(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-20
(54)【発明の名称】インビトロおよびインビボでのCD3+細胞における遺伝子治療産物の発現のためのプロモータ配列
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20230613BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20230613BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20230613BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20230613BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230613BHJP
C12N 15/869 20060101ALI20230613BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230613BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230613BHJP
C12N 15/19 20060101ALI20230613BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20230613BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230613BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230613BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230613BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/867 Z
C12N15/861 Z
C12N15/86 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/869 Z
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/19
C12N15/52 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022564528
(86)(22)【出願日】2021-05-19
(85)【翻訳文提出日】2022-10-24
(86)【国際出願番号】 IB2021000343
(87)【国際公開番号】W WO2021234455
(87)【国際公開日】2021-11-25
(32)【優先日】2020-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522035443
【氏名又は名称】イグザカ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】ボッシュ,セシール
(72)【発明者】
【氏名】モウレーン,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】バイヤン,ルノー
(72)【発明者】
【氏名】パシュリー,ラシェル
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA44
(57)【要約】
CD3+細胞における導入遺伝子の発現に使用するプロモータ配列が提供される。プロモータ配列は、導入遺伝子の近傍の5‘非翻訳領域のベクターに挿入することができる。プロモータはCD3+細胞における発現に選択的であり、CD3+細胞に見出される転写因子の結合部位を含有している。 このプロモータは、ポリマー封入型レンチウイルスベクターナノ粒子などのベクターに組み込むことができ、がんや感染症を治療するための遺伝子免疫療法のためにT細胞を形質導入するために使用され得る。プロモータのT細胞選択性は、インビボおよびインビトロにおける免疫療法にウイルスベクターを使用する際の安全性を向上させるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD3+細胞におけるプロモータ配列の制御下での導入遺伝子の発現に使用するためのプロモータ配列であって、配列番号2~10もしくは12~16のいずれかのヌクレオチド1501~2000、または前記配列に対して少なくとも90%の同一性を有するその変異体を含む、プロモータ配列。
【請求項2】
プロモータ配列が、配列番号2~10もしくは12~16のいずれか1つのヌクレオチド1001~2000、または前記配列に対して少なくとも90%の同一性を有するその変異体を含む、請求項1に記載のプロモータ配列。
【請求項3】
プロモータ配列が、配列番号2~10もしくは12~16のいずれか1つのヌクレオチド501~2000、または前記配列に対して少なくとも90%の同一性を有するその変異体を含む、請求項1に記載のプロモータ配列。
【請求項4】
プロモータ配列が、配列番号2~16のいずれか1つのヌクレオチド、または前記配列に対して少なくとも90%の同一性を有するその変異体を含む、請求項1に記載のプロモータ配列。
【請求項5】
プロモータ配列が、NF-カッパB、AP-1、STAT、GATA-3、およびNFATからなる群より選択される1つ以上の転写因子に対する結合配列を含む、請求項1~4のいずれかに記載のプロモータ配列。
【請求項6】
CD3-細胞と比較して、CD3+細胞においてより高いレベルで導入遺伝子を発現させることができるプロモータ配列である、請求項1~5のいずれかに記載のプロモータ配列。
【請求項7】
CD3+細胞とCD3-細胞における発現の比率が少なくとも2:1である、請求項6に記載のプロモータ配列。
【請求項8】
CD3+細胞におけるプロモータ配列の制御下での導入遺伝子の発現に使用するためのプロモータ配列であって、前記プロモータ配列は、配列番号2、 配列番号3、 配列番号7、 配列番号11、または配列番号13を含む。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のプロモータ配列を含むベクター、プラスミド、または核酸分子。
【請求項10】
ウイルスベクターである請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、または単純ヘルペスウイルスである請求項10に記載のウイルスベクター。
【請求項12】
ナノ粒子に組み込まれる、請求項9~11のいずれかに記載のウイルスベクター。
【請求項13】
ナノ粒子に組み込まれていない、請求項9~11のいずれかに記載のウイルスベクター。
【請求項14】
エンベロープが融合タンパク質を欠く、請求項9~11のいずれかに記載のウイルスベクター。
【請求項15】
前記ベクターが、キメラ抗原受容体(CAR)、チェックポイント阻害剤、サイトカイン、ケモカイン、抗体およびその抗原結合フラグメントならびにそれらの変異体、酵素、構造タンパク質およびレポーター遺伝子からなる群より選択される産物をコードする導入遺伝子を含む、請求項9~14のいずれかに記載のベクター。
【請求項16】
RNA分子である請求項9に記載の核酸分子。
【請求項17】
請求項9~16のいずれかに記載の前記ベクター、プラスミド、または核酸分子を含む細胞。
【請求項18】
ゲノム統合型ウイルスベクターを含む、請求項17に記載の細胞。
【請求項19】
前記細胞が前記ベクターのエピソームの形態を含む、請求項17に記載の細胞。
【請求項20】
請求項9~15のいずれかに記載の前記ベクターを含むナノ粒子であって、前記ナノ粒子が、CD3+細胞へのベクターの送達が可能である。
【請求項21】
前記ナノ粒子が、CD3+細胞へのナノ粒子の選択的な進入を促進する標的部位を含む、請求項20に記載のナノ粒子。
【請求項22】
前記ナノ粒子が、CD3-細胞へのベクターの送達も可能である、請求項20または21に記載のナノ粒子。
【請求項23】
前記ナノ粒子がポリマーを含む、請求項20~22のいずれかに記載のナノ粒子。
【請求項24】
前記ポリマーがポリ(β-アミノエステル)である、請求項23に記載のナノ粒子。
【請求項25】
CD3+細胞において導入遺伝子を発現させる方法であって、以下のステップを含む方法:
(a)請求項9~15のいずれかに記載のベクター、または請求項20~24のいずれかに記載のナノ粒子、およびCD3+細胞を提供するステップであって、前記ベクターが前記導入遺伝子を含んでいる、ステップ、
(b)前記細胞を前記ベクターで形質導入または核酸導入するステップ、および
(c)形質導入された細胞または核酸導入された細胞において導入遺伝子を発現するようにするステップ。
【請求項26】
前記ベクターがレンチウイルスベクターである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記CD3+細胞が、CD4+、CD4-、CD8+、またはCD8-である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
ステップ(b)が、前記ベクターをCD3+細胞およびCD3-細胞の混合物と接触させることを含み、前記CD3+細胞が選択的に形質導入される、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
ステップ(b)がインビボで行なわれる、請求項25~28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
ステップ(b)が、インビボで行われ、静脈内、腫瘍内、髄内、または腹腔内注射によるベクターの投与を含む、請求項25~28のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
請求項9~15のいずれか1項に記載のベクターの製造方法であって、CD3+細胞の形質導入に用いるベクターに、請求項1~8のいずれかに記載のプロモータ配列を付加することを含む、前記方法。
【請求項32】
前記プロモータ配列が、前記ベクターの製造に使用されるパッケージング細胞または生産者細胞における導入遺伝子の発現を支持しない、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導入遺伝子の発現に使用するプロモータ配列に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫細胞に導入された外来遺伝子の標的化された発現によって特定の部類の免疫細胞の活性を改変する能力の開発に大きな関心が持たれている。 CD3+T細胞のような特定の細胞種に所望の導入遺伝子をコードするDNAを導入するには、プラスミドやウイルスベクターなどさまざまな方法があり、これらはしばしば標的ナノ粒子のような送達媒体に包装される。しかし、たとえ導入遺伝子を所望の細胞にうまく特異的に送達できたとしても、標的細胞で十分な発現が起こるのに適した状況で導入遺伝子を提示する必要性が残る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そのため、CD3+細胞などの特定の細胞集団で必要なレベルの導入遺伝子を発現させ、免疫療法およびその他の治療パラダイムをうまく遂行できるプロモータ配列を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本技術は、CD3+T細胞における導入遺伝子の発現を促進するのに適したいくつかのプロモータ配列を提供する。プロモータ配列は、CD3+T細胞での発現を意図した導入遺伝子のオープンリーディングフレームの5‘位に配置すると、ウイルスベクターなどのベクターに使用することができる。 好ましくは、本技術のプロモータによってサポートされる発現は、CD3+T細胞に対して選択的である。例えば、該プロモータは、好ましくは、CD3+T細胞などのCD3+細胞において、CD19+、CD3-B細胞などのCD3-細胞よりも約2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、30倍、あるいは50倍または100倍高いレベルで導入遺伝子の発現をサポートする。
【0005】
本技術のプロモータは、配列番号2~16もしくは19~29のいずれかのヌクレオチド配列を含むか、またはそれらからなる、DNAもしくはRNAオリゴヌクレオチド配列などの核酸配列、あるいは配列番号2~16もしくは19~29のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の同一性を有するその配列変異体を含むか、またはそれらからなる核酸配列を含んでいる。
【0006】
本技術の他のプロモータは、配列番号2~16または19~29のいずれかの1以上のフラグメント、またはそのようなフラグメントの組み合わせが任意の順序で組み立てられ、任意にフラグメント間のリンカー配列を含むか、またはそれらからなることが可能である。 このようなフラグメントは、配列番号2~16または19~29のいずれかの連続する10個以上、15個以上、20個以上、25個以上、30個以上、40個以上、50個以上、100個以上、150個以上、200個以上、250個以上、300個以上、350個以上、400個以上、500個以上、600個以上または700個以上のヌクレオチドのいずれかであり得る。
【0007】
フラグメントは、配列番号2~16または19~29のいずれかの5‘末端または3‘末端から採取することができる。 フラグメントは、配列番号1~16および19~29のいずれかの3‘末端から始まり、5’末端に向かう、100、200、300、400、500、600または700個の連続したヌクレオチドを含むか、またはそれらから成ることができる。フラグメントは、配列番号1~10、12~16および19~29のいずれかの3‘末端から始まり、5’末端に向かう、100、200、300、400、500、600または700個の連続したヌクレオチドを含むか、またはそれらから成ることができる。
【0008】
フラグメントはまた、配列番号2~16および19~29において同定され、それらは配列番号2~16 または19~29のいずれかと組み合わせることができるか、またはそれに挿入できる、転写因子NF-カッパB、AP-1、STAT、GATA-3、およびNFATなどの転写因子の任意の結合部位、または上記に定義するそのフラグメントもしくは変異体を含むか、またはそれらからなることができる。 好ましくは、本技術のプロモータは、NF-カッパB、AP-1、STAT、GATA-3、およびNFATの1つ以上のための結合部位から選択される少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、18、または20個の転写因子結合部位を含有するか、または配列番号2~16および19~29のいずれかに示される転写因子結合部位のいずれかと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%の同一性を有するその変異体を含有する。 転写因子結合部位は、プロモータ配列内の任意のその配列における所望の位置に、任意の順序で配置することができる。また、他の転写因子の結合部位も本技術のプロモータに含めることができる。好ましいプロモータ配列は、ICOS(配列番号13)およびCTLA4(配列番号7)である。 他の好ましいプロモータ配列は、CD3+特異的プロモータのLAIR2(配列番号2)、TNFS8(配列番号3)、TCR(配列番号11)およびLTK(配列番号14)で、これらのプロモータはそれぞれ2未満のNFΚB部位、8未満のNFATボックスおよび8未満のNFΚB+AP1部位を含んでいる。
【0009】
この技術をさらにまとめると、次のような特徴がある。
1.CD3+細胞におけるプロモータ配列の制御下での導入遺伝子の発現に使用するためのプロモータ配列であって、配列番号2~10もしくは12~16のいずれかのヌクレオチド1501~2000、または前記配列に対して少なくとも90%の同一性を有するその変異体を含む、プロモータ配列である。
2.プロモータ配列が、配列番号2~10もしくは12~16のいずれか1つのヌクレオチド1001~2000、または前記配列に対して少なくとも90%の同一性を有するその変異体からなる、特徴1に記載のプロモータ配列。
3.プロモータ配列が、配列番号2~10もしくは12~16のいずれか1つのヌクレオチド501~2000、または前記配列に対して少なくとも90%の同一性を有するその変異体からなる、特徴2に記載のプロモータ配列。
4.プロモータ配列が、配列番号2~16のいずれか1つのヌクレオチド、または前記配列に対して少なくとも90%の同一性を有するその変異体からなる、特徴3に記載のプロモータ配列。
5.プロモータ配列が、NF-カッパB、AP-1、STAT、GATA-3、およびNFATからなる群より選択される1つ以上の転写因子のための結合配列からなる、特徴1~4のいずれかに記載のプロモータ配列。
【0010】
6.CD3-細胞と比較して、CD3+細胞においてより高いレベルで導入遺伝子を発現させることができるプロモータ配列である、特徴1~5のいずれかに記載のプロモータ配列。
7.CD3+細胞とCD3-細胞における発現の比率が少なくとも2:1である、特徴6に記載のプロモータ配列。
8.CD3+細胞におけるプロモータ配列の制御下での導入遺伝子の発現に使用するためのプロモータ配列であって、該プロモータ配列は配列番号2、 配列番号3、 配列番号7、 配列番号11、または配列番号13を含む。
9.特徴1~8のいずれかに記載のプロモータ配列を含むベクター、プラスミド、または核酸分子。
10.ウイルスベクターである特徴9に記載のベクター。
11.レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、または単純ヘルペスウイルスである特徴10に記載のウイルスベクター。
12.ナノ粒子に組み込まれる、特徴9~11のいずれかに記載のウイルスベクター。
【0011】
13.ナノ粒子に組み込まれない、特徴9~11のいずれかに記載のウイルスベクター。
14.エンベロープが融合タンパク質を欠く、特徴9~11のいずれかに記載のウイルスベクター。
15.前記ベクターが、キメラ抗原受容体(CAR)、チェックポイント阻害剤、サイトカイン、ケモカイン、抗体およびその抗原結合フラグメントならびにそれらの変異体、酵素、構造タンパク質およびレポーター遺伝子からなる群より選択される産物をコードする導入遺伝子を含む、特徴9~14のいずれかに記載のベクター。
16.RNA分子である特徴9に記載の核酸分子。
17.特徴9~16のいずれかに記載の前記ベクター、プラスミド、または核酸分子を含む細胞。
18.ゲノム統合型ウイルスベクターからなる、特徴17に記載の細胞。
19.細胞がベクターのエピソームの形態を含む、特徴17に記載の細胞。
【0012】
20.特徴9~15のいずれかに記載のベクターを含むナノ粒子であって、ナノ粒子が、CD3+細胞へのベクターの送達が可能である。
21.ナノ粒子が、CD3+細胞へのナノ粒子の選択的な進入を促進する標的部位を含む、特徴20に記載のナノ粒子。
22.ナノ粒子が、CD3-細胞へのベクターの送達も可能である、特徴20または21に記載のナノ粒子。
23.ナノ粒子がポリマーからなる、特徴20~22のいずれかに記載のナノ粒子。
24.ポリマーがポリ(β-アミノエステル)である、特徴23に記載のナノ粒子。
【0013】
25.CD3+細胞において導入遺伝子を発現させる方法であって、以下のステップを含む方法:
(a)特徴9~15のいずれかに記載のベクター、または特徴20~24のいずれかに記載のナノ粒子、およびCD3+細胞を提供するステップであって、前記ベクターが前記導入遺伝子を含んでいる、ステップ、
(b)細胞をベクターで形質導入または核酸導入するステップ、および
(c)形質導入された細胞または核酸導入された細胞において導入遺伝子が発現されるようにするステップ。
26.ベクターがレンチウイルスベクターである、特徴25に記載の方法。
27.前記CD3+細胞が、CD4+、CD4-、CD8+、またはCD8-である、特徴25に記載の方法。
28.ステップ(b)が、ベクターをCD3+細胞およびCD3-細胞の混合物と接触させることを含み、CD3+細胞が選択的に形質導入される、特徴25に記載の方法。
【0014】
29.ステップ(b)がインビボで行なわれる、特徴25~28のいずれかに記載の方法。
30.ステップ(b)が、インビボで行われ、静脈内、腫瘍内、髄内、または腹腔内注射によるベクターの投与を含む、特徴25~28のいずれかに記載の方法。
31.特徴9~15のいずれか1つに記載のベクターの製造方法であって、CD3+細胞の形質導入に用いるベクターに、特徴1~8のいずれかに記載のプロモータ配列を付加することを含む、前記方法。
32.プロモータ配列が、ベクターの製造に使用されるパッケージング細胞またはプロデューサー細胞における導入遺伝子の発現を支持しない、特徴31に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1A、1B、1Cは、異なるヒトT細胞特異的プロモータの制御下で緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするレンチウイルスベクター(LV)を用いて得られたインビボの結果である。フローサイトメトリーにより分析した、HEK293T細胞(
図1A)、Ramos細胞(
図1B)、Jurkat細胞(
図1C)の導入後72時間における各試験プロモータに対する導入効率を示す。対照細胞は形質導入せず(NT)、実験中ずっと培養しておき、陽性対照はGFPの発現を駆動するためにユビキタスCMVプロモータを運ぶLVで形質導入された細胞によって得られた。各プロモータについて、3種類の複数感染(MOI)を評価した。
【
図1B】
図1A、1B、1Cは、異なるヒトT細胞特異的プロモータの制御下で緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするレンチウイルスベクター(LV)を用いて得られたインビボの結果である。フローサイトメトリーにより分析した、HEK293T細胞(
図1A)、Ramos細胞(
図1B)、Jurkat細胞(
図1C)の導入後72時間における各試験プロモータに対する導入効率を示す。対照細胞は形質導入せず(NT)、実験中ずっと培養しておき、陽性対照はGFPの発現を駆動するためにユビキタスCMVプロモータを運ぶLVで形質導入された細胞によって得られた。各プロモータについて、3種類の複数感染(MOI)を評価した。
【
図1C】
図1A、1B、1Cは、異なるヒトT細胞特異的プロモータの制御下で緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするレンチウイルスベクター(LV)を用いて得られたインビボの結果である。フローサイトメトリーにより分析した、HEK293T細胞(
図1A)、Ramos細胞(
図1B)、Jurkat細胞(
図1C)の導入後72時間における各試験プロモータに対する導入効率を示す。対照細胞は形質導入せず(NT)、実験中ずっと培養しておき、陽性対照はGFPの発現を駆動するためにユビキタスCMVプロモータを運ぶLVで形質導入された細胞によって得られた。各プロモータについて、3種類の複数感染(MOI)を評価した。
【0016】
【
図2A】
図2A、2B、2Cは、異なるヒトT細胞特異的プロモータの制御下でGFPをコードするレンチウイルスベクター(LV)をヒトPBMCに形質導入した後に得られたインビボの 結果を示す。総合CD45+細胞(
図2A)、CD19+細胞(
図2B)、CD3+細胞(
図2C)のいずれかのフローサイトメトリーにより、形質導入後72時間における各試験プロモータについて形質導入効率を測定した。対照細胞(NT)は形質導入されなかったが、実験中ずっと活性化され培養されたままだった。
【
図2B】
図2A、2B、2Cは、異なるヒトT細胞特異的プロモータの制御下でGFPをコードするレンチウイルスベクター(LV)をヒトPBMCに形質導入した後に得られたインビボの 結果を示す。総合CD45+細胞(
図2A)、CD19+細胞(
図2B)、CD3+細胞(
図2C)のいずれかのフローサイトメトリーにより、形質導入後72時間における各試験プロモータについて形質導入効率を測定した。対照細胞(NT)は形質導入されなかったが、実験中ずっと活性化され培養されたままだった。
【
図2C】
図2A、2B、2Cは、異なるヒトT細胞特異的プロモータの制御下でGFPをコードするレンチウイルスベクター(LV)をヒトPBMCに形質導入した後に得られたインビボの 結果を示す。総合CD45+細胞(
図2A)、CD19+細胞(
図2B)、CD3+細胞(
図2C)のいずれかのフローサイトメトリーにより、形質導入後72時間における各試験プロモータについて形質導入効率を測定した。対照細胞(NT)は形質導入されなかったが、実験中ずっと活性化され培養されたままだった。
【0017】
【
図3A】
図3Aは、パッケージングプラスミド(pARA-pack)およびプロウイルスプラスミド(pARA-hUBC-CAR-CD19)をトランスフェクションした72時間後のLV293産生細胞におけるCD19 CARの発現量を示す。CD19 CARの発現は、CAR CD19検出試薬と抗ビオチン二次抗体(α-ビオチン)を用いたフローサイトメトリーにより測定した。対照細胞は2つのプラスミドで核酸導入せず、抗ビオチン抗体のみでバックグラウンド染色を評価した。
【
図3B】
図3Bは、ユビキタスプロモータCMVおよびhUBCの制御下でGFPまたはCD19 CARをそれぞれコードするPBAEカプセル化VSV-G-(「はげた」)LVまたは非カプセル化VSV-G-(「はげた」)LVでPBMCを形質導入した後の異なる導入遺伝子(GFPおよびCD19 CAR)の発現レベルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
本技術は、CD3+細胞で所望の導入遺伝子を発現させるために使用するプロモータ配列を提供する。各プロモータ配列は、導入遺伝子を発現させるためのベクターに、導入遺伝子配列のすぐ上流、導入遺伝子に最も近接した5’位の非翻訳領域に挿入することができる。このプロモータはCD3+細胞での発現に特異的であり、遺伝子導入や免疫療法、特にベクターを患者に導入するin vivo療法に用いる場合の安全性と特異性の高レベルを追加する。
【0019】
本技術の一態様は、CD3+細胞における導入遺伝子の発現に使用するためのプロモータ配列である。プロモータ配列は、配列番号2~10もしくは12~16のいずれかの少なくともヌクレオチド1501~2000またはその変異体を含む。 あるいは、プロモータ配列は、配列番号2~10もしくは12~16のいずれか1つのヌクレオチド1001~2000、配列番号2~10もしくは12~16のいずれか1つのヌクレオチド501~2000、または配列番号2~10もしくは12~16のいずれか1つのヌクレオチド1~2000、もしくはこれらのいずれかの配列変異体を含むことが可能である。 さらなるプロモータ配列は、配列の3’末端から始まり5’方向に伸びるヌクレオチドの1つ以上のブロックを含むことによって、配列番号2~16のいずれか、またはその変異体から誘導することができ、ヌクレオチドのそのようなブロックは、200、300、400、500、600、700、またはそれ以上のヌクレオチドを含み、5‘末端の配列の第1のヌクレオチドの最大まで伸長し得る。例えば、実施例8に記載された配列番号19~29を参照されたい。上記のような配列変異体は、記載の配列またはその相補体に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有することが可能である。
【0020】
本技術のプロモータ配列の別の態様は、NF-カッパB、AP-1、STAT、GATA-3、およびNFATからなる群から選択される1つ以上の転写因子、または別の転写因子に対する結合配列を含有することができることである。転写因子結合部位は、プロモータ配列内で、任意の組み合わせ、任意の位置、任意の順序で存在することができる。プロモータ配列またはプロモータ候補配列における転写因子結合部位を同定するためのオンラインツールは、http://alggen.lsi.upc.es/cgi-bin/promo_v3/promo/promoinit.cgi?dirDB=TF_8.3 で利用可能である。
【0021】
本技術のプロモータ配列のさらに別の態様は、CD3-細胞と比較して、CD3+細胞における導入遺伝子のインビトロ またはインビボ発現を選択的に促進することができることである。例えば、CD3-細胞に対するCD3+細胞の発現比率は、少なくとも2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1、15:1、20:1、またはさらに50:1もしくは100:1、もしくはそれ以上であり得る。プロモータ配列は、CD4+またはCD4-であるCD3+細胞、CD8+またはCD8-であるCD3+細胞、あるいはCD4+ CD8+またはCD4- CD8-であるCD3+細胞における導入遺伝子の発現を促進することができる。
【0022】
本技術のさらに別の態様は、上述したいずれかのプロモータ配列を含有するベクターである。ベクターは、例えば、レンチウイルスベクター(LV)などのウイルスベクターであることができる。ベクターはまた、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるWO2019/145796A2に記載されるような、ベクター粒子の表面にウイルス融合タンパク質を欠く「はげた」レンチウイルス・ベクター、または他のウイルスベクターであり得る。遺伝子導入ビークルとして使用されるレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、単純ヘルペスウイルスなどの他のウイルスベクターは、上記のプロモータ配列を組み入れることができます。ベクターは、免疫療法に用いられる細胞や、組換えタンパク質の生産に用いられる細胞などに存在させることができる。本技術のプロモータはまた、プラスミドまたはmRNA分子を含むRNA分子などの核酸分子に、その制御下にある1つ以上の導入遺伝子とともに、細胞に送達させるためにパッケージすることができる。ベクター、プラスミド、または核酸分子は、ポリマーカプセル化ベクターを含むか、またはポリマーカプセル化ベクターからなるナノ粒子を含む、ポリマー含有ナノ粒子などのナノ粒子にパッケージすることができる。このようなナノ粒子のポリマーは、オリゴペプチドのエンドキャップを含有するPBAEポリマーを含む、ポリ(β-アミノエステル)であることができる。ベクターには、標的細胞で発現させるための導入遺伝子を含有する。導入遺伝子は、CD4+細胞、CD8+細胞、NK細胞、Th細胞、またはTreg細胞を含むT細胞またはT細胞のサブ集団の活性を高めることに関与する免疫療法を意図する遺伝子を含む、任意の遺伝子であり得る。
【0023】
本技術のプロモータは、任意の導入遺伝子の発現を促進するために用いることができるが、導入遺伝子は、例えば、CTLA―4、PD1、PDL1、LAG-3、TIM 3、B7-H3、ICOS、IDO、4-1BB、またはCD47の阻害剤などの抗チェックポイントタンパク質またはポリペプチドをコードすることができる。導入遺伝子は、その代わりに、腫瘍抗原や細菌、ウイルス、酵母、寄生虫などの病原体表面の抗原など、任意の所望の抗原に対する結合特異性を有するキメラ抗原受容体(CAR)をコードすることができる。CARは、CAR結合用のドメインと、腫瘍抗原や細菌、ウイルス、酵母、寄生虫などの病原体表面の抗原との結合に適した抗原結合ドメインを有するアダプター分子に結合する、万能CARとすることができる。導入遺伝子は、免疫反応を誘発し、ワクチンとして機能することができるタンパク質またはタンパク質の組み合わせとすることができる。誘発された免疫応答は、予防的または治療的であり得、細菌、ウイルス、その他の微生物病原体、または癌細胞、あるいは被験者の体内に見出された別の望ましくない細胞タイプに対する免疫応答を刺激することができる。
【0024】
本技術の別の態様は、CD3+細胞において導入遺伝子を発現させる方法である。本方法は、以下のステップを含む:(a)上記のようなベクターまたはナノ粒子およびCD3+細胞を提供するステップ;(b)ベクターまたはナノ粒子で、インビトロまたはインビボのいずれかで、細胞を形質導入するステップ、および(c)形質導入された細胞において導入遺伝子が発現されるようにするステップ。ベクターまたはナノ粒子は、導入遺伝子、およびその遺伝子の近傍の5’位の非翻訳領域に上述したようなプロモータを含む。
本技術のさらに別の態様は、上記のベクターを製造する方法である。本方法は、CD3+細胞の形質導入に用いるベクターに、上述したプロモータ配列のいずれかを付加することを含む。
【実施例】
【0025】
実施例1:T細胞プロモータの制御下にある導入遺伝子を含有するレンチウイルスベクターの作製。
異なるバッチのレンチウイルスベクター(LV)を調製し、導入遺伝子の発現を調べるためにインビトロで試験した。LVは以下の材料と方法で作製した。
【0026】
T細胞プロモータの選択
Tリンパ球は、CD3-陽性の免疫細胞の多様な集団を表し、主な種類として、細胞毒性T細胞(CD8+、Tc細胞)、ヘルパーT細胞(CD4+、Th細胞)、制御性T細胞(Tregs)がある。CD3受容体を発現する造血系には、様々な分化の段階の未熟な集団(CD4+/CD8-、CD4-/CD8+、CD4+/CD8+)や、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)を起源とする自然リンパ系細胞も含まれている。
CD3陽性細胞に特異的に発現するプロモータを直交する手法で設計した。CD3+細胞で過剰発現させるために、15個のプロモータのセットを選択した(配列番号2~16);これらのプロモータを表1に示す。このうち、3つのプロモータ(配列番号8、12、15)は、TregおよびB細胞で部分的に抑制されていることが文献に説明されている。
【0027】
T細胞プロモータの分子クローニング
プロモータはMluIとBamHI制限部位で挟まれた合成遺伝子としてオーダーされ、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)の上流でトランスファーベクタープラスミドpARA-CMV-GFPにサブクローン化された。CMVプロモータ(配列番号:1)は、ユビキタスな方法で高レベルで導入遺伝子の発現を駆動するので、参照物質として選択された。配列番号3、4、5については、プロモータ領域内にBamHIサイトが存在するため、MluIおよびBglIIサイトをフランキングサイトとして選択した。
同じ戦略で、細胞アッセイで実証されたT細胞特異的活性を持つプロモータを、ヒトCD19抗原に特異的なキメラ抗原受容体(CAR)をコードするORFの上流の第2のトランスファーベクタープラスミドpARA-hUBC-CAR-CD19にサブクローン化した。
【0028】
【0029】
素材
トランスファーベクタープラスミドは、pARA-XXX-GFP と pARA-XXX-CAR-CD19であった。プロウイルス(HIV-1、NL4-3株由来の非病原性・非複製型遺伝子組み換えプロウイルスDNA)をコードするカナマイシン耐性プラスミドで、GFPまたはCAR CD19をコードする発現カセットがクローニングされている。このインサートには、導入遺伝子、導入遺伝子発現のためのプロモータ、導入遺伝子の発現を増加させ、レンチウイルスベクターが非正常細胞を含むあらゆる種類の細胞を形質導入できるようにするために加えられた配列が含まれていた。プロモータは、ヒトT細胞プロモータ、またはエンハンサー配列を除いたCMVプロモータであった。非コード配列と発現シグナルは、5’LTRはシスアクティブな要素を全て含むロング・ターミナル・リピート配列(LTR)(U3-R-U5)に、3’LTRはプロモータ領域を欠くため削除したもの(ΔU3-R-U5)に対応した。転写および統合実験のために、カプセル化配列(SDおよび5’Gag)、ベクターの核内転位のための中央ポリプリン体トラクト/中央終結部位、およびBGHポリアデニル化部位を追加した。
【0030】
パッケージングプラスミドはpARA-Packであった。カナマイシン耐性プラスミドには、レンチウイルス・プロウイルスのカプセル化にトランスで使用される、構造レンチウイルスタンパク質(GAG、POL、TAT、REV)をコードした。コード化配列はポリシストロン遺伝子gag-pol-tat-revに対応し、構造タンパク質(マトリックスMA、カプシドCAおよびヌクレオカプシドNC)、酵素タンパク質(プロテアーゼPR、 インテグラーゼINおよびリバーストランスクリプターゼ RT)および制御タンパク質(TAT および REV)をコードしていた。非コード配列および発現シグナルは、転写開始のためのCMVからの最小プロモータ、転写停止のためのインスリン遺伝子からのポリアデニル化シグナル、パッケージングRNAの核エキスポートに関係するHIV-1Rev応答配列(RRE)に対応していた。
【0031】
エンベローププラスミドは、使用する場合はpENV1であった。このカナマイシン耐性プラスミドは、レンチウイルスベクターの一部のシュードタイピングに使用した水疱性口内炎ウイルス(VSV-G)インディアナ株の糖タンパク質Gをコードしていた。VSV-G遺伝子は、ヒト細胞での発現にコドン最適化され、pVAX1プラスミド(Invitrogen社製)にクローン化された。コード配列はコドン最適化されたVSV-G遺伝子に対応し、非コード配列と発現シグナルは、転写開始のためのCMVからの最小プロモータと、RNAを安定化するためのBGHポリアデニル化部位に対応していた。
【0032】
VSV-Gの製造-(”はげた”)レンチウイルスベクター粒子の作製
【0033】
LV293細胞を、1000mLのLV-Max Production Medium(Gibco Invitrogen社製)中の2 X 3000mLエルレンマイヤーフラスコ(Corning社製)中で5x105 細胞/mLで播種した。2つのエルレンマイヤーを37℃、65rpm、8 %CO2加湿下で培養した。播種翌日、一過性のトランスフェクションを行った。PEIProトランスフェクタント試薬(PolyPlus Transfection、Illkirch、フランス)を、トランスファーベクタープラスミド(pARA-CMV-GFPまたはpARA-XXX-GFPまたはpARA-XXX-CAR-CD19)および包装プラスミド(pARA-Pack)と混合した。室温で培養した後、PEIPro/Plasmidの混合物を細胞株に滴下し、37℃、65rpm、8%CO2加湿下で培養した。3日目、レンチベクター作製は最終濃度5 mMの酪酸ナトリウムで刺激された。このバルク混合物を37℃、65rpm、加湿8%CO2下で24時間培養した。5μmと0.5μmで深層ろ過(Pall Corporation製)によって清澄化した後、清澄化したバルク混合物を室温で1時間培養し、DNase処理を行った。
【0034】
レンチベクターの精製はQ mustang membrane (Pall Corporation製)を用いたクロマトグラフィーで行い、NaCl 勾配で溶出させた。接線流ろ過は100 kDaのHYDROSORT膜(Sartorius社製)で行い、容量を減らし、pH7の特定のバッファーで調製し、少なくとも2年間の安定性を確保することができた。0.22 μm (Millipore社製) で無菌ろ過した後、バルク製剤を2 mL ガラスバイアルに1 ml 未満のアリコートを充填し、ラベルを付けて冷凍保存し、< -70℃ で保存した。
【0035】
はげたLV数は、p24 ELISAとqRT-PCRの2つの方法による物理的力価定量で評価した。p24 ELISAは、レンチウイルスに関連するHIV-1 p24コアタンパク質のみを検出・定量することにより行った(Cell Biolabs Inc.製)サンプルを前処理することで、遊離したp24と破壊されたレンチベクターを区別することができる。qRT-PCRは、Nucleospin RNAウイルスキット(Macherey Nagel社製)でレンチウイルスRNAを精製し、Lenti-X qRT-PCR 滴定キット(Takara社製)で定量することにより行った。各LVバッチについて、物理的力価、粒子径、粒度分布をナノ粒子トラッキングアナライザーと動的光散乱法(それぞれViewsizer 3000とNanoPartica SZ-100V2装置、Horiba Instruments Inc製、 米国)で測定した。分析は、LVを製剤用緩衝液で希釈(DLSは10倍、NTAは300倍)した後、室温で行ったが、サンプルの生物物理学的特性に影響を与えないようにろ過は行わなかった。結果は、各装置の制御用堀場製作所製ソフトウエアを用いて決定した。
VSV-Gの製造-(”類似型”)レンチウイルス・ベクター粒子の作製
【0036】
PEIProトランスフェクタント試薬 (PolyPlus社製、 115-010)を、トランスファーベクタープラスミド(pARA-CMV-GFPまたはpARA-XXX-GFPまたはpAra-XXX-CAR-CD19)、包装プラスミド(pARA-Pack)およびエンベローププラスミド(pENV1)と混合した以外は上記と同様の方法を用いた。擬似型レンチベクターに対する滴定は、バイオプロダクションの際に得られた清澄バルクをHEK293T細胞(8x105細胞/ウェル)に形質導入して3日後に定量PCRによって行った。
【0037】
表2に示すように、これらのプロモータ領域が著しく長いにもかかわらず、生産収量はCMVプロモータを用いて得られたものと概ね同程度の効果を示した。すべてのコンストラクトにおいて、力価は少なくとも107TU/mLの範囲にあり、異なる生産ステップ間で一貫していた。配列番号4と8をベースにしたプロモータで最も低い力価が得られた。生産収量が低いと将来的に工業化が困難になるため、生産収量はプロモータの選定基準となっている。いずれにせよ、工業的なバイオプロダクションに影響を与えるような問題は見られなかった。
【0038】
表2:バイオインフォマティクスアプローチによりCD3陽性細胞で発現することが確認された14のヒトプロモータの制御下でGFPをコードする擬似型LVについて得られた生産収量の概要。
【0039】
【0040】
実施例2:T細胞プロモータの制御下で導入遺伝子を含有するレンチウイルスベクターによるHEK293T、RamosおよびJurkat細胞の形質導入。
バイオインフォマティクスツールで同定した15個のプロモータのCD3特異的活性を調べるため、所定のプロモータの制御下で緑色蛍光タンパク質(GFP)を導入した疑似型レンチウィルス・ベクターを用いて、異なるヒト細胞型を形質導入し、GFP発現を解析した。これらの研究は、CD3陽性のJurkat(急性T細胞白血病ヒト細胞株 - ATCC TIB-152)、CD3陰性のRamos(バーキットリンパ腫ヒト細胞株 - ATCC CRL-1596)および非リンパ球のHEK293T(ヒト胚腎細胞株 - ATCC CRL-1573)を用いて実施された。
【0041】
HEKT293細胞を10% FBS (Gibco Invitrogen社製)、 1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM培地(Gibco Invitrogen社製)にウェル当たり8x104個の細胞密度で24ウェルプレートに播種し、4時間インキュベートして固着させた。その後、培地を300μLのレンチウイルベクター(MOI1、5または10)で置き換えて、培養培地または培養培地(NTコントロール)中で細胞を形質導入し、その後37℃、5%CO2下で2時間インキュベートした。 吸着後、各ウェルに1mLの完全培地を添加した。形質導入後72時間目に細胞をトリプシン処理し、200μLのCellfix 1Xに再懸濁した後、BL1チャンネルを用いてAttune NxTフローサイトメーター(ThermoFisher社製)でGFPを発現する細胞のパーセンテージを測定した。
【0042】
JurkatとRamos細胞を10%FBS(Gibco Invitrogen社製)、 1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したRPMI-1640培地(Gibco Invitrogen社製)中にウェル当たり8x104個の細胞密度で24ウェルプレートに播種した。その後、培養培地中、または培養培地単独(NTコントロール)で培地を300μLのレンチウイルスベクター(感染数(MOI)10、30、50)で置き換えて、細胞を形質導入させた。37℃,5%,CO2下で2時間培養した後,500μLの新鮮な完全培地を各ウェルに加えた。GFP導入遺伝子を発現している細胞の割合は、BL1チャンネルを使用したAttune NxTフローサイトメーターで形質導入後72時間後に測定された。
【0043】
生細胞とGFP陽性細胞の割合は、デブリ除外/生存/単細胞でゲーティングすることにより測定された。グラフ化されたデータは、代表的な実験の3連の平均を表す。
【0044】
図1A(HEK293T細胞), 1B(Ramos CD3-細胞), 1C(Jurkat CD3+細胞)に示した結果から、全ての細胞種において、プロモータ間で発現パターンの違いが観察されたことがわかる。 ユビキタスCMVプロモータで観察されたレベルより低いものの、有意なGFP発現(10%以上)は、3つの試験したMOIで、ヒトCD3陰性リンパ球(ラモス細胞)および非リンパ球細胞(HEK293T)において、プロモータZAP70(配列番号:5)、BCL11B(配列番号6)、TCF7(配列番号8)、TIGIT(配列番号9)、GIMAP7(配列番号10)およびEOMES(配列番号12)で測定し、CD3陽性細胞に特異性がないことを除外していた。
【0045】
TNFS8(配列番号:3), UBASH3(配列番号:4), CTLA4(配列番号:7), ICOS(配列番号:13) およびLCK(配列番号:14) プロモータは、CD3陽性Jurkat細胞において、CMVプロモータと同等のレベルの最高のGFP発現(MOI 10で40 %以上)を駆動していることを示した。しかし、これらのプロモータを持つCD3陰性細胞では、バックグラウンドのGFP発現(5-10 %のGFP陽性細胞)が検出された。プロモータLAIR2(配列番号2)、TCR(配列番号11) およびITK(配列番号15) により、用量依存的かつ厳密にCD3陽性Jurkat細胞に限定したGFP発現が達成された。これら最後の3つのプロモータのCD3特異的活性は、より弱いGFPの発現をもたらし、MOI50で最大値45 %に達した。
注目すべきは、テストしたプロモータのいずれも、形質導入された細胞の生存率に影響を及ぼさなかったことである(データは示されていない)。
【0046】
実施例3:T細胞プロモータの制御下にある導入遺伝子を含むレンチウイルスベクターを用いたヒトPBMCの形質導入。
ヒトPBMCの精製
末梢血単核細胞(PBMC)は、健康なドナー(Etablissement Francais du Sang, Division Rhones-Alpes社製)から入手したバフィーコートから分離された。血液をDPBSで希釈した後、PBMCをFICOLL密度勾配(GEヘルスケア社)上で分離し、DPBSで2回洗浄した。その後、ACK溶解バッファー(Gibco社)中でPBMCを5分間インキュベートし、さらにDPBS洗浄を行う間に残留赤血球を溶解させた。BMCは10%DMSO(Sigma社)、90 % FBS(Gibco社)中で20x106細胞/mLの密度で凍結し、使用時まで-150℃で保存した。
【0047】
VSV-G+(擬似型)レンチウイルスベクターによるPBMCの活性化と形質導入
実施例2でスクリーニングした6つのプロモータのCD3特異的活性を、所定のプロモータの制御下でGFP導入遺伝子を導入したLVで以って、ヒト静止細胞内にて評価し、あらかじめ凍結したヒトPBMCに形質導入した。解凍したヒトPBMCを10% FBS(Gibco社) と1% ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco社) を含むRPMI培地に細胞当たり1x106ウェルの密度で24ウェルプレートに播種し、CD3-CD28 Dynabeads(Gibco社) 存在下で活性化して37と5%CO2下で72時間インキュベートした。次に、活性化したPMBCをプールし、1X105個の細胞の密度で24ウェルプレートの培養培地または培養培地のみ(NTコントロール)中で、カプセル化した偽型LV(20、50または100のMOIで)で形質導入した。37℃、5%CO2下で2時間培養した後,500μLの新鮮な培養液(Gibco Invitrogen社製)を各ウェルに加え、72時間培養した。GFPを発現している細胞の割合は、Attune NxTフローサイトメーターを用いて形質導入後72時間後に測定した。GFP導入遺伝子を発現する形質導入細胞の表現型は、製造元の指示(Biolegend社):CD3-AF700, CD14-PE-Cy7, CD16-BV711, CD19- BV605, CD45-BV510, CD56-BV421 およびZombie NIRによる生死識別、に従い、以下の細胞種に特異的な抗体を用いたフローサイトメトリー染色により決定した。4℃で30分間インキュベートした後、細胞を500×gで 2分間遠心分離し、CellFix溶液(BD Biosciences社製)で固定した。BL1(GFP), RL2(AF700色素), RL3(Zombie NIR), VL1(BV421 色素), VL2(BV510 dye), VL3(BV605 dye), VL4(BV711色素) および YL4(PE-Cy7 色素) チャンネルのフローサイトメトリー(AttuneNXT; Invitrogen, Inc) によって蛍光陽性細胞のカウントをした.細胞の表現型は、CD45+、生存細胞、単一細胞について以下のように定義した。Tリンパ球(CD3+-CD19-)、Bリンパ球(CD3--CD19+)、NK細胞(CD3--CD19--CD56+)、単球(CD14+)および顆粒球(SSChigh-CD16+)である。
【0048】
図に示した結果2A(全CD45+ PBMC)、2B (PBMC中CD19+ 細胞 ) および 2C(PBMC中CD3+ 細胞 ) は、試験したプロモータで得られたGFP発現パターンの違いを示している。最も高いGFP発現(40%以上)は、全CD45+PBMCに対して、プロモータCTLA4(配列番号7)およびICOS(配列番号13)を有する2つの試験済みMOIおけるゲートが設けられたCD3+ T細胞間で測定された。しかしLAIR2(配列番号2)、LCK(配列番号:14)、 TCR(配列番号:11)、TNPS8(配列番号:3)ではCD3+細胞株に対するよりもCD3+一次細胞におけるGFP発現の方が弱い(20%以下)ことがわかった。また、MOI100のLCK(配列番号14)のみ、CD19+細胞にCMVと同レベルのGFP発現を誘発することが示された。他の選択されたプロモータはCMVより弱いGFP発現となり、細胞株、一次サンプルともにCD3+選択性が確認された。注目すべきは、テストしたプロモータのいずれも、形質導入された細胞の生存率に影響を及ぼさなかったことである(データは示されていない)。
【0049】
実施例4:PBAE-カプセル化VSV-G-(”はげた”)LVを用いた一次リンパ球およびPBMCの形質導入。
実施例2および3でスクリーニングしたプロモータのCD3特異的活性を、所定のプロモータの制御下でGFP導入遺伝子を運ぶPBAEカプセル化はげたLVを用いてヒト静止細胞において評価し、ヒトPBMCに形質導入した。PBMCは、健康なドナー(Etablissement Francais du Sang, Division Rhones-Alpes)から得たバフィーコートから、あるいはLonzaおよびCALYM Network(Centre Hospitalier Lyon-Sud, France) バイオバンクで入手できる精製・冷凍細胞としてのリンパ腫患者の血液サンプルから分離したものである。
【0050】
ヒトPBMCの精製
新鮮な血液をDPBSで希釈した後、PBMCをFICOLL密度勾配(GEヘルスケア社)上で分離し、DPBSで2回洗浄した。その後、ACK溶解バッファー(Gibco社)中でPBMCを5分間インキュベートし、さらにDPBS洗浄を行う間に残留赤血球を溶解させた。PBMCは10% DMSO(Sigma社)、90% FBS (Gibco社)中で20x106 細胞/mL の密度で凍結し、使用時まで-150℃で保存した。
【0051】
PBAEの形質導入-VSV-G-(はげた)レンチウイルスベクターのカプセル化
一般に非分裂細胞はLVでの形質導入が困難であるため(サイトカインやCD3-CD28の活性化なしで)、代わりにオリゴペプチド修飾ポリ(β-アミノエステル)ポリマーがトランスフェクション剤として使用されている。OM-PBAEは、遺伝物質(プラスミドまたは他の核酸分子)を真核細胞に送達できるポリマーカプセル化ビヒクルを形成するトランスフェクション剤として既に文献に記載されている(US2016/0145348A1, Mangravitiet al. 2015,Andersonet al. 2004、WO2016/116887)。OM-PBAEは、形質導入不全のレンチウイルスベクターをコーティングし、レポーター遺伝子(緑色蛍光タンパク質-GFPおよびmCherry)およびCARを含む様々な導入遺伝子を安定的に発現するようにヒト細胞を遺伝子操作するのに首尾よく使用された(WO2019/145796を参照)。以下のカプセル化実験に使用したポリマーは、荷電ペプチドと結合したポリ(β-アミノエステル)(PBAE)である。ポリマーPBAE-CR3は、ペプチドCRRR(配列番号:17(両末端が同じペプチド))に結合したPBAEを意味する。PBAE-CH3ポリマーは、ペプチドCHHH(配列番号:18)に結合したPBAEを意味する。これらのOM-PBAEを60/40のモル比で混合して試験する。
【0052】
ヒトPBMCは、10%FBSおよび1% ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI培地中で、1x105 細胞/ウェルの密度で24ウェルプレートに播種される。その後、培地を100~300μLの培養液中にカプセル化した偽型LVまたは培養液のみ(NTコントロール)で置き換えることにより、細胞を形質導入する。37℃,5%CO2下で2時間培養した後、600μLの新鮮な完全培地を各ウェルに加えた。GFPを発現している細胞の割合は、BL1チャンネルを使用したAttune NxTフローサイトメーターで形質導入後72時間で測定された。GFP導入遺伝子を発現する形質導入細胞の表現型は、製造元の指示に従い、以下の細胞種に特異的な抗体を用いたフローサイトメトリー染色により決定した(Biolegend社):CD3-AF700, CD14-PE-Cy7, CD16-BV711, CD19- BV605, CD45-BV510, CD56-BV421 および生死識別のためのZombie NIR。4℃で30分間インキュベートした後、細胞を500×gで 2分間遠心分離し、CellFix溶液(BD Biosciences社製)で固定した。BL1(GFP), RL2(AF700色素), RL3(Zombie NIR), VL1(BV421 色素), VL2(BV510 dye), VL3(BV605 dye), VL4(BV711 色素) および YL4(PE-Cy7 色素) チャンネルに対するフローサイトメトリー (AttuneNXT; Invitrogen社) によって蛍光陽性細胞のカウントをした.細胞の表現型は、CD45+、生存細胞、単一細胞について以下のように定義した。Tリンパ球(CD3+-CD19-)、Bリンパ球(CD3--CD19+)、NK細胞(CD3--CD19--CD56+)、単球(CD14+)および顆粒球(SSChigh-CD16+)である。
【0053】
最後に、この一連の実験は、細胞内GFPの発現に最も厳しいCD3特異的活性を示したプロモータを用いて行われるが、リンパ球の表面に発現する導入遺伝子の文脈では、VSV-Gエンベロープを持たず、所定のプロモータの制御下で抗CD19 CARを運搬するLVを用いて、健康なドナーおよびリンパ腫患者のPBMCを形質導入させることが行われる。CAR CD19を発現している細胞の割合は、BL1チャンネルを用い、製造元の指示に従い、ヒトCD19検出試薬(Miltenyi社)と抗ビオチンBB515抗体(Miltenyi社)を用いたフローサイトメトリーにより、導入後72時間で測定される。
【0054】
実施例5:VSV-Gの(はげた)レンチウイルスベクター粒子をOM-PBAEにカプセル化して、末梢血単核球をインビボ で形質導入。
実施例4で確認した、リンパ球におけるGFPの発現を誘発する最適な2つのプロモータのCD3特異的活性を、健康なドナーからのヒトPBMCまたはリンパ腫患者からのPBMCを移植した免疫不全NSGマウスにおいてインビボで評価する。また、ヒトCD34陽性造血幹細胞を移植したNSGマウスは、ヒト免疫細胞集団の多系統生着を示すマウスモデルとして使用することができる。所定のプロモータの制御下でGFP導入遺伝子を有するLVで構成され、CD3ターゲティング剤と共有結合したPBAEを含むか、含まないように処方された実施例4に記載のナノ粒子を、PBMCまたはCD34陽性造血幹細胞を以前に注入したマウスに繰り返し静脈内注入する。対照動物には、ビヒクルまたはVSV-Gエンベロープを欠き、PBAEポリマーにカプセル化されていない形質導入欠損レンチウイルスベクターを注入する。
【0055】
発現したGFP導入遺伝子の生体内分布は、Biolegend社から購入した特定の抗体パネル(CD3-AF700, CD11b-APC, CD11c-PE, CD14-PE-Cy7, CD16-BV711, CD19-BV605, CD45-BV510, CD56-BV421, CD66b-PerCP-Cy5.5, HLA-DR PE-Dazzle594, ゾンビNIR)およびT細胞パネル(CD3-AF700, CD4-PerCP-Cy5.5, CD8-BV605, CD25-PE, CD45-BV510, CD45RA-BV711, CD69-PE-Dazzle594, CD127-APC, TCRg/d-PE-Cy7, CCR7(CD197)-BV421 およびゾンビNIR)を用いてフローサイトメトリーで染色し、24~90日間毎週全血液細胞について評価する。
【0056】
犠牲時に、脾臓や骨髄から採取した血球や細胞懸濁液で、GFP発現細胞の表現型を決定する。犠牲時に採取した血液および臓器から抽出したゲノムDNAを用いた二重定量PCRにより、ゲノム統合型レンチウイルスベクターの組織生体内分布を解析する。治療毒性は、治療前および治療後1週間間隔で採取した血液サンプルにおける血球数(実施例2に既に記載したフローサイトメトリー)、ALT/AST肝酵素(酵素活性キット)およびサイトカインレベル(Th1/Th2 サイトカイン・ビード・アレイ)の測定によって評価される。週3回、動物の行動、体重、水と餌の消費量を治療の安全性と忍容性を確認するための追加出力として記録する。
【0057】
最後に、この一連の動物実験は、実施例4で選択したプロモータを用いて行うが、リンパ球の表面に発現する抗CD19 CAR導入遺伝子の状況では、実施例4で選択したプロモータを用いて行う。上述の動物手順との唯一の違いは、実施例4に既に記載した製造者の指示に従って、ヒトCD19検出試薬(Miltenyi社)および抗ビオチンBB515抗体(Miltenyi社)を用いたフローサイトメトリーにより決定するCD19 CAR発現細胞の表現型の評価にある。
【0058】
実施例6:OM-PBAEにカプセル化した、 VSV-G(”はげた”)レンチウイルスベクター粒子を用いて末梢血単核細胞にしたインビボの形質導入の効率。
実施例4でスクリーニングした、リンパ球におけるCAR CD19の発現を誘発する最良の2つのプロモータのCD3特異的活性を、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を構成的に発現するように改変したラモス癌細胞を有する免疫不全NSGマウスにおいてインビボで評価する。種々のNSGマウスモデルを使用:健康なドナーのヒトPBMCまたはリンパ腫患者のPBMCを移植したNSGマウス、そして最後に、ヒト免疫細胞集団の多系統移植を示すヒトCD34陽性造血幹細胞を移植したNSGマウスである。
【0059】
所定のプロモータの制御下でCAR CD19を有するLVで構成され、CD3ターゲティング剤と共有結合したPBAEを含むか、含まないように処方された実施例4に記載のナノ粒子を、ラモス-Luc細胞を以前に注入したマウスに繰り返し静脈内注入する。対照動物には、ビヒクルまたはVSV-Gエンベロープを欠き、PBAEポリマーにカプセル化されていない形質導入欠損レンチウイルスベクターを注入する。
【0060】
インビボでの有効性は、24日から90日間にわたり毎週、動物全体の生物発光イメージングにより、治療群と対照群における腫瘍の成長と循環するラモスLuc細胞に関連する速度および生存率を測定することにより評価される。治療毒性は、治療前および治療後1週間間隔で採取した血液サンプルにおける血球数(実施例5に既に記載したフローサイトメトリー)、ALT/AST肝酵素(酵素活性キット)およびサイトカインレベル(サイトカイン・ビード・アレイ)の測定によって評価される。週3回、動物の行動、体重、水と餌の消費量を治療の安全性と忍容性を確認するための追加出力として記録する。
【0061】
実施例7:T細胞特異的キメラプロモータの設計
上記のプロモータ配列には、NFΚB;AP1、Stats、GATA、NFATなど、いくつかの転写因子結合部位を含有する。表3は、各プロモータ配列の内部にそれらの結合配列が存在することをまとめたものである。転写因子結合部位は配列中にも描かれている。
【0062】
表3:プロモータ配列のT細胞特異的転写因子結合部位を用いたマッピング。斜体で示したのは、導入遺伝子を非特異的に発現させるプロモータである(
図1に記載した実験による)。
【表3】
CD3+特異的プロモータ(LAIR2、TNFS8、TCRおよびITK)は、NFΚB部位が2箇所未満、NFATボックスが8箇所未満、NFΚB+AP1部位が8箇所未満である。
【0063】
実施例8:プロモータ配列の最適化および短縮化
遺伝子発現の誘導や導入遺伝子の発現量増加に関わる重要な領域を定義するために5,6,7、2kb-プロモータを短縮した5’位欠失コンストラクトが設計された。
T細胞プロモータの短縮化と分子クローニング
15のプロモータの組合せのうち、CTLA4(配列番号7) とICOS(配列番号13) は、CD3発現細胞株と一次細胞で過剰発現し、非CD3発現細胞では低発現または無発現のものを選択した。合成遺伝子を鋳型とし、フージョンHF高忠実度DNA ポリメラーゼ(Thermofisher社)を用いたPCRにより、プロモータを5’から3’に短縮した。MluI制限部位を含むフォワードプライマーはCTLA4とICOSの5’領域に特異的であり、BglII部位を含むリバースプライマー(配列番号24-25用)またはBamHI部位(配列番号19-23、 26-29用)を含むリバースプライマーはCTLA4またはICOSの3’末端に特異的であった。PCRフラグメントは、GFPをコードするオープンリーディングフレーム(ORF)の上流で、CMVプロモータの代わりに、トランスファーベクタープラスミドpARA-CMV-GFPにサブクローニングされた。
【0064】
同じ戦略で、ヒトCD19抗原に特異的なキメラ抗原受容体(CAR)をコードするORFの上流にある第2のトランスファーベクタープラスミドpARA-hUBC-CAR-CD19に切断したプロモータをサブクローン化した。切断されたプロモータの配列の同一性、および導入遺伝子上流のインフレーム挿入は、サンガー配列決定により確認された。その結果、最適化されたプロモータ配列は表4に示す通りである。
【0065】
表4:CTLA4とICOSのプロモータの短縮化。
【表4】
【0066】
ヒト細胞株および初代細胞のLV作製と形質導入
GFPおよびCD19標的CARをコードする導入プラスミドを用いて、実施例3および4に記載したように、LVおよび導入細胞株および一次細胞を作製した。GFPまたはCD19 CAR導入遺伝子の発現はフローサイトメトリーで測定した。
【0067】
実施例9:レンチウイルスベクターのCARによる”シュードタイピング“
実施例3および4の実験により、OM-PBAEカプセル化などによりナノ粒子にパッケージされたはげたLVは、Tリンパ球を含むPBMCを形質導入し、導入遺伝子の発現を誘導する能力を有することが示された。CAR T細胞療法の目的は、CARをT細胞に導入し、そのT細胞の表面にCARを発現させることであるため、CAR T細胞の生産に使用する予定のLVの表面に発現したCARが存在すると、LVを偽型化し、CAR T細胞による攻撃を意図した細胞をLVに形質導入させるようにともすると誘導する可能性があるかという疑問が湧いて来る。以下に述べる実験は、この疑問を解決するために設計されたものである。
【0068】
CD19 CARをコード化したレンチウイルスベクター粒子の作製
はげたLV粒子の製造は、実施例1に記載の方法で行った。簡単に説明すると、LV293細胞は播種翌日に一時的に核酸導入された。PEIProトランスフェクタント試薬 (PolyPlus Transfection社, Illkirch, France) をトランスファーベクタープラスミドpARA-hUBC-CAR-CD19 およびパッケージングプラスミド pARA-Pack と混合した。OM-PBAEにカプセル化されたはげたLV粒子を実施例3に記載したように調製し、LV293細胞またはヒトPBMCを形質導入するために使用した。
【0069】
CD19 CAR検出
DPBS洗浄工程の後、細胞(LV293トランスフェクトおよび非トランスフェクトまたはLV形質導入されたPBMC)を、実施例4に既に記載したように、製造者の指示に従って、ヒトCD19検出試薬(Miltenyi社)および抗ビオチン-BB515抗体(Miltenyi社)で染色した。
【0070】
図3Aに示した結果は、LVの生産に使用したLV293細胞(pARA-hUBC-CAR-CD19およびpARA-Packプラスミドで核酸導入した)の表面におけるCD19 CAR発現を示している。核酸導入していない細胞を対照として使用した。CD19 CARの強い発現は、トランスフェクション後のLV293産生細胞表面でのみ検出された。
【0071】
さらに、
図3Bに示された結果は、hUBCプロモータの制御下でCD19 CARを、またはCMVプロモータの制御下でGFPをコードする、VSV-G-(”はげた”)LVで形質導入したヒトPBMC上で得られた発現を示している。はげたLVに曝露したPBMCではGFPの発現が見られなかったが、OM-PBAEポリマーでカプセル化すると、その形質導入効率が回復することがわかった。CD19 CARをコードするVSV-G-(”はげた”)LVを使用してPBMCを形質導入した場合、MO-PBAEポリマーの有無にかかわらず、キメラ受容体の発現レベルは同程度であった。
【0072】
これらの結果から、CD19 CARの発現を制御するためにユビキタスプロモータを使用すると、LV293細胞株の表面にキメラ受容体が発現し、膜タンパク質で飾られたLV(はげたまたは偽型の)を産生することを示唆する。このCD19 CARによる偽型化は、はげたLVがもともと形質導入に欠けるため、はげたベクターが細胞に結合して人工的なCD19-CARシグナルを発生させるには十分でなければならない、なぜならば、CD19-CARはLVのエンドソーム脱出をさせないため、偽型蛋白として効率的ではないけれども、はげたLVはもともと形質導入に不十分であるからである)。 この”偽型”は、通常のLV(VSV-Gを有する)がインビトロでもインビボでもCD19+Bリンパ球を直接標的とするため、安全性の問題につながる可能性がある。 ここで得られた結果は、本明細書に記載されているようなT細胞特異的プロモータの使用により、LV293の表面におけるCD19 CARの発現が消失し、LVの偽型化が観察されないことを示している。これにより、CAR T細胞を作るように設計されたLVの安全マージンを高めることができるであろう。
【0073】
配列表
各プロモータ配列の転写因子結合部位は以下のように描かれている。NFkB(太字)、AP-1(下線)、STATS(斜体)、GATA-3(二重下線)、NFAT(箱囲み)。注目すべきは、いくつかの結合部位が重なっていることである。
【化1-1】
【化1-2】
【化1-3】
【化1-4】
【化1-5】
【化1-6】
【化1-7】
【化1-8】
【化1-9】
【化1-10】
【化1-11】
【化1-12】
【化1-13】
【化1-14】
【化1-15】
【化1-16】
【化1-17】
【化1-18】
【化1-19】
【化1-20】
【化1-21】
【化1-22】
【化1-23】
【化1-24】
【化1-25】
【化1-26】
【化1-27】
【化1-28】
【化1-29】
【0074】
本明細書で使用される場合、「本質的にからなる」とは、特許請求の範囲の基本的かつ新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない材料またはステップを含めることを可能にする。本明細書の「含む」という用語の任意の記述は、特に組成物の成分の説明において、または装置の要素の説明において、選択肢表現の「本質的にからなる」または「からなる」と交換することができる。
本発明は特定の好ましい実施態様と併せて説明されてきたが、当業者の1人が、前述の明細書を読んだ後、本明細書に記載の組成物および方法に様々な変更、同等物の置換、および他の変更を行うことができる。
【0075】
参考文献
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7. European J Immunol. 2012. 42:1850-1862
【配列表】
【国際調査報告】