IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デンマークス テクニスケ ユニバーシテトの特許一覧 ▶ エンデューロ ジェネティクス エーピーエスの特許一覧

<>
  • 特表-負荷依存性生成株 図1
  • 特表-負荷依存性生成株 図2
  • 特表-負荷依存性生成株 図3
  • 特表-負荷依存性生成株 図4
  • 特表-負荷依存性生成株 図5
  • 特表-負荷依存性生成株 図6
  • 特表-負荷依存性生成株 図7
  • 特表-負荷依存性生成株 図8
  • 特表-負荷依存性生成株 図9
  • 特表-負荷依存性生成株 図10
  • 特表-負荷依存性生成株 図11
  • 特表-負荷依存性生成株 図12
  • 特表-負荷依存性生成株 図13
  • 特表-負荷依存性生成株 図14A
  • 特表-負荷依存性生成株 図14B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】負荷依存性生成株
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20230614BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230614BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230614BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230614BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20230614BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230614BHJP
   C12P 1/02 20060101ALI20230614BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20230614BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230614BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
C12N1/15 ZNA
C12N1/19
C12N1/21
C12N15/31
C12P21/02 C
C12P1/02 Z
C12P1/04 Z
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022545039
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(85)【翻訳文提出日】2022-09-01
(86)【国際出願番号】 EP2021053544
(87)【国際公開番号】W WO2021160854
(87)【国際公開日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】20157159.3
(32)【優先日】2020-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516236171
【氏名又は名称】デンマークス テクニスケ ユニバーシテト
(71)【出願人】
【識別番号】522293582
【氏名又は名称】エンデューロ ジェネティクス エーピーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ルグビェア,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】オルセン,ウィリアム クリスチャン パリスガード
(72)【発明者】
【氏名】ゾマー,モーテン オットー アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンセン,アン ライン ティーデマン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG27
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA67X
4B065AA67Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA79X
4B065AA79Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、生成物を合成するための微生物生成細胞であって、負荷依存性遺伝子回路をさらに含み、その発現が、低生成/非生成のエスケーパー細胞の増殖を制限しながら、生成物を合成する細胞に選択的増殖及び/又は生存上の利点を与える、微生物生成細胞を提供する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生成物を合成するように遺伝子操作された微生物生成細胞であって、
a.負荷感知プロモーターに作用可能に連結された必須遺伝子
をさらに含み、
前記プロモーターが、前記必須遺伝子に関して異種であり、前記生成物の合成が、前記細胞に負荷を与え、かつ前記必須遺伝子の発現が、前記負荷感知プロモーターが誘導されない場合の前記必須遺伝子の基礎レベルの発現に対し前記負荷感知プロモーターが前記負荷により誘導される場合上方制御される、微生物生成細胞。
【請求項2】
前記細胞が、
b.前記生成物をコードする又は前記生成物の合成のための代謝経路をコードする1以上の遺伝子、
を含み、前記1以上の遺伝子が、プロモーターに作用可能に連結される、請求項1に記載の微生物生成細胞。
【請求項3】
前記生成物の合成により付与される前記負荷が、前記細胞中の前記必須遺伝子がその天然プロモーターに作用可能に連結される場合、対応する非生成微生物細胞に対して≧5%、≧10%、≧15%、≧20%、≧25%、≧35%及び≧45%の中から選択される前記微生物生成細胞の対数期増殖率におけるパーセント低下として測定される適応度コストを有する、請求項1又は2に記載の微生物生成細胞。
【請求項4】
前記細胞が、
i.エシェリヒア、ラクトバチルス、ラクトコッカス、コリネバクテリウム、バチルス、アセトバクター、アシネトバクター、シュードモナス;プロプリオニバクテリウム、バクテロイド、及びビフィドバクテリウムの中から選択される属に属する細菌;又は
ii.サッカロミセス属、クルイベロミセス属、カンジダ属、ピキア属、コマガタエラ属、クリプトコッカス属、デバロミセス属、ハンセヌラ属、ヤロウィア属、ザイゴサッカロミセス属及びシゾサッカロミセス属の中から選択される属に属する酵母;又は
iii.ペニシリウム属、リゾプス属、フザリウム属、フシジウム属、ジベレラ属、ケカビ属、モルティエレラ属、トリコデルマ属、サーモマイセス属、ストレプトマイセス属及びアスペルギルス属の中から選択される糸状菌
である、請求項1~3のいずれか一項に記載の微生物生成細胞。
【請求項5】
前記必須遺伝子が、無条件必須遺伝子である、請求項1~4のいずれか一項に記載の微生物生成細胞。
【請求項6】
前記細胞が、細菌でありかつ前記必須遺伝子が、folP-glmM、glmM、murI、asd、thyA、usA、rpoD、nusG、rpsU、accD、degS、fldA、ftsN、hflB、lolA、mraY、mreD、murA、murB、murF、nadD、rplV及びrpsG又はそれらの相同体の中から選択される大腸菌遺伝子又はオペロンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の微生物生成細胞。
【請求項7】
前記必須遺伝子が、前記負荷感知プロモーターの誘導とは無関係に前記必須遺伝子の翻訳強度を改変するようにその配列が選択される合成RBSに作用可能に連結される、請求項1~6のいずれか一項に記載の微生物生成細胞。
【請求項8】
前記負荷感知プロモーターが、
i.σ32、σ又はσ因子調節プロモーターなどの、σ因子調節プロモーター、
ii.リボソームRNAプロモーター、
iii.UPRエレメントを含むHAC1上方制御プロモーター、及び
iv.DNA損傷感知プロモーター
の中から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の微生物生成細胞。
【請求項9】
前記細胞が、負荷感知プロモーターに作用可能に連結された前記必須遺伝子を欠く親微生物生成細胞と比較して、単一細胞からの少なくとも25、30、35、40、45、50、60、70、80、90又は100回の細胞分裂後に増加された生成物収量により特徴付けられる、請求項1~8のいずれか一項に記載の微生物生成細胞。
【請求項10】
前記細胞が、負荷感知プロモーターに作用可能に連結された前記必須遺伝子を欠く親微生物生成細胞と比較して単一細胞からの少なくとも50回の細胞分裂後に少なくとも10、25、50、又は80%の増加された生成物収量により特徴付けられる、請求項1~9のいずれか一項に記載の微生物生成細胞。
【請求項11】
i.請求項1~10のいずれか一項に記載の微生物生成細胞を提供する工程、
ii.前記生成物の生成のための基質を含む培養培地中に前記細胞を導入する工程、
iii.前記生成物を回収する工程
を含む生成物生合成の方法。
【請求項12】
前記生成物が、アミノ酸、有機酸、テルペノイド、イソプレノイド、ポリケチド、アルコール、糖、ビタミン、アルデヒド、カルボン酸、脂肪酸、ペプチド、酵素、治療用タンパク質及びその前駆体、ヒト成長ホルモン、インスリン、グルカゴン様ペプチド-1、モノクローナル及びポリクローナル抗体、並びに一本鎖断片抗体の中から選択される、請求項11に記載の生成物生合成の方法。
【請求項13】
単一細胞から生じる微生物生成細胞の培養集団の生成物収量を増加させるための負荷感知プロモーターに作用可能に連結された必須遺伝子の使用であって、
前記プロモーターが、前記必須遺伝子に関して異種であり、前記生成物の生成が、前記細胞に負荷を与え、かつ前記必須遺伝子の発現が、前記負荷感知プロモーターが誘導されない場合の前記必須遺伝子の基礎レベルの発現に対し前記負荷感知プロモーターが前記負荷により誘導される場合上方制御される、必須遺伝子の使用。
【請求項14】
生合成生成物を生成するための請求項1~9のいずれか一項に記載の微生物生成細胞の使用。
【請求項15】
前記生成物が、アミノ酸、有機酸、テルペノイド、イソプレノイド、ポリケチド、アルコール、糖、ビタミン、アルデヒド、カルボン酸、脂肪酸、ペプチド、酵素、治療用タンパク質及びその前駆体、ヒト成長ホルモン、インスリン、グルカゴン様ペプチド-1、モノクローナル及びポリクローナル抗体、並びに一本鎖断片抗体の中から選択される、請求項14に記載の微生物生成細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、生成物を合成するための微生物生成細胞であって、負荷依存性遺伝子回路をさらに含み、その発現が、非生成/低生成のエスケーパー細胞の増殖を制限しながら、生成物を合成する細胞に選択的増殖及び/又は生存上の利点を与える、微生物生成細胞を提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
世界中の化学生成の増加するシェアは、細胞工場として機能するように遺伝子操作され、かつ所与の分子の生合成用にオーダーメイドされた微生物に依存している。これらの細胞工場を採用する生成プロセスは典型的には、少数の生成生物細胞のスターター培養から開始され、大型発酵タンク(最大で1,000,000L容積)内で細胞の増殖及び細胞数の拡大の段階を経る。いくつかの設定では、所与の分子の生成は、成長期とその後の期間(バッチ培養及び流加培養)の両方で進行する。あるいは、生成は連続的であってよい。ケモスタット発酵槽は、生成生物を絶えず希釈される発酵ブロス中で増殖させ、したがって新鮮な栄養培地を補充しながら、培養物から生成物及び細胞を流し出すことを可能にする。工業規模では、そのような生成プロセスは、クリーンタンクで新しい培養を開始する前に、1~2ヶ月間動作を続けてよい。この産業で使用される発酵プロセス及び装置は、広範囲の商品低分子と治療用タンパク質の両方の生成について非常に類似しており、その結果、これらのプロセスには同様の問題がある。他の用途では、微生物細胞は、細胞が培養される環境において商業的利点を与える非天然分子を生成するように操作され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
所与の分子の生合成に有限の代謝資源を割り当てるように操作された細胞工場は、一般的に成長の鈍化に反映される、不自然な負荷にさらされる。この負荷は、生成物分子を合成できない(非生成又はより低生成の)細胞に対して選択圧をかけ、この問題は、特に生成の稼働が長期間である場合に(例えばケモスタットにおいて)生じる。工業発酵におけるそのような非生成細胞は、それらが栄養素、酸素及び空間を消費するため、非常に望ましくない。より低い生成細胞及び非生成細胞はより速く増殖するので、それらは生成細胞を上回る強い選択的利点を有する。増殖細胞培養において、そのような適応度の改善は、経時的に生成細胞の著しいアウトコンペティションにつながり得る。最適生成状態からのこのドリフトは、発酵ブロスを捨て、栄養素は言うまでもなく資源を洗浄、殺菌に費やして、発酵タンクに新しい生成生物を補充する最終的な理由である。そのような非生成細胞は、多くの増殖分裂を経ている元の生成生物の細胞で生じる遺伝子変異が起源である。
【0004】
生成稼働中の細胞による生成物形成の低下につながる生成生物の細胞内の遺伝子変異及び非遺伝的適応の発生は避けられないため、生成において非生成細胞の増殖を排除するか又は遅らせる方法が必要である。好ましくは、そのような除去の方法は、生成状態から観察されるドリフトを防止し、それにより工業的発酵の期間を延ばすのに十分に有効である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、生産力のある細胞工場のメンバー間での増殖を経時的に遅らせ、それにより細胞工場の生産性を向上させるなどの、適応度の利点を用いてどのように細胞工場の非生成メンバーを取り除くかという問題に対処する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の第1の態様は、生成物を合成するように遺伝子操作された微生物生成細胞であって、負荷感知プロモーターに作用可能に連結された必須遺伝子をさらに含み、上記プロモーターが、上記必須遺伝子に関して異種であり、生成物の合成が、上記細胞に負荷及び/又は適応度のコストを与え、上記必須遺伝子の発現が、上記負荷感知プロモーターが誘導されない場合の上記必須遺伝子の基礎レベルの発現に対し上記負荷感知プロモーターが上記負荷及び/又は適応度のコストによって誘導される場合上方制御される、微生物生成細胞を提供する。
【0007】
本発明の第2の態様は、
本発明の微生物生成細胞を提供する工程、
上記生成物の生成のための基質を含む培養培地に細胞を導入する工程、
上記生成物を回収する工程
を含む生成物生合成の方法を提供する。
【0008】
本発明の第3の態様は、単一細胞から生じる微生物生成細胞の培養集団の生成物収量を高めるための、負荷感知プロモーターに作用可能に連結された必須遺伝子の使用を提供し、上記プロモーターは、上記必須遺伝子に関して異種であり、生成物の生成は、上記細胞に負荷を与え、上記必須遺伝子の発現は、上記負荷感知プロモーターが誘導されない場合の上記必須遺伝子の基礎レベル発現に対し上記負荷感知プロモーターが上記負荷によって誘導される場合上方制御される。
【0009】
本発明の第4の態様は、生合成生成物を生成するための本発明の微生物生成細胞の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1:親株大腸菌BL21(DE3)の細胞(灰色の線)及びhGH-GFP生成プラスミドpEG34で形質転換した親株の細胞(黒線;pEG34)の経時的な増殖(光学濃度として測定:OD630nm)を示すグラフ。各株の4つの複製培養物の増殖を、hGH-GFP発現誘導条件下で測定した;エラーバーは、平均の標準誤差(n=4)を表す。
図2図2:親株大腸菌BL21(DE3)の細胞(黒線)及び親株由来の非生成負荷依存性大腸菌株s5.0#3、s7.0#8及びs9.0#8の細胞(示されるとおり;必須遺伝子folP-glmMは、それぞれpyccV、pycjX及びpmutMによって制御される)の経時的な増殖を示すグラフ(光学濃度として測定:OD630nm)。測定される増殖率は、4回の複製培養物(n=4)の平均に基づく。
図3図3:hGH-GFP生成プラスミドpEG34(黒線)又は対照プラスミドpEG0(灰色の線)のいずれかを保有する負荷依存性株s9.0#8の細胞の経時的な増殖を示すグラフ(光学濃度として測定:OD630nm)。各株の4つの複製培養物の増殖を、hGH-GFP発現誘導条件下で測定した;エラーバーは、平均の標準誤差(n=4)を表す。
図4図4:親株大腸菌BL21(DE3)の細胞(黒線)、及びhGH-GFP生成プラスミドpEG34を保有し発現する3つの負荷依存性株:s5.0#3、s7.0#8及びs9.0#8の細胞(示されているとおり)の経時的な増殖を示すグラフ(光学濃度として測定:OD630nm)。hGH-GFP発現誘導条件下で測定される増殖率は、4つの複製培養物(n=4)の平均に基づく。
図5図5:それぞれの負荷感知プロモーター及び4つのバリアントRBSコード配列の1つを含み、必須遺伝子folP-glmMの発現を促進するhGH-GFP生成株:s3.6(pibpA)、s6.6(pgrpE)、s7.6(pycjX)、及びs10.6(pybbN)の培養の第1及び第6の培養導入(シード1及び6)中に測定されたGFP/OD値(Y軸)のヒストグラム。非負荷依存性大腸菌株BEG34及び親株大腸菌BL21(DE3)の培養物BEG0を、対照として含める。測定を、hGH-GFP発現誘導条件下で増殖させた培養物にて行う。エラーバーは平均の標準誤差(n=4)を表す。
図6図6:それぞれの負荷感知プロモーター及び4つのバリアントRBSコード配列の1つを含み、必須遺伝子folP-glmMの発現を促進するhGH-GFP生成株:s3.6#2(pibpA)、s6.6#6(pgrpE)、s7.6#8(pycjX)、及びs10.6#7(pybbN)の培養物の連続培養導入(シード1~12)後に測定したGFP/OD値(Y軸)のヒストグラム。非負荷依存性大腸菌株BEG34及び親株大腸菌BL21(DE3)の培養物を、対照として含める。測定を、hGH-GFP発現誘導条件下で増殖させた培養物にて行う。エラーバーは平均の標準誤差を表す(n=3)。
図7図7:非負荷依存性hGH-GFP生成大腸菌株BEG34及び親株大腸菌BL21-DE3(BEG0)と比較した負荷依存性hGH-GFP生成株s3.6#2、s6.6#6、s7.6#8及びs10.6#7の増殖率の尺度としてのOD/分のヒストグラム。それぞれの株の増殖率は、シード0におけるhGH-GFP発現誘導条件下で測定した7つの複製培養物に基づく;エラーバーは平均の標準誤差(n=7)を示す。
図8図8:hGH-GFP生成株の培養物の連続培養導入(シード1、4~9)後に測定し、空プラスミド対照BEG0-空株について測定した値を差し引いたGFP/OD値(Y軸)を示すグラフ。各々が必須遺伝子folP-glmMの発現を促進するそれぞれの負荷感知プロモーターを含む(A)s7.6#8(pycjX)、(B)s13.6#2(pfsxA)、及び(C)s13.6#2evo(pfsxA)で示す株(灰色の線)及び非負荷依存性hGH-GFP生成大腸菌株BEG34(黒線)。測定を、hGH-GFP発現誘導条件下で増殖させた培養物にて行う。エラーバーは平均の標準誤差(n=5)を表す。
図9図9:hGH-GFP生成株の培養物の連続培養導入(シード1、4~9)後に測定し、空プラスミド対照BEG0-空株について測定した値を差し引いたGFP/OD値(Y軸)を示すグラフ。各々が必須遺伝子folP-glmMの発現を促進するそれぞれの負荷感知プロモーターを含む(A)s15.6.7(prrnB)及び(B)s16.6.6(prrnE)で示される株(灰色の線)及び非負荷依存性hGH-GFP生成大腸菌株BEG34(黒線)。測定を、hGH-GFP発現誘導条件下で増殖させた培養物にて行う。エラーバーは平均の標準誤差(n=5)を表す。
図10図10:hGH-GFP生成株s29.6#3の培養物の連続培養導入(シード2~5、及び7)後に測定し、対応する空プラスミド対照BEG0株について測定した値を差し引いた相対hGH-GFP生成(Y軸)を示すグラフ。株s29.6#3は、非負荷依存性hGH-GFP生成大腸菌株BEG34(灰色の点)と比較した必須遺伝子folP-glmMの発現を促進する浸透圧ストレス感知プロモーターppoxBを含む(黒四角)。連続継代7を72時間後に分析した。測定を、hGH-GFP発現誘導条件下で増殖させた培養物にて行う。エラーバーは平均の標準誤差を表す(s29.6#3の場合はn=5及びBEG34の場合はn=8)。
図11図11:非負荷依存性リゾスタフィン生成大腸菌株BENDU5camと比較した、負荷感知プロモーターpgrpE及び必須遺伝子folP-glmMの発現を促進する4つのバリアントRBSコード配列の1つを含むリゾスタフィン生成株s6.4#5の培養物の分泌型リゾスタフィン生成速度の尺度としての、大腸菌培養物のODに正規化した1分間あたりの黄色ブドウ球菌溶解速度を示すヒストグラム。速度を、連続培養導入後のリゾスタフィン発現誘導条件下で増殖させた培養物(シード1及び7)にて測定した。エラーバーは平均の標準誤差を表す(n=3)。
図12図12:親非負荷依存性メバロン酸生成大腸菌株BL21(DE3)-pMevTと比較して連続培養導入(シード2、5及び6)後に測定された、負荷依存性メバロン酸生成株s19.1#1(pcspD)及びs9.1.4(pmutM)の培養によって合成されたメバロン酸の力価(g/L)を示すグラフ。負荷感知プロモーターpcspD及びpmutMは各々、必須遺伝子folP-glmMの発現を促進する4つのバリアントRBSコード配列の1つと組み合わされる。測定を、MevT発現誘導条件下で増殖させた培養物にて行う。エラーバーは平均の標準誤差を表す(n=3)。
図13図13:AOX1プロモーター及びkanMX選択遺伝子に作用可能に連結されたPDI1プロモーターの制御下でALB1遺伝子をコードするhSAのcDNAバージョンのゲノム組込みコピーを含むピキア・パストリス株EGS31の培養物のヒト血清アルブミン(hSA)生成力価を示すバープロット。培養物を、選択条件(750μg/mLのG418によって活性化された依存性)又は非選択条件(活性化されない依存性)のいずれかで増殖させた。「活性化されない依存性」培養物のhSA力価を100%に設定し、「活性化された依存性」培養物の力価をその割合として示す。
図14図14A及びB:各々が、AOX1プロモーターの制御下にあるALB1遺伝子をコードするhSA及び負荷応答性プロモーターFPR2、又はRPL3又はRPL6Aに作用可能に融合されたkanMX選択遺伝子のcDNAバージョンのゲノム組込みコピーを含む、ピキア・パストリス株EGS31の負荷依存性バージョンの培養物のヒト血清アルブミン(hSA)生成力価を示すバープロット。培養物を、非選択条件下(活性化されない依存性)又は選択条件下(150又は750μg/mLのG418のいずれかで活性化された依存性)のいずれかで、約30回の細胞分裂([A]シード1)の期間増殖させるか、又はさらに10回の細胞分裂([B]シード2)後まで増殖させた。平均hSA力価を、シード1「EGS31」培養における力価の割合で示す。エラーバーは平均の標準誤差(n=4)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
略語、用語及び定義:
負荷は、一般的な及び/又は生成物固有の代謝毒性、代謝負荷、及び/又は代謝枯渇を指し、これは、生成物を合成するように遺伝子操作された微生物細胞が、生成条件下での生成物の生成中に経験し、およびこれは、同等の生成条件下で増殖させた場合に、上記生成ができない親微生物細胞と比較して、生成条件下での生成物の生成中の細胞の最大対数増殖率(増殖曲線に沿った)の低下の割合を測定することによって定量できる適応度コストをもたらす。
【0012】
負荷感知プロモーターは、上記「負荷」によって誘導されるプロモーターを指し、誘導されると、上記負荷感知プロモーターは、生成細胞の生成物を本質的に全く合成しないか、又は少なくとも50%未満合成する上記微生物生成細胞の変異誘導体と比較して生成条件下で培養された場合に、微生物生成細胞中で作用可能に連結された遺伝子の発現を上方制御できる。そのような変異誘導体は、上記生成細胞に由来する細胞集団の長期培養後に単離される生産性の低いエスケープ変異体を含む。負荷感知プロモーターの非限定的な例は、大腸菌遺伝子htpG、ibpA、clpB、yccV、grpE、ycjX、ldhA、mutM、ybbN、prlC、groES、fxsA、htpX、rrnB、rrnE、cspD、katE、xthA、uspE、gadB、ahpC、katG、grxA、oxyS、poxB、trxC(詳細は表2参照)及び他のグラム陽性及びグラム陰性細菌におけるそれらのホモログバージョンのプロモーターを含み;出芽酵母については、負荷感知プロモーターの非限定的な例は、遺伝子KAR2、PDI1、SAA1、FPR2、RPL3、RPL6A、RPL28、OGG1、RAD51、RAD54のプロモーターを含む(詳細は表2参照)。負荷感知プロモーターは、そのようなプロモーターが依然として負荷に対する応答を維持する限り、そのような天然プロモーターのハイブリッドの、組換えられた又は切り詰められたバージョンであってもよい。
【0013】
負荷依存性微生物細胞は、細胞の必須遺伝子に作用可能に連結された上記「負荷感知プロモーター」を含む遺伝子回路を含むように操作された微生物細胞を指す。
【0014】
負荷依存性微生物生成細胞は、所望の生成物を合成するように遺伝子操作された微生物細胞を指し、上記細胞はさらに、細胞の「必須遺伝子」に作用可能に連結された上記「負荷感知プロモーター」を含む遺伝子回路を含むように遺伝子操作されている。所望の生成物は、上記操作された微生物細胞において核酸分子によってコードされるタンパク質、又は細胞が発現する1以上の核酸分子によってコードされる異種経路の生成物であり得る。
【0015】
本発明の所望の生成物は、限定されないが、遺伝子操作された微生物生成細胞によって合成される場合に、適応度コスト(負荷)を生成細胞に伝える生成物を含む。非限定的な例は、有機酸、テルペノイド、イソプレノイド、ポリケチド、アルコール、糖、ビタミン、アルデヒド、カルボン酸、脂肪酸、アミノ酸、ペプチド、酵素、治療用タンパク質及びその前駆体、例えばヒト成長ホルモン、インスリン、グルカゴン様ペプチド-1、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体、一本鎖断片抗体を含む。
【0016】
必須遺伝子(又は必須遺伝子オペロン)は、下方制御されると生成条件下での微生物生成細胞の増殖率の低下をもたらす、微生物生成細胞中の遺伝子(複数可)を指す。好ましくは、必須遺伝子は、これらの生成条件の栄養組成物に関係なく増殖に必須であり、それにより細胞増殖を支持するのに十分なそのような必須遺伝子の発現は、生成条件下で提供される特定の阻害剤又は栄養素の有無に依存しない。標準的な実験室条件における必須遺伝子の非限定的な例は、folP-glmM、glmM、murI、asd、thyA、rpoD、nusG、rpsU、accD、degS、fldA、ftsN、hflB、lolA、mraY、mreD、murA、murB、murF、nadD、rplV及びrpsG、並びにバチルス・リケニフォルミス又は枯草菌については:glmM、ylaN、infA、及びdapAを含み、出芽酵母については、非限定的な例は、URA3、FOL1、MED7、RRP40、NOP8、PGI1及びNEP1を含む。例えば、適切な遺伝子は、細胞壁構成成分を合成するのに関与する酵素をコードする。さらに、本発明の文脈において使用される必須遺伝子は好ましくは、生成株によって発現される所望の生成物をコードせず、生成株によって発現される異種経路における所望の生成物又はその中間体の合成を促進するタンパク質もコードしない。
【0017】
条件付き必須遺伝子は、抗生物質の添加や栄養素の除去などの不可欠条件下で細胞を培養することにより、微生物生成細胞における負荷依存性システムを「活性化」させることを可能にするものである。
【0018】
必須遺伝子の基礎発現レベルは、「負荷感知プロモーター」が誘導されない場合に、負荷依存性微生物生成細胞における「負荷感知プロモーター」に作用可能に連結される「必須遺伝子」(上記で定義したとおり)の転写レベルである。上記必須遺伝子が作用可能に連結される負荷感知プロモーターは、プロモーターが上記必須遺伝子の天然プロモーターではないという意味で(プロモーターが同じゲノム中に存在する可能性があっても)、上記必須遺伝子に関して異種であり、そのため、自然界では上記必須遺伝子に作用可能に連結されて見出されない。必須遺伝子の上記基礎(すなわち誘導されない)レベルの発現は、上記必須遺伝子がその天然プロモーターに作用可能に連結されている対応する細胞の増殖率の10、20、50、90又は95%以下のレベルでの生成条件下で(又は対数増殖期の間)、細胞の増殖を支持するのに十分なレベルである。
【0019】
適応度コスト:同等の生成条件下で増殖させた場合に、微生物生成細胞が由来する、生成物又は生成物の生合成のための代謝経路をコードする遺伝子(複数可)を欠損する又は発現できない親微生物細胞の最大対数増殖率と、非負荷依存性微生物生成細胞(すなわち、必須遺伝子に作用可能に連結された負荷感知プロモーターを欠くが、生成物をコードする又は生成物の生合成のための代謝経路をコードする1以上の遺伝子を含み、発現する)の最大対数増殖率を比較することによって定量化される。
【0020】
生成条件は、生成中に使用される特異的培養条件を指し、微生物生成細胞による所望の生成物の生成のための培地及び/又は他の培養条件(例えば、温度、pH、攪拌、通気など)に関連し得る。
【0021】
リボソーム結合部位(RBS)、翻訳開始領域、又は翻訳強度エレメントは、特定のメッセンジャーRNAの翻訳強度を制御する5'非翻訳領域の遺伝子領域を指す。
【0022】
発明の詳細な説明:
I.負荷依存性微生物生成細胞
本発明の第1の態様は、生成物を合成するように遺伝子操作された微生物生成細胞であって、
a.負荷感知プロモーターに作用可能に連結された必須遺伝子
をさらに含み、上記プロモーターが、上記必須遺伝子に関して異種であり;生成物の生成は、上記細胞に負荷及び/又は適応度コストを与え、上記必須遺伝子の発現が、上記負荷感知プロモーターが誘導されない場合の上記必須遺伝子の基礎レベルの発現に対し上記負荷感知プロモーターが上記負荷及び/又は適応度コストによって誘発される場合に上方制御される、微生物生成細胞を提供する。
【0023】
一実施形態によれば、本発明の微生物生成細胞は、
b.生成物をコードする又は生成物の合成のための代謝経路をコードする1以上の遺伝子
を含み、
場合により上記1以上の遺伝子は、構成的又は誘導性プロモーターに作用可能に連結される。
【0024】
一実施形態によれば、本発明の上記微生物生成細胞に対する上記負荷及び/又は適応度コストは、生成物をコードする又は生成物の合成のための代謝経路をコードする1以上の遺伝子を欠くか又は発現できず、上記微生物生成細胞が由来し、それぞれの細胞が本質的に同一の生成条件下で培養される親微生物細胞の最大対数増殖率に対して、上記生成物をコードする又は生成物の合成のための代謝経路をコードする1以上の遺伝子を含むが、必須遺伝子に作用可能に連結された負荷感知プロモーターを欠く微生物生成細胞の最大対数増殖率を比較することによって、定量化される。上記微生物生成細胞に対する負荷及び/又は適応度コストは好ましくは、≧5%、≧10%、≧15%、≧20%、≧25%、≧35%及び≧45%の中から選択される定量化された最大対数増殖率の低下の割合に対応する。
【0025】
本発明による負荷依存性微生物生成細胞は、細菌、酵母、及び糸状菌などの任意の原核生物又は真核生物の微生物であり得る。
【0026】
一実施形態では、本発明の微生物生成細胞は、原核生物である。適切な細菌の非網羅的なリストとしては、以下のエシェリヒア、ラクトバチルス、ラクトコッカス、コリネバクテリウム、バチルス、アセトバクター、アシネトバクター、シュードモナスの中から選択される属に属する種;プロプリオニバクテリウム、バクテロイド及びビフィドバクテリウムが挙げられる。
【0027】
別の実施形態では、本発明の微生物生成細胞は、酵母又は真菌などの真核生物である。特定の実施形態では、真核生物は、サッカロミセス属、コマガタエラ属又はアスペルギルス属のメンバーであり得る。
【0028】
適切な酵母の非網羅的なリストとしては、以下のサッカロミセス属に属する酵母、例えば、S.cerevisiae、S.kluyveri、S.bayanus、S.exiguus、S.sevazzi、S.uvarum;クリベロマイセス属に属する酵母、例えば、K.lactis、K.marxianus var.marxianus、K.thermotolerans;カンジダ属に属する酵母、例えば、C.utilis、C.tropicalis、C.albicans、C.lipolyticA、C.versatilis;ピキア属に属する酵母、例えば、P.stipidis、P.pastoris、P.sorbitophila、又は他の酵母属、例えば、クリプトコッカス属、デバリオマイセス属、ハンセヌラ属、ヤロウィア属、ザイゴサッカロミセス属又はシゾサッカロミセス属が挙げられる。
【0029】
適切な糸状菌の非網羅的なリストとしては、以下のペニシリウム、リゾプス、フザリウム、フシジウム、ジベレラ、ムコール、モルティエレラ、トリコデルマ・サーモマイセス、ストレプトマイセス及びアスペルギルスの属に属する糸状菌が挙げられる。より具体的には、糸状菌は、フザリウム・オキシスポラム、A.niger、A.awamori、A.oryzae、及びA.nidulansが挙げられる。
【0030】
本発明の微生物生成細胞によって合成される生成物(複数可)は、増殖率の低下に反映される細胞及び適応度コストに対する負荷を負うものであり、そのような生成物(複数可)は、アミノ酸、有機酸、テルペノイド、イソプレノイド、ポリケチド、アルコール、糖類、ビタミン類、アルデヒド類、カルボン酸類、脂肪酸類、ペプチド類、酵素類、ヒト成長ホルモン、インスリン、グルカゴン様ペプチド-1、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体、一本鎖抗体などの治療用タンパク質並びにそれらの前駆体を含む。一実施形態では、生成物は、本発明の微生物生成細胞の天然生成物ではなく、そのため、微生物生成細胞が由来する親細胞によって生成されない。一実施形態では、生成物をコードする又は生成物を合成するための代謝経路をコードする1以上の遺伝子は、本発明の微生物生成細胞に関して異種であり、上記1以上の遺伝子は、導入遺伝子であり得る。
【0031】
II.本発明の微生物生成細胞の特徴
II.i 適応度コスト-生成負荷
微生物細胞における所望の生成物又は所望の生成物をもたらす経路の異種発現は、細胞に負荷をかける。負荷はまた、例えば、変異誘発後に選択される微生物株の細胞において天然生成物の過剰生成をもたらし得る。この負荷は、細胞の増殖を遅らせる適応度コストとして説明され得る(実施例1;図1)。これは、一般的な及び/又は生成物特異的な代謝毒性、潜在的に有限の細胞資源及び代謝産物の使用の増加並びに/又は枯渇に起因する可能性があり、微生物細胞はこれを生成条件下での本発明の生成物の生合成中に経験する。特に工業規模の発酵中に、適応度コストと増殖遅延の組み合わせは、発酵槽内の細胞集団に選択圧をかけ、これは、経時的に遺伝子変異又は非遺伝子バリエーションに起因する非生成細胞の蓄積により生成物の収量の低下をもたらる(実施例2、図6のBEG34)。
【0032】
本発明において、微生物生成細胞における生成物をコードする又は生成物の生合成のための代謝経路をコードする1以上の遺伝子の存在及び発現は、適応度コスト(負荷)を与える。
【0033】
微生物生成細胞にて生成物を生成する適応度コストは、微生物生成細胞が由来する、生成物をコードする又は生成物の合成のための代謝経路をコードする遺伝子(複数可)を欠く親微生物細胞の増殖率に対して、非負荷依存性微生物生成細胞(すなわち、必須遺伝子に作用可能に連結された負荷感知プロモーターを欠くが、生成物をコードする又は生成物の生合成のための代謝経路をコードする1以上の遺伝子を含み、発現する)の増殖率を比較することによって定量化される。上記微生物生成細胞に対する負荷及び/又は適応度コストは好ましくは、≧5%、≧10%、≧15%、≧20%、≧25%、≧35%及び≧45%の中から選択される、より好ましくは少なくとも5%の定量化された増殖率の低下の割合に対応する。
【0034】
好ましくは相対増殖率の定量は、本質的に同一の条件下で培養された場合のそれらの最大対数増殖率を測定することによってそれぞれの微生物細胞に対して行われ、これらの条件は、最終的に大規模発酵が行われるものを厳密に模倣するように選択される。
【0035】
II.ii 必須遺伝子
本発明の微生物生成細胞は、その発現が細胞増殖及び/又は生存に必要とされるタンパク質をコードする必須遺伝子を含む。
【0036】
好ましくは、必須遺伝子及びその発現は、生成細胞による所望の生成物の生成の低下を間接的に引き起こさない。さらに、本発明の状況において使用される必須遺伝子は、微生物生成細胞において発現される異種経路の所望の生成物又は中間体をコードしないか、又は合成をもたらさない。
【0037】
必須遺伝子は好ましくは、細胞が培養される増殖培地の組成又は条件に関係なく、遺伝子の発現が細胞増殖及び/又は生存に必須であるような、無条件必須遺伝子である。
【0038】
本発明の一実施形態では、生成細胞が大腸菌などの原核生物である場合、無条件必須遺伝子は、folP-glmM、glmM、murI、asd、thyA、usA、rpoD、nusG、rpsU、accD、degS、fldA、ftsN、hflB、lolA、mraY、mreD、murA、murB、murF、nadD、rplV及びrpsGから選択される。
【0039】
本発明のさらなる実施形態では、生成細胞がバチルス株などの原核生物である場合、無条件必須遺伝子は、glmM、ylaN、infA、及びdapAから選択される。
【0040】
本発明の一実施形態では、必須遺伝子は、栄養要求性増殖に必要な生成物、又は抗生物質、特異的毒素、プロトキシンなどの増殖阻害剤に対する耐性に必要なタンパク質生成物の合成につながる条件付き必須遺伝子である。
【0041】
本発明の一実施形態では、生成細胞が真核生物である場合、無条件の場合の必須遺伝子は、FFOL1、MED7、RRP40、NOP8、PGI1、NEP1から選択され;条件付きの場合は、URA3、LEU2、TRP1、HIS3から選択される。
【0042】
必須遺伝子が条件付きで必須である場合、特異的栄養素を欠く増殖培地を使用するか、又は増殖阻害剤を補充するかなどにより、生成細胞の増殖培地の組成/増殖条件を調整する必要がある。
【0043】
【表1】
【0044】
遺伝子の本質性は、それぞれの遺伝子がノックアウトされ、無条件の遺伝子ノックアウトが増殖条件に関係なく細胞生存率の喪失又は増殖不能をもたらす一方で、条件付き遺伝子ノックアウトが、培地の組成/培養条件に応じて増殖不能又は細胞生存率の喪失をもたらす細胞を作成することによって決定できる。
【0045】
適切な必須遺伝子は、L-アラビノース誘導性pBAD(大腸菌内)、キシロース誘導性pXYL(枯草菌若しくはバチルス・リケニフォルミス内)又はガラクトース誘導性pGAL(出芽酵母若しくはピキア・パストリス内)、又はplac(大腸菌若しくはラクトバチルス内)などの誘導性プロモーターと、アッセイされる必須遺伝子の天然プロモーターを交換する試験アッセイを行うことによって同定できる。そのような必須遺伝子アッセイにおいて、誘導性プロモーターを含む組込みDNA構築物は、標準的な方法を用いて宿主微生物細胞の染色体に組込まれる。原核生物の場合には、組込みDNAは好ましくは、対応する野生型特異的増殖率での増殖を支持するために異なるプロモーターの異なるベースライン発現レベル及び必須遺伝子の必要とされる異なるベースライン発現レベルを構成するために、異なる速度で必須遺伝子の翻訳を指示するRBSカタログ(例えば、表3)を保有する。組込みDNAの標的組込み後、組込み細胞は、許容条件(温度又はインデューサーの濃度:>0.9%L-アラビノース、>0.8%キシロース、>1%IPTG、>2%ガラクトース)を補ったプレート上に播種される。細胞はその後、標準増殖曲線アッセイにおいてインデューサーの条件に対するそれらの合成依存性について試験され、適切な必須遺伝子が、インデューサー依存的増殖率が特定され得る遺伝子として同定され得る。インデューサー依存性増殖は、誘導条件の非存在下で5パーセント超の増殖率の低下として観察され得る。適切な必須遺伝子は、生成関連培養培地中の最適なインデューサー条件での対数期特異的増殖率を5%未満低下させることにより特徴付けられる。
【0046】
必須遺伝子の同定のための方法は、遺伝子が特異的増殖条件下での微生物細胞増殖に必須であるかを当業者が決定するのを可能にする2015年1月の「遺伝子本質性-方法及びプロトコル」[DOI 10.1007/978-1-4939-2398-4]に詳述されており、主にトランスポゾンタグ付きライブラリーをスクリーニングすることによりカンピロバクター・ジェジュニ;ストレプトコッカス・サングイニス;ポルフィロモナス・ジンジバリス;大腸菌;レプトスピラ;結核菌;緑膿菌;及びカンジダ・アルビカンスの必須遺伝子をマッピング及び同定するための方法を含む。さらに、そこに記載される様々な「計算ツール」は、全ゲノム微生物配列の広範な利用可能性によって促進される、微生物ゲノム中の必須タンパク質をコードする遺伝子及び多くの既知の必須遺伝子の構造的特徴を当業者が直接予測し、同定することを可能にする。したがって、当業者には、必須遺伝子のデータベースと、過度の負荷なしに微生物細胞のゲノム中の多数の必須遺伝子をうまく、再現性よく同定するための、自由にアクセス可能な様々なオンラインツール及びアルゴリズムの両方が提供される。さらに、出芽酵母における必須遺伝子の82%が、別の生物におけるタンパク質に類似する必須タンパク質をコードする[Giaever Gら,2002]ことに留意すべきであり、1種の微生物(例えば、酵母)の既知の又は同定されたほとんどの必須の遺伝子は、他の微生物において対応する遺伝子を有し、そのため単純なBLAST検索によって選択される微生物において同定され得ることを実証する。
【0047】
II.iii 負荷感知プロモーター
本発明の微生物生成細胞は、上記のように、細胞増殖及び/又は生存に必要なタンパク質をコードする必須遺伝子に作用可能に連結された負荷感知プロモーターを含む。負荷感知プロモーターは、生成物の生成又は過剰生成により負荷及び/又は適応度コストを受ける微生物生成細胞において誘導されるものである。典型的には、負荷感知プロモーターの誘導は、微生物細胞による生成物の生成が細胞の増殖率の低下をもたらし、それが今度は生成の適応度コストに起因する場合に生じる。重要なことに、本発明による負荷感知プロモーターは、生成物自体によってではなく、生成物の生成から生じる生成細胞内の「負荷状態」によって誘導される。微生物生成細胞の生産性を高めるための負荷感知プロモーター及び必須遺伝子の使用は、細胞が作るように操作される生成物とはほとんど無関係であるため、本発明によって付与される負荷依存性は、微生物生成細胞の幅広い用途を支持する。
【0048】
必須遺伝子は負荷感知プロモーターに作用可能に連結されているため、その転写及び発現のレベルは、負荷感知プロモーターが誘導される場合にのみ基礎レベルを超えて増加する。適切な負荷感知プロモーターは、誘導されない場合、細胞増殖及び/又は生存を顕著に制限するか又は防止する、作用可能に連結された必須遺伝子の基礎レベルの発現を可能にするものである。したがって、非誘導状態で負荷感知プロモーターを含む細胞は、必須遺伝子がその天然プロモーターに作用可能に連結される細胞よりも顕著に増殖が遅い(実施例1、図2)。対照的に、必須遺伝子に連結された負荷感知プロモーターを含む微生物生成細胞は、生成物を生成しない細胞と比較して細胞が所望の生成物を合成するときに顕著な増殖率の増加を示す(実施例1、図3)。さらに、本発明の微生物生成細胞は、生成物を生成する固有の負荷にもかかわらず、生成物又は生成物の生合成のための代謝経路をコードする遺伝子(複数可)を欠き、かつ微生物生成細胞が由来する、親微生物細胞の増殖率と区別がつかない初期増殖率を驚くべきことに達成できる(実施例1、図4)。したがって、生成条件下では、本発明の微生物生成細胞は、生成物の合成を停止する生成細胞のエスケープ変異体を上回る選択的利点を有し、それによりエスケープ速度を低下させる。
【0049】
一実施形態では、負荷感知プロモーターは、必須遺伝子に関して異種でありながら、微生物生成細胞に関して天然のプロモーター、又は改変された天然プロモーターであり得る。
【0050】
一実施形態では、プロモーターは、天然のTF/シグマ因子結合部位を含む。適切な負荷感知プロモーターは、それらが一般的にタンパク質の過剰発現及びそれらの細胞内凝集に応答して上方制御されるので、大腸菌σ32レギュロンのプロモーターである。大腸菌σ32プロモーターの非網羅的なリストは、本明細書の表2に含まれ、さらなる適切なプロモーターは、Nonakaら、2006によって同定されている。
【0051】
一実施形態では、負荷感知プロモーターは、σ因子調節プロモーターである。好ましい実施形態では、負荷感知プロモーターは、σ32レギュロンを介して活性化され、大腸菌遺伝子htpG、ibpA、clpB、yccV、grpE、ycjX、ldhA、mutM、ybbN、prlC、groES、fxsA、及びhtpXのプロモーターの中から選択できる。バチルス属については、そのような適切な負荷感知プロモーターは、例えば、groESのプロモーターを含むHrcA調節プロモーターの中から選択できる。
【0052】
一実施形態では、負荷感知プロモーターは、mutM遺伝子のプロモーターである。mutMは、最も一般的な酸化ストレス誘発DNA損傷の1つ、すなわち、グアニンの7,8-ジヒドロ-8-オキソグアニン(8-oxoG)への酸化の修復を開始するのに関与する機能的に保存されたDNA-グリコシラーゼをコードする(Jainら、2007)。
【0053】
負荷感知プロモーターはまた、細胞の炭素栄養素の状態及び増殖期に関連するプロモーターも含む。したがって、一実施形態では、負荷感知プロモーターは、増殖率の低下及び炭素飢餓によって活性化される、毒素遺伝子cspDのプロモーターであり(Uppalら,2014;Yamanaka及びInouye,1997)、したがって、代謝産物の生成による負荷又は適応度コストの対象となる細胞において、差次的に上方制御されると予測される。
【0054】
一実施形態では、負荷感知プロモーターは、リボソームRNAプロモーター、特に、栄養供給に応答し、Fisタンパク質によって誘導され、かつppGppアラーモンによって阻害される、rrnB及びrrnE遺伝子のプロモーターである。rrnプロモーター活性は、それらの初期の対数増殖期に見られるように、タンパク質生成が高い細胞において誘導される(Nonakaら、2006)。
【0055】
一実施形態では、負荷感知プロモーターは、代謝負荷及び微生物異種生成と関連付けられる酸化ストレスに応答するものである(Dragosits & Mattanovich,2013)。酸化ストレス応答プロモーターは、酸化的損傷に応答して細胞の改善及び保護と関連付けられるいくつかの遺伝子を活性化するOxyRによって調節されるプロモーター;及び主に定常増殖期のタンパク質の過剰発現中に上方制御されるrpoS(σS)に属する遺伝子のプロモーターを含む。
【0056】
【表2】
【0057】
異なる負荷感知プロモーター(例えば、表2の中)の誘導/活性化時の基礎発現レベル及び特異的応答曲線は、様々であり、それは、特異的微生物生成細胞及びその生成物に(強度の点で)最も適合する負荷感知プロモーターを選択する際に利用できる。
【0058】
生成中の微生物生成細胞における負荷及び/又は適応度コストによって誘導される適切な負荷感知プロモーターは、当業者に公知の公的データベース、例えば、大腸菌プロモーターについてはhttps://ecocyc.org;枯草菌プロモーター(バチルス・リケニフォルミスプロモーターにも作用する)、それぞれの原核生物ホモログについてはhttps://bsubcyc.org;出芽酵母プロモーター、及びそれらの真菌相同体についてはhttps://www.yeastgenome.orgから選択できる。
【0059】
適切な負荷感知プロモーターはまた、候補の負荷感知プロモーターが蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質)をコードする遺伝子に作用可能に連結され、かつ50~150細胞世代間の生成培地中での段階希釈培養実験後に単離された、生成物を合成するように遺伝子操作された微生物生成細胞に組込まれ、かつ対応する非生成細胞(対照)に組込まれる、試験アッセイにおいても検証できる。負荷感知プロモーターは、非生成細胞(対照)と比較して、生成細胞において検出可能な蛍光タンパク質発現を少なくとも5%、7.5%、10%、15%、25%、60%、150%、300%誘導する。
【0060】
II.iv 微生物生成細胞への負荷感知プロモーターのマッチング
微生物生成細胞は、生成物を生成する負荷又は適応度コストに応答して、特定の遺伝子の発現を特徴とする転写状態を示し、その発現は、生成発酵中の微生物生成細胞に由来する対応する非生成親細胞又は非生成エスケープ細胞では誘導されない。負荷又は適応度コストの生理学的性質は、所与の微生物生成細胞によって合成される生成物に依存し、その発現が誘導される遺伝子の種類に反映される。所与の生成物を生成する細胞において誘導される遺伝子プロモーターの同一性は、当技術分野において周知の技術によって決定できる(例えば、トランスクリプトミクス、実施例7参照)。誘導された遺伝子プロモーターの多くは表2に列挙されたものに関連するか、又はそれらに対応するので、これらは、所与の微生物生成細胞に対して一致する負荷感知プロモーターを見出すための出発点を提供する。プロモーターの選択は、目的の生成株において特異的に上方制御されることが見出された遺伝子の5~15個のプロモーターを同定することによって拡張できる。本明細書の実施例に例示されるように、必須遺伝子に作用可能に連結された負荷感知プロモーターを微生物生成細胞に生成物特異的に適合させるために使用される方法は、実験的に迅速であり、簡単な実験室設定で実施できる。
【0061】
II.v 翻訳制御エレメント
必須遺伝子発現によって本発明の微生物生成細胞の増殖を調節することは、負荷感知プロモーターと必須遺伝子の発現レベルの応答閾値及び応答曲線が釣り合うことを必要とし;基礎レベルの必須遺伝子発現が限定的な増殖を支持するか又は全く支持せず、一方で生産性の高い細胞では、誘導された負荷感知プロモーターが、対数増殖期において測定した場合に、顕著に増加した増殖率、好ましくは本発明の負荷感知プロモーターを欠く生成細胞のそれと類似した増殖率又は≦5%低い増殖率を支持するのに十分な必須遺伝子発現を促進するようにする。
【0062】
必須遺伝子の発現レベルに対する負荷感知プロモーターの負荷応答のバランスをとるための1つの適切な手法は、必須遺伝子の翻訳強度を変更することである。細菌では、翻訳強度は、開始コドンのすぐ上流のシャイン・ダルガーノ/リボソーム結合部位(RBS)配列によって定義され、一方で真核細胞では、翻訳開始領域/コザックエレメントを用いて、翻訳強度を変更できる。広範囲の翻訳強度を与える大腸菌内のRBSを表3に提供し、さらなる例は文献中で見出すことができる(例えば、Bondeら、2016)。当業者は、各負荷感知プロモーターについてリボソーム結合部位の4つのバリアントを構築し(Rugbjergら、2018、PNAS)、どのバリアントが選択された必須遺伝子による細胞増殖率の効果的調節を可能にするかを試験することによって、調節された必須遺伝子の翻訳強度のバランスをとることができる。バチルス・リケニフォルミス又は枯草菌における使用のための例示的なRBSを、表3.1に提供する。
【0063】
【表3】
【表4】
【0064】
II.vi 負荷感知プロモーターと翻訳制御エレメントの操作
選択される天然の負荷感知プロモーターは一般に、原核生物における天然の調節ORFの-1~-300bp領域(上流)及び真核生物における-1~-500bp領域に包含される。含まれなければならないコアプロモーター及びそれらの調節部位、例えば、σ32などの転写因子結合部位の配列境界は、共通の一般知識である(Nonakaら、2006)。翻訳制御エレメント/RBSは、選択されたプロモーター配列の調節特性の変化を避けるために、プロモーターの下流に付加され得る。
【0065】
II.vii 改善された生成レベル
本発明の微生物生成細胞の驚くべき利点は、非生成細胞と比較して増加した初期増殖率を有することに加えて、細胞が、操作された負荷依存性を欠く微生物生成細胞と比較して、多くの細胞分裂にわたり、大規模発酵中に顕著に改善された生産性を保持することである(実施例2でシミュレートされる;図6)。本発明の微生物生成細胞における負荷依存性によって与えられる驚くべき利点は、実施例2~5における微生物生成細胞によって合成される生成物の範囲によって例示されるように、合成される生成物の種類に関係なく得られる。
【0066】
一実施形態によれば、本発明の微生物生成細胞は、同じ回数の細胞分裂後の非負荷依存性生成細胞と比較して、単一細胞からの少なくとも20、25、30、35、40、45、50、55、60、70、100、150、250又は400回の細胞分裂後に改善された生成物の収率によって特徴付けられる。生成物の収率は、単位基質あたりに生成された生成物のモル又はグラムとして測定される。
【0067】
一実施形態では、生成レベルは、基準となる同じ回数の細胞分裂後の非負荷依存性生成細胞と比較して、単一細胞からの少なくとも50回の細胞分裂後に、少なくとも10、25、50、又は80%増加する。
【0068】
微生物細胞工場の操作における普遍的な実践は、異種経路の維持及び発現により生じることが知られている負荷を最小限に抑えることを目的としている。本発明は、細胞工場収量を改善するための直感に反する解決策を提供する。なぜならそれは、微生物細胞の増殖及び生存を、一定の負荷又は適応度コストの対象でありながら、その生成物を生成する細胞に依存させるからである。理論に束縛されることを望まないが、負荷の状態で生成細胞のみが増殖/生存できる、本発明の微生物生成細胞及びその子孫に課される選択圧は、最初に同系の細胞の開始集団における長期培養中に負荷の高い細胞サブ集団を漸進的に選択するのに役立ち得ると推測される。
【0069】
III.負荷依存性微生物生成株の細胞を調製する及び同定するための方法
本発明を行う好ましい方法では、負荷依存性微生物生成株を調製し、以下の工程により同定する。負荷感知プロモーターと必須遺伝子との間の最良の作用関係を得るために、選択された必須遺伝子を調節するための異なるRBSを有する異なる候補負荷感知プロモーターを調製し試験することが適切であり得る。
【0070】
III.i 特異的生成株における負荷感知プロモーター候補(複数可)の同定
表2に列挙した負荷感知プロモーターの候補が、試験される。あるいは、目的の特異的生成株において検出される特有の、正に分化する遺伝子転写産物が同定され;そのそれぞれのプロモーターが、候補の負荷感知プロモーターの供給源を提供する。好ましくはそのような分化遺伝子転写産物は、微生物生成株(生成中)の転写産物プロファイルを、対応する生成株に由来する単離された遺伝子又は非遺伝子エスケープ変異体バリアント(複数可)と比較することにより同定され、そのようなエスケープ変異体バリアントは、最大で50%低い生成速度により特徴付けられる。正に分化する遺伝子転写産物は、トランスクリプトミクスの使用により、例えば非生成/低生成のエスケープ変異体バリアントと比較して生産性の高い微生物生成細胞(複数可)から抽出された転写RNAのRNAシーケンシングにより同定できる。同定されたプロモーターは、微生物生成細胞において所与の必須遺伝子と組み合わせて試験されてよい。
【0071】
1以上の負荷感知プロモーターを同定するための方法が、実施例7で例示され、ここで上記プロモーター(複数可)は、試験のために選択された微生物生成細胞において必須遺伝子に作用可能に連結される。
【0072】
III.ii 増殖調節過程における負荷感知プロモーターの導入
一般的な負荷感知プロモーターの候補のリスト(表2)から又は同定された特異的負荷感知プロモーター(複数可)(IIIi参照)から選択される1以上のプロモーター(複数可)は、それを微生物生成細胞中の必須遺伝子に作用可能に連結することにより試験される。必須遺伝子の異なる翻訳強度は、同族の必須遺伝子に代替RBS配列を提供すること、ならびに異なる必須遺伝子を試験することにより同時に試験できる(IIii節に記載のとおり)。必須遺伝子は、微生物生成細胞に関して天然又は異種であり得る。
【0073】
必須遺伝子が天然遺伝子である場合、その同族天然プロモーターは、例えば、変異又は欠失事象によって破壊される(すなわち機能しなくなる)可能性があり、負荷感知プロモーター(すなわち、必須遺伝子に関して異種である)は次いで、標的導入によって天然必須遺伝子に作用可能に連結される。別の実施形態では、天然必須遺伝子プロモーターは、標的導入によって負荷感知プロモーターと置換される。
【0074】
微生物における遺伝子配列の標的導入に適切な方法は、細菌における組換え、例えば、大腸菌におけるラムダレッド組換えを含み、一方で相同組換えが、酵母及び糸状菌において使用できる。両方の概念を任意にCRISPRと組み合わせて使用して、遺伝子置換効率を高めることができる。
【0075】
III.iii バランスのとれた負荷感知と増殖調節のスクリーニング
必須遺伝子に作用可能に連結された挿入される負荷感知プロモーターを含む微生物生成細胞クローンを次いで、スクリーニングして、負荷感知プロモーターが増殖制御様式で必須遺伝子を調節するクローンを特定する。例えば、多数のそのようなクローン(例えば、8~96個のクローン)の増殖を、生成物生成が制御される条件下で(例えば、生成遺伝子が誘導可能な微生物生成株を用いて)、対応する非負荷依存性微生物生成株の細胞と比較する。
【0076】
両方の株による生成物生成が低い/存在しない条件下で細胞増殖を測定する場合、適切な負荷依存性生成クローンは、非負荷依存性生成株よりも著しく低い、好ましくは少なくとも5%低い増殖率を示すものである(実施例1、図2)。
【0077】
III.iv 非摂動中枢代謝及び生成代謝の検証
必須遺伝子の転写調節又は発現の変化は、生成遺伝子及び中心炭素又は窒素代謝の望ましくない間接的な撹乱をもたらし、生成物形成を損ない、ひいては負荷依存性微生物生成細胞における負荷を低下させ得る。そのようなクローンを除外するために、細胞増殖を、両方の株が生成物を合成する条件下で測定する。適切な負荷依存性生成クローンは、非負荷依存性生成株と同等の又はそれ未満の増殖率を示すものである(実施例2、図7に見られるように)。
【0078】
III.v 増殖率安定性のスクリーニング
上記の基準を満たすクローンは、少なくとも20回の細胞分裂のための培養により、例えば、連続継代及び増殖率の測定により、又はスケールアップ生成プロセスの様々な工程からの試料採取により、生成模倣条件下での増殖率安定性について試験される。適切な負荷依存性微生物生成細胞は、非負荷依存性生成株よりも低い増殖率を経時的に維持する(例えば、実施例2、図7)。
【0079】
IV.負荷依存性微生物生成株の細胞を用いる所望の生成物を生成するための方法
本発明の第2の態様は、
a.生成物を合成するように遺伝子操作された微生物生成細胞を提供する工程であって、上記細胞が、負荷感知プロモーターに作用可能に連結された必須遺伝子をさらに含み、上記プロモーターが、上記必須遺伝子に関して異種である、工程、
b.上記生成物の生成基質を含む培養培地中に遺伝子改変微生物細胞を導入する工程、
c.上記培養物により合成された上記生成物を回収する工程、
を含む所望の生成物を生成するための方法であって、
生成物の合成が、上記細胞に負荷及び/又は適応度コストを与え、上記必須遺伝子の発現が、上記負荷感知プロモーターが上記負荷及び/又は適応度コストによって誘導される場合に上記必須遺伝子の基礎レベルの発現に対して上方制御され、上記負荷依存生成株又はその子孫細胞における上記生成物合成の欠如が、上記細胞の増殖率を低下させる、方法に関する。
【0080】
IV.所望の生成物を生成するための負荷依存性微生物生成株の細胞の使用
本発明の第3の態様は、所望の生成物を生成するための本発明の負荷依存性微生物生成細胞の使用に関し、上記負荷依存性生成株又はその子孫細胞における生成物合成の欠如は、上記株の増殖率を低下させる。
【0081】
実施例
実施例1:組換えヒト成長ホルモンを生成する負荷依存性大腸菌株の操作
1.1 細胞工場による異種生成遺伝子の維持と発現は細胞に不自然な負荷をかける
親大腸菌BL21(DE3)細胞の増殖率を、緑色蛍光タンパク質(GFP)に融合された組換えヒト成長ホルモン(hGH)をコードする遺伝子を含むプラスミドpEG34で形質転換した、操作された誘導体と比較した。
【0082】
1.1.1 材料と方法
宿主株大腸菌BL21(DE3)の細胞(イェール大学の大腸菌遺伝子ストックセンター)を、エレクトロポレーション可能にし、標準的なエレクトロポレーション法(1800V、25μF、200 Ohms、1mmキュベット幅)によりプラスミドpEG34で形質転換し、クロラムフェニコールを含むLB寒天プレートに播種した。
【0083】
【表5】
【0084】
単一コロニー形質転換体の前培養物を、10分ごとにOD630で読み取りながらELx808プレートリーダー(Biotek)内で高速水平振盪しつつ37℃で、500μMのIPTG及び30mg/Lのクロラムフェニコールを含む200μLの2×YT培地(16g/Lのトリプトン、5g/LのNaCl、10g/Lの酵母エキス)上で96ウェルマイクロタイタープレート中にて培養した。OD630値は、最初の読み取りのOD630値を用いてバックグラウンドを差し引いた。
【0085】
1.1.2 結果
hGH-GFP発現プラスミドpEG34を含む大腸菌細胞は、それが誘導された親大腸菌宿主細胞よりも増殖が遅く(図1);合成構築物の維持及び発現に細胞資源を割り当てた結果として細胞に負荷(burden)又は負荷(load)が課せられたことを説明する。
【0086】
1.2 負荷依存性細胞工場の操作
親大腸菌宿主の負荷依存性株を、細胞工場内の生成細胞に選択的適応度の利点を与えるように設計した遺伝子回路を組込むように遺伝子操作した。具体的には、負荷感知プロモーター(pmutM、pyccV又はpycjX)を、大腸菌BL21(DE3)染色体内の必須遺伝子オペロンfolP-glmM天然プロモーターと置換した。遺伝子回路はさらに、プロモーターと必須遺伝子との間にRBSを含み、4つの異なるRBS(表3)が、必須遺伝子の発現レベルの調節について試験された。遺伝子回路を含む株の増殖率を、親宿主株大腸菌BL21(DE3)と比較した。
【0087】
1.2.1 材料と方法
負荷感知プロモーター:プロモーターのpmutM、pyccV又はpycjXを、表5に特定したプライマーと、鋳型として溶解した大腸菌BL21(DE3)細胞由来のゲノムDNAを用いてそれぞれの遺伝子(表3参照)のすぐ上流の0.3kb領域を増幅するPCRにより作製した。PCRミックス:10μlのMQ水、2μlのフォワードプライマー(10μM)、2μlのリバースプライマー(10μM)、1μlのDNA鋳型、15μlのPhusion U MasterMix(Thermo Scientific)。PCR反応プロトコル:95℃で180秒(1×);95℃で20秒、68~58℃(タッチダウン)で30秒、72℃で60秒(35×);72℃で300秒(1×);15℃で放置。
【0088】
【表6】
【0089】
USERクローニングを用いて、正しい組換え生成物を選択するためのkanR遺伝子と、folP遺伝子のすぐ上流の221bpと同一の221bpの標的配列を含む直鎖状1.5kbのDNA断片に融合された増幅プロモーター領域を含む組込み配列を作製した。増幅されたプロモーター領域とkanR-folP断片を、等モル量で混合し1μlの10×T4ライゲーション緩衝液(Thermo Scientific)及び0.75μlのUSER酵素(New England Biolabs)を合計10μlの反応量で添加することにより融合した。USER反応を、37℃で30分間置いた。反応物を次いで、室温で15分間置き、続いて0.75μlのT4 DNAリガーゼ(Thermo Scientific)を添加し、室温で30分間インキュベートした。プロモーター、KanR耐性遺伝子、及びfolP標的配列を含むそのような組込み配列の例は、配列表の配列番号140(s9_pmutM_folP)に見出すことができる。ライゲーションした生成物を次いで、PCR反応プロトコル:98℃で180秒(1×);85℃で20秒、72~68℃(タッチダウン)で30秒、72℃で60秒(35×);72℃で5分間(1×);15℃で放置、を用いて、プライマー「rev」(表5の特異的プロモーターによる)及びP493(表5)を用い約250ng/μlに増幅した。プライマーオーバーハングは、folP遺伝子座への組換えを指示するための50bpのfolP同一標的配列をもたらした。
【0090】
負荷依存性プロモーターの染色体組込み:プロモーターを、以下のように大腸菌BL21(DE3)細胞のゲノム内のfolP遺伝子の上流に組込んだ:テトラサイクリンを含む100mlの2×YT培地に、pSIM5-tetで予め形質転換され一晩培養した600μlのBL21(DE3)を播種した(Koskiniemiら、2011)。細胞を、30℃で培養し、OD600=0.20に達したときに、培養物を、42℃の振盪槽に15分間移して、pSIM5-tetに位置する組換え酵素を発現させた。培養物を次いで、2×冷50ml遠沈管に移し、4000gで10分間遠心分離し、上清を捨て、残りの細胞ペレットを、20mlの氷冷10%グリセロールで洗浄した。部分的に再懸濁させた細胞を次いで、4000gで6分間遠心分離した。上清を捨て、細胞ペレットを、20mlの氷冷10%グリセロールで洗浄した。部分的に再懸濁された細胞を、4000gで6分間遠心分離した、各細胞ペレットを、495μlの氷冷10%グリセロールに注意深く再懸濁し、プールした。90μlの再懸濁細胞を、それぞれ1μl(>250ng)の1つの負荷感知プロモーター組込み配列を含むエレクトロポレーションキュベットに添加した。細胞を、以下の設定:1800V、25μF、200 Ohms、1mmキュベット幅、でエレクトロポレーションした。900mlの2×YT培地を、エレクトロポレーション直後にキュベットに添加し、細胞を、1.5mlエッペンドルフチューブ中で、37℃で1.5時間回復させた。エレクトロポレーションした細胞を、組換えのための時間を可能にするために室温で一晩インキュベートした;その後、50mg/Lのカナマイシンを含むLB寒天プレートに播種し、37℃で一晩培養してpSIM5-tetの養生を確実にした。必須遺伝子座への正しい標的化を、プライマーP525及びP526を用いて検証した。一般的に、単一kanコロニーは、平均サイズ又はコロニーの集団よりも小さいサイズを有するものを選んだ。
【0091】
kanR選択コロニーのゲノムにおける負荷依存性プロモーター組込みを、Taq DNAポリメラーゼ及びfolPプロモーター領域を標的とするプライマーを用いるコロニーPCRにより検証した。さらに、選択したコロニーにおけるRBSの同一性を、サンガーシークエンシングにより決定した。
【0092】
その後、遺伝子回路を含む株の増殖率を、水平振盪しながら37℃で500μMのIPTGを補充した200μlの2×YT中で培養することにより、親宿主株大腸菌BL21(DE3)と比較した。
【0093】
1.2.2 結果
選択した負荷依存性大腸菌株の増殖率は、それらが由来する親大腸菌宿主と比較して、様々な程度に遅かった(図2;負荷依存性株s5.0#3、s7.0#8、及びs9.0#8の増殖を示し、必須遺伝子folP-glmMは、それぞれ負荷感知プロモーターpyccV、pycjX、及びpmutMによって制御される)。細胞増殖は必須folP-glmM遺伝子の発現レベルに依存するので、非生成負荷依存性株におけるそれぞれの負荷感知プロモーターによって促進される必須遺伝子発現のレベルは、野生型の親株のレベルでの増殖を支持するには不十分であると結論付けられ得る。
【0094】
これらの負荷依存性株における増殖率の観察される低下は、負荷依存性遺伝子回路を含む細胞工場集団の培養中に自発的に進化する非生成細胞に及ぼされ得るペナルティの尺度を提供する。ペナルティの程度は、選択したRBSの強度と組み合わせた負荷感知プロモーターの選択によって決定される。ペナルティが大きいほど、培養中に自発的に発生する低生成又は非生成バリアント(例えば、生成遺伝子中の変異に起因する)の「負の選択」の窓が広くなる。
【0095】
1.3 生成は負荷依存性細胞工場の増殖率を増加させる
非生成に対して増殖ペナルティを付与する負荷依存性大腸菌株(図2)を、生産性の高い負荷依存性細胞に対する選択的適応優位性を実証するための宿主株として用いた。
【0096】
1.3.1 材料と方法
生成された負荷依存性大腸菌株(s9.0#8;s5.0#3;及びs7.0#8)の最も増殖の遅いクローンを、エレクトロポレーション可能にし、標準的なエレクトロポレーション法(1800V、25μF、200 Ohms、1mmキュベット幅)によりそれぞれpEG34又はpEG0(表4)で形質転換し、クロラムフェニコール及びカナマイシンを含むLB寒天プレートに播種した。単一コロニー形質転換体を、クロラムフェニコールを含む2×YT培地で一晩培養し、次いで200μLの2×YT培地(500μMのIPTG、クロラムフェニコール)を含む96ウェルマイクロタイタープレートに播種するために用い、10分ごとにOD630で読み取りながらELx808プレートリーダー(Biotek)中で高速水平振盪しながら37℃で培養した。OD630値は、最初の読み取りのOD630値を用いてバックグラウンドを差し引いた。
【0097】
大腸菌株を各々プラスミドpEG34又はpEG0(表4)で形質転換し、それらの増殖率特性を、細胞がGFPに融合された組換えタンパク質hGHを合成するように誘導されたときに測定した。
【0098】
1.3.2 結果
folP-glmM必須遺伝子発現を制御する負荷感知プロモーターpmutMを含む負荷依存性株の大腸菌株s9.0#8は、親大腸菌BL21(DE3)株と比較した場合、試験した株の中で最も遅い増殖を示した(図2)。この対数増殖率の低下は、空のプラスミドBEG0で形質転換した大腸菌株s9.0#8の細胞とは対照的に、pEG34プラスミドで形質転換し組換えタンパク質hGH-GFPを発現するように誘導した大腸菌株s9.0#8の細胞において逆転された(図3)。これは、大腸菌株s9.0#8における負荷感知プロモーターpmutMが、組換えタンパク質hGH-GFPの合成によってもたらされる細胞への負荷(burden)又は負荷(load)によって誘導されることを示す。これは、次に、folP-glmM遺伝子の上方制御された発現および増強された対数増殖をもたらす。
【0099】
pEG34プラスミドを保有する負荷依存性株の大腸菌株s5.0#3、s7.0#8、及びs9.0#8の各々におけるhGH-GFPの合成は、対数増殖率の低下の逆転をもたらすだけでなく、さらにこれらの株の増殖率は、親大腸菌BL21(DE3)の増殖と区別がつかなかった(図4)。
【0100】
まとめると、この実施例は、負荷依存性遺伝子回路を用いて、タンパク質又は代謝産物の合成が負荷(burden)又は負荷(load)を構成するのに十分高い細胞工場のそれらの細胞に選択的適応度の利点を与えることができること、かつこの負荷(burden)又は負荷(load)が、細胞内の必須遺伝子に作用可能に連結された負荷感知プロモーターにより検出可能であることを示す。対照的に、負荷依存性細胞工場の培養中に自発的に出現する非生成バリアント細胞(例えば、生成遺伝子変異から生じる)は、それらの増殖が必須遺伝子の基礎発現によって支持される速度へと遅くなるので、負の選択圧を受ける。低下された増殖率は、それ自体が、細胞工場におけるそのようなバリアント細胞の頻度の増加を遅らせそれにより細胞工場の生産性の低下を経時的に遅らせるのに十分である。
【0101】
実施例2:ヒト成長ホルモンを生成する負荷依存性大腸菌株は増強された長期生成安定性を示す
負荷感知プロモーターは、組換えタンパク質hGH-GFPの細胞合成から生じる細胞内の負荷誘導状態を感知し、活性化され得るプロモーターであることが示されている。一旦活性化されると、負荷感知プロモーターは、非生成細胞と比較した場合に、細胞に選択的増殖の利点を与えるのに十分なレベルへと必須遺伝子folP-glmM発現を上昇させることが示されている。その同族の負荷感知プロモーターに応答して必須遺伝子発現のダイナミックレンジを最大化するために、負荷感知プロモーターを、異なる翻訳強度を与えるバリアントRBSコード配列(表3)とランダムに組み合わせる。
【0102】
負荷依存性遺伝子回路での使用に適する負荷感知特性を有するプロモーターは、シミュレートされた大規模生成条件下で培養した以下の操作した生成株によって例示されるように、ヒートショックプロモーター、DNA損傷応答性プロモーター、酸化ストレス応答性プロモーター及びrRNAプロモーターを含むことが示される。
【0103】
まず、ランダムバリアントRBSコード配列を保有する多数のクローンを、負荷感知プロモーターの各々について選択し、それらのhGH-GFP合成を、組換えhGH-GFP合成を経時的に上昇/保存する相対的能力を実証するために、多くの細胞分裂にわたって追跡した。
【0104】
2.1 材料と方法
負荷感知プロモーター:プロモーターのpyccV、pycjX、pibpA、pgrpE、pldhA及びpybbN、並びにそれらのそれぞれの組込み配列を、表6に特定したプライマーを用いて、実施例1.2.1に記載したPCR及びUSERクローニングにより作製し、一方で、ライゲーション生成物を、プライマー「rev」(表6の特異的プロモーターによる)及びP493(表5)を用いて増幅した。
【0105】
【表7】
【0106】
負荷依存性プロモーターの染色体組込み:プロモーターの各々を、以下のように、大腸菌株BEG34(プラスミドpEG34を保有する大腸菌BL21(DE3)に相当)のゲノム中のfolP遺伝子の上流に組込んだ。組換えプラスミドpSIM5-tetで予め形質転換した大腸菌株BEG34の細胞を、調製し、実施例1.2.1に記載したように、プロモーター組込み配列の各々でエレクトロポレーションにより形質転換した。記載したpSIM5-tetの組換えの及び養生の工程後に、同じプロモーター組込みを有するがランダムバリアントRBS配列を有する8つのクローンに対応する8つのコロニーを、各プレートから取った(表6参照)。各クローンを次いで、プラスミドpEG34の維持のためにクロラムフェニコールを補充した200μlの2×YTを含む96ウェルプレートのウェルに移した。各培養クローンの2μlを、96ウェルプレートを凍結する前に、実施例1.2.1に記載のコロニーPCRを介してプロモーター組込みを検証するために用いた。
【0107】
短期hGH-GFP生成スクリーニングアッセイ:凍結96ウェルプレートを解凍し、ピンレプリケーターを用いて、クロラムフェニコールを補充した200μLの2×YTを含む新しい96ウェルプレートに細胞を移した。このプレートを、Breathe-Easyシーリング膜(Sigma-Aldrich)で密閉し、SynergyH1プレートリーダー(Biotek)に入れ、37℃及び754rpmのリニアシェイクで一晩20時間置いた。各ウェルのOD(600nm)及びGFP蛍光(ex/em 485nm/528nm)を、20時間にわたって10分ごとに測定した。プレートを次いで、室温で通常の卓上プレートシェーカーに4時間置き、続いて、クロラムフェニコール及び0.5mMのIPTGを補充した200μLの2×YTを含む新しい96ウェルプレートに各ウェルからの2μL培養物を移した。新しい96ウェルプレートも同様に、Breathe-Easyシーリング膜(Sigma-Aldrich)で密閉し、SyngergyH1プレートリーダーに37℃で、754rpmのリニアシェイクで一晩20時間置いた。各ウェルのOD及びGFP蛍光を、20時間10分ごとに600nm及びex/em 485nm/528nmで測定した。翌日に2μL培養物を、クロラムフェニコール及び0.5mMのIPTGを補充した200μlの2×YTを有する新しい96ウェルプレートに移し、このプロセスを、合計で6日間毎日繰り返した。
【0108】
長期hGH-GFP生成アッセイ(図6):各負荷依存性hGH-GFP生成株から選択した単一コロニーを用いて、クロラムフェニコール及び0.5mMのIPTGを補充した4mLの2×YTを含む15mLのグライナー培養チューブに播種した。培養物を、250rpmの振盪テーブル上で、37℃で23時間増殖させた。各培養物の2μLを次いで、2000倍希釈液(約11回の細胞分裂に相当)で、同一条件下で新しいグライナー培養チューブに播種し、これらの方法の工程を、合計12シードについて繰り返した。各継代後に、培養物の200μL試料を採取して、SyngergyH1プレートリーダー(Biotek)でOD600及びGFP蛍光(ex/em 485nm/528nm)を測定することにより、hGH-GFP合成を決定した。
【0109】
長期hGH-GFP生成アッセイ(図8):各負荷依存性hGH-GFP生成株から選択した単一コロニーを用いて、クロラムフェニコール及び0.5mMのIPTGを補充した1.8mLの2×YTを有する24ディープウェルプレートに播種した。培養物を、200rpmの振盪テーブル上で、30℃で23時間増殖させた。各培養物の2μLを次いで、1000倍希釈液(約10回の細胞分裂に相当)で、同一条件下で新しいディープウェルプレートに播種し、これらの方法の工程を、合計9シードについて繰り返した。各継代後に、培養物の200μL試料を採取して、SyngergyH1プレートリーダー(Biotek)でOD600及びGFP蛍光(ex/em 485nm/528nm)を測定することにより、hGH-GFP合成を決定した。
【0110】
選択した株の増殖率測定:選択した高hGH生成株、s3.6#2、s6.6#6、s7.6#8及びs10.6#7を、クロラムフェニコール及びカナマイシンを含むLB寒天プレート上に画線した。BEG34及びBEG0株を、クロラムフェニコールを含むLB寒天プレート上に画線した。各プレートからの7つのコロニーを用いて、クロラムフェニコールを補充した200μlの2×YTを含む96ウェルプレートに播種した。これをBreathe-Easyシーリング膜(Sigma-Aldrich)で密閉した。それらの増殖を、SyngergyH1プレートリーダー(Biotek)で、37℃及び754rpmのリニアシェイクで一晩測定した。各ウェルからの2μl試料を、クロラムフェニコール及び0.5mMのIPTGを補充した200μlの2×YTを含む新しい96ウェルプレートのウェルに移した。96ウェルプレートを、Breathe-Easyフィルムで密閉し、37℃、754rpmのリニアシェイクで20時間インキュベートし、増殖(OD600nm)を、SyngergyH1プレートリーダーを用いて10分ごとに測定した。
【0111】
株のカタログ:
BEG34=pEG34を保有する大腸菌BL21(DE3);
BEG0=空のプラスミドpEG0を保有する大腸菌BL21(DE3)
sX.Z#Y=負荷依存性プロモーターXと交換したwt folPプロモーターを有するpEG34を保有する大腸菌BL21(DE3)であり、Xは表2のプロモーターIDを指す。#後の数Yは、縮重プライマーにより導入された4つのRBSバリアントのプールから選択されたクローンを示す(表7)。Zは、それぞれhGH-GFP(0又は6)、メバロン酸(1)、リゾスタフィン(4)の生成遺伝子を指す。
【0112】
【表8】
【0113】
2.2 結果
2.2.1 短期hGH-GFP生産性スクリーニング:ヒートショックプロモーターの群から選択される負荷感知プロモーター(pibpA、pgrpE、pycjX、及びpybbN)を含み、かつ4つのRBSコード配列バリアントのうちの1つを有する4つのhGH-GFP生成株の生産性を、以下のように、シミュレートした大規模生成条件下で試験した。これらの株を、6日間連続して毎日100倍逆希釈により連続継代し、これはシード当たり約6世代に相当した。6日目(シード6)までに、いくつかの株は、シード1とシード6の間の両方において、非負荷依存性生成株BEG34と比較して上昇したhGH-GFP合成を示した。BEG34株と比較して高い短期hGH-GFP生産性を有する株は、s3.6#2(pibpA)、s6.6#6(pgrpE)、s7.6#8(pycjX)、及びs10.6#7(pybbN)である-図5を参照されたい。
【0114】
2.2.2 向上された長期hGH-GFP生産性:負荷依存性株s3.6#2、s6、6#6、s7.6#8、s10.6#7、及び非負荷依存性株BEG34及び非生成株BEG0のhGH-GFP生産性を、連続移動によるシミュレートした大規模発酵下で監視した。シード2後に、負荷依存性株s3.6#2、s6.6#6、s7.6#8、s10.6#7及び非負荷依存性対照株BEG34は、hGH-GFP合成に関して同様に良好に機能した(図6)。しかし、さらに約20世代(シード4)後に、対照株BEG34によるhGH-GFP生産性は、かなり低下した。シード6までに、株は、実質的に生成を停止した。驚くべきことに、負荷依存性株s7.6#8(folP-glmMを制御するpycjXを有する)は、依然としてシード2レベルの約50%の生産性を保持していた。さらに、負荷依存性株s3.6#2(folP-glmMを制御するpibpAを有する)、s10.6#7(folP-glmMを制御するpybbNを有する)、及びs6.6#6(folP-glmMを制御するpgrpEを有する)もまた、非負荷依存性株BEG34と比較して著しく優れた長期生産性を示した。
【0115】
2.2.3 負荷依存性株の増殖率:負荷依存性株s3.6#2、s6.6#6、s7.6#8及びs10.6#7を生成するhGH-GFPの増殖率は、非負荷依存性hGH-GFP生成株BEG34よりも高くない。したがって、それらの経時的に改善されたhGH-GFP生成レベルは、単に初期生成レベルの低下、ひいては本質的により低い負荷のせいではない(図7)。
【0116】
2.2.4 選択された必須遺伝子に対する負荷依存性遺伝子回路の依存性:必須遺伝子folP-glmMを制御するヒートショックプロモーターpfxsAを含むhGH-GFP生成負荷依存性株(s13.6#2(fxsA))を、その増殖がglmM発現にのみ依存した、folP発現を消失させるフレームシフトfolPを含む変異誘導体株s13.6#2evo(fxsA)と比較した。folP発現の喪失は複合2×YT培地におけるより低い増殖率(データ示さず)をもたらしたが、必須遺伝子glmM単独は、非負荷依存性hGH-GFP生成株BEG34と比較した場合、負荷依存性株s13.6#2evo(fxsA)において、株s7.6#8(pycjX)に匹敵するレベルで向上した長期hGH-GFP生成安定性を与えるのに十分であると示される(図8)。
【0117】
2.2.5 負荷依存性遺伝子回路におけるリボソームRNAプロモーターの使用:ヒートショックプロモーターに加えて、prrnB及びprrnEなどのリボソームRNAプロモーターは、細胞内の負荷依存性状態を感知し、それに応答して、hGH-GFP生成株における長期生産性を高めることなどの必須遺伝子発現を制御できることが示されている。図9に見られるように、株s15.6.7(prrnB)及びs16.6.6(prrnE)におけるhGH-GFP生成の長期安定性は、非負荷依存性hGH-GFP生成大腸菌株BEG34と比較した場合、約110回の細胞分裂に相当するシミュレーションした大規模生成下で顕著に向上した。
【0118】
2.2.6 負荷依存性遺伝子回路における酸化ストレス感知プロモーターの使用:ppoxBなどの酸化ストレス感知プロモーターは、細胞内の負荷依存性状態を感知し、それに応答して、hGH-GFP生成株における長期生産性を高めることなどの必須遺伝子発現を制御できることが示されている。図10に見られるように、s29.6#3(ppoxB)株におけるhGH-GFP生成の生成レベルと長期安定性の両方は、約90世代に相当する7つの連続継代のシミュレートした大規模生成下及び最後のシードの時間延長培養で、非負荷依存性hGH-GFP生成大腸菌株BEG34と比較した場合に顕著に増加した。図10に見られるように、ppoxBに基づく負荷依存性遺伝子回路を用いる生成は驚くべきことに、経時的に生成の上昇をもたらし、集団における非遺伝子高性能バリアントの富化を示す。
【0119】
まとめると、この実施例は、負荷依存性が、大腸菌ヒートショックプロモーター、酸化ストレス応答性プロモーター及びDNA損傷応答性プロモーター並びにrRNAプロモーターのいずれか1つに必須遺伝子folP-glmM転写を結びつけることによりGFPに融合されたヒト成長ホルモンを合成するように操作された大腸菌株において、長期安定性及び生成を増強することを示す。
【0120】
実施例3:リゾスタフィンを生成する負荷依存性大腸菌株は増強された長期生成安定性を示す
リゾスタフィンは、黄色ブドウ球菌の細胞壁ペプチドグリカンにおける架橋ペンタグリシン架橋を切断し細胞溶解をもたらす、27kDaのエンドペプチダーゼである。この抗菌剤は、大腸菌で組換え合成できる。負荷感知特性を有するプロモーターを含む負荷依存性遺伝子回路は、シミュレートした大規模生成条件下でリゾスタフィンを生成する以下の負荷依存性大腸菌株によって示されるように、リゾスタフィンを合成するように操作されたそのような大腸菌株の生成安定性を高めることが示されている。負荷依存性生成株の生産性はさらに、負荷感知プロモーターがRBS配列(表6)と組み合わされ、同族必須遺伝子の最適化された翻訳強度を与える株を選択することにより最適化されることが示されている。これらの利点は、リゾスタフィン発現に起因する負荷又は適応度コストへの依存性による生成の喪失に対してより復元力のある、以下に記載の負荷依存性株s6.4#5(pgrpE)によって例示される。
【0121】
3.1 材料と方法
負荷感知プロモーター:プロモーターpgrpEを含むプロモーター組込み配列を、表6で特定したpgrpE特異的プライマーを用いて、PCRによりpgrpEプロモーターを増幅することにより、実施例1.2.1に記載したように作製した。
【0122】
負荷依存性プロモーターの染色体組込み:grpEプロモーターを、以下のように、大腸菌株BENDU5cam(リゾスタフィン生成プラスミドpENDU5camを保有する大腸菌BL21(DE3)に相当)のゲノム中のfolP-glmM遺伝子の上流に組込んだ。組換えプラスミドpSIM5-tetで予め形質転換した大腸菌株BENDU5camの細胞を、実施例1.2.1に記載したように、調製し、pgrpEプロモーター組込み配列でエレクトロポレーションにより形質転換した。pSIM5-tetの組換え及び養生の記載された工程後に、同じプロモーター組込みを有するがランダムバリアントRBS配列を有するクローンに対応する、5つのコロニーを選んだ(表6参照)。各クローンを次いで、プラスミドpENDU5camの維持のためにクロラムフェニコールを補充した4mLの2×YTを含む15mLのグレイナー培養管に移し、培養した。各培養クローンの2μlを、凍結する前に、実施例1.2.1に記載のようにプロモーター組込みを検証するために用いた。
【0123】
リゾスタフィン生成スクリーニング:最も高いリゾスタフィン生産性を有する大腸菌株s6.4#5(pgrpE)を、非負荷依存性生成株BENDU5camと比較してRBS及びpgrpEの3つの他の可能性のある組み合わせを1000倍希釈の6つの連続継代(60世代に相当)にわたって96ウェルフォーマットでクロラムフェニコールを補充した2×YTで培養する、スクリーニングアッセイを用いて特定した。株を、37℃で21時間15mL培養チューブ中の30mg/Lのクロラムフェニコール含有2×YT培地3mLで、増殖させた。培養物の150μLを、50μlの50%グリセロールと混合し、-80℃の96ウェルプレート中で保存した。さらに、培養物の30μLを、クロラムフェニコールを補充した3mlの新鮮な2×YT培地に移し、同一条件でさらに21時間増殖させ、合計5回の移送を繰り返し、各移送で一晩の培養物から凍結ストックを作製した。
【0124】
リゾスタフィン発現及び検出アッセイ:5回の移動からの全ての凍結ストックを含む96ウェルプレートを、氷上で解凍した。各ウェルから20μLを、クロラムフェニコールを補充した180μlの2×YTを含む96ウェルプレートに移し、ほとんどのウェルがOD630=0.35に達するまで、プレートリーダー内で、37℃で培養増殖させた。次いで、30mg/Lのクロラムフェニコール及び20mMのIPTGを補充した10μlの2×YTを、リゾスタフィン遺伝子発現を誘導するのに十分である最終濃度1mMのIPTGへと各ウェルに添加した。誘導した培養物を、37℃で4時間増殖させ、プレートを次いで、4000RPMで10分間遠心分離した。100μlの上清を、黄色ブドウ球菌の一晩培養物100μlを含む新しい96ウェルプレートに移した。各ウェル中の黄色ブドウ球菌溶解を、37℃で、プレートリーダーにてOD630で10分ごとに2時間監視した。黄色ブドウ球菌溶解率を、変化が生じた60分の時間枠により黄色ブドウ球菌のODの変化を割ることにより、定量した。以下に方程式を見ることができる:
【数1】
【0125】
特異的リゾスタフィン合成速度を、それぞれの生成大腸菌培養物の最終OD630測定値に測定速度を正規化することにより求めた。
【0126】
3.2 結果
grpEプロモーター及び必須遺伝子folP-glmMの発現を制御する4つのRBSコード配列バリアントの1つを有する負荷依存性リゾスタフィン生成株を、連続継代することによって達成されるシミュレートした大規模生成条件下で培養した。図11に見られるように、株s6.4#5(pgrpE)は、非負荷依存性リゾスタフィン生成BENDU5cam株に見られる生成の急激な低下と比較して、顕著により高いレベルのリゾスタフィン生成を維持した。シード0におけるs6.4#5(pgrpE)及びBENDU5cam株の初期リゾスタフィン生成速度は同じであったので、s6.4#5(pgrpE)の生成速度におけるより小さい低下は、リゾスタフィン生成からの本質的により低い初期負荷のせいではない。
【0127】
要約:負荷依存性は、大腸菌ヒートショックプロモーターpgrpEに必須遺伝子folP-glmM転写を結びつけることにより、分泌リゾスタフィンを合成するように操作された大腸菌における長期安定性及び生成を増強することを実証した。
【0128】
実施例4:メバロン酸を生成する負荷依存性大腸菌株は増強された長期生成安定性を示す
大腸菌BL21(DE3)細胞を、グルコースをアセチル-CoAプールを介してメバロン酸に変換する異種3段階酵素経路(Martinら、2003)を発現するプラスミドpMevTを導入することによりメバロン酸を合成するように操作した。負荷感知特性を有し必須遺伝子の転写を制御するプロモーターを含む負荷依存性遺伝子回路は、シミュレートされた大規模生成条件下でそのようなメバロン酸生成大腸菌株の生成安定性を増強することが示されている。負荷依存性生成株の生産性は、負荷感知プロモーターをRBSコード配列と組み合わせて(表5)、同族必須遺伝子の最適化した翻訳強度を与える株を選択することによってさらに最適化されることが示されている。具体的には、folP-glmM転写を制御する負荷依存性プロモーターpcspD(酸化ストレス及びグルコース飢餓感知プロモーター)、又はpmutM(ヒートショック/DNA損傷感知プロモーター)を含むメバロン酸生成株は両方とも、メバロン酸生成に起因する転写シグナルへの依存性のため、非負荷依存性株よりも生成喪失に対してより回復力があることが示されている。
【0129】
4.1 材料と方法
負荷感知プロモーター:プロモーターpmutM及びpcspDを含むプロモーター組込み配列を、実施例1.2.1に記載したように、表8で特定したpmutM及びpcspD特異的プライマーを用いて、PCRによりpmutM及びpcspDプロモーターを増幅することにより作製した。
【0130】
【表9】
【0131】
負荷依存性プロモーターの染色体組込み:pmutM及びpcspDを、以下のように、リゾスタフィン生成プラスミドpMevTを保有する大腸菌BL21(DE3)pMevTの細胞のゲノム中のfolP-glmM遺伝子の上流に個々に組込んだ。組換えプラスミドpSIM5-tetで予め形質転換した大腸菌株BL21(DE3)pMevTの細胞を、調製し、実施例1.2.1に記載したように、各々のプロモーター組込み配列でエレクトロポレーションにより形質転換した。pSIM5-tetの組換え及び養生の記載された工程後に、同じプロモーター組込みを有するがランダムバリアントRBS配列を有するクローンに対応する、5つのコロニーを選んだ(表8参照)。各クローンを次いで、プラスミドpMevTの維持のためにクロラムフェニコールを補充した200μlの2×YTを含む96ウェルプレートのウェルに移し、培養した。各培養クローンの2μlを、96ウェルプレートを凍結する前に、実施例1.2.1に記載したようにプロモーター組込みを検証するために用いた。
【0132】
メバロン酸生成スクリーニング:最高のメバロン酸生産性を有する大腸菌株s19.1.1(pcspD)及びs9.1.4(pmutM)を、以下のように、非負荷依存性生成大腸菌株BL21(DE3)pMevTと並行して、RBSとプロモーターの他の4つの潜在的な組み合わせを含む株を1000倍希釈の6つの連続継代(60世代に相当)にわたって96ウェルプレートで培養する、スクリーニングアッセイを用いて同定した。これらの株を、水平振盪しながら21時間37℃で、breathe-easyシールで密閉したマイクロタイタープレート中の30mg/Lのクロラムフェニコール及び0.5mMのIPTGを含む200μLの2×YT培地中で増殖させた。150μLの培養物を50μlの50%グリセロールと混合し、-80℃で、96ウェルプレート中で保存した。さらに、10倍希釈した培養液の2μlを、クロラムフェニコール及び0.5mMのIPTGを補充した新鮮な200μLの2×YT培地に移し、同一条件下でさらに21時間増殖させた。合計で、上記の1つと同一の5回の移送を行い、凍結ストックを、各移送で一晩培養物から作製した。
【0133】
メバロン酸合成及び検出アッセイ:第2、第5及び第6の移動からの凍結ストックを含む96ウェルプレートを、氷上で解凍し、0.5mMのIPTG及び30mg/Lのクロラムフェニコールを有する10mLの2×YTに播種するために使用し、水平振盪(250rpm)で、37℃で54時間培養した。各培養物からの300μLアリコートを、23μLの20%硫酸で処理し、激しく振ってから、13000×gで2分間スピンダウンした。上清(培地)試料を、50℃でAminex HPX-87Hイオン排除カラム(300mm × 7.8mm、Bio-Rad Laboratories)にて5mMの硫酸移動相(0.6mL/分)で実行するUltimate 3000高速液体クロマトグラフィーに注入した。屈折率検出器を、検出に用いた。メバロン酸の標準曲線を、同じ条件下でインキュベートした非生成大腸菌株の2×YT培地上清に溶解したメバロノラクトン(Sigma-Aldrich)を用いて、作成した。
【0134】
4.2 結果
cspD又はpmutMプロモーター及び必須遺伝子folP-glmMの発現を制御する4つのRBSコード配列バリアントの1つを有する負荷依存性メバロン酸生成株を、連続継代によって達成される、シミュレートした大規模生成条件下で培養した。図12に見られるように、選択した負荷依存性株s19.1.1(pcspD)及びs9.1.4(pmutM)の両方は、非負荷依存性メバロン酸生成株BL21(DE3)pMevTに見られる生成の急激な低下と比較して、顕著により高いレベルのメバロン酸生成を保持した。各負荷依存性株の初期メバロン酸生成速度は、シード0における対照BL21(DE3)pMevT株と同じであったので、株s19.1.1(pcspD)及びs9.1.4(pmutM)の生成速度におけるより小さい低下は、メバロン酸生成による本質的により低い初期負荷のせいではない。
【0135】
要約:負荷依存性は、大腸菌酸化ストレス及びグルコース飢餓感知プロモーターpcspD、及びヒートショック/DNA損傷感知プロモーターpmutMに必須遺伝子folP-glmM転写を結びつけることにより、メバロン酸を合成するように操作された大腸菌における長期安定性及び生成を増強することが実証される。
【0136】
実施例5:操作された組換えタンパク質生成の負荷に酵母細胞を依存させるための負荷センサーとしてのプロモーターの評価
タンパク質又は生合成経路の組換え発現によってもたらされる細胞への負荷(burden)又は負荷(load)を感知でき、次いで必須遺伝子の発現を誘導するプロモーターを用いて、酵母での使用に合わせた負荷依存性遺伝子回路を作製できる。候補プロモーターを評価するための方法は、組換えヒト血清アルブミン(hSA)又はインスリン前駆体(IP)を合成し、任意に緑色蛍光タンパク質(GFP)に翻訳的に融合されるように遺伝子操作された酵母細胞において例示される。
【0137】
候補の負荷感知プロモーターの活性に応答性のある増殖をさせるために、酵母の出芽酵母における必須遺伝子の天然プロモーターを、標準的な選択マーカーを用いて酵母細胞に形質転換する直鎖状DNA構築物の相同組換えを用いて候補プロモーターと遺伝子置換する。例として、候補プロモーターは、RNAポリメラーゼIによって転写されるもの(Laferteら、2006)、DNA損傷感知プロモーター(例えば、pOGG1)、及びHAC1転写因子によって上方制御される非折り畳みタンパク質応答プロモーター(Kimataら、2006)などのリボソームRNA遺伝子の上方制御プロモーターから選択され得る。負荷感知プロモーターが、一旦活性化されると、非感知プロモーターと比較して選択的増殖利点を細胞に付与することを確実にするために、必須遺伝子の発現レベルを微調整することが必要である場合がある。様々な翻訳強度は、負荷感知プロモーターと共に導入される翻訳開始領域を変えることによって操作できる。
【0138】
候補の負荷感知プロモーターの潜在的に異なる組み合わせを有するクローンを、選択し、30~100回の細胞分裂にわたり維持されるタンパク質生成について評価する。
【0139】
5.1 材料と方法
増殖培地:YPD培地は、1%酵母エキス、2%ペプトン、2%グルコースを含む。SC培地は、アミノ酸を含まず、硫酸アンモニウムを含む6.7g/Lの酵母窒素塩基を含むが、ウラシルを欠く。
【0140】
染色体組込み及びプロモーター構築物の検証:染色体組込みのための構築物は、自然に調節される遺伝子の上流の300~600bpを含む。プロモーター構築物の染色体組込みは、出芽酵母の標準的なエレクトロポレーション手順を用いる形質転換及び相同組換えによって行われる。プロモーターの正しい染色体組込みを、コロニーPCRを用いて検証した。
【0141】
長期培養及び生成:各株からの単一コロニーを、24ディープウェルプレートに移し、250rpm及び30℃で、組換えタンパク質生成を誘導する条件下にて1.8mLのYPD培地中で培養する。48時間の培養後に、細胞を、1000倍逆希釈により同一条件下で新しいディープウェルプレートへ継代する。試料を、組換えタンパク質特異的アッセイ(例えば、GFP検出)を用いて生成について分析し、細胞密度を、OD600により監視する。
【0142】
選択した株の増殖率測定:個々の株の増殖率を、非負荷依存性生成株と比較する。96ウェルプレートを、breathe-easyフィルムで密閉し、増殖を、37℃及び754rpmのリニアシェイクで20時間SyngergyH1プレートリーダーで測定する。OD600を、10分ごとに測定する。
【0143】
5.2 結果
5.2.1 HAC1上方制御プロモーター
非折り畳みタンパク質応答(UPR)エレメントを含むHAC1上方制御プロモーター、例えば、KAR2(配列番号91)、PDI1(配列番号92)、SSA1(配列番号93)又はFPR2(配列番号94)は、任意にGFPに連結されるヒトインスリン前駆体又はヒト血清アルブミンを生成する組換えタンパク質生成サッカロミセス株において天然の増殖調節遺伝子(例えば、ピリミジン生合成に必須のオロチジン5'-リン酸脱炭酸酵素をコードする条件付き必須遺伝子URA3)の前に導入された場合に、増殖を調節するのに有用であることが実証されている。生成の安定性を、60~80回の細胞分裂に対応する連続継代によりシミュレートされる長期生成下で、追跡する。増殖調節遺伝子(URA3)の転写を制御するHAC1上方制御プロモーターを含むサッカロミセス株において、生成は、対応する親組換えタンパク質生成サッカロミセス株よりも安定であると予想される。
【0144】
5.3.2 RNAポリメラーゼI上方制御プロモーター
RNAポリメラーゼIは、酵母においてリボソームRNA遺伝子を転写する。遺伝子のプロモーター:RPL3(配列番号95)、RPL6A(配列番号96)及びRPL28(配列番号97)などのRNAポリメラーゼI上方制御プロモーターは、酵母必須遺伝子の増殖を調節することにおいて有用である。そのような上方制御プロモーターは、おそらくGFPに連結される、ヒトインスリン前駆体又はヒト血清アルブミンを生成する組換えタンパク質過剰生成株において、天然の増殖調節遺伝子(例えば、条件付き必須遺伝子URA3)の前に導入される。生成の安定性を、60~80回の細胞分裂に対応する連続継代により実験的にシミュレートされる長期生成により追跡する。条件付き必須遺伝子の転写を調節するRNAポリメラーゼI上方制御プロモーターURA3を含むサッカロミセス株において、生成は、対応する親組換えタンパク質生成サッカロミセス株よりも安定である。
【0145】
5.3.3 DNA損傷応答性プロモーター
異種発現から生じる酵母におけるDNA損傷応答は、OGG1(配列番号98)、RAD51(配列番号99)及びRAD54(配列番号100)を含む、DNA修復システムの転写を広く誘導する。OGG1、RAD51又はRAD54をコードする遺伝子のプロモーターは、必須遺伝子に作用可能に連結される場合、本発明の酵母生成細胞の増殖を調節するのに有用である。そのようなプロモーターは、任意にGFPに融合される、ヒトインスリン前駆体又はヒト血清アルブミンを生成する酵母タンパク質生成株の細胞において天然の必須遺伝子(例えば、URA3をコードする増殖調節遺伝子)の前に導入される。
【0146】
生成の安定性を、60~80回の細胞分裂に対応する連続継代によりシミュレートされる長期生成により追跡する。pRAD51及び/又はpRAD54上方制御される必須遺伝子を有する株において、生成はより安定である。
【0147】
要約:負荷依存性は、組換えタンパク質生成の負荷の間に活性化されるプロモーター又はリボソームRNAプロモーターと関連付けられるプロモーターから選択される負荷感知プロモーターに必須遺伝子転写を結びつけることにより、ヒト血清アルブミン生成又はインスリン前駆体を合成するように操作された出芽酵母の細胞における長期安定性及び生成を増強する(表2)。
【0148】
実施例6 増強された長期生成安定性を示すヒト血清アルブミンを生成する負荷依存性酵母株の例
酵母株で使用するための負荷依存性システムは、1)出芽酵母及びピキア・パストリスなどの酵母の非折り畳みタンパク質応答に属するシャペロンをコードし、その存在量が組換えタンパク質の過剰発現に応答して頻繁に上方制御される、タンパク質イソメラーゼPDI1;2)RPL6A及びRPL3遺伝子によりコードされるリボソームサブユニット、並びに3)DNA複製ストレス時に活性化されることが知られているペプチジル-プロリルシストランスイソメラーゼをコードするFPR2、をコードする遺伝子に由来するプロモーターを含む。これらのプロモーターに基づく負荷依存性システムを、長期ヒト血清アルブミン(hSA)生成安定性に対するそれらの効果を決定するために、ヒト血清アルブミンを発現する及び分泌するように操作されたピキア・パストリスの株に導入した。
【0149】
6.1 材料及び方法:
ピキア・パストリス(Komagataella phaffii)株EGS31は、AOX1プロモーターの制御下で、ALB1遺伝子をコードするhSAのゲノム組込みcDNAバージョンによってhSAを分泌するように操作された、CBS7435株(NRRL-Y11430又はATCC 76273)の誘導体である。
【0150】
株の構築:EGS31株の負荷依存性バージョンを、負荷応答性プロモーター:pPDI1、pFPR2、pRPL3及びpRPL6Aの1つに作用可能に連結されたkanMX条件付き選択可能なG418耐性遺伝子を含む構築物を遺伝子組込みによって作製した。これらの負荷依存性構築物を、>750bp相同性アームが隣接する直鎖状の組込みDNA(それぞれ配列N1~N3)でEGS31細胞を形質転換することによってピキア・パストリス株のKU70ゲノム遺伝子座に組込んだ。形質転換を、酢酸リチウム及びジチオスレイトールで前処理した対数増殖細胞に対して標準的なエレクトロポレーション手順を用いて行った(Wu&Letchworth、2004)。
【0151】
表:ピキア・パストリスに導入された組換え遺伝子と負荷依存性構築物
【表10】
【0152】
増殖培地:BMGY及びBMMY液体培地(1L)を、以下のように調製した:10gの酵母エキス及び20gのペプトンを、700mLのHOに添加し、マグネットスターラーを用いて混合し、次いでオートクレーブ処理した。室温に冷却した後、以下のものを溶液に添加した:100mlの1M リン酸カリウム緩衝液(pH6.0);アミノ酸を含まず、硫酸アンモニウムを含む100mlの13.4%(w/v)の酵母窒素ベース;2mlの0.02%(w/v)ビオチン、及びBMGYの場合には、100mlの10%(v/v)グリセロールを添加した。BMMYの場合には、100mlの5%(v/v)メタノールを添加した。
【0153】
培養:EGS31株及び負荷依存性EGS31株を、YPD(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%D-グルコース)寒天プレート上に画線し、30℃で一晩インキュベートした。単一コロニーを、選択し、2mLのBMGYで前培養し、負荷依存性株の培養物に50μg/mLのG418を補充し、一晩、300rpmの水平振盪で、30℃で培養した。発現培養物を、通気蓋付きの96ウェルのディープウェルプレート中の異なる濃度(0μg/mL、750μg/mL)のG418を含む500μLのBMMY培地に1μLの前培養を用いて播種して、「シード1」を作製した。
【0154】
培養物を、30℃で72時間インキュベートした(300rpm水平振盪)。次のシードを作製するために、さらに4回、増殖培養物を、通気蓋付きの96ウェルのディープウェルプレート中の異なる濃度(0μg/mL、750μg/mL)のG418を含む新しい500μLのBMMY培地に連続継代した(500倍希釈)。各連続継代において、グリセロールストック(20%グリセロール)を、増殖培養物から-80℃で保存した。
【0155】
分泌されたhSAの生成を定量するために、定量培養物を、通気蓋付きの96ウェルのディープウェルプレート中の異なる濃度(0μg/mL及び750μg/mL)のG418を含む500μLのBMMY培地中でグリセロールストックから72時間再増殖させた。
【0156】
培養物を、3000gで15分間遠心分離し、50μLの上清中の濃度を、製造業者の指示に従いhSA特異的ELISAキット(Abcamカタログ番号:ab179887:ヒトアルブミンSimpleStep ELISA(登録商標)キット)を用いて定量した。
【0157】
6.2 結果
選択可能なkanMX遺伝子に作用可能に連結された、ゲノムに組込まれた負荷依存性プロモーターPDI1を有する株は、G418の添加により株の負荷依存性システムを活性化した場合に、分泌型hSAのより高い生成を示した(図13)。さらに、改善されたhSA生成が、約30回の細胞分裂後に試験した他の負荷依存性プロモーターの各々について、より高い選択(750μg/mLのG418)で見られた(図14A-シード1)。さらに約10回の細胞分裂でさらに培養した場合(図14B-シード2)、これらの株は、非負荷依存性対照及び負荷依存性活性化されていない株(0μg/mLのG418)と比較して、負荷依存性が活性化されると(150~750μg/mLのG418)、hASの増強された生成レベルを示す。
【0158】
結論として、本発明の例示した負荷依存性システムを含む酵母細胞の培養は、それらのそれぞれの負荷依存性システムを活性化する条件下で、培養集団内で高生成酵母バリアントを富化すると考えられる。hSA生成の増加は比較的短い培養(30回の細胞分裂)後に検出可能であり得るが、高生成酵母バリアントの濃縮は、伝統的な培養が一般に生産性の著しい低下を示す場合、より長い培養期間にわたって維持され、さらに増強される。
【0159】
実施例7 適切な負荷感知プロモーター候補の同定
操作した異なる生成遺伝子及び経路は、生成プロセスを示す異なる転写応答を惹起する。負荷センサーとして使用するのに適切なプロモーター候補を同定するために、以下の実験を行った。
【0160】
方法:典型的な遺伝子エスケーパー細胞を、意図した発酵培地中で目的の遺伝子操作された微生物生成細胞を用いる長期培養から単離した。適切な遺伝子エスケーパー細胞は、元の遺伝子操作された生成細胞よりも少なくとも5%高い対数期増殖率及び少なくとも30%低い生成率又は生成収量を有することにより特徴付けられる。
【0161】
生成細胞及び対応するエスケーパー細胞を、意図した発酵条件下、意図した発酵条件を模倣するスケールダウン条件又は振盪フラスコ条件下で培養した。生成細胞における最高生成率に対応する時点で、試料を、RNAシークエンシングのために採取した。全RNAを、キットの製造業者の指示に従いPurelink RNAミニキット(Thermo Fischer)を用いて精製しTruSeq Stranded mRNAキット(Illumina)を用いて調製した。読み取り情報を、株の参照ゲノムにマッピング及び解析し、次に、生成細胞と対応するエスケーパー細胞との間の差次的発現について解析した。
【0162】
結果:候補の適切なプロモーターを、少なくとも1つの単離した遺伝子エスケープ株に対し生成生物中で3倍超高い発現の差次的発現を示した、遺伝子の発現を促進するものとして同定した。

参考文献
【表11】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
【配列表】
2023526147000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-11-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2023526147000001.app
【国際調査報告】