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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-20
(54)【発明の名称】抗感染性二環式ペプチドリガンド
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/00 20060101AFI20230613BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20230613BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230613BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230613BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230613BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C07K7/00 ZNA
A61K38/12
A61K45/00
A61P11/00
A61P31/14
A61P29/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022569019
(86)(22)【出願日】2021-05-14
(85)【翻訳文提出日】2023-01-12
(86)【国際出願番号】 GB2021051164
(87)【国際公開番号】W WO2021229238
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】63/025,552
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/135,213
(32)【優先日】2021-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519226757
【氏名又は名称】バイスクルテクス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス キーン
(72)【発明者】
【氏名】カテリーヌ ヴァン リーツチョーテン
(72)【発明者】
【氏名】リューホン チェン
(72)【発明者】
【氏名】マクシミリアン ハーマン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル スカイナー
(72)【発明者】
【氏名】ポール ベスウィック
(72)【発明者】
【氏名】ユリヤ デマイドチャック
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA26
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA59
4C084ZB11
4C084ZB33
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA13
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA32
4H045EA29
4H045FA33
4H045FA51
4H045FA53
4H045GA25
(57)【要約】
本発明は、分子スキャフォールドへ共有結合しているポリペプチドであって、2以上のペプチドループが該スキャフォールドへの接合点の間で伸びているポリペプチドに関する。特に、本発明は、ACE2の高親和性バインダーであるペプチドを記述する。本発明は又、該ポリペプチドを含む医薬組成物を含み、該ポリペプチドの、ACE2が介在する疾患若しくは障害、例えばCOVID-19感染症の鎮静若しくは治療における使用、又はCOVID-19感染のリスクにある対象へ予防を提供するための使用も含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのループ配列によって隔てられた少なくとも3つの反応基を含むポリペプチド、及び分子スキャフォールドであって、少なくとも2つのポリペプチドループが該分子スキャフォールド上に形成されるように該ポリペプチドの反応基と共有結合を形成する分子スキャフォールドを含む、ACE2に特異的なペプチドリガンド。
【請求項2】
前記ループ配列は4、5、6、又は8アミノ酸を含む、請求項1に記載のペプチドリガンド。
【請求項3】
前記ループ配列は、その一方は4アミノ酸からなり、その他方は8アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含むものである、請求項1又は2に記載のペプチドリガンドであって、
例えば該二環式ペプチドリガンドは、
【化1】
(式中、Ci、Cii、及びCiiiは、それぞれ第一、第二、及び第三のシステイン残基を表し、1Nalは1-ナフチルアラニンを表し、2Nalは2-ナフチルアラニンを表し、Aibはアミノイソ酪酸を表し、HArgはホモアルギニンを表し、Arg(Me)はδ-Nメチルアルギニンを表し、tBuGlyはt-ブチル-グリシンを表し、tBuAlaはt-ブチル-アラニンを表し、Cbaはβ-シクロブチルアラニンを表し、2MePheは2-メチル-フェニルアラニンを表し、3MePheは3-メチル-フェニルアラニンを表し、4MePheは4-メチル-フェニルアラニンを表し、2ClPheは2-クロロ-フェニルアラニンを表し、3ClPheは3-クロロ-フェニルアラニンを表し、4ClPheは4-クロロ-フェニルアラニンを表し、2FPheは2-フルオロ-フェニルアラニンを表し、3FPheは3-フルオロ-フェニルアラニンを表し、Agbは2-アミノ-4-グアニジノ酪酸を表し、HyPはヒドロキシプロリンを表し、及びHse(Me)はホモセリン-メチルを表す)から選択されるアミノ酸配列を含む、又はその医薬として許容し得る塩である、又は、
前記分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加を含むものであり、
A-(配列番号:1)-A(本明細書ではBCY15296と称する);
A-(配列番号:2)-A(本明細書ではBCY15295と称する);
A-(配列番号:3)-A(本明細書ではBCY15293と称する);
A-(配列番号:4)-A(本明細書ではBCY15292と称する);
A-(配列番号:5)-A(本明細書ではBCY15291と称する);
A-(配列番号:9)-A(本明細書ではBCY15425と称する);
A-(配列番号:10)-A(本明細書ではBCY15429と称する);
A-(配列番号:10)-A-[K(PYA)](本明細書ではBCY17344と称する);
Ac-(配列番号:10)(本明細書ではBCY17663と称する);
Ac-A-(配列番号:10)-A(本明細書ではBCY17691と称する);
Ac-(配列番号:14)(本明細書ではBCY18259と称する);
Ac-(配列番号:14)-[K(PYA)](本明細書ではBCY18784と称する);
A-(配列番号:20)-A(本明細書ではBCY17157と称する);
A-(配列番号:21)-A(本明細書ではBCY17158と称する);
A-(配列番号:22)-A(本明細書ではBCY17159と称する);
A-(配列番号:23)-A(本明細書ではBCY17160と称する);
A-(配列番号:24)-A(本明細書ではBCY17161と称する);
A-(配列番号:25)-A(本明細書ではBCY17162と称する);
A-(配列番号:26)-A(本明細書ではBCY17163と称する);
A-(配列番号:27)-A(本明細書ではBCY17164と称する);
A-(配列番号:28)-A(本明細書ではBCY17165と称する);
A-(配列番号:29)-A(本明細書ではBCY17330と称する);
A-(配列番号:30)-A(本明細書ではBCY17331と称する);
A-(配列番号:31)-A(本明細書ではBCY17332と称する);
A-(配列番号:32)-A(本明細書ではBCY17333と称する);
A-(配列番号:33)-A(本明細書ではBCY17334と称する);
A-(配列番号:34)-A(本明細書ではBCY17335と称する);
A-(配列番号:35)-A(本明細書ではBCY17336と称する);
A-(配列番号:36)-A(本明細書ではBCY17337と称する);
A-(配列番号:37)-A(本明細書ではBCY17338と称する);
A-(配列番号:38)-A(本明細書ではBCY17339と称する);
A-(配列番号:39)-A(本明細書ではBCY17340と称する);
A-(配列番号:40)-A(本明細書ではBCY17341と称する);
A-(配列番号:41)-A(本明細書ではBCY17342と称する);
A-(配列番号:42)-A(本明細書ではBCY17689と称する);
A-(配列番号:43)-A(本明細書ではBCY17690と称する);
Ac-(配列番号:44)(本明細書ではBCY18210と称する);
Ac-(配列番号:45)(本明細書ではBCY18256と称する);
Ac-(配列番号:46)(本明細書ではBCY18257と称する);
Ac-(配列番号:47)(本明細書ではBCY18258と称する);
Ac-(配列番号:48)-[K(PYA)](本明細書ではBCY18349と称する);
Ac-(配列番号:49)(本明細書ではBCY18350と称する);
Ac-(配列番号:50)-A-[K(PYA)](本明細書ではBCY18549と称する);
Ac-(配列番号:50)-[K(PYA)](本明細書ではBCY18551と称する);
Ac-(配列番号:51)-[K(PYA)](本明細書ではBCY18550と称する);
Ac-(配列番号:52)(本明細書ではBCY18657と称する);
Ac-(配列番号:53)(本明細書ではBCY18658と称する);
Ac-(配列番号:54)(本明細書ではBCY18659と称する);
Ac-(配列番号:55)(本明細書ではBCY18783と称する);
Ac-(配列番号:56)(本明細書ではBCY19024と称する);
Ac-(配列番号:57)(本明細書ではBCY19025と称する);及び
Ac-(配列番号:58)(本明細書ではBCY19026と称する);
(式中、PYAはプロパルギル酸を表す)から選択されるアミノ酸配列を含む、又は、
該分子スキャフォールドはTATAであり、かつ、該二環式ペプチドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加並びに標識成分、例えばフルオレセイン(Fl)を含み、
A-(配列番号:1)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15288と称する);
A-(配列番号:2)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15287と称する);
A-(配列番号:3)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15285と称する);
A-(配列番号:4)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15284と称する);
A-(配列番号:5)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15283と称する);
A-(配列番号:9)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15419と称する);
A-(配列番号:10)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15423と称する);
A-(配列番号:11)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY16866と称する);
A-(配列番号:12)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY16867と称する);
A-(配列番号:13)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY16872と称する);
A-(配列番号:14)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY16874と称する);及び
A-(配列番号:19)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY16863と称する);から選択されるアミノ酸配列を含む、
前記ペプチドリガンド。
【請求項4】
前記ループ配列は、その一方は5アミノ酸からなり、その他方は4アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含むものである、請求項1又は2に記載のペプチドリガンドであって、
例えば該二環式ペプチドリガンドは、
【化2】
(式中、Ci、Cii、及びCiiiは、それぞれ第一、第二、及び第三のシステイン残基を表す)から選択されるアミノ酸配列を含む、又はその医薬として許容し得る塩である、又は、
前記分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加を含むものであり、
A-(配列番号:15)-A(本明細書ではBCY15426と称する);
A-(配列番号:16)-A(本明細書ではBCY15427と称する);
A-(配列番号:17)-A(本明細書ではBCY15428と称する);
A-(配列番号:59)-A(本明細書ではBCY17152と称する);
A-(配列番号:60)-A(本明細書ではBCY17153と称する);
A-(配列番号:61)-A(本明細書ではBCY17154と称する);
A-(配列番号:62)-A(本明細書ではBCY17155と称する);及び
A-(配列番号:63)-A(本明細書ではBCY17156と称する);
から選択されるアミノ酸配列を含む、又は、
該分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加並びに標識成分、例えばフルオレセイン(Fl)を含むものであり、
A-(配列番号:15)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15420と称する);
A-(配列番号:16)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15421と称する);及び
A-(配列番号:17)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15422と称する);であるアミノ酸配列を含む、
前記ペプチドリガンド。
【請求項5】
前記ループ配列は、その一方は5アミノ酸からなり、その他方は8アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含むものである、請求項1又は2に記載のペプチドリガンドであって、
例えば該二環式ペプチドリガンドは、
【化3】
(式中、Ci、Cii、及びCiiiは、それぞれ第一、第二、及び第三のシステイン残基を表し、Aibはアミノイソ酪酸を表す)から選択されるアミノ酸配列を含む、又はその医薬として許容し得る塩である、又は、
前記分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加並びに標識成分、例えばフルオレセイン(Fl)を含むものであり、
A-(配列番号:18)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY16871と称する)であるアミノ酸配列を含む、
前記ペプチドリガンド。
【請求項6】
前記ループ配列は、その一方は6アミノ酸からなり、その他方は4アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含むものである、請求項1又は2に記載のペプチドリガンドであって、
該二環式ペプチドリガンドは、
【化4】
(式中、Ci、Cii、及びCiiiは、それぞれ第一、第二、及び第三のシステイン残基を表す)から選択されるアミノ酸配列を含む、又はその医薬として許容し得る塩である、又は、
前記分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加を含むものであり、
A-(配列番号:6)-A(本明細書ではBCY15298と称する);及び
A-(配列番号:7)-A(本明細書ではBCY15294と称する);
から選択されるアミノ酸配列を含む、又は、
該分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加並びに標識成分、例えばフルオレセイン(Fl)を含むものであり、
A-(配列番号:6)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15290と称する);及び
A-(配列番号:7)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15286と称する);から選択されるアミノ酸配列を含む、
前記ペプチドリガンド。
【請求項7】
前記ループ配列は、その両方が6アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含むものである、請求項1又は2に記載のペプチドリガンドであって、
例えば該二環式ペプチドリガンドは、
【化5】
(式中、Ci、Cii、及びCiiiは、それぞれ第一、第二、及び第三のシステイン残基を表す)であるアミノ酸配列を含む、又はその医薬として許容し得る塩である、又は、
前記分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加を含むものであり、
A-(配列番号:8)-A(本明細書ではBCY15297と称する)
であるアミノ酸配列を含む、又は、
前記分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加並びに標識成分、例えばフルオレセイン(Fl)を含むものであり、
A-(配列番号:8)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15289と称する)であるアミノ酸配列を含む、
前記ペプチドリガンド。
【請求項8】
前記医薬として許容し得る塩は、遊離酸、又はナトリウム、カリウム、カルシウム及びアンモニウムの塩から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載のペプチドリガンド。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のペプチドリガンドを、1以上の医薬として許容し得る賦形剤と組み合せて含む、医薬組成物。
【請求項10】
1以上の治療薬を更に含む、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
呼吸障害の予防若しくは治療での使用のための、請求項1~8のいずれか1項に記載のペプチドリガンド、又は、請求項9若しくは請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記炎症反応は、ウイルス感染、例えば、ライノウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)、インフルエンザ、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV又はSARS-CoV-1)、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス(SARSr-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、又は中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の感染、特に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染、が介在する、請求項11に記載の使用のためのペプチドリガンド。
【請求項13】
前記呼吸障害は、コロナウイルス疾患2019(COVID-19)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、急性肺損傷(ALI)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、及び肺動脈高血圧(PAH)、例えばコロナウイルス疾患2019(COVID-19)、から選択される、請求項11に記載の使用のためのペプチドリガンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、分子スキャフォールドへ共有結合しているポリペプチドであって、2以上のペプチドループが該スキャフォールドへの接合点の間で伸びている(subtended)ポリペプチドに関する。特に、本発明は、ACE2の高親和性バインダーであるペプチドを記述する。本発明は又、該ポリペプチドを含む医薬組成物を含み、該ポリペプチドの、ACE2が介在する疾患若しくは障害、例えばCOVID-19感染症の鎮静若しくは治療における使用、又はCOVID-19感染のリスクにある対象へ予防を提供するための使用も含む。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
コロナウイルス疾患2019(COVID-19)は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされる感染症である。この疾患は、2019年12月に中国湖北省の省都である武漢で最初に確認され、世界的に広がってパンデミックを引き起こした。一般的な症状には、発熱、咳、及び息切れが含まれる。他の症状として、疲労、筋肉痛、下痢、咽頭痛、嗅覚喪失、及び腹痛が含まれ得る。ウイルス曝露から症状発現までの時間は、通常約5日であるが、2~14日の範囲もあり得る。大部分の症例は軽症で収まるが、一部はウイルス性肺炎及び多臓器不全へ進行する。2021年1月6日現在、世界で8,600万件を超える症例が報告されており、180万人を超える死者が発生している。
【0003】
このウイルスは、主に濃厚接触時に、多くの場合、咳、くしゃみ、又は会話によって発生する飛沫を介して人々の間に広がる。これらの飛沫は息を吐く時に生成されるが、通常、距離があると地面やものの表面に落ちるため感染性ではなくなる。又、汚染された表面に触れてから自分の顔に触れることにより感染する人もいる。ウイルスは、ものの表面上で最大72時間生存できる。症状発現後、最初の3日間が最も伝染性が高いが、症状発現前及び疾患後期にも伝播の可能性がある。
【0004】
現在、COVID-19に対するワクチン又はCOVID-19用の特別な抗ウイルス治療法はない。この疾患の取り扱いには、症状の治療、支持療法、隔離、及び実験的方策が含まれている。世界保健機関(WHO)は、2019年から2020年のコロナウイルスの大流行を、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)であると2020年1月30日に宣言し、2020年3月11日にパンデミックであると宣言した。この疾患の地方的伝染は、WHOの6つの地域全てにわたり多くの国々で公式に発表されている。
【0005】
このように、COVID-19感染に関連する症状を回避又は改善することを目的とした、効果的な予防及び/又は治療処置を提供することへの高い要求がある。
【発明の概要】
【0006】
(発明の概要)
本発明の第一の態様によれば、
少なくとも2つのループ配列によって隔てられた少なくとも3つの反応基を含むポリペプチド、及び分子スキャフォールドであって、少なくとも2つのポリペプチドループが該分子スキャフォールド上に形成されるように該ポリペプチドの反応基と共有結合を形成する分子スキャフォールドを含む、ACE2に特異的なペプチドリガンドが提供される。
【0007】
本発明の更なる態様によれば、本明細書で定義されるペプチドリガンドを1以上の医薬として許容し得る賦形剤と組み合せて含む、医薬組成物が提供される。
【0008】
本発明の更なる態様によれば、COVID-19感染によって介在される疾患若しくは障害の鎮静又は治療における使用のための、又はCOVID-19感染のリスクにある対象へ予防を提供するための、本明細書で定義されるペプチドリガンドが提供される。
【0009】
(発明の詳細な説明)
本発明の第一の態様によれば、少なくとも2つのループ配列によって隔てられた少なくとも3つの反応基を含むポリペプチド、及び分子スキャフォールドであって、少なくとも2つのポリペプチドループが該分子スキャフォールド上に形成されるように該ポリペプチドの反応基と共有結合を形成する分子スキャフォールドを含む、ACE2に特異的なペプチドリガンドが提供される。
【0010】
本明細書における「ACE2」の言及は、アンジオテンシン変換酵素2を指し、肺、動脈、心臓、腎臓、及び腸内の細胞の外表面(細胞膜)に接合している酵素である。ACE2は、一部のコロナウイルス、例えばCOVID-19が細胞へ侵入するポイントとして機能することが公知である。理論により拘束されるものではないが、COVID-19パンデミックを引き起こしたウイルス(SARS-CoV-2)は、(肺気道細胞の表面に結合している)ACE2を使用して組織に侵入し、疾患を引き起こすと考えられる。同じタンパク質ACE2が、過度の炎症により引き起こされた損傷から肺を保護しているように見える。ACE2に結合するペプチドリガンドの投与は、ウイルスが細胞へ侵入することを防止して、ウイルスによって引き起こされる有害な炎症(これは、この感染症による死亡の主原因であると思われる)を防ぐことができると考えられる。
【0011】
以上より、本発明は、重度のCOVID-19疾患の治療において非常に有用であり、それどころか人々を現在のパンデミックからも将来のどのようなコロナウイルスの大流行からも保護するために使用できるであろう。
【0012】
1の実施態様では、該ループ配列は4、5、6、又は8アミノ酸を含む。
【0013】
更なる実施態様では、該ループ配列は4、6、又は8アミノ酸を含む。
【0014】
1の実施態様では、前記ループ配列は、その一方は4アミノ酸からなり、その他方は8アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含む。
【0015】
更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は4アミノ酸からなり、その他方は8アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含むものであって、かつ、該二環式(bicyclic)ペプチドリガンドは:
【化1】
(式中、Ci、Cii、及びCiiiは、それぞれ第一、第二、及び第三のシステイン残基を表し、1Nalは1-ナフチルアラニンを表し、2Nalは2-ナフチルアラニンを表し、Aibはアミノイソ酪酸を表し、HArgはホモアルギニンを表し、Arg(Me)はδ-Nメチルアルギニンを表し、tBuGlyはt-ブチル-グリシンを表し、tBuAlaはt-ブチル-アラニンを表し、Cbaはβ-シクロブチルアラニンを表し、2MePheは2-メチル-フェニルアラニンを表し、3MePheは3-メチル-フェニルアラニンを表し、4MePheは4-メチル-フェニルアラニンを表し、2ClPheは2-クロロ-フェニルアラニンを表し、3ClPheは3-クロロ-フェニルアラニンを表し、4ClPheは4-クロロ-フェニルアラニンを表し、2FPheは2-フルオロ-フェニルアラニンを表し、3FPheは3-フルオロ-フェニルアラニンを表し、Agbは2-アミノ-4-グアニジノ酪酸を表し、HyPはヒドロキシプロリンを表し、及びHse(Me)はホモセリン-メチルを表す)から選択されるアミノ酸配列、又はその医薬として許容し得る塩を含む。
【0016】
更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は4アミノ酸からなり、その他方は8アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含むものであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは:
【化2】
(式中、Ci、Cii、及びCiiiは、それぞれ第一、第二、及び第三のシステイン残基を表し、1Nalは1-ナフチルアラニンを表し、2Nalは2-ナフチルアラニンを表し、Aibはアミノイソ酪酸を表し、HArgはホモアルギニンを表す)から選択されるアミノ酸配列、又はその医薬として許容し得る塩を含む。
【0017】
より更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は4アミノ酸からなり、その他方は8アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含むものであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは:
【化3】
(式中、Ci、Cii、及びCiiiは、それぞれ第一、第二、及び第三のシステイン残基を表す)から選択されるアミノ酸配列、又はその医薬として許容し得る塩を含む。
【0018】
より更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は4アミノ酸からなり、その他方は8アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含み、該分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加を含むものであり:
A-(配列番号:1)-A(本明細書ではBCY15296と称する);
A-(配列番号:2)-A(本明細書ではBCY15295と称する);
A-(配列番号:3)-A(本明細書ではBCY15293と称する);
A-(配列番号:4)-A(本明細書ではBCY15292と称する);
A-(配列番号:5)-A(本明細書ではBCY15291と称する);
A-(配列番号:9)-A(本明細書ではBCY15425と称する);
A-(配列番号:10)-A(本明細書ではBCY15429と称する);
A-(配列番号:10)-A-[K(PYA)](本明細書ではBCY17344と称する);
Ac-(配列番号:10)(本明細書ではBCY17663と称する);
Ac-A-(配列番号:10)-A(本明細書ではBCY17691と称する);
Ac-(配列番号:14)(本明細書ではBCY18259と称する);
Ac-(配列番号:14)-[K(PYA)](本明細書ではBCY18784と称する);
A-(配列番号:20)-A(本明細書ではBCY17157と称する);
A-(配列番号:21)-A(本明細書ではBCY17158と称する);
A-(配列番号:22)-A(本明細書ではBCY17159と称する);
A-(配列番号:23)-A(本明細書ではBCY17160と称する);
A-(配列番号:24)-A(本明細書ではBCY17161と称する);
A-(配列番号:25)-A(本明細書ではBCY17162と称する);
A-(配列番号:26)-A(本明細書ではBCY17163と称する);
A-(配列番号:27)-A(本明細書ではBCY17164と称する);
A-(配列番号:28)-A(本明細書ではBCY17165と称する);
A-(配列番号:29)-A(本明細書ではBCY17330と称する);
A-(配列番号:30)-A(本明細書ではBCY17331と称する);
A-(配列番号:31)-A(本明細書ではBCY17332と称する);
A-(配列番号:32)-A(本明細書ではBCY17333と称する);
A-(配列番号:33)-A(本明細書ではBCY17334と称する);
A-(配列番号:34)-A(本明細書ではBCY17335と称する);
A-(配列番号:35)-A(本明細書ではBCY17336と称する);
A-(配列番号:36)-A(本明細書ではBCY17337と称する);
A-(配列番号:37)-A(本明細書ではBCY17338と称する);
A-(配列番号:38)-A(本明細書ではBCY17339と称する);
A-(配列番号:39)-A(本明細書ではBCY17340と称する);
A-(配列番号:40)-A(本明細書ではBCY17341と称する);
A-(配列番号:41)-A(本明細書ではBCY17342と称する);
A-(配列番号:42)-A(本明細書ではBCY17689と称する);
A-(配列番号:43)-A(本明細書ではBCY17690と称する);
Ac-(配列番号:44)(本明細書ではBCY18210と称する);
Ac-(配列番号:45)(本明細書ではBCY18256と称する);
Ac-(配列番号:46)(本明細書ではBCY18257と称する);
Ac-(配列番号:47)(本明細書ではBCY18258と称する);
Ac-(配列番号:48)-[K(PYA)](本明細書ではBCY18349と称する);
Ac-(配列番号:49)(本明細書ではBCY18350と称する);
Ac-(配列番号:50)-A-[K(PYA)](本明細書ではBCY18549と称する);
Ac-(配列番号:50)-[K(PYA)](本明細書ではBCY18551と称する);
Ac-(配列番号:51)-[K(PYA)](本明細書ではBCY18550と称する);
Ac-(配列番号:52)(本明細書ではBCY18657と称する);
Ac-(配列番号:53)(本明細書ではBCY18658と称する);
Ac-(配列番号:54)(本明細書ではBCY18659と称する);
Ac-(配列番号:55)(本明細書ではBCY18783と称する);
Ac-(配列番号:56)(本明細書ではBCY19024と称する);
Ac-(配列番号:57)(本明細書ではBCY19025と称する);及び
Ac-(配列番号:58)(本明細書ではBCY19026と称する);
(式中、PYAはプロパルギル酸を表す)から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0019】
より更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は4アミノ酸からなり、その他方は8アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含み、該分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加を含むものであり:
A-(配列番号:1)-A(本明細書ではBCY15296と称する);
A-(配列番号:2)-A(本明細書ではBCY15295と称する);
A-(配列番号:3)-A(本明細書ではBCY15293と称する);
A-(配列番号:4)-A(本明細書ではBCY15292と称する);
A-(配列番号:5)-A(本明細書ではBCY15291と称する);
A-(配列番号:9)-A(本明細書ではBCY15425と称する);及び
A-(配列番号:10)-A(本明細書ではBCY15429と称する)
から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0020】
より更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は4アミノ酸からなり、その他方は8アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含み、該分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加を含むものであり:
A-(配列番号:1)-A(本明細書ではBCY15296と称する);
A-(配列番号:2)-A(本明細書ではBCY15295と称する);
A-(配列番号:3)-A(本明細書ではBCY15293と称する);
A-(配列番号:4)-A(本明細書ではBCY15292と称する);及び
A-(配列番号:5)-A(本明細書ではBCY15291と称する)
から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0021】
より更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は4アミノ酸からなり、その他方は8アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含み、該分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加並びに標識成分、例えばフルオレセイン(Fl)を含むものであり:
A-(配列番号:1)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15288と称する);
A-(配列番号:2)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15287と称する);
A-(配列番号:3)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15285と称する);
A-(配列番号:4)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15284と称する);
A-(配列番号:5)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15283と称する);
A-(配列番号:9)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15419と称する);
A-(配列番号:10)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15423と称する);
A-(配列番号:11)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY16866と称する);
A-(配列番号:12)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY16867と称する);
A-(配列番号:13)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY16872と称する);
A-(配列番号:14)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY16874と称する);及び
A-(配列番号:19)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY16863と称する)
から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0022】
より更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は4アミノ酸からなり、その他方は8アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含み、該分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加並びに標識成分、例えばフルオレセイン(Fl)を含むものであり:
A-(配列番号:1)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15288と称する);
A-(配列番号:2)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15287と称する);
A-(配列番号:3)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15285と称する);
A-(配列番号:4)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15284と称する);及び
A-(配列番号:5)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15283と称する)
から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0023】
別の実施態様では、前記ループ配列は、その一方は5アミノ酸からなり、その他方は4アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含む。
【0024】
更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は5アミノ酸からなり、その他方は4アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含むものであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは、
【化4】
(式中、Ci、Cii、及びCiiiは、それぞれ第一、第二、及び第三のシステイン残基を表す)から選択されるアミノ酸配列、又はその医薬として許容し得る塩を含む。
【0025】
より更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は5アミノ酸からなり、その他方は4アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含むものであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは:
【化5】
(式中、Ci、Cii、及びCiiiは、それぞれ第一、第二、及び第三のシステイン残基を表す)から選択されるアミノ酸配列、又はその医薬として許容し得る塩を含む。
【0026】
より更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は5アミノ酸からなり、その他方は4アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含み、該分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加を含ものであり:
A-(配列番号:15)-A(本明細書ではBCY15426と称する);
A-(配列番号:16)-A(本明細書ではBCY15427と称する);
A-(配列番号:17)-A(本明細書ではBCY15428と称する);
A-(配列番号:59)-A(本明細書ではBCY17152と称する);
A-(配列番号:60)-A(本明細書ではBCY17153と称する);
A-(配列番号:61)-A(本明細書ではBCY17154と称する);
A-(配列番号:62)-A(本明細書ではBCY17155と称する);及び
A-(配列番号:63)-A(本明細書ではBCY17156と称する)
から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0027】
より更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は5アミノ酸からなり、その他方は4アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含み、該分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加を含むものであり:
A-(配列番号:15)-A(本明細書ではBCY15426と称する);
A-(配列番号:16)-A(本明細書ではBCY15427と称する);及び
A-(配列番号:17)-A(本明細書ではBCY15428と称する)
から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0028】
より更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は5アミノ酸からなり、その他方は4アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含み、該分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加並びに標識成分、例えばフルオレセイン(Fl)を含むものであり:
A-(配列番号:15)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15420と称する);
A-(配列番号:16)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15421と称する);及び
A-(配列番号:17)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15422と称する)
であるアミノ酸配列を含む。
【0029】
別の実施態様では、前記ループ配列は、その一方は5アミノ酸からなり、その他方は8アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含む。
【0030】
更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は5アミノ酸からなり、その他方は8アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含むものであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは、
【化6】
(式中、Ci、Cii、及びCiiiは、それぞれ第一、第二、及び第三のシステイン残基を表し、Aibはアミノイソ酪酸を表す)であるアミノ酸配列、又はその医薬として許容し得る塩を含む。
【0031】
より更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は5アミノ酸からなり、その他方は4アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含み、該分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加並びに標識成分、例えばフルオレセイン(Fl)を含むものであり:
A-(配列番号:18)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY16871と称する)
であるアミノ酸配列を含む。
【0032】
別の実施態様では、前記ループ配列は、その一方は6アミノ酸からなり、その他方は4アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含む。
【0033】
更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は6アミノ酸からなり、その他方は4アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含むものであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは、
【化7】
(式中、Ci、Cii、及びCiiiは、それぞれ第一、第二、及び第三のシステイン残基を表す)から選択されるアミノ酸配列、又はその医薬として許容し得る塩を含む。
【0034】
より更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は6アミノ酸からなり、その他方は4アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含み、該分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加を含むものであり:
A-(配列番号:6)-A(本明細書ではBCY15298と称する);及び
A-(配列番号:7)-A(本明細書ではBCY15294と称する)
から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0035】
より更なる実施態様では、該ループ配列は、その一方は6アミノ酸からなり、その他方は4アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含み、該分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加並びに標識成分、例えばフルオレセイン(Fl)を含むものであり:
A-(配列番号:6)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15290と称する);及び
A-(配列番号:7)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15286と称する)
から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0036】
別の実施態様では、前記ループ配列は、その両方が6アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含む。
【0037】
更なる実施態様では、該ループ配列は、その両方が6アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含むものであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは、
【化8】
(式中、Ci、Cii、及びCiiiは、それぞれ第一、第二、及び第三のシステイン残基を表す)であるアミノ酸配列、若しくはその医薬として許容し得る塩を含む。
【0038】
より更なる実施態様では、該ループ配列は、その両方が6アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含み、該分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドリガンドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加を含むものであり、
A-(配列番号:8)-A(本明細書ではBCY15297と称する)
であるアミノ酸配列を含む。
【0039】
より更なる実施態様では、該ループ配列は、その両方が6アミノ酸からなる2つのループ配列によって隔てられた3つの反応基を含み、該分子スキャフォールドはTATAであって、かつ、該二環式ペプチドは更にN末端付加及び/若しくはC末端付加並びに標識成分、例えばフルオレセイン(Fl)を含むものであり:
A-(配列番号:8)-A-[Sar6]-[KFl](本明細書ではBCY15289と称する)
であるアミノ酸配列を含む。
【0040】
1の実施態様では、本発明の二環式ペプチドは、ACE2の活性部位へ結合する。そのように活性部位へ結合する二環式ペプチドの例には、BCY15291、BCY15292、BCY15293及びBCY15296が含まれる。理論により拘束されるものではないが、ACE2の活性部位へ結合する本発明の二環式ペプチドは、例えば血圧変化等の有益な生理学的効果を有する可能性が高いと考えられる(Verdecchiaらの文献(2020)European Journal of Internal Medicine 76, 14-20の図2を参照)。
【0041】
別の実施態様では、本発明の二環式ペプチドは、活性部位ではないACE2のエピトープへ結合する。そのように非活性部位へ結合する二環式ペプチドの例には、BCY15294、BCY15295、BCY15297、BCY15298、BCY15425、BCY15426、BCY15427、BCY15428、BCY15423、BCY16871、BCY16866、BCY16867、BCY16872及びBCY16874が含まれる。理論により拘束されるものではないが、ACE2の活性部位ではないACE2のエピトープへ結合する本発明の二環式ペプチドは、ウイルス侵入を遮断することによる有益な特性を有する可能性が高いと考えられており、これ以外の効果は実証されていない(Verdecchiaらの文献(2020)European Journal of Internal Medicine 76, 14-20を参照)。
【0042】
別途定義されない限り、本明細書で使用される技術的及び科学的用語は全て、当該分野、例えば、ペプチド化学、細胞培養及びファージディスプレイ、核酸化学、並びに生化学分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。標準的な技法が、分子生物学、遺伝学及び生化学の方法に使用される(引用により本明細書中に組み込まれる、Sambrookらの文献、「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」、第3版、2001, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY;Ausubelらの文献、「分子生物学ショートプロトコル(Short Protocols in Molecular Biology)」(1999)第4版、John Wiley & Sons社を参照)。
【0043】
(命名法)
(付番)
本発明のペプチド内のアミノ酸残基位置に言及する場合、システイン残基(Ci、Cii、及びCiii)は不変であるので付番から省略する。それゆえ、本発明のペプチド内のアミノ酸残基の付番は、下記のように表す:
Ci-H1-K2-F3-P4-Cii-R5-D6-P7-Q8-Q9-Y10-L11-F12-Ciii(配列番号:1)。
【0044】
本記載の目的において、全ての二環式ペプチドは、TATAで環化され、三置換構造を生じていると考えられる。TATAによる環化は、第1、第2、及び第3の反応基(即ち、Ci、Cii、及びCiii)上で生じる。
【0045】
(分子フォーマット)
二環コア配列へのN末端又はC末端の伸長は、配列の左側又は右側へ付加されて、ハイフンによって隔てられている。例えば、N末端βAla-Sar10-Alaテールは:
βAla-Sar10-A-(配列番号:X)
と表される。
【0046】
(逆向きペプチド配列)
Nairらの文献(2003)J Immunol 170(3), 1362-1373における開示を考慮すれば、本明細書に開示されるペプチド配列は、そのレトロ-インベルソ(retro-inverso)形態でも同様に有用性を示すことが想定される。例えば、配列が逆転すると(即ち、N末端がC末端になり、C末端がN末端になる)、その立体化学構造も同様に逆転する(即ち、D-アミノ酸がL-アミノ酸になり、L-アミノ酸がD-アミノ酸になる)。
【0047】
(ペプチドリガンド)
本明細書において言及されるペプチドリガンドは、分子スキャフォールドと共有結合するペプチドを指す。典型的には、そのようなペプチドは、スキャフォールドと共有結合を形成可能な2以上の反応基(即ち、システイン残基)及び該反応基の間に挟まれる(subtended)配列を含み、その配列は、ペプチドがスキャフォールドへ結合するとループを形成するのでループ配列と称される。本発明では、このペプチドは、少なくとも3つのシステイン残基(本明細書において、Ci、Cii、及びCiiiと称される)を含み、そして少なくとも2つのループをスキャフォールド上に形成する。
【0048】
(ペプチドリガンドの利点)
本発明の特定の二環式ペプチドは、それを注射、吸入、経鼻、点眼、経口、又は局所投与のための好適な薬物様分子とみなすことを可能とする、多くの有利な特性を有する。そのような有利な特性としては、下記のものが挙げられる:
‐種交差反応性(ある種のリガンドは、異なる細菌種由来の脂質II(Lipid II)全般にわたる交差反応性が実証されているため、複数の細菌種によって引き起こされる感染を治療することができる。他のリガンドは、患者の有益な細菌叢に対する付随的損傷なしに感染を治療するために有利かもしれない特定の細菌種の脂質IIに対して、高度に特異的である可能性がある。);
‐プロテアーゼ安定性(二環式ペプチドリガンドは、理想的には、血漿プロテアーゼ、上皮(「膜固定型」)プロテアーゼ、胃腸プロテアーゼ、肺上皮(lung surface)プロテアーゼ、細胞内プロテアーゼ等に対する安定性が実証されるであろう。プロテアーゼ安定性は、二環式リード候補を動物モデルで開発できるだけでなく、信頼してヒトへ投与できるように、異なる種間で維持される方が良い。);
‐望ましい溶解度プロファイル(これは、「荷電性及び親水性残基」対「疎水性残基」並びに分子内/分子間水素結合の割合の関数であり、製剤及び吸収目的のために重要である。);
‐循環系内での最適な血漿半減期(臨床的兆候及び治療レジメンに応じて、急性疾患管理設定での短期曝露用の二環式ペプチドを開発する要求があるであろうし、又、循環系内での保持性が増強された二環式ペプチドを開発してより慢性的疾患状態の管理に最適であるようにする要求もあるであろう。望ましい血漿半減期を追求する他の要因は、最大治療有効性のための持続的曝露要求と、それとは反対の、薬剤の持続的曝露が随伴する毒性である。);並びに、
‐選択性。
【0049】
(医薬として許容し得る塩)
塩形態は本発明の範囲内であり、ペプチドリガンドへの言及はそのリガンドの塩形態を含むことが理解されるであろう。
【0050】
本発明の塩は、従来の化学的方法、例えば、「医薬品塩:特性、選択、及び使用(Pharmaceutical Salts:Properties, Selection, and Use)」、P. Heinrich Stahl(編者)、Camille G. Wermuth(編者)、ISBN:3-90639-026-8, Hardcover, 388頁、2002年8月、に記載されている方法によって、塩基性成分又は酸性成分を含む親化合物から合成することができる。通常、そのような塩は、これらの化合物の遊離酸又は遊離塩基形態を、適切な塩基又は酸と、水中若しくは有機溶媒中で、又はこれら2種の混合物中で反応させることにより調製できる。
【0051】
酸付加塩(モノ塩又はジ塩)は、無機及び有機両方の多種多様な酸で形成することができる。酸付加塩の例には、酢酸、2,2-ジクロロ酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アスコルビン酸(例えば、L-アスコルビン酸)、L-アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4-アセトアミド安息香酸、ブタン酸、(+)カンファー酸、カンファースルホン酸、(+)-(1S)-カンファー-10-スルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチジン酸、グルコヘプトン酸、D-グルコン酸、グルクロン酸(例えば、D-グルクロン酸等)、グルタミン酸(例えば、L-グルタミン酸等)、α-オキソグルタル酸、グリコール酸、馬尿酸、ハロゲン化水素酸(例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸)、イセチオン酸、乳酸(例えば、(+)-L-乳酸、(±)-DL-乳酸)、ラクトビオン酸、マレイン酸、リンゴ酸、(-)-L-リンゴ酸、マロン酸、(±)-DL-マンデル酸、メタンスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、オロト酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、リン酸、プロピオン酸、ピルビン酸、L-ピログルタミン酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、タンニン酸、(+)-L-酒石酸、チオシアン酸、p-トルエンスルホン酸、ウンデシレン酸、及び吉草酸、並びにアシル化アミノ酸及び陽イオン交換樹脂からなる群から選択される酸で、形成されるモノ塩又はジ塩が含まれる。
【0052】
塩の特別な一つの群は、酢酸、塩酸、ヨウ化水素酸、リン酸、硝酸、硫酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸、イセチオン酸、フマル酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、硫酸、メタンスルホン酸(メシル酸)、エタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、吉草酸、プロパン酸、ブタン酸、マロン酸、グルクロン酸、及びラクトビオン酸から形成される塩からなる。特別な塩の一つは塩酸塩である。別の特別な塩は、酢酸塩である。
【0053】
化合物がアニオン性であるか、又はアニオン性であり得る機能性基を有する場合(例えば、-COOHは-COO-でもよい)、好適なカチオンを生成する有機塩基又は無機塩基で、塩を形成させることができる。好適な無機カチオンの例には、Li+、Na+、及びK+等のアルカリ金属イオン、Ca2+及びMg2+等のアルカリ土類金属カチオン、並びにAl3+又はZn+等の他のカチオンが含まれるが、これらに限定されるものではない。適切な有機カチオンの例には、アンモニウムイオン(即ち、NH4 +)及び置換されたアンモニウムイオン(例えば、NH3R+、NH2R2 +、NHR3 +、NR4 +)が含まれるが、これらに限定されるものではない。幾つかの好適な置換されたアンモニウムイオンの例は、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、ベンジルアミン、フェニルベンジルアミン、コリン、メグルミン、及びトロメタミン、並びに、リシン及びアルギニン等のアミノ酸、に由来するものである。一般的な第四級アンモニウムイオンの例は、N(CH3)4 +である。
【0054】
本発明のペプチドがアミン基を含む場合、それらは、例えば当業者に周知の方法に従ったアルキル化剤との反応によって、第四級アンモニウム塩を形成してもよい。そのような第四級アンモニウム化合物は、本発明のペプチドの範囲内である。
【0055】
(修飾誘導体)
本明細書で定義されるペプチドリガンドの修飾誘導体は、本発明の範囲内であることが理解されるであろう。そのような好適な修飾誘導体の例には、N末端及び/又はC末端修飾;1以上のアミノ酸残基の、1以上の非天然アミノ酸残基による置換(例えば、1以上の極性アミノ酸残基の、1以上の立体的に等価のアミノ酸若しくは等電子性アミノ酸による置換;1以上の非極性アミノ酸残基の、他の非天然型立体に等価のアミノ酸若しくは等電子性アミノ酸による置換);スペーサー基の付加;1以上の酸化感受性アミノ酸残基の、1以上の酸化抵抗性アミノ酸残基による置換;1以上のアミノ酸残基の、アラニンによる置換、1以上のL-アミノ酸残基の、1以上のD-アミノ酸残基による置換;二環式ペプチドリガンド内の1以上のアミド結合のN-アルキル化;1以上のペプチド結合の代替的結合による置換;ペプチド骨格長の改変;1以上のアミノ酸残基のα炭素上の水素の、別の化学基による置換、システイン、リシン、グルタメート/アスパルテート及びチロシン等のアミノ酸の、これらアミノ酸を機能性化するのに好適なアミン、チオール、カルボン酸及びフェノール反応性試薬による修飾、並びに、機能性化に好適なオルソゴナル反応性を導入するアミノ酸、例えば、アルキン若しくはアジド含有成分の機能性化をそれぞれ受けることが可能なアジド基若しくはアルキン基を有するアミノ酸の導入又は置換:から選択される1以上の修飾が含まれる。
【0056】
1の実施態様では、修飾誘導体は、N末端及び/又はC末端の修飾を含む。更なる実施態様では、修飾誘導体は、好適なアミノ反応化学を用いるN末端修飾、及び/又は好適なカルボキシ反応化学を用いるC末端修飾を含む。更なる実施態様では、N末端又はC末端の修飾は、限定されるものではないが、細胞毒性剤、放射性キレート剤(radiochelator)、又は発色団を含む、エフェクター基の付加を含む。
【0057】
更なる実施態様では、修飾誘導体は、N末端修飾を含む。更なる実施態様では、N末端修飾は、N末端アセチル基を含む。この実施態様では、N末端システイン基(本明細書においてCiと称される基)は、ペプチド合成中に無水酢酸又は他の適切な試薬で封止され、N末端がアセチル化された分子を生じる。この実施態様は、アミノペプチダーゼが認識可能なポイントを除去するという利点を提供し、本二環式ペプチドが分解される可能性を回避する。
【0058】
別の実施態様では、N末端修飾は、エフェクター基のコンジュゲーションを容易にし、かつ二環式ペプチドのその標的に対する効能の保持を促進する分子スペーサー基の付加を含む。
【0059】
更なる実施態様では、修飾誘導体は、C末端修飾を含む。更なる実施態様では、C末端修飾は、アミド基を含む。この実施態様では、C末端システイン基(本明細書において、Ciiiと称される基)は、ペプチド合成中にアミドとして合成され、C末端がアミド化された分子を生じる。この実施態様は、カルボキシペプチダーゼが認識可能なポイントを除去するという利点を提供し、本二環式ペプチドがタンパク質分解される可能性を低下させる。
【0060】
1の実施態様では、修飾誘導体は、1以上のアミノ酸残基の、1以上の非天然アミノ酸残基による置換を含む。この実施態様では、分解性プロテアーゼによって認識されることもなく、目的とする効能に何らかの悪影響を与えることもない、立体的に等価の/等電子性側鎖を有する非天然アミノ酸を選択することができる。
【0061】
或いは、近傍のペプチド結合のタンパク質分解性加水分解が立体構造的にかつ立体的に妨害されるような、拘束されたアミノ酸側鎖を有する非天然アミノ酸を使用してもよい。これらは特に、プロリン類似体、嵩高い側鎖、Cα-二置換誘導体(例えば、アミノイソ酪酸、Aib)、及び、シクロアミノ酸(単純な誘導体はアミノ-シクロプロピルカルボン酸である)に関する。
【0062】
1の実施態様では、修飾誘導体は、スペーサー基の付加を含む。更なる実施態様では、修飾誘導体は、N末端システイン(Ci)及び/又はC末端システイン(Ciii)へのスペーサー基の付加を含む。
【0063】
1の実施態様では、修飾誘導体は、1以上の酸化感受性アミノ酸残基の、1以上の酸化抵抗性アミノ酸残基による置換を含む。
【0064】
1の実施態様では、修飾誘導体は、1以上の荷電性アミノ酸残基の、1以上の疎水性アミノ酸残基による置換を含む。別の実施態様では、修飾誘導体は、1以上の疎水性アミノ酸残基の、1以上の荷電性アミノ酸残基による置換を含む。「荷電性アミノ酸残基」対「疎水性アミノ酸残基」の正しいバランスは、二環式ペプチドリガンドの重要な特性である。例えば、疎水性アミノ酸残基は、血漿タンパク質結合の程度、従って、血漿中の利用可能な遊離画分の濃度に影響を及ぼし、一方、荷電性アミノ酸残基(特に、アルギニン)は、ペプチドと細胞表面のリン脂質膜との相互作用に影響を及ぼすであろう。この2つの組み合せは、ペプチド薬の半減期、分布容積、及び曝露に影響を及ぼすであろうし、臨床的終点に合わせて調整することができる。更に、「荷電性アミノ酸残基」対「疎水性アミノ酸残基」の正しい組み合せ及び数は、注射部位(ペプチド薬が皮下投与される場合)での刺激を軽減するであろう。
【0065】
1の実施態様では、修飾誘導体は、1以上のL-アミノ酸残基の1以上のD-アミノ酸残基による置換を含む。この実施態様は、立体障害により及びD-アミノ酸の特性によりβ-ターン立体構造を安定化させて、タンパク質分解に対する安定性を高めると考えられる(Tugyiらの文献(2005)PNAS, 102(2), 413-418)。
【0066】
1の実施態様では、修飾誘導体は、任意のアミノ酸残基の除去、及び、アラニンによる置換を含む。この実施態様は、タンパク質分解攻撃を受ける可能性のある部位(複数可)を除去するという利点を有する。
【0067】
上述の修飾のそれぞれは、ペプチドの効能又は安定性を計画的に向上させる役割を果たすことに留意すべきである。修飾に基づく更なる効能向上は、下記メカニズムによって達成することができるであろう:
‐疎水性効果を利用して解離速度を低下させる疎水性成分を組み込み、より高い親和性が達成すること;
‐長距離イオン相互作用を利用する荷電性基を組み込み、会合速度を増大させ、より高い親和性をもたらすこと(例えば、Schreiberらの文献、「タンパク質の迅速な静電的支援会合(Rapid, electrostatically assisted association of proteins)」(1996)、Nature Struct. Biol. 3, 427-31を参照);並びに
‐例えば、アミノ酸側鎖を正確に拘束して標的結合時にエントロピー損失が最小にすること、骨格のねじれ角度を限定して標的結合時にエントロピー損失が最小にすること、及び、同じ理由のために当該分子内に更なる環化を導入することにより、追加的な制約をペプチドに組み込むこと(総説については、Gentilucciらの文献、Curr. Pharmaceutical Design,(2010), 16, 3185-203、及びNestorらの文献、Curr. Medicinal Chem(2009), 16, 4399-418を参照)。
【0068】
(同位体変異体)
本発明は、全ての医薬として許容し得る、(放射性)同位体標識された本発明のペプチドリガンドであって、1以上の原子が、同じ原子番号を有するが、天然で通常見られる原子質量又は質量数とは異なる原子質量又は質量数を有する原子によって置き換えられているもの、及び、本発明のペプチドリガンドであって、関連する(放射性)同位体を保持することができる金属キレート基(「エフェクター」と称される)が接合されているもの、及び、本発明のペプチドリガンドであって、特定の機能性基が関連する(放射性)同位体又は同位体標識された機能性基で共有的に置換されているもの、を含む。
【0069】
本発明のペプチドリガンド内に包含するのに好適な同位体の例は、水素同位体、例えば2H(D)及び3H(T)、炭素同位体、例えば11C、13C及び14C、塩素同位体、例えば36Cl、フッ素同位体、例えば18F、ヨウ素同位体、例えば123I、125I及び131I、窒素同位体、例えば13N及び15N、酸素同位体、例えば15O、17O及び18O、リン同位体、例えば32P、硫黄同位体、例えば35S、銅同位体、例えば64Cu、ガリウム同位体、例えば67Ga又は68Ga、イットリウム同位体、例えば90Y、並びにルテチウム同位体、例えば177Lu、並びに、ビスマス同位体、例えば213Biを含む。
【0070】
ある種の同位体標識された本発明のペプチドリガンド、例えば、放射性同位体が組み込まれているものは、薬物及び/又は基質の組織分布研究において有用である。本発明のペプチドリガンドは、標識された化合物と他の分子、ペプチド、タンパク質、酵素又は受容体との間の複合体の形成を検出又は同定するために使用できる点で、価値ある診断特性を更に有することができる。この検出又は同定方法は、例えば、放射性同位体、酵素、蛍光物質、発光物質(例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、イクオリン及びルシフェラーゼ)等の標識剤で標識されている化合物を使用することができる。放射性同位体である、トリチウム、即ち3H(T)、及び炭素14、即ち14Cは、その組込みの容易さ及び検出手段が用意されていることを考慮すると、この目的のために特に有用である。
【0071】
重水素、即ち2H(D)等の重い同位体による置換は、より大きな代謝安定性、例えばインビボ半減期の延長又は必要投薬量の減少の結果として生じる特定の治療的利点をもたらすであろうから、状況によっては好適であろう。
【0072】
11C、18F、15O及び13N等の陽電子放出同位体での置換は、標的占有率を調べるための陽電子放出トポグラフィー(PET)試験において利用できる。
【0073】
本発明のペプチドリガンドの同位体標識された化合物は、通常、当業者に公知の従来技術によるか、又は既に利用されている非標識試薬の代わりに適切な同位体標識された試薬を使用している本明細書の実施例に記載されているものと類似のプロセスによって調製することができる。
【0074】
(分子スキャフォールド)
分子スキャフォールドは、例えばWO2009/098450並びにその中で引用されている文献、特にWO2004/077062及びWO2006/078161に記載されている。
【0075】
前記文書に挙げられているように、分子スキャフォールドは、小分子、例えば有機小分子でもよい。
【0076】
1の実施態様では、分子スキャフォールドは、高分子でもよい。1の実施態様では、分子スキャフォールドは、アミノ酸、ヌクレオチド、又は炭水化物から構成される高分子である。
【0077】
1の実施態様では、分子スキャフォールドは、ポリペプチドの機能性基(複数可)と反応して、共有結合を形成することができる反応基を含む。
【0078】
分子スキャフォールドは、ペプチドとの結合を形成する化学基、例えば、アミン、チオール、アルコール、ケトン、アルデヒド、ニトリル、カルボン酸、エステル、アルケン、アルキン、アジド、無水物、スクシンイミド、マレイミド、ハロゲン化アルキル及びハロゲン化アシルを含み得る。
【0079】
本発明の分子スキャフォールドは、本発明のコード化ライブラリのポリペプチドの機能性基がその分子スキャフォールドと共有結合を形成することを可能とする化学基を含む。この化学基は、アミン、チオール、アルコール、ケトン、アルデヒド、ニトリル、カルボン酸、エステル、アルケン、アルキン、無水物、スクシンイミド、マレイミド、アジド、ハロゲン化アルキル及びハロゲン化アシルを含む、広い範囲の機能性基から選択される。
【0080】
分子スキャフォールド上でシステインのチオール基と反応させるために使用できるスキャフォールド反応基は、ハロゲン化アルキル(又はハロゲノアルカン若しくはハロアルカンとも呼ばれる)である。
【0081】
その例には、ブロモメチルベンゼン又はヨードアセトアミドが含まれる。化合物をタンパク質中のシステインへ選択的に結合させるために使用されるその他のスキャフォールド反応基は、マレイミド、αβ不飽和カルボニル含有化合物、及びα-ハロメチルカルボニル含有化合物である。本発明で分子スキャフォールドとして使用できるマレイミドの例には、トリス-(2-マレイミドエチル)アミン、トリス-(2-マレイミドエチル)ベンゼン、トリス-(マレイミド)ベンゼンが含まれる。
【0082】
1の実施態様では、分子スキャフォールドは、1,1',1''-(1,3,5-トリアジナン-1,3,5-トリイル)トリプロパ-2-エン-1-オン(別名、トリアクリロイルヘキサヒドロ-s-トリアジン(TATA)である:
【化9】
【0083】
それにより、本発明の二環式ペプチドとCi、Cii、及びCiiiシステイン残基上での環化の後に、分子スキャフォールドは下記構造を有するTATAの三置換された1,1',1''-(1,3,5-トリアジナン-1,3,5-トリイル)トリプロパン-1-オン誘導体を形成する:
【化10】
(式中、*は3つのシステイン残基の接合点を示す)。
【0084】
(反応基)
本発明の分子スキャフォールドは、本ポリペプチド上の機能性基又は反応基を介して本ポリペプチドに結合され得る。これらは、通常、ポリペプチドポリマーに見られる特定のアミノ酸の側鎖から形成される。そのような反応基は、システイン側鎖、[Dap(Me)]基、リシン側鎖、若しくはN末端アミン基、又は任意の他の適切な反応基であり得る。詳細についてはWO2009/098450に記載されている。1の実施態様では、反応基は全てシステイン残基である。
【0085】
天然アミノ酸の反応基の例は、システインのチオール基、リシンのアミノ基、アスパラギン酸又はグルタミン酸のカルボキシル基、アルギニンのグアニジニウム基、チロシンのフェノール基、又はセリンのヒドロキシル基である。非天然アミノ酸は、アジド、ケトカルボニル、アルキン、ビニル、又はハロゲン化アリール基を含む広い範囲の反応基を提供することができる。ポリペプチド末端のアミノ基及びカルボキシル基は又、分子スキャフォールド/分子コアへの共有結合を形成するための反応基としても働くことができる。
【0086】
本発明のポリペプチドは、少なくとも3つの反応基を含む。該ポリペプチドは又、4以上の反応基を含むことができる。より多くの反応基を使用すると、より多くのループを分子スキャフォールドに形成することができる。
【0087】
1の好ましい実施態様では、3つの反応基を有するポリペプチドが生成される。そのポリペプチドと、3回回転対称性を有する分子スキャフォールド/分子コアとの反応は、単一の異性体生成物を生成する。単一の異性体生成物の生成は、幾つかの理由で望ましい。化合物ライブラリの核酸は、ポリペプチドの一次配列のみをコードするが、ポリペプチドが分子コアと反応して形成される分子の異性体状態をコードしない。異性体生成物が1つしか形成されない場合、異性体生成物への核酸の割り当ては明確に定義される。複数の異性体生成物が形成される場合、その核酸は、スクリーニング又は選択プロセスで単離された異性体生成物の特性に関する情報を提供できない。単一の異性体生成物の形成は又、本発明のライブラリの特定のメンバーが合成される場合にも有利である。その場合、分子スキャフォールドとのポリペプチドの化学反応は、異性体の混合物ではなく、単一の異性体生成物を生じる。
【0088】
本発明の別の実施態様では、4つの反応基を有するポリペプチドが生成される。そのポリペプチドと、四面体対称性を有する分子スキャフォールド/分子コアとの反応は、2つの異性体生成物を生成する。2つの異なる異性体生成物が1つの同じ核酸によってコードされている場合でも、単離された異性体の異性的性質は、両方の異性体を化学的に合成し、2つの異性体を分離し、標的リガンドへの結合について両方の異性体を試験することによって決定できる。
【0089】
本発明の1の実施態様では、ポリペプチドの反応基の少なくとも1つは、残りの反応基とオルソゴナルな関係にある。オルソゴナルな反応基の使用は、そのオルソゴナルな反応基を分子コアの特定の部位へ方向付けることを可能にする。オルソゴナルな複数の反応基を関与させる結合戦略を使用して、形成される異性体生成物の数を制限することができる。言い換えれば、少なくとも3つの結合の1つ以上を、その少なくとも3つの結合の残りとして選択したものとは別個の又は異なる反応基を選択することによって、そのポリペプチドの特定の反応基の分子スキャフォールド上の特別な位置への結合又は方向付けの、特別な順序付けられた秩序を有効に達成することができる。
【0090】
別の実施態様では、本発明のポリペプチドの反応基は、分子スキャフォールドと反応可能な分子リンカーと反応して、そのリンカーが最終的な結合状態において、分子スキャフォールドとポリペプチドとの間に介在する。
【0091】
幾つかの実施態様では、ポリペプチドのライブラリ又はセットのメンバーであるアミノ酸は、任意の天然又は非天然アミノ酸により置換することができる。これらの交換可能なアミノ酸から除外されるのは、ポリペプチドを分子コアに架橋するための機能性基を抱くものであり、ループ配列のみが交換可能である。交換可能なポリペプチド配列は、ランダムな配列、不変的な配列、又はランダム及び不変的なアミノ酸の配列のいずれかを有する。反応基を有するアミノ酸は、ポリペプチド内の定義された位置のいずれかに配置されるが、それはこれらのアミノ酸の位置がループサイズを決定するからである。
【0092】
1の実施態様では、3つの反応基を有するポリペプチドは、配列(X)lY(X)mY(X)nY(X)o(式中、Yは1の反応基を有するアミノ酸を表し、Xはランダムなアミノ酸を表し、m及びnは、介在するポリペプチドセグメントの長さを定義する3から6の間の数であって、同一でも異なっていてもよく、かつ、l及びoは、隣接するポリペプチドセグメントの長さを定義する0から20の間の数である)を有する。
【0093】
チオールを介するコンジュゲーションの代替的手段を使用して、分子スキャフォールドをペプチドへ共有相互作用を介して接合できる。これら代替的技術では、本発明に従って、更なる成分(目的の小分子であって、分子スキャフォールドとは異なるもの等)を選択又は単離した後に、ポリペプチドへの修飾又は接合に使用してもよく、この実施態様では、その接合は共有結合である必要はないことは明らかであり、非共有的接合も含み得る。
これらの方法は、チオールを介する方法の代わりに(若しくはそれと組み合せて)、必要とされる化学反応基を有する非天然アミノ酸を備えたタンパク質及びペプチドを補足的な反応基を備えた小分子と組み合せて提示するファージを産生することによるか、又は、その分子が選択/単離段階の後に作製される場合は、非天然アミノ酸を化学的又は組換え的に合成されたポリペプチドへ組み込むことにより、使用し得る。更なる詳細は、WO2009/098450又はHeinisらの文献、Nat Chem Biol 2009, 5(7), 502-7に記載されている。
【0094】
(合成)
本発明のペプチドは、標準技術によって合成的に製造し、その後インビトロで分子スキャフォールドと反応させてもよい。これを実施する場合、標準的な化学的手法を使用することができる。これにより、更なる下流での実験又は検証のための可溶性材料の迅速な大規模製造が可能になる。そのような方法は、Timmermanらの文献(上記)に開示されているような従来の化学的手法を用いて達成できる。
【0095】
従って、本発明は又、本明細書に記載されているように選択されるポリペプチドの製造に関するものであり、その製造は、下記に説明されるような任意の更なる工程を含む。1の実施態様では、これらの工程は、化学合成によって製造された最終生成物ポリペプチドに対して実施される。
【0096】
本ペプチドは又、伸長させて、例えば別のループ等を組込み、その結果、複数の特異性を導入することもできる。
【0097】
ペプチドを伸長させるには、それを、単純に、標準的な固相又は液相化学を用いて、オルソゴナル的に保護したリシン(及び類似体)を用いて、そのN末端若しくはC末端で又はループ内で、化学的に伸長してもよい。標準的な(バイオ)コンジュゲーション技法を用いて、活性化された又は活性化可能なN末端又はC末端を導入してもよい。或いは、付加を、断片縮合によるか、若しくは例えば(Dawsonらの文献、1994、「ネイティブケミカルライゲーションによるタンパク質の合成(Synthesis of Proteins by Native Chemical Ligation)」Science 266:776-779)に記載されているネイティブケミカルライゲーションによるか、又は、例えば(Changらの文献、Proc Natl Acad Sci U S A. 1994 Dec 20;91(26):12544-8若しくはHikariらの文献、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters、第18巻、第22号、2008年11月15日、6000~6003頁)に記載されているサブチリガーゼを用いて、酵素により行ってもよい。
【0098】
或いは、ペプチドを、ジスルフィド結合を介する更なるコンジュゲーションによって伸長又は修飾してもよい。これは、第一及び第二のペプチドが細胞の還元環境内で互いに一度解離することを可能にする追加的な利点を有する。この場合、分子スキャフォールド(例えば、TATA)を第一のペプチドの化学合成中に添加して、3つのシステイン基と反応させ;次に、第一のペプチドのN末端若しくはC末端に更なるシステイン又はチオールを付加して、その結果、このシステイン又はチオールが第二のペプチドの遊離のシステイン又はチオールとのみ反応し、ジスルフィド結合した二環式ペプチド-ペプチドコンジュゲートを形成することができる。
【0099】
類似の技術を、2つの二環式二重特異性大環状分子の合成/カップリングに同様に適用して、四重特異性分子を作製することが可能である。
【0100】
更に又、他の機能性基又はエフェクター基の付加を、適切な化学手法である、N末端若しくはC末端での又は側鎖を介したカップリングを用いて、同様に達成してもよい。1の実施態様では、カップリングは、いずれの材料(entity)の活性も遮断しないような様式で実行する。
【0101】
(医薬組成物)
本発明の更なる態様によれば、本明細書で定義されるペプチドリガンドを1以上の医薬として許容し得る賦形剤と組み合せて含む、医薬組成物が提供される。
【0102】
通常、本ペプチドリガンドを、薬理学的に適切な賦形剤又は担体と一緒の精製された形態で使用してもよい。典型的には、これらの賦形剤又は担体は、水溶液若しくはアルコール性/水性液体、エマルジョン又は懸濁液を含み、生理食塩水及び/若しくは緩衝化媒体を含む。非経口ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルブドウ糖液、ブドウ糖及び塩化ナトリウム液、並びに乳酸加リンゲル液が含まれる。生理学的に許容し得る好適なアジュバントは、ポリペプチド複合体を懸濁液中に保つために必要な場合、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン及びアルギネート等の増粘剤から選択されてもよい。
【0103】
静脈内ビヒクルには、輸液及び栄養補充液、並びに電解質補充液、例えば、ブドウ糖加リンゲルベースのものが含まれる。保存剤並びに他の添加物、例えば抗微生物薬、抗酸化剤、キレート剤及び不活性ガスも又、存在可能である(Mackの文献(1982)、「レミントンの医薬品化学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」、第16版)。
【0104】
本発明の化合物は、単独で又は別の薬剤(単数若しくは複数)と組み合せて使用することができる。
【0105】
本発明の化合物は又、核酸ベース療法、抗体、バクテリオファージ又はファージリシン等の生物学的療法と組み合せて使用することもできる。
【0106】
本発明の医薬組成物の投与経路は、当業者に一般的に公知のもののいずれでもよい。療法のために、本発明のペプチドリガンドは、標準技術に従って任意の患者へ投与することができる。投与経路には、経口(例えば、摂取による);口腔内頬側;舌下;経皮(例えば、パッチ、膏薬等によるものを含む);経粘膜(例えば、パッチ、膏薬等によるものを含む);鼻腔内(例えば、鼻腔スプレーによる);経眼(例えば、点眼薬による);経肺(例えば口又は鼻経由の、例えばエアロゾルを介するものを用いる、例えば吸入又は吹送療法による);経腸(例えば、坐剤又は浣腸剤による);経膣(例えば、ペッサリーによる);非経口、例えば、皮下、皮内、筋肉内、静脈内、動脈内、心臓内、髄腔内、脊髄内、関節包内、被膜下、眼窩内、腹腔内、気管内、表皮下、関節内、くも膜下、及び胸骨内を含む、注射によるもの;例えば皮下若しくは筋肉内への、デポ又はリザーバのインプラントによるもの、が含まれるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、本発明の医薬組成物は、非経口投与することができる。投薬量及び投与頻度は、患者の年齢、性別及び状態、他の薬物の同時的な投与、禁忌、並びに臨床医によって考慮される他のパラメータに依存する。
【0107】
本発明のペプチドリガンドは、貯蔵用に凍結乾燥し、使用前に適切な担体キャリア中で再構成することができる。この技術は、効果的であることが示されており、当分野で公知の凍結乾燥及び再構成技術を利用することができる。凍結乾燥及び再構成は様々な程度の活性損失を生じる可能性があり、濃度レベルを上方に調整してその損失を補う必要があり得ることは、当業者に認識されるであろう。
【0108】
本ペプチドリガンド又はそのカクテルを含む組成物を、治療的処置のために投与することができる。特定の治療用途において、選択した細胞集団の少なくとも部分的な阻害、鎮静、調節、死滅化、又は何らかの他の測定可能なパラメータを達成するために適切な量を、「治療有効用量」として定義する。この投薬量を達成するために必要とされる量は、疾患の重症度及び患者自身の免疫系の全般的な状態に依存するが、概ね、体重1キログラム当たり選択したペプチドリガンド10μg~250mgの範囲であり、100μg~25mg/kg/用量の範囲の用量がより一般的に使用されるであろう。
【0109】
本発明のペプチドリガンドを含む組成物は、微生物感染症の治療のための、又は感染のリスクにある、例えば、外科手術、化学療法、人工呼吸、若しくは他の状態下にある又は計画的介入を受けている対象への予防を提供するための、治療的な設定で使用することができる。更に、本明細書に記載されるペプチドリガンドは、体外で又はインビトロで、細胞の異成分集合体から標的細胞集団を選択的に、死滅、枯渇、若しくは効果的に除去するために使用することができる。哺乳動物由来の血液を、標準技術に従い、選択したペプチドリガンドと体外で組み合せて、それにより望ましくない細胞を死滅させるか、そうでなければその血液から除去して、哺乳動物へ戻してもよい。
【0110】
(治療的使用)
本発明の二環式ペプチドは、ACE2結合剤として特に有用である。
【0111】
本発明は、いずれかの適切な呼吸障害の処置のための、予防薬又は治療薬として有用であろうことが認識されるであろう。
【0112】
従って、本発明の更なる態様によれば、呼吸障害の予防又は治療での使用のための、本明細書で定義されるペプチドリガンドが提供される。
【0113】
本発明の更なる態様によれば、それを必要とする患者へ本明細書で定義されるペプチドリガンドを投与することを含む、呼吸障害を鎮静化する又は治療する方法が提供される。
【0114】
本発明では、肺内の炎症反応が介在する呼吸障害の予防又は治療での特別な有用性が見つかった。その炎症反応は、細菌感染又はウイルス感染のいずれかが介在するものでもよいことが認識されるであろう。
【0115】
1の実施態様では、その炎症反応は、ウイルス感染が介在する。
【0116】
更なる実施態様では、そのウイルス感染は、ライノウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)、インフルエンザ、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV又はSARS-CoV-1)、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス(SARSr-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、又は中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の感染である。
【0117】
より更なる実施態様では、ウイルス感染は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染である。
【0118】
以上より、本発明の医薬組成物により緩和又は治療されることを意図された呼吸障害は上記ウイルスにより引き起こされたものを含むことが認識される。従って、1の実施態様では、呼吸障害は、コロナウイルス疾患2019(COVID-19)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、急性肺損傷(ALI)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、及び肺動脈高血圧(PAH)から選択される。
【0119】
更なる実施態様では、呼吸障害はコロナウイルス疾患2019(COVID-19)である。
【0120】
本発明の方法で選択されたポリペプチドリガンドは、インビボでの治療用途、インビトロ及びインビボでの診断用途、インビトロでの分析及び薬剤用途、その他に利用することができる。ワクチン用途等の幾つかの用途において、予め決定した範囲の抗原に対する免疫反応を誘発する能力を利用して、ワクチンを特定の疾患及び病原体に対するものとして調整することができる。
【0121】
少なくとも90~95%の均質性を有する実質的に純粋なペプチドリガンドが哺乳動物への投与に好ましく、98~99%又はそれを超える均質性が、医薬用途に、特に哺乳動物がヒトである場合に最も好ましい。所望に応じて部分的に又は均質になるまで精製すれば、選択したポリペプチドを、診断的に若しくは治療的に(体外を含む)、又はアッセイ手順、免疫蛍光染色等の開発及び実施において使用することができる(Lefkovite及びPernisの文献(1979年及び1981年)、Immunological Methods、第I巻及び第II巻、Academic Press, NY)。
【0122】
「鎮静」という用語への本明細書における言及は、誘導事象の後であるが、疾患の臨床的出現の前の組成物の投与を指す。「治療」は、疾患症状が顕在化した後の防御的な組成物の投与を含む。
【0123】
疾患に対する防御又は疾患の治療におけるペプチドリガンドの有効性をスクリーニングするために使用することができる動物モデル系が、利用可能である。
【0124】
本発明を、下記の実施例を参照して更に説明する。
【実施例
【0125】
(実施例)
(材料及び方法)
(ペプチド合成)
ペプチド合成はFmoc化学に基づき、Peptide Instruments社製Symphonyペプチド合成装置及びMultiSynTech社製のSyro II合成装置を用いた。適切な側鎖保護基を付けた標準的なFmoc-アミノ酸(Sigma、Merck社)を使用し:適用可能な標準的なカップリング条件を各々の場合に利用し、その後、標準的な方法を用いて脱保護を行った。
【0126】
或いは、HPLCを用いてペプチドを精製し、単離後に、これを必要な分子スキャフォールド(すなわち、TATA)で修飾した。このために、直鎖状ペプチドを50:50のMeCN:H2Oで最大約35mLとなるまで希釈し、100mMスキャフォールドのアセトニトリル溶液を約500μL添加し、5mLの1M NH4HCO3水溶液で反応を開始させた。反応を室温(RT)で約30分~60分間進行させておき、反応が完了したら(MALDIにより判定)、凍結乾燥した。完了後、1mlの1M L-システイン塩酸塩一水和物(Sigma社)水溶液を、反応液へ室温で約60分間かけて添加して過剰TATAを全てクエンチした。
【0127】
凍結乾燥後、修飾されたペプチドを、Luna C8カラムをGemini C18カラム(Phenomenex社)と交換し、酸を0.1%トリフルオロ酢酸へ変更して、上記のように精製した。正確なスキャフォールド修飾した材料を含む純粋画分をプールし、凍結乾燥させ、-20℃を維持して貯蔵した。
【0128】
別途特記しない限り、全てのアミノ酸はL-立体配置のものを使用した。
【0129】
場合によっては、ペプチドを活性化ジスルフィドに変換した後、下記の方法を用いて、毒素の遊離チオール基とカップリングさせる;4-メチル(スクシンイミジル-4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート)(100mM)の無水DMSO溶液(1.25 mol当量)をペプチド(20mM)の無水DMSO溶液(1 mol当量)へ添加した。反応液をよく混合し、DIPEA(20 mol当量)を添加した。反応が完了するまでLC/MSによりモニタリングした。
【0130】
(生物学的データ)
(1.蛍光偏光(FP)直接結合による親和性決定)
フルオレセイン(トレーサー)標識した二環式ペプチドを蛍光偏光直接結合アッセイでスクリーニングして、ACE2タンパク質の変異体に対する親和性(Kd)を決定した。トレーサーを、アッセイバッファ(PBS+0.01 % Tween20、pH7.4)中の個々のACE2スパイクタンパク質変異体の、最大2.54μMまでのタイトレーションへ、最終濃度1 nMとして添加した。蛍光を、BMG PHERAstar FSXプレートリーダーで485/520/520で測定した。必要に応じて、mPを計算する前に、ACE2タンパク質変異体のみの平行強度及び垂直強度を差し引いた。次に、mPデータをDotmaticsの非線形回帰分析に当てはめ、Kd値を生成した。有意なアッセイウィンドウが生成されなかった場合、データはタンパク質の最大濃度で結合がないことを示すと報告された。Kdが試験したタンパク質の最大濃度を超えて生成された場合、その結果は、試験したタンパク質の最大濃度よりも大きいKdとしてフラグ付けされ、このフラグを伴う結果は、Kd>x μMとして表示されるであろう。
【0131】
選択された本発明の二環式ペプチドを上記直接結合アッセイで試験し、その結果を表1に示す。
【0132】
(表1:選択された本発明の二環式ペプチドに関する直接結合アッセイ結果)
【表1】
【0133】
(2.シングルサイクルカイネティクス(SCK)での表面プラズモン共鳴(SPR)による親和性決定)
本発明の二環式ペプチドの、ビオチン化ヒトACE2、His、Avitag(商標)タンパク質(ACROBiosystems社、AC2-H82E6)への結合を、SCK分析により評価した。実験は、25℃で、Biacore T200(Cytiva社)でBiacore T200コントロールソフトウェアV2.0.1及び評価ソフトウェアV3.0(Cytiva社)を使用して行った。HBS-EP+(Cytiva社)を泳動バッファとして使用するだけでなく、リガンド及び検体の希釈のために使用した。ビオチン捕捉試薬(Biotin CAPture reagent)をSeries S Sensor CAP Chip(Cytiva社)にロードしてから、ACE2タンパク質を流速2 μl/分でロードした。次に、表面を安定化させた。
【0134】
本発明の二環式ペプチドを検体として使用して、マストランスファー効果の可能性を最小化するために流速30μl/分で注入して、SCKデータを得た。本発明の二環式ペプチドの親和性に基づいて、泳動バッファ中、検体の2倍希釈で最小4つのポイントを、各濃度間の再生なしで使用した。検体濃度を増加させながら4回注入ごとにそれぞれ100秒間、結合相をモニタリングし、最後の検体注入後の400秒間、解離相単独を測定した。CAP Chip標準再生バッファ(Cytiva社)を用いてセンサーチップ表面の再生を行った。
【0135】
参照チャネルFc1(ACE2捕捉なし)からのシグナルを、Fc2、Fc3及びFc4のそれから差し引いて、バルク効果及び参照表面への非特異的結合の違いを補正した。各ブランク施行(Fc2-ACE2が捕捉されたが抗原無し)からのシグナルを差し引いて、表面安定性の違いを補正した。二重参照センサーグラムは、ラングミュア(1:1)結合モデル(下式1a)で当てはめ適合させたが、このデータのモデルへの適合度(closeness of fit)は、実験曲線並びに当てはめ(観察及び予測)曲線の間の偏差を表すカイ二乗値(下式1b)を使用して評価した。
【数1】
【0136】
(表2:選択された本発明の二環式ペプチドに関するSPR SCK直接結合アッセイ結果)
【表2】
* Rmax設定10
** 1:1モデルはセンサーグラムへの当てはめ不能(当てはめ曲線の信頼性なし)
† 高いバルク寄与が観察された(データ処理に注意する必要がある)。
【0137】
(3.マルチサイクルカイネティクス(MCK)での表面プラズモン共鳴(SPR)による親和性決定)
本発明の二環式ペプチドの、ビオチン化ヒトACE2、His、Avitag(商標)タンパク質(ACROBiosystems社、AC2-H82E6)への結合を、MCK分析により評価した。実験は、25℃で、Biacore T200(Cytiva社)でBiacore T200コントロールソフトウェアV2.0.1及び評価ソフトウェアV3.0(Cytiva社)を使用して行った。HBS-EP+(Cytiva社)を泳動バッファとして使用し、又、リガンド及び検体の希釈のために使用した。ビオチン捕捉試薬をSeries S Sensor CAP Chip(Cytiva社)にロードし、その後ビオチン化ACE2を流速2 μl/分でロードした。次に、その表面を安定化させた。
【0138】
本発明の二環式ペプチドを検体として使用して、潜在的なマストランスファー効果を最小化するために流速30μl/分で注入して、MCKデータを得た。泳動バッファ中、6.25 nM~100 nMの検体の2倍希釈範囲内で5つのポイントを調製した。各濃度について、結合相を250秒間モニタリングし、解離相を450秒間測定した。センサーチップ表面の再生を、サイクル間でCAP Chip標準再生バッファ(Cytiva社)を用いて行った。カイネティクサイクルを通して表面及び検体両方の安定性を確認するために、カイネティク試行において、ブランク及び二環式ペプチドの複数回リピートをプログラムした。
【0139】
参照チャネルFc1(ACE2捕捉なし)からのシグナルを、Fc2、Fc3及びFc4のそれから差し引いて、バルク効果及び参照表面への非特異的結合の違いを補正した。各ブランク施行(Fc2-ACE2が捕捉されたが抗原無し)からのシグナルを差し引いて、表面安定性の違いを補正した。二重参照センサーグラムは、ラングミュア(1:1)結合モデル(上式1a)で当てはめ適合させたが、このデータのモデルへの適合度は、実験曲線並びに当てはめ(観察及び予測)曲線の間の偏差を表すカイ二乗値(上式1b)を使用して評価した。
【0140】
(表3:選択された本発明の二環式ペプチドに関するSPR MCK直接結合アッセイ結果)
【表3】
【手続補正書】
【提出日】2023-03-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2023526067000001.app
【国際調査報告】