(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-15
(54)【発明の名称】膵臓がんを治療するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/17 20060101AFI20230608BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230608BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
A61K31/17
A61P35/00
A61P1/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567833
(86)(22)【出願日】2021-05-10
(85)【翻訳文提出日】2023-01-10
(86)【国際出願番号】 US2021031606
(87)【国際公開番号】W WO2021226592
(87)【国際公開日】2021-11-11
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521400268
【氏名又は名称】ランタン ファルマ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】クルカルニー,アーディティヤ
(72)【発明者】
【氏名】バティア,キショー
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206HA29
4C206KA03
4C206KA17
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA66
4C206ZB26
(57)【要約】
ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンの投与による膵臓がんの治療のための方法。いくつかの実施形態は、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンの投与による膵臓がんの治療に関する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵臓がんの治療を必要とする対象において膵臓がんを治療する方法であって、治療有効量のヒドロキシウレアメチルアシルフルベンを前記対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記膵臓がんが内分泌性である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記膵臓がんが外分泌性である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記膵臓がんが膵臓腺がんである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記対象が高レベルのPTGR1を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記患者が、膵臓腺がん、切除不能膵臓がん、局所進行膵臓がん、切除可能境界膵臓がん、局所進行膵管腺がん、切除可能境界膵管腺がん、転移性膵臓がん、化学療法抵抗性膵臓がん、膵管腺がん、扁平上皮膵臓がん、膵臓前駆細胞、免疫原性膵臓がん、異常分化内分泌外分泌(ADEX)腫瘍、外分泌膵臓がん、膵上皮内腫瘍性病変、膵管内乳頭粘液性腫瘍、粘液嚢胞性腫瘍、粘液性膵臓がん、腺扁平上皮がん、印環細胞がん、肝様がん、膠様がん、未分化がん、破骨細胞様巨細胞を伴う未分化がん、膵嚢胞性腫瘍、膵島細胞腫瘍、膵臓内分泌腫瘍、または膵臓神経内分泌腫瘍のうちの1つ以上に罹患している、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記膵臓がんが、ステージI、II、III、またはIVである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
追加の治療薬が、テモゾロミド、ベバシズマブ、エベロリムス、カルムスチン、ロムスチン、プロカルバジン、ビンクリスチン、イリノテカン、シスプラチン、カルボプラチン、メトトレキサート、エトポシド、ビンブラスチン、ブレオマイシン、アクチノマイシン、シクロホスファミド、エトポシド、ビンブラスチン、アクチノマイシン、シクロホスファミド、およびイホスファミドから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記追加の治療薬が、シスプラチン、パクリタキセル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記対象を放射線療法に供することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
対象中の細胞が、動物である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記対象または哺乳動物が、ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、一次治療のためのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
他の療法が、手術、化学療法またはそれらの組み合わせを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項15】
患者が、すでに手術を受けている、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
患者が、すでに放射線療法を受けている、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
患者が、すでに化学療法による治療を受けている、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
対象の膵臓がんを治療する方法であって、(a)複数の標的のために対象からの試料中の発現レベルを取得するまたは取得しているステップと、ここで、前記複数の標的がPTRG1を含み、(b)前記対象が、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンによる治療に感受性であることを決定するステップと、(c)ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンを含むがん治療を施すステップと、を含む方法。
【請求項19】
前記患者が、すでに放射線療法を受けている、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記追加の治療薬が、シスプラチン、パクリタキセル、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、化学および腫瘍学の分野に関する。より具体的には、本出願は、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンを使用して膵臓がんを治療するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓がんは、全てのがんの中で死亡率が最も高いものの1つであり、米国では60,000人を超える死亡を引き起こすと予想されている。膵臓がんの全ての病期を合わせた場合、それぞれ、1年から5年相対生存率は低く、膵臓がんによるこの高い死亡率は、少なくとも部分的には、診断時の転移性疾患の発生率が高いためである。その結果、膵臓がんの治療選択肢は、非常に限られている。
【0003】
更に、膵臓がんは、すぐに症状が出ないため、早期発見が困難である。症状がある場合、そのような症状は漠然としていたり、気づきにくいことがよくある。膵臓は、他の臓器の後ろに隠れているため、医療従事者は通常の検査中に腫瘍を見たり触ったりすることができない。医師は、身体診察、血液検査、画像検査、生検を使用して診断する。膵臓がんは遅れて発見されることが多く、急速に広がるため、膵臓がんは治療するのが困難であり得る。
【0004】
したがって、原発性および転移性膵臓がんのための治療に対する必要性が存在する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、4つの膵臓がん細胞株の第1の試験におけるヒドロキシウレアメチルアシルフルベンまたはLP-184の細胞毒性をIC50値により示す図である。
【
図2】
図2は、6つの膵臓がん細胞株の第2の試験におけるヒドロキシウレアメチルアシルフルベンまたはLP-184の細胞毒性をIC50値により示す図である。
【
図3】
図3は、エクスビボにおいてヒドロキシウレアメチルアシルフルベンまたはLP-184でエクスビボにより処置された前立腺がん組織モデル由来の組織からのIC50値を示す図である。
【
図4】
図4は、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンまたはLP-184で処置したマウスにおける60日間にわたる異種移植マウスモデルの腫瘍体積の増加を示す図である。
【発明の概要】
【0006】
本出願の一態様は、治療を必要とする対象において、膵臓がんを治療する方法を含み、本方法は、治療有効量のヒドロキシウレアメチルアシルフルベンを対象に投与するステップを含む。膵臓がんは、内分泌性または外分泌性であり得る。膵臓がんは、膵臓腺がんであり得る。一実施形態では、対象または対象がんは、高レベルのPTGR1を発現し得る。膵臓がんは、ステージI、II、III、またはIVであり得る。
【0007】
本出願の別の態様は、膵臓腺がん、切除不能膵臓がん、局所進行膵臓がん、切除可能境界膵臓がん、局所進行膵管腺がん、切除可能境界膵管腺がん、転移性膵臓がん、化学療法抵抗性膵臓がん、膵管腺がん、扁平上皮膵臓がん、膵臓前駆細胞、免疫原性膵臓がん、異常分化内分泌外分泌(ADEX)腫瘍、外分泌膵臓がん、膵上皮内腫瘍性病変、管内乳頭粘液性腫瘍、粘液性嚢胞性腫瘍、粘液性膵臓がん、腺扁平上皮がん、印環細胞がん、肝様がん、膠様がん、未分化がん、破骨細胞様巨細胞を伴う未分化がん、膵嚢胞性腫瘍、膵島細胞腫瘍、膵臓内分泌腫瘍、または膵神経内分泌腫瘍のうちの1つ以上に罹患している患者の治療を含む。
【0008】
別の態様は、また、例えば、テモゾロミド、ベバシズマブ、エベロリムス、カルムスチン、ロムスチン、プロカルバジン、ビンクリスチン、イリノテカン、シスプラチン、カルボプラチン、メトトレキサート、エトポシド、ビンブラスチン、ブレオマイシン、アクチノマイシン、シクロホスファミドおよびイホスファミドからなる群から選択される、1つ以上の追加の治療薬の使用を含む治療を含む。
【0009】
別の態様は、例えば、シスプラチン、パクリタキセルおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、1つ以上の追加の治療薬の使用を含む。
【0010】
別の態様には、対象を放射線療法に供することも含む治療が含まれる。対象または患者は、手術、放射線療法および化学療法を受けていてもよい。
【0011】
別の態様は、対象の膵臓がんを治療する方法であって、(a)複数の標的のために対象からの試料中の発現レベルを取得するまたはすでに取得しているステップと、ここで、複数の標的がPTRG1を含み、(b)対象が、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンによる治療に感受性であることを決定するステップと、(c)ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンを含むがん治療を投与するステップとを含む方法である。患者は、放射線療法を過去に受けていてもよいし、現在受けていてもよい。
【0012】
[定義]
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本明細書の主題が属する当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で使用される場合、本発明の理解を容易にするために、以下の定義が提供される。
【0013】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、インタクトの分子、ならびに、例えばFab、F(ab’)2、FvおよびscFvなどのそのフラグメントを含むか、またはそれらからなる分子、ならびに、エピトープ決定基に結合することができるダイアボディ、トリアボディ、ミニボディおよび単一ドメイン抗体を含む設計された変異体を含む。したがって、抗体はインタクトの免疫グロブリンとして、または様々な形態の修飾として存在してよい。
【0014】
「バイオマーカー」という用語は、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンまたはその類似体を含む処置に対する患者の応答性を予測するために対象を識別するのに有用な、対象によって産生される遺伝子、遺伝子転写物(例えば、mRNA)、ペプチドまたはタンパク質もしくはそれらのフラグメントなどの任意の分子を指す。対象または対象群からの生物学的試料中に示差的に存在する(すなわち、増加または減少する)バイオマーカーは、第2の表現型(例えば、疾患を有さない)を有する対象または対象群からの生物学的試料と比較して、第1の表現型(例えば、疾患を有する)を有する。バイオマーカーは、どのレベルでも示差的に存在し得るが、一般に、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、またはそれを超えて増加するレベルで存在するか、または一般に、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%(すなわち、存在しない)減少するレベルで存在する。バイオマーカーは、統計的に有意なレベルで示差的に存在することが好ましい(例えば、WelchのT検定またはWilcoxonの順位和検定のいずれかを使用して決定された0.05未満のp値および/または0.10未満のq値)。
【0015】
「膵臓がん」という用語は、膵臓起源の新生物を指す。膵臓がんには、外分泌がんおよび内分泌がんが含まれる。ほとんどの膵臓がんは、外分泌腫瘍である。膵内分泌腫瘍は、膵島細胞腫とも呼ばれる。本明細書に記載の方法で治療され得る膵臓がんには、外分泌膵臓がんおよび内分泌膵臓がんが含まれるが、これらに限定されない。膵臓外分泌がんには、腺がん、腺房細胞がん、腺扁平上皮がん、膠様がん、破骨細胞様巨細胞を伴う未分化がん、肝様がん、膵管内乳頭粘液性腫瘍、粘液嚢胞性腫瘍、膵芽腫、漿液性嚢胞腺腫、印環細胞がん、充実性偽乳頭状腫瘍、膵管がん、および未分化がんが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、外分泌膵臓がんは、膵管がんである。内分泌膵臓がんには、インスリノーマおよびグルカゴノーマが含まれるが、これらに限定されない。
【0016】
本明細書で使用される場合、「患者」、「対象」、「個体」、および「宿主」という用語は、異常な生物学的または細胞増殖活性と関連する疾患または障害に罹患するか、または罹患していると疑われるヒトまたはヒトでない動物のいずれかを指す。
【0017】
がんなどの状態または疾患に関連して使用される場合、「予防する」という用語は、状態または疾患の症状の頻度の低減または発症の遅延を指す。したがって、がんの予防には、例えば、未治療の対照集団と比較して予防的治療を受けている患者の集団における検出可能ながん性増殖の数を減らすこと、および/または例えば、統計的および/または臨床的に有意な量によって、治療された集団対未治療の集団における検出可能ながん性増殖の出現を遅らせることが含まれる。
【0018】
「治療を必要とする対象」という用語は、治療が意図される特定の状態、例えば膵臓がんまたは特定のタイプの膵臓がんに罹患していると診断されている対象を指す。
【0019】
本明細書で使用される「発現レベル」および「発現のレベル」という用語は、細胞、組織、生物学的試料、生物、または患者における遺伝子産物、例えば、DNA、RNA(例えば、メッセンジャーRNA(mRNA))の量、または特定の遺伝子に対応するタンパク質の量を指す。
【0020】
「薬学的に許容される」という用語は、一般に安全で毒性がなく、生物学的にも他の方法でも望ましい医薬組成物を調製するのに有用であることを意味し、獣医ならびにヒトの医薬使用に許容されるものを含む。
【0021】
「健康な個人」という用語は、がん(例えば、がん)に罹患していないことが知られている個人を意味すると解釈され、そのような知識は、本明細書に記載されるものとは異なる診断アッセイを含むがこれに限定されない、個人の臨床データから得られる。
【0022】
「薬学的に許容される塩」という用語は、哺乳動物などの患者への投与に許容される塩(例えば、所定の投与計画に対して許容される哺乳動物の安全性を有する塩)を指す。そのような塩は、本明細書に記載の化合物に見られる特定の置換基に応じて、薬学的に許容される無機塩基または有機塩基、および薬学的に許容される無機酸または有機酸から誘導することができる。本開示の化合物が比較的酸性の官能基を含む場合、塩基付加塩は、そのような化合物の中性形態を、そのままでまたは適切な不活性溶媒中で十分な量の所望の塩基と接触させることによって得ることができる。薬学的に許容される無機塩基に由来する塩には、アルミニウム、アンモニウム、カルシウム、銅、第二鉄、第一鉄、リチウム、マグネシウム、第二マンガン、第一マンガン、カリウム、ナトリウム、亜鉛などが挙げられる。薬学的に許容される有機塩基に由来する塩には、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N-エチルモルホリン、N-エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リジン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)などの置換アミン、環状アミン、天然アミンなどを含む、一級、二級、三級、および四級アミンの塩が挙げられる。本開示の化合物が比較的に塩基性官能性を含む場合、酸付加塩は、そのような化合物の中性形態を十分な量の所望の酸と、そのままでまたは適切な不活性溶媒中で接触させることによって得ることができる。薬学的に許容される酸に由来する塩には、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、樟脳スルホン酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グリコール酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルタミン酸、馬尿酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、ラクトビオン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、粘液酸、ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸、硝酸、パモ酸、パントテン酸、リン酸、コハク酸、硫酸、ヨウ化水素酸、炭酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、安息香酸、アントラニル酸、メシル酸、サリチル酸、p-ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、エンボン酸(パモ酸)、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、スルファニル酸、ステアリン酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、アルギン酸、ヒドロキシ酪酸、ガラクタル酸およびガラクツロン酸などが挙げられる。
【0023】
「有効量」という用語は、その症状のうちの1つ以上を改善、緩和、軽減、および/または遅延させるなど、特定の障害、状態または疾患を治療するのに十分な化合物もしくは組成物の量を指す。膵臓がんに関して、有効量は、腫瘍を縮小させる、および/または腫瘍の増殖速度を低下させる(腫瘍増殖を抑制するなど)、または膵臓がんにおける他の望ましくない細胞増殖を防止もしくは遅延させるのに十分な量を含む。いくつかの実施形態では、有効量は、膵臓がんの発症を遅らせるのに十分な量である。いくつかの実施形態では、有効量は、再発を予防または遅延させるのに十分な量である。有効量は、1回以上の投与で投与することができる。膵臓がんの場合、薬物または組成物の有効量は、(i)膵臓がん細胞の数を低減させる、(ii)腫瘍サイズを縮小する、(iii)末梢器官への膵臓がん細胞の浸潤を阻害し、遅らせ、ある程度まで遅らせ、好ましくは止める、(iv)腫瘍転移を阻害する(すなわち、ある程度まで遅らせ、好ましくは止める)、(v)腫瘍増殖を阻害する、(vi)腫瘍の発生かつ/または再発を防止するまたは遅延させる、(vii)膵臓がんと関連する症状のうちの1つ以上をある程度まで軽減する、かつ/または(viii)膵臓がん間質を崩壊させる(破壊するなど)。
【0024】
「治療有効量」という語句は、(i)膵臓がんを治療または予防する、(ii)膵臓がんの1つ以上の症状を減弱、改善もしくは排除する、または(iii)膵臓がんの1つ以上の症状の発症を予防もしくは遅延させる活性薬剤の量を意味する。薬物の治療有効量は、がん細胞の数を低減し得、腫瘍のサイズを縮小し得、末梢器官へのがん細胞の浸潤を阻害し得(すなわち、ある程度まで遅らせ、好ましくは、止める)、腫瘍転移を阻害し得(すなわち、ある程度まで遅らせ、好ましくは止める)、腫瘍増殖をある程度まで阻害し得、かつ/またはがんと関連する症状のうちの1つ以上をある程度まで軽減させ得る。薬物が増殖を妨げ、かつ/または既存のがん細胞を死滅させ得る程度まで、それは細胞増殖抑制性および/または細胞傷害性であり得る。がん治療の場合、有効性は、例えば、疾患進行までの時間(TTP)を評価すること、および/または奏功率(RR)を決定することによって測定することができる。
【0025】
「治療効果」という用語は、本発明の化合物または組成物の投与によって引き起こされる、動物、特に哺乳動物、より具体的にはヒトにおける有益な局所的または全身的効果を指す。「治療有効量」という語句は、合理的な利益/リスク比で異常な生物活性によって引き起こされる疾患または状態を治療するのに有効である本発明の化合物または組成物の量を意味する。いくつかの実施形態では、ヒドロキシウレアメチル-アシルフルベンまたはその薬学的に許容される塩の治療有効量は、0.5mg/日、1mg/日、2.5mg/日、5mg/日、10mg/日、20mg/日、30mg/日、60mg/日、90mg/日、120mg/日、150mg/日、180mg/日、210mg/日、240mg/日、270mg/日、300mg/日、360mg/日、400mg/日、440mg/日、480mg/日、520mg/日 580mg/日、600mg/日、620mg/日、640mg/日、680mg/日、および720mg/日からなる群から選択される。
【0026】
「参照レベル」は、特定の病状、表現型、またはそれらの欠如、ならびに病状、表現型、またはそれらの欠如の組み合わせを示す、本発明の化合物または追加のバイオマーカーのレベルを意味する。
【0027】
「参照試料」とは、バイオマーカーの参照レベルを含む試料を指す。例えば、参照試料は、特定の疾患、病状、またはがんもしくは急性損傷などの表現型を有さない対象から取得することができる。
【0028】
そのような物質の治療有効量は、対象および治療される病状、対象の体重および年齢、病状の重症度、投与様式などに応じて変化し、これらは、当業者によって容易に決定され得る。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ヒドロキシウレアメチルアシルフルベン(現在、Lantern Pharma,Inc.によりLP-184と称される)は、キノコ毒であるイルジンSに由来する半合成または合成の抗腫瘍剤である。ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンの構造を以下に示す。
【化1】
【0030】
特定の実施形態は、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンまたはその塩を使用して、対象(例えば、ヒト)における膵臓がん(例えば、転移性膵臓がんまたは切除不能局所進行膵臓がん)を治療するための方法を提供する。特定の実施形態は、有効量のヒドロキシウレアメチルアシルフルベンまたはその塩を、それを必要とする対象に投与することを含む、膵臓がんを治療する方法に関する。一例では、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンは、単剤療法として投与され得る。膵臓がんは、初期ステージまたは後期ステージであってよく、転移していることもあり得る。本明細書に記載の組み合わせを使用して、転移したがんを含むいかなるステージでのがんも治療することができる。
【0031】
一実施形態は、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンおよび追加の治療剤を別々の組成物または同じ組成物として同時投与することを含む。したがって、いくつかの実施形態は、(a)安全かつ治療有効量のヒドロキシウレアメチルアシルフルベンまたはその薬学的に許容される塩、および(b)薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはそれらの組み合わせを含む第1の医薬組成物と、(a)安全かつ治療有効量の追加の治療剤、および(b)薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはそれらの組み合わせを含む第2の医薬組成物とを含む。いくつかの実施形態は、(a)安全かつ治療有効量の追加の治療薬、および(b)薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、またはそれらの組み合わせを含む医薬組成物を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、対象を放射線療法に供することを更に含むことができる。いくつかの実施形態では、少なくとも約10%(例えば、少なくとも約20%、30%、40%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%のいずれかを含む)細胞増殖が阻害される。
【0032】
いくつかの実施形態では、治療される膵臓がんは、ステージ0、ステージI、ステージII、ステージIII、またはステージIVである。いくつかの実施形態では、治療される膵臓がんは、ステージ0、ステージIA、ステージIB、ステージIIA、ステージIIB、ステージIII、またはステージIVである。いくつかの実施形態では、膵臓がんは、転移性膵臓がんである。いくつかの実施形態では、膵臓がんは、ステージM0である。いくつかの実施形態では、膵臓がんは、ステージM1である。いくつかの実施形態では、個体は、遠隔転移を有する。いくつかの実施形態では、個体は、遠隔転移を有しない。いくつかの実施形態では、個体は、膵臓がんの診断時にステージI、II、IIIまたはIVのいずれか1つの膵臓がんを有していた。本明細書に開示される治療方法は、併用療法を投与された対象の無増悪生存期間および全生存期間の増加につながり得る。
【0033】
いくつかの実施形態は、膵臓がん細胞の増殖を阻害する方法であって、膵臓がん細胞をヒドロキシウレアメチルアシルフルベンと接触させるステップを含む方法に関する。いくつかの実施形態では、接触させるステップは、膵臓がん細胞を有する対象に有効量のヒドロキシウレアメチルアシルフルベンを投与するステップを含む。
【0034】
いくつかの実施形態は、膵臓がん細胞においてアポトーシスを誘導する方法であって、膵臓がん細胞をヒドロキシウレアメチルアシルフルベンと接触させるステップを含む方法に関する。いくつかの実施形態では、接触させるステップは、膵臓がん細胞を有する対象に有効量のヒドロキシウレアメチルアシルフルベンを投与するステップを含む。いくつかの実施形態では、膵臓腫瘍は、膵臓腺がんである。
【0035】
投与期間は、数週間の治療サイクルであり得るか、または腫瘍が制御下にあり、レジメンが臨床的に許容される場合である。いくつかの実施形態では、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンまたは他の治療薬の単回投与は、週に1回、好ましくは3週間(21日)の治療サイクルの1日目および8日目に各々1回投与することができる。いくつかの実施形態では、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンまたは他の治療薬の単回投与は、週に1回、週に2回、週に3回、週に4回、週に5回、週に6回、または1週間、2週間、3週間、4週間、もしくは5週間の治療サイクル中毎日投与することができる。投与は、治療サイクルの各週の同じ日または異なる日に行うことができる。
【0036】
別の実施形態は、遺伝子発現のレベルを評価することによる、膵臓がんを治療する、または膵臓がんのヒドロキシウレアメチルアシルフルベン治療に対する感受性を決定するための方法を含む。
【0037】
別の実施形態は、(a)複数の標的のために対象からの試料中の発現レベルを取得する、またはすでに取得しているステップと、ここで、複数の標的が1つ以上の遺伝子(例えば、PTGR1)を含み、(b)対象が、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンによる治療に感受性であることを決定するステップと、(c)ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンを含むがん治療を施すステップとを含む、対象における膵臓がんを治療する方法を含む。
【0038】
別の実施形態は、対象に治療有効量のヒドロキシウレアメチルアシルフルベンを投与し、更に追加療法を施すことを含む、それを必要とする対象において膵臓がんを治療する方法を含む。追加療法は、放射線療法、手術(例えば、腫瘍摘出術および乳房切除術)、化学療法、遺伝子療法、DNA療法、ウイルス療法、RNA療法、免疫療法、骨髄移植、ナノ療法、モノクローナル抗体療法、またはそれらの組み合わせであり得る。追加療法は、アジュバント療法またはネオアジュバント療法の形態であってもよい。いくつかの実施形態では、追加療法は、抗転移剤の投与である。いくつかの実施形態では、追加療法は、副作用制限剤(例えば、制吐剤など、治療の副作用の発生および/または重症度を軽減することを意図した薬剤)の投与である。いくつかの実施形態では、追加療法は、放射線療法である。いくつかの実施形態では、追加療法は、手術である。いくつかの実施形態では、追加療法は、放射線療法および手術の組み合わせである。いくつかの実施形態では、追加療法は、ガンマ線照射である。いくつかの実施形態では、追加療法は、ヒドロキシウレアメチルアシルフルベンの投与前、投与中、または投与後に適用される。
【0039】
本発明に従って使用するためのヒドロキシウレアメチルアシルフルベンは、主に、具体的には皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮投与、髄腔内投与、硬膜外投与、関節内投与および局所投与を含む非経口投与によって、または、例えば、可能であれば様々な剤形でも投与され得る。
【0040】
非経口投与のための注射液には、例えば、無菌、水溶液または非水溶液、懸濁液、エマルジョンが含まれる。水溶液および懸濁液には、例えば、注射用蒸留水および生理食塩水が含まれる。非水溶液および懸濁液には、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、エタノールなどのアルコール、およびポリソルベート80(商品名)が含まれる。そのような組成物は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定剤(例えば、乳糖)および溶解補助剤(例えば、メグルミン)などの補助剤を含んでもよい。これらは、細菌保持フィルターによるろ過、殺菌剤の配合、または照射によって殺菌される。代替的に、これらは、滅菌固体組成物に一度生成され、次いで、使用前に滅菌水または注射用滅菌溶媒に溶解または懸濁され得る。
【0041】
いくつかの実施形態では、膵臓がんは、膵臓腺がん、切除不能膵臓がん、局所進行性膵臓がん、切除可能境界膵臓がん、局所進行膵管腺がん、切除可能境界膵管腺がん、転移性膵臓がん、化学療法抵抗性膵臓がん、膵管腺がん、扁平上皮膵臓がん、膵前駆細胞、免疫原性膵がん、異常分化内分泌外分泌(ADEX)腫瘍、外分泌膵臓がん、膵上皮内腫瘍性病変、膵管内乳頭粘液性腫瘍、粘液嚢胞性腫瘍、粘液膵臓がん、腺扁平上皮がん、印環細胞がん、肝様がん、膠様がん、未分化がん、破骨細胞様巨細胞を伴う未分化がん、膵嚢胞性腫瘍、膵島細胞腫瘍、膵内分泌腫瘍、または膵神経内分泌腫瘍から選択され得る。
【0042】
経口投与用の液体組成物は、例えば、薬学的に許容されるエマルジョン、液体、懸濁液、シロップおよびエリキシルを含み、蒸留水およびエタノールなどの一般的な使用のための不活性希釈剤を含む。組成物は、不活性希釈剤以外に、湿潤剤および懸濁剤、甘味剤、香味剤、芳香剤および防腐剤などの助剤を含んでもよい。
【0043】
任意の特定の患者に対する特定の投与量および治療計画は、用いられる特定の化合物の活性、年齢、体重、全体的な健康、性別、食事、投与時間、排泄率、薬剤の組み合わせ、治療を行う医師の判断、および治療中の特定の疾患の重症度を含む、様々な要因に依存することも理解されたい。組成物中の本発明の化合物の量はまた、組成物中の特定の化合物に依存するであろう。
【実施例】
【0044】
<細胞株試験>
細胞株試験は、膵臓がんの様々な分子的および臨床的サブタイプを表す様々な細胞株および患者由来の膵臓がんモデルにおいてLP-184活性を示した。
【0045】
図1および
図2は、LP-184が膵臓がん細胞株においてナノモル効力を示したことを示している。個々の細胞株をLP-184で72時間処理し、細胞生存率をアッセイした。IC50値は、GraphPad Prismにプロットされた用量反応曲線から生成された。
図1は、4つの膵臓がん細胞株の第1の試験におけるIC50値によってLP-184の細胞毒性を示し、細胞毒性は約110~約310nMの範囲であった。
図2は、4つの膵臓がん細胞株の第2の試験におけるIC50値によってLP-184の細胞毒性を示し、細胞毒性は、約130~約180nMの範囲であった。
【0046】
<エクスビボ試験>
図3は、LP-184でエクスビボ処理されたモデルからの前立腺がん組織からの組織のIC50値を示す。5つの低継代患者由来の腫瘍移植モデルをLP-184で処理した。患者由来異種移植片(PDX)は、患者の腫瘍の組織または細胞が免疫不全マウスまたはヒト化マウスに移植されるがんのモデルである。個々の腫瘍モデルをLP-184で120時間処理し、細胞生存率をアッセイした。IC50値は、GraphPad Prismにプロットされた用量反応曲線から生成された。
【0047】
<動物試験>
全ての動物試験は、国立衛生研究所の動物ガイドラインに従って実施した。用量は、異種移植片で耐性があるように選択した。Capan-1細胞株由来の異種移植腫瘍をSCIDマウスに移植し、(a)95%生理食塩水/5%エタノールのビヒクル対照(N=3)または(b)3mg/kgのLP-184(N=5)のいずれかで処置し、週3回、3週間にわたって腹腔内注射により投与した。言い換えれば、一方の群をLP-184で処置し、もう一方の群をビヒクル対照で処置した。
【0048】
図4は、異種移植マウスモデルにおける60日間にわたる腫瘍体積の増加を示している。試験期間または60日間の終わりに、LP-184処置動物において完全な腫瘍退縮が観察される。
【0049】
前述の発明は、理解を明確にする目的で具体例および実施例として詳細に説明されてきたが、特定の小さい変更および修正が実施されることは当業者には明らかである。したがって、説明および実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【国際調査報告】