(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】(二元)金属硫化物ポリマー複合材料、および水素製造のための触媒としてのその使用
(51)【国際特許分類】
C08L 65/00 20060101AFI20230614BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20230614BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20230614BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20230614BHJP
B01J 37/12 20060101ALI20230614BHJP
B01J 37/06 20060101ALI20230614BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230614BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230614BHJP
C25B 1/55 20210101ALI20230614BHJP
C25B 9/50 20210101ALI20230614BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20230614BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20230614BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20230614BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20230614BHJP
C25B 11/095 20210101ALI20230614BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20230614BHJP
C01B 17/20 20060101ALI20230614BHJP
C01G 41/00 20060101ALI20230614BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20230614BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20230614BHJP
C01G 39/06 20060101ALI20230614BHJP
B01J 31/34 20060101ALI20230614BHJP
C08K 3/10 20180101ALI20230614BHJP
【FI】
C08L65/00
B01J35/02 H
B01J37/08
B01J37/02 101Z
B01J37/12
B01J37/06
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B1/55
C25B9/50
C25B9/23
C25B11/052
C25B11/054
C25B11/065
C25B11/095
C08G61/12
C01B17/20
C01G41/00 Z
C01G51/00 C
C01G49/00 A
C01G49/00 H
C01G39/06
B01J31/34 M
C08K3/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022566276
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(85)【翻訳文提出日】2022-12-15
(86)【国際出願番号】 EP2021061200
(87)【国際公開番号】W WO2021219759
(87)【国際公開日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/061969
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509043571
【氏名又は名称】トヨタ・モーター・ヨーロッパ
【氏名又は名称原語表記】TOYOTA MOTOR EUROPE
(71)【出願人】
【識別番号】510079503
【氏名又は名称】コミッサリア・ア・レネルジ・アトミック・エ・オ・エネルジ・オルタナティブ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
(71)【出願人】
【識別番号】501455677
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィーク
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モロザン,アディナ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,ハンナ
(72)【発明者】
【氏名】キンゲ,サチン
(72)【発明者】
【氏名】アルテロ,バンサン
【テーマコード(参考)】
4G002
4G048
4G169
4J002
4J032
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G002AA13
4G002AB07
4G002AE05
4G048AA07
4G048AB02
4G048AB08
4G048AC08
4G048AE06
4G048AE08
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA08B
4G169BA21C
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4G169BA22B
4G169BA22C
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4G169BA36C
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4G169BB10C
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4G169BC62A
4G169BC62C
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4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BD01A
4G169BD01B
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4J002CE001
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4K011AA23
4K011AA29
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4K011BA06
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4K021BA02
4K021BC08
4K021DB18
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
本発明は、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子と硫黄含有ポリマーとで形成される複合材料であって、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子が配位共有結合によって硫黄含有ポリマーに直接結合している、複合材料に関する。また、本発明は、本発明に係る複合材料の調製方法にも関する。水素製造のための触媒としての本発明に係る複合材料の使用もまた、本発明の一部である。最後に、本発明は、本発明に係る複合材料を備えるプロトン交換膜(PEM)電気分解装置、および本発明に係る複合材料を備える光電気化学セルに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子と、
硫黄含有ポリマーと
で形成される複合材料であって、前記アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子は、配位共有結合によって前記硫黄含有ポリマーに直接結合している、複合材料。
【請求項2】
前記アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子の金属は、周期表の5列目および6列目の金属からなる群において選択され、任意に、周期表の4~11列目からなる群において選択される別の元素と組み合わされる、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子の金属は、Mo、V、およびWからなる群において選択されて、任意に、Mo、V、W、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Ta、Co、Cu、Fe、Ni、V、Nb、Taからなる群において選択される別の元素と組み合わされる、請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子はアモルファス単一金属硫化物ナノ粒子であり、前記金属は、有利には、Mo、V、およびWからなる群において選択され、より有利には、MoおよびWからなる群において選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
前記アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子は、アモルファス二元金属硫化物ナノ粒子であり、前記アモルファス二元金属硫化物ナノ粒子の金属は互いに異なり、好ましくは、Mo、V、およびWからなる群において選択されてMo、V、W、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Ta、Co、Cu、Fe、Ni、V、Nb、Taからなる群において選択される別の元素と組み合わせられ、より好ましくはa-CoMoS
xナノ粒子、a-FeMoS
xナノ粒子、およびa-CoWS
xナノ粒子からなる群において選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記硫黄含有ポリマーは、ポリチオフェン、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)、ポリフェニレンスルフィド、およびこれらの混合物からなる群において選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項7】
前記硫黄含有ポリマーは、ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)である、請求項1~6のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項8】
前記硫黄含有ポリマーは、5,000~100,000g.mol
-1の範囲の数平均分子量を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項9】
前記アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子は、(二元)金属硫化物クラスタで形成され、前記(二元)金属硫化物クラスタの数は、2~40の範囲である、請求項1~8のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項10】
アモルファス(二元)金属硫化物クラスタの、数に基づく粒子径Dn90は、0.1~2nm、好ましくは0.2~1.5nmの範囲である、請求項9に記載の複合材料。
【請求項11】
前記複合材料の、数に基づくサイズDn90は、1~100nmの範囲である、請求項1~10のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項12】
前記アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子における金属の量は、20~75重量%、好ましくは30~60重量%である、請求項1~11のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項13】
前記アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子におけるSの量は、25~80重量%、好ましくは40~60重量%である、請求項1~12のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項14】
前記アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子と前記硫黄含有ポリマーとの質量比は、1:1~100:1、好ましくは1:1~50:1、より好ましくは1:1~45:1、さらにより好ましくは25:1~45:1の範囲である、請求項1~13のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の複合材料の調製のためのプロセスであって、
(i)アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子を、好ましくは酸化還元反応によって、調製する工程と、
(ii)前記工程(i)において得られるアモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子を、撹拌しながら、硫黄含有ポリマーの溶液中に分散させることによって、前記硫黄含有ポリマーと前記工程(i)において得られるアモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子の金属イオンとの間に配位共有結合を形成する工程とを備える、プロセス。
【請求項16】
前記アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子は、工程(i)において、金属塩を、硫黄含有化合物と、好ましくはチオ尿素基を有する化合物と、より好ましくはチオ尿素、エチレンチオ尿素、プロピレンチオ尿素、チオアセトアミド、チオ酢酸、またはこれらの混合物と反応させ、次いで、得られる混合物を加熱することによって調製される、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子は、工程(i)において、チオメタルレートイオンと、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過炭酸ナトリウム、二クロム酸ナトリウム、二クロム酸カリウム、硝酸セリウムからなる群において選択される酸化剤との、好ましくは過硫酸ナトリウムとの、酸化還元反応によって調製される、請求項15に記載のプロセス。
【請求項18】
前記工程(ii)の硫黄含有ポリマーの溶液の濃度は、0.05~1g.mol
-1の範囲である、請求項15~17のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項19】
前記工程(ii)において得られる複合材料を、水、ジエチルエーテル、C
1~C
6のアルコール、およびこれらの混合物からなる群において選択される溶媒で、好ましくはエタノールで、洗浄する工程(iii)をさらに備える、請求項15~18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項20】
好ましくはプロトン交換膜(PEM)電気分解装置におけるまたは光電気化学セルにおける、水素製造のための触媒としての、請求項1~14のいずれか1項に記載の複合材料の使用。
【請求項21】
請求項1~14のいずれか1項に記載の複合材料を備えるプロトン交換膜(PEM)電気分解装置。
【請求項22】
請求項1~14のいずれか1項に記載の複合材料を備える光電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、硫黄原子(または硫黄に基づく結合部位)を介して金属部位に結合できる硫黄含有ポリマーとアモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子とで形成される複合ポリマー材料に関する。また、本発明は、本発明に係る複合材料の調製方法にも関する。水素製造のための触媒としての本発明に係る複合材料の使用も、本発明の一部である。最後に、本発明は、本発明に係る複合材料を備えるプロトン交換膜(proton-exchange membrane、PEM)電気分解装置、および本発明に係る複合材料を備える光電気化学セルに関する。
【0002】
研究への支持についての情報
本特許出願を導いたプロジェクトは、欧州連合のHorizon 2020 research and innovation programmeのもとでの欧州研究会議(European Research Council、ERC)から資金援助を受けた(贈与契約第836429号)。
【背景技術】
【0003】
技術背景
硫化モリブデンなどの金属硫化物は、水からの水素発生反応(hydrogen evolution reaction、HER)のための、非常に魅力的な貴金属非含有電極触媒である。たとえば、ナノ粒子としてまたはフィルムとして調製されるアモルファス硫化モリブデン(a-MoSx)についてのHER活性は、別個の[Mo3S7]4+クラスタ(以下、[Mo]3クラスタと称される)がジスルフィド(S2
2-)アニオンによって他のクラスタに結合したものからなる、分子に基づく配位ポリマーである。このような分子構造によって、a-MoSxの触媒活性、還元性の活性化および腐食といった特殊な特性のうちのいくつかが説明される。いくつかのクラスタにおいては、ジスルフィド(S2
2-)配位子、オキソ(O2-)配位子、またはスルフィド(S2-)配位子が共有されないままで残っており、末端配位子とされる。還元性水性条件下では、こうした末端配位子が置換され、これによって、モリブデンヒドリド部位がH2発生のための活性部位となることができる。よって、こうしたHER電極触媒は白金の代替となり得ると考えられ、そのために、大きな関心が向けられている。実際、Ptに基づく触媒は、高い性能と安定性とを有しているが、量が不足していてかつ高価であるという欠点を有する。
【0004】
実行可能であって経済性に優れる(光)電気化学デバイスまたは電気化学デバイスと光起電装置とを組み合わせて使用する太陽光駆動型水分解による、スケーラブルで再生可能な水素製造は、再生可能エネルギーに対する世界的な需要に対応でき得る技術である。この目的のために、酸素発生反応(oxygen evolution reaction、OER)およびHERのための非貴金属に基づく高効率の電極触媒について、探求が進められている。特に、過去数年間には、Fe、Ni、Co、Mo、またはWなどの遷移金属に基づく、白金に替わるHER電極触媒の探索において、著しい進展があった。実際、スケールアップによる大規模水素製造の実現を考慮すると、Ptに基づく触媒に替わる、より潤沢に入手できる代替物が必要である。硫化モリブデンは、その他の金属硫化物と同様に、高性能であるために、白金の代替として大いに期待されている候補の1つである。とりわけ、結晶二硫化モリブデン(c-MoS2)、アモルファス硫化モリブデン(a-MoSx)、および[Mo3S4]4+、[Mo3S13]2-、または[Mo2S12]2-などの硫化モリブデンクラスタは、近年、調製方法がスケーラブルであって、魅力的な触媒活性を有し、堅牢であり、また、H2発生光カソード中に一体化できることから、注目を集めている(Y.Lattach et al.,ACS Appl.Mater.Interfaces 2015,7,4476-4480;T.Bourgeteau et al.B.ACS Appl.Mater.Interfaces 2015,7,16395-16403;T.Bourgeteau et al.,B.Energy Environ.Sci.2013,6,2706-2713;T.Bourgeteau et al.,B.J.Mater.Chem.A 2016,4,4831-4839;A.Morozan et al.,Nanotechnology 2016,27,355401)。また、クラスタ間にジチオラート配位子などのリンカーを備えるその他の金属硫化物(Ji et al.J.Am.Chem.Soc.2018,140,13618-13622)、またはアモルファス硫化モリブデン/タングステンとCo、Cu、Fe、およびNiなどのその他の金属イオンとの混合物(Staszak-Jirkovsky(yacute) et al.Nat.Mater.2016,15,197;Tran et al.Energy Environ.Sci.2012,5,8912-8916;Di Giovanni et al.ACS Catal.2016,6,2626-2631;Tran et al.Energy.Environ.Sci.2013,6,2452-2459;Shim et al.J.Am.Chem.Soc.2013,135,2330-2337)も、関心を集めている。
【0005】
P.D.Tranら(Nature Materials,2016,volume 15,pages 640-646)によって、a-MoSxの構造および反応性についての研究が実施された。彼らは、ジスルフィド配位子を共有する[Mo3S13]2-クラスタ(言い換えると、ジスルフィド(S2
2-)アニオンによって結合した[Mo]3クラスタ)に基づく配位ポリマーとして配合できるa-MoSxの重合構造および分子性質が、プロトン還元のための触媒中心をもたらす、と報告している。末端ジスルフィド配位子を還元および/または除去することによって、[Mo]3クラスタ上に不飽和のMoIV部位が形成される。次いで、これらの部位のプロトン結合的還元によって、H2発生のための活性中心が形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、安定性が低いために(特に、酸素に対して)、硫化モリブデン触媒などの金属硫化物は、現時点で、市販の電気分解装置において広く使用されていない。アモルファス硫化モリブデンの場合、安定性の欠如は、[Mo]3クラスタが鎖構造から還元的に離れ、これに付随してH2Sが発生して、多くの活性部位において還元が生じることに起因する。こうした触媒ユニットが離れてしまって電解質溶液中に溶解すると、活性が失われ、触媒活性が経時的に低下する。
【0007】
触媒としてのアモルファス硫化モリブデンなどのアモルファス金属硫化物が有するもう1つの欠点は、H2を著しい速度で発生させるために必要な過電圧(または駆動力)が、白金よりも高いことである。この特性は、触媒が10mA.cm-2において作動する場合に測定される過電圧(すなわち、H+/H2結合の作動電位と平衡電位との間の差異)であるOP10mAcm-2値によって定量することができる。
【0008】
したがって、クラスタユニットおよび/または接続配位子の合成的改変によってアモルファス金属硫化物材料の還元性の腐食を回避または制御するための解決策と、その触媒性能の合理的最適化とが、依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
今回、アモルファス(二元)金属硫化物に、特にアモルファス硫化モリブデン(a-MoSx)に、配位共有結合によって直接結合している硫黄含有ポリマーで形成される複合材料が、競争力のある水素発生触媒として作用できること、そして、現行のPtに基づく電極触媒に替わる低コストで酸素安定性の高い代替物をもたらすことが見いだされた。また、提案される本発明に係る複合材料は、純粋なアモルファス金属硫化物と比較して、触媒性のH2発生のための電気化学的性能が増大している。
【0010】
貴金属非含有アモルファスMoS3粒子とP3HT:PCBMとを組み合わせた光電気化学セルについての研究が、T.Bourgeteauら(Energy Environ.Sci.2013,6,2706-2713;ACS Appl.Mater.Interfaces,2015,7,16395-16403;J.Mater.Chem.A 2016,4,4831-4839)によって実施された。これらの研究においては、P3HTとアモルファスMoS3粒子とが均質に混合されていない。重要なことには、H2発生のための活性を有するMoS3粒子が、P3HT:PCBM p/n太陽電池のPCBM n型相と接触している。この点は、光電気化学セルにおけるP3HT:PCBMとアモルファスMoS3粒子との間の電荷移動を増大させ得る複数の異なる界面層について調べた研究において立証されている。このようなセルでは、金属MoS3とP3HT:PCBMポリマーとの間に界面層があるために、MoS3とP3HT:PCBMとの直接的な接触が妨げられている。
【0011】
また、P3HTの層を組織化して、高度に秩序化された長繊維状のP3HT/MoS2ナノ複合体の構造を形成するために、結晶MoS2の二次元ナノシートも使用されている(Chaudhary et al.J.Phys.Chem.C2020,124,8101-8109)。このナノ複合体の形成は、MoS2とP3HTとの間のπ-π積層相互作用によるものである。注目すべきことに、c-MoS2の基底面中に存在するすべてのMoイオンは、配位が飽和していて、配位共有結合できない。
【0012】
本発明に係る複合材料において、本発明者らは、硫黄含有ポリマーとアモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子とを密接な結合を介して直接接触させると、得られる材料の安定性、特に酸素に対する安定性が改善されることを観察した。これは、硫黄に基づく配位部位を有する硫黄含有ポリマーが、アモルファス硫化モリブデンの[Mo]
3クラスタなどのアモルファス(二元)金属硫化物のクラスタ同士を結合し、アモルファス(二元)金属硫化物構造の外骨格として作用して、その結果、クラスタの分離と電解質中への溶解を防いで活性部位の数を一定に維持する、という事実によるものである(アモルファス硫化モリブデンの場合について、
図1中に示されるように)。さらに、この硫黄含有ポリマーがクラスタ同士の近接状態を保持できるため、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子のクラスタ同士間のジスルフィド結合が壊れた場合でも、この結合が容易に再形成できる。また、酸素(O
2)の存在下において、硫黄含有ポリマーは、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子のクラスタが分解しないように保護すると考えられる。
【0013】
発明の概要
したがって、第1の態様において、本発明は、配位共有結合によって硫黄含有ポリマーに直接結合しているアモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子を備える複合材料を意図する。
【0014】
別の一態様において、本発明は、本発明に係る複合材料の調製のためのプロセスであって、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子を、好ましくは酸化還元反応工程によって調製する工程と、次いで、得られるアモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子を硫黄含有ポリマー中に分散させてこれと反応させる工程と、を備えるプロセスに関する。
【0015】
また、本発明は、水素製造のための触媒としての本発明に係る複合材料の使用にも関する。
【0016】
最後に、本発明は、(光)カソード部中において本発明に係る複合材料を備える電気化学デバイス(たとえばプロトン交換膜(PEM)電気分解装置および光電気化学セルであるがこれらに限定されない)に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る触媒の複合体構造を示し、硫黄に基づく配位官能基によって安定化させた[Mo]
3クラスタに基づくアモルファス硫化モリブデン(a-MoS
x)を示す。
【
図2】アモルファスa-MoS
x触媒(2つの異なるバッチ)(先行技術の代表)および複合a-MoS
x-P3HT材料(本発明に係る触媒)を用いて得たHERについての分極曲線を示すものであり、使用した表面は、電極の幾何的表面である。
【
図3】複合a-MoS
x-P3HT材料(本発明に係る触媒)(洗浄および未洗浄)を用いて得たHERについての分極曲線を示すものであり、使用した表面は、電極の幾何的表面である。
【
図4】電気化学デバイス(電気分解装置)におけるa-MoS
x-P3HTの性能を調べるものであり、膜-電極アセンブリ(membrane-electrodes assembly、MEA)としてIr黒/Nafion(登録商標)NRE-212/a-MoS
x-P3HTを使用するプロトン交換膜(PEM)電気分解(80℃において)についての単電池分極曲線を示す。
【
図5】複合材料WS
x-P3HT(20:1)およびWS
x-P3HT(40:1)(本発明に係る触媒)およびWS
x触媒を用いて得たHERについての分極曲線を示すものであり、使用した表面は、電極の幾何的表面である。
【
図6】複合材料CoWS
x-P3HT(20:1)およびCoWS
x-P3HT(40:1)(本発明に係る触媒)およびCoWS
x触媒を用いて得たHERについての分極曲線を示すものであり、使用した表面は、電極の幾何的表面である。
【
図7】複合FeMoS
x-P3HT(20:1)材料(本発明に係る触媒)およびFeMoS
x触媒を用いて得たHERについての分極曲線を示すものであり、使用した表面は、電極の幾何的表面である。
【
図8】複合CoMoS
x-P3HT(20:1)材料(本発明に係る触媒)およびCoMoS
x触媒を用いて得たHERについての分極曲線を示すものであり、使用した表面は、電極の幾何的表面である。
【
図9a】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるa-MoS
xおよびa-MoS
x-P3HTのクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図9b】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるa-MoS
xおよびa-MoS
x-P3HTのクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図9c】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるa-MoS
xおよびa-MoS
x-P3HTのクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図9d】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるa-MoS
xおよびa-MoS
x-P3HTのクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図10】24時間の作動中におけるa-MoS
xについての過電圧の漸進的変化(安定性試験)を示す(ΔOP
10mAcm-2/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2(t
0)/mV)(
図9(a、c)から抽出したデータ)。
【
図11】24時間の作動中におけるa-MoS
x-P3HTについての過電圧の漸進的変化(安定性試験)を示す(ΔOP
10mAcm-2
HER/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2η(t
0)/mV)(
図9(b、d)から抽出したデータ)。
【
図12a】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるFeMoS
xおよびFeMoS
x-P3HT(20:1)のクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図12b】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるFeMoS
xおよびFeMoS
x-P3HT(20:1)のクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図12c】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるFeMoS
xおよびFeMoS
x-P3HT(20:1)のクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図12d】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるFeMoS
xおよびFeMoS
x-P3HT(20:1)のクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図13】24時間の作動中におけるFeMoS
xについての過電圧の漸進的変化(安定性試験)を示す(ΔOP
10mAcm-2/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2(t
0)/mV)(
図12(a、c)から抽出したデータ)。
【
図14】24時間の作動中におけるFeMoS
x-P3HT(20:1)についての過電圧の漸進的変化(安定性試験)を示す(ΔOP
10mAcm-2/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2(t
0)/mV)(
図12(b、d)から抽出したデータ)。
【
図15a】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるWS
xおよびWS
x-P3HT(20:1)のクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図15b】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるWS
xおよびWS
x-P3HT(20:1)のクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図15c】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるWS
xおよびWS
x-P3HT(20:1)のクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図15d】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるWS
xおよびWS
x-P3HT(20:1)のクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図16】24時間の作動中におけるWS
xについての過電圧の漸進的変化(安定性試験)を示す(ΔOP
10mAcm-2/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2(t
0)/mV)(
図15(a、c)から抽出したデータ)。
【
図17】24時間の作動中におけるWS
x-P3HT(20:1)についての過電圧の漸進的変化(安定性試験)を示す(ΔOP
10mAcm-2/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2(t
0)/mV)(
図15(b、d)から抽出したデータ)。
【
図18a】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるCoMoS
xおよびCoMoS
x-P3HT(20:1)のクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図18b】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるCoMoS
xおよびCoMoS
x-P3HT(20:1)のクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図18c】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるCoMoS
xおよびCoMoS
x-P3HT(20:1)のクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図18d】N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるCoMoS
xおよびCoMoS
x-P3HT(20:1)のクロノポテンショメトリー曲線(安定性試験)を示す。
【
図19】24時間の作動中におけるCoMoS
xについての過電圧の漸進的変化(安定性試験)を示す(ΔOP
10mAcm-2/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2(t
0)/mV)(
図18(a、c)から抽出したデータ)。
【
図20】24時間の作動中におけるCoMoS
x-P3HT(20:1)についての過電圧の漸進的変化(安定性試験)を示す(ΔOP
10mAcm-2/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2(t
0)/mV)(
図18(b、d)から抽出したデータ)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、
アモルファス(二元)金属硫化物クラスタに基づくアモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子と、
硫黄含有ポリマーとで形成される複合材料であって、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子が配位共有結合によって硫黄含有ポリマーに直接結合している、複合材料に関する。
【0019】
本発明の意味において、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子は、アモルファス単一金属硫化物ナノ粒子およびアモルファス二元金属硫化物ナノ粒子を包含する。したがって、第1の実施形態によれば、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子は、アモルファス単一金属硫化物ナノ粒子である。第2の実施形態によれば、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子はアモルファス二元金属硫化物ナノ粒子であり、アモルファス二元金属硫化物の金属は互いに異なる。
【0020】
本発明に係るアモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子の金属は、有利には、周期表(メンデレーエフの表)の5列目および6列目の金属からなる群において選択されてよく、任意に(アモルファス(二元)金属硫化物がアモルファス二元金属硫化物である場合に)周期表の4~11列目からなる群において選択される別の元素と組み合わせられてよい。好ましい一実施形態において、本発明に係るアモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子の金属は、Mo、V、およびWからなる群において選択されて、任意に(アモルファス(二元)金属硫化物がアモルファス二元金属硫化物である場合に)、好ましくはMo、V、W、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Taからなる群において選択される別の元素と組み合わされる。さらに好ましい一実施形態において、本発明に係るアモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子の金属は、MoおよびWからなる群において選択され、任意に(アモルファス(二元)金属硫化物がアモルファス二元金属硫化物である場合に)、好ましくはMo、W、Fe、Coからなる群において選択される別の元素と組み合わされる。
【0021】
アモルファス(二元)金属硫化物がアモルファス二元金属硫化物であり、アモルファス二元金属硫化物ナノ粒子の金属が互いに異なる場合、有利には、Mo、V、およびWからなる群において選択され、Mo、V、W、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Taからなる群において選択される別の元素と組み合わされる。好ましい一実施形態において、有利には、MoおよびWからなる群において選択され、アモルファス二元金属硫化物ナノ粒子の金属が互いに異なる場合にはMo、W、Fe、Coからなる群において選択される別の元素と組み合わされる。好ましい一実施形態において、アモルファス二元金属硫化物ナノ粒子は、a-CoMoSxナノ粒子、a-FeMoSxナノ粒子、およびa-CoWSxナノ粒子からなる群において選択される。
【0022】
特に好ましい一実施形態において、本発明に係るアモルファス(二元)金属硫化物の金属はMoであり、このような実施形態において、本発明は、
ジスルフィド(S2
2-)アニオンによって結合した[Mo]3クラスタ(構成単位として)に基づくアモルファス硫化モリブデンナノ粒子と、
硫黄含有ポリマーと、で形成される複合材料であって、[Mo]3クラスタが配位共有結合によって硫黄含有ポリマーに直接結合している複合材料に関する。
【0023】
本発明に係る複合材料は、アモルファス金属硫化物と比較して増大した電気化学的性能と向上した酸素安定性とを有する水素発生触媒である、という主要な利点を有する。
【0024】
本発明に係る複合材料において、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子は、硫黄含有ポリマーの硫黄原子とアモルファス(二元)金属硫化物の金属イオンとの間の配位共有結合によって、硫黄含有ポリマーと直接接触している。このようにして、アモルファス(二元)金属硫化物と硫黄含有ポリマーとが密接に接続している。言い換えると、本発明に係る複合材料は、アモルファス(二元)金属硫化物と硫黄含有ポリマーとの間に中間層を備えない。
【0025】
本発明の意味において、配位共有結合は、2つの中心と、同じ原子に由来する2つの電子とを有する共有結合である。配位共有結合は、金属イオンと配位子とを結合することを特徴とする。
【0026】
本発明に係る複合材料において、硫黄含有ポリマーは、ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)などのポリチオフェン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などのポリ(エチレンジオキシチオフェン)、ポリフェニレンスルフィドなどのポリ(アリーレンチオエーテル)、およびこれらの混合物からなる群において選択されてよい。
【0027】
好ましい一実施形態において、硫黄含有ポリマーは、ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT)である。
【0028】
本発明に係る硫黄含有ポリマーは、5,000~100,000g.mol-1の範囲の数平均分子量Mnを有してよい。
【0029】
本発明に係る複合材料において、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子は(二元)金属硫化物クラスタに基づくものであり、(二元)金属硫化物クラスタの配位ポリマーとみなされ得る。本発明に係るナノ粒子はいくつかのクラスタで形成され、好ましくは、2~40個のクラスタからなる群であり、これらが互いに結合して分子に基づく配位ポリマーを形成している。したがって、アモルファス(二元)金属硫化物の1つの鎖における(二元)金属硫化物クラスタの数は、2~40の範囲であってよい。この特定のアモルファス硫化モリブデンの実施形態において、後者は[Mo]3クラスタに基づき、[Mo]3クラスタからなるポリマーとみなされ得る。典型的には、この場合、アモルファス硫化モリブデンの1つの鎖における[Mo]3クラスタの数は、2~30、好ましくは2~20の範囲であってよいが、ただし、これよりも長い[Mo]3クラスタポリマーも除外されない。
【0030】
アモルファス(二元)金属硫化物クラスタのサイズは、有利には0.1~2nm、好ましくは0.2~1.5nmの範囲であってよい。アモルファス(二元)金属硫化物クラスタのサイズは、数に基づく粒子径Dn90である(数に基づく粒子直径Dn90とも称される)。アモルファス(二元)金属硫化物クラスタのサイズは、走査型透過電子顕微鏡法(STEM)によって、たとえばJEM-ARM200F NEOARM原子分解能分析電子顕微鏡を用いて測定できる。より具体的には、アモルファス(二元)金属硫化物クラスタのサイズは、高角度環状暗視野走査型透過電子顕微鏡法(High-Angle Annular Dark-Field Scanning Transmission Electron Microscopy、HAADF-STEM)によって測定できる。特に好ましい一実施形態において、アモルファス(二元)金属硫化物クラスタが[Mo]3硫化モリブデンクラスタである場合、[Mo]3硫化モリブデンクラスタのサイズは約0.3nmである。この場合、a-MoSxの構造は、Nature Materials,vol.15,pages 640-646(2016)中に記載されるとおりに、クラスタが穏やかに着地できるように表面積の大きい片状黒鉛(graphite flakes、GF)(Alfa Aesar)を炭素支持体として使用することによって、走査型透過電子顕微鏡法(STEM)によって調べることができる。GFを、使用前に、H2SO4溶液(0.5mol.L-1)中において、電位1.0V(対Ag/AgCl)にて3分間かけて電気化学的アノード酸化することで、活性化することができる。メタノール中の5×10-3(wt%)a-MoSx懸濁液5mLと、50mgのGFとを、連続的に撹拌して混合することができる。次いで、真空下においてメタノールを蒸発させることができる。次いで、これによって得られた、GF表面がa-MoSxの準単一層で被覆されている試料を、高角度環状暗視野(HAADF)イメージングによって観察することができる。
【0031】
本発明に係る複合材料のサイズに関し、これは、有利には1~100nmの範囲である。本発明に係る複合材料のサイズは、数に基づく粒子径Dn90である(数に基づく粒子直径Dn90とも称される)。複合材料のサイズは、走査電子顕微鏡法(SEM)(たとえばZEISS Ultra-55走査型電子顕微鏡を使用)または透過電子顕微鏡法(TEM)(たとえばCsプローブ補正FEIチタンテミス(Cs-probe corrected FEI Titan Themis)透過電子顕微鏡を使用)によって測定できる。より具体的には、複合材料のサイズは、高角度環状暗視野走査型透過電子顕微鏡法(HAADF-STEM)によって測定できる。この場合、エタノール中の触媒懸濁物を超音波ホモジナイズによって調製することができ、次いで、ACS Catalysis,2020,10,14336-14348中に記載されるとおりに、Cuグリッド上の超薄型炭素フィルム上にドロップキャストすることができる。次いで、得られる試料を、HAADF-STEMと、対応するエネルギー分散型分光法(energy-dispersive spectroscopy、EDS)元素マッピング分析(FEI-Osiris顕微鏡を使用(たとえば、200kVにおいて作動))とによって、観察することができる。
【0032】
本発明に係る複合材料において、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子における金属の量は、20~75重量%、好ましくは30~60重量%であってよい。特に好ましい一実施形態において、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子がアモルファス硫化モリブデンナノ粒子である場合、アモルファス硫化モリブデンナノ粒子中におけるMoの量は、30~45重量%、好ましくは32~40重量%、より好ましくは約36重量%であってよい。
【0033】
本発明に係る複合材料において、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子におけるSの量は、25~80重量%、好ましくは40~60重量%であってよい。特に好ましい一実施形態において、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子がアモルファス硫化モリブデンナノ粒子である場合、アモルファス硫化モリブデンナノ粒子におけるSの量は、40~60重量%、好ましくは45~55重量%、より好ましくは約50重量%であってよい。
【0034】
本発明に係る複合材料において、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子は、さらに、酸素を、好ましくは1~30重量%、より好ましくは2~20重量%の範囲の量で備えてもよい。特に好ましい一実施形態において、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子がアモルファス硫化モリブデンナノ粒子である場合、アモルファス硫化モリブデンナノ粒子は、さらに、酸素を、好ましくは2~20重量%、より好ましくは5~15重量%の範囲の量、さらにより好ましくは約14重量%で備えてもよい。
【0035】
本発明に係る複合材料において、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子と硫黄含有ポリマーとの質量比は、1:1~100:1、好ましくは1:1~50:1、より好ましくは1:1~45:1、さらにより好ましくは25:1~45:1の範囲であってよい。
【0036】
本発明に係る複合材料において、硫黄含有ポリマーと本発明に係る複合材料の全体との質量比は、0.50~0.98、好ましくは0.60~0.90の範囲であってよい。
【0037】
別の一態様において、本発明は、本発明に係る複合材料の調製のためのプロセスであって、
(i)アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子を、好ましくは酸化還元反応によって、調製する工程と、
(ii)工程(i)において得られるアモルファス(二元)金属硫化物を、撹拌しながら、硫黄含有ポリマーの溶液中に分散させることによって、硫黄含有ポリマーと工程(i)において得られるアモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子の金属イオンとの間に配位共有結合を形成する工程とを備える、プロセスを提供する。
【0038】
アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子および硫黄含有ポリマーは、本発明に係る複合材料について上記に定義されるとおりである。
【0039】
工程(i)は、金属塩を、硫黄含有化合物と、好ましくはチオ尿素基を有する化合物と、より好ましくはチオ尿素、エチレンチオ尿素、プロピレンチオ尿素、チオアセトアミド、チオ酢酸、またはこれらの混合物と反応させ、次いで、得られる混合物を加熱することによって行なうことができる。加熱は、有利には、反応媒体の温度を200~300℃、好ましくは230~270℃に維持でき、反応媒体の圧力を6~10バール、好ましくは7~9バールに維持できる放射力を有する、電子レンジ中にて行なわれる。たとえば、放射力は、有利には、100mgスケールのアモルファス(二元)金属硫化物の合成において0~300Wで変動してよい。放射による加熱は、Discover Microwave Synthesizer(CEM社)中において行なわれてよい。
【0040】
代替的には、工程(i)は、チオメタルレート(thiometallate)イオンの酸化還元反応によって、さらにより好ましくはチオメタルレートイオンと酸化剤との酸化還元反応によって、さらにより好ましくはアンモニウムチオメタルレートと酸化剤との酸化還元反応によって、行なうことができる。
【0041】
本発明に係るプロセスの工程(i)において、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子がチオメタルレートイオンと酸化剤との酸化還元反応によって調製される場合、チオメタルレートイオンは、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、二クロム酸ナトリウム、二クロム酸カリウム、硝酸セリウム(ceric nitrate)からなる群において選択される酸化剤の添加によって酸化されてよい。好ましい一実施形態において、工程(i)においてアモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子を調製するために使用される酸化剤は、過硫酸ナトリウムである。
【0042】
特に好ましい一実施形態において、アモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子がアモルファス硫化モリブデンナノ粒子である場合、[MoS4](NH4)2が、有利には、工程(i)においてアモルファス硫化モリブデンナノ粒子を得るために酸化還元反応を受けるチオメタルレート塩として使用される。
【0043】
本発明に係る工程(i)は、有利には、撹拌しながらアルゴン下において、少なくとも30分間、より有利には1~5時間、さらにより有利には2時間にわたって行なわれる。
【0044】
工程(i)の最後に、得られるアモルファス(二元)金属硫化物ナノ粒子は、工程(ii)よりも前に、好ましくは、水、ジエチルエーテル、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのC1~C6のアルコール、およびこれらの混合物からなる群において選択される溶媒で洗浄されてよく、真空下において、溶媒がなくなるまで乾燥されてよい。
【0045】
次いで、本発明に係るプロセスの工程(ii)において使用される硫黄含有ポリマーの溶液は、水、1,2-ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1,2,3-トリクロロプロパン、クロロベンゼン、およびこれらの混合物からなる群において選択される溶媒中に溶解した硫黄含有ポリマーを備えてよい。好ましい一実施形態において、硫黄含有ポリマーは、1,2-ジクロロベンゼン中に溶解している。
【0046】
工程(ii)における硫黄含有ポリマーの溶液の濃度は、0.05~1mg.mL-1で変動してよい。
【0047】
本発明に係る工程(ii)は、有利には、撹拌しながら、少なくとも10時間、好ましくは24~72時間、より好ましくは48時間かけて行なわれる。
【0048】
本発明に係るプロセスは、さらに、工程(ii)の最後に得られる複合材料を、水、ジエチルエーテル、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのC1~C6のアルコール、およびこれらの混合物からなる群において選択される溶媒、好ましくはエタノールで洗浄する工程(iii)を備えてよい。
【0049】
本発明に係るプロセスは、さらに、工程(i)または(iii)の最後に得られる複合材料を、真空下において、溶媒がなくなるまで乾燥させる工程(iv)を備えてよい。
【0050】
第3の態様において、本発明は、水素(H2)製造のための触媒としての、好ましくはその電極触媒としての、本発明に係る複合材料の使用に関する。具体的には、本発明に係る複合体は、HERのために使用されてよい。
【0051】
好ましい一実施形態において、本発明に係る複合材料は、電気化学セルにおける(Wang et al.Renewable and Sustainable Energy Reviews 2014,29,573)、より好ましくは、
電気的には接続されているがイオン伝導膜とイオン伝導性電解質とによって隔てられているアノードとカソードとを備えるプロトン交換膜(PEM)水電気分解装置における(Sun et al.Catalysts 2018,8,657)、または
電気的には接続されているがイオン伝導膜とイオン伝導性電解質とによって隔てられている(光)アノードおよび/または(光)カソードとを備え得る、有利には水分解のための、光電気化学セルにおける(Walter et al.Chem.Rev.2010,110,6446-6473)、HER触媒として使用される。
【0052】
一態様において、本発明は、本発明に係る複合材料を備えるプロトン交換膜(PEM)電気分解装置にも関する。
【0053】
電気分解装置は、水(H2O)分子を水素(H2)と酸素(O2)とに分解するエネルギーを提供するために電流を使用する電気化学デバイスである。電気分解装置は、アノード、カソード、および電解質からなる。PEM電気分解装置は、プロトン伝導性固体ポリマー(たとえば、Nafion(登録商標))を使用する。
【0054】
本発明に係るPEM電気分解装置は、2つの外部伝導性プレートと2つの溝つきプレートとからなる(カソード側は炭素由来、アノード側はチタン由来)。これらの溝つきプレートは、作用領域上に蛇行型の流れ場が形成されており、水と、生成したガス(H2およびO2)との流れを促進する。これら2つの溝つきプレートの間に膜-電極アセンブリ(MEA)を挟み、ナットとボルトを使用して伝導性プレートと一緒にクランプした。このセルをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ガスケットと共にアセンブリした。MEAは、たとえば、高分子電解質膜としてのNafion(登録商標)NRE-212膜(50μm厚)と、水酸化触媒と、チタングリッドとを一方の側に使用してアノードを形成し、もう一方の側に水素発生触媒(すなわち、本発明に係る複合材料)をガス拡散層上に堆積させてカソードを形成することによって、調製されてよい。ガス拡散層は、炭素繊維で形成された多孔質層である。触媒を堆積させる側は、PTFEおよびカーボンブラックで通常形成される微多孔質層で被覆されていてよい。2つの電極(アノードおよびカソード)の間に伝導性プレートを介して電位差(電圧)が印加される場合、アノードにおいて水が酸化されて、プロトン、電子、およびO2が生成し、これがチタングリッドを通って排出される。プロトン(H+)は、ポリマー電解質を経てカソード側へと移動し、そこで、外部電源により提供される電子を使用して還元されて、水素となる。水素は拡散層を通って排出される。
【0055】
別の一態様において、本発明は、好ましくは水分解のための、本発明に係る複合材料を備える光電気化学セルに関する。光電気化学セルは、有利には、電気的には接続されているがイオン伝導膜とイオン伝導性電解質とによって隔てられている(光)アノードおよび/または(光)カソードを備える。好ましい一実施形態において、本発明に係る複合材料は、光電気化学セルの(光)カソードと接触している。
【0056】
そうでないことが本明細書中に記載されていたり文脈上明らかに矛盾していたりしない限りは、上述される要素について考え得るすべての変形体を任意に組み合わせたものが本発明に包含される。よって、本明細書中に(特に、本発明の文脈において適用可能、有利、または好適であるとして)記載されるすべての特徴および実施形態は、本発明の好ましい実施形態において、相互に組み合わせて適用可能であると解釈されるべきである。
【0057】
上述される内容に加えて、本発明は、他の内容をさらに含み、後者は、以降の記載、すなわち、本発明に係る複合材料(触媒)を評価する実施例によって明らかとなる。
【0058】
実施例
[MoS4](NH4)2の化学的酸化によるアモルファス硫化モリブデン(a-MoSx)の調製:
[MoS4](NH4)2(2mmol、520mg)を水(100mL)中に溶解してArで十分に脱気した濃赤色溶液に、過硫酸ナトリウム(4mmol、960mg)を添加した。この溶液は急速に暗褐色の懸濁液となり、これを、Ar下において2時間続けて撹拌した。反応が終了したら、暗褐色の粉末を遠心分離によって集めて、水、エタノール、およびジエチルエーテルで入念に洗浄した。この生成物を真空下において一晩乾燥させて、空気雰囲気において保持した。得られた試料をa-MoSxとした。
【0059】
マイクロ波照射によるアモルファス硫化タングステン(WSx)およびアモルファス二元金属硫化物(CoWSx、FeMoSx、CoMoSx)の調製:
適切な量の金属塩(WCl6:1mmol、396mg)およびチオ尿素(1.5mmol、114.2mg)の前駆体を、エチレングリコール(10mL)中に混合した。5分間撹拌した後、溶液をDiscover SPマイクロ波合成装置(CEM社)中の特殊な30mLバイアルに入れて、以下の条件下において反応させた:20分間にわたり200Wでの放射によって温度を255℃で維持して圧力8バールとした。得られた高粘度の黒い沈殿をエタノール中に移して、遠心分離した。次いで、沈殿を、エタノールおよび蒸留水と共に、上清が透明になるまで数回遠心分離することによって洗浄した。最終的な沈殿(およそ150mg)を一晩真空乾燥し、次いで、特徴付けするために集めた。得られた試料をa-WSxとした。
【0060】
適切な量の金属塩(WCl6:0.5mmol、198mgおよびCoCl2・6H2O:0.5mmol、119mg)およびチオ尿素(1.5mmol、114.2mg)の前駆体を、エチレングリコール(10mL)中に混合した。5分間撹拌した後、溶液をDiscover SPマイクロ波合成装置(CEM社)中の特殊な30mLバイアルに入れて、以下の条件下において反応させた:20分間にわたり放射を0~300Wで変動させて温度を255℃で維持して圧力8バールとした。得られた高粘度の黒い沈殿をエタノール中に移して、遠心分離した。次いで、沈殿を、エタノールおよび蒸留水と共に、上清が透明になるまで数回遠心分離することによって洗浄した。最終的な沈殿(およそ120mg)を一晩真空乾燥し、次いで、特徴付けするために集めた。得られた試料をa-CoWSxとした。
【0061】
適切な量の金属塩(MoCl3:0.5mmol、101.1mgおよびFeCl3・6H2O:0.5mmol、135.2mg)およびチオ尿素(1.5mmol、114.2mg)の前駆体を、エチレングリコール(10mL)中に混合した。5分間撹拌した後、溶液をDiscover SPマイクロ波合成装置(CEM社)中の特殊な30mLバイアルに入れて、以下の条件下において反応させた:20分間にわたり放射を0~300Wで変動させて温度を255℃で維持して圧力8バールとした。得られた高粘度の黒い沈殿をエタノール中に移して、遠心分離した。次いで、沈殿を、エタノールおよび蒸留水と共に、上清が透明になるまで数回遠心分離することによって洗浄した。最終的な沈殿(およそ130mg)を一晩真空乾燥し、次いで、特徴付けするために集めた。得られた試料をa-FeMoSxとした。
【0062】
適切な量の金属塩(MoCl3:0.5mmol、101.1mgおよびCoCl2・6H2O:0.5mmol、119mg)およびチオ尿素(1.5mmol、114.2mg)の前駆体を、エチレングリコール(10mL)中に混合した。5分間撹拌した後、溶液をDiscover SPマイクロ波合成装置(CEM社)中の特殊な30mLバイアルに入れて、以下の条件下において反応させた:20分間にわたり放射を0~300Wで変動させて温度を255℃で維持して圧力8バールとした。得られた高粘度の黒い沈殿をエタノール中に移して、遠心分離した。次いで、沈殿を、エタノールおよび蒸留水と共に、上清が透明になるまで数回遠心分離することによって洗浄した。最終的な沈殿(およそ130mg)を一晩真空乾燥し、次いで、特徴付けするために集めた。得られた試料をa-CoMoSxとした。
【0063】
本発明に係る複合材料a-MoSx-P3HTの調製:
ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT、OssilaからのM102 95.7% RR、Mw=65,200)の、o-ジクロロベンゼン(o-DCB)中の溶液を、0.25mg.mL-1の濃度で調製した。アモルファス硫化モリブデン(120mg)をo-DCB中のP3HTの溶液(0.25mg.mL-1)25mL中に分散させて、24時間にわたって撹拌下に維持した。a-MoSxとP3HTとの質量比は、20:1である。次いで、得られた複合材料を遠心分離によって集めて、エタノールおよび水で洗浄した。最後に、複合材料を真空下において一晩乾燥させて、空気雰囲気中に維持した。
【0064】
本発明に係るその他の複合材料の調製:
ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(P3HT、OssilaからのM102 95.7% RR、Mw=65,200)の、o-ジクロロベンゼン(o-DCB)中の溶液を、0.25mg.mL-1の濃度で調製した。上述されるように調製した(二元)金属硫化物(a-WSx、a-CoWSx、a-FeMoSx、a-CoMoSx)(120mg)を、それぞれ、o-DCB中のP3HTの溶液(0.25mg・mL-1)25mL中に分散させて、24時間にわたって撹拌下に維持した。各(二元)金属硫化物とP3HTとの質量比は、20:1である。次いで、得られた複合材料を遠心分離によって集めて、エタノールおよび水で洗浄した。最後に、複合材料を真空下において一晩乾燥させて、空気雰囲気中に維持した。この試料を、以降で、および図中において、「複合材料触媒名P3HT(20:1)」とした。
【0065】
電極の調製:
HERに対する触媒の電気化学的活性を、作用極としてガス拡散電極(gas diffusion electrode、GDE)を使用して調べた。上述されるように調製した各複合材料について、1mgの複合材料(触媒)、0.2mgのCNT(NANOCYL(登録商標)NC7000(商標)複層カーボンナノチューブ(ベルギー))、160μLのエタノール、40μLの水、および10μLの5重量%Nafion(登録商標)パーフルオロ化樹脂溶液を含む触媒インクを、超音波処理によって調製した。次いで、この触媒インクのアリコート10μLを4つ、初期状態の0.196cm2のガス拡散層(微多孔質層を有するGDL(gas diffusion layer)、SIGRACET(登録商標)39-BC(SGL Carbon社、ドイツ))の微多孔質層上に連続的に堆積させて、触媒含量を0.97mg・cm-2とした(触媒インク40μLに相当)。触媒層を堆積させた作用GDEを、3電極セル構成において使用した。
【0066】
P3HT濃度の変動:
o-DCB中のP3HTの濃度を低くして0.125mg・mL-1とした以外は上述されるものと同じプロトコールに従って、WSxおよびCoWSxという2種の合成触媒からなる複合材料を調製した。この場合、触媒とP3HTとの質量比は、40:1とする。この試料を、以降で、および図中において、「複合材料触媒名P3HT(40:1)」とした。
【0067】
電気化学的測定:
3電極セル構成にて、窒素バブリングによって連続的に脱気中の電解質において、Bio-Logic SP300ポテンショスタットを使用して電気化学的測定を行なった。GDE構成のためにハーフセルホルダ中で使用されるH2SO4(0.5M、pH0.3)電解質中において、HERに対する電極触媒活性を評価した(Le Goff et al.Science 2009,326,1384-1387)。作用極は、触媒層を堆積させたGDL基板をハーフセルホルダ中に固定したものとした。GDLの表面にガスを流して、生成したH2を除去した。ガスを抜くために使用したパイプを、改変したGDLとの接触部としても使用した。対極はTi線からなるものであり、参照極はAg/AgCl、KCl(3M)とした(以下でAg/AgClとした)。リニアスイープボルタンメトリー(linear sweep voltammetry、LSV)技術を使用して、走査速度5mV.s-1および25℃において、分極曲線を記録した。安定性試験を、クロノポテンショメトリー(chronopotentiometry、CP)測定によって、N2飽和またはO2飽和させた電解質のもとで、24時間行なった。電流密度(カソード電流)を-10mA・cm-2とするために、一定の印加電流を作用極の幾何的面積と関連させた。CP測定から抽出したデータを使用して、N2飽和またはO2飽和させた電解質のもとで24時間作動させている間のa-MoSxおよびa-MoSx-P3HTのための過電圧の漸進的変化を評価した(ΔOP10mAcm-2/mV=OP10mAcm-2(t)/mV-OP10mAcm-2(t0)/mV)。
【0068】
Bio-Logic EC-Lab(登録商標)ソフトウェアによって自動的に抵抗降下補償を行なうことによって、すべての曲線についてIR補正を行なった。電極の幾何的面積(0.056cm2)に調和させることによって、電流密度を標準化した。すべての電位は、以下の等式を使用して、可逆水素電極(Reversible Hydrogen Electrode、RHE)電位に対するものとして報告した:E対RHE=E対Ag/AgCl-EAg/AgCl対NHE+0.059×pH。
【0069】
電極の電気化学的活性表面積(electrochemically active surface area、ECSA)を、電極の二重層容量(double layer capacitance、CDL)を電気化学的に調べることによって求めた(L(Lstrok)ukaszewski et al.Int.J.Electrochem.Sci.,11(2016)4442-4469)。様々な走査速度(10~100mV.s-1、Bio-Logic EC-Lab(登録商標)ソフトウェアを使用)において、ファラデープロセスが観察されない範囲の電位にて、サイクリックボルタモグラムを測定して、二重層充電に由来する容量性電流を測定した。容量性電流をCV走査速度の関数としてプロットした。これらのデータを、傾きがCDLに等しい線にフィットさせた。この値をもとに、電極材料のCDLと比容量CSとの比率から、ECSAを求めた(ECSA=CDL/CS)。CS値35μF・cm-2を、例中において使用した(McCrory et al.J.Am.Chem.Soc.2015,137,4347-4357)。
【0070】
粗さ係数(roughness factor、RF)は、電気化学的に活性の表面積(ECSA)と幾何的面積との比率である(RF=ECSA/Sgeom)。
【0071】
図2は、アモルファス硫化モリブデン触媒(2つの異なるバッチ)(先行技術の代表)および以前に調製した複合材料a-MoS
x-P3HT(本発明に係る触媒)上のHERについての分極曲線を示す。幾何的面積あたりの電流密度が10mA・cm
-2に達するために必要な過電圧(η
10
HER)は、先行技術の代表であるa-MoS
x触媒で155mVであるのに対して、a-MoS
x-P3HT触媒では130mVである。
図2の分極曲線は、本発明に係る複合材料の場合には先行技術のa-MoS
x触媒よりも電位の増大が大幅に小さく、よって安定性が向上しているということを示す。
【0072】
図3は、複合材料a-MoS
x-P3HT(本発明に係る触媒)(未洗浄、および上述されるようにエタノールおよび水で洗浄)上におけるHERについての分極曲線を示す。a-MoS
x-P3HT触媒の洗浄形態と未洗浄形態との間で、過電圧η
10
HERの有意差は観察されなかった。
【0073】
図5は、硫化タングステン触媒ならびに複合材料WS
x-P3HT(20:1)およびWS
x-P3HT(40:1)上におけるHERについての分極曲線を示す。幾何的面積あたりの電流密度が10mA・cm
-2に達するために必要な過電圧(η
10
HER)は、WS
x触媒で358mVであるのに対して、WS
x-P3HT(20:1)触媒では320mV、WS
x-P3HT(40:1)触媒では275mVである。
【0074】
図6は、硫化コバルト-タングステン触媒ならびに複合材料CoWS
x-P3HT(20:1)およびCoWS
x-P3HT(40:1)上におけるHERについての分極曲線を示す。幾何的面積あたりの電流密度が10mA・cm
-2に達するために必要な過電圧(η
10
HER)は、CoWS
x触媒で273mVであるのに対して、CoS
x-P3HT(20:1)触媒では236mV、CoWS
x-P3HT(40:1)触媒では223mVである。
【0075】
図7は、硫化鉄-モリブデン触媒および複合材料FeMoS
x-P3HT(20:1)上におけるHERについての分極曲線を示す。幾何的面積あたりの電流密度が10mA・cm
-2に達するために必要な過電圧(η
10
HER)は、いずれの場合も136mVである。HER活性の改善(比較的低いη
10
HER過電圧に相当)は、-10mA.cm
-2においてはみられなかったが、複数の電流密度において複合材料FeMoS
x-P3HT(20:1)について観察できた。より高い電流密度において、複合材料FeMoS
x-P3HT(20:1)のHER活性の改善が観察された。たとえば、幾何的面積あたりの電流密度が50mA・cm
-2に達するために必要な過電圧(η
50
HER)は、FeMoS
x触媒で206mVであるのに対して、FeMoS
x-P3HT(20:1)では192mVである。
【0076】
図8は、硫化コバルト-モリブデン触媒および複合材料CoMoS
x-P3HT(20:1)上におけるHERについての分極曲線を示す。幾何的面積あたりの電流密度が10mA・cm
-2に達するために必要な過電圧(η
10
HER)は、CoWS
x触媒で162mVであるのに対して、CoMoS
x-P3HT(20:1)触媒では145mVである。
【0077】
さらなる性能:
【0078】
【0079】
ECSAは、電解質が接触できてファラデー電荷移動に利用され得る電極材料の表面積を表す。ECSAを電極の幾何的表面で除することによって粗さ係数が得られ、これは、電極材料の固有のパラメータである。
【0080】
先行技術のアモルファスa-MoSx触媒と比較して、本発明に係る複合材料a-MoSx-P3HTの粗さ係数は、同じローディングにおいて3倍大きく、このことは、組織構造が比較的高度であって、電解質が接触できる触媒部位が多いため、本発明に係る複合材料のための触媒作用と本発明に係る複合材料のための改善されたHER活性とを達成できるということを強調するものである。
【0081】
図9は、N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるa-MoS
xおよびa-MoS
x-P3HTのクロノポテンショメトリー(CP)曲線(安定性試験)を示す。24時間の作動中におけるOP
10mA.cm-2の漸進的変化を評価するために、CP曲線から抽出したデータが
図10および
図11中に棒グラフとして示される。
【0082】
図9aは、24時間連続して電気化学的にH
2を発生させている間に測定したa-MoS
x触媒の性能を示す(ポテンショメトリーを10mA.cm
-2にて実施)。適切な条件下における24時間にわたる電気分解後に、10mA.cm
-2(性能を記録するための任意単位としてOP
10mA.cm-2を使用、光電気化学セルにおける太陽光から水素への変換効率10%に相当すると考えられるため)に達するのに必要な電位E(V対RHE)は、最大20mVだけ増大している。この電位の増大は、電解質にO
2を添加した際にも観察され、この場合にはさらに高い(24時間後に最大35mV)ことが分かり(
図9c)、これは、作動中の電気分解装置の膜を通過するO
2クロスオーバーと電気分解装置のオフ中における空気の侵入とを加速試験様式にてモデル化するものである。24時間の作動中における、a-MoS
xについての、時間に対する過電圧(安定性試験)(ΔOP
10mAcm-2/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2(t
0)/mV)(
図9(a、c)から抽出したデータ)が、
図10中に示される。
図9bおよび
図9dは、同じ測定を本発明に係る材料について実施したものを示す。
図11は、24時間の作動中における、a-MoS
x-P3HTについての、時間に対する過電圧(安定性試験)を示す(ΔOP
10mAcm-2/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2(t
0)/mV)(
図9(b、d)から抽出したデータ)。a-MoS
xおよびa-MoS
x-P3HTは、N
2飽和電解質のもとにおいて、ほぼ同じ安定性を示す。a-MoS
x-P3HTは、O
2の存在下において、改善された安定性を示す。O
2の存在下における電位の増大は、a-MoS
xにおいて最大35mVであるのに対して、本発明に係る材料においては大幅に減少しており(最大20mV)、このことは、本発明に係る複合材料の安定性が向上しているということを示す。
【0083】
触媒FeMoSx、WSx、およびCoMoSxと、これらに対応する複合材料FeMoSx-P3HT(20:1)、WSx-P3HT(20:1)、およびCoMoSx-P3HT(20:1)とについても、同様の安定性試験を行なった。
【0084】
図12は、N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるFeMoS
xおよびFeMoS
x-P3HT(20:1)のクロノポテンショメトリー(CP)曲線(安定性試験)を示す。24時間の作動中におけるOP
10mA.cm-2の漸進的変化を評価するために、CP曲線から抽出したデータが
図13および
図14中に棒グラフとして示される。10mA・cm
-2に達するのに必要な電位E(V対RHE)は、N
2飽和電解質のもとにおける24時間にわたる電気分解後に、FeMoS
xおよびFeMoS
x-P3HT(20:1)について、最大23mVだけ増大している。10mA・cm
-2に達するのに必要な電位E(V対RHE)は、O
2飽和電解質のもとにおける24時間にわたる電気分解後に、FeMoS
xについては最大40mVだけ増大しており、FeMoS
x-P3HT(20:1)については最大25mVしか増大していない。よって、増大した安定性が、酸素雰囲気中におけるFeMoS-P3HT(20:1)について観察される。24時間の作動中における、FeMoS
xについての、時間に対する過電圧(安定性試験)(ΔOP
10mAcm-2/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2(t
0)/mV)(
図12(a、c)から抽出したデータ)が、
図13中に示される。24時間の作動中における、FeMoS
x-P3HTについての、時間に対する過電圧(安定性試験)(ΔOP
10mAcm-2/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2(t
0)/mV)(
図12(b、d)から抽出したデータ)が、
図14中に示される。
【0085】
図15は、N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるWS
xおよびWS
x-P3HTのクロノポテンショメトリー(CP)曲線(安定性試験)を示す。24時間の作動中におけるOP
10mA.cm-2の漸進的変化を評価するために、CP曲線から抽出したデータが、
図16および
図17中に棒グラフとして示される。N
2飽和電解質のもとにおける24時間にわたる電気分解後に、10mA・cm
-2に達するのに必要な電位E(V対RHE)は、WS
xおよびWS
x-P3HT(20:1)について、同じように増大している(最大33mV)。O
2飽和電解質のもとにおける24時間にわたる電気分解後に、10mA・cm
-2に達するのに必要な電位E(V対RHE)は、WS
xについては最大45mVだけ増大しており、WS
x-P3HT(20:1)については最大15mVだけ増大している。よって、増大した安定性が、酸素雰囲気中におけるWS
x-P3HT(20:1)について観察される。24時間の作動中における、WS
xについての、時間に対する過電圧(安定性試験)(ΔOP
10mAcm-2/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2(t
0)/mV)(
図15(a、c)から抽出したデータ)が、
図16中に示される。24時間の作動中における、WS
x-P3HTについての、時間に対する過電圧(安定性試験)(ΔOP
10mAcm-2/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2(t
0)/mV)(
図15(b、d)から抽出したデータ)が、
図17中に示される。
【0086】
図18は、N
2飽和電解質(a、b)またはO
2飽和電解質(c、d)のもとにおけるCoMoS
xおよびCoMoS
x-P3HT(20:1)のクロノポテンショメトリー(CP)曲線(安定性試験)を示す。24時間の作動中におけるOP
10mA.cm-2の漸進的変化を評価するために、CP曲線から抽出したデータが、
図19および
図20中に棒グラフとして示される。N
2飽和電解質のもとにおける24時間にわたる電気分解後に、10mA・cm
-2に達するのに必要な電位E(V対RHE)は、CoMoS
xについては最大60mVだけ増大しており、CoMoS
x-P3HT(20:1)については最大50mVだけ増大している。O
2飽和電解質のもとにおける24時間にわたる電気分解後に、10mA・cm
-2に達するのに必要な電位E(V対RHE)は、CoMoS
xについては最大55mVだけ増大しており、CoMoS
x-P3HT(20:1)については最大40mVしか増大していない。よって、増大した安定性が、酸素雰囲気中におけるCoMoS-P3HT(20:1)について観察される。24時間の作動中における、FeMoS
xについての、時間に対する過電圧(安定性試験)(ΔOP
10mAcm-2/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2(t
0)/mV)(
図18(a、c)から抽出したデータ)が、
図19中に示される。24時間の作動中における、FeMoS
x-P3HTについての、時間に対する過電圧(安定性試験)(ΔOP
10mAcm-2/mV=OP
10mAcm-2(t)/mV-OP
10mAcm-2(t
0)/mV)(
図18(b、d)から抽出したデータ)が、
図20中に示される。
【0087】
PEM電気分解のための膜-電極アセンブリ(MEA)の作製:
高分子電解質膜としてNafion(登録商標)212膜(50μm厚)を使用し、アノード触媒としてイリジウム黒を使用して、膜-電極アセンブリ(MEA)を調製した。本発明に係る複合材料a-MoSx-P3HTを、カソード触媒として使用した。カソードの調製のために、触媒を炭素Vulcan XC72R(Cabot)と混合した。エタノール/水の溶液とNafion(登録商標)パーフルオロ化樹脂溶液(5重量%溶液、Sigma-Aldrich)とを使用して、触媒インクを調製した。超音波浴を使用して、触媒インク溶液を1時間かけて超音波処理した後で、堆積させた。
【0088】
既定の触媒含量に達するまで、アノード触媒インクを転写用基板(PTFE被覆繊維ガラスクロス、Plastic Elastomer)上に堆積させた。既定の触媒含量に達するまで、カソード触媒インクを非触媒化ガス拡散層(GDL、Sigracet 39BC、SGL Group-The Carbon Company)上に堆積させた。調製したままの電極と、被覆した転写用基板とを、その間にNafion(登録商標)212膜を挟んで組み立てて、120℃、5MPaにおいて1分30秒間、熱間圧接に供した。熱間圧接の停止後、転写用基板を剥がして、Nafion(登録商標)212膜の一方の側にアノード触媒を移した。
【0089】
調製したままのMEAを、さらに、単電池プロトン交換膜(PEM)電気分解装置中に組み込んだ。測定したMEAの分極曲線が、
図4中に示される。80℃において、注目に値する電気化学的性能が得られ、0.5mA・cm
-2に達するには1.75Vが、1mA・cm
-2に達するには1.83Vが必要であった。
【国際調査報告】