのようなシステムでは、TetO配列の2つのコピーがタンデムに挿入されたCMVプロモーターによってNOIの発現を制御することができる。TetRホモ二量体は、誘導剤(テトラサイクリンまたはその類似体であるドキシサイクリン[dox])が存在しない場合、TetO配列に結合し、上流のCMVプロモーターからの転写を物理的に遮断する。誘導剤は存在すると、TetRホモ二量体に結合してアロステリックな変化を引き起こし、それがTetO配列に結合できないようにして、遺伝子発現が生じる。TetR遺伝子はコドンが最適化されている可能性があるが、これはそれが翻訳効率を改善し、TetOで制御される遺伝子発現をより厳密に制御することが見出されたためである。
【0427】
TRIPシステムはWO2015/092440に記載されており、ベクター産生中の産生細胞におけるNOIの発現を抑制する別の方法を提供する。組織特異的プロモーターを含む恒常的および/または強力なプロモーターが導入遺伝子を駆動することが望ましい場合、特に産生細胞における導入遺伝子タンパク質の発現がベクタータイターの減少を招き、および/または導入遺伝子由来タンパク質のウイルスベクターデリバリーによってインビボで免疫応答を誘発する場合に、TRAP結合配列(例えば、TRAP-tbs)相互作用は、レトロウイルスベクターの産生のための導入遺伝子タンパク質抑制システムの基礎を形成する[Maunder et al, Nat Commun. (2017) Mar 27; 8]。
【0428】
手短に記載すると、TRAP-tbs相互作用は翻訳遮断をもたらして、導入遺伝子タンパク質の翻訳を抑制する[Maunder et al, Nat Commun. (2017) Mar 27; 8]。翻訳遮断は産生細胞でのみ有効であり、そのため、DNAまたはRNAに基づくベクターシステムを妨げない。TRiPシステムは、導入遺伝子タンパク質が、単一または複数のシストロン性mRNAからの組織特異的プロモーターを含む、恒常的および/または強力なプロモーターから発現される場合に、翻訳を抑制することができる。導入遺伝子タンパク質の無秩序な発現はベクタータイターを減少させ、ベクター産物の品質に影響を及ぼし得ることが実証されている。毒性または分子負荷の問題が細胞ストレスにつながり得る場合;導入遺伝子由来タンパク質のウイルスベクターデリバリーによって導入遺伝子タンパク質がインビボで免疫反応を誘発する場合;遺伝子編集導入遺伝子の使用が、オン/オフ・ターゲットの影響をもたらし得る場合;導入遺伝子タンパク質がベクターおよび/またはエンベロープ糖タンパク質の排除に影響を及ぼし得る場合に、一過性および安定なPaCL/PCLベクター産生システムの両方に対する導入遺伝子タンパク質の抑制は、ベクタータイターの減少を防ぐために産生細胞にとって有益である。
【0429】
エンベロープおよびシュードタイプ化
好ましい一態様では、本明細書に記載されるレンチウイルスベクターはシュードタイプ化されている。これに関して、シュードタイプ化には1つまたは複数の利点がある。例えば、HIVに基づくベクターのenv遺伝子産物は、これらのベクターを、CD4と称されるタンパク質を発現する細胞のみに感染するように制限する。しかし、これらのベクター内のenv遺伝子が他のエンベロープウイルス由来のenv配列で置換されている場合、それらはより広い感染スペクトルを有する可能性がある[Verma and Somia (1997) Nature 389(6648):239-242]。一例として、VSV由来の糖タンパク質による、HIVに基づくベクターのシュードタイプ化を、研究者らが行っている[Verma and Somia (1997) Nature 389(6648):239-242]。
【0430】
さらに代替的に、Envタンパク質は、改変Envタンパク質、例えば、突然変異体または操作されたEnvタンパク質であり得る。改変は、標的化能力を導入するために、または毒性を軽減するために、または別の目的のために行われ、または選択され得る[Valsesia-Wittman et al 1996 J Virol 70: 2056-64; Nilson et al (1996) Gene Ther 3(4):280-286;およびFielding et al (1998) Blood 91(5):1802-1809、ならびにそれらに引用されている参考文献]。
【0431】
ベクターは、選択された任意の分子によってシュードタイプ化され得る。
【0432】
本明細書で使用される場合、「env」は、本明細書に記載されるように、内因性レンチウイルスエンベロープまたは異種エンベロープを意味するものとする。
【0433】
VSV-G
ラブドウイルスの一種である水疱性口内炎ウイルス(VSV)のエンベロープ糖タンパク質(G)は、ある特定のエンベロープウイルスおよびウイルスベクタービリオンをシュードタイプ化し得ることが示されているエンベロープタンパク質である。
【0434】
それが、レトロウイルスのエンベロープタンパク質の非存在下でMoMLVに基づくレトロウイルスベクターをシュードタイプ化する能力は、Emi et al. (1991) Journal of Virology 65:1202-1207によって初めて示された。WO1994/294440は、レトロウイルスベクターがVSV-Gによって首尾良くシュードタイプ化され得ることを教示している。これらのシュードタイプ化VSV-Gベクターは、広範囲の哺乳動物細胞に形質導入するために使用され得る。最近では、Abe et al. (1998) J Virol 72(8) 6356-6361が、VSV-Gの付加によって非感染性レトロウイルス粒子を感染性にし得ることを教示している。
【0435】
Burns et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:8033-7は、レトロウイルスMLVをVSV-Gによってシュードタイプ化することに成功し、これにより、ネイティブ形態のMLVと比較して宿主範囲が変化したベクターが得られた。VSV-Gシュードタイプ化ベクターは、哺乳動物細胞だけでなく、魚類、爬虫類および昆虫にに由来する細胞株にも感染することが示されている[Burns et al. (1993)、前掲]。それらはまた、様々な細胞株に対して従来の広宿主性エンベロープよりも効率的であることが示されている[Yee et al., (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:9564-9568, Emi et al. (1991) Journal of Virology 65:1202-1207]。VSV-Gタンパク質は、その細胞質尾部がレトロウイルスのコアと相互作用することができるため、ある特定のレトロウイルスのシュードタイプ化に使用することができる。
【0436】
VSV-Gタンパク質などの非レトロウイルス性シュードタイプ化エンベロープを提供することには、ベクター粒子を感染性を失うことなく高度のタイターに濃縮し得るという利点がある[Akkina et al. (1996) J. Virol. 70:2581-5]。レトロウイルスエンベロープタンパク質は、超遠心分離中の剪断力に耐えられないようであるが、これはおそらく、それが非共有結合性に連結された2つのサブユニットからなるためである。サブユニット間の相互作用は遠心分離によって破壊され得る。これに比して、VSV糖タンパク質は単一の単位で構成されている。このため、VSV-Gタンパク質のシュードタイプ化は、効率的な標的細胞の感染/形質導入および製造過程の両方に潜在的な利点をもたらし得る。
【0437】
WO2000/52188は、膜関連ウイルスエンベロープタンパク質として水疱性口内炎ウイルスGタンパク質(VSV-G)を有する、安定したプロデューサー細胞株からのシュードタイプ化レトロウイルスベクターの作製を記載し、VSV-Gタンパク質の遺伝子配列を提供している。
【0438】
ロスリバーウイルス
ロスリバーウイルスエンベロープは、非霊長類レンチウイルスベクター(FIV)のシュードタイプ化のために使用されており、全身投与後に主に肝臓に形質導入を行った(Kang et al., 2002, J. Virol., 76:9378-9388)。効率はVSV-Gシュードタイプ化ベクターにより得られるもの20倍の高さであると報告されており、肝毒性を示唆する肝酵素の血清レベルによる測定では、それほど大きな細胞毒性は引き起こさなかった。
【0439】
バキュロウイルスGP64
バキュロウイルスGP64タンパク質は、臨床および商業的用途に必要な高タイターウイルスの大規模生産に使用されるウイルスベクターとしてVSV-Gの代替物となることが示されている[Kumar M, Bradow BP, Zimmerberg J (2003) Hum Gene Ther. 14(1):67-77]。VSV-Gシュードタイプ化ベクターと比較して、GP64シュードタイプ化ベクターは、類似した広い指向性および類似した天然のタイターを有する。GP64の発現は細胞を死滅させないため、GP64を恒常的に発現するHEK293Tベースの細胞株を作製することができる。
【0440】
代替的なエンベロープ
EIAVをシュードタイプ化するために使用された場合に妥当なタイターが得られる他のエンベロープには、モコラ、狂犬病、エボラおよびLCMV(リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス)がある。4070Aによりシュードタイプ化されたレンチウイルスのマウスへの静脈内投与により、肝臓において最大の遺伝子発現がもたらされた。
【0441】
パッケージング配列
本発明の文脈で使用される場合、「パッケージング配列」または「psi」と互換的に称される「パッケージングシグナル」という用語は、ウイルス粒子形成中にレトロウイルスRNA鎖のカプシド形成のために必要とされる非コード性シス作用配列に関して使用される。HIV-1では、この配列は、主要スプライスドナー部位(SD)の上流から少なくともgag開始コドンまでに及ぶ遺伝子座にマッピングされている(ヌクレオチド688までのgagの5’配列の一部または全体が含まれ得る)。EIAVでは、パッケージングシグナルは、Gagの5’コーディング領域内へのR領域を含む。
【0442】
本明細書で使用される場合、「拡張されたパッケージングシグナル」または「拡張されたパッケージング配列」という用語は、gag遺伝子内へとさらに拡張された、psi配列周囲の配列の使用を指す。これらの追加的なパッケージング配列を含めることにより、ベクターRNAのウイルス粒子への挿入効率が増加する可能性がある。
【0443】
ネコ免疫不全ウイルス(FIV)RNAカプシド形成決定因子は離散的で不連続的であることが示されており、ゲノムmRNAの5’末端の1つの領域(R-U5)およびgagの近位311nt内にマッピングされるもう1つの領域を含むことが示されている[Kaye et al., J Virol. Oct;69(10):6588-92 (1995)]。
【0444】
配列内リボソーム進入部位(IRES)
IRESエレメントの挿入により、単一のプロモーターからの複数のコード領域の発現が可能になる[Adam et al (前記); Koo et al (1992) Virology 186:669-675; Chen et al 1993 J. Virol 67:2142-2148]。IRESエレメントは、ピコルナウイルスの非翻訳5’末端で最初に見出され、これはそこでウイルスタンパク質のキャップ非依存的な翻訳を促進する[Jang et al (1990) Enzyme 44: 292-309]。IRESエレメントは、RNA内のオープンリーディングフレーム間に位置する場合、IRESエレメントでのリボソームの進入およびそれに続いて下流の翻訳開始を促進することにより、下流オープンリーディングフレームの効率的翻訳を可能にする。IRESの概説は、Mountford and Smith (TIG May 1995 vol 11, No 5:179-184)によって提示されている。いくつかの異なるIRES配列が公知であり、これには、脳心筋炎ウイルス(EMCV)(Ghattas, I.R., et al., Mol. Cell. Biol., 11:5848-5859 (1991);BiPタンパク質[Macejak and Sarnow, Nature 353:91 (1991)];ショウジョウバエ(Drosophila)アンテナペディア遺伝子(エキソンdおよびe)[Oh, et al., Genes & Development, 6:1643-1653 (1992)]由来のもののほか、ポリオウイルス(PV)におけるもの[Pelletier and Sonenberg, Nature 334: 320-325 (1988);また、Mountford and Smith, TIG 11, 179-184 (1985)も参照のこと]が含まれる。
【0445】
PV、EMCVおよびブタ水疱病ウイルス由来のIRESエレメントは、レトロウイルスベクターに既に使用されている(Coffin et al, 前記)。
【0446】
「IRES」という用語は、IRESとして動作するかまたはIRESの機能を改善する任意の配列または配列の組み合わせを含む。IRESは、ウイルス由来(例えば、EMCV IRES、PV IRESまたはFMDV 2A様配列)または細胞由来(例えば、FGF2 IRES、NRF IRES、Notch 2 IRESまたはEIF4 IRES)であり得る。
【0447】
IRESが各ポリヌクレオチドの翻訳を開始し得るためには、それがモジュール式コンストラクト中でポリヌクレオチドの間または前に位置するべきである。
【0448】
安定した細胞株の開発のために利用されるヌクレオチド配列は、安定した組込みが生じた細胞の選択のための選択マーカーの付加を必要とする。これらの選択マーカーは、ヌクレオチド配列内の単一の転写単位として発現させることもでき、またはポリシストロン性メッセージにおける選択マーカーの翻訳を開始させるためにIRESエレメントを使用することが好ましいこともあり得る(Adam et al 1991 J.Virol. 65, 4985)。
【0449】
遺伝子の向きおよびインスレーター
核酸には方向性があり、これは細胞における転写および複製などの機構に最終的に影響を及ぼすことが周知である。したがって、遺伝子は、同一の核酸コンストラクトの一部である場合、互いに対して相対的な向きを有し得る。
【0450】
ある特定の例では、細胞またはコンストラクト内の同じ遺伝子座に存在する少なくとも2つの核酸配列は、逆向きおよび/または交互の向きで存在し得る。換言すれば、この特定の遺伝子座において、連続する遺伝子の対は同じ向きを有しない。これは、その領域が宿主細胞の同じ物理的位置において発現される場合、転写および翻訳の両方のリードスルーを防ぐのに役立ち得る。
【0451】
ベクター産生のために必要な核酸が細胞内の同じ遺伝子座を拠点とする場合、交互の向きを有することはウイルスベクター産生に利益をもたらす。また、これはひいては、複製可能ウイルスベクターの生成を防ぎ、得られるコンストラクトの安全性をも改善し得る。
【0452】
核酸配列が逆向きおよび/または交互の向きで存在する場合、インスレーターの使用により、NOIが周囲の遺伝子環境から不適切な発現またはサイレンシングを起こすのを防ぐことができる。
【0453】
「インスレーター」という用語は、インスレーター結合タンパク質に結合した場合に周囲の調節因子シグナルから遺伝子を保護する能力を有するDNA配列エレメントのクラスを指す。インスレーターには、エンハンサー遮断機能およびクロマチン障壁機能という2つの種類が存在する。インスレーターがプロモーターとエンハンサーとの間に位置している場合、インスレーターのエンハンサー遮断機能は、エンハンサーの転写増強効果からプロモーターを保護する(Geyer and Corces 1992; Kellum and Schedl 1992)。クロマチン障壁インスレーターは、付近の凝縮クロマチンの前進を防止することによって機能し、それは転写的に活性なクロマチン領域の転写的に不活性なクロマチン領域への変換を招き、遺伝子発現のサイレンシングをもたらすと考えられる。ヘテロクロマチンの広がりを阻害し、それ故に遺伝子サイレンシングを阻害するインスレーターは、ヒストン修飾に関与する酵素を動員して、この過程を妨げる(Yang J, Corces VG. 2011;110:43-76; Huang, Li et al. 2007; Dhillon, Raab et al. 2009)。インスレーターはこれらの機能のうちの一方または両方を有することができ、ニワトリβ-グロビンインスレーター(cHS4)はそのような一例である。このインスレーターは、最も広範に研究されている脊椎動物インスレーターであり、高度にG+Cリッチであり、エンハンサー遮断機能およびヘテロクロマチン障壁機能の両方を有する(Chung J H, Whitely M, Felsenfeld G. Cell. 1993;74:505-514)。エンハンサー遮断機能を有する他のそのようなインスレーターには、以下のものが含まれるが、これらに限定されない:ヒトβ-グロビンインスレーター5(HS5)、ヒトβ-グロビンインスレーター1(HS1)およびニワトリβ-グロビンインスレーター(cHS3)[Farrell CM1, West AG, Felsenfeld G., Mol Cell Biol. 2002 Jun;22(11):3820-31; J Ellis et al. EMBO J. 1996 Feb 1; 15(3): 562-568]。望ましくない遠位の相互作用を減少させることに加えて、インスレーターは、隣接するウイルス核酸配列間のプロモーター干渉(すなわち、1つの転写単位のプロモーターが、隣接する転写単位の発現を妨害する)を防ぐのにも役立つ。ウイルスベクター核酸配列のそれぞれの間にインスレーターが使用される場合、直接リードスルーの減少は、複製可能ウイルスベクター粒子の形成を防ぐのに役立つと考えられる。
【0454】
インスレーターは、ウイルス核酸配列のそれぞれの間に存在し得る。一実施形態では、インスレーターの使用は、プロモーター-エンハンサー相互作用を妨げ、ベクター構成要素をコードするヌクレオチド配列において1つのNOI発現カセットが別のNOI発現カセットと相互作用することを妨げる。
【0455】
ベクターゲノム配列とgag-pol配列との間にインスレーターが存在することが可能である。したがって、これにより、複製可能ウイルスベクターおよび「野生型」様のRNA転写産物の産生の可能性が制限され、コンストラクトの安全性プロファイルが改善する。安定に組み込まれた多重遺伝子ベクターの発現を改善するためのインスレーターエレメントの使用は、Moriarity et al, Nucleic Acids Res. 2013 Apr;41(8):e92に引用されている。
【0456】
ベクタータイター
ウイルスベクターのタイター(例えば、レンチウイルスベクター、SINベクターのウイルスタイター)を決定する多数の異なる方法が存在することを、当業者は理解するであろう。タイターはしばしば、形質導入単位/mL(TU/mL)として記載される。タイターは、ベクター粒子の数を増やすことによって、およびベクター調製物の比活性を増加させることによって増加させることができる。
【0457】
治療的使用
本明細書に記載されるウイルスベクター、または本明細書に記載されるウイルスベクターによって形質導入された細胞もしくは組織は、医療に使用することができる。
【0458】
さらに、本明細書に記載されるウイルスベクター、本発明の産生細胞、または本明細書に記載されるレンチウイルスベクターによって形質導入された細胞もしくは組織は、目的のヌクレオチドを、それを必要とする標的部位にデリバリーするための医薬の調製に使用することもできる。ウイルスベクターまたは形質導入細胞のそのような使用は、以前に記載されている通り、治療または診断の目的のためのものであり得る。
【0459】
したがって、本明細書に記載されるウイルスベクターによって形質導入された細胞が提供される。
【0460】
「ウイルスベクター粒子によって形質導入された細胞」は、ウイルスベクター粒子によって運搬される核酸が移入された細胞、特に標的細胞として理解されるべきである。
【0461】
目的のヌクレオチド
本発明の一実施形態では、TRAPを欠く標的細胞において目的のヌクレオチドが翻訳される。
【0462】
「標的細胞」は、NOIを発現させることが望ましい細胞として理解されるべきである。NOIは、本発明のウイルスベクターを使用して標的細胞に導入され得る。標的細胞へのデリバリーは、インビボ、エクスビボまたはインビトロで行われ得る。
【0463】
好ましい一実施形態では、目的のヌクレオチドは治療効果を生じさせる。
【0464】
NOIは、治療用途または診断用途を有し得る。好適なNOIとしては、酵素、補因子、サイトカイン、ケモカイン、ホルモン、抗体、抗酸化分子、操作された免疫グロブリン様分子、単鎖抗体、融合タンパク質、免疫共刺激分子、免疫調節分子、キメラ抗原受容体、標的タンパク質のトランスドメイン陰性突然変異体、毒素、条件付き毒素(conditional toxin)、抗原、転写因子、構造タンパク質、レポータータンパク質、細胞内局在化シグナル、腫瘍抑制タンパク質、増殖因子、膜タンパク質、受容体、血管作用性タンパク質およびペプチド、抗ウイルスタンパク質およびリボザイム、ならびにそれらの誘導体(例えば、関連レポーター基を有する誘導体)をコードする配列が挙げられるが、これらに限定されない。NOIはマイクロRNAもコードし得る。理論に拘束されることは望まないが、マイクロRNAのプロセシングはTRAPによって阻害されると考えられている。
【0465】
一実施形態では、NOIは、神経変性障害の治療において有用であり得る。
【0466】
別の実施形態では、NOIは、パーキンソン病および多系統萎縮症の治療において有用であり得る。
【0467】
別の実施形態では、NOIは、ドーパミン合成に関与する1つまたは複数の酵素をコードし得る。例えば、酵素は以下のうちの1つまたは複数であり得る:チロシンヒドロキシラーゼ、GTP-シクロヒドロラーゼIおよび/または芳香族アミノ酸ドーパデカルボキシラーゼ。この3つすべての遺伝子の配列が入手可能である[それぞれ、GenBank(登録商標)受託番号X05290、U19523およびM76180]。
【0468】
別の実施形態では、NOIは、小胞モノアミン輸送体2(VMAT2)をコードし得る。代替的な一実施形態では、ウイルスゲノムは、芳香族アミノ酸ドーパデカルボキシラーゼをコードするNOI、およびVMAT2をコードするNOIを含み得る。そのようなゲノムは、パーキンソン病の治療において、特にL-DOPAの末梢投与と共に使用され得る。
【0469】
別の実施形態では、NOIは、1つの治療用タンパク質または治療用タンパク質の組み合わせをコードし得る。
【0470】
別の実施形態では、NOIは、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、インターロイキン1β(IL-1β)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インスリン増殖因子-2、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C/VEGF-2、VEGF-D、VEGF-E、PDGF-A、PDGF-B、PDFG-AとPDFG-Bとのヘテロ二量体およびホモ二量体からなる群から選択される1つまたは複数のタンパク質をコードし得る。
【0471】
別の実施形態では、NOIは、アンジオスタチン、エンドスタチン、血小板因子4、色素上皮由来因子(PEDF)、胎盤増殖因子、レスチン(restin)、インターフェロン-α、インターフェロン誘導性タンパク質、gro-βおよびチューブダウン(tubedown)-1、インターロイキン(IL)-1、IL-12、レチノイン酸、抗VEGF抗体またはそれらの断片/変異体、例えば、アフリベルセプト、トロンボスポンジン、VEGF受容体タンパク質、例えば、米国特許第5,952,199号および同第6,100,071号に記載されているもの、ならびに抗VEGF受容体抗体からなる群から選択される1つまたは複数の抗血管新生タンパク質をコードし得る。
【0472】
別の実施形態では、NOIは、NF-κB阻害剤、IL1β阻害剤、TGFβ阻害剤、IL-6阻害剤、IL-23阻害剤、IL-18阻害剤、腫瘍壊死因子αおよび腫瘍壊死因子β、リンホトキシンαおよびリンホトキシンβ、LIGHT阻害剤、αシヌクレイン阻害剤、タウ阻害剤、βアミロイド阻害剤、IL-17阻害剤、IL-33阻害剤、IL-33受容体阻害剤、TSLP阻害剤からなる群から選択される抗炎症タンパク質、抗体、またはタンパク質もしくは抗体の断片/変異体をコードし得る。
【0473】
別の実施形態では、NOIは、嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス制御因子(CFTR)をコードし得る。
【0474】
別の実施形態では、NOIは、通常は眼細胞において発現されるタンパク質をコードし得る。
【0475】
別の実施形態では、NOIは、通常は光受容細胞および/または網膜色素上皮細胞において発現されるタンパク質をコードし得る。
【0476】
別の実施形態では、NOIは、RPE65、アリール炭化水素相互作用性受容体タンパク質様1(AIPL1)、CRB1、レシチンレチナールアセチルトランスフェラーゼ(LRAT)、光受容体特異的ホメオボックス(CRX)、レチナールグアニル酸シクラーゼ(GUCY2D)、RPGR相互作用タンパク質1(RPGRIP1)、受容体タンパク質様1(AIPL1)、CRB1、レシチンレチナールアセチルトランスフェラーゼ(LRAT)、光受容体特異的ホメオボックス(CRX)、レチナールグアニル酸シクラーゼ(GUCY2D)、RPGR相互作用タンパク質1(RPGRIP1)、LCA2、LCA3、LCA5、ジストロフィン、PRPH2、CNTF、ABCR/ABCA4、EMP1、TIMP3、MERTK、ELOVL4、MYO7A、USH2A、VMD2、RLBP1、COX-2、FPR、ハルモニン(harmonin)、Rabエスコートタンパク質1、CNGB2、CNGA3、CEP 290、RPGR、RS1、RP1、PRELP、グルタチオン経路酵素およびオプチシン(opticin)を含む群から選択されるタンパク質をコードし得る。
【0477】
他の実施形態では、NOIは、ヒト凝固因子VIIIまたはIXをコードし得る。
【0478】
他の実施形態では、NOIは、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)、メチルマロニルCoAムターゼ、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ、イソバレリルCoAデヒドロゲナーゼ、分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ複合体、グルタリルCoAデヒドロゲナーゼ、アセチルCoAカルボキシラーゼ、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ、3メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、カルバモイル-リン酸シンターゼアンモニア、オルニチントランスカルバミラーゼ、αガラクトシダーゼA、グルコシルセラミダーゼβ、シスチノシン、グルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ、N-アセチル-α-グルコサミニダーゼ、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、ガラクトサミン-6スルファターゼ、アリールスルファターゼA、シトクロムB-245β、ABCD1、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ、アルギニノコハク酸シンターゼ、アルギニノコハク酸リアーゼ(argininosuccinate lysase)、アルギナーゼ1、アラニングリオキシル酸アミノトランスフェラーゼ(alanine glycoxhylate amino transferase)、ATP結合カセット、サブファミリーBメンバーを含む群から選択される、代謝に関与する1つまたは複数のタンパク質をコードし得る。
【0479】
他の実施形態では、NOIは、キメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)をコードし得る。一実施形態では、CARは抗5T4 CARである。他の実施形態では、NOIは、B細胞成熟抗原(BCMA)、CD19、CD22、CD20、CD47、CD138、CD30、CD33、CD123、CD70、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、ルイスY抗原(LeY)、チロシンタンパク質キナーゼ膜貫通受容体(ROR1)、膜結合型ムチン1(Muc1)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、内皮増殖因子受容体(EGFR)、インスリン、非受容体22型チロシンホスファターゼ、インターロイキン2受容体α、ヘリカーゼCドメイン1で誘導されるインターフェロン、ヒト上皮増殖因子受容体(HER2)、グリピカン3(GPC3)、ジシアロガングリオシド(GD2)、メシオテリン、血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)、スミス抗原、二本鎖DNA、リン脂質、プロインスリン、インスリノーマ抗原2(IA-2)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65kDaアイソフォーム(GAD65)、クロモグラニンA(CHGA)、膵島アミロイドポリペプチド(IAPP)、膵島特異的グルコース-6-ホスファターゼ触媒サブユニット関連タンパク質(IGRP)、亜鉛輸送体8(ZnT8)をコードし得る。
【0480】
他の実施形態では、NOIは、ULBP1、2および3、H60、Rae-1、b、g、d、MICA、MICBを含む群から選択されるNKG2Dリガンドに対するキメラ抗原受容体(CAR)をコードし得る。
【0481】
さらなる実施形態では、NOIは、SGSH、SUMF1、GAA、共通ガンマ鎖(CD132)、アデノシンデアミナーゼ、WASタンパク質、グロビン、αガラクトシダーゼA、δ-アミノレブリン酸(ALA)シンターゼ、δ-アミノレブリン酸デヒドラターゼ(ALAD)、ヒドロキシメチルビラン(HMB)シンターゼ、ウロポルフィリノーゲン(URO)シンターゼ、ウロポルフィリノーゲン(URO)デカルボキシラーゼ、コプロポルフィリノーゲン(COPRO)オキシダーゼ、プロトポルフィリノーゲン(PROTO)オキシダーゼ、フェロケラターゼ、α-L-イデュロニダーゼ、イデュロン酸スルファターゼ、ヘパランスルファミダーゼ、N-アセチルグルコサミニダーゼ、ヘパラン-α-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ、3N-アセチルグルコサミン6-スルファターゼ、ガラクトース-6-硫酸スルファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、β-グルクロニダーゼおよびヒアルロニダーゼをコードし得る。
【0482】
NOIに加えて、ベクターは、siRNA、shRNA、または調節されたshRNAを含むか、またはコードすることもできる[Dickins et al. (2005) Nature Genetics 37: 1289-1295, Silva et al. (2005) Nature Genetics 37:1281-1288]。
【0483】
適応症
本発明によるレトロウイルスベクターおよびAAVベクターを含むベクターは、WO1998/05635、WO1998/07859、WO1998/09985に列挙されている障害の治療において有用な1つまたは複数のNOIのデリバリーのために使用することができる。目的のヌクレオチドはDNAまたはRNAであり得る。そのような疾患の例を以下に記載する。
【0484】
以下のものに応答する障害:サイトカインおよび細胞増殖/分化活性;免疫抑制物質または免疫刺激物質の活性(例えば、ヒト免疫不全ウイルスの感染を含む免疫不全の治療、リンパ球増殖の調節、がんおよび多くの自己免疫疾患の治療、ならびに移植片拒絶の予防または腫瘍免疫の誘導のため);造血の調節(例えば、骨髄またはリンパ系疾患の治療);骨、軟骨、腱、靭帯および神経組織の成長の促進(例えば、創傷治癒、火傷、潰瘍および歯周病および神経変性の治療のため);卵胞刺激ホルモンの阻害または活性化(妊孕性の調節);走化性/ケモキネシス活性(例えば、損傷または感染部位に特定の細胞型を動員するため);止血および血栓溶解活性(例えば、血友病および脳卒中の治療のため);抗炎症活性(例えば、敗血症性ショックまたはクローン病の治療のため);マクロファージ阻害および/またはT細胞阻害活性、それ故に抗炎症活性;抗免疫活性(すなわち、炎症に関連しない応答を含む、細胞性および/または体液性免疫応答に対する阻害効果);マクロファージおよびT細胞が細胞外マトリックス成分およびフィブロネクチンに接着する能力の阻害、ならびにT細胞におけるアップレギュレートされたfas受容体発現。
【0485】
がん、白血病、良性および悪性の腫瘍の増殖、浸潤および拡大、血管新生、転移、腹水および悪性胸水貯留を含む、悪性障害。
【0486】
関節リウマチを含む自己免疫疾患、過敏症、乾癬、シェーグレン症候群、アレルギー反応、喘息、全身性エリテマトーデス、1型糖尿病、膠原病および他の疾患を含む、自己免疫疾患。
【0487】
動脈硬化、動脈硬化性心疾患、再灌流障害、心停止、心筋梗塞、血管炎症性障害、呼吸窮迫症候群、心血管系作用、末梢血管疾患、片頭痛およびアスピリン依存性抗血栓症、脳卒中、脳虚血、虚血性心疾患または他の疾患を含む、血管疾患。
【0488】
消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病および他の疾患を含む、消化管の疾患。
【0489】
肝線維症、肝硬変、アミロイドーシスを含む、肝疾患。
【0490】
フェニルケトン尿症PKU、ウィルソン病、有機酸血症、糖原病、尿素サイクル異常症、胆汁うっ滞および他の疾患、または他の疾患を含む、遺伝性代謝障害。
【0491】
甲状腺炎または他の腺疾患、糸球体腎炎、ループス腎炎または他の疾患を含む、腎臓および泌尿器の疾患。
【0492】
耳炎または他の耳鼻咽喉科疾患を含む耳鼻咽喉科障害、皮膚炎または他の皮膚疾患。
【0493】
歯周病、歯周炎、歯肉炎または他の歯/口腔疾患を含む、歯科疾患および口腔疾患。
【0494】
精巣炎または精巣上体-精巣炎、不妊症、精巣外傷または他の精巣疾患を含む、精巣疾患。
【0495】
胎盤機能不全、習慣性流産、子癇、子癇前症、子宮内膜症または他の婦人科疾患を含む、婦人科疾患。
【0496】
眼科障害、例えば、LCA10を含むレーバー先天性黒内障(LCA)、後部ぶどう膜炎、中間部ぶどう膜炎、前部ぶどう膜炎、結膜炎、脈絡網膜炎、ぶどう膜網膜炎、視神経炎、開放隅角緑内障および若年性先天緑内障を含む緑内障、網膜炎または嚢胞様黄斑浮腫などの眼内炎症、交感性眼炎、強膜炎、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症(AMD)、ベスト病、若年性黄斑変性症、ベスト卵黄様黄斑変性症、シュタルガルト病を含む黄斑変性症、アッシャー症候群、ドイン蜂巣状網膜ジストロフィー、ソースビー黄斑変性症(Sorby’s Macular Dystrophy)、若年性網膜分離症、錐体桿体ジストロフィー、角膜ジストロフィー、フックスジストロフィー、レーバー先天性黒内障、レーバー遺伝性視神経症(LHON)、アディー症候群、小口病、変性性眼底疾患(degenerative fondus disease)、眼外傷、感染による眼炎症、増殖性硝子体網膜症、急性虚血性視神経症、過度の瘢痕、例えば、緑内障濾過手術後、眼インプラントに対する反応、角膜移植片拒絶反応、ならびに他の眼疾患、例えば、糖尿病性黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症、RLBP1関連網膜ジストロフィー、全脈絡膜萎縮および色覚異常。
【0497】
パーキンソン病、パーキンソン病の治療による合併症および/または副作用、AIDS関連認知症症候群、HIV関連脳症、デビック病、シデナム舞踏病、アルツハイマー病および他の変性疾患、CNSの病態または障害、脳卒中、ポリオ後症候群、精神障害、脊髄炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎、脳脊髄炎、急性神経障害、亜急性神経障害、慢性神経障害、ファブリー病、ゴーシェ病、シスチン症、ポンペ病、異染性白質ジストロフィー、ウィスコット・アルドリッチ症候群、副腎白質ジストロフィー、βサラセミア、鎌状赤血球症、ギラン・バレー症候群、シデナム舞踏病、重症筋無力症、偽性脳腫瘍、ダウン症候群、ハンチントン病、CNS圧迫またはCNS外傷またはCNS感染症、筋萎縮および筋ジストロフィー、中枢神経系および末梢神経系の疾患、病態または障害、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、脊髄および剥脱損傷を含む運動ニューロン疾患を含む、神経障害および神経変性障害。
【0498】
他の疾患および病態、例えば、嚢胞性線維症、サンフィリポ症候群A、サンフィリポ症候群B、サンフィリポ症候群C、サンフィリポ症候群D、ハンター症候群、ハーラー・シャイエ症候群、モルキオ症候群を含むムコ多糖症、ADA-SCID、X連鎖SCID、X連鎖慢性肉芽腫性疾患、ポルフィリン症、血友病A、血友病B、外傷後炎症、出血、凝固および急性期反応、悪液質、食欲不振、急性感染症、敗血症性ショック、感染症、糖尿病、手術の合併症または副作用、骨髄移植または他の移植の合併症および/または副作用、遺伝子治療の合併症および副作用、例えば、ウイルスキャリアの感染またはAIDSによるもの、天然または人工の細胞、組織および臓器、例えば、角膜、骨髄、臓器、レンズ、ペースメーカー、天然または人工の皮膚組織を移植する場合の移植片拒絶反応の予防および/または治療のための体液性および/または細胞性免疫反応の抑制または阻害のためのもの。
【0499】
siRNA、マイクロRNAおよびshRNA
ある特定の他の実施形態では、NOIはマイクロRNAを含む。マイクロRNAは、生物において天然に産生される低分子RNAの非常に大きな一群であり、それらの少なくとも一部は標的遺伝子の発現を調節している。マイクロRNAファミリーの最初のメンバーはlet-7およびlin-4である。let-7遺伝子は、線虫の発生過程で内因性タンパク質コード遺伝子の発現を調節する、高度に保存された小型のRNA種をコードする。活性RNA種は最初に約70ntの前駆体として転写され、転写後プロセシングによって成熟した約21ntの形態となる。let-7およびlin-4は両方ともヘアピンRNA前駆体として転写され、ダイサー酵素によってプロセシングされて成熟形態となる。
【0500】
ベクターは、NOIに加えて、siRNA、shRNAまたは調節されたshRNAを含むか、またはコードすることができる[Dickins et al. (2005) Nature Genetics 37: 1289-1295, Silva et al. (2005) Nature Genetics 37:1281-1288]。
【0501】
二本鎖RNA(dsRNA)によって媒介される転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)は、外来遺伝子の発現を制御するための保存された細胞防御機構である。トランスポゾンやウイルスなどのエレメントのランダムな組込みは、相同な一本鎖mRNAまたはウイルスゲノムRNAの配列特異的な分解を活性化するdsRNAの発現を引き起こすと考えられている。このサイレンシング効果は、RNA干渉として知られる[Ralph et al. (2005) Nature Medicine 11:429-433]。RNAiの機構は、長いdsRNAの約21~25ヌクレオチド(nt)RNAの二本鎖へのプロセシングを伴う。これらの産物は、mRNA分解の配列特異的メディエーターである低分子干渉RNAまたはサイレンシングRNA(siRNA)と称される。分化した哺乳動物細胞では、30bpを超えるdsRNAはインターフェロン応答を活性化し、タンパク質合成の阻止および非特異的mRNA分解を招くことがわかっている[Stark et al., Annu Rev Biochem 67:227-64 (1998)]。しかし、この応答は、21ntのsiRNA二本鎖を使用することによって回避することができ[Elbashir et al., EMBO J. Dec 3;20(23):6877-88 (2001), Hutvagner et al., Science.Aug 3, 293(5531):834-8. Eupub Jul 12 (2001)]、培養哺乳動物細胞において遺伝子機能を分析することが可能になる。
【0502】
医薬組成物
本明細書に記載されるウイルスベクター、または本明細書に記載されるウイルスベクターにより形質導入された細胞もしくは組織を、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物が提供される。
【0503】
遺伝子治療によって個体を治療するための医薬組成物であって、治療有効量のウイルスベクターを含む組成物が提供される。医薬組成物は、ヒト用または動物用であり得る。
【0504】
組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはアジュバントを含み得る。医薬担体、賦形剤または希釈剤の選択は、意図される投与経路および標準的な医薬行為に基づいて行うことができる。医薬組成物は、担体、賦形剤もしくは希釈剤を、またはこれらに加えて、任意の好適な結合剤、潤滑剤、懸濁剤、コーティング剤、可溶化剤、および標的部位へのベクター進入を補助または増加させ得る他の担体物質(例えば、脂質デリバリーシステム)を含み得る。
【0505】
適切な場合には、組成物を、以下のうちのいずれか1つまたは複数によって投与することができる:吸入;坐剤もしくはペッサリーの形態で;ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏もしくは散布粉剤の形態で局所的に;皮膚パッチの使用により;賦形剤、例えばデンプンもしくはラクトースを含有する錠剤の形態で、または単独でもしくは賦形剤と混合されたカプセル剤またはオビュール剤(ovule)において、または香味剤もしくは着色剤を含有するエリキシル剤、液剤もしくは懸濁剤の形態で経口的に;またはそれらを、非経口的に、例えば、海綿体内、静脈内、筋肉内、頭蓋内、眼内、腹腔内もしくは皮下に注射することもできる。非経口投与の場合、組成物は、他の物質、例えば、溶液を血液と等張にするのに十分な塩または単糖類を含有し得る無菌水溶液の形態で最良に使用され得る。口腔内または舌下投与の場合には、組成物は、従来の様式で製剤化され得る錠剤またはロゼンジ剤の形態で投与され得る。
【0506】
また、本明細書に記載されるレンチウイルスベクターは、エクスビボで標的細胞または標的組織に形質導入した後に、前記標的細胞または組織を、それを必要とする患者に移入するために使用することもできる。そのような細胞の一例は自己T細胞であり得、そのような組織の一例はドナー角膜であり得る。
【0507】
変異体、誘導体、類似体、相同体および断片
本明細書において言及される特定のタンパク質およびヌクレオチドに加えて、本発明は、それらの変異体、誘導体、薬学的に許容される塩、類似体、相同体および断片の使用も範囲に含む。
【0508】
任意の所与の配列の変異体は、問題のポリペプチドまたはポリヌクレオチドがその内因性機能の少なくとも1つを保持するような様式で、残基(アミノ酸残基または核酸残基のいずれであれ)の特定の配列が改変されている配列のことである。変異体配列は、天然に存在するタンパク質に存在する少なくとも1つの残基の付加、欠失、置換、改変、置換および/または変化によって得ることができる。
【0509】
本発明のタンパク質またはポリペプチドに関して本明細書で使用される「誘導体」という用語は、生じるタンパク質またはポリペプチドがその内因性機能の少なくとも1つを保持するという条件の下で、配列からのまたは配列に対する、1つ(または複数)のアミノ酸残基の任意の置換、変異、改変、置き換え、欠失および/または付加を含む。
【0510】
ポリペプチドまたはポリヌクレオチドに関して本明細書に記載される「類似体」という用語は、任意の模倣体、すなわち、それが模倣しているポリペプチドまたはポリヌクレオチドの内因性機能の少なくとも1つを保有する化合物を含む。
【0511】
典型的には、アミノ酸置換は、改変された配列が、要求される活性または能力を保持するという条件の下で、例えば、1、2または3個から10個または20個までの置換として行われ得る。アミノ酸置換は、天然に存在しない類似体の使用を含み得る。
【0512】
本発明に使用されるタンパク質は、サイレントな変化を起こし、機能的に同等なタンパク質をもたらす、アミノ酸残基の欠失、挿入または置換も有し得る。内因性機能が保持される限り、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性および/または両親媒性の類似性に基づいて、計画的なアミノ酸置換が行われ得る。例えば、負荷電アミノ酸にはアスパラギン酸およびグルタミン酸が含まれ;正荷電アミノ酸にはリジンおよびアルギニンが含まれ;類似した親水性値を有する無荷電極性頭部基を有するアミノ酸には、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニンおよびチロシンが含まれる。
【0513】
保存的置換は、例えば以下の表に従って行うことができる。第2列で同じブロックにあるアミノ酸、および好ましくは、第3列で同じ行にあるアミノ酸が、互いに置換され得る。
【0514】
【表1】


【0515】
「相同体」という用語は、野生型アミノ酸配列および野生型ヌクレオチド配列と、ある特定の相同性を有する実体を意味する。「相同性」という用語は「同一性」と等しいことがあり得る。
【0516】
この文脈において、相同配列は、対象配列と少なくとも50%、55%、65%、75%、85%または90%同一であり得、好ましくは少なくとも95%、97%または99%同一であり得るアミノ酸配列を含むとみなされる。典型的には、相同体は、対象アミノ酸配列と同じ活性部位などを含むと考えられる。相同性を類似性(すなわち、類似した化学的特性/機能を有するアミノ酸残基)の点で考慮することもできるが、本発明の文脈においては、配列同一性の点で相同性を表すことが好ましい。
【0517】
この文脈において、相同配列は、対象配列と少なくとも50%、55%、65%、75%、85%または90%同一であり得、好ましくは少なくとも95%、97%、98%または99%同一であり得るヌクレオチド配列を含むとみなされる。相同性を類似性の点で考慮することもできる、本発明の文脈においては、配列同一性の点で相同性を表すことが好ましい。
【0518】
相同性比較は、目視により、またはより一般的には、容易に利用可能な配列比較プログラムの支援により、より容易に実施することができる。これらの市販のコンピュータプログラムは、2つ以上の配列の間の相同性または同一性のパーセンテージを計算することができる。
【0519】
相同性パーセンテージは、連続的アミノ酸にわたって計算することができ、すなわち、一方の配列を他方の配列と整列化して、一方の配列の各アミノ酸を他方の配列における対応アミノ酸と1残基ずつ直接比較する。これは「ギャップなし」アラインメントと称される。典型的には、そのようなギャップなしアラインメントは、比較的短い残基数にわたってのみ行われる。
【0520】
これは非常に単純で一貫性のある方法であるが、例えば、ヌクレオチド配列に1つの挿入または欠失が存在し、そうでなければ同一である配列の対において、後続のコドンがアラインメントからの逸脱を引き起こし、それ故にグローバルアラインメントが行われた場合に相同性パーセントの大きな減少がもたらされ得ることを考慮に入れていない。その結果として、ほとんどの配列比較法は、全体的な相同性スコアに過度にペナルティを課さずに、考え得る挿入および欠失を考慮に入れる最適なアラインメントが生じるように設計されている。これは、配列アラインメントに「ギャップ」を挿入して、局所的相同性の最大化を試みることによって達成される。
【0521】
しかし、より複雑なこれらの方法は、アラインメントにおいて生じる各ギャップに「ギャップペナルティ」を割り当てており、その結果、同一アミノ酸の数が同じである場合は、可能な限り少数のギャップを有する配列アラインメントが行われ、比較される2つの配列間のより高度な関連性を反映して、多数のギャップを有するものよりも高いスコアが得られる。典型的には、「アファインギャップコスト」が使用され、これはギャップの存在に対して比較的高いコストを課し、ギャップにおける各後続残基にはより小さなペナルティを課す。これは、最も一般的に使用されているギャップスコア化法である。高いギャップペナルティでは、当然ながら、より少数のギャップを有する最適化アラインメントが生成されるであろう。ほとんどのアラインメントプログラムでは、ギャップペナルティを変更することができる。しかし、そのようなソフトウェアを配列比較に使用する場合、デフォルト値を使用することが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージを使用する場合には、アミノ酸配列のデフォルトギャップペナルティはギャップ毎に-12であり、各伸長毎に-4である。
【0522】
したがって、最大相同性パーセンテージの計算は、まずギャップペナルティを考慮に入れて、最適なアラインメントを生成することが必要である。そのようなアラインメントを実施するのに好適なコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ[University of Wisconsin,U.S.A.;Devereux et al. (1984) Nucleic Acids Research 12:387]である。配列比較を実施することができる他のソフトウェアの例としては、BLASTパッケージ[Ausubel et al. (1999)、前掲-Ch.18を参照]、FASTA[Atschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 403-410]、およびGENEWORKS比較ツールスイートが挙げられるが、これらに限定されない。BLASTおよびFASTAは両方とも、オフラインおよびオンライン検索のために利用可能である[Ausubel et al. (1999)、前掲、pages 7-58 to 7-60を参照]。しかし、一部のアプリケーションについては、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。BLAST 2 Sequencesと呼ばれる別のツールも、タンパク質およびヌクレオチド配列の比較のために利用可能である[FEMS Microbiol Lett (1999) 174(2):247-50; FEMS Microbiol Lett (1999) 177(1):187-8を参照]。
【0523】
最終的な相同性パーセンテージを同一性に関して測定することができるが、アラインメント過程自体は、典型的には、全か無かのペア比較には基づいていない。実際には、化学的類似性または進化距離に基づく各ペアワイズ比較にスコアを割り当てるスケール化された類似性スコアマトリックスが一般に使用される。一般に使用されるそのようなマトリックスの一例は、BLASTプログラムスイートのデフォルトマトリックスであるBLOSUM62マトリックスである。GCG Wisconsinプログラムは一般に、公開デフォルト値、またはカスタム記号比較表が提供されている場合はそれを使用する(さらなる詳細についてはユーザーマニュアルを参照されたい)。一部のアプリケーションについては、GCGパッケージには公開デフォルト値を、または他のソフトウェアの場合にはデフォルトマトリックス、例えば、BLOSUM62を使用することが好ましい。
【0524】
ソフトウェアが最適なアラインメントをひとたび生成したならば、相同性パーセンテージ、好ましくは配列同一性パーセンテージを算出することが可能である。ソフトウェアは通常、これを配列比較の一部として行い、数値の結果を生成する。
【0525】
「断片」も変異体であり、この用語は典型的には、機能的に、または例えばアッセイにおいて関心が持たれるポリペプチドまたはポリヌクレオチドの選択された領域を指す。したがって、「断片」は、完全長ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの一部分であるアミノ酸配列または核酸配列を指す。
【0526】
そのような変異体は、標準的な組換えDNA手法、例えば、部位特異的変異誘発を使用して調製することができる。挿入を作成しようとする場合には、挿入部を、挿入部位の両側に天然に存在する配列に対応する5’および3’隣接領域と共にコードする合成DNAを作成することができる。隣接領域は、天然に存在する配列内の部位に対応する便利な制限部位を含有しており、その結果、配列を適切な酵素で切断して、合成DNAを切断部にライゲートすることができる。次いで、DNAを本発明に従って発現させて、コードされたタンパク質を作り出す。これらの方法は、DNA配列の操作のための当技術分野で公知の数多くの標準的手法の例示に過ぎず、他の公知の手法を使用することもできる。
【0527】
本発明の細胞および/またはモジュール式コンストラクトにおいて使用するのに好適な調節性タンパク質のすべての変異体、断片または相同体は、NOIの翻訳がウイルスベクター産生細胞において抑制または防止されるように、NOIのコグネイト結合部位に結合する能力を保持すると考えられる。
【0528】
結合部位のすべての変異体断片または相同体は、NOIの翻訳がウイルスベクター産生細胞において抑制または防止されるように、コグネイトRNA結合タンパク質に結合する能力を保持すると考えられる。
【0529】
コドン最適化
本発明において使用されるポリヌクレオチド(ベクター産生システムのNOIおよび/または構成要素を含む)は、コドンが最適化され得る。コドン最適化は、WO1999/41397およびWO2001/79518に以前に記載されている。細胞が異なれば、特定のコドンの使用頻度も異なる。このコドンバイアスは、細胞型における特定のtRNAの相対的存在量の偏りに対応する。配列内のコドンを、それを調整して対応するtRNAの相対的存在量と一致するように変更することによって、発現を増加させることが可能である。同じ理由で、対応するtRNAが特定の細胞型において希少であることが公知であるコドンを意図的に選択することによって、発現を減少させることが可能である。このようにして、さらなる度合いでの翻訳制御を行えるようになる。
【0530】
レトロウイルスを含む多くのウイルスは、多数の希少コドンを使用しており、これらを一般的に使用される哺乳動物コドンに対応するように変化させることで、哺乳動物産生細胞における目的の遺伝子、例えば、NOIまたはパッケージング構成要素の発現の増加を達成することができる。哺乳動物細胞について、ならびに種々の他の生物についてのコドン使用頻度の表が、当技術分野で公知である。
【0531】
ウイルスベクター構成要素のコドン最適化には、他にもいくつか利点がある。それらの配列の変更により、プロデューサー細胞/パッケージング細胞のウイルス粒子のアセンブリーのために必要なウイルス粒子のパッケージング構成要素をコードするヌクレオチド配列では、RNA不安定性配列(INS)がそれらから除去されている。同時に、パッケージング構成要素のアミノ酸配列コード配列は保持されるため、配列によってコードされるウイルス構成要素が同じであるか、またはパッケージング構成要素の機能は損なわれない程度に少なくとも十分に類似したままである。レンチウイルスベクターでは、コドン最適化は、輸出のためのRev/RREの必要性をも克服させて、最適化された配列をRev非依存性にする。コドン最適化は、ベクターシステム内の異なるコンストラクト間の相同組換えも減少させる(例えば、gag-polおよびenvオープンリーディングフレームにおける重複領域間)。したがって、コドン最適化の全体的な効果は、ウイルスタイターの顕著な増加および安全性の改善である。
【0532】
一実施形態では、INSに関係するコドンのみがコドン最適化される。しかし、はるかにより好ましく実際的な一実施形態では、配列は、一部の例外、例えば、gag-polのフレームシフト部位を範囲に含む配列を除いて、その全体がコドン最適化される(以下を参照)。
【0533】
レンチウイルスベクターのgag-pol遺伝子は、gag-polタンパク質をコードする2つの重複するリーディングフレームを含む。この両方のタンパク質の発現は、翻訳中のフレームシフトに依存する。このフレームシフトは、翻訳中のリボソーム「スリップ」の結果として起こる。このスリップは、少なくとも一部には、リボソーム停止性RNA二次構造によって引き起こされると考えられている。そのような二次構造は、gag-pol遺伝子のフレームシフト部位の下流に存在する。HIVの場合、重複の領域は、gagの開始部(ヌクレオチド1は、gag ATGのAである)の下流のヌクレオチド1222からgagの終了部(nt 1503)まで及ぶ。その結果として、フレームシフト部位から2つのリーディングフレームの重複領域までにわたる281bp断片は、好ましくはコドン最適化されない。この断片の保持は、Gag-Polタンパク質のより効率的な発現を可能にすると考えられる。EIAVの場合、重複の開始部はnt1262であるとされ(ヌクレオチド1は、gag ATGのAである)、重複の終了部はnt1461であるとされる。フレームシフト部位およびgag-pol重複が確実に保たれるようにするために、nt1156から1465までは野生型配列が保持されている。
【0534】
例えば、便利な制限部位を収容するために、最適なコドン使用からの逸脱がなされることが可能であり、保存的アミノ酸変化をGag-Polタンパク質に導入することができる。
【0535】
一例では、コドン最適化は、発現が軽度である哺乳動物遺伝子に基づく。第3の塩基、そして時には第2および第3の塩基を変化させることができる。
【0536】
遺伝暗号の縮重性のために、多数のgag-pol配列が実現され得ることが当業者には認識されるであろう。また、コドン最適化されたgag-pol配列を作製するための出発点として使用し得るレトロウイルス変異体が多数記載されてもいる。レンチウイルスゲノムは、極めて可変性が高い。例えば、依然として機能的であるHIV-1の疑似種が多数存在する。これはEIAVにも当てはまる。これらの変異体は、形質導入過程の特定の部分を増強するために使用され得る。HIV-1変異株の例は、Los Alamos National Security,LLCによって運営されているHIVデータベース、http://hiv-web.lanl.govで見出すことができる。EIAVクローンの詳細は、http://www.ncbi.nlm.nih.govにある、米国国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI)のデータベースで見出すことができる。
【0537】
コドン最適化されたgag-pol配列についての戦略を、任意のレトロウイルスに対して使用することができる。これは、EIAV、FIV、BIV、CAEV、VMR、SIV、HIV-1、およびHIV-2を含むすべてのレンチウイルスに当てはまると考えられる。加えて、この方法を使用して、HTLV-1、HTLV-2、HFV、HSRV、およびヒト内因性レトロウイルス(HERV)、MLV、および他のレトロウイルスに由来する遺伝子の発現を増加させることもできると考えられる。
【0538】
コドン最適化により、gag-pol発現をRev非依存性にすることができる。しかし、レンチウイルスベクターにおける抗revまたはRRE因子の使用を可能にするためには、ウイルスベクター産生システムを完全にRev/RRE非依存的にすることが必要であろう。したがって、ゲノムを改変することも必要である。これは、ベクターゲノム構成要素を最適化することによって達成される。有利なこととして、これらの改変は、プロデューサー細胞および形質導入細胞の両方においてすべての追加のタンパク質が存在しない、より安全な系の産生にもつながる。
【0539】
本明細書において考察されている刊行物は、本出願の出願日よりも前のそれらの開示のために提供されているに過ぎない。本明細書におけるいかなるものも、そのような刊行物が、本明細書に添付されている特許請求の範囲の先行技術を構成することを認めるものと解釈されるべきではない。
【0540】
以下に、実施例によって、本発明についてさらに詳細に記載するが、これらの実施例は、本発明を実施する上で当業者を援助するのに役立つことを意図しており、本発明の範囲を限定することは全く意図していない。
【0541】
読者の注目は、本出願に関連して本明細書と同時に、またはそれの前に提出され、本明細書と共に一般の閲覧に自由に供されるすべての論文および文書に向けられており、すべてのそのような論文および文書の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0542】
本明細書(任意の添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)に開示された特徴のすべて、および/またはそのように開示された任意の方法もしくは過程の工程のすべては、そのような特徴および/または工程の少なくとも一部が相互に排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わせることができる。
【0543】
本明細書(任意の添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)に開示された各特徴は、他に明白に記載されない限り、同じ、同等の、または類似の目的を果たす代替的な特徴に置き換えることができる。したがって、他に明白に記載されない限り、開示された各特徴は、一般的な一連の同等または類似の特徴の一例にすぎない。
【0544】
本発明は、任意の上記の実施形態の詳細に制限されない。本発明は、本明細書(任意の添付の特許請求の範囲、要約書、および図面を含む)に開示された特徴の任意の新規のものもしくは任意の新規の組み合わせ、またはそのように開示された任意の方法もしくは過程の工程の任意の新規のものもしくは任意の新規の組み合わせに及ぶ。
【0545】
本開示は、本開示の例示的な方法および材料に限定されず、本開示の実施形態の実施または試験において、本開示に記載された方法および材料と類似または同等の方法および材料を使用することができる。数値範囲は、範囲を定義する数値を含む。他に指示がない限り、核酸配列は左から右に5’から3’の向きで書かれる;アミノ酸配列は左から右に、それぞれアミノからカルボキシの方向に書かれる。
【0546】
値の範囲が提供されている場合、文脈が明確に指示しない限り、その範囲の上限と下限の間にある、下限の単位の10分の1までの各介在値も具体的に開示されていることが理解される。記載された範囲内の任意の記載された値または介在する値と、その記載された範囲内の他の記載された値または介在する値との間の各小さな範囲は、本開示の範囲内に含まれる。これらのより小さな範囲の上限と下限は、独立して範囲に含まれても除外されてもよく、いずれか、どちらの限界もより小さな範囲に含まれていないか、または両方の限界がより小さな範囲に含まれている各範囲も、記載される範囲の特に除外された限界に従うことを条件として、本開示の範囲に含まれる。記載された範囲が制限の一方または両方を含む場合、これらの含まれる制限の一方または両方を除く範囲も本開示に含まれる。
【0547】
本明細書および添付の請求項で使用される場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、複数形の指示対象が含まれることに留意しなければならない。
【0548】
本明細書で使用される場合、「含むこと(comprising)」、「含む(comprises)」および「で構成される(comprised of)」という用語は、「含むこと(including)」、「含む(includes)」または「含有すること(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、包括的またはオープンエンドであり、追加で列挙されていないメンバー、要素または方法工程を除外しない。「含むこと」、「含む」および「で構成される」という用語は、「からなる」という用語も含む。
【0549】
本明細書で他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。例えば、Singleton and Sainsbury, Dictionary of Microbiology and Molecular Biology, 2d Ed., John Wiley and Sons, NY (1994); and Hale and Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology, Harper Perennial, NY (1991)は、当業者に、本発明で使用される用語の多くの一般的な辞書を提供する。本明細書に記載される方法および材料と類似または同等の方法および材料は、本発明の実施において使用が認められるが、好ましい方法および材料は本明細書に記載される。したがって、すぐ下に定義されている用語は、仕様全体を参照することによってより完全に記載される。
【0550】
本発明の態様は、以下の非限定的な例によって示される。
[実施例1]
【0551】
HEK293Tにおけるベクター産生を増強するための小分子誘導剤の予備評価
本発明者らは、一過性にトランスフェクトされた接着性HEK293T細胞においてベクタータイターを増加させるための代替的な小分子誘導剤の使用について予備調査を行った。一過性過程における標準的な手順は、脂肪族HDAC阻害剤の1つである10mM酪酸ナトリウムにより、トランスフェクション24時間後の時点でベクター産生を誘導することである。予備的なハイスループット分子スクリーニングを使用して、代替的なHDAC阻害剤(バルプロ酸ナトリウム、吉草酸、SAHAおよびTSA)、HAT阻害剤(タンニン酸)、細胞分化剤(HMBA)、PKCアゴニスト(プロストラチンおよびPMA)、および抗酸化剤(N-アセチルシステイン)の使用がタイターに及ぼす影響を同定した。
【0552】
材料および方法
接着細胞培養、トランスフェクションおよび第3世代SIN-レンチウイルスベクター産生
HEK293T細胞を、完全培地[10%熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)(Gibco)、2mM L-グルタミン(Sigma)および1%非必須アミノ酸(NEAA)(Sigma)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Sigma)]で37℃、5% COにて維持した。
【0553】
HIV CMV-GFPベクターを、12ウェルプレート規模で以下の条件下で産生させた:HEK293T細胞を完全培地に播種し、およそ24時間後に細胞にゲノム、Gag-Pol、RevおよびVSV-Gをトランスフェクトした。トランスフェクションは、OptiPRO中でDNAとLipofectamine 2000CDを、製造元のプロトコール(Life Technologies)に従って混合することによって媒介した。
【0554】
自動液体処理装置を使用して、完全培地中でストック試薬を表2(Table 1)(に一覧にした最終濃度まで希釈して、1mLの誘導混合物を調製した。細胞は、トランスフェクションの約24時間後に、培地を廃棄し、0.8mLの誘導混合物に置き換えることによって誘導した。ベクター上清を24時間後に収集し、MultiScreen-GV 0.22μm 96ウェルフィルタープレート(Millipore)を使用して濾過した。
【0555】
【表2-1】



【表2-2】



【表2-3】



【表2-4】



表1. 12ウェルプレートに添加した被験誘導試薬の濃度。
【0556】
レンチウイルスベクタータイター測定アッセイ
GFPマーカー含有カセットによるレンチウイルスベクタータイター測定のために、HEK293T細胞を完全培地に播種した。播種からおよそ24時間後に、完全培地で希釈した270μLのベクター+8μg/mLポリブレンによりウェルに形質導入を行い、形質導入後3~6時間の間にウェルを530μLの完全培地で満たした。形質導入細胞を37℃、5% COにて3日間インキュベートした。TrypLEを使用して細胞を剥離させて、フローサイトメトリーのために完全培地中に再懸濁させた。GFP発現率は、Live/Singlet/GFP+ゲーティングを使用して測定した。タイターは、GFP細胞のパーセンテージ、形質導入時の細胞数1×10個、ベクター希釈係数および形質導入時のベクター容量に基づいて、以下の式を使用して算出した。
【0557】
【数1】
【0558】
結果
これらの結果は、試験したHDAC阻害剤の多くがHEK293Tにおいて誘導効果を有し、5mM酪酸ナトリウム、10mMバルプロ酸ナトリウム、20mM吉草酸、および2.5μM SAHAの濃度でベクター産生が最適であることを示している(図2)。TSAは、HEK293T細胞におけるベクタータイターを、20mM酪酸ナトリウムのレベルを上回って改善することができなかった。抗酸化剤であるNACは、単独ではタイターにプラスの影響を及ぼさず、1~4mM NACの存在下での基礎的なベクター産生は、非誘導対照と同じままであった。タンニン酸はベクター産生にかなりの悪影響を及ぼし、測定可能なベクター産生は生じなかった。別のクラスの化合物として、転写アクチベーターは個々にベクター誘導能を示し、PKCアクチベーターであるPMAおよびプロストラチンによって起こったベクター誘導が最も高度であった。ランダム化された組み合わせスクリーン(図3)は、HDAC阻害剤を転写アクチベーターと組み合わせた場合に最も高いタイターが達成されたことを示しており、これは、潜伏性HIV治療法においてHDAC阻害剤を潜伏感染再活性化剤(latency reversing agent)と組み合わせた場合のウイルス産生増加に関する報告と一致している(Reuse et al., 2009)。
【0559】
考察
本発明者らは、HDAC阻害剤とPKCアクチベーターの併用がベクタータイターの最大の増加を刺激することを実証した。
[実施例2]
【0560】
HEK293Tにおけるベクター産生を増強するための小分子誘導剤の評価
本発明者らはさらに、一過性にトランスフェクトされたHEK293T細胞においてベクタータイターを増加させるための代替的な小分子誘導剤の使用について調査した。一過性過程における標準的な手順は、脂肪族HDAC阻害剤の1つである10mM酪酸ナトリウムにより、トランスフェクション24時間後の時点でベクター産生を誘導することである。2つの代替的な脂肪族化合物(バルプロ酸ナトリウムおよび吉草酸)およびヒドロキサム酸化合物(SAHA)のHDAC阻害剤としての使用を調査するためのハイスループットスクリーニング法の使用が報告されている。さらに、本発明者らは、HDAC阻害剤を転写アクチベーターであるHMBA(細胞分化誘導剤)およびプロストラチンおよびPMA(PKCアゴニスト)と組み合わせることが、タイターを増加させる効果を調べた。
【0561】
材料および方法
実験1
接着細胞培養、トランスフェクションおよび第3世代SIN-レンチウイルスベクター産生
HEK293T細胞を、完全培地[10%熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)(Gibco)、2mM L-グルタミン(Sigma)および1%非必須アミノ酸(NEAA)(Sigma)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Sigma)]で37℃、5% COにて維持した。
【0562】
HIV CMV-GFPベクターを、12ウェルプレート規模で以下の条件下で産生させた:HEK293T細胞を1mLの完全培地に播種し、およそ24時間後に細胞にゲノム、Gag-Pol、RevおよびVSV-Gをトランスフェクトした。トランスフェクションは、OptiPRO中でDNAとLipofectamine 2000CDを、製造元のプロトコール(Life Technologies)に従って混合することによって媒介した。
【0563】
自動液体処理装置を使用して、完全培地中でストック試薬を表3(Table 2)に一覧にした最終濃度まで希釈して、1.2mLの誘導混合物を調製した。細胞は、トランスフェクションの約24時間後に、培地を廃棄し、1mLの誘導混合物に置き換えることによって誘導した。ベクター上清をおよそ24時間後に収集し、MultiScreen-GV 0.22μm 96ウェルフィルタープレート(Millipore)を使用して濾過した。
【0564】
【表3-1】



【表3-2】



【表3-3】



【表3-4】



【表3-5】



表2. 12ウェルプレートに添加した被験誘導試薬の濃度。
【0565】
レンチウイルスベクタータイター測定アッセイ
GFPマーカー含有カセットによるレンチウイルスベクタータイター測定のために、HEK293T細胞を完全培地に播種した。播種からおよそ24時間後に、完全培地で希釈した265μLのベクター+8μg/mLポリブレンによりウェルに形質導入を行い、形質導入後3~6時間の間に530μLの完全培地でウェルを満たした。形質導入細胞を37℃、5% COにて3日間インキュベートした。TrypLE(Gibco)を使用して細胞を剥離させて、フローサイトメトリーのために完全培地中に再懸濁させた。GFP発現率は、Live/Singlet/GFP+ゲーティングを使用して測定した。タイターは、GFP細胞のパーセンテージ、形質導入時の細胞数8.46×10個、ベクター希釈係数および形質導入時のベクター容量に基づいて、以下の式を使用して算出した。
【0566】
【数2】
【0567】
実験2
接着細胞培養、トランスフェクションおよび第3世代SIN-レンチウイルスベクター産生
HEK293T細胞を、完全培地[10%熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)(Gibco)、2mM L-グルタミン(Sigma)および1%非必須アミノ酸(NEAA)(Sigma)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Sigma)]で37℃、5% COにて維持した。
【0568】
HIV CMV-GFPベクターを、12ウェルプレート規模で以下の条件下で産生させた:HEK293T細胞を1mLの完全培地に播種し、およそ24時間後に細胞にゲノム、Gag-Pol、RevおよびVSV-Gをトランスフェクトした。トランスフェクションは、OptiPRO中でDNAとLipofectamine 2000CDを、製造元のプロトコール(Life Technologies)に従って混合することによって媒介した。
【0569】
JMPを使用して、酪酸ナトリウム、プロストラチンおよびHMBAをスクリーニングするための3×3×2完全実施(full factorial)DOE、ならびに代替的なHDAC阻害剤であるプロストラチンおよびHMBAをスクリーニングするための2×2×2完全実施を作成した。自動液体処理装置を使用して、完全培地中でストック試薬を表4(Table 3)に一覧にした最終濃度まで希釈して、1.2mLの誘導混合物を調製した。細胞は、トランスフェクションの約24時間後に、培地を廃棄し、1mLの誘導混合物に置き換えることによって誘導した。ベクター上清を24時間後に収集し、MultiScreen-GV 0.22μm 96ウェルフィルタープレート(Millipore)を使用して濾過した。
【0570】
【表4-1】



【表4-2】



【表4-3】



【表4-4】



【表4-5】



表3. 12ウェルプレートに添加した被験誘導試薬の濃度。
【0571】
レンチウイルスベクタータイター測定アッセイ
GFPマーカー含有カセットによるレンチウイルスベクタータイター測定のために、HEK293T細胞を完全培地に播種した。播種からおよそ24時間後に、完全培地で希釈した265μLのベクター+8μg/mLポリブレンによりウェルに形質導入を行い、形質導入後3~6時間の間に530μLの完全培地でウェルを満たした。形質導入細胞を37℃、5% COにて3日間インキュベートした。TrypLE(Gibco)を使用して細胞を剥離させ、フローサイトメトリーのために完全培地中に再懸濁させた。GFP発現率は、Live/Singlet/GFP+ゲーティングを使用して測定した。タイターは、GFP細胞のパーセンテージ、形質導入時の細胞数7.98×10個、ベクター希釈係数、形質導入時のベクター容量に基づいて、以下の式を使用して算出した。
【0572】
【数3】
【0573】
結果
実験1
これらの結果(図4参照)は、試験したHDAC阻害剤が同程度の誘導効果を有し、10mMバルプロ酸ナトリウム、10mM吉草酸、および1μM SAHAが最適濃度であることを示している。転写アクチベーターはすべて細胞に対して良好な誘導効果を示し、16mM HMBA、16μMプロストラチンおよび32nM PMAという最適濃度は、非誘導対照よりもおよそ4倍の高さのタイターを生じた。注目すべきことに、ベクタータイターの最大の増加は、HDAC阻害剤と試験したPKCアゴニスト(プロストラチンとPMA)の併用によって誘導され、そのどちらも対応するHDAC濃度の1.6倍から2.0倍の間への同程度の増加を誘導した。プロストラチンとは対照的に、HMBAとHDAC阻害剤の組み合わせは、同等の濃度のHDAC阻害剤単独によって誘導されたものと比較して、タイターの改善を示さないか、わずかしか示さなかった。
【0574】
GFP FACSからのMFIは、0.5から8μMまでのプロストラチンの濃度範囲で変化は観察されなかった。しかし、MFIは16μMプロストラチンで26%増加し、このことは、ベクター希釈(40倍)後の残存濃度0.4μMのプロストラチンが、形質導入細胞の導入遺伝子合成に影響を及ぼすのに十分であることを示している。
【0575】
実験2
実験2の目的は、HDAC阻害剤およびプロストラチンの両方と組み合わせた場合に、HMBAがタイターにプラスの影響を及ぼすか否かを調べることであった。様々な濃度の酪酸ナトリウム、プロストラチンおよびHMBAの間の相互作用を調べるために、3×3×2の全要因DOEを行った(図5)。プロストラチンの存在と10mM酪酸ナトリウムの組み合わせは、ベクター産生の良好な増強を示し、10μMプロストラチンの濃度でタイターが92%増加した。予測プロファイラーからは、より高濃度のプロストラチンの存在が、1μMまたは5μMのプロストラチンと比較して、より高い望ましさスコア(desirability score)を与えることが示された(図5B)。実験1では単独で誘導効果を示したにもかかわらず、8mM HMBAとプロストラチンおよび酪酸ナトリウムとの組み合わせの存在下でのタイターは、HMBAを除外した条件と比較して顕著な減少を示した。
【0576】
同様に、HMBAは代替的なHDAC阻害剤であるバルプロ酸ナトリウム、吉草酸およびSAHAとの組み合わせでタイターにマイナスの影響を示し、このことは、HMBAが、HDAC阻害剤およびプロストラチンに加える添加剤としてはいかなる増強効果ももたらさないことを示唆している。にもかかわらず、プロストラチンを1μMから10μMに増加させることによる誘導のプラスの増強は、試験したすべてのHDAC阻害剤で共通しており、このことは、ベクター誘導の増強剤の可能性があるものとしてのPKCアゴニストの有効性を裏付ける(図6)。
【0577】
考察
これらの実験により、HDAC阻害剤とPKCアクチベーターの併用は、対応するHDAC阻害剤単独による誘導から期待される値を1.6倍から2.0倍上回るベクタータイターの増加をもたらすと結論付けられる。それらの構造的および機能的類似性と一致して、PMAはプロストラチンと同程度の増強効果を示した。しかし、プロストラチン(または他の同様の類似体)の使用は、その非腫瘍形成特性から、医薬用ベクターの産生を誘導するためにPMAよりも好都合である可能性がある。HMBAは、他の小分子誘導剤との併用では、タイターに対していかなるプラスの効果ももたらさなかったことに留意されたい。
[実施例3]
【0578】
HEK1.65Sにおけるベクター産生を増強するための小分子誘導剤の評価
本発明者らは、一過性にトランスフェクトされた浮遊順応性HEK293T(HEK1.65s)細胞におけるベクタータイターを増加させるための代替的な小分子誘導剤の使用について調査した。一過性過程における標準的な手順は、脂肪族HDAC阻害剤の1つである10mM酪酸ナトリウムを使用して、トランスフェクション24時間後の時点でベクター産生を誘導することである。2つの脂肪族化合物(バルプロ酸ナトリウムと吉草酸)およびヒドロキサム酸(SAHA)の代替的なHDAC阻害剤としての使用を調査するためのハイスループットスクリーニング法の使用が報告されている。さらに、本発明者らは、これらのHDAC阻害剤を非腫瘍促進性PKCアクチベーターであるプロストラチンと組み合わせることが、GFP HIVベクタータイターを増加させる効果についても調査した。
【0579】
材料および方法
実験1
浮遊細胞培養、トランスフェクションおよび第3世代SIN-レンチウイルスベクター産生
【0580】
HEK1.65s細胞を、無血清Freestyle(FS)培地+0.1%コレステロール脂質濃縮物(CLC)(Gibco)中で、37℃、5% COにて振盪培養器で増殖させた。
【0581】
HIV CMV-GFPベクターを、24ウェル低接着プレートで以下の条件下で産生させた:HEK1.65s細胞を1mLの無血清培地に播種し、およそ24時間後に細胞にゲノム、Gag-Pol、RevおよびVSV-Gをトランスフェクトした。トランスフェクションは、無血清培地中でDNAとLipofectamine 2000CDを、製造元のプロトコール(Life Technologies)に従って混合することによって媒介した。細胞を37℃、5% COにて振盪培養器中でインキュベートし、ベクターを産生させた。
【0582】
JMPを使用して、各HDACiについて2×2完全実施条件マトリックスを作成し、各条件について2×中心点および2×反復物を設定した。自動液体処理装置を使用して、250μLの12倍濃縮誘導混合物を含む96ウェルプレートを調製した。12倍濃縮誘導混合物の100μLを各24ウェルプレートの対応するウェルにピペットで注入し、表5(Table 4)に一覧にした最終濃度を得た。ベクター上清を2日後に収集し、MultiScreen-GV 0.22μm 96ウェルフィルタープレート(Millipore)を使用して濾過した。
【0583】
【表5-1】



【表5-2】



【表5-3】



表4. 24ウェルプレートへの添加時の被験誘導試薬の最終濃度。
【0584】
レンチウイルスベクタータイター測定アッセイ
GFPマーカー含有カセットによるレンチウイルスベクタータイター測定のために、HEK293T細胞を完全培地に播種した。播種からおよそ24時間後に、完全培地で希釈した160μLのベクター+8μg/mLポリブレンによりウェルに形質導入を行い、形質導入後3~6時間の間に320μLの完全培地でウェルを満たした。形質導入細胞を37℃、5% COにて3日間インキュベートした。TrypLE(Gibco)を使用して細胞を剥離させ、フローサイトメトリーのために完全培地中に再懸濁させた。GFP発現率は、Live/Singlet/GFP+ゲーティングを使用して測定した。タイターは、GFP細胞のパーセンテージ、形質導入時の細胞数6.7×10個、ベクター希釈係数、形質導入時のベクター容量に基づいて、以下の式を使用して算出した。
【0585】
【数4】
【0586】
実験2
浮遊細胞培養、トランスフェクションおよび第3世代SIN-レンチウイルスベクター産生
HEK1.65s細胞を、無血清Freestyle(FS)培地+0.1%コレステロール脂質濃縮物(CLC)(Gibco)中で、37℃、5% COにて振盪培養器で増殖させた。
【0587】
HIV CMV-GFPベクターを、24ウェル低接着プレートで以下の条件下で産生させた:HEK1.65s細胞を1mLの無血清培地に播種し、およそ24時間後に細胞にゲノム、Gag-Pol、RevおよびVSV-Gをトランスフェクトした。トランスフェクションは、無血清培地中でDNAとLipofectamine 2000 CDを、製造元のプロトコール(Life Technologies)に従って混合することによって媒介した。細胞を37℃、5% COにて振盪培養器中でインキュベートし、ベクターを産生させた。
【0588】
JMPを使用して、各条件について2×中心点および2×反復物を有する4×5完全実施条件マトリックスを作成した。自動液体処理装置を使用して、250μLの12倍濃縮誘導混合物を含む96ウェルプレートを調製した。12倍濃縮誘導混合物の100μLを各24ウェルプレートの対応するウェルにピペットで注入し、表6(Table 5)に一覧にした最終濃度を得た。ベクター上清を2日後に収集し、MultiScreen-GV 0.22μm 96ウェルフィルタープレート(Millipore)を使用して濾過した。
【0589】
【表6-1】



【表6-2】



表5. 24ウェルプレートへの添加時の被験誘導試薬の最終濃度。
【0590】
レンチウイルスベクタータイター測定アッセイ
GFPマーカー含有カセットによるレンチウイルスベクタータイター測定のために、HEK293T細胞を完全培地に播種した。播種からおよそ24時間後に、完全培地で希釈した270μLのベクター+8μg/mLポリブレンによりウェルの形質導入を行い、形質導入後3~6時間の間に540μLの完全培地でウェルを満たした。形質導入細胞を37℃、5% COにて3日間インキュベートした。TrypLE(Gibco)を使用して細胞を剥離させ、フローサイトメトリーのために完全培地中に再懸濁させた。GFP発現率は、Live/Singlet/GFP+ゲーティングを使用して測定した。タイターは、GFP細胞のパーセンテージ、形質導入時の細胞数1.18×10個、ベクター希釈係数、形質導入時のベクター容量に基づいて、以下の式を使用して算出した。
【0591】
【数5】
【0592】
結果
実験1
HEK1.65s細胞で試験した種々のHDACiのうち、酪酸ナトリウムは最も高いLVタイターを誘導した(図7)。驚いたことに、SAHAは、一過性にトランスフェクトされたHEK293T細胞において、酪酸ナトリウムに匹敵するLV収量を刺激したことを示す以前のデータにもかかわらず、最も低い誘導効果を示し、最も低いLVタイターが生じた。ほぼすべての場合に、HDACiにプロストラチンを追加するとタイターが増加したことから、HEK1.65sにおいてPKCアゴニストを誘導剤として前向きに適用することが裏付けられた。実験1の結果を受けて、最も成績の良いHDAC阻害剤(酪酸ナトリウム)とプロストラチンの併用効果についてより詳細なモデルを確立し、各誘導剤の至適濃度を決定するための実験2を実施した。
【0593】
実験2
実験2の結果は、一過性にトランスフェクトされたHEK1.65s浮遊細胞において、プロストラチンが酪酸ナトリウムとの組み合わせでタイターに対して顕著なプラスの効果を有することを示している(図8)。ここに示されたデータから、2~4μMという低濃度のプロストラチンでタイターが増加し、8~16μMの濃度ではさらに増加することが観察される。興味深いことに、これらのデータは、プロストラチンが単独でベクタータイター増加を促進するという以前の知見も裏付けており、この場合には8~16μMの濃度で非誘導対照と比較してタイターが約13倍に増加し、至適濃度の酪酸ナトリウムの約半分の誘導効果が示されている。
【0594】
得られたタイターをJMP DOEソフトウェアに戻し、LVタイターに対する酪酸ナトリウムおよびプロストラチンの相互作用モデルを作成した(図9)。「予測と実際」のプロット(図9B)は、DOEモデルとランダム効果による収集データの変動との間の強い適合を示している。酪酸ナトリウム(11.5)、プロストラチン(8.8)、酪酸ナトリウム*酪酸ナトリウム(4.9)、プロストラチン*プロストラチン(4.9)のLogWorth値はいずれも2を超えており、各効果の有意性が閾値p値0.01を大きく上回っていることを示している。予測プロファイラー(図9C)からは、組み合わせた誘導剤についての予測至適濃度は8mM酪酸ナトリウムおよび11μMプロストラチンであることを示している。これらの至適条件下では、LVのタイターは酪酸ナトリウム(8mM)のみの至適濃度の場合よりも1.93倍増加する。
【0595】
細胞生存率の測定からは、2~32μMの濃度範囲のプロストラチンで処理した細胞では、酪酸ナトリウム処理細胞で観察された4%という低下と比較して、それ以上の細胞生存率の低下は見られなかった[表7(Table 6)]。これらの結果は、プロストラチンが48時間のベクター産生期間にわたって細胞に対する細胞傷害性作用をほとんど有しないことを示している。
【0596】
【表7】



表6. 細胞生存率の測定値
【0597】
考察
これらの結果は、プロストラチンが、一過性にトランスフェクトされたHEK1.65sにおけるLVタイターの効果的な増強剤であることを示している。8~16μMのプロストラチンのみで形質転換細胞を誘導すると、非誘導対照よりもベクタータイターが10倍以上に増加する。さらに、このDOEモデルで確立された至適濃度では、8mM酪酸ナトリウムを伴う11μMのプロストラチンは、LVタイターを、至適な酪酸ナトリウム条件での誘導をほぼ2倍上回るまで増加させる。その誘導効果に加えて、プロストラチンへの細胞曝露の結果として細胞生存率の低下は観察されなかった。代替的な脂肪族HDAC阻害剤(3mMバルプロ酸ナトリウムおよび10mM吉草酸)を使用した場合には、ある程度の誘導効果が観察されたが、ヒドロキサム酸HDAC阻害剤であるSAHAは最も弱い誘導効果を示し、この実験で試験した濃度では、代替的なHDAC阻害剤のいずれも酪酸ナトリウムよりもタイターを増加させなかった。このことは、標準的な一過性ベクター産生方法において、プロストラチンが単独で、または酪酸ナトリウムとの組み合わせで、誘導の候補となる小分子であることを示している。
[実施例4]
【0598】
ベクター誘導の小分子増強剤としてのプロストラチン:40mL振盪フラスコ試験
プロストラチンは小分子の非腫瘍促進性プロテインキナーゼC(PKC)モジュレーターであり、がん(Alotaibi et al., 2018)およびアルツハイマー病(Hongpaisan & Alkon, 2007)の治療に有望な治療特性を示している。本発明者らは実施例3で、HEK1.65sを使用した一過性LV産生過程において、プロストラチンがHDAC阻害剤との組み合わせで、GFP-HIV LVタイターを24ウェルプレート規模で2倍以上増加させるのに有効であることを実証した。本発明者らは以下のスケールアップ実験を行い、プロストラチンで増強されたHEK細胞の産生能力を、振盪フラスコ容量(40mL)にも拡張し得るか否かを調べた。
【0599】
材料および方法
浮遊細胞培養、トランスフェクションおよび第3世代SIN-レンチウイルスベクター産生
HEK1.65s細胞を、無血清Freestyle(FS)培地+0.1%コレステロール脂質濃縮物(CLC)(Gibco)中において、37℃、5% COにて振盪培養器で増殖させた。
【0600】
HIV CMV-GFPベクターを、6本の125mL Erlenmeyer振盪フラスコ内で、以下の条件下で産生させた:HEK1.65s細胞を40mLの無血清培地に播種し、およそ24時間後に細胞にゲノム、Gag-Pol、RevおよびVSV-Gをトランスフェクトした。トランスフェクションは、無血清培地中でDNAとLipofectamine 2000 CDを、製造元のプロトコール(Life Technologies)に従って混合することによって媒介した。ベクター産生の過程を通じて、細胞を37℃、5% COにて振盪培養器中でインキュベートした。
【0601】
最終濃度8mMの酪酸ナトリウムを使用して、振盪フラスコ1~6におけるベクター産生を誘導した。酪酸ナトリウム誘導と同時に、フラスコ3および4にはDMSOを添加して最終濃度0.2%(v/v)DMSOとし、振盪フラスコ5および6にはプロストラチン(DMSO中に溶解)を添加して、最終濃度11μMのプロストラチンおよび0.2%(v/v)DMSOとした[表8(Table 7)]。ベクター上清を誘導の約24時間後に収集し、0.45μmで濾過した。
【0602】
【表8】



表7. 振盪フラスコの誘導組成。
【0603】
レンチウイルスベクタータイター測定アッセイ
FACSによるレンチウイルスベクタータイター測定のために、HEK293T細胞を完全培地に播種した。播種からおよそ24時間後に、完全培地で希釈した157μLのベクター+8μg/mLポリブレンによりウェルの形質導入を行い、形質導入後3~6時間の間に314μLの完全培地でウェルを満たした。形質導入細胞を37℃、5% COにて3日間インキュベートした。TrypLE(Gibco)を使用して細胞を剥離させ、フローサイトメトリーのために完全培地中に再懸濁させた。GFP発現率は、Live/Singlet/GFP+ゲーティングを使用して測定した。タイターは、GFP細胞のパーセンテージ、形質導入時の細胞数4.4×10個、ベクター希釈係数、形質導入時のベクター容量に基づいて、以下の式を使用して算出した。
【0604】
【数6】
【0605】
二重QPCR組込みアッセイによるレンチウイルスベクタータイター測定のために、HEK293T細胞を完全培地に播種した。播種から約24時間後に、完全培地で希釈した500μLのベクターおよび8μg/mLポリブレンによりウェルに形質導入を行い、形質導入後3~6時間の間に1mLの完全培地でウェルを満たした。培養物を10日間継代した後に、1×10個の細胞ペレットから宿主DNAを抽出した。HIVパッケージングシグナル(ψ)およびRRPH1にセットしたFAMプライマー/プローブを使用して二重定量PCRを行い、以下の因子を使用してベクタータイター(TU/mL)を算出した:形質導入容量、ベクター希釈度、RRPH1で正規化された1反応あたりに検出されたHIV-1ψコピー。
【0606】
結果および考察
DOEで最適化された誘導条件(8mM酪酸ナトリウム+11μMプロストラチン:実施例3)の振盪フラスコ規模への拡張により、HIV-GFPのタイターの増加が首尾良く実証された。プロストラチンの存在下で、ベクタータイターは、酪酸ナトリウム単独でHEK1.65s細胞を誘導することによって達成されたタイターよりも2.4倍から2.9倍高度であった(図10Aおよび図10B)。VRCおよびVRC+55nMプロストラチンについて報告されたタイターが同一であることにより、組込みアッセイから決定されたタイターが、ベクター希釈後に残存するプロストラチンの残留濃度の影響を受けないことが実証された(図10B)。
[実施例5]
【0607】
本発明の文脈においてSIN-レンチウイルスベクター産生中に共発現され得る例示的な改変U1 SNRNA発現コンストラクト
本発明者らは以前に、U1 snRNAを改変し、レンチウイルスベクター(LV)と共発現させることで、産生タイターの増強につながり得ることを示した。改変U1 snRNA分子の例を図11に示す。手短に述べると、ネイティブ性スプライスドナー部位のアニーリング配列(ヌクレオチド1~11)を、レンチウイルスベクターRNA(vRNA)の5’領域内の「標的」配列-典型的にはコアパッケージ領域内にある-に相補的な配列に置き換えて、vRNAおよび他のベクター構成要素と並行して発現させることにより、ベクタータイターの増加を招き得る。理論に拘束されることは望まないが、改変U1 snRNAは核内でvRNAに結合し、最終的にはビリオンへのパッケージングに利用し得るvRNAの定常状態プールを安定化/増加させるという仮説が立てられる。本発明者らは以前、レンチウイルスベクターゲノムvRNAのパッケージングシグナル内に埋め込まれた主要スプライスドナー(MSD)領域が非常に乱交雑的であり得、導入遺伝子配列内の強力または潜在的なスプライスアクセプターへのスプライシングが(revの存在下であっても)、パッケージングに利用可能な完全長vRNAの量の減少につながる可能性があることを示した(図1参照)。この異常なスプライシング活性の除去は、機能的突然変異またはMSDおよび下流の数ヌクレオチドをコードする潜在的スプライスドナーの欠失によって達成される(図14A参照)。LVに対するこの種の改変は産生タイターの減少につながる;しかし、LV産生中に改変U1 snRNAが供給されることによってタイターが増加/回復し、同時に異常なスプライシングの遮断も維持される(図13および14参照)。
【0608】
本発明者らは、MSD突然変異LVの産生におけるプロストラチンの使用が出力タイターの増強につながるか否か、およびプロストラチンおよび改変U1 snRNAの両方を同時に適用できるか否かを評価しようと考えた。
【0609】
浮遊細胞培養、トランスフェクションおよび第3世代SIN-レンチウイルスベクター産生
HEK293T.1-65s浮遊細胞を、Freestyle+0.1%CLC(Gibco)中で、37℃、5% COにて振盪培養器(25mm軌道で190 RPMに設定)で増殖させた。HEK293Ts細胞を無血清培地に8×10個/mlで播種し、ベクター産生を通じて、37℃、5% COにて振盪インキュベーションを行った。播種からおよそ24時間後に、トランスフェクション時の有効最終培養容量あたりのプラスミドの質量比として以下を使用して、細胞をトランスフェクトした:ゲノム、Gag-Pol、Rev、VSV-G、および利用時に0.01から0.2μg/mLの改変U1 snRNAプラスミド。
【0610】
トランスフェクションは、Opti-MEM中でDNAとLipofectamine 2000CDを、製造元のプロトコール(Life Technologies)に従って混合することによって媒介した。約18時間後に酪酸ナトリウム(Sigma)を最終濃度10mMとして添加し、適宜、プロストラチンを、最終濃度11μMの酪酸ナトリウムと共に加えた。典型的には、ベクター上清を20~24時間後に収集し、次いで濾過(0.22μm)して、-20/-80℃で凍結させた。ヌクレアーゼ処理に関する陽性対照として、典型的にはBenzonase(登録商標)を、濾過の1時間前に5U/mLとして収集物に添加した。
【0611】
プロストラチンおよび改変U1 snRNAの評価について、使用した標準的SIN-LVゲノムはHIV-EFS-GFPまたはHIV-EF1a-GFPであり、MSD突然変異SIN-LVゲノムはHIV-MSD2KOm5-EFS-GFPまたはMSD2KOm5-EF1a-GFPであった。MSD2KOm5の改変を図14に示す。改変U1 snRNAは256U1であり、これはパッケージングシグナル(配列番号22を参照)のSL1ループを標的とする。表8に、改変U1 snRNAの標的化配列の他の例を示す。
【0612】
レンチウイルスベクタータイター測定アッセイ
GFPマーカー含有カセットによるレンチウイルスベクタータイター測定のために、HEK293T細胞を96ウェルプレートに1.2×10個/ウェルで播種した。GFPをコードするウイルスベクターを使用して、8mg/mlポリブレンおよび1×ペニシリンストレプトマイシンを含有する完全培地中で細胞の形質導入をおよそ5~6時間行った後に、新しい培地を添加した。形質導入細胞を37℃、5% COにて2日間インキュベートした。次いで、Attune-NxT(Thermofisher)を使用して、培養物をフローサイトメトリー用に調製した。GFP発現率を測定し、形質導入時の予測細胞数2×10個(典型的な増殖速度に基づく)、ベクター試料の希釈係数、陽性GFP集団のパーセンテージおよび形質導入時の総容量を使用してベクタータイターを算出した。
【0613】
結果
驚いたことに、SIN-LV産生中にプロストラチンを添加することにより、MSD突然変異SIN-LVベクター(および標準的SIN-LV)のタイターが強化されることが見出された(図15参照)。さらに、産生中にプロストラチンを256U1と共に供給すると、MSD突然変異SIN-LVベクターの出力タイターは、誘導剤が存在しない場合に、標準的SIN-LVベクターよりも高度に増加した。このデータは、化学物質とポリヌクレオチドに基づく誘導剤分子との組み合わせが、標準的SIN-LVおよびMSD突然変異SIN-LVの両方のタイターを増加させ得ることを初めて示すものである。
【0614】
改変U1 snRNAのDNAベースの発現コンストラクトは、RNAの転写および終結を駆動する内因性U1 snRNA遺伝子の保存された配列を含み、それは256U1(U1_256とも称される)snRNAの非限定的な例において、以下に強調表示されている:
【化2】
(配列番号22)
凡例:大文字のみ=U1 PolIIプロモーター(nt 1~392);小文字=再標的化領域(nt 393~409);小文字の太字=再標的化配列[この例では、野生型HIV-1パッケージングシグナルのnt 256~270を標的とする](nt 395~409);大文字の斜体=主要なU1 snRNA配列[クローバーリーフ](nt 410~562);大文字の下線=転写終結領域(nt 563~652)
【0615】
本発明者らが使用した最初の改変U1 snRNAおよび対照の概要を以下の表に提示しており、新しいアニーリング配列および標的部位配列(配列は5’から3’方向に表される)が示されている。
【0616】
【表9-1】



【表9-2】



【表9-3】



[実施例6]
【0617】
一過性にトランスフェクトされたHEK1.65sにおける治療用ベクターの産生のための改変U1 SNRNA発現およびプロストラチン誘導の個々の効果および複合効果の評価
以前に観察されたGFPレポーター導入遺伝子を保有するSIN-LVベクタータイターの増加から先に進めて、本発明者らはさらに、一過性にトランスフェクトされたHEK1.65s細胞における治療用導入遺伝子(CAR#1、CAR#2、およびCAR#2-T2A-GFP)を含むHIVベクターの産生を増強するための256U1およびプロストラチンの個々の使用および併用のについて調べようとを考えた。タイターの増加を、ポリヌクレオチドまたは小分子誘導剤の非存在下で、同じ導入遺伝子の標準的なSIN-LV産生手順と比較した。
【0618】
材料および方法
浮遊細胞培養、トランスフェクションおよび第3世代SIN-レンチウイルスベクター産生
HEK1.65s細胞を、無血清Freestyle(FS)培地+0.1%コレステロール脂質濃縮物(CLC)(Gibco)中で、37℃、5% COにて振盪培養器で増殖させた。
【0619】
HIV CAR#1、CAR#2、およびCAR#2-T2 A-GFPベクターを、12個の125mL三角振盪フラスコ内で、以下の条件下で産生させた:HEK1.65s細胞を20mLの無血清培地に播種し、およそ24時間後に細胞にゲノム、Gag-Pol、Rev、およびVSV-Gでトランスフェクトした。振盪フラスコ2、4、6、8、10および12では256U1プラスミドをコトランスフェクトした[表10(Table 9)]。トランスフェクションは、無血清培地中でDNAとLipofectamine 2000CDを、製造元のプロトコール(Life Technologies)に従って混合することによって媒介した。ベクター産生の過程を通じて、細胞を37℃、5% COにて振盪培養器中でインキュベートした。
【0620】
振盪フラスコ1~12内でのベクター産生を、トランスフェクションから約24時間後に、最終濃度10mMの酪酸ナトリウムを使用して誘導した。酪酸ナトリウム誘導と同時に、振盪フラスコ3、4、7、8、11および12にはプロストラチン(DMSO中に溶解)を添加して、最終濃度11μMのプロストラチンおよび0.2%(v/v)のDMSOとした(表9)。ベクター上清を誘導から約24時間後に収集し、0.45μmで濾過した。
【0621】
【表10】




表9. ベクタータイターに対する改変U1 snRNAおよびプロストラチンの影響を調べるための実験条件。
【0622】
レンチウイルスベクタータイター測定アッセイ
FACSによるレンチウイルスベクターのタイター測定のために、HEK293T細胞を完全培地に播種した。播種からおよそ24時間後に、完全培地で希釈した50μLのベクター+8μg/mLポリブレンによりウェルの形質導入を行い、形質導入後3~6時間の間に200μLの完全培地でウェルを満たした。形質導入細胞を37℃、5% COにて3日間インキュベートした。TrypLE(Gibco)を使用して細胞を剥離させ、完全培地中に再懸濁させて、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した後に、フローサイトメトリーのための抗体染色を行った。CAR#1およびCAR#2ベクターについては、scFv(単鎖可変断片)発現のパーセントをLive/Singlet/scFv+ゲーティングを使用して測定し、CAR#2-T2 A-GFPベクターについては、scFvおよびGFPのパーセントをLive/Singlet/scFv&GFPゲーティングを使用して測定した。タイターは、scFvまたはscFv&GFP細胞のパーセント、形質導入時の細胞数1.65×104個、ベクター希釈係数および形質導入時のベクター容量に基づいて、以下の式を使用して算出した。
【0623】
【数7】
【0624】
結果および考察
256U1 snRNAを産生細胞によって発現させた場合、3つのCARベクター産物すべてについて、標準的な産生手順の対照フラスコと比較してタイター増加が観察された(CAR#1については46倍、CAR#2については2.5倍、CAR#2-T2A-GFPについては2.7倍)(図16)。同様に、3つのベクター産物についてのタイター増加は、ベクター誘導時にプロストラチンを酪酸ナトリウムと共に含めた場合にも観察された(CAR#1については24倍、CAR#2については2.6倍、CAR#2-T2A-GFPについては2倍)。注目すべきことに、256U1 snRNAの発現を誘導時のプロストラチン添加と組み合わせた振盪フラスコでは、ベクタータイターの最大の増加が達成された(CAR#1については125倍、CAR#2については7.9倍、CAR#2-T2A-GFPについては4.5倍)。これらの結果は、実施例5で得られた本発明者の以前の観察を裏付けるものであり、治療用ベクター産生において、ポリヌクレオチドと小分子誘導剤とを組み合わせて、一過性のSIN-LV産生過程においてベクタータイターを増加させ得ることを初めて示したものである。
[実施例7]
【0625】
EIAVベクター誘導の小分子増強剤としてのプロストラチン
プロストラチンは小分子の非腫瘍促進性プロテインキナーゼC(PKC)モジュレーターであり、がん(Alotaibi et al., 2018)およびアルツハイマー病(Hongpaisan & Alkon, 2007)の治療に有望な治療特性を示している。本発明者らは実施例4において、プロストラチンが振盪フラスコ容量(40mL)でGFP-HIV LVタイターを増加させるのに有効であることを示した。ここでは本発明者らは、遺伝子治療に使用される代替的レンチウイルスであるウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)の産生中に、プロストラチンがタイターを増加させるのに有効であることを実証する。
【0626】
材料および方法
浮遊細胞培養、トランスフェクションおよび第3世代SIN-レンチウイルスベクター産生
HEK1.65s細胞を、無血清Freestyle(FS)培地+0.1%コレステロール脂質濃縮物(CLC)(Gibco)中において、37℃、5% COにて振盪培養器で増殖させた。
【0627】
EIAV CMV-GFPベクターを、125mL Erlenmeyer振盪フラスコ内で、以下の条件下で産生させた:HEK1.65s細胞を20mLの無血清培地に播種し、およそ24時間後に、細胞にEIAV-GFP-CMV、EIAV-Gag-PolおよびVSV-Gをトランスフェクトした。トランスフェクションは、無血清培地中でDNAとLipofectamine 2000CDを、製造元のプロトコール(Life Technologies)に従って混合することによって媒介した。ベクター産生の過程を通じて、細胞を37℃、5% COにて振盪培養器中でインキュベートした。
【0628】
振盪フラスコ1~4では、酪酸ナトリウムを最終濃度10mMで使用してベクター産生を誘導した。酪酸ナトリウム誘導と同時に、プロストラチン(DMSO中に溶解)を振盪フラスコ3および4に加え、最終濃度11μMのプロストラチンおよび0.2%(v/v)DMSOとした[表11(Table 10)]。ベクター上清を誘導から約24時間後に収集し、0.45μmシリンジフィルターを使用して濾過した。
【0629】
【表11】



表10. 振盪フラスコの誘導組成。
【0630】
レンチウイルスベクタータイター測定アッセイ
FACSによるレンチウイルスベクターのタイター測定のために、HEK293T細胞を完全培地に播種した。播種からおよそ24時間後に、完全培地で希釈した500μLのベクター+8μg/mLポリブレンによりウェルの形質導入を行い、形質導入後3~6時間の間に1mLの完全培地でウェルを満たした。形質導入細胞を37℃、5% COにて3日間インキュベートした。TrypLE(Gibco)を使用して細胞を剥離させ、フローサイトメトリーのために完全培地中に再懸濁させた。GFP発現率は、Live/Singlet/GFP+ゲーティングを使用して測定した。タイターは、GFP細胞のパーセンテージ、形質導入時の細胞数1.85×10個、ベクター希釈係数、形質導入時のベクター容量に基づいて算出した。
【0631】
結果および考察
EIAV-CMV-GFPベクターの誘導にプロストラチンを含めたところ、対照タイターと比較して、タイターの2倍への増加がもたらされた(プロストラチンを伴う誘導時の9.1E+05 TU/mLに対して、プロストラチンなしでは4.4E+05 TU/mL)(図17)。
[実施例8]
【0632】
ベクター産生中のウイルスベクター構成要素発現の誘導をモデル化するための、種々の恒常的プロモーターからの発現を強化するためのプロストラチンの使用
種々の恒常的プロモーターを、GFP発現プラスミド:サイトメガロウイルスプロモーター-CMV;ラウス肉腫ウイルスU3プロモーター-RSV;CAG合成プロモーター(CMVエンハンサー、ニワトリβアクチン遺伝子のプロモーターエキソン/イントロン、ウサギβグロビン遺伝子のスプライスアクセプター);チャイニーズハムスターEF-1α-1プロモーター-CHEF1;GRP78/BiP(ストレス誘導性)プロモーター-GRP78;ユビキチンCプロモーター-UBC;HIV-1 U3プロモーター-HIV-1 U3;ヒトフェリチン重鎖プロモーター-FERH;およびシミアンウイルス40プロモーター-SV40中にクローニングした。
【0633】
ベクター産生中のウイルスベクター構成要素(例えば、AAVカプシド、LVゲノムなど)の発現をモデル化するために、浮遊(無血清)HEK293T細胞に、各pPromoter-GFP DNAにより、2種類の投入量で別々にトランスフェクトした(代替的な比率での発現をモデル化するため)。トランスフェクション後に、すべての培養物を、酪酸ナトリウム(10mM;典型的な誘導処理)により、11μMプロストラチンと同時にまたはその非存在下で処理した。トランスフェクションからおよそ2日後に、フローサイトメトリーによって培養物を分析し、トランスフェクション効率およびGFP発現レベルを評価した。導入遺伝子発現スコアは、各培養物/条件について、GFP陽性細胞のパーセンテージに蛍光強度中央(MFI)値(任意単位)を乗算することによって求めた。これらのデータは図18にプロットされており、驚いたことに、遺伝子発現の誘導剤として周知である酪酸ナトリウムの存在下であってもプロモーターからの発現誘導が示されている。このことは、プロストラチンが酪酸ナトリウムとは異なる機序でプロモーター活性を誘導し、それ故に必要に応じて両方の化合物を同時に使用し得ることを示唆している。注目されるのは、両方のpDNA投入レベルで、CMV、CAG、RSVという3つの強力なプロモーターが明確に誘導されることである。このことは、ウイルスベクター構成要素発現システムにおける使用のための既存の強力なプロモーター、例えば、LV、AAVおよびAdV(これらに限定されない)から、より高度の遺伝子発現を誘導するためにプロストラチンを使用することの有用性を示している。例えば、他の研究者らは、AAVのrep遺伝子およびcap遺伝子を、異種プロモーター、例えば、CMVやRSVによって個別に発現させ得ることを示している(Vincent et al., 1997; Journal of Virology, pg 1897-1905)。本明細書において観察された、プロストラチンによるこれらの(および他の)プロモーターの誘導を考慮すると、本明細書において例示されたこれらのプロモーターのうちのいずれかに転写性に依存している場合、プロストラチンが任意のウイルスベクターパッケージング構成要素の発現を増加させることを期待することは妥当であり、他の任意のものについても、本明細書に示されているようにプロストラチンによる誘導について容易に試験することができる。
【0634】
参考文献
【表12】

【表13】
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
2023525161000001.app
【国際調査報告】