(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-19
(54)【発明の名称】一次性頭痛の診断のためのプロポフォール
(51)【国際特許分類】
G01N 33/94 20060101AFI20230612BHJP
A61P 25/00 20060101ALN20230612BHJP
A61K 31/05 20060101ALN20230612BHJP
【FI】
G01N33/94
A61P25/00
A61K31/05
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571185
(86)(22)【出願日】2021-05-19
(85)【翻訳文提出日】2023-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2021063308
(87)【国際公開番号】W WO2021234007
(87)【国際公開日】2021-11-25
(32)【優先日】2020-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522452684
【氏名又は名称】ラブテク ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【氏名又は名称】大塩 竹志
(72)【発明者】
【氏名】ルベノフ, ヘルゲ
(72)【発明者】
【氏名】ニーゼ, スヴェンヤ
(72)【発明者】
【氏名】エルンスト, ステフェン
【テーマコード(参考)】
2G045
4C206
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045AA37
2G045DA71
2G045DA72
2G045DA73
4C206CA17
4C206KA01
4C206MA72
4C206MA75
4C206MA76
4C206MA78
4C206MA79
4C206MA83
4C206ZA02
(57)【要約】
本発明は、一次性頭痛の診断方法に関する。より具体的には、本発明は、一次性頭痛のための生体マーカーを適用することによる、ヒト被験体において一次性頭痛と二次性頭痛との間を鑑別する方法に関する。特定の局面において、本発明は、片頭痛の診断のための方法に関する。1つの特定の局面において、本発明は、セラノスティクスおよび個別化医療の分野に関する。頭痛は、多くの状況において見出され得る全世界で広く認められる障害であり、これは、救急救命室において一般的な愁訴でもある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト被験体における一次性頭痛の診断方法における使用のためのプロポフォール。
【請求項2】
前記一次性頭痛は、二次性頭痛から鑑別されるという点で特徴づけられる、請求項1に記載のヒト被験体における一次性頭痛の診断方法における使用のためのプロポフォール。
【請求項3】
プロポフォールの投与に対する前記被験体の応答は、前記被験体が一次性頭痛に苦しんでいるマーカーとして使用されるという点で特徴づけられる、請求項1または2に記載の方法における使用のためのプロポフォール。
【請求項4】
プロポフォールへの応答は、疼痛、頭部自律神経症状、皮膚アロディニアの症状、触診の際の頭蓋周囲の圧痛、頭痛、悪心、嘔吐、羞明、音声恐怖症、前兆症状、脳幹症状、網膜症状、食欲不振、蒼白、眼振、運動失調、恐れ、被刺激性、倦怠感、結膜充血、流涙、鼻閉、鼻漏、結膜充血、額の発汗、顔面発汗、縮瞳、下垂、情動不安および/もしくは激越またはこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つの症状の軽減において評価されるという点で特徴づけられる、請求項1~3のうちの1項またはそれより多くの項に記載される方法における使用のためのプロポフォール。
【請求項5】
a.前記前兆症状は、視覚的、感覚的、発話、言語、運動、脳幹および/もしくは網膜前兆症状を含む可逆的前兆症状から選択される;ならびに/または
b.前記脳幹症状は、構音障害、眩暈、耳鳴、聴覚減退、複視、感覚障害によらない運動失調および/もしくは意識レベルの低下から選択される;ならびに/または
c.前記網膜症状は、臨床視野検査および/または単眼視野欠損の被験体の描画を含む、可逆的な、単眼の、陽性および/もしくは陰性の視覚的現象から選択される;ならびに/または
d.疼痛は、好ましくは、Alder Hey Triage Pain Score、Behavioral Pain Scale(BPS)、Brief Pain Inventory(BPI)、非言語的疼痛指標のチェックリスト(CNPI)、Clinical Global Impression(CGI)、COMFORTスケール、Color Scale for Pain、Critical-Care Pain Observation Tool(CPOT)、Dallas Pain Questionnaire、Descriptor differential scale(DDS)、Dolorimeter Pain Index(DPI)、Edmonton Symptom Assessment System、Face Legs Activity Cry Consolability scale、Faces Pain Scale-Revised(FPS-R)、Global Pain Scale、Mankoski Pain Scale、McGill Pain Questionnaire(MPQ)、Multiple Pain Rating Scales、Neck Pain and Disability Scale-NPAD、Numerical 11 point box(BS-11)、Numeric Rating Scale(NRS-11)、Oswestry Disability Index、Palliative Care Outcome Scale(PCOS)、Roland-Morris Back Pain Questionnaire、Support Team Assessment Schedule(STAS)、Wharton Impairment and Pain Scale(WIPS)、Wong-Baker FACES Pain Rating Scale、Visual analog scale (VAS)、Pediatric Pain Questionnaire (PPQ)またはPremature Infant Pain Profile(PIPP)から選択される標準化されたペインスケールに対して評価される、
という点で特徴づけられる、請求項4に記載の方法における使用のためのプロポフォール。
【請求項6】
前記一次性頭痛は、片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛、または一次性咳嗽性頭痛、一次性運動時頭痛、性行為と関連する一次性頭痛、一次性雷鳴頭痛、寒冷刺激による頭痛、頭蓋外からの圧力による頭痛、一次性穿刺様頭痛、貨幣状頭痛、睡眠時頭痛もしくは新規発症持続性連日性頭痛(NDPH)を含む他の一次性頭痛障害からなる群より選択され、好ましくは、片頭痛として選択される、
という点で特徴づけられる、請求項1~5のうちのいずれかまたはそれより多くの項に記載される方法における使用のためのプロポフォール。
【請求項7】
a.前記ヒト被験体は、請求項4および/もしくは5に記載の少なくとも1つの症状においてプロポフォールに応答する;ならびに
b.前記一次性頭痛は、片頭痛として選択される;ならびに
c.必要に応じて、前記被験体は、緊張型頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛、または一次性咳嗽性頭痛、一次性運動時頭痛、性行為に伴う一次性頭痛、一次性雷鳴頭痛、寒冷刺激による頭痛、頭蓋外からの圧力による頭痛、一次性穿刺様頭痛、貨幣状頭痛、睡眠時頭痛もしくは新規発症持続性連日性頭痛(NDPH)を含む他の一次性頭痛障害の症状において応答しない、
という点で特徴づけられる、請求項1~6のうちの1項またはそれより多くの項に記載される方法における使用のためのプロポフォール。
【請求項8】
前記片頭痛は、前兆のない片頭痛、小児片頭痛、月経片頭痛、治療抵抗性片頭痛、慢性片頭痛、片頭痛の合併症、片頭痛の疑い、片頭痛に関連する周期性症候群、治療抵抗性片頭痛、急性錯乱性片頭痛(ACM)、典型的な前兆のある片頭痛、前兆のある頭痛のない片頭痛、脳幹性前兆を伴う片頭痛、片麻痺性片頭痛および/もしくは網膜片頭痛を含む前兆のある片頭痛からなる群より選択されるという点で特徴づけられる、請求項7に記載の方法における使用のためのプロポフォール。
【請求項9】
診断後の前記被験体は、一次性頭痛に関して、特に、トリプタン、ジタン(例えば、ラスミジタン)、NSAID、グルココルチコイドステロイド、サリチレートおよびその誘導体、フェニル酢酸およびその誘導体、2-フェニルプロピオン酸およびその誘導体、4-アミノフェノールおよびその誘導体、ピラゾロン、選択的COX2阻害剤、抗うつ剤、抗痙攣薬、オピオイド、筋弛緩剤、バルビツレート、ベンゾジアゼピン、エトミデート、ケタミン、プロポフォール、抗ヒスタミン薬および/または局所麻酔薬からなる群より選択される原薬で処置されるという点で特徴づけられる、請求項1~8のうちの1項またはそれより多くの項に記載される方法における使用のためのプロポフォール。
【請求項10】
プロポフォールへの応答が、前記被験体へのプロポフォールの投与後240分、180分、または好ましくは120分以内に評価されるという点で特徴づけられる、請求項1~9のうちの1項またはそれより多くの項に記載される方法における使用のためのプロポフォール。
【請求項11】
プロポフォールは、麻酔域下用量において、好ましくはそれぞれ、20mgまたは2.8mg/kg 体重までの用量において投与されるという点で特徴づけられる、請求項1~10のうちのいずれか1項またはそれより多くの項に記載される方法における使用のためのプロポフォール。
【請求項12】
プロポフォールは、非経口的に、経口的に、経鼻的に、眼に、経耳的に、経粘膜的にまたは経皮的に、好ましくは経粘膜的にまたは非経口的に投与されるという点で特徴づけられる、請求項1~11のうちのいずれか1項またはそれより多くの項に記載される方法における使用のためのプロポフォール。
【請求項13】
プロポフォールは、単一用量として投与されるという点で特徴づけられる、請求項1~12のうちの1項またはそれより多くの項に記載される方法における使用のためのプロポフォール。
【請求項14】
プロポフォールは、粘膜付着性口腔フィルムを介して投与されるという点で特徴づけられる、請求項1~13のうちの1項またはそれより多くの項に記載される方法における使用のためのプロポフォール。
【請求項15】
ヒト被験体における一次性頭痛の診断の方法における使用のためのプロポフォールであって、プロポフォールに対する前記被験体の応答は、前記一次性頭痛を示す、プロポフォール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一次性頭痛の診断法に関する。より詳細には、本発明は、一次性頭痛の生体マーカーを適用することによって、ヒト被験体における一次性頭痛と二次性頭痛との間を鑑別する方法に関する。特定の局面において、本発明は、片頭痛の診断のための方法に関する。1つの特定の局面において、本発明は、セラノスティクスおよび個別化医療の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
頭痛は、多くの状況において見出され得る全世界で広く認められる障害であり、これは、救急救命室において一般的な愁訴でもある。頭痛は、多くの状態から生じ得る。必ずしも全ての頭痛の状態が、類似の様式で最良に管理できるわけではないことから、治療管理は、頭痛の具体的なタイプに大きく依存して変動し、正確な診断は、治療転帰において重要な要因である。
【0003】
う蝕とともに、片頭痛および緊張型頭痛は、世界の3つの最も一般的な病気であり、片頭痛は、50歳齢未満の男性および女性両方において全世界で障害(disability)の原因の第3位に位置付けられている(Cephalalgia. 2018 JaN; 38(1); 1-211)。
【0004】
頭痛の1つの分類体系は、国際頭痛学会(IHS)によって公開されている国際頭痛分類(ICHD)である。頭痛は、「一次性」、「二次性」および第3のカテゴリーとして「脳神経障害、顔面痛およびその他の頭痛」として大きく分類される。頭痛のうちの90%超が一次性である。一次性頭痛は、一次性頭痛が実際の頭痛状態自体に起因し、別の原因に依ることはないという点で二次性頭痛とは異なるのに対して、二次性頭痛は、さらに根底にある状態の1つの症状である。
【0005】
カテゴリー「脳神経障害、顔面痛およびその他の頭痛」は、多くの障害を記載し、その障害は、真の頭痛よりむしろ、孤立性の頭蓋顔面神経の機能障害または求心性活性化に原因があるとされ得る。このカテゴリーの頭痛は、特異的な脳神経分布におけるニューロパチータイプの疼痛によって概して特徴づけられる。すなわち、疼痛は、頭部または顔面のある特定の神経支配領域に認められる。結果として、上記カテゴリー「脳神経障害、顔面痛およびその他の頭痛」の頭痛は、その別個の臨床的特徴および原因論に基づいて分類される。
【0006】
臨床診療では、他のタイプの頭痛、特に二次性頭痛に対する一次性頭痛の診断は、かなりの難題を呈する。これは、特に、患者が急性の頭痛を呈し得る救急救命室での状況にあてはまる。いくつかの二次性頭痛は、さらなる害および損傷の持続を防止するために、急性のおよび専用の治療介入を要する。一次性頭痛として二次性頭痛を誤診すると、患者にとって重篤な、潜在的には致命的な結果が生じ得る。
【0007】
結果として、急性頭痛を呈する患者はしばしば、二次性頭痛に関して検査するために一連の診断手段(コンピューター断層撮影法(CT)、磁気共鳴画像法、磁気共鳴断層撮影(MRT)のような画像化法または脳波記録法(EEG)を含む機能的方法を含む)に供される。一次性頭痛の診断は、複雑な、合意に基づく分類スキームを必要とする。1つのこのような分類スキームは、国際頭痛学会(IHS)の頭痛分類委員会によって公開された国際頭痛分類第3版(ICHD-3)である(Cephalalgia. 2018 Jan; 38 (1):1-211)。
【0008】
実際に、一次性頭痛はしばしば、二次性頭痛が排除された後にのみ診断される。この骨の折れる時間を浪費する診断の前には、患者は、いかなる処置をも受けることができない。すなわち、患者は頭痛に苦しみ続ける。なぜなら対症的処置は、根底にある医学的原因の診断の妨げになるからである。さらに、現在の診断基準は、医療システムに大きなコストがかかる。従って、全体的な手順は、患者にとってストレスが大きいだけでなく、経済的にも不利である。
【0009】
よって、本発明の目的は、一次性頭痛の診断を、特に、二次性頭痛を事前に排除する必要性なしに可能にする改善された診断手段を提供することである。さらに、本発明の目的は、ヒト被験体にいて一次性頭痛と二次性頭痛との間を鑑別するために簡便かつ効果的な手段を可能にする、一次性頭痛のための生体マーカーを提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Cephalalgia. 2018 JaN; 38(1); 1-211
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の要旨
これらの目的は、ヒト被験体における一次性頭痛の診断において使用するためのプロポフォールで解決される。
【0012】
本発明者らは、頭痛に苦しんでいる被験体へのプロポフォールの投与が、一次性頭痛を有する患者において応答を誘導するが、プロポフォールは、二次性頭痛または脳神経障害、顔面痛およびその他の頭痛を有する患者においてはこのような効果がないということ、および、それと共に一次性頭痛の診断が可能であるということを見出した。よって、頭痛を有する患者のプロポフォールに対する応答は、一次性頭痛の診断の生体マーカーとして使用され得る。さらに、それは、一次性頭痛と二次性頭痛との間を鑑別する迅速かつ容易な方法を可能にする。それと共に、一次性頭痛の診断は、特に、患者の便宜および社会経済学的検討事項の観点から改善される。さらに、特定の局面において、本発明に従うプロポフォールは、個別化医療およびセラノスティクスの分野において;特に、それぞれの患者に関して個別化された、より最適化された治療レジメンを可能にするために適用される。
【0013】
本発明に従う診断における使用のための有効成分は、プロポフォール(C12H18O)である。プロポフォールは、2,6-ジイソプロピルフェノールの国際一般名称(CAS番号2078-54-8)である。それは、麻酔薬のグループに属し、催眠鎮静薬として分類される。プロポフォールは、緊張および不安を低減し、静穏を(鎮静効果)および/または睡眠を(催眠効果)誘導することが公知である。よって、プロポフォールは、麻酔用量において投与される場合に、鎮静および/または催眠効果を有する。それは、代表的には、静脈内に適用され、そのときには、バイタルサインモニタリングおよび生命維持の準備を必要とする。プロポフォールは、例えば、商品名Disoprivan(登録商標)、Diprivan(登録商標)またはRecofol(登録商標)の下で市販されている。それは、少なくとも部分的にはγ-アミノ酪酸(GABA)のレセプターを介して働くと想定される。
【0014】
本発明によれば、頭痛に苦しんでいる患者のプロポフォールに対する応答は、好ましくは、プロポフォールの投与後の特定の時間枠内で評価される。これは、プロポフォールに対する患者の応答に明らかに原因があることを改善する。上記応答の評価は、上記物質の投与後240分以内に行われ得る。最も好ましくは、評価は、プロポフォールの投与後120分以内に、最も好ましくは120分に達成される。ある特定の実施形態において、上記評価は、さらにより早く、例えば、投与後90分、60分または30分以内に達成され得る。
【0015】
診断目的で投与されるべき用量は、プロポフォールの公知の治療用量とは異なり得る。特に、それは、その治療的な鎮静効果および/または催眠効果のための用量を超え得るが、依然として麻酔効果を有する用量未満のままである。本発明の好ましい実施形態において、プロポフォールは、医薬品フィルム、特に頬側(粘膜付着性)フィルムを介して投与される。
【0016】
本発明の特定の好ましい実施形態において、プロポフォールは、ヒト被験体における片頭痛の診断において使用される。
【0017】
患者が本発明に従って診断された後、彼らは、一次性頭痛の処置に供され得る。一次性頭痛および/または片頭痛のための種々の処置選択肢またはレジメンが、当業者に公知である。特に好ましい実施形態において、一次性頭痛はその後、プロポフォールで処置される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
用語「頭痛」とは、本発明の文脈において使用される場合、顔面、頭部、または頸部における疼痛、不快感および/または見当識障害に言及する。頭痛は、位置、強度およびそれらがどの程度の頻度で起こるかに関してを含め、症状が変動し得る。頭痛のタイプにおけるバリエーションに起因して、国際頭痛学会(IHS)による国際頭痛分類(ICHD)ICHのような、種々のカテゴリー分類体系が作られている。
【0019】
この分類体系によれば、頭痛は、「一次性」、「二次性」として、または第3のカテゴリー「脳神経障害、顔面痛およびその他の頭痛」として大きく分類され得る(Cephalalgia. 2018 Jan;38(1):1-211)。一次性頭痛では、頭痛が、筋緊張またはある特定の食品への曝露のような関連要因が特定され得るとしても、主な医学的問題そのものである。一次性頭痛の例としては、片頭痛、緊張型頭痛または群発頭痛が挙げられる。
【0020】
二次性頭痛では、頭痛は、さらに根底にある状態の症状である。二次性頭痛の例は、頚部傷害または副鼻腔感染に起因する頭痛である。二次性頭痛のさらなる例としては、感染、炎症、頭部傷害、外傷、脳卒中、血管障害、脳出血または腫瘍からくる頭痛が挙げられる。
【0021】
脳神経障害、顔面痛およびその他の頭痛の例としては、三叉神経の病変または疾患に原因があるとされる疼痛、および舌咽神経の病変または疾患に原因があるとされる疼痛が挙げられる。
【0022】
本発明によれば、プロポフォールに対する被験体の応答は、一次性頭痛を示す。それと共に、プロポフォールは、一次性頭痛を二次性頭痛から鑑別することを可能にする。本発明に従うプロポフォール(propofil)に対する被験体の応答は、プロポフォールの投与後の一次性頭痛の少なくとも1つの症状の軽減によって評価される。本発明の文脈において、頭痛の少なくとも1つの症状(at least on symptom)の軽減は、「応答」と称される。
【0023】
一次性頭痛の症状は、疼痛、頭部自律神経症状、皮膚アロディニアの症状、触診の際の頭蓋周囲の圧痛、頭痛、悪心、嘔吐、羞明、音声恐怖症、前兆症状、脳幹症状、網膜症状、食欲不振、蒼白、眼振、運動失調、恐れ、被刺激性、倦怠感、結膜充血、流涙、鼻閉、鼻漏、結膜充血、額の発汗、顔面発汗、縮瞳、下垂、情動不安および/もしくは激越、またはこれらの組み合わせからなる群より選択され得る。プロポフォールの投与後のこれらの症状のうちの少なくとも1つへの応答は、一次性頭痛を示す。
【0024】
本発明の好ましい実施形態によれば、プロポフォールに対する患者の応答を特定するために評価されるべき症状は、重篤な頭痛の消失、ならびに前庭の、視覚的または聴覚的症状の、特に、悪心、片頭痛前兆、羞明および聴覚障害のうちの全てまたは選択したものである。
【0025】
これらの症状は、さらに特定され得る。例えば、症状「前兆症状(aura symptom)」のより具体的な実施形態は、可逆的な前兆症状、長期の前兆症状または急性発症の前兆症状である。さらに別の実施形態において、上記応答は、視覚的、感覚的、発話、言語、運動、脳幹および/または網膜の前兆症状を含む可逆的な前兆症状から選択される前兆症状である。発明の種々の実施形態において、上記応答は、構音障害、眩暈、耳鳴、聴覚減退、複視、感覚障害によらない運動失調および/または意識レベルの低下から選択される脳幹症状におけるものである。さらに別の実施形態において、上記応答は、臨床視野検査および/または単眼視野欠損の被験体の描画を含む、可逆的な、単眼の、陽性のおよび/または陰性の視覚的現象から選択される網膜症状におけるものである。種々の実施形態において、上記応答は、当業者に公知の標準化されたスケールで評価される疼痛におけるものである。
【0026】
用語「疼痛」とは、本発明の文脈において、感覚的または感情的な経験から生じる苦悩を与える感覚に言及する。疼痛は、末梢神経系の侵害受容器によって誘発される複雑な感覚的知覚である。疼痛の認識は、中枢神経系(CNS)において処理され、解釈される。疼痛の認識と被験体の精神状態との間には、密接な相互作用が存在する。疼痛は、強いまたは有害な刺激によって引き起こされ得る。疼痛とは、一次性頭痛、片頭痛のような疾患の症状および/または疾患自体に言及し得る。疼痛は、長期間にわたって知覚され得、それによって、根底にある原因は、処置することができないか、またはほとんど処置できない、または全く特定することはできない。
【0027】
本発明によれば、プロポフォールに対する応答は、疼痛の軽減としても評価され得る。疼痛の評価に関しては、種々の方法が当業者に公知である(例えば、Alder Hey Triage Pain Score、Behavioral Pain Scale(BPS)、Brief Pain Inventory(BPI)、非言語的疼痛指標のチェックリスト(CNPI)、Clinical Global Impression(CGI)、COMFORTスケール、Color Scale for Pain、Critical-Care Pain Observation Tool(CPOT)、Dallas Pain Questionnaire、Descriptor differential scale(DDS)、Dolorimeter Pain Index (DPI)、Edmonton Symptom Assessment System、Face Legs Activity Cry Consolability scale、Faces Pain Scale-Revised(FPS-R)、Global Pain Scale、Mankoski Pain Scale、McGill Pain Questionnaire(MPQ)、Multiple Pain Rating Scales、Neck Pain and Disability Scale-NPAD、Numerical 11 point box(BS-11)、Numeric Rating Scale(NRS-11)、Oswestry Disability Index、Palliative Care Outcome Scale(PCOS)、Roland-Morris Back Pain Questionnaire、Support Team Assessment Schedule(STAS)、Wharton Impairment and Pain Scale(WIPS)、Wong-Baker FACES Pain Rating Scale、Visual analog scale(VAS)、Pediatric Pain Questionnaire(PPQ)またはPremature Infant Pain Profile(PIPP))。
【0028】
疼痛はまた、急性疼痛および慢性疼痛へのその継続期間に従って分類され得る。従って、本発明に従う診断法におけるプロポフォールの使用は、急性疼痛および/または慢性疼痛における応答を含み得る。疼痛はまた、その質および強さに従って分類され得る。情動的疼痛の質は、疼痛の主観的認識(例えば、暴力的、痺れる(paralyzing)、苦悶する、苦しむ(martyring)または恐怖がある)に言及する。感覚的疼痛認識とは、例えば、引っ張られるような、鈍い、ドリルでもみ込まれるような、刃物で刺すような、蜂に刺されたような、圧迫されるような、灼けるようなまたは殴打されるようなとして、疼痛の実際の認識に言及する。本発明によれば、ヒト被験体の応答は、情動的疼痛の質および/または感覚的疼痛の質のいずれかにもあり得る。
【0029】
さらに、疼痛は、軽度、中程度、および強度の疼痛へと分類され得る。例えば、NRS-11では、0の評価は、このスケールにおいて、疼痛なしに言及し、1~3の評価は、軽度の疼痛に言及し、4~6の評価は、中程度の疼痛に言及し、7~10の評価は、強いまたは重度の疼痛に言及する。NRS-11スケールでは、疼痛の低減は、数値の低減に相当する。従って、本発明に従う一次性頭痛の診断は、疼痛の分類の変化(例えば、プロポフォールを投与する前に、疼痛は中程度と認定され、後に、軽度に変化する)に基づき得る。
【0030】
本発明によれば、プロポフォールはまた、一次性頭痛のある特定のタイプの診断のために使用され得る。頭痛のタイプは、片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛、または一次性咳嗽性頭痛、一次性運動時頭痛、性行為に伴う一次性頭痛、一次性雷鳴頭痛、寒冷刺激による頭痛、頭蓋外からの圧力による頭痛、一次性穿刺様頭痛、貨幣状頭痛、睡眠時頭痛もしくは新規発症持続性連日性頭痛(NDPH)を含む他の一次性頭痛障害からなる群より選択され得る。最も好ましい実施形態において、片頭痛が診断される。
【0031】
片頭痛は、最も一般的な何もできない状態にする一次性頭痛障害である。片頭痛には、2つの主要なタイプ、前兆のない片頭痛および前兆のある片頭痛がある。前兆のない片頭痛は、特異的特徴および関連症状を有する頭痛によって特徴づけられる臨床症候群であるのに対して、前兆のある片頭痛は、通常は頭痛の前に現れる一過性の限局的神経症状によって主に特徴づけられる。前兆のない片頭痛における症状としては、疲労、集中することが困難、頸部の硬さ、光および/または音に対する敏感さ、悪心、かすみ目、あくびならびに蒼白が挙げられる。
【0032】
片頭痛を診断するために、好ましくは、前兆症状、脳幹症状、網膜症状空なる群より選択される少なくとも1つの症状における応答が、評価され得る(上記で詳細に概説)。より具体的には、好ましい片頭痛症状は、例えば、前兆、悪心、羞明、片側不全麻痺および音声恐怖症である。このアプローチと少なくとも1つの症状(これは、片頭痛に関連しない(「非片頭痛症状」))の評価とを組み合わせることは、有利であり得る。従って、本発明の好ましい実施形態において、片頭痛の診断は、少なくとも1つの片頭痛特異的症状に対する、および少なくとも1つの非片頭痛症状に対する被験体の応答の評価を含む。
【0033】
片頭痛に特異的な症状は、例えば、ICHD-3(Cephalalgia. 2018 Jan;38(1):1-211)のような分類または欧州頭痛連合または米国頭痛学会(AHS)の難治性頭痛分科会(RHSIS)からのガイドラインから、当業者に概して公知である。
【0034】
上記で概説されるように、被験体の応答の評価が、プロポフォールの投与後のある特定の時間枠内で達成されることは有利である。上記応答の評価は、好ましくは、上記物質の投与後240分以内に行われる。より好ましくは、上記評価は、120分以内に、最も好ましくは、プロポフォールの投与後120分以内に達成される。プロポフォールの投与後120分の評価は、片頭痛の診断において特に好ましい。しかし、特に、緊急状況において、または患者が重度の疼痛に苦しんでいる場合、早期の評価は、可能な限り早く引き続く処置を開始するために、非常に重要であり得る。従って、上記評価が、プロポフォールの投与後60分または30分以内に達成されることはまた、好ましいことであり得る。
【0035】
本発明に従う方法は、プロポフォールの有効用量を必要とする。上記用量は、プロポフォールが催眠効果または鎮静効果を誘導または維持するために使用される場合、治療上有効な用量に必ずしも同一ではない。患者の迅速な応答を得るために、治療上有効な催眠用量または鎮静用量を越える用量を投与することは、有利ですらあり得る。好ましくは、プロポフォールは、単一投与として使用される。
【0036】
本発明に従う方法における使用のためのプロポフォールは、固定用量または体重で調整した用量として与えられ得る。固定用量として、好ましくは、10~20mgが投与される。体重で調整した用量が適用される場合、好ましい用量は、0.15~0.28mg/kgである。
【0037】
本発明に従う方法における投与経路は、具体的に限定されない。任意の経路が可能である(非経口、経口、鼻、眼、耳、経粘膜または経皮的な投与を含み、例えば、口腔フィルムを介する)。最も好ましくは、プロポフォールの非経口的または経粘膜的な1回の投与である。好ましい投与形態は、頬側フィルム、特に、粘膜付着性口腔溶解フィルムである。
【0038】
本発明に従う一次性頭痛および/または片頭痛の診断後に、被験体は、当業者に公知のアプローチおよびレジメンで処置され得る。一次性頭痛の処置のための可能な有効成分は、例えば、トリプタン、ジタン(例えば、ラスミジタン)、NSAID、グルココルチコイドステロイド、サリチレートおよびその誘導体、フェニル酢酸およびその誘導体、2-フェニルプロピオン酸およびその誘導体、4-アミノフェノールおよびその誘導体、ピラゾロン、選択的COX2阻害剤、抗うつ剤、抗痙攣薬、オピオイド、筋弛緩剤、バルビツレート、ベンゾジアゼピン、エトミデート、ケタミン、プロポフォール、抗ヒスタミン薬および/または局所麻酔薬である。最も好ましいものは、プロポフォールでの引き続く処置である。
【0039】
本発明のある特定の実施形態において、プロポフォールは、頬側(粘膜付着性)フィルムの投与によって診断される被験体に投与され得る。上記投与単位の製剤は、溶媒、ポリマーおよびプロポフォールを含み得る。必要に応じて、本発明に従う投与単位の製剤は、可塑剤を含み得る。他の添加剤は、種々の目的のためにブレンドするために添加され得、増量剤、結合剤、濃化剤、軟化剤、界面活性剤、安定化剤、緩衝剤、乳化剤、崩壊剤、矯味矯臭剤、甘味剤、着色剤などが挙げられるが、これらに限定されず、これらは、利益を提供し得るが、上記投与単位マトリクスを形成するために、または上記投与単位の医薬活性のために必須ではない。
【0040】
好ましい実施形態において、上記フィルムを生成するための組成物は、以下:
(a)95重量%まで、90重量%まで、80重量%まで、70重量%まで、または60重量%までの溶媒;および
(b)35重量%まで、30重量%まで、25重量%まで、または20重量%までのポリマー;および
(c)30重量%まで、20重量%まで、10重量%まで、または5重量%までのプロポフォール;および
(d)必要に応じて、15重量%まで、10重量%まで、または5重量%までの可塑剤、
を含み;それによって、好ましくは、上記ポリマーは、親水性ポリマーである。
【0041】
好ましい実施形態において、上記フィルムを生成するための組成物は、以下:
a.溶媒: 50~95重量%;好ましくは60~85重量%、より好ましくは60~75重量%;および
b.ポリマー: 1~35重量%、好ましくは5~30重量%、より好ましくは10~25重量%、および
c.プロポフォール: 0.1~30重量%、好ましくは1~20重量%、より好ましくは1~10重量%;および
d.必要に応じて、可塑剤: 0.1~15重量%、好ましくは1~10重量%、より好ましくは2~6重量%、
を含み;それによって、好ましくは、上記ポリマーは、親水性ポリマーである。
【0042】
さらに好ましい実施形態において、上記フィルムを生成するための組成物の固形分含有量は、
a.上記固形分含有量のうちの少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%およびより好ましくは少なくとも80%(w/w)のポリマー;ならびに
b.上記固形分含有量のうちの30%まで、好ましくは25%まで、およびより好ましくは20%(w/w)までの可塑剤;ならびに
c.上記固形分含有量のうちの25%、好ましくは22.5%までおよびより好ましくは20%(w/w)までのプロポフォール、
を含み、それによって、好ましくは、上記ポリマーは、親水性ポリマーである。
【0043】
好ましくは、上記フィルムは、好ましくは、水中で溶解性である。次いで、粘膜に適用された場合、上記フィルムは溶ける。上記フィルムのこのような溶解の際に、プロポフォールは、より容易に透過し、かつ粘膜を経て浸透する。
【0044】
この実施形態の投与単位は、プロポフォールの経粘膜的全身送達に特に適している。
【0045】
上記フィルムは、好ましくは、ポリマーによって、特に、親水性ポリマーによって形成される。ポリマーは、上記投与単位の粘膜付着性に影響を及ぼし得、例えば、選択されるポリマーのタイプまたは製剤中のポリマーの比は、上記投与単位の粘膜付着性に影響を及ぼし得る。本発明の医薬調製物のフィルムは、従って、好ましくは、少なくとも1種の親水性ポリマーを含む。特に好ましい実施形態において、上記フィルムの全てのポリマーは、親水性ポリマーである。ポリマーは、粘膜付着の時間を改変するための、キトサンおよび誘導体の群から選択され得る。ポリマーは、粘膜付着を増加させることによって、滞留時間を増加させるための、キトサン、PVP、ポリアクリル酸および/またはポロキサマーの群から選択され得る。有利なことには、上記滞留時間は、ポリマーの選択によって改変され得る。優先的には、キトサンは、粘膜付着性を、従って、上記投与単位の滞留時間を増加させるための、ポリマーとして選択される。
【0046】
上記投与単位の製剤は、15重量%までのポリマー、好ましくは1~10重量%の間のポリマーを含み得る。
【0047】
本発明の好ましい実施形態において、上記フィルムの製剤は、少なくとも60%(w/w) 親水性ポリマー、さらにより好ましくは70%(w/w) 親水性ポリマーおよび最も好ましくは少なくとも80%(w/w) 親水性ポリマーからなる。
【0048】
本発明の好ましい実施形態およびその臨床評価のための試験
一次性頭痛と二次性頭痛との間の鑑別、および片頭痛の診断における診断補助としての、10~20mg プロポフォール頬側フィルム(粘膜付着性口腔溶解フィルム(mOFD))の使用に関する臨床的検証。
【0049】
1.救急救命室状況
一次性頭痛と二次性頭痛との間の鑑別を可能にする、病院の救急救命室において重度の頭痛を呈し、他の症状がない患者における多施設二重盲検試験。 インフォームド・コンセントを得た後に、50名の男性および女性(およそ30%が男性)の成人患者(18~65歳齢)は、他の点では標準的な診断プロセスにおいて、単一用量の10~20mg プロポフォール mODFを第1のステップとして投与される。患者は、投与後30分、60分、90分、および120分で頭痛の疼痛軽減を評価する。主要エンドポイントは、投与後120分での疼痛軽減である。全ての患者は、標準的な診断手段の対象である。結果を、従来の方法による頭痛の診断結果(一次性 対 二次性)と比較する。10~20mg プロポフォール ODFを使用するという診断コンセプトは、≧70% 一次性頭痛が、5%未満の偽陰性二次性頭痛形態で正確に特定される(p=0.05)のであれば、有効とみなす。
【0050】
2.片頭痛診断
集中的な片頭痛診断の過程における、片頭痛センターで頭痛発作を呈する患者の無作為化多施設プラシーボ対照二重盲検クロスオーバー試験。インフォームド・コンセントを得た後に、100名の男性および女性(およそ30%が男性)の成人患者(18~65歳齢)は、進行中の頭痛エピソードにつき10~20mg プロポフォール mODFの単一用量を投与される。患者は、全ての頭痛および非頭痛症状に関して投与後240分までに規則的な間隔で評価される。各患者は、1回の活性物質を含む医薬品(verum)および1回のプラシーボ生産品を投与される。
【0051】
本発明に従うプロポフォールの、特に、10~20mg プロポフォール mODFの使用の診断コンセプトは、活性物質を含む医薬品が、プラシーボと比較して、頭痛の疼痛および悪心または羞明または聴覚障害のような少なくとも1つの他の代表的片頭痛症状の統計的に有意な改善をもたらすのであれば、有効とみなす。
【国際調査報告】