(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-14
(54)【発明の名称】携帯用AEDケース
(51)【国際特許分類】
A61B 50/31 20160101AFI20230607BHJP
A61N 1/39 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
A61B50/31
A61N1/39
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023508122
(86)(22)【出願日】2021-04-26
(85)【翻訳文提出日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 EP2021060833
(87)【国際公開番号】W WO2021219546
(87)【国際公開日】2021-11-04
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522418543
【氏名又は名称】トリサルト ホールディング ベー.フェー.
【氏名又は名称原語表記】Trisult Holding B.V.
【住所又は居所原語表記】Keizersveld 52D, 5803 AN Venray, Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】リューベン ハルマンス
(72)【発明者】
【氏名】フレードリク アンデション
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ40
(57)【要約】
本発明は、AEDを0~45℃のその動作温度範囲に少なくとも48時間保つための温度調整手段を備えたAED用モバイルケースに関する。このケースはまた、AEDの温度、位置、技術的状態を管理するセンサならびにAEDのデータおよびその位置をコントロールセンタに報告することを可能にする通信手段を備え得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動体外式除細動器(AED)を収納するケースであって、断熱体と、前記ケース内の温度調整手段とを備え、
前記ケースは持ち運びできることを特徴とする、ケース。
【請求項2】
外部電力供給、好ましくはDC電源のためのアクセス部、好ましくは自動車のDCソケットまたはパワーバンクなどの広く使用されているDC供給システムと互換性のあるアクセス部を備える、請求項1記載のケース。
【請求項3】
前記ケース内の温度を検出するためのセンサを備える、請求項1または2記載のケース。
【請求項4】
前記AEDの技術的状態および/または前記AEDのバッテリの状態および/または前記AEDの取り外しを検出するためのセンサを備える、請求項1から3までのいずれか1項または複数項記載のケース。
【請求項5】
好ましくはGPSアンテナを使用した、またはセルラーネットワークを介した、前記ケースの位置表示手段を備える、請求項1から4までのいずれか1項または複数項記載のケース。
【請求項6】
通信手段、好ましくはモバイルネットワークを介した通信手段を備える、請求項1から5までのいずれか1項または複数項記載のケース。
【請求項7】
前記AEDと体温調整手段とを取り込むために、前記ケース内の空洞を取り囲む断熱材料を備える、請求項1から6までのいずれか1項または複数項記載のケース。
【請求項8】
前記空洞が、センサ、前記温度調整手段、および心停止が起こったときに必要な付属品を取り込むためのサブ空洞を備える、請求項7記載のケース。
【請求項9】
前記ケース内の前記温度調整手段が、相変化材料に基づく、請求項1から8までのいずれか1項または複数項記載のケース。
【請求項10】
前記ケース内の前記温度調整手段が、電気的に駆動される、請求項1から8までのいずれか1項または複数項記載のケース。
【請求項11】
前記ケース内の前記温度調整手段が、熱電変換素子を備える、請求項10記載のケース。
【請求項12】
前記ケース内の前記温度調整手段が、気体の膨張による冷却と加圧による加温とに基づく、請求項10または11記載のケース。
【請求項13】
バッテリを備える、請求項1から12までのいずれか1項または複数項記載のケース。
【請求項14】
前記通信手段が、前記バッテリによって駆動される、請求項13記載のケース。
【請求項15】
前記位置表示手段が、前記バッテリによって駆動される、請求項13または14記載のケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動体外式除細動器(AED)の携帯用ケースに関する。
【0002】
心停止は最も重要な死因の1つであり、適切な応急処置を即座に行う必要がある。AEDはこれらの処置に不可欠なツールであり、即座に使用することで、心停止後の生存率を大幅に高めることができる。現在、AEDは専門家だけが使用できるものではなく、例えば、音声で使用方法を示すように、一般の人でも使用できるものが利用可能である。これらの理由から、AEDは鉄道の駅、空港または重要な観光地など、多くの公共の場で利用可能である。
【0003】
AEDが必要なときに確実に作動するように、AEDの適切な保管が不可欠である。典型的には、AEDは、緊急時にすぐに目に留まり、取り出され、使用されるように、人目を引くキャビネットに保管される。
【0004】
また、緊急時にAEDを適切に機能させるためには、AEDを適切に保管することが重要である。AEDの動作温度は0~45℃である。信頼性の高い機能を実現するには、この温度範囲が正確に保たれることに注意する必要がある。その範囲外の温度に直面したAEDは、確実に作動することが期待できない。そのため、キャビネット内の温度を制御し、必要に応じて調整を行い、上記の範囲を超えた温度または温度調整の失敗をコントロールセンタに報告して、信頼性の低いAEDを早急に交換できるようにする必要がある。
【0005】
同じことが、自己診断の失敗またはバッテリの低充電状態のいずれかに起因し得る機器本体の不適切な状態を被ったAEDに当てはまる。したがって、バッテリとAED本体との両方の状態を一定の間隔で自動的にチェックし、バッテリ状態が低下した場合または自己診断に失敗した場合に少なくとも報告する必要がある。
【0006】
心停止時に必要な応急処置は、AEDの使用だけではない。専門的な応急処置と緊急入院のどちらも、救助隊員と救急の乗り物、例えば自動車、消防車、トラック、バイク、スクーター、救急車、列車、軍用車両、ヘリコプター、飛行機、ボート、すなわちSARボートとが早急に緊急事態の場所に居合わせる必要がある。したがって、救助隊員に適切な注意を確実に促すように、AEDキャビネットには、キャビネットが開かれたことを報告することで即座にアラームを発して救助隊員を緊急現場に呼び出すコントロール機器が備え付けられている。
【0007】
これらのすべての要件により、AEDキャビネットは、AEDの状態データおよびキャビネット内の温度を、AEDを管理するコントロールセンタに報告し、キャビネットの開放時に救助隊員にアラームを転送することもできる通信機器を備えている必要がある。
【0008】
これらの要件を満たすために、AEDキャビネットは常に電気・通信接続を必要とし、ひいては、電子機器ともみなされる必要がある。
【0009】
これらの機能は常に電気接続を必要とするため、温度制御および調整ならびに救助隊員への即時通報などの重要な機能がモバイル用途で利用可能ではない。
【0010】
本出願に係るモバイル用途は、AEDを30分超、定置型電力および/または通信ネットワークに有線接続せずに、250メートル超移動させた状況で行われるAEDの用途である。モバイル用途の典型的な特徴は、AEDが有線電力および/または通信ネットワーク接続から250メートル超さらに離れて使用されることである。これには、救急現場に到着するまでの間、必要な温度条件を満たした状態でAEDを迅速かつ容易に運搬できることが要求される。
【0011】
本出願に係る迅速かつ容易な運搬とは、AEDケースを、せいぜい片手を用いて、ケースの全体部分ではない任意の運搬手段を用いることなく、250メートルまたはそれを超える距離を1人で少なくとも3.5km/hの速度で移動できることである。
【0012】
AEDは心停止時の応急処置に不可欠なツールであるため、救急の乗り物にも欠かせない装備品である。本出願に係る救急の乗り物には、一般道路用とオフロード用の乗り物の両方が含まれるが、飛行機およびヘリコプターのような航空機ならびにSARボートまたは救命ボートなどの船舶も含まれる。当面の間、乗り物が勤務外であり、例えば環境または気象条件によりAEDの動作温度範囲を超過することが予想される場合、救急の乗り物からAEDを取り外す必要がある。このような場合、AEDを動作温度範囲で確実に保てる場所に保管する必要がある。最終的に、乗り物の勤務が再開された場合、AEDを乗り物にセットし戻す必要がある。勤務時間外でもAEDを救急の乗り物に置いておくことができれば、救急の乗り物に備え付ける段取りを簡略化でき、緊急時に致命的な結果をもたらし得るエラー発生源をなくすことになる。
【0013】
本発明の目的は、この問題を克服し、上述の問題点を克服する、人が持ち運びできるAEDケースを提供することにある。
【0014】
基本的な目的は、自動体外式除細動器(AED)を収容する空洞を備える携帯用ケースにおいて、この空洞は、温度が上限閾値を上回った場合にケースから熱エネルギーをケース内で除去し、温度が下限閾値を下回った場合にケース内で熱エネルギーを放出するための手段も備えることを特徴とする、携帯用ケースによって達成されている。
【0015】
本出願全体を通じて、「温度調整手段」という用語は、熱エネルギーをケースの外側からケース内に移すか、別の種類のエネルギーをケース内の熱エネルギーに変換するかのいずれかによって、ケース内部に熱エネルギーを積極的に加える機器もしくは材料、または熱エネルギーをケースの外側に移すか、ケース内の熱エネルギーを別の形式のエネルギーに変換するかのいずれかによって、ケースから熱エネルギーを積極的に取り除く機器または材料にのみ使用される。したがって、温度調整手段は、ケース外の温度が上昇している間はケース内の温度を低下させることができ、ケース外の温度が低下している間はケース内の温度を上昇させることができる機器または材料になる。
【0016】
低い熱伝導率および/または高い熱容量および/または赤外線を反射する能力があるため、ケース内外の熱エネルギー交換を減速させる材料を、本出願全体を通じて「断熱材料」と呼ぶことにする。
【0017】
熱伝導率の低い断熱材料は、発泡ポリスチレン(例えばStyropor(登録商標))、発泡ポリプロピレンもしくは発泡ポリウレタンなどの発泡ポリマー、ガラスウールもしくはストーンウールなどの合成繊維もしくは天然繊維の不織布もしくは生地、または真空フラスコとすることができる。熱容量の高い断熱材料は、石または水であってもよい。
【0018】
一実施形態では、人が持ち運びできるAEDケースは、ケース内の温度の調整を容易にする断熱材料を備える。断熱材料は、容易に持ち運べるようにするために、軽量の断熱材料であってもよい。断熱材料は、例えばStyropor(登録商標)として知られる発泡ポリスチレンまたは発泡ポリプロピレンなどの発泡プラスチックが考えられる。また、その他の断熱材料、例えば発泡ポリウレタンまたは真空フラスコを用いてもよい。
【0019】
赤外線を反射する能力を有する断熱材料は、淡色もしくは白色いずれかの表面、または金属表面、研磨された金属表面、透明ポリマー層もしくはガラス層などの透明なスクラッチ保護層で被覆されている可能性がある、例えばアルミニウム、銀もしくは他の高反射性金属からの表面などの、可視光に対して高い反射率も示す表面であってもよい。
【0020】
本発明に係るケースは、断熱材料で取り囲まれたAEDを取り込む空洞を備える。この空洞は、ストラップまたはベルトなどのAEDの固定手段を備えていてもよい。さらに、空洞は、温度調整手段、センサ、通信手段、位置表示手段および/または前述の機器の電子制御手段を備え得る。前述の手段は、前述の空洞のサブ空洞に備わっていてもよい。本出願に係るサブ空洞は、空洞に本質的に接続されているが、空洞の壁にある凹部によって形成されている空洞である。AED、温度調整手段、温度・位置制御手段および通信手段とは別に、心停止が起こったときに必要となる可能性のある更なる付属品、例えば、熱に敏感な薬または緊急時にすぐに手元に置かなければならない機器のための保管スペースも利用可能であり得る。
【0021】
断熱材料は、剛性または可撓性のいずれかであり得る。断熱材料は、異なる機能の異なる層を有していてもよい。一実施形態では、断熱材料は、熱伝導率が低い材料の1つの層と、赤外線を反射する高い能力を有する1つの層とを備える。一実施形態では、断熱材料は、本体と蓋とを形成し得る2つの部分からなり、これらは、適切な取り扱いを可能にしかつケースの一方の部分の損失を避けるために、ヒンジ-ジョイント、織物ストラップ、または他の任意の接続手段によって接続されてもよい。一実施形態では、蓋と本体とは、ケースが運搬中または移動中にも閉じたままとなるように、蓋をその閉じた位置で可逆的にロックすることを可能にする手段によっても接続されている。ロックする手段としては、フック、クランプ、メカニカルロック、Velcro(登録商標)などの面ファスナーまたはジッパーが考えられる。一実施形態では、ケースは防塵および防水である。
【0022】
空洞を取り囲む断熱材料の形態により、ケースの形態が決まる。一実施形態では、断熱材料の外側シェルは、機械的摩耗から材料を保護するカバーで覆われている。このカバーは、ケースの使用目的に応じて、ハードシェル材料またはソフトシェル材料から作られていてもよい。カバーにはさらに、人体の周りに固定するための手段と、人が運搬するための手段または人による他の種類の移動のための手段とが備え付けられていてもよい。一実施形態では、この固定手段は、ハンドルとすることができる。一実施形態では、固定手段は、プラスチックハンドルとすることができる。一実施形態では、固定手段は、テレスコープハンドルとすることができる。一実施形態では、固定手段は、フックとすることができる。一実施形態では、固定手段は、プラスチックフックとすることができる。一実施形態では、固定手段は、バックルとすることができる。一実施形態では、固定手段は、ループとすることができる。一実施形態では、固定手段は、織物ループとすることができる。一実施形態では、固定手段は、ベルトとすることができる。一実施形態では、固定手段は、織物ベルトとすることができる。一実施形態では、固定手段は、ストラップとすることができる。一実施形態では、固定手段は、織物ストラップとすることができる。固定手段は、人間による固定、運搬または移動の様々な方法を可能にし得る。カバー材料および取り扱い・固定手段に応じて、ケースは、例えば、スーツケースの形態をとることができ、手で運搬するためのキャリングバッグ、またはトートバッグに相当する片方の肩に掛けるバッグ、またはリュックサックに相当する、背負って持ち運びできるバッグである。一実施形態では、カバーは、AEDケースにトロリーの形状を与えるロールも備える。
【0023】
一実施形態では、人が持ち運びできるAEDケースは、外部電力供給用のアクセス部を備える。このアクセス部は、持ち運びをできるだけ容易にするために、電源の完全な取り外しを可能にし得る。この目的を達成するために、電力アクセス部は、ソケットであってもよい。一実施形態では、ソケットは、車のシガーライター、モバイルデバイス用充電器またはパワーバンクなどの広く使用されているDC供給電力システムとの互換性を最大化する低電圧DCソケットであってもよい。さらに考えられるDC電源は、例えばモバイルコンピュータまたは電話の充電に使用されるモバイルソーラーパネルまたは燃料電池であり得る。DC電源は、12Vであってもよい。DC電源は、6Vであってもよい。これらの種類の機器と互換性があることで、できるだけ多くの機会を利用してAEDケースに電源を供給することが可能になる。適切な電源アダプターを提供することで、公共のACネットワークまたは例えば帆船で利用可能な移動式風力タービンなどのモバイルAC源も使用できる。
【0024】
一実施形態では、AEDケース内の温度調整手段は、電気的に駆動される。これは、ケース内の温度をAEDの最低動作温度よりも高く保つための電気ヒータを含んでいてもよい。
【0025】
一実施形態では、電気的に駆動される温度調整手段は、印加される電圧の極性に応じて加熱と冷却との両方に使用することができる熱電変換素子である。また、気体の膨張による冷却と加圧による加温とに基づく機器(ジュール・トムソン効果)の使用も可能である。
【0026】
一実施形態では、温度調整手段は、融解時に熱エネルギーを吸収し、固相に戻るときに熱エネルギーを放出する相変化材料に基づく。相変化材料の大きな利点は、外部エネルギー供給に依存せず、信頼性が高く、完全に可逆的な温度調整手段を提供することである。一実施形態では、相変化材料は、例えばプラスチックフォイルに封入されてハンディパッケージを形成し、容易に取り出して交換できるように、絶縁材料で取り囲まれた空洞内に配置される。これにより、損傷した相変化材料の交換と、地理的地域ならびに天候および季節などの予想される環境条件に応じて異なる相変化温度を有する異なる種類の相変化材料の使用との両方が容易になる。また、ケースを緩衝する必要がある外部温度の範囲に応じて、異なる相変化材料のいくつかのハンディパッケージを同時に使用することもできる。一実施形態では、相変化材料の化学組成および量、ならびに断熱材料の材料、形態および厚さは、AEDの温度を任意の電力供給なしで少なくとも48時間、その動作温度範囲内に保つことができるように選択される。一実施形態では、相変化材料の化学組成および量、ならびに断熱材料の材料、形態および厚さは、AEDの温度を電力供給なしで少なくとも72時間、その動作温度範囲内に保つことができるように選択される。したがって、一実施形態では、ケースは、恒久的なネットワークベースの電源を必要としない。このコンステレーションでは、AEDを週末にその動作温度に容易に保ち、ひいては救急の乗り物の通常の勤務時間外をカバーしたり、例えば、週末に行われる音楽フェスティバルやスポーツイベントなどの公共イベント中に、移動救急チームがAEDを利用できるようにしたりすることができる。また、短時間の屋外遠足、例えば余暇または研究活動とともに寒い地域または暖かい地域での軍事演習も、本発明に係るケースを使用した動作可能なAEDの利用可能性を活用することができる。一般に、このケースは、例えば、高速道路パトロール警官、警察、山岳救助隊、医師、消防士、ライフガード、軍人、タクシー運転手、海での捜索救助員、パイロットまたは客室乗務員などの任意の種類のモバイルパーソンであり得る医療緊急事態におけるモバイルファーストレスポンダーによる使用を意図している。
【0027】
一実施形態では、相変化材料は、パラフィン、脂質、糖アルコールまたはそれらの混合物をベースとする有機相変化材料である。一実施形態では、相変化材料は、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸マンガン、塩化マンガン、硝酸カリウムまたはそれらの混合物などの塩水和物をベースとする無機相変化材料である。一実施形態では、相変化材料は、吸湿性材料である。一実施形態では、相変化材料は、結晶構造の変化によって熱エネルギーを吸収および放出する固体-固体相変化材料である。一実施形態では、相変化材料は、イオン液体をベースとするものである。
【0028】
一実施形態では、ケースは、当該ケースの空洞の温度、ひいてはケース内に含まれるAEDが曝される温度を検出する温度センサを備える。一実施形態では、温度センサは、AEDの近くに置かれ、AEDの動作温度範囲の限界に近づいた場合、または限界を超えた場合にAEDの使用者にアラートを発する機器に接続される。センサは温度調整手段に接続され、その動作を制御することもできる。温度センサとアラート機器との組み合わせは、ケースの内部温度を示すアナログ温度計またはデジタル温度計とすることができる。一実施形態では、温度センサはデジタル温度計であり、アラート機器は、温度範囲超過の音響信号または光学信号を発する。一実施形態では、温度範囲超過の信号は、温度範囲超過時に発せられるだけでなく、AEDの動作温度範囲が過去に超過していた場合、したがって、AEDがもはや確実に動作しているとみなすことができない場合にも表示される。一実施形態では、アラート機器は、操作者がAEDに残された信頼性の程度を推定する機会を与えるために、温度範囲超過の程度と期間も表示する。
【0029】
一実施形態では、AEDを取り込む空洞は、ケースの位置表示手段も備える。一実施形態では、ケースの位置表示手段は、GPSアンテナまたはモバイルネットワークを使用する位置特定機器である。一実施形態では、GPSアンテナは、ケースの外側シェルのディスプレイに接続されており、したがって、操作者に地理的な位置を表示し、緊急時に救助隊員に地理的な座標を伝えることが可能になる。
【0030】
一実施形態では、ケースは、自己テスト結果およびバッテリ状態のテスト結果など、AEDがそれ自体の技術的状態について発する光信号または音響信号を検出するためのセンサを備える。一実施形態では、これらのセンサは、電子コントローラに結合される。AEDが状態信号を光学的、例えばライトインジケータによって、または音響的に発するかに応じて、センサは、例えばフォトレジストまたはマイクロフォンとすることができる。できるだけ多くの種類のAEDとの互換性を可能にするために、いくつかの種類のセンサをAED空洞内に存在させることができる。センサの電子コントローラは、異なる種類のAEDの特定の信号に合わせてプログラムされていてもよい。また、状態センサは、AEDがケース内に存在しているかどうか、取り外されているかどうかを検知することができる。できるだけ多くの種類のAEDと互換性を持たせるために、AEDを任意の種類の有線または無線データ接続でケースに接続する必要はない。
【0031】
一実施形態では、センサまたは電子コントローラは、ケースの外側シェルにあるインジケータに接続され、操作者にAEDの状態を知らせる。このことは、ケースに使用される材料は透明でないこともあり、多くの断熱材料は音響シールドの可能性も有していることから、特に重要である。したがって、AEDの状態表示は、ケース外では気付かれない可能性があり、ひいてはAEDの故障の際には、ケース外にあるディスプレイまたはスピーカなどの適切な表示機器に転送して、少なくとも光学的または音響的なアラートを発する必要がある。
【0032】
一実施形態では、ケースは、通信手段、例えば無線送信機、無線ネットワークモジュール、低消費電力広域ネットワーク(LPWAN)モジュール、またはBluetoothモジュール、またはモバイルネットワークを介した通信用モジュールを備える。この手段を用いることにより、AEDの位置、温度および状態を表示する手段など、ケース内に含まれるセンサが測定した値をコントロールセンタに転送し、遠隔からAEDの使用可能性を制御するだけでなく、ケースからのその取り出しや使用状況に関する情報を取得し、救助隊員の即時情報やAEDおよび/またはケースの盗難の可能性を追跡するための位置確認を行えるようになる。一実施形態では、通信機器は、直接音声接続を可能にし、例えば、専門の救助隊員が緊急の場合に即座に指示を与えることができるようにする。
【0033】
一実施形態では、ケースは、リチウムイオン電池などの二次電池であってもよく、ケースを電力に接続したときに充電され、コントロールセンタとの適切な通信と救助隊員の確実なアラートとを可能にするために、温度調整用のセンサ、AEDの状態検出用のセンサ、位置検出手段および通信手段を駆動できるバッテリを備える。一実施形態では、バッテリは、断熱材料と温度調整手段との組み合わせがケース内の温度をAEDの動作温度範囲に保てることよりも長く続いてセンサおよび通信機器の機能を維持することができ、AEDの状態制御と緊急時の通信とがいっそう可能になる。
【国際調査報告】