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特表2023-526221神経保護におけるグルタチオントリスルフィド(GSSSG)
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(54)【発明の名称】神経保護におけるグルタチオントリスルフィド(GSSSG)
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/06 20060101AFI20230614BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230614BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
A61K38/06
A61P25/28
A61P25/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022568697
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(85)【翻訳文提出日】2023-01-11
(86)【国際出願番号】 US2021031842
(87)【国際公開番号】W WO2021231476
(87)【国際公開日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】63/023,686
(32)【優先日】2020-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100181168
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智裕
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 史
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 英三
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084DC31
4C084MA17
4C084NA14
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZA151
4C084ZA152
4C084ZA161
4C084ZA162
(57)【要約】
例えば神経変性疾患における神経保護における、また、虚血傷害のリスクを低減させるための、グルタチオントリスルフィド(GSSSG)の使用のための方法。例えば、本方法は、神経系への血流およびまたは酸素送達を低下させる/害する手術、外傷、およびその他の状態によって起こりうる虚血または低血流状態による、脳、脊髄、および末梢神経への傷害のリスクを低減させるために使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における神経変性に関連する障害の治療またはそのリスクの低減のための方法であって、グルタチオントリスルフィド(GSSSG)の結晶を使用して調製された組成物の治療的または予防的有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
GSSSGの結晶形をpH3~6で生理食塩水中に溶解することによって、GSSSGを含む前記組成物を調製することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記障害が、虚血後神経細胞死である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記障害が、慢性脳変性疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記慢性脳変性疾患が、多発脳梗塞性認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病、またはレビー小体型認知症である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
外傷性傷害が生じた後、数分から数時間以内に、GSSSGを含む組成物の有効量を投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
予定された胸部および/または腹部大動脈外科手術手技の前に、GSSSGを含む組成物の有効量を投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
予定された胸部および/または腹部大動脈外科手術手技の数時間から数日前に、GSSSGを含む組成物の有効量を投与することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記予定された胸部ならびに/または腹部大動脈外科手術手技の2~24時間ならびに/または1、2、3、4、5、6、および/もしくは7日前に、GSSSGを含む組成物の有効量を投与することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
対象における神経変性に関連する障害の治療またはそのリスクの低減における使用のための、グルタチオントリスルフィド(GSSSG)の結晶を使用して調製された組成物であって、前記方法が、治療的または予防的有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、組成物。
【請求項11】
組成物が、GSSSGの結晶形をpH3~6で生理食塩水中に溶解することを含む方法によって調製される、請求項10に記載の前記使用のための組成物。
【請求項12】
前記障害が、虚血後神経細胞死である、請求項10に記載の前記使用のための組成物。
【請求項13】
前記障害が、慢性脳変性疾患である、請求項10に記載の前記使用のための組成物。
【請求項14】
前記慢性脳変性疾患が、多発脳梗塞性認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病、またはレビー小体型認知症である、請求項10に記載の前記使用のための組成物。
【請求項15】
前記方法が、外傷性傷害が生じた後、数分から数時間以内に、GSSSGを含む組成物の有効量を投与することを含む、請求項10に記載の前記使用のための組成物。
【請求項16】
前記方法が、予定された胸部および/または腹部大動脈外科手術手技の前に、GSSSGを含む組成物の有効量を投与することを含む、請求項10に記載の前記使用のための組成物。
【請求項17】
前記方法が、予定された胸部および/または腹部大動脈外科手術手技の数時間から数日前に、GSSSGを含む組成物の有効量を投与することを含む、請求項16に記載の前記使用のための組成物。
【請求項18】
前記方法が、前記予定された胸部ならびに/または腹部大動脈外科手術手技の2~24時間ならびに/または1、2、3、4、5、6、および/もしくは7日前に、GSSSGを含む組成物の有効量を投与することを含む、請求項17に記載の前記使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2020年5月12日出願の米国仮特許出願第63/023,686号明細書の利益を主張するものである。前記出願の全内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書では、例えば神経変性疾患における神経保護における、また、虚血傷害のリスクを低減させるための、グルタチオントリスルフィド(GSSSG)の使用を記載する。例えば、本方法は、神経系への血流および/または酸素送達を低下させる/害する手術、外傷、およびその他の状態によって起こりうる虚血または低血流状態による、脳、脊髄、および末梢神経への傷害のリスクを低減させるために使用することができる。
【背景技術】
【0003】
遅延性対麻痺は、虚血性脊髄損傷(SCI)の壊滅的合併症であり、胸部および/または腹部大動脈手術ならびに脊髄への外傷の後に起こりうる。虚血性SCIの発生率が約3%であることが報告されている一方で、80%超が遅延性の症状の発症をみせている(Ullery et al., 2011)。遅延性対麻痺の機序の理解は不十分であるものの、研究からは、運動ニューロンのアポトーシス(Kakinohana et al., 2011)、ならびに虚血性脳卒中(Denes et al., 2008)およびSCI(Bell et al., 2013;Donnelly et al., 2011;Kigerl et al., 2007)におけるミクログリアおよび骨髄由来マクロファージ(BMDM)の動員が、重大な役割を果たしていることが示唆されている。
【発明の概要】
【0004】
本明細書では、対象における神経変性に関連する障害の処置またはリスクの低減のための方法を提供する。本方法は、グルタチオントリスルフィド(GSSSG)の結晶を使用して調製された組成物の治療的または予防的有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む。一部の実施形態では、本方法は、GSSSGの結晶形をpH3~6で生理食塩水中に溶解することによって、GSSSGを含む組成物を調製することを含む。また、対象における神経変性に関連する障害を処置する方法、またはリスクを低減する方法において使用するためのGSSSGを含む組成物、例えば、GSSSGの結晶形をpH3~6で生理食塩水中に溶解することによって調製された組成物を提供する。
【0005】
一部の実施形態では、障害は、虚血後神経細胞死である。
【0006】
一部の実施形態では、障害は、慢性脳変性疾患、例えば、多発脳梗塞性認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病、またはレビー小体型認知症である。
【0007】
一部の実施形態では、本方法は、外傷性傷害が生じた後、数分から数時間以内に、GSSSGを含む組成物の有効量を投与することを含む。
【0008】
一部の実施形態では、本方法は、予定された胸部および/または腹部大動脈外科手術手技の前に、GSSSGを含む組成物の有効量を投与することを含む。
【0009】
一部の実施形態では、本方法は、予定された胸部および/または腹部大動脈外科手術手技の数時間から数日前に、GSSSGを含む組成物の有効量を投与することを含む。
【0010】
一部の実施形態では、本方法は、予定された胸部ならびに/または腹部大動脈外科手術手技の2~24時間ならびに/または1、2、3、4、5、6、および/もしくは7日前に、GSSSGを含む組成物の有効量を投与することを含む。
【0011】
特に明記しないかぎり、本明細書で使用される技術および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の技術者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。方法および材料は、本発明における使用のために本明細書に記載されており;その他の当技術分野において既知の好適な方法および材料も、また使用することができる。材料、方法、および実施例は、例示的であるにすぎず、限定することを意図するものではない。本明細書において言及されたすべての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリー、およびその他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。矛盾がある場合、本明細書が、定義を含め、優先するものとする。
【0012】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および図によって、また、特許請求の範囲によって明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】[図1A~B]GSSSGまたはDMSOのみによる事前調整の後、SCIにされたマウスのBMS(A)および生存率(B)を示すグラフである。
図2】NaSではなく多硫化物が、SH-SY5Y細胞をMPP+誘導細胞死から保護したことを示すグラフである。それぞれN=4。*、**、***、****P<0.05、0.01、0.001、0.0001対ビヒクル;P<0.01 各処置における対照対MPP+。
【発明を実施するための形態】
【0014】
過硫化物(R-S-SH)および多硫化物(R-S-Sn-S-R)は、6個の価電子を有するが電荷を有さない硫黄原子であるサルフェン硫黄を含有する分子であり、酸化ストレスに対する保護効果を持つ(Akaike et al., 2017;Ida et al., 2014)。これらの分子は、HSを遊離することができ、したがって、これらの分子の抗酸化または保護効果は、HSおよびサルフェン硫黄の両方によって媒介されていると思われる。グルタチオントリスルフィド(GSSSG)は、グルタチオンの代謝産物であるGSSGおよび追加の1つのサルフェン硫黄原子からなる、哺乳動物組織における主要な多硫化物種の1つである。
【0015】
最近まで、GSSG化合物を製造するための方法は、有毒ガスの使用を含むかまたは有毒ガスを生成する危険性があり、これによって、安定ではないかまたは薬学的使用に適切ではない化合物が生成されていた。欧州特許出願公開第3560947号明細書(EP3560947)に、安定した結晶形でGSSSGを製造する方法が記載されている。しかしながら、神経保護について、インビボでのこのGSSSGの結晶形の有効性は記載されていない。
【0016】
本研究では、マウスにおけるSCI後の神経機能障害に対する効果を含む、神経保護における結晶GSSSGの有益な効果を検討した。具体的には、SCI発症に先立ってGSSSG事前調整を行うことの効果を検討した。患者は、多くの場合、状態に応じ、一定の診断期間(例えば、1週間)の後に大動脈手術を受けており、これにより、患者の術後合併症のリスクを低減させる本明細書に記載したような処置を使用する機会を得ている。加えて、その結果は、1-メチル-4-フェニルピリジニウム(MPP+)誘導神経細胞(SH-SY5Y細胞)死に対する、GSSSGの保護効果を確認するものであった。MPP+毒素投与(poisoning)はパーキンソン病のインビトロモデルであることから、結晶GSSSGが、神経変性疾患においても同様に使用されうることを実証するものである。
【0017】
本明細書における結果は、インビボでの神経保護におけるGSSSG結晶の有益な能力を実証した。本結果は、SCI後の神経機能の維持に対するGSSSG事前調整の効果と、該薬物が、その抗酸化効果により虚血の発症後に投与されうることとを示すものであった。
【0018】
処置方法
本明細書に記載の方法は、対象、例えば哺乳動物の対象、例えばヒトまたは非ヒトの獣医学的対象における、神経変性に関連する障害の処置またはリスクの低減のための方法を含む。一部の実施形態では、疾患は、虚血後神経細胞死である。一部の実施形態では、疾患は、慢性脳変性疾患(例えば、多発脳梗塞性認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病、またはレビー小体型認知症)である。一般的には、本方法は、治療的有効量の、本明細書に記載したようなGSSSGの結晶形を含む組成物を、そのような処置を必要とするかまたはそのような処置を必要とすると判断された対象に投与することを含む。
【0019】
本文脈において使用される場合、「処置する」こととは、神経変性に関連する障害の少なくとも1つの症状を改善することを意味する。本明細書に記載した方法を使用して処置することができる状態は、運動制御の喪失、麻痺、または対麻痺と関連していてもよい。本明細書に記載した化合物の治療的有効量の投与は、運動制御の改善、麻痺または対麻痺の低減をもたらしうる。
【0020】
加えて、本方法は、運動制御の喪失、麻痺、または対麻痺が生じるリスクの低減をもたらしうる。運動制御の喪失、麻痺、または対麻痺を生じるリスクがある対象には、外傷性傷害を被っている対象、ならびに胸部および/または腹部大動脈手術をまさに受けようとしている対象が含まれうる。これらの方法は、本明細書に記載したようなGSSSG組成物の有効量を、外傷性傷害が生じた後の数分から数時間以内に、かつ/または予定された胸部および/もしくは腹部大動脈外科手術手技の前に、例えば数時間から数日前に、投与することを含みうる。
【0021】
「有効量」とは、有益なまたは所望の結果をもたらすのに十分な量である。例えば、治療量とは、所望の治療効果を達成する量である。この量は、疾患または疾患症状の発症を予防するのに必要な量である予防的有効量と、同じであっても異なっていてもよい。有効量は、1回または複数回の投与、適用、または投与量で投与されてもよい。組成物は、1回、1日1回または複数回から、週に1回または1日おきに1回を含む複数回まで投与されてもよい。一部の実施形態では、GSSSGは、予定された胸部および/または腹部大動脈外科手術手技に先立ち、少なくとも2、3、4、5、6、または7日間、毎日投与される。当業者であれば、これらに限定されないが、対象の疾患もしくは障害の重症度、以前の処置、全般的な健康状態、および/または年齢、ならびに存在するその他の疾患を含む、ある特定の因子が、対象を効果的に処置するために必要とされる投与量およびタイミングに影響を与えうることは理解されよう。さらに、本明細書に記載した治療化合物の治療的有効量による対象の処置は、1回の処置または一連の処置を含みうる。
【0022】
治療化合物の投与量、毒性、および治療有効性は、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順、例えば、LD50(集団の50%に対して致死である用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を決定するための手順によって、決定されうる。毒性効果と治療効果との間の用量比は、治療係数であり、これは、LD50/ED50比として表されうる。高い治療係数を示す化合物が好ましい。有毒な副作用を示す化合物を使用してもよいが、非感染性細胞に対して起こりうる損傷を最小限に抑えることによって副作用を低減させるために、そのような化合物を罹患組織の部位を標的化する送達システムを設計することに注意を払うべきである。
【0023】
細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトにおける使用のための投与量の範囲を定めるのに使用されうる。そのような化合物の投与量は、好ましくは、毒性がほとんどないまたは全くないED50を含む循環濃度の範囲内にある。投与量は、用いられる剤形および利用される投与経路によって、この範囲内で変動してもよい。本発明の方法において使用されるいかなる化合物でも、治療的有効用量は、最初に細胞培養アッセイから推定されうる。用量は、細胞培養において決定されたように、動物モデルにおいて、IC50(すなわち、症状の最大半量阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように定めてもよい。そのような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用されうる。血漿のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定されてもよい。
【0024】
医薬組成物および投与の方法
本明細書において記載した方法は、有効成分としてGSSSGを含む医薬組成物の使用を含み、該組成物は、欧州特許出願公開第3560947号明細書に記載されているようなGSSSGの結晶形を使用して、この結晶性GSSSGを、緩衝液、例えば、pH3~6で生理食塩水に溶解することによって調製される。グルタチオントリスルフィド二水和物(dehydrate)の結晶形を作製するための方法は、グルタチオントリスルフィドが溶解している水溶液中で、グルタチオントリスルフィド二水和物の結晶を沈殿させること、および沈殿したグルタチオントリスルフィド二水和物の結晶を収集することを含みうる。
【0025】
医薬組成物は、典型的には、薬学的に許容される担体を含む。本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される担体」という表現は、薬学的投与に適合する、生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。補足的な活性化合物もまた、該組成物に組み込むことができる。
【0026】
医薬組成物は、典型的には、その意図された投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例としては、例えば静脈内などの、非経口投与が挙げられる。
【0027】
好適な医薬組成物を製剤化する方法は、当技術分野では公知であり、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st ed., 2005;およびDrugs and the Pharmaceutical Sciences: a Series of Textbooks and Monographs (Dekker, NY)シリーズの書籍を参照されたい。例えば、非経口、皮内、または皮下適用のために使用される溶液または懸濁剤は、以下の成分:注入用の水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、またはその他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩などの緩衝剤、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張性調整のための薬剤を含みうる。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調整されうる。非経口製剤は、ガラスまたはプラスチック製の、アンプル、使い捨てシリンジ、または複数回用量バイアルに封入されうる。
【0028】
注入可能な使用に好適な医薬組成物としては、滅菌水溶液(水溶性である)または分散体、および滅菌注入可能溶液または分散体の即時調製のための滅菌散剤が挙げられうる。静脈内投与については、好適な担体としては、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF、Parsippany、NJ)、またはリン緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。すべての場合において、該組成物は、滅菌されていなければならず、注射器による注入が容易であるという程度まで流体であるべきである。該組成物は、製造および保存の条件下で安定しているべきであり、細菌および真菌などの微生物の混入作用を防ぐように保存されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレン(polyetheylene)グリコールなど)、および好適なそれらの混合物を含有する、溶媒または分散媒でありうる。適切な流動度は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散体の場合は、所要の粒径の維持によって、また、界面活性剤の使用によって、維持されうる。微生物の作用の予防は、様々な抗菌および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成されうる。多くの場合、該組成物中に、等張剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、塩化ナトリウムを含むことが好ましいこととなる。注入可能組成物の長期吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを該組成物中に含ませることによってもたらされうる。
【0029】
滅菌注入可能溶液は、適切な溶媒中に、所要の量の活性化合物を、上記で列挙した成分の1つまたは組合せと共に混合し、必要に応じて、続いてろ過滅菌することによって調製されうる。一般的に、分散体は、活性化合物を、基礎分散媒および上記で列挙した成分のうち所要のその他の成分を含有している滅菌ビヒクル中に混合することによって調製される。滅菌注入可能溶液調製用の滅菌散剤の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥であり、これによって、その滅菌ろ過済みの溶液から、活性成分および任意の追加の所望の成分の散剤が得られる。
【0030】
医薬組成物は、投与のための使用説明書と一緒に、容器、箱、またはディスペンサーの中に入れることができる。例えば、GSSSGは、結晶を溶解して注入用の溶液を調製するのに使用されるpH3~6の滅菌緩衝剤(例えば、生理食塩水)とともに、結晶形で、キットとして提供することができる。
【実施例
【0031】
本発明を、以下の実施例においてさらに説明するが、これらの実施例は、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を制限するものではない。
【0032】
[実施例1]
SCI後の神経機能欠損に対する、GSSSGの予防的効果
遅延性対麻痺を招く分子機序を解明するために、本発明者らは、最近、マウスが遅延性対麻痺を示し、かつ手術死亡率が最少であるSCIのマウスモデルを開発し、十分に特徴付けを行った(Kakinohana et al., 2011)。簡潔に述べると、気管内挿管を介した麻酔および機械的換気下で、左総頸動脈と左鎖骨下動脈との間の弓部大動脈に第1のクリップを、また左鎖骨下動脈の起点上に第2のクリップを配置することによって、SCIを誘導した。大腿動脈圧の追跡において検出可能であった脈圧の即時喪失およびその維持によって、閉塞が完璧であることを確かめた。5分間の虚血の後、クリップを取り外し、胸部を重ねて閉じた。血流再開10分で、動脈カテーテルを取り外し、切開部を閉じ、動物を麻酔から回復させた。麻酔から回復まで、手術の期間を通して、脊柱起立筋の温度をモニタリングし、37.5℃で維持した。偽手術されたマウスにおいて、すべての外科手術手技を記載の通り実施したが、クリップは施さなかった。運動機能を、Basso Mouse Scale(BMS)によって、SCI前、脊髄虚血の24時間後、48時間後、および72時間後に、連続的に定量化した(Basso et al., 2006;Kakinohana et al., 2011)。最大欠損は、0のスコアによって示す。BMSスコア<6(0~5)は対麻痺を示すが、BMSスコア>6(6~9)は、歩行可能を示す。
【0033】
SCI後神経機能欠損に対するGSSSGの予防的効果を検討するために、マウスを、SCIの誘導の前に、GSSSG処置による事前調整に曝した。簡潔に述べると、GSSSGを、めのう乳鉢を使用して粉砕し、超音波処理ウォーターバスを使用してDMSO中に分散させ、1日200mg/kgを4日間、IP投与した。対照マウスには、DMSOのみを投与した。マウスは、GSSSGまたはDMSOのみの最終投与の24時間後に、SCIにさせた。
【0034】
結果から、DMSOのみによって処置されたマウスはすべて、SCI後対麻痺を示したのに対し、GSSSGによって事前調整されたマウスはすべて、運動機能欠損および対麻痺を予防したことが明らかとなった(図1A)。GSSSGによる事前調整によって、SCI後のマウスの生存率には変化はなかった(図1B)。
【0035】
[実施例2]
神経変性のモデルにおけるGSSSGの保護的効果
1-メチル-4-フェニルピリジニウム(MPP+)誘導神経細胞(SH-SY5Y細胞)死に対する、GSSSGの効果を評価した。MPP+毒素投与は、パーキンソン病のインビトロモデルである。
【0036】
SH-SY5Y細胞を、薬物を含むかまたは含まないDMEM/F12(20%FBS)中で、MPP+(2mM)を含むかまたは含まず、37℃で、24時間インキュベートした。細胞生存率は、クリスタルバイオレットアッセイを使用して測定した。
【0037】
図2に示した結果から、NaSではなく多硫化物が、SH-SY5Y細胞をMPP+誘導細胞死から保護したことが実証された。
【0038】
引用した参考文献
【0039】
【表1】
【0040】
他の実施形態
本発明は、その詳細な説明と併せて説明してきた一方で、上述の説明は、本発明の範囲を例証し、制限しないことを意図しており、この本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されるものであることを理解されたい。他の態様、利点、および変更は、以下の特許請求の範囲内にある。
図1
図2
【国際調査報告】