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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】粘性摩擦クラッチの弁制御システム
(51)【国際特許分類】
   F16D 35/00 20060101AFI20230614BHJP
   F16D 27/10 20060101ALI20230614BHJP
   F16D 35/02 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
F16D35/00
F16D27/10 Z
F16D27/10 A
F16D35/02 J
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568694
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(85)【翻訳文提出日】2023-01-04
(86)【国際出願番号】 US2021070423
(87)【国際公開番号】W WO2021232034
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】63/024,592
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506038235
【氏名又は名称】ホートン, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラマー, ライムント
(57)【要約】
粘性摩擦クラッチ(100;200)は、ロータ(106;206)と、ロータに対して回動可能なハウジング(112;212)と、ロータとハウジングとの間に配置された作動室(115;215)であって、ロータとハウジングの両方に接触するように所定量のせん断流体を選択的に導入可能な作動室と、電磁コイル(101;201)と、作動室内に保持されるせん断流体の量を制御する弁組立体(107;207)と、電磁コイルと弁組立体を磁気的に連結する磁束経路(A;A´)と、を備える。磁束経路は、粘性摩擦クラッチの内部でロータを通り抜けて延在する強磁性材料からなる磁束ガイド部(105;105´;205)を通貫し、空隙とハウジングの非強磁性部(112b-1;212b-1)との両方を横断する磁束ギャップ(B)とクロスする。

【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、
前記ロータに対して相対回動可能なハウジングと、
前記ロータと前記ハウジングとの間に配置された作動室であって、前記ロータおよび前記ハウジングの両方と接触するように所定の量のせん断流体を選択的に導入可能である作動室と、
電磁コイルと、
前記作動室に保持される前記せん断流体の量を制御する弁組立体と、
前記電磁コイルと前記弁組立体とを磁気的に連結する磁束経路と、を備える粘性摩擦クラッチであって、
前記磁束経路は、前記粘性摩擦クラッチの内部で前記ロータを通り抜けて延在する磁束ガイド部を通貫するとともに、空隙部および前記ハウジングの非磁性部の両方を横断する磁束ギャップをクロスする、強磁性体からなる磁束ガイド部を通過する、粘性摩擦クラッチ。
【請求項2】
前記磁束ガイド部は前記ロータに埋め込まれており、前記ロータは非強磁性材料からなる、請求項1に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項3】
前記磁束ガイド部は、少なくとも部分的に非強磁性材料からなるハブ部をさらに含むマルチピース型ロータインサート組立体の一部である、請求項1に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項4】
ロータインサート組立体は、内径と外径との間に、前記磁束ガイド部と、少なくとも一部が非強磁性のハブ部とを含み、前記磁束ガイド部は、外径部またはその近傍に配置される、請求項1に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項5】
前記ハブ部は、強磁性材料からなるコアと、前記コアから半径方向外向きに延在する非強磁性材料からなるディスクと、を有する、請求項4に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項6】
前記磁束ガイド部の一部は、前記磁束ギャップで分離された電磁コイルハウジングの外径に隣接する位置で、前記ロータから軸方向に突出し、前記電磁コイルは、前記電磁コイルハウジングの内部に少なくとも一部が配置される、請求項1に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項7】
前記磁束ガイド部の後端は、軸方向において前記作動室の後方に延在する、請求項1に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項8】
前記ハウジングは、前記ハウジングの内部と外部との間を通過する前記磁束経路の中に強磁性磁束ガイドの埋め込みインサート部品を含まない、請求項1に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項9】
前記磁束経路は、前記弁組立体のアーマチュアと前記磁束ガイド部との間の半径方向ギャップを含み、前記半径方向ギャップはアーマチュアの外径部に配置される、請求項1に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項10】
シャフトをさらに備え、前記シャフトは前記ロータに対する回動が固定されており、粘性摩擦クラッチの内部にある前記シャフトの端部に、軸方向に延在する止まり穴を有する、請求項1に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項11】
前記止まり穴に取り付けられ、非磁性材料からなるキャリアと、
前記キャリアに保持され、前記ハウジングに接触する封止部品と、をさらに備える、請求項10に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項12】
前記キャリアは、前記キャリアを貫通して軸方向に延在する中央開口部を有する、請求項11に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項13】
前記キャリアは、前記弁組立体の動作中に前記弁組立体のアーマチュアに接触するように配置された停止部を有する、請求項11に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項14】
前記シャフトは、前記止まり穴に配置されたツーリング機能を有する、請求項11に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項15】
前記ハウジングのカバーは、前記シャフトおよび前記ツーリング機能を工具で操作可能にする開口部を含む、請求項14に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項16】
コイルハウジングをさらに備え、
前記電磁コイルの少なくとも一部が前記コイルハウジングの中に配置されており、前記コイルハウジングは、反対の2つの磁極と前記磁極の間の中間部とを有し、前記磁極の一方が半径方向に延在し、前記磁極の他方が軸方向に延在する、請求項1に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項17】
前記コイルハウジングの前記中間部はU字型である、請求項16に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項18】
強磁性の前記磁束ガイド部は、前記ロータの前側と反対側の後側との間で、前記ロータを軸方向で貫通して延在する、請求項1に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項19】
前記ロータにより担持される貯蔵室をさらに備え、
前記ロータが前記粘性摩擦クラッチへの入力として作用し、前記粘性摩擦クラッチへのトルク入力があるときは常に、前記ロータおよび前記貯蔵室の両方が入力速度で回転する、請求項1に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項20】
前記ロータに対する回動が固定されたシャフトと、前記シャフト上で前記ハウジングを回動方向に支持する軸受と、をさらに備え、前記軸受は前記磁束経路の内部に配置される、請求項1に記載の粘性摩擦クラッチ。
【請求項21】
粘性摩擦クラッチを通して磁束を伝達することで弁組立体を操作する方法であって、前記粘性摩擦クラッチは、それぞれが回動可能なロータおよびハウジングと、前記ロータに対する回動が固定されたシャフトと、を有し、前記弁組立体が作動室内に保持されるせん断流体の量を制御することで、前記ロータと前記ハウジングとの間の粘性摩擦係合の程度を選択的に制御し、
前記粘性摩擦クラッチの前記ハウジングの外部に配置され、回動方向の動きは静止している電磁コイルに通電するステップと、
電磁コイルから、前記電磁コイルの少なくとも一部を取り囲むコイルハウジングに磁束を伝達するステップと、
半径方向ギャップを横切って前記コイルハウジングから前記粘性摩擦クラッチの前記シャフトに磁束を伝達するステップと、
磁力がおよぶ領域における軸方向ギャップを横切って前記シャフトから前記弁組立体のアーマチュアに磁束を伝達するステップと、
前記アーマチュアからギャップを横切って強磁性材料からなる磁束ガイド部に磁束を伝達するステップと、
前記粘性摩擦クラッチの前記ロータの軸方向で反対側にある前側と後側との間で、前記磁束ガイド部に沿って磁束を伝達するステップと、
前記粘性摩擦クラッチの前記ハウジングの非強磁性部を有する磁束ギャップを横切って、前記磁束ガイド部から前記コイルハウジングに磁束を伝達するステップと、
前記コイルハウジングから前記電磁コイルに磁束を戻すステップと、を備える、方法。
【請求項22】
前記ロータに埋め込まれたハブ部のコアを通して磁束を伝達するステップ、をさらに備える、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記アーマチュアと前記磁束ガイド部の間のギャップは、半径方向に配置されて一定である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記コイルハウジングと前記シャフトの間の前記半径方向ギャップは一定である、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記磁束ガイド部と前記コイルハウジングの間の前記磁束ギャップは軸方向に配置されており、前記粘性摩擦クラッチの前記ハウジングの前記非強磁性部の軸方向の両側にある2つの空隙を横断する、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記磁束ガイド部と前記コイルハウジングと間の前記磁束ギャップは一定である、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記磁束ガイド部と前記コイルハウジングとの間の前記磁束ギャップは、前記電磁コイルと前記弁組立体の前記アーマチュアとを磁気的に連結する磁束経路において、最大の間隔を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記磁束ギャップに含まれる前記ハウジングの前記非強磁性部は、前記シャフト上で前記ハウジングを回動方向に支持する軸受けから、半径方向で外側に配置される、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記磁束ガイド部の後端と前記コイルハウジングとの間の前記磁束ギャップの間隔は、前記弁組立体の前記電磁コイルおよび前記アーマチュアに磁気的に連結された磁束経路に沿った前記ロータの前記後側と前記コイルハウジングとの間の間隔よりも狭い、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性摩擦クラッチに関し、特に、粘性摩擦クラッチの電磁制御システムに関するものであって、そのような電磁制御システムを含む粘性摩擦クラッチ、ならびに、その製造方法および使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッチ(ドライブまたはカップリングとも称される)は、入力と出力の間のトルク伝達を選択的に制御するために、さまざまな状況で使用されている。例えば、ファンクラッチは、自動車または産業用途の冷却ファンなどのファンの回転の制御に使用される。冷却ファンの動作を制御することは、クラッチが係合されているときの冷却の流れに関連するすべての利点を提供するだけではなく、必要のないときはファンを停止可能であるので、寄生損失を減少させて燃料効率を向上させる。冷却ファンを停止すると、その余剰電力を他の用途に転用可能である。いくつかのクラッチでは、単なる二者択一のオン/オフ方式ではなく、出力速度をある範囲内で選択的に変化させる制御が可能である。完全な可変クラッチ制御は、冷却ファン用途の現在の状態に合わせて冷却を調整するなどの性能の最適化に有用である。
【0003】
粘性摩擦クラッチ(単に粘性クラッチとも称される)は、自動車のファン駆動用途など、さまざまな用途に使用されている。これらのクラッチは通常、比較的高粘度のシリコンオイル(より汎用的にはせん断流体または粘性流体と称される)を使用して、2つの回動可能な部品間でトルクを選択的に伝達する。入力部材と出力部材との間(例えば、ロータとハウジングとの間)に配置されるクラッチの作動室に、せん断流体を選択的に導入または放出することで、クラッチの係合または解放が可能になる。この作動室では、せん断流体による粘性せん断結合が入力部材から出力部材へトルクを部分的に伝達する。作動室内に保持されるせん断流体の量が、クラッチの一次/入力側(入力速度)と二次/出力側(出力速度)との間の速度差を制御する。作動室に導入または放出するせん断流体の流れの制御には、弁組立体が使用される。
【0004】
温度感知するバイメタル制御クラッチが知られている。しかし、このようなバイメタル弁制御はアクティブ制御に対応できないので、一部のアプリケーション(例えば、ブロワーファンアプリケーション)には適合しない。
【0005】
電磁コイルを使用して、弁組立体の操作に利用する磁束を選択的に生成する電磁弁制御装置も周知である。一般的な粘性クラッチでは、貯蔵室に導入または放出するせん断流体の流れを調整するために、せん断流体の流れを制御する弁体の全体または一部をクラッチの内部に配置する必要がある。一方、電磁コイルは通常、適切な外部との電気接続が可能となるように、クラッチの外側に配置される。このような一般的な粘性クラッチは、電磁コイルが弁体から物理的に離間した状態で弁体を操作するために、電磁コイルと弁との間に磁束経路および/または機械的接続を有する。しかしながら、多くの従来技術の粘性クラッチには、弁組立体の電磁制御に使用される磁束回路および/または機械的接続(例えば、制御棒)に関する制約がある。例えば、あるクラッチ設計では、クラッチが切断されている間、入力ロータ(ハウジングの内部に配置され、クラッチへのトルクが入力されているときは常に回転する)に、搭載されている、または回動が固定されている貯蔵室に、せん断流体の貯蔵が可能である。このことは、切断され停止した状態からのクラッチの外部出力ハウジングの迅速な係合を可能とするとともに、弁が作動室のせん断流体の量を制限する位置にあるときにクラッチが非常に低い出力速度(たとえば、ファン速度)となることを可能にする。しかしながら、貯蔵室をロータディスクなどに搭載すると、特に、電磁コイルの回動が固定されている(つまり、回転しない)ときでも弁体がクラッチ入力で回転することになり、設計の自由度がかなり制限される。好適な流体経路と磁束経路を提供しながら回転する貯蔵室に対して弁を配置することは、せん断流体が漏れる可能性のある潜在的な漏れ経路を封止する必要性など、困難な課題を生じさせる。これらの制約が適用されるなかで、設計者は、所望のトルク負荷に対応でき、迅速、効率的、かつ確実に機能する比較的小型で軽量なクラッチパッケージを提供しようとしている。
【0006】
特許文献1は、外部電磁コイルとクラッチの内部の弁との間の機械的接続について開示する。また、別の弁組立体の機械的接続が特許文献2に開示されている。しかしながら、これらの機械的接続では、クラッチの内側から外側へのせん断流体の漏れに対する封止と、機械的接続自体を電磁制御する追加の部品が必要となる。
【0007】
特許文献3には、弁部品のアーマチュアと電磁コイルとを連結する磁束経路用のクラッチのハウジングの中に埋め込まれたインサート部品が記載されている。しかしながら、ダイキャストアルミニウムハウジングに鉄製インサート部品を埋め込むと、アルミニウム製ハウジングと鉄製インサート部品との間の熱膨張係数の差異により漏れが生じさせる虞がある。この漏れの問題は、この技術分野で知られており、例えば、特許文献4に記載されている。
【0008】
クラッチの内部を通る磁束経路を提供するその他のさまざまな粘性クラッチの設計については、特許文献5、特許文献6、および特許文献7に開示されており、Cojali S.L.(シウダーレアル、スペイン)から、それらのクラッチの冷却システムが市販されている。これらのクラッチ設計では、通常、磁束経路はハウジングを通過しない、または、磁束経路がハウジングの内部に完全に包含されているか、あるいはハウジングから半径方向の内側に配置されたシャフト、ロータハブ、および/または軸受組立体の中で複数の分離された経路を辿る(つまり、磁束経路はハウジングのいずれの部分とも交差せず、むしろ、ハウジングの内側の位置で前後に通過してハウジングを迂回する)。Cojaliの市販クラッチでは、磁束ガイドはなく、磁束経路はコイルの内径から中心軸を通って弁に至り、コイルの外径に戻る(つまり、磁束は案内されずに弁からコイルに戻る)。
【0009】
さらなる考慮事項として、比較的小型で比較的軽量なクラッチパッケージ一式を提供する必要がある。一般に、電磁コイルは、弁組立体の作動に十分な磁場を生成する大きさを有することが必須である。弁体を作動させるために比較的大きな磁束を必要とする制御システムは、それに応じた大きな電磁コイルを必要とする。しかし、そのような大きな電磁コイルは占有スペースが大きく、また比較的重量が重い。したがって、より低い総磁束要件で確実に動作できる制御システム、すなわち、比較的効率よく磁束を利用して弁を作動させる制御システムは、比較的小型で軽量のクラッチパッケージの提供に有用である。
【0010】
さらに、用途によっては、クラッチの入力または出力のいずれかとして機能する「活」中心シャフトを有するように構成されたクラッチが望ましい。「活」中心シャフトとは、一般に、ジャーナルブラケットに対して回動が固定されている取り付けシャフトなどの静的または回動方向の動きが静止するシャフトとは対照的に、クラッチ動作中に回動可能なシャフトを指す。「活」中心シャフトクラッチは、たとえば軽負荷の用途に有用である。「活」中心シャフトを含んで構成したクラッチは、プーリ(または滑車)、ジャーナルブラケットなどの必要性を排除し得ることなどにより、比較的軽量で比較的小型なクラッチパッケージの提供にさらに有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,419,064号明細書
【特許文献2】国際公開第2014/047430号
【特許文献3】米国特許第6,443,283号明細書
【特許文献4】米国特許第5,511,643号明細書
【特許文献5】米国特許第5,992,594号明細書
【特許文献6】米国特許第7,886,886号明細書
【特許文献7】国際公開第2011/062856号
【特許文献8】国際公開第2018/004833号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、粘性摩擦クラッチの電磁制御システムと、その製造方法および使用方法と、を提供することが望まれる。それらは、クラッチハウジングおよび/またはハウジングに埋め込まれた磁束ガイド部のインサート部品の機械的接続の必要性を低減または排除すると同時に、比較的小型で比較的軽量なクラッチパッケージを提供することを目的とする。さらに、「活」中心シャフトを備えた構成のクラッチを提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様における粘性摩擦クラッチは、ロータと、そのロータに対して回動可能なハウジングと、ロータとハウジングとの間に配置される作動室であって、ロータおよびハウジングの両方と接触するように所定の量のせん断流体を選択的に導入可能である作動室と、電磁コイルと、作動室に導入されるせん断流体の量を制御する弁組立体と、電磁コイルと弁組立体とを磁気的に連結する磁束経路と、を備え、磁束経路は、前記粘性摩擦クラッチの内部で前記ロータを通り抜けて延在する磁束ガイド部を通貫するとともに、空隙部および前記ハウジングの非磁性部の両方を横断する磁束ギャップとクロスする、強磁性体からなる磁束ガイド部を通過する。
【0014】
別の態様における粘性摩擦クラッチを介して磁束を伝達することで、弁組立体を操作する方法について説明する。粘性摩擦クラッチは、ロータと、それぞれがロータに対して回動が固定されたハウジングおよびシャフトと、を有する。弁組立体は、作動室内に導入されるせん断流体の量を制御することで、ロータとハウジングとの間の粘性摩擦係合の程度を選択的に制御する。この方法は、前記粘性摩擦クラッチの前記ハウジングの外部に配置されており、回動方向の動きは静止している電磁コイルに通電するステップと、電磁コイルから、その電磁コイルの少なくとも一部を取り囲むコイルハウジングに磁束を伝達するステップと、半径方向ギャップを横切ってコイルハウジングから粘性摩擦クラッチのシャフトに磁束を伝達するステップと、磁力がおよぶ領域における軸方向ギャップを横切ってシャフトから弁組立体のアーマチュアに磁束を伝達するステップと、アーマチュアからギャップを横切って強磁性材料からなる磁束ガイド部に磁束を伝達するステップと、粘性摩擦クラッチのロータの軸方向で反対側にある前側と後側との間で、磁束ガイド部に沿って磁束を伝達するステップと、粘性摩擦クラッチのハウジングの非強磁性部を有する磁束ギャップを横切って磁束ガイド部からコイルハウジングに磁束を伝達するステップと、コイルハウジングから電磁コイルに磁束を戻すステップと、を備える。磁束ガイド部は強磁性体からなる。
【0015】
さらに別の態様では、粘性摩擦クラッチの製造方法も提供される。
【0016】
これらの手段は、限定するものではなく一例として提供されるだけである。本発明の他の態様は、本文全体、特許請求の範囲、および添付の図面を含むこの開示全体を考慮して理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明による粘性摩擦クラッチの一実施形態の断面図である。
図2図2は、図1の粘性摩擦クラッチの部分断面図に、磁束経路および磁力がおよぶ領域の注釈を付加した図である。
図3図3は、図1および図2の粘性摩擦クラッチの一部の別の部分断面図である。
図4図4は、ロータインサート組立体単体の断面図である。
図5図5は、図4のロータインサート組立体の正面斜視図である。
図6図6は、ロータインサート組立体単体の他の実施形態の正面斜視図である。
図7図7は、本発明による粘性摩擦クラッチの別の実施形態の断面図である。
図8図8は、図7の粘性摩擦クラッチの部分断面図に、磁束経路および磁力がおよぶ領域の注釈を付加した図である。
図9図9は、図7および図8の粘性摩擦クラッチの一部の別の部分断面図である。
【0018】
上述の図は本発明の1つ以上の実施形態を示しているが、上述の議論のとおり、他の実施形態も考えられる。すべての場合において、本開示は、限定するものなく代表するものとして発明を提示する。当業者は、本発明の原理の範囲および意図に含まれる多数の他の変更および他の実施形態の考案が可能なことを理解されたい。図面は必ずしも一定の縮尺で描かれておらず、本発明の用途および実施形態は、図面に具体的に示されていない特徴、ステップおよび/または構成要素を含み得る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
一般に、本発明の実施形態は、クラッチ入力とクラッチ出力との間で、トルクを所望の速度で選択的に伝達するように制御可能な粘性摩擦クラッチの電磁制御システムを提供する。このような粘性摩擦クラッチは、車両内の冷却ファンを選択的に駆動する、または他の装置へのトルク伝達を速度制御するために使用可能である。粘性摩擦クラッチは、中心シャフト、ロータ、ハウジング、貯蔵室、作動室、および電磁コイルからの磁束によって作動するアーマチュアを有する弁組立体を含み得る。電磁コイルは、粘性摩擦クラッチの外部に配置可能であり、回動が固定、すなわち回動方向の動きは静止可能である。いくつかの実施形態では、弁組立体のアーマチュアおよび弁体はそれぞれ、粘性摩擦クラッチの内部に配置可能である。いくつかの実施形態では、弁組立体および電磁コイルは、ロータの互いに反対側に配置可能である。中心シャフトは、いくつかの実施形態では、常にロータと同じ速度で共回転するように、ロータに対して回動が固定された「活」中心シャフトであり得る。ロータは、いくつかの実施形態ではディスク状に構成可能である。貯蔵室は、クラッチへのトルク入力があるときは常に回転するように、ロータなどのクラッチへの入力で担持可能である。いくつかの実施形態では、ハウジングは、ロータの少なくとも一部を取り囲む基体およびカバーを含むマルチピース型組立体であり得る。粘性摩擦は、磁束ガイド部を含むロータにおいてロータインサート組立体を含み得る。ロータインサート組立体は、さまざまな機能を満たす。ロータインサート組立体の第1部分は、その少なくとも一部が強磁性材料などの磁束伝導材料からなり、粘性摩擦クラッチを通る磁束経路の一部に沿って磁束を案内する磁束経路制御器または磁束ガイドとして動作し(例えば、ロータを横切って、またはロータを介して)、追加の磁束伝導インサート部品をクラッチのハウジングに組み込むことなく、クラッチの内部に配置された弁の電磁的な制御動作を容易にする。インサート組立体のハブとも呼ばれるロータインサート組立体の第2部分は、シャフトとロータインサート組立体の第1部分(すなわち、ロータインサート組立体の磁束ガイド部)との間の磁気短絡を低減または回避しながら、中心シャフトとロータとの間を構造的な接続してトルクを伝達する。クラッチを通る磁束経路は、電磁コイルから中心シャフトへ延在可能であり、次に弁組立体のアーマチュア、そしてロータインサート組立体の第1の磁束ガイド部(非強磁性材料からなることが可能であるロータを介して磁束を伝達可能である)、続いて磁束ギャップを横切って電磁コイルに戻る。別の実施形態では、ロータインサート組立体は、強磁性ハブコアおよび非強磁性ディスク部を有するマルチピース型ハブ部を含み、そのような他の実施形態において、クラッチを通る磁束経路は、電磁コイルから中心シャフトへ延在可能であり、次にハブコア、そして弁組立体のアーマチュア、続いてロータインサート組立体の第1の磁束ガイド部、さらに、磁束ギャップを横切って電磁コイルに戻る。さまざまな実施形態では、磁束ギャップは、アルミニウムなどの非強磁性材料からなるハウジングの一部(ハウジングの基体の一部など)を横切ることが可能である。いくつかの実施形態では、ハウジングカバー開口部、シールおよびシール担持部、アーマチュア停止部、および/または他の任意の構成要素をさらに設けることが可能である。このように、開示した実施形態は、例えば、車両内の冷却ファンを駆動するまたは他の装置へのトルク伝達の速度を制御する粘性摩擦クラッチであって、クラッチの内部を通過する電磁束経路を有する粘性摩擦クラッチを提供する。磁束経路は、クラッチの内部でロータを通り抜ける強磁性の磁束ガイド部を通貫するとともに、ロータの少なくとも一部を取り囲むハウジングの非強磁性部とハウジングの非強磁性部の両端の空隙とを横断する磁束ギャップの両方を通過する。磁束ガイド部は、非強磁性材料ならなるロータに埋め込むか、またはロータに接続することが可能である。電磁制御システムを備えた粘性摩擦クラッチの製造方法および使用方法の実施形態も開示されており、また、それらは当業者には明らかであろう。
【0020】
さらなる実施形態も考えられる。例えば、開示した実施形態は、活中心クラッチ構成で使用される電磁制御システムを示しているが、一方で、電磁制御システム、ロータインサート組立体、および/または関連する方法は、他のタイプのクラッチ構成でも利用可能なことが理解されるであろう。当業者は、添付の図面を含む本開示の全体を考慮して、多数の特徴および利点を認識するであろう。
【0021】
本出願は、2020年5月14日付けで出願した米国仮特許出願第63/024,592号に基づくとともに、その利益を主張しており、その内容はその全体を参照して本明細書に組み込まれている。
【0022】
図1から図5までに、粘性摩擦クラッチ100の一実施形態を示す。図1は、粘性摩擦クラッチ100の断面図である。図2は、磁束経路Aおよび磁力がおよぶ領域Dを示す注釈を付加した粘性摩擦クラッチ100の別の断面図である。図3に、粘性摩擦クラッチ100の一部の部分断面図を示す。図4および図5には、粘性摩擦クラッチ100の一部である組立体単体を示す。
【0023】
図1に示す実施形態のように、粘性摩擦クラッチ100は、電磁コイル101と、N極102NおよびS極102Sを画定するコイルハウジング102と、ハブ部104および磁束ガイド部105を有するロータインサート組立体103と、ロータ106と、アーマチュア108および弁体109を有する弁組立体107(吸着位置で示されている)と、シャフト110と、ハウジング112と、貯蔵室113と、放出口114と、作動室115と、を含む。特に図示していないが、粘性摩擦クラッチ100は、いずれも粘性摩擦クラッチの技術分野でよく知られている好適なリターンボアおよびポンプ部品をさらに含む。
【0024】
図示した実施形態のように、シャフト110は、粘性摩擦クラッチ100の回転軸CLを画定する「活」中心シャフトである。電磁コイル101は、回動方向の動きの静止が可能であり、好適な軸受け101Xによりシャフト110に対して回動可能に取り付け得る。さらに、コイルハウジング102は、電磁コイル101も支持する軸受101Xを用いてシャフト110に対して回動可能に取り付け可能であり、そして、電磁コイル101の少なくとも一部を取り囲み得る。電磁コイル101およびコイルハウジング102は両方とも、ハウジング112の外側に配置可能である。シャフト110は、その後端に取り付け機能を有し得る。シャフト110は、粘性摩擦クラッチ100への入力として機能することが可能であり、車両の内燃機関などの原動機(図示せず)からのトルク入力を受け入れる。図示した実施形態では、シャフト110の少なくとも一部が磁束伝導性の強磁性材料からなる。
【0025】
電磁コイル101は、その少なくとも一部がコイルハウジング102の中に配置される。図示した実施形態では、コイルハウジング102のN極102Nは、シャフト110に向かって半径方向の内向き延在し、コイルハウジング102のS極102Sは、磁束ガイド部105(およびハウジング112の基体112b)に向かって軸方向に延在する。
【0026】
ロータ106は、ロータ106とシャフト110とが同じ速度で(例えば、粘性摩擦クラッチ100へのトルク入力の入力速度で)共回転するように、シャフト110に対する回動を固定することが可能である。ロータ106は、図示した実施形態ではディスクとして構成され、アルミニウムなどの非強磁性材料で形成可能である。ロータインサート組立体103のハブ部104および磁束ガイド部105の少なくとも一部は、図示した実施形態のように、ロータ106に埋め込まれている。
【0027】
図示した実施形態では、ロータインサート組立体103は、半径方向の内側の位置にハブ部104を有し、半径方向の外側の位置に磁束ガイド部105を有する(ロータインサート組立体103は、図4および図5に関連して以下でさらに説明される)。ハブ部104は、ロータ106の半径方向の内側部分に配置可能であり、ロータ106とシャフト110とを構造的に取り付ける部品として提供され得る。図示した実施形態では、ハブ部104は、コア104cとディスク104dとを含むマルチピース型組立体であり、ディスク104dはコア104cから半径方向外向きに延在する。コア104cは、シャフト110上に直接配置可能である。ハブ部104は、オーステナイト系ステンレス鋼などの非強磁性材料を含み得、および/または、以下でさらに説明するように、磁束ガイド部105とシャフト110との間で、略半径方向において、磁気短絡を低減または排除する磁束遮断機能を備える構成とし得る。図示した実施形態では、コア104cは強磁性材料からなり、ディスク104dは非強磁性材料からなる。その非強磁性材料は、半径方向において、ロータインサート組立体103に沿ういかなる磁束の流れをも遮断する。より一般的には、図示した実施形態のロータインサート組立体103のハブ部104は、その内径とその外径との間において、非強磁性を含む、または少なくとも一部に非強磁性の部分を含む。
【0028】
磁束ガイド部105は、ディスク104dの半径方向の外側部分においてハブ部104に取り付け可能である。磁束ガイド部105は、ロータ106を通って軸方向に延在する。磁束ガイド部105は、ロータ106の非強磁性材料を通過して磁束を伝導するように、強磁性材料で作成可能である。図示した実施形態における磁束ガイド部105は、ロータ106の後側から軸方向に突出して延在する後端105aを有し、以下でさらに説明するように、コイルハウジング102の外径において、または外径に隣接することで、磁束がコイルハウジング102のS極102Sへ進むことを補助する。図示した実施形態のように、磁束ガイド部105の後端105aは、径方向位置において、コイルハウジング102のS極102Sと重なり合う(それらの間の磁束経路が実質的に軸方向または完全に軸方向になり得るように)。ただし、さらなる実施形態では、後端105aがコイルハウジング102のS極102Sよりも半径方向で内側に配置されるなど、半径方向における他の位置にも配置可能である。
【0029】
貯蔵室113は、供給されたせん断流体を貯蔵する内部容積を有する。放出口114は、せん断流体が貯蔵室113から作動室115に流れることを可能にし、弁組立体107により選択的に覆うまたは覆わないことが可能である。リターンボア(図示せず)が貯蔵室113に出ることで、せん断流体を貯蔵室113に戻して貯蔵することが可能となる。図示した実施形態のように、貯蔵室113は、ロータ106によって、またはロータ106上に担持される。ロータ106が粘性摩擦クラッチ100の入力の一部をなすとき、粘性摩擦クラッチ100へのトルク入力がある期間中、貯蔵室113は常時回転する。いくつかの実施形態では、磁束ガイド部105は、貯蔵室113に隣接する、および/または、貯蔵室113の境界の少なくとも一部を構成することが可能である。図示した実施形態のように、貯蔵室113の境界の一部を画定する貯蔵室プレート113aは、磁束ガイド部105の後端105aに任意に固定される。貯蔵室プレート113aは、強磁性材料で作成可能であり、任意に磁束経路の一部を形成し得る。代替の実施形態では、貯蔵室113は、1つ以上の内壁、モーニングシックネス防止弁などの逆流防止機能またはモーニングシックネス防止機能を任意にさらに含むことができる。
【0030】
図示した実施形態では、ハウジング112は、マルチピース型組立体であり、基体112bおよびカバー112cを有する。図示した実施形態では、ハウジング112は、ロータ106の少なくとも一部を取り囲む。ハウジング112(例えば、ハウジング基体112b)は、軸受け112Xでシャフト110上に回動方向で支持されており、シャフト110に対して、同様にロータ106に対しても回動可能である。ハウジング112は、粘性摩擦クラッチ100の出力として機能できるので、動作中に粘性摩擦クラッチ100が選択的に伝達するトルク出力を受け取るファン(図示せず)などの出力装置をハウジング112に取り付けることができる。ハウジング112は、アルミニウムなどの非強磁性材料で作成可能である。
【0031】
作動室115は、ロータ106とハウジング112との間に配置され、作動室115に保持されるせん断流体の量により、ロータ106とハウジング112との両方に摩擦接触して、作動室115に保持されるせん断流体の量に概ね依存するすべり速度で、ロータ106とハウジング112との間でトルクを伝達可能である。粘性摩擦クラッチにおける作動室の基本的な動作は、当該技術分野で知られている。
【0032】
弁組立体107は、アーマチュア108および弁体109を含む。アーマチュア108は、弁体109に接続され、以下でさらに説明するように、印加された磁束に応答して弁体109を動かす。図示した実施形態では、弁組立体107は、ロータ106の前側に配置され、電磁コイル101は、ロータ106の反対側の後側に配置される。弁体109はデフォルトでは開位置にばねで付勢されており、印加された磁束がばねの付勢力を超える弁作動力を発生すると、アーマチュア108および弁体109を閉位置に移動させる。これは、「フェイルオン」構成と称されており、電力が失われると、ばねの付勢力が弁組立体107をデフォルトの「オン」または開位置に移動させることを意味する。図示した実施形態のように、アーマチュア108および弁体109を含む弁組立体107は、粘性摩擦クラッチ100の内部(すなわち、ハウジング112の内部)に配置され、ロータ106によりまたはロータ上に担持される。さらに、図示した実施形態では、弁体109は、ストロークCの間、概ね軸方向に枢動または平行移動する(図3を参照)。停止部116をロータ106に任意で設置することで、アーマチュア108および弁体109の動き、ならびに弁組立体107のオフ、開放、または引き離された位置でのストロークCを制限する。放出口114は、せん断流体が貯蔵室113から作動室115に流れることを可能にし、弁組立体107が放出口114を選択的に覆うまたは覆わないことで、作動室115内に保持されるせん断流体の量を調節し、それにより粘性摩擦クラッチ100の動作を制御する。クラッチ作動中は、せん断流体がリターンボア(図示せず)を通して作動室115から貯蔵室113に概ね連続して送り返される。
【0033】
動作中、電磁コイル101は、選択的に励磁されることで磁束経路(または磁束回路)Aに沿って粘性摩擦クラッチ100を通って進む磁束を生成し、弁組立体107を動作し得る。図2に、クラッチ100の回転軸CLの一方の側の磁束経路Aを、破線で概略的に示す。ただし、図2では磁束経路Aの一部が記述されているだけであって、磁束経路Aは軸CLの周りに延在する3次元形状を有することを理解されたい。磁束経路Aは、磁束が電磁コイル101から弁組立体107のアーマチュア108を通過し、そして、電磁コイル101に戻ることが可能である。磁束経路Aは、電磁コイル101を出てコイルハウジング102に入り、コイルハウジング102のN極102Nからギャップを横切ってシャフト110に到達する。コイルハウジング102とシャフト110との間のギャップは一定であり、図示した実施形態では半径方向に配置されている。次に、磁束は、磁力がおよぶ領域Dのシャフト110とアーマチュア108との間のギャップを横切って進み得る。いくつかの実施形態では、磁束は、任意に、ロータインサート組立体103のハブ部104のコア104cを通って、磁力がおよぶ領域Dの中を、および/またはその近傍を進み得る。磁力がおよぶ領域Dは、いくつかの実施形態では、回転軸CLから半径方向の外側に離間した位置にあり得る。他の実施形態では、磁力がおよぶ領域Dは、回転軸CLに到達し得る。図示した実施形態では、磁力がおよぶ領域Dにおけるシャフト110(コア104cも同様)とアーマチュア108との間のギャップは、軸方向に配置される。シャフト110(およびコア104c)とアーマチュア108との間のギャップの寸法は、クラッチ100の動作中に、アーマチュア108の動きに応じて変化する。アーマチュア108とシャフト110(およびコア104c)との間のギャップの距離は、弁組立体107のストロークCに対応する(図3を参照)。いくつかの実施形態では、磁束は、電磁コイル101に通電する間に、アーマチュア108とシャフト110との間のギャップが完全に閉じられる(すなわち、アーマチュア108がシャフト110および/またはコア104cと物理的に接触する)ように、アーマチュア108をシャフト110に引き付けることが可能である。磁束経路Aは、アーマチュア108からギャップF(図3参照)を介してロータインサート組立体103の磁束ガイド部105まで続く。図示した実施形態では、半径方向に配置される(アーマチュア108の外径に位置する)ギャップFは一定である。半径方向ギャップFが一定であることは、アーマチュア108の開閉位置とは無関係に、磁束の流れを一定にし得る。磁束経路A内の磁束の流れが一定であることは、アーマチュア108への内部磁力の改善に役立つ。次に、磁束経路Aは、ロータインサート組立体103の磁束ガイド部105を通って、続いて、軸方向で前側から反対側の後側までロータ106全体を通過する。次に、磁束経路Aは、ロータインサート組立体103の磁束ガイド部105から、磁束ギャップB(図3参照)を横切ってコイルハウジング102のS極102Sまで続き、そして、電磁コイル101に戻る。
【0034】
図示した実施形態のように、磁束ギャップBは軸方向に配置され、磁束経路Aの他のギャップよりも大きいギャップである。磁束ギャップBは一定にし得る。磁束ギャップBは、ハウジング112の一部分112b-1、ならびにハウジング112の軸方向の両端の空隙を横断する。より具体的には、磁束ギャップBは、ハウジング112の基体112bの非強磁性部112b-1を軸方向に横切る。この非強磁性部112b-1には、ハウジング112の内部と外部との間でハウジング112を完全に(または部分的に)通過する磁束経路Aの中に、またはその磁束経路Aの近傍には、いかなる磁束ガイドの埋め込みインサート部品も他の強磁性構成部品もない。換言すれば、いくつかの実施形態では、磁束ギャップBの中に強磁性材料を有しないことから、非強磁性磁束のギャップと称し得る。磁束経路Aは、磁束ギャップBを横切り、特に、強磁性材料と隣接する非強磁性材料の熱膨張係数が異なる(たとえば、鉄とアルミニウム材料の間)ことから潜在的にせん断流体の望ましくない漏れ経路を生じさせる可能性のある強磁性磁束ガイドを必要とせずに、ハウジング112の一部分112b-1を通りまたは横切るとともに、1つ以上の隣接する空隙および保持されるせん断流体を通過することが可能である。さまざまな実施形態において、磁束ギャップBの内部の空隙の数は、2つ以下の空隙に制限可能であり、ハウジング112の一部分112b-1は、磁束経路Aが磁束ギャップBの内部で交差する唯一の非強磁性部品となり得る。いくつかの実施形態では、磁束ガイド部105の後端105aとコイルハウジング102のS極102Sとの間の磁束ギャップBの寸法は、磁束ガイド部105の後端105aとその他の近接する強磁性体との間の距離よりも小さくし得る。さらに別の実施形態では、磁束ガイド部105の後端105aとコイルハウジング102との間の磁束ギャップBの軸方向の寸法は、磁束ガイド部105の後端105aとその他の近接する強磁性材料との間の、軸方向または半径方向の内側の方向のいずれか一方の距離よりも小さくし得る。また、図示した実施形態において、磁束ガイド部105はロータ106を貫通して後方に突出しているので、磁束ガイド部105の後端105aとコイルハウジング102のS極102Sとの間の磁束ギャップBの寸法は、磁束経路Aに沿ったロータ106の後側とコイルのS極102Sとの間の距離よりも小さくし得る。いくつかの実施形態では、磁束ガイド部105の後端105aとコイルハウジング102のS極102Sとの間の磁束ギャップBの軸方向の距離は、コイルハウジング102のS極102Sと作動室115との間の軸方向距離よりも小さくし得る。すなわち、磁束ガイド部105の後端105aは、作動室115の軸方向の後方に延在することが可能である。磁束経路Aの半径方向の外側に強磁性体が配置されていても経路Aの短絡が生じないことに留意されたい。したがって、いくつかの実施形態では、強磁性材料(例えば、強磁性材料で作られた貯蔵室プレート113a)は、磁束ギャップBまたはその近傍で磁束経路Aの特性に大きな影響を与えることなく、磁束経路Aから半径方向の外側に磁束ガイド部105に近接して、または物理的に接触して配置可能である。磁束ギャップBの直線距離が比較的短い(磁束経路Aの他のギャップよりも大きい場合があるものの)ので、ハウジング112に埋め込む鉄製インサート部品を追加する必要はない。図示した実施形態では、磁束ギャップBに含まれる(および磁束ギャップBが横切る)ハウジング112の非強磁性部112b-1は、軸受112Xが磁束経路Aの内部に位置するように、シャフト110上でハウジング112を回動方向に支持する軸受112Xよりも半径方向の外側に配置される。さらに、図示した実施形態では、シャフト110上で電磁コイル101およびコイルハウジング102を支持する軸受101Xも磁束経路Aの内側に位置している。
【0035】
磁束経路Aをシャフト110からアーマチュア108に導き、さらにロータインサート組立体103の磁束ガイド部105に導くために、磁束ガイド部105とシャフト110との間の磁気短絡を回避することが重要である。これは、特定の定義がなされた特性を有するロータインサート組立体103を使用することで実現可能である。図4および図5に分けて示した一実施形態は、ロータインサート組立体103のハブ部104のディスク104dに非強磁性材料を使用することで達成可能である。このように、それぞれが強磁性材料からなる磁束ガイド部105およびコア104cと、非強磁性材料からなるディスク104dとは、互いに係合または接続され、ダイカストプロセスを使用するなどして非強磁性材料で作成されたロータ106に埋め込まれるかまたは他の方法で接続される別個の部品とし得る。強磁性材料からなるコア104cは、磁束経路Aの性能の改善を補助し得る。代替の実施形態ではあるが、ハブ部104のコア104cおよびディスク104dは、非磁性材料からなる単一の部品であってもよい。図4および図5に示すロータインサート組立体103の実施形態は、ハブ部104および/または磁束ガイド部105の開口部として構成され得る断部118a、断部118b、および断部118cも含む。図示した実施形態では、周方向に等間隔に配置された複数のU字形の断部118aが、磁束ガイド部105を半径方向に通過して前端(後端105aの反対側)まで連続して延在し、軸方向前方で開口する。複数のU字形の断部118bが、ハブ部104のディスク104dの外径に位置し、断部118aと整列して組み合わせ開口部を形成し、ディスク104dの外径まで連続して延在する。最後に、断部118cは、円周方向に等間隔に配置された複数の円形孔であり、それらは、ディスク104dの中央を軸方向に貫通する。ただし、さらなる実施形態では、断部118a、断部118b、および/または断部118cについて、他の形状および配置とすることが可能である。粘性摩擦クラッチ100に完全に取り付けられた後で、断部118a、断部118b、および/または断部118cは、その少なくとも一部をロータ106の非強磁性材料で充填可能である。より具体的には、いくつかの実施形態において、断部118bおよび断部118cはそれぞれ、ロータ106の非強磁性材料で完全に充填され得るが、断部118aはそれぞれ、ロータ106の非強磁性材料でその一部のみが充填され得る。
【0036】
代替として図6に示すように、ロータインサート組立体103´の磁束ガイド部105´およびハブ部104´は、強磁性材料からなる単一の一体型モノリシック部品として作成可能であり、ハブ部104´に配置された開口部118´(およびさらなる実施形態では任意で磁束ガイド部105´にも)などの磁束遮断機能を有することで、磁束ガイド部105´とハブ部104´(およびシャフト110)との間の磁気の短絡を低減または回避し得る。図示した実施形態では、磁束ガイド部105´は断部がない構成を有し、開口部などはない。磁束遮断機能(開口部118´)は、可能な限り数多くかつ大きいことが好ましい。粘性摩擦クラッチ100に完全に装着された後で、ハブ部104´(および/または磁束ガイド部105´)の開口部118´などは、ロータ106、ハブ部104´、および磁束ガイド部105´の間のトルク伝達のために、ロータ106の非強磁性材料で充填される。もしくは、ロータインサート組立体103´は、上述のロータインサート組立体103と同様であり、本質的に同様に機能する。
【0037】
図7から図9までに、粘性摩擦クラッチ200の別の実施形態を示す。図7は、粘性摩擦クラッチ200の他の実施形態の断面図であり、図8は磁束経路A´および磁力がおよぶ領域Dを示す注釈を付した粘性摩擦クラッチ200の別の断面図であり、そして、図9は、粘性摩擦クラッチ200の一部の部分断面図である。一般に、図7から図9に示し、記載した粘性摩擦クラッチ200の実施形態は、図1から図6において上述した粘性摩擦クラッチ100の実施形態と同様である。したがって、通常、100を加えた同様の参照番号が使用される。より具体的には、図7から図9までの実施形態に示すような粘性摩擦クラッチ200は、電磁コイル201と、N極202NおよびS極202Sを画定するコイルハウジング202と、ハブ部204および磁束ガイド部205を有するロータインサート組立体203と、ロータ206と、アーマチュア208および弁体209を有する弁組立体207と、シャフト210と、ハウジング212(基体212bおよびカバー212cを含む)と、貯蔵室213(貯蔵室カバー213aを有する)と、放出口214と、作動室215と、回転軸CLと、を備える。特に図示されていないが、粘性摩擦クラッチ200は、好適なリターンボアおよびポンプ部品をさらに含む。磁束経路A´は、磁束ギャップB、弁組立体ストロークC、および磁力がおよぶ領域Dを含み、それらは、粘性摩擦クラッチ200において、粘性摩擦クラッチ100と類似または同一であり得る。ただし、図7から図9の粘性摩擦クラッチ200の実施形態は、シャフト210の周りの設計の点でクラッチ100とは異なる。
【0038】
図7から図9に示すように、シャフト210の前端は、止まり穴220と、止まり穴220と係合するキャリア222とを含む。止まり穴220は、図示した実施形態のように、シャフト210内に軸方向で延在可能であり、軸方向前方で開口し得る。シャフト210の前端210Fで止まり穴220を取り囲むシャフト210のリムは、磁束経路Aに沿ってシャフト210からアーマチュア208に磁束を充分に伝達する。シャフト210の止まり穴220は、シャフト210の前端210F(例えば、止まり穴220の後部または底部)において、トルクまたはツーリング機能223(例えば、Torx(登録商標)ビット係合機能などの工具係合機能)を使用する選択肢を提供し、これは、シャフト210の後端210Rを、ねじ山210tなどの別の接続機能で対応する部品(図示せず)への取り付けを容易にする。図示した実施形態では、シャフト210の前端210Fおよび止まり穴220は、ハウジング212の内側の粘性摩擦クラッチ200の内部に配置される。止まり穴220およびトルク機能またはツーリング機能223への通路を提供するために、ハウジング212のカバー212cに開口部228(例えば、中央穴)の設置が可能である。止まり穴220および/またはトルク機能223の操作を可能にするために、対応する中心穴208hをアーマチュア208に設置可能である。粘性摩擦クラッチ200の内部の部品を破片などから保護するために、取り外し可能なキャップ(図示せず)が、ハウジング212のカバー212cの開口部228に、または開口部228の中に設置することが可能である。開口部228またはその近傍の構造に、係合溝などの好適な特徴を含めることで、ハウジング212のカバー212cへのキャップ228aの係合を可能にする。
【0039】
キャリア222は、キャリア222をシャフト210に取り付ける接続機能222c(例えば、ねじ山)により、止まり穴220と係合可能であり、接続機能222cは止まり穴220の内部に配置可能である。キャリア222は、例えば、ツールビット、ドライバ、またはトルクを加えることができる他の好適なツールを受け入れるフラットまたはスロットなどのツーリング機能222tをさらに含み得る。キャリア222を非強磁性材料で作成することで、磁束経路Aからキャリア222を分離し、または少なくとも磁束経路Aとの干渉を回避し得る。キャリア222は、アーマチュア208の中心穴208hを通ってシャフト210から軸方向に延在可能である。キャリア222は、その両端の間で完全に貫通して軸方向に延在する中央開口部などの開口部222aをさらに含むことで、トルクまたはツーリング機能223の操作を可能にし得る。このことは、粘性摩擦クラッチ200の前側から、ハウジング212のカバー212cの開口部228を通して(およびアーマチュア208の中心穴208hを通して)工具を挿入することを可能にする。さらに、キャリア222は、ハウジング212と接触する封止部品229(例えば、動的シールまたは密閉軸受セットなどの軸受)を支持および担持可能であるとともに、開口部228において、ハウジング212のカバー212cに対して封止することで、せん断流体の漏れの防止を補助する。さらに、アーマチュア208のシャフト210とは反対側で、キャリア222に停止部230を設置可能である。停止部230は、弁組立体207のストロークCを制限可能であり、特に、停止部230は、デフォルトのばね付勢力下でアーマチュア208および弁体209の軸方向の移動を制限することが可能である。図示した実施形態では、停止部230は、キャリア222の本体から半径方向の外側に延在するフランジとなっている。
【0040】
ロータ206は、ロータ206とシャフト210が同じ速度で共回転するように、シャフト210に対して回動を固定することが可能である。ハウジング212(例えば、ハウジング基体212b)は、好適な軸受212Xにより、シャフト210上で回動方向に支持されており、シャフト210ならびにロータ206に対して回動可能である。電磁コイル201およびコイルハウジング202は、回動を固定でき、電磁コイル201およびコイルハウジング202がハウジング212の外部に配置された状態で、好適な軸受201Xにより、両方ともシャフト210に取り付ける可能である。
【0041】
電磁コイル201は、特許文献8に開示されたものと同様にL字形の断面を有し得る。図示した実施形態のようなL字型の電磁コイル201は、粘性摩擦クラッチ200の全体的な大きさおよび重量の低減に有用である。電磁コイル201の少なくとも一部は、コイルハウジング202の中に配置される。コイルハウジング202は、電磁コイル201の少なくとも一部を取り囲むことが可能であり、電磁コイル201のL字形に適合する形状にし得る。例えば、図示した実施形態では、コイルハウジング202は、軸方向前方に位置するS極202S(S極202Sの端部は、ハウジング212の基体212bおよび磁束ガイド部205に向かって軸方向に延在する)と、軸方向後方に位置する(U字形またはC字形を有する)中間部202Mと、中間部202Mの軸方向前方に位置してS極202Sの軸方向後方に位置するN極202N(N極202Nの端部は、シャフト210に向かって半径方向の内側に延在する)と、を有する。コイルハウジングの中間部202MおよびN極202Nは、軸受用のスペースを提供可能な形状である。
【0042】
作動室215は、ロータ206とハウジング212との間にあって、作動室215の中に保持されるせん断流体の量がロータ206およびハウジング212の両方と摩擦接触が可能であり、作動室215の中に保持されるせん断流体の量に概ね依存するスリップ速度で、ロータ206とハウジング212との間のトルク伝達が可能となる位置に配置されている。ロータ206およびシャフト210は粘性摩擦クラッチ200の入力として機能可能であり、ハウジング212は出力として機能可能である。ファン(図示せず)などの出力装置をハウジング212に取り付けて、粘性摩擦クラッチ200からのトルク出力を受け取ることが可能である。
【0043】
弁組立体207が加えられた磁束に応答して動作して放出口214を選択的に覆うまたは覆わないことで、作動室215の中のせん断流体の量を調節する。使用されていないせん断流体は、貯蔵室213に貯蔵可能である。図示した実施形態では、弁組立体207はロータ206の前側に配置され、電磁コイル201および貯蔵室213はそれぞれ、ロータ206の反対側の後側に配置される。
【0044】
図示した実施形態では、ロータインサート組立体203は、半径方向で内側の位置にハブ部204を有し、半径方向で外側の位置に磁束ガイド部205を有する(図4および5も参照)。ハブ部204は、ロータ206の半径方向で内側部分に配置可能であり、ロータ206とシャフト210との間の構造的な取り付け部品を設置可能である。図示した実施形態では、ハブ部204は、コア204cおよびディスク204dを含むマルチピース型組立体であり、ディスク204dはコア204cから半径方向外向きに延在する。コア204cは、シャフト210上に直接配置可能である。ハブ部204は、オーステナイト系ステンレス鋼などの非強磁性材料を含み得、および/または磁束ガイド部205とシャフト210との間の略半径方向の磁気短絡を低減または排除する磁束遮断機能を備えて構成し得る。これは、先の実施形態について上述した通りである。図示した実施形態では、コア204cは強磁性材料で作られ、ディスク204dは非強磁性材料からなり、ロータインサート組立体203に沿って半径方向の磁束の流れを遮断する。より一般的には、図示した実施形態のロータインサート組立体203のハブ部204は、その内径と外径との間に非強磁性の部分または少なくとも一部に非強磁性部を含む。
【0045】
磁束ガイド部205は、ディスク204dの半径方向の外側部分におけるハブ部204に取り付け可能である。磁束ガイド部205は、ロータ206を通って軸方向に延在する。磁束ガイド部205は強磁性材料からなり、ロータ206の非強磁性材料を通して磁束を伝導し得る。図示した実施形態の磁束ガイド部205は、以下でさらに説明するように、コイルハウジング202の外径においてまたは隣接して、ロータ206の後側から軸方向に延在して突出する後端205aを含む。これは磁束を、コイルハウジング202のS極202Sに誘導することを補助する。図示した実施形態のように、磁束ガイド部205の後端205aの径方向の位置は、コイルハウジング202のS極202Sの径方向の位置と重なるように配置される(それらの間の磁束経路が完全に遮断されるように)。ただし、さらなる実施形態では、その他の相対的な半径方向の位置が配置可能である。
【0046】
上述の粘性摩擦クラッチ100の動作と同様に、動作中、電磁コイル201は、選択的に励磁されることで、磁束経路(または磁束回路)A´に沿って粘性摩擦クラッチ200を通って進む磁束を生成し、弁組立体207を動作し得る。図8は、クラッチ200の回転軸CLの一方の側の磁束経路A´を破線で概略的に示す。ただし、図8においては磁束経路A´の一部が記述されているだけであって、磁束経路Aは軸CLの周りに延在する3次元形状を有することを理解されたい。磁束経路A´は、磁束が電磁コイル201から弁組立体207のアーマチュア208を通過し、そして、電磁コイル201に戻ることを可能にする。磁束経路A´は、電磁コイル201を出てコイルハウジング202に入り、コイルハウジング202のN極202Nからギャップを横切ってシャフト210に到達する。コイルハウジング202とシャフト210との間のギャップは一定であり、図示した実施形態では半径方向に配置されている。次に、磁束は、磁力がおよぶ領域Dのシャフト210とアーマチュア208との間のギャップを横切って進み得る。いくつかの実施形態では、磁束は、任意に、ロータインサート組立体203のハブ部204のコア204cを通って、磁力がおよぶ領域Dの中を、および/またはその近傍を進み得る。磁力がおよぶ領域Dは、いくつかの実施形態では、回転軸CLから半径方向の外側に離間した位置にあり得る。他の実施形態では、磁力がおよぶ領域Dは、回転軸CLまで到達し得る。図示した実施形態では、磁力がおよぶ領域Dにおけるシャフト210(コア204cも同様)とアーマチュア208との間のギャップは、軸方向に配置される。シャフト210(およびコア204c)とアーマチュア208との間のギャップの寸法は、クラッチ200の動作中に、アーマチュア208の動きに応じて変化する。アーマチュア208とシャフト210(およびコア204c)との間のギャップの距離は、弁組立体207のストロークCに対応する(図9を参照)。いくつかの実施形態では、磁束は、電磁コイル201に通電する間に、アーマチュア208とシャフト210との間のギャップが完全に閉じられる(すなわち、アーマチュア208がシャフト210および/またはコア204cと物理的に接触する)ように、アーマチュア208をシャフト210に引き付けることが可能である。磁束経路A´は、アーマチュア208からギャップFを通ってロータインサート組立体203の磁束ガイド部205まで続く。図示した実施形態では、半径方向に配置される(アーマチュア208の外径に位置する)ギャップFは一定である。半径方向ギャップFが一定であることは、アーマチュア208の開閉位置とは無関係に、磁束の流れを一定にし得る。磁束経路A´の磁束の流れが一定であることは、アーマチュア208への内部磁力の改善に役立つ。次に、磁束経路A´は、ロータインサート組立体203の磁束ガイド部205を通って続き、軸方向で前側から反対側の後側までロータ206全体を通過する。次に、磁束経路A´は、ロータインサート組立体203の磁束ガイド部205から、磁束ギャップBを横切ってコイルハウジング202のS極202Sまで続き、そして、電磁コイル201に戻る。
【0047】
図示した実施形態のように、磁束ギャップBは軸方向に配置され、磁束経路A´の他のギャップよりも大きい隙間である。磁束ギャップBの隙間は一定にすることができる。磁束ギャップBは、ハウジング212の一部分212b-1、ならびにハウジング212の軸方向の両端の空隙を横断する。より具体的には、磁束ギャップBは、ハウジング212の基体212bの非強磁性部212b-1を軸方向に横切る。この非強磁性部212b-1には、ハウジング212の内部と外部との間でハウジング212を完全に(または部分的に)通過する磁束経路A´の中に、またはその磁束経路A´の近傍に、いかなる磁束ガイドの埋め込みインサート部品または他の強磁性構成部品も有しない。つまり、磁束ギャップBは、非強磁性磁束のギャップと称し得る。磁束経路A´は、磁束ギャップBを横切り、潜在的にせん断流体の望ましくない漏れ経路を生じさせる可能性のある強磁性磁束ガイドを必要とせずに、ハウジング212の一部分212b-1を通りまたは横切るとともに、1つ以上の隣接する空隙および保持されるせん断流体を通過することが可能である。様々な実施形態において、磁束ギャップBの内部の空隙の数は、2つ以下の空隙に制限可能であり、ハウジング212の一部分212b-1は、磁束経路A´が磁束ギャップBの内部で交差する唯一の非強磁性部品になり得る。いくつかの実施形態では、磁束ガイド部205の後端205aとコイルハウジング202のS極202Sとの間の磁束ギャップBの寸法は、磁束ガイド部205の後端205aとその他の近接する強磁性体との間の距離よりも小さくし得る。さらに別の実施形態では、磁束ガイド部205の後端205aとコイルハウジング202との間の磁束ギャップBの軸方向の寸法は、磁束ガイド部205の後端205aとその他の近接する強磁性材料との間の、軸方向または半径方向の内側の方向のいずれか一方の距離よりも小さくし得る。また、図示した実施形態において、磁束ガイド部205はロータ206を貫通して後方に突出しているので、磁束ガイド部205の後端205aとコイルハウジング202のS極202Sとの間の磁束ギャップBの寸法は、ロータ206の後側と磁束経路A´に沿ったコイルのS極202Sとの間の距離よりも小さくし得る。いくつかの実施形態では、磁束ガイド部205の後端205aとコイルハウジング202のS極202Sとの間の磁束ギャップBの軸方向の距離は、コイルハウジング202のS極202Sと作動室215との間の軸方向距離よりも小さくし得る。すなわち、磁束ガイド部105の後端105aは、作動室115の軸方向の後方に延在することが可能である。磁束ギャップBに含まれる(および磁束ギャップBが横切る)ハウジング212の非強磁性部212b-1は、軸受212Xが磁束経路A´の内部に位置するように、シャフト210上でハウジング212を回動方向に支持する軸受212Xよりも半径方向の外側に配置される。さらに、図示した実施形態では、シャフト210上で電磁コイル201およびコイルハウジング202を支持する軸受201Xも磁束経路Aの内側に位置している。
【0048】
さまざまな実施形態において、特定の用途での必要性から、上記で議論され、図4から図6に示すロータインサート組立体103および103'のいずれかが、粘性摩擦クラッチ200で利用されることに留意されたい。さらに、ロータインサート組立体の他の実施形態も可能である。
【0049】
添付の図面を含む本開示の全体を考慮して、当業者は、開示された粘性摩擦クラッチの実施形態が多くの利点および利点を提供することを認識するであろう。例えば、開示された実施形態は、比較的軽量で製造が比較的簡単な電磁制御式粘性摩擦クラッチを提供する。このクラッチは、ハウジングの非強磁性部を横切ってまたは通過して磁束を伝達する一方で、せん断流体の漏れ経路を生じさせる可能性があるハウジングを通る磁束ガイドは含まない。例えば、その内径とその外径との間に非強磁性の部分を備える、または少なくとも一部に非強磁性の部分を備えるロータインサート組立体は、粘性摩擦クラッチを通る電磁束経路の磁気短絡または短絡回路を低減または最小化するために利用可能であり、ハウジングに埋め込まれた磁束インサート部品がないときでも、弁組立体のアーマチュアを動かすために利用可能な磁力を増加させるのに役立つ。いくつかの既知のクラッチ設計では、磁束経路はハウジングを通過しないが、しかし、その代わりに、磁束経路がハウジングの内部に完全に包含されるか、または、磁束経路がシャフト、ロータハブ、および/またはハウジングから半径方向で内側に配置された軸受組立体の中の複数の磁気分離された経路をたどる(すなわち、磁束経路はハウジングのどの部分も通過せず、むしろハウジングを回避する)ことに留意されたい。ハウジングの内部に完全に包含される磁束経路は、固定(つまり、非回転)のジャーナルブラケットシャフトに概ね関連付けられるが、一方、本開示の実施形態は、「活」シャフトまたは駆動されるシャフトを開示する。また、シャフト、ロータハブ、および/または軸受組立体に複数の磁気的に分離された経路を有すると、クラッチ全体の半径方向の寸法が大きくなる傾向があり、製造がより複雑になる可能性もあるが、一方、本開示の実施形態は、埋込みインサート部品または埋込み磁気絶縁インサート部品がない単一のモノリシック部品とすることが可能なシャフトを使用し得る。さらに、特定の従来技術のクラッチでは、磁束ガイドがないとき、磁束が、さまざまなクラッチ部品なしで、および/またはさまざまなクラッチ部品を通って、またはそれらを横切って、非効率な方法で伝達されることを意味する。その結果、そのような非効率性を克服するに、十分な磁束を生成する比較的大きな電磁コイルが必要になる。例えば、そのような従来技術のクラッチは、3つ以上の空隙と複数の別個の非強磁性部品とを含む単一の磁束ギャップを横切る磁束を必要とし得る。一方、本開示の実施形態では、ハウジングの非強磁性部を横切る磁束ギャップの中の空隙の数の制限が可能である。
【0050】
<可能な実施形態の議論>
粘性摩擦クラッチは、ロータと、ロータに対して回動可能なハウジングと、ロータとハウジングとの間に配置された作動室であって、ロータおよびハウジングの両方と接触するように所定の量のせん断流体を選択的に導入可能である作動室と、電磁コイルと、作動室に保持されるせん断流体の量を制御する弁組立体と、電磁コイルと弁組立体とを磁気的に連結する磁束経路と、を含むことが可能であり、磁束経路は、前記粘性摩擦クラッチの内部で前記ロータを通り抜けて延在する磁束ガイド部を通貫するとともに、空隙部および前記ハウジングの非磁性部の両方を横断する磁束ギャップとクロスする、強磁性体からなる磁束ガイド部を通過する。
【0051】
前の段落の粘性摩擦クラッチは、任意に、追加的および/または代替的に、以下の特徴、構成および/または追加の構成要素のいずれか1つ以上を含むことができる。
【0052】
磁束ガイド部はロータに埋め込み可能である。
【0053】
ロータはアルミニウムのような非強磁性材料からなり得る。
【0054】
磁束ガイド部は、少なくとも部分的に非強磁性材料からなるハブ部をさらに含むマルチピース型ロータインサート組立体の一部であり得る。
【0055】
ロータインサート組立体は、内径と外径との間に、磁束ガイド部と少なくとも一部が非強磁性のハブ部とを含み得、磁束ガイド部は、外径部またはその近傍に配置され得る。
【0056】
ハブ部は、強磁性材料からなるコアと、コアから半径方向外向きに延在する非強磁性材料からなるディスクと、を有し得る。
【0057】
磁束ガイド部の一部は、磁束ギャップで分離された電磁コイルハウジングの外径に隣接する位置でロータから軸方向に突出可能であり、電磁コイルは、電磁コイルハウジングの内部に少なくとも一部が配置される。
【0058】
磁束ガイド部の後端は、軸方向において前記作動室の後方に延在可能である。
【0059】
電磁コイルは、電磁コイルハウジング内に少なくとも部分的に配置可能であり、磁束ガイド部の後端は、磁束ガイド部の後端とコイルハウジングとの間の磁束ギャップが、磁束経路に沿ったロータの後側とコイルハウジングとの間の距離よりも小さくなるように、ロータの後端から軸方向に突出可能である。
【0060】
ハウジングは、ハウジングの内部と外部の間を通過する磁束経路において、強磁性磁束ガイドの埋め込みインサート部を含まなくて良い。
【0061】
磁束経路は、弁組立体のアーマチュアと磁束ガイド部との間の半径方向ギャップを含み得、半径方向ギャップはアーマチュアの外径部に配置可能である。
【0062】
ロータに対して回動が固定されたシャフト。
【0063】
粘性摩擦クラッチの内部にあるシャフトの端部は、軸方向に延在する止まり穴を有し得る。
【0064】
シャフトの止まり穴取り付けられたキャリア。
【0065】
キャリアは、非磁性材料からなり得る。
【0066】
ハウジングに接触するキャリアに担持された封止部品(例えば、ダイナミックシールまたは封止された軸受け)。
【0067】
キャリアは、キャリアを貫通して軸方向に延在する中央開口部を有し得る。
【0068】
キャリアは、さらにツーリング機能を有し得る。
【0069】
キャリアは、弁組立体の動作中に弁組立体のアーマチュアに接触するように配置された停止部を有し得る。
【0070】
シャフトは、止まり穴の中に位置するツーリング機能を有し得る。
【0071】
ハウジングのカバーは、シャフトおよびツーリング機能を工具で操作可能にする開口部を含み得る。
【0072】
キャップは、ハウジングのカバーの開口部に、またはその内部に、さらに有し得る。
【0073】
電磁コイルの少なくとも一部がコイルハウジングの中に配置可能であり、前記コイルハウジングは、反対の2つの磁極とそれらの磁極の間の中間部とを有し得る。
【0074】
磁極の一方が半径方向に延在し、磁極の他方が軸方向に延在可能である。
【0075】
コイルハウジングの中間部はU字型であり得る。
【0076】
磁束ガイド部は、ロータの前側から反対側の後側までロータを軸方向で貫通して延在する。
【0077】
ロータにより担持される貯蔵室。
【0078】
ロータが粘性摩擦クラッチへの入力として作用可能であり、粘性摩擦クラッチへのトルク入力があるときは常に、ロータおよび貯蔵室の両方が入力速度で回転する。
【0079】
ロータに対して回動が固定されたシャフト。
【0080】
シャフト上でハウジングを回動方向に支持する軸受。その軸受は、磁束経路の内部に配置される。
【0081】
粘性摩擦クラッチを介して磁束を伝達することで弁組立体を操作する方法であって、粘性摩擦クラッチは、それぞれが回動可能なロータおよびハウジングと、ロータに対する回動が固定されたシャフトと、を有し、弁組立体が作動室内に保持されるせん断流体の量を制御することで、ロータとハウジングとの間の粘性摩擦係合の程度を選択的に制御する。この方法は、粘性摩擦クラッチのハウジングの外部に配置され、回動方向の動きが静止している電磁コイルに通電するステップと、電磁コイルから、電磁コイルの少なくとも一部を取り囲むコイルハウジングに磁束を伝達するステップと、半径方向ギャップを横切ってコイルハウジングから粘性摩擦クラッチのシャフトに磁束を伝達するステップと、磁力がおよぶ領域における軸方向ギャップを横切ってシャフトから弁組立体のアーマチュアに磁束を伝達するステップと、アーマチュアからギャップを横切って強磁性材料からなる磁束ガイド部に磁束を伝達するステップと、粘性摩擦クラッチのロータの軸方向で反対側にある前側と後側との間で、磁束ガイド部に沿って磁束を伝達するステップと、粘性摩擦クラッチのハウジングの非強磁性部を有する磁束ギャップを横切って、磁束ガイド部からコイルハウジングに磁束を伝達するステップと、コイルハウジングから前記電磁コイルに磁束を戻すステップと、を備える。
【0082】
前段落の方法は、任意に追加的および/または代替的に、以下の特徴、構成および/または追加のステップのうちの任意の1つ以上を含み得る。
【0083】
ロータに埋め込まれたハブ部のコアを通して磁束を伝達するステップ。
【0084】
アーマチュアと磁束ガイド部の間のギャップは、半径方向に配置されて一定であり得る。
【0085】
コイルハウジングとシャフトの間の半径方向ギャップは一定であり得る。
【0086】
磁束ガイド部とコイルハウジングの間の前磁束ギャップは軸方向に配置されており、粘性摩擦クラッチのハウジングの非強磁性部の軸方向の両側にある2つの空隙を横断可能である。
【0087】
磁束ガイド部とコイルハウジングと間の磁束ギャップは一定であり得る。
【0088】
磁束ガイド部とコイルハウジングとの間の磁束ギャップは、電磁コイルと弁アッセンブリのアーマチュアとを磁気的に連結する磁束経路において、最大の間隔を有し得る。
【0089】
磁束ギャップに含まれるハウジングの非強磁性部は、シャフト上でハウジングを回動方向に支持する軸受けから、半径方向で外側に配置され得る。
【0090】
磁束ガイド部の後端とコイルハウジングとの間の磁束ギャップの間隔は、磁束経路に沿ったロータの後側とコイルハウジングとの間の間隔よりも狭くし得る。
【0091】
<まとめ>
本明細書で使用される「実質的に」、「本質的に」、「一般的に」、「概ね」などの相対的な用語または程度を表す用語は、本明細書で明示的に述べられている適用可能な定義または限定に従って解釈されるべきである。また、すべての例において、本明細書で使用される相対的な用語または程度を表す用語は、関連する開示された実施形態、ならびに本明細書の全体を参照して当業者によって理解され得る範囲または変形を広く包含すると解釈されるべきである。そして、本開示は、通常の製造公差の変動、偶発的な位置合わせの変化、熱、回転または振動の動作条件により誘発される一時的な位置合わせまたは形状の変化、一時的な電磁場の変動などを包含する。さらに、本明細書で使用される相対的な用語または程度を表す用語は、所与の開示または記述において、相対的な用語または程度を表す用語が使用されていない場合と同様に、指定された品質、特徴、パラメータまたは値を変更することなく明示的に含む範囲を包含すると解釈されるべきである。
【0092】
好ましい実施形態を参照して本発明を説明してきたが、当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、形態および詳細を変更可能なことを理解するであろう。例えば、磁束伝導強磁性ハウジングインサート部品は粘性摩擦クラッチの電磁制御に不要であることが開示されているが、電磁制御システムの一部または1つ以上の他の目的のためであるかどうかにかかわらず、代替の実施形態は依然としてそのような強磁性ハウジングインサート部品を含むことができると考えられる。さらに、別の実施形態では、弁組立体をロータの後側に配置するか、またはハウジングに取り付け可能である。さらに、さらに別の実施形態では、粘性摩擦クラッチの内部に完全に配置され、ロータディスクを通過する1つ以上の制御ロッドを有する弁組立体などのような、制御ロッドなどを使用する弁組立体を本発明で利用可能である。さらに、コイルハウジングのN極およびS極の位置は、様々な実施形態において、必要に応じて反転または交換可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】