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特表2023-526078高性能荷電粒子検出のための装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-20
(54)【発明の名称】高性能荷電粒子検出のための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/02 20060101AFI20230613BHJP
   H01J 49/32 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H01J49/02 500
H01J49/02 200
H01J49/32 200
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022570318
(86)(22)【出願日】2021-05-17
(85)【翻訳文提出日】2023-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2021063007
(87)【国際公開番号】W WO2021233833
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】LU101794
(32)【優先日】2020-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518008275
【氏名又は名称】ルクセンブルク インスティトゥート オブ サイエンス アンド テクノロジー(リスト)
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホアン,フウン・クアン
(72)【発明者】
【氏名】ビルツ,トム
(72)【発明者】
【氏名】プレティ,ラタイア
(72)【発明者】
【氏名】ブトン,オリビエ
(57)【要約】
本発明は、荷電粒子を検出するための検出装置を提案する。デバイスは、マイクロチャネルプレートを備える検出アセンブリに依存する。マイクロチャネルプレートデバイスの有用な面は、検出前面の上流のビーム偏向手段の使用により時間において最大化されている。対応する方法も提案される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を検出するための検出装置(100、200、300、400)であって、
荷電粒子ビーム入口(102、302)と、
少なくとも1つのマイクロチャネルプレート(MCP)アセンブリ(110、210、310、410)の入口面(112、212、312、412)を備える検出前面であって、入口面が第1の方向(Z)に沿って延びており、MCPアセンブリが、前記第1の方向に対して垂直な第2の方向(X)に沿って、入口面に衝突する荷電粒子の複数のビーム(10)を受け、それぞれの衝突する荷電粒子について、反対側の出口面(114、214)において、対応する増幅された検出信号を生成するように構成されている、検出前面と、
前記増幅された検出信号を収集するための少なくとも1つの読み出しアノード(120、220)であって、前記少なくとも1つのMCPアセンブリの出口面に対してある距離に、および平行に配置されている、少なくとも1つの読み出しアノード(120、220)と
を備え、
装置が、さらに、前記入口面からある距離に前記入口の下流に配置され、対応する荷電粒子が選択的に前記第1の方向(Z)に沿ってMCPアセンブリの入口面の異なる部分に到達するように、前記第1の方向(Z)に沿って荷電粒子の入来するビームを選択的に偏向させるように構成された、ビーム偏向手段(130、230、330、430)を備え、
荷電粒子入口、ビーム偏向手段、検出前面および読み出しアノードが、前記第2の方向(X)に沿って延びている、検出装置。
【請求項2】
前記ビーム偏向手段(130、230、330)が、荷電粒子光学ユニットおよび制御ユニット(140、440)を備え、制御ユニットが、荷電粒子光学ユニットによって荷電粒子ビームの伝播方向に適用される偏向角度を動的に制御するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記荷電粒子光学ユニットが、偏向板(332)の対を備える、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記ビーム偏向手段(420)が、荷電粒子光学ユニットおよび制御ユニットを備え、制御ユニットが、荷電粒子ビームの伝播方向が荷電粒子光学ユニットによって偏向されるオープニングアングルを動的に制御するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記荷電粒子光学ユニットが、Bradbury-Nielsenグリッド(432、434)を備える、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つのMCPアセンブリの入口面が、前記第1の方向(Z)に沿って2から3cmにわたって延びている、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
複数のMCPアセンブリの入口面が、前記第2の方向(X)において少なくとも15cmの集計した長さにわたって延びている、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
各MCPアセンブリに対して1つの専用の読み出しアノードをさらに備え、前記読み出しアノードが、対応するMCPアセンブリの出口面に沿って延びている、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
少なくとも1つの読み出しアノードが、遅延線アノード、ピクセル化されたアノードアレイ、抵抗アノード、成形されたアノード、単一アノードまたはそれらの任意の組合せを備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
ビーム偏向手段を含む、装置の構成要素に正または負の浮遊電位を適用するように構成されたバイアシング手段をさらに備える、請求項1から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記荷電粒子が、イオンを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記荷電粒子が、電子を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
イオンをそれらの質量/電荷比に従って焦点面に沿って分散させるための質量分析計であって、検出前面を有する検出装置を備え、前記分散させられたイオンが検出前面に衝突するように検出前面が前記焦点面に配置されている、質量分析計において、前記検出装置が、請求項1から11のいずれかにしたがうものであり、前記第1の方向(Z)が、イオンが分散させられる平面に対して垂直であることを特徴とする、質量分析計。
【請求項14】
前記検出装置の偏向手段が、質量分析計の質量フィルタリングユニットから出る全ての分散させられたイオンを偏向させるように構成されている、請求項13に記載の質量分析計。
【請求項15】
前記検出装置の検出前面が、質量分析計の質量フィルタリングユニットによって分散させられた任意のイオンがそこに衝突するように、前記焦点面に広がっている、請求項13または14に記載の質量分析計。
【請求項16】
質量分析計が、Mattauch-Herzogタイプのデバイスであることを特徴とする、請求項14または15に記載の質量分析計。
【請求項17】
請求項1から12のいずれかに記載の装置を使用して、荷電粒子を検出するための方法であって、
i)複数の荷電粒子ビームを提供するステップ、
ii)デバイスのビーム偏向手段を使用して、少なくとも1つのMCPアセンブリが延びている前記第1の方向(Z)に沿って所定の偏向角度に従って前記荷電粒子ビームを偏向させるステップ、
iii)デバイスの少なくとも1つの読み出しアノードを使用して、前記少なくとも1つのMCPアセンブリによって提供される、増幅された検出信号を読み出すステップ、
iv)異なる所定の偏向角度を使用してステップii)およびiii)を少なくとも一回反復するステップ
を含む方法。
【請求項18】
請求項13から16のいずれかに記載の質量分析計を使用する方法であって、
a)前記分析計デバイスの質量フィルタリングユニットを使用して二次イオンビームに含まれるイオン種を分散させて、複数のイオンビームを生成するステップ、
b)分析計のビーム偏向手段を使用して、少なくとも1つのMCPアセンブリが延びている前記第1の方向(Z)に沿って所定の偏向角度に従って前記複数のイオンビームを偏向させるステップ、
c)分析計の少なくとも1つの読み出しアノードを使用して、前記少なくとも1つのMCPアセンブリによって提供される、増幅された検出信号を読み出すステップ、
d)異なる所定の検出角度を使用してステップb)およびc)を少なくとも一回反復するステップ
を含む方法。
【請求項19】
ステップii)およびiii)もしくはb)およびc)それぞれが、前記第1の方向(Z)に沿って前記少なくとも1つのMCPアセンブリの入口面の範囲にわたって荷電粒子ビームもしくは複数のイオンビームそれぞれをスキャンするために反復される、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
ビーム偏向手段が、荷電粒子光学ユニットおよび制御ユニット(140、440)を備え、制御ユニットが、荷電粒子光学ユニットによって荷電粒子ビームの伝播方向に適用される偏向角度を動的に制御するように構成されており、ステップii)もしくはステップb)それぞれの2つの連続する反復の間に、第1の反復中に偏向されたビームによって前記少なくとも1つのMCPアセンブリの入口面において生成されたスポットが、同じ偏向されたビームによって第2の反復中に生成されたスポットと重ならないように、偏向角度が変更される、請求項17から19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子検出器の分野に関する。特に、本発明は、とりわけ二次イオン質量分析法(SIMS)を含む質量分析法において用途を見出す、荷電粒子を検出するための高性能装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析法は、分子または試料を構成する要素を決定するために一般的に使用される分析技術である。質量分析計は、典型的には、イオン源、質量分離器および検出器を備える。イオン源は、例えば、試料分子の気相、液相または固相をイオン、すなわち、電気的に非中性的に荷電された原子または分子に変換することができるデバイスであってよい。複数のイオン化技術が技術分野においてよく知られており、イオン源デバイスの特定の構造は、本明細書において詳細に説明しない。代替的に、質量分析計によって分析されるイオンは、気相、液相または固相の試料と、レーザ、イオンまたは電子ビームなどの放射源との相互作用の結果生じてよい。イオン放出試料は、その場合、イオン源であると考えられる。
【0003】
イオン源において発生するイオンビームは、それらの質量-電荷比に従ってイオンを分離または分類することができる質量分析器を使用して分析される。この比は、典型的にはm/zとして表され、mは、統一原子質量単位における分析物の質量であり、zは、イオンによって運ばれる素電荷の数である。非相対論的なケースにおけるローレンツ力の法則およびニュートンの運動の第2法則は、空間における荷電粒子の運動を特徴づける。したがって、質量分析計は、イオン源から出るイオンを分離するために、知られている様々な組合せにおいて電界および/または磁界を使用する。特定の質量-電荷比を有するイオンは、質量分析器において特定の軌道をたどる。異なる質量-電荷比のイオンは異なる軌道をたどるので、分析物の組成は、観察された軌道に基づいて決定されてよい。波動ビームに含まれる異なる波長のスペクトルの生成を可能にする光学分析計との類似性により、質量分析計は、分子または試料に含まれる異なる質量-電荷比のスペクトルを生成することを可能にする。
【0004】
セクタ機器は、特定のタイプの質量分析機器である。セクタ機器は、荷電粒子の経路および/または速度に影響を及ぼすために磁界または電界と磁界との組合せを使用する。一般的に、イオンの軌道は、セクタ機器を通過することにより曲げられ、それにより、軽く低速のイオンは、より重く高速のイオンよりも大きく偏向される。磁気セクタ機器は、一般的に、2つのクラスに属する。スキャニングセクタ機器においては、磁界が変化させられ、それにより、特に調整された磁界において単一のタイプのイオンのみが検出可能である。磁界強度の範囲をスキャンすることによって、質量-電荷比の範囲をシーケンシャルに検出することができる。非スキャニング磁気セクタ機器においては、静磁場が使用される。イオンの範囲は、並行してかつ同時に検出されてよい。知られている非スキャニング磁気セクタ機器は、典型的には、Mattauch-Herzogタイプ質量分析計として分類される。
【0005】
Mattauch-Herzogタイプ質量分析器は、二次イオン軌道において磁気セクタが続く、静電セクタ(ESA)から成る。静電セクタと磁気セクタとの構成は、典型的には、磁気セクタの出口平面に沿って広い範囲の質量-電荷比m/zを分散させることを可能にする。全てのイオン質量は、(オリジナルのMattauch-Herzog構成において)出口平面に、または磁気セクタの出口平面からある距離に配置された焦点面に集束させられる。知られているMattauch-Herzogタイプ質量分析計のほとんどは、最も高い質量分解能のための二重焦点条件(アクロマート質量フィルタリング)において動作することができる。数百から数千の典型的な質量分解パワーが達成される。
【0006】
理想的には焦点面検出器を備える適切な検出システムが装備されているならば、この質量分析計アーキテクチャの1つの興味深い特徴は、広範囲の質量スペクトルを同時にキャプチャする能力である。焦点面検出器は、短い取得時間、典型的には数分の1秒で、全質量スペクトルを同時に取得することができる。この同時取得能力は複数の利点を提供する。第1に、100%の測定デューティサイクルを達成することができる。この利点は、全ての質量-電荷比(m/z)ピークが同時に収集されるため、より良い検出限界および測定のために必要とされる、より小さな試料サイズを生じることができる。第2に、全質量スペクトルを同時に記録する能力は、連続的およびパルス式の両方のイオン化技術を使用することを可能にする。特に、レーザアブレーション/イオン化などのパルス式イオン化技術は、一般的に、スペクトル信号における急速な変化を導入し、したがって、シーケンシャルな検出技術は、測定においてエラーを生じる。
【0007】
質量分析法のための理想的な焦点面検出器は、単一のイオンを検出するのに十分にセンシティブであるべきであるのに対し、単一の一次元(1D)ピクセルの計数率(局所的計数率)は、最も高いイオンビーム電流を取り扱うために、10カウント毎秒(cps)よりも大きくあるべきである。実際には、10cps/mmよりも大きい1D局所的計数率が典型的には要求される。さらに、局所的ダイナミックレンジ(検出器が検出された信号に線形に応答する信号範囲によって規定される)も、広範囲の化学的濃度を正確に測定するために10-10であることが要求される。
【0008】
知られている検出システムは、典型的には、少なくとも1つのマイクロチャネルプレート(MCP)ユニットを備える。典型的なマイクロチャネルプレート(MCP)は、典型的な直径が10から100μmの範囲である10から10の小型電子増倍管から成る。各チャネルは、単一のイオン、電子、原子、分子または光子を検出することができる個々の電子増倍管として作用する。MCPは、典型的には、鉛ガラスなどの高抵抗材料から製造されている。MCPの前側および後側は、金属化された電極であり、そこには、約1000Vの典型的な電圧差が、電源などの適切なバイアシング手段によって適用される。単一のエネルギー粒子がチャネル表面に当たると、粒子は、1つまたは複数の二次電子を生成し、これらの電子は、適用された電圧によってMCPチャネル内へ加速される。これらの二次電子のそれぞれは、再びチャネル壁に当たったときに2つ以上の二次電子を放つことができる。このプロセスは、チャネルに沿ってカスケードさせられる。したがって、チャネルに当たる単一のエネルギー粒子は、チャネルに沿って電子放出のカスケードを生じ、その結果、チャネルの出口において少なくとも10個の電子の電子雲を生じる。MCPの背後に置かれたアノードは、電子雲を電子的に検出して、MCPに当たるそれぞれの単一のイベントを登録することができる。MCPアセンブリは、単一のマイクチャネルプレートまたはその積層されたアセンブリを備えてよい。
【0009】
しかしながら、知られているMCPベースの焦点面検出器は、複数の制限を受ける。制限された局所的計数率は、高濃度種のために飽和された検出信号を生じる。典型的なMCPは、局所的計数率を10-10cps/mmに制限する。知られているMCPベースの焦点面検出器において、MCPのこの局所的計数率は、1D局所的計数率を10-10cps/mm未満に制限する。制限された局所的ダイナミックレンジは、種の不十分な検出可能な濃度範囲を生じる。質量分析法は、典型的には、最大で10を超える広範囲のダイナミックレンジを必要とする。知られているMCPデバイスの全体のダイナミックレンジは、典型的には、10よりも大きいが、それが許容する局所的ダイナミックレンジは、数百から数千倍小さい(10-10)。
【0010】
MCPベース技術の上記の2つの制限は、主に、各MCPチャネルが、それが取り扱うことができる最大計数率によって制限され、したがって、1つの検出器ピクセルの最大局所的計数率および局所的ダイナミックレンジが、ピクセルに含まれるMCPチャネルの数に依存することによる。各MCPチャネルは、典型的には、2つの検出イベントの間の数ミリ秒の無駄時間によって特徴づけられ、したがって、MCPチャネルが取り扱うことができる最大計数率は、10cps未満に制限される。MCPチャネルのサイズに応じて、MCPの密度は、典型的には、10から10チャネル/mm未満である。同じチャネルに当たる複数のイオンを回避するための統計を考慮すると、単一MCPの最大計数率は、最大で10cps/mm以下に制限される。この制限された計数率は、典型的には、MCP積層構成においてより悪く、MCP積層構成においては、2つまたは3つのMCPが、全体のゲインを改善するために接合されている。この場合、第1のMCPのチャネルに当たる単一の粒子は、この単一の粒子の検出に関与する後続のMCPプレートの複数のチャネルのための無駄時間を生じる可能性がある。したがって、このような知られているアーキテクチャにおける達成可能な最大の計数率は、10-10cps/mmよりも大幅に小さく、局所的ダイナミックレンジは、10よりも大幅に小さい(3よりも大きな最大信号対ノイズ比を考慮する)。
【0011】
米国特許第6,521,887(B1)号は、飛行時間型(TOF)分析計を開示している。これは、TOF機器のデューティサイクルを増大するためにパルス式またはゲート式イオンビームを回避することを目的とする。機器のドリフト領域における偏向手段は、単一イオンビームを、MCPアセンブリを備えてよい検出デバイスにおける異なる位置へ逸らせるために使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6,521,887号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、従来技術の欠点のうちの少なくとも幾つかを克服するデバイスを提供することである。特に、本発明は、知られているMCPベースの荷電粒子検出器よりも改善された性能をもたらす、荷電粒子検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、荷電粒子を検出するための検出装置が提供される。装置は、荷電粒子ビーム入口を備える。装置は、さらに、少なくとも1つのマイクロメカニカルプレート(MCP)アセンブリの入口面を備える検出前面またはエリアであって、入口面が第1の方向(Z)に沿って延びており、MCPアセンブリが、入口面に衝突する荷電粒子のビームを受け、それぞれの衝突する荷電粒子について、反対側の出口面において、対応する増幅された検出信号を生成するように構成されている、検出前面またはエリアを備える。装置は、前記増幅された検出信号を収集するための少なくとも1つの読み出しアノードであって、前記少なくとも1つのMCPアセンブリの出口面に対してある距離に、および平行に配置されている、少なくとも1つの読み出しアノードを備える。またさらに、装置は、前記入口面からある距離に前記入口の下流に配置され、対応する荷電粒子が選択的に前記第1の方向(Z)に沿ってMCPアセンブリの入口面の異なる部分に到達するように、前記第1の方向(Z)に沿って荷電粒子の入来するビームを選択的に偏向させるように構成された、ビーム偏向手段を備える。
【0015】
本発明の別の態様によれば、荷電粒子を検出するための検出装置が提案される。装置は、荷電粒子ビーム入口と、少なくとも1つのマイクロチャネルプレート(MCP)アセンブリの入口面を備える検出前面とを備える。入口面は、第1の方向(Z)に沿って延びている。MCPアセンブリは、前記第1の方向に対して垂直な第2の方向(X)に沿って、入口面に衝突する荷電粒子(10)の複数のビームを受け、それぞれの衝突する荷電粒子について、その反対側の出口面において対応する増幅された検出信号を生成するように構成されている。装置は、さらに、前記増幅された検出信号を収集するための少なくとも1つの読み出しアノードを備え、アノードは、前記少なくとも1つのMCPアセンブリの出口面に対してある距離に、および平行に配置されている。装置は、さらに、前記入口面からある距離に前記入口の下流に配置され、対応する荷電粒子が選択的に前記第1の方向(Z)に沿ってMCPアセンブリの入口面の異なる部分に到達するように、前記第1の方向(Z)に沿って荷電粒子の入来するビームを選択的に偏向させるように構成された、ビーム偏向手段を備える。荷電粒子入口、ビーム偏向手段、検出前面および読み出しアノードが、前記第2の方向(X)に沿って延びている。
【0016】
好ましくは、ビーム偏向手段は、荷電粒子光学ユニットおよび制御ユニットを備えてよく、制御ユニットが、荷電粒子光学ユニットによって荷電粒子ビームの伝播方向に適用される偏向角度を動的に制御するように構成されている。制御ユニットは、好ましくは、データ処理ユニットおよびメモリエレメントを備えてよく、データ処理ユニットは、所望の機能を実現するためにソフトウェアコードによってプログラムされている。
【0017】
好ましくは、ビーム偏向手段は、荷電粒子光学ユニットおよび制御ユニットを備えてよく、制御ユニットが、荷電粒子ビームの伝播方向が荷電粒子光学ユニットによって偏向されるオープニングアングルを動的に制御するように構成されている。制御ユニットは、好ましくは、データ処理ユニットおよびメモリエレメントを備えてよく、データ処理ユニットは、所望の機能を実現するためにソフトウェアコードによってプログラムされている。
【0018】
好ましくは、荷電粒子光学ユニットは、一対の偏光板またはBradbury-Nielsenグリッドを備えてよい。一対の偏光板は、好ましくは、それらの間に荷電粒子ビーム通路を規定してよい。
【0019】
前記少なくとも1つのMCPアセンブリの入口面は、好ましくは、前記第1の方向(Z)に沿って2から3cmにわたって延びていてよい。
【0020】
好ましくは、検出前面またはエリアは、さらに、前記第1の方向(Z)に対して垂直な第2の方向(X)に沿って延びていてよく、複数のMCPアセンブリの入口面が、前記第2の方向(X)において少なくとも15cmの集計した長さにわたって延びている。第1の方向は、好ましくは、前記ビーム偏向手段によって偏向される前に入来する荷電粒子ビームの軌道が発展する平面に対して垂直であってよい。
【0021】
複数のMCPアセンブリの入口面は、好ましくは、1から100cmの集計した長さにわたって延びていてよい。
【0022】
最大で1mm幅のギャップが、前記第2の方向(X)に沿っていずれか2つの隣接するMCPアセンブリのそれぞれの出口面を分離することが好ましい場合がある。
【0023】
いずれか2つの隣接するMCPアセンブリの間のギャップサイズは、好ましくは、同じであってよい。
【0024】
好ましくは、いずれか2つの隣接する読み出しアノードを分離するギャップは、対応する2つの隣接するMCPアセンブリの入口面と出口面とを分離するギャップと実質的に同じ幅を有してよい。
【0025】
全てのMCPアセンブリは、好ましくは、実質的に同じチャネルサイズおよび増幅ゲイン特性を有してよい。
【0026】
好ましくは、全てのMCPアセンブリは、前記主方向に対して垂直に延びる同じ幅を有してよい。
【0027】
検出器の前方エリアは、好ましくは、前記MCPアセンブリの入口面から成ってよい。
【0028】
好ましくは、デバイスは、各MCPアセンブリのそれぞれの入口面と出口面との間の電位差を適用するように構成されたバイアシング手段を備えてよい。バイアシング手段は、好ましくは、電源を備えてよい。
【0029】
バイアシング手段は、好ましくは、検出器の前面に正または負の浮遊電位を適用するように構成されていてよい。バイアシング手段は、好ましくは、電源を備えてよい。
【0030】
好ましくは、バイアシング手段は、全てのMCPアセンブリのそれぞれの出口面に共通の電位を適用するように構成されていてよい。
【0031】
好ましくは、バイアシング手段は、ビーム偏向手段に正または負の浮遊電位を適用するように構成されていてよい。電位は、好ましくは、検出器の前面に適用される浮遊電位と同じであってよい。
【0032】
好ましくは、バイアシング手段は、装置の構成要素に正または負の浮遊電位を適用するように構成されていてよい。構成要素は、好ましくは、MCPアセンブリの一部である、ビーム偏向手段および検出器前面を含んでよい。
【0033】
MCPアセンブリは、好ましくは、複数の多重MCPデバイスの積層されたアセンブリ、山形アセンブリまたはZ積層アセンブリを備えてよい。
【0034】
装置は、さらに、好ましくは、各MCPアセンブリのための1つの専用の読み出しアノードを備えてよく、前記読み出しアノードは、好ましくは、対応するMCPアセンブリの出口面に沿って延びていてよい。
【0035】
少なくとも1つの読み出しアノードは、好ましくは、遅延線アノード、ピクセル化されたアノードアレイ、抵抗アノード、成形されたアノード、単一アノードまたはそれらの任意の組合せを備えてよい。
【0036】
好ましくは、ビーム偏向手段は、前記第2の方向(X)に沿って延びていてよい。
【0037】
好ましくは、前記荷電粒子は、イオンを含んでよい。好ましくは、荷電粒子は、電子を含んでよい。
【0038】
本発明の別の態様によれば、イオンをそれらの質量/電荷比に従って焦点面に沿って分散させるための質量分析計が提供される。分析計は、検出前面を有する検出装置を備え、前記分散されたイオンが検出前面に衝突するように検出前面が前記焦点面に配置されている。分析計は、前記検出装置が本発明の態様に従い、検出前面が延びている前記第1の方向(Z)が、イオンが質量分析計によって分散させられる平面に対して垂直であるという点で優れている。
【0039】
好ましくは、前記質量分析計に備えられる前記検出装置の偏向手段は、質量分析計の質量フィルタリングユニットから出た全ての分散されたイオンを偏向させるように構成されていてよい。質量フィルタリングユニットは、好ましくは、磁気セクタ機器を備えてよい。
【0040】
好ましくは、前記質量分析計に備えられた前記検出装置の検出前面は、質量分析計の質量フィルタリングユニットによって分散された任意のイオンがそこに衝突するように、前記焦点面に広がっていてよい。
【0041】
好ましくは、質量分析計は、二次イオン質量分析(SIMS)デバイスであってよい。質量分析計デバイスは、さらに、好ましくは、Mattauch-Herzogタイプのデバイスであってよい。
【0042】
質量分析計は、好ましくは、浮遊構成において使用されるように構成されていてよい。
【0043】
本発明のさらなる態様によれば、荷電粒子を検出するための方法が提供される。この方法は、本発明の態様による装置を使用する。方法は:
i)荷電粒子ビームを提供するステップ;ビームが、好ましくは、伝播方向を有してよい;
ii)デバイスのビーム偏向手段を使用して、少なくとも1つのMCPアセンブリが延びている前記第1の方向(Z)に沿って所定の偏向角度に従って前記荷電粒子ビームを偏向させるステップ;
iii)デバイスの少なくとも1つの読み出しアノードを使用して、前記少なくとも1つのMCPアセンブリによって提供される、増幅された検出信号を読み出すステップ;
iv)異なる所定の検出角度を使用してステップii)およびiii)を少なくとも一回反復するステップ
を含む。
【0044】
本発明のさらなる態様によれば、荷電粒子を検出する方法が提供される。この方法は、本発明の態様による装置を使用する。方法は:
i’)複数の荷電粒子ビームを提供するステップ;ビームが、好ましくは、伝播方向を有してよい;
ii’)デバイスのビーム偏向手段を使用して、少なくとも1つのMCPアセンブリが延びている前記第1の方向(Z)に沿って所定の偏向角度に従って前記荷電粒子ビームを偏向させるステップ;
iii’)デバイスの少なくとも1つの読み出しアノードを使用して、前記少なくとも1つのMCPアセンブリによって提供される、増幅された検出信号を読み出すステップ;
iv’)異なる所定の検出角度を使用してステップii)およびiii)を少なくとも一回反復するステップ
を含む。
【0045】
本発明の別の態様によれば、本発明の態様による質量分析計を使用する方法が提供される。方法は:
a)前記分析計デバイスの質量フィルタリングユニットを使用して二次イオンビームに含まれるイオン種を分散させて、複数のイオンビームを生成するステップ;
b)質量分析計の検出装置の一部である、分析計のビーム偏向手段を使用して、少なくとも1つのMCPアセンブリが延びている前記第1の方向(Z)に沿って所定の偏向角度に従って前記複数のイオンビームを偏向させるステップ;
c)質量分析計の検出装置の一部である、分析計の少なくとも1つの読み出しアノードを使用して、前記少なくとも1つのMCPアセンブリによって提供される、増幅された検出信号を読み出すステップ;
d)異なる所定の検出角度を使用してステップb)およびc)を少なくとも一回反復するステップ
を含む。
【0046】
好ましくは、ステップii)およびiii)もしくはb)およびc)それぞれが、前記第1の方向(Z)に沿って前記少なくとも1つのMCPアセンブリの入口面の範囲にわたって荷電粒子ビームもしくは複数のイオンビームそれぞれをスキャンするために反復されてよい。
【0047】
好ましくは、ステップii)およびiii)は、前記第1の方向(Z)に沿って前記少なくとも1つのMCPアセンブリの入口面の範囲をスキャンするために反復されてよい。
【0048】
好ましくは、ステップb)およびc)は、前記第1の方向(Z)に沿って前記少なくとも1つのMCPアセンブリの入口面の範囲にわたって複数のイオンビームをスキャンするために反復されてよい。
【0049】
好ましくは、ビーム偏向手段が、荷電粒子光学ユニットおよび制御ユニットを備えてよく、制御ユニットが、荷電粒子光学ユニットによって荷電粒子ビームの伝播方向に適用される偏向角度を動的に制御するように構成されている。ステップii)もしくはステップb)それぞれの2つの連続する反復の間に、第1の反復中に偏向されたビームによって前記少なくとも1つのMCPアセンブリの入口面において生成されたスポットが、同じ偏向されたビームによって第2の反復中に生成されたスポットと重ならないように、偏向角度が好ましくは変更されてよい。
【0050】
ステップii)の2つの連続する反復の間に、第1の反復中に偏向されたビームによって前記少なくとも1つのMCPアセンブリの入口面において生成されたスポットが、第2の反復中に生成されたスポットと重ならないように、偏向角度が好ましくは変更されてよい。
【0051】
ステップb)の2つの連続する反復の間に、第1の反復中に偏向されたビームによって前記少なくとも1つのMCPアセンブリの入口面において生成されたスポットが、同じ偏向されたイオンビームによって第2の反復中に生成されたスポットと重ならないように、偏向角度が好ましくは変更されてよい。
【0052】
連続的に読み出される増幅された検出信号は、好ましくは、所与の荷電粒子または所与の複数の分散されたイオン種に対応する組み合わされた検出信号をもたらすために、メモリエレメントに記憶され、データ処理ユニットによって組み合わされてよい。
【0053】
連続的に読み出される増幅された検出信号は、好ましくは、所与の荷電粒子に対応する組み合わされた検出信号をもたらすために、メモリエレメントに記憶され、データ処理ユニットによって組み合わされてよい。
【0054】
前記組合せは、好ましくは、所与の荷電粒子についての連続的に読み出された検出カウントを累積することを含んでよい。
【0055】
連続的に読み出される増幅された検出信号は、好ましくは、所与の複数の分散されたイオン種に対応する組み合わされた検出信号をもたらすために、メモリエレメントに記憶され、データ処理ユニットによって組み合わされてよい。組み合わされた検出信号は、好ましくは所与の偏向角度を使って記録された質量スペクトルデータに対応してよい。
【0056】
提案された発明は、知られているMCPベースの荷電粒子検出器よりも改善された性能をもたらす、荷電粒子検出装置を提供する。知られているMCPベースの荷電粒子検出器の制限を克服するために、検出可能なイオンビーム信号を検出器の空間分解能から切り離すことが提案される。本発明の態様によれば、検出器に当たる荷電粒子ビームを検出することに関与する検出器のMCPチャネルの数が増大させられる。これは、MCPチャネル入口が位置している、検出器の前面に当たるイオンビームスポットの位置を変化させることによって達成される。MCPチャネルの所与のセットが、入来するビームによって飽和させられる一方、ビームは、まだ使用されていないMCPチャネルのセットへ偏向させられる。MCPチャネルの複数の連続するセットから生じる対応する検出信号は、トータルの検出信号を再構築するために組み合わされてよい。検出器の空間分解能を維持しながら、提案された本発明の態様は、検出可能な最大の局所的計数率およびダイナミックレンジを改善する。少なくとも10の改善要因が観察された。提案された検出装置は、二次イオン質量分析(SIMS)を含むハイダイナミック質量分析用途のためのMCPベースの1D焦点面検出器において特に有効である。このようなシナリオにおいて、質量分析計の質量フィルタリングユニット(例えば、磁気セクタ機器)から出るイオンビームは、水平方向における集束したイオンビームの広がりを妨害することなく、検出器の垂直方向においてスキャンされる。
【0057】
本発明の幾つかの実施形態は、本発明の範囲を限定しない図面によって示されている。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】検出器アセンブリに当たる荷電粒子ビームの斜視図の概略図である。
図2】本発明の好ましい実施形態による検出装置を横方向に切断した概略図である。
図3】本発明の好ましい実施形態による検出装置の平面図の概略図である。
図4】本発明の好ましい実施形態による検出装置を横方向に切断した概略図である。
図5】本発明の好ましい実施形態による荷電粒子偏向ユニットの概略図である。
図6】本発明の好ましい実施形態による質量分析計デバイスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
このセクションは、説明された実施形態に発明を限定することなく、好ましい実施形態および図面に基づいて本発明の特徴をさらに詳細に説明する。別段の定めがないかぎり、特定の実施形態の文脈において説明された特徴は、その他の説明された実施形態の追加的な特徴と組み合わされてもよい。説明を通じて、類似の参照番号は、本発明の異なる実施形態にわたって類似のまたは同じ概念のために使用される。例えば、参照番号100、200、300、400および500はそれぞれ、発明による、ただしその2つのそれぞれの実施形態における検出装置を説明している。
【0060】
説明は、発明を理解するために関連する提案された検出器装置の態様に焦点を合わせている。デバイスが、その態様が明示的に言及されていないとしても、例えば、適切に寸法決めされた電源、または装置の様々なエレメントをそれらのそれぞれ要求された位置に保持するための機械的なホルダフレームなど、その他の一般的に知られている態様も含むことが当業者に明らかとなるであろう。
【0061】
図1は、荷電粒子ビーム10を示す。非限定的な例として、ビームは、質量分析計の磁気フィルタリングセクタから出るイオンビームに対応してよい。イオンビームは、典型的には、文字Xによって示された方向において質量分析計の焦点面に沿って延びる荷電粒子検出器110に当たる。検出器の前面112は、マイクロチャネルプレート(MCP)アセンブリのチャネルの入口面から成る。チャネルは、チャネルに進入する検出されるイオンを、対応する出口面114において生成される測定可能な検出信号に増幅するために使用される。知られているMCPベース検出器では、イオンビーム10(実線)は、常に、X方向に対して垂直方向であるZ方向に沿って同じスポット12において検出器110に当たる。X方向における検出器に沿った1Dピクセルサイズは、垂直方向Zにおける検出器のアクティブ幅に依存しない。Z方向におけるアクティブ幅が広くなるほど、1つの1Dピクセルに潜在的に含まれるチャネルの数は増大する。磁気セクタ質量分析計機器における典型的なイオンビームは、X方向における数百μm×Z方向における数千μm(典型的には2000μm未満)の小さなスポットサイズに十分に集束させられる。したがって、ビームは、典型的には、Z方向において検出器の利用可能なアクティブ幅の一部のみに当たり、その結果、イオンビームを検出することに関与するそれぞれの1Dピクセルにおける増幅チャネルの実際の数が制限される。
【0062】
もしイオンビーム10、10’、10’’が、示したようにMCPのアクティブ幅内でZ方向に沿ってスキャンされると(図1における点線および破線を参照)、イオンビームの検出に関与する実際のMCPチャネルの総数が著しく増大され、したがって、X方向に沿って同じ検出器1D解像度を維持しながら、検出可能な最大局所的計数率およびダイナミックレンジが著しく改善される。スポット12、12’、12’’が異なる時点に検出器の前面112の異なる部分を照明するので、この検出プロセスに関与するZ方向(垂直)におけるMCPの集計したアクティブ幅を20mmよりも大きく拡張させることができ、その結果、知られている検出器と比較して少なくとも一桁の改善を生じる。これは、イオンビームがMCPアセンブリの前面112においてスキャンされないケースと比較して、局所的計数率およびダイナミックレンジを一桁よりも多く改善することを助ける。このスキャニング機構は、多数のイオンが同じチャネルに当たる可能性をさらに低減し、したがって、MCP検出器アセンブリの検出効率をさらに改善することも助ける。
【0063】
図2は、本発明の好ましい実施形態による装置100の概略図を提供する。検出装置100は、開口または入口102を備え、この開口または入口102を通じて、イオンまたはクラスタイオンなどの荷電粒子を運ぶビーム10が、装置に進入することができる。横方向切断図により、入口は、図1に示したようにX方向に延びており、スリットを形成していることが認められる。多数の荷電イオンビームが装置100に進入し、X方向に沿って散乱させられ、偏向および検出手段に向かって伝播する。非限定的な例として示された例において、入来する荷電粒子ビーム10は、方向Yに沿って入口に向かって移動する。ビーム偏向手段130が入口の下流に配置されている。ビーム偏向手段は、偏向板、すなわちBradbury-Nielsenゲートタイプのデバイス、または荷電粒子ビームの方向の方向に選択的に作用するための技術分野において知られているその他のユニットを備えてよい。制御ユニット140によって制御される偏向の選択された大きさに応じて、偏向手段を横断する荷電粒子ビーム10は、その初期伝播方向Yに対して、対応する偏向角度θだけ偏向させられる。偏向角度は、典型的には、偏向手段130を通過しながら荷電粒子ビームが発展する電界の強度の関数である。荷電ビーム10が偏向手段を出ると、荷電ビーム10は、直線においてその逸らされた軌道を継続し、装置全体は、示されていない真空エンクロージャに含まれている。偏向手段130のさらに下流には、マイクロチャネルプレート(MCP)アセンブリ110が配置されている。MCPアセンブリは、荷電粒子ビームを受けるための、検出前面112を形成する複数のマイクロチャネルを備える。偏向角度θに応じて、検出前面112においてビームによって生成されるスポットは、Z方向に沿ってチャネル12の異なるセットを照明する。チャネルに進入するそれぞれの荷電粒子について、対応する増幅された電気信号が、検出器の出口面114において生成される。これらの検出信号は、MCPアセンブリの出口面114に対してある距離に、および平行に配置された少なくとも1つの読み出しアノードによって収集される。読み出しアノード120は、示されていないデータ処理手段に動作可能に結合されている。データ処理手段は、読み出しアノードによって提供された検出カウントをメモリエレメントに記憶するようにおよび/または記録されたデータをさらに処理するように構成されている。
【0064】
図3は、本発明の好ましい実施形態による検出装置200を切断した平面図を示す。様々な概念を説明するために、示された寸法は縮尺どおりではなく、幾つかの距離は、図面を理解しやすくするために誇張されている。装置は、主方向Xおよび垂直Z方向に沿って延びる前面エリアを備える。検出前面212は、X方向に沿って並んで配置された複数のマイクロチャネルプレート(MCP)アセンブリ210のそれぞれの入口面を備える。MCPアセンブリの前面212は、前面エリアを構成し、両者を指すために同じ数字が使用される。MCPアセンブリを分離する物理的なギャップまたは隙間Gによって例外が与えられている。示された例において、3つのMCPアセンブリが使用されている。もちろん、本発明の範囲から逸脱することなく、その他の複数が可能である。利用可能なMCPサイズおよび検出前面のX方向における所望の全長(例えば、典型的なMattauch-Herzogタイプ質量分析計の場合には1cm未満から100cm超まで)に応じて、適切な数のMCPアセンブリがデバイス200に組み込まれている。図3の例において、異なる長さにわたって延びるMCPアセンブリが、並んで配置されている。各MCPアセンブリは、異なるサイズの入口面を提供している。各MCPアセンブリ210の深さHは好ましくは同じであり、これにより、増幅特性は、X方向における検出器の長さに沿って均一である。非限定的な例によれば、深さHは、典型的には、シングルMCPアセンブリの場合は約0.5mmから1mm、Chevronタイプの積層MCPアセンブリの場合は1-2mm、Z-積層タイプMCPアセンブリの場合は1.5-3mmである。理想的には、ギャップGは、無視できるサイズであるが、実際には、1mmよりも大きくない。実際に、前面212に衝突する荷電粒子(すなわち、イオン、電子)は、MCPのうちの1つの前面212に当たった場合にのみ検出することができ、ギャップGは検出範囲におけるデッドスポットを形成している。好ましくは、2つの隣接するMCPアセンブリの間のギャップは、均一なサイズである。それぞれの衝突する荷電粒子は、入口面212に荷電粒子が当たるMCPアセンブリの出口面214において、対応する増幅された信号を生成する。ギャップGは、2つの隣接するMCPアセンブリのそれぞれの出口面まで延びている。増幅された信号を検出するために、少なくとも1つの読み出しアノード220は、MCPアセンブリ210の出口面に対して平行に、この出口面から距離d(典型的には、2-5mmであるが、これに限定されない)に配置されている。単一のMCPアセンブリまたは多数のMCPアセンブリの使用にかかわらず、読み出しアノードは、示されていないデータ処理手段に動作可能に結合されており、このデータ処理手段は、アノードによって読み出される検出カウントを、検出器のX軸およびZ軸に沿ったそれらの位置と一緒に記憶する。Z方向に沿った検出イベントの位置は、MCPアセンブリ210の上流に配置されたビーム偏向手段230によって荷電粒子ビーム10に課される偏向によって決定される。記録時の検出装置の構成を説明する情報、すなわち、偏向電圧、角度またはMCPの入口面における偏向距離も、各検出イベントのための検出カウントと一緒に記憶される。これらのパラメータの値は、偏向手段230によって適用される偏向角度を決定する示されていない制御ユニットにおいて利用可能である。そうすることによって、入来する荷電粒子10のスペクトルデータが生成される。スペクトルデータは、好ましくは、そのさらなる処理のために、またはそれをディスプレイデバイスに表示するためにメモリエレメントに記憶される。処理手段は、例えば、メモリエレメントへの読み出し/書き込みアクセスを有するデータプロセッサを備えてよい。データプロセッサは、アノード220を読み出すように設計された特定の回路を備えてよいが、代替的に、このタスクを適切なソフトウェアコードによって実行するようにプログラムされた、プログラマブルプロセッサを備えてもよい。全ての説明された構成要素は、例えば、機械加工されたフレームであってよい示されていないホルダフレームによって所定の位置に保持されている。MCPアセンブリ210から出た電子を収集するための異なるタイプのアノード220が考えられてよい。第1のタイプは、典型的にはMCPの背後に置かれた単一の金属板である単一アノードである。このアノードプレートは、MCP全体から出た電子の総数を収集し、したがって、MCPに衝突する合計信号強度(アナログ電流または粒子の数)を検出する。第2のタイプのアノードは、位置センシティブアノード読み出しに関連しており、MCPに衝突する多数のイベントの位置および強度の両方を戻すことができる。異なるタイプの位置センシティブアノード読み出しが現在、遅延線(DL)アノード、抵抗アノード、ピクセル化されたアノードアレイ、成形されたアノードアレイなどのMCPベース検出器のために使用されている。
【0065】
検出前面が、X軸に沿って複数のMCPアセンブリから成る場合、全てのMCPアセンブリは、好ましくは、実質的に同じチャネルサイズおよび増幅ゲイン特性を有してよい。さらに、全てのMCPアセンブリは、前記主方向に対して垂直、すなわちZ軸に沿って延びる同じ幅を有してよい。装置は、さらに、各MCPアセンブリのそれぞれの入口面および出口面の間の電位差を適用するように構成された、示されていないバイアシング手段を備える。バイアシング手段は、例えば、電源を備えてよい。本発明の好ましい実施形態によれば、バイアシング手段は、検出器の前面に正または負の浮遊電位を適用し、全てのMCPアセンブリのそれぞれの出口面に共通の電位を適用するように構成されている。
【0066】
本発明の好ましい実施形態によれば、提案された検出装置の偏向手段は、図4に示したように、偏向板を備えるデバイスによって提供されている。図4は、本発明の実施形態による装置300の横方向切断図を示しており、装置300は、入口302と、入口面および出口面312、314を有する前述のようなMCPアセンブリ310と、イオンビーム偏向器332、334を備えるビーム偏向手段330とを備え、全てX方向に延びている。
【0067】
イオンビーム偏向器における2つの板332は、平行に延びており、それらの間に荷電粒子ビーム10のための通路またはギャップを規定している。偏向器板332は、偏向器板が延びている平面に対して垂直な方向にイオンビームを偏向させるために、逆の極性にバイアスされている。このために、電源、電圧バイアシングユニットまたは制御ユニット340が使用される。偏向器332、334の寸法、相対的配置およびバイアシング電位は、実際には、所与の目標用途と最も適合するように、例えば、数値シミュレーションによって最適化される。非限定的な例によれば、Y方向に沿った偏向板幅は、好ましくは、2mmから8mmの範囲である。Z方向に沿ったプレート332の間の距離は、好ましくは、3mmから5mmの範囲である。板332と、(フリンジ電界領域をより小さな距離に制限するために偏向器の両側における)外側電極334との間のギャップは、1mmから4mmの範囲である。好ましくは、板の間の距離は約4mmであり、板と外側電極との間のギャップは約2mmであるのに対し、Y方向に沿った板の幅は約6mmである。装置の入口302を規定する、外側電極の間の距離は、好ましくは、約6mmである。好ましくは、偏向板332および外側電極334は、Y軸およびZ軸の両方に対して垂直なX軸に沿って、約100mmから150mm、好ましくは約130mmだけ延びている。概して、Z軸に沿ったイオンビームの偏向長さ、すなわち、MCPアセンブリの入口面においてスキャンすることができる最大スパンは、偏向板の幅が増大するにつれて増大する。質量分解能および伝送値は、伝送板の幅が増大するにつれて減少する。20mmの偏向のターゲットは、質量分解能(少なくとも最大で、0Vにおいて観察される質量分解能の半分)および伝送(70%)の制約がありながら幾何学的および電圧値の様々な組合せのために達成可能であることができる。
【0068】
荷電粒子偏向器300の作動原理は以下のとおりである:Z軸に沿った偏向距離Dは、偏向板332の間の距離dと、それらの長さLと、板の対(±V)に適用される電位差(ΔV)とに依存する。イオンが、eVのエネルギーで、2つの板の間に生成された電界に進入すると(E=-ΔV/d)、イオンは、偏向角度θで偏向される。
【0069】
MCPアセンブリの各MCPチャネルは、単一MCP、ChevronまたはZ-スタックアセンブリであるかにかかわらず、回復時間を特徴とし、その間、チャネルは、新たに衝突する荷電粒子を増幅することができない。所与の応答時間の後、飽和したチャネルは再び作動状態となる。したがって、好ましい実施形態によれば、偏向手段の制御ユニットは、MCPアセンブリのマイクロチャネルの応答時間と同期させられる。制御ユニットは、全ての時間における荷電粒子ビームを、前述のような偏向によって、偏向の時点における動作MCPチャネルを備える検出前面のエリアへ操縦することを有効に目標とする。したがって、連続的にかつ線形に発展するスキャニングパターンの速度は、好ましくは、MCPチャネルの応答時間と同期させられ、それにより、荷電粒子ビームは、前の照明によって生じた空乏から完全に再チャージされたときにのみ同じチャネルを照明する。
【0070】
代替的な実施形態において、制御ユニットは、最初はX方向に沿って散乱させられ、周期的にMCPアセンブリの検出前面のZ方向に沿って散乱させられる多数の荷電粒子ビームをスキャンするためののこぎり波状信号を使用する。低パワー高電圧動作増幅器は、1Hzから10kHzの範囲のスキャンレートでイオン偏向板の電圧をスキャンする。スキャニング信号(のこぎり波状信号)は、ステップ電圧の多数のスキャンの組合せから成る。電圧ステップの数は、イオンビームのサイズおよび検出器の垂直軸(Z)におけるイオンビームの所要の偏向長さに依存する。検出器の向上した信号計数速度を達成するために、より高い信号速度(>1kHz)が望ましい。スキャンレートは、MCPアセンブリの飽和したチャネルの回復時間に応じて実用において確立される。測定が開始すると、制御ユニットは、高電圧増幅器にスキャニング信号を送信し、時間-デジタル変換器(TDC)を同期的に始動/トリガする。ステップ電圧が変化するたびに、パルスは、内部カウンタを増大するために第2のラインにおけるTDCへ送られる。取得の間、データがTDCから収集される。生データは、読み出しアノードによって取得されており、TDCは、{x位置、y位置、電圧ステップの数、およびスキャンの反復}のフォーマットを有する。多数のスキャンの後、全ての質量スペクトルを組み合わせるために異なるステップ電圧における各質量スペクトルにおいて積分時間が存在してよい。
【0071】
図5は、本発明の実施形態による装置400の横方向切断図を示し、装置400は、入口402と、入口面および出口面412、414を有する前述のようなMCPアセンブリ410と、イオンビーム偏向器432、434を備えるビーム偏向手段430とを備える。
【0072】
提案された偏向装置の偏向手段430は、Bradbury-Nielsenゲート(BNG)デバイスを備える。BNGデバイスは、Y方向に沿って延びるワイヤまたはストリップ433、434の2つの交互に配置されたセットから成り、ワイヤまたはストリップ433、434は、等しく間隔を置いて配置され、偏向電界領域が短い距離、典型的にはワイヤの直径またはストリップの長さの二倍に制限されるように、逆の極性にバイアスされている。ストリップ幅は、例えば、0から1.6mmの範囲であり、各ストリップは、50-100μmの厚さを有する。ストリップの間の距離は、0.4mmから1mmの範囲である。例えば、3keVのイオンを含む荷電粒子ビームの場合、ストリップにおける電圧は、偏向手段の対応する示されていない制御ユニットによって0Vから最大±800Vまで傾斜させられてよい。イオンビームの偏向長さは、ストリップ幅が増大するにつれて増大する。伝送値は、ストリップ幅が増大するにつれて減少する。適用される電圧に応じて、BNGは、Z方向に沿って電圧依存性の開口を有する角度内で荷電粒子を散乱させる。
【0073】
全ての提示された実施形態において、検出器デバイスは、浮遊電位が正または負のいずれかの極性を有しながら、最大10kVの高電圧まで浮遊させられることができる。浮遊電位は、好ましくは、ビーム偏向手段を含む検出装置の全ての構成要素に適用されてよい。
【0074】
図6は、本発明の態様によるMattauch-Herzogタイプ分析計デバイスの構成要素を示す。イオンは、イオン化技術(ここでは説明しない)によって生成され、分析下の試料から抽出される。次いで、イオンビーム10は、集束させられ、分析計の異なるエンティティを使用して分析される。入来するイオンビーム10をフィルタリングするために静電セクタ20の後に磁気セクタ30を使用するこのような分析計の機能は、技術において理解され、この説明の文脈においてさらに詳細に説明しない。磁気セクタ30は、出口平面32を備え、この出口平面32を通って、初期ビームに含まれたイオンが出て、それらのそれぞれの質量対電荷比に従って主方向Xに沿って分散させられる。分析計は、前述の、本発明による検出装置も備える。検出装置500は、動作可能に結合された制御ユニット540によって制御される、ビーム偏向手段530、例えば、前述の偏向板を備える。偏向装置は、少なくとも1つのMCPアセンブリ510の入口面512を特徴とする検出エリアまたは前面も備える。検出前面は、分析計の焦点面に位置付けられるように配置されている。この例において、MCPアセンブリ510の入口面512が偏向手段530に対して角度を成して延びていてもよいことが認められる。また、イオンビームは、X方向に沿って異なる角度で偏向手段430を横断し、その結果、X方向に沿った各位置に対して異なるが知られている長さの横断軌道を生じる。N個の適用された偏向電圧のうちのそれぞれについて、すなわち、X軸に対して垂直なZ軸に沿った全てのフィルタリングされたイオンビームのそれぞれの偏向角度について、試料の完全な質量スペクトル40(すなわち、全てのm/z比についての質量スペクトル)が、前述のように、示されていない読み出しアノードにおいて、対応して増幅された検出信号を記録することによって取得される。N個の対応する部分的な質量スペクトル(すなわち部分的なカウントされた検出イベント)を記述するデータは、前記メモリエレメントへのアクセスを有するデータ処理ユニットによって、試料の集計された質量スペクトル(すなわち、全てのm/z比についての集計されたカウントされた検出イベント)に組み合わされてよい。検出装置は、高真空/超高真空(HV/UHV)と両立可能であり、典型的には数センチメートルから数十センチメートルである、Mattauch-Herzog質量分析計の完全な焦点面をカバーする。検出装置は、100μmよりも良い一次元(水平)空間分解能、10cpsよりも良い局所的計数率、10よりも良いダイナミックレンジを提供する。
【0075】
N個の電圧/偏向ステップは、偏向されたビームによってMCP入口面において生成される対応して偏向されたスポットがZ方向に沿って入口面のほとんどに広がるように予め決定されている。さらに、MCPチャネルの応答時間が考慮される:所与の電圧ステップは、飽和するまで、最大で、MCPチャネルが荷電粒子を検出することができる間の時間に対応する時間の間、適用される。次いで、次の電圧ステップが適用され、ここで、2つのステップの間の差は、偏向されたビームが次に、飽和モードにないマイクロチャネルの異なるセットを照明するようになっている。これらの手段は、検出イベントを正確にカウントするためのMCPチャネルの利用可能性を最大化し、それにより、装置の計数率を増大させる。対応する較正データは、使用されるMCPアセンブリのタイプ、装置の寸法、およびその他の要因に依存する。これらのデータは、装置のアセンブリに提供され、制御ユニット540が読み出しアクセスできるメモリエレメントにおいて利用可能にされる。
【0076】
N個の偏向ステップのそれぞれにおいて、対応する検出信号は、読み出しアノードを使用して記録される。したがって、全てのm/z比についての質量スペクトルデータは、各偏向ステップにおいて記録される。次いで、全てのステップに対応するデータは、例えば、完全な質量スペクトルを生成するために、連続して読み出されるイオン検出カウントを累積することによって、組み合わされる。
【0077】
本発明の範囲内の様々な変更および修正が当業者に明らかになるため、特定の好ましい実施形態の詳細な説明は、例示としてのみ提供されていることが理解されるべきである。保護範囲は、以下の特許請求の範囲によって定義される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】