(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-19
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用の電極およびその調製方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20230612BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230612BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20230612BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230612BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230612BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
H01M10/0566
H01M10/052
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568504
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(85)【翻訳文提出日】2022-11-28
(86)【国際出願番号】 EP2021062716
(87)【国際公開番号】W WO2021228995
(87)【国際公開日】2021-11-18
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522436514
【氏名又は名称】ディナソル エラストメロス,エッセ.ア.ウ.
【氏名又は名称原語表記】DYNASOL ELASTOMEROS,S.A.U.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コロナ ガルバン,セルジオ
(72)【発明者】
【氏名】ランセロス メンデス,セネチュウ
(72)【発明者】
【氏名】リベイロ ダ コスタ,ペドロ フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ダ シルバ コスタ,カルロス ミグエル
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
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5H029AL03
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5H029AL11
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5H029AM07
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5H029HJ01
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5H050AA02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
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5H050CA08
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5H050CB07
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5H050CB11
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5H050DA03
5H050DA11
5H050EA28
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA11
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
結合剤としての直鎖スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)コポリマーを含む活性層を備えたリチウムイオン電池用電極が提供されている。結合剤としてのSEBSコポリマーは、230℃および2.16kg荷重で測定されたメルトフローレート(MFR)が4~220g/10分であること、分子量が100,000g/mol未満、特に50,000g/molから100,000g/molであること、並びに、スチレン含有量が10~20重量%であることを特徴とする。カソードまたはアノードとすることができる電極、および、そのような電極を備えたLiイオン電池の調製方法も提供されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質と、導電性添加剤と、結合剤としての直鎖スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)コポリマーとを含んでなる活性層を備えたリチウムイオン電池用電極であって、
結合剤としての直鎖スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)コポリマーが、
- 4~220g/10分の、230℃および2.16kg荷重で測定されたメルトフローレート(MFR);
- 100,000g/mol未満、特に50,000g/molから100,000g/molまでの分子量;
- 10~20重量%のスチレン含有量;
を有することを特徴とする、リチウムイオン電池用電極。
【請求項2】
前記直鎖SEBSコポリマーは更に、ポリスチレンブロック(S)の分子量が9,000g/mol以下であることを特徴とする、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
当該電極がカソードであり、前記電極活物質がカソード活物質である、請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記カソードの活性層中の前記結合剤の含有量が、前記カソードの活性層の総重量に対して2重量%~25重量%である、請求項3に記載のカソード。
【請求項5】
前記カソード活物質の量が、前記カソードの活性層の総重量に対して45重量%~95重量%である、請求項4に記載のカソード。
【請求項6】
前記導電性添加剤の量が、前記カソードの活性層の総重量に対して3重量%~30重量%である、請求項5に記載のカソード。
【請求項7】
当該電極がアノードであり、前記電極活物質がアノード活物質である、請求項1または2に記載の電極。
【請求項8】
前記アノードの活性層中の前記結合剤の含有量が、前記アノードの活性層の総重量に対して2重量%~25重量%である、請求項7に記載のアノード。
【請求項9】
請求項1に記載の電極の調製方法であって、当該方法は、
a)結合剤としての直鎖スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)コポリマーと、電極活物質と、導電性添加剤と、適切な溶媒とを含んでなるスラリーを得るステップであって、
結合剤としての直鎖スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)コポリマーが、
- 4~220g/10分の、230℃および2.16kg荷重で測定されたメルトフローレート(MFR);
- 100,000g/mol未満、特に50,000g/molから100,000g/molまでの分子量;
- 10~20重量%のスチレン含有量;
を有することを特徴とするものである、ステップと、
b)前記スラリーを集電体に適用するステップと、
c)前記集電体上に電極活性層を形成するために、前記適用されたスラリーを乾燥させるステップと、
を備える、電極の調製方法。
【請求項10】
前記電極がカソードであり、前記電極活物質がカソード活物質である、請求項9に記載の電極の調製方法。
【請求項11】
ステップa)の前記スラリーが、
- 前記SEBSコポリマーを溶媒に撹拌下で溶解して、コポリマー溶液を得るステップと、
- 懸濁液を得るために、前記撹拌されたコポリマー溶液にカソード活物質および導電性添加剤を順次添加するステップと、
- スラリーを得るために、前記得られた懸濁液を撹拌プロセスに供するステップと、
によって形成される、請求項10に記載のカソードの調製方法。
【請求項12】
前記電極がアノードであり、前記電極活物質がアノード活物質である、請求項9に記載の電極の調製方法。
【請求項13】
ステップb)がスクリーン印刷によって行われる、請求項9~12のいずれか一項に記載の電極の調製方法。
【請求項14】
カソードと、アノードと、セパレータと、前記カソードと前記アノードとの間に介在する適切な電解液と、を備え、前記カソードまたは前記アノードのいずれか、または両方が、請求項1または2に記載されたような電極である、Liイオン電池。
【請求項15】
前記カソードが、請求項3~6のいずれか一項に定義された通りのものであり、および/または、前記アノードが、請求項7又は8のいずれか一項に定義された通りのものである、請求項14に記載のLiイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2020年5月13日に出願された欧州特許出願第20382398.4号の利益を主張する。
【0002】
[技術分野]
本開示(本願)は、充電式バッテリの分野に関する。特に、本開示(本願)は、結合剤(バインダー)として直鎖スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)コポリマーを含む電極、および当該電極を備えるLiイオン電池に関する。より詳細には、本開示(本願)は、カソード、アノード、およびそれらの調製方法に関する。
【背景技術】
【0003】
モビリティ、センシング、および相互接続のニーズの高まりにより、低コストで環境に優しいエネルギー貯蔵システムのニーズが高まっている。
【0004】
リチウムイオン電池は、他の従来の電気化学電池と比較して体積エネルギー密度(Wh・L-1)および重量エネルギー密度(Wh・g-1)が高いため、この目的に有利な技術である。さらに、それらはまた、メモリ効果の欠如、自己放電が少ない、充電および放電サイクルが多い、ならびにエネルギー変換プロセスにおけるエネルギー効率が高いなどのいくつかの魅力的な特徴を示す。リチウムイオン電池は、「モノのインターネット」(IoT)に非常に関連するポータブルデバイス(スマートフォン、ラップトップ、タブレット)およびスマートセンサ/アクチュエータへの統合に好適であり、スマートホーム、スマートシティ、およびポイントオブケア生物医学デバイスの概念の迅速な実装に寄与する。また、電気自動車およびハイブリッド自動車、孤立した地域におけるオフグリッド電力システム、ならびに無停電電源装置(UPS)における統合のための信頼できる技術でもある。
【0005】
リチウムイオン電池用のカソードは、金属集電体基板(アルミニウム)上にコーティングされたスラリーから調製される。このスラリーは、活物質、結合剤、導電性添加剤、および溶媒の混合物からなる。
【0006】
結合剤として使用することができる可能なポリマーの1つは、スチレンブロックコポリマー(SBC)のファミリーに属する。スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)コポリマーは、高い伸びを維持し、耐摩耗性、耐久性、および耐薬品性を示すので、産業において広く使用されている。SBSポリマーの水素添加によって得られるスチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)コポリマーは、温度および紫外線に対するより高い耐性ならびに改善された弾性特性を有する。さらに、SEBSコポリマーは、無毒であり、自然老化プロセス後であっても細胞毒性効果がない。
【0007】
最近の研究では、SEBSは、完全電池がスクリーン印刷電極(アノードおよびカソードの両方)と組み立てられたLiイオン電池(Gonticalves,Rら、「Poly(styrene-butene/ethylene-styrene):A New Polymer Binder for High-Performance Printable Lithium-Ion Battery Electrodes」、ACS Applied Energy Materials、2018、1巻、頁3331~3341参照)のための非常に魅力的なポリマー結合剤であることが示された。印刷されたカソード電池の性能を評価し、異なるサイクル数について137mAh g-1(C/5)から52mAh g-1(5C)の高い送達容量を示した。スクリーン印刷用に配合されたSEBS系インクは、均一な粒子分布を示し、結果はまた、SEBS系ポリマー結合剤が、一般的に使用されるPVDFポリマー結合剤よりも良好な界面構造を提供することを証明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、高いメルトフローレート、比較的低い分子量およびスチレン含有量を有する直鎖スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)コポリマーを電極(カソード、アノード、またはそれらの両方のいずれか)の活性層中の結合剤として使用することによって、より良好な性能を有し、特に改善された比容量を有する電池を製造できることを見出した。
【0011】
したがって、本発明の第1の態様は、
電極活物質と;
導電性添加剤と;
- 4から220g/10分の、230℃および2.16kg荷重で測定されたメルトフローレート(MFR);
- 100,000g/mol未満、特に50,000g/molから100,000g/molまでの分子量;
- 10から20重量%のスチレン含有量;
を有することを特徴とする結合剤としての直鎖スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)コポリマーと;
を含む活性層を含むリチウムイオン電池用電極に関する。
【0012】
本発明の第2の態様は、上記の電極の調製方法に関するものであり、本方法は、
a)スラリーを得るステップであって、当該スラリーは、
- 4から220g/10分、例えば、4g/10分、10g/10分、30g/10分、50g/10分、100g/10分、または150g/10分の、230℃および2.16kg荷重で測定されたメルトフローレート(MFR);
- 100,000g/mol未満、特に50,000g/molから100,000g/molまで、例えば、70,000g/mol、または75,000g/mol、または80,000g/molの分子量;
- 10から20重量%、例えば、15重量%のスチレン含有量;
を有することを特徴とする結合剤としての直鎖スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)コポリマーと;
電極活物質と;
導電性添加剤と;
適切な溶媒と;
を含むスラリーを得るステップと、
b)スラリーを集電体に適用するステップと、
c)集電体上に電極活性層を形成するために、適用されたスラリーを乾燥させるステップと、
を含む、上記の電極の調製方法である。
【0013】
本発明の第3の態様は、カソードと、アノードと、セパレータと、カソードとアノードとの間に介在する適切な電解液と、を備え、カソードまたはアノードのいずれか、または両方が、上記の通りのものである、Liイオン電池に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】SEBS C-H6180Xを用いたサンプル(三角形;例1)、SEBS C-H6110を用いたサンプル(四角;比較例1)、および方法1を用いて調製したSBS C-718を用いたサンプル(円;比較例2)のレオロジー特性を示す。a)0.5s
-1の定常せん断に対する粘度応答、b)定常せん断停止後の貯蔵弾性率G´の時間発展、c)時間発展の最後に記録された機械的スペクトル(G´:空の記号;G´´:黒の記号)、d)G´(空の記号)およびG´´(黒の記号)の応力依存性。記号は、各インクについて4つの異なるサンプル厚さで実施された試験からの平均値を示す。
【
図2】800μm(左向きの三角形)、817μm(円)、820μm(ダイヤモンド)、および980μm(上向きの三角形)の異なる厚さでのサンプルSEBS C-H6110/M3のレオロジー特性を示す。a)時間発展の最後に記録された機械的スペクトル(G´:空の記号;G´´:黒の記号)、b)周波数1Hzの大振幅振動応力に対する振動歪み応答。
【
図3】a)せん断速度0.5s
-1での60秒間の定常せん断停止後に測定した、インクSEBS C-H6110/M1(四角)、インクSEBS C-H6110/M2(円)、およびインクSEBS C-H6110/M3(三角形)のせん断貯蔵弾性率G´の時間依存性、b)インクSEBS C-H6110/M1(三角形)、インクSEBS C-H6110/M2(円)、およびインクSEBS C-H6110/M3(四角)の機械的スペクトル(G´:白の記号、G´´:黒の記号)、c)大振幅振動せん断(LAOS)応力スイープ中に測定した、サンプルSEBS C-H6110/M1(三角形)、インクSEBS C-H6110/M2(円)、およびSEBS C-H6110/M3(四角)の貯蔵(G´:白の記号)弾性率および損失(G´´:黒の記号)弾性率の応力依存性、を示す。
【
図4】a)SBS C-718/M1、b)SEBS C-H6180X/M1、c)SEBS C-H6110/M1、d)SEBS C-H6110/M2、およびe)SEBS C-H6110/M3の異なるポリマー結合剤および方法を有するカソードのSEM表面画像を示す。
【
図5】a)C5およびC/5レートにおける第5の充電/放電サイクルプロファイル、b)5CからC/5のCレートでの放電プロファイルのレート性能、c)Cレートおよび2Cレートでのサイクル寿命安定性、d)サイクル数の関数としてのクーロン効率、を示す。全ての測定は、異なるポリマーおよび分散方法で調製された全ての印刷カソードについて室温で実施された(サンプルSBS C-718/M1については四角、サンプルSEBS C-H6180X/M1については円、サンプルSEBS C-H6110/M1については三角形、SEBS C-H6110/M2については星、およびサンプルSEBS C-H6110/M3については菱形で表される)。
【
図6】a)サイクリング後のEIS結果および対応する等価回路、および、b)異なるポリマーおよび分散方法によって調製された全ての印刷カソードについての微分容量(dQ/dV)の結果を示す(サンプルSBS C-718/M1については四角、サンプルSEBS C-H6180X/M1については円、サンプルSEBS C-H6110/M1については三角形、SEBS C-H6110/M2については星、およびサンプルSEBS C-H6110/M3については菱形で表される)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本出願において本明細書で使用される全ての用語は、特に明記しない限り、当技術分野で知られている通常の意味で理解されるものとする。本出願で使用される他のより具体的な定義の用語は、以下に記載されており、特に明示的に記載された定義がより広い定義を提供しない限り、明細書および特許請求の範囲全体にわたって均一に適用されることを意図している。
【0016】
本明細書で使用される用語「Cレート」は、電池がその最大容量に対して放電される速度の尺度を指す。1Cレートは、放電電流が1時間で電池全体を放電することを意味する。
【0017】
用語「比容量」は、電極活物質の重量に対して貯蔵および送達される電荷量(A・h)を指し、典型的にはmAh/gで表され、ここで、gは活物質のgに関する。
【0018】
電極の活性層を調製するために得られるスラリー中の電極の成分の「重量パーセント(重量%)」という用語は、特に明記しない限り、電極活性層の総重量に対する各成分の割合を指す。
【0019】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つ(a)」、「1つ(an)」、および「前記(the)」は、内容が明らかに別段の指示をしない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
【0020】
上述のように、本開示の第1の態様は、カソード活物質と;導電性添加剤と;
4から220g/10分、例えば、4g/10分、10g/10分、30g/10分、50g/10分、100g/10分、または150g/10分の、230℃および2.16kg荷重で測定されたメルトフローレート(MFR)と;100,000g/mol未満、特に50,000g/molから100,000g/molまで、例えば、70,000g/mol、または75,000g/mol、または80,000g/molの分子量と;10から20重量%、例えば、15重量%のスチレン含有量と;を有することを特徴とする直鎖スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)コポリマーと;
を含む活性層を含むリチウムイオン電池用電極に関する。
【0021】
本開示のSEBSコポリマーは、集電体に対する特に高い接着性、優れた機械的特性および良好な熱安定性を示し、特にリチウムイオン電池用のカソードおよび/またはアノードにおいて結合剤として使用される場合、より良好な性能を有する電池をもたらす。
【0022】
本開示で使用される直鎖SEBSコポリマーは、以下のステップを含む方法によって調製することができる:
a)直鎖SBS-Li+コポリマーを得るために、スチレン(S)、ブタジエン(B)およびスチレン(S)を、無極性溶媒(シクロヘキサン、n-ヘキサン、およびそれらの混合物など)中、鎖に1,2ビニル構造を生成することによってブタジエンの反応様式を修飾する、テトラヒドロフランまたはジテトラヒドロフリルプロパンなどの極性修飾剤の存在下で、n-ブチルリチウムなどのアニオン開始剤を用いて順次重合するステップ、
b)得られた直鎖SBS-Li+コポリマーと、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)またはメタノールなどのプロトン性物質とを反応させて、直鎖SBSポリマーを得るステップ、
d)エチレン/ブチレン(EB)ブロックに変換し、直鎖スチレン-b-エチレン/ブチレン-b-スチレンブロックコポリマー(SEBS)を得るために、水素およびチタン触媒の存在下で、SBSの中央ブタジエンブロック(B)を水素化するステップ。
【0023】
ステップa)では、極性修飾剤の非存在下で、ポリブタジエンポリマーブロック中に主に1,4構造および少ない割合の1,2ビニル構造が得られる(後者は添加したブタジエンに対して9~12重量%程度である)。逆に、極性修飾剤の存在下では、1,2ビニル構造の割合は、50~65重量%程度のレベルまで増加する。さらに、重合反応に使用されるスチレンの量は、最終SEBS中のスチレン含有量が10から20重量%、例えば、15重量%になるような量であり、重合反応は、SEBSコポリマーの総分子量が100,000g/mol以下、特に50,000から100,000g/mol、例えば、70,000g/mol、または75,000g/mol、または80,000g/molであるような程度で行われる。MFRはMWの増加と共に減少するので、スチレン含有量およびビニル含有量が安定化されると、MWは、4から220g/10分の必要なMFRを得るために調整される。
【0024】
ポリスチレンブロック、ポリエチレン/ブチレンブロックの分子量およびSEBSの分子量は、アニオン重合反応中の開始剤のモルに対するモノマースチレンおよび/またはブタジエンの比および量によって制御される。
分子量は、Mark-Houwinkでk=0.0003253およびα=0.693定数を使用するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される。
【0025】
したがって、一実施形態では、上記の直鎖SEBSコポリマーは、
- 4から220g/10分、例えば、4g/10分、10g/10分、30g/10分、50g/10分、100g/10分、または150g/10分の、230℃および2.16kg荷重で測定されたメルトフローレート(MFR);
- 100,000g/mol未満、特に50,000g/molから100,000g/molまで、例えば、70,000g/mol、または75,000g/mol、または80,000g/molの分子量;
- 10から20重量%、例えば、15重量%のスチレン含有量;および、
- 50~65重量%、例えば、60または62重量%のビニル含有量、
を有することを特徴とする。
【0026】
別の実施形態では、任意に上で定義した特定の実施形態の1つまたは複数の特徴と組み合わせて、上記の直鎖SEBSは、ポリスチレンブロック(S)の分子量が9,000g/mol以下であることをさらに特徴とする。
【0027】
上記特徴を有する市販の(商業的に入手可能な)SEBSの例は、Dynasol Group製のCalprene C-H6180X、Calprene C-H6181X、およびCalprene C-H6182Xであり、以下の表1に示す特性を有する。
【0028】
【0029】
上記で開示された直鎖SEBSコポリマーは、本発明のリチウムイオン電池電極の調製において結合剤として使用される。
【0030】
リチウムイオン電池電極は、集電体上に電極活性層を形成することによって得られる。電極活性層は、電極活物質と、導電性添加剤と、本明細書で上記に開示された直鎖SEBSコポリマーと、を含み、電極活物質はカソード活物質またはアノード活物質であり得る。
【0031】
電極活性層は、本開示の電極活物質と、導電性添加剤と、結合剤と、を含有するスラリー組成物を集電体上に適用した後、スラリー組成物を乾燥させる、すなわち溶媒を蒸発除去することにより形成される。
【0032】
スラリー組成物を集電体上に適用(塗布)する方法は特に限定されない。方法の例としては、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、押出法、コンマダイレクトコーティング、スライドダイコーティング、および刷毛塗り法が挙げられる。
【0033】
乾燥方法の例としては、温風、熱風、または低湿風による乾燥、真空乾燥、および(遠)赤外線、電子線などの照射による乾燥方法が挙げられる。乾燥時間は、通常1から60分である。乾燥温度は、通常40℃から180℃、特に60℃から80℃、例えば、70℃である。電極活物質層は、スラリー組成物を複数回繰り返し適用し、乾燥することにより形成することができる。
【0034】
集電体の材料の例としては、金属、カーボン、および導電性ポリマーが挙げられる。金属が好ましくは使用される。集電体の金属の例としては、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、銅、および合金が挙げられる。
【0035】
これらの金属の中でも、導電性および耐電圧性の観点から、銅、アルミニウム、またはアルミニウム合金が好ましくは使用される。
【0036】
集電体の厚さは、好ましくは5から100pm、より好ましくは8から70μm、および、さらにより好ましくは10から50μmである。
【0037】
スラリー組成物は、電極活物質と、導電性添加剤と、本明細書で上記に開示された直鎖SEBSコポリマーと、溶媒と、を混合することにより得ることができる。
【0038】
適切な溶媒の例としては、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、シクロヘキサン、n-ヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、シクロペンタン、エチルベンゼン、n-ヘプタン、1-ヘキセン、n-オクタン、n-ペンタン、およびo-キシレンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
CPMEは「環境に優しい溶媒」と見なされており、多くの場合、急性毒性が低く、および変異原性が負であるため、毒性溶媒の代替として推奨される。CPMEはまた、水への溶解度が低いために容易に回収可能であり、沸点が106℃であるために気化に必要なエネルギーは低レベルである。したがって、特定の実施形態では、溶媒はCPMEである。環境に優しいアプローチは、毒性溶媒の使用に関連する環境への影響を低減し、材料をリサイクルすることによって資源の浪費を低減する目的を有する。
【0040】
「カソード」
一実施形態では、任意的には、上で定義した特定の実施形態の1つまたは複数の特徴と組み合わせにおいて、本発明の電極はカソードである。そして、電極活物質は、カソード活物質である。
【0041】
結合剤は、活物質と導電性添加剤との間の良好な物理的密着性を促進し、電極の機械的安定性および可撓性特性を改善し、カソードスラリーの基板への高い接着性を可能にする機能を有する。さらに、また、電気経路を備えた構造ネットワークの形成にも寄与し、リチウムイオンの拡散および電子輸送を改善する。
【0042】
一実施形態では、任意的には、上で定義した特定の実施形態の1つまたは複数の特徴と組み合わせて、カソード活性層中の結合剤の含有量は、カソード活性層の総重量に対して2重量%から25重量%、例えば、10重量%である。
【0043】
カソード活物質は、リチウムイオンリザーバとして作用する。カソード活物質の例としては、炭素被覆リン酸鉄リチウム(C-LiFePO4)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO4)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、二酸化ニッケルリチウム(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルト酸化物[LiNi1-xCoxO2(0.2≦x≦0.5)]、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)、リチウムニッケルマンガン酸化物(LiNi0.5Mn0.5O2)、リチウムバナジウム酸化物(LiV2O5)、リチウムバナジウム(V)酸化物(LiV3O8)が挙げられるが、これらに限定されない。様々な活物質の中で、カンラン石構造を有するC-LiFePO4は、その理論上の貯蔵容量が高い(170mAh.g-1)ため、最も関連性の高い材料の1つと考えられている。さらに、それは優れた熱的および化学的安定性を示し、その構成に重金属および毒性金属が存在しないため、環境に「優しい」低コスト材料である。
【0044】
通常、カソード活性層中のカソード活物質の量は、カソード活性層の総重量に対して45重量%から95重量%、例えば、80重量%である。
【0045】
導電性添加剤は、活物質の導電性を改善し、カソードの導電性を高めることを可能にする。導電性添加剤の例としては、カーボンブラックC-NERGY(商標)Super C45(以下、単にC45と称する;Imerys G&C)などのカーボンブラック、黒鉛、および炭素繊維が挙げられるが、これらに限定されない。特に、導電性添加剤は黒鉛である。
【0046】
通常、カソード活性層中の導電性添加剤の量は、カソード活性層の総重量に対して3重量%から30重量%、例えば、10重量%である。
【0047】
「アノード」
別の実施形態では、本発明の電極はアノードである。次いで、結合剤として使用される上で定義した直鎖SEBSコポリマーに加えて、活性層は、アノード活物質および導電性添加剤をさらに含む。
【0048】
一実施形態では、任意的には、上で定義した特定の実施形態の1つまたは複数の特徴と組み合わせて、アノード活性層中の結合剤の含有量は、アノード活性層の総重量に対して2重量%から25重量%、例えば、10重量%である。
【0049】
アノード活物質の例としては、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素、熱分解炭素などの低結晶性炭素(アモルファスカーボン)、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、スズまたはシリコンで形成された合金材料、および酸化ケイ素、酸化スズ、またはチタン酸リチウムなどの酸化物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
通常、アノード活性層中のアノード活物質の量は、アノード活性層の総重量に対して45重量%から95重量%である。
【0051】
導電性添加剤の例としては、カーボンブラックC-NERGY(商標)Super C45(以下、単にC45と称する;Imerys G&C)などのカーボンブラック、および炭素繊維が挙げられるが、これらに限定されない。特に、導電性添加剤はカーボンブラックである。
【0052】
通常、アノード活性層中の導電性添加剤の量は、アノード活性層の総重量に対して3重量%から30重量%、例えば、10重量%である。
【0053】
「電極の調製」
上述のように、本発明の第2の態様は、
a)スラリーを得るステップであって、
- 4から220g/10分、例えば、4g/10分、10g/10分、30g/10分、50g/10分、100g/10分、または150g/10分の、230℃および2.16kg荷重で測定されたメルトフローレート(MFR);
- 100,000g/mol未満、特に50,000g/molから100,000g/molまで、例えば、70,000g/mol、または75,000g/mol、または80,000g/molの分子量;
- 10から20重量%、例えば、15重量%のスチレン含有量;
を有することを特徴とする結合剤としての直鎖スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)コポリマーと;
電極活物質と;導電性添加剤と;適切な溶媒と;
を含むスラリーを得るステップと、
b)スラリーを集電体に適用するステップと、
c)集電体上に電極活性層を形成するために、適用されたスラリーを乾燥させるステップと、
を含む、上記の電極の調製方法に関する。
【0054】
特に、直鎖SEBSは、50~65重量%、例えば、60または62重量%のビニル含有量を有する。
【0055】
本発明の電極の全ての特定の実施形態はまた、電極が方法で使用される限り、本発明の方法の特定の実施形態である。
【0056】
一実施形態では、任意的には、上で定義した特定の実施形態の1つまたは複数の特徴と組み合わせて、電極はカソードであり、電極活物質はカソード活物質である。
【0057】
本発明者らはまた、本明細書に開示されるカソードの調製方法を実施することによって、カソード活性層を得るのに役立つ水性スラリーを形成するために異なる成分を組み込むための特定の順序で、さらに良好な比容量を有する電池が得られることを認識した。
【0058】
したがって、カソードの調製方法の特定の実施形態では、任意的には、上で定義した特定の実施形態の1つまたは複数の特徴と組み合わせて、ステップa)のスラリーは、
- SEBSコポリマーを溶媒(特に、CPME)に撹拌下で溶解して、コポリマー溶液を得るステップと;
- 懸濁液を得るために、撹拌されたコポリマー溶液にカソード活物質および導電性添加剤を順次添加するステップと;
- スラリーを得るために、得られた懸濁液を撹拌プロセスに供するステップと;
によって形成される。
【0059】
例(又は実施例)に示されるように、この方法で調製されたサンプルは、他の分散方法で調製されたサンプルと比較して、より高い充電/放電比容量を示す。さらに、容量低下が、やや低い。
【0060】
理論に束縛されることを望むものではないが、カソードを調製するために使用されるインクのレオロジー特性および印刷されたカソードの形態学的特徴付けによって評価されるように、最適化されたカソード性能は、カソード成分の分散度の改善に関連し得ると考えられる。
【0061】
上で定義した方法によって得られるカソードはまた、本発明の一部を形成する。本方法の全ての特定の実施形態はまた、当該方法によって得ることができるカソードの特定の実施形態である。
【0062】
別の実施形態では、任意的には、上で定義した特定の実施形態の1つまたは複数の特徴と組み合わせて、電極はアノードであり、電極活物質はアノード活物質である。
【0063】
別の実施形態では、任意的には、上で定義した特定の実施形態の1つまたは複数の特徴と組み合わせて、上で開示した電極の調製方法において、ステップb)はスクリーン印刷によって行われる。
【0064】
「リチウムイオン電池」
上で定義した電極は、リチウムイオン電池の製造に使用することができる。したがって、上述のように、また、カソード、アノード、セパレータ、およびカソードとアノードとの間に挿入された好適な電解液を含むLiイオン電池が本発明の一部を形成し、ここで、カソード、もしくはアノードのいずれか、または両方は上で定義されたとおりである、すなわち、上で定義された直鎖スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)コポリマーを含む。
【0065】
カソードおよびアノード活性層の両方が本開示で定義されるSEBSを結合剤として含む場合、比容量のさらに高い改善が得られる。この改善は、セパレータがまた結合剤として前述のSEBSも含む場合にさらに高い。
【0066】
したがって、特定の実施形態では、セパレータはまた、上で定義したSEBSも含む。
【0067】
セパレータの例としては、ポリオレフィン樹脂、例えば、ポリエチレンもしくはポリプロピレンもしくはSEBS/ポリオレフィン化合物、または芳香族ポリアミド樹脂を含有する微多孔性フィルムまたは不織布;および
無機セラミック粉末を含有し、電解液(リチウム塩を含む有機溶媒)に浸漬された多孔質樹脂コーティングが挙げられる。
【0068】
より特定の実施形態では、セパレータは、ポリオレフィン樹脂と、上で定義したSEBSと、を含む。SEBS/ポリオレフィン化合物から製造された不織布は、必要に応じてセパレータに可撓性を与えるという利点を有する。さらに、これらの不織布は、所望の多孔度に達するために、異なる厚さで、異なる直径を有するフィラメントを用いて製造することができる。したがって、SEBSは、セパレータに可撓性および耐久性を提供する。
【0069】
セパレータの厚さは、リチウムイオン二次電池におけるセパレータによる抵抗を低減し、多孔度が40から60%であるリチウムイオン二次電池を製造する際の作業性に優れるという観点から、好ましくは0.5から40μmであり、より好ましくは1から30μmであり、さらにより好ましくは1から25μmである。
【0070】
電解液の例としては、非水溶媒中にリチウム塩を溶解させることによって得られた溶液が挙げられる。リチウム塩の例としては、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLi、およびそれらの混合物が挙げられる。特に、リチウム塩は、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Li、およびそれらの混合物から選択される。リチウム塩の量は、通常、電解液に対して1重量%から30重量%、特に5重量%から20重量%である。
【0071】
電解液に使用される溶媒の例としては、アルキルカーボネート、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、またはメチルエチルカーボネート(MEC);エステル、例えば、g-ブチロラクトンまたはギ酸メチル;エーテル、例えば、1,2-ジメトキシエタンまたはテトラヒドロフラン;硫黄含有化合物、例えば、スルホランまたはジメチルスルホキシド;およびそれらの混合物が挙げられる。特に、溶媒は、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、およびそれらの混合物から選択される。
【0072】
リチウムイオン二次電池は、負極と正極とをセパレータを間に介して重ね、得られた製品を電池容器内に入れ、電解液を電池容器内に注液し、電池容器の開口部を封止することによって得られる。
【0073】
明細書および特許請求の範囲を通して、語「含む(comprise)」およびその語の変化形は、他の技術的特徴、添加物、構成成分、または工程を除外することを意図するものではない。さらに、語「含む(comprise)」は、「からなる(consisting of)」の場合を包含する。
【0074】
さらに、本発明は、本明細書に記載された特定のおよび好ましい実施形態の全ての可能性のある組み合わせを含む。
【0075】
下記の実施例および図面が実例として提供され、これらは本発明の限定であることを意図しない。
【実施例】
【0076】
1.材料
C-LiFePO4(C-LFP)を活物質として使用し、Phostech Lithiumから得た。カーボンブラック粒子(Super P-C45)を導電性添加剤として使用し、Timcal Graphite&Carbonから得た。Dynasolによって供給されるように、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS Calprene C-718;単にC-718と称する)およびスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS Calprene C-H6180XおよびSEBS Calprene C-H6110)をポリマー結合剤として使用した(表2)。シクロペンチルメチルエーテル(CPME)である環境に優しい溶媒をCarlo Erbaから得た。エチレンカーボネート(EC)-ジメチルカーボネート(DMC)の1:1体積/体積溶液(Solvionic)中の1M六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を電解質として使用した。全ての試薬および材料を受け取ったまま使用した。
【0077】
【0078】
2.カソード調製
2.1 カソードインク配合物
活物質(C-LFP)、ポリマー結合剤、および導電性添加剤(Super P-C45)を溶媒としてのCPMEと混合することによって、いくつかのインクカソード配合物を調製した。ポリマー結合剤として、以下のコポリマーを使用した:SBS C-718、SEBS C-H6180X、およびSEBS C-H6110。
【0079】
以下の相対量の固体成分を使用した:80%の活物質、10%のポリマー結合剤、および10%の導電性添加剤。全固形分、すなわち、活物質、ポリマー結合剤、および導電性添加剤の総量は、インクカソード配合物の40重量%であった。したがって、ポリマー結合剤含有量は、インクカソード配合物の6重量%であった。
【0080】
2.2 カソード調製方法の説明
インクを製造するために3つの異なる方法を評価した。
【0081】
a)方法1
最初に、6重量%のコポリマー濃度の結合剤溶液を製造するために、結合剤として使用したコポリマーを秤量し、室温で30分間磁気撹拌(1000rpm)しながらCPMEに溶解させた。次いで、C-LFP活物質およびC45導電性添加剤を秤量し、乾式撹拌プロセスに供し、手動で完全に混合した。次いで、乾燥混合物をコポリマー溶液に添加して、3.5mLの溶媒+1.86の固体の固体分率に達し、ここでポリマー重量は0.19gであった。次いで、得られたインクを室温で1時間30分間、新たな撹拌プロセス(1000rpm)に供した。既にペースト状になったインクを超音波浴(ATM40-3LCD)に1時間入れ、次いで撹拌プレート(1000rpm)に戻して、やはり室温で30分間の最終撹拌プロセスを行った。
【0082】
b)方法2
方法2は、方法1と同様に、活性添加剤と導電性添加剤との乾燥混合物を調製することからなっていた。次いで、CPMEを乾燥混合物に添加し、得られた懸濁液を室温で1時間30分間連続的に撹拌した(1000rpm)。次いで、コポリマーを懸濁液に添加し、室温で30分間さらに撹拌(1000rpm)した。その直後、インクを超音波浴に1時間入れ、次いで撹拌プレート(1000rpm)に戻して、やはり室温で30分間の最終撹拌プロセスを行った。
【0083】
c)方法3
この方法では、乾式混合プロセスを使用しなかった。調製は、室温で30分間の磁気撹拌(1000rpm)を使用して、ポリマーをCPME溶媒に溶解することによって開始し、コポリマー溶液を得た。その後、撹拌したコポリマー溶液にC-LFP活物質およびC45導電性添加剤を順次添加した。得られた懸濁液を室温にて1時間30分間の連続撹拌プロセス(1000rpm)を経た後、1時間の超音波処理を行った。次いで、インクを、やはり室温で、さらに30分間の撹拌プロセスのために撹拌プレート(1000rpm)に戻した。
【0084】
サンプルがPOL/MXとして特定されることを参照することが重要であり、ここで、POLは、その頭字語および種類(SBS C-718、SEBS C-H6180X、またはSEBS C-H6110)によって使用されるポリマーを示し、MXは、実験的調製方法を意味し、ここで、Xは、使用される方法番号(1、2又は3)を特定する。
【0085】
2.3 カソード電極作製
ステンレス鋼製の手動機を使用して、スクリーン印刷によってインクを印刷した。調整可能な基板ホルダは、x、y、およびz軸の調整を可能にした。メッシュと基板との間の10mmの同じ最適距離を保証するために、フレームはスクリーンメッシュを安定して保持する。メッシュは、102μmの正方形縁メッシュ開口部および52μmの糸直径を有する65糸cm-1のポリエステルメッシュで構成される。スキージと印刷基板との間に17Nの一定の力および45°の角度を加えた。アルミニウム基板をカソード電極の印刷に使用し、次いで、空気雰囲気中の従来のオーブン(Selecta、2000208)で60°Cで20分間乾燥させた(溶媒蒸発)。カソード電極の厚さは約24±3μmであり、ガラス比重瓶によって測定した平均多孔度は70±3%であった。
【0086】
3.インクの特性評価
一定体積(1.5mL)のサンプルを、サンドペーパーでコーティングされた直径40mmのプレートを備えた応力制御回転式レオメータ(ARG2、TA Instruments)に装填して、壁の滑りを制限した。バックオフ距離からサンプル厚さまでプレートの一定の移動速度を有する自動ギャップ設定プロトコルを使用して、サンプルローディング中に同様の流れ履歴を生成した。試験中の溶媒損失を避けるために、せん断形状を水でタップした。新しいサンプルを、試験した各厚さについてレオメータに装填した。コンディショニングステップ(0.5s-1の定常せん断)を最初に適用して、各サンプルに同じせん断履歴を誘導した。全てのサンプルについて定常せん断粘度の読み取りを確実にするために、ステップの持続時間は60秒であった。次いで、流動停止後のサンプルの構造的回復を、1Hzの0.01%小振幅振動せん断(SAOS)下で貯蔵弾性率(G´)および損失弾性率(G´´)の両方を記録することによって追跡した。平衡に達した後、0.03%のSAOSで100Hzから0.01Hzまで歪みを掃引することによって機械的スペクトルを記録した。最後に、1Hzの一定周波数下で応力を掃引し、周期的歪み応答の基本成分(G´およびG´´)を記録することによって、大振幅振動せん断(LAOS)に対するサンプル応答を測定した。
【0087】
4.カソードの特性評価
カソードの形態は、異なる倍率(25000倍および120000倍)および10kVの加速電圧で、NanoSEM-FEI Nova 200装置を用いた走査型電子顕微鏡(SEM)によって評価した。
【0088】
カソードと集電体との接着性、ならびにカソードフィルムの密着性および可撓性を評価した。そのために、10.0mmから1.5mmの異なる直径の金属ロッドを備えた自製の「曲げ試験機」を使用した。Goren Aら(2015)で説明されているように、各金属ロッドに対して3つの測定を実施した。
【0089】
5.セル電池アセンブリおよび特性評価
電池アセンブリは、自製のアルゴン充填グローブボックス内で組み立てたLi/C-LFP Swagelok型半電池で実施した。電解液に浸したワットマンガラスマイクロファイバーディスク(直径10mmおよびグレードGF/A)をセパレータとして使用し、金属リチウム(厚さ0.75mm、直径8mm、および純度99.9%)と先に調製した印刷カソード(直径8mm)との間に配置した。半電池の充電/放電サイクルを、Landt CT2001A機器を使用して試験した。サイクルは、C/5から5C(C=170mA.g-1)の電流密度で、2.5から4.2Vの電圧範囲にて室温で実施した。Autolab PGSTAT12機器を使用して、1MHzから10mHzの周波数範囲、10mVの振幅で電気化学インピーダンス分光法(EIS)を実施した。
【0090】
実施例1ならびに比較例1および2。インクのレオロジー特性-異なるポリマータイプの影響
【0091】
インク(スラリー)中の活性添加剤および導電性添加剤の分散品質に対するコポリマーの化学構造の影響を評価するために、SEBS C-H6180X(実施例1)、SEBS C-H6110(比較例1)、およびSBS C-718(比較例2)を配合したサンプルを、方法1を使用して調製した。
図1は、各タイプのインクについて異なる厚さを使用して実施された実験から計算されたレオロジー統計データを示す。
【0092】
試験した全ての配合物は、定性的なレオロジー類似性を示す(
図1参照)。インク間の定量的差異は
図1で明らかであるが、これは、コポリマーの種類が、同様の方法で調製されたインクの構造に影響を及ぼすことを示唆している。
【0093】
表3は、
図1に表示されたデータから抽出されたレオロジーパラメータを示す:
0.5s
-1のせん断速度に対する定常状態粘度(η)、構造平衡における弾性せん断弾性率(G
0)、非線形挙動の開始に対する臨界歪みγc(G´がそのプラトー値G
pの95%に低下する歪み)、降伏応力σ
Y(G´=G´´となる応力、流れの開始をシグナリングする)およびG
p/G´´
max
【0094】
【0095】
プレせん断中に測定された定常せん断粘度は、選択されたレオロジーパラメータの平均値および対応する誤差をまとめた表3に示すように、有意に異なる。
図1bから分かるように、SEBSを用いて配合された2つのインク(実施例1および比較例1)は、SBS C-718を用いて調製されたインク(比較例2)よりも速い構造的蓄積を示す。後者は、
図1cにプロットされた機械的スペクトルにおいて1Hzで測定された貯蔵せん断弾性率の値である、G
0について表3に報告されたより大きな値によって示すように、より大きな弾性を示す。インク構造に対する分散方法の影響を論じるセクションで上述したように、より長い構造蓄積およびより大きな弾性の両方が、粒子のより開いたフラクタルフローのネットワーク化を示す。このように、SBS C-718は、他のSEBSポリマーと比較して、表3に存在する構造平衡(G0)における高い弾性せん断弾性率によって検証される、より良好な分散度を促進する。一方、非線形レオロジー実験の結果は、異なる構造像を示す。非線形挙動の開始のための臨界歪みγcおよび降伏応力σ
Yの値は、SEBS C-H6180Xを用いて配合されたインクが他の2つのインクよりもせん断応力に良好に耐えることを示す(表3参照)。機械的応力に対するこのようなより大きな抵抗は、より良好な粒子分散と関連している。したがって、コポリマーSEBS C-H6180Xは、活性添加剤および導電性添加剤の分散を改善するための最良の選択である。ペイン効果を使用して、より小さい応力振幅でG´によって示されるプラトー値G
pと、G´´についてより大きい振幅で測定された極大値G´´
maxとの間の比から計算された分散の指標を詳述した。この比G
p/G´´
maxは、構造平衡に達したサンプルでは一定値に飽和することが示され、G
p/G´´
maxのより大きな値とコロイド粒子のより良好な分散を有するサンプルとの間の関係が明らかに確立された。
図1dにプロットされたデータから計算されたG
p/G´´
maxの値を表3に報告する。表3のG
p/G´´
max比は、SBSコポリマーがインク中の固体粒子のより良好な分散を促進することを示す。全体として、
図1および表3に報告されたレオロジー結果は、インク中の高度な粒子分散を標的とする場合、SEBS C-H6110が最適なコポリマーではないことを明確に示唆している。
【0096】
比較例1、3、および4。インクのレオロジー特性-様々なインク調製方法の影響
【0097】
図2は、異なるサンプル厚さで実施された4つの試験が報告されているサンプルSEBS C-H6110/M3(比較例3)で測定されたレオロジーデータの再現性の程度を示す。定性的に同様のデータセットを、サンプルSEBS C-H6110/M1(比較例1;上記のセクションを参照)およびSEBS C-H6110/M2(比較例4)を用いて測定した。定常せん断の開始時に、40秒後に定常値に収束する異なる粘度過渡現象が測定される(
図2a参照)。それにもかかわらず、凝集した粒子状ゲル、立体的に安定化された粒子状ゲル、またはブラウン球のガラス状分散物によく似た機械的スペクトルを測定することができた。
図2aでは、G´は、非常に弱い周波数依存性を示し、G´´よりも大きく、後者は、2から10Hzの間に位置する再現可能な最小値を示し、これは、ガラスのモード結合理論の枠内で、最近傍によって形成されたケージ内の粒子緩和の時間とケージ融解のより遅い時間との間の分離を定義する。PVDFを結合剤として使用したNMPベースのカソードスラリーについて、定性的に同様のスペクトルが記録されている。
【0098】
それにもかかわらず、3つの異なる実験手順に従って生成されたサンプル間の定量的区別のために、
図2に示されるデータの統計的処理を実施した。
図3は、異なる厚さで実施された4つの試験のデータから計算されたレオロジー関数の平均値およびエラーバー(error bars)を示す。全体として、
図3に示されるデータは、レオロジー特性が、3つのインクを調製するために使用される方法に敏感であることを明らかにする。
【0099】
特定の構造をせん断誘導することによって濃縮懸濁液での実験再現性を改善するように本質的に設計されている0.5s
-1での定常せん断試験の結果を別にすると、レオロジーデータは、サンプルSEBS C.H6110/M3が定常せん断停止後により長い構造蓄積を示すことを示唆している。
図3aは、サンプルSEBS C-H6110/M1のG´が、ガラス状またはゲル化コロイド分散物に典型的な初期のべき乗則挙動の1000秒後に構造平衡に達することを示す。これとは対照的に、サンプルSEBS C-H6110/M3の構造は2000秒後に回復し続け、1時間以内に平衡に達することはほとんどない。サンプルSEBS C-H6110/M2は、中間の速度を示す。
【0100】
図3bにプロットされた3つのインクの機械的スペクトルは、サンプルSEBS C-H6110/M3のせん断弾性率が、全ての試験周波数について他の2つのインクよりも有意に大きいことを示す。低周波数での構造緩和プロセスと高周波数での高速粒子局所運動との間の遷移に対応するG´´の局所最小値は、全てのサンプルに存在する。しかしながら、サンプルSEBS C-H6110/M2における局所運動のより大きな周波数へのシフトは、この緩和プロセスの速度向上を示唆している。
【0101】
図3cに示すスラリーのLAOS挙動は、高度に充填されたポリマー溶融物または濃縮分散物に一般的に見られるペイン効果(Payne effect)を示す。この効果は、降伏およびより大きな応力での流れ(G´´がG´よりも大きくなる)の前のG´弾性率の付随する減少およびG´´の極大値によって特徴付けられる。全体として、
図3cのデータは、サンプルSEBS C-H6110/M3が、非線形挙動の開始およびG´とG´´との間の交差がより大きな応力で起こるため、応力に対してより耐性があることを明らかにする。
図3のレオロジーデータは、スラリーSEBS C-H6110/M3の構造を構成する凝集粒子凝集体が少ないことを示す。
【0102】
SEBS C-H6180X/M1およびSEBS C-H6180X/M2と比較して、SEBS C-H6180X/M3の同様の挙動が予想される。
【0103】
実施例2.印刷カソードの形態および導電性挙動
【0104】
印刷カソードの均質な構造は、電池性能において重要な役割を果たす。したがって、サンプルの形態学的均質性をSEM測定によって評価した(
図4)。全ての印刷されたカソードにおいて良好な粒子分布が確認され、インク特性がスクリーン印刷技術に好適であることを示している。成分の凝集もまた、全てのサンプルにおいて可視的ではない。
【0105】
ポリマー結合剤の種類および分散方法にかかわらず、画像は、3つ全ての電池構成要素(結合剤、導電性添加剤、および活物質)の三次元相互接続構造を示す。また、全てのサンプルにおいて、2μm程度の不均一なサイズを有するロッド状構造を示す非球形の活物質粒子が明らかである。電極表面に沿った空隙の存在は明らかであり(多孔性)、溶媒の蒸発ならびに粒子のサイズおよび形状の違いに起因する。この多孔性は、リチウムイオンがカソードに接近することを可能にし、電極と電解質との間の界面面積を増加させ、インターカレーション速度を促進する。
【0106】
図4a、
図4bおよび
図4cは、同じ分散方法が適用されると、形態が結合剤の化学構造に依存しないことを示す。方法1を使用して調製されたSBSサンプル(
図4a;すなわち、比較例2)およびSEBSサンプル(
図4bおよび
図4c、すなわち、それぞれ実施例1および比較例1)を比較すると、活性添加剤および導電性添加剤の乾式混合が同様の程度の粒子分散をもたらすと結論付けることができる。したがって、SEBSコポリマー中のエチレンブロックの存在(SBSには存在しない)およびスチレンの割合は、カソードの多孔度(約70%)および微細構造が同じであるため、カソード形態に影響を及ぼさない。さらに、DC導電性は、同じ方法分散を有する異なるポリマーについて約10S.m
-1であることが観察された。これによれば、研究された異なるポリマー内で良好な構造分布が達成され、異なる粒子間の良好な機械的安定性および良好な密着性を促進する。
【0107】
導電性測定は、Time Electronicsからの電流源DC 9818およびKeithleyからのナノ電圧計2182を用いて四探針法によって実施した。測定のために、電極材料を絶縁体基板上に堆積させ、導電性(σe、S.cm-1)を以下の式によって計算した。
【0108】
【0109】
式中、tはcm単位のサンプルの厚さであり、Iはアンペア単位の電流であり、Vはボルト単位の電圧である。
【0110】
一方、
図4c、
図4dおよび
図4e(それぞれ、比較例1、比較例4、および比較例3)は、異なる調製方法の後に配合されたインクを用いて調製されたサンプルの粒子分布における有意差を示す。特に、方法2(
図4d)で調製されたサンプルは、ポリマー粒子が活性粒子および導電性粒子を被覆していることを示す。コポリマー粒子の存在は、粒子が最初に溶媒中に分散されると、得られたスラリーが有意な粘度を有し、これがコポリマーの完全な溶媒和に有害であるという事実によって説明することができる。さらに、インク中のコポリマーの混合時間は、他の2つの方法と比較して短縮される。粒子のポリマーコーティングは、活物質間の電気的接続が促進されるため、機械的だけでなくDC導電性にも影響を及ぼす。この特定のサンプルでは、DC導電性は19.6±0.9S.m
-1であり、これは異なる方法によって調製されたインクの場合よりも高い:SEBS C-H6110/M1およびSEBS C-H6110/M3について、それぞれ8.4±1.5および15.7±1.0S.m
-1。それにもかかわらず、サンプルは同じ70%の多孔率を示す。
【0111】
全体として、
図4に示される結果は、インク調製のための方法が、カソードにおける粒子分散の程度およびその多孔性に有意な影響を及ぼさない結合剤の化学的性質とは対照的に、カソード構造に影響を及ぼすことを示す。
【0112】
実施例3.電気化学的性能-サイクル挙動
【0113】
印刷カソードの半電池電気化学動力学を、充電/放電サイクル(
図5)、電気化学インピーダンス分光法および微分容量(dQ/dV)(
図6)を含む様々な技術によって評価した。充電/放電サイクル性能は、2.5Vから4.2Vの電圧範囲でC/5から5Cの異なる速度で、室温で評価した。
図5aは、全ての印刷されたカソードについて、5CおよびC/5速度での充電/放電性能結果の第5のサイクルを示す。充放電曲線における平坦なプラトーの存在は明らかであり、それぞれ約3.2Vおよび3.7Vに位置し、Cレートの増加、ひいてはリチウム拡散の減少と共に減少する。この平坦な電圧プラトーは、それぞれFe
2+およびFe
3+相の両方の存在による、LiFePO
4とFePO
4
-との間の酸化還元反応を示す[56]。
【0114】
異なるポリマー結合剤を比較することにより、SEBS C-H6110/M1(5CおよびC/5でそれぞれ52および137mAh.g-1の放電容量)のより低い充電/放電性能(5C)およびより低いプラトー安定性が明らかである。この事実は、ポリマー結合剤タイプが、活物質と導電性添加剤とポリマーマトリックスとの間の特定の相互作用に起因して電池レート性能に効果的に影響を及ぼすことを証明した。したがって、SEBS C-H6180X/M1を用いて調製されたカソードは、5CおよびC/5レートの両方で最も高い放電容量を示し(それぞれ105および142mAh.g-1)、したがって、SEBS C-H6110/M1およびSEBS C-H6180X/M1の放電性能を比較することによって、エチレン/ブチレン(E/B)比が電池性能に強く影響し、E/B比が増加するにつれて増加すると結論付けることができる。また、ほぼ同じ割合のスチレン(SBS C-718/M1およびSEBS C-H6110/M1について25%および30%)について、SEBS中のエチレンの存在は、高いCレートで放電容量に負の影響を及ぼし、低いCレートで放電容量に正の影響を及ぼすと結論付けられる。SEBS中のエチレンの存在は、SBSと比較してより高いポリマー絡み合いの原因となり、ポリマーと粒子(活物質および導電性添加剤)との間のより良好なカップリングを促進し、したがって電池性能を改善する。
【0115】
インクの調製に使用される異なる方法に関して、方法3(M3)によって調製されたサンプルは、他の調製方法で調製されたサンプルと比較した場合、より高い充電/放電比容量(充電および放電容量はそれぞれ150および147mAh.g-1)を示すと結論付けられる。方法M3は、方法M1およびM2と比較した場合、活性添加剤および導電性添加剤をポリマー溶液に別々に添加し、両方の粒子とポリマーとの相互作用を増加させる特異性を有する。ポリマー-粒子相互作用のこの増加は、リチウムイオン移動の経路を改善し、より高いリチウムのインターカレーション/デインターカレーションを促進する。一方、SEBS C-H6110/M1の結果は、より低いプラトー電圧および電位の上昇を示し、サンプルのより低い比容量を説明するリチウム拡散の減少を促進する。
【0116】
レート性能もまた評価し(
図5b)、放電容量がCレートの増加と共に減少することを示した。放電容量は、SBS C-718/M1、SEBS C-H6180X/M1、およびSEBS C-H6110/M1について、それぞれ、C/5で128.3、141.2、および136.3mAh.g
-1ならびに5Cで83.6、105.3、および52.5mAh.g
-1であり、ポリマーマトリックスの選択が電池性能に影響を及ぼすこと、およびSEBS C-H6180X/M1が異なるCレートについて最も高い放電容量を示すことを示す。所与のポリマー結合剤についての異なる分散方法の評価は、放電容量が、SEBS C-H6110/M1、SEBS C-H6110/M2、およびSEBS C-H6110/M3について、それぞれ、C/5で136.3、126.7、および146.4mAh.g
-1ならびに5Cで52.5、95.8、および106.3mAh.g
-1であり、方法3(SEBS C-H6110/M3)によって得られたインクサンプルについてより高い放電容量が得られることを示す。
図5bはまた、異なるサンプルの回復サイクルを示しており、全てのサンプルについてC/5での容量低下が証明されている。
【0117】
印刷カソードのサイクル安定性は、Cおよび2Cレートでの50回の充電/放電サイクル後に評価され(
図5c)、全てのサンプルは、サイクルおよびスキャンレートにわたって良好な安定性および高い容量保持率を示した。異なるポリマー結合剤を有するカソードについての2Cでの50サイクル後の容量保持率は、SEBS C-H6110/M1、SBS C-718/M1、およびSEBS C-H6180X/M1について、それぞれ、85、93、および100%である。2サイクル目と50サイクル目との間の容量低下を計算し、SEBS C-H6110/M1、SBS C-718/M1、およびSEBS C-H6180X/M1について、それぞれ、40%、5%、および7%である。
【0118】
さらに、異なる分散方法は、サイクルおよび走査速度にわたって好適な安定性および高い容量保持率を有するカソードをもたらす。したがって、2Cでの50サイクル後の容量保持率は、SEBS C-H6110/M1、SEBS C-H6110/M2、およびSEBS C-H6110/M3について、それぞれ、85、99、および88%であり、2サイクル目と50サイクル目との間の容量低下は、40、1、および1%である。
【0119】
クーロン効率(
図5d)は、約95%のクーロン効率を示すCレートのSEBS C-H6110/M2カソードを除いて、全てのポリマー結合剤および調製方法について約100%である。
【0120】
したがって、全体的な結果は、SEBS C-H6180Xが、得られた高い放電容量、良好な安定性、高い容量保持率、および低い容量低下のために、カソード開発用のポリマー結合剤として使用するのに最も適切なポリマーであることを示す。さらに、分散方法は電池レート性能に影響を及ぼすとも結論付けられる。方法M1(従来)は、他の2つの方法と比較した場合、より低い電池レート性能をもたらす(
図5a)。方法M3は、より高い充電および放電容量(5CおよびC/5での放電容量についてそれぞれ106および147mAh.g
-1)を有するカソードをもたらす。スラリー調製方法もカソード性能に影響を及ぼし、方法3が最良の結果をもたらすものであると結論付けられ、ポリマー結合剤との相互作用を改善し、より良好な電池性能をもたらすために、活物質および導電性添加剤をポリマー溶液に別々により良好に添加すべきであることを示す。
【0121】
実施例4.電気化学インピーダンス分光法(EIS)およびdQ/dVの結果
【0122】
異なるポリマーおよび方法を使用して調製した印刷カソードの電気化学的特性を、EIS(
図6a)およびdQ/dV(
図6b)技術によって評価した。
【0123】
電池サイクル前後(
図6a)の印刷カソードのナイキストプロット(Nyquist plots)を評価した。ナイキストプロットは、高周波数における1つの半円および低周波数における直線という2つの異なるステップを特徴とする。この場合、示された等価回路(
図6aの挿入図)を使用して、速度パラメータおよび反応機構を評価した。等価回路およびナイキストプロットは、電解質(R
e)、カソード表面上に位置する固体電解質界面(SEI)フィルムを通るリチウムイオンの移動抵抗を表すフィルム表面(R
f)、および電荷移動抵抗(R
ct)などの異なる抵抗寄与の和を表す高周波数に位置する半円を特徴とする。一方、より低い周波数では、直線はリチウムイオン拡散に関連するワールブルグ元素(W)の半無限拡散を表す。サイクル前に評価された調製されたカソードは、カソード表面上にSEIが存在しないため、低周波領域において45°で定義されたワールブルグ線を示さない。等価回路の他の要素は、LFPカソード材料における微分インターカレーション容量を表すキャパシタンス要素(CPE
3)である。
【0124】
実験結果と等価な電気回路とのフィッティングは良好な一致を示し(
図6a)、フィッティング手順によって得られたR
e、R
SEI、およびR
ctによって計算された全抵抗(R
total)を得ることを可能にする。結果は、519Ωから321Ωに減少するSEBS C-H6180X/M1サンプルを除いて、全てのサンプルについて電池サイクル後に抵抗が増加することを示す。SEBS C-H6110/M1サンプルの高いR
ct(サイクル前は3860Ω、サイクル後は3926Ω)は、充電/放電およびレート性能サイクルにおける低い電池性能をもたらす。結果によれば、SEBS C-H6110は、より高いR
totalを有するカソードをもたらすポリマー結合剤であるが、インク調製方法1は、最も高いR
totalを有するカソードをもたらす。総抵抗値は、ポリマーおよび分散方法が特定のポリマー-フィラー相互作用に影響を及ぼし、固体-電解質界面および電荷移動におけるイオン輸送の変動をもたらすと結論付けることを可能にする。カソード活物質中のリチウムイオン拡散係数(D
Li
+)は、サイクル前後の全てのサンプルについて、以下の式に従って計算した:
【0125】
【0126】
式中、Rは気体定数、Tは絶対温度、Aはカソードの表面積、nは酸化時の1分子当たりの電子数、Fはファラデー定数、CはLi+の濃度、σwはワールブルグ係数、R1は電解質抵抗、R2,SEIはSEIの抵抗、R3,ctは電荷移動抵抗、およびWは角周波数である。
【0127】
結果は、サイクル後、電池が、SEI形成および電解質含浸のために、サイクル前のサンプルと比較して増加したDLi
+を示すことを示す。全てのサンプルを比較すると、SEBS C-H6180X/M1は、サイクル後に最も高いDu+を示す(15.6×10-16cm2.s-1)。SEBS C-H6180Xコポリマーは、電気経路の構造ネットワークを改善し、より良好なリチウムイオン拡散を可能にすることが実証されている。分散方法に関して、方法2および3は、方法1に対してDLi
+を改善することを示す。方法2および3は、それぞれ、238×10-16および187×10-16cm2.s-1のDLi
+を示す。DLi
+の改善は、コポリマー化学構造よりも分散方法の適切な選択に依存する。
【0128】
印刷カソードの微分容量(dQ/dV)曲線を
図6bに示す。3.35Vから3.50Vの間に二つの対称的でより鋭いピークが観察され、リチウムイオンの高い電気化学的可逆性を示している。これらの値は、それぞれリチウムイオンのインターカレーションおよびデインターカレーションプロセスに起因する、印刷カソード内の還元(後方走査電位時)および酸化(前方走査電位時)プロセスに対応する。ピーク分離電圧は0.09から0.12Vの間である。SEBS C-H6110/M1の0.12Vの高いピーク分離電圧、および観察された高濃度分極、および高い総抵抗は、このカソードの低い電池性能を再度証明している。一方、異なるポリマー結合剤を比較することにより、SEBS C-H6180X/M1は0.09Vを示し、そのより高い電池性能を強化する。
【0129】
酸化および還元ピークにおける電流の急速な増加は、サンプルSEBS C-H6180Xで得られた印刷カソードが、他のサンプルと比較した場合、より低い分極およびより良好な可逆性を示すことを示す。さらに、SEBS C-H6180Xにおける酸化および還元ピークの分離が低いのは、ポリマーマトリックス中の活性添加剤および導電性添加剤の粒子凝集体のサイズが小さいためである。
【0130】
[引用一覧]
1. Goncalves,Rら「Poly(styrene-butene/ethylene-styrene):A New Polymer Binder for High-Performance Printable Lithium-Ion Battery Electrodes」,ACS Applied Energy Materials,2018年,第1巻,頁3331~3341。
2. Goren,Aら「Influence of Solvent Evaporation Rate in the Preparation of Carbon-Coated Lithium Iron Phosphate Cathode Films on Battery Performance」,Energy Technology,2016年,第4巻,頁573~582。
【国際調査報告】