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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-19
(54)【発明の名称】質量分析コントロール
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20230612BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N33/53 N
G01N27/62 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569178
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(85)【翻訳文提出日】2023-01-16
(86)【国際出願番号】 GB2021051136
(87)【国際公開番号】W WO2021229220
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】2007047.0
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】514212652
【氏名又は名称】ザ バインディング サイト グループ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ステファン ハーディング
(72)【発明者】
【氏名】ダナンジャイ サクリカー
(72)【発明者】
【氏名】タラ エー.クラウス
(72)【発明者】
【氏名】グレッグ ウォーリス
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041EA04
2G041EA12
2G041FA12
2G041JA02
2G041JA04
2G041JA06
2G041JA14
2G041LA09
(57)【要約】
本発明は、試料からの分析物を免疫精製し、特徴付ける方法を提供し、該方法は、(i)酸性pH及び/又は還元剤によって切断可能な連結を介して基質に結合した所定量のコントロール物質と、基質に結合した任意選択のさらなる分析物特異的抗体又はその断片とを提供する工程であって、コントロール物質は分析物に特異的であるか又は分析物に特異的ではない工程;(ii)試料中に存在する場合、分析物がコントロール物質又は前記任意選択のさらなる分析物特異的抗体又は断片に結合することを可能にする工程であって、基質に結合したコントロール物質(i)は、分析物を任意選択のさらなる分析物特異的抗体(ii)と接触させた後に提供することができる工程;(iii)結合していない材料を基質から洗い流す工程;(iv)少なくとも1つの基質から、それに結合した分析物を酸溶出する工程;(v)質量分析を行って、2つ以上のピークを同定する工程であって、少なくとも1つのピークは、分析物の存在と関連し、少なくとも第2のピークは、コントロール物質の少なくとも一部と関連する工程;ならびに(vi)第2のピークのサイズ又は強度を所定の較正値と比較して、分析物に関連する第1のピークを較正することを可能にする工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料からの分析物を免疫精製し、特徴付ける方法であって、
(i)酸性pH及び/又は還元剤によって切断可能な連結を介して基質に結合した所定量のコントロール物質と、基質に結合した任意選択のさらなる分析物特異的抗体又はその断片とを提供する工程であって、コントロール物質は分析物に特異的であるか又は分析物に特異的ではない工程;
(ii)試料中に存在する場合、分析物がコントロール物質又は前記任意選択のさらなる分析物特異的抗体又は断片に結合することを可能にする工程であって、基質に結合したコントロール物質(i)は、分析物を任意選択のさらなる分析物特異的抗体(ii)と接触させた後に提供することができる工程;
(iii)結合していない材料を基質から洗い流す工程;
(iv)少なくとも1つの基質から、それに結合した分析物を酸溶出する工程;
(v)質量分析を行って、2つ以上のピークを同定する工程であって、少なくとも1つのピークは、分析物の存在と関連し、少なくとも第2のピークは、コントロール物質の少なくとも一部と関連する工程;ならびに
(vi)第2のピークのサイズ又は強度を所定の較正値と比較して、分析物に関連する第1のピークを較正することを可能にする工程
を含む方法。
【請求項2】
コントロール物質がヘテロポリマーであり、これは、2つ以上の分離可能なタンパク質サブユニットを含むタンパク質であり、第2のピークにおいて検出されるヘテロポリマーの部分が、前記タンパク質サブユニットのうちの1つの少なくとも一部である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タンパク質が、少なくとも1つの重鎖又はその断片、及び少なくとも1つの軽鎖又はその断片を含む抗体又はその断片であり、第2のピークにおいて検出されるサブユニットが、軽鎖の少なくとも一部である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
抗体が分析物に特異的である、請求項4に記載の方法。
【請求項5】
コントロール物質が分析物に特異的ではなく、基質が前記さらなる分析物特異的抗体を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
分析物の存在なしに工程(i)~(v)を行い、コントロール物質の少なくとも一部を定量して、所定の較正値を生成することを含む、請求項1~5のいずれか1項に定義される所定の較正値を生成する方法。
【請求項7】
コントロール物質の少なくとも一部が、液体クロマトグラフィー-質量分析によって較正される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
第2のピークにおいて検出されるコントロール物質の部分が、免疫グロブリン軽鎖又は軽鎖の断片である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
質量分析工程(vi)が行われる場合に、抗体又はその断片などのコントロール物質の一部のサイズが、分析物に関連する1つ以上のピークから分離された1つ以上のピークを生成するように予め選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つのピーク及び少なくとも第2のピークが、MALDI-TOF質量分析によって決定され、ピークがm/z強度である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記抗体又はその断片がモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
分析物が、血清タンパク質、例えば、免疫グロブリン又はその断片である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
免疫グロブリン又はその断片が、ヒトIgG、IgA、IgM、IgD又はIgEラムダ軽鎖若しくはカッパ軽鎖である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
抗体又はその断片がモノクローナル抗体又はその断片である、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
モノクローナル抗体又はその断片が、免疫グロブリン分析物に対して質量分析によって分析される場合に、異なる質量及び/又は電荷を有するように選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
モノクローナル抗体又はその断片が、免疫グロブリン分析物に対して異なる質量を有するようにそれらの質量が修飾されている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
抗体又はその断片が、重鎖クラス特異的、軽鎖タイプ特異的、遊離軽鎖タイプ特異的、又は重鎖クラス軽鎖タイプ特異的である、請求項11~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
基質が、所定量のコントロール物質と、好ましくはポリクローナル抗体又はその断片である複数のさらなる分析物特異的抗体又はその断片とを含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
基質が複数のビーズを含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
請求項1~19に記載の分析物の存在を検出することによって、疾患を検出し、モニタリングし又は予後する方法。
【請求項21】
疾患がB細胞関連疾患又は他の免疫関連疾患である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
較正されるべき分析物を較正するための所定の較正値をさらに含む、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法で使用するための、酸切断可能な連結を介して基質に付着された所定量のコントロール基質と、任意選択的に複数の分析物特異的抗体又はそれらの断片とを含む少なくとも1つの基質を含むキット。
【請求項23】
基質に結合した複数のポリクローナル分析物特異的抗体又はその断片と、さらに所定量のコントロール物質とを含む少なくとも1つの基質を含むキット。
【請求項24】
分析物が免疫グロブリン又はその断片である、請求項22又は23に記載のキット。
【請求項25】
抗体又はその断片が、重鎖クラス特異的、軽鎖タイプ特異的、遊離軽鎖タイプ特異的又は重鎖クラス-軽鎖タイプ特異的である、請求項22~24のいずれか1項に記載のキット。
【請求項26】
請求項1~11のいずれか1項に定義される工程(vi)及び(vii)を実行する手段を有する質量分析計。
【請求項27】
質量分析計に請求項1~22のいずれか1項に定義される工程(vi)及び(vii)を実行させるための命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項28】
1つ以上のプロセッサ上で実行した場合に、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法によって得られた第2のピークのサイズ又は強度を所定の較正値と比較する命令を含むコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析物を免疫精製及び特徴付ける方法、ならびにそのような方法で使用するためのキットに関する。
【0002】
免疫グロブリンを含むタンパク質のような分析物の定量のためのインビトロ診断における質量分析の使用は、当該技術分野で一般に知られており、例えば、WO2015/154052は、その全体が本明細書に組み込まれ、質量分析(MS)を用いて免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖、又はそれらの混合物を検出する方法を開示している。免疫グロブリン軽鎖、重鎖又は混合物を含む試料を免疫精製し、質量分析にかけて試料の質量スペクトルを得る。これは、例えば、患者由来の試料中のモノクローナルタンパク質を検出するために使用することができる。また、モノクローナル抗体中のジスルフィド結合をフィンガープリント、アイソタイプ及び同定するために使用することもできる。
【0003】
MSは、例えば、試料中のラムダ鎖及びカッパ鎖を質量及び電荷によって分離するために使用される。また、例えば、還元剤を使用して重鎖と軽鎖の間のジスルフィド結合を還元した後に、免疫グロブリンの重鎖成分を検出するために使用することもできる。MSはまた、その全体が本明細書に組み込まれている、例えば、WO2015/131169に記載されている。
【0004】
試料中の分析物の精製は、典型的には、抗分析物特異的抗体を使用する。これらは、典型的には、当該技術分野で一般に知られている技術によって、ナノビーズ又はマイクロビーズのような基質に結合される。分析物を含有する試料を、ビーズに付着した抗体と混合又はインキュベートし、分析物を抗体に結合させ、非結合物質を洗い流す。次に、分析物を、ビーズから洗浄又は分離又は溶出し、質量分析により分析する。例えば、血清タンパク質の定量化のための質量分析インビトロ診断に関連する一つの問題は、それが報告された結果の精度及び精度に関して課題を提示することである。
【0005】
今日までの解決策には、例えば、手順の個々の特定の工程におけるコントロールの使用が含まれる。例えば、MALDI-TOFでは、コントロールを、ターゲットを調製する時点でマトリックスに含めることができ、かくして、レーザーによる結晶化プロセス及びその後のイオン化をコントロールすることができる。しかしながら、これは、上流に導入されたばらつきを説明するものではない。質量分析に使用される多くの獲得前精製技術では、分析物は免疫沈降によって精製される。これには、精製プロセスの各工程で失われた分析物の量を推定するために、既知量の標的タンパク質とともに精製プロセスの各工程でコントロールを使用する必要がある。しかしながら、これは、例えば、ピペッティング誤差のために、試料の沈殿及びその後の調製工程における例示的な変動をコントロールしない。
【発明の概要】
【0006】
本出願人は、放出可能なコントロール物質、例えば、タンパク質又はペプチド、ヘテロポリマー、又は抗体を、ビーズ又は固体表面などの他の基質に結合させて、精製又は濃縮工程で沈殿させることにより、放出可能なコントロール物質が、質量分析による検出工程まで、精製工程内のコントロールとして使用され得ることを確認した。ビーズ上の量が公知であるため、次に、これを使用して、この工程における任意の損失又は後続の工程における変動をコントロールすることができる。コントロールは、例えば、分析物自体を標的とする抗体由来であるため、質量分析スペクトルで測定されたコントロールの量と、同じスペクトルで測定された標的分析物の量との直接的な関係が存在するであろう。沈殿/濃縮工程におけるコントロールの量は既知であるため、値は元の試料中の標的分析物のレベルに割り当てることができる。
【0007】
例えば、分析物に特異的な捕捉抗体、又は実際には別の抗体を基質に結合させることができ、例えば捕捉抗体に結合した分析物が例えば酸溶出を介して溶出するとき、重鎖の定常領域を介して結合させ、軽鎖を捕捉抗体又は他の抗体から遊離させ、これらの軽鎖を質量分析により検出することができる。
【0008】
これらの軽鎖を、例えば、免疫グロブリンが分析物である軽鎖から区別する能力は、捕捉抗体又は他の抗体の軽鎖を選択することによって増強され得、その結果、それらは、分析物の軽鎖より重いか又は軽い。これは、例えば、モノクローナル抗体を選択し、1つ以上のアミノ酸、特に1~5個のアミノ酸を軽鎖に加えることによってモノクローナル抗体の軽鎖を改変することにより達成することができる。
【0009】
本出願人は、サブユニットの検出可能な部分が、例えば、酸溶出によって放出されるヘテロポリマーのような他のコントロールを使用することができることを認識している。例えば、1つ以上のサブユニットを含む非免疫グロブリンタンパク質を使用することができ、ここで、サブユニットが溶出工程によって放出される。
【0010】
これは、このことが、溶出の各段階及びその後の検出段階における変動をコントロールするという利点を有する。
【0011】
本発明は、試料からの分析物を免疫精製し、特徴付ける方法を提供し、該方法は、
(i)酸性pH及び/又は還元剤によって切断可能な連結を介して基質に結合した所定量のコントロール物質と、基質に結合した任意選択のさらなる分析物特異的抗体又はその断片とを提供する工程であって、コントロール物質は分析物に特異的であるか又は分析物に特異的ではない工程;
(ii)試料中に存在する場合、分析物がコントロール物質又は任意選択のさらなる分析物特異的抗体又は断片に結合することを可能にする工程であって、基質に結合したコントロール物質は、分析物を任意選択のさらなる分析物特異的抗体と接触させた後に提供することができる工程;
(iii)結合していない材料を基質から洗い流す工程;
(iv)少なくとも1つの基質から、それに結合した分析物を酸溶出する工程;
(v)質量分析を行って、2つ以上のピークを同定する工程であって、少なくとも1つのピークは、分析物の存在と関連し、少なくとも第2のピークは、コントロール物質の少なくとも一部と関連する工程;ならびに
(vi)第2のピークのサイズ(曲線下面積など)又は強度を所定の較正値と比較して、分析物に関連する第1のピークを較正することを可能にする工程を含む。
【0012】
コントロール物質及び任意の分析物特異的抗体は、同じ基質又は異なる基質に結合され得る。例えば、コントロール物質は、ビーズの第1のグループに結合され得、さらなる分析物特異的抗体は、多くの場合、ビーズの第2のセットに結合され得る。あるいは、それらは、同じビーズに結合され得る。コントロール物質は、分析物特異的抗体又はその断片であってもよい。代替のコントロールは、例えば、分析物に特異的でない抗体又はその断片であってもよい。後者の例では、任意のさらなる分析物特異的抗体又は断片が、典型的には、洗浄工程の前に、分析物を基質に結合させるために提供される。
【0013】
少なくとも一部であるが、典型的には、実質的に全てのコントロール物質は、酸溶出工程によって基質から放出される。
【0014】
ジチオスレイトール(DTT)又はTris(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)のような1種以上のさらなる還元剤を適宜(例えば、ジスルフィド結合を用いて)含有して、切断可能な結合の減少及び切断を助けてもよい。
【0015】
コントロール物質は、潜在的に、放出されたときに質量分析工程によって検出され得る任意の部分であり得る。しかしながら、典型的には、検出される分析物と同様の質量及び電荷を有するように選択される。典型的には、質量及び電荷は、コントロール物質からのピークが、分析物のピークからベースラインで区別され得るように異なる。コントロール物質はまた、質量分析ターゲットプレート上に置かれた(スポットされた)分析物と同様の方法で結晶化するように選択され得る。
【0016】
分析物は、例えば、分析物のアナログであり得る。これは、質量を同位体的に変化させることによって、又は、例えば、質量を増加又は減少させることによって、例えば、分析物がタンパク質又はペプチドである1つ以上のアミノ酸の付加又は欠失によって、改変することができる。
【0017】
分析物が免疫グロブリン軽鎖又は重鎖である場合、コントロール物質、例えばコントロール軽鎖又は重鎖の質量の差は、コントロール物質のMSピークが分析物ピークから分離されることを確実にするために、少なくとも1000Daである。
【0018】
この連結は酸溶出液中で酸によって切断される。連結はまた、還元剤で切断可能であってもよい。連結の例には、酸及び/又は還元剤によって還元されてコントロール物質を放出するジスルフィド結合が含まれる。
【0019】
連結は、例えば、ビオチン分子を含み得る。基質又はコントロール物質の一方又は他方は、連結の一方の部分を備えることができ、他方は、基質-コントロール物質複合体の他方の部分に存在する。マレイミドはまた、スルフヒドリル基との反応を介して、タンパク質又はペプチドを基質に結合するために使用され得る。
【0020】
例えば、現在のシステムにおいても有用であり得る、酸切断可能な薬物送達システムにおいて使用されてきた他の酸または還元剤切断可能な結合には、例えば、オルトエステル、アセタール、ヒドラゾン、イミン、シス-アコニチル、 およびトリチル結合が含まれる(Binaud S. and Stenzel M. H. Chem Comm (2013), 49, 2082-2102)。
【0021】
コントロール物質は、典型的には、ペプチド又はタンパク質のような高分子であるが、DNA又はRNAのような核酸を含む任意の検出可能な化合物であってもよい。
【0022】
コントロール物質は、ヘテロポリマーの一部であってもよい。これは、2つ以上のサブユニットを有する任意の化合物であってもよく、そのうちの1つは基質に結合しており、第2のサブユニット(コントロール物質として作用する)は、酸溶出によって分離可能であり、次に、第2のピークとして検出される。典型的には、第2のサブユニットは、分析物と実質的に同じイオン化特性を有し、典型的には、検出される分析物と類似するが同一ではない質量を有するように選択される。したがって、第2のサブユニットは、分析物の質量分析ピークと実質的にオーバーラップしない1つ以上の質量分析ピークを生成するように選択され、その結果、分析物の第1のピーク及びヘテロポリマーの少なくとも一部の第2のピークが区別され、測定され得る。
【0023】
ヘテロポリマーは、典型的にはタンパク質である。サブユニットは、例えば、1つ以上のジスルフィド結合を介して結合したサブユニットであってもよく、これは、酸溶出工程によって切断されて、1つ以上のサブユニットを放出することができる。
【0024】
ヘテロポリマーは、抗体又は任意の抗体の断片であり得る。それは、典型的には1つ以上のジスルフィド結合を介して連結された、少なくとも1つの重鎖又はその断片、及び少なくとも1つの軽鎖又はその断片を含み得る。
【0025】
抗体又は抗体断片は、それ自体、分析物特異的抗体又は断片(例えば、F(ab’)2)又は軽鎖であり得、その一部は、次に、第2のピークとして検出される。任意選択のさらなる分析物特異的抗体は、典型的には、その場合には使用されない。
【0026】
抗体又は断片が使用される場合、軽鎖の質量を増加させるために、C末端への1つ以上の(例えば、最大5つの)アミノ酸の付加又は欠失によって軽鎖を修飾することができる。
【0027】
抗体又は断片は、軽鎖の質量を増加させるために化学修飾剤を添加することによって修飾することもできる。例えば、N-スクシンイミジル3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、及び6-ビオチンアミドヘキサン酸N-スクシンイミジルエステル、ビオチン-PEG36-ペンタフルオロフェニル-エステル及びNHS-PEG4-ビオチン。
【0028】
カッパ軽鎖は、例えば、IgGカッパ上で、ビオチン-PFPを含むいくつかの化学修飾剤によって優先的に結合され、またラムダ軽鎖と優先的に結合されることが見出されている。
カッパ軽鎖への結合のレベルは、コントロールされ得る。ラムダ軽鎖修飾も本出願人によって観察されている。
【0029】
所定の較正値は、分析物の存在なしに、工程(i)から(v)の各々を行うことによって計算することができる。すなわち、少なくとも1つの基質に結合した所定量のコントロール物質を、抗体又は断片と接触させず、代わりに、分析物の存在なしにコントロール物質溶液と接触させ、洗浄工程(iii)及び酸溶出工程(iv)を、上記と同様に実施する。次に、溶出されたコントロール物質の量を定量する。これは、例えば、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)によって行うことができる。
【0030】
溶出された抗体の量は、その試料についての較正値を決定するために使用され得る。
【0031】
較正工程は、分析物を用いて精製工程及び特徴付け工程を実施するのと実質的に同時に実施することができる。あるいは、供給者の実験室において、例えば、基質に結合した分析物特異的抗体を供給する前に実施してもよい。次に、較正値は、基質に結合された分析物特異的抗体の各バッチとともに供給され得る。この所定の値は、分析物による精製手順の変動を計算することができる一定値を提供する。
【0032】
分析物は、例えば、免疫グロブリン又はその断片などの血清タンパク質、又はアルブミン、凝固因子、調節タンパク質、ベータ2-ミクログロブリン、C反応性タンパク質、アルファ-1アンチトリプシン、アルファ-1フェトプロテインなどの他の血清タンパク質であり得る。
【0033】
抗体の例には、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラット、マウス、ウサギ、ラクダ又は組換え抗体及び合成抗体由来のポリクローナル及びモノクローナル抗体が含まれる。
【0034】
抗体又はその断片は、インタクト抗体、又は、例えば、F(ab’)2断片であり得る。
【0035】
洗浄、酸溶出、及び質量分析の実施に関連する緩衝液は、当該技術分野で一般的に知られており、酸溶出工程のpHは、典型的には(専らではないが)pH7又は7未満であり、典型的には、5未満又は2~3のような1.5を超える。このような緩衝液は、典型的には、以下を含むMALDI-TOFのような質量分析法と適合性である。
【0036】
以下に、MALDI-TOFとともに使用するのに適した緩衝液、例えば、典型的な最大濃度を有するペプチド又はタンパク質を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
MALDI-TOFに対する界面活性剤/サーファクタント耐性(特に生体試料:ペプチド、タンパク質)
カテゴリーA 許容
カテゴリーB 負の影響はないか又は小さい
カテゴリーC シグナルの低減と品質への影響
カテゴリーD 典型的には、MALDI TOFと互換性がない
【0039】
【表2】
【0040】
典型的には、MALDI-TOF質量分析を使用して、分析物(存在する場合)の少なくとも1つのピーク、及び精製工程で使用されるコントロール物質の少なくとも1つの断片に関連する第2のピークを生成する。
【0041】
第2のピークは、典型的には、抗体の軽鎖又は軽鎖の断片である。例えば、複数の荷電抗体断片又は抗体が質量分析プロセスによって生成される場合、2つ以上のピークが存在してもよい。酸溶出は、典型的には、抗体の軽鎖から重鎖を解離する。
【0042】
別個のコントロール物質が使用され、分析物が免疫グロブリンである場合、分析物特異的抗体を架橋して、重鎖に結合した軽鎖の放出を防止し、その結果、試料が、例えば、分析物特異的抗体又はその断片から放出された軽鎖と干渉することを防止することができる。
【0043】
したがって、分析物特異的抗体又はその断片は、例えば、酸溶出相関下で安定である連結で架橋され得る。
【0044】
WO2006/099481Aは、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fab、F(ab)及びF(ab’)2断片、一本鎖抗体、ヒト抗体、調和抗体又はキメラ抗体、及びエピトープ結合断片などのポリペプチドを含む広範囲の巨大分子における鎖内及び鎖間チオエーテル架橋の使用を記載する。本文書は、架橋の目的が、抗体又は断片の安定性及び薬理学的及び機能的特性を高めることであることを記載している。特に、目的は、例えば、抗RSV抗体を含む抗ウイルス抗原抗体のような異なるモノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖を架橋することである。記載された目的は、抗体の薬学的特性を改善することである。
【0045】
WO00/44788は、改良された治療剤の製造を目的として、異なる特異性を有する異なる抗体分子を架橋するためのチオエーテルの使用を記載している。同様に、種々の特異性を有する二特異的又は三特異的F(ab)3又はF(ab)4コンジュゲートをWO91/03493に示す。
【0046】
チオエーテル類は、貯蔵中のレベルが増加するにつれて治療用抗体中に観察されている(Zhang Q et al JBC manuscript (2013) M113.468367)。軽鎖-重鎖ジスルフィド(LC214-HC220)はチオエーテル結合に変換することができる。1つのIgG1k治療抗体は、血液中を循環している間に、0.1%/日の速度でその位置でチオエーテルに変換することが観察された。内因性抗体は、健康なヒト対象においても形成されることが観察された。Zhangらはインビトロでチオエーテルの生成を繰り返した。これを用いて、治療用モノクローナル抗体に対するチオエーテル結合の安全性の影響を評価した。
【0047】
架橋は、典型的には、同じ抗体の鎖間の分子内である。
【0048】
架橋は、典型的にはチオエーテル結合を含む。
【0049】
チオエーテル架橋はチオエーテル結合を含む。
これは、結合が二硫酸結合ではなく単一の硫黄結合を有する抗体の残基間の結合である。すなわち、チオエーテル架橋は、当業者によく知られているジスルフィド架橋のような2つ以上の硫黄原子を含む結合を含まず、代わりに、チオエーテル架橋は、巨大分子の残基を架橋する単一の硫黄結合を含む。1つ以上の追加の非硫黄原子が、結合をさらに形成してもよい。
【0050】
チオエーテル架橋によって結合された残基は、天然残基又は非天然残基であり得る。チオエーテル架橋の形成は、当業者に認識されるように、残基から原子の喪失をもたらすことができ、例えば、2つのシステイン残基の側鎖間のチオエーテル架橋の形成は、残基から硫黄原子及び水素原子の喪失をもたらすことができるが、得られるチオエーテル架橋は、当業者によってシステイン残基を連結するものとして認識されるであろう。
【0051】
チオエーテル架橋は、抗体の任意の2つの残基を結合することができる。1つ以上の残基は、例えば、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジンメチオニン及びチロシンから選択することができる。2つの残基は、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、メチオニン及びチロシンからなる群より選択され得る。より典型的には、2つの残基はシステイン残基である。典型的には、1つのチオエーテル架橋だけが重鎖と軽鎖の間にある。あるいは、2つ、3つ又はそれ以上のチオエーテル架橋を使用してもよい。抗体の重鎖対又はその断片は、チオエーテル結合のような1つ以上の非ジスルフィド架橋によっても連結され得る。
【0052】
チオエーテル架橋は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるWO2006/099481、Zhang et al (2013) J. Biol. Chem. vol 288(23), 16371-8及びZhang & Flynn (2013) J. Biol. Chem, vol 288(43), 34325-35に記載されている。
【0053】
ホスフィンおよびホスファイトを使用することもできる。ここで、「ホスフィン」とは、一般式RP(式中、P=リン及びR=任意の他の原子)を有する少なくとも1つの官能基ユニットを含む任意の化合物を指す。亜リン酸塩では、R位は酸素原子によって特異的に占められている。RP含有化合物は、ジスルフィド結合を攻撃する強力な求核剤として作用する。この結果、ジスルフィドが還元されることもあるが、ある条件下ではチオエーテル結合が形成されることもある。
【0054】
化合物には以下のものが含まれる:
Tris(ジメチルアミノ)ホスフィン(CAS番号1608-26-0)
Tris(ジエチルアミノ)ホスフィン(CAS番号2283-11-6)
亜リン酸トリメチル(CAS番号121-45-9)
トリブチルホスフィン(CAS番号998-40-3)
【0055】
参考文献:参考文献として本明細書に組み込まれる、Bernardes et al. (2008) Angew. Chem. Int. Ed., vol 47, 2244-2247。
【0056】
架橋はまた、遊離チオールと反応して抗体分子の鎖に架橋するマレイミド架橋剤のような架橋剤を含んでもよい。これは、WO00/44788に記載されているように、チオール基の一方の側、及びさらにリシンカルボキシル基のような別の部分に結合させることができる。
【0057】
二官能性架橋剤は、リンカー、特に可撓性リンカーによって互いに連結された2つの反応性部分を含むことができる。リンカーは、鎖中で共有結合した1つ以上の炭素、例えば置換又は非置換アルキルを含み得る。リンカー、特にC1-C10、最も典型的にはC2-C6又はC3-C6リンカー。本出願人は、α,α’-ジブロモ-m-キシレン、BMOE(ビスマレイミドエタン)又はBMB(ビスマレイミドブタン)のような架橋剤を含有するC2-C6が、架橋タンパク質の回収レベルが比較的高い場合に特に有用であることを見出した。
【0058】
抗体又はその断片のサイズは、質量分析によって1つ以上のピークを生成するように予め選択することができ、それは、分析物に関連する1つ以上のピークによって分離される。これは、例えば、抗体又は断片のサイズを選択することによって、又は代替的に、抗体又は断片の電荷を選択することによって、可能である。
【0059】
MALDI-TOF質量分析が使用される場合、ピークは典型的にはm/z強度である。
【0060】
システムに添加された最初の抗体のようなコントロール物質の量が知られている。検体を使用しないで予想される抗体の量もまた、較正値のために知られている。したがって、分析物とともにピーク中の抗体の量は、あらゆる材料の損失、又は、例えば、ピペッティングエラーを考慮に入れるために、較正値によって補正され得る。標的と抗体との間のm/zピーク強度の比は、例えば、試料喪失、基質の喪失、標的捕獲、分析物溶出、分析物スポッティング及びイオン化をコントロールすることができる。
【0061】
抗体の既知の質量をビーズ上に正確にカップリングさせ、それに続く溶出及びm/zピーク強度を(標的ピークとの比較により)定量するために使用することができる能力。これにより、精度と精度が向上し、日常的な臨床処置に使用できるようになる。
【0062】
基質は、典型的には、ビーズ、例えば、磁性ビーズ、ラテックスビーズ、セラミックビーズ、ポリスチレン又は他の基質である。
【0063】
磁性及び常磁性ビーズは、当技術分野において一般に公知である。
【0064】
ビーズのような基質に対する抗体の吸収もまた、当該技術分野において一般に知られており、典型的には、それらは、アミノ基、カルボキシ基、エポキシ基、又はチオール活性化基を介して共有結合されていてもよい。受動吸着も使用することができる。
【0065】
磁性ビーズを使用する場合、分析物を含有する試料中の結合抗体とビーズを混合し、磁石を使用してビーズを沈殿させることが可能である。抗体又はその断片は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体又はそれらの混合物であり得る。
【0066】
典型的には、抗体又は断片は、分析物の精製後に酵素的に消化されない。
【0067】
分析物は、潜在的に任意の適切な分析物であり得る。典型的には、質量分析標的に適用した場合、分析物及び免疫グロブリンは、実質的に同じ方法で共結晶化し、イオン化する。
【0068】
試料は、哺乳動物又は典型的にはヒトのような植物又は動物からであってもよい。これは、血液、血清、血漿、汗、唾液、脳脊髄液又は尿などの組織又は体液の試料であり得る。
【0069】
分析物は、免疫グロブリン又はその断片であり得る。例えば、免疫グロブリン又は断片は、ヒトIgG、IgA、IgM、ラムダ軽鎖又はカッパ軽鎖であり得る。
【0070】
分析物は、ヒト分析物であり得る。
【0071】
典型的には、分析物が免疫グロブリンである場合、抗体又はその断片は、モノクローナル抗体又はその断片である。これは、モノクローナル抗体のサイズを、例えば、モノクローナル抗体のサイズを選択することによって、又は代替的に、抗体の断片の欠失又は抗体へのアミノ酸の付加によって質量を調整することによって、抗体又はその断片が、例えば、分析物について観察されるm/zピークと重ならないことを確実にすることによって、調整することができるためである。
【0072】
免疫グロブリンは本質的に非常に多様である。したがって、いくつかのモノクローナル抗体の潜在的な問題は、それらがモノクローナル抗体のような分析物の全ての変異体を検出することはできないということである。これは、例えば、基質を所定量のモノクローナル抗体又はその断片でコーティングし、さらに、例えば、ポリクローナル抗体である複数のさらなる分析物特異的抗体又はその断片をコーティングすることによって改善することができる。これにより、例えば、既知のピーク又はm/zサイズを有する所定の抗体又は断片を提供すると同時に、分析物捕獲の広い特異性を達成することができる。例えば、90~80%のポリクローナル抗体に対する10~20%の所定のモノクローナル抗体(又は断片)の比を用いることができる。
【0073】
抗体又はその断片は、重鎖クラス特異的、軽鎖タイプ特異的、遊離軽鎖特異的、又は重鎖クラス軽鎖タイプ特異的であり得る。
【0074】
本方法は、分析物の存在を検出することによって、又は、例えば、試料中の分析物の濃度を検出することによって、疾患を検出又は予後決定するために使用され得る。疾患は、分析物が分析物特異的抗体を用いて精製され得る任意の疾患であり得る。例えば、B細胞関連疾患又は他の免疫グロブリン関連疾患。他の例としては、急性期マーカー、肝疾患、及び肺癌バイオマーカーが挙げられる
【0075】
抗体産生細胞に関連する多くの増殖性疾患がある。
【0076】
多くのこのような増殖性疾患では、形質細胞は増殖して、同一の形質細胞のモノクローナル腫瘍を形成する。この結果、大量の同一の免疫グロブリンが産生され、モノクローン性免疫グロブリン血症として知られている。
【0077】
骨髄腫及び原発性全身性アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)などの疾患は、英国におけるがん死亡のそれぞれ約1.5%及び0.3%を占める。多発性骨髄腫は、非ホジキンリンパ腫に続いて、2番目に多い血液悪性腫瘍である。白人集団では、発生率は年間100万人当たり約40人である。従来、多発性骨髄腫の診断は、骨髄中の過剰なモノクローン性形質細胞、血清又は尿中のモノクローン性免疫グロブリン、及び高カルシウム血症、腎不全、貧血又は骨病変などの関連臓器又は組織障害の存在に基づいている。骨髄の正常な形質細胞含有量は約1%であるが、多発性骨髄腫では、含有量は典型的には10%を超え、しばしば30%を超えるが、90%を超えることがある。
【0078】
ALアミロイドーシスは、アミロイド沈着物としてのモノクローン遊離軽鎖断片の蓄積を特徴とするタンパク質の立体構造異常である。典型的には、これらの患者は心不全又は腎不全を呈するが、末梢神経及び他の器官も侵されることがある。
【0079】
患者の血流中、又は実際には尿中にモノクローン性免疫グロブリンが存在することによって同定できる他の多くの疾患がある。これらには、形質細胞腫及び髄外性形質細胞腫、骨髄外に発生し、あらゆる臓器に発生しうる形質細胞腫瘍がある。存在する場合、モノクローナルタンパク質は典型的にはIgAである。多発性孤立性形質細胞腫は、多発性骨髄腫の証拠の有無にかかわらず発生することがある。ワルデンシュトレームマクログロブリン血症は、モノクローン性IgMの産生に関連する低悪性度のリンパ増殖性疾患である。米国では年間約1,500件、英国では300件の新規症例がある。血清IgMの定量化は、診断とモニタリングの両方に重要である。B細胞非ホジキンリンパ腫は、英国における全がん死亡の約2.6%を引き起こし、モノクローナル免疫グロブリンは、標準電気泳動法を用いて患者の約10~15%の血清中に同定されている。最初の報告では、患者の60~70%の尿中にモノクローン遊離軽鎖が検出されることが示されている。B細胞慢性リンパ性白血病では、遊離軽鎖免疫測定法によってモノクローン性蛋白が同定されている。
【0080】
さらに、いわゆるMGUS状態が存在する。これらは意義不明のモノクローン性免疫グロブリン血症である。この用語は、多発性骨髄腫、ALアミロイドーシス、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症などの証拠がない患者に、モノクローン性の無傷の免疫グロブリンが予期せぬ存在することを意味する。MGUSは50歳以上の集団の1%、70歳以上の集団の3%、及び80歳以上の集団の10%に認められる。これらの大部分はIgGor IgM関連であるが、IgA関連又は二クローン性であることはまれである。MGUS患者のほとんどは非血縁疾患により死亡するが、MGUSは悪性モノクローナル高ガンマグロブリン血症に転化することがある。
【0081】
上記で強調した疾患の少なくともいくつかの症例において、疾患は、異常な濃度のモノクローナル免疫グロブリン又は遊離軽鎖を提示する。病気が形質細胞の異常な複製を引き起こすと、その「モノクローン」が増殖して血液中に現れるように、そのタイプの細胞によって免疫グロブリンの産生が増加することがよくある。
【0082】
本発明の方法で使用するために、所定量の複数のコントロール物質と、所望により分析物特異的抗体又はその断片とを含む、少なくとも1つの基質を含むキットは、さらに、較正されるべき分析物を較正するための所定の較正値を含む。これは、基準値と組み合わせて提供され、基準値は、例えば、コンピュータにプログラムされる数値の形態であってもよく、又はコンピュータにロードするための自動化チップシステム上に提供されるものであってもよい。あるいは、これは、アッセイ装置にアップロードするためのバーコード又はQRコードとして提供されてもよい。較正値は、上述のように決定することができる。このようなキットでは、コントロール物質抗体又はその断片は、上記で定義した通りであってもよい。
【0083】
本発明のさらなる態様は、本発明の工程(v)及び(vi)を実行する手段を有する質量分析計を提供する。本発明の工程(v)及び(vi)を質量分析計に実施させるための命令を含むコンピュータプログラムも提供される。
【0084】
1つ以上のプロセッサ上で実行されるときに、本発明の方法によって得られた第2のピークのサイズ又は面積を所定の較正値と比較する命令を含むコンピュータ読み取り可能媒体も提供される。この媒体はまた、例えば、第2のピークのピークサイズ又はm/z値と分析物ピークとの比を比較することができる。
【0085】
基質への抗体の結合の基質及び方法、ならびにその後の分析物及びコントロール物質、例えばヘテロポリマー、例えば抗体ピークの溶出及び検出は、当該技術分野で一般に知られており、ポリクローナル抗免疫グロブリン抗体、例えば抗軽鎖、抗遊離軽鎖、抗重鎖及び抗重鎖クラス-軽鎖抗体は、例えば、The Binding Site Group Limited、Birmingham、United Kingdomから入手可能である。モノクローナル抗重鎖及び抗軽鎖抗体は、当該技術分野で公知である。
【0086】
ここで、本発明は、以下の図面を参照することによってのみ、例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
図1図1は、酸溶出及びMALDI-TOFに続いて、ビーズに結合した抗体を利用する原理を示す。この例では、抗原は存在せず、基質から溶出された抗体の濃度は、クロマトグラフィー-質量分析によって検出され、定量される。抗体由来の軽鎖のMALDI-TOFの質量スペクトルも示した。
図2図2は、MALDI-TOF上のβ2Mのようなタンパク質を検出するための結合モノクローナル抗体の使用を示す。
図3図3は、試料からの軽鎖を検出及び定量するために軽鎖特異性を有するモノクローナル抗体を使用する例を示す。
図4図4は、PFP-Biotinを用いたDaratumumab(IgGκCD38特異的モノクローナル抗体)の漸進的ビオチン化及び質量シフトを示す。
図5図5は、健康なヒト血清からのポリクローナルIgA(左パネル)又はポリクローナルIgM(右パネル)のビオチン化及び質量シフトを示す。
図6図6は、ビオチン-PEG36-PFPを用いたポリクローナルIgA及びIgMからのカッパ軽鎖のビオチン化及び質量シフトの時間経過を示す。
図7a図7は、ビオチン-PEG36-PFPを用いたDaratumumabカッパ軽鎖の質量修飾を示す。標識は、試薬の単回投与(図7a)を用いて2時間、又は2時間後に試薬の2回目の投与(図7b)を加えて6時間行った。
図7b図7は、ビオチン-PEG36-PFPを用いたDaratumumabカッパ軽鎖の質量修飾を示す。標識は、試薬の単回投与(図7a)を用いて2時間、又は2時間後に試薬の2回目の投与(図7b)を加えて6時間行った。
図8a図8は、モノクローナルタンパク質の質量修飾とスペクトルシフトを示す。IgAK(A1K20、図8a)及びIgG2K(G2K14、図8b)を、ビオチン-PEG36-PFPを用いて標識した。
図8b図8は、モノクローナルタンパク質の質量修飾とスペクトルシフトを示す。IgAK(A1K20、図8a)及びIgG2K(G2K14、図8b)を、ビオチン-PEG36-PFPを用いて標識した。
図9図9は、健康血清中のポリクローナル免疫グロブリンκ軽鎖の質量修飾に対するビオチン-PEG24-TFPの増加量及び反応時間(3時間又は一晩)の影響を示す。
図10図10は、Biotin-PEG36-PFPを用いたDaratumumabカッパ軽鎖の質量修飾を質量標準として用いる。
図11図11は、MALDI-TOFシグナル強度及びDaratumumab濃度に関する用量反応データ(質量修飾(下側パネル)及び非修飾(上側パネル)カッパ軽鎖)を示す。
図12図12は、多発性骨髄腫患者から採取したモノクローナルIgAL(A1L20)臨床検体のQIP-MS(免疫沈降)反応に、Daratumumabを添加した試験を示す。
図13図13は、健康なIgA(UNP001)臨床検体のQIP-MS(免疫沈降)反応へのDaratumumabの質量修飾スパイクを示す。
【発明を実施するための形態】
【0088】
図1は、ビーズのようなマトリックスに結合した抗体を例示としてのみ示す概略図である。
抗体は、公知の技術によって付着させることができる。
【0089】
分析物が存在しない場合、または、あるいはこれがコントロール較正値を生成するために使用される場合、抗体は、酸溶出によって溶出され得、検出された抗体の量は、LC-MSによって定量され得る。質量分析計は、この場合、溶出された抗体からの軽鎖の電荷及び質量に基づいて2つのピークを生成する。
【0090】
図2において、抗体を患者試料とインキュベートして、β2Mのような分析物に結合させる。酸溶出後、抗体と抗原を分離し、MALDI-TOFを用いて検出する。実施例では、軽鎖を重鎖から分離し、軽鎖を検出し、分析物の試料のピークと比較する。検体の量は、抗体の非存在下での酸溶出によって生成された既知量の軽鎖のために補正することができ、抗体は、所定の較正値を生成するために使用されている。
【0091】
図3は、患者試料からの軽鎖を検出するモノクローナル抗体の例を示す。この場合、モノクローナル抗体のサイズは、検出される試料の軽鎖よりも重い。これは、モノクローナル抗体中の軽鎖のサイズを選択することによって、又は、あるいはモノクローナル抗体をより重くすることによって、例えば、モノクローナル抗体の軽鎖残基のN末端又はC末端に1つ又は複数の付加的アミノ酸を添加することによって、生成することができる。このようなより重いモノクローナル抗体軽鎖、又は、MALDI-TOFによって検出されるピークであるならば、実際にモノクローナル重鎖を産生する技術は、当技術分野で一般に公知である。
【0092】
上記のような他のコントロール物質も同様の方法で使用することができる。
【実施例1】
【0093】
背景
質量分析(MS)は質量電荷比(m/z)により分析物の分離を可能にする。ポリクローナル免疫グロブリン軽鎖は、種々の組の質量を有するので、典型的には、シグナル強度に対してm/zの正規分布したベル形の曲線を生成する。モノクローナル軽鎖は、ベル曲線から外れて伸びる鋭いピークとして解離する。本発明者らは以前に、二重荷電(軽鎖イオン([M+2H]2+)がm/z 10900~12300の範囲でMALDI-TOFにより最良の分解能を生成することを観察した。例示したEXENT QIP-MSイムノアッセイ前分析段階は、(1)磁気ビーズによる分析物の免疫捕捉、(2)分析物の同時溶出及び還元、及び(3)MALDI-TOF標的プレート上への分析物のスポットの3つの主要工程を有する。本発明者らは、工程1の間に加えることができる磁性ビーズに付着した質量修飾タンパク質標準を、工程2の前に分析物とアマルガム化され、それと同時にスポットされ得るように、例として含めることを選択した。これは、工程1における変動をコントロールするために使用でき、次に、MALDI-TOF質量分析計から得られた分析物スペクトルシグナルを標準化又はコントロールするために使用できるので、重要である。
【0094】
方法
免疫グロブリンの大量修飾
ペンタフルオロフェニルエステル(PFP)又はテトラフルオロフェニルエステル(TFP)架橋剤を介して、ビオチン又はビオチン化PEG分子を用いて免疫グロブリンを修飾した。これらはタンパク質中の第一級及び第二級アミンの両方を標的とし、架橋剤のより一般的に使用されるN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル基よりも反応性が高く安定である。これらは、タンパク質及びアミノ酸の両方のビオチン標識に適していることが示されており、市販されている(例えば、EZ-Link(商標)PFP-Biotin、カタログ番号21218、Thermo Fisher Scientific、及びビオチン-PEG36-PFPエステル、カタログ番号BP-24318、BroadPharm)。PBS中の5mg/mlの免疫グロブリンを、DMSO中に溶解した種々の量のPFP又はTFP架橋剤とともに、種々の期間(数時間から数日間)、振とう機上の室温でインキュベートした。反応をグリシン(1:1モル)の添加により停止し、次に透析して非共役架橋剤を除去した。
【0095】
質量スペクトル標準粒子又はビーズの調製
質量分析標準ビーズを調製するために、10μlの修飾された免疫グロブリンをPBS間で50μlに希釈し、抗ヒトIgG常磁性微粒子とともに15分間インキュベートした。ビーズを磁気ラック上でペレット化し、上清を除去し、ビーズをPBS-Tweenで3回、水で1回洗浄し、使用するまで貯蔵した。
【0096】
EXENT QIP-MSイムノアッセイ
血清試料又は純粋なタンパク質を希釈し、ヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖(抗IgG、IgA、IgM、総カッパ及び総ラムダ)に特異的な抗体を含有する常磁性微粒子を用いたEXENT QIP-MSイムノアッセイ中に捕獲した。これらの微粒子を、安定化ヒツジポリクローナル抗体又は組換えラクダVHドメイン抗体(Thermo Fisher Scientific)のいずれかに結合させた。ビーズをペレット化し、PBS-Tweenで連続的に洗浄した。質量分析標準粒子ビーズを混合物に添加し、ペレット化し、水で1回洗浄した。これを、還元剤及びイオン化コントロールタンパク質の両方を含有する酸性緩衝液で溶出した(例えば、WO2021/019211参照)。続いて、MALDIマトリックス(α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸)を有するサンドイッチ中でMALDI-TOFターゲットプレート上に溶出物をスポットし、乾燥させた。質量スペクトルは、二重荷電([M+2H]2+、m/z 10900~12300)イオンの分析物(ヒトカッパ又はラムダ軽鎖)及び質量スペクトルstdを含むm/z範囲5000~30,000をカバーするBruker Microflex MALDI-TOF-MS上で正イオンモードで取得した。
【0097】
結果
免疫グロブリンの大量修飾
EXENT QIP-MSシステムで使用可能な質量シフト分子を生成するためには、2つのパラメーターが満たされる必要がある;(1)分子の免疫沈降又は免疫捕獲を妨げない免疫グロブリン軽鎖の修飾、及び(2)m/zシフトとして検出可能な質量を加える(又は実際に除去する)。治療用モノクローナルIgGK DaratumumabへのPFP架橋を用いたビオチンの添加を用いて、免疫グロブリン軽鎖のm/zにおける対応する質量シフトを伴う完全な免疫グロブリンの修飾がMALDI-TOFによって観察されることを示した(図4)。図5は、ビオチン化によるこの質量シフトが、ポリクローナルIgA及びIgM試料でも機能することを示している。3例すべてにおいて、ラクダ抗体ビーズによるこれらの質量修飾タンパク質の免疫沈降は影響を受けない。ビオチン単独で見られる質量増加は、+2電荷状態イオンの予想される生物学的範囲を超えて質量をシフトさせるのに十分ではなく;10900~12300Da;これを達成するためには、より大きな分子が必要である。ビオチン-PEG36-PFPを、ポリクローナルIgA及びIgM、ならびにヒツジ抗カッパ軽鎖ビーズによって捕獲された分子に添加した。時間経過は、4時間の反応時間がカッパ軽鎖の質量を平均m/z 11700~12650に修正するのに十分であることを示している(図6)。本研究は、Daratumumabモノクローナルタンパク質のビオチン-PEG36-PFP修飾を用いて拡大した(図7)。修飾物質の6時間の2段階の添加は、2時間の1段階の添加と比較して(図7a)、カッパ軽鎖のほぼすべての質量をシフトさせた(図7b)。ビオチン-PEG36-PFPはまた、骨髄腫由来モノクローナル免疫グロブリン、IgAK(図8a)及びIgG2K(図8b)上の軽鎖を質量シフトするために使用され得る。ヒト血清中のポリクローナル免疫グロブリンκ軽鎖の同様の質量シフトは、関連架橋剤(ビオチン-PEG24-TFP)を用いて3時間又は一晩にわたって得ることができた(図9ab)。
【0098】
EXENT QIP-MS std
インサイチュMSコントロールとしての質量修飾免疫グロブリンの使用を例証するために、DaratumabにBiotin-PEG36-PFPを3日間標識した。ヒツジ抗IgGビーズを用いてEXENT QIP-MSイムノアッセイを用いて分析した結果の軽鎖のm/zは、単一部位が修飾されていることを示唆した(図10及び11)。この単一の部位修飾は、抗IgGビーズによって免疫捕捉されるIgGK免疫グロブリンの能力に影響することなく、+2m/zを11700から12600に増加させるのに十分であった。10倍の範囲にわたるこの分子の希釈系列は、この濃度がMSシグナル強度と正に関連することを示した(図11)。
【0099】
質量修飾Daratumumabを抗IgGビーズに結合させ、EXENT QIP-MS免疫沈降IgAアッセイを行ったところ、分析物と質量修飾分子の同時溶出が得られた。後者の質量修飾軽鎖+2ピークは、骨髄腫IgAL患者(図12)又は健康な試料に存在するポリクローナルIgAから得られるものと明確に区別できる(図13)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8a
図8b
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】