(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-19
(54)【発明の名称】非神経毒性の耐摩耗添加剤を含む油の使用
(51)【国際特許分類】
C10M 137/04 20060101AFI20230612BHJP
C10M 137/12 20060101ALI20230612BHJP
C10M 137/16 20060101ALI20230612BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20230612BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20230612BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20230612BHJP
C10N 40/13 20060101ALN20230612BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20230612BHJP
【FI】
C10M137/04
C10M137/12
C10M137/16
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N30:08
C10N40:13
C10N40:08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571173
(86)(22)【出願日】2021-05-18
(85)【翻訳文提出日】2022-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2021063200
(87)【国際公開番号】W WO2021233946
(87)【国際公開日】2021-11-25
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522452592
【氏名又は名称】ニコ
(74)【代理人】
【識別番号】100074734
【氏名又は名称】中里 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100086265
【氏名又は名称】川崎 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100076451
【氏名又は名称】三嶋 景治
(72)【発明者】
【氏名】ファイエ ジブリル
(72)【発明者】
【氏名】ゲイ マリオン
(72)【発明者】
【氏名】セヴラック フロランス
(72)【発明者】
【氏名】マンスー ジャン-ルイ
(72)【発明者】
【氏名】エルヴェ グレゴワール
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB34A
4H104BH03C
4H104BH11C
4H104BH14C
4H104LA03
4H104LA04
4H104LA20
4H104PA05
4H104PA08
(57)【要約】
本発明は、油での少なくとも1種の耐摩耗添加剤の使用であって、前記少なくとも1種の耐摩耗添加剤が、前記油の神経特性を下げる及び/若しくは防ぐための又は好ましくはヒューム事象の場合に、エアロトキシック症候群の予防のための少なくとも1種のポリリン化合物を含む、使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油での少なくとも1種の耐摩耗添加剤の使用であって、前記少なくとも1種の耐摩耗添加剤が、式(I)
【化1】
(式中、
R1、R2、R3及びR4のそれぞれは、アルキル、O-アルキル、アリール、又はO-アリール基から独立して選択され、
Aは、7~36個の炭素原子を含むアルキレン基若しくは6~36個の炭素原子を含む分岐アルキレン基、単環式の多環式の若しくは多環芳香族のアリーレン基、又はアラルキレン基から選択される二価基であり、
X
1、及びX
2のそれぞれは、独立して、単結合、酸素原子又は窒素原子であり、
nは、1~5の範囲の整数である)
の少なくとも1種のポリリン化合物を、前記油、好ましくはタービン油の神経毒性を下げる及び/又は防ぐために含む、使用。
【請求項2】
油での少なくとも1種の耐摩耗添加剤の使用であって、前記少なくとも1種の耐摩耗添加剤が、式(I)
【化2】
(式中、
R1、R2、R3及びR4のそれぞれは、アルキル、O-アルキル、アリール、又はO-アリール基から独立して選択され、
Aは、7~36個の炭素原子を含むアルキル基若しくは6~36個の炭素原子を含む分岐アルキル基、単環式の、多環式の若しくは多環芳香族のアリーレン基、又はアラルキレン基から選択される二価基であり、
X
1、及びX
2のそれぞれは、独立して、単結合、酸素原子又は窒素原子であり、
nは、1~5の範囲の整数である)
の少なくとも1種のポリリン化合物を、好ましくはヒューム事象の場合に、エアロトキシック症候群の予防のために含む、使用。
【請求項3】
前記油及び/又は前記少なくとも耐摩耗添加剤は、トリクレジルホスフェートを含まないか又は式(I)の前記ポリリン化合物以外のいかなる添加剤も含まない、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
Aが単環式アリーレン基である場合、X
1及びX
2は反対側に、特に、前記単環式アリーレン基が6個の炭素原子を含む場合1,4-位にあり;好ましくは、Aがフェニレンである場合、R1、R2、R3及びR4の基の少なくとも1つ、好ましくは全てが、特に2,6-位に、2個のメチル基で置換されたO-フェニル基でない、又は前記フェニレンがO-ジフェニルホスフェートで置換されていない限り、X1及びX2は、オルト又はメタ位にない、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
Aが多環式アリーレン基又は多環芳香族のアリーレン基である場合、X
1及びX
2は反対側に位置し、好ましくはAがナフタレンである場合、X1及びX2は反対側に位置し、典型的にはAがナフタレンである場合、X1及びX2はオルト又はメタ位にはない、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記油は、航空機若しくは航空転用タービン用の油、ヘリコプタートランスミッションオイル及び兵器流体からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
R1、R2、R3及びR4は、O-フェニル基又はO-ジメチルフェニル基、例えばO-2,6-ジメチルフェニルである、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
Aは、1,4-フェニル、4,4’-ビフェニル、4,4’-ジフェニルチオエーテル、4,4’-ジフェニルエーテル、1,3-(5 O-[(ジフェニル)ホスフェート)]フェニル、1,3-(2-エチル-2-ブチル)プロピル、1,3-(2-エチル-2-[メチル-O-ジフェニルホスフェート])プロピル、4,4’-[ジフェニル(ジメチル)-メチリデン]、2,2’-ベンゾフェノン、2,7-ナフタレン、1,2-エチル、4,4’-[ジフェニルフェニルエチリデン]、4,4’-ジフェニルスルホン、4,4’-ジフェニル-ヘキサフルオロプロパン、1,4-[(2-フェニル)フェニル]、1,4[(2,5-ジtertブチル)フェニル]、1,4-[(2-クロロ)フェニル]、4,4’-ベンゾフェノン、1-ヒドロキシ-3-チオフェニル、1,6-ヘキシル、1,4-ナフタレン、2,6-アントラセン、9,10-アントラセン、1,10-デシル、1,12-n-ドデシル、2,5-ジメチル-2,5-ヘキシル、1,12-ドデシル及び1,3-ナフタレン基からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
Aは、任意選択的に置換されたアルキレン基、置換された単環式のアリーレン基若しくは多環式アリーレン基(ここで、少なくとも2つの環は、それぞれ前記環の1つに属する2つの異なる原子間の少なくとも共有結合によって連結されており、前記2つの環の間の前記共有結合は、少なくとも1つのヘテロ原子若しくはヘテロ原子基によって割り込まれている)である、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記ポリリン化合物は、
- ヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)HDP、
- 4,4’-ジヒドロキシビフェニルビス(ジフェニルホスフェート)及びそれのオリゴマー、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルチオエーテルビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,3,5-フロログルシノールトリス((ジフェニルホスフェート))、
- 2-ブチル 2-エチル 1,3-プロパンジオールビス(ジフェニルホスフェート)、
- トリメチロールプロパントリス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルフェニルエチリデンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 2,2’-ジヒドロキシベンゾフェノンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルヘキサフルオロプロパンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,4-ジヒドロキシナフタレンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,3-ジヒドロキシナフタレンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 2,7-ジヒドロキシナフタレンビス(ジフェニルホスフェート)、
- エタノールアミンジフェニルホスフェートジフェニルホスホロアミダート、
- 4,4’-ジアミノジフェニルエーテルビス(ジフェニルホスホロアミダート)、
- 2,6-ジヒドロキシアントラセンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 9,10-ジヒドロキシアントラセンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,4-ジヒドロキシ[(2-フェニル)フェニル]ビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,4-ジヒドロキシ[(2,5-ジterブチル)フェニル]ビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,4-ジヒドロキシ[(2-クロロ)フェニル]ビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,3-ジヒドロキシチオフェンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,6-ヘキサンジオールビス(ビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,10-デカンジオールビス(ジフェニルホスフェート)、
- 2,5-ジメチル 2,5-ヘキサンジオールビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,12-n-ドデカンジオールビス(ジフェニルホスフェート)、
- テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)-m-フェニレンビスホスフェート、
- テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)-p-フェニレンビスホスフェート、
- フェニルヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)DPP、
- tert-ブチルヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,4-ジヒドロキシナフタレンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 2,7-ジヒドロキシナフタレンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンビス(ジフェニルホスフェート)、
- ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-(α-メチルベンジリデン)ビスフェノールビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン)ビス(ジフェニルホスフェート)、
- 9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタントリス(ジフェニルホスフェート)、並びに
それらの任意の混合物
からなる群から選択される、請求項1~8及び9(部分的に)のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記油は、エステル基剤と少なくとも1種のアミン酸化防止剤とをさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記少なくともポリリン化合物は、前記油の総重量を基準として、0.1~10重量%、好ましくは0.5~5重量%の量で前記油中に存在する、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
IC
50 hAChEと呼ばれる、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)酵素の生物活性への式(I)の前記少なくとも1種の化合物の50%阻害濃度は、15mg/L以上であり、IC
50 eqBuChEと呼ばれる、ブチリルコリンエステラーゼ酵素に関する活性への50%阻害濃度は、50mg/L以上、好ましくは55mg/L以上、特に60mg/L以上、典型的には70mg/L以上である、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
式(I)の前記化合物は、刊行物「Benchmarking of HPCC:A novel 3D molecular representation combining shape and pharmacophoric descriptors for efficient molecular similarity assessments」,Karaboga et al.2013 Journal of Molecular Graphics and Modelling 41;20-30に記載されているような球面調和関数法による分子モデリングに従って決定されるクラスター3に属する、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
式(I)の前記化合物は、定量的構造活性相関(QSAR)モデリングによる
- 神経毒性QSARと名付けられる、神経毒性の測定に関して0.70%以下、好ましくは0.50%以下、典型的には0.15%以下、及びl
- 生殖毒性QSARと名付けられる、生殖毒性の測定に関して1.5%以下、好ましくは1.15%以下、典型的には0.55%以下
の百分率値(%)を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機若しくは航空転用タービンを潤滑するための油又は油圧オイルなどの油に使用される耐摩耗添加剤の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機若しくは航空転用タービンエンジンは、エステル基剤と、トリアリールホスフェートなどの有機ホスフェートの系統からの様々な耐摩耗添加剤とを一般に含む合成潤滑油を使用する。最も商業的に使用される耐摩耗添加剤は、現在までにない独自の耐摩耗特性を有する、トリクレジルホスフェート(TCP)である。そのトリアリールホスフェート類似体も、興味ある耐摩耗添加剤である。
【0003】
航空機客室空気における、潤滑油、とりわけ、トリクレジルホスフェート又はそのトリアリールホスフェート類似体を含有するものの漏洩は、使い古しの若しくは欠陥のあるシールから、又は標準使用状態下でさえ客室を加圧するための空気への潤滑油の移動によって起こり得る。これらの繰り返し漏洩は、標準運転状態(エンジンの出力の増加、離陸、…)によって与えられる軸受部屋と空気回路との間の圧力振動のためであると説明されている(Michaelis S.et al.Public Health Panorama 2017,3,2、p 198-211)。状況次第で、漏洩は、通常タービンにおける軸受の破損の後で、非常に顕著になり得、後者は、客室で目に見えるヒューム事象(fume event)又は白霧をもたらす。
【0004】
エアロトキシック症候群は、油圧オイル若しくはエンジンオイル又はガス及び/若しくはエアロゾルとして見いだされる任意の他の汚染物質で汚染された航空機客室空気への暴露の短期及び長期効果によって引き起こされる身体症状と神経症状とを組み合わせた病的状態である。報告された症状は、典型的には、非特異性であり、客室空気品質モニタリング研究は、暴露限度よりも低い、及びヒトの健康に有害ではない汚染物質レベルを示しており、課題は、航空機中の様々な場所で時折沈着する及び濃縮する、その名のとおり非ガス状の、空中浮遊の、油からのヒュームを連続的に及び運転中に測定することである(Kasper Solbu et al.J.Environ.Monit.2011,13,1393)。
【0005】
エアロトキシック症候群のそれらに似た症状はまた、航空転用タービンの存在下に地上での、例えば海上プラットフォーム上での環境において観察することができる。航空転用タービンは、航空機タービンと同じように動作し、とりわけ耐摩耗剤の観点から、同様な組成の潤滑油を実装している。
【0006】
それにもかかわらず、多数の研究(Michaelis,S.et al.Public Health Panorama 2017,3,2,p.198-211)は、物質含有航空機客室空気への急性暴露及び/又は慢性暴露と、神経学的、神経行動学的及び呼吸器症状との間の相対的な因果関係を実証している。
【0007】
従来の有機ホスフェート耐摩耗添加剤、例えばトリクレジルホスフェート(TCP)、とりわけ、それのトリ-オルトクレジルホスフェート(ToCP)異性体は、強い神経毒性効果を有することが知られている(Craig P.et al.Journal of Toxicology and Environmental Health Part B:Critical Reviews 1999,2,4,p.281-300)。様々な分野で、特に殺虫剤及び農薬として広く使用される有機ホスフェートに関連した包括的毒性を越えて、この神経毒性効果の特定の及び広く認められている理由の1つは、少なくとも1つのオルト置換を含むトリクレジルホスフェート異性体の、コリンエステラーゼの強力阻害剤であるサリゲニンと呼ばれる代謝産物への速い生体内変換である。ToCP中毒は、そのメカニズムが広範囲に研究されている有機ホスフェート誘導遅発性神経障害(OPIDN)と呼ばれる病状をもたらす。さらに、TCPはまた、生殖毒であることが知られている。
【0008】
耐摩耗添加剤として、オルト異性体を含まないTCPを含む油が開発されている。それでもなお、TCP中のToCPの不在にもかかわらず、TCPに暴露されたラット血清中のコリンエステラーゼの阻害レベルはゼロではなく、且つ、低いけれども、それは持続する(Mackerer C R et al.J.Toxicol.Env Health Part A 1999 57(5):293-328)。同様に、これまでの研究は、そのメタ及びパラ形のTCPへの暴露から生じる脊髄脱髄の問題を示している(W.N.Aldridge,Biochemical Journal 1954 56,185-189)。
【0009】
非常に最近の研究は、トリクレジルホスフェート及びそのトリアリールホスフェート類似体がまた、とりわけ細胞レベルで、他の生物学的標的に作用することを示している(AV Terry,Pharmacology and Therapeutics 2012,134,p.355-365;Al Salem et al.Chemosphere 2019,237,124519)。
【0010】
これらの研究の全て及びこの長い歴史は、トリクレジルホスフェート及びそのトリアリールホスフェート類似体添加剤を特に懸念のあるものにした多数の証拠及び要素を構成する。油圧オイル並びに航空機及び航空転用タービンに使用される油の安全性レベルを上げるために、トリクレジルホスフェート及びそのトリアリールホスフェート類似体の代わりの耐摩耗添加剤を開発することが有用であるように思われる。
【0011】
トリクレジルホスフェート及びそのトリアリールホスフェート類似体の代わりの耐摩耗添加剤の特定は、トリクレジルホスフェート及びそのトリアリールホスフェート類似体を未然に回避する必要性に関して全員の合意がない場合でさえも、認定された問題である。
【0012】
本出願人の知る限りでは、どの研究も、満足できる耐摩耗効果及び証明された非神経毒性の両方を有する代わりの耐摩耗添加剤を特定していない。例として、新世代の難燃剤として開発された及び市場に出された新しい有機ホスフェートの潜在的な神経毒性の特性化に関する最近の研究は、大部分は、TCPのような通常の物質のそれと同等であると言われている危険のレベルのものである(Zhang et al.Neurotoxicology and Teratology 2019,73,p.54-66、Ryan et al.Neurotoxicology 2016,53,271-281、Sirenko et al.Toxicolog.Sci.2019,167,p.58-76)。有機リン化合物神経毒性の問題は、今日まで未解決のままである。
【0013】
さらに、TCPはまた、生殖毒であることが知られており、トリクレジルホスフェート及びそのトリアリールホスフェート類似体の代わりの耐摩耗添加剤であって、それに関して神経毒性及び生殖毒性の欠如が確証される、耐摩耗添加剤の開発は有利であろうし、航空用途及び他の航空転用用途における安全性レベルを上げることを可能にするであろう。
【0014】
様々な解決策が、先行技術において開発されてきた。
【0015】
米国特許出願公開第2016/0002565号明細書は、少なくとも1種の基油と、少なくとも1種のアルキルポリグリコシドと、3,5-ジ-tert-ブチル-ヒドロキシトルエンなどのフェノール誘導体とを含む、トリクレジルホスフェートを含まないタービン油を開示している。フェノール誘導体でのトリクレジルホスフェートの置換は、この油が航空機タービンに使用される場合に、エアロトキシック症候群を防ぐのに役立つ。それにもかかわらず、航空機タービンでのそのような油の実装は、トリクレジルホスフェートを含有する油のそれと同じ有効性を提供することができないように思われ、一方で記載された調合物が、TCPのそれに取って代わる耐摩耗効果を有するいかなる試剤も含まないので、及び他方でこの調合物が熱感受性であるアルキルポリグリコシドを含むので、取って代わることが考えられる。
【0016】
これまでのところ、リン化合物のみが、航空機若しくは航空転用タービン用の油の耐摩耗剤として有効な効果を示した。いかなる理論にも制約されることを意図することなく、これは、意図される用途に関わる高温でさえも、リンが、一般的にトライボフィルムと言われる、保護層の形成を可能にするという事実に関係している可能性がある。
【0017】
国際公開第2010/149690号パンフレットは、フェニル部分が1~3個のイソプロピル若しくはtert-ブチル部分で置換されている特定のトリアリールホスフェートの、とりわけTCPに比べて、ブチリルコリンエステラーゼへの効果の低下を開示している。これらの阻害結果は、TCPに関して観察されるものと比較してこれらの化合物に関連した神経毒性の可能な低下を暗示している。それにもかかわらず、ただ一つのコリンエステラーゼへの限定された効果のシンプルな実証は、航空期待に対する十分な安全性レベルを確保するのに十分ではないように思われる。
【0018】
以下の文書も、先行技術から公知である。
【0019】
Ike van der Veenらの刊行物Phosphorus flame retardants:properties,production,environmental occurrence toxicity and analysis,Chemosphere 88(2012)119-1153は、ある種のリン難燃剤(PFR)の毒性を記載している。これらの難燃剤には、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)(RDP)又はビスフェノールジフェニルホスフェート(BADP)などの、リン化合物が含まれる。しかしながら、この刊行物は、提示される難燃剤の神経毒性を具体的に取り扱っていない(神経毒性は決して述べられてもいないし又は提案されてもいない)ので、決定的なものではない。加えて、上述の2つの化合物に関して、ヒトでのそれらの毒性に関連する又はそれらの生態毒性に関する利用可能なデータがほとんどないことが明瞭に示されている。例として、これらの2つの化合物の急性毒性に関連するデータは全くない。生殖毒性データのみが報告されている、最後に、この刊行物は、毒性に関する包括的データの減少を述べているにすぎない。
【0020】
しかしながら、「毒性」は、特に:
- 生まれる前の哺乳類の受胎能力又は変質作用の損傷に相当する、生殖毒性、
- 遺伝子変異を引き起こす物質の性向である、変異原性、
- 急性毒性は、有毒製品又は混合物(天然の又は化学的な)の短期間内に取得されるただ一つの(場合により大量の)用量又は幾つかの用量の投与により、短期間(例えば24時間)内に、誘発される「毒性」である、
- 産業活動又は自然環境での異物又は製品の配置によって引き起こされるアンバランス又は迷惑の全てである、生態毒性;
- 人間などの、哺乳類の神経系において悪影響を及ぼす物質又は化合物の能力である、神経毒性
を含む、かなり幅広いコンセプトである。
【0021】
しかしながら、ある化合物は、例えば、生殖毒ではなく、急性毒性の兆候を示さず、又はヒトの健康へのCMR(発がん性、変異原性、又は生殖に対する毒性)特性さえも示さない可能性があり、しかしながら、高度に神経毒性である可能性がある(或いは逆もまた同様である)。
【0022】
例として、しかしながら、本出願人は、非神経毒性の、非変異原性の及び重大な皮膚刺激を引き起こさないものとしてIke van der Veenらによる刊行物に述べられている、テトラキス(2-クロロエチル)ジクロロイソペンチルジホスフェート化合物(V6)が、結局のところ非常に神経毒であることを実証した。具体的には、後者の化合物V6は、特に、(以下に記載されるであろう)QSARモデリング試験において91%の神経毒性を有し、(同様に以下に記載されるであろう)球面調和関数による3Dモデリング試験においてクラスター4に属する。これは、「毒性」の見解が厳密ではないという、並びに化合物がCMR特性又は急性毒性を持たないとして及び高度に神経毒であるとして、そして逆もまた同様であるとして非常にうまく考えられ得るという事実を強固にする。
【0023】
文書国際公開第2015/026566号パンフレットは、(i)大量(総質量に対して50質量%以上)の天然若しくは合成基油と、(ii)耐摩耗添加剤としての少量の式(I)の及び、例えば、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)に相当し得るアリールビスホスフェートエステルとを含む潤滑油を記載している。
【0024】
文書欧州特許第0 612 837号明細書は、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)などの、ヒドロカルビルビス(ジヒドロカルビルホスフェート)化合物を含む耐摩耗添加剤を含むポリフェニレンエーテルをベースとする潤滑油を記載している。
【0025】
文書米国特許第5,560,849号明細書は、ポリオールエステルであり得る基油又はトリクレジルホスフェートなどのホスフェートエステルと、耐摩耗特性を有するアリールジホスフェートエステルとを含む潤滑組成物を記載している(列2、行11~35)。
【0026】
文書米国特許出願公開第2001/306530号明細書は、ポリオールエステルであり得る基油とリン化合物とを含む組成物を記載している。実例を挙げられたリンベースの化合物は、二リン化合物(「テトラフェニル(m-フェニレン)ビスホスフェート」)とトリクレジルホスフェートとを含む。
【0027】
先行技術において、トリクレジルホスフェート及びそのトリアリールホスフェート類似体を未然に回避する必要性に関して全員の合意がない場合でさえも、トリクレジルホスフェート及びそのトリアリールホスフェート類似体の代わりの耐摩耗添加剤を開発することが必要とされている。
【0028】
先行技術において、満足できる耐摩耗効果と、航空及び他の航空転用用途における安全性レベルの向上を可能にすることとの両方を有する代わりの耐摩耗添加剤を開発することが特に必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
そういう状況で、本出願人は、満足できる、又は改善された耐摩耗特性及び熱安定性特性を有する、ポリリン化合物、とりわけアリールポリリン化合物が、TCPなどのモノホスフェート耐摩耗誘導体の神経毒性と比較して著しく低下した、又はゼロの神経毒性を有し、それ故、油の、特にタービン油の神経毒性を下げる及び/又は防ぐために、特に航空機若しくは航空転用タービンを潤滑するための、油に有利に使用できることを示した。アリールジホスフェートである、いくつかのポリリン酸化合物の耐摩耗特性は、例えば、先行技術において、とりわけ国際公開第96/20263号パンフレット、米国特許出願公開第2012/0329693号明細書、国際公開第2012/015873号パンフレット、欧州特許第0612837号明細書及び国際公開第2015/026566号パンフレットにおいて又は刊行物Zhao et al.Ind.Eng.Chem.Res.2013,52,22,7419-7424において示されている。
【0030】
それ故、それらは、とりわけヒューム事象の場合に、エアロトキシック症候群の予防のために有利に使用することができる。耐摩耗添加剤としてのアリールジホスフェートなどのポリリン化合物の使用は、先行技術において既に考慮されているが、本出願人の知る限りでは、どの研究も、それらの非神経毒性、それ故エアロトキシック症候群を防ぐことへのそれらの興味を実証することができていない。さらに、本出願人はまた、油圧オイル又はタービン油などの油での耐摩耗剤としてTCPの代替品としてのそれらの興味を強固にする、ポリリン化合物の生殖毒性の欠如を示した。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明はまた、油での少なくとも1種の耐摩耗添加剤の使用であって、前記少なくとも1種の耐摩耗添加剤が、式(I)
【化1】
(式中、
R1、R2、R3及びR4のそれぞれは、アルキル、O-アルキル、アリール、又はO-アリール基から独立して選択され、
Aは、7~36個の炭素原子を含む線状アルキレン基若しくは6~36個の炭素原子を含む分岐アルキレン基、単環式の、多環式の若しくは多環芳香族のアリーレン基、又はアラルキレン基から選択される二価基であり、
X
1、及びX
2のそれぞれは、独立して、単結合、酸素原子又は窒素原子であり、
nは、1~5の範囲の整数である)
の少なくとも1種のポリリン化合物を、前記油の神経毒性を下げる及び/又は防ぐために
含む、使用に関する。
【0032】
好ましくは、前記油及び/又は前記少なくとも耐摩耗添加剤は、トリクレジルホスフェート又はそのトリアリールホスフェート類似体を含まない。
【0033】
式(I)のポリリン化合物は、したがって、非神経毒性油又は低下した神経毒性を有する油を得るために使用することができる。
【0034】
式(I)の化合物は、トリクレジルホスフェートの、そのトリアリールホスフェート類似体のそれらと比較することができる興味深い耐摩耗特性を有する。それらはまた、神経毒性の観点から非常に低い、又はゼロのリスクレベルを示し、したがってそれらが組み込まれる油の神経毒性を下げる及び/又は防ぐ。
【0035】
具体的には、以下に記載される実験試験によって示されるように、本出願人は、予想外にも、上の式(I)の特定の化合物が、コリンエステラーゼへの作用の観点から無毒の、非神経毒性の、又は更に非生殖毒性であることを発見した。
【0036】
本発明はまた、油での少なくとも1種の耐摩耗添加剤の使用であって、前記少なくとも1種の耐摩耗添加剤が、式(I)
【化2】
(式中、
R1、R2、R3及びR4のそれぞれは、アルキル、O-アルキル、アリール、又はO-アリール基から独立して選択され、
Aは、7~36個の炭素原子を含むアルキル基若しくは6~36個の炭素原子を含む分岐アルキル基、単環式の、多環式の若しくは多環芳香族のアリーレン基、又はアラルキレン基から選択される二価基であり、
X
1、及びX
2のそれぞれは、独立して、単結合、酸素原子又は窒素原子であり、
nは、1~5の範囲の整数である)
の少なくとも1種のポリリン化合物を、好ましくはヒューム事象の場合に、エアロトキシック症候群の予防のために含む、使用に関する。
【0037】
同様に好ましくは、この使用のために、前記油及び/又は前記少なくとも耐摩耗添加剤は、トリクレジルホスフェート又はそのトリアリールホスフェート類似体の1つを含まない。当然ながら、本発明の様々な特徴、変形、及び実施形態は、それらが両立しないわけではない又は互いに排他的でないことを提供する様々の組み合わせで互いに関連し得る。
【0038】
本発明では、特に明記しない限り、「含む(comprise)」という用語及びその派生語は、他の成分又はステップの存在を限定しない及び排除しないとして理解されるべきである。いくつかの特定の実施形態では、「含む」という用語は、「から本質的になる(essentially consist of)」又は「からなる(consist of)」として理解することができる。
【0039】
特に明記しない限り、本発明で述べられる間隔は包括的であると理解される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】球面調和関数モデリング作業から生じる分子を示す。上の行の化合物はクラスター1に属し、下の行の化合物はクラスター3に属する。
【
図2-9】先行技術によるリンベースの化合物(比較化合物)の及び本発明による式(I)の化合物(化合物1~10)の神経毒性を研究するために実施された試験の結果をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の第1の目的は、油での少なくとも1種の耐摩耗添加剤の使用であって、前記少なくとも1種の耐摩耗添加剤が、式(I)
【化3】
(式中、
R1、R2、R3及びR4のそれぞれは、アルキル、O-アルキル、アリール、又はO-アリール基から独立して選択され、
Aは、7~36個の炭素原子を含むアルキレン基若しくは6~36個の炭素原子を含む分岐アルキレン基、単環式の多環式の若しくは多環芳香族のアリーレン基、又はアラルキレン基から選択される二価基であり、
X
1、及びX
2のそれぞれは、独立して、単結合、酸素原子又は窒素原子であり、
nは、1~5の範囲の整数である)
の少なくとも1種のポリリン化合物を、前記油、好ましくはタービン油の神経毒性を下げる及び/又は防ぐために含む、使用である。
【0042】
油の神経毒性を「下げるために」という表現は、本発明による式(I)の化合物が、特に、一般に神経毒である他の従来の耐摩耗化合物に対して、それらが組み込まれる油の神経毒性を、すなわち、それらの存在(一般に多数を占めての)によって、下げることができる及び/又は下げるように構成されることを意味し、式(I)の化合物は、油の神経毒性を低くする/減少させること及び非神経毒性の油又は少なくとも低下した毒性の油を得ることを可能にする。
【0043】
油の神経毒性を「防ぐために」という表現は、油が神経毒であると見なされることを防ぐこと及び/又は前記油と接触するであろう人間又は動物などの、哺乳類において神経毒性症状の出現を防ぐことを式(I)の化合物が可能にすることを意味し;これらの神経毒性症状は、例えば、中枢神経系(CNS)に達し、以下の効果:頭痛、食欲の喪失、眠気、気分及びパーソナリティ障害、認識機能障害(学習及び集中障害)を有するか、或いは末梢神経系(PNS)に達し、以下の効果:運動障害、例えば衰弱、震え、協調運動失調、けいれん等、又は感覚損傷、例えば聴力の低下、色覚、耳鳴り、感情安定の喪失等を有することができ;これらの効果は、哺乳類の急性又は慢性暴露の程度に応じて可逆的であり得るか又はあり得ない。
【0044】
「神経毒性」という用語は、人間などの、哺乳類の神経系に悪影響を及ぼす物質又は化合物の能力を意味する。神経系は、中枢神経系(CNS)と末梢神経系(PNS)とに分けられる。CNSは、頭蓋腔及び脊椎にある。それは、脳、脳幹、及び脊髄を含む。その役割は、周辺から来る信号を受け取る、記録する、及び解読することにある。それは、次いで、送られるべき応答を編成する。PNSは、神経節と、苦痛などの、感覚を脳に伝えることに関与する感覚神経と、筋肉を刺激することによる運動に関与する運動神経とからなる。それらは、CNSと器官との間で情報を循環させる。したがって、本発明によれば、神経毒性物質又は化合物は、通常、神経インパルスを分配する又は無力にすることによって、特に、シナプスエミッター若しくは受容体に、又はシナプスエミッター若しくは受容体に作用する酵素、例えばコリンエステラーゼに作用することによって役割を果たす。生化学において、コリンエステラーゼは、コリンと酢酸又は酪酸とへのコリンエステル(アセチルコリン、ブチリルコリン)の加水分解反応を触媒する酵素である。生理学において、この反応は、コリン作動性受容体が、活性化後にそれらの静止状態に戻ることを可能にするために必要である。
【0045】
本出願で、本出願人は、予想外にも及び意外にも、上記の式(I)のある種の特定のポリリン化合物が、弱い神経毒であるか又は全く非神経毒であると同時に、特に航空の要求の厳しい分野に適合した優れた耐摩耗特性を両方とも有することを実証した。この後者の品質は、したがって、それらが組み込まれる油の神経毒性を下げる及び/又は防ぐ及び/又は回避することを可能にする。
【0046】
これらの試験はまた、本出願人によって選択された式(I)の化合物が、無作為ではなく、他の耐摩耗化合物と比較して、特に他の(ポリ)リン耐摩耗化合物と比較して異なる技術的効果を有する(すなわち、それらは、油の神経毒性を下げる/防ぐ/回避することを可能にする)ことを示す。
【0047】
本発明のために、本出願人は、コリンエステラーゼに関する生体外実験によって並びにモデリング試験(球面調和関数による3D分子モデリング及び神経毒性に関する及び生殖毒性に関するQSARモデリング)によっての両方で式(I)の特定の化合物の非神経毒性を実証した。
【0048】
好ましくは、IC50 hAChEと呼ばれる、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)酵素の生物活性への式(I)の前記少なくとも1種の化合物の50%阻害濃度は、15mg/L以上、好ましくは16mg/L以上であり、IC50 eqBuChEと呼ばれる、ブチリルコリンエステラーゼ酵素に関する活性は、好ましくは15mg/L以上、特に50mg/L以上、好ましくは55mg/L以上、特に60mg/L以上、典型的には70mg/L以上である。
【0049】
本発明によれば、IC50 hAChEに関して15mg/L以上の値には、以下の値及びこれらの値:15;16;17;18;19;20;21;22;23;24;25;26;27;28;29;30;31;32;33;34;35;36;37;38;39;40等の間の区間全てが含まれる。
【0050】
また、本発明によれば、IC50 eqBuChEに関して15mg/L以上の値には、以下の値及びこれらの値:15;16;17;18;19;20;21;22;23;24;25;26;27;28;29;30;31;32;33;34;35;36;37;38;39;40;45;50;55;60;65;70;75;80;85;90;95;100;105;110;115;120;125;130;135;140;145;150;155;160等の間の区間全てが含まれる。
【0051】
有利には、式(I)の化合物は、刊行物「Benchmarking of HPCC:A novel 3D molecular representation combining shape and pharmacophoric descriptors for efficient molecular similarity assessments」,Karaboga et al.2013 Journal of Molecular Graphics and Modelling 41;20-30に記載されているような球面調和関数による分子モデリングに従って決定されるクラスター3に属する。
【0052】
本発明の別の特徴によれば、式(I)の化合物は、神経毒性の測定(神経毒性QSAR)に関して0.70%以下、好ましくは0.50%以下、典型的には0.15%以下、及び生殖毒性の測定(生殖毒性QSAR)に関して1.5%以下、好ましくは1.15%以下、典型的には0.55%以下の定量的構造活性相関(QSAR)モデリングによる百分率値(%)を有する。
【0053】
本発明によれば、神経毒性QSARモデリングに関して0.70%以下の値には、以下の値及びこれらの値:0.70;0.69;0.68;0.67;0.66;0.65;0.64;0.63;0.62;0.61;0.60;0.59;0.58;0.57;0.56;0.55;0.54;0.53;0.52;0.51;0.50;0.49;0.48;0.47;0.46;0.45;0.44;0.42;0.40;0.38;0.36;0.34;0.32;0.30;0.28;0.26;0.24;0.22;0.20;0.18;0.16;0.14;0.12;0.10;0.09;0.08;0.07;0.06;0.005;0.04;0.03;0.01;0.00間の区間全てが含まれる。
【0054】
また、本発明によれば、生殖毒性QSARモデリングに関して1.50%以下の値には、以下の値及びこれらの値:1.50;1.48;1.46;1.44;1.42;1.40;1.38;1.36;1.34;1.32;1.30;1.28;1.26;1.24;1.22;1.20;1.18;1.16;1.14;1.12;1.10;1.08;1.06;1.04;1.02;1.00;0.80;0.60;0.50;0.40;0.30;0.20;0.10;0.00間の区間全てが含まれる。
【0055】
したがって、本発明による式(I)の化合物は、非常に低い、及び0の評点に又は1(非常に低い若しくは神経毒性の存在しないリスク)の評点に、好ましくは0の評点に一般に相当する神経毒性の観点からのリスクレベルを有する。
【0056】
上に定義された及びまた下の実験の部に例示されるようなリスクレベルは、非常に網羅的であり、上記の神経毒性に関する様々な試験によって得られたデータ全てを包含し、それ故、生体外試験及び3Dモデリング試験の両方を包含する。
【0057】
特に、リスクレベルは、以下の試験:
- 生体外アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害試験、
- 生体外ブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)阻害試験、
- 球面調和関数(3Dモデリング)の形状及び機能を考慮に入れるクラスターのタイプ、
- 神経毒性の半経験的予測、及び
- 生殖毒性の半経験的予測
の全てを考慮に入れる。
【0058】
「油」とは、本発明では、客室中にガス及び/又はエアロゾルの形態での汚染を生み出しがちな、任意の有機物質、とりわけ任意の油圧オイル又はタービン油を意味する。いくつかの実施形態では、油は、航空機若しくは航空転用タービン、ヘリコプタートランスミッションオイル及び兵器流体用の油からなる群から選択される。好ましくは、本発明では、油は、航空機若しくは航空転用タービン用の油である。
【0059】
油は、好ましくは、航空機若しくは航空転用タービンを潤滑するため使用される。
【0060】
上に述べられたように、本発明による式(I)のポリリン化合物の基R1、R2、R3及びR4は、アルキル、O-アルキル、アリール、又はO-アリール基から独立して選択される。
【0061】
本発明による「アルキル基」とは、(特に記述しない限り)1~36個の炭素原子(C1~C36)、より好ましくは1~18個の炭素原子(C1~C18)、特に1~10個の炭素原子(C1~C10)、典型的には1~4個の炭素原子(C1~C4)を含む線状若しくは分岐の飽和炭化水素基を意味する。本発明によるアルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル及びtert-ブチル基が挙げられる。
【0062】
本発明によれば、アルキル基は、任意選択的に、置換アルキル基であり得る。
【0063】
本発明によれば、「置換アルキル基」という表現は、上に定義されたような、及び、その原子の1つ以上で、OHヒドロキシル基、NH2アミン基又はRがアルキル若しくはアリール基であるNHR第一級アミン基から選択される1つ以上の基、好ましくはOHヒドロキシル基で置換された線状若しくは分岐の飽和炭化水素鎖を示す。したがって、アルキル基は、塩素などの、ハロゲンで置換され得ない。
【0064】
「O-アルキル基」とは、酸素原子を介して分子の残部(ここでは、一般にリン原子)に結合した、上に定義されたような、アルキル基を意味する。
【0065】
「アリール基」とは、5~14個の炭素原子を含む、及び例えば芳香族炭化水素環(例えばフェニル)又は2つの芳香族炭化水素縮合環(例えばナフチル)に相当する芳香族炭化水素から派生する一価芳香族部分を意味する。
【0066】
本発明によれば、アリール基は、置換されていても非置換であってもよい。
【0067】
本発明によれば、「置換アリール基」とは、その原子の1つ以上で、C1~C18アルキル基、OHヒドロキシル基、NH2アミン基又はRがC1~C18アルキル基若しくはアリール基であるNHR第一級アミン基からなる少なくとも1つの置換基で、好ましくは、メチル基などの、C1~C18アルキル基、又はOHヒドロキシル基で置換された1つの環又は2つの置換芳香族炭化水素縮合環を意味する。
【0068】
「O-アリール基」とは、酸素原子を介して分子の残部に結合した、上に定義されたような、アリール基を意味する。
【0069】
いくつかの実施形態では、R1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、アルキル又はO-アルキルである。この構成では、好ましくはそれぞれのアルキル基は、1~22個の炭素原子(C1~C22)、好ましくは1~18個の炭素原子(C1~C18)、特に1~10個の炭素原子(C1~C10)、典型的には1~4個の炭素原子(C1~C4)を含むアルキル基である。
【0070】
いくつかの好ましい実施形態では、R1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、アリール又はO-アリール基である。好ましくは、R1、R2、R3及びR4の少なくとも2つは、アリール又はO-アリール基である。特に、R1、R2、R3及びR4は、4つのアリール若しくはO-フェニルなどの、O-アリール基であるか、又はO-ジメチルフェニルなどの、置換O-アリール基である。
【0071】
いくつかの実施形態では、R1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、フェニル基である。好ましくは、R1、R2、R3及びR4は、フェニル基である。R1、R2、R3及びR4は、通常、非置換フェニル基又は、少なくとも1つのメチル基、好ましくは2つのメチル基で置換されたフェニル基(例えば2,6-ジメチルフェニル)である。
【0072】
いくつかの実施形態では、R1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、O-フェニル基である。好ましくは、R1、R2、R3及びR4は、O-フェニル基である。R1、R2、R3及びR4は、通常、非置換O-フェニル基又は、少なくとも1つのメチル基、好ましくは2つのメチル基で置換されたO-フェニル基(例えば2,6-ジメチルフェニル)である。
【0073】
一般に、本発明による式(I)の「A」は、アルキレン基、アリーレン基又はアラルキレン基から選択され得る。
【0074】
「アルキレン基」とは、(特に記述しない限り)7~36個の炭素原子(C7~C36)、好ましくは7~22個の炭素原子(C7~C22)、好ましくは7~18個の炭素原子(C7~C18)を含む線状の飽和炭化水素二価基、又は(特に記述しない限り)好ましくは6~36個の炭素原子(C6~C36)、好ましくは6~22個の炭素原子(C6~C22)、好ましくは6~18個の炭素原子(C6~C18)、特に6~12個の炭素原子(C6~C12)を含む分岐の飽和炭化水素二価基を意味する。
【0075】
アルキレン基は、非置換であっても任意選択的に置換されていてもよい。
【0076】
「置換アルキレン基」とは、その原子の1つ以上で、線状若しくは分岐のC1~C18アルキル基;OHヒドロキシル基;NH2アミン基又はRが(上に定義されたような)アルキル基若しくは(上に定義されたような)アリール基であるNHR第一級アミン基;O-ジフェニルホスフェート基O-P(=O)(OPh)2などの、O-ホスフェート基、及びフッ素などの、ハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1つの置換基によって置換された上に定義されたようなアルキレン基を意味する。通常、「置換アルキレン基」は、線状若しくは分岐のC1~C18アルキル基;OHヒドロキシル基;O-ジフェニルホスフェート基O-P(=O)(OPh)2などの、O-ホスフェート基からなる群から選択される少なくとも1つの置換基で置換されている。したがって、O-ホスフェート基で置換されたアルキレン基は、1,3-(2-エチル-2-[メチル-O-ジフェニルホスフェート])プロピル基に相当し得る。
【0077】
「アリーレン基」とは、芳香族炭化水素に由来する、及び芳香環上に配置されたX1及びX2に結合している少なくとも2つのアンカリングポイント(二価)を含む単環式若しくは多環式芳香族炭素基を意味する(2つのアンカリングポイントは、多環式基の同じ環上にあってもよい)。それぞれの芳香環又は多環芳香環は、5~14個の原子を含み得る。アリーレン基は、例えば、芳香族炭化水素環(例えばフェニレン)に、2つの縮合芳香族炭化水素環(例えばナフタレン)に、又はそれぞれ環の1つに属する2つの異なる原子間で共有結合によって連結された2つの芳香族炭化水素環に相当し得る。本発明の特徴によれば、芳香環は、特に、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群から、好ましくは酸素原子又は硫黄原子からなる群から選択することができる1つ以上のヘテロ原子によって任意選択的に割り込まれていてもよい。好ましくは、アリーレン基は、単環式若しくは多環式芳香族炭素基の内部に窒素原子を含まない。したがって、一般に、アリーレン基は、例えば、ピリジンに又はピリミジンに相当することができない。
【0078】
それぞれの環は、非置換であることができるか、又は置換されて「置換アリーレン基」を形成することができる。
【0079】
「置換アリーレン基」とは、その原子の1つ以上で、C1~C18アルキル基;OHヒドロキシル基;NH2第一級アミン基又はRがアルキル基若しくはアリール基であるNHR第一級アミン基;例えば、多環式基の環の1つの上で置換されていてもよいO-ジフェニルホスフェート基O-P(=O)(OPh)2などの、O-ホスフェート基、及びフッ素などの及び塩素を除いて、ハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1つの置換基によって置換された上に記載されたようなアリーレン基を意味する。本発明の1つの特徴によれば、アリーレン基は、好ましくは、少なくとも1つのC1~C18アルキル基、ヒドロキシル基、又は少なくとも1つのO-ジフェニルホスフェート基O-P(=O)(OPh)2で置換されており、さらにより好ましくは、アリーレン基は、少なくとも1つのC1~C18アルキル基、又は少なくとも1つのO-ジフェニルホスフェート基O-P(=O)(OPh)2で置換されている。したがって、置換アリーレン基は、1,3-(5-O-[(ジフェニル)ホスフェート)]フェニル基などの、O-ジフェニルホスフェート基に相当し得る。
【0080】
アリーレン基が、少なくとも2つの環が、それぞれ環の1つに属する2つの異なる原子間で少なくとも共有結合によって連結されている多環式基である場合、少なくとも2つの環の間の共有結合は、多環式基が3つの環を含む場合、C(CH3)2基又はC(CH3)基などの、少なくとも1つのアルキレン基、カルボニル基-CO-、酸素原子、硫黄原子などのヘテロ原子若しくはヘテロ原子基、NH若しくはNRアミン基、サルファイト基OS(=O)O、スルホン基-S(O2)-又はC(CF3)2などの、例えば、3個の炭素原子を含む線状若しくは分岐の過フッ素化基で割り込まれることができる。
【0081】
単環式アリーレン基の例としては、特にフェニレン基(C6H4)が挙げられる。
【0082】
Aが、フェニレン、又はチオフェン誘導体などの単環式アリーレン基である又はそれを含む場合、X1及びX2は、単環式アリーレン基が6個の炭素原子を含むとき(例えばフェニレン)、好ましくは反対側に、特に1,4-位にある。Aは、好ましくは、任意選択的に置換されている、1,4-フェニル基である。
【0083】
特に、Aがフェニレンである場合、X1及びX2は、R1、R2、R3及びR4の基の少なくとも1つ、好ましくは全てが、特に2、6-位に2つのメチル基によって置換されたO-フェニル基でない限り、オルト又はメタ位にない。この場合には、X1及びX2は、メタ位にあってもよい。
【0084】
また、Aが、O-ジフェニルホスフェート基O-P(=O)(OPh)2で置換されたフェニレン基である場合、好ましくはX1及びX2は、1,3-(5-O-[(ジフェニル)ホスフェート)]フェニル基を得るように1,3-位にある。
【0085】
Aが、多環式基、又はナフタレン基などの、例えば2つの縮合環を含む多環芳香族基でである又はそれを含む場合、X1及びX2は、好ましくは、X1とX2との間の距離を最大にするために、反対側に位置する。
【0086】
特に、Aがナフタレンである場合、X1及びX2は、オルト又はメタ位に(特に1,3-位に)ないが、1,4又は2,7位にあり得る。
【0087】
好ましくは、基Aは、塩素、カルボニル官能基(アルデヒド、カルボン酸、C(O)-O)、炭素単環式又は多環式基の内部に1つ以上の窒素原子(ピリジン又はピリミジン)などの、電子吸引性基又は原子を含まない。したがって、基Aは、ピリジン又はピリミジンであることができない。
【0088】
多環式アリーレン基の例としては、4,4’-ビフェニル、4,4’-ジフェニルチオエーテル、4,4’-ジフェニルエーテル、4,4’-ジフェニルフェニルエチリデン、4,4’-ジメチルジフェニルメチリデン、4,4’-ジフェニルスルホン、4,4’-ベンゾフェノン、2,2’-ベンゾフェノン、1,4-ナフタレン、1,3-ナフタレン、2,7-ナフタレン、2,6-アントラセン、9,10-アントラセン及びフェナントレンが挙げられる。
【0089】
「アラルキレン基」とは、アリール基に共有結合した及びアルキル基上及び/又はアリール基上に位置する2つの(二価)アンカリングポイントを含むアルキル基を意味する。
【0090】
同様に、「アラルキレン」基は、置換されていても置換されていなくてもよい。「置換アラルキレン」基とは、その原子の1つ以上で、C1~C18アルキル基、OHヒドロキシル基;NH2アミン基又はRがアルキル若しくはアリール基であるNHR第一級アミン基;O-ジフェニルホスフェート基O-P(=O)(OPh)2などの、O-ホスフェート基、及び(塩素を除いて)フッ素などの、ハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1つの置換基によって置換された上に定義されたようなアラルキレン基を意味する。好ましくは、アラルキレン基は、C1~C18アルキル基、OHヒドロキシル基及び、O-ジフェニルホスフェート基O-P(=O)(OPh)2などの、O-ホスフェート基からなる群から選択される置換基で置換されている。
【0091】
アラルキレン基の例としては、特に、4,4’-[ジフェニル(ジメチル)メチリデン]基及び4,4’-ジフェニルヘキサフルオロプロパン基が挙げられる。
【0092】
いくつかの実施形態では、Aは、1,4-フェニル、4,4’-ビフェニル、4,4’-ジフェニルチオエーテル、4,4’-ジフェニルエーテル、1,3-(5 O-[(ジフェニル)ホスフェート)]フェニル、1,3-(2-エチル-2-ブチル)プロピル、1,3-(2-エチル-2-[メチル-O-ジフェニルホスフェート])プロピル、4,4’-[ジフェニル(ジメチル)-メチリデン]、2,2’-ベンゾフェノン、2,7-ナフタレン、1,2-エチル、4,4’-[ジフェニルフェニルエチリデン]、4,4’-ジフェニルスルホン、4,4’-ジフェニル-ヘキサフルオロプロパン、1,4-[(2-フェニル)フェニル]、1,4[(2,5-ジtertブチル)フェニル]、1,4-[(2-クロロ)フェニル]、4,4’-ベンゾフェノン、1-ヒドロキシ-3-チオフェニル、1,6-ヘキシル、1,4-ナフタレン、2,6-アントラセン、9,10-アントラセン、1,10-デシル、1,12-n-ドデシル、2,5-ジメチル-2,5-ヘキシル、1,12-ドデシルドデシル及び1,3-ナフタレン基からなる群から選択される。
【0093】
いくつかの好ましい実施形態では、Aは、1,4-フェニル、4,4’-ビフェニル、4,4’-ジフェニルチオエーテル、4,4’-ジフェニルエーテル、1,3-(5 O-[(ジフェニル)ホスフェート)]フェニル、1,3-(2-エチル-2-ブチル)プロピル、1,3-(2-エチル-2-[メチル-O-ジフェニルホスフェート])プロピル、4,4’-[ジフェニル(ジメチル)メチリデン]、2,2’-ベンゾフェノン、2,7-ナフタレン及び1,2-エチル基からなる群から選択される。
【0094】
いくつかのより好ましい実施形態では、Aは、1,4-フェニル、4,4’-ビフェニル、4,4’-ジフェニルチオエーテル、4,4’-ジフェニルエーテル、1,3-(5 O-[(ジフェニル)ホスフェート)]フェニル、1,3-(2-エチル-2-ブチル)プロピル、1,3-(2-エチル-2-[メチル-O-ジフェニルホスフェート])プロピル基からなる群から選択される。
【0095】
特に、Aは、4,4’-ジフェニルチオエーテル、4,4’-ジフェニルエーテル、1,3-(5 O-[(ジフェニル)ホスフェート)]-フェニル、1,3-(2-エチル-2-ブチル)プロピル、1,3-(2-エチル-2-[メチル-O-ジフェニルホスフェート])プロピル基からなる群から選択される。
【0096】
ある実施形態では、Aは、任意選択的に置換されたアルキル基、置換された単環式アリーレン基又は多環式アリーレン基(ここで、少なくとも2つの環は、それぞれ環の1つに属する2つの異なる原子間の少なくとも共有結合によって連結されており、2つの環の間の共有結合は、少なくとも1つのヘテロ原子若しくはヘテロ原子基によって割り込まれている)である。
【0097】
「ハロゲン原子」とは、(特に明記しない限り)塩素、臭素、フッ素及びヨウ素からなる群から選択される原子を意味する。
【0098】
X1及びX2のそれぞれは、単結合、酸素原子及び窒素原子、好ましくは単結合又は酸素原子からなる群から独立して選択される。いくつかの好ましい実施形態では、X1及びX2は2つの酸素原子であり;他の実施形態では、X1及びX2は2つの窒素原子であり;最後に、最後の実施形態では、X1及びX2の1つは酸素原子であり、X1及びX2の他は窒素原子である。
【0099】
X1又はX2が窒素原子である場合、それは、NH又はNR基の形態にあり得、Rは、アルキル又はアリール基である。
【0100】
X1又はX2が単結合である場合、これは、Aがたった1つの単結合によってP(=O)R1R2又はP(=O)R3R4基のリン原子に直接結合していることを意味する。
【0101】
nは、1~5に含まれる整数であり、nは、特に、1、2、3、4又は5に等しいものであり得る。いくつかの実施形態では、「n」は1である。nの値がはっきりと明記されない場合、ポリリン化合物は、1~5の-X1-A-X2-P(O)R4-単位を含むオリゴマーの少なくとも1つ、又はこれらの少なくとも2つの任意の混合物を指す。例えば、それは、1~3の-X1-A-X2-P(O)R4-単位を含むオリゴマーの混合物であることができる。好ましくは、n=1である。
【0102】
いくつかの実施形態では、本発明に従って使用されるポリリン化合物は、アリールジホスフェートである、すなわち、それらは、X1及びX2が2つの酸素原子であり、R1、R2、R3及びR4のそれぞれが、例えば2つのメチル基で任意選択的に置換された、O-アリール基(上に定義されたような)であるようなものである。
【0103】
意外にも、式(I)のポリリン化合物の非毒性、特に非神経毒性及び非生殖毒性が、本出願人によって実証された。
【0104】
アリールジホスフェートを含む、いくつかのポリリン化合物の耐摩耗特性は、当技術分野で公知であり、以前に既に実証されいる。したがって、ポリリン化合物、特にアリールポリリン化合物は、TCPなどの従来の耐摩耗添加剤で得られるものと少なくとも同様に興味深い耐摩耗有効性を有する。
【0105】
好ましくは、前記油及び/又は前記少なくとも1種の耐摩耗添加剤は、トリクレジルホスフェート又はそのトリアリールホスフェート類似体の1つを含まない。
【0106】
「トリクレジルホスフェートを含まない油」という表現は、トリクレジルホスフェートの量が、その置換のタイプ(オルト、メタ、パラ)に関係なく、例えばガスクロマトグラフィー-質量分析法などの通常の分析技術の検出限界未満である油を指す。油中のトリクレジルホスフェートを検出するのに好適な技術は、例えば、De Nola G.et al.,J.Chromatogr.A 2008;1200(2),pp.211-216に記載されている。
【0107】
いくつかの実施形態では、本発明に従って使用される油又は本発明に従って使用される耐摩耗剤は、いかなるアリールモノホスフェート耐摩耗添加剤も実質的に含まない、好ましくは含まない。いくつかの実施形態では、本発明に従って使用される油又は本発明に従って使用される耐摩耗剤は、ポリリン酸化合物添加剤以外の有機ホスフェート耐摩耗添加剤を実質的に含まない、好ましくは含まない。
【0108】
いくつかの実施形態では、本発明により使用される油又は本発明により使用される耐摩耗剤は、ポリリン化合物添加物以外の耐摩耗添加剤を実質的に含まない、好ましくは含まない。
【0109】
一般に、一般式(I)の本発明による耐摩耗剤は、油中に存在する耐摩耗剤の総質量に対して、質量で、50%~100%、好ましくは80%~100%、特に90重量%~100%、典型的には100%を示す。
【0110】
本発明によれば、「50%~100%」は、以下の値又はこれらの値:50;55;60;65;70;75;80;85;90;95;100間の任意の区間を意味する。
【0111】
ある実施形態では、本発明に従って使用される油中のポリリン化合物は、
- ヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)HDP、
- 4,4’-ジヒドロキシビフェニルビス(ジフェニルホスフェート)及びそれのオリゴマー、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルチオエーテルビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,3,5-フロログルシノールトリス((ジフェニルホスフェート))、
- 2-ブチル2-エチル1,3-プロパンジオールビス(ジフェニルホスフェート)、
- トリメチロールプロパントリス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルフェニルエチリデンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 2,2’-ジヒドロキシベンゾフェノンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルヘキサフルオロプロパンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,4-ジヒドロキシナフタレンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,3-ジヒドロキシナフタレンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 2,7-ジヒドロキシナフタレンビス(ジフェニルホスフェート)、
- エタノールアミンジフェニルホスフェートジフェニルホスホロアミダート、
- 4,4’-ジアミノジフェニルエーテルビス(ジフェニルホスホロアミダート)、
- 2,6-ジヒドロキシアントラセンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 9,10-ジヒドロキシアントラセンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,4-ジヒドロキシ[(2-フェニル)フェニル]ビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,4-ジヒドロキシ[(2,5-ジterブチル)フェニル]ビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,4-ジヒドロキシ[(2-クロロ)フェニル]ビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,3-ジヒドロキシチオフェンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,6-ヘキサンジオールビス(ビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,10-デカンジオールビス(ジフェニルホスフェート)、
- 2,5-ジメチル 2,5-ヘキサンジオールビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,12-n-ドデカンジオールビス(ジフェニルホスフェート)、
- テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)-m-フェニレンビスホスフェート、
- テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)-p-フェニレンビスホスフェート、
- フェニルヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)DPP、
- tert-ブチルヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,4-ジヒドロキシナフタレンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 2,7-ジヒドロキシナフタレンビス(ジフェニルホスフェート)、
- -4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンビス(ジフェニルホスフェート)、
- ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-(α-メチルベンジリデン)ビスフェノールビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン)ビス(ジフェニルホスフェート)、
- 9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタントリス(ジフェニルホスフェート)、並びに
それらの任意の混合物
からなる群から選択される。
【0112】
ある実施形態では、本発明に従って使用される油中のポリリン化合物は、
- ヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)HDP、
- 4,4’-ジヒドロキシビフェニルビス(ジフェニルホスフェート)及びそれのオリゴマー、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルチオエーテルビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,3,5-フロログルシノールトリス((ジフェニルホスフェート))、
- 2-ブチル 2-エチル 1,3-プロパンジオールビス(ジフェニルホスフェート)、
- トリメチロールプロパントリス(ジフェニルホスフェート)、
- 2,2’-ジヒドロキシベンゾフェノンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 2,7-ジヒドロキシナフタレンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンビス(ジフェニルホスフェート)、
- ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-(α-メチルベンジリデン)ビスフェノールビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン)ビス(ジフェニルホスフェート)、
- 9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタントリス(ジフェニルホスフェート) - それの任意の混合物
からなる群から選択される。
【0113】
ある実施形態では、本発明に従って使用される油中のポリリン化合物は、
- ヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)HDP、
- 4,4’-ジヒドロキシビフェニルビス(ジフェニルホスフェート)及びそれのオリゴマー、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルチオエーテルビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,3,5-フロログルシノールトリス(ビス(ジフェニルホスフェート))、
- 2-ブチル 2-エチル 1,3-プロパンジオールビス(ジフェニルホスフェート)、
- トリメチロールプロパントリス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,12-n-ドデカンジオールビス(ジフェニルホスフェート)、
- テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)-m-フェニレンビスホスフェート、
- テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)-p-フェニレンビスホスフェート、並びに
それらの任意の混合物
からなる群から選択される。
【0114】
ある実施形態では、本発明に従って使用される油中のポリリン化合物は、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルチオエーテルビス(ジフェニルホスフェート)、
- 4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルビス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,3,5-フロログルシノールトリス(ビス(ジフェニルホスフェート))、
- 2-ブチル 2-エチル 1,3-プロパンジオールビス(ジフェニルホスフェート)、
- トリメチロールプロパントリス(ジフェニルホスフェート)、
- 1,12-n-ドデカンジオールビス(ジフェニルホスフェート)、
- テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)-m-フェニレンビスホスフェート、
- テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)-p-フェニレンビスホスフェート、並びに
それらの任意の混合物
からなる群から選択される。
【0115】
ポリリン化合物は、当技術分野で従来使用されているもののような量で、本発明で使用される油中に存在する。例えば、それらは、油の総重量を基準として、0.1~10重量%、好ましくは0.5~5重量%の量で使用することができる。
【0116】
本発明使用に好適な油が以下に記載される。
【0117】
本発明に従って使用される油は、このタイプの油用の技術分野で公知の従来の構成成分及び添加剤を全て含み得る。
【0118】
本発明に従って使用される油は、好ましくは、エステル基剤と、少なくとも1種のアミン酸化防止剤と、式(I)の少なくとも1種のポリリン耐摩耗添加剤とを含む。
【0119】
いくつかの実施形態では、本発明に従って使用される油はまた、少なくとも1種のさらなる添加剤を含む。この少なくとも1種のさらなる添加剤は、とりわけ、潤滑剤、他の耐摩耗添加剤、酸化防止剤、金属腐食防止剤、不動態化剤、粘度指数向上剤、洗剤又は分散剤、消泡剤、界面活性剤、発泡剤、粘着性付与剤、安定剤、増量剤、加水分解安定剤、超高圧に好適な添加剤、顔料及び他のマスキング剤からなる群から選択することができる。そのような添加剤及び試剤は、当業者に周知であり、市販されている。
【0120】
エステル基剤は、当技術分野で周知の従来のエステル基剤である。それは、典型的には、モノ又はジカルボン酸試薬との、一価アルコール又は多価アルコールエステル、好ましくは多価アルコールエステルから選択することができる合成油である。
【0121】
特に好適な多価アルコールは、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-メチルプロパン-1,3-ジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン及びモノ-、ジ-若しくはトリ-ペンタエリスリトールなどのネオポリオールである。
【0122】
他の好適な多価アルコールには、式
R(OH)p
(式中、Rは、任意選択的に置換された、線状の、分岐の又は環状の脂肪族炭化水素部分であり、pは、2以上の整数である)
の任意の多価アルコールが含まれる。多価アルコールは、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-プロピル-3,3-ヘプタンジオール、2-ブチル-1,3-ブタンジオール、2,4-ジメチル-1,3-ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びポリアルキレングリコールからなる群から選択することができる。
【0123】
特に好適な一価アルコールは、2,2,4-トリメチルペンタノール及び2,2-ジメチルプロパノールなどのネオアルコールである。或いは、一価アルコールは、メチルアルコール、ブチルアルコール、イソオクチルアルコール及びオクタデシルアルコールからなる群から選択することができる。
【0124】
一価若しくは多価アルコールとのエステルを形成するために使用されるカルボン酸試薬は、1つ若しくは2つのカルボン酸官能基を含む任意選択的に置換された脂肪族カルボン酸又はそれらの混合物から選択することができる。当業者は、エステルのための所望の特性に及び使用される一価若しくは多価アルコールに応じて使用されるべきカルボン酸を選択する方法を知っているであろう。
【0125】
本発明に従って使用される油中に含有され得るエステル基剤には、オクチルアセテート、デシルアセテート、オクタデシルアセテート、メチルミリステート、ブチルステアレート、メチルオレエートモノエステル、並びにジブチルフタレート、ジオクチルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルアゼレート及びエチルヘキシルセバケートポリエステルが含まれる。ポリオールエステル型基油は、工業用ペンタエリスリトール又はトリメチロールプロパンと、4~12個の炭素原子を有するカルボン酸混合物とから調製される油であることができる。工業用ペンタエリスリトールは、約85重量%~92重量%のモノペンタエリスリトールと8重量%~15重量%のジペンタエリスリトールとを含む混合物である。
【0126】
市販されている従来の工業用ペンタエリスリトールは、前記エステル型基油の総重量を基準として、約88重量%のモノペンタエリスリトールと約12重量%のジペンタエリスリトールとを含有する。工業用ペンタエリスリトールはまた、工業用ペンタエリスリトール生産中に副生成物として通常形成される量のトリ-及びテトラ-ペンタエリスリトールを含有し得る。
【0127】
芳香族アミン酸化防止剤は、当技術分野で周知であり、芳香族アミン及び/又はフェノール系化合物の系統に属するモノマー又はポリマー芳香族アミン酸化防止剤であることができる。
【0128】
モノマー芳香族アミン酸化防止剤は、とりわけ、非置換の若しくは少なくとも1つの炭化水素基で置換された少なくとも1種のジフェニルアミン、非置換の若しくは少なくとも1つの炭化水素基で置換された少なくとも1種のナフチルフェニルアミン、非置換の若しくは少なくとも1つの炭化水素基で置換された少なくとも1種のフェノチアジン、又はそれらの任意の混合物を含み得る。アミンを置換する炭化水素基は、(C1~C30)アルキル基、又はスチレンである。
【0129】
ポリマー芳香族アミン酸化防止剤は、互いにか又は異なるコモノマーの存在下かのどちらかでの、上に定義されたような芳香族アミン酸化防止剤の重合生成物である。本発明によるタービン油に使用することができるオリゴマー又はポリマー芳香族アミン酸化防止剤の例としては、仏国特許第2 924 122号明細書及び国際公開第2009/071857号パンフレットに記載されているものが挙げられる。
【0130】
本発明は、したがって、航空機若しくは航空転用タービンなどの、デバイス/機械を潤滑するために特に使用される、非神経毒性の、又は(トリクレジルホスフェートベースの油及びその類似体若しくは他の神経毒性のリン化合物を含有する油と比べて)著しく低下した神経毒性を有する油の製造方法であって、以下のステップ:エステル油などの、基油に、少なくとも1種の耐摩耗剤を組み込むステップを含み、前記少なくとも1種の耐摩耗剤が、式(I)
【化4】
(式中、
R1、R2、R3及びR4のそれぞれは、アルキル、O-アルキル、アリール、又はO-アリール基から独立して選択され、
Aは、7~36個の炭素原子を含む線状アルキレン基若しくは6~36個の炭素原子を含む分岐アルキレン基、単環式の、多環式の若しくは多環芳香族のアリーレン基、又はアラルキレン基から選択される二価基であり、
X
1、及びX
2のそれぞれは、独立して、単結合、酸素原子又は窒素原子であり、
nは、1~5の範囲の整数である)
の、
及び特に、0の神経毒性の観点からのリスクレベルを有する
少なくとも1種のポリリン化合物から選択されることを特徴とする、方法に関し得る。
【0131】
当然ながら、油の神経毒性を防ぐ及び/又は下げるためのポリリン化合物の使用に関して上に記載された様々な実施形態は、油を製造するこの方法にも適用され、以下に繰り返されない。
【0132】
本発明はまた、油での少なくとも1種の耐摩耗添加剤の使用であって、前記少なくとも1種の耐摩耗添加剤が、式(I)
【化5】
(式中、
R1、R2、R3及びR4のそれぞれは、アルキル、O-アルキル、アリール、又はO-アリール基から独立して選択され、
Aは、7~36個の炭素原子を含むアルキレン基若しくは6~36個の炭素原子を含む分岐アルキレン基、単環式の多環式の若しくは多環芳香族のアリーレン基、又はアラルキレン基から選択される二価基であり、
X
1、及びX
2のそれぞれは、独立して、単結合、酸素原子又は窒素原子であり、
nは、1~5の範囲の整数である)
の少なくとも1種のポリリン化合物を含む、好ましくはヒューム事象の場合に、エアロトキシック症候群の予防のための使用に関する。
【0133】
当然ながら、油の神経毒性を防ぐ及び/又は下げるためのポリリン化合物の使用に関して上に記載された様々な実施形態は、当該使用にも適用され、以下に繰り返されない。
【0134】
航空転用タービンの場合には、「エアロトキシック症候群」と言われる病状は、エアロトキシック症候群に関して航空機で観察されるものと同じ神経学的症状及び生殖症状の少なくともいくらかがある病状であるが、それは、海上プラットフォームなどの産業地上タービンの架設において、トリクレジルホスフェートなどの、有機ホスフェートへの暴露によって感染する。
【0135】
「エアロトキシック症候群の予防」という用語は、ガス及び/又はエアロゾルの形態でのタービン油又は油圧オイルなどの油で汚染された航空機客室の空気への個人の急性又は慢性暴露に関係していると特定される少なくとも1つの症状の、発生及び/若しくは強度の減少、又は実質上の若しくは完全な消失を指す。いくつかの実施形態では、エアロトキシック症候群の予防は、ガスの形態でのタービン油又は油圧オイルなどの油、エアロゾルタイプの、空気中に分散した製品で汚染された航空機客室の空気への個人の急性又は慢性暴露に関係していると特定される、幾つかの症状の、好ましくは、全ての症状の、発生の減少、又は実質上の若しくは完全な消失を意味する。
【0136】
特に、症状は、神経学的な、神経行動学的な、神経筋の症状及び/又は生殖に関係する症状であることができる。その発生及び/又は強度が本発明による使用によって減らされ得る症状には、例えば、精神的疾患又は心因性疾患、慢性疲労症候群、深刻な片頭痛、多種化学物質過敏症、謎のウイルス感染、睡眠障害、鬱病、ストレス及び不安が含まれる。
【0137】
「ヒューム事象」という用語は、ガス及び/又はエアロゾルの形態でのタービン油又は油圧オイルなどの油によって汚染された航空機客室の空気への少なくとも1人の個人の、急性又は慢性暴露、好ましくは急性暴露を指す。ヒューム事象は、著しい場合には、特に、不快な特異臭の、典型的には「汚れた靴下」又は「ウェットドッグ」の知覚により検出することができる。最も深刻な場合には、例えば、タービンでの軸受の破損の後に、煙又は濃い白霧を見ることができよう。
【0138】
本発明は、したがって、航空機若しくは航空転用タービンなどの、機械/デバイスを潤滑する方法であって、以下のステップ:
- 非神経毒性の又は著しく低下した毒性(0の評点のリスクレベル)の、好ましくはトリクレジルホスフェート及び/又をその類似体を含まない油を提供するステップであって、前記油が、式(I)
【化6】
(式中、
R1、R2、R3及びR4のそれぞれは、アルキル、O-アルキル、アリール、又はO-アリール基から独立して選択され、
Aは、7~36個の炭素原子を含む線状アルキレン基若しくは6~36個の炭素原子を含む分岐アルキレン基、単環式の、多環式の若しくは多環芳香族のアリーレン基、又はアラルキレン基から選択される二価基であり、
X
1、及びX
2のそれぞれは、独立して、単結合、酸素原子又は窒素原子であり、
nは、1~5の範囲の整数である)
のポリリン化合物から選択される少なくとも1種の耐摩耗剤を含むステップ、
- 有効量の前記油を前記機械/デバイスに適用するステップ
を含む方法に関する。
【0139】
当然ながら、油の神経毒性を防ぐ及び/又は下げるためのポリリン化合物の使用に関して上に記載された様々な実施形態は、潤滑する本方法にも適用され、以下に繰り返されない。
【実施例】
【0140】
実施例1:毒性研究及び特に神経毒性研究
本発明によるポリリン化合物を、コリンエステラーゼ阻害、球面調和関数による3D分子モデリングの観点から、並びに神経毒性及び生殖毒性に関するQSARモデリングの観点から研究し、TCPを含む、他のリン化合物と比較した。得られた結果間の相関関係は、航空機若しくは航空転用タービン用の油での耐摩耗剤としてのこれらの化合物の使用に関する「安全性レベル」を決定することを可能にした。
【0141】
行われる異なる試験のプロトコル
2つのコリンエステラーゼへの阻害濃度の測定
TCPの毒性活性がコリンエステラーゼに対するその作用にとりわけ関与する範囲で、本発明に従って使用される化合物、並びに比較化合物の、2つのコリンエステラーゼへの効果を研究した。2つのコリンエステラーゼの活性の50%を阻害するために必要とされるそれぞれの化合物の濃度値を測定した。50%阻害濃度(IC50)が高ければ高いほど、それがコリンエステラーゼへのより弱い作用を有するので、化合物は神経毒性がより少ない。
【0142】
アセチルコリンエステラーゼ(AChE)及びブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)生物活性への化合物の阻害能力を、Ellman(Ellman et al.,Biochem.Pharm.1961,7,88-95)の分光法を用いて評価した。
【0143】
ヨウ化アセチルチオコリン及びブチリルチオコリン、並びに5,5-ジチオビス(2-ニトロ安息香)酸(DTNB)は、Sigma Aldrich(Steinheim,Germany)から購入した。
【0144】
ウマ血清から凍結乾燥したBuChE(eqBuChE、Sigma Aldrich)を0.1Mリン酸緩衝液(pH 7.4)に溶解させて、2.5単位/mLの酵素活性の酵素貯蔵液を得た。ヒト赤血球AChE(hAChE、水性緩衝液、≧500単位/mgのタンパク質(BCA)、Sigma Aldrich)を、0.1%Triton X-100入りの、20mM HEPES緩衝液、pH 8に希釈して、0.25単位/mLの酵素活性の酵素溶液を得た。
【0145】
この手順において、リン酸緩衝液、pH 7.4に溶解させた100μLの0.3mM DTNBを96ウェルプレートに添加し、引き続き試験化合物の50μL溶液及び50μLの酵素(最終0.05U)を添加した。25℃での5分間のプレ-インキュベーション後に、50μLの0.1mMのヨウ化アセチル又はブチリルチオコリン溶液を注入することによって反応を開始した。マイクロプレートリーダー(Synergy 2,Biotek,Colmar,France)を用いて、412nmの波長で、DTNBと、アセチル又はブチリルチオコリンの酵素加水分解によって放出されたチオコリンとの反応の生成物としての黄色の5-チオ-2-ニトロベンゾエートアニオンの形成によって、アセチル又はブチリルチオコリンの加水分解を追跡した。試験される化合物を、分析グレードのDMSOに5×10-3Mまで溶解させた。ドネペジル又はタクリンを、参照標準として使用した。412nmでの吸収増加率を、ヨウ化アセチル又はブチリルチオコリン溶液の添加の4分後に測定した。試験は、非酵素的反応を考慮に入れるためにアセチル又はブチリルチオコリンを除いて化合物を全て含有するブランクと共に実施した。
【0146】
試験化合物の存在による阻害の百分率は、次式
((v0-vi)/v0)×100
(式中、viは、阻害剤の存在下で計算された率であり、v0は、酵素活性である)
を用いて計算した。
【0147】
IC50値は、GraphPadPrismソフトウェア(バージョン6.01,GraphPad Software,La Jolla,Calif.,USA)を用いて試験液中の6つの阻害剤濃度の対数の関数として阻害の百分率をプロットすることによってグラフを使って決定した。実験は全て、n=3で実施した。
【0148】
球面調和関数による分子モデリング
本発明に用いられる3Dモデリング方法は、刊行物:「Benchmarking of HPCC:A novel 3D molecular representation combining shape and pharmacophoric descriptors for efficient molecular similarity assessments」,Karaboga et al.2013 Journal of Molecular Graphics and Modelling 41;20-30に記載されている。
【0149】
2つのクラスター(クラスター1及び2)は、とりわけトリ(オルト-クレジル)ホスフェート ToCP、トリ(メタ-クレジル)ホスフェート、トリ(パラ-クリジル)ホスフェート、トリキシリルホスフェート及びサリゲニンクレジルホスフェートなどの神経毒及び生殖毒であることが知られているモノホスフェート化合物からの類似性によって定義した。
【0150】
おそらく毒性の化合物の第3のクラスターは、特にトリ(n-ブチルホスフェート)などの生殖毒性の、変異原性の、発がん性のRMC化合物を含む(クラスター5)と特定した。
【0151】
本発明に従って使用されるポリリン化合物の研究は、それらが今まで記載された特性学的研究によれば非毒性の分子に関連した異なるクラスター(クラスター3)に属することを示した。
【0152】
QSARによるモデリング
本発明に従って使用される様々な化合物及び他のモノホスフェート化合物の神経毒性度及び生殖毒性度は、QSAR(定量的構造活性相関)モデリングによって評価した。
【0153】
訓練及び検証セットの選択
訓練セットは、幾つかの公的に入手可能である源:HSBD(Hazardous Substances Data Bank(危険有害物質データバンク))、EPA(U.S.Environmental Protection Agency(米国環境保護庁))、ECHA(European Chemicals Agency(欧州化学機関))及びNTP(National Toxicology Program(国家毒性プログラム))から集められた化学構造で定義した。247個の化合物を神経毒性化合物として分類し、2214個の化合物を生殖毒性化合物として分類し、1697個の化合物を神経毒性も生殖毒性もない、無毒の訓練セットを形成するものとして分類した。
【0154】
検証セットは、訓練セットのために使用されるものとは異なるデータセットに由来する化合物を使用して構築した。訓練セットで既に見いだされる分子は、取り除いた。検証セットは、神経毒性化合物として分類される70個の化合物、生殖毒性化合物として分類される506個の化合物、及び神経毒性も生殖毒性もない、無毒の検証セットを形成するものとして分類される256個の化物からなった。
【0155】
QSARモデルの性能
一般化線形モデル(GLM)を選択して定量的構造/活性相関(QSAR)アプローチを行った。GLMモデルを別々に訓練して化学構造を、(i)神経毒性化合物と非神経毒性化合物とに、及び(ii)生殖毒性化合物と非生殖毒性化合物とに区別した。このアプローチは、訓練セット内に210の重要な記述子があるGLMモデルをもたらした。訓練中に、QSARモデルの性能を、ROC(Receiver Operator Characteristic(受信者動作特性))曲線によって測定し、それぞれ、神経毒性及び生殖毒性の予測に関して0.90以上のArea Under Curve(曲線下面積)(AUC)値を生じさせた。
【0156】
QSARモデルのロバスト性を検証するために、次いで、それらを用いて(i)検証セットの化合物の神経毒性カテゴリー(すなわち、神経毒性の/非神経毒性のカテゴリー化)、(ii)検証セットの化合物の生殖毒性カテゴリー(すなわち、生殖毒性の/非生殖毒性のカテゴリー化)を予測した。検証中に、QSARモデルの性能を、曲線下面積(AUC)値によって測定し、それぞれ、神経毒性及び生殖毒性の予測に関して0.70以上の重要な値を得た。
【0157】
次いで、GLMベースのQSARモデルを用いて、本発明によるポリリン化合物を研究した。
【0158】
本発明によるポリリン化合物の合成
撹拌棒、クーラント、分液漏斗、サーモウェル及び窒素バブラーを備えた四口フラスコに、1モル当量の試薬A(ジアルコール、ジアミン又はアミノアルコール)及び3.35モル当量のトリエチルアミンを導入する。試薬Aに対して約10体積の、トルエンで反応媒体を希釈する。試薬Aの性質に応じて、反応媒体を25~110℃の間で加熱し、次いで、分液漏斗を使用することにより、2.2モル当量の塩化リン酸塩を滴々導入する。反応の終わりに、形成されたトリエチルアミン塩をろ過により除去し、次いで5体積の酢酸エチルで洗浄する。次いで、ろ液を、0.1N HCl溶液で2回、0.1N KOH溶液で2回、次に中性pHまで水で洗浄する。有機層を次いでMgSO4で乾燥させ、ろ過し、次いで減圧下で濃縮する。得られた粗反応物を、シリカゲルクロマトグラフィーによるか、又は液液抽出によるか、又は沈澱によるかのいずれかで精製する。このようにして得られた生成物を、GC(ガスクロマトグラフィー)又はGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)クロマトグラフィーによって、1H及び/又は31P-NMR分析によってキャラクタリゼーションする。得られる収率は、15~75%の範囲である。
【0159】
結果
行われた試験の結果を
図2~9に示す。最後から2番目の列は、タービン油などの油での使用のためのこれらの分子の安全性及びそれらの申し立てられる客室毒性に関するリスクレベルの評点に相当する。5の評点は、神経毒性及び/又は生殖毒性の観点から非常に高いリスクに相当し、一方、0又は1の評点は、非常に低い又はゼロのリスクレベルに相当する。リスクレベルは、阻害の体内実験結果(hAChE IC
50及びeqBuChE IC
50)、半経験的な予測(神経毒性QSARモデル及び生殖毒性QSARモデル)並びに球面調和関数による分子モデリング(クラスタリング)に基づいた独立して評価されるリスクのそれぞれに相当する因子の合計によって決定され、それは、0~5の範囲であることができる。0値は、リスクの欠如を示し、5値は、非常に高い多重リスクを示す。それぞれのリスクに関して、因子0又は1は、値が閾値よりも上又は下であるかどうかに基づいて割り当てられる。以下の閾値:hAChEに関するIC
50に対して15mg/L、eqBuChEに関するIC
50に対して15mg/L、神経毒性に対して0.2%、生殖毒性に対して3%が適用される。
【0160】
化合物は、次の通り番号を付けられる:
比較例:
化合物A:2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート(CAS 1241-94-7)(https://echa.europa.eu/fr/substance-information/-/substanceinfo/100.013.625)
化合物B:トリ(オルト-クレジル)ホスフェート ToCP
化合物C:トリ(メタ-クレジル)ホスフェート
化合物D:トリ(パラ-クレジル)ホスフェート
化合物P:トリクレジルホスフェート(CAS 1330-78-5)は、市販製品Durad 125に相当する(https://echa.europa.eu/fr/substance-information/-/substanceinfo/100.239.100)
化合物E:トリキシリルホスフェート(CAS 25155-23-1)(https://echa.europa.eu/fr/registration-dossier/-/registered-dossier/2204/7/11/1)
化合物F:トリ(2,6-ジフルオロフェニル)ホスフェート
化合物G:トリ(4-イソプロピルベンゾエート)ホスフェート
化合物H:ジ(p-tertブチルフェニル)フェニルホスフェート
化合物I1:トリフェニルホスフェート(CAS 204-112-2)(https://echa.europa.eu/fr/substance-information/-/substanceinfo/100.013.625)
化合物I2:トリ(p-tert-ブチルフェニル)ホスフェート
化合物I3:Tert-ブチルフェニルジフェニルホスフェート(CAS 700-990-0)は、市販製品Durad 150Bに相当する、(https://echa.europa.eu/fr/substance-information/-/substanceinfo/100.235.046)
化合物J:サリゲニンクレジルホスフェート
化合物K:ジフェニルホスホロアミダート
化合物L:トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート(CAS 78-42-2)(https://echa.europa.eu/fr/substance-information/-/substanceinfo/100.001.015)
化合物M:トリ(n-ブチルホスフェート)(CAS 126-73-8)https://echa.europa.eu/fr/registration-dossier/-/registered-dossier/13548
化合物N:トリス(クロロエチル)ホスフェート(CAS 115-96-8)https://echa.europa.eu/fr/substance-information/-/substanceinfo/100.003.744
化合物Q:トリ(イソブチル)ホスフェート(CAS 126-71-6)(https://echa.europa.eu/fr/substance-information/-/substanceinfo/100.004.363)
化合物R:ジブチル[[ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]ホスフィノチオイル]チオ]スクシネート(CAS 68413-48-9)(https://echa.europa.eu/fr/substance-information/-/substanceinfo/100.063.817)
化合物S:2,6-ピリジンジオールビス(ジフェニルホスフェート)
化合物T:ネオペンチルグリコールビス(ジフェニルホスフェート)
化合物U:1,6’-n-ヘキサンジオールビス(ジフェニルホスフェート)
化合物V:1,4’-n-ブタンジオールビス(ジフェニルホスフェート)
化合物W:テトラキス(2-クロルエチル)ジクロロイソペンチルジホスフェート(CAS 38051-10-4)https://echa.europa.eu/fr/substance-information/-/substanceinfo/100.048.856(Ike van der Veenの刊行物からの化合物V6)
本発明の化合物:
化合物1:ヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)HDP
化合物2:4,4’-ジヒドロキシビフェニルビス(ジフェニルホスフェート)BDP及びそのオリゴマー https://echa.europa.eu/fr/substance-information/-/substanceinfo/100.225.031
化合物3:4,4’-ジヒドロキシジフェニルチオエーテルビス(ジフェニルホスフェート)
化合物4:4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルビス(ジフェニルホスフェート)
化合物5:1,3,5-フロログルシノールトリス(ビス(ジフェニルホスフェート))
化合物6:2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールビス(ジフェニルホスフェート)
化合物7:トリメチロールプロパントリス(ジフェニルホスフェート)
化合物8:テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)-m-フェニレンビスホスフェート https://echa.europa.eu/en/substance-information/-/substanceinfo/100.103.102
化合物9:テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)-p-フェニレンビスホスフェート
化合物10:1,12-n-ドデカンジオールビス(ジフェニルホスフェート)
【0161】
トリアリールホスフェート型(TCP系統)の化合物は、完全特性を有する8個の分子に関して3.6の平均で2から5まで変わるリスクレベルを有するクラスター1に全体に属する。
【0162】
本発明による式(I)を有する化合物1~10は、hAChE及びeqBuChEに関して高いIC50値を示し、無毒な分子のクラスター(クラスター3)に属し、低い神経毒性及び低い生殖毒性、したがって0に等しいリスクのレベルを有する。
【0163】
いかなる理論にも制約されることなく、式(I)の化合物の構造は、それらが、TCPなどの有毒な化合物のそれとは異なる特定の3次元構造であって、それらに無毒な特性を与える構造を達成することを可能にする。
【0164】
クラスター1の化合物は、球面調和関数3Dモデリングアプローチによれば、分子の中心つまりコアで直角に交わる2つの平面をベースとする「3枚羽のプロペラ」の形態にあり、一方、クラスター3の化合物は、チョウ形態に似た、むしろ広げられた、平坦化した形状を示す。球面調和関数によるモデリング作業に由来する分子は、
図1に示される。これらの化合物は、それ故、トリクレジルホスフェート及びそのトリアリールホスフェート類似体の非神経毒性及び非生殖毒性代替物である。
【0165】
それに比べて、国際公開第2010/149690号パンフレットに記載されている化合物I2は、ブチリルコリンエステラーゼに関して低下した阻害を有するが、アセチルコリンエステラーゼに対して活性であることが分かる。モデリングは、後者をクラスター1の一部として分類し、それは、アセチルコリンエステラーゼに関する実験結果を裏付ける。
【0166】
したがって、生体外試験及びモデリング試験(球面関数の3D又はQSAR)は、本出願人が、一般式(I)の化合物の限定されたサブセットを、油において耐摩耗作用を一般に示す既存のリンベースの化合物全てから、非自由裁量によって、選択したことを示す。このサブセットはまた、他のリンベースの化合物とは異なる技術的効果を有する。実際に、式(I)のポリリン化合物のこのサブセットは、少なくとも非神経毒性であり、油の、特に航空向けであるタービン油の神経毒性を下げる及び/若しくは防ぐことができる並びに/又はそうするように構成される。さらに、このサブセットは、特にヒューム事象の場合に、エアロトキシック症候群の予防を可能にする及び/又はその予防のために構成される。このサブセットは、その特性のおかげで、例えば航空用の、タービン油を形成することを可能にし、それは、航空用途における及び他の航空転用用途における安全性レベルを上げることを可能にするために好適であり及び/又はそれを可能にするように構成される。
【0167】
加えて、先行技術におけるどの指示も、当業者が、タービン油の神経毒性を下げる/防ぐために又はエアロトキシック症候群の予防のために一般式(I)の化合物のこのサブセットを具体的に選択することを可能にすることができなかった。
【0168】
実際に、一方で、他のポリリン化合物及び特に油で耐摩耗剤として使用される及び先行技術で知られる他のポリリン化合物は、この新規な技術的効果(すなわち:油の神経毒性を下げる及び/若しくは防ぐこと又はエアロトキシック症候群の予防のための)を持たない。それどころか、公知の及び航空潤滑剤及び油の分野で使用される他の耐摩耗化合物及び他の有機リン化合物(例えば、化合物E、P、I1-3、L、R及びM、後者は、航空油圧油で使用されている)は、神経毒である。
【0169】
他方で、本出願人によって実施される試験の前に、例えば、化合物A、P、I1、I3、Q及びRなどの、特に耐摩耗剤として知られる、他の市販の及び登録されたリン化合物のほとんどは、急性の又は重度な毒性の重大な危険(CMR特性)を呈さないとして特に欧州化学機関(ECHA)の公式ホームページによって認められている。ECHAは、欧州市場向けの登録化学品の毒性に関して決定する所管官庁である。それは、公開データ及び一般に認められた科学データを公表している。化合物I3は、TCP又はその類似体に取って代わるために潤滑油の分野で特に使用されている。しかしながら、IC
50生体内試験及び3D又はQSARモデリング試験による本出願人の試験は、これに反して、これらの化合物が高度に神経毒であることを示している。例えば、ECHAホームページによれば、化合物I3は、ヒトの健康に対して有毒であることが知られていない。今、
図5の表は、この化合物I3が、トリフェニルホスフェート及びトリ(p-tert-ブチルフェニル)ホスフェートを含む、クラスター1に属する神経毒性化合物の混合物であることを示す。ECHAホームページによれば、神経毒性の兆候を示さない、けれども4のリスクレベルを有する、化合物Aに同じことが当てはまる。当業者は、それ故、油の神経毒性を下げる及び/若しくは防ぐために又はエアロトキシック症候群の予防のために、一般式(I)の化合物によって形成されるサブセットを(特に、公知データ及び公開包括的データから)選択するように誘導されなかった又は促されなかったであろう。
【0170】
コリンエステラーゼhAChE及びeqBuChEに関するIC50阻害値をまた、他の比較化合物及び本発明による化合物に関して試験した。この相補的な研究は、式(I)の化合物の非常に高い安全性レベルを裏付ける。下の表1は、得られた実験結果を示す。
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
少なくとも2つのホスフェート官能基を有する新しい一連の16個の化合物の中から、大多数(13/16、すなわち、80%超)が、2つのコリンエステラーゼに対して15mg/L超の低い阻害レベルIC50を有する。説明できないほどに/意外にも、芳香環内の塩素、カルボニル又は窒素原子などの、誘起効果又は共役効果により電子吸引性としての資格ある基又は原子を有する化合物は、より低い関連安全性レベルを示す。ホスフェート官能基の間隔が阻害結果にとって重要であるようにまた思われ、芳香環上でメタ(つまり1,3)位に位置する官能基は、パラ(つまり1,4)又はより遠い位置に(2,7-ナフタレン誘導体の場合に)位置するものよりも好ましくないジオメトリーをもたらすように思われる。
【0176】
実施例2:本発明に従って使用されるポリリン化合物の耐摩耗性能
本発明に従って使用されるタービン油の耐摩耗性能は、ASTM D4172規格試験方法に従って4ボール摩耗試験を用いることによって測定した。得られた結果を下の表2に示す。
【0177】
【0178】
これらの結果は、油に本発明に従って使用されるポリリン化合物が、興味深い及びTCPのそれらに潜在的に似た耐摩耗特性を有すること、それ故それらが油、とりわけ航空機若しくは航空転用タービン用の油での効果的利用に適合することを裏付ける。
【0179】
もちろん、様々な他の修正が、添付の特許請求の範囲との関連で行われ得る。
【国際調査報告】