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特表2023-525328櫛型ポリメタクリレート及びエチレン系オレフィンコポリマー粘度調整剤を含む潤滑油組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-15
(54)【発明の名称】櫛型ポリメタクリレート及びエチレン系オレフィンコポリマー粘度調整剤を含む潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 157/00 20060101AFI20230608BHJP
   C10M 145/14 20060101ALI20230608BHJP
   C10M 143/00 20060101ALI20230608BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20230608BHJP
   C10M 135/18 20060101ALI20230608BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20230608BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20230608BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20230608BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20230608BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230608BHJP
【FI】
C10M157/00
C10M145/14
C10M143/00
C10M101/02
C10M135/18
C10N20:04
C10N20:00 Z
C10N10:12
C10N40:25
C10N30:06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568926
(86)(22)【出願日】2021-05-14
(85)【翻訳文提出日】2022-11-11
(86)【国際出願番号】 IB2021054137
(87)【国際公開番号】W WO2021229517
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】63/024,777
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391050525
【氏名又は名称】シェブロンジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾之内 久成
(72)【発明者】
【氏名】田中 勲
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BG10C
4H104BG11A
4H104CA01C
4H104CA04A
4H104CB08C
4H104DA02A
4H104EA01C
4H104EA03C
4H104FA06
4H104LA03
4H104PA44
(57)【要約】
(a)主要量の潤滑粘性油、(b)非分散型櫛型ポリメタクリレート(PMA)及び(c)非分散型エチレン系オレフィンコポリマーを含む、潤滑油組成物、例えば、SAE 0W-20の、またはそれより低い粘度等級を有する組成物を提供する。また、内燃機関における摩耗を潤滑油組成物で機関を潤滑化することによって軽減する方法も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油組成物であって、
a)主要量の潤滑粘性油;
b)非分散型櫛型ポリメタクリレート(PMA);及び
c)非分散型エチレン系オレフィンコポリマー
を含み、前記潤滑油組成物が9.3mm/s未満の100℃動粘度を有する、前記潤滑油組成物。
【請求項2】
前記非分散型櫛型PMAが、390,000g/mol~460,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記非分散型櫛型PMAが、0.3~0.8の剪断安定性指数(SSI)を有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記非分散型櫛型PMAが、前記潤滑油組成物の総重量を基準として、0.4重量%~2.0重量%の量で存在する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記非分散型エチレン系オレフィンコポリマーが、90,000g/mol~160,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記非分散型エチレン系オレフィンコポリマーが、10~70の剪断安定性指数(SSI)を有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記非分散型エチレン系オレフィンコポリマーが、前記潤滑油組成物の総重量を基準として、0.08重量%~0.4重量%の量で存在する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記非分散型エチレン系オレフィンコポリマーが、前記非分散型エチレン系オレフィンコポリマーの総重量を基準として、45重量%~60重量%の総エチレン含有量を有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
前記非分散型エチレン系オレフィンコポリマーが、エチレンプロピレンコポリマーである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
前記潤滑油組成物の総重量を基準として、前記非分散型櫛型PMAが0.76重量%~1.33重量%の量で存在し、前記非分散型エチレン系オレフィンコポリマーが0.08~0.4重量%の量で存在する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
前記非分散型櫛型PMA及び前記非分散型エチレン系オレフィンコポリマーが、前記潤滑油組成物の総重量を基準として、0.4重量%~4重量%の総量で存在する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
前記潤滑粘性油がAPIグループIIIの基油である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
前記組成物がモリブデン化合物をさらに含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
前記モリブデン化合物がジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)である、請求項13に記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
前記モリブデン化合物が、前記潤滑油組成物に50ppm~1200ppmの範囲の量のモリブデンを提供する、請求項13に記載の潤滑油組成物。
【請求項16】
前記潤滑油組成物が、SAE 0W-20、0W-16、または0W-12の粘度等級を有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項17】
前記潤滑油組成物が、2.55cP~2.9cP未満の150℃高温高剪断(HTHS)粘度を有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項18】
前記潤滑油組成物が200~240の粘度指数を有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項19】
内燃機関における摩耗を軽減する方法であって、
9.3mm/s未満の100℃動粘度を有する潤滑油組成物で前記機関を潤滑化すること
を含み、前記潤滑油組成物が、
a)主要量の潤滑粘性油;
b)非分散型櫛型ポリメタクリレート(PMA);及び
c)非分散型エチレン系オレフィンコポリマー
を含む、前記方法。
【請求項20】
前記機関がローラーフォロワーロッカーアームを備える、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
潤滑油組成物であって、
a)主要量の潤滑粘性油;
b)前記潤滑油組成物の総重量を基準として、0.4重量%~1.9重量%の量の非分散型櫛型ポリメタクリレート(PMA);及び
c)前記潤滑油組成物の総重量を基準として、0.01重量%~0.36重量%の量の非分散型エチレン系オレフィンコポリマー
を含む、前記潤滑油組成物。
【請求項22】
内燃機関における摩耗を軽減する方法であって、
潤滑油組成物で前記機関を潤滑化すること
を含み、前記潤滑油組成物が、
a)主要量の潤滑粘性油;
b)前記潤滑油組成物の総重量を基準として、0.4重量%~1.9重量%の量の非分散型櫛型ポリメタクリレート(PMA);及び
c)前記潤滑油組成物の総重量を基準として、0.01重量%~0.36重量%の量の非分散型エチレン系オレフィンコポリマー
を含む、前記方法。
【請求項23】
前記機関がローラーフォロワーロッカーアームを備える、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される技術は、内燃機関用潤滑油、特に、火花点火機関用潤滑油に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンオイルは、性能要件を満たすために様々な添加剤が混合されている。エンジンオイル配合物における課題は、摩耗、デポジット及び光沢面制御を同時に成し遂げつつ、燃料経済性の改善も成し遂げることである。
【0003】
潤滑油組成物の燃料経済性を向上させるための1つの既知の方法は、粘度(すなわち、高温高剪断(HTHS)粘度)を低下させることである。HTHSは、過酷なエンジン条件下での潤滑油組成物の粘度の尺度である。しかしながら、この手法は現在の機器能力及び規格の限界に達しつつある。所与の粘度において有機系または有機金属系摩擦調整剤の添加は、潤滑油組成物の表面摩擦を減少させ、より良好な燃料経済性を可能にする。しかしながら、これらの添加剤は、増大したデポジット形成やシール衝撃といった悪影響を招くことが多く、またはそれらは有限の表面部位において耐摩耗成分を凌駕し、それによって、耐摩耗膜を形成させず、摩耗の増大の原因となる。
【0004】
粘度調整剤は、潤滑油組成物の粘度指数(VI)を改善して温度の上昇とともに油を粘稠にするためにも幅広く使用されている。しかしながら、高温において、及び高応力条件下では、粘度調整剤の劣化が起こる可能性がある。これが起こると、潤滑油組成物の粘度が低下し、それがエンジン摩耗の増大を招き得る。
【0005】
したがって、十分な燃料経済性を提供すると同時に優れた耐摩耗性能も提供するエンジン潤滑油、特に、SAE 0W-20の、またはそれより低い粘度等級を有する潤滑油は、潤滑油配合技術が進歩したとはいえ必要とされ続けている。
【発明の概要】
【0006】
一態様において、本開示は、9.3mm/s未満の100℃動粘度を有する潤滑油組成物であって、
a)主要量の潤滑粘性油;
b)非分散型櫛型ポリメタクリレート(PMA);及び
c)非分散型エチレン系オレフィンコポリマー
を含む、当該潤滑油組成物を提供する。
【0007】
本開示の別の態様は、内燃機関における摩耗を軽減する方法であって、9.3mm/s未満の100℃動粘度を有する潤滑油組成物で機関を潤滑化することを含み、潤滑油組成物が、
a)主要量の潤滑粘性油;
b)非分散型櫛型ポリメタクリレート(PMA);及び
c)非分散型エチレン系オレフィンコポリマー
を含む、当該方法を提供する。
【0008】
本開示のさらに別の態様は、潤滑油組成物であって、
a)主要量の潤滑粘性油;
b)潤滑油組成物の総重量を基準として、0.4重量%~1.9重量%の量の非分散型櫛型ポリメタクリレート(PMA);及び
c)潤滑油組成物の総重量を基準として、0.01重量%~0.36重量%の量の非分散型エチレン系オレフィンコポリマー
を含む、当該潤滑油組成物を提供する。
【0009】
本開示の別の態様は、内燃機関における摩耗を軽減する方法であって、潤滑油組成物で機関を潤滑化することを含み、潤滑油組成物が、
a)主要量の潤滑粘性油;
b)潤滑油組成物の総重量を基準として、0.4重量%~1.9重量%の量の非分散型櫛型ポリメタクリレート(PMA);及び
c)潤滑油組成物の総重量を基準として、0.01重量%~0.36重量%の量の非分散型エチレン系オレフィンコポリマー
を含む、当該方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に開示される主題についての理解を容易にするために、本明細書で使用される複数の用語、略語または他の省略表現を以下に定義する。定義されていないいかなる用語、略語または省略表現も、本出願の提出と同時期の当業者によって用いられる通常の意味を有することは、理解される。
【0011】
定義
本明細書において以下の単語及び表現は、使用されることがあった場合、以下に示される意味を有する。
【0012】
「主要量」は、組成物の50重量%を上回っていることを意味する。
【0013】
「少量」は、示された添加剤に関して及び組成物中に存在するすべての添加剤の総質量に関して表され、添加剤または複数の添加剤の活性成分として算入された、組成物の50重量%未満を意味する。
【0014】
「活性成分」または「活性物質」は、希釈剤でも溶媒でもない添加剤物質を指す。
【0015】
報告されるすべての百分率は、特に指定がない限り、活性成分基準での(つまり、担体または希釈油に関係しない)重量パーセント(重量%)である。
【0016】
「ppm」という略語は、潤滑油組成物の総重量を基準とする重量の百万分率を意味する。
【0017】
100℃動粘度(KV)は、mm/s単位で測定され、ASTM D445に準拠して決定される。
【0018】
150℃高温高剪断(HTHS)粘度は、ASTM D4683に準拠して決定される。
【0019】
-35℃~-5℃の温度での見掛け粘度は、ASTM D5293に準拠してコールド・クランキング・シミュレーターによって測定される。
【0020】
金属-「金属」という用語は、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはそれらの混合物を指す。
【0021】
油溶性または分散性物質は、所望のレベルの活性または性能をもたらすのに必要とされる物質の量が、潤滑粘性油中に溶解すること、分散すること、または懸濁することによって組み込まれ得ることを意味する。通常、これは、少なくとも約0.001重量%の物質が潤滑油組成物中に組み込まれ得ることを意味する。油溶性または分散性、特に「安定的分散性」という用語に関するさらなる論述については米国特許第4,320,019号を参照されたく、参照によりこれに関して該当する教示内容を明示的に本明細書に援用する。
【0022】
本明細書で使用される「硫酸灰分」という用語は、潤滑油中の清浄剤及び金属系添加剤に起因する非燃焼性残渣を指す。硫酸灰分は、ASTM D874に準拠して決定され得る。
【0023】
本明細書で使用される「全塩基価」または「TBN」という用語は、試料1グラム中のKOHのミリグラムと等価な塩基の量を指す。したがって、TBN数がより高いことは、アルカリ性生成物がより多いことを反映しており、それゆえ、より強いアルカリ性を反映している。TBNは、ASTM D2896に準拠して決定される。
【0024】
ホウ素、カルシウム、マグネシウム、モリブデン、リン、硫黄及び亜鉛の含有量は、ASTM D5185に準拠して決定される。
【0025】
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mw)は、ポリスチレンを標準として使用するGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定される。
【0026】
剪断安定性指数(SSI)は、ASTM D7109に準拠して測定される。
【0027】
本明細書で言及されるすべてのASTM基準は、本出願の出願日の時点での直近版である。
【0028】
オレフィン-「オレフィン」という用語は、複数のプロセスによって得られる、1つ以上の炭素-炭素二重結合を有する不飽和脂肪族炭化水素の部類を指す。1つの二重結合を含有するものはモノアルケンと呼ばれ、2つの二重結合を有するものは、ジエン、アルキルジエンまたはジオレフィンと呼ばれる。アルファオレフィンは、二重結合が第1及び第2炭素の間にあるため特に反応性である。例は、1-オクテン、及び1-オクタデセンであり、これらは、中等度の生分解性を有する界面活性剤のための出発点として使用される。直鎖及び分岐オレフィンもオレフィンの定義に含まれる。
【0029】
本開示は様々な改変形態及び代替形態を受け入れることができるが、その具体的な実施形態を本明細書に詳しく記載する。しかしながら、本明細書における具体的な実施形態についての記載が、開示されている特定の形態に本開示を限定することを意図しておらず、むしろ、別記の特許請求の範囲によって画定される本開示の趣旨及び範囲の中に入るあらゆる改変形態、均等物及び代替形態を包含することを意図していることは、理解されるべきである。
【0030】
全般的記載または実施例の中で記載されている活動のすべてが必要とされるわけではないこと、特定の活動の一部が不要となる場合があること、及び記載されているものに加えて1つ以上のさらなる活動が実施される場合があることに、留意されたい。さらに言えば、活動が列挙されている順序は必ずしも、それらが実施される順序であるというわけではない。
【0031】
本明細書には、具体的な実施形態に関して有益性、他の利点、及び課題の解決策が記載されている。しかしながら、有益性、利点、課題の解決策及び、何らかの有益性、利点または課題の解決策を生じさせ得るかまたはより顕著にし得る任意の特徴(複数可)は、請求項のいずれかまたはすべての必須、必要または本質的な特徴であると解釈されるべきでない。
【0032】
本明細書に記載の実施形態についての明細及び例説は、様々な実施形態の構造についての総合的理解を提供することを意図している。
【0033】
本明細書で使用される場合、「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「含む(includes)」、「含んでいる(including)」、「有する」、「有している」という用語、または他のそれらの任意の変化形は、非排他的な包含を含むことを意図している。例えば、列挙された特徴を含むプロセス、方法、物品または装置は、必ずしもそれらの特徴のみに限定されるわけではなく、明示的に列挙されていない他の特徴、またはそのようなプロセス、方法、物品もしくは装置に本来備わっている他の特徴を含んでいてもよい。さらには、「または」は、包括的にまたはという意味であり、排他的にまたはという意味ではなく、但し、そうでないことが明示的に示されている場合を除く。例えば、条件AまたはBは以下のいずれか1つによって満たされる:Aが真であり(または存在しており)Bが偽である(または存在しない)、Aが偽であり(または存在せず)Bが真である(または存在している)、及びAとBとが両方とも真である(または存在している)。
【0034】
「a」または「an」の使用は、本明細書に記載の要素及び成分を記載するために採用される。これは、単に簡便さのため及び本開示の実施形態の範囲についての大まかな認識を与えるために行われる。この記載は、1つ、または少なくとも1つを含むと解釈されるべきであり、単数形は複数形も含み、その逆も然りであり、但し、それ以外を意味することが明らかである場合を除く。
【0035】
値に言及する場合の「平均して」という用語は、平均、幾何平均または中央値を意味することを意図している。元素周期表内の列に対応する族番号は、CRC Handbook of Chemistry and Physics,81st Edition(2000-2001)にみられるような「新表記」の規則を用いる。
【0036】
特に定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての科学技術用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。物質、方法及び実施例は例示的なものであるにすぎず、限定する意図はない。本明細書に記載がない限り、具体的な物質及び処理行為に関する多くの詳細は従来どおりであり、潤滑剤ならびに石油及びガス産業の範囲に入る教科書及び他の資料の中に見つかり得る。
【0037】
明細及び例説は、本明細書に記載の構造または方法を用いる配合物、組成物、装置及びシステムのすべての要素及び特徴についての網羅的及び包括的記載としての役割を果たすことを意図していない。別個の実施形態が1つの実施形態として組み合わさって提供されることもあるし、逆に、簡単のために単一の実施形態の文脈で記載される様々な特徴が別個に、または任意の部分的組合せとして提供されることもある。さらには、範囲で示される値に対する言及は、その範囲内のありとあらゆる値を含む。本明細書を読んで初めて多くの他の実施形態が当業者に明らかとなり得る。本開示の範囲から逸脱することなく構造的置換、論理的置換または他の変更が行われ得るような他の実施形態が、用いられ得、本開示から導き出され得る。したがって、本開示は、限定的ではなく例示的であるとみなされるべきである。
【0038】
潤滑粘性油/基油成分
潤滑粘性油(「基礎原料」または「基油」と呼称されることがある)は、潤滑油組成物の主要液体構成要素であり、この中に添加剤及び場合によっては他の油が混和されて、例えば最終潤滑油組成物が生成する。基油は、濃縮物を作るため及びそこから潤滑油組成物を作るために役立ち、天然及び合成油、ならびにその組合せから選択され得る。
【0039】
天然油としては、動物性及び植物性油、液体石油系油、ならびに水素化精製され溶媒処理されたパラフィン系、ナフテン系及び混合パラフィン-ナフテン系の鉱物性潤滑油が挙げられる。石炭または頁岩から得られる潤滑粘性油も有用な基油である。
【0040】
合成油としては、炭化水素油、例えば重合及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)及びポリ(1-デセン);アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン及びジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェノール(例えば、ビフェニル、テルフェニル、及びアルキル化ポリフェノール);ならびにアルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド、ならびにそれらの誘導体、類縁体及び相同体)が挙げられる。
【0041】
合成油の別の好適な部類は、ジカルボン酸(例えば、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、アジピン酸、リノール酸二量体、ならびにフタル酸)と様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル及びプロピレングリコール)とのエステルを含む。これらのエステルの具体例としては、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、ならびに1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸と反応させることによって形成される複合エステルが挙げられる。
【0042】
基油は、再生可能またはバイオ由来エンジンオイルであり得る。そのようなエンジンオイルの例はWO2016061050に開示されており、参照によりこれを本明細書に援用する。いくつかの実施形態によれば、再生可能またはバイオ由来基油は、バイオ炭化水素、例えば、ミルセン、オシメン及びファルネセンなどの炭化水素テルペン類から誘導されるイソパラフィン系炭化水素を含む。
【0043】
合成油として有用なエステルには、C~C12モノカルボン酸及びポリオールから作られたもの、ならびにポリオールエーテル、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールも含まれる。
【0044】
基油は、フィッシャー-トロプシュ法で合成された炭化水素から得てもよい。フィッシャー-トロプシュ法で合成された炭化水素は、フィッシャー-トロプシュ触媒を使用してH及びCOを含有する合成ガスから作られる。そのような炭化水素は、基油として有用となるためにはさらなる処理を必要とするのが典型的である。例えば、当業者に知られているプロセスを用いて炭化水素に水素異性化;水素化分解と水素異性化;脱ろう;または水素異性化と脱ろうが行われ得る。
【0045】
未精製、精製及び再精製油が本発明の潤滑油組成物の基油として使用され得る。未精製油は、天然または合成供給源からさらなる精製処理を伴わずに直接得られた油である。例えば、レトルト処理操作から直接得られたシェール油、蒸留から直接得られた石油系油、またはエステル化プロセスから直接得られ、さらなる処理を伴わずに使用されるエステル油は、未精製油であろう。精製油は、1つ以上の特性を改善するための1つ以上の精製工程においてそれらがさらに処理されていることを除けば、未精製油に類似している。多くのそのような精製技術、例えば、蒸留、溶媒抽出、酸または塩基抽出、濾過及び浸出は当業者に知られている。
【0046】
それゆえ、本発明の潤滑油組成物を作るために使用され得る基油は、米国石油協会(API)基油互換性規定(API刊行物1509)において規定されるグループI~Vの基油のいずれかから選択され得る。そのような基油グループを以下の表1にまとめる:
【表1】
【0047】
本明細書に使用するのに適する基油は、APIグループII、グループIII、グループIV及びグループVの油に対応する品種、ならびにそれらの組合せのいずれかであり、好ましくは、その並外れた揮発性、安定性、粘度及び清浄度に関する特徴ゆえにグループIII~グループVの油である。
【0048】
基油は、潤滑油組成物の主成分を構成し、50重量%超~99重量%(例えば、70~95重量%、または85~95重量%)の範囲の量で存在する。
【0049】
基油は、火花点火内燃機関用のクランクケース潤滑油として典型的に使用される合成または天然油のいずれかから選択され得る。基油は典型的には、1.5~6mm/sの範囲の100℃動粘度を有する。潤滑基油の100℃動粘度が6mm/sを上回る場合、低温粘度特性が低下する可能性があり、十分な燃料効率が得られない可能性がある。1.5mm/s以下の動粘度では、潤滑場所における油膜の形成が不十分であり、この理由で潤滑性が低く、潤滑油組成物の蒸発損失が増加する可能性がある。
【0050】
しかしながら、いくつかの実施形態では、6mm/sを上回る動粘度を有する基油が必要とされる。例えば、全体としての基油は、より重質な基油、例えば10cStのポリアルファオレフィンを少ない割合で含むこともあり得る。
【0051】
好ましくは、基油は、少なくとも90(例えば、少なくとも95、少なくとも105、少なくとも110、少なくとも115または少なくとも120)の粘度指数を有する。粘度指数が90未満である場合、粘度-温度特性、熱及び酸化安定性、ならびに耐揮発性が低下するだけでなく、摩擦係数が増加しがちにもなり、摩耗に対する抵抗性が低下しがちにもなる。
【0052】
潤滑油組成物は、XXを8、10、12、16及び20のうちのいずれか1つとして、SAE 0W-XXの粘度等級を有する多等級油であり得る。1つの好ましい実施形態によれば、潤滑油組成物は、SAE 0W-20の粘度等級を有する。
【0053】
潤滑油組成物は、3.0cP以下(例えば、1.0cP~3.0cP、または1.3cP~3.0cP)、2.8cP以下(例えば、1.0cP~2.8cP、または1.3cP~2.8cP)、2.7cP以下(例えば、1.0cP~2.7cP、または1.3cP~2.7cP)、2.6cP以下(例えば、1.0cP~2.6cP、または1.3cP~2.6cP)、例えば2.5cP以下(例えば、1.0cP~2.5cP、または1.3cP~2.5cP)、または2.0cP以下(例えば、1.0cP~2.0cP、または1.3cP~2.0cP)の150℃高温高剪断(HTHS)粘度を有する。例示的な実施形態によれば、潤滑油組成物は、2.5cP~2.6cP、2.55cP~2.9cP未満、または2.55cP~2.58cPの150℃HTHS粘度を有する。
【0054】
潤滑油組成物は、少なくとも135(例えば、135~400、または135~250)、少なくとも150(例えば、150~400、または150~250)、少なくとも165(例えば、165~400、または165~250)、少なくとも190(例えば、190~400、または190~250)、または少なくとも200(例えば、200~400、または200~250)の粘度指数を有する。潤滑油組成物の粘度指数が135未満である場合、燃料効率を改善しながら所望の150℃HTHS粘度を維持することが困難になる可能性がある。潤滑油組成物の粘度指数が400を超える場合、蒸発特性が低下する可能性があり、添加剤の溶解性及びシール材料との整合特性が不十分であることに起因する欠陥が生じる可能性がある。例示的な実施形態によれば、潤滑油組成物は、200~240、203~235、200~210、220~225、または230~240の粘度指数を有する。
【0055】
潤滑油組成物は、3mm/s~12mm/s(例えば、3mm/s~11mm/s、5mm/s~9mm/s、または6mm/s~8mm/s)の範囲の100℃動粘度を有する。例示的な実施形態によれば、潤滑油組成物は、6.9mm/s~9.3mm/s未満、7.4mm/s~7.8mm/s、7.45mm/s~7.76mm/s、7.4mm/s~7.5mm/s、7.5mm/s~7.6mm/s、7.6mm/s~7.7mm/s、または7.7mm/s~7.8mm/sの範囲の100℃動粘度を有する。
【0056】
潤滑油組成物は、コールド・クランキング・シミュレーター(CCS)によって測定された、35℃~-5℃の範囲の温度で、3600mPa・s~3900mPa・sの見掛け粘度を有する。例示的な実施形態によれば、潤滑油組成物は、3600mPa・s~3700mPa・s、3700mPa・s~3800mPa・s、または3800mPa・s~3900mPa・sの見掛け粘度を有する。
【0057】
一般に、潤滑油組成物中の硫黄分のレベルは、潤滑油組成物の総重量を基準として、約0.7重量%以下である。例えば、潤滑油組成物は、約0.01重量%~0.5重量%、0.01重量%~0.4重量%、0.01重量%~0.3重量%、0.01重量%~0.2重量%、または0.01重量%~0.10重量%の硫黄分のレベルを有し得る。一実施形態では、潤滑油組成物中の硫黄分のレベルは、潤滑油組成物の総重量を基準として、約0.60重量%以下、約0.50重量%以下、約0.40重量%以下、約0.30重量%以下、約0.20重量%以下、または約0.10重量%以下である。
【0058】
一実施形態では、潤滑油組成物中のリン分のレベルは、潤滑油組成物の総重量を基準として、約0.08重量%以下であり、例えば、約0.01重量%~約0.08重量%のリン分のレベルである。一実施形態では、潤滑油組成物中のリン分のレベルは、潤滑油組成物の総重量を基準として、約0.07重量%以下であり、例えば、約0.01重量%~約0.07重量%のリン分のレベルである。一実施形態では、潤滑油組成物中のリン分のレベルは、潤滑油組成物の総重量を基準として、約0.05重量%以下であり、例えば、約0.01重量%~約0.05重量%のリン分のレベルである。
【0059】
一実施形態では、潤滑油組成物によって生成する硫酸灰分のレベルは、ASTM D874によって決定した場合に約1.00重量%以下であり、例えば、ASTM D874によって決定した場合に約0.10重量%~約1.00重量%の硫酸灰分のレベルである。一実施形態では、潤滑油組成物によって生成する硫酸灰分のレベルは、ASTM D874によって決定した場合に約0.80重量%以下であり、例えば、ASTM D874によって決定した場合に約0.10重量%~約0.80重量%の硫酸灰分のレベルである。一実施形態では、潤滑油組成物によって生成する硫酸灰分のレベルは、ASTM D874によって決定した場合に約0.60重量%以下であり、例えば、ASTM D874によって決定した場合に約0.10重量%~約0.60重量%の硫酸灰分のレベルである。
【0060】
好適なことに、本発明の潤滑油組成物は、4~15mg KOH/g(例えば、5mg KOH/g~12mg KOH/g、6mg KOH/g~12mg KOH/g、または8mg KOH/g~12mg KOH/g)の全塩基価(TBN)を有し得る。
【0061】
粘度調整剤
粘度調整剤(VM)は、時として粘度指数向上剤(VII)とも呼称されるが、高温及び低温操作性を付与するために潤滑油組成物中に存在する。粘度調整剤は、上昇した温度での潤滑油組成物の粘度を増大させ、これによって膜厚が増加する一方、低温での粘度に対する影響は限られる。
【0062】
粘度調整剤は、その唯一の機能を付与するために使用される場合もあるし、または多機能性である場合もある。多機能性粘度調整剤は、分散剤としても機能し得る。
【0063】
好適な粘度調整剤の例は、メタクリレート、ブタジエン、オレフィンまたはアルキル化スチレンのポリマー及びコポリマーである。他の好適な粘度調整剤としては、エチレンとプロピレンとのコポリマー、スチレンとイソプレンとの水素化ブロックコポリマー、及びポリアクリレート(例えば、様々な鎖長のアクリレートのコポリマー)が挙げられる。
【0064】
粘度調整剤は、潤滑油組成物の総重量を基準として、0.001重量%~10重量%の総量で潤滑油組成物中に存在し得る。他の実施形態では、粘度調整剤は、潤滑油組成物の総重量を基準として、0.01重量%~8重量%、0.1重量%~5重量%、0.4重量%~4重量%、0.6重量%~3重量%、0.7重量%~2重量%、1重量%~1.5重量%、または1.05重量%~1.44重量%の総量で存在し得る。いくつかの例示的な実施形態では、粘度調整剤は、潤滑油組成物の総重量を基準として、1.0重量%~1.2重量%、1.3重量%~1.4重量%、または1.4重量%~1.5重量%の総量で存在する。
【0065】
潤滑油組成物において特に有用なのは、非分散型櫛型ポリメタクリレート(櫛型PMA)と少なくとも1つの非分散型エチレン系オレフィンコポリマー(OCP)との組合せである。
【0066】
非分散型櫛型ポリメタクリレート
非分散型櫛型ポリメタクリレート(櫛型PMA)は、櫛形状のポリマーであり、したがって、主鎖が繰り返し単位1個あたり1本の長い分岐を有している巨大分子である。
【0067】
一実施形態では、非分散型櫛型PMAは、300,000g/mol~600,000g/mol、350,000g/mol~550,000g/mol、375,000g/mol~500,000g/mol、または390,000g/mol~460,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有する。
【0068】
一実施形態では、非分散型櫛型PMAは、35,000g/mol~105,000g/mol、45,000g/mol~95,000g/mol、55,000g/mol~85,000g/mol、または65,000g/mol~75,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する。別の実施形態では、非分散型櫛型PMAは、150,000g/mol~250,000g/mol、または200,000g/mol~215,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する。
【0069】
一実施形態では、非分散型櫛型PMAは、0.1~1.0、0.2~0.9、または0.3~0.8の剪断安定性指数(SSI)を有する。
【0070】
潤滑油組成物の非分散型櫛型PMAについては、US2017/0298287A1及びJP2019014802に示されているとおりの説明がなされ得、参照によりこれらの開示内容を本明細書に援用する。非分散型櫛型PMAは、Viscoplex(登録商標)粘度指数向上剤3-201及び/または3-162によって提供され得るが、これらは、Evonikから入手できるものである。
【0071】
一実施形態によれば、非分散型櫛型PMAは、Viscoplex(登録商標)3-201と呼称される化合物によって提供されるが、これは、主要樹脂成分として櫛型PMAを含むものである。この非分散型櫛型PMAは、420,000g/molの重量平均分子量(Mw)、70,946g/molの数平均分子量(Mn)、及び5.92のMw/Mnを有する。化合物は少なくとも、500以上のMnを有する巨大モノマーに由来する構成単位を有する。非分散型櫛型PMAは、化合物の総重量を基準として、19重量%の量で存在する。
【0072】
別の実施形態によれば、非分散型櫛型PMAは、Viscoplex(登録商標)3-162と呼称される化合物によって提供されるが、これも、主要樹脂成分として櫛型PMAを含むものである。この非分散型櫛型PMAは、399,292g/molの重量平均分子量(Mw)、205,952g/molの数平均分子量(Mn)、1.94のMw/Mn、及び0.6の剪断安定性指数(SSI)を有する。
【0073】
別の実施形態によれば、非分散型櫛型PMAは、化合物の組合せ、例えばViscoplex(登録商標)3-201とViscoplex(登録商標)3-162との組合せによって提供される。
【0074】
非分散型櫛型PMAは典型的には、潤滑油組成物の総重量を基準として、0.4重量%~2.0重量%、0.5重量%~1.9重量%、0.6重量%~1.8重量%、0.77重量%~1.5重量%、または0.76重量%~1.33重量%の量で存在する。一実施形態によれば、非分散型櫛型PMAは、潤滑油組成物の総重量を基準として、0.4重量%~1.9重量%の量で存在する。
【0075】
非分散型エチレン系オレフィンコポリマー
潤滑油組成物は、粘度調整剤として非分散型エチレン系オレフィンコポリマー(OCP)も含む。一実施形態では、非分散型エチレン系オレフィンコポリマーは、50,000g/mol~200,000g/mol、70,000g/mol~180,000g/mol、または90,000g/mol~160,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有する。例えば、非分散型エチレン系オレフィンコポリマーは、95,000g/mol~105,000g/mol、110,000g/mol~115,000g/mol、または145,000g/mol~150,000g/molの重量平均分子量を有することもあり得る。
【0076】
一実施形態では、非分散型エチレン系オレフィンコポリマーは、20,000g/mol~100,000g/mol、30,000g/mol~90,000g/mol、または35,000g/mol~85,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する。
【0077】
一実施形態では、非分散型エチレン系オレフィンコポリマーは、10~70、15~65、または20~60の剪断安定性指数(SSI)を有する。
【0078】
非分散型エチレン系オレフィンコポリマーについては、以下のとおりの、及びUS2013/0203640に示されているとおりの説明がなされ得、参照によりその開示内容を本明細書に援用する。
【0079】
一実施形態では、非分散型エチレン系オレフィンコポリマーはエチレンプロピレンコポリマーである。
【0080】
一実施形態では、非分散型エチレン系オレフィンコポリマーは、非分散型エチレン系オレフィンコポリマーの総重量を基準として、35重量%~70重量%、または40重量%~65重量%の総エチレン含有量を有する。別の実施形態では、非分散型エチレン系オレフィンコポリマーは、非分散型エチレン系オレフィンコポリマーの総重量を基準として、45重量%~60重量%の総エチレン含有量を有する。
【0081】
潤滑油組成物は、1つよりも多い非分散型エチレン系オレフィンコポリマーを含み得る。一実施形態では、潤滑油組成物は、第1エチレン-α-オレフィンコポリマー(a)と第2エチレン-α-オレフィンコポリマー(b)との組合せを含む。この場合、潤滑油組成物は典型的には、約30重量%~約70重量%の第1エチレン-α-オレフィンコポリマー(a)と、約70重量%~約30重量%の第2エチレン-α-オレフィンコポリマー(b)とを、潤滑油組成物中の(a)と(b)との総量を基準として含有する。別の実施形態では、潤滑油組成物は、約40重量%~約60重量%の第1エチレン-α-オレフィンコポリマー(a)と、約60重量%~約40重量%の第2エチレン-α-オレフィンコポリマー(b)とを、組成物中の(a)と(b)との総量を基準として含有する。特定の実施形態では、潤滑油組成物は、約50重量%~約54重量%の第1エチレン-α-オレフィンコポリマー(a)と、約46重量%~約50重量%の第2エチレン-α-オレフィンコポリマー(b)とを、組成物中の(a)と(b)との総量を基準として含有する。
【0082】
一実施形態において、第1エチレン-α-オレフィンコポリマーの重量平均分子量は典型的には、約60,000g/mol~約120,000g/molである。別の実施形態では、第1エチレン-α-オレフィンコポリマーの重量平均分子量は典型的には、約70,000g/mol~約110,000g/molである。一実施形態において、第2エチレン-α-オレフィンコポリマーの重量平均分子量は典型的には、約60,000g/mol~約120,000g/molである。別の実施形態では、第2エチレン-α-オレフィンコポリマーの重量平均分子量は典型的には、約70,000g/mol~約110,000g/molである。一実施形態において、第1エチレン-α-オレフィンコポリマーと第2エチレン-α-オレフィンコポリマーとの組成物の重量平均分子量は典型的には、約60,000g/mol~約120,000g/molである。別の実施形態では、第1エチレン-α-オレフィンコポリマーと第2エチレン-α-オレフィンコポリマーとの組成物の重量平均分子量は典型的には、約70,000g/mol~約110,000g/molである。さらなる実施形態では、第1エチレン-α-オレフィンコポリマーと第2エチレン-α-オレフィンコポリマーとの組成物の重量平均分子量は典型的には、約80,000g/mol~約100,000g/molである。各エチレン-α-オレフィンコポリマーの分子量分布は典型的には、約2.5未満であり、より典型的には約2.1~約2.4である。GPCによって決定されるポリマー分布は典型的には単峰性である。
【0083】
少なくとも1つの非分散型エチレン系オレフィンコポリマーは典型的には、潤滑油組成物の総重量を基準として、0.01重量%~1.5重量%、0.05重量%~1.0重量%、0.08重量%~0.4重量%、0.1重量%~0.5重量%、または0.15重量%~0.4重量%の量で存在する。一実施形態によれば、少なくとも1つの非分散型エチレン系オレフィンコポリマーは、潤滑油組成物の総重量を基準として、0.01重量%~0.36重量%の量で存在する。
【0084】
付加的な添加剤
上記の非分散型櫛型PMA及び非分散型エチレン系オレフィンコポリマー粘度調整剤に加えて、本開示の潤滑油組成物は、潤滑油組成物の任意の所望の特性を付与または改善し得る1つ以上の付加的な性能添加剤を含有し得る。当業者に知られている任意の添加剤が、本明細書に開示される潤滑油組成物に使用され得る。いくつかの好適な添加剤は、R.M.Mortier et al.“Chemistry and Technology of Lubricants,”3rd Edition,Springer(2010)、及びL.R.Rudnik“Lubricant Additives:Chemistry and Applications,”Second Edition,CRC Press(2009)に記載されている。
【0085】
例えば、潤滑油組成物は、酸化防止剤、耐摩耗剤、金属清浄剤、分散剤、付加的な摩擦調整剤、腐食防止剤、解乳化剤、付加的な粘度調整剤、流動点降下剤、抑泡剤などを含有し得る。
【0086】
通常、使用される場合の潤滑油組成物中の各添加剤の濃度は、潤滑油組成物の総重量を基準として、0.001重量%~10重量%(例えば、0.01重量%~5重量%、または0.05重量%~2.5重量%)の範囲であり得る。さらには、潤滑油組成物中の添加剤の総量は、潤滑油組成物の総重量を基準として、0.001重量%~20重量%(例えば、0.01重量%~15重量%、または0.1重量%~10重量%)の範囲であり得る。
【0087】
酸化防止剤
酸化防止剤は使用中の基油の酸化劣化を遅らせる。そのような劣化は、金属表面上のデポジット、スラッジの存在、または潤滑油組成物の粘度増大を引き起こし得る。有用な酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、芳香族アミン及び硫化アルキルフェノール、ならびにそのアルカリ及びアルカリ土類金属塩が挙げられる。
【0088】
ヒンダードフェノール酸化防止剤は、立体障害基として第二級ブチル及び/または第三級ブチル基を含有し得る。フェノール基は、ヒドロカルビル基、及び/または第2芳香族基に連結する架橋基でさらに置換されていてもよい。好適なヒンダードフェノール酸化防止剤の例としては、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-メチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、及び4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)が挙げられる。ヒンダードフェノール酸化防止剤は、2,6-ジ-tert-ブチルフェノールとアルキルアクリレートとから誘導されるエステルまたは付加生成物であり得、ここで、アルキル基は1~18個の炭素原子を含有し得る。
【0089】
好適な芳香族アミン酸化防止剤としては、ジアリールアミン、例えば、アルキル化ジフェニルアミン(例えば、ジオクチルジフェニルアミン、ジノニルジフェニルアミン)、フェニル-アルファ-ナフタレン、及びアルキル化フェニル-アルファ-ナフタレンが上げられる。
【0090】
例示的な実施形態によれば、潤滑油組成物はアミン系酸化防止剤を含む。
【0091】
耐摩耗剤
耐摩耗剤は、潤滑油組成物で潤滑化された金属部品の摩耗を軽減するのに役立つ。耐摩耗剤の例としては、リン含有耐摩耗/極圧剤、例えば、金属チオホスフェート、リン酸エステル及びその塩;リン含有カルボン酸、エステル、エーテル及びアミド;ならびにホスファイトが挙げられる。耐摩耗剤はジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)であってもよい。非リン含有耐摩耗剤としては、ホウ酸エステル(ホウ酸化エポキシドを含む)、ジチオカルバメート化合物、モリブデン含有化合物、及び硫化オレフィンが挙げられる。
【0092】
1つの例示的な実施形態によれば、潤滑油組成物は、耐摩耗剤としてZnDTPを含む。
【0093】
金属清浄剤
典型的な清浄剤は、分子の長鎖疎水性部分と分子のより小さいアニオン性または撥油性親水性部分とを含有するアニオン性物質である。清浄剤のアニオン性部分は典型的には、有機酸、例えば、硫黄酸、カルボン酸、リン酸、フェノールまたはその混合物である。対イオンは典型的には、アルカリ土類またはアルカリ金属である。
【0094】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される潤滑油組成物は、少なくとも添加剤または添加剤成分としての中性または過塩基性金属清浄剤を含む。ある実施形態では、潤滑油組成物中の金属清浄剤は、潤滑油組成物中の酸性生成物の中和剤として作用する。ある実施形態では、金属清浄剤は、エンジンの表面におけるデポジットの形成を防止する。使用される酸の性質に応じて、清浄剤は付加的な機能、例えば酸化防止特性を有し得る。ある態様において、潤滑油組成物は、過塩基性清浄剤か、中性及び過塩基性清浄剤の混合物かのどちらかを含む金属清浄剤を含有する。「過塩基性」という用語は、使用される特定の金属と特定の有機酸との化学量論によって必要とされる含有量を上回って金属を含有する添加剤を定義することを意図している。余剰金属は、金属塩の被覆に取り囲まれた無機塩基(例えば水酸化物または炭酸塩)の粒子の形態で存在する。被覆は、液体油質ビヒクル中で粒子を分散状態に維持する役割を果たす。余剰金属の量は一般に、有機酸の当量に対する余剰金属の合計当量の比率として表され、典型的には0.1~30の範囲である。
【0095】
好適な金属清浄剤のいくつかの例としては、硫化または非硫化アルキルまたはアルケニルフェナート、アルキルまたはアルケニル芳香族スルホナート、ホウ酸化スルホナート、多ヒドロキシアルキルまたはアルケニル芳香族化合物の硫化または非硫化金属塩、アルキルまたはアルケニルヒドロキシ芳香族スルホナート、硫化または非硫化アルキルまたはアルケニルナフテナート、アルカン酸の金属塩、アルキルまたはアルケニル多重酸の金属塩、ならびにそれらの化学的及び物理的混合物が挙げられる。好適な金属清浄剤の他の例としては、金属スルホナート、フェナート、サリシラート、ホスホナート、チオホスホナート及びその組合せが挙げられる。金属は、スルホナート、フェナート、サリシラートまたはホスホナート清浄剤を作るのに適した任意の金属であり得る。好適な金属の非限定的な例としては、アルカリ金属(alkali metals)、アルカリ金属(alkaline metals)及び遷移金属が挙げられる。いくつかの実施形態では、金属は、Ca、Mg、Ba、K、Na、Liなどである。
【0096】
金属清浄剤は、過塩基性清浄剤、例えば、低過塩基性(LOB)、中過塩基性(MOB)または高過塩基性(HOB)清浄剤であり得る。
【0097】
低過塩基性清浄剤は、100未満の塩基価(BN)を有する過塩基性塩であり得る。一実施形態では、低過塩基性塩のBNは約5~約50であり得る。別の実施形態では、低過塩基性塩のBNは約10~約30であり得る。さらに別の実施形態では、低過塩基性塩のBNは約15~約20であり得る。過塩基性清浄剤の塩基価は、オイルフリー基準ではなく希釈油の存在下で測定される。
【0098】
中過塩基性清浄剤は、約100~約250のBNを有する過塩基性塩であり得る。一実施形態では、中過塩基性塩のBNは約100~約200であり得る。別の実施形態では、中過塩基性塩のBNは約125~約175であり得る。過塩基性清浄剤の塩基価は、オイルフリー基準ではなく希釈油の存在下で測定される。
【0099】
高過塩基性清浄剤は、250を上回るBNを有する過塩基性塩であり得る。一実施形態では、高過塩基性塩のBNは約250~約550であり得る。過塩基性清浄剤の塩基価は、オイルフリー基準ではなく希釈油の存在下で測定される。
【0100】
潤滑油組成物に採用され得る例示的な金属清浄剤としては、過塩基性カルシウムフェナートが挙げられる。別の例示的な実施形態によれば、潤滑油組成物は、清浄剤としてLOB Caスルホナート、HOB Caサリシラート、及びMOB Caサリシラートを含む。
【0101】
無灰分散剤
分散剤は、固体及び液体汚染物質を懸濁状態に保ち、これによってそれらを不動態化し、スラッジ沈殿を軽減すると同時にエンジンデポジットを減少させることを主な機能とする添加剤である。例えば、分散剤は、潤滑油組成物の使用中の酸化によって生成する油不溶性物質を懸濁状態に維持し、かくしてエンジンの金属部品上でのスラッジの凝集及び析出または沈殿を防止する。通例、分散剤は、金属を含有してそれゆえに灰を形成する物質とは異なり、燃焼時に灰を実質的に形成しない非金属性有機物質である「無灰」である。それらは、極性ヘッドを有する長い炭化水素鎖を含み、極性は、少なくとも1つの窒素、酸素またはリン原子を含むことに由来するものである。当該炭化水素は、油溶性を付与する親油性基であり、例えば40~500個の炭素原子を有する。したがって、無灰分散剤は油溶性ポリマー主鎖を含み得る。
【0102】
オレフィンポリマーの好ましい部類は、ポリブチレン、具体的にはポリイソブチレン(PIB)またはポリ-n-ブチレン、例えば、C4製油所流の重合によって調製され得るもので構成される。
【0103】
分散剤には例えば長鎖炭化水素置換カルボン酸の誘導体が含まれ、その例は高分子量ヒドロカルビル置換コハク酸の誘導体である。注目に値する分散剤の群は、例えば、上記酸(または誘導体)と窒素含有化合物、好都合にはポリアルキレンポリアミン、例えばポリエチレンポリアミンとを反応させることによって作られた、炭化水素置換スクシンイミドで構成される。市販されている典型的なポリイソブチレン系スクシンイミド分散剤は、無水マレイン酸によって官能化され、100~350の分子量を有するポリアミンによって誘導体化された、900~2500の範囲の数平均分子量を有するポリイソブチレンポリマーを含有する。
【0104】
他の好適な分散剤としては、コハク酸エステル及びエステルアミド、マンニッヒ塩基、ポリイソブチレンコハク酸(PIBSA)、ならびに他の関係する成分が挙げられる。
【0105】
コハク酸エステルは、炭化水素置換無水コハク酸とアルコールまたはポリオールとの間での縮合反応によって形成される。例えば、炭化水素置換無水コハク酸とペンタエリスリトールとの縮合生成物は有用な分散剤である。
【0106】
コハク酸エステル-アミドは、炭化水素置換無水コハク酸とアルカノールアミンとの間の縮合反応によって形成される。例えば、好適なアルカノールアミンとしては、エトキシル化ポリアルキルポリアミン、プロポキシル化ポリアルキルポリアミン、及びポリアルケニルポリアミン、例えばポリエチレンポリアミンが挙げられる。一例は、プロポキシル化ヘキサメチレンジアミンである。
【0107】
マンニッヒ塩基は、アルキルフェノールと、ホルムアルデヒドと、ポリアルキレンポリアミンとの反応から作られる。アルキルフェノールの分子量は800~2500の範囲であり得る。
【0108】
窒素含有分散剤は、従来の方法で後処理されて、それらの特性が様々な薬剤のいずれかとの反応によって改善され得る。これらのうちに入るものはボロン化合物(例えばボロン酸)及び環状炭酸エステル(例えば炭酸エチレン)である。
【0109】
1つの例示的な実施形態によれば、潤滑油組成物は、無灰分散剤としてホウ酸化スクシンイミド及び炭酸エチレン(EC)処理スクシンイミドを含む。
【0110】
摩擦調整剤
潤滑油組成物は摩擦調整剤を含み得る。摩擦調整剤は、任意の潤滑剤またはそのような物質(複数可)を含有する流体によって潤滑化された表面の摩擦係数を変化させ得る任意の物質または複数の物質である。摩擦調整剤としては、アルコキシル化脂肪族アミン、ホウ酸化脂肪族エポキシド、脂肪族ホスフェート、脂肪族エポキシド、脂肪族アミン、ホウ酸化アルコキシル化脂肪族アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ酸化グリセロールエステル、及び脂肪族イミダゾリンが挙げられる。本明細書で使用される場合、「脂肪族」という用語は、10~22個の炭素原子を有する炭化水素鎖、典型的には直鎖炭化水素鎖を意味する。
【0111】
例示的な実施形態によれば、潤滑油組成物は、モリブデン含有化合物とも呼称される有機モリブデン化合物を含む。有機モリブデン化合物は、少なくともモリブデン、炭素及び水素原子を含有するが、硫黄、リン、窒素及び/または酸素原子も含有する場合もある。好適な有機モリブデン化合物としては、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、及び様々な有機モリブデン錯体、例えば、カルボン酸モリブデン、モリブデンエステル、モリブデンアミン、モリブデンアミドが挙げられ、これらは、酸化モリブデンまたはモリブデン酸アンモニウムを脂肪、グリセリドまたは脂肪酸もしくは脂肪酸誘導体(例えば、エステル、アミン及びアミド)と反応させることによって得ることができる。「脂肪族」という用語は、10~22個の炭素原子を有する炭素鎖、典型的には直鎖炭素鎖を意味する。
【0112】
モリブデン酸エステルは、US4,889,647、及びUS6,806,241 B2に開示されている方法によって調製され得る。市販例はMOLYVAN(登録商標)855添加剤であり、これは、R.T.Vanderbilt Company,Inc.によって製造されている。
【0113】
例示的な実施形態によれば、潤滑油組成物は、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)を含む。ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)は、以下の構造(I):
【化1】

〔式中、R、R、R、及びRは互いに独立して、4~18個の炭素原子(例えば、8~13個の炭素原子)を有する直鎖または分岐アルキル基である〕
によって表される有機モリブデン化合物である。
【0114】
これらの化合物の調製は、文献及び米国特許第3,356,702号及び第4,098,705号においてよく知られており、参照によりそれらを本明細書に援用する。市販例としては、R.T.Vanderbilt Company Inc.によって製造されているMOLYVAN(登録商標)807、MOLYVAN(登録商標)822及びMOLYVAN(登録商標)2000、ADEKA CORPORATIONによって製造されているSAKURA-LUBE(登録商標)165及びSAKURA-LUBE(登録商標)515、ならびにChemtura Corporationによって製造されているNaugalube(登録商標)MolyFMが挙げられる。
【0115】
参照により本明細書に援用される米国特許第5,888,945号及び第6,010,987号によって教示されているように、ジアルキルジチオカルバミン酸三核モリブデンも当技術分野で知られている。三核モリブデン化合物は、好ましくは式Mo(dtc)、Mo(dtc)、及びそれらの混合物を有し、ここで、dtcは、独立して選択される有機基を含有する独立して選択されるジオルガノジチオカルバメートリガンドを表し、リガンドは、化合物のリガンドの有機基の中でもとりわけ十分な数の炭素原子を有して化合物を潤滑油組成物に可溶または分散可能なものにしている。
【0116】
別の実施形態によれば、潤滑油組成物はジチオリン酸モリブデン(MoDTP)を含む。MoDTPは、以下の構造(2):
【化2】

〔式中、R、R、R及びRは互いに独立して、4~18個の炭素原子(例えば、8~13個の炭素原子)を有する直鎖または分岐アルキル基である〕
によって表される有機モリブデン化合物である。
【0117】
カルボン酸モリブデンは、米国特許RE38,929及び米国特許第6,174,842号に記載されており、参照によりそれらを本明細書に援用する。カルボン酸モリブデンは、任意の油溶性カルボン酸から誘導され得る。典型的なカルボン酸としては、ナフテン酸、2-エチルヘキサン酸、及びリノレン酸が挙げられる。これらの特定の酸から生産されるカルボキシレートの市販供給源は、それぞれMOLYBDENUM NAP-ALL、MOLYBDENUM HEX-CEM、及びMOLYBDENUM LIN-ALLである。これらの製品の製造業者は、OMG OM Groupである。
【0118】
モリブデン酸アンモニウムは、任意選択的に硫黄源、例えば、硫黄、無機硫化物、ポリスルフィド及び二硫化炭素の存在下で、酸性モリブデン源、例えば、三酸化モリブデン、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム及びチオモリブデン酸アンモニウムと、油溶性アミンとの反応によって調製される。好ましいアミン系化合物は、エンジンオイル組成物に一般的に使用されているポリアミン分散剤である。そのような分散剤の例は、スクシンイミド及びマンニッヒ型分散剤である。これらの分散剤に対する言及は、米国特許第4,259,194号、第4,259,195号、第4,265,773号、第4,265,843号、第4,727,387号、第4,283,295号及び第4,285,822号に提供されている。
【0119】
一実施形態では、モリブデンアミンは、モリブデン-スクシンイミド錯体である。好適なモリブデン-スクシンイミド錯体は、例えば米国特許第8,076,275号に記載されている。これらの錯体は、酸性モリブデン化合物を、構造(3)、(4)のポリアミンのアルキルもしくはアルケニルスクシンイミド:
【化3】

〔式中、RはC24~C350(例えば、C70~C128)アルキルまたはアルケニル基であり、R’は、2~3個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖アルキレン基であり、xは1~11であり、yは1~10である〕
またはそれらの混合物と反応させることを含むプロセスによって調製される。
【0120】
モリブデン-スクシンイミド錯体を調製するために使用されるモリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物または酸性モリブデン化合物の塩である。「酸性」とは、ASTM D664またはD2896によって測定したときモリブデン化合物が塩基性窒素化合物と反応するものであることを意味する。一般に、酸性モリブデン化合物は六価である。好適なモリブデン化合物の代表例としては、三酸化モリブデン、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム及び他のアルカリ金属モリブデン酸塩、ならびに他のモリブデン塩、例えば、水素塩(例えば、モリブデン酸水素ナトリウム)、MoOCl、MoOBr、MoClなどが挙げられる。
【0121】
モリブデン-スクシンイミド錯体を調製するために使用され得るスクシンイミドは、多くの参考文献に開示されており、当技術分野でよく知られている。基礎的な若干のスクシンイミド類、及び専門用語「スクシンイミド」に包含される関連する物質は、米国特許第3,172,892号、第3,219,666号及び第3,272,746号の中で教示されている。「スクシンイミド」という用語は、当技術分野では、さらに形成され得るアミド、イミド及びアミジン種の多くを含むものと理解されている。しかしながら、主な生成物はスクシンイミドであり、この用語は、アルキルまたはアルケニル置換コハク酸または無水物と、窒素含有化合物との反応の生成物を意味すると一般に受け入れられている。好ましいスクシンイミドは、炭素原子数約70~128のポリイソブテニル無水コハク酸を、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン及びそれらの混合物から選択されるポリアルキレンポリアミンと反応させることによって調製されるものである。
【0122】
一実施形態では、モリブデン含有化合物は硫黄を含まない。
【0123】
モリブデン-スクシンイミド錯体は、好適な圧力及び120℃を超えない温度で硫黄源によって後処理されて硫化モリブデン-スクシンイミド錯体をもたらし得る。硫化工程は、約0.5~5時間(例えば、0.5~2時間)の期間にわたって行われ得る。好適な硫黄供給源としては、元素硫黄、硫化水素、五硫化リン、式Rの有機ポリスルフィド(式中、Rはヒドロカルビル(例えば、C~C10アルキル)であり、xは少なくとも3である)、C~C10メルカプタン、無機スルフィド及びポリスルフィド、チオアセトアミド、ならびにチオ尿素が挙げられる。
【0124】
モリブデン含有化合物は、潤滑油組成物に50ppm~1200ppm、50ppm~1000ppm、50ppm~800ppm、50ppm~600ppm、50ppm~400ppm、または50ppm~200ppmの量のモリブデンを提供する量で使用される。
【0125】
いくつかの実施形態では、潤滑油組成物はモリブデン含有化合物を実質的に含まない。
【0126】
エンジンにおける潤滑油組成物の使用中にモリブデン含有化合物はエンジンの金属表面におけるモリブデン含有潤滑膜の形成を促進し得る。
【0127】
例示的な実施形態によれば、潤滑油組成物は、潤滑組成物の総重量を基準として、MoDTCを0.6重量%~0.8重量%の量で含む。
【0128】
腐食防止剤
腐食防止剤は、潤滑化された金属表面を水または他の汚染物質による化学的攻撃から保護する。好適な腐食防止剤としては、ポリオキシアルキレンポリオール及びそのエステル、ポリオキシアルキレンフェノール、チアジアゾール、及びアニオン性アルキルスルホン酸が挙げられる。
【0129】
流動点降下剤
流動点降下剤は、流体が流動するかまたはそれを注ぐことができる最低温度を、低下させる。好適な流動点降下剤としては、フマル酸C8~C18ジアルキル/酢酸ビニルコポリマー、ポリアルキルメタクリレートなどが挙げられる。
【0130】
抑泡剤
抑泡剤は、安定した泡の形成を遅らせる。好適な抑泡剤の例としては、ポリシロキサン、ポリアクリレートなどが挙げられる。
【0131】
潤滑油組成物の調製プロセス
本明細書に開示される潤滑油組成物は、潤滑油を作るための当業者に知られている任意の方法によって調製され得る。粘度調整剤及び他の添加剤は個別に、または同時に基油に添加され得る。いくつかの実施形態では、添加剤は1回以上の添加によって個別に基油に添加され、添加は任意の順序であり得る。他の実施形態では、添加剤は、任意選択的に添加剤濃縮物の形態で、同時に基油に添加される。別の実施形態によれば、添加剤のいくつかは個別に添加され、いくつかは添加剤濃縮物の形態で添加される。いくつかの実施形態では、基油中の添加剤の可溶化は、混合物を約25℃~約200℃、約50℃~約150℃、または約75℃~約125℃の温度に加熱することによって補助され得る。
【0132】
潤滑油組成物を形成するために使用される原料を混和、混合または可溶化するために、当業者に知られている任意の混合用または分散用機器が使用され得る。混和、混合または可溶化は、配合機、撹拌機、分散機、混合機(例えば、遊星ミキサー及び二重遊星ミキサー)、均質機(例えば、ゴーリン式均質機及びRannie均質機)、粉砕機(例えば、コロイドミル、ボールミル及びサンドミル)、または当技術分野で知られている他の任意の混合用もしくは分散用機器を使用して行われ得る。
【0133】
潤滑油組成物の用途
本明細書に開示される潤滑油組成物は、火花点火内燃機関のモーターオイル(エンジンオイルまたはクランクケースオイル)としての使用に適し得る。潤滑油組成物は、好ましくは、SAE 0W-20、0W-16、または0W-12の粘度等級を要求するエンジンまたはクランクケースに使用される。例えば、潤滑油組成物は、ローラーフォロワーロッカーアームを備えたバルブトレインシステムを含むエンジンを潤滑化するために使用され得る。
【0134】
以下の本発明の実施例は、本発明の実施形態を例示するために提供されているのであって、本発明を提示されている具体的な実施形態に限定する意図はない。すべての割合及び百分率は重量表示であり、但し、その逆のことが示されている場合を除く。すべての数値は近似的なものである。数値範囲が与えられている場合、指定された範囲から外れる実施形態がなおも本発明の範囲に入る可能性があることは理解されるべきである。各実施例に記載されている具体的な詳細は、本発明の必要な特徴として解釈されるべきでない。
【実施例
【0135】
本発明の実施例及び比較例のすべてのためのベースライン配合物は、潤滑油組成物の総重量を基準として、重量%表示で提供される以下の原料を混和することによって調製された:
(a)1重量%のホウ酸化スクシンイミド、
(b)3重量%の炭酸エチレン(EC)処理スクシンイミド、
(c)0.34重量%の第2のZnDTP、
(d)0.72重量%の第1のZnDTP、
(e)0.5重量%のLOB Caスルホナート、
(f)0.77重量%のHOB Caサリシラート、
(g)0.5重量%のMOB Caサリシラート、
(h)2重量%のアミン系酸化防止剤、
(i)0.004重量%の抑泡剤、及び
(h)希釈油。
【0136】
原料(a)~(h)の重量%は、存在し得るいかなる希釈剤及び/または溶媒も含み、したがって、活性基準ではない。
【0137】
すべての本発明の実施例及び比較例は、グループIIIの基油であるYubase 4+においてベースライン配合物を最初に0.7重量%のジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)で処置してモリブデンを700ppmとし、表2及び表3の粘度調整剤(複数可)(櫛型PMA及び/またはOCP)で処理して、SAE 0W-20の粘度等級を有する潤滑油組成物を得ることによって作られた。本発明の実施例の組成物を表2に示し、比較例の組成物を表3に示す。
【表2】
【0138】
Toyota 2ZR-FEモーターエンジンにおける燃料経済性試験
ガソリンモーターエンジン試験において本発明の実施例1~9及び比較例1~4の潤滑油組成物をそれらの燃料経済性性能について試験した。エンジンは直列4気筒配置のToyota 2ZR-FE 1.8Lであった。トルクメータはエンジンのモーターとクランクシャフトとの間に配置されており、トルク変化パーセントは基準及び候補潤滑油組成物の間で測定された。60℃、80℃及び100℃の油温、ならびに400rpm、550rpm、750rpm、1000rpm、1500rpm及び2000rpmのエンジン速度でのトルク変化パーセント(%)を測定した。トルク変化パーセントがより低い(つまり、より負である)ことは、燃料経済性がより良好であることを反映している。モーターエンジン摩擦トルク試験の配置及びその試験条件はSAE Paper 2013-01-2606にさらに記載されている。表4は、本発明の実施例の組成物についての60℃、80℃及び100℃の油温での平均トルク変化%を示し、表5は、比較例の組成物についての60℃、80℃及び100℃の油温での平均トルク変化%を示す。
【表3】

【国際調査報告】