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特表2023-526083溶融塩核分裂炉の中の希ガス気泡形成の制御
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-20
(54)【発明の名称】溶融塩核分裂炉の中の希ガス気泡形成の制御
(51)【国際特許分類】
   G21C 3/54 20060101AFI20230613BHJP
   G21C 5/00 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
G21C3/54
G21C5/00 C
G21C5/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022570593
(86)(22)【出願日】2021-05-19
(85)【翻訳文提出日】2023-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2021063373
(87)【国際公開番号】W WO2021234045
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】2007517.2
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2010754.6
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515230165
【氏名又は名称】スコット,イアン リチャード
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】スコット,イアン リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ゴッドフレイ,ルーク
(57)【要約】
溶融塩核分裂炉である。炉は、複数の燃料管を有する炉心を備える。各燃料管は、燃料塩及びガス界面を備える。燃料塩は、1つ以上の核分裂性アイソトープの溶融塩である。ガス界面は、炉の運転中に、ガス空間と接触する燃料塩の表面である。炉は、燃料塩を冷却するように構成された燃料塩冷却システムも備える。冷却システムは、熱交換器と冷却剤タンクとを備える。冷却剤タンクは、燃料管が少なくとも部分的に浸漬される冷却剤液を収容する。熱交換器は、冷却剤液から熱を抽出するためのものである。燃料塩冷却システムは、炉の運転中に、各燃料管内の燃料塩のうち、それぞれの前記ガス界面を除く全ての点について、
【数9】
となるように構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料管を有する炉心を備える溶融塩核分裂炉であって、
各燃料管は:
1つ以上の核分裂性アイソトープの溶融塩である燃料塩と;
前記炉の運転中にガス空間と接触する前記燃料塩の表面である、前記燃料塩のガス界面と;
前記燃料塩を冷却するように構成された燃料塩冷却システムであって、前記燃料管が少なくとも部分的に浸漬される冷却剤液を収容する冷却剤タンク及び前記冷却剤液からの熱を交換するための熱交換器を有する、燃料塩冷却システムと;
を備え、
前記燃料塩冷却システムは、前記炉の運転中に、各燃料管内の燃料塩のうち、それぞれの前記ガス界面を除く全ての点について、
【数6】
となるように構成されており、ここで、
は前記ガス界面における前記燃料塩の温度であり、
は測定点における前記燃料塩の温度であり、
は前記ガス界面における絶対圧であり、
は前記測定点における絶対圧であり、
Heはヘリウムの気体定数であり、
ΔHHeは前記燃料塩中のヘリウム溶液のエンタルピである、
溶融塩核分裂炉。
【請求項2】
前記燃料塩冷却システムは、前記炉の運転中に、各燃料管内の燃料塩のうち、それぞれの前記ガス界面を除く全ての点について、
【数7】
となるように構成されており、ここで、
は希ガスの気体定数であり、
ΔHは前記燃料塩中の前記希ガスの溶液のエンタルピであり、
前記希ガスはネオン、アルゴン、クリプトン又はキセノンのいずれかである、
請求項1記載の溶融塩核分裂炉。
【請求項3】
各ガス界面における前記燃料塩の前記温度Tは、それぞれの前記燃料管の他の全ての領域中の前記燃料塩の前記温度Tよりも低い、
請求項1記載の溶融塩核分裂炉。
【請求項4】
前記冷却剤液は、前記炉の運転中に、前記燃料管に接触したときに、下方に移動するようにポンピングされる、
請求項1記載の溶融塩核分裂炉。
【請求項5】
各燃料管は、それぞれのガス空間を収容する上部セクションを備え、
前記上部セクションの少なくとも一部は、前記炉の運転中に、前記冷却剤液の上方に位置する冷却ガス空間内に突出し、
前記溶融塩核分裂炉はさらに、前記冷却ガス空間を冷却するように構成されたガス冷却システムをさらに備える、
請求項1記載の溶融塩核分裂炉。
【請求項6】
各燃料管は、前記燃料管にわたって延在する、前記燃料塩に浸漬されたバッフルを含む、
請求項1記載の溶融塩核分裂炉。
【請求項7】
前記冷却剤液は自然対流のみで前記燃料管を通って循環し、
前記冷却剤液の流量及び前記燃料塩の出力密度は、前記燃料管の底部における前記燃料管の壁の温度が臨界領域の頂部における前記冷却剤液の温度より高くなるようになっている、
請求項1記載の溶融塩核分裂炉。
【請求項8】
各燃料管の上部セクションは、使用時に、各燃料管の前記上部セクションの中の前記燃料塩の熱生成が前記燃料管の中の残りの前記燃料塩の中よりも少なくなるように、中性子吸収材料で遮蔽されており、
請求項1記載の溶融塩核分裂炉。
【請求項9】
前記冷却システムは、冷却剤塩の二次フローを前記燃料管の頂部領域に導くように構成されている、
請求項1記載の溶融塩核分裂炉。
【請求項10】
各燃料管は、ガス界面から燃料塩の中に延在する変位要素を備え、
前記変位要素は、前記燃料管の中心軸から前記燃料塩を変位させるように構成されている、
請求項1記載の溶融塩核分裂炉。
【請求項11】
各燃料管の底部における領域は、各燃料管の他の領域よりも熱的に隔離されている、
請求項1記載の溶融塩核分裂炉。
【請求項12】
前記冷却システムは、各燃料管の底部の領域が前記冷却剤液によって直接冷却されないように構成されている、
請求項1記載の溶融塩核分裂炉。
【請求項13】
溶融塩核分裂炉を運転するための方法であって、
前記溶融塩核分裂炉は、複数の燃料管を有する炉心を備え、
各燃料管は:
1つ以上の核分裂性アイソトープの溶融塩である燃料塩と;
前記炉の運転中に、ガス空間と接触する前記燃料塩の表面である、前記燃料塩のガス界面と;
前記燃料塩を冷却するように構成された燃料塩冷却システムであって、前記燃料管が少なくとも部分的に浸漬される冷却剤液を収容する冷却剤タンク及び前記冷却剤液からの熱を交換するための熱交換器を有する、燃料塩冷却システムと;
を備え、
前記方法は、前記炉の運転中に、各燃料管内の燃料塩のうち、それぞれの前記ガス界面を除く全ての点について、
【数8】
となるように、前記燃料塩の温度を維持するステップを含み、ここで、
は前記ガス界面における前記燃料塩の温度であり、
は測定点における前記燃料塩の温度であり、
は前記ガス界面における絶対圧であり、
は前記測定点における絶対圧であり、
Heはヘリウムの気体定数であり、
ΔHHeは前記燃料塩中のヘリウムの溶液のエンタルピである、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核分裂炉に関する。特に、本発明は、溶融塩核分裂炉の燃料塩中の気泡の形成を制御するための炉設計及び運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料として溶融塩を使用する原子炉(MSR)は、アメリカの溶融塩炉実験が成功した1960年代から知られている。溶融塩炉の多くの設計がその当時から考えられていた。かかる炉は2つのクラスに分類される。
【0003】
第1クラスのポンプ式MSRでは、溶融塩燃料は、燃料が臨界状態になって核分裂熱を発生させる反応チャンバと、熱が別の流体、多くの場合は核分裂性元素を含まない別の溶融塩(「冷却剤塩」に伝達され、発電に使用される熱交換器と、の間で能動的にポンプされる。
【0004】
第2クラスの静的溶融塩原子炉では、溶融塩燃料は燃料管内にあり、多くの場合燃料管アセンブリとして形成され、自然対流によってのみ管内を移動し、燃料は炉心内にとどまり、炉心外にはくみ出されない。第2流体(例えば、冷却剤塩)は燃料管を通過し、炉心から熱を除去する。燃料塩はその運転寿命を通じて炉心に残り、使用済み燃料集合体を除去して新しいものに交換することでリフレッシュされる-基本的には固体燃料要素を含む燃料集合体の場合と同様である。この第2クラスのMSRはGB2508537及び同等物に記載されている。
【0005】
溶融塩炉は必然的に核分裂生成物として希ガスを生成し、それらのガスは溶融塩燃料への低い溶解度を有する。これらのガスの1つは既知の最強の中性子吸収体であるキセノン135であり、そのために炉心の反応性に大きな影響を与えるので、炉の安全のためには、アクティブな炉心からの希ガスの移動が高度に予測可能であることが重要である。
【0006】
第1クラスのポンプ式溶融塩炉では、これらのガスはヘリウムで燃料塩を散布するなど、様々な方法で除去することができる。
【0007】
第2クラスの溶融塩炉で希ガスを管理することの課題はより大きい。ガスは溶融塩燃料から燃料上方のガス空間に拡散することができるが、そこは実質的に炉心の外側にあるため、反応度への影響は小さい。しかしながら、燃料管の内面に気泡を形成する可能性もある。かかる気泡は、物理的な衝撃又はその他の影響によって管から離れるように誘発される可能性があり、多数の気泡が同時に燃料塩をガス空間に上昇させ(rising up)、炉心反応度を大幅に増加させる。
【0008】
これは容認できない安全上の脆弱性であり、したがって、燃料管内で気泡が形成されないようにする必要がある。
【発明の概要】
【0009】
本発明の第一の側面によれば、溶融塩核分裂炉(molten salt fission reactor)が提供される。炉は、複数の燃料管を有する炉心を備える。各燃料管は、燃料塩及びガス界面を備える。燃料塩は、1つ以上の核分裂性アイソトープの溶融塩である。ガス界面は、炉の運転中にガス空間と接触する燃料塩の表面である。炉は、燃料塩を冷却するように構成された燃料塩冷却システムも備える。冷却システムは、熱交換器と冷却剤タンクとを備える。冷却剤タンクは、燃料管が少なくとも部分的に浸漬される冷却剤液を収容する。熱交換器は、冷却剤液から熱を抽出するためのものである。燃料塩冷却システムは、炉の運転中に各燃料管内の燃料塩のうち、それぞれの前記ガス界面を除く全ての点について、
【数1】
となるように構成されており、ここで
はガス界面における前記燃料塩の温度であり、
は測定点における燃料塩の温度であり、
はガス界面における絶対圧であり、
は測定点における絶対圧であり、
Heはヘリウムの気体定数であり、
ΔHHeは前記燃料塩の中のヘリウムの溶液のエンタルピである。
【0010】
したがって、ヘリウムの溶解度はガス界面で最も低い。
【0011】
燃料塩冷却システムは、炉の運転中、ガス界面に近い燃料塩中の希ガス(例えば、上記のヘリウム、又はヘリウムからキセノンまでの任意の他の希ガス)の溶解度が、燃料管内の他の場所での溶解度よりも低くなるように構成される。これにより、ガス界面に近いこの領域以外では希ガスが飽和濃度に達せず、したがってガスの気泡が形成されないことが保証される。
【0012】
燃料塩の希ガスの溶解度は、以下の関数である:
・燃料塩の性質
・ガスの性質(中性子吸収率が高いため、キセノンが特に重要)
・塩の温度が上昇するにつれて溶融塩中の希ガスの溶解度が上昇する燃料塩の温度
・溶解度が圧力にほぼ比例する溶融塩の圧力
後者の2つの要因が最も制御しやすい。
【0013】
管の頂部において燃料塩の温度を、燃料柱(the fuel column)の下方の温度よりも低いレベルに維持することができれば、気泡は形成されず、ガスはガス界面にわたって(across)拡散することによって燃料塩から出る。この低温は、次のメカニズムのうちの1つ以上によって達成することができる。
・中性子吸収体又は反射体を使用して燃料管の頂部領域の核分裂を抑制する
・燃料塩内の低温を維持するために、冷却剤の温度が燃料管の頂部領域で十分に低いことを保証する
・燃料管内の燃料塩の自然対流の流れを偏向させることで、燃料管の高出力領域で生成された高温の塩がガス界面に近い塩の領域まで上昇するのを防ぐ
【0014】
しかしながら、かかるシステムでは圧力効果も非常に重要である。燃料塩は高密度の液体であり、液柱の静水圧は、一定温度では希ガスの溶解度が燃料塩柱内のより低いレベルで増加することを意味する。
【0015】
したがって、燃料塩温度が塩柱のより下方でいくらか低い(somewhat lower further down the salt column)場合でも、上部の塩/ガス界面において最小のガス溶解度を持つという目的を達成することが可能である。
【0016】
温度と圧力効果のバランスは、原子炉の安全な運転エンベロープを決定する。
【0017】
本発明の第2態様によれば、第1の態様による溶融塩核分裂炉の動作方法が、提供される。燃料塩の温度は、炉の運転中に、各燃料管内の燃料塩のうち、それぞれのガス界面を除く全ての点について、
【数2】
になるように維持され、ここで
はガス界面における燃料塩の温度であり、
は測定点における燃料塩の温度であり、
はガス界面における絶対圧であり、
は測定点における絶対圧であり、
Heはヘリウムの気体定数であり、
ΔHHeは燃料塩の中のヘリウムの溶液のエンタルピである。
【0018】
したがって、燃料塩中のヘリウムの溶解度はガス界面において最も低くなる。
【0019】
これはヘリウム以外の希ガスについても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、冷却剤が下向きに流れる静的MSRを示す図である。
図2図2は、冷却剤が上向きに流れる静的MSRを示す図である。
図3図3は、冷却剤塩がゆっくり上向きに流れる静的MSRを示す図である。
図4図4は管の底部の断面に沿った温度のグラフを示す図である。
図5A図5Aは、燃料塩の頂部のクラッディング温度の等高線を示す図である。
図5B図5Bは、冷却剤出口温度の等高線を示す図である。
図6図6は、燃料-ガス界面を冷却するために変位幾何学形状を使用して、冷却剤が上向きに流れる静的MSRの燃料管の詳細図を示す図である。
図7図7は、断面の最低燃料温度を、高さ及び飽和濃度が燃料表面に等しくなる温度の軌跡と共に示すグラフである。いくつかの表面圧力の場合の軌跡を示す。
図8】断面の最低燃料温度を、高さ及び飽和濃度が燃料表面に等しくなる温度の軌跡と共に示すグラフである。さまざまな塩の性質の場合の軌跡を示す。
図9図9は、断面の最低燃料温度を、高さ及び飽和濃度が燃料表面に等しくなる温度の軌跡と共に示すグラフである。変位幾何学形状の位置は、燃料温度への影響を示すためにマークされている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
GB2508537に記載されている静的溶融塩炉の安全ケースを開発する際に、溶融塩を燃料とする炉における希ガスの挙動に関連する重大な潜在的危険性があり、現在の設計では適切に対処されていないことを見出した。
【0022】
原子炉出力の重大な過渡現象が発生する可能性のあるメカニズムは、炉心内、特に臨界領域(すなわち、核分裂性同位体の密度が、運転中に自己持続的な核反応が起こるのに十分な領域)内のガス気泡の存在を中心としている。燃料に溶解しているガスの濃度が飽和濃度以下のままであれば、気泡は形成されず、溶解したガスの炉物理への影響を計算するのは簡単である。しかし、気泡が形成されれば、はるかに複雑な現象が発生する可能性がある。
【0023】
燃料塩の溶液中に分散したキセノンガスは、気泡内の同量のガスよりも中性子吸収効果が大きい。これは、キセノン135が非常に強力な吸収体であるため、Xe135を含む泡の中心にあるキセノンは、泡自体によって中性子から実質的に遮蔽されるためである。したがって、燃料塩中のガスの過飽和溶液から気泡が形成されると、中性子吸収が大幅に減少し、その結果、炉心の不所望かつ制御不能な反応性の増加をもたらし、炉出力の急速かつ管理不能な増加につながる可能性がある。
【0024】
同様の懸念は他の希ガスでも発生する。ガス気泡が燃料を変位させる又は押しのけてしまうからである。これは、炉内のかなりの量の気泡が一度に変位され、燃料管の臨界領域内から表面に浮上した場合、反応性の大きな増加につながり得る。
【0025】
これらの発見に照らして以前のデータを見ると、問題が存在し得るという重要な手がかりが、溶融塩炉実験の運転から生じた。報告書ORNL4396(p17) では、炉出力の10%程度の明らかにランダムなブリップ(blips)がかなりの頻度で生じたと報告された。多くの調査にもかかわらず、これらの出力フラクタル(power fluctuations)の明確な説明に達することはなかった。しかしながら、燃料塩回路内のガスの挙動が原因であると考えられており、ポンプ圧力とガス散布を調整することでブリップを排除する経験的解決策が達成された。溶融塩炉実験は10MW未満の非常に低出力で運転された。商業用炉は根本的に高出力で動作する。キセノン効果の大きさは電力に比例するため、これは非常に低い電力では刺激にしかならない可能性のある変動が、より高い電力では重大な危険になる可能性があることを潜在的に意味する。溶融塩炉実験では、キセノン気泡の問題を制御するためにヘリウムの散布速度を変更する能力があった。GB2508537に記載されているような溶融塩炉では、燃料塩からのガス損失は燃料塩の上方のガス空間への受動拡散によってのみ発生する可能性があるため、かかる能力は存在しない。
【0026】
過飽和の問題は、燃料塩における実際の核分裂プロセスによって大きく悪化し得る。
【0027】
100kW/Lの燃料出力では、毎秒の核分裂数は次のように計算できる。
核分裂エネルギー=3.2e-11ジュール/核分裂
炉出力=1100,000J/秒/燃料塩リットル
核分裂レート=100,000/3.2e-11=3.12e+15核分裂/燃料塩リットル
各核分裂で2つの核分裂片(2 fission fragments)が生成されるが、これは光速のかなりの割合で移動する高エネルギー原子核である。したがって、塩1リットルあたり毎秒6e+15個の、かかる高エネルギー粒子が生成される。中密度物質におけるそれらの典型的な経路長は約20μmである。
【0028】
直径10μmの気泡は、直径20μmの球状体積4/3*3.14*1e-12=4e-12リットル内で生成された核分裂片が衝突する約25%の確率を有する。したがって、気泡は毎秒1000回程度の衝突を受ける。
【0029】
かかる核分裂片のエネルギーは、気泡の表面エネルギーよりも桁違いに高く、その結果、粒子が通過する媒質の温度は数万度になる。そのため、ガスの含有量が塩に再溶解し、気泡が破壊される可能性が高い。したがって、核分裂が続く限り、溶融塩中の非常に高いレベルのガス過飽和が維持され得る。したがって、核分裂の速度と炉心の反応性との間のフィードバックループが確立され、容易に不安定性をもたらす可能性がある。
【0030】
他の潜在的な現象には、炉心内の固体表面へのガス気泡の堆積が含まれる。かかる気泡は、しばらくの間蓄積され、衝撃波、振動、又は燃料塩の流れの乱れによって固体表面から変位する可能性がある。その場合、大量の中性子吸収物質が短時間で炉心を離れる可能性があり、その結果、炉心の反応性が急激に上昇し、損傷を与える電力サージが発生する可能性がある。さらに、核分裂性燃料塩で置き換えられたコアからのボイド容積の除去(つまり、臨界領域内の平均燃料塩密度を増加させること)は、反応性の別の増加につながる可能性がある。
【0031】
これらの現象はすべての溶融塩炉で懸念されるが、それらは、静的溶融塩炉クラスで特に懸念され、かかる炉内の燃料塩は、自然対流の下で比較的低速で流れるため、したがって、塩が比較的高速でポンピングされる炉よりも、気泡が形成され、燃料管の内面に蓄積する可能性が高くなる。
【0032】
運転中に炉心の臨界領域内に気泡が形成されることが許される溶融塩炉では、予期しない危険な影響が発生しないようにすることが例外的に困難であることは明らかである。したがって、かかる炉の炉心内の溶融塩中の溶解ガスの濃度を飽和濃度以下に維持し、それによって炉心領域内に気泡が形成されないようにすることが非常に望ましい。
【0033】
溶融塩中の希ガスの溶解度は温度の上昇と共に増加し、水中でのガスの挙動とは逆である(RNL-2931 Reactor Chemistry Division annual progress report,1960年1月31日)。この結果、塩が最も高い温度にあるガス/塩界面がある場所では、ガスは塩に溶解する。したがって、塩が冷却されると、ガスは塩の中で過飽和になり、泡を形成する傾向がある。
【0034】
さらに、燃料塩の中で核分裂ガスが連続的に生成されるため、生成と同じ速度でオフガスが発生するまで、燃料塩中のこれらのガスの濃度は上昇する可能性がある。濃度がすべての場所で同じであるよく混合された塩では、溶解度が最も低い場所でオフガス(off-gassing)が生じる可能性があり、これが表面でなければ、その後気泡が燃料の下方の溶液から出る。
【0035】
以下の説明では、ガス相に接触する塩が燃料の他のどの点よりも低いガス溶解度を有するように、溶融塩炉の設計を調整することを提案する。したがって、溶解したガスは、気泡を形成することなく、界面にわたって(across)塩を拡散させる。
【0036】
GB2508537に記載されているものを含むほとんどの溶融塩炉の設計は、溶融塩の循環を部分的又は完全に駆動するために加熱する際の溶融塩の増加した浮力を利用している。これには必然的に塩の流れ方向が上向きである必要がある。しかしながら、残念なことに、これはまた、冷却剤塩の温度が燃料管の頂部で最高になり、その領域の燃料塩がより高温になることを避けることを困難にし、そのため、特に冷却剤がより低い温度にある管の底部では、炉心のさらに下よりも希ガスに対してより高い溶解度を有することを意味する。
【0037】
したがって、ガス界面付近の燃料塩の温度を下げる1つの方法は、冷却剤塩の流れの方向を垂直下方向に反転させ、コアを通って下に流れるにつれて冷却剤塩の温度が上昇するようにすることである。これには、自然対流の力に逆らうという欠点があるが、流れ回路の上方領域がより低い温度であることを確実にする。
【0038】
冷却剤の流れ方向を逆転させることができない場合、例えば、冷却剤の流れが自然対流による静的溶融塩炉でも、燃料塩の上部表面が燃料塩のガス溶解度が最も低い点であることを保証することが依然として可能である。これは、次の方法の1つ又は組み合わせによって達成することができる。
・ 中性子吸収材で遮蔽することによって、管の頂部に近い燃料塩の熱生成を減らす
・ 冷たい冷却剤塩の二次流れを導入して、燃料管の頂部領域及び燃料塩を冷却する
・ 管内の燃料塩の上方のガス空間を、管内の任意の場所の管壁の最低温度よりも低い温度に冷却し、したがって、管の外側の冷却剤がその表面レベルにおいてより高温であるにもかかわらず、ガスの対流が燃料塩の上部表面を冷却する。このガス空間の冷却は、冷却剤塩の補助的な流れ、冷却剤塩の表面情報にガスを含む燃料管の一部がより低い温度領域内に出現すること、又は、燃料管内のガス空間に冷却ガスを積極的に通過させること、によって達成することができる
・ バッフルを燃料塩表面から短い距離下方に配置して、高温領域からのバルク対流が管のさらに下の領域から表面に到達しないようにする一方で、溶融塩のゆっくりとした混合と、バッフルを通る表面へのガス拡散とを可能にする
・ 冷却剤の比較的遅い流速を維持すると、したがって、冷却剤温度が最低である底部の管壁がバルク燃料塩と冷却剤塩との温度の中間になり、その中間温度が管の頂部における燃料塩の表面温度よりも高くなる。この方法では、燃料塩のレベルより上方の燃料管と接触する燃料の上方のガス空間は、冷却剤がその最低温度にあるが、高温の燃料塩と接触する管壁よりも低温である可能性がある
・ 管の中心から表面及びその近くの領域に塩を変位させるためのインサートを提供し、塩の薄い周囲のみを壁と接触させておく。この塩の薄い帯は、以前と同じ冷却表面積を有するが、熱を生成する体積は非常に小さくなる。したがって、残った塩は冷却剤によって冷却された状態に保たれる。
・ 燃料管の底部に断熱材を追加し、内部の燃料の温度を上昇させる
・ 燃料管の底部の上方に冷却剤を注入し、下部セクションを未冷却のままにする
【0039】
図1は、冷却剤が下向きに流れる静的MSRを示す。炉は燃料塩102を含む垂直の燃料管101を備え、オプションとして黒鉛又は他の減速材料の減速構造(図示せず)によって分離することができる。冷却剤103は、炉心と熱交換器104を有する回路の周りにポンプで送り込まれ、したがって、燃料管を通過して下方105に流れ、炉心の外側エッジにおける燃料塩の場所による低減された出力密度と、燃料管の頂部と接触する冷却剤のより低い温度との組合せに起因して、燃料管の頂部における、即ちガス空間106に隣接する、燃料塩が燃料管内で最低温度であることが保証される。
【0040】
図2は、冷却剤が上向きに流れる静的MSRを示す。静的溶融塩炉は、垂直方向に配向された燃料管205を備えており、燃料管の頂部のガス充填部分207は、循環する冷却剤塩203から冷却剤塩よりも低温の領域に現れる。冷却剤塩は、自然対流204によって炉心と熱交換器208を通って循環する。冷却剤塩の上方のガス空間は、冷却ガス入口201と冷却ガス出口202を有する冷却ガスシステムによって冷却され、その後燃料管の上方部分を冷却し、その後燃料管の内部のガスを冷却する。対流セルは、冷却ガスが燃料管の内部の外側の領域を下降し、燃料塩の上部表面との接触によって加熱され、その後、燃料管の中心を上昇する。これにより、燃料塩の最上層が冷却され、必要な低温のガス/塩界面が形成され、燃料塩のバルク中の飽和ガス濃度以下に燃料塩を維持する。
【0041】
図3は、冷却剤塩がゆっくり上向きに流れる静的MSRを示す。炉は、黒鉛又は他の減速材料の減速構造によって任意に分離することができる燃料塩302を含む垂直の燃料管301を備える。冷却剤塩303は、比較的遅い流量で自然対流のみによって、炉心を通って上方305へ、熱交換器304を通って下方へ循環する。冷却剤の流量と燃料塩内の出力密度は、管底部における管壁温度が炉心頂部から出る冷却剤の温度よりも高くなるようなものである。これは、ガス空間306が炉心から出る冷却剤による冷却のために、どの燃料塩よりも低温になることを意味する。燃料塩の上部表面の温度は、高温の冷却剤による最上部の燃料塩層の冷却と、冷却剤の上方のガス空間におけるガス対流によるその表面の冷却との複合効果により、燃料塩の他のどこよりも低い。
【0042】
図4は管の底部の断面に沿った温度のグラフである。グラフは、管底部410、底部管壁420及び燃料塩430の冷却剤塩の3つの領域の温度を示す。グラフからわかるように、管底部における冷却剤塩の温度は管壁の温度よりも低く、燃料塩の温度よりも低くなっている。燃料管401の頂部の冷却剤温度は管底壁の温度よりも低く、これは溶解したガスが管壁に気泡を形成するよりむしろ、管頂部におけるガス空間内に優先的にガス抜きされることを意味する。
【0043】
燃料管壁、管底部の冷却剤塩、及び管頂部の冷却剤塩の相対温度は、燃料管の寸法、冷却剤塩の流量、炉心に入る冷却剤塩の温度、及び核反応の出力密度に依存する。特に、溶液の実行可能性(viability)をテストできることがわかっているモデルには、次のものが含まれている。
・ 燃料塩中の平均出力密度
・ 各燃料管の直径
・ 各燃料管の高さ
・ 燃料管の周りの冷却剤塩の環状厚さ(すなわち、冷却剤が管の周りを流れるためにどれだけの空間があるか)
・ 冷却剤入口温度
・ 冷却剤出口温度
・ 燃料管底部の燃料管クラッディングの温度
【0044】
このモデルは、2つの方法で使用でき、1つは、より単純なモデルのために管が長さに沿って(燃料塩の上部のレベルまで)均一に熱を生成すると仮定する方法、もう1つは、より正確なモデルのために燃料管でのエネルギー生成の垂直勾配を考慮する方法である。たとえば、より単純なモデルを使用して目標パラメータ値を特定し、その後、より正確なモデル又は実験で確認することができる。
【0045】
所与の出力密度、冷却剤塩入口温度、燃料管長さ、燃料管直径、及び環状厚さについて、冷却剤出口温度と燃料塩の頂部にある燃料管の温度を計算できる。冷却剤出口温度と燃料塩頂部の燃料管クラッディングの温度との差は、冷却剤入口温度と底部の燃料管クラッディングの温度との差に等しい。冷却剤入口温度は定義されたパラメータであり、したがって、燃料管底下部のクラッディングの温度を計算するために使用することができる。
【0046】
さらなる実施例として、モデルの入力変数のうち2つを除くすべてを固定することにより(例えば、出力密度、入口温度、及び燃料管の長さを固定する)、冷却剤出口温度とクラッディング温度のグラフを、他の2つの変数(この場合、燃料ピンの直径と環状厚さ)に依存するものとしてプロットできる。この実施例を図5A図5Bに示し、図5Aは燃料塩の頂部のクラッディング温度の等高線を示し、図5Bは冷却剤出口温度の等高線を示し、さらに、クラッディング頂部の温度が1000°Cである領域を示す太字の線801が追加されている。これは、冷却剤温度と燃料管クラッディング温度との間の差を決定するために使用でき、したがって、管の底部における管壁温度が管の頂部の冷却剤塩温度よりも高いという必要な関係に対応するグラフの領域を決定することができる。
【0047】
必要なパラメータを決定するために、当技術分野で知られている他のシミュレーション、モデリング又はプロトタイピングの方法及び技術を代わりに使用することもできる。
【0048】
この分析はシミュレーションのためにのみ必要であることが理解されよう。実際の炉の場合、温度は単にそれらが正しい関係にあるかどうかを決定するために測定されることができる。
【0049】
任意選択で、燃料塩の最上層で核分裂が抑制されるように、燃料塩の表面のすぐ下から燃料管のガス空間の途中まで、燃料管の内側又は外側の任意の位置に中性子吸収構造を挿入することができる。
【0050】
図6は、燃料-ガス界面607を冷却するために変位幾何学形状602を使用して、上向きの冷却剤流れ606と共に静的MSRの燃料管の詳細図を示す。燃料塩604で発生した熱は、燃料管壁605を介してのみ除去することができる。ほとんどの燃料では、体積的に熱が発生するため、これは燃料管の中心部の大きな温度上昇につながる。薄い環状領域608では、熱を生成する燃料の体積は急激に減少するが、燃料管壁の表面積は変位幾何学形状のない管と同じままであり、燃料の残りの部分よりも冷却剤温度にはるかに近い燃料ガス界面温度をもたらす。
【0051】
流体中のガス溶解度の一般式はヘンリーの法則によって与えられる:c=P*Hcp
ここで、cはmol/ccの溶解度、Pは大気中の表面におけるガスの分圧(1atm=101325Pa)、Hcpは流体のヘンリー溶解度である。これは、HcpをH(T)=H*exp[-ΔH/R*(1/T-1/T)]で置換することによって温度依存にすることができ、ここで、H(T)は温度Tに対する更新されたヘンリー定数、Hは基準温度Tにおけるヘンリー定数、ΔHは溶液のエンタルピ、Rは含まれる気体の気体定数である。なお、変数ΔHとHの「H」は全く異なる量であり、混同してはならない。
【0052】
塩の深いところで形成された気泡表面は、その深さでの塩の静水圧である。これは、気泡内のガスの分圧が(単一のガスの場合の)静水圧と等しいことを意味する。したがって、表面下領域の飽和濃度を計算する際には、塩の表面圧よりむしろ、その時点での塩の静水圧が使用される。
【0053】
図7は、上昇流によって冷却された燃料ピンの高さに沿った燃料塩701の温度を示している。この例を列挙すると、T=873.15K、H=1.94×10-8mol/cc/atm、ΔH=353390J/kg、及びR=63.33J/kg/K(これは、例として使用される53~47mol%のNaF-ZrF混合物で測定されたキセノンガスの溶解挙動である)の場合、1Barの圧力と879.7Kの温度の塩は、2.0079×10-8mol/ccのガス濃度で飽和する。
【0054】
燃料の深さが1800mm、平均密度は3181.7kg/mであるため、ピンの底部の絶対圧力は1.561Barである。ピンの底部の塩の温度は825.3Kであり、したがって、そこの燃料は温度が低いにもかかわらず、2.0633×10-8mol/ccという高い濃度で飽和する。
【0055】
管の底部の燃料が頂部と同じガス濃度で飽和するには、底部の温度が温度
【数3】
に等しくなければならない。ここで、PとTは燃料表面の圧力と温度、PとTは管の底部の圧力と温度である。この関係は、燃料の深さに関係なく成立する。図7に示される実施例では、この制限温度は燃料底部で822.0Kである。0.5Barの低い表面圧力により、制限温度を786.4Kより低くすることができる。
【0056】
したがって、キセノンがガス界面以外で溶液から出ないようにするために、炉は次のように構成される。
【数4】
右辺が常にTより小さいため、T>Tの前述の例では常にこの関係が満たされることに留意されたい。
【0057】
温度の軌跡(locus)702を図7に示す。この軌跡は、燃料表面の溶解度を1Barの表面圧力と一致させるために、燃料塩がその高さで降下しなければならない温度を示す。第2の軌跡703は、0.5Barの表面の異なる絶対圧力に対して示されている。
【0058】
軌跡702と703によって記述される溶解度限界は燃料表面に対して相対的であるため、一定のHの影響を受けない。燃料表面が飽和し、より多くのガスを溶かすことができない、十分に混合されたシステムでは、軌跡は、燃料が飽和するために、管の残りの部分において降下しなければならない温度を示す。
【0059】
上記の例では、懸念される例示的なガスとしてキセノンに焦点を当てているが、キセノン気泡の限定的な形成は許容し得るが、安全に運転しながら、原子番号の低い希ガス気泡の形成は許容し得ない炉を設計することは可能かもしれない。かかる炉については、上記の分析を行うことができるが、ヘリウム、ネオン、アルゴン又はクリプトンのガス定数を代入したガス定数Rと、そのガスと溶融塩の溶液のエンタルピを代入した溶液のエンタルピΔHを用いる。ガス定数R(J/kgK)は、より軽い希ガスの方が高く、ΔH(J/kg)も同様であるが、上昇のペースは遅い。これは、ある希ガス(例:アルゴン)についてこの基準を満たす炉は、R/ΔHの値が増加し、したがって最低温度Tが低下するため、原子番号の小さいすべての希ガス(例えばヘリウム、ネオン)についてもこの基準を満たすことを意味する。
【0060】
図8は、溶液のエンタルピΔHが飽和温度の軌跡にどのように影響するかを軌跡802~809で示しており、ΔH=150kJ/kg(802),200kJ/kg(803),250kJ/kg(804),300kJ/kg(805),350kJ/kg(806),400kJ/kg(807),450kJ/kg(808),及び500kJ/kg(809)である。
【0061】
希ガスと溶融塩の多くの組み合わせについて、ΔHは文献から取得することができる。かかる以前の測定が利用できない場合、ΔHは以下のプロセスによって実験的に決定することができる。
1.いくつかの異なる温度のそれぞれにおいて、いくつかの異なる圧力で、溶融塩中のガスの溶解度を測定する
2.各温度についてヘンリーの法則定数Hcpを見出す
3.温度に対してHcpをプロットし、得られたプロットを、温度によるHcpの予想される変動(ヘンリーの法則とヴァントホフの式から計算)にフィッティングする。
【0062】
これらの各ステップについて、以下でより詳細に検討する。
【0063】
所与の温度及び圧力における溶融塩中のガスの溶解度は、任意の適切な手段によって測定することができる。一例は、W.R.Grimes, N.V.Smith及びG.M.WatsonのJ. Phys. Chem. 62, 862 (1958)に記載されており、ここで、塩のガス溶解度は、所望の測定ポイントの温度と圧力で条件を維持しながら、塩のサンプルを試験ガスの純粋な流れで飽和させることによって測定できる。その後、この塩サンプルを隔離し、別のガスで散布して、溶解したテストガスを除去することができる。その後、出口流内のテストガスのレベルを測定し、飽和濃度を計算することができる。Grimes他は、ヘンリー定数Hcpに記号Kを使用している。
【0064】
ヘンリー定数Hcpは、所与の温度における圧力に対する溶解度のグラフの勾配であるか、又は溶解度の測定値を圧力で割ることによって1回の測定値から取得することができる(ただし、いつものように複数の測定から勾配をとることで精度が向上する)。
【0065】
一連の温度について一旦Hcpが見出されると、温度に依存するヘンリー定数Hのプロットはヴァントホフの式
【数5】
に従う。ここで、Hは基準温度TにおけるHの値、Rはガスのガス定数である。Hの基準温度とそれに対応する基準値を測定点の1つとして選択し、その後パラメータΔHを変化させて最もフィットする値を得ることができる(例えば、点と曲線の間の総二乗誤差の最小値として測定される)。その後、最もフィットする値を生成するΔHの値を使用して、その特定のガス/溶融塩ペアについて上記の温度関係を決定できる。
【0066】
上記の導出は、使用される単位に関係なく同じである(ただし、絶対ゼロを0として扱うケルビンなどのシステムで温度が測定される場合)。溶解度は通常、単位体積あたりのモル(多くの場合、mol/cm)で表され、Hは通常、大気あたりの立方センチメートルあたりのモル(mol/cm/atm)又は同等の単位で表される。ΔHは、ジュール/キログラムで測定される(ΔHとRの単位に留意すべきである。ΔHはしばしばcal/molで与えられるので、RのSI値で使用するために変換すべきである)。
【0067】
所与のガス/溶融塩ペアのΔHは温度及び圧力に依存しない可能性がある (ガスが気体で溶融塩が液体である場合)。したがって、ΔHを決定するために使用される温度と圧力の値の選択は、最終的な結果に影響しないはずである。しかし、圧力の適切な値は、例えば、炉の最大と最小の運転圧力とその中間点、又は0.5atm、1atm、1.5atmであろう。温度の適切な値は、例えば、最大と最小の運転温度とその中間点、又は溶融塩の融点の100度,200度及び300度上であろう。
【0068】
図9a及び図9bは、CFDでシミュレートした図6に示すタイプの変位幾何学形状(displacement geometry)の効果を示している。幾何学形状の影響を受ける領域で燃料温度901が下がり、冷却剤温度902に近づく。飽和温度の軌跡903は、管内のすべての点で燃料温度901未満に保たれる。図9bは、幾何学形状の底部エッジ904と頂部エッジ905、及び燃料表面906をよりよく示している。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】