(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-20
(54)【発明の名称】イオン選択性複合膜
(51)【国際特許分類】
B01D 69/02 20060101AFI20230613BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20230613BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230613BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20230613BHJP
B01D 71/10 20060101ALI20230613BHJP
B01D 71/82 20060101ALI20230613BHJP
C02F 1/469 20230101ALI20230613BHJP
B01D 61/24 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
B01D69/02
B01D69/00
B01D69/12
B01D71/02
B01D71/10
B01D71/82 500
C02F1/469
B01D61/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022570699
(86)(22)【出願日】2021-05-19
(85)【翻訳文提出日】2023-01-17
(86)【国際出願番号】 FR2021050892
(87)【国際公開番号】W WO2021234294
(87)【国際公開日】2021-11-25
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518071486
【氏名又は名称】スウィーチ・エナジー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ブルノ・モテ
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ・ラボリー
(72)【発明者】
【氏名】モハメド・ケチャディ
【テーマコード(参考)】
4D006
4D061
【Fターム(参考)】
4D006GA13
4D006KA11
4D006KA62
4D006KD30
4D006KE12R
4D006MA06
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4D006MA31
4D006MB07
4D006MC03
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4D006MC75
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4D006PA01
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4D006PB03
4D006PB27
4D006PC80
4D061DA04
4D061DB13
4D061EA09
4D061EB08
4D061EB13
4D061ED13
4D061FA09
(57)【要約】
本発明は、4μm~100μmの間の厚さを有するイオン選択性複合膜であって、2つの外層(1、3)の間に配置された少なくとも1つの内層(2)を含み、- 外層(1、3)が、ナノファイバー及び/又は架橋されたミクロファイバー並びに10nm~10μmの間の直径を有する細孔のネットワークを含む第1の材料でそれぞれ形成されており、- 内層(2)が、荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基により表面が官能化されたナノ粒子を含み、1~100nmの間の直径を有する細孔を有する第2の材料で形成されている、イオン選択性複合膜に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの外層(1、3)の間に配置された少なくとも1つの内層(2)を含む4μm~100μmの厚さを有するイオン選択性伝導複合膜であって、
- 外層(1、3)が、架橋されたナノファイバー及び/又はミクロファイバー並びに10nm~10μmの間の直径を有する細孔のネットワークを含む第1の材料でそれぞれ形成されており、
- 内層(2)が、荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基により表面が官能化されたナノ粒子を含み、1~100nmの間の直径を有する細孔を有する第2の材料で形成されている、イオン選択性伝導複合膜。
【請求項2】
外層(1、3)のそれぞれの厚さが有利には2μm~45μmの間であり、内層(2)の厚さが10nm~10μmの間である、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
ナノ粒子が、ラメラ状ナノ粒子、好ましくは金属酸化物のラメラ状ナノ粒子、遷移金属のダイカルコゲナイドのラメラ状ナノ粒子、例えば、二硫化モリブデンのラメラ状ナノ粒子、炭素のラメラ状ナノ粒子、又はこれらの混合物であり、より好ましくは酸化グラフェンのラメラ状ナノ粒子である、請求項1又は2に記載の膜。
【請求項4】
イオン化した基、荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基が、負の電荷を有し、好ましくは、エポキシド基、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、スルホネート基-SO
3
-、カルボキシアルキル基R-CO
2
-(RはC1~C4アルキル、好ましくはC1アルキルである)、アミノジアセテート基-N(CH
2CO
2
-)
2、ホスホネート基PO
3
2-;アミドキシム基-C(=NH
2)(NOH)、アミノホスホネート基-CH
2-NH-CH
2-PO
3
2-、チオール基-SH、及びこれらの混合物から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の膜。
【請求項5】
荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基が、正の電荷を有し、好ましくは、第四級アンモニウム基-N(R)
3
+(RはC1~C4アルキルである)、第三級アンモニウム基-N(H)R)
2
+(RはC1~C4アルキル、好ましくはC1アルキルである)、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基-N(C
2H
4OH)CH
3)
2
+、及びこれらの混合物から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の膜。
【請求項6】
架橋されたナノファイバー及び/又はミクロファイバーが、有機物質のナノファイバー及び/又はミクロファイバーであり、好ましくはセルロース又は活性炭である、請求項1から5のいずれか一項に記載の膜。
【請求項7】
架橋されたナノファイバー及び/又はミクロファイバーが、これらの表面に荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基を保持し、前記基が有利には、内層(2)の官能化したナノ粒子の荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基の符号と同じ符号の電荷を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の膜。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の複合膜を製造するための方法であって、
i)ナノファイバー及び/又はミクロファイバーを含む溶液を濾過支持体上で濾過して、ナノファイバー及び/又はミクロファイバーを含む第1の内層(1)を形成する工程;
ii)荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基により表面が官能化されたナノ粒子の溶液を、工程i)の終わりに得た第1の層(1)上で濾過して、前記第1の外層(1)上に内層(2)を形成する工程;
iii)ナノファイバー及び/又はミクロファイバーの溶液を濾過して、工程ii)の終わりに得た内層(2)上にナノファイバー及び/又はミクロファイバーを含む第2の外層(3)を形成する工程;
iv)外層(1、3)のナノファイバー及び/又はミクロファイバーを架橋することが可能な架橋溶液を濾過する工程;
v)工程iv)の生成物を、好ましくはオーブン内で乾燥させる工程;
vi)濾過支持体を除去して、複合膜を得る工程
を含む、方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の複合膜、又は請求項8に記載の方法に従い調製される複合膜の、イオン選択性伝導膜としての使用。
【請求項10】
処理すべき水からのイオン性若しくはイオン化できる物質の抽出のため、処理すべき水からの有機化合物の抽出のため、電解反応の実施のため、又は逆電気透析反応の実施、特に電気の生成、特に塩分勾配からの電気の生成の実施のための、請求項1から7のいずれか一項に記載の複合膜、又は請求項8に記載の方法に従い調製される複合膜の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
イオン選択性伝導膜は、多くの工業用方法において主要な役割を果たしている。
【背景技術】
【0002】
これらの多くの方法は実際に、この境界面のいずれかの側に対する応力の作用の下、例えば、圧力勾配、電位勾配又は濃度勾配の作用の下で、膜により分離された2つの容量の間でのこれらの電荷の符号によるイオン選択性伝導性に基づく。
【0003】
現在最も一般的に使用されている、これらの電荷の符号に従いイオン選択性伝導性を有する膜はイオン交換膜(IEM)として公知である。カチオンの循環を可能にするカチオン交換膜(CEM)と、アニオンが循環できるアニオン交換膜(AEM)との間に差異が生じる。これらIEMは、不活性ポリマー結合剤に分散したイオン交換樹脂の粒から(均質IEM)、又は膜を構成するポリマーの構造に官能基を直接導入することにより(不均質なIEM)調製される。
【0004】
IEMは、例えば、処理すべき流体から望ましくない物質を抽出するための水処理、例えば、半塩水又は海水を脱塩するための水処理の分野で使用されている。脱塩方法では、Na+イオン及びCl-の抽出は、電場作用の下でアニオン(AEM)又はカチオン(CEM)を選択的に通過させることを可能にする膜の交替を介したイオンの移動により生成される。処理の終わりに、一方では真水及び他方ではブラインが回収される。
【0005】
これらの電荷の符号によるイオンの選択的伝導性を有する膜はまた、電解水素の形態で電気エネルギーを保存するため、又は逆に、この水素を電気エネルギーの供給源として(水素燃料電池)使用するための方法においても使用されている。これらの方法は電気化学的反応、すなわち水の電解を含む。水の電解は電解槽内で行われ、この電解槽とは、並んで配置され、電極を介して電気エネルギーの供給源に連結されている一連の電解セルを含むデバイスである。各電解セルは通常、電極と呼ばれる2枚の金属プレートを、固体又は液体の電解媒体と接触させることにより形成される。液体電解媒体の場合、電解セルは、反応に必要な水と電解質の両方を含有する水溶液に浸漬した電極、溶解性化学化合物及び電流導体、例えば、炭酸カリウムKOH(アルカリ性電解)又は硫酸H2SO4(酸性電解)を含む。2つの電極は発電機に連結されており、そこでこれらの電位の差異が増加する。後者がある特定の閾値を越えた場合、回路に電流の通過が観察され、分子の酸素(O2)がアノード(発電機の正極に連結している電極)上に形成され、分子の水素(H2)がカソード(発電機の負極に連結している電極)上に形成される。例えば、酸性加水分解の場合、アノードにおいて、水分子は方程式H2O→2H++2e-+1/2O2に従い分解し、カソードにおいて、プロトンは方程式H++1e-→1/2H2に従い減少し、ヒドロニウムイオンの流動がアノードとカソードとの間で作り出される。H2及びO2の爆発性気体への自然な再配合を防止するため、電極間に分離膜を配置して、プロトンは通過させるが、H2及びO2は通過させないようにすることが必要となる。より最近になって、プロトン交換膜(PEM)電解は、電解質媒体がカチオン交換膜の形態の固体ポリマー電解質であるセルを使用している。これらのセルにおいて、多孔質金属電極(Ep)はECM(M)と直接接触し、Ep-M-Ep集合体は水溶液と接触しているいずれかの側にある。これらのセルにおいて、膜材料は分離膜と固体電解質の両方として作用する。
【0006】
しかし、一般的に、IEMによるイオン電流の伝導は弱く、電気透析及び逆電気透析システムにして有意なオーム的貢献を有する。これにより、ほとんどの場合、電極に適用できる電流密度は数100mA.cm-2に限定され、したがってIEMを使用する技術の作動範囲を限定する。更に、これらの膜の調製は非常に多額の費用がかかり、この理由により、膜による方法の保守投資の大部分がこれらの膜の補充に当てられる。
【0007】
IEMはまた、電解質勾配、特に塩分勾配からの電気の生成のために使用することができる。
【0008】
よって、逆電気透析(RED)プロセスは、その基本的特性がこれらの電荷の符号によるイオン選択性輸送である膜の使用に基づく。REDデバイスは通常、流体の流動を可能にする通路を形成するスペーサー膜により分離された交互のAEM及びCEMからなる。これらのセル内を塩水及び真水を交互に循環させることにより、デバイスのIEMのそれぞれにおいてイオン流出を確立することを可能にする。この膜のスタックの終端部において、電極は全部のイオン流出により生成される電流を収集する。
【0009】
塩分勾配から発電するためのデバイス、例えば、電流REDデバイスが遭遇する問題の1つは、これらデバイスの発電能力が非常に低いことであり、これは、電流IEMが発生させる膜の単位面積当たりの電力(すなわち膜電力)が数W/m2(膜)であるという事実による。
【0010】
この問題に対する手法は、2014年4月24日にWO2014/060690号で公開された国際出願に提示されている。この手法では、その細孔の内側の表面が窒化ホウ素又はより一般的には、ホウ素、炭素及び窒素等の要素の混合物で覆われているナノ多孔質膜が提案されている。これらナノ多孔質膜は細孔内での拡散-浸透現象を利用し、kW/m2の程度の膜電力を発生する。より最近では、その細孔の内側の表面が酸化チタンで覆われ、5kW/m2程度の膜電力に到達するのを可能にするナノ多孔質膜が、2017年3月9日にWO2017/037213号で公開された国際出願において提供されている。しかし、この手法は窒化ホウ素又は酸化チタンに基づく膜の使用を含み、実験室スケールより大きなスケールでのその調製は、必要とされる材料を考慮すると、複雑で、極めて多額の費用がかかる。更に、これらの膜に使用されている材料は環境に有害であり、これらが環境に放出された場合、危険性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2014/060690号
【特許文献2】WO2017/037213号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
今日までに、環境への危険性が限定されている一方で、調製するのが簡単で、経済的な、塩分勾配の作用の下で高い膜電力を発生する、これらの電荷の符号によるイオン選択性伝導性を有する膜は存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
よって、本発明の目的は、電解質の勾配、特に塩分の勾配から発電するためのデバイスに統合された場合、又は水の精製若しくは脱塩のための逆のデバイスに統合された場合、高い膜電力を発生させることが可能な一方で、経済的に、簡単に生成される、これらの電荷の符号によるイオン選択性伝導性を有する膜を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、環境に対する危険性がわずかしか、又はまったくない材料から調製される、これらの電荷の符号によるイオン選択性伝導性を有する膜を提供することである。
【0015】
これらの目的は、以下に記載されている本発明により達成される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
複合膜
本発明の第1の対象は、4μm~100μmの間の厚さを有するイオン選択性伝導複合膜であって、2つの外層(1)、(3)の間に配置された少なくとも1つの内層(2)を含み、
- 外層(1、3)が、架橋されたナノファイバー及び/又はミクロファイバー並びに10nm~10μmの間の直径を有する細孔のネットワークを含む第1の材料でそれぞれ形成されており、
- 内層(2)が、荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基により表面が官能化されたナノ粒子を含み、1~100nmの間の直径を有する細孔を有する第2の材料で形成されている、イオン選択性伝導複合膜である。
【0017】
発明者らは、予想外に、本発明の複合膜は、塩分勾配の作用の下で、数100W/m2(膜)程度の、好ましくは少なくとも300W/m2、より好ましくは少なくとも500W/m2の非常に高い膜電力を発生することを発見した。
【0018】
特定の理論に拘束されることを望むことなく、発明者らは、この非常に高い膜電力は、外層(1、3)及び内層(2)及び複合膜の多孔性と共に、本発明の膜の層に使用されている材料の表面電荷により決定されると考える。
【0019】
特に、更に発明者らによると、この多孔性と表面電荷の組合せは複合膜にナノ流体特性を付与し、膜を介したイオンの選択的通過に影響を与えるが、特定の及び予期せぬ機序によると、膜を構成する材料がより大きな多孔性を有していたら、これは観察されてはいない。
【0020】
複合膜の構造
複合膜の厚さは、有利には4μm~75μmの間である。
【0021】
外層(1、3)のそれぞれの厚さは、有利には2μm~45μmの間、好ましくは2μm~30μmの間、より好ましくは2μm~25μmの間である。外層は有利には同じ厚さを有する。
【0022】
それに対して、内層(2)の厚さは、好ましくは10nm~10μmの間、より有利には10nm~2μmの間、好ましくは10nm~1μmの間、好ましくは10nm~800nmの間、好ましくは10nm~400nmの間、より好ましくは200nm~500nmの間である。
【0023】
好ましくは、外層(1、3)のそれぞれの厚さは、有利には2μm~45μmの間、内層(2)の厚さは10nm~10μmの間である。
【0024】
発明者らによると、内層の極めて薄い厚さは、高いイオン選択性伝導性を得ながら、優れた浸透率を得ることを可能にする。
【0025】
本発明では、複合膜の厚さ及び異なる層の厚さは、乾燥膜の断面の走査型電子顕微鏡法により測定される。
【0026】
複合膜は好ましくは、第1の材料の重量に対して、10重量%未満の第2の材料、好ましくは、第1の材料の重量に対して2重量%~8重量%の間の第2の材料、より好ましくは、第1の材料の重量に対して3重量%~5重量%の間の第2の材料を含む。
【0027】
複合膜の細孔の内部の壁の表面電荷密度は有利には0.001~3C/m2の間、好ましくは0.1~1C/m2の間である。
【0028】
複合膜の表面電荷密度は線量測定で測定される。
【0029】
内層(2)
第2の材料
本発明によると、「ナノ粒子」という用語は、少なくとも1つの外部寸法がナノメートルスケール(すなわち少なくとも1つの寸法が1~100nmの間の範囲)に位置する3次元物体を意味する。
【0030】
第2の材料は有利には、個々のナノ粒子の形態のナノ粒子、すなわち凝集していない、又は言い換えると互いに共有結合しているナノ粒子を含む。
【0031】
第2の材料は有利には、第2の材料の質量に対して、少なくとも50質量%のナノ粒子、少なくとも95質量%のナノ粒子、より好ましくは少なくとも99%のナノ粒子を含む。
【0032】
有利には、ナノ粒はナノチューブの形態ではない。
【0033】
ナノ粒子は好ましくはラメラ状ナノ粒子である。
【0034】
本発明によると、「ラメラ状ナノ粒子」という用語は、共有結合で一緒に結合されている原子の単層の形態で原子を含むナノ粒子を意味する。ラメラ状ナノ粒子は、単一の原子の単層(2D材料)、又は弱い結合、例えば、ファンデルワールス力により一緒に結合している2~5つの原子の単層のスタックからなることができる。
【0035】
言い換えると、ラメラ状ナノ粒子とは、第1の外部寸法がナノメートルスケールであり、他の2つの寸法が最初の寸法より有意に大きく、ナノメートルスケールとミクロメートルスケールの間で特に変動する3次元物体である。
【0036】
ラメラ状ナノ粒子は、好ましくは5~50μmの間に含まれる、好ましくは10~20μmの間に含まれる、より好ましくは15μmであるメジアン径(頭字語「D50」でもまた指定される)を有する。
【0037】
D50は、50重量%の粒子がより小さなサイズを有することを意味する。
【0038】
本発明によると、ラメラ状ナノ粒子に関する「単層」、「2層」、「数層」という用語は、原子の単層、2つの原子の単層、及び3~5の原子の単層からなるラメラ状ナノ粒子をそれぞれ表す。2層及び数層のラメラ状ナノ粒子は通常、原子の単層の間の弱い相互作用、例えば、ファンデルワールス相互作用により安定化されている。
【0039】
ラメラ状ナノ粒子は、好ましくは金属酸化物のラメラ状ナノ粒子、特にSnO2又はTiO2のラメラ状ナノ粒子、遷移金属のダイカルコゲナイドのラメラ状ナノ粒子、例えば、二硫化モリブデンMoS2のラメラ状ナノ粒子、炭素のラメラ状ナノ粒子、又はこれらの混合物である。
【0040】
ラメラ状炭素ナノ粒子は有利には単層グラフェンのラメラ状ナノ粒子、2層グラフェンのラメラ状ナノ粒子、数層グラフェンのラメラ状ナノ粒子又はこれらの混合物である。
【0041】
本発明によると、「単層グラフェン」という用語は、特定の同素形の炭素からなる2次元の結晶性物質を指し、平坦ハニカムとして表すことができる。より具体的には、単層グラフェンは、単一のsp2ハイブリッド形成した炭素原子の平面からなるシートである。したがって、これは単層と記載することができる。
【0042】
本発明によると、「2層グラフェン(又はBLG)」という用語は、2つの単層のグラフェンの間のファンデルワールス型相互作用で安定化されている2つの単層のグラフェンのスタックからなる材料を意味する。BLGは、グラファイトの剥離又は化学蒸着法(CVD)により得ることができる。
【0043】
本発明によると、「数層グラフェン(又はFLG)」という用語は、異なるグラフェン平面の間のファンデルワールス型相互作用で安定化されている、グラフェンの3~5つのシートのスタックからなる材料を意味する。
【0044】
単層グラフェンラメラ状ナノ粒子が好ましい。
【0045】
好ましい実施形態に従い、第2の材料は、有利には少なくとも50質量%の単層グラフェン、より好ましくは少なくとも95質量%の単層グラフェンを含む。ラメラ状単層グラフェンナノ粒子は、好ましくは5~50μmの間、好ましくは10~20μmの間、より好ましくは15μmのメジアン径(頭字語「D50」でもまた指定される)を有する。
【0046】
二硫化モリブデンのラメラ状ナノ粒子は、有利には単層二硫化モリブデンのラメラ状ナノ粒子、2層二硫化モリブデンのラメラ状ナノ粒子、数層二硫化モリブデンのラメラ状ナノ粒子又はこれらの混合物である。
【0047】
これらの電荷の符号に応じて、荷電基又は水の存在下で荷電される基は、水の存在下に配置された場合、複合膜の内層(2)上に負又は正の表面電荷を付与する。
【0048】
当業者には公知である任意の荷電基又は水の存在下で荷電される基であって、グラフェン粒子の表面電荷の増加を可能にする基を本発明の文脈で使用することができる。
【0049】
一実施形態では、ナノ粒子は、負荷電基及び/又は水の存在下で負荷電となる基により表面が官能化される。
【0050】
負荷電基及び/又は水の存在下で負荷電となる基は、エポキシド基、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、スルホネート基-SO3
-、カルボキシアルキル基R-CO2
-(RはC1~C4アルキル、好ましくはC1アルキルである)、アミノジアセテート基-N(CH2CO2
-)2、ホスホネート基PO3
2-;アミドキシム(amidoxime)基-C(=NH2)(NOH)、アミノホスホネート基-CH2-NH-CH2-PO3
2-、チオール基-SH、及びこれらの混合物から有利に選択される。
【0051】
好ましくは、負荷電基又は水の存在下で負荷電となる基で表面が官能化されたナノ粒子はグラフェンオキシド(又はGO)のラメラ状ナノ粒子である。
【0052】
ラメラ状グラフェンオキシドナノ粒子は、負荷電基又は水の存在下で負荷電となる基を持ち、これらの基はエポキシド基、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、及びこれらの混合物から有利に選択される。
【0053】
一実施形態では、ナノ粒子は、正荷電基及び/又は水の存在下で正荷電となる基で表面が官能化される。
【0054】
有利には、正荷電基及び/又は水の存在下で正荷電となる基は、第四級アンモニウム基-N(R)3
+(RはC1~C4アルキルである)、第三級アンモニウム基-N(H)R)2
+(RはC1~C4アルキル、好ましくはC1アルキルである)、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基-N(C2H4OH)CH3)2
+、及びこれらの混合物から選択される。
【0055】
外層(1、3)
第1の材料
本発明によると、「ナノファイバー」という表現は、3つの外部寸法のうちの2つがナノメートルスケール(すなわち3つの寸法のうちの2つは1~100nmの範囲)であり、3番目の外部寸法が他の2つの寸法より有意に大きいが、必ずしもナノメートルスケールではないセルロースベースの3次元物体を意味する。
【0056】
よって、ナノファイバーは、1~100nmの範囲、好ましくは1~70nmの範囲、より好ましくは4~30nmの範囲、特に4~20nmの直径を有する。更に、これらの長さは有利には0.5~100μmの間、特に0.5~50μmの間、例えば、0.5~10μmの間、例えば、更に、0.5~2μmの間である。
【0057】
本発明によると、「ミクロファイバー」という表現は、3つの外部寸法のうちの2つがミクロメートルスケール(すなわち3つの寸法のうちの2つは0.1~10μmの範囲)であり、3番目の外部寸法が他の2つの寸法より有意に大きい3次元物体を意味する。
【0058】
よって、ミクロファイバーは、0.1μm~10μmの範囲、有利には0.1μm~5μmの範囲、更に有利には0.1μm~2μmの範囲、特に0.1μm~1μm、0.1μm~7μm、又は0.1μm~0.2μmの範囲の直径を有する。
【0059】
更に、これらの長さは有利には0.5μm~100μmの間、特に1μm~50μmの間、例えば、1μm~10μmの間、例えば更に、1μm~5μmの間である。
【0060】
ナノファイバー及び/又はミクロファイバーは、有利には、有利には10より大きい、好ましくは100より大きい形状因子を有する。
【0061】
本発明によると、ナノファイバー及び/又はミクロファイバーに関する「形状因子」という表現は、これらの長さLのこれらの直径d(L/d)に対する比を意味する。
【0062】
ナノファイバー及び/又はミクロファイバーの直径はTEM又はSEMで測定することができる。
【0063】
本発明によると、ナノファイバー及び/又はミクロファイバーに関する「架橋された」という用語は、前記ファイバーが3次元ネットワークを形成するために共有結合の化学結合(時には「ブリッジ」と呼ばれる)により一緒に連結していることを意味する。言い換えると、これらは弱い結合を介して単に凝集しているだけでも、自己集合しているだけでもない。
【0064】
第1の材料は、複合膜において、特に第1の材料が、上記に記載されている官能化したナノ粒子を、外層(1、3)の間に配置された第2の層(2)の形態で維持することを可能にするという意味で、構造化の役割を果たしている。
【0065】
更に、外層(1、3)の第1の材料は、内層(2)の統合性、特にその使用の間、後者が膜のいずれかの側で圧力勾配等の応力に供される間、統合性を確保する。
【0066】
ナノファイバー及び/又はミクロファイバーは有利には荷電基又は水の存在下で荷電される基を保持する。
【0067】
第1の実施形態では、外層(1)の荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基は、外層(3)の荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基と反対の符号を有する。本実施形態では、複合膜はバイポーラ複合膜である。
【0068】
第2の実施形態では、2つの外層(1、3)の荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基は同じ符号であり、有利には、上記に記載されている官能化したナノ粒子の荷電基又は水の存在下で荷電される基と同じ符号を有する。
【0069】
これは、本発明の複合膜全体の表面電荷を増加させるという利点となる。
【0070】
発明者らによると、複合膜の内層(2)及び外層(1、3)内の同じ符号を有するこれら荷電基又は水の存在下で荷電される基の存在により、相乗効果を得ること、すなわち複合膜を介したイオン選択性伝導性において予期せぬ改善を得ることが可能となる。
【0071】
したがって、本実施形態では、第1の材料は、複合膜の構造及びイオン選択性伝導性を確実にするその能力においてある役割を果たす。
【0072】
更に、ナノファイバー及び/又はミクロファイバーの架橋に関与している共有結合の化学結合はまた、例えば、使用されている架橋剤がクエン酸である場合等には、荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基を保持することができる。この場合、架橋の化学結合は、ナノ多孔質材料の構造及び表面電荷の両方においてある役割を果たす。
【0073】
一実施形態では、ナノファイバー及び/又はミクロファイバーは、導電性材料、例えば、以下に記載されている活性炭からなる。
【0074】
本実施形態では、外層(1、3)は電子を伝導することができ、したがって、複合膜が膜電解又は逆電解法、好ましくは電気透析又は逆電気透析法に導入された場合、容量性電極として作用する。言い換えると、外層は、電解反応若しくは電気透析の実施に必要な電流を伝導するか、又は電解若しくは逆電気透析反応により生成された電流を収集する。
【0075】
本実施形態に従い、複合膜が逆電気透析方法に導入された場合、流体は、外層(1、3)の多孔性において流動することができ、逆電気透析により生成される電気エネルギーは外層(1、3)のナノファイバー及び/又はミクロファイバーで直接収集される。
【0076】
よって、本実施形態による複合膜は、逆電気透析デバイスの製造を可能にし、上記で提示されたRED型デバイスの場合のように、流体が膜の間で流動することを可能にする通路を形成するためにスペーサーデバイスを使用する必要がない。
【0077】
これは、一般的にバルク抵抗と呼ばれる膜の間のスペーシングに関連する耐性(「バルク」)を大きく減少させ、したがってより高い膜電力を発生させるシステムが得られるという利点を有する。
【0078】
有機物質
外層(1、3)の第1の材料は有利には有機物質のナノファイバー及び/又はミクロファイバーを含む。
【0079】
本発明によると、有機物質は炭素、酸素及び水素を本質的に含む材料である。
【0080】
有機物質は炭素、酸素及び水素から本質的になる、すなわち有機物質は少なくとも90モル%の炭素、酸素及び水素、好ましくは少なくとも95モル%の炭素、酸素及び水素、より好ましくは少なくとも97モル%の炭素、酸素及び水素からなる。
【0081】
好ましい実施形態によると、有機物質は、70~100モル%の炭素、0~30モル%の水素及び0~15モル%の酸素を含む。
【0082】
また、有機物質は、有利には、イオン交換膜(IEM)に一般的に見出される元素、フッ素を含まない。
【0083】
有機物質は有利には、セルロース、活性炭、又はこれらの混合物から選択される。
【0084】
セルロースマトリックス
一実施形態では、第1の材料は、架橋されたセルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーを含むセルロースマトリックスである。
【0085】
本発明によると、セルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーに関して「架橋された」という用語は、前記ファイバーが、セルロースマトリックス形態の3次元ネットワークを形成するために、共有結合の化学結合(時には「ブリッジ」と呼ばれる)で互いに連結していることを意味する。言い換えると、これらは弱い結合を介して単に凝集しているだけでも、自己集合しているだけでもない。
【0086】
セルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーのネットワークは有利には10~1000nmの間の直径を有する細孔を有する。
【0087】
セルロースナノファイバーは、有利には1~100nmの範囲、好ましくは1~70nmの範囲、より好ましくは4~30nmの範囲、特に4~20nmの直径を有する。更に、これらの長さは有利には0.5~100μmの間、特に0.5~50μmの間、例えば、0.5~10μmの間、例えば更に、0.5~2μmの間である。
【0088】
セルロースミクロファイバーは有利には、100nm~1000nmの範囲、好ましくは100nm~700nmの範囲、より好ましくは100~200nmの範囲の直径を有する。更に、これらの長さは、有利には0.5μm及び100μmの間、特に1μm~50μmの間、例えば、1μm~10μmの間、例えば更に、1μm~5μmの間である。
【0089】
セルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーは、有利には、有利には30より大きい、好ましくは100より大きい形状因子を有する。
【0090】
有利には、セルロースマトリックスは、セルロースマトリックスの質量に対して、少なくとも90質量%のセルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバー、少なくとも95質量%のセルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバー、より好ましくは更に少なくとも99%のナノファイバー及び/又はセルロースミクロファイバーを含む。
【0091】
セルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーは、当業者に公知の技術により、特に天然起源のリグノセルロース材料、例えば、木材の機械的、酵素的又は化学的処理により得ることができる。
【0092】
木材の場合、これらの処理は、セルロースを、木材の他の構成物質、例えば、リグニン及びヘミセルロースから分離するという特定の作用を有する。この目的のために、天然セルロースファイバーは、化学的に、特に酵素を用いて化学的に、及び/又は機械的に前処理又は後処理して、ホモジナイザー内での機械的な処理前に構造破壊を開始する。前記材料のセルロースファイバーのサイズ及び特に直径は、天然セルロースの供給源に施す処理に応じてモジュレートすることができることは公知である。
【0093】
よって、セルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーは、木材ファイバーの機械的処理により得ることができ、機械的処理を行うことで、ミクロフィブリルを一緒に保つ水素結合を少なくとも部分的に破壊することにより、天然セルロースのファイバーを破裂するのに十分な機械的エネルギーが得られる。機械的処理は多くの場合、化学的又は酵素的処理工程に続いて行われる。例えば、この処理工程は、酸化処理、特に酸化剤、例えば、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)オキシ)を使用した酸化処理であることができる。こうして得た生成物は、多くの場合、文献において「ナノフィブリル化セルロース」(「NFC」と略記)又は「セルロースナノファイバー」(「CNF」と略記)又は「ミクロフィブリル化セルロース」(「MFC」と略記)と呼ばれる。
【0094】
一般的に、MFC材料は、NFCを得るために使用されているものよりも規模の小さい機械的及び/又は化学的な処理から調製され、よってMFCは一般的にNFCに観察される直径より大きな直径を有するファイバーを有する。しかし、MFC及びNFC/CNFの明白な定義はなく、よってこれらの用語は文献において多くの場合交換可能なように使用されている。
【0095】
セルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーは好ましくはナノセルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーである。
【0096】
セルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーは、その調製方法からの不純物を含み得る。これらの不純物は特にヘミセルロース又はリグニンの可能性がある。
【0097】
よって、セルロースマトリックスは特に最大5質量%のヘミセルロース、より好ましくは最大3質量%のヘミセルロース、さもなければ最大1質量%のヘミセルロースを含み得る。
【0098】
セルロースマトリックスは特に最大5質量%のリグニン、より好ましくは最大3質量%のリグニン、さもなければ最大1質量%のリグニンを含み得る。
【0099】
セルロースモノマーはこれらのC2、C3又はC6炭素原子においてアルコール基を自然に保持するという事実により、本発明のセルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーは負の表面電荷を内因的に保持する。
【0100】
一実施形態では、本発明のセルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーの内因性の負の表面電荷は、負荷電基及び/又は水の存在下で負荷電となる基を用いてこれらを官能化することにより増加させることができる。第2の層(2)の官能化したナノ粒子の荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基が負の符号を有する場合、この実施形態は特に有利である。実際に、これは本発明の複合膜全体の表面電荷を増加させるという利点を有する。
【0101】
ミクロファイバー及び/又はナノファイバーにより保持されている荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基は、有利には前記セルロースミクロファイバー及び/又はナノファイバーの表面に共有結合方式で化学的に結合している。
【0102】
当業者に公知の、本発明のミクロファイバー及び/又はセルロースナノファイバーの電荷密度の増加を可能にする任意の荷電基及び/又は後者の水の存在下で荷電される基を、本発明の範囲で使用することができる。
【0103】
有利には、セルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーにより保持されている、負荷電基及び/又は水の存在下で負荷電となる基は、スルホネート基-SO3
-、カルボキシル基-CO2
-、カルボキシアルキル基R-CO2
-(RはC1~C4アルキル、好ましくはC1アルキルである)、アミノジアセテート基-N(CH2CO2
-)2、ホスホネート基PO3
2-;アミドキシム基-C(=NH2)(NOH)、アミノホスホネート基-CH2-NH-CH2-PO3
2-、チオール基-SH、及びこれらの混合物から選択される。
【0104】
カルボキシル基-CO2
-及びカルボキシアルキル基R-CO2
-(RはC1~C4アルキル、好ましくはC1アルキルである)が好ましい。
【0105】
よって、-CO2
-カルボキシル基(すなわち酸化されたセルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバー)を保持するセルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーは、例えば、セルロースのナノファイバー及び/又はミクロファイバーの酸化、例えば、TEMPO酸化により得ることができる。酸化は、セルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーのモノマーのC6炭素原子により保持されている第1級アルコール基上で優先的に生じる。
【0106】
カルボキシアルキレート基R-CO2
-を保持するセルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバー(すなわちカルボキシルアルキル化セルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバー)は、例えば、セルロースナノファイバー及び/ミクロファイバーのエーテル化により得ることができる。エーテル化は、セルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーのモノマーのC2、C3又はC6炭素原子により保持されているアルコール基上で優先的に生じる。
【0107】
別の実施形態では、本発明のセルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーの内因性の負の表面電荷は、正の電荷を有する荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基でこれらを官能化することにより逆転することができる。
【0108】
第2の層(2)の官能化したナノ粒子の荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基が正の符号を有する場合、この実施形態は好ましい。
【0109】
当業者に公知の任意の荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基並びにセルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバー上に正の表面電荷を付与することを可能にすることは、本発明の文脈で使用することができる。
【0110】
有利には、正荷電基及び/又は負に荷電された水の存在下で正荷電となる基は、第四級アンモニウム基-N(R)3
+(RはC1~C4アルキルである)、第三級アンモニウム基-N(H)R)2
+(RはC1~C4アルキル、好ましくはC1アルキルである)、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基-N(C2H4OH)CH3)2
+、及びこれらの混合物から選択される。
【0111】
第四級アンモニウム基が好ましい。
【0112】
特定の実施形態では、外層(1,3)のナノファイバー及び/又はミクロファイバーは、有利には荷電基又は水の存在下で荷電される基を保持し、外層(1)からの荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基は、他の外層(3)からの荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基と反対の符号を有する。本実施形態では、複合膜はバイポーラ複合膜である。
【0113】
活性炭材料
一実施形態では、第1の材料は、架橋された活性炭ナノファイバー及び/又はミクロファイバーを含む活性炭フェルトである。
【0114】
本発明によると、活性炭のナノファイバー及び/又はミクロファイバーに関する「架橋された」という用語は、前記ファイバーが共有結合の化学結合で互いに連結して(時には「ブリッジ」と呼ばれる)、活性炭フェルトの形態で3次元ネットワークを形成することを意味する。言い換えると、これらは弱い結合を介して単に凝集しているだけでも、自己集合しているだけでもない。
【0115】
活性炭フェルトは有利には、5~60μmの間、好ましくは5~50μmの間、より好ましくは5~45μmの間の厚さを有する。
【0116】
活性炭フェルトの細孔は有利には、1~10μmの間の直径を有する。
【0117】
活性炭ミクロファイバーは有利には、0.1~10μmの範囲、好ましくは1~10μmの範囲、より好ましくは2~10μmの範囲の直径を有する。加えて、これらの長さは、有利には、10~500μmの間、特に20~400μmの間、例えば、20~300μmの間、例えば更に、1~200μmの間である。
【0118】
活性炭フェルトは好ましくは活性炭ミクロファイバーを含む。
【0119】
活性炭ナノファイバー及び/又はミクロファイバーは有利には、有利には10より大きい、好ましくは50より大きい形状因子を有する。
【0120】
有利には、活性炭フェルトは、活性炭フェルトの質量に対して、少なくとも90質量%の活性炭のナノファイバー及び/又はミクロファイバー、少なくとも95質量%の活性炭のナノファイバー及び/又はミクロファイバー、より好ましくは更に少なくとも99質量%の活性炭ナノファイバー及び/又はミクロファイバーを含む。
【0121】
活性炭ナノファイバー及び/又はミクロファイバーは、当業者に公知の技術により、特に繊維状炭素前駆体の部分的な燃焼及び熱的分解により得ることができる。
【0122】
これらは通常、有機物の樹脂(木材、果実、石、ナッツシェル)又は鉱物(ピート、石炭、亜炭)炭素前駆体のファイバーを炭化し、次いで活性化剤を使用してこれらを活性化することからなる方法により得ることができる。次いで、炭素原子はくしゃくしゃの紙の形状と同等の形状でランダムに組み立てられた芳香族環の平面の形態で出現する。
【0123】
活性炭ナノファイバー及び/又はミクロファイバーは、炭素から本質的になる、すなわちこれらは少なくとも60モル%の炭素、好ましくは少なくとも70モル%の炭素、より好ましくは少なくとも80モル%の炭素からなり、残りは酸素及び水素等の元素である。
【0124】
好ましい実施形態によると、活性炭のナノファイバー及び/又はミクロファイバーは、60~100モル%の炭素、0~30モル%の水素及び0~15モル%の酸素を含む。
【0125】
更に、活性炭を構成する多環芳香族の単位の末端はヒドロキシル、カルボン酸、ラクトン、フェノール、クロメン及びピロンの形態で酸素及び水素原子を保持するという事実により、活性炭ナノファイバー及び/又はミクロファイバーは負の表面電荷を内因的に保持する。
【0126】
活性炭ナノファイバー及び/又はミクロファイバーは電気を伝導する。
【0127】
方法
本発明の第2の目的は、本発明の第1の目的による複合膜を製造するための方法であって、
i)ナノファイバー及び/又はミクロファイバーを含む溶液を濾過支持体上で濾過して、ナノファイバー及び/又はミクロファイバーを含む第1の内層(1)を形成する工程;
ii)荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基により表面が官能化されたナノ粒子の溶液を、工程i)の終わりに得た第1の層(1)上で濾過して、前記第1の外層(1)上に内層(2)を形成する工程;
iii)ナノファイバー及び/又はミクロファイバーの溶液を濾過して、工程ii)の終わりに得た内層(2)上にナノファイバー及び/又はミクロファイバーを含む第2の外層(3)を形成する工程;
iv)外層(1、3)のナノファイバー及び/又はミクロファイバーを架橋することが可能な架橋溶液を濾過する工程;
v)工程iv)の生成物を、好ましくはオーブン内で乾燥させる工程;
vi)濾過支持体を除去して、複合膜を得る工程
からなる工程を含むことを特徴とする、方法である。
【0128】
ナノファイバー及び/又はミクロファイバー並びに官能化したナノ粒子は本発明の第1の目的において定義されている通りである。
【0129】
本方法は簡単、容易に実行され、経済的であり、複合膜の各層の厚さを制御することが可能である。
【0130】
工程i)、ii)、iii)及びiv)の濾過は有利には、真空ポンプを用いて、好ましくは1バールの真空下で行われる。
【0131】
工程i)の濾過は、任意選択で、工程i)の終わりに得た外層(1)上の架橋溶液を濾過することからなる工程i1)がこれに続いて行われてもよい。
【0132】
工程ii)の濾過は、任意選択で、工程ii)の終わりに得た第2の層上の架橋溶液を濾過することからなる工程ii1)がこれに続いて行われてもよい。
【0133】
工程i)及びiii)で導入されたナノファイバー及び/又はミクロファイバーの溶液は、0.1重量%~1重量%のセルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバー、好ましくは0.3重量%~0.6重量%のセルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーを含む。
【0134】
工程i)及びiv)の溶液のナノファイバー及び/又はミクロファイバーは、本発明の第1の目的において詳述されたように官能化することができる。
【0135】
工程ii)で導入された官能化したナノ粒子の溶液は、0.001重量%~0.01重量%の官能化したナノ粒子、好ましくは0.003重量%~0.006重量%の官能化したナノ粒子を含む。
【0136】
工程v)で導入された架橋溶液は有利には、0.005M~0.02Mの1種又は複数の架橋剤、好ましくは0.008M~0.012Mの1種又は複数の架橋剤を含む。
【0137】
工程v)の乾燥は有利には、架橋反応が生じることを可能にする温度で、及びファイバー及び/又はナノファイバーを損傷する温度未満で行われる。好ましくは、乾燥は、80℃~150℃の間に含まれる温度で、特に80℃~120℃の間、より好ましくは80℃~100℃の間に更に含まれる温度で行われる。
【0138】
上記に詳述されているように、架橋剤は荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基を優先的に保持する。
【0139】
クエン酸が好ましい。
【0140】
工程vi)の終わりにおいて、複合膜は乾燥材料の形態である。
【0141】
本方法は、工程vi)の終わりに得た複合膜に、60℃~95℃の範囲、好ましくは80℃~90℃の範囲の温度で、少なくとも5分間の期間の間、3バール~4バールの間の圧力を加えることによって、前記イオン選択性伝導膜を機械的に強化することにある工程vii)を更に含み得る。
【0142】
工程vii)の圧力の適用は、プレス、特にヒートプレスを使用して行うことができる。
【0143】
当業者に公知の任意の他の技術、不連続的(すなわち、バッチ式)又は連続的に関わらず、例えば、膜が連続的に生成され、次いでロールの形態で保存される「ロールツーロール法」技術と呼ばれる技術が考慮され得る。
【0144】
使用
本発明の第3の目的は、本発明の第1の目的による、又は本発明の第2の目的において定義された方法により調製される複合膜の、イオン選択性膜としての使用である。
【0145】
この伝導性は有利には、複合膜のいずれかの側の上に働く応力の作用、好ましくは電位勾配又は濃度勾配の下で起きる。
【0146】
本発明の第4の目的はまた、処理すべき水からのイオン性若しくはイオン化できる物質の抽出のため、処理すべき水からの有機化合物の抽出のため、電解反応の実施のため、又は逆電気透析反応の実施のため、特に電気の生成のため、特に塩分勾配からの電気の生成のための、本発明の第1の目的による、又は本発明の第2の目的において定義された方法により調製される複合膜の使用である。
【0147】
複合膜は、処理すべき水からのイオン性又はイオン化できる物質の抽出のために使用することができる。複合膜は特に、処理すべき水からイオン性又はイオン化できる物質を抽出するための、例えば、脱塩及び脱イオン化の方法において使用することができる。複合膜は、例えば、イオン化形態のマンガン及びイオン化形態の鉄から選択される元素による、並びに/又は硝酸イオン、アンモニウムイオン、炭酸イオン、若しくはイオン形態の有機化合物等の物質による、汚染された水の処理を含み得る。
【0148】
この処理は、特に複合膜のいずれかの側の濃度勾配(濾過)又は電位(電気透析)の作用の下で行うことができる。
【0149】
言い換えると、複合膜は、複合膜のいずれかの側の電位の作用の下での、水性媒体中の任意の種類のイオン分離法において使用することができる。
【0150】
電気脱塩(一般的に「脱塩」と呼ばれる)は、海水に含有されるイオン、特にナトリウム及び塩素イオンを抽出することを目標にした電気透析技術である。電気透析は、すべての種類のイオンを、イオンが比較的濃縮された溶液、特に産業廃水から除去することを目標にしている。電気脱イオンは、低濃度のイオンを有する溶液、通常逆浸透ですでに処理されている溶液、特に超高純度水を得るのに有用な溶液を抽出するために使用される電気透析技術である。電気脱イオンは特に医薬品分野で使用されている。
【0151】
複合膜がバイポーラである場合、複合膜はバイポーラ電解方法、有利にはバイポーラ電気透析に使用することができる。複合膜はまた、処理すべき水から1種又は複数の有機化合物、好ましくはアルコール又はアルカン、有利にはC1~C12、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、メタン、エタン、プロパン、ブタン及びこれらの混合物を抽出するために使用することができる。
【0152】
複合膜はまた、電解反応の実施のために使用することもできる。この場合、電位勾配の作用の下での、複合膜を介したイオンの移動に、電極における酸化及び還元反応が加えられる。これは、例えば、複合膜のいずれかの側での電位作用の下での水素の生成のための水電解反応であることができる
【0153】
複合膜はまた、逆電解反応の実施のため、特に発電のために使用することもできる。
【0154】
複合膜は好ましくは、複合膜いずれかの側に作用する電解質濃度勾配、好ましくは塩分勾配の作用の下で、逆電気透析により電流を生成することを意図したデバイスの製造のために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【
図1】本発明による膜の概略的断面図であり、図の中で外層(1、3)は、架橋されたセルロースナノファイバー及び/又はミクロファイバーを含むセルロースマトリックスで形成され、内層(2)は、荷電基及び/又は水の存在下で荷電される基により表面が官能化されたナノ粒子を含む材料で形成される。
【実施例】
【0156】
本発明は、本発明を制限なしで例示する以下の実施例を読むことでより良く理解されることになる。
【0157】
(実施例1)
本発明による複合膜の調製
装置及び原料
本実施例に使用されている材料を以下に列挙する:
- ブフナーフィルター
- 1バール真空ポンプ
- 0.1μmPVDF濾紙
- 補強加工されたオーブン
【0158】
本実施例に使用されている原料を以下に列挙する:
- カルボキシメチル化又はTEMPO酸化により負に荷電されたセルロースナノファイバー;
- クエン酸、99容量%;
- Sigma Aldrich社により、参照番号n°777676で市販されている酸化グラフェン。
【0159】
複合膜の調製
本実施例で導入されている調製方法は以下に詳述されている:
・1.75mlのナノセルロース溶液を、PVDフィルターを有するブフナーフィルター上で濾過する。真空ポンプを1バールの真空に設定する;
・すべての溶液が濾過されたら、5mlのクエン酸溶液をその上で濾過する(ナノファイバー間の架橋剤として作用する);
・クエン酸が濾過されたら、7mlの酸化グラフェン溶液を濾過する;
・酸化グラフェン溶液が濾過されたら、1.75mlのナノセルロース溶液を濾過する;
・すべての溶液が濾過されたら、5mlのクエン酸溶液をその上で濾過する(ナノファイバーの間で架橋剤として作用する);
・すべての濾過したクエン酸溶液がポンプを停止したら、ブフナーデバイスを開き、その濾液が付いた濾紙を取り外す。
【0160】
次いで、濾紙/濾液の組合せを85℃の実験用オーブン内に15分間配置する(乾燥及び架橋反応)。
【0161】
最後に、膜をその濾過媒体から分離する。処理をより簡単にするため、おそらく前もってこれをイソプロパノール溶液中に浸漬しておくこともできる。
【0162】
こうして得た膜は17.5g/m2のナノセルロースで構成される。
【0163】
ナノセルロース含有量及び酸化グラフェンの質量含有率は異なった。10mg/m2未満のナノセルロース含有量では、十分な機械的強度を有する膜の得ることができない。
【0164】
機械的強度及びイオン抵抗の理由により、これらの17g/m2のセルロース及び4重量%の酸化グラフェンという値が最適であるように思われる。
【0165】
これらの膜は、約100nmの厚さを有する酸化グラフェンの内層、及び約10μmの厚さをそれぞれ有するセルロースの外層を有する。
【0166】
膜電力測定
それぞれが濃縮溶液に対して1M、次いで希釈液中で0.1M、0.01M及び0.001Mで溶解された塩化ナトリウム(NaCl)溶液を含有し、2つのリザーバー間の10、100及び1000のRc勾配を設定することを可能にした、2つの独立したリザーバーでできたデバイスを用いて試験を行った。
【0167】
2つのリザーバーは、実施例1に詳述されたように得られた本発明による複合膜で分離されている。
【0168】
銀グリッドAg/AgCl電極を膜のいずれかの側のリザーバーのそれぞれに浸漬して、膜を介して生成された電流を測定する。
【0169】
これらの測定の結果はTable1(表1)に示されている。
【0170】
【0171】
U Osmoは膜電位であり、これから電極のNernst電位が推定される(U Nernst)
I Osmoは膜に結合した電流であり、オームの法則I=U/Rに従い、膜の電気抵抗を測定することにより計算する。
P Osmo Maxは式Pmax=(UxI)/4により計算する。
膜電力は、複合膜1cm2上で得た値に10 000をかけることによって、W/m2で表現する。
【0172】
また、85℃で加熱中、2枚の金属プレートの間の膜に3~4バールの圧力を加えることにより、膜の機械的安定性が10~20%改善されることが観察されている。
【0173】
(比較例2)
酸化グラフェンを含まない、本発明の膜ではない膜
酸化グラフェンを含まない、本発明の膜ではない膜の調製
使用される材料は実施例1に詳述されている材料である。
【0174】
この比較例に導入されている調製方法は以下の通りである:
3.5mlのナノセルロース溶液を、PVDFフィルターを有するブフナーフィルター上で濾過する。真空ポンプを1バール真空に設定する。
すべての溶液が濾過されたら、10mlのクエン酸溶液をその上で再び濾過する(ナノファイバーの間で架橋剤として作用する)。
すべての濾過したクエン酸溶液がポンプを停止したら、ブフナーデバイスを開き、その濾液が付いた濾紙を取り外す。
【0175】
次いで、濾液と濾紙の集合体を85℃の実験用オーブン内に15分間配置する(乾燥及び架橋反応)。
【0176】
最後に、膜をその濾過媒体から分離する。処理をより簡単にするため、おそらく前もってこれをイソプロパノール溶液中に浸漬しておくこともできる。
【0177】
こうして得た膜は、17.5g/m2のナノセルロース及び0.34g/m2の酸化グラフェン(2質量%)で構成される。
【0178】
本発明の膜ではない膜の電力
この比較例では膜が酸化グラフェンを含まないことを除いて、使用されているデバイスはすべての観点において、実施例1に詳述されているものと同じである。
【0179】
これらの測定の結果はTable2(表2)に示されている。
【0180】
【0181】
U Osmoは膜に結合した電位であり、これから電極のNernst電位が推定される(U Nernst)
I Osmoは膜に結合した電流であり、オームの法則I=U/Rに従い、膜の電気抵抗を測定することにより計算する。
P Osm oMaxは、式Pmax=(UxI)/4により計算する。
膜電力は、膜1cm2上で得た値に10 000をかけることにより、W/m2で表現する。
【符号の説明】
【0182】
(1) 第1の外層
(2) 内層
(3) 第2の外層
【手続補正書】
【提出日】2023-01-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0177
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0177】
こうして得た膜は、17.5g/m2のナノセルロースで構成される。
【国際調査報告】