(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-20
(54)【発明の名称】低pH保持によるウイルスクリアランス
(51)【国際特許分類】
C07K 1/36 20060101AFI20230613BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230613BHJP
【FI】
C07K1/36
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568534
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(85)【翻訳文提出日】2022-11-11
(86)【国際出願番号】 US2021031825
(87)【国際公開番号】W WO2021231463
(87)【国際公開日】2021-11-18
(32)【優先日】2020-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】デイヤ ジェナ
(72)【発明者】
【氏名】クジック バレリー アン
(72)【発明者】
【氏名】マッティラ ジョン
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
統計的実験計画法に基づく低pH保持を使用するウイルスクリアランスのための方法が提供される。ウイルス不活性化のための低pH保持ステップの影響を特徴付けるために、pH条件、導電率条件、タンパク質の種類、温度、酸滴定剤、スパイクタイミング、及びスパイク後ろ過といった因子を含むいくつかの因子が評価される。ウイルス不活性化に対するpHの効果に加えて、導電率の操作を介したイオン強度の増加は、ウイルス不活性化動態に影響を及ぼす重要な構成要素であり得る。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料からペプチド又はタンパク質を精製するための方法であって、
前記方法が、
前記試料を、塩の添加によってイオン強度を増加させることに供することと、
前記試料を、酸性pHに供することと、
続いて、前記試料を、前記イオン強度条件及び前記pH条件で少なくとも約15分間維持して、ある量のウイルス粒子を不活性化することと
を含み、
前記試料が、前記ウイルス粒子を含む1つ以上の不純物を含む、方法。
【請求項2】
前記ウイルス粒子不活性化の量が、少なくとも約3LRF(対数減少率)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ウイルス粒子不活性化の量が、少なくとも約4LRFである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料の前記pH条件が、約pH3.90以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記試料の前記pH条件が、約pH3.60~約pH3.90の範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試料の前記pH条件が、約pH3.65~約pH3.80の範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ペプチド又はタンパク質が、宿主細胞において作製された抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記試料が、前記量の感染性ウイルス粒子を不活性化するために、少なくとも約30分間、前記イオン強度条件及び前記pH条件に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記試料が、前記量の感染性ウイルス粒子を不活性化するために、約15分間~約30分間、前記イオン強度条件及び前記pH条件に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
D-最適実験計画法を実行することによって、前記量の感染性ウイルス粒子の不活性化のために前記試料の前記イオン強度及び前記pH条件を最適化すること
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記D-最適実験計画法が、前記試料の前記pH条件及び前記試料の前記イオン強度を評価し、かつ前記試料の前記pH条件及び前記試料の前記イオン強度を調整して、ある量の感染性ウイルス粒子を不活性化する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記D-最適実験計画法が、
前記試料の導電率、
前記ペプチド若しくはタンパク質の種類、
前記試料の温度、
前記試料の前記pH条件を調整するための酸滴定剤、
前記ウイルス粒子を前記試料にスパイクするための方法、又は
スパイク後ろ過の存在
のうちの1つ以上を、更に評価及び調整する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記試料が、プロテインAクロマトグラフィーからの溶出液である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記試料の前記イオン強度が、塩化ナトリウムの添加を使用して調整され、
前記塩化ナトリウムの濃度が、約1mM~約100mMの範囲にある、
請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記塩化ナトリウムの前記濃度が、約1mM~約500mMの範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記塩化ナトリウムの前記濃度が、約25mM、約50mM、又は約100mMである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記試料の前記pH条件が、リン酸又はグリシンHClを使用して調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記ペプチド又はタンパク質が、IgG1アイソタイプを有するか又はIgG4アイソタイプを有する抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記ペプチド又はタンパク質が、モノクローナル抗体又は二重特異性抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記ペプチド又はタンパク質が、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、タンパク質医薬製品、又は薬物である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
目的のタンパク質及び感染性ウイルス粒子を有する試料から、前記目的のタンパク質及び減少した量のウイルス粒子を含む調製物を作製する方法であって、
前記試料を、約3.6超のpHに供することと、
前記試料を、出発溶液への塩の添加によって、イオン強度条件の増加に供することと、
前記試料を、前記pH及びイオン強度条件で適切な期間維持して、前記目的のタンパク質及び前記減少した量の感染性ウイルス粒子を含む前記調製物を作製することと
を含む、方法。
【請求項22】
前記試料における前記目的のタンパク質の濃度が、約25g/L超である、請求項21に記載の方法。
【請求項22】
前記適切な期間が、約15分、約20分、約25分、又は約30分である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
試料から感染性ウイルス粒子の前記量を約3LRF(対数減少率)で減少させる、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
試料から感染性ウイルス粒子の前記量を約4LRF(対数減少率)で減少させる、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記試料の前記pH条件が、約pH3.70、約3.80、約pH3.90又は約pH4.0を超える、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記試料の前記pH条件が、約pH3.60~約pH4.0の範囲にある、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記試料が、プロテインAクロマトグラフィーからの溶出液である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記試料の前記イオン強度が、塩化ナトリウムの添加を使用して調整され、
前記塩化ナトリウムの濃度が、約1mM~約200mMの範囲にある、
請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記塩の濃度が、約50mM又は約100mMを超える、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記試料の前記pH条件が、リン酸又はグリシンHClを使用して調整される、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年5月11日に出願された米国仮特許出願第63/023,154号の優先権及び利益を主張し、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して、低pH保持ステップを使用して、タンパク質試料におけるウイルス粒子を不活性化するための方法に関する。いくつかの因子を組み込んだ統計的実験計画法を使用して、ウイルス不活性化のための低pH保持ステップの影響を評価し、特徴付ける。
【背景技術】
【0003】
背景
生物学的製品は、細菌、真菌、及びウイルスからの汚染(内因性汚染物質及び外因性(外部供給源からの)汚染物質の両方)を受けやすい。ウイルスクリアランス、例えば、ウイルス不活性化は、哺乳動物細胞株を使用して作製されるバイオ医薬製品の製造中の重要なステップである。ウイルス汚染が哺乳動物細胞培養の増殖中に増幅され得るため、世界的な保健当局は、生物学的製品又はバイオテクノロジー製品を製造するためにウイルスクリアランスの評価を必要とする。効果的なウイルスクリアランス研究は、工程検証の重要な部分であり、薬物安全性を保証するためにも重要である。ウイルス汚染はまた、原材料、細胞培養工程、バイオリアクター、及び下流精製工程にも影響を及ぼし得る。
【0004】
ウイルス検証研究は、ウイルス安全性を保証するために製品品質に関する選択された操作条件を記録するように計画されている。ウイルスクリアランス研究の実験計画は、処理条件の理解を改善し、最悪の場合の条件の選択を正当化するための重要な開発因子を特定する製造工程の特徴付けを含む。ウイルス不活性化又は除去の工程は、pH処理、熱処理、溶媒/洗剤処理、ろ過、又はクロマトグラフィーを含む。低pHインキュベーションについてのウイルス不活性化の機序は、ウイルスの表面糖タンパク質の不可逆的変性又は脂質エンベロープの崩壊を引き起こすpHベースの化学反応を含む。
【0005】
バイオ医薬製品の製造工程に適合されたpH条件は、ウイルス不活性化には有効ではない場合がある。しかしながら、ウイルス不活性化に必要なpHは、他の製造条件において使用されるpH範囲とは顕著に異なる可能性がある。タンパク質試料における効果的なウイルス不活性化を得るために低pHインキュベーションを使用することは、バイオ医薬製品の低pH曝露がタンパク質の品質又は安定性を変化させる可能性があるため、バイオ医薬製品の製造の場合は困難である。バイオ医薬製品の製造中に、ウイルス不活性化のための低pH保持ステップの影響を評価し、特徴付けるための方法についての必要性が存在することが理解されるであろう。これらの方法は、精製工程などの製造工程の計画について、ウイルス不活性化を保証するための効果的で堅牢な実験計画を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0006】
概要
本出願は、ウイルス不活性化のための低pH保持ステップの影響を評価し、特徴付けるためのいくつかの因子を組み込んだ統計的実験計画法に基づいて、低pH保持を使用するウイルスクリアランスのための方法を提供する。統計的に計画された実験は、ウイルス不活性化に対するpH条件、イオン強度条件、タンパク質アイソタイプ、温度、酸滴定剤、スパイクタイミング、及びスパイク後ろ過の効果を評価するために使用される。これらの方法を使用して、例えば、低pH出発材料のイオン強度を操作することによって、ウイルス不活性化ステップが約pH3.60~3.90の範囲で実施される場合の有効クリアランスを予測し得る。
【0007】
本開示は、ウイルス粒子を含む1つ以上の不純物を含む試料から、抗体などのペプチド又はタンパク質を精製するための方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、本出願の方法は、試料のイオン強度条件を調整することと、試料のpH条件を酸性pHに調整することと、その後、試料を、そのイオン強度条件及びそのpH条件で少なくとも約15分間維持して、ある量のウイルス粒子を不活性化することと、を含み、試料は、ウイルス粒子を含む1つ以上の不純物を含む。一態様では、ウイルス粒子不活性化の量は、本出願の方法を使用する場合、少なくとも約3LRF(対数減少率)である。一態様では、ウイルス粒子不活性化の量は、本出願の方法を使用する場合、少なくとも約4LRFである。
【0008】
一態様では、本出願の方法における試料のpH条件は、約pH3.90以下である。一態様では、試料のpH条件は、約pH3.60~約pH3.90の範囲にある。別の態様では、試料のpH条件は、約pH3.65~約pH3.80の範囲にある。別の態様では、試料におけるペプチド又はタンパク質は、宿主細胞において作製された抗体である。更に別の態様では、本出願の方法における試料は、その量のウイルス粒子を不活性化するために、少なくとも約30分間、試料のイオン強度条件及びpH条件で維持される。一態様では、試料は、その量のウイルス粒子を不活性化するために、約15分間~約30分間、試料のイオン強度条件及びpH条件に維持される。
【0009】
一態様では、本出願の方法は、D-最適実験計画法を実行することによってその量のウイルス粒子の不活性化を最適化することを更に含む。別の態様では、D-最適実験計画法は、以下の因子、試料のpH条件、及び試料に添加された塩濃度を評価する。一態様では、D-最適実験計画法は、以下の因子、ペプチド又はタンパク質の種類、試料の温度、試料のpH条件を調整するための酸滴定剤、ウイルス粒子を試料にスパイクするためのスパイクタイミング、又はスパイク後ろ過の存在を更に評価する。
【0010】
一態様では、本出願の方法における試料は、プロテインAクロマトグラフィーからの溶出液である。別の態様では、試料のイオン強度は、塩化ナトリウムの添加を使用して調整され、塩化ナトリウムの濃度は、約1mM~約100mM、約1mM~約500mM、約25mM、約50mM、約72mM、約82mM、約100mM、約125mM、約150mM、約175mM、又は約200mMの範囲にある。一態様では、試料のpH条件は、リン酸又はグリシンHClを使用して調整される。別の態様では、本方法の試料におけるペプチド又はタンパク質は、IgG1アイソタイプを有するか又はIgG4アイソタイプを有する抗体である。一態様では、ペプチド又はタンパク質は、モノクローナル抗体又は二重特異性抗体である。更に別の態様では、ペプチド又はタンパク質は、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、タンパク質医薬製品、又は薬物である。
【0011】
本開示は、目的のタンパク質及び感染性ウイルス粒子を有する試料から目的のタンパク質及び減少した量のウイルス粒子を含む調製物を作製する方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、目的のタンパク質及び感染性ウイルス粒子を有する試料から目的のタンパク質及び減少した量のウイルス粒子を含む調製物を作製する方法は、最大約100mMの濃度を有する塩の添加によって、試料を、約pH3.60超のpH及びイオン強度条件に供することと、目的のタンパク質及び減少した量の感染性ウイルス粒子を含む調製物を作製するために適切な期間、試料をそのpH及びイオン強度条件で維持することと、を含む。
【0012】
一態様では、試料における目的のタンパク質の濃度は、約25g/L未満である。
【0013】
一態様では、適切な期間は、約15分、約20分、約25分、又は約30分である。
【0014】
一態様では、本方法は、試料から感染性ウイルス粒子の量を約3LRF(対数減少率)で減少させる。別の態様では、本方法は、試料から感染性ウイルス粒子の量を約4LRFで減少させる。
【0015】
一態様では、試料のpH条件は、約pH3.70超である。別の態様では、試料のpH条件は、約pH3.80超である。更に別の態様では、試料のpH条件は、約pH3.90超である。更に別の態様では、試料のpH条件は、約pH4.0超である。
【0016】
一態様では、試料のpH条件は、約pH3.60~約pH4.0の範囲にある。別の態様では、試料のpH条件は、約pH3.70~約pH4.0の範囲にある。更に別の態様では、試料のpH条件は、約pH3.80~約pH4.0の範囲にある。
【0017】
「試料」の例示的な供給源としては、プロテインA溶出液などの親和性クロマトグラフィーが挙げられ得、試料は、イオン交換クロマトグラフィー手順のフロースルー画分から得られ得、イオン交換カラムのストリップからも得られ得、試料が得られ得る当業者に周知の精製工程中の他の供給源がある。この実施形態の一態様では、試料は、プロテインAクロマトグラフィーからの溶出液である。
【0018】
一態様では、試料のイオン強度は、塩化ナトリウムの添加を使用して調整され、塩化ナトリウムの濃度は、約1mM~約200mMの範囲にある。
【0019】
一態様では、イオン強度条件は、約50mM超の濃度の塩化ナトリウムを使用することによって調整される。本実施形態の別の態様では、濃度は、約100mM超である。
【0020】
一態様では、試料のpH条件は、リン酸又はグリシンHClを使用して調整される。
【0021】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の説明及び添付の図面と併せて考慮される場合、よりよく認識され、理解されるであろう。以下の説明は、その様々な実施形態及び多数の具体的な詳細を示すが、限定ではなく、例証として与えられる。多くの置換、修正、追加、又は再配置は、本発明の範囲内で行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】調整スパイク再調整方法を示し、例示的な実施形態に従って、試料を標的pHに調整/滴定し、次いで、約pH7.2においてウイルスストックでスパイクし、続いて試料のpHを標的pHに再調整した後、pH保持の残りの期間、所望の温度で保持する。タイミングは、スパイク時に開始する。
【
図1B】スパイク調整方法を示し、例示的な実施形態に従って、最初に試料をウイルスストック溶液でスパイクし、次いで標的pHに調整/滴定する。タイミングは、試料の標的pHに到達した時に開始する。
【
図2A】例示的な実施形態に従って、ウイルス不活性化のための低pH保持ステップと関連するいくつかの因子の効果を調査するためのD-最適モデル計画の散布図マトリックス及び多変量相関を示す。
【
図2B】各モノクローナル抗体塩状態について実施された中性対照を示す。この対照の目的は、例示的な実施形態に従って、測定されたウイルス活性が、低pHでの化学的不活性化の結果であることを保証することである。
【
図3A】例示的な実施形態に従って、標的pH3.65でのX-MuLVの不活性化動態を示す。例示的な実施形態に従って、時点に対してLRF値をプロットすることによって標的pH3.65でのLRF曲線を得た。
【
図3B】例示的な実施形態に従って、標的pH3.73でのX-MuLVの不活性化動態を示す。例示的な実施形態に従って、時点に対してLRF値をプロットすることによって標的pH3.73でのLRF曲線を得た。
【
図3C】例示的な実施形態に従って、標的pH3.80でのX-MuLVの不活性化動態を示す。例示的な実施形態に従って、時点に対してLRF値をプロットすることによって標的pH3.80でのLRF曲線を得た。
【
図4A】例示的な実施形態に従って、種々の標的pH条件、例えば、約pH3.65、pH3.73、又はpH3.80での、0mMのNaClでのX-MuLVの不活性化動態を示す。例示的な実施形態に従って、種々の標的pH条件について、時点に対してLRF値をプロットすることによってLRF曲線を得た。
【
図4B】例示的な実施形態に従って、種々の標的pH条件、例えば、約pH3.65、pH3.73、又はpH3.80での、50mMのNaClでのX-MuLVの不活性化動態を示す。例示的な実施形態に従って、種々の標的pH条件について、時点に対してLRF値をプロットすることによってLRF曲線を得た。
【
図4C】例示的な実施形態に従って、種々の標的pH条件、例えば、約pH3.65、pH3.73、又はpH3.80での、100mMのNaClでのX-MuLVの不活性化動態を示す。例示的な実施形態に従って、種々の標的pH条件について、時点に対してLRF値をプロットすることによってLRF曲線を得た。
【
図4D】例示的な実施形態に従って、約pH3.70~3.75で約25mMのNaClを含有する操作条件を評価するためのパラメータ推定値を含む予測されたプロファイラを示す。
【
図4E】例示的な実施形態に従って、約pH3.70~3.75で約50mMのNaClを含有する操作条件を評価するためのパラメータ推定値を含む予測されたプロファイラを示す。
【
図4F】例示的な実施形態に従って、約pH3.70~3.75で約80mMのNaClを含有する操作条件を評価するためのパラメータ推定値を含む予測されたプロファイラを示す。スパイク後ろ過の効果サイズは最小限であり、全体的な予測プロファイラに含まれなかった。
【
図5A】例示的な実施形態に従って、15分の時点についてのLRFについての多変量線形回帰モデルの実際の値対予測値を示す。
【
図5B】例示的な実施形態に従って、30分の時点についてのLRFについての多変量線形回帰モデルの実際の値対予測値を示す。
【
図6】例示的な実施形態に従って、15及び30分の時点の両方の後に4LRF超を達成するようにモデルを最適化するために作成された予測プロファイラを示す。例示的な実施形態に従って、予測プロファイラは、D-最適DoEで評価された顕著な因子の関数としてX-MuLV不活性化を表した。
【
図7】例示的な実施形態に従って、低pH保持について、約pH3.70~3.75でのいくつかの既存の操作条件についてのパラメータ推定値を含む予測されたプロファイラを示す。スパイク後ろ過の効果サイズは最小限であり、全体的な予測プロファイラに含まれなかった。
【
図8】例示的な実施形態に従って、低pH保持について、約pH3.65~3.70に再計画された操作条件についてのパラメータ推定値を含む予測されたプロファイラを示す。スパイク後ろ過の効果サイズは最小限であり、全体的な予測プロファイラに含まれなかった。
【
図9】例示的な実施形態に従って、遡及的データに基づいたIgG1及びIgG2を含むタンパク質の種類についてのNaCl、pH、酸滴定剤、温度、タンパク質の種類(mAb、モノクローナル抗体)、スパイクタイミング及びそれらの組み合わせ、並びに30分の時点でのX-MuLVのLRFを含む評価された因子についての効果サイズを示す。
【
図10】例示的な実施形態に従って、遡及的産業データに基づいた種々の温度条件についてのNaCl、pH、酸滴定剤、温度、タンパク質の種類(mAb、モノクローナル抗体)、スパイクタイミング及びそれらの組み合わせ、並びにレトロウイルスのLRFを含む評価された因子についての効果サイズを示す。
【
図11】例示的な実施形態に従って、2つの方法についてのNaCl、pH、酸滴定剤、温度、タンパク質の種類(mAb、モノクローナル抗体)、スパイクタイミング及びそれらの組み合わせ、並びにスパイク/調整の時間を含む評価された因子についての効果サイズを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
ウイルスクリアランスは、バイオ医薬製品、特にチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの哺乳動物細胞株を使用して作製されるバイオ医薬製品を製造するために重要である。精製工程を計画する場合、ウイルスクリアランスを保証することが重要である。製造工程のウイルスクリアランスを研究するための典型的なワークフローは、試料負荷をウイルスでスパイクすることと、大スケールのステップを模倣するスケールダウン実験で工程を実行することと、スパイクされたウイルスを除去する能力を記録することと、を含む。ウイルス不活性化又は除去の工程は、pH処理、熱処理、溶媒/洗剤処理、ろ過、又はクロマトグラフィーを含む。ウイルスクリアランスの評価には、CHO細胞のゲノムに固有のレトロウイルス様粒子についての特定のモデルウイルスの除去を実証することを含む必要がある(Anderson et al.,Endogenous origin of defective retrovirus-like particles from a recombinant Chinese hamster ovary cell line,Virology 181(1):305-311,1991)。レトロウイルスは、宿主細胞において逆転写酵素を使用して増殖し、そのRNAゲノムからDNAを作製するエンベロープRNAウイルスである。次いで、作製されたDNAは、複製のために宿主のゲノムに組み込まれる。異種指向性マウス白血病ウイルス(X-MuLV)は、CHO細胞由来の医薬タンパク質におけるウイルス不活性化の評価においてモデルウイルスとして使用され得る。マウス白血病ウイルス(MuLV)は、レトロウイルスであり、逆転写を介して複製するプラス一本鎖センスRNAを有する。MuLVは、接種されたマウスにおいて白血病を誘発し得る。
【0024】
ウイルス減少又はウイルスクリアランスとは、クロマトグラフィー工程などの、特定の工程ステップを実施した後の、入力試料及び出力試料間における総ウイルス量又は感染性ウイルス量の差を指す。ウイルス減少能力は、工程ステップの対数減少値(LRV)又は対数(log10)減少率(LRF)として定義され得る。減少率は、クリアランスステップを適用する前の総ウイルス負荷及びクリアランスステップを適用した後の総ウイルス量に基づいて計算される。ウイルス検証研究は、製品と関連する既知のウイルスのクリアランスを記録するため、及び非特異的モデルウイルスを除去する工程の能力を特徴付けることによって潜在的な迷入ウイルス汚染物質を除去する工程の有効性を推定するために実施することができる。
【0025】
本出願は、タンパク質アイソタイプ、pH条件、温度、酸滴定剤、イオン強度条件、スパイクタイミング、又はスパイク後ろ過などのいくつかの因子の評価を含む、ウイルス不活性化のための低pH保持ステップの効果を評価し、特徴付けるために使用され得る統計的に計画された実験を提供する。これらの方法を使用して、低pH出発材料の導電率を増加させることによってイオン強度を操作することによって、ウイルス不活性化ステップが約pH3.60~3.90の範囲で実施される場合の有効クリアランスを予測し得る。実験から生成されたモデルを使用して、約15分及び約30分の時点などの種々の時点での工程条件の範囲にわたって、X-MuLVなどのウイルスのクリアランスを予測し得る。いくつかの例示的な実施形態では、ウイルス不活性化に対するpH条件の効果に加えて、出発溶液の導電率を増加させることにより、ウイルス不活性化を増加させ得る。例えば、塩化ナトリウム(NaCl)濃度の増加は、より大きなウイルス不活性化を達成するためにウイルス不活性化動態に影響を及ぼす重要な構成要素であり得る。一態様では、本出願は、X-MuLVの不活性化のための約4LRF超などのウイルスの堅牢で効果的な不活性化の利点を提供し、これは、低pH出発材料のイオン強度の増加を介して達成され得る。
【0026】
ICH Q5A(R1)(ヒト又は動物起源の細胞株に由来するバイオテクノロジー製品のウイルス安全性評価。International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use.Current Step 4 version,Sep 23,1999)に従って、バイオ医薬製品の下流精製工程は、内因性又は外来性ウイルス汚染物質の除去及び/又は不活性化を保証するように開発される。典型的な下流精製工程は、エンベロープウイルスを不活性化するための1つの専用のステップを含む、いくつかの直交ウイルス除去ステップを組み込むことができる。低pHインキュベーションは、カプシドの不可逆的変性などのエンベロープウイルスを不活性化するために使用され得る(Brorson et al.,Bracketed generic inactivation of rodent retroviruses by low pH treatment for monoclonal antibodies and recombinant proteins,Biotechnol Bioeng 82(3):321-329,2003)。ろ過は、エンベロープ及び非エンベロープウイルスの両方を除去するために使用され得るサイズベースの除去である(Lute et al.,Phage passage after extended processing in small-virus-retentive filters,Biotechnol Appl Biochem 47(Pt 3):141-151,2007)。クロマトグラフィーステップは、プロテインAクロマトグラフィー(Bach et al.,Clearance of the rodent retrovirus,XMuLV,by protein A chromatography,Biotechnol Bioeng 112(4):743750,2015)又はアニオン交換クロマトグラフィー(Strauss et al.,Anion exchange chromatography provides a robust,predictable process to ensure viral safety of biotechnology products,Biotechnol Bioeng 102(1):168-175,2009a)の使用などウイルスクリアランスのためのウイルス減少を提供する可能性を伴って生物製剤を精製するために使用され得る。
【0027】
低pHウイルス不活性化は、一般的に、モノクローナル抗体などのバイオ医薬製品の精製中にウイルスを不活性化するためのプロテインA捕捉ステップの後に実行される。プロテインAクロマトグラフィーから溶出した製品は、典型的には、低pHであり、これは更に酸性化され、ウイルス不活性化のために少なくとも30分間保持される。ウイルス不活性化の機序は、主に、ウイルスの表面糖タンパク質の不可逆的変性又は脂質エンベロープの崩壊を引き起こすpHベースの化学反応を介している(Brorsonら、上記)。pH保持が完了すると、製品は中和され、更に下流処理に進む。低pHステップは、4LRFの大型エンベロープウイルスを確実に作製することが観察されている(Miesegaes et al.,Analysis of viral clearance unit operations for monoclonal antibodies.Biotech Bioeng.2019;106:238-246)。以前の研究は、イオン強度がX-MuLVの不活性化動態に影響を及ぼす可能性があることを示している。より高い緩衝液濃度又は弱酸の滴定を伴うより高いタンパク質濃度などのイオン強度の増加を有する実験条件は、pH3.7及び3.8でより高いLRVと相関し得る(Chinniah et al.,Characterization of operating parameters for XMuLV inactivation by low pH treatment,Biotechnol Prog,2016.Jan-Feb32,(1),89-97,doi:10.1002/btpr.2183.Epub 2015 Nov 5)。
【0028】
低pH保持によるウイルスクリアランスを理解するための研究が行われている。これらの研究は、pH、時間、及び温度によって影響が及ぼされるpHベースの化学反応を支持する(Brorsonら)。不活性化ステップは堅牢であるため、Brorsonらは、X-MuLVの4.6log10以上のクリアランスを一貫して達成するために、pH3.8以下のpH条件及び14℃以上の温度で少なくとも30分間保持して低pH不活性化が実施される「ひとまとめにした包括的クリアランス」を開発している。ASTM(American Society for Testing and Materials)は、ASTM E2888-12によると、5.0LRF以上を達成するために、低pH保持をpH3.6以下に、及び15℃以上の温度に、操作スペースを更に減少させた(ASTM.E2888-12:Standard Practice for Process for Inactivation of Rodent Retrovirus by pH.West Conshohocken,PA:ASTM International;2012.http://www.astm.org)。更に、ASTM E2888-12によれば、保持時間は30分以上である。
【0029】
時間の経過と共に、より大きなLRFを達成するために、保持のpHを減少させるようにガイダンスが改訂された。ASTM E2888-12によって提供される包括的クリアランスを要求するために、目的のタンパク質は、その文書が定義する包括的な型に適合させる必要がある。低pHへのタンパク質の曝露は、タンパク質の質又は安定性を変化させる可能性があるため、効果的なウイルス不活性化は、モノクローナル抗体などのバイオ医薬製品については特に困難であり得る。保健当局は、最悪の場合の条件下で低pH保持が検証されることを期待している。それは、レトロウイルス不活性化が、実際の製造範囲を超えるpH条件で決定されることを示す。不活性化ステップがこれらの外側で操作されると、ウイルスクリアランスが損なわれる可能性がある。
【0030】
いくつかの例示的な実施形態では、本出願は、統計的に計画された実験、例えば、種々の時点で、タンパク質の種類、pH条件、温度、酸滴定剤、NaCl含有量、スパイクタイミング、又はスパイク後ろ過がウイルス不活性化に対して及ぼす影響を決定するための、低pH不活性化ステップに関連する制御された及び制御されていない因子を含む、実験計画を提供する。いくつかの態様では、本出願は、信頼性の高い効果的なウイルスクリアランスのための操作条件を定義するための実験因子及び条件を提供する。いくつかの態様では、X-MuLVは、モデル内因性エンベロープウイルスとして選択される。いくつかの態様では、IgG1又はIgG4などの2つの種類のモノクローナル抗体は、pH、温度、酸滴定剤、イオン強度、スパイクタイミング、又はスパイク後ろ過などの様々なパラメータを試験することに供される。
【0031】
多変量解析のための本出願の実験計画、例えば、実験計画法、つまりDoEは、低pH保持でのウイルス不活性化の特徴付けを含む。DoEは、1つの実験設計の文脈内で複数の開発因子の系統的変動を可能にする方法論である。DoEの結果は、検討されている工程の数理モデルを作成するために使用することができる。検討された工程の真の最適条件は、これらの数理モデルを適用することによって特定することができる。DoE結果の適用は、非実質的な開発因子を排除すること、更なる研究のために重要な開発因子を特定すること、及び実験された工程の性能を予測することを含む。DoEは、目的を述べること、可変因子及びモデルを選択すること、モデルを支持する実験計画を作成すること、計画に基づくデータを収集すること、解析を実行すること、又はモデルをチェックポイントで検証すること、及び結果を報告することを含む、系統的論理フローで実施される。DoE及び得られるモデルの結果は、ウイルスクリアランスのための低pH保持の機序の既存の理解を確認するか、拒否するか、又は改変するために使用され得る。
【0032】
いくつかの例示的な実施形態では、本出願は、潜在的な感染性ウイルス粒子を含む1つ以上の不純物を含む試料から抗体を精製するための方法を提供し、本出願の方法は、試料のイオン強度条件を調整することと、試料のpH条件を酸性pHに調整することと、その後、試料を、そのイオン強度条件及びそのpH条件で少なくとも約15分間維持して、ある量のウイルス粒子を不活性化することと、を含む。一態様では、その量のウイルス粒子を不活性化するための本出願の方法の能力は、少なくとも約3LRFである。一態様では、その量のウイルス粒子を不活性化するための本出願の方法の能力は、少なくとも約4LRFである。一態様では、試料におけるペプチド又はタンパク質は、宿主細胞において作製された抗体である。一態様では、抗体は、モノクローナル抗体又は二重特異性抗体である。一態様では、本出願の方法における抗体は、プロテインAクロマトグラフィーからの溶出液である。
【0033】
一態様では、本出願の方法における試料のpH条件は、約pH3.90以下である。一態様では、試料のpH条件は、約pH3.60~約pH3.90の範囲にある。一態様では、試料のpH条件は、約pH3.65~約pH3.80の範囲にある。いくつかの態様では、本出願の統計的に計画された実験におけるpH条件は、約pH3.65、約pH3.73、又は約pH3.80などの約pH3.65~約pH3.80の範囲にあり、これは、製造工程のpH範囲以上である。pH3.65~3.80のpH範囲は、ASTM E2888-12によって示唆されるpH範囲よりも大きく、外側にあり、例えば、pH3.6以下である。より低いpH条件は、ウイルスの不活性化をより速く引き起こし得ることが知られている(Brorsonら)。いくつかの態様では、本出願の統計的に計画された実験における温度は、約15℃又は約20℃などの、約15℃~約20℃の範囲にあり、これは、製造工程の温度範囲の下端にあるか、又はそれ未満である。より高い温度は、不活性化をより速く引き起こし得ることが知られている(Brorsonら)。約15℃~約20℃の温度範囲は、ASTM E2888-12によって示唆される温度範囲内、例えば、15℃以上である。いくつかの態様では、本出願の統計的に計画された実験における酸滴定剤は、約0.25Mのリン酸又は約0.25MのグリシンHClである。いくつかの態様では、本出願の統計的に計画された実験において出発材料に添加されるNaCl含有量は、約0mM~約100mMの濃度範囲にある。
【0034】
いくつかの態様では、本出願の方法は、試料のpH条件、試料の導電率、ペプチド又はタンパク質の種類、試料の温度、試料のpH条件を調整するための酸滴定剤、試料にウイルス粒子をスパイクするためのスパイクタイミング、又はスパイク後ろ過の存在を含む様々な因子を評価するためのD-最適DoEを実行することによって、ある量のウイルス粒子の不活性化を最適化することを更に含む。いくつかの態様では、本出願の統計的に計画された実験におけるスパイクタイミングは、調整スパイク再調整方法又はスパイク調整方法である。調整スパイク再調整方法は、保持時間全体の間、一定の所望のpH範囲を提供することができる。スパイク調整方法は、内因性レトロウイルス様粒子を含有する工程内中間体が出発pHから酸性化される信頼性のある製造条件を表すことができる。
図1Aに示されるような調整スパイク再調整方法では、試料を標的pHに調整/滴定し、次いで約pH7.2を有するウイルスストックでスパイクする。pH保持のタイミングは、スパイク時に開始された。スパイクウイルスストック後のpH増加の観察により、試料のpHを標的pHに再調整した後、pH保持の残りの期間、所望の温度で保持される。
図1Bに示されるようなスパイク調整方法では、最初に試料をウイルスストック溶液でスパイクし、次いで標的pHに調整/滴定する。標的pHに達すると、pH保持のタイミングを開始し、試料を所望の温度でインキュベーションする。本出願の統計的に計画された実験のいくつかの態様では、低pH保持は、約0.2μmのろ過材などのろ過材を使用するスパイク後ろ過を伴うか、又は伴わず実施され得る。スパイク後ろ過は、内因性レトロウイルス様粒子を含有する工程内中間体をろ過して無菌性を維持する信頼性のある製造操作を表す。ウイルス凝集体を除去し得るろ過ステップは、単分散ウイルスをもたらし得る。
【0035】
いくつかの例示的な実施形態では、出発材料の導電率は、種々の標的pH条件で、ウイルス不活性化動態に影響を及ぼす強力な効果を有する。いくつかの例示的な実施形態では、本出願は、工程条件の範囲にわたってウイルスクリアランスを予測するためのモデルを提供する。いくつかの態様では、ウイルス不活性化に対するpHの効果に加えて、NaCl濃度などのイオン強度又は導電率の増加は、ウイルス不活性化動態に影響を及ぼす重要な構成要素であり得る。一態様では、pH条件は、負荷材料が低いイオン強度を有する場合の重要な因子である。例えば、X-MuLV不活性化は、低イオン強度でのpH条件に依存し得る。いくつかの態様では、イオン強度が増加する場合、ウイルス不活性化に対するpH条件の影響が減少する。例えば、X-MuLVは、イオン強度が増加した場合、全ての標的pH条件で迅速に不活性化され得る。いくつかの態様では、約50mM又は約100mMのNaClが存在する場合、X-MuLVの不活性化などの完全で有効なウイルスクリアランスは、約pH3.65、約pH3.73、及び約pH3.80での標的pH条件約30分の時点で観察される。約pH3.65及びpH3.73でのpH条件については、15分後にX-MuLVの完全な不活性化が観察された。一態様では、試料のイオン強度は、塩化ナトリウムの添加を使用して調整され、塩化ナトリウムの濃度は、約1mM~約100mM、約1mM~約500mM、約50mM、又は約100mMの範囲にある。
【0036】
バイオ医薬製品の製造中の低pH保持は、モノクローナル抗体などのタンパク質の品質及び安定性に重要な影響を及ぼし得る。本出願のモデルを使用して、低pH出発材料の導電率を操作することによって、ウイルス不活性化がpH3.60~pH3.90の範囲で操作される場合の有効クリアランスを予測し得る。いくつかの態様では、本出願は、出発材料へのNaClの添加を介した導電率の増加が、様々な標的pH条件で迅速で効果的なウイルス不活性化を達成し得ることを提供する。一態様では、本出願の方法における試料は、その量のウイルス粒子を不活性化するために、少なくとも約30分間、試料のイオン強度条件及びpH条件で維持される。一態様では、試料は、その量のウイルス粒子を不活性化するために、約15分間~約30分間、試料のイオン強度条件及びpH条件に維持される。
【0037】
本出願における低pH保持のための統計的DoEの試験結果は、約pH3.60未満の5.0LRFのX-MuLV不活性化のためのASTM標準と一致する。結果はまた、約3.60超のpHでの堅牢で効果的な不活性化を実証している。ASTMの包括的要求の外側の範囲について、結果は、NaCl含有量を増加させることにより、迅速で効果的なX-MuLV不活性化を達成し得ることを示している。典型的には、保持のpHは、タンパク質の安定性に依存する。本出願のモデルは、低pH出発材料の導電率を操作することによって、pH3.60~pH3.90で操作する場合の有効なクリアランスを予測する利点を提供する。
【0038】
バイオ医薬製品の製品品質、有効性、及び安全性を改善するという要求は、ウイルスの不活性化を保証するための効果的で堅牢な実験計画に対する需要の増加につながっている。本開示は、前述の要求を満たす方法を提供する。本明細書に開示される例示的な実施形態は、ウイルス粒子を含む1つ以上の不純物を含む試料から抗体を精製するための方法を提供することによって前述の要求を満たす。本出願は、低pH出発材料のイオン強度の増加を介したウイルスの堅牢で効果的な不活性化、及び低pH出発材料のイオン強度を操作することによる任意のpH操作での有効なクリアランスを予測するためのモデルを提供し、長年にわたる必要性を満たす。
【0039】
「1つの(a)」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解されるように標準的な変動を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、エンドポイントが含まれる。本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」という用語は、非限定的であることを意味し、それぞれ、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」を意味すると理解される。
【0040】
いくつかの例示的な実施形態では、本出願は、ウイルス粒子を含む1つ以上の不純物を含む試料から、抗体などのペプチド又はタンパク質を精製するための方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、本出願の方法は、試料のイオン強度条件を調整することと、試料のpH条件を酸性pHに調整することと、その後、試料を、そのイオン強度条件及びそのpH条件で少なくとも約15分間維持して、ある量のウイルス粒子を不活性化することと、を含む。一態様では、試料におけるペプチド又はタンパク質は、宿主細胞において作製された抗体である。一態様では、ペプチド又はタンパク質は、モノクローナル抗体又は二重特異性抗体である。一態様では、ペプチド又はタンパク質は、抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、タンパク質医薬製品、又は薬物である。
【0041】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」又は「目的のタンパク質」という用語は、共有結合で連結されたアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含み得る。タンパク質には、概して「ポリペプチド」として当技術分野で既知である1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖が含まれる。「ポリペプチド」は、アミノ酸残基、関連する天然に生じる構造バリアント、及びペプチド結合を介して連結されたそれらの合成の天然に生じない類似体、関連する天然に生じる構造バリアント、並びにそれらの合成の天然に生じない類似体からなるポリマーを指す。「合成ペプチド又はポリペプチド」は、天然に生じないペプチド又はポリペプチドを指す。合成ペプチド又はポリペプチドは、例えば、自動化ポリペプチド合成機を使用して合成され得る。様々な固相ペプチド合成方法が、当業者に既知である。タンパク質は、単一の機能的な生体分子を形成するために1つ以上のポリペプチドを含み得る。別の例示的な態様では、タンパク質は、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含み得る。タンパク質は、生物治療薬タンパク質、研究又は治療において使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、並びに二重特異性抗体のうちのいずれかを含み得る。タンパク質は、昆虫バキュロウイルス系、酵母系(例えば、Pichia種)、哺乳動物系(例えば、CHO細胞及びCHO-K1細胞などのCHO誘導体)などの組換え細胞ベースの作製系を使用して作製され得る。生物治療薬タンパク質及びそれらの作製を考察する最近のレビューについては、Ghaderiらの「Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation」(Darius Ghaderi et al.,Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,28 BIOTECHNOLOGY AND GENETIC ENGINEERING REVIEWS147-176(2012))を参照されたい。いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質は、修飾、付加物、及び他の共有結合で連結された部分を含む。これらの修飾、付加物、及び部分は、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、グリカン(例えば、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンノース、及び他の単糖類)、PEG、ポリヒスチジン、FLAGタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)myc-エピトープ、蛍光標識、及び他の色素などを含む。タンパク質は、組成及び溶解性に基づいて分類され得、したがって、球状タンパク質及び線維状タンパク質などの単純タンパク質;ヌクレオタンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質、及びリポタンパク質などのコンジュゲートタンパク質;並びに一次由来タンパク質及び二次由来タンパク質などの誘導タンパク質を含み得る。
【0042】
いくつかの例示的な実施形態では、目的のタンパク質は、組換えタンパク質、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、融合タンパク質、scFv、及びそれらの組み合わせであり得る。
【0043】
本明細書で使用される場合、「組換えタンパク質」という用語は、宿主細胞に導入されている組換え発現ベクター上で担持される遺伝子の転写及び翻訳の結果として作製されるタンパク質を指す。特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、融合タンパク質であり得る。特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は完全ヒト抗体であり得る。特定の例示的な実施形態では、組換えタンパク質は、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA1、IgA2、IgD、又はIgEからなる群から選択されるアイソタイプの抗体であり得る。特定の例示的な実施形態では、抗体分子は、完全長抗体(例えば、IgG1又はIgG4免疫グロブリン)であるか、又は代替的に、抗体は、断片(例えば、Fc断片又はFab断片)であり得る。
【0044】
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、ジスルフィド結合によって相互接続された2本の重(H)鎖及び2本の軽(L)鎖の4本のポリペプチド鎖を含む免疫グロブリン分子、並びにそれらの多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略される)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと略される)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存された領域が点在する、相補性決定領域(CDR)と称される、超可変性の領域へと更に細分することができる。各VH及びVLは、以下の順序でアミノ末端からカルボキシ末端へ配置された、3つのCDR及び4つのFRで構成される。FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4。本発明の種々の実施形態では、抗big-ET-1抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得るか、又は天然に若しくは人工的に修飾され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、完全な抗体分子の抗原結合断片も含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、本明細書で使用される場合、抗原を特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に生じる、酵素処理で入手可能な、合成の、又は遺伝子操作されたポリペプチド又は糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、抗体可変ドメイン及び任意選択で定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現に関連するタンパク質消化又は組換え遺伝子操作技術などの任意の好適な標準的技術を使用して、完全な抗体分子に由来し得る。かかるDNAは既知であり、かつ/又は、例えば、市販の供給源、DNAライブラリー(例えばファージ抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、若しくは合成され得る。DNAは、例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/若しくは定常ドメインを好適な構成へと配置するために、又はコドンを導入し、システイン残基を作成し、アミノ酸を修飾、付加、若しくは欠失などするために、化学的に、又は分子生物学技術を使用することによって、配列決定及び操作され得る。
【0045】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、例えば、抗体の抗原結合領域又は可変領域などの完全なままの抗体の一部分を含む。抗体断片の例としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片、及び単離された相補性決定領域(CDR)領域、並びにトリアボディ、テトラボディ、線状抗体、単鎖抗体分子、及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。Fv断片は、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリン軽鎖及び重鎖可変領域がペプチドリンカーによって接続された組換え単鎖ポリペプチド分子である。いくつかの例示的な実施形態では、抗体断片は、親抗体と同じ抗原に結合する断片である親抗体の十分なアミノ酸配列を含み、いくつかの例示的な実施形態では、断片は、親抗体と同等の親和性で抗原に結合し、及び/又は抗原への結合について親抗体と競合する。抗体断片は、任意の手段によって作製され得る。例えば、抗体断片は、完全なままの抗体の断片化によって酵素的又は化学的に作製され得、かつ/又はそれは、部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換え的に作製され得る。代替的又は追加的に、抗体断片は、完全に又は部分的に、合成的に作製され得る。抗体断片は、任意選択で単鎖抗体断片を含み得る。代替的又は追加的に、抗体断片は、例えば、ジスルフィド連結によって一緒に連結される複数の鎖を含み得る。抗体断片は、任意選択で多分子複合体を含み得る。機能的抗体断片は、典型的には、少なくとも約50アミノ酸を含み、より典型的には、少なくとも約200アミノ酸を含む。
【0046】
「二重特異性抗体」という語句は、2つ以上のエピトープに選択的に結合することができる抗体を含む。二重特異性抗体は、概して、2つの異なる重鎖を含み、各重鎖は、2つの異なる分子(例えば、抗原)上又は同じ分子上(例えば、同じ抗原上)のいずれかで異なるエピトープに特異的に結合する。二重特異性抗体が2つの異なるエピトープ(第1のエピトープ及び第2のエピトープ)に選択的に結合することができる場合、第1の重鎖の第1のエピトープに対する親和性は、概して、第1の重鎖の第2のエピトープに対する親和性より少なくとも1~2、又は3、又は4桁低く、逆も同様である。二重特異性抗体によって認識されるエピトープは、同じ又は異なる標的上(例えば、同じ又は異なるタンパク質上)にあり得る。二重特異性抗体は、例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作製され得る。例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合され得、かかる配列は、免疫グロブリン軽鎖を発現する細胞で発現され得る。
【0047】
典型的な二重特異性抗体は、各々が3つの重鎖CDRを有する2つの重鎖、続いて、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、及びCH3ドメイン、並びに免疫グロブリン軽鎖を有し、この免疫グロブリン軽鎖は、抗原結合特異性を付与しないが、各重鎖と会合し得るか、又は各重鎖と会合し得、かつ重鎖抗原結合領域によって結合されたエピトープのうちの1つ以上と会合し得るか、又は各重鎖と会合し得、かつ1つ若しくは両方のエピトープへの結合、若しくは重鎖のうちの1つ若しくは両方を可能にするかのいずれかである。bsAbは、2つの主要なクラス、Fc領域を保有するもの(IgG様)及びFc領域を欠くものに分けることができ、後者は、通常、Fcを含むIgG及びIgG様二重特異性分子よりも小さい。IgG様bsAbは、これらに限定されないが、トリオマブ、ノブイントゥホールIgG(kihIgG)、クロスMab、orth-Fab IgG、二重可変ドメインIg(DVD-Ig)、ツーインワン若しくは二重作用Fab(DAF)、IgG-単鎖Fv(IgG-scFv)、又はκλボディなどの種々の形式を有し得る。非IgG様の種々の形式としては、タンデムscFv、ダイアボディ形式、単鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(TandAb)、二重親和性再標的化分子(DART)、DART-Fc、ナノボディ、又はドックアンドロック(DNL)法によって作製される抗体(Gaowei Fan,Zujian Wang&Mingju Hao,Bispecific antibodies and their applications,8 JOURNAL OF HEMATOLOGY&ONCOLOGY 130;Dafne Muller&Roland E. Kontermann,Bispecific Antibodies,HANDBOOK OF THERAPEUTIC ANTIBODIES265-310(2014))が挙げられる。bsAbを作製する方法は、2つの異なるハイブリドーマ細胞株の体細胞融合に基づくクアドローマ技術、化学的架橋剤を含む化学的コンジュゲーション、及び組換えDNA技術を利用する遺伝子アプローチに限定されない。bsAbの例としては、以下の特許出願に開示されているものが挙げられ、これらは参照により本明細書に組み込まれる。2010年6月25日に出願された米国特許出願第12/823838号、2012年6月5日に出願された米国特許出願第13/488628号、2013年9月19日に出願された米国特許出願第14/031075号、2015年7月24日に出願された米国特許出願第14/808171号、2017年9月22日に出願された米国特許出願第15/713574号、2017年9月22日に出願された米国特許出願第15/713569号、2016年12月21日に出願された米国特許出願第15/386453号、2016年12月21日に出願された米国特許出願第15/386443号、2016年7月29日に出願された米国特許出願第15/22343号、及び2017年11月15日に出願された米国特許出願第15814095号。低レベルのホモ二量体不純物は、二重特異性抗体の製造中のいくつかのステップで存在する可能性がある。かかるホモ二量体不純物の検出は、通常の液体クロマトグラフィー法を使用して実施される場合、ホモ二量体不純物の存在量が少なく、これらの不純物が主な種と共溶出するため、インタクト質量分析を使用して実施される場合困難である可能性がある。
【0048】
本明細書で使用される場合、「多重特異性抗体」又は「Mab」とは、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する抗体を指す。かかる分子は、通常、2つの抗原のみに結合するが(すなわち、二重特異性抗体、BsAb)、三重特異性抗体及びKIH三重特異性などの追加の特異性を有する抗体はまた、本明細書に開示される系及び方法によって対処され得る。
【0049】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、ハイブリドーマ技術を介して作製される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当技術分野で利用可能又は既知の任意の手段によって、任意の真核生物、原核生物、又はファージクローンを含む単一のクローンに由来し得る。本開示で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技術、又はそれらの組み合わせの使用を含む、当技術分野で既知の多種多様な技術を使用して調製され得る。
【0050】
いくつかの例示的な実施形態では、目的のタンパク質は、哺乳動物細胞から精製され得る。哺乳動物細胞は、ヒト起源のもの又は非ヒト起源のものであり得、初代上皮細胞(例えば、角化細胞、子宮頸部上皮細胞、気管支上皮細胞、気管上皮細胞、腎臓上皮細胞及び網膜上皮細胞)、確立された細胞株及びそれらの株(例えば、293胚性腎細胞、BHK細胞、HeLa子宮頸部上皮細胞及びPER-C6網膜細胞、MDBK(NBL-1)細胞、911細胞、CRFK細胞、MDCK細胞、CHO細胞、BeWo細胞、Chang細胞、Detroit562細胞、HeLa229細胞、HeLaS3細胞、Hep-2細胞、KB細胞、LSI80細胞、LS174T細胞、NCI-H-548細胞、RPMI2650細胞、SW-13細胞、T24細胞、WI-28 VA13、2RA細胞、WISH細胞、BS-C-I細胞、LLC-MK2細胞、クローンM-3細胞、1-10細胞、RAG細胞、TCMK-1細胞、Y-l細胞、LLC-PKi細胞、PK(15)細胞、GHi細胞、GH3細胞、L2細胞、LLC-RC256細胞、MHiCi細胞、XC細胞、MDOK細胞、VSW細胞、及びTH-I、B1細胞、BSC-1細胞、RAf細胞、RK細胞、PK-15細胞又はこれらの誘導体)、任意の組織又は器官由来の線維芽細胞(心臓、肝臓、腎臓、結腸、腸、食道、胃、神経組織(脳、脊髄)、肺、血管組織(動脈、静脈、毛細血管)、リンパ組織(リンパ腺、アデノイド、扁桃腺、骨髄、及び血液)、脾臓、並びに線維芽細胞及び線維芽細胞様細胞株(例えば、CHO細胞、TRG-2細胞、IMR-33細胞、Don細胞、GHK-21細胞、シトルリン血症細胞、デンプシー細胞、Detroit551細胞、Detroit510細胞、Detroit525細胞、Detroit529細胞、Detroit532細胞、Detroit539細胞、Detroit548細胞、Detroit573細胞、HEL299細胞、IMR-90細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、WI-26細胞、Midi細胞、CHO細胞、CV-1細胞、COS-1細胞、COS-3細胞、COS-7細胞、Vero細胞、DBS-FrhL-2細胞、BALB/3T3細胞、F9細胞、SV-T2細胞、M-MSV-BALB/3T3細胞、K-BALB細胞、BLO-11細胞、NOR-10細胞、C3H/IOTI/2細胞、HSDMiC3細胞、KLN205細胞、McCoy細胞、マウスL細胞、株2071(マウスL)細胞、L-M株(マウスL)細胞、L-MTK’(マウスL)細胞、NCTCクローン2472及び2555、SCC-PSA1細胞、Swiss/3T3細胞、インドキョン細胞、SIRC細胞、Cn細胞、及びJensen細胞、Sp2/0、NS0、NS1細胞又はその誘導体)が含まれ得る。
【0051】
いくつかの例示的な実施形態では、目的のタンパク質は、VEGF拮抗薬であり得る。本明細書で使用される場合、「VEGF拮抗薬」は、VEGFに結合又は相互作用し、その受容体(VEGFR1及びVEGFR2)へのVEGFの結合を阻害し、かつ/又はVEGFの生物学的シグナル伝達及び活性を阻害する任意の薬剤である。VEGF拮抗薬には、VEGFと天然VEGF受容体との間の相互作用に干渉する分子、例えば、VEGF又はVEGF受容体に結合し、VEGFとVEGF受容体との間の相互作用を防止するか、又はそうでければ妨害する分子が含まれる。具体的な例示的なVEGF拮抗薬としては、抗VEGF抗体(例えば、ラニビズマブ[LUCENTIS(登録商標)])、抗VEGF受容体抗体(例えば、抗VEGFR1抗体、抗VEGFR2抗体など)、並びにアフリベルセプト、ziv-アフリベルセプト、及び配列番号42を有するアミノ酸を有するタンパク質などのVEGF受容体ベースのキメラ分子又はVEGF阻害融合タンパク質(本明細書では、「VEGF-トラップ」又は「VEGFミニトラップ」とも称される)が挙げられる。VEGF-トラップの他の例は、ALT-L9、M710、FYB203及びCHS-2020である。VEGF-トラップの追加の例は、米国特許第7,070,959号、同第7,306,799号、同第7,374,757号、同第7,374,758号、同第7,531,173号、同第7,608,261号、同第5,952,199号、同第6,100,071号、同第6,383,486号、同第6,897,294号及び同第7,771,721号に見出すことができ、これらは、参照によりそれらの全体が本明細書に具体的に組み込まれる。
【0052】
VEGF受容体ベースのキメラ分子には、VEGFR1(Flt1とも称される)及び/又はVEGFR2(Flk1又はKDRとも称される)などのVEGF受容体の2つ以上の免疫グロブリン(Ig)様ドメインを含むキメラポリペプチドが含まれ、多量体化ドメイン(例えば、2つ以上のキメラポリペプチドの二量体化などの多量体化を促進するFcドメイン)も含む場合がある。例示的なVEGF受容体ベースのキメラ分子は、VEGFR1R2-FcΔC1(a)と称される分子である(アフリベルセプトとしても知られ、製品名EYLEA(登録商標)で市販されている)。
【0053】
本明細書で使用される場合、「タンパク質医薬製品」という用語は、本質的に完全に又は部分的に生物学的であり得る活性成分を含む。いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質医薬製品は、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、抗体、抗原、ワクチン、ペプチド-薬物コンジュゲート、抗体-薬物コンジュゲート、タンパク質-薬物コンジュゲート、細胞、組織、又はそれらの組み合わせを含み得る。いくつかの他の例示的な実施形態では、タンパク質医薬製品は、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、抗体、抗原、ワクチン、ペプチド-薬物コンジュゲート、抗体-薬物コンジュゲート、タンパク質-薬物コンジュゲート、細胞、組織、又はそれらの組み合わせの組換えバーション、操作バージョン、修飾バージョン、変異バージョン、又は切断バージョンを含み得る。
【0054】
例示的な実施形態
本明細書に開示される実施形態は、ウイルス粒子を含む1つ以上の不純物を含む試料から、抗体などのペプチド又はタンパク質を精製するための方法を提供する。本明細書に開示される実施形態はまた、統計的実験計画法に基づいて、低pH保持を使用するウイルスクリアランスのための方法を提供する。
【0055】
いくつかの例示的な実施形態では、本出願は、ウイルス粒子を含む1つ以上の不純物を含む試料から、抗体などのペプチド又はタンパク質を精製するための方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、本出願の方法は、試料のイオン強度条件を調整することと、試料のpH条件を酸性pHに調整することと、その後、試料を、そのイオン強度条件及びそのpH条件で少なくとも約15分間維持して、ある量のウイルス粒子を不活性化することと、を含む。
【0056】
一態様では、本出願の方法における試料のpH条件は、酸性pH、約pH7以下、約pH6以下、約pH5以下、約pH4以下、約pH3.90以下、約pH3.80以下、約pH3.70以下、約pH3.60~約pH3.90、又は約pH3.65~約pH3.80である。
【0057】
一態様では、本出願の方法における試料は、その量のウイルス粒子を不活性化するために、試料のイオン強度条件及びpH条件で、少なくとも約30分間、少なくとも約15分間、約15分間~約30分間、少なくとも約10分間、少なくとも約20分間、少なくとも約25分間、少なくとも約35分間、約10分間~約30分間、約15分間~約35分間、約20分間~約30分間、約20分間~約35分間、又は約25分間~約40分間、維持される。
【0058】
一態様では、試料のイオン強度は、塩化ナトリウムの添加を使用して調整され、塩化ナトリウムの濃度は、約1mM~約200mM、約1mM~約500mM、約5mM、約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、約40mM、約45mM、約50mM、約55mM、約60mM、約65mM、約70mM、約72mM、約80mM、約82mM、約90mM、約100mM、約150mM、約200mM、約250mM、約300mM、約350mM、約400mM、約450mM、又は約500mMの範囲にある。
【0059】
本方法は、前述のペプチド、タンパク質、抗体、D-最適実験計画法、ウイルス、レトロウイルス、ウイルス不活性化、ウイルスクリアランス、イオン強度、又はpH条件のうちのいずれかに限定されないことが理解される。
【0060】
本明細書で提供される方法ステップの数字及び/又は文字での連続した標識は、方法又はその任意の実施形態を特定の指示された順序に限定することを意味しない。特許、特許出願、公開特許出願、受入番号、技術論文、及び学術論文を含む、様々な刊行物が、本明細書全体を通して引用される。これらの引用される参考文献の各々は、参照によって、その全体及び全ての目的のために、本明細書に組み込まれる。別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本開示は、本開示をより詳細に説明するために提供される以下の実施例を参照することによって、より完全に理解されるであろう。それらは、例示することを意図しており、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0061】
材料及び試薬
1.モデルタンパク質及び緩衝液
CHO細胞において発現したモノクローナル抗体の異なるアイソタイプを、モデルタンパク質、IgG4アイソタイプを示すmAb1、及びIgG1アイソタイプを示すmAb2として使用した。モデルタンパク質の等電点は、mAb1については8.8、mAb2についてはpH9.3と推定された。モノクローナル抗体を、標準的なプロテインAクロマトグラフィーを使用して精製し、40mMの酢酸で溶出し、約pH4.2のプールを得た。モノクローナル抗体の濃度は、約15g/Lであった。
【0062】
2.スパイク及び感染性アッセイのためのウイルスストック
ウイルス不活性化を評価するために、X-MuLVを使用した。WuXi AppTec(Philadelphia,PA)によって、X-MuLVウイルスストックを調製した。X-MuLVウイルスストック溶液の1ロットは、およそ10
7PFU/mLの力価を有した。全ての実行について、ウイルスストック溶液を超音波処理し、ろ過した後、負荷材料にスパイクした。15分の時点で0.5mLのアッセイ体積の感染性試料を取り出し、分析した。30分の時点で7mLの大きいアッセイ体積の感染性試料を取り出し、試験した。全ての試料を、PG4インジケーター細胞を使用して、X-MuLV感染性について定量化した。播種前に、試料をpH6.5~7.5に中和した。式1に記載のとおり、負荷に存在するスパイクウイルスの量とプールに存在するウイルスの量とを比較することによって、ウイルスLRFを計算する。式中、C(ウイルス、負荷)は負荷におけるウイルス濃度を示し、C(ウイルス、プール)はプールにおけるウイルス濃度を示し、V(負荷)は負荷体積を示し、V(プール)はプール体積を示す。
式1.ウイルスlog
10減少率(LRF)の計算
試料を、研究の実行前の感染性アッセイのインジケーター細胞株に対する試料マトリックスの細胞傷害効果について評価した。低pH保持の存在によりウイルスの不活性化が生じ、タンパク質マトリックス自体と関連付けられていないことを保証するためにスパイキング研究中に追加の対照を実施した。
【0063】
方法及びデバイス
1.pH滴定及びスパイクのための方法:
試料を、0.25Mのリン酸又は0.25MのグリシンHClのいずれかを使用して、所望のpH値に滴定した。酸性試料を、2MのTris塩基を使用して中和した。各不活性化実験は、実験計画によって誘導される、2つのスパイク法のうちの1つを使用して実施された。スパイク法1、例えば、調整スパイク再調整方法では、試料を標的pHに調整/滴定し、次いでpHが約7.2であるウイルスストックでスパイクした。pH保持のタイミングは、スパイク時に開始された。スパイクウイルスストック後のpH増加の観察により、試料のpHを標的pHに再調整した後、pH保持の残りの期間、所望の温度で保持される。スパイク法2、例えば、スパイク調整方法では、最初に試料をウイルスストック溶液でスパイクし、次いで標的pHに調整/滴定した。酸添加は、大規模製造を代表する適切な混合時間及び速度を有するシリンジポンプを使用して実施された。標的pHに達すると、pH保持のタイミングを開始し、試料を所望の温度でインキュベーションした。
【0064】
スパイク方法1及び2の両方について、出発負荷材料に2%のX-MuLVウイルスストック(v/v)をスパイクした。スパイク後ろ過を実験計画における因子として示す場合、0.2μmPESろ過材(ポリエーテルスルホンろ過材)を使用した。バルク材料を、pH保持期間中、水浴中でインキュベーションした。水浴の温度は、実験計画における因子であり、較正済み温度計を使用して監視された。全てのpH測定は、バイオセーフティキャビネット内のバルク材料から2mLの試料を取り出してオフラインで行った。
【0065】
2.pH測定用デバイス
In Lab Expert Pro pHプローブ及びSevenCompact S220 pH計測器(Mettler Toledo、Columbus,OH)を使用して、pH値の測定を実施した。計測器は、直線較正モード、厳密なエンドポイント形式、及び自動温度補正に設定された。pH計測器は、結果を小数点以下2桁で表示するように設定されている。プローブを使用前に30~60分間電極貯蔵溶液中で平衡化した。pH1.68、pH4.01、又はpH7.00を有する緩衝液を使用して、プローブ(VWR、Radnor,PA)を較正した。3点較正傾斜率の基準は、97.0~103.0%の範囲内であった。較正に成功した後、pH3.00及びpH6.00における独立した緩衝液標準物質を測定して、精度が緩衝液pHの±0.03pH単位内にあることを確認した。独立した標準物質を再測定し、毎日、最終試料の完了後、pHが標的pHに維持されたことを確認した。新しいpHプローブを同じ基準と一致させて較正し、試験実施の各日に使用して、経時的なプローブ可変性を最小限に抑えた。
【0066】
3.低pH保持のための統計的実験計画法(DoE)
統計的実験計画法(DoE)を使用して、レトロウイルス不活性化のための低pH保持ステップの効果を評価し、特徴付けた。タンパク質の種類、pH、温度、酸滴定剤、NaCl含有量、スパイクタイミング、及びスパイク後ろ過を含む、低pH保持ステップと関連するいくつかの因子の効果を評価した。これらの因子の影響を調査するために、ソフトウェアを使用して統計的DoEを計画した。15回実行又は30回実行などのD-最適モデル計画を、JMPソフトウェアv.13(SAS、Cary NC)を使用して生成した。D-最適計画の散布図マトリックス及び多変量相関を
図2Aに示す。表1に示される、以下を含む7つの因子が、研究計画に組み込まれた。異なるアイソタイプ、例えば、IgG1又はIgG4の2つのモノクローナル抗体(mAb)などのタンパク質の種類;pH3.65、pH3.73又はpH3.80などのpH;15℃又は20℃などの温度;0.25Mのリン酸又は0.25MのグリシンHClなどの酸滴定剤;0mM、50mM又は100mMなどの出発溶液中のNaCl含有量;調整スパイク調整方法又はスパイク調整方法などのスパイクタイミング;及び、例えば、スパイク後ろ過の有無にかかわらずスパイク後ろ過。スパイク溶液は、2%v/vスパイクのためのX-MuLV精製ストックを含有する。表1は、各因子の特定のレベル又は種類を含む計画マトリックスへのこれら7つの因子の実装を示している。
【0067】
【0068】
計画は、全ての主な効果及びいくつかの相互作用を評価した。2回の再現を伴う15の条件、合計30回の実行を、4日間にわたって同じ分析者によって実行した。3つレベルのNaCl含有量、例えば、0mM、50mM又は100mMのNaClで、各モノクローナル抗体についての追加の対照が含まれた。感染性アッセイを使用して、15又は30分などの2つの時点(T)で試料を分析した。応答は、15及び30分で、X-MuLV LRFであった。JMP(登録商標)(SASからの統計ソフトウェア)を使用して、最小二乗推定値によるモデリングを実施した。分散分析(ANOVA)を使用して、統計的に有意な(P<0.05)因子及び相互作用を特定した。全ての非有意因子(P>0.05)、共線因子(VIF>5)、及び外れ値実行(ジャックナイフ距離によって決定)を除去した。
【0069】
全てのモノクローナル抗体条件について、
図2Bに示される中性対照を実施した。測定されたウイルス活性が低pHでの化学的不活性化の結果であることを保証するために、中性対照を実施した。負荷材料のpHを、約pH6.5~7.5に調整した。ウイルス不活性化がタンパク質マトリックス単独から生じないことを実証するために、クリアランスが観察されないことが期待された。試料をろ過前及びろ過後のステップから取得して、ろ過材に対する潜在的なウイルス損失を監視した。モノクローナル抗体の各条件は、データ分析のための負荷材料として機能する代表的な中性対照を有した。環境の温度は、pH測定に影響を及ぼす可能性がある。全てのウイルス処理、調整、及びpH測定は、室温で行われた。バルク試験品を、2つの異なる温度条件で、水浴中でインキュベーションした。測定には、Mettler Toledo Expert Proを使用した。
【0070】
実施例1.低pH保持に対して影響を及ぼす因子を調査する
表1に示すように、低pH保持のためのX-MuLV不活性化に対する、タンパク質の種類、pH、温度、酸滴定剤、NaCl含有量、スパイクタイミング、及びスパイク後ろ過の影響を、D-最適実験計画法を介して調査した。二重での15回の実行を、同じウイルスストック、人員、緩衝液、及び機器を用いて4日間連続して実施した。中性対照は、各モノクローナル抗体(mAb)条件(mAbの種類及びNaCl含有量、N=6)について実施され、データ分析のための負荷試料として機能した。各実行条件並びに15及び30分の時点の両方で得られたLRF値を表2に列挙する。実験計画法についてのデータの要約を表2に示す。30分後の30回の実行のうちの22回でウイルスは検出されなかった。30分後の再現実行の各々についてのLRFは、データ分析中に外れ値として除去された2つの実行を除いて、互いに0.5LRF内にあった。pH測定、酸添加、又は負荷材料に基づくデータセットには、日ごと又は実行ごとに顕著な可変性はない。
【0071】
表2において、標的pHに関して、試料を、±0.02pH単位の範囲内で標的pHに調整した。NaCl含有量に関しては、酸を用いて低pHに滴定を実施する前に、NaClをバルク材料に添加した。「>」の記号は、ウイルスがアッセイの検出限界を下回って減少したことを示す。Pは、リン酸を示す。Gは、グリシンHClを示す。いくつかの特定の実行は、ジャックナイフ距離によって外れ値として決定され、更なるデータ分析の前に除去された。感染性アッセイの前に、非干渉希釈を特定することができるように、試料マトリックスを、インジケーター細胞株におけるウイルス増殖に対する干渉について評価した。観察された干渉に基づいて、実行を3倍希釈で報告した。1つの再現実行は、3倍希釈で感染性アッセイに予期せず干渉し、報告された値は、干渉を防止した10倍希釈であった。この実行は、ジャックナイフの距離によって外れ値であることが決定され、データ分析から削除された。
【0072】
【0073】
実施例2.種々の標的pHでのX-MuLV不活性化動態の分析
統計的実験計画法(DoE)を使用して、タンパク質の種類、pH条件、温度、酸滴定剤、出発溶液のイオン強度、スパイクタイミング、及びスパイク後ろ過などのいくつかの因子の評価を含む、ウイルス不活性化のための低pH保持ステップの効果を評価し、特徴付けた。統計的DoEを使用して、ウイルス不活性化のための低pH保持ステップの効果を評価し、特徴付けた。種々の標的pHを考慮して、X-MuLVの不活性化動態を分析した。15分及び30分の時点での試料を、X-MuLV感染性について試験し、低pH保持の初期不活性化(例えば、15分)及び終了時での不活性化(例えば、30分)を評価した。
図3A~3Cは、標的pH3.65、pH3.73又はpH3.80でのX-MuLVの不活性化動態を示す。各pH値について、時点に対してLRF値をプロットすることによってLRF曲線を得た。
図3A~3Cに示されるように、白丸は、試料中にウイルスが検出されなかったことを示し、×印は、試料中でウイルスが検出されたことを示す。赤色の線は、pH3.65±0.02で実施された各実行に対応し、緑色の線は、pH3.73±0.02で実施された各実行に対応し、青色の線は、pH3.80±0.02で実施された各実行に対応する。
図3Aに示されるように、pH3.65の実行について、15分の時点での試料のうちのいずれにおいてもウイルスは検出されず、これは、ウイルスの迅速な不活性化(検出限界は約2.5PFU/mL)を示した。pH3.65の実行について、30分の時点で、2つの実行はウイルスの検出を示した。しかしながら、これらの2つの実行の結果は、アッセイの検出限界(約1.0PFU/mL)に近づいていた。pH3.65±0.02では、全てのLRFは30分間の時点で5.0超であった。pH3.73及びpH3.80の実行について、実行間で不一致が生じたため、
図3B及び
図3Cに示されるように、いくつかの不一致が存在した。pH3.73又はpH3.80でのいくつかの実行は、pH3.65の実行と同様の迅速な不活性化を示した。pH3.73又はpH3.80での1つ又は2つの実行は、30分で不完全な不活性化を示した。これらの実行の変動性は、別の因子がpH条件よりも強い効果を有し得ることを示唆した。
【0074】
実施例3.種々のNaCl含有量でのX-MuLV不活性化動態の分析
表2における30分の時点で検出されたレトロウイルスを示した実行について更なる分析を実施した。30分後にウイルスを検出していたこれらの実行中の一般的な因子、例えば、NaCl含有量を分析した。出発負荷材料にNaClを添加せずに実行を実施した。添加されたNaClの各レベルについて、時点に対してLRF値をプロットすることによってLRF曲線を得た。
図4A~4Cは、0mM(
図4A)、50mM(
図4B)又は100mM(
図4C)のNaCl含有量でのX-MuLVの不活性化動態を示す。
図4A~4Cに示されるように、白丸は、試料中にウイルスが検出されなかったことを示し、×印は、試料中でウイルスが検出されたことを示す。赤色の線は、約pH3.65±0.02で実施された各実行に対応し、緑色の線は、約pH3.73±0.02で実施された各実行に対応し、青色の線は、pH3.80±0.02で実施された各実行に対応する。
【0075】
出発溶液の導電率が、種々の標的pH条件でのX-MuLV不活性化動態に影響を及ぼす強力な結果が示された。NaCl含有量は、レトロウイルス不活性化に最も大きな影響を及ぼすと決定された。
図4Aに示されるように、負荷材料が低イオン強度を有する場合、又は追加のNaClが出発材料に添加されなかった場合、pH条件は重要な因子であった。データは、X-MuLV不活性化が、低イオン強度でのpHに依存することを示唆した。しかしながら、イオン強度を増加させた、例えば、NaCl濃度を増加させた場合、3つの標的pH条件全てでX-MuLVが迅速に不活性化されたため、種々の標的pH条件の効果は観察されなかった。言い換えれば、NaClの濃度が増加した場合、X-MuLV不活性化に対するpH条件の影響が減少した。50mM又は100mMのNaClを添加した場合、それぞれ
図4B(50mMのNaCl)又は
図4C(100mMのNaCl)に示されるように、pH3.65、pH3.73、及びpH3.80の標的pH条件について30分の時点での全ての実行についてX-MuLVの完全で有効なクリアランスが観察された。低導電率(例えば、低NaCl含有量)では、pHは、X-MuLV不活性化に対して強い効果を有する。より高い導電率(例えば、より高いNaCl含有量)では、pHは、X-MuLV不活性化に対して影響を及ぼさない。0.25MのグリシンHClは、0.25Mのリン酸と比較して、X-MuLV不活性化の増加を示した。
【0076】
実施例4.多変量線形回帰モデルの生成
種々の因子の影響を調査するために、多変量線形回帰モデルを生成して、評価された因子の主な効果、二次性、及び相互作用を調査した。更に、15及び30分の時点の両方でのX-MuLV不活性化に対するイオン強度の影響を定量化した。生成されたモデルは、表3に示されるように、0.15LRF未満の誤差の推定値を含む約99%の調整されたR
2値を有していたが、一方で感染性アッセイの報告される可変性は0.5LRFである(ICHQ5A(R1))。表3において、R
2は、相関係数を示し、調整されたR
2は、モデルによって説明される変動の量を示し、RMSEは、方法における誤差の推定についての平均の平方根誤差を示す。表4は、各モデルについての有意な(P<0.05)因子の一覧を示す。実際のプロット対予測プロットを
図5A及び
図5Bに示す。2つの時点についてのLRFの多変量線形回帰モデルの実際の値対予測値のプロットを、
図5A及び
図5B、例えば、15分(
図5A)又は30分(
図5B)に示す。
図5A及び
図5Bにおいて、赤色の線は、適合線を示し、青色の線は、平均線を示し、赤色の影付き線は、95%信頼区間を示す。
【0077】
(表3)各時点についての適合させた有意な多変量線形回帰モデル
【0078】
(表4)各時点について生成されたLRF多変量線形回帰モデルから決定される有意な因子
【0079】
15及び30分について生成されたLRFモデルの有意なパラメータは同じであり、効果サイズの同様の傾向を示した。しかしながら、mAbとpHとの間の相互作用は、30分のLRFモデルについてのみ有意であったため、例外的であった。pH条件は、ウイルス不活性化に重要であることが既知であった。しかしながら、モデルは、NaClが、15及び30分の時点の両方でX-MuLV不活性化に最も強い効果を示したことを示した。NaCl濃度が増加した場合、イオン強度が不活性化に影響を及ぼさなくなるまで、X-MuLVのLRFは、それに応じて増加した。重要であることが決定された他の因子は、NaCl含有量の二次性、pHとNaCl含有量との間の相互作用、及びpH条件であった。不活性化動態に対するNaCl濃度の効果は、
図6に従って説明することができる。NaCl濃度が増加した場合、X-MuLV不活性化に対するpHの影響は減少した。
【0080】
温度、mAb、スパイク後ろ過、酸滴定剤、スパイク法、並びにpHとmAbとの間の相互作用の主な効果は全て、線形回帰モデル内で有意であった。しかしながら、これらの因子の効果サイズは、報告された感染性アッセイの可変性(例えば、0.5LRF)よりも小さかった。これらの因子は、生成されたモデル内で有意であったが(P<0.05)、効果サイズが感染性アッセイの可変性よりも小さいため、実質的に有意ではなかった。温度の低下は不活性化動態の減少と相関するため、温度はウイルス不活性化に既知の効果を有した。しかしながら、このデータセットは、15℃~20℃の範囲の操作による不活性化の最小の差を支持した。
【0081】
図6に示されるように、15及び30分の時点の両方の後に4LRF超を達成するようにモデルを最適化するために予測プロファイラを作成した。
図6は、D-最適DoEにおいて評価された有意な因子の関数としてX-MuLV不活性化を表す予測プロファイラを示す。赤色の線は適合線を示し、青色の線は平均線を示し、赤色の影付き線は95%信頼区間を示し、Pはリン酸を示し、GはグリシンHClを示す。他の全ての因子が一定のままである場合、約pH3.60~3.90の範囲のウイルス不活性化の操作でのNaClの添加を介した導電率の増加が、より大きなレトロウイルスLRFをもたらし得る。
【0082】
本出願における低pH保持のための統計的DoEの試験結果は、pH3.60未満での5.0LRFのX-MuLV不活性化のためのASTM標準と一致した。結果はまた、3.60超のpHでの堅牢で効果的な不活性化を実証した。ASTMの包括的要求の外側の範囲について、結果は、NaCl含有量を増加させることにより、迅速で効果的なX-MuLV不活性化を達成し得ることを示した。典型的には、保持のpHは、タンパク質の安定性に依存する。本出願のモデルを使用して、低pH出発材料の導電率を操作することによって、pH3.60~3.90の範囲でウイルス不活性化を操作する場合の有効クリアランスを予測し得る。
【0083】
25g/L超などの高いタンパク質濃度は、X-MuLV不活性化に負の影響を及ぼすと報告されている(ASTM)。しかしながら、以前のRegeneron研究は、不活性化が完了しない場合がある条件下で、より高いタンパク質濃度がX-MuLV不活性化動態を潜在的に改善し得ることを実証した。より高い緩衝液濃度、弱酸の滴定、又はより高いタンパク質濃度などのイオン強度が増加した条件は、より高いpHでより高いLRFと相関した(Chinniahら)。本出願のデータセットは、同様の濃度を有する2つのモノクローナル抗体を使用したが、データからの結論は、タンパク質濃度の増加が不活性化を増加させるという結論に一致した。所望のpHを達成するために必要とされた酸滴定剤の増加により、滴定中により多くのイオンが添加された。その結果、溶液のイオン強度が増加し、この実験は、より大きな不活性化動態を示唆するであろう。
【0084】
タンパク質濃度の影響と同様に、酸滴定剤についてモデルによって有意差が観察され、グリシンHCl酸滴定剤(より弱い酸)が、リン酸滴定剤(より強い酸)のより高いLRF値と相関した。この結論は、効果サイズが0.5LRF未満であったため、実質的に有意ではなかった。結果は、溶液中のイオン濃度の増加による不活性化の増加を支持した。以前の研究では、ウイルス不活性化の熱力学による低温でのクリアランスの低下が示された。生成された線形回帰モデルにおいては、温度は統計的に有意であったが、研究範囲(15~20℃)内では最小限の効果サイズであった。以前の研究では、15℃と16+℃との間でウイルスの不活性化に対して統計的に有意な差はないと結論づけられている(Mattila et al.,Retrospective evaluation of low-pH virus inactivation and viral filtration data from a multiple company collaboration,PDA Journal of Pharmaceutical Science and Technology 70.3(2016):293-299)。本出願の実験は、ASTMの包括的ウイルスクリアランスの要求並びにpH3.60超でのレトロウイルスの効果的な不活性化を達成するための溶液の特定を支持した。より高いpHでは、溶液のイオン強度を増加させると、ウイルス分散を促進することができる。低導電率溶液では、レトロウイルス糖タンパク質は、潜在的に低pHで凝集し、化学的損傷から自らを保護することができる。50mM及び100mMのNaClを添加した場合、全てのpH設定点での全ての実行は、30分後に完全で有効なクリアランスを示した。要約すると、ASTMモジュールが要求する外側のpHで実験が操作される場合、効果的なX-MuLV不活性化のために操作スペースが定義され得る。
【0085】
実施例5.既存及び再計画された操作条件を評価する
統計的実験計画法(DoE)を使用して、タンパク質の種類、pH条件、温度、酸滴定剤、NaCl含有量、スパイクタイミング、及びスパイク後ろ過などのいくつかの因子の評価を含む、ウイルス不活性化のための低pH保持ステップの効果を評価し、特徴付けた。低pH保持ステップについてのDoEを使用して、低pH保持について、pH3.70~3.75でのいくつかの既存の操作条件を評価した。
図7に示すように、パラメータ推定値を含む予測されたプロファイラを生成した。
【0086】
低pH保持ステップについてのDoEを使用して、低pH保持について、pH3.65~3.70でのいくつかの既存の操作条件も評価した。
図8に示すように、パラメータ推定値を含む予測されたプロファイラを生成した。約pH3.65~3.70での再計画された操作条件は、1.5%の失敗率での30分間の時点で、4LRFのX-MuLVのクリアランスを満たすことができなかった。
【0087】
実施例6.タンパク質の種類の因子を評価する
統計的DoEを使用して、タンパク質の種類、pH条件、温度、酸滴定剤、NaCl含有量、スパイクタイミング、及びスパイク後ろ過などのいくつかの因子の評価を含む、ウイルス(X-MuLV)不活性化のための低pH保持ステップの効果を評価し、特徴付けた。
図9に示されるように、モノクローナル抗体のアイソタイプなどのタンパク質の種類の多変量モデルの予測において、DoEは統計的有意性を示したが、IgG1及びIgG4などのタンパク質の種類間の差は、研究範囲において有意ではなかった。
図9は、NaCl、pH、酸滴定剤、温度、タンパク質の種類(mAb、モノクローナル抗体)、スパイクタイミング、及びそれらの組み合わせを含む、評価された因子についてのスケーリングされた推定LRFを示す。既存の操作条件についての遡及的データは、IgG1及びIgG4などのモノクローナル抗体のアイソタイプ間の有意な差を示した。しかしながら、これらの差は、pH範囲の操作における差に起因する可能性がある。
図9はまた、遡及的データに基づいて、IgG1及びIgG2を含むタンパク質の種類についての30分の時点でのX-MuLV LRFを示す。
【0088】
実施例7.温度の因子を評価する
統計的DoEを使用して、タンパク質の種類、pH条件、温度、酸滴定剤、NaCl含有量、スパイクタイミング、及びスパイク後ろ過などのいくつかの因子の評価を含む、ウイルス(X-MuLV)不活性化のための低pH保持ステップの効果を評価し、特徴付けた。
図10に示されるように、DoEは、温度についての多変量モデルの予測において統計的有意性を示したが、種々の温度条件間の差は、研究範囲におけるX-MuLVクリアランスに対して最小限の効果である。
図10は、NaCl、pH、酸滴定剤、温度、タンパク質の種類(mAb、モノクローナル抗体)、スパイクタイミング、及びそれらの組み合わせを含む、評価された因子についてのスケーリングされた推定LRFを示す。15℃~20℃の範囲での産業操作条件からの遡及的データ(Mattilaら)では、15±1℃と16+℃との間に統計的に有意な差は示されなかった。
図10はまた、遡及的産業データに基づいて、種々の温度条件のレトロウイルスLRFを示す。
【0089】
実施例8.スパイクタイミングの因子を評価する
統計的DoEを使用して、タンパク質の種類、pH条件、温度、酸滴定剤、NaCl含有量、スパイクタイミング、及びスパイク後ろ過などのいくつかの因子の評価を含む、ウイルス(X-MuLV)不活性化のための低pH保持ステップの効果を評価し、特徴付けた。本出願の統計的なDoEにおけるスパイクタイミングは、調整スパイク再調整方法又はスパイク調整方法である。調整スパイク再調整方法では、試料を標的pHに調整/滴定し、次いでpH7.2を有するウイルスストックでスパイクする。pH保持のタイミングは、スパイク時に開始された。スパイクウイルスストック後のpH増加の観察により、試料のpHを標的pHに再調整した後、pH保持の残りの期間、所望の温度で保持される。スパイク調整方法では、最初に試料をウイルスストック溶液でスパイクし、次いで標的pHに調整/滴定する。標的pHに達すると、pH保持のタイミングを開始し、試料を所望の温度でインキュベーションする。
【0090】
図11に示されるように、2つの異なる方法についてのスパイクタイミングの差は、研究範囲におけるX-MuLVクリアランスに対して有意な差はない。
図11は、NaCl、pH、酸滴定剤、温度、タンパク質の種類(mAb、モノクローナル抗体)、スパイクタイミング、及びそれらの組み合わせを含む、評価された因子についてのスケーリングされた推定LRFを示す。
図11はまた、2つの方法のスパイク調整時間を示す。
【国際調査報告】