(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-19
(54)【発明の名称】左室肥大の処置方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/08 20190101AFI20230612BHJP
A61P 5/18 20060101ALI20230612BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230612BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230612BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
A61K38/08
A61P5/18
A61P13/12
A61P9/00
A61P9/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569583
(86)(22)【出願日】2021-05-14
(85)【翻訳文提出日】2023-01-11
(86)【国際出願番号】 US2021032597
(87)【国際公開番号】W WO2021231960
(87)【国際公開日】2021-11-18
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500203709
【氏名又は名称】アムジェン インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】517102684
【氏名又は名称】メディカル ユニバーシティ オブ ヴィエナ
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】オーバーバウアー,ライナー
(72)【発明者】
【氏名】フークエライ,ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】デーア,カタリーナ
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA17
4C084BA44
4C084CA59
4C084MA55
4C084MA66
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZC061
4C084ZC062
4C084ZC412
(57)【要約】
左室肥大を有する対象の処置方法が開示されている。また、左室肥大の進行を遅らせるまたは遅延させるための方法、ならびに左室肥大を有する対象において心臓リモデリングを媒介するための方法および心臓機能を改善するための方法が開示されている。方法は、エテルカルセチドを対象に非経口的に投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の左室肥大を処置するための方法における使用のためのエテルカルセチドであって、前記エテルカルセチドが対象の左室肥大の進行を軽減させる、前記エテルカルセチド。
【請求項2】
前記対象が、慢性血液透析または維持血液透析を受けている対象である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記対象が、血液透析を週3回受けている、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記対象が、週3回の血液透析を、少なくとも約3カ月間受けている、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記対象が透析前の対象である、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
エテルカルセチドが非経口投与用に製剤化されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
エテルカルセチドが静脈内投与用に製剤化されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
エテルカルセチドが、対象に12カ月間提供した場合、投与前の左室肥大に対して、中央値で約6.7g/m
2左室肥大の進行を軽減するのに有効である、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記対象が二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記対象が、エテルカルセチドによる処置前に300pg/mL以上の副甲状腺ホルモン(PTH)濃度を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
エテルカルセチドが、約300pg/mL未満の血中副甲状腺ホルモン(PTH)濃度を達成する用量である、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
エテルカルセチドが、約100pg/mLと約300pg/mLの間の血中副甲状腺ホルモン(PTH)濃度を達成する用量である、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
エテルカルセチドが、対象における心臓線維化の発症を遅らせる、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
エテルカルセチドが、心臓磁気共鳴画像法(cMRI)による左室筋重量係数によって測定される、対象における左室肥大の進行を軽減する、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
左室肥大を有し、慢性血液透析を受けている対象において、左室肥大の進行を遅らせる方法における使用のためのエテルカルセチドであって、静脈内投与用に製剤化されているエテルカルセチド。
【請求項16】
エテルカルセチドが、cMRIによる左室筋重量係数によって測定される左室肥大の進行を、前記投与前の対象の左室肥大重量係数に対して、中央値で約6.7g/m
2遅らせる、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
左室肥大を有し、慢性血液透析を受けている対象において、左室肥大の進行を遅らせるために使用する医薬の製造のためのエテルカルセチドの使用であって、前記医薬が静脈内投与用に製剤化されており、少なくとも約12カ月間血液透析に続いて投与されるように調製されている、使用。
【請求項18】
前記医薬が、左室肥大を有しており、エテルカルセチドでまだ処置されていない維持血液透析を受けている対象の集団における左室肥大重量係数に対して、中央値で約6.7g/m
2cMRIによる左室筋重量係数によって測定される左室肥大の進行を遅らせる、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
左室肥大を有し、慢性血液透析を受けている対象の心臓リモデリングを媒介するのに使用される医薬の製造のためのエテルカルセチドの使用であって、該医薬が静脈内投与用に製剤化されており、少なくとも約12カ月間血液透析に続いて投与されるように調製されている、使用。
【請求項20】
前記医薬が、左室肥大を有しており、エテルカルセチドでまだ処置されていない維持血液透析を受けている対象の集団における左室肥大重量係数に対して、中央値で約6.7g/m
2左室筋重量係数のcMRI評価により測定される左室肥大を低減する、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記対象が、血液透析を週約3回受けている、請求項15~20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
前記対象が、週約3回の血液透析を、少なくとも約3カ月間受けている、請求項15~21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
前記対象が二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)を有する、請求項15~22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記対象が、前記医薬による処置前に300pg/mL以上の副甲状腺ホルモン(PTH)濃度を有する、請求項15~23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
前記医薬が、約300pg/mL未満の血中副甲状腺ホルモン(PTH)濃度を提供するエテルカルセチドの用量で投与されるように製剤化されている、請求項15~24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
前記医薬が、約100pg/mLと約300pg/mLの間の血中副甲状腺ホルモン(PTH)濃度を提供するエテルカルセチドの用量で投与されるように製剤化されている、請求項15~24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
心臓線維化の発症を遅らせる、請求項15~26のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
左室肥大を有し、維持血液透析を受けている対象の心機能を改善するための医薬の製造のためのエテルカルセチドの使用であって、前記医薬が静脈内投与用に製剤化されており、血液透析に続いて少なくとも約6カ月間投与して、前記対象の循環血液中のFGF23濃度の低下を少なくとも約6カ月間達成するように調製されている、エテルカルセチドの使用。
【請求項29】
前記医薬が、T1重み付けcMRIによって測定される心臓線維化の進行を遅らせる、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
前記医薬が、少なくとも約9カ月間または少なくとも約12カ月間前記対象に投与されるように調製される、請求項28または請求項29に記載の使用。
【請求項31】
左室肥大を有し、維持血液透析を受けている対象の心臓死の可能性を低減するための医薬の製造のためのエテルカルセチドの使用であって、前記医薬が静脈内投与用に製剤化されており、血液透析に続いて少なくとも約6カ月間投与して、前記対象の循環血液中のFGF23濃度の低下を約6カ月間達成するように調製されている、エテルカルセチドの使用。
【請求項32】
前記医薬が、T1重み付けcMRIによって測定される心臓線維化の進行を遅らせる、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
前記医薬が、少なくとも約9カ月間または少なくとも約12カ月間前記対象に投与されるように調製される、請求項31または請求項32に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年5月15日に出願された米国仮特許出願第63/025,626号の優先権を主張し、その内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書に記載の主題は、エテルカルセチドを投与することにより、慢性血液透析を受けている対象において左室肥大を処置する方法、および左室肥大の進行を遅らせるための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
慢性腎臓病(CKD)患者は、左室肥大(LVH)および心臓線維化を発症し、これらは、うっ血性心不全、拡張機能障害、不整脈および突然死の一因となる(Di Marco, G.S. et al., Nephrology Dialysis Transplantation, 2014: p. 29:2028-34; Faul, C. et al., J. Clin. Invest., 2011: p. 121:4393-408; London, G.M. et al., J. Am. Soc. Nephrol., 2001: p. 12:2759-67)。透析による処置を受けている末期腎不全患者の大部分はLVHを示し、心臓突然死のリスクが劇的増加する(Foley, P.P. et al., Kidney International, 1995: p. 47:186-92)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
血液透析患者における心臓リモデリングの主な要因は、慢性的な循環血液量増加、透析中における体重増加、および血液透析処置中の血行動態の変動である(AM, K., Cardiovasc Drugs Ther., 2002: p. 16:245-9; Salerno, M.P. et al., Transplantation Proceedings, 2013: p. 45:2660-2)。さらなる要因としては、CKDおよび透析患者における線維芽細胞成長因子23(FGF23)濃度の上昇およびアンジオテンシンII媒介心臓リモデリングが挙げられる(Brilla, P.R et al., Circ Res., 1990: p. 67:1355-64; Brilla, P.R et al., Eur Heart J, 1995: 16:107-9)。FGF23の循環血中濃度は、糸球体濾過量の減少に伴い、早ければCKDステージ3bから徐々に増加する(Wolf, M., et al., Journal of the American Society of Nephrology, 2011: 22:956-66; Shigematsu T, K.J et al., American Journal of Kidney Diseases, 2004: 44:250-6)。FGF23の増加とともに左室心筋重量係数(LVMI)が上昇し、偏心肥大および同心円肥大の有病率も上昇する(Faul, C. et al., J. Clin. Invest., 2011: p. 121:4393-408)。FGF23がLVHを引き起こす可能性のある病態生理学的メカニズムは十分に理解されておらず、FGF23濃度も低下させるカルシウム受容体作動薬エテルカルセチドによる処置が、血液透析患者におけるLVHの進展を抑制または遅延させるかどうかは依然として不明である。
【0005】
前述の関連技術の例およびそれに関連する制限は、例示であって排他的ではないことを意図している。関連技術の他の制限は、明細書を読み、図面を調査することにより、当業者には明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に説明および図示するその態様および実施形態は、例示的および実例的なものであって、範囲を限定するものではない。
【0007】
一態様では、左室肥大(LVH)を有している対象に対する処置方法が提供される。本方法は、LVHの進行を軽減するためにエテルカルセチドを投与することを含む。
【0008】
実施形態では、LVHの進行を軽減することにより、対象が処置される。
【0009】
一実施形態では、エテルカルセチドは非経口的に投与される。
【0010】
一実施形態では、エテルカルセチドは静脈内投与される。
【0011】
別の実施形態では、エテルカルセチドは皮下投与される。
【0012】
一実施形態では、対象は、慢性血液透析を受けている対象である。
【0013】
一実施形態では、対象は週2回血液透析を受けている。別の実施形態では、対象は週に3回血液透析を受けている。
【0014】
別の実施形態では、対象は、少なくとも約3カ月間、週に約3回血液透析を受けている。
【0015】
別の実施形態では、対象は腹膜透析を受けている対象である。
【0016】
一実施形態では、対象は透析前である。
【0017】
いくつかの実施形態では、投与は12カ月の期間である。別の実施形態では、投与は12カ月の期間であり、投与前の左室肥大に対して、中央値で約6.0g/m2、約6.3g/m2、約6.7g/m2または約7.0g/m2左室肥大の進行を軽減し、進行を遅らせ、および/または進行を遅延させるのに有効である。
【0018】
別の態様では、左室肥大を有し、慢性透析を受けている対象において、左室肥大の進行を遅らせるための方法が提供される。本方法は、エテルカルセチドを投与することを含み、その投与によって、左室肥大の進行が遅くなる。
【0019】
一実施形態では、対象は、慢性血液透析を受けている対象である。別の実施形態では、対象は、慢性腹膜透析を受けている対象である。
【0020】
一実施形態では、エテルカルセチドは静脈内投与される。別の実施形態では、エテルカルセチドは、皮下投与される。
【0021】
一実施形態では、投与により、心臓磁気共鳴画像法(cMRI)により左室心筋重量係数によって測定される左室肥大の進行が、投与前の対象の左室肥大重量係数に対して、中央値で約6.0g/m2、約6.3g/m2、約6.7g/m2または約7.0g/m2遅くなる。
【0022】
別の態様では、左室肥大を有し、慢性透析を受けている対象において、左室肥大の進行を遅延させるための方法が提供される。本方法は、エテルカルセチドを透析前、透析中または透析後に、少なくとも約12カ月間投与することを含む。
【0023】
一実施形態では、対象は、慢性血液透析を受けている対象である。別の実施形態では、対象は、慢性の腹膜透析を受けている対象である。
【0024】
一実施形態では、エテルカルセチドは、静脈内投与される。別の実施形態では、エテルカルセチドは、カテーテルを介して投与される。
【0025】
一実施形態では、投与することにより、左室肥大を有しており、エテルカルセチドでまだ処置されていない維持血液透析を受けている対象の集団における左室肥大重量係数に対して、中央値で6.0g/m2、約6.3g/m2、約6.7g/m2または約7.0g/m2、cMRIによる左室心筋重量係数によって測定される左室肥大の進行が遅延する。
【0026】
いずれかの態様の実施形態では、投与することにより、心臓磁気共鳴画像法(cMRI)による左室心筋重量係数によって測定される左室肥大の進行が軽減する。
【0027】
別の態様では、左室肥大を有し、慢性透析を受けている対象における心臓リモデリングを媒介する方法が提供される。本方法は、エテルカルセチドを透析前、透析中または透析後に少なくとも約12カ月間、静脈内投与することを含む。
【0028】
一実施形態では、対象は慢性血液透析を受けている対象である。別の実施形態では、対象は慢性の腹膜透析を受けている対象である。
【0029】
一実施形態では、エテルカルセチドは静脈内投与される。別の実施形態では、エテルカルセチドは、皮下投与される。
【0030】
実施形態では、投与することにより、左室心筋重量係数のcMRI評価によって測定される左室肥大を、左室肥大を有しており、エテルカルセチドでまだ処置されていない維持血液透析を受けている対象の集団における左室肥大重量係数に対して、中央値で約6.0g/m2、約6.3g/m2、約6.7g/m2または約7.0g/m2、低減する。
【0031】
実施形態では、対象は、1週間に2回、3回または4回、血液透析を受けている。
【0032】
いずれかの態様の実施形態では、対象は、週3回の血液透析を少なくとも約3カ月間受けている。
【0033】
いずれかの態様の実施形態では、対象は二次性副甲状腺機能亢進症(sHPT)を有している。
【0034】
いずれかの態様の実施形態では、対象は、エテルカルセチドを投与する前に、300pg/mL以上の副甲状腺ホルモン(PTH)濃度を有している。
【0035】
いずれかの態様の実施形態では、投与は、約300pg/mL未満の血中副甲状腺ホルモン(PTH)濃度を提供するエテルカルセチドの用量で行われる。
【0036】
いずれかの態様の実施形態では、投与は、約100pg/mLと約300pg/mLの間の血中副甲状腺ホルモン(PTH)濃度を提供するエテルカルセチドの用量で行われる。
【0037】
いずれかの態様の実施形態では、投与することにより、心臓線維化の進展が遅くなる。
【0038】
別の態様では、左室肥大を有し、維持血液透析を受けている対象における心機能を改善する方法が提供される。本方法は、エテルカルセチドを、血液透析に続いて少なくとも約6カ月間静脈内投与することにより、対象における循環血中FGF23濃度を少なくとも約6カ月間低下させることを含む。
【0039】
別の態様では、左室肥大を有し、維持透析を受けている対象における心臓機能を改善する方法が提供される。本方法は、エテルカルセチドを、透析の前、透析中または透析後に少なくとも約6カ月間投与することにより、対象における循環血中FGF23濃度を少なくとも約6カ月間低下させることを含む。
【0040】
一実施形態では、対象は、慢性血液透析を受けている対象である。別の実施形態では、対象は、慢性腹膜透析を受けている対象である。
【0041】
一実施形態では、投与により、T1重み付けcMRIによって測定される心臓線維化の進展が遅くなる。
【0042】
別の実施形態では、投与は、少なくとも約9カ月間、または少なくとも約12カ月間である。
【0043】
別の態様では、左室肥大を有しており、維持血液透析を受けている対象における心臓死の可能性を低減する方法が提供される。本方法は、エテルカルセチドを血液透析に続いて少なくとも約6カ月間、静脈内投与することにより、対象における循環血中FGF23濃度を少なくとも約6カ月間低下させることを含む。
【0044】
一実施形態では、投与により、T1重み付けcMRIによって測定される心臓線維化の発生が遅くなる。
【0045】
別の実施形態では、投与は、少なくとも約9カ月間、または少なくとも約12カ月間である。
【0046】
上述した例示的な態様および実施形態に加えて、さらなる態様および実施形態は、図面を参照し、以下の説明を検討することによって明らかになるであろう。
【0047】
本方法の追加の実施形態などは、以下の説明、図面、例、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。前述および以下の説明から理解できるように、本明細書に記載された各特徴、およびそのような特徴の2つ以上の各組合せは、そのような組合せに含まれる特徴が相互に矛盾しない限り、本開示の範囲に含まれる。さらに、任意の特徴または特徴の組合せは、本開示の任意の実施形態から具体的に除外されてもよい。本開示の追加の態様および利点は、特に添付の例および図面とともに考慮される場合、以下の説明および請求項に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】
図1Aは、本明細書で実施される試験の説明図である。
図1B~1Cは、実施例1の試験の手順の計画、治験来院および予定された投与量決定の時系列を示す。
【
図2】
図2A~2Bは、処置群別の未調整の主要評価項目の箱ひげ図であり、
図2Aは、試験を完了した対象(n=52)についてのデータを示し、
図2Bは、離脱者を含む全ての対象(n=62)についてのデータを示す。
【
図3】
図3A~3Bは、処置群における副甲状腺ホルモン(PTH)濃度のデータを示し、
図3Aは、群ごとのPTH測定値の箱ひげ図であり、
図3Bは、群ごとの全てのPTH測定値を平均した縦断的要約を示す。全ての測定値は、log2変換された。Y軸のスケールが異なることに注意されたい。
【
図4】
図4A~4Bは、処置群におけるFGF23のデータを示し、
図4Aは、群ごとのFGF23測定値の箱ひげ図であり、
図4Bは、群ごとの全てのFGF23測定値を平均した縦断的要約を示す。全ての測定値は、log2変換された。Y軸のスケールが異なることに注意されたい。
【
図5】
図5A~5Bは、群ごとのカルシウム測定値のデータを示し、
図5Aは群ごとのカルシウム測定値の箱ひげ図であり、
図5Bは群ごとの全てのカルシウム測定値を平均した縦断要約を示す。Y軸のスケールが異なることに注意されたい。
【
図6】
図6A~6Bは、処置群におけるリン酸塩のデータを示し、
図6Aは、群ごとのリン酸塩測定値の箱ひげ図であり、
図6Bは、群ごとの全てのリン酸塩測定値を平均した縦断的な要約である。Y軸のスケールが異なることに注意されたい。
【発明を実施するための形態】
【0049】
I.定義
次に、様々な態様が、以下に完全に説明される。しかしながら、そのような態様は、多くの種々の形態で具現化することができ、本明細書に示される実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は、この開示が徹底的かつ完全であり、当業者にその範囲を完全に伝えるように提供されている。
【0050】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限および下限の間の各介入値、およびその記載された範囲内の他の記載、または介在する値は、開示内に包含されることが意図される。例えば、1μm~8μmの範囲が記載されている場合、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、および7μmも、1μm以上の値の範囲と8μm以下の値の範囲と同様に、明示的に開示されることが意図される。
【0051】
単数形「a(1つの)」、「an(1つの)」、および「the(その)」は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0052】
数値の直前にある「約」という語は、本開示の文脈がそうでないことを示すか、またはそのような解釈と矛盾しない限り、その値のプラスまたはマイナス10%の範囲を意味し、例えば「約50」は45~55を意味し、「約25,000」は22,500~27,500を意味する。例えば、「約49、約50、約55」などの数値のリストにおいて、「約50」は、先行する値と後続の値の間の間隔の半分未満に及ぶ範囲、例えば、49.5以上~52.5未満を意味する。さらに、「約未満」値または「約を超える」値という表現は、本明細書に提供される用語「約」の定義を考慮して理解すべきである。
【0053】
全ての割合、部および比率は局所用組成物の全重量をベースとしており、特に指定しない限り、測定は全て約25℃で行われる。
【0054】
「慢性血液透析」、「維持血液透析」、または「慢性維持血液透析」という用語は、1週間に少なくとも2回の血液透析セッションの血液透析レジメンを意図し、任意の期間および任意の場所(例えば、施設内で、外来患者として、病院で、サテライトで、自宅で)の血液透析セッション、および任意の血液透析の様式(例えば、血液透析濾過法(HDF)、持続低効率血液透析、持続的静静脈高フラックスHDF)の血液透析セッションを意図する。一実施形態では、「慢性血液透析」または「維持血液透析」は、1週間に少なくとも3回の血液透析セッションの血液透析レジメンを意味し、血液透析セッションは、任意の期間および任意の場所で、任意の様式の血液透析セッションを意味する。
【0055】
エテルカルセチドは、化合物(2R)-3-[[(2S)-2-アセトアミド-3-[[(2R)-1-[[(2R)-1-[[(2R)-1-[[(2R)-1-[[(2R)-1-[[(2R)-1-アミノ-5-(ジアミノメチリデンアミノ)-1-オキソペンタン-2-イル]アミノ]-1-オキソプロパン-2-イル]アミノ]-5-(ジアミノメチリデンアミノ)-1-オキソペンタン-2-イル]アミノ]-5-(ジアミノメチリデンアミノ)-1-オキソペンタン-2-イル]アミノ]-5-(ジアミノメチリデンアミノ)-1-オキソペンタン-2-イル]アミノ]-1-オキソプロパン-2-イル]アミノ]-3-オキソプロピル]ジスルファニル]-2-アミノプロパン酸を意味し、その薬学的に許容される塩、例えば塩酸塩を含む。エテルカルセチドは、参照により本明細書に組み込まれる国際WO2014/210489に記載されている。
【0056】
「非経口に」または「非経口的」とは、口および消化管以外の投与経路を意味し、皮下、筋肉内、静脈内、髄腔内、大嚢内、動脈内、脊髄内、および硬膜外を含む。
【0057】
「薬学的に許容される」という表現は、本明細書において、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症なしに、ヒトおよび/または他の哺乳類の組織と接触して使用するのに適しており、妥当な利益/リスク比に見合った化合物、塩、組成物、投与形態等を意味するために使用される。いくつかの態様では、「薬学的に許容される」とは、連邦政府または州政府の規制機関によって承認されるか、または哺乳類(例えば、動物)、より詳細には、ヒトでの使用について米国薬局方または他の一般に認められた薬局方に収載されていることを意味する。
【0058】
「透析前」とは、死亡または透析および/もしくは移植などの腎臓置換療法への参加のいずれかにつながると予想される腎臓機能の障害の臨床状態を意味する。実施形態では、透析前の対象は、ステージ3bまたはステージ4の慢性腎臓病を有している場合がある。
【0059】
範囲またはあらゆる類似の方法に従って請求することができる、グループ内のあらゆるサブ範囲またはサブ範囲の組合せを含む、あらゆるそのようなグループのあらゆる個々のメンバーを但し書きするまたは除外する権利を留保することによって、この開示の完全な措置は、何らかの理由で請求することができる。さらに、個々の置換基、類似体、化合物、リガンド、構造、またはそれらのグループ、または請求されたグループの任意のメンバーを但し書きするまたは除外する権利を留保することにより、本開示の完全な措置未満を、何らかの理由で請求することができる。
【0060】
本開示を通じて、様々な特許、特許出願、および出版物が参照される。これらの特許、特許出願および刊行物の開示内容は、その全体が、本開示の日付の時点で当業者に知られている技術の状態をより完全に説明するために、参照により本開示に組み込まれる。本開示は、引用された特許、特許出願および刊行物と本開示との間に矛盾がある場合に適用される。
【0061】
便宜上、本明細書、実施例および特許請求の範囲で使用されている特定の用語をここに集めておく。他に定義されない限り、本開示で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野における通常の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0062】
II.治療方法
対象における左室肥大(LVH)の治療方法および/またはLVHの進行を軽減するための方法が提供される。LVHを予防するための方法およびLVHの進行を予防するための方法もまた提供される。本方法は、エテルカルセチドを投与することを含み、いくつかの実施形態では、透析の前、透析中、または透析後にエテルカルセチドを投与することを含む。一実施形態では、エテルカルセチドは、非経口的に投与される。一実施形態では、エテルカルセチドは、静脈内投与される。別の実施形態では、エテルカルセチドは、血液透析の終了時またはそれに続いて静脈内投与される。別の実施形態では、エテルカルセチドは、皮下投与される。
【0063】
次に、これらの方法を裏付けるために行われた試験を、実施例1を参照して説明する。
【0064】
実施例1に記載したように、FGF23の血清濃度に異なる影響を与えるエテルカルセチドまたはアルファカルシドールのいずれかでヒト対象を処置する試験を設計した。カルシウム受容体作動薬であるエテルカルセチドは、インビボの血中FGF23濃度を低下させるが、一方、ビタミンDホルモン類似体であるアルファカルシドールは、インビボの血中FGF23濃度を上昇させる。試験期間中、血清FGF23およびその他のバイオマーカー濃度をモニターし、cMRIにより心臓の構造を評価した。cMRIを使用して、左室心筋重量を定量した。
【0065】
この試験では、62名の患者が募集され、そのうち30名がアルファカルシドールによる処置に、32名がエテルカルセチドによる処置に無作為に割り付けられた。12カ月の試験期間中、10名の患者がフォローアップ中に離脱した。主な結果(左室心筋重量係数、LVMI(g/m
2))のデータは、実施例1で記載した3名の患者を除き、ベースライン(登録)および1年後のフォローアップについて患者について入手可能であった。
図1Aは、試験デザインのフローチャートを示す。
【0066】
エテルカルセチドは、CKD患者において、PTH、FGF23、カルシウムおよびリンの循環血中濃度を急速かつ用量依存的に低下させる。エテルカルセチドの単回静脈内投与により、血液透析を受けている患者のPTHの血清濃度が最大72時間まで低下する。FGF23の濃度は10mgのエテルカルセチド単回投与後24時間で30%以上低下するが、1,25(OH)
2ビタミンD濃度にはほとんど効果が認められない(Martin, K.J. et al., Nephrol Dial Transplant, 2014: p.29:385-92)。エテルカルセチドの投与量は、一実施形態では、約2.5mgと約15mgの間で週3回である。本試験では、開始用量は、週3回5mgであった。PTHの目標値(100~300pg/mL)を達成するために、用量は、用量漸増段階において2.5mgまたは5mgの段階で4週間ごとに適合された(
図1Aを参照)。血清アルブミンで補正した血清カルシウムの目標値を≧2.08mmol/Lとして、透析セッションごとに血清カルシウムを測定した。
【0067】
アルファカルシドールはビタミンD3の類似体であり、PTHの濃度を≧30%低下させ、FGF23の濃度を3倍上昇させ得る(Hansen, R., et al., Nephrol Dial Transplant, 2012: p. 27:2263-9)。アルファカルシドールの開始用量は1μgであり、週3回、血液透析終了時に急速静注により投与した。アルファカルシドールの投与量は、少なくとも0.5μgを週3回投与し、最大投与量は設定しなかった。PTH値、血清カルシウム濃度、リン酸濃度により、4週間間隔で0.5~1μg段階で用量漸増を行った。PTHの目標値はエテルカルセチド群と同等とした。血清アルブミンで補正した血清カルシウムは2.55mmol/L以下であり、血清リン酸濃度は2.5mmol/L以下であった。
【0068】
FGF23の減少がLVHおよび線維化に及ぼす因果関係を分析するために、目標は、両試験群で同様のPTHの減少を達成することであったが、アルファカルシドール群ではFGF23が増大し、エテルカルセチド群では抑制された。しかし、単純に2種の薬剤の薬理作用が異なるので、PTHの濃度は異なる可能性が高い。PTHの目標濃度を達成するために、薬剤の用量漸増期間中およびその後必要に応じて試験薬の投与量を変更することが可能であるが、これらの適応は血清カルシウムおよびリン酸濃度によって制限されることが多い。
【0069】
実施例1の試験の計画された手順、治験来院および予定された用量漸増の時系列を、
図1B~1Cに可視化する。
【0070】
次に
図2A~
図2Bに目を向けると、試験からのデータが示されている。このデータセットでは、プロトコルごとに計画された通りに試験を成功裏に完了した患者のみがデータ分析に含まれる、プロトコルごとの分析が行われた。したがって、試験中に離脱した10名の患者は、分析から除去される。
図2Aは、アルファカルシドールおよびエテルカルセチド処置群についての未調整の主要評価項目の箱ひげ図である。この箱ひげ図は、試験を完了した52名の患者について、主要試験評価項目である1年後のLVMI(g/m
2)およびベースライン時のLVMIの差を示す。2標本等分散t検定による主要評価項目の未調整比較では、処置群間のLVMI変化の有意差が得られた(p=0.007156)。データが非正規分布であったため、ノンパラメトリックの2標本Wilcoxon検定も実施し、結果を確認した(p=0.0006661)。
【0071】
無作為化の層別化について調整した解析は、結果変数「LVMIの変化」による共分散分析(ANCOVA)を用い、無作為化の層別化因子(残存腎機能、採用施設)、ならびにベースラインにおけるLVMIを共変量として用いて実施した。その結果、アルファカルシドール群と比較して、エテルカルセチド群のLVMIの変化量の推定調整平均差は、-8.2(95%信頼区間-13.99~-2.39)g/m2となった。関連するp値は0.00809であり、未調整の解析結果と同様であった。
【0072】
治療意図による解析と呼ばれるデータの別の分析では、試験のために無作為化された全ての患者がデータ分析に含まれる。したがって、試験中に離脱した10名の患者については、利用可能な全ての測定値が、それらが取られた時点で使用されていた。それらのうち、MRI測定値を持たない3名の患者については、結果値が帰属される(欠損データを持つ患者と同一の層別化因子を持つ同じ投薬群の患者からの平均値として得られる)。このデータは、
図2Bに示されている。
【0073】
試験のために無作為化された62名の患者についての主要な試験評価項目、1年目のLVMI(g/m
2)とベースラインのLVMIの差に関する最終データを、
図2Bに示す。2標本等分散t検定による主要評価項目の未調整比較では、処置群間のLVMI変化の有意差が得られた(p=0.04691)。しかしながら、データの分布により、ノンパラメトリックのWilcoxon検定がより信頼性が高いと判断され、結果が確認された(p=0.006098)。ANCOVAによる解析の結果、アルファカルシドール群と比較してエテルカルセチド群のLVMIの変化の推定調整平均差は、-6.2(95%信頼区間-11.72~-0.71)g/m
2であった。関連するp値は0.031であり、未調整の解析結果と同様であった。
【0074】
次に
図3~
図6に目を向けると、試験の副次的評価項目に関するデータが示されている。
図3~
図6のグラフのデータは、利用可能な来院日のある全ての個人(55名)についての測定に基づく。
図3A~
図3Bでは、各処置群における対象の副甲状腺ホルモン濃度が示されている。平均して、各個人について、フォローアップを通して17回の測定が可能であった。全体的な測定値および縦断的な挙動は、群間で類似していた。
【0075】
図4A~
図4Bでは、各処置療群の対象のFGF23血中濃度に関するデータを示している。平均して、各個人について、フォローアップを通して8回の測定が可能であった。全体的な測定値および縦断的な挙動は、群間で異なっており、エテルカルセチド群では、値が低下し、経時的に低下した。
【0076】
図5A~
図5Bでは、各処置群の対象のカルシウム血中濃度が示されている。平均して、各個人について、フォローアップを通して17回の測定が可能であった。全体的な測定値および縦断的な挙動は、群間で異なっており、エテルカルセチド群では、値が低下し、経時的に低下した。
【0077】
図6A~
図6Bでは、各処置群の対象のリン酸塩血中濃度が示されている。平均して、各個人について、フォローアップを通して17回の測定が可能であった。全体的な測定値および縦断的な挙動は、群間でわずかに異なるだけであった。
【0078】
上記のデータにより、主要評価項目により、2つの処置群間で有意差が示されることが明らかになった。このデータにより、エテルカルセチドがFGF23の抑制を通じて、LVHおよび心筋線維化を効果的に改善することが示される。これらの効果は、維持血液透析を受けている患者における心臓死のリスクおよびその発生率を低下させる。
【0079】
したがって、エテルカルセチドを投与することにより、LVHを処置、予防および/または進行を防止もしくは遅延させるための方法が提供される。この処置は、慢性血液透析または維持血液透析を受けている対象に特に有益である。すなわち、週に約2回または週に約3回の血液透析を受けている対象である。少なくとも約3カ月、4カ月、5カ月、6カ月、9カ月または12カ月間、慢性血液透析または維持血液透析を受けている対象は、本方法の候補者と考えられる。
【0080】
このデータは、エテルカルセチドによる処置が、エテルカルセチドによる処置前の左室肥大に対して、中央値で約6.0g/m2、約6.3g/m2、約6.7g/m2または約7.0g/m2、LVHの進行を軽減し、進行を遅くし、および/または遅延させることを示している。
【0081】
このデータは、またエテルカルセチドが、LVHを有しており慢性透析を受けている対象の心臓リモデリングを媒介するのに有益であることを示す。エテルカルセチドを、少なくとも約12カ月間、例えば、血液透析に続いて静脈内投与することにより、心臓リモデリングが媒介される。心臓リモデリングは、例えば、左室肥大を有しており、エテルカルセチドでまだ処置されていない維持血液透析を受けている対象の集団における左室肥大重量係数に対して、中央値で約6.0g/m2、約6.3g/m2、約6.7g/m2または約7.0g/m2、cMRIによる左室心筋重量係数によって測定されるLVHが減少することによって明らかである。
【0082】
処置のために意図される対象は、二次性副甲状腺機能亢進症(sHPT)を有する対象、および/またはエテルカルセチドを投与する前に300pg/mL以上の副甲状腺ホルモン(PTH)濃度を有する対象である。別の実施形態では、エテルカルセチドによる処置のために意図される対象は、維持透析を受けている対象または透析前の対象である。透析前の対象は、臨床的に、死亡または透析および/もしくは移植などの腎臓置換療法への参加のいずれかにつながることが予想される腎臓機能の障害を有する個人を意図する。例えば、対象は、ステージ3またはステージ4の慢性腎疾患(例えば、糸球体濾過量(GFR)が45~49mL/分(ステージ3A)、または30~44mL/分(ステージ3B)または15~29mL/分(ステージ4))であって維持透析をまだ受けていない場合がある。透析前であっても腎機能が損なわれている対象には、エテルカルセチドを非経口的に投与することが考えられる。GFRが、維持透析が必要でないGFR速度(または段階)である60mL/min/1.73m2未満の患者(例えば、対象が透析前である)でLVHが発症する可能性があり(Di Lullo et al. Cardiorenal Med.5(4): 254-266(2015))、このような患者へのエテルカルセチドによる治療は、LVHの進行を遅らせ、処置し、または改善するために意図される。維持透析中の被験者の処置に関して、透析は、血液透析または腹膜透析であり得る。別の実施形態では、処置のために意図される対象は、腎移植後の対象である。
【0083】
エテルカルセチドの用量は、一実施形態では、約300pg/mL未満の血中副甲状腺ホルモン(PTH)濃度を提供する量である。別の実施形態では、エテルカルセチドの用量は、約100pg/mLと約300pg/mLの間の血中副甲状腺ホルモン(PTH)濃度を提供する量である。
【0084】
また、このデータは、心臓の線維化の進行が遅くなることを示唆している。したがって、左室肥大を有し、維持透析を受けている対象において、少なくとも約6カ月間、または9カ月間、または12カ月間、血液透析に続いてエテルカルセチドを投与することにより、少なくとも約6カ月間、または9カ月間、または12カ月間、対象における循環血液FGF23濃度を低減することによって心機能を改善する方法が意図される。これにより、左室肥大を有しており、維持透析を受けている対象の心臓死の可能性が低下することが理解され得る。
【0085】
このデータは、6カ月、12カ月、18カ月、または24カ月のエテルカルセチドでの処置が、アルファカルシドールでの処置と比較して、sHPTを有する透析患者のLVMI進行を予防し、FGF23濃度も低下させることを示している。現在までのところ、CKD患者におけるLVHの進行に対して、心臓のリモデリングを緩和する効果を示した処置はなかった。LVHは、依然としてこれらの患者における心血管系死亡率増加の主な要因である。LVHの進行を約6~8%予防することが、心筋リモデリングを臨床的に適切に減少させることが証明された。心筋に対するFGF23が介在する作用に加え、エテルカルセチドで処置された患者のカルシウム濃度が低下することにより、それ自体が透析患者のLVHと心血管イベントのリスク上昇と関連する血管の石灰化を減少させる可能性がある。
III.実施例
【0086】
以下の実施例は本質的に説明のためのものであり、限定を意図するものではない。
[実施例1]
SHPTを有する血液透析患者におけるエテルカルセチドまたはアルファカルシドールによる処置法
【0087】
試験の概要:二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)を有する維持透析患者において、LVHおよび心臓線維化に対する、アルファカルシドールと比較したエテルカルセチドの効果を検証する12カ月間の単盲検無作為化試験を実施した。両処置レジメンは、SHPTが同等に抑制されるように漸増された。約3カ月間と約3年間の間、週3回の血液透析を受け、副甲状腺ホルモン(PTH)濃度が≧300pg/mlで、LVHを有する患者を登録した。
【0088】
主要試験評価項目は、ベースライン時および12カ月後の心臓MRI(cMRI)によるg/m2により表される左室重量係数(LVMI)であった。サンプルサイズの計算では、12カ月後の2群間のLVMIに少なくとも20g/m2の差を検出するためには、62名の患者が均等に無作為に割り付けられる必要があることが示された。体積過多およびLVHの強い関連性から、無作為化はさらに残存腎機能で層別化され、患者の体積状態を管理するために定期的な体組成モニタリングが実施された。
【0089】
試験薬は、全ての血液透析セッションの後に透析看護師が静脈内に投与した。
【0090】
副次的試験評価項目は、心エコー検査で測定した心臓のパラメータ、骨代謝のバイオマーカー濃度(FGF23、ビタミンD、PTH、カルシウム、リン酸、s-クロトー)、心臓マーカー(proBNP、透析前後のトロポニンT)、およびレニン-アンジオテンシン-アルドステロンカスケードの代謝物(Ang I、Ang II、Ang 1-7、Ang 1-5、Ang 1-9、アルドステロン)であった。
【0091】
試験デザイン:試験のフローチャートを
図1および表1に示す。インフォームドコンセントに署名した後、患者は、LVH(すなわち、≧12mmの心室間膜厚)および心筋線維についてストレイン心エコー検査を用いてスクリーニングされた。体積状態および体液組成は、体組成計(BCM)および肺の超音波検査によって調査した。本試験への登録は、正常な体液量を達成した患者のみが対象となった。すでにカルシウム受容体作動薬またはビタミンD療法による処置を受けている患者には全て、4週間の休薬期間を設け、処置を中止した。
【0092】
試験参加資格を得た試験参加者は、次の群:すなわちa)エテルカルセチド、b)アルファカルシドールに、1:1の割合で集中的に無作為に割り付けられた。無作為化はコンピュータアルゴリズム(www.meduniwien.ac.at/randomizer/web)により行われ、1日500mL以上の尿量と定義される残存腎機能および患者を募集する施設により層別化された。各施設で比較群の大きさがほぼ同じにバランスをとれるように、無尿群対残存腎機能群のブロック無作為化(ブロックサイズ4)を行った。
【0093】
【0094】
処置段階:処置段階は、16週間の用量漸増段階から開始した。対象は4週間ごとに治験薬の用量漸増について検討した。投与量の調節は、PTH値、血清電解質、安全性評価に基づいて行った。投与開始後10週間は2週間間隔で、その後は4週間間隔で受診した。処置段階の継続期間は12カ月間であった。
【0095】
試験の評価項目:主要評価項目は、cMRIで評価したエテルカルセチドおよびアルファカルシドールの間のベースラインから12カ月目までのLVMI(g/m2で数値化)の変化であった。副次的評価項目は、いずれかの薬剤で1年間の投与後の、左房径LADの変化(mm)、LVMIおよびLADの進行の変化(%)、非造影T1マッピングで測定した心筋線維および線維化進行の差(ms)、cMRIおよびストレインエコーで測定した心機能(駆出率%)および壁運動異常(変化%)の差であった。その他の副次的目標としては、いずれかの処置によるFGF23、s-クロトー、PTH、25-OH-Vit-Dおよび1,25-(OH)2-Vit-D、リン酸塩、カルシウム、proBNP、透析前後のTnT、RAASカスケードの代謝物(AngI、AngII、Ang1-7、Ang1-5、Ang1-9、アルドステロン)の血清濃度の変化、ならびに前述の心臓変動への関連性が挙げられた。
【0096】
結果測定:cMRI:各患者について2回の心臓MRIが計画された。ベースラインのMRIは無作為化前に行われ、2回目のMRIは12カ月の処置終了後に行われた。いずれも透析のない日に実施した。cMRIは処置の割り付けを盲検化した放射線科医1名により解析を行った。非造影cMRIは、1.5Tesla磁気共鳴画像スキャナ(Siemens Avanto 1.5T, Siemens,ドイツ、エルランゲン)を用いて実施した。心臓の解剖学的構造を可視化するため、軸位黒体画像撮影を行った。心機能、左室筋量、壁運動異常の可視化可能性を評価するために、心臓全体の短軸像と水平長軸像のマルチスライスマルチフェーズシネ撮影を実施した。左室および右室両方の駆出率(%)は、短軸像をもとに専用ソフトウェア(Siemens Argus社)を使用して半自動的に算出した。心機能の評価については、拡張末期および収縮末期容積(ミリリットル)を半自動で評価し、左室筋量を算出した(Patel R.K. et al., Clin J Am Soc Nephrol., 2009: p. 4:1477-1483)。体表面積を指標とした左室筋量(LVM/BSA)の正常値の上限は、男性で84.1g/m2、女性で76.4g/m2と考えられた(Salerno, M.P. et al., Transplantation Proceedings, 2013: p. 45:2660-2)。
【0097】
心筋の線維化を検出するために、脂肪抑制T2強調浮腫感受性画像診断を実施した。非造影T1マッピングを実施し、びまん性の線維化過程を検出した(T1時間測定はmsで行い;測定は全体、中隔、非中隔で行った)。心筋のネイティブT1緩和は心筋線維化のサロゲートであった(Sparrow, P. et al., American Journal of Roentgenology, 2006: p. 187:630-5)。血液透析患者では、心室間中隔が線維化を起こしやすい(Graham-Brown M.P.M. et al., Kidney International, 2016: p. 90:835-44)。
【0098】
結果測定:ストレイン心エコー検査:LVHを評価するための心エコー検査は、スクリーニング時および処置段階終了時に実施した。ドップラー画像または2次元スペックルトラッキング心エコー検査でストレインおよびストレイン率を測定した。これらの技術により、線維化過程の不顕性心疾患を検出することができ、最初に影響を受けたストレインの優勢な面は、初期の線維化の組織学的位置を反映している(Haland, T.F., et al., European Heart Journal of Cardiovascular Imaging, 2016: p. 17:613-21; C. Jellies, J.M et al., Journal of the American College of Cardiology, 2010: p. 56:89-97)。長軸方向グローバルストレイン(GLS)を%で測定し、GLSは心筋の線維化と相関がある(Saito, M, O.H et al., Eur Heart J Cardiovasc Imaging, 2012: p. 13:617-23)。検査を行う医師は、患者の処置割当てについて盲検化されていた。
【0099】
結果測定:体組成のモニタリング:BCMはスクリーニング検査の際に実施し、2カ月間隔で繰り返した。BCMの測定は生体インピーダンス分光法に基づいて行った。測定値は、個人の水分過多を測定するためのモデルに入力された。BCMによって評価された体液過剰は、絶対値(リットル)または相対値(%)で表した。健康状態および疾病の様々な身体組成において、再現性のある体液量の測定が可能である。透析処置終了時に至適乾燥重量を達成し、それに耐えられる患者のみが研究に登録された。
【0100】
結果測定:肺の超音波検査:肺水腫を可視化し、半定量的に分類できる肺超音波検査により、スクリーニング手順の一部として血管外の肺水評価を実施した。肺水腫の徴候がない患者のみが試験に登録された。
【0101】
結果測定:臨床検査分析:血液透析前にベースラインおよび定期的に生化学的データを収集した(例えば,最初の10週間は2週間ごとに未変化のPTH,カルシウム,リン酸塩,25-OH-Vit-D,1,25-(OH)2-Vit-Dを,その後は4週間ごとに測定;一方,8週間間隔で未変化のFGF23,s-クロトー,proBNP,透析前後のTnTを測定)。さらに、処置段階開始前および処置段階終了時にRAASフィンガープリントを実施した。RAASフィンガープリントは、質量分析によるアンジオテンシン代謝物の定量化である。血清サンプルを使用して、以下のパラメータ:AngI、AngII、Ang1-7、Ang1-5、Ang1-9、アルドステロンを測定した。
【0102】
COBASアッセイ(Roche、PTH基準範囲:15~65pg/mL、カルシウム:2.15~2.55mmol/L、リン酸塩:0.81~1.45mmol/L)を使用し、血清サンプル中の未変化のPTH、カルシウムおよびリン酸塩を分析した。ビタミンDは、血清サンプルおよび化学発光-免疫測定法(Diasorin、1.25-(OH)2-VitDの基準範囲:19.9~79.3pg/mL、25-OH-Vit-D 75~250nmol/L)を使用して測定した。イオン化カルシウムは毎回の透析セッション時に測定した(血液ガス分析(ABL800Flex,Drott社製)を使用)。血漿サンプル中の未変化のFGF23は,化学発光-免疫測定法(DiaSorin,基準範囲23.2~95.4pg/mL)を用いて分析した.TnTおよびproBNPはCOBAS化学発光-免疫測定法(Roche、TnTの基準範囲:0~14ng/L、proBNPの基準範囲:0~125pg/mL)を使用して血清サンプルから測定した。
【0103】
図1B~
図1Cに、計画された手順、来院および予定された投与量設定のタイムラインを示した。
【0104】
治験薬:エテルカルセチドの開始用量は5mgで週3回投与した。PTHの目標値(100~300pg/mL)を達成するため、用量は、用量漸増段階中に4週間ごとに2.5mgまたは5mgのステップで調整した。血清カルシウムは毎回の透析セッション時に測定した。血清アルブミンで補正した血清カルシウムの目標濃度は≧2.08mmol/であった。
【0105】
アルファカルシドールの開始用量は1μgで、週3回、血液透析終了時に急速静注により投与した。アルファカルシドールの投与量は、少なくとも0.5μgを週3回投与し、最大投与量は設定しなかった。PTH値、血清カルシウム濃度およびリン酸塩濃度に応じて、4週間間隔で0.5~1μgステップで用量漸増を行った。PTHの目標値はエテルカルセチド群と同等とした。血清アルブミンで補正した血清カルシウムは2.55mmol/L以下であり、血清リン酸塩濃度は2.5mmol/L未満であった。
【0106】
その他のHPT処置:シナカルセット処置ならびにビタミンDの経口および静脈内療法は、4週間の休薬段階の間に中止した(
図1参照)。リン酸塩バインダー療法を継続し、処置段階中の血清電解質に応じて適応された。カルシウムの補充、透析液カルシウム濃度、または処方されるリン酸塩バインダーの種類および用量に制限はなかった。ETLに無作為化された参加者は、参加者の安全を守るために治験責任医師が必要と認めた場合にのみ、救助療法としてビタミンD類似体の追加投与が許可された。
【0107】
統計手法:データは,連続した対称変数と歪んだ変数については、それぞれ平均値と標準偏差、または中央値および四分位範囲によって記載した。解析したパラメータの分布は箱ひげ図とヒストグラムで可視化した。主要評価項目(ベースラインから最終測定までのLVMIの変化)は共分散分析で解析した。検証したモデルの主変数は、ベースラインから1年後の測定値における2つの処置間の差を表す群状態であった。各患者についてのベースライン値をモデルの共変量として使用し、群状態およびベースライン値の相互作用をチェックした。さらに、無作為化の際の層別化を考慮し、層別化因子もモデルに含めた。副次的評価項目(FGF23、s-クロトー、PTH、25-OH-Vit-D、1,25-(OH)2-Vit-D、proBNP、透析前後のTnTおよびRAAS代謝物の変化)についても同様に解析した。全ての解析は治療意図の原則に従って行った。0.05より低い両側p-値は統計学的に有意であることを示した。
【0108】
多数の例示的な態様および実施形態が上記で議論されてきたが、当業者はそれらの一定の変更、置換、追加および部分的組合せを認識するであろう。したがって、以下の添付の請求項および以後に示す請求項は、本発明の趣旨および範囲内において、そのような全ての変更、置換、追加および部分的組合せを含むことが意図される。
【国際調査報告】