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特表2023-525828繊維インプラントを使用するエラスチン形成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-19
(54)【発明の名称】繊維インプラントを使用するエラスチン形成
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/14 20060101AFI20230612BHJP
   A61F 2/06 20130101ALI20230612BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20230612BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20230612BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20230612BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20230612BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20230612BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
A61L27/14
A61F2/06
A61L27/58
A61L27/54
A61L27/50
A61L31/04
A61L31/14 500
A61L31/16
A61L31/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569003
(86)(22)【出願日】2021-05-14
(85)【翻訳文提出日】2023-01-12
(86)【国際出願番号】 EP2021062891
(87)【国際公開番号】W WO2021229083
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】2025593
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
2.Dacron
(71)【出願人】
【識別番号】521435950
【氏名又は名称】ステンティット ベスローテン フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】Stentit BV
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100145791
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 志麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100227008
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 沙央里
(72)【発明者】
【氏名】ソル カブレラ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】サンダース,バート
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB13
4C081AC09
4C081AC10
4C081BA12
4C081BA13
4C081BA16
4C081BB04
4C081CE02
4C081DA02
4C081DA03
4C081DA04
4C081DC03
4C081DC04
4C097AA15
4C097AA27
4C097BB01
4C097DD01
4C097DD05
4C097DD12
4C097DD13
(57)【要約】
本発明は、エラスチンを再建するための心血管繊維インプラントであって、インプラントが、ネットワークを形成する繊維で構成され、前記ネットワークに含まれる繊維が、150μm以下の繊維径を有する、インプラントに関する。本発明はさらに、繊維インプラントの使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラスチンを再建するための心血管繊維インプラントであって、
前記インプラントが、ネットワークを形成する繊維で構成され、
前記ネットワークに含まれる前記繊維が、150μm以下の繊維径を有することを特徴とする、心血管繊維インプラント。
【請求項2】
前記繊維インプラントが、少なくとも部分的に生体吸収性である、請求項1に記載の繊維インプラント。
【請求項3】
前記繊維インプラントが、薬物および/または接着成分を含む、請求項1または2に記載の繊維インプラント。
【請求項4】
繊維が、被覆層で被覆され、前記被覆層が、薬物および/または接着成分を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の繊維インプラント。
【請求項5】
前記繊維インプラントが、細胞の接着、遊走、浸潤、増殖、分化(形質転換)、組織合成、およびそれらの組合せを可能にする繊維および/または細孔を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の繊維インプラント。
【請求項6】
前記繊維インプラントが、複数の繊維層から構成され、前記複数の繊維層が、少なくとも第1の繊維層および第2の繊維層を含み、前記第1の繊維層が、前記第2の繊維層と区別される、請求項1から5のいずれか一項に記載の繊維インプラント。
【請求項7】
第1の繊維層が、繊維径、孔径、密度、剛性、繊維構成、材料組成、薬物組成、接着成分、分解速度、およびそれらの組合せからなる群から選択されるパラメータにおいて、第2の繊維層と区別される、請求項6に記載の繊維インプラント。
【請求項8】
前記繊維インプラントが、
i)平面形状、
ii)管形状
を含み、前記管形状が、
a.弁補綴物として使用される弁、
b.閉鎖デバイス、塞栓デバイスまたは閉塞デバイスとして使用される膜、塞栓または膨潤成分
を任意に含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の繊維インプラント。
【請求項9】
前記繊維インプラントが、エラスチンに加えて、平滑筋層および/または内皮層を再建することによって、血管中膜および/または内膜層を少なくとも部分的に再構築することができる、請求項1から8のいずれか一項に記載の繊維インプラント。
【請求項10】
請求項8に記載の繊維インプラントの使用であって、平面形状の前記繊維インプラントが、パッチとして使用される、使用。
【請求項11】
請求項8に記載の繊維インプラントの使用であって、管形状の前記繊維インプラントが、スキャフォールド、ステント、被覆ステント、ステントグラフト、グラフト、バイパスグラフト、瘻孔またはシャントとして使用される、使用。
【請求項12】
以下の組合せのいずれかで宿主に移植するための、請求項1から9のいずれか一項に記載の繊維インプラントの使用であって、
前記繊維インプラントを、少なくとも部分的に
i)血流と直接接触させる、および/または
ii)健常ネイティブ組織、傷害ネイティブ組織、損傷ネイティブ組織、罹患ネイティブ組織、およびそれらの組合せからなる群から選択されるネイティブ組織と直接接触させる:
ただし、前記使用が、前記繊維インプラントの前記宿主への導入を含まない、使用。
【請求項13】
繊維インプラントが、追加の支持または送達デバイスに取り付けられている、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
使用中の繊維インプラントが、力学的負荷状態に曝露され、前記力学的負荷状態が、静力学的負荷状態および/または動力学的負荷状態であり、前記力学的負荷状態が、ずり応力、予応力、予歪、残留応力、伸展、圧縮、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項12または13に記載の使用。
【請求項15】
エラスチンを再建するための、請求項1から9のいずれか一項に記載の心血管繊維インプラントの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、再生医療の分野、さらに詳細にはエラスチンを再建することを目的とした繊維インプラントを使用するin-situ組織工学に関する。
【背景技術】
【0002】
エラスチン
エラスチンは、レジリエンスおよび弾性を提供する重要な細胞外マトリックス(ECM)成分である。エラスチンは、肺、皮膚および靭帯などの多くの動的組織および器官で見ることができるが、血管や心臓弁などの心血管組織でも見ることができる。力学的機能を提供するほかに、エラスチンは、生物学的保護機能も有し、生体力学的トランスダクションを介して細胞応答を調節して、ホメオスタシスを維持する。
【0003】
エラスチンは、繊維芽細胞、内皮細胞(EC)、軟骨細胞および平滑筋細胞(SMC)などの合成細胞が産生することができるトロポエラスチンと呼ばれる架橋モノマーから構成されるタンパク質である。エラスチンは、後期胎児、新生児および生後早期成長中、圧倒的に産生され、思春期後にほぼ完全に止まる。エラスチンの形成は、弾性繊維形成としてももっとよく知られている。
【0004】
健常組織において、エラスチンはゆっくり分解し、近似半減期が70年である。しかし、アテローム性動脈硬化、動脈瘤形成、血管の硬化および石灰化など遺伝性心血管疾患と後天性心血管疾患の両方が、エラスチンまたは弾性の進行性消失に関連し、生命維持器官を損なうおそれがあり、高血圧、脳卒中、虚血、内出血または弁不全をもたらす。
【0005】
エラスチンを組み込み、またはその生合成を刺激することができる心血管インプラントの開発は、これらの代替物の完全性および機能性を確実にするための興味深い手法になる。
【0006】
平滑筋細胞
SMCは、血管、消化管および呼吸器系などの器官に存在する特殊な収縮細胞である。生理的条件下で、SMCは、血管の収縮および拡張を制御する静止収縮表現型を有する。しかし、病理学的状態下で、それらは、細胞増殖およびECM産生の増加をもたらす非収縮および合成表現型になる。
【0007】
ネイティブ血管において、SMCは、弾性層板間または繊維間に埋もれている。この構造の保護的役割は、SMCの応答の調節し、それらの表現型モジュレーション、増殖および遊走を制御するのに重要である。ECM成分の産生は、エラスチンを通過するシグナルに依存する。したがって、弾性繊維の損傷は、SMCの血管の最内層への遊走および増殖をもたらし、血管狭窄に至るおそれがある。このSMC応答を妨げるために、免疫抑制薬を使用して、細胞の代謝、成長および増殖に作用して、新生内膜肥厚を抑制することができる。それにもかかわらず、薬物の一時的効果は、晩期閉塞をもたらす可能性がある。
【0008】
エラスチン損傷を適切に克服することを可能にする技法は、現在まで存在しない。エラスチンは、若年後の人体によってはもはや自然に合成されないので、エラスチンを組み込み、またはSMCを始動させて、その生合成を刺激することができる心血管インプラントの開発が、有望な長期転帰を伴って内膜肥厚を予防する興味深い手法になる。ここで、エラスチンの回復は、SMCがエラスチンの非存在下における増殖および非収縮状態からエラスチンの存在下における静止および収縮状態に達する表現型転換を誘導することができる(図1)。
【0009】
外科用インプラント
心血管疾患の治療では、現在の外科的インターベンションは、閉塞血管をバイパスするためにグラフトの使用を必要とする。それらのネイティブの性質のために、好ましいグラフトとは、患者の身体のどこか他のところからまたは別のドナーから摘出された血管である。そのような自家インプラントの長期開存率も、エラスチン含有量に関連する。エラスチン含有量に富む左内胸動脈(LIMA)で作製されたグラフトが、エラスチン含有量が低い浅大腿動脈(SFA)と比べて優れた臨床成績を有することは公知である。そのような生物学的グラフトが入手可能でないとき、例えばTeflonおよびDacronから作製された合成グラフトを使用することができる。それにもかかわらず、合成インプラントの長期機能性は、再閉塞が相変わらず重大な故障モード、特に小口径応用にとって重大な故障モードであるので、それほど簡単でない。
【0010】
血管内インプラント
一方、閉塞性血管疾患を治療するための最小侵襲技法は、バルーンおよびステントを使用するものである。これらの技法は、外科手技なしに閉塞を直ちに緩和し、血液の通過を回復させる効果的な方式である。しかし、それらの使用は、血管組織損傷およびSMC活性化を引き起こす可能性があり、ステント内再狭窄が生じる。したがって、薬物は、ステントおよびバルーンに組み込まれて、SMC活性化を阻害する。それにもかかわらず、薬物の減弱効果は、弾性繊維の根底にある損傷を解決することができず、やはり晩期ステント内再狭窄になるおそれがある。
【0011】
in vitro組織工学
組織工学血管は、ネイティブ組織と同様の特性を有する応答性の生体導管を設計するのに魅力的な代替物である。このことによって、患者またはドナーからのネイティブ血管が存在しない場合に生存能、利用可能性および適合性をもたらすことができる。この概念は、新組織形成の誘導に加えて、細胞接着、遊走、分化および増殖を支持する三次元の生体または合成スキャフォールドを使用することから成り立つ。
【0012】
合成細胞の活性化は、必要不可欠なECM成分を再建するための鍵である。従来の組織培養皿で培養されたSMCがエラスチンを分泌できることは公知である。SMCの静的伸展によって、エラスチンの形成と架橋が両方刺激される。さらに、あるレベルのずり応力へのSMCの曝露によってエラスチンが形成されているか否かを判定することができる。したがって、三次元管状構造のエラスチンのin vitroにおける創造は、播種されたSMCがエラスチンを分泌するように、スキャフォールドが適切な化学的性質および刺激を確実にできることを条件として、探求することができる。この手法は、患者においてバイパスまたは介在物としてその後外科的に移植することができる重要な組織成分が培養容器中に存在することを確実にする可能性をもたらすことができる。
【0013】
in situ組織工学
in situ組織工学血管は、内在性細胞をin-vivoでスキャフォールドに動員するために人体の再生能を使用することを目標とする。これは、スキャフォールドを、単球やマクロファージなどの免疫細胞が細胞応答および新組織形成を操縦することができる一連の炎症性事象に曝露する。インプラントをカプセル化し、慢性炎症を生じる炎症促進性M1型、またはインプラントを再吸収し、ECM成分の合成または分解をもたらすSMC活性化を可能にする治癒促進性M2型へのマクロファージの極性化は、またしてもスキャフォールドの構造に依存する。したがって、三次元管状構造のエラスチンのin-vivoにおける形成は、1)患者からのSMCなどの合成細胞がスキャフォールドに到達することができること、2)合成細胞が十分なエラスチンを分泌するように、スキャフォールドが適切な化学的性質および刺激を確実にできることを条件として、探求することができる。この手法は、外科的に移植されたスキャフォールドを患者自身の細胞によって創造された新しい血管によって徐々に置き換える可能性をもたらすことができる。
【0014】
最新の最小侵襲技法は、ネイティブ動脈を除去することなく閉塞を緩和することを目標とし、外科的技法は、動脈のセグメントを置き換えまたはバイパスすることを目標とした。ステントに取り付けられたスキャフォールドやグラフトなど利用可能で開発中のこれらの概念の組合せによって、新しい可能性が可能になることができ、血管補綴物の最小侵襲移植の探求を可能にすることができる。しかし、これらの技法に影響を及ぼす複数の因子は、最適以下の治療をもたらす可能性がある。通常のステントの使用は、動脈の弾性に一時的にまたは永久に影響を及ぼし、移植されたセグメントの機能性および長期開存性の観点から望ましくない結果を招く。ステント留置後の増殖応答を減弱する薬物の使用は、in-situスキャフォールドの再構築能力を阻害する可能性がある。
【0015】
本発明は、宿主細胞が繊維インプラントと相互作用して、in situ組織工学手法を使用するエラスチンの合成を始動させる、心血管応用のための繊維インプラントを開示することによって当技術を前進させる。
【発明の概要】
【0016】
本発明は、エラスチンなどの有用なECM成分の再建を可能にする心血管応用のための繊維インプラントを提供する。繊維インプラントは、直径がマイクロメートルおよびナノメートルの範囲の繊維から構成される。これらの繊維が積み重なったネットワークを形成することで、宿主細胞が接着し、エラスチンを合成することができる。
【0017】
一変形では、宿主細胞浸潤を可能にし、もしくは予防し、かつ/または細胞シグナル伝達を導くように、繊維ネットワークの孔径を制御することができる。さらにもう一つの変形では、繊維インプラントが、生体吸収性ポリマーで作製されている。もう一つの変形では、繊維インプラントが、少なくとも部分的に薬物を含むことができる。もう一つの変形では、繊維インプラントが、予め延伸され、かつ/または残留応力を維持する。もう一つの変形では、ネットワークのモルフォロジーが、ランダムなもしくは整列された繊維構成、またはそれらの組合せを含む。もう一つの変形では、繊維インプラントの剛性は、エラスチン形成が可能になるように最適化された。もう一つの変形では、繊維インプラントは、動力学的刺激に曝露される。
【0018】
一実施形態において、繊維インプラントの少なくとも一部分を宿主組織と直接接触させ、宿主組織を損傷させるおそれがある、インプラントの宿主組織に対する明確な位置決めがさらに開示される。別の実施形態において、繊維インプラントは、免疫応答がホメオスタシス状態にあるレシピエントに適用される。それにもかかわらず、別の例では、実施形態は、ずり応力に曝露されている血流と直接接触している。さらに、実施形態は、繊維インプラントが浸透圧および勾配を制御できることを記載している。
【0019】
ある実施形態を使用して、既存の構造を部分的に置き換えることができ、または修復することができ、別の実施形態を使用して、新しい構造を創造することができ、または既存の構造を完全に置き換えることができる、応用方法も開示される。いくつかの実施形態において、繊維インプラントは、ステント、スキャフォールド、グラフトまたはシャントとして作用することができ、管腔内エラスチンが形成されうる管腔内または介在物として位置づけることができる、管状導管である。別の実施形態において、管状の繊維インプラントは、弁またはメッシュを含み、追加の機能性をもたらし、または塞栓もしくは閉塞デバイスとして作用することができる。さらに別の実施形態において、繊維インプラントは、身体部分の内部またはその上でエラスチンを回復させるためのパッチである。
【0020】
さらに、これらの繊維インプラントの使用のための臨床的応用が開示される。いくつかの実施形態には、バルーン血管形成術、粥腫切除術、内膜下バイパス術、動脈瘤修復などの血管内適用のためのまたは閉塞デバイスとしての使用が記載されている。さらに別の実施形態には、外科的応用のための使用が記載されている。一実施形態には、新生内膜肥厚および/またはアテローム性動脈硬化などの疾患進行を阻害するように管腔内エラスチンを修復する繊維インプラントの使用が開示される。別の実施形態は、血行力学的負荷を受け、動脈瘤のある血管の破裂を予防し、血管コンプライアンスを回復させるためにエラスチンによる中膜の再構築を利用する。さらに別の実施形態において、心室または心房中隔欠損において、中隔の変形へのコンプライアンスを軽減し、心臓壁を回復させ、弁小葉を修復し、または動脈瘤の外部補強をもたらすためにエラスチンを回復させることができる。
【0021】
さらに、エラスチン形成インプラントの生成およびそれらのインプラントを送達デバイスの追加の支持体と組み合わせる可能性を開示する生成方法が記載されている。他の実施形態は、エラスチン形成繊維ネットワークを標的の身体部分上および/または中に直接に生成する方法に関する。繊維インプラントのエラスチン形成能力を試験および評価する方式も本明細書で提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】図形表記。エラスチンとSMCとの相互作用が細胞表現型をエラスチンの非存在下における増殖および非収縮状態からエラスチンの存在下における静止および収縮状態に如何に転換することができるかを示す図である。
図2】エラスチン形成を誘導することができる繊維インプラントのネットワークの例を示す図である。
図3】移植3か月後に管腔内エラスチン形成を示す、ウサギの末梢動脈の管腔の内部に置かれた繊維インプラントの例を示す図である。
図4】ウサギの末梢動脈の管腔の内部に置かれた2つの繊維インプラントの例を示す図である。上図の二層インプラントは、3か月後に顕著なエラスチン形成を示さなかったが、下図の単層インプラントは示した。
図5】管腔内の繊維インプラントからのデータ。管腔のエラスチン形成と共局在する管腔の平滑筋細胞遊走を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書において別段の定義がない限り、本発明に関連して使用される科学技術用語は、当業者によって通常理解される意味を有するものとする。さらに、文脈によってそうでないことが必要とされない限り、単数の用語は、複数を含むものとし、複数の用語は、単数を含むものとする。開示された方法および技法は、一般的に、当技術分野において周知であり、別段の指示がない限り本明細書を通して述べられているさまざまな一般参考文献およびより特定の参考文献に記載されている従来法に従って行われる。
【0024】
本明細書では用語「エラスチン」は、ECM成分エラスチンに関する。それは、その前駆体形もトロポエラスチンとして、その成熟形もトロポエラスチンの架橋によって形成されたタンパク質として指す。それは、弾性繊維、およびネットワーク形成フェネストラシートまたはラメラとしてそれらの配列も含む。
【0025】
本明細書では用語「再生する」、「回復させる」、「再構築する」、「再建する」、「更新する」、「修復する」は、新しい生物学的成分を形成する能力に関する。エラスチンの文脈の中では、新しいエラスチンを創造する能力を指す。
【0026】
本明細書では用語「合成細胞」は、タンパク質、ECM成分または組織を合成する能力を有する生物学的細胞を指す。これらは、例えば限定されるものではないが単球やマクロファージなどの繊維芽細胞、繊維細胞、SMC、EC、間葉系幹細胞および免疫細胞とすることができる。
【0027】
本明細書では用語「生体吸収性」、「生体吸収性」、「生分解性」、「生分解」は、材料が身体内で崩壊し、身体から除去される能力に関する。
【0028】
本明細書では用語「管状」は、円柱の近似形状であり、またはそれに関する。
【0029】
「内膜層」(または内膜(tunica intimaまたはintima))は、未修改変の健康な血管の最内層を指す。それは、1層のECで構成され、内弾性板によって支持され、ECが血流と直接接触している。
【0030】
「中膜層」(または中膜(tunica mediaまたはmedia))は、血管の中間層を指す。それは、SMCおよび弾性組織で構成され、内側の内膜と外側の外膜の間にある。
【0031】
用語「レシピエント」、「患者」、「宿主」、「対象」は、本明細書において同義に使用され、生物;例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ブタ、雌ウシ、ヤギ、ネコ、ウサギ、ラット、モルモット、ミニブタ、ハムスター、ウマ、サル、ヒツジまたは他の非ヒト哺乳類を含めて哺乳類;ならびに例えばトリ(例えば、ニワトリまたはアヒル)、両生類、魚などの非哺乳類脊椎動物および非哺乳類無脊椎動物を含めて非哺乳類を包含するが、これらに限定されない。
【0032】
本発明は、エラスチンを再構築する能力を有する、心血管応用のための生体吸収性繊維インプラントを記載する。インプラントは、マイクロメートルおよび/またはナノメートルの繊維から構成され、三次元繊維ネットワークを形成する。間隔をあけて繊維を配置し、複数の相互接続細孔をネットワークの周囲長および厚さ全体にわたって創造し、宿主細胞に、繊維に付着し、ネットワーク上および/または中に遊走する能力をもたらすことができる。そのような宿主細胞は、インプラントに応答する免疫細胞とすることができる。ネットワークの繊維がマイクロメートルおよび/またはナノメートルのスケールであるので、免疫細胞を誘発させて、好ましい治癒促進性免疫応答を開始することができる。繊維インプラントに付着する合成細胞を誘発させて、エラスチンを含むインプラント中および/または上に新しい生物学的成分を合成することができる。宿主細胞を誘発させて、エラスチンを形成するために、繊維インプラントの特性を制御することが基本となる。弾性繊維形成に影響する特性を規定するパラメータを以下に記載する。
【0033】
作製方法
エラスチンの繊維インプラントによるin situ組織工学は、以下にさらに開示されるいくつかの属性が引き金となる可能性があり、それらの属性は、個別にまたは組合せで作用し、したがってエラスチン形成の誘導に有利に作用することができる。
【0034】
繊維
繊維サイズは、免疫細胞にも、組織産生細胞にも影響することができる。より小さい繊維に対して免疫細胞は、治癒促進性(M2型)応答を開始する可能性があり、より大きいサイズの繊維が、より炎症促進性(M1型)の応答をもたらす可能性がある。治癒促進性または炎症促進性応答の発生は、エラスチンを回復させることができる再生応答またはインプラントが繊維性カプセル化を受ける慢性炎症応答を誘導することができる合成細胞の挙動に間接的効果を及ぼすことができる。
【0035】
免疫応答の開始にかかわらず、繊維サイズも、直接接触する合成細胞の挙動に影響を及ぼす可能性があり、繊維サイズに応じて再生または繊維性応答に転換することができる。
【0036】
使用される産生設定および材料に応じて、一実施形態は、1ナノメートル(nm)~500マイクロメートル(μm)の範囲およびその間のいずれかの繊維径を有する繊維を有する。エラスチン形成を促進する治癒促進性応答を可能にするために、繊維は、500μm以下、250μm以下、150μm以下、100μm以下、50μm以下、25μm以下、15μm以下、10μm以下、9μm以下、8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、4μm以下、3μm以下、2μm以下、1μm以下、500nm以下、250nm以下、150nm以下、100nm以下、50nm以下、25nm以下、15nm以下、10nm以下、9nm以下、8nm以下、7nm以下、6nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、2nm以下、または1nm以下の直径を有することができる。
【0037】
別の実施形態において、繊維は、好ましくは例えば1nm~500μm、1nm~250μm、1nm~150μm、1nm~100μm、1nm~50μm、1nm~25μm、1nm~15μm、2nm~15μm、3nm~15μm、4nm~15μm、5nm~15μm、6nm~15μm、7nm~15μm、8nm~15μm、9nm~15μm、10nm~15μm、15nm~15μm、25nm~15μm、50nm~15μm、100nm~15μm、150nm~15μm、250nm~15μm、500nm~15μm、500nm~10μm、500nm~9μm、500nm~8μm、500nm~7μm、500nm~6μm、500nm~5μm、500nm~4μm、500nm~3μm、1μm~3μmの範囲の繊維径を有する。
【0038】
細孔
繊維距離および繊維径を調整することによって、孔径を制御することができる。使用される産生設定および材料に応じて、細孔は、メソメートル、マクロメートル、マイクロメートルまたはナノメートルの範囲またはそれらの組合せとすることができる。孔径は、細胞浸潤および細胞シグナル伝達に効果を及ぼすことができ、それらは共にエラスチン形成に影響することができる。このように、生物学的組織または組織成分を産生することができる細胞で、管状の三次元繊維ネットワークを満たすことができる。
【0039】
細胞浸潤
一実施形態において、宿主細胞は、繊維に付着し、表面にとどまる。別の実施形態において、孔径は、宿主細胞がネットワークに浸潤するのに十分大きい。孔径を制御することによって、インプラントを通過する細胞遊走を促進し、または阻害することができる。このように、細胞は、組織成分を繊維インプラント上および/または繊維インプラント内に産生することができる。したがって、エラスチンなどの組織成分の産生は、繊維インプラントのある部分または位置で制御することができる。
【0040】
エラスチン形成を促進する細胞浸潤を可能にするために、一実施形態は、例えば1nm以上、10nm以上、100nm以上、150nm以上、250nm以上、500nm以上、750nm以上、1μm以上、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、8μm以上、9μm以上、10μm以上、15μm以上、25μm以上、50μm以上、100μm以上、150μm以上、250μm以上、500μm以上、1000μm以上、1500μm以上、2500μm以上、5000μm以上、または10000μm以上の孔径の細孔を有する。
【0041】
細胞シグナル伝達
孔径は、合成細胞を始動させて、エラスチンを産生する細胞シグナル伝達に効果を及ぼすことができる。その始動は、例えばそのような細孔の湾曲に関連づけることができ、または細孔は、細胞が個々の繊維に付着するよりも複数の繊維に伸びるのに十分小さいからである。免疫細胞の場合、同様の機序により、治癒促進性M2免疫応答を開始することができる。
【0042】
エラスチン形成を促進する細胞シグナル伝達を可能にするために、別の実施形態は、例えば10000μm以下、5000μm以下、2500μm以下、1500μm以下、1000μm以下、500μm以下、250μm以下、150μm以下、100μm以下、50μm以下、25μm以下、15μm以下、10μm以下、9μm以下、8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、4μm以下、3μm以下、2μm以下、1μm以下、750nm以下、500nm以下、250nm以下、150nm以下、100nm以下、10nm以下、または1nm以下の孔径の細孔を有する。
【0043】
ずり応力
一例として、実施形態をずり応力に曝露する。ずり応力は、エラスチン形成を始動させることができる細胞に力学的調節効果を及ぼすことができる。血流の近くの合成細胞は、ネットワークの内部に位置する細胞とは異なって応答する。血流によるずり応力に曝露された合成細胞は、エラスチンを合成し、それら自体を沈着した細胞外エラスチン中にカプセル化する。時間をかけて、細胞外エラスチンは、さらに成熟し、近くの細胞から形成されたエラスチンと混ぜ合わせ、エラスチン層を繊維インプラント上および/または中に創造することができる。
【0044】
ずり応力のレベルは、インプラントの厚さによって制御することができる。例示的な一実施形態において、管状繊維構造の厚さの増加は、管腔内径の低減および血流速度の上昇を引き起こすおそれがあり、ずり応力が上昇する。逆に、インプラントの厚さの低減は、ずり応力の低下を招くことができる。
【0045】
繊維ネットワークの内部の細胞は、主に血流から遮蔽され、したがってより低いずり応力に曝露され、外側表面の細胞がずり応力に曝露される。別の例示的な実施形態において、ずり応力は、孔径および/または繊維径を調整することにより繊維インプラントの密度を下げることによって、ネットワーク内でさらに改善される。
【0046】
一実施形態において、繊維インプラントは、フロー乱流を予防し、代わりにずり応力の低下を引き起こす均一なフロープロファイルをもたらし、エラスチン形成を促進する、血流に直面する均質な目の細かいネットワークを有することができる。このように、ずり応力に曝露されたインプラントの長さに沿った細胞は、均一なエラスチン層を形成することができる。乱流プロファイルから均一なフロープロファイルへの移行は、ネットワークを精緻化することによって制御することができる。
【0047】
材料
繊維インプラントを作製する材料の選択は、エラスチン形成に効果を及ぼすことができる。免疫細胞が異物インプラントを除去することができる場合、分解性物体は、治癒促進性M2応答を開始し、エラスチン形成をもたらすことができ、一方取り除くことができない永久インプラントへの応答は、炎症促進性M1応答に至るおそれがある。
【0048】
材料組成
エラスチン形成を促進するために、一実施形態は、下記を含むが、これらに限定されない材料で作製された繊維から構成される:
・ 生体吸収性ポリマー(ポリ(L-ラクチド)、ポリ(D-ラクチド)、ポリ(D,L-ラクチド)を含めてポリ乳酸(PLA)、およびポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(エステルアミド)(PEA)、ポリウレタン、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリフマレート、ならびにそれらのコポリマーなど)、
・ 非生体吸収性ポリマー(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアリールエーテルケトン、ナイロン、フッ素化エチレンプロピレン、ポリブトエステル、またはそれらのコポリマーなど)、
・ 生物学的成分(ヒアルロナン、コラーゲン、トロポエラスチン、エラスチン、フィブリン、ゼラチン、キトサン、アルギネート、アロエ/ペクチン、セルロース、または自家、アレルゲンもしくは異種起源の組織に由来する他の生物学的材料など)、
・ またはそれらの組合せ。
【0049】
ポリマーは、D-アイソフォーム、L-アイソフォーム、または両方の混合物とすることができる。複数のポリマーおよびコポリマーを、さまざまな比に混合およびブレンドすることができる。ポリマー繊維を架橋することができる。いくつかの実施形態は、超分子ポリマー、連結機構または部分を含めて超分子化学を含むことができる。いくつかの実施形態は、形状記憶ポリマーを含むことができる。
【0050】
分解速度
材料が生分解性である場合でさえ、分解の速度は、エラスチン形成に影響することができる。ゆっくり分解する材料は、永久インプラントとして同様の免疫応答を始動させることができる。速く分解する材料は、エラスチンを形成することができる前でさえ分解するおそれがある。分解を受けながら、材料は、たいてい最初にその平均分子量を減少させ、次に力学的特性の喪失、次にポリマー質量の喪失が続く。したがって、一実施形態は、分解速度を最適化して、エラスチン形成を促進する。別の実施形態は、より速いもしくはより遅い生分解プロファイルまたはそれらの組合せを有する材料を使用する。また、一変形では、実施形態は、エラスチン形成を可能にする生分解性材料および非分解性材料から一部構成される。
【0051】
エラスチン形成を促進するために、インプラントは、体内に十分な時間残存するべきである。したがって、例示的な一実施形態において、繊維インプラントは、例えば1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、または4か月、5か月、6か月後に、その初期平均分子量の50%を失う。例示的な一変形では、実施形態は、1か月後、2か月後、3か月後、6か月後、9か月後、12か月後、18か月後に、初期力学的特性の50%を失う。さらに他の例示的な一変形では、実施形態は、3か月後、または6か月後、または9か月後、または12か月後、または18か月後、または24か月後、または30か月後、または36か月後、または36か月超後に、50%の初期ポリマー質量損失を受ける。
【0052】
さらに、インプラントの力学的特性は、分解中に影響される可能性がある。剛性のインプラントは、力学的問題点に答えて軟化することができる。これによって、エラスチン産生に至る細胞への力学的トランスダクション効果をもたらすことが可能になる。
【0053】
移植部位
繊維インプラントを体内に留置することによって、局所組織損傷をもたらすことができ、それによって存在している合成細胞が活性化される。これによって、例示的な一実施形態において、合成細胞は、1)吻合、2)隣接組織、3)血流、または4)選択肢1、2および/もしくは3の組合せから、繊維インプラントの中または上に遊走する。さらに別の実施形態において、実施形態と接触している内皮細胞、または単球およびマクロファージなどの異なる細胞型は、合成細胞に分化形質転換する。
【0054】
組織損傷
エラスチン形成を促進するための組織損傷のレベルは、移植手順の前、最中、または後に制御および誘導することができる。損傷の誘導は、インターベンションの結果とすることができ、またはインターベンションに加えて意図的に加え、誘導することができる。繊維インプラントは、そのような活性化された合成細胞が組織産生およびエラスチン形成の供給源でありうるので、それらの浸潤によって利益を得ることができる。一実施形態において、繊維インプラントは、組織損傷の近くに移植される。
【0055】
組織損傷は、例えばバルーン血管形成、ステント留置、粥腫切除、レーザー焼灼、血管内超音波、内膜下通路、または吻合、シャント、バイパスもしくはMIDCAB手順などの他の外科的インターベンション(これらに限定されない)などの血管内治療によって誘導することができる。
【0056】
薬物
一実施形態において、薬物は、エラスチン形成を操縦するために組み込まれる。このように、合成細胞は、例えばそれらの代謝、成長、増殖、遊走に影響することによって影響を受けることができる。
【0057】
別の実施形態において、薬物は、ネットワーク全体にわたってまたは特定の表面上に濃度勾配を伴って組み込まれる。さらに別の実施形態において、薬物は、繊維の内部に組み込まれ、および/または繊維を被覆している。別の実施形態において、薬物は、ネットワークの細孔を薬物含入充填剤、例えば薬物負荷ヒドロゲルで満たすことによって組み込まれる。
【0058】
薬物は、異なる機能を有することができ、免疫抑制剤、抗増殖剤、遊走阻害剤、抗炎症剤、抗血栓剤および/または治癒促進剤として働く。所望の効果に応じて、薬物または薬物の組合せは、細胞遊走、細胞増殖、細胞分化を予防し、血管壁への損傷時に炎症応答を制限し、または血管治癒を刺激するために組み込むことができる。薬物は、実質的にいかなる細胞型または組織型にも、例えばSMCや繊維芽細胞などの合成細胞型だけでなく、内皮または免疫細胞にも作用することができる。
【0059】
免疫抑制薬の例には、シロリムス、タクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、M-プレドニゾロン、デキサメタゾン、シクロスポリン、ミコフェノール酸、ミゾリビン、インターフェロン-1b、トラニラスト、レフルノミド、マイオリムス、ノボリムス、ピメクロリムスおよびバイオリムスA9がありうる。
【0060】
抗増殖薬の例には、タキソール(パクリタキセル)、アクチノマイシン、メトトレキセート、アンギオペプチン、ビンクリスチン、マイトマイシン、スタチン、c-mycアンチセンス、アボットABT-578、RestenASE、2-クロロ-デオキシアデノシン、BCP678、タキソール誘導体(QP-2)およびPCNAリボザイムがありうる。
【0061】
遊走阻害剤の例には、バチマスタット、プロリルヒドロキシラーゼ阻害剤、ハロフギノン、C-プロテイナーゼ阻害剤、プロブコールおよびメタロプロテアーゼ阻害剤がありうる。
【0062】
治癒を向上させる薬物の例には、BCP671、VEGF、17-β-エストラジオール、NOドナー化合物、EPC抗体、TK-ase阻害剤、HMG CoAレダクターゼ阻害剤、Biorest、MCP-1、SDF-1-α、IL-4、IL-8、MIP-1β、TGF-β、bFGF、PDGF、MMP、TIMP、IL-12、IL-6、IL-1β、TNF-α、IL-13、IL-4、IL-10、PGEおよびIFN-γがありうる。
【0063】
抗トロンビンの例には、ヘパリン、ヒルジンおよびイロプロスト、アブシキシマブがありうる。
【0064】
薬物は、部分、タンパク質、酵素、ペプチド、分子または原子とすることもできる。
【0065】
免疫応答
繊維インプラントに応答する免疫細胞は、エラスチン形成に好ましい治癒促進性応答を始動させることができる。しかし、インプラントを受けている患者が糖尿病、アテローム性動脈硬化症または他の局所性もしくは全身性疾患などの共存症を有することは起こりうる。そのような疾患環境は、免疫系に効果を及ぼすおそれがあり、それによって歪んだ炎症促進性応答になる可能性がある。
【0066】
局所の治癒促進性応答を創造するために、一実施形態は、治癒促進性免疫モジュレート薬と共に組み込むことができる。
【0067】
年齢依存性
年齢は、エラスチン形成において役割を果たすことができる。若年者または高齢者と接触している繊維インプラントは、エラスチン形成に影響することができる。より若年の小児は、時間をかけて成熟する適応免疫応答があまり発達していない。これは、適応免疫応答の成熟度との関係がありうるので、ネイティブのエラスチン形成が思春期の終わりまでに止まる理由を説明することができる。
【0068】
さらに、加齢自体が脈管構造の状態に影響していることを無視すべきでない。その上、患者は、エラスチンの形成に干渉するおそれがある糖尿病またはアテローム性動脈硬化症などの基礎共存症を有する可能性がある。
【0069】
一実施形態において、エラスチンは、年齢および/または共存症によりグループ分けされた選択レシピエントにおいて形成される。
【0070】
力学的因子
予応力および残留応力
予伸展および残留応力は、多くの生物学的組織の生体力学的挙動に対して直接的または間接的影響をもつ。予伸展は、体積を維持しながらの幾何学的変化として説明することができる。in vivo境界条件の放出時に、予伸展は、組織収縮を引き起こす。一方、残留応力は、その本来の原因が除去された後に組織に残留する応力と定義することができる。境界条件の放出時に、残留応力は、放射状切開後のセクターに開口している動脈輪跳躍を引き起こす。伸展が、in vitroでSMCを介してマトリックス成分の合成を刺激できることは公知である。残留応力が、動脈におけるホメオスタシスを維持するのに極めて重大であり、エラスチン発現と密接に関連していることも公知である。したがって、一実施形態は、身体において予延伸されて、残留応力を誘導し、エラスチン形成を促進する。
【0071】
繊維は、ネットワーク内に異なる空間的配列を有することができる。ネットワークは、互いに平行とすることができ、もしくは他の繊維に対して角度をなすストレート繊維、波形繊維、ループを形成している繊維またはそれらの組合せから構成することができる。これらの繊維配列は、管状構築物の内圧などのインプラントに作用する力学的刺激によって、または動的部位において(周期的な)伸展に曝露されるとき変更することができる。力学的負荷より前のネットワークの初期配列は、インプラントにおいて得られた予伸展レベルを画定する。主にストレート繊維を含むネットワークは、波形または伸展期に入る前に最初にループを解く必要があるループ付きメッシュとさえ比べてもより高い予伸展レベルを経験する。このように、繊維インプラントのネットワークにおける予伸展レベルは、個々の繊維の波形の程度またはストレート繊維間の角度に影響する、ネットワークを形成する個々の繊維の空間的配列を調整することによって制御することができる。したがって、力学的負荷状態より前に、ある実施形態は、少なくとも部分ストレート繊維から構成され、別の実施形態は、少なくとも部分波形繊維から構成され、さらに別の実施形態は、少なくとも部分ループ付き繊維から構成され、またはさらに別の実施形態は、少なくとも部分ストレート、波形またはループ付き繊維の組合せから構成される。
【0072】
基質剛性
組織産生細胞が付着する基質の剛性は、細胞型の増殖、遊走および分化だけでなく、産生されるECMの組成および量も調節することが知られている。マクロファージや単球などの免疫細胞も基質剛性に応答し、それによってインプラントの慎重な材料選択が、開始された免疫応答を操縦することができる。
【0073】
一実施形態において、基質の剛性は、エラスチン形成のために最適化された。基質剛性は、繊維を作製する材料を選択することによって制御することができる。繊維の厚さを増加させて、局所の繊維剛性に影響を与えることができる。他の可能性は、ネットワークを架橋して、ネットワーク全般の剛性を向上させることでありうる。他の方式は、力学的問題点にあまり答えない、ネットワークの密度を増加させ、または構築物を厚くすることである。
【0074】
基質剛性は、インプラント分解によっても影響されることがある。繊維インプラントが生分解性材料から作製された場合、生体吸収性によって、力学的特性が時間と共に失われ、基質剛性を変化させる可能性がある。
【0075】
動的刺激
いくつかの生物学的部位は、動的負荷状態になりやすい。血流中のインプラントを、例えばパルス型フローにかけることができ、動脈と血管内インプラントとの相互作用によって、動的負荷状態が創造される。応力および/または歪みにおける定常状態から動的負荷状態への転換は、組織産生細胞および免疫細胞の応答に影響することができ、エラスチン形成に影響する可能性がある。したがって、一実施形態では、動的力学的刺激に曝露して、エラスチン形成を誘導する。
【0076】
ネットワークモルフォロジー
繊維ネットワーク構成を制御することができ、よりランダムに構成されたネットワークが創造され、またはより制御(整列)されたネットワークが形成される。そのようなネットワークのモルフォロジーは、エラスチン形成に下流効果を及ぼすことができ、どちらもランダム配置もしくは制御された配置、またはそれらの混合物において、エラスチンの形成を始動することができ、またはできない。
【0077】
それでも、ネットワークの繊維は、細胞の接触指導をもたらすことができ、細胞は、繊維ネットワークの構成に従ってそういうものとして整列する。周囲の構成を伴うより制御されたネットワークの場合、周囲のエラスチン形成もそのようなものとして達成されうる。したがって、一実施形態は、ランダムおよび/または制御された繊維から構成することができる。
【0078】
浸透圧
繊維ネットワークの密度は、分子、タンパク質およびサイトカインの交換に影響することができ、浸透圧勾配が生じる可能性がある。特に、細胞が細孔を組織で満たし始めると、密な構造を得ることができる。これは、繊維インプラントの上および/または内における浸透圧勾配における違いに至り、細胞遊走に至る可能性がある。このように、一実施形態は、ネットワークの密度が、組合せでまたは組織産生を伴わずに細胞間相互作用を促進して、エラスチン形成を操縦する可能性がある少なくとも1層を含む。
【0079】
適用方法
一実施形態において、インプラントは、心血管組織、器官またはそれらの部分を修復または置き換えるのに使用される。繊維インプラントを心血管応用のために使用することによって、それらのデバイスを、エラスチン修復を必要とする損傷または罹患した生体組織を回復させるために使用することができる。これによって、疾患進行を減速し、止め、または逆戻りさせることさえでき、損傷組織を修復して、関連合併症を予防する可能性がある。心血管応用の分野において、エラスチンを回復させることは、血管および弁の応用に特に重要である。心血管応用では、それらは、例えば動脈、静脈、毛細血管、細動脈、またはリンパ管、または肺動脈弁、大動脈弁、三尖弁および僧帽弁などの心臓弁だけでなく、静脈弁およびリンパ管弁でもある。
【0080】
移植手順
一実施形態において、繊維インプラントを使用して、既存の構造を修復し、もしくは置き換え、または新しい構造を創造することができる。一例として、最初に既存の構造を除去し、その次に繊維インプラントを留置している。別の例として、最初に既存の構造を少なくとも部分的に除去し、その次に繊維インプラントを留置している。さらに別の例として、既存の構造は定位置にとどめ、それを覆って/その中に/その上に、繊維インプラントを留置している。
【0081】
別の実施形態において、繊維インプラントを使用して、空孔、管または空洞を閉塞および/または閉鎖することができる。
【0082】
さらに別の実施形態において、繊維インプラントは、メッシュ、フィルター、コイル、薬物、弁、狭窄物または膜を含む担体として使用することができる。
【0083】
一実施形態は、侵襲または最小侵襲治療であり、例えば開放手術、MIDCAB、または血管内インターベンションによって行われる通常の医用インターベンションを使用して留置することができる。そのような実施形態は、介在物として作用し、バイパスまたはシャントとして2つの身体部分を接続するように身体部分の間に位置づけることができ、管腔内補綴物として身体部分の内部に位置づけ、または身体部分に付着もしくは挿入することができる。
【0084】
インプラント特性
繊維インプラントは、例えばそれらの幾何学形状としてさまざまな変形を伴うメッシュまたはチューブの形状とすることができ、一実施形態は、例として、平面、湾曲、凹面、凸面、トルク型、円形、球状および/またはそのいずれかの組合せである。実施形態は、弁、メッシュ、フィルター、コイル、局所狭窄物、または同様に繊維で作製することができる他の追加の成分を含むことができ、それらの追加の成分もエラスチン形成を誘導することができる。
【0085】
いくつかの実施形態において、繊維インプラントは、構造支持体能、力学的支持能、拡張性、自己拡張性、圧着能力、接着能、形状記憶、膨潤能力、収縮能、剛性化能、あるいは例えば温度もしくは酸性度の変化に対する反応性、または例えば光、熱もしくは音による例えば超音波、磁場および/もしくは放射線などの外部刺激に対する反応性、あるいはそれらの組合せなど追加の特性を有することができる。
【0086】
いくつかの実施形態において、繊維インプラントを他の移植可能なデバイスと組み合わせて使用することができる。他の移植可能なデバイスはその機能を維持し、繊維インプラントを加えれば、エラスチン形成が可能になる。その点で、繊維インプラントを、他のいずれかの方式で追加の移植可能なデバイスに組み込み、固定し、接着し、被覆し、包み、または搭載することができる。追加の移植可能なデバイスは、例えば送達性を与え、力学的支持を提供し、柔軟性を容易にし、ねじれを予防し、身体部分への固定を可能にし、血管、管、空孔、側枝、突起、瘻孔、および空洞などの身体部分を閉塞および/または閉鎖することができる。それらの追加の移植可能なデバイスは、例えばステント、スキャフォールド、(バイパス)グラフト、弁、(バルーン)カテーテル、閉鎖デバイス、閉塞デバイス、塞栓デバイス、ワイヤー、コイル、パッチ、カバー、チューブ、メッシュ、シート、体内または体外補綴物とすることができる。
【0087】
移植可能なデバイス
エラスチン形成を可能にする繊維インプラントは、さまざまな医療デバイスを形成することができる。ここで、エラスチン形成は、疾患進行を阻害または予防することができ、および/あるいは組織またはインプラントの力学的特性を改善することができる。そのようなインプラントは、例えばパッチとして作用する単一のメッシュとすることができ、または例えばステント、スキャフォールド、(バイパス)グラフトもしくはシャントとして作用する管形状を有するだけでなく、心臓弁などの補綴物とすることも、または閉塞デバイスとして作用することもできる。
【0088】
[実施例1]:パッチ
一実施形態において、繊維インプラントは、パッチとして作用するためのメッシュである。別の実施形態において、パッチは、製造中に予め定義された、またはさらに別の実施形態において臨床医がシートから作製したカスタマイズされた、いずれか特定の形状に作製することができる。器官上に留置されると、エラスチンは、内部に向いている側面に形成されるのが理想的である。パッチは、縫合糸もしくはステープルによって搭載され、接着成分を使用して適用することができ、または自己接着性とすることさえできる。
【0089】
[実施例2]:ステントおよびスキャフォールド
別の実施形態において、繊維インプラントを管状に造形し、脈管構造の内部に配置することができる。これらの構造支持デバイスは、ステントまたはスキャフォールドとして公知である。そのようなデバイスが繊維ネットワークから構成されるとき、それらのスキャフォールドを被覆ステントまたはステントグラフトと考えることができる。ここで、エラスチンは、インプラントの管腔内側に形成されるのが理想的である。構造支持デバイスは、完全に繊維で作製することができ、または追加の支持デバイス上/中に搭載される。
【0090】
[実施例3]:(バイパス)グラフトおよびシャント
さらに別の実施形態において、繊維インプラントを管状に造形することができ、各端部が血管に接続されて、バイパスグラフトまたは瘻孔として作用し、既存の血管の間に留置して、介在グラフトとして作用することができ、またはさまざまな血管または身体部分を接続して、シャントとして作用するように使用することができる。ここで、エラスチンは、インプラントの管腔内側に形成されるのが理想的である。これらのインプラントは、たいてい手術によって留置される。
【0091】
[実施例4]:弁
さらに別の実施形態において、管状繊維インプラントは、ただ1つ、2つ、3つまたはそれ以上の小葉を有する弁を含む。弁は、同様に完全に繊維メッシュから構成することができ、またはそのような繊維メッシュを使用して、弁の成分を少なくとも部分的に覆うことができる。ここで、エラスチンは、弁の流入側に形成されることが理想的である。
【0092】
[実施例5]:塞栓および閉塞デバイス
さらに別の実施形態において、管状繊維インプラントは、膜、塞栓成分または膨潤成分を含み、そのため、身体部分を閉塞または塞栓するために使用することができる。それらを血管の内部に移植することができ、それによって、繊維インプラントが血流を塞ぐ。それらは、空孔の内部に留置して、血液の通過を予防することもでき、例えば中隔欠損を閉鎖し、または突起を閉鎖するために使用することもできる。閉塞デバイスは、完全に繊維で作製することができ、または追加の支持デバイス上/中に搭載される。
【0093】
臨床的応用
繊維インプラントは、エラスチンの形成が臨床的に重要性を有するさまざまな用途で使用することができる。心血管系では、エラスチンは、心血管系の血管および弁にだけでなく、心臓の中隔、心房および心筋にも存在する。
【0094】
血管内インターベンション
血管閉塞の治療のために、いくつかの血管内技法を使用して、血流を復旧させる。それぞれの技法は、疾患進行になる可能性があるネイティブ血管組織への損傷を誘導する能力を有する。再閉塞を予防するために、繊維インプラントを治療後に血管管腔中に配置することができる。これは、追加の支持デバイスを使用してまたは使用せずに、繊維インプラントの自己拡張性またはバルーン拡張を利用して血管内移植によって行うことができる。
【0095】
[実施例1]:バルーン血管形成
一実施形態において、繊維インプラントは、送達バルーンと組み合わせて使用される。プレーンバルーン血管形成術を使用して、血管閉塞を回避する。これによって、血管壁への損傷が生じ、新生内膜肥厚が起こる可能性があるが、管腔内エラスチン層を回復させることによって、予防することができる。このように、繊維インプラントをバルーンカテーテルのバルーン上に搭載することができ、移植が可能になる。送達時に、バルーンは、繊維インプラントを膨張させて、血管の内部の定位置にとどめる。
【0096】
[実施例2]:経皮インターベンション
別の実施形態において、繊維インプラントを、例えば血管閉塞を開き、動脈瘤を再構築し、側枝を閉鎖するために使用することができ、または血管内に留置される他の移植可能なデバイスを含む、ステントとして使用することができる。ここで、ステントは、バルーンカテーテル上に搭載され、または自己拡張性を提供し、それによってステント/スキャフォールドが管腔内補綴物として配置されて、標的の血管を開放し続けることができる。そのようなステントを配置することができるよく見られる位置は、心血管、例えば冠動脈、末梢動脈、例えば上腿および下腿などの末梢動脈、または頚動脈であるだけでなく、バイパスグラフトにおける再閉塞を治療するためにも、神経血管、例えば脳などの神経血管でもある。
【0097】
[実施例3]:粥腫切除
一実施形態は、粥腫切除後に治療のために使用される。粥腫切除術を使用して、血管閉塞を除去する。方向性、軌道性または回転性粥腫切除術など、いくつかの粥腫切除技法が利用可能である。これらの手順は、管腔内層を損傷し、それによって疾患進行が生じる可能性があるが、管腔内エラスチン層を回復させることによって予防することができる。
【0098】
[実施例4]:内膜下バイパス
真性の管腔通過がもはや実行可能でないほど血管が閉塞されている場合、内膜下バイパス技法を使用して、新しい通路を創造することができる。このように、閉塞した血管の内膜下層が貫通し、その上を医用デバイスが内膜下の空間を通って進行する。病変を横切った後、医用デバイスは、真性の管腔に再び入り、それによって新しい血液の通路が創造された。この技法は、心臓または末梢血管における慢性完全閉塞の治療に使用することができる。しかし、このインターベンションは、内膜下層を損傷し、再閉塞になりやすい。ここで、一実施形態は、内膜下管腔を覆って、管腔内エラスチン層を回復させるために使用される。
【0099】
[実施例5]:動脈瘤修復
動脈瘤の治療のために、血管内補綴物を使用して、既存の拡張された血管の内部に血液の新しい通路を創造し、内出血を予防する。これらのデバイスは、十分なコンプライアンスに欠け、血管の剛性化をもたらす可能性があり、心室肥厚または拡張に関連した心不全を引き起こす下流効果を有するおそれがある。エラスチンを回復させることができる繊維インプラントは、血管の弾性を修復し、血管コンプライアンスを維持することができる。したがって、一実施形態は、動脈瘤応用の治療のための内部補綴物として使用される。
【0100】
[実施例6]:閉鎖、塞栓および閉塞
いくつかの実施形態において、繊維インプラントを使用して、組織における血管または空孔を閉鎖することができる。例えば、瘻孔を閉鎖する必要がある場合、またはがんへの血液供給を妨げる必要がある場合。それらを使用して、心房または心室の中隔における空孔を閉鎖することもできる。動脈管開存症の閉鎖も、血管内栓子を使用して、血液通路を閉鎖するインターベンションである。それらを使用して、空洞の内部に配置して、例えば心房突起においてデブリが血流に入るのを妨げることさえできる。
【0101】
[実施例7]:弁置換
弁を含む一実施形態を使用して、エプスタイン奇形、閉鎖症または肺動脈弁狭窄症などの先天性欠損症に苦しむ患者を治療することができる。弁小葉が適切に分裂せず、または完全に閉鎖する能力に欠けることもありうる。たとえそうであっても、弁疾患は後天性であってよく、狭窄症および逆流症を引き起こす弁石灰化をもたらす。血管内弁位置決めの最小侵襲代替策として、経心尖アプローチを使用して弁補綴物を留置してもよい。深部静脈血栓症に苦しむ患者の治療などのため、静脈弁を置き換えるために、心臓ではなく他の位置に弁を留置してもよい。
【0102】
外科的インターベンション
血管内アプローチの代替策として、後天性または先天性欠損症を克服するために、外科的インターベンションがやはり必要とされる可能性がある。時には、患部組織を最初に除去し、繊維インプラントによって置き換え、定位置に置き、修復し、または定位置に置き、置き換える。
【0103】
[実施例8]:パッチング
一実施形態において、繊維インプラントはパッチであり、創傷治癒のために、あるいは疾患もしくは事故または外科的再構築などの先天性または後天性欠損症による脈管構造における空孔を閉鎖するために使用することができる。これは、例えば血管枝を分けて、血管壁における開放孔を修復する場合に有用でありうる。動脈瘤症状の場合に、繊維インプラントは、血管壁を外側から補強するように機能することができる。繊維インプラントを使用して、心臓などの器官を修復することもできる。その場合、これらの繊維パッチを例えば心臓上に適用して、心筋を回復させることができ、またはパッチを心臓の内部に留置することによって、例えば中隔欠損を閉鎖し、個々の心臓弁小葉を修復する。
【0104】
一例として、外科医は、繊維パッチを例えば糊付け、縫合、ステープル止め、自己接着、加熱またはいずれか他の外部刺激によって接着させて、パッチを搭載することができる。パッチを、心臓などの器官の表面上に搭載できるだけでなく、管形状を修復するために使用することもでき、少なくとも部分損傷した弁を修復または置き換えるために使用することもできる。
【0105】
[実施例9]:バイパスおよび介在
別の実施形態において、外科医は、管状構造を使用して、血管構築物を置き換え、または修復する。ここで、バイパスグラフトとして作用する実施形態は、既存の脈管構造に吻合の少なくとも一端まで縫合することができ、または両端にステントもしくはスキャフォールドなど少なくとも1つの構造支持デバイスを、既存の脈管構造の内部に配置されるように含む。別の実施形態は、例えば頚動脈または腹部大動脈の一部分を置き換えるための介在グラフトとして作用する。さらに別の実施形態は、例えば後天性または先天性心欠損症を治療するためのシャントとして作用し、腎透析、または脳、肺、もしくは門脈体静脈症状のためのアクセスグラフトとして作用する。
【0106】
[実施例10]:弁修復または置換
さらに別の例として、実施形態は、管状導管であり、弁を含む。この実施形態は、外科的に移植することができ、それによって、既存の弁を置き換える。この導管は、異なる形状を有し、例えば洞形状を含むことができ、大動脈弁置換の場合に冠動脈への流入アクセスの根拠である。さらに別の実施形態において、管状導管は、例えば脚における静脈症状のための介在物またはバイパスグラフトとして作用する単一または複数の弁を直列に含むことができる。
【0107】
[実施例11]:小児適用
実施形態は、小児適用において特に有用である。ここで、体成長を依然として受け、先天性または後天性の心血管疾患または欠損症に苦しんでいる若年患者は、血管応用における使用の場合にエラスチンを回復させて、血管運動などの機能性を取り戻すことができるインプラントによって利益を得る。さらに、このような場合に生分解性実施形態を使用する潜在的付加利益は、体成長を受け入れることによってはるかに多くの利益を提供することさえある。
【0108】
生成方法
例示的実施形態において、インプラントは、繊維を好ましくは電界紡糸によって得ることができる生成技法によって作製することができる。繊維インプラントを作製することができる他の技術は、溶融、湿式、エマルション、同軸、安定ジェットおよび近接場電界紡糸などの電界紡糸の変形とするだけでなく、3D印刷、静電延伸、製組、製織、製編、付加造形、バイオプリンティング、エレクトロスプレー、ポリマージェット、射出成形、流延またはそれらのいずれかの組合せなど他の繊維生成技術とすることもできる。
【0109】
電界紡糸を使用するとき、繊維径、繊維配向および孔径は、電圧、回転速度、紡糸距離、同軸流、ポリマー流入速度、標的サイズ、標的針直径、および湿度や温度などの周囲設定などの設定の異なる組合せを適用することによって調整することができる。複数の紡糸ノズルを同時に使用することもでき、各ノズルは、異なる繊維配置を紡糸している。
【0110】
一変形では、実施形態は、異なる層から少なくとも部分的に構成される。繊維ネットワークは、複数の繊維を互いの上に収集し、繊維の層を形成することによって得ることができる。生成設定を変更することによって、層は、異なる密度、繊維径または孔径を有することができる。層数も、インプラントの厚さを画定する。このように、管状導管の内側表面は、例えばチューブの外側表面とは異なる繊維の層を有することができる。
【0111】
他の一変形では、実施形態は、異なる材料から少なくとも部分的に構成される。ネットワークは、同じ材料からの繊維または異なる材料の繊維で構成することができる。層も、異なる材料から構成された異なる繊維で作製することができる。このように、管状導管の内側表面は、例えば外側表面と比べて異なる分解速度を有することができる。
【0112】
さらにもう一つの変形では、実施形態は、異なる材料を含む繊維から少なくとも部分的に構成される。個々の繊維も、同軸または多軸紡糸によって異なる材料組成で構成することができ、個々の繊維は、異なるコアおよび外側層、または複数層から構成することができる。
【0113】
電界紡糸を使用する実施形態を、平板コレクター上で紡糸することによってシートにすることができ、または自転し、もしくはその周りをノズルが回転する管状コレクターを使用することによって管形状にすることができる。ここで、コレクターは、いずれの想像できる形状も有することもでき、その上で、繊維インプラントを生成することができる。
【0114】
変形では、実施形態は、少なくとも部分的に自己接着性であってよく、または糊などの接着剤、もしくは生物学的接着成分をインプラントの一面もしくは複数面および/またはインプラントの内部に含むことができる。
【0115】
いくつかの実施形態を、接着、縫合、クリンピング、ステープル止め、または例えば挟むことによる物理的封止によって追加の移植可能なデバイスと組み込むことができる。
【0116】
実施形態の別の変形では、例えば電界紡糸を使用して、繊維インプラントを追加の支持または送達デバイスに直接適用するが、その繊維インプラントには、繊維ネットワークがそのようなインプラントのいずれかの部分(表面、内部)に、または追加の移植可能なデバイスに付着して設けられている可能性がある。このように、繊維インプラントを、バルーンカテーテル、ステント、グラフト、弁、または閉塞デバイスなどの追加の移植可能なデバイスと組み込むことができる。
【0117】
例示的な一実施形態において、追加の送達デバイスは、繊維インプラントが管腔に直面するステントの内側、および/またはネイティブ壁に直面するステントの外側に設けられているステントである。別の変形では、実施形態は、複数のステント間に挟まれている。
【0118】
さらに別の例示的実施形態において、追加の送達デバイスは、繊維インプラントがバルーン上に膨張または圧縮状態で直接適用されることによって設けられているバルーンカテーテルである。
【0119】
さらに別の例示的実施形態において、閉塞デバイスは、繊維インプラントをインプラント構造の内側、外側もしくはその間、またはそれらの組合せで設けることができる。
【0120】
さらに別の例示的実施形態において、臨床医は、繊維ネットワークをエラスチン形成を必要とする標的組織または器官に直接噴霧することができる。
【0121】
試験方法
繊維インプラントは、走査型電子顕微鏡法(SEM)を使用して部分的に特徴づけることができる。高倍率を使用して、(平均)繊維径、(平均)孔径を画定することができる。より低いSEM倍率を使用して、ネットワーク構成を特徴づけることができ、ImageJなどの画像分析ソフトウェアを使用する後処理を使用して、ネットワーク構成および繊維整列のレベルを決定することができる。
【0122】
示差走査熱量測定法(DSC)を使用して、生成前、最中、および後のポリマー繊維の結晶性を決定することができる。ポリマーの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用して決定することができる。
【0123】
繊維インプラントのエラスチン形成を誘導する能力は、ラットなどの動物、またはさらにより好ましくはウサギまたはブタなどのよりトランスレーショナルな動物モデルにおいて試験することができる。
【0124】
インプラントは、外植後に組織学的検査によって、エラスチンを誘導するそれらの能力を評価することができる。これは、例えばバーヘフの染色、またはRussell-Moval Pentachrome染色などのバーヘフの染色を含む組合せ染色を使用することによって、あるいはエラスチンに特異的な一次抗体を使用する免疫蛍光染色を使用することによって達成することができる。これは、予め定義された時点で、細胞遊走および組織形成をある程度の時間にわたって評価することでありうる。
【0125】
[実施例1]:異なる繊維径を有する管腔内補綴物を使用するエラスチン形成の効果
異なる2つの実施形態を、エラスチン形成を誘導するそれらの能力について評価した。一実施形態は、小繊維から構成された管状管腔内インプラントであった。第2の実施形態も、外側に大きい繊維、内側に小さい繊維を有する異なる2層から構成される管状管腔内インプラントであった。ウサギにおいて、繊維の太さのエラスチン形成に対する影響を評価した。バルーンカテーテルを使用して、両方の繊維インプラントをウサギの大腿動脈に管腔内補綴物として配置した。12週間後、インプラントを外植し、Russell-Moval Pentachrome染色を使用して、エラスチンの有無について評価した。移植より前に、SEMを使用して、繊維インプラントを特徴づけた。
【0126】
移植より前に、SEMを使用して、小さい繊維から構成された例示的実施形態を特徴づけた。バルーンカテーテル拡張後の管腔側は、図2に示されるように次のネットワークモルフォロジーを明らかにした。この3か月の外植によって、図3に示されるように豊富な管腔内エラスチン形成が明らかになった。より大きい繊維から構成された追加の外側層を備えた他の例示的実施形態と比べて、移植3か月後、この二重層配置は、エラスチン形成を、小さい繊維だけで構成された実施形態において観察された程度まで誘導しなかった(図4)。両方の実施形態は、同じ材料から構成され、二重層インプラントの内側層は、単層インプラントと同じ繊維ネットワークモルフォロジーを有していたので、これは、繊維サイズを使用して、エラスチン形成を操縦できるということを示唆する。
【0127】
[実施例2]:α-SMA陽性細胞のエラスチン形成に対する影響
エラスチン産生の起源をin situで調査するために、バルーンカテーテルを使用して、いくつかの比較可能な実施形態を管腔内補綴物としてラットの腹部大動脈に2、4、6および8週間配置した。これらの実施形態は、小さい繊維単独から構成したものであり、実施例1に記載されている実施形態に匹敵する。免疫蛍光染色を、α-平滑筋アクチン(α-SMA)およびエラスチンに適用した。α-SMA陽性細胞のゆっくりした浸潤は、外膜からインプラントの管腔側に向かって見ることができる(図5)。時間をかけて、管腔内エラスチン形成を観察し、6週および8週間目にα-平滑筋アクチン陽性細胞の存在を伴って共存した。
【0128】
これは、α-平滑筋アクチンを発現する細胞がエラスチンの形成に関与することを示唆することができる。エラスチンがインプラントの管腔側に形成されるが、繊維ネットワークの内部には形成されないので、血流の近傍は、エラスチン形成に好ましい効果を及ぼすことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】