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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-16
(54)【発明の名称】鋼の焼鈍方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20230609BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230609BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
C21D9/46 J
C22C38/00 301T
C22C38/58
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022567266
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(85)【翻訳文提出日】2022-12-22
(86)【国際出願番号】 IB2021053333
(87)【国際公開番号】W WO2021224707
(87)【国際公開日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2020/054322
(32)【優先日】2020-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャムワル,ランビール・シン
(72)【発明者】
【氏名】ガーセミー-アルマキ,ハッサン
(72)【発明者】
【氏名】チャクラボルティー,アニルバン
(72)【発明者】
【氏名】チャラ・ベンカタスーリヤ,パバン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA10
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EA32
4K037EB06
4K037EB09
4K037FH00
4K037FJ02
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FM04
4K037GA05
4K037JA06
(57)【要約】
本発明は、鋼帯の製造方法、制御された脱炭素化深さを有する鋼帯、スポット溶接継ぎ手、及び前記鋼帯又は前記スポット溶接継ぎ手の使用に関する。この発明は、目標の機械的特性と共に液体金属脆化(LME)耐性の改良により、自動車産業に好適である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛ベース又はアルミニウムベースの被膜で被覆された被覆鋼板の製造方法であって、以下を含む方法。
A) 重量%において以下の化学組成、すなわち、0.01≦Al≦1.0%、0.07≦C≦0.50%、0.3≦Mn≦5.0%、V<0.2%、0.01≦Si≦2.45%、0.35≦Si+Al≦3.5、N≦0.01%、P<0.02%、S≦0.01%を有し、重量%において任意に以下の元素、すなわち、B≦0.004%、Co≦0.1%、Cu≦0.5%、0.001≦Cr≦1.00%、0.001≦Mo≦0.5%、Nb≦0.1%、Ni≦1.0%、Ti≦0.1%の少なくとも1種を有し、組成の残余は鉄及び精製の結果生じる不可避の不純物から構成される鋼板の準備、
B) この順で以下を含む鋼板の焼鈍、
i) 室温から550℃~Ac1+50℃の間の温度Tまで該鋼板を加熱する予熱工程、
ii) 0.1~15体積%の間のHを含み、残余が不活性ガス、HO、O及び不可避の不純物で構成され、-10℃~+30℃の間の露点DPを有する雰囲気中で温度Tから720℃~1000℃の間の再結晶温度Tまで該鋼板を加熱する加熱工程、
iii) 0.1~15体積%の間のHを含み、残余が不活性ガス、HO、O及び不可避の不純物で構成され、-30℃~0℃の間の露点DPを有し、露点DPが露点DPより高い雰囲気中で再結晶温度Tにおいて該鋼板を保持する均熱工程、
iv) 冷却工程
C) 亜鉛ベース又はアルミニウムベースの被膜による該鋼板の被覆。
【請求項2】
前記冷却工程では、前記鋼板はMs~Ms+150℃の間の温度Tまで冷却され、および1~30体積%の間のH及び不活性ガスを含み、露点DPが-40℃以下である雰囲気A3中で少なくとも40秒間Tに維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷却工程iv)の後、前記鋼板は、(Ms-5℃)~(Ms-170℃)の間の温度TQTまでさらに冷却され、次いで再加熱工程v)を経て、前記鋼板は、30秒~300秒の間300~550℃の間の温度Tまで再加熱される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記鋼板は、任意に2~8秒の間TQTで保持される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記冷却工程iv)及び前記再加熱工程v)の後、前記鋼帯が、1~30体積%の間のH及び少なくとも不活性ガスを含み、露点DPが-40℃以下である雰囲気A4中で300℃~500℃の間の温度まで加熱される均等化工程vi)を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
DPはDPよりも5~40℃の間高い、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
DPはDPよりも10~30℃の間高い、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記工程C)において、前記被覆は溶融めっき方法によって行われ、前記鋼帯は、0.15~0.40重量%の間のアルミニウム含有率を有し、450~470℃の間の温度で維持される亜鉛めっき浴よりも5~10℃の間高い温度に設定される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程C)において、前記被覆は溶融めっき方法により行われ、前記鋼帯は、0.09~0.15重量%の間のアルミニウム含有率を有し、450~470℃の間の温度に維持される亜鉛めっき浴より5~10℃の高い温度に設定され、その後該亜鉛めっき浴を出た後に470~550℃の間の温度まで加熱される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に従って製造され、以下を含む合金化溶融亜鉛めっき鋼帯。
- 先に記載した組成を有する鋼バルク(18)、
- 該鋼バルク(18)の上に、厚さが20~40μmの間であり、炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5~20パーセントの間であり、少なくとも50%のフェライト、及び以下の構成成分、すなわち、ベイナイト、マルテンサイト及び/又は残留オーステナイトの少なくとも1種を含む微細組織を有する部分脱炭素化層(17)、
- 部分脱炭素化層(17)の上に、厚さが5~40μmの間であり、炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5パーセント未満であり、少なくとも90%のフェライトを含む微細組織を有する脱炭素化層(16)であって、該脱炭素化層(16)の上部は、厚さが2~12μmの間であり、Mn、Si、Al及びCrベースの元素酸化物及びMn、Si、Al及びCrの混合酸化物を含む内部酸化物層(15)を含む脱炭素化層(16)、
- 該内部酸化物層(15)の上に、厚さが100nm~500nmの間である阻止層(14)、
- 該阻止層(14)の上に、厚さが3~30μmである亜鉛ベースの被覆層(13)。
【請求項11】
請求項9に従って製造され、以下を含む、合金化溶融亜鉛めっき鋼帯。
- 先に記載した組成を有する鋼バルク(18)、
- 該鋼バルク(18)の上に、厚さが20~40μmの間であり、炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5~20パーセントの間であり、少なくとも50%のフェライト、及び以下の構成成分、すなわち、ベイナイト、マルテンサイト及び/又は残留オーステナイトの少なくとも1種を含む微細組織を有する部分脱炭素化層(17)、
- 部分脱炭素化層(17)の上に、厚さが5~40μmの間であり、炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5パーセント未満であり、少なくとも90%のフェライトを含む微細組織を有する脱炭素化層(16)であって、該脱炭素化層(16)の上部は、厚さが2~12μmの間であり、Mn、Si、Al及びCrベースの元素酸化物及びMn、Si、Al及びCrの混合酸化物を含む内部酸化物層(15)を含む脱炭素化層(16)、
- 該内部酸化物層(15)の上に、厚さが3μm~30μmの間であり、10~20重量パーセントの鉄を含む鉄-亜鉛ベースの被覆層(12)。
【請求項12】
厚さが0.5mm~3.0mmの間である、請求項10又は11に記載の鋼帯。
【請求項13】
900MPaを超える最大抗張力を有する、請求項10又は12のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか一項に従った少なくとも1枚の鋼板を含む少なくとも2枚の金属板のスポット溶接継ぎ手であって、100μmを超えるサイズを有するクラックを含まないスポット溶接継ぎ手。
【請求項15】
自動車の製造のための、請求項11~13のいずれか一項に記載の被覆鋼板又は請求項14に記載のスポット溶接継ぎ手の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯の製造方法、スポット溶接継ぎ手、及び該鋼帯又は該スポット溶接継ぎ手の使用に関する。本発明は、先進的な高強度鋼の液体金属脆化(LME)耐性特性の改良により、自動車産業に特に好適である。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化のため、自動車産業、特に構造部品には高強度鋼が使用されている。このような鋼種は、それらの機械的特性を大きく改善するために合金元素を含む。
【0003】
それらの製造中、被覆前に、フルハード鋼は、それらの強度-延性バランスを高める焼鈍工程を経る。この工程では、鋼は制御された雰囲気中でその再結晶温度超に加熱され、維持され、次いで溶融亜鉛めっき法による鋼表面の亜鉛めっきのための亜鉛めっき温度まで冷却される。
【0004】
例えば、一般的な慣行は、フルハード鋼を周囲温度から再結晶温度まで加熱し(加熱工程)、次いでこの温度を保持することである(均熱工程)。95%Nと共に、例えば5体積%のHを含み、-20℃以上の露点を有する雰囲気中で両方の工程が行われる。その後、鋼は所望の温度まで急速に冷却される。
【0005】
約700℃前後の加熱及び均熱部では、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)又はクロム(Cr)などの、酸化物を形成する鋼合金元素の鋼表面への拡散に比べて、炉内の高露点雰囲気に存在する酸素がより速い速度で鋼の準表層に拡散するように露点が制御される。
【0006】
Mn、Si、Cr及びAlのような、酸化物を形成する他の鋼合金元素と共にCが存在することは、少なくとも2種の反応をもたらす。
【0007】
まず、図1に示すように、酸素が炭素と反応し、CO及びCOなどのガス(画像A及びB)を形成することで、鋼の準表層の炭素原子が枯渇し、脱炭素化層1(画像C及びD)が形成される。炭素枯渇は表面2に近いほど強くなる。上記に加えて、バルク3からの炭素原子が炭素枯渇ゾーン1に拡散する(画像E)。これらの現象は全て同時に起こる(画像F)。炭素原子が該層に拡散するよりも多くの炭素原子が鋼の準表層から出る場合、鋼の準表層は、バルク鋼の炭素レベルと比較して、脱炭素化され、及び/又は炭素枯渇領域を形成する。
【0008】
第2に、図2に示すように、酸素は、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)及びクロム(Cr)のような、鉄よりも酸素に対する親和性が高い鋼合金元素と反応し、4として報告される内部選択酸化物として知られる、主に鋼表面における酸化物が形成され、5として報告される外部選択酸化物として知られる表面における酸化物はごくわずかな量である。これらの酸化物は、例えば、MnO、SiOのような元素酸化物である。さらに、それはMnSiO、MnSiOのような複合混合酸化物を形成する。これらの酸化物は、不連続な小塊の形態で存在するか、又は鋼の準表層の粒界に連続した層の形態で存在することができる。これらの内部酸化物は、主に粒界に沿って存在し、粒内にも存在する。
【0009】
その後の処理工程では、これらの鋼は、耐食性、リン酸塩処理性などの特性を改良するために、通常、亜鉛をベースとする被膜のような別の金属又は金属合金によって被覆される。この金属被膜は、溶融めっき方法又は電気めっき方法によって堆積させることができる。溶融亜鉛めっきとしても知られる溶融亜鉛ベースの被膜は、通常、約0.1~0.4重量%のアルミニウムを含む。前記アルミニウムは鉄と優先的に反応し、鋼/被膜界面の間に阻止層を形成する。この阻止層は主にFe及びAlで作られ、金属間化合物であるFeAl5-xZn(0<x<1)を形成する。前記阻止層は、幾分かのZn原子を含み得る。
【0010】
自動車産業で使用する場合、亜鉛めっき鋼板は通常抵抗スポット溶接(RSW)方法で一緒に溶接される。この方法の間、液体亜鉛又は液体亜鉛合金は鋼の準表面層領域に浸透し、鋼の液体金属脆化(LME)の原因となる。それは鋼の延性の低下につながり、早期破損の原因となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
脱炭素化層に関しては、脱炭素化層が厚いほど、LMEに対する耐性は良好である。しかし、脱炭素化層は鋼の機械的特性を劣化させる。それは主に鋼準表層領域におけるソフトフェライト相の形成によるものである。脱炭素化層の厚さは、目標の機械的特性を満足すると共に優れたLME耐性特性を提供するように制御されなければならない。全体として、目標とする機械的特性だけでなく優れたLME耐性の両方を満足する最適な深さの脱炭素化層を生成するように、焼鈍雰囲気を制御する必要がある。本発明の目的は、前記問題を解決するための解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、請求項1に記載の方法を提供することによって達成される。この方法は、請求項2~9のいずれかの特徴も含むことができる。この目的は、請求項10~13に記載の鋼板、請求項14に記載のスポット溶接継ぎ手を提供することによっても達成される。この目的は、請求された鋼板又はスポット溶接継ぎ手に好ましく使用されるものを提供することによっても達成される。
【0013】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明から明らかになる。
【0014】
本発明を示すために、様々な実施形態及び非限定的な例の試験例を、特に以下の図を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、焼鈍炉で起こる様々な反応を示す。
図2図2は、鋼合金元素の内部及び外部酸化を示す。
図3】焼鈍炉及び溶融めっき設備の実施形態を示す。
図4】焼鈍炉及び溶融めっき設備の第2の実施形態を示す。
図5】本発明による焼鈍サイクルの実施形態を示す。
図6】本発明による焼鈍サイクルの第2の実施形態を示す。
図7】亜鉛めっき被膜を有する請求された鋼板の第1の実施形態を示す。
図8】合金化溶融亜鉛めっき被膜を有する請求された鋼板の第2の実施形態を示す。
図9】第1の鋼種(実験A1及びA2)上の脱炭素化層に及ぼす請求された方法の影響を示す2つのSEM画像を示す。
図10】請求された方法が第1の鋼種[実験A1(左側の画像)及び実験A2(右側の画像)]上の内部酸化物、阻止層及び亜鉛めっき被膜に及ぼす影響を示す2つのSEM画像を示す。
図11】請求された方法が第2の鋼種(実験B1)上の脱炭素化層(左側の画像)及び内部酸化物、阻止層及び亜鉛めっき被膜(右側の画像)に及ぼす影響を示す2つのSEM画像を示す。
図12】請求された方法が第1の鋼種(実験A3)の脱炭素化層(左の画像)及び内部酸化物及び合金化溶融亜鉛めっき被膜(右の画像)に及ぼす影響を示す2つのSEM画像を示す。
図13】請求された方法が第2の鋼(実験B2)上の脱炭素化層(左側の画像)及び内部酸化物及び合金化溶融亜鉛めっき被膜(右側の画像)に及ぼす影響を示すSEM画像を示す。
図14】3層が積層している条件における抵抗スポット溶接方法を示しており、LMEクラック形成の可能性のある位置を示している。
図15】抵抗スポット溶接試験の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、亜鉛ベース又はアルミニウムベースの被膜で被覆された被覆鋼板の製造方法であって、以下を含む方法に関する。
A) 重量%において以下の化学組成を有し、
0.01≦Al≦1.0%、
0.07≦C≦0.50%、
0.3≦Mn≦5.0%、
V<0.2%、
0.01≦Si≦2.45%、
0.35≦Si+Al≦3.5、
N≦0.01%、
P<0.02%、
S≦0.01%、
重量%において任意に以下の元素の少なくとも1種を有し、
B≦0.004%、
Co≦0.1%、
0.001≦Cr≦1.00%、
Cu≦0.5%、
0.0001≦Mo≦0.5%、
Nb≦0.1%、
Ni≦1.0%、
Ti≦0.1%、
組成の残余は鉄及び精製の結果生じる不可避の不純物で構成される鋼板の準備、
B) この順で以下を含む該鋼板の焼鈍、
i) 室温から550℃~Ac1+50℃の間の温度Tまで該鋼板を加熱する予熱工程、
ii) 0.1~15体積%の間のHを含み、残余が不活性ガス、HO、O及び不可避の不純物で構成され、-10℃~+30℃の間の露点DPを有する雰囲気A1中で温度Tから720℃~1000℃の間の再結晶温度Tまで該鋼板を加熱する加熱工程、
iii) 0.1~15体積%の間のHを含み、残余が不活性ガス、HO、O及び不可避の不純物で構成され、-30℃~0℃の間の露点DPを有し、露点DPが露点DPより高い雰囲気A2中で該再結晶温度Tで該鋼板を保持する均熱工程、
iv) 冷却工程
C) 亜鉛ベース又はアルミニウムベースの被膜による該鋼板の被覆。
【0017】
以下の段落において、請求された発明の範囲を検討し、説明する。
【0018】
以下の理由から、提供された鋼は請求された組成を有する。
【0019】
- 0.01≦Al≦1.0重量%のAlはMs温度を上昇させ、したがって残留オーステナイトを不安定化させる。また、Al含有率が1.0%を超えると、Ac3温度が上昇し、工業生産が困難になる。
【0020】
- 0.07≦C≦0.50重量%:炭素含有率が0.07%未満の場合、引張強さが不十分となる危険性がある。さらに、鋼微細組織が残留オーステナイトを含む場合、十分な伸びを達成するために必要なその安定性を得ることができない。C含有率が0.5%を超えると、溶接の硬化性が増す。
【0021】
- 0.3≦Mn≦5.0重量%。マンガンは高い引張強さを得るのに寄与する固溶体硬化元素である。しかし、Mn含有率が5.0%を超えると、溶接部の機械的特性に悪影響を及ぼす可能性のある偏析部が過度に著しい組織の形成の原因となる可能性がある。好ましくは、マンガン含有率は1.5~3.0重量%の間の範囲にある。これにより、鋼の工業生産の困難性を増大させることなく、また溶接部の硬化性を増大させることなく、満足できる機械的強度を得ることができる。
【0022】
- V<0.2重量%。バナジウムは硬化及び強化を達成する析出物を形成する。
【0023】
- 0.01≦Si≦2.45重量%。Siは炭化物形成を遅らせ、オーステナイトを安定化させる。Si含有率が2.45%を超えると、鋼の塑性及び靭性は著しく低下した。
【0024】
鋼は、以下の理由により、任意に、Nb、B、Ni、Ti、Cu、Mo及び/又はCoなどの元素を含むことができる。
【0025】
ホウ素は、任意に、0.004重量%以下の含有量で鋼中に含ませることができる。粒界に偏析することにより、Bは粒界エネルギーを低下させ、したがって液体金属脆化に対する耐性を増加させるのに有益である。
【0026】
クロムは1.00重量%以下の含有率で存在することができる。クロムは、焼鈍サイクル中の最大温度で保持した後の冷却工程中に初析フェライトの形成を遅らせ、より高い強度レベルを達成することを可能にする。その含有率は、コスト上の理由及び過度の硬化を防ぐために1.00重量%に制限される。
【0027】
銅は銅金属の析出により鋼を硬化させるために0.5重量%以下の含有率で存在することができる。
【0028】
0.5重量%以下の量のモリブデンは、この元素がオーステナイトの分解を遅らせるので、硬化性を高め、残留オーステナイトを安定化させるのに効果的である。
【0029】
ニッケルは、靭性を改良するために、任意で、1.0重量%以下の量で鋼に含有させることができる。
【0030】
チタン及びニオブもまた、析出物を形成することによって、硬化及び強化を達成するために、任意に使用され得る元素である。しかし、Nb量が0.1%を超え、及び/又はTi含有率が0.1重量%を超えると、過剰な析出が靭性の低下を引き起こす危険性があり、避けなければならない。
【0031】
P及びSは製鋼から生じる残留元素と考えられる。Pは0.04重量%以下で存在することができる。Sは0.01重量%以下の量で存在することができる。
【0032】
鋼の化学組成にはビスマス(Bi)を含まないことが好ましい。実際、どのような理論にも束縛されるつもりはないが、鋼板がBiを含むと、濡れ性が低下し、それゆえ被覆接着性が低下すると考えられる。
【0033】
明らかにされた発明を適切に理解するためには、いくつかの用語が定義される。露点とは、水蒸気で飽和させるために空気をその温度まで冷却しければならない温度のことである。製鋼では、Ac1は加熱中にオーステナイトが生成し始める温度に相当する。Msは急速冷却時にオーステナイトがマルテンサイトを形成し始める温度に対応する。
【0034】
方法のいくつかの工程は、図3又は図4に示されるように、炉内で行われ得る。両炉は、予熱部6、加熱部7、均熱部8、及び冷却部9を備える。図4に示された炉はまた、炭素濃化(partitioning)部10を含む。
【0035】
予熱工程は、一般に、鋼をフルハード条件としても知られるように冷間圧延した後に行われる。この予熱の間、鋼板は、非酸化性雰囲気中で、室温から550℃~Ac1+50℃の間の温度T1まで加熱される。予熱工程は、酸化鉄を生成することなく、又は酸化鉄が限られた量で、T1の温度で鋼を加熱することができる任意の加熱手段で行うことができる。例えば、この工程は、N、H及び不可避の不純物で構成される雰囲気を有するRTF(放射管炉)において、誘導手段による加熱において、又は空気/可燃性ガスの比が1未満の雰囲気を有するDFF(直火炉)において行うことができる。しかし、いくつかのゾーン、例えば、5つのゾーンから構成されるDFFにおいて、最後のゾーン又は最後の2つのゾーンにおいて1を超える空気/可燃性ガス比を有することは可能である。
【0036】
加熱工程の間、鋼板は、0.1~15体積%の間のHを含み、残余は不活性ガス、HO、O、及び不可避の不純物で構成され、-10℃~+30℃の間の露点DPを有する雰囲気A1中で温度Tから720℃~1000℃の間の再結晶温度Tまで加熱される。窒素は不活性ガスとして使用できる。
【0037】
均熱工程の間、鋼板は、0.1~15体積%の間のHを含み、残余は不活性ガス、HO、O、及び不可避の不純物で構成され、-30℃~0℃の間の露点DPを有し、前記露点DPは該露点DPよりも高い雰囲気A2中において前記再結晶温度T2で加熱される。窒素は不活性ガスとして使用できる。
【0038】
雰囲気A1及びA2は、予熱された蒸気を使用し、H、雰囲気の露点及び温度を監視する異なる部におけるパイロメータ、H検出器及び露点検出器を備えた炉内のN-Hガスに組み込むことによって達成することができる。
【0039】
冷却は、Nと共に20~50%のHを含む雰囲気で行うことができる。この混合ガスは、高速ファンを用いて鋼表面に吹き付けられる。冷却は、冷却ロールのような任意の他の冷却手段によっても達成することができる。
【0040】
次の部分では、本発明の中核を把握するために、いかなる理論にも束縛されることなく、加熱及び均熱工程における物理現象を説明する。
【0041】
加熱工程では、比較的高い露点と共に温度が徐々に上昇し、高いpO(酸素分圧)を有することが可能になり、鋼中への酸素の拡散につながる。この酸素拡散の増加は、2つの大きな結果をもたらす。第一に、それは格子間元素炭素との反応により鋼の準表層を深く脱炭素化することを許容する。第二に、酸素は、Mn、Si、Al及びCrのような置換型酸化物形成元素と反応し、表面酸化物を形成するために利用可能な合金元素の量を減少させる鋼の準表層内の内部酸化物を形成する。これらの内部酸化物は、これらの合金元素のより速い拡散のために、粒界領域上に優先的に生じる。
【0042】
加熱工程の終了時に、鋼の準表層は、以下を含む。
- 厚さが10~30μmの間で、炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5~20パーセントの間である部分脱炭素化層、
- 部分脱炭素化層の外側にあり、厚さが30~70μmの間であり、炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5パーセント未満である、脱炭素化層。
【0043】
これらの値は指標を得るためにのみ与えられる。加熱時間、加熱終了時の温度、鋼の炭素含有率、及びpOを決定する露点のようなパラメータは、部分脱炭素化層と同様に、前記完全脱炭素化層の厚さに影響を及ぼす。
【0044】
均熱工程では、加熱工程と比較して、温度はより高いが、露点はより低い。それは鋼の準表層にいくつかの影響を及ぼす。
【0045】
均熱部での露点が比較的低いため、酸素量もより少なくなり、したがって限定された(より浅い)深さまでしか鋼の準表層に拡散せず、限定された深さの鋼の準表層で脱炭素化反応を引き起こす。一方、炭素原子はバルクから鋼の準表層領域(部分脱炭素化層、続いて脱炭素化層)の炭素枯渇領域に拡散する。実際、部分脱炭素化領域に存在する炭素原子は脱炭素化領域に拡散し、部分的脱炭素化領域はバルクからの炭素原子で再び満たされる。したがって、このことは鋼表面に非常に近い脱炭素化層を生成する。脱炭素化反応は均熱温度、露点(pO)、均熱時間及びバルク鋼中の炭素量のようないくつかの因子に依存する。
【0046】
その結果、均熱工程の終了時に、鋼の準表層は、以下を含む。
- 厚さが約30μm、炭素重量%がバルク鋼の炭素重量%の5~20%の間である部分脱炭素化層。
- 部分脱炭素化層の外側にあり、厚さが約20μmであり、炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5パーセント未満である脱炭素化層。
【0047】
これらの値は指標を得るためにのみ与えられる。
【0048】
加熱部の酸素分圧(pO)がより高いため、より多くの量のOが鋼の準表層で容易に拡散し、内部酸化物を形成し、したがって準表層ではるかに深いところでSi、Mn、Cr、Alを捕捉することができる。この現象は加熱部の再結晶の初期段階で起こる。均熱部では、主に鋼準表層中の結晶粒成長及び大きなフェライト結晶粒の形成が起こる。
【0049】
鋼の準表層領域のより深いところでの内部酸化物の形成及びそれに続く結晶粒成長により、鋼表面に内部酸化物を含まないフェライト層が形成された。この層は亜鉛めっき中の被覆浴中のアルミニウムと容易に反応でき、満足できる阻止層を形成する。
【0050】
先行技術に反して、この焼鈍処理では、加熱工程の露点は均熱工程の露点よりも高く、先に説明したように、液体金属脆化(LME)耐性に関する鋼の特性を改良することを可能にする。本発明はまた、バルク鋼の炭素重量パーセントの5パーセント未満の炭素重量パーセントを有する、制御された深さの完全な脱炭素化層を生成する利点を有すると思われる。
【0051】
好ましくは、露点DPは-25℃~+10℃の間である。好ましくは、露点DPは-20℃~0℃の間である。好ましくは、露点DPは-25℃~-5℃の間である。さらにより好ましくは、露点は-25℃~-5℃の間である。
【0052】
好ましくは、前記冷却工程では、前記鋼板はMs~Ms+150℃の間の温度Tまで冷却され、及び1~30体積の%間のH及び不活性ガスを含み、露点DPが-40℃以下である雰囲気A3中で少なくとも40秒間Tに維持される。さらに好ましくは、前記温度TはMs+10℃~Ms+150℃の間である。これにより炭素濃化された微細組織を持つことができる。
【0053】
好ましくは、前記冷却工程iv)の後、前記鋼板は、(Ms-5℃)~(Ms-170℃)の間の温度TQTまでさらに冷却され、次いで再加熱工程v)を経て、前記鋼板は、30秒~300秒の間300~550℃の間の温度Tまで再加熱される。このような工程は炭素濃化工程としても知られる。さらにより好ましくは、前記鋼板は、任意に2~8秒の間TQTで保持される。さらにより好ましくは、前記鋼板は、330~490℃の間の温度Tまで再加熱される。
【0054】
好ましくは、前記冷却工程iv)及び前記再加熱工程v)の後、均等化工程vi)において、前記鋼帯を、1~30体積%の間のH及び少なくとも不活性ガスを含み、露点DPが-40℃以下である雰囲気A4中で300℃~500℃の間の温度で加熱する。
【0055】
好ましくは、工程A)の鋼板は、少なくとも重量パーセントで0.001≦Cr+Mo≦1.000%を有する。
【0056】
好ましくは、前記加熱及び均熱工程は100~500秒の間続く。好ましくは、前記加熱及び均熱工程において、雰囲気A1及びA2は、3~8体積%の間のHを含む。
【0057】
好ましくは、DPはDPよりも5~40℃の間高い。さらにより好ましくは、DPはDPよりも10~30℃の間高い。
【0058】
好ましくは、前記工程C)において、前記被覆は、電気めっき又は溶融めっきによって行われる。
【0059】
好ましくは、前記工程C)において、前記被覆は溶融めっき方法によって行われ、前記鋼帯は、0.15~0.40重量%の間のアルミニウム含有率を有し、450~470℃の間の温度で維持される亜鉛めっき浴よりも5~10℃の間高い温度に設定される。
【0060】
好ましくは、前記工程C)において、前記被覆は溶融めっき方法により行われ、前記鋼帯は、0.09~0.15重量%の間のアルミニウム含有率を有し、450~470℃の間の温度に維持される亜鉛めっき浴より5~10℃の高い温度に設定され、その後該亜鉛めっき浴を出た後に470~550℃の間の温度まで加熱される。このような処理工程は、合金化溶融亜鉛めっき鋼帯を製造することを可能にする。
【0061】
図5及び図6は、前記の2つの典型的な熱サイクルを示す。図5では、フルハード鋼板の予熱は室温から始まり、鋼が575℃に達するまで146秒続く。その後、加熱工程の間、鋼は131秒で575℃から715℃まで加熱され、その後174秒で715℃から均熱温度(800℃)まで加熱される。その後、帯は均熱工程を経て、その温度が800℃で146秒間維持される。最後に、帯を焼き入れによって190℃まで急冷する。その後、板は365℃、105秒間の熱処理の炭素濃化段階としても知られる再加熱段階を経て、465℃まで冷却される。鋼は460℃に維持されたZn-0.2重量%のAl浴中で最終的に亜鉛めっきされる。
【0062】
図6に示すように、フルハード鋼板の予熱は室温から始まり、鋼が675℃に達するまで146秒続く。その後、加熱工程中、131秒で鋼を675℃から815℃まで加熱し、その後174秒で815から均熱温度(880℃)まで加熱する。その後、帯は均熱工程を経て、その温度を880℃に維持し、均熱を146秒間行う。最後に、帯を焼き入れによって280℃まで急冷する。その後、板は450℃、105秒間の熱処理の炭素濃化段階としても知られる再加熱段階を経て、460℃まで冷却される。鋼は460℃に維持されたZn-0.2重量%のAl浴中で最終的に亜鉛めっきされる。
【0063】
図7に示されているように、本発明はまた、先に記載されたようにして製造され、以下を含む、亜鉛めっき鋼帯に関する。
- 先に記載された組成を有する鋼バルク18、
- 該鋼バルク18の上に、厚さが20~40μmの間であり、炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5~20パーセントの間であり、少なくとも50%のフェライト、及び以下の構成成分、すなわち、ベイナイト、マルテンサイト及び/又は残留オーステナイトの少なくとも1種を含む微細組織を有する部分脱炭素化層17、
- 部分脱炭素化層17の上に、厚さが5~40μmの間であり、炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5パーセント未満であり、少なくとも90%のフェライトを含む微細組織を有する脱炭素化層16であって、該脱炭素化層16の上部は、厚さが2~12μmの間であり、Mn、Si、Al及びCrベースの元素酸化物及びMn、Si、Al及びCrの混合酸化物を含む内部酸化物層(15)を含む脱炭素化層16、
- 該内部酸化物層15の上に、厚さが100nm~500nmの間である阻止層14、
- 該阻止層14の上に、厚さが3μm~30μmの間である亜鉛ベースの被覆層13。
【0064】
前記内部酸化物層は、図7に示すように、脱炭素化層の外側にあり、阻止層により近い。内部酸化物層は、前記酸化物を含み、炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5パーセント未満であり、少なくとも90パーセントのフェライトを有する。
【0065】
図8に示されるように、本発明はまた、先に記載されたようにして製造され、以下を含む合金化溶融亜鉛めっき鋼帯に関する。
- 先に記載された組成を有する鋼バルク18、
- 該鋼バルク18の上に、厚さが20~40μmの間であり、炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5~20パーセントの間であり、少なくとも50%のフェライト、及び以下の構成成分、すなわち、ベイナイト、マルテンサイト及び/又は残留オーステナイトの少なくとも1種を含む微細組織を有する部分脱炭素化層17、
- 部分脱炭素化層17の外側に、厚さが5~40μmの間であり、炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5パーセント未満であり、少なくとも90%のフェライトを含む微細組織を有する脱炭素化層16であって、該脱炭素化層16の上部は、厚さが2~12μmの間であり、Mn、Si、Al及びCrベースの元素酸化物及びMn、Si、Al及びCrの混合酸化物を含む内部酸化物層(15)を含む脱炭素化層16、
- 該内部酸化物層15の上に、厚さが3~30μmの間であり10~20重量パーセントの間の鉄を含む亜鉛ベースの被覆層12。
【0066】
内部酸化物層は脱炭素化層よりも厚くできない。その結果、脱炭素化層の厚さが「x」μmであり、xが5~12μmの間である場合、内部酸化物層の厚さは2~「x」の間である。前記内部酸化物層は、図8に示すように、脱炭素化化層の外側にあり、阻止層に近い。内部酸化物層は、前記酸化物を含み、バルク鋼の炭素重量パーセントの5パーセント未満の炭素重量%を有し、少なくとも90%のフェライトを有する。
【0067】
前記鋼帯は、0.5mm~3.0mmの間の厚さを有することが好ましい。
【0068】
前記鋼帯は、900MPaより大きい最大抗張力(UTS)を有することが好ましい。
【0069】
本発明はまた、先に記載された少なくとも1枚の鋼板を含む2枚の金属板のスポット溶接継ぎ手に関するものであり、該継ぎ手は100μmを超えるサイズを有するクラックを含まない。
【0070】
前記スポット溶接継手は、2枚又は3枚の金属板を含むことが好ましい。前記スポット溶接継手は、アルミニウム板又は鋼板も含むことが好ましい。
【0071】
本発明はまた、自動車の製造のための、先に記載されたいずれかの被覆鋼板又は先に記載されたいずれかのスポット溶接継ぎ手の使用に関する。
【実施例
【0072】
以下の節では、改良された表面及び準表層の特性を示す実験結果を扱う。この実験は、1.4~1.6mmの間の帯厚さを有する2つの異なる鋼種(鋼A及び鋼B)について実施した。
【0073】
異なる実験パラメータを表1に報告する。
【0074】
最初の一組の実験(A1及びA2)を行い、第1の鋼種(鋼A)について、鋼の脱炭素化挙動に及ぼす加熱部及び均熱部の露点の相違の影響を示した。鋼を焼鈍した後、図5に報告された熱サイクルに従ってZn-0.20重量%Al被覆浴中で亜鉛めっきした。その結果、両実験の熱サイクルは類似している。実験A1では、加熱部(-5℃)及び均熱部(-3℃)でほぼ同じ露点を維持した。一方、実験A2では、加熱部(-1℃)では均熱部(-9℃)と比較して、より高い露点を適用した。いずれの実験でも、両部において水素濃度を4~5%の間に維持した。
【0075】
第2の実験(A3)を鋼Aについて行った。鋼を焼鈍した後、図5に報告された熱サイクルに従ってZn-0.129重量%Al被覆浴中で亜鉛めっきした。亜鉛めっきの直後に、480℃で、合金化溶融亜鉛めっきとしても知られる被覆後熱処理を行った。この実験では、均熱部(-10℃)と比較して加熱部(0℃)でより高い露点も適用し、両部において約5%の水素を維持した。
【0076】
第3の実験(B1)は、別の鋼種(鋼B)に実施した。鋼を焼鈍した後、図6に報告された熱サイクルに従ってZn-0.20重量%Al被覆浴中で亜鉛めっきした。鋼Aと比較して鋼Bではピーク焼鈍温度がより高い。この実験では、均熱部(-20℃)と比較して加熱部(-5℃)でより高い露点も適用し、両部において約5%の水素を維持した。
【0077】
第4の実験(B2)も、鋼Bに行った。鋼を焼鈍した後、図6に報告された熱サイクルに従ってZn-0.129重量%Al被覆浴中で亜鉛めっきした。亜鉛めっきの直後に、510℃で、合金化溶融亜鉛めっきとしても知られる被覆後熱処理を行った。この実験では、均熱部(-5℃)と比較して加熱部(+4℃)でより高い露点も適用し、両部において約5%の水素を維持した。
【0078】
実験A2、A3、B1及びB2は、加熱部の露点が均熱部の露点より高い本発明に従う。
【0079】
【表1】
【0080】
<脱炭素化層>
図9は、鋼Aを用いた実験A1(左側の写真)及びA2(右側の写真)に従って製造した鋼の鋼準表層に形成された脱炭素化層のSEM顕微鏡写真を比較したものである。
【0081】
本発明の鋼の準表層領域の顕微鏡写真A2*は以下を提示する。
- 鋼バルク18、
- 炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5~20パーセントの間である約30μmの部分脱炭素化層17、
- 炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5パーセント未満である約20μmの脱炭素化層16。
【0082】
これに反して、先行技術に従う鋼の準表層の顕微鏡写真A1は、鋼のバルク18及び約45μmの部分脱炭素化層17のみを示している。この比較は、液体金属脆化耐性特性と同様に目標の機械的特性を得るために好ましい鋼の準表層領域における脱炭素化層の形成に関する請求された方法の利点を示している。
【0083】
図10は、実験A1(左側の写真)及びA2(右側の写真)を通して製造された鋼Aの試料のSEM顕微鏡写真で、内部酸化物15、阻止層14及び亜鉛めっき被膜13の存在が示されている。
【0084】
図11は、実験B1を通して製造された鋼Bの試料の2つのSEM顕微鏡写真を示す。鋼の準表層の顕微鏡写真は以下を提示する。
- 鋼バルク18、
- 炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5~20パーセントの間である約30μmの部分脱炭素化層17、
- 炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5パーセント未満である約15μmの脱炭素化層16、
- 阻止層14、内部酸化物層15及び亜鉛めっき被覆層13。
【0085】
図12は、実験A3を通して製造された鋼Aの試料の2つのSEM顕微鏡写真を示す。鋼の準表層の顕微鏡写真は以下を提示する。
- 鋼バルク18、
- 炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5~20パーセントの間である約30μmの部分脱炭素化層17、
- 炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5パーセント未満である約20μmの脱炭素化層16。
この実験は、DPがDP2よりも5℃から30℃の間高いという好ましい請求された方法を示す
【0086】
図13は、実験B2を通して製造された鋼Bの試料の2つのSEM顕微鏡写真を示す。鋼の準表層の左側の顕微鏡写真は以下を提示する。
- 鋼バルク18、
- 炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5~20パーセントの間である約30μmの部分脱炭素化層17、
- 炭素重量パーセントがバルク鋼の炭素重量パーセントの5パーセント未満である約15μmの脱炭素化層16。
【0087】
<亜鉛めっき被覆及び合金化溶融亜鉛めっき被覆>
実験A2については図9及び図10に、実験B1については図11に示すように、請求された方法は、亜鉛めっき中の反応性湿潤に適した表面を生成する。表1に報告されているように、鋼A及び鋼Bの亜鉛めっき中、Zn-0.20重量%Al浴組成を維持した。亜鉛めっき中に、良好な反応性湿潤挙動を示す鋼/被膜界面に連続的阻止層が生じた。
【0088】
実験A3及びB2では、Zn-0.129重量%Al浴中で亜鉛めっき後、鋼Aについては480℃及び鋼Bについては510℃で被覆後熱処理(合金化溶融亜鉛めっきとしても知られる)を行い、合金化溶融亜鉛めっき被覆鋼A及び鋼Bをそれぞれ製造した。図12及び図13は、それぞれ、合金化溶融亜鉛めっき被覆鋼A及び鋼Bの断面SEM顕微鏡写真を示す。これらの顕微鏡写真は、請求された方法が合金化溶融亜鉛めっき被覆鋼の製造に適していることを示す。
【0089】
<液体金属脆化の耐性の評価>
表1に報告した熱サイクルに従って製造した上記の亜鉛めっき及び合金化溶融亜鉛めっき被覆鋼の液体金属脆化(LME)感受性を、A2、A3、B1及びB2実験の条件で製造した鋼についての抵抗スポット溶接法によって評価した。電極のタイプは面直径6mmのISOタイプBであり、電極の力は5kNであり、水の流速は1.5g/分であった。溶接サイクルは表2に報告した。
【0090】
【表2】
【0091】
3層が積層している条件を用いてLMEクラック耐性挙動を評価した。この条件では、圧痕領域19、圧痕20によって変形した領域、熱影響部(HAZ)領域21、HAZ/溶接ナゲット界面領域22及びHAZ領域23の接合面を示す図14に示すように、抵抗スポット溶接によって3枚の被覆鋼板を一緒に溶接した。全ての抵抗スポット溶接試験は、厳しいノイズ要因、例えば、図15に模式的に示す2枚の鋼板の間のギャップ24、溶接電極と当該鋼板間のオフセット25、溶接電極と当該鋼板間の電極角26等を含めて実施した。次いで、図14に示すように、5箇所全てにおいて表3に示すように、光学顕微鏡を用いて100μmを超えるクラックの数を評価した。優れたLME耐性挙動は、脱炭素化層の特定厚さの存在により、溶接ノイズ要因を伴わず、広範囲の鋼板厚さにおいて観察された。
【0092】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】