(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-15
(54)【発明の名称】質量分析用の試料調製
(51)【国際特許分類】
G01N 1/04 20060101AFI20230608BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230608BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20230608BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
G01N1/04 H
G01N27/62 V
G01N33/48 A
G01N1/28 J
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568963
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(85)【翻訳文提出日】2023-01-06
(86)【国際出願番号】 EP2021062677
(87)【国際公開番号】W WO2021228969
(87)【国際公開日】2021-11-18
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521002017
【氏名又は名称】プレオミクス・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】PREOMICS GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クルカ,ニルス・アー
(72)【発明者】
【氏名】ハーティンガー,カトリン
(72)【発明者】
【氏名】ケーゼマン,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンソン,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ベヒター,ジャスミン
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
2G052
【Fターム(参考)】
2G041EA03
2G041FA10
2G041FA12
2G041GA01
2G041KA01
2G045BA13
2G045BB60
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB01
2G045CB03
2G045CB08
2G045CB30
2G045DA36
2G052AA28
2G052AB18
2G052EB11
2G052ED01
2G052FB07
2G052FD08
2G052GA24
2G052GA27
(57)【要約】
本発明は、分析手順用の試料を調製する方法であって、上記試料が、少なくとも1つのタンパク質、ポリペプチドまたはペプチド分子を含み、上記方法が、上記分子を少なくとも1つの移動磁性体を使用して断片化することを含む、方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析手順用の試料を調製する方法であって、前記試料が、少なくとも1つのタンパク質、ポリペプチドまたはペプチド分子を含み、前記方法が、(a)前記分子を少なくとも1つの移動磁性体を使用して断片化することを含み、前記少なくとも1つの移動磁性体が、変動運動または振動運動を遂行し、好ましくは、前記運動が、変動磁場または振動磁場によって誘発される、方法。
【請求項2】
前記磁場が、電流および/または電磁石によって生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)前記断片化することが、非酵素的かつ非化学的プロセスであるか、または
(ii)CNBr、ギ酸、ヒドロキシルアミン、および2-ニトロ-5-チオシアノ安息香酸および/またはプロテアーゼから選択される化学物質が添加される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記磁性体が、前記分子と衝突し、および/または少なくとも1つの非磁性粒子が存在し、前記磁性体の前記運動が、前記少なくとも1つの非磁性粒子と前記分子との衝突を誘発する、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記試料が、生物学的起源を有し、好ましくは、
(i)前記試料が、前記分子の溶液もしくは懸濁液であるか、または前記分子の溶液もしくは懸濁液を含み、例えば、前記試料が、精製形態の前記分子、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの混合物を含むか、あるいは血液、血清、血漿、脳脊髄液、痰もしくは尿等の体液であるか、または血液、血清、血漿、脳脊髄液、痰もしくは尿等の体液を含み、
(ii)前記試料が、原核細胞もしくは真核細胞等の細胞であるか、または原核細胞もしくは真核細胞等の細胞を含み、例えば、前記試料が、細胞の懸濁液であるか、または細胞の懸濁液を含み、
(iii)前記試料が、ウイルスであるか、またはウイルスを含み、例えば、前記試料が、ウイルスの懸濁液であるか、またはウイルスの懸濁液を含み、および/または
(iv)前記試料が、組織、例えば、筋肉組織もしくは脳組織であるか、または組織、例えば筋肉組織もしくは脳組織を含む、
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、(b)前記試料を、煮沸等の熱に曝露させる工程、前記試料を変性させる工程、洗浄剤を前記試料に添加する工程、および/またはカオトロピック剤を前記試料に添加する工程をさらに含み、好ましくは工程(b)が、工程(a)に先立って、または工程(a)と同時に実施される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
(c)前記分子および/または前記分子から得られた断片を化学的に修飾する工程をさらに含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記分析手順が、質量分析(MS)である、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記化学的に修飾する工程が、
(ca)ジスルフィドを還元する工程、
(cb)システイン残基等のチオール基をアルキル化する工程、
(cc)架橋する工程、および/または
(cd)(ca)、(cb)および(cc)の任意の組合せ((ca)と(cb)の組合せが好ましい)
から選択され、好ましくは、工程(a)、工程(ca)、および工程(cb)が同時に実施される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
不活性粘性液体;ポリアクリルアミドゲルまたはアガロースゲル等のゲル;エアロゲルおよび/またはゼオリスが、前記試料に添加される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法が、(d)好ましくは濾過、非共有結合および/または共有結合によって、得られた断片を浄化および/または濃縮する工程をさらに含み、非共有結合が、好ましくは逆相材料、順相材料、イオン交換材料、親和性結合材料、キレート特性を有する材料または常磁性粒子に対して行われ、共有結合は、好ましくは前記断片のいずれかのアミン基とコンジュゲートを形成することが可能な試薬を用いて行われる、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、(e)前記分子および/または前記分子から得られる断片を標識する工程をさらに含み、好ましくは前記断片の標識する工程が、前記断片の前記浄化および/または濃縮する工程の後に達成される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記標識する工程が、前記分子の官能基を、前記官能基とコンジュゲートを形成することが可能な試薬と反応させることによって実行され、前記官能基とコンジュゲートを形成することが可能な前記試薬が、好ましくは質量分析によって検出可能なタグである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法と、得られた断片の質量分析を実施する工程とを含む分析方法。
【請求項15】
第2のタンパク質もしくは結合パートナーに結合することが可能であるか、または可能であると思われる第1のタンパク質上の部位を同定する方法であって、前記方法が、前記第1のタンパク質を少なくとも1つの移動磁性体を使用して断片化することと、前記第2のタンパク質または前記結合パートナーを添加することと、前記第2のタンパク質または前記結合パートナーに結合する断片を、非結合断片と分離することと、前記第2のタンパク質または結合パートナーを結合する前記断片を同定すること、それにより前記部位を同定することとを含み、前記少なくとも1つの移動磁性体が、変動運動または振動運動を遂行し、好ましくは、前記運動が、変動磁場または振動磁場によって誘発され、好ましくは、前記第1のタンパク質が抗原であり、前記第2のタンパク質が抗体である、方法。
【請求項16】
タンパク質、ポリペプチドまたはペプチド分子を断片化するための変動磁場または振動磁場を生成させるための磁性体および磁気的手段の使用。
【請求項17】
(i)少なくとも1つの磁性体;
(ii)前記磁性体、および少なくとも1つのタンパク質、ポリペプチドまたはペプチド分子を含む試料を受容するようにそれぞれ構成された容器または容器のアレイ
を含むか、またはそれらからなるキット。
【請求項18】
(iii)還元剤;および
(iv)アルキル化剤;および任意選択で、
(v)界面活性剤、カオトロピック剤、変性剤、および有機溶媒の1つ、複数または全て;
(vi)少なくとも1つの緩衝液;
(vii)非磁性粒子;および/または
(viii)請求項1から15のいずれか1項に記載の方法を実施するための説明を含むマニュアル
をさらに含むか、またはさらにそれらからなる、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
(i)コイル、好ましくはヘルムホルツコイル;および
(ii)容器または容器のアレイ;
(iii)前記少なくとも1つの磁性体に使用時に変動運動または振動運動を遂行させるように構成された制御ユニット;および任意選択で
(iii)少なくとも1つの磁性体、好ましくは容器1個当たり少なくとも1つの磁性体
を含むか、またはそれらからなるデバイスであって、
前記コイルの開口部が、容器または容器のアレイを収容するように構成されている、デバイス。
【請求項20】
請求項1から15のいずれか1項に記載の方法によって調製された試料から得られる質量スペクトルを分析するコンピューター実装方法であって、前記得られた断片の配列を構築して、それらが由来する前記タンパク質またはポリペプチドの配列を得る工程を含む、コンピューター実装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析手順用の試料を調製する方法であって、上記試料が、少なくとも1つのタンパク質、ポリペプチドまたはペプチド分子を含み、上記方法が、上記分子を少なくとも1つの移動磁性体を使用して断片化することを含む、方法に関する。
【0002】
本明細書では、特許出願および製造業者のマニュアルを含む多数の文書が引用されている。これらの文書の開示は、本発明の特許性に関連するとみなされないが、その全体が参照により本明細書で援用される。より具体的には、参照文書は全て、個々の文書が具体的かつ個別に参照により援用されると示されているのと同程度に参照により援用される。
【背景技術】
【0003】
ここ数年以内で、生物学的分析手順が急速なペースで発展してきた。特に、質量分析(MS)ベースのプロテオミクスが、様々な薬学用途および臨床用途用の強力な分析ツールとして浮上してきた。免疫および酵素ベースのアッセイを含む伝統的なアプローチは、あらかじめすでに明記された時間での単一タンパク質の分析に限られているのに対して、非標的質量分析は、完全に不偏の様式で単一測定内の何百から何千ものタンパク質を検出することによって完全に新たな視点を開いている。新規MS戦略はとりわけ、個体の健康状態を評価およびモニタリングするために、体液、例えば尿、血漿または血清中のバイオマーカーの分析にますます適用されている。適用の第2の広い分野は、製剤の安全性および品質を保証するために、生産および精製プロセス全体にわたって治療用タンパク質中の宿主細胞タンパク質(HCP)不純物を追跡することである。
【0004】
複雑な試料のほかに、MSベースのプロテオミクスはまた、特に原薬の広範で包括的な特性化が患者の安全性にとって不可欠である治療用タンパク質に関する単一タンパク質分析にも使用される。このアプローチは、翻訳後修飾(PTM)を含む単一タンパク質の詳細な配列および組成に焦点を合わせているため、試料調製は、例えば、最大シーケンスカバレッジのために調製効率を強化することによって、または人工修飾の導入を低減させることによって、これらの特定に要件に関して最適化される必要がある。
【0005】
酵素タンパク質消化は、MSベースのプロテオミクスに関するほとんどの試料調製ワークフローにおける重要工程を提示し、それにより特定のエンドプロテイナーゼ(多くの場合、プロテアーゼと称される)を用いて、タンパク質骨格上でタンパク質を加水分解して、ポリペプチドまたはペプチドを生じる。プロテオミクスで使用されるほとんどのプロテアーゼは、配列特異的なエンドプロテイナーゼであり、MS能力のレベルを超える試料の複雑さの増加を防止するのに役立つ。ボトムアッププロテオミクス戦略に関して、哺乳動物起源(ブタまたはウシ)のトリプシンは、最も広範なプロテアーゼである。トリプシンは、アルギニン(R)およびリジン(K)残基のカルボキシ側(C末端)で特異的に切断し、したがって、およそ9個の平均アミノ酸長を有する正に帯電したペプチドを生成する。LysC、GluC、AspN、ArgCおよびキモトリプシンを含む他のプロテアーゼもまた、程度はより低いが、多くの場合トリプシン試料情報を補完するために、MS試料調製において使用される。製造業者は、哺乳動物または細菌起源由来の天然タンパク質の代わりに組換えタンパク質発現系を使用して、酵素活性を保持しながらプロテアーゼ純度を改善することを目的としているが、多くの場合、活性なタンパク質分解酵素を発現するという課題に直面する。
【0006】
完全なカバレッジのMSベースのプロテオミクスは、効率的なタンパク質加水分解およびデータ分析中の得られるシーケンスカバレッジに大いに依存する。したがって、ほとんどの試料調製プロトコールは、高いプロテアーゼ含有量および最大24時間の非常に長い消化時間に依存する。したがって、タンパク質消化は、研究室および事業にわたって見られるプロテオミクス試料調製の可変性に対して著しく影響のある重要な工程である。
【0007】
酵素タンパク質分解の品質および再現性に影響を及ぼす幾つかのさらなるパラメーターが知られている。とりわけ、緩衝液の組成は、プロテアーゼがpHおよび塩条件に対して、ならびに洗浄剤およびカオトロピック試薬の存在に非常に高感度であるため重要な側面である。さらに、消化効率はより高い酵素濃度によって大幅に高められ得る一方で、同時に酵素供給源からのさらなるタンパク質汚染(例えば、ブタタンパク質)が導入され、したがって、当該技術分野で確立された消化戦略の課題および限界を示している。また、プロテアーゼはそれ自体、例えば試料からのシグナルに重なる質量スペクトルにおける望ましくないシグナルを引き起こし得る。
【0008】
古典的なボトムアッププロテオミクスと対比して、トップダウンプロテオミクスアプローチは、MS装置において無傷のタンパク質を分析するのに使用される。この用途は、それが完全タンパク質の研究を可能にし、また修飾パターンを決定することを可能にするため非常に魅力的である。しかしながら、分析されるべきタンパク質の特性は、分析の品質に強く影響を及ぼし、完全タンパク質試料を検査することは依然として困難である。無傷のタンパク質は、MS適合性液体クロマトグラフィー(LC)条件下で均一に挙動せず、分離するのが困難であり、このことが、データ収集のいかなる場合でも非常に複雑な試料および非常に広いダイナミックレンジをもたらす。さらに、無傷のタンパク質は、MSがLCセットアップに連結される場合にソフトイオン化技術として最適な方法であるエレクトロスプレーイオン化(ESI)によって非効率的にイオン化されるに過ぎない。最終的に、無傷のタンパク質は、MS分析側で非常に複雑な同位体パターンをもたらし、質量スペクトルを解釈することを非常に困難にさせている。結果として、完全タンパク質試料のトップダウンプロテオミクスは、広範囲の設定では適用不可能であり、専門の研究室に限定される。
【0009】
ミドルダウンアプローチは、トップダウンプロテオミクスとボトムアッププロテオミクスとの間の非常に魅力的な妥協点を表しており、十分に確立された分析システムと併せて高いシーケンスカバレッジの見込みがある。ミドルダウンアプローチは、ボトムアップアプローチのようであるがより制限された様式でタンパク質消化を包含し、より大きなペプチド断片を狙う。ここで、構造特異的な酵素、例えば抗体分析用のパパインまたはIdSプロテアーゼは多くの場合、タンパク質の1個または数個の部位で選択的に切断するように選択される。しかしながら、主要な課題は、分析されるべき広範囲のタンパク質に一般的に適したプロテアーゼの同定である。この課題は、タンパク質加水分解の化学的手段によってある程度は対処されてきた。
【0010】
タンパク質を加水分解するための古典的な化学的手段は、高温での強酸を包含する。これにより、タンパク質骨格のほぼランダムな切断が引き起こされる。通常、タンパク質は、強酸、例えば高濃度塩酸(10M HCl)中で、達成されるべき分解のレベルに応じておよそ1時間~24時間煮沸される。このプロセスは、酸濃度、温度および時間によって部分的に調節することができるが、加水分解はランダムに起こり、加水分解されたタンパク質の極めて複雑な試料をもたらす。このプロセスは、マイクロ波アシストタンパク質加水分解を使用してより迅速ではあるがあまり合理化されていない様式で実施することができる。ここで、マイクロ波は、水の励起に起因して加水分解の速度を高めるのに使用される。これによって主要な課題は依然として、ランダム加水分解に起因する切断可能性の複雑さである。このことは通常、より最先端のMS装置でさえ、その能力を超える。
【0011】
ボトムアッププロテオミクスで使用されるほとんどのLC-MS装置は、トリプシンペプチド、即ちタンパク質のトリプシンによる消化によって得られるペプチドの同定に関して最適化されている。二重荷電ペプチドイオン(K/R残基にある1つの正電荷、N末端にある1つの正電荷)を生じるおよそ6~40アミノ酸(AA)配列長のペプチド配列は、ESIを介して高解像度質量分析計に連結された逆相(C18)クロマトグラフィーを使用して非常に効率的に分離することができる。より短いペプチド(6個未満のAA)をもたらすプロテアーゼは通常、もはやタンパク特異的ではなく、代わりに多くの考え得るタンパク質に存在するという欠点がある。より長いペプチド(100個を超えるAA)をもたらすプロテーゼは、ペプチドの、逆相クロマトグラフィーカラムへの不可逆的結合、したがって非効率的なESIを引き起こす場合がある。
【0012】
ミドルダウンプロテオミクスの目的は、試料中に存在する全てのタンパク質にわたっておよそ30~100AA長の一様かつ再現性のあるペプチド長を生成することである。これが次に、試料の複雑さを著しく低減させて、シーケンスカバレッジを高めると同時に、逆相クロマトグラフィー、安定なESIおよびMS分析に十分適したペプチド試料を生じる。
【0013】
MS用の試料調製の既知のアプローチの欠点を考慮して、本発明の基礎となる技術的問題は、質量分析計における分析用の試料を調製する改善された手段および方法の提供において理解することができ、かかる方法は、生物学的起源のものを含む、鎖状分子および高分子の断片化を含む。
【発明の概要】
【0014】
本明細書中に包含される実施例からわかるように、この技術的問題は、以下でさらに提示される特許請求の範囲の主題によって解決される。
【0015】
より具体的には、第1の態様では、本発明は、分析手順用の試料を調製する方法であって、上記試料が、少なくとも1つのタンパク質、ポリペプチドまたはペプチド分子を含み、上記方法が、(a)上記分子を少なくとも1つの移動磁性体を使用して断片化することを含む、方法を提供する。
【0016】
「調製すること」という用語は一般的に、その結果が分析され得るように試料を前処理することを指す。通常、タンパク質およびポリペプチドならびにより長いペプチドは、そのサイズが、分析目的、例えば質量分析計での分析にとって最適ではない分子である。少なくともその理由で、試料は一般的に、試料が質量分析計に供給される前に調製の工程を必要とする。かかる調製は、断片化によって行われる分析物分子のサイズの低減を含む。従来、断片化は、プロテアーゼ、例えばトリプシンを添加することによって行われる。プロテアーゼは、断片化の酵素的手段であり、その欠点は、上記導入セクションで概説される。
【0017】
かかる従来技術分野で確立された前処理から逸脱して、本発明による調製することは、少なくとも1つの移動磁性体を用いる。実行の観点から、これは、最も簡単な場合では単一磁石であり得る。この選択肢ならびにそれに対する代替物は、以下でさらにより詳細に記載される。
【0018】
驚くべきことに、本発明者らは、移動磁性体が、断片化、即ち、上記分子中の1つまたは複数の共有結合の破壊を誘発することが可能であることを見出した。このことは、特徴的な利点であり、それらの1つは、上述のプロテアーゼが非必須となることである。実際に、本発明の最も簡素な実行では、化学的または生物学的作用物質は、タンパク質、ポリペプチドまたはより長いペプチドを断片化する目的で全く使用されない。実際に、また本明細書中にて上記で概説されるように、従来技術は、タンパク質を切断するための、生物学的作用物質、より具体的にはプロテアーゼ、例えばトリプシンに依存する。また、化学物質、例えばCNBr等の使用は、その目的で記載されている。他方で、本発明による切断または断片化は、酵素的触媒を用いずに、またタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの切断を誘発する化学的作用物質を用いずに実行され得る。
【0019】
「化学的作用物質」および「化学物質」という用語によって、他の状況では切断が起きないか、または切断が著しくは起きない条件(例えば、外気温、大気圧、水の存在、緩衝液、塩)下で切断を誘発する化合物、例えばCNBrが言及されると理解される(タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを切断することが可能なさらなる化合物は、以下でさらに開示される)。換言すると、かかる化学物質は、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを切断する目的で意図的に添加される。
【0020】
断片化は、安定な断片または存在する他の分子と続いて反応して安定な生成物を生じる中間反応性種を直接もたらし得る。他の分子は、水、またはより一般的に言えば、反応性種と、安定な付加物が形成される限りそれらを形成することが可能な任意の分子を包含し得る。
【0021】
「ペプチド」という用語は、最大30個のアミノ酸の重縮合体を指すのに対して、ポリペプチドは、30個よりも多いアミノ酸構成要素を含む。したがって、「より長いペプチド」は、15個~30個、20個~30個または25個~30個のアミノ酸からなるペプチドを指す。「タンパク質」という用語は、ポリペプチドを包含するが、高次構造、例えば複数の同一のおよび/または異なるタンパク質の非共有結合またはオリゴマーにまで及ぶ。
【0022】
修飾は、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質のいずれか1つ上に存在してもよく、それらが生物系で存在するように翻訳後修飾が挙げられるが、それに限定されない。例として、グリコシル化、リン酸化および親油性部分を用いた修飾、例えばプレニル化が挙げられる。断片化時に、上述の高次構造は、それらがタンパク質(オリゴマー)中に存在し得る場合、一般的に失われるが、必ずしも失われるとは限らない。局所構造、例えば二次構造は、ある特定のドメインまたはモチーフの、同族結合パートナーと相互作用する能力であり得るように保持され得る。
【0023】
構成要素を考慮すると、20個のタンパク質原性アミノ酸が好ましい。さらに、20個のアミノ酸のこのセットに属さないアミノ酸、通常α-アミノ酸は天然に存在し、同様に存在し得る。例として、オルニチン、シトルリン、ヒドロキシプロリン、セレノシステイン、酸化メチオニンおよび脱アミノ化アスパラギンが挙げられる。
【0024】
このレパートリーは、例えば上述の翻訳後修飾によってさらに拡張され得る。これらとして、例えば、セリン、スレオニンおよびチロシンのリン酸化形態、グリコシル化アミノ酸、メチル化リジン、およびメチル化アルギンが挙げられる。
【0025】
アミノ酸間の連結に関して、これは一般的に、1つのアミノ酸のα-カルボキシレートと、続くアミノ酸(NからC末端への方向)のα-アミノ基との間の標準的な主鎖ペプチド結合である。あまり一般的ではないが、想定される連結は、イソペプチド結合、即ち、側鎖アミノ基および/または側鎖カルボキシレートを含むペプチド結合を包含する。
【0026】
本発明の方法による断片化は、主鎖ペプチド結合で起こり得るが、他の結合も同様に断片化し得る。
【0027】
実際に、切断される共有結合は、特に限定されていない。単結合ならびに二重結合および三重結合が包含され、それらは全て、同じタイプ(例えば、C-C結合)または異なる原子(例えば、C-N結合またはC-O結合)の原子間に存在し得る。構成要素を連結する官能基中に見られる結合は、ペプチド結合のほかに、リン酸エステルを含むエステル結合、およびグリコシド結合である。リン酸エステル結合は、例えば、リン酸化Ser、ThrおよびTyr残基に見られ、グリコシド結合は、グリコシル化アミノ酸に見られる。かかる官能基に見られる結合は概して、例えば、C=C結合と比較した場合に、より低い結合エネルギーを有し、したがって、より少ないエネルギーを反応混合物に伝達する様式で作動する場合に本発明の方法を用いて切断するのに適していることが理解されよう。
【0028】
共有結合に含有されるエネルギーは既知であり、これらのエネルギーはまた、特に触媒の非存在下で切断に要されるエネルギーを規定している。ほとんどの共有結合エネルギーは、100~1200kJ/molの区間に収まる。例えば、Chemistry:Atoms First 2e,ISBN 978-1-947172-63-0を参照のこと。共有結合エネルギーの数例を挙げると、C-C結合は、345kJ/mol、C-N結合は、290kJ/mol、C-O結合は、350kJ/molの結合エネルギーを有する。
【0029】
好ましい実施形態では、上記分析手順は、分光測定的および/または分光学的方法である。好ましい分光測定的方法は、質量分析(MS)である。好ましい分光測定的方法として、NMR分光測定法および/またはUV/可視分光測定法が挙げられる。これらの方法に1つまたは複数は、続いて使用されてもよい。MSが特に好ましい。
【0030】
従来の質量分光測定的用途に関して、ペプチドの好ましいサイズ範囲は、5~30アミノ酸である。好ましいメジアンサイズは、約12アミノ酸である。したがって、ペプチドはまた、それらのサイズが上記の当該範囲を上回る限り、分析に先立って断片化されることが好ましいことが明らかである。
【0031】
しかしながら、上記導入部で述べたように、より長い分子、例えば30~100アミノ酸の長さを有するポリペプチドが質量分析計に供給され得る場合(「ミドルダウンアプローチ」とも称される)が存在する。これらの場合、ペプチドは、断片化される必要はなく、ポリペプチドおよびタンパク質が、それらのサイズがこれらの特定の実行に望ましいサイズを超える限り断片化される必要がある。特に、タンパク質断片化の従来技術で確立された手段が満足のいく解決法を提供することができないような場合である。さらに、このサイズ範囲で断片を得ることは非常に望ましい。というのは、それらがより短い断片よりも大きな見込みを有して特有である(単一タンパク質によって特異的である)からである。換言すると、より小さな断片は、良好なシーケンスカバレッジにとって十分である。好適には、本発明はこのギャップを埋める。
【0032】
より一般的に言えば、好ましいサイズ範囲はまた、質量分析に先行する分析方法(通常、液体クロマトグラフィー)の選択に依存する。逆相材料が使用される限り、C18材料は、特にペプチドに適しているのに対して、C8材料はまた、タンパク質に使用され得る。オービトトラップ型装置は、より低い範囲のm/zで最良の解像力を有し、TOF装置は、より高い範囲でそれを行う。「m/z」は、質量(m)対電荷(z)の比を指し、それは、質量分析計におけるイオンの分離を一般的に管理する特性である。
【0033】
m/zに関して、断片サイズの好ましい範囲は、約300トムソン~約1700トムソン(Th)である。上述のミドルダウンアプローチについて、またペプチドイオンがより高度に荷電していると仮定して、好ましい範囲は、約600~約2000Thの範囲である。
【0034】
上記の結果、所定の開始分子に関する断片の所望数は、一方では開始分子のサイズに依存し、他方では所与の状況下で望ましい平均断片サイズに依存する。完全を期すため、所与の分子から得られる断片の数は、特に限定されず、2つの断片から任意のより多い数、例えば、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、20個、50個、100個、200個、500個、1000個またはそれよりも多い断片まで様々であり得ることに留意されたい。
【0035】
所与のタンパク質は、本発明の方法を適用する場合に常に同じ様式で断片化するとは限らないことは、注目すべきことであり、これはまた実施例でも示される。分子種の所与の分子は、同じ分子種の別の分子が同じ条件下で破壊する位置とは部分的にまたは完全に異なる位置で破壊し得る。また、得られた断片の数は異なり得る。このことは、通常またはより大きな見込みで、所与の条件下で所与のタンパク質に関して同じ断片を生じる当該技術分野で確立されたタンパク質消化と比較した場合にさらなる利点である。特に、プロテアーゼは概して、配列依存的な特異性を示すのに対して、本発明の方法は通常、示さないか、あるいはより低い程度で、および/または異なる程度で示す。
【0036】
実施例2に示されるように、本発明の方法は、従来のトリプシン消化の場合の低い2桁数と比較した場合に、約250個のアミノ酸を有するタンパク質の1000個を超える異なる断片を生じる。多種多様な断片は、本発明のさらなる態様であり、以下でさらに開示される質量分析によってデノボシーケンシングを容易とする。
【0037】
本発明の非酵素的および非化学的切断のプロセスにより、これまで達成できなかった断片化パターンが生成され得る。この状況において、「断片化パターン」という用語は、断片化の部位ならびに所与の分子から得られる断片の平均サイズおよびサイズ分布の両方を指す。
【0038】
「少なくとも1つのタンパク質、ポリペプチドまたはペプチド分子」という用語は、正確にまたはおおよそ1つの分子を使用する用途を包含し、「単一分子用途」とも称される。個々の分子を研究または対処する必要性が存在しないが、少数の分子を断片化する必要性が存在する場合、1fmol~1μmolの量は、「少なくとも1つの分子」という用語に包含される。また、例えば分子種1個当たり1μmol~106molの範囲の巨視的量が包含される。
【0039】
切断されるべき分子は、単一分子種に属し得るか、より密接に関連した分子もしくはあまり密接に関連しない分子のファミリーを形成し得るか、または完全プロテオームであり得る。実際に、プロテオームの分析は、特に関心が持たれ、質量分析が特に適切である分野である。さらに、実際の質量分光分析につながる試料調製のプロセスについて、完全の余地が見られる。これは、本発明の断片化の新規方法によって対処される。
【0040】
「質量分析計」という用語は、その技術分野で確立された意味を有し、特に限定されない。「質量分析計」という用語は、比m/zに基づいて、荷電された分析物を分離することが可能なデバイスを指し、mは、上記分析物の質量であり、zは電荷(単位:トムソン)である。上記から明らかであるように、質量分析計に供給されるべき分析物は、断片化によって得られるペプチド(および場合によってはポリペプチド)である。質量分析計は概して、上述の分離を実施するデバイスのほかに、試料中に含まれる分析物のイオン化用のデバイスを含む。さらなる構成成分は、イオンを貯蔵または濾過するための手段であり得る。
【0041】
好ましい実施形態では、加工処理されるべき試料は液体である。液体の取り扱いは、コンテナによって容易となる。したがって、好ましい実施形態では、上記少なくとも1つの分子および上記少なくとも1つの磁性体は、反応器中に位置される。「反応器」という用語は本明細書中で使用される場合、一般に上記少なくとも1つの分子および上記少なくとも1つの磁性体が位置されて、本発明により相互作用する(「反応する」)ことが可能であるエンクロージャーまたはコンテナを指す。他の場合では、この用語は特に限定的ではなく、容器、閉じた底部を有する容器、蓋を有する容器、閉じた底部と蓋を有する容器、完全に閉じたか、または密封された容器、管状要素、および適切に設計された反応器を通って連続的な液体流を可能にする少なくとも2つの開口部を有する要素を包含する。反応器はまた、マイクロ流体デバイス、即ち、任意選択で広がりまたは容器および/またはバルブを有する開口部を有する1つまたは複数のチャネルを含む小型化デバイスとして実装されてもよい。
【0042】
本発明者らは、核酸が磁性断片化に同様に適していることを見出した。したがって、本発明は、関連態様では、分析手順用の試料を調製する方法であって、上記試料が、少なくとも1つの核酸分子を含み、上記方法が、(a)上記分子を少なくとも1つの移動磁性体を使用して断片化することを含む、方法を提供する。
【0043】
「核酸」という用語は、その一般的な意味を有する。「核酸」という用語は、DNAおよびRNAならびにキメラ分子を包含する。長さの観点で、「核酸」という用語は、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドを含む。また、特定の機能および/または特定の構造的特徴を有するRNA分子、例えば、mRNA、tRNA、siRNAおよびmiRNAが包含される。
【0044】
好ましい実施形態では、上記磁性体は、(a)単一磁石、または(b)その少なくとも1つが磁石である粒子の集合体であり、上記粒子の集合体は、上記少なくとも1つの磁石の磁場によって媒介される。簡潔に述べると、磁場において、得られた集合体は、本質的に単一磁石のように挙動する。詳細に関しては、さらに以下を参照のこと。サイズの観点で、上記粒子は、断片化されるべき分子よりも大きい(また、上記方法が実施される容器または反応器よりも小さい)。
【0045】
磁石は、フェリ磁性材料、強磁性材料または常磁性材料の一片である。単一磁石のサイズは、大きく異なってもよく、使用されるべき反応器または容器の寸法に応じて適切に選択され得る。以下でより詳細に論述されるように、本発明の方法を実施する場合、好ましくは、断片化されるべき少なくとも1つの分子および少なくとも1つの磁性体を保持する反応器または容器が用いられる。
【0046】
相対的サイズに関して、磁性体の最大寸法が、上記反応器もしくは容器中の最小通路または断面を通り抜けることが好ましい。最小寸法よりも小さいことは、好ましくは、上記反応器、容器もしくは管の上記最小寸法または断面の2/3、1/2、1/3、1/4、または10%を意味する。かかる機構は概して、自由な運動または実質的に自由な運動を提供する。好ましくは、自由な運動または実質的に自由な運動は、併進運動および回転運動の少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個もしくは好ましくは6個全ての軸の周囲で、またはそれらに沿って起こり、好ましくは、上記自由な運動または実質的に自由な運動は、少なくとも2つの軸に沿った併進を含む。
【0047】
点状の物体に関して説明するために、3つの運動の自由度、すなわち3次元空間に及ぶ3つの独立した方向での併進が存在する。拡張物体に関して、回転の3つの独立した軸に関して規定され得る3つのさらなる自由度が存在する。
【0048】
存在する限り、反応器中の他の材料または反応混合物は、磁性体のサイズを選択する際に考慮される可能性があり、かかる他の材料は、切断されるべき分子および/または非磁性粒子(非磁性ビーズとも称される;さらに以下を参照)のほかに試料のさらなる構成成分を含む。
【0049】
完全を期すため、有用な磁石のサイズの例示的な値は、本明細書では0.1mm~10cm、例えば0.2mm~2cm(それにより規定される下記の値および範囲のいずれかを包含する:0.3cm、0.4cm、0.5cm、0.6cm、0.7cm、0.8cm、0.9cm、および1cm)が挙げられる。同じ好ましいサイズおよびサイズ範囲が、本明細書中で考慮される任意の磁性体に適用され、また複数の磁性体および/または磁石が使用される実行にも適用される。概して、これらの長さは、上記磁性体の最大伸長を指す。
【0050】
あるいは、複数の磁石、例えば上記で規定されるものが使用され得る。例示的であるが、非限定的な数は、1桁および2桁の範囲に存在し、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、および10である。また、10個よりも多い磁石、例えば20個、30個、40個、または50個の磁石が使用されてもよい。これらの数は、容器または反応器の配置(例えば、マイクロタイタープレート)が使用される場合にも、1つの反応器または容器を指す。
【0051】
磁性体または磁石の数は、それが明記される限り限定的であることが理解されよう。換言すると、第1の態様の方法が他の方策を含み得る一方で、かかる可能性は、明らかに明記される場合よりも多くの磁性体または磁石が存在しているという選択肢にまで及ばない。
【0052】
かかる複数の磁石の磁石は、互いに同一であってもよく、または異なってもよい。
複数の磁性体が使用されるべきである限り、一般に同じことが磁性体に適用される。特定の例を挙げると、単一磁石は、単一の強磁性またはフェリ磁性ビーズと組み合わせてもよい。このことは、磁石のより厳密な運動を提供する一方で、磁場を制御するパラメーターは変化されないままである。
【0053】
上記磁石の形状に関して、特に限定は存在せず、磁石の自由運動を負に妨害しない形状が優先される。例示的な形状として、スティック、棒、ロッド、先端が丸いロッド、立方体、直方体、角柱、球体、長楕円体および扁平楕円体、ディスク、4面体、8面体、12面体、および20面体が挙げられる。
【0054】
かかる機構は、依然として、上記で開示される「集合体」と区別されなくてはならない。後者は、粒子の数、通常大数(例えば、100個または1000個)が単一または数個(例えば、10個)の磁石(場合によっては本発明による磁場によって強化される)の影響下で本質的に単一磁石のように挙動する単一磁性体へと集合する機構を指す。完全を期すため、同様に、それぞれまたは一部が上述するような集合体に起因する複数の磁性体が用いられ得る。しかし、このことは、多くの状況下ではあまり可能性が高くない。特に、これが起きることを防ぐための方策が行われない場合、1つよりも多い集合体を同じ反応器または容器に配置させることにより、単一のより大きな集合体(これはまた、次に磁場中で一度磁石のように挙動する)の形成が引き起こされ得る。
【0055】
さらに好ましい実施形態では、(a)上記磁石は、強磁性材料もしくはフェリ磁性材料を含むか、または強磁性材料もしくはフェリ磁性材料からなり、(b)上記で規定されるような上記集合体の粒子は、強磁性材料、フェリ磁性材料、超常磁性材料、常磁性材料および/または反磁性材料から選択される材料を含むか、あるいは強磁性材料、フェリ磁性材料、超常磁性材料、常磁性材料および/または反磁性材料から選択される材料からなり、および/または(c)上記磁石および/または上記粒子は、好ましくは(i)化学的安定性を付与するコーティング;(ii)機械的安定性または硬度を付与するコーティング;(iii)触媒によるコーティング;(iv)核酸、例えばプローブおよび/またはプライマーによるコーティング;(v)キレート剤、例えばIMAC、TiO2およびZrO2によるコーティング;(vi)好ましくは(1)逆相基、例えばC18、C8、ベンゼン、(2)HILIC基、例えば水酸基、(3)陽イオン交換基、例えばスルホン酸、リン酸、カルボン酸、(4)陰イオン交換基、例えば第1級、第2級、第3級および第4級アミノ基、および(5)(1)~(4)のいずれか1つの任意の組合せから選択されるクロマトグラフィー材料によるコーティング;(vii)好ましくはグロブリン、特に免疫グロブリン、ストレプトアビジン、ビオチン、プロテインA、プロテインGから選択されるリガンド結合タンパク質および/またはそれらの同族リガンド、酵素、例えば、酸化還元酵素、トランスフェラーゼ、リガーゼ、例えばポリメラーゼ、ヒドロラーゼ、例えばプロテアーゼ、ペプチダーゼ、ヌクレアーゼ、サッカリダーゼ、リパーゼ、リアーゼおよびイソメラーゼによるコーティング;および(viii)(i)~(vii)のいずれか1つの組合せから選択されるコーティングでコーティングされる。
【0056】
上記磁石に適した材料として、下記元素およびそれらの合金が挙げられる:ネオジム-鉄、ネオジム-鉄-ホウ素(例えば、Nd2Fe14B)、コバルト、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、鉄、ニッケル、酸化鉄、マンガン-ビスマス、マンガン-アンチモン、マンガン-ヒ素、イットリウム-酸化鉄、酸化クロム、酸化ユウロピウム、およびサマリウム-コバルト。特に好ましい材料は、ネオジム-鉄およびサマリウム-コバルトである。
【0057】
あまり好ましくはない実施形態では、「磁石」と称されるものはまた、特に常磁性材料の磁化率が高い場合には、かかる常磁性材料を使用して実装され得る。
【0058】
(c)(i)による適切なコーティングとして、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、パリレン、窒化チタン、ポリイミド、クロロポリマー、およびフルオロポリマー、好ましくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。
【0059】
さらに好ましい実施形態では、上記少なくとも1つの磁性体は、変動運動または振動運動を遂行し、好ましくは、上記運動は、変動磁場または振動磁場によって誘発され、好ましくは、上記磁場は、電流および/または電磁石によって生成される。
【0060】
さらに好ましい実施形態では、上記磁性体は、上記分子と衝突する。
さらに好ましい実施形態では、少なくとも1つの磁性粒子が存在し、上記磁性体の上記運動は、上記少なくとも1つの非磁性粒子と上記分子との衝突を誘発する。
【0061】
後者の2つの実施形態は、代替法として実施され得る。第2の2つの実施形態に関して、実に、上記少なくとも1つの非磁性粒子が上記分子と衝突するだけでなく、上記磁性体と衝突することは注目すべきことである。換言すると、磁性体は、上記少なくとも1つの非磁性粒子と上記分子との衝突の誘発として作用するが、さらに、上記分子との直接衝突を実施する場合もある。これらの効果は全て、一般的に断片化に寄与する。
【0062】
「衝突」という用語は、一方で上記磁性体または上記非磁性粒子および他方は上記分子の一時的かつ十分な空間的近接の状況を指す。かかる状況下で、運動エネルギーを含むエネルギーを上記分子に伝達する。次に、伝達されたエネルギーは続いて、上記分子の断片化を誘発するか、または上記分子の断片化に寄与する。
【0063】
上記非磁性ビーズは、任意選択で磁性体中に含まれる粒子とは異なり、さらに、分析で一般的に使用されるような常磁性ビーズとも異なる。非磁性ビーズは、セラミックビーズ、ポリマービーズ、ガラスビーズ、または金属ビーズであってよく、金属は、非磁性金属である。サイズに関して、非磁性ビーズは好ましくは、1μm~5μm、例えば0.1mm~0.2mmの範囲である。また、上記非磁性粒子は、磁性体または磁石のサイズと比較した場合に、同じであるか、または類似したサイズ範囲を有することが好ましい。
【0064】
運動に関して、磁性体は、上下および前後に動き、運動は、規則的または反復性構成成分を有し得るが、それらを有する必要はなく、空間方向は特に限定されない。また、磁性体は、通常併進運動のほかに、1つまたは複数の軸に関して回転してもよい。想定される運動のタイプのより正確な説明のために、さらに以下を参照のこと。反応器、即ちコンテナ、エンクロージャーまたは容器が使用される限り、磁性体は、上記反応器の壁に当たり得るか、または繰り返し当たり得るが、そうする必要はない。したがって、磁性体は、いつでも運動している(本発明の方法の特定の実行が、他の場合、例えば間欠的な運動を明記しない場合)が、かかる運動は好ましくは、定方向の運動ではない。また、上記運動は、場合によっては不規則的であるが、一般に上述のエンクロージャーまたはコンテナ内に位置される平均位置に関して行われ、磁性体は、反応器を離れない。磁性体の運動は概して、1つまたは複数の併進構成要素を有し、上記平均位置は、上記反応器の中央辺りに存在し得る。したがって、運動は、回転であるマグネチックスターラーによって実施される運動とは異なり、磁石の平均位置は、混合または攪拌されるべき液体を含有する容器の底部にあるか、または底部に近い。
【0065】
「振動」という用語は、規則的な運動を指すのに対して、「変動」は、より広く、不規則な運動も包含する。その点で特に優先されない。実際に、多くの場合磁石は、切断されるべき分子と衝突するだけでなく、磁性体および分子を含有するのに使用される反応器またはエンクロージャーの少なくとも1つの壁とも衝突することを考慮すると、不規則な運動がより頻繁に起きる。いずれの場合でも、複数の分子またはその巨視的量が本発明の方法によって加工処理される限り、その磁性体が、一般的に繰り返し上記分子と、また切断されるべき全ての分子または実質的に全ての分子と繰り返し、接触するようになることを、運動は確実にする。上述するように、上記磁性体の運動はまた、上記分子と、さらなる磁性体および/または非磁性粒子との衝突を、それらが存在する限り引き起こし得る。
【0066】
上述するように、磁性体の運動は好ましくは、変動または振動磁場によって誘発される。
【0067】
磁場は、磁石の位置および/または運動を制御する一般的な手段である。本発明に従って磁性体が運動することを考慮すると、この好ましい実施形態において変動または振動磁場が使用される。任意のかかる磁場が、有用であり得る。
【0068】
電流によって生成される上記磁場は好ましい。電場および磁場が相互関係のあること、特に電流が磁場を生成することは十分に確立されている。結果として、電流を制御することは、それにより生成される磁場を制御する手段である。
【0069】
あるいは、またはさらに、あまり好ましくはないが、上記磁場は、それぞれ、外部磁石によって生成または調節され得る。「外部」という用語は、かかる磁石が上記反応器内に位置されないことを意味する。外部磁石は、永久磁石であってもよい。永久磁石を使用する場合、それにより生成される磁場は、上記少なくとも1つの磁性体に関して上記外部磁石の相当する動きによって変動または振動させてもよい。
【0070】
好ましい実施形態では、上記磁場は、電磁石によって生成される。本明細書中で使用する場合、「電磁石」という用語は、その最も簡素な実行では、使用時に電流が流れる導電体の一部分を包含する。磁場のより良好な制御のために、またはより強力な磁場を生成する目的で、さらに以下で開示される好ましい実施形態の主題である電磁石の特定の実行が想定される。
【0071】
好ましい実施形態では、上記電流は、変動または振動する。この挙動はまた、一般的な「波」と称され得る。電流の量は、アンペア数として知られている。
【0072】
好ましい実施形態では、時間の関数としての上記電流のアンペア数は、(i)矩形関数、(ii)正弦関数、(iii)三角形関数、(iv)鋸歯状関数、または(v)(i)~(iv)のいずれか1つの組合せもしくは畳み込みである。
【0073】
電流が振動または変動することを考慮すると、これはまた、パターン(i)~(v)に当てはまり、即ち、上記矩形関数および上記三角形関数は、実際に反復性矩形関数および三角形関数である。「パターン」という用語は、所与の基礎的な事象が少なくとも1回繰り返される一連の事象を指す。より広義では、反復は、正確な反復である必要はなく、例えば時間グラフにおける長方形の長さは変化し得る(これは、効果的に周波数の変化となり、好ましい周波数ならびに周波数の好ましい時間依存性は、さらに以下で明記される)。
【0074】
実施形態(i)~(v)は全て、本明細書中の「交流電流」とも称される。
上記矩形関数(矩形波または方形波とも称される)、より具体的には反復性矩形関数のパターンが特に好ましい。驚くべきことに、本発明者らは、このパターンが磁性体の特に活発な運動を誘発し、かかる活発な運動が、切断に関して特に効率的であることを見出した。上記矩形関数では、高電流および低電流(または電流がオフである状態)の時間間隔は、同じであってもよく、あるいは異なってもよい。上記時間間隔の長さを制御する手段、例えば、パルス幅変調(PWM)と称されるものが当業者に既知である。反応混合物に伝達されるエネルギーは、電流の周波数および振幅によってのみ管理されるのではなく、上記時間間隔の相対的持続期間によってもまた管理されることは注目すべきことである。
【0075】
第1の態様の方法のさらに好ましい実施形態では、上記衝突することは、少なくとも1つの共有結合を切断するのに十分であるエネルギー量を上記分子に伝達する。衝突が、エネルギーをある物体から別の物体に伝達する手段であることは、十分に確立されている。受容物体によって受容されたエネルギーは、上記物体(ここでは分子)の内部エネルギーに変換されて、その断片化を誘発し得る。
【0076】
上記で開示される好ましい実施形態は、選択される特定の実行の全体的な結果を明記するための手段である:切断されるべき分子に伝達されるエネルギーは、上記分子中の少なくとも1つの共有結合が解離に必要とされるエネルギー量を受容するようであり得る。
【0077】
推定で、磁性体によって共有結合に伝達されるエネルギー量は、磁場によって磁性体に伝達されるエネルギーに等しいか、またはそれ未満である。単位容積当たりの磁場中のエネルギーは、Emag=1/2 B2/μ0で定義され、Bおよびμ0の定義に関しては、さらに以下を参照のこと。続いて、Emagは、磁場を引き起こす電流のエネルギーに等しいか、またはそれ未満である。後者のエネルギーは、Ecurr=UItと推定することができ、Uは電圧であり、Iは、磁場を生成する電流のアンペア数であり、tは、電流が流れる時間である。換言すると、B、U、Iおよびtのいずれか1つを制御することは、磁性体によって共有結合に伝達されるエネルギー量を制御する手段である。
【0078】
しかしながら、第1の態様の方法の詳細な実行を明記する他の手段が存在する。これは、より直接的に制御または測定することができる複数のパラメーターの1つまたは複数を明記することを包含する。これらのパラメーターは、電流の周波数およびアンペア数を包含し、さらに、使用される限り、反応器およびコイルの寸法を包含し得る。また、好ましくは磁性体の部位にある磁場の強度は、実行の詳細を量的に明記する手段を包含する。これらの事例全てにおいて、上記要件(結合を切断するのに十分なエネルギーの伝達)が確実に満たされるパラメーター値またはパラメーター値の組合せが好ましい。下記において、上述のパラメーターの好ましい範囲が明記される。
【0079】
好ましい実施形態では、上記電流は、所与の周波数、好ましくは0.1Hz~20MHzの周波数、より好ましくは10Hz~2kHz、さらに好ましくは50~500Hzまたは90~300Hzまたは100~200Hzで変動するか、または振動する。これらの尺度は、正弦電流にだけでなく、例えば反復矩形パターンを含む本明細書中に明記される電流プロファイル全てに当てはまることが理解される。周波数という用語はまた、変動、即ち、規則的(かかる規則的な時間挙動はまた、本明細書中では「振動」と称される)でない時間依存的な挙動にも当てはまる可能性があり、変動の時間尺度を特性化するための手段である。かかる場合では、「周波数」という用語は、変動の平均周波数について言及していると理解される。
【0080】
少なくとも1桁~2桁のmL範囲の容積を有する反応器に関して、ならびに標準的な96ウェルプレートのウェルに関して、80~300Hzのより低い周波数が特によく機能するのに対して、より著しく高い周波数、例えばおよそ1000Hzは、磁性体の振動を誘導すると同時に、反応器の容積の相当部部分を網羅する運動の完全範囲を誘発し得ないことがわかる。これは、より高い周波数が有益ではないことを意味しない。また、より高い周波数は、より低い周波数と併せて使用されてもよい(以下を参照)。
【0081】
より一般的に言えば、より好ましい周波数範囲は、磁性体が振動または回転するだけでなく、本発明の方法で加工処理されるべき材料の全体の容積または実質的に全体の容積を探索する併進運動も実施することを確実にする範囲である。反応器および溶液または懸濁液中の加工処理されるべき材料を活用する実施では、上記容積は、上記反応器中に含有されるような上記溶液または懸濁液の総容積である。換言すると、1桁~2桁のmL範囲の容積を有する反応器および96ウェルプレートに関してガイダンスが上記で付与される一方で、周波数範囲は、より著しく小さな容積、より著しく大きな容積、または特殊な幾何学を有する反応器に対する適応を必要とし得る。一例を挙げると、より小さな容積、例えば高密度マイクロタイタープレート(例えば、1536ウェルプレート)のウェルに関して、例えば約1kHz、例えば200Hz超のより高い周波数は、より大きな容器中でより小さな周波数で見られる運動に匹敵する磁性体の運動を引き起こすと予想される。いずれの場合でも、本明細書中に付与されるガイダンスを提供された当業者は、上記少なくとも1つの磁性体の運動を制御するパラメーターを直接的な様式で探索および最適化することができる。上記でさらに説明されるように、好ましくは回転のほかに、併進運動を実施する磁性体が好ましい。
【0082】
好ましい実施形態では、上記周波数は、上記方法が実施される間ずっと、一定に保たれる。
【0083】
代替的な好ましい実施形態では、上記周波数は、時間の関数として変化する。
さらに好ましい実施形態では、1つよりも多い周波数が、所与の時点で適用される。かかる場合において、かかる複数の周波数の各周波数は、上記で付与される好ましい間隔のいずれかから選択され得る。2つの周波数の場合、第1の周波数は、50Hz~500Hzであり、第2の周波数は、80Hz~20MHzであることが特に好ましい。換言すると、この好ましい実施形態は、複数の周波数の重ね合わせを提供する。
【0084】
1つよりも多い周波数は、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個および10個の異なる周波数を含む。かかる複数の周波数は、単一の周波数に代わって全体にわたって提供され得る。これは、かかる複数の周波数が、上記方法の全体的な実施中に適用されることを意味する。また、複数の周波数、または異なる複数の周波数は、より長い期間内に異なる時間間隔で適用され得る。上記より長い期間内に、また1つよりも多い周波数が適用される時間間隔のほかに、1個または複数個の、例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、または10個の時間間隔が存在してもよく、その時間間隔では唯一の周波数が適用される。
【0085】
驚くべきことに、本発明者らは、1つよりも多い周波数が適用される管理体制が、収量に関してより優れて機能することを見出した。「収量」は、上記方法の最初にある(断片化されていない)分子の総数と比較した、断片化された分子の相対量を指す。
【0086】
さらに好ましい実施形態では、上記周波数(単数)は経時的に一定でなく、また1つよりも多い周波数の場合には、周波数(複数)は経時的に一定でなく、好ましくは周期的な様式で、2つまたは複数の周波数間で切り換えられるか、または徐々に変化されることが好ましい(単数/複数)。
【0087】
例示的な管理体制は、(120Hz~1000Hz)n、(200Hz~1000Hz)n、または(100Hz~800Hz)n(式中、nは、例えば2~1000、例えば10~100の整数であり、括弧内の周波数パターンが反復されるべき回数を明記している)である。
【0088】
一定の周波数および/または一定のアンペア数を用いた場合の時間間隔の持続期間は、特に限定されない。1秒~1日、例えば1分~1時間の時間間隔が想定される。
【0089】
さらに好ましい実施形態では、上記電流は、(a)20mA~100A、好ましくは0.1~20Aのアンペア数Iを有し、(b)上記磁石を、0.02~109A/m、好ましくは10~106A/mの磁場強度に曝露し、および/または(c)1秒~1週間、例えば10分~5時間の期間tの間適用される。
【0090】
上記で開示されるように、時間の関数としてのアンペア数は、本明細書中で開示される周波数によって管理される時間尺度で変動し、変動の時間尺度に関して一定のアンペア数は存在しないことに留意されたい。さらに、実用的な目的で、また電気力学における慣行と合致して、交流電流は、その平均アンペア数に関して定量化され得る。上記値は、そういう意味では平均アンペア数である。平均は好ましくは、変動の時間尺度を上回ることは注目すべきことである。つまりは、断続電流が使用される限り、電流がオンである場合には好ましくは上記で明記される範囲内に平均アンペア数が存在し、電流がオフである場合にはアンペア数ゼロが存在する。
【0091】
磁場強度Hは、磁場の強さを決定し、1メートル当たりのAで測定される。Hは、電流の磁場を強化するのにコアが使用される状況で特に関連のある磁束密度Bとは区別されなくてはならない。以下を参照のこと。
【0092】
好ましい実施形態では、変動または振動の振幅は、(a)一定であるか、または(b)好ましくは上記変動または振動の時間尺度よりも遅い時間尺度で、経時的に変化する。
【0093】
この実施形態は、上記電流の運動の振幅を指す。電流の振動または変動の振幅は、アンペア数によって管理される。
【0094】
さらに好ましい実施形態では、上記電流は、断続的であり、および/または上記アンペア数は、好ましくは周期的な様式で経時的に変化する。経時的なこの変化は概して、交流電流の周波数によって規定される時間尺度よりも遅い時間尺度に関する。換言すると、交流電流が、この実施形態の意味で経時的に変化する場合、電流の時間依存性は、2つのパターンまたは波:交流電流に固有である一般的に早い変動、および一般的により遅い変化の重ね合わせである。
【0095】
例示的な断続パターンは、オン(1分)-オフ(1分)の連続の反復である。他の好ましい時間間隔は、上記で付与されている。断続パターンの利点は、特に反応器の内容物が加熱していることが観察される場合に温度を一定または実質的に一定に保つことが可能である。
【0096】
さらに好ましい実施形態では、0~1000W、好ましくは1~200Wの力が適用される。
【0097】
さらに好ましい実施形態では、電流は、電源によって電力を供給される。好ましくは、電源は、約0~240V、例えば0.1~75Vの範囲で電位または電圧Uを有する。これらの値は、適用される平均電圧を指す。
【0098】
さらなる好ましい実施形態では、上記電磁石は、少なくとも1つのコイルを含み、好ましくは、上記コイルは、(a)複数の、例えば1~104個、好ましくは10個~1000個の巻き線を有し、および/または(b)少なくとも1つのヘルムホルツコイルを含み、および/または(c)少なくとも1つのコアを含む。
【0099】
複数のコイルの例示的な数は、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、20個、50個、100個、150個、200個、300個、400個および500個である。
【0100】
「ヘルムホルツコイル」という用語は、当該技術分野で確立されており、回転対称の軸が一列に並ぶか、または同一空間を占めるように間隔をあけて配置される通常2つの同一コイルの配置を指す。コイル間の空間にある磁場は、特に均質であり、および/または特に強力である。少なくとも1つのヘルムホルツコイルの配置は、2つのヘルムホルツコイルであってもよい。
【0101】
複数のコイルのさらなる配置は、特に均質な磁場の拡張された空間領域を提供することが知られている。さらなる例は、マクスウェルコイルである。
【0102】
コアは、磁場の影響を強化する働きをする。コアは、好ましくは強磁性材料、例えば鉄、特に軟鉄で作製される。磁束密度Bは、下記の通りに磁場強度に関連される:B=μrμ0Hである。μ0は、真空の透磁率、したがって基本的な物理定数である。他方でμrは、比透磁率であり、磁場の影響下での所与の材料、例えば強磁性コアによる磁束密度の強化の度合いを決定する。通常、コアとして使用されるべき強磁性材料に関するμrは、103~106、例えば200000~400000、例えば約300000である。適切なコア材料は、粉末金属、積層金属、焼き鈍し金属、例えば焼き鈍し鉄、セラミック、および固体金属を含む。
【0103】
コアの非存在下でのBの好ましい値は、10-8~104テスラ(T)、例えば10-5~1Tである。特定の比透磁率を有するコアが使用される場合、Bの値は、上記比透磁率を用いて乗じられ得る。したがって、コアの存在下でのBの好ましい値は、10-2~109、例えば、1~106Tである。概して、これらの値は、磁性体の部位での、または上記反応器内でのBを指す。
【0104】
幾何学に関して、好ましいコイルは円形である。好ましい直径は、1mm~1mまたは1mm~0.5m、例えば2mm~300mmまたは2mm~200mmである。また、異なる幾何学、例えば正方形、長方形または三角形のコイルも想定される(即ち、巻き線の全てまたは一部が、正方形、長方形または三角形である)。最終的に、コイルは、電磁石に不可欠な要件ではなく、また2つの逆平行ワイヤの配置が使用されてもよいことは注目すべきことである(「逆平行」は、所与の時点で2つのワイヤを流れる電流の方向について言及している)。
【0105】
さらに好ましい実施形態では、1つよりも多いコイル、好ましくは2個~104個、例えば2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、もしくは10個のコイル、または10個~1000個のコイルが使用される。コイルはそれぞれ、1つまたは複数の巻き線を有し得ることが理解され、巻き線の好ましい数は、本明細書中で上記に開示されている。
【0106】
さらに好ましい実施形態では、得られた断片は、質量分析に適している。これは、上述される事項、即ち、断片化は、そのサイズが質量分析による分析に特に適している部分を得る手段であることと一致している。どのサイズ範囲が最も適切であるかは、当該用途に依存する。上記磁性体の運動を制御する上記で開示されるパラメーターは、得られる断片のサイズを制御する手段である。
【0107】
さらに好ましい実施形態では、上記試料は、生物学的起源を有し、好ましくは、(i)上記試料は、上記分子の溶液もしくは懸濁液であるか、または上記分子の溶液もしくは懸濁液を含み、例えば、上記試料は、精製形態の上記分子、タンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドの混合物を含むか、あるいは血液、血清、血漿、脳脊髄液、痰もしくは尿等の体液であるか、または血液、血清、血漿、脳脊髄液、痰もしくは尿等の体液を含み、(ii)上記試料は、原核細胞もしくは真核細胞等の細胞であるか、または原核細胞もしくは真核細胞等の細胞を含み、例えば、上記試料は、細胞の懸濁液であるか、または細胞の懸濁液を含み、(iii)上記試料は、ウイルスであるか、またはウイルスを含み、例えば、上記試料は、ウイルスの懸濁液であり、および/または(iv)上記試料は、組織、例えば、筋肉組織もしくは脳組織であるか、または組織、例えば筋肉組織もしくは脳組織を含む。
【0108】
特に好ましい実施形態では、上記試料は、健常な生物、罹患生物または刺激、化学物質もしくは薬物に曝露された生物由来である。複数の状態にわたって完全プロテオームを比較すること(健常対罹患;刺激への曝露前対後)は、診断学の分野では特に興味がもたれ、本発明から利益を得る。刺激として、温度またはその変化、気体の濃度またはその変化、およびUV照射への曝露が挙げられ得る。
【0109】
さらに好ましい実施形態では、上記試料は、細胞、および/または組織を含み、上記細胞または上記組織は、上記運動によって溶解される。本発明者らは、細胞材料が移動磁石の影響下で溶解され得ることを先に認識していた。その全体が参照により援用される国際公開第2020/002577号を参照のこと。
【0110】
別の好ましい実施形態では、上記試料は、ウイルスを含み、上記ウイルスは、上記運動によって不活性化または崩壊される。
【0111】
ウイルスを考慮して、また上記方法が、ウイルスを崩壊すること、ならびにそれらのタンパク質を断片化することの両方を提供することに注目すると、本発明はまた、エピトープマッピングの利便性の高い方法を提供する。当該技術分野で既知であるように、エピトープは、抗体によって認識される部分である。エピトープは、一次配列において近接している一続きのアミノ酸であり得るが、そうである必要はない。3次元エピトープの場合、一次配列において互いと分離される配列は、フォールディング時に、最終的に空間的近接に至り、それによりエピトープを規定し得る。
【0112】
「抗体」という用語は、特に限定されない。好ましい抗体は、好ましくは哺乳動物またはヒト起源の、天然に存在する全てのファミリーの免疫グロブリン、例えばIgG、IgM、IgEを包含するが、ラクダ類の抗体および天然に存在しない構造を有する抗原結合分子(抗体の断片、単鎖抗体、標識抗体、抗体のコンジュゲート、例えば抗体-薬物コンジュゲート等)も包含する。
【0113】
本発明のエピトープマッピングの例示的な方法は、ウイルスに適用される第1の態様の方法、続いて目的の1つまたは複数の抗体を、断片の得られた混合物に添加すること、断片の、上記1つまたは複数の抗体への結合を可能にすること、および結合された断片を、好ましくは質量分析によって同定することを含む。
【0114】
好ましくは、抗体はビーズにカップリングされる。これにより、それらの取り扱いが容易となる。抗体は、ある特定のウイルス病原体に対して免疫を生じる個体に由来し得る。
【0115】
また、上記結合を可能にすることの後に、得られた抗体-断片複合体は洗浄されることが好ましい。これにより、抗体に結合しない断片が除去される。
【0116】
同定に先立って、結合断片を溶出することが好ましい。これにより、抗体-断片複合体はばらばらになり、結合断片の下流加工処理が可能となる。
【0117】
全ての結合断片を知ることによって、エピトープが同定されるか、または少なくともエピトープが位置される領域が明らかになる。
【0118】
したがって、本発明は、エピトープをマッピングする方法を提供し、上記方法は、上記エピトープを含むタンパク質を、少なくとも1つの移動磁性体を使用して断片化することと、少なくとも1つの目的の抗体を添加することと、上記抗体に結合する断片を、非結合断片と分離することと、上記抗体を結合する上記断片を同定することとを含む。
【0119】
好ましくは、上記タンパク質は、ウイルスタンパク質、より好ましくはカプシドタンパク質である。
【0120】
注目すべきことに、ウイルスタンパク質は、ウイルス粒子の状況では提供される必要はない。これは、エピトープマッピングがまた、ウイルスタンパク質または出発材料としてのすでに崩壊されたウイルスを使用して実施されてもよいことを意味する。
【0121】
代替法では、抗体は、担体上に固定化され得ないか、またはマトリックスもしくは粒子に結合され得ないが、本発明の方法によって得られる断片は、担体上に固定され得るか、またはマトリックスもしくは粒子に固定され得る。かかる担体、マトリックスまたは粒子は、特定の断片に結合することが可能な抗体を捕捉するのに使用され得る。さらなる代替法では、固定化は完全に省かれてもよい。
【0122】
相互作用マッピングの概念は、抗体/抗原相互作用に制限されない。実際に、上記方法は、タンパク質/タンパク質相互作用を一般に特性化するのに用いられ得る。
【0123】
したがって、本発明は、第2のタンパク質もしくは結合パートナーに結合することが可能であるか、または可能であると思われる第1のタンパク質上の部位を同定する方法であって、上記方法が、上記第1のタンパク質を、少なくとも1つの移動磁性体を使用して断片化することと、上記第2のタンパク質または上記結合パートナーを添加することと、上記第2のタンパク質または上記結合パートナーに結合する断片を、非結合断片と分離することと、上記第2のタンパク質または結合パートナーを結合する上記断片を同定すること、それにより上記部位を同定することとを含む、方法を提供する。
【0124】
「結合パートナー」という用語は、列挙される「第2のタンパク質」よりも一般的である。実際に、この方法は、タンパク質間相互作用に限定されず、タンパク質-核酸相互作用およびタンパク質-小分子相互作用に拡張され得るか、または代わって適用され得る。
【0125】
さらに好ましい実施形態では、上記磁場は、上記磁性体の少なくとも2つの運動を誘発し、上記運動は、それらの運動エネルギーが異なり、上記少なくとも2つの運動は、同時に、または異なる時間間隔中に行われる。
【0126】
この実施形態は、磁性体が試料に行うことの微調整を提供する。
一例は、細胞の付随する溶解ならびに上記細胞中に含まれるタンパク質、ポリペプチドおよびペプチドの断片化である。溶解されるべき細胞の型に応じて、また断片の所望のサイズ範囲に応じて、本発明の方法の実施中の異なる時点での磁性体の運動を制御するデバイスの異なる設定(本発明の主題でもあるかかるデバイスの詳細に関しては、さらに以下を参照)は望ましい場合がある。概して、溶解およびタンパク質断片化を実施する場合、核酸は、同時に断片化する。
【0127】
さらなる例は、ウイルス粒子中に含有されるタンパク質の断片化と付随した、ウイルスの上述の崩壊である。ここで、タンパク質断片化の収量を最適化するように、および/または所望のサイズの断片が確実に得られるように、上記デバイスの設定の変化は、例えばウイルスがいったん崩壊されると有益であり得る。
【0128】
上述のエピトープマッピングの状況では、やや広範囲の断片サイズが興味を引く。広範囲は、この状況では、例えば約5~約100アミノ酸である。より長い断片および特有の断片ならびに非常に短いものを含むかかる広範囲は、特にエピトープ同定に適切である。
【0129】
さらなる好ましい実施形態では、第1の態様の上記方法は、(b)上記試料を、熱、例えば煮沸に曝露する工程;上記試料を、例えば超音波処理によって変性される工程;上記試料に洗浄剤を添加する工程;および/またはカオトロピック剤を上記試料に添加する工程をさらに含み、好ましくは、工程(b)は、工程(a)、即ち第1の態様に従う断片化することに先立って、または同時に実施される。かかるさらなる方策は、考慮中の特定の用途に応じて選択され得る。かかるさらなる方策は、溶解の収量(細胞材料が試料中に含まれる限り)および/または断片化の収量を改善し得る。
【0130】
好ましい洗浄剤は、ドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、Triton X-100、Tween20およびCHAPSである。
【0131】
好ましいカオトロピック剤は、グアニジン塩酸塩、尿素およびチオ尿素である。
さらに好ましい実施形態では、第1の態様の上記方法は、(c)上記分子および/または上記分子から得られた断片を化学的に修飾する工程をさらに含む。
【0132】
特に好ましい実施形態では、上記化学的に修飾する工程は、(ca)ジスルフィドを還元する工程、(cb)チオール基、例えばシステイン残基をアルキル化する工程、(cc)架橋する工程、ならびに(cd)(ca)、(cb)および(cc)の任意の組合せから選択され、(ca)および(cb)の組合せが好ましい。
【0133】
これらは、質量分析用の試料調製の過程で日常的に実施される方策である。本発明によれば、それらは、断片化と同時に実施され得る。注目すべきことに、本発明によれば、還元およびアルキル化は、必須ではない。これは、より大きな断片が興味を引く場合の上述のミドルダウンアプローチに特に当てはまる。
【0134】
したがって、工程(a)、工程(ca)、および工程(cb)は同時に実施されることが特に好ましい。
【0135】
換言すると、後者の実施形態に関連する態様では、本発明は、質量分析における分析用の試料を調製する方法を提供し、上記試料は、少なくとも1つのタンパク質、ポリペプチドまたはペプチド分子を含み、上記方法は、(1)還元剤およびアルキル化剤を上記試料に添加することと、(2)上記分子を、少なくとも1つの移動磁性体を使用して断片化することとを含む。工程(2)は、工程(1)に添加される上記剤の存在下で実施されることが理解されよう。例えば、工程(1)および工程(2)は、同時に実施されてもよく、または工程(2)は、工程(1)に直接続いてもよい。
【0136】
さらに好ましい実施形態では、不活性粘性液体;ゲル、例えばポリアクリルアミドゲルまたはアガロースゲル;エアロゲルおよび/またはゼオリスが、上記試料に添加される(単数/複数)。特定の理論に拘束されることを望まないが、ゲルまたは粘性液体中に、断片化されるべき分子を包埋することは、磁性体または存在する限り、任意の非磁性粒子から、上記分子へのエネルギー伝達を増強し、続いて収量を増強する手段であると考えられる。
【0137】
ポリアクリルアミドゲルを使用する場合、これは概して、上記少なくとも1つの分子を含む試料のポリアクリルアミド電気泳動を実行することを包含する。続いて、目的の領域は、ゲルから切り出されてもよく、またはゲル全体として、第1の態様に従って加工処理されてもよく、即ち、断片化に付されてもよい。しかし、電気泳動は、要件ではない。また、ポリアクリルアミドゲルの形成に必要とされる構成成分を、加工処理されるべき試料に添加して、ゲルを形成されて、次にそれを第1の態様の方法に付すことができる。
【0138】
アガロースが使用されるべきである場合、アガロースは、加工処理されるべき試料に添加され、煮沸され、冷却され得る。これにより、ゲル中に包埋されている断片化されるべき分子を伴うアガロースゲルが生じる。あるいは、アガロースは、それを試料と組み合わせる前に煮沸されてもよく、それにより試料の、煮沸温度への曝露を回避する。
【0139】
さらに好ましい実施形態では、プロテアーゼ、例えばトリプシン、LysC、GluC、AspN、ArgCまたはキモトリプシンが添加される。
【0140】
上述するように、本発明の利点の1つは、加水分解または切断の化学的および酵素的手段は、それらが「磁性断片化」で置き換えられ得るという点で非必須となるということである。さらに、ある特定の場合、それ自体が当該技術分野で確立されたプロテアーゼの添加によって上記磁性断片化によって得られる断片のスペクトルを調整することが望ましい場合がある。
【0141】
さらに、タンパク質の切断を容易にする化学物質もまた添加されてもよい。例えば、CNBrは、Met残基で切断すると記載されている。ギ酸は、加水分解に関してAsp-Pro結合にとって好ましく、ヒドロキシアミンは、Asn-Gly結合にとって好ましい。2-ニトロ-5-チオシアノ安息香酸は、Cys残基で切断する。さらに、鉄および銅塩は、続いてタンパク質と反応してそれらを分解させる反応性酸素種の生成を容易にする。
【0142】
別の好ましい実施形態では、下記の1つまたは複数が試料に添加される:界面活性剤;洗浄剤;緩衝液;酸;塩基;カオトロピック剤;コスモトロピック剤;塩;および溶媒、好ましくは有機溶媒。さらに、試料調製で一般に使用されるさらなる作用物質、例えば、ホスホリラーゼ阻害剤は、同様に添加されてもよい。
【0143】
特に好ましい酸は、酢酸、ギ酸およびトリフルオロ酸である。
特に好ましい有機溶媒は、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、およびトリフルオロエタノールである。
【0144】
さらに好ましい実施形態では、本発明の方法は、(d)好ましくは濾過、非共有結合および/または共有結合によって、得られた断片を浄化および/または濃縮する工程をさらに含み、非共有結合は、好ましくは逆相材料、順相材料、イオン交換材料、親和性結合材料、キレート特性を有する材料または常磁性粒子に対して行われ、共有結合は、好ましくは上記断片のいずれかの官能基、例えばアミン基とコンジュゲートを形成することが可能な試薬を用いて行われる。
【0145】
さらに好ましい実施形態では、上記方法は、上記試料をプローブまたはリガンドと反応させる工程をさらに含み、好ましくは、上記プローブは、DNAプローブおよび/またはRNAプローブである。
【0146】
さらに好ましい実施形態では、上記方法は、(e)上記分子および/または上記分子から得られる断片を標識する工程をさらに含み、好ましくは上記断片の標識する工程は、上記断片の上記浄化および/または濃縮する工程の後に達成される。使用される標識は、特に限定されない。質量分析が本発明による好ましい分析方法であることを考慮して、本方法によって検出可能な標識、さらに異なって同位体標識された形態で提供され得る標識が好ましい。異なる同位体で標識することは、質量スペクトルにおいて識別可能であるが、標識を分析物(ここではタンパク質、ポリペプチドまたはペプチド、第1の態様の方法によって送達される断片を含む)にカップリングする化学を含む化学に関して同一にまたは類似して挙動する標識を有する利便性の高い方法である。
【0147】
したがって、さらに好ましい実施形態では、上記標識する工程は、上記分子のまたはその断片の官能基を、上記官能基とコンジュゲートを形成することが可能な試薬と反応させることによって実行され、上記コンジュゲートを形成することが可能な試薬は、好ましくは質量分析によって検出可能なタグである。
【0148】
特に好ましい実施形態では、上記官能基は、第1級アミン基、カルボキシ基およびチオールから選択される。
【0149】
上記官能基が第1級アミン基であり、上記タグが、活性エステル、例えばN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルであり、および/または少なくとも2つの異なって同位体標識された形態で提供されることが特に好ましい。好ましくは、上記異なって同位体標識された形態は、公称質量全体が、全ての形態に関して同じようである(これはまた、一連の「同重体タグ」とも称される)。
【0150】
好ましくは、上記タグは、好ましくは気相断片化、例えば衝突誘起解離(CID)、電子伝達解離またはUV断片化による、質量分析計における断片化に適している。注目すべきことに、かかる断片化は、本発明によるタンパク質、ポリペプチドおよびペプチドの断片化と異なった状態のままであるべきであり、前者はタグを指し、質量分析計で行われ、後者は、分光分析に先立って行われ、上述のタンパク質性分子に影響を及ぼす。
【0151】
このタイプの標識する工程は概して、断片レベルで実施され、タンパク質およびポリペプチド(および場合によってはより長いペプチド)は、第1の態様の方法を用いて断片化され、その後、得られた断片は標識される。安定な同位体が好ましい。
【0152】
さらに、これは、質量分析計における分析の目的でタンパク質性分子を標識する唯一の可能性ではない。例えば、代謝標識(実装の1つは、「SILAC」と称される)が実施されてもよい。これは、例えば、同位体標識された構成要素がリボソーム上で合成される間に、同位体標識された構成要素の、タンパク質への組込みを提供する。かかる場合では、標識する工程は、断片化に先立って行われ、試料、特に異なって標識された試料は、断片化に先立ってプールされてもよい。
【0153】
1つよりも多い試料は、本発明の方法を用いて加工処理されてもよく、異なる試料は、異なって標識されることが好ましい。異なる試料は、健常な試料および罹患試料、あるいは作用物質もしくは薬物の投与または刺激への曝露の前および後に採取された試料であってよく、詳細に関して上記参照のこと。
【0154】
異なって標識された試料はプールされてもよい。これは、質量分析計上で全体にわたって増強する手段である。異なって標識することは、プールされた試料中に含まれる異なる試料が質量スペクトルにおいて識別可能であることを確実にする。換言すると、プールすることは概して、標識する工程後に起きる。また、特に標識する工程の手順が本発明の方法によって得られる断片に適用される場合には、断片化後にプールすることを実施することが好ましい。
【0155】
より一般的な意味では、プールすることは、標準物質の添加を包含する。これにより、タンパク質定量化を可能にするか、または上記定量化をより正確にさせる。
【0156】
さらに好ましい実施形態では、平均断片長は、プロテアーゼを用いた上記分子の消化によって得られる断片長から逸脱し、好ましくは、上記方法を用いて得られる平均断片長はより大きい。これは、本発明の特徴的な利点である。平均断片長は、当該技術分野で確立された酵素的断片化とは、またさらに、磁性体の運動が、上記で開示される多数のパラメーターによって利便性よく制御および微調整され得る事実とは機構的に異なる「磁性断片化」から生じる。上記で例示的な様式で説明されるように、磁性断片化は、例えば30~100アミノ酸の範囲の、トリプシン断片よりも大きい得られた平均断片サイズに使用され得る。
【0157】
酵素的または化学的断片化と比較した場合に本発明の方法を使用する際、断片サイズの確率密度がより広いことは、さらに好ましい。この実施形態では、例えばトリプシン消化によって得られるような従来の断片サイズならびに上述のミドルダウンアプローチの意味でのより大きな断片の両方を包含し得る広範囲の断片サイズが得られる。
【0158】
第2の態様では、本発明は、先行する特許請求の範囲のいずれか1つの方法と、得られた断片の質量分析を実施する工程とを含む分析方法を提供する。
【0159】
第2の態様の方法は、好ましい実施形態では、質量分析に先立って、一般に液体クロマトグラフィー(LC)によるクロマトグラフィー的な断片の分離の工程を含む。好ましくは、これは、HPLCとして実行される。また、クロマトグラフィー的材料は、逆相材料、C18材料であることが好ましい。
【0160】
第2の態様の方法の好ましい実施形態では、上記方法は、上記分子の配列および/または独自性を決定するコンピューター実装工程を含む。この工程は、断片を分析することによって、例えばそれらの配列を質量スペクトルから決定することによって達成される。十分数の断片の配列がわかると、配列アセンブリアルゴリズムを用いて、断片を生じたタンパク質またはポリペプチドの元の配列を推測し得る。
【0161】
第3の態様では、本発明は、タンパク質、ポリペプチドもしくはペプチド分子を断片化するための変動または振動磁場を生成するための磁性体および磁気的手段の使用を提供する。
【0162】
上記方法の好ましい実施形態は、本発明の上記使用の好ましい実施形態を規定する。
第4の態様では、本発明は、(i)少なくとも1つの磁性体、および(ii)上記磁性体、および少なくとも1つのタンパク質、ポリペプチドもしくはペプチド分子を含む試料を受容するようにそれぞれ構成された容器または容器のアレイを含むか、またはそれらからなるキットを提供する。
【0163】
好ましい実施形態では、上記キットは、(iii)還元剤、および(iv)アルキル化剤をさらに含むか、またはさらにそれらからなる。
【0164】
全ての態様による好ましい還元剤は、ジチオトレイトールおよびトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンである。
【0165】
全ての態様による好ましいアルキル化剤として、ハロ酢酸、ハロアセトアミド、ハロアルカンアミドおよびN,N-ジアルキルハロアルカンアミドが挙げられる。好ましくは、アルカンの存在はそれぞれ独立して、線状または分岐状のC1~C5アルカン、例えばメチル、エチルおよびイソプロピルから選択される。ハロゲン(または「ハロ」)は、クロロ、ブロモおよびヨードを包含する。アルキル部分は置換されてもよく、好ましい置換基はヒドロキシである。
【0166】
これらの作用物質は、上記で開示するような本発明の方法の還元工程およびアルキル化工程に使用され得る。
【0167】
さらに好ましい実施形態では、上記キットは、好ましくは上記アルキル化剤および上記還元剤のほかに、(v)1つ、複数または全ての界面活性剤、カオトロピック剤、変性剤、および有機溶媒;(vi)少なくとも1つの緩衝液;(vii)非磁性粒子;および/または(vii)本発明の方法を実施するための説明を含むマニュアルをさらに含むか、あるいはさらにそれらからなる。
【0168】
好ましい界面活性剤、好ましいカオトロピック剤および好ましい溶媒は、上記で本明細書中に開示されている。これらの作用物質は、変性特性を有し得る。
【0169】
緩衝液は、本発明の方法の各種段階中に試料のpH値を確立および維持する働きをする。例示的なpH値は、8~8.5である。生物学的分子、例えばタンパク質、ポリペプチド、ペプチドおよび核酸を取り扱うのに適した緩衝液物質は、当業者に既知であり、多数の製造業者から入手可能である。
【0170】
上記非磁性粒子は、上記でさらに開示されるものである。本明細書中で「ビーズ」とも称される上記粒子は、金属ビーズまたはセラミックビーズであり得る。
【0171】
上記キットの好ましい実施形態では、上記キットは、エピトープマッピングの上記で開示される方法に調整されている。したがって、上記キットは、プロテインAおよび/またはプロテインG、および任意選択で、エピトープマッピングの上記方法を実施するのに適した1つまたは複数の緩衝液をさらに含むか、あるいはさらにそれらからなる。好ましくは、プロテインAおよび/またはプロテインGは、表面もしくは担体、例えばビーズまたはプレート上に固定化される。あるいは、上記キットは、反応性部分を有する表面もしくは担体をさらに含むか、またはそれらからなる。かかる反応性部分は、NHS、エポキシまたはカルボキシ基であり得る。かかる反応性部分は、本発明の方法の工程(a)で得られた断片を、上記表面または担体に固定化する働きをする。さらに、ビーズおよびプレートは、上記表面または担体の適切な実装である。
【0172】
本明細書中の「さらにからなる」という語句は、キットが閉数の成分からなる実装を指す。上記実施形態の場合、これらは、第4の態様に従って規定されるような項目(i)~(iii)および上記実施形態の主題である項目(iv)である。
【0173】
上記で開示される容器は、特に限定されない。
有用な容器として、分子生物学およびin vitroでの診断法の分野で一般に使用されるものが挙げられる。かかる容器は概して、混入物を含まないか、もしくは混入物を実質的に含まず、化学的に不活性であり、および/または低結合能力を有する表面を有する。
【0174】
容器が磁場を遮蔽しない少なくとも1つの壁を有することは、本発明の状況で重要である。好ましくは、容器全体が、磁場を遮蔽しない材料で作られている。適切な材料として、プラスチック、ポリマー、例えばポリプロピレン、ガラスおよびセラミックが挙げられる。透磁率の要件を留意すると、金属もまた使用され得る。
【0175】
例示的な容器および好ましい容器は、5μL~1L、好ましくは10μL~50mLの容積を保持するよう構成され、より好ましくは、30μL、40μL、100μL、150μL、200μL、250μL、500μL、1mL、1.5mL、2mL、5mL、15mLおよび50mLのいずれかの容積を保持するよう構成されている。
【0176】
容器は、アレイ、例えば一般的なフォーマット(96、384または1546ウェル)で配置され得る。
【0177】
ある実施形態では、容器は、フィルター層またはフリットを備えてもよく、かかる容器はまた、カートリッジと称される。これにより、断片(任意選択で、標識された断片)と、任意の他の材料との利便性のよい分離が可能となる。断片を含む溶液は、例えばカートリッジに陽圧をかけること、カートリッジを真空に接続すること、もしくは遠心分離することによって、フィルターまたはフリットを通過され得る。プロセス全体は、液体ハンドリング機によって実施され得る。濾液は、第2の容器または同じ容器内の専用区画中に捕捉され得る。
【0178】
特に好ましい実施形態では、上記容器中に含まれるような上記フィルターは、分子量カットオフフィルターである。かかるフィルターは、当該技術分野で既知であり、カットオフ未満の分子量を有する分子全てを通過させながら、カットオフ値よりも高い分子量を有する材料全てを保持する。
【0179】
それに応じて備えられたカートリッジは、本発明の方法の好ましい実施形態を提供する。特に、上記方法は、上記カートリッジにおいて実施される場合(上記磁性体は、上記フィルターよりも上に位置付けられている、即ち、高分子量材料が保持される場合)、カットオフ未満である断片の連続的な除去を提供する。磁石の運動を誘導しながら液体に上記カートリッジを通過させることによって、フィルターを通過することが可能な断片のさらなる断片化は起こらない。
【0180】
この機構は、特徴的な利点を有する。狭いサイズ分布を有する断片を得るのに、この機構が使用され得る。また、この機構は、連続的な、即ち、フロースルーモードで作動され得る。
【0181】
さらに好ましい実施形態では、上記キットは、標識剤および/または架橋剤をさらに含むか、またはさらにそれらからなる。
【0182】
さらなる態様では、本発明は、導体、好ましくは少なくとも1つのコイル、より好ましくはヘルムホルツコイル、および容器または容器のアレイを含むか、またはそれらからなるデバイスであって、上記コイルの開口部は、上記容器または容器の上記アレイを収容するよう構成されている、デバイスを提供する。
【0183】
上記容器および容器の上記アレイは、本発明のキットに関して規定されるものである。
「収容する」という用語は、上記容器または上記アレイが上記開口部の内側に適合して、その結果、使用時に上記コイルによって生成される磁場が特に強力であり、および/または特に均質である場合に上記容器の内容物が位置付けられるのに、上記コイルが十分広い開口部を有することを意味する。好ましくは、また円形断面を有する上記容器の場合(例えば、円筒状容器の場合)、上記コイルの内径(その場合は、円形コイル)は、上記容器の外径よりもわずかに広いに過ぎない。「わずかに広い」は、0.01~10%、例えば0.1~1%広いことを意味し得る。
【0184】
同様に、コイルは、容器のアレイ(例えば、マイクロタイタープレート)の場合、上記アレイよりもほんのわずかに広いようであり得る。上記アレイの形状が長方形である場合、長方形を有するコイル、例えばヘルムホルツコイルが用いられ得る。
【0185】
好ましい実施形態では、上記デバイスは、(iii)少なくとも1つの磁性体、好ましくは容器1つにつき少なくとも1つの磁性体をさらに含むか、またはさらにそれらからなる。
【0186】
かかる設計は、上記少なくとも1つの磁性体が、使用時に上記導体またはコイルによって生成される磁場の影響下にあるように構成されるべき上記導体または上記コイルを提供する。
【0187】
上記磁性体の好ましい実施形態は、例えば第1の態様の方法と併せて本明細書中で開示されるものであることは言うまでもない。一般的に言えば、一態様の好ましい実施形態は、準用して別の態様の好ましい実施形態を規定する。
【0188】
さらに好ましい実施形態では、上記デバイスは、(iv)上記少なくとも1つの磁性体に、使用時に変動または振動運動を実施させるよう構成された制御ユニットをさらに含むか、またはさらにそれからなる。より具体的には、この制御ユニットは、本発明の方法に関して詳述されるような電流の好ましい時間プロファイルのいずれかを送達するよう構成されている。制御ユニットは、電気プラグに接続されるべき電源またはアダプターをさらに含んでもよい。
【0189】
さらなる態様では、本発明は、第1または第2の態様の方法によって調製された試料から得られる質量スペクトルを分析するコンピューター実装方法であって、得られた断片の配列を構築して、それらが由来する上記タンパク質またはポリペプチド配列を得る工程を含む、方法を提供する。
【0190】
好ましくは、かかる構築は、あらかじめ既知の配列情報という手段を用いずに行われる。さらに説明するためには、質量スペクトルの分析における一般的なアプローチは、既知のタンパク質の断片、例えばトリプシン断片のデータベースの使用である。本発明は、多様な範囲のサイズの断片を提供することによって、タンパク質全体の配列の完全かつ明確なマッピングを可能にし、それによりかかるデータベースを不要にさせる。本発明によるアプローチはまた、質量分析によるデノボシーケンシングとも称され得る。
【0191】
図面は以下を示す:
【図面の簡単な説明】
【0192】
【
図1】ペプチドまたは断片同定(ID)の数の図である。酵母および肝臓試料は、正規の試料調製(Reg./標準)によるか、または磁性断片化(Mag./標準)によるいずれかのプロセスであった。「トリプシン」ペプチドは、それらのC末端にKまたはR-アミノ酸を含有するのに対して、「断片」ペプチドは、任意の他のアミノ酸で終結し得る。
【
図2】本発明の種々の実装を用いて観察される場合のシーケンスカバレッジの図である。
【
図3】実施例3に記載される方法を用いて得られるような断片サイズの例示的な分布の図である。
【発明を実施するための形態】
【0193】
実施例は、本発明を説明する。
実施例
【実施例1】
【0194】
タンパク質消化に加えた本発明の方法を適用する際の溶解および消化の改善
材料
新鮮なサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)試料およびマウス肝臓試料を、タンパク質含有量100μgに相当する量で使用した。iSTキット(P.O.00001、PreOmics社)からの緩衝液および酵素を、この実験全体にわたって使用した。
【0195】
方法
標準的なiST試料調製:
試料調製は、酵母試料に関してはPreOmics標準プロトコールに従って、また肝臓試料に関しては哺乳動物組織プロトコールに従って実行した。細胞溶解およびタンパク質変性に関して、酵母ペレット(タンパク質含有量およそ100μg)を、溶解緩衝液50μl中に再懸濁させて、95℃および1000rpmで10分間煮沸して、Diagenode Bioruptorで剪断した(10サイクル、30秒オン、30秒オフ)。肝臓試料(タンパク質含有量およそ100μgを有する湿重量1~2mg)を、溶解緩衝液100μl中に再懸濁させて、ガラスビーズを用いてDiagenode Bioruptorで剪断して(10サイクル、30秒オン、30秒オフ)、組織溶解を促進し、95℃および1000rpmで10分間煮沸した。試料は全て、製造業者の指示書に従ってさらに加工処理した。溶出後、精製されたペプチドを真空遠心分離で乾燥させて、LC-Load中に再懸濁させた。Thermo LTQ Orbitrap XLと連結させたThermoFisher Scientific Easy n-LC 1000システムで、試料を分析した。ペプチドは、45分勾配を適用した手製C18カラムで分離して、DDA Top 10法を使用してタンデム質量分析を実施した。MS/MSデータは、デフォルト設定でMaxQuantソフトウェアを使用して酵母データベースに対して検索したが、但し、非特異的消化モードが選択されることは除く。
【0196】
新規磁性システムでの細胞溶解および消化を用いたiST試料調製:
タンパク質100μgを含有する酵母試料を、溶解緩衝液50μl中に再懸濁させて、まず95℃および1000rpmで10分間煮沸したか、またはトリプシン/LysC溶液50μlと直接混合した。細胞溶解およびタンパク質消化に関して、試料を、3mmの円形ネオジム磁石を有する磁性システムにておよそ1mTの磁束密度および120Hzで60分間インキュベートした。次に、停止緩衝液100μlを添加して、標準的なiST試料調製に記載されるようにペプチドを精製および分析した。
【0197】
【0198】
論述
磁性システムは、酵母細胞ならびに組織試料に関するペプチド同定全体を明らかに改善している。さらなる煮沸と併せたプロセスと比較した場合、当該プロセスは、自立型であり、最良の結果を達成するのにさらなる煮沸は必要とされない。当該システムを直接用いることができ、伝統的な溶解に消化中の混合を加えて置き換えることができる。最良の結果は、直接組み合わせた様式での溶解および消化に関する磁性システムを使用した場合に達成された。
【実施例2】
【0199】
本発明の方法による個々のタンパク質の断片化(任意のプロテアーゼの非存在下で)
材料
ddH2O中に10mg/mlの炭酸脱水酵素(ウシ赤血球;C7025-1VL)50μgを、下記実験に使用した。タンパク質抽出および断片化に関して、50個の巻き線のヘルムホルツコイルを有する磁性システムのプロトタイプを開発して、3mm×2mmの円柱状サマリウムコバルト磁石(MagnetExpert社、F412SC-250)を用いて実行した。望ましい場合には1.2mmのスチールビーズまたは1.4mmセラミックビーズを添加した。ペプチド浄化のために、iSTキットを使用した(PreOmics社、P.O.00001)。
【0200】
方法
試料を、円柱状サマリウムコバルト磁石および望ましい場合にはスチールビーズまたはセラミックビーズを有する磁性システムのプロトタイプにてインキュベートした。システムをおよそ1mTの磁束密度および120Hzで60分間使用した。LTQ Orbitrap XLと連結させたThermoFisher Scientific Easy n-LC 1200システムで、断片ペプチドを直接分析した。ペプチドは、iSTマニュアルに従って精製し、45分勾配を適用した手製C18カラムで分離して、DDA Top 10法を使用してタンデム質量分析を実施した。MS/MSデータは、デフォルト設定でMaxQuantソフトウェアを使用して炭酸脱水酵素データベースに対して検索したが、但し、非特異的消化モードが選択されることは除く。
【0201】
結果
様々な長さのペプチドを生成した。ちょうど1つのアミノ酸長の差を有する断片を一般に観察する。これは、所与の分析範囲でのあらゆる考え得るペプチド断片選択肢のほぼ完全なカバレッジを提供する。例えば、配列ANGERQSP、ANGERQSPV、ANGERQSPVD、ANGERQSPVDI、ANGERQSPVDID、ANGERQSPVDIDT、ANGERQSPVDIDTK等の断片を、個々のペプチドとして測定した。
【0202】
図2を参照のこと。
論述
磁性システムを使用して、考え得るほぼあらゆるペプチド組成でタンパク質を断片化することができる。開始から測定までほんの1.5時間の試料調製で、炭酸脱水素酵素を断片化して、95%を超えるペプチドベースのタンパク質シーケンスカバレッジを生成した。組み合わせた4つの実験は、完全なシーケンスカバレッジを生成した。本発明の方法を用いて得られたペプチド断片を使用して、タンパク質を配列決定することができる。というのは、単一アミノ酸の質量のみが異なるあらゆる長さの組合せの断片が生成されるためである。
【0203】
さらに、これらの差を使用することによって、元の配列を推定することができる。
【実施例3】
【0204】
プロテオームワイドなスケールでのタンパク質断片化
材料
およそ100μgを含有する新鮮なサッカロミセス・セレビシエ細胞ペレットを下記実験に使用した。タンパク質抽出および断片に関して、250個の巻き線および内径12mmのコイルを有する磁性システムのプロトタイプを開発して、2mmの円形ネオジム磁石を用いて実行した。LC-MS測定用のペプチド精製および調製は、PreOmics社からのiSTカートリッジおよび緩衝液(iSTキット、P.O.00001)を用いて実施した。水は、Fisher Scientific社から市販されていた(W6-212)。
【0205】
方法
酵母タンパク質100μgを含有する酵母ペレットを、pH1、4、7、もしくは10を有するddH2O 100μl、またはpH1、4、7、もしくは10を有するddH2O 90μlおよびアセトニトリル10μl中に再懸濁させた。タンパク質抽出および断片に関して、試料を、2mmの円形ネオジム磁石を有する磁性システムプロトタイプにて、およそ1.5mTの磁束密度および120Hzを適用して60分間インキュベートした。次に、iST停止緩衝液100μlを添加して、製造業者のプロトコールに従って、ペプチドを精製した。ペプチドを真空遠心分離で乾燥させて、最終濃度2.5μg/μlになるようにLC-Loadに再懸濁させた。LTQ Orbitrap XLと連結させたThermoFisher Scientific Easy n-LC 1200システムで、試料を分析した。5μgのペプチド負荷は、45分勾配を適用した手製C18カラムで分離して、DDA Top 10法を使用してタンデム質量分析を実施した。MS/MSデータは、デフォルト設定でMaxQuantソフトウェアを使用して酵母データベースに対して検索したが、但し、非特異的消化モードが選択されることは除く。
【0206】
【0207】
論述
この実験で使用される場合の磁性システムは、標準的なトリプシン消化(およそ12アミノ酸長)よりも長い13.2アミノ酸の平均長のペプチドを生成した。当該システムにより、様々なpH範囲で、また有機溶媒の存在下でも適切なペプチド断片を生成する。
【国際調査報告】