(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-19
(54)【発明の名称】TTRアミロイドーシスに対する併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230612BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230612BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20230612BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20230612BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230612BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230612BHJP
A61K 31/423 20060101ALI20230612BHJP
A61K 31/603 20060101ALI20230612BHJP
A61K 31/415 20060101ALI20230612BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20230612BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230612BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P9/00 ZNA
A61P25/02
A61P39/02
A61K39/395 D
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K31/423
A61K31/603
A61K31/415
C07K16/18
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568518
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(85)【翻訳文提出日】2022-11-10
(86)【国際出願番号】 EP2021062706
(87)【国際公開番号】W WO2021228987
(87)【国際公開日】2021-11-18
(32)【優先日】2020-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521195467
【氏名又は名称】ニューリミューン エイジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ミカロン オーバン
(72)【発明者】
【氏名】グリム ヤン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA52
4C084NA05
4C084ZA221
4C084ZA361
4C084ZC371
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
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4C085GG01
4C086AA01
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4C086BC70
4C086DA17
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA52
4C086NA05
4C086ZA22
4C086ZA36
4C086ZC37
4C086ZC75
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA50
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
提供されるのは、対象におけるトランスサイレチンアミロイドーシス(ATTR)を治療する方法における使用のための併用療法であり、その方法は、治療上有効な量の抗トランスサイレチン(TTR)抗体および治療上有効な量のTTR四量体安定剤を投与することを含む。さらに、抗TTR抗体およびTTR四量体安定化剤を含む組み合わせ医薬製品および一式のキット、ならびにATTRの治療におけるそれらの組み合わせ使用のための治療レジメンが記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗トランスサイレチン(TTR)抗体およびTTR四量体安定化剤を含む、トランスサイレチンアミロイドーシス(ATTR)を治療する方法における使用のための併用療法であって、前記抗体が、活性Fcドメインを有し、抗体依存性細胞貪食(ADCP)を介してATTR繊維のクリアランスを誘導可能である、併用療法。
【請求項2】
抗体がIgG1クラスまたはIgG1アイソタイプである、請求項1に記載の使用のための併用療法。
【請求項3】
抗体がヒト由来抗体である、請求項1または2のいずれか1項に記載の使用のための併用療法。
【請求項4】
抗体が、アミノ酸配列WEPFA(配列番号:7)を含むかもしくはこれからなるTTRエピトープに結合可能であり、抗体がその可変領域または結合ドメインに以下を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の使用のための併用療法:
(i)以下から選択されるVHおよびVL可変領域の6つのCDR
VH-CDR1:配列番号:2の31-35番目
VH-CDR2:配列番号:2の52-67番目
VH-CDR3:配列番号:2の100-109番目
VL-CDR1:配列番号:4の24-34番目
VL-CDR2:配列番号:4の50-56番目
VL-CDR3:配列番号:4の89-97番目、
もしくはCDRの1以上が1または2のアミノ酸置換を含む;
VH-CDR1:配列番号:6の31-35番目
VH-CDR2:配列番号:6の52-67番目
VH-CDR3:配列番号:6の100-109番目
VL-CDR1:配列番号:4の24-34番目
VL-CDR2:配列番号:4の50-56番目
VL-CDR3:配列番号:4の89-97番目、
もしくはCDRの1以上が1または2のアミノ酸置換を含む;または
(ii)配列番号:2もしくは配列番号:6と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むVH鎖、および配列番号:4と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含むVL鎖。
【請求項5】
抗体が、その可変領域もしくは結合ドメインに、配列番号:2および配列番号:4の、または配列番号:6および配列番号:4のVH鎖およびVL鎖のアミノ酸配列を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の使用のための併用療法。
【請求項6】
安定化剤がタファミジス、ジフルニサル、AG10、またはこれらの組み合わせである、請求項1から5のいずれか1項に記載の使用のための併用療法。
【請求項7】
安定剤がタファミジスである、請求項1から5のいずれか1項に記載の使用のための併用療法。
【請求項8】
抗TTR抗体が、1、3、10、30もしくは60mg/kgまたはその間の用量で2~4週間ごとに投与され、TTR四量体安定化剤が臨床的に活性な濃度で投与されるように設計される、請求項1から7のいずれか1項に記載の使用のための併用療法。
【請求項9】
安定化剤がタファミジスまたはタファミジスメグルミンであり、1、5、15、30mg/kg/日またはその間の用量で、任意にタファミジスメグルミン20もしくは80mg/日およびタファミジス12.2もしくは61mg/日の用量で投与するよう設計される、請求項8に記載の使用のための併用療法。
【請求項10】
安定化剤がAG10であり、50、150、300、400もしくは800mgまたはその間の用量で、任意に1日2回投与するように設計される、請求項8に記載の使用のための併用療法。
【請求項11】
安定剤がジフルニサルであり、250mgの用量で、任意に1日2回投与するように設計される、請求項8に記載の使用のための併用療法。
【請求項12】
抗TTR抗体が、安定化剤と同時、前、もしくは後に投与される、請求項1から11のいずれか1項に記載の使用のための併用療法。
【請求項13】
抗体および安定化剤が、医薬製品の中に、または別々の容器に入った一式のキットとして存在する、請求項1から12のいずれか1項に記載の使用のための併用療法。
【請求項14】
抗体が輸液ボトルもしくは輸液バッグ中の液体製剤として存在し、および/または、安定剤が経口投与のための錠剤もしくはカプセル中に存在する、請求項13に記載の使用のための併用療法。
【請求項15】
請求項13または14に定義される、医薬製品または一式のキット。
【請求項16】
先行する請求項のいずれか1項に定義されるTTR四量体安定化剤による治療を受ける対象におけるATTRの治療における使用のための、先行する請求項のいずれか1項に定義される抗TTR抗体、または、先行する請求項のいずれか1項に定義される抗TTR抗体による治療を受ける対象におけるATTRの治療における使用のための、先行する請求項のいずれか1項に定義されるTTR四量体安定化剤。
【請求項17】
抗トランスサイレチン(TTR)抗体およびTTR四量体安定化剤を、それらを必要とする患者に投与することを含む、抗体依存性細胞貪食(ADCP)を介したATTR線維のクリアランスを誘導または促進することによりATTRを治療する方法。
【請求項18】
抗TTR抗体が先行する請求項のいずれか1項に定義される抗体であり、および/または、TTR四量体安定化剤が先行する請求項のいずれか1項に定義される安定化剤である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
抗体および安定化剤が、同時に、順次にまたは引き続いて投与される、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
ATTRが野生型ATTR(wtATTR)もしくは変異型ATTR(vATTR)であり、ATTRがATTRポリニューロパチー、ATTR心筋症、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)、老人性全身性アミロイドーシス(SSA)、全身性家族性アミロイドーシス、髄膜/中枢神経系(CNS)アミロイドーシス、TTR関連眼アミロイドーシス、TTR関連腎アミロイドーシス、TTR関連高チロキシン血症、および手根管症候群、腱板断裂、腰部脊柱管狭窄症を含むTTR関連靭帯アミロイドーシス、ならびに子癇前症からなる群より選ばれる疾患もしくは状態に関連する、請求項1から14のいずれか1項に記載の使用のための併用療法、請求項16に記載の使用のための抗TTR抗体、TTR四量体安定化剤、または請求項17から19のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は2020年5月12日に出願された欧州特許出願EP20174177.4に基づく優先権を主張しており、その内容全体が参照され本明細書に組み込まれる。
[技術分野]
【0002】
本発明は、一般に、対象におけるトランスサイレチンアミロイドーシス(ATTR)を治療する方法において使用するための併用療法に関し、この方法は、治療上有効な量の抗トランスサイレチン(TTR)抗体および治療上有効な量のTTR四量体安定化剤を投与することを含む。
【背景技術】
【0003】
トランスサイレチンアミロイドーシス(ATTR)は、心筋症や感覚運動性多発ニューロパチーを引き起こす重篤な加齢性疾患であり(Gertzetal., J. Am. Coll. Cardiol. 66(2015), 2451-24661)、野生型ATTR(wtATTR)および変異型ATTR(vATTR)の2つのサブタイプを含み、それらの病因に関しては多様である。それらに共通する前駆体タンパク質であるトランスサイレチン(TTR)は、生理的には、チロキシンおよびレチノール結合タンパク質の輸送タンパク質として機能している。TTRは、主に肝臓で合成され、天然型では四量体として存在する(Alshehri et al. 27(2015), 303-3239)。vATTRは、常染色体優性遺伝疾患であり、以前は遺伝性/変異性ATTRとして知られていた。野生型TTR(wtTTR)および変異型/多様体TTR(vTTR)タンパク質のいずれについても、ATTRの発症メカニズムは、TTRタンパク質の部分的なアンフォールディングおよびそれに続くアミロイド線維を形成するβプリーツシートへの凝集によって誘発されるものである(Eisele et al, Nat. Rev. Drug Discov. 14(2015), 759-780).
【0004】
ATTRは2つの主な臨床症状によって特徴付けられる。心筋組織へのアミロイド線維の顕著な蓄積が主体で心筋症をきたし、一方で、神経線維への線維沈着は多発性ニューロパチーをきたす(Ando et al. Orphanet J. Rare Dis. 2013;8:31)。特定の臓器にアミロイド沈着が生じる要因は、未だ明らかになっていない。患者は一般的に複合的な症状を呈し、ごくわずかなTTR変異は純粋な心臓疾患や神経障害性疾患のみを引き起こすことが知られる(Maurer et al., J. Am. Coll. Coll. Cardiol. 68(2016), 161-172)。
【0005】
ATTRの治療においては、現在3つの概念が確立されている。
(i)vTTRは、同所肝移植後に、末梢血中において、ドナー肝臓でのwtTTR合成によりほぼ完全に置換される。当然に、移植は一般的な治癒のための選択肢ではない。
(ii)低分子化合物はTTR四量体を安定化させ、それによりアミロイド前駆体の形成を最小化する。ジフルニサル、AG10およびタファミジスは、生理的なTTR四量体を安定化させる。タファミジスは、2011年よりステージ1のATTRの治療薬として承認されている。
(iii)遺伝子サイレンサー(mRNA阻害オリゴヌクレオチド)は、肝臓に分泌されるvTTRおよびwtTTRを減少させる。イノテルセンは、週1回皮下投与(s.c.)されるアンチセンスオリゴヌクレオチドである。パティシランは、プレメディケーションと組み合わせて3週間ごとに静脈内投与(i.v.)されるsiRNAオリゴヌクレオチドとして作用する。両者の遺伝子サイレンサーは、ATTRステージ1および2の治療薬として2018年に承認された。
【0006】
一方、抗TTR抗体や抗血清アミロイドP成分(抗SAP)抗体などのモノクローナル抗体が、さらなるATTRの治療の可能性として研究されている。
【0007】
さまざまな治療戦略の概要は、Mueller et al., European Journal of Heart Failure 22(2020), 39-53およびGertz et al., Brain Behav. 9(2019), e01371.に掲載されている。
【0008】
現在の治療薬や概念のそれぞれが、ATTRおよびそれに関連する病態を改善することを大きく期待されているが、ATTRの初期と進行した段階では異なる治療法が求められるという臨床的な問題に対処する治療戦略が依然として必要とされており、患者にとって最適な治療法を決定するためにはさらなる研究が必要である。
【0009】
この技術的課題は、特許請求の範囲に特徴付けられ、以下にさらに説明され、実施例および図に示される実施形態によって解決される。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、抗TTR抗体とTTR四量体安定化剤の併用が、驚くべきことに、in vivoでのアミロイドTTR線維のクリアランスにおいて相乗効果を示すという結果に基づく。特に、実施例に示されるように、マウスにおける、患者由来のアミロイドTTR線維グラフトとTTR四量体安定化剤であるタファミジスによる共処理は、疾患関連アミロイドTTR立体構造を高親和性で排他的に標的とする組み換えヒトモノクローナル抗TTR抗体による異常なアミロイドTTR線維のクリアランスの誘発を増大させる。したがって、本発明は、概して、対象におけるATTRの治療方法における使用のための併用療法に関し、この方法は、治療上有効な量の抗TTR抗体および治療上有効な量のTTR四量体安定化剤を投与することを含む。本発明に従って、抗TTR抗体は、ミスフォールドしたTTRを特異的に認識し、疾患関連アミロイド立体構造を高親和性で標的とするが、TTRの生理的形態は標的とせず、TTRアミロイドの除去を促進することが可能であり、TTR四量体安定剤は、TTR四量体のアミロイド原性単量体への解離を防止する。本発明に従って、抗TTR抗体およびTTR四量体安定化剤は、例えば、別個の容器で医薬製品に提供され、本明細書で以下に説明し、添付の実施例に示すように、組み合わせて使用するように設計されてもよい。
【0011】
背景技術の項で述べた、異なる薬剤コンセプトの医薬製品とATTRの共治療は、今般、将来の臨床研究のために提案されている(Mueller et al. (2020)またはGertz et al. (2019))。しかしながら、著者らも述べているように、原理的には多くの組み合わせが考えられるが、例えば薬物相互作用の可能性のために、理論的には慎重な検討が必要である。
【0012】
実際には、本発明の過程で行われた実験では、抗TTR抗体NI-301.37F1のようなミスフォールドTTRを特異的に認識する抗TTR抗体のTTRアミロイドへの結合は、TTR四量体安定化剤のジフルニサル、タファミジスおよびAG10の存在下で維持されることが示され(
図1、実施例1、
図5A、実施例4)、ジフルニサルの存在下ではEC
50値が増加したが、タファミジスの存在下では抗体のEC
50値は実質的に影響されなかった。さらに重要なことに、WO2020/094883A1に開示された出願人の新規かつ独自の患者由来アミロイド異種移植(PDAX)マウスモデルのおかげで、意外なことに、タファミジスの存在下で、抗体によって誘導された病的TTR線維のin vivoクリアランスは増加するようであるが、ジフルニサルとの共処理では、異常なアミロイド原性TTR線維は対照と比較して依然として著しく除去されたが、p値の観点から有意ではないものの、抗体単独での処理と比較してクリアランス率は低いようであった(
図2、実施例2)。
【0013】
したがって、TTR四量体安定化の付加的作用を考慮すると、本発明の範囲内で実施された実験は、タファミジス、ジフルニサルおよびAG10のようなTTR安定化剤がATTRの併用療法に適することを示すものである。しかしながら、実施例にも示すように、抗TTR抗体とTTR四量体安定化剤には薬物相互作用が生じる可能性があり、抗TTR抗体による異常なTTRアミロイド線維のクリアランスに生じ得る支持的な効果および相乗効果を変化させ得る。
【0014】
理論に縛られるつもりはないが、ジフルニサルは、その既知の抗炎症特性のために、免疫低下作用を有し、免疫細胞による抗TTR抗体起因性のTTR線維のクリアランスに寄与しない可能性がある。再び、WO2020/094883A1に開示された出願人独自のPDAXマウスモデルを用いて、抗TTR抗体が、その抗体エフェクター機能、特に抗体依存性細胞貪食(ADCP)によってATTR線維クリアランスを媒介することが検証された(in vivoでの貪食免疫細胞による抗体を介する線維除去のために活性Fcドメインが必要であることが示される実施例3および
図3を参照)。したがって、ジフルニサルはその免疫低下作用により、抗TTR抗体によって促進される食作用を促進しない可能性がある。
【0015】
したがって、本発明のATTRの併用療法の一態様では、抗TTR抗体は活性Fcドメインを有し、ADCPを誘導することができ、安定化剤は抗炎症特性、すなわち抗TTR抗体により促進される食作用に寄与しない可能性のある免疫低下作用を実質的に欠く。両活性は、WO2020/094883A1に開示され、実施例に示されるPDAXマウスモデルを用いて試験され得る。
【0016】
この文脈において、当業者は、エフェクター機能および強度が特にIgGクラスまたはIgGアイソタイプに依存し、IgG2およびIgG4は、IgG1またはIgG3と比較してエフェクター機能が減弱するだけであることを認識する。したがって、好ましい形態では、本発明の併用療法で用いられる抗TTR抗体は、IgG1またはIgG3クラスまたはそれらのアイソタイプのものであり、最も好ましくはIgG1である。もちろん、ネイティブIgGを用いる以外に、対応するエフェクター機能を遺伝子改変し得る(Saunders KO (2019) Conceptual Approaches to Modulating Antibody Effector Functions and Circulation Half-Life. Front. Immunol. 10:1296. doi:10.3389/fimmu.2019.01296.等)。
【0017】
TTR四量体安定化剤は、アミロイド線維の形成における律速段階である、TTR四量体からアミロイド原性単量体への解離に影響を与える小分子である。1996年、TTR上のチロキシンまたはレチノール結合タンパク質の結合部位のいずれかにリガンドが結合すると、TTRの四量体構造が安定化し、TTRの解離が確実に防止されることが初めて示された。タファミジスは、非ステロイド性抗炎症薬活性を欠くものの、高い経口バイオアベイラビリティを達成するベンゾオキサゾールカルボン酸のグループに属する低分子である。高親和性、高選択性でTTRのチロキシン結合部位に結合することにより、タファミジスはwtTTRおよび様々なvTTR多様体(V30M、V122I等)の用量依存的な動態安定化を誘発する。ジフルニサルは、免疫低下作用を有する非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)であり、さらにTTR四量体安定化作用を有する。
【0018】
前述のように、ジフルニサルの免疫低下活性は、免疫細胞による抗TTR抗体起因性のTTR線維のクリアランスに寄与しないか、またはこれをサポートしない可能性がある。タファミジスは前述の免疫低下活性を有しないため、抗TTR抗体を介したTTRアミロイドの除去をサポートまたは増強することが可能であるため、抗TTR抗体との併用療法に用いるのが好ましい。AG10は、タファミジスのような抗炎症作用を有しない別のTTR四量体安定化剤であり、ミスフォールドしたTTRに対する抗TTR抗体との併用療法に適しており、タファミジスのように、TTRアミロイド線維の除去を促進する抗体の作用をサポートまたは増強することが期待される。
【0019】
本発明により、ATTRの治療についてより優れたコンセプトが提供されるため、実施例に示した実験で得られた知見は、重要性が高く、特に興味深いものである。特に、現在知られているATTR治療アプローチ、特にTTR四量体安定化剤およびアンチセンス/siRNAオリゴヌクレオチドによるものは、構造的および機能的な疾患の進行を安定化するだけであり、通常、早期の疾患段階の患者においてのみ有効であり、進行したまたは遅発性の疾患の患者には有効ではない。
【0020】
これに対し、本発明の併用療法は、TTR四量体が安定化され、その生理的機能を担うのに十分な量で人体に残存すると同時に、異常なTTRアミロイドを患者から除去し、その新たな形成を防止するという、新規かつさらなる治療方法の道を開き得るものである。
【0021】
本発明のさらなる態様は、以下の記載および実施例から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】TTR四量体安定化剤の存在下でアミロイド原性TTRに結合する抗体NI-301.37F1。結合親和性は、10μg/mLのタファミジスまたはジフルニサルの存在下でELISAによって評価された。
【
図2】in vivoでのTTR線維の除去への併用療法の評価。A)代表図。B)治療開始96時間後の残存TTR線維量の定量化。移植組織面積に対するパーセンテージで表示される。N=6-8マウス/群、マウス1匹につき4つの非連続切片。**p<0.01,****p<0.001。
【
図3】抗体を介したin vivoでの線維除去活性には、活性Fcドメインが必要である。ATTR線維を移植したマウスに、ch.NI-301.37F1、ch.NI-37F1-LALAPGまたはアイソタイプコントロールを5mg/kgで単回静脈内投与し、5日後に皮膚生検を採取して組織学的に解析した。A)代表図。B)線維グラフトおよび治療投与5日後における残存TTR線維量の定量化。ATTR線維はアイソタイプ処置マウスではグラフト面積の46%を、ch.NI-301.37F1処置マウスでは23.6%、ch.NI-301.37F1-LALAPG処置マウスでは46.5%を覆っていた。一方、ch.NI-301.37F1-LALAPG投与マウスでは、アイソタイプ投与マウスと比較して、線維除去活性は観察されなかった。
【
図4】BLIを用いたタファミジスおよびジフルニサル存在下でのNI-301.37F1結合選択性。NI-301.37F1のA)可溶性ATTRオリゴマー(mis.WT-TTR)への結合性を有すること、およびB)TTR四量体(tetr.WT-TTR)への結合性を欠くことを示す代表図。
【
図5】BLIを用いたタファミジスおよびAG10存在下でのNI-301.37F1結合選択性。NI-301.37F1のA)可溶性ATTRオリゴマー(mis.WT-TTR)への結合性を有すること、およびB)TTR四量体(tetr.WT-TTR)への結合を欠くことを示す代表図。
【発明の詳細な説明】
【0023】
本発明は、概して、対象におけるトランスサイレチンアミロイドーシス(ATTR)を治療する方法において使用するための併用療法に関し、この方法は、治療上有効な量の抗TTR抗体および治療上有効な量のTTR四量体安定化剤を投与することを含む。より具体的には、本発明は、特許請求の範囲において特徴付けられ、明細書に開示され、さらに以下の実施例および図面に示されるような実施形態に関するものである。
【0024】
本発明で使用する用語は、特に断らない限り、Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology, Oxford University Press, 1997, revised 2000 and reprinted 2003, ISBN0198506732;Second edition published 2006, ISBN 0-19-852917-1978-0-19852917-0に記載される定義が適用される。
【0025】
「ATTR」という用語を使用する場合、特に指定されない場合には、wtATTRもvATTRも意味する。同様に、特に指定されていない場合、「TTR」はwtTTRおよびvTTRを指す。「抗TTR抗体」という用語は、通常、生理的なTTR四量体ではなく、ミスフォールド/凝集したTTRに結合する抗体を指す。
【0026】
本発明において使用される「併用療法」、「併用治療」、「併用」または「併用医薬製品」という用語は、少なくとも2つの異なる治療剤、すなわち抗TTR抗体およびTTR四量体安定化剤による同時のまたは並行する治療のあらゆる態様を表す。
【0027】
本願の文脈において、2種以上の化合物の「共投与」または「共治療」は、特定の時間内、通常は約24時間以内に、2種以上の化合物を患者に投与することと定義され、2種類の化合物が1製剤に配合されているか、2つの別々の製剤であるかを問わず、それぞれの化合物を含む2種類の医薬製品の別々の投与、ならびに同時投与が含まれる。
物質の「治療上有効な量」または「臨床的に活性な濃度」とは、その状態またはその症状の1つ以上を確実に、ある状態に罹っている対象に緩和または部分的に阻止するのに十分な量で、所定の物質が投与されることを意味する。このような治療的処置は、症状の重症度を低下させたり、または無症状期間の頻度や期間を増加させ得る。所定の目的および所定の薬剤のための有効量は、疾患や損傷の重症度ならびに対象の体重および全身状態に因る。本発明で使用される場合、「対象」という語は、任意の哺乳動物、好ましくはヒトを含む。このような化合物の治療上の有効性および毒性は、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順、例えば、ED50(集団の50%に治療上有効な用量)およびLD50(集団の50%の致死用量)によって決定することができる。治療効果と毒性効果の用量比が治療指数であり、LD50/ED50という比率で表される。
【0028】
さらに、特に断らない限り、本発明、特に本発明の組み合わせ製品に用いられる抗TTR抗体を特徴付けるために本明細書で使用される用語および表現は、WO2015/092077A1、特に16から42頁の「I. Definitions」のサブセクションにて規定されるような定義で与えられ、その開示内容は参照されて明示的に本明細書に組み込まれる。抗体、医薬組成物等に関するWO2015/092077A1に開示された一般的な実施形態にも、同じことが当てはまる。
【0029】
医薬製品は、少なくとも2つの異なる成分、ミスフォールドしたヒトTTRを特異的に標的とし、抗体依存性細胞貪食(ADCP)を誘導可能な活性Fcドメインにより典型的にはアミロイド原性TTR線維を除去する抗TTR抗体、ならびにMuellerら(2020)およびGertzら(2019)の前掲書に記載されるようなTTR四量体安定化剤であって、好ましくは抗炎症特性を欠くものを含む。上述したように、抗体は、好ましくはIgG1クラスまたはIgG1アイソタイプである。
【0030】
上記のように、最初の実験により、TTR四量体安定化剤はアミロイド原性TTRへの抗TTR抗体の結合に干渉しないことが明らかになった。したがって、ミスフォールドしたTTRに特異的に結合可能であり、TTRの生理的形態を標的とせず、活性Fcドメインを有する任意の抗TTR抗体が、本発明の併用療法のための成分に適していると期待するのが賢明である。
【0031】
本発明の医薬製品は、ヒト対象者においてATTRの治療に使用されるため、ある態様では、抗TTR抗体はヒト化されており、好ましくはヒト由来であり、ヒトにおいて非免疫原性である。
【0032】
実施例に示すように、本発明は、アミノ酸配列TTR
41-45(WO2015/092077A1の配列番号:51)からなる、もしくはこれを含み、WO2015/092077Alの
図1Cおよび1Mにそれぞれ示されたアミノ酸配列を有する、相補性決定領域(CDR)、可変重鎖(V
H)および可変軽鎖(V
L)鎖をその可変領域または結合ドメインに有するヒトTTRエピトープを結合可能な抗TTR抗体NI-301を用いて例示される。この抗体および同族抗体は、健常高齢ヒトドナーのメモリーB細胞レパトア由来のものである(WO2015/092077A1の実施例の記載を参照。)。この抗体の結合特性の特性解析により、この抗体は、nM以下の範囲でミスフォールドTTRに対して高い結合親和性を示し、TTRのアミロイド立体構造に対して高い選択性を示し、wtTTRおよびvTTRに対して同様の結合性を発揮することが実証された。このヒト由来抗体は、ミスフォールドしたTTRに選択的であり、実施例に示すように心アミロイド除去を誘導し得るため、本発明の併用療法に最も適した治療候補となる。
【0033】
しかしながら、WO2015/092077A1には、NI-301.37F1と同じヒトTTRエピトープへの結合性を示し得るさらなるヒト由来の抗体が開示されており、例えば、CDRの表示を含むVH鎖およびVL鎖アミノ酸配列が示されている抗体NI-301.28B3およびNI-301.12D3であり、NI-301.28B3についてはWO2015/092077A1の
図1Eに、NI-301.12D3については
図1Lに示されている。したがって、本発明の併用療法で使用するための抗TTR抗体は、概して、アミノ酸配列TTR
41-45(WO2015/092077A1の配列番号:51)からなる、もしくはこれを有するヒトTTRエピトープに結合することによって特徴付けられ得る。そのため、このような抗体に到達するためには、このような抗体を新たに得るためのWO2015/092077A1に開示された手段や方法を利用する必要はないが、抗体の本来の結合特性が変化しないようにする1以上のアミノ酸置換を実行し得る。さらに、WO2015/092077A1に開示された他のヒト由来の抗体のいずれかが同様に用いられ得る。
【0034】
本発明の併用療法に適していると推定される別のクラスの抗TTR抗体は、Prothena Biosciences Limited(Prothena)による国際出願に記載されている。特に、Prothenaは、ATTRにみられるTTRアミロイドタンパク質のミスフォールド(毒性)形態を特異的に標的として除去するように設計された治験用モノクローナル抗体について報告しており、ここで前記抗体はPRX004と命名され、現在ATTR患者において第1相試験中である(Clinical Trials. gov Identifier:NCT03336580)。Karmanos Cancer Institute, DetroitのJeffrey Zonder氏のプレゼンテーションによれば、2018年、抗体PRX004は、Higaki et al., Amyloid 23(2016)86-97に記載された抗体14G8のヒト化バージョンに相当し、WO2016/120810A1およびWO2018/007922A2に、より具体的にはWO2019/108689A1に開示されている。したがって、抗体PRX004は、PRX004と同じエピトープ、すなわちアミノ酸TTR101-109を有するエピトープまたはアミノ酸TTR89-97を認識するものや、WO2016/120810A1、WO2018/007924A2、WO2018/007924A2およびWO2018/007923A1に開示される元々クローニングされたマウスモノクローナル抗体14G8、9D5、5A1、6C1のヒト化バージョン等の中でも、本発明の併用療法で用いるためのさらなる好ましい抗TTR抗体であろう。
【0035】
さらなる好適な抗体は、抗体18C5のヒト化バージョンまたはヒトTTRへの結合についてモノクローナル抗体18C5と競合する単離モノクローナル抗体であり、好ましくはヒトTTR上においてモノクローナル抗体18C5と同じエピトープに結合し、ここで18C5は、WO2019/071205A1に開示される配列番号:81を含むアミノ酸配列を有する成熟重鎖可変領域および配列番号:87を含むアミノ酸配列を有する成熟軽鎖可変領域により特徴付けられるマウス抗体である。
【0036】
本発明の併用療法に適していると推定されるさらに別のクラスのヒト化抗TTR抗体は、化学及血清療法研究所およびKMバイオロジクス株式会社による国際出願に記載されており、WO2015/115332における抗体371Mおよび313M、ならびにWO2015/115331A1における抗体(参照しやすいように本明細書ではXYとする)として開示されるように、それぞれ、アミノ酸TTR78-89またはTR118-122を含むエピトープを認識する
【0037】
ATTRには2つの形態、すなわちwtTTRならびに、wtATTRおよびvATTRの異常な凝集によってそれぞれ引き起こされるvATTRがあり、好ましい態様では、抗体はアミロイド原性wtTTRにもアミロイド原性vTTRにも結合する。TTR遺伝子における120以上の変異は、あらゆる年齢の人をvATTRに罹らせるが、最も一般的なのは、Val30MetおよびVal122Ile置換である。
【0038】
Val30Met置換は、ポルトガル、スウェーデン、日本の特定の地域特有であり、かつては家族性アミロイドポリニューロパチーと呼ばれたATTRポリニューロパチーを引き起こす頻度の最も高い変異である。さらに、Val122Ile変異の結果としてTTR毒性が観察され、これはアフリカ系アメリカ人および西アフリカ人の集団に高い頻度(3-5%)で見られる。この変異は、かつては家族性アミロイド心筋症と呼ばれたATTR心筋症と関連しており、この疾患においては心筋への大量のTTRの蓄積により心臓の衰弱や、最終的に心不全に至る(Ruberg et al. 126(2012), 1286-1300)。
【0039】
したがって、好ましい態様では、抗TTR抗体は、アミノ酸Val122および/もしくはVal30をカバーしないTTRエピトープに結合するか、または抗TTR抗体はアミノ酸Val122および/もしくはVal30をカバーするエピトープに結合するが、MetおよびIleへのアミノ酸置換は、それぞれ抗体の結合に影響を与えない。あるいは、抗体は、異なる変異を有するvTTRに結合するが、特にVal122Ileおよび/またはVal30Metの変異を有するvTTRに結合する。
【0040】
さらには、65歳以上の10-15%において、wtATTRに起因する心臓TTR沈着がみられる。したがって、さらなる態様においては、抗TTR抗体は、凝集したwtTTRに結合する。好ましくは、抗TTR抗体は、wtTTRおよびvTTRに結合し、好ましくは同程度に結合する。
【0041】
上述のように、実施例に示された実験は、WO2015/092077A1に開示され、WO2015/092077A1の配列番号:51に記載のアミノ酸配列TTR41-45を有するTTRエピトープに結合する抗体NI-301.37F1を用いて実施されている。したがって、前記アミノ酸配列を有するエピトープに結合性を有するさらなる抗体も、本発明の医薬製品に適した成分であると期待され、例えば、WO2015/092077A1に開示される抗体NI-301.28B3およびNI-301.12D3が挙げられる。
【0042】
したがって、本発明の特定の好ましい態様では、抗TTR抗体は、ヒト抗体NI-301.37F1、NI-301.28B3もしくはNI-301.12D3由来であり、その可変領域、すなわち結合領域に、WO2015/092077A1における
図1C(NI-301.37F1)、
図1E(NI-301.28B3)もしくは
図1L(NI-301.12D3)に示されたアミノ酸配列を有する可変重(VH)鎖および可変軽(VL)鎖の相補性決定領域(CDR)を有することを特徴とし、またはCDR2およびCDR3の場合、1以上のCDRがWO2015/092077A1の
図1C、
図1Eもしくは
図1Lに記載のものと、1、2、3もしくはそれ以上のアミノ酸においてアミノ酸配列が異なっていてもよく、抗体はWO2015/092077A1の実施例に示される抗TTR抗体NI-301.37F1,NI-301.28B3もしくはNI-301.12D3と実質的に同一または相当する特性を示すものである。CDRの位置は、
図1C、
図1Eまたは
図1Lに示され、WO2015/092077A1の
図1の凡例にて説明されている。対応するヌクレオチド配列は、NI-301.37F1についてはWO2015/092077A1の70頁、NI-301.28B3については70-71頁、NI-301.12D3については73頁で表IIに記載される。追加的または代替的に、フレームワーク領域もしくは完全なVH鎖および/もしくはVL鎖は、WO2015/092077A1の
図1Cもしくは
図1M(NI-301.37F1)、
図1E(NI-301.28B3)もしくは
図1L(NI-301.12D3)に示されたフレームワーク領域と80%一致し、好ましくは、WO2015/092077A1の
図1Cもしくは1M、1Eもしくは1Lに示されたフレームワーク領域もしくはVH鎖および/もしくはVL鎖とそれぞれ85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%もしくは100%一致する。さらに、抗体NI-301.37F1、NI-301.28B3およびNI-301.12D3のクローニングおよび発現は、WO2015/092077A1の110-112頁の実施例1および2に記載されているように実施され、この方法は参照して本明細書に組み込まれる。
【0043】
したがって、ある態様においては、抗TTR抗体は、WO2015/092077A1の
図1C、1Mにそれぞれ示される、VH鎖およびVL鎖のCDR、ならびにVH鎖およびVL鎖全体によって特徴付けられる。したがって、好ましくは、抗体は以下を有する。
(i) 以下の可変重(VH)鎖相補性決定領域(CDR)1、2、および3を有するVH鎖、ならびに/または以下の可変軽(VL)鎖CDR 1、2、および3を有するVL鎖:
(a) VH-CDR1:WO2015/092077A1の配列番号:10の31~35番目もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み、
(b) VH-CDR2:WO2015/092077A1の配列番号:10の52~67番目もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み、
(c) VH-CDR3:WO2015/092077A1の配列番号:10の100~109番目もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み、
(d) VL-CDR1:WO2015/092077A1の配列番号:12の24~34番目もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み、
(e) VL-CDR2:WO2015/092077A1の配列番号:12の50~56番目もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み、
(f) VL-CDR3:WO2015/092077A1の配列番号:12の89~97番目もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み;および/または
(ii) VH鎖および/またはVL鎖であって、ここで
(a) VH鎖は、配列番号:10もしくは53に示されたアミノ酸配列、またはそれらのバリアントを有し、バリアントは1以上のアミノ酸置換を含み;かつ
(b) VL鎖は、配列番号:12に示されたアミノ酸配列、またはそのバリアントを有し、バリアントは1以上のアミノ酸置換を含み;
好ましくは、VH鎖およびVL鎖アミノ酸配列は、配列番号:10もしくは53ならびに12に対してそれぞれ少なくとも90%の同一性を有する。
この好ましい態様、すなわち実施例に例示された抗体NI-301.37F1およびこれと同等の抗体の使用は、請求項4において特徴付けられる態様に対応し、ここで本願配列表に示されたアミノ酸配列が参照される。
【0044】
ある態様においては、抗TTR抗体は、WO2015/092077A1の
図1Eにそれぞれ示される、VH鎖および/もしくはVL鎖のCDR、ならびにVH鎖およびVL鎖全体によって特徴付けられる。したがって、好ましくは、抗体は以下を有する。
(i) 以下の可変重(VH)鎖相補性決定領域(CDR)1、2、および3を有するVH鎖、ならびに/または以下の可変軽(VL)鎖CDR 1、2、および3を有するVL鎖:
(a) VH-CDR1:WO2015/092077A1の配列番号:18の31~37番目もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み、
(b) VH-CDR2:WO2015/092077A1の配列番号:18の52~67番目もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み、
(c) VH-CDR3:WO2015/092077A1の配列番号:18の100~116番目もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み、
(d) VL-CDR1:WO2015/092077A1の配列番号:20の24~34番目もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み、
(e) VL-CDR2:WO2015/092077A1の配列番号:20の50~56番目もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み、
(f) VL-CDR3:WO2015/092077A1の配列番号:20の89~98番目もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み;および/または
(ii) VH鎖および/またはVL鎖であって、ここで
(a) VH鎖は、配列番号:18に示されたアミノ酸配列、またはそのバリアントを有し、バリアントは1以上のアミノ酸置換を含み;かつ
(b) VL鎖は、配列番号:20に示されたアミノ酸配列、またはそのバリアントを有し、バリアントは1以上のアミノ酸置換を含み;
好ましくは、VH鎖およびVL鎖アミノ酸配列は、配列番号:18および20に対してそれぞれ少なくとも90%の同一性を有する。
【0045】
ある態様においては、抗TTR抗体は、WO2015/092077A1の
図1Eにそれぞれ示される、VH鎖および/もしくはVL鎖のCDR、ならびにVH鎖およびVL鎖全体によって特徴付けられる。したがって、好ましくは、抗体は以下を有する。
(i) 以下の可変重(VH)鎖相補性決定領域(CDR)1、2、および3を有するVH鎖、ならびに/または以下の可変軽(VL)鎖CDR 1、2、および3を有するVL鎖:
(a) VH-CDR1:WO2015/092077A1の配列番号:46の31~35位もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み、
(b) VH-CDR2:WO2015/092077A1の配列番号:46の50~66位もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み、
(c) VH-CDR3:WO2015/092077A1の配列番号:46の99~108位もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み、
(d) VL-CDR1:WO2015/092077A1の配列番号:48の23~36位もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み、
(e) VL-CDR2:WO2015/092077A1の配列番号:48の52~58位もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み、
(f) VL-CDR3:WO2015/092077A1の配列番号:48の91~100位もしくはそのバリアントであり、バリアントは1または2のアミノ酸置換を含み;および/または
(ii) VH鎖および/またはVL鎖であって、ここで
(a) VH鎖は、配列番号:46に示されたアミノ酸配列、またはそのバリアントを有し、バリアントは1以上のアミノ酸置換を含み;かつ
(b) VL鎖は、配列番号:48に示されたアミノ酸配列、またはそのバリアントを有し、バリアントは1以上のアミノ酸置換を含み;
好ましくは、VH鎖およびVL鎖アミノ酸配列は、配列番号:46および48に対してそれぞれ少なくとも90%の同一性を有する。
【0046】
しかし、好ましくは、抗体NI-301.37F1は、本発明の併用療法における一成分として使用される。
【0047】
前述のように、抗TTR抗体は、活性Fcドメインを有するヒト定常ドメインを含み、IgGフォーマット、すなわち完全なIgG抗体、好ましくはIgG1抗体またはIgG1アイソタイプを有する。ヒト定常ドメインを有する完全ヒトIgG1抗体の組換え発現は、例えば、Harlow and Lane 「Antibodies, A Laboratory Manual」, CSH Press, Cold Spring Harbor (1988) First edition; Second edition by Edward A. Greenfield, Dana-Farber Cancer Institute (copyright) 2014, ISBN 978-1-936113-81-1およびWO2012/080518Alの実施例に記載されるように実質的に実施し得る。
【0048】
上述のように、ATTRはwtATTRまたはvATTRのいずれでもあり得るため、両方のバリアントに対する治療アプローチが望ましい。上述のように、抗TTR抗体は凝集したwtTTRおよびvTTRのいずれにも結合するため、好ましくは、本発明の併用療法における第2の成分は、両方のTTR形態を生理学的に機能する四量体へと安定化させる。
現在市場で利用可能なATTRの治療のための医薬製品の殆どは、例えばイノテルセンやパティシランのように、vATTRポリニューロパチーに対して承認されているが、タファミジスとジフルニサルのみがvATTRおよびwtATTRの治療に有効であることが示されており(Mueller et al. (2020)、前掲書)、タファミジスは、ATTRポリニューロパチーおよびATTR心筋症の治療薬として欧州医薬品庁(EMA)および米国食品医薬品局(FDA)により承認されている。さらに、AG10は、wtATTRおよびvATTRの治療のために開発されている、新規で強力かつ選択的な経口TTR四量体安定化剤である(Fox et al., Clinical Pharmacology in Drug Development 9 (2020),115-129参照)。このように、vATTRとwtATTRの治療薬として臨床的に承認されているのはTTR四量体安定化剤のみであり、AG10の場合、それぞれの適応に高い効力を有する。
【0049】
したがって、一つの態様において、本発明の併用療法は、1または2のTTR四量体安定化剤、好ましくはwtTTR四量体およびvTTR四量体の安定化が可能なTTR四量体安定化剤をさらに含む。
【0050】
前述のように、TTR四量体安定化剤は、アミロイド形成過程の律速段階である四量体の解離を阻害し、アミロイドのde novo沈着を減少させる。1996年、TTR上のチロキシンまたはレチノール結合タンパク質の結合部位のいずれかにリガンドが結合すると、その四量体構造が安定化し、TTR解離が確実に防止されることが初めて示された。したがって、本発明の併用療法は、TTR四量体のチロキシンまたはレチノール結合タンパク質の結合部位のいずれかに結合するTTR四量体安定化剤を含む。
【0051】
好ましい態様において、TTR四量体安定化剤はタファミジスである(CAS登録番号:594839-88-0)。タファミジスは、2位の水素が3,5-ジクロロフェニル基で置換された1,3-ベンゾオキサゾール-6-カルボン酸である1,3-ベンゾオキサゾールのクラスのメンバーである。タファミジスは、構造的にジフルニサルと類似するが、ジフルニサルとは異なり、NSAIDではない。
【0052】
さらなる態様では、本発明の併用療法は、抗TTR抗体に次いでTTR四量体安定化剤AG10を含む。AG10は、3-(3-(3,5-ジメチル-1H-ピラゾール-4-イル)プロポキシ)-4-フルオロ安息香酸であり(CAS登録番号:1446711-81-4)、例えば米国特許第9,169,214B2に開示され、化合物VIIcとして指定されている。AG10は、強力かつ高選択的な低分子TTR四量体安定化剤である。AG10は、簡単な合成経路で製造され、良好な経口バイオアベイラビリティ、高い結合選択性、およびTTR安定化作用を含む薬学適特性を有する。AG10は、保護的なTTR変異T119Mの構造的影響を模倣するように設計される。AG10は、他の既知の安定化剤と比較して、T119M変異体を安定化する117位のセリン残基と水素結合を形成可能な特性を有する。すでに最初の臨床試験が行われ、AG10がvATTRまたはwtATTRのいずれかの患者に対して安全かつ有効な治療薬となる可能性が示された(Fox et al., Clinical Pharmacology in Drug Development 9 (2020), 115-129)。特に、第II相臨床試験では、ATTR心筋症患者の治療に対する有効性が示された(Judge et al., J Am Coll Cardiol 74 (2019), 285-295)。しかし、ATTRポリニューロパチーを有する患者にも効果があると期待するのが賢明である。
【0053】
さらなる態様では、本発明の併用療法は、抗TTR抗体に次いでTTR四量体安定化剤であるジフルニサルを含む。ジフルニサルは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)であり、Mueller et al., European Journal of Heart Failure 22 (2020), 39-53頁に記載されている。
【0054】
本発明の併用療法の一部としての抗TTR抗体は、当技術分野で周知の方法に従って製剤化することができる(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (2000) by the University of Sciences in Philadelphia, ISBN 0-683-306472参照)。適切な医薬担体の例は当技術分野で周知であり、リン酸緩衝生理食塩液、水、o/wエマルション等のエマルション、様々なタイプの湿潤剤、無菌溶液等を含む。このような担体を含む組成物は、周知慣用な方法により製剤化することができる。これらの医薬組成物は、適切な用量で対象に投与することができる。好適な組成物の投与は、様々な方法、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、鼻腔内、局所もしくは皮内投与または脊髄もしくは脳内へのデリバリーによってもたらされ得る。鼻腔用スプレー製剤のようなエアゾール製剤は、活性物質の精製水溶液もしくはその他の溶液と保存剤および等張化剤を含む。直腸または膣投与のための製剤は、適切な担体とともに坐剤として提供され得る。好ましい態様においては、抗TTR抗体は、液体製剤に配合され、静脈内(i.v.)または皮下(s.c)投与されるように設計される。
【0055】
投与レジメンは、主治医および臨床的要因によって決定される。医学の分野において周知であるように、特定のある患者のための投与量は、患者の体型、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与の時間および経路、全身状態、ならびに同時に投与される他の薬剤を含む多くの要因に因る。一般に、投与量は、例えば、体重につき約0.0001~100mg/kg、より通常は0.01~5mg/kg(例えば、0.02 mg/kg、0.25 mg/kg、0.5 mg/kg、0.75 mg/kg、1 mg/kg、2 mg/kg等)の範囲とすることができる。例えば、投与量は、体重当たり1 mg/kgもしくは10 mg/kg、または1-10 mg/kgの範囲内、好ましくは少なくとも1 mg/kgとすることができる。上記範囲の中間の投与量も本発明の範囲内であることが意図される。このような用量を毎日、隔日、週1回、または実証分析によって決定される任意の他のスケジュールに従って、対象に投与することができる。例示的な治療は、長期間、例えば、少なくとも6月にわたって、複数の用量での投与を伴う。さらなる例示的な治療レジメンは、2週間に1回、1月に1回、または3~6月に1回の投与を伴なう。例示的な投与量スケジュールは、連日1-10 mg/kgもしくは15 mg/kg、隔日30 mg/kg、または週1回60 mg/kgを含む。定期的な評価により、経過をモニタリングすることができる。
【0056】
本発明に従って使用するための抗TTR抗体が治療的に有効であり得るかは、WO2020/094883A1の実施例4に記載のPDAX動物モデルを用いることにより判断され得る。好ましくは、抗TTR抗体は、少なくとも0.5 mg/kg、好ましくは5 mg/kgもしくは50 mg/kgまたはその間の任意の用量で投与される場合に有効である。より好ましくは、抗体は、2~4週間ごとに、約3、10、30もしくは60mg/kgまたはその間の任意の用量で投与される。
【0057】
TTR四量体安定化剤に関して、好ましくは、タファミジス、ジフルニサルおよび/またはAG10が、本発明の併用療法において用いられる。現在、2製剤、すなわちタファミジスメグルミンおよびタファミジスが使用可能であり、これらはいずれも同じ活性部位であるタファミジスを有する。TTR四量体安定化剤は、好ましくは臨床的に活性な濃度で投与される。
【0058】
タファミジスメグルミンは、1日1回80mg(20mg×4カプセル)の用法用量で、成人のwtATTR心筋症およびvATTR心筋症の治療薬としてアメリカ、日本、カナダおよびブラジルで承認されている。患者の利便性のため、単一物質の代替の経口固形製剤(タファミジス 61mg 遊離酸カプセル)が開発、導入された(アメリカ、アラブ首長国連邦、EUで承認)(Lockwood et al., Clin. Pharmacol. Drug Dev., 2020 Mar 20. doi:10.1002/cpdd.789の他、ビンダケル(登録商標)(タファミジスメグルミン)およびVYNDAMAXTM(タファミジス)に関するFDAから提供される製品情報参照)。さらに、タファミジスメグルミンは、1日1回20mg(タファミジス12.2mgに相当)の用法用量で、早期症候性のwtATTRポリニューロパチーおよびvATTRポリニューロパチーの成人の治療のために世界40カ国以上で承認されている(Lockwood et al. 2002およびビンダケル(登録商標)に関するEMAの製品情報参照)。
【0059】
よって、一つの態様においては、タファミジスは、タファミジスメグルミンとして1日1回20mg、またはタファミジスとして1日1回12.2mgの用法用量で投与されるように設計され、好ましくは、症候性のwtATTRポリニューロパチーおよびvATTRポリニューロパチーを有する患者に対して、この投与量で投与される。
【0060】
一つの態様では、タファミジスは、タファミジスメグルミンとして1日1回80mg、またはタファミジスとして1日1回61mgの用法用量で投与されるように設計され、好ましくは症候性のwtATTR心筋症およびvATTR心筋症を有する患者に対して、この投与量で投与される。
【0061】
本発明のさらなる態様では、タファミジスまたはタファミジスメグルミンは、1、5、15、もしくは30 mg/kg/日またはその間の任意の用量で投与されるよう設計される。
【0062】
本発明のさらなる態様では、ジフルニサルは、最大250mgの用量で、1日1回または2回投与される。
【0063】
AG10は未だ規制当局によって承認されていないが、最初の臨床試験では、AG10が50、150、300、400または800mgの単回投与で既に有効であることが示唆される。好ましくは、300mgまたは800mgの単回投与が用いられる(Fox et al., 2020およびJudge et al., 2019参照)。本発明の一つの態様では、AG10は、50、150、300、400、または800mg、好ましくは400mgまたは800mgの用量で、好ましくは1日2回投与される。もちろん、これらの量の間の用量も、本発明によって包含される。
【0064】
本発明の併用療法の一つの態様では、抗TTR抗体およびTTR四量体安定化剤は、医薬製品として提供され、これらは、典型的には、別々の容器に存在する。上述したように、抗TTR抗体は、好ましくは、静脈内投与を目的とした液体製剤である。したがって、抗TTR抗体の場合、容器は、好ましくは、プレフィルドシリンジ、注射ペン、アンプル、ボトル、自己注射剤、または輸液バッグである。さらに好ましい態様では、容器は、輸液ボトルまたは輸液バッグである。
【0065】
一方、TTR四量体安定化剤は、好ましくは経口投与用に製剤化され、好ましくは、上記のように錠剤またはカプセルに存在する。
【0066】
したがって、さらなる態様において、本発明は、本明細書にて言及された好ましい例を挙げて定義される抗TTR抗体およびTTR四量体安定化剤を含む医薬製品に関し、特に、抗体が、活性Fcドメインによりアミロイド原性TTRの除去の促進が可能であり、抗体依存性細胞食(ADCP)を誘導可能であり、かつ安定化剤が、抗炎症特性を実質的に欠く。
【0067】
本発明の一つの態様では、本発明の医薬製品の各々の成分、すなわち少なくとも抗TTR抗体およびTTR四量体安定化剤が1つの組成物中に存在し、製剤およびドーズレジメンは、両成分が安定かつ薬学的に活性であるように適合させる必要がある。この態様は、応急処置として2剤の同時投与が考えら得る、緊急な心臓や発作のような臨床場面に有用であり得る。
【0068】
本発明はまた、上述したうちの少なくとも2成分、すなわち抗TTR抗体およびTTR四量体安定化剤を充填した1以上の容器を含む医薬パックまたはキットを提供する。このような容器には、医薬製品や生物学的製剤の製造、使用または販売を規制する政府機関によって定められた形式の通知書を添付することができ、この通知書は、ヒトへの投与のための製造、使用または販売についての政府機関による承認を反映している。本発明の医薬製品は、好ましくはキットの形態であり、もちろん変異、ミスフォールド、ミスアセンブル、および/もしくは凝集したTTRの存在を伴う疾患または障害の治療に特に適しており、特に、以下にさらに概説するATTRによって一般に特徴付けられる障害の治療に適用可能である。あるいは、本発明の医薬製品、医薬パックもしくはキットは、いずれかの成分を欠いていてもよいが、抗TTR抗体およびTTR四量体安定化剤からなり、他の成分の代わりに、本発明の併用療法における医薬製品、医薬パックもしくはキットの使用のための詳細な説明書が記載されていてもよい。
【0069】
一つの態様では、本発明の併用療法または医薬製品は、1のTTR四量体安定剤だけでなく、1以上、例えば2のTTR四量体安定剤を含んでいてもよい。一つの態様では、医薬製品は、タファミジスおよびAG10を含む。
【0070】
本発明の医薬製品は、対象においてATTRを治療する方法、すなわち併用療法に用いることができる。したがって、本発明は、それを必要とする対象に、治療上有効な量の本発明の医薬製品を投与することを含む併用療法を提供する。
【0071】
一つの態様では、アミロイド原性TTRの存在およびレベルは、抗TTR抗体、TTR四量体安定化剤、本発明の医薬製品の投与前に、それぞれ測定される。好ましい態様においては、生理的TTRよりも凝集したTTRに優先的に結合する任意の適切な抗TTR抗体を用いることができる。例えば、WO2015/092077A1に開示された抗体を診断に使用することができ、好ましくは抗体NI-301.37F1、NI-301.28B3またはNI-301.12D3、最も好ましくはNI-301.37F1である。さらに、上記の抗体、すなわち14G8、18C5、9D5、5A1、6C1、XY、371M、または313Mを用いることができる。アミロイド原性TTR量の測定は、好ましくは、治療対象からのサンプル(体液)において実施される。
【0072】
上述したように、一つの態様では、医薬製品は単一の医薬組成物中に存在する。したがって、本発明の否等の態様では、両成分、すなわち抗TTR抗体およびTTR四量体安定化剤は同時に投与される。これは、好ましくは単一用量として投与されることから、抗TTR抗体とAG10との組み合わせに特に関連するものである。
【0073】
好ましくは、医薬製品は、別々の容器に入った一式のキットとして存在する。したがって、本発明の一つの態様の併用療法では、ATTRを治療する方法は、治療上有効な量の抗TTR抗体を対象に投与し、同時にもしくは引き続いて治療上有効な量のTTR四量体安定化剤を対象に投与すること、または、治療上有効な量のTTR四量体安定化剤を対象に投与し、同時にもしくは引き続いて治療上有効な量の抗TTR抗体を対象に投与することを含む。好ましくは、同時もしくは引き続く治療は、例えば薬物の半減期を考慮して、第1の薬物が有意な濃度でヒトの体、例えば血漿中に存在すれば、実施される。
【0074】
実施例2に示すように、上記で定義した抗TTR抗体は、in vivoにてTTR線維のクリアランスを誘導する。したがって、ATTRを有し、より凝集しやすいTTR単量体が生成されるのを防ぐために1以上のTTR四量体安定化剤による治療を既に受けている患者は、抗TTR抗体でさらに治療し得る。これにより、TTR単量体の生成の防止に加え、既に存在するTTR線維の除去という有益な効果が得られる。上記のように、TTR四量体安定化剤は、既に存在するTTR線維は除去せず、凝集しやすいTTR単量体の生成を防ぐにとどまるため、早期疾患の治療において最も効率的である。例えば、タファミジスは、ステージ1のATTRポリニューロパチーの治療のためにEMAにより承認されている。よって、既にTTR四量体安定化剤で治療を受けた患者をさらに抗TTR抗体で治療する場合、後期のATTRを有する患者の治療において、より効果的であると期待するのが賢明であろう。逆に、ATTRを有し、TTR線維のクリアランスを誘導する抗TTR抗体による治療を既に受けている患者に対して、凝集しやすいTTR単量体が新たに生成することを防止するために、上記のような特徴を有するTTR四量体安定化剤によって治療し得る。
【0075】
したがって、本発明の一つの態様では、抗TTR抗体は、TTR四量体安定化剤による治療を受ける対象におけるATTRの治療方法に使用される。
別の態様では、TTR四量体安定化剤は、抗TTR抗体による治療を受ける対象におけるATTRの治療方法に使用される。言い換えれば、本発明は、それを必要とする対象、すなわち患者に抗TTR抗体およびTTR四量体安定化剤を投与することを含む、抗体依存性細胞貪食(ADCP)を介したATTR線維クリアランスを誘導または促進することによりATTRを治療する方法に関する。一つの態様では、抗TTR抗体は、本明細書で定義されるような抗体であり、および/または、TTR四量体安定化剤は、本明細書で定義されるような安定化剤である。抗体および安定化剤は、同時に、順次に、または引き続いて投与することができる。
【0076】
この文脈では、TTR安定化剤または抗TTR抗体による「治療を受ける対象」という用語は、例えば薬剤の半減期を考慮して、最初の薬剤が有意な濃度で人体、例えば血漿中に存在する限り、併用投与だけでなく連続投与の場合も含む。例えば、タファミジスの平均半減期は約49時間であるので、タファミジスの最終投与から48時間後に抗TTR抗体を投与することは、本発明の一つの態様として考えられるであろう。一方、第1の薬剤、例えばタファミジスが分解または排泄され、体内にて第1の薬剤が有効量もしくは検出可能な量でもはや存在しない後に、対象が第2の薬剤、例えば抗TTR抗体で治療される場合、かかる治療は本発明の態様でない場合がある。
【0077】
好ましい態様では、抗TTR抗体は静脈注射により投与され、TTR四量体安定化剤は経口投与される。
【0078】
既に説明したように、TTR四量体安定化剤と抗TTR抗体は、それぞれwtTTR、vTTRおよび対応する凝集型TTRに結合するので、併用療法はwtATTRおよびvATTRの治療に適している。この文脈で、vATTRが以前は遺伝性/変異性ATTRとされていたことに言及する必要がある。ATTRは常染色体優性遺伝疾患であり、ATTR心筋症、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)(TTRポリニューロパチーとしても知られる)、老人性全身性アミロイドーシス(SSA)、全身性家族性アミロイドーシス、アルツハイマー病等の髄膜/中枢神経系(CNS)アミロイドーシス、TTR関連眼アミロイドーシス、TTR関連腎アミロイドーシス、TTR関連高チロキシン血症、手根管症候群、腱板断裂および腰部脊柱管狭窄症等のTTR関連靭帯アミロイドーシス、ならびに子癇前症からなる群から選択される種々の疾患または状態に関連している。
【0079】
したがって、本発明の一つの態様において、本発明の医薬製品および併用療法、ならびに既に治療を受けている患者に投与された場合の抗TTR抗体およびTTR四量体安定化剤は、上記のいずれかの疾患の治療において使用される。
【0080】
好ましい態様では、疾患は、ATTR心筋症である。ATTR心筋症は、ミスフォールドおよび凝集したTTRの心筋内沈着により特徴付けられる加齢に伴う心臓の疾患である。心臓に沈着するアミロイドにはwtTTRとvTTRがあり、後者はTTR遺伝子における多数の変異に関連する。アミロイドの蓄積は心室壁の厚みを増大させ、心臓の機能と生存に重大な影響を及ぼす。この疾患は主に60歳以上の男性にみられ、心エコー、シンチグラフィーおよび生検により診断され得る。診断ツールは広く普及しているにもかかわらず、現在のところ、その有病率は不明である。現在、診断を受けている患者は1%以下と推定されている。
【0081】
ATTRには様々な病期、すなわち早期、進行または後期発症の病期が存在する。本発明の医薬、すなわち併用療法は、病期早期のATTRを有する患者だけでなく、病期が進行または後期のATTRを有する患者の治療にも有用であると期待するのが賢明であろう。特に、上述したように、抗TTR抗体は、疾患組織からTTR線維を効率的に除去するため、疾患後期であっても、抗TTR抗体による治療後に疾患組織および各臓器(ATTR心筋症の場合は心臓)が回復することが期待できる。同時に、TTR四量体安定化剤は、新たな凝集TTR種の生成を防ぐため、患者の健康に有益な効果をもたらす可能性が高い。
【0082】
もちろん、アミロイド原性TTRの除去の促進が可能である、ミスフォールドしたTTRに対する任意の抗TTR抗体ならびに任意のTTR四量体安定化剤を組み合わせて本発明の医薬製品とすることができるが、組み合わせは以下のものが好ましい。
・抗体NI-301.37F1とタファミジス
・抗体NI-301.28B3とタファミジス
・抗体NI-301.12D3とタファミジス
・抗体14G8とタファミジス
・抗体18C5とタファミジス
・抗体9D5とタファミジス
・抗体5A1とタファミジス
・抗体6C1とタファミジス
・抗体XYとタファミジス
・抗体371Mとタファミジス
・抗体313Mとタファミジス
・抗体NI-301.37F1とAG10
・抗体NI-301.28B3とAG10
・抗体NI-301.12D3とAG10
・抗体14G8とAG10
・抗体18C5とAG10
・抗体9D5とAG10
・抗体5A1とAG10
・抗体6C1とAG10
・抗体XYとAG10
・抗体371MとAG10
・抗体313MとAG10
・抗体NI-301.37F1とジフルニサル
・抗体NI-301.37F1とジフルニサル
・抗体NI-301.28B3とジフルニサル
・抗体NI-301.12D3とジフルニサル
・抗体14G8とジフルニサル
・抗体18C5とジフルニサル
・抗体9D5とジフルニサル
・抗体5A1とジフルニサル
・抗体6C1とジフルニサル
・抗体XYとジフルニサル
・抗体371Mとジフルニサル
・抗体313Mとジフルニサル
・抗体NI-301.37F1とタファミジスおよびAG10
・抗体NI-301.28B3とタファミジスおよびAG10
・抗体NI-301.12D3とタファミジスおよびAG10
・抗体14G8とタファミジスおよびAG10
・抗体18C5とタファミジスおよびAG10
・抗体9D5とタファミジスおよびAG10
・抗体5A1とタファミジスおよびAG10
・抗体6C1とタファミジスおよびAG10
・抗体XYとタファミジスおよびAG10
・抗体371MとタファミジスおよびAG10
・抗体313MとタファミジスおよびAG10
【0083】
本発明の特に好ましい態様は、抗体NI-301.37F1とタファミジスの組み合わせである。
【0084】
もちろん次の各組み合わせはATTR全般の治療に用いることができるが、各組み合わせはATTR心筋症および/またはATTRポリニューロパチーの治療に用いることができる。
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体NI-301.37F1とタファミジス
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体NI-301.37F1とタファミジス
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体NI-301.28B3とタファミジス
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体NI-301.28B3とタファミジス
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体NI-301.12D3とタファミジス
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体NI-301.12D3とタファミジス
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体14G8とタファミジス
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体14G8とタファミジス
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体18C5とタファミジス
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体18C5とタファミジス
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体9D5とタファミジス
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体9D5とタファミジス
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体5A1とタファミジス
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体5A1とタファミジス
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体6C1とタファミジス
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体6C1とタファミジス
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体XYとタファミジス
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体XYとタファミジス
・ATTR心筋症の治療における使用のための371M抗体とタファミジス
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体371Mとタファミジス
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体313Mとタファミジス
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体313Mとタファミジス
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体NI-301.37F1とAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体NI-301.37F1とAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体NI-301.28B3とAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体NI-301.28B3とAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体NI-301.12D3とAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体NI-301.12D3とAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体14G8とAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体14G8とAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体18C5とAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体18C5とAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体9D5とAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体9D5とAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体5A1とAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体5A1とAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体6C1とAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体6C1とAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体XYとAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体XYとAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体371MとAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体371MとAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体313MとAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体313MとAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体NI-301.37F1とジフルニサル
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体NI-301.37F1とジフルニサル
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体NI-301.28B3とジフルニサル
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体NI-301.28B3とジフルニサル
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体NI-301.12D3とジフルニサル
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体NI-301.12D3とジフルニサル
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体14G8とジフルニサル
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体14G8とジフルニサル
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体18C5とジフルニサル
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体18C5とジフルニサル
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体9D5とジフルニサル
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体9D5とジフルニサル
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体5A1およびジフルニサル
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体5A1とジフルニサル
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体6C1とジフルニサル
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体6C1とジフルニサル
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体XYとジフルニサル
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体XYとジフルニサル
・ATTR心筋症の治療における使用のための371M抗体とジフルニサル
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための371M抗体とジフルニサル
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体313Mとジフルニサル
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体313Mとジフルニサル
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体NI-301.37F1とタファミジスおよびAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体NI-301.37F1とタファミジスおよびAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体NI-301.28B3とタファミジスおよびAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体NI-301.28B3とタファミジスおよびAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体NI-301.12D3とタファミジスおよびAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体NI-301.12D3とタファミジスおよびAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体14G8とタファミジスおよびAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体14G8とタファミジスおよびAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体18C5とタファミジスおよびAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体18C5とタファミジスおよびAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体9D5とタファミジスおよびAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体9D5とタファミジスおよびAG10
・ATTR心筋症の治療に用いるための抗体5A1とタファミジスおよびAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体5A1とタファミジスおよびAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体6C1とタファミジスおよびAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体6C1とタファミジスおよびAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体XYとタファミジスおよびAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体XYとタファミジスおよびAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体371MとタファミジスおよびAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための371M抗体とタファミジスおよびAG10
・ATTR心筋症の治療における使用のための抗体313MとタファミジスおよびAG10
・ATTRポリニューロパチーの治療における使用のための抗体313MとタファミジスおよびAG10
【0085】
本発明の特に好ましい態様は、ATTR心筋症の治療における使用のための抗体NI-301.37F1とタファミジスの組み合わせである。
【0086】
もちろん、上記の抗体について言及する場合、それらの完全ヒト抗体またはヒト化バージョンのそれぞれは、前記参照抗体とヒトミスフォールド/凝集TTRへの結合を競合する対応するヒト、ヒト化およびヒト様抗体を包含することを意味する。
【0087】
本明細書の本文中では、いくつかの文献を引用している。すべての引用文献の内容(背景技術の項および製造者の仕様書、説明書等を含む本願を通じて引用された参考文献、公開特許、公開特許出願を含む)は、参照によりここに明示的に組み込まれる;しかし、引用された文書が本発明に関して実際に先行技術となると認めることはない。
【0088】
より完全な理解は、以下の具体的な実施例を参照することによって得られ、これらの実施例は、説明の目的のみのために本明細書に提供され、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0089】
材料および方法
TTRタンパク質凝集体
ヒト血漿から精製して得たヒト野生型TTRタンパク質、ならびに組換え発現で得た野生型および変異型TTRタンパク質を用いて、ネイティブな立体構造とミスフォールド-凝集した立体構造の両方おいて、TTR標的抗体を同定した。ミスフォールド-凝集した立体構造は、Colon W. et al, Biochemistry, 31(1992), 8654-8660に記載されたものと同様の手順を用いて、酸性条件下でin vitroにて作製し、若干の修正を加えた。血漿精製wtTTRは、PBS緩衝液中で2mg/mLの濃度で溶液として調製された。
【0090】
抗TTR抗体
マウスキメラ抗体ch.NI-301.37F1は、国際出願WO2015/092077A1に開示されたヒト由来モノクローナル抗体NI-301.37F1を基にして作製された。このマウスキメラバリアントは、NI-301.37F1のヒト可変ドメインをマウス定常ドメインのバックボーンに含むように設計された。特に、ヒト由来モノクローナル抗体NI-301.37F1の可変重(VH)鎖および可変軽(VL)鎖のアミノ酸配列は、WO2015/092077A1に開示されており、
図1において、VH鎖については配列番号:10、53はそれぞれ、本願配列表の配列番号:2、6に、VL鎖については配列番号:12は本願配列表の配列番号:4に対応し、マウス重鎖定常ドメインはUniProt Entry P01863に、マウス軽鎖定数ドメインはUniProt Entry P01837に対応する。略言すれば、遺伝子合成を用いて、NI301.37F1のヒト可変重鎖をコードする配列に続くマウスIgG2a定常重鎖をコードする配列(mur.37F1H配列参照)を含む合成重鎖遺伝子、ならびにNI301.37F1のヒト可変鎖をコードする配列に続くマウス定常κ軽鎖(mur.37F1L参照)を含む合成軽鎖遺伝子を生成した。そして、これらの2遺伝子を用いて、適切な発現ベクターにサブクローニングし、CHO細胞にトランスフェクションした。Ch.NI-301.37F1抗体は、WO2015/092077A1に記載されるような、プロテインAカラムでのクロマトグラフィーによる抗体の精製を含む標準的なプロセスを用いて、細胞培養培地から精製された。
【0091】
TTR四量体安定化剤
タファミジス(Mw:308.1g/mol)は、10% EtOH、10% PS80、80% PBS pH7.4中で100μg/mL(325μM)に調製した。
【0092】
ジフルニサル(Mw:250.2g/mol)は、12.5% EtOH、12.5% PS80、75% PBS中で1.875mg/mLに調製した。
【0093】
AG10(Mw:292.3g/mol)は、10% EtOH、10% PS80、80% PBS pH7.4中で、以下のように200μg/mLに調製した。2mgのAG10を1mLの純エタノールに溶解し、1mLのポリソルベート80を加え、一定攪拌下にて8mLのPBSで段階的に希釈した。
【0094】
【0095】
ATTR動物モデル
患者由来アミロイド異種移植(PDAX)マウスは、WO2020/094883A1に開示される通りに作製し、使用した。
【0096】
ELISA
PBSバッファーpH7.4で10μg/mLの濃度に希釈したmis.WT-TTR凝集体を用いて、37℃で1時間、96ウェルマイクロプレートをコーティングした。PBS緩衝液中に2%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.1%tween-20を含むブロッキング緩衝液を用いて、室温(RT)で1時間、非特異的結合部位をブロッキングした。10μg/mLのタファミジスもしくはジフルニサルもしくは対応する濃度のビヒクルバッファーを加えたPBS中で、ヒトNI-301.37F1抗体を指示濃度に繰り返し希釈し、4℃で一晩インキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗ヒトIgG抗体を用いて、標準的な比色分析にてHRP活性を測定し、結合を測定した。
【0097】
EC50測定
データは、GraphPad社のPrismソフトウェアで解析した。EC50値は、log(agonist)対応答モデルを用いた個々のデータポイントの非線形回帰を使用して、可変の傾きで算定された。データフィッティングは、最小二乗回帰法で行った。
EC50 ELISAの試薬と装置:
【0098】
結合速度論アッセイ
PBS中にて、25℃で5分間、抗体NI-301.37F1を5μg/mLで抗ヒトキャプチャセンサーにロードした。可溶性WT-TTRアミロイド凝集体および四量体WT-TTRを用いて結合アッセイを実施した。ベースラインは1x kinetic bufferで3分間、結合は10分間、解離はさらに1x kinetic bufferで10分間測定し、すべてのステップは25℃で1000rpmで振盪しながら実施した。1x kinetic bufferで構成された参照サンプルも含まれていた。
【0099】
データはForteBio Data Analysis 8.2ソフトウェアで解析し、リファレンス減算ならびに関連と解離の間のステップ間補正を使用した。
【0100】
【0101】
実施例1:TTR四量体安定化剤存在下でのNI-301.37F1標的結合性の維持
TTR四量体安定剤の存在下での抗TTR抗体の結合親和性の評価については、WO2015/092077Alの実施例3において、直接ELISAおよびEC50定量が実質的に実施されている。ELISAプレートをアミロイドwtTTR凝集体を用いて37℃で1時間コーティングし、ブロッキング緩衝液(PBSpH7.4、1%BSAおよび0.1%ポリソルベート20)で室温で1時間ブロッキングした。
【0102】
タファミジスおよびジフルニサルをビヒクル(80% PBS pH7.4、10% エタノール、10% ポリソルベート80)に溶解し、タファミジスもしくはジフルニサルを最終濃度10μg/mLとなるように、または相当量のビヒクルで、抗体NI-301.37F1の希釈シリーズを調製した。10μg/mLの濃度は、1日80mgの用量でタファミジスにて治療した患者の最大ピーク濃度(~6μg/mL)を40%上回る。NI-301.37F1希釈シリーズをELISAプレートで4°Cで一晩インキュベートし、洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗ヒトIgG抗体および標準検出法を用いてNI-301.37F1を検出した。データは、GraphPad社のPrismソフトウェアで解析した。EC50値は、log(agonist)対応答モデルを用いた個々のデータポイントの非線形回帰を使用して、可変の傾きにて算出された。データフィッティングは、最小二乗回帰法で行った。
【0103】
その結果、抗体NI-301.37F1のアミロイド原性TTRへの結合は、タファミジスやジフルニサルなどのTTR安定化剤の存在下でも維持されることが明らかになった。
【0104】
患者由来アミロイド異種移植片(PDAX)マウスモデルを、WO2020/094883A1に開示されるように作製した。
【0105】
実施例2:NI-301.37F1-TTR安定化剤薬剤の組み合わせはin vivoで活性である
アミロイド原性TTRグラフトマウス(PDAXマウスモデル)に、マウスキメラNI-301.37F1バリアント(ch.NI-301.37F1)を10mg/kg i.v.(静脈内注射)または陰性対照として対応するアイソタイプ抗体を直ちに単回投与した。タファミジスおよびジフルニサルは、ビヒクル(80% PBS pH7.4、10% エタノール、10% ポリソルベート80)に溶解した。タファミジスは、毎日1mg/kg i.p.(腹腔内注射)で投与した。この投与量は,最大推奨臨床用量(MRHD)のラット換算値の33%に相当する。ジフルニサルは、TTRに対する親和性がより低く、排泄速度がより速いため、1日2回19mg/kg i.p.で,朝夕に投与した。
【0106】
線維移植および抗体投与の96時間後に動物を屠殺し、皮膚組織および付着したアミロイド原性TTR線維移植組織を採取した。移植組織を切開し、非連続の6つの切片を用いて、免疫組織化学(IHC)により移植組織中のアミロイド原性TTR線維の残存量を定量した。TTRのIHCは、市販のTTR抗体Dako A0002を用いて染色して行った。特に、免疫染色は、標準的な手順に従い、WO2020/094883A1に開示されるように実施した。移植片内のアミロイド原性TTR量を、自動画像分析プロセスを用いて定量化した。データは、アイソタイプ+ビヒクル群を基準とした群間比較のための一元配置分散分析およびSidak検定で分析した。
【0107】
その結果、ch.NI-301.37F1線維除去活性は、in vivoにおけるタファミジスおよびジフルニサルの共処理によっても維持され、タファミジスの存在下では、抗体によって誘導された異常なTTR線維のin vivoクリアランスを増強するとさえみえる顕著な効果を示し、ジフルニサルと共処理するとやや低いものの、有意にクリアランス率が向上した(
図2、実施例3)。
【0108】
実施例3.in vivoでの抗体を介した線維除去活性は活性Fcドメインを必要とする
アミロイド原性TTRグラフトマウス(PDAXマウスモデル)に、ch37F1抗体を0.15、0.5、1.5、5mg/kg i.v.もしくはFc不活性変異体ch37F1-ALAPGもしくはアイソタイプのコントロール抗体を5mg/kgで投与した。L234A、L235AおよびP329Gのアミノ酸置換の組み合わせは、抗体の安定性を維持しながら、FcgR1、2、3および4への結合および補体C1q結合を実質的に消失させるのに十分である(Lo et al., J. Biol. Chem. 292(2017), 3900-3908)。5日後、ATTR線維グラフトを採取し、実施例2で実施したようにIHCを用いてATTR線維の残存量を定量した。
図3に示すように、フィブリルグラフトおよび処理投与の5日後、ATTRフィブリルは、アイソタイプ処理マウスではグラフト領域の46%を、ch.NI-301.37F1処理マウスでは23.6%を、ch.NI-301.37F1-ALAPG処理マウスでは46.5%を覆っていた。ch.NI-301.37F1により観察された線維除去活性は、アイソタイプと比較して統計的に有意であった(p<0.001、1-way ANOVA and Dunnetts' multiple comparisons test)。一方、ch.NI-301.37F1-LALAPGを投与したマウスでは、アイソタイプを投与したマウスと比較して、線維除去活性は観察されなかった。これらの結果は、in vivoで貪食性免疫細胞による抗体を介した線維除去には、活性Fcドメインが必要であることを示している。
【0109】
実施例4.TTR安定化剤存在下での抗TTR抗体の結合速度論
4.1 バイオレイヤー干渉法(BLI)を用いたタファミジスおよびジフルニサル存在下でのNI-301.37F1結合選択性
BLIを用いて、TTR安定化剤の存在下および非存在下で、NI-301.37F1のTTR四量体への結合性を欠くことを調べた。陽性対照として、可溶性ATTRオリゴマーをこの実験に用いた。
その結果、NI-301.37F1は溶液中でTTR四量体と結合しないことが示され、これは従来の結果と一致した。さらに、NI-301.37F1はTTR-タファミジス複合体およびTTR-ジフルニサル複合体と結合しないことが示された(
図4A、4B)。
【0110】
4.2 BLIを用いたAG10およびジフルニサル存在下でのNI-301.37F1結合速度と選択性
BLIを用いて、5μg/mLのTTR安定化剤AG10およびジフルニサルの存在下、または対応するビヒクルバッファーの存在下で、ATTRオリゴマーおよびTTR四量体に対するNI-301.37F1の結合性を評価した。
その結果、溶液中でのATTRオリゴマーに対するNI-301.37F1の結合は、AG10またはジフルニサルの存在下または非存在下でほとんど同等であることが示された(
図5A、5B)。
【0111】
結論
NI-301.37F1は、TTR安定化剤であるタファミジス、ジフルニサルおよびAG10の存在下または非存在下で、ATTRアミロイドと同様の親和性をもって結合する。
同様に、TTR四量体への結合性がないことにより特徴付けられるNI-301.37F1の結合選択性は、TTR安定化剤の存在下でも維持される。
【配列表】
【国際調査報告】