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特表2023-525855コロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防のための化合物及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-19
(54)【発明の名称】コロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防のための化合物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/497 20060101AFI20230612BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230612BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230612BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230612BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230612BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20230612BHJP
   A61K 31/343 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
A61K31/497
A61P31/14
A61P43/00 111
A61P11/00
A61P1/04
A61P1/12
A61K31/343
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569212
(86)(22)【出願日】2021-04-29
(85)【翻訳文提出日】2022-11-14
(86)【国際出願番号】 CN2021090916
(87)【国際公開番号】W WO2021227887
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/090534
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010418069.1
(32)【優先日】2020-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518222745
【氏名又は名称】上海科技大学
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI TECH UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.393 Middle Huaxia Road, Pudong New Area, Shanghai, China
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼▲海▼涛
(72)【発明者】
【氏名】▲ジン▼振明
(72)【発明者】
【氏名】杜小宇
(72)【発明者】
【氏名】段胤▲凱▼
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼耀
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼秀娜
(72)【発明者】
【氏名】▲饒▼子和
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA06
4C086BC48
4C086GA07
4C086GA16
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZB33
4C086ZC75
(57)【要約】
コロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防における化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、或いはその薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形の使用を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防に使用される化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、又はその薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形であって、
前記化合物YM155のCAS番号は781661-94-7であり、前記タンシノンIのCAS番号は568-73-0であり、前記クリプトタンシノンのCAS番号は35825-57-1である、化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、又はその薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形。
【請求項2】
コロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防のための薬物、又はパパイン様プロテアーゼ阻害剤の調製に使用される化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、又はその薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形であって、
前記薬物はコロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防に使用され;前記化合物YM155のCAS番号は781661-94-7であり、前記タンシノンIのCAS番号は568-73-0であり、前記クリプトタンシノンのCAS番号は35825-57-1である、化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、又はその薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形。
【請求項3】
前記疾患は哺乳類又は鳥類の疾患であり、前記哺乳類は好ましくはヒト、ブタ及びネコを含む;
及び/又は、前記コロナウイルスは、オルトコロナウイルス亜科(Orthocoronavirinae)に属し、好ましくはアルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、ガンマコロナウイルス又はデルタコロナウイルス属であり、より好ましくはSARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、HCoV-HKU1、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E、TGEV、PEDV、PDCoV、FIPV又はIBVである、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、又はその薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形。
【請求項4】
前記コロナウイルスは上気道感染症を引き起こすコロナウイルス、急性呼吸器症候群を引き起こすウイルス、例えばSARS関連コロナウイルス及び中東呼吸器症候群コロナウイルスの一つ又は複数から選ばれ、
好ましくは、前記上気道感染を引き起こすコロナウイルスはヒトコロナウイルス229E、ヒトコロナウイルスHKU1、ヒトコロナウイルスOC43、ヒトコロナウイルスNL63及び/又はマウス肝炎ウイルスA59であり;及び/又は、前記SARS関連コロナウイルスはSARS-CoV又はSARS-CoV-2である、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、又はその薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形。
【請求項5】
前記コロナウイルスは豚伝染性胃腸炎ウイルス、豚流行性下痢症ウイルス、豚デルタコロナウイルス、猫伝染性腹膜炎ウイルス及び/又は鳥伝染性気管支炎ウイルスである、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、又はその薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、又はその薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形を含む医薬組成物。
【請求項7】
前記疾患は哺乳類又は鳥類の疾患であり、前記哺乳類は好ましくはヒト、ブタ及びネコを含み;
及び/又は、前記コロナウイルスは、オルトコロナウイルス亜科(Orthocoronavirinae)に属し、好ましくはアルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、ガンマコロナウイルス又はデルタコロナウイルス属であり、より好ましくは、SARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、HCoV-HKU1、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E、TGEV、PEDV、PDCoV、FIPV又はIBVである、
ことを特徴とする請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記コロナウイルスは上気道感染症を引き起こすコロナウイルス、急性呼吸器症候群を引き起こすウイルス例えば、SARS関連コロナウイルス及び中東呼吸器症候群コロナウイルスの一つ又は複数から選ばれ;
好ましくは、前記上気道感染を引き起こすコロナウイルスはヒトコロナウイルス229E、ヒトコロナウイルスHKU1、ヒトコロナウイルスOC43、ヒトコロナウイルスNL63及び/又はマウス肝炎ウイルスA59であり;及び/又は、前記SARS関連コロナウイルスはSARS-CoV又はSARS-CoV-2である、
ことを特徴とする請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記コロナウイルスは豚伝染性胃腸炎ウイルス、豚流行性下痢症ウイルス、豚デルタコロナウイルス、猫伝染性腹膜炎ウイルス及び/又は鳥伝染性気管支炎ウイルスである、
ことを特徴とする請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記医薬組成物は薬学的に許容される担体、賦形剤及び/又は溶媒を含み;
及び/又は、前記医薬組成物は他の薬物をさらに含み;前記他の薬物はコロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防に使用される、
ことを特徴とする請求項6~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
コロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防のための薬物又はパパイン様プロテアーゼ阻害剤の調製における化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、その薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形、又はそれらを含む医薬組成物の使用であって、
前記化合物YM155のCAS番号は781661-94-7であり、前記タンシノンIのCAS番号は568-73-0であり、前記クリプトタンシノンのCAS番号は35825-57-1である、
ことを特徴とする使用。
【請求項12】
前記疾患は哺乳類又は鳥類の疾患であり、前記哺乳類は好ましくはヒト、ブタ及びネコを含み、
及び/又は、前記コロナウイルスはオルトコロナウイルス亜科(Orthocoronavirinae)に属し、好ましくは、アルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、ガンマコロナウイルス又はデルタコロナウイルス属、より好ましくは、SARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、HCoV-HKU1、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E、TGEV、PEDV、PDCoV、FIPV又はIBVである、
ことを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記コロナウイルスは上気道感染症を引き起こすコロナウイルス、急性呼吸器症候群を引き起こすウイルス、例えばSARS関連コロナウイルス及び中東呼吸器症候群コロナウイルスの一つ又は複数から選ばれ、
好ましくは、前記上気道感染を引き起こすコロナウイルスはヒトコロナウイルス229E、ヒトコロナウイルスHKU1、ヒトコロナウイルスOC43、ヒトコロナウイルスNL63及び/又はマウス肝炎ウイルスA59であり;及び/又は、前記SARS関連コロナウイルスはSARS-CoV又はSARS-CoV-2である、
ことを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項14】
前記コロナウイルスは豚伝染性胃腸炎ウイルス、豚流行性下痢症ウイルス、豚デルタコロナウイルス、猫伝染性腹膜炎ウイルス及び/又は鳥伝染性気管支炎ウイルスである、
ことを特徴とする請求項11に記載の使用。
【請求項15】
必要とする患者に化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、その薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形、又はそれを含む医薬組成物を投与することを含み、
前記化合物YM155のCAS番号は781661-94-7であり、前記タンシノンIのCAS番号は568-73-0であり、前記クリプトタンシノンのCAS番号は35825-57-1である、
ことを特徴とするコロナウイルスによる疾患の治療方法。
【請求項16】
前記疾患は哺乳類又は鳥類の疾患であり、前記哺乳類は好ましくはヒト、ブタ及びネコを含み、
及び/又は、前記コロナウイルスはオルトコロナウイルス亜科(Orthocoronavirinae)に属し、好ましくはアルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、ガンマコロナウイルス又はデルタコロナウイルス属であり、より好ましくは、SARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、HCoV-HKU1、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E、TGEV、PEDV、PDCoV、FIPV又はIBVである、
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記コロナウイルスは上気道感染症を引き起こすコロナウイルス、急性呼吸器症候群を引き起こすウイルス、例えばSARS関連コロナウイルス及び中東呼吸器症候群コロナウイルスの一つ又は複数から選ばれ、
好ましくは、前記上気道感染を引き起こすコロナウイルスはヒトコロナウイルス229E、ヒトコロナウイルスHKU1、ヒトコロナウイルスOC43、ヒトコロナウイルスNL63及び/又はマウス肝炎ウイルスA59であり;及び/又は、前記SARS関連コロナウイルスはSARS-CoV又はSARS-CoV-2である、
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記コロナウイルスは豚伝染性胃腸炎ウイルス、豚流行性下痢症ウイルス、豚デルタコロナウイルス、猫伝染性腹膜炎ウイルス及び/又は鳥伝染性気管支炎ウイルスである、ことを特徴とする請求項15に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、出願日が2020年05月18日である中国特許出願CN202010418069.1、及び出願日が2020年05月15日であるPCT出願PCT/CN2020/090534の優先権を主張する。本出願は、前記2件の特許出願の全文を引用する。
【0002】
[技術分野]
本発明は、バイオメディカル技術分野に属し、具体的にコロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防のための化合物及びその使用に関する。
【0003】
[背景技術]
コロナウイルスは、ヒトや動物に近縁なウイルス群である。コロナウイルスHCoV-229EとHCoV-OC43は、風邪を引き起こす(van der Hoek, L., Pyrc, K., Jebbink, M. et al. Identification of a new human coronavirus. Nat Med 2004,10, 368-373)。2002年から2003年にかけてSARSコロナウイルスによる重症急性呼吸器症候群(SARS、severe acute respiratory syndrome)は、世界で8098人の感染者と774人の死亡者を出し、死亡率は10%であった(Stadler, K., Masignani, V., Eickmann, M. et al. SARS - beginning to understand a new virus. Nat Rev Microbiol 2003, 1, 209-218)。2004年に同定されたHCoVNL63も風邪に似た呼吸器疾患を引き起こす(van der Hoek, L., Pyrc, K., Jebbink, M. et al. Identification of a new human coronavirus. Nat Med 2004,10, 368-373)。2012年に中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)が出現し、2016年4月26日現在、27カ国で1728人が感染し、そのうち624人が死亡した(de Wit, E., van Doremalen, N., Falzarano, D. et al. SARS and MERS: recent insights into emerging coronaviruses. Nat Rev Microbiol 2016,14, 523-534)。最近世界的に流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、発熱、空咳や呼吸困難などの臨床症状を呈する新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)を引き起こし、重症例では死亡することがある(Jeannette Guarner, MD, Three Emerging Coronaviruses in Two Decades: The Story of SARS, MERS, and Now COVID-19, American Journal of Clinical Pathology, , aqaa029)。コロナウイルスは畜産業にも大きな影響を与えている:豚流行性下痢症ウイルス(PEDV)、胃腸炎ウイルス(TGEV)、豚デルタコロナウイルス(Porcine delta coronavirus、別名デルタウイルス)は、豚に重度の腸炎、下痢、嘔吐、脱水を起こし、豚産業に大きな損失を与えている(Akimkin V, Beer M, Blome S, et al. New Chimeric Porcine Coronavirus in Swine Feces, Germany, 2012. Emerg Infect Dis. 2016,22(7):1314-1315.) 。猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)は、ネコ科動物に致死的な病気を引き起こすことがある。鳥類感染性気管支炎ウイルス(IBV)は鳥類に感染し、広く分布された家禽類の病気で、養鶏産業に大きな影響を与えている。
【0004】
コロナウイルスのゲノムは長さ約28kbの一本鎖ジャスティスRNAで、主にウイルスのパッケージングに必要な構造タンパク質と複製転写に関連する非構造タンパク質をコードしている。コロナウイルス関連疾患の治療薬やワクチンの開発では、この2種類のタンパク質に着目している。ウイルスゲノムの3分の2は、主にウイルスの複製過程に関与する非構造タンパク質をコードしている。成熟した非構造タンパク質を生成する前に、コロナウイルスはpp1aとpp1abという2つのレプリカーゼポリペプチドをコードしている。pp1aとpp1abは、ウイルス自身がコードする2つのプロテアーゼ、即ちメインプロテアーゼ(main protease)とパパイン様プロテアーゼ(papain-like protease)によって16つの非構造タンパク質(nsp1-16)に切断され、これらの機能的なサブユニットがプロテアーゼによって適切に切断され、別々のタンパク質ユニットになり、それが複製・転写複合体に組み合わされて初めて、ウイルスは通常の転写・複製機能を発揮することができる。
【0005】
パパイヤ様プロテアーゼは非構造タンパク質nsp3に存在し、レプリカーゼポリペプチドのN末端にある3つの切断部位が剪断時の切断を担当し、nsp1、nsp2及びnsp3が放出される(Ziebuhr, J.; Snijder, E. J.; Gorbalenya, A. E. Virus-encoded proteinases and proteolytic processing in the Nidovirales. J Gen Virol 2000, 81, 853-79.;Ziebuhr, J. Molecular biology of severe acute respiratory syndrome coronavirus. Curr Opin Microbiol 2004, 7, 412-9.;Ratia, Kiira, et al. Severe acute respiratory syndrome coronavirus papain-like protease: structure of a viral deubiquitinating enzyme. Proceedings of the National Academy of Sciences 103.15 (2006): 5717-5722.)。パパイヤ様プロテアーゼは、酵素切断、脱ユビキチン化、宿主IFNの拮抗などの重要な機能により、ウイルスの転写や複製を制御する役割を担っており、コロナウイルス薬のターゲットとして重要である。そのため、パパイヤ様プロテアーゼの触媒部位に対して高い特異性と安全性を有する阻害剤の探索は、創薬開発にとって不可欠な要素である。コロナウイルスのパパイヤ様プロテアーゼの阻害剤、特にその基質結合ポケットを標的とした低分子化合物は、コロナウイルスの治療薬となる可能性を秘めている。Sepantronium Bromide(YM155、分子式:C2019BrN、CAS番号:781661-94-7)は下記の構造式であり:
【0006】
【化1】
【0007】
YM155は、新規な低分子survivin阻害剤である。
Survivinは、IAP(Inhibitors of apoptosis)ファミリーの一員であり、アポトーシスの抑制や細胞周期の調節に関与している。通常、survivinは主に胚発生時に発現し、終末分化した細胞や組織では発現が停止される。しかし、多くの腫瘍では、survivinの発現が上昇し、アポトーシスが阻害されるため、腫瘍細胞死が減少し、化学療法に抵抗性を示すようになる。そのため、survivinはがん治療薬の開発において重要な標的となっている(Garg, Himani, et al. ‘Survivin: a unique target for tumor therapy.’ Cancer cell international 16.1 (2016): 49.)。
【0008】
研究によると、YM155はsurvivinの発現を抑制することにより、腫瘍細胞の成長・増殖を抑制し、アポトーシスを引き起こす。YM155は10nMの濃度でPC-3、PPC-1ヒトHRPC細胞株(前立腺癌細胞株)にアポトーシスを誘導することになる(Nakahara, Takahito, et al. ‘YM155, a novel small-molecule survivin suppressant, induces regression of established human hormone-refractory prostate tumor xenografts.’ Cancer research 67.17 (2007): 8014-8021.)。
【0009】
YM155の腫瘍細胞に対する殺傷効果は顕著であるが、正常な細胞組織に対しては安全である。YM155の第I相臨床試験(Satoh, Taroh, et al. ‘Phase I study of YM155, a novel survivin suppressant, in patients with advanced solid tumors.’ Clinical Cancer Research 15.11 (2009): 3872-3880.)において、YM155のMTD(maximum tolerated dose)は8.0mg/m/dであり、YM155が臨床へ移行する可能性が示唆された。
【0010】
タンシノンI(Tanshinone I、分子式:C1812、CAS番号:568-73-0)は、漢方薬である丹参(Salvia miltiorrhiza Bunge)から得られる化学分子で、下記の構造式であり:
【0011】
【化2】
【0012】
タンシノンIは抗炎症作用を持ち、接着分子の制御を通じて乳がん転移を制御・抑制する可能性がある(Nizamutdinova, Irina Tsoy, et al. “Tanshinone I suppresses growth and invasion of human breast cancer cells, MDA-MB-231, through regulation of adhesion molecules.” Carcinogenesis 29.10 (2008): 1885-1892)。CN102552236Aはミクログリアが介在する疾患の治療のためのタンシノンIの使用を開示しており、CN102988370Aはさらに乾癬の治療のための薬物の調製におけるタンシノンIの使用を開示している。
【0013】
クリプトタンシノン(Cryptotanshinone、分子式:C1920、CAS番号:35825-57-1)は、漢方薬である丹参(Salvia miltiorrhiza Bunge)から単離されたキノンジテルペンで、下記の構造式であり:
【0014】
【化3】
【0015】
研究によると、クリプトタンシノンの薬物標的はSTAT3であり、STAT3を効果的に阻害できる。クリプトタンシノンはJAK2非依存的なメカニズムでSTAT3 705のTyrのリン酸化を速やかに阻害する。クリプトタンシノンは、単量体のSTAT3に結合してSTAT3の二量体化を阻害することにより、STAT3の転写調節活性を抑制する(Shin, Dae-Seop, et al. “Cryptotanshinone inhibits constitutive signal transducer and activator of transcription 3 function through blocking the dimerization in DU145 prostate cancer cells.” Cancer research 69.1 (2009): 193-202)。また、クリプトタンシノンはシクロオキシゲナーゼIIの活性を阻害することで抗炎症作用を発揮するという研究報告もある(Jin, Dao-Zhong, et al. “Cryptotanshinone inhibits cyclooxygenase-2 enzyme activity but not its expression.” European journal of pharmacology 549.1-3 (2006): 166-172)。CN106798737Aは、さらに肺線維症の予防と治療におけるクリプトタンシノンの使用を開示している。JP2004517939Aは、さらに初期アルツハイマー病の予防と治療におけるクリプトタンシノンの使用を開示している。
【0016】
コロナウイルスによる関連疾患の治療薬として、前記いずれの薬物も先行技術では利用できない。
[発明の概要]
本発明が解決しようとする技術的課題は、コロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防に有効な薬物がない先行技術の欠点に対応し、コロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防のための化合物及びその使用を提供し、前記化合物は具体的にYM155に関する。
【0017】
以下では、本発明の技術案を詳細に説明する。
本発明の技術案一:化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、その薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形であって、コロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防に用いられる;前記化合物YM155のCAS番号は781661-94-7であり、前記タンシノンIのCAS番号は568-73-0であり、前記クリプトタンシノンのCAS番号は35825-57-1である。
【0018】
本発明の技術案二:化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、その薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形であって、コロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防のための薬物又はパパイヤ様プロテアーゼ阻害剤の調製に用いられ、前記薬物はコロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防のために使用される;前記化合物YM155のCAS番号は781661-94-7であり、前記タンシノンIのCAS番号は568-73-0であり、前記クリプトタンシノンのCAS番号は35825-57-1である。
【0019】
本発明の技術案三:前記技術案一又は技術案二に記載の化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、その薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形を含む医薬組成物である。
【0020】
本発明の好ましい技術案において、前記医薬組成物は他の薬物をさらに含む;前記他の薬物はコロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防のために使用される。
本発明の技術案四:コロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防のための薬物又はパパイン様プロテアーゼ阻害剤の調製における、化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、その薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形、又はそれらを含む医薬組成物の使用であって、前記化合物YM155のCAS番号は781661-94-7であり、前記タンシノンIのCAS番号は568-73-0であり、前記クリプトタンシノンのCAS番号は35825-57-1である。
【0021】
本発明の技術案五:コロナウイルスによる疾患の治療方法であって、必要とする患者に化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、その薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形、又はそれらを含む医薬組成物を投与することを含む;前記化合物YM155のCAS番号は781661-94-7であり、前記タンシノンIのCAS番号は568-73-0であり、前記クリプトタンシノンのCAS番号は35825-57-1である。
【0022】
本発明において、前記疾患は、好ましくは哺乳類疾患又は鳥類疾患である。
本発明において、前記哺乳類は、好ましくはヒト、ブタ、ネコを含む。
本発明に記載のコロナウイルスは、当該技術分野で公知のものと定義され、系統分類上、ニドビル目(Nidovirales)コロナウイルス科(Coronaviridae)オルソコロナウイルス亜科(Orthocoronavirinae)に属するものである。コロナウイルスはエンベロープ(envelope)を有し、ゲノムが一本の正鎖であるRNAウイルスで、自然界に広く存在する大きなウイルス群である。
【0023】
本発明の目的は、コロナウイルス感染症による疾患に対する治療法の可能性を提供することにある。本発明に記載のコロナウイルスは、好ましくはオルソコロナウイルス亜科(Orthocoronavirinae)に属し、より好ましくはアルファコロナウイルス属、ベータコロナウイルス属、ガンマコロナウイルス属又はデルタコロナウイルス属に属するものである。
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、前記化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノンは、SARS-CoV-2(ベータコロナウイルス属)による疾患に加えて、SARS-CoV(ベータコロナウイルス属)及びMERS-CoVなどの他のコロナウイルスによる主要感染症の治療に使用され、さらには風邪薬として、HCoV-HKU1(Human coronavirus HKU1;ベータコロナウイルス属)、HCoV-NL63(Human coronavirus NL63;アルファコロナウイルス属)、HCoV-OC43(Human coronavirus OC43)及びHCoV-229E(Human coronavirus 22E;アルファコロナウイルス属)などのコロナウイルスによる疾患に使用される;動物用薬物として、豚伝染性胃腸炎ウイルス(Transmissible gastroenteritis virus、TGEV;アルファコロナウイルス属)、豚流行性下痢ウイルス(Porcine epidemic diarrhea virus、PEDV;アルファコロナウイルス属)、豚デルタコロナウイルス(Porcine delta coronavirus、PDCoV;デルタコロナウイルス属)、猫伝染性腹膜炎ウイルス(Feline infectious peritonitis virus、FIPV;アルファコロナウイルス属)、鳥伝染性気管支炎ウイルス(Infectious bronchitis virus、IBV;ガンマコロナウイルス属)などの動物疾患の治療にも使用される。
【0025】
したがって、本発明に記載のコロナウイルスは、好ましくはSARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、HCoV-HKU1、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E、TGEV、PEDV、PDCoV、FIPV又はIBVから選択される。
【0026】
本発明の種々の化合物を有効成分として使用する本発明で対象とする医薬組成物は、いずれも当技術分野で公知の方法に従って調製することができる。本発明の化合物を、ヒト又は動物への使用に適した任意の投与形態にすることによって達成することができる。本発明の化合物は、通常、その医薬組成物中に0.1~99.0%の重量で存在する。
【0027】
前記薬学的に許容される担体は、当該技術分野において通常の担体であってもよく、前記担体は、任意の適切な生理学的又は薬学的に許容される医薬補助剤であってもよい。前記医薬補助剤は、当該技術分野における従来の医薬補助剤であってよく、好ましくは医薬的に許容される賦形剤、充填剤又は希釈剤等を含む。より好ましくは、前記医薬組成物は、0.01~99.99%の前記タンパク質及び/又は前記抗体医薬の複合体、及び0.01~99.99%の医薬担体とからなり、前記百分率割合は前記医薬組成物の質量に対する百分率である。
【0028】
本発明の化合物又はそれらを含む医薬組成物は、単位用量形態で投与することができ、投与経路は腸内又は非腸内、例えば経口投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経鼻投与、経口粘膜投与、眼への投与、肺への投与及び気道投与、経皮投与、経膣投与、経直腸投与であり得る。
【0029】
前記のパパイン阻害剤はコロナウイルス阻害剤の形態で存在することができ、例えば:コロナウイルスに対して日常的に使用される薬物である。
[用語解説]
用語「薬学的に許容される」とは、塩、溶媒、補助剤などが一般に無毒で、安全で、患者への使用に適したことを指す。用語「患者」は、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトである。
【0030】
用語「薬学的に許容される塩」とは、本発明の化合物及びそれを含む薬物、医薬組成物、比較的無毒な、薬学的に許容される酸又は塩基を用いて調製した塩を指す。本発明の化合物及びそれを含む薬物、医薬組成物が比較的酸性の官能基を含む場合、そのような薬物の中性形態を純粋な溶液又は適当な不活性溶媒中で十分な量の薬学的に許容できる塩基と接触させることにより塩基付加塩を得ることができる。薬学的に許容される塩基付加塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、ビスマス塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の薬物が比較的塩基性の官能基を含む場合、そのような薬物の中性形態を純粋な溶液又は適当な不活性溶媒中で十分な量の薬学的に許容される酸と接触させることにより酸付加塩を得ることができる。前記薬学的に許容される酸は無機酸を含み、前記無機酸としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、リン酸、亜リン酸、硫酸等が挙げられるが、これらに限定されない。前記薬学的に許容される酸は有機酸を含み、前記有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、イソ酪酸、マレイン酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、トランスブテン二酸、乳酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、クエン酸、サリチル酸、酒石酸、メタンスルホン酸、イソニコチン酸、酸クエン酸、オレイン酸、タンニン酸、パントテン酸、酒石酸水素、アスコルビン酸、ゲンチアナ酸、フマル酸、グルコン酸、サッカリン酸、ギ酸、エタンスルホン酸、パモイック酸(即ち4,4’-メチレン-ビス(3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸))、アミノ酸(例えばグルタミン酸、アルギニン)などである。本発明の薬物が比較的酸性の官能基と比較的塩基性の官能基を含む場合、塩基付加塩又は酸付加塩に変換することができる。詳しくはBerge et al., Pharmaceutical Salts”, Journal of Pharmaceutical Science 66: 1-19 (1977)、又は、Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use (P. Heinrich Stahl and Camille G. Wermuth, ed., Wiley-VCH, 2002)を参照されたい。
【0031】
用語「一つ又は複数」の「複数」は、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種又はそれ以上を指す。
本発明の化合物、それを含む薬物又は医薬組成物は、単位用量で、経路は腸内又は非腸内、例えば、経口投与、外用投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経鼻投与、経口粘膜投与、眼への投与、肺への投与及び気道投与、経皮投与、経膣投与、経直腸投与などができるが、好ましくは経口投与又は外用投与である。
【0032】
投与剤形は、液体、固体又は半固体とすることができる。液体剤形は、溶液(実溶液、コロイド溶液を含む)、乳剤(o/w型、w/o型と複合乳剤を含む)、懸濁液、注射剤(水注射、粉末注射、注入剤を含む)、点眼薬、鼻滴、ローション、リニメント等;固体製剤は、錠剤(普通錠、腸溶錠、含有錠、分散剤、チュアブル錠、発泡錠、口腔内崩壊錠を含む)、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル、腸溶カプセルを含む)、顆粒、散剤、マイクロピル、滴下錠剤、坐剤、フィルム、パッチ、エアゾール(粉末)、スプレー等;半固形剤形は軟膏、ゲル、ペースト等が挙げられる。
【0033】
本発明の薬物又は医薬組成物は、一般的な製剤のほか、徐放性製剤、放出制御製剤、標的製剤及び各種微粒子投与システムなどに製剤化することができる。
「医薬組成物」とは、本発明の化合物の一つ又は複数、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物、水和物又は前記薬物を、他の化学成分、例えば薬学的に許容される担体と混合することを指す。医薬組成物の目的は、動物に薬物を投与するプロセスを容易にすることである。
【0034】
「薬学的に許容される担体」とは、生体に著しい刺激を与えず、かつ与えられた化合物の生物学的活性及び特性を阻害しない医薬組成物中の不活性成分を指し、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、各種糖(例えば乳糖、マンニトールなど)、デンプン、シクロデキストリン、ステアレート、セルロース、炭酸、アクリルポリマー又はメタクリル酸ポリマー、ジェル、水、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、EZごま油又は水素化EZごま油又はポリエトキシ水素化EZごま油、ごま油、コーンオイル、ピーナッツオイルなどであるが、これらに限定されない。
【0035】
前記医薬組成物は、薬学的に許容される担体に加えて、薬(剤)学で一般的に用いられる補助剤、例えば、抗菌剤、抗真菌剤、抗微生物剤、防腐剤、調色剤、可溶化剤、増粘剤、界面活性剤、錯化剤、タンパク質、アミノ酸、脂肪、糖類、ビタミン、ミネラル、微量元素、甘味料、色素、フレーバー又はそれらの組み合わせなどを含んでもよい。
【0036】
用語「治療」とは、セラピューティック治療法を指す。特定の疾患に関連する場合、治療とは、(1)疾患又は病症の一つ又は複数の生物学的発現を緩和すること、(2)(a)病症をもたらす又は引き起こす生物カスケードの一つ又は複数のポイント、又は(b)病症の一つ又は複数の生物学的発現を妨害すること、(3)病症に関連する一つ又は複数の症状、影響又は副作用、又は病症又はその治療に関連する一つ又は複数の症状、影響又は副作用を改善すること、又は(4)病症又は病症の一つ又は複数の以上の生物学的発現発展を遅らせることを指す。
【0037】
用語「溶媒和物」とは、本発明の化合物を化学量論的又は非化学量論的な溶媒と組み合わせることによって形成される物質を指す。溶媒和物中の溶媒分子は、秩序のある配列又は非秩序な配列で存在できる。前記溶媒は、水、メタノール、エタノール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
用語「薬学的に許容される塩の溶媒和物」中の「薬学的に許容される塩」と「溶媒和物」は、前記のように、本発明の化合物を、1.調製した比較的無毒な薬学的に許容される酸又は塩基と組み合わせることによって形成される;2.化学量論的又は非化学量論的な溶媒と組み合わせることによって形成される物質を指す。前記「薬学的に許容される塩の溶媒和物」は、本発明の化合物の塩酸塩一水和物を含むが、これらに限定されない。
【0039】
用語「化合物」「薬学的に許容される塩」「溶媒和物」及び「薬学的に許容される塩の溶媒和物」は結晶又は非晶質の形態で存在できる。用語「結晶形」とは、イオン又は分子が確定的な形態で三次元的に厳密に周期的に配列され、一定の間隔で周期的に繰り返される規則的なパターンを持つことを指す;前記周期的な配置によっては、複数の結晶形態、即ち多結晶現象が存在する。用語「非晶質」とは、イオンや分子が無秩序に分布していること、即ちイオン、分子間に周期的な配列がないことを指す。
【0040】
本発明において、「包括、含む、含有」は、後述の成分に加えて他の成分が存在することを指してもよいし;「......からなる」、即ち後述の成分のみを含み、それ以外の成分を含まないことを指してもよい。
【0041】
本発明の積極的な進歩的効果として:
本発明は、予想外にin vitro酵素活性アッセイ及びin vitro細胞ウイルスアッセイを通じて、YM155がコロナウイルスによる関連疾患の治療に使用できることを明らかにした。ヒトコロナウイルスに対する薬物は上場に承認されておらず、YM155レジメンは高い抗ウイルス活性と低い毒性副作用を持ち、現行技術のギャップを埋めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、YM155が新型コロナウイルスパパイヤ様プロテアーゼに対して強い阻害活性を有することを示す(IC50=2.47μM)。
図2図2は、YM155が細胞内のSARS-CoV-2の複製を阻害することを示す(EC50=0.17μM)。
図3図3は、YM155の細胞毒性が低いことを示す(CC50>133μM)。
図4図4は、タンシノンIの新型コロナウイルスパパイヤ様プロテアーゼに対する阻害活性を示す;1:DMSO(ネガティブコントロール)、2:化合物分子;3:ポジティブコントロール(GRL-0617)。
図5図5は、クリプトタンシノンの新型コロナウイルスパパイヤ様プロテアーゼに対する阻害活性を示す;1:DMSO(ネガティブコントロール)、2:化合物分子;3:ポジティブコントロール(GRL-0617)。
図6図6は、タンシノンIの新型コロナウイルスパパイヤ様プロテアーゼに対する強い阻害活性を示す(IC50=2.21μM)。
図7図7は、タンシノンIが細胞内のSARS-CoV-2の複製を阻害でき(EC50=2.26μM)、細胞毒性が低いことを示す(CC50>300μM)。
図8図8は、クリプトタンシノンの新型コロナウイルスパパイヤ様プロテアーゼに対する強い阻害活性を示す(IC50=5.63μM)。
図9図9は、クリプトタンシノンが細胞内のSARS-CoV-2の複製を阻害でき(EC50=0.7μM)、細胞毒性が低いことを示す(CC50>300μM)。
【発明を実施するための形態】
【0043】
[具体的な実施方式]
以下、実施例によって本発明をさらに説明する。
タンシノンI(CAS番号:568-73-0)はApproved Drug Library (Target Mol)から購入し、クリプトタンシノン(CAS番号:35825-57-1)はNatural Product Library(Selleck)から購入した。
【0044】
使用されるポジティブコントロールはGRL-0617阻害剤(光遠生物より購入)、コロナウイルスのパパイン様プロテアーゼを効果的に阻害することが知られている(詳しくはRatia, K. et al. A noncovalent class of papain-like protease/deubiquitinase inhibitors blocks SARS virus replication. Proceedings of the National Academy of Sciences 105, 16119-16124 (2008)を参照されたい)、下記の構造式であり:
【0045】
【化4】
【0046】
実施例1
in vitro酵素活性アッセイにより、YM155は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパパイヤ様プロテアーゼ活性を著しく阻害することがわかった(図1)。
【0047】
in vitro酵素活性アッセイのステップは下記の通りであり:最終濃度200nMのSARS-CoV-2パパイヤ様プロテアーゼ、YM155溶液の異なる濃度勾配(0.1nM-5μM)と20μMの蛍光基質(Arg-Leu-Arg-Gly--Gly-AMC)を60μlの反応システム(50mM HEPES、pH=7.5、0.1 mg ml-1 BSA)に添加し、室温で10分間インキュベートし、蛍光基質の初期反応速度を340nmの発光光と460nmの励起光で測定し、薬物を添加しないコントロールの初期反応速度との比較により阻害率曲線を得た。実験は3回の生物学的反復が行われた。
【0048】
実施例2
in vitro細胞ウイルスアッセイにより、YM155はSARS-CoV-2の細胞内での複製能力を著しく阻害することがわかった(図2)。同時にin vitro細胞毒性試験(図3)と文献で報告された臨床第I相試験(Satoh, Taroh, et al. ‘Phase I study of YM155, a novel survivin suppressant, in patients with advanced solid tumors.’ Clinical Cancer Research 15.11 (2009): 3872-3880.)はYM155の高い安全性を確認し、したがって、YM155はコロナウイルスによる関連疾患の治療に使用することができる。
【0049】
in vitro 細胞ウイルスアッセイの詳細な実験方法は、下記の通りであり:
(1)プラーク抗ウイルスアッセイでは、24ウェル培養皿に塗布されたたVero E6細胞(ATCCより購入)を異なる濃度(0.1μM~10μM)のYM155で1時間前処理した後、臨床的に分離したウイルス株SARS-CoV-2(nCoV-2019BetaCoV/Wuhan/WIV04/2019)(MOI=0.05)を添加し、1時間感染させた。次に、ウイルスと薬物の混合液を除去し、DMEM培地で2回洗浄した後、前処理に対応する濃度の薬物と0.9%アガロースを含む新しい培地に細胞を再添加した。4日間培養を続けた後、細胞を4%パラホルムアルデヒドで30分間固定し、クリスタリンバイオレットで染色して観察し、カウントした。すべてのウイルスアッセイは、バイオセーフティレベル3の実験室で、3回の生物学的反復が行われた。
(2)細胞活性測定実験では、96ウェルプレートでVero E6細胞を培養した。1日後、DMEM培地に異なる濃度(0.06μM-400μM)のYM155を添加してさらに1日培養した後、CCK8アッセイを用いて生存細胞の相対数を測定し、細胞活性データを導出した。すべての実験は3回の生物学的反復が行われた。
【0050】
in vitro酵素活性アッセイ及びin vitro細胞ウイルスアッセイの詳細な実験方法は、Jin, Z., Du, X., Xu, Y. et al. Structure of Mpro from SARS-CoV-2 and discovery of its inhibitors. Nature, doi:10.1038/s41586-020-2223-y (2020).を参照されたい。
【0051】
実施例3
in vitro酵素活性アッセイ条件は下記の通りであり:
酵素活性実験用蛍光基質:Z-Arg-Leu-Arg-Gly-Gly-AMC(Gill Biochemistry社製)、この蛍光基質の励起波長と発光波長はそれぞれ340nmと460nmであった。
【0052】
実験ステップで使用した酵素反応バッファーは、50mM HEPES、pH 7.5、0.1 mg/mlBSA、2mM DTTであり、酵素活性反応温度は30℃であった。
具体的な実験ステップは下記の通りであり:パパイン様プロテアーゼを添加して反応を開始し、パパイン様プロテアーゼの最終濃度は0.2μMであり、50μM阻害剤(タンシノンI、クリプトタンシノン)溶液、酵素活性アッセイ蛍光基質(Z-Arg-Leu-Arg-Gly-Gly-AMC、濃度20μM)を60μlの反応システム(50mM HEPES、pH=7.5、0.1mg/ml BSA)に添加し、室温で10分間インキュベートし、340nmの発光光と460nmの励起光で蛍光基質の初期反応速度を測定し、薬物を添加しないコントロールとの比較により阻害率曲線を得た。実験は3回の生物学的反復が行われた(具体的なステップはLee, H., et al. (2019). ‘Identification and design of novel small molecule inhibitors against MERS-CoV papain-like protease via high-throughput screening and molecular modeling.’ Bioorganic & medicinal chemistry 27(10): 1981-1989. ,Jin, Z., Du, X., Xu, Y. et al. Structure of Mpro from SARS-CoV-2 and discovery of its inhibitors. Nature, doi:10.1038/s41586-020-2223-y (2020)を参照されたい)。
【0053】
得られた結果は図4図5のように、タンシノンI及びクリプトタンシノンの酵素活性の実験曲線を示している。実験の結果、タンシノンIとクリプトタンシノンは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパパイン様プロテアーゼ活性を有意に阻害し、ネガティブコントロールと明確に区別し、二つの化合物はコロナウイルスのパパイン様プロテアーゼに対して有意な阻害活性を示すことが確認された。
【0054】
実施例4
in vitro酵素活性アッセイにより、タンシノンIとクリプトタンシノンが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパパイヤ様プロテアーゼ活性を有意に阻害することがわかった(図4)。
【0055】
in vitro酵素活性アッセイのステップは下記の通りであり:200nM最終濃度のSARS-CoV-2パパイン様プロテアーゼ、異なる濃度勾配の阻害剤溶液及び20μMの蛍光基質(Arg-Leu-Arg-Gly-Gly-AMC)を60μlの反応システム(50mM HEPES、pH=7.5、0.1mg ml-1 BSA)に添加し、室温で10分間インキュベートし、340nmの発光光と460nmの励起光で蛍光基質の初期反応速度を測定し、薬物を添加していないコントロールの初期反応速度との比較により阻害率曲線を得た。実験は3回の生物学的反復が行われた。
【0056】
得られた結果は図6及び図8のように、タンシノンI及びクリプトタンシノンは、新型コロナウイルスのパパイン様プロテアーゼに対して強い阻害活性があり、IC50がそれぞれ2.21μM及び5.63μMである。
【0057】
実施例5
In vitro細胞ウイルスアッセイにより、タンシノンIとクリプトタンシノンは、細胞におけるSARS-CoV-2の複製能力を著しく阻害し、かつ細胞毒性が低いことがわかった。EC50値はそれぞれ2.26μMと0.7μM(図7図9を参照)であり、CC50値はすべて300μM以上であった。
【0058】
in vitro 細胞ウイルスアッセイの詳細な実験方法は、下記の通りであり:
(1)プラーク抗ウイルスアッセイにおいて、24ウェル培養皿に塗布されたたVero E6細胞(ATCCより購入)を異なる濃度の阻害剤で1時間前処理した後、臨床分離ウイルス株SARS-CoV-2(nCoV-2019BetaCoV/Wuhan/WIV04/2019)(MOI=0.05)を添加し、1時間感染させた。次に、ウイルスと薬物の混合液を除去し、DMEM培地で2回洗浄した後、前処理に対応する濃度の薬物と0.9%アガロースを含む新しい培地で細胞を再インキュベートした。4日間培養を続けた後、細胞を4%パラホルムアルデヒドで30分間固定し、クリスタリンバイオレットで染色して観察し、カウントした。すべてのウイルスアッセイは、バイオセーフティレベル3の実験室で、3回の生物学的反復が行われた。
【0059】
(2)細胞活性実験では、Vero E6細胞を96ウェルプレートで培養した。1日後、異なる濃度の阻害剤をDMEM培地に添加してさらに1日培養した後、CCK8アッセイを用いて生存細胞の相対数を測定し、細胞活性データを導出した。すべての実験は3回の生物学的反復が行われた。
【0060】
in vitro酵素活性アッセイ及びin vitro細胞ウイルスアッセイの詳細な実験方法はJin, Z., Du, X., Xu, Y. et al. Structure of Mpro from SARS-CoV-2 and discovery of its inhibitors. Nature, doi:10.1038/s41586-020-2223-y (2020).を参照されたい。
【0061】
本発明の特定の実施形態は上記に記載されているが、これらは単なる例示であり、本発明の原理及び実質から逸脱することなく、これらの実施形態に対して様々な変更又は修正が可能であることは、当業者には理解されるはずである。したがって、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲によって限定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-02-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防のための医薬の調製における化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、又はその薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形の使用であって、
前記化合物YM155のCAS番号は781661-94-7であり、前記タンシノンIのCAS番号は568-73-0であり、前記クリプトタンシノンのCAS番号は35825-57-1である、化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、又はその薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形の使用
【請求項2】
パイン様プロテアーゼ阻害剤の調製における化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、又はその薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形の使用であって、
記化合物YM155のCAS番号は781661-94-7であり、前記タンシノンIのCAS番号は568-73-0であり、前記クリプトタンシノンのCAS番号は35825-57-1である、化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、又はその薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形の使用
【請求項3】
前記疾患は哺乳類又は鳥類の疾患であり、前記哺乳類は好ましくはヒト、ブタ及びネコを含
及び/又は、前記コロナウイルスは、オルトコロナウイルス亜科(Orthocoronavirinae)に属し、好ましくはアルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、ガンマコロナウイルス又はデルタコロナウイルス属であり、より好ましくはSARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、HCoV-HKU1、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E、TGEV、PEDV、PDCoV、FIPV又はIBVである、
ことを特徴とする請求項1記載の使用
【請求項4】
前記コロナウイルスは上気道感染症を引き起こすコロナウイルス、急性呼吸器症候群を引き起こすウイルス、例えばSARS関連コロナウイルス及び中東呼吸器症候群コロナウイルスの一つ又は複数から選ばれ、
好ましくは、前記上気道感染を引き起こすコロナウイルスはヒトコロナウイルス229E、ヒトコロナウイルスHKU1、ヒトコロナウイルスOC43、ヒトコロナウイルスNL63及び/又はマウス肝炎ウイルスA59であり;及び/又は、前記SARS関連コロナウイルスはSARS-CoV又はSARS-CoV-2である、
ことを特徴とする請求項1記載の使用
【請求項5】
前記コロナウイルスは豚伝染性胃腸炎ウイルス、豚流行性下痢症ウイルス、豚デルタコロナウイルス、猫伝染性腹膜炎ウイルス及び/又は鳥伝染性気管支炎ウイルスである、
ことを特徴とする請求項1記載の使用
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物YM155、タンシノンI又はクリプトタンシノン、又はその薬学的に許容される塩、その溶媒和物、その薬学的に許容される塩の溶媒和物、又はその結晶形を含む医薬組成物。
【請求項7】
コロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防のための医薬の調製における、あるいはパパイン様プロテアーゼ阻害剤の調製における請求項6に記載の医薬組成物の使用。
【請求項8】
前記疾患は哺乳類又は鳥類の疾患であり、前記哺乳類は好ましくはヒト、ブタ及びネコを含み;
及び/又は、前記コロナウイルスは、オルトコロナウイルス亜科(Orthocoronavirinae)に属し、好ましくはアルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、ガンマコロナウイルス又はデルタコロナウイルス属であり、より好ましくは、SARS-CoV-2、SARS-CoV、MERS-CoV、HCoV-HKU1、HCoV-NL63、HCoV-OC43、HCoV-229E、TGEV、PEDV、PDCoV、FIPV又はIBVである、
ことを特徴とする請求項に記載の使用
【請求項9】
前記コロナウイルスは上気道感染症を引き起こすコロナウイルス、急性呼吸器症候群を引き起こすウイルス例えば、SARS関連コロナウイルス及び中東呼吸器症候群コロナウイルスの一つ又は複数から選ばれ;
好ましくは、前記上気道感染を引き起こすコロナウイルスはヒトコロナウイルス229E、ヒトコロナウイルスHKU1、ヒトコロナウイルスOC43、ヒトコロナウイルスNL63及び/又はマウス肝炎ウイルスA59であり;及び/又は、前記SARS関連コロナウイルスはSARS-CoV又はSARS-CoV-2である、
ことを特徴とする請求項に記載の使用
【請求項10】
前記コロナウイルスは豚伝染性胃腸炎ウイルス、豚流行性下痢症ウイルス、豚デルタコロナウイルス、猫伝染性腹膜炎ウイルス及び/又は鳥伝染性気管支炎ウイルスである、
ことを特徴とする請求項に記載の使用
【請求項11】
前記医薬組成物は薬学的に許容される担体、賦形剤及び/又は溶媒を含み;
及び/又は、前記医薬組成物は他の薬物をさらに含み;前記他の薬物はコロナウイルスによる疾患の治療及び/又は予防に使用される、
ことを特徴とする請求項10のいずれか1項に記載の使用
【国際調査報告】