(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-15
(54)【発明の名称】N‐アシル化ヒスチジンジペプチド抗がん剤
(51)【国際特許分類】
C07K 5/062 20060101AFI20230608BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20230608BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230608BHJP
A61P 15/14 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
C07K5/062
A61K38/05
A61P35/00
A61P15/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523136
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(85)【翻訳文提出日】2022-06-14
(86)【国際出願番号】 US2020055707
(87)【国際公開番号】W WO2021076710
(87)【国際公開日】2021-04-22
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】ブルーノ,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】スナイダー,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】スライファ―,テリー
(72)【発明者】
【氏名】リ-プック-タン,ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】グ アーバン,ジジュアン
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA14
4C084BA23
4C084NA14
4C084ZA81
4C084ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA11
4H045EA28
(57)【要約】
式(I)のN‐アシル化ヒスチジンジペプチドが開示される。該化合物は乳がんの治療に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式
【化1】
(式中、
R
1はH又は(C
1‐C
6)アルキルであり、
R
2は(C
1‐C
10)ヒドロカルビルであり、
R
3は(C
1‐C
6)アルキルであり、
R
4は、(C
14‐C
20)ヒドロカルビル;ハロゲン、ヒドロキシ、メルカプト、(C
1‐C
6)アシル、(C
1‐C
6)アルコキシ、(C
1‐C
6)ハロアルコキシ、アミノ、(C
1‐C
6)アルキルアミノ、ジ(C
1‐C
6)アルキルアミノ、及び(C
1‐C
6)アルキルチオの1以上で置換された(C
14‐C
20)ヒドロカルビル;(C
10‐C
20)オキサアルキル;(C
10‐C
20)チアアルキル、及び(C
10‐C
20)アザアルキル、から選択される)
で表される、化合物。
【請求項2】
R
1はHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R
2はエチルであり、かつR
3はメチルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
R
2及びR
3はいずれもメチルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
R
4は(C
14‐C
20)脂肪族炭化水素である、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
R
4は直鎖の(C
14‐C
20)アルキルである、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
R
1はHであり、かつR
4は(C
14‐C
20)アルキルである、請求項4に記載の化合物。
【請求項8】
N‐[N‐(1‐オキソヘキサデシル)‐L‐ヒスチジル]‐L‐バリン、
N‐[N‐(1‐オキソヘキサデシル)‐L‐ヒスチジル]‐L‐イソロイシン、
N‐[N‐(1‐オキソヘキサデシル)‐L‐ヒスチジル]‐L‐バリンエチルエステル、
N‐[N‐(1‐オキソヘキサデシル)‐D‐ヒスチジル]‐D‐バリン、又は
N‐[N‐(1‐オキソヘキサデシル)‐D‐ヒスチジル]‐D‐バリンエチルエステル
を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
薬学的に許容可能な担体と、請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物又は前記化合物のうち任意の2以上の組み合わせとを含む、医薬組成物。
【請求項10】
治療を必要とする哺乳動物に、治療上有効な量の、請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物若しくは前記化合物のうち任意の2以上の組み合わせ、又は請求項9に記載の医薬組成物を、投与することを含む、乳がんの治療方法。
【請求項11】
乳がんの治療に使用するための、請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物又は前記化合物のうち任意の2以上の組み合わせ。
【請求項12】
乳がんの治療用医薬の製造における、請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物又は前記化合物のうち任意の2以上の組み合わせの使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2019年10月16日に出願された米国仮特許出願第62/916,001号に基づく優先権の利益を主張する。米国仮特許出願第62/916,001号の全内容は参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
[連邦政府資金による研究]
本発明は、米国国立衛生研究所との契約GM062480及びHG007735の下に政府の支援を得て行われた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
[分野]
本開示は、がん、特に乳がんの治療に有用なN‐アシル化ヒスチジンジペプチド及びその誘導体に関する。
【0004】
[背景]
乳がんは、生存率は高いものの、女性が罹患する未だ最も一般的ながんである。米国内だけでも、2019年には271,270人の新たな乳がん患者が生じたと推定され、また同年にこの疾患で42,260人が死亡したと推定されている。乳がんの治療は、腫瘍の病期、大きさ、及び患者の選択などの要因に応じて様々である。大多数の治療には放射線療法を伴う乳房温存手術又は乳房切除術が必要であるが、早期の(ステージI及びIIの)がんのおよそ35%では治療に薬物療法(標的療法及び/又は非標的療法)が含まれることになる。ステージIII及びIVの乳がんでは、少なくとも58%が薬物療法と手術及び/又は放射線療法とを組み合わせて治療される。効能がより大きい、及び/又は毒性がより低い、乳がんを治療するための小分子治療法が必要とされている。
【0005】
[概要]
1つの態様では、本開示は式I
【化1】
の化合物に関し、上記式中、
R
1はH又は(C
1‐C
6)アルキルであり、
R
2は(C
1‐C
10)ヒドロカルビルであり、
R
3は(C
1‐C
6)アルキルであり、
R
4は、(C
14‐C
20)ヒドロカルビル、(C
14‐C
20)ヒドロカルビルが、ハロゲン、ヒドロキシ、メルカプト、(C
1‐C
6)アシル、(C
1‐C
6)アルコキシ、(C
1‐C
6)ハロアルコキシ、アミノ、(C
1‐C
6)アルキルアミノ、ジ(C
1‐C
6)アルキルアミノ、及び(C
1‐C
6)アルキルチオのうち1以上で置換された置換体、(C
10‐C
20)オキサアルキル、(C
10‐C
20)チアアルキル並びに(C
10‐C
20)アザアルキル、から選択される。
【0006】
別の態様では、本開示は、薬学的に許容可能な担体及び式Iの化合物を含んでいる医薬組成物に関する。
【0007】
別の態様では、本開示は、治療を必要とする哺乳動物に対して治療上有効な量の式Iの化合物を投与することを含む、乳がんを治療する方法に関する。
【0008】
別の態様では、本開示は、乳がんの治療に使用するための式Iの化合物に関する。
【0009】
別の態様では、本開示は、乳がんの治療のための医薬の製造における式Iの化合物の使用に関する。
【0010】
本開示の上記及びその他の特徴、態様、及び利点は、以降の詳細な説明を添付図面と併せて読めば一層よく理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】MDA‐MB‐231細胞を用いたMBC017の用量反応曲線。化合物MBC017を、表示した濃度でトリプルネガティブのヒト乳がん細胞MDA‐MB‐231とともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue(登録商標)蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitは、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングして図中に示すIC50値(μM)を得るために使用した。データは正確なIC50値を計算するには不十分であった。
【0012】
【
図2】MDA‐MB‐231細胞を用いたMBC0171の用量反応曲線。化合物MBC0171を、表示した濃度でトリプルネガティブのヒト乳がん細胞MDA‐MB‐231とともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitを使用して、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングし、図中に示すIC50値(μM)を得た。
【0013】
【
図3】MDA‐MB‐231細胞を用いたMBC0172の用量反応曲線。化合物MBC0172を、表示の濃度でトリプルネガティブのヒト乳がん細胞MDA‐MB‐231とともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitを使用して、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングし、図中に示すIC50値(μM)を得た。
【0014】
【
図4】MDA‐MB‐231細胞を用いたMBC0174の用量反応曲線。化合物MBC0174を、表示の濃度でトリプルネガティブのヒト乳がん細胞MDA‐MB‐231とともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitを使用して、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングし、図中に示すIC50値(μM)を得た。
【0015】
【
図5】MDA‐MB‐231細胞を用いたMBC0179の用量反応曲線。化合物MBC0179を、表示の濃度でトリプルネガティブのヒト乳がん細胞MDA‐MB‐231とともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitを使用して、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングし、図中に示すIC50値(μM)を得た。
【0016】
【
図6】MEGM培地においてhTERT‐HME1細胞を用いたMBC0179の用量反応曲線。化合物MBC0179を、成長因子豊富なMEGM培地において表示の濃度で健康なヒト乳房上皮細胞hTERT‐HME1とともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitを使用して、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングし、図中に示すIC50値(μM)を得た。
【0017】
【
図7】MEGM培地においてMDA‐MB‐231細胞を用いたMBC0179の用量反応曲線。化合物MBC0179を、成長因子豊富なMEGM培地において表示の濃度でトリプルネガティブのヒト乳がん細胞MDA‐MB‐231とともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitを使用して、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングし、図中に示すIC50値(μM)を得た。
【0018】
【
図8】MCF7細胞を用いたMBC0179の用量反応曲線。化合物MBC0179を、表示の濃度でエストロゲン受容体陽性のヒト乳がん細胞MCF7とともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitを使用して、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングし、図中に示すIC50値(μM)を得た。
【0019】
【
図9】MDA‐MB‐468細胞を用いたMBC0179の用量反応曲線。化合物MBC0179を、表示の濃度でトリプルネガティブのヒト乳がん細胞MDA‐MB‐468とともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitを使用して、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングし、図中に示すIC50値(μM)を得た。
【0020】
【
図10】ZR‐75‐30細胞を用いたMBC0179の用量反応曲線。化合物MBC0179を、表示の濃度でヒト乳がん細胞ZR‐75‐30とともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitを使用して、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングし、図中に示すIC50値(μM)を得た。
【0021】
【
図11】K‐562細胞を用いたMBC0179の用量反応曲線。化合物MBC0179を、表示の濃度で非付着性細胞株であるヒト慢性骨髄性白血病細胞K‐562とともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitを使用して、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングし、図中に示すIC50値(μM)を得た。
【0022】
【
図12】HEPG2細胞を用いたMBC0179の用量反応曲線。化合物MBC0179を、表示の濃度でヒト肝臓癌細胞HEPG2とともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitを使用して、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングし、図中に示すIC50値(μM)を得た。
【0023】
【
図13】A549細胞を用いたMBC0179の用量反応曲線。化合物MBC0179を、表示の濃度でヒト肺がん細胞A549とともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitを使用して、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングし、図中に示すIC50値(μM)を得た。
【0024】
【
図14】OVCAR‐3細胞を用いたMBC0179の用量反応曲線。化合物MBC0179を、表示の濃度でヒト卵巣がん細胞OVCAR‐3とともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitを使用して、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングし、図中に示すIC50値(μM)を得た。
【0025】
【
図15】SK‐N‐SH細胞を用いたMBC0179の用量反応曲線。化合物MBC0179を、表示の濃度でヒト神経芽腫細胞SK‐N‐SHとともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitを使用して、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングし、図中に示すIC50値(μM)を得た。
【0026】
【
図16】4T1細胞を用いたMBC0179の用量反応曲線。化合物MBC0179を、表示の濃度でトリプルネガティブのマウス乳がん細胞4T1とともに37℃で3日間インキュベーションした後、Cell Titer Blue蛍光式細胞生存性アッセイを行った。正規化されて百分率で表わされた細胞生存性データを、3つの生物学的レプリケートから平均値化し、各平均データポイント(白抜きの正方形)について標準誤差をエラーバーで示した。化合物の濃度は、単位をμMとしてX軸上に対数目盛りで表わされている。データは、Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載されるようなDrFitと呼ばれるフリーソフトウェアを使用して分析した。DrFitを使用して、プロットしたデータポイントをヒル式(赤色の曲線)にフィッティングし、図中に示すIC50値(μM)を得た。
【0027】
【
図17】MBC0179を用いた4T1マウス乳がん肺転移の検討。化合物MBC0179(7%(w/v)Cremophore EL/10%(v/v)エタノール/90%(v/v)生理食塩水のビヒクルに含めたもの)又はビヒクル単独を、ネズミ科動物乳がん細胞株4T1由来の乳房腫瘍を担持している移植後1週間のBalb/cマウス(8週齢)に、1群を6匹として3群に、静脈内投与した。ビヒクル(青色の棒)、10mg/kgのMBC0179(赤色の棒)又は15mg/kgのMBC0179(緑色の棒)を週に2回として4週間投薬した後、マウスをIACUCのガイドラインに従って人道的に安楽死させ、4T1の肺転移の度合いを知るために4T1クローン原性アッセイ(colonogenic assay)用に肺を切除した。コロニー計数値をプロットし、平均値化して標準誤差を計算した(エラーバー)。統計的有意差について両側t検定を実施し、ビヒクル群及び15mg/kgのMBC0179治療群を比較した。p値を図中に示す。加えて、ビヒクル群と15mg/kgのMBC0179治療群との間の肺由来4T1コロニーの減少率を、各群の平均コロニー計数値に基づいて、ビヒクル群に対して相対値化するかたちで計算して図中に示す。
【0028】
[詳細な説明]
本明細書中に記載された化合物は腫瘍の成長を阻害する。本明細書中に記載された方法に有用な化合物は、式I
【化2】
に属している。
【0029】
上記化合物において、R1はH又は(C1‐C6)アルキルであってよい。いくつかの実施形態では、R1は水素であり、いくつかの実施形態では、R1はメチル又はエチルである。
【0030】
R2は(C1‐C10)ヒドロカルビルであり、かつR3は(C1‐C6)アルキルである。いくつかの実施形態では、R2はエチルであり、R3はメチルである。他の実施形態では、R2及びR3はいずれもメチルである。
【0031】
R4は、(C14‐C20)ヒドロカルビル、(C14‐C20)ヒドロカルビルが、ハロゲン、ヒドロキシ、メルカプト、(C1‐C6)アシル、(C1‐C6)アルコキシ、(C1‐C6)ハロアルコキシ、アミノ、(C1‐C6)アルキルアミノ、ジ(C1‐C6)アルキルアミノ、及び(C1‐C6)アルキルチオのうち1以上で置換された置換体、(C10‐C20)オキサアルキル、(C10‐C20)チアアルキル並びに(C10‐C20)アザアルキル、から選択される。いくつかの実施形態では、R4は(C14‐C20)脂肪族炭化水素である。いくつかの実施形態では、R4はフッ素化(C14‐C20)脂肪族炭化水素である。いくつかの実施形態では、R4は直鎖(C14‐C20)アルキルである。いくつかの実施形態では、R1はHであり、かつR4は(C14‐C20)アルキルである。
【0032】
開示される化合物は、R1がアルキルであるときは塩基性であり、R1が水素であるときは両性である。「薬学的に許容可能な塩」という用語は、無機酸及び無機塩基並びに有機酸及び有機塩基などの、薬学的に許容可能な無毒な酸又は塩基から調製された塩を指す。本開示の化合物が塩基性である場合、塩は薬学的に許容可能な無毒な酸から調製可能である。本発明の化合物に適した薬学的に許容可能な酸付加塩には、酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸(ベシル酸)、安息香酸、ホウ酸、ラク酸、ショウノウ酸、カンファースルホン酸、炭酸、クエン酸、エタンジスルホン酸、エタンスルホン酸、エチレンジアミン四酢酸、ギ酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、ヒドロキシナフトエ酸、イセチオン酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリルスルホン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムチン酸、ナフチレンスルホン酸、硝酸、オレイン酸、パモ酸、パントテン酸、リン酸、ピバル酸、ポリガラクツロン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、タンニン酸、酒石酸、テオクラティック(teoclatic)、p‐トルエンスルホン酸などの付加塩が挙げられる。R1がアルキルではない場合、内錯塩に加えて、本発明の化合物に適した薬学的に許容可能な塩基付加塩には、限定するものではないが、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム及び亜鉛から作られた金属塩、又は、リジン、アルギニン、N,N’‐ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N‐メチルグルカミン)及びプロカインから作られた有機塩が挙げられる。さらなる薬学的に許容可能な塩には、適切であれば、無毒なアンモニウムカチオン並びにカルボン酸、スルホン酸及びホスホン酸アニオンが1~20個の炭素原子を有するアルキルに結合したものが挙げられる。医薬製剤の調製のために、かつ治療方法に使用するためには薬学的に許容可能な対イオンが好ましいことになるが、他のアニオンも合成中間体としては十分に許容可能である。よってアニオンは、そのような塩が中間体であるときは、薬学的に不適当であってもよい。
【0033】
本明細書全体を通じて、用語及び置換基の定義は保持される。
【0034】
炭化水素とは、水素及び炭素のみを含有する骨格を指す。炭化水素には、アルキル、シクロアルキル、ポリシクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール及びこれらの組み合わせが含まれる。例としては、フェニル、ベンジル、フェネチル、シクロヘキシルメチル、カンフォリル、9‐ヘキサデセニル、6‐オクタデセニル、9‐オクタデセニル、9‐エイコセニル、及び13‐ドコセニルが挙げられる。
【0035】
アルコキシ又はアルコキシルは、直鎖、分岐鎖、環式の構造及びこれらの組み合わせである1~6個の炭素原子の基であって酸素を介して親構造に結合したものを指す。例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、シクロプロピルオキシ、シクロヘキシルオキシなどが挙げられる。
【0036】
オキサアルキルとは、1以上の炭素(及びそこに結合した水素)が酸素に置き換えられたアルキル残基を指す。例としては、3,6,9‐トリオキサデシルなどが挙げられる。オキサアルキルという用語は、該用語が当分野で理解されているような意味である[参照:アメリカ化学会が発行している「Naming and Indexing of Chemical Substances for Chemical Abstracts」の¶196、ただし¶127(a)の制約を受けない]、すなわち、該用語は酸素が単結合によって隣接原子に結合している(エーテル結合を形成している)化合物を指しており、カルボニル基に見られるような二重結合した酸素は指していない。同様に、チアアルキル及びアザアルキルは、1以上の炭素がそれぞれ硫黄又は窒素に置き換えられたアルキル残基を指す。
【0037】
アシルは、直鎖、分岐鎖、環式の構造の、飽和、不飽和及び芳香族、並びにこれらの組み合わせである1、2、3、4、及び5個の炭素原子の基であって、カルボニル官能基によって親構造に結合したものを指す。例としては、ホルミル、アセチル、ベンゾイル、プロピオニル、イソブチリルなどが挙げられる。
【0038】
アリール及びヘテロアリールとは、5員若しくは6員の、O、N、若しくはSから選択された0~3個のヘテロ原子を含有する芳香環若しくはヘテロ芳香環;二環式の9員若しくは10員の、O、N若しくはSから選択された0~3個のヘテロ原子を含有する芳香環系若しくはヘテロ芳香環系;又は、三環式の13員若しくは14員の、O、N、若しくはSから選択された0~3個のヘテロ原子を含有する芳香環系若しくはヘテロ芳香環系、を意味する。
【0039】
本明細書中に使用されるように、「場合により置換された」という用語は、「非置換の又は置換された」と互換的に使用可能である。「置換された」という用語は、指定された基(group)の中の1以上の水素原子を指定された基(radical)に置き換えることを指す。例えば、置換された(C14‐C20)ヒドロカルビルとは、(C14‐C20)ヒドロカルビル残基であって1以上のH原子がハロゲン、ヒドロキシ、メルカプト、(C1‐C6)アシル、(C1‐C6)アルコキシ、(C1‐C6)ハロアルコキシ、アミノ、(C1‐C6)アルキルアミノ、ジ(C1‐C6)アルキルアミノ、又は(C1‐C6)アルキルチオで置き換えられたものを指す。そのような置換されたヒドロカルビル残基の一例は、リシノレイル(すなわち12‐ヒドロキシ‐9‐オクタデセニル)となろう。ほとんどの「場合により置換された」残基において、1、2又は3個の水素原子が指定された基(radical)に置き換えられているが、フッ化炭化水素残基の場合、4個以上の水素原子がフッ素に置き換えられていることがあり、実際に、全ての置換可能な水素原子がフッ素に置き換えられる、例えばパーフルオロプロピルも考えられる。
【0040】
本明細書中に記載される化合物は少なくとも2個の不斉中心を有し、よって絶対立体化学の面から(R)‐又は(S)‐と定義することができるエナンチオマー、ジアステレオマー、及びその他の立体異性体を生じる。本開示は、そのような可能な異性体、並びにそのラセミ体及び光学的に純粋な異性体を全て含むように意図されている。(S,S)ジアステレオマーのジペプチド、すなわち2個のL‐アミノ酸を含んでいるジペプチドが好ましい。光学活性な(R)‐及び(S)‐異性体は、キラルシントン又はキラル試薬を使用して調製されてもよいし、従来の技法を使用して分離されてもよい。本明細書中に記載された化合物がオレフィン性二重結合又は他の幾何学的不斉中心を有する場合、かつ別段の定めがない限り、該化合物がE及びZ両方の幾何異性体を備えることが意図される。同様に、互変異性体も全て含まれるように意図されている。
【0041】
いくつかの例において、式Iの化合物の一部分がアミノ酸から成っていてもよい。アミノ酸は、当業者が従来D‐異性体及びL‐異性体と称してきた異なる立体異性体として存在することができる。アミノ酸のL‐異性体は、生細胞によって生産されてタンパク質に組み込まれる異性体である。部分的に1個又は2個のアミノ酸を含んでいる式Iのいくつかの化合物では、アミノ酸成分が各々独立に、又は両方のアミノ酸成分が、全部又は大部分(90%(w/v)超)をL‐異性体として存在してもよいし、全部又は大部分をD‐異性体として存在してもよい。他の例では、アミノ酸成分が各々独立に、又は両方のアミノ酸成分が、おおむね等しい比率のL‐及びD‐アイソフォームで存在してもよい。いくつかの例では、一方のアイソフォームは大部分がL‐体又はD‐体であり、他方は両アイソフォームの混合物として存在する。他の例では、両方のアミノ酸成分がD‐体又はL‐体であり、他の例では一方がD‐体で他方がL‐体であってもよい。化合物の特定の作用機構又は有効性の程度若しくは持続期間に限定されるものではないが、天然に存在する細胞内のポリペプチドは主にL型構造を備えたアミノ酸で構成されているのに対し、本明細書中に開示されるようにD‐体のアミノ酸成分を1又は複数備えている式Iの化合物は、D‐体ではないアミノ酸成分を有する化合物よりもペプチダーゼの作用に対して抵抗力があり、かつしたがって細胞又は生物体への投与時に持続的かつ増強された生理学的効能を示す可能性がある。
【0042】
本明細書中で使用されるように、かつ当業者には理解されるであろうように、「化合物」と言う場合、さらに限定されることが明らかでないかぎり、その化合物の塩を含むように意図される。特定の実施形態では、「式Iの化合物」という用語は薬学的に許容可能な塩を指す。
【0043】
本開示の化合物が放射性同位体で標識された形態で存在することができる、すなわち該化合物が、自然界に通常見られる原子質量又は質量数とは異なる原子質量又は質量数を有している1以上の原子を含んでいてもよい、ということは認識されるであろう。別例として、単一構造の複数の分子が、自然界に見出される同位体存在比とは異なる同位体存在比で存在する少なくとも1つの原子を備えていてもよい。水素、炭素、リン、フッ素、塩素及びヨウ素の放射性同位体には、例えば、2H、3H、11C、13C、14C、15N、35S、18F、36Cl、123I、125I、131I及び133Iが挙げられる。これらの放射性同位元素及び/又は他の原子の他の放射性同位体を含んでいる化合物は、本開示の範囲内にある。3H、14C及びヨウ素放射性同位体を含んでいる化合物は、調製のしやすさ及び可検出性から特に好ましい。同位体11C、13N、15O及び18Fを含有する化合物は、陽電子放射断層撮影法によく適している。本開示の式I及びIIの放射性同位体標識化合物は概して、当業者に良く知られた方法で調製可能である。便利なことに、そのような放射性同位体標識化合物は、放射性同位体で標識されていない試薬の代わりに入手容易な放射性同位体標識試薬を用いることにより、実施例及びスキームに開示された手順を実行して調製することができる。
【0044】
本開示には様々な形態の実施形態が可能であるが、本開示の好ましい実施形態について示す。しかし、当然のことであるが、この開示内容は、本開示の原理の例示と見なされるべきであり、本開示を例証された実施形態に限定するようには意図されていない。
【0045】
さらなる組成物の態様では、本開示は、薬学的に許容可能な担体及び式Iの化合物に関する。そのような医薬組成物は、他の抗腫瘍剤及び賦形剤を追加として含んでもよい。該医薬組成物はがんの治療用であって界面活性剤又は錯体を形成するためではないので、一般に銅のような錯化する金属を含まないことになろう。好ましい担体は、水性であって水と不混和性の溶媒を含まないものであろう。担体は、調合物の他の成分と共存可能でありかつ該調合物の被投与者に対して有害でないという意味において「許容可能」でなければならない。組成物は、経口、局所又は非経口投与向けに調合することができる。例えば、組成物は、静脈内、動脈内、皮下、及び直接CNSに、すなわち髄腔内又は脳室内のいずれかに、投与することができる。
【0046】
調合物には、経口、非経口(皮下、皮内、筋肉内、静脈内及び関節内など)、直腸内及び局所(経皮、口腔内、舌下及び眼内など)の投与に適した調合物が挙げられる。化合物は経口又は注射(静脈内又は皮下)によって投与されることが好ましい。患者に投与される化合物の正確な量は担当医師の責任となる。しかしながら、使用される用量は、患者の年齢及び性別、治療されるその病気、並びにその重症度などの多くの要因に応じて様々となろう。同様に、投与経路は身体状態及びその重症度に応じて変化してよい。調合物は、便利なように投薬単位形態で提供可能であり、薬学の分野で良く知られた方法のうち任意の方法で調製可能である。一般に、調合物は、活性成分を液体担体又は微粉固体担体又は両方とともに均一かつ徹底的に合わせ、次いで必要ならばその生成物を成形して所望の調合物とすることにより、調製される。
【0047】
経口投与に適した本開示の調合物は、所定量の活性成分を各々含有しているカプセル剤、カシェ剤若しくは錠剤のような個別の構成単位として;散剤若しくは顆粒剤として;水性の液体若しくは非水性の液体に含めた溶液若しくは懸濁液として;又は、水中油型の乳濁液若しくは油中水型の乳濁液として、提供可能である。活性成分が、巨丸剤、舐剤又はパスタ剤として提供されてもよい。
【0048】
錠剤は、場合により1以上の副成分とともに、圧縮又は型入れ成形(molding)によって作製することができる。圧縮錠剤は、粉末又は顆粒のような流動性を有する形態の活性成分を、場合により結合剤、潤滑剤、不活性の希釈剤、潤滑性、表面活性剤又は分散剤と混合して、適切な機械で圧縮することにより調製することができる。湿製錠剤は、湿らせた粉末状の化合物と不活性の液体希釈剤との混合物を適切な機械で型入れ成形することにより作製することができる。錠剤は、場合によりコーティングや割線が施されてもよく、錠剤中の活性成分を持続放出、遅延放出又は制御放出するように調合されてもよい。
【0049】
非経口投与のための調合物には、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、及び調合物を対象の被投与者の血液と等張にする溶質を含有することのできる水性及び非水性の無菌の注射用液が挙げられる。非経口投与のための調合物にはさらに、懸濁化剤及び増粘剤を含有することのできる水性及び非水性の無菌の懸濁液も挙げられる。該調合物は、単位用量又は複数回用量の容器、例えば密封したアンプル及びバイアルに入れて提供されてもよいし、使用直前に無菌の液体担体、例えば生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などを添加するだけでよいフリーズドライの(凍結乾燥された)状態で保管されてもよい。即席の注射溶液及び懸濁液が、既述した種類の無菌の散剤、顆粒剤及び錠剤から調製されてもよい。好ましい単位投薬調合物は、有効用量の、又は有効用量の何分の1かの妥当な量の、活性成分を含有しているものである。
【0050】
当然のことであるが、具体的に上述された成分に加えて、本開示の調合物は、当の調合物の種類に関する分野において慣例的な他の作用物質を含むことが可能であり、例えば経口投与に適した調合物は香料を含んでもよい。
【0051】
本明細書中で使用されるように、「治療」若しくは「治療すること」、又は「緩和すること」若しくは「好転させること」という用語は、有益な結果又は所望の結果、例えば限定するものではないが治療上の有益性及び/又は予防上の有益性を、獲得するための手法について言及している。治療上の有益性とは、治療対象の根本的疾患の好転を意味する。さらに、治療上の有益性は、根本的疾患に関連した生理学的症状のうち1以上を好転させて、患者がその根本的疾患を依然として患っているとしても患者に改善が観察されるようになることで、達成される。他の例では、式Iの化合物は、治療以外の目的で動物若しくはヒト対象者に、又は試料(細胞培養物若しくは他のin vitroの系など)に、投与されてもよい。別の例には、乳がんの治療に使用するための式Iの化合物が挙げられる。さらに別の例には、乳がんの治療のための医薬の製造における式Iの化合物の使用が挙げられる。いくつかの例では、式Iの1つの化合物、又は式Iの2以上の化合物の任意の組み合わせが、治療のためか否かは別として、投与されてもよい。
【0052】
該化合物は当分野で良く知られた方法により合成することができる。例えば、米国特許出願公開第2012/0308646号明細書の段落[0179]以降に記載された合成でアラニンの代わりにヒスチジンを用いることができる。同様に、式Iの他の化合物を、‐CHR2R3側鎖を有する他のアミノ酸を利用して合成することができる。
【0053】
試験が行われた式Iの化合物のいくつかの例としては、表1において以下のように同定されたものが挙げられる。すなわち表1では、正式な化学名は、試験した各分子について、対応する化合物ID及びペプチド名IDとともに各行に示されている。各化合物の試験に用いた細胞株及びその結果得られたIC50値(μM)は図面番号の隣に示されており、図面番号はIC50値を計算するために使用された用量反応データを示している。細胞株の列には、全ての細胞がDMEM培地又はRPMI培地(括弧内に示す)において、かつ明細書本文に記載されたようにして試験されたことが示されている。しかしながら一部の例では、hTERT‐HME1細胞及びMDA‐MB‐231細胞を用いたMBC0179ペプチドの比較について、成長因子豊富なMEGM培地中でのインキュベーションによる差を最小限にし、かつ厳密な比較を容易にするために、MEGM培地が使用された。MBC017の場合、この化合物は細胞生存性を低減したがIC50の正確な計算を可能にするには不十分であり、計算せず(NC)と示されている。
【0054】
【0055】
≪アッセイ及び試験結果≫
【0056】
市販のin vitro細胞生存性試薬(Cell Titer Blue)を使用して、複数のがん細胞株及び健康な組織由来の細胞株に対するいくつかの化合物(1~5)の抗がん有効性を測定した。細胞株については表2に概説する。すなわち表2では、全ての細胞株、並びに各細胞株の起源及び特性についての情報は、ATCC(www.atcc.org)から入手した。慣用名及びATCCの製品IDは第1(左端)の列に示されている。左から、第2列及び第3列には各細胞株が単離された生物及び組織が記載されている。第4列及び第5列には、各細胞株の細胞種及び病態(例えば、正常か癌腫か)が示されている。第6列には、各細胞株に対してin vitro細胞生存性アッセイを使用してどの化合物を試験したかがまとめられている。ペプチド名IDは、番号1~5の各化合物について括弧内に示されている。
【0057】
【0058】
Cell Titer Blue試薬(プロメガ社(Promega, Inc.)から入手可能)は、代謝活性を有する細胞によって変換されて検出可能な蛍光生成物レゾルフィンとなる化合物、レサズリンを含有している緩衝液である。したがって、レゾルフィン生成物の蛍光強度は生細胞の数の相応な尺度としての役割を果たして、細胞毒性薬又は細胞静止薬の添加に反応したがん細胞株又は他の細胞株における細胞生存性の変化をモニタリングすることを可能にする。様々なヒト乳房組織由来の細胞株が、乳がんに対する潜在的治療法の効果をin vitroで検討するために広く使用されている。ヒト乳がん細胞株は、ホルモン受容体の状態すなわちエストロゲン、プロゲステロン及びヒト上皮成長因子について陽性か陰性かに基づいて、グループ分けすることができる。健康なヒト乳房組織由来の細胞株hTERT‐HME1は、健康なヒト乳房組織に対する治療薬の効果をin vitroで測定するために使用することができる。加えて、高転移性かつ悪性度の高いネズミ科動物(マウス)乳がん細胞株4T1は、in vivo動物モデルにおいて抗がん治療法の転移抑制の有効性を体系的に調査するために、マウスの乳房脂肪体から肺への乳がん転移のモニタリングに広く使用されてきた。肺への転移は、好都合なことに、十分確立されたクローン原性アッセイにより数値化することができる。乳がん以外の様々ながんを代表する他のヒト組織由来のモデル細胞株を、抗がん治療化合物の潜在力についてin vitroで評価するために利用することもできる。これらには、K‐562(慢性骨髄性白血病)、HEPG2(肝細胞癌)、OVCAR‐3(卵巣腺癌)、SK‐N‐SH(神経芽腫)及びA549(肺癌)が挙げられる。いくつかの化合物を、ヒト及びネズミ科動物の両方を起源とする一連のがん細胞株、並びに1種類の健康なヒト乳腺細胞株に対して、Cell Titer Blue生存性アッセイを使用して、in vitroで検査した(表1、
図1~16)。マウス4T1の転移についての検討は、1種類の化合物MBC0179の転移抑制の潜在力を測定するために実施した(
図17)。
【0059】
≪試薬及び機器≫
【0060】
ジメチルスルホキシド(DMSO)、Cremophor(登録商標)EL、メチレンブルー、100×抗生物質/抗真菌剤溶液、コラゲナーゼ(タイプIV)、DNAseI及び6‐チオグアニンは、ミリポア‐シグマ(Millipore-Sigma)から入手可能であった。ペプチド(化合物1~5、表1)は、バイオ・ベーシック社(Bio Basic, Inc.)(カナダ、オンタリオ州)により上述のようにして合成された。ペプチドはDMSOに溶解して10mMとした後に希釈して適切な培地に含めた。Cell Titer Blue試薬(プロメガ社)は製造業者の指示に従って使用した。レゾルフィンの蛍光は、Enspire(商標)蛍光プレートリーダ(パーキンエルマー(PerkinElmer))を用いて560nmの励起波長及び583nmの蛍光波長で計測した。
【0061】
≪細胞株及び培養≫
【0062】
全ての細胞株を、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から入手した(www.atcc.org、詳細は表2を参照)。培地及び培地添加物は、サーモフィッシャー・サイエンティフィック(ThermoFisher Scientific)から入手可能であった。別段の定めのないかぎり、細胞は、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)に10%(v/v)のウシ胎児血清(FBS)及び1%(v/v)の抗生物質/抗真菌剤溶液(100ユニット/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン及び0.025μg/mLのアムホテリシンB)を添加した培地で単層培養した。hTERT‐HME1(及び1件の実験に関してはMDA‐MB‐231)細胞は、MEGM(乳腺上皮細胞増殖培地)(ロンザ(Lonza))に10%(v/v)のFBS及び1%(v/v)の抗生物質/抗真菌剤溶液を添加した培地で培養した。4T1及びOVCAR‐3細胞は、RPMI(ロズウェルパーク記念研究所)1640培地に10%(v/v)のFBS及び1%(v/v)の抗生物質/抗真菌剤溶液を添加した培地で培養した。非接着性の細胞株であるK‐562細胞は、DMEMに10%(v/v)のFBS及び1%(v/v)の抗生物質/抗真菌剤溶液を添加した培地で、浮遊状態で培養及びアッセイを行った。細胞を、96ウェルの平底の細胞培養用透明底プレート(1ウェルにつき培地100μl)に細胞4000個/ウェルとして播種し、37℃で24時間増殖を継続させてから薬物又はビヒクルとともにインキュベーションした。
【0063】
≪生存性アッセイ≫
【0064】
播種(第0日)の後に24時間増殖させてから、同じ組成の培地にビヒクルを加えたもの(1%(v/v)DMSO)又は1%(v/v)DMSOとしてペプチド(薬物)を様々な濃度(図及び図の凡例に示すとおり)で添加したものに培地交換した。薬物又はビヒクルとのインキュベーションを、Cell Titer Blueアッセイの前に37℃で72時間継続させた。Cell Titer Blue試薬を各ウェルに10%(v/v)となるように加え、プレートを37℃で2時間インキュベーションしてから蛍光を計測した。すべての実験データは3つの生物学的レプリケートから得た結果であり、各々3回繰り返して実施されたもの(3つの技術的レプリケート)である。ベースラインのレゾルフィンの蛍光(細胞を含まない培地)の平均値を、ビヒクル又は薬物が細胞とともに入っている各ウェルから差し引いた。補正された蛍光信号を次に、ビヒクルで処理されたウェルに対して正規化し、正規化した細胞生存性(%)として表現した。データをプロットし、DrFitソフトウェア(Nature Scientific Reports, 2015, 記事番号14701に記載)を使用してヒル式にカーブフィッティングしてIC
50値を計算し、3つの生物学的レプリケート全ての平均値及び標準誤差を書き込んだ(
図1~16)。
【0065】
≪4T1マウス乳がんの転移についての検討≫
【0066】
8週齢の雌のBALB/cマウス(1群n=6として3群、ビヒクル群と2つの薬物治療群)に対し、250000個の4T1細胞を第4鼠径部乳房脂肪体に移植した。細胞移植の1週間後、担体(通常生理食塩水中に7%(w/v)Cremophor EL及び10%エタノール)に含めた用量10mg/kg(治療群、群2)及び15mg/kg(治療群、群3)のMBC0179、又は担体のみ(対照群、群1)を週2回静脈内投与した。週に3回、全ての動物について体重を測定して腫瘍をノギスで計測した。移植の5週間後、IACUCのガイドラインに従って、全ての動物を過量の二酸化炭素への曝露により人道的に安楽死させ、クローン原性アッセイのために肺を切除した。マウスの両肺を取り出してダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)(ブイダブリューアール(VWR))で洗浄し、鋏で切って小片とし、広口径のピペットによるピペット操作を繰り返すことでさらに細かくして、4mg/mLのタイプIVコラゲナーゼ及び2.5U/mLのDNaseIを含有する5mLのDPBSの中で撹拌しながら37℃で2時間消化した。試料を40μmのセルストレーナでろ過して1000rpmで5分間遠心し、10mlのDPBSで洗浄し、再度遠心し、最後に10%(v/v)のFBS、1%(v/v)の抗生物質/抗真菌剤溶液及び60μMの6‐チオグアニンを添加した5mlのDMEM中に再懸濁した(4T1細胞は6‐チオグアニンに対して抵抗性であるため、6‐チオグアニンを含めることで確実に4T1のコロニーのみが計数される)。処理された1組の肺(1匹の動物に由来するもの)各々につき、濃縮された細胞5mlを6ウェル細胞培養プレートの第1のウェルへと移し、次に残りの5ウェル各々を用いて1/10系列希釈して、1ウェルあたり5mlの、10%(v/v)のFBS、1%(v/v)の抗生物質/抗真菌剤溶液及び60μMの6‐チオグアニンが添加されたDMEMに、含まれるようにした。プレートを37℃で2週間インキュベーションした後に培地を除去し、5mlのDPBSで各ウェルを2回洗浄した。次に1mlのメタノールを添加して室温で20分間置くことにより細胞を固定した。メタノールを取り除き、細胞を1mlのメチレンブルー染色液(0.03%(w/v)水溶液)とともに10分間インキュベーションした。次いでプレートを水中に浸すことによりバックグラウンドのメチレンブルーを取り除いて青色染色された4T1コロニーが見えるようにし、その後該コロニーを計数した。各ウェルのもとの希釈倍率を考慮して、肺1組あたりの4T1コロニーの総数を計算した。次に上記の計算値を、各治療群又は対照群の全ての被験動物について平均し、計算した標準誤差及び値をプロットした(
図17)。最後に、対照群と治療群との間の変化の統計的有意差を、両側t検定を使用して評価した。
【0067】
≪結果≫
【0068】
表1(及び
図1)にまとめたように、N‐[N‐(1‐オキソヘキサデシル)‐L‐ヒスチジル]‐L‐バリン(1)すなわちMBC017は、3日間のインキュベーション後に、生存可能なトリプルネガティブ(クローディン低発現型)のヒト乳がん細胞MDA‐MB‐231の割合をビヒクルと比較して用量依存的に低減させた。125μMのMBC017でほぼ40%の生存性低下が観察されたが、この低下はIC
50値を正確に計算するには不十分であった。MBC017の誘導体、すなわちMBC0171、MBC0172、MBC0174及びMBC0179もMDA‐MB‐231細胞に対する抗がん有効性を示し、それぞれ6730μM、13.1μM、62.1μM及び14.7μMのIC
50値を達成した(表1、
図2~5)。成長因子を添加したMEGM培地で正常に増殖させた正常なヒト乳房上皮細胞株hTERT‐HME1について化合物MBC0179を用いて試験した結果、同じ培地中でMDA‐MB‐231細胞とともにインキュベーションしたMBC0179のIC
50(8.88μM、表1、
図7)と比較して顕著に高いIC
50(270μM、表1、
図6)が得られた。このデータは、MBC0179が正常な乳房上皮と比較して乳房上皮がん細胞の増殖を選択的に阻害することを示している。MBC0179についてはさらに、その他のヒト乳がん細胞株、すなわちMCF7(ER
+、ルミナールサブタイプ)、MDA‐MB‐468(トリプルネガティブ、基底サブタイプ)、及びZR‐75‐30(ER+HER2+、ルミナールサブタイプ)に対して試験を行ったところ、細胞生存性の用量依存的な低下がみられ、それぞれ355μM(
図8)、15.7μM(
図9)及び9.7μM(
図10)のIC
50値が得られた。これらのデータは、MBC0179が広範囲の乳がん分子サブタイプに対して有効となりうることを強く示唆している。加えて、MBC0179について、いくつかのヒトのがんのモデル細胞株を用いて細胞生存性の低減についてアッセイしたが、慢性骨髄性白血病に相当する細胞株(K562、
図11、IC
50=6.11μM)、肝臓がんに相当する細胞株(HEPG2、
図12、IC
50=24.9μM)、肺がんに相当する細胞株(A549、
図13、IC
50=10.5μM)、卵巣がんに相当する細胞株(OVCAR‐3、
図14、IC
50=9.22μM)及び神経芽腫に相当する細胞株(SKN‐SH、
図15、IC
50=35μM)であった。これらのデータは幅広い抗がん有効性を実証しており、MBC0179ががんの種類を選ばない可能性を示唆している。最終的に、in vitroでの化合物MBC0179の有効性の評価は、高転移性のトリプルネガティブなマウス乳がん細胞株4T1を用いた用量依存的な生存性実験を最後に実施して、4T1のin vivoでのマウス乳がん転移の検討を実行する前に、転移抑制の潜在力を予備的に示した。
図16の用量反応データは、該薬物が有効であろうことを強く示しており(IC
50=25.5μM)、したがってin vivoでの検討が開始された(結果は下記に述べる)。
【0069】
4T1乳がん細胞は主としてマウスの乳房脂肪体から肺へと転移するが、4T1細胞は6‐チオグアニンに対して抵抗性であることから、4T1の肺転移を計測するためのクローン原性アッセイ(colonogenic assay)が広く採用されてきた。データは3つの検討群(ビヒクル処理群、10mg/kg MBC0179治療群、及び15mg/kg MBC0179治療群)から収集したが、各群は6匹の雌のBalb/cマウスから成り、マウスには週2回投薬した。各群の平均の4T1コロニー数をプロットし(
図17)、統計的に有意な肺転移の低減(p=0.03、両側t検定)が、ビヒクル群と15mg/kg MBC0179治療群との間で観察された。加えて、これら2群の間の肺転移の低減率は74.4%であった(
図17)。全体として、肺転移において用量依存的な低減がみられ、MBC0179がin vivoで乳がんの転移を予防することができたこと、及びヒトにおいて同様の治療上の有益性を有しうることが示された。
【国際調査報告】