(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-19
(54)【発明の名称】機械学習によって訓練された統計モデルによるタンクのスロッシング応答の推定
(51)【国際特許分類】
B63B 25/16 20060101AFI20230612BHJP
B65D 90/52 20060101ALI20230612BHJP
【FI】
B63B25/16 E
B65D90/52
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022570451
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(85)【翻訳文提出日】2022-11-18
(86)【国際出願番号】 EP2021062532
(87)【国際公開番号】W WO2021233742
(87)【国際公開日】2021-11-25
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515220317
【氏名又は名称】ギャズトランスポルト エ テクニギャズ
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴァール フローラン
(72)【発明者】
【氏名】シブラ アラリック
【テーマコード(参考)】
3E170
【Fターム(参考)】
3E170AA09
3E170AB29
3E170BA06
3E170NA01
(57)【要約】
本発明は、液化ガス輸送用の密閉断熱タンクのスロッシング応答の推定に関する。統計モデルは、海洋試験データを含む、試験データのセットに基づいて教師あり機械学習方法によって訓練され、前記統計モデルは、前記タンクの充填レベル及び現在の海況の関数として、前記タンクのスロッシング応答を推定することができ、前記関数はオプションとして、更に船舶の喫水、前記船舶の速度、及び前記船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよい。そのようにして訓練された統計モデルは、液化ガス輸送用の密閉断熱タンク(2)のスロッシング応答を推定するために使われる。一態様においては、統計モデルは、前記タンクの充填レベル及び現在の海況から、前記タンクのスロッシング応答を推定し、それに加え、オプションとして、船舶の喫水、前記船舶の速度、及び前記船舶の船首方位のうちの少なくとも1つから前記タンクのスロッシング応答を推定してもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定することができる統計モデルを得る方法であって、
前記方法は、試験データのセットに基づいて教師あり機械学習方法によって前記統計モデルを訓練することを含むステップ(302)を含み、
前記統計モデルは、前記タンクの充填レベル及び現在の海況の関数として、前記タンクのスロッシング応答を推定することができ、前記関数はオプションとして、更に船舶の喫水、前記船舶の速度、及び前記船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよく、
前記試験データのセットは、複数の試験の結果から得られ、前記複数の試験のそれぞれは、所与の充填レベルを有する試験タンク(1010)に動きを与えることと、前記試験タンク(1010)の1つの壁(1010a)の少なくとも1点における圧力及び/若しくは前記試験タンク(1010)の少なくとも1つの壁における衝撃の回数を測定することとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定することができる統計モデルを得る方法であって、
前記方法は、試験データのセットに基づいて教師あり機械学習方法によって前記統計モデルを訓練することを含むステップ(302)を含み、
前記統計モデルは、前記タンクの充填レベル及び船舶の動きの現在の状態の関数として、前記タンクのスロッシング応答を推定することができ、前記関数はオプションとして、更に前記船舶の喫水、前記船舶の速度、及び前記船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよく、
前記試験データのセットは、複数の試験の結果から得られ、前記複数の試験のそれぞれは、所与の充填レベルを有する試験タンク(1010)に動きを与えることと、前記試験タンク(1010)の1つの壁(1010a)の少なくとも1点における圧力及び/若しくは前記試験タンク(1010)の少なくとも1つの壁における衝撃の回数を測定することとを含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
前記スロッシング応答が、前記タンクの前記壁に対する流体の衝突の回数、前記タンクの前記壁に対する最大圧力、及び前記タンクに対する損傷の可能性のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記教師あり機械学習方法はガウス過程回帰法であることを特徴とする請求項1~3のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの制約が、前記教師あり機械学習方法による前記統計モデルの訓練の最中に前記統計モデルに適用されることを特徴とする請求項1~4のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記統計モデルを訓練する前記ステップ(302)の前に、閾値未満のスロッシング応答を特徴とする試験結果を前記試験データのセットから除外することを含むステップ(301)を更に含むことを特徴とする請求項1~5のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記統計モデルは、複数のタンクを考慮し、前記統計モデルは、前記船舶における前記タンクの位置の関数として、前記複数のタンクのそれぞれのスロッシング応答を推定することができることを特徴とする請求項1~6のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定することができる統計モデルを得るシステム(1030)であって、
前記システム(1030)は、試験データのセットに基づいて教師あり機械学習方法によって前記統計モデルを訓練することを含む処理手段(1032、1033)を含み、
前記統計モデルは、前記タンクの充填レベル及び現在の海況の関数として、前記タンクのスロッシング応答を推定することができ、前記関数はオプションとして、更に船舶の喫水、前記船舶の速度、及び前記船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよく、
前記試験データのセットは、複数の試験の結果から得られ、前記複数の試験のそれぞれは、所与の充填レベルを有する試験タンク(1010)に動きを与えることと、前記試験タンク(1010)の1つの壁(1010a)の少なくとも1点における圧力及び/若しくは前記試験タンク(1010)の少なくとも1つの壁における衝撃の回数を測定することとを含むことを特徴とするシステム。
【請求項9】
液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定することができる統計モデルを得るシステム(1030)であって、
前記システム(1030)は、試験データのセットに基づいて教師あり機械学習方法によって前記統計モデルを訓練することを含む処理手段(1032、1033)を含み、
前記統計モデルは、前記タンクの充填レベル及び船舶の動きの現在の状態の関数として、前記タンクのスロッシング応答を推定することができ、前記関数はオプションとして、更に船舶の喫水、前記船舶の速度、及び前記船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよく、
前記試験データのセットは、複数の試験の結果から得られ、前記複数の試験のそれぞれは、所与の充填レベルを有する試験タンク(1010)に動きを与えることと、前記試験タンク(1010)の1つの壁(1010a)の少なくとも1点における圧力及び/若しくは前記試験タンク(1010)の少なくとも1つの壁における衝撃の回数を測定することとを含むことを特徴とするシステム。
【請求項10】
液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定することに使うことができるデータベース(150)を得る方法(300)であって、前記方法(300)は、
複数の入力データベクトルを生成し(303)、前記複数の入力データベクトルのそれぞれは前記タンクの充填レベルと現在の海況とを含み、
前記生成された複数の入力データベクトルのそれぞれについて、請求項1に記載の方法又は請求項1に従属する請求項3~7のうちいずれか1項に記載の方法によって得られた前記統計モデルによって、前記タンクにおける推定されたスロッシング応答を得て(303)、
前記複数の入力データベクトルに関連付けられた前記タンクにおける前記推定されたスロッシング応答をデータベースに格納する(303)、
ことを含むステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定することに使うことができるデータベース(150)を得る方法(300)であって、前記方法(300)は、
複数の入力データベクトルを生成し(303)、前記複数の入力データベクトルのそれぞれは前記タンクの充填レベルと船舶の動きの現在の状態とを含み、
前記生成された複数の入力データベクトルのそれぞれについて、請求項2に記載の方法又は請求項2に従属する請求項3~7のうちいずれか1項に記載の方法によって得られた前記統計モデルによって、前記タンクにおける推定されたスロッシング応答を得て(304)、
前記複数の入力データベクトルに関連付けられた前記タンクにおける前記推定されたスロッシング応答をデータベースに格納する(305)、
ことを含むステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
船舶上の液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定する方法(400)であって、前記方法は、
前記タンクの現在の充填レベルを求め(401)、
現在の海況を求め(401)、
前記タンクの前記求められた現在の充填レベル及び前記求められた現在の海況を含む入力データベクトルを生成し(402)、
前記生成された入力データベクトルと請求項10に記載の方法によって得られる前記データベース(150)とに基づいて、前記タンクにおけるスロッシング応答を推定する(403)、
ことを含むステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
船舶上の液化ガスの輸送のための密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定する方法(500)であって、前記方法は、
前記タンクの現在の充填レベルを求め(501)、
前記船舶の動きの現在の状態を求め(501)、
前記タンクの前記求められた現在の充填レベルと前記船舶の動きの前記求めた現在の状態とを含む入力データベクトルを生成し(502)、
前記生成された入力データベクトルと請求項11に記載の方法によって得られる前記データベース(150)とに基づいて、前記タンクにおけるスロッシング応答を推定する(503)、
ことを含むステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
複数のタンクを考慮し、前記方法は、前記船舶における前記複数のタンクのそれぞれの位置の定義を行う事前ステップを含むことを特徴とする請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記タンクの前記推定されたスロッシング応答が警告閾値を超える場合に、ユーザに警告を与えることを含むステップを更に含み、好ましくは、前記スロッシングを減らすことを意図した決定を支援することを含むステップを更に含むことを特徴とする請求項12~14のうちいずれか1項に記載の方法(400、500)。
【請求項16】
液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンク(2)を備える船舶(1)のための管理システム(100)であって、前記管理システム(100)は、
前記タンク(2)の現在の充填レベルを測定する少なくとも1つの充填レベルセンサ(121)と、
現在の海況を評価することができる海況評価デバイス(123)と、
前記タンクの現在の充填レベルと、前記海況評価デバイス(123)によって評価された現在の海況と、を含む入力データベクトルを生成し、前記生成された入力データベクトルと、請求項10に記載の方法(300)によって得られた前記データベース(150)とによって、前記タンク(2)におけるスロッシング応答を推定するように構成された処理手段(110)と、
を含むことを特徴とする管理システム。
【請求項17】
液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンク(2)を備える船舶(1)のための管理システム(100)であって、前記管理システム(100)は、
前記タンク(2)の現在の充填レベルを測定する少なくとも1つの充填レベルセンサ(121)と、
前記船舶の動きの現在の状態を評価することができる船舶動き評価デバイス(122)と、
前記タンクの現在の充填レベルと、前記船舶の動きの前記現在の状態と、を含む入力データベクトルを生成し、前記生成された入力データベクトルと、請求項11に記載の方法によって得られた前記データベース(150)とによって、前記タンクにおけるスロッシング応答を推定するように構成された処理手段(110)と、
を含むことを特徴とする管理システム。
【請求項18】
船舶上の液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンク(2)におけるスロッシング応答を推定する方法(600)であって、前記方法は、
前記タンクの現在の充填レベルを求め(601)、
気象情報と前記船舶の進路に基づいて、未来の海況を推定し(601)、
複数の入力データベクトルを生成し(602)、前記複数の入力データベクトルのそれぞれは、前記タンクの前記現在の充填レベルと前記推定された未来の海況とを含み、
前記生成された入力データベクトルと請求項10に記載の方法によって得られる前記データベース(150)とに基づいて、前記タンクにおける未来のスロッシング応答を推定する(603)、
ことを含むステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
船舶上の液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンク(2)におけるスロッシング応答を推定する方法(600)であって、前記方法は、
前記タンクの現在の充填レベルを求め(601)、
気象情報と前記船舶の進路に基づいて、前記船舶の動きの未来の状態を推定し(601)、
複数の入力データベクトルを生成し(602)、前記複数の入力データベクトルのそれぞれは、前記タンクの前記現在の充填レベルと前記推定された船舶の動きの未来の状態とを含み、
前記生成された入力データベクトルと請求項11に記載の方法によって得られる前記データベース(150)とに基づいて、前記タンクにおける未来のスロッシング応答を推定する(603)、
ことを含むステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
前記タンクの前記未来のスロッシング応答を減少させることができる前記船舶の進路及び/若しくは前記タンクの充填レベルの変更を求めることを含むステップを含むことを特徴とする請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンク(2)を備える船舶(1)のための管理システム(100)であって、前記管理システム(100)は、
前記タンク(2)の現在の充填レベルを測定する少なくとも1つの充填レベルセンサ(121)と、
気象情報と前記船舶(1)の進路に基づいて、未来の海況を推定することができる海況推定デバイス(123)と、
複数の入力データベクトルを生成し、前記生成された入力データベクトルと、請求項10に記載の方法によって得られた前記データベース(150)とによって、前記タンク(2)における未来のスロッシング応答を推定するように構成された処理手段(110)と、
を含み、
前記複数の入力データベクトルのそれぞれは、前記タンクの現在の充填レベルと、前記海況推定デバイス(123)によって推定された未来の海況とを含むことを特徴とする管理システム。
【請求項22】
液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンク(2)を備える船舶(1)のための管理システム(100)であって、前記管理システム(100)は、
前記タンク(2)の現在の充填レベルを測定する少なくとも1つの充填レベルセンサ(121)と、
気象情報と前記船舶(1)の進路に基づいて、前記船舶の未来の動きの状態を推定することができる動き状態推定デバイス(123)と、
複数の入力データベクトルを生成し、前記生成された入力データベクトルと、請求項11に記載の方法によって得られた前記データベース(150)とによって、前記タンク(2)における未来のスロッシング応答を推定するように構成された処理手段(110)と、
を含み、
前記複数の入力データベクトルのそれぞれは、前記タンクの現在の充填レベルと、前記動き状態推定デバイスによって推定された前記船舶の前記未来の動きの状態とを含むことを特徴とする管理システム。
【請求項23】
前記処理手段(110)は、更に、前記タンクの前記未来のスロッシング応答を減少させることができる前記船舶の進路を求めるように構成されることを特徴とする請求項21又は22に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガス輸送用の密閉断熱タンクのスロッシング応答の推定に関する。より詳細には、本発明は、この種のタンクのスロッシング応答を推定できる統計モデルを得る方法、この種のタンクのスロッシング応答を推定するために使用できるデータベースを得る方法、及びそのようなタンクを少なくとも1つ含む船舶に関する。本明細書において、「船舶」という用語は、地球上の2点間で液化ガスを輸送及び/若しくはそれ自体の推進のために使用する手段、又は1つ以上の液化ガスの浮体式処理及び/若しくは貯蔵ユニットを意味する。従来、液化ガスを燃料とする船舶としては、LNGを燃料とする船、コンテナ船、クルーズ船、ばら積貨物船が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
例えば、-50℃以上0℃以下の温度での液化石油ガス(別名LPG)の輸送や、大気圧における約-162℃での液化天然ガス(LNG)の輸送など、低温での液化ガスの貯蔵及び/若しくは輸送のために、密閉断熱タンクは日常的に使用されている。これらのタンクについては、液化ガスを輸送すること、及び/若しくは、浮体式の構造物の推進用の燃料として機能する液化ガスを受け取ること、が意図されてもよい。特に、メタン、エタン、プロパン、ブタン、アンモニアガス、二水素又はエチレンなどの、多くの液化ガスが想定され得る。
【0003】
船舶のタンクは、大気圧での輸送を可能にする一重又は二重に密閉されたメンブレンのタンクであってもよい。密閉用のメンブレンは、一般に、薄いステンレス鋼又はインバー(Invar)シートで作られている。1つのメンブレンは、一般に、液化ガスと直接接触する。
【0004】
タンクに収容された液体は、その輸送中において、様々な動きを受ける。特に、例えば、海況又は風などの気候条件の影響のために、船舶の海上での移動は、タンク内の液体の攪拌をもたらす。一般にスロッシングと呼ばれる液体の撹拌は、タンクの完全性(インテグリティ)を損なうおそれのある応力をタンクの壁に発生させる。
【0005】
これらのスロッシング現象は、天然ガス(以降、「LNG」と呼ぶ)輸送及び/若しくはユーザ船(しばしば「LNG燃料船」と呼ばれる)又はLNGタンカーで発生し、また、これらのスロッシング現象は、例えば、FLNG(Floating Liquefied Natural Gas)ユニット又は浮体式貯蔵再ガス化設備(Floating Storage and Regasification Unit、FSRU)と一般的に呼ばれる(より一般的には、製造、貯蔵、及び輸出のための浮体式の構造物と呼ばれる)、採油プラットフォームや天然ガス液化ユニットなどの浮体式生産貯蔵積出(Floating Production Storage and Offloading、FPSO)として知られる係留された貯蔵船でも発生する。液化ガスの積荷が、船舶が受ける低いうねりによっても生じる励起に共振するならば、スロッシング現象は、荒れた海の状態とほぼ穏やかな海の状態の両方で発生する。これらの共振の場合、スロッシングは、特に垂直壁又は角部において波がブレークする時に極めて激しくなる可能性があり、従って、液化ガス収容システム、又は前記収容システムのすぐ後ろに存在する断熱システムの劣化の危険を招く。
【0006】
ここで、タンクの完全性(インテグリティ)は、輸送される液体の可燃性又は爆発性の性質のために、また、漏洩の場合における浮遊ユニットの鋼製ハルのコールド・スポットのリスクのために、例えばLNGタンクなどの液化ガスタンクにおいて特に重要である。
【0007】
米国特許第8,643,509号明細書は、液化ガスの積荷のスロッシングに関連するリスクを低減する方法を開示している。その文献では、タンク内の液体の共振周波数は、タンクとその充填レベルの関数として推定される。輸送中、船舶の動きの周波数は、気候条件及び海洋条件並びに船舶の速度の関数として評価される。船舶が追従すべき進路についても、予報動き周波数が評価される。動き周波数のいずれかが、タンク内の液体の共振周波数に近すぎる場合、危険な状況を回避するために、進路を変更する及び/若しくは船の速度を変更する為の警報が出される。
【0008】
スロッシング低減手段の提供にもかかわらず、特に共振現象のために、タンク内の液体のスロッシングは、一次密閉の一次メンブレンの変形、一次密閉メンブレンが載っている一次及び/若しくは二次空間に存在する下層構造への損傷、短期又は中期的に一次密閉メンブレンの損傷を引き起こしうる特に静止機器からの落下物、又はより一般的には、その構造的許容限界を超える一次密閉メンブレンの変形のリスクをしばしば招く可能性がある。
【0009】
従って、船舶が航行しているときのタンクのスロッシング応答を推定するための方法、及び、必要であれば、タンクの一次密閉メンブレンへの損傷を起こしうる過度のスロッシングの発生を防止するための必要な措置を適用するための方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本発明の背後にある1つのアイデアは、タンクの充填レベル及び現在の海況の関数として、タンクのスロッシング応答を推定することができる統計モデルを訓練する教師あり機械学習方法を使うことであり、前記関数はオプションとして、更に船舶の喫水、船舶の速度、及び船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよい。統計モデルは、複数の試験の結果から得られる試験データのセットに基づいて訓練される。前記複数の試験のそれぞれは、所与の充填レベルを有する試験タンクに動きを与えることと、試験タンクの1つの壁の少なくとも1点における圧力及び/若しくは試験タンクの少なくとも1つの壁における衝撃の回数を測定することから構成される。その後、統計モデルを使用して、例えば、リアルタイムでの参照に使用可能なデータベースを構築することによって、船舶の管理システムのフレームワークにおけるタンクのスロッシング応答を推定することができる。
【0011】
第1態様に従った実施形態によれば、本発明は、液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定することができる統計モデルを得る方法であって、
前記方法は、試験データのセットに基づいて教師あり機械学習方法によって前記統計モデルを訓練することを含むステップを含み、
前記統計モデルは、前記タンクの充填レベル及び現在の海況の関数として、前記タンクのスロッシング応答を推定することができ、前記関数はオプションとして、更に船舶の喫水、前記船舶の速度、及び前記船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよく、
前記試験データのセットは、複数の試験の結果から得られ、前記複数の試験のそれぞれは、所与の充填レベルを有する試験タンクに動きを与えることと、前記試験タンクの1つの壁の少なくとも1点における圧力及び/若しくは前記試験タンクの少なくとも1つの壁における衝撃の回数を測定することとを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0012】
第2態様に従った実施形態によれば、本発明は、液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定することができる統計モデルを得る方法であって、
前記方法は、試験データのセットに基づいて教師あり機械学習方法によって前記統計モデルを訓練することを含むステップを含み、
前記統計モデルは、前記タンクの充填レベル及び船舶の動きの現在の状態の関数として、前記タンクのスロッシング応答を推定することができ、前記関数はオプションとして、更に前記船舶の喫水、前記船舶の速度、及び前記船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよく、
前記試験データのセットは、複数の試験の結果から得られ、前記複数の試験のそれぞれは、所与の充填レベルを有する試験タンクに動きを与えることと、前記試験タンクの1つの壁の少なくとも1点における圧力及び/若しくは前記試験タンクの少なくとも1つの壁における衝撃の回数を測定することとを含むことを特徴とする方法。
【0013】
「教師あり機械学習方法」(英語では、スーパーバイズド・ラーニング(supervised learning))とは、注釈付きの例に基づいて予測関数を訓練することからなる機械学習(英語では、マシン・ラーニング(machine learning)、フランス語では、人工学習(appellations apprentissage artificiel)又は統計学習(apprentissage statistique)としても知られている)方法を意味する。言い換えれば、教師あり機械学習方法は、予測すべき応答が既知である複数の例に基づいて予測可能なモデルを構築することを可能にする。教師あり機械学習方法は、典型的には、コンピュータによって実行され、つまり、統計モデルを訓練することを含むステップは、典型的には、コンピュータによって実行される。
【0014】
本発明の文脈において訓練される統計モデルは、少なくともタンクの充填レベル及び現在の海況又は船舶の動きの現在の状態の関数として、1つ以上の定量的変数を含むスロッシング応答を推定することができる。従って、訓練される統計モデルは、回帰問題に対応することができる。
【0015】
教師あり機械学習方法によって前記試験データのセットに対する統計モデルの訓練を行うステップが存在することにより、統計モデルは、タンクの充填レベル並びに現在の海況及び試験がまだ実施されていない船舶の動きの状態を含め、少なくともタンクの充填レベル及び現在の海況又は船舶の動きの現在の状態の関数として、統計モデルは計算によってタンクのスロッシング応答を計算することができる。従って、統計モデルは、船舶での実際の使用条件下でのタンクのスロッシング応答を推定するために使用可能である。
【0016】
試験用のタンクは、統計モデルによるスロッシング応答の推定を行うタンクよりも小さくてもよい。試験用のタンクは、統計モデルによるスロッシング応答の推定を行うタンクを代表する幾何学的形状を有していてもよい。更に、「試験データのセットに基づいて教師あり機械学習方法によって前記統計モデルを訓練する」という語句又は特徴における、「試験データのセット」は、所謂「本番の」オペレーションでのデータ(すなわち液化ガス輸送及び/若しくは使用船として供用中の船舶において取得又は測定されたデータ)を含むか又はそれらから構成され得ることが明らかである。
【0017】
実施形態においては、上記方法は、以下の特徴のうちの1つ以上を含むことができる。
【0018】
スロッシング応答とは、貨物のスロッシング現象の間にタンクがさらされる機械的負荷を表すことができる任意のパラメータ及び一組の定性的及び/若しくは定量的パラメータを意味する。
【0019】
一実施形態によれば、スロッシング応答は、タンクの壁に対する流体の衝突の回数、タンクの壁に対する最大圧力、及びタンクに対する損傷の可能性のうちの少なくとも1つを含む。
【0020】
従って、統計モデルは、タンクの損傷の確率及び/若しくはこの種の損傷の確率を推定することを可能にするパラメータを推定することができる。
【0021】
一実施形態によれば、教師あり機械学習方法は、ガウス過程回帰法である。
【0022】
ガウス過程回帰法は、比較的限られた量のデータに基づいて訓練することによって、任意の入力データセットについて回帰問題に対処することができる統計モデルの作成を可能にするので、統計モデルを訓練するのに非常に適している。それにもかかわらず、本発明の範囲から逸脱することなく、他の教師あり機械学習方法を使用することが可能である。
【0023】
一実施形態によれば、少なくとも1つの制約が、前記教師あり機械学習方法による前記統計モデルの訓練の最中に前記統計モデルに適用される。
【0024】
従って、統計モデルの訓練は、基本的な物理的考察に基づいて、例えば、タンクの充填レベルがゼロである状況においてスロッシングがないことに基づいて、及び/若しくは、例えば、タンクのより大きな動き又はより大きな寸法が、より大きなスロッシング応答を潜在的にもたらし得るという事実に基づいて、導くことができる。この結果、統計モデルによるスロッシング応答の推定精度が向上する。
【0025】
一実施形態によれば、本方法は、統計モデルを訓練するステップの前に、閾値未満のスロッシング応答を特徴とする試験結果を前記試験データのセットから除外することを含むステップを更に含む。
【0026】
従って、統計モデルは、より具体的には衝突の回数に関して、深刻なスロッシングを示した試験データに基づいてのみ訓練される。事実上、本発明の一様態によれば、遭遇する発生の回数は、衝撃の強度よりも統計的収束のためのより重要な要因である。この結果、統計モデルによるスロッシング応答の推定精度がさらに向上する。
【0027】
一実施形態によれば、統計モデルは、複数のタンクを考慮し、前記統計モデルは、前記船舶における前記タンクの位置の関数として、前記複数のタンクのそれぞれのスロッシング応答を推定することができる。
【0028】
前記第一態様に従った実施形態によれば、本発明は、液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定することができる統計モデルを得るシステムであって、
前記システムは、試験データのセットに基づいて教師あり機械学習方法によって前記統計モデルを訓練することを含む処理手段を含み、
前記統計モデルは、前記タンクの充填レベル及び現在の海況の関数として、前記タンクのスロッシング応答を推定することができ、前記関数はオプションとして、更に船舶の喫水、前記船舶の速度、及び前記船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよく、
前記試験データのセットは、複数の試験の結果から得られ、前記複数の試験のそれぞれは、所与の充填レベルを有する試験タンクに動きを与えることと、前記試験タンクの1つの壁の少なくとも1点における圧力及び/若しくは前記試験タンクの少なくとも1つの壁における衝撃の回数を測定することとを含むことを特徴とするシステムも提供する。
【0029】
前記第二態様に従った実施形態によれば、本発明は、液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定することができる統計モデルを得るシステムであって、
前記システムは、試験データのセットに基づいて教師あり機械学習方法によって前記統計モデルを訓練することを含む処理手段を含み、
前記統計モデルは、前記タンクの充填レベル及び船舶の動きの現在の状態の関数として、前記タンクのスロッシング応答を推定することができ、前記関数はオプションとして、更に船舶の喫水、前記船舶の速度、及び前記船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよく、
前記試験データのセットは、複数の試験の結果から得られ、前記複数の試験のそれぞれは、所与の充填レベルを有する試験タンクに動きを与えることと、前記試験タンクの1つの壁の少なくとも1点における圧力及び/若しくは前記試験タンクの少なくとも1つの壁における衝撃の回数を測定することとを含むことを特徴とするシステムも提供する。
【0030】
このようなシステムは、上記方法と同じ効果を奏する。
【0031】
前記第一態様に従った実施形態によれば、本発明は、液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定することに使うことができるデータベースを得る方法であって、前記方法は、
複数の入力データベクトルを生成し、前記複数の入力データベクトルのそれぞれは前記タンクの充填レベルと現在の海況とを含み、
前記生成された複数の入力データベクトルのそれぞれについて、前記第一態様に従った方法によって得られた前記統計モデルによって、前記タンクにおける推定されたスロッシング応答を得て、
前記複数の入力データベクトルに関連付けられた前記タンクにおける前記推定されたスロッシング応答をデータベースに格納する
ことを含むステップを含むことを特徴とする方法も提供する。
【0032】
前記第二態様に従った実施形態によれば、本発明は、液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定することに使うことができるデータベースを得る方法であって、前記方法は、
複数の入力データベクトルを生成し、前記複数の入力データベクトルのそれぞれは前記タンクの充填レベルと船舶の動きの現在の状態とを含み、
前記生成された複数の入力データベクトルのそれぞれについて、前記第二態様に従った方法によって得られた前記統計モデルによって、前記タンクにおける推定されたスロッシング応答を得て、
前記複数の入力データベクトルに関連付けられた前記タンクにおける前記推定されたスロッシング応答をデータベースに格納する、
ことを含むステップを含むことを特徴とする方法も提供する。
【0033】
統計モデルは、タンクの充填レベルの値及び現在の海況又は試験がまだ実施されていない船舶の動きの状態について、タンクのスロッシング応答を算出することによって推定することができるが、これを行うために必要な算出は長くなりすぎる可能性があり、及び/若しくは、必要な計算資源が船舶上で使用することができないほど多くなりすぎてしまう可能性があり、その場合、できるだけ迅速に、且つ、可能な限り低いコストの船上システムを使用することで、スロッシング応答の推定値を得ることが重要である。従って、これらの方法の背後にある1つのアイデアは、船舶の動作又は機能の範囲全体をカバーするように適切に選択され得る複数の入力データベクトルに基づいて、これらの計算の大部分を事前に実行し、入力データベクトルに対応づけて、これらの入力データベクトルの各々についてのタンクの推定スロッシング応答をデータベースに記憶することである。タンクの推定スロッシング応答は、入力データベクトルがデータベース内に存在する場合にはデータベースを単に読み取ることによって、又はそうでない場合にはデータベースに基づく補間によって、得ることができる。これには、統計モデル自体に基づく推定よりも、はるかに少ない計算時間と計算資源を必要とする。その結果、船上で統計モデルの推定を実行するのに統計モデル自体は不必要でさえあり、データベースのみで十分である。この場合、データベースに基づく推定は、船舶に搭載されたシステムによって、又は、例えば無線又は衛星を介して船舶と通信する陸上局によって、行うことさえも可能である。
【0034】
一実施形態によれば、本発明は、上記のデータベースを得る方法によって得られるデータベースも提供する。
【0035】
一実施形態によれば、本発明は、上記のデータベースを得る方法によって得られたデータベースが記憶されたコンピュータ読み取り可能な記憶媒体も提供する。
【0036】
前記第一態様に従った実施形態によれば、本発明は、船舶上の液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定する方法であって、前記方法は、
前記タンクの現在の充填レベルを求め、
現在の海況を求め、
前記タンクの前記求められた現在の充填レベル及び前記求められた現在の海況を含む入力データベクトルを生成し、
前記生成された入力データベクトルと前記第一態様に従った方法によって得られる前記データベースとに基づいて、前記タンクにおけるスロッシング応答を推定する、
ことを含むステップを含むことを特徴とする方法も提供する。
【0037】
前記第二態様に従った実施形態によれば、本発明は、船舶上の液化ガスの輸送のための密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定する方法あって、前記方法は、
前記タンクの現在の充填レベルを求め、
前記船舶の動きの現在の状態を求め、
前記タンクの前記求められた現在の充填レベルと前記船舶の動きの前記求めた現在の状態とを含む入力データベクトルを生成し、
前記生成された入力データベクトルと前記第二態様に従った方法によって得られる前記データベースとに基づいて、前記タンクにおけるスロッシング応答を推定する、
ことを含むステップを含むことを特徴とする方法も提供する。
【0038】
これらの方法によって、データベースを使用して試験データ上で予め訓練された統計モデルによって、タンクのスロッシング応答を推定することが可能である。上記のように、この推定は、統計モデル自体に基づく推定よりも、はるかに少ない計算時間と計算資源を必要とし、船舶に搭載されたシステムによって、又は船舶と通信する陸上局によって実施することができる。
【0039】
一実施形態によれば、複数のタンクを考慮し、前記方法は、前記船舶における前記複数のタンクのそれぞれの位置の定義を行う事前ステップを含む。
【0040】
一実施形態によれば、前記タンクの前記推定されたスロッシング応答が警告閾値を超える場合に、ユーザに警告を与えることを含むステップを含み、好ましくは、前記スロッシングを減らすことを意図した決定を支援することを含むステップを更に含む。この決定支援ステップは、船舶の方向又は進路についての変更された提案、静止した浮体式の構造物に特に適した船首方位の変更、船舶の速度の変更又は1つ以上のタンクの充填レベルの変更(タンク間での充填レベルの変更、又は静止した浮体式の構造物の場合は、タンクと船舶の外部の貯蔵設備との間での充填レベルの変更)から構成されてもよい。
【0041】
更に、警告は、直ちに又は近い将来に修正すべき問題の報告と、もし可能であれば、可能な修理を考慮して点検及び保守の操作を必要とする船舶の複数のタンクから1つ以上のタンクを指定する警告とから構成されてもよい。
【0042】
従って、乗組員などのユーザは、必要であれば、例えば、船舶を減速又は停止させる、又は船舶の進路を変更するなどの、タンク内のスロッシングを制限するために必要な措置を講じることができ、これによって、タンクへの損傷のリスクを低減する。
【0043】
前記第一態様に従った実施形態によれば、本発明は、液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクを備える船舶のための管理システムであって、前記管理システムは、
前記タンクの現在の充填レベルを測定する少なくとも1つの充填レベルセンサと、
現在の海況を評価することができる海況評価デバイスと、
前記タンクの現在の充填レベルと、前記海況評価デバイスによって評価された現在の海況と、を含む入力データベクトルを生成し、前記生成された入力データベクトルと、前記第一態様に従った方法によって得られた前記データベースとによって、前記タンクにおけるスロッシング応答を推定するように構成された処理手段と、
を含むことを特徴とする管理システムも提供する。
【0044】
前記第二態様に従った実施形態によれば、本発明は、液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクを備える船舶のための管理システムであって、前記管理システムは、
前記タンクの現在の充填レベルを測定する少なくとも1つの充填レベルセンサと、
前記船舶の動きの現在の状態を評価することができる船舶動き評価デバイスと、
前記タンクの現在の充填レベルと、前記船舶の動きの前記現在の状態と、を含む入力データベクトルを生成し、前記生成された入力データベクトルと、前記第二態様に従った方法によって得られた前記データベースとによって、前記タンクにおけるスロッシング応答を推定するように構成された処理手段と、
を含むことを特徴とする管理システムも提供する。
【0045】
このようなシステムは、上記方法と同じ効果を奏する。
【0046】
一実施形態によれば、前記処理手段は、更に、前記タンクの前記推定されたスロッシング応答が警告閾値を超える場合に、ユーザに警告を与え、好ましくは、前記スロッシングを減らすことを意図した決定についてユーザを支援するように構成されている。
【0047】
他の実施形態によれば、本発明は、船舶上の液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定する方法であって、前記方法は、
前記タンクの現在の充填レベルを求め、
気象情報と前記船舶の進路に基づいて、未来の海況を推定し、
複数の入力データベクトルを生成し、前記複数の入力データベクトルのそれぞれは、前記タンクの前記現在の充填レベルと前記推定された未来の海況とを含み、
前記生成された入力データベクトルと前記第一態様に従った方法によって得られる前記データベースとに基づいて、前記タンクにおける未来のスロッシング応答を推定する、
ことを含むステップを含むことを特徴とする方法も提供する。
【0048】
上記方法によれば、データベースによる試験データに基づいて予め訓練された統計モデルにより、気象情報と船舶の進路からタンクの将来のスロッシング応答を推定することができる。上記のように、この推定は、統計モデル自体に基づく推定よりも、はるかに少ない計算時間と計算資源を必要とし、船舶に搭載されたシステムによって、又は船舶と通信する陸上局によって実施することができる。
【0049】
他の実施形態によれば、本発明は、船舶上の液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクにおけるスロッシング応答を推定する方法であって、前記方法は、
前記タンクの現在の充填レベルを求め、
気象情報と前記船舶の進路に基づいて、前記船舶の動きの未来の状態を推定し、
複数の入力データベクトルを生成し、前記複数の入力データベクトルのそれぞれは、前記タンクの前記現在の充填レベルと前記推定された船舶の動きの未来の状態とを含み、
前記生成された入力データベクトルと前記第二態様に従った方法によって得られる前記データベースとに基づいて、前記タンクにおける未来のスロッシング応答を推定する、
ことを含むステップを含むことを特徴とする方法も提供する。
【0050】
一実施形態によれば、本方法は、前記タンクの前記未来のスロッシング応答を減少させることができる前記船舶の進路及び/若しくは前記タンクの充填レベルの変更を求めることを含むステップを含む。「船舶の進路」という表現は、その船舶の船首方位、船舶の速度、又は地理的ゾーンを単に回避することを意味する。静止した浮体式の構造物(船舶、はしけ)については、つまり、固定位置にあるものについては、船首方位の変更は、浮体式の構造物を従来の方法によって導く又は移動するように、北方向と浮体式の構造物の前後方向の軸との間の角度の変化に反映され、浮体式の構造物のうねり及び波の不利益な結果を低減する。
【0051】
従って、乗組員などのユーザは、タンクの未来のスロッシング応答の低減を可能にし、タンクの損傷のリスクを低減することを可能にするような進路を船舶に追従させる決定をすることができる。
【0052】
他の実施形態によれば、本発明は、液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクを備える船舶のための管理システムであって、前記管理システムは、
前記タンクの現在の充填レベルを測定する少なくとも1つの充填レベルセンサと、
気象情報と前記船舶の進路に基づいて、未来の海況を推定することができる海況推定デバイスと、
複数の入力データベクトルを生成し、前記生成された入力データベクトルと、前記第一態様に従った方法によって得られた前記データベースとによって、前記タンクにおける未来のスロッシング応答を推定するように構成された処理手段と、
を含み、
前記複数の入力データベクトルのそれぞれは、前記タンクの現在の充填レベルと、前記海況推定デバイスによって推定された未来の海況とを含むことを特徴とする管理システムも提供する。
【0053】
他の実施形態によれば、本発明は、液化ガスの輸送のための少なくとも1つの密閉断熱タンクを備える船舶のための管理システムであって、前記管理システムは、
前記タンクの現在の充填レベルを測定する少なくとも1つの充填レベルセンサと、
気象情報と前記船舶の進路に基づいて、前記船舶の未来の動きの状態を推定することができる動き状態推定デバイスと、
複数の入力データベクトルを生成し、前記生成された入力データベクトルと、前記第二態様に従った方法によって得られた前記データベースとによって、前記タンクにおける未来のスロッシング応答を推定するように構成された処理手段と、
を含み、
前記複数の入力データベクトルのそれぞれは、前記タンクの現在の充填レベルと、前記動き状態推定デバイスによって推定された前記船舶の前記未来の動きの状態とを含むことを特徴とする管理システムも提供する。
【0054】
一実施形態によれば、前記処理手段は、更に、前記タンクの前記未来のスロッシング応答を減少させることができる前記船舶の進路を求めるように構成される。
【0055】
添付の図面を参照して、本発明がより深く理解され、本発明の他の目的、詳細、特徴、及び利点は、限定ではなく単なる例示として与えられる本発明のいくつかの特定の実施形態についての下記の説明において、より明確に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図3】
図3は、別の実施形態による管理システムを表す。
【
図4】
図4は、試験タンク・スロッシング応答試験装置の模式図である。
【
図5】
図5は、タンクのスロッシング応答を推定するために使用可能なデータベースを得る方法を表すフローチャートである。
【
図6】
図6は、タンクのスロッシング応答を推定する方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、タンクのスロッシング応答を推定する別の方法を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、タンクのスロッシング応答を推定する更に別の方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下の実施形態は、複数の密閉断熱タンクが配置された支持構造を形成する二重ハルを含む船舶に関して説明される。この種の支持構造では、タンクは、例えば、多面体形状、例えば、角柱形状を有する。
【0058】
このような密閉断熱タンクは、例えば、液化ガスの輸送のために提供される。そして、液化ガスは低温でこのようなタンクで輸送され、そのような低温に液化ガスを維持するために断熱タンク壁が必要とされる。従って、一方では、密閉メンブレンの下に位置する断熱空間を含むタンク壁の完全性(インテグリティ)を損なわないように維持し、タンクの密閉を保持しタンクからの液化ガスの漏出を回避し、そのガスを液状に維持するためにタンクの断熱特性を劣化させないことが特に重要である。
【0059】
このような密閉断熱タンクは、船舶の二重ハルにアンカーされ、少なくとも1つの密封メンブレンを備える断熱バリアも含む。例として、そのようなタンクは、出願人の商標、Mark III(登録商標)又はNO96(登録商標)、又はその他の下で市販されている技術に従って製造することができる。
【0060】
図1は、4つの密閉断熱タンク2を含む船舶1を示す。4つのタンク2は、同一又は異なる充填状態を有していてもよい。船舶1が海上にあるとき、船舶1は、航行状態に関連する多数の動きを受ける。船舶1のこれらの動きは、結果的にタンク3、4、5、6内の動きにさらされるタンク3、4、5、6に含まれる液体に伝達される。タンク3、4、5、6内の液体のこれらの動きは、タンク3、4、5、6の壁に衝撃を発生させ、それが激しすぎると直ちにタンクを損傷させる可能性がある。更に、タンク3、4、5、6の壁を、高レベルであるが破壊するほどではないレベルで繰り返し打撃することは、疲労による摩耗によって壁の劣化を招く。タンク3、4、5、6の密閉及び断熱特性を維持するために、タンク3、4、5、6の壁の完全性(インテグリティ)を保持することが重要である。
【0061】
直ちにタンクを損傷するリスクのある液体の動きを防止するために致命的な航海条件を回避することが知られている。しかしながら、船舶が航行しているときにタンクのスロッシング応答を推定することを可能にする方法、及び、必要であれば、タンクの一次封止メンブレンを損傷する過度のスロッシングを防止するために必要な対策を講じることが依然として必要とされている。
【0062】
図2は、船舶1に搭載された管理システム100の一例を示す。この管理システム100は、様々なパラメータ測定値を得ることを可能にする複数のオンボードセンサ120に接続されたCPU(セントラル・プロセッサー・ユニット)110を含む。従って、センサ120は、例えば、それぞれのタンクについて少なくとも1つの充填レベルセンサ121を含み、船舶の動きの種々のセンサ122及び海洋状態センサ123を含むが、それには限定されない。管理システム100は、また、CPU110が、例えば、気象データ、船舶位置データ、又は他のデータを得るために、遠隔デバイスと通信することを可能にする通信インターフェース130を含む。
【0063】
船舶動きセンサ122は、例えば、船舶が受ける加速度を、並進及び回転において3つの直交軸上で測定することによって、船舶の測定された動きを求める。船舶の動きを評価するために、1つ以上の加速度計、及び/若しくは、例えば機械的ジャイロスコープなどの1つ以上のジャイロスコープ、及び/若しくは、1つ以上の磁力計から構成される慣性測定ユニット(IMU)を使用することが好ましい。(同じタイプまたは2つの異なるタイプの)複数の測定ユニットが使用されると仮定すると、これらの測定ユニットは、好ましくは、船舶の動きの正確な測定値を生成するように船舶において分散配置される。尚、一般に、IMUは、モーション・リファレンス・ユニット(MRU)と呼ばれることがあることに留意されたい。
【0064】
海洋状態センサ123は、例えば、船舶の環境における波の高さ及び周波数などの、船舶の環境における現在の海況を得る。例えば、一実施形態では、波の高さ及び/若しくは周波数は、乗組員による目視観察から得られる。
【0065】
管理システム100は、ヒューマン・マシン・インターフェース140をさらに含む。このヒューマン・マシン・インターフェース140は、表示手段41を備える。この表示手段41は、操縦者が、システムによって計算された管理情報、又はセンサ120によって得られた測定値、又は更には現在のスロッシング状態を得ることを可能にし、現在のスロッシング状態は、以下に詳細に説明するように推定することができる。
【0066】
ヒューマン・マシン・インターフェース140は、操縦者が手動でCPU110に数値を提供することを可能にする取得手段42をさらに含み、典型的には、船舶が必要なセンサを備えていないか又は船舶が損傷している為にセンサによって得ることができないデータをCPU110に提供する。例えば、一実施形態では、取得手段は、操縦者が、目視観察に基づいて波の高さ及び/若しくは周波数に関する情報を入力すること、及び/若しくは船舶の船首方位、及び/若しくは速度を手動で入力することを可能にする。
【0067】
管理システム100は、データベース150をさらに含む。このデータベースは、以下に詳細に説明するように、タンクのスロッシング応答を推定するために使用可能である。
【0068】
図3は、陸上に位置し、船舶1と通信する管理システム200の例を示す。船舶は、CPU110と、センサ120と、通信インターフェース130とを含む。管理システム200は、CPU210と、通信インターフェース230と、ヒューマン・マシン・インターフェース240と、データベース250とを含む。管理システム200の機能は、管理システム100の機能と同様であり、船舶1上のセンサ120によって測定された情報を、通信インターフェース130及び230を介して陸上に位置する管理システム200に送信する点でのみ異なる。例えば、通信インターフェースは、データの地上波又は衛星無線送信を使用することができる。
【0069】
次に、データベース150がどのように得られるかを、
図4及び
図5を用いて説明する。
【0070】
図4は、試験を試験タンク1010上で実施することを可能にする試験装置1000の一例を図式的に表す。試験は、流体1011で所与の充填レベルにおいて充填されている試験タンク1010に動きを与えること、及び圧力センサ1012を用いて試験タンク1010の壁1010a上の少なくとも1つの点の圧力を測定すること、及び/若しくは、試験タンク1010の少なくとも1つの壁への衝撃の回数を測定すること、から構成される。
【0071】
試験用のタンク1010は、スロッシング応答の推定を行うタンクよりも小さくてもよく、及び/若しくは、スロッシング応答の推定を行うタンクを代表する幾何学的形状を有していてもよい。
【0072】
もちろん、流体1011は、好ましくは、同じ性質であり、理想的には、スロッシング応答の推定を行うタンクによって輸送されるものと同じ温度、密度、粘度を有し、特に、例えば、-50℃~0℃の温度の液化石油ガス(LPG)又は大気圧で約-162℃の液化天然ガス(LNG)であってもよい。特に、メタン、エタン、プロパン、ブタン、アンモニアガス、二水素又はエチレンなどの、多くの液化ガスが想定され得る。
【0073】
更に、試験タンク1010の壁1010a(又は幾つかの壁又は全ての壁)における複数の点での圧力を測定することが可能であり、圧力センサ1012の数及び配置はそれに応じて調整される。試験タンク1010の少なくとも1つの壁への衝撃の回数が測定される場合、その測定は、その壁上に適切に配置された複数の圧力センサ1012を用いて行われる。試験タンク1010の複数の壁又は試験タンク1010の全ての壁への衝撃の回数を測定することが可能である。
【0074】
上述のように、試験タンク1010は、試験中に動きを受ける。従って、図示の例では、装置1000は、試験タンク1010が固定されるプラットフォーム1013を備える。プラットフォーム1013は、その端部の一方が3つの固定点1014でプラットフォームに接続され、他方の端部がフレーム又は地面1001に接続されている6つの油圧シリンダ1015の作用によって動きに関して駆動される。これにより、試験タンク1010は、並進及び回転における6自由度を有する動きに関して駆動されることが可能になる。もちろん、試験タンク1010は、異なる手段によって動きに関して駆動されてもよい。
【0075】
装置1000は、試験制御部1020を更に備える。試験制御部1020は、試験プログラム内の所定の動きを試験タンク1010に与えるように、油圧シリンダ1015を制御するように構成される。一実施形態では、これらの動きは、好ましくは船舶上のタンクの位置及び/若しくはタンクの幾何学的形状を考慮する船舶の所与の動きを表す移動である。別の実施形態では、これらの動きは、好ましくは船舶上のタンクの位置及び/若しくはタンクの幾何学的形状を考慮して、船舶の対応する動きに変換される、所与の海況を表す動きである。所与の海況に基づく船舶の対応する動きの評価は、船舶の耐航性能の評価における日常的な作業である。更に、試験制御部1020は、少なくとも1つの圧力センサ1012による試験中に測定された値を格納する。
【0076】
試験制御部1020は、試験データ処理部1030と通信する。試験データ処理部1030は、少なくとも1つの圧力センサ1012による試験中に測定された値及び試験中に試験タンク1010に与えられた動きについて試験制御部1020からの受信を可能にする通信インターフェース1031を備える。試験データ処理部1030は、メモリ1033及びCPU1032を更に備える。
【0077】
試験データ処理部1030は、メモリ1033と通信するCPU1032内の統計モデルを機械学習方法によってトレーニングするように構成される。統計モデルは、タンクの充填レベル及び現在の海況の関数として、タンクのスロッシング応答を推定することができ、関数はオプションとして、更に船舶の喫水、前記船舶の速度、及び前記船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよい。スロッシング応答は、タンクの壁に対する流体の衝突の回数、タンクの壁に対する最大圧力、及びタンクに対する損傷の可能性のうちの少なくとも1つを含む。一態様では、統計モデルは、複数のタンクを考慮し、前記統計モデルは、前記船舶における前記タンクの位置の関数として、前記複数のタンクのそれぞれのスロッシング応答を推定することができる。
【0078】
より具体的には、統計モデルは、教師あり機械学習方法によって訓練される。例えば、教師あり機械学習方法は、ガウス過程回帰法であってもよい。ガウス過程回帰法は、それ自体周知であり、統計モデルを訓練するのによく適している。なぜなら、ガウス過程回帰法は、比較的限られた量のデータに基づいて訓練することによって、任意の入力データセットについての回帰問題に対処することができる統計モデルを生成することができるからである。それにもかかわらず、他の教師あり機械学習方法を採用することが可能である。
【0079】
統計モデルは、試験タンク1010を使用して生成された試験結果に基づいて訓練される。より具体的には、好ましい例では、統計モデルは、各試験中において試験タンク1010のスロッシング応答に基づいて訓練され、そのスロッシング応答は、少なくとも1つの圧力センサ1012による試験中に測定された値に基づいて、事前に計算される。試験タンク1010のスロッシング応答は、試験タンク1010の1つ以上の壁1010aへの流体の衝突の回数、及び所与の期間にわたる試験タンク1010の壁1010aへの最大圧力のうち少なくとも1つを含んでよい。一態様では、統計モデルは、試験タンク1010で実施された試験の結果と、液化ガス輸送及び/若しくは使用船として供用中の船舶、試験タンク1010の役目を果たすそれらの船舶の1つ以上のタンクにおいて取得又は測定された試験データと、の両方に基づいて訓練されてよい。他の態様では、統計モデルは、液化ガス輸送及び/若しくは使用船として供用中の船舶、試験タンク1010の役目を果たすそれらの船舶の1つ以上のタンクにおいて取得又は測定された試験データのみに基づいて訓練されてよい。
【0080】
データベース150を得る方法300を
図5を用いて説明する。ステップ301~305は、メモリ1033と通信するCPU1032によって実行されてもよい。
【0081】
方法300は、オプションとして、閾値未満の試験タンク1010のスロッシング応答を示す試験結果を、統計モデルを訓練する試験データのセットから除外することから構成されるステップ301を更に含んでもよい。従って、統計モデルは、試験タンク1010内の有意なスロッシングを示した試験データのみに基づいて訓練され、これによって、統計モデルを使用したスロッシング応答の推定の精度を改善する。
【0082】
オプションのステップ301の後、方法300は、上述した統計モデルを訓練するステップ302を含む。
【0083】
オプションとして、少なくとも1つの制約が、ステップ302における前記教師あり機械学習方法による前記統計モデルの訓練の最中に前記統計モデルに適用されてもよい。それらの制約は、基本的な物理的考察に基づいて、例えば、タンクの充填レベルがゼロである状況においてスロッシングがないことに基づいて、及び/若しくは、例えば、タンクのより大きな動き又はより大きな寸法が、より大きなスロッシング応答を潜在的にもたらし得るという事実などの実際的な経験に基づいて、定義することができる。この結果、統計モデルによるスロッシング応答の推定精度が向上する。
【0084】
ステップ302の完了後、タンクの充填レベル及び現在の海況の関数として、タンクのスロッシング応答を推定することができる統計モデルが得られ、関数はオプションとして、更に船舶の喫水、船舶の速度、及び船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよく、これは、試験タンク1010において試験がまだ実施されていないものを含め、それらの量についてのどのような値でもよい。しかしながら、これを行うために必要な算出は長くなりすぎる可能性があり、及び/若しくは、必要な計算資源が船舶上で使用することができないほど多くなりすぎてしまう可能性があり、その場合、できるだけ迅速に、且つ、可能な限り低いコストの船上システムを使用することで、スロッシング応答の推定値を得ることが重要である。このため、ステップ302の後にステップ303が使用され、ステップ303では複数の入力データベクトルを生成され、複数の入力データベクトルのそれぞれはタンクの充填レベルと現在の海況とを含み、次いで、ステップ304が行われ、ステップ304は、ステップ303で生成された各入力データベクトルについて、ステップ302で統計モデルの助けを借りてタンクの推定スロッシング応答を得ることと、関連付けられた入力データベクトルと共にタンクの推定スロッシング応答をデータベースに格納することから構成される。
【0085】
ステップ305において、オプションとして、ステップ304で得られたデータベースは、管理システム100に送信されるか、又はコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶されてもよい。データベース150も取得され、その使用については後述する。
【0086】
ここまで、統計モデルは少なくともタンクの充填レベル及び現在の海況の関数として、タンクのスロッシング応答を推定することができる状況を説明した。しかしながら、一態様では、統計モデルは、タンクの充填レベル及び船舶の動きの現在の状態の関数として、タンクのスロッシング応答を推定することができ、関数はオプションとして、更に船舶の喫水、船舶の速度、及び船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよい。従って、ステップ302、303、304は、それに応じて修正される。
【0087】
次に、
図6を用いて、データベース150を用いてタンクのスロッシング応答を推定する方法400について説明する。方法400は、1つのタンクのみではなく、複数のタンクを考慮してもよい。この場合、方法400が実行される前に、船舶における複数のタンクのそれぞれの位置の定義を行う事前ステップが実行されてもよい。
【0088】
第1実施形態によれば、
図6のフローチャートは、単一の処理手段を形成するCPU110において、その全体が実行される。第2実施形態によれば、
図6のフローチャートは、船舶と通信する陸上の管理システム200において、部分的に実行される。この第2実施形態によれば、船舶1は、センサ120からの全ての情報を陸上局に送信し、CPU110及びCPU210は、共用処理手段を形成する。
【0089】
方法400は、タンクの現在の充填レベル及び現在の海面状態を求めることから構成される第1ステップ401を含む。タンクの現在の充填レベルは、典型的には、タンク充填レベルセンサ121によって供給される充填情報に基づいて求められる。現在の海況は、海洋状態センサ123によって提供される情報、及び/若しくは、気象台のネットワークとの地上又は衛星無線通信によって提供される情報から、求められてもよい。
【0090】
ステップ401において、オプションとして、船舶の喫水及び/若しくは船舶の船首方位も、典型的には船舶の搭載システムによって提供される情報に基づいて求められてもよい。船舶の喫水は、典型的には、1つ以上のフロート型及び/若しくは静水圧型センサによって船舶の搭載システムに供給される。船舶の船首方位は、典型的には、1つ以上のナビゲーションコンパスによって船舶の搭載システムに提供される。
【0091】
方法400は、ステップ401で求められたデータを含む入力データベクトルを生成することを含む第2ステップ402を更に含む。
【0092】
方法400は、ステップ402で生成された入力データベクトル及びデータベース150に基づいてタンクのスロッシング応答を推定することを含む第3ステップ403をさらに含む。より具体的には、入力データベクトルがデータベース150に存在することが示された場合、スロッシング応答は、単にデータベース150を読み取ることによって得られる。それにもかかわらず、データベース150は、典型的には、入力データベクトルを含まず、むしろ、入力データベクトルに含まれるものに近い入力データを含むであろう。この場合、スロッシング応答は、データベース150内に存在する2つ以上の隣接する入力データベクトルに関連するスロッシング応答からの補間によって得られる。
【0093】
ステップ403の後、得られたスロッシング応答を警告閾値と比較することができ、スロッシング応答が警告閾値を超えた場合、例えば表示手段41上でユーザに警告を表示することができる。この警告の表示に続いて、スロッシングを減らすことを意図した決定を支援するステップが行われることが好ましい。この決定支援ステップは、船舶の方向又は進路についての変更された提案、静止した浮体式の構造物に特に適した船首方位の変更、船舶の速度の変更又は1つ以上のタンクの充填レベルの変更(タンク間での充填レベルの変更、又は静止した浮体式の構造物の場合は、タンクと船舶の外部の貯蔵設備との間での充填レベルの変更)から構成されてもよい。更に、警告は、直ちに又は近い将来に修正すべき問題の報告と、もし可能であれば、可能な修理を考慮して点検及び保守の操作を必要とする船舶の複数のタンクから1つ以上のタンクを指定する警告とから構成されてもよい。
【0094】
データベース150を用いてタンクのスロッシング応答を推定する別の方法500を、
図7を参照して説明する。この態様では、データベース150は、
図4を参照して上述したように、タンクの充填レベル及び船舶の動きの現在の状態の関数として、タンクのスロッシング応答を推定することができる統計モデルから得られ、関数はオプションとして、更に船舶の喫水、船舶の速度、及び船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよい。方法500は、1つのタンクのみではなく、複数のタンクを考慮してもよい。この場合、方法500を実行する前に、船舶における複数のタンクのそれぞれの位置の定義を行う事前ステップがあってもよい。
【0095】
方法500は、タンクの現在の充填レベル及び船舶の動きの現在の状態を求めすることから構成される第1ステップ501を含む。タンクの現在の充填レベルは、典型的には、タンクの充填レベルセンサ121によって提供される充填情報に基づいて求められる。船舶の動きの現在の状態は、船舶動きセンサ122によって提供される情報に基づいて求められてもよい。
【0096】
ステップ501において、オプションとして、船舶の喫水及び/若しくは船舶の船首方位も、典型的には船舶の搭載システムによって提供される情報に基づいて求められてもよい。船舶の喫水は、典型的には、1つ以上のフロート型及び/若しくは静水圧型センサによって船舶の搭載システムに供給される。船舶の船首方位は、典型的には、1つ以上のナビゲーションコンパスによって船舶の搭載システムに提供される。
【0097】
船舶動きセンサ122は、典型的には、タンクのスロッシングの典型的な進展の持続時間よりも遥かに高い取得周波数を有し、船舶動きセンサ122によって提供される情報は、取得期間にわたって平均化されてよく、次いで、ステップ501において求められる他のデータは、同じ取得期間にわたって平均化される。
【0098】
方法500は、ステップ501で求められたデータを含む入力データベクトルを生成することから構成される、ステップ402と同様の、第2ステップ502を更に含む。
【0099】
方法500は、ステップ502で生成された入力データベクトル及びデータベース150に基づいてタンクのスロッシング応答を推定することから構成される第3ステップ503を更に含む。ステップ503は、ステップ403に類似しており、従って、再度詳細に説明しない。
【0100】
ステップ503の後、得られたスロッシング応答を警告閾値と比較することができ、スロッシング応答が警告閾値を超えた場合、例えば表示手段41上でユーザに警告を表示することができる。この警告の表示に続いて、スロッシングを減らすことを意図した決定を支援するステップが行われることが好ましい。この決定支援ステップは、船舶の方向又は進路についての変更された提案、静止した浮体式の構造物に特に適した船首方位の変更、船舶の速度の変更又は1つ以上のタンクの充填レベルの変更(タンク間での充填レベルの変更、又は静止した浮体式の構造物の場合は、タンクと船舶の外部の貯蔵設備との間での充填レベルの変更)から構成されてもよい。更に、警告は、直ちに又は近い将来に修正すべき問題の報告と、もし可能であれば、可能な修理を考慮して点検及び保守の操作を必要とする船舶の複数のタンクから1つ以上のタンクを指定する警告とから構成されてもよい。
【0101】
データベース150を用いてタンクのスロッシング応答を推定する別の方法600を、
図8を参照して説明する。この態様では、データベース150は、タンクの充填レベル及び現在の海況の関数として、タンクのスロッシング応答を推定することができる統計モデルから得られ、関数はオプションとして、更に船舶の喫水、船舶の速度、及び船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよい。
【0102】
方法600は、タンクの現在の充填レベルを求め、未来の海況を推定することから構成される第1ステップ601を含む。タンクの現在の充填レベルは、典型的には、タンクの充填レベルセンサ121によって提供される充填情報に基づいて求められる。未来の海況は、気象情報と船舶の進路に基づいて推定される。船舶の進路は、典型的には、船舶の速度及び船舶の船首方位など、船の搭載システムによって提供される情報から得られる。気象情報は、海洋状態センサ123によって提供されてもよく、及び/若しくは、気象台のネットワークとの地上又は衛星無線通信によって提供されてもよい。
【0103】
方法600は、複数の入力データベクトルを生成することから構成される第2ステップ602を更に含み、複数の入力データベクトルのそれぞれは、タンクの現在の充填レベルと、推定される未来の海況とを含む。
【0104】
ステップ601において、オプションとして、船舶の喫水、船舶の船首方位、船舶の速度も、典型的には船舶の搭載システムによって提供される情報に基づいて求められてもよい。船舶の喫水は、典型的には、1つ以上のフロート型及び/若しくは静水圧型センサによって船舶の搭載システムに供給される。船舶の船首方位は、典型的には、1つ以上のナビゲーションコンパスによって船舶の搭載システムに提供される。船舶の速度は、典型的には、IMUによって、及び/若しくは、GPS型衛星航法受信機によって、船舶の搭載システムに提供される。
【0105】
方法600は、ステップ602で生成された入力データベクトルのそれぞれ及びデータベース150に基づいてタンクの未来のスロッシング応答を推定することから構成される第3ステップ603を更に含む。ステップ603は、ステップ403に類似しており、従って、再度詳細に説明しない。
【0106】
ステップ603の後、船舶が現在の進路を維持すれば発生するであろう船舶のスロッシング応答に対するタンクの将来のスロッシング応答の低減を可能にする船舶の進路が求められてもよい。「船舶の進路」という表現は、その船舶の船首方位、船舶の速度、又は地理的ゾーンを単に回避することを意味する。静止した浮体式の構造物(船舶、はしけ)については、つまり、固定位置にあるものについては、船首方位の変更は、浮体式の構造物を従来の方法によって導く又は移動するように、北方向と浮体式の構造物の前後方向の軸との間の角度の変化に反映され、浮体式の構造物のうねり及び波の不利益な結果を低減する。追加的に又は代替的に、タンクの充填レベルの変更が求められて、タンクの将来のスロッシング応答の低減を可能にすることができる。
【0107】
方法600の態様を
図8を参照して説明する。この態様では、データベース150は、タンクの充填レベル及び船舶の動きの現在の状態の関数として、タンクのスロッシング応答を推定することができる統計モデルから得られ、関数はオプションとして、更に船舶の喫水、船舶の速度、及び船舶の船首方位のうちの少なくとも1つの関数であってもよい。
【0108】
方法601は、タンクの現在の充填レベルを求めすることと、船舶の動きの未来の状態を求めすることから構成される。タンクの現在の充填レベルは、典型的には、タンクの充填レベルセンサ121によって提供される充填情報に基づいて求められる。船舶の動きの未来の状態は、気象情報と前記船舶の進路に基づいて推定される。船舶の進路は、典型的には、船舶の速度及び船舶の船首方位など、船の搭載システムによって提供される情報から得られる。気象情報は、海洋状態センサ123によって提供されてもよく、及び/若しくは、気象台のネットワークとの地上又は衛星無線通信によって提供されてもよい。一例においては、船舶の動きの未来の状態は、気象情報及び船舶の進路から推定される未来の海況を最初に推定し、次いで、このように推定される未来の海況から船舶の動きの未来の状態を推定することによって推定される。すでに上述したように、所与の海況に基づく船舶の対応する動きの評価は、船舶の耐航性能の評価における日常的な作業である。
【0109】
方法602は、複数の入力データベクトルを生成することから構成され、複数の入力データベクトルのそれぞれは、タンクの現在の充填レベルと、推定された船舶の動きの未来の状態とを含む。
【0110】
ステップ601において、オプションとして、上述したように、船舶の喫水、船舶の船首方位、船舶の速度も、求められてよい。
【0111】
方法603は、ステップ602で生成された入力データベクトルのそれぞれ及びデータベース150に基づいてタンクの未来のスロッシング応答を推定することから構成される。ステップ603は、ステップ403に類似しており、従って、再度詳細に説明しない。
【0112】
上述したように、ステップ603の後、船舶が現在の進路を維持すれば発生するであろう船舶のスロッシング応答に対するタンクの将来のスロッシング応答の低減を可能にする船舶の進路が求められてもよい。
【0113】
本発明は幾つかの特定の実施形態に関連して説明されたが、本発明は決してそれらに限定されず、説明された手段の全ての技術的均等物を含み、それらの組み合わせが本発明の範囲内にある場合にはそれらの組み合わせを含むことは明らかである。
【0114】
更に、1つの方法を参照して説明された特徴又が特徴の組み合わせは対応するシステムに適用され、逆に対応するシステムが特徴又は特徴の組み合わせに適用されることは、明らかである。
【0115】
「含む」(「comporter」又は「comprendre」)という動詞の使用、及びその活用形の使用は、クレームに記載されているもの以外の他の要素又は他のステップの存在を排除するものではない。
【0116】
特許請求の範囲において、括弧内の参照記号は、特許請求の範囲を限定するものとして解釈されてはならない。
【国際調査報告】