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特表2023-525289光学イメージング技術によって生体内測定から水晶体の完全な形状を取得する方法および水晶体の完全な形状から白内障手術における眼内水晶体位置を推定する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-15
(54)【発明の名称】光学イメージング技術によって生体内測定から水晶体の完全な形状を取得する方法および水晶体の完全な形状から白内障手術における眼内水晶体位置を推定する方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20230608BHJP
   A61B 3/135 20060101ALI20230608BHJP
   A61B 3/10 20060101ALI20230608BHJP
   G06T 7/149 20170101ALI20230608BHJP
【FI】
A61F2/16
A61B3/135
A61B3/10 100
G06T7/149
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567806
(86)(22)【出願日】2021-05-10
(85)【翻訳文提出日】2023-01-09
(86)【国際出願番号】 EP2021062366
(87)【国際公開番号】W WO2021224507
(87)【国際公開日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】20382385.1
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522434185
【氏名又は名称】コンセホ スペリオール デ インベスティガシオネス シエンティフィカス
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100105131
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 満
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【弁理士】
【氏名又は名称】生富 成一
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス エンリケス、エドアルド
(72)【発明者】
【氏名】マルコス セレスティノ、スサーナ
【テーマコード(参考)】
4C097
4C316
5L096
【Fターム(参考)】
4C097AA25
4C097BB01
4C097CC01
4C097SA01
4C316AA08
4C316AA24
4C316AA25
4C316AB16
4C316AB19
5L096AA09
5L096BA06
5L096DA02
5L096FA06
5L096FA32
5L096FA64
5L096FA67
(57)【要約】
本発明は、光学イメージング技術によって生体内で撮影された水晶体の測定から水晶体の全体形状を推定する方法に関し、該測定は、水晶体の可視部分を含んでおり、該方法は、-水晶体の生体内測定を受信するステップと、-生体内測定から分かれる水晶体の非可視部分を決定するステップであって、水晶体の非可視部分を決定するステップは、a)水晶体の初期全体形状を規定する第1の複数の点(3、61)の位置を確定することと、b)第1の複数の点(3、61)を複数の方向に沿った複数の長さで第2の複数の点(55)の位置に変位させることであって、第2の複数の点(55)は生体内測定が行われた水晶体の全体形状の推定点であり、水晶体の初期全体形状は生体外測定から得られ、複数の長さは生体内測定から推定される、ことと、を含むステップと、を備える。また、本発明は、眼に移植可能な眼内水晶体を選択する方法に関するものである。そして、水晶体の全体形状を決定するように構成されたデータ処理システムに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学イメージング技術によって生体内で取得された水晶体の測定から水晶体の全体形状を推定する方法であって、前記測定は前記水晶体の可視部分を含んでおり、前記方法は、
-データ処理システムによって前記水晶体の生体内測定を受信するステップと、
-前記データ処理システムによって前記生体内測定から分かれる前記水晶体の非可視部分を決定するステップであって、前記水晶体の非可視部分を決定するステップは、
a)水晶体の初期全体形状を規定する第1の複数の点(3、61)の位置を確定することと、
b)前記第1の複数の点(3、61)を第2の複数の点(55)の位置に複数の方向に沿って複数の長さ変位させることであって、前記第2の複数の点(55)は、前記生体内測定が行われた前記水晶体の全体形状の推定点であり、前記水晶体の前記初期全体形状は、生体外測定から得られ、前記複数の長さは、前記生体内測定から推定される、ことと、を含む、ステップと、
を備える、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、前記第1の複数の点(3、61)を第2の複数の点(55)の位置に複数の方向に沿って複数の長さ変位させるステップは、少なくとも1つの水晶体変形パターン(811、821、831、841、851)に従って変位することを含み、前記少なくとも1つの水晶体変形パターン(811、821、831、841、851)は、生体外測定から取得される、方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法であって、各水晶体変形パターン(811、821、831、841、851)は、前記水晶体変形パターンに従って変位させる点の各対の比率を規定し、各比率は、前記点の対の一方の点の変位の長さと前記点の対の他方の点の変位の長さとの間の比率である、方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の方法であって、前記ステップb)の複数の長さが、前記少なくとも1つの水晶体変形パターン(811、821、831、841、851)の各々に重み係数を適用することによって取得され、少なくとも1つの重み係数が、前記生体内測定から推定される、方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法であって、前記第1の複数の点(3、61)を変位させるステップは、下記方程式に従って実行され、
【数1】
ここで、
lは、前記第1の複数の点(3,61)を変位させた結果得られる前記第2の複数の点(55)の座標を含む行列であり、
l0は、前記第1の複数の点(3,61)の座標を含む行列であり、
ekは、前記少なくとも1つの水晶体変形パターンのk水晶体変形パターン(811、821、831、841、851)を規定する行列であり、ek行列は、前記第1の複数の点(55)の変位を規定し、
akは、前記少なくとも1つの重み係数のkスカラー重み係数であり、
kは、前記水晶体の全体形状を推定するために使用される水晶体変形パターン(811、821、831、841、851)の総数である、方法。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか一項に記載の方法であって、各水晶体変形パターン(811、821、831、841、851)が、残差データの共分散行列の固有ベクトルであり、前記残差データが、生体外水晶体のセットの各水晶体の全体形状(2)と前記生体外水晶体のセットの平均全体形状との間の差である、方法。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか一項に記載の方法であって、各水晶体変形パターン(811、821、831、841、851)に適用される各重み係数が、少なくとも1つの二次係数から推定され、前記少なくとも1つの二次係数のそれぞれが、水晶体の全体形状の中央前部(53)および中央後部(53)の変形パターンに適用される係数であり、前記方法は、
-水晶体の全体形状の中央前部および中央後部の変形パターンに適用される前記少なくとも1つの二次係数を計算するステップを備え、
-中央前部および中央後部の少なくとも1つの変形パターンが、生体外測定から取得され、
-前記少なくとも1つの二次係数が、生体内測定から計算される、方法。
【請求項8】
請求項4乃至6のいずれか一項に記載の方法であって、生体内で測定された水晶体の推定幾何学パラメータの関数として前記少なくとも1つの重み係数を推定するステップをさらに備え、前記推定幾何学パラメータは、生体内測定から推定され、前記幾何学パラメータは、水晶体厚、水晶体の前面の曲率半径、水晶体の後面の曲率半径または水晶体の表面を記述するゼルニケ係数といった水晶体の形状の特徴的な幾何学パラメータである、方法。
【請求項9】
請求項4乃至8のいずれか一項に記載の方法であって、水晶体体積および/または水晶体表面積および/または水晶体直径および/または赤道位置が、前記少なくとも1つの重み係数の関数として推定される、方法。
【請求項10】
眼に移植可能な眼内水晶体を選択する方法であって、眼に移植可能な水晶体の推定水晶体位置を予測するステップを含み、前記推定水晶体位置が、生体内測定水晶体の全体形状から取得され、前記生体内測定水晶体の全体形状が、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法を用いて推定される、方法。
【請求項11】
請求項4に従属するときの請求項10に記載の方法であって、前記眼に移植可能な水晶体の推定水晶体位置が下記の式を用いて取得され、
【数2】
ここで、
ELPは、推定された水晶体位置であり、
akは、前記少なくとも1つの重み係数のkスカラー重み係数であり、
Ckは、k位置決め重み係数であり、
C0は、バイアス項である、方法。
【請求項12】
光学イメージング技術によって取得された水晶体の測定から水晶体の全体形状を推定する方法であって、前記方法は、
a)前記測定から少なくとも1つの重み係数を推定するステップと、
b)水晶体変形パターン(811、821、831、841、851)を少なくとも1つの重み係数の各々に適用して複数の変位の長さを取得するステップであって、少なくとも1つの水晶体変形パターンが、生体外測定から得られる、ステップと、
c)第1の複数の点(3、61)を、ステップb)で得られた複数の変位の長さで、水晶体の全体形状の第2の複数の推定点(55)の位置に変位させるステップと、を備える、方法。
【請求項13】
第1の複数の点(3、61)を第2の複数の点(55)の位置に複数の方向に沿って複数の長さ変位させることによって水晶体の全体形状を決定するように構成されたデータ処理システムであって、
前記第1の複数の点(3、61)は、水晶体の初期全体形状を規定し、
前記初期全体形状は、生体外測定から得られ、前記複数の長さは、少なくとも1つの水晶体変形パターン(811、821、831、841、851)の各々に重み係数を適用することによって得られる、データ処理システム。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法の1つまたは複数を実行するための処理手段を備える、データ処理システム。
【請求項15】
請求項13に記載の、または請求項4に従属するときの請求項14に記載のデータ処理システムであって、水晶体のリアルな全体形状を生成するための処理手段を備え、前記水晶体のリアルな全体形状は、少なくとも1つの重み係数に値を割り当てることによって規定され、前記少なくとも1つの重み係数の各々の値は、生体外測定から得られた最小値と最大値の間にある、データ処理システム。
【請求項16】
請求項15記載のデータ処理システムであって、前記少なくとも1つの重み係数に割り当てられた前記値は、多数の所定の確率分布から選択された確率分布からランダムに取得され、前記多数の所定の確率分布の各確率分布は、特定の年齢範囲についてのものである、データ処理システム。
【請求項17】
請求項13乃至16のいずれか一項に記載のデータ処理システムを備える、光イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科分野に包含され、より具体的には、白内障手術における水晶体の正確な幾何学的測定と眼内水晶体位置の正確な推定を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
技術水準(STATE OF THE ART)
眼の主な光学要素には、水晶体と角膜がある。水晶体は、眼の焦点を合わせる機能(視力調節)を担っている。したがって、老眼や白内障の解決策を設計および評価するためには、水晶体の特性を理解することが重要である。
【0003】
人間の水晶体の幾何学的形状に関する研究は、生体外、生体内を問わず数多く存在する。
【0004】
水晶体の生体内測定は、通常、プルキンエ・イメージングやシャインプルーグ・イメージング、磁気共鳴イメージング(MRI)、光コヒーレンス・トモグラフィー(OCT)などを用いて行われる。これらの測定には、水晶体の曲率半径、水晶体の傾きと偏角、水晶体の内部構造と表面トモグラフィー、および加齢と視力調節によるそれらの変化が含まれる。
【0005】
しかし、光学イメージングでは瞳孔を通して見える情報しか取得できないため、赤道面位置EPP、体積VOL、表面積SA、または赤道面における水晶体直径DIAなど、重要なパラメータを直接推定することができない。
【0006】
水晶体全体の形状や、EPP、VOL、SA、DIAなどの関連の興味深いパラメータを生体内で報告した研究はほとんどない。これらの報告のほとんどは、水晶体全体の歪みのない画像を撮影することができる水晶体のMRIに基づいている。しかしながら、MRIを用いた手法は、光学イメージング手法に比べ、解像度が著しく低く(約20~30倍小さい)、必要となる撮影時間も非常に長いため、必要な精度を持つパラメータを得るには適していない。
【0007】
光学イメージング技術からVOL、EPP、SAおよびDIAなどの水晶体幾何学的パラメータを推定する従来のアプローチは、水晶体の前面(AL)および後面(PL)の瞳孔サイズ(PS)内で利用可能なデータに最も適合する2つのパラメトリック面を交差させることによって、そのようなパラメータを推定するものである。しかしながら、これらの方法(以下、「交差アプローチ」と呼ぶ)は、パラメータVOL、SAおよびDIAの過大評価と、EPP(前方シフト)の過小評価とをもたらす。
【0008】
その他のアプローチでは、EPPは(水晶体厚みに対して)一定の値と考えるが、EPPは対象依存(subject-dependent)であるとする報告もある。
【0009】
特許文献WO-A2-2011/026068は、水晶体前面および後面の曲率半径と、シャインプルーグ・イメージングによって予め決定された水晶体の厚さとを用いて、眼球水晶体カプセルの幾何学的モデルを作成する方法を開示している。この方法は、交差アプローチに依存しているため、上記で説明したような問題がある。
【0010】
また、特許文献US-A-2010/121612は、前半球および後半球、さらには赤道域を含む水晶体表面全体を単一の連続した数学表現として特徴付ける方法を開示している。開示された方法は、水晶体全体の輪郭を提供する眼球組織の影像写真測量に基づいている。これは生体外でのみ有効である。
【0011】
したがって、水晶体、特に生体内、および/または水晶体嚢の完全な幾何学または形状の推定を提供し、同時に、既知の方法に関して推定誤差を低減する方法が必要とされている。
【0012】
術後IOL位置(ELP)の術前推定は、現代のIOL度数計算(power
calculation)における誤差の最大の要因である(「Sources of
error in intraocular lens power calculation」
Norrby S., Journal of Cataract & Refractive Surgery 2008; 34:368-376)。したがって、術後のIOL位置の予測に何らかの改善があれば、典型的な公式または光線追跡支援によるIOL度数計算を用いて、より良いIOL度数選択、ひいては屈折および視力結果を提供することができる。
【0013】
術後IOL位置、いわゆる推定水晶体位置(ELP)を予測する公式の設計には、さまざまな術前変数が使用されてきた。例えば、広く用いられているSRK/T式(「Development
of the SRK/T intraocular lens implant power calculation formula」、Retzlaff
J.A., Sanders D, Kraff M, Journal of Cataract & Refractive Surgery 1990; 16:333-340)は、軸長および前角定量を使用して、IOL位置を予測し、ハイギスの式(「The
Haigis formula」, Haigis W, In:Shammas HJ (ed).眼内水晶体の度数計算。Thorofare,
NJ: Slack Inc. 2004; 5-57)は、軸長および術前のACDを使用し、またはオルセン式(「Prediction
of the effective postoperative (intraocular lens) anterior chamber depth」、オルセンT,
Journal of Cataract & Refractive Surgery 2006; 32:419-424 )は、5変数モデルを用い、入力パラメータは軸長、術前のACD、水晶体厚、平均角膜半径および術前の屈折率である。包括的なレビューは、(「Calculation
of intraocular lens power: a review」、Olsen
T, Acta Ophtalmologica 2007; 85:472-485, Table 5)に掲載されている。ほとんどのアプローチにおいて、ELPは水晶体の形状とは関係のないパラメータから推定される。水晶体に関する何らかの情報を用いたアプローチの報告では、軸方向の測定(1次元)または2次元のモデル/測定が用いられており、水晶体の全体形状を含むことはなく、これは直感的に、術後のIOL位置を正確に推定するために重要と思われる(IOLは水晶体の水晶体嚢内に配置されるため)。
【0014】
同じ出願人により出願された特許出願書類US-A1-2017/316571は、光学イメージング技術により生体内で撮影された水晶体の測定から眼の水晶体の全体形状を推定する方法を開示しており、測定は水晶体の可視部分からなり、この方法は生体内測定から分かれる水晶体の非可視部分を規定し、生体外測定から予め構築された水晶体の幾何学的モデルを使用することから構成されている。US-A1-2017/316571は、VOL、DIA、EPPまたはSAなどの水晶体の全体形状の定量化から得られたパラメータからIOL位置を推定する方法も開示している。
【0015】
US-A1-2017/316571に開示された方法のいくつかの実施形態は、水晶体の前面に対応する第1のパラメトリック面および水晶体の後面に対応する第2のパラメトリック面に生体内測定を適合させることによって、水晶体の全体形状を推定することに依拠している。次に、第1および第2のパラメトリック面を第1のパラメータで与えられる範囲に外挿し、水晶体の中央領域を規定する。そして、水晶体の中央領域の一部のデータを用いて、第3のパラメトリック曲面により水晶体の赤道部領域を規定する。したがって、複数のパラメトリック面(各パラメトリック面は水晶体の異なる部分を表す)を用いて、水晶体の全体形状を推定することができる。VOL、DIA、SAまたはEPPのような全体形状の定量化から得られるいくつかのパラメータは、IOL位置を推定するために使用される。しかしながら、水晶体の全体形状の推定や、実際の水晶体の全体形状からのIOL位置の推定には、さらなる改良が必要である。
【0016】
US7382907B2は、医用画像中の閉塞した解剖学的構造のセグメンテーションを開示する。
【発明の概要】
【0017】
本発明の説明(DESCRIPTION
OF THE INVENTION)
本発明では、眼の水晶体の全体形状を推定する方法が提供され、この形状は、光コヒーレンス・トモグラフィー(OCT)などの光学イメージング技術によって得られた測定を用いて推定される。
【0018】
本方法の応用例としては、カスタムメイドの眼内水晶体(IOL)の設計支援、眼に移植される眼内水晶体の推定水晶体位置の予測、眼に移植される視力調節型IOLのサイズ決定支援、老眼の影響を打ち消すための見込み手術技術、例えば、水晶体リフィルに基づく手術技術(ファコ・エールサッツ法等)の支援などが挙げられる。この方法のもう一つの用途は、幼児期や児童期に水晶体が受ける変化の理解に役立つことである。これらの変化を理解することで、これらの変化と屈折矯正との関係や、屈折異常の発生にこれらの変化が与える潜在的な意味について、洞察を得ることができる可能性がある。同時に、この方法は、非侵襲的な光学イメージングに適用できるという利点がある。
【0019】
本発明の一態様は、眼の水晶体の全体形状を推定する方法、すなわち、眼の水晶体の輪郭を規定するラミナ全体の形状を推定する方法に関するものである。したがって、眼の水晶体の全体形状とは、前記ラミナのすべての構成部分によって規定される形状である。全体形状は、光学イメージング技術によって生体内で取得された水晶体の測定から推定され、その測定は水晶体の可視部分から構成される。光学イメージング技術によって取得された水晶体の測定は、生体内で取得され、したがって、測定は、眼の瞳孔を通して見える水晶体の中央前部および中央後部のそれらの部分だけに関連するものである。これらの生体内測定は、所定の患者に移植されるべき最良のIOLを予測するために、患者固有の眼球モデルを構築することを可能にするので、最先端の白内障手術の性能を最適化するのに有利である。開示された方法で使用される光学イメージング技術は、プルキンエまたはシャインプルーグ・イメージング技術または光コヒーレンス・トモグラフィー、OCTのうちの1つまたはより多くであることができる。
【0020】
本方法は、以下のステップからなる。
【0021】
-データ処理システムにより、水晶体の生体内測定を受信するステップ。
【0022】
-データ処理システムにより、生体内測定から水晶体の非可視部分を決定するステップ。非可視部分とは、虹彩が光を遮るために眼の瞳孔を通して見えない水晶体の部分である。すなわち、水晶体の非可視部分は、測定された水晶体の中央前部と測定された水晶体の中央後部とを接合する水晶体の部分から構成される。この接合は、非可視部分と水晶体の測定された中央前部との間の直接接触、および非可視部分と水晶体の測定された中央後部との間の直接接触によって行われる。したがって、水晶体の非可視部分は、水晶体の赤道を構成する。
【0023】
前記水晶体の非可視部を決定するステップは、以下のように構成される。
【0024】
a)眼の水晶体の初期の全体形状を規定する第1の複数の点の位置を確定するステップ。
【0025】
b)第1の複数の点を、第2の複数の点の位置に、複数の方向に沿って複数の長さ変位させるステップ。第2の複数の点は、生体内測定が行われた水晶体の全体形状の推定点である。水晶体の初期の全体形状は、生体外での測定から得られ、複数の長さは、生体内の測定から推定される。このように、眼の特定の水晶体の全体形状を推定するために、第1の複数の点を生体内測定に適合させる必要はなく、複数の変位長さのみを生体内測定に適合させる必要がある。これらの実施形態のいくつかでは、複数の長さが沿う複数の方向は、生体外測定から構築され、それゆえ、生体内測定に適合させる必要がない。これは、複数の方向を特定の生体内測定に適合させるために処理資源が消費されないので有利である。
【0026】
このように、眼の水晶体の初期全体形状を規定する第1の複数の点を変位させることによって、眼の水晶体の全体形状が推定される。したがって、本方法では、推定された全体形状の異なる領域に異なる幾何学的関数を割り当てる必要がなく、本方法は、非常に少ない数の変数で任意の水晶体の全体形状を記述することが可能である。
【0027】
第1の複数の点は生体外での測定から構築されるため、水晶体の初期の全体形状は、生体内の測定を行う前に構築されることが好適である。
【0028】
いくつかの実施形態では、水晶体の推定全体形状および/または生体内測定は、球座標である。これにより、水晶体の自然な成長をより正確な方法で再現することができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、第1の複数の点を第2の複数の点の位置に複数の方向に沿って複数の長さ変位させるステップは、少なくとも1つの水晶体変形パターンに従って変位させることを含み、少なくとも1つの水晶体変形パターンは、生体外測定から取得される。それによって、水晶体の全体形状は、水晶体の初期の全体形状を変形させる手段によって推定される。各水晶体の変形パターンは、水晶体の全体形状の変形パターンである。すなわち、各水晶体変形パターンは、水晶体の全体形状の特定の縮小部分の変形に限定されず、異なる水晶体変形パターンは、全体形状の同じ部分の詳細を特定することができる。したがって、水晶体変形パターンは関数として見ることができ、各関数は水晶体の全体形状を表す。さらに、少なくとも1つの水晶体変形パターンは、生体外測定から構築されるので、少なくとも1つの水晶体変形パターンは、生体内測定を行う前に構築されるのに適している。
【0030】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの変形パターンは、水晶体の全体形状のすべての点の膨張または水晶体の全体形状のすべての点の収縮を生成する水晶体変形パターンを含む。この変形パターンは、水晶体の全体形状の推定における精度を高めるために特に有利である。
【0031】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの変形パターンは、水晶体の全体形状の前部および後部を平坦にし、同時に水晶体の全体形状の赤道径を増加させ、中央水晶体厚を減少させる、水晶体変形パターンを含む。この変形パターンにより、水晶体の視力調節を記述することができ、言い換えれば、水晶体が動的に形状を変化させて遠近の焦点を合わせる能力を記述することができる。また、この変形パターンは、水晶体の全体形状の推定精度を向上させるために特に有利である。
【0032】
いくつかの実施形態では、各水晶体変形パターンは、水晶体変形パターンに従って変位する点の各対の比を規定し、各比は、点の対の一方の点の変位の長さと点の対の他方の点の変位の長さとの間の比である。このようにして、各水晶体変形パターンは、水晶体の全体形状の各点間の特定の相対変位を規定し、これらの相対変位は、比例的にスケーリングされ得る。各水晶体変形パターン自体は、水晶体の全体形状で表現することができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、ステップb)の複数の長さは、少なくとも1つの水晶体変形パターンの各々に重み係数を適用することによって得られる。重み係数(1つまたは複数)は、生体内測定から推定される。それにより、水晶体の初期全体形状の各点の変位の長さは、生体内測定から得られた重み係数を、生体外測定から得られた少なくとも1つの水晶体変形パターンの各々に適用することによって得られる。他の実施形態では、複数の係数が各水晶体変形パターンに適用されてもよいが、各変形パターンにただ1つの係数を適用する利点は、推定方法がより単純で、処理資源がより少なくて済むことである。
【0034】
いくつかの実施形態では、第1の複数の点を変位させるステップは、少なくとも1つの水晶体変形パターンの線形結合を構成する以下の式に従って実行される。
【0035】
【数1】
【0036】
ここで、
lは、第1の複数の点を変位させた結果得られる第2の複数の点の座標を含む行列である。
【0037】
l0は、第1の複数の点の座標を含む行列である。
【0038】
ekは、少なくとも1つの水晶体変形パターンのk水晶体変形パターンを規定する行列であって、ek行列は、第1の複数の点の変位を規定する。
【0039】
akは、少なくとも1つの重み係数のkスカラ重み係数である。
【0040】
Kは、水晶体の全体形状を推定するために使用される水晶体変形パターンの総数である。
【0041】
他の実施形態では、第1の複数の点を変位させるステップは、少なくとも1つの水晶体変形パターンの非線形結合からなる方程式に従って実行される。しかしながら、非線形組み合わせではなく、少なくとも1つの水晶体変形パターンの線形組み合わせからなる方程式は、その高い単純性のゆえに、且つ水晶体の全体形状の正確な推定を得ることができるので好ましい。
【0042】
特定の実施形態では、各水晶体変形パターンは、残差データの共分散行列の固有ベクトルであり、残差データは、生体外水晶体のセットの各水晶体の全体形状と生体外水晶体のセットの平均全体形状との間の差である。このように、各水晶体変形パターンが固有ベクトルであるため、どの水晶体変形パターンが水晶体の全体形状の分散をより多く説明しているかを判断することができる。
【0043】
いくつかの実施形態では、各水晶体変形パターンに適用される各重み係数は、少なくとも1つの二次係数から推定され、少なくとも1つの二次係数の各々は、眼の水晶体の全体形状の中央前部および中央後部の部分の変形パターンに適用される係数である。少なくとも1つの二次係数は、中央前部および中央後部の少なくとも1つの変形パターンに適用されると、結果として、生体内測定水晶体の中央前部および中央後部の形状を推定することを可能にする中央前部および中央後部の変形を与えるような係数である。これらの実施形態において、本方法は、水晶体の全体形状の中央前部および中央後部の変形パターンに適用される少なくとも1つの二次係数を計算するステップを含む。中央前部および中央後部の少なくとも1つの変形パターンは、生体外測定から得られ、少なくとも1つの二次係数は、生体内測定から算出される。水晶体の全体形状を推定するこの方法は、瞳孔を通して見ることができる水晶体の中央前部と中央後部の推定から、水晶体の全体形状を推定するものと見ることができる。
【0044】
本開示において、「重み係数」という表現は、水晶体の全面形状の前部と後部の変形パターンの重み係数であると明示されない限り、水晶体の変形パターンの重み係数を指すものとする。簡潔さのために、本開示では、水晶体の全体形状の前部および後部の変形パターンの重み係数を「二次係数」と呼んでいる。
【0045】
いくつかの実施形態において、本方法は、生体内で測定された水晶体の推定幾何学的パラメータの関数として、水晶体変形パターンの少なくとも1つの重み係数を推定することをさらに含む。推定される幾何学的パラメータは、生体内測定から推定される。さらに、幾何学的パラメータは、水晶体の厚さ、水晶体の前面の曲率半径、水晶体の後面の曲率半径、または水晶体の表面を記述するゼルニケ(Zernike)係数などの水晶体の形状の特徴的な幾何学的パラメータである。これにより、水晶体形状の特徴的な幾何学的パラメータから、水晶体の全体形状の推定値を得ることができる。
【0046】
例えば、少なくとも1つの重み係数と幾何学的パラメータとの関係は、少なくとも1つの重み係数を従属変数とし、幾何学的パラメータを独立変数とする最小二乗法を用いた多重線形回帰を適用することにより得ることができる。
【0047】
【数2】
【0048】
ここで、
RALは、水晶体前面の曲率半径である。
【0049】
RPLは、水晶体後面の曲率半径である。
【0050】
このようにして、水晶体の全体形状を少なくとも1つの重み係数から推定することができ、少なくとも1つの重み係数は、RAL、RPLおよび水晶体厚などの水晶体の一般的に測定されるパラメータから取得される。
【0051】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの重み係数は、3つ以上の重み係数で構成される。このようにして、わずか数個の重み係数を用いて、水晶体の全体形状の推定において、より高い精度を達成することができる。
【0052】
いくつかの実施形態では、生体内で測定された水晶体の体積および/または水晶体の表面積および/または水晶体の直径および/または水晶体の赤道位置は、少なくとも1つの重み係数の関数として推定される。本発明の方法は、老眼の新たな治療において高い価値を有する、水晶体の体積VOLの術前推定を得るために有利に使用され得る。特に、水晶体体積の知識は、適切な屈折および適切な視力調節の振幅を達成するために水晶体嚢の充填の程度が重要である、水晶体再充填技術において極めて重要である。また、水晶体体積VOLは、いくつかの視力調節型収縮眼内水晶体(A-IOL)の選択において非常に重要であり、DIAとVOLの事前知識が屈折の予測性を高め、A-IOLの正しい作用メカニズムに重要であると考えられる。
【0053】
本発明の別の態様は、眼に移植可能な眼内水晶体を選択する方法であって、眼に移植可能な眼内水晶体の推定水晶体位置を予測することを含み、推定水晶体位置は、生体内測定された水晶体の全体形状から得られ、生体内測定された水晶体の全体形状は、本発明の第1の態様に係る方法を用いて推定される方法に関するものである。これは、推定された水晶体位置が術前に予測され得る、すなわち、推定された水晶体位置が、術前に推定された水晶体の全体形状から予測され得るという点で有利である。水晶体の全体形状の正確な推定を有することは、白内障手術において移植される水晶体のIOL(眼内水晶体)度数(power)のより良い選択をもたらす。IOL度数は、光線追跡法またはIOL度数計算式に基づいて計算することができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、眼に移植可能な水晶体の推定水晶体位置は、以下の式を用いて得られる。
【0055】
【数3】
【0056】
ここで、ELPは推定水晶体位置である。
【0057】
akは、少なくとも1つの重み係数のkスカラー重み係数である。
【0058】
Ckは、重み係数akを乗じたk位置決め重み係数である。
【0059】
C0は、バイアス項である。
【0060】
このようにして、少なくとも1つの重み係数から、まだ眼に埋め込まれていない水晶体の推定位置を得ることができる。
【0061】
例えば、位置決め重み係数Ckとバイアス項C0は、最小二乗法による多重線形回帰を適用して求めることができ、ここでELPは従属変数でありakは独立変数である。このようにすると、ELPは、水晶体の全体形状をコンパクトかつ正確に記述する少なくとも1つの重み係数から直接推定することができる。これにより、眼内水晶体の位置を推定するこの方法が使用される白内障手術の結果を潜在的に改善することができる。
【0062】
本発明の別の態様は、光学イメージング技術によって取得された水晶体の測定から、眼の水晶体の全体形状を推定する方法に関するものである。この方法は、以下のように構成される。
【0063】
a)測定から少なくとも1つの重み係数を推定するステップ。
【0064】
b)水晶体変形パターンをそれぞれの少なくとも1つの重み係数に適用(例えば、乗算)して、複数の変位長を得るステップ。ここで、少なくとも1つの水晶体変形パターンは、生体外測定から得られる。
【0065】
c)第1の複数の点を、ステップb)で得られた複数の変位長で、水晶体の全体形状の第2の複数の推定点の位置に変位させるステップ。
【0066】
本発明はまた、第1の複数の点を第2の複数の点の位置に複数の方向に沿って複数の長さ変位させる手段によって、眼の水晶体の全体形状を決定するように構成されたデータ処理システムに関するものであり、ここで、
第1の複数の点は、眼の水晶体の初期の全体形状を規定し
初期の全体形状は生体外計測から得られ、且つ
複数の長さは、少なくとも1つの水晶体変形パターンのそれぞれに重み係数を適用することによって得られる。
【0067】
このように、データ処理システムを用いて、水晶体の全体形状を生成することができる。
【0068】
このデータ処理システムを用いて、様々な形状の水晶体のシミュレーションを行い、定められた条件下での性能を評価することが可能である。これらのシミュレーションは、水晶体のバイオメカニカルモデルの改良に使用することができる。この改良は、視力調節過程の計算モデリングや、カスタマイズされた眼内水晶体の設計に直接役立つ。さらに、このシミュレーションは、眼に移植されるより適切な眼内水晶体を選択するために使用することができる。さらに、このシミュレーションは、特定の水晶体充填手術に必要な液量をより正確に決定するために使用され得る。
【0069】
いくつかの実施形態では、データ処理システムは、少なくとも1つの水晶体変形パターンを一定に保ちながら、かつ水晶体の初期全体形状を一定に保ちながら、少なくとも1つの重み係数を変更する手段によって水晶体の全体形状を決定するように構成されている。これは、意味のある全体形状変化を生成するために、ほんの数個のパラメータ(重み係数)のみを変更する必要があるため、有利である。
【0070】
本発明のさらなる態様は、前記で定義した本発明のいずれかの態様による方法の1つまたは複数を実施するための処理手段を備えるデータ処理システムに関する。
【0071】
いくつかの実施形態では、データ処理システムは、水晶体のリアルな全体形状を生成するための処理手段を備え、水晶体のリアルな全体形状は、少なくとも1つの重み係数に値を割り当てることによって規定され、少なくとも1つの重み係数の各々の値は、生体外測定から得られた最小値と最大値によって規定される範囲の中である。少なくとも1つの重み係数の値を生体外測定から得られた特定の範囲に拘束することは、生成された水晶体がよりリアルであることを保証することを可能にするので、有利である。これらの実施形態のいくつかでは、少なくとも1つの係数の各々の値は、生体外測定が得られた生体外水晶体のセットについての前記重み係数の最大値と最小値とによって規定される範囲内にある。これらの最大値および最小値は、他の最大値および最小値と比較した場合、容易に決定されるため有利である。他の最大値および/または最小値は、一般に、例えば、これらのより高い最大値およびより低い最小値が、水晶体のリアルな全体形状をもたらすかどうかをテストする手段によって得ることが可能である。
【0072】
いくつかの実施形態では、データ処理システムは、前述のシミュレーションにおいて、眼の水晶体のランダムな全体形状を生成するために使用される。水晶体のランダムな全体形状は、少なくとも1つの重み係数に値を割り当てることによって規定することができ、前記値は、多数の所定の確率分布から選択される確率分布からランダムに取られる。よりリアルな水晶体の全体形状を生成するために、ランダムな値をさらに制約することができる。
【0073】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの重み係数に割り当てられる値は、多数の所定の確率分布から選択される確率分布からランダムに取られ、多数の所定の確率分布の各確率分布は、特定の年齢範囲に対するものである。眼の水晶体の全体形状は、水晶体が老化するにつれて変化し、老化が水晶体の形状、ひいては水晶体の性能に及ぼす特定の影響は、特定の年齢に対する複数の水晶体を評価する手段により評価することができる。これにより、患者が特定の欠陥を有する水晶体を有する確率を決定することができ、したがって、眼科医が水晶体の欠陥、ひいては欠陥を治療するための最も適した治療法を決定することを容易にする。
【0074】
本発明の他の態様は、上記に定義されるデータ処理システムを備える光学イメージング装置に関するものである。
【0075】
得られた第2の複数の点(すなわち、水晶体の推定全体形状)は、多くの目的に使用できる画像(イメージ)に示されてよいことは当業者には明らかであり、例えば、スクリーン上に表示されるため、第1の水晶体の全体形状の関連する測定を得るために画像を処理するため、特定の眼の状態(すなわち、糖尿病、近視)の進行を評価するために水晶体量を監視するため、データベースから適切な水晶体またはIOL水晶体を選ぶため、および/またはIOL水晶体を製造するため、などの目的がある。
【0076】
上記で定義した本発明の異なる態様および実施形態は、互いに両立可能であれば、互いに組み合わせてもよい。
【0077】
本発明の追加の利点および特徴は、以下の詳細な説明から明らかになり、添付の特許請求の範囲において特に指摘されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0078】
説明を完結させるため、および本発明のより良い理解を提供するために、一組の図面が提供される。前記図面は、本明細書の不可欠な部分を形成し、本発明の実施形態を示すものであり、本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきではなく、単に本発明を実施することができる方法の例として解釈されるべきである。図面は、以下の図から構成される。
図1A】水晶体のBスキャンの第1の例である。
図1B】水晶体のBスキャンの第2の例である。
図2】水晶体のBスキャンから水晶体の全体形状の3次元デジタルモデルを得るための例示的な方法を模式的に示している。
図3】水晶体の平均的な全体形状の一例である。
図4】特定の水晶体の全体形状から平均的な全体形状を差し引くものを示す図である。
図5A1】第1の水晶体変形パターンの第1の実施形態を示す図である。
図5A2】第1の水晶体変形パターンの第2の実施形態を示す図である。
図5B1】第2の水晶体変形パターンの第1の実施形態を示す図である。
図5B2】第2の水晶体変形パターンの第2の実施形態を示す図である。
図5C1】第3の水晶体変形パターンの第1の実施形態を示す図である。
図5C2】第3の水晶体変形パターンの第2の実施形態を示す図である。
図5D1】第4の水晶体変形パターンの第1の実施形態を示す図である。
図5D2】第4の水晶体変形パターンの第2の実施形態を示す図である。
図5E1】第5の水晶体変形パターンの第1の実施形態を示す図である。
図5E2】第5の水晶体変形パターンの第2の実施形態を示す図である。
図6A1】第1の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、水晶体の3つの全体形状の第1の斜視図である。
図6A2】第1の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、水晶体の3つの全体形状の第2の斜視図である。
図6A3】第1の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの全体形状の水晶体の正面図である。
図6A4】第1の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの全体形状の水晶体の平面図である。
図6A5】第1の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの全体形状の水晶体の底面図である。
図6A6】第1の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの全体形状の水晶体の背面図である。
図6A7】第1の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの全体形状の水晶体の右側面図である。
図6A8】第1の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの全体形状の水晶体の左側面図である。
図6B1】第2の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの水晶体の全体形状の第1の斜視図である。
図6B2】第2の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの水晶体の全体形状の第2の斜視図である。
図6B3】第2の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの全体形状の水晶体の正面図である。
図6B4】第2の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの全体形状の水晶体の平面図である。
図6B5】第2の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの全体形状の水晶体の底面図である。
図6B6】第2の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの全体形状の水晶体の背面図である。
図6B7】第2の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの全体形状の水晶体の右側面図である。
図6B8】第2の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの全体形状の水晶体の左側面図である。
図6C1】第3水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、水晶体の3つの全体形状の第1斜視図である。
図6C2】第3水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、水晶体の3つの全体形状の第2斜視図である。
図6C3】第3水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、水晶体の3つの全体形状の側面図である。
図6D1】第4水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、水晶体の3つの全体形状の第1斜視図である。
図6D2】第4水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、水晶体の3つの全体形状の第2斜視図である。
図6E1】第5水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの全体形状の水晶体の第1の斜視図である。
図6E2】第5水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの全体形状の水晶体の第2の斜視図である。
図6E3】第5水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、3つの全体形状の水晶体の側面図である。
図6F1】第6の水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、水晶体の3つの全体形状の第1斜視図である。
図6F2】第5水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、水晶体の3つの全体形状の第2斜視図である。
図6F3】第5水晶体変形パターンが水晶体の全体形状を変形させる様子を示す図であり、より具体的には、水晶体の3つの全体形状の側面図である。
図7】水晶体の全体形状推定における二乗平均平方根誤差(RMSE)の算術平均値と水晶体間の標準偏差の値およびPVarの算術平均値と標準偏差の値を示すグラフであり、各値は特定の数の水晶体変形パターンの選択に対応するものである。
図8】水晶体の全体形状推定における二乗平均平方根誤差(RMSE)の算術平均と標準偏差の値を示すグラフであり、それぞれの値は、水晶体の全体形状を推定する特定の方法に対応しており、これらの方法のいくつかは、最先端技術の一部を構成している。
図9】眼球の前眼部の断面を示す画像であり、OCT(光コヒーレンス・トモグラフィー)技術により生体内で測定された画像である。
図10A】水晶体の全体形状の前部と後部の変形パターンの重み係数から全体形状水晶体の変形パターンの重み係数を推定するためのパラメータ式の取得を模式的に示す図である。
図10B】水晶体の全体形状の前部と後部の推定から水晶体の全体形状を推定することを模式的に示す図である。
図11A】水晶体変形パターンの2つの重み係数の3種類の2次元確率分布を示し、各確率分布は、水晶体が特定の年齢であることを条件とする確率分布である。
図11B図11Aに示した確率分布をサンプリングしてランダムに生成した水晶体の全体形状を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0079】
以下の説明は、限定的な意味でとられるものではなく、本発明の広範な原理を説明する目的でのみなされるものである。本発明の実施形態は、上述した図面を参照しながら、例示的に説明される。
【0080】
以下に、本発明による眼の水晶体の全体形状を推定する方法の一実施形態を説明する。この実施形態は、ヘルシンキ宣言の教義を遵守し、CSIC、BST、およびLVPEIの治験審査委員会(Institutional
Review Boards)により承認された以下の研究の一部である。
【0081】
133個の孤立した水晶体それぞれの全体形状の3次元デジタルモデルが構築された。133個の水晶体は、112名の人間ドナーから得られたものである。24名のドナーの28個の水晶体は、"Banc
de Sang i Teixits" 通称 "BST" (Barcelona,
Spain) から入手した眼球から分離されたものである。BSTアイバンクのドナーの年齢幅は19-71歳(すなわちy/o)、算術平均48y/o、標準偏差13y/oであった。残りの105個の水晶体は、88人のドナーから得たもので、"Ramayamma
International Eye Bank at LVPrasad Eye Institute", 通称
"LVPEI" (Hyderabad, India) から得た眼球から分離したものである。LVPEIアイバンクのドナーの年齢範囲は0-56歳で,算術平均は26歳,標準偏差は14歳であった。
【0082】
眼球から水晶体を分離するために、以下の手順を行った。眼球を摘出した後、外科医は慎重に水晶体を眼球から分離し、直ちに保存液の入ったキュベット内のナイロン縫合糸の特注水晶体ホルダーに載せた。「BST」アイバンクの水晶体保存液は、「DMEM/F-12
HEPES no phenol red, GIBCO」を使用した。「LVPEI」アイバンクの水晶体保存液は、「BSS、Alcon
Laboratories」であった。水晶体ホルダーは、水晶体とキュベットの底面との接触を防ぐことができるため、有利であった。
【0083】
当初、157個の水晶体が測定された。しかし、水晶体嚢の剥離を含む水晶体、および何らかの明らかな損傷が見られる水晶体は、今後の研究から除外され、133個の水晶体が残った。
【0084】
「BST」アイバンクの水晶体は、中心波長840nm、半値全幅(FWHM)50nmのスーパールミネッセントダイオードを光源とするカスタム開発のスペクトルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)システムで測定された。軸方向範囲は空気中7mmで、軸方向の画素サイズは3.4μm、組織内の軸方向の光学分解能は6.9μmであった。撮影速度は25000A-scan/sで、水晶体の全体形状の3次元デジタルモデルは、水晶体の12x12mmの側面領域で60回のBスキャンと1回のBスキャンにつき1668回のAスキャンで構成された。
【0085】
「LVPEI」アイバンクの水晶体は、中心波長880nm、半値幅40nmのスーパールミネッセントダイオードを光源とする市販のイメージングシステムENVISU
R4400(Bioptigen Inc.)を用いた別のSD-OCTシステムで測定された。軸方向範囲は空気中で15.18mmであり、軸方向寸法で7.4μmの画素を持ち、軸方向寸法で組織中の6.4μmの光学解像度となる。撮影速度は32000A-scan/sで、水晶体全体形状の3次元デジタルモデルは、15x15mmの横方向領域に100回のB-scanと1回のB-scanあたり600回のA-scanで構成されている。
【0086】
水晶体は、各Bスキャンが水晶体の断面を含み、その断面が水晶体の前部の頂点および後部の頂点を含む平面に平行であるように、水晶体の全体形状のBスキャンを収集するために対応するOCTシステムと位置合わせされた。水晶体は、まず、その前部をOCTシステムの光線に向けた状態でスキャンされた。OCTシステムに対する水晶体のこの位置で、複数のBスキャンが実行された。図1Aは、前部A1がOCTシステムの光ビームに面している水晶体をOCTシステムで走査しているときのBスキャンAの一例を示している。OCT装置の光源から照射された光線は、図1Aの上方から水晶体に接近し、水晶体の前部A1を通って水晶体に入射する。
【0087】
その後、各水晶体を裏返し、その後部をOCTビームに向けた状態でスキャンを行った。OCTシステムに対する水晶体のこの位置で、複数のBスキャンを実行した。図1Bは、OCTシステムによって走査されている間、後部P1がOCTシステムの光源に面している水晶体のBスキャンPの一例を示している。OCTシステムの光源は、図1Bの上部から水晶体に接近する光線を放射し、水晶体の後側部P1を通って水晶体に入射する。
【0088】
また、図1A図1Bのそれぞれには、水晶体の赤道面A4が示されている。
【0089】
図2は、Bスキャンから水晶体全体形状の3次元デジタルモデルを得るための主なステップを模式的に示したものである。3次元デジタルモデルを得るための主な手順は、Bスキャンのセグメンテーション(51)、歪み補正(52)、傾き除去およびレジストレーション(53)である。Bスキャンのセグメンテーションでは、閾値処理、キャニー(Canny)エッジ検出器、モルフォロジー演算、および測定の事前知識を用いて、各Bスキャンにおいて水晶体の全体形状を自動的にセグメンテーションし、すべてのBスキャンのセグメンテーションからなる3次元データを得た。次に、すべてのBスキャンのセグメンテーションからなる3次元データを4次までのゼルニケ(Zernike)多項式でフィッティングし、得られたゼルニケ多項式で規定される滑らかな面を用いて、セグメンテーションを反復的に改良した。このプロセスは、3つの異なる方向のBスキャンにセグメンテーションを適用することで繰り返された。
【0090】
各Bスキャンからセグメント化された表面に存在するファン歪み(fan
distortion)を補正した。ファン歪みは、SD-OCTシステムの走査構造と光学系に起因するものである。
【0091】
なお、水晶体の全体形状の3次元デジタルモデルは、先に説明したように、OCTビームに前面A1を向けて測定した水晶体全体形状のBスキャンと、OCTビームに後面P1を向けて測定したBスキャンをセグメント化して、図1A、1Bに示すように構成したものである。具体的には、水晶体の全体形状の3次元デジタルモデルを構築する際に、前面A1をOCTビームに向けた状態で測定した全体水晶体の前面A1の測定と、後面P1をOCTビームに向けた状態で測定した全体水晶体の後面P1の測定を統合した。こうすることで、以前の光学面の屈折や水晶体の屈折率勾配(GRIN)による前面A1および後面P1の測定の変更を最小限に抑えることができるという利点がある。
【0092】
保存液の存在による水晶体全形の3次元デジタルモデルの歪みは、表面の幾何学的なたるみを保存液の群屈折率で割って補正した。群屈折率は、840nmの「DMEM/F-12
HEPES no phenol red, GIBCO」と880nmの「BSS,
Alcon Laboratories」で1.345であった。
【0093】
水晶体の全体形状の3次元デジタルモデルの補正された前面および後面の傾きを除去し、両面を組み合わせて水晶体の全体形状を生成した。このとき、3次元モデルの前面および後面の赤道中心がX-Y平面上で合致するように、前面および後面を同じ直交座標系に配置した。この前面と後面の合成を図2のステップ53に模式的に示す。次に、水晶体を裏返したときに起こりうる回転を考慮し、一方の面を他方の面に対して回転させ、両者の重なりを最大にする。Z軸のレジストレーションは、OCTスキャンから得られた光学的厚み、保存媒体の屈折率、キュベットの画像の変形を使用して独自に計算した水晶体の中央厚み(LT)を一致させることによって行った。ここでいう水晶体の中央厚みとは、水晶体前面の頂点から水晶体後面の頂点までの厚みと理解される。
【0094】
これにより、133個の水晶体のそれぞれの全体形状の3次元デジタルモデルが得られた。これらのモデルから、133個の水晶体の全体形状の平均値によって規定される第1の複数の点の位置が得られた。3次元デジタルモデルによる数学的演算を容易にするため、各モデルは以下の手順で球面座標で規定された。
【0095】
ステップ1:3次元デジタルモデルの球面座標系の原点0は、横方向、すなわち、軸XおよびYに関して、水晶体の全体形状の3次元デジタルモデルの赤道部の中心に位置させた。座標系の原点0は、軸方向、すなわち軸Zに関して、先に計算した水晶体の中央厚さLTの中点に位置させた。
【0096】
ステップ2:3次元デジタルモデルの各セグメント点の位置、以前のBスキャンのセグメンテーションにより得られたセグメント点は、以前のステップ1で得られた原点0に関して球座標(r,θ,φ)で規定され、ここで、rはセグメント化された点から座標0の原点までの距離であり、θは仰角であり、φは方位角である。これらの座標を図3に示す。
【0097】
ステップ3:3次元デジタルモデルは10000点でサンプリングされ、Q=100方位角φjで規定され、それぞれがP=100仰角θiと組み合わされた。Q=100方位角φjは、インターバル[-π,π]で一様な間隔で配置され、P=100仰角θiは、インターバル[-π/2,π/2]で一様な間隔で配置された。
【0098】
なお、このサンプリング方法では、球面上に均等に配置された点は得られないが、異なる高密度サンプリングによる水晶体変形パターンが非常に似ていることが観察され、よりシンプルであることから、このサンプリング方法が選択された。
【0099】
ステップ4:すべてのペア(θij),i ∈ [1,…,P],j ∈ [1,…Q]について、座標の原点0から水晶体の全体形状の表面までの距離rθi,φjを求めた。前述の10000個のサンプリング点の位置は、先のBスキャンのセグメンテーションの結果得られたセグメント点から三次補間により算出した。これにより、以下のPxQのベクトルが得られ、各要素が3次元モデルの点の位置を規定する。
【0100】
【数4】
【0101】
ここでlnは、133個の水晶体の水晶体”n”の全体形状の3次元デジタルモデルである。
【0102】
ステップ5:平均水晶体l(エル・バー)は、133個の水晶体のベクトルlnの平均値として求めた。
【0103】
【数5】
【0104】
このようにして、生体外計測から133個の水晶体の全体形状の平均値(以下、「平均水晶体」という)を得た。この平均水晶体は、眼の水晶体の初期の全体形状を規定する第1の複数の点の位置を確立した。133個の水晶体の全体形状の例示的な平均3は、図3に示されている。
【0105】
その後、133個の水晶体の各3次元デジタルモデルの残差データΔnから水晶体の変形パターンを取得した。残差データΔnは、図4に示すように、133個の各水晶体の3次元デジタルモデル間の平均水晶体に対する偏差として得られたものである。
【0106】
【数6】
【0107】
図4は、133個の水晶体の全体形状2の3次元デジタルモデルの点に対応する残差データΔnの決定方法の一例である。これらの残差データは、水晶体の全体形状2の3次元デジタルモデルの点21と平均水晶体3の点31との間の距離で構成されている。水晶体の全体形状2の3次元デジタルモデルの点21および平均水晶体3の点31は、それぞれ、仰角θi、方位角φiを有し且つ座標の原点0を含む直線4と、全体形状2および平均水晶体3の3次元デジタルモデルとの交点である。
【0108】
ステップ6:133個の3次元デジタルモデルの残差データの共分散行列Cを求め、主成分分析を行った。
【0109】
【数7】
【0110】
主成分は、以下の対角化問題を解くことで得られた。
【0111】
【数8】
【0112】
ここでekはk主成分であり、λkはk主成分の固有値である。ekをk変形パターンとして考え、より具体的にはk水晶体変形パターンとして考えると、水晶体の全体形状は、平均水晶体3と、それに加えて水晶体変形パターンekの線形結合として表現することができる。
【0113】
【数9】
【0114】
ここでKは、水晶体の全体形状の表現liに使用される水晶体変形パターンの数で、少なくとも1つであり、akは、水晶体変形パターンekのスカラー重み係数である。これは、ある水晶体は、少なくとも1つの係数ak(k=1,…,K)で規定できることを意味する。したがって、スカラー重み係数akは水晶体の全体形状を特徴付けるのに十分であるから、より少ないデータ量で水晶体の全体形状を表現できることが利点である。
【0115】
式(6)は、水晶体の全体形状の推定点である第2の複数の点liが、第1の複数の点l(エル・バー)を複数の方向に沿って且つ前記複数の方向の複数の長さ変位させることによって得られることを示しており、ここで、複数の方向および複数の長さは、前記水晶体変形パターンekのスカラー重み係数akと組み合わせて、少なくとも1つの水晶体変形パターンekによって与えられる。したがって、利点は、光学イメージング技術によって生体内で行われた測定から水晶体の全体形状を推定する他の方法とは異なり、本方法では、水晶体変形パターンekがいったん得られれば、最終的には滑らかで非常にコンパクトなモデルを得ることができることである。このモデルがコンパクトなのは、少ない数の重み係数akで規定できるためである。表現された水晶体の全体形状が滑らかなのは、水晶体変形パターンが、それ自体が滑らかな平均水晶体3に足し合わされ、滑らかな全体形状の水晶体が得られるからである。
【0116】
さらに、各水晶体変形パターンekは、平均水晶体3の点の変位の長さと、平均水晶体3の残りの点の変位の長さとの間の比率のセットを備えている。
【0117】
また、この水晶体変形パターンekに基づく水晶体の全体形状の推定は、水晶体の全体形状の3次元デジタルモデルを容易に形成することを可能にする。なぜなら、水晶体変形パターンはekは、主成分であり、ゆえに他の各水晶体変形パターンekと直交しているため、水晶体の全体形状の3次元デジタルモデルにおける変動は、少数の水晶体変形パターンekに容易に帰属させることができるからである。さらに、水晶体変形パターンは解釈しやすく、水晶体全体形状の幾何学的変化(例えば、前面、後面、水晶体の厚さ)の合同変化を表すため、例えば、年齢、視力調節または屈折による水晶体の幾何学的変化の解釈が容易になる。
【0118】
最も高い固有値を持つ主成分(すなわち、水晶体変形パターンek)は、平均水晶体3に対して、水晶体の全体形状にわたって、水晶体の全体形状の点が一緒に動こうとする(すなわち、全体形状がいかに変化するを示す)、主要な方法または変動様式を表している。そのため、主成分は、水晶体の変形パターンと考えることができる。
【0119】
固有値λkが高い水晶体変形パターンek(すなわち、主成分)の方が、固有値が低い水晶体変形パターンekよりも、水晶体間の分散をより多く説明できる。従って、固有値λkが最も高い水晶体変形パターンekは、水晶体の全体形状の最も重要な変動モードである。この利点は、少ない水晶体変形パターンekの数で非常に正確な表現が得られることである。例えば、5または6個の水晶体変形パターンekで非常に正確な表現が可能であり、たった2つの水晶体変形パターンekでも正確な表現を得ることができる。さらに、水晶体の変形パターンekは,他の水晶体変形パターンekの各々に対して直交しており、直交性は、異なる水晶体変形パターンを容易に分離することができるため、基底表現(basis
representation)に適した特徴である。
【0120】
図6A1乃至6F2の各々は、以下の式に従った特定の水晶体変形パターンekのスカラー重み係数akの2つの値、すなわち正の値および負の値によって生成された平均水晶体61の変化を示している。
【0121】
【数10】
【0122】
各スカラー重み係数の2つの値としてak=-3σkであり、ak=3σkであり、ここでσkは、固有水晶体kの全水晶体における係数の標準偏差である。図6A1乃至図6F2では式(7)が使用されているので、図6A1乃至図6F2における値ak=0は平均水晶体61に相当する。
【0123】
図6A1乃至図6A8の水晶体変形パターンekは、すべての水晶体変形パターンekの中で最も高い固有値λkであり、ゆえに、すべての水晶体にわたる水晶体の全体形状の最も重要かつ最も一般的な水晶体変形パターンekである。図6A1乃至図6A8に示すように、この水晶体変形パターンekは、水晶体の全体形状61の大きさを変化させる。より具体的には、図6A1乃至図6A8の水晶体変形パターンekは、水晶体の全体形状のすべての点の膨張または水晶体の全体形状のすべての点の収縮を発生させる。また、重み係数akの符号を変えることにより、変形の種類(すなわち、水晶体の全体形状のすべての点の収縮または水晶体の全体形状のすべての点の膨張)を変更することができ、図6A1乃至図6A8に示されたケースでは、正の値を有する重み係数akを適用することによって収縮が生成される。
【0124】
ak=-3σk=-48.5のスカラー重み係数を図6A1乃至図6A8の水晶体変形パターンekに適用し、その結果を平均水晶体61に加えることによって、水晶体の例示的な全体形状612が生成される。ak=3σk=48.5のスカラー重み係数を図6A1乃至図6A8の水晶体変形パターンekに適用し、その結果を平均水晶体61に加えることによって、水晶体の例示的な全体形状611が生成される。
【0125】
図6A1乃至図6A8の水晶体変形パターンekは、図5A1および図5A2において、単独で、つまりどの平均水晶体3にも付加されることなく表現されている。
【0126】
図6B1乃至図6B8の水晶体変形パターンekは、図6A1乃至図6F2のすべての水晶体変形パターンのうち、2番目に高い固有値λkを有する。図6B1乃至図6B8に示すように、この水晶体変形パターンは、水晶体の全体形状61のアスペクト比を変化させ、すなわち、水晶体の全体形状の前部および後部を平坦化すると同時に、水晶体の全体形状の赤道径を大きくし、水晶体中央厚を減少させる。
【0127】
ak=-3σk=-33.1のスカラー重み係数を図6B1乃至図6B8の水晶体変形パターンekに適用することにより、水晶体の例示的なより平坦化された全体形状622が生成される。ak=-3σk=33.1のスカラー重み係数を図6B1乃至図6B8の水晶体変形パターンekに適用することにより、水晶体の例示的なより平坦化されていない全体形状621が生成される。
【0128】
図6B1乃至図6B8の水晶体変形パターンekは、図5B1および図5B2において、単独で、つまりどの平均水晶体3にも付加されることなく表現されている。
【0129】
図6C1乃至図6C3の水晶体変形パターンek図6D1乃至図6D2の水晶体変形パターンはekは、それぞれ3番目と4番目に高い固有値λkを持つ。図6C1乃至図6C3および図6D1乃至図6D2に示すように、これらの水晶体変形パターンekの各々は、平均水晶体の全体形状61を非対称に変化させる。
【0130】
図6C1乃至図6C3の水晶体変形パターンekは、図5C1および図5C2において、単独で、つまりどの平均水晶体3にも付加されずに表現されている。図6D1乃至図6D2の水晶体変形パターンekは、図5D1および図5D2において、単独で、つまり、どの平均水晶体3にも付加されずに表現されている。
【0131】
図6E1乃至図6E3の水晶体変形パターンek図6F1乃至図6F3の水晶体変形パターンekは、それぞれ、5番目と6番目に高い固有値λkを持つ。図6E1乃至図6E3および図6F1乃至図6F3に示すように、これらの水晶体変形パターンekの各々は、平均水晶体の全体形状61を細かく変化させている。これらの変化は、錐状面(コニコイド)の非球面性、あるいは回転対称なゼルニケ多項式と関係がある。
【0132】
図6E1乃至図6E3の水晶体変形パターンekは、図5E1図5E2において、単独で、つまり、どの平均水晶体3にも付加されることなく表現されている。
【0133】
そのため、数個の水晶体変形パターンekで水晶体の全体形状を正確に規定することができ、好ましくは、最も高い固有値λkを持つ水晶体変形パターンekと、それに加えて平均水晶体61によって規定できる。スカラー重み係数akの数が多いほど、推定される全体形状の精度や正確さは高くなるが、より多くの計算とデータメモリが必要となり、且つコンパクトな表現が得られない。
【0134】
さらに、各水晶体変形パターンekは他の水晶体変形パターンekと直交しているので各水晶体変形パターンekは他のどの水晶体変形パターンekとも相関がなく、そのため、トレーニングセットの値の範囲内のスカラー重み係数のセット{ak}から推定される如何なる水晶体も現実的である。すなわち、現実的な水晶体を得ることは有利であり、各スカラー重み係数akの値は、133個の水晶体のうちの任意の水晶体についての前記スカラー重み係数の最高値である最大値と、133個の水晶体のうちの任意の水晶体についての前記スカラー重み係数akの最低値である最小値とを有する値の範囲内である。上で説明したように、133個の水晶体は生体外で測定され、これらの測定から平均水晶体3、61の全体形状および水晶体変形パターンekが、先のステップ1乃至6に続いて得られている。
【0135】
水晶体の変形パターンekおよび平均水晶体3、61から推定される全体形状の精度を評価するため、ゆえに、133個の水晶体とは異なる水晶体の全体形状を表現する能力を評価するために、10フォールドのクロスバリデーションを実施し、すなわち、133個の水晶体のうちのN=120で構成されるトレーニングセットおよび133個の水晶体のうちの残り13個で構成されるテストセットで、1回ごとにテストセットをシフトさせた。10フォールドのクロスバリデーションのテストステップでは、テストセットの特定の各水晶体のスカラー重み係数akが、平均水晶体l(エル・バー)を特定の水晶体の全体形状の3次元デジタルモデルから差し引き、その結果、特定の水晶体の残差データΔnを得た。その後、残差データΔnを、トレーニングセットで得られた水晶体の変形パターンekに投影した(すなわち、主成分に投影した)。
【0136】
10フォールドのクロスバリデーションを100回繰り返し、テストセットでの誤差を平均して二乗平均平方根誤差(RMSE)を推定した。この誤差は、テストセットの実際の水晶体の全体形状と、複数のK水晶体の変形パターンekを用いた推定値との差である。
【0137】
水晶体の全体形状の表現における水晶体変形パターンekの数Kのばらつきの影響を理解するために、2つの指標を分析した。最初のK固有水晶体のセットで説明される分散の割合(PVar)、および、上述の10フォールドのクロスバリデーションを適用して得られる二乗平均平方根誤差(RMSE)である。RMSE(水晶体およびフォールド間)およびPVar(フォールド間)の標準偏差(STD)も算出した。PVar=100またはRMSE=0の場合、すべてのテスト水晶体の全体形状を誤差なく表現することができることに留意されたい。
【0138】
図7は、STD、および、PVarおよびSTDの算術平均、および、RMSEの算術平均を、水晶体の全体形状を表すために使用した水晶体変形パターン数kの関数として示したものである。RMSEの算術平均の値を点910~919で表し、RMSEのSTDの値をRMSEの算術平均を中心とした誤差バーで表し、ここで、各々の誤差バーの合計長さは2STDである。PVARの算術平均の値は破線920で表され、PVARのSTDの値はPVARの算術平均を中心とする誤差バーによって表され、ここで、各誤差バーの合計の長さは2STDである。
【0139】
RMSEの平均値およびPvarの平均値に照らし合わせると、水晶体変形パターンekおよび水晶体の平均的な全体形状3,61用いた水晶体の全体形状の推定方法は、正確であると考えられる。さらに、図7に示すグラフに照らすと、グラフから分かるように、Kの値が大きくなってもRMSEは大幅には減少しない(あるいはPVarが大幅には増加しない)ので、K=6を水晶体変形パターンekの最適な数として考えることができる。
【0140】
水晶体の全体形状の表現の技術水準(state-of-the
art:SoA)の方法によって達成される精度が、K=6水晶体変形パターンを用いた水晶体の全体形状の推定と大幅に異なるか(統計的有意性は、p値が0.05より小さいことと規定した)を評価するために、ボンフェローニ補正を用いた多重比較テストを適用することによって、テスト水晶体にわたる平均のRMSEを比較した。以下のSoA表現方法のRMSE
の算術平均および標準偏差を推定した。
【0141】
-水晶体の全体形状は、全体形状の前部、全体形状の後部、水晶体の厚さ、全体形状の後面の頂点の位置のベスト球面フィッティングを得ることによって推定され、頂点の位置は2つのパラメータで与えられるため、合計5つのパラメータを使用することになる。
【0142】
-水晶体の全体形状は、以前のSoA法のベスト球面フィッティングと同じパラメータ(全体形状前面、全体形状後面、水晶体厚、全体形状後面頂点位置)に全体形状前面および全体形状後面の非球面性の値を加えた合計7つのパラメータで、ベストコニコイドフィッティングを得ることによって推定した。
【0143】
-水晶体の全体形状の前面および後面のゼルニケ近似であり、全体形状の前面の推定に6、15、28の係数を、後面全体形状の推定に6、15、28の係数をそれぞれ使用した(合計でそれぞれ12、30、56個の係数)。
【0144】
図8は、水晶体の全体形状の表現方法について推定されたRMSE値の平均に対応する高さの矩形バーを示している。K=6水晶体変形パターンを用いたRMSEの平均値71は、球面フィッティング(5個のパラメータ)およびコニコイドフィッティング(7個のパラメータ)と比較して同様のパラメータ数(すなわち6個のパラメータ)を用い、かつゼルニケ近似Z12.およびZ30.よりも少ない数のパラメータを用いつつ、球面フィッティングSPh.を用いたRMSEの平均72より有意に低く、コニコイドフィッティングCon.のRMSEの平均73より有意に低く、12個の係数を用いたゼルニケ近似Z12.の平均値74よりも有意に低く、且つ30個の係数を用いたゼルニケ近似Z30.の平均値75よりも有意に低い。Z56.表現のみが同様のRMSEの平均76を得ることができが、より多くのパラメータを必要とした(6個のパラメータの代わりに56個のパラメータ)。
【0145】
ベスト球体フィッティングSph.のRMSEの平均値72は、K=6水晶体変形パターンのRMSEの平均値71の2.23倍であった。ベストコニコイドフィッティングCon.のRMSEの平均値73は、K=6水晶体変形パターンのRMSEの平均値71の2.20倍であった。12個の係数のゼルニケ近似値Z12.のRMSEの平均値74は、K=6水晶体変形パターンのRMSEの平均値71の2.39倍であった。30個の係数のゼルニケ近似Z30.のRMSEの平均値74は、K=6水晶体変形パターンのRMSEの平均値71の1.51倍であった。
【0146】
生体内の特定の水晶体の推定全体形状の少なくとも1つのスカラー重み係数akを得るために、水晶体の測定が必要である。「技術水準(STATE OF THE ART)」および「本発明の説明(DESCRIPTION
OF THE INVENTION)」で説明したように、測定を得るために光学イメージング技術が使用され得る。図9は、生体内で実行されるOCTによって得られた眼の前部セグメント40の画像を示す。図9は、角膜44と、眼の水晶体の前面41と、水晶体の後面42とを示している。生体内で実行される光学イメージング技術は、水晶体の全体形状のうち、眼の瞳孔を通して見えない部分の測定を可能とするものではない。虹彩43が光学イメージング技術に用いられる光学デバイスからの光を遮断するため、水晶体のこれらの非可視部分は、生体内で実行される光学イメージング技術で測定することができない。したがって、水晶体の前部41の中央部と後部42の中央部だけを、光学イメージング技術で測定することができる。
【0147】
水晶体の前部と後部の一部しか測定できないという不利な条件下で、水晶体の全体形状を推定するための水晶体変形パターンekの適合性を、生体内の測定条件を模擬することによって評価した。このようにして、水晶体の生体外計測を、水晶体前部の中央部と水晶体後部の中央部に限定して行う実験が行われた。この実験の一部を図10Aおよび図10Bに模式的に示す。
【0148】
実験では、水晶体の測定は、直径5mmの瞳孔から見える水晶体の前部の中央部と後部の中央部に限定した。その後、直径4mmの瞳孔から見える水晶体の前部の中央部と水晶体の後部の中央部に限定して、実験を繰り返した。生体内の状態を模擬してこれらの水晶体の測定から水晶体変形パターンekの少なくとも1つのスカラー重み係数akを推定するために、以下の方法論に従った。
【0149】
まず、133個の水晶体から、水晶体の全体形状の前部と後部の変形パターンを決定した。これらの変形パターンは、水晶体の変形パターンekとは異なり、単に水晶体の全体形状の前部および後部511の変形を規定するだけで、水晶体の全体形状の変形を規定するものではない。
【0150】
以前のステップ1乃至6で取得した水晶体変形パターンekと同様の方法で、全体形状の前部と後部の変形パターンを取得したが、以下の点が異なる。
【0151】
ステップ1乃至4において、3次元デジタルモデルは、水晶体の全体形状の3次元デジタルモデルではなく、水晶体の全体形状の前部および後部511の3次元デジタルモデルである。したがって、ステップ4では、水晶体の全体形状を規定する点の位置ではなく、水晶体の全体形状の前部および後部511のみを規定する点の位置を取得した。
【0152】
ステップ5では、水晶体全体形状の平均値3,61
l(エル・バー)を取得する代わりに、水晶体の全体形状の前部および後部511のみの平均値を取得した。また、水晶体全体形状の残差データΔnを取得するのではなく、水晶体全体形状の残差データを取得するようにした。また、水晶体全体形状の残差データを取得する代わりに、水晶体全体形状の前部および後部511のみの残差データを取得した。
【0153】
ステップ6では、水晶体全体形状の残差データの共分散行列Cを求める代わりに、水晶体全体形状の前部および後部511のみの共分散行列を求めた。さらに、水晶体全体形状の主成分ekを求める代わりに、水晶体全体形状の前部および後部511のみの主成分を求めた。したがって、水晶体全体形状の前部および後部511は、水晶体変形パターンekのスカラー重み係数akによって水晶体の全体形状を規定できるのと同様に、前部および後部の変形パターンのスカラー重み係数ckによって規定できる
以下、簡潔にするため、水晶体全体形状の前部と後部の変形パターンのスカラー重み係数を、水晶体変形パターンekのスカラー重み係数akと区別して、「二次重み係数」と呼ぶことにする。
【0154】
その後、各水晶体変形パターンekのスカラー重み係数akを水晶体の同じ全体形状の二次係数ckから推定するために、式(8)に示したようなパラメトリック式のセットを計算した。このパラメトリック式(8)のセットは、133個の水晶体に対して最小二乗法による多重線形回帰を適用して得られたものである。
【0155】
【数11】
【0156】
このように、水晶体の全体形状の前部と後部から、水晶体の全体形状を推定することができる。その理由は、パラメトリック式(8)を用いることによって水晶体変形パターンekの重み係数akを二次重み係数ckから推定できるためである。したがって、水晶体全体形状の前部および後部511だけの測定で二次重み係数ckを推定することができるので、水晶体の前部511および後部511だけの測定から水晶体の全体形状を推定することができる。このように前部と後部だけの測定から水晶体の全体形状を推定する方法の適合度を評価するために、図10Aおよび図10Bに示す以下の実験が実施された。
【0157】
まず、133個の水晶体を、120個の水晶体からなるトレーニングセットと、13個の水晶体からなるテストセットとに分けた。図10Aに模式的に示したように、二次重み係数ckの関数として水晶体の重み係数akを与えるパラメトリック式52のセットを計算するために、トレーニングセットの各水晶体の全体形状512と、トレーニングセットの各水晶体の前部および後部511を測定した。次に、図10Bに模式的に示すように、パラメトリック式52のセットを適用して二次重み係数ckから重み係数akを推定し、それゆえ、テストセットから水晶体の全体形状55を推定する。
【0158】
テスト水晶体の推定された全体形状とテスト水晶体の実際の全体形状との差を、この水晶体の全体形状の推定方法の精度を推定するためにした。
【0159】
表1は,中央部からの全体形状の推定の良否を示している。良否の評価は、二次重み係数ckから、調整済み決定係数R2および水晶体変形パターンekのスカラー重み係数akの予測(prediction)に対するp値(p-value)を算出することで行った。
【0160】
【表1】
【0161】
さらに、推定された全体形状の精度は、水晶体の実際の全体形状と、水晶体の変形パターンekの推定されたスカラー重み係数akを用いて推定された全体形状との間の平均RMSEを算出することによって評価された。直径4mmの瞳孔を模擬した実験における平均RMSEは、RMSE=0.072±0.023であった。直径5mmの瞳孔を模擬した実験の平均RMSEは、RMSE=0.068±0.022であった。
【0162】
これにより、推定されたスカラー重み係数akを取得することによって、光学イメージング技術で測定された生体内の水晶体の全体形状を推定することができ、全体形状が高精度で推定される。したがって、この水晶体形状の推定方法は、白内障や老眼に対するソリューションのカスタマイズに有利である。例えば、眼内に埋め込み可能なIOLの位置の推定に有利である。さらに、老眼の影響を打ち消すための見込みのある外科的技術に有利な可能性がある。これらの技術の幾つかの例は、水晶体の再充填に基づく手術方法や、水晶体嚢の体積(容量)および水晶体の赤道の直径にその設計が大きく依存する視力調節型IOLのサイズ決定である。このような水晶体の全体形状を推定する方法が、これらの視力調節型IOLのサイズ決定に有利である理由は、推定された全体形状から水晶体嚢の体積と水晶体の赤道径を推定することができるためである。例えば、視力調節型IOLの中には、1つまたは2つのコンポーネントから構成され、その軸方向位置が水晶体サイズに依存するものがある。さらに、水晶体の全体形状を推定するこの方法は、水晶体嚢の絞りまたは弛緩に依存する形状変更機構を含むいくつかの視力調節型IOLにおいて有利である。これらの視力調節型IOLでは、例えばハプティックスに配置されたリザーバから放出された流体が、水晶体の中央部に流入して水晶体を再形成(reshaping)することができる。水晶体の中央部の再形成は、水晶体嚢の影響を受ける。水晶体の全体形状を推定する方法は、水晶体嚢の形状の推定を改善し、その結果、再形成の推定を改善する。
【0163】
また、水晶体の全体形状を適確且つ高精度で推定することで、特定の眼により適したIOLの設計が可能となり、IOLのカスタマイズ性が向上する。
【0164】
さらに、水晶体の全体形状を適確且つ高い精度で推定できるので、生体内の加齢、特に乳幼児期の加齢による水晶体の全体形状の変化を調べるうえで有益である。
【0165】
もう一つの利点は、高精度を実現するために、スカラー重み係数akが少なくて済むことである。
【0166】
本発明による方法のいくつかの実施形態は、水晶体変形パターンekのスカラー重み係数akにランダムな値を割り当てることにより、眼の水晶体のランダムなリアルな全体形状を生成するために適用することができる。例えば、後述するように、特定の年齢の人の眼の水晶体のリアルな全体形状のランダムな生成に適用することができる。
【0167】
スカラー重み係数akの条件付き確率分布が、特定の年齢P(a1,…,aK|age=A)を与えて推定された。この確率分布P(a1,…,aK|age=A)は多変量正規分布と仮定し、確率分布P(a1,…,aK|age=A)の平均ベクトルおよび共分散行列を推定した。
【0168】
ある年代の平均ベクトルおよび共分散行列を推定するために特定の年代の水晶体のみのデータを使用するという制約を避けるために、すべてのデータ(すなわち、133個の水晶体の全体形状のデータ)を使用し、すべてのサンプルをガウスカーネル(下記)を用いて重み付けし、このガウスカーネルは、関心のある年齢Aと各特定サンプルagesampleの年齢との二乗差に依存する。
【0169】
【数12】
【0170】
パラメータWは、ガウスカーネルの幅を制御するものであり、5に設定された。共分散行列および平均ベクトルは重み付けされたデータから推定された。
【0171】
確率分布が推定できれば、確率分布(a1,…,aK|age=A)からサンプリングし、例えば、確率分布の平均ベクトルに対応するような典型的な水晶体の全体形状や、「非典型的な」水晶体の全体形状、すなわち、スカラー重み係数akの値が平均ベクトルから離れており、または分布をランダムにサンプリングすることによる水晶体の全体形状を取得して、所定の年齢Aの水晶体を作成することができる。
【0172】
図11Aは、3つの年齢P(a1,a2|age=60
y/o)113、P(a1,a2|age=30
y/o)112およびP(a1,a2|age=5
y/o)111についての2つのスカラー重み係数akを持つ確率分布P(a1,…,aK|age=A)を示している。それぞれの分布から、ランダムなベクトル(a1,a2)が得られた。図11Bは、得られたベクトル(a1,a2)を用いて生成した水晶体の全体形状を示している。5歳の水晶体の全体形状121のベクトル(a1,a2)を確率分布P(a1,a2|age=5)111から生成した。30歳の水晶体の全体形状122のベクトル(a1,a2)を確率分布P(a1,a2|age=30)112から生成した。60歳の水晶体の全体形状123のベクトル(a1,a2)を確率分布P(a1,a2|age=60)113から生成した。
【0173】
これにより、特定の年齢Aの眼の水晶体のリアルな全体形状を年齢Aに対応する確率分布P(a1,…,aK|age=A)のサンプリングにより生成することができる。したがって、有利には、水晶体の全体形状が加齢によって受ける変化を、確率分布P(a1,…,aK|age=A)から容易に推測することができる。例えば、水晶体の形状変化が屈折異常の発生に与える潜在的な影響についての研究が容易になる。
【0174】
さらに、リアルな水晶体の自動構築は、大規模な集団を代表する水晶体視力調節の計算モデルを構築し、生体内(あるいは生体外)での研究に先立って治療やIOL移植の効果を仮想的にテストするために重要である。
【0175】
本文中において、用語「備える(comprise)」およびその派生語(「備える(comprising)」など)は、排除する意味で理解されるべきではなく、すなわち、これらの用語は、記載され規定されるものが、さらなる要素、ステップなどを含む可能性を排除すると解釈されるべきではない。
【0176】
一方、本発明は、明らかに、本明細書に記載された特定の実施形態(1つまたは複数)に限定されるものではなく、特許請求の範囲に定義された本発明の一般的範囲内で、当業者が考えることができるあらゆる変形(例えば、材料、寸法、構成要素の選択などに関して)も包含するものである。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A1
図5A2
図5B1
図5B2
図5C1
図5C2
図5D1
図5D2
図5E1
図5E2
図6A1
図6A2
図6A3
図6A4
図6A5
図6A6
図6A7
図6A8
図6B1
図6B2
図6B3
図6B4
図6B5
図6B6
図6B7
図6B8
図6C1
図6C2
図6C3
図6D1
図6D2
図6E1
図6E2
図6E3
図6F1
図6F2
図6F3
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
【国際調査報告】