(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-19
(54)【発明の名称】糖尿病及びその合併症を治療するための複合薬及び複合薬の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/351 20060101AFI20230612BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230612BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230612BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230612BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20230612BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230612BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230612BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
A61K31/351
A61P3/10
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K31/404
A61P1/16
A61P9/00
A61P13/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022566471
(86)(22)【出願日】2021-04-14
(85)【翻訳文提出日】2022-11-16
(86)【国際出願番号】 CN2021087266
(87)【国際公開番号】W WO2021218638
(87)【国際公開日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】202010362374.3
(32)【優先日】2020-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522424038
【氏名又は名称】チェンドゥ チップスクリーン ファーマスーティカル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フアン、シェンジャン
(72)【発明者】
【氏名】リュー、シャンピン
(72)【発明者】
【氏名】パン、デシ
(72)【発明者】
【氏名】リャオ、グオキアン
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ、イールー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA31
4C084MA34
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA43
4C084MA52
4C084NA05
4C084ZA361
4C084ZA751
4C084ZA811
4C084ZC351
4C084ZC352
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA07
4C086BC13
4C086GA13
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA31
4C086MA34
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA43
4C086MA52
4C086NA05
4C086ZA36
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZC35
4C086ZC75
(57)【要約】
成分(i):一般式(I)で表される化合物、該化合物の医薬用塩、該化合物及び該医薬用塩の異性体、並びに成分(ii):SGLT2阻害剤の組み合わせの、糖尿病及び/又は糖尿病の合併症の予防及び/又は治療のための薬物の調製における応用、並びに成分(i)と成分(ii)を含む医薬組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病及び/又は糖尿病合併症の予防及び/又は治療のための医薬の製造における、成分(i)と成分(ii)との組み合わせの使用であって
成分(i)が一般式(I)で示される式を有する化合物、又はその薬学的に許容される塩若しくは異性体であり、成分(ii)がナトリウム依存性グルコーストランスポーター2(SGLT2)阻害剤であり、
【化1】
ここで、環A及び環Bはそれぞれベンゼン環であり、環上には置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有し、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであり、
Xは、共有結合、O又はSであり、
R
1は、H又はアルキルであり、
R
2は、H又はアルキルであり、
R
3は、H又はアルキルであり、
R
4及びR
5はそれぞれH又はアルキルであるか、あるいはR
4及びR
5は一緒になって、環上に置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有するベンゼン環を形成し、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであり、
Alk
1は、C
1‐6アルキリデンであり、
Alk
2は、C
1‐2アルキリデンであり、
Ar
1は、環上に置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有するベンゼン環であり、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであり、
Ar
2は、環上に置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有するベンゼン環又はピリジン環であり、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシである、上記使用。
【請求項2】
成分(i)が、式(II)で示される構造を有する化合物、又はその薬学的に許容される塩若しくは異性体である、請求項1に記載の使用。
【化2】
【請求項3】
薬学的に許容される塩が、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩及びN
+(C
1‐4アルキル)
4の塩を含み、アルカリ金属塩がカリウム塩及びナトリウム塩を含み、アルカリ土類金属塩がカルシウム塩及びマグネシウム塩を含み、異性体がS配置及びR配置の異性体を含む、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
成分(ii)であるナトリウム依存性グルコーストランスポーター2(SGLT2)阻害剤が、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、イプラグリフロジン又はイプラグリフロジンL‐プロリン(イプラグリフロジンとL‐プロリンの複合体)、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン及びエルツグリフロジンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
成分(i)及び成分(ii)が治療上有効量の投与量を有し、成分(i)の投与量は1~100mgであり、成分(ii)の投与量は1~500mgである、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
糖尿病がII型糖尿病であり、糖尿病合併症が心血管疾患、腎疾患及び肝疾患を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
成分(i)及び成分(ii)を含むことを特徴とする医薬組成物であって、ここで、
成分(i)が、一般式(I)で示される式を有する化合物、又はその薬学的に許容される塩若しくは異性体であり、成分(ii)が、ナトリウム依存性グルコーストランスポーター2(SGLT2)阻害剤であり、
【化3】
ここで、環A及びBはそれぞれベンゼン環であり、環上には置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有し、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであり、
Xは共有結合、O又はSであり、
R
1は、H又はアルキルであり、
R
2は、H又はアルキルであり、
R
3は、H又はアルキルであり、
R
4及びR
5はそれぞれH又はアルキルであるか、あるいはR
4及びR
5は一緒になって、環上に置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有するベンゼン環を形成し、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであり、
Alk
1は、C
1‐6アルキリデンであり、
Alk
2は、C
1‐2アルキリデンであり、
Ar
1は、環上に置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有するベンゼン環であり、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであり、
Ar
2は、環上に置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有するベンゼン環又はピリジン環であり、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシである、上記医薬組成物。
【請求項8】
成分(i)が、式(II)で示される構造を有する化合物、又はその薬学的に許容される塩若しくは異性体である、請求項7に記載の医薬組成物。
【化4】
【請求項9】
薬学的に許容される塩が、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩及びN
+(C
1‐4アルキル)
4の塩を含み、アルカリ金属塩がカリウム塩及びナトリウム塩を含み、アルカリ土類金属塩がカルシウム塩及びマグネシウム塩を含み、異性体がS配置及びR配置の異性体を含む、請求項7又は8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
成分(ii)のナトリウム依存性グルコーストランスポーター2(SGLT2)阻害剤が、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、イプラグリフロジン又はイプラグリフロジンL‐プロリン(イプラグリフロジンとL‐プロリンの複合体)、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン及びエルツグリフロジンを含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
成分(i)及び成分(ii)が治療上有効量の投与量を有し、成分(i)の投与量は1~100mgであり、成分(ii)の投与量は1~500mgである、請求項7~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか1項に記載の医薬組成物と、1種以上の薬学的に許容される賦形剤又は担体とを含むことを特徴とする、複合医薬。
【請求項13】
錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸薬、粉末剤、坐剤などの剤型である請求項11に記載の複合医薬。
【請求項14】
請求項7~11のいずれか1項に記載の医薬組成物を含むことを特徴とする、キット。
【請求項15】
成分(i)及び成分(ii)が、それぞれ同一又は異なる仕様を有する単位製剤であり、別々の容器で提供されてもよいことを特徴とする、請求項14に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオテクノロジーの分野に関し、具体的には、糖尿病及びその合併症の治療のための複合薬及びその医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、複数の遺伝子障害によって引き起こされる疾患で、現在、世界人口のかなりの部分が罹患している。糖尿病は主に(1)インスリンの分泌がほとんどない又はないI型糖尿病又はインスリン依存性糖尿病(IDDM)と、(2)II型糖尿病又は非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)の2つに分けられる。II型糖尿病患者の中心的な問題はインスリン抵抗性であり、筋肉、肝臓、脂肪組織などの末梢組織がインスリン刺激による血糖の吸収・代謝に障害を起こし、膵臓からのインスリン分泌の負担が増大し、やがて膵島機能が徐々に低下、あるいは喪失してしまうことである。糖尿病患者の90%はII型糖尿病である。この異常な代謝疾患は高血糖を特徴とし、心血管疾患、腎症、網膜症、肝疾患、神経疾患など様々な合併症を引き起こす。
【0003】
II型糖尿病の治療には、通常、生活習慣の管理と薬物療法が行われる。インスリン以外の経口又は注射治療薬には、治療メカニズムにより少なくとも8つの主要なクラスが存在するが、既存薬による単独療法では有効集団や長期効果に限界がある。
【0004】
また、糖尿病患者は他の集団に比べて心血管、腎、肝の合併症のリスクが高く、一方、利用可能な治療薬はいずれも血糖値をコントロールすることができるが、これらの合併症を予防及び制御する効果には差がある。
【0005】
糖尿病やその合併症を効果的に予防及び/又は治療できる複合薬の開発は、非常に重要な課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、糖尿病及びその合併症の予防及び/又は治療に優れた効果を有する複合薬及びその医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を解決するために、第1の態様において、本開示は、糖尿病及び/又は糖尿病合併症の予防及び/又は治療のための医薬の製造における成分(i)と成分(ii)の組み合わせの使用を提供し、糖尿病は好ましくはII型糖尿病であり、糖尿病合併症は心疾患、腎疾患及び肝疾患を含み、
成分(i)が、一般式(I)で示される式を有する化合物、又はその薬学的に許容される塩若しくは異性体であり、成分(ii)が、ナトリウム依存性グルコーストランスポーター2(SGLT2)阻害剤であり、
【化1】
ここで、環A及び環Bはそれぞれベンゼン環であり、環上には置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有し、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであり、
Xは、共有結合、O又はSであり、
R
1は、H又はアルキルであり、
R
2は、H又はアルキルであり、
R
3は、H又はアルキルであり、
R
4及びR
5はそれぞれH又はアルキルであるか、あるいはR
4及びR
5は一緒になって、環上に置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有するベンゼン環を形成し、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであり、
Alk
1は、C
1‐6アルキリデンであり、
Alk
2は、C
1‐2アルキリデンであり、
Ar
1は、環上に置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有するベンゼン環であり、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであり、
Ar
2は、環上に置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有するベンゼン環又はピリジン環であり、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシである。
【0008】
好ましくは、成分(i)は、式(II)で示される構造を有する化合物、又はその薬学的に許容される塩若しくは異性体である。
【化2】
【0009】
薬学的に許容される塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩及びN+(C1‐4アルキル)4の塩を含み、アルカリ金属塩はカリウム塩及びナトリウム塩を含み、ナトリウム塩はチグリタザールナトリウムであり、アルカリ土類金属塩はカルシウム塩及びマグネシウム塩を含み、異性体はS配置及びR配置の異性体を含む。
【0010】
成分(i)は、シンセン・チップスクリーン・バイオサイエンス(深セン微芯生物科技股分有限公司)が独自に開発した、完全に独立した知的財産権を有する低分子化合物であり、優れた血糖降下作用及び脂質低下作用を有する。成分(i)は、中国特許番号CN1257893Cに開示され保護されており、この特許は、その全体が本開示に組み込まれている。
【0011】
成分(ii)のナトリウム依存性グルコーストランスポーター2(SGLT2)は、腎臓によるグルコースの再吸収を阻害し、過剰なグルコースを尿から排泄させ、血糖値を下げることができる新規クラスの抗糖尿病薬である。
【0012】
好ましくは、成分(ii)であるナトリウム依存性グルコーストランスポーター2(SGLT2)阻害剤は、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、イプラグリフロジン又はイプラグリフロジンL‐プロリン(イプラグリフロジンとL‐プロリンの複合体)、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン及びエルツグリフロジンを含む。
【0013】
成分(i)及び成分(ii)は、治療上有効量の投与量を有し、成分(i)の投与量は1~100mg、好ましくは12~48mgであり、成分(ii)の投与量は1~500mgであり、治療上有効量は、ナトリウム依存性グルコーストランスポーター2(SGLT2)阻害剤の特定の種類に応じて選択し、例えばカナグリフロジンの治療上有効量は50~300mg、ダパグリフロジンの治療上有効量は2.5~10mg、エンパグリフロジンの治療上有効量は5~25mg、イプラグリフロジンL‐プロリンの治療上有効量は12.5~50mg、ルセオグリフロジンの治療上有効量は1.25~5mg、トホグリフロジンの治療上有効量は5~20mg、エルツグリフロジンの治療上有効量は2.5~15mgである。
【0014】
別の態様では、本開示はまた、成分(i)及び成分(ii)を含む医薬組成物を提供し、ここで、
成分(i)は、一般式(I)で示される式を有する化合物、又はその薬学的に許容される塩若しくは異性体であり、成分(ii)は、ナトリウム依存性グルコーストランスポーター2(SGLT2)阻害剤であり、
【化3】
ここで、環A及びBはそれぞれベンゼン環であり、環上には置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有し、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであり、
Xは共有結合、O又はSであり、
R
1は、H又はアルキルであり、
R
2は、H又はアルキルであり、
R
3は、H又はアルキルであり、
R
4及びR
5はそれぞれH又はアルキルであるか、あるいはR
4及びR
5は一緒になって、環上に置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有するベンゼン環を形成し、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであり、
Alk
1は、C
1‐6アルキリデンであり、
Alk
2は、C
1‐2アルキリデンであり、
Ar
1は、環上に置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有するベンゼン環であり、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであり、
Ar
2は、環上に置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有するベンゼン環又はピリジン環であり、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシである。
【0015】
好ましくは、成分(i)は、式(II)で示される構造を有する化合物、又はその薬学的に許容される塩若しくは異性体である。
【化4】
【0016】
薬学的に許容される塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩及びN+(C1‐4アルキル)4の塩を含み、アルカリ金属塩はカリウム塩及びナトリウム塩を含み、アルカリ土類金属塩はカルシウム塩及びマグネシウム塩を含み、異性体はS配置及びR配置の異性体を含む。
【0017】
好ましくは、成分(ii)であるナトリウム依存性グルコーストランスポーター2(SGLT2)阻害剤は、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、イプラグリフロジン又はイプラグリフロジンL‐プロリン(イプラグリフロジンとL‐プロリンの複合体)、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン及びエルツグリフロジンを含む。
【0018】
成分(i)及び成分(ii)は、治療上有効量の投与量を有し、成分(i)の投与量は1~100mg、好ましくは12~48mgであり、成分(ii)の投与量は1~500mgであり、治療上有効量は、ナトリウム依存性グルコーストランスポーター2(SGLT2)阻害剤の特定の種類に応じて選択し、例えばカナグリフロジンの治療上有効量は50~300mg、ダパグリフロジンの治療上有効量は2.5~10mg、エンパグリフロジンの治療上有効量は5~25mg、イプラグリフロジンL‐プロリンの治療上有効量は12.5~50mg、ルセオグリフロジンの治療上有効量は1.25~5mg、トホグリフロジンの治療上有効量は5~20mg、エルツグリフロジンの治療上有効量は2.5~15mgである。
【0019】
第3の態様において、本開示は、上記のような医薬組成物、及び1つ以上の薬学的に許容される賦形剤又は担体を含む複合医薬を提供する。
【0020】
本開示の複合医薬は、当技術分野で一般的に用いられる方法により、固形製剤又は液体製剤として調製することができ、固形製剤としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸薬、粉末剤及び坐剤等が挙げられる。
【0021】
薬学的に許容される賦形剤又は担体の好適な種類としては、限定されるものではないが、以下のものが挙げられる。希釈剤、充填剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、流動性補助剤、造粒添加剤、コーティング剤、湿潤剤、溶剤、共溶剤、懸濁補助剤、乳化剤、甘味料、風味改良剤、風味マスキング剤、着色剤、固化防止剤、保湿剤、キレート剤、可塑剤、粘度向上剤、抗酸化剤、保存剤、安定化剤、界面活性剤、緩衝剤など。
【0022】
適切な薬学的に許容される賦形剤又は担体の例としては、限定されるものではないが、以下のものが挙げられる。乳糖、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、メチルセルロース、水、シロップ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ミネラルオイル、ヒドロキシ安息香酸メチル及びヒドロキシ安息香酸プロピルなど。
【0023】
第4の態様において、本開示は、成分(i)及び成分(ii)が、それぞれ同一又は異なる仕様を有する単位製剤であり、別々の容器で提供されてもよい、前述の医薬組成物を含むキットを提供する。
【0024】
第5の態様において、本開示は、前述の医薬組成物、複合医薬又はキットの治療上有効量を投与するステップを含む、糖尿病及び/又は心血管疾患、腎疾患、肝疾患を含む糖尿病合併症を予防及び/又は治療する方法をも提供する。
【0025】
本開示の有益な効果:
本開示では、レプチン受容体遺伝子ノックアウト糖尿病マウス系統BKS‐Leprem2Cd479/Nju(db/dbマウスともいう)に、チグリタザールナトリウムとSGLT2阻害剤(エンパグリフロジン又はダパグリフロジン)を組み合わせて2週間投与し、単独投与群又はビヒクル群と比較して併用群の血糖及び脂質血症インデックスの変化を検出した。その結果、チグリタザールナトリウムとSGLT2阻害剤の併用は、db/db糖尿病マウスの血糖値を相乗的に低下させることができ、さらにチグリタザールナトリウムによる体重増加も緩和することができるという、予想外の相乗効果を示すことが分かった。また、チグリタザールナトリウムとSGLT2阻害剤の併用により、脂質血症インデックス、特に血清トリグリセリド値が改善された。
【0026】
チグリタザールナトリウムはPPARα/γ/δ受容体フルアゴニストであり、インスリンを感作し、血糖値を下げ、血中脂質を一部改善できる。SGLT2阻害剤は腎臓によるグルコースの再吸収を阻害し、過剰なグルコースを尿から排泄させ、血糖を下げ、また効果的に体重を減らすことが可能である。作用機序の観点から、チグリタザールナトリウムとSGLT2阻害剤の併用により、少なくとも以下の3つの側面が恩恵を受けると考えられる。(1)SGLT2阻害剤は体内のグルコースの吸収を抑え、チグリタザールナトリウムはインスリン感受性を高めるため、異なる経路から血糖を下げ、相乗効果を発揮する。(2)チグリタザールナトリウムは血中脂質を改善し、関連する代謝性疾患の治療効果が期待できる一方、SGLT2阻害剤の体重減少効果も代謝に寄与し、代謝性疾患の改善という相乗効果が生まれる。(3)SGLT2阻害剤の体重減少効果はチグリタザールナトリウムの体重増加副作用をある程度相殺でき、肥満を合併する糖尿病患者の利益となる。
【0027】
ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)アゴニストは、インスリン抵抗性の緩和、糖尿病の新規発症リスクの低減、心血管系保護などの効果を有し、ナトリウム‐グルコース結合トランスポーター2(SGLT2)阻害薬は心血管疾患及び腎症に有益である。本開示で用いられる成分(i)は、PPARフルアゴニスト薬であり、臨床試験により、糖尿病患者における血糖値の低下及び血中脂質の改善、並びに全身性炎症の低減、一定の肝臓及び腎臓保護効果を有するが、一定の体重増加効果を有することが示されており、一方SGLT2阻害剤は、糖尿病患者の血糖値、血圧及び体重を低下させ、それにより腎機能及び心血管保護をもたらす効果を有している。このように、2種類の薬物を併用することで、より効率的に血糖値を下げることに加え、体重、脂質、血圧のコントロール、肝臓、腎臓の保護などの複合的な効果が得られるため、糖尿病及びその合併症である心血管疾患、脳血管疾患、腎疾患、肝疾患の予防及び/又は治療においてより多くの利益をもたらすことができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、チグリタザールナトリウムとエンパグリフロジンを併用した場合の体重及び血糖値への影響を、単独投与と比較して示す。
【
図2】
図2は、チグリタザールナトリウムとダパグリフロジンを併用した場合の体重及び血糖値への影響を、単独投与と比較して示す。
【
図3】
図3は、チグリタザールナトリウムとエンパグリフロジンの併用による血中脂質への影響を示す。
【
図4】
図4は、チグリタザールナトリウムとダパグリフロジンの併用による血中脂質への影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示は、糖尿病及びその合併症の治療のための複合薬及びその医薬組成物を開示するが、これは、本明細書に開示された内容を適切な置換又は変更で引き出すことにより当業者によって実施することができる。特に、同様の置換及び変更はすべて当業者には明らかであり、それらはすべて本開示に含まれるものと考えられることに留意されたい。本明細書に記載された応用は、好ましい例によって説明されており、利害関係人は、本開示の内容、精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された応用に変更又は適切な改変及び組み合わせを行うことによって本開示の技術を実施及び適用できることが明らかである。
【0030】
本開示は、本開示によって覆われる範囲を限定することを意図しない非限定的な例によって、以下にさらに説明される。
【0031】
特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【実施例】
【0032】
例1:チグリタザールナトリウムとエンパグリフロジンとの併用療法とその単剤療法との体重及び血糖値への影響の比較
実験デザイン:マウスにチグリタザールナトリウム、エンパグリフロジン又はその併用薬を経口投与し、単剤及び併用薬の体重及び血糖値への影響を検討した。
【0033】
実験手順:6週齢のdb/db雄マウスに、体重に応じて、それぞれ100μLのビヒクル(0.1%カルボキシメチルセルロースナトリウム)、10mg/kgのチグリタザールナトリウム、3mg/kgのエンパグリフロジン、又は同時に同用量のチグリタザールナトリウムとエンパグリフロジンの併用を1日1回、経口投与した。なお、正常対照として野生型C57BLKS/Jnjuマウスを用いた(ビヒクルとともに投与した)。投与期間は14日間とし、15日目に動物を処理し、解剖した。投与開始後、3日ごとにマウスの体重測定と空腹時血糖値測定(空腹時4~6時間)を行った。実験の結果は
図1に示した。
【0034】
その結果、チグリタザールナトリウムとエンパグリフロジン単独である程度血糖値を下げることができ、両者の併用により予想外の相乗効果が生じ、一方ではチグリタザールナトリウムによる体重増加を緩和でき、他方では正常対照群に近いレベルにまで優れた血糖値低下効果があることがわかった。
【0035】
例2:チグリタザールナトリウムとダパグリフロジンとの併用療法とその単剤療法との体重及び血糖値への影響の比較
実験デザイン:マウスにチグリタザールナトリウム、ダパグリフロジン又はその併用薬を経口投与し、単剤及び併用薬の体重及び血糖値への影響を検討した。
【0036】
実験手順:6週齢のdb/db雄マウスに、体重に応じて、それぞれ100μLのビヒクル(0.1%カルボキシメチルセルロースナトリウム)、10mg/kgのチグリタザールナトリウム、1.5mg/kgダパグリフロジン、又は同時に同用量のチグリタザールナトリウムとダパグリフロジンの併用を1日1回、経口投与した。なお、正常対照として野生型C57BLKS/Jnjuマウスを用いた(ビヒクルとともに投与した)。投与期間は14日間とし、15日目に動物を処理し、解剖を行った。投与開始後、3日ごとにマウスの体重測定と空腹時血糖値測定(空腹時4~6時間)を行った。実験の結果は、
図2に示した。
【0037】
その結果、チグリタザールナトリウム及びダパグリフロジン単独である程度血糖値を下げることができ、両者の併用により予想外の相乗効果が生じ、一方ではチグリタザールナトリウムによる体重増加を緩和でき、他方では正常対照群に近いレベルにまで優れた血糖値低下効果があることがわかった。
【0038】
例3:チグリタザールナトリウムとエンパグリフロジンの併用による血中脂質への影響
実験デザイン:糖尿病マウスにチグリタザールナトリウム、エンパグリフロジン又はそれらの組み合わせを経口投与し、単剤及び併用投薬によるマウス血清中の総コレステロール(TC)及びトリグリセリド(TG)に及ぼす影響を検討した。
【0039】
実験手順:6週齢のdb/db雄マウスに、体重に応じて、それぞれ100μLのビヒクル(0.1%カルボキシメチルセルロースナトリウム)、10mg/kgのチグリタザールナトリウム、3mg/kgのエンパグリフロジン、又は同時に同用量のチグリタザールナトリウムとエンパグリフロジンの併用を1日1回、経口投与した。正常対照として野生型C57BLKS/Jnjuマウスを用いた(ビヒクルとともに投与した)。投与期間は14日間とし、15日目に動物を処理し、解剖した。全血を採取し、血清を遠心分離し、生化学分析装置で血清中のTCとTGを測定した。実験結果を
図3に示した。
【0040】
その結果、チグリタザールナトリウム及びエンパグリフロジン単独で血清総コレステロール値及びトリグリセリド値をある程度低下させることができ、チグリタザールナトリウムが比較的優れた効果を示し、両者の併用では、血清総コレステロール値及びトリグリセリド値の低下に、より優れた効果を示し、相乗効果が生み出されることが示された。
【0041】
例4:チグリタザールナトリウムとダパグリフロジンの併用による血中脂質への影響
実験デザイン:糖尿病マウスにチグリタザールナトリウム、ダパグリフロジン又はそれらの組み合わせを経口投与し、単剤及び併用投薬によるマウス血清中の総コレステロール(TC)及びトリグリセリド(TG)に及ぼす影響を検討した。
【0042】
実験手順:6週齢のdb/db雄マウスに、体重に応じて、それぞれ100μLのビヒクル(0.1%カルボキシメチルセルロースナトリウム)、10mg/kgのチグリタザールナトリウム、1.5mg/kgダパグリフロジン、又は同時に同用量のチグリタザールナトリウムとダパグリフロジンの併用を1日1回、経口投与した。なお、正常対照として野生型C57BLKS/Jnjuマウスを用いた(ビヒクルとともに投与した)。投与期間は14日間とし、15日目に動物を処理し、解剖した。全血を採取し、血清を遠心分離し、生化学分析装置で血清中のTCとTGを測定した。実験結果は
図4に示した。
【0043】
その結果、チグリタザールナトリウム及びダパグリフロジン単独で血清総コレステロール値及びトリグリセリド値をある程度低下させることができ、チグリタザールナトリウムが比較的優れた効果を示し、両者の併用では、血清総コレステロール値及びトリグリセリド値の低下に、より優れた効果を示し、相乗的な効果が生み出されることが示された。
【0044】
本開示では、例1~4により、チグリタザールナトリウムとSGLT2阻害剤であるエンパグリフロジン又はダパグリフロジンとの併用により、db/db糖尿病マウスの血糖値を相乗的に低下させることができ、さらにチグリタザールナトリウムによる体重増加も緩和することができるという予想外の相乗的効果を示すことが確認された。また、チグリタザールナトリウムとSGLT2阻害剤の併用により、脂質血症インデックス、特に血清トリグリセリド値が改善された。チグリタザールナトリウムは、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)アゴニストであり、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)アゴニストは、インスリン抵抗性の緩和、糖尿病の新規発症リスクの低減、心血管系保護などの効果を有し、一方でナトリウム‐グルコース結合トランスポーター2(SGLT2)阻害剤は心血管疾患及び腎症に有効である。臨床試験の結果、チグリタザールナトリウムは、糖尿病患者の血糖値を下げ、脂質を改善し、また、全身性の炎症を低減し、一定の肝臓及び腎臓保護効果を有するが、一定の体重増加作用を有すること、一方SGLT2阻害剤は、糖尿病患者の血糖値、血圧、体重を下げ、腎機能及び心血管保護をもたらす効果があることが分かっている。このように、2種類の薬物を併用することにより、血糖値の低減へのより多くの効果に加え、体重、脂質、血圧のコントロール、肝臓及び腎臓の保護への複合効果が得られ、糖尿病及びその合併症である心血管疾患、脳血管疾患、腎疾患、肝疾患などの予防及び/又は治療に、より多くの利益をもたらすことができることがわかる。
【0045】
以上、本開示を詳細に説明したが、具体的には、本開示の原理及び実施例を好ましい例で説明している。上記の実施例の説明は、最良の態様を含む本開示の方法及びその核心的思想の理解を助けることのみを目的としており、また、当業者であれば誰でも、本開示の製造及び使用、並びに任意の組み合わせを実施する方法など、本開示を実施することができるようにすることを目的としている。当業者にとって、本開示の原理から逸脱することなく本開示に対して行うことができるいくつかの改良及び修正があり、これらの改良及び修正も本開示の特許請求の範囲の保護範囲に含まれることに留意されたい。本開示の特許権の保護範囲は、特許請求の範囲によって限定され、当業者によって考え得る他の実施形態を含むことができる。これらの他の実施形態が、特許請求の範囲の文字通りの表現と異ならない構造要素を有する場合、又は、特許請求の範囲の文字通りの表現と実質的に異ならない均等の構造要素を含む場合、これらの他の実施形態も特許請求の範囲に含まれるものとする。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(i)及び成分(ii)を含むことを特徴とする
糖尿病及び/又は糖尿病合併症の予防及び/又は治療のための医薬組成物であって、ここで、
成分(i)が、一般式(I)で示される式を有する化合物、又はその薬学的に許容される塩若しくは異性体であり、成分(ii)が、ナトリウム依存性グルコーストランスポーター2(SGLT2)阻害剤であり、
【化1】
ここで、環A及びBはそれぞれベンゼン環であり、環上には置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有し、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであり、
Xは共有結合、O又はSであり、
R
1は、H又はアルキルであり、
R
2は、H又はアルキルであり、
R
3は、H又はアルキルであり、
R
4及びR
5はそれぞれH又はアルキルであるか、あるいはR
4及びR
5は一緒になって、環上に置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有するベンゼン環を形成し、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであり、
Alk
1は、C
1‐6アルキリデンであり、
Alk
2は、C
1‐2アルキリデンであり、
Ar
1は、環上に置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有するベンゼン環であり、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであり、
Ar
2は、環上に置換基を有しないか、又は1つ以上の置換基を有するベンゼン環又はピリジン環であり、置換基はフッ素、アルキル又はアルコキシであ
り、
好ましくは糖尿病がII型糖尿病であり、糖尿病合併症が心血管疾患、腎疾患及び肝疾患を含む、上記医薬組成物。
【請求項2】
成分(i)が、式(II)で示される構造を有する化合物、又はその薬学的に許容される塩若しくは異性体である、請求項
1に記載の医薬組成物。
【化2】
【請求項3】
薬学的に許容される塩が、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩及びN
+(C
1‐4アルキル)
4の塩を含み、アルカリ金属塩がカリウム塩及びナトリウム塩を含み、アルカリ土類金属塩がカルシウム塩及びマグネシウム塩を含み、異性体がS配置及びR配置の異性体を含む、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
成分(ii)のナトリウム依存性グルコーストランスポーター2(SGLT2)阻害剤が、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、イプラグリフロジン又はイプラグリフロジンL‐プロリン(イプラグリフロジンとL‐プロリンの複合体)、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン及びエルツグリフロジンを含む、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
成分(i)及び成分(ii)が治療上有効量の投与量を有し、成分(i)の投与量は1~100mgであり、成分(ii)の投与量は1~500mgである、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
請求項
1~
5のいずれか1項に記載の医薬組成物と、1種以上の薬学的に許容される賦形剤又は担体とを含むことを特徴とする、
糖尿病及び/又は糖尿病合併症の予防及び/又は治療のための複合医薬
であって、
好ましくは糖尿病がII型糖尿病であり、糖尿病合併症が心血管疾患、腎疾患及び肝疾患を含む、上記複合医薬。
【請求項7】
錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸薬、粉末剤、坐剤などの剤型である請求項
6に記載の複合医薬。
【請求項8】
請求項
1~
5のいずれか1項に記載の医薬組成物を含むことを特徴とする、キット。
【請求項9】
成分(i)及び成分(ii)が、それぞれ同一又は異なる仕様を有する単位製剤であり、別々の容器で提供されてもよいことを特徴とする、請求項
8に記載のキット。
【国際調査報告】