(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-15
(54)【発明の名称】ウイルス活性および/または抗微生物性インクおよびコーティング
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20230608BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230608BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20230608BHJP
C09D 11/00 20140101ALI20230608BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20230608BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20230608BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230608BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20230608BHJP
C01B 32/198 20170101ALI20230608BHJP
A41D 31/30 20190101ALI20230608BHJP
【FI】
A41D13/11 M
A01P3/00
A01N59/16 A
C09D11/00
C09D201/00
C09D5/14
C09D7/61
C01B32/194
C01B32/198
A41D13/11 Z
A41D31/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569236
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(85)【翻訳文提出日】2023-01-10
(86)【国際出願番号】 GB2020052613
(87)【国際公開番号】W WO2021229198
(87)【国際公開日】2021-11-18
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522442674
【氏名又は名称】グラフェン コンポジッツ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン,サンディ ウィンスロップ
(72)【発明者】
【氏名】ディバイン,スティーブン
【テーマコード(参考)】
3B211
4G146
4H011
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
3B211CC00
3B211CD02
4G146AA01
4G146AA15
4G146AA16
4G146AB07
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD17
4G146AD40
4G146BA01
4G146CB13
4G146CB22
4G146CB31
4G146CB34
4H011AA04
4H011BB18
4H011DA02
4J038EA011
4J038GA03
4J038GA06
4J038GA07
4J038GA13
4J038HA036
4J038HA066
4J038KA20
4J038MA10
4J038PB01
4J038PC09
4J038PC10
4J039AB02
4J039AD09
4J039AE07
4J039BA03
4J039BA06
4J039BE12
4J039BE14
4J039BE19
4J039BE23
4J039CA05
4J039FA02
(57)【要約】
インクは、(i)担体と、(ii)担体に分散されたグラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子と、(iii)グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に付着したウイルス活性成分および/または抗微生物成分と、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス活性コーティングおよび/または抗微生物コーティングを支持体に提供するためのインクであって、
(i)担体と、
(ii)前記担体に分散されたグラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子と、
(iii)前記グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に付着したウイルス活性成分および/または抗微生物成分と、を含む、インク。
【請求項2】
前記ウイルス活性成分および/または抗微生物成分は、金属イオン、金属ナノ粒子、クルクミンおよび/またはヒペリシンを含む、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子は、粒度が1~100nmである、請求項2に記載のインク。
【請求項4】
前記グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子は、前記ウイルス活性成分および/または抗微生物成分の表面カバレッジが5%~60%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項5】
前記グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分との組み合わせは、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分の重量含有率が1wt%~60%wt%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項6】
前記グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子の前記表面および/またはエッジは、前記ウイルス活性成分および/または抗微生物成分で官能基修飾されている、請求項1~5のいずれか1項に記載のインク。
【請求項7】
前記グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子は、官能基修飾された粒子であり、チオール類、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシル基および/またはカルボニル基から選択される官能基を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のインク。
【請求項8】
前記グラフェン粒子は、酸素含有官能基で修飾され、酸素含有率が10~30%である、請求項7に記載のインク。
【請求項9】
前記酸化グラフェン粒子は、酸素含有率が24~40%である、請求項1~8のいずれか1項に記載のインク。
【請求項10】
前記インクは、(i)酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、フタル酸ジエチル、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(エチレン)グリコールおよびポリビニルピロリドン(PVP)から任意に選択されるバインダー、(ii)乾燥剤および/または(iii)レオロジー調整剤をさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載のインク。
【請求項11】
前記担体中における前記グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分との組み合わせは、濃度が0.05mg/ml~10mg/mlである、請求項1~10のいずれか1項に記載のインク。
【請求項12】
前記ウイルス活性成分および/または抗微生物成分は、キャッピング剤を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のインク。
【請求項13】
前記ウイルス活性成分および/または抗微生物成分は、キャッピングされた金属ナノ粒子を含む、請求項12に記載のインク。
【請求項14】
支持体と、
前記支持体に施されたコーティングと、を含み、
前記コーティングは、
(i)グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子と、
(ii)前記グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に付着したウイルス活性成分および/または抗微生物成分と、を含む、ウイルス活性物品および/または抗微生物物品。
【請求項15】
前記支持体は、ポリエステル、ポリプロピレン、織物またはセルロース系材料を含む、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
前記物品はフィルターであり、前記支持体は、前記フィルターを通過する微粒子を濾過するために前記フィルターに設けられた濾過膜であり、
任意に、前記コーティングは、前記濾過膜の少なくとも1つの表面に施されている、請求項14または15に記載の物品。
【請求項17】
前記フィルターは、大きさが0.3μmの粒子に対する濾過効率が少なくとも95%の微細濾過膜を少なくとも1つ含み、
前記グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分とを含む前記濾過膜は、粗濾過膜である、請求項14~16のいずれか1項に記載の物品。
【請求項18】
(i)請求項14~15のいずれか1項に記載の物品および/または
(ii)請求項16または17に記載のフィルター
を含む、フェイスマスク。
【請求項19】
(a)グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子と、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分とを組み合わせて、前記ウイルス活性成分および/または抗微生物成分を前記グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に付着させ、
(b)前記グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分との組み合わせを、担体中に分散させることを含む、インクを製造する方法。
【請求項20】
グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分とを組み合わせることが、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子を担体中に分散させ、その後、前記ウイルス活性成分および/または抗微生物成分を前記担体に加えることを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ウイルス活性前駆体および/または抗微生物前駆体を前記担体に加え、前記方法は、前記前駆体をin situで前記ウイルス活性成分および/または抗微生物成分に変換することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ウイルス活性成分および/または抗微生物成分は金属ナノ粒子であり、前記金属ナノ粒子は、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子と組み合わせられている、請求項19または請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記金属ナノ粒子は、工程(a)の前に形成される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記グラフェンは官能基修飾グラフェンであり、前記工程(a)は、官能基修飾グラフェンおよび/または酸化グラフェンを、ウイルス活性前駆体および/または抗微生物前駆体と組み合わせ、その後、還元剤を添加して前記ウイルス活性前駆体および/または抗微生物前駆体を還元して、前記ウイルス活性成分および/または抗微生物成分を形成することを含む、請求項19~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
工程(a)の前に、前記グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子を官能基修飾する工程をさらに含み、任意に、前記グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子を官能基修飾する工程が、チオール基、水酸基、カルボキシル基、エポキシル基、カルボニル基から選択される少なくとも1つの官能基で前記グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子を官能基修飾することを含む、請求項19~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記ウイルス活性成分および/または抗微生物成分は、キャッピング剤を含む、請求項19~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
工程(b)の前に、前記グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分との組み合わせを単離することを含んでいてもよい、請求項19~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
請求項14~17のいずれか1項に記載の物品を製造する方法であって、請求項1~13のいずれか1項に記載のインクを支持体に塗布することを含む、方法。
【請求項29】
官能基修飾グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子と、
前記官能基修飾グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に付着したウイルス活性成分および/または抗微生物成分と、を含み、
前記ウイルス活性成分および/または抗微生物成分は、キャッピングされた金属ナノ粒子を含む、組成物。
【請求項30】
(i)分散されたグラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子と、(ii)前記グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に付着したウイルス活性成分と、を含む組成物の、Sars-CoV-2に対する抗ウイルス剤または殺ウイルス剤としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分を含むインク、物品、製造方法ならびに、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分を含むインクおよび物品の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
過去20年間にわたって、ヒトの集団で大規模なウイルス感染が何度か発生した。一例として、エボラ、SARS、MERS、ジカ、さらに近時では2019/2020年のSARS-CoV-2などがあげられる。これらのウイルスに対抗することを目指した研究、例えばヒトへの伝播の防止や低減、ヒトからヒトへの伝播の防止、ワクチンの開発、これらのウイルスが引き起こす病気に対する抗ウイルス剤や治療法の開発などに対して、かなりの投資がなされている。
【0003】
世界の人口が増加し、人々の往来が増えるにつれて、ヒトからヒトへの伝播を減らすことはますます難しくなっている。例えば、2019/2020年のSARS-CoV-2感染爆発時のロックダウンの間のように人々の往来を制限し得る場合であっても、ヒトとヒトの接触または表面に付着したウイルスとの接触によって、ある程度のヒトからヒトへの伝播は避けられない。例えば、医療従事者は、ウイルスに感染した人やウイルスが存在する表面に接触することが避けられない。同様に、食品供給など重要なサプライチェーンで働く人々も、自らの曝露を完全に排除することはできないであろう。このため、隔離が不可能である場合には、ウイルスの伝播を減らすための保護を提供することが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既存の保護具は一般に、口と鼻とを覆うフェイスマスク、使用者の顔全体を覆うバイザー、ガウンおよび/または手袋などの個人用保護具(PPE)である。しかしながら、既存のPPEの効果は、実にさまざまである。例えば、ある種のマスクは、有害な細菌やウイルスの大部分(例えば、「N95」マスクであれば95%)を排除することができるが、ウイルス、特にコロナウイルスを実際に死滅させることができるものはほとんどない。他のPPEについても同じことがあてはまる。例えば、手袋はウイルスが皮膚に触れるのを防ぐが、他の表面にウイルスが移るのを防ぐことはできない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様では、ウイルス活性コーティングおよび/または抗微生物コーティングを支持体に提供するためのインクであって、(i)担体と、(ii)担体に分散されたグラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子と、(iii)グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に付着したウイルス活性および/または抗微生物成分または添加剤と、を含む、インクが提供される。
【0006】
このインクの形での材料の組み合わせによって、表面または材料に容易に塗布して非常に効果的な処理を提供することができる特に効果的なウイルス活性(殺ウイルス活性)および/または抗微生物(殺菌)系が提供される。例えば、ウイルス活性の場合、これは、必要な場合に(ウイルスの増殖を抑制するという意味で)抗ウイルス性および/または殺ウイルス性(すなわち、ウイルスを破壊または不活化する能力を有する)であってもよい。抗微生物性については、これは、抗菌性または殺菌性の成分であってもよい。例えば、このようなインクをPPEなどの表面に塗布し、これらに抗ウイルス性および/または殺ウイルス性を付与し、それによってウイルスの伝播や感染の危険性を低減することが、容易に実現可能である。
【0007】
グラフェンや酸化グラフェンは表面積が大きいため、高濃度で抗ウイルス剤を付着させたり担持したりすることができ、理想的な薬物担体となる。さらに、グラフェン/GOと抗ウイルス剤との組み合わせにすることで、それらの抗ウイルス性能が高まるとともに、抗ウイルス剤の環境毒性が低減され、かなり高い抗ウイルス性能を実現することが可能である。実際、これらの組成物は、コロナウイルスを含む複数のウイルスに対して有効であることが示されている。実施形態では、例えばインクを材料や表面に容易に塗布して抗ウイルス性または殺ウイルス性/抗微生物性を持たせることができる製造現場において、これらの特性を実用的に利用する方法を提供する。これらの材料は、乾燥した形態で製造することができるが、例えば、これらの材料を(特に大量生産において)支持体に塗布できるようにする送達機構、あるいはこれらの材料の分配が可能な安定して堅牢な仕組みを提供する送達機構に、これらの材料を組み込むことのほうが困難である。本開示のインクは、これらの問題に対する解決策を提供する。これらのインクは、機能的かつ効果的なコーティングを提供するように、制御された方法でこれらの材料を堆積させる方法を提供する。担体については、制御された方法で材料に塗布して揮発させ、比較的均一な活性コーティングを提供し得る安定した分散液を提供するように選択することが可能である。これは、例えば、PPE(マスクおよび/または手袋など)の製造時に、あるいは、通常必要とされるよりもさらに下のサプライチェーンの製造業者らによって表面に塗布することができる。これにより、これらの材料の一層広い普及と採用が可能となり、現在使用されているマスク(例えば、粒子防護マスク)または他の衣服や機器の大量生産が可能となる。これは、例えばPPE不足が常態化していたSARS-CoV-2パンデミックの間に見られたように迅速な対応と製造量の増加が必要とされる場合に、特に重要である。いくつかの実施形態では、インクを材料の表面に印刷し、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分の層を形成することができる。
【0008】
酸化グラフェンは、抗ウイルス特性または抗微生物特性を有するため、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分との組み合わせで特に効果的である。酸化グラフェン(GO)の二次元構造、鋭いエッジ、負に帯電した表面を利用して、脂質膜を破壊すること(細菌の場合)および/または膜を酸化することで、細菌およびウイルスを死滅させることができる。
【0009】
インクは、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分を含む。これは、インクが、本質的に抗ウイルス性である成分、本質的に殺ウイルス性である成分、抗微生物(例えば、抗菌/殺菌)性である成分またはこれらの組み合わせ(例えば、本質的に抗ウイルス性と殺ウイルス性の両方である成分)の少なくとも1つを含んでいてもよいことを意味する。
【0010】
グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子の表面および/またはエッジには、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分が担持(付着)されている。グラフェンおよび酸化グラフェンが平面形状であることから、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子の表面で、分散液中の比較的低濃度のグラフェンおよび/または酸化グラフェンに高濃度の抗ウイルス剤または殺ウイルス剤を担持させることができる。担持させるとは、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分が、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子の表面に吸着されてもよいし、そうでなければ付着してもよいことを意味する。例えば、これは、表面への共有結合であってもよい(すなわち、グラフェンおよび/または酸化グラフェンがウイルス活性成分および/または抗微生物成分で官能基修飾されていてもよい)し、水素結合、ファンデルワールスまたは結合メカニズムの組み合わせによって付着していてもよい。いくつかの実施形態では、付着に関与する主な結合は、水素結合である。この形態では、それらの毒性を低下させつつ、成分の抗ウイルス性能が増加することが示されている。
【0011】
いくつかの実施形態では、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分は、金属イオン(例えば、銀イオン、銅イオン)、金属ナノ粒子(例えば、銀ナノ粒子、銅ナノ粒子)、クルクミンおよび/またはヒペリシンを含む。これらは、個別に提供されてもよいし、組み合わせで提供されてもよい。例えば、一実施形態では、インクは銀ナノ粒子官能基修飾酸化グラフェン(silver nanoparticle functionalised graphene oxide)を含み、別の実施形態では、インクは、クルクミンおよび銀ナノ粒子官能基修飾酸化グラフェンを含む。成分が金属ナノ粒子である実施形態では、ナノ粒子は、粒度が1~100nm、例えば1~80nmまたは1~40nm、例えば10~40nmであってもよい。これは、平均粒度(すなわち数平均粒子径)であってもよく、グラフェンおよび/または酸化グラフェンに付着したときの粒度に基づいて算出される。これは、SEMを用いて測定することができる。上述したイオン/ナノ粒子として用いられる金属としては、V、Ti、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、Tb、W、Ag、Cd、Au、Hgなどの遷移金属や、Al、Ga、Ge、As、Se、Sn、Sb、Te、Pb、Biなどの他の金属があげられる。好ましくは、金属イオンまたはナノ粒子の金属は、AgまたはCuである。これらの粒子は、粒度が1~100nm、例えば1~80nmまたは1~40nm、例えば10~40nmであってもよい。いくつかの事例において、粒度は、粒子の少なくとも80%が1~100nmの大きさであり、任意に粒子の80%が20~60nm、任意に95%が20~60nmであるようなものである。
【0012】
いくつかの実施形態では、グラフェン粒子および/またはグラフェン粒子は、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分の表面カバレッジが1%~60%である。これは、1~20%、例えば1~10%または3~10%、あるいは10~60%または20~60%であってもよい。これは、SEM、例えばEDS-SEMまたはEDX-SEMを用いて決定することができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分との組み合わせ(the graphene and/or graphene oxide particles and viral active and/or anti-microbial component combined)は、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分の重量含有率が1%~60%、例えば、1~30wt%、1~20wt%、1~5wt%または5%~60%wt%である。金属ナノ粒子については、複数の実施形態において、これは、1~20wt%、例えば1~10wt%、3~10wt%または5~10wt%であってもよい。これは、熱重量分析(TGA)を用いて決定することができる。例えば、金属イオンまたは金属ナノ粒子を使用する場合、TGAには、(i)空気中で120℃まで加熱して水分を除去した後、900℃まで加熱してグラフェン/酸化グラフェンを焼き切り、不燃性物質(金属)だけを残すことを含んでもよい。金属含有率(%)については、以下のように計算することができる。金属含有率(%)=(900℃における質量%/150℃における質量%)×100。
【0014】
いくつかの実施形態では、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子は、粒度が100~2000nmである。例えば、数平均粒子径100nm~2000nm。これは、最大寸法(例えば、直径)であってもよい。これは、SEMによって、あるいは、レーザー光散乱法またはPCS(光子相関分光法)によって測定することができる。いくつかの実施形態では、これは数平均粒子径である。これは、最大寸法(例えば、直径)であってもよい。これは、SEMによって、レーザー光散乱またはPCS(光子相関分光法)によって測定することができる。一実施形態において、グラフェンおよび/または酸化グラフェンは、小板の形態で提供される。グラフェンまたは酸化グラフェンの小板は、平均粒度(すなわち、数平均粒子径)を横方向寸法(すなわち、小板の面の端から端までの最大の幅)で100~2000nmとすることができる。小板の数平均厚さについては、200nm未満、例えば100nm未満、50nm未満、10nm未満、5nm未満または1nm未満とすることができる。これらの測定値は、いずれもSEMで測定することができる。小板には、グラフェンまたは酸化グラフェンの単層が含まれていてもよいし、複数の層が含まれていてもよい。
【0015】
いくつかの実施形態では、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子の表面および/またはエッジは、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分で官能基修飾されている。エッジの官能基修飾によって、性能が改善される場合がある。なぜなら、ウイルスの膜の破壊に関与するのはグラフェンおよび/または酸化グラフェンのエッジであることから、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分がエッジにあることで、これが強化されると考えられるためである。また、表面の酸素基も脂質膜を酸化させ、膜の破断を引き起こし得る。また、グラフェンおよび/または酸化グラフェンのエッジに官能基(例えば、極性部位)があることを利用して、エッジにおけるウイルス活性成分および/または抗微生物成分の担持を促進することもできる。
【0016】
いくつかの実施形態では、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子は、例えば、チオール類、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシル基および/またはカルボニル基から選択される官能基を含む、官能基修飾された粒子である。いくつかの実施形態では、酸化グラフェンは官能基修飾酸化グラフェンであり、チオール官能基を含む。ナノ粒子、例えばウイルス活性ナノ粒子および/または抗微生物ナノ粒子と併用する場合、チオール基の存在は、ナノ粒子の大きさを小さくする一助となり得る(例えば、グラフェン/酸化グラフェンの表面の銀ナノ粒子のほうが小さい)。ナノ粒子が小さければ、有効表面積が増すことで、抗ウイルス/微生物活性が改善される傾向にある。
【0017】
いくつかの実施形態では、グラフェン粒子は酸素含有官能基で修飾され、酸素含有率が10~30%、例えば10~25%である。いくつかの実施形態では、酸化グラフェン粒子は、酸素含有率が24~40%である。例えば、25%~40%より大きい。酸素濃度は製品の殺ウイルス効果(efficacy)に直接影響するため、限界値までは高ければ高いほど良い。しかしながら、この濃度を超えると、インクまたはコーティングが水分による悪影響を受けやすくなる。性能が向上するのは、少なくともある程度、ウイルス活性成分/抗微生物成分(例えば、個々の銀粒子など)を酸化グラフェンの足場上で十分な間隔をあけて利用することができるがゆえであると考えられている。このため、大量の酸素種があれば、より多くの間隔を確保することができる。よって、酸化グラフェンが還元されると、性能が低下する可能性がある。したがって、複数の実施形態で、酸化グラフェンが還元されないように材料を製造する。酸素濃度については、EDS-SEMまたはEDX-SEMで測定することができる。
【0018】
一実施形態において、インクは溶液または懸濁液であり、担体は溶剤である。あるいは、インクは、担体としてバインダーを含むペーストであってもよい。しかしながら、溶剤の形態である担体を用いることが好ましい。複数の実施形態において、インクは、溶剤中に、0.05~10mg/ml、例えば0.1~10mg/mlの複合活性剤(すなわち、抗ウイルス成分/抗微生物成分と組み合わせたグラフェン/酸化グラフェン)を含んでもよく、例えば、1~5mg/mlまたは2~4mg/ml。いくつかの実施形態では、インクは、(i)酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、フタル酸ジエチル、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(エチレン)グリコールおよびポリビニルピロリドン(PVP)から任意に選択されるバインダー、(ii)乾燥剤および/または(iii)レオロジー調整剤をさらに含む。別の実施形態では、インクは、カチオン性ポリウレタンなどのカチオン性粒子をさらに含んでいてもよい。これは、例えば、カチオン性コロイドポリウレタンなどのカチオン性コロイド粒子であってもよい。これによって、ポリエステルやポリプロピレンなどの負に帯電した表面に対して静電気特性を利用した付着が可能となる。
【0019】
一実施形態において、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分は、キャッピング剤を含む。キャッピング剤は、一般に、極性部分と非極性(炭化水素)鎖とを含む化合物である。例えば、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分が、ポリビニルピロリドン(PVP)などのキャッピング剤を含んでいてもよい。例えば、一実施形態において、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分は、キャッピングされた(例えば、PVPでキャッピングされた)金属(例えば、銀)ナノ粒子を含む。キャッピング剤は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ポリビニルピロリドン(PVP)およびポリビニルアルコール(PVA)などのポリマーキャッピング剤であってもよい。キャッピング剤は、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分の周りに保護シェルを形成し、水素結合を用いてグラフェンおよび/または酸化グラフェンの表面と結合することができる。キャッピング剤は穏やかな還元剤であり得るが、組成物を調製する際に溶液中で用いられる過剰なキャッピング剤によって、ウイルス活性/抗微生物剤のキャッピングと、グラフェン/酸化グラフェンの官能基への水素結合が可能になることが見いだされている。複数の実施形態において、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分は、キャッピングされた金属ナノ粒子である。ナノ粒子上にある場合、極性部分が金属に配位し、非極性鎖は外側にのびている。
【0020】
第2の態様では、
支持体と、
支持体に施されたコーティングと、を含み、
コーティングは、
(i)グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子と、
(ii)グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に付着したウイルス活性成分および/または抗微生物成分と、を含む、ウイルス活性物品および/または抗微生物物品が提供される。
【0021】
このような物品には、フェイスマスク、手袋、防護服などのPPEを含むことが可能であり、あるいは、このような物品が、抗ウイルス性または殺ウイルス性または抗微生物性のクリーニング布帛などのクリーニング物品の形態であってもよい。グラフェンおよび/または酸化グラフェンと、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分が存在することで、物品におけるこれらの成分の組み合わせに付随する本明細書に記載のすべての利点が物品に提供される。これらは、既存の製品よりも有利な場合がある。なぜなら、承認された抗菌組成物または抗ウイルス組成物のほとんどが、必ずしも適切ではなく有毒な場合もある漂白剤を含むためである。いくつかの実施形態では、物品は、本明細書に開示する実施形態のインクを含んでいてもよい。
【0022】
グラフェンおよび/または酸化グラフェンとウイルス活性成分および/または抗微生物成分の特性は、インクに関して述べたものと同一であってもよい。例えば、いくつかの実施形態では、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分は、金属イオン、金属ナノ粒子、クルクミンおよび/またはヒペリシンを含む。いくつかの実施形態では、グラフェンおよび/または酸化グラフェンの表面および/またはエッジには、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分が担持されている。いくつかの実施形態では、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子は、官能基修飾された粒子であり、チオール類、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシル基および/またはカルボニル基から選択される官能基を含み得る。いくつかの実施形態では、酸化グラフェンは、官能基修飾酸化グラフェンであり、チオール官能基を含む。
【0023】
支持体は、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分のマトリックスとして機能し得る材料であれば、どのような材料であってもよい。特定の材料の層を支持体にすることもできる。支持体には、セルロース系材料(綿や紙など)、織物、あるいはポリエステルまたはポリプロピレンなどの材料が含まれていてもよい。セルロース系材料は、低コストで広く入手可能であり、既存のPPEに組み込むのが容易であるため、魅力的である。一実施形態では、支持体は、ポリエステルまたはポリプロピレンを含む。ポリエステルは、Covid-19の疾患の原因ウイルス(すなわち、SARS-CoV-2)をはじめとするウイルスの封じ込めを担うことができるため、特に効果的である。ポリエステルは、静電気を帯びやすい高分子群であって、表面や空間内で(in volume)発生した電荷の寿命が長い高分子群を形成する。この特徴は、自由電荷の数が少なく、電気伝導度が低いことに起因する。支持体は、織布または不織布であってもよい。
【0024】
一実施形態において、物品はフィルターであり、支持体はフィルターを通過する微粒子を濾過するためにフィルターに設けられた濾過膜である。コーティングは、濾過膜の少なくとも1つの表面に施されていてもよい。これは、例えばマスク用のフィルターや、空気処理装置(例えばHVAC)用のフィルターであってもよい。一実施形態において、フィルターは、支持体を含む第1の濾過層と、第2の濾過層と、を含み、第1の濾過層は、第2の濾過層の上流に設けられている。
【0025】
一実施形態において、フィルターは、支持体を含む第1の濾過層と、第2の濾過層と、を含み、第1の濾過層は、第2の濾過層の上流に設けられている。上流とは、通常の使用時における流れの大部分が第1の方向に移動するとき、第2の濾過層が第1の濾過層の下流にあることを意味する。第2の濾過層は、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子の通過を阻止するように適合されてもよい。酸化グラフェンおよびグラフェンは有害な可能性があるため、これは、支持体から剥離し得るものがフィルターの中に保持されるようにしつつ、それらの使用に関連する利点を提供する。
【0026】
一実施形態において、フィルターは、大きさが0.3μmの粒子に対する濾過効率が少なくとも95%の微細濾過膜を少なくとも1つ含み、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分とを含む濾過膜は、粗濾過膜である。すなわち、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分(抗ウイルス剤/殺ウイルス剤/殺菌剤)を含む支持体/濾過膜は、微細濾過膜に対して外側に設けられる。例えば、フィルターをフェイスマスクに使用する場合、微細濾過膜は使用者に最も近い位置に配置される。これは、特に効果的な配置である。なぜなら、ウイルス物質を運ぶ呼気や吸気の水滴をインクが捕集して吸着し、インクでウイルス活性成分がウイルスを不活化または死滅させるおよび/または抗微生物活性成分が微生物(細菌など)を死滅させるためである。粗いとは、微細濾過膜との相対的な関係である。例えば、粗濾過膜は、大きさが3.0μmの粒子に対する濾過効率が少なくとも95%であってもよい。さらに、これは、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子が吸入されるリスクを低減させることができる。
【0027】
第3の態様では、本明細書で開示する物品および/またはフィルターを含むフェイスマスクが提供される。
【0028】
第4の態様では、
(a)グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子と、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分とを組み合わせて、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分をグラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に付着させ、
(b)グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分との組み合わせを、担体中に分散させることを含む、インクを製造する方法が提供される。
【0029】
一実施形態において、本方法は、
グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子を溶剤中に分散させ、
グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分とを組み合わせて、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分をグラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に付着させ、
グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分との組み合わせを、担体中に分散させることを含む。
【0030】
一実施形態において、本方法は含み、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分とを組み合わせることが、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子を担体中に分散させ、その後、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分を担体に加えることを含む。一実施形態において、ウイルス活性前駆体および/または抗微生物前駆体を溶液に加え、本方法は、前駆体をin situでウイルス活性成分および/または抗微生物成分に変換することを含む。これは、例えば、還元などによってin situで金属イオンおよび/または金属粒子(例えば、ナノ粒子)に変換される金属塩であってもよい。本実施形態において、官能基修飾グラフェンおよび/または(官能基修飾または非官能基修飾)酸化グラフェンが存在する場合、これは、金属塩の還元時に還元されてもよい(共還元)。
【0031】
一実施形態において、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分は金属ナノ粒子であり、金属ナノ粒子は、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子と組み合わせられている。
【0032】
一実施形態において、金属イオンまたは金属ナノ粒子は、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分として使用され、(例えば、金属塩を還元して金属ナノ粒子を形成することによって)工程(a)の前に形成される。すなわち、GOと組み合わせる前に形成される。したがって、金属イオンまたはナノ粒子を形成する反応(実施形態では、金属塩の還元)は、(官能基修飾)グラフェンおよび/または酸化グラフェン上に存在する官能基には影響を与えない。このため、一実施形態において、グラフェンは官能基修飾グラフェンであり、工程(a)は、官能基修飾グラフェンおよび/または(官能基修飾または非官能基修飾)酸化グラフェンを、ウイルス活性前駆体および/または抗微生物前駆体と組み合わせ、その後、還元剤を添加してウイルス活性前駆体および/または抗微生物前駆体を還元し、ウイルス活性成分または抗微生物成分を形成することを含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、本方法は、工程(a)の前に、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子を官能基修飾する工程をさらに含み、グラフェンおよび/または酸化グラフェンを官能基修飾する工程が、チオール基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシル基および/またはカルボニル基から選択される少なくとも1つの官能基でグラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子を官能基修飾することを含んでもよい。一実施形態では、官能基はチオールである。例えば、これは、NaSHを用いたチオール化によって達成されてもよい。
【0034】
いくつかの実施形態では、溶剤は担体であってもよい。あるいは、グラフェンおよび/または酸化グラフェンとウイルス活性成分および/または抗微生物成分との組み合わせを、担体に移動させてもよい。
【0035】
いくつかの実施形態では、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子は、ナノシートの薄層に分散する。これらのナノシートは、具体的なウイルス活性成分および/または抗微生物成分に応じて、整列されていてもよいし、されていなくてもよい。溶剤は、好ましくはアルコール(例えば、メタノールまたはエタノール)または水である。グラフェンおよび/または酸化グラフェンの超音波処理を利用して、破砕によってグラフェン/酸化グラフェンの粒度を小さくすることも可能である。
【0036】
いくつかの実施形態では、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子をウイルス活性成分および/または抗微生物成分と組み合わせることは、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分をグラフェンおよび/または酸化グラフェンに担持させることを含む。いくつかの実施形態では、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子は、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分で官能基修飾されていてもよい。
【0037】
一実施形態において、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分は、キャッピング剤を含む。
【0038】
別の実施形態において、本方法は、工程(b)の前に、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分との組み合わせを単離することを含んでもよい。
【0039】
第5の態様では、本明細書で規定する物品を製造する方法であって、本明細書で規定するインクを支持体に塗布することを含む、方法が提供される。本明細書で述べる方法では、印刷によってインクを支持体に塗布することができる。このようにすると、既存の製品および既存の製造工程にこの機能(functionality)を容易に組み込むことができるため、特に有利である。複数の実施形態において、印刷には、スプレーコーティング、インクジェット印刷、ディップコーティング、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、スロットダイコーティング、ドクターブレードコーティングを含むことができる。いくつかの実施形態では、支持体が綿またはポリエステルなどの布帛を含む場合、印刷は、スプレーコーティング、インクジェット印刷、ディップコーティングを含み、布帛上にグラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子の単層厚を提供するように適合される。他の実施形態では、支持体がセルロース系材料を含む場合、印刷は、スクリーン印刷またはグラビア印刷を含む。この場合、より高粘度のインクが必要となる場合がある。
【0040】
第6の態様では、官能基修飾グラフェン粒子および/または(官能基修飾または非官能基修飾)酸化グラフェン粒子と、官能基修飾グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に付着したウイルス活性成分および/または抗微生物成分と、を含み、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分は、キャッピングされた金属ナノ粒子を含む、組成物が提供される。キャッピングされた金属ナノ粒子とは、キャッピング剤が付着している金属ナノ粒子を意味する。これは、加えることができる。組成物のこれらの各部分の具体的な内容は、他の態様に関して開示したものと同様である。例えば、キャッピング剤、ナノ粒子の特性などは、他の態様に関して開示したものと同様である。例えば、一実施形態では、組成物は、酸化グラフェンと、PVPでキャッピングされた銀ナノ粒子とを含む。例えば、キャッピングされた材料は、金属(例えば、銀)含有量が1~20wt%、例えば1~10wt%の範囲であってもよい。
【0041】
金属に添加されたキャッピング剤(例えばPVP)は、特に酸素が存在する領域(エッジの周囲にあることが多い)において、官能基修飾グラフェンおよび/またはGO上の官能基と水素結合することになる。この結合は、粒子をグラフェン/酸化グラフェンに密着させる一方で、ナノ粒子間の間隔(官能基の広がりによって規定される)を助長する。この広がりによって、ナノ粒子の凝集を回避または低減することができる。これは、酸素含有官能基が特に効果的である理由の1つである。
【0042】
第7の態様では、(i)分散されたグラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子と、(ii)グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に付着したウイルス活性成分と、を含む組成物(例えば、本明細書で規定するインクまたは本明細書で規定する物品)を、Sars-CoV-2に対する抗ウイルス剤または殺ウイルス剤として使用する。
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態によるマスクの概略図を示す。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態によるフィルターの分解概略図を示す。
【
図6】
図6は、抗ウイルス性能を測定するために実施したプラークアッセイの結果を示す。
【
図7】
図7は、抗ウイルス性能を測定するために実施したプラークアッセイの結果を示す。
【
図8】
図8は、抗ウイルス性能を測定するために実施したプラークアッセイの結果を示す。
【
図9】
図9は、抗ウイルス性能を測定するために実施したプラークアッセイの結果を示す。
【
図10】
図10は、抗ウイルス性能を測定するために実施したプラークアッセイの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
上述したように、グラフェンおよび酸化グラフェンは、ウイルス活性化合物またはウイルス活性成分の抗ウイルス性または殺ウイルス性を高める。同じことが、抗菌剤などの抗微生物剤にも当てはまる。これらの成分は、単一の成分(例えば、単一の組成物または構造体)であってもよいし、複数の複合成分であってもよい。
【0045】
殺ウイルス性の材料を使用する場合、ウイルスが不活化されるという点で、既存の方法および抗ウイルス剤全般と比較して特に有利である。環境によっては、特定のウイルスの濃度が非常に高く、使用者がかなりの時間ウイルスに曝露されることになる。このような環境では、ウイルスがそれ以上増えるのを防ぐとよい場合もあるが、環境内のレベルが高いと、その濃度がゆえに依然として高い感染リスクにつながり得ることになる。そのような環境では、ウイルスの複製を防ぐだけでなく、例えば、存在するウイルスを不活化または破壊するような殺ウイルス性材料が有用である。
【0046】
インクとは、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子と、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分と、担体と、を含む液体(溶液または懸濁液)またはペーストを意味する。このインクは、当該インクの特定の成分(この場合、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子と、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分)を支持体に付着させることができる特性を有する。担体は、例えば水またはアルコール(例えばエタノール)などの溶剤であってもよい。よって、いくつかの実施形態では、インクは、(i)グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子と、(ii)ウイルス活性成分および/または抗微生物成分と、を含む懸濁液である。インクは必ずしも着色されている必要はない(すなわち、無色であってもよい)が、(例えば、グラフェンまたは酸化グラフェンが存在するがゆえに)着色されていてもよい。
【0047】
インクの他の成分として、追加の溶剤、レオロジー調整剤、バインダー、乾燥剤および/またはポリマーをあげることができる。複数の実施形態において、インクは、例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、フタル酸ジエチル、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(エチレングリコール)などのバインダーも含む。このバインダーを、乾燥時に析出して粒子を支持体/母材(例えば布帛)に付着させる分散液中の可溶性添加物として使用することができる。一実施形態では、インクがさらに乾燥剤を含む。これらは、バインダー(通常、空気中の酸素と反応する)の架橋速度を変化させ、インクの溶剤がどのように材料に吸収されるかを左右する要因となる(contribute to)化学物質である。複数の実施形態において、アルミナやシリカなどの鉱物系乾燥剤が含まれていてもよい。いくつかの実施形態では、インクは、レオロジー調整剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリオール化合物(例えば、グリセロール)および/またはPVA)も含む。これらの物質は、インクの流動特性を調整する。例えば、スクリーン印刷では、インクを剪断感受性にしてインクが剪断下でメッシュを通過した後に表面で粘度の高い状態に戻ることができるようにするために、添加剤が必要である。別の実施形態では、インクは、腰切り用レジューサ(gel reducer)を含む。腰切り用レジューサは、セルロース系材料用のインクの特性を改善し、表面で短いセルロース繊維の紙むけを引き起こし得るインクのタックを低下させる。いくつかの実施形態では、インクに、ポリ(エチレングリコール)が含まれていてもよい。これは、レオロジー調整剤、バインダーおよび乾燥剤として作用し得る。追加の溶剤としては、蒸発温度を下げることができるメチルエチルケトンをあげることができる。(上述した添加剤との併用または上述した添加剤の代わりに)実施形態で存在し得る他の添加剤として、分散剤および/または湿潤剤、例えばポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシド(分散)、ポリエチレングリコールソルビタンモノオレート(分散)、ポリエチレングリコールヘキサデシルエーテル(分散)、ポリオキシエチレン(40)ノニルフェニルエーテル(分散)およびシリコーン添加剤(湿潤)があげられる。
【0048】
いくつかの実施形態では、インクが成膜添加剤または成膜剤をさらに含む。この用語は、グラフェン/酸化グラフェン粒子の膜の形成を促進するか引き起こす添加剤を意味する。これらはインクが塗布される材料の表面に均一なコーティングを提供する一助となるため、特に有利な添加剤となり得る。これは、カバレッジを改善し、ひいては効果(efficacy)を改善して、廃棄物を削減する(例えば、膜は単層膜のみであってもよいし、若干数の層を有してもよい)。複数の実施形態において、成膜添加剤は、PVP、アクリレート、アクリルアミド、コポリマー(例えば、無水マレイン酸コポリマー)、PVAおよび/またはポリエチレンオキシド(ポリエチレングリコール)から選択される。
【0049】
グラフェン層は炭素の二次元同素体であり、グラフェン単層にsp2結合炭素原子の平面シート1つが含まれる。この炭素原子が共有結合した六角形の二次元(2D)格子がゆえに、グラフェンは固有強度が非常に高いことで知られている。また、グラフェンは、層面内での高い導電性など、他にも有利な特性をいくつか示す。酸化グラフェンは、複数の酸素含有基で官能基修飾されたグラフェン層である。例えば、この層には、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシル基および/またはカルボニル基などの官能基が含まれていてもよい。酸化グラフェンには、抗ウイルス性や抗菌性を持つことが確認されている点で利点がある。一方、グラフェンは、製造が容易であり、かつ環境に対してより優しい点で特に有利となり得る。酸素修飾グラフェンについては、プラズマ官能基修飾プロセスを用いて製造することが可能であり、酸化グラフェンと同様の官能性を持つが環境に優しい方法でグラフェンを提供することができる。いくつかの実施形態では、官能基修飾グラフェンおよび/または(官能基修飾または非官能基修飾)酸化グラフェンが用いられる。官能基修飾によって、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分の付着ならびにウイルス活性および/または抗微生物特性を改善することができる。
【0050】
酸素修飾グラフェンの一例を、以下に示す。
【化1】
酸化グラフェンの一例を、以下に示す。
【化2】
【0051】
いくつかの実施形態では、グラフェンまたは酸化グラフェンは、少なくとも1原子層のグラフェンまたは酸化グラフェン、少なくとも5原子層、少なくとも10原子層のグラフェンまたは酸化グラフェン、例えば最大15原子層のグラフェンまたは酸化グラフェンを含む。いくつかの実施形態では、グラフェンまたは酸化グラフェンは、1原子層のグラフェンから15原子層のグラフェンまたは酸化グラフェンを含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子は、官能基修飾されていてもよい。すなわち、複数の実施形態において、グラフェンおよび/または酸化グラフェンを処理し、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子の表面および/またはエッジに官能基が取り込まれるようにしてもよい(酸化グラフェンの最初の製造方法によっては、さらに官能基修飾する形であってもよい)。これは、例えば、共有結合によるものであってもよい。官能基の例としては、チオール基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシル基および/またはカルボニル基があげられる。一実施形態では、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子を官能基修飾するために、チオール官能(thiol functional)が使用される。官能基修飾によって、溶剤または他の成分との相容性を改善し、ひいてはインクの品質を改善することができる。例えば、これによって、インク中のグラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子の分散を改善し、塊ができたり凝集が生じたりするのを回避することができる。これは、例えば、プラズマ処理を用いた官能基修飾であってもよい。例えば、いくつかの実施形態では、(追加の)カルボキシル基を用いてグラフェンを官能基修飾してもよい。一例として、WO2010/142953号A1に記載されたHaydale HDLPASプロセスを用いた「酸素」官能基修飾のプラズマ処理があげられる。また、官能基修飾によって、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分の相容性と担持量(loading)を改善することができる。
【0053】
一実施形態において、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分は、銀ナノ粒子を含む。例えば、いくつかの実施形態では、インク中のウイルス活性成分および/または抗微生物成分は、銀ナノ粒子を付着させた酸化グラフェンである。銀ナノ粒子は、酸化グラフェンの表面に化学的に結合している。これは、殺ウイルス剤と抗菌剤のどちらとしても非常に効果的である。いくつかの実施形態では、銀ナノ粒子などのナノ粒子を使用する場合、担持量を(重量および/または表面カバレッジで)最大80%、例えば最大60%とすることが可能である。グラフェン/酸化グラフェン表面の一部を露出させたままにすることで、標的物質(例えば、細菌のウイルス)を捕集することができるようになる。粒度が1~10nmのナノ粒子の場合、これは、いくつかの実施形態では担持量で30~60重量%になり得る。粒度30~40nmのナノ粒子の場合、これは、いくつかの実施形態では担持量5~20%になり得る。
【0054】
特に効果的な実施形態であることが見いだされている組み合わせは、官能基修飾したグラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に付着したウイルス活性成分および/または抗微生物成分としての金属ナノ粒子である。特に、官能基修飾した(酸素含有官能基を有する)グラフェンと酸化グラフェンのいずれかに付着させた銀ナノ粒子である。これは、PVPなどのキャッピング剤を用いてナノ粒子をキャッピングする場合に特に効果的である。好ましい担持量では、(先に詳述したように、組み合わせでの総重量に対して)グラフェン/酸化グラフェン上に1~10wt%、例えば、4~6wt%の銀を含む。これは、過剰担持になったり凝集を生じたりすることなく、良好なカバレッジを確保する一助となる。インクとして存在する場合、これらの組み合わせは、好ましくは、液体ビヒクルまたは溶剤中の濃度で0.5~5%(すなわち、0.5~5mg/mL)である。これらの実施形態では、銀ナノ粒子の効果的な粒度は、好ましくは1~40nm、さらに好ましくは5~20nmであることが見いだされた。これは、インクに成膜剤が含まれている場合、さらに効果的になり得る。
【0055】
本発明の第1の実施形態を
図1に示す。この図では、一実施形態によるマスク100を概略的に示してある。マスクは、本体110と、フィルター120とを含む。本体110は、使用者の顔にうまく合って使用者の鼻と口とを覆う形状であり、本体の縁のまわりで顔面に密着する。本体は、空気に対して実質的に不透過性であるか、フィルター120よりも耐性と濾過力が高い(more resistant and filtering)材料で作製されている。フィルター120は、本体110を貫通する穴の中に配置されている。フィルター120は、空気を通すように設計されており、マスクを通る気流の経路(すなわち、抵抗が最も小さい経路)を提供する。この配置は、使用者が空気を吸うときに、空気がフィルター120を通って吸引されることを意味する。(密着状態であるがゆえ)空気が直接使用者の肺に入ることはできず、不透過性の本体110を通ることもできない。図示はしていないが、マスクを使用者の顔面に保持するストラップが設けられている。本実施形態では、フィルター120は、本明細書で開示するコーティングのうちの1つを含む。例えば、一実施形態では、フィルター120は、基布と、基布にコーティングされた銀修飾(silver-functionalised)酸化グラフェン材料とを含む層を含む。これは、使用者が空気を吸うと、環境中に存在するどのようなウイルスもフィルター120を通過し、銀ナノ粒子官能基修飾酸化グラフェンを含む層と接触することを意味する。この材料の殺ウイルス特性によって、ウイルスが不活化または破壊され、着用者の感染リスクが防止または低減される。
【0056】
フィルター120の一実施形態を、
図2に分解概略図で一層詳細に示す。本実施形態のフィルター120は、枠(図示せず)内に配置された複数の層122、124、126、128を含む。外側のカバー122が最も外側の層であり、使用時に外の環境に曝露されるものである。この外側のカバー128を、フィルター120に水または汚れが著しく入り込むのを防ぐための最初のスクリーンになるポリエステルまたはポリプロピレン製の耐流体性カバーにしてもよい。外側カバーの後ろ(すなわち、使用者に近い側)の層は、プレフィルター124である。本実施形態では、プレフィルター124は、3.0μmよりも大きい粒子に対して濾過効率が95%以上の層を含む。このプレフィルター124は、ポリエステル層(例えば、ポリエステル不織層)を含む。本実施形態では、プレフィルター124にも、本明細書で開示するコーティングのうちの1つでコーティングがほどこされている。プレフィルター124には、例えば、銀ナノ粒子官能基修飾酸化グラフェン材料でコーティングをほどこすことができる。これは、例えば、ウイルス物質を含有する水滴への曝露を最大にするためにポリエステル層の外面にあるポリエステル材料に、一実施形態によるインクを印刷することによって、製造することができる。プレフィルター124の後ろには、フィルター膜126がある。フィルター膜126は、0.3μmより大きい粒子に対する濾過効率が95%以上の層を含む。この層には、ポリエステル層を含むことができる。フィルター膜126の後ろには、内側のカバー128がある。内側のカバー128は、使用者に対して最も内側の層を形成する。いくつかの実施形態では、この層は、ポリエステル、ポリプロピレンまたは綿である。
【0057】
図2の実施形態のフィルター120は、ポリエステル、綿またはセルロース層などの基材に本発明の実施形態によるインクを塗布することによって、容易に製造することが可能である。これは、特別な材料や装置を必要とすることなく既存の製造プロセスに組み込むことが可能であり、それによってフィルター120およびマスク100の大量生産が可能になる。例えば、インクジェットプリンタを使用するなどして、ポリエステル、綿またはセルロース層などのフィルター材料の表面にインクを印刷することができる。
【0058】
好都合なことに、上述した実施形態によるマスク100およびフィルター120では、フィルター層と、(フィルター材料にインクを塗布することによって形成された)コーティングによって、ウイルス(例えば、SARS-CoV-2)を含む水滴を捕集するとともに、有効成分がウイルスを不活化するまたは死滅させるインクに吸着させることができるようになる。この構成は、呼吸器系を通してウイルスが伝播する場合に特に有効である。例えば、COVID-19ウイルスは、主にくしゃみや咳で発生する呼吸器系の小さな飛沫によって、あるいは、人々が近い距離(通常は1m未満)でしばらく一緒にいることによって伝播すると考えられている。これらの飛沫が後に吸入されるか、他の人が接触する可能性のある表面に落ち、その人が鼻、口または目に触れたときに感染する可能性がある。このため、マスク100を使用することで、マスクの使用者とその周囲の人々を保護することができる。
【0059】
このことは、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分が塗布されたフィルター120の層がポリエステルである場合に、特に効果的である。ポリエステル布帛は、SARS-CoV-2ウイルスをはじめとするウイルスを封じ込める上で非常に効果的な機構を提供する。ポリエステルは、静電気を帯びやすい高分子群であって、表面や空間内で(in volume)発生した電荷の寿命が長い高分子群を形成する。この帯電しやすさをフィルターで利用して、フィルターに水滴を引き寄せる。そうすると、ウイルスを含む水滴がフィルターを覆うグラフェン層に吸着されるため、ウイルス物質は、付着したウイルス活性化合物および/または抗微生物性化合物(銀粒子など)に曝露される。実際、繊維の静電気的性質は、水滴のみならず微粒子の浸透も抑えるのに役に立つ。
【0060】
プレフィルターにインクを塗布することには、予想外の利点がある。本能的には濾過能力が最も高いフィルター膜126にインクをコーティングしたいかもしれないが、標的となる水滴を引き寄せて捕集する目的であれば、それよりも粗いプレフィルター層で十分である。COVID-19ウイルス自体の大きさは140nm程度であるが、ウイルスを含む水滴は全体の平均サイズ分布が0.62~15.9μmであり、液滴核の82%が0.74~2.12μmに集中し、モードサイズは8.35μmである。咳による液滴のサイズ分布はマルチモーダルであり、このサイズ分布には、約1μm、2μm、8μmの3つのピークがあることが示されている。このことから、大きめの液滴であればプレフィルター124に直接捕集される理想的な大きさになり、細かい液滴では静電相互作用によって、このサイズ範囲の液滴に対してこれが効率の良いフィルタリングシステムになる。
【0061】
図2を参照して上述した実施形態では、プレフィルターにインクを塗布して基布上にコーティングを形成したが、コーティングを他のいずれかの層に塗布して、効果的な抗ウイルス/殺ウイルスフィルタを提供することも可能である。例えば、外側のカバー122の内面に塗布すれば、ウイルス物質と十分に接触することになるであろう。他の実施形態では、内側のカバー128またはフィルター膜126にこれを設けてもよい。いくつかの実施形態では、フィルター120の複数の層にインクを塗布することも可能である。
【0062】
別の実施形態では、インクまたはコーティングを手袋などの他のPPEに塗布してもよい。このようにして、手袋をはめた使用者がウイルスを含む表面に触れた場合、インクまたはコーティングによってウイルスが不活化され、感染または伝播の危険性が低減されることになる。
【0063】
Agナノ粒子242を担持した酸化グラフェン小板241を含む粒子240がコーティングされた物品の繊維230の概略図を
図3に示す。繊維は幅が12μmであり、Agナノ粒子242は粒度が1~2nmであり、酸化グラフェン小板241は粒度が324nmである。また、水滴250も示されており、その大きさは0.2~8.5μmの範囲である。酸化グラフェン241小板は、繊維230の端から端まで均一な膜を形成している。
【0064】
本明細書で開示するインクおよび物品は、以下のように製造することができるものである。
【0065】
(i)(工程(i)は任意である)例えばプラズマ官能基修飾を用いてグラフェンおよび/または酸化グラフェンを官能基修飾し、官能基修飾グラフェンおよび/または官能基修飾酸化グラフェンを準備し、
(ii)グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子をウイルス活性成分および/または抗微生物成分と組み合わせて、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分をグラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に付着させ、
(iii)グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分との組み合わせを、担体中に分散させる。
【0066】
任意の工程(i)によって、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子の溶剤への分散性を改善することができる。また、特に酸素含有基が表面で官能基修飾され、これらの酸素含有官能基にウイルス活性成分および/または抗微生物成分が(例えば水素結合によって)付着し得る場合に、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に担持された成分の付着性を改善することができる。一実施形態では、これには、水硫化ナトリウム(NaSH)を用いてチオール化し、チオール修飾グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子を生成することを含む。
【0067】
工程(ii)には、例えば、グラフェンおよび/またはグラフェンを溶剤または担体に分散させ、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分をグラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に添加することを含み得る。この添加には、0.1~10wt%(例えば、1~10、1.0~10.0、1~5または2~4wt%)のグラフェンおよび/または酸化グラフェンを溶剤または液体ビヒクルに分散させることを含んでもよい。これらの濃度では、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子がナノシートの薄層に分散するため、これらの濃度が特に効果的である。これらのナノシートは、具体的なウイルス活性成分および/または抗微生物成分に応じて、整列されていてもよいし、されていなくてもよい。溶剤または液体ビヒクルは、好ましくはアルコール(例えば、メタノールまたはエタノール)または水である。水の場合、0.1~5wt%(例えば、1~5wt%または2~4wt%)であれば、粘度を比較的低く保つことができる。また、溶剤または担体にウイルス活性前駆体および/または抗微生物前駆体を加えた後、これをウイルス活性成分および/または抗微生物成分に変換して、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に担持させることを含んでもよい。あるいは、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分を溶剤または担体に加え、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子をウイルス活性成分および/または抗微生物成分に加えることを含んでもよい。これには、例えば、ウイルス活性前駆体および/または抗微生物前駆体を溶剤または担体に加えた後、それをウイルス活性成分および/または抗微生物成分に変換することを含み得る。その後、グラフェンおよび/または酸化グラフェンを溶剤または担体に加えることが可能である。前駆体は、例えば、金属塩を含むものであってもよい。
【0068】
工程(ii)は、ウイルス活性成分および/または抗微生物成分をグラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子に担持させることにつながる。例えば、担持には、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子をウイルス活性成分および/または抗微生物成分でさらに官能基修飾することを含んでもよい。
【0069】
工程(ii)を提供するために用いることができる具体的な方法には複数の方法がある。例えば、金属ナノ粒子をウイルス活性成分および/または抗微生物成分として使用する場合、これらの方法には、例えば、(i)ウイルス活性ナノ粒子および/または抗微生物ナノ粒子をグラフェン/酸化グラフェンに(例えば、Agナノ粒子をGOに、あるいはAgナノ粒子をチオール化GOに)直接加える、(ii)金属塩(例えば硝酸銀などの銀塩)をグラフェンおよび/または酸化グラフェンでin situにて還元することを含み得る。グラフェンが官能基修飾されている場合、あるいは酸化グラフェンが存在する場合、還元剤が官能基修飾グラフェン/酸化グラフェンの官能基を還元するのであれば、これを共還元と呼ぶことができる。特に、官能基がグラフェン上に存在する場合や(官能基修飾または非官能基修飾)酸化グラフェンを使用する場合、官能基がグラフェン/酸化グラフェンの効果(efficacy)を助けると考えられるため、直接添加すると抗ウイルス効果(efficacy)の改善につながることが見いだされている。したがって、これらの基(特に含酸素基)の還元を避けることで、高い効果(efficacy)が保持される。
【0070】
工程(ii)の後、組み合わせたウイルス活性混合物および/または抗微生物混合物(すなわち、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分とを組み合わせたもの)を乾燥させ、乾燥ウイルス活性混合物および/または抗微生物混合物を提供することが可能である。しかしながら、このような混合物は、乾燥させた状態での取り扱いと使用が困難である。このため、抗ウイルス/殺ウイルス(すなわち、ウイルス活性および/または抗微生物性)物品の製造でこの混合物を有効に使用するには、当該混合物を含むインクを調製する必要がある。
【0071】
したがって、工程(iii)には、グラフェン粒子および/または酸化グラフェン粒子とウイルス活性成分および/または抗微生物成分との組み合わせを、担体中に分散させることを含む。これは、複数の方法を用いて達成することができる。これには、酸化グラフェンおよび/またはグラフェンとウイルス活性剤および/または抗微生物剤とを組み合わせたものを、溶剤または液体ビヒクルに分散させることを含んでもよい。インクの具体的な特性が、インクを塗布する表面または支持体に依存する場合がある。以下、いくつか例を示す。例えば、いくつかの実施形態では、酸化グラフェンおよび/またはグラフェンとウイルス活性剤および/または抗微生物剤とを組み合わせたものを、脱イオン水に分散させることができる。酸化グラフェンおよび/またはグラフェンと、ウイルス活性剤および/または抗微生物剤との組み合わせが、本明細書で開示する大きさとカバレッジを有することを条件として、このような溶液を使用して、ある材料、例えば逆の静電荷を有する材料をコーティングすることが可能である。いくつかの実施形態では、工程(iii)は、工程(ii)の実施時に生じる。すなわち、工程(ii)を液体ビヒクルまたは溶剤中で実施してもよく、前記ビヒクルまたは溶剤は、インクの担体を形成する。他の実施形態では、グラフェンおよび/または酸化グラフェンと付着したウイルス活性成分/抗微生物成分との組み合わせを、工程(ii)の反応で用いる溶剤またはビヒクルから分離し、その後、別々に担体中に分散させる。
【0072】
インクの他の成分、例えば、レオロジー調整剤、バインダー、乾燥剤および/またはポリマーを添加することが可能である。これは、工程(iii)と同時であってもよい。
【0073】
いくつかの実施形態では、グラフェンを酸素含有官能基(例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシル基)で修飾することによって、酸化グラフェンを作製してもよい。例えば、これはプラズマ官能基修飾であってもよい。これらの実施形態において、(i)酸化グラフェンを官能基修飾する工程は、さらに官能基修飾すること(例えば、チオール基あるいは、すでに存在していてもよい追加の基などの官能基をさらに付加すること)であってもよい。
【0074】
一実施形態では、物品が、グラフェンおよび/または酸化グラフェンとウイルス活性成分および/または抗微生物成分との組み合わせを有するコーティングを含むフィルムまたはラップを含む。このフィルムまたはラップについては、どのような形状の表面にも迅速かつ容易に貼り付けて、ウイルスおよび/または微生物から保護することが可能である。特定の実施形態では、これは多層フィルムであってもよく、それによって、GO/Agナノ粒子でコーティングされた(正に荷電した)セルロース系フィルムが、(負に荷電した)フィルム支持体(例えば、PVC、PPまたはBOPP、例えばクリングフィルム型支持体など)に貼り付けられる。フィルム層を用いることで、(例えば、接着剤または静電気の力を利用して)ほとんどの表面に貼り付けやすくなる。また、セルロース層によって、接触面にウイルス活性成分が配置される。
【0075】
グラフェン/酸化グラフェンとウイルス活性剤/抗微生物剤との組み合わせの調製
還元
一実施形態は、還元法を使用して、銀ナノ粒子酸化グラフェンインクを製造することを含む。直径100~2000nmの酸化グラフェンナノ粒子に、直径1~40nmの大きさの銀ナノ粒子を担持させる。酸化グラフェンでの銀デコレーションの量は、(熱重量分析(TGA)によって測定される)重量で定義される。銀ナノ粒子酸化グラフェンインクは、本明細書に記載した方法に従って製造することが可能なものである。
【0076】
最初の工程として、銀ナノ粒子酸化グラフェンを、以下のように作製する。チオールをグラフトした酸化グラフェン(すなわち、チオール修飾酸化グラフェン)を、銀ナノ粒子が付着するベースとして機能させることができる。硝酸銀を銀ナノ粒子に還元する改変Turkevich法によって銀ナノ粒子を作製した後、酸化グラフェンの表面に事前に付着させたチオール基を介して、銀ナノ粒子を酸化グラフェンプレートに付着させることができる。この方法の一例が、Vi et al, The Preparation of Graphene Oxide-Silver Nanocomposites: The Effect of Silver Loads on Gram-Positive and Gram-Negative Antibacterial Activities, Nanomaterials 2018, 8に記載されており、これを本明細書に援用する。この方法では、1~2nmの大きさで、硝酸銀含有率が最大65%の異なるモル濃度が達成された。これは、大きさが1~2μmの酸化グラフェンプレートの大きさとは対照的である。もう1つの方法は、Kim, J.D.; Yun, H.; Kim, G.C.; Lee, C.W.; Choi, H.C. Antibacterial activity and reusability of CNT-Ag and GO-Ag nanocomposites. Appl. Surf. Sci. 2013, 283, 227-233に開示されており、これを同じく本明細書に援用する。
【0077】
共還元
別の方法では、酸化グラフェン含有溶液に銀塩(例えば、硝酸銀または酢酸銀)溶液を添加することを用いて銀ナノ粒子酸化グラフェン粒子を作製することによって、銀ナノ粒子酸化グラフェンインクを製造することができる。次に、還元剤(例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸、水素化ホウ素ナトリウムまたは水酸化ナトリウムから選択される)を添加することにより、銀ナノ粒子を溶液から析出させる。このとき銀塩と酸化グラフェンの両方が還元されるため、これを共還元と呼ぶことができる。これによって、還元GO(rGO)上に銀ナノ粒子が得られる。この方法では、チオール基の存在を、析出物の1~2nmという粒度に都合よくつなげることができる。形成後、得られた物質を洗浄し、未結合の銀と過剰な塩を溶液から除去する。
【0078】
直接添加
修飾されたウイルス活性成分/抗微生物成分
別の方法では、市販の銀ナノ粒子にキャッピング剤(ポリビニルピロリドン(PVP)またはクエン酸系のキャッピング剤)を加えたものを入手することができ、このキャッピング剤を酸化グラフェンの表面とエッジに存在するチオール基で優先的に置換することによって、酸化グラフェンへの担持を実現することが可能である。形成後、得られた物質を洗浄し、未結合の銀と過剰な塩を溶液から除去する。
【0079】
修飾
別の方法では、チオール基の代わりに他の基を用いて銀ナノ粒子を付着させることができる。例えば、PVPをキャッピングした実施形態を改変した形態では、(ポリ)エチレングリコール(PEG)(前駆体実施例4)またはポリエチレンイミン(PEI、C2H5N)n)を使用して、銀塩を還元するとともに、銀ナノ粒子と酸化グラフェンとの間のバインダーとして機能させることが可能である。この場合、PEGの分子量が異なれば、還元/安定化作用も異なる場合がある。また、PEGは、反応時に使用可能なpHを維持するバッファーとしても機能する。
【0080】
別の実施形態では、一実施形態でインクがクルクミンと銀ナノ粒子酸化グラフェンインクとを含むように、クルクミンなどの有機ウイルス活性成分/抗微生物成分をさらに担持させるか、このような成分で官能基修飾することによって、インクの有効性がさらに改善される。これは、上述したように銀ナノ粒子酸化グラフェン組成物を製造した後、クルクミンを用いてさらに官能基修飾した上でインクを形成することによって、製造または合成することができる。この実施形態では、クルクミン((E,E)-1,7-ビス(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン)を脱イオン水に溶解させ、銀ナノ粒子酸化グラフェンインクと組み合わせて、クルクミンおよび銀ナノ粒子酸化グラフェンインクを提供することができる。さらに、上述したようにして、これをインクとして調製することができる。
【0081】
一般的な前駆体の形成
上記から明らかなように、試薬の様々な組み合わせを使用して、前駆体材料(すなわち、ウイルス活性および/または抗微生物グラフェン/酸化グラフェン材料または混合物)を生成することができる。いくつかの実施形態による様々な組み合わせを、表1(下記)に示す。
【0082】
【0083】
インクと物品の形成
本発明によるインクおよび/または物品を形成する例を以下に示す。
銀ナノ粒子官能基修飾酸化グラフェン粒子は、負に帯電している。これらの粒子の静電気的性質がゆえ、これらの粒子を正に帯電した支持体に付着させることができる。したがって、これらの粒子を脱イオン水に加えて、支持体をコーティングするのに使用することが可能である。そのような支持体の例としては、綿(サテンなど)があげられる。他の例として、ナイロン6,6、ウール、ガラスフィラメントまたはスパンガラスがあげられる。
【0084】
別の実施形態では、インクには、カチオン性ポリウレタンなどのカチオン性コロイド粒子がさらに含まれていてもよい。このようなインクは、水溶液であることができ、正に帯電した表面に限定されずに物品をコーティングするのに静電気に頼ることができる点で有利である。例えば、このようなインクを使用して、ポリエステルやポリプロピレンなどの負に帯電した表面をコーティングすることができる。一実施形態では、コロイド粒子が準備され、1つのコロイド粒子が銀修飾酸化グラフェンの1つのフレークまたは粒子を繊維に保持するように、コロイド粒子の大きさが決められる。これは、2つの負表面の間に挟まれた正のPU粒子として作用する。
【0085】
他の実施形態では、インクは化学的/機械的な付着に依存している。例えば、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、フタル酸ジエチル、ポリ(メタクリル酸メチル)およびポリ(エチレングリコール)などのバインダーを、乾燥時に析出して粒子を支持体(例えば布帛)に付着させる可溶性添加物として分散液に使用する。
【0086】
一実施形態では、担体は、イソプロパノールまたはエタノールなどの揮発性溶剤であってもよい。物品を形成する方法において、支持体にあらかじめ接着剤をコーティングしておくことが可能であり、その後、溶剤を含むインクを塗布することができる。例えば、このインクを、例えば揮発性溶剤を使用して噴霧することができるであろう。これによって、溶剤が分散する際に粒子を支持体に付着させることができ、毛細管現象を利用してウイルス活性および/または抗微生物性グラフェン/酸化グラフェン粒子を配向させることができる。
【実施例】
【0087】
特に明記しない限り、以下の方法では、次の試薬を使用した。酸化グラフェン(水中1wt%、William Blyth)、水性銀ナノスフィア分散液(Sigma、10nmサイズ、PVP官能基修飾、0.02mg/mL)、硝酸銀(99%、Alfa)、酢酸銀(99%、Alfa)、クエン酸ナトリウム(99%、Alfa)、クエン酸三ナトリウム二水和物(99%、Alfa)、クエン酸(99%、Alfa)、ポリエチレングリコール(200Da、Alfa)、ポリエチレングリコール(2000Da、Alfa)、ポリエチレンイミン(1200Da、99%、Alfa)、水素化ホウ素ナトリウム(97%、Alfa)およびセルロース透析チューブ(33mm径、100ft、Sigma)。
【0088】
実施例1
チオール基を有する酸化グラフェン(GO-SH)の調製
酸化グラフェンを、1000mlの分散液中4gとして準備する。このうち125mlを反応させ、20分間超音波処理し、分散液を調製する。水硫化ナトリウム(NaHS)8.0gを徐々に加え、20時間連続的に攪拌しながら55℃に維持する。生成物を濾過し、脱イオン水で洗浄する。(4000rpmの遠心機を使用して濾過し、脱イオン水で5回洗浄する)。生成物を50℃の真空オーブンで3時間直接処理する。
【0089】
硝酸銀溶液の調製
100mlの0.1M溶液を作製するために、攪拌しながら、1.6987gのAgNO3を100mlの蒸留水に加える。これを使用前に1時間攪拌する。別の硝酸銀溶液として、0.2M溶液(100mlの蒸留水に3.3974gのAgNO3を(攪拌しながら)加えることによって、0.2M溶液100mlを調製する。これを使用前に1時間攪拌する)および0.25M溶液(100mlの蒸留水に4.2468gのAgNO3を加える。これを使用前に1時間攪拌する)があげられる。
【0090】
銀担持GO粒子(GO-Ag)の調製
上記で調製した乾燥GO-SH粒子0.1gを、30mlの脱イオン水に加える。これを30分間超音波処理する。この溶液を撹拌しながら、上記で作製したそれぞれの硝酸銀溶液(0.1M、0.2Mまたは0.25M)2mlを加える。攪拌しながら、水酸化ナトリウム(NaOH)の0.1M溶液20mlを加える。これを20時間攪拌する。その後、この分散液を10,000rpmで複数回遠心処理し、GO-Ag粒子を分離する。次に、沈殿したGO-Ag粒子を60℃で24時間乾燥させ、透析チューブを用いて濾過して、未反応の塩と緩く結合したAgナノ粒子を除去することができる。保存用に、粒子を脱イオン水に加え、4g/リットルの濃度で酸化を制限することができる。
【0091】
実施例2~8
以下、いくつかの実施例を示す。一般的な手順を示し、各々の方法の具体的な内容については、以下の表2に記載する。これらの実施例では、「共還元」法を使用する。
【0092】
酸化グラフェン分散液
酸化グラフェン(水中1wt%、William Blyth)を質量比で1/10に希釈し、濃度0.1wt%とした。この酸化グラフェン分散液を混合して均一な分散液を形成し、氷浴中でプローブ超音波処理(40%、300W、処理時間10分、5sパルス、休止5回、18mmホーン、Q Sonics vibra cell 750W)して分散および剥離させた。この過程で、分散液は不透明な茶色から透明な茶色に変化する。
【0093】
銀塩との共還元(Ag/還元型GOの作製)
合成プロセスの一般的な説明を行う。具体的な反応条件については、表2を参照のこと。超音波処理した酸化グラフェン(1mg/mL、脱イオン水)を丸底フラスコに加え、マグネチックスターラーで撹拌した。任意に、水酸化ナトリウム溶液(0.1M)または水酸化アンモニウム(1M)のいずれかでpHを調整した。その後、混合物を油浴中で還流下にて60~90℃まで加熱した。その後、銀塩または還元剤のいずれかを添加したが、両方は添加しなかった。各実施例についてその具体的な態様を、表2に示す。
【0094】
混合して所望の温度になったら、最小量の水(約2mL)で還元剤/銀塩を反応物に加えた。攪拌下で、最大2時間まで反応を進行させた。還元剤については硝酸銀の1~10モル当量で使用した。場合によっては、2回目の還元剤を添加し、65℃でさらに2時間反応させた。
【0095】
完了したら、反応物を室温で一晩放置して沈殿させた。沈殿したAgおよび還元されたGO粒子を、0.2μmのナイロンメンブランフィルター(Fisher)で真空濾過することによって回収した。その後、多量の水で物質を洗浄し、湿った粉末として保管した。
【0096】
【0097】
実施例9~11(共還元)
実施例7の手順を使用して、銀が20wt%、40wt%または60wt%の3種類の溶液を作製した(それぞれ、実施例9、10および11)。上記の実施例7との関連で概説したように、酸化グラフェンを1mg/mL(0.1wt%)になるように分散させた。次に、丸底フラスコに0.1wt%のGOを100mL加えた後、水酸化アンモニウム(1M)を用いてpH10~11に調整した。次いで、アスコルビン酸を硝酸銀に対して10モル過剰に添加した。その後、水酸化アンモニウム(1M)を用いてpHをpH10~11に再調整した。この時点では、沈殿やGOの還元の兆候は観察されなかった。反応物を激しく攪拌し、硝酸銀を最小量の水に入れて素早く加えた。硝酸銀は、銀が20wt%、40wt%または60wt%になる生成物が得られる量で添加した(それぞれ、実施例9、10および11)。例えば、20wt%の溶液を作るには、酸化グラフェン100mgに対して銀ナノ粒子25mg(0.23mmol)が必要であるため、硝酸銀39mg(0.23mmol)を加えた。その後、90℃に設定した油浴に混合物をただちに入れ、反応を2時間進行させた。完了したら、物質を一晩冷却して沈殿させた後、真空濾過(0.2μmナイロン膜)により回収した。
【0098】
実施例12(直接添加)
銀ナノスフェア(0.02mg/mL銀、25mL、Sigma、大きさ10nm、PVP官能基修飾)に酸化グラフェンを加え、0.02mg/mL銀の存在下でGOの0.75mg/mL分散液を得た。均一な分散液になるまで酸化グラフェンを混合し、氷浴中でプローブ超音波処理(40%、300W、処理時間10分、5sパルス、休止5回、18mmホーン、Q Sonics vibra cell 750W)して分散および剥離させた。物質は不透明な茶色の分散液から透明な茶色の分散液に変化し、Ag/GO製品が形成される。これらの分散液は、銀を含まない同等の酸化グラフェン分散液よりも明らかに色が濃く、粘性が高いように見えた。
【0099】
分析
粒度
実施例2~8の銀ナノ粒子の大きさを、SEMを用いて測定した。実施例で作製した溶液を水で10倍の容量に希釈した。10μLをシリコンウェハで乾燥させ、SEM(二次電子、EDX)で分析した。
【0100】
実施例2~8のうち、実施例7で銀ナノ粒子サイズと分布特性の最良の組み合わせとなった。得られた銀ナノ粒子の平均粒度は約40nmであり、95%の粒子が20~60nmの間にあるタイトな分布であった。SEMおよびEDXのプロットにより、GOシート上に銀が均一に析出し、系内に遊離銀がほとんどないことが示された。
【0101】
実施例9~11の粒度測定結果を
図4に示す。実施例9~11の銀ナノ粒子の平均サイズは、それぞれ56nm、97nm、106nmであった。これらの実施例は、ナノ微粒子銀の重量レベルを増加させると、サイズ分布の平均サイズおよびモードサイズが増加するが、広がりの幅も増すことを示した。実施例9のSEM画像を
図5に示す。
【0102】
実施例12では、PVPでキャッピングしたナノスフェアを酸化グラフェンに担持したときの粒度は、9~18nmの範囲に広がっていた(平均粒度13nm)。これは、PVPでキャッピングした銀ナノスフェアの元の粒度を同一の手法で測定した場合(GOと組み合わせる前の銀ナノ粒子について10~15nm(平均粒度12nm))に対して、ほとんど変化していない。
【0103】
銀の含有率
熱重量分析(TGA)によって銀の含有率を測定した。この銀の含有率を、以下の表3に示す。実施例9~11で得られた湿った粉末試料を空気中で120℃まで加熱して水分を除去した後、900℃まで加熱してグラフェンを焼き切り、不燃性物質(銀)だけを残した。以下の方法で銀の含有率(%)を算出した。
【0104】
【0105】
インクの形成
実施例13~16
実施例9~12の銀/酸化グラフェンナノ粒子の脱イオン水への分散液を、プローブ超音波処理によって1mg/mLとした(それぞれ、実施例13~16)。例えば、実施例12の方法で作製した試料の固体含有率をTGA(Pyris 1、120℃で10分)により測定した。その後、脱イオン水で約1mg/mLの分散液を達成するのに必要な量を秤量した。次に、グラフェン-水混合物(10mL)を氷浴中で超音波処理(マイクロチップ、20%、5分、5sパルス、5s休止)した。すべての分散液のpHを測定したところ、6~9の範囲であった。
【0106】
実施例17および18
実施例15(実施例11をもとに60wt%)および16(実施例12をもとにGOを有するPVP-キャッピングしたAg NP)(それぞれ実施例17および18に対応)からインクを作製した。上記実施例15および16で調製した1mg/mLの分散液に、PVPを20wt%の量で添加した。次に、これを、Dual Asymmetric Centrifugal(DAC)ミキサーを用いて混合した。このようにしてインクの粘度を高めることができ、ローラーコーティングが可能な粘性の材料を提供した。
【0107】
実施例19、20および21
プローブ超音波処理をより高い出力(40%出力、750W、10分、5sパルス)で行ったこと以外は実施例15で用いた方法を使用して、還元酸化グラフェン材料(実施例11)にAgを入れた4mg/mLの分散液を作製した(実施例19)。同様の方法で0.4mg/mLの分散液を作製した(実施例20)。実施例16の方法を用いて、GO(実施例12)にAgを入れた0.4mg/mLの分散液を作製した後、4/10に希釈した(実施例21)。
【0108】
実施例22および23
実施例22は、10nmの銀ナノ粒子でデコレーションされたチオール化酸化グラフェンを4g/リットルの濃度で含むインクである。実施例23は、40nmの銀ナノ粒子でデコレーションされたチオール化酸化グラフェンを4g/リットルの濃度で含むインクである。
【0109】
酸化グラフェンのチオール化
酸化グラフェンの4g/Lの分散液(上記に示した工程に沿って調製した)を準備し、20分間超音波処理した。375mlを遠心分離フラスコに移した。24.0gの水硫化ナトリウム(NaHS)(Sigma Aldirchコード161527)を、室温で、撹拌しながら(磁気スターラー)30分かけて徐々に添加した。グリコール浴を用いて、混合物を55℃まで加熱し、20時間連続的に攪拌しながら、この温度に維持した。得られた混合物を、4000rpmで45分間遠心処理した。上清をデカントした。超高品質(UHQ)の水を加え、チューブの内容物を混合して固体を分散させた。この混合物を4000rpmで45分間遠心処理した。これをさらに数回繰り返し、未反応のNaHSを除去した。最後の洗浄では、上清を遠心チューブからできるだけ多く取り除いた。残留物を三角フラスコに入れ、50℃の真空オーブンで一晩、完全真空下で乾燥させた。
【0110】
銀でデコレーションしたGO-SHの形成
残留物(GO-SH)0.2046gを、超音波処理と高速ミキサーを使用してUHQ水114mlに分散させた。これを2×57mlのアリコートに分け、それぞれを別の500ml遠心チューブに入れた。57mlのGO-SH溶液の一方に、10nmの銀ナノ粒子(Sigma Aldrichコード:730785-25ML;1mg/L)250mlを加えた(実施例22)。もう一方の57mlのGO-SH溶液に、40nmの銀ナノ粒子(Sigma Aldrichコード:730807-25ML;1mg/L)250mlを加えた(実施例23)。両方の溶液を、マグネチックスターラーバーを用いて撹拌し、一晩放置した。
【0111】
次に、遠心機を使用して4000rpm(10000rpmは不可能)で数時間かけて分散液を分離した後、一晩放置してからデカントした。これを数回実施した。試料を22mlと32ml(それぞれ10nmと40nm)になるまでデカントした。その後、両方の試料をUHQ水で50mlにし、濃度が約4g/リットルになるようにした。
【0112】
コーティング
実施例15、16、17および18のインクを、Fibertex 100 Pur Trucoat 35gsmおよびFibertex 100-VIS-Flat 50gsmを含む布材にうまくコーティングした。
【0113】
ウォッシュコーティング
Fibertex 100 Pur Trucoat 35gsmおよびFibertex 100-VIS-Flat 50gsm材料の50×50mmの素材見本を、飽和状態になるまで実施例15および16のインクの浴に入れた後、取り出して金属パネル上で周囲温度にて空気乾燥させた。肉眼では、両方のコーティングが、布帛全体で均一かつ平坦であるように見えた。両者を顕微鏡写真で調べた。実施例16のインクを用いたコーティングでは、素材見本の繊維上に均一な褐色のコーティングが形成されることがわかった。これは、水中での材料の安定性とGOの成膜特性によるものであると考えられる。実施例15ではコーティングが形成されたが、いくつかの小さな凝集物が見られた。これは、GOの減少により成膜性が若干低下したためであると考えられる。
【0114】
ローラーコーティング
Fibertex 100 Pur Trucoat 35gsmおよびFibertex 100-VIS-Flat 50gsm材料の50×50mmの素材見本を金属パネルに並べ、インクのライン(実施例17および18の各々で2~3mL)をそれらに隣接して堆積させた。次に、各試料のインクを、インクローラーを使用して各素材見本にコーティングした。その後、コーティングがなされた素材見本を、金属パネル上で空気乾燥させた。どちらの実施例のインクも、両方の布帛に迅速かつ均一に堆積されるようであり、布帛を完全に飽和させることはなかった。布帛はコーティングで硬くなったが、柔軟性は保たれた。
【0115】
抗ウイルス性試験
抗ウイルス効果(efficacy)を、プラークアッセイ法を用いて決定した。試験対象としたウイルス株は、インフルエンザAウイルス(IAV)である。AgデコレーションGO粒子の水中での効果(efficacy)を、10
3プラーク形成単位(PFU)の低濃度と10
4PFUの高濃度の2種類のウイルス濃度で測定した。標準試験では、供給されたAgデコレーションGOの各例の分散液(250μl)を50μlのIAVと混合する。最初のIAV/AgデコレーションGOの混合から1分後、5分後、10分後にウイルス効果(efficacy)を測定した。IAVと活性粒子を分離するため、割り当てられた時間の後、分散液を遠心処理した。MDCK細胞を用いてプラークアッセイを作った。
希釈した分散液も、低PFUと高PFUの両方で試験した。これを、リン酸緩衝液(PBS)(リン酸緩衝生理食塩水1X、Ca、Mg、フェノールレッドなし、0.1マイクロメートル滅菌濾過、pH7.4、Genesee Scientific)で1:100に希釈した。実験過程と結果を以下に説明し、
図6~8に示す。
【0116】
GO/Ag NP処理
酸化グラフェン/銀ナノ粒子(GO/Ag NP)インク溶液(表4参照)を20分間超音波処理し、粒子を分散させた。インク溶液、ビヒクルまたは1×PBS(未希釈のPBS)を、96ウェルプレートに250μLの容量で加えた。処理については、GO/Ag NPインクを未希釈(100%GO/Ag NP;H2Oビヒクル)または1×PBSで100倍に希釈して(1%GO/Ag NP;1%H2Oビヒクル)試験した。
【0117】
103または104PFU/mLのインフルエンザAウイルス(A/WSN/33(H1N1)、IAV)を50μLの容量で処理ウェルに加え、GO/Ag NP:IAVの最終容量比を5:1とした。0.2%ウシ血清アルブミン(BSA)(w/v、Fisher Scientific)ビヒクルを含有する1×PBS(カルシウムおよびマグネシウムを含む)を対照ウェルに加えた。IAVまたはビヒクルの添加から1分後、5分後および10分後に、プレートを1650×gで5分間遠心処理した。上清を清潔な96ウェルプレートに移した。各々の処理条件で3重に試験した。
【0118】
【0119】
IAV感染力の定量化
プラークアッセイを実施して、IAV感染力を測定した。6ウェルの組織培養プレートを使用して、MDCK細胞を10%FBS(hermoFisher Scientific/Gibco)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ThermoFisher Scientific)を含有するDMEM(ThermoFisher Scientific/Gibco)で90~95%コンフルエンスになるまで増殖させた。GO/Ag NP処理プレートの上清を1×PBS/0.2%BSAで段階希釈し、100μLをMDCK細胞モノレイヤーに播種した。接種後のプレートを37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、接種物を、1.2%NaHCO3、0.2%BSAおよび1%細菌寒天(Oxoid)を含有する1×ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に置き換えた。37℃で72時間のインキュベーション後、1×DMEM/1%細菌寒天を除去し、MDCK細胞単層膜を0.1%クリスタルバイオレットで染色した。ウェルあたりのプラーク数をカウントし、ウイルス力価を測定した。
【0120】
MDCK細胞の生存率の評価
GO/Ag NP上清またはビヒクルに曝露した後のMCDK細胞の生存率を、Cytotoxicity Detection Kit(Millipore Sigma#11644793001)を使用して評価した。試験の前に、GO/Ag NPインク上清またはビヒクル試料を、プラークアッセイの準備で行ったのと全く同様にして、1×PBS/0.2%BSAで段階希釈した。未希釈または希釈したGO/Ag NPインク上清またはビヒクル(1×PBS)100μLを、6ウェルの組織培養プレートで90~95%コンフルエンスになるまで増殖させたMDCK細胞上に播種した。プレートを37℃で1時間インキュベートした。その後、上清を、フェノールレッドを含有しない培地(寒天状培地)に交換した。処理の1時間後と18時間後に培地試料を得て、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の有無を試験した。この試験は、光学的に透明な96ウェルプレートのウェルに、等量の細胞培養上清と、塩化ヨードテトラゾリウムおよび乳酸ナトリウム色素溶液を含有するジアホラーゼ/NAD+触媒とを混合することを含む。その後、この混合物を25℃で30分間インキュベートする。培地の存在下でのみ増殖した細胞を低LDH対照とした。2%Triton-Xで溶解した細胞を高LDH対照とした。基準波長を650nmとして、490nmで光学密度(OD)を測定した。生存率(%)を次のように計算した。
【0121】
【0122】
結果
10
3または10
4PFU/mLのIAVのいずれかと容積比5:1で混合し、1分間、5分間または10分間インキュベートすることによって、感染性IAV濃度を低下させるGO/Ag NPインク溶液(表4)の能力について試験した。結果を
図6A~
図6Dに示す。次に、処理後のウイルスプラーク形成単位(PFU)を定量化することによって、プラークアッセイを実施し、GO/Ag NP曝露後のIAV感染力を評価した。未希釈(100%)のGO/Ag NPの実施例12aは、調べたすべての曝露時点において、IAVプラーク形成を完全に阻害した。また、1%GO/Ag NP試料の実施例12aも、すべての曝露時点においてプラーク形成を有意に阻害することができた(
図6B)。他のすべてのインク溶液は、ある処理条件下でウイルス量を最大0.5logまで有意に減少させることが可能であった。GO/Ag NP水性ビヒクルは、PBSのみと比較してIAV生存率に影響を与えず(
図7)、GO/Ag NPインク上清もMDCK細胞の生存率に影響を与えることが見出されなかった(
図8)。
【0123】
図6において、1%GO/Ag NPインク溶液を青色のバー(各々のタイムセットの中央のバー)で示し、100%GO/Ag NPインク溶液を赤色のバー(各々のタイムセットの右側のバー)で示し、1×PBSを黒色のバー(各々のタイムセットの左側のバー)で示す。
図7、
図8、
図10で同一の色またはバーの配置を使用している。x軸は、時間(1分、5分、10分)を示す。y軸はLog(PFU)を示す。これは、
図6a~
図6d、
図7、
図8および
図10のすべてのグラフについて同様である。
図6a-実施例9a、
図6b-実施例12a、
図6c-実施例22aおよび
図6d実施例23aでの処理後のプラークアッセイ結果を示す。ここに示したデータは平均±SD、n=3試料/群である。*はp≦0.05を示す。有意性については、Tukeyの多重比較検定による2元配置分散分析を用いて決定した。
【0124】
図7に、水性ビヒクルがIAV感染力を変化させるか否かを調査した結果を示す(GO/Ag NPを使用)。10
3または10
4PFU/mLのIAVを、1%H
2O(1×PBSで希釈、青色のバー)または100%H
2O(赤色のバー)ビヒクルまたは1×PBS(黒色のバー)に10分間曝露した。その後、上述したように、プラークアッセイによってウイルスPFUを測定した。ここに示したデータは平均±SDで、n=3試料/群である。有意性については、Kruskal-Wallis検定で決定した。
【0125】
図8に、上清がMDCK細胞の生存率に影響を与えるか否かを調査した結果を示す。MDCK細胞を、表4の各GO/Ag NP試料の上清、ビヒクルまたは1×PBSに曝露した。青色のバーは、GO/Ag NPの1%溶液または1%H
2Oビヒクルの上清で処理したMDCK細胞を表し、赤色のバーは、100%GO/Ag NPまたは100%H
2Oビヒクルを表す。黒色のバーは1×PBSに曝露したMDCK細胞を示す。処理の1時間後(上)と18時間後(下)に回収した培地でLDHの濃度を測定した。生存率(%)は、「材料および方法」で説明したようにして決定した。ここに示したデータは平均±SD、n=3試料/群である。*は、PBS対照と比較して、p≦0.05を示す。有意性については、Tukeyの多重比較検定を用いた2元配置分散分析を用いて決定した。ND=データを入手できず。
【0126】
図9および
図10に、実施例12aの結果をより詳細に示す。ここでは、未希釈で100%の効果(efficacy)が得られ、希釈したものでさえ細胞生存率に有意な影響を与えることが分かる。低、高とは、PFUをいう。これは、GOの(ウイルス脂質膜の)酸化能と銀の酸化能の相乗効果によるものであると考えられる。GOの官能基が還元されない直接添加法を用いることで、このGOの高い酸化能力と、GO全体での銀ナノ粒子の間隔。PVPコーティングされた銀を加えると、少数の利用可能な酸素部位(O、COOHおよびOH)のみを使用して、GOのエッジ/表面に相当数の酸素種を残すことができる。
【0127】
以上、上記の具体的な実施形態および実施例を参照して本発明を説明してきたが、本発明から逸脱することなく、実施形態および実施例を改変可能であることが理解されるであろう。
【国際調査報告】