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特表2023-526003高磁場における改良された精度を備えた、磁気センサ素子及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-20
(54)【発明の名称】高磁場における改良された精度を備えた、磁気センサ素子及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/09 20060101AFI20230613BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20230613BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20230613BHJP
【FI】
G01R33/09
H01L29/82 Z
H10N50/10 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568458
(86)(22)【出願日】2021-05-10
(85)【翻訳文提出日】2022-11-09
(86)【国際出願番号】 IB2021053951
(87)【国際公開番号】W WO2021234504
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】20315252.5
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509096201
【氏名又は名称】クロッカス・テクノロジー・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 友子
(72)【発明者】
【氏名】ティモフィーエフ・アンドレイ
(72)【発明者】
【氏名】チルドレス・ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ストレルコフ・ニキータ
【テーマコード(参考)】
2G017
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AA03
2G017AA10
2G017AD55
2G017AD60
2G017AD62
2G017AD63
2G017AD65
2G017BA09
5F092AB01
5F092AC12
5F092AD03
5F092BB16
5F092BC03
5F092BC04
5F092BC08
5F092BC19
(57)【要約】
外部磁場(60)を検知するようになっている磁気角度センサ素子(20)であって、
ピン止め磁化(210)を持つ強磁性ピン止め層(21)と、強磁性検知層(23)と、トンネル磁気抵抗障壁層(22)とを備える磁気トンネル接合(2)と、
前記強磁性検知層(23)は、前記障壁層(22)と直接接触し、第1検知磁化(230a)を持つ第1検知層(23a)と、第2検知磁化(230b)を持つ第2検知層(23b)と、前記第1検知層(23a)と前記第2検知層(23b)との間の金属スペーサ(24)とを備えて、
前記金属スペーサ(24)は、前記第1検知磁化(230a)が前記第2検知磁化(230b)に対して実質的に逆平行に配向されるように、前記第1検知磁化(230a)と前記第2検知磁化(230b)との間に反強磁性結合を提供するように構成されていて、
前記第2検知磁化(230b)が前記外部磁場(60)の前記方向に従って配向されるように、前記第2検知磁化(230b)が前記第1検知磁化(230a)よりも大きい、磁気角度センサ素子(20)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部磁場(60)を検知するようになっている磁気角度センサ素子であって、
ピン止め磁化(210)を持つ強磁性ピン止め層(21)と、強磁性検知層(23)と、前記強磁性ピン止め層(21)と前記強磁性検知層(23)との間のトンネル磁気抵抗障壁層(22)とを備える磁気トンネル接合(2)と、
前記強磁性検知層(23)は、前記障壁層(22)と直接接触し、第1検知磁化(230a)を持つ第1検知層(23a)と、第2検知磁化(230b)を持つ第2検知層(23b)と、前記第1検知層(23a)と前記第2検知層(23b)との間の金属スペーサ(24)とを備え、
前記金属スペーサ(24)は、前記第1検知磁化(230a)が前記第2検知磁化(230b)に対して実質的に逆平行に配向されるように、前記第1検知磁化(230a)と前記第2検知磁化(230b)との間に反強磁性結合を提供するように構成されていて、
前記第2検知磁化(230b)が前記外部磁場(60)の方向に従って配向されるように、前記第2検知磁化(230b)が前記第1検知磁化(230a)よりも大きな、
磁気角度センサ素子(20)において、
前記第2検知層(23b)は、複数の第2検知副層(231)を備え、各第2検知副層(231)は、前記第2検知磁化(230b)に達する第2検知副磁化(2310)を有して、
2つの隣り合う第2検知副層(231)が、前記2つの隣り合う第2検知副層(231)の間に磁気結合を提供するように構成された非磁性層(232)によって分離されていることを特徴とする、磁気角度センサ素子(20)。
【請求項2】
前記非磁性層(232)は、前記第2検知磁化(230b)が前記第1検知磁化(230a)の1つと反対方向に配向されるように磁気結合を提供するように構成されている、請求項1に記載の磁気角度センサ素子(20)。
【請求項3】
前記磁気結合は、前記第2検知副層(231)のうちの1つの前記第2検知副磁化(2310)が、前記隣り合う第2検知副層(231)の1つと実質的に平行に配向されるものである、請求項1又は2に記載の磁気角度センサ素子(20)。
【請求項4】
前記非磁性層(232)は、最大(95493A/m)の前記外部磁場(60)の振幅に対して前記第2検知副層(231)内の前記第2検知副磁化(2310)の反転がないように、1mJ/m以上の前記磁気結合の強度を持つように構成されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気角度センサ素子(20)。
【請求項5】
前記金属スペーサ(24)の前記反強磁性結合は、0.3mJ/m以上の交換結合を持つRKKY結合である、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁気角度センサ素子(20)。
【請求項6】
前記ピン止め層(21)は、非磁性層によって分離された強磁性層を備え、前記トンネル障壁層(22)から最も遠い強磁性層は、反強磁性体によってピン止めされ、他の強磁性層は、それらを分離する前記非磁性層を介してRKKY結合機構によって隣り合う強磁性層に結合され、
前記RKKY交換結合は、反強磁性であり、0.4mJ/m以上の絶対値を持つ、請求項1から5のいずれか一項に記載の磁気角度センサ素子(20)。
【請求項7】
前記第1検知磁化(230a)は、1.5nm以上の厚さを持つ、請求項5又は6に記載の磁気角度センサ素子(20)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の磁気角度センサ素子(20)を複数備えた、磁気角度センサ装置(30)において、前記磁気角度センサ素子(20)は、ハーフブリッジ又はフルブリッジ構成で配置されている、磁気角度センサ装置(30)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気角度センサ素子、及び平面の360°の計測範囲にわたって磁場角度を検出する複数の磁気角度センサ素子を備える磁気角度センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気トンネル接合(MTJ)ベースの磁気角度センサは、市場に存在する競合する技術と比較して、高感度、広範囲の出力抵抗、CMOSプロセスへのより良好な統合、そしてそのほか多くの注目すべき特徴を提供する。
【0003】
そのような磁気角度センサは、典型的には誘電体トンネル障壁によって分離された2つの磁気的に異なる強磁性層を備える特定のMTJを必要とする。強磁性層の1つ(検知層)は、磁気的に軟らかく、外部磁場によって容易に整列され、他の1つ(参照層)は、その磁化のピン止め方向を持ち、磁気的に剛性である。
【0004】
トンネル磁気抵抗(TMR)効果を利用して、検知層の磁化と参照層の磁化との間の相対角度を検知し、よって、外部磁場の方向を計測する。検知層と参照層の磁化との間の相対角度の変化は、MTJの積層体を通る導電率の変化の計測によって決定できる。MTJ積層体の導電率は、検知層と参照層の正味の磁化方向の間の相対角度の余弦関数に従う。2D磁場検知では、参照層の磁化は通常、面内(参照層の平面内)にあり、検知層の磁気状態は相違し得る。この関数依存性により、参照層のピンニング方向を90°ずらした2つのMTJ積層体が、2D磁場角度センサを作製するのに十分である。
【0005】
図1は、磁気センサ素子20を備える単一分岐検知回路10を示す。磁気センサ素子20は、MTJ積層体から製造された電気的に接続されたMTJの柱を1つ又はいくつか備えるものとしてよく、全てが参照層の同じピンニング方向を持つ。各MTJ積層体は、参照層と検知層との間に挟まれたトンネル障壁層(図示せず)を備える。外部磁場60が印加されると、検知層磁化230は、外部磁場60の方向に配向される。参照層磁化210の向きは変化しないままである。このように、磁気センサ素子20にセンス電流を流し、磁気センサ素子20の抵抗Rに比例する電圧差(Vout-Vin)を計測することで、外部磁場60の方向を計測できる。
【0006】
理想的には、参照層磁化210は、センサの動作範囲内の外部磁場に対して不感であるべきであり、一方、検知層磁化230は、完全に軟らかく、したがって、外部磁場60の方向に沿って正確に磁化されるべきである。
【0007】
しかし、実際には、検知層の磁化は、有限の磁気異方性を有し、検知層の磁化は、参照層からの有限の漂遊磁場を受ける可能性がある。これにより、外部磁場60における検知層の磁化の位置決めに角度誤差が生じ、したがって、磁場60の所与の角度に対する磁気センサ素子の予想される抵抗Rに角度誤差が生じる。外部磁場60の大きさを低下させると角度誤差が増加するので、これらの角度誤差は、外部磁場の小さい規模でのセンサの動作マージンを制限している。
【0008】
さらに、参照層は、有限の磁気剛性を有し、したがって、その磁化は、外部磁場によって(わずかにでも)偏向され得る。これはまた、参照層の磁化の位置決めに角度誤差を生じさせ、これらの角度誤差は、外部磁場の大きさとともに増加し、したがって、磁気センサ素子の高磁場動作マージンを制限する。
【0009】
図2は、外部磁場Hextの大きさの関数としての全角度誤差AEの変化を報告する。全角度誤差AEは、外部磁場が印加されたときの検知層磁化の方向と参照層磁化の方向との間の計測された相対角度と、「理想的な」相対角度、すなわち、検知層磁化が外部磁場の方向に完全に整列されたときと、参照層磁化が外部磁場によって偏向されないときとの間の差に対応する。全角度誤差AEの変動は、検知層の異方性、バイアス磁場などに起因する検知層の向きの角度誤差AEと、有限の参照層ピン止め強度に起因する参照層の磁化の向きの角度誤差AEとの合計に相当する。
【0010】
図3は、ハーフブリッジ構成で配置された2つの磁気センサ素子20を備える代替的な検知回路30を示す。ハーフブリッジ回路30は、その入力電圧Vinの一部分である出力電圧Voutを生成する。
2つの磁気センサ素子20のうちの一方は、他方の磁気センサ素子20の参照層磁化210と反対の方向にピン止めされた参照層磁化210を持つ。
【0011】
上述したように、2つの磁気センサ素子20における参照層磁化210は、印加された外部磁場60の方向(図3において湾曲した矢印によって示される)に向かって偏向され得る。偏向は、参照層磁化210を検知層磁化230に対してより平行にし、2つの磁気センサ素子20の各々の抵抗を減少させる傾向がある。
しかしながら、ハーフブリッジ検知回路30の構成は、別々に計測された各磁気センサ素子20の抵抗の相対変化よりも低い分圧器比Vout/Vinの相対変化をもたらす。これは、2つの磁気センサ素子20におけるピン止め参照層の磁化210の反対方向により達成される。図3のハーフブリッジ検知回路30は、参照層磁化210の偏向に起因する角度誤差AE(したがって、全角度誤差AE)の部分的補償を可能にする。
【0012】
図4は、図1の単一分岐検知回路10(三角形を持つ線)及び図3のハーフブリッジ検知回路30(単一線)について計算された、外部磁場の大きさHextの関数としての全角度誤差AEの変化を比較する。計算は、検知層における異方性強度(Hua)の異なる大きさに対して、及び参照層における異なるピンニング磁場強度(Hud)に対して行われた。ハーフブリッジ検知回路30は、図1の単一分岐検知回路10と比較して、より低い全角度誤差AEを示す。
【0013】
我々の研究は、ハーフブリッジ回路構成を使用することによって、2つの要因が同時に作用するために、有限の参照層ピンニング強度の補償が完全には達成されないことを示した。
【0014】
第1要因は、所与の磁場角度に対して外部磁場符号に対して非対称である参照層の面内の横断(参照層のピンニング磁場方向に垂直な方向)磁化率χに関する。
【0015】
図5a及び図5bは、(参照層を交換結合する反強磁性層の)ピンニング磁場Hpinの方向に沿った射影に対応する長手成分Hlongと、ピンニング磁場Hpinの方向に垂直な方向に沿った射影に対応する横断成分Htransとを持つ外部磁場Hextを表す。横断磁化率χは、Htrans/Heffとして定義できる。ここで、Heff=Hpin+Hlongである。Hpinの大きさがHextの大きさよりも常に大きい場合を考慮すると、Heffは、Hpin及びHlongの方向が平行であるときに常に大きくなり、それらが逆平行(平行で向きは反対)であるときに常に小さくなる。したがって、磁化率χは、第1場合にはより小さくなり、第2場合にはより大きくなる。
【0016】
図6は、図3のハーフブリッジ検知回路30の外部磁場Hextの向きの関数として、ピン止めされた向きに対する参照層磁化210の角度における偏差を報告する。ピン止め参照層磁化210(ピンニング磁場Hpin)が長手成分Hlongに平行である(図5a)上部分岐の磁気センサ素子20(曲線A)と、ピン止め参照層磁化210(ピンニング磁場Hpin)が長手成分Hlongに逆平行である(図5b)下部分岐の磁気センサ素子20(曲線B)とについて、偏差が示されている。
図5に示す外部磁場Hextの配向角は、図6において点線で示されている。これは、上部分岐の磁気センサ素子20(曲線A)では約5°、下部分岐の磁気センサ素子20(曲線B)では約7°の参照層磁化210の偏差に対応する。
【0017】
外部磁場Hextが反強磁性層のピンニング磁場Hpinに平行な長手成分Hlongを持つとき、参照磁気感受率χ(すなわち、参照層角度偏差のレベル)は減少する(図5a参照)。これは、ピンニング磁場Hpinと外部磁場Hextの長手成分Hlongとが加算され、参照層の磁化が外部磁場Hextの横断成分Htransに向かってより偏りにくくするためである。逆に、外部磁場Hextが反強磁性層のピン止め磁場Hpinに逆平行である長手成分Hlongを持つとき、参照磁気感受性χは増加する(図5b参照)。この構成では、外部磁場Hextの長手成分Hlongがピンニング磁場Hpinから差し引かれ、したがって参照層の磁化の剛性が低減される。
【0018】
したがって、第1要因は、外部磁場60の存在下での参照層210の方向の等しくない偏差に関係する。外部磁場60の長手成分がその参照層210のピン止め方向に対してよりその参照層のピン止め方向に対してより逆平行である一方の検知素子20は、他方の検知素子20よりも強い偏差を持つ。
【0019】
第2要因は、2つの磁気センサ素子20における抵抗の相対的な変化に関するものである。各分岐(各磁気センサ素子20)において、1度あたりの抵抗の変化は、検知層と参照層との間の相対角度θに依存する(図3参照)。角度θが大きくなればなるほど、角度あたりの相対変化が大きくなる。これは、分岐の抵抗ではなくコンダクタンスが、検知層と参照層との間の角度θの余弦に比例するためである。
角度θに対する抵抗Rの変化率は、式1によって与えられる。
【数1】
【0020】
図7は、図3のハーフブリッジ検知回路30において、異なるTMRの大きさ(100%×(Rap-Rp)/Rpとして定義され、ここで、Rapは、検知層230が参照層210に逆平行であるときの検知素子20の電気抵抗であり、Rpは、それらの平行構成の対応する抵抗である)について、検知層磁化230に対する参照層磁化210の向きの関数として、角度∂R/∂θによる抵抗の変化を報告する。すなわち、抵抗の変化は、図3のハーフブリッジ回路30を形成し、1.1kΩ、1.3kΩ、及び2.0kΩの値を持つ検知素子20の抵抗Rapについて報告される。
【0021】
90°未満に減少する角度θは、検知層磁化230が参照層磁化210に平行な向きに近づくことに相当する。90°を超えて増加する角度θは、検知層の磁化が参照層の磁化210に対して逆平行の向きに近づくことに相当する。2つの分岐における抵抗Rの相対的な変化の効果は、磁気センサ素子20がより高いTMRを持つ場合に、より重要である。
【0022】
図7は、外部磁場Hextの所与の向きに対して、検知層磁化230が参照層磁化210に対して逆平行の向きにより近く向けられている磁気センサ素子20が、参照層磁化210のより高い偏差を有し、同時に、角度偏差1度当たりの抵抗のより高い変化を持つことをさらに示す。したがって、TMRが高く、参照層が軟らかいほど、ハーフブリッジ回路構成の補償効果は小さくなり、高い外部磁場における角度誤差は大きくなる。
【0023】
特許文献1(JP2011027633)は、信号磁場の下で互いに反対の磁気変化を表すために、磁化ピン止め層、介在層、及び磁化自由層をそれぞれ備える第1及び第2MR素子を有する磁気装置を開示している。第1及び第2MR素子の磁化ピン止め層は、介在層側から順に、ピン止め層と、結合層と、ピン止め層に反強磁性的に結合したピン止め層とを含むシンセティック構造を有している。ピン止め層の総磁気モーメントは、ピン止め層の総磁気モーメント以上である。ピン止め層の総磁気モーメントは、ピン止め層の総磁気モーメントよりも大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2011-027633号公報
【発明の概要】
【0025】
本開示は、外部磁場を検知するようになっている磁気角度センサ素子に関し、
ピン止め磁化を持つ強磁性ピン止め層と、強磁性検知層と、トンネル磁気抵抗スペーサ層とを備える磁気トンネル接合と、
前記強磁性検知層は、スペーサ層と直接接触し、第1検知磁化を持つ第1検知層と、第2検知磁化を持つ第2検知層と、前記第1検知層と前記第2検知層との間の金属スペーサとを備え、
前記金属スペーサは、前記第1検知磁化が前記第2検知磁化に対して実質的に逆平行に配向されるように、前記第1検知磁化と前記第2検知磁化との間に反強磁性結合を提供するように構成されていて、
前記第2検知磁化が前記外部磁場の前記方向に従って配向されるように、前記第2検知磁化が前記第1検知磁化よりも大きな、
磁気角度センサ素子において、
前記第2検知層は、複数の第2検知副層を備え、各第2検知副層は、前記第2検知磁化に達する第2検知副磁化を有して、
2つの隣り合う第2検知副層が、前記2つの隣り合う第2検知副層間に磁気結合を提供するように構成された非磁性層によって分離されている。
【0026】
本開示はさらに、複数の磁気センサ素子を備える磁気角度センサ装置に関する。前記磁気センサ素子は、ハーフブリッジ又はフルブリッジ構成で配置される。
【発明の効果】
【0027】
ハーフブリッジ回路(又はフルブリッジ回路)において本明細書で開示される磁気角度センサ素子は、磁気角度センサ素子の既知の配置と比較して、外部磁場60の低い大きさだけでなく、外部磁場60の高い大きさにおいても、角度誤差AETの補償を改善した。
【0028】
本発明は、例として与えられ、図面によって例示される実施形態の説明を用いてよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、MTJ膜の積層体から製造された複数の電気的に接続されたMTJの柱を備える単一分岐検知回路を示す図であり、全てのMTJの柱は、それらの参照層の同じピン止め方向を共有している。
図2図2は、外部磁場の大きさの関数としての全角度誤差の変化を報告する。
図3図3は、ハーフブリッジ構成に配置された2つのMTJ検知回路を備える検知回路を示す。
図4図4は、図1の単一分岐(SB)検知回路及び図3のハーフブリッジ(HB)検知回路について計算された、外部磁場の大きさの関数としての全角度誤差の変化を比較する。
図5図5a及び図5bは、外部磁場の長手成分及び横断成分を表す。
図6図6は、図3のハーフブリッジ検知回路の外部磁場の向きの関数として、ピン止めされた向きに対する参照層の磁化の偏差を報告する。
図7図7は、異なるTMRについて、検知層の磁化に対する参照層の磁化の向きの関数として、角度に対する抵抗の導関数の変化を報告している。
図8図8は、一実施形態による磁気角度センサ素子を示す。
図9図9は、ピンニング磁場強度のいくつかの値に対する外部磁場の大きさの関数としての全角度誤差を示す。
図10図10は、MTJ積層体におけるTMRのいくつかの値について、外部磁場の大きさの関数としての全角度誤差を示す。
図11図11は、さらに他の実施形態に係る磁気センサ素子20の部分図である。
図12図12は、図11の構成の磁気センサ素子20について、異なるTMRの大きさに対する角度誤差Δφの外部磁場Hextへの依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図8は、一実施形態による、外部磁場(Hext)60を検知するように定められた磁気角度センサ素子20を示す。磁気センサ素子20は、ピン止め磁化210を持つ強磁性ピン止め層21と、強磁性検知層23と、強磁性ピン止め層21と強磁性検知層23との間のトンネル磁気抵抗障壁層22とを含む磁気トンネル接合を備える。強磁性検知層23は、障壁層22と直接接触し、第1検知磁化230aを持つ第1検知層23aと、第2検知磁化230bを持つ第2検知層23bと、第1検知層23aと第2検知層23bとの間の金属スペーサ24とを備える。
【0031】
金属スペーサ24は、第1検知磁化方向230aが第2検知磁化方向230bに対して実質的に逆平行に配向されるように、第1検知磁化方向230aと第2検知磁化方向230bとの間に反強磁性結合を提供するように構成される。
【0032】
第2検知磁化230bは、第2検知磁化230bが外部磁場60の方向に従って配向されるように、第1検知磁化230aよりも大きい。
【0033】
本発明はさらに、複数の磁気センサ素子20を備える磁気角度センサ装置に関する。
【0034】
好ましい実施形態では、磁気センサ素子20は、図3に示すように、ハーフブリッジ回路30内に配置される。磁気センサ素子20は、フルブリッジ構成で配置することもできる。
【0035】
外部磁場Hextが、参照層磁化210のピン止め方向に対して逆平行に近い方向に印加されると、参照層磁化210のより大きな偏りが生じる(第1要因)。しかしながら、第1検知層磁化230aは、参照層磁化210のピン止めされた方向に対して平行な向きに近く配向され、参照層偏差の1度当たりの抵抗変化を低減する(第2要因)。
したがって、参照層磁化210の偏差は、抵抗Rの角度変化の減少によって少なくとも部分的に補償される。
【0036】
ハーフブリッジ回路30(又はフルブリッジ回路)において磁気角度センサ素子20を使用することにより、磁気センサ素子20の既知の配置と比較して、角度誤差AEの補償が改善される。これは、外部磁場60の大きさが小さいときだけでなく、外部磁場60の大きさが大きいときにも、角度センサ素子によって検出され得る。
【0037】
一実施形態では、第2検知層23bは、複数の第2検知副層231を備え、各第2検知副層231は、前記第2検知磁化方向230bに達する第2検知副磁化方向2310を持つ。
2つの隣り合う第2検知副層231は、2つの隣り合う第2検知副層231間に磁気結合を提供するように構成された非磁性層232によって分離されている。
【0038】
別の実施形態では、非磁性層232は、第2検知磁化230bが第1検知磁化230aの1つとは反対の方向に配向されるように磁気結合を提供するように構成される。
【0039】
さらに別の実施形態では、磁気結合は、第2検知副層231のうちの1つの第2検知副磁化2310が、隣り合う第2検知副層231のうちの1つに実質的に平行に配向されるようなものである。
【0040】
さらに別の実施形態では、非磁性層232は、1200Oe(95493A/m)までの外部磁場60の振幅に対して第2検知副層231内の第2検知副磁化2310の反転がないような磁気結合の強度(最小必要強度)を持つように構成される。
【0041】
さらに別の実施形態では、金属スペーサ24の反強磁性結合は、0.3mJ/m以上の交換結合を持つRKKY結合である。
【0042】
さらに別の実施形態では、第1検知磁化230aは、1.5nm以上の厚さを持つ。
【0043】
0.3mJ/m以上の交換結合を持つRKKY結合は、1200Oe(95493A/m)未満の外部磁場Hextに対して反強磁性構成で第1検知層23a及び第2検知層23bを安定化させるのに十分である。
【0044】
さらに別の実施形態では、図8に示される層の順序が逆にされる。このような構成は、いわゆるトップピン型のMTJ積層体に相当する。
【0045】
任意の所与のTMRの大きさに対して、参照層21のピン止め強度を増大させることにより、ハーフブリッジ回路30の上部分岐及び下部分岐における磁気センサ素子20内の参照層21の参照磁化率χの非対称性が低減される。したがって、参照層21のピン止め強度を増加させることは、上記で定義された第2要因の効果の影響を減少させる。
【0046】
図9は、ピンニング磁場Hpin(ピン止め強度)のいくつかの値について、及び50%のTMRを持つ磁気センサ素子20について、ピン止めされた参照層の磁化210の向きの角度誤差を外部磁場Hextの大きさの関数として示す。
【0047】
任意の所与の参照層ピンニング磁場Hpinに対して、外部磁場Hextの所望の大きさで最適な補償を提供する最適なTMR値が存在する。図10は、磁気センサ素子20におけるTMRのいくつかの値について、及び4kOe(318A/m)のピンニング磁場Hpinについて、外部磁場Hextの大きさの関数としての全角度誤差を示す。最適値(最小角度誤差)は、数値的に求められることと、磁気センサ素子20の適切な設計によって最適化することとの少なくとも一方でよい。
【0048】
反強磁性結合の強度(ピンニング磁場Hpinの大きさ)は、外部磁場Hextを受けたときに参照層磁化210をピン止めした状態に保つのに十分なほど高くなければならない。
【0049】
図11は、さらに他の実施形態に係る磁気センサ素子20の部分図であり、強磁性ピン止め層21、トンネル磁気抵抗障壁層22及び検知層23を示している。ピン止め層21は、合成反強磁性体(SAF)構造、すなわち、非磁性副層によって分離された強磁性ピン止め副層を備える磁性複数層を備える。
図11では、磁気センサ素子20は、2つの非磁性副層212によって分離された3つの強磁性ピン止め副層211を備えて表されているが、磁気センサ素子20は、非磁性副層212によって分離された少なくとも2つの強磁性ピン止め副層211を備えてよい。トンネル障壁層22から最も遠い強磁性層は、反強磁性体213によってピン止めされ、他の強磁性層は、それらを分離する非磁性層を介してRKKY結合機構によって隣り合う強磁性層に結合される。
ここで、RKKY結合は本質的に反強磁性である。
【0050】
図12は、図11の構成の磁気センサ素子20について、異なるTMRの大きさに対する角度誤差Δφの外部磁場Hextへの依存性を示す。ここでは、トンネル障壁層22から最も遠い(積層体の最下部の)強磁性層の交換ピンニングを0.66mJ/m、RKKY結合を-0.66mJ/mとして計算を行った。図12から分かるように、ピン止め層21のSAF構成は、図8に示す構成と同じ改善された角度誤差の補償効果を提供できる。実際に、改善された補償効果は、反強磁性であり、0.4mJ/m以上の絶対値を持つRKKY交換結合に対して得られる。
【符号の説明】
【0051】
10 磁気角度センサ装置、検出回路
20 磁気角度センサ素子、MTJ
21 強磁性ピン止め層
210 参照層磁化、ピン止め磁化
211 強磁性ピン止め副層
212 非磁性下地層
213 反強磁性体
22 障壁層
23 強磁性検知層
23a 第1検知層
230 検知層磁化
230a 第1検知磁化
23b 第2検知層
230b 第2検知磁化
24 金属スペーサ
231 第2検知副層
2310 第2検知副磁化
232 非磁性層
30 検知回路
60 外部磁場
AE 全角度誤差
AE 参照層方位の角度誤差
AE 検知層配向における角度誤差
ext 外部磁場の大きさ
long 長手成分
pin ピンニングフィールド
trans 横断成分
R 抵抗
ap 検知層及び参照層の磁化が逆平行であるときの抵抗
in 入力電圧
out 出力電圧
θ 角度
χ 参照層の磁化率
χtrans 横磁化率
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2022-11-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部磁場を検知するようになっている磁気角度センサ素子であって、
ピン止め磁化を持つ強磁性ピン止め層と、強磁性検知層と、前記強磁性ピン止め層と前記強磁性検知層との間のトンネル磁気抵抗障壁層とを備える磁気トンネル接合と
前記強磁性検知層は、前記障壁層と直接接触し、第1検知磁化を持つ第1検知層と、第2検知磁化を持つ第2検知層と、前記第1検知層と前記第2検知層との間の金属スペーサとを備え、
前記金属スペーサは、前記第1検知磁化が前記第2検知磁化に対して実質的に逆平行に配向されるように、前記第1検知磁化と前記第2検知磁化との間に反強磁性結合を提供するように構成されていて、
前記第2検知磁化が前記外部磁場の方向に従って配向されるように、前記第2検知磁化が前記第1検知磁化よりも大きな、
磁気角度センサ素子において、
前記第2検知層は、複数の第2検知副層を備え、各第2検知副層は、前記第2検知磁化に達する第2検知副磁化を有して、
2つの隣り合う第2検知副層が、前記2つの隣り合う第2検知副層の間に磁気結合を提供するように構成された非磁性層によって分離されていることを特徴とする、磁気角度センサ素子。
【請求項2】
前記非磁性層は、前記第2検知磁化が前記第1検知磁化の1つと反対方向に配向されるように磁気結合を提供するように構成されている、請求項1に記載の磁気角度センサ素
【請求項3】
前記磁気結合は、前記第2検知副層のうちの1つの前記第2検知副磁化が、前記隣り合う第2検知副層の1つと実質的に平行に配向されるものである、請求項に記載の磁気角度センサ素子。
【請求項4】
前記非磁性層は、最大95493A/mの前記外部磁場の振幅に対して前記第2検知副層内の前記第2検知副磁化の反転がないように、1mJ/m以上の前記磁気結合の強度を持つように構成されている、請求項に記載の磁気角度センサ素子。
【請求項5】
前記金属スペーサの前記反強磁性結合は、0.3mJ/m以上の交換結合を持つRKKY結合である、請求項に記載の磁気角度センサ素子。
【請求項6】
前記ピン止め層は、非磁性層によって分離された強磁性層を備え、前記トンネル障壁層から最も遠い強磁性層は、反強磁性体によってピン止めされ、他の強磁性層は、それらを分離する前記非磁性層を介してRKKY結合機構によって隣り合う強磁性層に結合され、
前記RKKY交換結合は、反強磁性であり、0.4mJ/m以上の絶対値を持つ、請求項に記載の磁気角度センサ素子。
【請求項7】
前記第1検知磁化は、1.5nm以上の厚さを持つ、請求項に記載の磁気角度センサ素子。
【請求項8】
請求項に記載の磁気角度センサ素子を複数備えた、磁気角度センサ装置において、前記磁気角度センサ素子は、ハーフブリッジ又はフルブリッジ構成で配置されている、磁気角度センサ装置。
【国際調査報告】