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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-15
(54)【発明の名称】標的イオン輸送のための電解質
(51)【国際特許分類】
   C07D 207/04 20060101AFI20230608BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20230608BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230608BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20230608BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230608BHJP
   H01M 8/1016 20160101ALI20230608BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230608BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20230608BHJP
   C07F 5/02 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
C07D207/04 CSP
H01M10/0565
H01M10/052
H01M10/054
H01M10/0566
H01M8/1016
H01B1/06 A
H01G11/56
C07F5/02 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569459
(86)(22)【出願日】2021-05-13
(85)【翻訳文提出日】2023-01-10
(86)【国際出願番号】 AU2021050450
(87)【国際公開番号】W WO2021226675
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】2020901539
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511095676
【氏名又は名称】ディーキン ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】522443257
【氏名又は名称】モナシュ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】ジェニー プリングル
(72)【発明者】
【氏名】カロリーナ マッツゼック
(72)【発明者】
【氏名】ティム ニュービギン
(72)【発明者】
【氏名】ファゼ マクローギ アザド
【テーマコード(参考)】
4H048
5E078
5G301
5H029
5H126
【Fターム(参考)】
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB90
4H048VA11
4H048VA22
4H048VA32
4H048VA77
4H048VB10
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA27
5E078BA44
5E078BA53
5E078DA12
5E078FA13
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AL12
5H029AM01
5H029AM16
5H029DJ17
5H029HJ00
5H029HJ02
5H029HJ14
5H029HJ16
5H126AA03
5H126BB06
5H126JJ00
5H126JJ03
5H126JJ05
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つの正電荷を有する少なくとも1つの正電荷官能基と、少なくとも1つの負電荷を有する少なくとも1つの負電荷官能基と、を含む単分子の形態の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物を提供し、正電荷官能基及び負電荷官能基は分子内で相互に共有結合的に連結され、双性イオン化合物の正味電荷はゼロであり、化合物は固体状態において分子不規則性の証拠を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ポリマー分子の形態の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物であって、
少なくとも1つの正電荷を有する少なくとも1つの正電荷官能基と、
少なくとも1つの負電荷を有する少なくとも1つの負電荷官能基と、
を含み、
前記正電荷官能基及び前記負電荷官能基が前記分子内で相互に共有結合的に連結され、前記双性イオン化合物の正味電荷がゼロであり、前記化合物が固体状態において分子不規則性を示し、前記化合物は以下の、
溶融前の1以上の固体-固体相転移を含む熱相挙動と、
前記固体状態において、20KHz以下の1以上のNMR線幅と、
SEM分析でのすべり面及び映進面を含む形態と、のうちの2つ以上を示す、双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物。
【請求項2】
前記化合物は以下の、
溶融前の1以上の固体-固体相転移を含む熱相挙動と、
前記固体状態において、20KHz以下の1以上のNMR線幅と、
SEM分析でのすべり面及び映進面を含む形態と、
規則格子内の前記分子の回転又はディスオリエンテーションに起因する短距離不規則性とともに長距離の規則性結晶構造と、
約60JK-1mol-1未満、より好ましくは約20JK-1mol-1未満の融解エントロピーΔSと、のうちの3つ以上を示す、請求項1に記載の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物。
【請求項3】
前記正電荷官能基の少なくとも1つは、カチオン部分、例えば、非置換又は置換複素環カチオンを含むカチオン部分にわたる前記正電荷の非局在化を容易にする官能基及び/又は置換基を含むカチオン成分に由来し、前記複素環は、N、P、S又はOの1以上を含む、請求項1又は2に記載の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物。
【請求項4】
前記非置換又は置換複素環カチオンは、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、オキサゾリジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、トリアゾリウムカチオン、チアゾリウムカチオン、チオラニウムカチオン、アンモニウムカチオン、グアニジウムカチオン又はチアニウムカチオンである、請求項3に記載の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物。
【請求項5】
前記負電荷官能基の少なくとも1つは、アニオン成分にわたる前記負電荷の非局在化を容易にする官能基及び/又は置換基を含む前記アニオン成分に由来する、請求項1から4のいずれか一項に記載の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物。
【請求項6】
アニオン成分は、ボレート、シアノボレート、スルホニルイミド、フルオロスルホニルイミド(FSI)、ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート又はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSA)を含む、請求項5に記載の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物。
【請求項7】
少なくとも1つの負電荷を有する前記負電荷官能基の少なくとも1つは、既知のOIPCによるアニオンに由来する、請求項1から6のいずれか一項に記載の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物。
【請求項8】
[N1,1,1,1][DCA]、[N1,2,2,2][BF]、[P1,2,2,2][TFSI]、[ヘキサメチルグアニジニウム][TFSI]、[ヘキサメチルグアニジニウム][BF]、[ヘキサメチルグアニジニウム][FSI]、[Cmpyr][FSI]、[Cmpyr][BF]、[P1,2,2,2][FSI]、[P1,2,2,i4][PF]、[P1,4,4,4][FSI]、[Him][Tf]、[Hmim][Tf]、[N2,2,3,3][BBu]、[N3,3,3,3][BF]、[Cepyr][TFSI]、[Cepyr][FSI]、[Cepyr][PF]、[Cepyr][BF]、[Cmoxa][FSI]、[Cmoxa][FSI]、[Cmoxa][TFSI](oxa=オキサゾリジニウム)、[Cmmor][FSI]、[Cmmor][TFSI]、[Cmmor][BF](mor=モルホリニウム)、[C101mpyr][FSI]、[Cmpyr][TCM]、[Cmpyr][DFTFSI]、[Cmpyr][FTFSI]、[Cmpyr][(FH)F]及び[Cmpyr][(FH)F]、[Cmpyr][TFSI]、[(NH][Tf]、[2-Me-im][Tf]並びに[TAZm][PFBS]からなる群から選択される既知のOIPCの連結されたカチオン及びアニオンに由来する請求項1から7のいずれか一項に記載の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物。
【請求項9】
プロトン化された形態での、請求項1から8のいずれか一項に記載の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物。
【請求項10】
以下のプロトン化された構造体の1つを有する請求項9に記載の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物。
【化1】
【請求項11】
60℃以上の融点を有する請求項1から10のいずれか一項に記載の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物。
【請求項12】
固体状態において分子不規則性を示す双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物であって、以下の一般的な構造体の1つを有し、
【化2】
R’、R’’及びR’’’の1以上は、H又は任意選択的に置換されたC1-6アルキル、任意選択的に置換されたフルオロC1-6アルキル若しくはハロ基から独立して選択され、又はR’及びR’’、R’’及びR’’’若しくはR’及びR’’’の1つは、任意選択的に置換された5員若しくは6員の飽和若しくは不飽和複素環を形成し、
、R及びRの各々は、H、任意選択的に置換されたC1-6アルキル、任意選択的に置換されたフルオロC1-6アルキル又はハロから独立して選択され、
Yは、N又は任意選択的に置換されたC1-6アルキルであり、
Lは、任意選択的に置換されたC1-6アルキルであり、
前記任意選択的な置換基は、C1-6アルキル、ハロ、CN、OMe又はOEtの1以上から選択される、双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物。
【請求項13】
固体状態において分子不規則性を示す化合物であって、以下の構造
【化3-1】
【化3-2】
【化3-3】
のうちの1つを有する化合物。
【請求項14】
固体状態において分子不規則性を示す化合物であって、以下の構造
【化4】
のうちの1つを有する化合物。
【請求項15】
固体状態溶媒としての、請求項1から14のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項16】
電解質マトリックスとしての、請求項1から14のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項17】
固体状態電解質マトリックスとしての、請求項16に記載の化合物の使用。
【請求項18】
電解質中の伝導率増強添加物としての、請求項1から14のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項19】
前記伝導率増強添加物は不揮発性である、請求項18に記載の化合物の使用。
【請求項20】
前記電解質は液体電解質である、請求項18又は19に記載の化合物の使用。
【請求項21】
前記電解質は、固体電解質又は室温で無視できるほどの揮発性の液体電解質である、請求項15又は16に記載の使用。
【請求項22】
前記化合物は、Li又はNa官能化ポリマーなどのポリマーと組み合わせて用いられる、請求項15から21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
前記化合物は以下の構造
【化5】
のうちの1つを有する、請求項15から22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物を同定する方法であって、
(i)少なくとも1つの正電荷を有する少なくとも1つの正電荷官能基と、少なくとも1つの負電荷を有する少なくとも1つの負電荷官能基と、を含む非ポリマー双性イオン化合物を供給するステップであって、前記正電荷官能基及び前記負電荷官能基が前記分子において相互に共有結合的に連結され、前記双性イオン化合物の正味電荷がゼロとなる、ステップと、
(ii)前記双性イオン化合物を双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物として同定する、固体状態での分子不規則性の証拠について前記双性イオン化合物をスクリーニングすることによって、前記双性イオン化合物を双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物として確立するステップであって、分子不規則性が、以下の
溶融前の1以上の固体-固体相転移を含む熱相挙動と、
静的な前記固体状態のNMRスペクトルにおいて、20KHz以下の1以上のNMR線幅と、
SEM分析でのすべり面及び映進面を含む形態と、のうちの2以上を前記化合物が示すことによって証拠付けされる、ステップと、
を備える方法。
【請求項25】
前記非ポリマー双性イオン化合物は、単一非ポリマー分子においてイオン液体又は有機イオン柔粘性結晶化合物のカチオン及びアニオンを共有結合的に連結することによって形成される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記双性イオン化合物を双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物として確立する前記ステップは、
溶融前の1以上の固体-固体相転移を含む熱相挙動と、
前記固体状態において、20KHz以下の1以上のNMR線幅と、
SEM分析でのすべり面及び映進面を含む形態と、
規則格子内の前記分子の回転又はディスオリエンテーションに起因する短距離不規則性とともに長距離の規則性結晶構造と、
約60JK-1mol-1未満、より好ましくは約20JK-1mol-1未満の融解エントロピーΔSと、のうちの3つ以上について前記化合物をスクリーニングすることを伴う、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
請求項24から26のいずれか一項に記載の方法によって取得可能な双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物。
【請求項28】
請求項1から14又は27のいずれか一項に記載の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物と、イオン塩、酸、塩基、Li若しくはNa官能化ポリマー又はそれらの組合せと、を含む液体の形態の双性イオン柔粘性結晶組成物。
【請求項29】
請求項1から14又は27のいずれか一項に記載の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物と、イオン塩、酸、塩基又はそれらの組合せと、を含む固体状態の形態の双性イオン柔粘性結晶組成物。
【請求項30】
前記ZIPCは少なくとも5mol%の濃度で存在する、請求項28又は29に記載の組成物。
【請求項31】
前記ZIPCは10mol%又は90mol%の濃度で存在する、請求項29に記載の組成物。
【請求項32】
前記イオン塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又は遷移金属塩の1以上、好ましくはリチウム塩又はナトリウム塩である、請求項28から31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項33】
前記イオン塩は、LiBF、LiFSI、LiNTf、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li[TFSI])、リチウム(ビス(フルオロスルホニル)イミド(Li[FSI])、リチウムトリフレート(Li[OTf])、リチウムパークロレート(LiClO)、リチウムジシアンアミド(LiDCA)、リチウムシアネート(LiOCN)、リチウムビス[(ペンタフルオロ-エチル)スルホニル]イミド、リチウム2,2,2-トリフルオロメチルスルホニル-N-シアノアミド(TFSAM)、リチウム2,2,2-トリフルオロ-N-(トリフルオロメチルスルホニル)アセトアミド(TSAC)、リチウムノナフルオロブタンスルホネート(NF)、リチウムカルボラン及びリチウムジフルオロ(オクソラト)ボレートの1以上、好ましくはLiFSI又はLiNTfである、請求項28から32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
前記酸はトリフル酸である、請求項28に記載の組成物。
【請求項35】
前記塩基はイミダゾールである、請求項28に記載の組成物。
【請求項36】
イオン伝導を必要とする用途における、請求項1から14若しくは27のいずれか一項に記載の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物又は請求項28から35のいずれか一項に記載の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)組成物の使用。
【請求項37】
前記用途は、電気化学装置、好ましくは燃料電池、スーパーキャパシタ、色素増感太陽電池又はNaバッテリー若しくはLiバッテリーなどのエネルギー貯蔵装置を備える電気化学電池を含む、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
プロトン伝導を必要とする用途、例えば燃料電池における、請求項1から14若しくは27のいずれか一項に記載のプロトン性双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物又は請求項28から35のいずれか一項に記載の非プロトン性双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)組成物の使用。
【請求項39】
無水プロトン伝導体としての、請求項1から14若しくは27のいずれか一項に記載の塩基でドープされた双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物又は請求項28から35のいずれか一項に記載の塩基でドープされた双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)組成物の使用であって、好ましくは、前記塩基はイミダゾールである、使用。
【請求項40】
請求項1から14又は27のいずれか一項に記載の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物を含む固体状態電解質。
【請求項41】
請求項28から36のいずれか一項に記載の固体状態組成物を含む固体状態電解質。
【請求項42】
任意選択的にイオン塩、酸、塩基、Li若しくはNa官能化ポリマー又はそれらの組合せでドープされる、双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)マトリックスを含む電解質を備えるエネルギー貯蔵装置。
【請求項43】
前記エネルギー貯蔵装置はNaバッテリー又はLiバッテリーとなる、請求項42に記載のエネルギー貯蔵装置。
【請求項44】
任意選択的にイオン塩、酸、塩基、Li若しくはNa官能化ポリマー又はそれらの組合せでドープされる、双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)マトリックスを含む電解質を備える燃料電池装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた標的イオン伝導能力を有する柔粘性結晶化合物に関し、例えば電解質として、高速標的イオン伝導が望まれる様々な用途において用いられ得る。
【背景技術】
【0002】
柔粘性結晶は、規則格子内の個々の分子/イオンの回転又はディスオリエンテーションに起因する短距離不規則性とともに長距離の規則性結晶構造を有する固体である。短距離分子再配置は、負荷の適用下で変形する能力(すなわち、可塑性)をもたらし、柔粘性結晶格子内の第2の種の拡散性を増強する。柔粘性結晶電解質は、一次/標的イオン(例えば、リチウムバッテリーに対してLi、又は色素増感太陽電池に対してI/I )が比較的静的なマトリックスの背景に対して急速に移動する高速イオン伝導体として分類され得る。
【0003】
近年、リチウムバッテリー、色素増感太陽電池、燃料電池及びNaバッテリーにおける新規の固体状態イオン伝導体としての有機イオン柔粘性結晶(OIPC)の適用性が実証されている。これは、OIPCを適切なカチオンでドーピングすること、例えば、リチウムバッテリーでのその適用に対してLi塩を、又は燃料電池に対して酸若しくは塩基を添加することで達成される。さらに、非プロトン性OIPCは良好な熱的及び電気化学安定的性を提供し、それらの無視できるほどの揮発性のため、現在の分子溶媒による電解質よりも安全性を有意に向上させる。OIPCは、構造的に不規則な塩となり、軟性で可塑性を有する機械的特性及び有意なイオン伝導率を示し得る。OIPC内の構造的不規則性は、OIPCがマトリックスとして用いられ、第2の成分(例えば、燃料電池に対する酸/塩基又はLi/Naバッテリーに対するLi若しくはNa塩)がOIPCマトリックスに導入される場合、高速標的イオン伝導を促進し、電気化学装置における固体電解質としてのそれらの使用を可能とする。しかし、それらの固有構造(すなわち、離れたカチオン及びアニオン)は、マトリックスOIPCイオンの望ましくない移動を可能とすると考えられている。理想的な電解質材料では、標的イオン(例えば、Li、Na、H)のみ移動することになる。
【0004】
しかし、OIPCを通じた標的イオン輸送はそれでも十分ではなく、装置の達成可能な電力出力を最終的に限定する。実際に、低い輸率(活性種が有する電荷の割合)、例えばOIPCについてのtLi+は、一般的に0.2未満となる。これは、OIPCのカチオン及びアニオン並びにリチウム塩の対イオンを含む、電荷を有する他の移動種が存在するためである。理想的な輸率(tLi+=1)のためには、Liイオンのみが非常に高速で電解質を通じて移動する必要がある。
【0005】
双性イオン液体及びさらには双性イオン液晶も知られている一方で、ある希な場合には、LiNTf及び炭酸プロピレンとの組合せにおける双性イオン液晶が液体電解質として用いられ得るが、装置からの漏出並びにこの組合せの蒸気圧及び可燃性が問題となる。
【0006】
電気化学分野における有機イオン性双性イオンは、これらがスルホン及びメチルピロリジンの組合せを介して1段階で合成するのが比較的容易なため、スルホネートによる構造体を利用している。しかし、これらのスルホン酸双性イオンは、可塑性の証拠を示さない結晶性固体となり、バッテリー電池に必要な軟性の機械的特性を有していないことから、単独の電解質マトリックス材料としては適切ではない。したがって、上述の欠点の1以上に少なくとも部分的に対処し、又は有用な代替物を提供する、新規の電解質に対する継続的なニーズが存在する。
【0007】
Ohno他(Phys.Chem.Chem.Phys.2018年、20、10978)は、それ自体のTよりも低い165℃での固体-固体転移を有するアルキル置換イミダゾリウム双性イオンを記載している。しかし、溶融物のエントロピーが低いことに加えて、この双性イオンが可塑性挙動を示すという証拠はなく、柔粘性双性イオンは、好ましくはNMR研究によって決定されるように、不規則性の証拠を示す必要がある。さらに、この化合物は固体状態電解質として用いられない。
【0008】
先行技術として特定された特許文書又は任意の他の事項へのここでの参照は、特許請求の範囲のいずれかの優先日の時点でも文書若しくは他の事項が周知であり、又はそれが含む情報が一般常識の一部であったと自認するものとして解釈されるべきではない。
【0009】
用語「備える/含む(comprise)」、「備える/含む(comprises)」、「備えた/含まれた」又は「備えている/含んでいる」のいずれか又はそれらすべてが(特許請求の範囲を含む)この明細書において用いられる場合、それらは、記載された特徴、完全体、ステップ又は成分の存在を特定するように解釈されるが、1以上の他の特徴、完全体、ステップ又は成分の存在を排除するものではない。
【発明の概要】
【0010】
本開示以前には、特定の有機双性イオン化合物が、固体状態における分子不規則性によって証拠付けられるような可塑性を示すことは知られてはいなかった。
【0011】
第1の態様では、本発明は、非ポリマー分子の形態の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物であって、
少なくとも1つの正電荷を有する少なくとも1つの正電荷官能基と、
少なくとも1つの負電荷を有する少なくとも1つの負電荷官能基と、
を含み、
前記正電荷官能基及び前記負電荷官能基が前記分子内で相互に共有結合的に連結され、前記双性イオン化合物の正味電荷がゼロであり、前記化合物が固体状態において分子不規則性を示し、前記化合物は以下の、
溶融前の1以上の固体-固体相転移を含む熱相挙動と、
前記固体状態において、20KHz以下の1以上のNMR線幅と、
SEM分析において観察可能なすべり面及び映進面を含む微細構造又は形態と、のうちの2以上を示す、双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物を提供する。望ましくは、NMR線幅は10KHz以下となり、好ましくは、5KHz以下となり、一部の実施形態では1KHz以下となる。
【0012】
第2の態様では、本発明は、請求項12に記載の一般的な構造体の1つを有する、固体状態において分子不規則性を示す双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物を提供する。
【0013】
第3の態様では、本発明は、請求項13に記載の構造体の1つを有する、固体状態において分子不規則性を示す双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物を提供する。
【0014】
第4の態様では、本発明は、以下の構造体の1つを有する、固体状態において分子不規則性を示す化合物を提供する。
【化1】
【0015】
第5の態様では、本発明は、固体状態溶媒としての、第1~第4の態様の化合物の使用を提供する。
【0016】
第6の態様では、本発明は、電解質マトリックス、好ましくは固体状態電解質マトリックスとしての、第1~第4の態様の化合物の使用を提供する。
【0017】
第7の態様では、本発明は、電解質中の伝導率増強添加物としての、第1~第4の態様に係る化合物の使用を提供し、好ましくは、電解質はポリマーによる電解質又はイオン液体による電解質となる。
【0018】
第8の態様では、本発明は、双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物を同定する方法であって、
(i)少なくとも1つの正電荷を有する少なくとも1つの正電荷官能基と、少なくとも1つの負電荷を有する少なくとも1つの負電荷官能基と、を含む非重合双性イオン化合物を供給するステップであって、前記正電荷官能基及び前記負電荷官能基が前記分子において相互に共有結合的に連結され、前記双性イオン化合物の正味電荷がゼロとなる、ステップと、
(ii)前記双性イオン化合物を双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物として同定する、固体状態での分子不規則性の証拠について前記双性イオン化合物をスクリーニングすることによって、前記双性イオン化合物を双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物として確立するステップであって、分子不規則性は、以下の、
溶融前の1以上の固体-固体相転移を含む熱相挙動と、
静的な前記固体状態のNMRスペクトルにおいて、20KHz以下の1以上のNMR線幅と、
SEM分析においてすべり面及び映進面を含む微細構造又は形態と、のうちの2以上を前記化合物が示すことによって証拠付けされる、ステップと、を備える方法を提供する。望ましくは、NMR線幅は10KHz以下となり、好ましくは、5KHz以下となり、一部の実施形態では1KHz以下となる。
【0019】
第9の態様では、本発明は、第8の態様の方法によって得ることが可能な双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物を提供する。
【0020】
第10の態様では、本発明は、第1~第4の態様又は第9の態様に係る双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物と、イオン塩、酸、塩基、Li若しくはNa官能化ポリマー又はそれらの組合せと、を含む液体の形態の双性イオン柔粘性結晶組成物を提供する。
【0021】
第11の態様では、本発明は、第1~第4の態様又は第9の態様に係る双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物と、イオン塩、酸、塩基、Li若しくはNa官能化ポリマー又はそれらの組合せと、を含む固体状態の形態の双性イオン柔粘性結晶組成物を提供する。
【0022】
第12の態様では、本発明は、イオン伝導を必要とする用途、例えば、電気化学装置、好ましくは、燃料電池、スーパーキャパシタ、色素増感太陽電池又はNaバッテリー若しくはLiバッテリーなどのエネルギー貯蔵装置を備える電気化学電池における、第1~第4の態様若しくは第9の態様に係る双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物又は第10若しくは第11の態様に係る双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)組成物の使用を提供する。
【0023】
第13の態様では、本発明は、プロトン伝導を必要とする用途、例えば、燃料電池における、プロトン性形態の第1~第4の態様又は第9の態様に係る双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物の使用を提供する。
【0024】
第14の態様では、本発明は、無水プロトン伝導体としての、第1~第4の態様又は第9の態様に係る、塩基でドープされた双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物の使用を提供し、好ましくは、塩基はイミダゾールとなる。
【0025】
第15の態様では、本発明は、第1~第4の態様又は第9の態様に係る双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物を含む固体状態電解質を提供する。
【0026】
第16の態様では、本発明は、第10又は第11の態様の固体状態組成物を含む固体状態電解質を提供する。
【0027】
第17の態様では、本発明は、任意選択的にイオン塩、酸、塩基、Li若しくはNa官能化ポリマー又はそれらの組合せでドープされる双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)マトリックスを含む電解質を備えるエネルギー貯蔵装置の使用を提供する。
【0028】
第18の態様では、本発明は、第17の態様に係るエネルギー貯蔵装置の使用を提供し、エネルギー貯蔵装置はNaバッテリー又はLiバッテリーである。
【0029】
第19の態様では、本発明は、任意選択的にイオン塩、酸、塩基、Li若しくはNa官能化ポリマー又はそれらの組合せでドープされる双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)マトリックスを含む電解質を備える燃料電池装置を提供する。
【0030】
本発明の実施形態は、ここで添付の図面を参照して単なる例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1A】多数の新規双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)の構造を、多数の類似の確立されたOIPCと比較して示す図である。化合物1、2、5及び6は、Boron Molecular社によるカスタム合成による要求に対して作製された新規化合物である。新規化合物3及び4は、ディーキン大学で作製される。化合物7、8及び9は市販されているが、柔粘性結晶としてはこれまで記載されていなかった。
図1B】純粋なZIPC1、ZIPC2、ZIPC5及びZIPC6の熱分析情報を示す図である。
図1C】ZIPCを形成する組合せについてのカチオン及びアニオンを示す図である。
図2A図2Aは、(a)ZIPC1及び10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1並びに(b)純粋な[Cmpyr][BF]OIPC及び10mol%のLiFSIでドープされた[Cmpyr][BF]OIPCの示差走査熱量測定(DSC)昇温トレースを示す。昇温/降温速度は、±10K/分である。
図2B】ZIPC1及びZIPC1において90mol%のLiFSIの電解質混合物のDSC昇温トレースを示す図である。
図3A図3Aは、(a)(ペレットとして)純粋なZIPC1(すべり段(Slip steps)、粒界(grain boundaries))及び(b)ZIPC1において10mol%のLiFSIのSEM画像及び微細構造を示す。
図3B】ZIPC1において90mol%のLiFSIの電解質混合物のSEM画像を示す。
図3C】ZIPC6のSEM画像を示す(ペレットを調製し、画像を室温で撮影した)。
図3D】NaFの表面のSEM画像を示す。
図3E】室温でペレットにプレスされた純粋なZIPC5のSEM画像を示す。
図4A(a)】図4A(a)から(c)は純粋なZIPC1及び[Cmpyr][BF]OIPC並びにそれらのLiFSIの混合物のイオン伝導率を温度の関数として示した図であり、図4A(a)は、ZIPC1及びOIPC中の10mol%のLiFSIのイオン伝導率である。
図4A(b)】図4A(a)から(c)は純粋なZIPC1及び[Cmpyr][BF]OIPC並びにそれらのLiFSIの混合物のイオン伝導率を温度の関数として示した図であり、図4A(b)は、それらの線幅対温度である。
図4A(c)】図4A(a)から(c)は純粋なZIPC1及び[Cmpyr][BF]OIPC並びにそれらのLiFSIの混合物のイオン伝導率を温度の関数として示した図であり、図4A(c)は、純粋なZIPC、OIPC及びそれらの10mol%のLiFSIとの混合物のイオン伝導率である。
図4B】純粋なZIPC1及びZIPC1において90mol%のLiFSIの電解質混合物のイオン伝導率を温度の関数として示す図である。
図5A(a)】左側の図(a)は10mol%LiFSIでドープされたOIPCの可変温度-静的Liスペクトルを、右側の図(b)は10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1の可変温度-静的Liスペクトルを示す図である。
図5A(b)】10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1のLiの線幅の比較を温度の関数として示す図である。
図5B(a)】左側の図(a)は90mol%のLiFSI及びZIPC1電解質混合物の可変温度-静的Liスペクトルを、右側の図(b)は純粋なLiFSIのVT-静的Liスペクトルを、それぞれ示す図である。
図5B(b)】90mol%のLiFSI及びZIPC1電解質混合物のVT-静的19Fスペクトルを示す図である。
図5B(c)】90mol%のLiFS及びZIPC1電解質混合物のLi(上の図)及び19F(下の図)の線幅を温度の関数として示す。
図5C】左側の図(a)は、純粋なZIPC5のHのシングルパルススペクトルを示す。右側の図(b)は、純粋なZIPC5の19Fのシングルパルススペクトル対温度を示す。
図5D(a)】ZIPC5中の10mol%LiFSIのイオン伝導率を示す図である。
図5D(b)】ZIPC5中の10mol%LiFSIのDSCトレースを示す図である。
図5D(c)】ZIPC5中の10mol%LiFSIのSEM画像を示す図である。
図6A】20℃(左側の図)及び60℃(右側の図)での10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1及び10mol%のLiFSIでドープされたOIPCのVT-静的19Fスペクトルを示す図である。
図6B】OIPC中のBF及びZIPC1中のBF19Fの線幅を示す図である。
図6C】10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1及び10mol%のLiFSIでドープされたOIPCの、温度の関数としてのFSIの19Fの線幅を示す図である。
図6D】温度の関数としてのZIPC1についてのシングルパルスの19Fスペクトルを示す図である。
図6E】結晶性固体について、線幅は、非常に広く、100ppmより大きくなり、上の図は温度の関数としての19FについてのZIPC1のNMR線幅を、下の図は19Fの静的NMRスペクトルの逆重畳積分により得られた、温度の関数としてのZIPC1の19Fの狭いピークの面積分率を示す。青の破線(縦に引いた破線)は、DSCで測定した場合の、異なる熱相を分離している。
図7A】PFG-NMRによって測定された、異なる温度での10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1及び10mol%のLiFSIでドープされたOIPCのLi、19F及びHの拡散係数の比較を示す。赤のプロット(縦軸で下の方に表れているプロット)はOIPCであり、黒のプロット(縦軸で上の方に表れているプロット)はZIPC1である。
図7B】PFG-NMRによって測定された、異なる温度での90mol%のLiFSI及びZIPC1電解質混合物のLi(黒:上の図)及び19F(赤:下の図)の拡散係数を示す図である。
図8】10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1の0.05mVS-1で50℃でのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
図9A】Li|10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1電解質|Li電池の、10mVの電位ステップで50℃でのクロノアンペロメトリを示す図である。
図9B】Li|ZIPC1中の90mol%LiFSIの電解質混合物|Li電池の、10mVの電位ステップで50℃のクロノアンペロメトリを示す図である。
図10A(a)】図10A(a)から(c)は、ZIPC1中の10mol%LiFSIの、異なる電流密度での、1時間の分極時間(各電流密度で10サイクル)で50℃でのLi|Li対称電池サイクリングを示す図である。
図10A(b)】図10A(a)から(c)は、ZIPC1中の10mol%LiFSIの、異なる電流密度での、1時間の分極時間(各電流密度で10サイクル)で50℃でのLi|Li対称電池サイクリングを示す図である。
図10A(c)】図10A(a)から(c)は、ZIPC1における10mol%LiFSIの、異なる電流密度での、1時間の分極時間(各電流密度で10サイクル)で50℃でのLi|Li対称電池サイクリングを示す図である。
図10B】10mol%のLiFSI及びZIPC1電解質混合物の、0.1mA/cm、50℃での対称電池サイクリング性能を示す図である。
図11】(リン酸鉄リチウム)LFP|ZIPC1中の10mol%LiFSI|Liの、2.8~3.8Vの範囲の50℃でのサイクリング性能を示す図である。
図12】ZIPC7のDSCトレースが昇温サイクルにおいて3個のピーク(T1=92℃、ΔH=26J/g、T2=106℃、ΔH=10J/g、T3=119℃、ΔH=25J/g)(イミダゾールの融点=89℃)及び異なる濃度でのイミダゾールドーピングの効果を示す図である。
図13】純粋なプロトン性ZIPC7及び異なる量のイミダゾール塩基でドーピングした際の伝導率を示す図である。各サンプルの伝導率を3回測定した。
図14】トリフル酸でドープされたプロトン性ZIPC7の伝導率の結果を示す図である。
図15図15は、ZIPC1電解質中の50mol%液体LiFSIの伝導率及び対称リチウム電池性能を示し、a)イオン伝導率及び粘度(挿入図-液体電解質のDSCトレース)、b)1ステップあたり0.2mAcm-2の1時間の分極時間、50℃でのLi│Li対称電池の電圧プロファイル、c)1ステップあたり1時間の分極時間、50℃で異なる電流密度でのLi│Li対称電池サイクリングである。
図16A】純粋なZIPC1並びに10mol%及び90mol%のLiBFとのその混合物のDSCトレースを示した図である。
図16B】b)はZIPC1中の10mol%(液状相(liquid-like phase)及び粒体(grains))の、c)は90mol%(粒界(grain boundaries))のLiBFのSEM画像である。
図16C】d)及びe)はそれぞれ、ZIPC1中の10mol%及び90mol%のLiBFの、Liシングルパルスの静的NMRスペクトル対温度を示す図である。
図16D】f)及びg)はそれぞれ、ZIPC1中の10mol%及び90mol%のLiBFの、19Fシングルパルスの静的NMRスペクトル対温度を示す図である。
図17A】純粋なZIPC1並びに10mol%及び90mol%のLiBFとのその混合物のイオン伝導率を示す図である。
図17B】異なる温度でのZIPC1中の10mol%及び90mol%のLiBFについてのLi及び19Fの拡散係数を示す図である。
図18A】ステンレススチールの作用電極対Li金属の基準電極を用いて0.05mVs-1の走査速度で採取された、50℃でのZIPC1中の、10mol%のLiBFのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
図18B】ステンレススチールの作用電極対Li金属の基準電極を用いて0.05mVs-1の走査速度で採取された、50℃でのZIPC1中の、90mol%のLiBFのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明者らは、好ましくはOIPCによる特定のカチオン及びアニオンを相互に共有結合的に連結することが、双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物を形成し得ることを予期せず発見した。そのようなイオンの連結は、電界でのOIPCに対して観察される正味マトリックスイオン移動を低減/排除する。イオン連結は、ZIPCを通じた、例えば、標的イオンの供給源でドープされたZIPC電解質マトリックスを通じた標的イオンの輸送を増加させる。柔粘性双性イオンは、既存の固体状態電解質マトリックス(例えば、OIPCマトリックスイオンの並進移動からもたらされるOIPC電解質マトリックス)において観察される、低い標的イオンの輸率の問題に対処する。解決策は、ZIPC電解質マトリックスが標的イオンの塩でドープされる場合、(ZIPCにおける全体的な不規則性の驚くべき保持により生じる)予期せぬZIPCの可塑性が高い標的イオン伝導率を可能とする一方で、電界において移動しない正味の中性分子において正電荷及び負電荷が相互に連結されるZIPCマトリックスを用いることによって、マトリックスOIPCイオンの望ましくない移動を排除することを伴う。連結は回転及び並進の不規則性に対する機会を低減させることが予想されていたため、単分子において電荷を連結することがこれらの利点を提供していたことは予想外であった。特定のイオンが連結した化合物が可塑性を示すこと、及び本発明のZIPCが十分な不規則性を示して、固体状態マトリックスにおいてより良好な標的イオン輸送を可能とするであろうことは、予想外であった。イオンを連結することは可能な不規則運動(回転及び並進)の数を減少させることが予想されるため、そのようなイオン連結は通常、規則的な結晶性化合物を生成すると予想されるので、どの先行研究も有機イオン柔粘性結晶のイオンを連結することが柔粘性双性イオンを形成することを示唆せず、それにより本発明の双性イオン柔粘性結晶化合物からは遠ざかった教示をする。さらに、電解質マトリックスに供給された塩からの標的イオンの解離を補助するという観点において、そのようなマトリックスは、有用性を欠くことが予想される。当技術分野では、記載された双性イオンが、対応するOIPCよりも良好な標的イオン輸率を実証するとは示唆していない。
【0033】
本発明のZIPCは、OIPCによる重要な課題であったカウンターイオン輸送を同時に抑制しつつ、標的イオン(例えば、Li、Na、H)の向上された固体状態伝導率及び輸送を提示する。これは、高い輸率、例えばZIPC1固体電解質混合物中の90mol%のLiFSIについての0.7の(tLi+)によって実証される。OIPC中のLi塩の一般的な輸率は、0.2未満となる。ZIPCは、金属アノード、例えばリチウム又はナトリウム金属アノードを有する電池での使用に特に適している。
【0034】
さらに、プロトン性及び非プロトン性ZIPCは、プロトン性及び非プロトン性OIPCを超えるプロトン伝導率における向上を提供する。
【0035】
ZIPCは、(i)バッテリーに対する塩、特にLi若しくはNaを含む材料でドープされる固体状態電解質マトリックス材料として、(ii)標的イオン、特にLi若しくはNaイオンの解離及び輸送を容易にする他の電解質に対する添加物として、(iii)酸若しくは塩基でドープされた場合の、プロトン交換膜(PEM)燃料電池に対するプロトン伝導材料として、及び/又は(iv)既存のイオン伝導体用途におけるOIPCの代替物として提案される新規の種類の材料である。(i)の観点において、新規のZIPC電解質材料は、リチウム塩でドープされた場合、10-9Scm-1よりも高いイオン伝導率及び0.2よりも高いtLi+を有する。
【0036】
Li及びNaバッテリーでは、本発明のZIPCは、ポリマーによる電解質又はイオン液体による電解質などの他の電解質内の添加物として用いられて、標的イオンの解離並びに標的イオンの移動性及び電解質を通じた輸送の増強を促進し得る。これは、ZIPCが、正電荷の標的イオン(例えば、Li又はNa)と相互作用する他の(電荷拡散性の)負電荷部位を提供し、塩によるLiとそのカウンターイオンの間の相互作用と競合し、それによりイオン解離を増加することによって達成され得る。
【0037】
ポリマーによる固体状態電解質の分野では、添加物としてのZIPCは、ポリマー骨格(又は他のイオン種の存在)による電荷キャリアイオンの解離を向上する。
【0038】
ZIPCを類似のOIPC用途に用いることは、特定の標的イオンのより高い伝導率を有利にもたらし得る。
【0039】
さらに、本発明のZIPC、特に双性イオン性-BF 構造を有するものは、同等の-BF 種よりも加水分解されにくい可能性がある。そのため、バッテリー用途では、電解質は一般に不活性雰囲気下で用いられるが、電気化学電池を備える装置においてZIPC化合物を使用することは、加水分解への傾向が小さいという可能性のため、より長期間の装置/電池安定性を有利に提供し得る。これは、燃料電池に関して特に重要となり得る。
【0040】
発明者は、本概念を(移動性プロトンを有する)プロトン化された双性イオンに拡張し、プロトン化されたZIPCが良好なプロトン伝導を可能とすることを実証した。
【0041】
好適には、好ましいZIPCは、不揮発性となる。望ましくは、好ましい化合物は、少なくとも燃料電池又はエネルギー貯蔵装置の通常の動作条件下で可燃性でも爆発性でもない。
【0042】
好適には、ZIPC化合物は、規則格子内の分子の回転又はディスオリエンテーションに起因する短距離不規則性とともに長距離の規則性結晶構造を示す。ZIPCに関して、固体-固体相転移は、ZIPC分子のすべて又は一部の回転運動の開始に関連すると理解される。分光学的アプローチ及びモデリングアプローチの組合せは、ZIPCにおける化学と構造と相挙動との間の相互関係をさらに解明する強力な道筋となり、ここに記載するように双性イオンにおける可塑性挙動の予測物質として作用し得る。
【0043】
ZIPCに関連する分子不規則性(及び結果としての可塑性)は、例えば、熱研究、固体状態のNMR研究及びSEM研究のうちの少なくとも2以上における独特な特徴から観察され得る。特に、独特な特徴の1以上は、温度の上昇に伴って増加し得る。
【0044】
1つの独特の特徴は、溶融前に1以上の固体-固体相転移(予溶融又は部分溶融の固体-固体相転移)を含む熱相挙動を含み得る。ZIPCの固体-固体相転移を測定及び特徴付ける技術は、ZIPCの固体-液体(溶融)転移に起因する不連続性に加えてそれとは別である、部分溶融温度範囲における熱流の不連続性(例えば、スパイク)が観察されるDSCプロットによって固体-固体相転移が特徴付けられる示差走査熱量測定を含む。
【0045】
固体状態における分子不規則性の他の独特な特徴は、柔粘性ZIPCが20KHz以下の1以上のNMR線幅を示す静的な固体状態のNMRから決定される。望ましくは、線幅は、温度の上昇に伴ってさらに狭くなる。望ましくは、NMR線幅は、10KHz以下、好ましくは、5KHz以下となり、一部の実施形態では1KHz以下となる。
【0046】
固体状態における分子不規則性の他の独特な特徴は、SEM分析による微細構造/形態についての観察によって決定される。独特な特徴は、異なる配向を有する複数の粒体の観察、SEM分析におけるすべり面及び映進面の観察、異なる粒体内でのすべり面のセット、材料の破断面による粒界の観察を含む。可塑性のさらなる証拠は、温度の上昇とともに増加する。
【0047】
他の独特な特徴は、約60JK-1mol-1未満、より好ましくは約50JK-1mol-1未満、より好ましくは約40JK-1mol-1未満、より好ましくは約30JK-1mol-1未満、より好ましくは約20JK-1mol-1の融解のエントロピーΔSを示すことを含み得る。
【0048】
他の有用な研究は、X線回折、ラマン分光、放射光X線回折及び分子動力学(MD)などの分子モデリング又はそれらの組合せを含む。
【0049】
好適なZIPC化合物は、適用動作温度、例えば約-100℃~約200℃で、約-50℃~約100℃で、最も好ましくは約-10℃~約80℃で可塑性固体となる。特に好適な化合物は、少なくとも室温で可塑性固体となる。「室温」とは、約20℃~約25℃の温度、好ましくは25℃の温度を意味する。好適なZIPC化合物は、60℃以上、70℃以上、80℃以上、90℃以上、100℃以上、150℃以上、200℃以上又は250℃以上の融点を有する。好適な化合物は、約-100℃~約100℃の温度で可塑性挙動を示す。融点は、ZIPCを用いる装置の正常動作温度の上限を規定する。「融点」とは、示差走査熱量測定(DCS)によって決定されるように、固体から液体への溶融における相転移に関連する外挿開始温度を意味する。化合物が非常に低い温度、例えば0℃未満で可塑性を示す場合、一般的にそれは、その化合物が室温で有利にも非常に不規則となることを示す。
【0050】
電解質として用いられる場合、柔粘性結晶は、添加された標的イオンが、例えば空孔、粒界及び/又は追加的な液体、液状の非結晶相の形成を通じて移動し得る環境を提供すると考えられる。実際に、リチウム塩を含む多数の電解質材料のSEM分析は、結晶領域及び粒体間領域が移動性のリチウムに富んだ電解質を含み、リチウム電気化学作用及び装置サイクルを支持するリチウムイオンのための経路を提供することを示す。したがって、ZIPC及びドープされた塩から構成される本発明の固体材料は、例えば、塩に富んだ液体、液状相又は非結晶相のうちの1以上を含むと考えられる。したがって、材料は、1以上の相を含む。標的イオンに富んだ液体、標的イオンに富んだ液状相又は標的イオンに富んだ非結晶相は、標的イオン拡散のための経路を提供し、電解質を通じた標的イオン輸送を容易にすると考えられる。
【0051】
正電荷を有する官能基がアルキル鎖を含む一部の場合には、アルキル鎖長の増加とともに、溶融温度及び第II相-第I相転移温度の1以上が低下し得る。
【0052】
ZIPCは、双性イオン分子のカチオン成分及び/又はアニオン成分における解離性プロトンの利用可能性に応じて、プロトン性及び非プロトン性の種類に分類され得る。したがって、ある適切なカチオンは、不安定なプロトンの利用可能性に応じて、プロトン性カチオン又は非プロトン性カチオンとなり得る。同様に、ある適切なアニオンは、不安定なプロトンの利用可能性に応じて、プロトン性アニオン又は非プロトン性アニオンとなり得る。
【0053】
ZIPC形成
ZIPCは、少なくとも1つのカチオン及び少なくとも1つのアニオンを出発として、これらを相互に共有結合的に連結して提供され得る。提供されたともに連結されるカチオン及びアニオンの組合せが、(i)正味の中性電荷を有する双性イオン化合物を供給し、(ii)分子不規則性(及び結果としての可塑性)を示す柔粘性結晶となり、それは例えば、熱研究、固体状態のNMR研究及びSEM研究の2以上における独特な特徴から観察可能であり、採用され得るカチオン及び関連する対アニオンのタイプは特に限定されない。
【0054】
好適なZIPC化合物では、ZIPCの正電荷官能基の少なくとも1つは、任意に置換された飽和又は不飽和複素環、例えばピロリジン、モルホリニウム、ピペリジニウム、チオラン、ベンゾトリアゾール又はテトラヒドロフランなどの小さなカチオン性成分に由来する。望ましくは、好適なZIPCの負電荷官能基の少なくとも1つは、フルオロボレート、オキサラトボレート、スルホニルイミド、フルオロスルホニルイミド(FSI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSA)などの電荷非局在化アニオン性基に由来する。「由来する」とは、それぞれのカチオン又はアニオンが、直接又は少なくとも1つの原子若しくは中間官能基を介して相互に共有結合している対応する官能基の基礎を形成し、それは、例えば、炭素結合、炭化水素鎖又は実際には付加的な官能基、環若しくは鎖となり得ることを意味する。ZIPC分子において官能基が相互に連結する結果として、カチオン及びアニオンに由来する対応する官能基が、特に電場の影響下では、相互から容易に解離しないことが理解される。
【0055】
連結するカチオン成分
一部の適切なカチオンは、ジ-カチオン又はトリ-カチオンとなり得る。好適なカチオンは、対称的となる。一部の実施形態では、カチオンは、キラルカチオンとなる。
【0056】
適切なカチオンの例は、ピロリジニウム、イミダゾリウム、ホスホニウム、メタロセニウムカチオンを含み、それらは非置換であってもよく、又はC1-6アルキル、好ましくはメチル、エチル若しくはプロピル、CN、OMe、OEt及びCNから選択される1以上の官能基で置換されてもよい。
【0057】
好適には、正電荷を有する官能基の1以上は、n=2、3、4、6、及びm=1、2、3、4、6であるC(N2,2,mであって、N2,1,1,1、N2,2,1,1、N2,2,2,1、N2,3,3,3、N2,2,3,3、N2,2,2,3、N4,4,4,4、P1,2,2,2、N1,2,3,i3、N2,2,2,2、N3,3,3,3及びCepyrからなるカチオン、及び特に非プロトン性カチオンの群から選択され得る。回転運動が可能なカチオン(例えば、テトラメチルアンモニウム)が、特に望ましい。
【0058】
望ましくは、少なくとも1つの正電荷を有する正電荷官能基の少なくとも1つは、正電荷を有する窒素、正電荷を有するリン及び正電荷を有する硫黄をそれぞれ含むアンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン又はスルホニウムカチオンに由来する。
【0059】
望ましくは、少なくとも1つの正電荷を有する少なくとも1つの正電荷官能基は、窒素を含むとともに、正電荷を有するアンモニウムカチオンに由来する。好適なアンモニウムカチオンは、一般式[NRを有し得る。望ましくは、少なくとも1つの正電荷を有する少なくとも1つの正電荷官能基は、硫黄を含むとともに、正電荷を有するスルホニウムカチオンに由来する。好適なスルホニウムカチオンは、一般式[SRを有し得る。望ましくは、少なくとも1つの正電荷を有する少なくとも1つの正電荷官能基は、リンを含むとともに、正電荷を有するホスホニウムカチオンに由来する。好適なホスホニウムカチオンは、一般式[PRを有し得る。
【0060】
上記のいずれの場合も、R~Rの各々は、同一若しくは異なっていてもよく、任意選択的に置換されたアルキル及び任意選択的に置換されたアリールから独立して選択されてもよく、又は1つのR基が任意選択に置換されたアルキル及び任意選択的に置換されたアリールから選択され、かつ残りの2つのR基がPとともに任意選択的に置換された複素環を形成する場合、Rは、H、任意選択的に置換されたアルキル及び任意選択的に置換されたアリールから選択される。適切なホスホニウムカチオンの例は、テトラ(C1-20アルキル)ホスホニウム、トリ(C1-9アルキル)モノ(C10-20アルキル)ホスホニウム、テトラ(C6-24アリール)ホスホニウム、ホスホラニウム、ホスフィナニウム及びホスホリナニウムを含む。
【0061】
望ましくは、少なくとも1つの正電荷を有する正電荷官能基の少なくとも1つは、各々が正電荷を有する窒素を含むモルホリニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン又はイミダゾリウムに由来する。ピロリジニウムカチオン又はイミダゾリウムの環は、非置換であってもよく、又はR及びRのうちの1以上で置換されていてもよい。いずれの場合も、R及びRの各々は同一若しくは異なっていてもよく、任意選択的に置換されたアルキル及び任意選択的に置換されたアリールから独立して選択されてもよく、又は1つのR基が任意選択に置換されたアルキル及び任意選択的に置換されたアリールから選択され、かつ残りの2つのR基がPとともに任意選択的に置換された複素環を形成する場合、Rは、H、任意選択的に置換されたアルキル及び任意選択的に置換されたアリールから選択される。
【0062】
適切なアニオンと連結する他の好適なカチオンは、ジアルキルピロリジニウム、ピロリジニウム、モノアルキルピロリジニウム、ジアルキルイミダゾリウム、モノアルキルアンモニウム、イミダゾリウム、テトラアルキルアンモニウム、第4級アンモニウム、トリアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、ジアルカノールアルキルアンモニウム、アルカノールジアルキルアンモニウム、ビス(アルキルイミダゾリウム)、ビス(ジアルキル)アンモニウム、ビス(トリアルキル)アンモニウム、ジアリルアンモニウム、ジアルカノールアンモニウム、アルキルアルカノールアンモニウム、アルキルアリルアンモニウム、グアニジニウム、ジアザビシクロオクタン、テトラアルキルホスホニウム、トリアルキルホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、第3級スルホリニウム、イミダゾリニウム、コリニウム、ホルムアミジニウム、ホルマジニウム、二環式(スピロ)アンモニウム、ピラゾリウム、ベンズイミダゾリウム、ジベンジルアンモニウム、カフィニウム、ピペラジニウム、ジアルキル(アミノ)アンモニウム、アルキル(ジアミノ)アンモニウム、トリアミノアンモニウム、アミノピロリジウム及びアミノイミダゾリウムを含む。
【0063】
連結する他のカチオンは、図1Cに示すカチオンからなる群から選択され得る。
【0064】
一実施形態では、望ましくは、少なくとも1つの正電荷を有する正電荷官能基の少なくとも1つは、イオン液体による、又はより好ましくはOIPCによるカチオンに由来する。望ましくは、少なくとも1つの負電荷を有する負電荷官能基の少なくとも1つは、イオン液体又はOIPCによるアニオンに由来する。好適には、本発明のZIPCは、イオン液体又はOIPCによる少なくとも1つのカチオンと、イオン液体又はOIPCによる少なくとも1つのアニオンとを同一分子内で相互に連結することにより形成され得る。熟練した合成化学者は、所望の基が相互に連結された化合物を形成する適切な合成法を考案することが可能となる。
【0065】
本発明のZIPC化合物の設計の出発点として用いられ得るOIPCのカチオン及びアニオンの例は、Trends in Chemistry,2019年4月、Vol.1、No.1、J.Mater.Chem.2010年、20、2056-2062及びPhys.Chem.Chem.Phys.2013年、15、1339(特に図1図2図3及び表1)に見られ、カチオン及びアニオン並びにOIPCを説明するその内容の全体が、参照によりここに組み込まれる。公知のOIPCの好適な例は、[N1,1,1,1][DCA]、[Cmpyr][FSI]、[Cmpyr][BF]、[P1,2,2,2][FSI]、[P1,2,2,i4][PF]、[P1,4,4,4][FSI]、[Him][Tf]、[Hmim][Tf]、[N2,2,3,3][BBu]、[N3,3,3、3][BF]、[Cepyr][TFSI]、[Cepyr][FSI]、[Cepyr][PF]、[Cepyr][BF]、[Cmpyr][(FH)F]、[Cmpyr][(FH)F]、[Cmpyr][TFSI]、[(NH][Tf]、[2-Me-im][Tf]及び[TAZm][PFBS]を含む。
【0066】
連結するアニオン成分
好適には、少なくとも1つの負電荷を有する負電荷官能基の少なくとも1つは、公知のOIPCによるアニオンに由来し得る。一部の好適なアニオンは、不安定なプロトンの利用可能性に応じて、プロトン性又は非プロトン性アニオンとなり得る。一部の好適なアニオンは、ジ-アニオン又はトリ-アニオンとなり得る。一部の好適なアニオンは、対称的となり得る。一部の好適なアニオンは、キラルとなり得る。
【0067】
連結するのに用いられ得る好適なアニオンは、アニオンが軸の周りの回転によってその中心の周りに球対称性を表す構成形状を有する「球状」構造を所有し得る。本発明のZIPC電解質組成物において連結するのに適した更なるアニオンは、ZIPC化合物において連結された場合、アニオン構造にわたって存在又は平均化することが可能な拡散性又は移動性の負電荷を有するものとなり得る。
【0068】
好適には、負電荷を有する官能基の1以上は、Tf、1≦n≦3である(FH)F及びTFSIからなる、アニオン及び特に非プロトン性アニオンの群から選択され得る。負電荷を有する官能基の1以上を形成する他の適切なアニオンは、以下からなるアニオンの群から選択することができる。I、Br、PF、TFSI、BBu、CrOCl、CrOBr、BF、FTFSI、DCA、FSI及びTfからなるアニオンの群から選択され得る。中心対称アニオン(例えば、ヘキサフルオロホスフェート及びテトラフルオロボレート)が、特に好ましい。
【0069】
望ましくは、少なくとも1つの負電荷(F)を有する少なくとも1つの負電荷官能基は、BF 、PF 、N(CN)、(CFSO、(FSO、OCN、SCN、ジシアノメタニド、カルバモイルシアノ(ニトロソ)メタニド、(CSO、(CFSOC、C(CN) 、B(CN) 、(CPF 、アルキル-SO 、パーフルオロアルキル-SO 、アリール-SO 、I、HPO 、HPO 2-、硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩、トリフルオロメタンスルホネート、p-トルエンスルホネート、ビス(オキサラート)ボレート、酢酸塩、ギ酸塩、没食子酸塩、グリコール酸塩、BF(CN)、BF(CN) 、BF(CN) 、Rがアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル)であるBF(R)、BF(R) 、BF(R) 、環状スルホニルアミド、ビス(サリチラート)ボレート、パーフルオロアルキルトリフルオロボレート、塩化物、臭化物及び遷移金属錯体アニオン(例えば、[Tb(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)])などのアニオンに由来する。好ましくは、アニオンはフッ素化アニオンとなり、例えば、BF 、PF 、(CFSO、(FSO、BF(CN)、BF(CN) 、BF(CN) 、Rがアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル)であるBF(R)、BF(R) 、BF(R) 、(CSO、(C)PF 、(CPON、(CFSO)NCN、(CFSO)N(SOF)、(CFCO)N(SOF)及びパーフルオロアルキル-SO からなる群から選択される。
【0070】
連結する他のアニオンは、図1Cに示すアニオンからなる群から選択され得る。
【0071】
OIPC類似体
同一分子において相互に連結するカチオン及びアニオンを供給して本発明に係るZIPCを形成し得る公知のOIPCの例は、プロトン性及び非プロトン性の双方のタイプを含み、N,N-メチルエチルピロリジニウムテトラフルオロボレート、N,N-メチルプロピルピロリジニウムテトラフルオロボレート、ジメチルピロリジニウムテトラフルオロボレート、ジメチルピロリジニウムチオシアネート、N,N-エチルメチルピロリジニウムチオシアネート、テトラメチルアンモニウムジシアンアミド、テトラエチルアンモニウムジシアンアミド、N,N-メチルエチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、ジエチル(メチル)(イソブチル)ホスホニウムビス(フルオロスルホニル)アミド、ジエチル(メチル)(イソブチル)ホスホニウムテトラフルオロボレート、ジエチル(メチル)(イソブチル)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、メチル(トリエチル)ホスホニウムビス(フルオロスルホニル)アミド、メチル(トリエチル)ホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、トリイソブチル(メチル)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリイソブチル(メチル)ホスホニウムビス(フルオロスルホニル)アミド、トリイソブチル(メチル)ホスホニウムテトラフルオロボレート、トリイソブチル(メチル)ホスホニウムチオシアネート、トリエチル(メチル)ホスホニウムビス(フルオロスルホニル)イミド、メチルエチルピロリジウムビス(フルオロスルホニル)アミド、ジメチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)アミド、コリン二水素ホスフェート、コリントリフルオロメタンスルホネート、N-N-ジメチルプロピレンジアンモニウムトリフレート、トリ(イソブチル)ホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、トリ(イソブチル)ホスホニウムメタンスルホネート、トリ(イソブチル)ホスホニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリ(イソブチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、トリ(イソブチル)ホスホニウムニトラート、トリ(イソブチル)アンモニウムメタンスルホネート、トリ(イソブチル)アンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリ(イソブチル)アンモニウムニトラート、1,2-ビス[N-(N’-ヘキシルイミダゾリウム)エタンビス(ヘキサフルオロホスフェート)]及びそれらの組合せを含む。
【0072】
好適なZIPC
特に好適な双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物は、ここに示すような構造体を有する。好ましくは、R’、R’’及びR’’’の1以上は、独立して、H、メチル、エチル又はプロピルである。好ましくは、R、R及びRの各々は、H、メチル、エチル若しくはプロピル又はハロゲンから独立して選択される。好ましくは、Yは、メチル、エチル又はプロピルである。好ましくは、Lは、メチル、エチル又はプロピルである。好ましくは、R’、R’’及びR’’’の1以上は独立してメチル、エチル又はプロピルであり、R、R、Rの各々はFであり、Yはメチルであり、Lはメチルである。好適な化合物は、
【化2】
を含む。
【0073】
特に好適な双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物は、以下の一般的な構造体の1つを有し、
【化3】
R’、R’’及びR’’’の1以上は、H、任意選択的に置換されたC1-6アルキル、任意選択的に置換されたフルオロC1-6アルキル若しくはハロ基から独立して選択され、又はR’及びR’’、R’’及びR’’’若しくはR’及びR’’’の1つは、任意選択的に置換された5員若しくは6員の飽和若しくは不飽和複素環を形成し、R、R及びRの各々は、H、任意選択的に置換されたC1-6アルキル、任意選択的に置換されたフルオロC1-6アルキル又はハロから独立して選択され、Yは任意選択的に置換されたC1-6アルキルであり、Lは任意選択的に置換されたC1-6アルキルであり、Z及びZ’の各々は独立してO、S、NH、N、C1-4アルキルであり、X及びX’’の各々は独立してO、S、NH、N、C、CHであり、そして存在する場合、環は任意選択的に置換され、任意選択的な置換基はC1-6アルキル、好ましくはメチル、エチル若しくはプロピル、CN、OMe、OEt及びCNの1以上から選択される。好ましくは、RはH、メチル、エチル又はプロピルであり、R、R、Rの各々は、H、メチル、エチル又はプロピル、ハロゲンから独立して選択され、Yはメチル、エチル又はプロピルであり、Lはメチル、エチル又はプロピルとなり、Zはメチル又はエチルとなり、XはO、S、NH又はCHである。好ましくは、Rはメチル、エチル又はプロピルであり、R、R、Rの各々はFであり、Yはメチルであり、Lはメチルであり、Zはメチル又はエチルであり、XはO、S、NH又はCHである。
【0074】
特に好適な双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物は、以下の一般的な構造体の1つを有し、
【化4】
R’はメチル、エチル又はプロピルであり、R、R、Rの各々はFであり、Yはメチルであり、XはO、S、NH又はCHである。
【0075】
好適なZIPC化合物は、以下の構造体の1つを有する。
【化5-1】
【化5-2】
【化5-3】
【0076】
本発明のZIPCは、固体状態溶媒として用いられ得る。
【0077】
電解質組成物/混合物
塩、酸、塩基又はLi若しくはNa官能化ポリマーなどの電解質において通常用いられるポリマーのうちの1以上でドープされた第1の態様に係る双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)化合物を含む組成物も記載される。好適には、そのような組成物は、室温で固体状態組成物又は液体組成物となっていてもよく、すなわち、塩の量、用いられる塩の性質及び用いられるZIPCの性質に依存する。少なくとも、ZIPCが組成物/電解質のマトリックス材料として用いられる場合、固体状態組成物が好ましい。
【0078】
固体状態電解質として(例えば、バッテリー又は燃料電池において)用いるために、標的イオン(例えば、Li、Na又はH)は、ZIPCマトリックスに組み込まれて充電/放電工程を支持する必要がある。少量であってもイオン塩をZIPCマトリックスにドープすることは、ZIPCマトリックスにおける標的イオンのイオン伝導率を有意に増加させ得る。1つの説明は、ZIPCにイオン塩を組み込むことが、付加的な空孔/欠陥を作りだし、より高濃度の拡散性イオン、したがってより高い伝導率をもたらすというものである。代替的なメカニズムは、混合(Li塩及びZIPC)組成物を有する液相が、それ以外は大部分がバルクZIPCの粒界に存在するというものである。
【0079】
好ましくは、組成物はZIPC及び少なくとも1つのイオン塩を含み、塩は少なくとも約5mol%の濃度で存在する。好適には、イオン塩は、少なくとも約5mol%、少なくとも約10mol%、少なくとも約15mol%、少なくとも約20mol%、少なくとも約25mol%、少なくとも約30mol%、少なくとも約35mol%、少なくとも約40mol%、少なくとも約45mol%、少なくとも約50mol%、少なくとも約55mol%、少なくとも約60mol%、少なくとも約65mol%、少なくとも約70mol%、少なくとも約75mol%、少なくとも約80mol%、少なくとも約85mol%、少なくとも約90mol%、少なくとも約95mol%の濃度で存在する。
【0080】
好適には、イオン塩は、アルカリ金属、アルカリ土類又は遷移金属塩の1以上となる。好適なイオン塩は、Li、Na、K、Ca、Al、Mg、Zn塩を含む。好適には、これらの塩に対するアニオンは、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、TFSI;ビス(フルオロスルホニル)イミド、FSI;フルオロスルホニル(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、FTFSI;トリフルオロメタンスルホネート;テトラフルオロボレート、BF;パーフルオロブタンスルホネート、PFBS;ヘキサフルオロホスフェート、PF;テトラシアノボレート、B(CN);ジシアンアミド、DCA;チオシアネート、SCN;環状パーフルオロスルホニルアミド、CPFSA及びカルボランを含む。
【0081】
望ましくは、イオン塩は、例えば、LiBF、LiFSI、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li[TFSI])、リチウム(ビス(フルオロスルホニル)イミド(Li[FSI])、リチウムトリフレート(Li[OTf])、リチウムパークロレート(LiClO)、リチウムジシアンアミド(LiDCA)、リチウムシアネート(LiOCN)、リチウムチオシアネート(LiSCN)、リチウムビス[(ペンタフルオロエチル)スルホニル]イミド、リチウム2,2,2-トリフルオロメチルスルホニル-N-シアノアミド(TFSAM)、リチウム2,2,2-トリフルオロ-N-(トリフルオロメチルスルホニル)アセトアミド(TSAC)、リチウムノナフルオロブタンスルホネート(NF)、リチウムカルボラン、リチウムジフルオロ(オクソラト)ボレート及びそれらの組合せからなる群から選択されるリチウム塩である。
【0082】
好ましくは、ドープされた塩はLiNTfなどのLi塩であり、ZIPC組成物は、電気化学的に又はNMRによって決定されるように、0.4より大きい輸率を有する。そのような技術は、当技術分野ではよく知られている。イオン輸率の電気化学的な方法の一例は、当技術分野で周知のブルース・ビンセント法である。
【0083】
望ましくは、イオン塩は、例えば、NaBF、NaFSI、ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Na[TFSI])、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(Na[FSI])、ナトリウムトリフレート(Na[OTf])、ナトリウムパークロレート(NaClO)、ナトリウムジシアンアミド(NaDCA))、ナトリウムシアネート(NaOCN)、ナトリウムチオシアネート(NaSCN)、リチウムビス[(ペンタフルオロエチル)スルホニル]イミド、ナトリウム2,2,2-トリフルオロメチルスルホニル-N-シアノアミド(TFSAM)、ナトリウム2,2,2-トリフルオロ-N-(トリフルオロメチルスルホニル)アセトアミド(NaTSAC)、リチウムノナフルオロブタンスルホネート(NaNF)、ナトリウムカルボラン、ナトリウムジフルオロ(オクソラト)ボレート及びそれらの組合せからなる群から選択されるナトリウム塩である。特に好適なナトリウム塩は、ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Na[TFSI])、ナトリウム(ビス(フルオロスルホニル)イミド(Na[FSI])、ナトリウムトリフレート(NaOTf)、ナトリウムパークロレート(NaClO)、ナトリウムジシアンアミド(NaDCA)、ナトリウムシアネート(NaOCN)、ナトリウムテトラフルオロボレート(NaBF)、ナトリウムヘキサフルオロホスフェート(NaPF)及びそれらの組合せを含む。
【0084】
望ましくは、イオン塩は、AgI、NaI、KI、ヨウ化グアニジニウム、NmeI、N(Pr)I、N(Et)I及びそれらの組合せからなる群から選択されるヨウ化物塩となる。ヨウ化物塩は通常、組合せがI/I の対に解離するように、ヨウ素と組み合わせて提供される。
【0085】
望ましくは、ZIPC組成物は、酸又は塩基でドープされる。過剰な酸又は塩基をプロトン性ZIPCに組み込むことは、より高いプロトン伝導性を促進させる。プロトンは主に、浸透された粒界相を通じて輸送されると考えられる。
【0086】
好ましくは、ZIPC組成物はZIPC化合物及び酸を含み、酸は少なくとも約5mol%の濃度で存在する。好適には、酸は、少なくとも約5mol%、少なくとも約10mol%、少なくとも約15mol%、少なくとも約20mol%、少なくとも約25mol%、少なくとも約30mol%、少なくとも約35mol%、少なくとも約40mol%、少なくとも約45mol%、少なくとも約50mol%、少なくとも約55mol%、少なくとも約60mol%、少なくとも約65mol%、少なくとも約70mol%、少なくとも約75mol%、少なくとも約80mol%、少なくとも約85mol%、少なくとも約90mol%、少なくとも約95mol%の濃度で存在する。適切な酸は、トリフル酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミン、メタンスルホン酸、硫酸、リン酸、硝酸、ギ酸、テトラフルオロホウ酸を含む。
【0087】
好ましくは、ZIPC組成物はZIPC化合物及び塩基を含み、塩基は少なくとも約5mol%の濃度で存在する。好適には、塩基は、少なくとも約5mol%、少なくとも約10mol%、少なくとも約15mol%、少なくとも約20mol%、少なくとも約25mol%、少なくとも約30mol%、少なくとも約35mol%、少なくとも約40mol%、少なくとも約45mol%、少なくとも約50mol%、少なくとも約55mol%、少なくとも約60mol%、少なくとも約65mol%、少なくとも約70mol%、少なくとも約75mol%、少なくとも約80mol%、少なくとも約85mol%、少なくとも約90mol%、少なくとも約95mol%の濃度で存在する。適切な塩基は、イミダゾール、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、tert-ブチルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、N-メチルブチルアミン、N-エチルブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルエチルアミン、アニリン、2-フルオロピリジン、1-メチルイミダゾール又は1,2-ジメチルイミダゾールを含む。好適な塩基は、イミダゾールを含む。
【0088】
好ましくは、固体状態組成物は、ポリマー、特にリチウム又はナトリウム官能化ポリマー、PVDFなどのバインダー、アイオノマー、デンドリマー及び無機充填剤から選択される1以上の添加成分をさらに含んで第3級複合体を形成する。一実施形態では、固体状態組成物は、膜の形態で提供され得る。
【0089】
好適な化合物は、アルカリ金属、アルカリ土類又は遷移金属イオンなどのイオン塩でドープされた場合、電気化学的に又はNMRで測定した場合、0.4より大きいイオン輸率を示す。より好ましくは、イオン輸率は、電気化学的に又はNMRで測定した場合、0.4より大きく、0.45より大きく、0.5より大きく、0.55より大きく、0.6より大きく、0.65より大きく、0.7より大きく、0.75より大きく、0.8より大きく、0.85より大きく、0.85より大きく、0.9より大きく、0.95より大きい。
【0090】
好適なZIPC化合物は、リチウムイオン又はナトリウムイオンでドープされた場合、電気化学的に又はNMRによって決定されるように、0.4より大きいリチウムイオン輸率を示す。より好適なZIPC化合物は、リチウムイオン又はナトリウムでドープされた場合、0.5、0.6、0.7、0.8又は0.9より大きいイオン輸率を示す。最も好適なZIPC化合物は、リチウムイオン又はナトリウムイオンでドープされた場合、約1のイオン輸率を示す。
【0091】
好適なZIPC化合物は、リチウム塩でドープされて混合物を形成する場合、25℃でNMRによって測定されるように、10-13~10-10-1、好ましくは10-13~10-8-1、より好ましくは10-13~10-6-1の範囲のリチウムの拡散係数を示す。ZIPC化合物及びリチウム塩の好適な混合物は、25℃でNMRによって測定されるように、少なくとも10-13-1のリチウムの自己拡散係数を示す。ZIPC化合物及びリチウム塩の最も好適な混合物は、25℃でNMRによって測定されるように、少なくとも10-6-1のリチウムの自己拡散係数を示す。
【0092】
ZIPC化合物並びに/又はZIPC化合物及び少なくともイオン塩を含む電解質組成物は、高いイオン伝導率を維持しつつ、好ましくは少なくとも80℃まで及び好ましくはイオン塩の広い濃度範囲にわたって、固体となることが好ましい。
【0093】
本発明の電解質組成物は、有利なことに、より低温での高いイオン伝導率を大部分のポリマー電解質に対して提示する。その結果、本発明の電解質に基づいた電気化学電池は、従来の固体状態電池に対してより低温で作動し得る。
【0094】
本発明の電解質組成物は、有利なことに、広い範囲のイオン塩濃度にわたって所望の温度まで固体として存在し得る。好ましくは、ZIPC化合物及び/又はドープされたZIPC化合物のマトリックスを含む電解質は、少なくとも30℃、少なくとも40℃、少なくとも50℃、少なくとも60℃、少なくとも70℃、少なくとも80℃、少なくとも90℃、少なくとも100℃、少なくとも110℃、少なくとも120℃、少なくとも130℃、少なくとも140℃、少なくとも150℃、少なくとも160℃、少なくとも170℃、少なくとも180℃、少なくとも190℃、少なくとも200℃、少なくとも210℃、少なくとも220℃、少なくとも230℃、少なくとも240℃又は少なくとも250℃まで固体として存在する。
【0095】
一部の実施形態では、本発明のZIPC及び/又は電解質組成物は、組成物全体にわたって固体となり、電解質組成物の体積全体が固体状態にあることを意味する。ただし、ZIPC及び/又は電解質が固体として存在する場合、それでもわずかなマトリックス/組成物は液相にあり得る。材料/複合体が所望の温度まで固体として存在する場合、液相にあるマトリックス/組成物の割合の程度に関して限定はない。当業者は、材料の相図に基づいて、所与の材料について液相にある体積分率の適切な値を決定可能となる。
【0096】
一部の実施形態では、本発明の電解質組成物が液相にある体積分率を表し得る温度は、少なくとも30℃、少なくとも40℃、少なくとも50℃、少なくとも60℃、少なくとも70℃、少なくとも80℃、少なくとも90℃、少なくとも100℃、少なくとも110℃、少なくとも120℃、少なくとも130℃、少なくとも140℃、少なくとも150℃、少なくとも160℃、少なくとも170℃、少なくとも180℃、少なくとも190℃、少なくとも200℃、少なくとも210℃、少なくとも220℃、少なくとも230℃、少なくとも240℃、少なくとも250℃、少なくとも300℃又は少なくとも350℃までである。
【0097】
本発明の固体状態ZIPC組成物中のイオン塩濃度に関して特定の限定はない。ただし、好ましくは、組成物は、少なくとも50℃までは固体として存在する。一部の実施形態では、イオン物質は、イオン塩及びZIPC化合物を組み合わせた全モル数に対して少なくとも5mol%、少なくとも10mol%、少なくとも15mol%、少なくとも20mol%、少なくとも25mol%、少なくとも30mol%、少なくとも35mol%、少なくとも40mol%、少なくとも45mol%、少なくとも50mol%、少なくとも55mol%、少なくとも60mol%、少なくとも65mol%、少なくとも70mol%、少なくとも75mol%、少なくとも80mol%、少なくとも85mol%、少なくとも90mol%又は少なくとも95mol%の濃度で存在する。
【0098】
本発明の好適な電解質組成物は、部分溶融相にある場合、少なくとも10-9S/cmのイオン伝導率を有する。一部の実施形態では、電解質組成物のイオン伝導率は、電気化学インピーダンス分光法(EIS)で測定した場合、室温で少なくとも10-9S/cm、少なくとも10-8S/cm、少なくとも10-7S/cm、少なくとも10-6S/cm、少なくとも10-5S/cm、少なくとも10-4S/cm、少なくとも10-3S/cmである。
【0099】
電気化学電池及び用途
燃料電池、エネルギー貯蔵装置、スーパーキャパシタ又は色素増感太陽電池などの電気化学装置を含むイオン伝導を必要とする用途におけるZIPC化合物/マトリックス又はZIPC組成物の使用が、ここで説明される。燃料電池、エネルギー貯蔵装置、スーパーキャパシタ又は色素増感太陽電池などの電気化学装置を含むイオン伝導を必要とする用途におけるZIPC組成物の使用が、ここで説明される。
【0100】
電解質に対するマトリックスとして若しくは添加物としての本発明の1以上のZIPC化合物及び/又は電解質としての本発明に係る1以上のZIPC組成物/複合体を含む電解質をここに説明する。好ましくは、本発明のZIPCは、電気化学電池における電解質マトリックスとして又は電解質材料における添加物として用いられ得る。電解質は、例えば、室温では固体状態電解質又は液体電解質となり得る。
【0101】
好ましくは、電気化学電池又は装置は、Naバッテリー又はLiバッテリーなどのエネルギー貯蔵装置、特に充電可能バッテリー、すなわち二次バッテリーとなる。ここに説明する材料は、例えば、Li/Liに対する4.5Vを超える高電圧化学作用を伴う電池に特に適している。酸、塩基又は塩ドーパントで任意選択的にドープされた双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)電解質マトリックスを含む燃料電池装置をここに説明する。燃料電池を含むプロトン伝導を必要とする用途におけるプロトン化された形態の双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)の使用をここに説明する。塩基でドープされたZIPC組成物は、無水プロトン伝導体として用いられてもよく、好ましくは、塩基はイミダゾールとなる。
【0102】
望ましくは、本発明は、負電極、正電極及びZIPC化合物をマトリックス若しくは添加物として含む電解質又は本発明に係るZIPC電解質組成物/複合体を含むエネルギー貯蔵装置を提供する。
【0103】
定義
ここで用いられるように、用語「アルキル」は、少なくとも1個の炭素原子及び水素原子からなる基を説明し、直鎖、分岐又は環状アルキル、例えばC1-20アルキル、例えばC1-10又はC1-6を示す。直鎖及び分岐アルキルの例は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、ヘキシル、4-メチルペンチル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、1,2,2-トリメチルプロピル、1,1,2-トリメチルプロピル、ヘプチル、5-メチルヘキシル、1-メチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、3,3-ジメチルペンチル、4,4-ジメチルペンチル、1,2-ジメチルペンチル、1,3-ジメチルペンチル、1,4-ジメチルペンチル、1,2,3-トリメチルブチル、1,1,2-トリメチルブチル、1,1,3-トリメチルブチル、オクチル、6-メチルヘプチル、1-メチルヘプチル、1,1,3,3-テトラメチルブチル、ノニル、1-,2-,3-,4-,5-,6-又は7-メチルオクチル、1-,2-,3-,4-又は5-エチルヘプチル、1-,2-又は3-プロピルヘキシル、デシル、1-,2-,3-,4-,5-,6-,7-及び8-メチルノニル、1-,2-,3-,4-,5-又は6-エチルオクチル、1-,2-,3-又は4-プロピルヘプチル、ウンデシル、1-,2-,3-,4-,5-,6-,7-,8-又は9-メチルデシル、1-,2-,3-,4-,5-,6-又は7-エチルノニル、1-、2-、3-、4-又は5-プロピルオクチル、1-、2-又は3-ブチルヘプチル、1-ペンチルヘキシル、ドデシル、1-,2-,3-,4-,5-,6-,7-,8-,9-又は10-メチルウンデシル、1-,2-,3-,4-,5-,6-,7-又は8-エチルデシル、1-,2-,3-,4-,5-又は6-プロピルノニル、1-,2-,3-又は4-ブチルオクチル、1-2-ペンチルヘプチルなどを含む。環状アルキルの例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシルなどの単環式又は多環式アルキル基を含む。アルキル基が一般に「プロピル」、「ブチル」などといわれる場合、適宜、これは直鎖、分岐及び環状異性体のいずれかもいい得ることが理解される。アルキル基は、ここで定義されるように、炭素がヘテロ原子(O、N、Sなど)で置換された置換基を含む1以上の置換基によって任意選択的に置換され得る。
【0104】
任意選択的な置換基の例は、アルキル(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル又はシクロヘキシルなどのC1-6アルキル)、ヒドロキシアルキル(例えば、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル)、アルコキシアルキル(例えば、メトキシメチル、メトキシエチル、メトキシプロピル、エトキシメチル、エトキシエチル、エトキシプロピルなど)、アルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、シクロプロポキシ、シクロブトキシなどのC1-6アルコキシ)、ハロ、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、トリブロモメチル、ヒドロキシ、フェニル(それ自体が、例えば、C1-6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、ハロC1-6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1-6アルキル及びアミノによってさらに置換され得る)、ベンジル(ベンジル自体は、例えば、C1-6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、ハロC1-6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1-6アルキル及びアミノによってさらに置換され得る)、フェノキシ(フェニル自体は、例えば、C1-6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、ハロC1-6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1-6アルキル及びアミノによってさらに置換され得る)、ベンジルオキシ(ベンジル自体は、例えば、C1-6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、ハロC1-6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1-6アルキル及びアミノによってさらに置換され得る)、アミノ、アルキルアミノ(例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノなどのC1-6アルキル)、ジアルキルアミノ(例えば、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノなどのC1-6アルキル)、アシルアミノ(例えば、NHC(O)CH)、フェニルアミノ(フェニル自体は、例えば、C1-6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、ハロC1-6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1-6アルキル及びアミノによってさらに置換され得る)、ニトロ、ホルミル、-C(O)-アルキル(例えば、アセチルなどのC1-6アルキル)、O-C(O)-アルキル(例えば、アセチルオキシなどのC1-6アルキル)、ベンゾイル(フェニル基自体は、例えば、C1-6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、ハロC1-6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1-6アルキル及びアミノによってさらに置換され得る)、C=Oと、COHと、COアルキルと、のCHの置換(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステルなどのC1-6アルキル)、COフェニル(フェニル自体は、例えば、C1-6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシルC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、ハロC1-6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1-6アルキル及びアミノによってさらに置換され得る)、CONH、CONHフェニル(フェニル自体は、例えば、C1-6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシルC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、ハロC1-6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1-6アルキル及びアミノによってさらに置換され得る)、CONHベンジル(ベンジル自体は、例えば、C1-6アルキル、ハロ、ヒドロキシ、ヒドロキシルC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、ハロC1-6アルキル、シアノ、ニトロOC(O)C1-6アルキル及びアミノによってさらに置換され得る)、CONHアルキル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルアミドなどのC1-6アルキル)、CONHジアルキル(例えば、C1-6アルキル)、アミノアルキル(例えば、HNC1-6アルキル-、C1-6アルキルHN-C1-6アルキル-及び(C1-6アルキル)N-C1-6アルキル-)、チオアルキル(例えば、HSC1-6アルキル-)、カルボキシアルキル(例えば、HOCC1-6アルキル-)、カルボキシエステルアルキル(例えば、C1-6アルキルOCC1-6アルキル-)、アミドアルキル(例えば、HN(O)CC1-6アルキル-、H(C1-6アルキル)N(O)CC1-6アルキル-)、ホルミルアルキル(例えば、OHCC1-6アルキル-)、アシルアルキル(例えば、C1-6アルキル(O)CC1-6アルキル-)、ニトロアルキル(例えば、ONC1-6アルキル-)、スルホキシドアルキル(例えば、Rはここで定義されるように、例えば、C1-6アルキル(O)SC1-6アルキル-などのアルキルとして、R(O)SC1-6アルキル)、スルホニルアルキル(例えば、Rはここで定義されるように、例えば、C1-6アルキル(O)SC1-6アルキル-などのアルキルとして、Rf(O)SC1-6アルキル)、スルホンアミドアルキル(例えば、Rはここで定義されるように、例えば、H(C1-6アルキル)N(O)SC1-6アルキル-などのアルキルとして、HRN(O)SC1-6アルキル)を含む。
【0105】
用語「ハロゲン」(「ハロ」)は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素(フルオロ、クロロ、ブロモ又はヨード)を示す。好適なハロゲンは、塩素、臭素又はヨウ素である。
【0106】
ヘテロシクリル基は、飽和又は部分的に不飽和であってもよく、すなわち1以上の二重結合を有していてもよい。特に好適なヘテロシクリルは、5~6員及び9~10員のヘテロシクリルとなる。ヘテロシクリル基の好適な例は、アズリジニル、オキシラニル、チイラニル、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、2H-ピロリル、ピロリジニル、ピロリニル、ピペリジル、ピペラジニル、モルホリニル、インドリニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、ピラゾリジニル、チオモルホリニル、ジオキサニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロピロリル、テトラヒドロチオフェニル、ピラゾリニル、ジオキサラニル、チアゾリジニル、イソキサゾリジニル、ジヒドロピラニル、オキサジニル、チアジニル、チオモルホリニル、オキサチアニル、ジチアニル、トリオキサニル、チアジアジニル、ジチアジニル、トリチアニル、アゼピニル、オキセピニル、チエピニル、インデニル、インダニル、3H-インドリル、イソインドリニル、4H-キノラジニル、クロメニル、クロマニル、イソクロマニル、ピラニル及びジヒドロピラニルを含み得る。ヘテロシクリル基は、ここで定義されるように、1以上の任意選択的な置換基によって任意選択的に置換され得る。用語「ヘテロシクリレン」は、ヘテロシクリルの2価形態を示すことを意図している。
【0107】
用語「ヘテロアリール」は、単環式、多環式、縮合又は共役炭化水素残基のいずれかを含み、1以上の炭素原子は芳香族残基を提供するためにヘテロ原子によって置換される。好適なヘテロアリールは、3~20個の環原子、例えば、3~10個を有する。特に好適なヘテロアリールは、5~6員及び9~10員の二環式環系となる。好適なヘテロ原子は、O、N、S、P及びSe、特にO、N及びSを含む。2以上の炭素原子が置換される場合、これは、2以上の同一のヘテロ原子又は異なるヘテロ原子によるものとなり得る。ヘテロアリール基の適切な例は、ピリジル、ピロリル、チエニル、イミダゾリル、フラニル、ベンゾチエニル、イソベンゾチエニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、インドリル、イソインドリル、ピラゾリル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、インドリジニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、1,5-ナフチリジニル、キノザリニル、キナゾリニル、キノリニル、オキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、トリアゾリル、オキサジアルゾリル、オキサトリアゾリル、トリアジニル及びフラザニルを含み得る。ヘテロアリール基は、ここで定義されるように、1以上の任意選択的な置換基によって任意選択的に置換され得る。
用語「ヘテロアリーレン」は、ヘテロアリールの2価形態を示すことを意図する。
【0108】
用語「スルホキシド」は、単独又は複合語で、R-S(O)R基をいい、Rfは水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、カルボシクリル及びアラルキルから選択される。好適なRの例は、C1-20アルキル、好ましくはC1-6アルキル、最も好ましくはC1-3アルキル、フェニル及びベンジルを含む。
【0109】
用語「スルホニル」は、単独又は複合語で、S(O)-R基をいい、Rは、水素、ハロゲン化物、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、カルボシクリル及びアラルキルから選択される。好適なRの例は、C1-20アルキル、フェニル及びベンジルを含む。
【0110】
用語「スルホンアミド」は、単独又は複合語で、S(O)NR基をいい、各Rは、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、カルボシクリル及びアラルキルから独立して選択される。好適なRの例は、C1-20アルキル、フェニル及びベンジルを含む。好適な実施形態では、少なくとも1つのRは水素となる。他の形態では、Rは双方とも水素となる。
【0111】
用語「ヘテロ原子」又は「ヘテロ」は、ここで用いられるように、その最も広い意味で、環状有機基のメンバーとなり得る炭素原子以外の任意の原子をいう。ヘテロ原子の特定の例は、窒素、酸素、硫黄、リン、ホウ素、ケイ素、セレン及びテルル、より具体的には窒素、酸素及び硫黄を含む。
【0112】
本発明は、以下の実施例を参照して説明される。実施例は、ここに記載された本発明を例示するものであり、限定するものではないことが理解されるべきである。
【0113】
化合物の1つであるZIPC1(BF 電荷を有する、図1Aの化合物1)の物理的、熱的及び電気化学的特性を、類似の(すなわち、離れたカチオン及びアニオンを有する)OIPCと比較して、イオン種を連結することの有利な効果を探索した。この種を、リチウム金属バッテリーの電解質としての有効性が効果的に実証されている類似のOIPC[Cmpyr][BF]及び[Cmpyr][NTf](図1A)として選択した。
【0114】
第1の材料に用いられるBF に代えて、より電荷拡散性があり加水分解的に安定なスルホニルイミド基の使用は、Li又はNa塩との配位を低下させるのにより有益となり、かつ材料をより不規則にすることが予測された。双性イオン柔粘性結晶内で、特にモルホリニウム及びピペリジニウム部位(図1A)、エチル置換ピロリジニウム内で他のカチオンが用いられて、フルオロスルホニルイミド基を有する類似構造体8及び9(図1A)が合成され得る。
【実施例
【0115】
実施例 非プロトン性ZIPC及びプロトン性ZIPC
図1Aに、双性イオン柔粘性結晶(ZIPC)の多数の例を、類似の確立されたOIPCと比較して示す。プロトン伝導体としての使用について、ZIPC化合物は、それ自体はマトリックス材料として不動性を維持しつつ、Hイオン(プロトン)の伝導を容易にする。それらは、酸又は塩基でドープされる。プロトン伝導の観点において、塩基のドーピングは、より効果的であり、好ましい。
【化6】
リチウムバッテリーのための電解質としてのこれら材料の有効性を検討するために、塩でドープされたZIPC組成物の形態で、双性イオンZIPC1をリチウム塩、LiFSI又はLiBFと組み合わせた。塩でドープされたZIPC組成物を、10mol%(実施例1)及び90mol%(実施例2)の双方の濃度で検討した。高いリチウム塩含有量は、Liカチオンの輸率と競合する大量の遊離アニオン(FSI又はBF )を導入するが、高濃度のLiイオンは装置の性能に(例えば、分極を低下させることによって)非常に有利であり、ZIPC1は、Liがそれぞれのカウンターアニオンから解離するのを支援して、同等の高いリチウム塩含有量のOIPC電解質と比較してリチウムイオン輸送の増加をもたらすと考えられている。これは、標的イオンの解離を容易にする添加物として、従来の電解質混合物のわずかな比率として使用される場合であっても、ZIPCを添加することの一般的な利点を実証している。純粋なZIPC1及び[Cmpyr][BF]OIPC並びにそれらのLiFSIとの等価混合物のイオン伝導率を温度の関数として検討し、以下に報告する。
【0116】
電解質としての概念の証明
これらの電解質の多くに対する予備的なDSC、NMR、伝導率、電池サイクリング及び輸率が、利用可能となる。テスト及び結果を、より詳細に以下に説明する。特に、本発明者は、以下の電解質について検討した。
<10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1電解質(実施例1)>
これを、カチオン及びアニオンを連結することの有利な効果をさらに実証するように本発明者の研究グループの先行研究においてこれまで広範囲に研究されている類似の[Cmpyr][BF]OIPC中の10mol%LiFSIと比較する。
<90mol%のLiFSIでドープされたZIPC電解質(実施例2)>
これを、純(neat)ZIPCと比較する。この高いLi塩濃度は、良好なバッテリー性能を与える可能性が高い。
<プロトン性ZIPC電解質(実施例3)>
無水プロトン伝導体としてのプロトン性ZIPCの利点を検討するために、ZIPCを、酸又は塩基でドープした。
ZIPC1並びに10mol%及び90mol%のLiBFとのその混合物(実施例4)
DSC分析である図16Aは、ZIPC1中の10mol%LiBFの溶融転移温度及び融解エントロピーが、純粋なZIPC1と比較して抑制されていることを示す。この効果は、共晶組成物の形成又はより多くの欠陥の生成に起因して、他の柔粘性結晶のLi又はNa塩との混合物においても観察されている。LiBF濃度を90mol%まで増加すると、より高い融点(220℃)及び低い融解エントロピー(4.9J/molK)を有する相が形成される。SEM(図16B)のb図は、電解質内のイオン移動を容易にする経路を形成し得る非晶質又は液状相によって接続された粒体を有する、ZIPC1中の10mol%LiBFの形態を示す。90mol%のLiBFを有する形態(図16Bのc図)は、大きく異なり、この固体状態電解質の可塑性を説明する粒体及び粒界をより多く有している。図16Cのd図及びe図は、融点以下となる20~60℃の温度範囲にわたって測定した、ZIPC1中の10mol%及び90mol%のLiBFの固体状態の静的なLiのNMRスペクトルを表す。一般に、固体サンプルは、Li-Liの強力な等核相互作用のため、広い線形状を有するLiスペクトルを与える。ただし、移動性成分の実在は、不規則性の増加又は非結晶相の存在により、線形状の狭小化をもたらす。ZIPC1中の10mol%LiBFのシングルパルスのLiスペクトルは、双極子相互作用が十分に平均化されていることを示唆する狭い線形状を示す。ただし、ZIPC1中の90mol%LiBFLiスペクトルは、狭い成分が広い成分の上部に重畳することを示し、それぞれ、移動性及び低移動性のLiイオンの双方の存在に起因している。図16Dのf図及びg図は、ZIPC1中の10mol%及び90mol%LiBFのシングルパルスの静的な19FのNMRスペクトルを示す。ZIPC1による19Fのピークは、それらの近接した化学シフトに起因して、BF による線形状と重なる広い線を与える。サンプルの双方において、より広い(完全に規則的な材料に対して予想されるものと比較して相対的に狭い)成分の幅及び狭い成分の実質的な量は、ZIPC1中のBF アニオン及び-BF 基の双方の実質的な移動性/不規則性を示す。LiBFとの混合物のイオン伝導率は、電解質においてより高い濃度の電荷キャリアが存在するため、純粋なZIPC1よりも約3桁高くなる(図17A)。Li及び19Fの自己拡散係数を、図17Bに表す異なる温度でパルスフィールド勾配(PFG)NMRを用いて測定した。ZIPC1中の10mol%LiBFでは、BF アニオンの拡散はLiカチオンの拡散よりも速い。塩濃度を90mol%まで増やすことによって、Liカチオンは、最も速く拡散するものとなる。これは、リチウムバッテリーにおける電解質の性能に有益であると予測される。サイクリックボルタンメトリ(CV)を用いて、Li金属とのこれらの新規の電解質の適合性及び電気化学安定性を検討した。ZIPC1電解質中の10mol%及び90mol%LiBFの双方は、安定したサイクリング挙動に加えて、明確なLi堆積、及び小さなピーク分離を有するストリッピングピークを示した。これは、この新規の種類の電解質が、実質的な寄生副反応なしに、Li/Liの高速で安定した可逆的な還元及び酸化反応を支持し得ることを実証する。10mol%のLiBFサンプルについてのピーク電流(図18A)は、電解質中のイオン濃度が低いことから予想されるように、90mol%についてのもの(図18B)よりも低い。
熱研究
純ZIPC、リチウムでドープされた種々の複合体及びプロトン性ZIPCの熱特性を表1に示す。表1は、(Ts-sにおける)固体-固体相転移の存在が潜在的な構造的不規則性の1つの証拠となる、いくつかのZIPCの熱特性を説明する。とりわけ、プロトン化された塩と比較して、環のアルキル化はTs-sにおいて有利な低減をもたらし、その一方で、ドーピング後の双方のZIPCについてTは室温以上に維持されており、それは固体状態電解質としてのその使用には重要となる。
【表1】
【0117】
BF 基を有するZIPCは、化合物1及び2の双方における固体-固体相転移の存在を実証する(図2、表1)。この挙動は(例えばNMR又はSEMによる、少なくとも1つの他の特徴的な兆候により観察された場合)、これらの転移が材料における空孔の形成及び伝導率の増加と密接に関連する不規則化メカニズム(例えば、特定の官能基の回転)の開始を表すので、可塑性の1つの重要な尺度となる。
【0118】
図1BaのZIPC1(CmpyrBF)のDSCトレースは、各転移についての開始温度及びエントロピー変化を示す。図からわかるように、熱分析は、98℃での溶融前に2つの固体相を差別化する1つの明確な固体-固体相転移ピークを示す。ZIPC1についての固体-固体相転移は、13JK-1mol-1という比較的低いエントロピー変化を示す。溶融転移のエントロピー変化は21.4JK-1mol-1となり、それは柔粘性結晶挙動についてのTimmermans基準によって必要とされる20JK-1mol-1に近く、第I相(溶融前の最高温度固体相)での材料における有意な不規則性を示す。
【0119】
ZIPC2のDSCトレースである、各転移についての開始温度及びエントロピー変化を図1Bbに示す。図からわかるように、ZIPC2も、今回は45℃で、固体-固体相転移を示す。この相転移の実在は、材料内の分子回転の開始を表し、それを通じて材料が不規則化され得る。アルキル鎖置換基の長さの増加は、ZIPC1(CmpyrBF)中の98℃からZIPC2(CepyrBF)中の60℃への融点の低下を生じる。
【0120】
ZIPC6について、ZIPC6のDSCトレースである、各転移に対する開始温度及びエントロピー変化を図1Bdに示す。ZIPC6は、DSCトレースでは105℃にピークを示す。このサンプルを100℃以上の温度で視覚的にモニタリングすることは(図1Bの写真でわかるように)、サンプルが145℃であっても固体であるため、105℃でのピークは溶融転移ではないことを明らかにした。それは、固体-固体転移となる。
【0121】
ZIPC1、ZIPC2、ZIPC5及びZIPC6の各々は、溶融前に固体-固体相転移を示す。この転移の実在は、ZIPC1の溶融の低いエントロピーとともに、柔粘性結晶挙動の周知の特徴となる。通常、十分に規則的な結晶性有機塩は、固体相での固体-固体相転移を有さず、ΔSm>60JK-1mol-1を有する。
【0122】
実施例1 熱相挙動 10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1電解質
ZIPC1及び10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1の熱相挙動を、純粋な[Cmpyr][BF]OIPC及び10mol%のLiFSIでドープされた[Cmpyr][BF]OIPCのものと図2Aにおいて比較する。ZIPC1は、柔粘性結晶挙動の1つの重要な特徴である(54℃における)固体-固体相転移を示す。ZIPCは、21.4JK-1mol-1の融解エントロピーΔSにより98℃での溶融の開始を有する。ΔS値は、柔粘性結晶挙動のTimmermans基準に非常に近く、多くの公知のOIPCのものよりも小さい。類似のOIPC[Cmpyr][BF]は、溶融前に250℃で分解する。したがって、熱分析(及び後述のNMRデータ)は、この新規の双性イオン構造体の柔粘性結晶としての位置付けを支持する。10mol%のLiFSIをZIPC1にドープすることは、10JK-1mol-1の小さいΔSによりTを59℃まで低下させた。ガラス転移(Tg)も-66℃で観測され、混合物における非結晶相の出現を示した。10mol%のLiFSIの[Cmpyr][BF]OIPCへの添加は、第IV相から第III相への転移未満の低温(-95℃及び-70℃)及び第II相から第I相への転移後の83℃でも追加の新規のピークを導入し、低温での新規の相の形成を示唆する(図2A(b))。リチウム塩添加後の新規の相の形成は、ピロリジニウムによるOIPCの他のLi混合物においてこれまで観察されており、ZIPCに固有のものではない。OIPC及びLi塩の組合せによって形成されるこの材料は、ZIPC及び塩の組合せで形成されるような固体/液体の組合せではなく、新規の均質な固体となることが最初の兆候となる。その結果、OIPC電解質では、より低速のLiの輸送が(それが液体又は非結晶相ではなく固体を通じて移動するため)予想され、それは後述のNMRスペクトル(図4A図4B及び図5)に見られるより広い線幅によって支持される。
【0123】
実施例2 熱相挙動 90mol%のLiFSI及びZIPC電解質混合物
ZIPC1及びZIPC1中の90mol%LiFSIの電解質混合物のDSC昇温トレースを、図2Bに示す。LiFSIに10mol%ZIPC1のみを添加することは、Tを77℃まで低下させる。さらに、ガラス転移(Tg)も、-66℃で観測され、非結晶相の出現を示した。
【0124】
SEM分析 ZIPC1
ZIPC1のSEM画像は、硬質及び脆弱なナトリウムフルオライトのような正常な有機/無機結晶では見られない、それらの可塑的な性質により、OIPCにおいては正常に見られ得るすべり段及び/又は映進面を示す(図3D)。SEM画像は室温で撮影されるため、材料はより高温で可塑性を増加させることが予想される。19FのNMRスペクトルは、線幅が徐々に狭くなり、かつわずかな狭い成分が40℃で出現し、温度の上昇に比例して大きくなることから、より高温でのより高いレベルの可塑性の強力な証拠を示す。これらの結果はすべて、ZIPC1が、分子の内在的な回転運動を有し、ZIPCにおける不規則相を形成することを示す。
【0125】
またさらに、ZIPC1ペレットの表面の微細構造/形態は、異なる配向を有するいくつかの粒体が観察され得るため、可塑性の証拠を示す。さらに、すべり面の複数のセットが、異なる粒体内に見られ得る。これらのすべり段は、柔粘性OIPC系においても観察される。粒界は、ZIPC6の破断面から明確に検出される。粒界の終端まで整合性を保持したすべり段は、可塑性にも貢献する。2つのZIPCについての第II相(最高温度の固体相ではない)となる室温でSEM画像が得られたとすると、これは、より高温でより高レベルの可塑性が存在することを示唆する。これは、後述する温度の上昇を伴う19FのNMR測定において、観察される移動性成分のわずかな増加とも一致する。
【0126】
SEM分析 実施例1 10mol%LiFSIでドープされたZIPC1電解質
純粋なZIPC1/ZIPC1中の10mol%LiFSIのSEM分析を図3Aに示す。異なる配向を有するいくつかの粒体が観察され得るので、ZIPC1ペレットの表面の微細構造は可塑性の証拠を示す(図3A(a))。またさらに、異なる粒体内にすべり面の複数のセットが見られ得る。これらのすべり段は、柔粘性OIPC系においても観察される。10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1のSEM画像も、ZIPC1電解質における粒子が新規の液状相によって接続されていることを示唆する(図3A(b))。(以下の)MNRデータに基づいて、この相が高濃度のLiFSIを有することが提案される。したがって、この相は、Liイオン拡散のための経路を提供すると考えられ、電解質を通じて標的イオン輸送を容易にする。この混合物のSEM画像もこの考え及びZIPC1電解質における粒子がこの新規の液状相によって接続されることを示唆する。(以下の)MNRデータに基づいて、この相が高濃度のLiFSIを有すると考えられる。したがって、この相は、Liイオン拡散のための経路を提供し、電解質を通じて標的イオン輸送を容易にする。
【0127】
SEM分析 実施例2 90mol%LiFSI及びZIPC1電解質混合物
図3Bに、ZIPC1中の90mol%LiFSIの電解質混合物のSEM画像を示す。ZIPC1中の90mol%LiFSIの電解質混合物のSEM画像は、結晶領域及び粒体間領域が、移動性のリチウムに富んだ電解質を含み、リチウム電気化学作用及び装置サイクルを支持するリチウムイオンのための経路を供給することを示す。
【0128】
実施例3 ZIPC5及びZIPC5中の10mol%LiFSI
狭い線幅が30℃であっても存在するので、純粋なZIPC5(メチル化されたモルホリニウム化合物)の静的なH及び19FのNMRスペクトルは不規則性の証拠を示し、不規則性のレベルは、より高温でより高くなり、より狭い線幅及び狭い成分の増加した割合によって実証される。この不規則性(図5D(a)~(c))は、材料が柔粘性結晶となることと一致する。純ZIPC5のDSCトレースは、25℃付近での固体-固体相転移に起因し得る広いピーク及び120℃での鋭い溶融ピークを示す。ZIPC5のSEM画像は、粒界を示し、これらの粒界は完全な規則性の結晶性材料では見ることができないので、可塑性の証拠となり得る。ZIPCの構造における粒界の実在は、イオン伝導を補助し得る。これらの結果のすべては、ZIPC5が、柔粘性結晶であることと一致する不規則性構造を有することを示す。
【0129】
25℃付近の固体-固体相転移は、ZIPC5中の10mol%LiFSIのサンプルにおいてより顕著であった。ZIPC5に10mol%のLiFSIのみを添加することで、融点が92℃まで低下する。さらに、ガラス転移(Tg)も-29℃で観測され、非結晶相の出現を示した。ZIPC5中の10mol%LiFSIのSEM画像は、Liイオン拡散のための経路を提供し、電解質を通じた標的イオン輸送を容易にすることができ、Liバッテリーにおける電解質としての材料の適用に非常に有益となり得る新規の非結晶相を示す。ZIPC5中の10mol%LiFSIのイオン伝導率は、50℃で伝導率の急上昇が存在することを示し、ZIPC5の固体-固体相転移後にLi及びFSIイオンの移動性がより高くなることが示唆され、同様の挙動は他の柔粘性結晶材料において観測されている。純ZIPC5のイオン伝導率は測定可能ではないので、このイオン伝導率はFSIアニオン及びLiカチオンの移動性に起因し得る。
【0130】
ZIPC1の及び準固体状態電解質としての輸送特性及び電気化学特性
ZIPCを含む新規の電解質の電気化学特性及び界面挙動の評価は、(i)作用電極としてLi金属を有する3電極電池の挙動のボルタンメトリ特性評価、(ii)これら固有の電解質材料の適用性を実証する対称Li金属コイン電池の定電流及びEIS特性評価に基づいた。Liの輸率の測定はクロノアンペロメトリ技術により電気化学的に行われ、適用可能な場合には、NMRの結果と比較した。ZIPCとOIPCの間のtLi+の比較は、標的イオンの向上された輸送に対する双性イオンの利点の重要な予備的な確認を提供する。
【0131】
イオン伝導率とNMR線幅 実施例1 10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1電解質
10mol%のLiFSIでドープされた[Cmpyr][BF]電解質のイオン伝導率は、ZIPC1/LiFSI混合物より、約1桁高くなる(図4A(a)から(c))。ZIPC1電解質では、90%のイオン成分が連結され、したがってLi及びFSIイオンのみが移動し得るような電界において移動することができない一方で、OIPCによる電解質は完全に個々のイオンで構成されるので、この高い伝導率が予想された。実際に、ZIPCによる電解質の伝導率がOIPCのものに非常に近いという事実は大いに注目に値し、ドープされたZIPCマトリックス材料におけるLiカチオン及びFSIアニオンの有意な移動性を示す。これは、後述するようにNMRによってさらに分析された。
【0132】
静的なNMRスペクトルの線幅の測定は、NMR活性核の相対的な移動性を示す。したがって、OIPCは固体材料でありながら、その固有の不規則性(例えば、カチオン及び/又はアニオンの有意な回転運動)は、結晶性固体において一般的に観察されるもののような非常に狭い線をもたらす。なお、完全に液体のサンプルは、すべての種が並進運動と回転運動の双方により完全に移動性を有するため、非常に狭い線を与えることに留意すべきである。特に、Liの静的なNMR線幅は、10mol%のLiFSIでドープされた[Cmpyr][BF]OIPC電解質では、同等の10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1電解質におけるよりもはるかに広い。全体として、OIPCによる電解質はより多くの遊離イオンを含むので、イオン的により伝導率となるが、ドープされたリチウムイオンは、それが塩でドープされたZIPC1電解質中よりも移動性がはるかに低くなる。
【0133】
一方、LiFSIでドープされたOIPC電解質についてのLiスペクトルは、20℃で比較的広いシングルピークを示し、非常に小さな割合の第2の狭い成分が30℃で出現し、60℃でごくわずかに増加した(図5A(a)のa図)。これは、(Liの拡散係数を測定するには十分ではないが)非常にわずかな比率の拡散性Liイオンがあることを示唆する。これに対して、LiFSIでドープされたZIPC電解質についてのLiスペクトルは、全温度範囲について狭い信号(約0.3KHz以下の線幅)のみを示し、温度が上昇してもほぼ一定のままである(図5A(a)のb図)。これは、LiFSI/ZIPC1混合物における大部分のLiイオンが非常に高い移動性を有することを示しており、これはLiFSI/ZIPC電解質におけるリチウムに富んだ液状相の仮説と一致する。Liについての線幅は、10mol%のLiFSIでドープされたOIPC電解質では、同等のドープされたZIPC1による電解質におけるよりも大幅に広い(図5A(b)のc図)。したがって、OIPCによる電解質の全体は、より高伝導性であるが、より多くの遊離イオンを含むことから、リチウムイオンはそれがZIPC1による電解質内におけるよりもはるかに低い移動性を有するように見える。
【0134】
これはまた、図5B(b)に示す19FのNMRによって支持される。簡潔には、20℃でのLiFSIでドープされたOIPC電解質の19Fスペクトルは、BFについての1つの広いピーク及びFSIイオンについての1つの非常に小さい広いピークを示す。ただし、60℃では、スペクトルは2つの異なるBFの環境を示し、比較的移動性を有する成分及び低移動性成分を表す。一方、LiFSIでドープされたZIPC1電解質におけるBF基の19Fスペクトルは、研究されたすべての温度で移動性成分及び低移動性成分の双方の存在を示す。さらに、LiFSIでドープされたZIPC1電解質中のFSIアニオンの19Fスペクトルは、試験された温度範囲全体にわたって1つの狭いピークのみを有する(すなわち、1つの移動性成分を表す)。これは、ほぼすべてのFSIアニオンが拡散性であることを示唆し、これは研究された温度範囲にわたって3×10-13~4.6×10-12-1まで増加する測定されたFSIの拡散係数によって支持される。
【0135】
10%のLiFSIでドープされたZIPC1電解質についてのHスペクトル(不図示)も、2相の仮説を支持する。ただし、スペクトルはすべての温度で狭い鋭い線によって支配されており、おそらく液相においてカチオンの大部分が移動性であることを示唆する。一方、LiFSIでドープされたOIPC電解質混合物についてのHスペクトルも、有意な移動性を有するカチオンの存在を示すが、これらは、LiFSIでドープされたZIPC1電解質での60%と比較して非常に低い濃度、例えば、40℃で2%のみの狭い成分で存在する。
【0136】
図6Aでは、20℃での21.5KHzから60℃での14.1KHzまで、温度が上昇するとともにピークが徐々に狭くなる(線幅が小さくなる)ことがわかる。これは、材料が温められるにつれて、-BFの種の(回転の不規則性に起因する)「移動性」がより高くなることを示す。最初の広いピークの上部にある2番目の(ca.1.2KHzの線幅を有する)狭いピークが、40℃から区別可能となり、より高温において(第I相において)、小さいながらも増加している比率の動的なアニオンが存在していることを示唆する(図6D~E)。広い成分及び狭い成分の存在は、ZIPCに固有のものではないが、柔粘性結晶内の不規則性の明白な尺度となる。
【0137】
イオン伝導率及びNMR線幅 実施例2 90mol%のLiFSI及びZIPC電解質混合物
純粋なZIPC1及びZIPC1における90mol%のLiFSIの電解質混合物のイオン伝導率を、温度の関数として図4Bに示す。純粋なLiFSI及び純粋なZIPCの双方は非常に低いイオン伝導率を有するので、この結果は、10mol%のZIPC1のみの添加によって、この混合物のイオン伝導率が有意に増加したことを示す。90mol%のLiFSI及びZIPC1電解質混合物のLiスペクトル、純粋なLiFSIのLiスペクトル及び90mol%のLiFS及びZIPC1電解質混合物の19Fスペクトル並びに90mol%のLiFSI及びZIPC1電解質混合物のLi及び19Fの線幅を、温度の関数として図5B(a)から(d)に示す。90mol%のLiFSI及びZIPC1混合物についてのLiスペクトルは、全温度範囲について狭い信号(約0.3KHz以下)のみを示し、温度が上昇してもほぼ一定のままである(図5B(a)のa図)。これは、大部分のLiイオンが、この電解質において非常に高い移動性を有することを示す。一方、純粋なLiFSIについてのLiスペクトルは、全温度範囲で広いシングルピークを示し、非常に低い移動性を示す(図5Ba)のb図)。90mol%のLiFSI及びZIPC1電解質混合物FSIアニオンの19Fスペクトルは、全温度範囲にわたって1つの狭いピーク(すなわち、移動性成分)のみを有する(図5B(b)のc図)。これは、ほぼすべてのFSIアニオンが拡散性を有することを示唆しており、測定されたFSIの拡散係数によって支持される。Li及び19Fの双方の線幅は、90mol%のLiFSI及びZIPC1電解質混合物において小さく、非常に高い移動性を示す(図5B(c)のd図)。
【0138】
拡散係数 実施例1 10mol%のLiBFでドープされたZIPC1電解質
拡散係数は、Li及びFSIが、LiFSIでドープされたZIPC1電解質中で、LiFSIでドープされたOIPC電解質中よりも高速で拡散することを示す(図7A)。これは、LiFSIでドープされたZIPC1電解質ではそれらのアニオンが主に液相にあることと一致する。LiFSIでドープされたOIPC電解質では、少ない割合のイオンのみが十分に移動性を有して測定可能であり、19FのNMRは50℃以上でのみ測定され得ることに留意することも重要である。拡散係数は、Liの拡散がドープされたOIPCによる電解質では60℃の高温であっても測定可能ではないことを示す。FSIイオンの拡散は50℃以上で測定可能であり、それは50℃以上の少ない割合のFSIイオンのみがドープされたOIPC電解質において拡散するのに十分な移動性を有したことを示すNMR線幅と一致する。LiFSIでドープされたZIPC1電解質における有意により高い拡散速度は、以下でさらに探索されるZIPCのリチウムバッテリー用途のための有用性を明確に示す。
【0139】
拡散係数 実施例2 90mol%のLiFSI及びZIPC1電解質混合物
図7Bは、PFG-NMRによって測定された、異なる温度での90mol%のLiFSI及びZIPC1電解質混合物のLi及び19Fの拡散係数を示す。拡散係数は、90mol%のLiFSI及びZIPC1電解質混合物中の19Fよりも、Liが高速で拡散することを示す。これは、この電解質におけるLi輸率が高いことを示す。
【0140】
電気化学研究 実施例1 10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1電解質
サイクリックボルタンメトリ(CV)を用いて、10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1電解質を用いたLiメッキ(ネガティブスキャン)及びストリッピング(ポジティブスキャン)挙動を検討した。CVデータ(図8)は、Li金属のストリッピング及びメッキの成功、これは安定及び可逆的であること及び連続したサイクリング中に電流密度は安定したままであることを示す。電解質の電気化学安定性は、電気化学装置について重要な要素となる。結果は、10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1が、5Vのアノード限界(対Li/Li)を示すことを示す。それは、この電解質が高電圧のカソード材料を有する電池に用いられるのに十分な広い電気化学窓を有することを示す。さらに、これは、Li/Li対の可逆的なストリッピング及びメッキを支持するこの電解質の能力を実証する。電気化学作用は、以下でさらに試験される。Li|10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1電解質|Li電池の50℃で10mVの電位ステップでのクロノアンペロメトリである(図9A)。リチウムの輸率(tLi+)の値は0.3であることがわかった。これらは、Liに対して有意な輸率である。なお、tLi+は、10mol%のLiFSIでドープされたOIPCでは測定不可能であることに留意すべきである。
【0141】
電気化学研究 実施例2 90mol%のLiFSI及びZIPC1電解質混合物
Li|ZIPC1中の90mol%LiFSIの電解質混合物|Li電池の50℃で10mVの電位ステップでのクロノアンペロメトリ研究を図9Bに示す。挿入図は、分極前及び定常電流後の、電池の電気化学インピーダンス分光応答のナイキストプロファイルである。リチウムの輸率(tLi+)の値は、0.7であることがわかった。これは、Liに対して有意に高い輸率であり、電解質の形成に対する双性イオン柔粘性結晶化合物の有望性を実証する。
【0142】
サイクリングの研究 実施例1 10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1電解質
その後、10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1電解質を、対称リチウム金属電池で試した(図10A(a))。電池の分極は、正常な挙動として、電流密度の増加とともに増加する。ただし、電圧プロファイルは、すべての電流密度で対称的及び可逆的となる。したがって、結果は、電解質は反応性リチウム電極との高い適合性があり、0.2mAhcm-2の荷電であってもLiイオン輸送を支持可能であることを示す。図10A(a)は、電解質がより高い印加電流密度(0.2mAcm-2)であっても良好にサイクリングしたことを示す。これらの結果は、この電解質がリチウムバッテリーのための電解質として作用する良好な候補であり、リチウムの高電圧電気化学作用を支持し、かつ容易なリチウムイオン輸送を提供すること及び(b)ZIPC1にドープされた10mol%のLiFSIの、0.1mA/cmで50℃での対称電池サイクリング性能を示す。充電-放電間隔を1時間に維持した。図10A(b)への挿入図は、50~70サイクルでの電圧プロファイルの拡大図である。したがって、この電解質は、100サイクルに対して、低い分極電位での安定したサイクリングを実証する。電解質はまた、100サイクルに対して0.1mAcm-2の印加電流密度であっても、良好な安定性及び可逆性を示し(図10A(b))、優れた電池性能を実証した。リン酸鉄リチウム(LFP)カソードを有するリチウム金属アノードからなる完全電池であるLFP|ZIPC1中の10mol%LiFSI|Liを、50℃、2.8~3.8Vの範囲でサイクリングさせた(図11)。この電池は、50℃、C/20で安定した長期間のサイクリングを示した。電池は、サイクリングとともに可逆容量の増加を示す。それは、第1サイクルでは5mAh/gの可逆放電容量を実現させ、第70サイクルでは24mAh/gの可逆放電容量に到達した。可逆容量の増加は、サイクリング中の内部昇温の結果であり、電極の界面付近での電解質の溶融を生じ、電極材料の電解質とのより良好な濡れ性をもたらし得ることが仮定される。98%のクーロン効率により90%の容量保持率が、30サイクルを超えて達成された。これらの結果は、50℃でのLFP|10mol%のLiFSIでドープされたZIPC1電解質|Li電池のための有望な予備的な充電-放電サイクリング性能を示す。最適化されていない電池は、バッテリー性能に対して非常に重要となる顕著な効率(平均効率は98%)を示す。
【0143】
サイクリングの研究 実施例2 90mol%のLiFSI及びZIPC電解質混合物
図10Bは、90mol%のLiFSI及びZIPC1電解質混合物の0.1mA/cm、50℃での対称電池サイクリング性能を示す。充電-放電間隔を1時間に維持した。図10A(c)における挿入図は、50~60サイクルでの電圧プロファイルの拡大図である。この電解質は、480サイクルにわたって、低分極電位による安定したサイクリングを実証している。
【0144】
図12は、ZIPC7のDSCトレースが昇温サイクルにおいて3つのピークを示すことを示す(T1=92℃、ΔH=26J/g、T2=106℃、ΔH=10J/g、T3=119℃、ΔH=25J/g)(イミダゾールの融点は89℃である)。ZIPC7/イミダゾールの50/50混合物のDSCは、ΔH=25J/gを伴う1つの広い溶融ピークを97℃で示す。これは、純粋なZIPC7のトレースとは異なっており、純粋なイミダゾールについてのピークは存在しない(T=89℃)。したがって、変化した溶融挙動によって、イミダゾールと双性イオンの間に生じる相互作用を確認した。
【0145】
図13は、(a)純粋なプロトン性双性イオンZIPC7及びイミダゾール塩基をドーピングしたときの伝導率を示す。各サンプルの伝導率を、3回繰返して測定した。純粋なイミダゾールは、すべてのサンプルの中で最も低い伝導率を示す。すべての場合において、伝導率は温度とともに増加する。イミダゾールへの双性イオンの少量(10%)の添加は、10倍高い伝導率を与える。最も高い伝導率は、20%の双性イオンがイミダゾールに添加された場合に得られた。この場合、室温では、伝導率は、純粋なイミダゾールの伝導率の約1000倍であった。90/10混合物の伝導率は、50/50混合物と同様である。
【0146】
プロトン性ZIPC電解質
無水プロトン伝導体としてのプロトン性ZIPCの利点を検討するために、ZIPCは酸又は塩基でドープされている。例えば、ZIPC7を、トリフル酸でドープした。トリフル酸ドーピング後の伝導率は、10-6~10-5Scm-1であると特定された。CVは、燃料電池の用途に対して非常に重要なある電気化学(H)活性を示した。一方、固体塩基のイミダゾールをドーピングすることはより有望であるように見え(図13参照)、これを以下に要約する。50/50混合物のDSC(図12参照)は、ΔH=25J/gを伴った1つの広い溶融ピークを97℃で示す。サンプルは、1つのピークのみの存在を有し、純粋な双性イオンとは異なるように見える。純粋なイミダゾールピークも、存在しない(T=89℃)。変化した溶融挙動によって、イミダゾールと双性イオンの間に発生する相互作用を確認した。
【0147】
異なる組合せによる伝導率の比較
純粋なイミダゾールは、すべてのサンプルの中で最も低い伝導率を示す(図13の一番下の丸のセット)。すべての場合において、伝導率は温度とともに増加する。イミダゾールへの双性イオンZIPC7の少量(10%)の添加は、伝導率を10倍(2.01×10-7S/cmから10-6S/cmへ、図13の中央の丸のセット)に増加する。最も高い伝導率は、20%の双性イオンをイミダゾールに添加した場合に得られた(図13の一番上の三角のセット)。この場合、すでに室温では、伝導率は、純粋なイミダゾールの伝導率の約1000倍となる2.23×10-4S/cmであった。90/10混合物の伝導率(図13の中央の円のセット)は、50/50混合物(I:ZI 90:10の丸の後ろの菱形のセット)と同様である。
【0148】
したがって、結果として、塩基でドープされたZIPC7は、純イミダゾールよりもはるかに高い伝導率を示す(純粋なZIは測定可能となるには低すぎる)。この伝導率は、固体状態の無水プロトン伝導体について良好である。純粋なイミダゾールはプロトン伝導に用いられることが多いので、これは、プロトン伝導の観点において、このプロトン性ZIPCが純粋なイミダゾールよりも有意な向上を提供し得ること意味する。
【0149】
双性イオンによる液体電解質
双性イオンを液体電解質における高い標的イオン伝導のための不揮発性媒体として用いる有効性を探索するために、高いリチウム塩含有量をピロリジニウムZIPC1と組み合わせて用いた。ZIPC1中の50mol%LiFSIにより、-59℃のTのみ存在し(図15のa図内の挿入図)、材料は室温で液体である。したがって、この双性イオンは、高い塩含有量の液体電解質を形成する。この双性イオンによる電解質は不揮発性となり、競合するカチオンの移動を有さない。電解質媒体としての双性イオン液体の開発についての先行研究は、主にスルホネート又はスルホニルイミドアニオンをイミダゾリウムカチオンと組み合わせて用いており、最良の結果は、5~7個のCH基の間のリンカーを用いて達成された。より小さいサイズのZIPC1分子及び電荷拡散性BF 部分の使用が、伝導率及び輸率を増強し得ると考えられた。実際に、新規の材料の伝導率は、1.4×10-4Scm-1(30℃)(図15のa図)となり、これは報告されている他の液体非柔粘性双性イオン電解質と同一又はそれより高く、50℃で0.55±0.05という高い輸率も有する。
新規の双性イオン液体電解質は、リチウム金属のサイクリングに対しても優れた安定性を支持し(図15内のb図)、液体双性イオン電解質に対するリチウム金属サイクリングの初の証明となると考えられる。0.5mAcm-2までの電流密度の範囲を、1時間、各電流で5サイクルにわたって印加した。リチウムのストリッピング及びメッキは、0.5mAcm-2であっても良好な安定性及び低い分極電位により生じる。重要なことに、電流密度を0.05mAcm-2に戻した場合、低い過電圧が回復した。この安定性は、0.2mAcm-2(0.2mAhcm-2)での長期間のサイクリングでも保持された。過電圧は、65サイクル後に約70mVまで低下しても、約80mVでは低くかつ安定なままであった。これは、低い内部抵抗に起因し、伝導率のSEI層の形成と一致する。
【0150】
ZIPC3の合成
【化7】
1-(クロロメチル)-1-メチルピロリジン-1-イウムヨージド
1-メチルピロリジン(1当量)の酢酸エチル溶液をクロロヨードメタン(1当量)と反応させ、室温、不活性雰囲気下で16時間撹拌した。そして、酢酸エチルを真空で除去し、固体をジエチルエーテルで洗浄して、生成物を薄褐色固体として得た(収率98%)。H NMR(run07/02/2018)(400MHz,CDCl):5.80(s,2H,NC Cl),4.15-4.21(m,2H,C -5(Pyr)),3.88-3.93(m,2H,C -2(Pyr)),3.50(s,3H,NC ),2.32-2.45(m,4H,C -3,4(Pyr))。13C NMR(run12/03/2018)(100.6MHz,CDCl):68.98,64.35,49.18,22.37
1-(アミノメチル)-1-メチルピロリジン-1-イウムヨージド
1-(クロロメチル)-1-メチルピロリジン-1-イウムヨージドをアンモニア水溶液(28%)と反応させ、室温で36時間撹拌した。溶媒を真空下で除去し、得られた残留物をジクロロメタンで洗浄し、真空で乾燥して、標的構造体を褐色樹脂として得た。(収率約30%)。H NMR(run2/09/2019)(400MHz,CDCl):5.61(s,2H,NC NH),4.17-4.19(m,2H,C -5(Pyr)),3.84-3.88 3.88-3.93(m,2H,C -2(Pyr)),3.46(s,3H,NC ),2.37-2.46(m,4H,C -3,4(Pyr))
((1-メチルピロリジン-1-イウム-1-イル)メチル)((トリフルオロメチル)スルホニル)アミド
1-(アミノメチル)-1-メチルピロリジン-1-イウムヨージド(1当量)の脱水アセトニトリル溶液をトリフルオロメチルスルホニルクロリド(1.5当量)のアセトニトリル溶液と約0℃で反応させた。そして、混合物を、室温、不活性雰囲気下で4日間撹拌した後、真空下で乾燥した。得られた残留物を、ジクロロメタン/水で精製した後、真空下で乾燥して、標的構造体を茶褐色樹脂として得た。H NMR(19/12/19)(400MHz,CDCl):5.44(s,2H,NC NHS),3.95-3.99(m,2H,C -5(Pyr)),3.74-3.79(m,2H,C -2(Pyr)),3.37(s,3H,NC ),2.34-2.39(m,4H,C -3,4(Pyr))。19F NMR(19/12/19)(376.5MHz CDCl):-78.60
【0151】
ZIPC4の合成
【化8】
1-((クロロスルホニル)メチル)-1-メチルピロリジン-1-イウムクロリド
N-メチルピロリジン(1当量)の脱水ジメチルホルムアミド溶液を冷クロロメタンスルホニルクロリド(1.2当量)と反応させ、そして、溶液を不活性雰囲気下で室温で3日間撹拌した。そして、生成物を真空で乾燥し、ジエチルエーテルで洗浄して黒色タールを得た。スルホニルクロリド部分の反応性が高いことから、タールをすぐに次のステップに移した。
(((1-メチルピロリジン-1-イウム-1-イル)メチル)スルホニル)(2,2,2-トリフルオロエチル)アミド
1-((クロロスルホニル)メチル)-1-メチルピロリジン-1-イウムクロリド(1当量)の無水ジクロロメタン溶液を、1,1,1-トリフルオロエチルアミン(1.2当量)と重炭酸ナトリウム(1.8当量)の無水ジクロロメタン懸濁液と反応させた。反応物を不活性雰囲気下で室温で48時間撹拌した後、固体を濾別し、濾液の有機物を真空下で除去した。得られた残留物をジエチルエーテルで3回洗浄し、真空下で乾燥し、標的構造体を褐色固体として得た(収率約50%)。H NMR(6/8/2018)(400MHz,CDCl):5.61(s,2H,NC SO),4.34(s,2H,NC CF),4.01-4.07(m,2H,C -5(Pyr)),3.77-3.83,3.74-3.79(m,2H,C -2(Pyr)),3.39(s,3H,NC ),2.27-2.39(m,4H,C -3,4 Pyr))。19F NMR(6/8/2018)(376.5MHz,CDCl):-69.5
【0152】
電気化学インピーダンス分光法(EIS)
液体及び固体サンプルの伝導率は、Makhlooghiazad他、J.Mater.Chem、A、2017年、5、5770、第2.2.2章によって説明される手順に従って測定され、その内容は参照によりここに組み込まれる。
【0153】
固体状態核磁気共鳴分光法(NMR)
固体状態のNMR実験は、市販のBruker AVANCE III 500WB NMR分光器において、2.5mmジルコニアローターを用いて、Mater.Adv.2021年、2、1686ページに記載されるように標準的な手順に従って実施され、その内容は参照によりここに組み込まれる。
【0154】
対称電池のサイクリング
Li対称電気化学コイン型電池を構築して、ZIPC1において10mol%又は50mol%のLiFSIからなる電解質を用いて、良好な効率で、破壊することなくLi金属をサイクリングさせる電解質の能力を検討した。それらを、各分極に対して50℃でそれぞれ0.1mAcm-2又は0.2mAcm-2の電流密度で1時間サイクリングした。Biologic VMP3/Zポテンショスタットを用いて、定電流的に電池をサイクリングさせ、EC-labソフトウェア バージョン11.27を用いてデータを収集した。電池サイクリング、輸率測定及び完全電池サイクリングに用いたセパレータのタイプを、図の見出しに指定する。セパレータを一晩真空下で乾燥し、液体電解質(ZIPC1中の50mol%LiFSI)によって飽和させた。ZIPC1中の10mol%LiFSIについて、サンプルを90℃で溶融し、そして、溶融した電解質によってセパレータを飽和させ、セパレータが十分に湿潤した後、温度を50℃まで低下させて電解質を固化させた。そして、これらの電解質を2枚の直径8mmのLi金属ディスクで挟み、電池内の電極と電解質の間に均一な接触を提供するように1mmのスペーサー及び1.4mmのスプリングを用いてステンレススチールの電池ケース(Hohsen社)に組み立てた。電池の組み立てを、アルゴン充填のグローブボックス内で行った。電池を50℃で24時間保存した後、サイクリングした。
【0155】
サイクリックボルタンメトリ
サイクリックボルタンメトリ(CV)を行い、ZIPC1中の10mol%LiFSIにおけるLiの酸化還元挙動を検討した。CVを、EC-labソフトウェアによって駆動するBiologic VMP3/Z potentiostatを用いて、50℃、0.05mVs-1のスキャン速度で、2電極セットアップにより実行した。グラスファイバーセパレータを、溶融した電解質で飽和させ、そして、ステンレススチールの作用電極と基準電極/対電極としての直径8mmのLi金属ディスク(Sigma Aldrich社)との間に挟み、ステンレススチールのコイン電池に組み立てた。電池の組み立て工程のすべてを、グローブボックス内でアルゴン雰囲気下で実施した。
【0156】
輸率
ZIPC1中の10mol%及び50mol%LiFSIのLi対称電池を、Liサイクリングテストと同一の工程を用いて調製し、Evans、Bruce及びVincentによって説明される方法を用いて50℃でのLi輸率を測定するのに用いた。10mVの小さな定電位を印加して電池を分極し、初期電流及び定常電流を特定した。インピーダンススペクトルを、分極の前後に得た。再現性及び信頼性のある値を得るために、いくつかの対称電池を作製した。電流の非常に急な増加又は短絡のいずれかを示した電池は廃棄され、報告された結果はそれ以外のものからの平均値である。VMP3/Z Multi Potentiostat(Bio-Logic Science Instruments社)及びEC-Labソフトウェア バージョン11.27を用いて、すべての実験の実施及びインピーダンスデータのフィッティングを実施した。
【0157】
完全電池サイクリング
ZIPC1中の10mol%LiFSIのサイクリング性能を、LiFePO(LFP)カソード及びアノードとしてのLi金属ディスク(直径8mm)を有する2032コインタイプの電池を用いて、50℃で、それぞれ2.8V及び3.8Vの下側及び上側のカットオフ電圧で研究した。LFPカソードを、80wt%のLFP粉末、10wt%のカーボンブラック及び10wt%のポリビニリデンジフルオリド(PVDF)をN-メチルピロリドン(NMP)に混合することによって作製した。調製したスラリをアルミニウム電流コレクタ上に均一にコーティングし、室温で一晩乾燥した。カソード電極を、110℃の真空オーブン内で16時間さらに乾燥した。電極における活性材料の負荷質量は、約1.8mgcm-2であった。電解質を、Li対称サイクリングテストと同一の工程を用いて調製した。電池組み立ての全工程を、アルゴン充填のグローブボックス内で行った。電池を、電気化学試験の前に50℃で24時間保存して、電解質の電極への完全な吸収を確保した。定電流的な充電-放電研究を、Biologic VMP-3 バッテリーテストシステムを用いてオーブン内で50℃で行った。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
【図
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A(a)】
図4A(b)】
図4A(c)】
図4B
【図
図5A(a)】
【図
図5A(b)】
【図
図5B(a)】
【図
図5B(b)】
【図
図5B(c)】
【図
図5C
【図
図5D(a)】
図5D(b)】
図5D(c)】
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
【図
図10A(a)】
図10A(b)】
図10A(c)】
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
【図
図17A
図17B
図18A
図18B
【国際調査報告】